判決平成15年1月8日神戸地方裁判所平成12年(ワ)第813号債務不存在確認請求事件 主文 1 原告らの請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実 第1 当事者の求める裁判 1 原告ら(請求の趣旨)(1) 原告らと被告らとの間で,原告らが被告A寺に対し,別紙墓地管理規則に基づく墓地管理費の支払義務が存在しないことを確認する。 (2) 訴訟費用は被告らの負担とする。 (3) この判決は仮に執行することができる。 2 被告ら(請求の趣旨に対する答弁)主文と同旨第2 当事者の主張 1 原告ら(請求原因)(1) 当事者ア原告らは,いずれも,別紙物件目録記載の土地(以下「本件墓地」という。)上に永代使用権を有する。 イ被告B及び同Cは,被告A寺の檀家総代の地位にある者である。 (2) 本件墓地の権利者本件墓地は,神戸市が所有し,a財産区が管理する墳墓地である。 (3) 被告らの権利主張ア被告A寺は,本件墓地について,別紙墓地管理規則(以下「本件墓地管理規則」という。)を制定し,平成10年6月以降,本件墓地に永代使用権を有する者に対し,墓地管理費の支払を請求している。 イ被告B及び同Cも,本件墓地に永代使用権を有する者は,被告A寺に対し,本件墓地管理規則に基づき墓地管理費の支払義務があると主張している。 (4) 被告A寺の無権限しかし,被告A寺は,本件墓地には何らの権利もなく,本件墓地に永代使用権を有する者に対し,墓地管理費の支払を請求できる権限がない。 (5) 結論よって,原告らは,被告ら しかし,被告A寺は,本件墓地には何らの権利もなく,本件墓地に永代使用権を有する者に対し,墓地管理費の支払を請求できる権限がない。 (5) 結論よって,原告らは,被告らに対し,原告らが被告A寺に対し,本件墓地管理規則に基づく墓地管理費の支払義務が存在しないことの確認を求める。 2 被告ら(請求原因に対する認否)(1) 請求原因(1)(当事者)は認める。 (2) 請求原因(2)(本件墓地の権利者)は否認する。 a財産区が本件墓地に底地権を有するにすぎない。 (3) 請求原因(3)(被告らの権利主張)は認める。 (4) 請求原因(4)(被告A寺の無権限)は争う。 3 被告ら(抗弁)(1) 地上権の取得ア本件墓地に対する管理運営収益権能(ア) 本件墓地は,江戸時代から,a村の村民のための共同墓地として使用されてきたが,その管理運営は,江戸時代から現在に至るまで,被告A寺が営々と行ってきた。そして,被告A寺は,大正時代以降,本件墓地の新規使用者から永代使用料を徴収するようになった。 (イ) この被告A寺の本件墓地に対する管理運営収益権能はかなり強大なものであり,その永続性,直接支配性といった実体的な性格に照らすと,所有者たるa村(後のa財産区)に対する利用請求権などといった債権的なものにとどまらず,物権たる地上権(無償かつ期限の定めのない地上権)というべきである。 イ地上権の取得(ア) 本件墓地は,登記簿上,a村の所有に属するものとされている。前記ア(イ)の地上権は,遅くとも明治時代に入って登記制度が整った時点において,a村と被告A寺との間で明示もしくは黙示の合意によって成立したものである。 有に属するものとされている。前記ア(イ)の地上権は,遅くとも明治時代に入って登記制度が整った時点において,a村と被告A寺との間で明示もしくは黙示の合意によって成立したものである。 (イ) 仮にしからずとしても,被告A寺は,本件墓地が開設された古く江戸時代から現在に至るまで,超長期にわたり,地上権者として,平穏かつ公然と本件墓地を占有して管理運営収益を継続してきたものであるから,本件墓地の地上権(無償かつ期限の定めのない地上権)を時効取得したものである。 (2) 本件墓地管理費を請求できる根拠ア被告A寺は,本件墓地の地上権の内容である本件墓地に対する管理運営収益権能に基づき,本件墓地管理規則を制定し,平成10年6月以降,本件墓地の永代使用権者に対し,墓地管理費の支払を請求するようになった。 イ原告らは,いずれも,本件墓地上に永代使用権を有するものであるから,被告A寺に対し,墓地管理費を支払う義務がある。 4 原告ら(抗弁に対する認否)(1) 抗弁(1)(地上権の取得)についてア抗弁(1)ア(本件墓地に対する管理運営収益権能)のうち,本件墓地は,江戸時代から,a村の村民のための共同墓地として使用されてきたことは認めるが,その余は否認する。 イ抗弁(1)イ(地上権の取得)のうち,本件墓地は,登記簿上,a村の所有に属するものとされていることは認めるが,その余は否認する。 (2) 抗弁(2)(本件墓地管理費を請求できる根拠)についてア抗弁(2)アのうち,被告A寺は,本件墓地管理規則を制定し,平成10年6月以降,本件墓地の永代使用権者に対し,墓地管理費の支払を請求するようになったことは認めるが,その余は否認する。 イ抗弁(2)イ うち,被告A寺は,本件墓地管理規則を制定し,平成10年6月以降,本件墓地の永代使用権者に対し,墓地管理費の支払を請求するようになったことは認めるが,その余は否認する。 イ抗弁(2)イのうち,原告らは,いずれも,本件墓地上に永代使用権を有するものであることは認めるが,その余は否認する。 理由 第1 争いのない事実次の事実は,当事者間に争いがない。 1 当事者(1) 原告らは,いずれも,本件墓地上に永代使用権を有する。 (2) 被告B及び同Cは,被告A寺の檀家総代の地位にある者である。 2 被告らの権利主張(1) 被告A寺は,本件墓地について,本件墓地管理規則を制定し,平成10年6月以降,本件墓地に永代使用権を有する者に対し,墓地管理費の支払を請求している。 (2) 被告B及び同Cも,本件墓地に永代使用権を有する者は,被告A寺に対し,本件墓地管理規則に基づき墓地管理費の支払義務があると主張している。 3 本件墓地について(1) 本件墓地は,江戸時代から,a村の村民のための共同墓地として使用されてきた。 (2) 本件墓地は,登記簿上,a村の所有に属するものとされている。 第2 事実の認定前記第1の争いのない事実に,証拠(甲1の1・2,甲2,甲5,甲6,乙1~11〔枝番を含む〕,乙13~22,被告B本人,被告A寺代表者本人,調査嘱託に対する神戸地方法務局東神戸出張所登記官の回答書),及び弁論の全趣旨を総合すると,次の事実が認められる。 1 被告A寺被告A寺は,1598年(慶長3年)開基の浄土宗に属する寺院であり,代表役員は住職のDである。被告A寺は,日常的な用務については,檀家総代3名により構成される「総代会」と住 1 被告A寺被告A寺は,1598年(慶長3年)開基の浄土宗に属する寺院であり,代表役員は住職のDである。被告A寺は,日常的な用務については,檀家総代3名により構成される「総代会」と住職が相談して運営に当たっており,重要案件については,檀家総代3名と世話人10名に住職を加えた14名で「役員会」を構成し,役員会の議決を経て決定している。 2 本件墓地の管理運営(1) 江戸時代ア本件墓地は,江戸時代から,a村(現在の神戸市東灘区a地区)の村民のための共同墓地として使用されてきた。 本件墓地は東西2箇所に分かれており,江戸時代から,管理の都合上,被告A寺より西側に居住する村民は西墓地を使用し,被告A寺より東側に居住する村民は東墓地を使用していた(乙22参照)。 このこと自体が,被告A寺が江戸時代から本件墓地を管理運営してきたことの証左である。 イ江戸時代でも,a村には,被告A寺以外に,b寺とc寺があった。 しかし,b寺は真言宗に属し,加持祈祷を旨とする修験道の道場であり,「寺」ではないので,a村内に檀家はなかった。それに,b寺は被告A寺の檀家でもあった。また,c寺は黄檗宗であり,いわゆる禅宗の一派であったので,多くの檀家を抱えて檀家回りをするような寺院ではなかった。 そのため,被告A寺だけがa村内で多くの村民を檀家として抱えており,本件墓地の管理運営は被告A寺だけが行っていた。 (2) 明治時代から昭和20年まで明治の始めに地券制度が,次いで登記制度が実施されたが,その頃から本件墓地はa村の所有とされ,旧土地台帳上も本件墓地の所有者はa村と登録された(神戸地方法務局東神戸出張所登記官の回答書添付の旧土地台帳参照)。そして,明治21年に旧 制度が実施されたが,その頃から本件墓地はa村の所有とされ,旧土地台帳上も本件墓地の所有者はa村と登録された(神戸地方法務局東神戸出張所登記官の回答書添付の旧土地台帳参照)。そして,明治21年に旧財産区制度が設けられ,本件墓地は旧a財産区の所有となった。 しかし,本件墓地は,明治以降も,引き続き被告A寺だけが管理運営してきた。そして,被告A寺は,大正時代以降,本件墓地の新規使用者から永代使用料を徴収するようになった。旧a財産区が,本件墓地を管理運営したり,本件墓地の新規使用者から永代使用料を徴収した事実は一切ない。被告A寺以外の宗教法人が本件墓地を管理運営した事実もない。 被告A寺は,昭和11年,本件墓地(東西墓地)を測量し,東西両墓地の全体像を明確にするとともに,永代使用権者による各使用区画も図面化して,どの区画が誰の永代使用権の対象であるかを明確にして(乙10,11),本件墓地の管理運営の拠り所とした。 (3) 昭和20年から現在までア被告A寺による管理運営本件墓地は,昭和20年以降も現在に至るまで,引き続き被告A寺が管理運営している。被告A寺は,戦後も,新規使用者から永代使用料を徴収し,当該新規使用者が特定の区画を永代使用権者として専属的に使用することを認めてきた。例えば,原告甲も,昭和62年,被告A寺に対し永代使用料を支払って(乙6,7),本件墓地内に永代使用権を取得している。 そして,昭和のある時期まで,東墓地についてはd氏が,西墓地についてはe氏及びf氏が,ボランティアで墓地の清掃等に当たっていたので,年2回ほど,被告A寺から薄謝を進呈して感謝の意を示してきた。そして,同人らが亡くなった後は,被告A寺の費用負担で本件墓地を清掃している。西墓地の水道料も被告A寺 で墓地の清掃等に当たっていたので,年2回ほど,被告A寺から薄謝を進呈して感謝の意を示してきた。そして,同人らが亡くなった後は,被告A寺の費用負担で本件墓地を清掃している。西墓地の水道料も被告A寺が負担してきた(乙6)。 また,被告A寺は,被告A寺の費用負担で,東墓地全体を防御する柵を設置したり,西墓地の大きな古木を伐採したり,西墓地の南側の防御ネットを改修したりしている。さらに,被告A寺は,平成4年から5年にかけて,数百万円もの費用をかけて,前後3回にわたり,朝日新聞と神戸新聞に,本件墓地使用者についての無縁墓地の公告をして,本件墓地使用者を明確にする作業を行っている。 現在では,本件墓地を使用している者のうち,被告A寺の檀家の割合は35%にすぎず,残り65%は被告A寺以外の檀家である。しかし,現在に至るまで,終始一貫して,被告A寺以外の宗教法人が本件墓地の一部でも管理運営した事実はなく,被告A寺だけが本件墓地を管理運営してきた。 イ a財産区のかかわり戦前の旧財産区は,戦後の地方自治法において,財産区(地方自治法294条ないし297条)に引き継がれ,本件墓地はa財産区の所有となった。そして,昭和56年4月には,a財産区管理会が設置された(乙14-2329・7・3頁)。 昭和35年の不動産登記法の改正によって,土地台帳と登記簿の一元化が実現化された後は,本件墓地の登記簿(乙18,19)の表題部に所有者としてa村と記載された。しかし,a財産区が,戦後も本件墓地を管理運営した事実は一切なく,本件墓地の新規使用者から永代使用料を徴収した事実もない。 それゆえ,a財産区管理会は,平成11年12月4日,本件墓地の管理運営並びに使用等全般については,慣習により被告A寺に全面的に委託 ,本件墓地の新規使用者から永代使用料を徴収した事実もない。 それゆえ,a財産区管理会は,平成11年12月4日,本件墓地の管理運営並びに使用等全般については,慣習により被告A寺に全面的に委託するということで,確認している。この確認の決議には,原告乙もa財産区管理委員として出席し,決議に賛成している(乙8)。 ウ告訴事件a財産区評議委員のgは,昭和59年,本件墓地がa財産区所有であるのに,墓地の永代使用料が何故被告A寺に入金されるのかと疑問を呈し,当時の被告A寺総代で会計担当のh(原告丙の父)と,同総代のC林太郎(被告Cの父)を,神戸地方検察庁に刑事告訴した。 そこで,神戸地方検察庁検察官は,h,i,被告A寺住職らから事情聴取し,さらに事実関係を捜査して,被告A寺が本件墓地の永代使用料を徴収するのは,「古来よりの習慣(慣例)によるもの」と認め,h,iに対し不起訴処分とした。 (4) 西墓地の阿弥陀如来象西墓地には,現在も阿弥陀如来象が安置されている(乙2-写真①の左上参照)。これは,元々,西墓地の中心部に安置されていた「迎ヒ仏」(乙11の図面中央部やや下に記載)を移設したものである。 この「迎ヒ仏」があった西墓地の中心部は「火葬場」となっており,既に江戸時代の後期から西墓地では火葬が実施されていた。通夜,葬儀を終えた遺体はこの火葬場に運ばれ,被告A寺の住職によって「迎ヒ仏」の前で「引導」が渡され,荼毘に付されるのが常であった。 被告A寺は浄土宗であり,その本尊はいうまでもなく阿弥陀如来である。 かように,阿弥陀如来象が「迎ヒ仏」として西墓地に安置されている事実は,正に,被告A寺が,江戸時代から現在に至るまで,営々と本件墓地を管理運営してきたことの証左でもある。 もなく阿弥陀如来である。 かように,阿弥陀如来象が「迎ヒ仏」として西墓地に安置されている事実は,正に,被告A寺が,江戸時代から現在に至るまで,営々と本件墓地を管理運営してきたことの証左でもある。 3 墓地管理費の請求被告A寺役員会では,平成4年9月頃から,a東・西墓地管理規則(本件管理規則)を制定し,墓地永代使用権者から墓地管理料を徴収できないかと検討を始め,約4年間にわたり継続審議を重ねた上,平成10年6月,a東・西墓地管理台帳を作成し,墓地永代使用権者全員に対し,墓地管理費(年間5000円ないし6000円を基本とする)の納入を依頼した(乙3,乙4の1・2)。 その結果,墓地永代使用権者の大多数から賛同を得て,被告A寺に対し,異議なく墓地管理費が納入されるようになった。その金額は,a地区居住者が年間5000円,j地区居住者が年間6000円を基本とし,被告A寺の檀家は非檀家よりも1000円安い金額である。現在では,本件墓地永代使用権者のうち,墓地管理費の支払を拒否している者は,原告ら5名を除くと,わずか1名にすぎない。 そして,被告A寺の役員会は,平成11年2月,別紙記載のa東・西墓地管理規則(本件墓地管理規則)を改訂し,被告A寺は,現在,本件墓地管理規則に基づき,本件墓地に永代使用権を有する者(原告ら5名を含む。)に対し,墓地管理費の支払を請求している。 第3 被告ら主張(抗弁)の検討 1 抗弁(1)(地上権の取得)について(1) 本件墓地の管理運営収益権能前記第2の2(本件墓地の管理運営について)によると,次のとおり認めることができる。 ア本件墓地は,江戸時代から,a村の村民のための共同墓地として使用されてきたが,その管理運営収益等の一切は,江戸時代から現在に至るまで,被告A寺だけが営 次のとおり認めることができる。 ア本件墓地は,江戸時代から,a村の村民のための共同墓地として使用されてきたが,その管理運営収益等の一切は,江戸時代から現在に至るまで,被告A寺だけが営々と執り行ってきた。そして,被告A寺は,大正時代以降,本件墓地の新規使用者から永代使用料を徴収するようになった。 イこの被告A寺の本件墓地に対する管理運営収益権能はかなり強大なものであり,その永続性,直接支配性といった実体的な性格に照らすと,所有者たるa村(a財産区)に対する利用請求権などといった債権的なものにとどまらず,物権たる地上権(無償かつ期限の定めのない地上権,民法265条,266条,268条参照)というべきである。 (2) 地上権の取得ア前記第2の2(本件墓地の管理運営について)によると,本件墓地は,旧土地台帳,登記簿上,a村(a財産区)の所有に属するものとされてきた。前記(1)イの地上権は,明治時代に入って地券制度が制定され,遅くとも登記制度が整った時点において,a村と被告A寺との間で明示もしくは黙示の合意によって成立したものと推認できる。 イ仮にしからずとしても,被告A寺は,地券制度が制定され,登記制度が整った時点以降も,現在に至るまで,100年以上にもわたり,地上権者として,平穏かつ公然と本件墓地を占有して管理運営収益を継続してきたものであるから,本件墓地の地上権(無償かつ期限の定めのない地上権)を時効取得したものと認めることができる。 2 抗弁(2)(本件墓地管理費を請求できる根拠)について前記第2の1(被告A寺),同3(墓地管理費の請求)の事実に,上記第3の1(地上権の取得)の判断を総合すると,次のとおり認めることができる。 (1) 被告A寺は,本件墓地の地 いて前記第2の1(被告A寺),同3(墓地管理費の請求)の事実に,上記第3の1(地上権の取得)の判断を総合すると,次のとおり認めることができる。 (1) 被告A寺は,本件墓地の地上権の内容である本件墓地に対する管理運営収益権能に基づき,本件墓地管理規則を制定し,平成10年6月以降,本件墓地の永代使用権者に対し,墓地管理費の支払を請求するようになった。 (2) 原告らは,いずれも,本件墓地上に永代使用権を有するものであるから,被告A寺に対し,本件墓地管理規則に基づき墓地管理費を支払う義務がある。 第4 結論以上によると,原告らの本件債務不存在確認請求は理由がないので,これを棄却し,主文のとおり判決する。 神戸地方裁判所第2民事部裁判官紙浦健二
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