【DRY-RUN】主 文 本件各控訴を棄却する。 当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。 理 由 本件控訴の趣意は被告人本人、被告人の弁護人野間繁、同馬屋原成
主文 本件各控訴を棄却する。 当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。 理由 本件控訴の趣意は被告人本人、被告人の弁護人野間繁、同馬屋原成男、東京高等検察庁検事平山長提出の各控訴趣意書に記載されたとおりであるから、ここにこれを引用し、これに対し次のように判断する。 〔甲〕 被告人および弁護人らの各控訴趣意に対する判断第二、 各控訴趣意のうち事実誤認の主張について。 この点は多岐に亘るのて、左に項目を分つて検討する。 1 被告人の本件文書、図画の配布は販売行為ではなく、且つ営利の意図ならびに利得もなかつたとの主張(被告人の控訴趣意の該当部分、弁護人野間繁の控訴趣意第六、弁護人馬屋原成男の控訴趣意第一の四、第二の二)について。 所論は、仮りに本件文書、図画が猥褻性を帯びるものとしても、刑法第百七十五条所定の猥褻文書等の販売とは不特定、多数人に対して行なう目的に出る有償譲渡行為であると解すべきところ、被告人の本件文書図画の配布は性に関する学問的研究資料として特定少数の会員に対して為されたものであるばかりでなく、右資料の製作は会員の醵出した会費により共同製作され、全会員の共同所有に係るもので営利目的に出たものでないから、被告人の本件文書等の配布を目して販売行為と認定した原判決には事実誤認、採証法則違反等の違法がある、というにある。 <要旨>一件記録ならびに証拠物を精査し、当審における事実取調の結果をも参酌して考察するに、被告人が昭和十</要旨>六年頃、性心理等に関する自己の著作物の読者を対象とするA会を創設したこと、同会は会則(押収に係る「会則」昭和三八年押第二八七号の一一三)によれば、「人性把握の面に於て最も未開拓な性の研究を、生理学・臨床医学・心理学(特に精神分析学)・美学・ 対象とするA会を創設したこと、同会は会則(押収に係る「会則」昭和三八年押第二八七号の一一三)によれば、「人性把握の面に於て最も未開拓な性の研究を、生理学・臨床医学・心理学(特に精神分析学)・美学・哲学・教育学・文学・言語学・民俗学・風俗学・史学・法学・犯罪学等の凡ゆる角度から徹底的に追求し、個人の幸福公共の福祉を図る」ことを目的としてうたい、会員は入会申込書に住所、氏名のほか学歴、職歴、性歴、年令、家族関係等を記載して会に届け出で、これに基づき会長たる被告人が適格と認めた成年研究者に限ることとし、昭和十六年当初は約百名に過ぎなかつたものが会員数を限定していなかつたので、昭和三十年頃には三百名以上に増加したこと、同会の運営は会員の醵金(一口五百円)、特別寄附金および会長の補助出費によつて支弁される建前となつていたこと、同会は機関誌として「生心リポート」を原則として毎月定期に共同作製し、客員と会員がその共同所有に当り、その費用はその都度精算報告し、各自の醵金から(精算)控除するとされていたこと、客員と会員は性研究資料の貸与を受けることができるが、会員は機関誌や貸与を受けた資料を他人にみだりに販売、頒布することを禁ぜられていたこと、同会は前記の目的に副うため随時、研究会、見学会、展示会、交換会等を開催するとされていたことをそれぞれ認めることができる。 そこで右記の点を考慮に入れつつ、被告人の本件文書等の配布が販売といえるか否かにつき審按する。 (イ) 刑法第百七十五条にいう販売とは、不特定または多数人に対する有償譲渡をいうものと解すべきところ、相手方を不特定または多数人と解する所以は、けだし不特定の人に猥褻文書、図画を譲渡するときは該文書等は多数の人に行き渡る虞れがあるから公然性を帯びるものというべく、また多数の人に猥褻文書等を譲渡する 手方を不特定または多数人と解する所以は、けだし不特定の人に猥褻文書、図画を譲渡するときは該文書等は多数の人に行き渡る虞れがあるから公然性を帯びるものというべく、また多数の人に猥褻文書等を譲渡するときは、相手方が特定していても該文書等は公然性を有するものと認めざるを得ず、従つて、不特定の人に対する猥褻文書、図画の譲渡も、多数の人に対するそれも、ともに社会生活における性的秩序の保持の必要上、猥褻物の公表を禁遏しようとする右同条の法意に牴触するもと認められるからである。しかして多数であるか少数であるかは、もとより相対的な観念であり、その間に基準を設けることが困難ではあるが、結局、当該規定の法意を勘案し、社会通念に従つて決するのほかはない。原判決引用の関係証拠によると、原判示「生心リポート」は醵金をしたA会の会員全部(本件当時約三百名)に配布し、その他の原判示文書図画は右会員中の希望者に配布したものであつて、本件で採り上げられている事実は右配布行為の一部であることが認められるから、その対象者延九十名という人数は必ずしも多数とはいえないようであるが、刑法第百七十五条の法意を勘案し、社会通念に従つて観察するときは、右会員に対する本件文書、図画の配布は、それが有償譲渡に当るか否かの判断は次項に譲り、少なくとも販売の概念要素の一である多数人に対する配布に当るものと解せざるをえない。 (ロ) 次に右資料の配布が有償譲渡であるか否かの点であるが、原判決挙示の対応証拠、なかんずく被告人の原審公判廷における供述、被告人の検察官に対する昭和三十三年三月十二日付、同年同月十七日付、押収に係る会信(前同押号の一一七)、会員通知(同押号の三五三)、領収書一通(同押号の三四三)、精算メモ二枚(同押号の四五五)等を総合すると、被告人は前段説示の如く、その主宰するA会 同月十七日付、押収に係る会信(前同押号の一一七)、会員通知(同押号の三五三)、領収書一通(同押号の三四三)、精算メモ二枚(同押号の四五五)等を総合すると、被告人は前段説示の如く、その主宰するA会の会員から醵金名義の金員を徴収し、その全会員に対し同会の機関誌である「生心リポート」を送付し、その他の原判示文書図画を含む資料の会員中の希望者に対しこれを配布していたものであるが、被告人は会員から定期的に定額の金員を徴収していたものではなく、会員がいわば都合のよい時に送つてくる五百円、千円というような額の金員を受領し、かような金員を醵出した会員に対して不定期的に発行する機関誌「生心リポート」一部を送付し、それと引換え的に醵金から金五百円を控除し、会員の希望により他の資料を送付した場合にも、同様一定の金員(原判示文書、図画については、原判決が単価若しくは一部代金として表示している金額)を醵金から差し引いたうえ残額を算出し、その計算関係を記載した精算書を会員に送付し、その残高が次回に送付すべき機関誌その他の資料の分に足りないときは、更に会員をして前払い若しくは後払いの方法により送金させていたものであることが認められ、右事実に徴すると、被告人の会員からの金員の徴収と、当該会員に対する資料の送付との間には対価関係があつたものと認めざるをえない。また、前掲証拠によれば、被告人が会員に対し、その送付に係る資料を他人に見せることを戒めたことは認められるが、事実上その管理方法等につき特段の指示を与えた事跡は本件記録上これを認めるに足りる証拠がなく、会員の脱会の場合における資料の措置についても格別の配慮を示さず、会員中には送付を受けた資料を焼却した者すら存することが認められ、当審における事実取調の結果に徴しても右認定を覆すに足りない。以上の事実に徴すると、被告 ける資料の措置についても格別の配慮を示さず、会員中には送付を受けた資料を焼却した者すら存することが認められ、当審における事実取調の結果に徴しても右認定を覆すに足りない。以上の事実に徴すると、被告人は醵金をした会員に対しては、前記会則の文言にかかわらず、原判示資料を有償譲渡したものと認められるのであつて、その資料の授受が、所論のごとく資料を会員各自の醵金によつて共同製作し共同所有して、各自がそれを借り受けるというが如き関係において行なわれていたものとは認めることができない。原判決の引用する各関係人の検察官に対する供述調書記載の供述中叙上の点に関する部分の任意性ないし真実性を疑うに足りる証跡はなく、所論引用の各証拠の供述内容は前記各証拠と対比して到底措信できない。 (ハ) なお刑法第百七十五条にいう販売は「営利の目的」を要件としない。従つて被告人が叙上の如く会員に対し対価を得て本件文書等を配布したことが営利の目的に出たか否かの点については、被告人の刑責の有無を判断するについて影響がない。 論旨はすべて理由がない。 (その余の判決理由は省略する。)(裁判長判事坂間孝司判事栗田正判事沼尻芳孝)
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