主文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 伊丹労働基準監督署長が、令和元年6月6日付けで原告に対してした労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)に基づく遺族補償年金及び葬祭料を支給しないとの処分(以下「第1処分」という。)並びに令和3年3月12日付けで原告に対してした労災保険法に基づく未支給の療養補償給付を支給しないとの処分(以下「第2処分」といい、第1処分と併せて「本件各処分」という。)を いずれも取り消す。 第2 事案の概要 1 事案の要旨本件は、原告が、A工業株式会社(以下「本件会社」という。)において勤務していた亡夫であるB(以下「被災者」という。)がくも膜下出血(以下「本件疾病」 という。)を発症し(以下、本件疾病の発症を「本件発症」という。)、入院加療の後死亡したのは業務上の事由によるものであるとして、処分行政庁に対し、労災保険法に基づく遺族補償年金、葬祭料及び未支給の保険給付(療養補償給付)の各支給請求をしたところ、本件各処分を受けたことから、被告を相手としてその取消しを求める事案である。 2 前提事実(証拠等を引用しない事実は当事者間に争いがない。書証は特記しない限り枝番を含む。)⑴ 当事者等ア本件会社本件会社は、兵庫県伊丹市aに所在し、兵庫県及び大阪府を中心とする近 畿圏を営業エリアとして、主に一戸建て住宅又はマンションのベランダ施工 (ウッドデッキ、タイルの防水工事)等の事業を行い、専らC株式会社関西営業所(兵庫県尼崎市b所在。以下「C」という。)の下請として、バルコニー床工事等の施工を行っていた。 (ウッドデッキ、タイルの防水工事)等の事業を行い、専らC株式会社関西営業所(兵庫県尼崎市b所在。以下「C」という。)の下請として、バルコニー床工事等の施工を行っていた。 代表者はD(以下「社長」という。)であり、平成30年8月8日時点での労働者(作業員)は、7人程度であった(乙1・129、134頁、弁論の 全趣旨)。 イ被災者原告の夫である被災者(昭和49年4月生まれ)は、平成28年1月5日に本件会社に雇用され、工事担当の作業員として勤務していた。 被災者は、自宅から本件会社の事務所(以下「事務所」という。)まで自転 車で通勤し、所要時間は片道15分程度であった。 ⑵ 被災者の労働条件等(乙1・113、158、181頁)ア勤務時間(所定労働時間)始業 8:00終業 17:00 実労働時間 8時間(休憩 1時間)イ所定休日日曜日、祝日、その他会社が指定する日⑶ 本件会社の勤怠管理本件会社は、作業員が自主検査チェックシート及びCからの工事指示書(乙1・190~607頁)に記載した作業の開始時刻及び終了時刻を実労働時間 としており、タイムカード等で勤怠管理をしていなかった(乙1・113、130、136頁)。 ⑷ 被災者を含む作業員の業務内容の概要等ア作業員の決定(前日)本件会社は、作業前日にCから工事指示書を受領し、社長が翌日の作業現 場への作業員の配置を決めていた(乙1・131頁)。 Cの工事指示書には時間指定の記載はなく、1日に複数の現場での施工依頼があるとき、作業員は、一番遠い現場から作業を始め、本件会社に近い現場を最後にして帰社できるよう振り分けていた(乙1 Cの工事指示書には時間指定の記載はなく、1日に複数の現場での施工依頼があるとき、作業員は、一番遠い現場から作業を始め、本件会社に近い現場を最後にして帰社できるよう振り分けていた(乙1・135、136頁)。 イ集合から現場作業まで被災者を含む作業員は、事務所に立ち入らず、事務所に隣接した駐車場(以 下、「駐車場」という。)に集まり、二人一組で1台の本件会社の工事用車両に分乗して担当する作業現場に向かっていた。工事用車両はマニュアル車で、他の作業員はこれを運転できず、被災者が運転していた。 ウ現場作業作業員は、現場でバルコニー床工事等をする。通常、Cから複数の現場で の施工依頼があることから、作業員は、一つの現場で作業を終えると、別の現場に移動して作業をしていた(甲14、15、乙1・132、136、145頁)。 エ現場作業の終了後作業員は、現場作業の終了後、Cへ行き、当日の工事指示書及び施工完了 の報告書を渡すとともに、その日に使用した資材が余れば返却するなどし、翌日の現場の工事指示書を受領し、必要な資材をあらかじめ工事用車両に積み込んでいた(この積込み作業を、以下「宵積み」という。)。 作業員は、工事指示書のコピーを持ち帰って本件会社に戻り、社長にこれを手交又はポストに入れて当日の業務を終了していた。 なお、宵積みは、Cから至近(車で1分くらい)のE運輸株式会社の倉庫でもなされることがあった(両所は至近なので、以下ではCと扱うことにする。)。 (以上、甲14、乙1・132、135、137~138、145~146頁、乙3、証人F) ⑸ 被災者の本件発症及び死亡 ア被災者は、平成30年8月8日(当時44歳)、兵庫県西宮市所在の家屋新築現 135、137~138、145~146頁、乙3、証人F) ⑸ 被災者の本件発症及び死亡 ア被災者は、平成30年8月8日(当時44歳)、兵庫県西宮市所在の家屋新築現場における屋上工事のため、屋外で床材を切断する作業に従事していたところ、同日午後4時頃に倒れているところを同僚により発見された(甲25の1、乙1・114~115、139、605~606、616~617頁、証人F)。 イ被災者は、同日、直ちに兵庫医科大学病院へ救急搬送され、前大脳動脈瘤破裂により本件疾病を発症したと診断され、同病院で入院加療を受けたものの、同年9月21日、本件疾病を直接死因として死亡した。 被災者には、同年8月8日、3D-CTAにより、前交通動脈に11mmの瘤形成が認められた。 (以上、乙1・28、615~617、639~641,697~702頁)⑹ 本件訴訟に至る経緯ア本件各処分(ア) 原告は、被災者の本件発症及び死亡が業務上の事由によるものであるとして、処分行政庁に対し、①平成30年10月17日、被災者を請求人 として療養補償給付たる療養の給付を請求し、②平成30年12月11日、原告を請求人として、遺族補償年金及び葬祭料を請求した(乙1・9~24、26~32頁)。 処分行政庁は、上記①、②の請求について、令和元年6月6日付けで、これらを支給しないとの第1処分をし、同月10日、原告に対し(被災者 が請求人であった①については、被災者が死亡したためその遺族として)、これを通知した(乙1・目1の前頁、25、29、33頁)。 (イ) 原告は、第1処分のうち上記(ア)①の療養の給付請求に係る処分が、請求人を被災者とするものであったことを受けて、処分行政庁に対し、自ら した(乙1・目1の前頁、25、29、33頁)。 (イ) 原告は、第1処分のうち上記(ア)①の療養の給付請求に係る処分が、請求人を被災者とするものであったことを受けて、処分行政庁に対し、自らを請求人として、後記イの審査請求中であった令和3年1月27日、被災者 の本件疾病の療養に係る未支給の保険給付(療養補償給付)を請求した(乙 1・34~43頁)。 処分行政庁は、令和3年3月12日付けで、これを支給しないとの第2処分をし、同月15日、原告に対し、これを通知した(乙1・目1の前頁、44頁)。 イ審査請求 原告は、令和元年6月18日に第1処分について、令和3年4月8日に第2処分について、兵庫県労働者災害補償保険審査官に対し、それぞれ審査請求をした(乙1・1642~1646頁)。 同審査官は、各審査請求を併合審理した上で、令和3年7月30日付けで、第1処分のうち請求人を被災者とする療養給付請求に係る審査請求を却下 し、原告を請求人とする遺族補償年金、葬祭料及び未支給の保険給付(療養補償給付)の各請求に係る審査請求を棄却する旨の決定をし、同年8月2日、原告に対し、これを通知した(甲3、乙1・目1の前頁、1647~1706頁)。 ウ再審査請求 原告は、上記イの決定を不服として、令和3年8月12日、労働保険審査会に対し、再審査請求をした(乙1・1頁)。 同審査会は、令和4年9月9日付けで、再審査請求を棄却する旨の裁決をし、その頃、原告に対し、これを通知した(甲4、乙1・表紙~目1の前々頁)。 エ訴訟提起原告は、令和5年1月11日、本件訴訟を提起した(当裁判所に顕著な事実)。 ⑺ 行政通達による脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く 々頁)。 エ訴訟提起原告は、令和5年1月11日、本件訴訟を提起した(当裁判所に顕著な事実)。 ⑺ 行政通達による脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。 以下「脳・心臓疾患」という。)に係る業務起因性に関する認定基準 ア 「脳・心臓疾患の認定基準に関する専門検討会」による検討 厚生労働省は、平成12年に専門家によって構成された「脳・心臓疾患の労災認定の基準に関する専門検討会」を設置した。同検討会は、平成13年11月、疲労の蓄積等と脳・心臓疾患の発症との関係を中心に、業務の過重性の評価要因の具体化等について検討した結果である「脳・心臓疾患の認定基準に関する専門検討会報告書」をとりまとめた(乙基3。以下「平成13 年報告書」という。)。 イ 「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について」の発出(ア) 厚生労働省労働基準局長は、平成13年報告書を踏まえて、平成13年12月12日、「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するもの を除く。)の認定基準について」(平成13年12月12日付け基発第1063号厚生労働省労働基準局長通達。ただし、令和2年に一部改訂された。 以下「旧認定基準」という。甲2、乙基1)を発出した。 (イ) 旧認定基準の基本的な考え方は、次のとおりである(乙基1)。 脳・心臓疾患は、その発症の基礎となる血管病変等が長い年月の生活の 営みの中で形成され、それが徐々に進行し、増悪するといった自然経過をたどり発症に至るものとされている。しかしながら、業務による明らかな過重負荷が加わることによって、血管病変等がその自然経過を超えて著しく増悪し、脳・心臓疾患が発症する場合があり、そのよ た自然経過をたどり発症に至るものとされている。しかしながら、業務による明らかな過重負荷が加わることによって、血管病変等がその自然経過を超えて著しく増悪し、脳・心臓疾患が発症する場合があり、そのような経過をたどり発症した脳・心臓疾患は、その発症に当たって、業務が相対的に有力な原 因であると判断し、業務に起因することの明らかな疾病として取り扱う。 業務の過重性の評価は、労働時間、勤務形態、作業環境、精神的緊張の状態等を具体的かつ客観的に把握、検討し、総合的に判断する。 (ウ) 旧認定基準は、業務による明らかな過重負荷と認められるものについて、次のとおり区分している。 a 発症直前から前日までの間において、発生状態を時間的及び場所的に 明確にし得る異常な出来事(具体的には、①極度の緊張、興奮、恐怖、驚がく等の強度の精神的負荷を引き起こす突発的又は予測困難な事態、②緊急に強度の身体的負荷を強いられる突発的又は予測困難な異常な事態、③急激で著しい作業環境の変化のいずれかをいう。以下「異常な出来事」という。)に遭遇したこと。 b 発症に近接した時期(発症前おおむね1週間)において、特に過重な業務(日常業務[=通常の所定労働時間内の所定業務内容]に比較して特に過重な身体的、精神的負荷を生じさせたと客観的に認められる業務をいう。以下「短期間の過重業務」という。)に就労したこと。 c 発症前の長期間(発症前おおむね6か月間)にわたって、著しい疲労 の蓄積をもたらす特に過重な業務(以下「長期間の過重業務」という。)に就労したこと。 (エ) 負荷要因旧認定基準は、具体的な評価に当たっては、短期間の過重業務につき、以下のa からgに掲げる負荷要因について十分に考慮すること(作業 業務」という。)に就労したこと。 (エ) 負荷要因旧認定基準は、具体的な評価に当たっては、短期間の過重業務につき、以下のa からgに掲げる負荷要因について十分に考慮すること(作業環境 については、脳・心臓疾患の発症との関連性が必ずしも強くないとされていることから、過重性の評価に当たっては付加的に考慮すること。なお、温度環境のうち高温環境については、脳・心臓疾患の発症との関連性が明らかではないとされていることから、一般的に発症への影響は考え難いが、著しい高温環境下で業務に就労している状況が認められる場合には、過重 性の評価に当たって配慮すること。)とし、長期間の加重業務につき、疲労の蓄積の観点から、労働時間のほか、以下のb からg までに示した負荷要因について十分検討することとしている(乙基1)。 a 労働時間b 不規則な勤務 c 拘束時間の長い勤務 d 出張の多い業務e 交替制勤務・深夜勤務f 作業環境g 精神的緊張を伴う業務ウ 「血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患 等の認定基準について」の発出(ア) 厚生労働省は、令和2年、専門家によって構成された「脳・心臓疾患の労災認定の基準に関する専門検討会」を設置した。同検討会は、最新の医学的知見を踏まえた検証・検討を行い、令和3年7月に「脳・心臓疾患の労災認定の基準に関する専門検討会報告書」(甲6、乙基6。以下「令和3 年報告書」という。)を取りまとめた。厚生労働省は、令和3年報告書を踏まえて、同年9月14日、「血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の 6、乙基6。以下「令和3 年報告書」という。)を取りまとめた。厚生労働省は、令和3年報告書を踏まえて、同年9月14日、「血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について」(同日付け基発0914第1号厚生労働省労働基準局長通達。以下「新認定基準」という。なお、旧認定基準との総称として、単に「認定基準」ということがある。)及び 「血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準に係る運用上の留意点について」(同日付け基補発0914第1号厚生労働省労働基準局補償課長)を発出して、同月15日から旧認定基準を廃止し新認定基準を施行した。(甲1、5、乙基4、5)(イ) 新認定基準の内容は別紙1のとおりであるところ、前記イ(イ)の基本的 考え方や、前記イ(ウ)の区分(ただし、その記載順序は前記イ(ウ)と逆である。)及びその概要については、旧認定基準と同趣旨である(甲1、乙基4)。 (ウ) 負荷要因新認定基準においては、旧認定基準における負荷要因について、基準の 明確化等の観点から表記が一部修正された。 作業環境については、長期間の過重業務の判断に当たっては、作業環境は付加的に評価すること(温度環境については、寒冷・暑熱の程度、防寒・防暑衣類の着用の状況、一連続作業時間中の採暖・冷却の状況、寒冷と暑熱との交互のばく露の状況、激しい温度差がある場所への出入りの頻度、水分補給の状況等の観点から検討し、評価すること。)、短期間の過重業務 の判断においては、作業環境について付加的に考慮するのではなく、他の負荷要因と同様に十分検討することとされた(乙基4)。 ⑻ 医学的知見ア脳血管疾患の危険因子として、「脳卒中治療ガイドライン」 いては、作業環境について付加的に考慮するのではなく、他の負荷要因と同様に十分検討することとされた(乙基4)。 ⑻ 医学的知見ア脳血管疾患の危険因子として、「脳卒中治療ガイドライン」や「動脈硬化性疾患予防ガイドライン」などに基づき、広く認知されているものとして、年 齢、性、家族歴、高血圧、糖尿病、脂質異常症(高脂血症)、心疾患・不整脈、喫煙、飲酒、炎症マーカー、睡眠時無呼吸症候群、メタボリックシンドローム、慢性腎臓病がある(乙基6・92~99頁)。 イ特発性くも膜下出血についての有意な危険因子は、①喫煙、②高血圧、③過度の飲酒(150g以上/週)である(乙6・460頁)。 ウ脳動脈瘤は、先天的な動脈壁の中膜欠損に、後天的な要因(高血圧、動脈硬化、喫煙、遺伝性の因子など)や血管内皮の修復障害が加わり形成されると考えられている(乙5・124頁)。また、脳動脈瘤破裂の好発年齢は40歳代から50歳代とされ(乙6・457~458頁)、「身体活動による血圧上昇や、排便・排尿のようなValsalvamaneuver を伴う動作が胸腔内圧、静 脈圧を介して頭蓋内圧に影響し、脳動脈瘤破裂を誘発する可能性がある」との報告も存する(乙6・459頁)。 前交通動脈の脳動脈瘤の破裂率は、大きさが7~9mmの場合には1.97%、10~24mmの場合には5.24%とされている(乙5・127頁)。 3 争点 本件の争点は、被災者の本件発症及び死亡が業務上の事由によるものか否か (業務起因性)であり、争点に関する当事者の主張は以下のとおりである。 (原告の主張)被災者は、以下のとおり、⑴本件発症前に1か月おおむね80時間程度の時間外労働に加えて、⑵暑熱環境下で作業に従事 因性)であり、争点に関する当事者の主張は以下のとおりである。 (原告の主張)被災者は、以下のとおり、⑴本件発症前に1か月おおむね80時間程度の時間外労働に加えて、⑵暑熱環境下で作業に従事し、作業指導等による負荷があったから、本件疾病を発症した。したがって、認定基準によると、本件発症には業務 起因性が認められる。 ⑴ 被災者は本件発症前に1か月当りおおむね80時間の時間外労働が認められること本件会社では、適正に労働時間の把握がされていないから、以下のとおり労働時間を認定するのが相当であり、本件発症前の直近2か月の時間外労働は別 紙2のとおりとなる。これによれば、被災者の本件発症前2か月間の時間外労働時間は、発症前1か月が90時間52分、発症前2か月が72時間39分(1か月平均81時間45分)であり、いわゆる過労死ラインを超えている。 ア始業・終業時刻の認定について(ア) 本件会社のグループLINEの記録等(甲17~19、乙1・110頁 等)がある日本件会社の作業員は、社長を含むグループLINE等を通じて、作業前日に「事務所出発」の時刻を確認している日がある。同時刻の指定は被災者が行っており、被災者が同時刻に遅れて事務所に出勤することは考えられないから、グループLINEに「事務所出発」時刻の記載があ る日は、当該時刻をもって始業時刻とすべきである。 また、社長や他の作業員に対する被災者からのLINEによって終業時刻が推認できる日については、当該時刻をもって終業時刻とすべきである。 (イ) 原告とのLINEや携帯電話での帰るコール等(甲20) 被災者は、原告と、日常的にLINEや携帯電話での帰る旨の連絡をしており、これによっても始業・終業時刻を認定すべき ) 原告とのLINEや携帯電話での帰るコール等(甲20) 被災者は、原告と、日常的にLINEや携帯電話での帰る旨の連絡をしており、これによっても始業・終業時刻を認定すべきである。 (ウ) 宵積みの作業時間及びCから本件会社までの移動時間現場作業後にCで宵積み等をするときは、少なくとも40分程度を要し、同社から本件会社までの移動時間は車で平均30分を要し、夕方に は混雑するから、終業時刻は被告が主張する時刻よりも10分遅い時刻とみるのが相当である。 (エ) 上記のとおり被災者の労働時間を認定すると、別紙2のとおりとなる。なお、始業・終業時刻について争いがある日の原告の主張は、別紙3のとおりである。 イ被告が主張する時間外労働時間の評価新認定基準によれば、労働時間のみで業務と発症との関連性が強いと認められる水準に至らないが、これに近い時間外労働に加えて一定の労働時間以外の負荷が認められる場合には、業務と発症との関連性が強いと評価できるとしている。新認定基準は具体的に時間数を明示していないもの の、留意点通達(甲5)、専門検討会報告書(甲6)、WHO・ILOの研究発表(甲7)等を検討すると、月65~70時間程度の時間外労働があれば、過労死ラインである80時間に近い時間外労働があったといえる。 したがって、被告が主張する労働時間によっても、被災者は過労死ラインである80時間に近接した時間外労働をしたと評価できる。 ⑵ 労働時間以外の負荷要因についてア暑熱環境下での連日の作業本件発症前の平成30年7月~8月上旬は猛暑が著しく、作業時間帯の気温は連日30℃を大きく上回り(甲10)、WBGT(暑さ指数)でも「厳重警戒」「危険」に該当していた(甲 下での連日の作業本件発症前の平成30年7月~8月上旬は猛暑が著しく、作業時間帯の気温は連日30℃を大きく上回り(甲10)、WBGT(暑さ指数)でも「厳重警戒」「危険」に該当していた(甲13)。また、被災者は、ヘルメ ット及び長袖シャツの着用が義務付けられ、暑熱環境下の日除け施設のな いベランダで作業に従事し、外気温のみならず、床面や壁面からの輻射熱により、より暑熱な環境であった。また、Cの宵積み作業も、日除け施設のない炎天下の作業であった。このように、被災者は、長期間にわたって真夏の炎天下での暑熱環境下で作業に従事していた。 暑熱な作業環境については、新認定基準では、長期間の加重業務の総合 的判断に当たっては、寒冷な作業環境等同様、付加的に評価するとしている。暑熱環境下の屋外作業であった本件発症前の1~2か月間において、認定基準を充足する時間外労働が認められるから、これは、上記⑴の負荷要因と評価できる。 イ暑熱作業以外の負荷要因 被災者は、事務所から作業現場まで作業用車両で移動しており、その運転を全て行っており、共に作業していた作業員は勤続年数が短く、作業経験が少なく、指導等の負荷も生じていた。これらも、上記⑴の負荷要因と評価できる。 (被告の主張) 被災者は、⑴本件発症前6か月において1か月当たり80時間を超える時間外労働をしておらず、⑵夏季に屋外作業に従事しても、暑熱な環境下にあった時間が限定的であったこと等を踏まえると疲労の蓄積となる過重負荷のある業務に従事したとはいえないから、被災者の作業環境を付加的に評価して総合判断をしても、本件発症に業務起因性を認めることはできない。また、⑶被災者には脳動 脈瘤を有していたこと等の事情もあることから、本件発症は はいえないから、被災者の作業環境を付加的に評価して総合判断をしても、本件発症に業務起因性を認めることはできない。また、⑶被災者には脳動 脈瘤を有していたこと等の事情もあることから、本件発症は業務以外の個体側要因によるものである。 ⑴ 本件発症前6か月において1か月当たり80時間を超える時間外労働は認められないことア始業時刻 作業員の移動のための工事用車両は、主として被災者が運転していたから、 自主検査チェックシート等で確認される最も早い時刻を基に、ルート検索により推定した移動時間を考慮して工事用車両の運転開始時刻を推定し、これをもって始業時刻とするのが相当である。 イ終業時刻上記アと同様に、自主検査チェックシート等で確認される最も遅い時刻を 基に、作業現場からCまでの移動時間を加え、さらに、宵積時間(30分)とCから本件会社への移動時間(20分)を加えて、これをもって終業時刻とするのが相当である。 ウまとめ被災者の労働時間は、以上のとおり被災者の労働時間を認定すると、別紙 4とおりとなる(なお、同別紙は、審査請求の決定及び再審査請求の裁決で認定された労働時間を、別紙5及び別紙6を踏まえて修正したものである。)。 これによると、被災者には本件発症前1か月におおむねね100時間又は発症前2か月間~6か月間にわたって1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働はないし、これらに近い時間外労働もない。 ⑵ 労働時間以外の負荷要因についてア暑熱環境下での作業令和5年8月に行った補充調査における被災者の同僚労働者の供述内容からすると、作業の大部分が炎天下の暑熱作業であったとは認められない。 実作業時間について常時炎天下ではないし、移動時間、宵積み時間及び休憩 8月に行った補充調査における被災者の同僚労働者の供述内容からすると、作業の大部分が炎天下の暑熱作業であったとは認められない。 実作業時間について常時炎天下ではないし、移動時間、宵積み時間及び休憩 時間は暑熱環境に曝されていない。 イ水分補給が自由にできる環境にあったこと等高温のばく露は、脱水による循環器病の発症リスクとして考えるべきことが指摘されているところ、社長は、作業員に対して水分・塩分・休憩を取得するよう指示し、水分補給が自由にできる環境にあったから、被災者は水分 補給等が困難な環境にはなかった。 ウ移動時間が多いこと等被災者の日々の総労働時間、移動内容、作業時間等は、別紙7のとおりである。これによると、被災者の労働実態は、移動時間が多く、実作業時間が総労働時間の半分程度にすぎない。 ⑶ 個体側要因について ア被災者は、前大脳動脈瘤破裂による本件疾病を直接原因として死亡しており、本件発症前から脳動脈瘤を有していた。被災者は、これによって、いつでも本件発症の可能性があったといえる。 イ被災者は本件発症当時44歳で、脳動脈瘤破裂の好発年齢(40~50代)であること、原告の申述によれば、被災者はほぼ毎日500mlの発泡酒を 1缶、休みの時は2缶飲んでいることもあり、飲酒量が多い(150g以上/週の過度の飲酒は、突発的にくも膜下出血を誘因する危険因子と指摘されている。)ことからすると、被災者は脳血管疾患の危険因子を有しており、本件発症は業務以外の個体的要因によるものである。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実(前提事実、後掲各証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実)⑴ 被災者の業務等被災者は、近畿圏内のうち、大阪府・滋賀県・京都府・ のである。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実(前提事実、後掲各証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実)⑴ 被災者の業務等被災者は、近畿圏内のうち、大阪府・滋賀県・京都府・兵庫県の現場を担当し、業務のために宿泊付きで出張することはなかった(甲14、乙1・134~135) ⑵ 事務所への集合、Cでの作業時間及び本件会社への移動時間ア事務所での集合作業員が現場で作業を開始するのは8時前後であり、それに合わせて従業員同士で集合時間を決めていた。最後の作業員がそろって出発するまでの間、他の作業員は待機しているだけで、なすべき作業があったことはうかがわれ ない(証人F・2~3,18~19、27~28頁)。 イ Cでの作業及び本件会社への移動時間Cでの作業は、長くて30分程度で、Cから本件会社までは20分程度を要していた(甲14、乙1・137、1429~1435頁)。 ⑶ 被災者の就労場所等日々の作業現場における作業時間が記録された自主検査チェックシート (乙1・245~606頁)によれば、被災者の平成30年2月1日から同年8月8日までの就労場所及び作業時間帯は、別紙5の「就労場所」欄記載のとおりである。 ⑷ 本件発症前1週間の神戸の最高気温平成30年8月1日から同月8日までの神戸における最高気温及び暑さ指 数(WBGT)の最高値は以下のとおりである(上段が気温、下段が暑さ指数(WBGT)、( )内は時刻を示す。)(甲10、13)。 8月1日 32.3℃(12:00、13:00)31.1(14:00)2日 31.6℃(14:00) 31.2(13:00,14:00)3日 2.3℃(12:00、13:00)31.1(14:00)2日 31.6℃(14:00) 31.2(13:00,14:00)3日 34.7℃(17:00)31.8(15:00~17:00)4日 34.3℃(18:00)30.3(14:00) 5日 34.5℃(14:00)31.8(14:00)6日 34.4℃(16:00)32.2(15:00)7日 33.7℃(16:00) 30.1(14:00、15:00) 8日 31.6℃(15:00)28.9(12:00、15:00)⑸ 被災者の兼業被災者は、遅くとも平成30年7月初旬頃から、土曜日の夜から日曜日の朝まで(23:00~30:00)、本件会社とは別の事業所(漬物工場)にお いてアルバイトとして就労していた(甲20・13~14枚目、原告本人・11~14頁)。 ⑹ 被災者の飲酒被災者は、ほぼ毎日、夕食時に500mlの発泡酒を一缶に飲んでおり、休日には二缶飲むこともあった(乙1・81~82頁)。 2 被災者の労働時間について⑴ 始業時刻別紙4のうち、網掛け部分は当事者間に争いがない。 その余の始業時刻について検討するに、被災者が作業員の移動のための工事用車両を運転していたこと(前提事実⑷イ)、作業員が工事用車両に分乗して 出発するまでに、業務上必要な作業があったことはうかがわれないこと(認定事実⑵ア)からすると、被災者が本件会社の指揮命令下で労務を提供したと評価できるのは、被災者が工事用車両の運転を始めた時 出発するまでに、業務上必要な作業があったことはうかがわれないこと(認定事実⑵ア)からすると、被災者が本件会社の指揮命令下で労務を提供したと評価できるのは、被災者が工事用車両の運転を始めた時点といえる。 そうすると、自主検査チェックシート書及び工事指示書(乙1・190~606頁)で確認できる最も早い時刻を基に、一般的なルートにより推定した移 動時間を考慮し、工事用車両の運転開始時刻を推定して始業時刻を特定するのが相当であり、この点に関する被告の主張には合理性がある。 このような方法によって、被災者の始業時刻を特定すると、別紙4の網掛け部分以外の「労働時間」の「始業」欄のとおりと認めることができる。 ⑵ 終業時刻 被災者の終業時刻については、被災者が作業員の移動のための工事用車両を 運転していたこと(前提事実⑷イ)、被災者は、日々の工事終了後にCに移動して30分程度の宵積みをし、その後本件会社に移動している(認定事実⑵イ)ことからすると、自主検査チェックシート及び工事指示書(乙1・190~607頁)で確認できる最も遅い時刻を基に、一般的なルートにより推定したCまでの移動時間に、宵積みに要する時間として30分を加えた上、一般的なル ートにより推定したCから本件会社までの移動時間20分を加えた時刻を終業時刻と特定するのが相当であり、この点に関する被告の主張には合理性がある。 そうすると、被災者の終業時刻は、別紙4の「労働時間」の「終業」欄のとおりと認めるのが相当である。 ⑶ 休憩時間被災者が少なくとも1時間の休憩を取得していたことについては、当事者間に争いがない。 ⑷ 労働時間に関する原告の主張についての検討アグループLINEに「事務所出 休憩時間被災者が少なくとも1時間の休憩を取得していたことについては、当事者間に争いがない。 ⑷ 労働時間に関する原告の主張についての検討アグループLINEに「事務所出発」の時刻がある日はその時刻が始業時刻 であるとの主張についてグループLINEの「事務所出発」の時刻は、前日に決めた飽くまで予定にすぎず、当日になって作業員全員がそろうまでは出発できないこと(認定事実⑵ア)、この点を措くとしても、「事務所出発」の時刻は本件会社からの指定時刻ではなく、作業員が現場までの時間を自分たちで逆算して決めた集 合時間であり(証人F・27~28頁)、作業員が事務所に集合してから工事用車両に分乗して出発するまでに業務上必要な作業があったことはうかがわれないことからすると(認定事実⑵ア)、グループLINE記載の事務所出発予定時刻から、直ちに被災者が使用者の指揮命令下で労務を提供していたものと直ちに推認することはできないというべきであって、上記⑴の認定 を覆すには足りない。 イ原告が被災者を駐車場に送った際のLINEや帰るコールから始業時刻、終業時刻を推認すべきとの主張について上記アのとおり、事務所に到着してから工事用車両に分乗して出発するまでに業務上必要な作業があったことがうかがわれないことからすると、被災者が駐車場に到着したというだけでは、ただちに使用者の指揮命令下で労務 を提供していたものと認めることはできない。 また、被災者が原告に対しLINEや帰るコールをした場所は特定できず、勤務終了後直ちに連絡していたかも定かではないことからすると、原告と被災者との間のLINE等のやり取りの時刻から終業時刻を認めることは困難である。 し や帰るコールをした場所は特定できず、勤務終了後直ちに連絡していたかも定かではないことからすると、原告と被災者との間のLINE等のやり取りの時刻から終業時刻を認めることは困難である。 したがって、原告の上記主張を採用することはできない。 ウ Cから本件会社までの移動時間を30分として労働時間を算定すべきとの主張についてルート検索結果(乙1・1429~1435頁)によれば、Cから本件会社までの移動時間は、17:30に出発した場合、通常18分で早いと16 分とされていること、Fは、伊丹労働基準監督署職員作成の聴取書において、Cから本件会社までの移動時間を「15分くらい」と述べており(乙1・137頁)、証人尋問においても、「平均したら、15分、20分ぐらいで行けると思うんですけどね。」などと供述していること(証人F・13頁)からすると、Cから本件会社までの移動時間に常に30分要していたと認めること はできず、20分として労働時間を算定することについては合理性がある。 なお、被災者のLINE(甲19の30)には「とりあえず9時30分Cと聴いているので9時頃A工業(本件会社)事務所の駐車場に行きます」との記載があり、被災者は、上記移動に30分程度要するとの認識であったことがうかがわれるが、Cから本件会社までの移動とは時間帯が異なり、直ちに そのような時間を要すると考えることができないから、上記LINEの記載 からCから本件会社までの移動に30分を要したと認めることはできないというべきである。 エ Cでの作業時間を40分として労働時間を算定すべきとの主張についてFは、証人尋問(令和6年6月19日実施)において、原告代理人からの主尋問でCに到着してから作業が終わるまでの エ Cでの作業時間を40分として労働時間を算定すべきとの主張についてFは、証人尋問(令和6年6月19日実施)において、原告代理人からの主尋問でCに到着してから作業が終わるまでの時間を尋ねられたのに対し、 「まあ全部であれば、40分ぐらい、終わるときもあれば終わらんときもあるって感じですかね。平均すると40分ぐらいですかね。」と証言する(証人F・12~13頁)。しかし、Fは、平成31年4月4日に作成された伊丹労働基準監督署職員が作成した聴取書においては、Cでの作業について、「作業時間は、たいてい長くて30分もあれば終わります。」(甲14、乙1・1 37頁)と述べており、本件発症に近接した記憶がより鮮明なときに作成された聴取書の方が証人尋問での証言よりも信用性は高いといえるから、Fの上記証言は直ちに採用することができない。ほかに、Cでの作業に40分を要したことを裏付ける的確な証拠はない。 オ始業・終業時刻が問題となると原告が主張する日(別紙3)について (ア) 始業時刻① 8月7日の始業時刻証拠(乙1・603頁)によると、同日のG会館の現場作業に係る自主検査チェックシートでの作業時間の記載は「8:00~15:00」とされていることから、同日の作業開始時刻は午前8時であったと推認 できる。そうすると、被災者が、仮に原告が指摘するLINEのとおり「7時より早め」に現地到着していたとしても、作業開始時刻の午前8時までの間に、指揮命令下で労務を提供していたとは認められない。よって、午前8時より前の時間を労働時間に算入することを前提として、駐車場への集合時刻を算定する方法によって始業時刻を推認する原告 の主張は直ちに採用することができない。 ② 7月 より前の時間を労働時間に算入することを前提として、駐車場への集合時刻を算定する方法によって始業時刻を推認する原告 の主張は直ちに採用することができない。 ② 7月14日、6月15日の始業時刻の始業時刻7月14日の始業時刻が8:45であること、6月15日の始業時刻が6:40であることは、当事者間に争いがない(別紙4の網掛け部分参照)。 ③ 7月6日、6月23日の始業時刻 原告が被災者を駐車場に送った際のLINEのやり取りからただちに始業時刻が推認できないことは上記⑷イのとおりであり、原告の主張はいずれも採用できない。 ④ 6月21日の始業時刻グループLINE記載の事務所出発予定時刻から、直ちに被災者が使 用者の指揮命令下で労務を提供していたものと直ちに推認することはできないことは、上記アで説示したとおりであり、この点に関する原告の主張は採用することができない。 (イ) 終業時刻① 8月6日の終業時刻 自主検査チェックシート及び工事指示書(乙1・598~602頁)によると、被災者は、大阪市h区の現場で作業し、12:15に作業を終了したことが認められるから、上記⑵の説示によると、被災者がその後のCに立ち寄り、事務所に戻ったのは14:35であると推認できる。 もっとも、証拠(甲19①)によると、社長が18時頃事務所にいた ことがうかがわれる。しかし、被災者が社長と対面ではなく電話で安全帯に関するやり取りをした可能性もあり、別の作業員とのやり取り(甲19③)や作業先とのやり取り(甲19②)も、被災者が事務所においてしたかどうかが明らかではない。したがって、この点に関する原告の 帯に関するやり取りをした可能性もあり、別の作業員とのやり取り(甲19③)や作業先とのやり取り(甲19②)も、被災者が事務所においてしたかどうかが明らかではない。したがって、この点に関する原告の主張は採用することができない。 ② 8月3日の終業時刻 証拠(乙1・593頁)によれば、同日の自主検査シートの「~15:00」との記載に、作業従事者として被災者の名前が付記されていることからすると、被災者の作業終了時刻は15:00と推認できる。そうすると、原告が指摘するLINEに、本件会社の社長が被災者に対し同日16:55に、「終わったら連絡ください」とのメッセージを送信して いた(甲22①)としても、そのことから直ちに、同時刻まで被災者が作業をしていたことを推認することはできない。したがって、同時刻を終業時刻とする原告の主張は直ちに採用できない。 ③ 8月1日の終業時刻自主検査チェックシート(乙1・593頁)によると、被災者は、1 8:00に奈良市の現場作業を終えたことが認められる。甲22①には、18:32に奈良の現場を出た旨の記載があるが、自主検査チェックシートの記載とは約30分もの差があり、被災者が実際の作業終了時刻よりも早い時間を記載するような事情はうかがわれず、被災者が帰途中に現場を出た旨のLINEを送信した可能性がある。したがって、この点 に関する原告の主張は採用することができない。 ④ 7月6日の終業時刻自主検査チェックシート(乙1・537頁)によると、被災者は芦屋市の現場作業を9:45に終了していることが認められる。 Cでの作業時間は長くて30分であること、Cと本件会社との移動時 間が20分であるこ ックシート(乙1・537頁)によると、被災者は芦屋市の現場作業を9:45に終了していることが認められる。 Cでの作業時間は長くて30分であること、Cと本件会社との移動時 間が20分であることは上記ウ、エのとおりであるから、この点に関する原告の主張は採用することができない。 カその余の原告の主張(ア) 原告は、終業後や休日にも作業についての連絡がなされているから、これを付加的に考慮すべき旨を主張するが、LINEでの連絡の履歴がある からといって本件会社の指揮命令下における労働がなされていたことを 推認することは困難であるし、具体的に何時間を労働時間として加えるべきかも明らかではない。 したがって、原告の上記主張は採用することができない。 (イ) 原告は、待機・手待ち時間を考慮すべき旨を主張するが、上記⑵、⑶で認定した労働時間は、最初の現場の施工開始時刻から最後の現場の施工終 了時刻を基に、移動時間等を加えて算定していることから、作業中の待機時間や手待ち時間については考慮されているといえるし、これを考慮したとしても、その労働密度は低いといえる。 したがって、原告の上記主張は採用することができない。 ⑸ 小括 以上によれば、被災者の労働時間は、別紙4のとおりと認められ、本件発症前6か月における労働時間及び時間外労働時間は以下のとおりである。 ① 発症前1か月目(8/8~7/10)実労働時間:251時間35分、時間外労働:75時間35分② 発症前2か月目(7/9~6/10) 実労働時間:206時間 9分、時間外労働:64時間24分③ 発症前3か月目(6/9~5/11)実労働時間:189時間30分、 前2か月目(7/9~6/10) 実労働時間:206時間 9分、時間外労働:64時間24分③ 発症前3か月目(6/9~5/11)実労働時間:189時間30分、時間外労働:26時間56分④ 発症前4か月目(5/10~4/11)実労働時間:218時間36分、時間外労働:51時間51分 ⑤ 発症前5か月目(4/10~3/12)実労働時間:219時間36分、時間外労働:61時間41分⑥ 発症前6か月目(3/11~2/10)実労働時間:225時間10分、時間外労働:63時間25分 3 被災者の兼業について 認定事実⑸のとおり、被災者は、遅くとも平成30年7月初旬頃以降、本件会 社とは別の事業場において、深夜労働を行っていたものと認められる。もっとも、平成30年8月8日発症の本件疾病については、令和2年法律第14号による改正後の労災保険法の適用はないことから、本件においては、複数事業労働者であることを前提とした労災保険給付の請求を認める法的根拠がなく、本件会社における業務を前提として業務起因性を判断することになる。 4 そのほかの負荷要因について⑴ 労働時間等上記2認定の被災者の労働時間を前提として、本件発症前概ね1か月間における、日々の総労働時間、移動時間、作業時間、宵積み時間、休憩時間をまとめると、別紙7のとおりであり、被災者の労働の実態としては、移動時間の割 合が多く、作業時間自体は総労働時間の2分の1程度である日が多いと認められる。 ⑵ 暑熱環境認定事実⑷によると、本件発症前の作業現場に近い神戸の気温や暑さ指数は高かったことが認められるが、被災者が本件疾病を発症した平成 時間の2分の1程度である日が多いと認められる。 ⑵ 暑熱環境認定事実⑷によると、本件発症前の作業現場に近い神戸の気温や暑さ指数は高かったことが認められるが、被災者が本件疾病を発症した平成30年8月8 日当日、被災者が担当していた作業は、プラスチック材料を切る作業であり、屋上での直射日光の下での作業には従事しておらず、被災者の作業は、ベランダや屋上でタイルを貼る作業が主であるものの、それ以外にも材料を切る作業、材料を運ぶ作業もあり、材料を運ぶ作業の時間が一番長いことが認められる(証人F・23~24、26~29頁)。 また、被災者は、長袖の着衣で作業していたが、作業現場で水分補給することに支障があった状況にはなく(甲14、乙1・140頁)、Cにおける宵積みの作業場所は、屋外ではなく、倉庫等の中であり、扇風機もあったことがある(乙3、証人F6~10頁)というのであり、宵積みの時間帯は主に現場作業終了後の夕方であるから、それほど気温が高い状態であったと認めることもで きない。 これらの事情によると、本件発症直前に被災者の従事した作業は、暑熱環境下になされたことは認められるものの、現場作業は常に直射日光の下で行われるわけではなく、上記⑴のとおり、総労働時間の2分の1程度の移動時間や休憩時間も存在しているから、特筆すべき負荷要因があったとは認め難く、本件全証拠によっても、他に負荷要因となるものを認めることはできない。 5 個体側要因について前提事実⑸イによると、被災者は、平成30年8月8日時点で前交通動脈に11mmの脳動脈瘤があったことが認められる。そして、被災者が本件発症時において44歳であり、脳動脈瘤破裂の好発年齢であり(前提事実⑻ウ)、しかも、上記動脈瘤は破裂のリスクが比較 時点で前交通動脈に11mmの脳動脈瘤があったことが認められる。そして、被災者が本件発症時において44歳であり、脳動脈瘤破裂の好発年齢であり(前提事実⑻ウ)、しかも、上記動脈瘤は破裂のリスクが比較的高いものであり(前提事実⑻ウ)、被災者が日 常的に一定量の飲酒をしていたこと(認定事実⑹)からすると、被災者は、本件疾病の危険因子を有していたものといえる。 6 まとめ⑴ 上記認定の被災者の労働時間からすると、発症前1か月で100時間を超えるものではなく、発症前2か月ないし6か月にわたって1か月当たり80時間 を超えるものでもないから、認定基準において業務と発症との関連性が強いと評価できる場合(長期間の過重業務)には該当しない。 ⑵ また、本件発症日当日(8月8日)の時間外労働は50分、前日(8月7日)の時間外労働は1時間15分、その前日(8月6日)は法定時間内の稼働であり、本件発症日前おおむね1週間の時間外労働をみても17時間25分であっ て、被災者の他の期間の時間外労働時間と比べて、特段長時間労働になっているものでもない。したがって、発症に近接した時期において特に過重な業務に従事していた場合(短期間の過重業務)にも該当しない。 被災者の作業環境等についても、上記4で検討したとおり、特筆すべき負荷要因とまでは評価し難い。 ⑶ さらに、被災者が本件発症の直前から前日までの間において、極度の緊張等 の強度の精神的負荷を引き起こす事態、急激で著しい身体的負荷を強いられる事態及び急激で著しい作業環境の変化があった(異常な出来事)とも認められない。また、被災者は本件発症直前まで作業に従事しており、本件発症前に体調が悪化し、本件発症が自然的経過を超えて体調の悪化によるものと認めることはできな 境の変化があった(異常な出来事)とも認められない。また、被災者は本件発症直前まで作業に従事しており、本件発症前に体調が悪化し、本件発症が自然的経過を超えて体調の悪化によるものと認めることはできない。 ⑷ 以上に加え、被災者が本件発症前から脳動脈瘤を有しており、上記のとおり、本件疾病の危険因子を有していたことも併せ考慮すると、本件疾病は、業務により、その自然経過を超えて著しく増悪したことによって発症したとは認められず、被災者の本件発症及び死亡は、業務上の事由によるものと認めることはできない。 第4 結語以上によれば、原告の請求は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第5民事部 裁判長裁判官横田昌紀 裁判官蒲田祐一 裁判官山中洋美 (別紙の掲載省略)
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