- 1 -平成28年(う)第727号有印私文書偽造,有印公文書偽造,建造物損壊,非現住建造物等放火被告事件平成28年12月7日東京高等裁判所第3刑事部判決 主文 本件控訴を棄却する。 当審における未決勾留日数中170日を原判決の刑に算入する。 理由 弁護人の控訴趣意は,違法収集証拠に関する訴訟手続の法令違反,争点顕在化に関する訴訟手続の法令違反及び事実誤認の主張である。便宜上,争点顕在化に関する訴訟手続の法令違反の主張に対する判断は,事実誤認の主張に対する判断の次に示すこととする。 第1 原判決認定の犯罪事実原判決認定の犯罪事実の要旨は,被告人が,(1)いずれも行使の目的で,①平成23年8月中旬頃から下旬頃までの間と10月上旬ころから中旬頃までの間に,それぞれ鹿児島県内,東京都内又はその周辺において,Aの顔写真及び氏名等を印刷するなどし,京都大学医学部長作成名義と同大学法学部長作成名義の学生証各1通を偽造し(原判示第1,第2),②平成24年1月6日頃から中旬ころまでの間に,鹿児島県鹿屋市内の当時の被告人方(以下「被告人方」という)において,Bの顔写真,氏名として「C」等を印刷するなどし,大阪府知事作成名義の危険物取扱者免状1通を偽造し(原判示第3),③4月10日頃と6月上旬頃に,それぞれ被告人方において,氏名として「D」ないし「E」等を印刷するなどし,法政大学総長作成名義の卒業証明書各1通を偽造し(原判示第4,第7),④5月13日頃,被告人方において,Fの顔写真及び氏名等を印刷するなどし,山口県公安委員会作成名義の自動車運転免許証1 - 2 -通を偽造し(原判示第5 明書各1通を偽造し(原判示第4,第7),④5月13日頃,被告人方において,Fの顔写真及び氏名等を印刷するなどし,山口県公安委員会作成名義の自動車運転免許証1 - 2 -通を偽造し(原判示第5),⑤5月29日頃,被告人方において,Gの顔写真,氏名として「H」等を印刷するなどし,東京都公安委員会作成名義の自動車運転免許証1通を偽造し(原判示第6)(以下,これらの有印公文書偽造及び有印私文書偽造をまとめて「本件偽造事件」という),(2)I及びJと共謀の上,①平成24年8月1日午前1時40分頃,東京都町田市内のK株式会社町田支店において,同支店正面玄関のガラス窓1枚をバールでたたいて損壊し,②2日午前2時頃,東京都港区内のビル地下1階において,ガソリンをまくなどして火を点け,ビルの側壁等を損壊し,③3日午前2時14分頃,上記K株式会社町田支店において,正面玄関自動ドアをこじ開けた開口部からガソリンを注ぎ込むなどして火を点け,自動ドアの一部を損壊し,④同日午前4時頃,東京都渋谷区のビル1階車庫において,人が現に住居に使用していることも現にいることも認識せずに,ガソリンをまくなどして火を放ち,天井等を焼損させた(原判示第8の1ないし4。以下,これらの建造物損壊及び非現住建造物放火をまとめて「本件放火等事件」という)の事案である。 第2 違法収集証拠に関する訴訟手続の法令違反の主張について 1 弁護人の主張その骨子は,原審は,平成24年11月18日に警察が行った検証(以下「本件検証」という)には,令状主義の精神を没却する重大な違法があったとして,本件検証の直接の結果である検証調書等の証拠能力を否定しているところ,本件検証がなければ,捜査機関はG,B,I及びJに絶対にたどり着くことができなかったのであるから,本件検証とこれらの者に関 して,本件検証の直接の結果である検証調書等の証拠能力を否定しているところ,本件検証がなければ,捜査機関はG,B,I及びJに絶対にたどり着くことができなかったのであるから,本件検証とこれらの者に関する全証拠は強固な関連性があるといえ,これらの証拠も証拠能力がなく,原判示第3,第6及び第8の各犯罪事実については,犯罪の証明がないことになり,無罪とすべきであるのに,これらの証拠に証拠能力を認めた原審の訴訟手続には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反があるというものである。 - 3 - 2 原判決の判断の要旨原判決は,本件検証に至る経緯及びその内容について,原審証拠によれば,次の事実が認められるとした。 ①神奈川県警察本部の警察官らは,平成24年9月18日,本件各公訴事実以外を被疑事実とする捜索差押許可状(以下「本件捜索差押許可状」という)に基づき,被告人方等を捜索し,ノート型パソコン(押収品目録番号1のもの。 以下「本件パソコン」という)等を差し押さえた(以下「本件捜索差押え」という)。 ②本件捜索差押許可状には,「差し押さえるべき電子計算機に電気通信回線で接続している記録媒体であって,その電磁的記録を複写すべきものの範囲」として「メールサーバの記録領域」等が具体的に記載されており,いわゆるリモートアクセスによる複写の処分が許可されていたが,警察官らは,本件捜索差押えの時点では,本件パソコンにログインするパスワードが判明していなかったため,リモートアクセスによる複写の処分ができなかった。 ③警察官らは,本件パソコンを解析したところ,偽造文書を作成,販売するとしている「M」と称するインターネットサイト(以下「Mサイト」という)で,注文の連絡先とされていたメールアドレス(以下「Mメールアドレス」という)の コンを解析したところ,偽造文書を作成,販売するとしている「M」と称するインターネットサイト(以下「Mサイト」という)で,注文の連絡先とされていたメールアドレス(以下「Mメールアドレス」という)のアカウント(以下「Mアカウント」という)へのアクセス履歴の存在等が認められたことから,本件パソコンからインターネットに接続し,メールサーバにアクセスすることなどを企画し,検討の結果,メールサーバへのアクセスも検証のために必要な処分として許容されると考え,上記別件を被疑事実とする本件パソコンの検証許可状の発付を得た。 ④警察官らは,本件パソコンを解析することによりMアカウントにログインするためのパスワードを把握した上,11月18日,上記検証許可状に基づき,本件パソコンの内容を複製したパソコンからインターネットに接続し,Mアカ - 4 -ウントにログインし,Mメールアドレスに係る送受信メールを抽出してダウンロードし,保存するという本件検証を行った。 以上の事実に基づき,原判決は,本件検証許可状に基づく本件検証において,本件パソコン等からインターネットに接続し,メールサーバにアクセスすることは認められないのに,警察官らは,メールサーバ上のメール送受信履歴及び内容を閲覧して保存するというメールサーバの管理者等の第三者の権利・利益を侵害する強制処分を必要な司法審査を経ずに行ったもので,本件検証は違法なものであるとした。 また,原判決は,本件検証においてアクセスしたサーバコンピュータが外国にある可能性が高く,他国の主権に対する侵害が問題となり得るものであったことなどからすると,警察としては,国際捜査共助を要請する方法によることが望ましく,上記のような本件検証は避けるべきであったなどとした。 さらに,原判決は,本件検証に当たって,警 るものであったことなどからすると,警察としては,国際捜査共助を要請する方法によることが望ましく,上記のような本件検証は避けるべきであったなどとした。 さらに,原判決は,本件検証に当たって,警察官らに令状主義を潜脱する意図があったとまでは認められないが,本件検証は,刑事訴訟法の基本的な枠組みに反して第三者の権利・利益を司法審査を経ずに侵害したというもので,違法性が大きい上,そのような違法な捜査を行った警察官らの姿勢においても,上記のような問題点に適切な配慮をすることなく,捜査の目的を優先させたもので,関連法規等に関する理解不足に起因する面があったとしても,令状主義に関する法令を遵守する姿勢が欠けていたことは否定できないから,本件検証の違法性の程度は重大なものであり,令状主義の精神を没却するとの評価を免れないとした。 以上のことから,原判決は,本件検証の経過及び内容を記載した検証調書(原審甲56)並びに本件検証の結果得られたデータ等をまとめた各捜査報告書(原審甲53,85,92,120,740,838,842)は,本件検証の結果そのものといえることなどから,証拠能力を否定し,証拠排除をする - 5 -のが相当であり,また,警察官その他の関係者の供述中,上記各証拠の作成過程や内容を説明した部分についても,本件における事実認定に用いることはできないとした。 他方で,原判決は,捜査機関が重大な違法が認められる捜査から派生する証拠を取得した場合について,違法な捜査とその証拠との関連性が密接なものであることから,その証拠の収集についても令状主義を没却する重大な違法があることに帰し,その証拠の証拠能力をも否定しないと将来の違法捜査の抑止の観点から意味がないと考えられるものについて証拠能力を否定するのが相当であるとした上で,B及 も令状主義を没却する重大な違法があることに帰し,その証拠の証拠能力をも否定しないと将来の違法捜査の抑止の観点から意味がないと考えられるものについて証拠能力を否定するのが相当であるとした上で,B及びGに関する証拠については,本件検証と関連性のあるものも含まれているが,捜査機関が本件検証前に把握していた証拠や原判示第3及び第6の事案の重大性に鑑みれば,本件検証がなくても,捜査機関がいずれかの時期にB及びGにたどり着いていた可能性が十分にあったと認められるから,その関連性の程度は密接なものとまではいえないなどとし,I及びJに関する証拠についても,捜査機関が本件検証前に把握していた証拠に加え,本件放火等事件の事案の重大性等も踏まえれば,本件検証がなくても,捜査機関がいずれはI及びJに対する本件放火等事件の捜査に及んでいた可能性が十分に認められるから,本件検証と密接な関連性を有するものとはいえないなどとし,原審弁護人が証拠排除を求めた証拠のうち上記以外のものについては,本件検証と関連性がないか,関連性があってもその程度が密接なものとはいえず,証拠排除はしないとして証拠能力を認めた。 3 当裁判所の判断(1) 原判決の判断は,前提とした事実の認定に不合理なところがないなど,おおむね適切なものであって,原審の訴訟手続に法令違反はない。 以下,弁護人の主張を踏まえて補足する。 (2) 本件検証の違法性と検証調書等の証拠能力について - 6 -本件検証は,本件パソコンの内容を複製したパソコンからインターネットに接続してメールサーバにアクセスし,メール等を閲覧,保存したものであるが,本件検証許可状に基づいて行うことができない強制処分を行ったものである。 しかも,そのサーバが外国にある可能性があったのであるから,捜査機関とし ーバにアクセスし,メール等を閲覧,保存したものであるが,本件検証許可状に基づいて行うことができない強制処分を行ったものである。 しかも,そのサーバが外国にある可能性があったのであるから,捜査機関としては,国際捜査共助等の捜査方法を取るべきであったともいえる。そうすると,本件パソコンに対する検証許可状の発付は得ており,被告人に対する権利侵害の点については司法審査を経ていること,本件パソコンを差し押さえた本件捜索差押許可状には,本件検証で閲覧,保存したメール等について,リモートアクセスによる複写の処分が許可されていたことなどを考慮しても,本件検証の違法の程度は重大なものといえ,このことなどからすると,本件検証の結果である検証調書及び捜査報告書について,証拠能力を否定した原判決の判断は正当である。 (3) 原判示第3の危険物取扱者免状の偽造に関する証拠について原審証拠によれば,警察は,本件検証により把握したメールの内容等から,本件偽造の依頼者としてBを特定し,捜索差押許可状に基づいてB方を捜索し,偽造の危険物取扱者免状(以下「本件免状」という)等を差し押さえたことが認められるところ,原判決は,本件免状(原審甲145),その鑑定書(原審甲103),その偽造を依頼したB及びその偽造に利用された危険物取扱者免状の持ち主でBの知人であるCの各供述調書(原審甲104,105),Bの原審証言等を原判示第3の犯罪事実を認定した証拠として挙げている。 そこで,本件検証とこれらの証拠との関連性について見ると,原審証拠(原審甲52,100,101等)によれば,本件免状は,その偽造を依頼したBが,知人であるCの自宅から同人の危険物取扱者免状を勝手に持ち出し,それを利用して偽造されたもので,写真だけBのものに差し替えられ,それ以外はCの危険物取扱 よれば,本件免状は,その偽造を依頼したBが,知人であるCの自宅から同人の危険物取扱者免状を勝手に持ち出し,それを利用して偽造されたもので,写真だけBのものに差し替えられ,それ以外はCの危険物取扱者免状と同一内容であるところ,本件検証以前に,警察は,被 - 7 -告人方から押収されたプリンタ(押収品目録番号23。以下「本件プリンタ」という)のインクリボンの使用痕により,Bの顔写真に差し替えられた本件免状の内容を把握していたこと,本件免状の内容に基づいて大阪府に照会したところ,免状取得者台帳の内容としてCの顔写真や住所等の回答が得られたことが認められる。これらのことからすると,上記インクリボンの使用痕の内容に基づいて捜査を行えば,本件検証がなくても,その使用痕の顔写真を示すなどしてCから事情聴取をすることによってその知人であるBが本件免状の偽造の依頼者であると特定することが十分に可能であったといえる。そうすると,本件検証と上記証拠とは関連性があるものの,その関連性は密接なものではないといえる。 以上に加えて,上記のとおり,警察は,本件検証を行うに当たり,本件パソコンに対する検証許可状の発付を得ていること,本件捜索差押許可状には,本件検証で保存したメール等について,リモートアクセスによる複写の処分が許可されていたことなども踏まえると,上記証拠の証拠能力をも否定しないと将来の違法捜査の抑止の観点から意味がないとまでは考えられないから,上記証拠の証拠能力を肯定した原判決の判断は支持できる。 (4) 原判示第6の自動車運転免許証の偽造に関する証拠について原審証拠によれば,警察は,本件検証により把握したメールの内容等から,Gを特定し,捜索差押許可状に基づいてG方を捜索し,偽造の自動車運転免許証(以下「本件運転免許証」という) する証拠について原審証拠によれば,警察は,本件検証により把握したメールの内容等から,Gを特定し,捜索差押許可状に基づいてG方を捜索し,偽造の自動車運転免許証(以下「本件運転免許証」という)等が差し押さえられたことが認められるところ,原判決は,本件運転免許証(原審甲144),その鑑定書(原審甲80),Gの原審証言及び供述調書(原審甲84,83)等を原判示第6の犯罪事実を認定した証拠として挙げている。 そこで,本件検証とこれらの証拠との関連性について見ると,原審証拠(原審甲87,88)によれば,本件運転免許証の内容は,氏名等が架空であるも - 8 -のの,写真はG自身のものであり,住所もGが以前に住んでいたことのあるところであったところ,本件検証以前に,警察は,被告人方から押収したUSBメモリ(押収品目録番号35。以下「本件USBメモリ」という)の画像データにより,Gの顔写真が貼り付けられた「H」名義の本件運転免許証の内容を把握しており,また,本件運転免許証の偽造代金を郵送したときのものである可能性のある現金書留配達証も押収しており,その依頼主としてGの氏名が記載されていることが認められる。これらのことからすると,本件検証がなくても,Gの氏名等に基づいて捜査を行えば,Gを特定し,その住居を突き止めることが十分に可能であったといえる。そうすると,本件検証と上記証拠とは関連性があるものの,その関連性は密接なものではないといえる。 以上に加えて,上記(3)で指摘したことをも踏まえると,上記証拠の証拠能力をも否定しないと将来の違法捜査の抑止の観点から意味がないとまでは考えられないから,上記証拠の証拠能力を肯定した原判決の判断も支持できる。 弁護人は,本件運転免許証の写真と当時のGの自動車運転免許証の写真(原審甲84資料 査の抑止の観点から意味がないとまでは考えられないから,上記証拠の証拠能力を肯定した原判決の判断も支持できる。 弁護人は,本件運転免許証の写真と当時のGの自動車運転免許証の写真(原審甲84資料5)が全く似ておらず,後者の写真は運転免許証台帳のGの写真(原審甲906)とも似ていないから,本件検証がなければ,Gにたどり着けなかったと主張する。 しかしながら,本件運転免許証の写真と当時のGの自動車運転免許証の写真は,同一人物と特定できるほどでないものの,かなり似ているといえる。また,運転免許証台帳の写真は,平成26年に更新した際のものであり(原審甲906),当時のGの自動車運転免許証は,平成21年6月に交付されたものであることからすると,上記更新前に運転免許証台帳の捜査をして,その写真を見ていれば,本件運転免許証の写真の人物がGにかなり似ていることが把握できたといえ,また,その後に捜査をしていても,Gの可能性があるとしてGを特定する手掛かりにして捜査を進めた可能性は十分にあるといえる。したがって, - 9 -弁護人の主張を踏まえて検討しても,上記判断は変わらない。 (5) 原判示第8の非現住建造物放火等に関する証拠について原審証拠によれば,神奈川県警察本部の警察官らが,本件検証によりI及びJとの間のメールの内容等を把握した後に,偽造関係の被疑事実によりIの自宅において捜索差押えを行うとともに,I及びJを取り調べていた際に,Iが本件放火等事件を実行したことを認める供述をし,その情報が本件放火等事件の捜査を行っていた警視庁の警察官に提供され,警視庁の警察官らが本件放火等事件の被疑者としてI及びJを取り調べたことが認められるところ,原判決が原判示第8の各犯罪事実を認定した証拠として挙げるI及びJに関する証拠は,同人らの各 官に提供され,警視庁の警察官らが本件放火等事件の被疑者としてI及びJを取り調べたことが認められるところ,原判決が原判示第8の各犯罪事実を認定した証拠として挙げるI及びJに関する証拠は,同人らの各原審証言のみである。 そこで,本件検証とこれらの証拠との関連性について見ると,原審証拠(原審甲811)によれば,本件検証以前に,警察は,本件パソコンに保存されていた「破壊攻撃」という表題のフォルダ内に,原判示第8の2及び4の各犯行場所であるビルの所在地等が記載された「攻撃対象」という表題のテキストデータ,I及びJの氏名,住所,携帯電話の電話番号,メールアドレス等が記載された「最新スタッフ」という表題のテキストデータ等が一緒に格納されていることを把握していたことが認められ,このことなどからすると,本件検証がなくても,本件放火等事件に関してI及びJを取り調べ,同人らの各原審証言と同様の供述を得ることができたものといえる。そうすると,本件検証とI及びJの各原審証言との関連性はかなり希薄であり,これらの証拠の証拠能力を認めた原判決の判断も正当である。 (6) まとめ以上のとおり,本件検証を違法とした上で,本件検証と密接な関連性がない証拠について,証拠能力を認めた原判決の判断に誤りはなく,そのほかに弁護人が主張する点を踏まえて検討しても,原審の訴訟手続に法令違反はない。 - 10 -第3 事実誤認の主張について 1 弁護人の主張その骨子は,本件偽造事件は大規模組織による犯罪であり,被告人は,その組織により犯人に仕立て上げられたもので,被告人が本件各犯行の犯人であることを推認させるだけの事実はなく,本件に関係する人物として被告人の顔を見たとの証人5名の証言は,供述の核心部分に重大な欠陥があるなど信用できないから,被告人は ので,被告人が本件各犯行の犯人であることを推認させるだけの事実はなく,本件に関係する人物として被告人の顔を見たとの証人5名の証言は,供述の核心部分に重大な欠陥があるなど信用できないから,被告人は本件偽造事件の犯人であると認定できず,本件偽造事件の犯人と同一人とされている本件放火等事件の犯人であるとも認定できないのに,被告人が本件各犯行の犯人であるとした原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認があるというのである。 2 原判決の判断の要旨(1) 原判決は,本件各犯行の経緯について,原審証拠によれば,①本件偽造事件は,いずれもMサイトを閲覧した者が,Mメールアドレスに宛てて,偽造文書の作成を依頼し,その依頼を受けた人物が,依頼にかかる原判示第1ないし第7の各文書を偽造したものであり,②本件放火等事件は,Mサイトのスタッフ募集の記事を閲覧したI及びJが,それぞれMメールアドレス宛に仕事の応募をしたところ,「破壊工作屋」を名のる人物から,原判示第8記載の各建物への放火等を指示され,実行に及んだことが認められるとした。 (2) その上で,本件偽造事件の犯人が被告人であることについて,原判決は,原審証拠によれば,平成24年9月18日,被告人方を捜索した際,被告人方にあった本件パソコン,本件USBメモリ及び本件プリンタ並びに被告人の自動車内にあった「L」名義の自動車運転免許証は,本件偽造事件に使用された物品であることが認められ,このことなどからすると,本件偽造事件の犯人は,被告人方において,本件偽造事件の偽造文書を含む文書偽造の行為を行っていたことを強く推認させるとした。 - 11 -次に,原判決は,原審証拠によれば,被告人は,平成23年12月頃から平成24年9月18日まで被告人方に単身で居住していたもの 造の行為を行っていたことを強く推認させるとした。 - 11 -次に,原判決は,原審証拠によれば,被告人は,平成23年12月頃から平成24年9月18日まで被告人方に単身で居住していたものであること,本件パソコンは,本件捜索差押え時,スリープ状態で,パスワードを入れればすぐに使用できる状態であったこと,本件パソコンには,被告人の事業に関するテキスト文書を閲覧した形跡があり,印刷履歴のデータとして「X」名義のテキストデータが保存されていたこと,本件USBメモリには,F及びGの氏名,顔写真等が表示された自動車運転免許証のデータが保存されていたが,その背景レイヤーには,被告人の氏名,顔写真等が表示された自動車運転免許証の画像データが使用されていたこと,本件プリンタのインクリボンには,「X」等と記載された名刺様のものを印刷した跡があったことが認められ,これらのことなどからすると,被告人が被告人方にあった本件パソコン,本件USBメモリ,本件プリンタ等の物品及び被告人の自動車内にあった「L」名義の自動車運転免許証等の物品を使用又は管理していたことが推認できるとした。 また,原判決は,原判示第4,第5及び第7の各偽造文書の作成を「M」に依頼したD,F及びEは,Mの指定に従って鹿児島東郵便局局留めの「L」宛て現金書留で偽造代金を支払っているところ,平成24年春頃,同郵便局の窓口において「L」名義の自動車運転免許証を持参した人物に「L」宛ての現金書留を5回くらい交付したとする郵便局員の証言によれば,その人物は被告人に酷似していたことが認められ,被告人の自動車内に「L」名義の自動車運転免許証があったことをも合わせて考慮すれば,その人物が被告人であったと強く推認されるとした。 原判決は,以上の事実からすると,被告人が本件偽造事件の犯行に 告人の自動車内に「L」名義の自動車運転免許証があったことをも合わせて考慮すれば,その人物が被告人であったと強く推認されるとした。 原判決は,以上の事実からすると,被告人が本件偽造事件の犯行に直接関わっていたことが強く推認されるとした。 加えて,原判決は,原審証拠によれば,本件偽造事件よりも以前の平成21年から22年頃においても,被告人がMの関係者と名乗って4名の者と接触す - 12 -るなどしていたことが推認され,このことも上記推認を支えているとした。 他方,原判決は,被告人が,原審公判において,被告人方及び被告人の自動車内にあった本件偽造事件に使用された物品等は,被告人が出会い系サイトで知り合い継続的に性的関係を持っていた本名の分からない女性が持ち込んだものであると供述していることについて,その女性に関する供述は,極めて曖昧で不自然さが否定できない内容であるとした。 また,原判決は,原審証拠からすると,本件偽造事件に関与した者が複数名いる可能性は否定されるものではないが,上記のとおり,被告人が本件偽造事件の犯行に直接関わっていたことが推認できるのであって,共犯者の有無が確定できないことは,この認定に影響しないとした。 (3) さらに,本件放火等事件の犯人が被告人であることについて,原判決は,原審証拠によれば,本件放火等事件を実行したI及びJは,それぞれMメールアドレスにメールを送って仕事の依頼を求めたところ,破壊工作屋名のメールアドレス(以下「破壊工作屋メールアドレス」という)からメールが来て,その指示に基づいて本件放火等事件に及んだこと,本件パソコンには,「破壊攻撃」という表題のフォルダがあり,そのフォルダ内には,原判示第8の2及び4の各犯行場所であるビルの所在地等が記載された「攻撃対象」という表題 て本件放火等事件に及んだこと,本件パソコンには,「破壊攻撃」という表題のフォルダがあり,そのフォルダ内には,原判示第8の2及び4の各犯行場所であるビルの所在地等が記載された「攻撃対象」という表題のテキストデータ,I及びJの氏名,住所,携帯電話の電話番号,メールアドレス等が記載されたテキストデータが保存されていたことが認められるとした。 その上で,原判決は,上記のとおり,本件パソコンがMと称して行われた本件偽造事件で使用された物であること,被告人が本件偽造事件の犯人であることも総合すれば,本件偽造事件の犯人とI及びJに本件放火等事件の指示をした犯人は同一であり,被告人がI及びJに本件放火等事件の指示をしていたことが認められ,このことから,被告人とI及びJとの間で本件放火等事件の共謀があったと認定することができるとした。 - 13 - 3 当裁判所の判断(1) 原判決の判断は,その主要な説示に経験則等に照らして不合理なところはなく,原審記録を検討しても,原判決に事実の誤認はない。 以下,弁護人の主張を踏まえて補足して説明する。 (2) 本件偽造事件の犯人が被告人であることについて原判決が説示するとおり,原審証拠によれば,本件パソコンから,本件捜索差押え時にその付近にあった通信端末を通じてMアカウントにログインがなされ,Mサイトのブログにもアクセスしていること,本件パソコンには,原判示第5の自動車運転免許証の偽造を依頼したF名義の自動車運転免許証のデータ等が保存されており,本件USBメモリにも,F名義の自動車運転免許証のデータ,原判示第6の自動車運転免許証の偽造を依頼したG名義の自動車運転免許証のデータ,原判示第4及び第7の卒業証明書の偽造を依頼したD及びE名義の各卒業証明書のデータが保存されていたこと, 許証のデータ,原判示第6の自動車運転免許証の偽造を依頼したG名義の自動車運転免許証のデータ,原判示第4及び第7の卒業証明書の偽造を依頼したD及びE名義の各卒業証明書のデータが保存されていたこと,本件プリンタのインクリボンには,原判示第1及び第2の各学生証の偽造を依頼したA名義の各学生証,原判示第3の危険物取扱者免状の偽造を依頼したBの顔写真に入れ替えられたC名義の危険物取扱者免状を印刷した跡が残っていたこと,本件パソコン,本件USBメモリ及び本件プリンタは,被告人が東京都内から転居して平成23年12月頃から単身で居住していた被告人方にあったものである上,本件パソコンには,被告人の業務に関係する文書を閲覧した形跡等があり,本件USBメモリに保存されていた上記各自動車運転免許証のデータの背景レイヤーには,被告人名義の自動車運転免許証の画像データが使用されており,本件プリンタのインクリボンには,被告人の氏名等が記載された名刺様のものを印刷した跡もあったことからすると,被告人が本件パソコン,本件USBメモリ及び本件プリンタを専用していたものといえ,そのような物に本件偽造事件全ての偽造に関わる痕跡があったのであるから,本件偽造事件において偽造行為を実際に - 14 -行ったのは被告人であると推認することができる。 被告人は,原審公判において,交際していた氏名不詳の女性が本件パソコン等の物品を被告人方に持ち込んだなどと供述し,本件各犯行への関与を否定しているが,本件パソコン及び本件USBメモリに保存されていた被告人関係の上記データや本件プリンタのインクリボンに残された被告人関係の上記痕跡と整合しないことからしても,被告人の上記供述は信用できない。 以上のことからすると,被告人が本件偽造事件の犯人であるとした原判決の判断に事実の誤 タのインクリボンに残された被告人関係の上記痕跡と整合しないことからしても,被告人の上記供述は信用できない。 以上のことからすると,被告人が本件偽造事件の犯人であるとした原判決の判断に事実の誤認はない。 弁護人は,被告人の自動車内から発見された多数の自動車運転免許証は真正なもので,その保有者の住所地は全国各地に及んでいるが,このようなことができるのは警察関係者や反社会的勢力の関係者くらいなのに,被告人とこのような組織を結び付ける証拠がなく,また,本件USBメモリに保存されていた上記自動車運転免許証のデータの背景レイヤーに被告人名義の自動車運転免許証の画像データが利用されていたが,そのような被告人のデータを利用しているのは,組織が事件発覚に備えて,事情を知らない被告人に対して捜査の矛先を向けるために行ったものであるなどとして,原判決の判断は誤っていると主張する。 確かに,被告人の自動車内から発見された自動車運転免許証を被告人が入手した経緯は,証拠上明らかでないが,被告人の自動車内から発見された状況等からすると,被告人がこれらの自動車運転免許証を自ら管理していたと推認でき,それらの入手の経緯が不明であっても,被告人が本件偽造事件の犯人であるとの上記推認は揺らがない。また,背景レイヤーに被告人のデータが使われていたことについても,その経緯としては,様々な可能性が想定できるのであって,被告人が本件偽造事件の犯人であることと矛盾するとはいえず,上記推認を妨げるものではない。 - 15 -また,弁護人は,鹿児島東郵便局で窓口受付業務を担当していた郵便局員が,被告人がL宛ての現金書留を受け取りに来たと証言していることについて,被告人が持参したというL名義の自動車運転免許証の写真の顔は,被告人の顔とは異なることなどからすると 務を担当していた郵便局員が,被告人がL宛ての現金書留を受け取りに来たと証言していることについて,被告人が持参したというL名義の自動車運転免許証の写真の顔は,被告人の顔とは異なることなどからすると,上記証言は信用できず,上記証言から,被告人が上記現金書留を受け取りに来たと認定することはできないと主張する。 しかし,上記郵便局員は,局留めの現金書留の取り扱い自体が少ない中で,短期間に5回くらいも現金書留を受け取りに来たことから,その人物を意識するようになり,その人物の顔がL名義の自動車運転免許証の顔写真と違うのではないかとの疑問を持ちながらも,失礼になるのではないかと思って問いたださなかったとも証言しており,「L」宛ての現金書留を受け取りに来た人物が被告人であるとの記憶が上記郵便局員に残っていることに不自然なところはないことからしても,原判決が説示するとおり,上記郵便局員の証言によって,「L」宛ての現金書留を受け取りに来た人物と被告人の顔が同一人と思うほどよく似ていると認められ,このことに被告人の自動車内にL名義の自動車運転免許証があったことをも併せると,「L」宛ての現金書留を受け取りに来た人物は被告人であると推認できるとした原判決の判断に誤りはない。 そのほかに弁護人が主張する点を踏まえて検討しても,結論は変わらない。 (3) 本件放火等事件の犯人が被告人であることについて原判決が説示するとおり,I及びJは,それぞれ破壊工作屋と称する人物からのメールによる指示に基づいて本件放火等事件を実行したものであるところ,破壊工作屋からのメールは,Mを称する者から別の者からのメールが来ると伝えられた後に受け取ったもので,破壊工作屋と称する者は,Mと称する者が把握していたI及びJのメールアドレスを利用したものであること,Mと称す らのメールは,Mを称する者から別の者からのメールが来ると伝えられた後に受け取ったもので,破壊工作屋と称する者は,Mと称する者が把握していたI及びJのメールアドレスを利用したものであること,Mと称する者が用いた本件パソコンには,上記のとおり,本件放火等事件に関するデータが保存されていたことなどからすると,破壊工作屋と称する者とMと称する者 - 16 -は同一人物であると認められる。したがって,本件偽造事件の犯人である被告人が本件放火等事件の犯人でもあるとした原判決の判断に事実の誤認はなく,弁護人の主張を踏まえて検討しても,この結論は揺らがない。 第4 争点顕在化に関する訴訟手続の法令違反の主張について 1 弁護人の主張その骨子は,原審において,原審弁護人は,被告人以外に本件偽造事件に関与した者はいないことを前提に弁護活動を行ってきており,検察官も,原審弁護人の釈明要求に対して,単独犯として起訴した趣旨であると釈明していたのに,原判決は,共犯者ないし犯行に関与した者が存在していた可能性があるとした上で,被告人が本件各犯行の犯人であると認定しており,原審は,重要な争点を顕在化させて被告人に防御の機会を与えることなく,不意打ち判決をしたものであり,その訴訟手続には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反があるというものである。 2 当裁判所の判断確かに,原審記録によれば,本件偽造事件に関する各公訴事実には,訴因として共同正犯者の記載がなく,本件放火等事件に関する各公訴事実には,訴因としてI及びJ以外の共同正犯者の記載がなく,原審の第4回公判期日において,検察官が,本件偽造事件に関する各公訴事実について,共犯者の存在を認め得るだけの証拠がないため,被告人の単独犯として起訴していると釈明していることが認められる。 なく,原審の第4回公判期日において,検察官が,本件偽造事件に関する各公訴事実について,共犯者の存在を認め得るだけの証拠がないため,被告人の単独犯として起訴していると釈明していることが認められる。 しかし,原判決は,上記のとおり,原審証拠によれば,本件偽造事件の犯人が被告人方において本件偽造事件の偽造文書を含む文書偽造の行為を行ったこと,被告人が被告人方にあった本件パソコン,本件USBメモリ,本件プリンタ等の物品及び被告人の自動車内にあった「L」名義の自動車運転免許証等の物品を使用又は管理していたことが推認でき,これらのことなどから,被告人 - 17 -が本件偽造事件の犯行に直接関わっていたと推認できるとしたものであり,本件偽造事件に関与した者が複数名いる可能性が否定されるものではないとの説示は,上記推認を妨げる事情がないことを説明したものであって,本件偽造事件の各公訴事実や検察官の上記釈明に反する認定をしたものではない。したがって,原判決が被告人の防御権を害するような不意打ちの認定をしたとはいえず,原審の訴訟手続に法令違反はない。 第5 結語以上のとおり,弁護人の控訴趣意はいずれも理由がないので,刑事訴訟法396条により本件控訴を棄却する。刑法21条を適用して当審における未決勾留日数中170日を原判決の刑に算入する。 (裁判長裁判官秋葉康弘裁判官香川徹也裁判官須田雄一)
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