令和7年5月22日判決言渡同日原本領収裁判所書記官令和5年(行ウ)第17号怠る事実の違法確認等請求事件口頭弁論終結日令和7年1月23日判決当事者の表示別紙当事者目録記載のとおり 主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用(補助参加によって生じた費用を含む。)は原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 主位的請求(3号請求)被告が、A、B1及びB2に対し、連帯して8724万2095円及びこれに対する令和5年7月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うよう請求しないことが違法であることを確認する。 2 予備的請求(4号請求) 被告が、A、C、B1及びB2に対し、連帯して8636万7751円及びこれに対する令和5年5月31日から支払済みまで年3分の割合に基づく金員を支払うよう請求せよ。 第2 事案の概要本件は、奈良市(以下「市」という。)が新たな火葬場(新斎苑)を建設する ために取得した土地の売買契約に関する住民訴訟(4号訴訟)において、市の執行機関である被告に対し、市長であるA及び売主である被告補助参加人Bらに損害賠償請求をすることを命ずる判決が確定した後、市が提起した地方自治法242条の3第2項の訴訟(第2段目の訴訟)において、市とAとの間及び市とBらとの間で上記確定判決に係る損害賠償請求権を一部放棄する内容の訴 訟上の和解が成立したことにつき、市の住民である原告らが、市の執行機関で ある被告を相手に、①主位的に、上記和解が違法かつ無効であるとして、同法242条の2第1項3号に基づき、上記確定判決に係る損害賠償請求権の行使を怠る事実が違法であることの確認を求めるとともに、②予備的に、上記第2段目の訴訟におい 記和解が違法かつ無効であるとして、同法242条の2第1項3号に基づき、上記確定判決に係る損害賠償請求権の行使を怠る事実が違法であることの確認を求めるとともに、②予備的に、上記第2段目の訴訟において市を代表した代表監査委員であるC及び市長が違法な和解をして市に債権放棄相当額の損害を生じさせ、和解の相手方であるBらにも共 同不法行為が成立するとして、同項4号本文に基づき、被告がA、C及びBらに対して損害賠償請求をすることを求める事案である。 1 前提事実(争いのない事実及び掲記の証拠等により容易に認められる事実)(1) 当事者等ア原告らは、市の住民であり、後記(6)アの住民監査請求をした者である。 イ Aは、平成21年の市長就任から現在に至るまで、市長の職にある。 ウ Cは、市の代表監査委員である。 エ Bらは、後記(2)エの売買契約の売主であり、奈良市横井町(地番省略)の土地(以下「本件買収地」という。)のもと所有者である。 (2) 売買契約に至る経緯等 ア市は、大正5年開設の奈良市白毫寺町所在の火葬場(東山霊園火葬場)の老朽化が進み、新たな火葬場の建設が長年の課題となっていたところ、平成28年11月、本件買収地の一部を計画地とする新たな火葬場(以下「新斎苑」という。)の整備に係る奈良市新斎苑基本計画を策定・公表し、平成29年5月23日、火葬場の都市計画決定をした。(甲4) イ後記エの売買契約の対象とされた本件買収地(11万0780.88㎡〔実測〕)は、新斎苑の建設予定地である奈良市横井町(地番省略)の土地(約4.9㏊。以下「施設建設予定地」という。)並びに道路予定地(約0. 9㏊)に加え、その西側に隣接する土地(約5.2㏊。以下「追加買収地」という。)を含むものであった。本件買収地には、産業 の土地(約4.9㏊。以下「施設建設予定地」という。)並びに道路予定地(約0. 9㏊)に加え、その西側に隣接する土地(約5.2㏊。以下「追加買収地」という。)を含むものであった。本件買収地には、産業廃棄物が投棄・埋設 されており、平成28年11月までに行われた環境影響評価によると、そ の撤去費用として1億円程度が見込まれていた。(甲4)ウ市が公共事業の用地取得に関して定める「奈良市用地取得事務取扱要綱」には、土地の価格は、不動産鑑定士による不動産鑑定評価額を上限として算定するものとし(2条2項)、一の土地につき複数の不動産鑑定評価をしたときは、それらの評価による不動産鑑定評価額を平均した額を上限とし て土地の価格を算定するものとする(2条3項)旨の定めがある。市は、平成29年9月、有限会社若草不動産鑑定及び大和不動産鑑定株式会社の2社(以下「本件鑑定業者ら」という。)に対し、本件買収地の不動産鑑定評価を依頼した。その結果、本件買収地の評価額は、有限会社若草不動産鑑定の同月10月30日付け鑑定評価書によると5339万6000円 (単価482円/㎡)とされ、大和不動産鑑定株式会社の同日付け不動産鑑定評価書によると4930万円(単価445円/㎡)とされた(以下、併せて「本件鑑定」という。)。本件鑑定においては、産業廃棄物の埋設については、価格形成要因から除外されていた。(甲4、乙10、11)エ市は、平成30年2月15日、Bらとの間で、市議会による同意の議決 を停止条件として本件買収地を代金1億6772万2252円で買う旨の売買仮契約(以下「本件売買契約」という。)を締結するとともに、同月26日、村本・アール・アイ・エー・阪神C・村本・三和特定建設工事共同企業体・宮本異業種特定建設工事共同企業体との間で 円で買う旨の売買仮契約(以下「本件売買契約」という。)を締結するとともに、同月26日、村本・アール・アイ・エー・阪神C・村本・三和特定建設工事共同企業体・宮本異業種特定建設工事共同企業体との間で、市議会による同意の議決を停止条件とする新斎苑等整備運営事業設計・施工一括型工事に係 る請負契約(以下「本件請負契約」という。)を締結した。本件請負契約に係る請負代金額は49億6195万2000円であり、そのうち産業廃棄物の撤去等に係る費用は1億4265万5543円であった。(甲4)オ平成30年3月23日、市議会による同意の議決がされて本件売買契約及び本件請負契約の効力が発生し、同日付けで本件売買契約を原因とする 所有権移転登記がされた。市は、同年4月10日、本件売買契約に基づき、 Bらに対し、売買代金全額を支払った。(甲4)(3) 合併特例債ア市は、新斎苑整備事業に係る財源として、市町村の合併の特例に関する法律(昭和40年法律第6号)11条の2第1項に基づく地方債(以下「合併特例債」という。)を活用し、その元利償還金の70%につき交付税措置 を受けて自主財源の負担を軽減することを想定していた。本件請負契約の工期は、平成33年2月26日までとされていた。(甲4、5)イ合併特例債の発行期限は、平成30年法律第19号(以下「平成30年改正法」という。)による改正前の東日本大震災等に伴う合併市町村に係る地方債の特例に関する法律(平成23年法律第102号)2条に基づき、 平成32年度末までとされていたが、平成30年改正法が平成30年4月18日に成立し、同月25日に施行されたことにより、5年間延長されて令和7年度末まで(令和8年3月31日まで)となった。 (4) 4号訴訟(第1段目の訴訟)の経過ア 0年改正法が平成30年4月18日に成立し、同月25日に施行されたことにより、5年間延長されて令和7年度末まで(令和8年3月31日まで)となった。 (4) 4号訴訟(第1段目の訴訟)の経過ア市の住民らが提起した住民訴訟において、奈良地方裁判所は、令和2年 7月21日、本件鑑定の評価額の3倍以上である本件売買契約の代金額は高額に過ぎ、産業廃棄物の処理費用を考慮すると本件買収地は実質的には無価値であるから、Aによる本件売買契約の締結行為は市長の裁量権の範囲を逸脱した違法なものであり、市に代金額と同額の損害が生じたとして、地方自治法242条の2第1項4号本文に基づく請求を一部認容し、被告 に対し、Aに損害賠償金1億6772万2252円及びこれに対する平成30年4月10日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を支払うよう請求することを命ずる判決を言い渡した(甲4・奈良地方裁判所令和2年(行ウ)第19号)。なお、上記判決は、差戻し前の第1審(奈良地方裁判所平成30年(行ウ)第10号、平成31年(行ウ)第12号)の 判決手続に違法があるとして、控訴審(大阪高等裁判所令和2年(行コ) 第23号)により差し戻された後の第1審判決である(甲4)。 イ被告及び市の住民らの双方が前記アの差戻し後の第1審判決を不服として控訴し、その控訴審において、大阪高等裁判所は、令和3年2月26日、市には少なくとも代金額と本件鑑定の評価額の平均5129万1547円(単価463円/㎡)との差額1億1643万0705円の損害が生じて おり、Bらについても共同不法行為が成立するとして、原判決を変更し、被告に対し、A及びBらに連帯して損害賠償金1億1643万0705円及びこれに対する平成30年4月10日から支払済みまで年5分の割合に 、Bらについても共同不法行為が成立するとして、原判決を変更し、被告に対し、A及びBらに連帯して損害賠償金1億1643万0705円及びこれに対する平成30年4月10日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金を支払うよう請求することを命ずる判決を言い渡した(甲5・大阪高等裁判所令和2年(行コ)第116号)。この判決は、令和3年 10月7日最高裁判所の上告不受理決定により確定した(甲2。以下、大阪高等裁判所の上記判決を「確定判決」という。)。 (5) 第2段目の訴訟における和解に至る経緯等ア市長は、市議会の令和3年10月臨時会に対し、地方自治法96条1項10号に基づき、確定判決に係る損害賠償請求権のうちAに対する権利を 放棄することについて議決を求める旨の議案を提出したが、市議会は、令和3年11月9日、上記議案を否決した(甲10の2、弁論の全趣旨)。 イ市は、地方自治法242条の3第1項に基づき、A及びBらに対し、令和3年11月17日、同年12月6日を支払期限として確定判決に係る損害賠償金を支払うよう請求した(甲2)。 ウ市は、上記期限までにその支払がなかったことから、地方自治法242条の3第2項に基づき、A及びBらに対し、令和4年2月14日、Aに対しては代表監査委員を代表者として(同条5項)、Bらに対しては市長を代表者として、それぞれ確定判決に係る損害賠償金の支払を求める訴訟を提起した(奈良地方裁判所令和4年(ワ)第55号、同第56号。以下、両 事件を併せて「本件第2段目訴訟」という。)(甲2、丙1)。なお、同年4 月、市は新斎苑の供用を開始した。 エ本件第2段目訴訟において、奈良地方裁判所は、令和5年3月29日、Aが市に対して3000万円を支払うこと及びBらが市に対して連帯して お、同年4 月、市は新斎苑の供用を開始した。 エ本件第2段目訴訟において、奈良地方裁判所は、令和5年3月29日、Aが市に対して3000万円を支払うこと及びBらが市に対して連帯して3000万円を支払うことを内容とする和解案(以下「本件和解案」という。)を提示し、同年4月25日、本件和解案を前提とした和解条項案(以 下「本件和解条項案」という。)を提示した。本件和解条項案は、市がその余の請求を放棄する旨の条項及び清算条項を含むものである。(甲2、7、10の1・2、乙8の1、丙1)オ市長は、市議会の令和5年5月臨時会に対し、同年4月26日、地方自治法96条1項10号及び12号に基づき、奈良地方裁判所から提示され た和解案及び和解条項案のとおり和解することについて議決を求める旨の議案第60号「和解について」(以下「本件議案」という。)を提出した。 市議会は、同日、同法242条10項に基づく監査委員への意見聴取をし、市の監査委員は、同月28日、「当該議案は、裁判所からの和解案に基づくものであり、さらに、早期かつ円満な解決を図ることは市にとって有益で あると考え、原案に同意します。」と回答した。(甲2、7、8)カ市議会は、令和5年5月臨時会において本件議案を審議し、同月10日、その採決を行い、可否同数(賛成18票、反対18票)であったことから、地方自治法116条1項後段に基づく議長裁決により、本件議案を原案のとおり可決した(以下「本件議決」という。)(甲10の1~3)。 キ本件第2段目訴訟の令和5年5月31日の弁論準備手続期日において、代表監査委員が代表する市とAとの間及び市長が代表する市とBらとの間で、それぞれ本件和解条項案のとおり訴訟上の和解が成立した(以下、併せて「本件和解」という。)(乙8 日の弁論準備手続期日において、代表監査委員が代表する市とAとの間及び市長が代表する市とBらとの間で、それぞれ本件和解条項案のとおり訴訟上の和解が成立した(以下、併せて「本件和解」という。)(乙8の2、弁論の全趣旨)。 ク Aは、市に対し、本件和解に基づき、令和5年6月9日に397万75 39円を支払い、同月20日に残額2602万2461円を支払った。B らは、市に対し、本件和解に基づき、同日に1000万円を支払い、同年7月21日に残額2000万円を支払った。(弁論の全趣旨)(6) 住民監査請求の前置ア原告らは、令和5年6月6日、地方自治法242条1項に基づき、市の監査委員に対し、確定判決に係る損害賠償請求権の行使を怠る事実が違法 であるとの勧告、並びにA、C及びBらに対して債権放棄相当額の損害賠償請求をせよとの勧告を求める旨の住民監査請求をした(甲1)。 イ市の監査委員は、令和5年6月28日、原告らの住民監査請求を棄却する旨の決定をした(甲2)。 ウ原告らは、令和5年7月28日、本件訴訟を提起した。 2 争点及び争点に関する当事者の主張(1) 本件和解の違法性【原告らの主張】ア平成14年法律第4号による改正後の地方自治法(以下、この改正を「平成14年改正」という。)における新4号訴訟は、第1段目の訴訟において 当該職員又は相手方に対して訴訟告知がされ(同法242条の2第7項)、その判決の効力が第2段目の訴訟の当事者間にまで及ぶものとされている(同法242条の3第4項)。第2段目の訴訟は、第1段目の訴訟の確定判決における事実認定及び法的判断を改めて争うことは許されず、第1段目の訴訟で確定した債権を粛々と実現するための手段という位置付けである。 このような住民訴訟制度にお は、第1段目の訴訟の確定判決における事実認定及び法的判断を改めて争うことは許されず、第1段目の訴訟で確定した債権を粛々と実現するための手段という位置付けである。 このような住民訴訟制度においては、第1段目の訴訟で確定した損害賠償請求権を第2段目の訴訟における和解により減額(一部放棄)することは想定されていない。第1段目の訴訟の確定判決における事実認定及び法的判断に反し、確定した損害賠償請求権の約半額を放棄することを内容とする本件和解は、住民訴訟制度の趣旨を没却するものとして許されない。 イ仮に平成24年の最高裁判決(最高裁判所平成24年4月20日第二小 法廷判決・民集66巻6号2583頁、最高裁判所平成24年4月20日第二小法廷判決・裁判集民事240号185頁、最高裁判所平成24年4月23日第二小法廷判決・民集66巻6号2789頁。以下、この3件の最高裁判決を「平成24年最高裁判決」と総称する。)の判断枠組みが本件に妥当するとしても、次の事情を考慮すると、本件和解に係る本件議決は、 普通地方公共団体の民主的かつ実効的な行政運営の確保を旨とする地方自治法の趣旨等に照らして不合理であり、市議会の裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たるものとして違法であるから、本件和解も違法である。 (ア) 本件売買契約の締結行為の違法性は、単に適正価格を超えたにとどまらず、市が自ら依頼した不動産鑑定士に対し、産業廃棄物の埋設という 減額要因を除外して鑑定するよう依頼したにもかかわらず、その結果として出された鑑定評価額の3倍を超える価格で買収したというものであり、自らの実績づくりのために地権者の意向に沿うべく数字を恣意的に操作した悪質極まりない事案である。Aは、適正価格を大幅に上回る価格となったことにつき故意又はこれと える価格で買収したというものであり、自らの実績づくりのために地権者の意向に沿うべく数字を恣意的に操作した悪質極まりない事案である。Aは、適正価格を大幅に上回る価格となったことにつき故意又はこれと同視し得る重過失があり、Bらは、 社会通念上相当とされる範囲を逸脱する方法で適正価格を大幅に上回る価格による買収を迫った張本人であって、いずれも帰責性は重大である。 A及びBらの責任を軽減すべき酌むべき事情は存在しない。 (イ) 本件和解案は、確定判決に反する内容であり、本件和解案において考慮された資力等の事情は、当事者の主張を鵜呑みにしたものにすぎない。 市議会は、令和3年11月にAに対する請求権放棄の議案を否決し、AとBらの責任軽減に厳しい態度を示していたが、そのような市議会が可否同数とはいえ可決に至ったのは、裁判所による和解案が判決に準ずる妥当性を有するとの考えが投票行動に影響を及ぼしたものである。市議会におけるD副市長の答弁は、①第2段目の訴訟の判決が和解額未満と なる場合も十分に想定される旨、②香芝市の事例を引用して本件におい てもどのような判決が言い渡されるかは全く不明とする旨及び③判例に示されている損益相殺的な考え方に立った旨をいう点において明らかなミスリードであり、議会の審議が誤った方向へと導かれたという疑念を払拭することができない。 (ウ) 本件は、前記(ア)のとおり、極めて悪質性の高い事案であり、損害賠償 請求権を行使したとしても、首長の施策判断に萎縮効果を与える懸念はない。他方、本件における債権放棄が認められれば、地権者の「ごね得」がまかり通ることになる上、住民訴訟制度による執行機関に対する違法行為抑止機能も低下することになる。 (エ) 早期に新斎苑の供用を開始したことによって生じた市や 棄が認められれば、地権者の「ごね得」がまかり通ることになる上、住民訴訟制度による執行機関に対する違法行為抑止機能も低下することになる。 (エ) 早期に新斎苑の供用を開始したことによって生じた市や市民の利益は、 違法行為後の事情にすぎず、これにより違法性や帰責性が消失するものではないから、違法性が高く帰責性の重大な本件においては、賠償額を減額する事情として考慮するのは相当でない。 【被告の主張】ア平成24年最高裁判決の判断枠組みは、4号訴訟(第1段目の訴訟)認 容判決確定後の第2段目の訴訟において確定判決に係る損害賠償請求権の一部放棄を内容とする和解をする場合の議決の違法性の判断にも妥当する。 4号訴訟の認容判決確定後における損害賠償請求権の放棄にも平成24年最高裁判決の判断枠組みが妥当することは、最高裁判所平成30年10月23日第三小法廷判決(裁判集民事260号1頁)の判示のとおりである。 ただし、単独放棄としての債権放棄とは異なり、和解には相手方の譲歩により行政が利益を得る側面もあることから、これを議決の趣旨及び経緯、事後の状況の検討において適切に考慮すべきである。 イ本件和解に係る本件議決は、次の事情を考慮すると、普通地方公共団体の民主的かつ実効的な行政運営の確保を旨とする地方自治法の趣旨等に照 らして不合理であるとは到底いえないから、市議会の裁量権の範囲の逸脱 又はその濫用に当たるものではなく、適法である。 (ア) 本件売買契約の締結行為の性質、内容、原因、経緯及び影響については、当時、新斎苑整備事業の事業費を合併特例債で賄い市の財政負担を最小限度にすることを確実にするためには平成29年度中に売買契約の締結をするほかなかったこと、確定判決において「合理性を有しない」 とされた代 苑整備事業の事業費を合併特例債で賄い市の財政負担を最小限度にすることを確実にするためには平成29年度中に売買契約の締結をするほかなかったこと、確定判決において「合理性を有しない」 とされた代金額が合理性を有しないものであることが明らかであったとまではいえないこと、結果として新斎苑整備事業に係る事業費の多くを合併特例債で賄い、市の財政負担を軽減することができたこと、早期の供用開始により、使用料収入の増加や市外施設の利用による市民の負担の減少などの経済的利益や便益が市及び市民に生じていること、Aが本 件売買契約によって不法な利益を得たものでないことなどからすると、仮に確定判決のとおり本件売買契約の締結行為に違法性があるとしても、Aの帰責性が大きいとはいえない。また、Bらの帰責性についても、確定判決が社会通念上許される範囲を逸脱したものと判断したのは本件売買契約の締結行為そのものであり、契約交渉時の言動ではないこと、B らは結果としてBらの父が競売で取得した時の代金額よりも低額での売却に応じ、売却損を発生させていること、本件売買契約は私法上有効であり、Bらが受領した代金は不法な利益には当たらないこと、Bらは市長による本件売買契約の適否について判断する立場になく、市長の裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があったことについての過失があったこと が明らかな場合であったとはいえないことなどからすると、Bらの帰責性が大きいともいえない。 (イ) 本件議決の趣旨及び経緯については、本件議案に記載のとおり、市は確定判決に係る損害賠償請求権の全額を回収すべく本件第2段目訴訟を進めてきたところ、裁判所から本件和解案及び本件和解条項案の提示が されたことから、市においても供用開始以降の市や市民の経済的な利益 や便益等の の全額を回収すべく本件第2段目訴訟を進めてきたところ、裁判所から本件和解案及び本件和解条項案の提示が されたことから、市においても供用開始以降の市や市民の経済的な利益 や便益等の諸事情を総合的に考慮して、本件議案を提出したものである。 Bらも、Bらが本件買収地の売却に応じたことにより、市や市民の多大なる便益の発生に貢献したものといえる。本件議案に係る和解の内容が、確定判決に係る損害賠償請求権の全部を放棄するものではなく、A及びBらがそれぞれ3000万円を支払うという個人にとって決して少額と はいえない金額の支払を内容とすることに照らしても、本件議案が確定判決の法的判断を否定する趣旨でないことは明らかである。 (ウ) 損害賠償請求権の放棄又は行使の影響については、Aの損害賠償責任は、本件売買契約の締結行為によって何らの利益も得ていない個人にとって極めて重い負担となる。市長に過大な個人責任を負担させるのは、 長期的な観点から市長の職務遂行に萎縮的な影響を及ぼすおそれがあり、損害賠償請求権の放棄は、これを回避するのに資する面がある。また、Bらの損害賠償責任についても、自宅を手放さなければならない等の甚大な負担が生じることがうかがえる。他方、市の規模等に鑑みれば、損害賠償請求権の一部の放棄によってその財政に多大な影響が及ぶとは到 底いえず、任意の履行により早期に6000万円を回収できるならば、そのこと自体が市にとって相応の利益となるものである。 (エ) 住民訴訟の係属の有無及び経緯については、本件議決は、住民訴訟の判決確定後に行われ、確定判決に係る損害賠償請求権の一部放棄を内容とするものであるから、確定判決における法的判断を前提とするもので あることは当然である。本件議決の適法性については、正に本件訴 判決確定後に行われ、確定判決に係る損害賠償請求権の一部放棄を内容とするものであるから、確定判決における法的判断を前提とするもので あることは当然である。本件議決の適法性については、正に本件訴訟において平成24年最高裁判決の判断枠組みの下で司法審査が行われるのであるから、確定判決に係る損害賠償請求権の一部放棄を内容とする和解をすることについての議決をもって、住民訴訟制度の趣旨を没却する濫用的なものに当たるということができないことは明らかである。 (オ) 事後の事情については、A及びBらは、それぞれ3000万円を支払 い、市は、合計6000万円の損害賠償請求権を回収済みである。 (2) 本件和解の有効性(3号請求関係)【原告らの主張】本件和解は違法であり、かつ、和解当事者においてそれが違法無効となる可能性を認識し又は十分に認識し得たこと等の事情によれば、民法90条に より、本件和解は無効となる。市が有する確定判決に係る損害賠償請求権の残額は、和解後の弁済を順次に遅延損害金及び元本に充当すると、令和5年7月28日(本件訴訟提起日)現在において8724万2095円である。 市の執行機関である被告が本件和解の内容を超える金額の請求をすることは今後も見込めず、上記損害賠償請求権の行使を怠っていることは明白である から、地方自治法242条の2第1項3号に基づき、上記損害賠償請求権の行使を怠る事実が違法であることの確認を求める。 【被告の主張】争う。 (3) 損害の発生及び額、Bらによる共同不法行為の成否(4号請求関係) 【原告らの主張】仮に本件和解が無効ではないとしても、C代表監査委員及びA市長が市を代表して本件第2段目訴訟において本件和解をしたことは違法であり、これによって市に債権放棄 請求関係) 【原告らの主張】仮に本件和解が無効ではないとしても、C代表監査委員及びA市長が市を代表して本件第2段目訴訟において本件和解をしたことは違法であり、これによって市に債権放棄相当額8636万7751円(遅延損害金を含む。)の損害が生じた。本件和解の相手方であるBらについても、Aとの共同不法行 為者として同額の損害賠償責任を負う。地方自治法242条1項4号本文に基づき、被告に対し、A、C及びBらに上記債権放棄相当額の損害賠償請求をするよう命ずることを求める。 【被告の主張】争う。 【被告補助参加人Bらの主張の要旨】 本件和解が違法でないことについては被告の主張を援用するが、その点をおくとしても、Bらは裁判所の和解案を受け入れたにすぎず、本件和解に係るBらの行為を不法行為と評価する余地はない。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実 前記前提事実に加え、掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。 (1) 本件売買契約の締結に至る経緯等ア奈良市火葬場(東山霊園火葬場)は、大正5年の開設後、数度の改修が行われたものの老朽化が進み、火葬炉の数が少ないことなどから、既存の 設備では高齢化に伴う市民の需要への対応が十分でなく、新たな火葬場の建設が市の長年の課題となっていた。市は、新たな火葬場の建設について、遅くとも昭和45年頃から複数回にわたって検討してきたが、周辺住民の反対などの事情により実現に至らなかった。(甲4)イ市は、新たな火葬場の候補地の選定について、平成20年頃には本件買 収地を候補地として検討していたところ、平成21年に市長に就任したAが候補地の見直しを行い、平成24年には新たな候補地として奈良ドリームランド跡地を検討したが、地権者や 成20年頃には本件買 収地を候補地として検討していたところ、平成21年に市長に就任したAが候補地の見直しを行い、平成24年には新たな候補地として奈良ドリームランド跡地を検討したが、地権者や地元周辺自治会等の反対により実現に至らなかった。市は、他の候補地を含めて再度検討し、平成25年2月、本件買収地を有力な候補地として再度選定した旨を発表した。(甲4) ウ本件買収地は、Bらの父が昭和61年に競売手続において代金合計1億9391万4000円で買い受けたものであり、Bらは、当初から、父が競落した価格を上回る価格での売却を主張していた。市は、Bらとの間で、平成27年7月30日、新斎苑建設に伴う土地購入等に関し、都市計画決定等の条件が満たされ次第、市が、Bら所有の土地を鑑定評価等に基づく 適切な価格で購入するものとし、最大限の努力をすることなどを内容とす る覚書を取り交わした。(甲4、丙4の1・2)エ D副市長は、平成28年12月9日、市議会市民環境委員会において、新斎苑の用地費について、「枠ということで約3億円ということでございます。」との答弁をした。この答弁は、施設建設予定地及び道路予定地の合計約5.8㏊の取得を前提とし、鑑定評価額が4500円/㎡程度となるこ とを見込んでいたことに基づくものであった。(甲4、5、乙14の2)オ市は、本件鑑定に係る各鑑定評価書(平成29年10月30日付け)が提出される前に、本件鑑定業者らから、評価額が市の想定額よりも極めて安価となる見込みである旨を伝えられ、公共事業の用地取得事例を基礎に含めて評価額を算定するよう要請したが、本件鑑定業者らは、市に対し、 不動産鑑定の手法上困難である旨回答した。(甲4)カ公共事業の用地取得事例の一つとして、本件買収地 用地取得事例を基礎に含めて評価額を算定するよう要請したが、本件鑑定業者らは、市に対し、 不動産鑑定の手法上困難である旨回答した。(甲4)カ公共事業の用地取得事例の一つとして、本件買収地の北を流れる岩井川の上流にある岩井川ダムの建設に係る奈良県の用地取得事例(昭和61年、単価4300円/㎡。以下「岩井川ダム事例」という。)が存在した。市は、岩井川ダム事例を含む4件の用地取得事例の全部又は一部を考慮に入れた 複数の試算結果を検討した上、最終的に、岩井川ダム事例のみを採用し、本件鑑定の評価額の平均(単価463円/㎡)と岩井川ダム事例の単価を地価調査(基準値)である山林の変動率で時点修正した2566円/㎡との平均1514円/㎡を単価として本件売買契約の代金額1億6772万2252円を算定することとした。(甲4、5、乙14の3・7・8) キ D副市長は、平成29年11月7日、B1と面談し、本件鑑定(評価額の平均463円/㎡)によると施設建設予定地及び道路予定地の合計約5. 8㏊の代金は2700万円になるとして、追加買収地を含めた代金額として、Bらの父が競売で取得した価格の現在評価額である約1億2800万円を提示したが、B1は、予算として3億円あるはずであるなどとして、 これを拒否した。その後、A及びD副市長がBらとの面談を重ね、平成2 9年11月19日、追加買収地を含む本件買収地の代金額を1億6772万2252円とすることをBらが合意するに至った。(甲4、5、乙12)ク平成29年12月の市議会において、本件売買契約の締結に必要な予算の議決がされた。Aは、同月6日の市議会において、追加買収地の活用について具体的な内容は今後詰めていく旨、その費用や財源は現時点では示 すことができない旨を答弁した。 売買契約の締結に必要な予算の議決がされた。Aは、同月6日の市議会において、追加買収地の活用について具体的な内容は今後詰めていく旨、その費用や財源は現時点では示 すことができない旨を答弁した。(甲4、5)ケ Aは、平成29年8月、合併特例債の再延長を求める首長会に参加し、同会を支援する活動を開始した。同年12月16日付け奈良新聞において、合併特例債の発行期限を自民党が再延長する方針を確認した旨が報道され、平成30年1月30日、合併特例債の発行期限を5年間再延長する特例法 改正案を自民党総務部会が了承した旨が全国紙で報道された。(甲4、5)(2) 確定判決の理由の要旨確定判決は、地方自治法242条の2第1項4号本文に基づく請求を一部認容し、被告に対し、A及びBらに連帯して損害賠償金1億1643万0705円及びこれに対する平成30年4月10日から支払済みまで年5分の割 合による遅延損害金を支払うよう請求することを命じたものであるが、その認容部分の理由は、要旨次のとおりである。(甲4、5)ア Aによる本件売買契約の締結行為の違法性について(ア) 地方公共団体の長がその代表者として不動産の売買契約を締結することは、当該不動産を取得する目的やその必要性、契約の締結に至る経緯、 契約内容に影響を及ぼす社会的、経済的要因やその他諸般の事情を総合考慮した合理的な裁量に委ねられており、当該契約に定められた売買代金額が鑑定評価等において適正とされた売買代金額を超える場合であっても、上記のような諸般の事情を考慮した上でなお、地方公共団体の長の判断が裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用するものと評価されると きでなければ、当該契約に定められた売買代金額をもって直ちに当該契 約の締結が地方自治法2条14項等に 公共団体の長の判断が裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用するものと評価されると きでなければ、当該契約に定められた売買代金額をもって直ちに当該契 約の締結が地方自治法2条14項等に反し違法となるものではないと解するのが相当である(最高裁判所平成25年3月28日第一小法廷判決・裁判集民事243号241頁参照)。 (イ)a 奈良市用地取得事務取扱要綱の定めは、用地取得に関する市長の裁量を直ちに拘束するものではないものの、不動産鑑定士による不動産 鑑定評価額を価格決定に当たって重要な考慮要素とすべきものと定めたといえる。本件鑑定において価格形成要因から除外された産業廃棄物の投棄埋設の事実を考慮すると、本件買収地は、本件鑑定の評価額の平均単価463円/㎡に面積を乗じた5129万1547円を更に下回る価値しかなく、その取得に伴い1億円程度の産業廃棄物の撤去 費用の負担が不可避となる本件買収地の取得価格を1億6772万2252円で取得とするのは、通常の売買において想定される代金額と比べて、著しく不均衡な価格であったといわざるを得ない。 b 市は、必ずしも根拠の明らかでない3億円という当初予定した枠を念頭に、代金額と産業廃棄物の撤去費用の合計額が3億円程度となる ように調整して代金額を決めたものと認められる。 c 追加買収地については、具体的な活用方針が決定しておらず、その必要性が明確でない中で、Bらの意向を踏まえて本件買収地に含めることにしたことが推認できる。 d 新斎苑の建設は、市の長年の課題であり、既存施設の老朽化や高齢 化に伴う需要の拡大により、本件買収地を取得して新斎苑を建設する必要性は更に高まっていたといえるが、上記a及びbのような価格で本件買収地を取得することを正当化できるとはいい難い。 化や高齢 化に伴う需要の拡大により、本件買収地を取得して新斎苑を建設する必要性は更に高まっていたといえるが、上記a及びbのような価格で本件買収地を取得することを正当化できるとはいい難い。 e 合併特例債の発行期限は、平成30年改正法による再延長前は平成32年度末までであり、工期が3年であったことから、平成29年度 末までに用地取得を完了させる必要があったといえる。しかしながら、 合併特例債の活用により事業費の大部分につき国から交付税措置を受けて市の財政負担が補塡されるからといって、上記a及びbのような価格で本件買収地を取得し、Bらに不当な利益を得させる結果は正当化されない。そもそも、Aは、合併特例債の発行期限を5年間再延長する法改正が確定的となる中で本件売買契約の締結に踏み切ったので あって、合併特例債の発行期限は、上記a及びbのような価格で本件買収地を取得することを正当化する事情とはならない。 f 本件買収地の取得の必要性や合併特例債の発行期限を考慮しても、Aが合理性を有しない上記代金額で本件売買契約を締結したことは、地方自治法2条14項及び地方財政法4条1項の趣旨に照らし、市長 に与えられた裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものである。 イ Aの故意又は過失の有無についてAは、本件買収地の代金額の決定に至る経緯を認識した上、Bらの著しく相当性を欠く代金額の要求に応じる形で本件売買契約を締結した。Aは、合併特例債の活用により元利償還金の70%の範囲で国から交付税措置を 受けて市の負担を補塡すれば市に損害は生じないとの考えの下で本件売買契約を締結したとも認められるが、このような方法によりBらの利益を図る結果となる契約を締結することは許されず、いずれにしても、Aには、本件売買契約の違 すれば市に損害は生じないとの考えの下で本件売買契約を締結したとも認められるが、このような方法によりBらの利益を図る結果となる契約を締結することは許されず、いずれにしても、Aには、本件売買契約の違法性につき故意又は少なくとも過失があった。 ウ Bらの不法行為の成否について Bらは、本件買収地が市場では売却自体困難であることを認識しつつ、市において本件買収地を取得する必要性が高く、この時期に本件買収地を取得できなければ困る状況にあることに乗じて、市が予定した3億円の枠に達するまで代金額を引き上げるよう要求し、結果的に著しく不均衡な価格で本件売買契約の締結に応じさせたものであり、Bらの本件売買契約の 締結行為は、契約当事者の行動として、不法行為法上違法となる。Bらは、 市長に与えられた裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものであることを少なくとも認識し得たといえ、少なくとも過失を認めることができる。 Bらに不法行為が成立し、Aの本件売買契約の締結行為との関連共同性が認められるから、Bらは、共同不法行為者として本件売買契約の締結により市に生じた損害を賠償する責任を負う。 エ市に生じた損害について市がBらに対して本件売買契約の代金として支払った1億6672万2252円が市に生じた損害となるが、本件売買契約は私法上無効になるとは認められず、市は本件売買契約の締結により本件買収地の価値相当額の利益を得たものと認められるから、A及びBらは、代金額から本件鑑定に よる評価額である5129万1547円を控除した1億1643万0705円について少なくとも賠償する義務を負う。 (3) 判決後の事情等ア本件請負契約に基づく新斎苑の建設工事は、実際には、平成30年4月に地元協議等の準備行為に着手し、同年12月 643万0705円について少なくとも賠償する義務を負う。 (3) 判決後の事情等ア本件請負契約に基づく新斎苑の建設工事は、実際には、平成30年4月に地元協議等の準備行為に着手し、同年12月に着工し、令和4年2月の 竣工に至るまで4年近くの期間を要した(乙16の3)。 イ新斎苑整備事業に係る事業費は総額56億4193万9000円であり、うち合併特例債の対象となるのは34億5791万7734円であった。 市は、その95%に相当する32億8480万円を合併特例債で賄い、その7割に相当する22億9936万6000円につき交付税措置を受けた。 最終事業年度(令和3年度)の執行額のうち合併特例債の対象となるのは13億6600万円であった。(乙16の4の1・2)ウ市は、令和4年4月1日、「奈良市斎苑旅立ちの杜」の名称で新斎苑の供用を開始した。供与開始前後を比較すると、令和3年度の東山霊園火葬場の火葬件数が2378件であったの対し、令和4年度の新斎苑の火葬件 数は5195件と大幅に増加し、そのうち利用料の高額な市外からの利用 件数は、令和3年度は80件であったのに対し、令和4年度は897件と大幅に増加した。その結果、利用料収入(人体火葬以外の利用を含む。)は、令和3年度が2783万9000円であったのに対し、令和4年度は1億4974万4000円と大幅に増加した。他方、市民による市外施設の利用についてみると、令和3年度は市外施設の利用者数が1746件、市民 の負担額(市外施設の利用料から市内施設の利用料1万円を控除した額)が総額1億4049万7100円であったのに対し、令和4年度は市外施設の利用者数が186件、市民の負担額が1497万3000円と大幅に減少した。(乙7、16の5の1・2)エ Aは、本 除した額)が総額1億4049万7100円であったのに対し、令和4年度は市外施設の利用者数が186件、市民の負担額が1497万3000円と大幅に減少した。(乙7、16の5の1・2)エ Aは、本件第2段目訴訟において、市が過去の土地収用手続において買 取交渉を断念して土地収用手続に切り替えてから所有権の移転を受けるまでに要した期間が「西大寺北」の物件は4年間、「三条通」の物件は9年11か月間であり、本件買収地については4年9か月間を要するとした上、仮に平成30年改正法が成立した平成30年4月下旬時点で土地収用手続に切り替えていた場合には、新斎苑の供用開始が令和9年6月頃となり、 再延長後の合併特例債の発行期限(令和8年3月末)を大幅に超え、少なくとも最終事業年度の事業費については合併特例債を利用することができなかったことになり、少なくとも9億0839円の財政負担を被っていた旨主張していた。(乙15、16の2の1・2、16の3、17の2)(4) 本件和解案の補足説明 本件第2段目訴訟において奈良地方裁判所が提示した令和5年3月29日付け本件和解案は、Aが市に対して3000万円を支払うこと及びBらが市に対して連帯して3000万円を支払うことを内容とするものであるが、その補足説明として、要旨次の内容が記載されていた(丙1)。 ア本件では、確定判決の効力が本件訴訟に及ぶかが主な争点となっており ますが、以下に述べる事情を含む本件事案に関する一切の事情を考慮する と、前記内容での和解による解決が相当と考えます。 イ市が本件買収地を早期に取得したことによる便益(ア) 本件では、本件売買契約の締結により、当初の計画どおり、平成29年3月に用地である本件買収地を取得することができましたが、仮に、取得 。 イ市が本件買収地を早期に取得したことによる便益(ア) 本件では、本件売買契約の締結により、当初の計画どおり、平成29年3月に用地である本件買収地を取得することができましたが、仮に、取得金額等の売買条件が合意に至らなかった場合には、市としては、土 地収用手続に移行することを想定していました。これによると、用地の取得時期が令和4年12月頃と当初の計画から大幅に遅れ、そこから工事事業者の募集、工事に関する地元・周辺地域との協議等を経て、工事を開始するとなると、建設工事の完了時期は令和9年6月頃となり、少なくとも最終事業年度の事業費を合併特例債で賄うことはできなくなり、 合併特例債を発行できていれば交付税措置を受けられたはずの金額(約9億円から10億円)を自主財源で負担せざるを得なくなっていました。 本件売買契約の締結により、市は、不動産鑑定士の鑑定価格より1億円以上高額な金額を支出することになっていますが、これによって、これを上回る金額の財政負担を免れた可能性が相当程度あったと認められま す。このような事情は、A及びBらが市に賠償すべき金額を算定するに当たって、和解限りで考慮することとしました。 (イ) さらに、市は、早期に本件買収地を取得し、早期に新斎苑の供用を開始することができたことによって、相応の経済的利益を取得していることがうかがえます。すなわち、新斎苑が供用開始された令和4年4月1 日前後の1年間を比較すると、新斎苑の供用開始により、市における火葬件数が約2600件増加し、使用料収入が約9450万円増加していること、使用料金の高額な市外施設での火葬件数が大幅に減少して、市民の経済的負担がおよそ1億2000万円減少していることがそれぞれ認められます。これら(市民を含めた)市全体の便益は、本件売買契 ていること、使用料金の高額な市外施設での火葬件数が大幅に減少して、市民の経済的負担がおよそ1億2000万円減少していることがそれぞれ認められます。これら(市民を含めた)市全体の便益は、本件売買契約 によって直接もたらされたわけではなく、上記金額が市の損害と相殺さ れ得る利益ともいえないが、市がBらから本件買収地を早期に取得し、早期に新斎苑の供用を開始したことによって生じた便益であると評価することができます。そうすると、このような市に生じた便益は、金銭的な評価が困難であるとしても、A及びBらが市に賠償すべき金額を算定するに当たって、和解限りで考慮すべきものとみました。 ウ A及びBらが市に賠償すべき損害額このように、市は、本件買収地を不動産鑑定士の鑑定評価額を大きく上回る金額で取得したことにより損害を被ったものの、他方で、本件買収地の早期の取得により、市は、前件訴訟で認定された損害額以上の財政負担を回避でき、あるいは、新斎苑供用による火葬場使用料収入が大幅に増加 するなど、相応の利益を取得したと認められます。そうすると、本件において、前件訴訟で認定された市の損害額(1億1643万0705円)を、直ちにA及びBらに全額賠償させることが妥当な紛争解決の手段であるとも限らず、A及びBらの支払能力や回収可能性等をも踏まえると、和解限りにおいて、その5割程度に相当する6000万円をA及びBらに賠償さ せるのが相当であると考えました。 エ AとBらの負担割合Aについては、前件訴訟で認定されているとおり、代金額が鑑定等の結果を踏まえた合理的な金額よりも著しく不均衡であることを認識しながら、Bらの要求に応じて本件売買契約を締結しており、本件売買契約の違法性 について故意又は過失が認められます。 他 鑑定等の結果を踏まえた合理的な金額よりも著しく不均衡であることを認識しながら、Bらの要求に応じて本件売買契約を締結しており、本件売買契約の違法性 について故意又は過失が認められます。 他方、Bらについては、前件訴訟において、本件買収地が市場では売却困難であること、市が本件買収地の早期取得すべき必要があること等を認識しながら、価格を引き上げるように要求したことからすると、本件売買契約の締結がAの裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たることを少なく とも認識し得たとして、過失があると認定されております。もっとも、B らは、本件買収地の共有者として処分権限を有する者であり、本来、誰にいくらで売却するのかについての自由な意思決定が可能でありますし、もともと本件買収地はBらの父が約2億円で競落して取得しており、市の職員に鑑定評価を上回る金額での売却を要求しつつ、最終的に1億6772万2252円での売却に合意したことは、一面において合理的な経済活動 の範囲内とみる余地もあります。 以上のような双方の事情を考慮すると、本件売買契約による利益はBらが全額享受し、Aは個人として何ら利得していなかったとしても、AとBらとの間の負担割合に有意な差はないと考え、A及びBらは、いずれも3000万円ずつ支払うべきであるとみました。 (5) 本件議案の審議の経過ア市長が令和5年5月臨時会に提出した本件議案には、和解の理由として、「前件訴訟において確定した判決に従い損害賠償金の全額を回収するべく本訴訟を進めてきたところ、奈良地方裁判所から買収地の早期取得によって免れた財政負担及び新斎苑供用により生じた収入増加といった利益その 他の事情を考慮して和解案及び和解条項案の提示がなされたことから、本市においても供用開始以降 判所から買収地の早期取得によって免れた財政負担及び新斎苑供用により生じた収入増加といった利益その 他の事情を考慮して和解案及び和解条項案の提示がなされたことから、本市においても供用開始以降の市や市民の経済的な利益や便益等の諸事情を総合的に考慮することとし、上記のとおり和解し、その余の請求を放棄しようとするものである。」と記載されていた(甲7)。 イ市議会の令和5年5月臨時会の会期は、令和5年5月1日から同月10 日までの10日間であり、同月1日の本会議においては、D副市長から本件議案の提案理由の説明がされた(甲10の1)。 ウ令和5年5月2日の本会議においては、本件和解案の否決を求める請願(請願第3号。以下「本件請願」という。)を本件議案と併せて審議する旨の決議がされ、本件議案につき7名の議員が質問者として登壇して質疑が 行われた後、議案審査特別委員会を設置して本件議案及び本件請願の審査 を付託する旨の決議がされた(甲10の2)。 同日の質疑において、D副市長は、①「仮に判決において本件和解案の提示する額以上の請求が認められたとしても、被告らの支払い能力や回収可能性を考慮すれば、必ずしも認容された金額全額の利益が実現されるわけではありませんし、当然、裁判所が本件和解案で提示する額未満の請求 しか認められない場合も十分想定をされるところでございます。」との答弁、②「住民訴訟において示された、いわゆる第1段目の訴訟において示された金額と異なる金額の請求権が、その後の訴訟で認定された他市事例もございます。」、「香芝市の事例であれば、第1段目では2億2000万円という数字が出ましたけれども、第2段階では、地裁では1040万円、高裁 では3170万円ということもございました。そのようなことから、本 、「香芝市の事例であれば、第1段目では2億2000万円という数字が出ましたけれども、第2段階では、地裁では1040万円、高裁 では3170万円ということもございました。そのようなことから、本件に対してどのような判決が言い渡されるかは現時点では全く不明でございます。」との答弁、③最高裁判所平成6年12月20日第三小法廷判決(民集48巻8号1676頁)を引用の上、「奈良地裁の和解案を受け入れることは、判例に示される損益相殺的な考え方に立った客観的な利益状況に基 づく公正妥当な結論を本市が受け入れるということになるものでございます。」との答弁をするなどした(甲10の2〔3~4頁〕)。 これに対し、E議員は、F名誉教授の意見書に基づき、第2段目の訴訟は第1段目の判決を粛々と実現する債権回収訴訟である旨の、本件訴訟における原告らの主張と同趣旨の意見表明をした(甲10の2〔16頁〕)。 また、G議員は、上記②の答弁に引用された香芝市の事例は、契約が無効であるとして4号訴訟が認容された後の不当利得返還請求訴訟において相手方が反対給付に係る債権による相殺を主張したものであり、本件とは事案を異にする旨の意見を表明したほか、仮差押えの担保金の額に照らしBらには1億円程度の資産があるとして、回収可能性に関する質問をするな どした(同〔18~24頁〕)。 エ令和5年5月10日の本会議においては、同月2日及び同月9日に開催された議案審査特別委員会における審査の経過及び結果が報告された後、5名の議員がいずれも本件議案に反対する立場から討論を行い、その後に採決が行われ、可否同数(賛成18票、反対18票)であったことから、地方自治法116条1項後段に基づく議長裁決により、本件議案は原案の とおり可決され、本件請願は賛成 場から討論を行い、その後に採決が行われ、可否同数(賛成18票、反対18票)であったことから、地方自治法116条1項後段に基づく議長裁決により、本件議案は原案の とおり可決され、本件請願は賛成少数により否決された(甲10の3)。 2 判断枠組み(1) 平成24年最高裁判決(最高裁判所平成24年4月20日第二小法廷判決・民集66巻6号2583頁、最高裁判所平成24年4月20日第二小法廷判決・裁判集民事240号185頁、最高裁判所平成24年4月23日第二小 法廷判決・民集66巻6号2789頁)は、次のとおり判示している。 ア地方自治法96条1項10号は、普通地方公共団体の議会の議決事項として、「法律若しくはこれに基づく政令又は条例に特別の定めがある場合を除くほか、権利を放棄すること」を定め、この「特別の定め」の例としては、普通地方公共団体の長はその債権に係る債務者が無資力又はこれに近 い状態等にあるときはその議会の議決を経ることなくその債権の放棄として債務の免除をすることができる旨の同法240条3項、地方自治法施行令171条の7の規定等がある。他方、普通地方公共団体の議会の議決を経た上でその長が債権の放棄をする場合におけるその放棄の実体的要件については、同法その他の法令においてこれを制限する規定は存しない。 イしたがって、地方自治法においては、普通地方公共団体がその債権の放棄をするに当たって、その議会の議決及び長の執行行為(条例による場合には、その公布)という手続的要件を満たしている限り、その適否の実体的要件については、住民による直接の選挙を通じて選出された議員により構成される普通地方公共団体の議決機関である議会の裁量権に基本的に委 ねられているものというべきである。 ウもっとも、 ついては、住民による直接の選挙を通じて選出された議員により構成される普通地方公共団体の議決機関である議会の裁量権に基本的に委 ねられているものというべきである。 ウもっとも、同法において、普通地方公共団体の執行機関又は職員による公金の支出等の財務会計行為又は怠る事実に係る違法事由の有無及びその是正の要否等につき住民の関与する裁判手続による審査等を目的として住民訴訟制度が設けられているところ、住民訴訟の対象とされている損害賠償請求権又は不当利得返還請求権を放棄する旨の議決がされた場合につい てみると、このような請求権が認められる場合は様々であり、個々の事案ごとに、当該請求権の発生原因である財務会計行為等の性質、内容、原因、経緯及び影響、当該議決の趣旨及び経緯、当該請求権の放棄又は行使の影響、住民訴訟の係属の有無及び経緯、事後の状況その他の諸般の事情を総合考慮して、これを放棄することが普通地方公共団体の民主的かつ実効的 な行政運営の確保を旨とする同法の趣旨等に照らして不合理であって上記の裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たると認められるときは、その議決は違法となり、当該放棄は無効となるものと解するのが相当である。そして、当該公金の支出等の財務会計行為等の性質、内容等については、その違法事由の性格や当該職員又は当該支出等を受けた者の帰責性等が考慮 の対象とされるべきものと解される。 (2) このように、平成24年最高裁判決は、普通地方公共団体の議会の議決を経た上でその長が債権の放棄をする場合には、地方自治法240条3項、地方自治法施行令171条の7の規定の適用がなく、この場合における放棄の実体的要件を制限する規定が存しないこと(前記(1)ア)を前提として、その 放棄の適否の実体的要件については 40条3項、地方自治法施行令171条の7の規定の適用がなく、この場合における放棄の実体的要件を制限する規定が存しないこと(前記(1)ア)を前提として、その 放棄の適否の実体的要件については、住民による直接の選挙を通じて選出された議員により構成される普通地方公共団体の議決機関である議会の裁量権に基本的に委ねられていること(同イ)を示した上、議会の裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たるか否かの判断基準(同ウ)を示したものである。 そして、普通地方公共団体の議会の議決を経た上でその長が債権の放棄を する場合におけるその放棄の実体的要件を制限する規定が存しないことは、 4号訴訟(第1段目の訴訟)係属中にその請求に係る損害賠償請求権を放棄する旨の議決がされる場合と、4号訴訟認容判決確定後の第2段目の訴訟において確定判決に係る損害賠償請求権の一部放棄を内容とする和解をする旨の議決がされる場合とで異ならないことからすると、後者の場合におけるその一部放棄の適否の実体的要件についても、住民による直接の選挙を通じて 選出された議員により構成される普通地方公共団体の議決機関である議会の裁量権に基本的に委ねられているものというべきであり、平成24年最高裁判決の判断枠組みが妥当するものと解するのが相当である。 (3) これに対し、原告らは、第2段目の訴訟は、第1段目の訴訟の確定判決における事実認定と法的判断を改めて争うことは許されず、第1段目の訴訟で 確定した債権を粛々と実現するための手段という位置付けであり、第1段目の訴訟で確定した損害賠償請求権を第2段目の訴訟における和解により減額(一部放棄)することは想定されていない旨主張する。 そこで検討すると、平成14年改正後の新4号訴訟においては、第1段目の訴訟において当該職員 た損害賠償請求権を第2段目の訴訟における和解により減額(一部放棄)することは想定されていない旨主張する。 そこで検討すると、平成14年改正後の新4号訴訟においては、第1段目の訴訟において当該職員又は相手方に対して訴訟告知がされ(地方自治法2 42条の2第7項)、その判決の効力が第2段目の訴訟の当事者間に及ぶものとされていることから(同法242条の3第4項)、4号訴訟認容判決確定後の第2段目の訴訟は、確定判決に係る損害賠償請求権の存在及び額を前提として審理及び裁判がされるべきことになるものと解される。しかしながら、4号訴訟の確定判決の効力が第2段目の訴訟の当事者間に及ぶことから直ち に第2段目の訴訟において和解をすることが法律上禁止されるわけではない。 また、平成14年改正の立法過程をみると、改正案の問題点の一つとして「住民は第一次訴訟には参加できるものの、第二次訴訟手続には参加できず、第二次訴訟手続では地方公共団体とその職員が当事者となるから、馴れ合い訴訟の危険がある。例えば第二次訴訟手続で低額の和解をする等である。」(甲 3・日本弁護士連合会の平成13年5月9日付け意見書)との指摘がされて いたものであり、この問題点の指摘に関しては、第153回国会平成13年12月4日衆議院総務委員会において政府参考人(総務省自治行政局長)が「今御指摘がありました、第一番目の訴訟の結果、第二番目の方に訴訟効力があるということで、今、仮に万が一の訴訟が起こった場合に、追及としては、首長さんが職員の方に同じ額を請求するということで訴訟が起こる。そ れで、和解はないと思います。これは、いずれにせよ、その額を請求せよということですから、その金額について争うんですけれども、先ほど来言っていますように、効力は及んでいるもので 訴訟が起こる。そ れで、和解はないと思います。これは、いずれにせよ、その額を請求せよということですから、その金額について争うんですけれども、先ほど来言っていますように、効力は及んでいるものですから、その判決は直ちに終わる、口頭弁論は終結を見るということでございまして、ほとんどの場合そういうことはあり得ないというぐあいに思っております。」、「仮定のお話でちょっと 御答弁しにくいですが、和解というのは、議会の議決、九十六条で、どういう事由でございましょうか、議会にお諮りをして議決をすればあり得るわけです。あり得るわけでございますが、それは、住民の皆さん、議会の皆さん、みんなが見ている中での議決でございますので、どういう理由でございましょうか、和解の議決はほとんど想定されないなということを申し上げました。」 と答弁しているところである(甲9〔38頁〕、乙4)。この答弁は、第2段目の訴訟における和解が想定し難い旨述べるものであるが、地方自治法96条の議会の議決を経た上で和解をすることが法的には可能であることを前提とするものと解される。 このような平成14年改正の立法過程に照らしても、4号訴訟認容判決確 定後の第2段目の訴訟における和解が許されないということはできない。そして、和解による請求権の一部放棄の適否の実体的要件については、これを制限する規定が存しないから、住民による直接の選挙を通じて選出された議員により構成される普通地方公共団体の議決機関である議会の裁量権に基本的に委ねられているものというべきであり、平成24年最高裁判決の判断枠 組みが妥当するものと解するのが相当である。 3 本件和解の違法性について(1) 市が本件第2段目訴訟においてAとの間及びBらとの間でした本件和解は、地方自治 裁判決の判断枠 組みが妥当するものと解するのが相当である。 3 本件和解の違法性について(1) 市が本件第2段目訴訟においてAとの間及びBらとの間でした本件和解は、地方自治法96条1項10号及び12号に基づく議会の議決としての本件議決並びにこれに先立つ同法242条10項に基づく監査委員への意見聴取(前提事実(4)エ及びオ)を経たものであり、和解による確定判決に係る損害 賠償請求権の一部放棄をするための手続的要件を満たしている。そして、その一部放棄の適否の実体的要件については、前記2のとおり、住民による直接の選挙を通じて選出された議員により構成される普通地方公共団体の議決機関である議会の裁量権に基本的に委ねられているものというべきであり、平成24年最高裁判決の判断枠組みが妥当するものと解するのが相当である。 (2) そこで、平成24年最高裁判決の判断枠組みを参照の上、本件和解により確定判決に係る損害賠償請求権の一部放棄をすることが普通地方公共団体の民主的かつ実効的な行政運営の確保を旨とする地方自治法の趣旨等に照らして不合理であり、市議会の裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たるものとして本件議決が違法となるか否かを検討する。 ア(ア) まず、本件売買契約の締結行為の性質及び内容についてみると、確定判決が認定した本件売買契約の締結行為の違法事由は、代金額が高額に過ぎた点にある(地方自治法2条14項、地方財政法4条1項)。 もっとも、確定判決も説示するとおり、新たな火葬場の建設は市の長年の課題であり、早期に本件買収地を取得して新斎苑の建設を実現する 必要性は高かったものといえる。 また、(平成30年改正法による再延長前の)合併特例債の発行期限が平成32年度末に迫り、3年の工期を前提とすると に本件買収地を取得して新斎苑の建設を実現する 必要性は高かったものといえる。 また、(平成30年改正法による再延長前の)合併特例債の発行期限が平成32年度末に迫り、3年の工期を前提とすると、平成29年度末までに地権者であるBらとの売買契約の締結及びこれを前提とする請負事業者との請負契約の締結に至る必要がある状況の中で、Aは市長として 用地取得に係る交渉の期間や内容等につき相応の裁量を有していたとい える。仮に平成29年11月に行われたBらとの代金額の交渉を不調として任意買収による本件買収地の取得を断念し、土地収用手続に切り替えたとするならば、その当時は合併特例債の発行期限の再延長が不確実であったことからすると、合併特例債の活用による財政負担の軽減を図ることができず、市の利益に反する結果となるおそれもあったといえる。 この点につき、確定判決は、合併特例債の活用による財政負担の軽減は本件売買契約の価格の違法性を正当化する事情とはならない旨などの説示をしているが、その法的判断を前提としても、合併特例債の発行期限が迫っていたことを帰責性の程度に関する事情として考慮することは妨げられないというべきである。 以上の事情のほか、市において本件買収地の代金額を決めるに当たり、何ら根拠なく本件鑑定の評価額と異なる代金額を算定したのではなく、本件鑑定の評価額に加え、近傍における公共事業の用地取得事例である岩井川ダム事例を併せ考慮したものであり、その代金額の算定には相応の根拠があったとみる余地もあること、市議会において必要な議決を得 るなどの所要の手続が履践されていたことも考慮すると、本件売買契約の締結行為が市長に与えられた裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たることがその態様等に照らして明らかな状況であったと 議決を得 るなどの所要の手続が履践されていたことも考慮すると、本件売買契約の締結行為が市長に与えられた裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たることがその態様等に照らして明らかな状況であったとまではいい難い。 この点については、確定判決も、Aに「故意又は少なくとも過失」が認められると説示するにとどまるところである。 そうすると、Aにおいて本件売買契約の締結行為が違法であることを容易に認識し得る状況にあったとはいえず、Aの帰責性が大きいということはできない。 他方、Bらについては、確定判決は、代金額の交渉におけるBらの行動が社会通念上許される範囲を逸脱し、不法行為法上違法である旨説示 するが、その法的判断を前提としても、Bらは、本件売買契約の締結行 為の適否を判断する立場になく、交渉を経て市との間で代金額の合意に至ったことから私法上有効な本件売買契約を締結し、これに基づいて代金を受領したにすぎないものである。本件売買契約の締結行為が市長に与えられた裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たることが明らかな状況であったとまではいい難いことは上記のとおりであるから、Bらが受 領した代金が高額であることを考慮しても、Bらの帰責性が大きいということはできない。 (イ) 次に、本件売買契約の締結行為の原因及び経緯に関しては、上記の点のほか、少なくともAは、本件買収地の適正価格との差額から不法な利益を得て私利を図ろうとしたものでないことは明らかである。 (ウ) そして、本件売買契約の締結行為の影響に関しては、前記1(3)ア及びウのとおり、市が本件売買契約に基づいて本件買収地を取得し、本件請負契約に基づく新斎苑の建設工事が行われた結果、令和4年4月1日の新斎苑の供用開始により、火葬場の使用料収入が前年度と比較し )ア及びウのとおり、市が本件売買契約に基づいて本件買収地を取得し、本件請負契約に基づく新斎苑の建設工事が行われた結果、令和4年4月1日の新斎苑の供用開始により、火葬場の使用料収入が前年度と比較して大幅に増加するとともに、市外施設の利用による市民の負担が大幅に減少す るに至ったものであって、早期に新斎苑の建設を実現したことにより市及び市民全体に相応の利益が及んでいるものということができる。 イ(ア) 以上を前提として、本件議決の趣旨及び経緯についてみると、本件和解案の補足説明(前記1(4))及び本件議案の和解の理由(前記1(5)ア)等に照らせば、本件議決は、本件売買契約の締結行為が違法であるとの 確定判決が示した法的判断を前提とした上で、市が本件買収地を早期に取得したことにより、合併特例債に係る交付税措置を最終事業年度まで確実に受けることができ、市の財政負担を軽減することができたこと、早期の供用開始により、使用料収入の増加や市外施設の利用による市民の負担の減少などの経済的利益や便益が市及び市民に生じていること等 を考慮した上でされたものであるとみることができ、A及びBらの支払 義務を不当な目的で免れさせたものということはできない。 (イ) これに対し、原告らは、本件和解案は確定判決に反する内容であり、本件和解案において考慮された資力等の事情は当事者の主張を鵜呑みにしたものにすぎないとした上、市議会は令和3年11月にAに対する請求権放棄の議案を否決し、AとBらの責任軽減に厳しい態度を示してい たが、そのような市議会が可否同数とはいえ可決に至ったのは、裁判所による和解案が判決に準ずる妥当性を有するとの考えが投票行動に影響を及ぼしたものである旨主張する。 しかしながら、本件和解案は、飽くまでも確定判決に 市議会が可否同数とはいえ可決に至ったのは、裁判所による和解案が判決に準ずる妥当性を有するとの考えが投票行動に影響を及ぼしたものである旨主張する。 しかしながら、本件和解案は、飽くまでも確定判決に係る損害賠償請求権の存在及び額を前提とした上、和解によりA及びBらが支払う額を その元本の5割程度の6000万円とし、AとBらの負担割合を半分ずつとする内容の和解を提案するものであり、損害賠償請求権の存在及び額に係る確定判決の効力に矛盾抵触するものとは解されない。その補足説明の具体的な記載についてみると、合併特例債の活用による財政負担の軽減に係る記載(前記1(4)イ(ア))は、「和解限りで考慮することとし ました」とあるとおり、本件売買契約の締結行為は違法であり、合併特例債の発行期限が迫っていたことがその違法性を正当化する事情とはならない旨の確定判決の判断(前記1(2)ア(イ)e)を前提とした上、和解による支払額を確定判決に係る損害賠償請求権の元本の5割程度とするに当たって考慮した事情を示したものと解される。早期の供用開始によ り生じた便益に係る記載(前記1(4)イ(イ))についても同様であり、市全体の便益が「本件売買契約によって直接もたらされたわけではなく」、市の「損害と相殺され得る利益ともいえないが」と留保されていることに照らしても、本件第2段目訴訟において判決をする場合に当該便益を損害額から控除し得るとの判断の見通しを示したものとは解されない。 Bらの行為が「一面において合理的な経済活動の範囲内とみる余地」も あるとの記載(前記1(4)エ)についても、Bらにも不法行為が成立する旨の確定判決の判断(前記1(2)ウ)を前提とした上、和解におけるAとBらの負担割合の考慮要素となる帰責性の大小を評価したもの あるとの記載(前記1(4)エ)についても、Bらにも不法行為が成立する旨の確定判決の判断(前記1(2)ウ)を前提とした上、和解におけるAとBらの負担割合の考慮要素となる帰責性の大小を評価したものにすぎず、確定判決の法的判断を否定する趣旨とは解されない。 また、本件和解案の補足説明には、和解による支払額を6000万円 とするに当たり考慮した事情の一つとして「支払能力や回収可能性等をも踏まえると」との記載(前記1(4)ウ)があるところ、その記載が飽くまでも和解において考慮した事情を示したものにすぎず、判決に準ずる裁判所の判断を示したものでないことは文脈上明らかである。そして、市議会においては、本件議案に反対する立場の議員から、A及びBらに 支払能力がないとは思われず、約8600万円の債権の放棄につき市民の理解が得られない旨などの意見表明が行われた上で採決に至ったという審議の経過に照らしても、本件和解案の補足説明の記載が市議会議員の投票行動に不当な影響を及ぼしたということはできない。 (ウ) また、原告らは、市議会におけるD副市長の答弁は、①第2段目の訴 訟の判決が和解額未満となる場合も十分に想定される旨、②香芝市の事例を引用して本件においてもどのような判決が言い渡されるかは全く不明とする旨及び③判例に示されている損益相殺的な考え方に立った旨をいう点において明らかなミスリードであり、議会の審議が誤った方向へと導かれたという疑念を払拭することができない旨主張する。 そこで検討すると、確かに、D副市長の上記①~③の答弁は、その内容に正確性を欠いた点があることを否定し難いところであるが、前記1(5)ウ及びエのとおり、第2段目の訴訟の位置付けについても香芝市の事例についても、本件議案に反対する立場の議員から反対の意見 その内容に正確性を欠いた点があることを否定し難いところであるが、前記1(5)ウ及びエのとおり、第2段目の訴訟の位置付けについても香芝市の事例についても、本件議案に反対する立場の議員から反対の意見表明が行われた上で本件議決に至ったという審議の経過からすれば、上記の点が 市議会議員の投票行動に重大な影響を及ぼしたということはできない。 ウさらに、請求権の放棄又は行使の影響についてみると、確定判決に係る損害賠償請求権の額は1億1643万0705円及びこれに対する平成30年4月10日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金であり、本件和解は、上記元本の5割程度に相当する6000万円をA及びBらが3000万円ずつ支払い、市がその余の請求権を放棄することを内容とす るものである。上記損害賠償請求権の全額についてAが個人責任を負うことは、本件売買契約によって何らの利得も得ていないAにとっては極めて重い負担となるものであり、長期的な観点からは一定の政策目的に沿った市長の職務の遂行に萎縮的な影響を及ぼすおそれもある。他方、任意の履行により合計6000万円を早期かつ円満に回収することは市にとって相 応の利益となる上、市の規模等に鑑みれば、その余の請求権を放棄することによってその財政に多大な影響を及ぼすとはうかがわれない。 エなお、本件議決は、住民訴訟(4号訴訟)の判決確定後の第2段目の訴訟において損害賠償請求権の一部放棄を内容とする和解をするものであるところ、これが確定判決における法的判断を前提とするものであることは 前記のとおりであるから、住民訴訟制度の趣旨を没却する濫用的なものに当たるということはできない。 オ以上の諸般の事情を総合考慮すると、市が本件和解により確定判決に係る損害賠償請求権の一部放棄 前記のとおりであるから、住民訴訟制度の趣旨を没却する濫用的なものに当たるということはできない。 オ以上の諸般の事情を総合考慮すると、市が本件和解により確定判決に係る損害賠償請求権の一部放棄をすることが普通地方公共団体の民主的かつ実効的な行政運営の確保を旨とする地方自治法の趣旨等に照らして不合理 であるとは認め難いというべきであり、本件議決が市議会の裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たるということはできない。 (3) したがって、本件議決が違法であるとは認められないから、市が本件議決を経てAとの間及びBらとの間で本件和解をしたことが違法であるとも認められないことになる。 4 結論 よって、原告らの請求はいずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。 奈良地方裁判所民事部 裁判長裁判官和田 健 裁判官石間大輔 裁判官石丸貴大 (別紙)当事者目録略
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