令和6(ワ)699 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
令和7年11月27日 静岡地方裁判所
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判決文本文10,924 文字)

主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実 及び理由第1 請求 被告は、原告らに対し、それぞれ100万円及びこれに対する令和6年9月26日から各支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要静岡地方裁判所は、令和6年9月26日、全国的に著名な刑事再審事件の判決宣告に際して判決要旨を作成し、司法記者クラブ所属の報道機関に対して、 同日午後の約2時間にわたる判決言渡しと並行的に、順次言渡しを終えた部分に対応する当該判決要旨の部分ごとに5回に分けて、判決宣告の終了を待たずに交付した。 本件は、上記刑事再審事件の弁護人を務めた弁護士である原告らが、静岡地方裁判所が、報道機関らに対しては言渡しを終えた判決部分ごとにこれに対応 する判決要旨部分を順次交付したのにもかかわらず、弁護人に対してはこれと同時に判決要旨部分を交付せず、その判決宣告期日の終了後に判決要旨全文を一括して交付したことは、憲法14条1項の平等原則に違反し、憲法37条1項、3項に由来する弁護権を侵害する不合理な差別的取扱いであり、原告らはこれにより精神的苦痛を被ったと主張し、被告に対し、国家賠償法1条1項に 基づき、それぞれ慰謝料100万円の損害賠償及びこれに対する不法行為の日である令和6年9月26日(上記刑事再審事件判決宣告の日)から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1 前提事実(争いがない事実及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)(1) 当事者 ア原告らは、静岡地方裁判所平成20年(た)第1号住居侵入・強盗殺人・ 放火再審被告事件(以下「別件刑事事件」という。)の弁護人であ により容易に認められる事実)(1) 当事者 ア原告らは、静岡地方裁判所平成20年(た)第1号住居侵入・強盗殺人・ 放火再審被告事件(以下「別件刑事事件」という。)の弁護人であった者である。 イ被告は、静岡地方裁判所の所属する国である。 (2) 別件刑事事件の判決宣告令和6年9月26日午後2時から午後4時頃までにかけて、静岡地方裁判 所本庁において、別件刑事事件の判決が宣告された(以下「本件判決宣告」という。)。原告aは、本件判決宣告の期日に出頭し、原告bは、同期日に出頭していなかった。 (3) 別件刑事事件における判決要旨の交付の状況ア静岡地方裁判所は、本件判決宣告に先立ち、報道機関に対する便宜供与 としてその判決要旨(以下「本件判決要旨」という。)を作成した。 イ静岡地方裁判所は、司法記者クラブ所属の15余りの個別の各報道機関に対し、本件判決宣告と並行して、判決の言渡しを終えた5つの部分ごとに、これに対応する判決要旨部分を、本件判決宣告の終了を待たず、順次分割して交付した(以下「5分割交付」という。)。 ウ他方、静岡地方裁判所は、原告らを含む別件刑事事件の弁護人らに対しては、本件判決宣告の期日終了直後に、本件判決要旨の全文を1部、一括的に交付した(以下「本件一括交付」という。)。 なお、本件一括交付は、本件判決宣告の前日に、報道機関らに対する判決要旨の5分割交付の予定を聞きつけた原告らが、静岡地方裁判所総務課 に対し、別件刑事事件の弁護人らに対しても判決要旨複数部を、報道機関に対するのと同様に5分割交付するよう求めた申入れを、静岡地方裁判所が容れずに行われた取扱いであった。 2 主な争点及び当事者の主張本件の主な争点は、本件一括交付が平等原則に違反して弁護権を侵 に対するのと同様に5分割交付するよう求めた申入れを、静岡地方裁判所が容れずに行われた取扱いであった。 2 主な争点及び当事者の主張本件の主な争点は、本件一括交付が平等原則に違反して弁護権を侵害する国 家賠償法上違法な行為であるか否かであり、これに関する当事者の主張は、以 下のとおりである。 (原告らの主張)(1) 裁判所による報道機関に対する判決要旨の交付は、司法行政上の便宜供与であるとともに、報道を通じて判決内容を知る国民の立場からすれば、憲法21条1項で保障された判決内容を知る権利を実現するためのものでもある。 そして、刑事裁判の弁護人には、報道機関ないし国民の知る権利とは別に、憲法37条1項、3項の弁護権が保障され、これに由来する当該刑事事件の判決内容を誰よりも最も早くかつ正確に知る権利を有するというべきである。 したがって、この弁護人の権利が他の権利主体との関係で差別された場合には、憲法14条1項による平等原則違反の問題が生じ、憲法上の根拠規定は 異にしても報道機関と同じ内容・性質の権利を有する弁護人に対し、判決要旨の交付について合理的な理由なく報道機関と異なる取扱いをしてこれを拒否することは、平等原則に違反し、かつ、弁護権を侵害する。なお、訴訟関係人に対する判決要旨の交付であっても、司法行政上の便宜供与である性質は変わらず、判決要旨の交付の折衝窓口が書記官ではなく総務課であること や、判決要旨の交付は訴訟の進行が終わった後に行われるものであることからも捉えられるように、その主体は、訴訟法上の裁判所ではなく、官署としての裁判所の行為というべきである。 この点、静岡地方裁判所が、別件刑事事件の判決について、報道機関に対する本件判決要旨の5分割交付という異例の方法をとったのは、多くの国 の裁判所ではなく、官署としての裁判所の行為というべきである。 この点、静岡地方裁判所が、別件刑事事件の判決について、報道機関に対する本件判決要旨の5分割交付という異例の方法をとったのは、多くの国民 がその判決内容に関心を抱いており、報道機関を通じていち早く正確にその内容を知らせることに意味があると判断したためであろうが、弁護人にとっても同様に判決の内容をいち早く知ることは非常に有益な状況にあったものであり、そのような原告らに対して、報道機関らのために15部以上用意していた本件判決要旨の写しを1部だけ増やして5分割交付をすることは容易 であり、これに伴う支障は全く想定されなかったにもかかわらず、静岡地方 裁判所がこれを拒み、報道機関に劣後する取扱いをしたことに合理的な理由はないから、その差別的な取扱いは、平等原則に違反して弁護権を侵害するものであり、国家賠償法上違法である。 (2) 百歩譲って、報道機関に対する判決要旨の交付と弁護人らに対する判決要旨の交付の法的性質が異なると考えるとしても、行為自体は誰が見ても全く 同じものであり、同じ行為であれば、平等権の比較の対象とできるところ、報道機関に対しては5分割交付を認め、弁護人らに対してはこれを認めないことは、やはり差別であり、平等権を侵害する。裁判所の訴訟指揮が独立であるからといって、法律違反が許されないことはいうまでもない。 (3) 原告らは、別件刑事事件の判決言渡し中に本件判決要旨の5分割交付を受 けられていれば、いち早く判決の正確な内容を把握し、静岡地方裁判所構内にある静岡県法律会館(弁護士会館)で本件判決宣告を待っていた日本弁護士会連合会(以下「日弁連」という。)の会長をはじめとする関係者及び別件刑事事件の被告人支援者らに対して情報を発信するこ 判所構内にある静岡県法律会館(弁護士会館)で本件判決宣告を待っていた日本弁護士会連合会(以下「日弁連」という。)の会長をはじめとする関係者及び別件刑事事件の被告人支援者らに対して情報を発信することが可能であったが、その機会を奪われたこと、また、殊に、本件判決宣告の期日に出頭していな い原告bにおいては、報道機関経由で5分割交付された本件判決要旨を入手した日弁連関係者からその提供を受けて判決の理由を知ることとなったことなど、静岡地方裁判所の違法な取扱いにより原告らの被った精神的苦痛を慰謝するための金額は、各自100万円が相当である。 (被告の主張) (1) 報道機関に対する判決要旨の交付は、国法上の裁判所(官署としての裁判所)が司法行政上の便宜供与として行うものであり、本件判決要旨の5分割交付も同様であるが、訴訟関係人に対する判決要旨の交付は、期日における当事者対応として行うものであり、これを行うかは当該訴訟手続について指揮権を有する裁判体(訴訟法上の裁判所)の判断事項である。 この点、裁判官がした争訟の裁判につき、国家賠償法1条1項の違法な行 為があったとして国の損害賠償責任が肯定されるためには、当該裁判官が違法又は不当な目的をもって裁判をしたなど、裁判官がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認め得るような特別な事情があることが必要であり、このことわりは、争訟の裁判に限らず、非訟的性格を有する職務行為等、広く裁判官の職務行為一般に妥当するところ、別件刑事 事件の裁判体が、判決の言渡し中に訴訟関係人に対して判決要旨を交付する必要はないと判断したことに、そのような特別な事情があることを基礎付ける証拠はない。 したがって、本件一括交付は報道機関らに対する本件判決要旨の5分 の言渡し中に訴訟関係人に対して判決要旨を交付する必要はないと判断したことに、そのような特別な事情があることを基礎付ける証拠はない。 したがって、本件一括交付は報道機関らに対する本件判決要旨の5分割交付と判断主体が異なり、同一の判断主体が異なる取扱いをしたわけではない から、差別的取扱いの有無を論ずるまでもなく原告らの主張は理由がない。 (2) 仮に、本件一括交付が司法行政上の便宜供与であったとしても、国家賠償法1条1項にいう違法とは、国又は公共団体の公権力の行使に当たる公務員が個々の国民に対して負担する職務上の法的義務に違反することをいい、公務員が通常尽くすべき注意義務を尽くすことなく、漫然と当該行為をしたと 認め得るような事情がある場合に限り違法の評価を受けるべきものであるところ、そもそも、報道機関及び弁護人のいずれにおいても、裁判所に対する判決要旨の交付請求権が認められているわけではなく、原告らには、憲法違反を論じる前提としての権利又は法的利益が観念できないから、別件刑事事件の判決の言渡し中の本件判決要旨の5分割交付がされなかったことをもっ て、公権力の行使に当たる公務員が国民に対して負担する職務上の法的義務に違反したものとはいえない。 この点を措くとしても、判決要旨は、報道機関の理解を容易にし、より正確な報道を期して交付するものであるところ、別件刑事事件の判決は、その言渡しが約2時間行われていることからも明らかなとおり、その分量が多く、 その都度より正確な報道を期する必要性が高かった一方、弁護人は、当事者 的な立場から刑事事件に深く関与する者であり、法律専門家として、言い渡された判決の趣旨についても、その言渡しを聞くことによって十分にその意味内容を理解することが可能であると考えられるから、報 的な立場から刑事事件に深く関与する者であり、法律専門家として、言い渡された判決の趣旨についても、その言渡しを聞くことによって十分にその意味内容を理解することが可能であると考えられるから、報道機関に対するのと異なり、弁護人に対し本件判決要旨の5分割交付がされなかったとしても、これをもって不合理な差別的取扱いであるということはできない。 (3) 原告らの損害は争う。 第3 争点に対する判断 1 本件判決要旨の交付の性質及び主体(1) 判決要旨の交付一般について一般に、裁判所が報道機関向けに行う判決要旨の交付は、社会的な関心事 である公開の裁判の各審級における結論である判決の内容について不正確な報道がされることは、国民にとっても裁判所にとっても芳しいことではないことから、裁判所が、その判決内容を、国民一般の知る権利を体現する社会的役割を担う報道機関に早期かつ正確に理解してもらい、速報がされる場合であっても誤報がないように資するため、その広報の一環として行われる事 務であると解される。これは司法行政的な目的を有する行為であり、受訴裁判所(訴訟法上の裁判所)は広報のために裁判事務をとり行っているわけではないことに照らすと、その主体は、広報事務を行う事務局によって組織された国法上の裁判所(官署としての裁判所)というべきである。 最高裁判所事務総局が作成した「広報ハンドブック」(令和2年3月版)(甲 1)にも、記者は、言渡し後ごく短期間のうちに記事を作成しなくてはならないという速報性の要請を前提としつつ、判決理由の朗読を聴いて正確に要点を抽出するということは極めて難しいことから、正確な報道のためには、裁判所の方で要旨・骨子を提供するのが有効であることが、判決要旨等の提供という便宜供与の理由である旨記載 由の朗読を聴いて正確に要点を抽出するということは極めて難しいことから、正確な報道のためには、裁判所の方で要旨・骨子を提供するのが有効であることが、判決要旨等の提供という便宜供与の理由である旨記載されているのも、以上と同旨を述べる ものであると解され、正確な判決要旨の作成のためには、事案や判断の内容 に精通している裁判体(訴訟法上の裁判所)の協力が不可欠であるとしても、報道機関に対する判決要旨の交付の本質は、広報目的の司法行政事務にほかならないと考えられる。 訴訟関係人に対してその要望に応じて行う判決要旨の交付も、第一義的に報道機関向けに作成された判決要旨と同一の物が交付される限り、司法行政 上の便宜供与として行われるものであると解される。 以上を踏まえると、報道機関向けに行う判決要旨の交付及びこれと同一の物の訴訟関係人に対する交付は司法行政上の措置であり、その主体は訴訟法上の受訴裁判所ではなく、国法上の機関としての裁判所であると認められる。 (2) 本件判決要旨の交付について ところで、本件判決要旨の交付に際しては、報道機関に対して、別件刑事事件の判決言渡しと並行して、本件判決要旨が5分割交付されたことに特徴があるところ、本来、刑事裁判における判決は、公判廷における宣告によりこれを告知するものであり(刑事訴訟法342条)、宣告のための公判期日が終了するまでは終局的なものとはならず(最高裁判所昭和50年(あ)第2 427号同51年11月4日第一小法廷判決・刑集30巻10号1887頁参照)、その判決内容に対応した効果(同法342条の2ないし346条等)が生ずることもないにもかかわらず、本件判決宣告期日が終了する前に判決の言渡しと並行して本件判決要旨が5分割交付されたことは、その交付が、静岡地方裁判所 した効果(同法342条の2ないし346条等)が生ずることもないにもかかわらず、本件判決宣告期日が終了する前に判決の言渡しと並行して本件判決要旨が5分割交付されたことは、その交付が、静岡地方裁判所における司法行政を司る事務局部門のみの判断によって専ら 行われたものではないことを示唆するものであり、受訴裁判所の意向も働いた上での措置であることが推知されるというべきである。 しかしながら、本件判決要旨の5分割交付について、このように受訴裁判所の意向をも汲んだ措置であったとしても、それが訴訟関係人への配慮等を主な目的とするものではなく、報道機関に対する広報目的のものであったこ とは、本件における弁論の全趣旨により明らかというべきであり、そうであ る以上、その措置は、なお国法上の機関である静岡地方裁判所の司法行政上の行為として行われたものと解するのが相当である。 そして、原告らに対する本件一括交付も、5分割交付された本件判決要旨と全体としては同じ物を交付する行為であった以上、その主体は、同様に国法上の機関としての静岡地方裁判所であると認めるのが相当である。これに 反する被告の主張は採用することができない。 2 本件一括交付の国家賠償法上の違法の有無(1) 問題点の整理憲法14条1項は法の下の平等を定めているが、この規定は、合理的理由のない差別を禁止する趣旨のものであって、各人に存する経済的、社会的そ の他種々の事実関係上の差異を理由としてその法的取扱いに区別を設けることは、その区別が合理性を有する限り、何らこの規定に違反するものでない(最高裁判所昭和37年(あ)第927号同39年11月18日大法廷判決・刑集18巻9号579頁、最高裁判所昭和37年(オ)第1472号同39年5月27日大法廷判決・民集18 規定に違反するものでない(最高裁判所昭和37年(あ)第927号同39年11月18日大法廷判決・刑集18巻9号579頁、最高裁判所昭和37年(オ)第1472号同39年5月27日大法廷判決・民集18巻4号676頁等参照)。したがって、経 済的、社会的その他種々の事実関係上の差異がある者について、法的取扱いが異なるとしても直ちに同条項に違反することにはならず、その意味で同条項に違反するか否かは、まずもって直接的には、事実関係上の差異がないといえる者同士の間での法的取扱いの区別について、問題とされる事柄というべきである。 もっとも、これについて、原告らは、別件刑事事件の弁護人らであった自身らと、報道機関との間に事実関係上の差異があることを前提としつつ、なお報道機関に対する本件判決要旨の5分割交付と取扱いを異にした本件一括交付が上記条項に違反することを主張する。その趣旨は、憲法37条1項により保障された被告人の権利を実質的に保護するため、同条3項により、刑 事手続上、弁護人にも一定の法的地位が保障されていることに鑑み、刑事弁 護人の弁護権は、報道機関の享有する知る権利以上に強く保護されるべきことはあっても、これに劣ることはないことを前提に置きつつ、刑事裁判手続に関連する刑事弁護人の法的地位を、報道機関のそれよりも劣位に置くことは、それ自体が憲法14条1項により禁じられた差別的取扱いであることを述べるものであると解される。 その意味で、原告らの上記主張には、典型的に憲法14条1項違反の有無の問われる同一の事情と条件の下における平等取扱いを問題とすべき場面におけるのとは異なる、一定の前提が包含されているものといわざるを得ない。 この点、刑事弁護人の法的地位が、報道機関との関係において、常に当然により厚く保護さ の下における平等取扱いを問題とすべき場面におけるのとは異なる、一定の前提が包含されているものといわざるを得ない。 この点、刑事弁護人の法的地位が、報道機関との関係において、常に当然により厚く保護されるべきという前提を置くことができるかには疑義を差し挟 む余地があり、直ちにこれを当然の前提とすることはできないというべきであるが、他方、刑事手続上、被告人ひいては刑事弁護人の弁護権が最も厚く保護されるべき問題領域の事柄については、原告らの拠って立つ前提を採用する余地もないわけではないというべきであるから、以下、本件判決要旨の交付がこのような問題領域の事柄に当たるか否かの点も含めて検討するのが 相当である。 (2) 報道機関向けに作成された判決要旨の交付一般と刑事弁護権との関係そこで、上記の観点から検討すると、一般に、報道機関向けに作成された判決要旨は、もとより報道機関が権利としてその交付を受けられるものではないものの、報道機関の記者が、公開の公判廷で口頭で言い渡される判決を 聞き取るだけでは、判決内容の理解が不十分ないし不正確なものとなる可能性もあることから、その要旨を文字化して交付することでこれを見直す機会を与え、判決内容の正確な理解の一助とする趣旨のものであると解される。 そうすると、このような一助となる判決要旨が司法行政上の便宜供与として作成された場合において、これを、刑事弁護人や被告人に対する関係におい ても交付することが、刑事弁護権の保障という観点からも保護に値するかが 次の問題となる。 この点、被告の述べるとおり、報道機関は法律職の専門家ではないのに対して、刑事弁護人は弁護士資格を有する法律専門職であるという相違を指摘することはできるものの、弁護人は固有の弁護権を有するとはいえ、被告人とい の述べるとおり、報道機関は法律職の専門家ではないのに対して、刑事弁護人は弁護士資格を有する法律専門職であるという相違を指摘することはできるものの、弁護人は固有の弁護権を有するとはいえ、被告人という法律専門家でない者との間でも判決内容を共有して爾後の方針を検討 する上で、判決要旨が弁護権行使のために役立つことはあるであろうし、殊に判決内容自体が複雑・長大なものであるような場合には、法律専門職であっても口頭で言い渡された判決内容を即時正確に理解することには困難を伴う場面もあると考えられるから、報道機関向けの判決要旨の交付が、法律専門職自身による判決内容の早期の正確な理解にも資し、ひいては弁護権の行 使に寄与する可能性は十分に考え得るというべきである。そして、報道機関向けに判決要旨が作成されるような事案は、往々にして、このような判決内容が複雑・長大なものであることも、経験則上多いと考えられることにも留意しなければならない。 以上に検討したところからすると、報道機関の知る権利と刑事弁護人の弁 護権とは、それぞれ趣旨、目的が異なる権利であるとはいえ、こと複雑・長大な判決に対する正確な理解が法的に要請される強度の面において、後者が前者に比べてないがしろにされてよい理由は見当たらない。この点、判決の正確な理解に資する判決要旨は、これらの権利を前提としても直ちに裁判所に対して交付を求め得るような物とはいえないものの、これが現に司法行政 上の便宜供与として作成され、報道機関に対して交付される場合においては、(1)に整理した原告らの主張が拠って立つ前提をとる余地はあるというべきである。最高裁判所事務総局が作成した「広報ハンドブック」(令和2年3月版)(甲1)において、「判決要旨は、速報性が要求される報道機関の利用のために特別に が拠って立つ前提をとる余地はあるというべきである。最高裁判所事務総局が作成した「広報ハンドブック」(令和2年3月版)(甲1)において、「判決要旨は、速報性が要求される報道機関の利用のために特別に作成したものであるが、刑事訴訟事件においては訴訟関係人か ら判決要旨の交付を求められることがある。そのような場合には、裁判体の 意見を踏まえ、司法行政上の便宜供与として、当該訴訟関係人に対し、報道機関交付用の判決要旨を交付することが相当である。」とされているのも、以上の理解と軌を一にするものと考えられる。 (3) 本件判決要旨の交付方法の相違の違法性の有無もっとも、以上を踏まえつつも、本件判決要旨の報道機関に対する5分割 交付と別件刑事事件の弁護人らに対する本件一括交付という交付方法の相違について、さらに進んで検討するときには、前記第2の1の前提事実(3)ウのとおり、静岡地方裁判所は、原告らを含む別件刑事事件の弁護人らに対して、本件判決宣告の期日終了直後には本件判決要旨を交付している(本件一括交付)のであるから、その交付方法の相違によって、原告らと報道機関との間 に生じた差異は、本件判決宣告の期日中に本件判決要旨の一部に接することができたか否かの点に限局される。 しかるに、このように限られた短時間の間にも同時的に判決要旨が交付されることが、刑事弁護人の弁護権の保障という観点からみてなお保護に値するかを検討すると、本件判決宣告の期日に出席していた弁護人(原告a)と の関係では、まずもって裁判長による口頭による判決の言渡しを傾聴するのが弁護人の一義的役割といえようし、言渡し途中に本件判決要旨を分割して交付することは、かえってその集中を阻害する要因ともなりかねないことからすると、本件判決宣告の期日中に本件判決要 渡しを傾聴するのが弁護人の一義的役割といえようし、言渡し途中に本件判決要旨を分割して交付することは、かえってその集中を阻害する要因ともなりかねないことからすると、本件判決宣告の期日中に本件判決要旨を交付されるべきことまでは刑事弁護権の保障という観点から見ても法的保護に値するとはいえない。 また、本件判決宣告の期日に出席していなかった弁護人(原告b)との関係では、もとより弁護人には判決宣告期日に出席して即時的に判決を聴く機会が与えられているにもかかわらず、その権利を放棄して本件判決宣告の期日に出席しなかった以上、公判廷外で即時的に別件刑事事件の判決内容を知ることまでが法的保護に値するとはいえない。 これらに加えて、1(2)に前述したとおり、刑事裁判における判決は、宣告 のための公判期日が終了するまでは終局的なものとなるものではないのであるから、仮に本件判決宣告の期日中に、例えば大災害が起こるなどして、その判決宣告が中断されるような事態に至ったような場合には、先行的に5分割交付された本件判決要旨が、別件刑事事件の判決の正確な理解に資するものとはならなかった可能性も残っていたものといえるところ、このような法 的可能性が完全に消滅した本件判決宣告の期日終了直後には、原告らが本件判決要旨を入手できていることにも鑑みると、刑事弁護人に対する弁護権の保障の趣旨を十分に勘案しても、実質的に見て、別件刑事事件の判決の正確な理解という観点から原告らが報道機関よりも劣位に置かれたということはできない。 したがって、以上のような報道機関に対する本件判決要旨の5分割交付と原告らに対する本件一括交付との本件判決要旨の交付方法の相違をもって、差別的取扱いであるとはいえず、国家賠償法の違法があるともいえない。 3 小括 うな報道機関に対する本件判決要旨の5分割交付と原告らに対する本件一括交付との本件判決要旨の交付方法の相違をもって、差別的取扱いであるとはいえず、国家賠償法の違法があるともいえない。 3 小括以上によれば、原告らの損害について判断するまでもなく、原告らの請求はいずれも理由がない。 第4 結論よって、原告らの請求をいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。 静岡地方裁判所民事第2部 裁判長裁判官平山馨 裁判官谷池厚行 裁判官溝口航平

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