平成25年2月27日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成22年(ワ)第44638号損害賠償等請求事件口頭弁論終結日平成24年11月19日判決神奈川県鎌倉市<以下略>原告ミハル通信株式会社同訴訟代理人弁護士上山浩同小川尚史同訴訟復代理人弁護士井上拓東京都品川区<以下略>被告ホーチキ株式会社同訴訟代理人弁護士大野聖二同小林英了同訴訟代理人弁理士鈴木守 主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は,別紙被告製品目録記載の製品を製造及び譲渡してはならない。 2 被告は,別紙被告製品目録記載の製品の在庫品を廃棄せよ。 3 被告は,原告に対し,金1億円及びこれに対する平成22年12月16日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,発明の名称を「CATV用光受信機のAGC方法」とする特許権(以下「本件特許権」という。)を有する原告が,被告の製造・販売に係る別 紙被告製品目録記載の製品(以下,併せて「被告製品」という。)が本件特許権の間接侵害(特許法101条4号〔及び平成18年法律第55 件特許権」という。)を有する原告が,被告の製造・販売に係る別 紙被告製品目録記載の製品(以下,併せて「被告製品」という。)が本件特許権の間接侵害(特許法101条4号〔及び平成18年法律第55号による改正前の特許法101条3号〕)に当たるなどと主張して,①特許法100条1項に基づく差止請求として被告製品の製造及び譲渡の禁止,②同条2項に基づく廃棄請求として被告製品の在庫品の廃棄,③不法行為に基づく損害賠償請求(同法102条2項ないし同条3項による損害額の推定)として3億2400万円の一部である1億円(附帯請求として訴状送達の日の翌日である平成22年12月16日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金)の支払を求めた事案である。 1 前提事実(後記(6)を除いて当事者間に争いがない。)(1) 原告の特許権原告は,本件特許権を有している。本件特許権は,次のとおりである(本件特許権に係る特許公報〔甲2〕及び訂正の審決〔甲3〕を末尾に添付する。 当該訂正後の明細書を「本件明細書」という。)。 登録番号第3479124号発明の名称 CATV用光受信機のAGC方法出願日平成6年8月12日登録年月日平成15年10月3日(2) 特許発明本件特許権の請求項1の発明(以下「本件発明」といい,これに係る特許を「本件特許」という。)は,次のとおりである。 「【請求項1】パイロット信号を含まない光信号をCATV用光受信機に設けられた受光素子(1)で受光して光/電気変換し,変換された電気信号を受光素子(1)に設けられたモニタ端子(3)から取出し,モニタ端子(3)から取出されたモニタ信号を制御回路(12)に入力し,この制御回路(12)から前記光信号の 光/電気変換し,変換された電気信号を受光素子(1)に設けられたモニタ端子(3)から取出し,モニタ端子(3)から取出されたモニタ信号を制御回路(12)に入力し,この制御回路(12)から前記光信号のレベルに応じたAGC電圧を発生し,可変減衰 器において,前記光信号のレベルに応じたAGC電圧で,前記受光素子(1)で光信号から電気信号に変換されそしてRFアンプで増幅された後に前記可変減衰器を通る該電気信号にAGCをかけるようにしたことを特徴とするCATV受信機のAGC方法。」(注記:AGCは,AutomaticGainControlの略であり,一般には自動利得制御の意味である。)(3) 構成要件の分説本件発明を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下「構成要件A」などという。)。 A パイロット信号を含まない光信号をCATV用光受信機に設けられた受光素子(1)で受光して光/電気変換し,B 変換された電気信号を受光素子(1)に設けられたモニタ端子(3)から取出し,C モニタ端子(3)から取出されたモニタ信号を制御回路(12)に入力し,D この制御回路(12)から前記光信号のレベルに応じたAGC電圧を発生し,E 可変減衰器において,前記光信号のレベルに応じたAGC電圧で,前記受光素子(1)で光信号から電気信号に変換されそしてRFアンプで増幅された後に前記可変減衰器を通る該電気信号にAGCをかけるようにしたことを特徴とするFCATV受信機のAGC方法。 (4) 被告の行為被告は,業としてOR-7703,OR-7C1,OR-7CA2,OR-7705を除く被告製品を製造・販売しており,OR-7703,OR-7C1,OR-7CA2,OR-7705を 被告の行為被告は,業としてOR-7703,OR-7C1,OR-7CA2,OR-7705を除く被告製品を製造・販売しており,OR-7703,OR-7C1,OR-7CA2,OR-7705を製造・販売していた。 (5) OR-7703及びOR-7CA5の回路図 OR-7703(以下「被告製品1」という。)の回路図は別紙被告製品1回路図,OR-7CA5(以下「被告製品2」という。)の回路図は別紙被告製品2回路図のとおりである。 (6) 被告製品1及び2の説明被告製品1及び2について,原告は別紙被告製品1説明書(原告)及び別紙被告製品2説明書(原告)のとおり説明し,被告は別紙被告製品1説明書(被告)及び別紙被告製品2説明書(被告)のとおり説明する。 また,被告製品1及び2の回路図中の回路ブロックについて,原告は別紙被告製品1回路図(原告),被告製品1回路抜粋図(原告)及び被告製品2回路図(原告)のとおり説明し,被告は別紙被告製品1回路図(被告)及び被告製品2回路図(被告)のとおり説明している。 なお,原告は被告製品1及び2以外の被告製品も,その構成は被告製品1又は2と同様であり,被告製品1及び2と同様に,本件特許権を侵害していると主張している。 2 争点(1) 被告製品を用いる方法が本件発明の技術的範囲に属するか。 ア本件発明の技術的意義(争点1-1)イ 「パイロット信号」(構成要件A)の意義(争点1-2)ウ 「受光素子」(構成要件A,B及びE)の意義(争点1-3)エ 「モニタ端子」(構成要件B及びC)の意義(争点1-4)オ 「モニタ信号を制御回路に入力し」(構成要件C)の意義(争点1-5)カ 「可変減衰器」(構成要 (争点1-3)エ 「モニタ端子」(構成要件B及びC)の意義(争点1-4)オ 「モニタ信号を制御回路に入力し」(構成要件C)の意義(争点1-5)カ 「可変減衰器」(構成要件E)の意義(争点1-6)キ被告製品1及び2を用いる方法の充足性(争点1-7)ク被告製品1及び2についての間接侵害の成否(争点1-8)(2) 本件特許が特許無効審判により無効にされるべきものであるか。 ア記載要件違反(争点2-1)イ乙5に基づく新規性・進歩性要件違反(争点2-2)ウ乙6に基づく新規性・進歩性要件違反(争点2-3)エ乙7に基づく進歩性要件違反(争点2-4)オ乙20に基づく進歩性要件違反(争点2-5)(3) 損害額(争点3) 3 争点に関する当事者の主張(1) 被告製品を用いる方法が本件発明の技術的範囲に属するか。 ア本件発明の技術的意義(争点1-1)(原告の主張)本件発明は,CATVであっても伝送路全体を光ファイバ回線で構成するFTTH方式(FiberToTheHome:送信局から加入者宅まですべての伝送を光ファイバで構築する方式)が普及すれば,同軸ケーブルに比して優れた光ファイバ回線の特性により,簡易な回路で実現可能な光AGC制御方式を使用することができるとの先見性のある知見に基づき,光CATVシステムに光AGC方式を採用することに技術的意義を有する。 (被告の主張)本件明細書にはFTTH方式に関する記述はなく,光ファイバ回線が同軸ケーブルに比して優れた特性であることに鑑みて光受信機を簡素化した旨の記述もない。本件発明の技術的意義は,特許請求の範囲の記載,明細書の記載によれ TTH方式に関する記述はなく,光ファイバ回線が同軸ケーブルに比して優れた特性であることに鑑みて光受信機を簡素化した旨の記述もない。本件発明の技術的意義は,特許請求の範囲の記載,明細書の記載によれば,光信号から変換された電気信号とは異なるモニタ信号を発生するモニタ端子を受光素子に備え,かかるモニタ信号を用いて光信号から変換された電気信号に対してAGCを行う点にあることは明らかである。 イ 「パイロット信号」(構成要件A)の意義(争点1-2)(原告の主張) 一般的にパイロット信号とは基準信号を意味し,CATVの技術分野では通常AGCに用いられる基準信号を意味する(甲8・96頁,173~174頁,甲9・92頁,甲10・36頁,甲11・116頁,118頁)。なお,AGCに用いられる基準信号としてのパイロット信号は,一般に周波数(伝送帯域の上端及び下端に設定される。)が一定に保持される信号(正弦波)である。 本件発明においても,「パイロット信号」はこの意味で用いられている。 このことは,本件明細書【0004】の「しかしながら,従来型のCATV用光受信機では受信信号のAGCにパイロット信号を用いるため,次のような問題があった。(1)パイロット信号を送信しないCATVシステム,例えば難視共聴システムでは図2の光受信機ではAGCをかけることができない。」,【0005】の「本発明の目的は,パイロット信号がないCATVシステムでも信号レベルを自動調整でき,光受信機の小型化,低コスト化,メンテナンスの簡易化に寄与できるCATV用光受信機のAGC方法を提供することにある。」,【0007】の「本発明のCATV用光受信機のAGC方法では,受光素子1に受光される光信号のレベルを,同受光素子1に設けられたモニタ端子3で CATV用光受信機のAGC方法を提供することにある。」,【0007】の「本発明のCATV用光受信機のAGC方法では,受光素子1に受光される光信号のレベルを,同受光素子1に設けられたモニタ端子3でモニタし,このモニタ端子3からのモニタ信号で,受光素子1により光信号から電気信号に変換された信号にAGCをかけるようにしたため,パイロット信号がなくともAGCをかけることができる。」及び【0011】の「(1)パイロット信号が不要であり,このためパイロット信号がないCATVシステムでもAGC機能を持たせた光受信機を使用できるようになる。」の記載から明らかである。 CATV分野におけるパイロット信号は,この他に,様々な機器のテスト用の信号の意味でも用いられる。CATVシステムは,多数の様々な機器を接続して構成されている。その一部の機器が故障していて正常に信号 を受信または送信できない状態の場合,CATV信号が正しく送出されない。どの部分に故障の原因があるのかを調査することは,機器の台数が多い場合は,原因の可能性のある箇所が多数に上るため容易でない。その原因調査を効率的に行う目的で用いられるのが導通テスト用のパイロット信号である。 甲12・34頁の表3「ステータスモニタシステム計測監視項目一覧」中の「下りパイロット信号レベル」とは,この導通テスト用のパイロット信号を指している。この装置では,「下りパイロット信号レベル」を計測することにより,装置が正常に光信号を受信できているかを監視しているのである。 また,甲13は,四万十町において平成20~22年度に実施されたケーブルネットワーク敷設工事の完了確認書である。その1頁下部の「測定・確認」欄に以下の記載欄がある。3つの周波数(73.0MHz,451.25 3は,四万十町において平成20~22年度に実施されたケーブルネットワーク敷設工事の完了確認書である。その1頁下部の「測定・確認」欄に以下の記載欄がある。3つの周波数(73.0MHz,451.25MHz,771.25MHz)の導通テスト用のパイロット信号について,それぞれの信号を正しく確認できた場合に,周波数が記載された下の空欄にその旨を記入するようになっている。 (被告の主張)パイロット信号は,用途ごとに別々のパイロット信号が用意されているものではなく,同じパイロット信号に導通確認用,レベル確認用,AGC用等の複数の用途が含まれるものである(乙19)。 ウ 「受光素子」(構成要件A,B及びE)の意義(争点1-3)(原告の主張)本件発明における「受光素子」とは,光ファイバから光信号を受光して光/電気変換された電気信号を,制御回路に入力するモニタ信号として出力するとともに,RFアンプへ入力される電気信号として出力する機能を有する機能的要素として定義されている。よって,実際の製品における 「受光素子」とは,フォトダイオードだけではなく,必要に応じて回路基板及びコイル,トランス,抵抗等,その機能を果たすために必要な部品を含めて捉えるべきである。 本件特許の請求項の記載から,「受光素子(1)」の出力として,①モニタ信号(構成要件B・C)と,②RFアンプに向けに出力される電気信号(構成要件E)の2つの信号があることが明らかである。「受光素子(1)」から2種類の電気信号が出力される以上,「受光素子(1)」の内部において受光した光信号から変換された電気信号を分岐させる必要があり,「受光素子(1)」は,光信号から変換された電気信号を分岐する機能を含んだ素子であることが明らかである。そして 素子(1)」の内部において受光した光信号から変換された電気信号を分岐させる必要があり,「受光素子(1)」は,光信号から変換された電気信号を分岐する機能を含んだ素子であることが明らかである。そして,分波器は,光信号から変換された電気信号を分岐する機能を有する回路である。 請求項の記載上,「受光素子(1)」の機能として分波器の機能を含むことが排除されていないことは明白である。このことは,本件明細書の【0007】の「受光素子1に受光される光信号のレベルを,同受光素子1に設けられたモニタ端子3でモニタし,このモニタ端子3からのモニタ信号で,受光素子1により光信号から電気信号に変換された信号にAGCをかける」及び【0009】の「前記受光素子1は,受光した光信号のレベルをモニタすることができるモニタ端子3を備えたものであり,このモニタ端子3からは前記光信号のレベルと対応した電気信号(モニタ信号)が出力されるようにしてある。」の記載によっても裏付けられている。 (被告の主張)「受光素子」とは,「光を電気信号に変換する半導体素子」(乙2),「光の有無を電気的な出力に直す素子」(乙3),「光信号を電気信号に変えたり,光エネルギーを電気エネルギーに転換する機能を持った素子」(乙4)と記載されているとおり,光信号と電気信号との間の変換を行う素子を意味する確立された技術用語である。また,本件明細書においても, 「受光素子(フォトダイオード)」(【0003】),「光信号を受光素子(例えばフォトダイオード)1で電気信号に変換し」(【0008】)というように,「受光素子」を「光信号と電気的信号のあいだの変換(光電変換)をおこなう素子」という確立された技術用語と同一の意味で明細書全体を通じて,統一的に使用されている。 0008】)というように,「受光素子」を「光信号と電気的信号のあいだの変換(光電変換)をおこなう素子」という確立された技術用語と同一の意味で明細書全体を通じて,統一的に使用されている。 本件明細書及び図面には,光信号から変換された電気信号を分波する分波器が受光素子に含まれることを示す記載はない。また,電気信号を「分岐」させる必要があるからといって,所定周波数の信号を「分波」する機能を有することにはならない。原告の主張は,電気信号の「分岐」と,電気信号から所定の周波数の信号を分離する「分波」とを混同しており失当である。 エ 「モニタ端子」(構成要件B及びC)の意義(争点1-4)(原告の主張)本件明細書【0009】には,「前記受光素子1は,受光した光信号のレベルをモニタすることができるモニタ端子3を備えたものであり,このモニタ端子3からは前記光信号のレベルと対応した電気信号(モニタ信号)が出力されるようにしてある。」と記載されており,この記載を全体として読めば,当業者は,「モニタ端子」とは,受光した光信号のレベルをモニタすることができる端子であり,モニタ信号が出力されるものと理解できる。また,「モニタ信号」とは,光信号のレベルと対応した電気信号であり,例えば,光信号のレベルが低いと小さい電流として出力され,光信号のレベルが大きいと大きい電流として出力されるものである。 構成要件B及びCの文言からして,「モニタ端子(3)」とは,受光素子(1)に設けられた端子であって,電気信号たるモニタ信号を出力する端子であることが明らかである。言い換えれば,CATV用光受信機に入力される光信号の強弱のレベルを検知し得る信号を出力する端子を意味す る。 また,本件明細書【0007】の「 る端子であることが明らかである。言い換えれば,CATV用光受信機に入力される光信号の強弱のレベルを検知し得る信号を出力する端子を意味す る。 また,本件明細書【0007】の「モニタ端子3でモニタし」も,【0009】の「前記受光素子1は,受光した光信号のレベルをモニタすることができるモニタ端子3を備えたものであり,このモニタ端子3からは前記光信号のレベルと対応した電気信号(モニタ信号)が出力されるようにしてある。このモニタ信号は,例えば光信号のレベルが低いと小さい電流としてモニタ端子3から出力され,光信号のレベルが大きいと大きい電流としてモニタ端子3から出力されるものである。」及び【0010】の「そこで前記受光素子1のモニタ端子3から出力されるモニタ信号を制御回路12に入力し,この制御回路12で前記光信号のレベルに応じた電圧(AGC電圧)を発生し,このAGC電圧を可変減衰器2に印加するようにしてある。」の記載から明らかなように,モニタ端子からモニタ信号を出力することを意味していることが明らかである。 以上のように,本件明細書の記載からは,「モニタ端子(3)」とは,受光素子(1)に設けられた端子であって,電気信号たるモニタ信号(光信号のレベルと対応した電気信号)を出力する端子,言い換えると,モニタ信号が出力(通過)される接続点(端子)と解すべきことが明白である。 被告は,モニタ端子それ自体が能動的に光信号のレベルをモニタすることができる端子と主張するが,本件明細書には「能動的」という限定解釈を根拠付ける記載はない。 (被告の主張)「モニタ端子」は,本技術分野における確立した技術用語ではなく,本件明細書の記載を斟酌すれば,「受光した光信号のレベルをモニタすることができる端子」,すなわちそ 。 (被告の主張)「モニタ端子」は,本技術分野における確立した技術用語ではなく,本件明細書の記載を斟酌すれば,「受光した光信号のレベルをモニタすることができる端子」,すなわちそれ自体が能動的に光信号のレベルをモニタすることができる端子を意味するものである。 本件明細書【0009】には,「前記受光素子1は,受光した光信号の レベルをモニタすることができるモニタ端子3を備えたものであり,このモニタ端子3からは前記光信号のレベルと対応した電気信号(モニタ信号)が出力されるようにしてある。」と記載されているとおり,本件発明のモニタ端子は,受光素子に設けられ,受光した光信号のレベルをモニタすることができる端子を意味することは明らかである。モニタ端子は,単に,受光素子(1)で光信号から電気信号に変換された信号を出力する端子や回路素子を回路基板に接続するための単なる接続点とは異なるものである。 オ 「モニタ信号を制御回路に入力し」(構成要件C)の意義(争点1-5)(原告の主張)請求項1及び本件明細書には,モニタ端子(3)と制御回路(12)が直結されることに関する記載は一切ない。AGC回路の構成の簡易化は,「モニタ端子」と「制御回路」の直結を要求するものではないから,「モニタ端子(3)」(構成要件B)と「制御回路(12)」(構成要件C・D)が直結されることが必要である旨の被告の主張は理由がない。 (被告の主張)本件発明は,光受信機の小型化,コストの低減,メンテナンスの簡易化という効果を奏するために,AGC回路の構成を簡易化するものであり,そのためにモニタ端子と制御回路とが直結されることは,必要不可欠の要件である。このことは,本件明細書の図1において,モニタ端子と制 という効果を奏するために,AGC回路の構成を簡易化するものであり,そのためにモニタ端子と制御回路とが直結されることは,必要不可欠の要件である。このことは,本件明細書の図1において,モニタ端子と制御回路とが直結していることが明確に示されていること,本件明細書及び図面には,モニタ端子と制御回路の間に別の回路素子が設けられる旨の記載はないし,その示唆も存在しないことからも裏付けられる。 カ 「可変減衰器」(構成要件E)の意義(争点1-6)(原告の主張) 可変減衰器は,信号の減衰量を一定の範囲で調整することができる回路であり,信号を減衰する機能は持っていても,増幅する機能は備えていない。 本件明細書【0008】の「任意に加減できる」という記載の「加」は,信号を増幅するという意味ではなく,以下の意味である。一般に,可変減衰器においては,標準的な減衰量を初期値として定めておく。初期値の減衰量が例えば-6dBの場合,可変減衰器では信号強度を1/4に減衰する。可変減衰器に入力された信号のレベルが大きい場合は,可変減衰器での減衰量を大きくし,例えば-10dB(1/10)に減衰させた信号を出力することになる。逆に,可変減衰器に入力された信号のレベルが,初期値設定において前提としていたレベルよりも小さい場合は,減衰量を初期値の-6dBよりも減じ,例えば減衰量を-3dB(1/2)とすることも可能である。この場合は,初期値の減衰後の信号レベルと比較すると,信号レベルが相対的に増加しているとみることができる。本件明細書【0008】の「加」は,このような場合を指しているのである。 本件明細書【0008】の「加減」とは,可変減衰器の標準的な減衰量に比して,減衰量が小さい場合が「加」,減衰量が大きい場合が「 008】の「加」は,このような場合を指しているのである。 本件明細書【0008】の「加減」とは,可変減衰器の標準的な減衰量に比して,減衰量が小さい場合が「加」,減衰量が大きい場合が「減」を表しているのである。 以上のように,本件明細書【0008】は,「可変減衰器2」が増幅機能を有していることを意味するものではない。 (被告の主張)原告は,本件特許の訂正審判請求書において,構成要件Eに可変減衰器の限定を付加して,本件発明の構成要件Eに技術的な特徴がある旨主張している(乙15)。上記の訂正審判の経緯から見て,構成要件Eに追加された可変減衰器に特徴があるとするならば,それは,従来から周知の構成とは異なる可変減衰器を意味すると解さざるを得ない。本件明細書【00 08】の「可変減衰器2で電気信号のレベルを任意に加減できるようにしてある」との記載等から,特許請求の範囲と併せ検討すれば,本件発明の可変減衰器は,モニタ信号が小さい場合には,光信号のレベルを増加させることによって,AGCをかける(レベルを一定にする)ものであると解される。このように,訂正審判請求の経緯,本件明細書の記載及び原告自認の周知技術に鑑みれば,構成要件Eは,電気信号のレベルを任意に増加あるいは減衰することでAGCをかける可変減衰器を規定したものであると解される。 キ被告製品1及び2を用いる方法の充足性(争点1-7)(原告の主張)(ア) 構成要件Aの充足性a 「パイロット信号を含まない光信号をCATV用光受信機に設けられた」被告製品1及び2は,CATV用光受信機であり,光ファイバを接続可能な光コネクタを有する受光素子1を備え,受光素子1は,光ファイバを介して伝送された ATV用光受信機に設けられた」被告製品1及び2は,CATV用光受信機であり,光ファイバを接続可能な光コネクタを有する受光素子1を備え,受光素子1は,光ファイバを介して伝送されたパイロット信号を含まない光信号を受光しているのであって,パイロット信号を用いてAGCをかけていない。 ●(省略)●仮に,被告製品1及び2に入力される光信号にパイロット信号が含まれているとしても,被告製品1及び2はそれをAGCに使用しておらず,また,入力される光信号にパイロット信号が含まれていない場合でもAGCをかけることができる。したがって,被告製品1及び2が,「パイロット信号を含まない信号」を受光した上で追加的にパイロット信号をも受光しているか否かは,構成要件の充足性に影響しない。 b 「受光素子(1)で受光して光/電気変換し」 被告製品1及び2において,光信号を受光して光/電気変換された電気信号を,制御回路に入力されるモニタ信号として出力し,かつ,RFランプで増幅された後に可変減衰器を通る電気信号として出力する機能を有する部分は,別紙被告製品1ブロック図(原告)及び別紙被告製品2ブロック図(原告)のとおり,フォトダイオード及びコイルを囲んで示した部分であり,この部分が被告製品1及び2の「受光素子」というべきである。 c したがって,被告製品1及び2を用いる方法は,構成要件A(「パイロット信号を含まない光信号をCATV用光受信機に設けられた受光素子で受光して光/電気変換」)を充足する。 (イ) 構成要件Bの充足性被告製品1及び2において,受光素子1で変換された電気信号は,受光素子1に設けられたモニタ端子2から取り出される。 」)を充足する。 (イ) 構成要件Bの充足性被告製品1及び2において,受光素子1で変換された電気信号は,受光素子1に設けられたモニタ端子2から取り出される。 被告製品1及び2において,モニタ端子は受光した光信号の直流成分(低域成分)(正確に言えば,低周波数帯の交流成分と直流成分とを合わせた信号)を出力しているが,低周波数帯の交流成分の強度(信号レベル)は,直流成分の強度に比べて著しく小さく,低域成分は信号レベルの点でいうと,おおむね「直流成分」からなる。そして,この直流成分のレベルは受光した光信号のレベルに応じている。 仮に「受光素子」をフォトダイオードに限定して解釈したとしても,フォトダイオードの端子(Pe3)は,モニタ端子2と電気的に接続されており,信号が変換されてはいないのであるから,「モニタ端子」が受光素子に設けられているのと実質的には同一である。 したがって,被告製品1及び2を用いる方法は,構成要件B(「変換された電気信号を受光素子(1)に設けられたモニタ端子(3)から取出し」)を充足する。 (ウ) 構成要件Cの充足性a 「モニタ端子(3)から取出されたモニタ信号」「モニタ端子(3)から取出されたモニタ信号」とは,前記構成要件Bで説明した「モニタ端子(3)」から取り出された光信号のレベルと対応した電気信号(モニタ信号)である。 被告製品1及び2のフォトダイオードの端子から出力された電流のうち,被告の主張する分波器2によってその高周波成分が除かれた,被告が「低域成分の信号」と称する電流は,結局,光信号のレベルが高くなるほど電流値も大きくなる直流成分を表すものとなる。その結果,モニタ端子は,この直流成分を表す電流の てその高周波成分が除かれた,被告が「低域成分の信号」と称する電流は,結局,光信号のレベルが高くなるほど電流値も大きくなる直流成分を表すものとなる。その結果,モニタ端子は,この直流成分を表す電流の大きさに比例し,かつ,一端がモニタ端子と接続され他端が接地された抵抗R2の抵抗値に電流の大きさが乗じられた電圧を出力することになる。 したがって,モニタ端子における電圧は,光信号のレベルが高くなるほど高くなるので,光信号のレベルに応じた信号ということができる。 b 「制御回路(12)に入力し」「制御回路」は,①モニタ端子を介してモニタ信号が入力される機能,②光信号のレベルに応じた電圧(AGC電圧)を発生する機能,③AGC電圧を可変減衰器に印加する機能を有する(本件明細書【0010】・図1)。 被告製品1及び2において,モニタ端子2は制御回路3と接続されているので,モニタ端子2から出力されたモニタ信号は制御回路3に入力される。被告製品1及び2は,光信号を1つのフォトダイオードにおいて一括受光し,フォトダイオードがその光信号を光/電気変換することによりフォトダイオードの1つの端子Pe3から出力された電流から,分波器により高域成分の信号と低域成分の信号とを取り出 している。低域成分の信号が光信号のレベルに対応していることは上記(イ)のとおりである。 また,被告製品1及び2の制御回路がAGC電圧を可変減衰器に印加する機能を有することは後記(エ)のとおりである。 したがって,被告製品1及び2を用いる方法は,構成要件C(「モニタ端子(3)から取出されたモニタ信号を制御回路(12)に入力し」)を充足する。 (エ) 構成要件Dの充足性 したがって,被告製品1及び2を用いる方法は,構成要件C(「モニタ端子(3)から取出されたモニタ信号を制御回路(12)に入力し」)を充足する。 (エ) 構成要件Dの充足性被告製品1及び2において,別紙測定結果1及び2が示すように,制御回路3から受光素子1で受光した光信号のレベルに応じた電圧を発生しているから,これは「AGC電圧」に相当する。別紙測定結果2においては,光入力レベルによってグラフの傾斜が異なるが,実用的には,光信号入力レベルの全範囲にわたって同一の傾向で電圧が変化しなければAGCをかけているといえなくなるものではない。 原告が制御回路と解釈する回路ブロックと被告が差動増幅器と解釈する回路ブロックには,AGC方法を実施するために果たす機能において実質的な差異はなく,単に呼称を変えているにすぎない。 したがって,被告製品1及び2を用いる方法は,構成要件D(「制御回路から前記光信号のレベルに応じたAGC電圧を発生し」)を充足する。 (オ) 構成要件Eの充足性「可変減衰器」は,①RFアンプで増幅された電気信号を減衰する機能,②制御回路のAGC電圧が印加されるとAGC電圧に応じて減衰量が加減される機能を有する(本件明細書【0008】【0010】・図1)。「RFアンプ」は,受光素子からの電気信号を増幅する機能,増幅した電気信号を可変減衰器に出力する機能を有する(構成要件E,本 件明細書【0008】・図1)。 被告製品1及び2において,端子5から出力した電気信号は,RFアンプ6で増幅された後に可変減衰器4に入力され,可変減衰器4において,前記光信号のレベルに応じたAGC電圧で,その減衰量を連続して可変することができ,光信号にレベル変動があ 力した電気信号は,RFアンプ6で増幅された後に可変減衰器4に入力され,可変減衰器4において,前記光信号のレベルに応じたAGC電圧で,その減衰量を連続して可変することができ,光信号にレベル変動があっても同受信機から出力される電気信号のレベルが所定の範囲内に保たれるように制御されている。 被告は,原告が可変減衰器と解釈する回路ブロックとRFアンプと解釈する回路ブロックとの両方を含めて可変利得増幅器としている。しかし,原告RFブロックと解釈する回路ブロックには,「制御回路」から出力された信号が入力される部分が存在せず,そのため,光信号のレベルに応じて電気信号を可変に増幅調整するための構成がない。被告の解釈は,RFアンプと可変減衰器に分離可能な2つの回路ブロックを強引に1つの回路ブロックと構成したものにすぎない。 したがって,被告製品1及び2を用いる方法は,構成要件E(「可変減衰器において,前記光信号のレベルに応じたAGC電圧で,前記受光素子(1)で光信号から電気信号に変換されそしてRFアンプで増幅された後に前記可変減衰器を通る該電気信号にAGCをかけるようにしたことを特徴とする」)を充足する。 (被告の主張)(ア) 構成要件Aの充足性について●(省略)●被告製品1及び2は,パイロット信号を含む光信号を受信し,処理することができる装置である。原告の主張は,全く根拠がなく失当である。また,「受光素子」には分波器は含まれない。 (イ) 構成要件Bの充足性について被告製品1及び2は,それ自体が能動的に,受光した光信号のレベル をモニタすることができる「モニタ端子」を備えていない。原告主張のモニタ端子は,単なる接続点にすぎないし,受光素子に設けられたもので 1及び2は,それ自体が能動的に,受光した光信号のレベル をモニタすることができる「モニタ端子」を備えていない。原告主張のモニタ端子は,単なる接続点にすぎないし,受光素子に設けられたものではない。 (ウ) 構成要件Cの充足性について被告製品1及び2は,「モニタ端子」を備えていない。また,被告製品1及び2では,原告主張の「モニタ端子」からの信号は,分波器のトランスを経て出力された低域成分の信号であり,これは光信号の一部(光信号から電気信号に変換された信号の一部を意味する)であるから,「光信号のレベルと対応した電気信号」(本件明細書【0009】)であるモニタ信号を備えるものではない。本件明細書には,低域成分の信号を用いて高域成分の信号に対してAGCをかけるという技術的思想は何ら示されておらず,原告の主張は失当である。 また,被告製品1及び2は,モニタ端子と制御回路の間に分波器を備えており,モニタ端子から直接モニタ信号を制御回路に入力するものではなく,回路構成の複雑化回避等の本件発明の技術的意義を達成しておらず,被告製品1及び2を用いる方法は構成要件Cを充足しない。 (エ) 構成要件Dの充足性について別紙測定結果1では,光入力レベルが-6.0~0dBmの範囲,0. 0~2.0dBmの範囲において,別紙測定結果2では,光入力レベルが-7~-5dBmの範囲,-5dBm~-2.5dBmの範囲,-2. 5~+1.0dBmの範囲において,明らかに傾向が異なり,AGC電圧と光信号のレベルとの間に一体どのような相関があるのか明確に示していないから,被告製品1及び2におけるAGC電圧は,光信号のレベルに応じているとはいえない。 (オ) 構成要件Eの充足性について被告 一体どのような相関があるのか明確に示していないから,被告製品1及び2におけるAGC電圧は,光信号のレベルに応じているとはいえない。 (オ) 構成要件Eの充足性について被告製品1及び2における可変利得増幅器は,差動増幅器から出力さ れる信号に基づき増幅率を変化させる回路であることは,その回路図より明らかであり,入力信号としての高域成分の信号の変動を補償して,出力レベルが一定の(AGCが施された)信号が出力されるように,その増幅率が調整されているのである。このように,被告製品1及び2の可変利得増幅器は,入力信号の変動を補償するように増幅することで一定レベルの出力信号を得るというAGCの機能を果たすために,一体的に構成されるものである。かかる機能を有するために一体的に構成される回路が可変利得増幅器であることは,当業者にとっての技術常識であり,被告製品1及び2の可変利得増幅器をRFアンプと可変減衰器とに分離して解するのは誤りである。 また,被告製品1及び2では可変利得増幅器(乙6,9~12)を用いてAGCを行っており,特殊な可変減衰器によってAGCを行っていない。被告製品1及び2の可変利得増幅器の一部に可変減衰を行うことができる回路を見出すことができたとしても,当該回路は,AGCを行う周知の回路の一部にすぎない。 したがって,原告が指摘する回路は本件特許の「可変減衰器」に該当せず,被告製品1及び2を用いる方法は構成要件Eを充足しない。 ク被告製品1及び2についての間接侵害の成否(争点1-8)(原告の主張)被告製品1及び2を用いる方法は,構成要件A~Eを充足するものである。 被告製品1及び2は,例えば,屋外壁面に取り付けられ,光ファイバ(放送サービ 点1-8)(原告の主張)被告製品1及び2を用いる方法は,構成要件A~Eを充足するものである。 被告製品1及び2は,例えば,屋外壁面に取り付けられ,光ファイバ(放送サービス用ファイバ心線)が接続され,CATV用の光信号が被告製品1及び2に入力される。そして,被告製品1及び2から出力されるRF信号は同軸ケーブルを介してセットトップボックスに入力されて,そこからテレビに接続されて,ユーザはテレビの視聴が可能となる。 そこで,被告製品1及び2を用いる際には,CATV用光受信機のAGC 方法を使用することになり(構成要件Fを充足),被告製品1及び2は,本件発明の使用にのみ用いるCATV用光受信機である。被告製品1及び2において,構成要件Aの「パイロット信号」に相当する信号は用いられていない。 以上のとおり,被告製品1及び2は,本件発明の構成要件をすべて充足する方法の使用にのみ用いる物であって,被告が業として被告製品1及び2を製造・販売する行為は,特許法101条4号(及び平成18年法律第55号による改正前の特許法101条3号)により,本件特許権を侵害するものとみなされる。 (被告の主張)被告製品1及び2は,パイロット信号を含むCATV用光信号を受信し,処理できるものであり(乙1の表15),本件発明の使用にのみ用いる物ではない。 (2) 本件特許が特許無効審判により無効にされるべきものであるか。 ア記載要件違反(争点2-1)(被告の主張)(ア) モニタ信号の発生方法本件明細書【0009】には,モニタ信号とは,モニタ端子から出力され,光信号のレベルに対応した電気信号である旨記載されている。このモニタ信号を発生させる方法は,受光した光 号の発生方法本件明細書【0009】には,モニタ信号とは,モニタ端子から出力され,光信号のレベルに対応した電気信号である旨記載されている。このモニタ信号を発生させる方法は,受光した光信号のレベルをモニタすることのできるモニタ端子によって取り出す方法であって,受光素子により得られた電気信号の一部を分波して取り出す方法とは異なる。ところが,モニタ信号がどのようにして発生するのか,本件明細書には何ら記載がない。本件明細書を見た当業者において,モニタ信号を生成してAGCを行うことは不可能であるから,本件明細書には,当業者が本件発明を実施できる程度に本件発明の目的,構成,効果が記載されている とはいえず,本件特許は平成6年法律第116号による改正前の特許法(以下「平成6年改正前特許法」という。)36条4項に違反する。 (イ) モニタ端子の記載本件明細書には,光信号のレベルに対応する信号が「モニタ信号」である旨記載されているところ,仮にそうであれば,光受信機内のあらゆる箇所を流れる信号が「モニタ信号」に対応することとなり,本件発明において「モニタ信号」を出力する「モニタ端子」が何を示すのかが不明確となるから,本件特許は平成6年改正前特許法36条5項2号に違反する。 (ウ) 制御回路及び可変減衰器の構成本件明細書【0003】の記載から,制御回路は,AGC電圧を受けて(何らかの信号を発生させて),可変減衰器の減衰量を制御するものであり,可変減衰器は,制御回路によって調整された減衰量にて,電気信号のレベルを調整するものであると理解することができる。しかし,本件明細書【0010】の記載からは,制御回路がAGC電圧を出力するものであり,可変減衰器は,かかるAGC電圧を受けて減衰量を制 電気信号のレベルを調整するものであると理解することができる。しかし,本件明細書【0010】の記載からは,制御回路がAGC電圧を出力するものであり,可変減衰器は,かかるAGC電圧を受けて減衰量を制御するものであると理解することができる。このように,制御回路及び可変減衰器の構成につき,明細書全体を通じて統一して記載されておらず,どのような制御回路及び可変減衰器を用いてAGCを行えば良いのかが不明確である。しかも,制御回路及び可変減衰器は,機能的にしか特定されていないところ,上記のとおり明細書を通じて統一されていないから,制御回路及び可変減衰器の機能すらも理解することができない。 したがって,本件特許は平成6年改正前特許法36条4項及び5項2号に違反する。 (エ) AGC電圧の意味本件明細書【0003】の記載から,AGC電圧とは,制御回路に入 力される電圧であり,間接的に可変減衰器の減衰量を制御するものと,理解することができる。しかるに,本件明細書【0010】の記載からは,AGC電圧は,制御回路から可変減衰器に入力される電圧であり,可変減衰器の減衰量を直接に制御するものと理解される。このように,本件明細書の記載からは,AGC電圧が意味するところが不明確であるから,本件特許は平成6年改正前特許法36条4項及び5項2号に反する。 (オ) モニタ信号を用いたAGCの方法本件明細書の従来例として記載されている光受信機において,パイロット信号を抽出するために,SAWフィルタ及び検波回路が用いられている。これに対し,本件発明の効果(【0011】)によれば,本件発明では,一定成分の信号を取り出すための少なくともSAWフィルタ及び検波回路を除外していることは明らかであるところ,モニ が用いられている。これに対し,本件発明の効果(【0011】)によれば,本件発明では,一定成分の信号を取り出すための少なくともSAWフィルタ及び検波回路を除外していることは明らかであるところ,モニタ信号がどのような信号なのかを特定しない限り,パイロット信号を用いないことだけで直ちにSAWフィルタ及び検波回路が不要になるのか理解することができない。つまり本件特許の目的を達成すべく,どのような信号に基づいて,どのような処理により受光した光信号あるいはそれを光電変換した電気信号でAGCを行うのか本件明細書の記載から全く理解することができない。 したがって,本件明細書には,当業者が本件発明を実施できる程度に本件発明の目的,構成,効果が記載されているとはいえないから,本件特許は平成6年改正前特許法36条4項に違反する。 (原告の主張)(ア) モニタ信号の発生方法及びモニタ信号を用いたAGCの方法について本件明細書【0009】の記載から,「モニタ信号」は,受光した光 信号のレベル(強度)をモニタするための信号であることが明らかである。そして,光信号のレベルに応じた信号を発生させる方法は,当業者にとって周知の事項であった。例えば,甲12の31頁には,図6の回路について「さらに,この光入力レベルは,電圧値に変換された信号(光入力:1mW/1V)でモニタ可能である」との記載があり,受光した光信号のレベルを,光信号を光電変換した後の電気信号,すなわちモニタ信号の電圧値を用いてモニタすることが述べられている。この記載から明らかなように,光信号のレベルに応じた信号を発生させる方法は,本件特許の出願以前から周知の事項だったのである。 また,被告製品のように,電気信号をLPF(ローパスフィルタ この記載から明らかなように,光信号のレベルに応じた信号を発生させる方法は,本件特許の出願以前から周知の事項だったのである。 また,被告製品のように,電気信号をLPF(ローパスフィルター)に通すことで直流成分付近(低域成分)の信号だけを取り出し,これをモニタ信号として用いる回路も,当業者にとって周知の事項であった。 例えば,特開昭62-109382号公報(甲14)の2頁左上欄13~17行には,従来技術の第2図の回路について,「光出力を一定に保つための光出力安定化方式として,入力信号7の一部を分岐して参照信号として用いるため直流成分近傍だけを通すLPF3に加え,その直流成分を差動アンプ4の入力bに加える」と記載されている。同様の回路は,例えば特開昭63-212230号公報(甲15)2頁右上欄9行~左下欄3行にも開示されており,本件特許の出願以前から周知の事項であつたことが明白である。 したがって,「モニタ信号」の発生方法及びモニタ信号を用いたAGCの方法は明細書に明示的に記載するまでもない自明の事項であり,本件特許には平成6年改正前特許法36条4項に該当する事由はない。 (イ) モニタ信号及びモニタ端子の意義について「モニタ端子(3)」とは,受光素子(1)に設けられた端子であって,電気信号たるモニタ信号(光信号のレベルと対応した電気信号)を 出力する端子と解すべきことが明白であり,「モニタ信号」(構成要件C)は,構成要件Bの文言から明らかなように,光信号から変換された電気信号の一部であり,いずれも明確であって,被告の主張には理由がない。 よって,本件特許には平成6年改正前特許法36条5項2号に該当する事由はない。 (ウ) 制御回路及び可変減衰器の構成とAG ,いずれも明確であって,被告の主張には理由がない。 よって,本件特許には平成6年改正前特許法36条5項2号に該当する事由はない。 (ウ) 制御回路及び可変減衰器の構成とAGC電圧について被告が引用する本件明細書【0003】は,本件発明の実施例ではなく,従来技術に関する記載であるが,図2に示されているとおり,この例においても,AGC電圧は「制御回路H」が発生させるものであり,「可変減衰器」は「制御回路H」が発生したAGC電圧を受けて減衰量を制御するものであることが明らかである。なぜなら,「このAGC電圧に基づいて制御回路Hが可変減衰器Cの減衰量を自動的に可変させて電気信号のレベルを調整(AGC)している」の記載から,可変減衰器Cは制御回路Hが発生したAGC電圧に基づいて減衰量を制御していることが明らかであり,したがって,「このパイロット信号を検波器Gで検波してAGC電圧を発生し,」とは,検波器Gの出力を受けて制御回路HがAGC電圧を発生していることを意味していることが明らかだからである。 よって,「制御回路(12)」,「可変減衰器」及び「AGC電圧」に関する本件明細書の記載は明確であって,平成6年改正前特許法36条5項2号に該当する事由はない。 イ乙5に基づく新規性・進歩性要件違反(争点2-2)(被告の主張)(ア) 構成要件ごとの対比a 構成要件A 乙5に記載された発明(以下「乙5発明」という。)では,フォトダイオード9が光信号を受光して光/電気変換を行う。 乙5の第5図に記載された実施例では,第3図の実施例にパイロット正弦波信号を追加して伝送し,パイロット信号を抽出して伝送信号の補正を行っており(6欄 号を受光して光/電気変換を行う。 乙5の第5図に記載された実施例では,第3図の実施例にパイロット正弦波信号を追加して伝送し,パイロット信号を抽出して伝送信号の補正を行っており(6欄10~13行),この実施例との対比から,乙5の第3図に示す実施例においてはパイロット信号が含まれていないことが分かる。また,乙5に記載された90~222MHzという周波数帯域はCATVの周波数帯に対応しており,乙5発明は「CATV用」の光受信機である。 以上により,乙5発明は構成要件Aを充足する。 b 構成要件B原告主張によれば,モニタ端子とは,光信号のレベルに応じた信号(モニタ信号)を取り出すことができる接続点であり,必ずしも受光素子に設けられている必要はない。乙5発明において,分波器12の端子14から出力される低域成分の信号には妨害成分n(t)が含まれており(5欄9~13行),当該低域成分の信号は光信号のレベルに応じている。よって,分波器12の低周波成分の出力端子14は,原告主張のモニタ端子に該当する。 以上により,乙5発明は構成要件Bを充足する。 c 構成要件C本件明細書の記載及び原告主張によれば,制御回路とは,モニタ信号が入力されるとともに,AGC電圧を発生する回路である。乙5発明における差動増幅器16には,分波器12で得られた低周波成分14(モニタ信号)が入力される。また,乙5の「差動増幅器16には正のレベルの直流電圧『2』が印加してあるから,差動増幅器16の出力として第4図cに23で示した1-n(t)に比例した電圧が得 られる。この出力電圧は可変利得増幅器17の利得制御入力端子18に与えてあるから,可変利得増幅器17の増幅利得が変わり 16の出力として第4図cに23で示した1-n(t)に比例した電圧が得 られる。この出力電圧は可変利得増幅器17の利得制御入力端子18に与えてあるから,可変利得増幅器17の増幅利得が変わり,…」(5欄16~22行)との記載から,差動増幅器16はAGCをかけるためのAGC電圧を発生することが分かる。 したがって,差動増幅器16は,本件発明の制御回路に該当する。 以上により,乙5発明は構成要件Cを充足する。 d 構成要件D構成要件Cで説明したところから明らかなように,乙5発明におけるAGCは,構成要件Dを充足する。 e 構成要件E構成要件Cで説明したところから明らかなように,乙5発明では,光信号のレベルに応じたAGC電圧で,受光素子で光信号から電気信号に変換された電気信号にAGCをかけている。 ただし,乙5には,可変利得増幅器17の詳細な構成は記載されておらず,可変減衰器を用いて利得制御を行っていることは明記されていない。しかしながら,CATVのAGCに用いられる可変利得増幅器がRFアンプと可変減衰器の組合せによって構成されることが周知技術であることや,訂正審判請求書(乙15)から理解されるとおり,広帯域にわたる光信号のレベル変動に対してAGCするために,可変減衰器を用いる必要があったという技術的要請があったことに鑑みれば,乙5の光受信機はCATV用の広帯域の光信号を処理するものであるから,これに用いられる可変利得増幅器17が,RFアンプと可変減衰器の組合せによって構成されていることは,当業者にとって自明な事項,すなわち乙5に記載されているに等しい事項である。 以上により,乙5発明は構成要件Eを充足する。 と可変減衰器の組合せによって構成されていることは,当業者にとって自明な事項,すなわち乙5に記載されているに等しい事項である。 以上により,乙5発明は構成要件Eを充足する。 f 構成要件F 構成要件Aのところで説明したとおり,乙5発明は「CATV用」の光受信機であり,構成要件Fを充足する。 g 小括以上に説明したとおり,乙5発明は,構成要件A~Fをすべて充足しており,本件発明と同一である。 したがって,本件発明は,乙5発明と同一であり新規性を有しない。 (イ) 仮に,構成要件Eの可変減衰器が明記されていないことが相違点になるとしても,乙5発明が対象とする広帯域の信号をAGCするために可変減衰器を用いる必要性があることは当業者に知られていたから,乙5発明に,周知技術(可変利得増幅器=RFアンプ+可変減衰器)を適用することに動機付けがあり,本件発明は,少なくとも進歩性を有しない。 原告は,乙5発明は,ノイズ除去の主張に関する発明であり,AGCとは無関係であると主張する。しかし,乙5発明で行われているのは,「伝送系で生じた妨害の度合を直流付近の成分を調べることによって検知し,これを用いて伝送の乱れを補正するようにしてある(6欄2~7行)という方法であり,妨害雑音成分によって生じた変化を検出し,その変化を補償することによって行うこと,すなわちAGCそのものが記載されている。原告の主張は無意味である。 (原告の主張)(ア) 乙5発明の内容乙5発明が軽減の対象としている成分は,2頁3欄3~8行の「レーザダイオード3より光フアイバ6に入射する光信号は結合部4,光コネクタ5での反射現象のため逆進し,レー ) 乙5発明の内容乙5発明が軽減の対象としている成分は,2頁3欄3~8行の「レーザダイオード3より光フアイバ6に入射する光信号は結合部4,光コネクタ5での反射現象のため逆進し,レーザダイオード3に再入射し,このため,発光機能が乱され,発光波長や発光出力が変化してしまう。この結果,発光出力に強度変調がかかることになる。」の記載から明らか なとおり,レーザダイオードに対する戻り光誘起ノイズ(雑音)である。 乙5発明は,フォトダイオード9で光電変換された電気信号から,分波器12によって{1+n(t)}という低域成分を取り出す。この{1+n(t)}のうち,「1」は直流成分,「n(t)」は雑音成分をそれぞれ表している(2頁3欄31~32行)。「n(t)」は雑音成分であることから,直流成分に比して著しく小さい信号強度であり,|n(t)|≪1である(3頁5欄25行)。 乙5発明は,所定の回路構成を採用することで,制御対象である高域成分の雑音成分をn2(t)とするようになっている。n(t)が1より十分小さいことから,その二乗であるn2(t)はさらに小さくなる。 これにより,雑音成分を実質的に除去する,というのが乙5発明の内容である。 (イ) 本件発明と乙5発明の根本的相違本件発明は,受光した光信号から光/電気変換された電気信号のレベルを制御するものである(本件明細書【0005】等)。 これを乙5の記載を例にとっていえば,低域成分{1+n(t)}の直流成分のレベル「1」が伝送路における伝送損失により例えば「0. 6」に減衰している場合,増幅器や可変減衰器からなる回路を用いて,出力レベルを,低域成分{1+n(t)}の直流成分のレベルが「1」の場合に近い値に戻すよう増幅す 路における伝送損失により例えば「0. 6」に減衰している場合,増幅器や可変減衰器からなる回路を用いて,出力レベルを,低域成分{1+n(t)}の直流成分のレベルが「1」の場合に近い値に戻すよう増幅する,というのが本件発明のAGC方法である。しかし,乙5発明は,雑音成分n(t)の軽減のみを行うことが可能であり,信号のレベルの制御は一切行わない。 したがって,乙5発明は,AGCとは無関係な発明にすぎない。 (ウ) 本件発明の構成要件との対比構成要件Cの「モニタ信号」は,「光信号のレベルと対応した電気信号」(本件明細書【0009】)である。しかし,乙5発明には,「光 信号のレベルと対応した電気信号」を扱う構成は含まれていないから,乙5には構成要件Cが開示されていない。乙5発明は,「モニタ信号」を取り出す端子である「モニタ端子(3)」の構成も含まれていないから,乙5には構成要件Bも開示されていない。 また,乙5発明は雑音成分の除去に関するもので,AGCは行っていないから,構成要件D~Fも開示していない。 ウ乙6に基づく新規性・進歩性要件違反(争点2-3)(被告の主張)(ア) 構成要件ごとの対比a 構成要件A乙6に記載された発明(以下「乙6発明」という。)では,フォトダイオードDが光信号を受光して光/電気変換を行う。 乙6には,光信号がパイロット信号を含むか否かは明記されていない。この点,原告の主張によれば,「パイロット信号を含まない」とは,パイロット信号を含まない場合であってもAGCをかけることができることを記載しているにすぎない。乙6発明は,パイロット信号を用いることなくAGCを行っているので,パイロット信号を含ま まない」とは,パイロット信号を含まない場合であってもAGCをかけることができることを記載しているにすぎない。乙6発明は,パイロット信号を用いることなくAGCを行っているので,パイロット信号を含まない光信号の場合でも,AGCをかけることができるから,「パイロット信号を含まない」光信号の要件を満たす。 また,乙6には,「CATV用」の光受信機であることは明記されていない。この点,訂正審判請求書(乙15)によれば,本件発明が「CATV用」であることの所以は,可変利得増幅器を用いた従来技術と比べ,広帯域(例えば数百MHz)にわたる光信号のレベル変動に対してAGCすることが可能な可変減衰器を用いている点である。 乙6では,可変利得制御増幅器AMPは,可変抵抗ダイオードD1を用いて利得を制御している。ここで,乙6の可変抵抗ダイオードD1 は,「制御入力CTに加わる電流値によって可変抵抗ダイオードD1の抵抗値が変化し」(3頁9~11行)と記載されているように,抵抗値を変化させることで信号レベルの減衰量を変化させるものであるから,可変減衰器に相当する。乙6発明は,可変減衰器を備えている以上,乙6発明がCATVのような広帯域の光信号のレベルに対応し得ることは明らかであり,「CATV用」の光受信機である。 以上により,乙6発明は構成要件Aを充足する。 b 構成要件B原告主張によれば,モニタ端子とは,光信号のレベルに応じた信号(モニタ信号)を取り出すことができる接続点であり,必ずしも受光素子に設けられている必要はない。 乙6には,「光電流は抵抗R2を流れ容量Cで平滑化されることにより,抵抗R2の両端には平均光電流に比例した電圧Vが発生する」(2頁12~14行)と記載されて けられている必要はない。 乙6には,「光電流は抵抗R2を流れ容量Cで平滑化されることにより,抵抗R2の両端には平均光電流に比例した電圧Vが発生する」(2頁12~14行)と記載されているように,平均光電流検出回路AVPの出力点において光信号のレベル(平均光電流)に応じた信号が発生しており,この出力点はモニタ端子に該当する。 以上により,乙6発明は構成要件Bを充足する。 c 構成要件C本件明細書の記載及び原告主張によれば,制御回路とは,モニタ信号が入力されるとともに,AGC電圧を発生する回路である。 乙6発明においては,増幅・変換回路COVには,モニタ信号が入力されている。そして,乙6の「第1図の増幅・変換回路COVは平均光電流検出回路の出力を所定のレベルまで増幅したあと,これを可変利得制御増幅器AMPの制御形式に応じて,電流又は電圧に変換する。」(2頁14~18行),「第1図の可変利得制御増幅器AMPは,制御電圧又は制御電流に比例して利得が変化するものである。」 (3頁6~8行)との記載から分かるように,増幅・変換回路COVはAGCをかけるためのAGC電圧を発生する。 以上により,乙6発明は構成要件Cを充足する。 d 構成要件D構成要件Cにて説明したとおり,乙6発明は構成要件Dを充足する。 e 構成要件E乙6では,可変利得制御増幅器AMPに含まれる可変抵抗ダイオードD1が本件発明における可変減衰器に該当する。可変利得制御増幅器AMPは,利得固定増幅器A1,A2と可変抵抗ダイオードD1とを備えており(第4図),制御入力CTに加わる電流値によって可変抵抗ダイオードD1の抵抗値が変化し,その 器に該当する。可変利得制御増幅器AMPは,利得固定増幅器A1,A2と可変抵抗ダイオードD1とを備えており(第4図),制御入力CTに加わる電流値によって可変抵抗ダイオードD1の抵抗値が変化し,その結果,利得が変化する(3頁9~12行)。 以上により,乙6発明は構成要件Eを充足する。 f 構成要件F構成要件Aで説明したとおり,乙6発明は,「CATV用」の光受信機であり,構成要件Fを充足する。 g 小括以上説明したとおり,乙6発明は構成要件A~Fをすべて充足している。 したがって,本件発明は,乙6発明と同一であり新規性を有しない。 (イ) 仮に,乙6にCATV用であることが記載されていないことが相違点になるとしても,本件発明は,少なくとも進歩性を有しない。乙10~12にも示すように,RFアンプと可変減衰器の組合せからなる可変利得増幅器がCATVのAGCに用いられることは本件特許出願前の周知技術であるから,同じ構成を備えた乙6発明をCATV用の光受信機に用いることは当業者が容易に想到し得ることである。しかも,RFア ンプと可変減衰器の組合せからなる可変利得増幅器であれば,広帯域にわたる光信号のレベル変動に対してAGCすることが可能であり,乙6発明をCATVに適用するに際して,何らの変更も必要ではないし,阻害要因もない。したがって,乙6発明をCATVに適用することに進歩性が認められるものではない。 (原告の主張)(ア) 乙6には,「CATV用光受信機」であることは記載がないし,CATV用光受信機に適用可能であることについての示唆もない。この点で新規性欠如の主張に理由がない。 (イ) 乙6には,乙6発明がどのような 「CATV用光受信機」であることは記載がないし,CATV用光受信機に適用可能であることについての示唆もない。この点で新規性欠如の主張に理由がない。 (イ) 乙6には,乙6発明がどのような信号の伝送に向けられたものかに関する記載はない。しかし,甲18・10頁記載のとおり,乙6の記載に照らせば,伝送速度が最大30Mbit/sec程度のデジタル伝送用のデータリンクに関するものと考えられる。 一般に知られているように,デジタル伝送における受信信号の非直線歪み,信号レベル変動,周波数損失変動などは,アナログ信号伝送(多チャンネル・広帯域CATVはこれに当たる)に比べて10倍ないし100倍の許容度がある。つまり,信号のレベルが変動することによる誤差の許容度が極めて大きい。言い換えれば,レベル制御は高精度である必要はない。 それゆえに,乙6発明は,高精度なレベル制御よりも,安定な高速応答を優先し,所定の回路構成を採用している。つまり,乙6発明は,もともと高精度なレベル制御が不要な用途に向けられた発明なのである。 これに対し,光CATVシステムでは,信号を変調して伝送する搬送帯域伝送の方式を用いており,また光CATVシステムの信号周波数帯域は750MHz程度までと広いことが特徴であり,高周波領域での出力電圧レベルの安定性が要求される。そのため,本件特許出願当時は, そのような高精度の制御を可能にする方式として,パイロットAGC方式が必要とされていた。 このような事情に鑑みれば,当業者であれば,出願当時主流であった同軸ケーブルを用いたCATVシステムやHFC方式による光CATVシステムに乙6発明の回路を適用した場合,レベル制御が適切に行われず,光受信機が適切な信号を再生できないと れば,出願当時主流であった同軸ケーブルを用いたCATVシステムやHFC方式による光CATVシステムに乙6発明の回路を適用した場合,レベル制御が適切に行われず,光受信機が適切な信号を再生できないと考えたであろうことが明らかである。したがって,本件特許出願当時,乙6発明のような回路を光CATVシステムにおいて採用することには阻害事由があったということができる。 以上のとおり,乙6発明を「CATV用光受信機」に適用することの動機付けはなく,阻害事由もあるから,乙6発明に基づいて本件発明を容易に想到できたということはできない。 エ乙7に基づく進歩性要件違反(争点2-4)(被告の主張)(ア) 乙7には,光通信方式により伝送されたパイロット信号を含まないアナログ信号を増幅する増幅器に,前記アナログ信号を平均値検出した出力を基にしたAGC電圧を加え,前記増幅器の利得を制御する利得制御方式が記載されている(特許請求の範囲)。 乙7の第2図には,フォトダイオードPHDが光ファイバFに接続され,沪フォトダイオードPHDのアノード側には低域波器LPFを介して演算増幅器OPAが接続され,カソード側には前置増幅器PAを介してAGC増幅器AGCAが接続されている。 ここで,フォトダイオードPHDは,光ファイバFにより伝送された映像信号を光電変換するものであり(3欄7~9行),本件発明の「受光素子」に対応する。また,演算増幅器OPAは,沪低域波器LPFからの出力と基準電圧との比較を行い,比較出力をAGC電圧としてAG C増幅器AGCAに加えることで利得制御を行うものであり(3欄14~16行),本件発明の「制御回路」に対応する。 (イ) 乙7に記載された発明(以下「乙 出力をAGC電圧としてAG C増幅器AGCAに加えることで利得制御を行うものであり(3欄14~16行),本件発明の「制御回路」に対応する。 (イ) 乙7に記載された発明(以下「乙7発明」という。)と本件発明とを比較すると,乙7にはCATV用であることが記載されておらず,AGC増幅器AGCAの具体的な構成が明記されていないのに対し,本件発明は,CATV用の光信号を処理するためにAGC増幅器を可変減衰器とRFアンプの組合せで構成している点で相違する。 しかし,乙7において伝送されるのは,アナログ映像信号であるところ(1頁左欄13行),本件特許出願前において,映像信号を分配する光映像分配システムの構成として,CATVシステムが知られていたから(乙16の203・204頁),乙7をCATVに適用することは当業者なら当然になし得る設計事項にすぎない。また,CATV用の光信号のAGCにおいて,可変利得増幅器がRFアンプと可変減衰器の組み合わせによって構成されるという上記相違点に係る構成は,乙10~12に示されるとおり,本件特許出願前の周知技術である。 また,広帯域の光信号のレベル変動に対してほぼ一定の電気信号を低歪,低雑音で出力するために,可変減衰器を用いる必要があったことに鑑みれば,本件発明は,乙7発明に乙6,10~12に記載された周知技術を適用することにより,当業者が容易に想到し得たものである。 (原告の主張)(ア) 乙7の第1図は,パイロット信号を含まない直流分をカットしたアナログ映像信号を示しており,同期信号(SYN)が一定周期で現れていることから,このアナログ映像信号が単一チャンネルのベースバンドの信号を意図していることは明らかである。 さらに,乙7の出願当時(1 を示しており,同期信号(SYN)が一定周期で現れていることから,このアナログ映像信号が単一チャンネルのベースバンドの信号を意図していることは明らかである。 さらに,乙7の出願当時(1976年),アナログ光伝送ではパイロット信号を含む単一チャンネルのベースバンド信号の狭帯域光伝送は存 在したものの,CATVのような多チャンネルの広帯域における一括光伝送は実現されていなかった。 以上から,乙7は単一チャンネルのベースバンド信号の狭帯域光伝送におけるAGC方法を開示したもので,このような用途においては,多チャンネル・広帯域の光CATVに要求されるような高精度のレベル制御は要求されないことから,乙7に記載の自動利得制御方式の採用を提案したものと考えられる。 (イ) これに対し,光CATVシステムでは,信号を変調して伝送する搬送帯域伝送の方式を用いており,また光CATVシステムの信号周波数帯域は750MHz程度までと広いことが特徴であり,高周波領域での出力電圧レベルの安定性が要求される。そのため,本件特許出願当時は,そのような高精度の制御を可能にする方式として,パイロットAGC方式が必要とされていた。 したがって,本件特許出願当時,乙7発明のような回路を光CATVシステムにおいて採用することは阻害事由があった。出願当時主流であった同軸ケーブルを用いたCATVシステムやHFC方式による光CATVシステムに乙7発明の回路を適用した場合,レベル制御が適切に行われず,光受信機が適切な信号を再生できないことは明白である。 (ウ) 以上のとおり,乙7発明を「CATV用光受信機」に適用することの動機付けはなく,さらには阻害事由もあるから,乙7発明に基づいて本件発明を容易に想到できたというこ ことは明白である。 (ウ) 以上のとおり,乙7発明を「CATV用光受信機」に適用することの動機付けはなく,さらには阻害事由もあるから,乙7発明に基づいて本件発明を容易に想到できたということはできない。 オ乙20に基づく進歩性要件違反(争点2-5)(被告の主張)(ア) 構成要件ごとの対比a 構成要件A及びF乙20に記載された発明(以下「乙20発明」という。)は,「光 入力信号を電気信号に変換するPINフォトダイオード」(2頁左上欄最終行~右上欄1行)を備えている。また,乙20に「受信側においてもパイロット信号検出用のフィルタが不要となる」(3頁左欄8~9行)と記載されているとおり,乙20発明はパイロット信号を含まない光信号を受光している。 以上により,「CATV用」であることを除き,乙20発明は構成要件A及びFを充足する。 b 構成要件B~D原告主張によれば,モニタ端子とは,光信号のレベルに応じた信号(モニタ信号)を取り出すことができる接続点であり,必ずしも受光素子に設けられている必要はない。乙20発明は,「PINフォトダイオードの出力信号の平均値を検出する回路を備え,この回路の検出出力により前記受信増幅器の利得を制御する」(2頁右上欄3~4行)。したがって,出力信号の平均値を検出する回路はモニタ端子に該当し,その検出出力はモニタ信号に該当する。 本件明細書の記載及び原告主張によれば,制御回路とは,モニタ信号が入力されるとともに,AGC電圧を発生する回路である。乙20の実施例における積分器11が出力信号の平均値を検出する回路に該当するところ,「積分器11の出力は差動増幅器12の負相入力に導かれている。 入力されるとともに,AGC電圧を発生する回路である。乙20の実施例における積分器11が出力信号の平均値を検出する回路に該当するところ,「積分器11の出力は差動増幅器12の負相入力に導かれている。…この差動増幅器12の出力は前記自動利得制御増幅器4の制御入力に導かれている。」(2頁右上欄16~20行)。したがって,差動増幅器は,制御回路に該当する。また,差動増幅器の出力は,自動利得制御増幅器の制御に用いられるのでAGC電圧に該当する。 以上により,乙20発明は構成要件B~Dを充足する。 c 構成要件E 構成要件Dで説明したところから明らかなように,乙20発明では,光信号のレベルに応じたAGC電圧で,受光素子で光信号から電気信号に変換された電気信号にAGCをかけている。ただし,乙20には,電気信号を入力として出力を送出する可変利得受信増幅器を含む光受信器であり(2頁右上欄1~6行),可変利得受信増幅器である自動利得制御増幅器4の詳細な構成は記載されておらず,可変減衰器を用いて利得制御を行っていることは明記されていない。 d 対比のまとめ本件発明と乙20発明とは,以下の点で相違し,その余は一致する。 ① 本件発明はCATV用であるとの限定があるのに対し,乙20発明にはかかる限定が記載されていない点② 本件発明は,可変減衰器においてAGCをかけるのに対し,乙20発明は可変減衰器を用いて利得制御を行っていることが明記されていない点(イ) 相違点についての検討CATVのAGCに用いられる可変利得増幅器がRFアンプと可変減衰器の組合せによって構成されることが周知技術であるところ,本件発明における可変減衰器はこのよ イ) 相違点についての検討CATVのAGCに用いられる可変利得増幅器がRFアンプと可変減衰器の組合せによって構成されることが周知技術であるところ,本件発明における可変減衰器はこのような周知技術に係る可変減衰器であるから,RFアンプと可変減衰器の組合せには何らの技術的特徴もない。また,原告提出の鑑定書(甲17)においても,「部品群2,3,4を組み合わせたものを,通常,可変利得増幅器と呼びます。」(18頁19行)と述べており,可変利得増幅器は,通常,アンプ,可変減衰器,アンプの組み合わせであることを認めている。 本件特許出願前において,光ファイバ方式によるCATVは研究開発が行われ,また実験が行われていた(甲18の附属資料1等)。したがって,乙20発明の光アナログ通信用の光受信機を光アナログ通信が主 流であるCATVの光受信機として適用することに何ら困難性はない。 訂正審判請求書(乙15)から理解されるとおり,広帯域にわたる光信号のレベル変動に対してAGCするために可変減衰器を用いる必要があったという技術的要請があり,かつ,可変減衰器を含む自動利得増幅器が周知であり(乙6,10~12),この点につき当事者間で争いがないことに鑑みれば,乙20発明の自動利得制御増幅器として可変減衰器を含む増幅器を用いることは当業者が容易に想到し得たことである。 また,本件明細書の従来技術で記載しているように,従来のCATVシステムは,パイロット信号を使用してAGCを行うアナログ通信システムであり,乙20発明と対象とするシステムが一致する。その上,乙20発明も「受信側においてもパイロット信号検出用のフィルタが不要となる」(3頁左欄8行),「装置を簡単化,小型化,安価とすることができる」(同欄9~10行)という るシステムが一致する。その上,乙20発明も「受信側においてもパイロット信号検出用のフィルタが不要となる」(3頁左欄8行),「装置を簡単化,小型化,安価とすることができる」(同欄9~10行)という本件発明と同一の作用・効果を有する。 さらに,乙5発明は広帯域のTV信号を受けるCATV用の光受信機であるところ,光受信機に入力されるパイロット信号を含まない光信号を受光素子で電気信号として取り出し,これを差動増幅器において基準電圧と比較して得られる比較出力を可変利得増幅器に入力することでAGCを行う点で乙20発明と共通するから,乙5に接した当業者において,乙20の光受信機をCATV用の光受信機として適用する動機付けは十分に認められる。 したがって,乙20発明の光受信機をCATVの光受信機として適用することに何ら困難性がない。本件発明は,乙20発明と本件特許出願前の周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものであり進歩性を有しない。 (原告の主張) (ア) 原告は,訂正審判請求書(乙15)において,訂正後の本件発明と乙20(乙15の文献1)の相違点の一つとして,「可変減衰器」(構成要件E)を挙げた。その理由は,本件発明は,広帯域にわたって光信号のレベル変動に対しほぼ一定の電気信号を低歪,低雑音で出力するCATV受信機のAGC方法に関するものである(乙15・6頁)のに対し,乙20発明に記載されている「自動利得制御増幅器(可変利得増幅器)4」は,CATV信号をカバーできるほどの広帯域にわたって低歪,低雑音で所望の利得制御をすることはできないものであることから,「文献lはそのような1チャネルのベースバンド信号の狭帯域光伝送における光受信機におけるAGC方法を開示したもの」(乙15・6頁) 歪,低雑音で所望の利得制御をすることはできないものであることから,「文献lはそのような1チャネルのベースバンド信号の狭帯域光伝送における光受信機におけるAGC方法を開示したもの」(乙15・6頁)である点で,本件発明と相違していることを明らかにするためである。 このように,訂正審判請求書(乙15)の「可変減衰器」(構成要件E)に関する原告の主張は,「可変減衰器」の回路構成が特別なもので技術的特徴があるなどというものではない。 したがって,この点で被告の主張は前提を誤っており,失当である。 (イ) 被告は,乙5発明はAGCを行う点で乙20発明と共通するから,乙20発明の光受信機をCATV用の光受信機として適用する動機付けがあるとも主張する。しかし,乙5発明はノイズ除去に関するものであって,AGCに関するものではない。 したがって,乙20発明と乙5発明から本件発明を想到することはできない。 (3) 損害額(争点3)(原告の主張)被告は,平成15年度以降今日まで,被告製品を少なくとも47万台製造・販売し,その売上額は少なくとも合計36億円である。被告製品の利益率は平均9%であると推定されるから,特許法102条2項による被告の利 益の額に相当する額は,売上金額に利益率を乗じた金額であって,被告の製造販売による原告の損害額は,次のとおりと算定される。 (計算式)36億円×9%=3億2400万円なお,本件発明の実施料率は,少なくとも3%はあることから,原告が本件発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額は,売上金額に実施料率を乗じた金額であって,被告の製造販売による原告の損害額は,以下の金額を下回ることはない。 (計算式)36億円×3%= 件発明の実施に対し受けるべき金銭の額に相当する額は,売上金額に実施料率を乗じた金額であって,被告の製造販売による原告の損害額は,以下の金額を下回ることはない。 (計算式)36億円×3%=1億800万円(被告の主張)原告の主張は否認ないし争う。 第3 当裁判所の判断 1 被告製品を用いる方法が本件発明の技術的範囲に属するかについて(1) 本件発明の技術的意義(争点1-1)についてア本件明細書によれば,本件発明は,パイロット信号を用いる従来技術では,①パイロット信号を送信しないCATVシステムの光受信機ではAGCをかけることができない,②AGC回路の構成が複雑であり,光受信機の小型化,コスト低減,メンテナンスの簡易化を阻害していた,③特にAGC回路を構成する部品のうち,SAWフィルタは高価であり,コスト低減に難を有していた,という問題点があったことから(【0004】),パイロット信号を用いないCATVシステムでも信号レベルを自動調整でき,光受信機の小型化,低コスト化,メンテナンスの簡易化に寄与できるCATV用光受信機のAGC方法を提供しようというものである(【0005】)。 このように,本件発明は,CATV用光受信機のパイロット信号を用いないAGC方法を提供するものであって,そのために,本件発明では,光/電気変換された電気信号を受光素子1に設けられたモニタ端子3でモニ タし,このモニタ端子3からモニタ信号を取り出して,これを制御回路に入力し,AGCをかけるのである(【0006】【0007】)。 そうすると,本件発明は,CATV用光受信機において,従来技術のパイロット信号に代わって,モニタ信号を用いるAGC方法を提供するところに技術的意義があるというべきである 【0007】)。 そうすると,本件発明は,CATV用光受信機において,従来技術のパイロット信号に代わって,モニタ信号を用いるAGC方法を提供するところに技術的意義があるというべきである。 イそこで,モニタ信号の意義が問題となるので,更に検討する。 (ア) 本件明細書には,「前記受光素子1は,受光した光信号のレベルをモニタすることができるモニタ端子3を備えたものであり,このモニタ端子3からは前記光信号のレベルと対応した電気信号(モニタ信号)が出力されるようにしてある。このモニタ信号は,例えば光信号のレベルが低いと小さい電流としてモニタ端子3から出力され,光信号のレベルが大きいと大きい電流としてモニタ端子3から出力されるものである。」(【0009】)と記載されているから,モニタ信号が光信号のレベルに応じた電気信号であると理解できる。 そして,甲17の14頁には,「『光信号のレベル』とは光信号の平均電力と同じ意味です。光受信機で受信した光信号の平均電力は,受光素子で光/電気変換された電気信号の直流成分(正確には,ローパスフィルタを通過させるので,フィルタのカットオフで決まる交流成分は含まれることになるが,ここでは,表現の簡単化のために直流成分と表記する)で確認するのが一般的です。したがってこの直流成分というのは,本件特許の『モニタ信号』に相当するものといえます。」と記載されている(なお,以下,用語としては「直流成分」ではなく「低域成分」を用いる。別紙被告製品1及び2説明書(被告)参照)。 このように,光信号のレベルは,受光素子で光/電気変換された電気信号の低域成分で確認するのが一般的であるから,モニタ信号とは,光信号を光/電気変換した電気信号の低域成分と解するのが相当である。 のように,光信号のレベルは,受光素子で光/電気変換された電気信号の低域成分で確認するのが一般的であるから,モニタ信号とは,光信号を光/電気変換した電気信号の低域成分と解するのが相当である。 (イ) ここで,本件発明における「光信号のレベル」の意義について検討する。 本件明細書には,「本発明はCATVシステムの光通信の分野で使用されるCATV用光受信機に関するものであり,光受信機で受光される光信号にレベル変動があっても同受信機から出力される電気信号のレベルが一定に保たれるようにするためのAGC方法に関するものである。」(【0001】),「光伝送システムでは光受信機の受光レベルが変化すると,光受信機から出力される電気信号のレベルも変化してしまう。しかし受光レベルが変化しても電気信号の出力レベルは一定にするのが望ましい。」(【0002】)と記載されている。 このように,本件明細書では,「レベル」という用語について,CATV用光受信機から出力される電気信号のレベルは一定に保たれることが望ましいが,何らかの要因で光受信機で受光される光信号のレベルには変動があるという用法をしている。 このような用法や上記(ア)に指摘した甲17の記載からすると,本件明細書では,本件発明の「レベル」という用語について,テレビの電気信号の出力レベルと光受信機で受光される光信号のレベルの2つの意味で用いているが,「光信号のレベル」という用語に関していえば,光信号の低域成分のレベルを意味すると解するのが相当である。 ウこれに対し,原告は,本件発明の技術的意義について,CATVであっても伝送路全体を光ファイバ回線で構成するFTTH方式が普及すれば,同軸ケーブルに比して優れた光ファイバ回線の特性により,簡易 ウこれに対し,原告は,本件発明の技術的意義について,CATVであっても伝送路全体を光ファイバ回線で構成するFTTH方式が普及すれば,同軸ケーブルに比して優れた光ファイバ回線の特性により,簡易な回路で実現可能な光AGC制御方式を使用することができるとの先見性のある知見に基づき,光CATVシステムに光AGC方式(本件発明のAGC方法)を採用したことにある旨主張する。 しかしながら,本件明細書には,FTTH方式に関する記載や光ファイ バ回線の特性により簡易な回路の実現が可能である旨の記載はないし,原告の主張に係る技術的意義は本件明細書の発明が解決しようとする課題(【0004】)との関係が不明確であるといわざるを得ない。 そうすると,上記アのとおり,本件発明の技術的意義は,あくまでCATV用光受信機のAGC方法の範囲内において捉えるのが相当であるから,原告の主張は採用できない。 (2) 「パイロット信号」(構成要件A)の意義(争点1-2)について本件明細書【0004】の「従来型のCATV用光受信機では受信信号のAGCにパイロット信号を用いるため,次のような問題があった。(1)パイロット信号を送信しないCATVシステム,例えば難視共聴システムでは図2の光受信機ではAGCをかけることができない。」との記載によれば,本件発明の「パイロット信号」は,AGCをかけることを目的とする基準信号に限定されると解される。 そうすると,AGCとは異なる目的で「パイロット信号」と呼ばれる信号が伝送されていても,構成要件Aの「パイロット信号」には該当しない。 (3) 「受光素子」(構成要件A,B及びE)の意義(争点1-3),「モニタ端子」(構成要件B及びC)の意義(争点1-4)及び「モニタ信号を制御 構成要件Aの「パイロット信号」には該当しない。 (3) 「受光素子」(構成要件A,B及びE)の意義(争点1-3),「モニタ端子」(構成要件B及びC)の意義(争点1-4)及び「モニタ信号を制御回路に入力し」(構成要件C)の意義(争点1-5)についてアまず,「モニタ端子」の意義について検討するに,本件明細書【0007】には,「受光素子1に受光される光信号のレベルを,同受光素子1に設けられたモニタ端子3でモニタし」と記載されているから,「モニタ端子」は,受光素子に受光される光信号のレベルをモニタするものである。 これに加え,上記の「モニタ信号」の意義,構成要件B及びCの記載に照らすと,「モニタ端子」とは,光信号のレベルをモニタするものであって,そのモニタされた後の電気信号の低域成分が取り出される端子と解するのが相当である。 これに対し,被告は,モニタ端子それ自体が能動的に光信号のレベルをモニタすることができる端子を意味する旨主張するが,本件明細書をみても「能動的に」と解釈する根拠はないのであるから,被告の主張は採用できない。 イ次に,「モニタ信号を制御回路に入力し」の意義について検討する。 被告は,モニタ端子と制御回路の直結が必要不可欠である旨主張するが,本件明細書の図1をみてもモニタ端子と制御回路の直結が明確に示されているとは認められないし,本件発明の効果(本件明細書【0011】)に照らしてもモニタ端子と制御回路とが直結されることが必要不可欠であるとは認められないから,被告の主張は採用できない。 ウ続いて,「受光素子」の意義について検討するに,「受光素子」は,一般的な技術用語としては,「光信号と電気的信号の間の変換(光電変換)を行う素子」を意味する(乙2~4)。 ない。 ウ続いて,「受光素子」の意義について検討するに,「受光素子」は,一般的な技術用語としては,「光信号と電気的信号の間の変換(光電変換)を行う素子」を意味する(乙2~4)。 しかしながら,本件明細書【0008】には「受光素子(例えばフォトダイオード)1」との記載がある一方で,【0009】には「前記受光素子1は,受光した光信号のレベルをモニタすることができるモニタ端子3を備えたものであり,このモニタ端子3からは前記光信号のレベルと対応した電気信号(モニタ信号)が出力されるようにしてある。」と記載されているから,本件明細書における「受光素子」は,基本的にはフォトダイオードで構成されるが,「モニタ端子」が設けられるものとして記載されている。 エ以上に加え,上記の「モニタ端子」の意義に照らすと,「受光素子」とは,電気信号の低域成分が取り出されるまでの構成を含むと解するのが相当であり(例えば,フォトダイオードに外部回路〔低域フィルタ〕を接続した回路全体が含まれる。),電気信号の低域成分が取り出される端子が「モニタ端子」である。 (4) 「可変減衰器」(構成要件E)の意義(争点1-6)について一般に,可変減衰器とは,電気信号のレベルを可変に減衰させて調整できる機器である。 被告は,訂正審判請求の経緯,本件明細書の記載等に鑑み,構成要件Eの「可変減衰器」について,モニタ信号が小さい場合には,光信号のレベルを増加させることによって,AGCをかける(レベルを一定にする)ものである旨主張する。 そこで検討するに,証拠(甲3,乙15)によれば,原告は,本件特許に係る訂正審判請求において,従前の請求項1の「このAGC電圧で,前記受光素子(1)で光信号から電気信号に変換された信号 。 そこで検討するに,証拠(甲3,乙15)によれば,原告は,本件特許に係る訂正審判請求において,従前の請求項1の「このAGC電圧で,前記受光素子(1)で光信号から電気信号に変換された信号にAGCをかけるようにしたことを特徴とする」の部分を「可変減衰器において,前記光信号のレベルに応じたAGC電圧で,前記受光素子(1)で光信号から電気信号に変換されそしてRFアンプで増幅された後に前記可変減衰器を通る該電気信号にAGCをかけるようにしたことを特徴とする」(構成要件E)に訂正することを求め,これを含む訂正を認める審決がされたことが認められる。 このように,構成要件Eの「可変減衰器」は,本件特許に係る訂正審判において付加されたものある。そして,当該審判請求書(乙15)には,「構成要件Ⓑにおける可変減衰器とは,増幅機能を有しないもので…RF入力信号をPINダイオードへのDCBIASCURRENTの大きさに応じて減衰量を変化させており,その性質は広帯域で且つ歪みなく訂正発明の目的に適うCATVシステムに所望の可変減衰範囲を有している。」と記載されているが,構成要件Eの「可変減衰器」について,当該記載から一般とは異なる可変減衰器と解することはできないし,当該記載では可変減衰器は増幅機能を有しないものとされている。また,本件明細書【0008】には,「同電気信号を2つのRFアンプ10,11で増幅できるようにしてある。 またこのRFアンプ10,11間には可変減衰器2を配置してあり,この可 変減衰器2で電気信号のレベルを任意に加減できるようにしてある。」と記載されているが,ここでは,可変減衰器は電気信号を増幅するRFアンプの間に配置されるものであるから,「電気信号のレベルを任意に加減できる」の「加減」とは,調整を意味するもの るようにしてある。」と記載されているが,ここでは,可変減衰器は電気信号を増幅するRFアンプの間に配置されるものであるから,「電気信号のレベルを任意に加減できる」の「加減」とは,調整を意味するものと解され,信号を増幅する意味があるとは直ちに解し難い。 以上のとおり,構成要件Eの「可変減衰器」は,一般の意味で使用されるものと解するのが相当である。 (5) 被告製品1及び2を用いる方法の充足性(争点1-7)についてア被告製品1及び2の回路図中の回路ブロックについて別紙被告製品1及び2回路図(原告)と別紙被告製品1及び2回路図(被告)のとおり,原告の説明において「RFアンプ,可変減衰器,RFアンプ」である箇所について,被告は「可変利得増幅器」であると説明している。 そこで検討するに,被告は,技術説明会資料(乙18・21頁)において,「被告製品では,可変利得増幅器の増幅率を変化させることで,光信号から変換される電気信号に対してAGCを行う=従来から周知の可変利得増幅器を用いているだけ」,「被告製品は,本件発明でいう『可変減衰』を備えていない」と説明するにすぎないのであって,「可変利得増幅器」の中に一般的な意味における可変減衰があることを否定するものではない。このような説明や原告の主張(可変減衰器の意義及び構成要件Eの充足性についてのもの)に照らすと,弁論の全趣旨により,被告製品1及び2のうち,被告の説明する「可変利得増幅器」の箇所は,「RFアンプ,可変減衰,RFアンプ」であると認めるのが相当である。 イ構成要件Aの充足性について被告製品1及び2に関し,●(省略)●があるが,証拠(甲13,乙18・12頁)及び弁論の全趣旨(被告準備書面(4)16,17頁の回答は る。 イ構成要件Aの充足性について被告製品1及び2に関し,●(省略)●があるが,証拠(甲13,乙18・12頁)及び弁論の全趣旨(被告準備書面(4)16,17頁の回答は パイロット信号を用いないでAGCをかけていることを認めていると解される。)によれば,当該パイロット信号は導通テスト用のパイロット信号であると認められるから,被告製品1及び2はAGCをかけることを目的とする「パイロット信号」が含まれていない光信号を受光していると認められる。 また,被告製品1及び2は,フォトダイオードが設けられ,当該フォトダイオードが光信号を光/電気変換しているから(乙18・12頁),光信号を「受光素子(1)」で受光して光/電気変換していると認められる。 そして,当該フォトダイオードはCATV用光受信機に設けられたものである(甲4の1,4の3,乙1)。 以上のとおり,被告製品1及び2を用いる方法は,構成要件A(「パイロット信号を含まない光信号をCATV用光受信機に設けられた受光素子(1)で受光して光/電気変換し,」)を充足する。 ウ構成要件Bの充足性について被告製品1及び2は,①フォトダイオードが光信号を光/電気変換して高域成分及び低域成分の電気信号を出力し,②分波が高域成分と低域成分を分離するのであるから(乙18・12頁),被告製品1及び2のフォトダイオードに,分波のうち低域成分を出力する部分を接続した回路は,全体として「受光素子(1)」に該当し,分波の低域成分を出力する端子は「モニタ端子」に該当する。 以上のとおり,被告製品1及び2を用いる方法は,構成要件B(「変換された電気信号を受光素子(1)に設けられたモニタ端子(3)から取出し,」)を充足する。 ニタ端子」に該当する。 以上のとおり,被告製品1及び2を用いる方法は,構成要件B(「変換された電気信号を受光素子(1)に設けられたモニタ端子(3)から取出し,」)を充足する。 エ構成要件C及びDの充足性について被告製品1及び2のうち,別紙被告製品1及び2回路図(原告)において「制御回路(12)」と原告が説明する箇所については,「制御回路 (12)」の用語は構成要件としての用語であって,「制御回路(12)」に当たるか否かが構成要件充足性の問題であるから,直ちに「制御回路(12)」と判断することはできない。以下では,被告の主張に従って,上記箇所が差動増幅器であるとして,その差動増幅器が本件発明の「制御回路(12)」に当たるかを検討する。 上記ウのとおり,被告製品1及び2において,分波の低域成分を出力する端子は「モニタ端子」に該当する。そして,上記(1)イのとおり,モニタ信号とは,光信号のレベルに応じた電気信号であって,光信号を光/電気変換した電気信号の低域成分であると解されるから,モニタ端子からはモニタ信号が取り出されるといえる。そして,このモニタ信号は差動増幅器に入力される(乙18・12頁)。 また,上記アに加え,被告は,技術説明会資料(乙18・12頁)において,「差動増幅器で,低域成分の信号と基準信号を比較して,低域成分のレベル変動を検出」し,「可変利得増幅器で,低域成分のレベル変動に応じて,その増幅率を制御」と説明するから,被告製品1及び2の差動増幅器は,その出力で可変減衰器の減衰量を制御し,これによって光のレベル変動を補償するAGCを行うことができるものであると認めるのが相当である。そして,一般に,差動増幅器は,2つの入力端子に入力された信号の電圧の差分を取って 器の減衰量を制御し,これによって光のレベル変動を補償するAGCを行うことができるものであると認めるのが相当である。そして,一般に,差動増幅器は,2つの入力端子に入力された信号の電圧の差分を取って所定の増幅率で増幅したレベルの電圧を出力するものである。 以上に照らすと,被告製品1及び2の差動増幅器は,光信号のレベルに応じたAGC電圧を発生するものであると認められる。 したがって,被告製品1及び2の差動増幅器は,本件発明の「制御回路(12)」に当たると認めるのが相当である。 以上のとおり,被告製品1及び2を用いる方法は,構成要件C(「モニタ端子(3)から取出されたモニタ信号を制御回路(12)に入力 し,」)及びD(「この制御回路(12)から前記光信号のレベルに応じたAGC電圧を発生し,」)を充足する。 オ構成要件Eの充足性について被告製品1及び2において,フォトダイオードからの受信信号は,RFアンプにおいて増幅される前に,分波器により低域成分が除去され,高域成分の信号のみとされている(乙18・12頁)。これに加え,上記アにおいて認定した構成によると,フォトダイオードにおいて光信号から電気信号に変換され,RFアンプで増幅されるという信号処理が行われていると認められる。 そして,上記エのとおり,構成要件Dが充足されるから,被告製品1及び2を用いる方法は,構成要件E(可変減衰器において,前記光信号のレベルに応じたAGC電圧で,前記受光素子(1)で光信号から電気信号に変換されそしてRFアンプで増幅された後に前記可変減衰器を通る該電気信号にAGCをかけるようにしたことを特徴とする)を充足すると認められる。 また,被告製品1及び2は,上記イのとおりCATV用光受 してRFアンプで増幅された後に前記可変減衰器を通る該電気信号にAGCをかけるようにしたことを特徴とする)を充足すると認められる。 また,被告製品1及び2は,上記イのとおりCATV用光受信機に設けられたものであり,上記エ,オのとおりAGCを行うものである。したがって,被告製品1及び2を用いる方法は構成要件Fを充足する。 (6) 被告製品1及び2についての間接侵害の成否(争点1-8)について上記(5)イのとおり,被告製品1及び2は,AGCをかけることを目的とする「パイロット信号」を含む光信号を受光するものとして使用されていない。 そうすると,被告製品1及び2は,本件発明の方法の使用にのみ用いる物であるから,特許法101条4号(及び平成18年法律第55号による改正前の特許法101条3号)所定の「のみ」要件を充足する。 (7) 小括 以上のとおり,被告製品1及び2は,本件発明の方法にのみ使用するものとして,本件特許権を侵害するものとみなされる。 他方で,原告は,被告製品1及び2以外の被告製品について,それらが本件特許権を侵害することについて具体的な主張・立証をしないから,被告製品1及び2以外の被告製品は本件特許権を侵害するものとは認められない。 2 本件特許が特許無効審判により無効にされるべきものであるか。 (1) 記載要件違反の有無(争点2-1)についてアモニタ信号の発生方法について被告は,モニタ信号がどのようにして発生するのか,本件明細書には何ら記載がないとして,平成6年改正前特許法36条4項に違反する旨主張する。 しかしながら,前記1(3)のとおり,本件発明において,「受光素子」はフォトダイオードで構成され,一般に,フォトダイ 載がないとして,平成6年改正前特許法36条4項に違反する旨主張する。 しかしながら,前記1(3)のとおり,本件発明において,「受光素子」はフォトダイオードで構成され,一般に,フォトダイオードは,光/電気変換された電気信号として,光の照度に応じた大きさの電圧を得ることができる素子であるから,その電圧信号には,フォトダイオードが受光した光信号のレベルをモニタすることができる低域成分が含まれている。この性質に基づけば,本件明細書に特段の記載がなくとも,当業者であればモニタ信号を発生させる構成を実現できると解される。 そうすると,この点において,平成6年改正前特許法36条4項に違反しないから,記載要件違反は認められない。 イモニタ端子の記載について被告は,光受信機内のあらゆる箇所を流れる信号が「モニタ信号」に対応することとなることを理由として,平成6年改正前特許法36条5項2号に違反する旨主張する。 しかしながら,構成要件Bにおいて,「モニタ端子」に「受光素子(1)に設けられた」との限定が付加されているし,「制御回路(1 2)」の出力などは明らかに除外されているから,あらゆる箇所を流れる信号が「モニタ信号」に対応することはない。そして,モニタ信号の意義は前記1(1)イのとおりである。 そうすると,この点において,平成6年改正前特許法36条5条2号に違反しないから,記載要件違反は認められない。 ウ制御回路及び可変減衰器の構成について被告は,制御回路及び可変減衰器の構成につき,明細書全体を通じて統一して記載されておらず,どのような制御回路及び可変減衰器を用いてAGCを行えば良いのかが不明確であるとして,平成6年改正前特許法36条4項及び5項2号に違 減衰器の構成につき,明細書全体を通じて統一して記載されておらず,どのような制御回路及び可変減衰器を用いてAGCを行えば良いのかが不明確であるとして,平成6年改正前特許法36条4項及び5項2号に違反する旨主張する。 本件明細書【0003】には,従来の技術を示す図2に関し,「このパイロット信号を検波器Gで検波してAGC電圧を発生し,このAGC電圧に基づいて制御回路Hが可変減衰器Cの減衰量を自動的に可変させて電気信号のレベルを調整(AGC)している。」と記載されているから,「検波器G」が「AGC電圧を発生し」,AGC電圧を「制御回路H」に入力することを意味するものと解される。 しかし,他方で,本件明細書【0010】には,実施例を示す図1に関し,「この制御回路12で前記光信号のレベルに応じた電圧(AGC電圧)を発生し,このAGC電圧を可変減衰器2に印加するようにしてある。」と記載されており,「AGC電圧」が「自動利得制御電圧」を意味することから,制御回路が制御電圧を発生し,制御対象である可変減衰器に印加するという趣旨に解され,図1の記載内容とも整合し,不自然な点はない。 したがって,本件明細書【0003】の記載は,「制御回路H」がAGC電圧を発生する趣旨で記載するところを誤って記載した誤記と解されるのであって,当業者もそのことを容易に理解できると考えられる。 以上のとおり,本件明細書【0003】の記載には誤記があるものの,当業者は,【0010】の記載により制御回路及び可変減衰器の構成を合理的に理解できるから,この点において,平成6年改正前特許法36条4項及び5項2号に違反するものではなく,記載要件違反は認められない。 エ AGC電圧の意味について被告は,本件明細書【0003】 から,この点において,平成6年改正前特許法36条4項及び5項2号に違反するものではなく,記載要件違反は認められない。 エ AGC電圧の意味について被告は,本件明細書【0003】と【0010】の記載からは,AGC電圧が意味するところが不明確であるとして,平成6年改正前特許法36条4項及び5項2号に違反する旨主張する。 しかしながら,上記ウのとおり,本件明細書【0010】に不自然な点はなく,当業者は,この記載に従って,AGC電圧とは,制御回路から可変減衰器に入力される電圧であり,可変減衰器の減衰量を直接に制御するものと理解することができる。 そうすると,この点において,平成6年改正前特許法36条4項及び5項2号に違反しないから,記載要件違反は認められない。 オモニタ信号を用いたAGCの方法について被告は,本件特許の目的を達成すべく,どのような信号に基づいて,どのような処理により受光した光信号あるいはそれを光電変換した電気信号でAGCを行うのか本件明細書の記載から全く理解することができないとして,平成6年改正前特許法36条4項に違反する旨主張する。 そこで検討するに,上記アのとおり,フォトダイオードは,光/電気変換された電気信号として,光の照度に応じた大きさの電圧を得ることができる素子であるから,その電圧信号は,フォトダイオードが受光した光信号のレベルをモニタすることができる信号(モニタ信号)であって,本件発明は,従来の技術におけるパイロット信号の代わりに,モニタ信号から把握される光信号のレベルに対応して,適切に可変減衰器の減衰量を制御することにより,受信機から出力される電気信号のレベルが一定に保たれ るようにするという目的が果たされるものである。 握される光信号のレベルに対応して,適切に可変減衰器の減衰量を制御することにより,受信機から出力される電気信号のレベルが一定に保たれ るようにするという目的が果たされるものである。 本件明細書には,制御回路12の具体的な構成や動作,モニタ信号の入力を受けて可変減衰器の減衰量を制御するためのAGC電圧をどのように出力するのか等についての具体的な説明はないものの,受信機から出力される電気信号のレベルが一定に保たれるようにするという目的からすると,光信号のレベルが大きいときは可変減衰器の減衰量を大きくし,光信号のレベルが小さいときは可変減衰器の減衰量を小さくするという光信号のレベル変動を打ち消す制御を行うことは明らかであり,また,制御回路12について詳細な開示がなければ当業者が本件発明を実施できないものとは解されない。 そうすると,この点において,平成6年改正前特許法36条4項に違反するものではないから,記載要件違反は認められない。 (2) 乙5に基づく新規性・進歩性要件違反(争点2-2)についてア乙5発明(ア) 乙5(本件特許出願前に頒布された刊行物である。)に実施例として示されている第3図の光ファイバによる信号伝送システムについては,光ファイバ6により伝送される光信号にAGCをかけることを目的とする基準信号が含まれていることの記載はないから,当該光信号は,パイロット信号を含まない光信号であるといえる。 すなわち,乙5発明の目的は,妨害雑音成分を軽減し,高品質の信号を得ることができる光ファイバによる信号伝送システムを提供することにあるところ(4欄10~13行),請求項1は妨害雑音成分の軽減を低域成分により行うものであり,請求項2はそれをパイロット信号により行うものであ できる光ファイバによる信号伝送システムを提供することにあるところ(4欄10~13行),請求項1は妨害雑音成分の軽減を低域成分により行うものであり,請求項2はそれをパイロット信号により行うものである。そして,第3図は請求項1に対応する実施例の図であり,第5図は請求項2に対応する実施例の図であると解される。 (イ) 乙5の第3図の信号伝送システムは,光ファイバによるTV信号の 多重伝送システムにおけるものであり,フォトダイオード9が光信号を受光した後,分波器12,可変利得増幅器17等を含む回路による信号処理を経て最終的に端子11から電気信号を得るようにしたものであるから,フォトダイオード9,分波器12,可変利得増幅器17等からなる回路は,CATV用光受信機に関するものであるといえる(乙5の2頁3欄43行~4欄13行により,乙5発明は数十MHz以上のいわゆるVHF帯におけるTV信号の多重伝送システムに関するものであると理解され,その伝送方法は光ファイバによるものであって,CATV用光受信機に関するものといえる。)。 (ウ) 乙5の上記従来の技術に関する記載(1頁2欄11行~2頁3欄34行)によれば,第1図のレーザダイオード3から光ファイバ6に入射される光信号の光信号振幅は,{1+n(t)}[1+k{1+mf(t)}cosω0t]ここでn(t):ノイズ信号で表され,これを光検波して得られる電気出力は,上記光信号振幅であるところの「(1)式」{1+n(t)}[1+k{1+mf(t)}cosω0t]=1+n(t)+k{1+mf(t)}cosω0t+kn(t){1+mf(t)}cosω0t ・・・(1) n(t)}[1+k{1+mf(t)}cosω0t]=1+n(t)+k{1+mf(t)}cosω0t+kn(t){1+mf(t)}cosω0t ・・・(1)で表されるとされている。ここで,当該「(1)式」とは,上記の光信号振幅を左辺とし,これを展開した式を右辺とする等式であるが(2頁3欄21~30行),上記(1)式の左辺前2項の1+n(t)は,「直流付近の妨害信号」(3頁5欄6~7行)であることから,専ら光信号の低域成分からなる信号であると解される。 乙5に第3図に実施例として示されている信号伝送システムに関して も,「フォトダイオード9の出力電流は,(1)式で示される」(3頁5欄4~5行)ことから,上記光信号振幅の光信号がフォトダイオード9に入力されるものと解されるが,乙5の記載(3頁5欄4行~6欄1行)によれば,当該第3図に示されている回路の動作は,① 上記(1)式で表されるフォトダイオード9の出力を分波器12に導き,k{1+n(t)}{1+mf(t)}で示される信号を得て(注記:k{1+mf(t)}cosω0tの誤記と解される。),これを端子13から可変利得増幅器17に導き,② その一方で,分波器12から{1+n(t)}で示される出力を得て,この出力を端子14から差動増幅器16に与えることで,可変利得増幅器17の利得制御入力端子18には,1-n(t)に比例した電圧である差動増幅器16の出力電圧が入力され,③ その結果,可変利得増幅器17の増幅利得が変わり,端子11にk{1-n2(t)}{1+mf(t)}cosω0tで表される信号が出力されるというものであると 可変利得増幅器17の増幅利得が変わり,端子11にk{1-n2(t)}{1+mf(t)}cosω0tで表される信号が出力されるというものであるところ,ノイズ信号n(t)について,|n(t)|<<1が満足される場合にn2(t)が無視できるほど小さいことから,この信号はk{1+mf(t)}cosω0tという式で近似でき,所望の信号が得られたとみなすものである。 より具体的には,可変利得増幅器17への入力信号は,乙5の第4図の(a)の元の信号に,ノイズ信号n(t)に基づき,同図(b)のように振幅の変動が発生した信号であるが,可変利得増幅器17の利得制御入力端子18に同図(c)に示される1-n(t)に比例した電圧が与えられる結果,可変利得増幅器17の出力(端子11の信号)として, 同図(d)のとおり,振幅の変動が除去され,元の信号に近い波形の信号が得られるというものである。 (エ) 以上に照らして検討するに,上記(ウ)のとおり,1+n(t)は,光信号振幅である(1)式に含まれる,専ら光信号の低域成分からなる信号であるから,分波器12の端子14からの{1+n(t)}で示される出力はモニタ信号であり(前記1(1)イ参照),端子14はモニタ端子であるといえる。また,前記1(3)の「受光素子」の意義からして,フォトダイオード9から端子14までの構成を含めて,全体として受光素子といえるし,差動増幅器16の出力電圧である1-n(t)に比例した電圧は,n(t)の成分を含む点で,端子14のモニタ信号と共通するから,光信号のレベルに応じているといえる。 そして,当該差動増幅器16の出力電圧が入力される結果,可変利得増幅器17の 電圧は,n(t)の成分を含む点で,端子14のモニタ信号と共通するから,光信号のレベルに応じているといえる。 そして,当該差動増幅器16の出力電圧が入力される結果,可変利得増幅器17の増幅利得が変わるところ,これは自動的に行われているか ら,差動増幅器16の出力電圧は,自動利得制御を行うための制御電圧であってAGC電圧であり,また,可変利得増幅器17を通る電気信号にAGCをかけているといえる。 (オ) 原告は,n(t)は雑音成分であって,乙5発明は,雑音成分n(t)の軽減のみを行い,信号レベルの制御は一切行わない旨主張する。 しかしながら,雑音成分も信号成分,しかも低域成分の中に含まれている以上,その信号成分によって出力制御を行うことは,まさに低域成分によってAGCをかけているといえる。そして,そのことによって高品質の信号を得ているのであるから(乙5の2頁4欄11~13行),乙5発明によって行われているのは,本件発明と同様に,低域成分を取り出し,それによってAGCをかけるということである。 (カ) そうすると,乙5には,乙5発明が以下のとおり記載されている。 「パイロット信号を含まない光信号をCATV用光受信機に設けられた受光素子で受光して光/電気変換し,変換された電気信号を受光素子に設けられたモニタ端子から取出し,モニタ端子から取出されたモニタ信号を差動増幅器に入力し,この差動増幅器から前記光信号のレベルに応じたAGC電圧を発生し,可変利得増幅器において,前記光信号のレベルに応じたAGC電圧で,前記受光素子で光信号から電気信号に変換されそして可変利得増幅器を通る該電気信号にAGCをかけるようにしたCA 可変利得増幅器において,前記光信号のレベルに応じたAGC電圧で,前記受光素子で光信号から電気信号に変換されそして可変利得増幅器を通る該電気信号にAGCをかけるようにしたCATV受信機のAGC方法。」イ本件発明と乙5発明との対比本件発明と乙5発明とを対比すると,乙5発明における差動増幅器は,本件発明における「制御回路」に相当するとみることができる。 したがって,両者は,「パイロット信号を含まない光信号をCATV用光受信機に設けられた受 光素子で受光して光/電気変換し,変換された電気信号を受光素子に設けられたモニタ端子から取出し,モニタ端子から取出されたモニタ信号を制御回路に入力し,この制御回路から前記光信号のレベルに応じたAGC電圧を発生し,AGCをかける回路において,前記光信号のレベルに応じたAGC電圧で,前記受光素子で光信号から電気信号に変換された後に前記AGCをかける回路を通る該電気信号にAGCをかけるようにしたCATV受信機のAGC方法。」である点で一致し,次の点で相違する。 「AGCをかける回路に関し,本件発明は,RFアンプ及び可変減衰器を備えており,受光素子で光信号から電気信号に変換されそしてRFアンプで増幅された後に,可変減衰器を通る該電気信号にAGCをかけるようにしたものであるの対し,乙5発明は,可変利得増幅器を備えており,受光素子で光信号から電気信号に変換されそして可変利得増幅器を通る該電気信号にAGCをかけるようにしたものである点」ウ相違点の検討乙10の6~7頁の第2図に関する記載によれば,乙10には,テレビVHF~UHF帯域の信号を 利得増幅器を通る該電気信号にAGCをかけるようにしたものである点」ウ相違点の検討乙10の6~7頁の第2図に関する記載によれば,乙10には,テレビVHF~UHF帯域の信号を増幅する増幅器を,増幅回路13及び減衰回路Aを含む回路で構成し,かつ,減衰回路Aの減衰量を種々の値に設定することで,増幅器の総合利得を種々変化させることが開示されている。ここで,増幅回路13は,VHF~UHF帯域の無線周波数(RF:RadioFrequency)の信号が入力されるから,RFアンプであるということができ,減衰回路Aは,減衰量を種々の値に設定できるから,可変減衰器であるということができる。 また,乙11の155頁の図8には,「μPC1652G」という型番の広帯域増幅用ICと,PINダイオードとを併用したAGC増幅器について記 載されており,その回路図によれば,第1段目の広帯域増幅用ICの後段にPINダイオードが接続されている。ここで,当該広帯域増幅用ICは「UHF帯からマイクロ波帯」(152頁)であり,無線周波数帯のものであるから,RFアンプであるということができる。また,図8のPINダイオードの陽極側に「VAGC」と記載された端子が存在するが,乙17(101頁)の「PINダイオードは直流バイアスによってその抵抗分が大きく変化し,純抵抗に近い特性をもっているため,良好な可変減衰器をつくることができる。」との記載や,乙6の3頁の第1図及び第4図に関する記載(「第1図の・・・可変利得制御増幅器の具体的構成例を第4図に示す。・・・図で制御入力CTに加わる電流値によって可変抵抗ダイオードD1の抵抗値が変化し,その結果利得が変化する。」)を併せれば,当業者は,乙11の図8のPINダイオードは可変減衰器であって,上記 す。・・・図で制御入力CTに加わる電流値によって可変抵抗ダイオードD1の抵抗値が変化し,その結果利得が変化する。」)を併せれば,当業者は,乙11の図8のPINダイオードは可変減衰器であって,上記端子によってその減衰量が制御できるものであると理解することができる。 以上によれば,「無線周波数帯域で用いられる可変利得増幅器を,可変減衰器において,RFアンプで増幅された後に前記可変減衰器を通る該電気信号にAGCをかけるもので構成すること」は本件特許出願の出願時における周知技術である。 そして,乙5発明と上記周知技術とは,テレビ信号の帯域の高周波信号を処理する電気回路技術に属する点で技術分野が共通し,乙5発明における可変利得増幅器の具体化は当業者が当然行うことであるから,上記周知技術を適用し,本件発明のように,「可変減衰器において,前記光信号のレベルに応じたAGC電圧で,前記受光素子で光信号から電気信号に変換されそしてRFアンプで増幅された後に前記可変減衰器を通る該電気信号にAGCをかける」と構成することは,当業者が容易に想到し得たことである。 したがって,本件特許は,乙5発明から当業者が容易に想到し得たもの である。 (3) 小括以上のとおり,本件特許は,進歩性を欠くものであるから,特許無効審判により無効にされるべきものである。 したがって,原告の請求は,その余について判断するまでもなく,いずれも理由がない。 3 結論よって,原告の請求は,いずれも理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第29部 裁判長裁判官大須賀滋 主文 を棄却することとし,主文のとおり判決する。 理由 東京地方裁判所民事第29部 裁判長裁判官大須賀滋 裁判官小川雅敏 裁判官森川さつき
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