- 1 -平成24年3月7日判決言渡平成23年(ネ)第6724号退職金請求控訴事件 主文 本件控訴を棄却する。 控訴費用は控訴人の負担とする。 事実 及び理由 第1 控訴の趣旨 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人の請求を棄却する。 第2 事案の概要 1 被控訴人は,昭和54年4月1日以降,平成22年3月31日に退職するまで,控訴人の教職員(従業員)として雇用されていた者である。被控訴人は,その間である平成17年5月30日から平成21年6月24日まで,控訴人の理事の地位にもあった。 本件は,被控訴人が,平成22年3月31日に控訴人を任意に退職したこと及び控訴人・被控訴人間の労働契約上の退職金規程に基づいて,控訴人に対し,退職金残金2176万1956円(退職金2493万5625円から,控訴人が日本私立学校振興・共済事業団に対し立替払した被控訴人の同事業団に対する教育ローン残金317万3669円を控除した金額)及びこれに対する訴状送達の日(平成22年5月18日)の後7日を経過した日である同月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を請求した事案である。 原審は,被控訴人の請求を認容し,控訴人はこれを不服として,本件控訴を提起した。 2 当事者の主張は,原判決6頁8行目の「退職金規程7条1項1号ただし書」- 2 -を「本件退職金規程7条(1)号ただし書」と改めるほかは,原判決の「事実及び理由」の「第2 事案の概要」の2項ないし4項に記載のとおりであるから,これを引用する。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所も,被控訴人の請求は理由があるものと判断する。 その理由は次の 及び理由」の「第2 事案の概要」の2項ないし4項に記載のとおりであるから,これを引用する。 第3 当裁判所の判断 1 当裁判所も,被控訴人の請求は理由があるものと判断する。 その理由は次のとおり補正するほかは,,原判決の「事実及び理由」の「第 3 当裁判所の判断」に記載のとおりであるから,これを引用する。 (1) 原判決12頁24行目を次のとおり改める。 「1 争点(1)(退職金不支給事由)について被控訴人は,学校法人神奈川歯科大学役員退任慰労金規程により支給される理事としての退職慰労金の請求権を既に放棄し(甲6),本件訴訟においては,本件退職金規程(甲3)により支給される労働者としての退職手当の支払を請求する。 これに対し,控訴人は,退職手当の支給制限を定める本件退職金規程7条(1)号ただし書の『不都合の所為』には,控訴人の従業員が理事を兼ねる場合には,理事としての善管注意義務違反の行為も含まれ,かつ,被控訴人には,本件投資について理事としての善管注意義務違反があったから,本件退職金規程に基づく従業員としての退職手当の不支給事由があるというべきであって,退職手当請求権は発生しない旨主張する。 そこで判断するに,本件退職金規程(甲3)は,その1条及び2条において,退職手当の支給対象は,学校法人神奈川歯科大学に勤務する専任の教員及び職員(年俸職員を除く。以下『教職員』という。)であることを定め,3条において,退職手当は,本人が退職を願い出て承認されたとき,控訴人の都合により解雇されたとき(懲戒解雇を除く。)等に支給されることを定め,退職手当の支給制限を定める7- 3 -条は,(1)号本文において,懲戒解雇処分を受けた者には退職手当を支給しないことを定め,ただし書で,『懲戒解雇処分に至らない場合でも不都合の所為が とを定め,退職手当の支給制限を定める7- 3 -条は,(1)号本文において,懲戒解雇処分を受けた者には退職手当を支給しないことを定め,ただし書で,『懲戒解雇処分に至らない場合でも不都合の所為が認められ退職する者に対しては支給しないか,情状により減額して支給することがある。』と定め,(2)号本文において,刑事事件に関し起訴された者が,その有罪判決の確定前に退職した場合には,退職手当を支給しない趣旨を定め,ただし書で,禁固以上の刑に処せられなかったときはこの限りでないと定め,(3)号で,在職期間が1年未満の者を除外することを定める。しかし,教職員が理事を兼務し,理事としての義務違反があった場合の退職金不支給等については何ら定めるところがなく,そもそも理事などの役員について言及する定めはない。そして,控訴人が被控訴人の退職手当請求権の発生を阻止する根拠と主張する7条(1)号ただし書は,同号本文と照らし合わせてみれば,教職員が,懲戒解雇処分は受けないまでも,懲戒解雇事由に準じる非違行為(『不都合の所為』)があってこれにより退職する場合には,退職金を支給しないか減額することができる旨を定める規定であることは明らかである。そうすると,この規定が,懲戒解雇があった場合に準じる場合を定めるものである以上,『不都合の所為』とは,懲戒解雇の対象となり得る従業員(教職員)の行為に限られ,その対象になり得ない理事の行為を含まないと解するのが相当である。したがって,7条(1)号ただし書を根拠として,被控訴人の理事としての善管注意義務違反の行為が,従業員としての退職金の不支給事由に当たるという控訴人の主張は失当である。控訴人は,当審において,退職金の不支給事由の有無を判断するについては,被控訴人の善管注意義務違反の有無を判断する必要があると主張するが, 退職金の不支給事由に当たるという控訴人の主張は失当である。控訴人は,当審において,退職金の不支給事由の有無を判断するについては,被控訴人の善管注意義務違反の有無を判断する必要があると主張するが,その必要がないことは上記のとおり明らかである。 なお,控訴人は,理事としての行為であっても,労働者の永年の勤- 4 -続の功労を抹消してしまうほどの著しい背信行為を行った場合は,退職金の支払は認められないと主張し,大阪地裁平成14年1月31日判決(金融・商事判例1161号37頁)を挙げる。しかし,この裁判例は,従業員兼務取締役であったことを理由とする従業員としての退職金の請求について,自己都合退職後,退職金を支払う前に非違行為が発覚し,退職前に発覚していれば明らかに懲戒解雇したものと考えられるから,懲戒解雇の場合は退職金を支払わないという退職金規程の解釈として退職金の支払を拒むことができるとした事案であるのに対し,本件においては,被控訴人に従業員(教職員)としての非違行為は何ら認められない(弁論の全趣旨)のであるから,事案が異なるというべきである。また,控訴人は,労働者の職務外の私生活上の行為であってすら,前記同様のことがいえると主張し,東京地裁平成14年11月15日判決(労働判例844号38頁)を挙げる。しかし,この裁判例は,犯罪行為により起訴されたことに基づいて懲戒解雇された従業員(役員ではない)が,懲戒解雇により退職する者,又は在職中懲戒解雇に該当する行為があって処分決定以前に退職する者には,原則として退職金を支給しないと定める退職金支給規則による退職金の不支給を争って,退職金を請求した事案であり,被控訴人に従業員(教職員)としての非違行為は何ら認められない本件とは事案が異なるというべきである。 したがって,本件において 支給規則による退職金の不支給を争って,退職金を請求した事案であり,被控訴人に従業員(教職員)としての非違行為は何ら認められない本件とは事案が異なるというべきである。 したがって,本件においては,被控訴人の退職について,退職手当の不支給事由があると認めることはできない。 2 争点(2)(権利濫用)について」(2) 原判決19頁7行目から21頁26行目までを次のとおり改める。 「(2) 前記(1)の事実(原判決12頁25行目から19頁6行目までに説示した事実)に基づいて,争点(2)(権利濫用)について判断する。 - 5 -ア控訴人は,被控訴人は控訴人の理事の地位にあり,控訴人に対して委任契約に基づく善管注意義務を負い,また,理事会の構成員として,理事会が本件投資について意思決定するに当たり,本件寄附行為等に違反することがないように監視,監督する義務を負っていたにもかかわらず,本件寄附行為及び本件資産運用規則に反する,元本返還の確実性が極めて低い投機的な本件投資の議案に理事会で賛成票を投じたものであり,本件投資の投機性の高さ,投資適格性の欠如については,Aらの説明等から容易に知ることができた上,控訴人の教職員や文部科学省からも指摘があったにもかかわらず,被控訴人は善管注意義務を尽くさず,本件投資の決議に賛成票を投じたばかりか,一連の不正投資にも賛成しており,被控訴人の理事としての善管注意義務違反の程度は重大で,これにより控訴人に著しい損害を与えたとして,被控訴人の本件請求は権利の濫用に当たると主張する。 イ(ア) そこで判断するに,被控訴人は,平成20年9月9日開催の理事会及び同年11月19日開催の理事会において,本件投資(合計12億5000万円)を実施する各議案に対し,他の全理事と共に賛成票を投じており(原判決の前提と ,被控訴人は,平成20年9月9日開催の理事会及び同年11月19日開催の理事会において,本件投資(合計12億5000万円)を実施する各議案に対し,他の全理事と共に賛成票を投じており(原判決の前提となる事実(5)),控訴人は,その結果,多大の損害を被ったとして,被控訴人を始めとする当時の理事等に対して損害賠償請求訴訟を提起し,同訴訟は係属中である(同(13))。 (イ) 一方,前記(1)イのとおり,被控訴人は病院担当理事として,過半数で意思決定がされる理事会において一票を投じてはいるが,同ケのとおり,控訴人作成に係る本件報告書によれば,資産運用に関する理事会に係る問題として,平成20年9月9日及び同年11月19日に控訴人の理事会が開催された当時,後に逮捕されることとなったB理事とC理事がかなり強行的に主導しており,その他の- 6 -理事や監事は,提案された投資案件について十分な質問ができる状況でなかったものであり,理事会における実際の被控訴人の発言内容に照らしても,同キ及びクのとおり,本件投資の判断に関しては,被控訴人は投資の素人として,数回質問するのみで,B理事やC理事の強行的な主導の下,一般の理事として,専ら説得される受動的な立場にあったものと認められる。 また,前記(1)アのとおり,被控訴人はそれまで31年間も控訴人に勤務し,控訴人の大学の教授や控訴人の病院の病院長,控訴人の経営するD専門学校の学校長を勤めるなどしており,控訴人の教職員としての非違行為はなかった(弁論の全趣旨)。さらに,被控訴人は,本件投資につき道義的責任があるとして,前記(1)シ及びスのとおり,役員退任慰労金(200万)を自主返上したほか,理事の職務手当及び賞与を一部寄付(573万8600円)することを申し出ている。 (ウ) そして,退職金が功労 るとして,前記(1)シ及びスのとおり,役員退任慰労金(200万)を自主返上したほか,理事の職務手当及び賞与を一部寄付(573万8600円)することを申し出ている。 (ウ) そして,退職金が功労報償的性格と賃金の後払的性格とを併有していることに,上記のとおり被控訴人の本件投資への関与は受動的なものであったこと,被控訴人が本件投資につき道義的責任を認め,役員退任慰労金を自主返上する等していること,被控訴人が30年以上も控訴人の教職員として勤務し,かつ重要な役職を勤め,その間,教職員として非違行為はなかったこと等を考え併せると,本件請求が権利の濫用に当たるとは認められないというべきである。 (エ) 控訴人は,被控訴人が本件投資を定めた理事会決議に反対票を投じたのであればともかく,賛成票を投じた以上,本件投資に対する態度が受動的であったとはいえないと主張する。そこで判断するに,被控訴人は,前記説示のとおり,B理事やC理事の強行的な主- 7 -導の下で専ら説得を受ける一般の理事の立場にあったものであり,そうである以上,理事の中では受動的な立場にあったと評価することが相当というべきである。 また,控訴人は,理事の職務手当及び賞与の一部(7割)寄付の申出について,現実に寄付があったわけではなく,寄付の申出があったにすぎないから,本件請求が権利濫用に当たるかの評価・判断において,これを考慮すべきでないと主張する。そこで判断するに,上記の理事の職務手当及び賞与は,平成17年度から20年度にかけて既に被控訴人に支払われたものであり,総額573万8600円(甲7)にのぼる上記の一部寄付を履行するためには,その原資が必要であるところ,被控訴人は理事としての退職慰労金請求権を既に放棄し(甲6),従業員としての退職金の支払は控訴人により拒否さ 円(甲7)にのぼる上記の一部寄付を履行するためには,その原資が必要であるところ,被控訴人は理事としての退職慰労金請求権を既に放棄し(甲6),従業員としての退職金の支払は控訴人により拒否され,本件訴訟で係争中であり,被控訴人は本件ヒアリングにおいて同退職金を原資とする旨述べており(乙18の6枚目),被控訴人が他に原資を有すると認めるに足りる証拠もないことにかんがみれば,被控訴人が上記の一部寄付を履行していないことはやむを得ないものというべきである。そして,上記の一部寄付の申出は真摯になされたものであり,履行の条件が整えば,速やかに履行される蓋然性が高いものと認められる(甲7,乙18,被控訴人)。 したがって,本件請求が権利濫用に当たるかの評価・判断において,上記の申出があったことを考慮することは許容されるというべきである。」(3) 原判決25頁5行目と6行目との間に次のとおり加える。 「 控訴人は,当審においても,本件ヒアリングにおいて,被控訴人が『それで,じゃあこのお金をどうやって返すかというと,退職金で一部か全部分からないけど。具体的にね。お返ししようと思っておりますんで。』- 8 -(乙18の6枚目)と述べたことをもって,一連の投資による損失額合計89億円を被控訴人の従業員としての退職金と相殺する旨述べたものであると主張する。そこで判断するに,本件全証拠によっても,被控訴人の上記発言の趣旨をそのように解することは到底できない。かえって,原判決24頁2行目ないし13行目が説示するとおりに解するのが相当である。よって,控訴人の上記主張を認めることはできない。」(4) 原判決25頁11行目と12行目との間に次のとおり加える。 「 控訴人は,当審においても,被控訴人が本件ヒアリングにおいて退職金を損害賠償金に充てるこ の上記主張を認めることはできない。」(4) 原判決25頁11行目と12行目との間に次のとおり加える。 「 控訴人は,当審においても,被控訴人が本件ヒアリングにおいて退職金を損害賠償金に充てることを明言したから,退職金の請求はしないと約束したに等しいと主張する。そこで判断するに,被控訴人が本件ヒアリングにおいて退職金を損害賠償金に充てる旨述べていないことは,原判決24頁2行目ないし13行目に説示するとおりであるから,控訴人の上記主張は失当というべきである。」 2 結論以上によれば,被控訴人の請求は理由があるから認容すべきであり,これと同旨の原判決は,その結論において相当である。 よって,本件控訴は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第22民事部 裁判長裁判官加藤新太郎 裁判官加藤美枝子 - 9 -裁判官長谷川浩二
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