- 1 -平成29年2月9日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成26年(ワ)第1195号損害賠償等請求事件口頭弁論終結日平成28年11月16日判決(当事者の表示省略) 主文 原告の請求をいずれも棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は,原告に対し,100万円及びこれに対する平成23年7月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は,原告に対し,別紙物件目録(注:同目録は省略しています。)記載3所在の「A保育園」(以下「本件保育園」という。)からの騒音を,本件保育園の敷地に隣接する土地との境界線上において,50dB(LA5)以下となるような防音設備を設置せよ。 第2 事案の概要本件は,被告が平成18年4月1日に開園した本件保育園の近隣に居住する原告が,本件保育園の園児が園庭で遊ぶ際に発する声等の騒音が受忍限度を超えており,日常生活に支障を来し,精神的被害を被っていると主張し,不法行為による損害賠償請求権に基づき,一部請求として,慰謝料100万円及びこれに対する不法行為以降の日である平成23年7月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合の遅延損害金の支払を求めるとともに,人格権に基づき,本件保育園の敷地北側境界線(以下「本件境界線」という。)上において本件保育園からの騒音が50dB(LA5)以下となるような防音設備の設置を求める事案である。 1 前提となる事実(当事者間に争いがないか,掲記した証拠により容易に認定 - 2 -できる事実)(1) 当事者等ア原告は,別紙物件目録記載1の土地上 設置を求める事案である。 1 前提となる事実(当事者間に争いがないか,掲記した証拠により容易に認定 - 2 -できる事実)(1) 当事者等ア原告は,別紙物件目録記載1の土地上に建てられた同目録記載2の建物(以下「原告宅」という。)に居住する者である。 イ被告は,第二種社会福祉事業である保育所の経営(社会福祉法2条3項2号)等を目的とする社会福祉法人であり,別紙物件目録記載3の土地上に建てられた同目録記載4の建物(以下「本件保育園施設」という。)において,平成18年4月1日から本件保育園を運営している者である。 (2) 原告宅及び本件保育園施設周辺の状況原告宅は,別紙図面のとおり,本件高速道路,これと並行してほぼその真下を走る本件国道から約30mの距離に位置している。また,原告宅敷地東側境界線に接する道路を挟んだ東側には,B川に沿う形のC公園があり,そのほぼ頭上をD線が走っている。 本件保育園の北側敷地境界線は,原告宅敷地南側境界線と約10mの距離にある。 原告宅及び本件保育園が所在している地域(以下「本件地域」という。)は,都市計画法の用途地区における第一種住居地域(同法8条1項1号)に指定されている(甲2,乙1)。 2 環境騒音の表示及び測定方法について(1) 騒音の表示,単位等(甲18,30,弁論の全趣旨)ア騒音レベルの単位一般に,騒音の大きさは,人間の感度が異なる音の周波数に対してA特性と呼ばれる聴感補正を施した音圧レベルで,デシベル(dB)を単位とするのが一般的である(なお,計量法4条1項,別表第2においても音圧レベルの単位は,デシベルとすることとされている。)。 イ時間率騒音レベル時間率騒音レベルは,ある時間範囲において測定した騒音レベルが,対象とする - 3 -時 ,別表第2においても音圧レベルの単位は,デシベルとすることとされている。)。 イ時間率騒音レベル時間率騒音レベルは,ある時間範囲において測定した騒音レベルが,対象とする - 3 -時間の何%(n%)を占めているかを表すもので,単位はデシベル(dB)である。 時間率騒音レベルを表す場合には,「LAn」のように表記され,「A」はA特性を意味し(省略されることもある。),「n」には上記n%の数値を入れて表される。 例えば,一定の時間のうち50%にわたって測定された騒音レベルは,「LA50」と表記され,これを中央値ともいう。また,一定の時間の90%レンジの上端値は「LA5」,その下端値は「LA95」と表記される。 ウ等価騒音レベル等価騒音レベル(equivalentcontinuousA-weightedsoundpressurelevel)は,変動する騒レベルをエネルギー的な平均値として表した量であり,単位はデシベル(dB)である。等価騒音レベルを表す場合には,「LAeq」のように表記される。LAeqは,環境基準及び作業環境騒音の評価に用いられている。 等価騒音レベルの算出方法は,次の式による(甲18)。 LAeq=10log10{ T∫P (t)Pdttt}(T=測定時間(t1~t2),PA(t)=A特性音圧,P0=基準音圧(20μPa))また,実際の測定値から等価騒音レベルを算出する場合は,次の式による。 LAeq=10・log10(Σ10Li/10)-10・log10N(Li=一定間隔で測定した第i 番目の騒音レベルのサンプル値(dB),N=時間Tにおけるサンプル値の総数)エ時間重み特性Fの最大値時間重み特性Fの最大値とは,騒音計の動特性Fast で計測した各瞬間時値の最 定した第i 番目の騒音レベルのサンプル値(dB),N=時間Tにおけるサンプル値の総数)エ時間重み特性Fの最大値時間重み特性Fの最大値とは,騒音計の動特性Fast で計測した各瞬間時値の最大値のことをいい,「LPA,Fmax」のように表記される。 (2) 騒音の測定方法騒音測定方法は,日本工業規格(JIS)Z8731の定めた方法によるのが通例である。同規格によると,騒音計は,計量法71条の条件に適合したものを用いるものとされ,屋外における測定は,可能な限り地面以外の反射物から3.5m以A2 - 4 -上離れた位置で測定し,測定点の高さは,原則として,地上1.2~1.5mとするものとされている(甲18,弁論の全趣旨)。 3 騒音に関する基準の状況等(1) 騒音に係る環境基準(甲8。以下「環境基準」という。)ア環境基本法16条1項は,「政府は,大気の汚染,水質の汚濁,土壌の汚染及び騒音に係る環境上の条件について,それぞれ,人の健康を保護し,及び生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準を定めるものとする。」と規定しており,環境省は,環境基準(平成10年9月30日環境庁告示第64号。現在は,平成24年3月30日環境省告示第54号による改正がされている。)を定めている。 環境基準は,地域を類型化し,昼間(午前6時から午後10時までの間)及び夜間(午後10時から翌日の午前6時までの間)ごとに次の(表1)の基準値の欄に掲げられた騒音レベルを達成又は維持することが望ましいとしている(以下,上記表1で定められた基準値を「基本指針値」という。)。 ただし,表2に掲げる地域に該当する地域については,表1によらず,表2の基準値のとおりとされ,さらに,幹線交通を担う道路に近接する空間(以下「幹線道 1で定められた基準値を「基本指針値」という。)。 ただし,表2に掲げる地域に該当する地域については,表1によらず,表2の基準値のとおりとされ,さらに,幹線交通を担う道路に近接する空間(以下「幹線道路近接空間」という。)については,表2にかかわらず,表3の基準値のとおりとしている。上記幹線交通を担う道路とは,道路法3条に規定する高速自動車国道,一般国道,都道府県道及び市町村道である。また,幹線道路近接空間とは,2車線を越える車線を有する幹線交通を担う道路においては,道路端から20mの距離の範囲をいうものとされている(乙3)。 基本指針値において,「AA」を当てはめる地域は,療養施設,社会福祉施設等が集合して設置される地域など特に静穏を要する地域,「A」を当てはめる地域は,専ら住居の用に供される地域,「B」を当てはめる地域は,主として住居の用に供される地域,「C」を当てはめる地域は,相当数の住居と併せて商業,工業等の用に供される地域とされており,本件地域は,神戸市長により,「B」を当てはめる - 5 -地域として指定されている(乙3)。 (表1〔基本指針値〕)地域の類型基準値昼間夜間AA50デシベル以下40デシベル以下A及びB55デシベル以下45デシベル以下C60デシベル以下50デシベル以下(表2)地域の区分基準値昼間夜間A地域のうち2車線以上の車線を有する道路に面する地域60デシベル以下55デシベル以下B地域のうち2車線以上の車線を有する道路に面する地域及びC地域のうち車線を有する道路に面する地域65デシベル以下60デシベル以下(表3)基準値昼間夜間70デシベル以下65デシベル以下環境基準における騒音の評 地域及びC地域のうち車線を有する道路に面する地域65デシベル以下60デシベル以下(表3)基準値昼間夜間70デシベル以下65デシベル以下環境基準における騒音の評価手法は,等価騒音レベル(LAeq)によるものとし, - 6 -時間の区分ごとの全時間を通じた等価騒音レベルによって評価することを原則とし,騒音の測定方法は,日本工業規格(JIS)Z8731によるものとしている。 イ環境基準は,平成10年中央環境審議会騒音振動部会騒音評価手法等専門委員会の報告「騒音の評価手法等の在り方について」において,屋内での会話への影響が生じ得る騒音レベルが45dB,夜間は35dBを超えると睡眠に影響することを出発点とし,騒音影響に関する屋内指針を昼間45dB以下,夜間35dB以下と定め,一般的な窓の防音性能を考慮した場合,屋外の騒音レベルと屋内との騒音レベルの差は,窓を閉めた状態で25dB,ある程度窓を開けた状態で15dB,窓を開けた状態で10dBの減衰量をそれぞれ期待することができることを踏まえ,A及びB地域において,窓を開けた状態での生活実態を考慮して建物の防音効果を10dBと見込んで,屋外の騒音レベルを昼間で55dB,夜間で45dBとすれば,上記屋内指針を満たすことができるものとして定められたものである(甲30,弁論の全趣旨)。 (2) 騒音規制法及び同法に基づく神戸市における地域指定の状況ア騒音規制法は,工場及び事業場における事業活動並びに建設工事に伴って発生する相当範囲にわたる騒音について必要な規制を行うとともに,自動車騒音に係る許容限度を定めること等により,生活環境を保全し,国民の健康の保護に資することを目的とし(1条),都道府県知事(市の区域内の地区については,市長。)は,住居が集合して 行うとともに,自動車騒音に係る許容限度を定めること等により,生活環境を保全し,国民の健康の保護に資することを目的とし(1条),都道府県知事(市の区域内の地区については,市長。)は,住居が集合している地域,病院又は学校の周辺の地域その他の騒音を防止することにより住民の生活環境を保全する必要があると認める地域を,特定工場等において発生する騒音及び特定建設作業に伴って発生する騒音について規制する地域として指定しなければならず(3条1項),都道府県知事あるいは市長が当該地域を指定するときは,環境大臣が特定工場等において発生する騒音について規制する必要の程度に応じて昼間,夜間その他の時間の区分及び区域の区分ごとに定める基準の範囲内において,当該地域について,これらの区分に対応する時間及び区域の区分ごとの規制基準を定めなければならないとしている(4条1項)(以下,上記指 - 7 -定された地域を「指定地域」という。)。 イ神戸市長は,同法及び兵庫県の環境の保全と創造に関する条例(平成7年条例第28号。以下「本件条例」という。)に基づき,神戸市内の指定地域及び規制基準を次の表のとおり定めている(平成25年神戸市告示第819号〔甲2,乙1〕)。 また,指定地域内に特定工場等を設置している者は,当該特定工場等の敷地境界線において,次表の規制基準(以下「騒音基準」という。)を遵守すべき基準と定めている(昭和61年神戸市告示第253号〔乙1〕)。 (表) 昼間(午前8時~午後6時)朝(午前6時~午前8時),夕(午後6時~午後10時)夜間(午後10時~午前6時)第1種区域50dB45dB40dB第2種区域60dB50dB45dB第3種区域65dB60dB50dB第4種区域70dB 午後10時~午前6時)第1種区域50dB45dB40dB第2種区域60dB50dB45dB第3種区域65dB60dB50dB第4種区域70dB70dB60dB上記表の区域の指定は,概ね,都市計画法における用途地域の指定に合わせ,第一種低層住居専用地域,第二種低層住居専用地域を第1種区域に,第一種中高層住居専用地域,第二種中高層住居専用地域,第一種住居地域,第二種住居地域,準住居地域及び市街化調整区域を第2種区域に,近隣商業地域,商業地域及び準工業地域を第3種区域に,工業地域,工業専用地域(内陸部に限る)を第4種区域に指定するものとされている。 本件地域は,第一種住居地域であり(前提となる事実(2)),神戸市長により第2種区域に指定されている(乙3)。 ウ騒音規制法における騒音の測定方法は,「特定工場等において発生する騒音の規制に関する基準」(昭和43年厚生省,農林省,通商産業省,運輸省告示第1号)において,日本工業規格(JIS)Z8731によるものとされ,騒音の大き - 8 -さの決定は次のとおりとされている(乙1の6頁,弁論の全趣旨)。 騒音計の指示値が変動せず,又は変動が少ない場合は,その指示値とする。 騒音計の指示値が周期的又は間欠的に変動し,その指示値の最大値がおおむね一定の場合は,その変動ごとの指示値の最大値の平均値とする。 騒音計の指示値が不規則かつ大幅に変動する場合は測定値の90パーセントレンジの上端の数値(LA5)とする。 騒音計の指示値が周期的又は間欠的に変動し,その指示値の最大値が一定でない場合は,その変動ごとの指示値の最大値の90パーセントレンジの上端の数値(LA5)とする。 (3) その他騒音に係る基準等について本件保育園 的又は間欠的に変動し,その指示値の最大値が一定でない場合は,その変動ごとの指示値の最大値の90パーセントレンジの上端の数値(LA5)とする。 (3) その他騒音に係る基準等について本件保育園が所在する神戸市においては,本件条例に基づき,音響機器(カラオケ等)や商業宣伝のために使用する拡声器について,その使用方法,使用時間等の規制がされているものの,保育園を対象とした騒音の基準を定めた条例はない(甲2,30,弁論の全趣旨)。 4 争点及び当事者の主張(1) 本件保育園の園庭からの園児の声等が受忍限度を超える違法なものか(争点1)【原告の主張】ア本件保育園が平成18年4月に開設されて以来,平日において,本件境界線上で70dBを超える騒音が発生している。特に,園児が園庭で遊ぶ午前8時頃から午後0時頃までを中心とした時間帯と午後4時30分頃から午後6時頃までを中心とした時間帯は,園児の声,スピーカー音,太鼓の音,職員によるハンドマイクによる指示や注意等により騒音が激しく,本件境界線上に限らず,原告宅においても,平均して60dBを超える騒音が発生している。また,本件保育園には,夏休み,冬休みといった,長期間の休園期間がなく,1年を通じて,本件保育園からの騒音が継続している。 - 9 -イ騒音規制法は,工場及び事業場における事業活動等に伴って発生する相当範囲にわたる騒音について必要な規制を行い,生活環境を保全し,国民の健康の保護に資するため,都道府県及び市町村において,特定工場等において発生する騒音の規制基準を定めることとしているところ(同法4条),神戸市は,同法を受けて,本件保育園及び原告宅が該当する第2種区域に特定工場を設置している者に対して,昼間(午前8時から午後6時まで)の時間帯において,当該特定工場等の としているところ(同法4条),神戸市は,同法を受けて,本件保育園及び原告宅が該当する第2種区域に特定工場を設置している者に対して,昼間(午前8時から午後6時まで)の時間帯において,当該特定工場等の敷地境界線上の騒音を60dB以下とするよう定めている。騒音規制法は,特定工場等を直接の規制対象としているが,騒音により被害を被っている者において,騒音源の種類がなんであるかは関係がないのであって,騒音基準は,本件保育園からの騒音レベルにおいても,基本的に妥当するというべきである。 また,環境基本法は,騒音を含めた環境上の条件について,政府は,人の健康を保持し,生活環境を保全する上で維持されることが望ましい基準を定めるものとし(同法16条1項),神戸市内の区域においては,神戸市長が騒音の基準を指定しているところ,専らあるいは主として住居の用に供される地域(A又はB地域)については,昼間(午前6時~午後10時)の時間帯で55dB(LAeq)以下,夜間(午後10時~午前6時)の時間帯で45dB(LAeq)以下と定めており,発生源の種類を問題としていないのであるから,昼間で55dBを超える騒音レベルが発生している場合は受忍限度を超えるものというべきである。 そして,平成27年6月17日に行われた鑑定(以下「本件鑑定」という。)の結果によれば,原告宅敷地内で測定した騒音レベルが57dBであるから,同値から10dBを差し引くと,屋内において昼間の時間帯で47dBが測定されており,屋外から屋内へ音が伝わる間の減衰を考慮しても,本件保育園からの騒音は,会話に影響するレベルに達しているといえる。 このように,行政は,騒音を発生させる施設に対して住民の健康や安全が害されることのないように規制を設けているのであるから,本件保育園から生じる騒音が受忍限度を超え するレベルに達しているといえる。 このように,行政は,騒音を発生させる施設に対して住民の健康や安全が害されることのないように規制を設けているのであるから,本件保育園から生じる騒音が受忍限度を超えるか否かについては,上記規制基準は十分考慮に値するものである。 - 10 -被告は,本件地域が本件高速道路,本件国道及びD線による交通騒音の影響を受ける地域にあることを理由に,原告宅で測定される騒音レベルに本件保育園からの音は関係がないと主張するが,原告宅で測定される騒音レベルが,本件保育園に園児がいない時間帯に比べて本件保育園に園児がいる時間帯において上がっていることからすれば,本件保育園からの騒音が原告宅での騒音レベルに関係していることは明らかであって,被告の上記主張は理由がない。 ウ加えて,原告は,本件保育園が開設されるまでの平成16年7月から平成17年9月にかけて7回行われた被告による近隣説明会において,毎回,近隣の騒音に関する生活環境を保全する措置を講ずるよう要求してきた。ところが,被告は,原告の要求に応じるどころか,一方的に高さ3mの塀を作ると宣言して工事を強行した上,本件保育園の敷地南側に園庭を設ける当初の設計を変更し,敷地北側に園庭を設け,同敷地南側に建物を設置する設計に変更したため,園庭で発生する園児の騒音が敷地南側に接する道路方面に抜けず,また,建物による騒音の緩衝効果もなくなった。その上,被告は,近隣説明会において説明していた本件保育園の定員数90名を上回る143名もの園児を受け入れており,近隣住民の信頼を裏切り,住民に対する騒音に何ら配慮せずに本件保育園を開設し,運営している。 エ被告は,本件保育園の公共性を強調して本件保育園からの騒音が受忍限度を超えないと主張する。騒音源の公共性が受忍限度の判断要素と 民に対する騒音に何ら配慮せずに本件保育園を開設し,運営している。 エ被告は,本件保育園の公共性を強調して本件保育園からの騒音が受忍限度を超えないと主張する。騒音源の公共性が受忍限度の判断要素となることは否定しないが,保育園の公共性は,子供を育てる親の利益であり,原告は何ら恩恵を受けていないのであるから,保育園の公共性を過度に主張して受忍限度を緩やかにすることは誤りである。また,原告は,数十年にわたって現在の住所地に居を構え,以来現在まで同地に居住してきたところ,突如,平成18年頃に,被告が本件保育園を開設し,原告の平穏な生活を脅かしたのである。子供一人の声であればそれほど大きいものではないが,これが十人,百人と集まれば,不快で耐えきれるものではない。 オ以上のとおり,被告は,本件保育園から原告宅に受忍限度を超える騒音を発 - 11 -生させており,不法行為が成立する。 【被告の主張】ア本件地域は,我が国有数の自動車騒音発生地域である本件国道,幹線道路である本件高速道路及びD線沿線地域であるところ,本件国道は,国土交通省の調査の結果,原告宅の住所地を挟む芦屋市a及び神戸市b区cの2地点において,いずれも65dB以上の騒音が計測されたことのある地域である。また,本件鑑定において,D線の南行走行時で時間重み特性騒音レベル(LPA,Fmax)58.7dB,北行走行時で同61.4dBが観測されている。このように,原告宅付近においては,本件国道,本件高速道路及びD線からの騒音が日常的に発生しており,原告宅で測定される騒音は,本件保育園と関係があるものではない。 イ本件保育園から発生する騒音が受忍限度を超えて他者に対する不法行為を構成するか否かは,当事者間の様々な利益を総合的に考慮して判断されるべきである。 騒音規制法は, 園と関係があるものではない。 イ本件保育園から発生する騒音が受忍限度を超えて他者に対する不法行為を構成するか否かは,当事者間の様々な利益を総合的に考慮して判断されるべきである。 騒音規制法は,金属加工機械,空気圧縮機,鉱物用の破砕機等著しい騒音を発生させる工業用機械を設置した特定工場・特定作業所に対する規制基準であり,騒音規制法上の基準をもって,本件保育園からの騒音の受忍限度の指標とすべきではない。そもそも,園児が園庭で遊ぶ際に発せられる音というような日常生活で発生する音が,他人に対して騒音となるか否かは,多分に主観的,感覚的,心理的なものであって,個人差があり,騒音規制法が規制の対象としている特定工場等からの騒音とはその性質を異にし,本件保育園からの園児の声と特定工場等から発せられる音とを同列に論じることは相当でなく,本件においては,侵害行為とされている本件保育園が有する公共性・公益性,侵害行為の継続性の有無・程度,侵害者とされる被告の侵害行為の防止に向けられた対応,被侵害者とされる原告の生活状況等を考慮して総合的に判断されるべきである。そして,本件保育園から発生する音は,園児が園庭でのびのび遊んでいるときに発生する声や,保育士たちが子供を指導する際に生じる音などを主としており,工場や道路等のいわゆる産業騒音ではなく,園児たちの健全な発育や指導に伴って不可欠に生じる音である。このように,本件 - 12 -保育園から発生する園児の声は,子どもの健全な成長の過程で生じるものであるし,保護者らの子どもを健全に養育する権利にも直結しており,公共性・公益性が認められる。また,本件保育園から発生する音は,園庭で園児が遊んでいる時間に生じるにすぎず,その時間は,一日のうち数時間程度であり,その時間帯も正午前と夕方に限られている。加えて, 公共性・公益性が認められる。また,本件保育園から発生する音は,園庭で園児が遊んでいる時間に生じるにすぎず,その時間は,一日のうち数時間程度であり,その時間帯も正午前と夕方に限られている。加えて,本件鑑定によれば,園児が園庭にいることによる騒音レベルの上昇も,原告宅敷地において5dBに満たないのであって,本件保育園から発生する音の継続性やその程度も僅かである。さらに,原告は,自宅において,特に静ひつを必要とする職に従事しているとか,昼夜逆転の生活を送る必要があるという事情は存しない。仮に,原告宅で測定される騒音レベルの受忍限度を環境基準に照らして検討するとしても,本件国道及び本件高速道路は騒音に係る環境基準における幹線交通を担う道路にあり,幹線道路近接空間における騒音基準値は,昼間(午前6時から午後10時まで)において,70dB以下とされており,原告宅は,上記両道路から30m以内の距離にあることからすれば,原告宅における騒音レベルの指標は,幹線道路近接空間に適用される騒音レベルに準じるべきである。 更に,原告宅付近にはD線が走行していることも併せると,原告宅は,もともと上記両道路及びD線による騒音の著しい影響を受ける地域に所在しているといえ,このことも考慮すべきである。加えて,被告は,本件保育園の設置に際し,近隣住民への説明会を開催し,本件保育園の敷地と隣接する敷地との境界線に高さ3mの防音壁を設置し,また本件保育園の近隣住民宅の数軒に対し,被告の負担において,防音サッシを設置するなど,本件保育園から発生する園児の声が軽減するような措置を講じてきた。 ウ以上の事情に照らせば,原告の主張は極めて主観的なものであり,本件保育園から発生する園児の声等が,社会生活上の受忍限度を超える違法なものであるということはできない。 (2) 被告の防 きた。 ウ以上の事情に照らせば,原告の主張は極めて主観的なものであり,本件保育園から発生する園児の声等が,社会生活上の受忍限度を超える違法なものであるということはできない。 (2) 被告の防音設備の設置義務の有無(争点2)【原告の主張】 - 13 -上記(1)のとおり,本件保育園から発せられる園児の声は,原告に対する関係で受忍限度を超えており,違法であり,原告の人格権が侵害されているのであるから,本件保育園を運営する被告は,原告に対し,損害賠償義務を負うとともに,本件敷地境界線上において,本件保育園からの騒音レベルが50dB(LA5)以下となるような防音設備を設置する義務を負う。 原告が求める防音設備の設置請求は,園児を園庭に出してはいけないとか,園児を泣かせたりしてはならないなどというような請求ではなく,園児が園庭で自由に遊び,学習する利益を何ら害するものではなく,被告の事業活動を制約するものではない。このように,防音設備の設置請求は,本件保育園の事業活動の差止請求とは利益状況が異なるものであるから,差止請求における厳格な利益衡量は,本件には適さないというべきである。 【被告の主張】本件保育園から発せられる園児の声が,原告の受忍限度を超えているということはできない。そもそも,上記(1)で主張したとおり,原告宅で測定される騒音レベルは,本件国道,本件高速道路及びD線からの騒音によるものであり,本件保育園から発せられる園児の声等との因果関係を欠くものであって,被告が原告に対して防音設備の設置義務を負うことはない。 (3) 損害額(争点3)【原告の主張】原告は,本件保育園が設置されて以降,平日のほぼ毎日,1日数時間もの間,55dB(LA5)を超える騒音にさらされてきたのであり,これにより,原告に重大 (3) 損害額(争点3)【原告の主張】原告は,本件保育園が設置されて以降,平日のほぼ毎日,1日数時間もの間,55dB(LA5)を超える騒音にさらされてきたのであり,これにより,原告に重大な精神的苦痛が生じていることは明らかである。 具体的には,本件保育園からの騒音により,家族間の会話もままならず,電話による通話も妨害され,テレビやラジオの視聴・聴取にすら支障を来してストレスを感じており,また,家族間の会話も妨害されるため,コミュニケーションがうまくいかなくなり,家族との関係もぎくしゃくする。そして,それを意識するあまり, - 14 -更に家族の関係が悪化し,気分が落ち込むことになる。 しかも,原告は,本件保育園の園児がいつ園庭に出て遊び,声を上げるかわからず,また,いつ静まるかもわからないため,本件保育園の開園時間は常時不安にさらされる。それを避けるため,窓を閉め切って過ごすことを余儀なくされ,ストレスが溜まる。 そもそも,自宅は,本来,人が安息を得るための場所であるにもかかわらず,原告は,何ら落ち度もなく,本件保育園から発生する騒音により,そのような安息の場を奪われたのであり,過去3年間分の苦痛を慰謝するには,100万円を超えるものであるが,本件においては,その一部である100万円を損害として請求する。 【被告の主張】争う。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実証拠(括弧内に掲記したもの。なお,原告本人に付した頁数は,原告本人調書の頁数を表す。)及び弁論の全趣旨によれば,前記前提となる事実に加え,次の事実が認められる。 (1) 原告宅及び本件保育園の周辺の状況ア原告宅及び本件保育園施設が所在する本件地域は,本件高速道路,本件国道及びD線の沿線に位置する住宅街である。 本件地区は,都市計画法上 認められる。 (1) 原告宅及び本件保育園の周辺の状況ア原告宅及び本件保育園施設が所在する本件地域は,本件高速道路,本件国道及びD線の沿線に位置する住宅街である。 本件地区は,都市計画法上,住居の環境を保護するため定める地域である第一種住居地域(8条1項1号,9条5項)に指定されており,前記騒音に関する基準の状況等(第2の3(1),(2))のとおり,環境基準における地域の類型はBを当てはめる地域に当たり,騒音基準における地域の区域は第2種区域に指定される地域である。 イ本件高速道路は,往復4車線を有する高速道路で,本件国道は,往復6車線を有する国道であり,両道路共に,大阪市と神戸市を結び,本件地域を通過する幹 - 15 -線道路である。本件地域付近において,本件高速道路と本件国道は,ほぼ並走して敷設されている(乙3,弁論の全趣旨)。 (2) 原告の居住歴,原告の生活状況ア原告は,昭和42年頃から原告宅にて居住しており,現在は,妻及び子1名と同居している(原告本人21頁)。 イ原告は,本件保育園が開設される前に勤めを終え,現在は,一日を通じて,概ね原告宅で過ごす生活をしている(原告本人22頁)。 (3) 保育園の開設までの経緯ア近隣住民に対する説明会の経緯被告は,平成16年7月以降,本件保育園の周辺住民に対し,本件保育園の新築工事の計画及び工事に関する説明会を開催した。同説明会には,被告のF施設長と本件保育園施設の設計監理を行う株式会社Gの担当者H等が出席し,本件保育園の近隣住民に対して本件保育園の事業概要,本件保育園施設の設計内容,建築工事の予定等を説明した。第1回,2回の説明会において,近隣住民から,主に,本件保育園の園児が発する声等による騒音,健康被害の懸念が示され,保育園施設を防音ガラスにし 本件保育園施設の設計内容,建築工事の予定等を説明した。第1回,2回の説明会において,近隣住民から,主に,本件保育園の園児が発する声等による騒音,健康被害の懸念が示され,保育園施設を防音ガラスにしたり,敷地境界線に建てる塀は防音性のあるものにしてほしいなどの要望が出されるなどした。また,第2回説明会では,住民から,現在の住環境をできるだけ維持するため,建物の構造,仕組みをよく検討すべきだ,園庭を西側から東側に移すよう検討してほしいなどの意見がだされた(甲33,35,乙28)。 被告は,近隣住民の上記意見を踏まえ,保育園施設の設計の変更を検討した。 当初の保育園施設の設計は,園庭を敷地の南側に設置し,園庭北側を囲うようにして保育園施設を設置するものであったが,被告は,同設計では,園庭で遊戯する園児の声等が本件保育園の敷地南側境界を挟んで南方にある高層マンション(全88戸)に跳ね返り反響し,多くの近隣住民に影響が及ぶと考え,できるだけその影響を小さくするため,保育園施設の設計を変更することとした。被告は,本件保育園の敷地北側境界で接するI宅の本件保育園敷地境界付近に植栽されている樹木によ - 16 -る騒音の減衰効果やB川河川敷方向に園児の声が拡散することによる騒音の減衰効果に加え,上記Iが本件保育園の設置に対して特段異議を述べていなかったこと等から,園庭開口部を本件保育園の敷地東側及び北側に向け,園庭の西側及び南側を本件保育園施設で取り囲むような現況のとおりの設計に変更し,その旨を平成17年6月18日の第4回説明会において近隣住民に対して説明した(甲39~41,乙22の2)。 同年7月16日の第5回説明会において,F施設長は,近隣住民からそれまで質問のあった事項として,本件保育園の施設用地の選定の経緯,本件保育園の建設に当たり 明した(甲39~41,乙22の2)。 同年7月16日の第5回説明会において,F施設長は,近隣住民からそれまで質問のあった事項として,本件保育園の施設用地の選定の経緯,本件保育園の建設に当たり考慮した事項等を説明した。具体的には,F施設長は,上記選定の経緯につき,神戸市b区の保育所が不足している神戸市の依頼を受け,阪神電鉄沿線であること,既設の保育所と競合しない距離(500m程度離れていること)を保つこと,敷地面積を300坪(約1000㎡)以上確保できること,最寄駅から徒歩10分程度の距離にあること,周囲に工場等がないこと等の条件を満たす土地として本件保育園敷地を選定したことを説明し,本件保育園の建設に当たり考慮した事項の一つとして,本件保育園の園児の声についての対策に関し,神戸市d区所在の園児170人が在籍する既設保育園において同年6月に実施された騒音測定結果を紹介した。同騒音測定は,同保育園の敷地と隣接地との境界線(園庭)における午前8時30分から午後6時までの騒音レベル(LAeq,LA5)並びに同保育園の遊戯室とバルコニーで測定した騒音レベル(LAeq,LA5)及びそのレベル差(LAeq)を計測したものである(乙22の3)。 原告は,同年8月17日,原告宅を訪れたGのHから,本件保育園の園庭の騒音レベルを推定すると,等価騒音レベル(LAeq)71.8dB,時間率騒音レベル(LA5)78.5dBとなるとの説明を受け,同月18日の近隣説明会において,F施設長らに対し,Hから説明された上記推定値の内容を示して根本的な騒音対策の必要性を訴えるなどした(甲45,53,61,乙22の1~3,原告本人5頁)。 同年9月17日に開催された第7回説明会に,F施設長,Hに加え,被告代 - 17 -理人J弁護士が出席し,騒音に関する法令 えるなどした(甲45,53,61,乙22の1~3,原告本人5頁)。 同年9月17日に開催された第7回説明会に,F施設長,Hに加え,被告代 - 17 -理人J弁護士が出席し,騒音に関する法令の説明などがされた。原告は,前回の説明会と同様,本件保育園から生じる騒音レベルの推定値を説明し,同値は環境基準法が基準とする等価騒音レベル(LAeq)55dBから大きくかい離していること等を指摘した上,上記推定値を基にして本件保育園の防音設備等を設計してほしいとの要望を伝えた。 J弁護士は,環境基本法をベースにして本件保育園の騒音対策を講じることに努めたい旨回答し,F施設長ら被告側出席者は,原告の要望に対して2か月程度の検討期間がほしいなどと回答した(甲54,原告本人6頁)。 その後も,原告とJ弁護士との間で本件保育園の騒音対策についての折衝が行われ,同年10月23日には,被告側から原告宅や原告宅敷地境界線における防音対策を講じることで解決ができないかとの提案がされ,同年11月13日には,J弁護士から原告に対し,原告宅のサッシが二重窓になっていることをも踏まえて,本件保育園の北側敷地境界線に高さ3mの防音壁を設置することで納得することはできないかとの提案がされた。しかし,原告は,日中窓を閉め切った状態で生活することはできないし,高さ3mの防音壁では,原告宅の騒音レベルが数デシベル減衰する程度で,根本的解決には程遠い,庇のように園庭側に数メートルせり出すような形状の覆いを設置しなければ騒音問題は解決しないなどと述べ,被告からの上記提案には応じられない旨回答した(甲58)。 イ近隣住民との合意内容等他方,被告は,同年8月,近隣説明会と並行して,個別の近隣住民との間で,本件保育園からの騒音対策の一環として,概ね,次の内容の合意を交わした(乙 旨回答した(甲58)。 イ近隣住民との合意内容等他方,被告は,同年8月,近隣説明会と並行して,個別の近隣住民との間で,本件保育園からの騒音対策の一環として,概ね,次の内容の合意を交わした(乙24の1~3)。 本件保育園敷地の北側境界に隣接する住民との間で,被告の負担において同住民の自宅の南側及び西側の窓を被告の指定する二重サッシにすること。 本件保育園敷地の西側境界に接する住民との間で,当該西側境界線から保育園施設の距離を1,649mmから2,000mmに変更すること。 - 18 -上記西側境界に接する住民の一部との間で,被告の負担において同住民の自宅の東側窓の一部を被告の指定する二重サッシにすること。 ウ本件保育園施設の完成等平成18年3月8日,当初の予定より約1年遅れて本件保育園施設が完成し,同日までに,本件保育園北側敷地境界線上に高さ3mの防音壁(以下「本件防音壁」という。)が建てられた(乙4の3,乙6,33)。本件防音壁は,積水樹脂株式会社製のアルミ・樹脂積層複合材等を原材料とする遮音性能を有するフェンスである(乙25)。 (4) 本件保育園における保育状況等本件保育園は,生後6月から小学校就学前までの児童を対象としており,定員数を概ね120名とし,年齢別に6クラスを編成している(甲15,検証の結果)。 本件保育園の開園日は,月曜から土曜までで,保育時間は,通常保育が午前8時から午後5時半までであり,特例保育及び延長保育の時間帯を併せると,午前7時から午後7時までである(甲15)。 被告は,各クラス別のカリキュラムを立て,園庭の使用時間をクラスごとに分けており,園庭を使用する時間帯が重なるクラスは,概ね,2,3クラスである(乙18,20,検証の結果)。 2 騒音測定の結果について(鑑定嘱託の のカリキュラムを立て,園庭の使用時間をクラスごとに分けており,園庭を使用する時間帯が重なるクラスは,概ね,2,3クラスである(乙18,20,検証の結果)。 2 騒音測定の結果について(鑑定嘱託の結果)(1) 本件鑑定の概要及び結果は,次のとおりである。 ア測定日時平成27年6月17日午前6時~午後5時30分イ測定場所本件保育園及び原告宅ウ測定項目保育園園児が園庭で遊ぶ時の騒音レベル(午前9時50分~午前10時25分,午前11時05分~午後0時10分,午後4時25分~午後5時25分)保育園からの騒音がない時間帯における騒音レベル(午前5時~午前6時, - 19 -保育園からの騒音がない時間帯において,大人の声による人為的に発生する大きな音源(以下「人為音源」という。)の原告宅までの騒音減衰量(午後0時20分~午後0時30分)エ測定位置測定点① 本件保育園北側敷地境界(高さ3.5m)(別紙「測定点位置図(詳細)および人為的音源の位置図」の「測定点①」)測定点② 原告宅南側窓外1m点(高さ1.5m)(同図の「測定点②」)オ測定結果よるレベル差等は,別紙「騒音レベル測定結果(まとめ)」記載のとおりである。 (2) 本件鑑定当日における園児の出席数及び園児の過ごし方等本件鑑定実施日における本件保育園の園児の出席者数は,128人であり,0歳児9人,1歳児21人,2歳児26人,3歳児24人,4歳児25人,5歳児23人であった。また,本件鑑定当日,園児が園庭で遊戯する時間帯及び時間は,午前10時頃から午前10時半頃まで,午前11時頃から午後0時10分頃まで及び午後4時半頃から午後5時25分頃までの合計155分間であり,それ以外の時間は,本件保育園施設内(室内)で過ごすか,本件保育 10時頃から午前10時半頃まで,午前11時頃から午後0時10分頃まで及び午後4時半頃から午後5時25分頃までの合計155分間であり,それ以外の時間は,本件保育園施設内(室内)で過ごすか,本件保育園の付近に散歩に行って過ごしていた(検証の結果)。 3 争点1について(1) 第三者の事業活動に伴って発生する騒音による被害が,原告に対する関係において,違法な権利侵害ないし利益侵害になるかどうかは,侵害行為の態様,侵害の程度,被侵害利益の性質と内容,侵害行為の持つ公共性ないし公益上の必要性の内容と程度等を比較検討するほか,当該地域の地域環境,侵害行為の開始とその後の継続の経過及び状況,その間に採られた被害の防止に関する措置の有無及びその内容,効果等の諸般の事情を総合的に考慮して,被害が一般社会生活上受忍すべき限度を超えるものかどうかによって決するのが相当である。 - 20 -そして,本件は,私人が発する騒音に対する受忍限度が問題となっているものであるから,公害防止行政上の指針及び行政上の施策を講じるべき基準を定めた環境基準や指定地域内に特定工場等を設置している者に対して生活環境を保全するために必要な措置を講じるための基準を定めた騒音規制法及び神戸市の騒音基準が直接適用されるものではないが,これらの基準は,騒音が生活環境や人の健康に与える影響に係る科学的知見に基づき,周囲の環境等の地域特性をも考慮して定めたものであることを踏まえると,環境基準や騒音基準は,私人間の騒音の受忍限度の程度を措定する上でも有益な指標ということができるというべきである。 (2) そこで,原告宅で測定される騒音レベルについて,環境基準や騒音基準に照らして検討するに,本件鑑定によれば,前記2のとおり,原告宅敷地内に設定した測定点②において観測された等価騒音レ ある。 (2) そこで,原告宅で測定される騒音レベルについて,環境基準や騒音基準に照らして検討するに,本件鑑定によれば,前記2のとおり,原告宅敷地内に設定した測定点②において観測された等価騒音レベル(代表値の平均値)は,①本件保育園の登園前の時間帯において,52.8dB,②本件保育園の園児が園庭にいない時間帯において,52.9dBであるのに対し,③園児が園庭で遊戯している時間帯においては57.43dBであり,本件保育園からの騒音の影響のない時間帯(上記①及び②)と比較すると,原告宅において,4.6dBの差が認められ,本件保育園の園庭において園児が発する声等による騒音が原告宅の敷地において有意な影響を与えているものと認められる。 そして,騒音基準によれば,本件地域における昼間の時間帯の騒音基準は,騒音計の指示値が不規則かつ大幅に変動する場合には,騒音源である特定工場等の敷地境界線で測定した騒音レベルが時間率騒音レベル(LA5)で60dBを超えるか否かにより評価すべきとされている(前記第2の3(2)ウ)ところ,本件鑑定によれば,本件保育園敷地境界線に設定した測定点①では,騒音計の指示値が不規則かつ大幅に変動し,その指示値の最大値も一定とは認められないことから,騒音の大きさは時間率騒音レベル(LA5)により評価するのが相当な場合に当たると考えられ,園児が園庭で遊んでいる時間帯では,時間率騒音レベル(LA5)の代表値の平均が76dB(小数点以下を四捨五入した整数値)であることが認められ,同値は,騒音 - 21 -基準を上回るものである。また,被告は,日曜及び祝日を除くほぼ毎日,特例保育及び延長保育時間帯を除いた午前8時から午後5時半までの通常保育の時間内で園児を園庭で遊戯させていることからすると,昼間の時間帯において,前記2(1)で認 被告は,日曜及び祝日を除くほぼ毎日,特例保育及び延長保育時間帯を除いた午前8時から午後5時半までの通常保育の時間内で園児を園庭で遊戯させていることからすると,昼間の時間帯において,前記2(1)で認められる程度の騒音が原告の生活空間に流れ込むこととなり,一日の大半を原告宅で過ごすことの多い原告にとってみれば,その影響は決して小さくないものといい得る。さらに,本件保育園は,神戸市における保育需要に対する不足を補うために被告が神戸市から要請を受けて設置・運営したという経緯からすれば,本件保育園は,神戸市における児童福祉施策の向上に寄与してきたという点で公益性・公共性が認められるものの,本件保育園に通う園児を持たない原告を含む近隣住民にとってみれば,直接その恩恵を享受しているものではなく,本件保育園の開設によって原告が得る利益とこれによって生じる騒音被害との間には相関関係を見出しがたく,損害賠償請求ないし防音設備の設置請求の局面で本件保育園が一般的に有する公益性・公共性を殊更重視して,受忍限度の程度を緩やかに設定することはできないというべきである。 しかしながら,他方で,環境基準における騒音の評価手法は,時間の区分ごとの全時間を通じた等価騒音レベルによって評価することを原則とする(第2の3(1)イ)から,上記①~③の時間帯で測定された騒音レベルを環境基準の昼間の時間区分(午前6時から午後10時までの16時間)の等価騒音レベルに引き直して検討する必要がある。前記2(2)のとおり,本件保育園の保育時間中園児が園庭で遊戯する時間は約155分であると認められるから,計算上,昼間時間区分のうち3時間を上記③の時間帯で測定された騒音レベル57.4dBとし,その余の13時間を上記②の時間帯で測定された騒音レベル52.9dBとした場合,原告宅の測定点②に れるから,計算上,昼間時間区分のうち3時間を上記③の時間帯で測定された騒音レベル57.4dBとし,その余の13時間を上記②の時間帯で測定された騒音レベル52.9dBとした場合,原告宅の測定点②における昼間時間帯の等価騒音レベルは,54.2dB(=10×log10〔(10(57.4/10)×3)+(10(52.9/10)×13)〕-10×log10(16))となる。同値は,環境基準における基本指針値の昼間の時間帯の指標とされている55dBを上回るものではないと認められる。また,騒音基準は,類型的に著しい騒音を発生させる - 22 -特定工場等に対して規制基準の遵守義務を課すためのものであり,受忍限度を超えるか否かの判断においては,当該騒音が被侵害者に対して及ぼす影響の程度を検討すべきであって,その及ぼす影響の程度は,騒音源である敷地の境界線で測定された騒音レベルに加え,騒音源と被侵害者の居宅との距離,騒音の減衰量等をも踏まえて検討するのが相当である。そして,前記前提となる事実(第2の1(2))のとおり,原告宅と本件保育園北側敷地境界線とは約10m離れており,その間には,I宅が介在しているから,本件保育園で発生した騒音は,距離やI宅建物により減衰するものと推測され,現に,本件鑑定によれば,本件保育園北側敷地境界線に設定された測定点①と原告宅敷地内に設定された測定点②との間の騒音減衰量は,園庭で園児が遊戯している際の騒音レベル差で18.1dB,人為的音源による減衰量で16.5dBであり,本件保育園で発生した騒音レベルは,原告宅屋外において,概ね17~18dB減衰することが認められることからすると,測定点①での時間率騒音レベルの値をもって,直ちに,本件保育園からの騒音レベルが受忍限度を超えているということはできないというべきである。これ ね17~18dB減衰することが認められることからすると,測定点①での時間率騒音レベルの値をもって,直ちに,本件保育園からの騒音レベルが受忍限度を超えているということはできないというべきである。これらの事情に加え,本件保育園から発生する騒音は,主に園児が園庭で遊戯する約3時間であって,通常保育の時間(午前8時から午後5時半まで)において断続的に発生するものではなく,原告において環境基準が前提とする昼間の時間帯の屋内騒音レベル45dBを下回る騒音レベルを維持することを必要とする特別の事情があるとは認められない上,被告は,本件保育園の設置に際し,本件保育園の近隣住民に対する説明会を1年ほどかけて行い,その間,本件保育園から生じる騒音の問題に係る原告を含めた近隣住民からの質問・要望等に対して検討を重ね,既設の保育園で測定した騒音結果から本件保育園の騒音の推定値を算出した上で,遮音性能を有する本件防音壁(本件鑑定において認められる本件保育園北側敷地境界線での騒音レベルと原告宅での騒音レベルの減衰量が上記のとおり17~18dBであることからすれば,上記両測定点の距離等を踏まえても,本件防音壁による遮音効果が一定程度あるものと認めることができる。)を設置し,一部の近隣住民に対して被告の負担において二重サッシ - 23 -に取り換えることを提案・合意するなどして騒音対策を講じるよう努めてきたこと,最終的に原告とは折り合いがつかなかったものの,被告側から原告宅敷地境界線における防音対策による問題解決の提案がされたことが認められる。以上の事情を考慮すると,原告が本件保育園からの騒音により精神的・心理的不快を被っていることはうかがえるものの,原告宅で測定される本件保育園の園庭で遊戯する園児の声等の騒音レベルが,未だ社会生活上受忍すべき限度を超えている 原告が本件保育園からの騒音により精神的・心理的不快を被っていることはうかがえるものの,原告宅で測定される本件保育園の園庭で遊戯する園児の声等の騒音レベルが,未だ社会生活上受忍すべき限度を超えているものとは認められず,不法行為を基礎づける程度の違法があるということはできない。 第4 結論以上より,その余の争点を判断するまでもなく,原告の請求は理由がないからこれらをいずれも棄却することとして主文のとおり判決する。 神戸地方裁判所第2民事部 裁判長裁判官山口浩司 裁判官吉田祈代 裁判官鈴木美智子
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