平成22(わ)1072 準強制わいせつ,準強姦致傷,公務執行妨害

裁判年月日・裁判所
平成23年11月29日 神戸地方裁判所
ファイル
hanrei-pdf-82162.txt

判決文本文5,672 文字)

主文 被告人を判示第1 の1の罪について懲役2年に,判示第1の2及び第2の各罪について懲役9年に処する。 未決勾留日数中310日を判示第1の1の罪の刑に算入する。 理由 (犯罪事実)被告人は,第1 内縁の妻の子であるA(平成2年生)と神戸市a区bc丁目d番eの当時の自宅で同居していたが,Aが重度の知的発達障害のため心神喪失の状態にあるのに乗じて,同所で, 1 平成19年8月2日ころ,A(当時17歳)に対し,自己の陰茎を握らせるなどして手淫行為をさせ,わいせつな行為をした。 2 平成22年7月8日ころ,A(当時19歳)に対し,Aの服を脱がすなどして姦淫し,その際,Aに全治約1週間を要する処女膜裂創の傷害を負わせた。 第2 同市同区f町g丁目h番i号のB警察署留置施設に留置されていたが,同月23日午前7時40分ころ,同施設内の通路で,宿直責任者として留置主任官の職務を代行し,被告人ら被留置者の点呼,洗面等の定時点検の職務に従事していた同署刑事第二課課長警部C(当時45歳)に対し,「デカ長,お前,名前なんちゅうんや。」「偉そうに言いやがって。」「制服脱いでさしで勝負せんかい。」などと鋭い口調で言い,さらに,「わしは,二人殺しとるんや。お前,人弾いたことあるんか。脳漿ぶちまけたろか。」などと前同様の口調で言った直後に,手に持っていたプラスチック製コップで同警部の左側頭部を1回軽くたたくなどの暴行,脅迫を加え,もってその職務の執行を妨害した。 (証拠の標目)省略 (争点に対する判断) 1 判示第1の1の準強制わいせつ及び同2の準強姦致傷の各事実についての共通の争点は,被告人による各行為当時,① Aが心神喪失の状態にあった(すなわち,Aに,性的行為の意味を理解する能力がなかった)か否 判示第1の1の準強制わいせつ及び同2の準強姦致傷の各事実についての共通の争点は,被告人による各行為当時,① Aが心神喪失の状態にあった(すなわち,Aに,性的行為の意味を理解する能力がなかった)か否か,これに関連して,Aが各行為につき同意をしていたか否か,② Aが心神喪失の状態にあることを被告人が認識していたか否かの2点であり,準強姦致傷の事実については,さらに,③ 姦淫行為があったか否かの点も争われている。また,判示第2の公務執行妨害の事実についての争点は,④ C警部に対する脅迫の有無,⑤ 同暴行の故意の有無,⑥ C警部の職務行為の適法性の3点である。 2 争点①(Aが心神喪失状態にあったか否か,Aによる同意の有無)について関係各証拠によれば,Aは,小学校及び中学校では知的障害等のある生徒の入るクラスに,高校では養護学校にそれぞれ在籍していたが,いずれの学校でも,男女の性に関する教育をほとんど受けておらず,実際,Aには,上記の養護学校で,スカート内の下着が見えるのを気にせず足を広げて座ったり,生理用品を隠さず持ち歩くなど,性的な事柄に対する理解力や羞恥心に欠ける行為が少なからず見受けられたこと,Aは,以前から療育手帳の交付を受けていたが,平成20年8月の同手帳の更新時には,発達指数(DQ)が14,知的発達水準が2歳5か月程度で,その前回の更新時(平成15年)と同じく,重度の知的発達遅滞と判定されたこと(甲79等),また,平成22年8月の精神鑑定時にも,IQ(田中ビネー検査)が14.5,知的発達水準が2歳4か月程度と鑑定されたこと(甲2),Aの公判での証言も,単純な質問に対し辛うじて簡単な表現で返答できる程度のレベルにとどまるもので,上記の各知的水準に沿う内容のものであったこと,以上の各事実が認められる。 また,上記の養護学校で3 Aの公判での証言も,単純な質問に対し辛うじて簡単な表現で返答できる程度のレベルにとどまるもので,上記の各知的水準に沿う内容のものであったこと,以上の各事実が認められる。 また,上記の養護学校で3年間Aの担任の教師をしていたDや,上記の判定や鑑定にそれぞれ携わったE,Fの両医師が,Aには性的行為の意味を理解する能力がないと判断する旨の一致した意見を述べているだけでなく,被告人自身も, 捜査段階では,後に述べるとおり,Aの知的能力が相当に低いと供述しており,Aに性的行為の意味を理解する能力があると考えていたような形跡は全くない。 これらの事実からすると,Aは,被告人による判示第1の各行為当時,いずれも重度の知的発達障害であったことに何らの疑いがないのはもとより,同障害のために,手淫行為や姦淫等の性的行為の社会的,倫理的意味や生物学的意味をいずれも理解しておらず,従って心神喪失の状態にあったことは明らかであって,この点に合理的な疑いを差し挟む余地はない。そして,この判断は,Aが日常的な家事や比較的単純な作業に関しては繰り返し教えられればある程度できること等を考慮しても,左右されるものではない。 そうすると,仮に,上記の各行為当時,Aが外形的にこれらについて同意しているかのように見られたとしても,それが性的行為の意味に対する理解を前提とした真の同意とは認められないことも明白である。 3 争点②(Aが心神喪失状態にあったことについての被告人の認識の有無)について被告人は,平成17年7月ころからA及びその母親Gと同居を始め,日常的にAの言動を見聞きしていたほか,Aの養護学校の入学式(平成18年4月)に出席するなどしていて,Aが養護学校に通っていることをその入学当初から認識していたのは明らかである。また,被告人は,後記のとおり平成20 を見聞きしていたほか,Aの養護学校の入学式(平成18年4月)に出席するなどしていて,Aが養護学校に通っていることをその入学当初から認識していたのは明らかである。また,被告人は,後記のとおり平成20年に傷害罪で実刑判決を受けて服役したが,その服役の間,Gとの手紙のやり取り等の中で,前記2のとおりAの療育手帳の更新の際に前回に引き続き重度の知的発達障害と判定されたことなどを伝えられ,それに対し,被告人自身も,当時4歳前後であったAの妹(被告人とGとの間の子)がもうすぐAの知能レベルを抜くという趣旨のことを手紙に書いており,捜査段階でも,これと同旨の供述をしているのであって,そのような知能レベルにかかわらずAが性的行為の意味を理解していると考えていたような節は全く見受けられない。 そうすると,被告人は,判示第1の各行為当時,Aに性的行為の意味を理解す る能力がなかったこと,すなわちAが心神喪失状態にあったことを認識していたのは明らかというべきであり,これに反する被告人の公判供述はいずれも採用できない。 4 争点③(姦淫行為の有無)についてAは,表現等に若干の相違はあるが,判示第1の2の日ころに被告人から姦淫された旨を捜査・公判段階を通じ一貫して供述しているところ,本件の発覚の端緒が,同日ころの夜にAがその旨を母親であるGに打ち明けたことにあり,これを受けてGが被告人に対し,Aを強姦したと言って強く責めるなどしたことは,いずれも証拠上明らかである。 これに対し,被告人は,事実とは違うなどと言って否定し続けるという態度はとらず,自宅を出て住居不定の生活を続けた末,Gに宛てた留守番電話に,謝罪し別れを告げる内容のメッセージを残した上,逮捕前後に2度にわたり自殺を図ったと受け取れる行動をとっているが,仮に,被告人がAを姦淫していないの 住居不定の生活を続けた末,Gに宛てた留守番電話に,謝罪し別れを告げる内容のメッセージを残した上,逮捕前後に2度にわたり自殺を図ったと受け取れる行動をとっているが,仮に,被告人がAを姦淫していないのであれば,これらの言動は,いずれも極めて不自然,不合理で理解に苦しむものといわねばならない。加えて,Aを「レイプ」したという被告人の捜査段階の供述が,必ずしも強姦を意味せず,手指をAの陰部に挿入して怪我をさせたということも含む趣旨であったとする被告人の公判供述も,容易に了解し得るものではない。 一方で,Aの公判供述は,Aが宣誓の意味を理解できないため宣誓なしに行われたものであり,また前記2のとおりのAの知的能力にも照らせば,Aの供述の信用性の吟味は慎重に行われなければならないが,上記のような被告人の事後の一連の言動等に加え,Aは,判示第1の2の行為が終わった後,被告人がティッシュで自分の陰茎を拭いたとも述べていること(甲10),被告人に姦淫された旨のAの供述と矛盾する客観的な証拠はなく,むしろ,被告人が当時はいていたトランクスについてのDNA型鑑定を始めとして,客観的な証拠のいずれもがAの供述と整合していることなどに照らせば,Aの供述の信用性は高いというべき であるのに対し,被告人の供述は信用できない。 以上によれば,Aの供述及びこれを裏付ける各証拠に基づいて,被告人がAを姦淫した事実は十分に認められる。 5 争点④~⑥(公務執行妨害の各争点)についてC警部は,被告人から,判示第2のとおり脅迫され,「脳漿ぶちまけたろか。」などと言われた直後に,被告人が右手に持っていたコップで手首のスナップをきかすようにして左こめかみを軽くたたいてきたことや,被告人が,胸を前に突き出しぶつかりそうな勢いで詰め寄ってきたのに対し,開いた両手を胸くら 直後に,被告人が右手に持っていたコップで手首のスナップをきかすようにして左こめかみを軽くたたいてきたことや,被告人が,胸を前に突き出しぶつかりそうな勢いで詰め寄ってきたのに対し,開いた両手を胸くらいの高さに上げて押し返すという動作を数回繰り返したことを公判で供述している。その供述は,各脅迫文言の内容や一連の動作の順序等の細部にわたって,当時そばで見ていたH警察官の公判供述と概ね一致している上,両供述とも非常に具体的で,「脳漿」という特異な表現を含めて迫真性があり,また,そもそも両名には,他の被留置者も多数いた状況の中での事柄について,虚偽の供述までして被告人の公務執行妨害行為をあえて作出し,被告人を罪に陥れるだけの動機も利益も認められない。なお,上記の被留置者の1人であったIの公判供述は,自身の捜査段階での供述と重要な部分で異なっており,明らかに信用できない。 以上のとおり,信用できるC警部らの各公判供述によれば,被告人がC警部に対し判示第2の脅迫を行ったことのほか,意図的にその左側頭部をコップで軽くたたいたことも十分認められるし,C警部による上記の押し返し行為は,詰め寄ってくる被告人を制止するために必要なものであったことが明らかであり,その職務執行の適法性にも疑義は認められない。 これに対し,被告人は,C警部にコップが当たったとしても,足を滑らせた際に手に持っていたコップが偶然当たっただけであるなどと供述するが,その当時,現場の床が水で濡れていたとは認められない上,そもそも足を滑らせて上半身を後ろにのけぞらせながら,無意識のうちにコップを持った右手が斜め上に上がり,そのコップがC警部の左側頭部に当たるというのは極めて不自然な動きであっ て,被告人の供述が信用できないのは明らかである。 したがって,判示第2のとおりの事実が認 持った右手が斜め上に上がり,そのコップがC警部の左側頭部に当たるというのは極めて不自然な動きであっ て,被告人の供述が信用できないのは明らかである。 したがって,判示第2のとおりの事実が認められる。 (累犯前科及び確定裁判)省略(法令の適用)省略(量刑の理由)まず,判示の準強制わいせつは,内妻の娘であるAに知的発達障害があることにつけ込んだまことに悪質な犯行で,常習性も認められ,Aに与えた精神的な悪影響は小さくないことがうかがわれる。もとより,自己の歪んだ性欲を満たすためとしか考えられないその動機に酌量の余地は全くない。 また,判示の準強姦致傷及び公務執行妨害についてみても,準強姦致傷は,上記の準強制わいせつと同様,動機の点も含めて人の道から外れた醜悪な犯行であり,姦淫行為により判示の傷害も負わせている。Aは,血はつながっていないとはいえ父親の立場にあった被告人に姦淫され,その心身に著しい苦痛を被っており,被告人の刑事責任は重大である。また,被告人は,公務執行妨害においても,留置施設内という場所をわきまえることなく留置責任者の警察官に対し激しい脅迫等を行っており,その犯情は悪い。 さらに,被告人は,本件各犯行について不合理な弁解に終始しており,反省の態度はうかがわれず,準強姦致傷等の被害者の母親が被告人に対する厳重な処罰を求めているのは当然である。また,被告人には,前科が13犯あり,本件各犯行のいずれもが累犯であった上,特に準強姦致傷は前刑出所後わずか1週間ほどでの犯行であって,その遵法精神の欠如はまことに著しく,今後の再犯も危惧される。 そうすると,判示の準強制わいせつは前記の確定裁判の余罪であること,公務執行妨害の際の暴行の程度が軽かったこと,本件で逮捕される直前や直後ころには被告人なりに反省 著しく,今後の再犯も危惧される。 そうすると,判示の準強制わいせつは前記の確定裁判の余罪であること,公務執行妨害の際の暴行の程度が軽かったこと,本件で逮捕される直前や直後ころには被告人なりに反省の態度を示していたことがうかがわれることなど,被告人のために 酌むべき事情を考慮しても,被告人を主文のとおりの各刑に処するのが相当であると判断した。 (求刑準強制わいせつについて懲役3年,準強姦致傷及び公務執行妨害について懲役11年)平成23年11月29日神戸地方裁判所第1刑事部 裁判長裁判官細井正弘 裁判官西森英司 裁判官林 奈桜

▼ クリックして全文を表示

🔍 類似判例を検索𝕏 でシェア← 一覧に戻る