平成17年(行ケ)第10309号審決取消請求事件平成17年4月19日口頭弁論終結判決原告クローダジャパン株式会社訴訟代理人弁理士清原義博,坂戸敦被告株式会社成和化成訴訟代理人弁護士三山峻司,室谷和彦,西迫文夫,井上周一訴訟代理人弁理士三輪鐵雄,三輪英樹 主文 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 原告の求めた裁判「特許庁が無効2003-35239号事件について平成16年5月18日にした審決を取り消す。」との判決。 第2 事案の概要本件は,特許に対する無効審判請求の不成立審決の取消しを求める事件であり,原告は無効審判の請求人,被告は特許権者である。 1 特許庁における手続の経緯(1) 被告は,発明の名称を「化粧品基材」とする特許第3315535号(平成6年8月30日に出願,平成14年6月7日に設定登録。以下「本件特許」という。)の特許権者である。 (2) 原告は,平成15年6月11日,本件特許について無効審判の請求をした(無効2003-35239号事件として係属)。これに対し,被告は,同年9月5日付け訂正請求書により訂正を請求し,さらに,平成16年3月5日,上記訂正請求を取り下げるとともに,同日付け訂正請求書により訂正(以下「本件訂正」という。)を請求した。 (3) 特許庁は,平成16年5月18日,「訂正を認める。本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同年5月27日,その謄本を原告に送達した。 2 特許請求の範囲の記載(1) 本件訂正請求による訂正前のもの「【請求項1】 ペプチドのアミノ酸側鎖のアミノ基を含む全アミノ酸の50%以上75%以下に,下記の一般式(I) 〔式中,R1,R2,R 範囲の記載(1) 本件訂正請求による訂正前のもの「【請求項1】 ペプチドのアミノ酸側鎖のアミノ基を含む全アミノ酸の50%以上75%以下に,下記の一般式(I) 〔式中,R1,R2,R3はメチル基または水酸基を示し,これらのR1,R2,R3はすべて同じでもよく,また異なっていてもよい。aは1または3である〕で表されるケイ素原子をただ一つ含む官能基が共有結合したシリル化ペプチドからなることを特徴とする化粧品基材。 【請求項2】 シリル化ペプチドにおけるペプチド部分のアミノ酸重合度が,1~50である請求項1記載の化粧品基材。 【請求項3】 シリル化ペプチドが,下記の一般式(II)〔式中,R1,R2,R3はメチル基または水酸基を示し,これらのR1,R2,R3はすべて同じでもよく,また異なっていてもよい。R4は側鎖の末端にアミノ基を有する塩基性アミノ酸の末端アミノ基を除く残基を示し,R5はR4以外のアミノ基を示し,aは1または3で,mは0~50,nは0~50,m+nは1~50ある(ただし,m)およびnはアミノ酸の数を示すのみで,アミノ酸配列の順序を示すものではない)〕で表されるシリル化ペプチドである請求項1記載の化粧品基材。」(2) 本件訂正請求による訂正後のものこれは,(1)の訂正前の請求項1を次のように訂正し(下線部分が訂正箇所である。),請求項2及び3を削除したものである(以下「本件発明」という。)。 「【請求項1】 側鎖の末端にアミノ基を有する塩基性アミノ酸と,それ以外のアミノ酸とで構成され,かつ,上記側鎖の末端にアミノ基を有するアミノ酸の数が0.5~1.2であり,それ以外のアミノ酸の数が4.4~8.8であり,両アミノ酸の合計数が5~10である加水分解小麦タンパクペプチド,加水分解ケラチンペプチ 鎖の末端にアミノ基を有するアミノ酸の数が0.5~1.2であり,それ以外のアミノ酸の数が4.4~8.8であり,両アミノ酸の合計数が5~10である加水分解小麦タンパクペプチド,加水分解ケラチンペプチド,加水分解大豆タンパクペプチドまたは加水分解酵母タンパクペプチドからなるペプチドのアミノ酸側鎖のアミノ基を含む全アミノ基の57%以上62%以下に,下記の一般式(I) 〔式中,R1,R2,R3のうち少なくとも2個は水酸基を示し,残りはメチル基を示す。aは1または3である〕で表されるケイ素原子をただ一つ含む官能基が共有結合したシリル化ペプチドからなることを特徴とする化粧品基材。」 3 審決の理由の要点審決の理由は,以下のとおりであるが,要するに,本件訂正請求による訂正を認めるとした上,請求人の提出した証拠方法によっては,請求人の主張する特許法29条1項3号の該当性も,また,同条2項に定める容易想到性も認められず,本件特許を無効とすることはできない,というものである。 (1) 訂正の適否についての判断本件訂正は,特許法134条2項ただし書及び同条5項の規定によって準用する特許法126条2~3項の規定に適合するので,当該訂正を認める。 (2) 審判甲各号証記載の概要ア審判甲4(特開平5-148119号公報,本訴甲10)化粧料原料組成物に係る発明について開示されており,プロテインアミノ基にシリコンを共有的に結合させたプロテイン-シリコン共重合体は,皮膚や毛髪のコンディショニング作用において,従来のプロテインとシリコンとを単に混合しただけの混合物では得ることのできなかったプロテインとシリコンの両方の特性を示すことが記載されている。 イ審判甲5(欧州特許公開第540357号明細書,本訴甲11)化粧品分野で使用される新規プロテ の混合物では得ることのできなかったプロテインとシリコンの両方の特性を示すことが記載されている。 イ審判甲5(欧州特許公開第540357号明細書,本訴甲11)化粧品分野で使用される新規プロテイン-シリコーン共重合体に係る発明について開示されており,当該共重合体は,シリコーン部分がプロテインのアミノ基に共有結合しており,シリコーン部分の少なくとも一部が異なるプロテイン鎖間に交叉結合を形成したものであることが記載されている。 ウ審判甲6(特開平3-223207号公報,本訴甲12)ペプチド変性シリコン誘導体からなる化粧品基材に係る発明について開示されており,一般式(I)(式は省略)で示されるペプチド変性シリコン誘導体が,シリコーンオイルの有する優れた特性とポリペプチドの有する優れた特性を発揮し,毛髪に艶,潤いを付与し,毛髪のくし通りを改善すること等が記載されている。 エ審判甲7(Cosmetics & Toiletries,Vol.108,March 1993,pp.97-104,本訴甲13)加水分解小麦プロテイン-ポリシロキサン共重合体について開示されており,当該共重合体は,加水分解小麦プロテインと比較的短鎖のシリコノール(ケイ素原子の数が2~4)がプロテインのアミノ基を介して共有結合したものであり,毛髪のコンディショニング作用が優れていることが記載されている。 オ審判甲8(SPC,April 1992,pp.33-34,本訴甲14)プロテイン-シリコーン共重合体について開示されており,当該共重合体がヘアケア用に有用であることが記載されている。 カ審判甲9(泉屋信夫他「ペプチド合成の基礎と実験」,丸善株式会社,平成3年6月15日発行,6~7頁,本訴甲15)各種アミノ酸の分子量及び残基量が記載されている。 (3) が記載されている。 カ審判甲9(泉屋信夫他「ペプチド合成の基礎と実験」,丸善株式会社,平成3年6月15日発行,6~7頁,本訴甲15)各種アミノ酸の分子量及び残基量が記載されている。 (3) 審決の判断ア理由1(特許法29条1項3号)について(ア) 審判甲4(本訴甲10)について請求人は,審判甲4(本訴甲10)に記載されているプロテイン-シリコン共重合体からなる化粧料原料組成物は,本件発明の化粧品基材と同一であると主張するので,この点について検討する。 審判甲4(本訴甲10)には,当該プロテイン-シリコン共重合体について,「この共重合物は,長いポリマー分子を得るためにプロテインのアミノ基に有機機能性シラン/シリコンを共有的に結合させて得られる。さらにシラノール基が縮重合し,結果として,交叉結合が生じる共重合体もこの発明においては含まれる。」(段落【0011】)と記載されており,あたかもシラノール基が縮重合していない(交叉結合が生じていない)共重合体のみからなる組成物が包含されるように記載されている。 しかし,プロテインとの反応に使用する有機機能シリコンについて「プロテイン鎖の末端基及び/又は,プロテイン側鎖のアミノ基と反応する機能性基を有していなければならない。このような反応基グループとしては,アシルハロゲン化物,スルホハライド,非水系及びエポキサイド機能を含むものが例示される。’シリコン’とはシロキサン結合(Si-O-Si)を含む化合物又は一般式1(化1)にて示す縮合反応によりシロキサン結合する能力のあるシラン基をもつもの,或いは,一般式2(化2)で示すように加水分解して各々のシラノール基を生成し,前記した縮合によりシロキサン結合を作製するアルコキシシランなどを示す。」(段落【0016】)と記載されていること,ま ,或いは,一般式2(化2)で示すように加水分解して各々のシラノール基を生成し,前記した縮合によりシロキサン結合を作製するアルコキシシランなどを示す。」(段落【0016】)と記載されていること,また,有機機能性シリコンとプロテインの反応について「有用な有機機能性シリコン/シランは,反応させるためプロテインと共通の溶媒に溶解しなければならない。また反応と交叉結合を適切に行うために,プロテインと有機機能性シリコン/シランの反応条件は注意深く設定される」(段落【0018】)と記載されていることからみて,プロテイン-シリコン共重合体として,交叉結合を有するものを含有する組成物が意図されていることは明らかであり,このことは「この発明に係るプロテイン-シリコン共重合物の化学構造は複雑であり,明確な1つの構造式に限定されるものではない。しかしながら,プロテイン-シリコン共重合物のシリコン成分はシリコンが交叉結合又はプロテインの終末基のみに結合するので,一般式7(化7)及び一般式8(化8)に示す簡単な構造で示される。」(段落【0020】)と記載されているように,プロテイン鎖間に交叉結合を有する一般式7で表される構造のものが含有される組成物であること,および,実施例1~3に具体的に記載されている共重合体は,いずれも,上記一般式7及び一般式8に対応する一般式で示される構造物の両方を含有しており,交叉結合したものを必ず含有しているものであることによっても裏付けられる。さらに,審判甲4(本訴甲10)の対応欧州特許出願に係る審判甲5(本訴甲11)において(審判甲4(本訴甲10)において記載されている上記実施例1~3は,全て審判甲4(本訴甲10)においても実施例として記載されている。),プロテイン-シリコーン共重合体は,少なくとも一部が,異なるプロテイン鎖間に 訴甲10)において記載されている上記実施例1~3は,全て審判甲4(本訴甲10)においても実施例として記載されている。),プロテイン-シリコーン共重合体は,少なくとも一部が,異なるプロテイン鎖間に交叉結合を形成していると記載されていることからも上記解釈の妥当性が裏付けられる。 したがって,審判甲4(本訴甲10)に記載されているプロテイン-シリコン共重合体からなる化粧料原料組成物は交叉結合を有するものを必ず含有したものであると解せられる。 他方,本件発明は,交叉結合を有さないシリル化ペプチドからなる化粧品基材であるから,本件発明が,審判甲4(本訴甲10)に記載されているプロテイン-シリコン共重合体からなる化粧料原料組成物に該当するということはできない。 (イ) 審判甲5(本訴甲11)について請求人は,審判甲5(本訴甲11)に記載されている化粧品分野で使用されるプロテイン-シリコーン共重合体は,本件発明の化粧品基材において使用されているシリル化ペプチドと同一であると主張するので,この点について検討する。 審判甲5(本訴甲11)には,当該プロテイン-シリコーン共重合体について,上記(ア)に記載したとおり,「共重合体は,シリコーン部分がプロテインのアミノ基に共有結合し,シリコーン部分の少なくとも一部が,異なるプロテイン鎖間に交叉結合を形成していることを特徴とする。」(1頁<57>)と記載されており,また,「この発明に係るプロテイン-シリコーン共重合体の化学構造は複雑であり,一つの一般的構造式で表すことはできない。プロテイン-シリコーン共重合体のシリコーン部分は,シリコーン部分が交叉結合を形成しているか,または,一方の端でプロテインに結合しているかにより,以下の単純な構造V及びVIで表される。」(4頁41~44行)と記載されているように, リコーン部分は,シリコーン部分が交叉結合を形成しているか,または,一方の端でプロテインに結合しているかにより,以下の単純な構造V及びVIで表される。」(4頁41~44行)と記載されているように,プロテイン鎖間に交叉結合を有する構造Vのものが含有されるものであるとされていることからみて,審判甲5(本訴甲11)に記載されている化粧品分野で使用されるプロテイン-シリコーン共重合体は交叉結合したものを必ず含有しているものといえる。 他方,本件発明は,交叉結合を有さないシリル化ペプチドからなる化粧品基材であるから,本件発明が,審判甲5(本訴甲11)に記載されている化粧品分野で使用されるプロテイン-シリコーン共重合体に該当するということはできない。 請求人は,「被請求人が製造したシリル化ペプチドは,シリル官能基の両側にプロテイン鎖が結合する交叉結合を形成している」と主張している。 しかるに,本件発明が,ペプチド間に交叉結合を有するものをその技術的範囲に包含しないものであることは上記のとおり明らかであるから,シリル官能基の両側にプロテイン鎖が結合する交叉結合を有するものも本件発明に包含されるということを前提とした請求人の主張は採用できない。 なお,仮に,請求人が,本件発明は,ペプチド間に交叉結合を有するものはその技術的範囲に包含しないものであることを前提として,本件特許明細書において製造されているシリル化ペプチドは,ペプチド間に交叉結合を有するものを必ず含んでおり,ペプチド間に交叉結合を有さないシリル化ペプチドのみからなる化粧品基材は製造されていないという点を主張するとしても(この点は審判請求書において無効理由として主張されていない。),審判甲4(本訴甲10)の段落【0018】(上記参照。)においても示唆されているように,プロテインとシリル化剤 いう点を主張するとしても(この点は審判請求書において無効理由として主張されていない。),審判甲4(本訴甲10)の段落【0018】(上記参照。)においても示唆されているように,プロテインとシリル化剤の反応,その後の交叉反応は反応条件によりそれぞれ制御可能なものであるから,シリル官能基の両側にプロテイン鎖が結合する交叉結合を形成したものを含まない共重合体を製造することは技術的に不可能であるとまではいうことができないので,この点に関する請求人の主張は採用できない。 イ理由2(特許法29条2項)について請求人は,本件発明が,審判甲4(本訴甲10)に基づいて,または,審判甲5(本訴甲11)に基づいて,または,審判甲6~審判甲8(本訴甲12~本訴甲14)に基づいて,当業者が容易に発明することができたものであると主張するので,この点について検討する。 (ア) 審判甲4(本訴甲10),審判甲5(本訴甲11)について審判甲4(本訴甲10)に,プロテイン鎖間に交叉結合を有さないプロテイン-シリコン共重合体のみからなる組成物が化粧品原料組成物として有用であることについて記載されていないことは,上記ア(ア)に記載したとおりである。 他方,本件発明は特定のペプチドを選択し,ペプチド間に交叉結合を有さないシリル化ペプチドのシリル化率を特定することにより,本件特許明細書の表1及び表2(訂正前の表3)に記載されているように(特に,実施例3と比較例3,実施例5と比較例5の対比を参照。),シリル化率が本件発明の上限より高いものと比較し,保存安定性,pH安定性の点で優れ,本件特許明細書の表9(訂正前の表11)に記載されているように,シリル化率が本件発明の下限より低いものと比較し,処理後の毛髪の外観・触感の点で優れた効果を奏するものである。 したがって,本件発明 ,本件特許明細書の表9(訂正前の表11)に記載されているように,シリル化率が本件発明の下限より低いものと比較し,処理後の毛髪の外観・触感の点で優れた効果を奏するものである。 したがって,本件発明が,審判甲4(本訴甲10)に記載の発明に基づいて容易に発明することができたものということができない。 また,本件発明と審判甲5(本訴甲11)の対比においても上記と同様のことがいえる。 (イ) 審判甲6~審判甲8(本訴甲12~本訴甲14)について審判甲6(本訴甲12)には,ペプチド変性シリコン誘導体からなる化粧品基材について記載されているが,その特許請求の範囲第1項に記載の一般式(I)で表されるペプチド変性シリコン誘導体には,形式的にはケイ素原子をただ一つ含む官能基が共有結合したものも含まれるが具体的に記載されているのはケイ素原子を2以上含むものであることに加え,ケイ素原子上の置換基は,炭素数1~3の低級アルキル基またはフェニル基であり,本件発明の一般式(I)で表されるケイ素原子をただ一つ含み,ケイ素原子上の置換基が少なくとも2個が水酸基で,残りがメチル基である官能基が共有結合したシリル化ペプチドについては記載されていないことに加え,シリル化率の好ましい範囲についての記載はなく,具体的に製造されているものは80%以上のものである。 また,審判甲7(本訴甲13)には,加水分解小麦プロテイン-ポリシロキサン共重合体(HWPPC)について記載されているが,当該HWPPCには,プロテイン鎖間に交叉結合を有するものが形成されることが前提とされており(99頁左欄下から11行~右欄第1行),また,審判甲8(本訴甲14)には,審判甲7(本訴甲13)に記載のHWPPCと同様のプロテイン-シリコーン共重合体について記載されているが,いずれにも本件発明の一般式 欄下から11行~右欄第1行),また,審判甲8(本訴甲14)には,審判甲7(本訴甲13)に記載のHWPPCと同様のプロテイン-シリコーン共重合体について記載されているが,いずれにも本件発明の一般式(I)で表されるケイ素原子をただ一つ含む官能基が共有結合し,ペプチド間に交叉結合を有さないシリル化ペプチドのみからなる化粧品基材については記載も示唆もされてない。 他方,本件発明は,一般式(I)で表されるケイ素原子をただ一つ含む官能基のペプチドへの導入率(シリル化率),ペプチドを構成するアミノ酸の数等を特定することにより,上記イ(ア)に記載した特有の効果を奏するものであるから,本件発明が,審判甲6~審判甲8(本訴甲12~本訴甲14)に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものということができない。 なお,職権による無効理由通知で指摘した特許請求の範囲中の不整合は再度の訂正請求により解消した。 (4) 審決のむすび以上のとおりであるから,請求人の主張及び証拠方法によっては,本件特許を無効とすることはできない。 第3 当事者の主張の要点 1 原告主張の審決取消事由(1) 取消事由1(審判手続の法令違背)ア特許法153条2項違反原告には,被告に通知した無効理由に対して意見を申し立てる機会が与えられるべきであったのに,その機会が与えられなかったから,審判手続には,特許法153条2項の規定に違反する瑕疵がある。 (ア) 特許庁は,平成16年3月1日,平成15年9月5日付け訂正請求書に添付された訂正明細書の請求項1に係る発明について,無効理由を被告に通知したが,原告には通知しなかった。 (イ) 特許庁は,本件発明に係る化粧品基材には交叉結合したものが含まれていないとの結論に達した結果,無効理由を被告に通知したが,原告に いて,無効理由を被告に通知したが,原告には通知しなかった。 (イ) 特許庁は,本件発明に係る化粧品基材には交叉結合したものが含まれていないとの結論に達した結果,無効理由を被告に通知したが,原告には通知しなかったため,原告は,これに対し,意見を申し立てることができなかった。 イ特許法134条3項違反原告には,本件訂正請求による訂正後の特許請求の範囲について弁論の機会が与えられるべきであったのに,その機会が与えられなかったから,審判手続には,特許法134条3項の規定に違反する瑕疵がある。 (ア) 被告は,特許庁が平成16年3月1日に無効理由を通知したことに対し,同月5日,本件訂正を請求したが,特許庁は,同年5月27日,審決の謄本とともに,本件訂正に係る訂正請求書の副本を原告に送達した。 (イ) 本件訂正により審判の対象に変更が生じたのであるから,特許庁は,変更された審判の対象について当事者に弁論の機会を与えなければならないのに,審決の謄本とともに,本件訂正に係る訂正請求書の副本を原告に送達したため,原告は,これに対し,弁論をすることができなかった。 (2) 取消事由2(本件発明の認定の誤り)審決が「本件発明は,交叉結合を有さないシリル化ペプチドからなる化粧品基材である」と認定したのは誤りであり,したがって,これに基づき,審決が「本件発明が,審判甲4(本訴甲10)に記載されているプロテイン-シリコン共重合体からなる化粧料原料組成物に該当するということはできない。」,「本件発明が,審判甲5(本訴甲11)に記載されている化粧品分野で使用されるプロテイン-シリコーン共重合体に該当するということはできない。」と判断したのも誤りである。 ア訂正明細書の特許請求の範囲には,「シリル化ペプチドからなることを特徴とする化粧品基材」と記載され るプロテイン-シリコーン共重合体に該当するということはできない。」と判断したのも誤りである。 ア訂正明細書の特許請求の範囲には,「シリル化ペプチドからなることを特徴とする化粧品基材」と記載されていて,「シリル化ペプチドのみからなる」とは記載されていないし,また,交叉結合を有するシリル化ペプチドを排除することも記載されていないから,「本件発明は,交叉結合を有さないシリル化ペプチドからなる化粧品基材である」との審決の認定は,特許請求の範囲の記載に基づかないものである。 イ審決は,審判において被告が提出した上申書3通(甲6ないし8)の実験結果によって,「本件発明は,交叉結合を有さないシリル化ペプチドからなる化粧品基材である」と認定したものと思われる。しかし,上記上申書によると,被告は「IRスペクトル」により交叉結合の有無を判断しているのであるが,IRスペクトルにはSi-O-Si結合に由来する1000ないし1100cm-1付近の強度が明らかに不十分であるものが含まれていたり(例えば,甲6中の実験証明書の図6,図9など),使用した試料の純度が明らかでなかったりするなど,IRスペクトルはSi-O-Si結合の有無を判断するには不十分であり,このような上申書によって,シリル化ペプチドに交叉結合が含まれていないかどうかを認定判断することはできないものである。したがって,本件発明が交叉結合を有さないシリル化ペプチドからなる化粧品基材であるとは認められないから,審決の認定は誤りである。 (3) 取消事由3(本件発明の進歩性の判断の誤り)審決が「本件発明は,交叉結合を有さないシリル化ペプチドからなる化粧品基材である」と認定したことに誤りがないとしても,審決が「本件発明が,審判甲4(本訴甲10)に記載の発明に基づいて容易に発明することができたもの 明は,交叉結合を有さないシリル化ペプチドからなる化粧品基材である」と認定したことに誤りがないとしても,審決が「本件発明が,審判甲4(本訴甲10)に記載の発明に基づいて容易に発明することができたものということができない。また,本件発明と審判甲5(本訴甲11)の対比においても上記と同様のことがいえる。」,「本件発明が,審判甲6~審判甲8(本訴甲12~本訴甲14)に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものということができない。」と判断したのは,誤りである。 ア審決は,「審判甲4(本訴甲10)に記載されているプロテイン-シリコン共重合体からなる化粧料原料組成物は交叉結合を有するものを必ず含有したものであると解せられる。」,「審判甲5(本訴甲11)に記載されている化粧品分野で使用されるプロテイン-シリコーン共重合体は交叉結合したものを必ず含有しているものといえる。」と認定したが,甲10,11に記載されたプロテイン-シリコン共重合体からなる化粧用原料組成物は,交叉結合が生じていない共重合体のみからなる組成物を包含するから,本件発明は,甲10又は11に記載された発明に基づいて容易に発明することができたものである。 イ審決は,「審判甲6(本訴甲12)には,・・具体的に記載されているのはケイ素原子を2以上含むものである」,「審判甲7(本訴甲13)・・,また,審判甲8(本訴甲14)には,・・いずれにも本件発明の一般式(I)で表されるケイ素原子をただ一つ含む官能基が共有結合し,ペプチド間に交叉結合を有さないシリル化ペプチドのみからなる化粧品基材については記載も示唆もされてない。」と説示するが,甲12には,特許請求の範囲にケイ素原子をただ一つ含む官能基が共有結合したものが記載されているのであり,また,甲13,14には,交叉結合は頭髪 基材については記載も示唆もされてない。」と説示するが,甲12には,特許請求の範囲にケイ素原子をただ一つ含む官能基が共有結合したものが記載されているのであり,また,甲13,14には,交叉結合は頭髪に適用されて乾燥された後に形成されることが記載されており,この記載によれば,水分を含む化粧料中では交叉結合が形成されにくいことは明らかであるから,本件発明は,甲12ないし14に記載された発明に基づいて容易に発明することができたものである。 ウ被告は,平成15年11月28日の口頭審理において,「プロテインの平均分子量が高くなると水溶性が低下することは自明の事項であり,これにシリル基を導入すると水溶性がさらに低下する。」(甲20)と主張しているところ,交叉結合を形成すると1分子当たりのプロテインの平均分子量が増加するから,被告の上記主張に従えば,交叉結合を形成していないシリル化ペプチドの方が交叉結合を形成したシリル化ペプチドに比べて保存安定が高いことも自明の事項であるといえる。そして,審決が説示するように,「シリル官能基の両側にプロテイン鎖が結合する交叉結合を形成したものを含まない共重合体を製造することは技術的に不可能であるとまではいうことができない」のであるから,そうであれば,甲10ないし14に記載されたプロテイン-シリコン共重合体のうち,水中での保存安定性が高い交叉結合が生じていないものを選択することに,進歩性はない。 2 被告の反論(1) 取消事由1(審判手続の法令違背)に対してア特許法153条2項違反審判手続に,特許法153条2項の規定に違反する瑕疵はない。 (ア) 特許庁が被告に通知した無効理由は,不明瞭記載を指摘するものであって,原告に通知しなかったとしても,原告に何の不利益も生じない。 (イ) また,被告は,平成15 規定に違反する瑕疵はない。 (ア) 特許庁が被告に通知した無効理由は,不明瞭記載を指摘するものであって,原告に通知しなかったとしても,原告に何の不利益も生じない。 (イ) また,被告は,平成15年12月12日に上申書(甲6)を提出し,これに添付した「請求項の訂正案」において,本件訂正と同内容の訂正案を記載しているが,原告は,平成16年1月16日に上申書(甲9)を提出し,この中で,上記「請求項の訂正案」に対し意見を述べている。 (ウ) したがって,原告に不意打ちとなるような職権による証拠調べが行われたわけではないし,原告には意見を申し立てる機会が与えられていたのであるから,審判手続に特許法153条2項の規定に違反する瑕疵はない。 イ特許法134条3項違反審判手続に,特許法134条3項の規定に違反する瑕疵はない。 (ア) 被告は,無効理由の通知を受けて,本件訂正を請求したが,その内容は,特許請求の範囲の不整合を解消させるにとどまり,新規性,進歩性の判断に影響を与えるようなものではない。 (イ) また,上記ア(イ)のとおり,被告は,平成15年12月12日に提出した上申書(甲6)に添付した「請求項の訂正案」に,本件訂正と同内容の訂正案を記載しているが,原告は,平成16年1月16日に上申書(甲9)を提出し,この中で,上記「請求項の訂正案」に対して意見を述べている。 (ウ) したがって,本件訂正請求があっても,従前行われていた当事者の無効原因の存否に関する攻撃防御について修正,補充を必要としないことが明白であり,しかも,原告には弁論の機会が与えられていたということができるから,審判手続に特許法134条3項の規定に違反する瑕疵はない。 (2) 取消事由2(本件発明の認定の誤り)に対して審決が,「本件発明は,交叉結合を有さないシリル化ペ られていたということができるから,審判手続に特許法134条3項の規定に違反する瑕疵はない。 (2) 取消事由2(本件発明の認定の誤り)に対して審決が,「本件発明は,交叉結合を有さないシリル化ペプチドからなる化粧品基材である」と認定をしたことに,誤りはない。 ア訂正明細書の請求項1の一般式(I)で表される官能基は,文字どおり,ケイ素原子をただ一つ含むだけであって,交叉結合の要因となるケイ素原子を少なくとも2個含むシロキサン結合(Si-O-Si)を有しないから,上記請求項1に記載の化粧品基材を構成するシリル化ペプチドは交叉結合を有するものを含まない。そして,本件発明は,もともと交叉結合を有するものを含まないから,訂正明細書の請求項1に,「シリル化ペプチドのみからなる」と記載する必要はないし,また,交叉結合を有するシリル化ペプチドを排除することを記載する必要もない。 イそして,本件発明の化粧品基材を構成するシリル化ペプチドが交叉結合を有するものを含まないことは,被告が審判において提出した上申書3通(甲6ないし8)からも明らかである。なお,被告がした「IRスペクトル」の測定において,甲6中の実験証明書の図6,図9等に問題はなく,使用した試料もシリル化ペプチドのIRスペクトルの測定に必要な精製をしている。 (3) 取消事由3(本件発明の進歩性の判断の誤り)に対して審決が「本件発明が,審判甲4(本訴甲10)に記載の発明に基づいて容易に発明することができたものということができない。また,本件発明と審判甲5(本訴甲11)の対比においても上記と同様のことがいえる。」,「本件発明が,審判甲6~審判甲8(本訴甲12~本訴甲14)に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものということができない。」と判断したことに誤りはない。 のことがいえる。」,「本件発明が,審判甲6~審判甲8(本訴甲12~本訴甲14)に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものということができない。」と判断したことに誤りはない。 ア甲10に記載されているプロテイン-シリコン共重合体からなる化粧料原料組成物は,交叉結合を有するものを必ず含有したものであると解されるし,甲11に記載されている化粧品分野で使用されるプロテイン-シリコーン共重合体は,交叉結合したものを必ず含有している。したがって,本件発明が,甲10,11に記載の発明に基づいて容易に発明することができたということはできない。 イ甲12には,本件発明の一般式(I)で表されるケイ素原子をただ一つ含み,ケイ素原子上の置換基が少なくとも2個が水酸基で,残りがメチル基である官能基が共有結合したシリル化ペプチドについては,記載されていないものであり,甲13及び14には,本件発明の一般式(I)で表されるケイ素原子をただ一つ含む官能基が共有結合し,ペプチド間に交叉結合を有さないシリル化ペプチドのみからなる化粧品基材については,記載も示唆もされていないのであって,甲12ないし14は,本件発明の化粧品基材を構成するシリル化ペプチドとは異なるプロテイン-シリコン共重合体が記載されているのである。したがって,本件発明が,甲12ないし14に記載の発明に基づいて容易に発明することができたということはできない。 ウ被告は,交叉結合を形成していないシリル化ペプチドの方が交叉結合を形成したシリル化ペプチドに比べて保存安定が高いことが自明の事項であると主張したわけではないし,甲10や11に記載されているプロテイン-シリコン共重合体からなる化粧料原料組成物は,交叉結合を有するものを必ず含有したものであるが,本件発明のシリル化ペプチドからなる ると主張したわけではないし,甲10や11に記載されているプロテイン-シリコン共重合体からなる化粧料原料組成物は,交叉結合を有するものを必ず含有したものであるが,本件発明のシリル化ペプチドからなる化粧品基材は,交叉結合を有さないものであり,このように本件発明と甲10ないし14に記載された発明との間には基本的な相違があるから,被告の「プロテインの平均分子量が高くなると水溶性が低下することは自明の事項であり,これにシリル基を導入すると水溶性がさらに低下する。」(甲20)との主張が認められたとしても,これにより,本件発明の進歩性が否定されるものではない。 第4 当裁判所の判断 1 取消事由1(審判手続の法令違背)について(1) 甲2,4ないし9,16ないし21,乙1ないし9及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実が認められる。 ア原告は,平成15年6月9日,本件発明が,甲10又は11に記載された発明であり,また,甲10ないし14に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたと主張して,本件特許について無効審判の請求をした(無効2003-35239号事件として係属)。 イ被告は,平成15年9月8日,審判事件答弁書(乙2)を提出して,原告の上記主張を争うとともに,同日付け訂正請求書(乙3)により,次の要旨で,特許請求の範囲について訂正を請求した。 「特許請求の範囲の減縮を目的として,請求項1中に請求項3に記載の内容を取り込み,その請求項1をさらに減縮し,かつ誤記の訂正を兼ね,次の通り訂正するとともに,請求項2を削除する。 「【請求項1】 ペプチドのアミノ酸側鎖のアミノ基を含む全アミノ酸の50%以上75%以下に,ケイ素原子をただ一つ含む官能基が共有結合した下記の一般式(I)【化1】 〔式中,R1,R2,R3のうち少な 】 ペプチドのアミノ酸側鎖のアミノ基を含む全アミノ酸の50%以上75%以下に,ケイ素原子をただ一つ含む官能基が共有結合した下記の一般式(I)【化1】 〔式中,R1,R2,R3のうち少なくとも2個は水酸基を示し,残りはメチル基を示す。R4は側鎖の末端にアミノ基を有する塩基性アミノ酸の末端アミノ基を除く残基を示し,R5はR4以外のアミノ酸の側鎖を示し,aは1または3で,mは0.5~1.2,nは4.4~8.8,m+nは5~10ある(ただし,mおよびnはアミノ酸の数を示すのみで,アミノ酸配列の順序を示すものではない)〕で表されるシリル化ペプチドからなることを特徴とする化粧品基材。」」ウ平成15年11月28日に口頭審理による審判が行われ,その期日において,被告が同年12月12日までに請求項の訂正案及び交叉結合の有無に関する実験証明書を含む上申書を提出し,原告が平成16年1月7日までにこれに対する意見を記載した上申書を提出することとされた。 エ被告は,平成15年12月15日,上申書(甲6)を提出し,同年9月5日付け訂正請求書による訂正請求を取り下げ,添付した「請求項の訂正案」に記載の請求項のとおりに訂正するための訂正請求書の提出の機会を与えてほしいこと,添付した「実験証明書」に記載のように,本件発明のシリル化ペプチドが,シリル官能基の一方の側にのみペプチド鎖が結合していて,交叉結合を有しないことを理解してほしいことを上申した。なお,「請求項の訂正案」には,本件訂正請求による訂正後の請求項1と同一の内容が記載されている。 オ原告は,平成16年1月16日ころ,上申書(甲9)を提出し,被告の上記上申書(甲6)に添付した「実験証明書」における「本件発明のシリル化ペプチドが,シリル官能基の一方の側にのみペプチド鎖が結合していて, は,平成16年1月16日ころ,上申書(甲9)を提出し,被告の上記上申書(甲6)に添付した「実験証明書」における「本件発明のシリル化ペプチドが,シリル官能基の一方の側にのみペプチド鎖が結合していて,交叉結合を有しない」とする主張は,化学的根拠に基づくものではなく,また,被告の示した証拠によって交叉結合の有無を判断することは不可能であって,被告が製造したシリル化ペプチドは交叉結合を形成していることが認められること,「請求項の訂正案」は,明細書に記載された事項の範囲内においてされたものではなく,また,特許を受けようとする発明が不明確であることを申述した。 カ被告は,平成16年1月15日,上申書(2)(甲7)を提出し,添付した「実験証明書(2)」によって,本件発明のシリル化ペプチドが交叉結合を有しないことを理解してほしいことを申述し,さらに,同年2月4日,上申書(3)(甲8)を提出し,原告の上記上申書(甲9)において,「被告が製造したシリル化ペプチドが交叉結合を形成していることが認められる」と述べていることが失当であることを申述した。 キ特許庁は,平成16年3月1日,「請求項1(平成15年9月5日付訂正請求書に添付された訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1)に記載のシリル化ペプチドからなる化粧品基材は,ペプチドのアミノ酸側鎖のアミノ基を含む全アミノ基の50%以上75%以下がシリル化されていることを特徴としているものであるところ,請求項1中の一般式(Ⅰ)で示されるシリル化ペプチドは,当該ペプチド中の全アミノ基がシリル化されている化学構造となっており,整合性が取れないので,発明の必須の構成要件が不明りょうであり,特許請求の範囲の記載が特許法36条5項2号に規定する要件を満たしていない。したがって,本件特許は,特許法123条1項4号に該当し り,整合性が取れないので,発明の必須の構成要件が不明りょうであり,特許請求の範囲の記載が特許法36条5項2号に規定する要件を満たしていない。したがって,本件特許は,特許法123条1項4号に該当し,無効とすべきものである。」との理由によって無効にすべきであることを被告に通知した(甲19)。 ク被告は,平成16年3月5日,平成15年9月5日付け訂正請求書による訂正請求を取り下げるとともに,本件訂正を請求した。 ケ特許庁は,平成16年5月18日,「訂正を認める。本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同月27日,その謄本を原告に送達するとともに,被告が提出した上申書(2)(甲7),上申書(3)(甲8)及び本件訂正に係る訂正請求書の各副本を原告に送付した。 (2) 上記(1)認定の事実に基づき,検討する。 ア特許法153条2項違反について特許庁が平成16年3月1日に被告に通知した無効理由は,平成15年9月5日付け訂正請求書に添付された訂正明細書の請求項1の記載について,「整合性が取れないので,発明の必須の構成要件が不明りょうであり,特許法36条5項2号に規定する要件を満たしていない」というものであり,原告に対しこれについて意見申立ての機会を与えなくても,原告に格別の不利益は生じない(なお,原告は,特許庁が,本件発明に係る化粧品基材には交叉結合したものが含まれていないとの結論に達した結果,無効理由を被告に通知したと主張するが,上記主張を裏付けるに足りる証拠はなく,原告の主張は失当である。)。しかも,被告は,特許庁が被告に通知した直後の平成16年3月5日に上記訂正請求書による訂正請求を取り下げており,これによって,上記無効理由について審理判断がされることはなくなっている。 そうであれば,本件において,特許法153条2項所定 後の平成16年3月5日に上記訂正請求書による訂正請求を取り下げており,これによって,上記無効理由について審理判断がされることはなくなっている。 そうであれば,本件において,特許法153条2項所定の手続を欠くという瑕疵があったとしても,その瑕疵は上記訂正請求の取下げによって消失しているから,審決を取り消すべき違法に当たらないことはいうまでもない。 したがって,取消事由(1)アは,理由がない。 イ特許法134条3項違反について被告は,特許庁が平成16年3月1日に通知した無効理由を受けて,平成15年9月5日付け訂正請求書による訂正請求を取り下げるとともに,本件訂正を請求したが,特許庁が通知した無効理由は,上記アのとおり,上記訂正請求書に添付された訂正明細書の請求項1の記載について,「整合性が取れないので,発明の必須の構成要件が不明りょうであり,特許法36条5項2号に規定する要件を満たしていない」というものであって,本件訂正は,特許請求の範囲の記載の不備に関するものであり,新規性又は進歩性(29条1項3号又は2項違反)を無効理由とする審判請求の判断に実質的な影響を与えるものではない。しかも,本件訂正請求による訂正後の請求項1は,被告が平成15年12月15日に提出した上申書(甲6)に添付した「請求項の訂正案」に記載されているところ,これに対し,原告は,上申書(甲9)を提出して意見を述べているから,原告には,本件訂正に係る特許請求の範囲について無効事由の主張立証をする機会が実質的に与えられていたものと評価することができるなど,原告にとって不意打ちにはならないと認められる(なお,原告は,被告が提出した上申書(2)(甲7)及び上申書(3)(甲8)に対して意見を申し述べる機会が与えられなかったとも主張するところ,上申書(2)(甲7)及び上申書 にはならないと認められる(なお,原告は,被告が提出した上申書(2)(甲7)及び上申書(3)(甲8)に対して意見を申し述べる機会が与えられなかったとも主張するところ,上申書(2)(甲7)及び上申書(3)(甲8)は,いずれも,本件発明のシリル化ペプチドにおける交叉結合の有無に関する実験について記載されているものであるが,後記2(3)のとおり,本件発明の認定に当たって,被告が提出した上申書3通(甲6ないし8)に記載された交叉結合の有無に関する実験結果等は何ら関係がないから,上記上申書(2)及び(3)に対し,改めて原告に意見を申し述べる機会を与える必要はなかったというべきである。)。 そうであれば,本件において,特許法134条3項所定の手続を欠くという瑕疵があるとしても,従前行われた無効原因の存否に関する攻撃防御について修正,補充を必要としないことが明らかであるということができるから,上記瑕疵は審決を取り消すべき違法には当たらないというべきである。 したがって,取消事由(1)イは,理由がない。 2 取消事由2(本件発明の認定の誤り)について(1) 訂正明細書(甲16)の特許請求の範囲には,「一般式(I)・・・で表されるケイ素原子をただ一つ含む官能基が共有結合したシリル化ペプチドからなることを特徴とする化粧品基材。」と記載されており,この記載によれば,一般式(I)で表される官能基は,ケイ素原子をただ一つ含むだけであって,本件発明は,「交叉結合」を構成要件とするものではないと認められる。 (2) 原告は,訂正明細書の特許請求の範囲には,「シリル化ペプチドのみからなる」とは記載されていないし,また,交叉結合を有するシリル化ペプチドを排除することも記載されていないから,「本件発明は,交叉結合を有さないシリル化ペプチドからなる化粧品基材である」 プチドのみからなる」とは記載されていないし,また,交叉結合を有するシリル化ペプチドを排除することも記載されていないから,「本件発明は,交叉結合を有さないシリル化ペプチドからなる化粧品基材である」との審決の認定は,明細書の特許請求の範囲の記載に基づかないものであると主張する。しかし,「・・シリル化ペプチドからなることを特徴とする化粧品基材」とする本件発明は,その着眼点が特定のシリル化ペプチド自体にあるのであって,そのような特定のシリル化ペプチドによって構成される化粧品基材を指向するものであると考えるのが自然であり,また,技術的にみて,本件発明の「シリル化ペプチド」の存在に交叉結合を有することが不可欠であるなどの特段の事情があることもうかがえない。そうであれば,本件発明の「シリル化ペプチド」は,交叉結合を有しないものを指向するものであって,訂正明細書の特許請求の範囲に「シリル化ペプチドのみからなる」と記載されず,また,交叉結合を有するシリル化ペプチドを排除することが記載されていないとしても,本件発明の化粧品基材に交叉結合を有するシリル化ペプチドを含むと解することはできない。原告の上記主張は,採用することができない。 また,原告は,被告が提出した上申書3通(甲6ないし8)は,IRスペクトルがSi-O-Si結合の有無を判断するには不十分であって,このような上申書によって,シリル化ペプチドに交叉結合が含まれていないかどうかを認定判断することはできないと主張する。しかし,上記(1)に判示したように,本件発明は,そもそも「交叉結合」を構成要件とするものではなく,本件発明の認定に当たって,被告が提出した上申書3通(甲6ないし8)に記載された交叉結合の有無に関する実験結果等は何ら関係がない。原告の上記主張は,採用の限りでない。 (3) したがって, はなく,本件発明の認定に当たって,被告が提出した上申書3通(甲6ないし8)に記載された交叉結合の有無に関する実験結果等は何ら関係がない。原告の上記主張は,採用の限りでない。 (3) したがって,審決が「本件発明は,交叉結合を有さないシリル化ペプチドからなる化粧品基材である」と認定したことに誤りはないから,取消事由2は,理由がない。 3 取消事由3(本件発明の進歩性の判断の誤り)について(1) 取消事由3アについてア甲10(特開平5-148119号公報)には,「プロテインとの反応に使用する有機機能シリコンは,プロテイン鎖の末端基及び/又は,プロテイン側鎖のアミノ基と反応する機能性基を有していなければならない。・・・’シリコン’とはシロキサン結合(Si-O-Si)を含む化合物又は・・・縮合反応によりシロキサン結合する能力のあるシラン基をもつもの,或いは,・・・加水分解して各々のシラノール基を生成し,前記した縮合によりシロキサン結合を作製するアルコキシシランなどを示す。」(段落【0016】),「また反応と交叉結合を適切に行うために,プロテインと有機機能性シリコン/シランの反応条件は注意深く設定されるが,この発明はこれに限定されるものではない。」(段落【0018】)と記載され,また,実施例1ないし3として,いずれもシロキサン結合(Si-O-Si)を形成した共重合体を必ず含有しているものが記載されている。そして,「適する有機機能シリコン/シラン試薬とは,一般式3(化3)乃至一般式6(化6)に示すものが好適に使用される。」(段落【0018】)として示された一般式3(化3)ないし一般式6(化6)は,ケイ素原子の数及び化学式の構造からみて,いずれも,本件発明を充足するものではないと理解される。 以上によれば,甲10に記載された発明は,交叉 して示された一般式3(化3)ないし一般式6(化6)は,ケイ素原子の数及び化学式の構造からみて,いずれも,本件発明を充足するものではないと理解される。 以上によれば,甲10に記載された発明は,交叉結合を含有することを指向し,これを必須とするものであると認められる。したがって,甲10に記載された発明は,「ケイ素原子をただ一つ含む官能基が共有結合したシリル化ペプチドからなること」を構成要件とする本件発明とは指向するところが異なる。 もっとも,甲10には,「シラノール基が縮重合し,結果として,交叉結合が生じる共重合体もこの発明においては含まれる」(段落【0011】)と記載されている。しかし,この記載は,同じ段落の「この発明においては化粧料原料組成物としてプロテイン-シリコン共重合体又は/及びその誘導体が使用される。このプロテイン-シリコン共重合体又は/及びその誘導体とは結合基を通してプロテインアミノ基にシリコンを共有的に結合させた共重合物又は誘導体のことをいう。この共重合物は,長いポリマー分子を得るためにプロテインのアミノ基に有機機能性シラン/シリコンを共有的に結合させて得られる。」との記載に続くものであり,交叉結合を有することを指向する発明の構成を説明する文脈中の記載であるから,交叉結合を有するものであれば,甲10に記載された発明から排除されないということを意味するにとどまる。したがって,上記記載があることをもって,甲10が,「ケイ素原子をただ一つ含む官能基が共有結合したシリル化ペプチドからなること」を構成要件とする本件発明を開示するものであるということはできない。 イ甲11(欧州特許公開第540357号明細書)に記載された発明は,甲10に記載された発明の優先権主張の基礎出願であるが,甲11には,「共重合体は,シリコーン部分がプロテイ いうことはできない。 イ甲11(欧州特許公開第540357号明細書)に記載された発明は,甲10に記載された発明の優先権主張の基礎出願であるが,甲11には,「共重合体は,シリコーン部分がプロテインのアミノ基に共有結合し,シリコーン部分の少なくとも一部が,異なるプロテイン鎖間に交叉結合を形成していることを特徴とする。」(1頁末行から3行前ないし末行),「全てのシリコーン成分がプロテイン成分と交叉結合を形成することは必要とはされない。本発明に係る共重合体は,一方の末端或いは両末端でプロテイン成分に結合したシリコーン含有鎖を含むことができ,交叉結合する単鎖の割合は反応剤の選択や量及び反応条件によって調整される。共重合体溶液の濃度又は乾燥によって更なる交叉結合を生じることができる。」(4頁26行ないし30行)と記載されている。 これらの記載によると,甲11に記載された発明は,全てのシリコンが異なるプロテイン鎖間に交叉結合を形成する必要はないが,少なくとも一部には交叉結合が含まれることを必須とするものであると認められる。したがって,甲11に記載された発明は,「ケイ素原子をただ一つ含む官能基が共有結合したシリル化ペプチドからなること」を構成要件とする本件発明とは指向するところが異なる。 ウそうすると,本件発明は,甲10又は甲11に記載された発明とは指向するところが異なるものであるから,これに基づいて容易に発明することができたということはできない。 エ原告は,甲10,11に記載されたプロテイン-シリコン共重合体からなる化粧用原料組成物は,交叉結合が生じていない共重合体のみからなる組成物を包含するから,本件発明は,甲10又は11に記載された発明に基づいて容易に発明することができたと主張する。しかし,上記ア,イに判示したように,甲10,11に 生じていない共重合体のみからなる組成物を包含するから,本件発明は,甲10又は11に記載された発明に基づいて容易に発明することができたと主張する。しかし,上記ア,イに判示したように,甲10,11に記載されたプロテイン-シリコン共重合体からなる化粧用原料組成物は,交叉結合を有することを必須とするのであるから,原告の上記主張は,前提を欠くものであり,採用の限りでない。 オしたがって,取消事由3アは,理由がない。 (2) 取消事由3イについてア甲12(特開平3-223207号公報)には,審決が説示するように,具体的にケイ素原子を2以上含むものであり,ケイ素原子上の置換基が炭素数1ないし3の低級アルキル基又はフェニル基であることが記載されているところ,本件発明のような,一般式(I)で表される,ケイ素原子をただ一つ含み,ケイ素原子上の置換基は,少なくとも2個が水酸基で,残りがメチル基である官能基が共有結合したシリル化ペプチドからなる化粧品基材については,記載がない。 また,甲13(Cosmetics & Toiletries,Vol.108,March 1993,pp.97-104)及び甲14(SPC,April 1992,pp.33-34)には,本件発明のような,一般式(I)で表される,ケイ素原子をただ一つ含む官能基が共有結合し,ペプチド間に交叉結合を有さないシリル化ペプチドのみからなる化粧品基材について,記載がない。 イ上記の甲12ないし14の記載(記載がないことを含む。)にかんがみると,本件発明は,甲12ないし14に記載された発明に基づいて容易に発明することができたとは認め難い。 ウ原告は,甲12には,特許請求の範囲にケイ素原子をただ一つ含む官能基が共有結合したものが記載されており,また,甲13,14の記載によると,水分を含 て容易に発明することができたとは認め難い。 ウ原告は,甲12には,特許請求の範囲にケイ素原子をただ一つ含む官能基が共有結合したものが記載されており,また,甲13,14の記載によると,水分を含む化粧料中では交叉結合が形成されにくいことは明らかであるから,本件発明は,甲12ないし14に記載された発明に基づいて容易に発明することができたと主張する。確かに,甲12の特許請求の範囲にはケイ素原子をただ一つ含む官能基が共有結合したもの(lが0のとき)が記載されており,また,甲13,14の記載によると,水分を含む化粧料中では交叉結合が形成されにくいものであることが明らかであるとしても,上記アでみたような甲12ないし14の記載にかんがみれば,本件発明は,甲12ないし14に記載された発明に基づいて容易に発明することができたとは認め難く,原告の上記主張は,採用の限りでない。 エしたがって,取消事由3イは,理由がない。 (3) 取消事由3ウについてア平成15年11月28日付け口頭審理陳述要領書(甲20)は,本件発明が甲10(審判甲4)や甲11(審判甲5)に記載された発明でないことの理由として,甲10や甲11に具体的に記載された実施例は,プロテインの平均分子量において,本件発明のシリル化ペプチドに比べて高いものであることなどを前提に,プロテイン-シリコン共重合物の水中での保存安定性やpH安定性について,「プロテインの平均分子量が高くなると水溶性が低下することは自明の事項であり,これにシリル基を導入すると水溶性がさらに低下する。」とした上,「従って,分子量の高いプロテインを用いたプロテイン-シリコン共重合物が本件発明のシリル化ペプチドのような優れた水中での保存安定性やpH安定性を有しないことは,当然の結果であ」るとしているのであって,これをもって の高いプロテインを用いたプロテイン-シリコン共重合物が本件発明のシリル化ペプチドのような優れた水中での保存安定性やpH安定性を有しないことは,当然の結果であ」るとしているのであって,これをもって,「交叉結合を形成していないシリル化ペプチドのほうが,交叉結合を形成したシリル化ペプチドに比べて保存安定性が高いこと」が自明の事項であるとまで記載されているとは認められない。 イ原告は,「交叉結合を形成していないシリル化ペプチドのほうが,交叉結合を形成したシリル化ペプチドに比べて保存安定性が高いこと」が自明の事項であることを前提に,甲10ないし14に記載されたプロテイン-シリコン共重合体のうち,水中での保存安定性が高い交叉結合が生じていないものを選択することに進歩性は認められないと主張するが,上記アに判示したところに照らせば,原告の上記主張は,平成15年11月28日付け口頭審理陳述要領書(甲20)の内容を正解しないものであるといわなければならず,採用することはできない。 ウしたがって,取消事由3ウは,理由がない。 第5 結論以上のとおりであって,原告の主張する審決取消事由は理由がないから,原告の請求は棄却されるべきである。 知的財産高等裁判所第4部裁判長裁判官塚原朋一裁判官塩月秀平裁判官髙野輝久
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