主文 1 被告は,原告Aに対し,金275万円及び内金110万円に対する平成9年12月10日から,内金165万円に対する平成10年6月13日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は,原告Bに対し,金137万5000円及び内金55万円に対する平成9年12月10日から,内金82万5000円に対する平成10年6月13日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被告は,原告Cに対し,金137万5000円及び内金55万円に対する平成9年12月10日から,内金82万5000円に対する平成10年6月13日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 5 訴訟費用は,これを40分し,その1を被告の負担とし,その余を原告らの負担とする。 6 この判決は,第1項ないし第3項に限り,仮に執行することができる。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は,原告Aに対し,金1億2378万8178円及びこれに対する平成9年12月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告は,原告Bに対し,金5089万4089円及びこれに対する平成9年12月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 被告は,原告Cに対し,金5089万4089円及びこれに対する平成9年12月10日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要本件は,くも膜下出血により被告の開設する病院に入院し,頭蓋内の両側性解離性椎骨動脈瘤と診断され,治療を受けたDが,その後意識障害が遷延化した上で死亡したことに関し,同人の妻である原告A及び子である他の原告らが,上記病院における診療において,①左椎骨動脈瘤に対するコーティング手術を実施すべきでないのに,上記病院の医師がこれを実施した, 上で死亡したことに関し,同人の妻である原告A及び子である他の原告らが,上記病院における診療において,①左椎骨動脈瘤に対するコーティング手術を実施すべきでないのに,上記病院の医師がこれを実施した,②そのコーティング手術を承諾するに当たって,上記病院の医師がDに対し誤った説明を行った,③上記病院の医師が,そのコーティング手術中,左椎骨動脈を誤って切損した上,その場合には手術を中止すべきであったにもかかわらず,これを続行した,④Dがベッドから転落するのを防止すべきであったのに,上記病院の看護担当者がこれを十分に行わず,転落事故を生じさせた,⑤本件病院の医師による漫然とした管理のため,肺炎が生じ,それが重症化したと主張し,これらによって上記意識障害の遷延化と死亡が生じたと主張して,被告に対し,主位的には診療契約の債務不履行に基づき,予備的には不法行為(使用者責任)に基づき,Dの損害金及びこれに対する上記コーティング手術実施の日からの民法所定の遅延損害金についての各原告の相続分の支払を求め,さらに,原告Aが,被告に対し,不法行為(使用者責任)に基づき,同人固有の慰謝料及びこれに対する上記同日からの民法所定の遅延損害金の支払を求めている事案である。 1 前提事実(証拠原因を掲記しない事実は争いがない。)(1) 当事者ア原告Aは,後記のとおり平成16年1月23日に死亡したDの妻であり,他の原告らは,Dの子である。 イ被告は,老年病に関する基礎的及び臨床的研究を行うこと等を目的とする財団法人であり,老年病研究所附属病院(以下「本件病院」という。)を開設している。 (2) Dに対する本件病院での診療経過ア入院前後から1度目の手術後までの経過(ア) Dは,平成9年10月25日午後6時30分ころ,頭痛がすると言って横になったが,午後7時15分こ している。 (2) Dに対する本件病院での診療経過ア入院前後から1度目の手術後までの経過(ア) Dは,平成9年10月25日午後6時30分ころ,頭痛がすると言って横になったが,午後7時15分ころ,目を見開いて口から泡を吹き,意識を失った。そのため,原告Aは,そのころ,救急車を呼び,Dは,本件病院に搬送されて入院し,被告との間で診療契約を締結した。 (イ) 本件病院に勤務するE医師は,頭蓋内の両側解離性椎骨動脈瘤の左右いずれかの破裂によるくも膜下出血と診断し(ただし,左椎骨動脈瘤は,実際には解離性ではなく,動脈硬化性動脈瘤であった(乙2,証拠保全の結果,証人E)。),右椎骨動脈瘤が破裂した可能性が高いと判断して,同日午後11時から,動脈瘤を形成している右椎骨動脈にコイルを詰めてその血流を遮断する血管内手術(以下「1度目の手術」という。)をした(以下,動脈瘤について記述する場合は,いずれも頭蓋内のものであることを前提とする。)。Dは,同月26日朝,意識を回復した。 (ウ) 1度目の手術の後,Dには麻痺はなかったが,同月27日,意識障害及び失見当識が出現し,水頭症も発症した。そのため,腰椎ドレナージが行われた結果,CT検査において水頭症の症状は認められなくなり,以後,意識及び見当識は徐々に改善した。 くも膜下出血は,同月31日に行われたCT検査のときまでは認められたが,同年11月5日に行われたCT検査のときからは認められなくなった。そして,同月8日,意識は清明となり,以後,脳機能障害は認められなくなった。 イコーティング手術の説明と承諾(ア) E医師は,同年10月26日から5,6回にわたり,原告Aに対し(ただし,同年11月12日以降はD及び原告Aに対し),Dの病状について説明した。 その説明の際,E医師は,左椎骨動脈瘤が破裂する危険 ア) E医師は,同年10月26日から5,6回にわたり,原告Aに対し(ただし,同年11月12日以降はD及び原告Aに対し),Dの病状について説明した。 その説明の際,E医師は,左椎骨動脈瘤が破裂する危険があり,治療方法としてコーティング手術があると述べた。 また,E医師は,同年11月16日,左椎骨動脈の遮断テストを行い,同日,原告Aに対し,その結果を説明した。 (イ) E医師は,同月29日,D及び原告Aに対し,左椎骨動脈瘤のコーティング手術をした場合,ものが飲み込み難くなる,声がかすれる,ろれつが回らなくなるなどの副作用が出ることがあると説明した。また,E医師は,左椎骨動脈瘤の治療方法としてはコーティング手術しかなく,この手術をしないならば経過観察をすることになるが,この手術をした方がよい旨述べた(甲1,24,証人E)。そして,E医師は,D及び原告Aに対し,コーティング手術をするならば同年12月10日に行うこととなる旨述べ,この手術を行うことを承諾するか否かを尋ねた。 Dは,同年11月30日,E医師に対し,コーティング手術を行うことを承諾する旨を口頭で伝え,D及び原告Aは,被告に対し,同年12月9日,この手術に関する手術麻酔等承諾書に署名押印して提出した。 ウコーティング手術の実施(ア) Dは,本件病院の医師から,コーティング手術が行われる日まではいつでも外泊をしてよいと言われたため,同月3日から5日まで自宅に帰り,同月4日には勤務先に半日出勤した(甲1)。 (イ) 同月10日午前11時25分から,Dの左椎骨動脈瘤のコーティング手術が行われた(以下「本件コーティング手術」という。)。本件コーティング手術は,E医師が執刀した。本件コーティング手術において,E医師が開頭後に手技を誤って左椎骨動脈を約半周切断した(以下「本件動脈損傷」とい た(以下「本件コーティング手術」という。)。本件コーティング手術は,E医師が執刀した。本件コーティング手術において,E医師が開頭後に手技を誤って左椎骨動脈を約半周切断した(以下「本件動脈損傷」という。)ため,2850ccの出血が生じた。本件動脈損傷が生じたため,左椎骨動脈の損傷部について,その近位部をクリップで遮断し,遠位部を吸引管で軽く圧迫して出血をコントロールしながら,8-0ナイロン糸で3針縫合し,ベムシートとビオボンドでコーティングした後に,手術が再開された。手術が再開されるまでの間,左椎骨動脈の血流が約90分間遮断された。その後,左椎骨動脈瘤に壁の薄いところがないことを確認し,動脈瘤の前内側部を除いてガーゼとフィブリン糊でコーティングした上,閉創して手術は終了した。 手術時間は7時間5分であった。 (ウ) 本件コーティング手術の実施直後,E医師は,原告Aに対し,左椎骨動脈瘤はすぐに破裂するようなものではなかったと述べ,手術中に左椎骨動脈を損傷し,損傷部を縫合したことを説明した。また,同日夜,E医師は,原告Aに対し,本件コーティング手術後の問題として,髄液漏,手術創の感染症,髄膜炎,肝機能障害,神経症状(飲み込み,発声,会話の障害,めまい)が起きる可能性があると説明した。 エ本件コーティング手術実施後の経過(ア) 同月11日,発熱し,構音障害,舌の左方偏移が出現し,会話をすることはほとんどなかった。 (イ) 同月12日以降も38℃から39℃の発熱があり,構音障害が続き,やや鬱状態になったり,傾眠傾向になったりした。同月15日のMRI検査において右小脳半球に梗塞巣,左硬膜下に水腫が認められ,脳梗塞が発症したことが判明した。同月16日ころから,軽度の意識障害が出現し,その後,意識障害が悪化した。同月23日ころから平成10年1月中旬 において右小脳半球に梗塞巣,左硬膜下に水腫が認められ,脳梗塞が発症したことが判明した。同月16日ころから,軽度の意識障害が出現し,その後,意識障害が悪化した。同月23日ころから平成10年1月中旬ころまでの意識レベルは,Japan coma scale(以下「JCS」という。)でⅠ-2(刺激しなくても覚醒しているが,時・人・場所が分からない。)からⅡ-1(刺激すると覚醒する状態であり,普通の呼びかけで容易に開眼する。)の状態であった(JCSの基準につき,乙26)。 (ウ) 平成9年12月22日,CT検査により,水頭症を発症していることが認められた。また,同月24日,CT検査により,くも膜下出血と脳室内出血が認められ,腰椎穿刺により,髄膜炎を発症していることが認められた。他方,くも膜下出血は,平成10年1月5日に行われたCT検査のときには,認められなかった。 (エ) 同月21日,本件病院の医師は,コーティング手術の手術創の感染と手術創皮下の髄液貯留に対し,それぞれ手術創の郭清と髄液瘻閉鎖術を行い,また,水頭症の治療のため,脳室ドレナージ手術を行った。しかし,この手術の後,右前頭葉と右脳室内から出血が続いた。 (オ) 同年2月1日,名前を呼ぶと開眼するが,それ以外の指示には全く反応せず(JCSでⅡ-3(刺激すると覚醒する状態であり,痛み刺激を加えつつ呼びかけを繰り返すと辛うじて開眼する。)),しゃっくりが連続して起きるようになった(JCSの基準につき,乙26)。本件病院の医師は,同月3日,腰椎ドレナージを行い,同月13日,V-Pシャント術を行った。 (カ) 同月14日,言語障害はあるものの,意識がやや改善され(ただし,「おはよう」と言い,呼び名に返答するが,その他の指示には反応しない状態であった。),しゃっくりが止まった。他方,同月20日か (カ) 同月14日,言語障害はあるものの,意識がやや改善され(ただし,「おはよう」と言い,呼び名に返答するが,その他の指示には反応しない状態であった。),しゃっくりが止まった。他方,同月20日から,経管栄養となった。 (キ) 同月27日から車いす乗車を始めて少しずつ四肢を指示に従って動かすようになり,同年3月4日からリハビリを始めたが,体のバランスが悪く,自立できなかった。他方,同月9日,氏名,年齢及び住所を正答できた。 (ク) 同月15日,左後頭下手術創が膨隆して皮下及び硬膜外膿瘍となったため,本件病院の医師は,同日,排膿を行い,同月18日,手術創の郭清,デブリドマンを行った。 (ケ) 同年4月,運動能力と意識障害は改善されず,右目が寄ってしまい,自発性の低下,体幹失調,構音障害,嚥下障害,左顔面神経麻痺,両側外転神経麻痺等の症状が現れた。他方,同年5月19日のMRI検査においては,水頭症が認められなくなったが,硬膜下エヒュージョンと両側小脳に高信号が認められた。 オ転落事故(ア) 同年4月5日午前4時30分ころ,同月14日午前10時25分ころ,同月18日未明(午前6時以前),同月25日未明(午前4時以前)及び同年6月8日午前6時30分ころ,ベッドから転落し,同年4月8日午前11時には,車いすから転落した。 (イ) 同年6月13日午後8時ころ,ベッドから転落して前頭部を打撲し,左頭頂-後頭葉硬膜下に出血した(以下「本件転落事故」という。)。 同月14日午前11時には,体を硬直させてウーウーとうなっていて呼びかけに反応しない状態であった。また,同日,右睫毛反射がなかった。 (ウ) 同月15日,ウーウーとうなるだけで呼びかけに反応しない状態であり,CT検査により第4脳室の拡大と水頭症が認められた。同月16日には,昏睡状態になり,CT また,同日,右睫毛反射がなかった。 (ウ) 同月15日,ウーウーとうなるだけで呼びかけに反応しない状態であり,CT検査により第4脳室の拡大と水頭症が認められた。同月16日には,昏睡状態になり,CT検査により第4脳室のさらなる拡大が認められ,対光反射が緩慢になり除脳硬直肢位をとるなど,脳幹障害が悪化して危険な状態になった。そのため,同日,本件病院の医師は,第4脳室-腹腔シャント術を行った。 カその後の経過(ア) 上記第4脳室-腹腔シャント術が行われたときから,気管内挿管がされていたが,同月20日から肺炎,同月22日から無気肺及び胸水貯留を併発し,同月24日から同年7月6日まで,急性呼吸不全のため,人工呼吸器を使用することになった(気管内挿管がされた時期につき,証人E)。同年6月30日には危篤状態となったが,その後,危険な状態を脱した。 (イ) 同年7月16日,気管挿管がされ,同月28日,胃潰瘍で吐血をし,同年8月4日,右下肺が肺炎になり,同月17日,肺炎が両肺に広がり,気管切開がされた。以後,気管切開をしたまま鼻からチューブによる経管食をとる状態であり,おむつの使用が続いた。簡単な発語,指示動作は可能となったが,自発性の低下,四肢の硬直,筋力低下のため,寝たきりの状態となった。なお,同年10月7日,リハビリが開始された。 (ウ) 平成11年1月22日,「くも膜下出血による体幹機能障害1級」と認定されて,身体障害者手帳の交付を受けた。 (エ) 同年4月8日,CT検査により,左被殻出血が認められ,同年8月12日,CT検査により,右頭頂後頭葉皮質下出血が認められた。 (オ) 同年11月13日,腹腔カテーテルの閉塞によって水頭症を発症したため,脳室ドレナージが行われた。また,同月14日,CT検査により硬膜下水腫が認められたため,同月17日,本件 血が認められた。 (オ) 同年11月13日,腹腔カテーテルの閉塞によって水頭症を発症したため,脳室ドレナージが行われた。また,同月14日,CT検査により硬膜下水腫が認められたため,同月17日,本件病院の医師が腹腔カテーテルの入替え手術を行った。その後,意識と体の動きが少しずつよくなり,同年12月13日からリハビリを開始した。 (カ) 平成12年1月22日,約5分間の全身けいれん発作が起きた。同年2月3日,CT検査により,右側頭葉皮質下出血が認められ,同年1月22日にはその出血があったと推定された。その後,意識障害が強くなり,原告Aも分からないようになった。 (キ) 同年8月11日,約5分間の全身けいれん発作が起き,CT検査により,左側頭葉皮質下出血が認められ,同年9月22日,CT検査により,右被殻-外包出血が認められた。 (3) 転院後の経過ア Dは,平成12年9月27日,本件病院から,館林厚生病院に転院した。このころのDは,終日臥床状態で,意識障害が遷延化していた(甲4)。 Dは,同年12月20日,胃瘻造設手術を受け,経管食から胃瘻による栄養補給に切り替えた(甲20)。そして,平成13年12月3日には,嚥下性肺炎を予防するため,咽頭全摘術を受け,以後,発声をすることができなくなった(甲21)。 イ Dは,平成14年10月4日,介護老人保健施設「ナーシングホーム館林」に入所したが,平成15年1月31日から同年2月17日までと,同年11月3日から同月27日までは,館林厚生病院に入院した(甲19,22)。 ウ Dは,平成16年1月23日,「ナーシングホーム館林」において死亡した。Dの直接死因は,脳出血(ただし,再発のもの。発病,発症から死亡までの期間は2日)であり,直接には死因に関係しないが上記直接死因の傷病経過に影響を及ぼした傷病名は ングホーム館林」において死亡した。Dの直接死因は,脳出血(ただし,再発のもの。発病,発症から死亡までの期間は2日)であり,直接には死因に関係しないが上記直接死因の傷病経過に影響を及ぼした傷病名は,くも膜下出血後遺症(発病,発症から死亡までの期間は6年)であった。(甲18) 2 原告らの主張(1) 被告の過失及び因果関係ア本件コーティング手術の実施(ア) 平成9年10月25日の入院時,Dには両側性椎骨動脈瘤があり,右動脈瘤は,解離性のもので,くも膜下出血の責任病巣であったが,左動脈瘤は,紡錘状動脈瘤であって解離性ではなく(E医師が解離性であると診断したことは誤りである。),本件コーティング手術施行当時,破裂・出血する可能性はほとんどなかった。また,開頭しての手術をすることは必然的に脳を損傷し術後に後遺症をもたらす。 したがって,Dの左椎骨動脈瘤については,適当な間隔を置いて脳血管撮影をして経過観察を行い,動脈瘤の増大等の症状が現れたときにコーティング手術をするべきであり,そのような症状のない本件コーティング手術実施当時,コーティング手術をするべきではなかった。にもかかわらず,E医師は,本件コーティング手術を実施した。 (イ) 本件コーティング手術が実施されなければ,その後のDの症状は生じず,Dが死亡することもなかった。 イ本件コーティング手術についての誤った説明(ア) E医師は,平成9年11月29日,D及び原告Aに対し,上記アのとおり左椎骨動脈瘤が経過観察を行うべき状況にあるにもかかわらず,直ちに左椎骨動脈瘤のコーティング手術をしないとこれが破裂する危険性が高く,その場合,死亡する確率が高いとの誤った説明をした。また,コーティング手術においては,動脈瘤の裏側がコーティングされず,したがって不完全なコーティングしかできないと いとこれが破裂する危険性が高く,その場合,死亡する確率が高いとの誤った説明をした。また,コーティング手術においては,動脈瘤の裏側がコーティングされず,したがって不完全なコーティングしかできないところ,E医師は,本件コーティング手術実施に当たって,このことをDに対し説明すべきであったにもかかわらず,このことをDに対し説明しなかった。 (イ) Dは,仮に,経過観察を行って動脈瘤の増大等の症状が現れたときにコーティング手術をするという選択肢があるとの説明を受け,又は,コーティング手術においては不完全なコーティングしかできないとの説明を受けていれば,本件コーティング手術の実施を同意せず,本件コーティング手術が実施されることはなかった。 そして,本件コーティング手術が実施されなければ,その後のDの症状は生じず,Dが死亡することもなかった。 ウ左椎骨動脈の切損及び本件コーティング手術の続行(ア) E医師は,本件コーティング手術において,手技を誤って本件動脈損傷を生じさせた。そして,本件動脈損傷により,左椎骨動脈から2850ccの出血が生じ,その縫合のために左椎骨動脈の血流が約90分間遮断されたのであるから,E医師は,本件コーティング手術を直ちに中止するべきであったのに,これを続行した。 (イ) 本件動脈損傷による血流障害と本件コーティング手術の続行が小脳及び脳幹に種々のダメージを与えたことは確実であり,これらが原因となって,術後の症状が生じ,死亡原因の脳内出血も生じた。 エベッドからの転落を防止すべき義務の懈怠(ア) Dは,本件転落事故のころ,何度もベッドから転落していたのであるから,ベッドからの転落の危険があることは明らかであり,被告の看護担当者は,Dがベッドから転落することを防止すべき義務を負っていた。しかるに,被告の看護担当者は, 度もベッドから転落していたのであるから,ベッドからの転落の危険があることは明らかであり,被告の看護担当者は,Dがベッドから転落することを防止すべき義務を負っていた。しかるに,被告の看護担当者は,この義務を怠り,Dに抑制帯による拘束をせず,Dに背を向けて別の患者のコルセットを巻き直していたため,本件転落事故が生じた。 (イ) Dは,本件転落事故により,急性硬膜下出血を起こし,打撃による脳の腫れや血腫から水頭症になり,重症化して昏睡状態となった。本件転落事故は,その後の意識障害の遷延化と死亡をもたらした。 オ肺炎とその重症化を防止すべき義務の懈怠(ア) Dは,平成10年6月ころ,嚥下障害及び意識障害があるため唾液や口腔内食物の肺への誤嚥が起きやすく,長期の臥床状態の継続のため肺の循環が悪くなっていたことから,肺炎になりやすくなっていた。しかるに,E医師は,漫然と管理をしたため,Dは,同月18日ころ,肺炎を併発した。また,E医師は,同月16日,Dに気管内挿管をしたが,痰の吸引をするなどの適切な気管内挿管の管理を怠ったため,大量の痰がたまって気管支が閉塞し,また,呼吸管理その他の肺炎に対する適切な治療を怠ったため,同月19日に急激な呼吸不全が発生し,同月22日に無気肺になり,同月24日に呼吸不全が重症化し,同月30日から危篤状態になった。 (イ) 上記(ア)の肺炎による重篤な呼吸不全が脳の低酸素状態を惹起し,既に重大なダメージを受けていた小脳及び脳幹にさらに一層の侵襲が加えられ,Dの死亡をもたらした。 (2) 損害ア上記(1)の被告の過失によるDの症状悪化及び死亡により,後記イ,ウのとおり,Dは2億0357万6357円,原告Aは2200万円の損害を被った。そして,Dの被告に対する上記金額の損害賠償請求権は,Dが死亡したことにより,原告 Dの症状悪化及び死亡により,後記イ,ウのとおり,Dは2億0357万6357円,原告Aは2200万円の損害を被った。そして,Dの被告に対する上記金額の損害賠償請求権は,Dが死亡したことにより,原告Aが2分の1,他の原告らが各4分の1の割合で相続した。 イ Dの損害(ア) 個室料金 57万4250円(イ) 入院付添費 939万円(ウ) 付添交通費 66万4820円(エ) 食事料負担金 22万1160円(オ) 入院雑費 300万0400円(カ) 休業損害 3706万3327円(キ) 入院慰謝料 1000万円(ク) 逸失利益 6115万円(ケ) 死亡慰謝料 6000万円(コ) 証拠保全関連費用(証拠保全等の申立てに係る弁護士費用を含む。)251万2400円(サ) 本訴提起に係る弁護士費用 1900万円ウ原告Aの損害(ア) 原告A固有の慰謝料 2000万円(イ) 本訴提起に係る弁護士費用 200万円 3 被告の主張(1) 被告の過失及び因果関係についてア本件コーティング手術の実施についてまず,原因の異なる動脈瘤が同時にできることは考えにくく,Dの両側性椎骨動脈瘤は,いずれも解離性のものと考えるのが自然であった。そして,Dの右椎骨動脈瘤と左椎骨動脈瘤とでは,左椎骨動脈瘤の方が大きかった。また,本件と同様の両側解離性椎骨動脈瘤の症例で,一側の椎骨動脈を遮断した後に対側の椎 性のものと考えるのが自然であった。そして,Dの右椎骨動脈瘤と左椎骨動脈瘤とでは,左椎骨動脈瘤の方が大きかった。また,本件と同様の両側解離性椎骨動脈瘤の症例で,一側の椎骨動脈を遮断した後に対側の椎骨動脈瘤が破裂した例が報告されており,この例では,一側の椎骨動脈を遮断することにより,対側に血行力学的負荷がかかり破裂を誘発したと推測されている。以上のとおり,本件において,コーティング手術をしない場合には,1度目の手術において遮断した右椎骨動脈と対側で,より大きい左椎骨動脈瘤が破裂し,くも膜下出血を起こす危険があった。 他方,被告は,1度目の手術の後,破裂後の急性期において両側の手術をすることは極めて危険性が高いことから,2週間の経過観察をした。この経過観察をし,慢性期に入ったことから,左椎骨動脈瘤について手術をすることの危険性は減少した。 したがって,本件コーティング手術実施当時に,左椎骨動脈瘤についてコーティング手術をして予防処置をする適応はあった。 イ本件コーティング手術についての説明についてE医師が左椎骨動脈瘤の破裂の危険性を過度に強調したことはない。 E医師は,D及び原告Aに対し,左椎骨動脈瘤が破裂する可能性があってコーティング手術をする適応があることに加え,コーティング手術の危険性についても説明をし,コーティング手術をせずに経過観察をする方法もあることを説明した。 また,E医師は,D及び原告Aに対し,コーティング手術は動脈瘤を完璧に包み込むことはできないので,100パーセント再出血を予防できるわけではないが,予防効果はあり,Dの左椎骨動脈瘤の破裂を予防することを選択するとすれば,コーティング手術が一般に広く行われているということも説明した。 以上の説明をもとに,Dは本件コーティング手術の実施に同意したのであり あり,Dの左椎骨動脈瘤の破裂を予防することを選択するとすれば,コーティング手術が一般に広く行われているということも説明した。 以上の説明をもとに,Dは本件コーティング手術の実施に同意したのであり,E医師の説明に誤りはない。 ウ左椎骨動脈の切損及び本件コーティング手術の続行について(ア) E医師が本件コーティング手術において手技を誤って本件動脈損傷を生じさせたことは認めるが,そのことは,予後に全く影響を与えておらず,Dの術後の症状や死亡との因果関係はない。 (イ) また,E医師は,本件動脈損傷に係る損傷部を縫合した後,左椎骨動脈を観察し,血行に問題がないことを確認した上で,本件コーティング手術を続行したのであって,本件動脈損傷が生じたからといって,本件コーティング手術を中止すべきであったとはいえない。 エベッドからの転落を防止すべき義務の懈怠について(ア) 本件転落事故の当時,Dにベッドから転落する危険があったことは認めるが,Dは,療養に慣れたのか,徐々に落ち着きを取り戻し,特に興奮しない限りは転倒や転落の心配はないだろうという状態になっており,他の患者と比べて転落の危険性が高かったわけではない。また,このときまでに,Dがベッドから転落しても大事に至ることはなかった。さらに,本件病院では,本件転落事故の前ころにおいては,Dに対する身体拘束の時間をできるだけ短くしようと努めていた。 このような状況の中,Dは,本件転落事故の直前においては,プロ野球のテレビ中継を見ており,落ち着いていたので,転倒や転落の危険はないと判断して,身体拘束はしなかったところ,在室していた看護婦が他の患者の着替えをさせている一瞬の隙に,本件転落事故が発生したものであって,被告としては,尽くすべき義務を尽くしたといえる。 (イ) 本件転落事故の翌日,CT検査 かったところ,在室していた看護婦が他の患者の着替えをさせている一瞬の隙に,本件転落事故が発生したものであって,被告としては,尽くすべき義務を尽くしたといえる。 (イ) 本件転落事故の翌日,CT検査により急性硬膜下血腫が認められた。 他方,本件転倒事故の3日後にDの意識は低下し,対光反射が緩慢になったが,これらは,第4脳室の拡大によるものであり,本件転落事故やその翌日に認められた急性硬膜下血腫とは無関係である。 また,上記急性硬膜下血腫が認められた後のDの状態は,体幹失調のため自力で体位を保つことは困難であったが,言語の理解も可能で,離握手等の指示にも応じられたというものであって,その後にDの症状が悪化したのは,繰り返し生じた脳内出血が原因であり,この脳内出血は,原告の素因や体力の低下によって生じたものである。 以上のとおり,本件転落事故とDの症状悪化及び死亡との間に因果関係はない。 オ肺炎とその重症化を防止すべき義務の懈怠についてE医師は,平成10年6月ころ,Dが肺炎を起こしやすい状態にあることは十分認識しており,痰の吸引などを頻回に行っていたし,口腔内を清潔にするために毎日口腔ケア(口の中を薄めた消毒液で清拭すること)を行っていた。原告らは,E医師が漫然と管理していたために肺炎や無気肺を起こしたと主張するが,全く根拠がない。 なお,脳の低酸素状態が,脳内出血の原因となることはない。 (2) 損害について原告らの主張は争う。 第3 当裁判所の判断 1 被告の過失及び因果関係について(1) 本件コーティング手術実施の適否についてア前記前提事実に証拠(甲1,24,乙1の1・2,乙2,10,11の1・2,証拠保全の結果,証人Eのほか,後掲のもの)及び弁論の全趣旨を併せると,次の事実が認められる。 (ア) 医学的知見 ついてア前記前提事実に証拠(甲1,24,乙1の1・2,乙2,10,11の1・2,証拠保全の結果,証人Eのほか,後掲のもの)及び弁論の全趣旨を併せると,次の事実が認められる。 (ア) 医学的知見a 脳動脈瘤の種類とそれらに対する外科的治療について脳動脈瘤は,嚢状であることが多く,その場合の外科的治療としては,動脈瘤の頸部をクリップすることや,瘤内にコイルを詰めることによって,動脈瘤への血流を遮断し,その破裂とそれによる脳内出血を予防することとなる。 他方,脳動脈瘤には,血管壁に亀裂が入り(このことを解離という。),そこに血液が流れることで解離が拡大するとともに血管が紡錘状に膨らむことによって生じるものがある。このような動脈瘤を解離性動脈瘤という。 解離性動脈瘤は,内頸動脈系に生じる場合と椎骨脳底動脈系に生じる場合とを比較すると,後者の場合が多い(乙28)。血管造影所見において,解離性動脈瘤にはpearlandstring徴候(動脈瘤様拡張と狭窄病変)が認められることが多いが,狭窄病変が認められない場合でも解離性動脈瘤と診断される場合がある(乙15,16,29ないし31,33,34,36。 ただし,乙15と乙31,乙16と乙30は,それぞれ同一の文献である。)。 解離性動脈瘤は,血管自体が膨らむことにより生じるものであるから,これをクリップするといった方法で,動脈瘤のみへの血流を遮断し,血管自体の血流を維持するということができない。そこで,解離性動脈瘤の場合に,その破裂とそれによる脳内出血を予防するための外科的治療としては,動脈瘤が生じている血管にコイルを詰めるなどして血管自体の血流を遮断することによることが一般的であるが,開頭した上で動脈瘤を綿や接着剤で包み込む(コーティングする)ことなどによることもある(乙33)。 瘤が生じている血管にコイルを詰めるなどして血管自体の血流を遮断することによることが一般的であるが,開頭した上で動脈瘤を綿や接着剤で包み込む(コーティングする)ことなどによることもある(乙33)。 b コーティング手術について上記のとおり,動脈瘤を綿や接着剤で包み込む手術をコーティング手術というが,この手術においては,開頭した上で,動脈瘤の視認可能な部分についてコーティングをするほか,視認不可能な部分,すなわち裏側の部分についても,綿や接着剤を押し込むことによって,できるだけ動脈瘤全体につきコーティングをすることができるように努めることとなる。ただし,裏側の部分には,完全にコーティングをすることができないところが残る可能性がある。もっとも,完全にコーティングをすることができないところが残ったとしても,コーティング手術を実施することにより,少なくともコーティングをした部分から動脈瘤が破裂することを予防することができる。 他方,解離性椎骨動脈瘤に対して,開頭した上での外科的治療(コーティング手術も含む。)を行った場合には,合併症として,下位脳神経麻痺により,嚥下困難,嗄声,構語障害が生じる可能性がある(乙36)。 c 未治療の破裂解離性椎骨動脈瘤の再破裂の可能性と外科的治療の必要性等について破裂解離性椎骨動脈瘤が再破裂した場合には,再破裂しなかった場合と比較して,死亡することを含め,状態が悪化する可能性が有意に高い(乙18,34)。 そして,未治療の破裂解離性椎骨動脈瘤の再破裂の可能性について,再破裂をした症例について,当初の破裂から起算した再破裂の時期が最長11日ないし18日後であったとか,24時間以内の再破裂が54.1%で,1週間以内のそれが81.1%であったといった報告ないし経験をもとに,慢性期に至った例では再破 裂から起算した再破裂の時期が最長11日ないし18日後であったとか,24時間以内の再破裂が54.1%で,1週間以内のそれが81.1%であったといった報告ないし経験をもとに,慢性期に至った例では再破裂を起こす頻度は極めて低いとするほか,破裂の有無にかかわらず,解離性椎骨動脈瘤について保存的に(外科的治療を行わずに)治療することで長期的な予後が良好であった例も多く報告されているなどとする文献がある(乙18)。他方,再破裂が71.4%の症例について生じ,この再破裂の症例のうち,当初の破裂から24時間以内の再破裂が56.7%,1週間以内のそれが80%であったが,1か月以上経過してからの再破裂も10%あったとの経験をもとに,破裂解離性動脈瘤が当初の破裂からおよそ1か月で治癒段階になるという見解があることを紹介しつつも,当初の破裂から1か月以上経過した慢性期にあっても,破裂解離性椎骨動脈瘤の手術を行うことを推奨するとする文献もある(乙34)。 d 両側性解離性椎骨動脈瘤の治療等について両側性解離性椎骨動脈瘤とは,左右の椎骨動脈のいずれにも解離性椎骨動脈瘤が生じるものをいう。 両側の椎骨動脈の血流を遮断することは重篤な虚血症状を招くおそれがあり,症例数が少ないこともあって,両側性解離性椎骨動脈瘤に対する一般的な治療法は定まっていない(乙29,32,34)。 そして,両側性解離性椎骨動脈瘤において,一側(片側)の椎骨動脈の血流を遮断する治療を行った場合,対側(反対側)の椎骨動脈の解離に対し血行力学的負荷を増大させる可能性があり,その結果,対側の解離の進行,椎骨動脈瘤の増大ないしその破裂を来すことが考えられ,これが破裂した場合,死亡することを含め,状態が悪化する可能性が高い(乙15,16,30ないし33。ただし,乙15と乙31,乙16と乙 離の進行,椎骨動脈瘤の増大ないしその破裂を来すことが考えられ,これが破裂した場合,死亡することを含め,状態が悪化する可能性が高い(乙15,16,30ないし33。ただし,乙15と乙31,乙16と乙30は,それぞれ同一の文献である。)。 上記のような対側の解離性椎骨動脈瘤の破裂の可能性を踏まえて,一側の椎骨動脈の血流を遮断する治療を行った場合には,厳重に経過観察を行って,対側の椎骨動脈の解離や椎骨動脈瘤の増大が見られたときには,対側についての外科的治療をすることが有効であるとする文献がある(乙15,16,30,31。ただし,乙15と乙31,乙16と乙30は,それぞれ同一の文献である。)。他方,両側性解離性椎骨動脈瘤の場合には,一側のみの治療はかえって対側の破裂を助長することになり,初めから両側の椎骨動脈瘤に対する外科的治療を考える必要があるとする文献もある(乙29)。 e 以上の医学的知見の状況は,本件コーティング手術実施当時も同様であった。 (イ) 本件コーティング手術実施前後の診療経過についてaDが本件病院に入院した平成9年10月25日,E医師は,CT検査により,くも膜下出血があり,その出血は右側にやや多いことを認めた。また,E医師は,右椎骨動脈にpearlandstrings徴候が見られ,左椎骨動脈には膨隆が見られるのみであったがその膨隆は右椎骨動脈より大きいといった血管造影検査の結果をもとに,両側の椎骨動脈に解離性動脈瘤様の所見があると判断した(乙4p109)。そして,E医師は,出血が右側にやや多いことから,右椎骨動脈瘤が破裂してくも膜下出血をもたらした可能性が高いと診断し,1度目の手術を行った。 b この後,E医師は,本件コーティング手術が実施されるまでの間,右椎骨動脈瘤,左椎骨動脈瘤の双方が解離性のものであったと 裂してくも膜下出血をもたらした可能性が高いと診断し,1度目の手術を行った。 b この後,E医師は,本件コーティング手術が実施されるまでの間,右椎骨動脈瘤,左椎骨動脈瘤の双方が解離性のものであったということを前提に治療方針を検討していた。 cE医師は,同月26日,左椎骨動脈瘤については,今後2週間経過観察をし,瘤が増大したならば,開頭してコーティング手術を実施すべきであると考えた(甲17)。 dE医師は,左椎骨動脈についても,1度目の手術と同様に,血流を遮断する方法による手術を行うことが可能かどうかを判断するため,同年11月16日,左椎骨動脈の遮断テストを行った。その結果,左椎骨動脈を一時的に閉鎖することにより,めまいや気が遠くなるといった症状が現れ,頸動脈からの側副血行が乏しいことが分かったため,左椎骨動脈の血流を遮断する方法による手術を行うことはできず,手術をするとすればコーティング手術を行うしかないという結論に達した。(乙4p105・106)e 本件コーティング手術を実施するまでの間に,左椎骨動脈瘤が増大傾向にあるといった状況はなかった。 f 本件コーティング手術を実施した結果,左椎骨動脈瘤は,解離性ではなく,動脈硬化性で,紡錘状の動脈瘤であることが分かった。 イ前記前提事実と上記アの認定事実をもとに,本件コーティング手術実施の適否について検討する。 (ア)a まず,本件コーティング手術実施の適否を検討するに当たっては,右椎骨動脈に解離性の動脈瘤があったが,1度目の手術で右椎骨動脈の血流が遮断されたこと,左椎骨動脈には解離性である可能性が高い動脈瘤があること,平成9年10月25日のくも膜下出血の原因となったのは,右椎骨動脈瘤の破裂であった可能性が高いことを前提とすべきである。 b この点,原告らは,E医師が左椎骨動脈瘤を解離性 性が高い動脈瘤があること,平成9年10月25日のくも膜下出血の原因となったのは,右椎骨動脈瘤の破裂であった可能性が高いことを前提とすべきである。 b この点,原告らは,E医師が左椎骨動脈瘤を解離性のものであると診断したことは誤りであると主張し,本件コーティング手術実施の適否を検討するに当たり,左椎骨動脈瘤が解離性のものでないことを前提とすべきであると主張するもののようである。 確かに,平成9年10月25日の血管造影検査において,解離性動脈瘤には多くみられるpearlandstring徴候が,Dの左椎骨動脈瘤には見られず,実際に本件コーティング手術を実施した結果,左椎骨動脈瘤は解離性のものではなかったことが分かったが,狭窄病変が認められない場合でも解離性動脈瘤と診断される場合があること,解離性動脈瘤は比較的椎骨脳底動脈系に生じることが多いこと,右椎骨動脈には解離性動脈瘤が生じていたことは明らかであるところ,その場合に対側の左椎骨動脈に生じた動脈瘤も解離性のものであると考えることが自然であると考えられることからして,本件コーティング手術実施の適否を検討するに当たっては,左椎骨動脈瘤が解離性のものである可能性が高いことを前提とすべきと解される。 c また,原告らは,右椎骨動脈瘤がくも膜下出血の責任病巣であったと主張し,本件コーティング手術実施の適否を検討するに当たり,平成9年10月25日のくも膜下出血が左椎骨動脈瘤の破裂によって生じた可能性を全く排除するべきであると主張するもののようである。 しかしながら,本件コーティング手術実施前において,くも膜下出血が左椎骨動脈瘤の破裂により生じた可能性を全く排除することのできる事情を認めるに足りる証拠はない。 (イ)a そこで,上記(ア)aのとおりの前提で,本件コーティング手術実施の適否 いて,くも膜下出血が左椎骨動脈瘤の破裂により生じた可能性を全く排除することのできる事情を認めるに足りる証拠はない。 (イ)a そこで,上記(ア)aのとおりの前提で,本件コーティング手術実施の適否について検討することとする。 b まず,可能性は低いものの,仮に平成9年10月25日のくも膜下出血が左椎骨動脈瘤の破裂により生じたものであったとすると,本件コーティング手術実施当時,それは未治療の破裂解離性椎骨動脈瘤であったということになる。この場合,本件コーティング手術が実施されたのは同年12月10日であるから,本件コーティング手術実施当時は,当初の破裂から既に1か月以上が経過していることになる。そうすると,左椎骨動脈瘤の再破裂の可能性は,当初の破裂直後と比較して低下していたといえるが,このような時期においても手術を行うことを推奨する見解もあること,再破裂をした場合には,死亡することを含め,状態が悪化する可能性が高いことからすると,本件コーティング手術実施当時,左椎骨動脈瘤に対して手術を行うことは,選択肢の一つとして考えられるものであったというべきである。 c 次に,仮に平成9年10月25日のくも膜下出血が右椎骨動脈瘤の破裂により生じたものであったとすると,本件コーティング手術実施当時,既に1度目の手術において右椎骨動脈の血流が遮断されていたのであるから,対側である左椎骨動脈瘤の増大ないしその破裂を来すことが考えられ,これが破裂した場合,死亡することを含め,状態が悪化する可能性が高かったといえる。 ただし,このような場合には,対側の椎骨動脈の解離や椎骨動脈瘤の増大がみられたときには,対側についての外科的治療をすることが有効であるとする考え方が多いところ,本件コーティング手術を実施するまでの間に,左椎骨動脈瘤が増大傾向にあるといった状況 離や椎骨動脈瘤の増大がみられたときには,対側についての外科的治療をすることが有効であるとする考え方が多いところ,本件コーティング手術を実施するまでの間に,左椎骨動脈瘤が増大傾向にあるといった状況はなかったから,本件コーティング手術実施当時,引き続き経過観察を行い,左椎骨動脈瘤の増大がみられたときに手術を行うという方針をとることも十分に推奨されるものであったと考えられる。 しかしながら,一側の椎骨動脈の血流を遮断する治療を行った場合に,対側の解離の進行や椎骨動脈瘤の増大がみられない場合には,対側についての外科的治療の必要性に乏しいとか,外科的治療を行うことはかえって有害であるといった医学的知見があることを認めるに足りる証拠はないから,本件コーティング手術実施当時に手術を行うという方針をとることが医学的に誤りであるとまではいえない。 d そして,コーティング手術は,動脈瘤のコーティングをした部分からの破裂を予防することができるもので,解離性椎骨動脈瘤の外科的治療として有効なものであるところ,本件コーティング手術実施当時,左椎骨動脈瘤に対して,コーティング手術以外に有効な外科的治療法があったと認めるに足りる証拠はない。 e 以上に加え,開頭した上での外科的治療(コーティング手術も含む。)を行った場合の合併症(上記アに認定したもののほか,どのような合併症が生じ得るかについての医学的知見を認めるに足りる証拠はない。)や,左椎骨動脈瘤が実際には解離性のものではない可能性があったことを併せても,本件コーティング手術実施当時,コーティング手術を行ってはならなかったと判断するには足りず,本件証拠上,他にそのように判断するに足りる事情を認めることはできない。 ウしたがって,本件コーティング手術実施の適否についての原告らの主張は理由がない。 (2 はならなかったと判断するには足りず,本件証拠上,他にそのように判断するに足りる事情を認めることはできない。 ウしたがって,本件コーティング手術実施の適否についての原告らの主張は理由がない。 (2) 本件コーティング手術についての説明についてア前記前提事実と上記(1)アの認定事実をもとに,本件コーティング手術を実施するに当たって,E医師が,D又は原告Aに対し,誤った説明をするなどして説明義務を怠ったといえるか否かについて検討する。 イこの点に関し,まず,原告らは,本件コーティング手術実施当時,左椎骨動脈瘤が経過観察を行うべき状況にあったことを前提として,E医師が誤った説明をしたと主張する。 確かに,上記(1)イでも述べたとおり,平成9年10月25日のくも膜下出血が左右いずれの椎骨動脈瘤の破裂により生じたものであっても,本件コーティング手術実施当時,引き続き経過観察を行うという選択肢が考えられ,あるいは推奨される状況にあったとはいえるが,本件証拠上,経過観察をすべきで,手術をすべきでないという状況にあったとまで判断するに足りる事情を認めることはできない。したがって,本件コーティング手術実施当時,左椎骨動脈瘤が経過観察を行うべき状況にあったことを前提とすることはできない。 ウ次に,原告らは,E医師が,平成9年11月29日,D及び原告Aに対し,直ちに左椎骨動脈瘤のコーティング手術をしないとこれが破裂する危険性が高く,その場合,死亡する確率が高いとの説明をしたと主張する。しかし,原告A作成の陳述書(甲1,24)にも,そのような説明がされたことを示す記述はなく,他にそのような説明がされたことを認めるに足りる証拠もない。なお,上記説明内容に関し,左椎骨動脈瘤のコーティング手術をしないとこれが破裂する危険性があり,その場合,死亡する可能性が 示す記述はなく,他にそのような説明がされたことを認めるに足りる証拠もない。なお,上記説明内容に関し,左椎骨動脈瘤のコーティング手術をしないとこれが破裂する危険性があり,その場合,死亡する可能性があるとの限度においては,誤った事実であるともいえない。 エまた,原告らは,コーティング手術において,動脈瘤の裏側がコーティングされないことをDに対し説明すべきであったと主張する。確かに,コーティング手術の場合,動脈瘤の裏側の部分には,コーティングをすることができないところが残る場合があるが,少なくともコーティングをした部分から動脈瘤が破裂することを予防することができるし,上記(1)イでも述べたとおり,本件コーティング手術実施当時,左椎骨動脈瘤に対して,コーティング手術以外に有効な外科的治療法があったと認めるに足りる証拠はなかったのであって,これらを前提とすると,あえて,動脈瘤の裏側の部分にコーティングをすることができないところが残る場合があることまでをも説明すべきであるとはいい難い。 オそして,E医師は,平成9年11月29日,D及び原告Aに対し,左椎骨動脈瘤については,コーティング手術を行うか,経過観察を行うかのいずれかであると選択肢を示し,コーティング手術を行った場合に考えられる合併症についても説明を加えた上で,コーティング手術をした方がよいと述べたものであって,このようなE医師の説明は,上記(1)のとおりの本件コーティング手術実施の適否についての検討結果に照らし,不適切であったとまでは判断できない。 カ以上のとおりであるから,E医師が,D又は原告Aに対し,誤った説明をするなどして説明義務を怠った旨の原告らの主張は理由がない。 (3) 左椎骨動脈の切損及び本件コーティング手術の続行についてア(ア) まず,E医師が本件コーティング手術におい 告Aに対し,誤った説明をするなどして説明義務を怠った旨の原告らの主張は理由がない。 (3) 左椎骨動脈の切損及び本件コーティング手術の続行についてア(ア) まず,E医師が本件コーティング手術において手技を誤って本件動脈損傷を生じさせたことは,当事者間に争いがない。E医師は,本件コーティング手術を,左椎骨動脈を損傷せずに実施すべきであったと解されるところ,本件動脈損傷を生じさせたのであるから,被告ないしE医師には,この点において過失があるというべきである。 (イ) 他方,原告らは,本件動脈損傷によって出血が生じて左椎骨動脈の血流が遮断されたことを根拠に,本件コーティング手術は直ちに中止されるべきものであった旨主張するが,そのような医学的知見を認めるに足りる証拠はないから,この点についての原告らの主張は理由がない。 イ(ア) 次に,被告は本件動脈損傷が予後に全く影響を与えていないと主張し,証人Eはこの主張に沿う証言をする。しかしながら,本件コーティング手術実施後である平成9年12月16日ころから,Dには軽度の意識障害が出現し,その後,意識障害が悪化したものであるところ,証拠(乙第2号証のうち,退院時記録が記載されている部分)によれば,本件病院の医師は,Dが本件病院を退院するに当たり,本件コーティング手術中の血流遮断の影響で,その手術後より意識障害が出現した旨記載したと認められるから,少なくとも,平成9年12月16日ころに出現した意識障害は,本件動脈損傷による左椎骨動脈の遮断によって生じたものであると認められる。上記証人Eの証言は,乙第2号証の上記部分に反する限度において,信用することができないというべきである。 (イ) 他方,本件コーティング手術後,平成9年12月22日に水頭症が発症していること,同月24日,くも膜下出血,脳室内出血,髄膜 部分に反する限度において,信用することができないというべきである。 (イ) 他方,本件コーティング手術後,平成9年12月22日に水頭症が発症していること,同月24日,くも膜下出血,脳室内出血,髄膜炎が発症していることがそれぞれ認められ,平成10年1月21日の手術創の郭清,髄液瘻閉鎖術及び脳室ドレナージ手術の後,右前頭葉と右脳室内から出血が続いたところ,これらの症状が本件動脈損傷によって生じたと認めるに足りる証拠はないし,証拠(乙1,11の1・2,証人E)及び弁論の全趣旨によれば,水頭症や髄膜炎を含むコーティング手術自体の合併症により意識障害の悪化を招くことがあると認められるのであって,本件動脈損傷による左椎骨動脈の遮断による影響が,上記の症状が生じた以後の意識障害の継続や悪化,さらには本件病院から館林厚生病院に転院したころの意識障害の遷延化及び死亡原因の脳内出血にまで及んだというには疑いが残る。 そうすると,遅くとも平成10年1月ころ以降の意識障害の継続や悪化,さらには本件病院から館林厚生病院に転院したころの意識障害の遷延化及び死亡については,本件動脈損傷に関する被告ないしE医師の過失と相当因果関係があるとは認められないというべきである。 ウ以上のとおりであるから,被告には,Dに対し,債務不履行及び不法行為に基づき,本件コーティング手術後に生じた意識障害(ただし,平成10年1月ころまでのもの)により生じた損害の限度で,これを賠償すべき責任があったというべきである。 (4) ベッドからの転落を防止すべき義務の懈怠についてア前記前提事実に証拠(甲1,24,乙1の1・2,乙2,3,10,11の1・2,乙12,証拠保全の結果,証人F,証人E)及び弁論の全趣旨を併せると,次の事実が認められる。 (ア) 本件コーティング手術後,Dは,体の 証拠(甲1,24,乙1の1・2,乙2,3,10,11の1・2,乙12,証拠保全の結果,証人F,証人E)及び弁論の全趣旨を併せると,次の事実が認められる。 (ア) 本件コーティング手術後,Dは,体のバランスが悪く,注意力がなく,ベッドのさくを外すこともしていたことから,本件病院の医師及び看護婦は,Dがベッドから転落する危険があると判断し,Dがベッドにいる際に,両手に手袋をし,両上肢をベッドのさくに縛るという方法で身体拘束をすることとした。ただし,原告Aや看護婦がDの様子を見ることができる場合や,看護婦が,Dの様子が落ち着いていると判断した場合には,身体拘束を行っていなかった。 (イ) Dは,平成10年4月5日午前4時30分ころ,同月14日午前10時25分ころ,同月18日未明(午前6時以前),同月25日未明(午前4時以前)及び同年6月8日午前6時30分ころ,ベッドから転落した。 同年4月5日の転落の具体的状況は不明である。同月14日には,看護婦による清拭がされた後,ベッド上で座位をとっていたところ,体動が活発になり,ベッドのさくの足下のすき間より転落したものである。同月18日には,Dが,自ら身体拘束を解き,ベッドから降りようとしたところ,転落したものである。同月25日には,Dが,自ら右上肢の身体拘束を解き,左上肢の身体拘束がされたままで,ベッドから転落したものである。同年6月8日には,Dが,自らベッドのさくを取り外した上,ベッドから転落したものである。 これらの転落があった際には,Dは,特に傷害を負うことはなかった。 (ウ) 同月13日午後7時ころ,Dは,身体拘束のための手袋を装着して,側臥位にて,テレビを見ていた。このころまで,原告AはDの付添いをしていたが,帰宅しようと考え,当時担当していた看護婦F(以下「F看護婦」という。)に 時ころ,Dは,身体拘束のための手袋を装着して,側臥位にて,テレビを見ていた。このころまで,原告AはDの付添いをしていたが,帰宅しようと考え,当時担当していた看護婦F(以下「F看護婦」という。)に対し,身体拘束をした方がよいかどうかを尋ねた。F看護婦は,Dがテレビを見ており,「城田さん,大丈夫ですか。」と問いかけたところ,これにDがうなずいたことから,Dの様子が落ち着いていると判断し,原告Aに対し,「後で見ます。」と述べて,直ちに身体拘束をすることはしなかった。そして,原告Aは,このころから同日午後7時40分ころまでの間に,Dの病室を出て,帰宅した。その後,本件転落事故が発生した同日午後8時ころまで,Dには身体拘束がされないままであった。 同日午後8時ころ,F看護婦が,Dの病室を訪れ,その病室の他の患者のコルセットを巻き直す作業をしていたところ,本件転落事故が発生した。本件転落事故の際,F看護婦はDを見てはおらず,他にDの様子を見ていた者はいなかったが,F看護婦は,Dが起立しようとしてベッドから転落したと推測した。 イ(ア) 前記前提事実と上記アの認定事実をもとに,F看護婦を含む被告の看護担当者が,Dがベッドから転落することを防止するべき義務を懈怠したか否かについて検討する。 (イ) 本件コーティング手術の後,Dは,ベッドから転落する危険がある状況であって,身体拘束を要する状態と判断されていたこと,本件転落事故の前,Dがしばしばベッドから転落していたこと,ベッドからの転落により,頭部に打撃を受けて重度の傷害を生じることがあり得ることは当然に予測されるべき事柄であることからすると,被告の看護担当者は,Dがベッドから転落することを防止すべき義務を負っていたというべきである。 しかるに,本件転落事故当時,Dには身体拘束がされていなかっ 予測されるべき事柄であることからすると,被告の看護担当者は,Dがベッドから転落することを防止すべき義務を負っていたというべきである。 しかるに,本件転落事故当時,Dには身体拘束がされていなかったのであるから,被告の看護担当者としては,Dがベッドから転落しないよう,可能な限り,Dの様子に注意を払うべきであった。にもかかわらず,本件転落事故当時,F看護婦は,他の患者に対する処置をしていてDを見てはおらず,他にDの様子を見ていた者はいなかったのであるから,F看護婦を含む被告の看護担当者は,上記義務を怠ったといわざるを得ない。そして,前記前提事実及び上記アの認定事実に弁論の全趣旨を併せると,被告の看護担当者が,Dの様子について十分な注意を払っていれば,本件転落事故を防ぐことができた可能性が高いと認められる。 したがって,被告ないしその看護担当者には,本件転落事故を生じさせた点において,過失があるというべきである。 (ウ)a この点に関し,被告は,まず,Dには他の患者と比べて転落の危険性が高かったわけではないと主張するが,転落の危険があったことは当事者間に争いがなく,他の患者とその危険の度合いを比較することに特段の意味はないというべきである。 b 次に,被告は,本件転落事故の前ころ,Dに対する身体拘束の時間を短くしようと努めていたと主張するが,そうであったとしても,身体拘束をしない場合においてベッドからの転落を防ぐ方策をとらなくてよいことにはならない。 c さらに,被告は,本件転落事故の直前において,Dが落ち着いていたと主張するが,このころにおいても,時間的な長短はともかく,Dに対し,ベッドからの転落を防止するため身体拘束がされていたのであり,F看護婦において,Dが落ち着いているように見えたとしても,直ちにベッドからの転落の危険が軽減 いても,時間的な長短はともかく,Dに対し,ベッドからの転落を防止するため身体拘束がされていたのであり,F看護婦において,Dが落ち着いているように見えたとしても,直ちにベッドからの転落の危険が軽減していたと判断することは困難である。 ウ(ア) 前記前提事実に証拠(乙1の2,証人E)及び弁論の全趣旨を併せると,本件転落事故により,左頭頂-後頭葉硬膜下に出血をし,本件転落事故の翌日である平成10年6月14日のCT検査により,左後頭部に硬膜下血腫が認められ,この出血ないし硬膜下血腫が,同月16日の第4脳室の拡大,同月20日の肺炎,同月22日の無気肺及び胸水貯留,同月24日からの急性呼吸不全,同月30日の危篤状態の発生に影響を及ぼしたと認められる。 そうすると,本件転落事故が生じなければ,少なくとも上記のような経過をたどって危篤状態となることはなかったというべきであり,本件転落事故と,平成10年6月30日の危篤状態の発生までのDの症状悪化とは相当因果関係があると認められる。 (イ) 他方,上記危篤状態については,その後危険な状態を脱したものであるところ,本件転落事故の影響が,そのさらに後における意識障害の遷延化や死亡にまで及んだと認めるに足りる証拠はなく,これらと本件転落事故に関する被告ないしその看護担当者の過失との間の相当因果関係を認めることはできないというべきである。 エ以上のとおりであるから,被告には,Dに対し,債務不履行及び不法行為に基づき,本件転落事故後,平成10年6月30日の危篤状態の発生までのDの症状悪化により生じた損害の限度で,これを賠償すべき責任があったというべきである。 (5) 肺炎とその重症化を防止すべき義務の懈怠についてアこの点に関し,原告らは,平成10年6月ころ,E医師が痰の吸引をするなどの適切な気管内挿管の れを賠償すべき責任があったというべきである。 (5) 肺炎とその重症化を防止すべき義務の懈怠についてアこの点に関し,原告らは,平成10年6月ころ,E医師が痰の吸引をするなどの適切な気管内挿管の管理を怠ったと主張する。 そこで検討するに,証拠(乙2,3)によれば,同月14日から,痰からみが見られ,粘調痰が引けるようになったところ,少なくとも,同日午後4時,同日午後6時,同月15日午後3時,同日午後4時,同日午後8時,同月16日午前2時,同日午前4時,同日午前6時,同日午前10時,同日午後2時,同日午後10時30分,同月17日午前零時,同日午前2時,同日午前4時,同日午前6時,同日午後零時,同日午後2時,同日午後4時,同月18日午前10時,同日午後2時,同日午後4時,同月19日午前2時,同日午前4時,同日午前6時,同日午前8時,同日午後2時,同月20日午前2時,同日午前4時,同日午前6時,同日午前8時,同日午後2時,同日午後4時に痰の吸引が行われたことが認められる。そして,この事実からすると,その後も,同程度の間隔を置いて痰の吸引が行われたと認められる。 これらの事実を前提にすると,痰の吸引について不適切な点があったと判断することはできず,他に気管内挿管の管理について不適切な点があったと判断することのできる事情を認めるに足りる証拠はない。 イまた,原告らは,E医師が漫然と管理をしたために肺炎が生じたと主張するが,本件証拠上,本件において,実際に行われたのとは異なり,どのような管理をすれば肺炎が生じることを防ぐことができたのかという点を明らかにするものはない。 ウ以上のとおりであるから,E医師が,肺炎とその重症化を防止すべき義務を怠った旨の原告らの主張は理由がない。 2 損害について上記1のとおり,被告は,原告らに対し,① らかにするものはない。 ウ以上のとおりであるから,E医師が,肺炎とその重症化を防止すべき義務を怠った旨の原告らの主張は理由がない。 2 損害について上記1のとおり,被告は,原告らに対し,①本件動脈損傷が被告ないしE医師の過失により生じたことを前提とする本件コーティング手術後の意識障害(ただし,平成10年1月ころまでのもの)により生じた損害と,②本件転落事故が被告ないしその看護担当者の過失により生じたことを前提とする,本件転落事故後,平成10年6月30日の危篤状態の発生までのDの症状悪化により生じた損害を賠償すべき責任がある。そこで,以下,損害について検討する。 (1) Dの損害についてア(ア) まず,上記1のとおり,本件動脈損傷及び本件転落事故とDの死亡との間に相当因果関係があると認めることはできないから,Dが死亡したことによる損害につき,被告に賠償すべき責任があるとはいえない。 また,本件動脈損傷及び本件転落事故のいずれの時点においても,Dは,直ちに退院できる状態ではなく,入院しての治療を要する状況であったことは明らかである(なお,Dは,本件コーティング手術前に一時帰宅をしているが,本件コーティング手術が実施されたこと,本件コーティング手術後の症状(本件動脈損傷の影響により生じた意識障害を除く。)からすると,本件コーティング手術後,入院しての治療を必要とする状況であったことは明らかである。)ところ,本件動脈損傷及び本件転落事故による各症状の悪化によってDの入院期間が延びたとまで認めるに足りる証拠はない。そうすると,Dが入院することにより要した費用や得られなかった利益については,被告に賠償すべき責任があるとはいえない。 以上によれば,Dの損害に関する原告らの主張のうち,個室料金,入院付添費,付添交通費,食事料負担金,休 とにより要した費用や得られなかった利益については,被告に賠償すべき責任があるとはいえない。 以上によれば,Dの損害に関する原告らの主張のうち,個室料金,入院付添費,付添交通費,食事料負担金,休業損害,逸失利益及び死亡慰謝料については,その余の点を判断するまでもなく,理由がない。 (イ) 次に,原告らは,Dの損害として,証拠保全関連費用(証拠保全等の申立てに係る弁護士費用を含む。)を独立に主張するが,証拠保全等の申立てに関して要した費用は,本訴提起に係る弁護士費用損害金を認めるに当たって考慮されるべきであり,独立の損害として認めることはできないというべきである。 イ他方,原告らは,Dの損害として,入院慰謝料を主張するが,これは,原告らの主張する過失と相当因果関係のある症状の悪化により生じたDの精神的損害をいうものと解される。 そして,本件動脈損傷及び本件転落事故とそれらによる各症状の悪化に関する一切の事情を斟酌すると,①本件コーティング手術後の意識障害によるDの精神的損害を慰謝するには200万円,②本件転落事故後,平成10年6月30日の危篤状態の発生までのDの症状悪化によるDの精神的損害を慰謝するには300万円を要することを相当と認める。 ウ本件におけるDの弁護士費用損害金としては,本件における一切の事情を斟酌して,①20万円を本件動脈損傷についての過失と相当因果関係のある損害と認め,②30万円を本件転落事故についての過失と相当因果関係のある損害と認める。 エ以上のとおりであるから,Dは,被告に対し,①本件動脈損傷についての過失に関し220万円及び②本件転落事故についての過失に関し330万円の各損害賠償請求権を有していたこととなるが,これらの損害賠償請求権は,Dが死亡したことにより,原告Aが2分の1,他の原告らが各4分の1の し220万円及び②本件転落事故についての過失に関し330万円の各損害賠償請求権を有していたこととなるが,これらの損害賠償請求権は,Dが死亡したことにより,原告Aが2分の1,他の原告らが各4分の1の割合で相続したから,被告に対し,原告Aは,①本件動脈損傷についての過失に関し110万円及び②本件転落事故についての過失に関し165万円,他の原告らは,①本件動脈損傷についての過失に関し各55万円及び②本件転落事故についての過失に関し各82万5000円の損害賠償請求権をそれぞれ有する。 (2) 原告Aの損害について上記1のとおり,本件動脈損傷及び本件転落事故とDの死亡との間に因果関係があると認めることはできず,本件全証拠によるも,本件動脈損傷及び本件転落事故とそれらによる各症状の悪化によって,Dが死亡した場合に匹敵するほどの精神上の苦痛を受けたとまでは認められないから,原告A固有の慰謝料について,被告に賠償すべき責任があるとはいえない。また,原告Aが,本訴提起に当たって弁護士費用を支出したとしても,本件転落事故に関する過失と相当因果関係のある損害とは認められない。 3 以上の次第で,原告らの請求は,債務不履行に基づき,被告に対し,原告Aが,275万円及び内110万円に対する平成9年12月10日(本件動脈損傷の日)から,内165万円に対する平成10年6月13日(本件転落事故の日)から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を,他の原告らが,それぞれ,137万5000円及び内55万円に対する平成9年12月10日から,内82万5000円に対する平成10年6月13日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由がある(ただし,上記遅延損害金のうち,本件動脈損傷の日又は本件転落事故の日から本件 に対する平成10年6月13日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において理由がある(ただし,上記遅延損害金のうち,本件動脈損傷の日又は本件転落事故の日から本件訴状送達の日である平成13年8月31日までのものは,主位的請求である債務不履行に基づく損害賠償請求権の遅延損害金としては理由がなく,予備的請求である不法行為に基づく損害賠償請求権の遅延損害金として理由があるものと認める。)から,その限度で認容することとし,その余は理由がないから棄却することとする。 よって,主文のとおり判決する。 前橋地方裁判所民事第2部裁判長裁判官東條宏裁判官櫛橋直幸裁判官大竹敬人
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