平成27(行ウ)126 扶助料請求申請棄却処分取消請求事件

裁判年月日・裁判所
平成29年9月29日 大阪地方裁判所 その他
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判決文本文14,981 文字)

平成29年9月29日判決言渡平成27年(行ウ)第126号扶助料請求申請棄却処分取消請求事件 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求総務省人事・恩給局長が平成25年9月27日付けで原告に対してした恩給法10条ノ2に基づく扶助料請求を棄却する旨の裁定を取り消す。 第2 事案の概要本件は,原告が,その父である亡Z1(大正8年▲月▲日生。)が,軍務に服していた昭和21年(当時27歳)に公務により負った右第2~第5趾切断の傷害(以下「本件傷害」という。)により平成23年(当時92歳)に肺炎により死亡(以下「本件死亡」という。)したとして,恩給法10条ノ2に基づき,原告の母である亡Z2に係る同法75条1項2号所定の扶助料の請求をしたところ,総務省人事・恩給局長(以下「人事・恩給局長」という。)から,亡Z1が公務による傷病のために死亡したとは認められないことを理由に前記請求を棄却する旨の裁定(以下「本件裁定」という。)を受けたことから,本件裁定が違法である旨主張して,その取消しを求める事案である。 1 関係法令の定め(1) 旧軍人に対する恩給についてア恩給法の特例に関する件(昭和21年勅令第68号。以下「旧勅令第68号」という。)により,軍人又はその遺族に対する恩給は,傷病恩給の一部を除いて給しないこととされ,恩給法の一部を改正する法律(昭和21年法律第31号)により,軍人又はその遺族は,恩給法の対象から除外さ れることとされたところ,恩給法の一部を改正する法律(昭和28年法律第155号。以下「法律第155号」という。)附則2条1号により,旧勅令第68号が廃止され,同法附則10条により,昭和21年法律第31号による改正前の恩給法21条 一部を改正する法律(昭和28年法律第155号。以下「法律第155号」という。)附則2条1号により,旧勅令第68号が廃止され,同法附則10条により,昭和21年法律第31号による改正前の恩給法21条に規定する軍人(以下「旧軍人」という。)又はその遺族のうち,旧軍人としての在職年が旧軍人の普通恩給についての最短恩給年限に達する者(1号イ)等に該当する旧軍人で,失格原因がなくて退職し,かつ,退職後普通恩給を受ける権利を失うべき事由に該当しなかったものについては,法律第155号の施行の時から,旧軍人の普通恩給を受ける権利等を取得するものとされ,同法附則28条により,旧軍人又はその遺族に給する恩給については,同法附則に定める場合を除く外,恩給法の規定を適用することとされた。 イ恩給法において,恩給とは,普通恩給,増加恩給,傷病賜金,一時恩給,扶助料,一時扶助料をいう(恩給法2条1項)。 ウ公務員(旧軍人を含む。以下,特に断りのない限り同じ。)が,所定の年数在職し,退職した場合に普通恩給又は一時恩給を給する(恩給法45条)。 エ公務員が公務のため傷痍を受け,又は疾病にかかり,一定程度以上の障害を残した場合に,その障害の程度に応じて増加恩給又は傷病賜金を給する(恩給法46条,46条ノ2)。増加恩給は,重度障害の状態になった場合に給されるものであり(恩給法46条),その重度障害の程度は,恩給法別表第1号表ノ2において,特別項症及び第1~第6項症に区分されている(恩給法49条ノ2)。傷病賜金は,重度障害に至らない場合に給される一時金であり(恩給法46条ノ2),その障害の程度は,恩給法別表第1号表ノ3において,第1~第5款症に区分されている(恩給法49条ノ3)。ただし,旧軍人については,法律第155号附則22条1項の規定により,障害の程度 46条ノ2),その障害の程度は,恩給法別表第1号表ノ3において,第1~第5款症に区分されている(恩給法49条ノ3)。ただし,旧軍人については,法律第155号附則22条1項の規定により,障害の程度が恩給法別表第1号表ノ3の第1~第5款症に該 当するものは,恩給法46条及び46条ノ2の規定にかかわらず,第1款症に該当する者については法律第155号附則別表第4の第7項症の増加恩給が,第2~第5款症に該当する者については同法附則別表第5の第1~第4款症の傷病年金又は傷病賜金がそれぞれ給される。 (2) 遺族に対する扶助料についてア恩給法において,遺族とは,公務員の祖父母,父母,配偶者,子,兄弟姉妹であって,公務員の死亡の当時これにより生計を維持し又はこれと生計を共にしていたものをいう(恩給法72条)。 イ公務員が在職中に死亡し,その死亡を退職とみなして普通恩給を給付すべきとき,又は普通恩給を給せられるべき者が死亡したときは,遺族には,配偶者,未成年の子,父母,成年の子,祖父母の順位により扶助料を給する(恩給法73条1項1号,2号)。 ウ扶助料の年額は,これを受ける者の人員にかかわらず,①次の②③に該当しない場合に給される所定の金額(恩給法75条1項1号。以下「普通扶助料」という。),②公務員が公務による傷痍又は疾病(以下,傷痍及び疾病を併せて「傷病」という。)のために死亡したときに給される,普通扶助料を所定の方法により増額した金額(同項2号。以下「公務扶助料」という。),③増加恩給を受給していた公務員が公務に起因する傷病によらないで死亡したときに給される,普通扶助料を所定の方法により増額した金額(同項3号。以下「増加非公死扶助料」という。)とする。 (3) 恩給の請求について恩給権者が死亡したとき,その生存中の恩 いで死亡したときに給される,普通扶助料を所定の方法により増額した金額(同項3号。以下「増加非公死扶助料」という。)とする。 (3) 恩給の請求について恩給権者が死亡したとき,その生存中の恩給であって給付を受けていないものは,これを当該公務員の遺族に支給し,遺族がないときは相続人に支給する(恩給法10条1項)。この場合において,死亡した恩給権者が未だ恩給の請求をしていないときは,恩給の支給を受けるべき遺族又は相続人が,自 己の名をもって死亡者の恩給の請求をすることができる(恩給法10条ノ2第1項)。 2 前提事実(争いのない事実,顕著な事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)(1) 原告等ア亡Z1(大正8年▲月▲日生)は,平成23年▲月▲日,Z3病院において死亡した(当時92歳。本件死亡)。なお,死亡診断書(乙17。以下「本件死亡診断書」という。)には,亡Z1の直接死因は肺炎であるとの記載がされている。(乙2の2,17,22)イ亡Z2は,昭和28年▲月▲日に亡Z1と婚姻し,平成25年▲月▲日に死亡した。(乙15)ウ原告は,亡Z1と亡Z2の間の子である。(乙15)(2) 亡Z1の旧軍人としての経歴亡Z1は,昭和14年▲月▲日,現役兵として歩兵第43連隊に入隊した。 その後,亡Z1は,満州において軍務に服し,昭和21年7月24日,内地還送のため,旧満州国奉天省鉄嶺県鉄嶺から列車で移動していた際,事故により右第2~第5趾切断の傷害(本件傷害)を負った。(乙2の1・2,3)亡Z1は,昭和21年9月27日,佐世保港に上陸し,同月28日,復員した。(乙2の1・2)(3) 亡Z1による恩給請求ア亡Z1は,昭和25年8月10日付けで,総理府恩給局長に対し,旧勅令第68号6条 昭和21年9月27日,佐世保港に上陸し,同月28日,復員した。(乙2の1・2)(3) 亡Z1による恩給請求ア亡Z1は,昭和25年8月10日付けで,総理府恩給局長に対し,旧勅令第68号6条の規定に基づき,公務傷病による恩給を請求した。(乙4)イ総理府恩給局長は,昭和27年6月23日,前記アの請求に対し,亡Z1の旧軍人在職中の公務に起因する障害の程度は,法律第155号による改正前の恩給法が規定する第1款症と認められるとして,傷病賜金を給する旨の裁定をした。(乙6) ウ亡Z1は,昭和29年11月25日付けで,総理府恩給局長に対し,恩給法46条及び法律第155号附則22条の規定に基づき,公務傷病による恩給を請求した。(乙7)エ総理府恩給局長は,昭和30年9月21日,前記ウの請求に対し,亡Z1の旧軍人在職中の公務に起因する障害の程度は,法律第155号附則22条の規定による第1款症の傷病年金が給される程度と認められるとして,給与期間を昭和29年4月から昭和34年3月までの5年間とする有期の傷病年金を給する旨の裁定をした。(乙9)オ亡Z1は,昭和33年10月30日付けで,総理府恩給局長に対し,前記エの傷病年金の給与期間満了に伴う再審査請求をした。(乙10)カ総理府恩給局長は,昭和34年7月30日,前記オの請求に対し,亡Z1の旧軍人在職中の公務に起因する障害の程度は,法律第155号附則22条の規定による第1款症の傷病年金が給される程度と認められるとして,昭和34年4月を給与始期とする給与期間の定めのない傷病年金を給する旨の裁定をした。(乙12)キ亡Z1は,平成11年2月26日付けで,総務庁恩給局長に対し,普通恩給を請求した。(乙13)ク総務庁恩給局長は,平成12年1月26日,平成6年1月を給与始期と る旨の裁定をした。(乙12)キ亡Z1は,平成11年2月26日付けで,総務庁恩給局長に対し,普通恩給を請求した。(乙13)ク総務庁恩給局長は,平成12年1月26日,平成6年1月を給与始期とする旧軍人普通恩給を給する旨の裁定をした。(乙14)(4) 亡Z2による恩給請求ア亡Z2は,平成24年3月31日付けで,亡Z1が死亡したこと(本件死亡)に伴い,人事・恩給局長に対し,扶助料を請求した。(乙16)イ人事・恩給局長は,平成24年7月26日,前記アの請求に対し,亡Z1の本件死亡当時の公務に起因する障害は,増加恩給が給される程度に増悪していたものと認められず,また,亡Z1の本件死亡の原因は,公務に起因する傷病によるものとは認められないから,公務扶助料又は増加非公 死扶助料を給することはできないとして普通扶助料を給する旨の裁定をした。(乙19の1・2)ウ亡Z2は,平成24年9月4日付けで,人事・恩給局長に対し,前記イの裁定を不服とする異議申立てをした。(乙20)エ人事・恩給局長は,平成24年10月26日,前記ウの異議申立てを棄却する旨の決定をした。(乙21)(5) 原告による恩給請求及び本件訴えの提起に至る経緯ア原告は,平成25年6月20日付けで,人事・恩給局長に対し,恩給法10条ノ2第1項に基づき,亡Z2に係る扶助料(公務扶助料)を請求した。(乙23)イ人事・恩給局長は,平成25年9月27日,前記アの請求に対し,亡Z1の本件死亡の原因である肺炎は,誤嚥性による肺炎と考えられ,公務傷病に起因して死亡したものとは認められず,また,亡Z1の本件死亡当時の公務に起因する障害は,増加恩給が給される程度に増悪していたものと認められないから,公務扶助料又は増加非公死扶助料を給することはできないとして請求 たものとは認められず,また,亡Z1の本件死亡当時の公務に起因する障害は,増加恩給が給される程度に増悪していたものと認められないから,公務扶助料又は増加非公死扶助料を給することはできないとして請求を棄却する旨の決定をした。(甲1)ウ原告は,平成26年7月21日付けで,人事・恩給局長に対し,本件裁定に対する異議申立てをした。なお,同年5月30日付けで総務大臣が人事・恩給局長の恩給の裁定事務を承継したことに伴い,前記異議申立ては,総務大臣に対するものとみなされた。(乙24の1・2)エ総務大臣は,平成26年10月30日,前記ウの異議申立てを棄却する旨の決定をした。原告は,同年11月6日,同決定の決定書謄本を受領した。(甲2の1・2,乙25)オ原告は,平成27年5月7日,本件訴訟を提起した。(顕著な事実) 3 争点及び当事者の主張本件の争点は,亡Z1の本件死亡が恩給法75条1項2号所定の公務扶助料 の支給要件に該当するか否か,すなわち,亡Z1が右第2~第5趾切断創(本件傷害)のために死亡したと認められるか否かである(なお,本件傷害が公務によるものであることについては,当事者間で争いがない。)。 (1) 原告の主張ア亡Z1は,公務に従事していた際に本件傷害を負い,その後,たびたび植皮手術を受けたものの,植皮部位の直下に骨があるため,植皮の定着が困難で瘢痕を形成しやすい状態にあり,昭和33年10月以降も瘢痕形成を繰り返し,完全に治癒することはなかった。そして,本件傷害の瘢痕は,閉塞性動脈硬化症による血流障害を契機として増悪し,平成18年4月に右足部難治性潰瘍(以下「本件潰瘍」という。)となった。亡Z1は,8箇月にわたって本件潰瘍の温存的加療を受け,安静状態で過ごしたために,全身機能が低下して廃用症候群となり,誤嚥性 ,平成18年4月に右足部難治性潰瘍(以下「本件潰瘍」という。)となった。亡Z1は,8箇月にわたって本件潰瘍の温存的加療を受け,安静状態で過ごしたために,全身機能が低下して廃用症候群となり,誤嚥性肺炎を繰り返すようになって本件死亡に至った。 そうすると,亡Z1の本件死亡の原因は,本件傷害が増悪して発症した本件潰瘍の治療にあったということができる。したがって,亡Z1は公務による傷病のために死亡したというべきであり,公務扶助料の支給要件に該当する。 イ亡Z1は,平成18年当時,本件潰瘍が戦傷病者特別援護法にいう公務上の傷病に該当するものとして同法に基づく療養の給付を受けていた。したがって,本件潰瘍が恩給法にいう公務による傷病であることは明らかである。 (2) 被告の主張亡Z1の公務による傷病(本件傷害)は,遅くとも昭和33年10月1日時点で症状固定に至っており,平成18年になるまで亡Z1の体調に特段の変化はなく,公務による傷病が増悪したことを示す証拠はないから,平成18年4月に発症した本件潰瘍と公務による傷病との間に相当因果関係は認 められない。 また,本件潰瘍は,公務による傷病とは関連のない閉塞性動脈硬化症を原因として発症したものであるから,亡Z1の公務による傷病と本件死亡の原因である肺炎の発症との間に相当因果関係があるとはいえない。 なお,戦傷病者特別援護法に基づく療養の給付は,恩給法に基づく扶助料の支給と,根拠法令,目的,手続及び実施主体を異にするから,本件潰瘍が公務上の傷病に当たるとして戦傷病者特別援護法に基づく療養の給付をされたことをもって,公務扶助料支給の要件に該当するとはいえない。 第3 当裁判所の判断 1 判断枠組みについて(1) 恩給法は,恩給を受けていた公務員が死亡したとき等に一定の遺族に 養の給付をされたことをもって,公務扶助料支給の要件に該当するとはいえない。 第3 当裁判所の判断 1 判断枠組みについて(1) 恩給法は,恩給を受けていた公務員が死亡したとき等に一定の遺族に対して扶助料を給する旨を定めるところ,扶助料は,遺族に対して,公務員が公務に従事したことにより被った損失を補償するとともに,生活保障を与える目的で給付されるものであると解される(最高裁昭和38年(オ)第987号同41年4月7日第一小法廷判決・民集20巻4号499頁,最高裁昭和48年(オ)第813号同50年10月21日第三小法廷判決・集民116号307頁参照)。 そして,前記の扶助料の趣旨に加え,恩給法75条1項2号所定の要件に該当する場合に普通扶助料を所定の方法により増額した公務扶助料を給付するものとされていることに照らせば,恩給法が公務扶助料を支給する趣旨は,公務員が公務に従事したことにより傷病を負い,当該傷病のために死亡した場合に,遺族に対して,損失を補償し,生活保障を与えることにあると解されるから,同号にいう,公務員が公務による傷病のために死亡したときに該当するというためには,公務と傷病との間及び傷病と死亡との間のいずれについても相当因果関係が存在することが必要であると解される(国家公務員災害補償法上の公務起因性に係る最高裁昭和50年(行ツ)第111号同5 1年11月12日第二小法廷判決・集民119号189頁参照)。 そして,前記の各相当因果関係の存在の立証責任は,公務扶助料の請求をする原告の側にあるというべきである。 (2) 本件では,公務と傷病(本件傷害)との間の相当因果関係が存在すること(本件傷害が公務によるものであること)については,当事者間に争いがなく,公務に起因する傷病(本件傷害)と亡Z1の本件死亡との間の相当因 では,公務と傷病(本件傷害)との間の相当因果関係が存在すること(本件傷害が公務によるものであること)については,当事者間に争いがなく,公務に起因する傷病(本件傷害)と亡Z1の本件死亡との間の相当因果関係が存在するか否か(亡Z1の本件死亡が恩給法75条1項2号所定の公務扶助料の支給要件に該当するか否か)のみが争点である。 そこで検討すると,人の死亡は,加齢や一般生活等を通じた多種多様な疾病,傷害等によって発生するのであって,あまねく人が避けることのできない事象であることに加えて,前記(1)のとおりの,遺族に対して,公務員が公務に従事したことにより被った損失を補償するとともに,生活保障を与える目的で給付されるという扶助料の趣旨に鑑みると,死亡に至る原因が複数競合している場合には,当該公務に起因する傷病が単に当該公務員の死亡の一要因となっているだけでは,当該公務に起因する傷病と死亡との間の相当因果関係を認めることはできないのであって,当該相当因果関係が認められるためには,当該傷病が,当該公務員の死亡の発生に対して,当該傷病以外のその他の要因に比して相対的に有力な原因になっているという関係が必要であると解される(労働者災害補償保険法上の業務起因性に係る最高裁平成7年(行ツ)第156号同12年7月17日第一小法廷判決・集民198号461頁参照)。 2 認定事実前記前提事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。 (1) 亡Z1の受傷亡Z1は,昭和21年7月24日,軍務に服し,旧満州国奉天省鉄嶺県鉄 嶺から列車で移動していた際,事故により右第2~第5趾切断の傷害(本件傷害)を負った。 (2) 昭和24年発行の恩給診断書の記載亡Z1は,昭和24年8月8日付けで,Z4病院において恩給診断書 嶺から列車で移動していた際,事故により右第2~第5趾切断の傷害(本件傷害)を負った。 (2) 昭和24年発行の恩給診断書の記載亡Z1は,昭和24年8月8日付けで,Z4病院において恩給診断書(以下「昭和24年恩給診断書」という。)の発行を受けた。同診断書には,本件傷害は昭和23年3月に症状固定したこと,右第2~第5趾は,趾蹠関節より約2.0cmを残して切断され,その残部は癒着一塊となり,各趾が区別し得ない状態であること,右足背外側前半には帯紫色の瘢痕,右第4趾の切断端には浅在性の楕円形(長径0.8cm,短径0.5cm)の潰瘍性瘢痕がそれぞれあり,分泌物は少量であること,歩行に際し右足蹠の疼痛があり,下駄を履くことができないことなどが記載されている。(乙5の1)(3) 昭和30年発行の恩給診断書の記載亡Z1は,昭和30年2月10日付けで,Z5病院において恩給診断書(以下「昭和30年恩給診断書」という。)の発行を受けた。同診断書には,本件傷害の症状は昭和29年4月1日と著変はないこと,右第2~第5趾は,趾蹠関節より約2.0cmを残して切断され,その残部は癒着一塊となり,各趾が区別し得ない状態であること,右足背外側前半には帯紫色の瘢痕,右第4趾の切断端には浅在性の楕円形(長径0.8cm,短径0.5cm)の潰瘍性瘢痕がそれぞれあることなどが記載されている。(乙8)(4) 昭和33年発行の恩給診断書の記載亡Z1は,昭和33年10月1日付けで,Z5病院において恩給診断書(以下「昭和33年恩給診断書」という。)の発行を受けた。同診断書には,本件傷害の症状に変化はないこと,右第2~第5趾の残部は癒着一塊となり,各趾が区別し得ない状態であること,約2kmの歩行で瘢痕部の疼痛が高度となり,歩行困難となることなどが記載されている。( には,本件傷害の症状に変化はないこと,右第2~第5趾の残部は癒着一塊となり,各趾が区別し得ない状態であること,約2kmの歩行で瘢痕部の疼痛が高度となり,歩行困難となることなどが記載されている。(乙11)(5) 平成7年から平成18年までの経過 ア亡Z1は,平成7年(当時75ないし76歳)に脳梗塞を発症し,平成13年6月29日(当時82歳),特別養護老人ホームであるZ6(以下「本件老人ホーム」という。)に入所し,後記(6)及び(7)記載のとおりの入院期間を除き,その死亡までを本件老人ホームで過ごした。なお,亡Z1は,本件老人ホームへの入所当初から,本件老人ホーム内の移動には基本的に車椅子を利用していた。亡Z1には,同施設に入所中,多発性脳梗塞,高血圧症,心房細動及び脳血管性認知症が見られた。(甲7の1,乙1,24の1,32,46)イ亡Z1には,平成15年11月(当時84歳),右第2~第5趾の断端部に発赤及び腫脹が見られたが,投薬により治まった。(乙1)ウ亡Z1には,平成18年2月14日(当時86歳),左第4趾の爪が剥がれて出血が見られたが,次第に治癒し,同月28日には,立位に問題がない状態となった。(甲30)エ平成18年4月12日,亡Z1(当時86歳)には,右第2~第5趾断端部に小潰瘍の形成があり,投薬治療が行われたが,同月17日に右第3,4趾の表皮剥離が見られ,症状は悪化した。(甲30,乙1,31,32)(6) 閉塞性動脈硬化症の診断及び治療ア亡Z1は,平成18年5月1日(当時87歳),Z7病院を受診し,右足部難治性潰瘍(本件潰瘍)との診断を受け,同年6月14日には閉塞性動脈硬化症との診断を受けた。担当医師は,両下肢の閉塞性動脈硬化症が重症であり,血流が不良であるために本件潰瘍の治癒が困難 診し,右足部難治性潰瘍(本件潰瘍)との診断を受け,同年6月14日には閉塞性動脈硬化症との診断を受けた。担当医師は,両下肢の閉塞性動脈硬化症が重症であり,血流が不良であるために本件潰瘍の治癒が困難であると判断した。(甲6の1~4,14,30,乙30~32)イ亡Z1は,平成18年6月29日(当時87歳),Z8病院を受診し,末梢動脈疾患による右足部潰瘍(本件潰瘍)との診断を受け,同年8月17日から同月19日まで同病院に入院し,右大腿動脈について経皮的血管形成術(PTA)を受けた。なお,亡Z1は,経皮的血管形成術後に右足 部への植皮術を受ける予定であったが,植皮術が可能な程度まで血流が改善しなかったため保存的治療を受けることとなり,平成19年1月,本件潰瘍は治癒に至った。(甲7の1~3,14,乙32~34)(7) 誤嚥性肺炎の治療及び亡Z1の本件死亡に至る経緯ア亡Z1は,平成19年3月23日(当時87歳),Z8病院において,誤嚥性肺炎,多発性脳梗塞,認知症及び心房細動との診断を受け,同病院から紹介されたZ9病院に入院し,食物の経口摂取が困難なため,同年5月15日に胃ろう造設術(PEG)を受け,同月31日に退院した。(甲7の1,乙35)イ亡Z1は,平成19年8月23日(当時88歳),Z8病院において恩給診断書の発行を受けた。同診断書には,亡Z1の傷病名は閉塞性動脈硬化症であり,本件潰瘍は保存的加療により7箇月で治癒したこと,既往症として高血圧があることなどの記載がある。(乙18)ウ亡Z1は,平成20年4月(当時89歳)から平成22年9月(当時91歳)までの間(約29箇月間)に,嚥下機能障害又は肺炎の治療のため,5度にわたりZ9病院に入院した(合計入院期間は約3箇月間)。(乙35)エ亡Z (当時89歳)から平成22年9月(当時91歳)までの間(約29箇月間)に,嚥下機能障害又は肺炎の治療のため,5度にわたりZ9病院に入院した(合計入院期間は約3箇月間)。(乙35)エ亡Z1は,平成23年2月(当時91歳)から同年6月までの間(約4箇月間)に,4度にわたってZ3病院に入院し(合計入院期間は約3箇月間),誤嚥性肺炎又は肺炎の治療を受けたが,同年7月4日,同病院に入院した後,同年▲月▲日に死亡した(当時92歳。本件死亡)。なお,本件死亡診断書には,亡Z1の直接死因は肺炎であるとの記載がされている。 (乙17,22,36) 3 検討(1) 原告は,亡Z1の本件死亡の原因は,本件傷害が増悪して発症した本件潰瘍の治療にあったということができる旨主張する。 原告の当該主張は,必ずしも明確ではないものの,(A)前記1に説示した判断枠組みを前提とした上で,(B)本件死亡診断書には,亡Z1の直接死因は肺炎であるとの記載がされている(前記認定事実(7)エ)一方で,亡Z1の本件死亡の原因が公務による傷病である本件傷害が増悪して発症した本件潰瘍の治療にあったことを直接的に裏付ける客観的かつ的確な証拠はないことを考慮すると,結局,原告は,①本件傷害,②本件潰瘍,③廃用症候群,④肺炎,⑤本件死亡の各間には相当因果関係が認められるため,①本件傷害と⑤本件死亡の間には相当因果関係が存在するから,本件死亡が恩給法75条1項2号所定の公務扶助料の支給要件に該当する旨主張するものと善解される。 そこで,以下,原告の主張内容が上記のとおりのものであることを前提に検討する。 (2)アまず,昭和24年恩給診断書には,本件傷害は昭和23年3月に症状固定した旨の記載があること(前記認定事実(2)),昭和30年恩給診断書には,本件傷害 のものであることを前提に検討する。 (2)アまず,昭和24年恩給診断書には,本件傷害は昭和23年3月に症状固定した旨の記載があること(前記認定事実(2)),昭和30年恩給診断書には,本件傷害の症状は昭和29年4月1日と著変はない旨の記載があること(同(3)),昭和33年恩給診断書には,本件傷害の症状に変化はない旨の記載があること(同(4))に照らすと,本件傷害は,遅くとも,昭和33年恩給診断書が作成された昭和33年10月1日頃の時点で,症状固定に至っていたと認められる(この事実認定を覆すに足る客観的かつ的確な証拠はない。)。 このことに加えて,亡Z1は,本件潰瘍については,ⓐZ7病院の医師から,平成18年6月14日,閉塞性動脈硬化症との診断を受けたものの,両下肢の閉塞性動脈硬化症が重症であり,血流が不良であるためにその治癒が困難であると判断されたこと(同(6)ア),ⓑZ8病院の医師から,同年6月29日,末梢動脈疾患によるものと診断され,同年8月17日から同月19日までの間に,大動脈に係る経皮的血管形成術(PTA)を受けた後,平成19年1月には治癒に至っていること(同イ)等に鑑みると, 本件傷害が本件潰瘍の発症の一要因となっていることを否定できないとしても,閉塞性動脈硬化症(公務ないしこれに起因する傷病と相当因果関係を有すると認めることができないものである。)が,本件潰瘍の発症に対して,本件傷害に比して相対的に有力な原因になっていることは明白である。 したがって,①本件傷害と②本件潰瘍との間の相当因果関係を認めることはできない。 そうすると,①本件傷害,②本件潰瘍,③廃用症候群,④肺炎,⑤本件死亡の各間には相当因果関係が認められるため,①本件傷害と⑤本件死亡の間には相当因果関係が存在する旨の原告の前記(1)の主 きない。 そうすると,①本件傷害,②本件潰瘍,③廃用症候群,④肺炎,⑤本件死亡の各間には相当因果関係が認められるため,①本件傷害と⑤本件死亡の間には相当因果関係が存在する旨の原告の前記(1)の主張は,採用することができない。 イこれに対し,原告は,亡Z1が,平成18年当時,本件潰瘍につき,戦傷病者特別援護法にいう公務上の傷病に該当するものとして同法に基づく療養の給付を受けていたから,本件潰瘍が,恩給法にいう公務による傷病であることは明らかである旨主張する。 そこで検討すると,戦傷病者特別援護法所定の「公務上の傷病」には,旧軍人が負った公務による負傷又は疾病が含まれ(同法2条2項1号),「公務上の傷病」について厚生労働大臣が療養の必要があると認定した場合に療養の給付を行うものとされている(同法4条1項2号,10条)ことからすると,本件潰瘍については,戦傷病者特別援護法にいう公務上の傷病に該当するものとして同法に基づく療養の給付を受けていたのであるから,当然,恩給法にいう公務による傷病であると認められるべきであると考えるのは,自然な感情ではある。 しかしながら,戦傷病者特別援護法に基づく療養の給付の手続と恩給法に基づく扶助料の支給の手続とは,その根拠法令,目的,実施主体(戦傷病者特別援護法に基づく療養の給付の実施主体は,都道府県知事であるの に対して(同法施行規則6条参照),恩給法に基づく恩給の支給の実施主体は,本件裁定当時,総務省人事・恩給局長である(平成26年法律第22号による改正前の恩給法12条参照)。)等を異にするものである以上,当該各手続において,各提出された各資料に基づき,当該各実施主体によって,区々の判断が行われることはやむを得ないことである。 そして,原告の前記主張は,必ずしも明確ではないものの,亡Z1 ある以上,当該各手続において,各提出された各資料に基づき,当該各実施主体によって,区々の判断が行われることはやむを得ないことである。 そして,原告の前記主張は,必ずしも明確ではないものの,亡Z1に係る公務と本件潰瘍との間に相当因果関係が認められるというものであると解されるところ,前記アに説示したとおり,本件関係各証拠によっても,①本件傷害と②本件潰瘍との間の相当因果関係を認めることができない上,前記アに説示したところに照らせば,亡Z1に係る公務と②本件潰瘍との間に相当因果関係が存在することを裏付ける直接的かつ客観的な証拠がないこともまた明らかである(なお,本件死亡が恩給法75条1項2号所定の公務扶助料の支給要件に該当するか否かが争点となっている本件において,裁判所が,本件潰瘍が戦傷病者特別援護法にいう公務上の傷病に該当する旨の行政庁の判断に拘束されることはないことは明らかである。)。 したがって,原告の前記主張は,採用することができない。 (3) なお,本件事案の経過に鑑み,仮に,①本件傷害と②本件潰瘍との間の相当因果関係が認められるとして,①本件傷害と⑤本件死亡の間に相当因果関係が存在するといえるか否かにつき,以下,念のため検討する。 ア Z9病院のZ10医師作成の診断書(甲4)には,亡Z1が寝たきり状態となっていたため,廃用症候群に起因して肺炎を発症したとの,③廃用症候群と④肺炎との間の相当因果関係に関連する記載がある。 しかしながら,当該診断書及びその他の本件関係各証拠によっても,亡Z1が,いつから,どのような原因,機序等により,「寝たきり状態」となったのかを具体的かつ的確に裏付ける証拠はない。 仮に,亡Z1が,本件潰瘍の発症により必要となった保存的加療等のため,当該発症以前と比べてベッドで過ごす時間が多く り,「寝たきり状態」となったのかを具体的かつ的確に裏付ける証拠はない。 仮に,亡Z1が,本件潰瘍の発症により必要となった保存的加療等のため,当該発症以前と比べてベッドで過ごす時間が多くなったのだとしても,亡Z1は,(a)75ないし76歳当時,脳梗塞を発症し,本件老人ホームへの入所中,多発性脳梗塞,高血圧症,心房細動及び脳血管性認知症にり患していたこと(前記認定事実(5)ア)に照らすと,本件潰瘍の発症時以前から,本件傷害以外の要因により身体活動に相当高度の制約が発生していたものと推認されること,(b)82歳当時の本件老人ホームへの入所当初から,本件老人ホーム内の移動には基本的に車椅子を利用していたこと(同ア。なお,原告は,本件老人ホームの職員から,本件傷害の存在を理由に,本件老人ホーム内での車椅子の使用を入所の条件として要望された旨主張し,これに沿う原告の陳述書(甲29の1)を証拠として提出するものの,亡Z1が80歳を超える高齢であったことに鑑みると,当該職員から当該要望をされた事実が存するとしても,本件傷害ではなく亡Z1が高齢であることが主たる要因であるものと推認され,当該推認を覆すに足る客観的かつ的確な証拠はない。),(c)本件潰瘍が発症した86ないし87歳当時,両下肢の閉塞性動脈硬化症(これは,公務ないしこれに起因する傷病と相当因果関係を有すると認めることができないものである。)が重症であったこと(同(6)ア)に加えて,高齢者は,(d)日常生活での活動性が習慣的に低く,加齢性変化に伴って虚弱体質となっているため身体機能が低下する廃用症候群になりやすいとされていること(甲5)等に鑑みると,亡Z1が高齢であること並びに亡Z1の多発性脳梗塞,高血圧症,心房細動及び脳血管性認知症といった既往症(これらは公務ないしこれに起因 下する廃用症候群になりやすいとされていること(甲5)等に鑑みると,亡Z1が高齢であること並びに亡Z1の多発性脳梗塞,高血圧症,心房細動及び脳血管性認知症といった既往症(これらは公務ないしこれに起因する傷病と相当因果関係を有すると認めることができないものである。)が,③廃用症候群の発症に対して,本件潰瘍に比して相対的に有力な原因になっていることは明白である。 したがって,仮に,③廃用症候群と④肺炎との間に相当因果関係が認め られるとしても,③廃用症候群の発症から④肺炎を経由して⑤本件死亡へと至る過程は,亡Z1の加齢(死亡時の年齢は92歳である。)並びに多発性脳梗塞,高血圧症,心房細動及び脳血管性認知症といった既往症に起因する自然の経過によって生起したものというべきであって,②本件潰瘍ないし①本件傷害が,③廃用症候群,④肺炎及び⑤本件死亡の発生に対して,②本件潰瘍ないし①本件傷害以外のその他の要因に比して相対的に有力な原因になっているという関係が認められるということはできない。 イこの点に関し,Z8病院のZ11医師作成の診断書(甲3)には,㋐亡Z1の右足先端の潰瘍は保存的加療により治癒したが,長期間の安静療養をせざるを得ず,その結果,廃用症候群となるのを早めた可能性が否定できない,㋑右足先端の傷がなければ,同部位の潰瘍を形成することにはならず,長期療養をすることもなく廃用症候群に至らなかった可能性があり,廃用症候群は死因である肺炎を引き起こす原因となり得るものであるから,戦時中の事故と死亡の因果関係が否定できない旨の記載がある。 しかしながら,当該診断書の記載は,①本件傷害が②本件潰瘍の発症の一因となった可能性及び②本件潰瘍が③廃用症候群の一因となった可能性をいうものにすぎず,②本件潰瘍ないし①本件傷害と③廃用症候群,④ しかしながら,当該診断書の記載は,①本件傷害が②本件潰瘍の発症の一因となった可能性及び②本件潰瘍が③廃用症候群の一因となった可能性をいうものにすぎず,②本件潰瘍ないし①本件傷害と③廃用症候群,④肺炎及び⑤本件死亡の発生との間の相当因果関係の存在を裏付けるに足るものではない。 (4) 小括以上検討したところによれば,本件傷害と亡Z1の本件死亡との間の相当因果関係の立証はなく,亡Z1が右第2~第5趾切断創(本件傷害)のために死亡したと認められないから,亡Z1の本件死亡が恩給法75条1項2号所定の公務扶助料の支給要件に該当するということはできない。 そうすると,亡Z1につき公務扶助料を支給しないとした本件裁定の判断に誤りがあるとはいえず,本件裁定が違法であるということはできない。 第4 結論よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第2民事部 裁判長裁判官三輪方大 裁判官黒田吉人 裁判官吉川慶

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