令和2(ワ)1858 地位確認等請求事件

裁判年月日・裁判所
令和6年5月14日 京都地方裁判所
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判決文本文48,411 文字)

主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 原告が、被告に対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。 2 被告は、原告に対し、5万3420円及びこれに対する令和2年5月18日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 3 被告は、原告に対し、21万0438円及びこれに対する令和2年6月18日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 4 被告は、原告に対し、令和2年7月から本判決確定の日まで毎月17日限り21万0438円及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 5 被告は、原告に対し、1010万1024円及び本判決確定の日の翌日から支払済みまで年3パーセントの割合による金員を支払え。 6 被告は、原告に対し、110万円及びこれに対する令和2年3月31日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 事案の要旨本件は、被告に雇用されていた原告が、令和2年3月31日付けで懲戒解雇(以 下「本件懲戒解雇」という。)されたことについて、本件懲戒解雇が無効であると主張して、被告に対し、以下の請求をする事案である。 ① 雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認請求② 雇用契約上の賃金請求権に基づき、令和2年4月分の未払賃金5万3420円及びこれに対する支払期日の翌日である同年5月18日から支払済みまで 民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払請求 ③ 令和2年5月分の未払賃金21万0438円及びこれに対する支払期日の翌日である同年6月18日から支払済みまで民法 まで 民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払請求 ③ 令和2年5月分の未払賃金21万0438円及びこれに対する支払期日の翌日である同年6月18日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払請求④ 令和2年6月分以降の賃金として同年7月から本判決確定の日まで毎月17日限り21万0438円及びこれに対する各支払期日の翌日から支払済み まで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払請求⑤ 労働基準法114条に基づく付加金として1010万1024円及び本判決確定の日の翌日から支払済みまで民法所定の年3パーセントの割合による遅延損害金の支払請求⑥ 違法な本件懲戒解雇及び被告職員による退職勧奨行為やパワーハラスメン ト等を理由として使用者責任又は被告自身の不法行為責任に基づき、損害賠償110万円(慰謝料100万円+弁護士費用10万円)及び不法行為後の日である令和2年3月31日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払請求 2 前提事実(争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認 定できる事実)(1)当事者等ア原告は、平成19年4月1日、被告との間で、契約期間を同日から平成20年3月31日までとする有期雇用契約を締結し、その後、同契約が更新されていたところ、平成31年2月28日、無期転換申込権を行使したことに より、雇用契約は、同年4月1日から期間の定めのないものとなった(以下、原被告間の雇用契約を「本件雇用契約」という。)。 イ被告は、京都大学を運営する国立大学法人であり、平成22年4月1日、M研究所(以下「本件研究所」という。)を設立した。 ウ A教授は、令和4年6 被告間の雇用契約を「本件雇用契約」という。)。 イ被告は、京都大学を運営する国立大学法人であり、平成22年4月1日、M研究所(以下「本件研究所」という。)を設立した。 ウ A教授は、令和4年6月30日まで、本件研究所のN研究部門に所属して いた教授である(乙90)。原告は、本件懲戒解雇当時、本件研究所のA教授 の研究室(以下「A研究室」という。)において教務補佐員として勤務していた。A研究室は、A教授のデスクがある東側(以下「教授室」という。)と原告のデスクがある西側(原告が秘書室、被告が教授副室と呼んでいるスペース。以下「本件スペース」という。)に分かれており、その配置は別紙1のとおりである(乙11の1)。 (2)原告の労働条件原告の労働条件は、平成31年4月1日以降、基本給は1750円、所定労働時間は1428時間、月平均所定労働時間は119時間、1月当たりの平均月給は20万8250円、賃金の締め日は月末、賃金の支払日は翌月17日(支給日が日曜日に当たるときは前々日、土曜日に当たるときは前日、休日に当た るときは翌日)であった。 (3)被告における就業規則等(本件に関係のある部分のみを抜粋)ア国立大学法人京都大学教職員就業規則(乙1。以下「就業規則」という。)第48条の2 教職員の懲戒の事由は、次のとおりとする。 (ア)この規則によって遵守すべき事項に違反した場合(1号) (イ)故意又は重大な過失により大学に損害を与えた場合(2号)(ウ)刑罰法令に触れる行為があった場合(3号。4号は省略)イ国立大学法人京都大学時間雇用教職員就業規則(甲2。以下「時間雇用規則」という。)(ア)第31条(職務専念義務) 触れる行為があった場合(3号。4号は省略)イ国立大学法人京都大学時間雇用教職員就業規則(甲2。以下「時間雇用規則」という。)(ア)第31条(職務専念義務) 時間雇用教職員は、勤務時間中職務に専念し、次条に定める場合を除き、職務とは関係のない行為をしてはならない。 (イ)第33条(職場規律)時間雇用教職員は、上司の指示に従い、職場の秩序を保持し、互いに協力してその職務を遂行しなければならない。 (ウ)第34条(遵守事項) 時間雇用教職員は、次の各号に掲げる行為をしてはならない。 a 職場の内外を問わず、大学の信用を傷つけ、その利益を害し、又は教職員全体の不名誉となるような行為をすること。(2号)b 職務や地位を私的利用のために用いること。(4号)c 大学の敷地及び施設内で、喧騒その他の秩序・風紀を乱す行為をする こと。(5号)d 前各号のほか、これに準ずるような教職員としてふさわしくない行為をすること。(8号。上記以外の各号は省略)(エ)第52条(懲戒)時間雇用教職員が次条の規定による懲戒事由に該当する場合は、これに 対し次の各号に定める区分に応じ懲戒することができる。 懲戒解雇予告期間を設けずに解雇する。(5号。他の各号は省略)(オ)第53条(懲戒の事由及び手続)時間雇用教職員の懲戒の事由及び懲戒の手続については、就業規則第48条の2及び国立大学法人京都大学教職員懲戒規程を準用する。 ウ京都大学における公正な研究活動の推進等に関する規程(乙38)第14条(守秘義務)受付窓口の教職員及び研究活動上の不正行為に係る調査に関係した者は、業務上知ることのできた ウ京都大学における公正な研究活動の推進等に関する規程(乙38)第14条(守秘義務)受付窓口の教職員及び研究活動上の不正行為に係る調査に関係した者は、業務上知ることのできた秘密を他に漏らしてはならない。 (4)本件懲戒解雇等 ア被告は、令和2年3月31日付けで、懲戒処分書(甲5)及び処分理由書(別紙2。甲11)を原告に交付し、原告を懲戒解雇とした。 イ被告は、令和2年3月31日、被告のホームページ上で、本件研究所非常勤職員を懲戒解雇処分にした旨を公表した(当該非常勤職員は原告を指すが、氏名は公表されていない。)(乙7)。 ウ被告は、原告に対し、解雇予告手当名目で、15万7018円を支払った (乙91)。 3 争点(1)本件懲戒解雇の有効性(争点1)(2)賃金請求権の有無(争点2)(3)付加金請求の可否(争点3) (4)被告の使用者責任(A教授による不法行為)の成否(争点4)(5)被告自身による不法行為の成否(争点5)(6)損害の発生及びその額(争点6) 4 争点に関する当事者の主張(1)本件懲戒解雇の有効性(争点1) (被告の主張)原告には以下の懲戒事由1から6までがあり、本件懲戒解雇は有効である。 (原告の主張)原告には懲戒事由はなく、本件懲戒解雇は解雇権を濫用したもので無効である。 ア懲戒事由1(メールの無断開封及び閲覧、機密書類の一時持ち出し及びデータコピー、業務命令違反等)(被告の主張)(ア)原告は、平成29年7月14日午前11時31分、教授室に入り、A教授に無断で、A教授のパソコンを操作し、A教授宛に送信されたB助教の 研究論文に係る不正に関する機密情報が記載され 張)(ア)原告は、平成29年7月14日午前11時31分、教授室に入り、A教授に無断で、A教授のパソコンを操作し、A教授宛に送信されたB助教の 研究論文に係る不正に関する機密情報が記載されたメールを開封し閲覧した。 上記行為は、時間雇用規則34条2号の「職場の内外を問わず、大学の信用を傷つけ、その利益を害し、又は教職員全体の不名誉となるような行為をすること」及び同条8号の「前各号のほか、これに準ずるような教職 員としてふさわしくない行為をすること」に該当することから、就業規則 48条の2第1号の「この規則によって遵守すべき事項に違反した場合」に該当する。 (イ)また、原告は、平成29年7月24日午前9時8分頃、教授室に入り、A教授の机の引き出しからB助教の不正疑いの調査に関する機密書類を持ち出し、同日午前9時9分頃、同書類を複合機でスキャンして、そのデ ータを原告が使用するパソコン(以下「本件パソコン」という。)に接続されたハードディスク内に保存した上で、同日午前9時15分頃、同書類を返却した。 上記行為は、時間雇用規則34条2号の「職場の内外を問わず、大学の信用を傷つけ、その利益を害し、又は教職員全体の不名誉となるような行 為をすること」及び同条8号の「前各号のほか、これに準ずるような教職員としてふさわしくない行為をすること」に該当することから、就業規則48条の2第1号の「この規則によって遵守すべき事項に違反した場合」に該当する。また、原告が、A教授の机の引き出しから同人管理の機密書類を持ち出した行為は、窃盗罪(刑法235条)に該当するから、就業規 則48条の2第3号の「刑罰法令に触れる行為があった場合」に該当する。 (ウ)さらに、原告は、平成31年4月18日、当該機密情報の持ち出し 行為は、窃盗罪(刑法235条)に該当するから、就業規 則48条の2第3号の「刑罰法令に触れる行為があった場合」に該当する。 (ウ)さらに、原告は、平成31年4月18日、当該機密情報の持ち出しを疑ったA教授から、本件パソコンを調査するために、本件パソコンの立ち上げを命じられたにもかかわらず、持ち出しを否認し続け、業務命令に反して本件パソコンの立ち上げを拒否し、調査を妨げた。本件パソコンは、被 告の物品であり、原告が独占的に使用・管理することは許されないから、A研究室の管理者であり上司であるA教授から業務上使用する本件パソコンの立ち上げを求められて拒否する正当な理由は存在しない。 上記行為は、時間雇用規則33条の「上司の指示に従い」に違反することから、就業規則48条の2第1号の「この規則によって遵守すべき事項 に違反した場合」に該当する。 (エ)これに対し、原告は、懲戒事由発生時と処分時とが時間的に離れていることを問題にするが、A教授は、平成29年7月に、ビデオカメラを設置し、同月14日及び同月24日の原告の行為を把握したものの、客観的証拠を収集した上で、原告の行為の詳細を特定する必要があった。その後の情報管理室の調査結果でも持ち出した機密情報に該当するファイルを確 認できなかったが、A教授が令和元年7月19日に本件パソコンに附属していたハードディスクの中からB助教に関する資料を発見し、原告による機密書類の持ち出しが明らかになった。その後、本件研究所所長の調査指示により、同年8月30日に原告に対する調査が開始され、同年9月に経理調査が、同年11月26日に弁護士による原告のヒアリングが行われた。 本件懲戒解雇の懲戒事由は多岐にわたっており、調査及び懲戒手続には一定の時間を要してもやむを得な が開始され、同年9月に経理調査が、同年11月26日に弁護士による原告のヒアリングが行われた。 本件懲戒解雇の懲戒事由は多岐にわたっており、調査及び懲戒手続には一定の時間を要してもやむを得なかった。なお、A教授は、業務上の必要性に基づきラボ共通アカウントを使用して被告所有の本件パソコンを必要最小限の範囲で操作したものであるため、A教授がハードディスク内を確認した目的、手段、態様には正当性があり、原告が被った不利益はほとん どないから、仮にハードディスクが原告の私物であったとしても、プライバシー侵害とはならない。 (原告の主張)(ア)原告は、教授室において秘書的な業務を日常的に行っており、書類や郵便物をA教授の机上に置いたり、書類を積み直したり、書類を探し出して コピーやスキャンをしたりするなどのほか、ごみの掃除をしたり、A教授のパソコンを使用して申請書や報告書の修正を行うこともあった。そして、これらの原告の行為は、A教授から黙認されていた。そのため、原告が教授室のデスク周辺に入り、A教授のパソコンを触っていたとしても、そのことが同パソコン内のメールを無断で開封し、閲覧したことを示すもので はない。 (イ)同様に、原告が教授室に入り書類を触っていたとしても、日常的な業務を行っていただけで、機密書類を持ち出したことを示すものではない。そもそも、原告は、B助教に関する機密書類(乙37)を本件訴訟に至るまで見たことはなかった。 また、「刑罰法令に触れる行為」であるとして懲戒処分を行う場合には、 構成要件に該当する行為が存在し、かつ、違法性阻却事由及び責任阻却事由が存在しないことが必要である。原告は、A教授の机から機密書類を持ち出しておらず、窃盗罪の構成要件に該当しない。仮に、原告が 構成要件に該当する行為が存在し、かつ、違法性阻却事由及び責任阻却事由が存在しないことが必要である。原告は、A教授の机から機密書類を持ち出しておらず、窃盗罪の構成要件に該当しない。仮に、原告がスキャンを行っていても、日常業務を行ったもので、窃盗罪の構成要件に該当しない。 さらに、「大学の信用を傷つけ、その利益を害し、又は教職員全体の不名誉となるような行為」に該当するかは、厳格に判断されるべきである。原告は、窃盗を行っておらず、これに該当する行為をしていない。 (ウ)A教授は、平成31年4月18日、原告に対し、明確な理由を告げないまま本件パソコンの立ち上げを命じた。それまで原告は、A教授から、私 用電話の疑い、不正経理の疑い、就労中に頻繁に外出している疑い、個人経理金使い込みの疑いなどをかけられ、退職を強要され、強いストレスを感じていたために、本件パソコンの立ち上げを求める理由の説明と第三者の立会いを求めたにすぎず、その時間も約2分40秒と短く、調査を妨げたとはいえない。また、A教授の業務命令は、退職勧奨の一環として行わ れたもので、正当な業務命令ではなく、このような業務命令に対して原告が自己防衛のために抗議することはやむを得ない。そして、最終的に原告は本件パソコン内のデータの確認に応じ、調査に協力しているのであるから、業務命令に違反したということはできない。 (エ)被告は、平成29年7月14日及び同月24日に原告によるメール開封 や機密情報の持ち出しを認識していたと主張するが、被告が本件パソコン の調査に及んだのはその約2年後であり、本件懲戒解雇を行ったのはそこから更に約1年後であった。この間、被告は、被害届を提出したり告訴したりもしておらず、処分が遅延する格別の理由もないのに、明らか の調査に及んだのはその約2年後であり、本件懲戒解雇を行ったのはそこから更に約1年後であった。この間、被告は、被害届を提出したり告訴したりもしておらず、処分が遅延する格別の理由もないのに、明らかに時機を失した処分をしている。 (オ)A教授は、本件パソコンに接続されていた原告の私物のハードディスク を、原告に同意を求めることすらなく閲覧しており、原告のプライバシーを侵害している。適正手続の観点から、違法な調査によって収集された違法証拠に基づく本件懲戒解雇は、社会通念上相当性を欠くものとして懲戒権の濫用と評価されるべきである。 イ懲戒事由2(使用可能なオーブンレンジの無断廃棄) (被告の主張)(ア)原告は、平成30年3月2日に購入した被告の物品であるアイリスオーヤマのオーブンレンジ(以下「本件レンジ」という。)について、同年6月、アイリスオーヤマのカスタマーセンターに初期不具合があるとして調査を依頼し、調査の結果、不具合は存在しないことが判明したにもかかわら ず、被告に無断でアイリスオーヤマに対し処分を依頼し、廃棄した。本件レンジは、被告における「資産」ではなく、「消耗品」であるため廃棄に係る手続の定めはないものの、被告の所有する物品を使用開始して間もないのに正当な理由なく処分することは、被告の財産権の侵害に当たる。 上記行為は、時間雇用規則34条8号の「前各号のほか、これに準ずる ような教職員としてふさわしくない行為をすること」に該当することから、就業規則48条の2第1号の「この規則によって遵守すべき事項に違反した場合」に該当する。また、原告の行為は、就業規則48条の2第2号の「故意又は重大な過失により大学に損害を与えた場合」に該当する。そして、原告が、被告所有の本件レンジをアイリスオーヤマの担当者 反した場合」に該当する。また、原告の行為は、就業規則48条の2第2号の「故意又は重大な過失により大学に損害を与えた場合」に該当する。そして、原告が、被告所有の本件レンジをアイリスオーヤマの担当者に指示し て廃棄させた行為は、他人の財物を損壊したものとして、器物損壊罪(刑 法261条)に該当するから、就業規則48条の2第3号の「刑罰法令に触れる行為があった場合」に該当する。 (イ)原告は、懲戒事由発生時と処分時とが時間的離れていることを問題にするところ、A教授は、平成30年7月17日に、共通経費を使用して発注された日立製のレンジがあり、本件レンジがないことに気付いたが、原告 が同年4月の現物確認後にA教授からハラスメントを受けたと吹聴していたことから、その時点で確認はせず、慎重に対応することとした。そして、令和元年8月30日以降に調査をしたところ、同年10月16日に、アイリスオーヤマカスタマーセンターへの確認により、本件レンジの廃棄が発覚した。原告が本件レンジを廃棄したことを把握するのに時間を要し たのは、放置していたからではない。懲戒事由は多岐にわたるにもかかわらず、調査及び懲戒手続は比較的迅速に行われており、相当性を逸脱するような長期間の経過は全くない。 (原告の主張)(ア)本件レンジは、スイッチを押しても3回に1回は作動せず、また、作動 した場合に取消しボタンを押しても停止しないという不具合があり、アイリスオーヤマに修理依頼をしても不具合はないとの一点張りであったため、原告は、このまま使用し続けるのは危険であると判断して、やむなく廃棄するに至った。このように、原告は、本件レンジが故障していると認識して廃棄したのであるから、過失がない。 また、被告における物品のうち、「 使用し続けるのは危険であると判断して、やむなく廃棄するに至った。このように、原告は、本件レンジが故障していると認識して廃棄したのであるから、過失がない。 また、被告における物品のうち、「資産」については、研究室責任者の承認を経て、不用品申請を行う等の廃棄手続が必要であるが、本件レンジのような「消耗品」については、廃棄手続が定められておらず、適宜廃棄されており、消耗品である上、故障した本件レンジの処分は、被告に損害を与えるものではない。 原告は、消耗品の管理についてA教授から丸投げされており、包括的な 同意を得ていた。また、本件レンジの廃棄後、A教授や被告から遅滞なく注意等をされることもなかったから、本件レンジの廃棄には被告による事後的な同意があったといえる。 本件レンジは、原告が廃棄したときには既に故障しており、廃棄によってその効用を害したことにはならないから、器物を「損壊」したことには ならない。また、原告は、本件レンジを故障したと認識しているから、器物損壊の故意を欠く。さらに、本件レンジの廃棄は雇用契約に基づく業務の一環であり、正当業務行為に当たる。 以上より、原告に器物損壊罪は成立せず、「刑罰法令に触れる行為」に当たらない。 (イ)原告が本件レンジを廃棄したのは平成30年6月であるのに、本件レンジの廃棄についての調査が開始されたのは令和元年10月16日のことであり、1年以上の空白期間が生じていた。この間、被告は、被害届を提出したり告訴したりもしておらず、処分が遅延する格別の理由もないのに、明らかに時機を失した処分をしている。 ウ懲戒事由3(盗撮・無断録音)(被告の主張)原告は、少なくとも令和元年5月頃から同年7月25日までの間、本件スペースにビデオカメラ(以下「原 明らかに時機を失した処分をしている。 ウ懲戒事由3(盗撮・無断録音)(被告の主張)原告は、少なくとも令和元年5月頃から同年7月25日までの間、本件スペースにビデオカメラ(以下「原告カメラ」という。)を設置して盗撮していた。原告カメラは、USBタップに似せた形状をしており、本件スペースの 奥から入り口に向かって全体が撮影されるような角度で、発見しにくい場所に通常では気付かない形で設置されており、原告の机周辺のみならず、原告以外の不特定多数の人物が当然に映り込むものとなっていたから、盗撮に該当する。 原告は、原告カメラの設置に先立ち、C所長補佐に防犯カメラの設置を要 望したが、受け入れられなかったことから、教授室内へのカメラの設置が許 されないことを認識していた。被告は、原告の盗撮に気付き、同日(7月25日)に原告へのヒアリングを実施し、盗撮について懲戒処分の可能性を伝え、データ消去を指示したが、原告は、同日、被告に対しデータを消去した旨をメールで回答したにもかかわらず、実際には盗撮のデータを削除せず、他の教職員もアクセス可能な共有フォルダに、ごみ箱風の「@Recycl e」というフォルダを作成して保存していた。 また、原告は、共有フォルダ内に、A教授、C所長補佐、D所長補佐、E事務長、F人事掛長、G総務掛長、H人事G長及び全学ハラスメント相談窓口担当者との個人間のやり取りに関する無断録音データを多数保存していた。 この点、原告は、自衛のために録音・録画を行ったと主張するが、原告の自衛とは全く無関係な録音や録画が存在しており、自衛の範疇を超えている。 以上の原告の各行為は、時間雇用規則33条の「職場の秩序を保持」する義務に違反し、また、同34条8号の「前各号のほか、これに準ずるよう 全く無関係な録音や録画が存在しており、自衛の範疇を超えている。 以上の原告の各行為は、時間雇用規則33条の「職場の秩序を保持」する義務に違反し、また、同34条8号の「前各号のほか、これに準ずるような教職員としてふさわしくない行為をすること」に該当することから、就業規 則48条の2第1号の「この規則によって遵守すべき事項に違反した場合」に該当する。 (原告の主張)原告は、A教授からの執拗なハラスメントや退職勧奨を受けており、その言動を証拠化するには、録音・録画以外に手段がなかった。 原告が録画を開始したのは、原告の不在時にマウスや書類の位置が移動されており、机やパソコンを触られていると感じるようになったため、自衛のために原告の不在時の状況を録画する必要が生じたからである。 原告カメラは、原告の机周辺のみについて、動く物があると短時間だけ録画をするというもので、録画範囲としても限定的であり、職場の秩序を害す るようなものではなかった。 平成29年の録音は、雇用形態が確定しない中、A教授から「来年度雇用できない。」と告げられたことにより、A教授からのハラスメントや退職勧奨について記録するほか、C所長補佐にA教授のハラスメントについて話をしたことの経緯を記録するために録音したものであり、正当性がある。 平成30年の録音については、同年5月のものは、個人経理金の通帳返却 についてA教授とのトラブルを回避するために録音を行ったものであり、同年11月のものは、A教授から退職勧奨がされる可能性があるために録音を行ったものであり、F人事掛長との会話は、原告への励ましの言葉を記録して心のバランスを保ち、A教授のハラスメントに関する相談経過を記録するために録音を行ったものであり、G総務掛長との会話も、A教 を行ったものであり、F人事掛長との会話は、原告への励ましの言葉を記録して心のバランスを保ち、A教授のハラスメントに関する相談経過を記録するために録音を行ったものであり、G総務掛長との会話も、A教授のハラスメ ントに関する相談経過を記録するために録音を行ったものであり、いずれも正当性がある。 平成31年(令和元年)の録音は、A教授との会話については、自身の雇用に関する話であるため録音の必要があり、E事務長との会話については、A教授によるハラスメントを被告責任者に伝えていることを記録するため に録音の必要があり、D所長補佐との会話については、本件パソコンに係る調査結果の報告や業務調整に関するものであるから記録化するために録音の必要があった。また、故意に録音したものではなく、誤って録音してしまったものもある。 以上のように、原告の録音は、いずれも自衛のために必要なものであり、 職場の秩序を害するようなものでもなかった。 共有フォルダ内に録画データが残っていたことについては、原告が過失により消去し損なったものである。共有フォルダ内にアクセスできるのは、A教授とその秘書のみであり、職場の秩序を侵害するものではない。また、原告は、一時的に共有フォルダの階層の深いところに保存していただけで、不 特定多数に開示したわけではないから、非違性も小さい。 エ懲戒事由4(セキュリティエリアへの侵入)(被告の主張)本件研究所には、入館証セキュリティシステムによって入退館の管理がされているセキュリティエリアがあり、本件研究所に勤務する教職員以外の者がセキュリティエリアに入るためには、来客用カードの貸付けを受ける必要 がある。原告は、令和元年8月24日午後1時25分から翌25日午前1時20分にかけて、業務上 研究所に勤務する教職員以外の者がセキュリティエリアに入るためには、来客用カードの貸付けを受ける必要 がある。原告は、令和元年8月24日午後1時25分から翌25日午前1時20分にかけて、業務上の必要がないにもかかわらず、被告のセキュリティエリアに侵入し、その際、許可なく原告の子(大学生)も同エリアに立ち入らせた。 原告は、業務のために本件研究所に立ち入ったものである旨主張するが、 勤務日でない週末の、しかも日中のみならず深夜にまで及んでしなければならないような業務はなく、実際に原告が行っていたのは、パソコンの移動や卒業アルバム等の大量の私用データのスキャンといった、業務とは無関係な作業であった。 上記行為は、時間雇用規則34条2号の「職場の内外を問わず、大学の信 用を傷つけ、その利益を害し、又は教職員全体の不名誉となるような行為をすること」及び同条5号の「大学の敷地及び施設内で、喧騒その他の秩序・風紀を乱す行為をすること」に該当することから、就業規則48条の2第1号の「この規則によって遵守すべき事項に違反した場合」に該当する。 (原告の主張) 原告は、入館証を与えられているから、セキュリティエリアへ立ち入ることを禁じられていない。 また、本件研究所の職員が、子の成長を上司や同僚に見せるためなどの理由で家族をセキュリティエリア内に連れてくることは頻繁にあった。 令和元年8月24日の立入りについて、原告は、習い事やO部の待ち合わ せのついでに本件研究所に立ち寄り、A教授から本件スペースを空けるよう 指示されていたため、部屋の整理と片付けをしたもので、業務を行っていた。 本件研究所のセキュリティ管理・ルールの運用は厳格でなく、それまで、原告がセキュリティエリア内に子を連れてきても、注意を受けた 指示されていたため、部屋の整理と片付けをしたもので、業務を行っていた。 本件研究所のセキュリティ管理・ルールの運用は厳格でなく、それまで、原告がセキュリティエリア内に子を連れてきても、注意を受けたことは一度もなかった。また、原告が業務時間外に子を連れてセキュリティエリア内に入ったことにより、被告の信用・利益・秩序が害されたこともない。 オ懲戒事由5(複合機の私的利用)(被告の主張)原告は、令和元年9月17日から同月24日にかけて、勤務時間中に、職場の複合機を用い、日本弁護士連合会への人権救済申立てのための資料など業務上必要のない膨大な文書(およそ300枚)を印刷した。 上記行為は、時間雇用規則31条の「勤務時間中職務に専念し、次条に定める場合を除き、職務とは関係のない行為をしてはならない」義務に違反し、同34条4号の「職務や地位を私的利用のために用いること」及び同条8号の「前各号のほか、これに準ずるような教職員としてふさわしくない行為をすること」に該当することから、就業規則48条の2第1号の「この規則に よって遵守すべき事項に違反した場合」に該当し、大量の印刷は、同48条の2第2号の「故意又は重大な過失により大学に損害を与えた場合」にも該当する。 (原告の主張)原告の印刷行為は、人権救済申立てを行い、ハラスメントのある就業環境 を改善するための行為であり、業務のために行われているもので、教職員としてふさわしくない行為であるとはいえず、印刷を行っている時間はごく短時間で業務に具体的な支障が生じたこともないから、職務専念義務に違反していない。また、印刷費用が損害であるとしても、被告に与えた損害は軽微であり、これまで原告の印刷行為を事後的に注意されたことは一度もなかっ た。 カ いから、職務専念義務に違反していない。また、印刷費用が損害であるとしても、被告に与えた損害は軽微であり、これまで原告の印刷行為を事後的に注意されたことは一度もなかっ た。 カ懲戒事由6(多数の私物の被告経費での購入)(被告の主張)(ア)原告は、次のとおり、①ステンレス部屋干しコンパクトハンガー、②パナレーサー楽々ポンプ、ブレーキインナーワイヤー、パンク修理部品等、自転車修理用品、パナレーサーチューブ、自転車トンボ口、③い草上敷き といった多数の私物を被告経費で購入した。いずれの物品も、A教授から購入の指示はされておらず、A教授の研究室内に現物が見当たらない。また、A教授が、原告に対し、物品の購入に際して包括的な同意を与えたことはない。 ①は、原告の母親名義で購入しており、届け先も原告の自宅であること に加え、原告自身も似たようなハンガーが原告の自宅にあることを認めている。 ②は、原告が通勤に自転車を使用している者の便宜を図るために購入したものと説明していたが、これらの物品が購入されたことを認識している職員はいなかった。 ③は、原告の母親名義で購入され、購入後に購入者名義が原告の名前に書き換えられた。原告は、経理担当者には、倉庫の整理の際に物品や機械に傷がつかないように下敷きとして使用するためと説明したが、弁護士ヒアリングの際には、ラボの花見に使用するためと説明内容を一転させた。 しかし、原告がい草上敷きを倉庫整理や花見のために使用するのを見た者 はいない。 上記行為は、時間雇用規則34条8号の「前各号のほか、これに準ずるような教職員としてふさわしくない行為をすること」に該当することから、就業規則48条の2第1号の「この規則によって遵守すべき事項に違反した場合」に該当し、同4 4条8号の「前各号のほか、これに準ずるような教職員としてふさわしくない行為をすること」に該当することから、就業規則48条の2第1号の「この規則によって遵守すべき事項に違反した場合」に該当し、同48条の2第2号の「故意又は重大な過失により大 学に損害を与えた場合」にも該当する。また、売買代金名目下に金員を詐 取しようと企て、上記各商品を立替払いの方法により購入し、被告に対し、真実は、私物購入のために支払った代金であるのに、これを秘し、被告における備品の購入に係る代金である旨の虚偽の立替払金の支払請求をし、被告をして、適正な立替払金請求であると誤信させ、よって被告に上記商品の代金を原告名義の普通預金口座に振込入金させ、もって人を欺いて財 物を交付させた行為は詐欺罪(刑法246条1項)に該当し、あるいは、被告の被用者として、A研究室内にある物品の管理等の業務に従事し、上記商品を、被告のために預かり保管中、自己の用に供する目的で、ほしいままに着服して横領した行為は業務上横領罪(刑法253条)に該当するから、就業規則48条の2第3号の「刑罰法令に触れる行為があった場合」 に該当する。 (イ)原告は、最後の立替払請求日から3年後に行われた本件懲戒解雇が時機を失していると主張する。しかし、被告の経理担当者は、原告の「うっかり間違った」等のその都度の説明が明らかに誤りであるなどの特段の事情が見当たらなかったことから、原告に対して注意を行った上で手続を進め たのであり、懲戒事由に当たる事実を認識ないし把握していたわけではなかった。その後、令和元年9月2日から令和2年1月31日までの経理調査の中で、原告の説明が虚偽である疑いが判明し、同年2月27日に懲戒処分にかかる審査申立てが行われた。このように、被告が懲戒事 はなかった。その後、令和元年9月2日から令和2年1月31日までの経理調査の中で、原告の説明が虚偽である疑いが判明し、同年2月27日に懲戒処分にかかる審査申立てが行われた。このように、被告が懲戒事由6を把握したのは早くとも令和元年9月以降であり、本件懲戒解雇まで半年ほど しか経過していない。 (原告の主張)(ア)原告が、原告の母名義のAmazonのアカウントを使用して物品を購入することは、被告の経理担当者及びA教授からも同意を得て行っていた。 また、消耗品の購入や廃棄もA教授から原告に丸投げされており、包括 的な同意があった。 原告は、予算管理者であるA教授から各物品の購入について注意されたこともなかったから、同人の事後的な同意もあった。 ①は、大学の掃除の際に使用する雑巾を洗濯ばさみで挟み、布巾等を乾かすのに使用しており、業務上必要なものであって、私物ではない。 ②は、A教授が提供してA研究室のメンバーが使用していた自転車に生 じた不具合を修理するために購入したものであり、業務上必要ないし有益なものであって、私物ではない。 ③は、倉庫の整理の際に物品や機械が傷つかないように下敷きとして使用するために購入し、倉庫の整理後は、A教授の指示のもと実施された花見の際にブルーシートの下に敷くなどして使用しており、業務上必要ない し有益なものであって、私物ではない。なお、い草上敷きにはカビが生えたことから既に廃棄されている。 これらの物品の購入は、業務上必要な物品を購入して立替代金の請求を行ったものであり、欺罔行為そのものが存在せず、詐欺罪の構成要件に該当しない。また、原告は、自己の用に供する目的でほしいままに着服して おらず、業務上横領罪の構成要件に該当しない。 (イ)各物品の あり、欺罔行為そのものが存在せず、詐欺罪の構成要件に該当しない。また、原告は、自己の用に供する目的でほしいままに着服して おらず、業務上横領罪の構成要件に該当しない。 (イ)各物品の発注日及び立替払請求日は、平成27年から平成29年にかけてであり、本件懲戒解雇がなされた令和2年3月31日までは3年経過している。被告は、処分が遅延する格別の理由もないのに、明らかに時機を失した処分をしている。 (2)賃金請求権の有無(争点2)(原告の主張)本件懲戒解雇は無効であり、原告と被告との雇用契約は継続していることから、被告には、原告に対し、本件懲戒解雇後の令和2年4月分以降の賃金を支払う義務がある。賃金額は、令和2年度の原告の所定労働時間は1443時間、 月平均所定労働時間は120.25時間であるから、1月あたりの平均月給は 21万0438円となる。 なお、被告が中間収入を控除すべきと主張する原告の給与収入は、被告の勤務日ではない土曜日、日曜日又は祝日に得た収入であり、かつ、少額であるため、被解雇者が自己及び家族の生活維持のため、副業の程度においてなした労働による収入といえ、債務を免れたことによって得た利益には当たらず、中間 収入の控除は認められない。 (被告の主張)争う。原告が主張する令和2年度の所定労働時間は確定したものではなく、平均月給算定の根拠とすべきではない。 仮に、原告の賃金請求が認められるとしても、原告の給与収入は中間収入と して控除されなければならない。 (3)付加金請求の可否(争点3)(原告の主張)ア本件懲戒解雇は無効であり、本件雇用契約は継続しており、原告には労働義務が生じているものの、原告は、被 されなければならない。 (3)付加金請求の可否(争点3)(原告の主張)ア本件懲戒解雇は無効であり、本件雇用契約は継続しており、原告には労働義務が生じているものの、原告は、被告の責めに帰すべき事由による休業を 余儀なくされている。そのため、被告には労働基準法26条違反が認められるから、休業手当相当額を付加金として請求する。 イ本件懲戒解雇は、退職勧奨が行われ、その際に有形力の行使もあったこと、懲戒事由の具体的な特定及び懲戒処分の裏付けとなる客観的資料の開示を求めたが、拒絶され、適正手続が取られていないこと、被告が主張する懲戒 事由が事実と異なること、被告は原告が業務命令違反をしたと指摘するが、その業務命令が正当性を欠いており、正にパワーハラスメントであること、懲戒事由には平成29年頃のものが含まれており、懲戒処分の時機を失していること、A教授が本件懲戒解雇の調査のために、原告の個人所有のハードディスク内を調査するなど、調査態様が社会的相当性を欠いていること、原 告が退職勧奨に応じなかったために、時機を失した事実と異なる事由を持ち 出して懲戒解雇としたことなどから、悪質であり、被告は付加金を支払うべきである。 ウ原告の休業手当は、令和2年度の平均月給21万0438円の令和2年度から令和5年度までの4年分である1010万1024円を付加金額とする。 (被告の主張)否認ないし争う。本件懲戒解雇は有効であり、原告に対する未払賃金もないから、被告に付加金を支払う義務はない。 また、付加金の支払を命じるか否かは、使用者による労働基準法違反の程度や態様、労働者の受けた不利益の性質や内容、違反に至る経緯、その後の使用 者の対応など諸般の事情を考慮して裁判所 はない。 また、付加金の支払を命じるか否かは、使用者による労働基準法違反の程度や態様、労働者の受けた不利益の性質や内容、違反に至る経緯、その後の使用 者の対応など諸般の事情を考慮して裁判所が決定するところ、本件では、原告が多くの非違行為に及んでおり、これらの非違行為が懲戒事由に該当する以上、仮に、本件懲戒解雇が無効であったとしても、本件懲戒解雇が不法行為に該当することはなく、付加金の支払を命じることは相当ではない。 (4)被告の使用者責任(A教授による不法行為)の成否(争点4) (原告の主張)A教授は、後記アからエまでのとおり、原告に対してハラスメントを行い、これらは、被告の事業の執行について行われた不法行為に該当するから、被告は使用者責任を負う。 (被告の主張) A教授が、原告に対し、嫌がらせやハラスメントを行った事実はなく、被告が使用者責任を負うことはない。 ア有形力の行使を伴う退職強要(原告の主張)A教授は、平成29年2月22日及び同月23日に、本件研究所所長であ るI教授から原告の雇用について話合いをするために呼出しを受けていた ところ、原告に対し、「なあ、あした、I先生のとこに行かなあかんのかなあ。」と言い、原告が「I先生のところに行く話は、わたしがお願いしたわけではないので、何とも言えません。」と答えると、A教授は、「いやいや、どうすんの。仕事もないのにここに残って。」などと執拗に問いただした。仕事にならないので、原告が帰宅しようとして出入口のドア(A研究室において は、教授室及び本件スペースの出入口は共通であり、本件スペース側に存在する。)に向かおうとすると、A教授は、出入口のドアの前に立ちはだかり、帰宅しようとする原告を何度 のドア(A研究室において は、教授室及び本件スペースの出入口は共通であり、本件スペース側に存在する。)に向かおうとすると、A教授は、出入口のドアの前に立ちはだかり、帰宅しようとする原告を何度も制止した上で、ドアを押さえて、「辞めてもらえませんか。」と、原告に対し、退職をするよう圧力をかけた。原告が、「子供のための食事の用意の買物があり、8時で店が閉まるので帰宅させてくだ さい。」と言ってドアに向かって進もうとすると、A教授は、「まだ話は終わっていない。」と手を前に出して迫ってきた。原告は一度後ずさりしたものの、ドアの方に進もうとしたが、A教授は、再び手を出し、原告を数秒間捕まえ、進路を阻んで押し戻した。原告は、ドアのノブをつかもうとしたが、A教授は、扉の境目を押さえてドアを開けるのを拒み、「辞めてくれません か。」と言い放った。 教授室内のような狭い密室において、上司でありかつ男性であるA教授が、部下でありかつ女性である原告の腕を数秒間もの間、つかんで退職を強要することは、有形力の行使を伴う退職強要であり、業務上必要かつ相当な範囲を超えたパワーハラスメントに当たる。 (被告の主張)(ア)A教授は、平成29年1月頃、同年3月に非常勤職員としての雇用期間満了を迎える原告に対し、月額30万円の給与で常勤職員(特定職員)として雇用を継続したい旨を伝えたところ、原告から、給与が増額すると子の就学支援が打ち切られる可能性があること、特定職員の場合予算が確保 できないと次年度以降大学から雇止めをされる可能性があることから、応 じかねる旨の返答があった。そして、原告はA教授に対し、現状の非常勤職員と同等の給与であれば受入れが可能であると述べた。その後、原告から、同年2月15日、A教授に対し、 あることから、応 じかねる旨の返答があった。そして、原告はA教授に対し、現状の非常勤職員と同等の給与であれば受入れが可能であると述べた。その後、原告から、同年2月15日、A教授に対し、メールで、給料が月額35万円であれば特定職員として雇用を継続できる旨の連絡があり、A教授は、同月16日又は17日頃、原告に対し、種々の可能性や希望を検討した結果、雇 用を継続する方法がない旨を伝えた。 使用者が労働者に対して雇用契約に関する見込みを伝えること自体は精神的な攻撃に該当せず、A教授が雇用継続困難を伝えた回数もせいぜい2回からそれを少し上回る程度で多数回ではない。原告を精神的に抑圧する目的はなく、脅迫的、侮辱的な表現も使っていないから、このような経 緯でされたA教授の行為は退職勧奨に当たらない。 (イ)A教授は、平成29年2月22日、来年度以降の雇用継続が困難であるのに、原告が雇用継続に向けて行動していることを知ったため、原告に対し、その意図を確認するために本件スペースのドアの前で話をしていたところ、原告は話の途中で激高して部屋を飛び出そうとしたため、A教授が とっさに出した腕と当たったが、その時間は数秒間というごく短時間であり、原告はA教授の脇をすり抜けて帰宅した。 A教授の行為は、原告の意図を確認し、雇用継続が困難である旨を確認するものにとどまる。また、原告が有形力の行使と主張する点は、話の途中で激高して部屋を飛び出そうとした原告に対し、話合い継続の必要性か らとっさに出した腕にごく短時間接触したものにすぎず、原告はこれを容易にすり抜けて帰宅できたのであるから、威圧的で不当なものであったとはいえない。 (ウ)以上のようなA教授の各行為は、原告の意図を理解し対応を考えるための発 したものにすぎず、原告はこれを容易にすり抜けて帰宅できたのであるから、威圧的で不当なものであったとはいえない。 (ウ)以上のようなA教授の各行為は、原告の意図を理解し対応を考えるための発言、状況説明、質問であり、業務上必要かつ相当な範囲内のもので、 精神的な攻撃に該当せず、パワーハラスメントであるとはいえない。 イ経理不正の疑いをかけ、録音しながら物品調査をしたこと(原告の主張)A教授は、平成30年4月10日、原告を教授室に呼び、原告が購入した物品が所在不明であるとして、ボイスレコーダーを取り出して録音しながら原告に対する調査を行った。調査の結果、物品の所在が明らかになったにも かかわらず、A教授は、原告に対し、不正を疑ったことを謝罪せず、更に経理不正及び窃盗の疑いをかける発言をし、態度を改めなかった。 上記行為は、何らの根拠なく、部下である原告が窃盗罪を犯したとして疑い、ボイスレコーダーで録音して調査を行うものであり、業務上必要かつ相当な範囲を超えたパワーハラスメントに当たる。 (被告の主張)A教授は、平成30年4月5日、経理担当者から、①J名義でのmicroSDカードの購入、②イモタニ茹で蒸し工房、③備長炭入り電子レンジ用スチーマー蒸庵、④クレジットカードの請求額が0円の領収書について、購入品に関して疑問がある旨のメールを受け取り、①ないし④について原告か ら報告を受けていなかったことから不審に思い、同月10日に原告にヒアリングを行った。 A教授が自分の把握していない物品の存在について調査する必要があることは当然であり、結果として物品があったとしても調査の正当性は否定されない。また、A教授がレコーダーで録音した理由は、公正・透 A教授が自分の把握していない物品の存在について調査する必要があることは当然であり、結果として物品があったとしても調査の正当性は否定されない。また、A教授がレコーダーで録音した理由は、公正・透明性を期す ためであり、原告の承諾を得て録音し、録音データも原告に渡しているのであるから、パワーハラスメントに該当しない。 ウ機密書類持ち出しの疑いをかけてパソコンの立ち上げを要求したこと(原告の主張)A教授は、平成31年4月18日、原告に対し、何ら理由を説明すること なく、本件パソコンの立ち上げを求め、原告が理由の説明を求めても、「上司 の命令に従わないのか。」と言い続けた。原告が第三者の立会いを希望し、立会いの理由を第三者に説明するために、パソコン立ち上げの理由を尋ねても、A教授は、「(B助教の)個人情報。」、「(どのようなファイルを確認するのかは)それはわからん。」などと不明瞭な回答を続け、C所長補佐立会いのもと、本件パソコンの情報保全を実施した。 上記行為は、何らの根拠なく、原告が機密情報の持ち出しという窃盗罪を行ったと疑いをかけるもので、正当な業務命令であるとはいえず、業務上必要かつ相当な範囲を超えたパワーハラスメントに当たる。 (被告の主張)原告は、無断でA教授のパソコン内のメールを開封して閲覧したり、書類 を持ち出したりしており、原告が本件パソコン内に機密情報を保持しているかどうかを調査することは、何らパワーハラスメントに該当しない。 エ根拠なく雇用継続が困難であると複数回伝えたこと(原告の主張)原告が、平成31年2月28日、無期転換申込権を行使し、同年4月1日 から、原告及び被告との間には期間の定めのない本件雇用契約が成 続が困難であると複数回伝えたこと(原告の主張)原告が、平成31年2月28日、無期転換申込権を行使し、同年4月1日 から、原告及び被告との間には期間の定めのない本件雇用契約が成立したにもかかわらず、A教授は、同年3月及び同年4月に、原告に対し、複数回、雇用継続困難であることを伝えた。 上記行為は、法的にも事実上も根拠のない退職勧奨を繰り返すものであり、業務上必要かつ相当な範囲を超えたパワーハラスメントに該当する。 (被告の主張)A教授と原告との信頼関係は、平成31年3月時点において、完全に欠如するに至っており、A教授が原告を信頼できなくなって、雇用継続困難と解釈できる内容を伝えたとしても何ら問題はなく、パワーハラスメントに該当しない。 (5)被告自身による不法行為の成否(争点5) ア懲戒権の濫用(原告の主張)解雇権を濫用して軽率に行われた懲戒解雇は不法行為を構成するところ、本件懲戒解雇は、懲戒事由が存在せず、原告提出の陳述書の内容も踏まえていないなどの手続上の問題もあることから、軽率に行われたものとして不法 行為を構成する。 (被告の主張)否認ないし争う。本件懲戒解雇は有効であり、不法行為を構成しない。 イホームページでの公表(原告の主張) 本件懲戒解雇が無効である以上、本件懲戒解雇を被告のホームページ上で公表することは、原告の名誉権ないし名誉感情を侵害する不法行為を構成する。 被告は、原告の氏名が公表されておらず、原告のことであると特定できないと主張するが、本件研究所における非常勤職員かつ50代の女性に該当す る者はごくわずかで、原告を特定するに十分な情報である。実 告は、原告の氏名が公表されておらず、原告のことであると特定できないと主張するが、本件研究所における非常勤職員かつ50代の女性に該当す る者はごくわずかで、原告を特定するに十分な情報である。実際に、原告は被告のホームページを閲覧した複数人から連絡を受け、名誉権ないし名誉感情を侵害された。 (被告の主張)否認ないし争う。本件懲戒解雇は有効であり、本件懲戒解雇を公表しても 不法行為を構成しない。 また、被告のホームページ上の記載は、原告の氏名を記載していないから、原告を特定できず、原告の名誉を侵害しない。 さらに、本件懲戒解雇を公表した目的は、大学運営の透明性を確保するとともに、職員の服務に関する自覚を促し、不祥事の再発防止に資するためで あり、仮に原告の名誉が毀損されたとしても違法性が阻却される。 ウ記者クラブへのプレスリリース(原告の主張)被告は、令和2年3月31日午後5時過ぎに、原告がスパイ行為を行ったかのような情報を、記者クラブ加盟各社にメールで送信するとともに、記者クラブのボックスに紙で配布してプレスリリースを行った。被告の行為によ り、マスコミ各社が、原告がスパイ行為を行ったかのような報道を行った結果、原告及び原告の子は、動画やSNSで連日攻撃を受け、著しい精神的苦痛を被った。 (被告の主張)被告がプレスリリースを行ったことは事実であるが、「スパイ行為」とい った表現は用いておらず、原告及び原告の子の特定に足る記載もない。また、マスコミの報道内容やそれによって原告が被った精神的苦痛、両者の因果関係については、被告の関知するところではない。 (6)損害の発生及びその額(争点6)(原告の主張) 原告は、 ミの報道内容やそれによって原告が被った精神的苦痛、両者の因果関係については、被告の関知するところではない。 (6)損害の発生及びその額(争点6)(原告の主張) 原告は、A教授から退職勧奨やハラスメントを執拗に受け、ストレスチェックで高ストレスと診断され、臨床心理士との面接及び産業医との面談を受け、既に治療を受けていてもおかしくないレベルであると診断されており、体調不良から被告設置の診療所に通う必要があった。その上で、理由のない本件懲戒解雇を受けて人格権等を侵害され、追い打ちをかけるように本件懲戒解雇の公 表を受けて名誉権ないし名誉感情を侵害された。 これらの権利侵害により、原告は重大な精神的苦痛を受けており、これを慰謝するには100万円は下らない。また、原告は、弁護士に依頼して訴訟対応せざるを得なくなったことで弁護士費用相当額の損害を被っており、これは慰謝料額の1割である10万円を下らない。 (被告の主張) 争う。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実前記前提事実に加え、証拠(甲51、53、乙101、証人A、原告本人のほか後掲の各証拠。ただし、下記認定に反する部分を除く。)及び弁論の全趣旨に よれば、以下の事実が認められる。 (1)被告における規程等ア本件研究所のセキュリティエリアに入るには、事前に主任研究者又は事務部長の許可を受けて発行されたICカードを用いて電子錠を開錠する必要がある。 本件研究所の定めたルール(館内および敷地利用に関するルール)によれば、ICカードを本人以外の者が使用すること及びこれを第三者へ貸し出すことは禁止されており、来訪者が入館する場合には来客者用カードの貸出しを受ける必要があった(乙21)。 イ 関するルール)によれば、ICカードを本人以外の者が使用すること及びこれを第三者へ貸し出すことは禁止されており、来訪者が入館する場合には来客者用カードの貸出しを受ける必要があった(乙21)。 イ京都大学における公正な研究活動の推進等に関する規程14条では、受付 窓口の教職員及び研究活動上の不正行為に係る調査に関係した者は、業務上知ることのできた秘密を他に漏らしてはならないという守秘義務を負うことが定められている(前提事実(3)ウ)。 ウ国立大学法人京都大学契約事務取扱要領24条1項本文では、被告の職員が、職務遂行のため、10万円未満の範囲で物品の購入を行い、代金を立替 払いしたときは、予算責任者等の承認を得たものに限り、立替払いを行った者に、その代金を支払うことができることとされている(乙85)。 エ被告において購入する物品には、購入時に登録が必要で、廃棄時に届出等の手続が必要な「資産」と、購入時の登録や廃棄時の手続が定められていない「消耗品」があり、本件レンジは消耗品に当たる(争いがない。)。 (2)A研究室の複合機 A研究室に備付けの複合機は、富士ゼロックスのApeosPortVC3375であり、書類をスキャンしてデータとして取り込む方法が10通りあった。そのうち、ローカルネットワーク上で複合機に接続されているパソコンに転送するスキャン方法は、スキャナー(PC保存)であり、このスキャン方法で、自動モードを指定した場合、ジョブ結果レポートのページ情報欄には、 スキャンした文書の最初に読み取った原稿が白黒の文書であれば「白黒」、カラーの原稿であれば「カラー」と表示される。(甲41、42、乙16、87~89、調査嘱託の結果)(3)原告及びA教授の言動ア原告は、平 読み取った原稿が白黒の文書であれば「白黒」、カラーの原稿であれば「カラー」と表示される。(甲41、42、乙16、87~89、調査嘱託の結果)(3)原告及びA教授の言動ア原告は、平成22年7月12日、本件研究所の「館内および敷地利用に関 するルール」の説明を受け、これを遵守することを誓約した(乙22)。 原告やA教授を含む本件研究所の職員が、上司や同僚に自分の家族を会わせて挨拶させるために、本件研究所のセキュリティエリア内に自分の家族を入らせることは、日常的に行われていた(証人A、原告本人)。 イ A研究室における物品購入は、研究に必要とされるもの以外の一般的で少 額の備品については、A教授から原告に委任されており、原告が立替払いして購入していた。 そのような状態は、平成30年4月5日に、被告経理課から原告の購入した物品に対する問合せがあり、そのことについて、A教授が、同月10日、原告に対して、不正経理をしているのではないかと疑いをかけてその会話を 録音するまでは続いていた。(甲37の1・2、甲38、乙35、証人A、原告本人)ウ原告は、平成27年1月15日に、空気入れ(商品名:パナレーサー楽々ポンプ2 幼児車対応クリップ&ボール・浮キ輪用アダプター付イエロー、価格:1203円)を注文して購入した。原告は、同月20日、被告に対し、 同商品を含む複数商品の購入代金として2524円を請求し、同年2月6日 にその支払を受けた。(乙52の1~4)エ原告は、平成27年3月31日に、ブレーキインナーワイヤー、ブレーキシュー、パンク修理用パッチ大、パンク修理用真空パッチ及びパンク修理用ゴムノリチューブ(合計価格:1845円)を購入した。原告は、同日、被告に対し、同 月31日に、ブレーキインナーワイヤー、ブレーキシュー、パンク修理用パッチ大、パンク修理用真空パッチ及びパンク修理用ゴムノリチューブ(合計価格:1845円)を購入した。原告は、同日、被告に対し、同商品の購入代金として1845円を請求し、同年4月13日に その支払を受けた。(乙53の1~3)オ原告は、平成27年9月24日に、い草の下敷きマット(商品名:い草上敷青葉江戸間 3畳、価格:2980円、送料750円)を購入した。 原告は、同月30日、被告に対し、同商品の購入代金及び送料として3730円を請求し、同年10月27日にその支払を受けた。(乙57の1~5) カ原告は、平成27年10月6日に、ブレーキシュー、ブレーキインナーワイヤー及び前用ブレーキワイヤー(合計価格:1640円)を購入した。原告は、同月7日、被告に対し、公用自転車修理用品の購入代金として1640円を請求し、同月20日にその支払を受けた。(乙54の1~3)キ原告は、平成27年12月23日に、ハンガー(商品名:ステンレス部屋 干しコンパクトハンガー 20ピンチ W-327、価格:1250円)を注文して購入し、同商品は、原告自宅宛てに配送された。原告は、平成28年1月20日、被告に対し、同商品の購入代金として1250円を請求し、同年3月4日にその支払を受けた。(乙51の1~4)ク A教授は、平成29年1月頃、原告に対し、翌年度からは雇用形態が非常 勤職員から常勤職員である特定職員に変わり、月額給与30万円になる旨の提案をしたところ、原告は、同月18日、A教授に対し、来年度もA研究室での勤務を継続することについて、特定職員の給与が月額30万円であるために、就学支援金等の補助金を受けられなくなり、収入が減額することなどの理 ろ、原告は、同月18日、A教授に対し、来年度もA研究室での勤務を継続することについて、特定職員の給与が月額30万円であるために、就学支援金等の補助金を受けられなくなり、収入が減額することなどの理由から判断しかねており、もし勤務を継続しない場合には、同年2月以 降は有給の消化に充て、出勤は同年1月末までとすること及び後任となる秘 書(教務補佐員)の募集を依頼する旨のメールを送信した。(乙8、証人A)ケ A教授が、平成29年2月14日、後任秘書の応募者で面談を済ませた人に返事をする必要があるので、来年の雇用に関する原告の最終的な結論を聞かせてほしい旨のメールを送信したところ、原告は、同月15日、A教授に対し、給与が月額35万円であればA研究室に残ることができる旨の返信を した。(乙8)コ原告は、平成29年2月16日、被告に対し、労働契約法18条の規定に基づく期間の定めのない労働契約への転換の申込みをした(甲45の1・2)。 A教授は、同日、原告に対し、来年度、A研究室での雇用は継続できない旨を口頭で告げた(甲51、証人A)。 サ原告は、平成29年2月17日に、自転車部品(商品名:パナレーサーチューブ英式バルブ、価格:501円)を購入した。原告は、同月22日、被告に対し、同商品を含む複数商品の購入代金として2084円を請求し、同年3月13日にその支払を受けた。(乙55の1~3)シ A教授は、平成29年2月22日、今後の原告の雇用について、翌日にI 教授とA教授との面談が予定されていること、A教授としては、原告の雇用継続を困難と考えており、退職の意向の有無について原告に確認する必要があることなどについて、本件スペースの出入口付近で話をした。その際、まだ話が終わっていない ていること、A教授としては、原告の雇用継続を困難と考えており、退職の意向の有無について原告に確認する必要があることなどについて、本件スペースの出入口付近で話をした。その際、まだ話が終わっていないうちに原告が帰宅しようとしたため、A教授は、左腕を出して原告の進路を塞いだところ、原告の右手とA教授の左手とが数秒間 接触した。その後、原告は、本件スペース出入口の内開きのドアを開けて外に出ていき、帰宅した。(乙11の1、証人A、原告本人)ス A教授は、平成29年2月23日、I教授と原告の雇用について面談し、特例的に非常勤職員の地位で給与を月額20万円とするとの条件で雇用を継続することになった(証人A)。 A教授は、同日、原告に対し、原告への信頼が失われているから、原告に A研究室で働いてもらうのは難しい旨を伝えた。原告は、同日からA教授やその他の人との会話を録音するようになり、別紙3記載のとおり(ただし、平成30年4月10日及び同月13日の録音を除く。)録音し、令和元年6月11日まで断続的ながら録音を継続した。(甲23の1~3、甲32~37の各1・2、乙70の1~15) セ原告は、平成29年3月1日、C所長補佐及びK教務補佐員に対し、A教授からハラスメントを受けている旨の相談をした。原告は、このときの会話を録音した。(甲33の1・2)ソ A教授は、平成29年4月1日、LをA研究室の秘書として雇用した(甲51)。 タ被告研究公正調査委員会委員長から本件研究所所長に宛てた平成29年7月3日付けの「「京都大学における公正な研究活動の推進等に関する規程」第11条に基づく通報について(通知)」と題する書面において、B助教に研究活動上の不正行為の疑いがある旨の通報があることが通知され 月3日付けの「「京都大学における公正な研究活動の推進等に関する規程」第11条に基づく通報について(通知)」と題する書面において、B助教に研究活動上の不正行為の疑いがある旨の通報があることが通知された。同書面の枚数は2枚であり、その印刷は、白黒であった。この書面を受領したA 教授は、同書面を、これとは別の書面(平成27年3月1日付けの「研究公正調査委員会での調査の流れ」と題する書面(1枚。カラー印刷))とともに、教授室の自席机の引き出しで保管した。(乙37。以下、この3枚の書面を「本件機密書類」という。)なお、被告は、平成30年3月28日、同年1月に認定された本件研究所 の助教による論文不正事案に関し、当該研究者を懲戒解雇処分とすることを発表した(甲14)。 チ A教授の使用していたパソコンについて、原告が、平成29年7月14日午前11時30分頃に操作して、画面上にGメールを表示させていた(乙12、13、41)。また、同パソコンのブラウザには、同日午前11時31 分に、B助教の研究論文に係る不正に関して記載された「予備調査の件」と 題するメールについての閲覧履歴が残っていた(乙13、39、40)。 ツ原告は、平成29年7月24日午前9時8分から9分の間に、A教授の机の引き出しを開けて書類を取り出してその場を離れ、同日午前9時15分にA教授の机の引き出しに書類を戻した。その間の同日午前9時10分に、A研究室に備付けの複合機から、ページ情報白黒、ページ枚数3の原稿が、原 告が使用する本件パソコンへ、PDF形式のファイルとして出力された。(乙14~16、42)テ原告は、平成29年8月29日に、自転車トンボ口(商品名:自転車トンボ口鉄口金用33412、価格:362円)を購入し へ、PDF形式のファイルとして出力された。(乙14~16、42)テ原告は、平成29年8月29日に、自転車トンボ口(商品名:自転車トンボ口鉄口金用33412、価格:362円)を購入した。原告は、同月30日、被告に対し、同商品を含む複数商品の購入代金として4438円を 請求し、同年9月27日にその支払を受けた。(乙56の1~4)ト A研究室では、A教授が持ち込んだ私物のオーブンレンジを使用しており、これに代わるものとして、原告は、平成30年3月2日、本件レンジを購入した。原告は、同年6月に、販売元のアイリスオーヤマに対し、本件レンジに稼働後に運転を取り消した後もモーター音がしばらく続くとの初期不具 合があると問い合わせたところ、同月19日に本件レンジの調査が行われ、構造上、稼働後にしばらくモーターが動き続けていただけとの回答があったが、原告は本件レンジをそのまま処分してほしいと回答し、本件レンジは処分されることとなった(甲51、乙17、証人A、原告本人)。 ナ A教授は、平成30年11月15日、原告に長時間不在の時間があるので はないかと問うと、原告は、これを否定し、何の仕事をしているのか分からないというのであれば、経理の仕事を担当させてほしいと答えた(甲34の1・2)。 ニ A教授は、平成31年4月18日、原告に対する面談を行っていた際に、原告がA教授のデータを盗み見てB助教の論文不正の問題について知った のではないかとの疑いがあることから、A教授の原告に対する信頼感がなく なっているという話になり、A教授が原告に本件パソコンを立ち上げるように指示した。A教授は、本件パソコンにおけるB助教に関するファイルの有無を確認したい旨を述べたが、原告は、どのようなファイルを探しているの るという話になり、A教授が原告に本件パソコンを立ち上げるように指示した。A教授は、本件パソコンにおけるB助教に関するファイルの有無を確認したい旨を述べたが、原告は、どのようなファイルを探しているのか具体的に分からないと対応できない旨、第三者として人事掛の職員に立ち会ってもらいたい旨を述べ、本件パソコン立ち上げの指示を受けてから数分 後にC所長補佐を呼びに行った。A教授と原告は、C所長補佐も交えて、本件パソコンの調査を行うことについて話をし、約30分後に情報管理室に本件パソコンを持って行って調査をすることになった。その際、A教授は、原告がA研究室に居座ると宣言した旨を述べたが、C所長補佐に「居座る」という表現は良くないと注意された。なお、同日の調査の結果は同年5月15 日までに判明したところ、本件パソコンからはB助教の論文不正に関するファイルは発見されなかった。(甲23の1~3、乙77の1・2、乙101、証人A、原告本人)ヌ原告は、本件スペース内の自らの机やパソコンが不在時に触られているような印象を受けたことから、C所長補佐に防犯カメラを設置してほしいと要 望したものの、受け入れられなかった。そこで、原告は、遅くとも令和元年6月21日までに、本件スペースにUSBポートを模したカメラで、動くものを感知して録画を開始する機能のあるもの(原告カメラ)を設置し、被告によって原告カメラが発見された同年7月18日まで本件スペースの録画を継続した(甲51、乙18、43、44)。 原告カメラで録画した動画には、A教授が本件パソコンを操作しているところが映っているほか、A教授がインスタントラーメンを作っているところなどが映っており、各動画のファイル名、録画開始時刻、録画終了時刻は、別紙4のとおりである(乙43~45、 ソコンを操作しているところが映っているほか、A教授がインスタントラーメンを作っているところなどが映っており、各動画のファイル名、録画開始時刻、録画終了時刻は、別紙4のとおりである(乙43~45、69の1~24)。 ネ A教授は、令和元年7月17日頃、A研究室から本件レンジがなくなって おり、代わりに日立製のレンジが置かれていることに気付き(乙101)、 同月18日、同研究室内に原告カメラが無断で設置されていることに気付いた(乙18)。 A教授は、原告の使用する本件パソコンについて平成31年4月18日に実施した調査結果(前記ニ)に納得できなかったため、自ら確認することとし、同年7月19日夜、ラボ共通アカウントを使って本件パソコンを立ち上 げ、本件パソコン及びこれに接続されていた外付けハードディスク内の調査を行った。その調査の結果、原告が使用していた本件パソコンに接続され、原告が管理していた外付けハードディスクには、平成29年7月24日午前9時9分に作成された本件機密書類と内容を同じくする「20170703Bさん通報」と題するPDFファイルが保存されていたことが判明した。同 ファイルは、「20180122 B不正問題」と題するフォルダ内に保存され、同フォルダ内には、B助教の論文や処分に関するデータが複数保存されていた。(乙42、証人A)ノ原告は、原告カメラの設置が発覚した後、D所長補佐及びE事務長から、原告カメラで撮影した動画データの削除を求められ、令和元年7月25日、 データを削除した旨をメールで報告した(乙19)。 ところが、原告は、実際には動画のデータを削除しておらず、A研究室の共有サーバー内に、「@Recycle」という名前のごみ箱のアイコンを用いたフォルダを作成し、そ で報告した(乙19)。 ところが、原告は、実際には動画のデータを削除しておらず、A研究室の共有サーバー内に、「@Recycle」という名前のごみ箱のアイコンを用いたフォルダを作成し、そのフォルダ内に、「秘書(事務関係書類)」、「2015年以前参考」、「meishi2」、「2017年4月以降」、 「ビデオ」及び「ビデオ予備」の順番でフォルダを格納して、「ビデオ予備」フォルダ内に動画データを保存していた(乙36)。 ハ原告は、令和元年8月24日(土曜日)午後1時25分に、原告の子(男子大学生)は、同日午後1時27分に、それぞれ本件研究所に入館してセキュリティエリア内に入った。上記両名は、同日午後1時39分に一旦退館し た後、同日午後1時41分に再び入館し、セキュリティエリア内でパソコン 2台を運搬し、A研究室に備付けの複合機を用いて、卒業アルバム、同窓会案内文、卒業証書等のスキャンをした。原告の子は、同日午後4時14分に退館し、原告は、同日午後5時12分に退館した後、本件研究所に戻り、同日午後5時15分に入館した後、同日午後5時20分に退館した。原告は、同日午後11時33分に入館してA研究室に入室し、電灯を点けないままそ こに滞在し、同月25日(日曜日)午前1時22分に退館した(乙23~26、乙73(枝番の付されたもの全部))。 ヒ原告は、令和元年9月17日から同月24日にかけて、勤務時間中に日本弁護士連合会への人権救済申立てのための資料等約300枚を、A研究室に備付けの複合機で印刷した(争いがない。)。 フ令和2年3月31日には、京都新聞及び産経新聞のインターネットの記事として、教授の個人宛てメールを無断閲覧し、教授室を盗撮したとして、被告が本件研究所に勤務する非常勤職 いがない。)。 フ令和2年3月31日には、京都新聞及び産経新聞のインターネットの記事として、教授の個人宛てメールを無断閲覧し、教授室を盗撮したとして、被告が本件研究所に勤務する非常勤職員の50代女性(原告のこと)を懲戒解雇処分にしたことが掲載され、同年4月1日には、京都新聞紙上の記事としても掲載された(甲8、9、40)。 2 争点1(本件懲戒解雇の有効性)について(1)総論本件懲戒解雇の有効性については、まず、懲戒事由1から6までのそれぞれにつき、被告が懲戒事由として主張する事実が認められ、それが就業規則上の懲戒事由に該当するかどうかを検討する(後記(2)から(7)まで)。その上 で、認定することのできる懲戒事由該当事実を前提とし、これを総合して、懲戒処分として懲戒解雇を選択することが相当であるか(当該懲戒が、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないかどうか)を検討する(後記(8))。 (2)懲戒事由1(メールの無断開封及び閲覧、機密書類の一時持ち出し及びデー タコピー、業務命令違反等)について アメールの無断開封及び閲覧に関し、原告が、平成29年7月14日午前11時30分頃に、A教授のパソコンを操作していたこと、A教授のパソコンのブラウザには、同日午前11時31分に、「予備調査の件」と題するB助教の研究論文に係る不正に関する情報が記載されたメールについての閲覧履歴が残っていたこと(前記認定事実(3)チ)から、原告が、同時刻頃に、 同メールを閲覧していたことが認められる。 これに対し、原告は、秘書的な業務をするためにA教授のパソコンに触ることはあるが、メールを無断で開封したり閲覧したりしたことはない旨主張し、証拠(甲51、原告本人)中 いたことが認められる。 これに対し、原告は、秘書的な業務をするためにA教授のパソコンに触ることはあるが、メールを無断で開封したり閲覧したりしたことはない旨主張し、証拠(甲51、原告本人)中には、これに沿う部分も存する。しかしながら、原告がA教授のパソコンを操作してメール画面を表示させ、それとほ ぼ同時刻にメールを表示させた閲覧履歴が残っていることを併せ考えると、原告がA教授のパソコンを用いて、意図してメールを閲覧していたものと認められる。そして、原告が閲覧していたメールは、B助教の研究論文不正に関するものであって、京都大学における公正な研究活動の推進等に関する規程に基づき、その調査に関与した者に守秘義務が課せられる機密情報である ことから(前記認定事実(1)イ)、仮に、原告がA教授の秘書業務を行うために、一般的にA教授の机やパソコンを触ることが許されていたとしても、機密情報に該当する情報まで、守秘義務を負って管理しているA教授の許可なく閲覧することまで許されていたとは考えられない。加えて、同年2月頃以降は、雇用の継続をめぐって、A教授と原告との関係はぎくしゃくしたも のとなっていたものと認められることをも考慮すれば、同年7月の時点で、原告が機密情報にアクセスすることをA教授が許可すると考えられないことはなおさらである。 原告が、A教授のパソコンを用いて、許可なく、意図して機密情報を含むメールを閲覧した行為は、自らの職務の範囲を超えて、被告の機密情報をみ だりに開披して取得する行為であるから、「職場の内外を問わず、大学の信 用を傷つけ、その利益を害し、又は教職員全体の不名誉となるような行為をすること」(時間雇用規則34条2号)及び「大学の敷地及び施設内で、喧噪その他の秩序・風紀を乱す行 を問わず、大学の信 用を傷つけ、その利益を害し、又は教職員全体の不名誉となるような行為をすること」(時間雇用規則34条2号)及び「大学の敷地及び施設内で、喧噪その他の秩序・風紀を乱す行為をすること」(同条5号)に該当し、懲戒事由である「この規則によって遵守すべき事項に違反した場合」(就業規則48条の2第1号)に該当する。 イ機密書類の一時持ち出し及びデータコピーに関し、原告が、平成29年7月24日午前9時9分に、A教授の机の引き出しを開けて書類を持ち出し、同日午前9時15分に、A教授の机の引き出しに書類を戻したこと、その間である同日午前9時10分に、A研究室の複合機から原告の使用する本件パソコンに原稿が出力されたこと、以上の事実が認められる(前記認定事実(3) ツ)。 ところで、A研究室に備置きの複合機は、白黒とカラーが混合した原稿をスキャンしてパソコンに出力する際には、最初に読み取られた原稿が白黒かカラーかによって、ジョブ結果レポートのページ情報の記載が「白黒」か「カラー」かが決まる仕様であった(同(2))。本件機密書類は、1枚目及び2 枚目が白黒、3枚目がカラーであり(同(3)タ)、同書類と内容を同じくする「20170703 Bさん通報」と題するPDFファイルが、本件パソコンに接続され、原告が管理していた外付けハードディスク内に、同日午前9時9分に保存されていた(同(3)ネ)。同文書のような研究論文不正に関する情報は、被告において機密情報であるとされているところ(同(1) イ)、原告は、同月14日の時点で、A教授のパソコンを操作することにより、この機密情報が存在することを認識していた(上記ア)。 以上の事実を総合すると、原告が、同月24日午前9時10分頃、機密情報であるB助教の研究論文 日の時点で、A教授のパソコンを操作することにより、この機密情報が存在することを認識していた(上記ア)。 以上の事実を総合すると、原告が、同月24日午前9時10分頃、機密情報であるB助教の研究論文不正に関する文書(本件機密書類)を、その管理者であるA教授に無断で持ち出した上、これをスキャンしてそのデータを、 本件パソコンを介して自己の管理下に置いたものであることが認められる。 これに対し、原告は、A教授の机から本件機密書類を盗んだことはなく、本件機密書類を見たこともなかったと主張し、証拠(甲51、原告本人)中にはこれに沿う部分も存するが、原告が管理していた外付けハードディスク内に本件機密書類のデータが保存されていたことと明らかに矛盾し、採用することができない。 なお、原告は、原告が管理していた外付けハードディスク内のデータを、A教授が原告に無断で調査したことを、原告のプライバシーを侵害する違法な行為であり、違法な調査によって獲得された証拠による本件懲戒解雇は無効であると主張するが、原告主張に係る点は、懲戒事由該当事実の存否ないし懲戒事由該当性に関するものというよりは、懲戒解雇の相当性に関して主 張されるものであるから、後記(8)で検討することとする。 原告の上記行為は、機密情報とされ、秘匿の要請の高いB助教の論文不正に関する情報を、A教授に無断で取得するものであるから、「職場の内外を問わず、大学の信用を傷つけ、その利益を害し、又は教職員全体の不名誉となるような行為をすること」(時間雇用規則34条2号)及び「前各号のほ か、これに準ずるような教職員としてふさわしくない行為をすること」(同条8号)に該当し、懲戒事由である「この規則によって遵守すべき事項に違反した場合」(就業規則48条の2第1号)に該 号のほ か、これに準ずるような教職員としてふさわしくない行為をすること」(同条8号)に該当し、懲戒事由である「この規則によって遵守すべき事項に違反した場合」(就業規則48条の2第1号)に該当する。 なお、被告は、A教授の机の引き出しから同人管理に係る本件機密書類を持ち出した行為が窃盗罪(刑法235条)に該当するから、「刑罰法令に触れ る行為があった場合」(就業規則48条の2第3号)に該当すると主張するが、原告が行ったのは、A教授の引き出しから本件機密書類を持ち出してスキャンしてから引き出しに戻したというもので、この間6分程度と短時間であることを踏まえると、有体物としての本件機密書類を窃盗の客体と捉えたときに、持ち出し行為が可罰的といえる程度の違法性を有するものかどうか 疑問の余地がある。さらに、原告が取得した機密情報そのものは窃盗罪の客 体でないことはいうまでもないから、一連の原告の行為が刑罰法令に触れる行為であるとまで認めることはできない。 ウ原告が、A教授から、本件パソコンの立ち上げを命じられたにもかかわらず、これに応じなかったという業務命令違反に関し、A教授が、平成31年4月18日、原告に本件パソコンを立ち上げるように指示したこと、原告は、 どのようなファイルを探しているのか具体的に分からないと対応できない旨、第三者として人事掛の職員に立ち会ってもらいたい旨を述べ、A教授の要求に直ちに応じなかったこと、原告は、C所長補佐を呼び、A教授及びC所長補佐と協議の上、約30分後に情報管理室に本件パソコンを持って行って調査をすることが決まったこと、本件パソコンの調査は、同室において行 われたことが認められる(前記認定事実(3)ニ)。原告は、直ちにA教授の指示に従っているとはいえないものの、原告 って行って調査をすることが決まったこと、本件パソコンの調査は、同室において行 われたことが認められる(前記認定事実(3)ニ)。原告は、直ちにA教授の指示に従っているとはいえないものの、原告の依頼によるC所長補佐の介入もあり、最終的には約30分の後に、情報管理室での本件パソコンの調査を実施することに応じていることに照らすと、「上司の指示に従」わなかったとはいえず(時間雇用規則33条参照)、懲戒事由である「この規則によ って遵守すべき事項に違反した場合」(就業規則48条の2第1号)には該当しない。 エ懲戒事由1に関して、原告は、時機を失した処分をしていると主張するが、原告主張に係る点は、懲戒事由該当事実の存否ないし懲戒事由該当性に関するものというよりは、懲戒解雇の相当性に関して主張されるものであるから、 後記(8)で検討することとする。 (3)懲戒事由2(使用可能なオーブンレンジの無断廃棄)についてア本件レンジをA教授に無断で廃棄したことに関し、原告は、平成30年3月2日、本件レンジを被告の備品(消耗品)として購入したところ、本件レンジの動作が想定と異なったため、同年6月頃、販売元に問い合わせたもの の、故障ではないと対応されたことから、そのまま処分の依頼をしたこと(前 記認定事実(3)ト)、被告において消耗品を廃棄する際に必要とされる特別な手続はなかったこと(同(1)エ)、原告は、A研究室における備品の購入を委任されていたこと(同(1)ウ、(3)イ)、以上の事実が認められる。 これを前提として、懲戒事由該当性を検討すると、販売元は、本件レンジを故障していないと判断しており、本件レンジは購入して間もなかったこと からすると、原告が、本件レンジを使用できないものとして直ちに処分(廃棄) 懲戒事由該当性を検討すると、販売元は、本件レンジを故障していないと判断しており、本件レンジは購入して間もなかったこと からすると、原告が、本件レンジを使用できないものとして直ちに処分(廃棄)したことは安易な判断というべきであり、それとは別の対応もあり得たといえるが、原告は、A教授から、それまでA研究室における備品の購入を任されていたことに照らすと、本件レンジを廃棄したことが原告の権限を逸脱、濫用した行為であったとまではいうことができず、「前各号のほか、これ に準ずるような教職員としてふさわしくない行為をすること」(時間雇用規則34条8号)に該当するとはいえず、懲戒事由である「この規則によって遵守すべき事項に違反した場合」(就業規則48条の2第1号)に該当するとはいえない。また、原告の同行為が、その当時においてとがめられないとするならば、「故意又は重大な過失により大学に損害を与えた場合」(同条2 号)に該当するともいえないし、器物損壊罪に該当するとまでいうこともできないから、「刑罰法令に触れる行為があった場合」(同条3号)にも該当しない。 イしたがって、被告の主張する懲戒事由2は、就業規則上の懲戒事由に該当せず、懲戒事由として取り扱うことはできない。 (4)懲戒事由3(盗撮・無断録音)についてア盗撮に関し、原告は、C所長補佐に、本件スペースへの防犯カメラ設置を要望し、これが断られたことから、遅くとも令和元年6月21日までに、本件スペースにUSBポートを模したカメラで、動くものを感知して録画を開始する機能のある原告カメラを設置し、被告によって原告カメラが発見され た同年7月18日まで本件スペースの録画を継続し、別紙4のとおり録画を 行ったことが認められる(前記認定事実(3)ヌ)。 これ 原告カメラを設置し、被告によって原告カメラが発見され た同年7月18日まで本件スペースの録画を継続し、別紙4のとおり録画を 行ったことが認められる(前記認定事実(3)ヌ)。 これを前提として、懲戒事由該当性を検討すると、撮影した場所はA研究室関係者が立ち入る場所であり、撮影される者の承諾なくその容姿、外貌や、その行動を撮影して記録する原告の行為は、他者の肖像権やプライバシー権の侵害に及び得る行為であるから、原告が保持に努めるべき「職場の秩序」 (時間雇用規則33条)を乱す可能性がある。 しかしながら、原告が原告カメラを設置したのは、自らの机を不在時に無断で調査されているのではないかとの不安に基づくものであり、また、原告がA教授から疑念を抱かれていたことから、労働者としての地位を守る自衛のためであると認められ、その動機ないし目的は、了解可能である。加えて、 録画期間は1か月に満たないもので長期間に及ぶとはいえず、録画されている範囲も本件スペースの限られた範囲であることから、肖像権やプライバシー権の侵害の程度も大きいとはいえない。 したがって、原告が原告カメラを設置し録画した行為は、「職場の秩序を保持」すべき義務(時間雇用規則33条)に反した行為をしたとまでは認め られず、それが「教職員としてふさわしくない行為」(同34条8号)と断ずることもできないから、懲戒事由である「この規則によって遵守すべき事項に違反した場合」(就業規則48条の2第1号)には該当しない。 イ上記アとは別に、原告は、原告カメラの設置をA教授に発見され(前記認定事実(3)ネ)、D所長補佐及びE事務長から、撮影した動画の削除を求 められたにもかかわらず、令和元年7月25日、動画のデータを削除した旨をメールで報告しながら、 をA教授に発見され(前記認定事実(3)ネ)、D所長補佐及びE事務長から、撮影した動画の削除を求 められたにもかかわらず、令和元年7月25日、動画のデータを削除した旨をメールで報告しながら、実際には、A研究室の共有サーバー内に、「@Recycle」という名前のごみ箱のアイコンを用いたフォルダを作成し、そのフォルダ内に多階層のフォルダを作成して、深層のフォルダ内に動画データを保存していた(前記認定事実(3)ノ)。 このように、原告カメラの設置及び撮影をとがめられ、撮影したデータの 削除を指示されたにもかかわらず、原告が、指示に従った振りをしながら、実際には指示に従わず、原告以外の第三者もアクセス可能な領域に動画データを保存していた点は、「職場の秩序を保持」すべき義務(時間雇用規則33条)に反するもので、「教職員としてふさわしくない行為」(同34条8号)であるから、懲戒事由である「この規則によって遵守すべき事項に違反 した場合」(就業規則48条の2第1号)に該当する。この点、原告は、一時的に保存していたにすぎないとか、過失により消去し損ねたなどと主張し、これに沿う証拠(甲51、原告本人)も存するが、敢えてごみ箱を偽装したフォルダまで用意し、そこに多階層のフォルダを設け、深層部分に動画データを保存していたことを踏まえると、動画データの存在を被告に隠匿する目 的に基づくものと推認でき、上記原告の主張及び証拠はいずれも採用できない。 ウ無断録音に関し、原告は、平成29年2月23日から令和元年6月11日までの間、別紙3のとおり(ただし、平成30年4月10日及び同月13日の録音を除く。)、A教授その他の被告関係者との会話を録音したとの事実が 認められる(前記認定事実(3)ス)。 までの間、別紙3のとおり(ただし、平成30年4月10日及び同月13日の録音を除く。)、A教授その他の被告関係者との会話を録音したとの事実が 認められる(前記認定事実(3)ス)。 これを前提として、懲戒事由該当性を検討すると、会話の相手方に無断で、会話を録音することが一般的に許容されるならば、誰もが自由な発言を控えるといった事態を招来しかねず、被告内部における自由な意思疎通に支障を生じ得るから、会話の無断録音は、「職場の秩序を保持」すべき義務(時間雇 用規則33条)に反するという余地がある。 しかしながら、原告がA教授等との会話を録音した目的については、原告が録音を開始した平成29年2月23日頃には、原告の翌年度以降の雇用形態がどうなるかについて、原告とA教授との認識が合致せず、不安定な状況にあったことから、原告が労働者としての自己の地位を守る自衛の目的で行 ったものであると理解できる。A教授以外の者との録音についても、A教授 からハラスメントを受けているとの相談をしている際の録音(同(3)セ)などであることから、自衛の目的でされたものではないとまでいうことはできない。また、原告に対しては、事前に、録音をしてはならないとの明示的な指示があったわけでもない。そのため、原告による無断録音行為は、「職場の秩序を保持」すべき義務(時間雇用規則33条)に反したとまではいえ ず、「教職員としてふさわしくない行為」(同34条8号)と直ちに断ずることもできないから、懲戒事由である「この規則によって遵守すべき事項に違反した場合」(就業規則48条の2第1号)には該当しない。 エしたがって、被告の主張する懲戒事由3は、録画した動画データを削除するよう指示を受けていたにもかかわらず、削除したかのように偽っていた点 反した場合」(就業規則48条の2第1号)には該当しない。 エしたがって、被告の主張する懲戒事由3は、録画した動画データを削除するよう指示を受けていたにもかかわらず、削除したかのように偽っていた点 は、就業規則上の懲戒事由に該当するといえるが、それ以外の点は、就業規則上の懲戒事由に該当しない。 (5)懲戒事由4(セキュリティエリアへの侵入)についてアセキュリティエリアへの立ち入りに関し、本件研究所のセキュリティエリアに入るには、事前に主任研究者又は事務部長の許可を受けて発行されたI Cカードを用いて電子錠を開錠する必要があること、本件研究所の定めたルールによれば、ICカードを本人以外の者が使用すること及びこれを第三者へ貸し出すことは禁止されており、来訪者が入館する場合には来客者用カードの貸出しを受ける必要があったこと(前記認定事実(1)ア)、原告は、令和元年8月24日土曜日午後1時25分から翌25日日曜日午前1時2 0分までの間、息子とともに、本件研究所のセキュリティエリア内に出入りを繰り返し、息子とともにパソコンを運搬したほか、卒業アルバム等の私的な書類のスキャンを行っていたこと(前記認定事実(3)ハ)、本件研究所の職員が、上司や同僚に自分の家族を会わせて挨拶させるために、本件研究所のセキュリティエリア内に自分の家族を入らせることは、日常的に行われて おり、原告及びA教授も、自分の家族をセキュリティエリア内に入らせたこ とがあったこと(同(3)ア)、以上の事実が認められる。 これを前提として、懲戒事由該当性を検討すると、原告が同月24日に本件研究所に入ったことについては、それが本来の出勤日ではなく、私的な書類のスキャンなどをしていたことに照らすと、原告が本件研究所に立ち入ったこ して、懲戒事由該当性を検討すると、原告が同月24日に本件研究所に入ったことについては、それが本来の出勤日ではなく、私的な書類のスキャンなどをしていたことに照らすと、原告が本件研究所に立ち入ったことには勤務以外の目的があったものと認められるものの、本件研究所の セキュリティエリア内に入ることを許されてICカードが交付された者について、勤務時間以外の時間に入ってはならないと定めた具体的なルールはない。また、原告が第三者である息子をセキュリティエリア内に入らせるに際し、来客者用のカードの貸付けを受けるといった正規の手続を経ていないものの、本件研究所の職員が家族を挨拶等の目的でセキュリティエリア内に 連れてくることが慣行的に行われていたことから、直ちに原告の行為が不適切であるということもできない。 このように、原告の行為は、明確に被告の定めたルールに違反しているともいえず、本件研究所での滞在時間が長期に及ぶこと、深夜にまで出入りしていることといった事情が存することを考慮しても、同日の原告の立入りに よって被告に名誉や信用が毀損されるといった被害が生じたということもできず、「職場の内外を問わず、大学の信用を傷つけ、その利益を害し、又は教職員全体の不名誉となるような行為をすること」(時間雇用規則34条2号)及び「大学の敷地及び施設内で、喧噪その他の秩序・風紀を乱す行為をすること」(同条5号)に該当するとはいえないから、懲戒事由である「この 規則によって遵守すべき事項に違反した場合」(就業規則48条の2第1号)に該当するとは認められない。 イしたがって、被告の主張する懲戒事由4は、就業規則上の懲戒事由に該当しない。 (6)懲戒事由5(複合機の私的利用)について ア複合機の私的利用に関し、原告 は認められない。 イしたがって、被告の主張する懲戒事由4は、就業規則上の懲戒事由に該当しない。 (6)懲戒事由5(複合機の私的利用)について ア複合機の私的利用に関し、原告は、令和元年9月17日から同月24日に かけて、勤務時間中に日本弁護士連合会への人権救済申立てのための資料等約300枚を、A研究室に備付けの複合機で印刷したことが認められる(前記認定事実(3)ヒ)。 これを前提に、懲戒事由該当性について検討すると、原告がハラスメントのある就業環境の改善のために、日本弁護士連合会に対する人権救済申立て の準備をしていたことについては、労働者の権利行使の一態様として行われたものであるから、「職務や地位を私的利用のために用いること」(時間雇用規則34条4号)や「教職員としてふさわしくない行為をすること」(同条8号)に該当するとはいえない。 しかし、その申立て及び申立ての準備として資料を印刷することが原告の 被告における職務に含まれるということはできず、勤務時間中に職務と関係ない行為をするもので、300枚にも及ぶ申立書類を準備し、印刷することは、原告自身に課せられた職務に支障を来すものであるから、「勤務時間中職務に専念し、次条に定める場合を除き、職務とは関係のない行為をしてはならない」(同31条)場合に該当する。そのため、懲戒事由である「この 規則によって遵守すべき事項に違反した場合」(就業規則48条の2第1号)に該当すると認められる。 また、職務と関連しないものを印刷したことにより、被告に印刷費用相当額の損害を与えているから、懲戒事由である「故意又は重大な過失により大学に損害を与えた場合」(同条2号)に該当するとも認められる。 イしたがって、被告の主張する懲 より、被告に印刷費用相当額の損害を与えているから、懲戒事由である「故意又は重大な過失により大学に損害を与えた場合」(同条2号)に該当するとも認められる。 イしたがって、被告の主張する懲戒事由5は、上記の限度で就業規則上の懲戒事由に該当する。 (7)懲戒事由6(多数の私物の被告経費での購入)についてア被告経費での物品の購入に関し、原告は、平成27年1月15日に、自転車用空気入れを、同年3月31日に、ブレーキインナーワイヤー、ブレーキ シュー、パンク修理用パッチ大、パンク修理用真空パッチ及びパンク修理用 ゴムノリチューブを、同年9月24日に、い草の下敷きマットを、同年10月6日に、ブレーキシュー、ブレーキインナーワイヤー及び前用ブレーキワイヤーを、同年12月23日に、ハンガーを、平成29年2月17日に、自転車部品を、同年8月29日に、自転車トンボ口を立替払いをして購入し、いずれも被告から立替金の支払を受けたこと、原告が、A研究室において、 このような備品を立替払いして購入することができていたのは、研究に必要とされるもの以外の一般的で少額の備品については、A教授から原告に委任されていたからであったこと、以上の事実を認めることができる(前記認定事実(3)イ~キ、サ、テ)。 これを前提に、懲戒事由該当性について検討すると、被告は、原告が私物 を被告の費用で購入したものであると主張するものであるが、ハンガーについては、掃除用の雑巾を干すために、自転車修理用品については、A研究室の共用の自転車の修理に、い草の下敷きマットについては、引っ越しや花見の際に使用したと、いずれもA研究室で使用していた旨の説明がされており(原告本人)、他方で、原告が私物として使用していたと認めるに足りる証 拠はない。 の下敷きマットについては、引っ越しや花見の際に使用したと、いずれもA研究室で使用していた旨の説明がされており(原告本人)、他方で、原告が私物として使用していたと認めるに足りる証 拠はない。この点、被告は、原告がハンガーを私物として購入していたことを認めていると主張するが、その根拠とされるメール(乙50)を見ても、2年半前以上のことでよく覚えておらず、似たようなものが家にあるので、私物を購入した可能性が高いと被告が判断したら返金に応じると述べるにとどまるものであり、これをもって私物の購入を認めたとまではいえない。 以上より、原告が被告に立替払いをさせて私物を購入していたと認めることはできないから、「教職員としてふさわしくない行為をすること」(時間雇用規則34条8号)に該当せず、懲戒事由である「この規則によって遵守すべき事項に違反した場合」(就業規則48条の2第1号)には該当しないし、被告に損害を与えたとか詐欺罪や横領罪に該当するということもできない から、「故意又は重大な過失により大学に損害を与えた場合」(同条2号)や、 「刑罰法令に触れる行為があった場合」(同条3号)にも該当しない。 イしたがって、被告の主張する懲戒事由6は、就業規則上の懲戒事由に該当しない。 (8)本件懲戒解雇の相当性ア上記(2)から(7)までで検討してきたところによれば、本件懲戒解雇 について、懲戒事由に該当する事実が存すると認められるのは、以下の各点に限られる。 (ア)懲戒事由1のメールの無断開封及び閲覧並びに機密書類の一時持ち出し及びデータコピー(イ)懲戒事由3のうち、動画データを削除するよう指示されたのに、これに 反して動画を削除せず保存していたこと(ウ)懲戒事由5のうち、勤務時間中に 機密書類の一時持ち出し及びデータコピー(イ)懲戒事由3のうち、動画データを削除するよう指示されたのに、これに 反して動画を削除せず保存していたこと(ウ)懲戒事由5のうち、勤務時間中に日本弁護士連合会に対する申立ての準備をし、300枚もの資料を職場の複合機を私的に使用して印刷したことイこのうち、懲戒事由1は、当時未公開であったB助教の研究論文に係る不正に関する機密情報に、A教授による指示も承諾もないにもかかわらず、原 告が積極的にアクセスし、機密情報の内容に触れたものであること、それにとどまらず、本件機密書類を一時的に持ち出し、スキャンした上でデータのコピーを作成して、自らの管理下に置くことで、容易に外部に漏えいできる状況を生じさせたものである。本件研究所が、科学技術に関する発明、実験等を担う組織であること、そういった組織にとって職員の研究不正は、それ が真実であれば深刻に受け止められざるを得ない問題であって、正式に発表されるまでは慎重な情報の取扱いが要請されることを考慮すると、こういった機密情報を不用意に自己の支配下に保有することとした原告の行為は、本件研究所の教職員としてふさわしいとは到底いえないものであって、懲戒事由1に該当する事実は、非違性が著しいということができ、その事由のみを もってして、懲戒解雇を相当とするに足りるというべきである。 ウ懲戒事由3及び5の非違行為(前記ア(イ)及び(ウ))も、その内容、性質に鑑み、一定の非違性を備えるものであるが、上記イの懲戒事由1に比べれば、それほど重大とまで評価することはできない。もっとも、原告が、懲戒事由1を行っていることも併せ考えれば、これに加えて懲戒事由3及び5の非違行為を考慮することで、懲戒処分のうち、最も重い懲戒解雇を選択 それほど重大とまで評価することはできない。もっとも、原告が、懲戒事由1を行っていることも併せ考えれば、これに加えて懲戒事由3及び5の非違行為を考慮することで、懲戒処分のうち、最も重い懲戒解雇を選択し たとしても合理的な処分であるということができる。 エなお、原告は、原告が管理していた外付けハードディスク内のデータを、A教授が原告に無断で調査したことを、原告のプライバシーを侵害する違法な行為であり、違法な調査によって獲得された証拠による本件懲戒解雇は無効であると主張する。 しかし、原告の使用していた外付けハードディスクの所有権が原告にあるか被告にあるかは措くとしても、同ハードディスクが被告の所有に係る本件パソコンに接続され、本件研究所内で、被告の業務の用に供されていたこと、原告に機密情報を無断でコピーしたという疑いが生じていた以上、同ハードディスク内のデータについて、秘密裏に調査を進める必要性があったことに 照らすと、A教授が同ハードディスクの記録内容を調査したことにつき、その手続に問題があるとまでは認められないから、原告の主張は採用できない。 オ懲戒事由1に関して、原告は、被告が原告に時機を失した処分をしていると主張する。 しかしながら、原告がメールを無断で閲覧したのは、平成29年7月14 日、本件機密書類をスキャンしたのは、同月24日であるところ、実際に原告が本件機密書類のデータを所持していることが判明したのが、約2年後のA教授による調査の結果であったことに加え、本件懲戒解雇に至るには、その他に原告に対する懲戒事由として懲戒事由2ないし6のほか、処分理由書記載の付言事項についての調査も行う必要があったことを踏まえると、本件 懲戒解雇が令和2年3月31日であったとしても、時機を失しているとま する懲戒事由として懲戒事由2ないし6のほか、処分理由書記載の付言事項についての調査も行う必要があったことを踏まえると、本件 懲戒解雇が令和2年3月31日であったとしても、時機を失しているとまで はいえない。 したがって、原告の上記主張は、採用できない。 カ以上の検討によれば、本件懲戒解雇は、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には当たらないというべきである。 (9)争点1についての判断の結論したがって、本件懲戒解雇は有効である。本件懲戒解雇が無効であることを前提とする原告の請求は、争点2及び3について判断するまでもなく理由がない。 3 被告の使用者責任(A教授による不法行為)の成否(争点4)について (1)総論原告は、A教授からパワーハラスメントという形で事業の執行に係る不法行為を受けたと主張する。不法行為となるパワーハラスメントに該当するか否かは、優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、労働者である原告の就業環境が害されたかどうかによって判 断することを相当と解し、以下、この観点から検討する。 (2)有形力の行使を伴う退職強要についてア原告は、前記第2の4(4)ア(原告の主張)のとおり主張する。これに対し、被告は、同ア(被告の主張)のとおり主張して争う。 まず、A教授の平成29年2月22日の行動については、本件スペースの 出入口付近で、原告に対し、今後の原告の雇用について、翌日にI教授とA教授との面談が予定されていること、A教授としては、原告の雇用継続を困難と考えており、退職の意向の有無について原告に確認する必要があること 近で、原告に対し、今後の原告の雇用について、翌日にI教授とA教授との面談が予定されていること、A教授としては、原告の雇用継続を困難と考えており、退職の意向の有無について原告に確認する必要があること等を話していたところ、話の途中で原告が帰宅しようとしたため、A教授が左腕を出して原告の進路を塞いだ際に、原告の右手とA教授の左手とが数秒 間接触するということがあり、その後、原告が、本件スペース出入口の内開 きのドアを開けて帰宅したことが認められる(前記認定事実(3)シ)。 証拠(甲51、原告本人)中には、原告の上記主張に沿う部分も存するが、客観的裏付けが十分でなく、採用できない。このほか、本件全証拠を総合しても、A教授による制止の態様が、上記認定以上に強力な有形力の行使を伴うものであったと認めるに足りない。 以上の認定事実を前提として、ハラスメント該当性を検討すると、A教授が、今後の雇用継続が難しい旨を伝えた態様が威圧的なものであるとはいえず、身体接触も恣意的なものではなく、有形力の行使とは評価できない。 この点、原告は、A教授から威圧的に退職を強要された、A教授から右手をつかまれて押し返されたなどと供述するが、仮に、A教授が原告の供述す るような威圧的な態度で原告に退職を迫っていたとすると、狭い本件スペースで内開きのドアの前にA教授が陣取れば、原告が本件スペースから出ることは不可能になるはずである。そうであるにもかかわらず、原告がA教授に退職の約束をすることもなく、本件スペースの外に出ることができたのは、A教授が原告の供述するような態様ではなかったと考えるのが合理的であ る。そうすると、原告の供述は信用できず、A教授は、上記で認定したような態様であったと認められるから、有形力を行使しての退職強 教授が原告の供述するような態様ではなかったと考えるのが合理的であ る。そうすると、原告の供述は信用できず、A教授は、上記で認定したような態様であったと認められるから、有形力を行使しての退職強要があったとは認められない。 イまた、原告の雇用継続に関し、平成29年2月22日頃までの状況としては、同年1月頃には、原告が月額給与30万円での継続雇用には応じない意 向を示したため、同年4月以降の雇用継続はないことを前提に話を進めており、同年2月14日には、後任となる秘書の応募者との面談を実施するまでに至っていたにもかかわらず、原告は、同月15日に、突如として月額給与35万円であれば継続雇用に応じられるとの意向を表明したことから、同月16日には、A教授が原告に継続雇用が難しい旨を伝えていたという事情が 認められる(前記認定事実(3)ク~コ)。このように、少なくともA教授 の認識としては、原告が突然協議の前提を覆したこととなり、この認識を前提として、A教授が原告提案の条件では雇用継続には応じられないという話をしていたものであるから、そのような状況下でA教授が原告の継続雇用を望まない旨を話していたとしても、それだけで違法な退職勧奨であるということはできない。 ウしたがって、A教授の言動は、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであるとは認められないから、不法行為に該当するパワーハラスメントには当たらない。 (3)経理不正の疑いをかけ、録音しながら物品調査をしたことについてア原告は、前記第2の4(4)イ(原告の主張)のとおり主張する。これに 対し、被告は、同イ(被告の主張)のとおり主張して争う。 この点に関し、平成30年4月5日に、被告経理課から問合せのあった原告の購入した物品について、 (原告の主張)のとおり主張する。これに 対し、被告は、同イ(被告の主張)のとおり主張して争う。 この点に関し、平成30年4月5日に、被告経理課から問合せのあった原告の購入した物品について、A教授が、同月10日、原告に対して、不正経理をしているのではないかとして、その会話を録音しながら話をしたことが認められる(前記認定事実(3)イ)。 これを前提に、ハラスメント該当性を検討すると、経理課から指摘のあった点について、A教授が原告に確認することは、上司として当然の行為であるし、録音をしたことについても、同意に基づいて録音するため、録音機器を原告の面前に示す趣旨と解されるから、直ちに不当であるとはいえない。 イしたがって、A教授の言動は、業務上必要かつ相当な範囲を超えたもので あるとは認められないから、不法行為に該当するパワーハラスメントには当たらない。 (4)機密書類持ち出しの疑いをかけてパソコンの立ち上げを要求したことについてア原告は、前記第2の4(4)ウ(原告の主張)のとおり主張する。これに 対し、被告は、同ウ(被告の主張)のとおり主張して争う。 この点に関しては、A教授は、平成31年4月18日、原告に対する面談を行っていた際に、原告がA教授のデータを盗み見てB助教の論文不正の問題について知ったのではないかとの疑いがあることから、原告に本件パソコンを立ち上げるように指示し、その際に、本件パソコンにおけるB助教に関するファイルの有無を確認したい旨を述べたが、原告は、どのようなファイ ルを探しているのか具体的に分からないと対応できない旨、第三者として人事掛の職員に立ち会ってもらいたい旨を述べ、本件パソコン立ち上げの指示を受けてから数分後にC所長補佐を呼びに行き、情報管理 ルを探しているのか具体的に分からないと対応できない旨、第三者として人事掛の職員に立ち会ってもらいたい旨を述べ、本件パソコン立ち上げの指示を受けてから数分後にC所長補佐を呼びに行き、情報管理室に本件パソコンを持って行って調査をすることになったことが認められる(前記認定事実(3)ニ)。 これを前提に、ハラスメント該当性について検討すると、このような調査をするに至ったのは、A教授において、懲戒事由1で検討したB助教の論文不正にかかる機密情報を原告が盗み見ていたとの疑いを持っており、その調査の一環として行われたものであるから、本件パソコンを調査する必要性は否定できない。また、A教授が具体的にどのようなファイルであるかをその 場で述べられなかったのは、それが機密情報に関するものである上、原告にかけられている疑いの内容に照らし、隠匿の可能性があることを踏まえてのものであり、一概に不合理な対応であるとはいえない。さらに、人事掛の立会いや、情報管理室での調査など、調査の公正さを担保するため、原告の要求にも応じており、この点でも不合理な業務指示であったとはいえない。 イしたがって、A教授の言動は、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであるとは認められないから、不法行為に該当するパワーハラスメントには当たらない。 (5)根拠なく雇用継続が困難であると複数回伝えたことについてア原告は、前記第2の4(4)エ(原告の主張)のとおり主張する。これに 対し、被告は、同エ(被告の主張)のとおり主張して争う。 原告は、A教授が、原告の無期転換申込権行使後の平成31年3月及び同年4月に、根拠なく雇用継続困難であると複数回伝えられたと主張するが、A教授としては、雇用継続の際に条件についての協議がう 原告は、A教授が、原告の無期転換申込権行使後の平成31年3月及び同年4月に、根拠なく雇用継続困難であると複数回伝えられたと主張するが、A教授としては、雇用継続の際に条件についての協議がうまくいかず、既に新しい秘書を雇用することになっていたのに、原告の雇用を継続することになったことに加えて、原告には機密情報を盗み見ていたとの疑いが同月当時 には既に生じており、原告との間での信頼関係が既に失われていたことが認められる。そうであれば、A教授が退職勧奨に相当する文言を用いていたとしても、職務行為として相当な範囲を超えていると認めることはできない。 イしたがって、A教授の言動は、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであるとは認められないから、不法行為に該当するパワーハラスメントには当 たらない。 (6)争点4についての判断の結論上記(2)から(5)までの検討によれば、被告の主張するA教授の言動につき、不法行為は成立しないから、被告の使用者責任に基づく請求は、理由がない。 4 被告自身による不法行為の成否(争点5)について(1)懲戒権の濫用について原告は、前記第2の4(5)ア(原告の主張)のとおり主張するが、前記2で検討したとおり、本件懲戒解雇は有効であり、被告が懲戒権を濫用したとは認められないから、本件懲戒解雇が不法行為を構成することはなく、原告の主 張は採用できない。 (2)ホームページでの公表について原告は、前記第2の4(5)イ(原告の主張)のとおり主張する。 この点に関し、被告は、令和2年3月31日、被告のホームページ上で、本件研究所非常勤職員を懲戒解雇処分にした旨を公表したこと、当該非常勤職員 は原告を指すものであったが、その氏名は公表されなかったこと、以上の事 は、令和2年3月31日、被告のホームページ上で、本件研究所非常勤職員を懲戒解雇処分にした旨を公表したこと、当該非常勤職員 は原告を指すものであったが、その氏名は公表されなかったこと、以上の事実 が認められる(前記前提事実(4)イ)。 そこで、被告によるホームページでの公表が、原告に対する名誉毀損として、被告が不法行為責任を負うかどうかについて検討すると、公表文には原告の氏名も表示されていないが、勤務先(所属)、担当業務の内容等、公表文に記載された内容からすれば、一般の読者を基準としても、当該職員が原告を指すもの であると理解する余地があるというべきである。仮に、当該職員を原告のことであると同定できるとすれば、この公表文は、原告の社会的評価を低下させるものであるから、その名誉を侵害するものといえる。しかしながら、懲戒事由について、これまで検討してきたところによれば、懲戒事由該当性について、当裁判所の判断と異なる部分はあるものの、被告が懲戒処分の理由として発表 した事実には公共性があり、公表目的の公益性や、公表事実がその主要部分において真実であるとも認められることから、原告の名誉権又は名誉感情の侵害により、不法行為を構成することはなく、原告の主張は採用できない。 (3)記者クラブへのプレスリリースについて原告は、前記第2の4(5)ウ(原告の主張)のとおり主張する。 この点に関しては、各新聞社の報道は、被告が認定した懲戒事由によって本件懲戒解雇に至った旨が記載されているにすぎず(前記認定事実(3)フ)、原告が「スパイ」であるとの報道自体されていない。また、被告が、報道機関に配布した報道発表資料(乙92)を検討しても、被告が原告のスパイ行為を疑わせるような情報をプレスリリースしたとは認められないか 告が「スパイ」であるとの報道自体されていない。また、被告が、報道機関に配布した報道発表資料(乙92)を検討しても、被告が原告のスパイ行為を疑わせるような情報をプレスリリースしたとは認められないから、不法行為を構成することはなく、原告の主張は採用できない。 争点5についての判断 したがって、上記の諸点について、被告に不法行為が成立するとは認められず、これらの責任を負うことを前提とする原告の請求は、争点6について判断するまでもなく理由がない。 結論 以上によれば、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。 京都地方裁判所第6民事部 裁判長裁判官 齋藤聡 裁判官 堀田康介 裁判官児玉禎治は、転補のため、署名押印することができない。 裁判長裁判官 齋藤聡

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