平成24(行ケ)10204 審決取消請求事件

裁判年月日・裁判所
平成25年1月15日 知的財産高等裁判所 2部 判決 請求棄却
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判決文本文22,137 文字)

- 1 -平成25年1月15日判決言渡平成24年(行ケ)第10160号,第10204号審決取消請求,同参加事件口頭弁論終結日平成24年12月19日判決 原告X 訴訟代理人弁理士相川俊彦 参加人大伍貿易株式会社 訴訟代理人弁護士室谷和彦面谷和範弁理士中谷武嗣 被告(脱退)Y 主文 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1 原告の求めた判決特許庁が無効2011-800193号事件について平成24年3月30日にした審決を取り消す。 第2 事案の概要- 2 -原告は,被告(脱退)の有していた本件特許(後に参加人に移転)について無効審判請求をしたが,請求不成立の審決を受けた。本件はその取消訴訟であり,争点は,サポート要件,明確性要件及び実施可能性要件の違反の有無と,新規性及び進歩性の有無である。 1 特許庁における手続及び本件訴訟の経緯被告は,本件特許第4658218号(発明の名称「封水蒸発防止剤」,平成21年11月20日出願,平成23年1月7日特許登録,特許公報は甲14,請求項の数2)の特許権者であった。 原告は,平成23年10月3日に,本件特許について無効審判請求をした(無効2011-800193号)。被告は,平成23年12月14日付けで,明細書の記載について,明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正請求を行ったところ,特許庁は,平成24 について無効審判請求をした(無効2011-800193号)。被告は,平成23年12月14日付けで,明細書の記載について,明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正請求を行ったところ,特許庁は,平成24年3月30日に,「訂正を認める。本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は平成24年4月9日に原告に送達された。 本件特許権については,平成24年3月1日を受付日とする,被告から参加人への移転登録がされたが,審決が被告を名宛人とするものであったことから,まず被告が本件訴訟の当事者となり,参加人の本件訴訟への参加を得て被告が脱退した。 2 本件発明の要旨本件特許の請求項1及び2(本件発明1及び2)は次のとおりである。 【請求項1】B廃油を,乳化状態が少なくとも3ヵ月以上持続するようにエマルジョン化して,さらに,比重を(ρ)とすると,0.98≦ρ<1.0である水溶性液体を主成分としたことを特徴とする封水蒸発防止剤。 【請求項2】乳化剤がアルカリ性洗剤である請求項1記載の封水蒸発防止剤。 3 審判における原告主張の無効理由(1) 無効理由1(特許法36条6項2号,同項1号)- 3 -ア本件発明1及び2の「B廃油」は,一般的に広く使用される明確な技術用語ではなく不明確であり,特許法36条6項2号の要件を満たさず,そのため,発明の詳細な説明に記載されたものではなく,同項1号の要件も満たさない。 イ本件発明1及び2の「水溶性液体を主成分とする」との構成は,水溶性液体を主成分とすると,エマルジョン化した成分が封水に溶解して分離しなくなり,本件明細書に記載された作用効果は生じなくなるから,発明の詳細な説明に記載されたものではなく,特許法36条6項1号の要件を満たさない。 (2) 無効理由2(特許法36条4項1号)本 しなくなり,本件明細書に記載された作用効果は生じなくなるから,発明の詳細な説明に記載されたものではなく,特許法36条6項1号の要件を満たさない。 (2) 無効理由2(特許法36条4項1号)本件発明1及び2は,「B廃油」を用いるものであるが,当業者がB廃油を入手することができない。したがって,発明の詳細な説明は,本件発明1及び2を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。 (3) 無効理由3(特許法29条1項3号,同条2項)本件発明1及び2は,特開2009-127355号公報(甲1)記載の発明であるか,これに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (4) 無効理由4(特許法29条1項2号,同項3号,同条2項)「乳製品の化学」(地球出版株式会社,昭和36年1月25日発行,2~9頁,甲4),「乳製品製造I」(株式会社朝倉書店,昭和38年10月30日発行,1~7頁,甲5),「加工食品の実際知識」(東洋経済新報社,昭和53年8月30日発行,316~318頁,甲6),「食品科学便覧」(初版,共立出版株式会社,昭和53年5月10日発行,228~229頁,甲7)記載のクリームを台所の流しに廃棄する行為は,本件発明1の実施行為に相当する。したがって,本件発明1は,甲4~7の各文献に記載された発明であって,特許法29条1項3号に該当する。また,上記のクリームを台所の流しに廃棄する行為は,公然実施されているから,本件発明1は,同項2号に該当する。 そうでないとしても,本件発明1及び2は,甲1公報及び甲4~7の各文献に記載された発明又は公然実施された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすること- 4 -ができたものである。 4 審決の理由の要点(1) 無効理由1についてア B廃油について本件明 に記載された発明又は公然実施された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすること- 4 -ができたものである。 4 審決の理由の要点(1) 無効理由1についてア B廃油について本件明細書の記載からすると,本件発明1及び2を特定する事項であるB廃油は,食用油の廃油と認められるが,具体的にどのような廃油であるかは明記されていない。また,B廃油は,理化学辞典や科学大辞典に記載されておらず,法令で明確に定義された用語,あるいは学術用語として明確に定義された用語であるとはいえない。 しかしながら,全国油脂事業協同組合連合会作成のパンフレット「UCオイルのリサイクルガイドライン」(甲28)には,廃食用油脂は,回収され不純物を取り除いた後,再生油として,用途別に各種原料として出荷されることが示されている。 また,特開2002-129080号公報(甲17)には,再生植物油は色調や臭気等で判定される油の傷みの程度により分類されていること,酸価3以下,油色がガードナー7以下の良質な再生油は植物油Aグレードと呼ばれ,次に良質な再生油である酸価5以下,油色がガードナー11以下のものは,植物油Bグレードと呼ばれ,これらA,Bグレードよりさらに品質が劣る回収油とは区別されていることが示されている。さらに,他の証拠には,B廃油と称する廃油が販売されていることが示され,また,B廃油の定義に関して,(証拠により異なる数値があるが,)色調,酸価,ヨウ素価の数値が記載されている。 これらの記載によると「B廃油」の定義は統一されているとはいい難いが,産業廃棄物中間処理業者において,食用油の廃油を分類し,良質な再生油であるA廃油に次いで良質な廃油であって,概ね,ガードナー色(油の色調)が11以下,酸価が5以下,ヨウ素価が110~120程度のものが,「B廃油」とし 業者において,食用油の廃油を分類し,良質な再生油であるA廃油に次いで良質な廃油であって,概ね,ガードナー色(油の色調)が11以下,酸価が5以下,ヨウ素価が110~120程度のものが,「B廃油」として,市場で取引されていたものと認められる。 そうすると,本件発明1及び2を特定する「B廃油」とは,廃油の成分又は化学- 5 -的特性を定義したものではなく,産業廃棄物中間処理業者が廃食用油脂の不純物を取り除いて再生した廃油であって,市場で「B廃油」とランク付けされて取引されている廃食油を示すものと認められる。 したがって,本件発明1及び2を特定する「B廃油」が不明確であるとまではいえない。 イ 「水溶性成分を主成分とする」について本件発明1及び2の「水溶性成分を主成分とする」とは,エマルジョンが,水溶性成分からなる媒体に油性成分が分散している状態であることを意味していると解され,「水溶性成分を主成分とする」が不明確であるとはいえない。 そして,本件明細書の実施例には,B廃油100ccに対し,スマートウォッシュ(水溶液)100ccを加えて乳化すること,すなわち水溶性成分を50%とすることが記載されており,水溶性成分を主成分とすることが実質的に示されている。 また,封水蒸発防止剤を封水中に投入すると,安定したエマルジョン状態の封水蒸発防止剤は,エマルジョン状態で封水の表面を覆い,すなわち,油性成分の微粒子が乳化剤の作用で水溶性成分と結び付いた状態で,投入された封水から分離してその表面を覆い,封水作用を発揮することができるものと認められ,エマルジョンが水溶性成分を主成分とするものであることと,本件明細書記載の作用効果を奏することとは,矛盾するものではない。 したがって,「水溶性成分を主成分とする」は明確であり,また,発明の詳細な説明 ョンが水溶性成分を主成分とするものであることと,本件明細書記載の作用効果を奏することとは,矛盾するものではない。 したがって,「水溶性成分を主成分とする」は明確であり,また,発明の詳細な説明に記載された事項である。 (2) 無効理由2について無効理由1で認定したとおり,「B廃油」は,市場で取引されているものであり,当業者が入手可能なものである。したがって,本件発明1及び2について実施可能要件違反があるとはいえない。 (3) 無効理由3についてア甲1公報には,次の発明(甲1発明)が記載されていると認められる。 - 6 -【甲1発明】比重が1.0未満で,蒸気圧が水よりも低い水不溶性成分と,水系成分としての水と界面活性剤とを含み,前記水不溶性成分が,食用油を含むものであり,投入時に攪拌又は振盪することにより,水不溶性成分と水系成分とを均一に乳化分散させる,水系成分を主成分とした排水トラップの封水蒸発防止剤組成物。 イ本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は次のとおりである。 【一致点】食用油由来の油をエマルジョン化して,さらに,比重を(ρ)とするとρ<1. 0である水溶性液体を主成分とした封水蒸発防止剤。 【相違点1】食用油由来の油が,本件発明1では「B廃油」であるのに対し,甲1発明では食用油であり,「B廃油」ではない点。 【相違点2】エマルジョン化に関して,本件発明1は,「乳化状態が少なくとも3ヵ月以上持続するようにエマルジョン化している」のに対し,甲1発明は,投入時に攪拌又は振盪することによりエマルジョン化させるものである点。 【相違点3】本件発明1は,封水蒸発防止剤の比重(ρ)が0.98≦ρ<1.0であるのに対し,甲1発明は,比重(ρ)がρ<1.0であるものの,下限が0.98に限定さ ジョン化させるものである点。 【相違点3】本件発明1は,封水蒸発防止剤の比重(ρ)が0.98≦ρ<1.0であるのに対し,甲1発明は,比重(ρ)がρ<1.0であるものの,下限が0.98に限定されていない点。 ウ相違点1について,甲1公報には,水不溶性成分としての油脂類につき,比重が1.0未満で,蒸気圧が水よりも低いものであればよいことが示されているが,特に食用油の廃油である「B廃油」を使用することまでは示されておらず,「B廃油」を使用することが,当業者にとって容易に想到し得るとはいえない。 - 7 -相違点2について,「乳化状態が少なくとも3ヵ月以上持続するようにエマルジョン化している」という本件発明1の構成の技術的意義は,本件明細書の記載によれば,エマルジョン状態が安定であって,エマルジョン状態で,封水の表面を被覆して表面からの封水の蒸発を防止するとともに,エマルジョン中の油分(油粒子)が排水管壁の汚れ層内部に浸入し,エマルジョン中の水分が蒸発した後も,油分が汚れ層の毛細管内に目詰まりを生じさせ,排水管壁の汚れ層からの封水の蒸発を防止する作用を奏することにあると認められる。一方,甲1発明の封水蒸発防止剤は,封水に投入される際は,攪拌浸透によりエマルジョン状態となっているが,投入後は,食用油を含む水不溶成分と水系成分とが速やかに分離し,食用油を含む水不溶成分のみで封水の表面を被覆して,封水表面からの水の蒸発を防止するものであるから,エマルジョン状態を安定化させる動機付けがなく,甲1発明の封水蒸発防止剤につき,相違点2に係る本件発明1の構成とすることは,当業者が容易になし得ることではない。 なお,相違点3については,甲1公報に,水不溶成分の比重は水よりも小さいが,あまり小さくないことが好ましいと記載されていることや,甲1公報に 構成とすることは,当業者が容易になし得ることではない。 なお,相違点3については,甲1公報に,水不溶成分の比重は水よりも小さいが,あまり小さくないことが好ましいと記載されていることや,甲1公報には封水蒸発防止剤が封水部の底部を越えて下水側に達するためのメカニズムが記載されており,そのために,封水蒸発防止剤が急速に浮上しないようにすることが必要であることは明らかであることからすると,相違点3に係る本件発明1の構成を採用することは,当業者が容易に想到し得る。 以上のとおりで,本件発明1は,甲1発明ではないし,甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 エ本件発明2は,本件発明1の構成をすべて含むから,本件発明1について判断したのと同様に,甲1発明ではないし,甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 (4) 無効理由4について甲4~7の各文献には,「乳脂肪をエマルジョン化したものであって,比重を(ρ)- 8 -とすると,0.98≦ρ<1.0である水溶性液体を主成分としたクリーム」が開示されていると認められる。また,このようなクリームは本件出願前に公知であったと認められる。 しかし,甲4~7の各文献に開示されたクリーム,あるいはこれらの文献に示される公知のクリームは,「B廃油をエマルジョン化」したものではない。また,甲4~7の各文献には,クリームを封水蒸発防止剤として使用することは,何ら開示されていない。そして,封水蒸発防止剤とは,長期間排水管を使用しない場合に排水トラップの封水の蒸発を防止するためのものであり,仮にU字トラップを有する排水管にクリームを廃棄したとしても,そのことが直ちに封水蒸発防止剤の使用になるものではない。 したがって,本件発明1は,甲4~7の各文献に 蒸発を防止するためのものであり,仮にU字トラップを有する排水管にクリームを廃棄したとしても,そのことが直ちに封水蒸発防止剤の使用になるものではない。 したがって,本件発明1は,甲4~7の各文献に記載された発明又はこれらの各文献に示される公知のクリームであるとはいえないし,これらの各文献に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 また,甲1発明の封水蒸発防止剤は,封水に投入される際はエマルジョン状態となっているが,投入後は,食用油等の水不溶成分と水系成分とが分離し,食用油等の水不溶成分のみで封水の表面を被覆して表面からの封水の蒸発を防止するものであるから,水不溶成分と水系成分とが容易に分離しない「クリーム」を甲1発明と組み合わせて封水蒸発防止剤とすることは,当業者が容易に想到し得ることではなく,本件発明1は,甲1発明と甲4~7の各文献に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 本件発明2は,本件発明1の構成をすべて含むから,本件発明1に関する上記の判断が当てはまる。また,甲4~7の各文献に記載されたクリーム,あるいはこれらの各文献に示される公知のクリームは食用であるから,乳化剤としてアルカリ性洗剤を使用することには,阻害要因がある。 第3 原告主張の審決取消事由- 9 - 1 取消事由1(特許法36条6項2号,同項1号違反)について(1)ア本件発明1及び2の「B廃油」は,本件明細書に定義規定はなく,その記載を参酌しても,食廃油又は食用油の廃油のごく一部であることが理解されるにとどまり,意味不明の不明確な文言である。また,技術常識と考えられる広辞苑,理化学辞典(第5版),科学大辞典(第2版)等を参酌しても,「B廃油」という項目はなく,やはり「B廃油」は意味 理解されるにとどまり,意味不明の不明確な文言である。また,技術常識と考えられる広辞苑,理化学辞典(第5版),科学大辞典(第2版)等を参酌しても,「B廃油」という項目はなく,やはり「B廃油」は意味不明である。 このように「B廃油」は不明であるから,本件発明1及び2は不明確なものとして特許法36条6項2号の要件を充足せず,又は発明の詳細な説明に記載されたものではなく,同項1号の要件を充足しない。 イ審決は,B廃油について,「「B廃油」の定義は統一されているとはいい難いが,産業廃棄物中間処理業者において,食用油の廃油を分類し,良質な再生油であるA廃油に次いで良質な廃油であって,概ね,ガードナー色(油の色調)が11以下,酸価が5以下,ヨウ素価が110~120程度のものが,「B廃油」として,市場で取引されていたものと認められる。」と定義している。 しかしながら,審決が上記定義の根拠としたと思われる証拠(甲33~35)は,本件明細書の記載から導かれる範囲を明らかに超えるものであるし,本件出願時よりずっと後に作成された証拠により出願時の技術常識を証明することはできない。 また,上記の証拠は,被告が作成し,審判手続のために準備されたものであるから,そのような証拠を定義付けに用いることはできない。さらに,被告が本件特許の審査手続で提出した意見書には,「B廃油とは,ヨウ素価が110~120の廃油であり」と記載されており,ガードナー色及び酸価の範囲が規定されていない。したがって,審決の上記定義は,被告の定義と異なっており,失当であるし,B廃油について2つ以上の定義が存在することになり,不明確である。 また,審決は,「本件発明1及び2を特定する「B廃油」とは,廃油の成分又は化学的特性を定義したものではなく,産業廃棄物中間処理業者が廃食用油脂の不純物を取 定義が存在することになり,不明確である。 また,審決は,「本件発明1及び2を特定する「B廃油」とは,廃油の成分又は化学的特性を定義したものではなく,産業廃棄物中間処理業者が廃食用油脂の不純物を取り除いて再生した廃油であって,市場で「B廃油」とランク付けされて取引- 10 -されている廃食油を示すものと認められる。」と認定した。 しかしながら,この認定のうち,「成分又は化学的特性を定義したものではな」いとの部分は,上記のように,審決がB廃油の定義として酸価やヨウ素価を認定したことと矛盾する。「再生した廃油」の部分についても,「再生」とは廃物を原料として同質の物を作り出すこと(広辞苑第6版)なので,廃物である廃油を原料として作り出された物が「(B)廃油」であることにはならず,B廃油は再生されたものではない。「ランク付け」についても,ランク付けの意味が明確ではなく,具体的な廃油が本件発明1及び2の技術的範囲に含まれるか不明であり,B廃油は不明確である。 なお,審決は,甲17公報(特開2002-129080号)に記載された「植物油Bグレード」を「B廃油」と同等のものとしているが,廃油には動物由来の油脂も含まれると解されるのに対し,植物油はこれを含まないこと,被告が主張した上記B廃油のヨウ素価とは数値範囲が異なっていることなどからすると,甲17公報の「植物油Bグレード」は,「B廃油」とは無関係である。 被告は,審判答弁書(甲15)において,「B廃油」とはアース・デザイン・インターナショナル株式会社(以下「アース社」という。)のホームページに記載されたもので,同社から購入可能であると主張しているが,原告が同社に確認したところ,同社は,B廃油の定義はなく,B廃油の販売実績はないと回答しており,被告の主張は事実と異なっている。審決は,この点に触 れたもので,同社から購入可能であると主張しているが,原告が同社に確認したところ,同社は,B廃油の定義はなく,B廃油の販売実績はないと回答しており,被告の主張は事実と異なっている。審決は,この点に触れておらず,失当である。 (2) 審決は,本件発明1及び2の「水溶性成分を主成分とする」について,「エマルジョンが,水溶性成分からなる媒体に油性成分が分散している状態であることを意味していると解され,」と判断しており,スマートウォッシュ(水溶液)のような水溶性液体がエマルジョンの主成分となっていると解釈している。 これに対し,被告は,審判答弁書において,「熔解とは,溶質が溶媒と混合して均一な相の混合物,すなわち,容体(溶液)をつくることであって,本件発明1及び2の封水蒸発防止剤は,一旦封水(水)に溶けたのち,しだいに溶質どうしが集- 11 -まって大きくなり,最終的に封水と分離するというものである」と主張しており,いったん水に溶けた後,次第に溶質同士が集まって大きくなり,最終的に分離するから,「水溶性液体を主成分とした」と主張するものと解される。 そうすると,本件発明1及び2の「水溶性成分を主成分とする」については,解釈が少なくとも2通りあるので,不明確であり,発明の詳細な説明に記載されたものではない。 2 取消事由2(特許法36条4項1号違反)について取消事由1(1)で主張したように,B廃油は不明確であり,また,被告の審判段階における主張(B廃油はアース社から購入可能である旨の主張)とは異なり,同社はB廃油を販売していないので,当業者は本件発明1及び2を実施することができない。したがって,本件発明1及び2は,特許法36条4項1号の要件を満たしていない。 審決は,特開2002-121428号公報(甲32)に基づき,再生植物油Bが市販 明1及び2を実施することができない。したがって,本件発明1及び2は,特許法36条4項1号の要件を満たしていない。 審決は,特開2002-121428号公報(甲32)に基づき,再生植物油Bが市販されていると認定した。しかしながら,再生植物油BとB廃油とは文言が異なること,B廃油には動物性油脂が含まれること,B廃油は再生油ではないこと,被告がB廃油をヨウ素価により定義しているのに対し,この再生植物油Bは酸価及び油色により定義付けされていること,ヨウ素価についても被告の主張する数値範囲と異なっていることなどから,この再生植物油Bは,本件発明1及び2のB廃油とは異なる。 なお,被告が審判段階で提出した証拠は,後から準備・提出された私文書であって,証拠としては不十分である。 3 取消事由3(甲1公報(特開2009-127355号)に基づく進歩性の判断の誤り)について(1) 相違点1の認定又は判断の誤り審決は,食用油由来の油が,本件発明1では「B廃油」であるのに対し,甲1発明では食用油であり,「B廃油」ではない点を相違点1として認定し,甲1発明に- 12 -ついて「B廃油」を使用することは容易に想到し得ないと判断した。 しかしながら,甲1発明の「食用油」と本件発明1の「B廃油」はいずれも食用油に由来するものであり,本件明細書の記載からして「B廃油」は使用済みの食用油であると解されるところ,食用油の通常の使用により成分に大きな変化が生じるとは考えられないから,「食用油」と「B廃油」は実質的に同一のものといえる。 例えば,食用油の容器に刃物等が刺さるなどした場合,内容物に変化がなくても,異物混入のおそれから廃棄されることがあるが,そのような場合,廃棄された食用油は廃食油となるので,成分に変わりはなく,実質的に食用油と同一である。 したが さるなどした場合,内容物に変化がなくても,異物混入のおそれから廃棄されることがあるが,そのような場合,廃棄された食用油は廃食油となるので,成分に変わりはなく,実質的に食用油と同一である。 したがって,審決がこの点を相違点1として認定したことは誤りであり,そうでないとしても,相違点1が容易に想到し得ないと判断したことは誤りである。 (2) 相違点2の判断の誤り審決は,本件発明1の「乳化状態が少なくとも3ヵ月以上持続するようにエマルジョン化」する構成(相違点2に係る構成)について,エマルジョン状態が安定であって,エマルジョン状態で,封水の表面を被覆して表面からの封水の蒸発を防止するものであるとした上で,甲1発明につき,「乳化状態が少なくとも3ヵ月以上持続するようにエマルジョン化すること」は,当業者が容易になし得ることではないと判断した。 しかしながら,本件発明1の「3ヵ月以上」というのは,数値による限定にすぎず,封水の表面を被覆するという甲1発明と同一の作用効果を示す限りは,顕著な効果にも当たらない。甲1発明には,エマルジョンを形成することが記載されており,本件発明1のエマルジョン化の動機付けとなるので,相違点2に係る本件発明1の構成は,甲1発明から容易に想到できた。 また,相違点2に係る本件発明1の構成は,封水中に十分に分散してから,相分離するという作用効果において,甲1発明の「水不溶性成分」に相当するので,相違点2は,実質的な相違点ではないか,甲1発明の「水不溶性成分」から容易に想到し得る。 - 13 -したがって,審決の上記判断は誤りである。 (3) 本件発明2について本件発明2は,本件発明1の構成をすべて含むものであるから,その点については,本件発明1に関する上記(1),(2)の主張のとおりである。また,本件発明2の 誤りである。 (3) 本件発明2について本件発明2は,本件発明1の構成をすべて含むものであるから,その点については,本件発明1に関する上記(1),(2)の主張のとおりである。また,本件発明2の「乳化剤がアルカリ性洗剤である」という構成については,乳化剤は典型的に界面活性剤であり,アルカリ性洗剤は界面活性剤を含むので,乳化剤をアルカリ性洗剤とすることは,当業者にとって容易に想到できることである。 したがって,本件発明2も,甲1発明から容易に想到し得る。 4 取消事由4(甲4~7の各文献,又は甲1発明及び甲4~7の各文献に基づく,新規性及び進歩性の判断の誤り)について(1) 本件発明1について本件発明1の「封水蒸発防止剤」は,理化学辞典又は科学大事典に記載されておらず,客観的に少なくとも当業者の間で確立した「剤」ということはできない。したがって,いわゆる「剤」又は「薬剤」と呼ばれる物質であれば足りる。 また,取消事由1(1)で主張したように,本件発明1及び2のB廃油は不明確であるから,そのままでは新規性や進歩性の判断に使用することはできない。そこで,取消事由3(1)で主張したように,B廃油は実質的に食用油と同一であるから,B廃油を食用油(又は使用済みの食用油若しくは食廃油)と置き換えて検討する。 そうすると,本件発明1は,食用油(或いは,使用済みの食用油又は廃油)を,乳化状態が少なくとも3ヵ月以上持続するようにエマルジョン化した物であり,比重を(ρ)とすると,0.98≦ρ<1.0である水溶性液体を主成分とした物であればよいことになる。 そして,「乳製品の化学」(地球出版株式会社,昭和36年1月25日発行,2~9頁,甲4),「乳製品製造I」(株式会社朝倉書店,昭和38年10月30日発行,1~7頁,甲5),「加工食品の実際知識」 そして,「乳製品の化学」(地球出版株式会社,昭和36年1月25日発行,2~9頁,甲4),「乳製品製造I」(株式会社朝倉書店,昭和38年10月30日発行,1~7頁,甲5),「加工食品の実際知識」(東洋経済新報社,昭和53年8月30日発行,316~318頁,甲6),「食品科学便覧」(初版,共立出版- 14 -株式会社,昭和53年5月10日発行,228~229頁,甲7)には,牛乳から分離されるクリームの脂肪率と比重が記載されており,これらは,「乳脂肪をエマルジョン化したものであって,比重を(ρ)とすると,0.98≦ρ<1.0である水溶性液体を主成分とした物」に当たるところ,乳脂肪は食用油の一種であり,クリームは乳化状態が少なくとも3ヵ月以上持続するようにエマルジョン化した物であるので,これらのクリームは,本件発明1と同一であるか,実質的に同一である。 また,クリームが封水蒸発防止剤ではないとしても,甲1公報には,封水蒸発防止剤が開示されており,上記クリームを封水蒸発防止剤とすることは,当業者であれば容易に想到し得る。 (2) 本件発明2について本件発明2は,本件発明1の構成をすべて含むから,その点については,上記(1)の主張のとおりである。その余の構成については取消事由3(2)で主張したとおりである。したがって,本件発明2は,甲1公報及び甲4~7の各文献から容易に想到し得た。 第4 参加人の反論 1 取消事由1に対し(1)ア B廃油は,使用済み食用油を回収・処理して販売されるリサイクル油である。リサイクル油は,主に塗料・インキ等の原料となるA廃油,用途は限定されるが工業用となるB廃油,飼料や肥料に用いられるその他の食廃油に区別して取引されており,ヨウ素価等の数値についてある程度の幅があるとしても,用途に応じて一定の性 等の原料となるA廃油,用途は限定されるが工業用となるB廃油,飼料や肥料に用いられるその他の食廃油に区別して取引されており,ヨウ素価等の数値についてある程度の幅があるとしても,用途に応じて一定の性状を備えている。このうちB廃油と他の食廃油を区別する基準は,概ね,ガードナー色(油の色調)が11以下,酸価が5以下,ヨウ素価が110~120程度のものである。 業者の回答書(甲24~26,33~35)に,B廃油を販売している旨が記載- 15 -され,甲17公報(特開2002-129080号)及び甲32公報(特開2002-121428号)に,B廃油に該当するリサイクル油(植物油Bグレード,再生植物油B)が取引されていることを示す記載があるように,B廃油は市場において入手可能である。なお,証拠上,B廃油以外に「廃食油(B)」(甲26),「植物油Bグレード」(甲17公報),「再生植物油B」(甲32公報)という名称が使用されているが,これらの証拠の記載からすれば,上記の用語が同じものを指すことは明らかである。 このように,市場において,種々存在する油の中で,「B廃油」が他の食廃油と区別されて取引されている以上,第三者は,自らの行為が権利範囲内のものか否かを判断することが可能であるから,明確性要件を充足する。また,市場において入手可能であれば,本件明細書に,「…食廃油は,例えば「B廃油」とするのが好ましい。」(段落【0010】)と明記されている以上,サポート要件を充足する。 イ審決の誤りをいう原告の主張に対して審決は,各種の証拠に基づいてB廃油の取引事実を認定し,これを前提としてB廃油が不明確であるとはいえないと判断したのであって,審決の判断が本件明細書の記載事項の範囲を超えることにはならない。また,出願時の技術常識を出願後の証拠から認定でき 実を認定し,これを前提としてB廃油が不明確であるとはいえないと判断したのであって,審決の判断が本件明細書の記載事項の範囲を超えることにはならない。また,出願時の技術常識を出願後の証拠から認定できないとする根拠はない。原告が被告作成と主張する証拠は,被告が作成者ではない。被告の主張と審決の認定が異なるという原告の主張についても,仮に被告の主張と審決の認定判断とが異なるとしても,それ自体,審決の誤りとならないし,そもそも,審決におけるB廃油の取引事実の認定は「概ね」としており,被告の主張との間に齟齬はない。 原告は,審決が酸価,ヨウ素価等によりB廃油を定義したと主張するが,審決の当該部分は,概ねそのようなものが「B廃油」として取引されているという事実を認定したものであり,本件発明1及び2のB廃油を定義したのではない。審決は,そのような取引事実を認定した上で,これを前提に,「B廃油」の意味を「廃油の成分又は化学的特性を定義したものではなく…」と解釈しているのである。したが- 16 -って,審決に何ら矛盾はない。また,審決は,甲17公報及び「UCオイルのリサイクルガイドライン」(甲28)に,回収された廃油が処理された後,リサイクルされている事実が記載されていることを指摘した上で,「再生した廃油」と認定しており,誤りはない。「ランク付け」についても,B廃油は市場で他の食廃油と区別して取引されており,当業者は本件発明1及び2の技術的範囲を判断することができるから,明確性を欠くものではない。 原告は,B廃油に動物由来の油脂が含まれるので,植物油Bグレードとは異なると主張する。しかしながら,「B廃油」は,種々の工業用途に使用されるものであり,常温では液体でなければならない。これに対し,動物由来の油脂(ラードなど)の食廃油は,ヨウ素価が低いため, ドとは異なると主張する。しかしながら,「B廃油」は,種々の工業用途に使用されるものであり,常温では液体でなければならない。これに対し,動物由来の油脂(ラードなど)の食廃油は,ヨウ素価が低いため,常温では固体となる。そのため,常温で液体であることが要求される工業用途には使用されず,主に飼料や肥料に使用される。したがって,「B廃油」には,動物由来の油脂は含まれないのであり,原告の主張は誤りである。 アース社に関する主張についても,アース社は,「B廃油」の取引とは無関係であるから,審決がアース社に言及しないことは,審決の認定判断の誤りを構成するものではない。なお,被告の主張と審決の判断が完全に一致しないことが審決の認定判断の誤りになるものではない。 (2) エマルジョンには,油性成分に水溶性成分が分散したものと,水溶性成分に油性成分が分散したものの2種類が存在するところ,「水溶性成分を主成分とする」は,後者(水溶性成分に油性成分が分散したもの)を意味していることは明らかである。この点に関する審決の判断に誤りはない。 2 取消事由2に対し本件発明1及び2における「B廃油」は,材料として記載されたものであり,当業者が自ら種々の原料を配合するなどして,製造しなければならないものではない。 そして,B廃油が市場で入手可能なことは,上記1で主張したとおりであるから,本件発明1及び2は実施可能である。 - 17 -審決は,各種の証拠に基づいて,「B廃油」が市場で取引されており,当業者が入手可能であること,甲32公報に,「B廃油」に相当する「再生植物油B」が市販されている旨の記載があることから,実施可能要件違反はないと判断したのであって,その判断に誤りはない。 原告は,アース社からB廃油を入手することができないことを主張するが,審決は,アース 」が市販されている旨の記載があることから,実施可能要件違反はないと判断したのであって,その判断に誤りはない。 原告は,アース社からB廃油を入手することができないことを主張するが,審決は,アース社から入手可能であることを前提として判断したものではないから,原告の主張は審決の認定判断の誤りを指摘するものではない。また,システム開発を主業務とするアース社から入手できないからといって,市場で入手できないと一般化できるものではない。 3 取消事由3に対し(1) 相違点1についてB廃油を封水蒸発防止剤に使用することについて,甲1公報(特開2009-127355号)にも他の証拠のいずれにも,記載は皆無であり,示唆すらないのであるから,審決の判断に誤りはない。原告の主張は,前提となるB廃油の解釈を誤っている。 (2) 相違点2について本件発明1は,その構成によって,「封水蒸発防止剤を投入した際に,封水の中を排水口側から下水側へ移動しづらい」,「排水管の管壁内面に付着した汚れ層に油が侵入することができず,封水が汚れ層に侵入・上昇した後に蒸発してしまう(排水トラップT内が渇水してしまう)」という課題(本件明細書の段落【0005】)を解決するものである。 これに対し,甲1発明には,そもそも,「排水管の管壁内面に付着した汚れ層に油が侵入することができず,封水が汚れ層に侵入・上昇した後に蒸発してしまう」という本件発明の課題自体が存在しない。また,甲1公報には,当該課題を解決するための,本件発明の「乳化状態が少なくとも3ヵ月以上持続するようにエマルジョン化」という構成について,開示も示唆もない。 - 18 -したがって,相違点2は容易に想到し得ない。 (3) 本件発明2について上記(1),(2)で本件発明1について主張したのと同様である。 ン化」という構成について,開示も示唆もない。 - 18 -したがって,相違点2は容易に想到し得ない。 (3) 本件発明2について上記(1),(2)で本件発明1について主張したのと同様である。 4 取消事由4に対しそもそも,クリームと封水蒸発防止剤は全く異なるものであり,同一でないことは明白である。それ故,クリームを封水蒸発防止剤とする動機付けもないのであって,本件発明1及び2は,甲1公報及び「乳製品の化学」(地球出版株式会社,昭和36年1月25日発行,2~9頁,甲4),「乳製品製造I」(株式会社朝倉書店,昭和38年10月30日発行,1~7頁,甲5),「加工食品の実際知識」(東洋経済新報社,昭和53年8月30日発行,316~318頁,甲6),「食品科学便覧」(初版,共立出版株式会社,昭和53年5月10日発行,228~229頁,甲7)に基づいて容易に想到し得るものではない。 第5 当裁判所の判断 1 取消事由1(特許法36条6項2号,同項1号に関する判断の当否)について(1) 「B廃油」についてア本件発明1の構成として,B廃油の語が使用されており,本件発明2は本件発明1の構成をすべて含むものであるところ,本件明細書(甲14,19)には,B廃油に関し,次の記載がある。 「封水防止剤Eは,食廃油(すなわち食用油の廃油)がエマルジョン化されて,比重をρとすると,0.98≦ρ<1.0である水溶性液体が主成分である。比重ρ が,ρ<0.98 の場合,封水Wに流入した後の封水Wとの分離速度が早く,作業効率が悪くなる。 また,比重ρ が, 1.0≦ρ の場合,封水Wの水面Mに分離せず,封水Wの底に沈殿したりする。食廃油は,例えばB廃油とするのが好ましい。」(段落【0010】)「また,食廃油をB廃油としたので,用途が狭いB廃油を , 1.0≦ρ の場合,封水Wの水面Mに分離せず,封水Wの底に沈殿したりする。食廃油は,例えばB廃油とするのが好ましい。」(段落【0010】)「また,食廃油をB廃油としたので,用途が狭いB廃油を有効活用することができる。 また,低コストで封水蒸発防止剤Eを製造することができる。さらに,エマルジョン化すると黄色く見え,外観が良い。すなわち,着色しなくても自然に見えて違和感がなく,- 19 -清潔感のある色なので,トイレに使用する場合にも適している。…」(段落【0021】)。 イ甲17公報(特開2002-129080号),株式会社大口油脂作成の規格表(甲26),甲32公報(特開2002-121428号),「油脂」(Vol.53,No.10(2000),36~39頁,乙3),「油脂」(Vol.51,No.10(1998),28~31頁,乙4),「油脂」(Vol.50,No.7(1997),24~27頁,乙5)及び弁論の全趣旨によれば,B廃油に関して,次の事実が認められる。 食品の製造や調理に使われた後の食用油は,廃食用油回収業者により回収され,不純物の除去を経て,再生油(廃油,廃食油,廃食用油の語も同義で使用されることがある。)として利用されている。廃食油業界においては,回収ルートにより廃食油の種類や品質がほぼ決まっているため,いちいち化学分析せず,色や透明感で判断されることが多いものの,①植物油Aグレード,A植物油,A植,廃食油“植物A”等と称され,ヨウ素価が概ね120超で品質の高い植物廃油(以下,単に「植物油Aグレード」という。),②それに次ぐ品質で,植物油Bグレード,廃食油(B),再生植物油B,B植等と称される植物廃油(以下,単に「植物油Bグレード」という。),③動物廃油,④動物廃油と植物廃油の混合油が,市場で区別されて取引され 次ぐ品質で,植物油Bグレード,廃食油(B),再生植物油B,B植等と称される植物廃油(以下,単に「植物油Bグレード」という。),③動物廃油,④動物廃油と植物廃油の混合油が,市場で区別されて取引されていた。また,①の植物油Aグレードは,品質が良いことから,主に塗料・インキ等の原料として利用されており,②の植物油Bグレードは,品質が劣るため,単独では需要がなく,工業用脂肪酸や飼料用の増量剤的な使われ方が中心であり,植物油Aグレードよりかなり低い価格で取引されていた。 ウ上記アの記載によれば,本件発明1及び2のB廃油は,食廃油の一部であって,用途が狭く,低コストという性質を有するものと認められるところ,上記イで認定したとおり,使用済みの食用油の再生油と同義の用語として,廃油,廃食油,廃食用油などの語を用いることがあり,このうち,植物油の再生油がA,Bのグレードに区分されて取引され,さらに,植物油Bグレードは,用途が限定され,価格が低いという事実に照らすと,本件発明1のB廃油は,上記イで認定した植物油Bグレードに相当するものと認められる。 - 20 -そうすると,当業者であれば,市場において区別して取引されているB廃油を明確に把握することが可能であり,これを用いた行為が本件発明1及び2を構成するかどうかについても判断可能であるから,本件発明1及び2のB廃油は明確であって,本件発明1及び2のB廃油が不明確であるとはいえないとした審決の判断に誤りはない。 また,原告は,B廃油が不明確であるから,サポート要件も充足しない旨主張するが,上記説示のとおり,B廃油は明確であり,原告のサポート要件違反の主張も理由がない。 エ原告の主張に対し原告は,審決が,ガードナー色,酸価及びヨウ素価という化学的特性によりB廃油を定義したと主張した上で,その ,B廃油は明確であり,原告のサポート要件違反の主張も理由がない。 エ原告の主張に対し原告は,審決が,ガードナー色,酸価及びヨウ素価という化学的特性によりB廃油を定義したと主張した上で,そのような定義付けが本件明細書の記載から導かれる範囲を超えている,被告の主張する定義と異なり不当である,あるいは,定義が2つあることになり不明確である,審決の「「B廃油」とは,廃油の成分又は化学的特性を定義したものではなく」という説示部分と矛盾するなどと主張する。 しかしながら,審決は,原告が「B廃油を定義した」と主張している説示部分において,概ね,ガードナー色,酸価及びヨウ素価が一定程度の範囲内の廃油が「B廃油」として取引されている事実を認定したにすぎず,B廃油が化学的に定義されたものであることを認定したのではない。また,審決の上記説示部分は,本件出願時のB廃油に係る当業者の技術常識に関連する事実を認定したものであって,本件明細書の記載から導かれる範囲を超えるものとはいえない。原告の上記主張は,審決の説示を正解しないものであって,採用することはできない。 また,原告は,B廃油について,再生油とは異なる,ランク付けの意味が不明である,動物油も含み得るから植物油Bグレードとは異なるなどと主張するが,再生油が廃食油などと同義で使用されることがあること,市場においてA,Bのグレードに区別されていること,植物油A,Bグレードと動物廃油とが区別されていることは,上記イで認定したとおりである。また,本件発明1及び2において,B廃油- 21 -は水溶性液体中にエマルジョン化されるものであるから,常温で液体であることが理解できるのであって,常温で通常固体である動物由来油脂を含むものではないことは明らかである。したがって,原告の上記主張も採用することができない。 ジョン化されるものであるから,常温で液体であることが理解できるのであって,常温で通常固体である動物由来油脂を含むものではないことは明らかである。したがって,原告の上記主張も採用することができない。 さらに,原告は,B廃油とはアース社のホームページに記載されたもので,同社から購入可能であるとする被告の審判段階での説明が事実とは異なり,それについて審決が触れていないことが失当である旨主張する。しかしながら,審決は,廃食油業界におけるB廃油取引の実情を認定した上で,B廃油が不明確とはいえないと判断したのであって,その判断に誤りがないことは上記ウのとおりである。アース社という特定の企業からの購入の可否について触れないことや,被告の主張と審決の認定との間で細かな数値の齟齬があることは,審決の認定判断の誤りとはなるものではない。 (2) 「水溶性成分を主成分とする」について本件発明1及び2に係る封水蒸発防止剤は,B廃油をエマルジョン化してなる水溶性液体を主成分とするものであるから,「水溶性成分を主成分とする」が,水溶性成分に油性成分が分散した,いわゆる水中油型のエマルジョンを意味していることは明らかであり,これが不明確であるとはいえない。したがって,これと判断を同じくする審決に誤りはない。 原告は,被告の審判答弁書(甲15)における記載を引用し,この記載と「水溶性成分を主成分とする」に関する審決の判断とが相違し,2通りの解釈があることになるから,「水溶性成分を主成分とする」は不明確である旨主張する。しかしながら,そもそも,原告が引用する被告の審判答弁書の記載は,審判における原告の主張が誤りであることを指摘するために,本件発明1及び2の封水蒸発防止剤が封水に投入された場合の作用機構を説明するものであり,「水溶性成分を主成分とする」こと自体を 弁書の記載は,審判における原告の主張が誤りであることを指摘するために,本件発明1及び2の封水蒸発防止剤が封水に投入された場合の作用機構を説明するものであり,「水溶性成分を主成分とする」こと自体を説明する記載ではないから,これによって本件発明1及び2の「水溶性成分を主成分とする」が不明確になるものではない。 (3) 以上のとおりで,取消事由1は理由がない。 - 22 - 2 取消事由2(特許法36条4項1号に関する判断の当否)について取消事由1について説示したとおり,B廃油は明確であって,廃食油業界では,他の種類の廃油とは区別されて,市場で取引されていたのであるから,当業者は,通常,これを入手することができたものと認められる。したがって,本件発明1及び2は実施可能要件を充足しており,取消事由2は理由がない。 原告は,被告がアース社からB廃油を購入できる旨主張したのに,そのアース社がB廃油を販売していないので,本件発明1及び2は実施可能ではないと主張するが,上記のとおり,市場でB廃油が取引されている事実が認められる以上,これをアース社という特定の企業から入手することができないとしても,本件発明1及び2が実施可能でないとはいえない。また,そもそも,被告は,審判答弁書(甲15)において,産業廃棄物業界ではB廃油が入手可能である旨主張し,その一例としてアース社について言及したにすぎず,アース社のみがB廃油の販売元であると主張したのではないのであって,原告の主張は,被告の主張を正解しないものである。 3 取消事由3(甲1公報(特開2009-127355号)に基づく進歩性の判断の当否)について(1) 相違点1について原告は,本件発明1のB廃油と甲1発明の食用油とは実質的に同一であるから,審決が相違点1を認定したことは誤りであり,そうでな 5号)に基づく進歩性の判断の当否)について(1) 相違点1について原告は,本件発明1のB廃油と甲1発明の食用油とは実質的に同一であるから,審決が相違点1を認定したことは誤りであり,そうでないとしても,相違点1は容易に想到し得ると主張する。 しかしながら,上記1(1)イ,ウ(取消事由1)で判示したとおり,B廃油は,植物油Bグレードに相当するものと認められるところ,植物油Bグレードは,食用油を調理等に使用した後の再生油であって,しかも,植物油Aグレードよりも品質が劣るものとして取引されているのであるから,使用前の通常の食用油とは品質が異なることは明らかである。したがって,B廃油が食用油と実質的に同一であることを前提とする原告の上記主張は理由がない。 そして,甲1公報には,B廃油を封水蒸発防止剤に使用することは記載されてお- 23 -らず,その示唆等があるとも認められないのであって,甲1発明の封水蒸発防止剤としてB廃油を使用することが容易に想到し得ないとした審決の判断に誤りはない。 (2) 相違点2について本件明細書(甲14,19。特に段落【0011】)によれば,本件発明1の封水蒸発防止剤は,乳化状態が少なくとも3ヶ月以上持続するようにエマルジョン化するという構成により,封水に投入した際に,排水口側から下水側へ容易に移動できるだけでなく,排水管内壁に付着した汚れ層に侵入し,これを目詰まりさせることにより封水が汚れ層から蒸発するのを防ぐという効果を発揮するものと認められる。 これに対して,甲1公報の記載,特に,封水蒸発防止剤を封水に投入した後,1時間後には水系成分と水不溶性成分(油系成分)とが分離して,封水表面に水不溶性成分による油膜が形成されるという記載(段落【0034】,【0041】,【0042】)によれば,甲1発明の 投入した後,1時間後には水系成分と水不溶性成分(油系成分)とが分離して,封水表面に水不溶性成分による油膜が形成されるという記載(段落【0034】,【0041】,【0042】)によれば,甲1発明の水系成分と水不溶性成分(油系成分)とは,比較的短時間に分離するものと認められるから,本件発明1と甲1発明とでは,エマルジョン化の程度が異なる。また,甲1公報には,排水管内壁に付着した汚れ層からの封水の蒸発防止という課題は記載されておらず,汚れ層を目詰まりさせるのに適したエマルジョン状態を設定するという動機付けが存在しない。これらの点からすると,甲1発明について,相違点2に係る本件発明1の構成を採用することは,当業者にとって容易に想到し得るものではない。 (3) 本件発明2は,本件発明1の構成をすべて含むから,上記(1),(2)で本件発明1について説示したのと同様に,甲1発明から当業者が容易に想到し得たとはいえない。 したがって,取消事由3も理由がない。 4 取消事由4(甲4~7の各文献,又は甲1発明及び甲4~7の各文献に基づく,新規性及び進歩性の判断の当否)について- 24 -「乳製品の化学」(地球出版株式会社,昭和36年1月25日発行,2~9頁,甲4),「乳製品製造I」(株式会社朝倉書店,昭和38年10月30日発行,1~7頁,甲5),「加工食品の実際知識」(東洋経済新報社,昭和53年8月30日発行,316~318頁,甲6),「食品科学便覧」(初版,共立出版株式会社,昭和53年5月10日発行,228~229頁,甲7)には,一般的なクリームの組成等が記載されており,これらの各文献には,審決も認定するとおり,「乳脂肪をエマルジョン化したものであって,比重を(ρ)とすると,0.98≦ρ<1. 0である水溶性液体を主成分としたクリーム」が開示さ 成等が記載されており,これらの各文献には,審決も認定するとおり,「乳脂肪をエマルジョン化したものであって,比重を(ρ)とすると,0.98≦ρ<1. 0である水溶性液体を主成分としたクリーム」が開示されていることが認められる。 また,本件出願時において,そのようなクリームは公然実施されたものと認めることができる。しかしながら,本件発明1は,封水の蒸発を防止するという特有の機能を発揮する剤であって,甲4~7の各文献に開示されるようなクリームや公然実施されたクリームが,本件発明1のような封水蒸発防止剤と実質的に同一でないことは明らかである。また,甲1公報に封水防止剤が開示されているとしても,クリームを封水蒸発防止剤として使用することの動機付けはないから,甲4~7の各文献に開示されたクリームあるいは公然実施されたクリームと甲1発明とを組み合わせて本件発明1の構成を想到することは,当業者にとって容易であるとはいえない。 本件発明2についても,本件発明1の構成をすべて含むから,本件発明1についての上記説示と同様に,当業者にとって容易に想到し得るとはいえない。 したがって,取消事由4も理由がない。 第6 結論以上のとおりで,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。 よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第2部 - 25 - 裁判長裁判官塩月秀平 裁判官古 谷 健二郎 裁判官 古谷健二郎 裁判官田邉実

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