平成14(レ)4 建物明渡等請求控訴

裁判年月日・裁判所
平成14年9月24日 和歌山地方裁判所
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判決文本文7,517 文字)

主文 1 本件控訴を棄却する。 2 控訴費用は,控訴人らの負担とする。 事実及び理由 第1 当事者の求めた裁判 1 控訴人ら(1) 原判決を取り消す。 (2) 被控訴人の請求をいずれも棄却する。 (3) 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。 2 被控訴人主文と同旨第2 事案の概要 1 事案の要旨被控訴人は,控訴人Aに別紙物件目録記載の建物の斜線部分(以下「本件建物部分」という。=この稿において省略)を賃貸したが,その賃貸借契約は被控訴人による解除によって終了したとして,控訴人Aに対し,同賃貸借契約による賃料支払請求権に基づき平成13年1月1日から上記解除の日である同年12月13日までの間の未払賃料214万9677円の支払,同契約の終了による原状回復請求権に基づき本件建物部分の明渡し及び同契約による建物明渡義務の履行遅滞に基づく損害賠償請求権に基づき同契約の終了した日の翌日である平成13年12月14日から本件建物部分の明渡済みまで1か月19万円の割合による賃料相当損害金の支払を求めるとともに,控訴人Aの被控訴人に対する上記契約上の債務を連帯保証した控訴人Bに対し,連帯保証契約による保証債務の履行として,控訴人Aと連帯して,前記未払賃料214万9677円及び前記賃料相当損害金を支払うことを求めている。 これに対して,控訴人らは,株式会社C(以下「C」という。)が被控訴人の控訴人Aに対する上記賃料債権を差し押さえる債権差押命令を得たから,被控訴人は上記賃料債権の取立権限を喪失した,控訴人AとCとの合意により控訴人Aは上記賃料支払義務を免れるに至った等と主張して,争っている。 2 前提事実以下の事実は,当事者間に争いがないか,本件記録上明らかな事実である。 (1) 被控訴人は,控訴人Aに対し,平成元年10月6日,本件建物部分を次の約 れるに至った等と主張して,争っている。 2 前提事実以下の事実は,当事者間に争いがないか,本件記録上明らかな事実である。 (1) 被控訴人は,控訴人Aに対し,平成元年10月6日,本件建物部分を次の約定で賃貸し,後記保証金として350万円を控訴人Aから受領した(以下「本件賃貸借契約」という。)。 ① 賃料は,1か月18万円とし,毎月末日までに翌月分の賃料を支払う。 ② 期間は,平成元年11月1日から3年間とする。 ③ 控訴人Aは,被控訴人に対し,保証金として350万円を差し入れ,被控訴人は,3割を控除した245万円を,同額からの充当関係及び返還時期は別として,これを返還する。 控訴人Bは,被控訴人との間で,前同日,控訴人Aの被控訴人に対する本件賃貸借契約に基づく債務を連帯保証する契約を締結した。 被控訴人と控訴人Aは,その後,控訴人Aが支払うべき賃料を平成9年7月分より1か月19万円とするとの合意をした。 (2) Cは,抵当権の物上代位に基づき,被控訴人を債務者,控訴人Aを第三債務者として,本件賃貸借契約に基づく被控訴人の控訴人Aに対する賃料債権の差押えを求める旨の債権差押命令の申立てを和歌山地方裁判所にし(同裁判所平成12年(ナ)第48号事件),平成12年11月29日同裁判所から別紙債権差押命令(この稿において省略)のとおり控訴人Aに対する同命令送達時に支払期にある分以降の上記賃料債権を差し押さえる旨の命令(以下「本件差押命令」という。)を得,同命令は,同年12月1日,控訴人Aに送達された。 控訴人Aは,平成13年1月分以降の賃料につき,Cの取立てに応ずることも,供託することもなく,その支払を遅延していた。 (3) 被控訴人は,控訴人Aに対し,平成13年12月6日到達の書面で,同年1月分から同年12月分までの未払賃料合計228万円を の取立てに応ずることも,供託することもなく,その支払を遅延していた。 (3) 被控訴人は,控訴人Aに対し,平成13年12月6日到達の書面で,同年1月分から同年12月分までの未払賃料合計228万円をCに支払うよう催告するとともに,1週間後の同月13日までにその支払がないときは本件賃貸借契約を解除するとの意思表示をした(以下「本件解除」という。)。 控訴人Aは,Cに対し,平成13年12月4日,上記未払賃料のうち2万円を支払ったが,同月13日経過後現在に至るまで,その余の未払賃料をCに支払わず,供託もしない。 (4) 被控訴人は,控訴人らに対し,平成13年12月20日,和歌山簡易裁判所に本件訴えを提起した。 Cは,控訴人Aを被告として,平成14年4月12日,本件差押命令に基づき,取立訴訟を提起した(和歌山地方裁判所平成14年(ワ)第224号事件,以下「本件取立訴訟」という。)。 3 争点及びこれに関する当事者の主張(1) 被控訴人が,控訴人らに対し,本件差押命令が控訴人Aに送達された後,被差押債権である賃料の支払を求めることができるか。 (控訴人らの主張)被控訴人は,本件差押命令により,同人の控訴人Aに対する本件賃貸借契約に基づく平成13年1月分以降の賃料債権の取立権限を失っているから,被控訴人の控訴人らに対する本訴請求のうち,上記賃料の支払請求は許されない。 (被控訴人の主張)控訴人らの上記主張は争う。 被控訴人が,本件差押命令を受けたとしても,控訴人らに対する賃料請求権を喪失したものとはいえないから,その支払を求めることは許される。 (2) 本件解除は効力があるか。 Cが,控訴人Aとの間で,本件賃貸借契約に基づく平成13年1月分から平成14年1月分の賃料合計247万円の支払につき,内金245万円の支払を免除するとの合意をしたか ) 本件解除は効力があるか。 Cが,控訴人Aとの間で,本件賃貸借契約に基づく平成13年1月分から平成14年1月分の賃料合計247万円の支払につき,内金245万円の支払を免除するとの合意をしたか。 (控訴人らの主張)控訴人Aは,Cとの間で,平成13年1月分から平成14年1月分までの未払賃料合計247万円の支払につき,被控訴人の同控訴人に対する245万円の保証金返還債務が履行される可能性がないことから,前記未払賃料に前記保証金を充当し,平成14年1月分の賃料の不足分2万円を支払い,同年2月分から,同控訴人がCに対して約定どおり1か月19万円の賃料を支払うとの合意をし,控訴人は,Cに対し,この合意に基づき,前記前提事実(3)のとおり2万円を支払った。 したがって,控訴人Aには,平成13年1月分から平成14年1月分までの間の賃料の支払につき,何ら債務不履行をしておらず,被控訴人による本件賃貸借契約の解除は効力を有しない。 (被控訴人の主張)① 控訴人AとCが賃料の支払につき合意をした点は不知。 ② 差押債権者であるCと第三債務者である控訴人Aとの間の賃料支払に関する合意が,債務者である被控訴人を拘束するものとは考えられないから,現実に賃料の支払又は供託がされない限り,控訴人Aは,債務不履行の状態にあるというべきである。 (3) 控訴人Aは,自己の被控訴人に対する保証金返還請求権を自働債権として,被控訴人の控訴人らに対する本訴請求のうちの賃料相当損害金の支払請求権と対当額で相殺することができるか。 (控訴人らの主張)控訴人Aは,平成14年8月20日の当審口頭弁論期日において,被控訴人に対し,控訴人Aの被控訴人に対する前記保証金245万円の返還請求権を自働債権として,被控訴人の控訴人Aに対する本訴請求にかかる1か月19万円の賃料相当損害金支 の当審口頭弁論期日において,被控訴人に対し,控訴人Aの被控訴人に対する前記保証金245万円の返還請求権を自働債権として,被控訴人の控訴人Aに対する本訴請求にかかる1か月19万円の賃料相当損害金支払請求権と対当額で相殺する旨の意思表示をした。 (被控訴人の主張)保証金は,控訴人Aが,被控訴人に対して,本件建物部分を明け渡すまでに被控訴人に生ずる諸々の損害を担保するものであるから,本件建物部分を明け渡していない同控訴人において,保証金返還請求権は発生しておらず,これをもって被控訴人の同控訴人に対する賃料相当損害金の支払請求権と相殺することは許されないというべきである。 (4) 被控訴人の控訴人Aに対する本件建物部分の明渡請求が権利の濫用に当たるか。 (控訴人Aの主張)被控訴人が,控訴人Aに対し,本件建物部分の明け渡し時において,245万円の保証金返還義務を履行できない以上,被控訴人の同控訴人に対する本件建物部分の明渡請求は,権利の濫用に当たり,許されない。 第3 争点に対する判断 1 争点(1)(本件差押命令後にされた被差押債権である賃料支払請求の可否)について控訴人らは,本件差押命令により,被控訴人は,本件賃貸借契約に基づく賃料支払請求権の取立権限を失っているから,本訴請求のうち控訴人らに賃料の支払を求める請求は許されないと主張する。 ところで,抵当権の物上代位に基づき債権差押命令が発令されると,第三債務者は,被担保債権にかかる請求債権の限度で支払を差し止められ,債務者は,被差押債権の取立,譲渡等の処分を禁止される(民事執行法193条2項,145条1項)。しかし,差押えの目的は,引き続いて行われる執行手続の遂行を保全することにあるから,その効力は,このような目的を達成するために必要な限度においてのみ認められるのであり,それ以上に債務者 5条1項)。しかし,差押えの目的は,引き続いて行われる執行手続の遂行を保全することにあるから,その効力は,このような目的を達成するために必要な限度においてのみ認められるのであり,それ以上に債務者の行為を制限するものと解すべきではない。また,債権執行の申立ての取下げや手続の取消しといった事態が起こり得ることからすれば,債権差押命令が効力を有している場合であっても,債務者において被差押債権の時効中断等の措置を取る必要がある。したがって,債権差押命令の上記処分禁止の効果は,禁止に違反する行為をしたとしても,対債権者との関係で対抗することができないといういわゆる手続相対効を意味するにとどまり,債務者が被差押債権につき,第三債務者に対し,給付訴訟を提起し又はこれを追行する権限を失うものではなく,無条件の勝訴判決を得ることができると解すべきである。そして,差押債権者の取立権が,差押えにより債務者から徴収した処分権の一部の授権である以上,差押債権者において取立権が発生し又はこれを行使したことにより,債務者の権能が差押えを受けた以上に制限される理由はないことにかんがみると,債務者が第三債務者に対して給付訴訟を提起した後,債権者が第三債務者に対して被差押債権に基づき取立訴訟を提起した場合においても,前記解釈は妥当し,債務者の提起した給付訴訟に影響を及ぼすものではないと解すべきである。このように解したとしても,第三債務者としては,債務者,債権者のいずれに支払うのか,供託しなければいけないのかという点に違いがあるだけで給付請求権自体に影響がない上,債務者からの強制執行に対しては,執行異議の申立てをすることによってその執行を防ぐことができるので,特段の不都合は生じない。 以上により,本件を検討するに,本件において,被控訴人は,前記のとおり,本件差押命令の 制執行に対しては,執行異議の申立てをすることによってその執行を防ぐことができるので,特段の不都合は生じない。 以上により,本件を検討するに,本件において,被控訴人は,前記のとおり,本件差押命令の債権者であるCが,第三債務者である控訴人Aに対し,本件取立訴訟を提起する前に,控訴人らに対して被差押債権である上記賃料支払請求権を行使しているものであるから,その支払を求める本訴請求部分は本件差押命令によっても影響を受けるものではなく,したがって,控訴人らの主張は失当である。 そして,後記2(1)のとおり,争点(2)の控訴人ら主張の合意は認められないから,以上によれば,控訴人らは,被控訴人に対し,連帯して,平成13年1月1日から同年12月13日までの本件建物部分の賃料216万9677円(円未満四捨五入)から,前記前提事実(3)の2万円を差し引いた214万9677円を支払うべき義務があるから,その履行を求める被控訴人の本訴請求部分は理由がある。 2 本件解除の効力等について債権差押命令が発令され,債務者の被差押債権に対する処分権能に制限が加えられたとしても,前記のとおり,それは執行手続の遂行を保全する目的を超える効力を認めるべきではないから,債務者は,当該被差押債権の発生原因となる基本的法律関係の解除権の行使を制限されるものではないというべきである。 したがって,被控訴人がした本件解除の効力は,本件差押命令が発令されたことによって影響を受けることはないということができる。 (1) 争点(2)(控訴人A,C間の債務免除の合意の成否及びその効力)について控訴人らは,Cが,控訴人Aとの間で,平成13年1月分から平成14年1月分までの未払賃料合計247万円のうち245万円を免除し,同控訴人は,平成14年1月分の残額として金2万円を支払うとの合意をし,同控訴人 は,Cが,控訴人Aとの間で,平成13年1月分から平成14年1月分までの未払賃料合計247万円のうち245万円を免除し,同控訴人は,平成14年1月分の残額として金2万円を支払うとの合意をし,同控訴人は,Cに対し,この合意に基づき,前記前提事実(3)のとおり,2万円を支払ったから,同控訴人には,上記期間における賃料の支払につき,債務不履行はない旨主張する。 しかし,前記控訴人らの主張を裏付ける的確な証拠はない。かえって,弁論の全趣旨(控訴理由書添付の本件取立訴訟にかかるC訴訟代理人弁護士D作成の準備書面)によれば,Cは,上記2万円の支払につき,前記前提事実(3)のとおり,被控訴人が,控訴人Aに対し,平成13年1月分から同年12月分の賃料をCに支払うよう催告するとともに,その支払がないときは本件賃貸借契約を解除するとの意思表示をしたことから,とりあえずの金員として送金されたもので,控訴人らの主張する合意の存在を否認していることが認められ,これらの事実によれば,控訴人AとCとの間において上記合意がされたとは到底認められないから,控訴人らの主張はその前提を欠く。 また,民事執行法155条1項及び157条が差押債権者に取立権を付与した趣旨は,差押債権者において簡易にその債権を満足させる点にあることにかんがみると,差押債権者が第三債務者との間で和解をし又は債務免除若しくは弁済の猶予をすることは,債権を満足させるという上記目的を超えるものであり,取立権の範囲に含まれないというべきである。したがって,債権者と第三債務者との間でされた前記各行為は,債務者に対してその効力を主張することはできないというべきである。 以上により,控訴人らの主張は,採用の限りでない。 よって,本件解除は効力があり,本件賃貸借契約は本件解除によって終了したといわなければならない。 の効力を主張することはできないというべきである。 以上により,控訴人らの主張は,採用の限りでない。 よって,本件解除は効力があり,本件賃貸借契約は本件解除によって終了したといわなければならない。 (2) 争点(3)(保証金返還請求権を自働債権とする相殺の可否)及び争点(4)(被控訴人の控訴人Aに対する本件建物部分の明渡請求の権利濫用該当性)について前記前提事実(1)及び証拠(甲2)によれば,被控訴人と控訴人Aは,本件賃貸借契約において,被控訴人は,本件建物部分の明渡完了後に,控訴人Aが被控訴人に差し入れた350万円からその3割に当たる105万円を控除した245万円を,同控訴人に返還する(特約条項一)義務を負うとする合意をした一方,同控訴人の本件建物部分に損害を与えたときの被控訴人に対する損害賠償義務及び同控訴人の未払賃料については保証金をもって充当することができる(第九条)旨の合意をしたことが認められる。 そうとすると,控訴人Aが被控訴人に対し本件建物部分を明け渡していない以上,控訴人Aの被控訴人に対する保証金返還請求権自体が発生していないというべきであり,したがって,控訴人ら主張の自働債権は成立していないから,控訴人らの相殺の主張はその前提を欠き失当である。 次に,控訴人Aは,被控訴人が上記保証金返還請求権を履行できないとして,被控訴人の控訴人Aに対する本件建物部分明渡請求が権利の濫用に当たると主張する。しかしながら,控訴人Aの保証金返還請求権は,上記のとおり,被控訴人の上記明渡請求権が履行された後,初めて発生するもので,被控訴人の上記明渡請求権と対価関係にあるわけではないから,被控訴人の上記明渡請求をもって権利の濫用ということは到底できず,控訴人Aの主張はそれ自体失当である。 (3) まとめ以上によれば,本件賃貸借契約は,本件解 請求権と対価関係にあるわけではないから,被控訴人の上記明渡請求をもって権利の濫用ということは到底できず,控訴人Aの主張はそれ自体失当である。 (3) まとめ以上によれば,本件賃貸借契約は,本件解除により終了したから,被控訴人に対し,控訴人Aは本件建物部分を明け渡し,控訴人らは,連帯して,本件解除の日の翌日である平成13年12月14日から上記明渡済みまで1か月19万円の割合による賃料相当損害金(本件賃貸借契約における本件建物部分の賃料は,前記のとおり,本件解除当時月額19万円であったから,同時期における本件建物部分の賃料相当損害金はこの賃料を下ることはないというべきである。)を支払うべき義務がある。よって,控訴人らに対し,その履行を求める被控訴人の本訴請求部分も理由がある。 3 結論以上の次第で,被控訴人の控訴人らに対する本件各請求はいずれも理由があるので,これを認容すべきであり,これと同旨の原判決は相当で,控訴人らの本件控訴は理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。 和歌山地方裁判所第二民事部裁判長裁判官礒尾正裁判官間史恵裁判官成田晋司

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