平成12(う)746 殺人等被告

裁判年月日・裁判所
平成14年1月29日 東京高等裁判所
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判決文本文26,092 文字)

主文 本件控訴を棄却する。 当審における未決勾留日数中600日を原判決の刑に算入する。 理由 本件控訴の趣意は,弁護人松井武作成の控訴趣意書及び控訴趣意補充書に,これに対する答弁は,検察官杉山茂久作成の答弁書及び検察官宮崎雄一,同渡辺咲子連名作成の答弁書補充書にそれぞれ記載されたとおりであるから,これらを引用する。 論旨は,事実誤認及び量刑不当の主張である。 第1 事実誤認の主張について 1 原判決が認定した原判示第一の犯罪事実原判決が犯罪事実の第一として認定した事実の要旨は,おおむね次のとおりである。 被告人は,オウム真理教(当時宗教法人。以下「教団」ともいう。)に所属していたものであるが,教団代表者であったB’ことB並びに教団に所属していたC,D,E,F,G,H,I,J,K,L,M,N,O,Pらと共謀の上,帝都高速度交通営団地下鉄霞ヶ関駅に停車する営団地下鉄日比谷線,同千代田線,同丸ノ内線の各電車内等にサリンを発散させて不特定多数の乗客等を殺害しようと企て,山梨県西八代郡上九一色村ab番地のc所在の「ジーヴァカ棟」と称する教団施設内においてサリンを生成した上,平成7年3月20日午前8時ころ,M運転の自動車で送られたHにおいて,営団地下鉄日比谷線秋葉原駅直前付近を走行中の北千住発中目黒行き電車内で,N運転の自動車で送られたIにおいて,営団地下鉄日比谷線恵比寿駅直前付近を走行中の中目黒発東武動物公園行き電車内で,被告人運転の自動車で送られたJにおいて,営団地下鉄丸ノ内線御茶ノ水駅直前付近を走行中の池袋発荻窪行き電車内で,O運転の自動車で送られたKにおいて,営団地下鉄千代田線新御茶ノ水駅直前付近を走行中の我孫子発代々木上原行き電車内で,P運転の自動車で送 鉄丸ノ内線御茶ノ水駅直前付近を走行中の池袋発荻窪行き電車内で,O運転の自動車で送られたKにおいて,営団地下鉄千代田線新御茶ノ水駅直前付近を走行中の我孫子発代々木上原行き電車内で,P運転の自動車で送られたLにおいて,営団地下鉄丸ノ内線四ツ谷駅直前付近を走行中の荻窪発池袋行き電車内で,それぞれ床に置いたサリン在中のナイロン・ポリエチレン袋合計11袋を所携の先端を尖らせた傘で突き刺し,サリンを漏出気化させて各電車内等に発散させ,サリン中毒により,乗客ら合計12名を死亡させて殺害するとともに,起訴にかかる乗客ら合計14名に対しては傷害を負わせたにとどまり,殺害の目的を遂げなかった。 2 論旨論旨は,要するに,原判決は,上記の原判示第一(以下「本件」ともいう。)について,被告人が地下鉄内でサリンを散布した殺人の罪の共同正犯であるとしているが,①被告人は,そもそもサリンの生成について共謀したことなどない,②被告人は,サリン散布による殺人の企てを共謀していないし,共同正犯に当たるような行為をしていない,③被告人は,本件で散布されたものが殺傷能力のあるサリンであることの認識を欠いており,殺意がなかった,などの諸点を挙げて,原判決の認定には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある,というのである。 3 当裁判所の判断検討すると,原判決が挙示する関係証拠によれば,原判示第一の事実は優にこれを認めることができ,原判決が(争点に対する判断)の項で認定,説示するところも正当として是認できる。このことは当審における事実取調べの結果によっても変わらないが,以下所論に即して,当裁判所の判断を示す。 (1) 本件の事実関係関係証拠によれば,本件の背景事情であるオウム真理教の教義,活動,被告人の教団との関わり,教団におけるサリンの生成,サリンについての被 下所論に即して,当裁判所の判断を示す。 (1) 本件の事実関係関係証拠によれば,本件の背景事情であるオウム真理教の教義,活動,被告人の教団との関わり,教団におけるサリンの生成,サリンについての被告人の認識,本件に至る経緯,犯行状況等は,原判決が判決書の24頁8行目から47頁5行目までにおいて判示しているとおりであるが,所論に関係する事項を中心にして,その要点を摘記し,関係証拠によって認定できる事実を付加すると,以下のとおりである。 アオウム真理教の教義,活動等オウム真理教は,B’ことB(以下「B」という。)が昭和59年2月ころに設立した「オウム神仙の会」を母体として,昭和62年7月ころその名称を改めたもので,平成元年8月には,東京都の認証を受けて「宗教法人オウム真理教」となった。Bは,教祖として自らを「最終解脱者」であると称し,信者らには自らを「尊師」,「グル」と呼ばせ,自分に帰依してその教えを忠実に実践すれば解脱に至ることができるなどと説いた。教団では修行の進み具合等によって出家信者をいくつかの「ステージ」に振り分け,「尊師」であるBを頂点として,「正大師」,「正悟師」,「菩師長」,「菩師」といった地位を設けてヒエラルキーの組織を形成し,下位者は上位者の指示命令に従うこととされた。 そして,Bは,平成6年6月ころ,教団の組織を国家組織に類似した「省庁制」に改組するなどした。 Bは,教団設立当初から自己に対する絶対的帰依を強調していたが,自らを無にして「グル」と合一せよという「ヴァジラヤーナの教義」を説くようになり,平成2年2月に施行された衆議院議員選挙に教団幹部らとともに立候補して全員落選したことなどから,さらに,その教義を進めて,現世は煩悩に満ちており,人々は悪業を積んでいるのであるから,このような人々を自己の命令によって殺害 た衆議院議員選挙に教団幹部らとともに立候補して全員落選したことなどから,さらに,その教義を進めて,現世は煩悩に満ちており,人々は悪業を積んでいるのであるから,このような人々を自己の命令によって殺害することは,「ポア」(衆生を一段高い世界へ引き上げることによって救済するというもの)として正当化されるとし,教団内で自己に逆らう者らを「ポア」と称して殺害する一方,国家権力との対決色を強めて,教団の武装化を企図するようになった。 Bは,その一環として,教団施設内において,平成2年ころからボツリヌス菌等の培養を行わせたりしていたが,平成5年8月ころには,教団幹部に命じて,炭疽菌やボツリヌス菌の培養を行わせた上,これを教団の製造した噴霧車を使って東京都内で噴霧させ,無差別殺人を企てたものの,失敗に終わった。Bは,その後さらに,後記のとおり,教団施設内において毒ガス化学兵器としてサリンを生成させるなどした。 イ被告人の教団への入信,教団活動への関わり被告人は,高等学校を中退した後,昭和61年ころ,Bの著書である「超能力秘密の開発法」を読み,Bのもとで超能力を身につけたいと考え,「オウム神仙の会」に入信した。被告人は,昭和62年に出家し,「ワーク」と称する教団活動に従事するとともに,ヨガの修行等を行った。被告人は,平成5年10月以降「法皇警備」の一員としてBの専属運転手の1人となり,平成6年6月ころの上記の省庁制の発足の際には,教団幹部のOを「大臣」とする「自治省」(B等の身辺警護及びスパイの摘発等を担当する部門)に所属し,その「次官」となったが,引き続きBの運転手を務めていた。本件当時の被告人の教団内でのステージは「菩師」であった。 被告人は,このほかに,平成5年8月ころには,上記のボツリヌス菌の培養や噴霧に直接関与したり,教団のダミー会社から Bの運転手を務めていた。本件当時の被告人の教団内でのステージは「菩師」であった。 被告人は,このほかに,平成5年8月ころには,上記のボツリヌス菌の培養や噴霧に直接関与したり,教団のダミー会社から山梨県西八代郡上九一色村(以下「上九一色村」という。)所在の「クシティガルバ棟」と称する教団施設にサリン原料の薬品類が入ったドラム缶を運搬したりするなどし,さらに,同年12月ころからは,Bの指示により殺害された教団信者の遺体の焼却に関与するなどして,上記の「ヴァジラヤーナの教義」の実践に関わる違法な活動を行うなどした。 ウ教団におけるサリンの生成等(ア) サリンは,第二次世界大戦中ドイツにおいて兵器用神経ガスとして開発されたもので,その毒性は,人の神経における信号情報伝達機能を阻害することにより発現し,重症になるとムスカリン様症状の失禁,縮瞳,気管支分泌増加,肺水腫による呼吸困難,中枢神経症状の意識混濁,昏酔,体温上昇,ニコチン様症状の全身痙攣,呼吸筋麻痺に陥り,最終的には死に至るというものである。その性状は,常温で無色無臭の液体であるが,揮発性があり,その毒性の強さは,1立方メートル当たり100ミリグラムの量で1分間暴露すれば,半数の人間が死に至るというもので,極めて殺傷力が高いものである。 (イ) Bは,かねてから,いずれは「ハルマゲドン」すなわち世界最終戦争が起きて世界が破滅するなどと説いていたが,平成5年ころからは,ハルマゲドンに使用される兵器としてプラズマ兵器,細菌兵器に加えて化学兵器を挙げ,化学兵器であるサリンの毒性等について繰り返し説法等で触れるようになり,教団が敵対勢力からその攻撃を受けている旨を説いていた。このようなBの説法は,教団で貸し出されるカセットテープや「ヴァジラヤーナ教学コース」と題する書籍等に記録され,出家信者ら 等で触れるようになり,教団が敵対勢力からその攻撃を受けている旨を説いていた。このようなBの説法は,教団で貸し出されるカセットテープや「ヴァジラヤーナ教学コース」と題する書籍等に記録され,出家信者らは,これらを繰り返し聞いたり読んだりして,その教えを習得するよう努めていた。 (ウ) Bは,平成5年6月ころ,教団幹部のCに化学兵器の開発を指示し,CはFに対し,大量生産の可能な毒ガス兵器の研究等を命じた。FはCらと相談しつつ研究を重ね,サリンが大量生産に最も適しているとの結論を出し,同月ころから教団のダミー会社を使って原料の薬品類を大量に仕入れさせた上,同年8月に建設されたクシティガルバ棟においてサリンの生成実験を開始し,同年11月ころまでには5工程からなる生成方法を確立し,標準サンプルとしてのサリン約20グラムの生成に成功し,その後数度にわたり,教団幹部のGらの協力を得て,大量のサリンを生成した。 (エ) Bは,同年12月ころ,東京都八王子市内において,Oらにサリンの噴霧によって他の宗教団体の幹部を殺害することを実行させたものの,失敗に終わり,かえってOが重篤なサリン中毒に陥った。さらに,平成6年6月27日には,長野県松本市内で,Cらが,教団で製造した噴霧車によりサリンを噴霧し,これにより多数の死傷者を出すに至った(いわゆる「松本サリン事件」)。 (オ) 教団では,Bの命令により,上九一色村所在の「第七サティアン」と称する教団施設において,サリンの大量生産を目的としたプラントの建設を進めていたものの,上記の松本サリン事件の後,上九一色村の教団施設付近で異臭騒ぎがあったことや教団がサリンの原料を大量に購入していることなどが新聞で報じられ,さらに,平成7年1月1日には,上九一色村でサリン残留物が検出されたことが新聞で報じられたため,Bの指示を受け 異臭騒ぎがあったことや教団がサリンの原料を大量に購入していることなどが新聞で報じられ,さらに,平成7年1月1日には,上九一色村でサリン残留物が検出されたことが新聞で報じられたため,Bの指示を受けたCの命により,F,Gらが,上記のプラントを神殿に見せかけるよう改造したり,生成されたサリンを加水分解により処分するなどした。 エサリンについての被告人の認識被告人は,上記のとおり,平成5年夏ころにボツリヌス菌の培養に関与した際,教団幹部のQやFがサリンを意味する「サリーちゃん」という言葉を使用して会話しているのを聞き,それがサリンという物質を意味することを知るとともに,その作業現場に置かれていた化学兵器に関する文献を読むなどして,サリンがナチス時代のドイツにおいて開発された化学兵器として殺傷力を有する毒ガスである旨の知識を得た。また,被告人は,同年12月の上記の宗教団体幹部に対するサリンによる襲撃が失敗したことについて,他の信者からその経緯を聞き知り,さらに,松本サリン事件で死傷者が出たこと及びこれは教団に敵対する者の犯行であることを記載した教団発行の壁新聞を同事件の数日後に教団施設内において見た。 オ本件に至る経緯(ア) Bによる犯行の指示と謀議状況Bは,松本サリン事件について教団との関連が捜査の対象となっている旨の報道がされ,さらに,平成7年2月28日に教団幹部のDらに命じて実行させたいわゆる目黒公証役場事務長拉致事件についても,同年3月には,同事件への教団の関与が疑われる状況となったことから,教団に対する警察の強制捜査が実施されるのではないかという危惧を強く抱くようになった。 このような状況のもとで,同月18日未明ころ,東京都杉並区内の教団経営の飲食店における会合から上九一色村の教団施設に向かう途中のBの専用車であるリムジン ないかという危惧を強く抱くようになった。 このような状況のもとで,同月18日未明ころ,東京都杉並区内の教団経営の飲食店における会合から上九一色村の教団施設に向かう途中のBの専用車であるリムジン内で,Bが,同乗していたC,Dら教団幹部に強制捜査の可能性を尋ねたところ,同人らがその可能性が高いと答えたので,さらに,Bが,強制捜査を阻止するためには何をすればよいかと意見を求めると,Cが「地下鉄にサリンをまいたらどうでしょう」などと答え,Bは「それはパニックになるかもしれないな」などと言って,これに呼応し,同乗していた教団幹部のEにサリン生成が可能であることを確認した上で,Cに対し,同人の総指揮のもとで地下鉄車両内にサリンを散布することを命じ,その実行役として,H,I,J,LにKを加えた5名を指名した。 (イ) 実行犯らにおける謀議の状況等aCは,上九一色村の教団施設に戻った同日早朝ころ,H,K,J,Lの4人を自室に呼び,Bからの指示であることを示しながら,警察による教団への強制捜査の矛先を逸らすために地下鉄車両内にサリンを散布する話をし,上記4名にこれを実行することを求めたところ,同人らはその場でこれを承諾した。 同日夕刻には,C,H,J,L,DがCの部屋に集まり,Dが用意していた地下鉄路線図等を見ながら,警視庁等の官庁が集中する営団地下鉄霞ヶ関駅を通る日比谷線,丸ノ内線及び千代田線の三路線でサリン散布を実行すること,通勤時間帯を狙って同月20日午前8時に一斉に散布することなどを決めた。その後,HとDは,サリン散布の実行者を確実に送迎するための自動車の運転手も必要であると考えてその旨を提案し,その候補者として,M,R及びSの名前を挙げたところ,Cは,これに賛成するともに,運転手役の人選についてはBの指示を仰いでおく旨述べた。 Cは,同 自動車の運転手も必要であると考えてその旨を提案し,その候補者として,M,R及びSの名前を挙げたところ,Cは,これに賛成するともに,運転手役の人選についてはBの指示を仰いでおく旨述べた。 Cは,同月18日夜,Iを自室に呼び出し,同人にも地下鉄車両内にサリンを散布してもらう旨を告げて,同人の承諾を得た上,他の実行役と連絡を取るように指示した。Iは,その後,JやLらと会って,Cの上記の指示内容を確認した。 bH,I,J,Lは,同月19日朝,Hが運転手役をしてもらおうと考えて誘ったM,R,Sとともに,2台の自動車に分乗して上九一色村を出発し,東京都杉並区de丁目f番g号所在の民家(以下「杉並アジト」という。)に赴き,同所において,各自の担当路線,乗降車駅等について打合せをし,その後,犯行に使用する変装用のかつら,眼鏡,衣類等を購入したり,地下鉄の駅を下見するなどして,杉並アジトに戻った。 cC及びDは,同日昼ころ,上九一色村の「第六サティアン」と称する教団施設の1階にあるBの部屋に赴いて,Bにサリン散布の実行役を送迎する自動車の運転手役の選定を仰いだところ,Bは,「自治省大臣」のO,「自治省」に所属しBの運転手を務めている被告人,P,同じく「自治省」に所属しBの運転手を務めたことのあるM,「諜報省」に所属するNの5名を挙げ,さらに,実行役と運転手役との組み合わせを,HとM,IとN,Jと被告人,KとO,LとPにするよう指示した。 dCとDは,これに応じて,実行役と運転手役の集合場所を東京都渋谷区h町i番j号所在のkl号室(以下「渋谷アジト」という。)に決め,各実行役及び運転手役にこれを連絡することとした。Dは,杉並アジトに赴き,同アジトにいた上記の7名と,後に合流したNに対し,運転手役が上記の5名になったことを伝えた上,R,S以外の者に対して 決め,各実行役及び運転手役にこれを連絡することとした。Dは,杉並アジトに赴き,同アジトにいた上記の7名と,後に合流したNに対し,運転手役が上記の5名になったことを伝えた上,R,S以外の者に対して,渋谷アジトに移動するよう指示した。 eCは,同日昼ころ,Pに対し,運転手役となる前記の5名のいわゆるホーリーネームが記載されたメモを渡した上で,Nを除く他の運転手役4名で同日午後7時までに渋谷アジトに行くよう指示した。Pは,上司であるOにこの指示を伝達し,さらに,被告人らが起居している「ヴィクトリー棟」と称する教団施設に行き,そこにいた被告人に対し,Cから上記の指示があったこと,上司であるOも一緒であることを伝え,5名の名前の書かれた上記のメモを被告人に見せた。そして,Mとは連絡がとれなかったため,O,被告人及びPの3名は,同日午後4時ころ,上九一色村を自動車で出発し,途中,教団東京総本部等に立ち寄った後,渋谷アジトに午後8時ころ到着した。 f 同アジトにはH,I,J,L,M,Nが既に来ており,さらに,同日午後9時過ぎころ,D,Kが順次到着し,実行役と運転手役の全員が集まったが,その場において,Dが,実行役及び運転手役をその周りに集め,実行役と運転手役の組合わせがBの指示により上記のとおり決定したこと,実行役の散布する1人当たりのサリンの量が当初の予定より増えたことなどを伝えるとともに,持参した地下鉄路線図等を見ながら,サリンの散布は霞ヶ関駅を利用する乗客を狙って翌20日午前8時に一斉に行い,霞ヶ関駅の手前の駅で降車する直前に行うことなどを指示し,各ペアの担当路線,実行役の乗降車駅,乗車する車両等を確認した上,運転手役に対しては,緊急連絡先として同人の携帯電話の番号を教えるなどした。 g その後,実行役及び運転手役の合計10名は,各自の乗降車駅 アの担当路線,実行役の乗降車駅,乗車する車両等を確認した上,運転手役に対しては,緊急連絡先として同人の携帯電話の番号を教えるなどした。 g その後,実行役及び運転手役の合計10名は,各自の乗降車駅等の下見に行くこととなり,被告人及びJは,K及びOのペアとともに,自動車でJR御茶ノ水駅付近に赴き,そこでK及びOと一旦別れた後,営団地下鉄丸ノ内線御茶ノ水駅へ行き,同駅の近くの路上をサリン散布後の待合せ場所とすることにした。そして,再びKらと合流して4名で渋谷アジトへ戻ろうとしたが,その途中で,Jがサリン中毒になった場合はどうすればよいかという趣旨の発言をしたところ,Kが,東京都中野区野方にある教団附属医院(AHI)で治療してもらえると言って,運転手役に道を覚えさせるために,同人の案内で同医院に行き,同医院への経路を確認した後,渋谷アジトに戻った。 (ウ) 本件サリンの生成aCは,同月18日ころ,Gに対し,地下鉄車両内にサリンを散布することになったので,Eと協力して,上記のとおり,以前に生成したサリンを一旦処分した際にGが隠匿しておいたサリンの中間生成物であるメチルホスホン酸ジフロライドを使ってサリンを早急に生成するように指示し,GはEが研究施設として使用していた「ジーヴァカ棟」と称する教団施設に行き,既にCから指示を受けていたEに対し,前記のメチルホスホン酸ジフロライドの入った容器を手渡した。 bG及びEは,この指示に従って,Fからメチルホスホン酸ジフロライドを使ってサリンを生成する方法について教示を受けた後,ジーヴァカ棟の実験室において,Fの協力を得ながら,Eの部下である出家信者らに手伝わせた上で,サリンの生成を開始し,同日夜までに約30パーセントのサリンを含有する5ないし6リットルのサリン混合液を生成した。Eは,B及びCに対し,生成 力を得ながら,Eの部下である出家信者らに手伝わせた上で,サリンの生成を開始し,同日夜までに約30パーセントのサリンを含有する5ないし6リットルのサリン混合液を生成した。Eは,B及びCに対し,生成したサリンを混合液の状態から分留するには更に半日以上かかる旨報告し指示を仰いだところ,Bは混合液のままでよい旨指示した。 cG,Eらは,Cの指示を受けて,上記のサリン混合液を入れる袋を製作することとし,あらかじめ購入してあったナイロン・ポリエチレン袋を,ジーヴァカ棟に備え付けられていたシーラーと呼ばれる圧着機を使って加工し,約20センチメートル四方のナイロン・ポリエチレン袋(以下,「ビニール袋」という。)を作った上,これに上記のサリン混合液を注入してその注入口をシーラーで閉じて,11個のサリン入りビニール袋を完成させ,さらに,それらをいずれも二重袋にして,箱に収納した。 (エ) 犯行の予行演習とサリンの授受aCは,同月20日午前1時ころ,渋谷アジトにいたHに数度電話をかけ,サリンを引き渡すので,実行役全員は上九一色村の第七サティアンに来るよう指示した。これに応じて,実行役5名は,M及びPの運転する2台の自動車に分乗して渋谷アジトを出発して,第七サティアンに向かった。 bCはHに上記の指示をした後,Bの部屋へ行ったところ,そこにEが上記のサリン入りビニール袋を入れた箱を持って来たので,Bは,この箱の底に手を触れて瞑想し,サリンに宗教上の意味合いを持たせる「修法」と称する儀式を行った。 その後,CはDに対し,サリン散布の方法について,サリン入りビニール袋を先を尖らせた傘で刺して突き破ることにする旨伝え,そのための傘の購入を指示した。Dは,これに応じて富士宮市内のコンビニエンスストアでビニール傘を購入してCに渡し,Cは,Tに指示して,それらの先 袋を先を尖らせた傘で刺して突き破ることにする旨伝え,そのための傘の購入を指示した。Dは,これに応じて富士宮市内のコンビニエンスストアでビニール傘を購入してCに渡し,Cは,Tに指示して,それらの先端の金具部分をグラインダーで削って尖らせた。 c その後,実行役5名が第七サティアンに到着すると,Cは,サリン散布を上記のような方法で行う旨を告げ,実行役らに対して,水を入れたビニール袋を先端を尖らせた上記のビニール傘で刺すなどさせて,犯行の予行演習を行わせた。その上で,Cは,実行役らにサリン入りビニール袋11袋とビニール傘を渡し,実行役らは,直ちに上記2台の自動車に分乗して渋谷アジトに戻った。 d 被告人は,実行役らが上九一色村に行っている間,渋谷アジトにおいて寝転がって仮眠をとるなどしていた。 カ犯行状況等(ア) 実行役5名は,同日午前5時ころ第七サティアンから渋谷アジトに戻った後,前にEから渡されていたサリン中毒の予防のための錠剤を服用し,また,Kにおいて他の実行役にサリン中毒の治療薬である硫酸アトロピン入りの注射器を渡すなどし,さらに,各実行役間でサリン入りビニール袋を分配して,実行の準備をした。なお,上記ビニール袋のうちの1つについて,二重袋のうちの中袋からサリンが漏れているのが発見され,Hが「サリンが漏れている」旨発言し,結局同人がそのビニール袋を引き取ることになった。 (イ) 被告人は,同日午前6時ころ,Jに対して時間になったことを告げて出発を促し,サリン入りビニール袋の入ったショルダーバッグと先端を尖らせたビニール傘を持った同人を自動車に乗車させて渋谷アジトを出発した。被告人は,Jが乗車を予定している池袋駅まで行ってしまうと,犯行後の待合せ時刻までに御茶ノ水駅に到着できないかもしれないと考え,同人を四ッ谷駅付近で降ろし,御茶ノ水 に乗車させて渋谷アジトを出発した。被告人は,Jが乗車を予定している池袋駅まで行ってしまうと,犯行後の待合せ時刻までに御茶ノ水駅に到着できないかもしれないと考え,同人を四ッ谷駅付近で降ろし,御茶ノ水駅の近くの待合せ場所へ向かい,そこで待機した。 Jは四ッ谷駅から丸ノ内線で新宿へ出て,さらにJR埼京線で池袋に行った後,丸ノ内線池袋発荻窪行き電車に乗車し,上記のとおりの犯行を行い,御茶ノ水駅付近で待機していた被告人運転車両の後部座席に乗車した。被告人が渋谷アジトに向けて自動車を運転中,Jにおいてろれつが回らなくなった上,体が痙攣するなどサリン中毒の症状を訴えたので,急遽教団附属医院に赴いたが,同医院の関係者に事情を説明することができず治療を受けられなかったため,結局そのままJを連れて,同日午前9時ころ渋谷アジトに戻り,そこでJはKから治療を受けた。 (ウ) その他4名の実行役も,被告人らと同様に,同日午前6時ころ,ペアを組む各運転手役の運転する自動車に乗車して,相前後して渋谷アジトを出発し,各担当地下鉄路線において,上記のとおりそれぞれ犯行に及んだ。 (2) 所論(当審における弁論を含む。)に対する判断ア上記の事実関係の認定について上記の事実は関係証拠によってその証明は十分であると認められるが,このうち,所論が特にその認定について論難するいくつかの事項に関する関係者の供述の信用性等について,ここで触れておく。 (ア) 上九一色村におけるPから被告人へのCの指示の伝達について所論は,前記(1)のオの(イ)のeに関して,被告人は,Pから,5名のホーリーネームが記載されたメモを見せられたことなどない,というのである。検討すると,Pは,「平成7年3月19日昼ころ,Cから,5名のいわゆるホーリーネームが記載されたメモを渡され,Nを除く他の4名 ーリーネームが記載されたメモを見せられたことなどない,というのである。検討すると,Pは,「平成7年3月19日昼ころ,Cから,5名のいわゆるホーリーネームが記載されたメモを渡され,Nを除く他の4名で午後7時までに渋谷アジトに行くよう指示された。上司であるOにこの指示を伝達し,さらに,被告人らが起居しているヴィクトリー棟に行き,そこにいた被告人に対し,Cから上記の指示があったこと,上司であるOも一緒であることを伝え,5名の名前の書かれた上記のメモを被告人に見せた」旨上記の認定に沿う供述をしている。他方,被告人は,Pから上記のようなメモを見せられたことはない旨これを否定する供述をしている。この点についての両者の供述の相違は,本件共謀の成否等を考える上でそれほど重要なものではないが,Pの上記の供述の信用性についてみると,Pは,捜査段階,原審及び当審の各公判廷を通じて一貫して明確に上記のような供述をしているのであり,このことについて虚偽の供述をする特段の理由もうかがえず,しかも,この点については5名のホーリーネームの記載されたメモの存在によって裏付けられているのであるから,Pの上記の供述は十分信用できるものといわなければならない。これに反する被告人の供述は信用できず,所論は採用の限りでない。 (イ) 渋谷アジトにおける謀議の内容について所論は,前記(1)のオの(イ)のfに関して,原判決は,D供述の信用性には疑問があるとしてこれを排斥し,渋谷アジトにおいて,Dを中心に地下鉄車両内でサリンを散布する旨の謀議が成立した旨上記のような認定をしているが,D供述は原判決がいうように信用性が欠けるとは必ずしもいえないというのである。しかしながら,関係証拠によれば,平成7年3月19日午後9時ころ,実行役及び運転手役の10名全員とDが渋谷アジトに集まったが, は原判決がいうように信用性が欠けるとは必ずしもいえないというのである。しかしながら,関係証拠によれば,平成7年3月19日午後9時ころ,実行役及び運転手役の10名全員とDが渋谷アジトに集まったが,そこで,Dが,実行役及び運転手役をその周りに集め,実行役と運転手役の組み合わせがBの指示により上記のとおり決定したこと,実行役の散布する1人当たりのサリンの量が当初の予定より増えたことなどを伝えるとともに,持参した地下鉄路線図等を見ながら,サリンの散布は霞ヶ関駅を利用する乗客を狙って翌20日午前8時に一斉に行い,霞ヶ関駅の手前の駅で降車する直前に行うことなどを指示し,各ペアの担当路線,実行役の乗降車駅,乗車する車両等を確認したことなどが認められ,Dの供述中これに反する部分は信用できず,この点についての原判決の説示(原判決書39頁7行目から40頁7行目まで)は首肯できる。 所論は,渋谷アジトにおけるDの説明は,杉並アジトにおける打合せの内容を前提にして,新たに加わったメンバーに対して,この打合せに加わった者から説明を受けてほしい旨説明した程度にすぎないというのであるが,上記のとおり,関係証拠によれば,Dが,実行役及び運転手役に対して,あらためて実行の日時,実行する地下鉄の路線,実行役と運転手役の組合せ,その担当路線等について説明していることは明らかである。当審におけるOの証言も基本的にはこれに沿うものであり,所論が引用する「Dさんは自分の役割とか自分の路線をしっかりと覚えればいいと言ったんで,ですから,私も自分の役割というのが運転手だと決まった時点で,注意力をそれ以上には,ほかの人たちが何をやるのかというのはあんまり向けなかった」「自分の役割については聞くけれど,それ以上のものについては言ってたとしても関心が持てないという,そういう態度だったん 意力をそれ以上には,ほかの人たちが何をやるのかというのはあんまり向けなかった」「自分の役割については聞くけれど,それ以上のものについては言ってたとしても関心が持てないという,そういう態度だったんじゃないでしょうか」というOの当審における証言部分も,上記の認定の妨げになるような内容でないことも明白である。所論は採用できない。 なお,渋谷アジトにおいて,「サリン」という言葉が使われたか否かについては,実行役や運転手役の各供述が必ずしも一致していないが,被告人は,後記の検察官に対する各供述調書において散布する物がサリンであると明確に供述しているのであり,仮に,渋谷アジトにおいてDらがサリンという言葉はこれを明言することを意識的に避ける状況であったとしても,渋谷アジトに集まった者らの間では,地下鉄車両内に散布する物はサリンであるとの共通の理解と認識のもとに,この旨意思を疎通させて相謀り,また,これに沿って行動したものであることは明らかである。 (ウ) 被告人の供述の信用性等について,所論は,被告人の検察官に対する供述調書について,いずれも起訴後に作成されたものであるところ,起訴後の取調べは違法で許されず,したがって,安易にその供述に信用性を付与することなどできない,というのである。しかし,起訴後に被告人を取り調べることがおよそ許されないというものではないところ,本件においては,被告人が,その心境の変化から自らの意思に基づき,検察官に対して供述をするに至ったものであること,平成9年1月5日以降検察官に対する供述調書(原審証拠等関係カード検察官請求乙A第1ないし第7号証)が作成されているところ,これらの調書は原審において同意書証として取り調べられたものであることなどにかんがみると,同供述調書の証拠能力に疑問を差し挟む余地はない。また,その信用 A第1ないし第7号証)が作成されているところ,これらの調書は原審において同意書証として取り調べられたものであることなどにかんがみると,同供述調書の証拠能力に疑問を差し挟む余地はない。また,その信用性についてみても,原判決が説示するとおり(原判決書52頁3行目から53頁10行目まで),被告人が供述するに至った経緯,その供述内容等に照らせば,被告人の公判供述に比して信用性が高いことは明白である。所論は採用できない。 イサリン生成の共謀について所論は,原判決が犯罪事実として,上記のとおり,被告人が「教団代表者であったB’ことB並びに教団に所属していたC,D,E,F,G,H,I,J,K,L,M,N,O,Pらと共謀の上」「営団地下鉄の電車内等にサリンを発散させて不特定多数の乗客等を殺害しようと企て」「教団施設内においてサリンを生成した上」と判示している点を捉えて,被告人はサリンの生成について共犯者らと共謀した事実はないから,原判決の上記の認定には誤りがある,というのである。 ところで,所論は,ここに「サリンを生成した上」というところのサリンは,本件犯行に使用されたサリンか,それ以前に教団施設で生成されたことがあるサリンであるかについて,原判決文に照らして後者であるとした上で,被告人はその生成について共謀したことはない,と主張するもののようである。 しかしながら,原判決書において上記のとおり「サリンを生成した上」というところのサリンは,本件犯行に使用されたサリンを指すものであることは,原判決の内容に照らして明らかである。そして,本件では,後記のとおり,被告人がいわゆる順次共謀によってサリン散布による殺人に加担したものであるが,これがその実質に照らして共同正犯に当たると認められるものであるところ,原判決はそもそも,被告人が,本件サリンの生成行 ,被告人がいわゆる順次共謀によってサリン散布による殺人に加担したものであるが,これがその実質に照らして共同正犯に当たると認められるものであるところ,原判決はそもそも,被告人が,本件サリンの生成行為に関与した,あるいは本件サリンを生成する計画の前にこれに関与したと認定しているわけではない。しかしながら,順次共謀によって,被告人は,教団施設内で生成されたサリンを使用して殺人行為を行う旨の共謀を遂げたことが認められるのであるから,原判決が犯罪事実として上記のとおり判示したからといって,その認定に誤りがあるとはいえない。この点について,原判決には事実の誤認がある旨の所論は失当であり,採用の限りでない。 ウ本件の共謀と共同正犯の成否について所論は,①本件において正犯者としての共犯者間の一体関係は杉並アジトにおける謀議においてでき上がっていたのである,すなわち被告人は,共犯者間で既に共謀が完成した後に加功したものであるから,正犯者としての関与とは異質であり,正犯者としての共同者間の一体関係に外から関与したものとして性格づけられる,②本件は被告人自身の犯意の発現とはいえず,他人の犯罪に加功したものであるから,正犯者ではない,③被告人は,単にJの指示に従って運転手役をしたにすぎず,本件犯行の実行に極めて密接した必要不可欠な行為をしたものともいえないから,正犯者ではない,などと主張し,被告人は正犯者の本件殺人行為を幇助したにすぎない,というのである。 しかしながら,本件において,被告人には共同正犯の成立が認められることは明らかであり,原判決が,原判決書の56頁10行目から58頁8行目までにおいて説示するところも正当として是認できる。 所論①についてみると,本件犯行に至る経緯等は前記(1)の「本件の事実関係」の項で判示したとおりであるところ,被 の56頁10行目から58頁8行目までにおいて説示するところも正当として是認できる。 所論①についてみると,本件犯行に至る経緯等は前記(1)の「本件の事実関係」の項で判示したとおりであるところ,被告人は,PからCの指示であると言われて,P及びOとともに上九一色村から渋谷アジトに赴いているが,その時までには,本件犯行についてその内容を知らされておらず,他方,これより前,本件犯行については,Bら教団幹部による謀議,実行者らによる謀議がされてきたものであることは,所論の指摘するとおりである。しかし,被告人は,Cの指示に従って実行役及び他の運転手役全員とともに渋谷アジトに集まり,同アジトに来たDから,霞ヶ関駅に向かう地下鉄路線の車両内の5か所で,午前8時に一斉にサリンを散布すること,散布の実行役とその送迎役である運転手役とがペアとなるが,被告人は運転手役としてJとペアを組むこと,Jと被告人の担当する路線は,池袋発の丸ノ内線で,Jにおいて御茶ノ水駅の手前でサリンを散布し,被告人が同駅付近でJを迎えることなど,本件犯行の核心になる重要事項を具体的に示されて,本件の犯行に加担するように指示され,被告人はこの指示がBの意思に基づくものであり,本件が教団の組織的な犯行であることを認識した上で,これに加担することを了承し,その上で,実際に,犯行当日,自己の運転する自動車にJを乗せて四ッ谷駅付近まで送り,その後は,御茶ノ水駅付近で待機して,サリンを散布してきたJを迎え,渋谷アジトに戻っていることが認められる。これらによれば,被告人については,渋谷アジトにおいて,本件犯行の具体的な内容を知らされるとともに,これに加担するように指示され,承諾した時点で本件の謀議に加わったものであると評価できるのであり,しかも,後記の点を含めてその実質に照らすと,被告人に対して 犯行の具体的な内容を知らされるとともに,これに加担するように指示され,承諾した時点で本件の謀議に加わったものであると評価できるのであり,しかも,後記の点を含めてその実質に照らすと,被告人に対しては共同正犯の罪責を問えることは明らかである。所論は,本件においては杉並アジトにおける謀議で共謀は完成していたのであるから,その後に加功した被告人は,正犯者としての共同者間の一体関係に外から関与したものと性格づけられ,したがって,幇助が成立するにすぎない,と主張するのである。しかし,犯行内容の重要部分が既に決定されている場合でも,その後に加担した者について共同正犯として謀議に加わったとみる余地がないなどといえないことは明らかであるところ,本件では,犯行内容の重要な点を知らされて,これに加担することを承諾し,その上で,犯行の遂行の上で重要な役割を果たした被告人について,共同正犯の成立を認めたものであるから,所論は採用できない。 所論②についてみると,関係証拠によれば,上記のとおり,被告人はオウム真理教の出家信者で,当時教団内において「自治省」次官の地位にあったところ,そのような立場にある者として,実行役を含む者らとともに地下鉄の乗客らを殺害する本件犯行に加担することを指示されて,これを承諾したこと,被告人は,本件犯行を「ヴァジラヤーナの教義」に基づく救済行為すなわち「ポア」であると考え,自らにとってはこれを「ワーク」を行うものであると認識していたことが認められる。これまでの説示から明らかなとおり,本件は,Bを教祖とするオウム真理教の教団としての犯行であるから,その犯行は,被告人にとっては,確かに自己固有の犯意の発現とまではいえないものではあるものの,教団で上記のような立場にあった被告人が,上記のような認識のもとに本件犯行に関与したことが,所論のい ら,その犯行は,被告人にとっては,確かに自己固有の犯意の発現とまではいえないものではあるものの,教団で上記のような立場にあった被告人が,上記のような認識のもとに本件犯行に関与したことが,所論のいうような意味で「他人の犯罪」に加功したものでないことも明白である。被告人は,教団が組織として敢行する本件犯行に信者として加担したのであり,その意味では,他の信者の共犯者らとともに,自己の犯意を実現したものということができる。所論②は採用できない。 所論③についてみると,所論は,被告人は単にJの指示に従って運転手役をしたにすぎず,本件犯行の実行に極めて密接した必要不可欠な行為をしたものではないから,正犯ではない,というのである。しかしながら,本件犯行の企図,内容,経緯等は上記のとおりであり,本件は教団によって企てられた同時多発的犯行であるところ,被告人の担った役割は,サリン散布の実行役を送迎する運転手役であるが,これは,サリンを散布すべき時間に合わせて確実に実行役を乗車駅まで送り,その後は,実行役が散布行為をした直後に降りてくる駅付近で待機して,実行役を直ちにその場から離れさせて犯行の露見を防ぎ,また,実行役がサリン中毒に陥るなどした場合にはこれを救護するため迅速な対応をするというものであり,この役割は,同時多発的な犯行の遂行にとっては極めて重要性の高いもので,実行行為に密接した必要不可欠なものであったということができるのみならず,被告人自身,そのような自己の役割を十分認識しながら本件に関与したことが認められる。これらに加えて,被告人は,犯行前夜にJらとともに下見を行っていること,犯行当日の午前6時ころには,被告人がJに,出発すべき時間になったことを告げて渋谷アジトを出発していること,被告人は,池袋駅まで行くと遅れてしまうかもしれないと考えて, とともに下見を行っていること,犯行当日の午前6時ころには,被告人がJに,出発すべき時間になったことを告げて渋谷アジトを出発していること,被告人は,池袋駅まで行くと遅れてしまうかもしれないと考えて,Jを促して四ッ谷駅で降ろしていること(被告人は,被告人の供述調書においても,原審公判においても,被告人自らが,遅れるといけないのでJに四ッ谷駅で降りるように言った旨供述している。),被告人は,御茶ノ水駅で迎えたJの様子がおかしいことに気づくや,自らの判断で前夜下見をした教団附属医院に行って治療を受けさせようとしたことなどが,関係証拠によって認められ,これらの諸事情を総合すれば,被告人は,教団の組織ぐるみの本件犯行において,単にJを送迎したというだけでなく,地下鉄車両内におけるサリン散布の実行に極めて密接した必要不可欠な行為をしたものと評価できるものであるから,この点からも,被告人には本件について共同正犯の成立を認めるのが相当である。被告人は単なる運転手役にすぎず,正犯に当たる行為をしていない旨の所論③は採用できない。 その他所論が本件において被告人には共同正犯が成立せず,幇助犯が成立するにすぎないとしてるる主張する点についても検討を加えたが,所論は採用できない。 エ殺意の有無について所論は,被告人は,サリンという物質の一般的な特性について認識があったが,教団が作ったサリンあるいは本件サリンがそれと同じ特性を持つことまでの認識,すなわち人に対して殺傷力を有するものであることの認識はなかったから,被告人には殺意がなかった,というのである。 しかしながら,本件において,被告人は地下鉄の乗客等を殺害することを確定的に認識して,これに加担したことが認められ,殺意の点について,原判決が,原判決書の47頁6行目から56頁9行目までにおいて説示するとこ がら,本件において,被告人は地下鉄の乗客等を殺害することを確定的に認識して,これに加担したことが認められ,殺意の点について,原判決が,原判決書の47頁6行目から56頁9行目までにおいて説示するところも正当として是認できる。 検討すると,まず,本件犯行前までのサリンに関する被告人の認識についてみると,関係証拠によれば,遅くとも平成5年以降,Bの説法や教団発行の書籍の中で,サリンが猛毒の化学兵器であることがたびたび説かれ,被告人はこれらに触れ得る状況にあったところ,被告人は,上記のとおり,教団において平成5年夏ころにボツリヌス菌の培養に関与した際,QやFがサリンを意味する「サリーちゃん」という言葉を使用して会話しているのを聞き,それがサリンという物質を意味することを知るとともに,その作業現場に置いてあった化学兵器についての文献を読むなどして,サリンがナチス時代のドイツにおいて開発された化学兵器として殺傷力を有する毒ガスである旨の知識を得たこと,被告人は,同年12月の上記の宗教団体幹部に対するサリンによる襲撃が失敗したことについて,他の信者からその経緯を聞き知ったこと,さらに,被告人は,松本サリン事件で死傷者が出たことやこれが教団に敵対する者の犯行である旨を記載した教団発行の壁新聞を同事件の数日後に見たことが認められる。所論は,以上の認定事実の一部を争うほか,これらの事実は,被告人がサリンという物質の一般的特性について認識していたというにすぎず,教団が作ったサリンあるいは本件サリンがそれと同じ特性を持つことまでの認識を示すのではないなどというのである。しかし,上記の事実は関係証拠によって明らかであり,一部これに反する被告人の原審公判廷における供述は信用できず,また,このようなサリンに関する認識は,本件散布にかかるサリンの毒性についての被告人 る。しかし,上記の事実は関係証拠によって明らかであり,一部これに反する被告人の原審公判廷における供述は信用できず,また,このようなサリンに関する認識は,本件散布にかかるサリンの毒性についての被告人の認識と関係しないなどといえないことは明らかである。所論は採用できない。 そこで,さらに進んで,本件犯行時における被告人の認識についてみると,関係証拠によれば,被告人は,実行役及び運転手役が集まった渋谷アジトにおいて,Dから指示を受け,その指示内容から,この時点で,実行役が地下鉄車両内においてサリンを散布することを認識したこと,その後,J,K及びOとともに下見に行った際に,実行役がサリン中毒にかかることもあることを想定した上で,治療を受けるための施設である教団附属医院に行く道順を確認していること,さらに,渋谷アジトを出発する直前に,同所において,Hが本件サリン入りビニール袋を取り上げるのを目撃した際,同人が内袋からサリンが漏れている旨発言したのを聞き知る状況にあったこと,本件後,御茶ノ水駅で迎えたJがサリン中毒にかかっていることに気づくや,自己の判断で,すぐに上記の教団附属医院に向かうという行動をとっていることなどが認められる。 これらの諸事実によれば,被告人は,実行役らにおいて地下鉄の乗客らを殺害することを目的として,殺傷力のあるサリンを同車両内に散布するものであることを確定的に認識して,これに関与したものであることは十分推認できる。 しかも,被告人は,上記のとおり,信用性の高い検察官に対する供述調書において,本件犯行前における自己とサリンとの関わり,渋谷アジトにおけるDの指示内容,本件犯行直前の渋谷アジトにおける状況等について,具体的に述べた上で,本件について,被告人らにおいて,地下鉄の乗客等を殺害する目的で,本件犯行に及んだことを認 わり,渋谷アジトにおけるDの指示内容,本件犯行直前の渋谷アジトにおける状況等について,具体的に述べた上で,本件について,被告人らにおいて,地下鉄の乗客等を殺害する目的で,本件犯行に及んだことを認めているのである。 以上によれば,被告人に確定的な殺意が認められることは明らかであり,これに反する被告人の原審公判廷における供述は到底信用できない。 その他所論が本件において被告人には殺意がなかったとしてるる主張する点についても検討を加えたが,所論は採用できない。 (3) 以上の次第であるから,事実誤認をいう論旨はいずれも理由がない。 第2 量刑不当の主張について 1 論旨論旨は,要するに,被告人を無期懲役に処した原判決の量刑は重過ぎて不当である,というのである。 2 本件各事案の内容本件は,オウム真理教の出家信者であった被告人が,(1)上記のとおり,教祖であるBのほか,教団幹部ら多数の信者と共謀の上,地下鉄の乗客等を無差別に殺害する目的で,通勤時間帯に極めて毒性の強いサリンを地下鉄車両内に散布し,乗客ら多数の者を死傷させた殺人,同未遂の事案(原判示第一の事実)及び(2)他の教団幹部らと共謀の上,いわゆる目黒公証役場事務長拉致事件の犯人として警察から指名手配されていた教団信者を東京都内,石川県内,京都市内の各ホテル等において蔵匿,隠避した事案(同第二の事実)である。 3 当裁判所の判断(1) 原判示第一の殺人,殺人未遂の事実(地下鉄サリン事件)についてァ本件地下鉄サリン事件(以下「本件」ということがある。)は,教団による組織的な犯罪であるという特殊性があるので,被告人の個別的な事情についてはひとまず措いて,教団によって犯された本件犯行それ自体について,まず検討を加える。 (ア) 本件は,多数の乗客らで混雑した平日の通勤時間帯に霞ヶ関駅に向 特殊性があるので,被告人の個別的な事情についてはひとまず措いて,教団によって犯された本件犯行それ自体について,まず検討を加える。 (ア) 本件は,多数の乗客らで混雑した平日の通勤時間帯に霞ヶ関駅に向かって走行中の地下鉄3路線,5方面の密閉された車両内において,化学兵器として開発された神経剤で極めて毒性の強いサリンを同時多発的に散布して,無差別の大量殺人を企図し,これを遂行したもので,その結果,一般乗客ら12名を死亡させ,起訴が維持された者に限っても,重篤な傷害を負った2名を含め合計14名の者に対して傷害を負わせたものである。その犯行は,我が国の犯罪史上に類例をみない極めて残虐かつ凶悪で非人道的なものというほかない。 (イ) 犯行の動機及び目的についてみると,教祖であるBの指示のもとに数々の違法行為を繰り返してきた教団が,いわゆる目黒公証役場事務長拉致事件に関与していることを警察に覚知され,教団に対する警察の強制捜査が免れ難い状況になったため,教団幹部らにおいて,首都である東京の中枢機能が集中する霞ヶ関駅を通過する地下鉄車両内にサリンを散布して首都全体を大混乱に陥れることによって強制捜査を阻止しようと企てたものである。その動機や目的それ自体,教団ひいてはBの護持のためには手段を選ばないという極めて身勝手で独善的な発想に基づくものであり,しかも,これをポアという教団独自の宗教上の教義を使って,その行為を正当化さえしようとしているのであって,そこに酌量すべき点は全くない。 (ウ) 犯行の態様についてみると,サリンは,上記のとおり,かつてナチス時代にドイツにおいて化学兵器として開発された神経剤の一種で,ごく少量で多数の人を殺傷する能力を持つ猛毒ガスであるところ,本件では,これを使用して,ことさらに人が多数乗り合わせる通勤時間帯の路線,5方面の地下 ツにおいて化学兵器として開発された神経剤の一種で,ごく少量で多数の人を殺傷する能力を持つ猛毒ガスであるところ,本件では,これを使用して,ことさらに人が多数乗り合わせる通勤時間帯の路線,5方面の地下鉄車両内で,一斉に散布したというものであって,逃げ場のない密閉された空間である地下鉄車両内で敢行されたものであることなどをも併せ考えると,多数の死傷者が出ることは必至であり,その犯行態様はそれ自体,極めて危険かつ悪質である。また,本件は,教祖のBの命令により,教団幹部らが犯行計画を策定し,具体的な指揮命令者,サリンの生成役,サリン散布の実行役,それらを送迎する自動車の運転手役らが,打合せや下見などの準備を周到に行った上で敢行したものであって,組織的かつ計画的な犯行である。 (エ) その結果,上記のとおり,本件によって,12名が死亡し,重篤者2名を含めた多数の者が負傷したのであり,その結果は極めて重大かつ深刻である。12名の死亡者は,いずれも通勤途中,あるいは駅職員として勤務中に,全く事情も分からないまま突如サリンを吸引させられ,激しい苦悶の中で即死の状態又は意識不明の状態に陥った上で,その生命を奪われたものである。非業の死を遂げたこれら被害者が受けた無念さは筆舌に尽くし難く,突然夫を奪われ,あるいは子供を失った遺族ら関係者が受けた衝撃,憤り,悲しみは察するに余りがあるものがある。また,2名の重篤の傷害を負った者についてみても,同様の苦悶の後,一命を取りとめたとはいうものの,後遺症のため通常の社会生活を送ることが不可能な状態であり,その苦痛や関係者に与えた衝撃や悲しみは大きく,死亡者に劣らず悲惨である。さらに,他の負傷者においても,かなりの間,縮瞳,目まい,吐き気等のサリン中毒による身体的苦痛を被ったばかりでなく,これらの症状が回復した後も,地下 た衝撃や悲しみは大きく,死亡者に劣らず悲惨である。さらに,他の負傷者においても,かなりの間,縮瞳,目まい,吐き気等のサリン中毒による身体的苦痛を被ったばかりでなく,これらの症状が回復した後も,地下鉄に乗ることに恐怖を覚えるなど精神的苦痛に悩まされている状態にある。 このように,本件が被害者や遺族に与えた苦痛は甚大であり,当然のことながら,被害者や遺族ら関係者の被害感情には極めて厳しいものがある。そして,原判決が説示しているように,被告人が送迎したJにおいて散布したサリンにより生命を奪われた被害者の娘は,原審公判廷において,事件に関与した者全員に対して激しい怒りを感じる,被告人に対して「最も重い刑」を望む旨,その心情を訴えているところであり,他の被害者や遺族ら関係者も同様に厳しい刑罰を望んでいる。 (オ) さらに,本件は,上記のとおり,大量殺人を目的とする化学兵器のサリンを通勤客が集中する地下鉄車両内で散布したという,我が国犯罪史上において例をみない犯行であり,国民に与えた恐怖の念には誠に大きいものがあり,我が国の治安に対する国際的な信頼をも揺るがせた点を含めて,本件が引き起こした社会不安などその社会的影響は深刻である。 イそこで,次に,被告人が本件において果たした役割など個別的事情等を検討する。 (ア) 被告人は,渋谷アジトからサリン散布の実行役であるJを地下鉄の駅まで自動車で送り,その後,駅付近で待機し,サリン散布を敢行してきた同人を待ち受けて同人とともに渋谷アジトに戻る運転手役として本件に関与したものである。3路線,5方面の地下鉄車両内において,5名の実行役が同時多発的にサリンを散布するという目的を達するためには,5名の運転手役の果たした役割は必要かつ不可欠のものであったところ,被告人は,上記のとおり,渋谷アジトを出発する際には, おいて,5名の実行役が同時多発的にサリンを散布するという目的を達するためには,5名の運転手役の果たした役割は必要かつ不可欠のものであったところ,被告人は,上記のとおり,渋谷アジトを出発する際には,実行役のJに出発を促し,同人を自動車で送る途中,自らの判断により同人を当初予定された池袋駅でなく四ツ谷駅で降ろし,さらに,Jが本件を敢行した後にサリン中毒に陥ったことに気づくや,直ちに教団附属医院に向かうなど,状況に応じて的確に対応し,Jの送迎役として冷静に行動して運転手役としての役割を忠実に実行したものである。 その結果,Jが散布したサリンによって,1名が死亡し,1名が加療期間不詳の傷害を負っているのであって,被告人自身の分担した路線の部分に限っても,生じた結果は極めて重大であるというほかない。 にもかかわらず,被告人は,被害者や遺族に対して,慰藉の措置を何ら講じていない。 (イ) 被告人は,教団の出家信者としてBに帰依し,教団の教義等に疑問を持つこともなく,細菌兵器の生成や教団内で殺害された遺体の焼却等の違法活動にも関与し,また,サリンの殺傷力等についても相当の知識を持っていたものであるが,本件犯行への加担を指示されるや,多数の死傷者が出ることを認識していたにもかかわらず,これをヴァジラヤーナの教義に基づく救済行為であると考え,なんら躊躇することなく,これに加担することを承諾して,運転手役としての役割を全うしているのである。 (ウ) さらに,被告人は,逮捕後公訴提起に至るまで一貫して黙秘し,また,調書への署名や指印を拒否していたが,公訴提起後の取調べにおいて,心境に変化が生じたので,自分の記憶に基づき話していきたい,と述べて,本件について供述をするに至り,本件で多数の被害者を出したことについて謝罪と反省の言葉を述べるとともに,教団あての 調べにおいて,心境に変化が生じたので,自分の記憶に基づき話していきたい,と述べて,本件について供述をするに至り,本件で多数の被害者を出したことについて謝罪と反省の言葉を述べるとともに,教団あての脱会届を提出していたものである。しかしながら,原審公判廷においては,当初は不合理な弁解を含むとはいえ,詳細な供述をしていたものであるが,原審公判の最終段階においては,脱会届は自分の本心に基づくものではなく,Bへの信仰は変わらないという趣旨の供述をし,個別の質問に対しては黙秘をするに至っているのである。被告人のこのような態度は,自らも加担して教団が犯した本件犯行の重大性に意図的に目を逸らし,被害者や遺族ら関係者の受けた苦痛の深刻さを直視しないものと評価するほかない。 (2) 原判示第二の犯人蔵匿,隠避の事実(U蔵匿事件)についてア本事件も,教団による組織的犯罪であるところ,いわゆる目黒公証役場事務長拉致事件を教団が起こしたという事実を隠蔽するため,同事件の犯人として指名手配された教団信者のUを隠匿しようとして敢行されたものであり,教団に対する捜査の進展を妨げ,教団を護持することを目的としたものである。その犯行動機は甚だ身勝手であって,酌量の余地はない。 その態様についてみても,Uを教団施設から連れ出し,女性の服装で変装させ,整形手術をするなどし,さらには指紋除去手術まで行っており,しかも,その間,東京から金沢,京都へと広範囲に移動させているのであって,巧妙かつ大胆で,悪質である。 本事件は,教団幹部らが関わり,配下の信者を動員した教団ぐるみの反社会性の強い犯行であるところ,Uは,平成7年5月下旬に逮捕されたとはいうものの,本事件により,適正かつ迅速な捜査が妨害されたことは明らかであり,その結果も軽視し難い。 イ本事件における被告人の役割等 の強い犯行であるところ,Uは,平成7年5月下旬に逮捕されたとはいうものの,本事件により,適正かつ迅速な捜査が妨害されたことは明らかであり,その結果も軽視し難い。 イ本事件における被告人の役割等をみると,被告人は,Oらの指示を受け,他の共犯者らと連携して,Uを連れ出し,各逃走先のホテル等に誘導し,一緒に宿泊したりするなどしているのであり,本事件を遂行する上で被告人が果たした役割は決して小さいものではない。 (3) 以上に加えて,被告人は,本件各事件を犯しながら,他の教団信者らとともに約1年半以上にわたって逃亡を続けていたのであって,犯行後の行動も芳しいものではなく,規範意識の欠如も顕著であるというほかない。 これらを総合すると,被告人の刑事責任は誠に重大である。 (4) 他方,本件には,被告人のために酌むべき諸事情として,次のような点を指摘できる。 ァ地下鉄サリン事件において,被告人が果たした役割は,上記のとおり犯行を遂行する上で必要かつ不可欠であったとはいうものの,被告人は,犯行への加担を命じたBやその意を受けた教団幹部らの指示に従う立場であり,首謀者的な立場でこれに関与したものではない。その役割も運転手役であって,サリン散布の実行役と比較して,その重要性には自ずから差があることは否定できない。 被告人が地下鉄車両内におけるサリンの散布に関与することを指示され,これを承諾したのは,渋谷アジトに到着した後であり,本件が教団に対する強制捜査の阻止を目的とするという点について明確な認識を有していたとまでは言い難く,また,事件の背景にはBの説く特殊な教義があるところ,本件は,Bが自己の保身のために信者らの帰依心を巧みに利用したという側面も否定し難い。 イ U蔵匿事件についてみても,被告人の果たした役割は大きかったものの,首謀者的な立場でこ 殊な教義があるところ,本件は,Bが自己の保身のために信者らの帰依心を巧みに利用したという側面も否定し難い。 イ U蔵匿事件についてみても,被告人の果たした役割は大きかったものの,首謀者的な立場でこれに関与したものでなく,教団幹部らの指示に従って行動したもので,主導的立場にあったとはいえない。 ウ被告人には前科,前歴がなく,教団の信者になった契機は,中学校,高等学校を通じて生活の中に生きがいを見い出せなかった被告人が,Bの著書に触れてそこに自分の求めていたものがあると考えて入信したというのであって,その点に格別責められるべきものがあったとはいえない。 エ被告人は,上記のとおり,地下鉄サリン事件について,当初は黙秘をするなどしていたが,公訴提起後の取調べにおいて,一旦は,教団あての脱会届を提出し,多数の被害者を出したことについて謝罪と反省の言葉を述べていたものである。 (5) そこで,これらを踏まえて被告人の量刑について考えると,上記の諸事情,とりわけ,地下鉄サリン事件の罪質や内容,犯行の動機や目的,犯行の組織性,犯行態様の危険性,結果の重大性,被害感情の峻烈さ,社会的影響の深刻さ等に照らすと,被告人の刑責は誠に重大であり,前記(4)に挙げた被告人のために酌むべき諸事情を最大限考慮しても,被告人を無期懲役に処した原判決の量刑が重過ぎて不当であるとはいえない。 所論は,地下鉄サリン事件の結果の重大性のみに目を奪われることなく,実行役,運転手役のそれぞれについて,各人の個別の事情を考慮して刑は量定されるべきであり,このような観点からは,命じられるままにJを送迎したにすぎない被告人を無期懲役に処するのは重過ぎる,というのである。しかしながら,本件において,刑の量定の上で考慮すべき諸事情は,上記のとおりであり,これらによれば,所論が指摘するよう にJを送迎したにすぎない被告人を無期懲役に処するのは重過ぎる,というのである。しかしながら,本件において,刑の量定の上で考慮すべき諸事情は,上記のとおりであり,これらによれば,所論が指摘するような被告人のために斟酌すべき点を考慮しても,本件において被告人に対して無期懲役をもって臨むことはやむを得ないものである。所論は採用の限りでない。 (6) 量刑不当をいう論旨は理由がない。 第3 結論よって,刑訴法396条により本件控訴を棄却し,平成7年法律第91号による改正前の刑法21条を適用して当審における未決勾留日数中600日を原判決の刑に算入し,当審における訴訟費用は刑訴法181条1項ただし書によりこれを被告人に負担させないこととして,主文のとおり判決する。 平成14年2月15日東京高等裁判所第10刑事部裁判長裁判官吉本徹也裁判官岩瀬徹裁判官沼里豊滋

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