令和3合(わ)106 殺人

裁判年月日・裁判所
令和6年2月27日 東京地方裁判所
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判決文本文10,545 文字)

令和6年2月27日東京地方裁判所刑事第18部宣告令和3年合(わ)第106号殺人被告事件 主文 被告人を懲役17年に処する。 差戻前第一審における未決勾留日数中700日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は、平成25年6月10日頃、東京都新宿区(住所省略)a 号室において、A(以下「被害者」という。当時25歳)に対し、殺意をもって、ジフェンヒドラミンを含有する睡眠改善薬を大量に摂取させ、よって、その頃、同所において、同人をジフェンヒドラミン中毒により死亡させ、又はジフェンヒドラミンを含有する睡眠改善薬を大量に摂取させた上で同人の頸部を圧迫し、よって、その頃、同所において、同人をジフェンヒドラミン中毒若しくは頸部圧迫による窒息により死亡させた。 (事実認定の補足説明)第1 争点被告人は、被害者を殺していない旨述べ、弁護人も、被害者は自らジフェンヒドラミンを含有する薬物を大量に摂取し、ジフェンヒドラミン中毒により死亡した可能性があり、被告人が被害者を殺したとは認められない旨主張するので、当裁判所が判示の事実を認定した理由について、補足して説明する。 第2 前提となる事実関係前掲の関係各証拠によれば、以下の事実が認められる。 1 被告人は、平成19年に、夫と別居中の被害者(当時19歳)と知り合って交際を始め、平成23年からは東京都新宿区(住所省略)a 号室の被害者方で半同棲状態を続けていたが、平成24年10月下旬頃からは、被害者と交際する一方で、 アルバイト先で知り合ったBとも交際するようになり、その後、Bと結婚の話をするようになっていた。 2 被害者は、平成25年6月8日午後2時頃に、被告人と川崎市(住所省略)内の中華料理店で食事をし アルバイト先で知り合ったBとも交際するようになり、その後、Bと結婚の話をするようになっていた。 2 被害者は、平成25年6月8日午後2時頃に、被告人と川崎市(住所省略)内の中華料理店で食事をした後、その最寄りのb駅から入場し、同日午後5時4分に新宿駅から出場し、その後、同月10日頃までに死亡した。 3 被告人は、Bに指示をして、平成25年6月5日に睡眠改善薬ドリエル(主成分ジフェンヒドラミン、用量は1日2錠)12錠入りを3箱購入させて受け取り、同月8日に2回に分けてドリエル12錠入りを合計4箱購入させて受け取り、同月9日にドリエル12錠入りを1箱購入させて受け取った。 4 被告人は、Bに指示をして、同月9日昼にレンタカーを運転させて相模原市cに所在する施設dまで行かせジャムを買わせた上、黒色遮光カーテン2組を購入させ、その後、同カーテンをB方に取り付けた。 5 被告人は、同月15日又は16日に、被害者方において、被害者の死体をビニールシート等で包んだ上、同人方から運び出し、Bが運転するレンタカーに積み込んで、同人方に運び入れた。その後、同年7月19日には、同人方から死体を運び出し、同人が運転するレンタカーに積み込んで、施設dに隣接し被告人の祖母の墓がある墓地まで運び、同所の土中に埋めて遺棄した。 6 被害者の死体は、平成27年6月24日に発見されたところ、その解剖を担当したC医師の差戻前公判における供述等によれば、被害者の死因は、ジフェンヒドラミン中毒又は頸部圧迫による窒息のいずれかであると認められ、死体から検出されたジフェンヒドラミンの濃度からすると、被害者は、死亡する前に、ドリエルに換算して四、五十錠分以上のジフェンヒドラミンを摂取したと推定される。 第3 殺害の事実について 1 以上のとおり、被告人は、被害者の死体を ミンの濃度からすると、被害者は、死亡する前に、ドリエルに換算して四、五十錠分以上のジフェンヒドラミンを摂取したと推定される。 第3 殺害の事実について 1 以上のとおり、被告人は、被害者の死体を被害者方からB方に移して保管した上、更にその後、墓地まで運んでその土中に埋めているが、被害者の死体を土中に埋めることは、被害者が死亡した事実を隠し、生死不明ないし行方不明の状態に しようとするものである。被害者が被告人の関与なく死亡したのであれば、被告人が被害者の死体を土中に埋めて被害者が死亡した事実を隠す行動を取ることは通常考え難く、被告人のこのような行動は、被告人が被害者の死亡に積極的に関与したことを強く推認させるものである。 加えて、被害者が大量のドリエル(四、五十錠以上)を摂取して中毒死又は窒息死したのと同じ時期に、被告人が数日の間に繰り返しBに購入させて用量を大きく超える大量のドリエル(96錠)を入手していることも考慮すると、被告人が入手した大量のドリエルを何らかの方法で被害者に摂取させた後、被害者はジフェンヒドラミン中毒又は頸部圧迫による窒息により死亡したものと推認される。 そして、被告人が被害者に用量を大きく超える大量のドリエルを摂取させた目的は、被告人と被害者との関係に照らすと、中毒死を目的とするにせよ、意識を失わせる目的にとどまるにせよ、最終的に殺害をする以外の合理的な目的は考えられず、殺害目的であったと認められる。被告人が被害者に用量を大きく超える大量のドリエルを摂取させていることからすると、被告人は、ドリエルの薬理作用により被害者を中毒死させることを考えていたものと認められるが、他方で、市販薬であるドリエルを大量に摂取させても中毒死するかどうかは不確実であり、中毒死を考えつつも、摂取させた後に被害者が死亡しない より被害者を中毒死させることを考えていたものと認められるが、他方で、市販薬であるドリエルを大量に摂取させても中毒死するかどうかは不確実であり、中毒死を考えつつも、摂取させた後に被害者が死亡しない場合には頸部を圧迫して殺害することを考えていたものと認められる。 このような殺害方法を考えた上で、被告人は、殺害目的で被害者に大量のドリエルを摂取させたところ、①その結果、被害者が中毒死したか、又は、②被害者が死亡しなかったため被告人が更に被害者の頸部を圧迫し、その結果、被害者が中毒死又は窒息死したものと認められる。 2 また、前記のとおり、被告人は、平成25年6月9日(日)にBに指示をして、後に死体を遺棄する墓地に隣接した施設dまでレンタカーを運転して行かせたり、後に死体を保管するB方に取り付ける黒色遮光カーテンを入手したりしている。 これらの事実は、休日のため教育実習場所の静岡から帰京しているBにわざわざ相 模原市までレンタカーで行かせていること、当時B方には既にピンク色のカーテンが取り付けられていたのに、わざわざ黒色遮光カーテンを購入させて二重に取り付けた上で、被害者の死体を運び入れ、一定期間保管していること、更には、最終的に、被告人が運転技術の未熟なBにその墓地までレンタカーを運転させて死体を運搬した上で遺棄していることなどの事実関係も考慮すると、被告人が、6月9日の段階で、被害者の死体を埋めることを想定し、その候補地として考えた墓地までの経路や運転に慣れさせるなどの目的でBに運転をさせるとともに、土中に埋めるまでの間、被害者の死体を被害者方からB方に移して保管することを考え、その保管中に温度上昇を防いで死体の腐敗を遅らせるなどし死体を保管していることが発覚しないようにするために黒色遮光カーテンを入手したものと推認できる。こ を被害者方からB方に移して保管することを考え、その保管中に温度上昇を防いで死体の腐敗を遅らせるなどし死体を保管していることが発覚しないようにするために黒色遮光カーテンを入手したものと推認できる。このように、被告人は、被害者の死亡と同じ時期に、死体の保管・遺棄の準備行為をしているところ、被害者の死亡後にこれらの準備行為をした場合であっても、死亡から1日も経たないうちに死体遺棄の準備行為をしているのであって、被害者の死亡に積極的に関与したからこそこのような行動を取ったと考えるのが自然であり、死体遺棄の準備行為をしたことは前記1の推認を支えるものといえる。 3 そのほか、被告人は、平成27年1月から4月にかけて、警視庁地域課の警察官及び同庁捜査一課の警察官から、被害者の行方に関して事情聴取を受けたところ、その後、同月頃から同年5月頃にかけて、自身のパーソナルコンピュータを用いて「捜査一課権力」などをキーワードとしてインターネット検索を行い、同月16日には、「殺人罪逮捕条件」、「殺人罪逮捕に必要な」などをキーワードとして、同年6月15日には、「殺人経過した犯罪立証が難しい」などをキーワードとしてインターネット検索をしている。 以上の検索履歴のうち、特に6月15日の検索をみると、検索の際、被告人が、時間の経過した殺人の事実について立証が困難かどうかについて関心を有していたものと考えられる。殺人に関する検索よりも前に、捜査一課の権限について検索をし、それに関するウェブサイトの閲覧をしているとうかがわれることを踏まえても、 一連の検索結果は、被害者の死体遺棄のみを行った者が取る行動というよりは、被害者の死亡に積極的に関与した者の行動として理解する方が自然であり、この事実は前記1の推認を支えるものといえる。 4 そして、B 検索結果は、被害者の死体遺棄のみを行った者が取る行動というよりは、被害者の死亡に積極的に関与した者の行動として理解する方が自然であり、この事実は前記1の推認を支えるものといえる。 4 そして、Bの差戻前公判における供述等によれば、被告人は、Bとの交際を開始した後、結婚を前提とするような話もするなどその交際を進展させ、平成25年5月下旬にはBが被告人方の近くに転居もしたこと、他方で、被害者は、平成24年11月頃には被告人とBの親密なメールのやり取りを見るなどして両者の交際に気付き、平成25年には、Bに無言電話をかけたり、電話で「彼はあなたのことを彼女とは思っていない」などと告げるなど、被告人とBの交際を妨害するような行動をし、Bにおいて被告人にこのような電話があったことを告げていたことが認められる。 また、被害者には平成18年4月生まれの長男であるDがいたところ、被告人の友人であった証人Eの公判供述等によれば、被告人は、平成20年から平成21年の間に、「思い出を埋めに行く」などとして、Eに運転を依頼して川崎市(住所省略)の畑まで運転をさせた上、そこに何かを埋めたこと、その後、その場所から被害者のミトコンドリアDNA型と一致する推定一、二歳の子の歯牙と骨片が発見されたことなどが認められ、これらの事実からすると、被告人が、平成20年から平成21年の間に、前記畑にDの死体を埋めたことが認められる。ところが、平成23年2月に被害者の他にDも前記被害者方への転入が届けられていて、Dは生存していれば平成25年4月に小学校に入学する年齢となっている。 そうすると、被告人は、平成25年5月から6月の本件犯行前の時点で、Bとの交際を更に進展させるため、その支障となる被害者が邪魔になるとともに、被害者が被告人と別れた後に小学校等からDの所在や生死を問 そうすると、被告人は、平成25年5月から6月の本件犯行前の時点で、Bとの交際を更に進展させるため、その支障となる被害者が邪魔になるとともに、被害者が被告人と別れた後に小学校等からDの所在や生死を問われて被告人がDの死体を畑に埋めたことを第三者に口外してしまうことをおそれるなどして、被害者の殺害を決意したものと推認できる。 第4 被告人の公判供述及び弁護人の主張について 1 被告人の公判供述の要旨被告人は、当公判廷において、以下のとおり供述する。すなわち、「平成25年5月頃以降の被害者はうつのような状態であり、同人から、眠れないためドリエルを買ってくるように依頼され、ドリエルを一、二箱買って渡した。同年6月5日には、同人から、ドリエルを買えるだけ買うように頼まれ、Bにドリエル3箱を買ってもらい被害者に渡したが、同人から更に求められ、Bにドリエルを更に買うように依頼した。同月8日の日中、被害者とb駅付近の中華料理店に行き、6月いっぱいで交際関係を解消したいので今日中に被害者方にある自分の私物を持ち出そうと思っている旨を伝え、被害者の了承を得た上で、被害者と別れてbを後にした。その後、Bとe駅で合流し、同人の運転するレンタカーで被害者方に行って私物を搬出し、Bと食事をした後、Bと一緒に新宿の薬局に行き、Bがドリエルを買い、更にfの薬局に行って、同店でもBがドリエルを買い、それらを受け取るなどした後、新宿のカフェやゲイバーに行った。その間、被害者から着信があったが出られず、何度か折り返しの電話をかけメールも送ったが、連絡がなかったため被害者のことが心配になり、6月9日午前0時から午前2時頃に被害者方に向かい、Bを車内で待たせて被害者方に入った。すると、被害者は、部屋の中で仰向けに倒れていた。被害者の体をゆすったりしたが反応 め被害者のことが心配になり、6月9日午前0時から午前2時頃に被害者方に向かい、Bを車内で待たせて被害者方に入った。すると、被害者は、部屋の中で仰向けに倒れていた。被害者の体をゆすったりしたが反応はなく、口元に耳を当てたりしたが、体温を感じず、死亡していると確信した。そのため、119番通報をすることは思い至らなかった。 警察への通報も考えたが、通報すればBに被害者との関係が知られると思い、通報せずにBと共にB方に行った。B方で朝方まで過ごしている間、死体を被害者方に放置するか警察に通報するか悩んだが、通報すればBに迷惑が掛かると思い通報しなかった。その他にも通報しなかった理由はあるが、それは言いたくない。同日朝、死体をどうするか考えがまとまらず、一旦現実逃避的にシフトが組まれていたアルバイトに行った。Bには、6月7日か8日に、6月9日に自分がアルバイトをしている間時間潰しのためブルーベリージャムを買いにcに行ってほしいと頼んでおり、Bはcに行った。6月9日昼頃、cに行ったBに連絡してカーテンを買ってきてほ しいと頼んだ。これは、B方のカーテンがピンク色で落ち着かないため黒いカーテンを買ってほしいと以前から頼んでいたところ、9日に被害者方で被害者の死体を発見したため今後はB方で寝泊まりしようと考えた際に、改めてピンク色のカーテンは落ち着かないと思って頼んだものである。Bとは6月9日夜から再び一緒に過ごし、10日朝に別れた。その後、以前5月下旬頃に、小学校から、被害者方に、Dが登校していないことに関して訪問した旨の手紙が投函されていたことを思い出し、被害者の死体を被害者方に放置していて学校や警察に見つかってはいけないと思い、B方に被害者の死体を移すことにして、同月15日又は16日に死体を移した。その後もすぐに死体を埋めようとは考えな い出し、被害者の死体を被害者方に放置していて学校や警察に見つかってはいけないと思い、B方に被害者の死体を移すことにして、同月15日又は16日に死体を移した。その後もすぐに死体を埋めようとは考えなかったが、7月初めに死体から腐敗臭がしたため、死体をどこかに隠すほかないと考え、Bに死体遺棄に適した場所を案内してもらったが、決めかねていたところ、7月19日に死体の周りが血の海になっていたため、慌てて祖母の墓のあるcの墓地まで死体を運び、そこに埋めた。」旨供述する。 2 弁護人の主張弁護人は、被告人の供述を前提に、①被告人は被害者を殺害したわけではないが、被害者が死亡した事実が明らかになれば、Dの死体を遺棄したことが発覚し、同人の死亡に関与していると疑われるとおそれ、被害者の死体を発見したものの、119番通報や110番通報ができず、被害者の死体を遺棄した可能性がある旨主張し、さらに、②被害者は、Dの死亡や死体遺棄に関与しており、それを思い悩み、加えて、唯一頼りにできる被告人から別れを告げられており、自殺を図る動機があった、③ジフェンヒドラミン塩酸塩は苦く、大量のドリエルを被害者に飲ませることは現実的に困難である、④市販薬であるドリエルを大量に摂取させて殺害するという計画自体、確実に殺害できる保証がないことなどから不自然である、⑤被告人は被害者の死体を被害者方やB方に放置した末、死亡後約40日も経過した後に遺棄しているほか、自身と関係する祖母の墓地に遺棄しており、このような行動は、ドリエルを大量に摂取させるという計画的な殺人とは相容れない、⑥被告人の平成27年 の手帳の6月9日の欄には「A」と記載されていた跡があり、被害者の命日に被害者の名前を記入するようなことは、殺人を実行した犯人の行動としてあり得ないなどとして、本件は他 被告人の平成27年 の手帳の6月9日の欄には「A」と記載されていた跡があり、被害者の命日に被害者の名前を記入するようなことは、殺人を実行した犯人の行動としてあり得ないなどとして、本件は他殺では説明できない事情があると主張する。 3 被告人の公判供述についてしかしながら、被告人の公判供述は、以下に述べるとおり、信用することができない。 ⑴ 6月9日にBに頼んでcにジャムを買いに行かせたり、黒色カーテンを購入させたりした理由に関する被告人の供述は、被告人がアルバイトをしている時間をどう過ごすかはBの自由にさせればよいのに、教育実習場所の静岡から帰京しているBに、時間潰しのためわざわざレンタカーで遠方のcまでジャムだけを買いに行かせるというものであり、それ自体、不自然、不合理である。また、交際相手の自殺という非常に衝撃的な事態を目の当たりにしてからさほど時を置かずに、B方のカーテンの色が落ち着かないなどという理由で黒色カーテンを買ってもらおうと考えたというのも、不自然である。被告人が、死体遺棄と全く無関係にジャムを買わせに行かせた場所が、偶然死体遺棄場所のすぐ近くであり、死体遺棄と全く無関係に買わせた黒色遮光カーテンが、偶然その数日後に死体を一定期間保管する際に温度上昇を防いで腐敗を遅らせるのに適したものであったなどということは、およそ考え難い。 ⑵ そして、被告人が、当初は通報できずに死体を被害者方に放置し、後にB方に移すこととし、更にその後にcの墓地に埋めることとしたという一連の経過に関する供述は、前記のとおり、被告人が、6月9日の時点で、既に、被害者の死体を被害者方からB方に一旦移して保管した上で最終的には遺棄することを考えて、Bに各指示をして実行させていることと矛盾している。 ⑶ また、被害者の死体を発見し 6月9日の時点で、既に、被害者の死体を被害者方からB方に一旦移して保管した上で最終的には遺棄することを考えて、Bに各指示をして実行させていることと矛盾している。 ⑶ また、被害者の死体を発見した直後に119番通報を思い至らなかったとする供述は、被害者には数時間前まで異常がみられず、被告人に医学的知識もないのであるから、119番通報を思い至らないほど死亡や蘇生可能性がないことを確信 したとする根拠として薄弱なものというほかない。しかも、被害者のことが心配で同人方を訪れたというのに、119番通報に思い至らないというのも、不自然、不合理である。Bに被害者との関係を知られたくないという点も、死亡した交際相手を発見しながら通報をためらう理由になるとは到底いえない。 ⑷ さらに、被害者に依頼されてドリエルを入手していたという点についても、種々の日用品等があるうちで被害者がドリエルだけ被告人に大量購入を依頼していたというのは理解し難い上、被告人がBに指示をして大量のドリエルを購入させていたことについても合理的な説明はない。また、被告人は、6月8日の日中に被害者との間で6月いっぱいで交際関係を解消することを合意し、その後被害者方から自身の荷物を搬出までしたのに、更にその後、被害者に渡すために、新宿の薬局でドリエル3箱(36錠)を入手しただけでなく、場所を変えてfの薬局でドリエル1箱(12錠)を追加入手したというのも、不自然、不合理である。被告人は、6月いっぱいは、それまでと同様に被害者方に行って家事や身の回りの世話をするつもりであったから、ドリエルも渡そうと思った旨供述するが、他の日用品等は全く買わずにドリエルだけを大量に入手した理由としておよそ納得できるものではない。 ⑸ 以上のとおり、被告人の公判供述は、信用することができない。 エルも渡そうと思った旨供述するが、他の日用品等は全く買わずにドリエルだけを大量に入手した理由としておよそ納得できるものではない。 ⑸ 以上のとおり、被告人の公判供述は、信用することができない。 4 弁護人の主張に対する判断被告人は被害者を殺害したわけではないが、被害者が死亡した事実が明らかになれば、Dの死体を遺棄したことが発覚し、同人の死亡に関与していると疑われるとおそれて、被害者の死体を遺棄したという弁護人の主張①は、被告人が言いたくないとするところに関して主張するものと解されるが、被告人の公判供述が信用できないのはこれまで検討したとおりであり、被告人の公判供述を前提する主張であれば、弁護人の主張は前提を欠いている。他方で、被告人がドリエルを大量に入手し、Bを施設dへ行かせ、黒色カーテンを購入させたことなどについて、被告人の公判供述とは異なる経緯が真実としてあるのであれば、被告人はその真実をありのままに供述すれば足り、あえて真実と異なる別の経緯を供述する合理的な理由は 見いだせない。そうすると、被告人が公判で供述する経緯とは異なる経緯で、被告人は被害者を殺害していないが、被害者の死体を遺棄したという合理的な疑いは生じない。したがって、弁護人の主張①は採用することができない。 また、弁護人の主張②について、被害者がDの死や死体遺棄に関与していたり、そのことについて思い悩んでいた可能性は否定できず、また、長年交際してきた被告人が、Bという別の女性との交際を始めて進展させていることを知っていたことなど、自殺の動機となり得る事情があったことは否定できない。しかしながら、被害者に自殺の動機となり得る事情があったことは、前記第3の推認過程に影響するものでないから、その推認に合理的な疑いを生じさせる事情ではない。 弁護 事情があったことは否定できない。しかしながら、被害者に自殺の動機となり得る事情があったことは、前記第3の推認過程に影響するものでないから、その推認に合理的な疑いを生じさせる事情ではない。 弁護人の主張③について、確かに、被害者が摂取したジフェンヒドラミンが大量であることやジフェンヒドラミン塩酸塩が相当に苦いことからすれば、錠剤のまま摂取させたり苦みを感じさせずに摂取させたりすることはかなり困難であるといえる。しかし、四、五十錠以上のドリエルであっても、100ミリリットル以下の比較的少量の水に溶けると認められるから、被告人と被害者の関係を踏まえれば、かなり苦いが体によいものであるなどと偽ってドリエルを溶かした比較的少量の液体を飲ませるなどすることは十分に可能であると認められる。 弁護人の主張④は、ドリエルを大量に摂取させて中毒死させることを考えつつも、これだけでは不確実であるため、摂取後に被害者が死亡しない場合には頸部を圧迫して殺害することも考えていたという前記第3の1の認定を左右するものではない。 弁護人が主張⑤で指摘する経過は、被害者を殺害した後、一旦は教育実習中のBが不在となる同人方に死体を移して保管し、その間に死体を遺棄する場所を決めるという程度の計画であったとも考えられるから、ドリエルを大量に摂取させる態様での殺害と相容れないものではない。 弁護人の主張⑥について、被告人が被害者を殺害した場合であっても、長年交際した被害者の名前を、他人が見ることを想定しない手帳の命日の欄に記載するということは、特に不自然とはいえない。 以上のとおりであり、弁護人の指摘する事情を総合しても、被告人が被害者を殺害したとの前記の認定に合理的な疑いは生じない。 第5 結論よって、判示のとおり、被告人が被害者を殺害し 以上のとおりであり、弁護人の指摘する事情を総合しても、被告人が被害者を殺害したとの前記の認定に合理的な疑いは生じない。 第5 結論よって、判示のとおり、被告人が被害者を殺害したと認められる。 (量刑の理由)被告人は、被害者と交際する一方で別の女性とも交際を始め、その女性との交際の障害となった被害者の殺害を決意し、あらかじめその女性に購入させて準備した大量のドリエルを摂取させるなどして被害者を殺害したものであって、本件は身勝手な動機による計画的な殺人である。被害者の死亡という結果は重大であり、被害者の父親の処罰感情も厳しい。 以上の犯情に加え、被告人に前科がないことを踏まえ、同種事案(単独犯による殺人事件、「動機:男女関係(DVを除く)」、「同種の罪の件数:1件」、「前科なし」)の量刑傾向を参照の上検討すると、被告人の刑事責任は、その軽い部類に属するものではない。その上で、被告人が不合理な弁解に終始しており、反省の態度がないことも考慮し、主文掲記の懲役刑に処するのを相当とする(求刑懲役17年)。 よって、主文のとおり判決する。 令和6年2月29日東京地方裁判所刑事第18部裁判長裁判官野村 賢 裁判官池田知史 裁判官大﨑敦生

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