- 1 -主文 原判決を取り消す。 被控訴人が平成4年4月13日付けで控訴人に対してした労働者災害補償保険法による遺族補償給付及び葬祭料を支給しない旨の処分を取り消す。 訴訟費用は,第1・2審とも,被控訴人の負担とする。 事実 及び理由以下,右欄の事項について,左欄の略称をもって記載する(なお,人証は,すべて原審におけるものであり証言供述箇所を示すときは尋問回数を①②等として証,(),,「人P1①5頁」のように記載する)。 P2(又は被災者)P2(昭和○年○月○日生,平成2年3月16日死亡)本件事故P2が本件業務遂行中の平成2年3月16日に死亡した事故労災保険法労働者災害補償保険法労災労働災害本件処分労災保険法に基づく遺族補償給付及び葬祭料の支給請求に対し,本件事故は業務に起因するものではないとしてこれを支給しないとした処分大日本印刷大日本印刷株式会社京都製版大日本京都製版株式会社物流システム大日本京都物流システム株式会社本件工場又は本件職場物流システムの京都工場本件業務本件工場の包装作業場における包装作業等2階作業場本件工場C棟2階の作業場年休年次有給休暇本件鑑定当審における鑑定人P3及び前原直樹の鑑定結果本件鑑定書本件鑑定結果を記載した書面専門家会議報告書脳血管疾患及び虚血性心疾患等に関する専門家会議「過重負荷による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の取扱いに関する報告書(昭和62年9月8日(乙1)」)検討委員会報告書日本産業衛生学会循環器疾患の作業関連要因検討委員会「報告書職場の循環器疾患とその対策(1995年2」月(甲28))専門検討会報告書脳・心臓疾患の認定基準に関する専門検討会「脳・心臓疾患の認定基準に関する専門検討会報告 関連要因検討委員会「報告書職場の循環器疾患とその対策(1995年2」月(甲28))専門検討会報告書脳・心臓疾患の認定基準に関する専門検討会「脳・心臓疾患の認定基準に関する専門検討会報告書(平成13年1」1月16日(乙52))P4医師京都府立医科大学法医学教室教授医師P4P5医師京都保健会上京病院院長医師P5P6医師株式会社ビーエフ研究所研究所長医師P6P7医師P7医院の医師P7(産業医)- 2 -現行認定基準平成13年12月12日基発第1063号「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く)の認定。 基準(乙49)」P1P1(物流システムの梱包発送課課長)P8P8(物流システムのP2の同僚)P9P9(物流システムのP2の同僚)P10P10(大日本印刷の子会社である大日本印刷テクノパック関西株式会社の京都工場品質保証部。P2のかっての同僚)P11病院医療法人P11病院中央病院京都民医連中央病院第1控訴の趣旨主文同旨第2事案の概要 事案の要旨(1)本件は,梱包作業員として稼働していたP2がその業務に従事中の平成2年3月16日午後2時過ぎころに急性心筋梗塞を発症して間もなく死亡したことにつき,P2の妻である控訴人が,被控訴人に対し,業務上の死亡であると主張して労災保険法に基づき遺族補償給付及び葬祭料の支給を請求したところ,被控訴人がP2の死亡は業務に起因するものではないとしてこれを支給しない旨の処分(本件処分)をしたため,被控訴人に対し,P2の死亡は業務に起因するものであると主張して本件処分の取消しを求めた事案である。 (2)原審は,P2は,狭心症からその病状の自然の悪化により心筋梗塞に移行して死亡した可能性が強く,業務の遂行が,P2にとって,精神 因するものであると主張して本件処分の取消しを求めた事案である。 (2)原審は,P2は,狭心症からその病状の自然の悪化により心筋梗塞に移行して死亡した可能性が強く,業務の遂行が,P2にとって,精神的・肉体的に過重負担となり,狭心症の自然的経過を超えて増悪させ,死の結果を招いたものと認めることはできないので,業務起因性は認められないとして,控訴人の請求を棄却した。控訴人はこれを不服として,自己の請求の認容を求めて控訴した。 (3)当裁判所は,原審と異なり,P2の死亡には業務起因性があるので,控訴人の請求はこれを認容すべきものと判断する。 争いのない事実(弁論の全趣旨により容易に認定できる事実を含む)。 (1)控訴人は,P2(昭和○年○月○日生)の妻であって,平成2年3月16日当時,P2の収入によって生計を維持しており,また,P2の葬祭を行う者であった。 (2)P2は,昭和29年,大日本印刷の従業員として採用され,その後,昭和58年に会社の合理化に伴い京都製版に移籍し,さらに,昭和60年に,大日本印刷の子会社である,解散前の物流システム(当時の商号)に移籍し,以後,物流システムの梱包作業員として稼働してきた。 (3)P2は,平成2年3月16日午後2時過ぎころ,物流システムの京都工場(本件工場)の包装作業場において包装作業等(本件業務)に従事していたところ,,()。 急性心筋梗塞を発症して突然倒れ間もなく同所において死亡した本件事故- 3 -本件事故当時,P2は54歳であった。 (4)控訴人は,平成2年6月7日,被控訴人に対し,P2の死亡は本件業務に起因するものであるとして,労災保険法に基づく遺族補償給付及び葬祭料の支給を請求したところ,被控訴人は,平成4年4月13日付けで,業務起因性は認められないとしてこれを支給をしな 2の死亡は本件業務に起因するものであるとして,労災保険法に基づく遺族補償給付及び葬祭料の支給を請求したところ,被控訴人は,平成4年4月13日付けで,業務起因性は認められないとしてこれを支給をしない旨の本件処分をした。 このため,控訴人は,本件処分を不服として,京都労働者災害補償保険審査官に対して審査請求をしたが,同審査官は,平成6年7月22日付けで同審査請求を棄却する旨の決定をした。 控訴人は,上記決定を不服として,更に労働保険審査会に対して再審査請求をしたが,同審査会は,平成9年8月14日付けで同再審査請求を棄却する旨の裁決をし,同裁決書の謄本は,同年9月6日,控訴人代理人らに送達された。 (5)控訴人は,平成9年11月27日,本件処分の取消しを求めて本件訴訟を提起した。 争点及び当事者の主張,。 本件の争点はP2の死亡が本件業務に起因するものであるといえるか否かである〔控訴人〕P2は,①軽度の不安定狭心症に罹患していたが,通常の経過ではリスクの高いものではなかったところ,②P2が従事してきた本件業務が恒常的な長時間労働であり,P2に長期間にわたる負荷を与え,それが疲労の蓄積となり,③その結果として,不安定狭心症が自然的経過を超えて増悪し,急性心筋梗塞を発症させたものであり,本件業務とP2の死亡との間には相当因果関係があり,P2の死亡は本件業務に起因するものである。以下,分説する。 (1)P2の労働実態アP2の経歴P2は,昭和29年に大日本印刷に入社し,写真製版の技術者として約29年間稼働してきたが,会社の合理化により,昭和60年(50歳)からその子会社の物流システムで特印包装係の労働者として,業務内容が全く異なり,深夜勤務を含む交替勤務のある重労働に配置転換されたものであり,肉体的・精神的負担は過大なものであ 昭和60年(50歳)からその子会社の物流システムで特印包装係の労働者として,業務内容が全く異なり,深夜勤務を含む交替勤務のある重労働に配置転換されたものであり,肉体的・精神的負担は過大なものであった。 イP2の従事していた本件業務特印包装係の日常的な作業は,グラビア印刷(特印)の巻取り製品の包装作業及び倉庫係への運搬作業であり,①未包装の巻取り置場からスリッター(帯状の裁断)された巻取りをパレット単位で包装作業場まで運搬,②巻取り1巻毎に包装作業台への積上げ,③クラフト紙又はポリシートによる包装,④包装済みの巻取りのパレットへの積上げ,⑤倉庫係までパレット単位での運搬,⑥空パレットの回収の過程がある。 このうちP2が主として従事していた作業は,①及び②,又は④及び⑤であり,副次的に⑥も行っており,特に重労働の部類に入るものである。 (ア)①について,,巻取り製品は平均10~20kgの重さがあり重い物は約40kgあり- 4 -1時間当たり,昼勤の場合で約110個,①~⑤の業務をしている夜勤の場合で約27個をハンドリフトのパレットに載せてから,これを運搬するが,パレットには20個以上の製品を乗せており,その重量は200~400kgとなり,スタート時には相当の力が必要である。 (イ)②について昼勤の場合,1日約1200個の製品を電動式リフターを使用したり,ときには手で持ち上げて包装作業台に載せるもので,重労働である。 (ウ)④について昼勤の場合,1日約1200個の包装が終わった巻取りを人力でパレットに150~170cm程度まで積み上げるもので,低い位置に積む場合も,高い位置に積む場合も相当の体力を必要とする重労働である。 (エ)⑤について製品が積み上げられたパレットを電動式ローリフトあるいはハンドリフトを使って倉庫係まで げるもので,低い位置に積む場合も,高い位置に積む場合も相当の体力を必要とする重労働である。 (エ)⑤について製品が積み上げられたパレットを電動式ローリフトあるいはハンドリフトを使って倉庫係まで運搬するが,ハンドリフトを使う場合の方が多く,平均総重量が約1トンあり,途中の廊下が登り坂になっていることや扉の開閉ボタンを押す際に相当の力が必要であり,また,途中で外気に触れる場所があり,冬場には寒さが身にしみることもある。 (オ)⑥についてインキ倉庫付近に置かれた空パレットを十数枚積み上げて包装係までハン,,ドリフトや電動式ローリフトで運ぶがハンドリフトを使用することが多く途中に登り坂もあり,相当の労力が必要である。 ウ勤務体制と職場環境(ア)P2の勤務は,夜勤を含む2組2交替の変形労働時間制(週5日,うち夜勤2日。2週間に1度は昼勤と夜勤連続)であり,昼勤・夜勤とも2時間の所定外労働を組み込んだ実質拘束12時間(実労働11時間)の連続勤務であった。その上,残業が恒常化していた。 (イ)特印包装係は,特印部門の最終工程であり,製品を滞留させないため,包装係のチームとして毎日一定の作業量をこなす必要があり,実質的に作業ノルマがあった。 (ウ)休憩時間は定められていたが,未処理の製品があれば,休憩せずに作業を継続することも多く,仮眠室や独立の休憩室もなかった(食堂での休憩は可能であるが,勤務場所から10分もかかる位置にあり,実際に利用できる状況にはない。 。)(エ)夜勤は2人体制であり,代替要員の確保が難しく,休暇が取りにくい状況にあった。 (オ)本件職場は,同僚間での罵声や上司の口汚い注意が日常茶飯事となっており,すさんだ雰囲気であり,P2が倒れる直前にも,P2と同僚間で口論があった。 (2)P2の基礎疾病P2は, にあった。 (オ)本件職場は,同僚間での罵声や上司の口汚い注意が日常茶飯事となっており,すさんだ雰囲気であり,P2が倒れる直前にも,P2と同僚間で口論があった。 (2)P2の基礎疾病P2は,基礎疾病として平成2年1月上旬ころに不安定狭心症を発症していた- 5 -が,その症状は軽く,2月末ころには安定化に向かっていたものであり,安静を保ち,適切な治療を受けておれば,通常の自然的経過では死に至る危険性が高い。 ,,というような状態ではなかったまた高脂血症及び肥満という危険因子もなくその点について医師から何らの指示も受けていない。 (3)業務起因性P2は,上記のように,拘束12時間の長時間労働が恒定化し,生体リズムと生活リズムの位相のずれが大きい夜勤を含む交替制勤務に従事し,休暇が取りに,,,くい体制下で睡眠不足で疲労が蓄積したまま動的筋労作を基本としながらも静的筋労作をも伴う,P2にとってそれ自体過重負荷を伴う重労働の肉体労働に従事しており,しかも,P2の死亡直前である平成2年1月から同年3月までの,,時期は物流システムの決算期を控えて非常に過密なスケジュールとなっておりこれらの負荷(危険因子)が複合し,相加的増加にとどまらない重大な負荷をP2に与え,P2の不安定狭心症を自然的経過を超えて急激に増悪させ,死亡に至らしめたものであって,その死亡は,本件業務に内在する危険が現実化したものというべきである。 〔被控訴人〕(1)心筋梗塞の発症と業務起因性の要件について専門家会議報告書によれば,脳血管疾患及び虚血性心疾患等は,動脈硬化等による血管病変又は動脈瘤,心筋変性等の基礎的病態が加齢や一般生活等における諸種の要因によって増悪して発症に至るものがほとんどであるが,この自然的経過中に著しく上記基礎的病態を増悪さ は,動脈硬化等による血管病変又は動脈瘤,心筋変性等の基礎的病態が加齢や一般生活等における諸種の要因によって増悪して発症に至るものがほとんどであるが,この自然的経過中に著しく上記基礎的病態を増悪させる急激な血圧変動や血管収縮を引き起こす負荷,すなわち過重負荷が加わると,その自然的経過を超えて急激に発症することがあるとし,業務による明らかな過重負荷として,①業務に関連する異常な出来事への遭遇,②日常業務に比較して特に過重な業務に就労したことの2つがあるとしている。さらに,専門家会議報告書は,通常の業務による精神的・身体的負荷の影響は上記基礎的病態の自然的経過の範囲にとどまること,過重負荷を受けてから脳血管疾患及び虚血性心疾患等の症状出現までの時間的経過は,脳梗塞や脳出血ではまれに数日経過する場合があるものの,通常は24時間以内であること,過重負荷の程度あるいはその影響の評価について医学的に具体的尺度をもって示すことは困難であること等を指摘している。その後発表された専門検討会報告書によれば,長期間に亘って疲労が蓄積した場合であっても,心疾患の発症の基礎となる上記基礎的病態がその自然的経過を超えて著しく増悪し,心疾患の発症につながることがあり得るとされており,③長期間の過剰な業務も過重負荷に当たることを指摘するに至っている。 心筋梗塞の発症が業務に起因するというためには,以上の①ないし③のような業務上の過重負荷により基礎疾病が自然的経過を超えて著明に増悪し発症したと医学的に認められることが必要である。 (2)P2の心筋梗塞の発症と業務との関連についてアP2の業務について,,本件業務の作業内容は特に神経を使うような作業ではなく単純作業であり- 6 -巻取り製品の平均的重量は10~15kg程度に過ぎず,電動式リフター等の作業負担を軽 てアP2の業務について,,本件業務の作業内容は特に神経を使うような作業ではなく単純作業であり- 6 -巻取り製品の平均的重量は10~15kg程度に過ぎず,電動式リフター等の作業負担を軽減する機器も配置されており,全体として軽作業ないし中程度の負荷しかかからない作業であり,ノルマもなく,精神的にも肉体的にも過重負荷がかかるものとはいえない。なお,本件業務は静的筋労作に該当しない。 勤務時間中には,1時間の休憩時間のほかに,昼勤で15分程度,夜勤で20~30分程度の小休止が1勤務3回位取られていた。 交替制勤務という勤務体制についても,そもそも心血管疾患の発症と有意の関連性があるとされているにすぎず,その相対リスクは相当低い。また,日常業務としてスケジュールどおり実施されている場合又は日常業務が深夜時間帯である場合に受ける負荷は,日常業務で受ける負荷の範囲内のものであり,P2の就労状況は,2週間単位で昼勤6日,夜勤4日,休日4日と決められており,勤務シフトの変更もなく,規則的にスケジュールどおり実施されており,日常業務で受ける負荷の範囲内のものであったといえる。 本件業務を行う作業環境についても,冷暖房設備が備えられて温度管理がされており,作業場所から10m離れた場所に長いすが設置された休憩所があり,食堂にも休憩室が備えられており,仮眠も可能であり,職場の雰囲気が特にすさんでいるようなこともなく,ストレスがたまるような状態にはない。 休暇の取得についても夜勤も含めて特に支障はなかった。実際,P2は平成2年1月11日と12日が夜勤であったにもかかわらず,連続して年休を取得している。 以上からすれば,P2が従事していた本件業務は,平均的労働者を基準として客観的にみると,それ自体何ら過重ではなかったというべきである。 なお,急性心筋梗塞の かかわらず,連続して年休を取得している。 以上からすれば,P2が従事していた本件業務は,平均的労働者を基準として客観的にみると,それ自体何ら過重ではなかったというべきである。 なお,急性心筋梗塞の基礎にある冠動脈硬化への過重労働の関与は,医学的に,,は血圧上昇及び心臓への圧負荷が最も重要な要因として把握されているところP2の血圧は,物流システムに移籍する前の昭和59年以来終始正常範囲内にあり,P2が業務により過重な負荷を受けていたとする医学的な根拠はない。 イ業務に関連する異常な出来事への遭遇についてP2は,死亡の前日までに,強度の精神的負荷又は緊急に強度の身体的負荷を強いられる突発的な予測困難な異常事態,急激で著しい作業環境の変化等の異常な出来事に遭遇したようなことはなかった。 ウ日常業務に比較して特に過重な業務への就労について本件業務の業務量・業務内容は,P2の死亡前1週間において特に過重な身体,,,的精神的負荷と認められるようなことはなく3日間従事した夜勤については現実にノルマも与えられず,マイペースで業務に従事できたことから,P2の従事した夜勤業務は,むしろ精神的負荷が昼勤に比べ低下するものであったし,昼勤であった死亡当日も,午後の作業量は少なかった。労働時間についても,P2は,死亡前1週間において,死亡当日を含めて,合計27時間しか就労しておらず,死亡の前日は感冒を理由に有給休暇を取得していた。 以上からすれば,P2が特に過重な業務に就労したとはいえない。 エ長期間の過剰な業務について- 7 -P2は,その死亡前8か月において,勤務シフトの変更もなく,スケジュールどおり本件業務に従事しており,その間,特に過重な身体的,精神的負荷はなかった。労働時間についても,死亡前8か月において,P2は,合計20日間の休 か月において,勤務シフトの変更もなく,スケジュールどおり本件業務に従事しており,その間,特に過重な身体的,精神的負荷はなかった。労働時間についても,死亡前8か月において,P2は,合計20日間の休務日を取得しており,かつ,週の労働時間が40時間に満たない週もあり,その不足時間数の合計も27時間に達し,時間外労働による身体的疲労は,十分に回復されていた。 よって,P2には疲労の蓄積もなく,長期間の過剰な業務に就労したとはいえない。 オP2の基礎疾患と心筋梗塞発症の原因についてP2は,平成2年1月上旬ころから不安定狭心症を発症しており,心筋梗塞に移行しやすい状態にあったから,直ちに入院して治療を受けるべきであった。 P2は,準肥満状態の上,準高脂血症,準高LDL価の状態にあったものであり,これらの要因や加齢その他の個人的要因も関与して,長期間にわたる自然的経過によって,冠動脈の粥状硬化が進展し,平成2年1月31日ころの不安定狭心症発症当時には,日常生活における通常の負荷により,いつ破たんしてもおかしくない状況に至っていた。すなわち,昼勤業務にのみ従事するなど,交替制勤務以外の就業条件であったとしても,心筋梗塞を発症した蓋然性は高かった。 P2の不安定狭心症及び急性心筋梗塞の原因となった心筋虚血は,冠動脈の動脈硬化による血液供給量の低下に基づく供給虚血であり,その急性心筋梗塞の発症誘因として,労作は直接には関係しない。 P2は,不安定狭心症に罹患していた上に,ウィルス感染による感冒罹患を契機に冠動脈内に血栓が生じて冠動脈が継続的に閉塞され,心筋壊死が起こり,その結果,急性心筋梗塞を発症して死亡した可能性がある。 カ以上の事実からすれば,P2が担当していた本件業務は,P2と同程度の年齢・経験等を有し,通常の業務を支障なく遂行することができる程度 こり,その結果,急性心筋梗塞を発症して死亡した可能性がある。 カ以上の事実からすれば,P2が担当していた本件業務は,P2と同程度の年齢・経験等を有し,通常の業務を支障なく遂行することができる程度の健康状態にある者にとって心臓疾患発症との関係において危険性が内在している業務危,,(険性の要件)であるとは到底言い難く,P2の心筋梗塞が,本件業務に内在する危険の現実化として発症したと認められる要件(現実化の要件)も満たしていないことは明らかである。 したがって,P2の死亡には業務起因性が認められない。 第3当裁判所の判断 事実の認定(1)P2の経歴前記争いのない事実及び証拠(甲9,11,12,証人P10,控訴人本人)並びに弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 アP2は,中学校を卒業後,昭和29年に大日本印刷に入社し,写真製版の技術者として約29年間稼働してきたが,大日本印刷の専業独立化と称する部門ごとの下請化政策の下に,所属していた製版部門が昭和58年に独立して京都製版となったため,そのころ,京都製版に再就職という形で異動し,さらに,昭和60年には大日本印刷の子会社である物流システムに移籍した(当時50- 8 -歳。 )イP2は,昭和63年2月21日以降,物流システムの梱包発送課の特印包装係の労働者として,大日本印刷の京都工場内にある本件工場内で,交替制の深()。 ,,夜勤務を含む本件業務に従事してきた証人P103・4頁なおP2は過去に,職場の上司に対して交替制勤務が辛いと訴えて,梱包発送係(昼勤)に配置換えをしてもらったが,すぐに特印包装係に戻されたことがあった(証人P1059・60頁。 )ウP2の業務遂行能力は優れている方ではなかった(証人P1055頁。 )(2)本件工場内の作業施 に配置換えをしてもらったが,すぐに特印包装係に戻されたことがあった(証人P1059・60頁。 )ウP2の業務遂行能力は優れている方ではなかった(証人P1055頁。 )(2)本件工場内の作業施設証拠(甲9,10の1ないし13,乙33の1ないし11,証人P10,同P1,当審検証の結果)によれば,次の事実が認められる。 ア本件工場内2階の概略図は別紙1「大日本印刷・京都工場,別紙2「物流」・包装係とその周辺」のとおりである。 イP2が本件業務に従事していた場所は本件工場C棟2階の作業場以下2,(「階作業場」という)である。 。 ウC棟2階とD棟2階との間には連絡通路(別紙1の「EV」の右横に表示された●部分)があり,その長さは15.5mであり,傾斜角0.7度の上り勾配(高低差19cm)の直線状の廊下であり,防虫対策のため,廊下の両端には扉(扉の手前の壁面にあるボタンを押すと,自動的に開く)が設置されて。 いた(証人P1048頁。 )エ2階作業場には,冷暖房設備が完備されていた。 オ2階作業場には,数脚のパイプ椅子と灰皿があるだけの喫煙用の休憩場所はあったが,仮眠室や独立の休憩室はなく,横になって仮眠できるような場所もなかった。横になることもできる休憩室は事務棟(C棟とは異なる棟)6階の食堂内にあったが,2階作業場からは遠く,実情としては,昼勤の場合にのみ使用されていた(証人P1①53頁,②19・26頁,証人P1076頁。 )(3)本件業務の内容及び作業状況証拠(甲9,10の1ないし13,乙11の1,14,32,33の1ないし11,証人P10,同P1,同P8,当審検証の結果)によれば,次の事実が認められる。 ア本件業務内容の分類・業務量等(ア)本件業務は,主として,グラビア印刷の巻取り製品の包装作業及び倉庫係へ 11,証人P10,同P1,同P8,当審検証の結果)によれば,次の事実が認められる。 ア本件業務内容の分類・業務量等(ア)本件業務は,主として,グラビア印刷の巻取り製品の包装作業及び倉庫係への運搬作業であるが,更にその内容を細分すれば,①未包装の巻取り製品を包装作業場まで運搬し,②巻取り製品を包装作業台に積み上げ,③クラフト包装紙又はポリシートで巻取り製品を包装し,④包装済みの巻取り製品をパレットに積み上げ,⑤倉庫係までパレット単位で運搬し,⑥空になったパレットを回収するというものである(以下,上記個別の作業を言うときには「作業①」等という。 ,。)- 9 -(イ)平成2年当時,夜勤時には2人1組で,昼勤時には6人1組で本件業務が行われていた。 (ウ)対象となる巻取り製品は,平均10~20kgの重さがあり,特に重いものでは約40kg以上の重さのものもあり,大きさは,平均直径約24cm,高さ約35cm程度であった。 (エ)本件事故当時,1日当たりの包装処理個数は平均1600~1800個であった(乙11の1,証人P1①10頁。また,平成元年1月から平)成2年6月までの期間でみると,少ない月で1469個,多い月で2038個であって,平均個数は1日当たり1735個となる。6人体制の昼勤,(「」(),(),(),ではそのうち4人別紙3作業者の配置図記載のABC(D)が包装作業(作業③)に従事しており,残りの2人で,作業①,),,((),,()②と作業④⑤を分担している別紙3記載のEが作業①②Fが作業④,⑤を担当。また,2人体制の夜勤では,各人が作業①ないし。)⑤を行うことになり,1人当たり300個ほど処理している(証人P1①10頁。そうすると, 別紙3記載のEが作業①②Fが作業④,⑤を担当。また,2人体制の夜勤では,各人が作業①ないし。)⑤を行うことになり,1人当たり300個ほど処理している(証人P1①10頁。そうすると,昼勤の場合には,平均1435個ほどの処理を行)っていたことになり,1回の勤務が実働11時間として,1時間当たり約130個を処理することになる。また,夜勤の場合は,1時間当たり約27個を処理することになる。 イ本件業務の具体的内容(ア)作業①スリッター(帯状の裁断)された未包装の巻取り製品は,包装作業場内の置場に作業の順番を考慮しながら置かれており,作業①は,その置場から巻取り製品をパレット単位で包装作業台の側のレベルスタンド位置まで(距離にして2~10m程度)運搬する作業であり,運搬は,ハンドリフトを使って行っていたが,パレットには,少なくとも20個以上の巻取り製品(200~400kgの重量があることになる)が載せられていた。 。 これを引いたりあるいは押したりして運んでいた。 (イ)作業②作業②は,レベルスタンド位置に置かれた巻取り製品を1巻ずつ包装作業台(高さ81cm)の横にある同じ高さのトロコン(ローラー状のコンベヤー)に載せる作業であり,電動式リフターを使用してトロコンの高さまで持ち上げ,手作業でトロコン上に製品を載せていた。この電動式リフターは巻取り製品を持ち上げる作業の負担を軽減するために導入されたものであるが,動きが緩やかなこともあって,多品種・小ロットの製品の場合などは電動式リフターを使用せず,巻取り製品を手で持ち上げることも度々あった(証人P1025・26頁,同P1①36・37頁。レベル)スタンド位置からトロコンまでの移動距離は1m程度であった。 トロコン上の製品を包装作業台へ載せる作業自体は包装担当の作業員の も度々あった(証人P1025・26頁,同P1①36・37頁。レベル)スタンド位置からトロコンまでの移動距離は1m程度であった。 トロコン上の製品を包装作業台へ載せる作業自体は包装担当の作業員の手で行われていた(証人P1027・28頁,同P1②3頁。 )巻取り製品を手で抱えて持ち上げ,それを作業台の上に載せる作業は,- 10 -手あるいは腰を縮めたり伸ばしたりする動作である。 (ウ)作業③作業③は,未包装の巻取り製品の包装作業であるが,製品がベルトコンベアーのように絶え間なく流れてくるものではなく,パレット単位で製品を準備し,パレット単位で包装作業を行っていくもので,作業者の方で作業の進行の手加減ができる。作業量も,各作業者の技能,能力,意欲等に応じて差が出てくる。 (エ)作業④作業④は,包装済みの巻取り製品をパレットに積み上げる作業であり,作業員がベルトコンベヤーで運ばれてくる巻取り製品を手でベルトコンベヤーから下ろし,これを更に腹部に乗せて抱えるような姿勢でパレットに積み上げており,特に機械等は使用されていなかった。積み上げる高さは大体150cmから170cmであった(証人P1034頁,同P1②4・10頁。 )P2の身長は166cmであることから,自分の顔の位置近くまで積み上げる作業を行うこともあった。自分の腰よりも高い位置に積み上げるには,一時息を止めて,一気に挙上することになる。 作業④は,手で巻取り製品を抱えて,作業台の上からパレットの上まで移動させるものであるから,筋肉の収縮,伸展を伴う。 また,パレットの1段目など比較的低いところに積む作業についても,一旦巻取り製品を抱えて持ち上げることになるが,持ち上げて下の方へ下げるには,一時息を止めて身体を折り曲げることになる。 (オ)作業⑤作業⑤は,包装済みの巻取り 的低いところに積む作業についても,一旦巻取り製品を抱えて持ち上げることになるが,持ち上げて下の方へ下げるには,一時息を止めて身体を折り曲げることになる。 (オ)作業⑤作業⑤は,包装済みの巻取り製品を電動式ローリフト又はハンドリフトを使用して倉庫係までパレット単位で運搬する作業であり,運搬するパレットの総重量は平均1トン前後であった。 電動式ローリフトは1台しか配置されておらず,実際の作業では,ハンドリフトを使うこともあった。 C棟からD棟への上り勾配の廊下を経由して,倉庫係のところまで運搬するが,上記廊下の両側には防虫対策のために扉があって,押しボタンで開閉するようになっていたため,開閉ボタンを押す際には,ハンドリフトがバックしないようにしなければならなかった。 (カ)作業⑥作業⑥は,空パレットの回収作業であり,十枚程度の空パレットをローリフト又はハンドリフトに載せて1階の空パレットが置いてあるところから回収して2階の包装係の場所まで運んでくるというものであった。 ウ作業状況(P2の本件業務従事状況)P2は,昼勤の場合,上司から,作業②を指示されることが多く(時々巻取り製品のパレットへの積み上げ作業や包装済みの巻取り製品の搬出,パレットの回収作業に従事することもあったが,包装作業に従事すること- 11 -はほとんどなかった,本件事故当日も専ら作業②に従事していた(証人。)P1041・45・82頁,同P1②1頁~。 )なお,夜勤作業においては,2人体制であることから,各人が作業①ないし⑤の本件業務全般を担当していた。 (4)物流システム移籍後のP2の勤務状況証拠(甲3,13,14,乙2の1,13,36,37・38の各1ないし11,48,証人P10,同P1,同P8,控訴人本人)によれば,次の事実が認められる。 ア勤務体 システム移籍後のP2の勤務状況証拠(甲3,13,14,乙2の1,13,36,37・38の各1ないし11,48,証人P10,同P1,同P8,控訴人本人)によれば,次の事実が認められる。 ア勤務体制()(,,ア夜勤を含む2交替の変形労働時間制2週間単位で昼勤6日夜勤4日休日2日,夜勤明け日2日)であり,2組の昼勤及び夜勤の組合せは,以下のとおりであった。 曜日月火水木金土日月火水木金土日A組ヒヒヒヨヨ明休ヨヨ明ヒヒヒ休B組ヨヨ明ヒヒヒ休ヒヒヒヨヨ明休ヒは昼勤,ヨは夜勤,明は夜勤明け日を意味する。 P2はB組に属し,週のうち2日が夜勤,3日が昼勤という,週5日の労働サイクルであった。そして,2週間に一度は,昼勤と夜勤が連続して行われることとなっていた(本件事故前3か月間の勤務形態は別紙4「本件事故前3か月間の勤務形態等」のとおりである〈乙2の1。 〉。)(イ)昼勤は,所定の勤務時間が午前8時から午後6時までで,所定外の勤務時間が午後8時までとなっており,残業が恒常化していた。休憩時間は,正午から午後1時までとなっていた。 夜勤は,所定の勤務時間が午後8時から翌日の午前6時までで,所定外の勤務時間が午前8時までとなっていたが,夜勤についても,残業が恒常化していた。休憩時間は午前0時から午前1時,又は,午前1時から午前2時までとなっていた。 そのほかに,昼夜とも,2時間ごとに15分程度,1勤務3回程度の小休止があったが,その場に未処理の製品が残っていれば,休憩・仮眠時間にも作業を継続することが多かった。 (ウ)昼勤の作業は,6人1組となって行うため,個々人に対してノルマはなかったが,特印包装係の前工程であるスリッターの部門で製作された未 ていれば,休憩・仮眠時間にも作業を継続することが多かった。 (ウ)昼勤の作業は,6人1組となって行うため,個々人に対してノルマはなかったが,特印包装係の前工程であるスリッターの部門で製作された未包装の巻取り製品が所定の置場に積み上げられ,これを班全体で包装完成品として倉庫係に引き継ぐ作業を進めていく必要があり,出来上がってくる巻取り製品をできるだけ早く処理して,製品が滞留しないようにする必要があった。また,P2の所属していた包装係は,作業の最終工程に位置付けられていたため,前工程で作業の遅れが出た場合,品質事故が発見された場合,クレーム情報が入ってきた場合は,当初の業務予定を変更して,- 12 -緊急の処理として,包装・搬出・納入などを行うということもあった。上司等から仕上がり状態や量についての指摘を受けることもあった。なお,通常,包装担当は4人であり,作業②を担当する者は,4人が包装をするペースに合わせて,4人分の巻取り製品をトロコンに順次載せていくことになる。 夜勤の作業は,2人体制であり,昼勤と異なり,作業①ないし⑤のすべての作業を1人で行っていた(前記(3)ア(エ。予備要員は予定され))ていなかった(もっとも,昼勤者を残業させることはあった。1夜勤で。)仕上げる数量が決められていたわけではないが,翌朝にどれだけ製品が仕上がっているかによって夜勤における仕事量が一目して分かる状況であったため,全体の作業量自体は少ないが,一人当たりにかかる作業分担は昼勤に比して必ずしも少なくはなかった。 (エ)包装部門で夜勤が必要とされていたのは,特印包装係の前工程であるスリッターの部門で,一部の機械が交替稼働をしているため,夜間にも巻取り製品が出来上り,これをそのまま放置すると,巻取り製品にきず等がつく恐れがあり,これを防止す いたのは,特印包装係の前工程であるスリッターの部門で,一部の機械が交替稼働をしているため,夜間にも巻取り製品が出来上り,これをそのまま放置すると,巻取り製品にきず等がつく恐れがあり,これを防止するために速やかに包装を行う必要があることと,未完成品の滞留をなくし,順次完成品に仕上げて行く必要があるためである(甲3-11頁。 )イ勤務状況(ア)本件事故前8か月間の勤務時間の詳細は別紙5「労働時間集計表」記載のとおりである(乙48。 )(イ)死亡6か月前から死亡日までの勤務状況をまとめると下表のとおりである。 6か月前5か月前4か月前3か月前2か月前1か月前 昼勤日数 夜勤日数 休日 夜勤明け日 237.25225.75 232.5総拘束時間 217.25206.75 212.5総労働時間 53.7530.75 56.5時間外労働時間6か月前:平成元年9月18日~同年10月17日5か月前:平成元年10月18日~同年11月16日4か月前:平成元年11月17日~同年12月16日3か月前:平成元年12月17日~平成2年1月15日(この間には,年末年始の特別休暇の他に5日間の年次有給休暇を取得している)。 2か月前:平成2年1月16日~同年2月14日- 13 -1か月前:平成2年2月15日~同年3月16日ウ年休の取得状況P2は,下表のとおり,平成元年4月1日から平成2年3月16日までの約1年間の間に12日の年休を取得し,昭和63年4月1日から平成元年3月31日までの1年間では14日の年休と11日の病気休暇を取得した。 平成元年4月1日~平成2年3月1 から平成2年3月16日までの約1年間の間に12日の年休を取得し,昭和63年4月1日から平成元年3月31日までの1年間では14日の年休と11日の病気休暇を取得した。 平成元年4月1日~平成2年3月16日平成 平成元年2年1年4月5月6月7月8月9月10月11月12月1月2月3月計ヒ1 ヒ1 ヒ2ヒ1ヒ3 ヒ2ヒ10ヨ2ヨ2ヒは昼勤,ヨは夜勤。 昭和63年4月1日~平成元年3月31日昭和平成63年元年1年4月5月6月7月8月9月10月11月12月1月2月3月計 病休病休 (5)本件事故当日の作業内容等証拠(甲9,乙14,19,証人P10,同P1,同P8)によれば,次の事実が認められる。 ア平成2年3月16日,P2は昼勤であり,午前8時から午前中は6人で本件業務を行い,正午に午前の作業を終了し,昼食休憩を取り,P2は,同僚のP9とともに近くの喫茶店でコーヒーを飲んで過ごした。 イ午後1時に休憩時間が終了し,午後の作業の打合せの後作業を再開したが,午後は,業務が少なかったことから,午前中包装を担当していたP8がP1課長の許可を得て眼科医院に行き,P12も同課長の指示で工務席でラベル作成作業に従事することになったため,2人(P9・P13)で包装を行うことになり,P2は,2人分の製品(当日の製品は六甲バターに関するもので10~12kgの製品であった)をトロコンに載せる作業(作業②)を担当してい。 たが,包装担当が2人のため,通常より相当余裕があった。 (6)医学的経験則,検討委員会報告書の各内容等ア筋作業と心疾患の関係- 14 -(ア)本件鑑定書は,動的な筋労作と静的な筋労作の循環器機能への特徴 が2人のため,通常より相当余裕があった。 (6)医学的経験則,検討委員会報告書の各内容等ア筋作業と心疾患の関係- 14 -(ア)本件鑑定書は,動的な筋労作と静的な筋労作の循環器機能への特徴について「ILOエンサイクロペディア」29・29「筋作業」の次の記述,を引用している。 <動的な筋作業>動的な作業では,活動している骨格筋がリズミカルに収縮し,弛緩します。筋肉への血流は代謝の必要を満たすため増加します。血流の増加は,心臓が血液を送出する量(心拍出量)を増やし,腎臓と肝臓のような活動していない器官への血流を減少させ,そして作業筋群の開いている血管数を増やすことによってなされます。心拍数,血圧と筋肉中への酸素取り込み量が作業強度と線形的な関係で増加します。また,呼吸が深くなり呼吸数が増加するにつれて肺換気量も増加していきます。心肺機能系全体が活発に活動する目的は,活動筋への酸素供給を増やすことにあります(中略)動的作業の場合は,活動筋群が(腕のように)小。 さめの場合,最大作業能力と酸素摂取量のピークは,大きい筋肉群によってなされる動的作業の時よりもより小さくなります。外部への作業出力が同じ場合,小さな筋肉群を使った動的作業は,大きな筋肉群を使った作業よりも大きい心肺機能反応(例えば,心拍数,血圧の変化)を引き起こします。 <静的な筋作業>静的作業では,筋肉収縮は例えば四肢などにおける目に見える動きを引き起こしません。静的作業は筋肉内の圧力を増やし,力学的な圧縮を伴って部分的あるいは完全に血液循環を止めます。筋肉への栄養物質と酸素の供給と筋肉からの代謝産生による排出物の排出が妨げられます。 このように,静的作業では,筋肉が動的作業よりもいっそう,疲れやすくなります。静的作業の最も顕著な循環器系の特徴は血圧の上昇です。 心 酸素の供給と筋肉からの代謝産生による排出物の排出が妨げられます。 このように,静的作業では,筋肉が動的作業よりもいっそう,疲れやすくなります。静的作業の最も顕著な循環器系の特徴は血圧の上昇です。 心拍数と心拍出量は大きくは変化しません。ある作業強度より上では,血圧が作業強度と持続時間に直接関連して増加します。さらに,相対的作業強度が同じ場合は,大きな筋肉群で行う静的作業は,小さな筋肉群で行う作業よりも大きな血圧反応を引き起こします。 (イ)検討委員会報告書は,報告時点における知見の到達点として,動的筋労作及び静的筋労作の循環器機能に対する影響の特徴について,下記a,bのとおり解説した上,動的筋労作は,その強度により,心拍数の増加,心筋収縮性の増大,壁張力の増大により,心筋酸素需要を増加させ,血行力学的に有意な固定冠動脈狭窄を有する患者では,心筋虚血を誘発されやすいとし,また,静的筋負荷が加わる日常労作では,狭心症発作が誘発されやすいということを臨床的にしばしば経験するという報告がされており,そのため虚血性心疾患患者においては,静的筋収縮の要素の強い労作を避けることが勧められており,さらに,重い物を押したり,挙上したり,運搬したりすることは,標準的な静的筋労作と同様な血行動態反射を引き起こし,拡張期血圧の著しい上昇とそれによる後負担の増大は心筋酵素需要- 15 -を大きく増加させ,狭心症患者の発作をしばしば引き起こすとする見解が紹介されているa動的筋労作(a)全身の筋肉を使用する運動時の循環反応の特徴は,運動の準備状態で,既に迷走神経中枢の抑制及び交感神経中枢の興奮が生じ,心拍数,心収縮力及び心拍出量の増大が起こる。この際,コリン作動性交感神経血管拡張系が活動し,筋肉の細動脈及び終末細動脈の拡張が引き起こされ,血流の骨格筋へ 中枢の抑制及び交感神経中枢の興奮が生じ,心拍数,心収縮力及び心拍出量の増大が起こる。この際,コリン作動性交感神経血管拡張系が活動し,筋肉の細動脈及び終末細動脈の拡張が引き起こされ,血流の骨格筋への配分が多くなる。 (b)身体の多くの部位に筋活動が生じると,末梢血管抵抗は著しく減少し,心拍数の増加,血圧上昇(収縮期の著明上昇,拡張期は不変又は軽度上昇,脈圧の増加及び心拍出量の増加が起こる。 )(c)動的筋労作は,心拍数の増大,心筋収縮性の増大,壁張力の増大により,心筋酸素需要を増加させる。 (d)血行力学的には有意な固定冠動脈狭窄を有する患者では,心筋虚血を誘発させやすく,陳旧性心筋梗塞による壁運動異常を呈する患者では左心機能障害を誘発されやすい。 b静的筋労作(a)静的筋収縮の状態では,上昇した筋肉内圧が筋肉内の血管を機械的に圧迫し,血流を阻害し,筋緊張の程度や持続時間によって様々な血流障害が起きる。静的筋労作は持続した場合,体動脈圧,心拍数,換気は著しく増加し,同程度の酸素消費量を必要とする動的筋労作の場合よりも著明となる。 (b)静的筋労作による心拍数の増加は,労作開始直後から出現し,収縮期血圧,拡張期血圧ともに著しく上昇する。また,心拍数の増加に依存して心拍出量も増加する。 (c)静的筋収縮の多寡により心拍数,酸素消費量の反応と血圧反応に大きな解離が生じ,荷物の保持歩行やしゃがみ動作などの静的筋収縮が強い動作では,間欠的昇段などの動的収縮が主体の動作に較べ,血圧反応がより顕著であった。同じ労作でも,筋負荷が小さな筋群にかかるほど血圧上昇が著明であった。 (d)しゃがみ動作よりも荷物運搬動作の方が,血圧反応が著明で,同様に10kgの重量物の運搬でもより小さな筋群への静的筋負荷がかかる「背負う「抱える「片手で下げ かるほど血圧上昇が著明であった。 (d)しゃがみ動作よりも荷物運搬動作の方が,血圧反応が著明で,同様に10kgの重量物の運搬でもより小さな筋群への静的筋負荷がかかる「背負う「抱える「片手で下げる」の順に収縮期血圧は高値」」を示していた。 (e)「いきみ」動作では,酸素消費量の低下と回復期の反跳現象が見られ「いきみ」による大きな酸素負荷は,心筋酸素消費量の増大と,あいまって心筋虚血を惹起する可能性を示している(なお,被控訴。 人は,検討委員会報告書につき,同報告書は今後の検討材料と予防上の意見を提示したにとどまり,日本産業衛生学会の見解を示したものではない旨主張しているが,同委員会は,同学会の総会で設立が承認- 16 -され,2年半の間に11回の委員会を開催して,最終報告をとりまとめ,高血圧や虚血性心疾患などの循環器疾患の職場での予防対策に関する現在の到達点を紹介し,予防及び労災補償に関する提言を行ったものである)。 イ急性冠症候群P4医師は,安定狭心症と不安定狭心症の違いについて,下記(ア(イ)),のように解説しているが(乙22,この見解は,P5医師の証言とも符合す)るものであり,今日広く一般に承認されている見解であると考えられる。そして,不安定狭心症と急性心筋梗塞との間には,冠動脈病変自体に本質的な差異がないことから,通常,両者は一括して急性冠症候群と呼ばれるようになってきているといえる(急性冠症候群とは,心臓に分布する冠動脈の病態に着目した病態学的概念であり,狭心症不安定化の主たる要因は,冠動脈の動脈硬化巣の粥腫の破裂に伴う血栓形成とされており,冠動脈の病態から見て,不安定狭心症と急性心筋梗塞とはその発生順序が類似している(甲7の1,乙15,。)。 52,73,76,証人P4①15頁)(ア)現在の 腫の破裂に伴う血栓形成とされており,冠動脈の病態から見て,不安定狭心症と急性心筋梗塞とはその発生順序が類似している(甲7の1,乙15,。)。 52,73,76,証人P4①15頁)(ア)現在の医学的知見では,狭心症の発症機序は,まず,心臓の冠動脈に動,,,脈硬化性変化として動脈硬化性粥腫が形成され冠動脈の内腔が狭窄し狭くなってくる。そのため,相対的な血液供給不足に陥り,運動,労作時など心筋への酸素需要が増大した時に酸素供給が追従出来なくなり,心筋,。 ,への酸素需給が破綻し狭心症症状が発症する冠動脈は狭窄しているが粥腫(プラーク)は此の時点では,線維性被膜に覆われており,硬く安定しているため単純プラークと呼ばれる。このような安定した単純プラークにより生じる病態が「安定狭心症」である「安定狭心症」は労作により。 生じるため,労作狭心症とよばれる。 (イ)安定狭心症は今日の学説に従うと,次のような機序により不安定狭心症に移行すると考えられる。冠動脈に生じた粥腫(プラーク)は高血圧,高脂血症,喫煙,肥満,運動不足,ストレスなど生活習慣に起因する多元的要因により,まず,プラークが硬い単純プラークから破損し易い複雑プラークに徐々に変化する。この変化は,年齢的には30~40代の中年期に徐々に進行する(緩徐な進行期。その後,粥腫内にマクロファージやリ)ンパ球などの炎症反応が生じると,プラーク表面が軟らかくなり,剥離,出血,潰瘍が生じ,遂にはプラークが破綻する。この変化は通常,急激に生じるため「急激な進行期」と呼ばれるが,プラークが破綻すると容易に血栓が形成され,冠動脈内腔が閉塞し,不安定狭心症及び急性心筋梗塞を含む急性冠症候群をきたし,突然死することが多くなる。 ウ長時間労働及び深夜勤務と心疾患の関係この点に関し,以下 破綻すると容易に血栓が形成され,冠動脈内腔が閉塞し,不安定狭心症及び急性心筋梗塞を含む急性冠症候群をきたし,突然死することが多くなる。 ウ長時間労働及び深夜勤務と心疾患の関係この点に関し,以下のような指摘がされている。 (ア)専門検討会報告書(乙52)脳・心臓疾患の認定基準に関する専門検討会は,厚生労働省からの依頼により,平成12年11月から同13年11月までの間,延べ12回の会- 17 -議を開催し,疲労の蓄積等と脳・心臓疾患の発症との関係を中心に,業務の過重性の評価要因の具体化等について,現時点における医学的知見に基づいて検討を行い,その検討結果を取りまとめたものであるが,下記aないしeのような留意点の指摘及び知見の整理をしている。なお,専門検討会報告書は,下記eなどの疫学調査果について「十分に計画され評価に,耐える疫学調査で,長時間労働が健康に及ぼす影響について調べた報告は現時点においても多くはない。これは,労働時間以外のほぼ同一条件の対照を選ぶことが困難なこと,他の種々の労働条件や業務又は業務以外のストレスが同時に存在するので解析が容易でないこと,長期にわたる追跡調査が必要であること等による」と付言している。 。 a恒常的な長時間労働等の負荷が長時間にわたって作用した場合には,ストレス反応は持続し,かつ,過大となり,ついには回復し難いものとなる。これを一般に疲労の蓄積といい,これによって,生体機能は低下し,血管病変等が増悪することがあると考えられている(89頁。 )b長時間労働が脳・心臓疾患に影響を及ぼす理由は,①睡眠時間が不足し疲労の蓄積が生ずること,②生活時間の中での休憩・休息や余暇活動の時間が制限されること,③長時間に及ぶ労働では,疲労し低下した心理・生理機能を鼓舞して職務上求められる一定のパフォーマンス 間が不足し疲労の蓄積が生ずること,②生活時間の中での休憩・休息や余暇活動の時間が制限されること,③長時間に及ぶ労働では,疲労し低下した心理・生理機能を鼓舞して職務上求められる一定のパフォーマンスを維持する必要性が生じ,これが直接的なストレス負荷要因となること,④就労態様による負荷要因(物理・化学的有害要因を含む)に対するばく。 露時間が長くなることなどが考えられる(95頁。 )c交替制勤務と心血管疾患の関係については,SteenlandらやBoggildらによれば11調査あり,そのうち有意の心血管疾患の増加を認めた調査は7調査であるとしている。これらの報告から判断すると,交替制勤務の心血管疾患に対するリスクは,おおむね1.2から1.5倍になるといえる(99頁。 )d交替制勤務が日常勤務としてスケジュールどおり実施されている場合又は日常業務が深夜時間帯である場合に受ける負荷は,日常生活で受ける負荷の範囲内のものと考えられる(99頁。 )eSokejimaらは,195人の心筋梗塞患者(患者群)と年齢,職業を一致させた心疾患を有さない331人(対照群)の症例対照調査で,労働時間1日平均11時間以上の群では心筋梗塞り患のオッズ比は2.44,7時間未満群ではオッズ比は3.07と有意に大であったとしている。高血圧(オッズ比3.64,高コレステロール血症(オッ)ズ比3.16)など他の要因を無視して労働時間にのみ着目すれば,労働時間に関して,心筋梗塞り患はU字型を示していること,また,発症前1年間に急激な労働時間の増加があった群ほどり患率は大であったことから,短時間労働者群で心筋梗塞り患率が大であるのは,これらの群は既に種々の基礎疾患にり患していたか,予防的に労働時間を短縮していたことによるとも考えられるとしている。また,長時間労働 であったことから,短時間労働者群で心筋梗塞り患率が大であるのは,これらの群は既に種々の基礎疾患にり患していたか,予防的に労働時間を短縮していたことによるとも考えられるとしている。また,長時間労働者群では- 18 -仕事熱心など,心筋梗塞り患性の高い行動パターンを示すものが多いことが関係しているとも考えられるとしている(93頁(オッズ比〈O)。 ddsRatio〉とは,ケースコントロール研究において,結果因子を持つ群〈疾患群〉における危険因子を持つ人の割合を危険因子を持たない人の割合で割り算した値〈すなわち,オッズ〉を,結果因子を持たない群〈対照群〉における危険因子を持つ人の割合を危険因子を持たない人の割合で割り算した値〈すなわち,オッズ〉で割り算した値である〈被控訴人・原審平成14年5月28日付け第7準備書面15頁)〉。 イ深夜業の就業環境健康管理等の在り方に関する研究会中間報告平()「,」(成10年11月27日付け労働省(甲6))今回,その後の医学的知見を取りまとめるとともに,深夜業の健康影響を確認するため,文献調査及び事例調査が実施されたが,明確な結論を導くには十分でない部分もあるため今後も調査が必要である(7頁。 )事例調査の結果,深夜勤務時間が減少した従業員のみに血圧の低下が有意に認められ,深夜勤務が身体に影響を及ぼし得る要因の一つである可能性が示唆された(8頁。 )(ウ)藤田利治ほか「交代制勤務が健康に及ぼす長期的影響に関するコホート研究(日本公衆衛生雑誌40巻4号〈平成5年4月(乙16)」〉研究デザイン~夜勤を含む交代制勤務の健康への長期的影響を検討するため,コホート研究を行った。対象者は1967年から1970年の間に一製鉄所に入社した16~28歳の監督技能系の男性従業員である。入 研究デザイン~夜勤を含む交代制勤務の健康への長期的影響を検討するため,コホート研究を行った。対象者は1967年から1970年の間に一製鉄所に入社した16~28歳の監督技能系の男性従業員である。入社初期の勤務形態により交代勤務群790人と常日勤群309人に分類し,1991年11月までの20年余りの長期間についての傷病発生を調査した。 結論~良好な保健管理・労務管理の下では交代勤務による重篤な健康影響は明らかでないと結論した。 ()(「,()」〈〉)エ前原直樹の見解夜勤は循環器にどの程度悪いのか 甲25夜勤・交替制勤務は,心血管系へ影響を及ぼすとの成績が趨勢となっている。 深夜勤務による労働は,循環器疾患およびその危険因子の発症や進展に関連があるとの結論になりつつあるが,残された研究課題も多い。心室不整脈や心電図に虚血性変化を示している従業員の深夜勤務の影響は,深夜帯のみならず夜勤明け日などにも残る可能性が事例から示された。また高血圧者の睡眠不足や疲労の増強場面には血圧上昇が伴い,進行する可能性もある。今後は,深夜勤務での作業内容や作業条件,夜勤者の種々の生活要因との相互関連の中で疾患や危険因子の発症・進展などの対応関係を明らかにすることが望まれる。 (オ)本件鑑定書本件鑑定書は,鑑定人の前原直樹らの「国際レベルをめざした男女共通の深夜労働の法規制の現状と今後の課題(労働科学2000;76(5:1」)91-204)等を引用しながら,次のような記述をしている。 - 19 -a夜勤交代勤務による労働が,家庭生活や社会生活に多くの不便や困難をもたらすとともに,人間の生理的なリズムに逆行する労働態様であるために睡眠不足や慢性疲労を起こしやすく,様々な健康障害の発症に関連することはよく知られている。 b80年前 生活に多くの不便や困難をもたらすとともに,人間の生理的なリズムに逆行する労働態様であるために睡眠不足や慢性疲労を起こしやすく,様々な健康障害の発症に関連することはよく知られている。 b80年前半~90年代後半にかけての国内外の深夜・交代勤務と疾病,とりわけ循環器疾患との関連についての研究の到達点は「両者の関連性,が未だ判らない,結論を導くには十分ではない(上記(イ)の労働省中」間報告,また「交替制勤務が日常業務としてスケジュールどおり実施さ),れている場合又は日常業務が深夜時間帯である場合に受ける負荷は,日常生活で受ける負荷の範囲内のもの(専門検討会報告書)ではなく,その」影響も血管病変等の自然経過の範囲にとどまる,というものでは決してない。 (7)行政解釈の変遷証拠(乙35,49,50)によれば,以下の事実が認められる。 ア厚生労働省は,従前(旧労働省時代,脳・心臓疾患の労働災害(以下「労)災」という)認定に当たって,主として発症前1週間程度の期間における業。 ,,,務量業務内容等を中心に業務の過重性を評価してきたが平成13年12月専門検討会報告書を踏まえ,長期間にわたる疲労の蓄積についても業務による明らかな過重負荷として考慮することとし「脳血管疾患及び虚血性心疾患等,(負傷に起因するものを除く)の認定基準」を改正)し,現行認定基準を定。 めた。 イ現行認定基準においては,認定要件として,次の(ア(イ)又は(ウ)),の業務による明らかな過重負荷を受けたことにより発症した脳・心臓疾患は,労災として取り扱うものとしている。 (ア)発症直前から前日までの間において,発生状態を時間的及び場所的に明確にし得る異常な出来事に遭遇したこと。 (イ)発症に近接した時期において,特に過重な業務に就労したこと。 (ウ としている。 (ア)発症直前から前日までの間において,発生状態を時間的及び場所的に明確にし得る異常な出来事に遭遇したこと。 (イ)発症に近接した時期において,特に過重な業務に就労したこと。 (ウ)発症前の長期間にわたって,著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務(以下「長期間の過重業務」という)に就労したこと。 。 ウ現行認定基準によれば「長期間の過重業務」につき,過重負荷の有無の判,断として,次のような指針が示されている。 (ア)著しい疲労の蓄積をもたらす特に過重な業務に就労したと認められるか否かについては,業務量,業務内容,作業環境等を考慮し,同僚等にとっ,,,ても特に過重な身体的精神的負荷と認められるか否かという観点から客観的かつ総合的に判断すること。 (イ)業務の過重性の具体的な評価に当たっては,疲労の蓄積の観点から,労働時間のほか,不規則な勤務,拘束時間の長い勤務,出張の多い業務,交替制勤務・深夜勤務,作業環境(温度環境,騒音,時差,精神的緊張を)伴う業務の負荷要因について十分検討すること。 その際,疲労の蓄積をもたらす最も重要な要因と考えられる労働時間に- 20 -着目すると,その時間が長いほど,業務の過重性が増すところであり,具体的には,発症日を起点とした1か月単位の連続した期間をみて,①発症前1か月間ないし6か月間にわたって,1か月当たりおおむね45時間を超える時間外労働が認められない場合は,業務と発症との関連,,性が弱いがおおむね45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど業務と発症との関連性が徐々に強まると評価できること②発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は,業務と発症との関連性 徐々に強まると評価できること②発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は,業務と発症との関連性が強いと評価できることを踏まえて判断する。 ここでいう時間外労働時間数は,1週間当たり40時間を超えて労働した時間数である。 また,休日のない連続勤務が長く続くほど業務と発症との関連性をより強めるものであり,逆に,休日が十分確保されている場合は,疲労は回復ないし回復傾向を示すものである。 (8)P2の健康状態・病状等(,,,,,,,,,,, 証拠 甲11 乙3 証人P10,控訴人本人)によれば,次の事実が認められる。 (),。 アP2の飲酒量アルコール摂取量は極めて少量であり喫煙歴もなかったP2は,既往症として,昭和56年ころ肝臓を患い入院し,また,昭和63年9月に右尿路結石症で2週間入院したことがある。 昭和55年以降健康診断時等において測定されたP2の血圧は別紙6血,,「圧測定値」記載のとおりであり,いずれも正常の範囲内にある。 イP2は,昭和60年7月18日(当時50歳)の健康診断時に,労作性呼吸困難を訴えた。一般健康診断個人票(乙12)の同日の欄には,ECG(心電図)希望との記載がある。P2の平成元年7月ころの体重は68kg(身長166cm)であった。 ウP2は,平成2年1月上旬ころ,自転車通勤中に胸部不快感を感じ,同月31日,P11病院で受診し「3週間前より自転車で通勤しているが,胸部圧,迫がある」旨訴えたところ,同病院のP11医師により「心筋虚血症・僧。 ,帽弁膜症の疑い」と診断された。 P2は,このころ,控訴人に対し,自転車で少し急いで走 より自転車で通勤しているが,胸部圧,迫がある」旨訴えたところ,同病院のP11医師により「心筋虚血症・僧。 ,帽弁膜症の疑い」と診断された。 P2は,このころ,控訴人に対し,自転車で少し急いで走ったり,階段を上がるとき,胸がキューと締めつけられるように苦しくなるなどと話していた。 エP11病院における初診時の診察及び各種検査の結果は以下のとおりであった。 (ア)聴診上,心尖部にⅡ度の収縮期雑音。 (イ)胸部エックス線写真上,心胸比(CTR)51.5%,軽度の心拡張を認めるが,肺血管の増強は認めない。 (ウ)心電図上,心拍数毎分64拍,心下壁に軽度の虚血性変化を認め,T波の増高を認める。 - 21 -(エ)血液検査で,CPKは241IU/1(基準値20~160,正常値上限の1.5倍)であったが,CPK-MBは14IU/1(基準値20以下)で心筋変化は正常範囲と考えられた。 (オ)総コレステロール202mg/dl(基準値130~250,リポ蛋)白分画定量LDL465mb/dl(基準値180~550)で正常範囲内。 オP11病院におけるP2に対する治療としては,当初から同年2月28日ころまでジゴシン(心臓に直接働いて、収縮力を増大させ、弱った心臓の働きを回復させる作用がある)及びペルサンチン(冠動脈を広げ心筋への血液供給。 量を増やし,また血小板の凝集機能や粘着性を抑えて血栓の発生を防ぐ作用を持つもの)等が投与された。 カP2は,P11病院での治療効果が上がっているように思えなかったことから,大きな病院の専門医(京大病院心臓外来)に診てもらいたいと考えるようになった。P2は,カレンダーの同年3月12日欄に「京大病院,心臓外来,毎週月火」と記載したりして,受診できる日を確かめていた。しかし,本件事故まで出勤日と重なり(別紙4 診てもらいたいと考えるようになった。P2は,カレンダーの同年3月12日欄に「京大病院,心臓外来,毎週月火」と記載したりして,受診できる日を確かめていた。しかし,本件事故まで出勤日と重なり(別紙4「死亡前3か月間の勤務形態等」参照,京大)病院の心臓外来で受診する機会がなかった。 キP2は同年2月8日,21日,28日にP11病院で受診したが,同病院の外来診療録の同月21日欄には「心音純,不整脈(-,胸部圧迫感低下」と)記載され,また同月28日欄には「自転車で時々走っているが,少しましになってきた,心音純,不整脈(-」と記載されている。 )クP2は,同年3月5日から同月9日まで連続5日間勤務した(そのうち,8日と9日は夜勤である(別紙4。この時期のP2は,口数が少なくなり,))顔色も青白くなり,何か考え込んでいるような様子で,控訴人が声を掛けても返事もしないということが度々あり,疲れた,しんどいという言葉を何度も漏らしており,食欲もない様子であった。 ケ同月11日は休日であったが,P2は,翌12日,朝からくしゃみや鼻汁が,,「,,。」出る症状があり控訴人に対し風邪を引いたらしいしんどい息苦しいと訴えていた。P2は,同日,中央病院で受診したところ,感冒と診断され,(,. ),同病院の医師から感冒薬を与えられたが血圧93/54体温359度午後7時半ころには自宅を出て,出勤し,午後8時から翌午前8時まで夜勤に就いた。 コP2は,同月13日朝,夜勤明けで帰宅した後,再び中央病院で受診し,咽頭痛・関節痛を訴えたところ,同病院の医師から静脈注射を打たれた(血圧102/55,体温36.4度。P2は,その日,控訴人に対して「とてもつ),,。」らい休みたいけど休めないもう1日夜勤しなければ替わる人がいない ころ,同病院の医師から静脈注射を打たれた(血圧102/55,体温36.4度。P2は,その日,控訴人に対して「とてもつ),,。」らい休みたいけど休めないもう1日夜勤しなければ替わる人がいないから,,,。 と言いながら出勤し前日同様午後8時から翌午前8時まで夜勤に就いたサP2は,同月14日(夜勤明け日,自宅に帰ってきた後,控訴人の「お帰)り」という言葉にも,ろくに返事もしないで,辛くてかなわない,どうしょうもないという様子を示した。そして,P2は,控訴人に対して,明日はどうし- 22 -ても仕事ができそうにもないので勇気を出して休みをもらうことにしたと話した。P2は,夜勤明け日を利用して中央病院で再度受診したところ,同病院の医師から再び感冒薬を投薬された。 P2は,同日,P11病院でも受診し,胸部不快感を訴えたが,その際,聴診上,心雑音が消失していたため,初診時の雑音は無害性雑音と判断され,左前胸部にフランドルテープ(冠動脈を広げて血液の流れをよくし,心筋への血液供給量を増やす作用を有する亜硝酸剤)を貼付された。その日,P2は入浴しなかった。 シP2は,同月15日,有給休暇を取得した。P2は,この日も,控訴人に対し「風邪でしんどい」などと訴え,入浴しなかった。 ,。 ス同月16日午前7時ころ,控訴人がP2に声をかけても,なかなか起きてくる様子がなかったことから,もう1日休ませてもらってはどうかと言ったところ,P2は前の日休んでいるから,2日も続けて休めないという趣旨のことを言い,結局,午前7時55分ころに出勤し,定時の午前8時には本件業務を開始した。 ,,,P2は正午からの昼休みにたまたま出くわした同僚であるP10に対し「しんどい。胸が痛い。どこかいい医者おらんか」などと訴えていた(証人。 P1061・8 前8時には本件業務を開始した。 ,,,P2は正午からの昼休みにたまたま出くわした同僚であるP10に対し「しんどい。胸が痛い。どこかいい医者おらんか」などと訴えていた(証人。 P1061・86頁。 )セP2は,同日午後1時から,作業の打合せ,説明の後に,本件業務を再開した。その後,実働5時間を経過した午後2時ころ,包装作業に従事していたP9が,目の前の製品の包装を終えて,P2に対し「品物を上げてくれ」な,。 どと言ったところ,P2が聞こえなかったのか上げなかったので,再度強い口調で言うと,P2は「そんなに言わんでも直ぐに上げる。ちょっと待ってく,れ」などと返答し,やや興奮気味になった。その直後,P2は,P9にもた。 れるような形で突然倒れた。 ソその後,P2は,駆けつけた産業医のP7医師によって,心マッサージによる蘇生術が施されたが,間もなく同所において死亡した。なお,産業医が心マッサージによる蘇生術を施そうとして,胸部の衣類を開けたところ,左前胸部にフランドルテープが貼付されていた。P2の死因は,急性心筋梗塞であった(ただし,死体解剖はされていない。 。) 判断 (1)はじめに虚血性心疾患(その病名は,心筋虚血により生じた機能的異常に由来するものである)の業務起因性の認定に当たっては,虚血性心疾患の発症機序の解明を。 ,(,),(,,基礎としつつ業務量労働時間密度業務内容作業形態業務の難易度責任の軽重等,職場環境,そのほか心理的負荷等を含めた業務による諸々の負)荷,さらには,発症後の安静治療の困難性などの事情を総合的ないしは包括的に考慮して判断すべきである。 とりわけ「業務による疲労の蓄積の評価については,主観的な訴えが中心と,なること,しかも業務以外の要因が疲労の蓄積に関与するこ の困難性などの事情を総合的ないしは包括的に考慮して判断すべきである。 とりわけ「業務による疲労の蓄積の評価については,主観的な訴えが中心と,なること,しかも業務以外の要因が疲労の蓄積に関与することも少なくないこと- 23 -等から,定量的かつ客観的に判断することが難しいが,より客観的に評価するためには,労働時間の長さや,就労態様を具体的かつ客観的に把握し,総合的に判断する必要がある(専門検討会報告書86頁)と言われている。 。」そして,業務と疾病との間の相当因果関係の存在の立証は,もとより,一点の疑義も許されない自然科学的証明ではなく,経験則に照らして全証拠を総合検討し,特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明することであり,その判定は,通常人が疑いを差しはさまない程度に真実性の確信を持ちうるものであることを必要とし,かつ,それで足りるものと解すべきである。 そして,この場合,行政実務上の解釈基準となる認定基準(虚血性心疾患が業務上の疾病として認定されるための要件)は,そこで示されるものとは異なる態様で業務上発症する疾病の存在を否定するものではないから,仮に認定基準に完全には合致しなくても,これとは別の誘因,様序,経過等を明かにして,業務と疾病との間の相当因果関係の存在が立証されるならば,業務起因性は肯定されるべきものである。 (2)P2の基礎疾患(急性心筋梗塞発症の基礎となる疾患)の有無,発症時期及び症状の進行状況ア昭和60年7月当時の症状(),「」()前記1 イ認定のとおりP2に係る一般健康診断個人票乙12の昭和60年7月18日欄には「労作時の呼吸困難ECG希望」との記載がある。 P4医師は,上記記載を根拠として「此の頃から,狭心症様症状が出現し,ていた可能性が否 係る一般健康診断個人票乙12の昭和60年7月18日欄には「労作時の呼吸困難ECG希望」との記載がある。 P4医師は,上記記載を根拠として「此の頃から,狭心症様症状が出現し,ていた可能性が否定できない「本例は昭和60年当時,安定労作狭心症の。」,状態にあったが,高脂血症に近い準高脂血症下にて,狭心症状の悪化の無いまま,冠動脈硬化が徐々に進行し,漸次,血管内腔の狭窄が進行し,平成2年1月頃に至り,心筋虚血を準備する不安定狭心症の初期段階に移行していたと想定される」との意見を述べている(乙15-8・13・14頁)が,そのよ。 うに考えた根拠としては「狭心症,あるいは心筋梗塞で倒れられた方を振り,返ってみた場合には,ある期間,以前の症状として結び付けられるような呼吸不全といいますか,あるいは胸部圧迫感,そういうものがどこかに発見されることが多い。そういうような私の経験則上の事柄からです」と証言するにと。 どまる(証人P4①3頁。 )イ平成2年1月ころ以降の症状(ア)平成2年1月31日時点で,P2の不安定狭心症は,Braunwaldが提唱した臨床症状のステージ(P6医師の意見書〈乙47-5頁〉参照)に照らすと重症度がクラスⅠB1の段階にあったとみられるという。 点では,P4医師もP5医師もそれぞれ見解が一致している(証人P4①9頁,同P5①24頁。 )(イ)その具体的な症状について,P4医師は,次のような説明をしている。 a同年2月1,2日のP11病院での心電図及び血液生化学検査の結果- 24 -から心筋の一部に壊死を来すような心筋虚血状態にあったと考えられるとし,その理由として,心筋特異性の高いCPK-MBは正常値の範囲内であるが,この値は虚血後3日以内に正常に復すものであり,その後も残存する心筋逸脱酵素であるCP な心筋虚血状態にあったと考えられるとし,その理由として,心筋特異性の高いCPK-MBは正常値の範囲内であるが,この値は虚血後3日以内に正常に復すものであり,その後も残存する心筋逸脱酵素であるCPK価が正常値の1.5倍の高価を示していることと,心電図上,急性心筋梗塞のごく早期に出現する場合があるT波の増高が認められることを指摘している(乙15-1頁。 )bまた,クラスⅠB1は「心臓に原因を持つ一次性の不安定狭心症の,『新しく起きた発作であり,最小限度の治療しか受けていない状態』ということを意味するものであり,軽症を意味するものではない」との意。 見(乙15-10頁)を前提とした上で,平成2年1月31日時点でのP2の病像及び治療方針につき「ここでは,もし,こういう状態が把,握されてたとすれば,この方は即入院が必要であったと思います。少な,。 くともこの状態で心筋虚血を思わせる明らかな所見と症状が出てますしたがって,不安定狭心症ということを考えるならば,まず入院安静の状態におきまして,そして,不安定狭心症のどういうタイプであるかというのを決めていく必要があります。つまり非常に切迫した状態であるのか,それとも比較的落ち着いた状態であるのかを,投薬,あるいは注射,あるいは外科的な治療が必要なのか,そういうことを決める,治療方針を決めるための入院が絶対に必要だったと思います」と証言し(証。 人P4①10頁,また「証人は,この被災者P2さんは,どういうふ),うにしたら死亡という結果につながらなかったというふうに思われますか」との問いに対して「私は,一つは1月31日でしょうか,そのと。 ,きに的確な診断と治療が行われており,そこで入院の上で十分な治療ができる態勢であったならば,十分,このような事態にはならなかったの,。」( て「私は,一つは1月31日でしょうか,そのと。 ,きに的確な診断と治療が行われており,そこで入院の上で十分な治療ができる態勢であったならば,十分,このような事態にはならなかったの,。」()。 ではないかというのが一番思いますと証言している同②10頁なお,不安定狭心症の治療方針としては「不安定狭心症の治療は,,入院を原則とする。これは,安定狭心症に比べて重篤なものや緊急性の高いものが多いからである」と記載した成書(乙42)もある。 。 cさらに「1月31日の時点ですと,その次,2月1日の検査結果を,見ますと,心筋壊死をかなり疑わせる結果が出ていますので,したがって,この時点で不安定狭心症になったと考えられます。不安定型狭心症でありますと,まず大事なことは,いかなるタイプの不安定型狭心症であるかということを,入院,検査の上で決めて,その上で治療法を選択する必要がある(同②2・3頁「平成2年1月上旬には,心筋虚血」),状態,或は,心筋虚血準備状態にあったと考えられる」とか(乙15。 -9頁,心電図等により一部心筋壊死に陥っていることが認められる)旨の証言(証人P4②14・15頁)をしている。 (ウ)これに対し,P5医師は,上記aについて,CPKと同様心筋逸脱酵素の一つであるGOTやLDHがいずれも正常値(乙3-191頁)である,,,こと心電図上の尖鋭T波は心筋梗塞の超急性期に出現するものであり- 25 -2,3日も続くことはないとの理由で,P4医師の判断に疑問を呈し(証人P5①21・23頁「P2の不安定狭心症は当初から不安定狭心症の),なかでは急性心筋梗塞や心臓死に至るリスクが決して高いものではなかった」とか「通常の経過ではそれほどリスクの高いものではなかった(甲。 。」7の1-2頁)とし 心症は当初から不安定狭心症の),なかでは急性心筋梗塞や心臓死に至るリスクが決して高いものではなかった」とか「通常の経過ではそれほどリスクの高いものではなかった(甲。 。」7の1-2頁)としつつも,クラスⅠB1がすべて軽いというわけではなく,重症病変が潜んでいることを十分注意し,心身の安静を保ちつつ,十分な検査(本件の場合は,心エコーやホルター心電図の検査をしていない点に問題がある)や投薬を行うべきであるとする(同①23頁。 。 )(エ)また,P6医師は「被災者の場合のように,急性心筋梗塞に不安定狭,心症が先行したことは,医学的には基礎にある冠動脈の動脈硬化性病変が急性心筋梗塞を起こしうる状態にあることを示唆する警告発作と解釈すべきであり,その段階で基礎病変の進行に治療的介入を行い,急性心筋梗塞の発症を予防する必要があったと考えられる(乙73-7頁)としてい。」る。 ウ不安定狭心症の発症時期(ア)P5医師は「被災者の新規発症型狭心症の発症時期は,P11病院の診療録及び妻の証言によれば,1月中旬頃と推定される(不安定狭心症は。」新規発症型狭心症と増悪型狭心症に大別される)としている(甲7の3。 -2頁。 )(イ)P4医師は,前記のとおり「本例は平成2年1月上旬には,心筋虚血,状態,或は,心筋虚血準備状態にあったと考えられる「平成2年1月。」,上旬には冠動脈のプラークは単純プラークから複雑プラークに移行していたと考えられる」との意見(乙15-9頁)を述べている。 。 (ウ)P6医師は「平成2年1月31日のP11病院における胸部X線写真,,。 と心電図では被災者に軽度の左心室肥大があったことが認められているこれらの所見は左心室の心筋肥大があったことを示唆する。左心室の心筋肥大は左心室の心筋の仕事量が 院における胸部X線写真,,。 と心電図では被災者に軽度の左心室肥大があったことが認められているこれらの所見は左心室の心筋肥大があったことを示唆する。左心室の心筋肥大は左心室の心筋の仕事量が長期にわたって増大したときに起こり,とくに高血圧による心筋への圧負荷が増大したときにみられることが多い」。 と述べている(乙47-9頁。 )エP2の基礎疾患の評価以上の諸見解を対比しつつ検討するに,P4医師は,P2について,昭和60年当時,安定労作狭心症の状態にあったとしているが,臨床的に確定診断に至るためには,典型的症状の確認と心電図による検査記録が必要であると考えられるところ,上記方法による診断がされた形跡がないことからすると,安定労作狭心症の発症の有無,発症時期に関する上記意見は説得力ある医学的根拠にいささか欠けるものと言わざるを得ない(P6医師も「狭心症の疑いはあ,るものの,それが心筋虚血による症状か否かは判然としない」と述べるにと。 どまり,結論を留保している〈乙47-8頁,73-5頁〉し,P4医師自身も健康診断票の記載だけでは狭心症という確定診断はできないと述べている〈証人P4①41頁。 〉。)- 26 -また,昭和60年7月18日以降平成2年1月までの間に,P2が胸部圧迫感や胸痛を自覚したり,医師や家族等にこれを訴えたことをうかがわせる証拠が全くないことをも併せ考えると,少なくとも不安定狭心症の症状はかなり顕著な自覚症状及び他覚症状が出現するに至った平成2年1月ないしこれと近接した時点で発症したものと認めるのが相当である。 しかしながら,P2の場合,健康診断において高血圧が観察されたことがなく(前記1(8)ア,虚血性心疾患を示唆する身体的徴候も認められないこ)とから,冠状動脈の粥状硬化の発生時期やその推移を具体的に しかしながら,P2の場合,健康診断において高血圧が観察されたことがなく(前記1(8)ア,虚血性心疾患を示唆する身体的徴候も認められないこ)とから,冠状動脈の粥状硬化の発生時期やその推移を具体的に明らかにすることはできない(ちなみに,専門検討会報告書は「冠[状]動脈硬化症は,慢,性的な経過で進行し,虚血症状出現は疾患の終末期に起こると考えるのが一般的である。この終末期にある要因が発症の引き金となることがある。この引き金因子が推測可能な例があり,代表的なものが,過度の身体的,精神的負荷等である。多くの例は,同定できるような引き金因子なくして,自然経過で虚血症状を発症してくる〈64頁〉と述べている。 。」。)さらに,前記1(8)キの認定事実によれば,P2は,平成2年2月下旬ころ,不安定狭心症の症状が小康状態にあったものと認められることに照らし,このころ,特段の負荷を受けなくても急性心筋梗塞が発症し得る程にその症状が進行していたとは認め難く,これを認めるに足りる客観的証拠はない。 (3)業務以外の危険因子の存否ア専門検討会報告書は,下表のとおり,虚血性心疾患のリスクファクターを掲げている(乙52-122頁。 )年齢高血圧飲酒喫煙高脂血症肥満糖尿病虚血性心疾患++++-~++++++++~++注)+++=特に強い関係,++=強い関係,+=関係がある,-=負の要因がある。 イP4医師は「狭心症の危険因子としては,一般に,高血圧,高脂血症,糖,尿病,肥満,喫煙などが挙げられる。本例は高血圧,糖尿病,喫煙歴が無く,虚血性心疾患の危険因子は一見少ないように見える。しかし,平成2年2月1~3日の血液検査では,総コレステロール202単位(正常130~250)であり,一応,正常範囲内ではあるが200単位を超える領 虚血性心疾患の危険因子は一見少ないように見える。しかし,平成2年2月1~3日の血液検査では,総コレステロール202単位(正常130~250)であり,一応,正常範囲内ではあるが200単位を超える領域にあり,200単位を超えると高脂血症の危険性がある。又,リポ蛋白は,LDL465mg/dl(正常180~550)であり,正常範囲内では有るが,むしろ,異常境界値に近い価であり,高LDLに準じた価である「本例は,高血圧,糖。」,尿病,喫煙などの危険因子はないものの,高脂血症に近い準高脂血症状態が存在したと考えていい。このような,高コレステロール血症,高LDL血症は冠動脈硬化の危険因子になる「本件死亡労働者は身長166cm,体重68。」,kgであり,肥満度%は過体重に相当しており,準肥満状態と言える(乙。」- 27 -15-11頁)と述べている。 しかしながら,専門検討会報告書には「血清総コレステロールあるいは高LDLコレステロール値と虚血性心疾患発症率には,正の相関がみられる。血清コレステロール値が220mg/dlを超えると,虚血性心疾患の発症率が増加してくる(LDLに含まれるコレステロールは,動脈壁に取り込まれて。」動脈硬化を促進する〈乙52-117頁)との記述がされているし,P5。 〉医師は,P4医師の上記意見について,高脂血症の概念に当てはまらない,肥満度は正常ないし過体重の範囲内で肥満の定義には入らない旨の証言をしている(証人P5①10頁。また,P7医師も「既往症について,心疾患の原因)となるべき,高血圧,糖尿病などは思いあたら」ないとの意見(乙6)を述べている。 さらに,P4医師自身,他方で,P2には心疾患の原因となるべき危険因子はほとんど存在しなかったという趣旨の証言をし,上記P7医師の見解を承認していると いあたら」ないとの意見(乙6)を述べている。 さらに,P4医師自身,他方で,P2には心疾患の原因となるべき危険因子はほとんど存在しなかったという趣旨の証言をし,上記P7医師の見解を承認しているところである(証人P4①42・51頁。 )したがって,P2につき危険因子の存在を示唆する,P4医師の上記意見は採用し難い。 ウ上記イ及び弁論の全趣旨(被控訴人は,原審において「P2は,性別,加,齢などを除けば,現時点では,心筋梗塞発症に関連する明かな危険因子を特定することができない」と主張している〈平成14年6月28日付準備書面5・6頁)によれば,本件において,急性心筋梗塞の発症に関連のある,業務〉。 外の危険因子の存在をうかがい知ることはできないし,その同定もできないというべきである。 (4)急性感染症(かぜ症候群)と急性冠症候群との関係アP4医師は「本例は明らかに風邪を契機に急変している。すなわち,感冒によるウイルス感染が本例の複雑プラークに急激な影響を及ぼした可能性が否定出来ない。感冒ウイルス感染により生じた全身性炎症反応がプラーク内(粥腫内)の炎症反応を活性化させ,その結果,マクロファージから分泌される蛋白分解酵素がプラークの繊線維性皮膜を融解し,プラークが破れる。その結果,脂質やプラーク壁が血流にさらされ,血小板の粘着,凝集活性化が起り,血栓ができる。本例においては,感冒罹患後の臨床経過からこのような機序の出現を否定出来ないと考える。血栓が生じ,血栓により冠動脈内腔が持続的に閉塞されると心筋壊死が生じる。すなわち,急性心筋梗塞の発症である。また,感冒の上気道炎症による換気障害も心筋虚血(酸素不足)を増悪する要因に成り得る(乙15-13頁)との意見を述べているほか,原審において,ウイ。」ルス性の炎症が急性心筋梗塞の引き金 である。また,感冒の上気道炎症による換気障害も心筋虚血(酸素不足)を増悪する要因に成り得る(乙15-13頁)との意見を述べているほか,原審において,ウイ。」ルス性の炎症が急性心筋梗塞の引き金になるという見解を基礎として,P2が感冒に罹患していたことによって「プラークの不安定化に大きな影響を持っ,ただろうというふうに考えるわけです。その原因は(略)ごく普通の上気道,感染を起こすようなウイルス感染がプラークの悪化に,冠状動脈硬化のある場合,プラークの不安定化を起こすということが分かってきたからです。つまり危険因子のない場合の急性心筋梗塞の発症において,ある種の感染症が一定の- 28 -役割を果してるということは,しばしば従来から指摘されてると思います」。 と証言している(証人P4①16頁(被控訴人からは,上記意見に沿う証拠)として,乙23ないし29,30・31の各1・2が提出されている。 。)さらに,P4医師は「死亡労働者の不安定狭心症を自然的経過を超えて著,しく増悪させた主たる要因は,死亡直前に罹患した感冒の影響と考えることは今日,多くの医学的知見,臨床報告に一致するものである。感冒によるウイルス感染が引き金となり,プラークが破綻し,血栓形成に向い不安定狭心症の増悪に繋がり得る可能性は,今日,明かである(乙22-6頁)との意見を。」述べている。 イしかしながら,P4医師は,他方,ウイルス性の炎症が急性心筋梗塞の引き金因子(トリガー)になる旨の見解が今日主流的なものになっているというわけでもない旨の証言をしているし(証人P4①17頁,P2が,肺炎クラミ)ジアの病原菌を有していたということを認めるに足りる証拠もない(P4医師も「本例の風邪については,その原因などを含め,詳しい医学的情報は得られていない〈乙15- 4①17頁,P2が,肺炎クラミ)ジアの病原菌を有していたということを認めるに足りる証拠もない(P4医師も「本例の風邪については,その原因などを含め,詳しい医学的情報は得られていない〈乙15-13頁〉と述べている。 。」。)したがって,ウイルス性の炎症が急性心筋梗塞に及ぼす影響に関する研究が国内外において行われるようになり,その成果が集積されつつあるとはいえ,上記アのP4医師の意見はいまだ仮説の域を超えるものではなく,容易に採用し難いと言わざるを得ない。 (5)過重負荷の有無ア基礎疾患(不安定狭心症)がある場合に,精神的,身体的に強度の負荷が加わると,当該基礎疾患が自然的経過を超えて急激に著しく増悪し,急性心筋梗塞を発症させるに至ることがあるということは医学的に広く認知されているといえる(専門検討会報告書86頁。 )イ本件業務の特徴,作業強度等(ア)本件業務の特徴a動的筋労作と静的筋労作人間工学用語研究会編・人間工学事典(乙59-124頁)は,動的筋作業と静的筋作業について「人間が行う作業の基本となるものは,筋肉,を使った筋作業muscularworkである。筋作業には,静的筋作業staticmuscularworkと,動的筋作業dynamicmuscularworkとがある。一定の動作を行う場合,動く動作では,筋が収縮したり,伸展したりして,働いているが,ある動作では,筋が収縮して一定の状態を保ったりしている。この筋が収縮したり,伸展したりしている動作を,動的筋作業といい,筋が収縮した労作を静的筋作業という」と定義している(動的筋作業と動的筋労作,また,。 静的筋作業と静的筋労作とはいずれも同義と解される。 。)b各種の身体的作業・動作における筋労作は,筋収縮の特徴からみて,動的筋労作と静 いう」と定義している(動的筋作業と動的筋労作,また,。 静的筋作業と静的筋労作とはいずれも同義と解される。 。)b各種の身体的作業・動作における筋労作は,筋収縮の特徴からみて,動的筋労作と静的筋労作の2種類に分類されるが,実際の作業においては,この両者が純粋に分かれていることはなく,様々な態様・ウェイトで混在- 29 -しているものと思料される(甲28-21頁参照。本件業務についても)同様であり,動的筋労作と静的筋労作が含まれていて,双方が混在していると認められる(本件鑑定。 )c(a)本件鑑定書によれば,作業②,④,⑤は「静的な負荷』を特徴『としてしかも反復作業の要素も伴っているとされている本,『』。」(「,,「」」,「,件鑑定書3頁1行目には②③⑤の積み上げとあるが②④,⑤の「積み上げ」の誤記と認める)」。 (b)被控訴人は,本件業務中に静的筋労作に該当するものは含まれていない旨の主張をするが(なお,P6医師は「積み上げ』は包装,『前および包装後の巻取りを移動させるものであり,必然的に運動を伴,。 う筋労作が主体となっており静的筋労作が主体となるものではない被災者の業務の全体的な作業の流れは動きのあるものであり,その中に部分的に静的筋労作が含まれていたとしても,それが全体の作業の中で占める割合は決して多くはなかったと考えられる〈乙77-。」5頁〉としている,先に認定した本件業務の具体的内容並びに本。)件鑑定の結果及びエティエンヌ・グランジャン著「オキュペーショナルエルゴノミックス(甲31-9頁)の記載内容(動的活動と静」「的活動を区別できない事例も多い。何かある作業が,一部は静的で,一部は動的であることはよくある)に照らし,採用できない。 。」 ルエルゴノミックス(甲31-9頁)の記載内容(動的活動と静」「的活動を区別できない事例も多い。何かある作業が,一部は静的で,一部は動的であることはよくある)に照らし,採用できない。 。」(イ)本件業務の作業強度・作業密度a本件鑑定書は本件業務の筋作業としての特徴は動的な筋労作等「『』,(張性筋収縮)の要素と静的な筋労作(等尺性筋収縮)の要素が組み合わさった中程度の作業強度と判断できる」としている。 。 ,()(),,bまた前記1 アウの認定事実によれば夜間勤務においては作業数量は少ないが,一人当たりの作業分担量は昼間勤務に比較して遜色なく,少なくとも昼間勤務と同程度の労働であったと認められる。 c数量目標(ノルマ)の有無前記1(4)ア(イ(ウ)の認定事実によれば,個人一人ひとりに),ノルマがなかったとしても,本件業務に携わるチームとして,毎日一定の作業量をこなす必要があり,出来上がってくる製品をできるだけ早く処理して製品を滞留させないようにする必要があったものと認められるし,その場に未処理の製品が残っていれば,休憩時間も作業を継続することが多かったものと認められる。このような実態からすれば,個人一人ひとりに責任作業量というものがなかったとしても,実質的に,チーム全体としては所定時間内に処理すべき仕事の量(ノルマ)があったに等しいと言わざるを得ない。 また,夜勤作業は2人体制で,各人が積み上げ,包装,積み下し,運搬などの全部の作業をこなさなければならず,その上,一定の作業量を遂行しなければ,限られたスペースに未処理の巻取りが大量に滞留することになるから,各人が適当に作業すればよいというような扱いが定着していた- 30 -とは容易に想定できない。 ウ筋労作が循環反応に及ぼす ければ,限られたスペースに未処理の巻取りが大量に滞留することになるから,各人が適当に作業すればよいというような扱いが定着していた- 30 -とは容易に想定できない。 ウ筋労作が循環反応に及ぼす影響(ア)今日の医学的知見の水準及び内容前記1(6)記載のとおり,本件鑑定書の引用する「ILOエンサイクロペディア」や検討委員会報告書には,動的な筋作業でも静的な筋作業でも,心拍数の増加,血圧上昇等の心肺機能反応を引き起こし,特に静的な筋作業では,筋肉の血液循環を止め,栄養物質や酸素の供給と筋肉からの排出物の排出が妨げられ,疲労しやすくなり,心筋虚血を惹起する可能性が指摘されている。 (イ)本件鑑定における模擬実験の意義本件鑑定においては,本件業務の作業現場に類似した条件を考慮した模。 (,. ,,擬実験が行われているA24歳身長1647cm握力45kg背筋力110kg,正常血圧者,B(50歳,167cm,53-48. )5kg,149kg,正常血圧者,C(57歳,176cm,52.5). ,,)(,,-425kg120kg正常血圧者及びD56歳167cm43-35.5kg,100kg,非治療高血圧者)の4人の被験者について行われた。その結果,荷積み作業(高さ60cmの台から床上25cm〈下1段目〉~135cm〈上2段目〉の高さへ10秒間隔で5回,5~20kgの同型の荷を積み込む作業)ではそれぞれ対象物の重量及び。 積み上げの高さに依存性に心拍動数の増加,RMR(エネルギー消費量,)主観的な作業強度のスコアの増大傾向が認められたとしている。また,荷の走行運搬(押し曳き)作業の場合も積載重量依存性に心拍数,RMRの増加傾向がみられ,主観的な作業強度のスコアも上昇したとしている。 しかしながら 度のスコアの増大傾向が認められたとしている。また,荷の走行運搬(押し曳き)作業の場合も積載重量依存性に心拍数,RMRの増加傾向がみられ,主観的な作業強度のスコアも上昇したとしている。 しかしながら,本件業務には動的筋労作と静的筋労作が混在しているところ,本件業務と模擬実験との作業内容の類似性の程度の確認が困難であること,及び,標本数が少ないことから測定上の偶然誤差が大きいとみられることから,上記模擬実験の結果には信頼度という点で一定の限界があると言わざるを得ないが,P2は本件事故当時54歳であり,中年に達している者にとって肉体労働は一般に負荷が大きいと思料されること及びP2は長年にわたり培った写真製版の技術を有していたにもかかわらずこれとは異質の業務に従事することになったということからすると,本件業務の遂行によってP2が曝露を受けることになった作業強度は,少なくとも主観的にはかなりレベルの高いものであったと推認される。 (ウ)疫学データ等a本件鑑定書は「疫学知見では,筋労作を定量化することの困難さなど,もあり,心筋梗塞発症との関連性については明確な結論が出ていないのが現状といえる」としている。 。 b上記a及び本件鑑定の結果によれば,体調不良,過労・睡眠不足時における「中程度筋労作」での循環器への影響に関する科学データは,いまだ十分に集積されていないと言わざるを得ない。 - 31 -(エ)自然的経過を超えて著しく基礎疾患を増悪させ得る程度の過重負荷の有無に関する証明についてaP4医師は「P2は昭和60年,物流システムに移った時点で,既に,安定労作狭心症の状態であったと考えられることにより,既往症としての狭心症が物流システムにて従事した当該業務に内在するものでないことは明白である。さらに,P2の業務内容は通常業務の範囲内 で,既に,安定労作狭心症の状態であったと考えられることにより,既往症としての狭心症が物流システムにて従事した当該業務に内在するものでないことは明白である。さらに,P2の業務内容は通常業務の範囲内であったことから,安定労作狭心症から急性心筋梗塞に至る過程は『業務起因性』とは言えず,疾病の自然経過としての増悪というべきである(乙15-15。」頁)との意見を述べ,さらに「就業作業内容としては,主として,動的,運動が関与していると考えられ,運動自体が虚血性心疾患の治療的性質・予防的性質を持つことが医学的に明らかであることを考慮した上で,本件の経過を考えると,P2の就業内容に,冠動脈の血管病変等をその自然経過を超えて著しく増悪させ得る程度の負荷があったとは認め難いと判断する(乙72-9頁)との意見を述べている。 。」しかしながら,虚血性心疾患の発症時期に関するP4医師の意見が採用,(),し難いものであることについては上記2アで述べたとおりであるし基礎疾患が不安定狭心症であると限定して考えた場合であっても,本件業務が自然的経過を超えて著しく基礎疾患を増悪させ得る程度の負荷とはいえないとする趣旨をも含むものとみられる,P4医師の上記意見が採用し難いということは,勤務形態をも含めた本件業務に対する理解度が十分でないことをうかがわせる,同医師の証言内容(証人P4①13,24~26,50,53)からも明らかであるとせざるを得ない。 bP6医師は,平成2年1月から2月当時のP2の症状について,不安定狭心症に罹患していたものであり,自転車通勤程度の労作でも狭心症発作を起こすが,本件業務中に発作が生じた情報がないことや,心電図上,安静時にも心筋虚血所見が認められていることからして,P2の冠動脈には高度の粥腫性動脈硬化があり,それにより生 度の労作でも狭心症発作を起こすが,本件業務中に発作が生じた情報がないことや,心電図上,安静時にも心筋虚血所見が認められていることからして,P2の冠動脈には高度の粥腫性動脈硬化があり,それにより生じた二次血栓によって冠動脈の高度狭窄が生じ,その粥腫の破裂によって急性心筋梗塞が発症したとするのが医学的に妥当であり,冠動脈狭窄の結果,需要虚血(労作等による心筋の血流需要の増大に対して血流供給量の増加が相応しないことによって起きるもの)も起こりやすい状態にはあったものの,基本的には供給虚血(心筋の血液需要のいかんにかかわらず,血液供給の絶対量の不足により起きるもの)によって発症したものであるから,P2の筋労作における動的筋収縮と静的筋収縮の関連がどのようなものであったにせよ,急牲心筋梗塞の発症誘因として,労作は直接関係しないと述べ,結果として急性心筋梗塞を起こしたことは,冠動脈の動脈硬化性病変が高度のものであったことを示しているとしている(乙73。 )しかしながら,冠動脈の動脈硬化性病変が高度であり,その血管病変が自然の経過によっていつ急性心筋梗塞を発症させてもおかしくないという程度にまで重篤化していたということを認めるに足りる証拠はない(P6- 32 -医師は「急性心筋梗塞は不安定狭心症を経ずして発症する場合も多く,,基礎にある冠動脈の動脈硬化の進行の結果としてときに不安定狭心症が出現し,ときに急性心筋梗塞が発症するのであり『自然経過』をいうなら,ば基礎血管病変の経過を問題とすべきであろう(乙73)との意見を。」併せ述べている。 。)したがって,P2が供給虚血のみを原因として急性心筋梗塞となったと断定できるだけの情報はないというほかはなく,仮に供給虚血が主たる原因であったとしても労作が全く影響していないとするのは,これま 。)したがって,P2が供給虚血のみを原因として急性心筋梗塞となったと断定できるだけの情報はないというほかはなく,仮に供給虚血が主たる原因であったとしても労作が全く影響していないとするのは,これまで検討してきた筋労作と心疾患の関係に関する知見に照らしてもそのまま採用するのは相当ではない。不安定狭心症発症後の症状の推移及び本件業務の遂行状況のいかんによっては,本件業務と急性心筋梗塞の発症との間に因果関係を是認し得る高度の蓋然性を認めるに足りる事情があるとみる余地がなお残されているというべきである。 (6)蓄積疲労の有無ア専門検討会報告書は「長期間にわたる過重負荷」の項において「就労態,,様による業務の過重性の評価は,業務上外の認定の基本となるものであり,可能な限り,就労態様に関する客観的な資料・情報を収集し,その上でこれらの証拠に基づいて評価すべきである。この場合,業務の過重性の評価は,発症前6か月間における就労状態を考察して,疲労の蓄積が,血管病変等をその自然経過を超えて著しく増悪させ,脳・心臓疾患の発症に至らしめる程度であったかどうか,すなわち,発症時における疲労の蓄積度合をもって判断することが妥当である。言うまでもなく,業務の過重性は,労働時間のみによって評価されるものではなく,就労態様の諸要因も含めて総合的に評価されるべきものである。具体的には,労働時間,勤務の不規則性,拘束性,交替制勤務,作業環境などの諸要因の関わりや業務に由来する精神的緊張の要因を考慮して,当該労働者と同程度の年齢,経験等を有する健康な状態にある者のほか,基礎疾患を有するものの,日常業務を支障なく遂行できる労働者にとっても,特に過重な身体的,精神的負荷と認められるか否かという観点から,総合的に評価することが妥当である」と述べている(乙52-88, 基礎疾患を有するものの,日常業務を支障なく遂行できる労働者にとっても,特に過重な身体的,精神的負荷と認められるか否かという観点から,総合的に評価することが妥当である」と述べている(乙52-88,109頁。さらに,専。 )門検討会報告書は「脳・心臓疾患の発症は,日常生活と密接に関連しているものであり,発症から遡るほど業務以外の諸々の要因が発症に関わり合うことから,疲労の蓄積を評価するに当たって,発症前6か月より前の就労実態を示す明確で評価できる資料がある場合には,付加的な評価の対象となり得るものと考えられる(乙52-107頁)とも述べている。 。」イ血圧測定値の推移昭和55年以降の健康診断時等におけるP2の血圧測定値の推移は別紙6記載のとおりであって,同測定値自体は正常範囲内の数値である(証人P4②19頁,同P5②9,10頁。すなわち,P2が本件業務に従事するようにな)った時期以降も血圧測定値に異常は認められていない。しかしながら,深夜・交替制勤務者において,深夜勤務に就いている場合を含め,夜間に高血圧状況- 33 -を示してはいるが,昼間時における血圧測定においては正常値を示している症例が現に存在していることを明らかにした上,24時間社会における血圧変動の測定方法を提言した文献(甲27)が存在すること及びこれに沿う趣旨の証人P5の証言(②9,10頁)に照らし,血圧上昇が長期にわたって観察されていないからといって,本件業務による負荷がP2に対して全く影響を及ぼしていないとみるのは相当ではない。さらに,P5医師及びP4医師の各証言及びその意見書(甲7の1,乙15,22)によれば,血栓の形成やプラークの,,,破裂に関する近時の医学的知見は高血圧によるもの以外の経路によっても粥腫の生成・増大,粥腫の破裂・崩壊,冠動脈内血 びその意見書(甲7の1,乙15,22)によれば,血栓の形成やプラークの,,,破裂に関する近時の医学的知見は高血圧によるもの以外の経路によっても粥腫の生成・増大,粥腫の破裂・崩壊,冠動脈内血栓が生じ得ることを示唆しているといえる。 ウ過重要因としての精神的ストレスの有無過労は身体的ストレスのみならず,精神的ストレスによってももたらされると解される(専門検討会報告書125頁)ところ,控訴人は,職場はすさんだ,,雰囲気であり同僚間での罵声や上司の口汚い注意が日常茶飯事となっていた他の職場に比べると,相当大きな声で「早よ,やらんかい」とか,ぼけー,。 という感じの言葉が飛び交うような騒々しい職場であった,みんなが行きたがらない,嫌な職場,非常にしんどい職場であった,本件事故直前の包装作業中にP2は同僚のP9と口論していたと主張している。 ところで,P6医師は「虚血性心疾患の基礎となる血管性疾患は長期にわたる生活上の負荷により進行するものであり,通常の生活上の負荷に伴う基礎血管病変の進行は自然経過として捉えられている。冠動脈の動脈硬化のような虚血性心疾患の基礎血管病変の危険因子として『生活上のストレス』が関連することはよく知られた事実である。日常生活上のストレスには,当然のことながら,業務上のストレスも含まれており(中略)通常業務で発生するストレス,による基礎血管病変に及ぼす影響は自然経過の中に包含されると考えられている(乙77-7頁)と述べているが,同意見は精神的ストレスにも妥当す。」るものと考えられる。そこで,検討してみるに,まず,P2が本件事故当日P9から「品物を上げてくれ」と言われてやや興奮しながら応答したことは,。 前記1(8)セ認定のとおりであるが,それがP2に対して心理的に著しい急激な負荷を与えたとまでは認 まず,P2が本件事故当日P9から「品物を上げてくれ」と言われてやや興奮しながら応答したことは,。 前記1(8)セ認定のとおりであるが,それがP2に対して心理的に著しい急激な負荷を与えたとまでは認め難い。また,前記2(5)イ(イ)c認定のとおり,P2に対しても,ある種のノルマが課せられ,仕事達成に向けての精神的緊張から免れることができなかったとしても,それを超えて,虚血性心疾患の発症ないし増悪に影響を及ぼす因子となり得る程に精神的荒廃をもたらすような態様で,常時,本件職場における業務が遂行されていたということを認めるに足りる証拠はない(この点に関して,証人P10は上記主張に沿う趣旨の証言をしているが,同証言のみでは,客観性に欠ける。 。)以上によれば,職場の人間関係に基づく精神的ストレスや数量目標が課せられていることによる心理的負荷については,仮にこれが認められるとしても,この種の負荷に対する生体反応に著しい個体差があるということをも考慮すると,これをことさら過重負荷として評価することは困難である。 - 34 -エ就労時間及び就労態様からみた,業務の過重性の評価専門検討会報告書は「拘束時間の長い勤務の過重性については,拘束時間,数,実労働時間数だけではなく拘束時間中の実態等について十分検討する必要がある。具体的には,労働密度(実作業時間と手待時間との割合等,業務内)容,休憩・仮眠時間数,休憩・仮眠施設の状況(広さ,空調,騒音など)がどうであったか等の観点から検討し,評価することが妥当と考える」と述べて。 おり(乙52-99頁,また,日本産業衛生学会循環器疾患の作業関連性要)「()」,因検討委員会報告提言-職場の循環器疾患とその対策1998年版は国内外の知見を踏まえて,夜間労働は「労働者の健康にとって有害で,社 日本産業衛生学会循環器疾患の作業関連性要)「()」,因検討委員会報告提言-職場の循環器疾患とその対策1998年版は国内外の知見を踏まえて,夜間労働は「労働者の健康にとって有害で,社会生活上の不便と苦痛をともなう」として,深夜時間帯(22時から翌朝6時)。 の勤務がある事業場での改善・制限策として,①疲労回復や休養のための施設の設置と,夜間10時間以上の拘束勤務がある場合の2時間以上の仮眠時間の保障,②夜間労働を常態とする夜勤の就労形態を避けること,③夜間労働(徹夜勤務)に引き続く日勤の就労の禁止,④連続深夜勤務は原則3夜を限度とすること等を提言している(甲8。 )以下,これらの視点を考慮しつつ,本件業務の評価をするものとする。 (ア)勤務体制a前記1(4)ア(ア(イ)認定のとおり,P2の従事していた勤務),体制は,夜勤を含む2組2交替の変形労働時間制であった。この交替制勤務は,昼勤が午前8時始業,午後8時終業(うち,午後6時から午後8時の2時間が所定外労働,夜勤が午後8時始業,午前8時終業(うち,午)前6時から午前8時の2時間が所定外労働)となっていた。これは,2時間の所定外労働があらかじめ組み込まれているものであり,実質拘束12時間という連続勤務となっていた。そして,昼勤も夜勤も,残業が恒常化していた。 b現行認定基準における関連性評価対象期間である本件事故前6か月間の,P2の所定外労働時間は,別紙5のとおり(前記1(4)イ(イ)の表参照)であり,現行認定基準は,長期間の過重業務についての評価の目安として発症日を起点とした1か月単位30日の時間外労働時間1,()(週40時間を超えて労働した時間)が6か月間にわたって,概ね45時間を超えている場合は,それが長くなるほど,業務と発症との関連性が徐 症日を起点とした1か月単位30日の時間外労働時間1,()(週40時間を超えて労働した時間)が6か月間にわたって,概ね45時間を超えている場合は,それが長くなるほど,業務と発症との関連性が徐々に高まると評価できるとしているところ(乙49-7頁,P2の所定外)労働時間は,発症前3・4か月目を除き,53.75時間ないし65時間であり,いずれも45時間を相当超過している。特に,本件事故前1か月目56時間30分,2か月目は57時間となっている。 (イ)年休の取得被控訴人は「P2の職場は比較的自由に年休を取得することができた」,。 旨主張し,証人P1の証言やP8の陳述書(乙31の2)のうちには,上記主張に沿う部分がある。 しかしながら,証人P1は「やはり包装に対して,皆,プライドというん- 35 -ですか,プロ意識を持っていますので,やはり1人作業になれば,自分が立場が変われば大変ですので,そういう自覚は各自持っていたようには思います」と証言しているし,証人P8の証言内容をも併せ考えるならば,。 夜勤の場合,交替勤務者が休むことはほとんどなかったと認められる(別紙4及び別紙5によれば,死亡前8か月の間に,P2が夜勤の日に年休を取ったのは平成2年1月11日,12日の2日間にとどまる。 。)そうすると,少なくとも夜勤に関する限り,前記1(4)ア(ウ)認定のとおり,夜勤が2人体制であり,昼勤と異なり,作業①ないし⑤のすべての作業を1人で行わなければならない状況にあり,しかも,代替要員が確保されていないため,年休を取ると自ずから本件職場の同僚等に迷惑を掛けることになることから,これが心理的にプレッシャーになっていて,本件職場においては暗黙のうちに年休を取りにくい状況が形成されていたものと認めるのが相当である。 (ウ)作業環境作業 等に迷惑を掛けることになることから,これが心理的にプレッシャーになっていて,本件職場においては暗黙のうちに年休を取りにくい状況が形成されていたものと認めるのが相当である。 (ウ)作業環境作業環境についてみるに,2階作業場には仮眠が取れるような設備がなく,仮眠時間そのものとしても,夜食を摂る時間も含めて,休憩時間として1時間設定されていたにすぎず(前記1(2(オ(4)ア(イ,)),))P2が実際に仮眠していたことを認めるに足りる証拠はない。 (エ)夜勤の生体への影響aまず,P2の昼勤・夜勤の具体的勤務状況であるが,別紙5によれば,本件事故前8か月について月別にみると,下表のとおりとなる。 1か2か3か4か5か6か7か8か合計月目月目月目月目月目月目月目月目昼勤 夜勤 bP2が従事していた,夜勤を含む2交替勤務は,昼勤の後に夜勤が続くときは,昼勤を終えて通常に眠った翌日の午後8時から勤務が始まる。それに備えて,昼間に眠っておくことは困難であり,睡眠を取らないまま夜通し働くことになる。また,夜勤明けの翌日に昼勤に従事する場合には,夜勤明けで疲れていることから昼間眠ることになるが,このために夜の睡眠を十分に取ることができなくなり,その状態で昼勤に従事することになる。このような勤務形態は,生体リズムと生活リズムとの位相のずれが大きいというべきである(専門検討会報告書〈乙52-99頁〉は「交替制勤務や深夜勤務の過重性については,勤務シフトの変更度合,勤務と次の勤務までの時間,交替制勤務における深夜時間帯の頻度がどうであったか等の観点から検討し,評価することが妥当と考える」と述べている。 。 。)c本件鑑 については,勤務シフトの変更度合,勤務と次の勤務までの時間,交替制勤務における深夜時間帯の頻度がどうであったか等の観点から検討し,評価することが妥当と考える」と述べている。 。 。)c本件鑑定書(25頁)も「夜間労働での生体への負担が大きく,疲労,- 36 -さらに過労状態を呈しやすいため,夜勤明け日から休日にかけて種々の対処策・工夫が講じられているのが実態であり,上記の対策を講じている産。 ,,業現場も少なくないなお日中の睡眠は若い人であってもその質が悪く夜間睡眠ほど睡眠深度が深くないために夜勤によって生じた睡眠不足を取り戻すには不十分とされている。これは今日の睡眠科学では周知の知見となっている」と述べている。 。 (オ)連続夜勤の生体への影響P2の場合,夜勤が4回連続(ただし,間に夜勤明けと休日を挟む)。 で設定されていた。 P2は,別紙4記載のとおり,平成2年3月5日(死亡10日前)から連続5日勤務しており,そのうち2日は夜勤である。夜勤の後1日休暇があって,引き続き2日連続して夜勤に従事している。すなわち,3日間昼勤の12時間勤務を行い,翌日から夜勤を2日連続して行い,夜勤明けと休日を経て,また連続2日の夜勤に従事していたことになる。 この点,本件鑑定は,心筋梗塞の発症や進展においては,過労や睡眠不足との関係が示唆されており,心筋梗塞患者の発症前の前駆病態を疫学的に検討した成績からは,心身の過労状態においては急性心筋梗塞や突然死を引き起こしやすくなることが示唆されており,また,実験や事例報告などでも,睡眠・休息不足や過労と心筋梗塞発症の関係を示唆する知見も得られつつある,といえるとし,データに基づき,8時間夜勤が2日連続配,,置されただけでも生体の負担は大きく睡眠不足や疲労・過労状態を呈し健康水準が低下し 労と心筋梗塞発症の関係を示唆する知見も得られつつある,といえるとし,データに基づき,8時間夜勤が2日連続配,,置されただけでも生体の負担は大きく睡眠不足や疲労・過労状態を呈し健康水準が低下していたが,被災者の場合は11時間夜勤の2日連続勤務という配置が基本パターンとしてなされていたので,睡眠不足,疲労・過労状態を呈していた可能性が極めて大きいと判断している。 (カ)夜勤明けの日の位置付けa本件鑑定書は「2月24日,28日,3月10日,14日(中略)は,正確には『夜勤明け日』に相当し,決して2月17日や3月3日の昼勤の翌日の『休務日』とは同じ扱いにはできない。通常の夜勤者の生活パターンを見た場合,夜勤終了時までの眠気や疲労を取るべく『夜勤明け日』,の日中は昼間睡眠を数時間とり,そしてその夜は定刻の夜間睡眠をとるという対処・工夫で疲労回復を図っている」と述べている。 。 P4医師は,本件事故前8日間のうち4日が休日であったという趣旨の意見を述べているが(乙15,22,原審証言,上記鑑定意見に照らし)妥当な見解とはいえない。 b被控訴人は週の労働時間が40時間に満たない時間数(発症前1か月目20時間,発症前2か月目7時間,発症前3か月目69時間,発症前5か月目7時間,発症前8か月目18時間〈別紙5参照)を活用することに〉より疲労は回復されていたと主張するが,P2の従事していた就労形態は夜勤を含む2交替の変形労働時間制であり,上記(エ)bにおいて説示したところに照らし,容易に採用できない。 - 37 -(キ)さらに,労働者の1日の生活時間を調査した総務庁「平成8年社会生活」,(,,)基本調査報告に基づき食事等食事身の回りの用事通勤等の時間に充てる時間を5.3時間として,24時間から,P2についての拘 の生活時間を調査した総務庁「平成8年社会生活」,(,,)基本調査報告に基づき食事等食事身の回りの用事通勤等の時間に充てる時間を5.3時間として,24時間から,P2についての拘束時間12時間を差し引くと,6.7時間のみであり,余暇時間を全く取らないとしても,睡眠時間としては6.7時間しか残らないことになる。仮に1時間を余暇時間に充てた場合には,睡眠時間は6時間にも満たないことになる(もっとも,P2の場合,通勤時間が自転車で5~6分程度であり〈甲11,上記の食事等の時間は過大ではある(専門検討会報告書9〉。)8頁参照。 )(ク)P2は本件業務に従事するようになってから,控訴人に対して,しばしば,疲労感を訴え,深夜勤務はきついという趣旨のことを漏らしていた(控訴人本人。また,平成2年1月以降は体調不良となり,食欲も落ち,)特に同年3月に入ってからは著しく体調を乱し,口数も少なくなり,塞いだ気分になっていた(前記1(8)ウ,クないしス。 )(ケ)上記(ア)ないし(ク)及び前記1(8)ウないしスの認定事実によれば,P2は,平成2年2月中は不安定狭心症の症状が小康状態であったが,3月5日から3日間の昼勤の12時間勤務を行い,翌日から夜勤を2日連続し,そのころから体調を崩してしまったにもかかわらず,十分に休息を確保できないまま,同月12日から2日連続して夜勤を行った結果,同月15日に年休を取得したにもかかわらず,その程度の休暇取得のみでは容易に疲労が回復し難いものとなっていたと認めるのが相当である。 (7)業務起因性の有無ア本件鑑定書は,わが国の内科学の代表的な成書(平盛勝彦.Ⅰ-急性心筋梗. . ,. . 塞-C症侯井村裕夫ほか編最新内科学体系34循環器疾患6心筋梗塞東京:中山書店1990;3 の有無ア本件鑑定書は,わが国の内科学の代表的な成書(平盛勝彦.Ⅰ-急性心筋梗. . ,. . 塞-C症侯井村裕夫ほか編最新内科学体系34循環器疾患6心筋梗塞東京:中山書店1990;37-54)で,心筋梗塞症発症時の状況と前駆病態の関係は「発症の下地が十分備わっている例では,発症の引き金となる刺,,」,激は軽くてよく下地が不十分なときにはやや強力な刺激が必要となるとし「発症の下地」として冠危険因子,冠動脈硬化症・狭心症の他に「生活上のストレス」をあげ「発症の引き金因子」としては睡眠や労作の程度との関係を,述べているとともに,それらを前提として,結論として,長時間,深夜交替勤務を含む本件業務に従事した被災者は体調不良の中で,睡眠不足や過労状態を呈していた可能性が大であり,発症前の1か月,とりわけ1週間での休日では休息効果も少なくなっていた中で,16日の発症・死亡を迎えた可能性が大きいと判断し,この直前の被災者は「発症の下地」が充分となっている状態の中で「発症の引き金」として製品などの挙上・運搬作業が働いた可能性が大き,いと判断している。 イ(ア)ところで,平成2年1月31日時点におけるP2の虚血性心疾患の病態については,外来診療録(乙3)の記載内容に照らし,また,P5医師も「不安定狭心症の臨床的意義はこの病態を診断確定し,必要な医療手段を動員して,急性心筋梗塞症の発症を防止することにある(甲7の3)。」- 38 -とか,狭心症と不安定狭心症については臨床的にみて前者はそのまま外来,,通院後者は入院治療と言うほどの違いがあると述べていることに照らしP4医師の指摘するように安静治療を要する状況にあったものと考えるのが相当である。 ,()(),,しかし前記2 エイ説示のとおり本件職場 どの違いがあると述べていることに照らしP4医師の指摘するように安静治療を要する状況にあったものと考えるのが相当である。 ,()(),,しかし前記2 エイ説示のとおり本件職場の実態としては夜勤の担当日には年休を取りにくいという状況にあったと認められるのであり,また,本件事故当日についても,連続して年休を取りづらかったことから,P2はやむなく出勤して本件業務に従事したものと認められる。 (イ)この点につき,被控訴人は「P2は,死亡前の1か月半の期間において,心臓の異常を訴えてP11病院に検査日も含めて計7回も受診し(実際の受診日数は5日である。乙4,さらに,死亡4日前の平成2年3月)12日からは,感冒症状を訴えて中央病院に受診し,死亡前々日の同月14日まで12,13,14日と3日連続して受診していたのである。このことからすると,P2は適切な専門治療を受ける機会が充分にあったにもかかわらず,不幸にもその機会が得られなかったものといえる」と主張。 する。しかしながら,負荷の過重性は,当該業務の内容自体に即して判断されるべきであって,治療の適否によって過重性の評価が左右されるべき性質のものであるとは解することができない。 さらに,P6医師は「現在の医学的常識からいえば,本質的にはこの状態は初期に安静加療すべき状態であったのであり,そのことを無視したことが被災者の急性心筋梗塞発症を抑制できなかったもっとも大きな理由であると考えられる」との意見(乙47)を述べている。また,証人P1。 は,P2から本件事故前心臓が悪いとか,体調が優れないなどということを告げられたことはないとか,本件事故当日もP2には顔色が悪いなど異常な点は見受けられなかったと証言している。 しかしながら,前記1(8)カの認定事実によれば,むしろP2はより 優れないなどということを告げられたことはないとか,本件事故当日もP2には顔色が悪いなど異常な点は見受けられなかったと証言している。 しかしながら,前記1(8)カの認定事実によれば,むしろP2はより高度の医療機関での受診の機会を確保しようと模索していたとうかがわれ,。 ,るのであって適正な治療の機会を自ら放棄したとは認められないまた一般には,従業員が治療あるいは安静を要する状態にあることを使用者が認識していなかった場合,当該従業員の不告知,不届出等の本人側の事情が事故発生との因果関係の相当性に影響することがあり得るといえるとしても,本来,業務が過重であったか否かは,当該労働者が就労した業務の内容及び態様に基づき判断すべきであるのみならず,本件の場合,昼勤も夜勤も残業が恒常化し,しかも,夜勤は2人体制であり,予備要員が予定されていないため年休を取りにくいという状況があったのであるから前,(記1(4)ア(ウ(8)ス,2(6)エ(ア)a(イ,このような),,))事実関係の下では,P2の不申告をその責めに帰すべき事由として,相当因果関係存否の判断に当たって考慮するのは相当ではない。 ウ翻って考えてみるに,前記1(1)ア,イ認定のとおり,P2は写真製版の技術者として29年間働いた後,経営の効率化を高めるための企業組織の再編- 39 -成により,写真製版部門とは全く異なるところの,異業種ともいえる製品包装の業務に従事せざるを得なくなり,さらに,50歳という年齢に達してから深夜交替制の肉体労働に従事するようになったものである。また,本件業務の作業強度は,動的な筋労作(等張性筋収縮)の要素と静的な筋労作(等尺性筋収縮)の要素が組み合わさった中程度のものであるというのであるから(前記2()()),, イイa肉体 業務の作業強度は,動的な筋労作(等張性筋収縮)の要素と静的な筋労作(等尺性筋収縮)の要素が組み合わさった中程度のものであるというのであるから(前記2()()),, イイa肉体的にも相当疲労度の高い負荷をもたらす業務であり職場には深夜勤務中十分に仮眠できるような施設もなく,さらに,P2の死亡1か月前及び2か月前の時間外労働時間をみると,それぞれ,56.5時間及び57時間となっており,P2は,死亡直前の時期において恒常的に長時間労働に従事しており,また,死亡6か月前から死亡するまでの間も,年末年始の時期を除けば,P2は恒常的に長時間労働に従事していたものといえる。 そうすると,本来,虚血性心疾患は加齢や日常生活における様々な要因により自然的経過の中で発症することが多い疾病であり,P2の場合もそのようなものであったと解する余地もあるが,他方,他に確たる発症ないし増悪因子の,,存在を見出せない本件の事実関係の下ではP2の就労実態を総合的に評価しその受けたであろう労働負荷を検討してみるならば,本件業務を長期間継続したことが,不安定狭心症の発症(その前駆症状があったとするならば,それを)。 ,()も含めてと深く関連があると推認するのが相当であるすなわち前記26エの諸事情を合わせ考えると,P2は長年深夜交替勤務を含む本件業務に従事することにより平成2年1月当時には専門検討会報告書にいうところの「疲労の蓄積」状態(前記1(6)ウ(ア)a)ないしこれに近い状態にあったものとみられ,このような,本件業務を長期間継続したことによる負荷要因が不安定狭心症の発症にも何らかの関与をしたもの(本件業務を恒常的に長期間継続遂行したことが基礎疾患を自然的経過を超えて増悪させ発症させるに至ったもの)と考えるのが相当である。 エ(ア)上 荷要因が不安定狭心症の発症にも何らかの関与をしたもの(本件業務を恒常的に長期間継続遂行したことが基礎疾患を自然的経過を超えて増悪させ発症させるに至ったもの)と考えるのが相当である。 エ(ア)上記ウにつき更に敷衍するならば,本件の場合,P2の年齢との対比でみた場合の本件業務の作業強度は軽作業の範疇に属するようなものではなく,しかも,P2は,1日12時間拘束という長時間労働に服していた上,深夜交替勤務という生体リズムと生活リズムの位相のずれが大きい労働への従事を求められていたのであるから,P2を雇用する使用者としては,P2から明示の申出がないとしても,P2の年齢に即応した勤務体制の変更を検討して適宜の措置を講じたり,夜勤に従事させる場合であっても従業員の健康に格段に留意した対応,具体的には当該従業員から申出があれば,交替要員の補充が容易になし得るような体制を整えておくべき義務があったにもかかわらず(前記(6)エに指摘した日本産業衛生学会循環器疾患の作業関連性要因検討委員会報告「提言-職場の循環器疾患とその対策(1998年版」参照,これを怠っていたのであり,このよう))な作業環境が基礎疾患(不安定狭心症)の発症の要因になっているものと認められ,平成2年1月ないしこれと近接した時点で発症したP2の不安定狭心症は本件業務に起因するものと判断することができる。しかも,冠- 40 -動脈の動脈硬化性病変が高度であり,その血管病変が自然の経過によっていつ急性心筋梗塞を発症させてもおかしくないという程度にまで重篤化していたということを認めるに足りる証拠はないこと(前記(2)エ,平)成2年1月31日時点でP2の不安定狭心症はBraunwaldの分類(()),でいうクラスⅠB1に相当する程度のものであったこと前記 イP2は平成 証拠はないこと(前記(2)エ,平)成2年1月31日時点でP2の不安定狭心症はBraunwaldの分類(()),でいうクラスⅠB1に相当する程度のものであったこと前記 イP2は平成2年2月下旬ころ不安定狭心症の症状が小康状態にあったこと(前記1(8)キ,2(2)エ)からすると,安静を保ち治療を受けておれば不安定狭心症が自然的経過を超えて増悪して,直ちに急性心筋梗塞を発症するという状態にはならなかった蓋然性が高いと推認することができる。それにもかかわらず,昼勤ではあるものの本件事故前日のみならずこれに引き続き翌日も連続して年休を取るということはためらわざるを得なかったという事情に基づき,安静の機会を失う結果になってしまい,その上に,本件業務による作業負荷が加わったことから,不安定狭心症を増悪,,,させて急性心筋梗塞の発症を促進する結果になったもの言い換えれば本件事故当日,本件業務とりわけ作業②に従事しなければ急性心筋梗塞の発症を回避し得た可能性があると解するのが相当である。 (イ)もっとも,専門検討会報告書によると「急性心筋梗塞は,冠[状],動脈硬化症の進展に伴って起こってくる虚血性心事故の一つである。突然発症する例と何らかの前駆症状が認められる場合があり,その比率は1:1あるいは2:3程度とされている。前駆症状は,狭心症の増悪あるいは突然の狭心症の出現等であり,これらは不安定狭心症に相当する。発症時刻は,起床後6時間以内の午前中にピークがあるとする報告が多い。発症時の状況は,睡眠中22%,安静時31%,軽労作中20%,中等度ないし強度の労作中6%,精神的興奮時3%との報告があり,過度の身体的,精神的,負荷と発症が関連付けられる例は少ない(66頁)とされて。」いるが,上記報告例における分類の基準である軽労 ,中等度ないし強度の労作中6%,精神的興奮時3%との報告があり,過度の身体的,精神的,負荷と発症が関連付けられる例は少ない(66頁)とされて。」いるが,上記報告例における分類の基準である軽労作と中等度ないし強度の労作との区別が,本件鑑定書(3頁)にいう「中程度の作業強度」という評価基準とがどのような対応関係にあるかは不明であるし,上記報告例において示されている発症頻度はあくまでも統計的手法をもって処理された確率をいうものにすぎず,これを直ちに個別の症例に一様に当てはめる(,〈〉,ことはできないものと思われるP6医師は意見書乙47において専門検討会報告書の上記記載と同旨の記載をする一方,労作について,それが急激なものである場合という留保付きではあるが,急性心筋梗塞の発症要因として作用する可能性を否定できないとしている)ことから,本。 件において,急性心筋梗塞の発症要因としての業務起因性の有無は暫く措き,少なくとも治療機会の喪失という意味での業務起因性の有無に関する規範的判断の上では,上記専門検討会報告書の指摘は何ら本件における業務起因性の評価に影響を与えるものではないというべきである。 オ以上の判断を総合すると,急性心筋梗塞に移行する危険性の高い疾病である不安定狭心症を基礎疾患として有し,長期間深夜交替制の勤務形態に服し,常- 41 -態として負荷の大きい業務に従事していて疲労の蓄積したP2が,上記負荷の蓄積により本件事故前日の年休のみでは疲労の回復ないし解消が得られていない(修復因子たり得ない)にもかかわらず,本件事故当日休暇取得の申出をしにくい状況の下で本件業務に従事したことによって更に負荷の暴露を受けざるを得なかったことにより,長期間にわたって本件業務に従事したことによる負荷の暴露と相俟って,勤務態様 事故当日休暇取得の申出をしにくい状況の下で本件業務に従事したことによって更に負荷の暴露を受けざるを得なかったことにより,長期間にわたって本件業務に従事したことによる負荷の暴露と相俟って,勤務態様及び労働密度を含めたところの,本件業務に内在する一般的危険性が現実化し,血管病変が自然的経過を超えて急激に著しく増悪し急性心筋梗塞の発症を早めるのに大きく寄与したと推認するのが相当である。 カちなみに,本件鑑定については,被控訴人から,模擬実験の再現性に疑問があるとか,調査資料の出典に関する記載が欠落している箇所があったり,査読制度があるか否か不明な文献まで引用されているなどという指摘がされているが,仮にそうであるとしても,本件鑑定は,本件工場に実地に臨み,既存の知見を検討した上で,鑑定人の学識に基づき司法判断に当たっての参考意見として述べられたものであって,その結論においても鑑定人の裁量的判断の域を大きく逸脱しているものとは思料されず,本件鑑定は上記オの趣旨を言うものとして理解するならば,正当なものであり,首肯し得るというべきである。 キ以上によれば,P2の死亡につき業務起因性がないとした本件処分は違法というべきであるから,その取消しを求める控訴人の本訴請求は正当として認容すべきである。 ,, よって控訴人の請求を棄却した原判決は失当であるからこれを取り消すこととし主文のとおり判決する。 大阪高等裁判所第14民事部裁判長裁判官井垣敏生裁判官高山浩平裁判官大島雅弘
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