平成10(行ヒ)51 損害賠償代位請求事件

裁判年月日・裁判所
平成14年7月2日 最高裁判所第三小法廷 判決 破棄自判 名古屋高等裁判所 金沢支部 平成9(行コ)3
ファイル
hanrei-pdf-52252.txt

判決文本文4,435 文字)

主文 原判決を破棄し,第1審判決を取り消す。 本件を富山地方裁判所に差し戻す。 理由 上告代理人青島明生,同井上善雄,同今村元,同大川隆司,同金川治人,同新穂正俊,同高橋利明,同谷合周三,同土橋実,同野本夏生,同平井宏和,同深田正人,同藤森克美,同松葉謙三,同山本直俊の上告受理申立て理由について 1 本件は,富山県(以下「県」という。)の住民である上告人らが,平成3年5月21日に和田川について,同5年6月30日に子撫川について,いずれも県と被上告人B電機株式会社(以下「B電機」という。)との間で締結された水道管理所の監視制御装置更新工事の請負契約(以下「本件各契約」という。)は,被上告人らが談合をした結果に基づき受注予定者とされた被上告人B電機において県の実施した指名競争入札に応札して落札の上締結されたものであり,県は,これにより談合がなければ形成されたであろう代金額と契約代金額との差額相当の損害を被ったから,被上告人らに対し,不法行為等による損害賠償請求権を有しているにもかかわらず,その行使を違法に怠っているとして,地方自治法(以下「法」という。)242条の2第1項4号に基づき,県に代位して,怠る事実に係る相手方である被上告人らに対し,損害賠償を求める事案である。 記録によれば,上告人らは,平成7年11月27日,県の監査委員に対し,被上告人らは上記談合という共同不法行為により本件各契約の契約金額を不当につり上げて県に上記差額相当の損害を与えたのであるから,県の地方公営企業の管理者は,損害賠償請求権を行使して県の被った損害を補てんする措置を講ずべきであるのに,これを怠っているとして,措置を講ずべきことを勧告することを求める監査請求をしたというのである。 - 1 - 2 原 ,損害賠償請求権を行使して県の被った損害を補てんする措置を講ずべきであるのに,これを怠っているとして,措置を講ずべきことを勧告することを求める監査請求をしたというのである。 - 1 - 2 原審は,次のとおり判断して,本件訴えを不適法として却下した第1審判決を是認し,上告人らの控訴を棄却した。 (1) 業者が談合したことのみによって,地方公共団体に損害が発生し,地方公共団体が業者に対して不法行為による損害賠償請求権を取得するものではない。業者の談合に基づき不正な入札価格が形成され,その価格で落札した業者が地方公共団体から工事を受注することにより,地方公共団体に損害が発生するのである。そして,業者と地方公共団体との間の請負契約の締結は,当該地方公共団体の財務会計上の行為にほかならず,その違法性は客観的に判断すべきものである。 (2) 上告人らの主張を前提とすれば,本件談合は違法であるから,これに基づき落札した被上告人B電機との間で県がした本件各契約の締結行為も,客観的に違法というべきである。したがって,本件監査請求は,財務会計職員の特定の財務会計上の行為の違法を問題としていることに帰する。そうすると,上告人らのした本件監査請求は,財務会計上の行為が違法であることに基づき発生する実体法上の請求権の行使を怠る事実に係るものであるから,最高裁昭和57年(行ツ)第164号同62年2月20日第二小法廷判決・民集41巻1号122頁の示した法理に従い,法242条2項の規定が適用されるというべきである。 (3) 上記法理が適用される監査請求というべきかどうかは,監査請求人の法律構成によるのではなく,客観的に判断すべきものである。そして,被上告人らの談合による不法行為は本件各契約締結によって初めて損害が具体化するものであるから,県の被上告人らに対す かは,監査請求人の法律構成によるのではなく,客観的に判断すべきものである。そして,被上告人らの談合による不法行為は本件各契約締結によって初めて損害が具体化するものであるから,県の被上告人らに対する損害賠償請求権が成立し,その行使を怠っているとするには,その前提として本件契約の締結が必要であり,談合による不法行為と本件契約締結行為とは必然的に結び付いている関係にある。 (4) 以上によれば,本件監査請求は,財務会計上の行為である本件各契約締結の日から法242条2項本文の規定(以下「本件規定」という。)が定める1年の- 2 -監査請求期間を経過した後にされたものであって,不適法であり,本件訴えも不適法である。 3 しかしながら,本件監査請求に本件規定が適用されるとした原審の判断は,是認することができない。その理由は,次のとおりである。 (1) 法242条1項は,普通地方公共団体の住民が当該普通地方公共団体の違法,不当な財務会計上の行為又は怠る事実につき監査請求をすることができるものと規定しているところ,本件規定は,上記の監査請求の対象事項のうち行為については,これがあった日又は終わった日から1年を経過したときは監査請求をすることができないものと規定している。これは,財務会計上の行為は,たとえそれが財務会計法規に違反して違法であるか,又は財務会計法規に照らして不当なものであるとしても,いつまでも監査請求ないし住民訴訟の対象となり得るとしておくことは,法的安定性を損ない好ましくないことから,監査請求をすることができる期間を行為が完了した日から1年間に限ることとするものである。これに対し,上記の対象事項のうち怠る事実についてはこのような期間制限は規定されておらず,住民は怠る事実が現に存する限りいつでも監査請求をすることができるものと解され 年間に限ることとするものである。これに対し,上記の対象事項のうち怠る事実についてはこのような期間制限は規定されておらず,住民は怠る事実が現に存する限りいつでも監査請求をすることができるものと解される。 これは,本件規定が,継続的行為について,それが存続する限りは監査請求期間を制限しないこととしているのと同様に,怠る事実が存在する限りはこれを制限しないこととするものと解される。 しかしながら,いかなる場合にも上記の原則を貫かなければならないと解すべきものではなく,本件規定の法意に照らして,その例外を認めるべき場合もあると考えられる。すなわち,監査請求が実質的には財務会計上の行為を違法,不当と主張してその是正等を求める趣旨のものにほかならないと解されるにもかかわらず,請求人において怠る事実を対象として監査請求をする形式を採りさえすれば,上記の期間制限が及ばないことになるとすると,本件規定の趣旨を没却することになるも- 3 -のといわざるを得ない。そして,監査請求の対象として何を取り上げるかは,基本的には請求をする住民の選択に係るものであるが,具体的な監査請求の対象は,当該監査請求において請求人が何を対象として取り上げたのかを,請求書の記載内容,添付書面等に照らして客観的,実質的に判断すべきものである。 このような観点からすると,怠る事実を対象としてされた監査請求であっても,特定の財務会計上の行為が財務会計法規に違反して違法であるか又はこれが違法であって無効であるからこそ発生する実体法上の請求権の行使を怠る事実を対象とするものである場合には,当該行為が違法とされて初めて当該請求権が発生するのであるから,監査委員は当該行為が違法であるか否かを判断しなければ当該怠る事実の監査を遂げることができないという関係にあり,これを客観的,実質的にみれば 行為が違法とされて初めて当該請求権が発生するのであるから,監査委員は当該行為が違法であるか否かを判断しなければ当該怠る事実の監査を遂げることができないという関係にあり,これを客観的,実質的にみれば,当該行為を対象とする監査を求める趣旨を含むものとみざるを得ず,当該行為のあった日又は終わった日を基準として本件規定を適用すべきものである(前掲最高裁昭和62年2月20日第二小法廷判決参照)。しかし,怠る事実については監査請求期間の制限がないのが原則であり,上記のようにその制限が及ぶというべき場合はその例外に当たることにかんがみれば,【要旨1】監査委員が怠る事実の監査を遂げるためには,特定の財務会計上の行為の存否,内容等について検討しなければならないとしても,当該行為が財務会計法規に違反して違法であるか否かの判断をしなければならない関係にはない場合には,これをしなければならない関係にあった上記第二小法廷判決の場合と異なり,当該怠る事実を対象としてされた監査請求は,本件規定の趣旨を没却するものとはいえず,これに本件規定を適用すべきものではない。 (2) 本件監査請求の対象事項は,県が被上告人らに対して有する損害賠償請求権の行使を怠る事実とされているところ,当該損害賠償請求権は,被上告人らが談合をした結果に基づいて被上告人B電機において県の実施した指名競争入札に応札- 4 -して落札の上県と不当に高額の代金で請負契約を締結して県に損害を与える不法行為により発生したというのである。これによれば,【要旨2】本件監査請求を遂げるためには,監査委員は,県が同被上告人と請負契約を締結したことやその代金額が不当に高いものであったか否かを検討せざるを得ないのであるが,県の同契約締結やその代金額の決定が財務会計法規に違反する違法なものであったとされて初めて 被上告人と請負契約を締結したことやその代金額が不当に高いものであったか否かを検討せざるを得ないのであるが,県の同契約締結やその代金額の決定が財務会計法規に違反する違法なものであったとされて初めて県の被上告人らに対する損害賠償請求権が発生するものではなく,被上告人らの談合,これに基づく被上告人B電機の入札及び県との契約締結が不法行為法上違法の評価を受けるものであること,これにより県に損害が発生したことなどを確定しさえすれば足りるのであるから,本件監査請求は県の契約締結を対象とする監査請求を含むものとみざるを得ないものではない。したがって,これを認めても,本件規定の趣旨が没却されるものではなく,本件監査請求には本件規定の適用がないものと解するのが相当である。前掲第二小法廷判決の示した法理は,本件に及ぶものではない。 4 以上によれば,本件監査請求を不適法とし,本件訴えを却下すべきものとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,第1審判決を取り消した上で,本件を第1審に差し戻すべきである。 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。 最高裁判所第三小法廷(裁判長裁判官奥田昌道裁判官金谷利廣裁判官濱田邦夫裁判官上田豊三)- 5 -

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る