主文 原判決中上告人らに関する部分を破棄する。 右部分につき本件を高松高等裁判所に差し戻す。 理由 上告代理人矢野真之、同青野秀治、同菅原辰二の上告理由について一上告人らの本件訴えは、被上告人が公有水面埋立法二条、港湾法五八条二項に基づいてした今治港の港湾区域内の公有水面の埋立免許(以下「本件埋立免許」という。)が瀬戸内海環境保全特別措置法一三条等に違反する違法なものであるから、これに基づいて今治市が行う埋立工事(以下「本件埋立て」という。)も違法であり、したがって、本件埋立てのために被上告人のする公金の支出(以下「本件公金支出」という。)もまた違法であるとして、地方自治法二四二条の二第一項一号に基づき、被上告人に対し本件公金支出の差止めを請求する、というものである。 二右訴えにつき、原審は、(一) 本件訴えの請求の趣旨は、差止請求の対象を本件埋立免許に基づく一切の財務会計上の行為としているものと解すべきところ、右行為としては多数に及ぶものが考えられるのにそれ以上には特定されず、また、これを公金の支出に限定するとしても、なおその特定が不十分であり、したがって、当該財務会計上の行為がされるということが相当の確実さをもって予測されるかどうかにつき、判断することもできない、(二) 本件訴えは、上告人らが海浜公園であるaの自然環境を保全すべき権利が侵害されたとしてその救済を求めるものであるところ、このような権利の救済について、憲法上第一次的な責任を負う者は立法機関、行政機関であるから、裁判所にこのような訴訟を提起するためには、請願等の一定の手続を前置すべきであり、そのような手続を経ていない本件訴えは、争訟性を欠いており、いずれにしても本件訴えは不適法であるとして、上告人らの請求を棄却 このような訴訟を提起するためには、請願等の一定の手続を前置すべきであり、そのような手続を経ていない本件訴えは、争訟性を欠いており、いずれにしても本件訴えは不適法であるとして、上告人らの請求を棄却した第一審判決を取り消し、本件訴えを却下する判決をした。 - 1 -三しかしながら、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。 地方自治法二四二条の二第一項一号の規定による住民訴訟の制度は、普通地方公共団体の執行機関又は職員による同法二四二条一項所定の財務会計上の違法な行為を予防するため、一定の要件の下に、住民に対し当該行為の全部又は一部の事前の差止めを裁判所に請求する権能を与え、もって地方財務行政の適正な運営を確保することを目的としたものである。このような事前の差止請求において、複数の行為を包括的にとらえて差止請求の対象とする場合、その一つ一つの行為を他の行為と区別して特定し認識することができるように個別、具体的に摘示することまでが常に必要とされるものではない。この場合においては、差止請求の対象となる行為とそうでない行為とが識別できる程度に特定されていることが必要であることはいうまでもないが、事前の差止請求にあっては、当該行為の適否の判断のほか、さらに、当該行為が行われることが相当の確実さをもって予測されるか否かの点及び当該行為により当該普通地方公共団体に回復の困難な損害を生ずるおそれがあるか否かの点に対する判断が必要となることからすれば、これらの点について判断することが可能な程度に、その対象となる行為の範囲等が特定されていることが必要であり、かつ、これをもって足りるものというべきである。このような観点からすると、例えば、特定の工事の完成に向けて行われる一連の財務会計上の行為についてその差止めを求めるような されていることが必要であり、かつ、これをもって足りるものというべきである。このような観点からすると、例えば、特定の工事の完成に向けて行われる一連の財務会計上の行為についてその差止めを求めるような場合には、通常は、右工事自体を特定することにより、差止請求の対象となる行為の範囲を識別することができ、また、右特定の工事自体が違法であることを当該行為の違法事由としているときは、当該行為を全体として一体とみてその適否等を判断することができるというべきであるから、右工事にかかわる個々の行為の一つ一つを個別、具体的に摘示しなくても、差止請求の対象は特定されていることになるものというべきである。 - 2 -これを本件についてみるのに、前記の上告人らの本件訴えの内容からすると、本件の請求は、本件埋立て等に関して被上告人のする一切の公金の支出の包括的な差止めをその趣旨とするものであり、専ら本件埋立免許及びそれに基づく本件埋立てが違法であることを理由とし、そのため本件埋立免許を前提として今後被上告人のする本件埋立ての完成に向けての一連の経費の支出も包括的に違法なものになるとして、その差止めを求めていることが明らかである。そうすると、本件訴えにおいては、差止請求の対象となる本件公金支出の範囲を識別することができ、また、これを全体として一体とみてその適否を判断することが可能であり、さらに、これが行われることが相当の確実さをもって予測されるか否か、回復困難な損害が生ずるか否かの点をも判断することが可能であるから、請求の趣旨の特定として欠けるところはないものというべきである。 また、前記のような住民訴訟の制度を地方自治法が認めていることからして、本件訴えが争訟性を欠き不適法なものであるとすることができないことは明らかである。 そうすると、上告人らの本件訴え である。 また、前記のような住民訴訟の制度を地方自治法が認めていることからして、本件訴えが争訟性を欠き不適法なものであるとすることができないことは明らかである。 そうすると、上告人らの本件訴えを不適法として却下した原判決には、法令の解釈適用を誤った違法があり、右違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は理由がある。よって、原判決中上告人らに関する部分を破棄し、右部分につき本件を原審に差し戻すこととする。 よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官園部逸夫の補足意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。 裁判官園部逸夫の補足意見は、次のとおりである。 私はかねて、住民訴訟については、住民監査請求の場合と異なり、地方自治法二四二条の二第一項所定の各種の請求としてかなり厳格な訴訟上の法理を適用して争われるものである以上、その対象は一定の具体的な財務会計上の行為又は怠る事実- 3 -(以下、財務会計上の行為又は怠る事実を「当該行為等」という。)に限定されるという見解を抱いているものであるが(最高裁平成元年(行ツ)第六八号同二年六月五日第三小法廷判決・民集四四巻四号七一九頁における私の反対意見参照)、当該行為等がどの程度特定されれば請求の対象として具体性があると認められるかは、前記各請求の法的性格によっておのずから異なるのではないかと考えている。本件住民訴訟は、右一項一号の規定による事前の差止請求であるから、当該行為等の特定の度合いは、他の請求の場合と比較して、事の性質上、より緩やかなものとならざるを得ない。もし、事前の差止請求についても他の請求と同程度の個別具体的な特定を要求するとすれば、右一号請求の運用はほとんどの場合不可能となろう。そのような解釈は、住民訴訟を定めた地方自治法の趣旨 ざるを得ない。もし、事前の差止請求についても他の請求と同程度の個別具体的な特定を要求するとすれば、右一号請求の運用はほとんどの場合不可能となろう。そのような解釈は、住民訴訟を定めた地方自治法の趣旨に反するもので、賛成することができない。現行の住民訴訟制度には立法上整備すべき点が多々あるが、一号請求の対象要件に関する現行法の解釈としては、私は、法廷意見の解釈が妥当と考えるのである。 最高裁判所第三小法廷裁判長裁判官貞家克己裁判官園部逸夫裁判官佐藤庄市郎裁判官可部恒雄裁判官大野正男- 4 -
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