主文 被告人を懲役1年2月に処する。 未決勾留日数中160日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は,平成14年9月8日午後零時58分ころ,神戸市a区b通c丁目d番地先のe川河川内で,モジ網と称する漁の道具を用いて,そこへ魚を追い込むため,その上流で石を川面に向けて投げつけていたA(当時60歳)に対し,これを止めるように注意したところ,同人が反抗的態度で向かってくる気配を示したとして立腹し,前記e川河川内及び同川東側河川敷において,同人の頭部及び左脇腹等を角材で多数回殴打する暴行を加え,よって,同人に入院加療約72日間を要した頭部挫創,左第10助骨骨折等の傷害を負わせたものである。 (証拠の標目)―括弧内の数字は証拠等関係カード記載の検察官請求証拠番号―省略(補足説明)第1 争点の整理等弁護人は,①被害者Aの被った傷害は加療約4週間を要するものであり,これを越える入院加療は被告人の暴行との間には因果関係がない,②被告人の判示暴行は,被害者がモジ網のついた鉄パイプ(以下「モジ網鉄パイプ」という。)で攻撃を加えようとしてきたのに対し,自己の身体を防衛するため行ったものであるから,正当防衛あるいは過剰防衛が成立する,仮に,客観的には急迫不正の侵害が認められなかったとしても,被害者から暴行を加えられると誤信して自己の身体を防衛するため行ったものであるから,誤想防衛あるいは誤想過剰防衛が成立する,③被告人は,本件犯行後,未だ被告人の犯行が捜査機関に発覚する前に捜査機関に出頭したから,自首が成立する旨主張する。当裁判所は,①,②については弁護人の主張は理由がなく,③については自首は成立すると判断したのであるが,その理由につき補足する。 機関に発覚する前に捜査機関に出頭したから,自首が成立する旨主張する。当裁判所は,①,②については弁護人の主張は理由がなく,③については自首は成立すると判断したのであるが,その理由につき補足する。 第2 判断 1 治療期間について医師B作成の診断書(検察官請求証拠番号2)その他前掲関係各証拠によれば,被告人の判示暴行により被害者が頭部挫創,左第10助骨骨折,左肘・腰部・右肩・胸腹部打撲の各傷害を負ったことは明らかである。そして,その加療期間について,同診断書には「平成14年9月8日より約4週間の安静加療を要する見込みである。」旨の記載があり,さらに,検察官の照会に対する同医師作成の「診療経過等照会について(回答)」と題する書面(同31)には「被告人はその傷害の治療のため,平成14年9月8日から同年11月18日まで72日間C病院に入院し,その間,創部の処置をするとともに鎮痛剤を投与し安静加療を行った。」旨の記載があるところ,弁護人は,被告人は入院期間中6日間外出許可を受け外出している,同病院は入院しようと思えば長期間入院できる病院であるとの噂がある,被害者には糖尿病の既往症があり,入院期間中もその治療を受けていた,被害者は入院給付金の出る保険に加入していたなどと主張するところ,その治療が絶対に必要なものであったか否かについては疑問の余地が全くないとまではいえないとしても,前記各証拠によれば,被害者が被告人の判示暴行により前記の各傷害を被り,その治療のため72日間の入院加療を受けた事実自体はこれを認めるに十分であり,他に特段の事情の認められない本件にあっては,治療の方法等については主治医の判断を尊重すべきものであるというほかはないから,弁護人の主張は理由がない。 2 正当防衛,過剰防衛,誤想防衛あるいは誤想過剰防衛の主張について られない本件にあっては,治療の方法等については主治医の判断を尊重すべきものであるというほかはないから,弁護人の主張は理由がない。 2 正当防衛,過剰防衛,誤想防衛あるいは誤想過剰防衛の主張について(1) 前掲関係各証拠によれば,被害者は,犯行当日,判示e川河川内で,石などで川を扇形に仕切り,その中央にモジ網鉄パイプを置いたいわゆるモジと称する仕掛けを設置し,同所に魚を追い込むため,その上流で石を川面に向けて投げつけていたこと,被告人はこれを見咎め,モジの仕掛けの下流に設置された通行用の河川内の飛び石を渡りながら,川の中央付近の飛び石上で,被害者に対して,「こら,何しとんや,やめんかい。」などと怒鳴ったこと,被告人及び被害者はともに難聴であるところ,被害者は「何をしているのか。」と問われたものと了知し,捕れた魚を見せようと,モジ網鉄パイプを両手で掴んで水中から取り上げ,横にして大きい網が付いた端をやや上にして,右手を肩口あたり,左手をおなかのあたりにして両手で持って,2,3歩近づき,川を渡りきる直前の飛び石上に立っていた被告人の手前約1メートル付近にまで近寄ったこと,被告人はモジ網鉄パイプを手に持った被害者が喧嘩を売るつもりだと感じ,手にしていた買い物袋と傘を対岸上に置いた上,同所付近に被害者が置いていた角材を拾い上げ,いきなり被害者の頭部を角材で殴打し,引き続きその右肩を角材で殴ったこと,被害者はその気配に全く気付かないまま被告人からの前記各攻撃を被ったこと,モジ網鉄パイプは長さ約1メートル,直径約4. 8センチメートルの,両端に網様の針金が付いた漁の道具であり,一方の大きな網様の針金から魚を鉄パイプ内に取り込み,小さな網様の針金の付いた鉄パイプの反対側の端部分からは魚が逃げられない構造のものであること,前記飛び石は川底から約7 金が付いた漁の道具であり,一方の大きな網様の針金から魚を鉄パイプ内に取り込み,小さな網様の針金の付いた鉄パイプの反対側の端部分からは魚が逃げられない構造のものであること,前記飛び石は川底から約70センチメートルの高さがあること,以上の事実が認められる。 (2) 弁護人は,被害者の供述は信用性がなく,被害者は被告人から注意を受けて立腹し,被告人に攻撃を加える目的でモジ網鉄パイプを手に持って被告人に向かってきたものであるというが,事実関係は前認定のとおりであって,被害者が被告人を攻撃しようとした事実は認められないから,これを前提とする弁護人の正当防衛あるいは過剰防衛の主張は理由がない。 (3) さらに,弁護人は,被告人は被害者から暴行を加えられると誤信して自己の身体を防衛するため判示暴行に及んだものであるから,誤想防衛あるいは誤想過剰防衛が成立する旨主張するが,被告人において,捜査段階においてはその旨を明白に自認しているように,前認定のとおり,被告人は被害者がモジ網鉄パイプを手に持って被告人に向かってくるのを認め,喧嘩を売られたと感じ,いまだ被害者が暴行に及ぶ気配すら全く示しておらず,被告人においてそのことを十分に了知していながら,被害者に先制攻撃を加えるべく,側にあった角材で被害者の頭部等を殴打したものであって,被告人は,「被害者がモジ網鉄パイプで殴ってくるかも知れない。」,あるいは,せいぜい,「殴るつもりだな。」と誤信したに止まり,被告人が誤信した内容自体に急迫性は認められず,被告人の行為を防衛行為とみることもできないから,弁護人の誤想防衛あるいは誤想過剰防衛の主張は理由がない。 3 自首の主張について関係証拠によれば,本件犯行後,被告人は犯行現場から徒歩で約5分の自宅に戻ったところ,パトカーのサイレンの音が聞こ 人の誤想防衛あるいは誤想過剰防衛の主張は理由がない。 3 自首の主張について関係証拠によれば,本件犯行後,被告人は犯行現場から徒歩で約5分の自宅に戻ったところ,パトカーのサイレンの音が聞こえたため,妻に「喧嘩をしたから警察に行って来る。当分帰れないかも知れない。」旨言い残して,自宅近くに来ていたパトカーの警察官に自己の犯罪事実を申告して逮捕された事実が認められるところ,その当時,「e川河川敷で喧嘩,被疑者は60歳から70歳の白色ベレー帽着用の男で,現場から南へ逃走」との指令を受けたパトカー乗務の警察官がその犯人を捜索していたもので,捜査機関において未だ犯人が特定していたとはいえないから,法律上の減軽をすべきか否かは別にして(なお,本件は法律上の減軽をすべき場合にはあたらない。),自首が成立するものと認めるのが相当である。 (累犯前科)被告人は,(1)平成9年10月9日神戸地方裁判所で暴力行為等処罰に関する法律違反,銃砲刀剣類所持等取締法違反の各罪により懲役8月に処せられ,平成10年4月9日その刑の執行を受け終わり,(2)その後犯した暴力行為等処罰に関する法律違反の罪により平成10年8月20日神戸地方裁判所で懲役1年6月に処せられ,平成12年1月18日その刑の執行を受け終わったものであって,これらの事実は検察事務官作成の前科調書(検察官請求証拠番号19)及び判決書謄本2通(同28,29)によって認める。 (法令の適用)被告人の判示所為は刑法204条に該当するところ,所定刑中懲役刑を選択し,前記の各前科があるので同法59条,56条1項,57条により3犯の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役1年2月に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中160日をその刑に算入し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負 ,57条により3犯の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役1年2月に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中160日をその刑に算入し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。 (量刑の理由)本件は,被告人が角材で被害者の頭部等を多数回殴打し,判示の傷害を負わせた傷害の事案であるが,被告人は,判示の経過で,被害者が自分に危害を及ぼすつもりで向かってきたものと誤信して本件犯行に及んだものであるところ,その誤信した内容を前提にしても被告人の粗暴性のあらわれともいうべき犯行であり,動機に格別酌むべき事情があるとはいえないこと,凶器は幅約4センチメートル,厚さ約1.6センチメートル,長さは折れて残った部分だけでも約96センチメートルの角材であるところ,これが折れるほどの強さで被害者を多数回にわたり殴打して判示の傷害を負わせたもので,危険かつ悪質であること,示談は成立しておらず,被害感情は厳しいこと,被告人は累犯前科を含め多数の同種前科を有するものであることに徴すると,被告人の刑事責任は重いと言わざるを得ないが,弁護人を介し被害者に対し被害弁償金の一部として金20万円を送金したこと,未決勾留が相当期間に及び,その間,被告人なりに反省悔悟の情を深めたものと窺われること,前記のとおり自首したこと,被告人の年齢,その健康状態等被告人のために斟酌すべき事情が認められるので,これらの事情も十分に考慮の上,主文のとおり量定した。 よって,主文のとおり判決する。 平成15年5月28日神戸地方裁判所第11刑事係甲裁判官杉森研二 1 刑事係 甲裁判官 杉森研二
▼ クリックして全文を表示