主文 1 原判決を次のとおり変更する。 (一) 被控訴人委員会が平成12年11月16日付けでした個人情報一部開示決定(教義2第11-4号)のうち,平成10年度末人事異動に係る内申書全部並びに「教職員調査一覧表並びに年度末人事についての意見書」のうち,「出勤状況」及び「特技・特能」欄を開示しないとの部分を取り消す。 (二) 被控訴人山梨県は,控訴人に対し,金5万円を支払え。 (三) 控訴人のその余の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は,第1,第2審を通じてこれを2分し,その1を控訴人の負担とし,その余は被控訴人らの負担とする。 3 この判決の主文1の(二)は,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 控訴人(一) 原判決を次のとおり変更する。 (1) 被控訴人山梨県教育委員会が平成12年11月16日付けでした個人情報一部開示決定(教義2第11-4号)のうち,平成10年度末人事異動に係る内申書全部並びに「教職員調査一覧表並びに年度末人事についての意見書」のうち「出勤状況」,「特技・特能」,「勤務等の状況」,「意見」及び「意見に対する説明」に係る記入欄を開示しないとの部分を取り消す。 (2) 被控訴人山梨県は控訴人に対し,金10万円を支払え。 (二) 訴訟費用は,第1,第2審とも被控訴人らの負担とする。 2 被控訴人ら(一) 本件控訴をいずれも棄却する。 (二) 控訴費用は控訴人の負担とする。 第2 事案の概要及び争点 1 事案の概要(一) 控訴人は,地方教育行政の組織と運営に関する法律(平成13年7月11日法律第104号による改正前のもの。以下「地教行法」という。)37条による山梨県の県費負担教職員であるが,平成10年度末の人事異動において,その意に反する異動を受けたとして,被控訴人委員会に対し, 日法律第104号による改正前のもの。以下「地教行法」という。)37条による山梨県の県費負担教職員であるが,平成10年度末の人事異動において,その意に反する異動を受けたとして,被控訴人委員会に対し,山梨県個人情報保護条例(以下「本件条例」という。)に基づき,地教行法に基づき作成された平成10年度末人事異動に係る「内申書」(以下「本件内申書」という。)及び「教職員調査一覧表並びに年度末人事についての意見書」(以下「本件意見書」という。)に記載された個人情報の開示を求めた。 (二) 被控訴人委員会は,本件内申書全部並びに本件意見書のうち「出勤状況」,「特技・特能」,「勤務等の状況」,「意見」,「意見に対する説明」に係る記入欄(以下「本件意見書記入欄」という。)及び注意書きの4に記載されている「留任についての説明書き」(以下「本件説明書き」という。)に記載された情報を除き,その余の部分を開示するとする一部開示決定(以下「本件決定」という。)をしてこれを控訴人に通知した。 (三) 控訴人は,これを不服として,被控訴人委員会に対し,本件決定中の非開示部分の取消しを求め,また,本件決定により,精神的損害を被ったとして,被控訴人山梨県に対し,国家賠償法1条による損害賠償請求権に基づき,金10万円の支払を求めた。 (四) 原判決は,被控訴人委員会に対する請求中,本件内申書全部の開示をしなかった部分の取消しを認容し,被控訴人山梨県に対する請求を金5万円の限度で認容し,その余の請求を棄却したので,控訴人が控訴提起したが,控訴人は,当審においては本件意見書中の本件説明書きについては控訴の対象から除外した。 2 前提となる事実本件において前提となる事実は,原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」中「1 争いのない事実等」欄に記載のとおりであるから,これ 書きについては控訴の対象から除外した。 2 前提となる事実本件において前提となる事実は,原判決の「事実及び理由」中の「第2 事案の概要」中「1 争いのない事実等」欄に記載のとおりであるから,これを引用するが,これを要約して再説すれば,以下のとおりである。 (一) 控訴人は,山梨県の県費負担教職員であり,平成11年4月ころ,α町立α小学校からβ町立γ小学校への転任処分を受けた(以下「本件転任処分」という。)。 (二) このため,控訴人は,本件条例に基づき,被控訴人委員会に対し,平成12年11月2日,本件転任処分の根拠となった本件内申書及び本件意見書の開示請求をした。 (三) 本件意見書は,平成10年度末定期人事異動のため,当時のα町立α小学校の校長が地教行法39条に基づき作成し,α町教育委員会に提出し,同委員会から被控訴人委員会に提出した文書であり,その様式は原判決別紙1のとおりである。 また,本件内申書は,平成10年度末定期人事異動のため,α町教育委員会が地教行法38条2項に基づき,教育長の助言により作成し,被控訴人委員会に提出した文書であり,その様式は原判決別紙2のとおりである。 (四) 被控訴人委員会は,控訴人に対し,平成12年11月16日付けで,開示請求のうち,本件内申書の記載全部について,「個人の評価,選考等に関する情報であって,請求者に開示することにより,当該評価,選考等に著しい支障を及ぼすおそれがあり,本件条例14条1項3号に該当する。また,実施機関と市町村教育委員会との間における検討等に関する情報であって,請求者に開示することにより,将来の検討等に著しい支障を及ぼすおそれがあり,本件条例14条1項5号に該当する」として,また,本件意見書記入欄の記載について,上記内申書と同様の理由で,さらに,本件説明書きについて,「人事 より,将来の検討等に著しい支障を及ぼすおそれがあり,本件条例14条1項5号に該当する」として,また,本件意見書記入欄の記載について,上記内申書と同様の理由で,さらに,本件説明書きについて,「人事異動の方針に関する情報であって,請求者に開示することにより,将来の人事異動の円滑な実施を著しく困難にするおそれがあり,本件条例14条1項6号に該当する」として,これらをいずれも非開示とし,本件意見書のその余の記載部分についてのみ開示する旨の本件決定を行った。 (五) そこで,控訴人は,被控訴人委員会に対し,平成13年1月18日付けで,本件決定につき行政不服審査法6条に基づく異議申立てを行った(以下「本件異議申立て」という。)。 (六) 被控訴人委員会は,平成13年3月1日付けで本件条例23条に基づき山梨県個人情報保護審査会に対し諮問し,同審査会は,同年9月11日付けで,被控訴人委員会に本件決定は妥当である旨の答申を行った。 被控訴人委員会は,同答申を踏まえて,同年10月9日付けで,本件異議申立てを棄却するとの決定をし,その決定は,同月10日控訴人に送達された。 (七) 本件条例には,その13条1項,3項に「何人も,実施機関に対し,行政文書に記録されている自己の個人情報の開示(個人情報が存在しないときにその旨を知らせることを含む。)を請求することができる。」,「実施機関は,開示請求があった場合には,当該開示請求に係る個人情報の開示をしなければならない。」との原則規定があるが,その例外として,「開示しないことができる個人情報」につき次のように定めている。 実施機関は,開示請求に係る個人情報が次の各号のいずれかに該当するものであるときは,前条3項(本件条例13条3項)の規定にかかわらず,当該開示請求に係る個人情報の開示をしないことができる(本件条例 実施機関は,開示請求に係る個人情報が次の各号のいずれかに該当するものであるときは,前条3項(本件条例13条3項)の規定にかかわらず,当該開示請求に係る個人情報の開示をしないことができる(本件条例14条1項柱書)。 (1) 個人の指導,評価,診断,選考等に関する個人情報であって,請求者に開示をすることにより,当該指導,評価,診断,選考等に著しい支障を及ぼすおそれのあるもの(本件条例14条1項3号)。 (2) 県の機関内部若しくは機関相互又は県の機関と国等の機関との間における審議,検討,調査研究等に関する個人情報であって,請求者に開示をすることにより,当該審議,検討,調査研究等又は将来の同種の審議,検討,調査研究等に著しい支障を及ぼすおそれのあるもの(本件条例14条1項5号)。 (3) 県の機関又は国等の機関が行う取締り,検査,監査,争訟,交渉その他の事務に関する個人情報であって,請求者に開示をすることにより,当該事務若しくは将来の同種の事務の実施の目的を失わせ,又はその円滑な実施を著しく困難にするおそれのあるもの(本件条例14条1項6号)。 3 本件の争点(1) 本件決定の違法性(2) 控訴人は,被控訴人委員会の違法な決定により精神的損害を受けたか。 4 当事者の主張次のとおり,当事者双方の主張を敷衍して付加するほか,原判決の「事実及び理由」の「3 当事者の主張」欄に記載のとおりであるから,これを引用する。 (一) 控訴人(1) 本件意見書に記載された情報は,評価,選考に関する個人情報ではない。 原判決は本件意見書に記載された情報を評価,選考に関する個人情報とするが,この情報は,地教行法39条に「学校の校長は,所属の県費負担教職員の任免その他の進退に関する意見を市町村委員会に申し出ることができる」との定めに基づく情報であり,勤務評価に 関する個人情報とするが,この情報は,地教行法39条に「学校の校長は,所属の県費負担教職員の任免その他の進退に関する意見を市町村委員会に申し出ることができる」との定めに基づく情報であり,勤務評価については,同法46条で別途規定されていることからすれば,勤務評価に関する情報ではあり得ない。そして,本件条例6条1項が個人情報の収集は「個人情報を取り扱う事務の目的を明確にし,その目的を達成するために必要な範囲内で収集しなければならない」と規定し,同条4項が「個人情報を・・・収集しなければならない」と規定していることからすれば,本件意見書記入欄に「評価」が記載されるのであれば,あらかじめ,そのことが明確に知らされなければならない。したがって,本件意見書情報は,本来的にはあくまで「評価」に関する情報ではなく,「任免その他の進退に関する」情報であるに過ぎない。 (2) 仮に,本件意見書の記入欄が「評価,選考」に関する情報であるとしても,これは直ちに非開示を意味しない。 元来,開示及び訂正を求める権利は,現代的プライバシーの概念に近いものであり,これは自己情報コントロール権である。個人情報の原則開示が認められるのもこの故である。 そして,1996年にILOの専門家会議で採択された「ILO労働者個人情報の保護実施要綱」の「個人の権利」の項目でも,労働者に自らの全ての個人情報を閲覧する手段が保障され,不正確・不完全な個人情報の削除や修正を要求する権利も保障されている。この要綱は,本件条例の目的を定める1条とも合致するから,本件条例も,この要綱に合致するように解釈運用されるべきである。 このような傾向は,労働省の「労働者の個人情報保護に関する研究報告書」でも,「ユネスコ教員の地位に関する勧告」でも確認されているところであり,個人情報保護法でも規定されて 釈運用されるべきである。 このような傾向は,労働省の「労働者の個人情報保護に関する研究報告書」でも,「ユネスコ教員の地位に関する勧告」でも確認されているところであり,個人情報保護法でも規定されている。 また,教職員の人事考課についても,開示による著しい支障があるとは考えず,むしろ,積極的に開示することが制度趣旨に合致するとして,そのような方向性を打ち出す地方自治体も増えている。例えば,神奈川県では,2003年から「新たな人事評価システム」を打ち出し,その中で評価結果の開示を定め,「評価対象者本人が客観的に自己の状況を確認することを通して,人材育成・能力開発につなげるため,評価結果を開示します。また,公正性・公平性を担保するため,本人からの苦情に対応する仕組みを整えます。」と定めている。香川県は既に評価の開示を実施し,試験的に大阪府もこれを実施し,準備中の埼玉県などもある。民間会社においては,人事考課の納得性が重視され,開示が進んでいるとされる。 (3) 開示されることによる著しい支障はない。 本件意見書記入欄の情報は,「出勤状況」,「特技・特能」,「勤務等の状況」,「意見」及び「意見に対する説明」の5項目である。原判決は,「これらを総合考慮すると,本件意見書開示に伴う上記諸弊害発生のおそれは重大なものであり,人事に係る事務等の適正かつ円滑な執行に著しい支障を及ぼすおそれがあるということができる。」と判断する。 しかしながら,「特技・特能」欄は,多くの場合,校長から本人が尋ねられて記入するのが実情であり,開示されても何らの不都合はない。「意見」欄は,説明書きをも含めて理解すれば,上記各情報のいずれかが担っている「事実」が記載されているに過ぎない。この事実は,開示時点で既に明らかになっているか,地教行法のあり方からすれば,理解できるこ 」欄は,説明書きをも含めて理解すれば,上記各情報のいずれかが担っている「事実」が記載されているに過ぎない。この事実は,開示時点で既に明らかになっているか,地教行法のあり方からすれば,理解できることである。 「出勤状況」,「勤務等の状況」,「意見に対する説明」欄には記入者の主観的評価,判断が含まれるとしても,それらの主観的評価,判断は,事実に基づき,公平公正に評価し,正当な職務遂行,権利行使等を認めた上での「プラス面のみならず,マイナス面」が記載されている筈であり,必要な説明がされれば開示されても十分な理解ができるものである。 このような情報が開示されると,被控訴人委員会が主張し,原判決が認めるような著しい支障がおこるおそれがあるというのは杞憂に過ぎない。記入者は,人格識見を認められ,職員を監督する校長であって,開示により,公平・客観的な評価をしなくなるおそれや,これに対する不満により職務に対する支障などは起こり得ないのが現場の実際である。 (4) かえって,非開示は,行政運用に不正な動機を混在させ,不適切な事務を生じさせる。 原判決は,校長が開示による混乱をおそれて「公平・客観的な評価をしなくなるようになり,ひいては,意見が的確に伝わらない事態が生じるなどして,意見書が適正かつ円滑な人事に係る事務の資料としての機能を果たさなくなる」などと指摘するが,この判断も失当である。 もともと,本件は,控訴人に係る個人情報が誤っていたのではないかとする疑念があり,人事委員会の審理を求めたが,そこでも個人情報が開示されなかったことに端を発している。「意見」欄に「転任」と記載されていれば,控訴人は,納得して新任地での職務に専念していたであろう。しかし,開示されないことは,益々,不正な動機に基づいて手続がされたとの疑念を大きくするだけであった。非 意見」欄に「転任」と記載されていれば,控訴人は,納得して新任地での職務に専念していたであろう。しかし,開示されないことは,益々,不正な動機に基づいて手続がされたとの疑念を大きくするだけであった。非開示を前提とする実務は,不正な動機による処分を正当化させる。地教行法上の手続でも,校長名ではなく,地教委名で書類が作成されていたり,書式が異なっているなどの不適切なあり方が明らかになっている。 このように,本件意見書の情報が非開示であることにより,行政のあり方を不透明にし,弊害を生ぜじめているのである。 前記のとおり,自己情報コントロール権を保護し,行政処分を適正に行うためには,開示が不可欠であるというべきである。 (二) 被控訴人ら本件意見書に記載された各記述欄が開示された場合の諸弊害について(1) 出勤状況この欄には,無断での早退や遅刻,欠勤などの勤務状況を「優秀」,「良好」,「努力を要する」の3段階で評価するものである。開示した場合,当該職員自らの勤務状況につき自覚していない等の場合にはトラブルの要素となる。 (2) 特技・特能校長が管理者として当該職員の特技・特能を,例えば書道や園芸,パソコン等と評価するものである。当該職員が特定の校務分掌を避けたいと考える場合等は,校長と異なる特技・特能を申告する場合もあり,開示により,職場での混乱を来し,適正な記載がされないおそれがある。 (3) 勤務等の状況勤務状況ばかりでなく,当該職員の良さや持味も含めて,総合的かつ具体的・端的に評価するものである。例えば,「遅刻の常習」,「一見合理的に見えるが,指導に熱意が感じられない。」,「真面目に勤務し,教材研究に熱心。」,「人間関係づくりが不得手」というような記載を行う。開示した場合,当該職員との間でトラブル,混乱を生じるおそれがあり,校 えるが,指導に熱意が感じられない。」,「真面目に勤務し,教材研究に熱心。」,「人間関係づくりが不得手」というような記載を行う。開示した場合,当該職員との間でトラブル,混乱を生じるおそれがあり,校長がありのままを記載することができなくなる。 (4) 意見転出を相当とする職員には「転出」というように記載する。異動に係る校長の意見の核心部分である。勤務状況や資質・能力等の評価を総合して導かれるもので,異動に係る結論であって,開示した場合,当該職員の希望や考えと異なることが予想され,混乱を招く。 (5) 意見に対する説明意見に至った理由を述べる部分で,例えば,「いわゆる指導力不足,再研修が必要」,「多様な人間関係構築のために大規模校での勤務が必要」,「学級の保護者との人間関係づくりがうまくいかない現状がある」というように記載される。この部分を開示した場合にも,当該職員との間にトラブルを生じるおそれがあるほか,情報提供者を探索したり追及したりする場合も考えられ,異動事務に混乱を来す。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所は,控訴人の被控訴人委員会に対する請求は,本判決主文1(一)の限度で理由があるが,その余は理由がないものと判断する。 その理由は,次のとおり付加,訂正するほか,原判決の「事実及び理由」の「第 3 当裁判所の判断」欄の1の(1)から(3)まで(原判決12頁26行目から同15頁22行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。 (1) 原判決14頁末行目の「情報が開示された場合」を「情報の全部が開示された場合」と改める。 (2) 同14頁18行目の次に次のとおり加える。 「この点につき控訴人は,本件意見書に記載された情報は,地教行法39条に基づくもので,本件条例6条の規定を併せ考えると,評価又は選考に関する個人情報ではあり得 4頁18行目の次に次のとおり加える。 「この点につき控訴人は,本件意見書に記載された情報は,地教行法39条に基づくもので,本件条例6条の規定を併せ考えると,評価又は選考に関する個人情報ではあり得ないと主張するが,当該情報の内容が上記のとおりである以上,評価又は選考に関する情報であることは明らかであり,地教行法39条に基づく意見にこのような性格の情報が盛り込まれること自体,人事異動という事柄の性質上当然のことであり,何ら異とすることではない。本件条例6条に違反するとの点もこのような情報の性格に照らしてみれば妥当な見解とはいえず,採用することはできない。なお,地教行法46条には,勤務成績の評定について定めがあるが,これはあくまでも,勤務評定を行う主体が市町村委員会であることを定めたに過ぎないから,本件意見書に記載される情報の性質とは何ら関係がない。」(3) 同15頁14行目の「人事に関する事務等」の前に「本件意見書記入欄の全ての記載を開示することは,」を加える。 (4) 同15頁16行目から22行目までを次のとおり改める。 「 以上のとおり,本件意見書記入欄の全部を開示することについては,にわかにこれを是認することはできない。 そこで,本件意見書記入欄の全部開示が認められないとしても,そのうち一部の開示が認められるべきか否かを検討する。 弁論の全趣旨によれば,本件意見書記入欄の各欄に記載される事項は以下のとおりと認められる。すなわち,「出勤状況」欄には,皆勤,無断早退や遅刻,欠勤などの勤務状況を「優秀」,「良好」,「努力を要する」の3段階で評価した結果が記載されるものであり,「特技・特能」欄には,校長が管理者としての客観的視点に基づき,当該職員の特技・特能と認められるものを,例えば,「書道」,「園芸」,「パソコン」等と記載するものであ した結果が記載されるものであり,「特技・特能」欄には,校長が管理者としての客観的視点に基づき,当該職員の特技・特能と認められるものを,例えば,「書道」,「園芸」,「パソコン」等と記載するものであり,「勤務等の状況」欄には,勤務状況だけでなく,当該職員の資質,持味,欠点等を総合的かつ具体的に端的に評価指摘した結果が,例えば,「遅刻の常習」,「一見合理的に見えるが,指導に熱意が感じられない。」,「真面目に勤務し,教材研究に熱心。」,「人間関係づくりが不得手」等というように記載される。また,「意見」欄には,転出を相当とする職員には「転出」というように,異動に係る校長の意見の核心部分が記載される。この記載は,勤務状況や資質・能力等の前記各欄の評価を総合して導かれるもので,異動に係る結論部分である。さらに,「意見に対する説明」欄には,前記「意見」に至った理由が記載され,例えば,「いわゆる指導力不足,再研修が必要」,「多様な人間関係構築のために大規模校での勤務が必要」,「学級の保護者との人間関係づくりがうまくいかない現状がある」というような事項が記載されることが予定されている。 まず,各欄に記載が予定されている上記の事項を比較すると,全体としては,校長が当該職員の任免等の判断に必要な「評価」を情報として提出するというものであるが,その中には,事実的意味合いが強いものと,全人格的な評価やその総合判断結果としての意味合いが強いものとが含まれていることは明らかであり,上記各欄に記載されるべき事項の性質上の差異を無視して,一律に評価であるとの理由により非開示とすることは相当でないと解される。 この観点からこれをみるに,「出勤状況」の欄は,自己の欠勤,遅刻,早退等の状況や,正規の届出の有無等,当該職員にとっては自明の事柄であり,客観的事実に基づくこと とすることは相当でないと解される。 この観点からこれをみるに,「出勤状況」の欄は,自己の欠勤,遅刻,早退等の状況や,正規の届出の有無等,当該職員にとっては自明の事柄であり,客観的事実に基づくことから,その3段階評価も自ずから概ね予想がついてしかるべき事項である。 また,「特技・特能」の欄は,概ね当該職員からの自己申告や,各種特能試験の結果等に基づき当該職員の有する特別な技量,技術など客観的事実を基礎として記載されるものであり,校長の評価が加わるにしてもその余地は比較的少ないし,マイナス評価が記載されることもあり得ない。 これらの点を考慮すれば,この各欄を開示しても,前述したような格別の弊害は認められないものと判断される。 これに反し,残りの「勤務等の状況」,「意見」及び「意見に対する説明」の各欄に記載されるべき事項は,前記のとおり,全人格的な能力,長所,短所の指摘や人物評価に及び,また,各欄の総合判断としての結論に該当する部分であって,その開示をした場合,特に当該職員にとって記載が不本意であった場合,評価の相当性,その根拠及び情報の取得先等をめぐってトラブルとなりやすいことは容易に見て取れるところである。また,他の職員に対する評価との優劣比較やその根拠等をめぐって紛争が予想されるところでもある。前示の本件意見書記入欄を全体として開示した場合の諸般の弊害は,これらの上記各欄を開示することによる弊害であるといっても過言ではない。 以上検討したところによれば,本件意見書記入欄のうち,「勤務等の状況」,「意見」及び「意見に対する説明」の各欄の記載は,評価又は選考に関する個人情報であり,これらの個人情報を請求者に開示することにより,当該事務に著しい支障を及ぼすおそれがあると認められるから,本件条例14条1項3号に該当し,本件意見書記入欄 載は,評価又は選考に関する個人情報であり,これらの個人情報を請求者に開示することにより,当該事務に著しい支障を及ぼすおそれがあると認められるから,本件条例14条1項3号に該当し,本件意見書記入欄のうちこれらの各欄の記載を開示することが同項5号に該当するか否かを検討するまでもなく,これらの各欄の記載を開示しなかった被控訴人委員会の決定に裁量権の逸脱又は濫用等の違法な点は認められない。 これに対し,本件意見書記入欄のうち,前記「出勤状況」及び「特技・特能」の欄の記載を開示しなかったことは,当該人事後に開示が求められた点をも考慮すると,本件条例14条1項3号,5号に規定する当該事務に著しい支障が生ずるおそれがあるということはできず,これを開示しなかった被控訴人委員会の決定には本件条例の解釈適用を誤った裁量権の逸脱又は濫用があったというほかなく,違法であったものといえる。 被控訴人委員会は,「出勤状況」及び「特技・特能」の欄の開示についても,評価の要素が強いものであり,前者につき,当該職員が自らの勤務状況につき自覚していない等の場合にはトラブルの要素となり,後者につき,当該職員が特定の校務分掌を避けたいと考える場合等は,校長の認定と異なる特技・特能を申告する場合もあるなど,開示により,職場での混乱を来し,適正な記載がされないおそれがあると主張する。しかしながら,前者については,適正な職員管理に基づく客観的な事実を説明すれば済むことであるし,後者の混乱等については,そのような姑息な自己申告がされることが頻繁に起こり得るものとも考えられないし,この認定には主観的評価が入る余地が少ないのであるから,むしろ開示した方が問題解決にも資するともいうことができる。したがって,被控訴人の主張する事実はこの情報を非開示とする根拠とはならないというべきである には主観的評価が入る余地が少ないのであるから,むしろ開示した方が問題解決にも資するともいうことができる。したがって,被控訴人の主張する事実はこの情報を非開示とする根拠とはならないというべきである。 他方,上記非開示相当部分につき,控訴人は,(1) 仮に,本件意見書の記入欄が「評価,選考」に関する情報であるとしても,これは直ちに非開示を意味しない,(2) これらが開示されることによる著しい支障はないのみならず,却って開示しないことは,行政運用に不正な動機を混在させ,不適切な事務を生じさせる,等と主張する。 控訴人は,(1)の根拠として,「ILO労働者個人情報の保護実施要綱」(甲27),「労働者の個人情報保護に関する研究報告書」(甲28),「ユネスコ教員の地位に関する勧告」(甲14)を援用し,開示の相当性を主張するが,以下のとおり理由がない。すなわち,まず,「ILO労働者個人情報の保護実施要綱」は,雇用者が労働者から収集する個人情報(例えば,住所,年齢.電話番号・家族状況等)を念頭に置いて,その保護等を目的とするものと考えられるのであって,本件情報のような人事異動を前提とした「評価者による評価」に関する情報とは次元を異にするものである。また,同要綱には法的拘束力ないし強制力はない。 「労働者の個人情報保護に関する研究報告書」については,本件条例と同様,「評価,選考等に関するもので,開示することにより業務の適正な実施に支障が生ずるおそれがあると認められる場合等にはその全部又は一部に応じないことができるものとする。」とされているのであるから(控訴人は,控訴理由書7ぺージ4行目以下でこれを自認する。),同報告書によっても,上記各欄の情報は開示の対象にならないものと解される。さらに,「ユネスコ教員の地位に関する勧告」についてみても,同勧告は 人は,控訴理由書7ぺージ4行目以下でこれを自認する。),同報告書によっても,上記各欄の情報は開示の対象にならないものと解される。さらに,「ユネスコ教員の地位に関する勧告」についてみても,同勧告は法的拘束力,強制力があるものではなく,本件条例の法解釈の指針とはなり得ない。 控訴人は,近時の個人情報保護法の制定事実や,教職員の人事考課についての他の地方自治体の開示推進傾向を解釈指針とすべき旨主張するが,個人情報を全面開示とするか,開示を原則としつつ,例外としての非開示をどのような場合に認めるかは専ら立法政策の問題であって,上記の各事実が直ちに本件条例の解釈に結びつくものでないことはいうまでもない。 なお,控訴人は,非開示による行政手続の不透明や不公正を指摘し,本件においても,意見書等の様式や,作成名義が異なる不適切があったと主張するが,控訴人が指摘する意見書及び内申書の書式の違いは,平成13年の地教行法38条の改正に伴うものであると認められ(弁論の全趣旨),問題となるものではない。」 2 以上によれば,原判決の認める内申書のほか,本件意見記入欄のうち「出勤状況」及び「特技・特能」の欄を開示しないとした点も違法であるというべきである。そして,この違法な職務行為についても被控訴人委員会に少なくとも過失があったと認められる。しかしながら,控訴人の被った精神的苦痛については,すべてを合わせて原判決の認定の慰謝料額5万円をもって相当であると判断する。したがって,被控訴人山梨県に対する請求は,原判決認容の限度で理由があることになる。 第4 結語よって,一部これと異なる原判決を本判決主文1のとおり変更することとして,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第12民事部裁判長裁判官相良朋紀裁判官三代川俊一郎裁判官上田卓哉 一部これと異なる原判決を本判決主文1のとおり変更することとして,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第12民事部裁判長裁判官相良朋紀裁判官三代川俊一郎裁判官上田卓哉
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