- 1 -令和6年2月26日宣告東京高等裁判所第3刑事部判決令和4年第1046号危険運転致死傷、暴行(両罪につき予備的訴因監禁致死傷)、器物損壊、強要未遂被告事件 主文 本件控訴を棄却する。 当審における未決勾留日数中570日を原判決の刑に算入する。 理由 第1 本件事案の概要と控訴趣意 1 本件事案の概要本件は、平成29年6月、高速道路のパーキングエリアで駐車方法を被害 男性に非難されたことに憤慨し、高速道路上で、被害男性が乗車する被害車両の直前に車線変更した上で減速して自車を被害車両に著しく接近させるなどの行為を4回にわたって繰り返し、被害男性及びその妻を死亡させるとともに両名の子2名に傷害を負わせた危険運転致死傷並びにその際の同男性に対する暴行(原判示第3)のほか、同年5月及び8月、いずれも自車が相手 方車両に追い越されるなどしたことに憤慨し、同車から運転者を降車させて文句を言おうと考え、同車の進路前方で減速して自車を接近させるなどし、停車した相手方車両の窓ガラス等をたたきながら、怒号して降車を要求するなどした強要未遂2件(同第1、第4)、同年5月、同様の経緯から、相手方車両の運転席ドアを足蹴りして損壊した器物損壊(同第2)の事案である。 本件控訴趣意において事実誤認等が主張されている原判示第3につき、原判決が認定した罪となるべき事実の要旨は、被告人が、⑴平成29年6月5日午後9時33分頃、普通乗用自動車(以下「被告人車両」という。)を運転し、東名高速道路下り54.1キロポスト先の片側3車線道路の第2車両通行帯を進行中、被害男性(当時45歳)が乗車する被害女性(当時39歳) 運転の普通乗用自動車(以下「被害車両」という。)を停止させようと企て、 4.1キロポスト先の片側3車線道路の第2車両通行帯を進行中、被害男性(当時45歳)が乗車する被害女性(当時39歳) 運転の普通乗用自動車(以下「被害車両」という。)を停止させようと企て、 - 2 -同下り54.1キロポスト先道路から同下り54.8キロポスト先道路の間において、同車の通行を妨害する目的で、第2車両通行帯を走行する同車を重大な交通の危険を生じさせる速度である時速約100kmで左側から追い越して同車直前の同車両通行帯上に車線変更した上、減速して自車を被害車両に著しく接近させ、自車との衝突を避けるために第3車両通行帯に車線変 更した被害車両直前の同車両通行帯上に重大な交通の危険を生じさせる速度である時速約118kmで車線変更した上、減速して自車を被害車両に著しく接近させ、自車との衝突を避けるために第2車両通行帯に車線変更した被害車両直前の同車両通行帯上に重大な交通の危険を生じさせる速度である時速約100kmで車線変更した上、減速して自車を被害車両に著しく接近さ せ、さらに自車との衝突を避けるために第3車両通行帯に車線変更した被害車両直前の同車両通行帯上に重大な交通の危険を生じさせる速度である時速約63kmで車線変更した上、減速して自車を被害車両に著しく接近させたことにより、同日午後9時34分頃、被害女性をして、同下り54.8キロポスト先道路に同車を停止することを余儀なくさせ、同日午後9時36分頃、 同所において、同車の後方から進行してきた大型貨物自動車(以下「本件トラック」という。)前部を、A(当時15歳)及びB(当時11歳)が乗車していた被害車両後部に衝突させて同車を押し出させ、同車左側部をその前方で停止していた自車右後部に衝突させるなどするとともに、これらいずれかの車両を被害車両付近にいた被害 及びB(当時11歳)が乗車していた被害車両後部に衝突させて同車を押し出させ、同車左側部をその前方で停止していた自車右後部に衝突させるなどするとともに、これらいずれかの車両を被害車両付近にいた被害男性及び被害女性に衝突させ、よって、 同日午後10時55分頃、被害男性を脳挫傷により、同月6日午前2時17分頃、被害女性を肝損傷兼下大静脈損傷による内出血性ショックにより、それぞれ死亡させるとともに、A及びBにそれぞれ打撲傷等の傷害を負わせ(原判示第3の1)、⑵同月5日午後9時34分頃、上記道路下り54.8キロポスト先路上において、被害男性の胸ぐらをつかむなどの暴行を加えた (同第3の2)というものである。 - 3 - 2 控訴趣意本件控訴の趣意は、弁護人高野隆作成の控訴趣意書記載のとおりであり、本件危険運転致死傷に関する訴訟手続の法令違反、訴因逸脱認定、理由齟齬及び事実誤認の主張、並びに本件暴行に関する事実誤認の主張である。 第2 審理経過 1 第1次第1審本件危険運転致死傷に係る公訴事実の要旨は、上記罪となるべき事実とおおむね同旨であり、その実行行為は、4回にわたって被害車両の直前の車両通行帯上に車線変更し、減速して自車を被害車両に接近させるなどした一連の妨害運転行為(以下「本件妨害運転行為」という。)と、被害車両の直前 で自車を停止させた行為(同事件の起訴の約4か月後に訴因変更によって追加されたもの。)から構成されていたところ、第1次第1審(横浜地方裁判所)では、同事件につき、①上記停止行為が、重大な交通の危険を生じさせる速度で運転した(実行行為)といえるか否か、②本件妨害運転行為等と死傷結果との間の因果関係の有無が争点とされたほか、上記強要未遂事件2件 の各事実も争われた。第1次第1審判決 危険を生じさせる速度で運転した(実行行為)といえるか否か、②本件妨害運転行為等と死傷結果との間の因果関係の有無が争点とされたほか、上記強要未遂事件2件 の各事実も争われた。第1次第1審判決は、①上記停止行為は危険運転致死傷の実行行為に当たらないものの、②本件妨害運転行為と死傷結果との間の因果関係は認められると判断して、危険運転致死傷事件につき上記罪となるべき事実とおおむね同旨の事実を認定し、その余の各事件についても有罪認定し、被告人を懲役18年に処した(求刑:懲役23年)。 2 第1次控訴審第1次控訴審判決は、被告人の控訴を受けて、第1次第1審判決の上記①②の判断は是認できるとしつつも、要旨、以下のとおり説示して、第1次第1審の訴訟手続には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反があるとし、第1次第1審判決を破棄して本件を横浜地方裁判所に差し戻した。すなわち、 第1次第1審裁判所は、公判前整理手続において、本件危険運転致死傷につ - 4 -いて因果関係が認められない旨の法令の適用に関する見解を表明し、検察官に予備的訴因の追加の検討を促しているところ、これは、構成裁判官及び裁判員の合議によって判断すべき事項について、裁判員との評議を経ることなく構成裁判官のみによる合議に基づいて表明したもので、権限逸脱の違法があるとともに、第1次第1審弁護人は、同裁判所の上記見解表明を受けて追 加された監禁致死傷の予備的訴因に力点を置いた主張及び反証活動を公判で行ったと推測されるところ、同裁判所は、公判に至って、裁判員との評議を経て因果関係に関する上記見解を変更したにもかかわらず、当事者に対し、上記見解を撤回して因果関係が肯定されることがあり得ることを示すなどして、同見解変更を前提とした主張及び反証の機会を改めて設ける 経て因果関係に関する上記見解を変更したにもかかわらず、当事者に対し、上記見解を撤回して因果関係が肯定されることがあり得ることを示すなどして、同見解変更を前提とした主張及び反証の機会を改めて設けるなどの措置 を講じることなく、同見解を変更して主位的訴因について有罪判決を宣告したもので、被告人の手続保障を確保しなかった違法がある。 3 原審(第2次第1審)原裁判所は、本件を期日間整理手続に付し、本件危険運転致死傷及び暴行事件に関して第1次第1審で取り調べられた全ての証拠について証拠排除決 定をするなどした上、本件危険運転致死傷の訴因から上記停止行為を削除する訴因変更を経て、改めて争点及び証拠の整理等を行い、本件の争点は、危険運転致死傷罪及び暴行罪の成否、具体的には、①被告人が本件妨害運転行為に及んだか、②本件妨害運転行為と被害者らの死傷結果との間の因果関係が認められるか、③被告人車両及び被害車両の停止後、降車した被告人が被 害男性の胸ぐらをつかむなどの暴行に及んだか、等であると設定された。原判決は、①被告人が本件妨害運転行為に及んだこと、②本件妨害運転行為と被害者らの死傷結果との間の因果関係があること、③被告人が上記暴行に及んだことをいずれも肯定し、上記罪となるべき事実を認定して危険運転致死傷罪及び暴行罪の成立を認め、その余の事件も有罪と認めて被告人を再び懲 役18年に処した(求刑:懲役18年)。 - 5 -第3 本件危険運転致死傷に関する原判決の判断の要旨 1 原判決は、本件危険運転致死傷に関する基本的な事実経過として、要旨、以下の事実が認められるとした(原判決5~9、25頁)。 ⑴ 本件当日午後9時29分頃(以下、時間のみを記載しているものは同日の時間である。)、東名高速道路bパーキングエリ な事実経過として、要旨、以下の事実が認められるとした(原判決5~9、25頁)。 ⑴ 本件当日午後9時29分頃(以下、時間のみを記載しているものは同日の時間である。)、東名高速道路bパーキングエリア内において、被害男性 が、被害車両に乗車して同エリアから高速道路下り線に出るに際し、被告人に対し、被告人車両の同エリアでの駐車方法を非難したことから、被告人はこれに憤慨し、同道路下り線を先行する被害車両を停止させて被害男性に文句を言おうと考えてこれを追跡した。 ⑵ 同道路下り53.9キロポスト付近から下り54.8キロポストまで の間の被告人車両の走行軌跡に関するデータを、同車両搭載のカーナビゲーションシステムから抽出したところ、同車両の1秒毎の位置(●印)及び速度(上部□の枠内)は、原判決の別紙記載のとおりである(原審甲31・弁22の合意書面7添付の見取図1の写しに、地点特定のため、1秒毎に順次㉞からまでの秒数を挿入したもの。以下「本件見取図」という。なお、本 控訴審判決にも別紙として添付する。)。これによれば、被告人車両の速度変化と走行軌跡等は、①午後9時33分43秒から44秒にかけて、速度は時速約100kmから時速約91kmに減速し、走行軌跡は第1車両通行帯(以下、「車両通行帯」を単に「通行帯」という。)中央付近から同通行帯と第2通行帯の区分線付近に移動し、同44秒から47秒にかけて、速度は 1秒毎に、時速約91kmから時速約100kmに加速し、次に時速約90kmに減速し、さらに時速約100kmに加速し、その間の走行軌跡はおおむね第1通行帯と第2通行帯の区分線付近にあり、②同51秒から52秒にかけて、速度は時速約109kmから時速約118kmに加速し、走行軌跡は第2通行帯上から同通行帯と第3通行帯の区分線付近 跡はおおむね第1通行帯と第2通行帯の区分線付近にあり、②同51秒から52秒にかけて、速度は時速約109kmから時速約118kmに加速し、走行軌跡は第2通行帯上から同通行帯と第3通行帯の区分線付近に移動し、さらに同 53秒にかけて時速約109kmに減速し、③同53秒から54秒にかけて、 - 6 -速度は時速約100kmに減速しながら、走行軌跡は上記区分線付近から第2通行帯中央付近に移動し、さらに同55秒にかけて時速約82kmへ減速し、④同56秒から57秒にかけて、速度は時速約82kmから時速約63kmに減速し、走行軌跡は第2通行帯中央付近から同通行帯と第3通行帯の区分線付近に移動していた。なお、各通行帯の幅は約3.6mであるところ、 上記カーナビゲーションデータに記録された緯度・経度はGPSにより測位され、誤差が生じる可能性があることから、本件見取図の上記●印は最大で南北(進行方向の左右)にそれぞれ約1.5m、すなわち各通行帯の幅の半分近く南北方向それぞれにずれる可能性があり、上記●印の記載のみから、各通行帯のうち被告人車両がどの通行帯部分を走行していたのかを正確に特 定することはできない。 ⑶ 被告人は、午後9時34分9秒頃、被害車両と共に上記道路下り54. 8キロポスト先道路の第3通行帯上に停止した。被告人は降車して被害車両に近づき被害男性に文句を言うなどのトラブルとなったが(その際の暴行の有無については争いがある。)、午後9時36分5秒頃、被告人車両の方に 戻り出し、この時点で、被害女性も被害男性も車外にいた。 ⑷ 本件トラックの運転手は、先行車両に追従して同道路第3通行帯を時速約91kmで走行していたところ、下り54.8キロポスト手前で先行車両が第2通行帯へ車線変更を開始したことなどに気付き、急ブレ ⑷ 本件トラックの運転手は、先行車両に追従して同道路第3通行帯を時速約91kmで走行していたところ、下り54.8キロポスト手前で先行車両が第2通行帯へ車線変更を開始したことなどに気付き、急ブレーキを掛けると同時に左にハンドルを切ったが、午後9時36分7秒頃、第3通行帯上 に停止中の被害車両に追突するなどした。本件事故により、原判示のとおり、被害男性ら4名が死傷した。 2 その上で、原判決は、本件危険運転致死傷に関する上記争点①②につき、要旨以下のとおり判断した。 ⑴ 被告人が本件妨害運転行為に及んだかについて(原判決8~18頁) 当該走行区間がほぼ直線道路で、当時渋滞等もなかったにもかかわらず、 - 7 -被告人車両は、高速度で走行しながらわずか20秒程の間に上記①ないし④のとおり急な加速及び減速を繰り返しており、当時、被告人が意図的に通常と異なる運転をしていたことは明らかである。そして、被告人が、bパーキングエリア内で被害男性から駐車方法を非難されて憤慨し、被害車両を停止させて被害男性に文句を言うために追跡したこと、被告人車両の走行軌跡上、 上記①ないし④の各減速とほぼ同時ないしはその直前に被告人車両に左右の動きがあることからすれば、上記①ないし④の急な加速と減速は、被告人が、被告人車両を被害車両の前方に進入させた上、減速して被害車両に接近させることにより被害車両を停止させる運転行為を4回にわたって繰り返したものであることを相当程度推認させる。 甲証人は、トラックを運転して現場近くの第1通行帯を時速約80kmで走行していたところ、第2通行帯と第3通行帯を時速100km超の速度で並走してきた2台の車に追い抜かれ、第3通行帯を走行していた白い普通車(被告人車両)は第2通行帯と第3通行帯をまたぐよ 80kmで走行していたところ、第2通行帯と第3通行帯を時速100km超の速度で並走してきた2台の車に追い抜かれ、第3通行帯を走行していた白い普通車(被告人車両)は第2通行帯と第3通行帯をまたぐように、ワンボックスカー(被害車両)が走る第2通行帯に寄って走行していた、その後、白い普通 車が第2通行帯を走行していたワンボックスカーの前に、当たるか当たらないかぐらいに急に割り込んで減速し、ワンボックスカーも減速した、2台の車間距離は5m程度だった旨証言する。甲は当事者双方と利害関係のない第三者であって、虚偽を述べる動機は見当たらず、他車の異常な運転に遭遇した甲が注目するのは自然で、視認状況にも格別問題はなく、証言内容も具体 的で、高度の信用性が認められる。そして、信用できる甲証言によれば、被告人は、時速100km程度の速度で第3通行帯から第2通行帯に車線変更し、第2通行帯を走行する被害車両の直前に進入した上、減速して自車を被害車両に5m程度まで接近させたことが認められ、このことは、本件見取図からすると、午後9時33分53秒から55秒付近の出来事(上記③)であ ると推認される。 - 8 -被害車両の助手席に同乗していた証人Aは、①第2通行帯を走行していた被害車両の前に、被告人車両が左側から入ってきた後、減速して近づき、②被害車両が第3通行帯に車線変更すると、被告人車両が左側から被害車両の前に入ってきた後、減速して近づき、③被害車両が第2通行帯に車線変更すると、被告人車両が右側から被害車両の前に入ってきた後、減速して近づき、 ④被害車両が第3通行帯に車線変更すると、被告人車両が左側から被害車両の前に入ってきた後、減速して近づいてきた旨を証言しているところ、同証言は、全体として上記の客観的事実に基づく4回の妨害運 ④被害車両が第3通行帯に車線変更すると、被告人車両が左側から被害車両の前に入ってきた後、減速して近づいてきた旨を証言しているところ、同証言は、全体として上記の客観的事実に基づく4回の妨害運転の推認に一定程度裏付けられている。さらにAの証言を個々的に検討しても、①部分は被告人も認める供述をしており、③部分は甲証言と整合し、いずれも十分信用で きる。また、②部分は、①及び③の間の経緯を自然かつ合理的に説明しているし、④部分も、被告人がおおむね認める供述をしている上、①ないし③に続いて、被害車両を停止させるために被告人が被告人車両を運転した態様として自然な流れといえる。Aの視認状況に問題もないから、被告人車両の動静等に関するA証言の信用性は高い。以上を総合すると、原判示第3の1の とおり、被告人が4回にわたる本件妨害運転行為に及んだことが認められる。 なお、本件見取図について鑑定するなどした弁護側の乙証人の証言は、前提とすべき被告人車両の走行態様についての検討が十分でなく、本件妨害運転行為の認定に疑いを生じさせるものではない。また、自分は、第2通行帯上の被害車両の前に入った際にブレーキをかけてはおらず、同車が初めに第 3通行帯に車線変更した後、自分は第2通行帯を走行し続け、被害車両が減速したので、自分も減速して第3通行帯へ車線変更して被害車両の前に入り、同車が停止したので自分も停止したにすぎない、などとする被告人の公判供述は不自然で信用できない。 ⑵ 因果関係の有無について(原判決21~27頁) 本件妨害運転行為は、被害車両の運転者をして、妨害運転から逃れるなど - 9 -するために高速道路上に被害車両を停止させ、これに後続車両が追突する高い危険性を有するものであり、上記死傷結果はその危険性が現実化 為は、被害車両の運転者をして、妨害運転から逃れるなど - 9 -するために高速道路上に被害車両を停止させ、これに後続車両が追突する高い危険性を有するものであり、上記死傷結果はその危険性が現実化したものとみることができる。本件妨害運転行為と被害者らの死傷の間の介在事情として、①被害車両の第3通行帯上での停止、②被告人車両の停止とその後の被告人の被害男性に対する上記暴行、③被害女性及び被害男性の被害車両か らの降車が存在するものの、①は本件妨害運転行為により直接引き起こされたもの、②は本件妨害運転に引き続いて生じる事態としてごく自然なもの、③は、本件妨害運転及びこれに引き続く上記暴行の心理的な影響によるものであって、本件の因果関係が否定されるような異常な介在事情には当たらない。さらに、④本件トラックの追突についても、先行車両との車間距離を十 分とらずに時速約91kmで第3通行帯を走行した本件トラック運転手には、車間保持義務違反及び通行帯・速度違反があるものの、前者の過失は高速道路上の運転行為として異常ないし重大なものとまではいえず、後者の過失も本件事故を招いた直接的なものとはいえず、異常ないし重大なものでもないから、異常な介在事情には当たらない。したがって、本件妨害運転行為と死 傷結果との間には因果関係が認められる。 第4 本件危険運転致死傷に関する訴訟手続の法令違反及び訴因逸脱認定の主張について 1 所論は、本件危険運転致死傷に係る訴因は、被告人が、その車両を被害車両が走行する通行帯上に車線変更した上、減速して被害車両に著しく接 近させるなどしたというものであり、ここにいう「車線変更」とは、車体全部を隣接する別の通行帯に移動させることを指し、区分線をまたいだ状態で走行することはこれに当たらないと解される に著しく接 近させるなどしたというものであり、ここにいう「車線変更」とは、車体全部を隣接する別の通行帯に移動させることを指し、区分線をまたいだ状態で走行することはこれに当たらないと解されるところ、原審検察官が、論告において、突然、訴因変更も経ないままに、本件妨害運転行為の内容として、被告人が第2通行帯と第3通行帯の区分線をまたいで走行しながら減速した などと新たな主張をしたにもかかわらず、原審裁判所は、同主張を許し、被 - 10 -告人に同主張に対する反論・反証の機会を与えないまま結審した上、補足説明において同主張どおりの事実を認定するなどして被告人を有罪としたものであって、①このような原審裁判所の訴訟手続は、被告人に不意打ちを与え、その防御権を不当に侵害するもので違法であり(刑訴法379条)、また、②原判決の上記認定には、訴因の範囲を逸脱し、審判の対象となっていない 事件について判決した違法がある(同法378条3号)、などと主張する(控訴趣意書3~9頁)。 2 当裁判所の判断⑴ 訴因逸脱認定の主張について原審結審時の本件危険運転致死傷に係る訴因と、同訴因について原裁判所 が認定した罪となるべき事実(原判示第3の1)とは、同一の内容であって、不意打ち等をいう所論に関する後記の検討内容に鑑みても、原判決が、訴因の範囲を逸脱して罪となるべき事実を認定したなどとはいえない。 論旨は理由がない。 ⑵ 不意打ち等の訴訟手続の法令違反の主張について まず、本件危険運転致死傷に係る訴因(原審係属時以降のものを指す。以下同じ。)における本件妨害運転行為に関する記載は、被害車両の通行を妨害する目的で、4回にわたり、同車が走行する通行帯上の同車直前に車線変更した上、減速して自車を被害車両に著しく接近させ を指す。以下同じ。)における本件妨害運転行為に関する記載は、被害車両の通行を妨害する目的で、4回にわたり、同車が走行する通行帯上の同車直前に車線変更した上、減速して自車を被害車両に著しく接近させたなどというものであるところ、同訴因に係る罰条(自動車の運転により人を死傷させる行為等の 処罰に関する法律2条4号)には、「車の通行を妨害する目的で、・・・通行中の人又は車に著しく接近し、かつ、重大な交通の危険を生じさせる速度で自動車を運転する行為」と定められており、同訴因の車線変更行為は、その後の減速行為と相まって、「通行中の車両に著しく接近」するという犯罪行為を構成する具体的な行為の一部として同訴因に記されているとみられる ことに鑑みると、上記訴因にいう「車線変更」との記載には、被害車両が走 - 11 -行する通行帯上に被告人車両の車体を全部移動させるに至らず、一定程度進入させるにとどまる行為であっても、その後の減速行為と相まって、「自車を被害車両に著しく接近させ」るものであればこれに含まれ得ると考えられる。そして、同訴因が、被害車両の通行帯間の各移動について、いずれも「車両通行帯に車線変更し」と表記する一方で、被告人車両の通行帯間の各 移動については、いずれも「車両通行帯上に車線変更し」と表記し、(車両通行帯をまたぐ状態での走行を継続した形跡がうかがわれない)被害車両の通行帯間の各移動と被告人車両の同各移動とで表記を区別していることにも照らすと、同訴因は、被告人車両の「車線変更」について、車体全部を隣接する通行帯に移動させることに限定する趣旨ではなく、その後の自車の減速 と相まって、自車を被害車両に著しく接近させるといえるものについては、自車の車体を隣接する通行帯上に一定程度進入させて区分線をまたいだ状態 せることに限定する趣旨ではなく、その後の自車の減速 と相まって、自車を被害車両に著しく接近させるといえるものについては、自車の車体を隣接する通行帯上に一定程度進入させて区分線をまたいだ状態で走行する行為をも含む趣旨と解することができ、このことは、「車線変更」の語義等に関する所論の指摘を踏まえても左右されないというべきである。 次に、原審の審理経過をみると、本件の期日間整理手続及び公判冒頭にお いて、原審の各当事者から、同訴因における被告人車両の「車線変更」が、車体の全部を隣接する通行帯に移動させるものに限られるか否かについて主張等がされた形跡は記録上見当たらない。そして、原審第2回公判において、本件現場の各車両通行帯の幅(約3.6ないし3.7m。原審甲29・弁20の合意書面5)、後記の被告人車両の走行軌跡に関するGPSデータ(同 甲31・弁22の合意書面7)、被害車両及び被告人車両の各車体の幅(いずれもサイドミラーを開いた状態で、被害車両が車幅230cm、被告人車両が車幅約192cm。同甲35・弁26の合意書面11)等が取り調べられた後、同第3回公判において、本件妨害運転の目撃者とされる甲証人が、白い普通車(被告人車両)は、第2通行帯を走るワンボックスカー(被害車 両)の前に急に割り込む(原審検察官主張の3回目の妨害運転行為)前に、 - 12 -第2通行帯と第3通行帯をまたいで、ワンボックスカー(被害車両)が走る第2通行帯に寄って走行していた旨を証言し(同証人尋問調書3、4、35頁)、これに対し、原審弁護人らが、同証人の警察官調書中の供述を指摘、引用するなどして、同調書にそうした記載はないから警察でそのような供述はしていなかったのではないか、そもそも今証言したような事実を見ていな いのではないか、 、同証人の警察官調書中の供述を指摘、引用するなどして、同調書にそうした記載はないから警察でそのような供述はしていなかったのではないか、そもそも今証言したような事実を見ていな いのではないか、などと相当程度詳しく同証言を弾劾する尋問を行ったこと(同証人尋問調書16~26頁)、その後も、上記甲証言に関連した証拠調べとして、同第7回公判における乙証人の尋問において、原審検察官が、鑑定に当たって被告人車両が区分線をまたいで走行した可能性を考慮したか否か及び考慮しなかった理由を尋問し、同証人が、区分線をまたいでの走行は 想定していない、GPSデータからは区分線をまたいだ可能性の有無は分からないから前提にできない、などと答え(同証人尋問調書45~52頁)、同第10回公判における被告人質問においても、裁判員から被告人に対し、走行を始めてから停車するまでの間に、被告人の運転で、白線をまたいだ状態で運転するという状態はあったのか、との質問がされ、被告人が「多分な かった」などと答えたこと(同質問調書41頁)、こうした証拠調べの結果を踏まえて、同第11回公判において、原審検察官が、論告において、「妨害運転の場合、区分線をまたぎ、他の通行帯にはみ出して走行していたことも経験則上十分考えられる」と述べた上で、4回の各妨害運転につき、いずれも通行帯間の区分線をまたいで走行しながら減速した旨を主張し(例えば、 2回目の妨害運転について「第2通行帯から第3通行帯の被害車両前方に車線変更し、第2通行帯と第3通行帯の区分線をまたいで走行しながら減速」などと主張している。論告メモ2頁及び別紙)、これに対し、原審弁護人は、論告で上記主張がされたことに特段の手続的な異議を述べることなく、弁論において、甲証言につき、「『普通車が車線をまたいでいた』と などと主張している。論告メモ2頁及び別紙)、これに対し、原審弁護人は、論告で上記主張がされたことに特段の手続的な異議を述べることなく、弁論において、甲証言につき、「『普通車が車線をまたいでいた』と事故の2ケ 月後には言っていない」から、同証言には自己矛盾があり、甲証人は、本当 - 13 -はそういうシーンを見ていないなどと主張したこと(弁論資料10頁)が明らかである。 そして、原判決は、補足説明において、被告人車両が第2通行帯と第3通行帯をまたぐように走行していたとの上記証言部分も含め、甲証言は信用できるとした上(原判決11~12頁)、乙証言の信用性判断に関連し、本件 見取図の走行軌跡の位置情報からすれば、車体が第2通行帯と第3通行帯の間の区分線をまたいだ状態で車線変更がされた可能性を否定できず、被害車両の走行位置次第では、被告人車両が通行帯間の区分線をまたぐ形で走行することにより被害車両の走行を妨害することは十分に可能であるし、このような態様で他車の走行を妨害することは、むしろ、よく見られる妨害態様と いえるなどとも説示しており、原判決は、原審検察官が主張する通行帯間の区分線をまたぐ走行を含む趣旨で、上記訴因のとおりの被告人車両の本件妨害運転行為を認定したものと解される。 以上の上記訴因の内容の検討、審理経過等に照らすと、原審検察官の論告における上記主張が突然されたものでないことはもとより、原判決が同主張 に係る走行状態をも含むものとして本件妨害運転行為を認定するに当たり、訴因変更の手続が必要であったとは考えられず、被告人側に上記主張に対する反論、反証等の防御の機会が与えられなかったなどともいえない。 この点、所論は、被告人車両の区分線をまたいだ走行を本件妨害運転として主張することが明らかにされてい られず、被告人側に上記主張に対する反論、反証等の防御の機会が与えられなかったなどともいえない。 この点、所論は、被告人車両の区分線をまたいだ走行を本件妨害運転として主張することが明らかにされていたなら、原審弁護人としては、被害車両 が走行する通行帯上への進入程度が車幅のどの程度なのか等について原審検察官に釈明を求め、その主張を明確にさせた上で防御する必要があったなどと主張する。しかし、上記訴因の「著しく接近」する行為には、上述のとおり、区分線をまたいだ走行を含み得るものと考えられ、上記証拠調べの結果や論告における主張等にも鑑みれば、論告における主張の内容が不明確であ るなどとはいえないし、原審弁護人は、上記の証拠調べや論告における主張 - 14 -に関し、所論が主張する求釈明の申立てを含め、必要な反論・反証等の防御活動を行う機会はあったものと認められ、現に、原審弁護人らは、上記のとおり、甲証言における反対尋問や原審弁論における主張によって一定の防御活動を行っているといえる。所論は採用できない。 所論のその余の指摘を踏まえても、原審裁判所の訴訟手続に、被告人に不 意打ちを与え、その防御権を不当に侵害する違法があったとはいえない。 論旨は理由がない。 第5 本件危険運転致死傷に関する理由齟齬の主張について所論(控訴趣意書10~11頁)は、原判決は、本件危険運転致死傷に係る「罪となるべき事実」において、本件妨害運転行為の内容として、被告人 が自車を4回にわたって車線変更した上、減速して被害車両に著しく接近させたと認定しているところ、「車線変更」とは、車体全部を隣接する別の通行帯に移動させることを指すにもかかわらず、「補足説明」においては、上記各車線変更について、被告人車両の車体が区分線をまたいだ状態で走 と認定しているところ、「車線変更」とは、車体全部を隣接する別の通行帯に移動させることを指すにもかかわらず、「補足説明」においては、上記各車線変更について、被告人車両の車体が区分線をまたいだ状態で走行した可能性も認められる旨を説示しており、「罪となるべき事実」と「補足説 明」の説示とは明らかに矛盾している、と主張する。 しかし、上記のとおり、原判決は、「罪となるべき事実」における被告人車両の「車線変更」について、自車の減速と相まって被害車両に著しく接近したといえる程度に自車の車体を隣接する通行帯上に進入させて区分線をまたいで走行する状態を含むものと認定したと解されるから、罪となるべき事 実と補足説明の説示が矛盾しているとはいえない。所論は採用できない。 なお、所論(控訴趣意書12頁)は、原判決の「補足説明」における説示は、区分線をまたいだ状態で走行する態様の「車線変更」について可能性があるとの程度の証明しかされていないことを認めたものであるから、この意味でも原判決には理由齟齬がある、とも主張するが、この点については、同 説示に関連する事実誤認の主張と併せて、追って検討する。 - 15 -第6 本件危険運転致死傷に関する事実誤認の主張について 1 所論は、要するに、⑴被告人の妨害運転行為は存在せず、⑵被告人の運転と被害者らの死傷結果との間に因果関係は認められないから、本件危険運転致死傷に係る罪となるべき事実を認定した原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある、というのである。 2 当裁判所の判断本件危険運転致死傷に係る原判示第3の1の事実を認定した原判決の判断が論理則、経験則等に照らして不合理とはいえず、原判決に事実誤認はない。 以下、所論を踏まえて補足して説明する。 判所の判断本件危険運転致死傷に係る原判示第3の1の事実を認定した原判決の判断が論理則、経験則等に照らして不合理とはいえず、原判決に事実誤認はない。 以下、所論を踏まえて補足して説明する。 ⑴ 本件妨害運転行為は存在しないとの所論について ア被告人車両のGPSデータ(走行軌跡)と矛盾するとの所論(控訴趣意書13~18頁)について所論は、被告人車両が急な加速及び減速を繰り返していること等から本件妨害運転行為が推認される旨の原判決の説示(上記第3の2⑴)に関し、本件見取図の被告人車両のGPSデータによれば、①急な加速及び減速は存在 しない、②減速と相前後した被告人車両の車線変更は2回しかない、③午後9時33分51秒から57秒にかけての3回の車線変更は存在しない、として、上記説示は上記GPSデータと矛盾すると主張するので検討する。 まず、所論は、①時速約100kmでの走行中において、1秒間に時速9km程度の減速・加速をすることは通常のアクセルワークで行われ得るもの で、急制動や急加速などとはいえない、特に減速については、高速走行中の車両は空気抵抗を大きく受け、ブレーキペダルを踏まなくてもエンジンブレーキで減速するし、当該道路は上り勾配の区間でもあったから、アクセルを緩めることによって一時的に速度が低下したとみられる、などとして、「急な加速及び減速」は存在せず、したがって「減速して自車を被害車両に著し く接近させた」との認定は誤っているし、また、「被告人が意図的に通常と - 16 -は異なる運転行為をしていた」との認定も誤りである旨主張する。 しかし、本件見取図によれば、午後9時33分43秒から同59秒の間における被告人車両の走行時速は、1秒毎に約100km(以下「約」及び「km」は略する。) ていた」との認定も誤りである旨主張する。 しかし、本件見取図によれば、午後9時33分43秒から同59秒の間における被告人車両の走行時速は、1秒毎に約100km(以下「約」及び「km」は略する。)-91-100-90-100-100-100-109-109-118-109-100-82-82-63-64-46で あったことが明らかであって、原判決は、被告人車両の走行速度がこのように数回にわたってごく短い時間で上下していることを踏まえて、急な加速及び減速を繰り返したと評価したものと解され、所論の指摘を踏まえても、原判決のこうした評価に誤りがあるとはいえない。そして、当該走行区間がほぼ直線道路で、当時渋滞等もなかったことを踏まえ、このような高速道路上 では、おおむね一定の速度で走行するのが通常であるとし、にもかかわらず、被告人車両が、高速度で走行しながらわずか20秒程の間に急な加速及び減速を繰り返していることから、当時、被告人が意図的に通常と異なる運転行為をしていたことは明らかであるとした原判決の判断にも誤りはない。所論は採用できない。 次に、所論は、②被告人車両のGPSデータ上、減速と相前後した被告人車両の車線変更は、午後9時33分43秒ないし同44秒と、同56秒ないし同57秒の2回しか認められず、同52秒ないし同55秒の被告人車両の動きはほんのわずかで、車線変更とはいえないと主張する。 しかし、本件見取図上、被告人車両は、同所論が認める2回の車線変更に 加えて、同51秒から同52秒にかけて時速約118kmで第2通行帯中央付近から第2通行帯と第3通行帯の区分線付近に移動し、その直後の同52秒から同53秒にかけて時速約109kmに減速した上(原判示の2回目の車線変更・減速に相当)、同53秒から同54秒にかけて時 中央付近から第2通行帯と第3通行帯の区分線付近に移動し、その直後の同52秒から同53秒にかけて時速約109kmに減速した上(原判示の2回目の車線変更・減速に相当)、同53秒から同54秒にかけて時速約100kmで上記区分線付近から第2通行帯の中央付近に移動し、その直後の同54秒 から同55秒にかけて時速約82kmに減速している(同3回目の車線変 - 17 -更・減速に相当)ことが明らかであること、甲証人が、被告人車両が第2通行帯と第3通行帯をまたいで第2通行帯に寄って走行した後、同3回目に相当する車線変更及び減速をしたのを目撃した旨証言するとともに、A証人が、同2回目及び3回目の各車線変更及び減速を目撃した旨を証言し、各証言が信用できることを併せ考慮して、減速と相前後した被告人車両の車線変更は 合計4回あったと認定したと解される原判決の判断に誤りはない。 さらに所論は、③原判決は午後9時33分51秒から同57秒にかけて被告人車両が3回車線変更した旨認定しており、同認定によれば被告人車両と被害車両が高速度で走行中にごく短時間にかわるがわる車線変更したことになるが、乙証人が鑑定意見として証言するとおり、そのようなことは両車両 の性能や両運転者の能力からして不可能である、などと主張する。 しかし、乙証人は、原審検察官から、被告人車両の当時の速度がどの程度であれば上記車線変更が可能か、車線変更の時間的間隔がどの程度あれば上記車線変更が可能であるかを問われても、「分からない」、「具体的な基準はない」などと応答するのみで、上記車線変更が不可能であると判断した合 理的な根拠等を示していない(原審第7回乙証人尋問調書52~55頁等)。 また、同証人は、原審検察官から、自らの鑑定意見書において、被告人車両が、本件見取図の 線変更が不可能であると判断した合 理的な根拠等を示していない(原審第7回乙証人尋問調書52~55頁等)。 また、同証人は、原審検察官から、自らの鑑定意見書において、被告人車両が、本件見取図の午後9時33分37秒の位置(同調書添付資料3連番1)で第2通行帯、同38秒の位置(同連番2)で第1通行帯、同39秒の位置(同連番3)で第2通行帯に戻った旨、2秒間で2回車線変更して戻ってい ると推定していることを指摘され、上記意見との整合性について問われた際には、同意見書作成段階では、差戻し前判決の認定事実は動かせないという前提で推定したので今回の判断と矛盾はあるなどと応答し、さらにこれに対し、同検察官から、同意見書の中で、差戻し前判決の認定と異なる判断をしている部分もあることを指摘されると、そのことも自認して「ちぐはぐな部 分が多々見られる結果に至っている」などと述べつつ、両者の整合性につい - 18 -てさしたる説明をしていない(同調書55~59、67頁等)。以上のような乙証言の内容に照らすと、同証人が述べた上記意見の合理性や整合性には疑問があるといわざるを得ず、所論指摘の意見部分についても、これを専門的知見として検討の前提とする必要は認められないというべきである。また、仮に上記意見部分を一つの考えられる可能性として考慮に入れたとしても、 原判決(17頁)が認定した車線変更の態様は、上述のとおり車体を隣接する通行帯上に一定程度進入させて区分線をまたぐ状態で走行するものを含んだものであって、上記乙証言は、隣接車線に車体が完全に移動する車線変更がされた場合を念頭に短時間にかわるがわる車線変更することが不可能としたものにすぎないから、51秒から53秒付近のわずか3秒間に2回にわた って車線変更を繰り返すことが困難で 移動する車線変更がされた場合を念頭に短時間にかわるがわる車線変更することが不可能としたものにすぎないから、51秒から53秒付近のわずか3秒間に2回にわた って車線変更を繰り返すことが困難であるとはいえない、とした原判決の判断に誤りはない。その余の所論の指摘にも理由はなく、所論は採用できない。 また所論は、④原判決の「補足説明」に、午後9時33分44秒から同56秒までの間に、被告人車両が第2通行帯のみを走行した可能性がある一方で、被告人車両が車両の一部又は全部が隣接する通行帯上にある形で走行し た可能性も否定することはできないとの説示部分があることをとらえて、原判決は、被告人車両が上記期間に第2通行帯のみを走行した可能性を認め、区分線をまたいだ状態で走行する態様の「車線変更」というのも、可能性があるとの程度の証明しかされていないことを認めているから、原判決には理由齟齬の違法があり(控訴趣意書11~12頁)、また、「可能性が否定で きない」というレベルで、被告人車両が区分線をまたいだ走行態様を想定し、かつ、被害車両の走行位置次第という留保を付して、車線変更が不可能とする乙証人の意見を否定して有罪認定をした点で、原判決の判断は無罪推定の原則に反し、事実誤認があると主張する(同16~18頁)。 しかし、原判決(16頁)の上記説示は、乙証言を排斥する理由を説明し たもの、すなわち、本件見取図により被告人車両は同43秒付近から同56 - 19 -秒付近まで第2通行帯を走行していたと推定できるとした同証言につき、本件見取図上、確かに被告人車両の走行軌跡は第2通行帯上又は隣接する通行帯との区分線付近にあるが、同軌跡の位置情報には南北方向にそれぞれ約1. 5mの誤差があるから、被告人車両が第2通行帯のみを走行した可能性 図上、確かに被告人車両の走行軌跡は第2通行帯上又は隣接する通行帯との区分線付近にあるが、同軌跡の位置情報には南北方向にそれぞれ約1. 5mの誤差があるから、被告人車両が第2通行帯のみを走行した可能性もある一方で、被告人車両の全部又は一部が隣接する車両通行帯上にある形で走 行した可能性があるにもかかわらず、乙証人は、後者の可能性を検討しておらず、その可能性が否定される具体的な根拠を示していないとの理由を付して、同証言の信用性を否定したものであって、原判決は、乙証人が述べる検討方法が不合理であることを示すために上記の可能性に言及したにすぎない。 そして、原判決が、本件見取図の被告人車両の走行軌跡には上記誤差がある ことをも踏まえ、A証言、甲証言等も総合考慮して、本件危険運転致死傷に係る罪となるべき事実のとおり、4回にわたる本件妨害運転行為(その意味内容については、上記第4の2参照)を認めたものであることは、その補足説明全体を見れば明らかであって、所論指摘の説示部分は、原判決の事実認定として、同43秒付近から同56秒付近まで「被告人車両が第2通行帯の みを走行した可能性がある」としたものではない。したがって、所論指摘の説示部分があるからといって、所論がいうように、原判決に理由齟齬の違法があるとはいえないし、原判決の上記事実認定が無罪推定の原則に反し、誤っているともいえない。論旨は理由がない。 さらに所論は、原判示の4回目の車線変更・減速に関し、⑤56秒から5 7秒にかけての第2通行帯から第3通行帯への被告人車両の車線変更は、被告人車両が第3通行帯上で速度を落とした被害車両に合わせ、第2通行帯上で段階的に減速し、その後第3通行帯に車線変更したものであるから、被告人車両が減速して被害車両に著しく接近させ、停止を余儀なくさせ 告人車両が第3通行帯上で速度を落とした被害車両に合わせ、第2通行帯上で段階的に減速し、その後第3通行帯に車線変更したものであるから、被告人車両が減速して被害車両に著しく接近させ、停止を余儀なくさせたものではない旨も主張するが、被告人車両のGPSデータや4回にわたり被告人車 両が被害車両の前に車線変更し減速してきた旨の後記A証言等に基づき、原 - 20 -判示の上記事実を認定した原判決の判断に誤りはない。 その他の主張を検討してみても、本件妨害運転は存在しないとする所論は採用できない。 イ乙証言に対する評価が不合理で一方的であるとの所論(控訴趣意書18~22頁)について 所論は、①株式会社aで交通事故工学鑑定を担当し、2級自動車整備士の資格を有する乙証人は、豊富な経験に基づき、GPSデータの誤差を前提とした上で、速度変化やポイントが左右に変動する同データの「軌跡の流れ」を見て、被告人車両がどの通行帯をどの速度で走っていたのかを推測する作業を行ったものであって、その鑑定内容は極めて合理的であると主張する。 しかし、上記アの所論④に対する検討でも触れたように、乙証人が、主に本件見取図に基づき検討した結果、被告人車両の運転態様は、第1通行帯から被害車両を追い越し、第2通行帯を走行中の被害車両の前方に車線変更した後(午後9時33分43秒付近)、第2通行帯を加速して走行しながら第3通行帯に車線変更した被害車両を追跡し、その後、被害車両が第3通行帯 上で減速を始めたことから被告人車両を減速させ、被害車両の前方に車線変更した(同56秒付近)と推定できる(同証人尋問調書12~13頁等)との見解を述べたのに対し、原判決(16頁)は、確かに同44秒ないし同56秒の本件見取図上の被告人車両の走行軌跡は第2通行帯上又は同 更した(同56秒付近)と推定できる(同証人尋問調書12~13頁等)との見解を述べたのに対し、原判決(16頁)は、確かに同44秒ないし同56秒の本件見取図上の被告人車両の走行軌跡は第2通行帯上又は同通行帯と隣接する各通行帯との区分線付近にあるが、同走行軌跡の位置情報には、南 北方向にそれぞれ約1.5mの誤差があるから、被告人車両は車両の一部又は全部が隣接する通行帯上にある形で走行した可能性があるのに、乙証人は、その可能性を前提とした検討をせずに、上記12秒間にわたって被告人車両は第2通行帯上にいたと判断し、上記可能性が否定される具体的・合理的な根拠を示していないとして、同証人の見解を排斥したものであって、原判決 のこの説示自体、合理的で是認できるものと考えられる。また、同証人の証 - 21 -言を子細に検討してみても、本件見取図上の被告人車両の軌跡が区分線付近にある部分について、同車両が第2通行帯を走行していたと判断した理由につき、原審検察官から繰り返し問われたにもかかわらず、「データを記録した全体の軌跡の流れを見て」(同証人尋問調書46頁)判断したとの説明しかせず、具体的な判断過程が説明されていない上、「(走行軌跡のどれが誤 差か誤差でないか分かるのかと問われて)分からない」、「全てに誤差が入ってくる。・・・速い流れで動いていると、同じような誤差で、ただ全体がこっちにずれているとかいう話になる」、「(では、全体がどっちにずれているのか、北にずれているのかなどと問われて)全体がどっちにずれているとか、そういうのはない」などと説明したり(同46~48頁)、被告人車 両が上記の間、第2通行帯を走行していたとの推定は一貫して述べつつ、「車線をはみ出てる、出てないという細かいところはこのデータからは分からず、分か どと説明したり(同46~48頁)、被告人車 両が上記の間、第2通行帯を走行していたとの推定は一貫して述べつつ、「車線をはみ出てる、出てないという細かいところはこのデータからは分からず、分からないことは前提にできないから、車線をまたいで被告人車両が走行していたことは想定していない」(同49~50頁)と述べたりするなど、合理的・整合的な理解が困難な証言をしていることに鑑みても、原判決 が乙証人の上記見解を採用できないとしたことに誤りがあるとはいえない。 所論はまた、②乙証人は、主に、段階的にゆっくり減速して停止したというGPSデータに顕れた速度変化傾向に基づき、同52秒以降、被害車両が第3通行帯で減速し始めたことから、同車に合わせて被告人車両も減速し、第3通行帯に車線変更したと鑑定したものであって、原判決は、この鑑定内 容を排斥する理由を示さずに無視したとも主張する。しかし、乙証人の上記見解は、信用できるA証言(原審第4回尋問調書15頁)に反するばかりか、乙証人の上記見解と同内容の運転をした旨述べる被告人の原審公判供述につき、原判決は、被告人車両の運転態様が同供述のようなものであれば、高速道路の第3通行帯という危険な場所に停止するという無謀な行動を被害車両 がとるとは考え難いなどとして信用できないと判断しており(後記オ参照)、 - 22 -これらの点に、上記①で述べた乙証言の問題点を併せ考慮して、②の乙証言も採用できないとしたと解される原判決の判断に誤りはない。所論は採用できない。 ウ甲証言に対する評価が不合理であり、経験則に反するとの所論(控訴趣意書22~25頁)について 所論は、甲証言に関し、①夜間、100m先を走る車2台の車間距離等の挙動を視認するのは困難である、②被告人車両の割込みの前 であり、経験則に反するとの所論(控訴趣意書22~25頁)について 所論は、甲証言に関し、①夜間、100m先を走る車2台の車間距離等の挙動を視認するのは困難である、②被告人車両の割込みの前及び後の経過に相当するGPSデータが存在せず、同データに整合しない、③甲は、事故の約1か月半後の警察の事情聴取では、2台のうち1台が区分線をまたいで走っていたことや第3通行帯の被告人車両が第2通行帯の被害車両の前に出た ことは供述しておらず、供述の変遷に関する公判での説明も不合理である、などとして、甲証言は信用できないと主張する。 しかし、①(視認状況)について、甲は、感覚で大体100メーターくらい先で、白い普通車(被告人車両)が第3車線から第2車線のワンボックスカー(被害車両)の前に割り込んで入っていったなどと具体的に証言し、自 らの視力は1.5で、街灯等で普通に見えていたとも述べており、別の大型自動車のドライブレコーダーの映像(原審甲32・弁23の合意書面8)等に照らしても、その視認状況に特段の問題があったとはうかがわれない。②(GPSデータ)について、原判決は、甲が目撃した被告人車両の割込み等は、午後9時33分53秒から同55秒付近の出来事であると認定しており、 甲が主としてこの二、三秒の間の出来事を目撃、証言していることを前提とすれば、甲証言とGPSデータが整合していないとはいえず、むしろ一定程度整合しているといえる。③(供述の変遷)について、原判決は、公判で証言した2台の異常な運転について、警察では「やり合っていた」という言葉で表現したが、警察官から具体的な内容について詳しく聞かれなかったから それ以上は話さなかったとの甲の説明は十分信用できると判断しており、原 - 23 -判決も説示するとおり、同 う言葉で表現したが、警察官から具体的な内容について詳しく聞かれなかったから それ以上は話さなかったとの甲の説明は十分信用できると判断しており、原 - 23 -判決も説示するとおり、同53秒から同55秒にかけて、被害車両が第3通行帯から第2通行帯に車線変更すると、被告人車両も第3通行帯から第2通行帯の被害車両の前に入ってきた後、減速して同車に近づいた(3回目の妨害運転)とする点で、甲証言とA証言とは整合し、信用性を支え合っていること、上記警察官調書からの供述の変遷について、原審弁護人から相当程度 詳しく反対尋問を受けたものの、甲の上記目撃証言は揺るがず、維持されていること等にも鑑みると、原判決の上記判断が不合理であるとはいえない。 甲は当事者双方と利害関係のない第三者であること、他車の異常な運転に遭遇した甲がその状況に注目するのは自然であって、証言内容も具体的であることなどを指摘して、甲証言を信用できるとした原判決の判断に誤りがある とはいえず、所論は採用できない。 エ A証言に対する評価が不合理であり、経験則に反するとの所論(控訴趣意書25~31頁)について所論は、A証言に関し、①原判決は、被告人車両による3回目の妨害運転行為等に関するA証言が、甲証言とよく整合しているとして信用性を認めて いるが、甲は、被告人車両がケツ(後部)を振るような割込み方をした旨証言している一方、Aはそのような証言はしていないなどとして、A証言は甲証言と整合していない旨を主張する。しかし、所論の指摘を踏まえても、上記のとおり、被害車両が第3通行帯から第2通行帯に車線変更すると、被告人車両も第3通行帯から第2通行帯の被害車両の前に入ってきた後、減速し て同車に近づいたとする点で甲証言とA証言とは整合しているといえるから 車両が第3通行帯から第2通行帯に車線変更すると、被告人車両も第3通行帯から第2通行帯の被害車両の前に入ってきた後、減速し て同車に近づいたとする点で甲証言とA証言とは整合しているといえるから、原判決の上記判断に誤りがあるとはいえない。 所論は、②Aが、被告人車両が被害車両の前に出た回数について、第1次第1審では「二、三回か、三、四回」と証言していながら、原審公判で4回と断定したことについて、原判決は、Aの記憶の正確性に疑いを生じさせな い旨説示しているものの、第1次第1審における証言との自己矛盾について - 24 -のAの説明・理由には説得力がなく、Aの記憶の正確性には疑問があって同証言は信用できない、などと主張する。しかし、原判決(14~15頁)は、Aは、第1次第1審では、突然上記合計回数を問われたことから、とっさに断定を避けた幅のある証言をしたものと認められ、当時のAの年齢や経験をも考えると、証言の経緯は不合理ではないなどとして、被告人車両の動静等 に関するAの記憶の正確性に疑いは生じないと判断しており、Aが、原審公判(第4回及び第9回)において、上記証言の変遷を原審弁護人から指摘されたにもかかわらず同証言を維持し、合計回数についても、第1次第1審では、最初の移動を入れるのかとかあやふやになって考えがまとまらないまま答えてしまったが、原審では、「1回1回数えたらちょうど4回なので」4 回と特定した旨相応の説明をしていること、原判決も指摘するとおり、上記A証言は、GPSデータに基づく4回の本件妨害運転行為の推認によって一定程度裏付けられることなどに鑑みても、原判決の上記判断に誤りがあるとはいえない。Aの証言の変遷として所論が他に指摘する点を踏まえても、Aの記憶の正確性に疑問は生じないとした原判決の判 認によって一定程度裏付けられることなどに鑑みても、原判決の上記判断に誤りがあるとはいえない。Aの証言の変遷として所論が他に指摘する点を踏まえても、Aの記憶の正確性に疑問は生じないとした原判決の判断に誤りはない。 所論はまた、③上記GPSデータによれば、被告人車両は、1回目の車線変更後、午後9時33分44秒から同45秒にかけて約10キロ加速しており、一貫して減速して近づく運転をされたとするA証言と異なっているなどと主張する。確かに、上記GPSデータ等によれば、被告人車両は、1回目の車線変更の約1秒後に時速約91kmから約100kmに加速し、更に1 秒後に時速約90kmに減速しているものと認められるが、この間の状況についてのAの証言は、白い車が左側から急に進路に入ってきて思うように進めず、ブレーキを踏んで意地悪してきたのか、白い車が近づいてきてぶつかりそうになった、などというもので(原審第4回尋問調書7~11頁)、同証言内容が被告人車両の上記走行状況と矛盾するとはいえない。 証人Aの関係性や所論のその他の主張を踏まえて検討しても、A証言の信 - 25 -用性を認めた原判決の判断に誤りがあるとはいえず、所論は採用できない。 オ被告人供述は十分信頼できるとの所論(控訴趣意書31~32頁)について所論は、第3通行帯を走る被害車両を第2通行帯で追いかけて追い抜いた、被害車両が減速したので自分も減速し、第2通行帯から第3通行帯に車線変 更して被害車両の前に入り、被害車両が止まったので自分も停止した旨の被告人供述は、上記GPSデータに合致し、信用できると主張する。しかし、上述のとおり、上記GPSデータから、4回にわたる被告人車両の減速及び左右の動きが認められることからすれば、被告人の供述が同データに合致 述は、上記GPSデータに合致し、信用できると主張する。しかし、上述のとおり、上記GPSデータから、4回にわたる被告人車両の減速及び左右の動きが認められることからすれば、被告人の供述が同データに合致するとはいえないし、所論の他の指摘を踏まえても、信用できるA及び甲の各 証言に明らかに反すること、被告人が述べる被告人車両の運転態様であれば、被害車両が高速道路の第3通行帯という危険な場所に停止するという無謀な行動をとるとは考え難いこと、全体として曖昧で不自然な点も多いことなどに照らし、被告人の上記供述は信用できないとした原判決の判断に誤りはない。 ⑵ 本件妨害運転行為と被害者らの死傷結果との間に因果関係は認められないとの所論(控訴趣意書32~36頁)について所論は、①被害車両の停止、②被害男性及び被害女性が被害車両を降車したこと、③本件トラックの被害車両への追突は、いずれも本件妨害運転の危険の現実化とはいえないとして、被害者らの死傷結果は被告人の運転が原因 ではないと主張する。 しかし、①について、原判決は、原審弁護人が主張するように、自分が被告人と話をつけるなどと被害男性が言ったことから、被害女性が自らの意思で被害車両を停止させたとは到底考えられないとして、被害女性は、本件妨害運転の影響により冷静な判断ができず、被告人の求めに応じて停止するほ かないとの判断に追い込まれたとの経緯以外想定できず、被害車両の停止は - 26 -因果関係を否定する異常な介在事情に当たらない旨判断しており、上記主張と同趣旨の所論を踏まえても、原判決の上記判断に誤りがあるとはいえない。 また、②の被害男性らの降車について、原判決は、被害女性が、本件妨害運転の影響で冷静な判断が困難な状態に追い込まれて被害車両を停止し、そ 論を踏まえても、原判決の上記判断に誤りがあるとはいえない。 また、②の被害男性らの降車について、原判決は、被害女性が、本件妨害運転の影響で冷静な判断が困難な状態に追い込まれて被害車両を停止し、そのような状況で被告人が被害男性に上記暴行を加えたことと関連して行われ たものであることは明らかであり、被告人による本件妨害運転及びこれに引き続く暴行の心理的な影響によるものといえるから、異常な介在事情には当たらないと判断しており、いかなる被告人の運転が被害男性らにどのような心理的影響を及ぼして降車させたのか説明がなく論理の飛躍があるなどと原判決を論難する所論を踏まえても、原判決の上記判断に誤りがあるとはいえ ない。 ③につき、所論は、原判決は、車間距離保持義務違反は重大でないと恣意的に評価するなど、本件トラックの追突に先立つ数々の法令違反を殊更過小評価して異常な介在事情でないとしており、不当であると主張する。しかし、本件トラックの個々の法令違反に対する原判決の評価文言の当否はさておく にしても、本件トラックの当時の走行状況が、高速道路における走行態様として異常なものであったとまではいえず、本件トラック運転手の過失行為は本件因果関係が否定されるような異常な介在事情には当たらないとした原判決の判断が不合理で誤っているとはいえない。 その他の主張も含め、因果関係に関する所論は採用できない。 ⑶ 本件危険運転致死傷に関する理由齟齬の論旨及び事実誤認の論旨は理由がない。 第7 本件暴行に関する事実誤認の控訴趣意について 1 本件暴行に関する原判決の判断の要旨及び論旨原判決(20~21頁)は、停止した被告人車両を降車して被害車両の左 側スライドドア付近に来た被告人が、自ら同ドアを開けた被害男性に対し、 本件暴行に関する原判決の判断の要旨及び論旨原判決(20~21頁)は、停止した被告人車両を降車して被害車両の左 側スライドドア付近に来た被告人が、自ら同ドアを開けた被害男性に対し、 - 27 -「さっきのは何だ。」などと言って、その胸ぐらを手でつかむなどした旨のAの目撃証言は、被害男性の発言に憤慨して本件妨害運転行為に及び、自車の停車直後に被害男性の方へ近づいた被告人の当時の状況と整合する自然な内容であり、具体的で迫真性があること、通行車両運転者の目撃証言(被害車両の外で中に向かって立っていた人の手が、車内に座っていた人の胸辺り に伸びているのを見たというもの)とも整合することなどから、その信用性は高いと判断し、他方、腕付近をつかんですぐ離しただけで胸ぐらはつかんでいない旨の被告人供述は、被告人の上記状況にも各目撃証言にもそぐわず信用性に乏しいとして、原判示第3の2の暴行事実が認められると判断した。 論旨は、上記暴行の事実を認定した原判決には、判決に影響を及ぼすこと が明らかな事実の誤認があるというのである(控訴趣意書37~40頁)。 2 当裁判所の判断原判決の上記判断に論理則、経験則等に照らして不合理なところはなく、原判決に事実誤認はない。 所論は、①原判決が説示する「被告人の状況」があるからといって、胸ぐ らをつかむ暴行を裏付けるわけではないというが、原判決は、被告人の状況自体から上記暴行事実を推認しているわけではなく、上記暴行事実を目撃した旨のA証言が、被告人の当時の行動等に整合する自然な内容であり信用できると判断しているのであって、その判断に不合理な点は見当たらない。所論はまた、②上記通行車両運転者の証言はA証言と整合せず、被告人供述と 整合する、③Aは、その立場に照らし、客観的 り信用できると判断しているのであって、その判断に不合理な点は見当たらない。所論はまた、②上記通行車両運転者の証言はA証言と整合せず、被告人供述と 整合する、③Aは、その立場に照らし、客観的に経験と記憶のままに証言することが期待できず、Aの証言による認定は危険である、などとも主張するが、所論の種々の指摘を踏まえても、上記のとおり理由を説示して、Aの証言の信用性を肯定した原判決の判断に誤りがあるとはいえない。 本件暴行に関する事実誤認の論旨も理由がない。 第8 結論 - 28 -よって、刑訴法396条により本件控訴を棄却し、当審における未決勾留日数の算入につき刑法21条を、当審における訴訟費用の処理につき刑訴法181条1項ただし書をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。 令和6年2月26日東京高等裁判所第3刑事部 裁判長裁判官安東章 裁判官石田寿一 裁判官渡辺美紀子
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