平成27年1月22日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成24年(ワ)第15621号特許権侵害行為差止等請求事件口頭弁論の終結の日平成26年11月18日判決東京都千代田区<以下略>原告 JX日鉱日石金属株式会社同訴訟代理人弁護士高 橋 雄一郎同訴訟代理人弁理士望月尚子相模原市<以下略>被告三菱電機メテックス株式会社同訴訟代理人弁護士近藤惠嗣重入正希前田将貴同補佐人弁理士加藤 恒永井 豊倉谷泰孝主文原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求被告は,別紙被告製品目録記載の製品を生産し,使用し,譲渡し,譲渡の申出をしてはならない。 第2 事案の概要本件は,Cu-Ni-Si系合金に関する特許権を有する原告が,被告に対し,被告の製造,販売する別紙被告製品目録記載1及び2の各製品(以下「被 告各製品」といい,それぞれをその番号に従い「被告製品1」のようにいう。)が原告の特許権の特許発明の技術的範囲に属すると主張して,特許法(以下「法」という。)100条に基づき,上記製品の生産,使用,譲渡及び譲渡の申出の差止めを求める事案である。 1 前提事実(当事者間に争いがないか,後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認めることができる という。)100条に基づき,上記製品の生産,使用,譲渡及び譲渡の申出の差止めを求める事案である。 1 前提事実(当事者間に争いがないか,後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認めることができる事実) 原告の特許権ア原告は,発明の名称を「強度と曲げ加工性に優れたCu-Ni-Si系合金」とする次の特許権(以下「本件特許権」といい,この特許を「本件特許」という。)を有している。 特許番号第4408275号出願日平成17年9月29日登録日平成21年11月20日イ原告は,平成23年12月28日,特許請求の範囲の減縮又は明りょうでない記載の釈明を目的として,特許出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)及び特許請求の範囲(以下「本件特許請求の範囲」という。)の訂正審判を請求し,特許庁は,平成24年2月15日,訂正を認めるとの審決をし,同審決はそのころ確定した。上記審決は,別紙「訂正内容」の1のとおり記載されていた部分を,同2のとおり訂正する(以下,この訂正を「本件第一次訂正」という。)というものである。 (甲3)ウ原告は,本訴係属中の平成25年5月10日,特許請求の範囲の減縮又は明りょうでない記載の釈明を目的として,本件明細書及び本件特許請求の範囲の訂正審判を請求し,特許庁は,同年6月20日,訂正を認めるとの審決をし,同審決はそのころ確定した。上記審決は,別紙「訂正内容」の2のとおり記載されていた部分を,同3のとおり訂正する(以下,この 訂正を「本件第二次訂正」といい,本件第一次訂正と併せて「本件各訂正」という。)というものである。 (甲29,39) 原告の発明本件特許の特許請求の範囲の請求 訂正を「本件第二次訂正」といい,本件第一次訂正と併せて「本件各訂正」という。)というものである。 (甲29,39) 原告の発明本件特許の特許請求の範囲の請求項1の記載は,別紙「訂正内容」の3のとおりである(以下,この請求項1に係る発明を「本件発明」という。)。 被告の行為被告は,型式番号を「M702S」とする銅合金(以下「被告合金1」という。),型式番号を「M702U」とする銅合金(以下「被告合金2」という。)及び型式番号を「M702C」とする銅合金(以下「被告合金3」といい,被告合金1及び2と併せて「被告各合金」という。)の製造,販売及び販売の申出をしている。 被告合金1は,質別に「1/4HT」,「1/2HT」,「HT」,「EHT」の4種類に分かれているが,被告合金2の質別は「1/2HT」のみであり,被告合金3の質別は「H」のみである。質別の「T」は,低温焼鈍を表し,「H」は「HARD」,「E」は「EXTRA」の略である。 (甲6,7,43,44) 本件発明の構成要件の分説本件発明を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,それぞれの符号に従い「構成要件A」のようにいう。)。 A 1.0~4.5質量%のNiとB 0.25~1.5質量%のSiを含有し,C 残部が銅および不可避的不純物からなり,D {111}正極点図において,以下の(1)~(2)の範囲のX線ランダム強度比の極大値が6.5以上10.0以下であることを特徴とする集合組織を有する (1)α=20±10°,β=90±10°(2)α=20±10°,β=270±10°(但し,α:シュルツ法に規定する回折用ゴニオ 特徴とする集合組織を有する (1)α=20±10°,β=90±10°(2)α=20±10°,β=270±10°(但し,α:シュルツ法に規定する回折用ゴニオメータの回転軸に垂直な軸,β:前記回転軸に平行な軸)E 強度と曲げ加工性に優れたCu-Ni-Si系合金。 被告各合金の構成被告各合金の構成を,当事者間に争いのない範囲で本件発明の構成要件AないしC及びEに対応させると,次のとおりである(以下,それぞれの符号に従い「構成1-a」のようにいう。)。 ア被告合金11-a 2.2~3.2質量%のNiと1-b 0.4~0.8質量%のSiを含有し,1-c 残部が主として銅からなり,さらにSn,Zn,Ag,Bを含有し,1-e 引張強さが750~850N/mm2,0.2%耐力が730STDN/mm2,90°曲げ試験結果が圧延方向及びこれと直角な方向において夫々1.0maxR/tであるCu-Ni-Si系合金。 イ被告合金22-a 2.2~3.2質量%のNiと2-b 0.4~0.8質量%のSiを含有し,2-c 残部が主として銅からなり,さらにZnを含有し,2-e 引張強さが750~850N/mm2,0.2%耐力が730N/mm2,90°曲げ試験結果が圧延方向に直角な方向において1.5max(厚さ0.3mm以上では2.0max)R/tであるCu-Ni-Si系合金。 ウ被告合金33-a 2.2~3.2質量%のNiと,3-b 0.4~0.8質量%のSiを含有し,3-c 残部が主として銅からなり,さらにSn,Zn, ウ被告合金33-a 2.2~3.2質量%のNiと,3-b 0.4~0.8質量%のSiを含有し,3-c 残部が主として銅からなり,さらにSn,Zn,Ag,Bを含有し,3-e 引張強さが600~720N/mm2,0.2%耐力が600STDN/mm2,90°曲げ試験結果が圧延方向において1.5maxR/t,圧延方向と直角な方向において2.5maxR/tであるCu-Ni-Si系合金。 被告各合金の構成要件充足性被告各合金は,構成要件A,B及びEを充足する。 2 争点 被告各製品の特定とその適法性(争点1) 被告各製品が本件発明の技術的範囲に属するか否か(争点2)ア被告各製品が構成要件Cを充足するか否か(争点2-1)イ被告各製品が構成要件Dを充足するか否か(争点2-2) 本件特許が特許無効審判により無効にされるべきものと認められるか否か(争点3)ア新規性を欠くか否か(争点3-1)イ進歩性を欠くか否か(争点3-2)ウいわゆる実施可能要件に反するか否か(争点3-3)エいわゆるサポート要件に反するか否か(争点3-4) 被告が先使用による通常実施権を有するか否か(争点4) 差止めの必要性があるか否か(争点5) 3 争点に関する当事者の主張 争点1(被告各製品の特定とその適法性)について (原告)差止めの対象とする被告各製品は,別紙被告製品目録記載のとおりである。 X線ランダム強度比は測定によって容易に求めることができるから,その数値限定範囲の内外を区別することは可能である。本件発明にいう所定範囲のX線ランダム強度比 告製品目録記載のとおりである。 X線ランダム強度比は測定によって容易に求めることができるから,その数値限定範囲の内外を区別することは可能である。本件発明にいう所定範囲のX線ランダム強度比は,{123}面<412>方位が圧延方向である結晶の割合を示したものであって,十分な技術上の根拠があり,溶体化処理前の加工度及び板厚減少率を調整し,溶体化処理を適切に行うことによって制御することができる。被告各製品は,同一の製造ロットから得られる限り,同一の製造工程を経て製造されるものであるから,同一の製造ロットの被告各製品において,構成要件Dの所定範囲におけるX線ランダム強度比の極大値(以下,この範囲におけるX線ランダム強度比の極大値を単に「X線ランダム強度比の極大値」という場合がある。)は,誰がどこを測定しても同一である。 原告による被告各製品の特定は,型式番号で特定し,それを特許請求の範囲の文言と同一の文言を用いて更に限定しているものであるから,当然に適法である。 (被告)別紙被告製品目録は,本件発明の構成要件Dの記載を引き写したものであるが,そもそも「X線ランダム強度比の極大値が6.5以上のもの」が何を意味するのか明確ではないし,被告各製品のX線ランダム強度比の極大値が6.5以上になるか否かは被告の制御を超えた偶然の産物であって,これをもって特定することは,何が審理及び差止めの対象であるかを不明確にするものである。また,被告各製品出荷時に製品毎にX線ランダム強度比の極大値を測定することは現実的に不可能であり,これが6.5以上のものについてのみ製造,販売を差し控えることはできないから,本件のような方法で被告各製品の製造,販売等の差止めが認められると,結局全ての被告各製品の 製造,販売等を差し控えざる 6.5以上のものについてのみ製造,販売を差し控えることはできないから,本件のような方法で被告各製品の製造,販売等の差止めが認められると,結局全ての被告各製品の 製造,販売等を差し控えざるを得なくなってしまい,過剰な差止めとなる。 そうであるから,差止めの対象について,別紙被告製品目録記載のとおりの特定方法を採ることは許されず,原告による被告各製品の特定は,不適法である。 争点2(被告各製品が本件発明の技術的範囲に属するか否か)についてア争点2-1(被告各製品が構成要件Cを充足するか否か)について(原告)本件特許請求の範囲の請求項1の従属項である請求項3は,Sn及びZnを含有することを文言上許容しており,本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0014】,【0015】には,Sn及びZnを含有する場合があることを前提とする記載があることからすれば,構成要件Cは,このような添加物の含有を除外する趣旨のものではないから,被告各製品は,構成要件Cを充足する。 (被告)構成要件Cは,銅と不可避的不純物以外の添加物を含有する場合を除外するものであり,ここにいう不可避的不純物とは,①意図して導入するまでもなく鉄鋼材料中に存在することが自明なものであって,かつ,②その存在は不要なものであるが,微量であり,鉄鋼製品の特性に必ずしも悪影響を及ぼさないため,存在するままにされているものである。 被告合金1は上記のほかにSnとZnを含有し,被告合金2は上記のほかにZnを含有しているが,これらは,被告が意図して導入したものであるから,不可避的不純物に該当せず,上記添加物に該当する。 イ争点2-2(被告各製品が構成要件Dを充足するか否か)について(原告) は,被告が意図して導入したものであるから,不可避的不純物に該当せず,上記添加物に該当する。 イ争点2-2(被告各製品が構成要件Dを充足するか否か)について(原告) 被告製品1aのほか,次の構成(以下 「構成1-d」という。)を有する。 1-d {111}正極点図において,以下の(1)の範囲のX線ランダム強度比の極大値が7.601~8.185であり,(2)の範囲のX線ランダム強度比の極大値が7.601~8.185である(1)α=20±10°,β=90±10°(2)α=20±10°,β=270±10°(但し,α:シュルツ法に規定する回折用ゴニオメータの回転軸に垂直な軸,β:前記回転軸に平行な軸)被告は,原告が特定した被告製品1の構成1-dを争わない旨陳述したにもかかわらず,その後,これを否認するに至ったもので,自白の撤回に当たる。原告は,この自白の撤回に異議がある。 b 上記の構成1-dを有する被告製品1は,X線ランダム強度比の極大値が6.5以上10.0以下であるから,構成要件Dを充足する。 被告製品2a構成のほか,次の構成(以下「構成2-d」という。)を有する。 2-d {111}正極点図において,以下の(1)の範囲のX線ランダム強度比の極大値が6.5~8.770であり,(2)の範囲のX線ランダム強度比の極大値が6.5~8.770である(1)α=20±10°,β=90±10°(2)α=20±10°,β=270±10°(但し,α:シュルツ法に規定する回折用ゴニオメータの回転 (1)α=20±10°,β=90±10°(2)α=20±10°,β=270±10°(但し,α:シュルツ法に規定する回折用ゴニオメータの回転軸に垂直な軸,β:前記回転軸に平行な軸)b 上記構成2-dを有する被告製品2は,X線ランダム強度比の極大 値が6.5以上10.0以下であるから,構成要件Dを充足する。 c なお,被告は,原告が構成要件Dに対応する被告製品2の構成を下記のとおり特定した(以下,この構成を「構成2-d’」という。)のに対し,これを争わない旨陳述したにもかかわらず,その後,これを否認するに至ったもので,自白の撤回に当たる。原告は,この自白の撤回に異議がある。 記2-d’{111}正極点図において,以下の(1)の範囲のX線ランダム強度比の極大値が5.927~8.770であり,(2)の範囲のX線ランダム強度比の極大値が6.373~8.770である(1)α=20±10°,β=90±10°(2)α=20±10°,β=270±10°(但し,α:シュルツ法に規定する回折用ゴニオメータの回転軸に垂直な軸,β:前記回転軸に平行な軸)(被告) 被告合金1被告合金1のX線ランダム強度比の極大値は3.26ないし6.17であるから,被告合金1は,構成要件Dを充足しない。 被告の争わない旨の陳述は,(甲4。以下「甲4の報告書」という。)における被告合金1のサンプル(以下「甲4のサンプル」という。)の測定結果に対するもので,間接事実に関する自白に過ぎないから,後にこれを否認しても,自白の撤回に当たらない。また,被告合金1のX線ランダ ける被告合金1のサンプル(以下「甲4のサンプル」という。)の測定結果に対するもので,間接事実に関する自白に過ぎないから,後にこれを否認しても,自白の撤回に当たらない。また,被告合金1のX線ランダム強度比の極大値は上記のとおりであるから,自白された事実は,真実に反し,かつ,錯誤に基づいたものである。 原告は,甲4の報告書を根拠として,被告合金1のX線ランダム強度比の極大値が7.601ないし8.185であるとするが,本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0026】では,「本測定では,αとβの回転間隔Δα,Δβを5°として前述の角度範囲内を走査し,16×73=1168点のX線強度を測定した。…図1の(1)および(2)の領域に含まれる50点の中からX線強度の極大値を選択し…」と記載されているのに,原告は,上記の1168点や50点の測定値を開示しないし,被告の測定値とも齟齬するから,甲4の報告書の測定結果は信用することができない。 被告合金2被告合金2のX線ランダム強度比の極大値は5.12ないし5.33であるから,構成要件Dを充足しない。 被告の争わない旨の陳述は,(甲5。以下「甲5の報告書」という。)における被告合金2のサンプル(以下「甲5のサンプル」という。)の測定結果に対するもので,間接事実に関する自白に過ぎないから,後にこれを否認しても,自白の撤回に当たらない。また,被告合金2のX線ランダム強度比の極大値は前記のとおりであるから,自白された事実は,真実に反し,かつ,錯誤に基づいたものである。 原告は,甲5の報告書を根拠として,被告合金2のX線ランダム強度比の極大値が6.5ないし8.770であるとするが,上記の1168点や50点の測定値を開示しないし,被 づいたものである。 原告は,甲5の報告書を根拠として,被告合金2のX線ランダム強度比の極大値が6.5ないし8.770であるとするが,上記の1168点や50点の測定値を開示しないし,被告の測定値とも齟齬するから,甲5の報告書の測定結果は信用することができない。 争点3(本件特許が特許無効審判により無効にされるべきものと認められるか否か)についてア争点3-1(新規性を欠くか否か)について (被告) 乙33及び乙35に基づく新規性の欠如本件発明は,通常のCu-Ni-Si系合金を熱処理して圧延した場合に生じる集合組織(結晶方位の統計的な偏り)をX線ランダム強度比によって定義しただけであり,何ら新規な合金を定義していない。本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明の実施例の実験に用いた合金Bについて,溶体化処理前の圧延加工度が75%,1パスの板厚減少率が20%又は25%,溶体化処理温度が800℃又は880℃という加工条件で製造すると,良好な特性の合金が得られ,その際のX線ランダム強度比の極大値が7.5又は9.5であったことが記載されている(【表1】,【表3】。別紙「図表一覧」参照)が,特許第4266196号の特許公報(乙33),特開2001-49369の公開特許公報(乙35)及び検索報告書(乙36)によれば,上記加工条件はありふれたものである。すなわち,本件発明は,当業者が当然に行うありふれた加工条件で製造された合金を,X線ランダム強度比の極大値という他のパラメータで言い換えて,見かけの新規性を得たものに過ぎない。 そして,乙33及び乙35に記載された各実施例の加工条件と本件明細書の発明の詳細な説明に記載された加工条件は,ほぼ同じであり,そうであれ い換えて,見かけの新規性を得たものに過ぎない。 そして,乙33及び乙35に記載された各実施例の加工条件と本件明細書の発明の詳細な説明に記載された加工条件は,ほぼ同じであり,そうであれば,乙33及び乙35の各実施例の銅合金のX線ランダム強度比の極大値は,6.5以上10.0以下となるはずである。 被告合金3の公然実施に基づく新規性欠如被告は,本件特許出願前の平成8年10月1日,顧客に対し,本件合金3を販売することを通知して販売を開始した。 が,特に,工番「6003-1」により特定される製品(以下「被告合金3のサンプル」という。)は,次の構成を有する(以下,それぞれの符号に従い「3- a’」のようにいう。)。 3-a’2.71質量%のNiと3-b’0.48質量%のSiを含有し,3-c 残部が主として銅からなり,さらにSn,Zn,Ag,Bを含有し,3-d’{111}正極点図において,以下の(1)~(2)の範囲のX線ランダム強度比の極大値が5.86である(1)α=20±10°,β=90±10°(2)α=20±10°,β=270±10°(但し,α:シュルツ法に規定する回折用ゴニオメータの回転軸に垂直な軸,β:前記回転軸に平行な軸)3-e 引張強さが600~720N/mm2,0.2%耐力が600STDN/mm2,90°曲げ試験結果が圧延方向において1.5maxR/t,圧延方向と直角な方向において2.5maxR/tであるCu-Ni-Si系合金。 被告合金2のうち,甲5のサンプル1のX線ランダム強度比の極大値は構成要件Dの数値範囲に属するが,甲5の報告書の 向と直角な方向において2.5maxR/tであるCu-Ni-Si系合金。 被告合金2のうち,甲5のサンプル1のX線ランダム強度比の極大値は構成要件Dの数値範囲に属するが,甲5の報告書のサンプル2(以下「甲5のサンプル2」という。)のそれは上記数値範囲に属しないというのであるから,被告合金3についても,X線ランダム強度比の極大値が上記数値範囲に属するものがあったことは明らかである。 そうであるから,本件発明は,本件特許出願前に公然実施をされた発明である。 (原告) 本件発明により,X線ランダム強度比の極大値が本件発明の構成要件の数値範囲内に入ることによって,高強度を維持しながら耐曲げ割れ性及び曲げしわ性が改善されるという効果が得られることが初めて分かっ たのである。乙35は,溶体化処理時間や熱間圧延後の板厚が本件発明の実施例とは異なり,熱間圧延の時間や1パスの板厚減少率も不明であるし,乙33に対応する公開特許公報の公開日は本件特許出願の日より後の平成18年1月12日であって,特許庁の審査官は乙36の報告を受けながら本件発明に新規性を認めたのであるから,被告の主張は理由がない。 被告合金3や被告合金3のサンプルが本件特許出願前に公然と譲渡等された事実はなく,仮にこの事実があったとしても,本件合金3は構成要件Dを充足しないから,本件発明は,本件特許出願前に公然実施をされた発明ではない。 ンダム強度比の極大値を調整するというインセンティブが働く前に,構成要件Dの定めるX線ランダム強度比の極大値の範囲内の銅合金が製造された可能性は,極めて低い。 イ争点3-2(進歩性を欠くか否か)について(被告) 被告合金3のサンプルは,構成 めるX線ランダム強度比の極大値の範囲内の銅合金が製造された可能性は,極めて低い。 イ争点3-2(進歩性を欠くか否か)について(被告) 被告合金3のサンプルは,構成を有するから,本件発明の構成要件AないしC及びEを充足する。 本件発明と公然実施された被告合金3又は被告合金3のサンプルが開示する発明(以下「被告発明」という。)との相違点は,本件発明におけるX線ランダム強度比の極大値が6.5以上10.0以下であるのに対し,被告発明におけるそれが5.86であるという点である。 本件発明と被告発明との相違点は,数値限定の有無のみであり,課題が共通するから,本件発明は,X線ランダム強度比の極大値の数値を限定した点にのみ特徴がある数値限定発明又はパラメータ発明であるが,このような発明に進歩性を認めるためには,異質な効果又は同質である が当業者が予測できない際立って優れた効果(臨界的意義)が認められる必要がある。 しかるに,本件明細書の発明の詳細な説明の記載によれば,本件発明の実施例の実験に用いた合金Aについて,【表2】(別紙「図表一覧」参照)において,X線ランダム強度比の極大値が6.5である実験例No.3と6.3である実験例No.4を対比すると,本件第二次訂正により比較例となったNo.4の方が,発明例であるNo.3よりも耐曲げ割れ性及び曲げしわの幅の点で優れ,強度の点は,No.3の方がわずか2MPaのみ優れているに過ぎないなど,本件発明の数値限定の内と外で量的に顕著な差異がない。本件合金Bについても,【表3】において,X線ランダム強度比の極大値が5.5である実験例No.5と9. 5である実験例No.7を対比すると,本件第二次訂正により比較例となったNo.5の方が, がない。本件合金Bについても,【表3】において,X線ランダム強度比の極大値が5.5である実験例No.5と9. 5である実験例No.7を対比すると,本件第二次訂正により比較例となったNo.5の方が,発明例であるNo.7よりも0.2%耐力,耐曲げ割れ性及び曲げしわの幅という全ての点で優れているなど,本件発明の数値限定の内と外で量的に顕著な差異がない。 また,本件各訂正の結果,訂正後の数値範囲(X線ランダム強度比の極大値が6.5以上10.0以下)における曲げ加工性は,訂正により除外された数値範囲(X線ランダム強度比の極大値が2.0以上6.5未満)におけるそれよりも劣り,数値限定された範囲において,そもそも「有利な効果」がない。 そして,原告は,被告合金3のカタログ(甲6)上の引張強さ,0. 2%耐力及び90°曲げ試験結果を根拠に,被告合金3が構成要件Eを充足すると主張していたが,公然実施された被告合金3が構成要件Dを充足していなかったとすると,構成要件Dの充足の有無は本件発明の効果に無関係ということになるから,構成要件Dは,任意の数値を恣意的に定めたに過ぎない。 そうであるから,本件発明に進歩性は認められない。 (原告) そもそも被告合金3や被告合金3のサンプルが本件特許出願前に公然と譲渡等された事実はなく,仮にこの事実があったとしても,本件特許出願時に,X線ランダム強度比の極大値を制御することで,銅合金において優れた曲げ加工性と高強度という互いに相反する性質の特性をいずれもバランスの優れたものにすることが可能となるという技術的思想自体は公然と知られておらず,X線ランダム強度比の極大値の1点を示すに過ぎない被告合金3のサンプルに基づいて,銅合金が所定の結晶構造となるよ ランスの優れたものにすることが可能となるという技術的思想自体は公然と知られておらず,X線ランダム強度比の極大値の1点を示すに過ぎない被告合金3のサンプルに基づいて,銅合金が所定の結晶構造となるように所定の範囲でのX線ランダム強度比に着目し,これを特定の範囲とするように調整を試みることは困難であり,被告合金3のサンプルに基づいて本件発明に想到することは困難であった。 したがって,本件発明は,進歩性を有する。 X線ランダム強度比の極大値と曲げ加工性及び強度との関係は知られていなかったのであるから,本件発明について臨界的意義を問題にする余地はない。なお,X線ランダム強度比の極大値が5.5以上10.0以下の数値範囲であるよりも,6.5以上10.0以下の数値範囲である方が,強度において向上するのであり,本件第二次訂正は,強度が向上し,曲げしわの幅も大きくならないという作用効果をより確実に得られる数値範囲に限定するのであって,その数値範囲外の構成と比べて顕著な効果が得られている。 ウ争点3-3(いわゆる実施可能要件に反するか否か)について(被告)Cu-Ni-Si系合金に圧延加工によって生じる集合組織が存在することは周知であるが,この集合組織をX線ランダム強度比によって数値限定するという点が本件発明に特有な事項であるから,いかにして望ましい X線ランダム強度比を得るかが明らかでなければ本件発明が実施可能であるとはいえないところ,本件明細書の記載から,どのような製造条件に従えばX線ランダム強度比の極大値が6.5以上10.0以下となる合金を得られるのかを読み取ることはできない。本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0022】には,溶体化処理,溶体化処理と時効処理の間の冷間圧延,時効処 強度比の極大値が6.5以上10.0以下となる合金を得られるのかを読み取ることはできない。本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0022】には,溶体化処理,溶体化処理と時効処理の間の冷間圧延,時効処理後の冷間圧延及び時効処理について,「本発明の集合組織が得られるならば任意に設定して構わない。」と記載されているが,溶体化処理条件や溶体化処理後の圧延の加工度が集合組織を含む合金の性質に大きな影響を与えることは周知であるから,上記のような記載では実施が不可能である。また,例えば,Niを3.5質量%,Siを0.65質量%含み,残部が銅からなる仮想の合金Cは,組成の点で本件発明の範囲に含まれるが,この合金Cを本件明細書の発明の詳細な説明の【表1】に記載の製造条件で製造した場合にX線ランダム強度比の極大値が6.5以上10.0以下に制御することができるのかは明らかでなく,組成の点で本件発明の構成要件を満たす場合に,どのような条件で加工すればX線ランダム強度比の極大値を上記範囲内に制御することができるのかが分からない。 そうであるから,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるということはできない。なお,これを訂正に着目してみれば,本件第二次訂正は,独立特許要件の定めに違反してされたということになる。 (原告)本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0019】ないし【0022】及び【表1】の記載によれば,熱間圧延後の板厚,溶体化処理前の冷間圧延加工度,溶体化処理前の冷間圧延の1パスの板厚減少率,溶体化処理温度等をそれぞれ制御することによって,X線ランダム強度比の極大値が6. 5以上10.0以下となる合金を得ることができることが明示されている。 また, 間圧延の1パスの板厚減少率,溶体化処理温度等をそれぞれ制御することによって,X線ランダム強度比の極大値が6. 5以上10.0以下となる合金を得ることができることが明示されている。 また,当業者は,本件発明の実施例を見れば,これらの加工条件を変化させた場合にX線ランダム強度比の極大値がどのように変化するかを理解することができるから,X線ランダム強度比の極大値を目標値になるよう容易に調整することができるのである。 エ争点3-4(いわゆるサポート要件に反するか否か)について(被告)本件明細書の発明の詳細な説明の記載によれば,本件発明の実施例の実験に用いた合金Aについて,X線ランダム強度比の極大値が6.5である実験例No.3と6.3である実験例No.4とを比較すると,本件第二次訂正により比較例となったNo.4の方が,強度はわずかに劣るものの,耐曲げ割れ性及び曲げしわの大きさの点で優れており,X線ランダム強度比の極大値が2.0以上6.5未満の範囲のものの方が,6.5以上10. 0以下の範囲のものよりも曲げ加工性が優れている(【表2】)。また,合金Bについて,X線ランダム強度比の極大値が5.5である実験例No. 5と9.5である実験例No.7とを対比すると,本件第二次訂正により比較例となったNo.5の方が強度,耐曲げ割れ性及び曲げしわの大きさの全ての点で優れ,X線ランダム強度比の極大値が7.5である実験例No.6と5.5又は6.2である実験例No.3又はNo.5とを比較すると,本件第二次訂正により比較例となった実験例NO.3又はNo.5の方が,強度は劣るものの,耐曲げ割れ性及び曲げしわの大きさの点で優れている(【表3】)。 そうすると,当業者が,本件明細書の発明の詳細な説明の記載から,X線ラン NO.3又はNo.5の方が,強度は劣るものの,耐曲げ割れ性及び曲げしわの大きさの点で優れている(【表3】)。 そうすると,当業者が,本件明細書の発明の詳細な説明の記載から,X線ランダム強度比の極大値を6.5以上とするという技術思想を読み取ることはできないし,X線ランダム強度比の極大値を6.5以上10.0以下とすれば,強度を維持しつつ曲げ加工性を向上させるとの課題を解決す ることができると認識することもできないから,本件発明が発明の詳細な説明に記載したものであるということはできない。なお,これを訂正に着目してみれば,本件第二次訂正は,新規事項を追加するものであり,X線ランダム強度比の極大値の下限を5.5とした本件第一次訂正も同様である。 (原告)本件明細書の発明の詳細な説明の【表2】及び【表3】から,X線ランダム強度比の極大値が6.5以上10.0以下となる範囲内で強度の高い領域が存在することを理解することができるし,本件発明の構成は曲げ加工性も併せて考慮しているのである。 争点4(被告が先使用による通常実施権を有するか否か)について(被告)ア被告は,平成8年10月に銅合金「M702S-1/2H」(以下「先使用製品1」という。)の販売を開始し,平成15年4月1日に先使用製品1の仕上げ圧延後低温焼鈍とした銅合金「M702S-1/2HT」(以下「先使用製品2」という。)の販売を開始し,平成17年4月1日に「M702U」(以下「先使用製品3」といい,先使用製品1及び2と併せて「各先使用製品」という。)の販売を開始したが,各先使用製品の開発に当たって原告の特許出願に係る発明の内容を知る機会はなかった。 また,被告は,これらの製造条件を変更したことがなく,先使用製 各先使用製品」という。)の販売を開始したが,各先使用製品の開発に当たって原告の特許出願に係る発明の内容を知る機会はなかった。 また,被告は,これらの製造条件を変更したことがなく,先使用製品2は被告合金1と,先使用製品3は被告合金2とそれぞれ全く同一の製品であるから,被告合金1及び2においてX線ランダム強度比の極大値が6. 5以上10.0以下となるものがあるとすれば,本件特許出願前の被告合金1及び2においてもX線ランダム強度比の極大値が上記範囲内となるものがあったはずである。 そうであれば,被告は,本件特許権について先使用による通常実施権を 有する。 イ被告が平成8年7月に製造した先使用製品1のX線ランダム強度比の極大値は4.74であり,平成15年7月に製造した先使用製品2のそれは3.26であり,平成17年5月に製造した先使用製品3のそれは5.15であるから,本件特許出願時の特許請求の範囲を前提とすれば,被告は,各先使用製品に基づく先使用による通常実施権を有することになる。 そして,法128条が訂正審決に遡及効を認めた趣旨は,法29条1項及び2項の適用に当たり,訂正後の明細書及び特許請求の範囲により特許出願がされたものとみなすことで無効事由の治癒を認めるためであるに過ぎないのであって,遡及効により先使用による通常実施権の成立を否定する(あるいは一度成立した先使用による通常実施権の効力を消滅させる)ことは,同条の趣旨を超えて特許権者を保護し,社会一般の利益を害することになるから,法79条における「特許出願に係る発明」は,現実の特許出願に係る発明を意味すると解すべきである。そうすると,本件における「特許出願に係る発明」は,X線ランダム強度比の極大値が2.0以上10.0以下の発明ということ 「特許出願に係る発明」は,現実の特許出願に係る発明を意味すると解すべきである。そうすると,本件における「特許出願に係る発明」は,X線ランダム強度比の極大値が2.0以上10.0以下の発明ということになるが,被告は,本件特許出願前と同一の仕様及び製造条件で,品名,質別とも同一の被告合金1及び2の販売を現在まで継続しているのであるから,本件特許権について先使用による通常実施権を有し,かつ,その範囲は,出願前から製造,販売され,仕様及び製造条件に変更のない全商品に及ぶ。 (原告)被告が本件特許出願前に本件発明の実施をしていたことの証拠はない。 特許請求の範囲の訂正審決が確定した場合には,訂正後の特許請求の範囲を前提として先使用による通常実施権の成否を判断すべきは当然である。 争点5(差止めの必要性があるか否か)について(原告) 溶体化処理前の加工度及び板厚減少率並びに溶体化処理の時間及び温度が同じであれば,{123}面<412>方位が圧延方向である結晶の割合は同じになるのであるから,{123}面<412>方位が圧延方向である結晶の程度を評価する指標である構成要件DのX線ランダム強度比の極大値も同じになる。そして,同じ工程を経たコイルから切り出される銅合金条のX線ランダム強度比の極大値は全て同じになるから,少なくとも甲4のサンプル及び甲5のサンプル1と同じコイルから切り出された多数の銅合金条は,全て本件発明の技術的範囲に属する。すなわち,被告は,本件発明の技術的範囲に属する銅合金の製造,販売を反復継続したものである。 また,被告は,被告各製品が本件発明の技術的範囲に属しないと主張して,被告各製品の生産,使用,譲渡及び譲渡の申出をしない旨の条項を含む原告の和解の提案も受け容 売を反復継続したものである。 また,被告は,被告各製品が本件発明の技術的範囲に属しないと主張して,被告各製品の生産,使用,譲渡及び譲渡の申出をしない旨の条項を含む原告の和解の提案も受け容れず,被告各製品を今後も生産等し続けることを明確に表明している。 したがって,被告は,被告各製品を生産,譲渡等して,本件特許権を侵害するおそれがあるから,これを差し止める必要性がある。 (被告)被告は,過去に本件特許権を侵害したことはないが,甲4の報告書及び甲5の報告書に記載の各実験結果を信頼し得ると仮定しても,X線ランダム強度比の極大値は同じ製造条件で製造された銅合金でも製品や部位によってばらつきが生じるから,上記各実験結果は,このようなばらつきの中で,たまたま被告が過去に製造,販売した被告各合金それぞれ1枚ずつの各1点においてX線ランダム強度比の極大値が6.5以上10.0以下となったことを示したに過ぎず,これをもって,被告が本件発明を業として実施していたとはいえない。 本件明細書には,極大値を直接コントロールする方法が記載されていないから,被告は,本件特許権の侵害を回避しようとすると,全製品の製造を中 止しなければならなくなって多大な不利益を被ることになるし,被告は,本件特許の出願前から被告各合金を製造,販売しており,その間これらの製造条件を変更したことはないから,あえて本件特許権の侵害をしようとする動機付けもないのであって,たとえ被告が制御不能な偶然の事情によって被告各合金のX線ランダム強度比の極大値の極大値が6.5以上となる製品を製造する可能性があるとしても,これをもって,本件特許権の「侵害のおそれ」があるとすることは,著しく衡平を欠く。 第3 当裁判所の判断 1 争点1(被告各製品 値の極大値が6.5以上となる製品を製造する可能性があるとしても,これをもって,本件特許権の「侵害のおそれ」があるとすることは,著しく衡平を欠く。 第3 当裁判所の判断 1 争点1(被告各製品の特定とその適法性)について 被告各製品は,別紙被告製品目録記載1及び2のとおりであるが,これは,被告各製品を型式番号で特定し,更に構成要件Dを充足するものに限定するというものである。すなわち,原告による被告各製品の特定は,型式番号により特定される被告合金1及び2であるとしつつも,被告合金1及び2のうち構成要件Dを充足しないものがある場合を慮って,差止めの対象について,被告合金1及び2からX線ランダム強度比の極大値が6.5未満のものを除外する趣旨であると理解することができるのであり,被告も,このことを前提に認否反論をしてきたものである。 そうであるから,本件における審理の対象は,明確であって,適法に特定されているというべきである。 被告は,①原告の特定方法は,本件発明の構成要件Dの記載を引き写したもので,これによる特定は,審理及び差止めの対象を不明確にすること,②製品出荷毎にX線ランダム強度比の極大値を測定することは現実的に不可能であり,原告の特定方法により差止めが認められるとすると過剰な差止めになることなどから,原告による特定は不適法であると主張する。①については,明確であるし,②については,被告各製品の差止めが認められた場合における現実的な不都合性等を指摘するものであって,差止めの必要性の有無 に関わるところであり,これについては,後に検討することとする。 なお,原告による被告各製品の特定の趣旨を上記のとおりに理解する以上,本件発明の技術的範囲の属否は,被告合金1及び2について検討すべきこと であり,これについては,後に検討することとする。 なお,原告による被告各製品の特定の趣旨を上記のとおりに理解する以上,本件発明の技術的範囲の属否は,被告合金1及び2について検討すべきことになる。そこで,以下,これを前提として判断をする。 2 争点2(被告各製品が本件発明の技術的範囲に属するか否か)について 争点2-1(被告各製品が構成要件Cを充足するか否か)についてア構成要件Cは,本件発明に係る銅合金の組成につき,構成要件A及びBに続いて,「残部が銅および不可避的不純物からなり,」と規定するものであり,これは,「残部が銅および不可避的不純物のみからなり,」などと規定するのとは異なるから,構成要件Aが規定する「1.0~4.5質量%のNi」及び構成要件Bが規定する「0.25~1.5質量%のSi」のほか,銅及び不可避的不純物のみが本件発明に係る銅合金を構成すると,当然に限定して解釈すべきものではない。そして,証拠(甲2,29,39)によれば,本件特許請求の範囲の請求項3は,「Zn,Sn,Fe,Ti,Zr,Cr,Al,P,Mn,Agのうち1種類以上を総量で0. 005~2.0質量%含有する請求項1および2に記載のCu-Ni-Si系合金。」というもので,ZnやSn等の物質の含有を予定した記載がされていること,本件明細書の発明の詳細な説明には,「(A)本発明は,上記知見に基づくものであり,1.0~4.5質量%のNiと0.25~1.5質量%のSiを含有し,残部が銅および不可避的不純物から実質的になり,…」(段落【0008】),「[その他の添加物]Zn,Sn,Fe,Ti,Zr,Cr,Al,P,Mn,Agは,Cu-Ni-Si系合金の強度及び耐熱性を改善する作用がある。…」(段落【0015】)などとSnやZn等の物質の含有 「[その他の添加物]Zn,Sn,Fe,Ti,Zr,Cr,Al,P,Mn,Agは,Cu-Ni-Si系合金の強度及び耐熱性を改善する作用がある。…」(段落【0015】)などとSnやZn等の物質の含有を予定した記載がされているほか,実施例で用いられている合金は,0.5質量%のSn及び0.4質量%のZnを含有する合金Aと0.1質量%のMgを含有する合金Bであること(段 落【0023】)が記載されていることが認められる。 そうすると,構成要件Cは,所定量のNiとSi,銅及び不可避的不純物以外に,SnやZn等の物質の含有を排除するものではないと解するのが相当である。 イ前記前提事実によれば,被告合金1は,「残部が主として銅からなり,さらにSn,Zn,Ag,Bを含有し,」(構成1-c)との構成を有し,被告合金2は,「残部が主として銅からなり,さらにZnを含有し,」(構成2-c)との構成を有する。そして,証拠(甲6,7,43,44)によれば,被告合金1に含まれるAg及びBの量は,Ag+Bで0.1max質量%と微量であることが認められるところ,被告もこれらが不可避的不純物に当たることを争っていないことを考慮すれば,被告合金1の構成1-c及び被告合金2の構成2-cは,いずれも構成要件Cを充足するものと認められる。 争点2-2(被告各製品が構成要件Dを充足するか否か)についてア証拠(甲4,5,乙2,3,39,40,42,44,45,49ないし52)によれば,被告各合金について,X線ランダム強度比の極大値を測定した結果は,別紙「被告各合金のX線ランダム強度比の極大値一覧」のとおりであると認められ,これによれば,被告合金1のうちの甲4のサンプル(質別1/2HT,板厚0.15mm,幅20.0mm)のX線ラン た結果は,別紙「被告各合金のX線ランダム強度比の極大値一覧」のとおりであると認められ,これによれば,被告合金1のうちの甲4のサンプル(質別1/2HT,板厚0.15mm,幅20.0mm)のX線ランダム強度比の極大値は7.601ないし8.185であり,被告合金2のうちの甲5のサンプル1(質別1/2HT,板厚0.15mm,幅20. 0mm)のそれは8.185ないし8.770であるから,これらは構成要件Dを充足し,他はこれを充足しない。 原告は,被告合金1の構成1-dにおいて,X線ランダム強度比の極大値を7.601ないし8.185であると特定し,また,被告合金2の構成2-dにおいて,X線ランダム強度比の極大値を6.5ないし8.77 0であると特定するが,前者に該当するものは甲4のサンプルしかなく,後者に該当するものは甲5のサンプル1しかないのであって,他にこれらに該当する被告合金1及び2の存在を認めるに足りる証拠はないから,被告合金1及び2の全てが,それぞれ上記の構成を有するとは認められない。 なお,原告が特定した被告製品1の構成1-dを争わない旨の被告の陳述は,裁判上の自白に当たるが,前記のとおり,構成1-dのX線ランダム強度比の極大値(7.601~8.185)に含まれない被告合金1の存在が複数確認されているから,真実に反し,かつ,錯誤によりされたものであり,自白の撤回が許されるべきものである。また,原告が特定した被告合金2の構成2-d’を争わない旨の被告の陳述が裁判上の自白に当たるとしても,原告は,その後,その構成を撤回し,新たに構成2-dに特定したのであって,これは,立証を要しない主張を,立証を要する主張に変更したにとどまり,自白の撤回になるものではない。 イ被告は,本件明細書の発明の詳細な説明 を撤回し,新たに構成2-dに特定したのであって,これは,立証を要しない主張を,立証を要する主張に変更したにとどまり,自白の撤回になるものではない。 イ被告は,本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0026】に記載されたX線ランダム強度比の極大値の測定方法における1168点や50点の測定値を開示しないし,被告の測定値と齟齬するから,甲4及び甲5の各報告書は信用できないと主張する。しかしながら,証拠(甲2,4,5)に弁論の全趣旨を総合すれば,原告は,上記段落【0026】に記載されたとおりの方法で,16×73=1168点のX線強度を測定し,構成要件Dの(1)及び(2)の領域に含まれる50点の中からX線強度の極大値を選択していることが認められる。また,別紙「被告各合金のX線ランダム強度比の極大値一覧」によれば,被告が行った被告合金1及び2のX線ランダム強度比の極大値も,工番毎に異なっていることが認められ,甲4の報告書及び甲5の各報告書における甲4のサンプルや甲5のサンプル1及び2の測定値が被告の測定値と齟齬するからといって,これらに信用性がないということはできない。 そうであるから,被告の上記主張は,採用することができない。 2 争点3(本件特許が特許無効審判により無効にされるべきものと認められるか否か)について 争点3-1(本件発明が新規性を欠くか否か)についてア本件発明について証拠(甲2,29)によれば,本件明細書の発明の詳細な説明には,発明が解決しようとする課題に関し,「…強度低下を引き起こす結晶粒径の粗大化や冷間圧延の加工度低減などの製造工程の調整を必要とせずに曲げ加工性を改善できる方法が望まれていた。」(段落【0005】),「本発明は,…製造工程を調整し,集合組織 低下を引き起こす結晶粒径の粗大化や冷間圧延の加工度低減などの製造工程の調整を必要とせずに曲げ加工性を改善できる方法が望まれていた。」(段落【0005】),「本発明は,…製造工程を調整し,集合組織を制御することで,高強度を維持しつつ,曲げ加工性が良好なCu-Ni-Si系合金を提供することを課題とする。」(段落【0006】)との記載があり,課題を解決するための手段に関し,「本発明者は,X線ディフラクトメーターを用いたCu-Ni-Si系合金の集合組織の測定結果と曲げ加工性の相関を調査した。 その結果,{111}正極点図上において{123}<412>方位を含む2つの領域内のX線強度の極大値を制御することで,曲げ加工性が改善できる事を見出した。すなわち,上記領域内の極大値を一定範囲内に制御したCu-Ni-Si系合金では,強度が同程度で他の集合組織を有するCu-Ni-Si系合金に比べて,耐曲げ割れ性が良好であり,曲げしわが低減される。」(段落【0007】),「一般に集合組織とは加工,熱処理によって形成される結晶方位の統計的な偏りであり,加工条件,熱処理条件に大きく依存している。本発明者らはX線ディフラクトメーター(株式会社リガク製RINT2500)により製造工程の異なるCu-Ni-Si系合金の集合組織を測定し,Cu-Ni-Si系合金の集合組織と曲げ加工性(耐曲げ割れ性および曲げしわ)の関係を調査した。その結果,両者には相関があり,集合組織の中でも{123}<412>方位の 形成が耐曲げ割れ性および曲げしわの大きさと密接な関係があることを見出した。…」(段落【0016】),「{123}<412>方位の強度を抑制することで,耐曲げ割れ性および曲げしわが改善される理由は明確でないが,{123}<412>方位がCu-Ni-Si系合金の圧延変 した。…」(段落【0016】),「{123}<412>方位の強度を抑制することで,耐曲げ割れ性および曲げしわが改善される理由は明確でないが,{123}<412>方位がCu-Ni-Si系合金の圧延変形の安定方位であり,他の結晶方位を持つ場合に比べ,すべり変形がしにくいことが原因の一つと考えられる。α,βの範囲を特許請求の範囲の(1),(2)の様に定めた理由は,加工,熱処理条件および測定誤差等から{123}<412>方位に対応するX線強度比のピーク位置が変動することを考慮し,決定した。また,強度比の極大値を2.0以上10. 0以下に定めた理由を以下に示す。強度比の極大値が2.0未満であると,耐曲げ割れ性は良いが,所望の強度が得られず,曲げしわも大きくなる。 これは,極大値が2.0未満となる材料では,曲げ加工性を劣化させる方位の割合が少ないものの,溶体化処理の際,結晶粒径が粗大化するためである。一方,強度比の極大値が10.0を超えると,{123}<412>方位の割合が増加し,曲げ割れが発生しやすくなったり,曲げしわも大きくなったりする。そこで,強度比の極大値を2.0以上10.0以下に定めた。」(段落【0017】)との記載があり,発明の効果に関し,「以上のことから0.2%耐力が同程度のCu-Ni-Si系合金と比べて,本発明例のCu-Ni-Si系合金は,曲げ割れが発生しにくく,しかも,曲げしわも低減されていることから,高強度を維持しながら耐曲げ割れ性および曲げしわが改善された銅合金として端子,コネクタ等の用途に好適である。」(段落【0011】)との記載があることが認められる。 そうすると,本件発明は,高強度を維持しつつ,曲げ加工性が良好なCu-Ni-Si系合金を提供するとの課題の解決を目的とし,集合組織(X線ランダム強度比の極大値) があることが認められる。 そうすると,本件発明は,高強度を維持しつつ,曲げ加工性が良好なCu-Ni-Si系合金を提供するとの課題の解決を目的とし,集合組織(X線ランダム強度比の極大値)と強度及び曲げ加工性との相関によりその解決を図る,構成要件AないしEの構成の構成を有するCu-Ni-S i系合金に係る発明であるということができる。 イ乙33及び乙35に基づく新規性欠如の主張について被告は,乙33及び乙35に記載された各実施例の加工条件と本件明細書の発明の詳細な説明に記載された加工条件は,ほぼ同じであるから,乙33及び乙35の各実施例の銅合金のX線ランダム強度比の極大値は,6. 5以上10.0以下となるはずであると主張するが,乙33の特許公報の公開日は本件特許出願より後の平成18年1月12日であるから,そもそも本件特許出願前に乙33に記載された発明が公知であったということはできないし,この点を措くとしても,乙33や乙35に構成要件Dが規定するX線ランダム強度比の極大値と強度及び曲げ加工性との相関に関する記載はなく,乙33の明細書の発明の詳細な説明に記載された実施例1及び2の合金や乙35の明細書の発明の詳細な説明に記載された実施例の合金が,本件発明の構成要件Dを充足すると認めるに足りる証拠もない。そうであるから,乙33及び乙35により,少なくとも構成要件Dの内容が開示されたと認めることはできない。 ウ被告合金3の公然実施に基づく新規性欠如の主張について前記前提事実に証拠(乙20)及び弁論の全趣旨を総合すれば,被告合金3のサンプルは,前記第2の3有するものと認められるから,構成要件AないしC及びEを充足するが,構成要件Dを充足しない。そうであるから,被告合金3のサンプルにより 弁論の全趣旨を総合すれば,被告合金3のサンプルは,前記第2の3有するものと認められるから,構成要件AないしC及びEを充足するが,構成要件Dを充足しない。そうであるから,被告合金3のサンプルにより,構成要件Dが開示されたと認めることはできない。 そして,被告は,本件特許出願前に販売した被告合金3にはX線ランダム強度比の極大値が6.5以上10.0以下となるものが含まれていたはずであると主張するが,これを認めるに足りる証拠はない。 エ被告は,本件発明は,当業者が当然に行うありふれた加工条件で製造された合金を,X線ランダム強度比の極大値という他のパラメータで言い換 えたことにより見かけの新規性を得たものに過ぎないと主張する。 しかしながら,本件発明は,集合組織(X線ランダム強度比の極大値)と強度及び曲げ加工性との相関により,高強度を維持しつつ,曲げ加工性が良好なCu-Ni-Si系合金を提供しようとするものであり,本件特許出願前に,構成要件Dが規定するような{111}正極点図におけるX線ランダム強度比の極大値に着目したCu-Ni-Si系合金に関する発明が開示されていたことを認めるに足りる証拠はないし,本件発明が上記のとおり言い換えただけであると認めるに足りる証拠もないから,被告の上記主張は失当である。 オしたがって,本件発明が新規性を欠くとの被告の主張は,いずれも理由がない。 争点3-2(本件発明が進歩性を欠くか否か)についてア被告合金3のサンプルは,の構成を有するCu-Ni-Si系合金であるが被告合金3のサンプルは構成要件Dを充足せず,本件特許出願前に構成要件Dを充足する被告合金3が存在したことを認めるに足りる証拠はないから,本件発明と被告発明とは,少なくとも,本件発 i系合金であるが被告合金3のサンプルは構成要件Dを充足せず,本件特許出願前に構成要件Dを充足する被告合金3が存在したことを認めるに足りる証拠はないから,本件発明と被告発明とは,少なくとも,本件発明がX線ランダム強度比の極大値が6.5以上10.0以下であるのに対し,被告発明がその構成を有しないという点で相違する。 イ被告発明が公然実施されていたといえるかどうかはさておき,被告合金3やそのサンプルは,ただの合金であるから,それ自体がX線ランダム強度比の極大値と強度及び曲げ加工性との相関に係る技術思想を開示するものではないし,本件特許出願前に発行された被告合金3の製品カタログ(乙1,43),試験成績表(乙21),被告合金3の発売を顧客に知らせる文書(乙20)及び被告合金3に関する論文等(乙22,23)にも,これらの技術思想を開示するような記載はない。 そうであるから,本件発明は,本件特許出願前に当業者が被告発明に基づいて容易に発明することができたものとは認められない。 ウ被告は,本件発明と被告発明との相違点は,Xランダム強度比の極大値に係る数値限定の有無のみであり,課題が共通するから,このような本件発明に進歩性を認めるためには臨界的意義が必要であると主張する。 しかしながら,前記イのとおり,本件発明と被告発明とは,技術思想を異にするのであって,本件発明が,単に被告発明をX線ランダム強度比の極大値で限定したに過ぎないものであるとはいえないから,被告の主張は,採用することができない。 エしたがって,本件発明が進歩性を欠くとの被告の主張は理由がない。 争点3-3(いわゆる実施可能要件に反するか否か)についてア証拠(甲2,29)によれば,本件明細書の発明の詳細な説明に たがって,本件発明が進歩性を欠くとの被告の主張は理由がない。 争点3-3(いわゆる実施可能要件に反するか否か)についてア証拠(甲2,29)によれば,本件明細書の発明の詳細な説明には,次の記載があることが認められる。 本件発明に係るCu-Ni-Si系合金の製造工程等に関し,Cu-Ni-Si系合金の一般的な製造工程のうち,集合組織の制御に重要な影響を及ぼす工程は,溶体化処理前の冷間圧延と溶体化処理であり,溶体化処理前の加工度及び板厚減少率を調整し,溶体化処理を適切に行なうことで,X線ランダム強度比の極大値を2.0~10.0の範囲に制御することができること(段落【0019】),溶体化処理前に行われる冷間圧延については,加工度は40%以上80%未満で行い,かつ,1回の圧延パスにおける板厚の減少量と初期板厚(熱延後の板厚)の比(板厚減少率)を25%以内とすること(段落【0020】),溶体化処理については,溶体化処理温度を720℃以上900℃未満で行い,処理時間(材料保持時間)は300秒未満とすること(段落【0021】),溶体化処理と時効処理の間の冷間圧延(圧延A),時効処理後の冷間圧延(圧延B)及び時効処理については,圧延A及び圧延Bの加 工度,時効処理の温度及び時間は,本件発明の集合組織が得られるならば任意に設定して構わないが,時効処理に関しては,本発明例の合金では時効温度を350℃以上550℃未満とし,時効時間を1時間以上10時間未満とすることが適当であること(段落【0022】)が記載されている。 1.6質量%のNi,0.35質量%のSi,0.5質量%のSn及び0.4質量%のZnを含有するCu-Ni-Si系合金(合金A)と,2.5質量%のNi,0.5質量%のSi及び0.1質量%のM 1.6質量%のNi,0.35質量%のSi,0.5質量%のSn及び0.4質量%のZnを含有するCu-Ni-Si系合金(合金A)と,2.5質量%のNi,0.5質量%のSi及び0.1質量%のMgを含有するCu-Ni-Si系合金(合金B)を用いた実施例に関して,高周波誘導炉を用い,内径60mmの黒鉛るつぼ中で,2kgの電気銅を溶解し,Ni,Si,Mg,SnおよびZnを添加して,溶湯成分を調整し,溶湯を1200℃に調整した後,板厚30mm×幅60mm×長さ120mmのインゴットを鋳造し,①このインゴットを800℃で3時間加熱後,表1の所定の板厚まで熱間圧延し,②熱延材表面の酸化スケールをグラインダーで除去し,③別紙「図表一覧」の【表1】に示される所定の条件で冷間圧延して板厚を1mmに仕上げ,④溶体化処理として【表1】の所定の温度で30秒間加熱し水中で急冷し,⑤化学研磨により表面酸化膜を除去し,⑥板厚0.3mmまで冷間圧延し,⑦時効処理として水素中で450℃で5時間加熱し,⑧化学研磨により表面酸化膜を除去して,板厚0.3mmの試料を作製したこと(段落【0023】ないし【0025】),このように作製した試料について評価をしたところ,合金Aの評価結果は別紙「図表一覧」の【表2】のとおりとなり,合金Bの評価結果は【表3】のとおりとなったこと(段落【0027】ないし【0032】)が記載されている。 また,X線ランダム強度比の極大値の測定方法や評価基準については,「X線ディフラクトメーター(株式会社リガク製RINT2500)に より,各試料の{111}正極点測定を行い,{111}正極点図を作製した。反射法では試料面に対するX線の入射角が浅くなると,測定が困難になることから,実際に測定できる角度範囲は正極点図上で0°≦ より,各試料の{111}正極点測定を行い,{111}正極点図を作製した。反射法では試料面に対するX線の入射角が浅くなると,測定が困難になることから,実際に測定できる角度範囲は正極点図上で0°≦α≦75°,0°≦β≦360°となる。本測定では,αとβの回転間隔Δα,Δβを5°として前述の角度範囲内を走査し,16×73=1168点のX線強度を測定した。この際に,集合組織を有しない状態即ち結晶方位がランダムである状態を1として正極点図を規格化した。結晶方位がランダムな状態として,銅粉末試料の{111}正極点測定結果を用いた。なお,X線照射条件はCo管球を使用し,管電圧30KV,管電流100mAとした。図1の(1)および(2)の領域に含まれる50点の中からX線強度の極大値を選択し,合金A,合金Bともに極大値が2.0以上10.0以下の場合を○,それ以外の場合を×と判定した。」(段落【0026】)と記載されている(なお,上記記載中の「図1」は,別紙「図表一覧」の【図1】を指す。)。 イこれらによれば,集合組織の制御に重要な影響を及ぼす工程が,溶体化処理前の冷間圧延と溶体化処理であって,溶体化処理前の加工度及び板厚減少率を調整し,溶体化処理を適切に行うことで,X線ランダム強度比の極大値を2.0~10.0の範囲に制御することができることや,溶体化処理前に行われる冷間圧延の加工度や板厚減少率,溶体化処理の温度と時間,時効処理の温度と時間など,所望のX線ランダム強度比の極大値を得るために必要な条件等が明示され,実際に,所定の方法で作成した合金A及び合金Bについて,合金AはX線ランダム強度比の極大値が6.5ないし9.2であるものを作製することができたこと(【表2】の発明例3,5ないし7)や,合金BはX線ランダム強度比の極大値が7.5ないし9 び合金Bについて,合金AはX線ランダム強度比の極大値が6.5ないし9.2であるものを作製することができたこと(【表2】の発明例3,5ないし7)や,合金BはX線ランダム強度比の極大値が7.5ないし9. 5であるものを作製することができたこと(【表3】の発明例6,7)が認められるから,これらの記載に接した当業者は,過度の試行錯誤を要す ることなく,本件発明の実施をすることができるものと認められる。 ウ被告は,本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0022】に,溶体化処理,溶体化処理と時効処理の間の冷間圧延,時効処理後の冷間圧延及び時効処理について,「本発明の集合組織が得られるならば任意に設定して構わない。」と記載されているが,これでは本件発明の実施が不可能であると主張する。 しかしながら,そもそも,同段落に,溶体化処理について任意に設定して構わないとする記載はないし,前述のとおり,集合組織の制御に重要な影響を及ぼす工程は,溶体化処理前の冷間圧延と溶体化処理であるというのであるから,これらに関する製造工程等が明らかにされていれば,当業者は,それ以外の溶体化処理と時効処理の間の冷間圧延(圧延A),時効処理後の冷間圧延(圧延B)及び時効処理について,適宜調整をすると考えられるから,被告の上記主張は,採用することができない。 エ被告は,構成要件A及びBを充足する仮想の合金Cを【表1】の製造条件で製造した場合に,X線ランダム強度比の極大値を6.5以上10.0以下に制御することができるのかは明らかでないと主張するが,構成要件A及びBを充足するあらゆる組成のCu-Ni-Si系合金の実施例を明細書の発明の詳細な説明に記載すべきであるとはいえないし,前記本件明細書の発明の詳細な説明の記載に接した当業者であれば,構成要件 件A及びBを充足するあらゆる組成のCu-Ni-Si系合金の実施例を明細書の発明の詳細な説明に記載すべきであるとはいえないし,前記本件明細書の発明の詳細な説明の記載に接した当業者であれば,構成要件A及びBを充足する様々な組成のCu-Ni-Si系合金についてX線ランダム強度比の極大値を調整するものと考えられるから,被告の上記主張は,採用することができない。 オしたがって,本件において,いわゆる実施可能要件違反があるとは認められない。また,本件各訂正について,独立特許要件違反があるということもできない。 争点3-4(いわゆるサポート要件に反するか否か)について ア被告は,当業者が,本件明細書の発明の詳細な説明の記載から,X線ランダム強度比の極大値を6.5以上とする技術思想を読み取ることはできず,X線ランダム強度比の極大値を6.5以上10.0以下とすれば,強度を維持しつつ曲げ加工性を向上させるとの課題を解決することができると認識することもできないと主張する。 のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0007】,【0016】には,X線ランダム強度比の極大値を一定範囲内に制御することで,強度を維持しつつ耐曲げ割れ性及び曲げしわが改善されたCu-Ni-Si系合金が得られること,段落【0017】には,X線ランダム強度比の極大値が2.0未満であると,耐曲げ割れ性は良いが,所望の強度が得られず曲げしわも大きくなり,10.0を超えると曲げ割れが発生しやすくなったり曲げしわも大きくなったりするため,これを2.0以上10.0以下と定めたことがそれぞれ記載され,また,【表2】には,X線ランダム強度比の極大値が1.8以下や10. 8以上の合金Aよりも,6.5の実験例(No.3)を含む,2.5ないし9. を2.0以上10.0以下と定めたことがそれぞれ記載され,また,【表2】には,X線ランダム強度比の極大値が1.8以下や10. 8以上の合金Aよりも,6.5の実験例(No.3)を含む,2.5ないし9.2の範囲の合金Aの方が,強度を維持しつつ耐曲げ割れ性及び曲げしわが改善される点で優れているとの実験結果が記載され,【表3】には,X線ランダム強度比の極大値が1.7以下や10.6以上の合金Bよりも,5.5の実験例(No.5)を含む,2.3ないし9.5の範囲の合金Bの方が,強度を維持しつつ耐曲げ割れ性及び曲げしわが改善される点で優れているとの実験結果が記載されている。 そうすると,本件発明は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものであると認められるから,本件において,いわゆるサポート要件違反があるとは認められない。 イ被告は,本件各訂正が新規事項の追加に当たるとの主張もするが,本件第一次訂正はX線ランダム強度比の極大値の下限を2.0から5.5に変 更するもので,本件第二次訂正はこれを更に6.5に変更するものであり,本件各訂正後のX線ランダム強度比の極大値はいずれも当初の2.0以上10.0の範囲内にある上,前記アのとおり,X線ランダム強度比の極大値が5.5や6.5である実施例の記載も出願当初の明細書の発明の詳細な説明に記載されていたことからすれば,本件各訂正による訂正事項が新規事項を追加するものであるとはいえない。 4 争点4(被告が先使用による通常実施権を有するか否か)について 被告は,被告合金1及び2にX線ランダム強度比の極大値が6.5以上10.0以下となるものがあるとすれば,本件特許出願前の被告合金1及び2にもX線ランダム強度比の極大値が上記範囲内となるものがあったはずであると主張する。 ランダム強度比の極大値が6.5以上10.0以下となるものがあるとすれば,本件特許出願前の被告合金1及び2にもX線ランダム強度比の極大値が上記範囲内となるものがあったはずであると主張する。 しかしながら,X線ランダム強度比の極大値が上記範囲内である被告合金1及び2が,本件特許出願前に製造,販売等されたことを認めるに足りる証拠はないから,被告の上記主張は失当である。 被告は,法79条における「特許出願に係る発明」は,現実の特許出願に係る発明を意味すると解すべきことを前提として,被告の各先使用製品のX線ランダム強度比の極大値は,本件第一次訂正前のX線ランダム強度比の極大値の範囲である2.0以上10.0以下に含まれていたと主張する。 しかしながら,本件第二次訂正に係る審決が確定したことにより,訂正後における明細書,特許請求の範囲又は図面により特許出願がされたものとみなされるのであるから(法128条),本件における「特許出願に係る発明」が本件第二次訂正後の本件発明であることは明らかである。被告は独自の見解を述べるに過ぎず,被告の上記主張は,前提を欠くもので失当というほかない。 したがって,被告が先使用による通常実施権を有するとは認められない。 5 争点5(差止めの必要性があるか否か)について 被告各合金について,X線ランダム強度比の極大値を測定した結果は,別紙「被告各合金のX線ランダム強度比の極大値一覧」のとおりであり,被告合金1について構成要件Dを充足するのは,番号3の甲4のサンプル(質別1/2HT)のみであり,これより後に製造された同じ質別1/2HTの番号4の合金は,構成要件Dを充足せず,質別EHTの番号5の合金や質別HTの番号6の合金も,構成要件Dを充足しない。また,被告合金2 1/2HT)のみであり,これより後に製造された同じ質別1/2HTの番号4の合金は,構成要件Dを充足せず,質別EHTの番号5の合金や質別HTの番号6の合金も,構成要件Dを充足しない。また,被告合金2について構成要件Dを充足するのは,番号8の甲5のサンプル1のみであり,番号9の甲5のサンプル2やこれより後に製造された番号10ないし12の各合金は,構成要件Dを充足しない。なお,本件特許出願前に製造された被告合金1及び2(番号1,2,7)も,構成要件Dを充足しない。 原告は,同一の製造ロットから得られる限り,同一の製造工程を経て製造するものであり,そのX線ランダム強度比の極大値は,誰がどこを測定しても同一であると主張するが,このことを認めるに足りる的確な証拠はないから,同一ロットの製品であっても,測定部位によりX線ランダム強度比の極大値が変動する可能性があることは否定し難く,ましてや質別や製造ロットが異なれば,X線ランダム強度比の極大値が異なると考えられるのであって,上記の測定結果は,まさにそのことを示すものともいえる。 そして,被告は,本件特許出願の前後を通じ,構成要件Dを充足しない被告合金1及び2を製造しているのであり,X線ランダム強度比の極大値を6. 5以上10.0以下の範囲に収めることを意図して被告合金1及び2を製造していることを認めるに足りる証拠はないから,被告が,今後,あえて構成要件Dを充足する被告合金1及び2を製造するとは認め難い。もっとも,このことは,偶然等の事情により構成要件Dを充足する被告合金1及び2が製造される可能性があることを否定するものではないが,上記のとおり,本件証拠において,構成要件Dを充足するものが甲4のサンプルと甲5のサンプル1に限られていることからすれば,そのような事態となる蓋然性が高いと 可能性があることを否定するものではないが,上記のとおり,本件証拠において,構成要件Dを充足するものが甲4のサンプルと甲5のサンプル1に限られていることからすれば,そのような事態となる蓋然性が高いと は認め難いというべきである。 また,原告は,本件における差止めの対象を,被告合金1及び2のうち,X線ランダム強度比の極大値が6.5以上のものであると限定するが,同一の製造条件で同一組成のCu-Ni-Si系合金を製造した場合,当然に,X線ランダム強度比の極大値が同一になることまでをも認めるに足りる証拠はなく,かえって,前記のとおり,製造ロットや測定部位の違いによりこれが変動する可能性があることからすると,正確なX線ランダム強度比の極大値については,製造後の合金を測定して判断せざるを得ないことになるが,この場合,どの部位を測定すればよいか,また,ある部位において構成要件Dを充足するX線ランダム強度比の極大値が測定されたとしても,どこまでの部分が構成要件Dを充足することになるのかといった点について,原告は,その基準を何ら明らかにしていない。 そうすると,被告の製品において,たまたま構成要件Dを充足するX線ランダム強度比の極大値が測定されたとして,当該製品全体の製造,販売等を差し止めると,構成要件を充足しない部分まで差し止めてしまうことになるおそれがあるし,逆に,一定箇所において構成要件Dを充足しないX線ランダム強度比の極大値が測定されたとしても,他の部分が構成要件Dを充足しないとは言い切れないのであるから,結局のところ,被告としては,当該製品全体の製造,販売等を中止せざるを得ないことになる。そして,構成要件Dを充足する被告合金1及び2が製造される蓋然性が高いとはいえないにせよ,甲5のサンプル2のように,下限値付近の としては,当該製品全体の製造,販売等を中止せざるを得ないことになる。そして,構成要件Dを充足する被告合金1及び2が製造される蓋然性が高いとはいえないにせよ,甲5のサンプル2のように,下限値付近の測定値が出た例もあること(なお,原告は,これが構成要件Dを充足しないことを自認している。)に照らすと,本件で,原告が特定した被告各製品について差止めを認めると,過剰な差止めとなるおそれを内包するものといわざるを得ない。 さらに,原告が特定した被告各製品を差し止めると,被告が製造した製品毎にX線ランダム強度比の極大値の測定をしなければならないことになるが, これは,被告に多大な負担を強いるものであり,こうした被告の負担は,本件発明の内容や本件における原告による被告各製品の特定方法等に起因するものというべきであるから,被告にこのような負担を負わせることは,衡平を欠くというべきである。 これらの事情を総合考慮すると,本件において,原告が特定した被告各製品の差止めを認めることはできないというべきである。 6 以上の次第であるから,原告の請求は,結局,理由がない。 よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第47部 裁判官三井大有 裁判官宇野遥子 裁判長裁判官高野輝久は,転補につき署名押印することができない。 裁判官三井大有 別紙被告製品目録 1 M702S但し,{111}正極点図において,以下の(1)~(2)の範囲のX線ラン 裁判官三井大有 別紙被告製品目録 1 M702S但し,{111}正極点図において,以下の(1)~(2)の範囲のX線ランダム強度比の極大値が6.5以上であるもの(1)α=20±10°,β=90±10°(2)α=20±10°,β=270±10°(但し,α:シュルツ法に規定する回折用ゴニオメータの回転軸に垂直な軸,β:前記回転軸に平行な軸) 2 M702U但し,{111}正極点図において,以下の(1)~(2)の範囲のX線ランダム強度比の極大値が6.5以上であるもの(1)α=20±10°,β=90±10°(2)α=20±10°,β=270±10°(但し,α:シュルツ法に規定する回折用ゴニオメータの回転軸に垂直な軸,β:前記回転軸に平行な軸) 別紙訂正内容 1 本件第一次訂正前の記載 特許請求の範囲の請求項1について「1.0~4.5質量%のNiと0.25~1.5質量%のSiを含有し,残部が銅および不可避的不純物からなり,{111}正極点図において,以下の(1)~(2)の範囲のX線ランダム強度比の極大値が2.0以上10.0以下であることを特徴とする集合組織を有する強度と曲げ加工性に優れたCu-Ni-Si系合金。 (1)α=20±10°,β=90±10°(2)α=20±10°,β=270±10°(但し,α:シュルツ法に規定する回折用ゴニオメータの回転軸に垂直な軸,β:前記回転軸に平行な軸)」 明細書の段落【0008】の4行目の記載について「2.0以上10.0以下」 2 本件第一次訂正後の記載(訂正部分に下線を付す。以下同じ。) 特許請求の範囲の 軸に平行な軸)」 明細書の段落【0008】の4行目の記載について「2.0以上10.0以下」 2 本件第一次訂正後の記載(訂正部分に下線を付す。以下同じ。) 特許請求の範囲の請求項1について「1.0~4.5質量%のNiと0.25~1.5質量%のSiを含有し,残部が銅および不可避的不純物からなり,{111}正極点図において,以下の(1)~(2)の範囲のX線ランダム強度比の極大値が5.5以上10.0以下であることを特徴とする集合組織を有する強度と曲げ加工性に優れたCu-Ni-Si系合金。 (1)α=20±10°,β=90±10°(2)α=20±10°,β=270±10°(但し,α:シュルツ法に規定する回折用ゴニオメータの回転軸に垂直な軸,β:前記回転軸に平行な軸)」 明細書の段落【0008】の4行目の記載について「5.5以上10.0以下」 3 本件第二次訂正後の記載 特許請求の範囲の請求項1について「1.0~4.5質量%のNiと0.25~1.5質量%のSiを含有し,残部が銅および不可避的不純物からなり,{111}正極点図において,以下の(1)~(2)の範囲のX線ランダム強度比の極大値が6.5以上10.0以下であることを特徴とする集合組織を有する強度と曲げ加工性に優れたCu-Ni-Si系合金。 (1)α=20±10°,β=90±10°(2)α=20±10°,β=270±10°(但し,α:シュルツ法に規定する回折用ゴニオメータの回転軸に垂直な軸,β:前記回転軸に平行な軸)」 明細書の段落【0008】の4行目の記載について「6.5以上10.0以下」 別紙図表一覧【表1】 【表2】 な軸,β:前記回転軸に平行な軸) 明細書の段落【0008】の4行目の記載について「6.5以上10.0以下」 別紙図表一覧 【表1】 【表2】 【表3】 【図1】
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