平成13(わ)2506 業務上過失致死傷,道路交通法違反被告事件

裁判年月日・裁判所
平成14年3月28日 千葉地方裁判所
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判決文本文5,446 文字)

平成14年3月28日宣告平成13年(わ)第2506号判決被告人Aに対する業務上過失致死傷告事件,同Bに対する道路交通法違反,業務上過失致死傷被告事件について,当裁判所は,検察官梅田健史,被告人A弁護人高梨徹,被告人B弁護人(国選)倉渕満各出席の上審理し,次のとおり判決する。 主文 被告人Aを罰金50万円に,被告人Bを懲役2年にそれぞれ処する。 被告人Aが上記罰金を完納することができないときは金5000円を1日に換算した期間同被告人を労役場に留置する。 理由 (罪となるべき事実)第1 被告人Aは,平成11年12月26日午前2時45分ころ,業務として緊急自動車である救急用自動車をサイレンを吹鳴し,赤色の警光灯を点灯して緊急用務のため運転し,千葉市a区b町c番d号先の信号機により交通整理の行われている交差点を同区e町方面から同区f方面に向かい直進するに当たり,対面信号機が赤色の灯火信号を表示していたのであるから,徐行して交差道路左右から進行してくる車両の有無及びその安全を確認しつつ進行すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り,交差道路右方から進行してくる車両の有無及びその安全を十分確認しないまま,漫然時速約20ないし23キロメートルで同交差点に進入した過失により,折から交差道路右方から判示第2の2のとおり進行してきたB(当時28歳)運転の普通貨物自動車前部に自車右側面部を衝突させ,その衝撃により自車後部扉を開放させるなどして自車後部に収容して搬送中のC(当時32歳),同D(当時26歳)及び同人らの看護に当たっていた救急隊員E(当時37歳)の3名を 部に自車右側面部を衝突させ,その衝撃により自車後部扉を開放させるなどして自車後部に収容して搬送中のC(当時32歳),同D(当時26歳)及び同人らの看護に当たっていた救急隊員E(当時37歳)の3名をそれぞれ車外に放出させ,よって,上記Cに脳挫傷の傷害を負わせ,同12年1月6日午前9時21分ころ,同市g区hi丁目j番k号m医療センターにおいて,同人を上記傷害により死亡させたほか,上記Bに加療133日間を要する前頭骨骨折等の傷害を,上記Eに加療283日間を要する頭蓋骨骨折等の傷害を,上記Dに加療期間不明の第3頚椎骨折等の傷害を負わせた第2 被告人Bは 1 酒気を帯び,呼気1リットルにつき0.25ミリグラム以上のアルコールを身体に保有する状態で,平成11年12月26日午前2時45分ころ,千葉市a区b町c番d号先道路において,普通貨物自動車を運転した 2 前記第2の1記載の日時ころ,業務として前記普通貨物自動車を運転し,前記第1記載の信号機により交通整理の行われている交差点を同市n区o町方面から同市a区p方面に向かい直進するに当たり,同所は道路標識によりその最高速度40キロメートル毎時と指定された道路であったから,同最高速度を遵守するはもとより,前方左右を注視し,進路の安全を確認して進行すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り,対面信号機が青色灯火信号を表示していたことに気を許し,前方注視不十分のまま漫然時速約77ないし92キロメートルで進行した過失により,折から左方道路からサイレンを吹鳴し,赤色の警光灯を点灯して,緊急用務のため信号に従わずに進行してきた前記A(当時44歳)運転の緊急自動車である救急用自動車を同交差点の停止線の手前約10ないし26メートルに迫って初めて発見し,急制動の措置を講じたが間に合わず,自車前部を上記救急用自動車 行してきた前記A(当時44歳)運転の緊急自動車である救急用自動車を同交差点の停止線の手前約10ないし26メートルに迫って初めて発見し,急制動の措置を講じたが間に合わず,自車前部を上記救急用自動車の右側面部に衝突させ,その衝撃により同車後部扉を開放させるなどして,同車後部に乗車中の前記C,D,Eの3名を車外に放出させ,よって,前記第1記載のとおり,前記Cを死亡させ,前記E及びDの両名にそれぞれ傷害を負わせたほか,前記Aに加療96日間を要する頚椎捻挫等の傷害を負わせたものである。 (適用法令)罰条判示第1,第2の2の各所為につき,被害者ごとに平成13年法律第138号による改正前の刑法211条前段判示第2の1の所為につき,道路交通法119条1項7号の2,65条1項,同法施行令44条の3観念的競合判示第1,第2の2の各所為につき,刑法54条1項前段,10条(いずれも犯情の最も重いCに対する罪の刑で処断)刑種の選択判示第1の罪につき,罰金刑を選択判示第2の各罪につき,いずれも懲役刑を選択併合罪判示第2の各罪につき,刑法45条前段,47条本文,10条(重い判示第2の2の罪の刑に刑法47条ただし書の制限内で加重)労役場留置刑法18条(被告人Aにつき)訴訟費用の不負担刑事訴訟法181条1項ただし書(被告人Bにつき)(量刑の理由) 1 本件は,病人を搬送するため赤信号で交差点に進入した救急車とその交差道路を左方から直進進行してきた自動車が衝突し,搬送されていた被害者らが放り出され,1名が死亡し,ほか2名も判示のような重傷を負い,被告人両名もそれぞれ負傷 赤信号で交差点に進入した救急車とその交差道路を左方から直進進行してきた自動車が衝突し,搬送されていた被害者らが放り出され,1名が死亡し,ほか2名も判示のような重傷を負い,被告人両名もそれぞれ負傷したという事案である。 2 本件事故現場である交差点(以下「本件交差点」)は,救急車を運転していた被告人A及び同Bのいずれからも進行方向は上り坂であり,本件交差点手前ではそれぞれ右方交差道路,左方交差道路はガードレール等によりやや見通しにくい状況であった。 なお,被告人Aの進行道路は最高速度が50キロメートル毎時,被告人Bの進行道路は40キロメートル毎時と指定されていた。 本件事故当時,被告人AはC夫婦を病院に搬送するために,赤色の警光灯を点灯させ,サイレンを吹鳴させて走行し,本件交差点に差しかかり,対面信号が赤色表示になったので停止線付近で徐行し,まず右方道路から交差点に進入してくる車両がないことを確認し,本件交差点に少し進入し,次に左方道路からの進行車両が被告人Aの救急車を認めて停止しているのを確認して,さらに交差点に進入した。 そのときの速度は,被告人Aが徐行からやや加速したと述べ,目撃者らも時速15ないし20キロメートルくらいに見えたと供述し,鑑定では時速約20ないし23キロメートルとされている。 一方,被告人Bは,自宅で飲酒した上,自動車を運転して行きつけの店に飲みに出かけ,仕事でその車両が必要だったことからこれを運転して対面信号が青色であったので,判示のとおり制限速度のほぼ2倍の高速度で本件交差点に進入したのである(速度については鑑定の結果及び被告人Bの供述により認める。)。被告人Bは,本件事故後飲酒検知を受けているがその値は呼気1リットルにつき0.35ミリリットル(ただし,うがいはしていない)であった。しかも,被告人は,間 定の結果及び被告人Bの供述により認める。)。被告人Bは,本件事故後飲酒検知を受けているがその値は呼気1リットルにつき0.35ミリリットル(ただし,うがいはしていない)であった。しかも,被告人は,間近に迫って危険を感じ,急制動をするまで救急車の赤色警光灯やサイレンに気づかなかったというのである(ただしこの点の供述には若干の変遷がある。)。 その結果,被告人Bは被告人Aの運転する救急車を認めて急制動をしたが間に合わず,救急車の右側面に被告人Bの運転する自動車が衝突し,その衝撃で救急車の後部ドアが開き,搬送されていたCが放り出されて死亡し,同様に同乗していたD及び救急隊員のEが重傷を負い,被告人A及び同Bもそれぞれ負傷した。 3 緊急自動車は緊急用務を遂行する場合は,信号機の表示に従わずに進行することができるが,その場合は他の交通に注意して徐行しなければならない。一般車両は緊急車両を優先させる義務があるとはいえ,緊急車両が信号表示に従わないで進行する際の運転には特に慎重を期すべき注意義務が課されているというべきである。被告人Aは,本件交差点に信号表示に従わないで進入するに当たり上記のように左右の交差道路を確認し,右方道路には車両はなく,左方道路には救急車を優先させるため停止していた車両を確認したが,再度右方道路を確認することなく本件交差点に進入したのである。被告人Aは当時は深夜で交通が閑散とし,右方道路は被告人Aから見て下りの坂道で一度は確認したとはいえ,見通しが良いとはいえないこともあるから,停止線を超えて交差点に進入するときに再度右方を確認をして徐行して進行すべきであった。そうすれば被告人Bの運転車両を避けられた可能性があったといえ,この点において,被告人Aの過失は軽微なものとはいえず,同人の負っていた救急隊員としての責務に照らし, して徐行して進行すべきであった。そうすれば被告人Bの運転車両を避けられた可能性があったといえ,この点において,被告人Aの過失は軽微なものとはいえず,同人の負っていた救急隊員としての責務に照らし,また,発生した結果が重大なものであることから,同人の責任は軽視しがたいものがある。 4 被告人Bにおいては,飲酒の上,深夜の交通閑散に気を許し,制限速度のほぼ2倍の高速度で進行していたものであり,その運転自体が危険なものである。本件交差点では青色の信号表示に従っていたとはいえ,被告人Bの本件交差点までの道路は上り坂で同人から見て左方道路はやや見通しが悪い状況であったから,運転者としては交差点においては前方左右を注視し,起こりうる事態に対応できるように運転すべき注意義務があった。しかし,同人は判示のように漫然と高速度で進行したばかりか,上記のとおり衝突直前に至るまでサイレンを吹鳴し警光灯を点灯させていた救急車に気づかなかったというのであるから,その注意義務違反の程度は誠に重大というほかない。本件においては,酒気帯び運転が厳しく非難されるべきことはもちろんであるが,被告人Bが制限速度を遵守し,前方左右を注視して運転していれば,本件交差点付近で夜間に警光灯を点灯しサイレンを吹鳴していた救急車に容易に気づくことができ,それを優先させるべき運転者の義務を果たし得た,すなわち事故を容易に回避できたのであって,被告人Bの本件運転は極めて危険,悪質なものでその過失は大きい。それにより生じた結果を考えれば,同人の責任は極めて重大であるといわなければならない。 5 本件の被害者であるCは当時まだ32歳で,結婚して2年あまり,長男が誕生してわずか4か月で死亡するに至ったのであり,その無念さは察するにあまりあり,Dも重傷を負った上,夫を失い,同人の長男もわずか4か月 の被害者であるCは当時まだ32歳で,結婚して2年あまり,長男が誕生してわずか4か月で死亡するに至ったのであり,その無念さは察するにあまりあり,Dも重傷を負った上,夫を失い,同人の長男もわずか4か月にして父を失うに至ったのであるから,その被害感情が峻烈であるのも十分に理解することができる。 また,被告人Bは被害者らに対して,入院等の事情があったとはいえ十分な慰謝の措置をとっているとは言い難い面もある。 なお,Eは重傷を負ったものの厳しい処罰感情までは抱いていない。 6 一方で,Cについては訴訟上の和解が成立していること,Dほかの被害者らとの関係では症状固定を待って示談の交渉等が行われる見込みであること,被告人Aは幾度かの実況見分等を経て自己の過失を認めるに至り,深く反省をしていること,同人は被害者らに謝罪をし,墓参や見舞い等相応の誠意を示しているようであること,被告人Aは救急隊員としてこれまで長期にわたり適切に公務を果たしてきており,交通罰金前科(速度違反)1件があるだけであること,また,被告人Bは同様に本件を深く反省していること,同人の父親等が被害者方を謝罪に訪れていること,同人は交通罰金前科1件,複数の交通違反歴を有するがまだ若く,正式裁判は始めてであること,さらに被告人両名も本件事故で負傷していること(特に被告人Bは重傷を負っている。)などそれぞれ有利に斟酌すべき事情がある。 7 以上からすれば,本件事故は被告人両名の過失によって引き起こされものであり,発生した結果は極めて重大であるが,過失の程度は上記のとおり被告人両名において大きな差があるのであるから,それを前提とした量刑がされるべきである。 したがって,それぞれ主文のとおりの刑に処するのが相当であると思料するが,被告人Bについては同人の過失及び結果の重大さに照ら て大きな差があるのであるから,それを前提とした量刑がされるべきである。 したがって,それぞれ主文のとおりの刑に処するのが相当であると思料するが,被告人Bについては同人の過失及び結果の重大さに照らして,刑の執行を猶予することは相当でないと判断した。 (求刑被告人Aに対し罰金50万円,被告人Bに対し懲役3年)平成14年3月28日千葉地方裁判所刑事第3部 裁判官岡野典章・

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