平成29(行ウ)119 遺族補償年金等不支給処分取消請求事件

裁判年月日・裁判所
令和2年12月16日 名古屋地方裁判所
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判決文本文36,329 文字)

令和2年12月16日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成29年(行ウ)第119号遺族補償年金等不支給処分取消請求事件口頭弁論終結日令和2年7月27日判決当事者の表示別紙1「当事者目録」記載のとおり 主文 1 名古屋北労働基準監督署長が平成28年11月30日付けで原告に対してした労働者災害補償保険法による遺族補償年金及び葬祭料を支給しない旨の処分をいずれも取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求主文同旨第2 事案の概要等 1 事案の概要 本件は,ヤマト運輸株式会社(以下「本件会社」という。)でセンター長として勤務していたA(以下「本件労働者」という。)の妻である原告が,本件労働者が平成28年▲月▲日に自殺した(以下「本件自殺」という。)のは本件会社における業務に関連して生じた心理的負荷により発病した精神障害の影響によるものであると主張して,名古屋北労働基準監督署長(以下「処分行政庁」という。)に 対し,労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)に基づき遺族補償年金及び葬祭料の支給を請求したところ,処分行政庁が平成28年11月30日付けで,いずれも支給しない旨の処分(以下「本件各処分」という。)をしたことから,被告に対し,その取消しを求めた事案である。 2 前提事実(当事者間に争いがないか証拠等により容易に認められる事実) ⑴ 当事者等 ア本件会社は,貨物自動車運送事業及び貨物利用運送事業等を行う株式会社であり,平成28年4月1日時点で,東京都中央区所在の本社のほか,全国に10の支社,69の主管支店,さらにその下部に6064のセンターを設置していた。(乙10)イ原告 運送事業等を行う株式会社であり,平成28年4月1日時点で,東京都中央区所在の本社のほか,全国に10の支社,69の主管支店,さらにその下部に6064のセンターを設置していた。(乙10)イ原告は,本件労働者(昭和▲年▲月▲日生まれ)の妻であり,本件労働者 の収入によりその生計を維持していた者である。また,原告は,本件労働者の葬儀を行った。(争いがない)⑵ 本件労働者の経歴等ア本件労働者は,平成▲年3月に高等学校を卒業した後,複数の会社で勤務し,平成4年5月から平成10年10月までは,佐川急便株式会社で勤務す るなどした後,平成11年8月16日,本件会社に入社した。 (甲A8,乙1,13,弁論の全趣旨)イ本件労働者は,本件会社に入社後,複数の営業所で勤務した後,平成14年4月16日以降は,複数のセンターでセンター長を務め,平成24年8月16日からは,愛知主管支店B支店Cセンターのセンター長,平成27年9 月1日からは,愛知主管支店D支店Eセンターのセンター長を務めた。(甲A8,乙1,11,13,弁論の全趣旨)⑶ Cセンターにおける出来事等ア B支店にはCセンターとF宅急便センターが置かれているが,両センターは異なる建物に所在しており,B支店の支店長は,F宅急便センターに常駐 しており,平成27年4月から,G(以下「G支店長」という。)が務めていた。(乙37,乙42)イ本件労働者の自宅からCセンターまでの出勤に要する時間は,30分から40分ほどであった。(原告)ウ本件労働者がCセンターのセンター長として在職中であった平成27年 4月から同年8月末までの間に,以下のような出来事があった。 Cセンターのあるセンター員は,本件会社のインターネット上の意見箱に本件労働 ター長として在職中であった平成27年 4月から同年8月末までの間に,以下のような出来事があった。 Cセンターのあるセンター員は,本件会社のインターネット上の意見箱に本件労働者のパワーハラスメントにより出社することが精神的に苦痛であり,Cセンターのセンター長を替えてほしい旨の意見を匿名で投書した。(乙38,39)本件労働者は,G支店長と口論し,およそ1週間後にG支店長に謝罪し た。(争いがない)エ本件労働者は,平成27年9月1日,Cセンターのセンター長からEセンターのセンター長に異動した(以下「本件異動」という。)。(争いがない)⑷ Eセンターにおける出来事等ア D支店にはEセンター,Hセンター及びIセンターが置かれ,3つのセン ターは,いずれも同一の建物に所在していたが,その担当地域を異にし,Eセンターは,名古屋市J区の一部をその担当地域としていた。D支店の支店長は,平成26年4月から,K(以下「K支店長」という。)であり,D支店に所属する本件会社の従業員は,80人前後,そのうちEセンターに所属する者は,22人から25人ほどであった。(甲A16,乙15,43,弁論の 全趣旨)イ本件労働者の自宅からEセンターまでの出勤に要する時間は,10分ほどであった。(甲A10,原告)ウ本件労働者がEセンターのセンター長として在職中,以下のような出来事があった。 Eセンターのセンター員(同一人物ではない。)は,平成28年2月19日及び同月23日,業務中に相次いで交通事故に遭った(以下,2件の交通事故を併せて「センター員による2件の事故」ということがある。)。(乙24,25)本件労働者は,平成28年3月30日,業務中に交通事故(以下「本件 労働者の事故」という。 下,2件の交通事故を併せて「センター員による2件の事故」ということがある。)。(乙24,25)本件労働者は,平成28年3月30日,業務中に交通事故(以下「本件 労働者の事故」という。)に遭った。(争いがない) ⑸ 所定労働時間等Eセンターにおける所定労働時間等は,以下のとおりである。なお,本件会社の就業規則は,各月度の勤務交番表は毎月16日を起算日とし,当月10日までに翌月度分を作成して社員に明示することとしている。(甲A5)ア所定労働時間 8時から17時 イ所定休憩時間 12時から13時までの1時間ウ休日毎週1日又は4週間に4日(あらかじめ各月度の勤務交番表で指定する。 年間52日)その他の休日(あらかじめ各月度の勤務交番表で指定する。年間65日) ⑹ 勤務時間管理方法本件労働者を含むサービスドライバーは,出社時には,タイムカードを打刻した後,端末装置ポータブルポス(以下「PP」という。)に勤務開始時刻を入力し,退社時には,PPに勤務終了時刻を入力した後,タイムカードを打刻することとされていた。なお,業務時間に関してPPに入力した結果は,月毎に 集計されて勤務時間実績表に反映され,本件会社は,勤務時間実績表の記載を基に各従業員の給与計算等を行っていた。(乙14,15)⑺ 精神障害の発病及び本件自殺ア本件労働者は,平成28年3月下旬頃,適応障害を発病した。(争いがない) イ本件労働者は,平成28年▲月▲日,本件会社に出社せず,同月3日,愛知県L市所在の林内で縊死しているところを発見された。遺体の状況や遺書が存在したことなどから,本件労働者は,同月▲日午後9時頃,自殺したものと認められる。(甲A6,7の1及び2)ウ本件労働者が原告に宛て 在の林内で縊死しているところを発見された。遺体の状況や遺書が存在したことなどから,本件労働者は,同月▲日午後9時頃,自殺したものと認められる。(甲A6,7の1及び2)ウ本件労働者が原告に宛てた遺書には,「仕事で事故を起して(判決注・マ マ)しまいました。5回目です。前代未聞だそうです。立場上性格上ヤマト 運輸で仕事を続けていく自信が完全に折れてしまいました。」などと記載されていた。(甲A7の1)⑻ 本件訴訟に至る経過ア原告は,処分行政庁に対し,平成28年6月23日,本件労働者は長時間労働や事故の対応等による強い心理的負荷により精神障害を発病し自殺し たものであるとして,遺族補償年金及び葬祭料の支給を請求した。これに対し,処分行政庁は,同年11月30日付けで,本件労働者は「業務上疾病にて死亡したものとは認められない」として,いずれも不支給とする旨の処分(本件各処分)をした。(甲A1,2,乙2,3)イ原告は,本件各処分を不服として,愛知労働者災害補償保険審査官に対し, 平成29年2月2日,審査請求をしたが,同審査官は,同年8月18日付けでこれを棄却する旨の決定をした。(甲A4,乙4)ウ原告は,名古屋地方裁判所に対し,平成29年10月6日,本件訴訟を提起した。(顕著な事実)⑼ 「心理的負荷による精神障害の認定基準」について 労働省(現・厚生労働省)は,精神障害の業務起因性を適正・迅速に判断するための基準を策定するため,精神医学,心理学及び法律学の研究者で構成される「精神障害等の労災認定に係る専門検討会」を設置し,同専門検討会から提出された「精神障害等の労災認定に係る専門検討会報告書」を踏まえ,平成11年9月14日,「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針」 に係る専門検討会」を設置し,同専門検討会から提出された「精神障害等の労災認定に係る専門検討会報告書」を踏まえ,平成11年9月14日,「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針」 を策定し,これに基づき業務起因性の判断を行ってきた。その後,厚生労働省は,平成21年4月6日に上記判断指針を一部改正したが,精神障害の労災請求件数が大幅に増加し,審査の迅速化及び効率化が求められるようになったことから,精神医学,心理学及び法律学等の専門家で構成される「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会」を設置し,業務起因性の認定基準に関する 検討を依頼した。厚生労働省は,上記「精神障害の労災認定の基準に関する専 門検討会」から平成23年11月8日付けで提出された「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会報告書」(以下「平成23年専門検討会報告書」という。)の内容を踏まえ,同年12月26日,業務起因性に関する新たな判断基準として,別紙2「心理的負荷による精神障害の認定基準」(以下「認定基準」という。)を策定し,上記判断指針を廃止した。(乙5ないし9) 3 本件の争点及び当事者の主張本件の争点は,本件自殺の業務起因性であり,特に,業務による心理的負荷がどの程度であったかが争われている。当事者の主張は以下のとおりである。 (原告の主張)⑴ 判断枠組み 労災補償制度は,労働者が人たるに値する生活を営むため必要を充たすべき労働条件の最低基準(労働基準法1条参照)を定立することを目的に,負傷や疾病等が「業務上」であることのみを要件として,各種補償の給付を行う法定救済制度であり,同制度を危険責任の法理で説明することはできない。労災保険法の「業務上」の判断につき,危険責任の法理に基づいて厳格に判断するこ あることのみを要件として,各種補償の給付を行う法定救済制度であり,同制度を危険責任の法理で説明することはできない。労災保険法の「業務上」の判断につき,危険責任の法理に基づいて厳格に判断するこ とは制度の趣旨に合致するものではない。具体的には,業務起因性の判断に当たって相当因果関係が必要であるとしても,①業務による心理的負荷の程度は,平均的労働者ではなく,被災者本人を基準に判断すべきであり,②業務が他の原因と共働して発病に至らしめたのであれば,それで足りると解すべきである。 認定基準は,飽くまで行政内部の解釈基準であり,裁判所を拘束するものでは ない。また,認定基準は,因果関係の範囲を厳しく絞っており不当であるため,認定基準に該当しないことでもって,業務起因性が否定されるべきではない。 ⑵ 業務に起因する心理的負荷について本件労働者は,本件会社における業務に起因して,以下のとおりの心理的負荷を受けていた。 ア Cセンターにおけるトラブル 本件労働者は,Cセンターのセンター長を務めていた際,センター員から,社内のインターネット上の意見箱を介して,暴言等を指摘の上でセンター長を交代してほしい旨要望を出されたことがあった。本件労働者の上司は,このような意見を踏まえ,本件労働者と面談したが,本件労働者は,業務上のミスが続いたセンター員に対し,感情的に対応をしてしまったことがあった 旨回答し,上司は,これに対して指導を行った。 また,本件労働者は,CセンターのG支店長と折り合いが悪く,業務の進め方について口論になり,1週間後に本件労働者が謝罪するという出来事もあった。 以上の出来事のうち,センター員からの意見は,認定基準別表1の具体的 出来事32「部下とのトラブルがあった」に該当し,その心理的負 なり,1週間後に本件労働者が謝罪するという出来事もあった。 以上の出来事のうち,センター員からの意見は,認定基準別表1の具体的 出来事32「部下とのトラブルがあった」に該当し,その心理的負荷の強度は,「中」,上司から指導を受けたこと及びG支店長との関係は,いずれも同30「上司とのトラブルがあった」に該当し,心理的負荷の強度は,前者が「弱」,後者が「中」である。 イ本件異動 本件異動は,Cセンターのセンター員から,本件労働者に対する苦情が出されたこと及びこれに伴う指導を理由とするものであった。しかし,上記苦情や指導は,本件労働者にとって不本意なものであり,本件労働者は,その時期を含め,本件異動について納得していなかった。また,本件労働者は,本件異動により配送エリアが変更になり,センター内でも新たに人 間関係を構築することが必要になっただけでなく,本件異動は,支店長の常駐のない小規模なセンター(Cセンター)から複数のセンターが併設され支店長も常駐する規模の大きなセンター(Eセンター)への異動であり,しかも,Eセンターは,当時,立て直しが求められていた困難な場所であった。 上記の事情を踏まえれば,本件異動は,認定基準別表1の具体的出来事 21「配置転換があった」に該当し,「配置転換後の業務が容易に対応できるものであり,変化後の業務の負荷が軽微であった」(心理的負荷の強度が「弱」とされる例)などとは到底いえず,その心理的負荷の強度は,「中」である。 なお,本件異動やこれに至る経過は,本件労働者の精神障害発病前6か 月以内の期間の出来事ではないものの,「概ね」6か月以内の出来事に該当するとはいえる。また,精神障害発病前6か月より前の出来事であったとしても,精神障害発病前6か月以内の の精神障害発病前6か 月以内の期間の出来事ではないものの,「概ね」6か月以内の出来事に該当するとはいえる。また,精神障害発病前6か月より前の出来事であったとしても,精神障害発病前6か月以内の期間の出来事とつながりのある出来事の場合には,その心理的負荷を総合考慮すべきである。本件労働者は,本件労働者に対するセンター員の苦情,これに伴う指導及び本件異動があ った後,本件異動に納得できないままEセンターで勤務を続け,以下で検討するように,長時間労働を行い,平成28年2月にはセンター員による2件の事故,同年3月には本件労働者の事故を経験したのであり,心理的負荷を受ける出来事が連続していたのである。よって,本件自殺の業務起因性を判断するに当たっては,本件異動及びこれに至る経過による心理的 負荷も併せて検討する必要がある。 ウ長時間労働平成28年3月末を起点とする直前6か月間の本件労働者の労働時間数は,別紙3のとおりであり,その算定方法は,下記のとおりである。 a 始業時刻 タイムカード,運転日報及び勤務時間実績表(以下「タイムカード等」ということがある。)のうち最も早い時刻を採用すべきである。 b 休憩時間本件労働者は,配達業務に従事していない間にも,業務連絡,不在の電話の対応,午後からの荷物の積込み等の業務に追われており,昼食を 摂る時間も十分にないほどであった。本件労働者が休憩を取っていたと はいえない。 c 終業時刻本件労働者は,業務を終えた直後,原告に対してこれから帰宅する旨,携帯電話で連絡をしていた。また,メールやラインの履歴によれば,本件労働者は,タイムカード打刻後も原告への携帯電話への発信時刻まで 勤務していたことが認められる。よって,最終退勤者による警備システ 帯電話で連絡をしていた。また,メールやラインの履歴によれば,本件労働者は,タイムカード打刻後も原告への携帯電話への発信時刻まで 勤務していたことが認められる。よって,最終退勤者による警備システムセット(以下「セコムセット」という。)の時刻や本件労働者が送信したラインの内容と矛盾する場合を除き,終業時刻は,上記電話連絡の時刻とすべきである。 本件労働者から原告への発信履歴がない場合(なお,携帯会社の保存 期間の関係で,平成28年2月分及び同年3月分のみ発信履歴を取得することができた。),原則として,タイムカードの打刻時刻を終業時刻とするが,メールやラインの履歴から本件労働者がタイムカード打刻後も働いていたことが認められる場合には,これらの送信時刻を採用すべきである。 によれば,本件労働者の時間外労働時間数は,発病前1か月目が106時間04分,2か月目が97時間58分,3か月目が88時間45分,4か月目が146時間46分,5か月目が40時間05分,6か月目が68時間33分となり,発病前4か月目の労働時間は,認定基準別表1で「特別な出来事」とされる「極度の長時間労働」に近いし,発病前直前 3か月間の労働時間は,認定基準別表1の具体的出来事16「1か月に80時間以上の時間外労働を行った」の「強」になる例である「発病直前の連続した3か月間に,1月当たりおおむね100時間以上の時間外労働を行い,その業務内容が通常その程度の労働時間を要するものであった」に該当するといえるほどであった。よって,このような長時間労働の実態だ けでも業務起因性を認めるに足りるほどの心理的負荷であった。 エ K支店長のメールK支店長は,本件労働者に対し,携帯電話のメールで業務連絡を行っていたところ,K支店長から けでも業務起因性を認めるに足りるほどの心理的負荷であった。 エ K支店長のメールK支店長は,本件労働者に対し,携帯電話のメールで業務連絡を行っていたところ,K支店長からのメールは,本件会社が目指す成果に至らない者を排除,侮辱し,本件労働者の人格を侵害する表現,及び目標に達することを強く迫り,本件労働者の心理を圧迫する表現を含むものであった。K支店長 は,これらの表現を含む連絡を繰り返し行って本件労働者の精神的苦痛を増幅させていたのであって,これは,認定基準別表1の具体的出来事29「(ひどい)嫌がらせ,いじめ,又は暴行を受けた」に該当し,また,同30「上司とのトラブルがあった」にも該当するものであったから,その心理的負荷の強度は,「強」である。 オトライアル本件労働者は,本件会社が不在票を少なくするために行っていた取組(以下「トライアル」という。)により相当の心理的負荷を受けていた。K支店長は,本件労働者に対し,平成28年2月以降,メールで何度もトライアルに関して言及していたが,本件労働者は,適切なアイデアを出すことができず, 同年3月9日,「ごめん」と手書きした書き置きを残して自宅を出たほか,部下に対し,トライアルを実施しない旨連絡したり,K支店長に対し,トライアルのアイデアが出ず,相当悩んでいる旨連絡したりした。よって,本件労働者がトライアルを指示されたことは,認定基準別表1の具体的出来事8「達成困難なノルマが課された」に該当し,その心理的負荷の強度は,「中」 である。 カセンター員の事故本件会社は,宅配業者として,交通事故を起こさないことを重視しているところ,本件労働者は,センター員による2件の事故が起きたことでセンター長として責任を問われる立場にあり,特に同時期 ター員の事故本件会社は,宅配業者として,交通事故を起こさないことを重視しているところ,本件労働者は,センター員による2件の事故が起きたことでセンター長として責任を問われる立場にあり,特に同時期に2件の交通事故が起き ることは,異例であった。よって,センター員による2件の事故の発生は, 認定基準別表1の具体的出来事5「会社で起きた事故,事件について,責任を問われた」に該当し,その心理的負荷の強度は,「中」である。 キ本件労働者の事故本件会社は,宅配業者として,交通事故を起こさないことを重視しているところ,平成28年2月にセンター員による2件の事故が発生したため,本 件労働者は,センター員に対し,事故を起こさぬよう厳しく指導しており,同年3月30日の朝礼の際も,防衛的な運転を心掛けるよう指示をしていた。 本件労働者の事故は,そのような中で起きたものであり,加えて,本件労働者にとって,本件会社に入社してから5回目の事故であった。また,本件労働者の事故は,相手方の過失が大きいものであったにもかかわらず,本件労 働者は,安全会議等で自身の過失を指摘され,その後,安全指導長による指導を受けた結果,非常に落ち込んだ様子を見せており,遺書にも,本件労働者の事故により心が折れた旨記載されていた。以上の事実を踏まえれば,本件労働者の事故は,認定基準別表1の具体的出来事3「業務に関連し,重大な人身事故,重大事故を起こした」に該当するほか,安全会議等で過失を指 摘されたり,安全指導長による指導を受けたりしたことは,同30「上司とのトラブルがあった」,同31「同僚とのトラブルがあった」に該当する。本件労働者の事故及びその後の経過による心理的負荷の強度は,「強」である。 ⑶ 総合評価本件異動は,いずれも「中」の 上司とのトラブルがあった」,同31「同僚とのトラブルがあった」に該当する。本件労働者の事故及びその後の経過による心理的負荷の強度は,「強」である。 ⑶ 総合評価本件異動は,いずれも「中」の心理的負荷である部下とのトラブル及び上司 とのトラブルの後に生じた出来事であり,このような経過を踏まえて評価すると,その心理的負荷の強度は,「強」であるといえる。仮に,本件異動までに生じた相互に関連する出来事による心理的負荷の強度を「中」とみるとしても,その後,年末に100時間を超える時間外労働をしたことによって,「強」の心理的負荷が生じたと評価できる。 さらに,平成28年2月のセンター員による2件の事故は,上記各出来事と は関連しないものの,年末の繁忙期から1か月程度という短期間で生じた出来事である。そして,本件労働者の事故は,センター員による2件の事故と関連するものであり,時期も近接しているばかりか,この時期は,トライアルの検討により長時間労働になった可能性もある。そうすると,これら事故及びトライアルによる心理的負荷だけをみても,その強度は,「強」である。 一連の出来事を全体としてみても,部下や上司とのトラブルに始まり,本件異動,長時間労働と相互に関連する心理的負荷が生じていたところに,平成28年2月以降,近い時期に連続して交通事故が生じたのであり,これらの出来事が概ね6か月の期間に起きていることを総合評価すれば,やはり,心理的負荷の強度は,「強」というべきである。 よって,本件労働者の精神障害の発病及び本件自殺には業務起因性が認められる。 (被告の主張)⑴ 判断枠組み精神障害の発病に業務起因性が認められるには,業務と発病した精神障害と の間に相当因果関係が存在することが必要であ び本件自殺には業務起因性が認められる。 (被告の主張)⑴ 判断枠組み精神障害の発病に業務起因性が認められるには,業務と発病した精神障害と の間に相当因果関係が存在することが必要である。そして,労災保険法7条1項1号により保険給付を行うべき事由は,労働基準法による使用者の災害補償を行うべき事由と一致するところ,使用者の災害補償責任が危険責任を根拠とすることからすれば,上記相当因果関係の有無は,業務に内在する危険が現実化して精神障害が発病したと認められるかどうかにより判断されるべきであ る。これが認められるには,①業務による心理的負荷が,平均的な労働者にとって客観的に精神障害を発病させるに足りる程度のものであったこと,②業務による心理的負荷が,その他の業務外の要因に比して相対的に有力な原因となって,精神障害を発病させたことが必要であると解すべきであり,上記①及び②を判断するに際しては,最新の専門的知見に基づく平成23年専門検討会報 告書を踏まえて策定された認定基準に依拠するのが最も適切である。 ⑵ 業務に起因する心理的負荷についてア Cセンターにおけるトラブル本件労働者がCセンターのセンター長を務めていた際,センター員からの本件労働者に関する意見をきっかけに社内調査が行われ,本件労働者が上司から業務指導を受けたことがあったものの,当該意見の内容は,本件労働者 の部下に対する業務指導の内容自体が不適切というよりは,その言葉遣いが厳しいというものであった。加えて,上記意見は,飽くまで社内のインターネット上の意見箱への投稿であり,客観的に本件労働者と部下との間でトラブルがあったとはいえないから,認定基準別表1の具体的出来事32「部下とのトラブルがあった」には該当しない。 本件労働 ネット上の意見箱への投稿であり,客観的に本件労働者と部下との間でトラブルがあったとはいえないから,認定基準別表1の具体的出来事32「部下とのトラブルがあった」には該当しない。 本件労働者の上司は,本件労働者が認めた事実を前提に,口調には気を付けるように指導したに過ぎず,通常の業務指導の範囲内であるから,認定基準別表1の具体的出来事30「上司とのトラブルがあった」に当てはめるとしても,その心理的負荷の強度は,「弱」である。 G支店長と本件労働者の間で具体的な業務をめぐる方針等に関する意見 の対立が生じていたとは認められず,両者の間で生じた口論も,本件労働者の言葉遣いに起因する行き違いであったと推測するのが自然である。また,両者は,最終的に和解してもいる。G支店長との関係は,認定基準別表1の具体的出来事30「上司とのトラブルがあった」には該当しない。 イ本件異動 本件異動は,本件労働者の精神障害発病前概ね6か月以内の期間の出来事ではない。 これを措くとしても,本件異動は,Eセンターの前任センター長の経験不足によりEセンター内の取りまとめに不安があったところ,本件労働者の能力及び経験に期待したことを理由とするものであり,本件労働者も承 諾の上で決定された。また,その時期についても,それ以前の異動の間隔 に照らしても殊更急な異動であったとか,左遷を疑うようなものであったとはいえない。そして,配置転換に伴い新ルートを覚えることは,宅配・配送業界においては通常のことであり,本件異動前後の各センターにおける配送エリアの違いによる業務量及びセンター員数の増加はあっても,立て直しを求められたことによる業務の内容に変化はなく,本件異動後の業 務内容及び業務量は,本件労働者の能力及び経験に見合っ おける配送エリアの違いによる業務量及びセンター員数の増加はあっても,立て直しを求められたことによる業務の内容に変化はなく,本件異動後の業 務内容及び業務量は,本件労働者の能力及び経験に見合ったものといえ,本件労働者に特段の負荷を課すものではなかった。 本件異動について,認定基準別表1の具体的出来事21「配置転換があった」に当てはめて検討するとしても,その心理的負荷の強度は,「弱」である。 ウ長時間労働平成28年3月末を起点とする直前6か月間の本件労働者の労働時間数は,別紙4のとおり(ただし,同年2月23日の終業時刻については21時とあるのを22時に訂正する。)であり,その算定方法は,下記のとおりである。 a 始業時刻原告の主張を争わない。 b 休憩時間その実態は,必ずしも明らかではないものの,関係者の供述から,原則として30分程度の休憩を取ることはできていたとし,運転日報から 休憩を取得していないことが分かる日や,配達業務を行っておらず所定どおりの休憩が取れた日について適宜修正の上,労働時間を算定した。 c 終業時刻タイムカード等のうち最も遅い時刻を採用する。関係者の供述によれば,本件労働者がタイムカード打刻後も退社しないで仕事をしていたと は認められない。また,本件労働者は,セコムセット時刻より相当後に なってから原告に電話連絡している日が少なからず存在するし,本件労働者が同僚に対し,退勤する旨ラインで送信した後,1時間経過してから原告に帰宅の電話連絡をした日もある。 によれば,本件労働者の時間外労働時間数は,発病前1か月目が70時間00分,2か月目が57時間06分,3か月目が79時間02分, 4か月目が133時間57分,5か月目が33時間28分,6 によれば,本件労働者の時間外労働時間数は,発病前1か月目が70時間00分,2か月目が57時間06分,3か月目が79時間02分, 4か月目が133時間57分,5か月目が33時間28分,6か月目が59時間25分となり,発病前4か月目は,認定基準別表1の具体的出来事16「1か月に80時間以上の時間外労働を行った」に該当するものの,認定基準別表1の「特別な出来事」である「極度の長時間労働」には該当しない。認定基準別表1によれば,他の出来事が発生した前後に恒常的な 長時間労働(月100時間程度となる時間外労働)が認められる場合,心理的負荷の強度を修正する要素となるがこれにも該当しない。 発病前4か月目の時間外労働時間数は,その前後に比べ突出しているところ,この時期(平成28年1月1日から平成27年12月3日)は,歳暮等により毎年繁忙になる時期であり,本件労働者にとって既に経験済み の業務内容であった。そして,認定基準別表1の具体的出来事16の「強」になる例に該当する事情もない。よって,長時間労働による心理的負荷の強度は,「中」である。 エ K支店長のメールK支店長が本件労働者に送信したメールは,そのほとんどがD支店の3つ のセンターのセンター長全員に送信された業務に関する連絡又は指示である。Eセンターは,運送業等を営む本件会社において,一般の顧客である事業所,住宅等に直接荷物を届ける業務を担う部署であり,K支店長が本件労働者に送信したメールは,その業種及び業務の実態に鑑みれば,どこの職場でも通常見受けられる範囲の業務命令であって,その文言も特段乱暴である とはいえない。また,K支店長は,本件労働者に対し役職試験を受けること を勧めるなど,その能力を認めて業務指導をしていたのであり,K支店 務命令であって,その文言も特段乱暴である とはいえない。また,K支店長は,本件労働者に対し役職試験を受けること を勧めるなど,その能力を認めて業務指導をしていたのであり,K支店長が本件労働者に送信したメールには,本件労働者に対する嫌がらせ,いじめに当たる言動,本件労働者の人格や人間性を否定する言動は見当たらない。 K支店長のメールは,認定基準別表1の具体的出来事29「(ひどい)嫌がらせ,いじめ,又は暴行を受けた」や,同30「上司とのトラブルがあった」 に該当する出来事であるとは認められない。 オトライアルトライアルに関する指示は,認定基準別表1の具体的出来事8「達成困難なノルマが課された」に該当するとは認められない。 カセンター員の事故 センター員による2件の事故は,いずれも物損事故であり,大きな事故でもなく,本件労働者が管理者としての責任を問われた事実はないことから,認定基準別表1の具体的出来事5「会社で起きた事故,事件について,責任を問われた」に該当するとは認められない。 キ本件労働者の事故 本件労働者の事故は,物損事故であり,過失割合も相手方の方が大きく,重大な事故とはいえないものであった。そのため,本件労働者に対する懲戒処分や社内規定に基づく求償請求も,行われていない。本件労働者の事故後の経過は,通常どおりのものであり,本件労働者も,数日の間には再び従前どおりの業務に戻れるであろうことを容易に予想できたはずである。そうす ると,本件労働者の事故は,認定基準別表1の具体的出来事3「業務に関連し,重大な人身事故,重大事故を起こした」に該当しないし,仮に該当するとしても,その心理的負荷の強度は,強くなかったといえる。また,安全会議は飽くまで今後の安全運転に向けて話し合う 事3「業務に関連し,重大な人身事故,重大事故を起こした」に該当しないし,仮に該当するとしても,その心理的負荷の強度は,強くなかったといえる。また,安全会議は飽くまで今後の安全運転に向けて話し合う場であり,本件労働者がその責任を厳しく追及されたなどという事実はない。安全指導長は,ほとんど話 もできない状態であった本件労働者に配慮して,実質的な指導を行うことを 延期してもいる。 以上によれば,本件労働者の事故及びその後の経過による心理的負荷の強度は,「弱」である。 ⑶ 総合評価以上のとおり,原告が主張する出来事は,時間外労働による心理的負荷の強 度が「中」になるほかは,いずれも,心理的負荷の強度が「弱」か,そもそも心理的負荷として検討することを要しないものであって,これらの出来事による心理的負荷の強度が「強」であるとは認められない。 よって,本件労働者の精神障害の発病及び本件自殺には業務起因性は認められない。 第3 当裁判所の判断 1 精神障害に係る業務起因性の判断枠組み等⑴ア労働者の疾病等を業務上のものと認めるためには,業務と疾病等との間に相当因果関係が認められることが必要である(最高裁昭和51年11月12日第二小法廷判決・裁判集民事119号189頁参照)。そして,労災保険制 度が,労働基準法上の危険責任の法理に基づく使用者の災害補償責任を担保する制度であることからすれば,上記の相当因果関係を認めるためには,当該疾病等の結果が,当該業務に内在又は通常随伴する危険が現実化したものと評価し得ることが必要である(最高裁平成8年1月23日第三小法廷判決・裁判集民事178号83頁,最高裁平成8年3月5日第三小法廷判決・ 裁判集民事178号621頁参照)。 イ現在の医学的知見によれば ことが必要である(最高裁平成8年1月23日第三小法廷判決・裁判集民事178号83頁,最高裁平成8年3月5日第三小法廷判決・ 裁判集民事178号621頁参照)。 イ現在の医学的知見によれば,精神障害発病の機序について,環境由来の心理的負荷(ストレス)と,個体側の反応性・脆弱性との関係で決まるという考え方(以下「ストレス-脆弱性理論」という。)が合理的であるというべきところ,ストレス-脆弱性理論によれば,環境由来のストレスが非常に強け れば,個体側の脆弱性が小さくても精神障害を発病するし,逆に,個体側の 脆弱性が大きければ,ストレスが小さくても破綻が生じるとされる。 (乙5,8)ウこのようなストレス-脆弱性理論に加え,前記アのとおり,労災保険制度が危険責任の法理に基づく使用者の災害補償責任を担保する制度であることを踏まえれば,労働者の精神障害発病の業務起因性の判断においては,業 務による心理的負荷が,当該労働者と同程度の年齢,経験を有する同僚労働者又は同種労働者であって,日常業務を支障なく遂行することができる者(平均的労働者)を基準として,社会通念上客観的にみて,精神障害を発病させる程度に強度であるといえる場合に,精神障害発病の結果は当該業務に内在又は通常随伴する危険が現実化したものとして,業務と精神障害発病と の間に相当因果関係を認めるのが相当である。 エそして,前記前提事実⑼のとおり,厚生労働省は,精神障害の業務起因性を判断するための基準として,認定基準を策定しているところ,認定基準は,行政処分の迅速かつ画一的な処理を目的として定められたものであり,裁判所を法的に拘束するものではないものの,精神医学及び法学等の専門家によ り作成された平成23年専門検討会報告書に基づき策定されたも 分の迅速かつ画一的な処理を目的として定められたものであり,裁判所を法的に拘束するものではないものの,精神医学及び法学等の専門家によ り作成された平成23年専門検討会報告書に基づき策定されたものであって,その作成経緯及び内容等に照らしても合理性を有するものといえる。そうすると,精神障害発病の業務起因性の有無については,認定基準の内容を参考にしつつ,個別具体的な事情を総合的に考慮して判断するのが相当というべきである。 ⑵ア認定基準は,①対象疾病を発病していること,②対象疾病の発病前概ね6か月の間に,業務による強い心理的負荷が認められること,③業務以外の心理的負荷及び個体側要因により対象疾病を発病したとは認められないことを認定要件としている。そして,①対象疾病については,ICD-10(世界保健機関が公表する国際疾病分類第10回修正版)第Ⅴ章に分類される精 神障害であって,器質性のもの及び有害物質に起因するものを除くとされて いるところ,ICD-10において,適応障害はコードF4に分類される精神障害であり,認定基準の対象疾病に含まれる。(顕著な事実)イまた,認定基準は,業務によりICD-10のF0からF4に分類される精神障害を発病したと認められる者が自殺を図った場合には,精神障害によって正常の認識,行為選択能力が著しく阻害され,あるいは自殺行為を思い とどまる精神的抑制力が著しく阻害されている状態に陥ったものと推定し,業務起因性を認めるものとしている。 ⑶ア平成23年専門検討会報告書は,精神障害について,発病から遡るほど,出来事と発病の関連性を理解するのは困難であり,ライフイベント調査では6か月を調査期間としているものが多いこと,各種研究結果では発病前1か 月以内に主要なライフイベント て,発病から遡るほど,出来事と発病の関連性を理解するのは困難であり,ライフイベント調査では6か月を調査期間としているものが多いこと,各種研究結果では発病前1か 月以内に主要なライフイベントのピークが認められるとする報告が多いことなどから,原則として,発病前概ね6か月以内の出来事を評価することが適当であるとし,認定基準も同様の基準を採用している。(乙8)イ他方で,認定基準は,いじめやセクシュアルハラスメントのように,出来事が繰り返されるもの等については,発病の6か月よりも前にそれが開始さ れている場合でも,発病前6か月以内の期間にも継続しているときは,開始時からのすべての行為を評価の対象とする。 2 認定事実前記前提事実,後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 ⑴ Cセンター在籍時の出来事等 アセンター員からの意見及び上司からの指導Cセンターのあるセンター員は,平成27年4月から同年8月末までの間に,本件会社のインターネット上の意見箱に,本件労働者が個人的に気に入らない従業員に暴言を述べたり,機嫌が悪い時には怒鳴りつけたりしていること,本件労働者のパワーハラスメントにより出社することが精神 的に苦痛であり,Cセンターのセンター長を替えてほしいこと,センター 内で話し合いたいが,本件労働者が怖くて話し掛けられないため,本件会社に対処してほしいことなどを記載した意見を匿名で投書した。(乙37ないし39,42)本件会社が前記意見に関して調査すると,Cセンターのセンター員からは,本件労働者はセンター員が業務上ミスした際の指導の言葉遣いが厳し すぎると感じることがあった旨の意見があった。また,本件労働者は,特定のサービスドライバーが業務ミスを多発させ,顧客か 員からは,本件労働者はセンター員が業務上ミスした際の指導の言葉遣いが厳し すぎると感じることがあった旨の意見があった。また,本件労働者は,特定のサービスドライバーが業務ミスを多発させ,顧客からのクレームが連続した際,感情的に厳しい口調で指導したことがあった旨述べた。(乙39)本件会社の人事総務課長らは,本件労働者に対し,業務上ミスが続いた センター員に対しても感情的に対応してはならず口調には気を付けること等を指導した。(乙39)イ G支店長との関係本件労働者は,原告に対し,度々,G支店長について,イエスマンだから困る,現場を理解していないなどと不満を述べていた。(甲A42,原 告)本件労働者は,平成27年4月から同年8月末までの間に,G支店長との間で,本件労働者がG支店長に支店長としての在り方について疑義を呈したことをきっかけに感情的な口論になったことがあった。本件労働者は,1週間ほど後にG支店長に連絡を取った上で喫茶店で話をし,G支店長に 対して謝罪した。(乙37,42)⑵ 本件異動に至る経緯及びその後ア K支店長は,平成27年5月又は同年6月頃,B支店及びD支店が所属するMブロックの支店長会議の際,同ブロックのブロック長(以下,単に「ブロック長」という。)との雑談の中で,本件労働者がG支店長に強い口調で歯 向かうことがあり,両者の関係が良くない旨の話を聞いた。K支店長は,当 時のEセンターのセンター長が経験の浅い若い者であり,年長のセンター員に対する指導が十分にできておらず,センターとして望ましくない状況にあると考えており,Eセンターに本件労働者に来てもらえばEセンターが締まるのではないかと考えた。そこで,K支店長は,ブロック長に対し,本件労働者をEセンター おらず,センターとして望ましくない状況にあると考えており,Eセンターに本件労働者に来てもらえばEセンターが締まるのではないかと考えた。そこで,K支店長は,ブロック長に対し,本件労働者をEセンターのセンター長として異動させてほしい旨述べた。(乙43, K支店長)イブロック長は,その後,Mブロックの支店長会議において本件労働者の異動を提案し,G支店長は,これを了承した。(乙42)ウ本件労働者は,原告に対し,本件異動について,異動の時期が早いのではないか,G支店長との折り合いが悪いことが異動の原因であるなどと不満を 述べていた。(甲A42,原告)エ本件労働者は,ブロック長に対し,平成27年8月28日,「移動(判決注・ママ。以下同じ。)の件ですが,やはりなぜ移動なのか色々考えたのですが自分の中で消化しきれないせいなのかもしれませんが納得いきません。このまま移動になってしまうとヤマト運輸という会社が嫌いになってしまい そうです。」と記載したメールを送信した。(甲A24)オ本件労働者は,K支店長に対し,本件異動から2週間ほど経過した頃,本件異動に納得がいかない旨述べたことがあった。本件労働者は,その際,センター長としての業務を頑張っていたのにパワハラという投書があって異動になったのは理不尽であるなどと述べていた。K支店長は,本件労働者に 対し,本件異動は本件労働者の能力に期待してのものである旨述べたものの,本件労働者は,納得した様子ではなかった。(乙43,K支店長)カ本件労働者は,原告に対し,平成27年11月頃,Eセンターのセンター長を務めることが本当に嫌である旨述べたことがあった。 (甲A42,原告)キ本件労働者は,原告に対し,平成28年2月又は同年3月頃,センター長 を降りたい,役職 月頃,Eセンターのセンター長を務めることが本当に嫌である旨述べたことがあった。 (甲A42,原告)キ本件労働者は,原告に対し,平成28年2月又は同年3月頃,センター長 を降りたい,役職試験も受けたくない旨述べたことがあった。(甲A42,原 告)⑶ Eセンター在籍時の出来事等アセンター員による2件の事故本件会社ではドライバーが業務中に事故を起こした場合,その後の流れは,通常,以下のとおりとなる。(乙21,34,43,44) 事故を起こしたドライバーは,その時点で担当していた配達を他の者に任せ,警察を呼ぶ。警察による現場検証には,支店長及び安全指導長も立ち会う。安全指導長は,その後,ドライバーから事故状況等について聴取しながら,速やかに,事故報告書を作成する。そして,原則として事故当日中に安全会議が実施され,ドライバー本人,支店長及び安全指導長の他, 当日出勤しているセンター員全員が参加する。安全会議では,事故原因及び再発防止の方策等について話し合われる。 事故を起こしたドライバーは,運転業務を停止され,再乗務に向けた教育を受けることになる。ドライバーは,愛知主管における面談や座学,添乗指導等を受け,再乗務を認める旨の判断がされれば運転業務に復帰する こととなるが,面談から復帰までは早くても4日間を要する。なお,ドライバーに対する懲戒処分あるいは損害の求償請求といった処分を行うかどうかは,別途決定される。 Eセンターのセンター員は,平成28年2月19日及び同月23日,業務中に相次いで交通事故を起こした(センター員による2件の事故)。い ずれの事故も物損事故であり,本件会社は,同月19日の事故を起こしたセンター員に対し,求償金1万円を請求したものの,各事故を起こしたセン 交通事故を起こした(センター員による2件の事故)。い ずれの事故も物損事故であり,本件会社は,同月19日の事故を起こしたセンター員に対し,求償金1万円を請求したものの,各事故を起こしたセンター員に対し懲戒処分は行わず,本件労働者に対しても,センター員による2件の事故を理由とした処分は行っていない。(乙24ないし26)本件労働者は,原告に対し,平成28年2月23日14時26分,Eセ ンターで再度事故が発生したため帰宅が遅くなることを伝えるとともに, ストレスで腹痛を感じる旨記載したメッセージをラインで送信した。(甲A38)本件労働者は,センター員による2件の事故を受けて,センター員に対し,安全確認をしっかり行うよう檄を飛ばしていた。(乙21)イトライアル及び平成28年3月9日の出来事等 本件会社では,配達先が不在であることが多く業務を圧迫していたことを踏まえ,トライアルとして,サービスドライバーの稼働の組立て方を見直し,不在票を入れる件数を減らすなど,業務を効率化するための取組を行っており,本件労働者がEセンターに所属していた際には,平成28年2月及び同年3月にトライアルを実施することとされた。(乙43,K支 店長)K支店長は,本件労働者に対し,平成28年2月14日,「考えたんだろうけど,トライアルとは呼べないね。次週進化させてください。」などと記載したメールを送信し,本件労働者を含むD支店に所属するセンター長に対し,同年3月4日,「明日からの土曜日,日曜日,月曜日そして来週平日 のトライアルは何をしてくれますか?」などと記載したメールを送信した。 (甲A23)本件労働者は,休日であった平成28年3月9日,原告が出勤した後,交番表を印刷した紙の裏に「ごめん」と手書 のトライアルは何をしてくれますか?」などと記載したメールを送信した。 (甲A23)本件労働者は,休日であった平成28年3月9日,原告が出勤した後,交番表を印刷した紙の裏に「ごめん」と手書きした書き置きを残して自宅を出た。本件労働者は,原告が何度電話しても応答しないままであったが, 同日19時頃,帰宅した。(甲A10,42,43,原告)本件労働者は,Eセンターで交番表の作成を担当するセンター員であるNに対し,平成28年3月9日20時43分,トライアルを実施しない旨連絡した。(甲A25)本件労働者は,K支店長に対し,平成28年3月9日20時55分,「明 日,明後日のトライアルですが周りのセンターがやっている中,大変申し 訳ないですが自分の中で全くアイデアが出ず気持ちも乗らないです。主管全体で動いているのであれば私は今のポジションにいる人材ではないと思います。センター長という立場で勝手な事を言っているのは重々承知していますが,理不尽な異動を受け何とか頑張ってきましたが事故を2件立て続けに発生させてしまい,トライアルのためほぼ毎日公番(判決注・マ マ)とにらめっこして休みの時も悩んでツラいです。」と記載したメールを送信した。これに対し,K支店長は,「了承は出来んよ。事故はどこに行こうがあるモノだし,求められる人はどこに行こうが求められる。A(判決注・本件労働者)しか出来ない事があるし,俺も期待してるからな。期待し過ぎか?過去を引きずってるとしたらそれは消せないかもしれない が,それとこれは別だろう?Tの連中も,Aを頼ってるのは自分でもわかっているはずだよな。確かに俺もセンター長時代,事故2連発の後は人前で泣いたけどな,明日話そうか。」と記載したメールを返信した。(甲A23,24) ろう?Tの連中も,Aを頼ってるのは自分でもわかっているはずだよな。確かに俺もセンター長時代,事故2連発の後は人前で泣いたけどな,明日話そうか。」と記載したメールを返信した。(甲A23,24)本件労働者は,平成28年3月10日,K支店長と前日のメールに関し て話をした。その際,本件労働者は,トライアルのアイデアが思いつかない旨述べたほか,センター長を降りたいなどと述べていたが,K支店長は,支店長になるための役職試験も近い時期に実施されることを指摘するなどして,もう少し続けてみるよう述べた。(乙43,K支店長)その後,結局,Eセンターではトライアルを実施しなかったが,これを 理由に,本件労働者が叱責や処分を受けた事実はない。(乙43,K支店長)ウ本件労働者の事故本件労働者は,平成28年3月30日,朝礼でセンター員に交通事故を起こさないよう防衛的な運転を心掛けるように指示していた。(争いがな い) 本件労働者は,平成28年3月30日9時頃,Eセンターを出庫して間もなく,交差点で左方より一時停止を無視して進入してきた車両と衝突する交通事故に遭った(本件労働者の事故)。なお,本件労働者の事故による死傷者はおらず,物損事故であった。(乙27)本件会社で安全指導長を務めるO(以下「O指導長」という。)は,本件 労働者の事故当日,本来,Eセンターのエリアを担当する安全指導長であるQ(以下「Q指導長」という。)が休暇で不在であったため,Q指導長に代わり,本件労働者の事故現場に向かった。O指導長は,事故報告書を作成するため,現場で約1時間,本件労働者から事情を確認したり現場の写真を撮影したりした。本件労働者は,その際,O指導長に対し,何度か, 本件労働者の事故が事故扱いになるか 長は,事故報告書を作成するため,現場で約1時間,本件労働者から事情を確認したり現場の写真を撮影したりした。本件労働者は,その際,O指導長に対し,何度か, 本件労働者の事故が事故扱いになるか尋ねたため,O指導長は,本件労働者にも過失があるので事故として扱われるであろうことを伝えた。これに対し,本件労働者は,自分は相手方に当てられた旨述べ,事故として扱われることに異議がある様子を見せていた。しかし,O指導長は,本件労働者の事故の態様からして,本件労働者にも過失があることは否定できない ため,本件労働者に同調することはしなかった。その後,本件労働者の運転する車両の速度が,本件労働者の事故の際に,上記交差点進入時としては高速の時速25kmほどであったことが判明したため,O指導長がこれを本件労働者に示すと,本件労働者は,「あー。」と言うなどした。なお,O指導長は,本来の担当がQ指導長であることを踏まえ,本件労働者に対 し今後の運転に向けた指導等は行わなかった。(乙33)平成28年3月30日22時から23時まで,本件労働者の事故に関する安全会議が実施され,O指導長及びK支店長の他,同日に出勤していたサービスドライバーが出席した。上記安全会議では,まず,本件労働者が本件労働者の事故の発生状況を報告し,その後,他の参加者からは,再発 防止策等について意見が出され,交差点進入の速度に問題があったのでは ないか,その際の確認も不足していたのではないか,現場は事故の危険があるとされていた箇所であったがその意識があったか,朝礼で一番安全を訴えている人(本件労働者)が事故を起こすとは,といった発言があった。 (甲A29)本件労働者は,O指導長に対し,安全会議終了後,これまでに4回事故 を起こしており,会社 ,朝礼で一番安全を訴えている人(本件労働者)が事故を起こすとは,といった発言があった。 (甲A29)本件労働者は,O指導長に対し,安全会議終了後,これまでに4回事故 を起こしており,会社に迷惑を掛けるので,次に事故を起こしたら辞職しようと思っていた旨述べた。O指導長が,本件労働者に対し,翌日出勤するかどうか尋ねたところ,本件労働者は,公休日ではあるものの出勤する旨述べたため,O指導長は,Q指導長に対し,その旨引継ぎをした。(乙33) Q指導長は,平成28年3月31日,本件労働者の話を聞くためにEセンターを訪ねたが,本件労働者は,同日,出勤しなかった。(乙34)Q指導長は,平成28年4月1日午前中,Eセンターで本件労働者に声を掛け,他のセンター員のいない場所で,本件労働者の事故に関してしばらく面談をした。本件労働者は,その際,表情が暗く,非常に落ち込んだ 様子で,沈黙が続きがちであり,センター長として事故を起こしてしまい,センター員に何も言えなくなってしまった旨述べるなどした。Q指導長は,本件労働者は再乗務のための教育を行うことができる状態ではないと判断し,落ち着いたら連絡するように述べ,面談を終了した。(甲A30,乙34) 本件労働者は,平成28年4月1日13時頃の時点でも,非常に落ち込んだ様子であった。(乙35) 3 時間外労働時間数について⑴ 始業時刻について始業時刻の認定方法(タイムカード等のうち最も早い時刻を採用する。)に ついては当事者間に争いがない。なお,平成28年3月15日,同年1月25 日及び平成27年12月18日については,両当事者が主張する始業時刻に若干のずれがあるところ,いずれも,タイムカード(乙17の1),運転日報(乙18)及び勤務時間実 日,同年1月25 日及び平成27年12月18日については,両当事者が主張する始業時刻に若干のずれがあるところ,いずれも,タイムカード(乙17の1),運転日報(乙18)及び勤務時間実績表(乙19)のうち最も早い時刻は,被告主張の時刻であるから,これを採用する。 ⑵ 休憩時間について ア原告は,その業務実態からすれば,本件労働者は休憩を取得できておらず,休憩時間はなかった旨主張する一方,被告は,関係者の供述から,休憩時間を原則として30分とし,証拠上,休憩を取得していないこと,あるいは,配達業務に従事しておらず所定どおりの休憩を取得できていたことが認められる日については,適宜修正するのが相当と主張している。 イそこで検討するに,原告は,本件労働者が,本件会社入社当初は昼に弁当を食べていたものの,次第にそのような時間はないと言っておにぎりやパンで済ますようになった旨供述する(甲A10,13の1)。しかし,このような事実が存したとしても,本件労働者の業務の実態は明らかではなく,本件労働者が,本件異動後,全く休憩せずに労働していたと認定するには足りな い。 他方,D支店あるいはEセンターの関係者の供述をみると,D支店Hセンターのセンター長であったRは,職業柄,休憩を1時間取るのは難しい旨供述し(乙20),Eセンターのセンター員であったSは,休憩は1時間取れることもあるが,昼からの便が多いと20分又は30分程になることがあった, 集配中に休憩できるのは1週間に1回か2回,15分程度である旨供述し(乙21),K支店長は,本件労働者のセンター内での休憩時間は30分から40分ほどであったかもしれない,しかし,センターで取れなかった分は配達中の空いた時間で取っていたと思う旨供述している(乙32)。以上を ),K支店長は,本件労働者のセンター内での休憩時間は30分から40分ほどであったかもしれない,しかし,センターで取れなかった分は配達中の空いた時間で取っていたと思う旨供述している(乙32)。以上を踏まえれば,本件労働者による休憩の実態は,必ずしも明らかではないもの の,毎日1時間休憩できていたとはおよそいい難い一方,全く休憩をするこ とができなかったわけではないものと認められる。そうすると,本件労働者の精神障害発病前6か月の期間について,本件労働者の休憩時間を原則として一律30分とする被告の主張は,上記関係者の供述とも整合し,合理的であると認められる。 ウよって,休憩時間は被告主張の時間を採用するのが相当である。 ⑶ 終業時刻についてア被告は,タイムカード等のうち最も遅い時刻を終業時刻として採用すべきとする一方,原告は,本件労働者が原告に帰宅する旨の電話連絡をした時刻の記録が残っている期間(平成28年2月及び同年3月)については,原則として同時刻を採用することとし,当該記録が残っていない期間については, メールやラインの履歴から,本件労働者がタイムカード等の時刻より後も働いていたことが認められる場合には,当該履歴から終業時刻を認定すべきである旨主張する。 イそこで検討するに,原告は,本件労働者はその日の仕事が終わると,原告に携帯電話で「今から帰る。」,「今終わった。」などと連絡していた,本件労 働者は帰宅時に風呂が沸き食事の準備ができていないと不機嫌になるため,本件労働者からの電話を受けて原告がこれらの準備をするのが結婚当初からの習慣であった旨供述し(甲A11,42,原告),現に,証拠(甲A32)によれば,本件労働者は,出勤日には,毎日ではないものの,多くの場合,帰宅前に原告に電話 告がこれらの準備をするのが結婚当初からの習慣であった旨供述し(甲A11,42,原告),現に,証拠(甲A32)によれば,本件労働者は,出勤日には,毎日ではないものの,多くの場合,帰宅前に原告に電話連絡していたものと認められる。 しかし,本件労働者による原告に対する上記電話連絡は,飽くまで,本件労働者がそれほどの時間を置かずに帰宅することを伝えるものにすぎず,当該連絡の時刻まで業務を行っていたことを直接示すものではない。そして,証拠(甲A32,乙17の1,乙45)及び弁論の全趣旨によれば,本件労働者が平成28年2月及び同年3月に原告に対し帰宅時に電話連絡をした 34日(うち8日はCセンターの応援業務)のうち,当該電話連絡がEセン ターのセコムセットから20分以上経過した後であった日が10日(うち3日はCセンターの応援業務)あり,うち4日は,セコムセットから1時間前後経過後に電話連絡がされていたことが認められる。また,証拠(甲A25,乙17の1,乙19)によれば,本件労働者は,平成28年3月28日,20時01分にセンター員に対し,ラインで「先に帰らせて頂きます」と送信 し,20時06分,PPの退勤処理及びタイムカードの打刻を行ったが,原告に電話連絡をしたのは,21時13分であったことが認められる。 以上によれば,本件労働者は,原告に対する電話連絡をその退勤の相当後になってから行うこともしばしばあったものと認められるから,本件労働者の原告に対する電話連絡の時刻をもって終業時刻と解することはできない。 ウ次に,原告が,平成28年2月より前の日で,メールやラインの履歴から終業時刻を認定すべきと主張する日について検討するに,本件労働者は,平成27年12月29日には,22時32分にタイムカードを打刻後,2 に,原告が,平成28年2月より前の日で,メールやラインの履歴から終業時刻を認定すべきと主張する日について検討するに,本件労働者は,平成27年12月29日には,22時32分にタイムカードを打刻後,22時52分にK支店長に対してメールで翌日の稼働に関する問い合わせをしていることが認められる(甲A24,乙17の1)。しかし,上記問い合わせが, 本件労働者がEセンター内で業務中でなければできない類のものであったとの評価を基礎付けるに足りる事実又は証拠は見当たらないから,本件会社の指揮命令下でされたものとは認めるに足りない。したがって,同日の終業時刻は,タイムカード打刻時刻である22時32分とみるほかない。また,本件労働者は,平成28年1月12日には,19時56分にタイムカードを 打刻後,20時05分にNに対してラインで交番に関する変更を行った旨報告し,その後,Nとの間で20時12分までラインのやり取りをしたことが認められる(甲A25,乙17の1)。しかし,上記やり取りが,本件労働者がEセンター内で業務中でなければできない類のものであったとの評価を基礎付けるに足りる事実又は証拠は見当たらないから,本件会社の指揮命令 下でされたものとは認めるに足りない。したがって,同日の終業時刻は,タ イムカード打刻時刻である19時56分とみるほかない。 また,原告が,平成28年2月以降の日のうち,メールやラインの履歴を参照すべきである旨指摘する日について検討するに,証拠(甲A23,25,乙17の1,弁論の全趣旨)によれば,本件労働者は,同月19日にはCセンターの応援業務に従事し,19時31分にタイムカードを打刻後,K支店 長からメールで,21時24分にセンター員が交通事故を起こしたことについて,22時46分に鍵の所在 者は,同月19日にはCセンターの応援業務に従事し,19時31分にタイムカードを打刻後,K支店 長からメールで,21時24分にセンター員が交通事故を起こしたことについて,22時46分に鍵の所在について,それぞれ連絡を受けたこと,同年3月4日にはCセンターの応援業務に従事し,20時40分にタイムカードを打刻後,21時10分までNとラインで交番表に関するやり取りをしたこと,同月25日には14時24分にタイムカードを打刻後,18時01分に センター員にラインで交番表の最新版が完成した旨連絡していることが認められる。しかし,これらメールやラインの存在は,いずれも,本件労働者がタイムカード等に打刻や終業時刻の記載をした後,その受信時刻又は送信時刻まで本件会社の業務に従事していたことを直接示すものではなく,これらの連絡終了まで本件会社の指揮命令下にあったものとは認められない。 エ以上によれば,終業時刻については,タイムカード等のうち最も遅い時刻(平成28年2月23日及び同年3月30日は,安全会議終了時刻を終業時刻とする。)とし,具体的には被告主張の時刻を採用するのが相当である(なお,被告は,平成27年11月7日の終業時刻を21時37分とするところ,タイムカード等のうち最も遅いタイムカードの打刻時刻は21時32分で あるから,その分のみ修正を行うこととする。)。 ⑷ 算定結果以上検討したところを踏まえると,本件労働者の時間外労働時間数(平成28年3月末日を起点とする。)は,概ね,被告の主張のとおり,発病前1か月目が70時間00分,2か月目が57時間06分,3か月目が79時間02分, 4か月目が133時間57分,5か月目が33時間23分,6か月目が59時 間25分となる。 4 原告が発病した精神障 0分,2か月目が57時間06分,3か月目が79時間02分, 4か月目が133時間57分,5か月目が33時間23分,6か月目が59時 間25分となる。 4 原告が発病した精神障害及び本件自殺の業務起因性について⑴ Cセンターにおけるトラブル及び本件異動についてア原告は,本件労働者がCセンターのセンター員から社内の意見箱を介して苦情を受けたことは認定基準別表1の具体的出来事32「部下とのトラブル があった」に該当し,その心理的負荷の強度は「中」,これに伴い上司から指導を受けたこと及びG支店長との関係はいずれも同30「上司とのトラブルがあった」に該当し,心理的負荷の強度は前者が「弱」,後者が「中」である旨主張する。 イそこで検討するに,本件労働者が,Cセンターのセンター員から意見箱を 介して苦情を受けたのは前記で認定した1件に限られる。そして,本件会社の人事総務課長らは,本件労働者が認めた事実の範囲で必要な指導を行ったにすぎない。そうすると,これらの出来事による心理的負荷の強度は,それほど強いものであったとはいえない。加えて,これらの出来事は,本件労働者の精神障害発病前6か月より前の出来事であっただけでなく,その時期も 証拠上明確ではない。 G支店長との関係については,前記のとおり,本件労働者がG支店長の業務に対し不満を募らせており,そのような不満を発端として,G支店長との間で感情的な口論に至ったことが認められ,「上司とのトラブル」に該当すると解する余地はある。しかし,口論については,比較的早い時点(約1週 間後)で,双方話合いの上解決しており,その心理的負荷の強度は,強いものであったとはいえない。加えて,本件労働者とG支店長との関係は,本件労働者の精神障害発病前6か月より前である本 (約1週 間後)で,双方話合いの上解決しており,その心理的負荷の強度は,強いものであったとはいえない。加えて,本件労働者とG支店長との関係は,本件労働者の精神障害発病前6か月より前である本件異動により終了しているし,本件労働者とG支店長の口論自体,その時期が証拠上明確ではない。 ウ以上によれば,原告が前記アで指摘する出来事は,いずれも,本件労働者 の精神障害発病及び本件自殺の業務起因性を検討するに当たって,重視すべ き出来事であるとはいえない。 エ次に,本件異動について検討するに,原告は,①本件異動はCセンターのセンター員から社内の意見箱を介して苦情を受けたこと及びこれに伴う指導を理由とするものであったこと,②本件労働者にとって苦情や指導は不本意なものであり,本件労働者はその時期を含め,本件異動について納得して いなかったこと,③本件労働者は本件異動により,配送エリアが変更になり,センター内でも新たに人間関係を構築することが必要になったこと,④本件異動は小規模なセンター(Cセンター)から規模の大きなセンター(Eセンター)への異動であったこと,⑤Eセンターは当時,立て直しが求められていた困難な場所であったことを指摘し,本件異動は認定基準別表1の具体的 出来事21「配置転換があった」に該当し,その心理的負荷の強度は「中」である旨主張する。 オそこで検討するに,原告は,本件異動が,専らCセンターのセンター員からの苦情及びこれに伴う上司からの指導を受けたことを理由とするものである旨主張し,前記で認定したとおり,本件労働者自身,そのように感じ, 本件異動に不満を抱いていたものと認められる。しかし,本件異動に至るまでの出来事としては,センター員の苦情及びこれに伴う指導の存在だけでなく,本件労 とおり,本件労働者自身,そのように感じ, 本件異動に不満を抱いていたものと認められる。しかし,本件異動に至るまでの出来事としては,センター員の苦情及びこれに伴う指導の存在だけでなく,本件労働者とG支店長との関係(前記2⑴イ)やK支店長がEセンターに本件労働者に来てほしいと思いブロック長に本件異動を要望したこと(前記2⑵ア)も指摘することができる。そして,本件会社のように大規模な企 業における人事異動は,様々な事情を勘案して行われることが通常であるところ,本件異動が,そのような通常の場合とは異なり,本件労働者の言動に対する懲罰的なものであるとか,いわゆる左遷であるといった事情も見当たらない。そうすると,本件異動は,Cセンターにおける出来事だけでなく,K支店長からの要望その他の事情を総合的に検討した上で決定されたとみ るのが自然であり,原告の主張は,その根拠を欠くものといわざるを得ない。 また,本件労働者は,本件異動の時点でセンター長として13年以上の経験を有し,複数のセンターでセンター長を務めてきたところ,本件異動により以前に経験したことがない業務等,容易には対応し難い業務に従事することを強いられたと認めるに足りる事実又は証拠は見当たらない。 したがって,本件異動による心理的負荷の強度は,強いものであったとは いえない。加えて,本件異動は,本件労働者の精神障害発病前6か月より前の出来事である。 カ以上によれば,本件異動も,本件労働者の精神障害発病及び本件自殺の業務起因性を検討するに当たって重視すべき出来事であるとはいえない。 キなお,原告は,精神障害発病前6か月より前の出来事であったとしても, 精神障害発病前6か月以内の期間の出来事とつながりのある出来事の場合には,その心理的負荷を総 来事であるとはいえない。 キなお,原告は,精神障害発病前6か月より前の出来事であったとしても, 精神障害発病前6か月以内の期間の出来事とつながりのある出来事の場合には,その心理的負荷を総合考慮すべきである旨主張する。しかし,平成23年専門検討会報告書やその内容を踏まえて策定された認定基準は,精神障害の発病から遡るほど,出来事と発病の関連性を理解するのは困難であることに加え,各種研究結果等も踏まえ,発病と業務の間の関係を検討する際に は,原則として,発病前概ね6か月以内の出来事を評価するのが相当であり,例外的に,いじめやセクシュアルハラスメントのように,出来事が繰り返されるもの等については,精神障害の発病6か月より前であっても評価対象に含めることができるとしている。そして,平成23年専門検討会報告書が精神医学等の専門家により作成されたものであり,その作成経緯等に照らして も合理性を有するものであることからすると,精神障害の発病が業務に内在又は通常随伴する危険が現実化したものと評価できるか否かを判断するに当たっては,上記の判断基準を参照するのが相当である。そして,Cセンターにおけるトラブル及び本件異動は,上記基準を満たすとは認められない。 ク以上検討したところによれば,Cセンターにおけるトラブル及び本件異動 は,本件労働者の精神障害発病及び本件自殺の業務起因性を検討するに当た り重視することはできない出来事であるといわざるを得ない。 ⑵ K支店長との関係についてア原告は,K支店長が本件労働者に送信していたメールは,本件労働者の人格を侵害する表現,及び本件労働者の心理を圧迫する表現を含むものであり,K支店長はこれらの表現を含む連絡を繰り返し行い本件労働者の精神的苦 痛を増幅させていたの していたメールは,本件労働者の人格を侵害する表現,及び本件労働者の心理を圧迫する表現を含むものであり,K支店長はこれらの表現を含む連絡を繰り返し行い本件労働者の精神的苦 痛を増幅させていたのであって,このようなメールの送信は認定基準別表1の具体的出来事29「(ひどい)嫌がらせ,いじめ,又は暴行を受けた」に該当し,また,同30「上司とのトラブルがあった」にも該当し,その心理的負荷の強度は「強」である旨主張する。 イそこで検討するに,証拠(甲A23)によれば,K支店長が本件労働者の 私用の携帯電話に送信していたメールには,「いちいちメールしなくても自分達でやれないか?」(平成28年1月12日),「やって当たり前,いつまでも甘えない!」(同月14日),「ハナクソみたいな前年実績でしたので必達は当然の当然です!」(同日),「出るなら交番修正しろ!やらないなら出てくるな!」(同日),「Tは何でbiz 交番と貼り出してある別の交番が違うん だ!ふざけんな」(同日),「恥ずかしいわ(判決注・メールの表題)」(同月15日),「何やってんだ?対応しなさい!」(同日),「報告も無い人は必要ですか?獲得なしで報告が1件の人は何ですかね?」(同月26日),「主管の脚を引っ張ってますね。」(同年2月11日),「これでいいのか?(判決注・メールの表題)」(同年3月28日),「稼働を上げる意味が全く不明(中略)努 力してるとは思えません。主管は努力してるとはとても判断してくれません!!」(同日)などと強い調子で,苛立っているかのような文言を含むものや,さらに「今週中の販売完了を厳命されておりますので完売をお願いします。」(同年1月6日),「アシストの8時退勤は絶対です。事情は問いません。 絶対ダメです。」(同月7日),「絶対に1台も出 のや,さらに「今週中の販売完了を厳命されておりますので完売をお願いします。」(同年1月6日),「アシストの8時退勤は絶対です。事情は問いません。 絶対ダメです。」(同月7日),「絶対に1台も出せません!」(同年3月18 日),「点呼者としての責任は想像以上に重いですから,全て記入願います。」 (同月20日)などとノルマに到達することや業務命令に従うことなどを強い口調で求めるものが散見される。 ウしかし,これらのメールは,本件労働者だけではなく,D支店のHセンター及びIセンターのセンター長にも送信されていたものであり(甲A23),本件労働者がK支店長に狙い撃ちされていたような事情はない。また,K支 店長のメールには,言葉の調子が強く,直截に過ぎるために受信者に一定の心理的圧迫を生じさせかねない表現が含まれていたことは否定できないものの,その内容は,いずれも業務に関してセンター長である本件労働者らの対応を求めるものであり,本件労働者も,これを十分認識していたものと認められる。そうすると,これらのメールは,業務上明らかに必要性がない精 神的攻撃であるとか,業務の目的を逸脱した精神的攻撃であるなどとはいえないし,その態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える精神的攻撃に該当するとも認めるに足りない。また,K支店長のメールでもって,強い指導・叱責とみることはできず,その他に,本件労働者とK支店長との間で周囲からも客観的に認識されるような対立が生じていたとも認められ ない。 エそうすると,K支店長が本件労働者に対して送信していたメールをもって,K支店長による「(ひどい)嫌がらせ,いじめ」であるとか,K支店長「とのトラブルがあった」とみることは困難であり,仮に,その心理的負荷の強度を検討 長が本件労働者に対して送信していたメールをもって,K支店長による「(ひどい)嫌がらせ,いじめ」であるとか,K支店長「とのトラブルがあった」とみることは困難であり,仮に,その心理的負荷の強度を検討するとしても,「弱」にとどまる。以上の結論は,前記で指摘した以外 に証拠(甲A23)から認められるK支店長の本件労働者に対するメールの内容を踏まえても同様である。 ⑶ 長時間労働についてア前記で判断した本件労働者の時間外労働時間数を検討すると,認定基準別表1で「特別な出来事」とされる「極度の長時間労働」であったとは認めら れない。また,発病前4か月目は,認定基準別表1の具体的出来事16「1 か月に80時間以上の時間外労働を行った」に該当するものの,その前後の期間の時間外労働時間数をみると,その労働時間数のみでもって,心理的負荷の強度が「強」になる程度であったと認めるには足りない。加えて,本件会社では,どの支店であっても,毎年12月頃は歳暮等の配達の関係で繁忙期であり(乙36),本件労働者は,平成27年12月時点で,本件会社に入 社してから16年以上,センター長になってから13年以上が経過していたことから,同様の繁忙期を既に何度も経験済みであり,事前に一定の予測ができる事態であったと認められることも指摘できる。 他方で,発病前4か月目の時間外労働時間数は,130時間を超えており,認定基準において心理的負荷の強度が「中」になる例の目安とされる「1か 月に80時間」を優に上回るものであったし,これに続く発病前3か月目の時間外労働時間数もほぼ80時間であり,その後も,1か月当たり相応の時間外労働を行っていた(発病前2か月目が約57時間,発病前1か月目が70時間)ことが認められる。 イ以上によれば,本件労 目の時間外労働時間数もほぼ80時間であり,その後も,1か月当たり相応の時間外労働を行っていた(発病前2か月目が約57時間,発病前1か月目が70時間)ことが認められる。 イ以上によれば,本件労働者の精神障害発病前6か月間の時間外労働時間に よる心理的負荷の強度は,これのみで客観的に精神障害を発病させるほどのものであったとは認められず,その強度を敢えて評価するとすれば,「中」と解さざるを得ないものの,その程度は,「強」にごく近接したものであったというべきである。そして,労働者が労働日に長時間にわたり業務に従事する状況が継続するなどして,疲労や心理的負荷等が過度に蓄積すると,労働者 の心身の健康を損なう危険のあることは,周知のところであるが,上記のような労働実態によれば,本件労働者は,特に,平成27年12月の繁忙期の長時間労働により心身の疲労を蓄積させ,その後も恒常的に長時間労働を行い,十分回復する機会も得られなかったといわざるを得ない。したがって,本件労働者は,平成28年3月下旬頃には,それまでの長時間労働によりそ のストレス対応能力を相当程度低下させていたものと認められる。 ⑷ センター員による2件の事故及び本件労働者の事故についてア原告は,平成28年2月のセンター員による2件の事故の発生はセンター長である本件労働者にとっては認定基準別表1の具体的出来事5「会社で起きた事故,事件について,責任を問われた」に該当し,その心理的負荷の強度は「中」である旨主張する。また,原告は,本件労働者の事故の発生は認 定基準別表1の具体的出来事3「業務に関連し,重大な人身事故,重大事故を起こした」に該当するほか,安全会議等で過失を指摘されたり,安全指導長による指導を受けたりしたことは同30「上司とのトラブ 定基準別表1の具体的出来事3「業務に関連し,重大な人身事故,重大事故を起こした」に該当するほか,安全会議等で過失を指摘されたり,安全指導長による指導を受けたりしたことは同30「上司とのトラブルがあった」,同31「同僚とのトラブルがあった」に該当し,本件労働者の事故及びその後の経過による心理的負荷の強度は「強」である旨主張する。 イそこで検討するに,センター員による2件の事故は,いずれも物損事故であり,事故を起こしたドライバーに対する本件会社の処分も,うち1名に対する求償金1万円の請求にとどまり,本件労働者に対しては何らの処分もされておらず,本件労働者が,その後,憂慮すべき心理的負荷となり得る事後対応を求められた事実も認められない。そうすると,平成28年2月のセン ター員による2件の事故のみにより,本件労働者が「責任を問われた」として,「中」の強度の心理的負荷を受けたと解することはできない。 他方,本件会社が貨物自動車運送事業等を行う我が国有数の大企業として,日頃からサービスドライバーに対し,「事故防衛」的な運転を心掛けるよう指導していたこと(乙33,43)に加え,業務中に交通事故が発生した場 合,センター全体で安全会議を実施した上,一定期間,当事者であるドライバーの乗務を停止し,再教育を行うこととしていることからすれば,本件会社においては,業務中の交通事故の発生は,明確な処分がなかったとしても,相応に重い出来事として扱われていたものと認められる。そして,本件労働者は,原告に送信したメッセージ(前記2)によってもセンター員に よる2件の事故が発生したことに責任を感じて一定の心理的負荷を受けて いたものと認められるところ,K支店長の原告に対する平成28年3月9日のメールの内容(「確かに センター員に よる2件の事故が発生したことに責任を感じて一定の心理的負荷を受けて いたものと認められるところ,K支店長の原告に対する平成28年3月9日のメールの内容(「確かに俺もセンター長時代,事故2連発の後は人前で泣いたけどな」。前記2⑶イ)をみても,これは,本件労働者の特異な反応ではなく,本件会社のセンター長一般にみられる反応であると解される。以上を背景として,本件労働者は,センター員に対する事故防止のための指導を強 めることとなったのであるから,これらの事情は,本件労働者の事故の心理的負荷を検討するに当たり,軽視し難いものであるといえる。 ウ次に,本件労働者の事故による心理的負荷について検討するに,本件労働者の事故は,一時停止を無視して交差点に進入した相手方により大きな過失のある事故であって,かつ物損事故にとどまっていたばかりか,本件労働者 に対し,本件会社から何らかの処分がされることが予定されていた事実も認められない。そして,本件労働者の事故を受けて実施された安全会議や安全指導長による面談等においても,本件労働者を厳しく責めるようなやり取りが行われた事実は認められない。そうすると,本件労働者の事故の態様やその後の経過を,「業務に関連し,重大な人身事故,重大事故を起こした」とか, 「上司とのトラブルがあった」又は「同僚とのトラブルがあった」に該当するものとは評価できず,これのみによって客観的に強い心理的負荷が生ずるものと評価することは困難である。 しかしながら,本件労働者の事故は,センター員による2件の事故からほどなくして起こったものであったところ,本件労働者は,前記のとおり,本 件会社が日頃から,「事故防衛」的な運転を心掛けるよう指導し,業務中の交通事故の発生を相応に重い出来 よる2件の事故からほどなくして起こったものであったところ,本件労働者は,前記のとおり,本 件会社が日頃から,「事故防衛」的な運転を心掛けるよう指導し,業務中の交通事故の発生を相応に重い出来事として扱っていたことを前提に,センター員による2件の事故についても責任及び心理的負荷を感じ,センター員に対する事故防止のための指導を強めていたところであって,本件労働者の事故は,その矢先に生じたものであるから,本件労働者が,実際の損害や自身の 過失割合以上の責任を感じるとともに,センター長としての面目を失い,セ ンター員に何も言えなくなってしまったと感じ,今後の本件会社における勤務についても不安を覚えたことは,客観的にみても無理からぬことであったといえる。 このように,本件会社における交通事故の位置付けを前提として,センター員による2件の事故といった従前の経緯や本件労働者のセンター長とし ての立場を踏まえると,本件労働者の事故による心理的負荷の強度は,「中」と評価するのが相当である。 ⑸ トライアルについてア原告は,本件労働者がトライアルについてアイデアを出すことができず,相当悩んでいたことを指摘して,トライアルの指示を受けたことは,認定基 準別表1の具体的出来事8「達成困難なノルマが課された」に該当し,その心理的負荷の強度は「中」である旨主張する。 イそこで検討するに,本件労働者は,平成28年2月以降,トライアルに取り組んでいたものの,K支店長を納得させるような提案をすることができず,同年3月9日には,トライアルのアイデアが出せないことに相当悩んでいた ことが認められる。しかし,トライアルは,飽くまで不在票を減らすための試行的な取組であって,本件労働者がアイデアを出せなかったことについて, トライアルのアイデアが出せないことに相当悩んでいた ことが認められる。しかし,トライアルは,飽くまで不在票を減らすための試行的な取組であって,本件労働者がアイデアを出せなかったことについて,本件労働者がK支店長を始めとする上司から何らかの叱責や処分を受けたという事実はなく,K支店長も,本件労働者がアイデアを出せないことを踏まえ,Eセンターが同年にはトライアルを実施しなかったことを容認してい る。また,本件労働者ほどの経験がある者にとっても,トライアルのアイデアを出すことが困難であったことを基礎付ける事実又は証拠はない(むしろ,本件労働者の書き置きや,本件労働者がK支店長に送信したメールの内容を踏まえれば,本件労働者がトライアルのアイデアを出すことができなかったのは,悪化の途上にあった精神症状の影響によるものと解するのが自然であ る。)。 そうすると,トライアルの指示を受け,これに取り組んだことが心理的負荷になり得るとしても,その強度は,「弱」にとどまる。 ⑹ 総合評価以上によれば,本件労働者の業務上の心理的負荷の強度を検討するに当たっては,長時間労働と本件労働者の事故を重視すべきである。 そして,本件労働者は,平成27年12月の繁忙期に1か月130時間を超える長時間労働により心身の疲労が蓄積し,その後も恒常的に長時間労働を行っていたため,平成28年3月下旬頃,ストレス対応能力が相当程度低下した状態にあったといえるところ,このような状況下で発生した本件労働者の事故は,本件会社における交通事故の位置付けを前提として,センター員による2 件の事故といった従前の経緯や本件労働者のセンター長としての立場を踏まえると,本件労働者に強い責任を感じさせたとともに,センター長としての面目を失わせた 付けを前提として,センター員による2 件の事故といった従前の経緯や本件労働者のセンター長としての立場を踏まえると,本件労働者に強い責任を感じさせたとともに,センター長としての面目を失わせたとしても無理からぬものであったといえる。このように,本件労働者は,長時間労働という「強」にごく近接した「中」の強度の心理的負荷に加えて,本件労働者の事故という「中」の強度の心理的負荷を受けたものであ るから,これらの事情を総合すると,本件労働者がその頃に受けた業務による心理的負荷の強度は,合わせて「強」であり,客観的にみて本件労働者に精神障害を発病させるほどのものであったといえる一方,本件では,前記で検討したところの他に,本件労働者の精神障害発病の契機となり得る出来事は指摘されていない。 ⑺ まとめ以上によれば,本件労働者の精神障害(適応障害)の発病は,本件労働者の業務に内在又は通常随伴する危険が現実化したものと評価でき,業務と精神障害の発病との間には相当因果関係があると認めるのが相当である。そして,本件労働者は,業務により発病した精神障害により,正常の認識,行為選択能力 あるいは自殺行為を思いとどまる精神的抑制力が著しく阻害された状況下で 本件自殺に至ったものと認められる。したがって,本件自殺は,本件会社における業務に起因するものであって,本件自殺に業務起因性がないことを前提とする本件各処分は違法であり,いずれも取消しを免れない。 第4 結論よって,原告の本件各請求は,いずれも理由があるから,認容することとして, 主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第1部 裁判長裁判官井上泰人 裁判官前田早紀子 裁 主文 のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第1部 裁判長裁判官井上泰人 裁判官前田早紀子 裁判官伊藤達也 別紙1~4(省略)

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