主文 被告人両名をそれぞれ懲役3年以上5年以下に処する。 被告人両名に対し,未決勾留日数中各180日を,それぞれその刑に算入する。 理由 (犯行に至る経緯)被告人A及び被告人Bは,平成13年4月28日,友人のC,Dらとともに渋谷で遊ぶなどした後,同日午後11時53分ころ,帰宅するため,E株式会社F線G駅からH駅行きの電車に乗車した。 被告人らが混雑した車内で立っていたところ,ほどなくして,被告人Bとその近くに座っていた被害者との間で,被告人Bの足が被害者に当たったかどうかを巡って口論となり,当時かなり酒に酔っていた被害者が被告人らに対し,「次の駅で降りろ。」などと言った。 電車が三軒茶屋駅に到着すると,被害者は,自ら電車を降り,被告人らにも降りるように要求した。そこで,被告人らはホームに降りて被害者と対峙したが,この電車が被告人らの自宅付近まで帰ることのできるI駅行き最終電車であると思っていたことから,被害者を三軒茶屋駅に置き去りにしてしまおうと考え,再びこの電車に乗り込んだ。しかし,被害者が閉まりかけたドアに手を差し込むなどしてドアをこじ開け,電車に乗ろうとしてきたので,被告人A及び被告人Bは,差し込まれた被害者の手を殴りつけたり,乗り込もうとする被害者の胸腹部を足蹴りにしたりした。 そのような攻防を繰り返しているうちに,ドアが開き,被害者が被告人Aを引きずり出そうとして,被告人Aの着ていたトレーナーが破れた。被告人A及び被告人Bは,酔った被害者にしつこく絡まれた上,被告人Aの服を破られたことで憤激した。 (罪となるべき事実)被告人両名は,共謀の上,平成13年4月28日午後11時58分ころ,東京都世田谷区ab丁目c番所在のE株式会社F線三軒茶屋駅1番線ホーム上において,被害者(当時43歳)に対し,こ となるべき事実)被告人両名は,共謀の上,平成13年4月28日午後11時58分ころ,東京都世田谷区ab丁目c番所在のE株式会社F線三軒茶屋駅1番線ホーム上において,被害者(当時43歳)に対し,こもごもその顔面を手拳で数回殴打してホーム上に転倒させるなどの暴行を加え,よって,同人に鼻骨骨折を伴う鼻根部から鼻背部上半にかけての打撲傷,口部左半擦過打撲傷,左側頭部前半打撲傷等の傷害を負わせ,同年5月4日午前7時47分,東京都目黒区de丁目f番g号所在のJ医療センターにおいて,上記傷害に基づく左椎骨動脈破裂による外傷性くも膜下出血により同人を死亡するに至らせたものである。 (過剰防衛及び誤想過剰防衛に関する補足説明) 1 被告人Aの弁護人の主張被告人A(以下「A」という。)の弁護人は,①Aが被害者を殴打した行為は,被害者がAの右肩口を掴んで電車内からホームに引きずり出し,ホームでAの肩口を掴んだまま右手を振り上げて殴りかかろうとしたという急迫不正の侵害に対し,防衛行為としてやむを得ずに行ったものであるが,防衛行為の相当性を欠いていたため,過剰防衛に該当し,②仮に,Aが被害者を最初に殴打した後に急迫不正の侵害がなくなっていたとしても,その後のAの被害者に対する暴行は,誤想過剰防衛に該当すると主張する。 2 検討そこで検討すると,被害者がAに対し右手を振り上げた行為については,Aが捜査段階及び公判廷において,その旨明確に供述しているところ,その供述は,検察官の反対質問によっても揺らぐことなく一貫しており,Aと被害者との間の諍いの経緯等に照らしても,特段不自然な点がないばかりでなく,被告人B(以下「B」という。)が捜査段階及び公判廷を通じて,被害者から攻撃を受けた旨の供述をしていることをも併せ考えると,信用することができる。検察官は,本件 も,特段不自然な点がないばかりでなく,被告人B(以下「B」という。)が捜査段階及び公判廷を通じて,被害者から攻撃を受けた旨の供述をしていることをも併せ考えると,信用することができる。検察官は,本件犯行を目撃した複数の者が被害者の攻撃に関し何ら供述していないことを指摘して,Aの供述は信用し得ない旨主張するが,各目撃者の供述内容は,断片的であり,暴行態様等について曖昧な点が見られる上,中には「被害者が殴られているとき,一度抵抗したように見えた。」などという供述も存在するのであるから,検察官の指摘するところは,Aの供述の信用性を覆すに足りるものではない。 また,被害者がAを電車内からホームに引きずり出した行為については,関係証拠によって認められるとおり,その際,Aの着ていたトレーナーが破れたのであって,被害者がかなり強い力でAを引きずり出したことが推認できるのであり,このことからすると,被害者の行為は,Aに対し実害又は危険を与えるに足りる行為ということができる。 そして,関係証拠によれば,被害者が被告人らに対し,「次の駅で降りろ。」「かかってこいよ。」などと言って挑発的な態度を執り,Aの着ていたトレーナーが破れるほど強い力でAを電車内からホームに引きずり出した上,左手でAの肩口を掴んだままAに対し右手を振り上げたことが認められるが,他方で,①被害者は,本件当時かなり酒に酔っていて,体がふらついており,被告人両名ともこれを認識していたこと,②被害者は1人であったのに対し,被告人側は,被告人両名を含めて4名いたこと,③被害者は,三軒茶屋駅のホームで被告人両名から暴行を加えられた際,何の抵抗もしなかったこと,④Aは,本件犯行の動機について,被害者がしつこく絡んできたことに腹が立ったから暴行を加えたのであり,被害者を殴る必要性はなかった旨供述 で被告人両名から暴行を加えられた際,何の抵抗もしなかったこと,④Aは,本件犯行の動機について,被害者がしつこく絡んできたことに腹が立ったから暴行を加えたのであり,被害者を殴る必要性はなかった旨供述していること,⑤Bも本件犯行の動機について,Aとほぼ同じ内容の供述をしていることなどが認められ,これらの諸事情からすれば,被害者がAを電車内からホームに引きずり出した行為やAの肩口を左手で掴んだまま右手を振り上げた行為がAに対する不正の侵害に当たるとしても,Aは,それまでの被害者との間の喧嘩闘争の一環として,被害者に対し専ら積極的に加害行為を加える意思で暴行に及んだものというべきであって,侵害の急迫性の要件を充たさず,かつ,防衛の意思を欠くものであるから,Aの被害者に対する暴行行為について過剰防衛又は誤想過剰防衛が成立しないことは明らかである。 (自首に関する補足説明)被告人両名の弁護人は,それぞれ,被告人両名について自首が成立すると主張するので検討すると,関係証拠によれば,①Bは,平成13年5月4日,ニュースで被害者が死亡したことを知り,家族に事実を打ち明け,同日午後9時30分ころ,自宅に近い神奈川県警察本部K警察署に出頭し,その後,警視庁L警察署に移動し,翌5日午前2時30分ころ,司法警察員によって自首調書が作成されたこと,②Aは,同月4日,Cから被害者が死亡したことを聞き,同日午後11時50分ころ,家族とともに,自宅に近い警視庁M警察署に出頭し,その後,警視庁L警察署に移動し,翌5日午前3時45分ころ,司法警察員によって自首調書が作成されたことなどが認められ,これら被告人両名が捜査機関に出頭した経緯に鑑みると,本件において被告人両名につき自首が成立することは明らかである。 (量刑の理由)本件は,電車の中で始まった諍いを契機に,被告人 などが認められ,これら被告人両名が捜査機関に出頭した経緯に鑑みると,本件において被告人両名につき自首が成立することは明らかである。 (量刑の理由)本件は,電車の中で始まった諍いを契機に,被告人両名が被害者に暴行を加えて,死亡させたという事案である。 被告人両名は,混雑した電車の中で被害者と口論になり,その際,被害者が被告人らにしつこく絡んできたことなどに憤激して,本件犯行に及んだのであり,その短絡的な動機に酌量すべき余地はない。 被告人両名は,被害者がかなり酒に酔い,ふらふらした状態であったことを認識しながら,こもごも手拳で顔面を数回殴打するなどして被害者をホーム上に転倒させ,血だらけになって倒れていた被害者を放置したまま現場から逃走し,結果として,外傷性くも膜下出血により被害者を死亡させたのであり,犯行態様は,危険,悪質である上,卑劣であり,生じた結果も重大である。 被害者は,被告人らに対し,電車から降りるように要求するなどしてしつこく絡んでいたとはいえ,生命を奪われるまでの落ち度はなかったのに,深夜,複数の男から暴行を加えられた挙げ句,意識を取り戻すことのないまま,年老いた母親や婚約者を残して死亡したのであって,その無念さ,口惜しさは察するに余りある。 にもかかわらず,被告人両名は,被害者の遺族らに対し慰藉の措置を十分に執っておらず,被害者の遺族,婚約者らが厳しい被害感情を抱いているのも当然である。 また,本件は,死を招いた車内暴力の事件として,マスコミにも大きく取り上げられ,人々に衝撃を与えたのであり,その社会的影響も軽視することができない。 以上からすれば,被告人両名の刑事責任は重い。 他方,被告人両名は,本件犯行後警察署に出頭して自首し,捜査段階の当初から本件犯行を認め,反省の態度を示していること,未成年であること とができない。 以上からすれば,被告人両名の刑事責任は重い。 他方,被告人両名は,本件犯行後警察署に出頭して自首し,捜査段階の当初から本件犯行を認め,反省の態度を示していること,未成年であること,被告人両名の親が公判廷において今後の監督を誓っていることなど,被告人両名にとって有利に斟酌すべき事情も認められる。 しかし,前述した本件の重大性に鑑みると,被告人両名にとって有利に斟酌すべき諸事情を最大限考慮しても,求刑どおり懲役3年以上5年以下の刑をもって臨まざるを得ないと判断した。 (求刑被告人両名につき懲役3年以上5年以下)平成14年2月19日東京地方裁判所刑事第5部裁判長裁判官山室惠裁判官松本圭史裁判官大野洋
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