令和5年7月19日宣告令和5年(う)第139号公職選挙法違反被告事件被告人 A 主文 本件控訴を棄却する。 理由 以下、原判決と同じ略語を使用する。 第1 弁護人の控訴理由 1 事実誤認(選挙運動該当性)被告人がB大名簿の登載者である原判決認定の35名の住所に本件封書を送付した行為(以下「本件行為」という。)は、選挙運動の準備行為又は政治活動にすぎず、選挙運動に該当しないのに、該当するとして、法定外選挙運動用文書を頒布するとともに候補者の届出前かつ衆議院名簿の届出前の選挙運動(以下「事前運動」という。)をしたと認定した原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある。 2 事実誤認(故意)仮に本件行為が選挙運動に該当するとしても、被告人はB大名簿の登載者は被告人に対する支援を期待できる者であると認識しており、本件行為は選挙運動ではないと考えていたから、被告人には故意がないのに、これを認定した原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある。 3 理由不備、訴訟手続の法令違反及び法令適用の誤り又は事実誤認(得票目的)⑴ 選挙運動に該当するというためには「投票を得、又は得させる目的」が必要なのに、被告人がこの目的を有していたことを認定しないまま本件行為の選挙運動該当性を肯定した原判決には理由不備がある。 ⑵ また、原判決はこの目的の有無について検討しておらず、審理が不十分であるから、原審の訴訟手続には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反 がある。 ⑶ さらに、原判決が がある。 ⑶ さらに、原判決がこの目的がなくても選挙運動に該当すると解しているのであれば、原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがあり、原判決が被告人に上記目的があると認定しているのであれば、被告人にはその目的はないから、原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある。 4 法令適用の誤り(憲法違反等)⑴ 事前運動を一律に禁止した公職選挙法239条1項1号、129条の規定は、政治活動の自由を侵害するものとして違憲無効である。したがって、本件にこれらの規定を適用し、これらの規定が有効であることを前提として同法243条1項3号、142条1項1号を適用した原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある。 ⑵ また、事前運動を一律に禁止する規定を憲法に適合するように解釈するためには、禁止される選挙運動を一般選挙人に対する直接的な投票依頼行為に限る必要がある。したがって、本件行為は選挙運動に該当しないのに、該当するとした原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある。 第2 事実誤認(選挙運動該当性)の控訴理由に対する判断記録によれば、以下に述べるとおり、本件行為は選挙運動に該当すると認められる。原判決も「争点に対する判断」の第2及び第3の項において、おおむねこれと同様の判断を示しており、その判断は、後述のとおり一部に疑問があるものの、いずれも結論に影響を及ぼすようなものではなく、その部分を除けば、実質的に以下と同じ趣旨を述べるものと理解することができる。したがって、本件行為が選挙運動に該当すると認 おり一部に疑問があるものの、いずれも結論に影響を及ぼすようなものではなく、その部分を除けば、実質的に以下と同じ趣旨を述べるものと理解することができる。したがって、本件行為が選挙運動に該当すると認定した原判決に事実の誤認はない。 1 本件行為の内容本件行為は、本件総選挙の公示5日前に、被告人の政治活動や選挙運動を支 持又は支援する者の名簿ではないB大名簿の登載者35名の住所に宛てて、いずれも選挙運動のために使用する文書であると認められる次の各文書を同封した本件封書を送付したというものである。これは、被告人が作成した工程表(甲107添付)に基づき、同名簿登載者のうち被告人が立候補を予定している選挙区と概ね一致する区域(選挙区省略)の選挙人として被告人が抽出した2441名の住所に宛てて本件封書を送付した行為の一部である。なお、同封書の封筒には、弁護士であるCの法律事務所の名称・住所等が記載されていた。 ⑴ 「Aを支えるB大有志の会会長・C」の作成名義で本件総選挙の立候補予定者である被告人の政治活動や選挙運動に対する支援を依頼する旨の文書⑵ 被告人及び被告人が所属する政党に対する投票を依頼する趣旨の文言等が印刷されたはがき(以下「本件選挙はがき」という。)の宛名欄に同選挙区の選挙人である知人の住所・氏名等を書き、推薦人欄に署名等をして被告人の事務所へ返送することを依頼する文書及び本件選挙はがき2枚と返信用封筒⑶ 被告人の政治ポスターの掲示場所の提供・選挙運動のボランティア活動・資金の提供・被告人の後援会への入会・被告人が所属する政党への入党等を勧誘する文書⑷ 及び本件選挙はがき2枚と返信用封筒⑶ 被告人の政治ポスターの掲示場所の提供・選挙運動のボランティア活動・資金の提供・被告人の後援会への入会・被告人が所属する政党への入党等を勧誘する文書⑷ 被告人が所属する政党の機関誌 2 本件行為の性質本件行為は、形式的には、Cの名義で被告人の政治活動や選挙運動に対する支援を依頼し、具体的な支援行為として、本件選挙はがきの推薦人欄への署名等(本件総選挙に当たって他の選挙人に対して被告人を候補者として推薦すること)と、知人である選挙人の氏名等を同はがきの宛名欄に記載した上で返送することなど将来選挙運動として本件選挙はがきを発送するための準備作業を依頼するとともに、その他の政治活動・選挙運動への協力をも依頼し、併せて被告人の政治活動を紹介してこれに対する賛同を求めるものと理解できるものである。そのうち選挙運動への協力を求める部分は選挙運動の準備行為に当た り、政治活動に対する賛同や協力を求める部分は政治活動そのものに当たるから、選挙運動には当たらないように思われなくもない。 他方、本件封書は公示直前に多数の選挙人に宛てて発送されたものであり、同封されている本件選挙はがきには被告人及び被告人が所属する政党に対する投票を依頼する文言が目立つように印刷されており、被送付者が送付を受けた文書の内容を理解しようとすれば必然的に同はがきの同文言が目に触れることになる。したがって、本件行為は、直接的な投票依頼をするのと実質的に同様の効果が期待できる行為でもある。 3 選挙運動該当性の判断基準本件封書に本件選挙はがきが同封されているのは、依 触れることになる。したがって、本件行為は、直接的な投票依頼をするのと実質的に同様の効果が期待できる行為でもある。 3 選挙運動該当性の判断基準本件封書に本件選挙はがきが同封されているのは、依頼内容に同はがきの宛名書きの作業が含まれているからである。しかし、同作業は、将来発送するための準備といっても、機械的な作業であって被告人自身やその運動員が行うこともできるものであるところ、これを支持者又は支援者の名簿ではない名簿の登載者に無差別に依頼しても応じてもらえる可能性は低く、依頼作業に要する労力を上回る効果は到底期待できない。したがって、この依頼だけに着目すると実質的に選挙運動の準備行為とはいえない。もっとも、依頼のうち、推薦人欄への署名(すなわち他の選挙人に対する推薦)を求める部分は、それが本件総選挙に当たっての推薦依頼であるという点で一応実質的な選挙運動準備行為であるといえる。宛名書きの部分は、これと一体をなす依頼とされていることにより、かろうじて選挙運動準備行為としての実質を有しているということができる。 しかし、特定の選挙に当たって明確な支持者でも支援者でもない選挙人に対して候補者の推薦を依頼する行為は、直接的な投票依頼をするのと近い効果を有するものであるから、当該行為の相手方、時期、方法その他の具体的な事情によっては、推薦依頼に名を借りた投票依頼行為であって選挙運動に該当すると認められる場合があるというべきである(最高裁判所昭和44年3月18日 第3小法廷判決・刑集23巻3号179頁参照)。そして、本件行為の時期、方法、すなわち、時期が公示の直前であり、本 第3小法廷判決・刑集23巻3号179頁参照)。そして、本件行為の時期、方法、すなわち、時期が公示の直前であり、本件選挙はがきの推薦人欄への署名を求めて同はがきを同封し、内容を理解しようとすれば必然的に同はがきに印刷された投票依頼文言が目に触れるような依頼方法をとっていることからすれば、これは推薦依頼に名を借りた実質的な投票依頼行為であると強く疑われる行為である。これが2000名を超える多数の選挙人に対する送付行為の一部であることを考慮すれば、その疑いは更に強いものになる。 もっとも、そのような時期、方法等による推薦依頼であっても、推薦依頼をすればこれに応じてくれると相当程度期待できるような人的関係が被告人との間に築かれている者を相手方とする場合であれば、その者は既に被告人に対する投票の意思を持っている蓋然性があるから、推薦依頼が投票依頼行為と実質的に同様の効果を有するとはいえない。このような場合は、宛名書きの依頼の部分も含めて選挙運動の準備行為として許容されるものといえよう。また、名簿登載者の全員との間にそのような人的関係が築かれていなくても、名簿登載者が全体として何らかの関係で結ばれた1つの集団を形成しており、上記のような人的関係が被告人とその集団全体との間に築かれているのであれば、同名簿登載者に対して無差別に上記のような依頼をすることも許されるであろう。 しかし、それ以外の場合は、投票を依頼するのと同様の効果を目的としたものとしか考えられず、宛名書きの依頼の部分も含めて推薦依頼に名を借りた実質的な投票依頼行為であり、選挙運動に当たるというべきである。 また、本件行為は、本件選挙はがきへの推薦及び宛名書きの依頼以外の部分も含めて、被告人の選挙運動及 の部分も含めて推薦依頼に名を借りた実質的な投票依頼行為であり、選挙運動に当たるというべきである。 また、本件行為は、本件選挙はがきへの推薦及び宛名書きの依頼以外の部分も含めて、被告人の選挙運動及び政治活動への支援や賛同を求める一体の行為であるから、そのうち推薦及び宛名書きの依頼の部分が選挙運動に当たると認められる場合には、それ以外の部分も含め、全体として選挙運動に当たるものといえる。 そうすると、本件行為が選挙運動の準備行為及び政治活動として許されるもの であり、選挙運動には当たらないといえるか否かの第一次的な判断基準は、相手方であるB大名簿の登載者の集団全体との間で、推薦依頼をすればこれに応じてくれると相当程度期待できるような人的関係が築かれているか否かであるということになる。原判決は、判断の基準は「被送付者と被告人との間に選挙運動の準備行為を期待し得る人的関係があったか否か」であるとし、「B大名簿掲載者が被告人への支援を期待し得る集団」であるか否かを検討の対象としているが、これも実質的には同じ趣旨をいうものと理解することができる。 4 本件行為の選挙運動該当性B大名簿は、被告人が、B大学卒業生全員の氏名等が記載されたB大校友名簿(平成13年版)を入手し、平成26年頃、そのうち卒業年次が極めて古い者などを除き、住所を奈良県内とする者9000名弱を抽出して、その氏名等を住所録ソフトにより電子データ化したものである。B大名簿の登載者からは、その後、既に死亡している者・被告人が文書を送付した際に宛所尋ね当たらずで返送された者・同じく文書の送付を希望しない旨の連絡が を住所録ソフトにより電子データ化したものである。B大名簿の登載者からは、その後、既に死亡している者・被告人が文書を送付した際に宛所尋ね当たらずで返送された者・同じく文書の送付を希望しない旨の連絡があった者などが除かれていき(正確には、上記住所録ソフトにおいて印刷除外設定がされたもの。 以下、B大名簿登載者について印刷除外設定がされたことを「除かれた」と表現し、印刷除外設定がされていない状態を「登載」と表現する。)、本件当時の登載者は8000名弱にまで減っていた。 被告人は、同名簿及びその前身であるB大校友名簿をその政治活動等に利用しており、平成16年に参議院議員選挙に立候補した際には奈良県在住のB大校友名簿登載者に支援依頼文書を送付し、平成31年に奈良県知事選挙に立候補した際にはB大名簿登載者に投票依頼はがきを送付したほか、平成22年から平成28年までの間に3回、講演会や座談会を企画してそれぞれ奈良県在住のB大校友名簿登載者又はB大名簿登載者にその案内文書等を送付した。また、被告人は、自分自身もB大学の卒業生であることから、同大学の卒業生による同窓会組織であるB大校友会の代議員等を務め、その奈良県における支部であ る奈良県B大倶楽部の会合やその他の同窓会組織の会合に頻繁に出席し、その都度、挨拶をしたり参加者と会話をしたりしていた。さらに、被告人は、その政治活動や選挙運動の中で多くのB大学卒業生の支援を受けており、B大校友会や奈良県B大倶楽部の代表者の支援を受けたこともあった。B大校友会からは選挙の際に祝電やいわゆる為書きを受けたこともあった。 以上の事実を前提として、B のB大学卒業生の支援を受けており、B大校友会や奈良県B大倶楽部の代表者の支援を受けたこともあった。B大校友会からは選挙の際に祝電やいわゆる為書きを受けたこともあった。 以上の事実を前提として、B大名簿登載者の性質を見ると、同名簿は、B大学の卒業生全員を個々の意思とは無関係に登載した名簿が元になっており、B大学の卒業生であることと奈良県在住者であること以外には共通点のない者たちの名簿である。もとより政治家としての被告人を支持又は支援する者で構成された団体の名簿ではない。奈良県B大倶楽部の構成員は、B大名簿登載者と相当程度重なっているものと推測されるところ、同倶楽部と被告人との間にはある程度の関係が築かれているものの、同倶楽部の代表者による支援は個人的なものにすぎず、同倶楽部が組織として被告人の政治活動や選挙運動と関係を持ったという事実は存在しない。また、同倶楽部の会合に頻繁に参加して多くの参加者と会話等をしてはいるが、参加者は構成員のごく一部にすぎず、これによって関係を築くことができる者の範囲は限られている。B大校友会やその他の同窓会組織についても同様であり、祝電や為書きは、B大学を卒業した立候補者全てになされた儀礼的なものにすぎない。要するに、B大名簿の登載者は、その大部分が被告人との間に同窓生であるということ以外にほとんど人的関係を有しない者たちの集団であるというべきであり、前記のとおり文書の送付を希望しない旨の連絡があった者などを除外していることを考慮しても、そのような名簿登載者の性質が変わるものではない。そして、そのような集団に対し、前記の程度の文書等の送付とこれに反応した者に対する働きかけを行っても、登載者の一部との間で前記人的関係が築かれることはあっても、登載者の集団全体との間で、推薦依頼をすればこれに応じてくれると相当 、前記の程度の文書等の送付とこれに反応した者に対する働きかけを行っても、登載者の一部との間で前記人的関係が築かれることはあっても、登載者の集団全体との間で、推薦依頼をすればこれに応じてくれると相当程度期待できるような人的関係が築かれるということは考え難く、現にそのような関係が 築かれていたことを示す証拠は存在しない。弁護人は、B大学の卒業生の間には強い同窓意識があると主張するが、仮にそうであるとしても同様である。また、弁護人は、当審において、被告人は選挙の度にB大名簿登載者に電話をかけて投票依頼をしていたという事実を新たに主張するが、仮にそのような事実があったとしても上記の判断が左右されるものではない。 そうすると、B大名簿の登載者は、推薦依頼をすればこれに応じてくれると相当程度期待できるような人的関係が被告人との間に築かれていた集団ではないと認められる。したがって、本件行為のうち本件選挙はがきの宛名書きを含む推薦依頼の部分は、投票を依頼するのと同様の効果を目的として行われた、すなわち得票目的で行われた実質的な投票依頼行為であって、選挙運動に該当し、本件行為は全体として選挙運動に該当すると認められる。 5 弁護人の主張について弁護人は、原判決は、被告人が働きかけをすることによってB大名簿登載者が被告人への支援を期待し得る集団に変わり得ることを認めながら、どの程度の働きかけをすればそのような集団になるのか明確な基準を示していないが、そのような不明確な基準で有罪の判断をすることは、極めて大きな萎縮効果をもたらし、政治活動の自由を過度に制限するもので、選挙運動準備行 かけをすればそのような集団になるのか明確な基準を示していないが、そのような不明確な基準で有罪の判断をすることは、極めて大きな萎縮効果をもたらし、政治活動の自由を過度に制限するもので、選挙運動準備行為に対する規制として不合理であると主張する。しかし、既に述べたとおり、被告人とB大名簿登載者との間に前記のような人的関係が築かれてさえいれば、本件のような推薦依頼等も選挙運動には該当しないと解され、証拠により示されるべきものは働きかけの程度ではなく、人的関係なのであって、その基準は決して不明確なものではない。弁護人は、どの程度の働きかけをすればそのような人的関係が築かれるのかが明確でないというが、一定の人的関係を築くために有効な働きかけには様々な態様のものが考えられ、その効果も様々で、これに対する相手方の受け止め方によっても結果は異なり得るから、必要な働きかけの態様や頻度等を類型化できないのは当然のことである。それは基準が不明確で あるということではない。 弁護人は、原判決の判断のうち、B大名簿の登載者とA名簿の登載者との間には有意な差があるという部分は誤っているとも主張する。この点に関する原判決の判断は、被告人はB大名簿とは別に、被告人と何らかの関係を持ったことのある人物らを登載したA名簿を作成し、これを政治活動等に利用していたが、本件総選挙に当たり、同名簿登載者の一部にも本件封書と同様の封書を送付していたという事実を踏まえ、弁護人が、同名簿登載者に対する送付については選挙運動に該当しないことを前提として、同名簿登載者とB大名簿登載者との間に実質的な差はないと主張したのに対 同様の封書を送付していたという事実を踏まえ、弁護人が、同名簿登載者に対する送付については選挙運動に該当しないことを前提として、同名簿登載者とB大名簿登載者との間に実質的な差はないと主張したのに対し、両名簿の登載者の間には有意な差があるという判断を示したものである。A名簿については、その登載者の性質や被告人との人的関係が十分立証されていないから、弁護人が主張するとおり、B大名簿登載者との間に有意な差があると断定できるのか疑問である。 しかし、弁護人の原審における上記の主張については、そもそもA名簿登載者に対する本件封書と同様の封書の送付行為が選挙運動に当たらないと考える根拠がなく、前提を欠くものといわざるを得ない。したがって、仮にこの点に関する原判決の上記判断が誤っているとしても、これは本件の結論に影響を与えるようなものではない。 6 なお、原判決には、本件行為のうち推薦依頼の部分だけではなく、選挙ポスターの掲示場所の提供依頼等の他の依頼についても前記同様に支援を期待し得る集団かという判断基準を当てはめ、許容される選挙運動の準備行為には当たらないと判断するかのような説明をしている部分がある。しかし、それらについては、依頼の内容によって事情が異なり、本件選挙はがきの宛名書きのように被告人や運動員が行うこともできるとかB大名簿登載者に依頼しても依頼作業に要する労力を上回る効果が期待できないとは必ずしもいえないものがあるし、推薦依頼ほど投票依頼行為に近い効果を有するとはいえないものもあるから、上記の説明部分には疑問がある。しかし、既に述べたとおり、本件行為は 一体の行為で 、本件行為は 一体の行為であり、かつ、そのうち推薦及び宛名書きの依頼の部分は選挙運動に当たると認められるから、それ以外の部分も含め、全体として選挙運動に当たるというべきである。原判決も結局はこれと同趣旨の理由で本件行為は全体として選挙運動に当たるとしているものと解され、その判断に誤りはない。 第3 事実誤認(故意)の控訴理由に対する判断 1 原判決が「争点に対する判断」の第4の項で述べるところは相当であり、事前運動及び法定外選挙運動用文書の頒布のいずれについても被告人に故意を認めた原判決に事実の誤認はない。 2 弁護人は、被告人は、B大学の卒業生の間には強い同窓意識があるという認識をベースとしながら、前記のとおり、B大学卒業生と日常的に深い関わりを持ち、B大名簿登載者に文書の送付等の働きかけを繰り返し、現に同窓会組織の代表者や多くの卒業生から様々な支援を受けてきたことなどから、B大名簿登載者は支援を期待できる人たちになったと認識していたのであって、これは事実の錯誤に当たると主張する。しかし、弁護人が指摘する諸事情は、いずれも、これによってB大名簿登載者の集団全体との間に、推薦依頼をすればこれに応じてくれると相当程度期待できるような人的関係が築かれたと誤解するようなものではない。これらの事情によって被告人が何らかの期待を抱いたとしても、それは願望にすぎず、これによって被告人に事実の錯誤があったと考える理由にはならない。 弁護人は、被告人は被告人の事務員らがB大名簿の登載者から被告人と何らかの関わりを持った者を除外していることを知らなかったから、B大名簿の内容に 人に事実の錯誤があったと考える理由にはならない。 弁護人は、被告人は被告人の事務員らがB大名簿の登載者から被告人と何らかの関わりを持った者を除外していることを知らなかったから、B大名簿の内容についての錯誤があったと主張する。しかし、既に述べたとおり、同名簿の元々の性質等からすれば、被告人による働きかけなどの事実を考慮しても、同名簿登載者の集団と被告人との間に前記のような人的関係が築かれたとは考えられないのである。記録によれば、これに加えて、被告人の事務員らが同名簿登載者から被告人と何らかの関わりを持った者を除外してA名簿に移していた という事実も認められるが、上記の判断は、この事実の有無によって影響を受けるようなものではない。したがって、仮に被告人がこの事実を知らなかったとしても、それは故意の成否に影響するような事情ではない。 第4 得票目的に関する控訴理由に対する判断 1 原判決は、争点に対する判断の項において、「本件封書の・・・被送付者が被告人の支援者ではない者であった場合、・・・実質的には、被送付者に対し、被告人に投票することを呼びかけるのと同様の効果を目的としたものといわざるを得ない」とした上、「そうすると、・・・被送付者と被告人との間に選挙運動の準備行為を期待し得る人的関係があったか否かについて、検討することが必要になる」とし、引き続き、被告人と被送付者であるB大名簿登載者との人的関係について検討し、同名簿の登載者は、元々「選挙はがきの宛名書き・・・までをも期待し得る集団とは到底いえない」し、被告人が行った働きかけ等を考慮しても、「被送付者は・・・支援 大名簿登載者との人的関係について検討し、同名簿の登載者は、元々「選挙はがきの宛名書き・・・までをも期待し得る集団とは到底いえない」し、被告人が行った働きかけ等を考慮しても、「被送付者は・・・支援が期待し得る集団であったとはいえない」から、本件行為は選挙運動に当たるとしている。原判決のこの判断は、確かに本件行為が得票目的をもって行われたということを明示的に示しているものではないものの、その全体を通じて読めば、本件行為は「被告人に投票することを呼びかけるのと同様の効果を目的としたもの」、すなわち得票目的をもって行われたものであると認定する趣旨であることが明らかである。 2 したがって、原判決は得票目的を認定しているのであって、その点において理由不備も法令適用の誤りもなく、審理不尽の法令違反もない。また、この点の判断に事実誤認がないことは、既に前記第2で判断を示したとおりである。 第5 憲法違反等の控訴理由に対する判断 1 原判決が事前運動の一律禁止は政治活動の自由を侵害するもので憲法に違反するとの弁護人の主張に対し、これを排斥する理由として述べるところは相当である。すなわち、公職の選挙につき、常時選挙運動を行うことを許した場合には、不当、無用な競争を招き、不正行為の発生等により選挙の公正を害する に至るおそれがあるうえ、経費や労力がかさみ、経済力の差による不公平が生じ、ひいては選挙の腐敗をも招来するおそれがあるから、このような弊害を防止し、選挙の公正を確保するため、選挙運動をすることができる期間を規制し、事前運動を禁止することは、憲法21条の保障する表現の自由に対す ては選挙の腐敗をも招来するおそれがあるから、このような弊害を防止し、選挙の公正を確保するため、選挙運動をすることができる期間を規制し、事前運動を禁止することは、憲法21条の保障する表現の自由に対する必要で合理的な制限であり、同条に違反するものではないし、憲法の他の法条に違反するものでもない。 2 弁護人は、正当な運動はどれだけなされても不当、無用な競争を招くわけではないし、選挙の公正が害されるのは買収等の不正行為によるものであるから、事前運動を一律に禁止しなくても、不当な選挙運動や不正行為を個別に規制すれば選挙の公正を確保することができると主張する。しかし、正当な選挙運動と不当、無用な選挙運動を区別して後者のみを規制するということは事実上困難であるから、事前運動を解禁すれば不当、無用な競争を招くおそれがあることは否定できず、そうなれば、買収等も含めて不正行為が発生するおそれが高くなることも否定できない。また、その結果発生した不正行為を全て摘発するということも容易なことではない。したがって、選挙の公正を確保するため、一律に事前運動を禁止することに一定の合理性があることは明らかである。 弁護人は、事前の段階であっても政治活動は無制限に可能であると主張する。 その趣旨は、事前運動のみを禁止しても政治活動として不当、無用な競争が行われることは防げないから、選挙の公正を確保することにはつながらないというものではないかと思われる。しかし、選挙運動とこれに当たらない政治活動とを同列に論じることはできない。確かに、選挙運動には当たらない政治活動が不正行為につながり、選挙の公正を害することもあり得ないことではないが、だからといって事前運動を禁止することが不正行為を防止し、選挙の公正を確保することにつながらないとはいえない。 弁護人は、政治活 につながり、選挙の公正を害することもあり得ないことではないが、だからといって事前運動を禁止することが不正行為を防止し、選挙の公正を確保することにつながらないとはいえない。 弁護人は、政治活動の自由は民主主義を支えるものであって、最大限保障されなければならないから、これを制限する必要がある場合であっても、制限は 必要最小限でなければならず、他のより制限的でない方法により目的が達成できるのであれば許されないと主張する。しかし、選挙の公正もまた、民主主義を支える重要な利益であるから、これを確保するために必要で合理的なものであれば、ある程度政治活動の自由を制限することも許されるというべきである。 政治活動の自由の重要性から直ちに厳格な憲法判断の基準を採用すべきであるという弁護人の主張は採用できない。 3 弁護人は、仮に事前運動の一律禁止が憲法に違反しないとしても、制限を最小限のものにするため、禁止される行為の範囲を一般選挙人に対する直接的な投票依頼行為に限定して解釈すべきであると主張する。しかし、既に述べたとおり、本件行為は、形式的には投票を依頼するものでないが、投票を依頼するのと同様の効果を得る目的で行われた実質的な投票依頼行為であると認められ、その相手方も多数に及ぶから、仮に、政治活動の自由の重要性に鑑みて禁止の範囲を限定的に解釈するとしても、そのような本件行為が禁止の範囲から外れるような解釈が相当なものであるとは考えられず、弁護人の主張は採用できない。 令和5年7月19日大阪高等裁判所第2刑事部裁判長裁判官長井秀典裁判 から外れるような解釈が相当なものであるとは考えられず、弁護人の主張は採用できない。 令和5年7月19日大阪高等裁判所第2刑事部裁判長裁判官長井秀典裁判官杉田友宏裁判官野口卓志
▼ クリックして全文を表示