平成13(行コ)11 甘木市に代位して行う損害賠償請求控訴

裁判年月日・裁判所
平成14年6月14日 福岡高等裁判所
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判決文本文6,755 文字)

主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は控訴人らの負担とする。 事実及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は,甘木市に対し,金1億円及びこれに対する平成9年12月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 事案の要旨本件は,被控訴人が甘木市の市長として在任中に,同市が,同市内の原判決別紙物件目録記載の各土地(以下,同各土地を総称して「本件土地」という。)上に廃棄物処理施設(以下「本件廃棄物処理施設」という。)を建設する計画を有していたA株式会社及びBから,本件廃棄物処理施設の建設を巡るAと反対住民間の紛争を解決するため,本件土地を補償費を含め6億3500万円で買い受けたことに関し,この売買代金の支出は地方自治法138条の2,地方財政法2条1項,3条1項,4条1項等に反する違法な公金支出に当たるとして,同市の住民である控訴人らが,被控訴人に対し,地方自治法242条の2第1項4号に基づき,同市に代位して,違法な公金支出により甘木市が被った損害である5億7412万円のうち1億円(債務不履行ないし不法行為)及びこれに対する訴状送達日の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案であり,原審は,控訴人らの請求を棄却したことから,控訴人らが控訴を申し立てたものである。 2 本件の事案の概要(争いのない事実ないし証拠等により容易に認められる事実,争点,争点に関する当事者の主張)は,次の3のとおり,当審における主張を補充するほかは,原判決の「第二事案の概要」の「一争いのない事実ないし証拠等により容易に認められる事実,二争点,三争点に関する当事者の主張」欄記載のとおりであるから,これを引用する。 ただし,原判決36頁2行目から5 二事案の概要」の「一争いのない事実ないし証拠等により容易に認められる事実,二争点,三争点に関する当事者の主張」欄記載のとおりであるから,これを引用する。 ただし,原判決36頁2行目から5行目を「(10) 同月29日,市議会臨時議会において,本件土地の買収(以下「本件買収」という。)議題が全員異議なく可決され,右買収に関する6億3500万円の補正予算議題は,賛成多数で可決承認された(以下「本件議決」という。)。(乙3,4,丙53,79の21頁)」と訂正する。 3 当審における当事者の主張(1) 控訴人ら本件土地の買収が公金を支出して行われる以上は,「最小経費・最大効果の原則」(地方自治法2条13項)及び「必要最小限の原則」(地方財政法4条1項)が適用されるべきであり,その買収価額にはおのずと限度があり,その限度を超えた場合には裁量権を逸脱したものとして当該買収は違法となる。 これまでの同種裁判例によれば,裁量権の範囲である買収価額の限度を画するものは,鑑定等によって明らかにされる適正価額ないし正常価額であり,極めて特別な事情がない限り,適正価額の2倍を超えて買収した場合には,裁量権の逸脱と判断されるべきである。 本件では,本件土地の適正価額は,鑑定価額である6088万円というべきであり,極めて特別な事情もない本件では,少なくともこの適正価額の2倍を超える買収価額部分は,被控訴人が裁量権を逸脱したというべきであって違法である。 また,本件において,補償費名目として支出された4億円は,処分場が稼働していない以上は,これを支出すべき理由がなく,全額が裁量権を逸脱した違法な支出というべきである。 したがって,裁量権の範囲を超える買収価額部分は違法な支出であるから,その内金である1億円については,控訴人らが求めているとおり,被 理由がなく,全額が裁量権を逸脱した違法な支出というべきである。 したがって,裁量権の範囲を超える買収価額部分は違法な支出であるから,その内金である1億円については,控訴人らが求めているとおり,被控訴人が甘木市に損害賠償すべきである。 (2) 被控訴人控訴人らの主張は争う。 原審で主張したとおり,用地買収等の対価の決定については地方公共団体の長に広範な裁量権があるものと解すべきであり,例外的に,合理的理由がないのに必要性の乏しい土地を取得した場合や合理的理由がないのに適正価格より著しい高額で土地を取得した場合等にのみ裁量権逸脱の問題(違法性の問題)が生じると解すべきである。 そして,行政の裁量権の範囲内か否かの判断に当たっては,単に経済的合理性の面だけではなく,買収を決意した目的,社会的,政策的背景事情,契約締結に至る交渉経緯,交渉相手方の個性等様々な状況を総合しての判断がなされるべきであり,控訴人らが主張する裁判例もこのような見解に立って個別の事情に応じて判断しているに過ぎず,それぞれの事件が有する個性を度外視し,もっぱら金額のみを取り上げて正常価額ないし適正価額なるものとの比較において,裁量権の範囲内か否かを決めた裁判例はない。 第3 争点に対する判断 1 当裁判所も原判決と同様に控訴人らの本訴請求は理由がないものと判断する。 その理由は,次の2のとおり,当審における主張に対する判断を補充するほかは,原判決の「第三争点に対する判断」欄記載のとおりであるから,これを引用する。 2 当審における主張に対する判断(1) 控訴人らは,「本件土地の買収が公金を支出して行われる以上は,「最小経費・最大効果の原則」(地方自治法2条13項)及び「必要最小限の原則」(地方財政法4条1項)が適用されるべきであり,その買収価額にはおのずと限 「本件土地の買収が公金を支出して行われる以上は,「最小経費・最大効果の原則」(地方自治法2条13項)及び「必要最小限の原則」(地方財政法4条1項)が適用されるべきであり,その買収価額にはおのずと限度があり,その限度を超えた場合には裁量権を逸脱したものとして当該買収は違法となる」と主張する。 しかし,前記説示のとおり,地方自治法及び地方財政法の規定は,地方公共団体の財産取得について具体的な規制をするものではないと解されること,地方公共団体の長による財産取得契約の締結ないしその対価の決定は長の裁量に委ねられた行為であると考えられること等を総合すると,長においてその裁量権を濫用もしくは逸脱し,土地取得の必要性との関連で合理的な理由なく著しく高額な価格で財産を取得する契約を締結し,当該地方公共団体に債務を負担させた場合には,当該行為は違法と評価され,長は当該地方公共団体に対し損害賠償責任を負うものと解するのが相当である。 また,土地の取引価格は,経済的要因のみならず,当該取引の当事者の個別的,主観的な事情等の複雑な要素によって決定されるのであって,その要素次第で大きく変動する性質のものであることに鑑みると,土地を取得すべきかどうか,とりわけその対価がどうあるべきかについては,地方公共団体の長に広範な裁量権があるものと解されるから,前記説示のとおり,長の裁量権の濫用ないし逸脱の有無の判断にあたっては,当該財産取得の目的,この目的に照らした当該財産取得の必要性,契約締結に至る経緯(相手方の交渉態度ないしそれに対する長の対応)及び取得価格の当否等を総合的に検討して判断するべきである。 この点,控訴人らは,「これまでの同種裁判例によれば,裁量権の範囲である買収価額の限度を画するものは,鑑定等によって明らかにされる適正価額ないし正常価額であり, 的に検討して判断するべきである。 この点,控訴人らは,「これまでの同種裁判例によれば,裁量権の範囲である買収価額の限度を画するものは,鑑定等によって明らかにされる適正価額ないし正常価額であり,極めて特別な事情がない限り,適正価額の2倍を超えて買収した場合には,裁量権の逸脱と判断されるべきである」と主張するが,前記のとおり土地の取引価格の決定要因が複雑な要素によることに鑑みれば,そのような画一的基準に依拠するのは相当ではなく,前記のような総合的判断によるのが相当である。 (2) ところで,確かに,控訴人らが主張するように,平成9年7月23日当時の本件土地の正常価格は,6088万円であると認められる。また,この6088万円と本件買収価額である6億3500万円と比較すると,その金額の乖離は著しいといわざるを得ず,また買収価額中の土地代金とされている2億3500万円と比較してもその金額に2倍以上の開きがあり,補償費のうち環境調査費について,Aから実際に業者に支払われた金額が5585万1479円であり,本件価額申入書に係るA提示金額である1億9394万5370円とは相当の開きがあるのみならず,申入書中土地代金の中に含まれているとされる基本計画土質調査費も5585万1479円に含まれているものと認められる。したがって,長の裁量権の範囲内であるかどうかの判断が総合的判断によるものとしても,このように正常価格と本件買収価格との間に相当程度の乖離が存在すること等に鑑みると,本件買収価額の金額が適正価額ではないとする控訴人らの主張にもかなりの理由があると考えられる。 しかし,前記認定の事実によれば,本件買収の目的は,本件廃棄物処理施設建設に係る長年に亘る紛争を最終的に解決するとともに,水源地である本件建設予定地に廃棄物処理施設を建設させないことを図 られる。 しかし,前記認定の事実によれば,本件買収の目的は,本件廃棄物処理施設建設に係る長年に亘る紛争を最終的に解決するとともに,水源地である本件建設予定地に廃棄物処理施設を建設させないことを図ったものであり(なお,被控訴人が本件土地で遮断型の廃棄物処理場を建設する案がありうることを想定していたとしても,甲127によれば,それはあくまで一案としてと考えていたにとどまり,具体的な想定をしていたものではないと認められるのであるから,そのことが前記のように本件買収の目的を認定することの妨げとなるものではない。),Aによる本件廃棄物処理施設建設計画と,これに対する大規模・継続的かつ多数の反対運動が行われ,かつ,市議会においても反対請願が採択されていた状況の下,この紛争を終息させる方法の選択は,高度に政治的,政策的な裁量判断に属する事項であると考えられるところ,このような高度の政治的,政策的判断に基づく買収及びそれによってもたらされる紛争の終息という結果は,単純に金銭に評価し難い大きな価値を有すると認められる。 そして,市長選において本件建設予定地に廃棄物処理施設を建設させないことを公約の一つとしていた被控訴人は,市議会において,本件土地を買収することを念頭に紛争の解決を図る意向であることを表明しており,最終的に本件議決を得ていること,また,甲129によると,平成9年7月23日の市議会全員協議会において,被控訴人が買収額につき6億3500万円でAと合意したことを報告した際,一部から金額が高すぎるのではないかとの意見もあったが,賛成する意見も述べられ,これを容認しないという意見が大勢を占めなかったことが認められるのであり,このように被控訴人が独断・独走して本件買収を行ったものでないという事情は,議会の議決を経ていることの一事をもって被控訴人 ,これを容認しないという意見が大勢を占めなかったことが認められるのであり,このように被控訴人が独断・独走して本件買収を行ったものでないという事情は,議会の議決を経ていることの一事をもって被控訴人の行為の違法性が阻却されるものではないとしても,高度に政治的,政策的な裁量判断に属する本件において,被控訴人の裁量権逸脱の有無を判断する上で無視できない事情というべきである。 さらに,県の裁定結果の見通しは四者協議会の協議結果に拘わらず不確定なものであり,県の裁定前に買収することは政策的,合目的的判断として合理性を有すると考えられ,また,仮に本件Aのした一般廃棄物処理施設設置許可申請(一廃許可申請)に係る県の裁定結果が不許可であったとしても,本件建設予定地上における本件廃棄物処理施設建設をAが断念する保証がない以上,地元住民とAとの紛争が終息する保証はないことも併せ考えれば,前記の本件買収の目的に照らして,県の裁定前における本件買収の必要性も相当程度認められるというべきある。 もっとも,本件買収に至る経緯については,確かに,Aからの本件買収代金額の提示を待った上で,提示金額につき一括して減額交渉をするというものであり,要綱を一応の基準とするようなものではなく,不動産鑑定を活用したり,Aの提示金額の積算根拠を検証する等して適正金額を算出することもなく,また,四者協議会の協議経過も十分踏まえた上で県の裁定の見通しを立てて交渉に臨んではいないことが認められる。 しかし,Cは,本件買収価額申入書記載の提示金額の根拠資料について,通帳及び領収書の一部以外は開示しようとする意思がなく,開示を執拗に求められるようであれば,交渉を打ち切る態度を示していたこと,Cの経歴等からして,交渉を打ち切って本件廃棄物処理施設建設計画を続行しても構わないという態度が 開示しようとする意思がなく,開示を執拗に求められるようであれば,交渉を打ち切る態度を示していたこと,Cの経歴等からして,交渉を打ち切って本件廃棄物処理施設建設計画を続行しても構わないという態度が虚勢ではないと被控訴人ないし甘木市担当者が考えたとしても無理からぬところがあること,Aは,平成3年以来6年間余に亘り本件土地上に産業廃棄物処理施設建設計画を進めてきており,その投下資本は本件買収交渉上無視できないものであり,前記の正常価格6088万円が直ちに本件買収の適正金額であるということはできず,Aの本件廃棄物処理施設建設計画に係る投下資本(土地取得代金,環境調査費等)が本件買収価額に反映されてしかるべきであるところ,その正確な金額は,本件全証拠をもってしても直ちに確定し得るものではないこと,これに加え,県行政手続条例施行規則上,県知事による本件一廃許可申請に対する裁定が平成9年10月9日までに下される予定であり,県の裁定が下される前に買収を行うことにより本件紛争を抜本的に解決しようとする被控訴人の本件買収の目的に照らし,Aとの交渉には一応の時的限界が存在していたことに照らせば,被控訴人ないし甘木市担当者の本件買収交渉における前記の姿勢ないし考え方が,前記認定の本件買収の目的及び必要性との対比において,著しく不当であったと断ずることはできないし,補償費等の裏付資料が不十分であったとしても,時的限界のなかで,そのような事情をも踏まえた政治的,政策的判断をしたことが著しく不当であったと断定することもできない。。 以上まとめると,前記説示のとおり,本件買収が,長年に亘るAと反対住民間の紛争を解決し,甘木市民の生活ないし同地域の平穏を回復するという,地方自治行政の立場から見ても極めて有益な目的の下に行われたものであって,行政上この紛争をいかに 件買収が,長年に亘るAと反対住民間の紛争を解決し,甘木市民の生活ないし同地域の平穏を回復するという,地方自治行政の立場から見ても極めて有益な目的の下に行われたものであって,行政上この紛争をいかにして終息させ,そのためにいかなる方法を選択するかということは高度に政治的,政策的な裁量判断に属する事項に係るものであり,そのような性質を有する本件買収につき,被控訴人は独断・独走して決定したものではなく市議会の議決も得ていること,そして本件買収によってもたらされた紛争の終息という結果は単純に金銭に評価し難い大きな価値を有すること,また,本件土地取得の必要性,本件買収に至る経緯等をも考慮すると,正常価格と本件買収価格との間に相当程度の乖離が存在するとしても,Cとの交渉の結果合意された本件買収価額が著しく不当な価額であると断定することはできず,被控訴人の行為に前記目的に照らし著しく不当な点があったとまでは認められないから,本件買収を行った被控訴人の行為に裁量権の逸脱,濫用があるということはできない。 3 よって,控訴人ら主張の損害について検討するまでもなく,控訴人らの本訴請求は理由がないから,原判決は相当である。 福岡高等裁判所第1民事部裁判長裁判官宮良允通裁判官石井宏治裁判官野島秀夫

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