令和6(わ)75 殺人、死体遺棄被告事件

裁判年月日・裁判所
令和6年10月21日 福岡地方裁判所
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判決文本文10,005 文字)

令和6年10月21日宣告令和6年(わ)第75号、第117号殺人、死体遺棄被告事件 主文 被告人を懲役16年に処する。 未決勾留日数中170日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人は、第1 令和5年9月21日午前3時46分頃から同日午前7時55分頃までの間に、福岡県久留米市a町b番地cd号の当時の被告人方において、妻であるA(当時35歳)に対し、殺意をもって、何らかの方法でその頸部を圧迫し、よって、その頃、同所において、同人を頸部圧迫による窒息により死亡させて殺害し、第2 同日、前記第1記載の当時の被告人方において、前記Aが死亡しているのを認めたのであるから、その死体を埋葬しなければならない義務があったのに、その頃から同年10月19日までの間、その死体を同所に放置し、もって死体を遺棄した。 (証拠の標目)省略(事実認定の補足説明)第1 本件の争点及び当裁判所の判断弁護人は、判示第1について、A(以下「被害者」という。)は自殺したと主張しており、被害者が被告人によって殺害されたと認められるかが本件の争点である。当裁判所は、被害者は被告人によって殺害されたと判断したため、以下その理由を補足して説明する。 第2 法医学者の供述の検討 1 前提事実 関係証拠によれば、令和5年10月20日解剖にかかる被害者の遺体について、以下の事実が認められる。 (1) 全身は高度に腐敗している。 (2) 前頸部から左右側頸部をやや斜め上方向に向かい後頸部に至る幅約1cmの索痕様の皮膚変色がある。 (3) 輪状軟骨左側に骨折(0.6cmの亀裂)及び同骨折部周囲の軟部組織に出血がある。 (4) 左右胸鎖乳突筋及び左総頸動脈外膜の軽度の出血様の 頸部に至る幅約1cmの索痕様の皮膚変色がある。 (3) 輪状軟骨左側に骨折(0.6cmの亀裂)及び同骨折部周囲の軟部組織に出血がある。 (4) 左右胸鎖乳突筋及び左総頸動脈外膜の軽度の出血様の変化がある。 (5) 頭蓋骨内の右錐体部のうっ血様の変色がある。 (6) 外表の、頸部、頭部、顔面、胸部、腹部、背部、下肢(足)には、腐敗などによる死後変化は認められるものの、上記(2)以外、明らかな異常は認められない。 (7) 頸部内は、腐敗などによる死後変化は認められるものの、上記(3)(4)以外、喉頭、気管及び気管支も粘膜は淡褐色で、内部にも何もないなど出血等の明らかな異常は認められない。 2 被告人及び各証人の供述の骨子並びに判断の枠組み被告人は、被害者を発見したとき、被害者は床上に両膝をついて頭を下に下げ、上半身がうつ伏せとなった状態になっており、被害者は自分で首を絞めて自殺をしたのだと思う旨の供述をした。そして、証人B(以下「B医師」という。)、証人C(以下「C医師」という。)及び証人D(以下「D医師」という。)の各供述は、被害者の死亡の原因が窒息であるという限りでは一致しており、その信用性を疑うべき事情はない。 B医師及びC医師は、上記の前提事実から、被害者の死因は絞頸を原因とする頸部圧迫による窒息であると判断し、その場合、被害者が意識を消失した後も索状物が緩まない状態を維持できなければ自殺は考えられないところ、被害者の遺体にはそのような痕跡が認められなかったため、他殺の可能性が高い旨 を供述する。 これに対し、D医師は、被害者の死因は、自絞によって輪状軟骨が骨折し、それによって気道内の粘膜に出血や浮腫が生じた可能性、披裂軟骨の偏位が生じ声帯に異常が生じた可能性、反回神経が損傷し声帯麻痺や咽頭痙攣 に対し、D医師は、被害者の死因は、自絞によって輪状軟骨が骨折し、それによって気道内の粘膜に出血や浮腫が生じた可能性、披裂軟骨の偏位が生じ声帯に異常が生じた可能性、反回神経が損傷し声帯麻痺や咽頭痙攣が生じた可能性があり、上記が複合的に生じたことを原因とする気道閉塞による窒息であって、この場合、索状物を自身の首に絞め続ける必要はないとして、自殺の可能性がある旨を供述する。 各証人は、いずれも数多くの死体の解剖や鑑定の経験がある法医学の専門家であるため、その供述内容は基本的に尊重すべきである。そして、各供述は自身の供述内においては矛盾もみられないため、その供述内容自体から各供述の信用性に疑いが差し挟まれるとはいえない。また、B医師とC医師は、首を絞めるのに使用された索状物の種類や扼頸の可能性などについて異なる供述をする部分もあるが、他殺の可能性が高いとする結論に至る過程については相互に矛盾しないため、この点から二人の供述の信用性に疑いが差し挟まれることもない。そこで、各証人の主要な対立点について検討し、D医師の供述を踏まえてもB医師及びC医師の供述が信用できるかを検討する。 3 頭蓋骨内の右錐体部のうっ血様の変色(上記1(5))についてD医師は、頭蓋骨内の錐体部のうっ血について、急死や窒息の所見であり、被害者の遺体において右錐体部のみにうっ血様の変化が見られたことは、被害者の頭が死亡後、遅くとも2日以内の間に右側に傾いていたことによる血液就下が原因である旨を供述する。これに対し、C医師は、頸部の圧迫により錐体部にうっ血が生じるが、輪状軟骨の骨折の位置が左側であること(上記1(3))や左総頸動脈外膜に軽度の出血様の変化があること(同(4))から、損傷の程度は頸部の左前方が強く、同部に最も力が強く加わっていたと考えられ、そのことから頸部 折の位置が左側であること(上記1(3))や左総頸動脈外膜に軽度の出血様の変化があること(同(4))から、損傷の程度は頸部の左前方が強く、同部に最も力が強く加わっていたと考えられ、そのことから頸部の左側については動脈についても強く圧迫され、左側についてはうっ血があったとしてもその程度が弱かったために、右錐体部のみにうっ血様 の変化が確認できたと考えられる旨を供述する。 被告人は、被害者が死亡していたことを発見した際、被害者の顔は左側が下向きになっており、その後、被害者を当時の被告人方の南側洋室のマットレス上に仰向けに寝かせたが、その後、被害者の遺体には触れていない旨を供述する。他方で、被害者の遺体が、令和5年10月19日に発見された当時、被害者の遺体は南側洋室のマットレス上に仰向けの状態で横たわっており、その顔は上向きであったことが認められる。これらを前提にすると、被害者の遺体の顔が右側に傾くような場面は特に想定されないし、仰向けに寝かされた人間の遺体の顔が、右側に傾いた後に自然と上向きに移動することは考えにくい。そして、関係証拠によれば、令和5年9月21日以降、被告人以外に被害者の遺体に触れた人物がいた可能性は考えられない。そうすると、被害者が死亡し、仰向けに寝かされて以降、被害者の遺体の頭部が右側に傾くことはなかったといわざるを得ない。 以上によると、D医師の右錐体部のうっ血様の変化についての供述は、被害者の死亡後の頭部の位置及び向きについての上記検討と整合しないのに対し、C医師の供述は、被害者の頸部の損傷と整合する供述であるといえる。 4 被害者の遺体に溢血点が確認されなかったことについて関係証拠によれば、被害者の遺体について、心膜、心外膜、肺に溢血点は確認できなかったこと、目や口腔粘膜、頭皮下についても溢血 いえる。 4 被害者の遺体に溢血点が確認されなかったことについて関係証拠によれば、被害者の遺体について、心膜、心外膜、肺に溢血点は確認できなかったこと、目や口腔粘膜、頭皮下についても溢血点は確認できなかったことが認められる。 この点について、D医師は、気道閉塞であれば、頸静脈の閉鎖がなく溢血点は生じないために、溢血点が確認されなかった旨を供述する。 もっとも、溢血点が確認されなかったというのは、被害者の解剖当時に確認されなかっただけにすぎず、被害者が死亡した当時に溢血点があったことを否定するものではないことについては、各証人が述べるところである。このことを前提に、B医師及びC医師は、溢血点については死後変化によって確認でき なくなった旨を供述する。また、B医師は、絞頸による窒息の場合であっても眼球・眼瞼結膜に溢血点が確認できない事例があることも供述している。被害者の遺体は、死後約1 か月間放置されており、全身が高度に腐敗している(上記1(1))ことを踏まえると、被害者の遺体の上記箇所について溢血点が確認できなかったことが、B医師及びC医師の供述と矛盾するとはいえないので、これらの信用性を低下させるものではない。 5 被告人の右手の骨折について被告人は、令和5年9月21日午後8時6分に、自己のスマートフォンで自己の右手人差し指のつけ根付近が赤く腫れている様子を写真撮影しており、同月28日に右第2中手骨頭部骨折の診断を受けている。この骨折について、被告人は、同月21日の被害者が死亡する前に被害者からの暴行によって生じた旨を供述し、これに反する証拠もないことから、以下では、被害者が死亡した当時、被告人の右手が骨折していたことを一応前提として検討する。 D医師は、このような状態であれば、索状物を使用して被害者 旨を供述し、これに反する証拠もないことから、以下では、被害者が死亡した当時、被告人の右手が骨折していたことを一応前提として検討する。 D医師は、このような状態であれば、索状物を使用して被害者の首を絞めることは困難である旨を供述する。これに対し、B医師及びC医師は、骨折した人差し指を除いた指を使用すれば、索状物を用いて被害者の首を絞めることは可能である旨を供述する。 事件当時に被告人の右手に上記骨折が生じており、相応の痛みがあったことは否定できないものの、被告人の当時の右手の使用状況としては、同日から同月28日にかけて、スマートフォンやビニール袋等を持っていることやペンを使用していることが認められ、このように右手を使用することができていること、上記骨折が生じたとされる同月21日から1週間後に病院に行っていることを踏まえると、B医師及びC医師が供述するように何らかの索状物を使用することは十分に可能であったといえる。 6 小括以上の検討を踏まえると、上記のとおりD医師の供述は、被害者の遺体の客 観的な状況と整合しない部分がある。また、D医師は、自己の鑑定結果は被告人の供述に依拠している旨を述べるが、被告人の供述は、上記で検討した被害者の遺体の右錐体部のうっ血に関する所見と整合的に理解することが困難である上、後で検討するとおり、他の証拠と矛盾する部分もある。そのため、上記で検討した以外のD医師の供述部分や溢血点の有無、輪状軟骨の骨折の評価といった点を踏まえても、D医師の供述は、B医師及びC医師の供述を弾劾するには至らず、B医師及びC医師の供述は、いずれも信用できる。 関係証拠によれば、事件当時、被告人以外の者が被害者を殺害したことはおよそ考えられないため、信用できるB医師及びC医師の供述によると、被害者は被告人に 医師及びC医師の供述は、いずれも信用できる。 関係証拠によれば、事件当時、被告人以外の者が被害者を殺害したことはおよそ考えられないため、信用できるB医師及びC医師の供述によると、被害者は被告人によって殺害されたことが強く推認される。 第3 法医学の観点以外の検討 1 前提事実関係証拠によれば、以下の事実が認められる。 (1)被害者と被告人の生活状況等ア被害者は、平成22年4月から小学校教諭として勤務していた。 イ被告人と被害者は、平成25年9月28日、婚姻した。 ウ被害者は、平成28年当時、小学校教諭として勤務する傍ら、甲で副業をしていた。 エ被告人は、平成18年頃知人と共に起業したが、令和3年9月以降定期的な収入はなく、令和5年9月当時、消費者金融会社及び親族に対する負債を有していた。また、被告人は、被害者に対し、5年以上前から5000万円を超える投資信託があるとの嘘を言っていた。 オ被告人は、被害者と婚姻して以降、被害者の父親に対し、5、6回ほど、被害者が家事と育児を手伝わない旨の相談をしていた。 (2) マンション購入の経緯等ア被告人と被害者は、4790万円の新築分譲マンションを購入することを 決め、令和5年9月10日、代金4790万円のうち2400万円は被害者名義の住宅ローンを申し込み、2390万円は被告人が支払い、そのうちの470万円を手付金として同月15日までに被告人が支払うこととなったが、被告人は手付金の支払いをすることはなかった。 イ上記物件の担当者は、同月20日、被害者に対し、手付金が振り込まれていないことを伝えた。 ウ被告人は、同月20日、被害者の父親に対し、被害者が被告人の実家に怒鳴りこみに行こうとしているなどの内容の電話をしていた。 エ被害者は、同月21日 付金が振り込まれていないことを伝えた。 ウ被告人は、同月20日、被害者の父親に対し、被害者が被告人の実家に怒鳴りこみに行こうとしているなどの内容の電話をしていた。 エ被害者は、同月21日、午前3時37分頃、自身の実家に滞在していた被告人に対し電話をかけ、被告人は、同日午前3時46分頃、帰宅した。 (3) 被害者の死後の被告人の行動ア被告人は、令和5年9月21日午後1時39分頃、自己のスマートフォンで「刑事事件弁護士」と検索した。 イ被告人は、被害者が死亡していることを認めた後、警察等への通報をしていない。 2 被害者の死後の被告人の行動(上記1(3))について被害者の死亡が自殺であったとするならば、被告人と被害者の関係性が良好でなかったなどの被告人の供述を仮に前提としても、被告人が被害者の死亡の兆候を確認したり、救命措置や即時の通報といった行動に出たりしていないことは、それ自体不自然である。また、被告人が述べるように自殺したと思われるような形で被害者が死亡しているのを認めたのだとすれば、それを事件であると認識するのは不自然であって(被告人自身、死体を放置していることについて事件であることを認識したのは被害者の死亡を認めた1週間後である旨を供述している。)、被告人が被害者を殺害したことを事件であると認識し、「刑事事件弁護士」と検索したのだとしても矛盾はしない。 被告人は、警察等に通報しないことで被害者が死亡した3日か4日後に予定 されていた保育園の運動会に長男を参加させてあげたかったとも供述するが、被害者が自殺したのであれば、それを通報しても数日後の運動会に参加できなくなるとの考えに至る理由が不可解である。また、被告人は、保育園の運動会の終了後も警察等に通報をしておらず、その供述は首尾一貫しない 者が自殺したのであれば、それを通報しても数日後の運動会に参加できなくなるとの考えに至る理由が不可解である。また、被告人は、保育園の運動会の終了後も警察等に通報をしておらず、その供述は首尾一貫しない。これらの経過は、被告人が被害者を殺害したために通報等ができなかったためとも考えることができる。 したがって、被害者の死後の被告人の行動(上記1(3))は、被害者が被告人によって殺害されたことと整合的な事実であるといえる。 3 被告人が被害者を殺害する動機の有無について上記1(1)オ、(2)の各事実及び被告人供述によれば、被告人と被害者の関係が必ずしも良好だったとはいえず、被害者に対しうっ憤があり、本件事件当時、被告人の嘘が原因でマンションの購入がうまく進まず、被害者からの電話の呼び出しに応じ被告人が帰宅したことを契機に、被告人と被害者間で口論になり、突発的に被害者への殺意が生じたと考えることも可能である。したがって、被告人には、被害者を殺害する動機があり得たといえ、被害者が被告人によって殺害されたことと少なくとも矛盾はしない。 4 被害者が自殺する動機について被告人は、被害者が死亡する前に被害者と口論になり、その際に被害者の副業歴を被害者の当時の勤務先に告げる旨を述べたと供述する。弁護人は、これに沿って、被害者は被告人から被害者の副業(甲での勤務)歴を当時の勤務先に告げると言われたことで自殺した旨を主張する。 被告人と被害者が口論になったとの点は、上記1(2)アないしエの経過と整合的であり、また、被告人が被害者の副業歴を把握していたこと等を踏まえると、口論の中で副業歴について言及があることも不自然ではない。そうすると、この点については被告人の供述を虚偽として排斥することはできないから、これを前提に検討する。確か 把握していたこと等を踏まえると、口論の中で副業歴について言及があることも不自然ではない。そうすると、この点については被告人の供述を虚偽として排斥することはできないから、これを前提に検討する。確かに、被害者の事件当時の職業である小学校教諭は、 保護者等からの信用が大切な職業であるから、副業やその内容が発覚することにより社会的信用が損なわれたり、地方公務員法上の懲戒処分を受けたりすることを悲観することも考えられ、突発的に自殺することがおよそあり得ないとはいえない。もっとも、被告人の供述によると、以前にも、被害者の副業歴について被害者に対し、被害者の家族に告げる旨を言ったことがある上、被害者が死亡する直前まで、被告人と被害者は口論していた状況にあったことを踏まえると、現実に被告人が被害者の勤務先に副業歴を告知するに至ったのであればともかく、上記の事情のみで被害者が自殺をすることはいかにも唐突であり、そこまで突発的に自殺を決意して実行するのかについては疑問が残る。したがって、被害者が被告人から副業歴を当時の勤務先に告げると言われたことが、被害者が被告人によって殺害されたことの推認を妨げる事情とまではいえない。 第4 被告人供述の検討被告人は、被害者は自分で首を絞めて自殺をしたのだと思う、その際、被害者の首元にはビニール袋が落ちていた、被害者の顔は白かった旨を供述する。 被告人が見つけたという上記ビニール袋については、結局発見されるに至っておらず、その理由についても不明であり、そもそも被告人の上記供述は裏付けを欠く。さらに、被告人は被害者の発見状況の再現において、そのビニール袋のサイズを問われ、大小の異なる複数のビニール袋の中から、縦幅が約50.5cm、横幅が約28.5cmのビニール袋を選んでいる。仮に被告人の上記供 告人は被害者の発見状況の再現において、そのビニール袋のサイズを問われ、大小の異なる複数のビニール袋の中から、縦幅が約50.5cm、横幅が約28.5cmのビニール袋を選んでいる。仮に被告人の上記供述を前提にすると、被害者は、そのくらいの大きさのビニール袋で自分の首を絞めて自殺をしたことになる。しかしながら、被害者の頸部にあった索痕様の皮膚変色の幅が約1cmであったことから、上記各法医学者3名は絞頸のための索状物の幅は約1cmであったと判断しているところ、被害者が自殺をするにしても上記で検討したとおりその経過は突発的なものであり、冷静さを欠いているであろうことも考えると、考えられる大きさのビニール袋を約1cmの幅に折りたたむなどするのは困難であると考えられ、被告人の供述は被害者 の遺体の頸部の索痕様の皮膚変色があった状況と整合的でない。 また、B医師及びC医師は、被害者の死因が絞頸を原因とする頸部圧迫による窒息である場合、死亡直後の被害者の顔はうっ血により赤紫色であった可能性が高いと供述しており、この点は、既に検討した被害者の遺体の右錐体部にうっ血があったことと整合する。他方で、被告人は被害者が死亡しているのを発見した際にその顔面が蒼白であった旨を供述しており、この点で、被告人の供述は法医学的知見と矛盾している。 したがって、被告人の被害者は自殺したのだと思うとの供述は、客観的な状況や信用できるB医師及びC医師の供述と矛盾し信用できない。 第5 結論以上によれば、信用できるB医師及びC医師の供述から、被害者は被告人によって殺害されたことが強く推認され、この推認に整合する事実が認められる一方、この推認を妨げる事情が合理的に疑われる証拠関係にはない。 以上の次第で、被害者は被告人によって殺害されたと判断した 人によって殺害されたことが強く推認され、この推認に整合する事実が認められる一方、この推認を妨げる事情が合理的に疑われる証拠関係にはない。 以上の次第で、被害者は被告人によって殺害されたと判断した。 (法令の適用)省略(量刑の理由)まず、量刑の中心となる殺人罪について検討する。被告人が本件殺人を否認していることから判然としない部分はあるものの、証拠によって認められる本件の経過や被告人と被害者の関係等に照らすと、被告人は、被害者に対する以前からのうっ憤に加え、マンション購入がうまく進まなかったこと等をきっかけに被害者と口論するに至ったことで、被害者を殺害するに至ったと考えられる。そのマンション購入がうまく進まなかった原因は、被告人が被害者に対し、5000万円を超える投資信託を有するとの嘘を述べており、被告人がマンション購入の手付金を支払うことができなかったことに起因する。しかしながら、令和5年9月3日に被害者と被告人とが新居購入のために新築分譲マンションのギャラリーを訪れ、同月10日に は被害者が住宅ローンを申し込むに至っているとの経過からは、新居の購入という高額でかつ夫婦共同生活の基盤に関わる買い物をするにしては慎重さに欠ける部分があるといえると同時に、意向を十分に確認されることなく被害者の主導でマンション購入が決められた旨の被告人供述は排斥できない。これらによると、マンション購入が進まなかったことや口論となったことについて被告人のみを非難することはできない。しかし、このような事情を踏まえても、被害者を殺害するに至ったことは短絡的であるといわざるを得ず、その意思決定は強い非難を免れない。また、被告人は、何らかの方法で被害者の頸部を圧迫することにより被害者を殺害しているところ、頸部を圧迫して人を死亡するに至らせる とは短絡的であるといわざるを得ず、その意思決定は強い非難を免れない。また、被告人は、何らかの方法で被害者の頸部を圧迫することにより被害者を殺害しているところ、頸部を圧迫して人を死亡するに至らせるためには、少なくとも約5分間は頸部を圧迫する必要があることからすると、本件殺人は、突発的ではあるものの強固な殺意に基づいた、危険性の高いものである。 さらに、被告人は、被害者の遺体を約1か月という長期間、遺体の腐敗が高度に進むまで放置している。そして、遺体の発見を遅らせるために、姉が死亡したとの事情を知らない被害者の弟を巻き込む形で、被害者の勤務先に虚偽の説明をさせるなど、その経過も悪質である。 被害者の遺族らは、大切な存在であった被害者を殺害されるにとどまらず、むごたらしい状態の被害者の遺体に直面させられることにより甚大な精神的衝撃を受けており、被害者の遺族らが峻烈な処罰感情を抱くのも当然のことといえる。 以上の事情を考慮すると、本件は、被害者が配偶者で、けんか、その他家族関係を動機とし、突発的だが強固な殺意に基づく殺人事案の中では、中程度からやや重い部類に属する事案というべきである。 被告人は、死体遺棄の事実は認め、法廷で被害者遺族に対し謝罪の弁は述べるものの、殺人の事実については、被害者の自殺である旨の不合理な弁解に終始している。その謝罪の弁は、内省の深まりを表すものとは到底いえない。 以上によれば、被告人の刑事責任は重く、前科前歴がないこと、母親が今後の指導監督を約していることといった、被告人のために酌むべき諸事情を考慮しても、 主文の刑を科すのが相当である。 (求刑-懲役18年)令和6年10月21日福岡地方裁判所第3刑事部 裁判長裁判官岡本康博 主文 刑を科すのが相当である。 (求刑-懲役18年) 令和6年10月21日 福岡地方裁判所第3刑事部 裁判長 裁判官岡本康博 裁判官細川英仁 裁判官髙橋宏一

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