平成25(行ウ)487 遺族厚生年金不支給処分取消請求事件

裁判年月日・裁判所
平成27年2月24日 東京地方裁判所 その他
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判決文本文14,418 文字)

平成27年2月24日判決言渡平成25年(行ウ)第487号遺族厚生年金不支給処分取消請求事件 主文 1 本件各訴えのうち,厚生労働大臣に対して,秩父年金事務所平成24年2月22日受付の年金請求書に係る遺族厚生年金の裁定の請求に対する遺族厚生年金支給決定を求めるものを却下する。 2 原告のその余の訴えに係る請求を棄却する。 3 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 厚生労働大臣が平成24年4月13日付けで原告に対してした遺族厚生年金不支給決定を取り消す。 2 厚生労働大臣は,原告に対し,秩父年金事務所平成24年2月22日受付の年金請求書に係る遺族厚生年金の裁定の請求に対する遺族厚生年金支給決定をせよ。 第2 事案の概要本件は,老齢厚生年金の被保険者であり平成23年▲月▲日に死亡したA(以下「亡A」という。) の孫である原告(平成8年▲月▲日生)が,原告は亡Aの死亡当時亡Aによって生計を維持していたものであって,厚生年金保険法(以下「法」という。)59条1項,同法施行令(以下「施行令」という。)3条の10に定める遺族厚生年金の受給要件を満たすとして,厚生労働大臣に対し,遺族厚生年金の裁定請求をしたところ,厚生労働大臣から遺族厚生年金を支給しない旨の決定(以下「本件不支給決定」という。)を受けたことから,本件不支給決定の取消しを求めるとともに,申請型の義務付けの訴えとして,遺族厚生年金支給決定の義務付け(以下「本件義務付けの訴え」という。)を求める事案である。 1 関係法令の定め等(1) 法59条ア遺族厚生年金を受けることができる遺族は,被保険者又は被保険者であった者(以下,両者を併せて「被保険者等」という。)の配偶者,子,父母,孫又は 1 関係法令の定め等(1) 法59条ア遺族厚生年金を受けることができる遺族は,被保険者又は被保険者であった者(以下,両者を併せて「被保険者等」という。)の配偶者,子,父母,孫又は祖父母であって,被保険者等であった者の死亡の当時その者によって生計を維持したものとする。ただし,妻以外の者にあっては,次に掲げる要件に該当した場合に限るものとする(1項)。 (ア) 夫,父母又は祖父母については,55歳以上であること。 (イ) 子又は孫については,18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にあるか,又は20歳未満で障害等級の1級若しくは2級に該当する障害の状態にあり,かつ,現に婚姻をしていないこと。 イ前項の規定にかかわらず,父母は,配偶者又は子が,孫は,配偶者,子又は父母が,祖父母は,配偶者,子,父母又は孫が遺族厚生年金の受給権を取得したときは,それぞれ遺族厚生年金を受けることができる遺族としない(2項)。 ウ 1項の規定の適用上,被保険者等によって生計を維持していたことの認定に関し必要な事項は,政令で定める(4項)。 (2) 施行令3条の10法59条1項に規定する被保険者等の死亡の当時その者によって生計を維持していた配偶者,子,父母,孫又は祖父母は,当該被保険者等の死亡の当時その者と生計を同じくしていた者であって厚生労働大臣の定める金額以上の収入を将来にわたって有すると認められる者以外のものその他これに準ずる者として厚生労働大臣の定める者とする。 (3) 平成6年11月9日庁保発第36号社会保険庁運営部長通知「国民年金法等における遺族基礎年金等の生計維持の認定に係る厚生大臣が定める金額について」(以下「部長通知」という。) 施行令3条の10に規定する厚生大臣が定める金額は,年額850万円 国民年金法等における遺族基礎年金等の生計維持の認定に係る厚生大臣が定める金額について」(以下「部長通知」という。) 施行令3条の10に規定する厚生大臣が定める金額は,年額850万円とする。 (4) 平成23年3月23日年発0323第1号厚生労働省年金局長通知「生計維持関係等の認定基準及び認定の取扱いについて」(以下「本件通知」という。)(甲10)ア生計維持認定対象者遺族厚生年金の受給権者をはじめとする生計維持認定対象者に係る生計維持関係の認定については,イの生計維持関係等の認定日において,ウの生計同一要件及びエの収入要件を満たす場合に受給権者又は死亡した被保険者等と生計維持関係があるものと認定するものとする。ただし,これにより生計維持関係の認定を行うことが実態と著しく懸け離れたものとなり,かつ,社会通念上妥当性を欠くこととなる場合には,この限りでない。 イ生計維持関係等の認定日生計維持認定対象者及び生計同一認定対象者に係る生計維持関係等の認定を行うに当たっては,受給権発生日をはじめとする生計維持関係等の認定を行う時点(以下「認定日」という。)を確認した上で,認定日において生計維持関係等の認定を行うものとする。 ウ生計同一に関する認定要件(以下「生計同一要件」という。)生計維持認定対象者及び生計同一認定対象者に係る生計同一関係の認定に当たっては,次に該当する者は生計を同じくしていた者又は生計を同じくする者に該当するものとする。 生計維持認定対象者及び生計同一認定対象者が死亡した者の父母,孫,祖父母,又は兄弟姉妹である場合(ア) 住民票上同一世帯に属しているとき(イ) 住民票上世帯を異にしているが,住所が住民票上同一であるとき(ウ) 住所が住民票上異なっているが,次のいずれかに該当すると は兄弟姉妹である場合(ア) 住民票上同一世帯に属しているとき(イ) 住民票上世帯を異にしているが,住所が住民票上同一であるとき(ウ) 住所が住民票上異なっているが,次のいずれかに該当するとき a 現に起居を共にし,かつ,消費生活上の家計を一つにしていると認められるときb 生活費,療養費等について生計の基盤となる経済的な援助が行われていると認められるときエ収入に関する認定要件(以下「収入要件」という。)生計維持認定対象者(障害厚生年金及び障害基礎年金並びに障害年金の生計維持認定対象者は除く。)に係る収入に関する認定に当たっては,次のいずれかに該当する者は,厚生労働大臣の定める金額(年額850万円)以上の収入を将来にわたって有すると認められる者以外の者に該当するものとする。 (ア) 前年の収入(前年の収入が確定しない場合にあっては,前々年の収入)が年額850万円未満であること。 (イ) 前年の所得(前年の所得が確定しない場合にあっては,前々年の所得)が年額655.5万円未満であること。 (ウ) 一時的な所得があるときは,これを除いた後,前記(ア)又は(イ)に該当すること。 (エ) 前記の(ア),(イ)又は(ウ)に該当しないが,定年退職等の事情により近い将来(おおむね5年以内)収入が年額850万円未満又は所得が年額655.5万円未満となると認められること。 2 前提事実(争いのない事実,顕著な事実及び掲記の証拠により容易に認められる事実)(1) 原告と家族の状況ア原告は, 平成8年▲月▲日, 父B及び母Cの長女として出生した。 亡Aは,原告の祖母であった。(甲4,5,父B本人)イ亡Aは,平成23年▲月▲日,死亡した。亡Aの死亡当時,原告の世帯の構成員は,住民票上原告,父B,母C, 父B及び母Cの長女として出生した。 亡Aは,原告の祖母であった。(甲4,5,父B本人)イ亡Aは,平成23年▲月▲日,死亡した。亡Aの死亡当時,原告の世帯の構成員は,住民票上原告,父B,母C,原告の兄D及び亡Aの5 名であって,同世帯の世帯主は父Bであり,兄Dは高校3年生,原告は中学3年生であった。(甲3,5,6,12)(2) 原告の父母の収入等ア父Bは,平成20年3月31日,昭和47年4月1日から勤務していた埼玉県α役場を退職した。父Bの退職時の年収は手取りで約680万円であった。父Bは,平成20年6月1日,α所在の自宅で, ▲を開業した。(甲18,父B本人)イ父Bの平成22年度の収入は合計186万3250円(うち,事業収入が72万4595円,配当収入が112万6395円,給与収入が1万2260円)で,必要経費等を控除した後の所得は130万8962円であった。同じく平成23年度の収入は合計200万4071円(うち,事業収入が82万0725円,配当収入が110万1746円,給与収入が8万1600円)で,必要経費等を控除した後の所得は122万1327円であった。(甲18,乙1,2,父B本人)ウ原告とその家族が居住するα所在の居宅は,土地建物とも父Bの所有であり,他に自家用車2台を所有していた。また,亡Aの死亡当時,父Bは,金融機関等からの借入れはなく,株式,預貯金を合わせて3000万円程度の資産を有していた。(父B本人)エ母Cは,平成6年1月以降,いわゆる専業主婦で,亡Aの死亡当時,収入はなかった(甲18,父B本人)。 (3) 亡Aの収入等ア亡Aは,法42条の老齢厚生年金の受給権者で,老齢基礎年金と合わせて年125万6800円の年金を受領しており,昭和60年頃以降無職で年金収入以外に収入がな 父B本人)。 (3) 亡Aの収入等ア亡Aは,法42条の老齢厚生年金の受給権者で,老齢基礎年金と合わせて年125万6800円の年金を受領しており,昭和60年頃以降無職で年金収入以外に収入がなかった(甲12,父B本人)。 イ亡A名義のE協同組合の普通貯金口座から,平成21年1月27日から平成22年3月29日の間,孫の学校関係費用として,毎月1972 円ないし9952円の引き落としがされていた。(乙3,父B本人)(4) 本訴に至る経緯ア原告は,平成24年2月22日,厚生労働大臣に対し,亡Aの遺族厚生年金の裁定を請求した(以下「本件裁定請求」という。)(甲2)。 イ厚生労働大臣は,平成24年4月13日付けで,本件裁定請求に対し,法59条不該当を理由に遺族厚生年金を支給しない旨の本件不支給決定をした(甲8)。 ウ原告は,本件不支給決定を不服として,平成24年6月5日,社会保険審査官に対し,審査請求をしたが,社会保険審査官は,同年8月17日付けで,同審査請求を棄却する旨の決定をした(甲11,12)。 エ原告は,上記社会保険審査官の決定を不服として,平成24年10月11日,社会保険審査会に対し,再審査請求をしたが,社会保険審査会は,平成25年2月28日付けで,同再審査請求を棄却する旨の裁決をした(甲13,14)。 オ原告は,平成25年8月2日付けで,本件訴訟を提起した(顕著な事実)。 3 争点原告は,法59条1項にいう「被保険者等の死亡の当時その者によって生計を維持していたもの」との要件(以下「生計維持要件」という。)を充足するか。 4 争点に関する当事者の主張の要旨(原告の主張の要旨)(1) 原告は,法59条1項,施行令3条の10及び関係法令により遺族厚生年金の受給権者に該当する。本件通知によ う。)を充足するか。 4 争点に関する当事者の主張の要旨(原告の主張の要旨)(1) 原告は,法59条1項,施行令3条の10及び関係法令により遺族厚生年金の受給権者に該当する。本件通知によれば,住民票上同一世帯に属し,請求者の収入が年収850万円未満であるときには,生計維持要件を充足するとしているところ,原告は,被保険者である亡Aと住民票上同一世帯 に属し,亡Aの死亡当時中学生で無収入であるから,生計維持要件を充足する。また,原告の両親は健在であるが,父Bは,亡Aの死亡の数年前に退職し,(省略) として稼働を開始したが,十分な収入を得るに至っておらず,平成22年度の所得は約130万円であり,母Cは,専業主婦で収入を得ていない。父Bの上記所得は,1か月に換算すると約10万8000円であり,家族5人で生活すると一人当たり約2万円となり,埼玉県αの生活保護基準を下回るものである。一人当たり月約2万円で生活するのは,埼玉県 ▲ 地方でも相当困難であり,被保険者亡Aの年金収入約126万円は,生活費として必要であり,実際,生活費として使用されていた。したがって,原告は,本件通知によらなくても,生計維持要件を充足する。 (2) 共働き夫婦の場合,夫が死亡し,妻に約800万円の年収があっても,配偶者間で生計維持関係が認められ,妻に遺族厚生年金が支給される。この場合において,夫の収入が少なく,事実上妻が夫を扶養していても,生計維持関係が認められ,遺族厚生年金が支給される。本来約800万円の年収があれば,自立して裕福な生活ができ,ほかに人に頼る必要はないが,厚生労働大臣が定める額である850万円未満であるため,生計維持関係を認め,遺族厚生年金が支給されるのが実務の実態である。他方,祖母と孫の間においては,民法877条1項が「直 人に頼る必要はないが,厚生労働大臣が定める額である850万円未満であるため,生計維持関係を認め,遺族厚生年金が支給されるのが実務の実態である。他方,祖母と孫の間においては,民法877条1項が「直系血族及び兄弟姉妹は,互いに扶養をする義務がある」と規定し,施行令3条の10も配偶者と孫を同列に扱っているにもかかわらず,祖母が孫の衣食住といった生活の根幹に関わる費用を負担し,扶養していた実態を立証しなければ被生計維持者と認められないとするのは,配偶者間の認定と著しくかい離して整合性を欠き,平等原則に反する。 (3) 原告の両親には前記(1)のとおり,年約130万円の所得しかないから,本件通知の生計維持認定対象者(関係法令等の定め(4)ア)のただし書にい う「実態と著しく懸け離れたもの」に該当するとは認められない。また,約800万円の年収がある配偶者間に生計維持関係を認めながら,祖母と孫の間では孫の両親が健在で少額の収入があれば「社会通念上妥当性を欠く」と認定されるのは合理性を欠くものである。本件通知は,厚生労働省及び日本年金機構の事務取扱基準であり,一般国民を拘束するものではない。被告の主張を前提とすると,孫の父母が生存している場合,孫と祖父母間に生計維持関係を認めること自体が「実態と著しく懸け離れた」,「社会通念上妥当性を欠く」ことになるが,そうであるならば,法59条の遺族の範囲に「孫」を加える必要がないはずである。被告が孫と祖父母との間に生計維持関係が認められるのは限られるとして挙げる例は,社会保険審査会の裁決例にすぎず,施行令3条の10の規定が優先する。 (被告の主張の要旨)(1) 生計維持要件を充足するというためには,一般的に,被保険者等が自己の収入から生活費,療養費等の出捐を行い,これが当該遺族の生計を維持する 条の10の規定が優先する。 (被告の主張の要旨)(1) 生計維持要件を充足するというためには,一般的に,被保険者等が自己の収入から生活費,療養費等の出捐を行い,これが当該遺族の生計を維持するための相当な部分を占め,当該被保険者等の収入からの出捐が失われるときは当該遺族の生計の維持に支障を来すこととなる関係を必要とする。 このような関係を判断する基準として,客観性及び公平性を確保するという観点から,本件通知が設けられている。本件通知は,「生計維持認定対象者」(遺族厚生年金の受給権者)が,「認定日」(受給権発生日)において,生計同一要件及び収入要件のいずれをも満たす場合には,一応施行令3条の10の配偶者等に該当するといえるとした上で,形式的には生計同一要件及び収入要件を満たすとしても,施行令3条の10に授権をしている法59条4項,1項の「生計を維持していた」との実質とかい離する場合が生じることも想定し,「これにより生計維持関係の認定を行うことが実態と著しく懸け離れたものとなり,かつ,社会通念上妥当性を欠くこととなる場合」には,施行令3条の10の配偶者等に該当しないことを示 したものである。したがって,ある者が施行令3条の10の配偶者等に該当するというためには,生計同一要件及び収入要件を満たし,かつ,これらの形式的な要件により,請求者が被保険者等によって生計を維持されていたと認定することが実態と著しく懸け離れておらず,社会通念に反しないと認められる必要があるというべきである。 (2) 原告は,亡Aの死亡時において,亡Aのみではなく,原告の父母とも同居していたところ,社会通念上,父母に収入がある場合,その子は第一義的には父母の収入によって生活を維持しており,仮に祖父母からの支援があったとしても,それは父母の収入を補完する援助の 告の父母とも同居していたところ,社会通念上,父母に収入がある場合,その子は第一義的には父母の収入によって生活を維持しており,仮に祖父母からの支援があったとしても,それは父母の収入を補完する援助の性質を有するにすぎないと認められることが多い。この点,父Bは,平成22年度及び平成23年度に確定申告を行っているところ,これらの確定申告において,原告,兄D及び母Cについて,扶養家族としていることが認められるのであるから,原告の一家においても,上記のような社会通念が妥当していたことがうかがわれる。そして,上記確定申告によれば,父Bは,事業を営み,その収入金額は,平成22年が72万4595円,平成23年が82万0725円であるほか,配当収入として,平成22年が112万6395円,平成23年が110万1746円,給与収入として,平成22年が1万2260円,平成23年が8万1600円の収入があり,上記収入から必要経費等を控除した後の所得は,平成22年が130万8962円,平成23年が122万1327円であったことが認められる。原告がこのような父Bの収入によって生活を維持していないと認定することは,むしろ,上記社会通念に反する認定になるというべきである。 (3) 遺族厚生年金の趣旨は,いわゆる一家の働き手の賃金又はそのような者が高齢者となり退職した後に受給していた老齢厚生年金を生活の基盤とした世帯において,その者の死亡という保険事故が生じた際の所得を保障することであるから,その者によって生活基盤が維持されていない遺族につ いて遺族厚生年金を支給することは相当ではなく,社会保障としての年金制度本来の意義を損なうことになる。未成年の子の生計を維持すべきであるのは,社会通念上,第一義的には子の監護義務(民法820条)を負う親権者たる父母(同 することは相当ではなく,社会保障としての年金制度本来の意義を損なうことになる。未成年の子の生計を維持すべきであるのは,社会通念上,第一義的には子の監護義務(民法820条)を負う親権者たる父母(同法818条1項)であり,たとえ祖父母等が孫と同居し,かつ,孫に対する経済的支援をしていたとしても,その孫の生計維持は当該孫の父母によってされるべきである。法も,孫は,配偶者,子又は父母の先順位者が遺族厚生年金の受給権を取得したときは,遺族厚生年金を受けることができる遺族としないとしているところ(59条2項),これは,孫の生計はその父母が維持すべきことを前提に,これをその父母ではなくその祖父母が維持していると認められる場合に初めて,その孫にも受給権が認められることを明らかにしたものである。そうすると,孫の受給権を判断する場合における孫の生計維持関係については,孫の生計をその父母が維持していると認められれば,孫と祖父母との間に認められることはないのであって,孫と祖父母との間の生計維持関係を判断するに当たっては,まず,孫とその父母の間の生計維持関係を検討し,これがないと認められる場合に初めて孫と祖父母との間の生計維持関係が検討されることとなる。そして,父母に一定の収入がある場合,子はその父母の収入によって生活を維持していると認められるべきであり,仮に祖父母からの経済的支援があったとしても,それは父母の収入を補完する援助の性質を有するにすぎないと認められることが多いのであって,祖父母から経済的支援があったことをもって直ちに祖父母と孫の生活維持関係が認められることにはならない。したがって,世帯の収入における祖父母の収入が占める割合にかかわらず,父母の収入のみで孫の生活の維持が可能であると認められるのであれば,当該孫の生計は父母によって維持されている ることにはならない。したがって,世帯の収入における祖父母の収入が占める割合にかかわらず,父母の収入のみで孫の生活の維持が可能であると認められるのであれば,当該孫の生計は父母によって維持されていると認められるべきである。以上述べたところからすれば,孫について,父母との生計維持関係が認められず,祖父母との間に生計維持関係が認められるのは, ①両親が死亡し,祖父母がその収入により生計を維持しているとき,②両親と子が別居し,子に対して送金せず,祖父母がその収入により生計を維持しているとき,③両親が障害等の理由により収入が少なく,祖父母がその収入により生計を維持しているときに限られるべきであり,このような事情がないにもかかわらず,孫と祖父母との生計維持関係の認定をすることは,「実態と著しく懸け離れたものとなり,かつ,社会通念上妥当性を欠くこととなる場合」に該当することとなる。 (4) 原告は,孫と祖父母との生計維持関係の認定について,配偶者間におけるそれが緩やかにされていることとの整合性を欠き,不平等である旨主張するが,配偶者間においては,それぞれが第一義的に生計を維持すべき関係にある(民法752条)のに対して,孫と祖父母間においてはそのような関係にはないのであるから,何ら整合性を欠くものでも不平等な取扱いでもない。 第3 当裁判所の判断 1 法令等の解釈について本件における各当事者の主張に鑑みると,本件請求の当否を判断するに当たっては,法59条1項や施行令3条の10等の解釈についての検討を要するものと解されるので,まず,この点について検討する。 (1) 法59条1項について法は,労働者の老齢,障害又は死亡について保険給付を行い,労働者及びその遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的としており(1条),生計 について検討する。 (1) 法59条1項について法は,労働者の老齢,障害又は死亡について保険給付を行い,労働者及びその遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的としており(1条),生計維持要件(59条)も,遺族厚生年金の目的が被保険者等の遺族の生活保障にあることから定められたものと解される。 ところで,被保険者等とその遺族との間において両者がそれぞれの生計維持につきどの程度の義務を負うかは,遺族の立場に応じて異なると考えられるが,この点に関連する民法の定めは大要次のとおりである。すなわ ち,夫婦は,同居,協力及び扶助の義務を負い(752条),婚姻から生ずる費用を分担し(760条),日常家事債務につき連帯して責任を負い(761条),両者のいずれに属するか明らかでない財産はその共有に属するものと推定され(762条2項),この関係は,両者の一方が死亡するか又は両者が離婚するまでの長期間継続するものである。他方,それ以外の親族についてみると,直系血族及び兄弟姉妹は,互いに扶養をする義務を負うとされているが(877条),このうち親子に関しては,父母は成年に達しない子に対する親権を有し(818条),親権を行う者は,子の監護教育についての権利義務を有する(820条)。 このように,被保険者等と遺族との生計維持に関わる義務の程度は遺族の立場によって大きな差異があり,特に夫婦間と親子間における上記義務は他に比べて重いものというべきである(夫婦間及び親と未成熟子との間ではいわゆる生活保持義務があり,他の親族との間ではいわゆる生活扶助義務しかないともいわれる。)。法59条は,遺族年金の支給対象者たり得る要件を遺族の立場に応じて個別に定めるとともに(1項),支給対象者の要件を備えた者の中では被保険者等の配偶者と子を優先 生活扶助義務しかないともいわれる。)。法59条は,遺族年金の支給対象者たり得る要件を遺族の立場に応じて個別に定めるとともに(1項),支給対象者の要件を備えた者の中では被保険者等の配偶者と子を優先させているが(2項),これは,同条が上記の差異を踏まえて支給対象者を具体化する趣旨に出たものと解されるところであり,同条がかかる規範的価値判断を前提としていると解される以上,同条が定める生計維持要件の解釈に当たっても,以上のような遺族の立場に応じた規範的観点をも踏まえて判断がされるべきものと解するのが相当である。 (2) 施行令3条の10についてア法59条4項の委任を受けた施行令3条の10は,法59条1項に規定する被保険者等の死亡の当時その者によって生計を維持していた配偶者,子,父母,孫又は祖父母は,当該被保険者等の死亡の当時その者と生計を同じくしていた者であって厚生労働大臣の定める金額以上の収入 を将来にわたって有すると認められる者以外のものその他これに準ずる者として厚生労働大臣の定める者とするとし,厚生労働大臣は上記金額として年収850万円未満であることを定めている(部長通知)。 この定めは,①生計同一要件と収入要件が充足されれば,被保険者等と支給対象者との収入の多寡や他の財産の有無について検討するまでもなく,生計維持要件の充足を認めており,②支給対象者たる遺族の立場の違いにかかわらず同じ要件によって生計維持要件の充足の有無を判断するものである。そこで,以下,法59条に照らして,かかる定めをいかに理解し得るかにつき検討する。 イまず,施行令3条の10は,生計維持要件の充足について,生計同一要件と収入要件の充足という2つの事実関係のいかんによって判断するとしているのであるが,同条は,生計維持に関わる事情が個別の事 。 イまず,施行令3条の10は,生計維持要件の充足について,生計同一要件と収入要件の充足という2つの事実関係のいかんによって判断するとしているのであるが,同条は,生計維持に関わる事情が個別の事案ごとに多様であると考えられる中で,多数の裁定請求につき一律かつ迅速に判断するために,上記の2つの事実関係において所定の要件を満たす場合には,生計維持関係があるものと推定するという趣旨のものと解される。そうすると,施行令3条の10所定の要件を満たした場合であっても,他の事情のいかんによっては,法59条1項の定める生計維持要件を満たさないことになる場合もあり得るところ,本件通知が,施行令3条の10に沿った形で生計同一要件等の具体的認定に係る定めを置いた上で,本件通知の定めるところによれば生計維持関係があるものと認定できる場合であっても,その「認定を行うことが実態と著しく懸け離れたものとなり,かつ社会通念上妥当性を欠くこととなる場合には」この限りでないとしているのは,かかる観点から理解し得るものといえる。 これを支給対象者が配偶者である場合についてみると,前記(1)でも見たとおり,夫婦間の経済的依存関係は密接であり,かつそれが長期にわたり継続すると考えられる以上,被保険者等の死亡当時において,被保 険者とその配偶者である支給対象者が生計同一関係にあり,かつ支給対象者が高額の年収(850万円以上)を将来にわたって得ると認められないときには,一方の収入がなくなれば他方の生計維持に支障を来すことになるであろうから,かかる事情の存在をもって生計維持関係の存在を推定することには合理性があるものと解される。 ウ次に,施行令3条の10は,生計維持要件の判断について,配偶者,子,父母,孫又は祖父母について同一の要件に基づいて認定すべきものと 持関係の存在を推定することには合理性があるものと解される。 ウ次に,施行令3条の10は,生計維持要件の判断について,配偶者,子,父母,孫又は祖父母について同一の要件に基づいて認定すべきものとしている。 この点,被保険者と支給対象者とが夫婦である場合には,上記のとおり,施行令3条の10による推定には合理性があるものということができる。 他方,支給対象者が孫である場合についてみると,支給対象者が孫(法59条によれば原則として18歳未満の者である。)である場合に,その者に年850万円以上もの収入があるとは通常考えられない以上,孫については,被保険者等と生計を同一にしていれば当然に支給対象と推定される結果となる。しかしながら,前記(1)で見たところからすれば,孫の生計維持に一次的に責任を負うのはその父母と解されるにもかかわらず,当該孫とその父母との生計の同一のいかんや,当該父母の収入や資産の状況いかんといった事情を何ら考慮することなく,単に孫が祖父母と生計を同一にしているということだけで,孫が祖父母により生計を維持していると推認するのは,法59条に定める生計維持要件の解釈に照らして不合理というべきである。そうすると,孫が支給対象者である場合については,施行令3条の10は,法59条4項の委任の範囲を逸脱したものといわざるを得ないのではないかとも考えられるが,仮にそこまでいい切れないとしても,その推定力は弱いものといわざるを得ず,当該孫の父母の資力等の諸事情のいかんにより,その推定は覆されるも のと解するのが相当である。 エこの点,原告は,共働き夫婦の場合,夫の収入が少なく,事実上妻が夫を扶養していても,生計維持関係が認められ,妻に遺族厚生年金が支給されるのに対して,祖母と孫との間においては,祖母が孫の衣食住と エこの点,原告は,共働き夫婦の場合,夫の収入が少なく,事実上妻が夫を扶養していても,生計維持関係が認められ,妻に遺族厚生年金が支給されるのに対して,祖母と孫との間においては,祖母が孫の衣食住といった生活の根幹に関わる費用を負担し,扶養していた事実を立証しなければ生計維持要件を充足すると認められないのは,平等原則に反する旨主張する。しかしながら,上記のとおり,生計維持要件を充足するか否かの判断に際しては,被保険者等が負う生計維持に関わる義務の程度もしんしゃくすべきところ,夫婦間と祖母と孫との間では生活維持に関わる義務の程度が異なるから,夫婦間と祖母と孫との間では,生計維持要件充足性の判断に際し,要求される立証の程度が異なるのは合理的な差異であり,平等原則に反するものとはいえない。 付言すると,施行令3条の10が,生計維持要件の認定につき2つの要件を定めるのみで当該要件につき配偶者と孫との間で差を設けておらず,また,本件通知も,同条に沿った取扱いを具体的に定めつつ,例外的取扱いをする場合については一般条項的な定めしか置いていないことを考慮すると,原告が,本件において,施行令3条の10や本件通知の定めに照らして生計維持要件が充足されていると考えたのも無理からぬように思われるが,法律の趣旨から検討する限り,前記(1)及び(2)で述べたとおり解すべきものといわざるを得ない。 以下,前記第2の2の前提事実を踏まえ,原告が被保険者亡Aとの間で生計維持要件を充足するかについて検討する。 2 本件事案についての検討原告は,被保険者亡Aの孫であって,亡Aの死亡当時亡Aと生計を同一にした15歳の中学3年生で無収入であるから,施行令3条の10及び本件通知によれば,生計同一要件及び収入要件を満たすことになるが,先に見たと おり支 あって,亡Aの死亡当時亡Aと生計を同一にした15歳の中学3年生で無収入であるから,施行令3条の10及び本件通知によれば,生計同一要件及び収入要件を満たすことになるが,先に見たと おり支給対象者が孫である場合には施行令3条の10の推定力は弱いものといわざるを得ない。そこで,以下,本件における原告の生計維持に関する事情について見ると,次のとおりである。 すなわち,原告は,亡Aの死亡当時,亡Aとだけでなく,父B,母C及び兄Dとも生計を同一にしていた。そして,父Bの所得は,亡Aの死亡当時においてこそ,平成22年度130万8962円,平成23年度122万1327円であったものの,昭和47年4月1日から亡Aが死亡する3年前の平成20年3月31日まで埼玉県α役場で勤務し,退職時の年収は手取りで約680万円だったのであって,亡Aの死亡当時金融機関等からの借入れはなく,原告らが居住する土地建物を所有するほか,自家用車を2台所有し,株式,預貯金を合わせて3000万円程の資産を有していたものであり,上記所得に加えてこれらの資産をも活用することにより,原告が未成熟子である時期の生活を維持することが困難であるというだけの事情があったとはうかがわれない。他方,母Cは専業主婦で平成6年1月以降収入がなく,亡Aは昭和60年頃以降無職で年額125万円程度の年金収入以外に収入がなかったのであり,亡A名義の普通貯金口座から,平成21年1月から平成22年3月の間,孫の学校関係費用の引き落としが毎月数千円程度されてはいたものの,それ以外に亡Aから具体的にどのような形で援助がされていたかは必ずしも判然としないところである。 以上のような収入や資産の状況に照らすと,亡Aの死亡当時に原告の生計を維持する立場にあったのは父Bであるというべきであり,その当時にお で援助がされていたかは必ずしも判然としないところである。 以上のような収入や資産の状況に照らすと,亡Aの死亡当時に原告の生計を維持する立場にあったのは父Bであるというべきであり,その当時において原告が亡Aによって生計を維持していたものとはいい難い。 3 以上によれば,原告は,法59条1項にいう生計維持要件を充足しないから,本件裁定請求に対し,法59条不該当を理由に遺族厚生年金を支給しないとした本件不支決定は適法というべきである。 4 本件義務付けの訴えについて 本件義務付けの訴えは,行政事件訴訟法3条6項2号所定の申請型の義務付けの訴えであるところ,申請型の義務付けの訴えについては,当該処分が「取り消されるべきものであり,又は無効若しくは不存在である」ときに限り,提起することができると定められており(同法37条の3第1項2号),併合提起した処分の取消請求又は無効確認請求が認容されることが訴訟要件になるところ,本件義務付けの訴えと併合提起された本件不支給決定が取り消されるべきものでないことは前記3説示のとおりであるから,本件義務付けの訴えは,上記訴訟要件を欠くものとして不適法である。 第4 結論以上によれば,本件各訴えのうち,本件義務付けの訴えは不適法であるから却下し,原告のその余の訴えに係る請求は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第51部 裁判長裁判官小林宏司 裁判官桃崎剛 裁判官中村仁子 桃崎剛 裁判官中村仁子

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