平成11(ワ)12142 損害賠償請求

裁判年月日・裁判所
平成16年5月14日 東京地方裁判所
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判決文本文58,056 文字)

平成16年5月14日判決言渡平成11年(ワ)第12142号損害賠償請求事件口頭弁論終結の日平成16年2月17日判決 主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は,原告に対し,金278億5867万8750円及びこれに対する平成11年6月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 第2 事案の概要本件は,原告の従業員であり,最終的には非鉄金属本部長を務めたAが,原告名義で行った銅地金取引により巨額の損失を生じさせ,その損失を取り戻すために銅地金の簿外取引を繰り返し,その資金繰りに充てる目的で,B銀行との間で原告名義で銅地金取引の法形式を用いて実質的融資契約を締結して資金を調達したため,その後,B銀行が原告に対して278億5867万8750円の支払を求めたところ,原告が返還を求める権利を留保した上で支払に応じたという事案において,原告が,B銀行を包括承継した被告に対し,不法行為又は不当利得に基づき,被告に支払った278億5867万8750円の支払を求めている事件である。 1 争いのない事実等(認定事実については末尾に証拠を掲記する。)(1) 原告は,銅地金等の非鉄金属を含む各種物資の輸出入,販売等を業とする総合商社である。 Aは,昭和45年4月に原告に入社し,昭和48年4月に原告非鉄金属本部東京非鉄金属第一部銅地金金属課に配属された後,一貫して銅地金取引を担当し,昭和56年4月に東京非鉄金属第一部における銅地金チームのサブリーダー,昭和62年8月に非鉄地金・原料部における銅地金チームのチームリーダー,平成4年10月に非鉄金属部銅・鉛・亜鉛地金チームのチームリーダー,平成5年12月に非鉄金属部次長兼ディーリングチームのチームリ 昭和62年8月に非鉄地金・原料部における銅地金チームのチームリーダー,平成4年10月に非鉄金属部銅・鉛・亜鉛地金チームのチームリーダー,平成5年12月に非鉄金属部次長兼ディーリングチームのチームリーダーを経て,平成7年1月,非鉄金属本部非鉄金属部長兼ディーリングチームのチームリーダーに任命されたが,銅地金の不正取引に関与したとして,平成8年6月に懲戒解雇された(弁論の全趣旨)。 (2) 被告は,スイス連邦法により設立された銀行業を目的とする法人であり,平成10年6月29日,B銀行とC銀行が合併して両銀行の権利義務を包括承継した。 なお,被告は,本店をスイスのチューリッヒに設置し,わが国において継続的取引活動を行うため,東京支店を設置している。 (3) 原告においては,銅地金の実需取引(生産者である産銅業者等から銅地金等を購入して需要者に売り渡す取引)のほか,ロンドン金属取引所(以下「LME」という。)等の海外先物取引市場において,銅地金の先物取引(将来の一定の受渡し時点(限月)における銅地金の価格をあらかじめ約定した上,実際に取引の対象とされた銅地金の受渡しを行う場合は当該時点における銅地金の相場価格にかかわらず約定価格に基づいてこれを決済し,限月の到来前に売戻し又は買戻しを行う場合は当該時点における銅地金の相場価格と約定価格との差金の授受により決済する取引)やオプション取引(将来の一定時点に一定数量の銅地金を一定の価格で売る権利(プット・オプション)又は買う権利(コール・オプション)を売買する取引)も行っていた。 (4) 原告の内部規程には,要旨次の定めがある(甲9の1,9の2)。 ア経理規程(ア) 財務グループは,全会計単位を総合して資金の集中等により資金運用の調節をはかるとともに必要な資金の調達に当たる。ただし,特に認められた会 旨次の定めがある(甲9の1,9の2)。 ア経理規程(ア) 財務グループは,全会計単位を総合して資金の集中等により資金運用の調節をはかるとともに必要な資金の調達に当たる。ただし,特に認められた会計単位は,独立して資金の調達運用をはかることができる(48条)。 (イ) 取引銀行の決定,変更は,財務グループの承認を要する(51条)。 イ財務規程(ア) 財務グループは,財務グループ担当の指示により,事業活動に必要な資金の調達とその運用・配分業務を実施する(3条2項2号)。 (イ) 資金の調達は,金融環境,金利動向に十分留意の上,経理規程及び関係細則,その他社内諸規則に定めるところにより行うものとする(4条)。 (ウ) 金融機関のうち,当社が取引を行う金融機関の決定,変更は,財務グループの所管部長経由申請を行い,その承認に基づき行うものとする。ただし,① 管理協力部門各グループが取引を行う金融機関の決定・変更(当該各グループにて行うものとし,事後,財務グループ担当に通知するものとする。),② 商取引にかかわる取引金融機関の決定・変更(財務グループ担当が指定するものを除く。)については,これを要しない(9条1項)。 (エ) 財務グループは,当社全体の金融機関との取引の把握及びその与信リスクの管理を行うものとする(9条2項)。 (5) Aは,平成7年7月25日,原告のためにすることを示して,B銀行との間で,要旨以下の内容による銅地金代金付加払特約付金利交換契約を締結し(以下「本件契約1-①」という。),B銀行は,これに基づき,同月27日,D銀行ニューヨーク支店を通じてE銀行香港支店のE商事事香港有限公司(原告の完全子会社。 以下「E商事香港」という。)名義の口座に対し,ア(ア)とイ(ア)の一括前払金の差額である2億0500万米ドルを送金した(甲3の1, 店を通じてE銀行香港支店のE商事事香港有限公司(原告の完全子会社。 以下「E商事香港」という。)名義の口座に対し,ア(ア)とイ(ア)の一括前払金の差額である2億0500万米ドルを送金した(甲3の1,3の2,乙5)。 ア想定元本を5億米ドル,発効日を平成7年7月27日,満了日を同年11月28日とする金利スワップ取引(T9507. 145T)(ア) B銀行は,同年7月27日,原告に対し,2億0504万8000米ドルを一括前払する。 (イ) 原告は,同年11月28日,B銀行に対し,年6.248%の固定金利を支払う。 (ウ) B銀行は,同年11月28日,原告に対し,米ドル-LIBOR(ロンドンのユーロ市場における銀行間の出手金利)-BBAによる変動金利を支払う。 (エ) B銀行は,同年11月28日,原告に対し,以下の数式(a)及び(b)により算出された金額の合計(単位米ドル)を追加支払する。 a 以下のうちより大きいもの(0又は[LME価格(B銀行により価格決定日に定められる指定価格)-3220]×24万9353. 959524)b 以下のうちより大きいもの(0又は[2380-LME価格]×24万9353. 959524)イ想定元本を5億米ドル,発効日を同年7月27日,満了日を同年11月28日とする金利スワップ取引(T9507. 147T)(ア) 原告は,同年7月27日,B銀行に対し,4万8000米ドルを一括前払する。 (イ) B銀行は,同年11月28日,原告に対し,年6.248%の固定金利を支払う。 (ウ) 原告は,同年11月28日,B銀行に対し,米ドル-LIBOR-BBAによる変動金利を支払う。 (エ) 原告は,同年11月28日,B銀行に対し,以下の数式(a)及び(b)により算出された金額の合計(単位米ドル)を追加支払する。 a に対し,米ドル-LIBOR-BBAによる変動金利を支払う。 (エ) 原告は,同年11月28日,B銀行に対し,以下の数式(a)及び(b)により算出された金額の合計(単位米ドル)を追加支払する。 a 以下のうちより大きいもの(0又は[LME価格-2380]×24万9353. 959524)b 以下のうちより大きいもの(0又は[3220-LME価格]×24万9353. 959524)ウこの本件契約1-①は,形式的には,原告とB銀行との間で一定額の銅地金代金の付加的支払と併せて所定額に係る固定金利と変動金利を交換する形式をとるが,実質的には,双方の支払(ア(ア)とイ(ア),ア(イ)とイ(イ),ア(ウ)とイ(ウ),ア(エ)とイ(エ))が相殺される結果,原告が,B銀行から,発効日(同年7月27日)に一定額(双方の一括前払金の差額である2億0500万米ドル)の支払を受け,B銀行に対し,満了日(同年11月28日)にこれに金利を付加した額(24万9353. 959524米ドルに840((ア)d(a),(イ)d(b)の3220から(ア)d(b),(イ)d(a)の2380を控除した額)を乗じた2億0945万7326米ドル)を支払うもので,B銀行の原告に対する実質的融資の意味を有していた。 (6) Aは,平成7年9月26日,原告のためにすることを示して,B銀行との間で,要旨以下の内容による銅地金代金付加払特約付金利交換契約を締結し(以下「本件契約1-②」という。),B銀行は,これに基づき,同月27日,D銀行ニューヨーク支店を通じてE銀行香港支店のE商事香港名義の口座に対し,双方の一括前払金の差額である4964万6550米ドルを送金した(甲4の1,4の2,乙6)。この本件契約1-②も,本件契約1-①と同様,実質的には,原告が,B銀行から,同日に4964万65 に対し,双方の一括前払金の差額である4964万6550米ドルを送金した(甲4の1,4の2,乙6)。この本件契約1-②も,本件契約1-①と同様,実質的には,原告が,B銀行から,同日に4964万6550米ドルの支払を受け,B銀行に対し,満了日の同年11月28日に金利を付加した5018万0272米ドル(5万7878. 053237米ドルに867(ア(エ)a,イ(エ)bの3324からア(エ)b,イ(エ)aの2457を控除した額)を乗じた額)を支払うもので,B銀行の原告に対する実質的融資の意味を有していた。 ア想定元本を1億米ドル,発効日を平成7年9月27日,満了日を同年11月28日とする金利スワップ取引(T9509. 136T)(ア) 原告は,同年9月27日,B銀行に対し,4万8000米ドルを一括前払する。 (イ) B銀行は,同年11月28日,原告に対し,年5.867%の固定金利を支払う。 (ウ) 原告は,同年11月28日,B銀行に対し,米ドル-LIBOR-BBAによる変動金利を支払う。 (エ) 原告は,同年11月28日,B銀行に対し,以下の数式a及びbにより算出された金額の合計(単位米ドル)を追加支払する。 a 以下のうちより大きいもの(0又は[LME価格-2457]×5万7878. 053257)b 以下のうちより大きいもの(0又は[3324-LME価格]×5万7878. 053257)イ想定元本を1億米ドル,発効日を同年9月27日,満了日を同年11月28日とする金利スワップ取引(T9509. 138T)(ア) B銀行は,同年7月27日,原告に対し,4969万4550米ドルを一括前払する。 (イ) 原告は,同年11月28日,B銀行に対し,年5.867%の固定金利を支払う。 (ウ) B銀行は,同年11月28日,原告に対し,米ド ,原告に対し,4969万4550米ドルを一括前払する。 (イ) 原告は,同年11月28日,B銀行に対し,年5.867%の固定金利を支払う。 (ウ) B銀行は,同年11月28日,原告に対し,米ドル-LIBOR-BBAによる変動金利を支払う。 (エ) B銀行は,同年11月28日,原告に対し,以下の数式a及びbにより算出された金額の合計を追加支払する。 a 以下のうちより大きいもの(0又は[LME価格-3324]×5万7878. 053257)b 以下のうちより大きいもの(0又は[2457-LME価格]×5万7878. 053257)(7) Aは,平成7年11月24日,原告のためにすることを示して,B銀行との間で,要旨以下の内容による銅地金代金付加払特約付金利交換契約を締結した(甲5の1,5の2。以下「本件契約2」という。)。この本件契約2も,本件契約1-①及び本件契約1-②(以下,両契約を併せて単に「本件契約1」という。)と同様,実質的には,原告が,B銀行から,同日,2億5464万6550米ドルの支払を受け,B銀行に対し,満了日の平成8年2月28日に金利を付加した2億5871万3821. 28米ドル(28万7459. 801427米ドルに900(ア(エ)a,イ(エ)bの3450からア(エ)b,イ(エ)aの2550を控除した額)を乗じた額)を支払うもので,B銀行及びAにとっては,原告に対する実質的融資の期限延長の意味を有していた。 ア想定元本を5億米ドル,発効日を平成7年11月28日,満了日を平成8年2月28日とする金利スワップ取引(T9511. 149T)(ア) B銀行は,平成7年11月28日,原告に対し,2億5469万4550米ドルを一括前払する。 (イ) 原告は,平成8年2月28日,B銀行に対し,年6. 03%の固定金利を支払う . 149T)(ア) B銀行は,平成7年11月28日,原告に対し,2億5469万4550米ドルを一括前払する。 (イ) 原告は,平成8年2月28日,B銀行に対し,年6. 03%の固定金利を支払う。 (ウ) B銀行は,平成8年2月28日,原告に対し,変動金利オプション米ドル-LIBOR-BBAによる変動金利を支払う。 (エ) B銀行は,平成8年2月28日,原告に対し,以下の数式(a)及び(b)により算出された金額の合計(単位米ドル)を追加支払する。 a 以下のうちより大きいもの(0又は[LME価格-3450]×28万7459. 801427)b 以下のうちより大きいもの(0又は[2550-LME価格]×28万7459. 801427)イ想定元本を5億米ドル,発効日を平成7年11月28日,満了日を平成8年2月28日とする金利スワップ取引(T9511. 151T)(ア) 原告は,平成7年11月28日,B銀行に対し,4万8000米ドルを一括前払する。 (イ) B銀行は,平成8年2月28日,原告に対し,年6. 03%の固定金利を支払う。 (ウ) 原告は,平成8年2月28日,B銀行に対し,米ドル-LIBOR-BBAによる変動金利を支払う。 (エ) 原告は,平成8年2月28日,B銀行に対し,以下の数式a及びbにより算出された金額の合計を追加支払する。 a 以下のうちより大きいもの(0又は[LME価格-2550]×28万7459. 801427)b 以下のうちより大きいもの(0又は[3450-LME価格]×28万7459. 801427)(8) Aは,平成8年2月26日,原告のためにすることを示して,B銀行との間で,要旨以下の内容を含む銅地金先渡相互取引契約を締結した(以下「本件契約3」という。)。B銀行は,これに基づき,同月28日,E銀行ロンド 成8年2月26日,原告のためにすることを示して,B銀行との間で,要旨以下の内容を含む銅地金先渡相互取引契約を締結した(以下「本件契約3」という。)。B銀行は,これに基づき,同月28日,E銀行ロンドン支店に開設された英国E商事会社(以下「英国E商事」という。)名義の口座に対し,前払金のうち1億5280万4200米ドルを,E銀行香港支店に開設されたE商事香港名義の口座に対し,前払金のうち1億0219万5800万米ドルをそれぞれ送金した(甲6の1の1,6の1の2,6の2の1,6の2の2,乙8)。この銅地金先渡相互取引契約は,形式的には,原告とB銀行との間で一定数量の銅地金の売買取引と同数量の銅地金の反対売買取引を行うことを基本とする形式をとるが,売買取引と反対売買取引が相殺される結果,B銀行から原告に対する実質的融資の性質を有していた。 ア原告は,平成8年2月26日,B銀行に対し,LME銅10万メトリックトンを売り,B銀行は,英国E商事及びE商事香港に対し,同月28日,代金2億5500万米ドルを前払する。 イ B銀行は,同月26日,原告に対し,LME銅10万メトリックトンを売り,原告は,B銀行に対し,同年4月26日,代金2億5733万7000米ドルを支払う。 (9) Aは,平成8年4月24日,原告のためにすることを示して,B銀行との間で,要旨以下の内容を含む銅地金先渡相互取引契約を締結した(甲7の1の1,7の1の2,7の2の1,7の2の2。以下「本件契約4」という。)。この本件契約4は,B銀行及びAにとっては,本件契約3による実質的融資の期限を同年5月30日まで延長する意味を有していた(乙9)。 ア原告は,平成8年4月24日,B銀行に対し,LME銅10万メトリックトンを同月26日に代金2億5500万米ドルを前払するとの約定で売る。ただし,前 月30日まで延長する意味を有していた(乙9)。 ア原告は,平成8年4月24日,B銀行に対し,LME銅10万メトリックトンを同月26日に代金2億5500万米ドルを前払するとの約定で売る。ただし,前払代金の支払は,本件契約3により相殺する。 イ B銀行は,同月24日,原告に対し,LME銅10万メトリックトンを売り,原告は,同年5月30日,B銀行に対し,代金2億5640万米ドルを支払う。 (10) Aは,平成8年5月28日,原告のためにすることを示して,B銀行従業員でコモディティ・リスク・マネジメントを担当していたFとの間で,要旨以下の内容を含む銅地金先渡相互取引契約を締結する旨口頭で合意した(甲8の1の1,8の1の2,8の2の1,8の2の2。以下「本件契約5」といい,本件契約1ないし5を併せて単に「本件契約」という。)。この本件契約5は,B銀行及びAにとっては,本件契約4による実質的融資の期限を同年7月26日まで延長するとの意味を有していた。 ア原告は,B銀行に対し,平成8年5月28日,LME銅10万メトリックトンを同月30日に代金2億5500万米ドルを前払するとの約定で売る。ただし,前払代金の支払は,本件契約4により相殺する。 イ B銀行は,原告に対し,同月28日,LME銅10万メトリックトンを売り,原告は,同年7月26日,B銀行に対し,代金2億5735万5000米ドルを支払う。 (11) B銀行は,平成8年7月ころ,原告に対し,本件契約5に基づく債務の履行として2億5735万5000米ドルの支払を求めたところ,原告は,B銀行に対し,同月26日,Aが関与していた全取引の内部調査を完了するまではこの支払の根拠となる取引について黙認ないし同意するものではないこと,調査の結果,適切と思われる場合にはこの支払の返還を求める権利を留保することを表明 Aが関与していた全取引の内部調査を完了するまではこの支払の根拠となる取引について黙認ないし同意するものではないこと,調査の結果,適切と思われる場合にはこの支払の返還を求める権利を留保することを表明した上で,2億5735万5000米ドル(当時の為替交換レート換算で278億5867万8750円)を支払った(甲10の1,10の2,11の1,11の2,12,13)。 3 争点及び争点に関する当事者の主張(1) 原告への本件契約の効果帰属の成否ア本件契約についてのAの権限の有無【被告の主張】Aは,平成7年1月から平成8年6月までの間,原告非鉄金属部長として,その業務全般について広範な代理権を有しており(商法43条1項),かつ,本件契約は,以下のとおり,客観的に原告非鉄金属部の業務の範囲内のものである。したがって,Aは原告を代理して本件契約(特に本件契約3)を締結する権限を有していたものであり,本件契約の効果は原告に帰属する。 (ア) 原告は,平成6年2月1日ころ,LMEの会員に対し,原告取締役兼非鉄金属本部長のG作成名義の同日付け権限通知書(以下「本件権限通知書1」という。)を提出した。本件権限通知書1によれば,原告は,Aに対し,LMEに関連する一切の取引,すなわち,金属地金の単純売買及びオプション,スワップその他の多様なデリバティブ取引を含む一切の取引に関し,発注を行う権限,注文の執行を確認する権限,金銭支払その他の決済の細目を指示する権限,契約書に署名する権限,契約上の通知を行う権限を与えている。 (イ) 原告は,平成7年11月29日,B銀行に対し,平成6年1月1日付け権限証明書(以下「本件権限証明書」という。)を交付した。本件権限証明書によれば,原告は,G及びAに対し,LME金属取引及び関連取引に関する権限を与えている。 (ウ) に対し,平成6年1月1日付け権限証明書(以下「本件権限証明書」という。)を交付した。本件権限証明書によれば,原告は,G及びAに対し,LME金属取引及び関連取引に関する権限を与えている。 (ウ) 原告は,平成7年9月18日ころ,LMEの会員に対し,G作成名義の同日付け権限通知書(以下「本件権限通知書2」という。)を提出した。 (エ) Aは,自らの刑事被告事件における検察官面前調書(乙34)においても本件契約を締結する権限があったと供述している。 (オ) 原告法務部長のH作成の平成10年2月15日付け陳述書において,コモディティ・ファイナンスが外形的にはAの権限内の取引であったという記載がある。 【原告の主張】本件権限通知書1,本件権限通知書2(以下,本件権限通知書1及び本件権限通知書2を併せて,単に「本件権限通知書」という。)及び本件権限証明書にいうAの権限に属するLME取引とは,LMEにおける銅地金の市場価格の変動によって損益が発生又は確定するような取引(現物取引,先物取引,オプション取引)をいい,本件契約のように,銅地金の市場価格の変動に関係なくB銀行が一定金額を一定金利により一定期間融資するという取引とは全く性質が異なる。したがって,本件契約は,客観的にみてAに与えられた権限の範囲には含まれない。よって,Aは,本件契約を締結する権限を有していなかったものであり,本件契約の効果は原告に帰属しない。 イ内部的制限の対抗(商法43条2項)の可否【原告の主張】(ア) 原告の経理規程及び財務規程によれば,原告が金融機関との間で行う融資取引は,原告財務部の専権に属し,原告財務部の承諾なくコモディティ・ファイナンスなる手法による資金調達を行うことは認められない。その趣旨は,財務部による効率的かつ安定した資金調達計画の策定とともに,事業部 原告財務部の専権に属し,原告財務部の承諾なくコモディティ・ファイナンスなる手法による資金調達を行うことは認められない。その趣旨は,財務部による効率的かつ安定した資金調達計画の策定とともに,事業部門の独走をチェックする配慮に基づくもので,他の大手総合商社でも同様の制限がある。 (イ) 以下のとおり,B銀行は,本件契約を締結するに際し,銀行における正常な手続から大きく乖離した異常な手続をとり,また,本件契約の効果を原告に帰属させようと種々画策し,さらに,Aによる銅地金の不正取引にかかわる資金が原告の正規口座に入金された際には,事態の露見することを恐れ,原告に対して異常かつ不当な対応をした。以上の事情に照らせば,B銀行は,Aの包括的代理権に加えられた制限を知っていたか,少なくとも知らないことについて重大な過失があったことは明らかである。 ・ Aは,原告によって設定されていた社内規制を無視して銅地金の先物取引やオプション取引等を継続的に行い,巨額の簿外損を発生させ,その簿外損を清算する資金を獲得するため,架空ワラント(銅地金の倉荷証券)の売買取引,社内規制を無視した銅地金のオプション取引等の不正取引を行い,簿外損を累積させていた。 ・ Aは,平成7年5月ころ,B銀行の担当者であったFに対し,「銅地金取引で当社は相当な資金を使っているので,その資金の調達先を探している」,「ほかでもやっているが,B銀行でもできないか。」などと述べ,融資の可否について打診した。 ・ Fらは,250億円以上の巨額の資金を融資するに際し,財務部やGに対するAの借入れ権限や原告取締役会の承認の確認等,銀行として本件契約の締結前に当然に行うべき手続を意識的に怠った。 すなわち,B銀行は,平成7年6月16日ころ,Aの要請に応じられるか否かについて検討し,原告における資金調 取締役会の承認の確認等,銀行として本件契約の締結前に当然に行うべき手続を意識的に怠った。 すなわち,B銀行は,平成7年6月16日ころ,Aの要請に応じられるか否かについて検討し,原告における資金調達の実情に関し,「事業部(この場合は非鉄金属部)は,通常は財務部から資金調達を行う」,「今回提案する方法により,非鉄金属部は,有利な金利で直接B銀行から資金調達を行うことができる」ことなどを認識するとともに,原告を含むEグループに対する不使用のクレジットラインの削減,合理化等を行い,本件契約をISDA(国際スワップ・ディーラーズ協会)マスター契約(以下「ISDAマスター契約」という。)に依拠する取引として実行するものとした上で,「6か月までの200億円の合成ローンのクレジットラインを設定」し,さらに,「本クレジットラインの積極的活用が認められれば,このクレジットラインを拡大できるように,各種クレジットラインの再編を試みる」という結論になり,その際,「取引額から判断して決裁書が必要であり,これを本店に提出すべきである」ことが特に留保された。B銀行は,同年7月14日,「関連の契約書がE商事から適式に授権されたものであることを確認し,契約書類が完備するまでは取引を行ってはならない」,「取締役会による承認が必要であれば,それが得られていることを要確認」などの点を確認した。しかし,FらB銀行の融資担当者は,原告取締役会の承認その他Aに対する授権を証する書面等を原告から取得しようとせず,加えて,B銀行と原告との間でISDAマスター契約が締結されていなかったにもかかわらず,本件契約の締結を優先させることとし,2億5500万米ドルの融資を一度に実行すると,200億円のクレジットラインを超過してしまうため,とりあえず本件契約1-①を締結して2億0500万米 かかわらず,本件契約の締結を優先させることとし,2億5500万米ドルの融資を一度に実行すると,200億円のクレジットラインを超過してしまうため,とりあえず本件契約1-①を締結して2億0500万米ドルの融資を実行し,原告に対する他の銀行取引に関するクレジットラインの再編等がされたのを受けて,本件契約1-②を締結し,5000万米ドルのローンを実行した。 ・ FらB銀行の融資担当者は,本来であれば,本件契約は,その法的性格に従い,消費貸借契約の形式によれば足りるにもかかわらず,あえて,銅地金代金付加払特約付金利交換契約の方式を採用したが,これは,本件契約のことを原告財務部に発覚しにくくする意図に基づく措置であったことはいうまでもない。そして,本件契約2について現実の返済がされた後,本件契約3を締結するに当たっては,銅地金先物相互取引契約の方式が採用されたが,これは,FらB銀行の融資担当者がAの要請に応じて本件契約が原告財務部に発覚しにくくなるように特別の配慮を払ったものである。 ・ Fは,原告軽金属部担当者に対し,平成7年ころ,本件契約と同様のアルミ取引を利用した融資の申出をした際,同担当者から,アルミの市場価格の変動にかかわらない実質的融資であり,一事業部門にすぎない軽金属部が独断で行うことはできないとして断られた。 ・原告が,単なる営業担当部長にすぎないAに対し,2億5000万米ドルもの融資取引権限を与えることは取引慣行上あり得ない。また,Fは,2億5500万米ドルもの巨額の融資の当否を判断するため,Aに対し,その使途を確認するのが当然であるのに,使途を確認する書面を求めなかった。 ・ Aは,銅地金の不正取引により受けた損失の補てん金等を銅地金ディーラーに支払うため,本件契約により資金を調達し,E商事香港又は英国E商事を道具として るのに,使途を確認する書面を求めなかった。 ・ Aは,銅地金の不正取引により受けた損失の補てん金等を銅地金ディーラーに支払うため,本件契約により資金を調達し,E商事香港又は英国E商事を道具として損失隠しを行っていた。すなわち,Aは,E商事香港又は英国E商事に対し,ワラントを銅地金ディーラーから購入したからワラント代金を支払うようにと虚偽の事実を申し向けて銅地金ディーラーに補てん金等の支払をさせた上,ワラントをB銀行に売却したから入金があると虚偽の事実を申し向けてB銀行からの入金を受領させた。通常の融資であれば,融資資金が確実に融資先によって受領されたことを明確にしておくことが,融資先において返済債務を負担するに至ったことを画定するために不可欠であると思われるが,B銀行は,本件契約1及び本件契約3に係る資金を原告名義の口座に入金せず,Aから依頼されるままに本件融資に係る融資契約者名義である原告とは別法人であるE商事香港又は英国E商事の口座にこれを入金した。 ・ Aは,本件契約1の入金に関し,真実B銀行からワラントを購入したと誤解したE商事香港が,B銀行に対し,ワラント購入に伴う調整金を支払ったが,B銀行は,これを誤りとして返還することなく,かえって,B銀行東京支店内に原告及びE商事香港の認知しないE商事香港名義のサスペンスアカウント(別段預金口座。どの預金にも属さない顧客資金を処理するための預金勘定)を開設して調整金を同口座に保管し,本件契約1の金利に充当した。 ・本件契約が原告に対して行った通常の融資であれば,B銀行としては,原告の関係部署に対し,本件契約に関するバンクステートメント等の書類を送付したり,利息の請求をはばかる必要はなかったはずであるが,B銀行は,原告非鉄金属本部に対し,本件契約に関するバンクステートメント等の書 部署に対し,本件契約に関するバンクステートメント等の書類を送付したり,利息の請求をはばかる必要はなかったはずであるが,B銀行は,原告非鉄金属本部に対し,本件契約に関するバンクステートメント等の書類を送付せず,かえって,原告及びE商事香港には秘密裏に開設されたB銀行東京支店内のE商事香港名義のサスペンスアカウントから,利息を出金処理していた。 ・ B銀行日本地域審査部のIは,本件契約に関し,原告取締役会の承認その他Aに対する授権を証する書面等が原告から取得されず,また,本件契約がISDAマスター契約に依拠する契約として締結されなかった等,B銀行内の融資実行条件を無視して開始されたものであったことから,平成7年11月2日ころ,本件契約が原告内のいかなる権限に基づき締結されたものであるかについて疑問を提起するに至った。このIによる問題提起に対して,B銀行東京支店営業開発第一部のJは,原告取締役会の承認等を取得することにすると原告が本件契約を承認しないことになることを恐れ,「日本の商法第260条は,いかなる取締役も,重要な財産の処分,多額の借財等について拘束力を有する契約を締結できないものと規定しているが,具体的に何が「重要」であり,または「多額」であるかについては,商法には規定されていない。この点については裁判所の先例もない。」とし,さらに,「株主持分(平成7年3月に終了する会計年度現在で,6280億円)のうち,3ないし4%であれば,商法第260条においては「多額」とされない」,「当該合成ローンの名目金額は2億0500万米ドルであるから,十分に4%の範囲内である」という顧問弁護士の意見に依拠し,「日本では,金融取引について,取引相手方がその取締役会で承認することや,金融機関が取引相手方にその取締役会の承認を要求することは一般的でない。 4%の範囲内である」という顧問弁護士の意見に依拠し,「日本では,金融取引について,取引相手方がその取締役会で承認することや,金融機関が取引相手方にその取締役会の承認を要求することは一般的でない。」と結論した上で,本件契約の原告への法的帰属に関して,「B銀行は,E商事を代理して取締役兼非鉄金属本部長であるG氏が署名押印にした書簡を保有している。この「権限通知書」には,指定された職員及び同職員らが取引を行う権限を付与された事業活動の範囲が記載されている。」,「「表見代理人」理論によれば,B銀行は,別段の取締役会決議を経ておらず,又は社長からの権限付与がない場合であっても,一連のデリバティブ取引を含めたこの種の取引を締結することは,部署の長に付与された権利の範囲内であると正当に考えることができる善意の第三者とみなされうる。」などとし,原告が本件契約に基づく返還義務を負うことになるという見解を示した。 ・ Iは,平成7年11月10日ころ,同月28日における本件契約のロールオーバーはISDAマスター契約に原告の署名が得られない限り認められないと指示した。それにもかかわらず,B銀行の融資担当者は,ISDAマスター契約締結に向けての交渉が長期化したために,Iの指示を無視して,本件契約2のロールオーバーを見切り発車的に実施した。 ・ B銀行は,平成7年11月28日に本件契約1をロールオーバーする時点でISDAマスター契約に原告の署名が得られなかったことから,原告に本件契約の効果を帰属することを主張する法的根拠を作出しようとする意図に基づき,同月29日,Aを介し,原告をして,本件権限通知書を交付させ,さらに,同年12月1日ころ,Aを介して,Gをして,ISDAマスター契約書に署名させ,その発効日を同年1月23日まで遡及させた。 ・原告は,Aによる銅地 介し,原告をして,本件権限通知書を交付させ,さらに,同年12月1日ころ,Aを介して,Gをして,ISDAマスター契約書に署名させ,その発効日を同年1月23日まで遡及させた。 ・原告は,Aによる銅地金の不正取引の疑いを探知した米国商品先物取引委員会(CTCF)等による調査に対してAが専念して対応し得るように,平成8年5月9日付けで,Aを原告非鉄金属部の部長職から解いたところ,銅地金市場がこれに敏感に反応し,相場が落ち込んだ。B銀行は,そのことを承知していたのみならず,Aによる銅地金の不正取引に係る資金がB銀行東京支店に開設された原告の正規口座に誤入金されたことを契機として,原告財務グループから厳しい事実解明要求を受けていたにもかかわらず,あえてAの後任の部長には,儀礼的なあいさつをするにとどめ,Aの署名すらされていない契約書に基づき,ロールオーバーにより本件契約を継続した。 ・ Fらは,平成7年12月ころ,あえて同年1月まで日付を遡及させたISDAマスター契約書を作成し,Gに署名させたが,そのことを原告財務部に秘匿した上,原告財務部との間で正式に同趣旨の取引基本契約を締結するための交渉を重ねていた。 ・被告は,平成8年2月20日,GがB銀行東京支店長のKに対して本件契約を承認していたかのような言動をとったと主張するが,Gは,本件契約を全く認識していなかった。被告ら提出の平成8年2月20日付けB銀行関係者とGらとの面談記録(乙第14号証)は,「2550万米ドルのシンセティック・ローンについて」「詳細に話し合った」具体的経緯が何ら記載されておらず,極めて不自然である。面談は,単なる20分ないし30分程度の表敬訪問にすぎなかった。 ・平成8年3月ころ,Aの行った銅地金不正取引に係る資金がB銀行東京支店の原告名義の米ドル建て当座預金口座( ず,極めて不自然である。面談は,単なる20分ないし30分程度の表敬訪問にすぎなかった。 ・平成8年3月ころ,Aの行った銅地金不正取引に係る資金がB銀行東京支店の原告名義の米ドル建て当座預金口座(以下「本件当座預金口座」という。)に誤って入金された際,原告の財務関係者は,再三,B銀行に対し,事情の説明を求めたが,原告には秘密裏に本件契約を締結したことやAによる資金管理のためのサスペンスアカウントを開設していたことなどの事実が発覚することをおそれ,Aが同年6月5日に告白するまで,すべての真実を明らかにすることなく,縷々虚言を弄し,その場逃れの説明を行うに終始していた。仮にB銀行において,同年2月20日の面談等によって,Gが本件契約について認識していることを確認し,本件契約の効果が原告に帰属すると判断していたのであれば,B銀行が上記のような不合理な対応をとる必要はなかったはずである。 ・ Fが原告財務グループ為替資金部為替予約課のLに対して同年6月3日に送付したAの出金指示書は,本件契約4の期限延長の記載を含む実際の出金指示書と異なり,新たに作成したものであった。 ・ B銀行が,Mからの銅先物取引の引受けに応じたのは,特に原告の正規取引であることを確認し,5億米ドルを超える保証金を求めることにより,債権保全に問題ないと判断したためににすぎず,部長職解任の事実を知らなかった証左とはならない。 【被告の主張】(ア) 原告財務規程3条2項及び4条,経理規程48条1項本文によって,原告非鉄金属部が外部の金融機関との間でコモディティ・ファイナンスを行うことを禁止されているとは解されない。財務規定9条1項は,「管理協力部門各グループが取引を行う金融機関の決定・変更」,「商取引にかかわる取引金融機関の決定・変更」については,財部グループの承認を要しな を禁止されているとは解されない。財務規定9条1項は,「管理協力部門各グループが取引を行う金融機関の決定・変更」,「商取引にかかわる取引金融機関の決定・変更」については,財部グループの承認を要しない旨規定し,また,経理規定48条1項但書は,「特に認められた会計単位は,独立して資金の調達運用をはかることができる。」と規定している。これらの規定は,いずれも財務部以外の部門が直接に外部から資金調達することを前提としている。 (イ) 仮に原告財務規定,経理規定によって,原告非鉄金属部が外部の金融機関との間でコモディティ・ファイナンスを行うことを禁止されているとしても,同規程は内部的な制限にとどまる。B銀行は,以下のとおり,本件契約を締結するに際し,通常の銀行業務に要求されるのと変わりのない内部手続を経ており,B銀行は,Aの包括的代理権に加えられた制限につき善意又は無重過失であった。したがって,原告は,被告に対し,上記の内部的制限を対抗することはできない。 ・原告は,我が国の6大商社の一つに数えられる財閥系大手商社であり,銅関連事業は,原告にとって歴史的に重要な営業分野であると認識されていた。また,原告非鉄金属部の銅地金ディーリング・チームは,共産圏を除く世界の年間銅需要の5%に相当する50万トンを実需ベースで取り扱っていたことから,Aは,銅地金市場において,「5%の男」と賞賛されていた。 ・ Aは,平成7年6月ころ,B銀行従業員でコモディティ(商品)・リスク・マネジメントを担当していたFに対し,B銀行から原告非鉄金属部に対して直接資金提供するよう要請し,その理由として,原告財務部経由で資金調達した場合に財務部が上乗せするマージン分を節減し,原告非鉄金属部門の収益を向上させるためであると説明した。 ・ B銀行は,本件契約締結に際し,原告に対 要請し,その理由として,原告財務部経由で資金調達した場合に財務部が上乗せするマージン分を節減し,原告非鉄金属部門の収益を向上させるためであると説明した。 ・ B銀行は,本件契約締結に際し,原告に対するクレジットラインの設定,見直し等の内部手続を履せんした。 すなわち,B銀行東京支店の営業開発第一部ディレクターNは,本件契約1-①締結に先立つ平成7年6月13日,B銀行日本地域審査部の長であるIに対し,クレジットライン(与信限度額)の設定及び本件契約の承認を求め,B銀行本店のグループ・クレジット委員会(GCCM)は,同年7月14日,原告に対するコモディティ・デリバティブ用クレジット・ラインを約2億6700万米ドルに拡大すること及び本件契約の締結を承認した。 ・本件契約において銅の価格に関連したデリバティブ取引の形態をとったのは,Aの提案によるものであり,B銀行は,Aの説明に経済的合理性を認めたこと,原告は他の金融機関とも類似の取引をしているとの説明をしたことから,その提案を受けたものである。 本件契約のような,コモディティ・ファイナンス及びシンセティックローンは,金融機関が提供する一般的な取引形態の一つであり,決して特殊な取引ではない。現に,原告非鉄金属部は,平成5年以降,米国系の銀行数行からも同様に直接の資金調達を行っている。また,英国E商事のシニア・マネージャーが,O銀行担当者に対し,平成2年1月ころ,米ドル建てリバース金定期と称するコモディティ・ファイナンスを提案したこと(乙39)から,原告はその海外支店と同列に扱っていた英国E商事を利用してコモディティ・ファイナンスによる融資を受けていたと推認される。さらに,原告は,商品ファンドを利用したコモディティ・ファイナンスをしていたし,原告非鉄金属部の監査報告書の中でも,商品性のない 用してコモディティ・ファイナンスによる融資を受けていたと推認される。さらに,原告は,商品ファンドを利用したコモディティ・ファイナンスをしていたし,原告非鉄金属部の監査報告書の中でも,商品性のない投機的為替ディーリングを認めていた。 金融取引関係者であれば,本件契約の取引確認書を読めば,それが実質的には融資であることは容易に理解できるから,仮にFらにLMEの銅地金相場に基づく銅地金特約付金利交換契約及びLMEの銅地金相場を用いた銅地金先渡相互取引契約の形式によって実質的なローン取引を行うことが何らかの問題となり得ることを当時認識していれば,このような取引形態を採用することはなかった。また,本件契約3ないし6は,LME銅地金相場を用いた銅地金先渡契約であり,本件契約1及び2の方式によると銅地金の想定取引量が実際の支払額に比して不必要に大きくなるため,Aの要請により,想定取引量が支払額に見合った数量となる方式に変更したものである。 ・ Fは,原告軽金属部に対し,平成7年8月ころ,本件契約のことを告知して同様の取引を提案しており,本件契約が権限外ないしAの簿外取引の資金充当のためと認識していればこのような危険を冒すはずがない。B銀行と原告軽金属部との取引が成立しなかった理由は,条件面での交渉不調にすぎない。 ・原告は,平成7年3月期の決算報告によれば,総資産3兆7118億5500万円,資本金1694億0400万円,年間売上高14兆6295億1500万円,経常利益355億4700万円の巨大商社であった。これに対して,例えば本件契約3による与信総額は,2億5500万米ドル(平成8年2月28日当時の為替レート1米ドル=105円45銭で換算すると約268億8975万円)であり,原告の当時の総資産の約0.72%,株主総資本の約4.28%に過ぎ 額は,2億5500万米ドル(平成8年2月28日当時の為替レート1米ドル=105円45銭で換算すると約268億8975万円)であり,原告の当時の総資産の約0.72%,株主総資本の約4.28%に過ぎない。 ・原告との本件契約1及び本件契約4による金員をE商事香港又は英国E商事名義の口座に送金することについては,Aの指示書や振込口座の詳細を示す原告の定型書式において,原告の海外子会社を原告の海外支店と同列に扱っていたから,B銀行においても何ら不審を抱かなかった。 ・ Aは,原告をして海外子会社に本件契約に基づく資金を送金させるに当たり,原告内部においては,銅地金ディーラーとの架空のワラント取引が存在することとして社内処理を行っていたとのことだが,B銀行は,Aから,架空のワラント取引が存在するものとして,本件契約に係る資金が送金されているなどの説明を受けていない。 ・ B銀行は,財務部が資金提供する場合の年利LIBOR+0.5%程度に比して若干安い年利LIBOR+0.375%程度で資金提供することとした。 この金利は,原告に対する通常の融資の金利として相当な金利と変わりのないものだった。これは,B銀行において,Aが本件契約を締結する権限を有することについて,何ら疑いを入れていなかったことを示すものである。 ・ B銀行は,本件契約1の期限延長に応じるに当たり,Iの意見を受け,平成7年12月1日ころ,G及びAとの間でISDAマスター契約を締結したが,本件権限通知書等によりAの権限の範囲内であることを確認し,Gの署名も得ていたから,契約締結の事実を原告財務部に告知する必要はなかった。ISDAマスター契約の交渉と個別取引の実行が並行し,最終的にISDAマスター契約を日付を遡及させて締結することは通常のことであり,署名欄には実際の締結日が記載されてい 部に告知する必要はなかった。ISDAマスター契約の交渉と個別取引の実行が並行し,最終的にISDAマスター契約を日付を遡及させて締結することは通常のことであり,署名欄には実際の締結日が記載されていることからも,偽計の意図は全くなかった。B銀行が,その後も,原告財務部との間で別のISDAマスター契約の交渉を続けた理由は,銅取引の基本契約書と別に,金利及び通貨スワップ取引の基本契約書を締結するためにすぎず,原告財務部に対してISDAマスター契約締結を殊更秘匿したことはない。 ・ B銀行は,本件権限通知書1,2及び本件権限証明書により,Aの権限を確認したが,上記書面には,本件契約その他のコモディティ・ファイナンスを行うことについて,Aの権限を制限する文言は何ら含まれていない。 ・ B銀行は,本件契約3の締結に先立ち,日本の弁護士に法律意見を求め,本件契約について原告の取締役会による承認は不要であることを確認した。 ・ Aは,Fに対し,平成8年2月ころ,期限延長及び本件契約2から本件契約3への仕組み変更を求めた際,その理由として,本件契約は非鉄金属部の権限内で実行できるのに,取引量が不相当に大きくなると,財務部の目を引くことになり,本来しなくてよいはずの報告や説明の手間が生ずるのを避けたいと説明した。 ・ Fは,Aと面談し,本件契約3に先立つ平成8年2月19日,銅地金先渡契約が原告非鉄金属部の日常業務に含まれることを確認した。 ・ Nは,本件取引の継続の前提となるクレジット・ラインを確保するため,平成8年2月19日,Iに対し,コモディティ・デリバティブ用のクレジット・ラインを申請し,Iは,同月23日,これを承認した。 ・ B銀行東京支店長のKは,平成8年2月20日,B証券会社金融商品部長Pとともに,Gと面談し,Gが本件契約を了承していること,原告 のクレジット・ラインを申請し,Iは,同月23日,これを承認した。 ・ B銀行東京支店長のKは,平成8年2月20日,B証券会社金融商品部長Pとともに,Gと面談し,Gが本件契約を了承していること,原告非鉄金属部は外貨資金をコモディティ取引の形式(実質はローン取引)により外部から直接に調達していること,その目的は有利なレートによる資金調達にあること,それらの取引は原告内部でも容認されていること,調達された資金は銅取引に使用されていることを確認した。 ・本件契約1による債務の支払については,本件契約2による期限延長後,平成8年2月28日限り,約定どおり履行されたため,本件契約3の期限延長についても,原告の履行に特段疑念は抱かなかった。 ・原告は,平成8年5月9日付けでAを部長職から解任したとするが,これによる権限消滅は取引先に文書で通知するのが通常であるのに,そのような正式な通知も発表もなく,かえって,Fは,Aが同年6月初旬に昇進するとの情報を聞いていた。 ・本件契約は,FとAの口頭の合意によるものである。ISDAマスター契約が適用されるLME取引は,速やかに取引を成立させるため口頭で成約するのが一般的であり,取引確認書は,事後的な確認にすぎない。FとAは,本件契約4の満期である平成8年5月30日に先立って,本件契約5を口頭で締結し,期限延長を合意した。B銀行は,原告に対し,コンファメーション(取引確認書)を送付し,原告は,同年5月30日に経過利息相当分を支払ったが,同コンファメーションに署名をしなかった。B銀行は,原告に対し,コンファメーションへの署名を要求し,確認を求めた。そして,B銀行は,原告に対し,万一確認がされない場合には本件契約に基づくB銀行の債権と,原告からB銀行に差し入れられていた保証金を相殺する可能性を示唆した。 ・ ンへの署名を要求し,確認を求めた。そして,B銀行は,原告に対し,万一確認がされない場合には本件契約に基づくB銀行の債権と,原告からB銀行に差し入れられていた保証金を相殺する可能性を示唆した。 ・ B銀行は,平成8年6月7日,原告からの依頼により,Mからの銅先渡契約を引き受けた。Aが銅地金の不正取引の疑いで解任されたことを知っていれば,銅価格の下落及び原告の信用不安が想定できたと思われるから,引受けに応じたはずはない。同日の担保提供は2億5000万米ドルであり,その後に原告がAの取引による巨額損失を発表して銅地金相場が下落したため,約2億6000万米ドルの追加担保を求めたものであり,引受け時において債権保全に問題がなかったとはいえない。 ・ B銀行は,原告との間の平成8年3月26日付けスワップ・オプション取引(乙19)の約定に基づき,本件当座預金口座に275万0312.50米ドル及び定期預金利息2493. 28米ドルを,入金した結果,同月29日,原告に送付した本件当座預金口座の口座明細通知書(以下「本件口座明細通知書1」という。)の残高は275万2805.78米ドルとなっていた。ところが,原告は,B銀行に対し,同年4月中旬ころ,本件当座預金口座は原告財務部が外国為替取引等の決済のために開設した口座であるから毎月末の残高はゼロになるはずであると問い合わせた。B銀行の決済担当者は,原告に対し,上記残高は,銅取引に伴う入金を反映したものであると説明した上,当該銅取引の取引確認書の写しを原告財務部にファクシミリで送信した。上記問い合わせについて報告を受けたFは,Aに対して説明を求めたところ,原告財務部が管理する本件当座預金口座を原告非鉄金属部の銅関連取引に係る入金の決済に用いることを原告財務部が了知していなかったらしいことが判明した。その後 受けたFは,Aに対して説明を求めたところ,原告財務部が管理する本件当座預金口座を原告非鉄金属部の銅関連取引に係る入金の決済に用いることを原告財務部が了知していなかったらしいことが判明した。その後も原告から度々要求があったことから,Fは,Aに対し,それまで存在しなかったサスペンス・アカウントを利用して,本件当座預金口座の同年3月末残高をゼロとすることを提案し,Aの了承を得て,上記入金額はサスペンスアカウントへの入金として処理し,本件当座預金口座につき同年3月末残高をゼロとした口座明細通知書(以下「本件口座明細通知書2」という。)を作成した。ところが,原告財務部は,B銀行に対し,そのような処理では3月末残高をゼロとすることにもならず,平成8年3月中の銅取引に伴う入出金記録を口座明細通知書からすべて抹消するように強く要求してきた。そこで,B銀行は,やむを得ず,上記入出金記録を抹消した口座明細通知書(以下「本件口座明細通知書3」という。)を作成した。以上のとおり,B銀行は,原告との約定に従って,銅取引に基づく資金を本件当座預金口座に入金した後,原告からの指示に従って,本件当座預金口座から出金し,さらに,原告財務部からの強い要請により,本件当座預金口座の口座明細通知書を作成し直した。 ・ Fは,平成8年4月以降,原告から,本件当座預金口座への入出金の状況について,再三説明を求められていた。Fは,度重なる原告財務部からの問い合わせについて煩瑣であると思い,原告財務部と原告非鉄金属部との間の原告内部の問題として解決してもらうため,原告の取引担当者であったAに相談し,その後,Aと面会することになった。Aは,面会の場で新たに出金指示書を作成してFに交付し,原告財務部に出金指示書を送付するよう指示したため,Fは,原告財務部に対し,B銀行のアカウン あったAに相談し,その後,Aと面会することになった。Aは,面会の場で新たに出金指示書を作成してFに交付し,原告財務部に出金指示書を送付するよう指示したため,Fは,原告財務部に対し,B銀行のアカウンティング部門が作成した書類とともに,Aの作成した出金指示書を送付した。 以上のとおり,Fが原告財務部からの問い合わせに対してとった一連の行動は何ら不審なものではなく,B銀行の取引担当者として,実務的に自然な行動に出たにすぎない。 ウ表見代理(民法109条,110条)の成否【被告の主張】 1 本件契約締結の当時,B銀行において,Aが本件契約(特に本件契約3)を締結する権限を有していると信じたことにつき,「正当の理由」が存在した。したがって,本件契約の効果は原告に帰属する。 2 原告は,B銀行に対し,本件権限通知書及び本件権限証明書によって,本件契約3を締結する権限がある旨を表示していた。なお,判例(最高裁昭和41年4月22日民集20巻4号752頁)によれば,代理権授与表示者が悪意又は過失を立証したときは,民法109条の責任を免れることができる。しかしながら,B銀行には,何らの過失を認めることはできないから,原告は,民法109条の責任を免れることができない。 【原告の主張】被告の主張は否認し,争う。 エ本件契約についてのAの権限濫用の成否【原告の主張】本件契約は,Aが,同人による銅地金の簿外取引に係る損失補てんに充当する資金を調達するため,すなわち,自己又は第三者の利益を図るために締結したものである。B銀行は,Aが,自己又は第三者の利益を図るために本件契約をしたことについて知り又は知らないことについて過失があった。 【被告の主張】B銀行が本件契約3に基づいてE商事香港及び英国E商事に送金した2億5500万米ドルは,最終的には原告東京本 に本件契約をしたことについて知り又は知らないことについて過失があった。 【被告の主張】B銀行が本件契約3に基づいてE商事香港及び英国E商事に送金した2億5500万米ドルは,最終的には原告東京本社に環流したものと推認される。仮に上記2億5500万米ドルがAによる銅地金の簿外取引に係る損失補てんに充てられたとしても,それによって,簿外取引に係る原告の第三者に対する責任が減少することになる。したがって,いずれにしても,本件契約は,本人である原告のために行われたものである。仮にAが「自己又は第三者の利益」を図るために本件契約を締結したとしても,B銀行には,かかる事実を知らなかったことについて過失はない。したがって,本件では,民法93条但書を類推適用する余地はない。 (2) B銀行の原告に対する不当利得返還請求権について【被告の主張】ア被告が本件契約に基づき原告に対し提供した資金は,以下のとおり,最終的に原告に環流しており,原告は,被告の損失の下に利得を得ている。そして,本件契約の効果が原告に帰属しない場合には,原告はかかる利得を保持する法律上の原因を有しないから,これを不当利得として被告に返還すべき義務を負う。 (ア) 本件契約1-①に係る資金は,Q,R,Sといった銅地金ディーラーに対して送金された後,最終的には原告東京本社の口座に入金されている。 (イ) 本件契約3に基づき平成8年2月28日にE商事香港及び英国E商事に送金した合計2億5500万米ドルは,最終的には原告東京本社に還流したと推認される。 この点に関し,被告は,本件訴訟を通じて一貫して原告に対して,本件契約に基づき原告が調達した資金の使途につき釈明を求めてきたが,原告が回答した内容はいずれも極めて趣旨不明なものにとどまっている。また,被告は,その後も続けて原告に対し て一貫して原告に対して,本件契約に基づき原告が調達した資金の使途につき釈明を求めてきたが,原告が回答した内容はいずれも極めて趣旨不明なものにとどまっている。また,被告は,その後も続けて原告に対して釈明を求めてきたが,原告代理人は,弁論準備期日において釈明を拒否するといった態度に出るに至っている。さらに,裁判所からの同様の釈明要求にもかかわらず,原告は,本件契約に基づき調達された資金の使途に関する的確な説明を一切拒否している。このような原告の訴訟態度は,本件取引に基づき調達された資金の使途が明らかになると,原告には,何らの損失・損害も生じていないことが明らかになるためであることを容易に推認させるものである。 イ仮に,本件契約3に基づく送金額合計2億5500万米ドルがAによる銅地金簿外取引の損失補てんに充当されたとしても,これにより原告が銅地金ディーラーに対して負う債務が減少するから,原告は,法律上の原因なく2億5500万米ドル相当の利得を得たことになり,これを不当利得として被告に返還すべき義務を負う。なお,原告は,Aによる簿外取引の効果が原告に帰属しないと主張するが,Aには原告のために銅地金取引を行う権限が付与されていたことについては当事者間に争いがなく,かつ,簿外取引といえども銅地金取引には変わりがない以上,Aによる簿外取引の効果は,原告に帰属することになる。 ウ A及びその使用者である原告は,法律上の原因のないことにつき悪意又は重過失ある受益者と認められるから,原告は,被告に対し,2億5500万米ドル及びこれに対する利得の日の翌日である平成8年3月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金(合計2億6016万9863米ドル),又は,少なくとも2億5500万米ドル及び履行期の翌日である平成8年4月27日から支払済 平成8年3月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金(合計2億6016万9863米ドル),又は,少なくとも2億5500万米ドル及び履行期の翌日である平成8年4月27日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金合計2億5821万3698米ドルの返還義務を負う。 【原告の主張】ア(ア) 本件契約1に係る資金は,本件契約3の締結に際し,AからB銀行に一旦現実に返還された。また,原告は,AがB銀行から本件契約1に係る資金を得ていたことはもとより,Aが簿外取引を行っており,本件契約1に係る資金を簿外取引の決済に充てていたことについて悪意重過失ではなかったから,最高裁判所判決(最高裁昭和49年9月26日民集28巻6号1243頁)に照らし,原告の受けたとされる利得には法律上の原因がある。したがって,B銀行は,原告に対し,不当利得返還請求権を有するものではない。 (イ) 本件契約3に係る資金は,Aが無権限で行った簿外取引の決済に充てられたのであり,原告に環流したことはない。 なお,被告は,本件契約3に係る資金がE商事香港又は英国E商事の口座に入金されたことによって,原告が利得を得たかのように主張する。しかし,かかる被告の主張は,原告とは別法人であるE商事香港又は英国E商事を原告と同一視することを前提とするものであるから,前提において失当である。また,E商事香港又は英国E商事への入金が直ちに原告の利益となるものでなく,Aの指示による銅地金ディーラーに対する支払の資金の形式的かつ一時的な通過点にすぎなかったから,これにより原告はもとよりE商事香港及び英国E商事が特別の利得をしたともいえない。 イ Aが原告から銅地金取引に関する権限が付与されていたことは事実であるが,Aに付与されていた銅地金取引に関する権限は,決して無制約な とよりE商事香港及び英国E商事が特別の利得をしたともいえない。 イ Aが原告から銅地金取引に関する権限が付与されていたことは事実であるが,Aに付与されていた銅地金取引に関する権限は,決して無制約なものではなく,原告においては,銅地金取引に関して取引限度枠等による社内規制による制限が設けられ,この取引限度枠等については,毎年社長の承認を得ることとされていた。原告が,銅地金取引に関して,かかる社内規制を設けているのは,銅地金が価格変動の激しい商品であることによるものであり,他の商社においても同様の社内規制が設定されているところであるから,銅地金ディーラーであれば,当然,かかる事情を承知しており,Aが原告の社内規制に違反して銅地金取引を行った場合には,Aによる銅地金取引の法的効果は,原告の追認がなされない限り,当然に原告に帰属することになるものではなく,例外的に,Aと善意無過失で取引を行った相手方である銅地金ディーラーの保護のため,個別的に,Aの所為について表見代理の成否が検討されるにすぎない。 本件において,善意・無過失で取引を行った銅地金ディーラーの特定さえなされておらず,原告が表見代理の法理に基づく責任を負うべきとされる立証も全くなされていない。また,Aが簿外で取引を行った銅地金ディーラーのうちには,Aが社内規制を無視して無権限かつ簿外で取引を行っていることを知り,又は当然知りうべき者が相当数含まれていたのであるから,Aの簿外取引の相手方である銅地金ディーラーの知情のいかんを全く無視し,Aの簿外取引の法的効果がすべて原告に帰属しうることを前提にして,原告において,本訴請求に係る2億5500万米ドルの融資取引の元本によって,Aの簿外取引のために被った損失を2億5500万米ドル分減少させたという利得が存するなどという主張は失当である 前提にして,原告において,本訴請求に係る2億5500万米ドルの融資取引の元本によって,Aの簿外取引のために被った損失を2億5500万米ドル分減少させたという利得が存するなどという主張は失当である。 Aが,簿外の銅地金取引の決済を行わなかった場合には,原告は,Aが無権限であったことについて善意無過失であった銅地金ディーラーから表見代理の成立を主張されることがあり,かかる場合には,個々の銅地金ディーラーとの関係において表見代理の成否が問題となるが,Aの行った簿外取引による債務は,本来の債務者であるAが簿外取引の相手方である銅地金ディーラーとの間で決済を完了してしまえば,その時点で原告が関与することなく消滅するのであるから,原告は,銅地金ディーラーから表見代理の成立を主張されることなどあり得ず,Aの行った簿外取引の効果を帰属させられることなく推移することになる。本件においては,Aは,本件契約3に係る資金を簿外取引の決済に充てたことにより,将来的にも銅地金ディーラーから表見代理の成立を主張されることはなくなった。したがって,本件契約3に係る資金がAの行っていた簿外取引の決済に充てられたことによっても,原告は,その負担する債務が消滅又は軽減されるという特別の利益を得たなどという関係にはない。 仮にAが本件契約3に係る資金を簿外取引の決済に充てたことによって,原告が何らかの利得を得たとしても,原告は,AがB銀行から本件契約3に係る資金を得ていたことはもとより,Aが簿外取引を行っており,本件契約3に係る資金を簿外取引の決済に充てていたことについて悪意重過失ではなかったことはいうまでもないから,最高裁判所判決(最高裁昭和49年9月26日民集28巻6号1243頁)に照らし,原告の受けたとされる利得には法律上の原因があることになり,B銀行が原告に 重過失ではなかったことはいうまでもないから,最高裁判所判決(最高裁昭和49年9月26日民集28巻6号1243頁)に照らし,原告の受けたとされる利得には法律上の原因があることになり,B銀行が原告に対して不当利得返還請求権を有するものではない。 (3) B銀行の原告に対する損害賠償請求権の有無【被告の主張】仮に原告の被告に対する本訴請求が全部又は一部認容されることになると,被告は認容額と同額の損害を被ることになる。上記損害は,原告の従業員であったAが原告の事業の執行について行った詐欺的行為により生じたものであるから,原告は,民法715条に基づき,被告に対し,上記損害を賠償する責任がある。被告は,原告の被告に対する本訴請求が全部又は一部認容されることを停止条件として,原告に対する損害賠償請求権と本訴請求債務とを対当額で相殺する。 【原告の主張】B銀行は,Aには本件契約を締結する権限のないことを承知した上で,B銀行自身のリスクにおいてA個人の特別の資金需要にこたえるために,A個人に対する特異な融資を行ったのであるから,原告は,本件契約締結に関するAの所為について使用者責任を負う立場にない。仮にAに本件契約を締結する権限のないことにつき,B銀行に悪意又は重過失が存しないとしても,B銀行に相当程度の過失があることは否定できないから,過失相殺が行われるべきである。 (4) 原告の被告に対する損害賠償請求権の有無について【原告の主張】ア B銀行の融資事務担当者は,Aによる銅地金の不正取引の事実が発覚した直後,Aが本件契約により調達していた金員について原告に返済義務がないことを知りながら,危機的状況にある原告の困惑等に乗じて,原告に対し,本件契約締結の経緯を明らかにしないまま,Aが本件契約により調達していた金員の支払を強く求め,原告 員について原告に返済義務がないことを知りながら,危機的状況にある原告の困惑等に乗じて,原告に対し,本件契約締結の経緯を明らかにしないまま,Aが本件契約により調達していた金員の支払を強く求め,原告をして,2億5735万5000米ドルの支払を余儀なくさせ,原告に同額の損害を与えた。 このように当時の混乱した状況において,原告をして,2億5735万5000米ドルの支払を余儀なくさせたB銀行の融資事務担当者の所為は,不当に原告の権利を侵害するものであり,原告に対する不法行為に当たる。 イ本件の原告に対する不法行為の基本は,上記のとおり,B銀行の融資担当者が,Aによる銅地金の不正取引が発覚した直後の混乱した状況下において,原告をしてB銀行に対する返還義務のない金員の支払を余儀なくさせた点にあるのであって,Aによる銅地金の不正取引防止に係る社内管理体制のいかんは,その性質上,原告がB銀行に対して本件契約に係る金員の支払を余儀なくされたことと何らの関係を持ち得ない事情であるから,被告の過失相殺に関する主張は失当である。 【被告の主張】ア B銀行は,平成8年7月26日,原告から,2億5735万5000米ドルの支払を受けたが,この支払は,法律上の原因に基づくものである。したがって,B銀行が上記金員を受領及び保持したことが,原告に対する不法行為を構成することはない。 イ以下のとおり,本件については,原告従業員のA及び原告の内部管理体制の不備に責任があり,本訴請求については過失相殺(民法722条)が適用されるべきである。 (ア) 原告は,Aが10年間にわたり簿外取引を続けており,平成3年末にはLMEからの調査依頼を受けたり,平成7年末には米商品先物取引委員会及び英国証券投資委員会から銅地金の異常な値動きの照会を受けたりした 告は,Aが10年間にわたり簿外取引を続けており,平成3年末にはLMEからの調査依頼を受けたり,平成7年末には米商品先物取引委員会及び英国証券投資委員会から銅地金の異常な値動きの照会を受けたりしたにもかかわらず,平成8年5月まで何ら実質的調査を行わなかった。 (イ) 内部監査においても,LMEディーラーとの定期的残高照合や管理体制整備の必要性が度々指摘されていたが,具体的改善は行われなかった。 (ウ) 原告は,Aが正規・簿外併せて年間約3兆円もの取引を扱っていることを知りうる立場にありながら,他の総合商社で行われているような取引部門(フロントオフィス)と事務管理部門(バックオフィス)の制度的分離を行わず,ディーラーであるAがポジションの管理及び外部との照合を自己完結的に行う体制を許していた。 (5) 原告の被告に対する不当利得返還請求権の有無について【原告の主張】B銀行は,本件契約締結に係るAの無権限につき悪意者の立場にありながら,原告に対し,本件契約5に基づき,278億5867万8750円の返済を要求し,原告から返済を受けたことによって,法律上の原因なくして,278億5867万8750円を利得した。したがって,原告は,B銀行の地位を承継した被告に対し,不当利得に基づき,利得金278億5876万8750円及びこれに対する利得の日の後の日である訴状到達の日の翌日である平成11年6月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による利息の支払を求める。 【被告の主張】原告の主張は否認し,争う。 ア本件契約の効果は原告に帰属するところ,原告は,被告に対し,本件契約5に基づき,2億5735万5000米ドルを支払ったものであるから,B銀行は,上記金員を受領し,かつ保持する法律上の原因を有する。 イ仮に本件契約の効果が原告に帰属しない場合であ 告に対し,本件契約5に基づき,2億5735万5000米ドルを支払ったものであるから,B銀行は,上記金員を受領し,かつ保持する法律上の原因を有する。 イ仮に本件契約の効果が原告に帰属しない場合であっても,B銀行が本件契約に基づき原告に提供した資金によって,原告は,B銀行の損失の下に利得を得ている。そして,このように本件契約の効果が原告に帰属しない場合には,原告は,かかる利益を保持する法律上の権限を有しないこととなる。したがって,原告は,本件契約に基づき被告が提供した資金に相当する額を,不当利得として被告に返還する義務を負っていたことになる。原告は,平成8年7月26日,B銀行に対し,2億5735万5000米ドルを支払ったが,上記支払額は,原告のB銀行に対する不当利得返還義務の対象金額(遅延損害金を含む。)を下回るものである。したがって,B銀行は,原告から,不当利得の返還として,2億5735万5000米ドルの支払を受けたものであり,B銀行は,上記金員を受領し,かつ保持する法律上の原因を有する。 (5) 被告の原告に対する不当利得返還請求権又は不法行為債権との相殺の可否【被告の主張】被告は,原告に対し,不当利得返還請求権又は使用者責任に基づく損害賠償請求権を有するから,これと本訴請求債権を対当額において相殺する。 【原告の主張】被告の主張は争う。 第3 争点に対する判断 1 認定事実前記争いのない事実等に加え,証拠(個別に掲記する。)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (1) 昭和60年ころ,原告の非鉄地金・原料部銅地金チームのサブリーダーであったAは,同チームのチームリーダーであったTとともに,LMEにおいて,原告名義で銅地金の先物取引,オプション取引等を行ったところ,相場の予想が外れ,巨額の損失を発生させた(甲 ムのサブリーダーであったAは,同チームのチームリーダーであったTとともに,LMEにおいて,原告名義で銅地金の先物取引,オプション取引等を行ったところ,相場の予想が外れ,巨額の損失を発生させた(甲20,証人A)。 (2) AとTは,銅地金取引による巨額の損失を原告に秘匿していたが,Tが原告を退社した昭和62年8月ころには,銅地金取引による累積損失額は,約65億円に達していた(甲20,証人A)。 (3) Aは,Tの退職後,非鉄地金・原料部銅地金チームのチームリーダーの地位に就いたが,銅地金取引による損失額を減らすために投機を目的とした銅地金取引を継続し,銅地金取引による巨額の損失を原告に秘匿するため,原告名義で行った銅地金取引の一部を簿外取引として処理したり,実際には利益を獲得していないのにこれを獲得したかのように偽って架空未収金を計上するなどの方策を講じていた。また,Aは,銅地金の簿外取引による損失の補填等に充てるため,架空のワラント(銅地金の倉荷証券)の売買代金,銅地金のオプション取引によるプレミアム等を取得することによって資金を調達していた(甲20,証人A)。 (4) Aは,以上のように,銅地金取引による巨額の損失を原告に秘匿しつつ,銅地金取引を継続し,銅地金市場における同人の取引量の多さから,「5%の男」,「世界的トレーダー」などの評価を受けていたが,現実には,損失額を減らすことができず,かえって累積損失額を増大させていた(甲20,乙18,証人A)。 (5) Fは,平成6年1月1日付けで,B銀行東京支店に入社し,コモディティ・リスクマネジメント部に配属された(乙51,証人F)。 (6) 原告は,平成6年2月1日ころ,LME会員らに対し,作成名義人を原告取締役兼非鉄金属本部長のGとし,原告が非鉄金属部次長のAに対してLMEに関連する一切 ト部に配属された(乙51,証人F)。 (6) 原告は,平成6年2月1日ころ,LME会員らに対し,作成名義人を原告取締役兼非鉄金属本部長のGとし,原告が非鉄金属部次長のAに対してLMEに関連する一切の銅取引(単純売買,スプレッド,オプション,商品スワップ取引及び多様なデリバティブを含む。)に関し,発注,受注及び執行の確認,支払の詳細並びにその他の事務処理及び決済上の細目のやりとり,契約書への署名,契約上の通知等を行う権限を授与することを内容とする同日付け本件権限通知書1を提出した(乙1)。 (7) Fは,平成6年2月中旬ころ,B銀行本店に所属するUからの指示に基づき,Aと接触し,B銀行は,同年3月ころから,原告との間で,非鉄金属取引に係るISDAマスター契約の締結に関する交渉を開始し,同年6月,原告非鉄金属部との間で銅地金取引を開始した(乙11,乙51,証人F)。 (8) Aは,平成7年1月,原告の非鉄金属部長に任命された。 (9) Aは,平成7年5月ころ,Fに対し,銅地金取引に関する資金を調達する必要があるとして,複数のデリバティブを組み合わせて融資の効果を生じさせる取引の可否について打診した。その際,Aは,Fに対し,非鉄金属部が資金調達する方法として,①原告の財務部から調達する方法,②E商事の海外法人から調達する方法,③取引先との銅地金取引によって資金調達する方法があること,③の方法によれば,①の方法による場合よりも,財務部が上乗せするマージン分だけ安いコストで資金調達できること,③の方法による資金調達については,財務部への相談は必要ないことを説明した(乙51,証人A)。 (10) B銀行東京支店営業開発第一部ディレクターのNは,平成7年6月13日,B銀行日本地域審査部の長であったIに対し,原告の事業部(本件では非鉄金属部)は財務部 とを説明した(乙51,証人A)。 (10) B銀行東京支店営業開発第一部ディレクターのNは,平成7年6月13日,B銀行日本地域審査部の長であったIに対し,原告の事業部(本件では非鉄金属部)は財務部から資金を調達するのが通常であるが,本件契約によればそれより有利な金利でB銀行から資金調達できるなどの事情を説明し,原告に対する6か月以下のデリバティブを利用した合成ローンに関するクレジットライン(与信限度額)を200億円に設定することの承認を求めた(乙26,40)。 (11) これに対し,Iは,平成7年6月16日,Nに対し,本件契約はISDAマスター契約に基づく取引として実行することができるとの判断を伝えたが,取引額に照らしB銀行本店の決裁が必要であると回答した(乙26,40)。 (12) Fは,平成7年7月5日,B銀行本店に所属するV及びUに対し,原告とB銀行とは間もなくISDAマスター契約を締結する予定であると報告した(乙32)。 (13) B銀行日本地域審査部は,平成7年7月11日,B銀行本店のグループ・クレジット委員会(GCCM)に対し,原告に対する6か月以下の無担保コモディティ・デリバティブに関するクレジットラインの引き上げについて承認を求めた(乙41)。 (14) B銀行本店のグループ・クレジット委員会(GCCM)は,平成7年7月14日,原告に対する6か月以下の無担保コモディティ・デリバティブに関するクレジット・ラインを,2850万スイスフラン(2500万米ドル)から3億0450万スイスフラン(約2億6700万米ドル)に拡大することを承認したが,同時に,B銀行日本地域審査部において,関連する契約書が原告により適式に承認されたものであることを確認するまでは本件契約を締結してはならないこと,B銀行東京支店において,本件契約により損益操作 が,同時に,B銀行日本地域審査部において,関連する契約書が原告により適式に承認されたものであることを確認するまでは本件契約を締結してはならないこと,B銀行東京支店において,本件契約により損益操作が行われるものではないこと,及び,取締役会の承認が必要である場合には,その承認が得られていることを確認する必要がある旨指示した(乙27,41)。 (15) Fは,平成7年7月25日,B銀行のためにすることを示して,Aとの間で,本件契約1-①を締結した(甲3,乙5,51,証人A,証人F)。 (16) B銀行は,平成7年7月27日,本件契約1-①に基づき,E銀行香港支店にあったE商事香港名義の口座に2億0500万米ドルを送金した(乙5,証人A,証人F)。 (17) Fは,平成7年8月上旬ころ,原告軽金属部アルミ部門に対し,アルミ取引を利用した本件契約1-①と同様の取引を提案したが,結局取引は成立しなかった(乙51)。 (18) Aは,平成7年8月29日,Fに対し,原告が同月31日にB銀行に対して141万0073.45米ドルを返済することを伝え,満期前の一部弁済についての了承を求めた(甲25の1,証人A)。 (19) Aからの通知により,B銀行からの入金がワラントの売却代金であると誤解したE商事香港は,平成7年8月31日,B銀行に対し,銅ワラント売却に伴う調整金として141万0073.45米ドルを支払い,B銀行は,B銀行東京支店に開設されたE商事香港名義のサスペンスアカウントに,上記金員を入金した(甲25の1)。 (20) 原告は,平成7年9月18日ころ,LME会員らに対し,本件権限通知書1と同趣旨の本件権限通知書2を提出した(乙2)。 (21) Fは,平成7年9月26日,B銀行のためにすることを示して,Aとの間で,本件契約1-②を締結した(甲4, LME会員らに対し,本件権限通知書1と同趣旨の本件権限通知書2を提出した(乙2)。 (21) Fは,平成7年9月26日,B銀行のためにすることを示して,Aとの間で,本件契約1-②を締結した(甲4,乙51,証人F)。 (22) B銀行は,平成7年9月27日,本件契約1-②に基づき,E銀行香港支店のE商事香港名義の口座に,4964万6550米ドルを送金した。 (23) 前記同様,B銀行からの入金をワラントの売却代金であると誤解したE商事香港は,平成7年10月はじめころ,B銀行に対し,銅ワラント売却に伴う調整金57万2887.55米ドルを送金した(甲25の2,証人A)。 (24) Aは,平成7年10月3日,Fに対し,E商事香港が同月2日付けで57万2887.55米ドルを送金したことを伝え,同金員を同年11月28日まで預金することを依頼した(甲25の2,証人A)。 (25) Iは,平成7年11月2日,B銀行東京支店営業開発第一部のN及びJに対し,① 本件契約につき取締役会の承認を受けなかった理由,② 本件契約が,原告におけるいかなる権限に基づき締結されたのか,当該権限で十分なのか,③本件契約による損益操作がないのかという点について回答を求めた(乙28)。 (26) これに対し,Jは,平成7年11月6日,Iに,① 日本においては,金融取引について取締役会で承認を経ることや金融機関が取引相手に対して取締役会の承認を経ることを要求することは一般的でないこと,B銀行が原告に対して取締役会の承認を要求した場合には,原告は,同月28日に本件契約に基づく債務を弁済した後,B銀行にとって利益率の高い本件契約を更新しないと予想されること,② B銀行は,原告の取締役兼非鉄金属本部長であるGの署名した本件権限通知書2を保有しており,本件権限通知書2には,指定された職 た後,B銀行にとって利益率の高い本件契約を更新しないと予想されること,② B銀行は,原告の取締役兼非鉄金属本部長であるGの署名した本件権限通知書2を保有しており,本件権限通知書2には,指定された職員及び同職員らが取引を行う権限を付与された業務活動の範囲が記載されており,「コモディティ・スワップ取引及びその他のデリバティブ」は当該業務活動に含まれること,取締役会決議を経ていない場合や社長からの権限の付与がない場合であっても,B銀行は表見代理によって保護されうること,③ 本件契約による損益操作の疑いはないことを書面で報告し,本件権限通知書2を添付した(乙29)。 (27) Iは,平成7年11月10日,本件契約につき取締役会の承認が不要であるとするJの見解に同意したが,ISDAマスター契約の署名が得られない限り,本件契約1の期限延長は認められないと指示した(乙29)。 (28) Fは,平成7年11月24日,B銀行のためにすることを示して,Aとの間で,本件契約2を締結し,本件契約1による実質的融資の期限を平成8年2月28日まで延長した(甲5,乙51,証人A)。 (29)  Aは,B銀行に対し,平成7年11月27日,原告がB銀行に対して同月28日限り本件契約1に係る利息額に相当する499万1048米ドルからE商事香港名義の預金額200万5617. 72米ドルを相殺した298万5430. 28米ドルを支払う旨通知した(甲25の3,乙7,証人A)。 (31) B銀行は,平成7年11月28日,本件契約1に係る利息として,前項のとおり相殺した後の残額298万5430. 28米ドルの支払を受けた(乙7)。 (32) 原告は,平成7年11月29日ころ,B銀行に対し,作成名義人を代表取締役社長とし,原告が非鉄金属本部長G及び非鉄金属部長Aに対してそれぞれ単独でLM . 28米ドルの支払を受けた(乙7)。 (32) 原告は,平成7年11月29日ころ,B銀行に対し,作成名義人を代表取締役社長とし,原告が非鉄金属本部長G及び非鉄金属部長Aに対してそれぞれ単独でLME金属取引及び関連取引に限定して原告のために署名する権限を授与している旨届け出るとの権限証明書(以下「本件権限証明書」という。)を交付した。 なお,本件権限証明書には,「Registrationofattorneys: 1.1.94」という記載がされている(甲24,乙3,証人A)。 (33) 原告は,平成7年12月1日,B銀行との間で,効力発生日を同年1月23日としたISDAマスター契約を締結し,原告側は,GとAが連名で署名し,B銀行側は,バイス・プレジデントのWとVが署名した(乙4)。 (34) Fは,平成8年1月29日,B銀行本店に所属するU,V,X及びYに対し,電子メールで,本件契約2からの取引形態を銅地金先渡相互取引契約に変えることを報告し,その是非について検討を求めた(乙12)。 (35) Fは,平成8年2月19日,K,P,J,N,X,U,Yらに対し,Aと同日面談し,①原告は,本件契約3を,非鉄金属部の通常の事業活動であるLME銅地金先渡相互取引契約として帳簿に記載することができること,② 原告は,本件契約を,ISDAマスター契約に基づく2個の契約として帳簿に記録するつもりであることを確認したという内容の報告をした(乙13,51)。 (36) Nは,平成8年2月19日,Iに対し,本件契約2の期限延期を容易にするため,為替・金利デリバティブに関するクレジットライン3億3760万スイスフランのうち2億7460万スイスフランを,コモディティ・デリバティブに関するクレジットラインに変更することを要請した(乙30,乙42)。 (37) Kは 関するクレジットライン3億3760万スイスフランのうち2億7460万スイスフランを,コモディティ・デリバティブに関するクレジットラインに変更することを要請した(乙30,乙42)。 (37) Kは,平成8年2月20日,Pとともに,原告東京本社を訪問し,G及びAと面談した(甲19,甲22の1,甲23,乙51,証人A,証人G,証人F)。 (38) Iは,平成8年2月23日,クレジットライン変更に関するNの要請を承認した(乙30,乙42)。 (39) Fは,平成8年2月26日,B銀行のためにすることを示して,Aとの間で,本件契約3を締結した。なお,本件契約3に係る確認書については,原告側はAが署名し,B銀行側はZとUが連名で署名した(甲6の1の1,1の2,乙51,証人A,証人F)。 (40) Aは,B銀行に対し,平成8年2月26日,本件契約2による支払額2億5871万3821. 28米ドルを,同月28日限り,ニューヨーク銀行ニューヨーク支店に開設されたB銀行東京支店の米ドル建て口座に対し,英国E商事から1億7354万8375米ドル,E商事香港から8516万5446. 28米ドルを送金する方法により支払うこと,同日限り,B銀行本店から2億5500万米ドルを受領することを確認するとの通知をした(乙8,証人A)。 (41) B銀行は,平成8年2月28日,本件契約2に基づき原告がB銀行から支払を受けた2億5464万6550米ドル及びこれに対する経過利息に相当する406万7271.28米ドルの合計2億5871万3821.28米ドルの支払を受けた。また,B銀行は,同日,本件契約3に基づき,E銀行ロンドン支店に開設された英国E商事名義の口座に1億5280万4200米ドルを,E銀行香港支店に開設されたE商事香港名義の口座に1億0219万5800米ドルを送金し ,同日,本件契約3に基づき,E銀行ロンドン支店に開設された英国E商事名義の口座に1億5280万4200米ドルを,E銀行香港支店に開設されたE商事香港名義の口座に1億0219万5800米ドルを送金した(乙8,証人A)。 (42) 平成8年3月末までにAが行った銅関連取引により,B銀行東京支店の原告名義の当座口座に272万2805.78米ドルが入金された。同年4月ころ,Aは,Fに対し,平成8年4月8日までに275万2805.78米ドルを本件当座預金口座から原告名義のサスペンスアカウントに送金した上,同年3月末日現在の口座明細書を再発行するように指示した(甲28の1,乙20)。 (43) B銀行は,平成8年4月8日,Aの指示に基づき,275万2805.78米ドルを本件当座預金口座から出金し,原告名義のサスペンスアカウントに入金し,更に,原告名義の定期預金口座に入金した(甲28の1,乙20,乙23)。 (44) B銀行は,平成8年4月中旬ころ,原告に対し,B銀行東京支店に開設された原告名義の本件当座預金口座に関する同年3月分の本件口座明細通知書1を送付した(甲13)。 (45) 原告財務グループ為替資金部為替予約課のアは,本件当座預金口座の平成8年3月29日現在の残高はゼロとなるべきところ,本件口座明細通知書1には同日の残高が275万2805.78米ドルと記載されていたことから,本件口座明細通知書1の内容を原告の社内記録と照合し,以下のとおり,原告の社内記録に存在しない入出金に関する記載があることを発見した(甲18)。 ア平成8年3月13日 256万7817米ドル入金イ同月18日 256万7817米ドル出金ウ同日 256万7812.44米ドル入金エ同月22日 163万6875米ドル 817米ドル入金イ同月18日 256万7817米ドル出金ウ同日 256万7812.44米ドル入金エ同月22日 163万6875米ドル入金オ同月25日 51万3562.50米ドル出金カ同日 51万3562.44米ドル入金キ同日 51万3562.50米ドル入金ク同日 792万3562.38米ドル出金ケ同日 320万5312.50米ドル入金コ同月28日 275万0312.50米ドル入金サ同月29日 2493.28米ドル入金(46) アは,B銀行東京支店の残高照合の担当者であるイに対し,上記入出金の記録について説明を求めたところ,イは,上記入出金について銅地金取引によるものであると説明した(甲18,乙51,証人F)。 (47) アは,同人の上司である原告為替資金部為替予約課長L及び同課のウに上記事態を報告した。ウは,イに対し,本件口座明細通知書1の入出金に係る銅地金取引の内容について説明を求めたところ,イは,上記取引の内容を把握していなかったため,ウに対してFを紹介した(甲18)。 (48) ウは,Fに対し,本件口座明細通知書1の入出金に係る銅地金取引の内容について説明を求めたところ,Fは,入金のうち6件については,B銀行と英国E商事又はE商事香港との間の銅地金取引に関する資金を誤って,本件当座預金口座に入金したものであり,出金3件については,誤入金したものを英国E商事又はE商事香港にあてて出金処理したものであり,入金のうち残る2件の入金合計275万2805.78米ドルは,B銀行の一方的なミスで本件当座預金口座に入金したものであると説明し,訂正した口座明 E商事又はE商事香港にあてて出金処理したものであり,入金のうち残る2件の入金合計275万2805.78米ドルは,B銀行の一方的なミスで本件当座預金口座に入金したものであると説明し,訂正した口座明細書を送付すると述べた(甲18)。 (49) Fは,同年4月20日ころ,まず,同年3月29日現在の本件当座預金口座の残高をゼロにした本件口座明細通知書2(乙21)を作成し,原告為替資金部為替予約課に送付し,次いで,原告の社内記録には存在しない入出金に関する記録を抹消した本件口座明細通知書3(甲14,乙22)を作成し,原告為替資金部為替予約課に送付した(甲14,乙21,乙22,乙51,証人F)。 (50) Lは,B銀行外国為替本部のエに対し,B銀行が本件当座預金口座から原告に無断で出金したことについて抗議し,その後,文書で事態の経緯を説明するように求めた(甲18)。 (51) Aは,平成8年4月24日,Fに対し,本件契約3に係る利息額に相当する233万7000米ドルを,同月26日限り,原告名義の定期預金口座からB銀行ニューヨーク支店のB銀行本店名義の口座に支払うように指示し,本件契約4の期限を同年5月30日まで延期することを文書(以下「出金指示書1」という。)で依頼した(甲17)。 (52) Fは,同日,B銀行のためにすることを示して,Aとの間で,本件契約4を締結し,本件契約3による実質的融資の期限を同年5月30日まで延期した(甲7,証人A)。 (53) エは,平成8年4月26日,原告東京本社を訪問し,Lに対し,文書で事態の経緯を説明することにつき,B銀行内部で議論があり,時間がかかっているなどと述べた(甲18)。 (54) B銀行は,平成8年4月28日,Aの前記出金指示書により支払を受けた資金により,本件契約3に係る利息に相当する233万7 B銀行内部で議論があり,時間がかかっているなどと述べた(甲18)。 (54) B銀行は,平成8年4月28日,Aの前記出金指示書により支払を受けた資金により,本件契約3に係る利息に相当する233万7000米ドルの支払を受けた(乙9)。 (55) 平成7年12月ころから米国先物取引委員会が原告の銅取引について調査を開始し,平成8年4月にはAに対する供述録取が行われるようになったことから,Aは,平成8年5月9日,非鉄金属部長の職を解任され,非鉄金属本部長付となった(甲20,乙34,証人A)。 (56) Fは,平成8年5月21日ころ,K,J,N,エ,P,U,Y及びXに対し,Gが同年6月1日付けで常務取締役となること,AはGの補佐となり,取締役就任まであと2階級である「グループ2」の地位に昇格すること,オがAの後任となること,正式の発表は同月3日に行われることを記載した電子メールを送信した(乙15,乙51,証人F)。 (57) Fは,平成8年5月27日,原告東京本社を訪問し,Lに対し,本件当座預金口座への入金のうち,銅地金取引とは関係がないと説明していた入金についても,原告とB銀行との銅地金取引にかかわるものであり,その後,同年4月に反対取引を行ったため,本件当座預金口座の残額がゼロになったと説明した(甲18)。 (58) Lは,平成8年5月28日,B銀行を訪問し,エ及びFと面談し,Fが前日に説明した取引の内容を明確にするように申し入れた(甲18)。 (59) Fは,平成8年5月28日,B銀行のためにすることを示して,Aとの間で,本件契約5を締結する旨口頭で合意し,本件契約4による実質的融資の期限を同年7月26日まで延期した(甲8の1の1,1の2,甲20,乙51,証人F)。 (60) Aは,平成8年5月30日,B銀行に対し,本件契約4に係る利 旨口頭で合意し,本件契約4による実質的融資の期限を同年7月26日まで延期した(甲8の1の1,1の2,甲20,乙51,証人F)。 (60) Aは,平成8年5月30日,B銀行に対し,本件契約4に係る利息額に相当する140万米ドルのうち,53万1295. 62米ドルについては,B銀行の原告名義の口座から振替充当するよう依頼するとともに,残金86万8704. 38米ドルについては,カ社から送金すると通知した(乙10,乙29の1)。 (61) B銀行は,平成8年5月30日,Aの指示に基づき,本件契約4に基づく利息のうち,53万1295.52米ドルについては,原告名義のサスペンスアカウントから支払を受け,86万8704.38米ドルについては,カ社から支払を受けた(乙10)。 (62) Lは,Fに対し,当初Fが銅地金取引とは関係がないと説明していた入金に係る取引の内容の説明を求めていたところ,Fは,平成8年6月3日,合計275万2805.78米ドルが同年3月29日にサスペンスアカウントに振り込まれ,同年4月26日に233万7000米ドルが,同年5月30日に41万5805.78米ドルがそれぞれB銀行本店に送金された旨が記載されたキャッシュフロー表(甲15の2)を送付した。Lは,上記キャッシュフロー表を見て,同年4月に反対取引を行ったため本件当座預金口座の残高がゼロになったという同年5月27日のFの説明が虚偽であると思い,Fに対し,上記各送金に係るAの出金指示書の送付を求めた(甲15の1,2,甲18,乙51,証人F)。 同年6月3日,Fから原告為替資金部に対する対応について相談を受けたAは,同日夜,その場で新たに同年4月24日付けの手書きによる出金指示書(甲16の2。以下「出金指示書2」という。)を作成し,Fに対して交付し,Fは,原告に対し,出金指示 る対応について相談を受けたAは,同日夜,その場で新たに同年4月24日付けの手書きによる出金指示書(甲16の2。以下「出金指示書2」という。)を作成し,Fに対して交付し,Fは,原告に対し,出金指示書2をファクシミリで送信した。なお,出金指示書2には,同年3月28日付けのディール・キャンセレーションによる一部支払として,同年4月26日に233万7000米ドルを,同年5月30日に53万1295.62米ドルをそれぞれ出金し,差額11万5489.84米ドルについては,同日,原告からB銀行東京支店に対し送金するとの記載があった(甲16の1,2,乙51,証人F)。 (63)  Lは,平成8年6月4日,B銀行東京支店を訪問し,N及びFと面会し,これまでのB銀行の対応に抗議するとともに,原告がB銀行東京支店に送金したとされる11万5489.84米ドルに関する資料の提出を求めた。 Kは,同日夕方,J,P及びNとともに,原告東京本社を訪問し,Gらと面談した。 その際,P又はNは,Gに対し,Aの指示に従ってサスペンスアカウントから出金し,Aから実際に使用した出金指示書1とは異なる出金指示書2を受け取り,原告に出金指示書2を交付したことなどを説明した(甲22の1,甲23,甲28の1)。 (64) Aは,平成8年6月5日,Gに対し,銅地金の先物取引,オプション取引等を行い,巨額の損失を発生させ,その損失は,B銀行,D銀行などの金融機関からの融資によって補填していたことを告白した(甲23,証人A)。 (65) Nは,同日,原告為替資金部に対し,原告からB銀行東京支店に対し11万5489.84米ドルを送金した事実はないと報告した。 (66) 原告代表取締役は,平成8年6月14日,銅地金の不正取引を行ったことを理由にAを懲戒解雇した(甲1)。 (67) 原告は,それまでA 489.84米ドルを送金した事実はないと報告した。 (66) 原告代表取締役は,平成8年6月14日,銅地金の不正取引を行ったことを理由にAを懲戒解雇した(甲1)。 (67) 原告は,それまでAから本件契約1ないし5について全く報告を受けていなかったことから,本件契約5による実質的融資の返済期限が迫った平成8年7月ころになっても,原告がその返済義務を負うべきものか判断できない状態にあった。しかし,B銀行は,原告に対し,期限までの返済を強く迫り,返済がされない場合は原告について債務不履行を宣言すると主張したので,原告は,やむを得ず,同月26日,B銀行に対し,この支払が取引の有効性を認めるものではなく,調査の結果適当と認められた場合には,その返還を求める権利を留保するとした上で,本件契約5に基づく支払として2億5735万5000米ドルを支払った(甲10,乙1)。 2 争点(1)(本件契約の原告への効果帰属)について(1) 商法43条1項は,番頭,手代その他営業に関するある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人は,その事項に関して一切の裁判外の行為をなす権限を有すると規定している。上記規定の沿革,文言等に照らすと,その趣旨は,反復・集団的取引であることを特質とする商取引において,番頭,手代等営業主からその営業に関するある種類又は特定の事項を処理するため選任された者について,取引の都度その代理権限の有無及び範囲を調査確認しなければならないとすると,取引の円滑確実と安全が害される虞れがあることから,上記のような使用人については,客観的にみて受任事項の範囲内に属するものと認められる一切の裁判外の行為をなす権限すなわち包括的代理権を有するものとすることにより,これと取引する第三者が,代理権の有無及び当該行為が代理権の範囲内に属するかどうかを一 の範囲内に属するものと認められる一切の裁判外の行為をなす権限すなわち包括的代理権を有するものとすることにより,これと取引する第三者が,代理権の有無及び当該行為が代理権の範囲内に属するかどうかを一々調査することなく,安んじて取引を行うことができるようにすることにある。 したがって,同条項による代理権限を主張する者は,当該使用人が営業主からその営業に関するある種類又は特定の事項を委任された者であること及び当該行為が客観的にみて上記事項の範囲内に属することを主張・立証しなければならないが,上記事項につき代理権を授与されたことまでを主張・立証することを要しない。そして,上記の趣旨にかんがみると,同条2項,38条3項にいう「善意ノ第三者」には,代理権に加えられた制限を知らなかったことにつき過失のある第三者は含まれるが,重大な過失のある第三者は含まれず,したがって,当該使用人の営業主において,相手方が代理権に加えられた制限につき悪意又は重過失のあることを主張・立証しない限り,代理権の制限を対抗できないと解すべきである(最高裁判所昭和47年4月4日第三小法廷判決民集26巻3号373頁,最高裁判所平成2年2月22日第一小法廷判決裁判集民事159号169頁参照)。以上の見地から,本件につき検討する。 (2) Aが商法43条1項所定の商業使用人に該当するか。 Aは,原告の非鉄金属本部非鉄金属部長兼ディーリングチームのチームリーダーとして,銅地金の実需取引,先物取引,オプション取引等を一定の範囲で原告を代理して行う権限を授与されていたことは当事者間に争いがない。したがって,Aは,営業主である原告の営業に関するある種類又は特定の事項の処理の委任を受けた商法43条1項所定の商業使用人に該当すると解すべきである。 (3) 本件契約が客観的にみてAの受任事項の 。したがって,Aは,営業主である原告の営業に関するある種類又は特定の事項の処理の委任を受けた商法43条1項所定の商業使用人に該当すると解すべきである。 (3) 本件契約が客観的にみてAの受任事項の範囲内に属するか。 前記認定のとおり,本件契約は,その実質において,B銀行がAに一定額の金銭を支払い,一定期間経過後に,AがB銀行に,前記金額に利息相当額の金銭を付加して支払うという消費貸借の実質を有するものであるとはいえ,契約の文言上,本件契約1及び2は,銅地金代金付加払特約付金利交換契約の法形式によるものであり,また,本件契約3ないし5は,銅地金先渡相互取引契約の法形式によるものである。したがって,本件契約は,客観的にみれば,いずれもAが原告から委任された銅地金取引の範囲内に含まれるものとみるのが相当である。 (4) 社内規定によってAの包括的代理権は制限されていたか。 既に認定したとおり,原告の経理規程には,「財務グループは,全会計単位を総合して資金の集中等により資金運用の調節をはかるとともに必要な資金の調達に当たる。」,「取引銀行の決定,変更は,財務グループの承認を要する」との規定があり,また,財務規定には,「財務グループは,財務グループ担当の指示により,事業活動に必要な資金の調達とその運用・配分業務を実施する。」,「資金の調達は,金融環境,金利動向に十分留意の上,経理規程及び関係細則,その他社内諸規則に定めるところにより行うものとする。」,「金融機関のうち,当社が取引を行う金融機関の決定,変更は,財務グループの所管部長経由申請を行い,その承認に基づき行うものとする。」,「財務グループは,当社全体の金融機関との取引の把握及びその与信リスクの管理を行うものとする。」との規定があることが認められる。 以上の規定を総合すると,原告財務 の承認に基づき行うものとする。」,「財務グループは,当社全体の金融機関との取引の把握及びその与信リスクの管理を行うものとする。」との規定があることが認められる。 以上の規定を総合すると,原告財務部は,原告全体の金融機関との取引を把握し,原告の事業に必要な資金を効率的かつ安定的に調達し,運用・配分することが予定されているものと認められる。したがって,原告の社内規定上,金融機関からの資金調達は財務部において,もしくは少なくともその承諾の下に行うべきものとされており,非鉄金属部等の事業部門が財務部の承諾なく金融機関から直接資金調達することは禁止されていたものと認めることができる。以上によれば,銅地金取引に関するAの包括的代理権は,上記の社内規定により制限されており,その意味で,Aは,銅地金取引の法形式を利用して資金調達する権限を有していなかったものとみるのが相当である。 (5) B銀行は,Aが社内規定による包括的代理権の制限に違反して本件契約を締結したことを知っていたか,又は重過失により知らなかったと認められるか。 アまず,B銀行の悪意・重過失を何人について判断すべきかが問題となるが,本件契約の証拠として提出されている各書証(甲3ないし甲8)はいずれも,その内容から事後的な確認書としての性質を持つものであり,契約自体はFとAの口頭の合意により行われているものと認められること,弁論の全趣旨によってもFの本件契約締結権限が争われているとは認められないことにかんがみると,FはB銀行のために本件契約を締結する権限を有していたものと認めることができるから,以下,同人に悪意・重過失が認められるか否かを検討することとする。既に認定したとおり,Aは,平成7年5月ころ,Fに対し,融資の可否について打診をしたが,その際,Aは,Fに対し,非鉄金属部が資金調達す 以下,同人に悪意・重過失が認められるか否かを検討することとする。既に認定したとおり,Aは,平成7年5月ころ,Fに対し,融資の可否について打診をしたが,その際,Aは,Fに対し,非鉄金属部が資金調達する方法として,①原告の財務部から調達する方法,②E商事の海外法人から調達する方法,③取引先との銅地金取引によって資金調達する方法があること,③の方法によれば,①の方法による場合よりも,財務部が上乗せするマージン分だけ安いコストで資金調達できること,③の方法による資金調達については,財務部への相談は必要ないことを説明したこと,B銀行東京支店営業開発第一部ディレクターのNは,同年6月13日,B銀行日本地域審査部の長であったIに対し,原告の事業部は財務部から資金を調達するのが通常であるが,本件契約によれば有利な金利でB銀行から資金調達できるなどの事情を説明して原告に対するクレジットラインの変更について承認を求めたこと,Fは,同年7月25日,B銀行のためにすることを示して,Aとの間で,本件契約1-①を締結したこと,本件契約1-①は,銅地金取引の形態をとっていたが,実質的には融資契約の意味を有していたこと,Fは,同年8月上旬ころ,原告軽金属部アルミ部門を訪問し,アルミ取引を利用したファイナンス取引を提案したことが認められる。以上の事実,殊に,Fが原告の非鉄金属部以外のアルミ部門に対し,本件契約と同様の契約を打診していた事実に照らすと,Fは,非鉄金属部など原告の事業部は財務部から資金調達するのが通常であることは認識していたものの,銅地金取引の形態をとれば,Aは原告の財務部に相談することなく資金調達することができると信じて,Aとの間で本件契約1-①を締結したものと推認することができる。 問題は,銅地金取引の形態を利用すれば,Aが原告財務部に相談すること 原告の財務部に相談することなく資金調達することができると信じて,Aとの間で本件契約1-①を締結したものと推認することができる。 問題は,銅地金取引の形態を利用すれば,Aが原告財務部に相談することなく本件契約を締結することができると信じたことにつき,Fに重大な過失があるといえるか否かである。 そこで検討するに,本件契約1は,一見すると原告とB銀行とが固定金利と変動金利とを交換する取引(金利スワップ取引)と,同じ当事者間でLMEにおける銅の価格によって決定される額の金銭の支払を約する取引(銅地金代金付加払特約)とが合体した複雑な取引の外観を呈しているのであるが,これを子細に見ると,金利スワップ取引部分は相互に相殺されて金銭の授受が一切行われない結果となり,銅地金付加払部分は,当事者の金銭支払義務が相殺されると,LMEにおける銅の価格がどのように変動しても,常に原告がB銀行に対して一定額の金銭の支払義務を負う結果となるものであり,これと金利スワップ取引に組み込まれた一括前払の合意とを組み合わせて見ると,結局,契約当初に原告がB銀行から一定額の金銭の支払を受け,一定期間経過後に原告が前記受領額に一定額の金銭を付加した額を支払うという金銭消費貸借と同一の効果が生じるというものである。これは,第1に,単純な金銭消費貸借契約で済むはずのものに,結果的に意味のなくなる金利スワップ取引や,LME価格を引用しながらそれに全く関わりなく支払額が決定される付加払特約が組み込まれているという点において,第2に,実質的な金銭消費貸借契約の中にAの権限に属することの明らかな銅地金取引の外観を有する特約が付されているという点において,第3に,我が国有数の総合商社である原告の株主資本の約3%に相当する2億0500万米ドルもの巨額の消費貸借取引を非鉄金属部長とい 明らかな銅地金取引の外観を有する特約が付されているという点において,第3に,我が国有数の総合商社である原告の株主資本の約3%に相当する2億0500万米ドルもの巨額の消費貸借取引を非鉄金属部長という営業部門の部長であるAとの間で,その権限に属することの明らかな銅地金取引の外観を装って行おうとするものである点において,極めて不可解かつ不自然な取引であるといわなければならない。 前記認定のとおり,このような不自然な形式による実質的な融資取引を行うことを提案したのはAであると認められるが,B銀行は銀行業を営む会社であり,その従業員であるFにおいて,その主たる業務である融資取引,すなわちAとの間の実質的な金銭消費貸借取引の,以上に述べたような不可解,不自然な性格は当然これを認識していたものと認めるのが相当である。 のみならず,既に説示したとおり,Nからクレジットラインの変更を求められたIは,平成7年6月16日,Nに対し,本件契約はISDAマスター契約に基づく取引として実行できるとの判断を伝えたが,取引額に照らしB銀行本店の決裁が必要であると回答したこと,B銀行日本地域審査部からクレジットラインの変更につき承認を求められたB銀行本店のグループ・クレジット委員会は,同年7月14日,クレジットラインの変更につき承認したが,本件契約を締結する条件として,B銀行日本地域審査部がAが本件契約を締結する権限を有することを確認し,B銀行東京支店が本件契約による損益操作の有無や取締役会による承認の要否等を確認することが必要であると指示したことが認められる。 以上のとおり,Fは,原告の事業部が財務部から資金調達するのが通常であることのほか,本件契約1は実質的には融資契約にほかならないことや本件契約1に既に説示したような不可解・不自然な点があることを認識していた おり,Fは,原告の事業部が財務部から資金調達するのが通常であることのほか,本件契約1は実質的には融資契約にほかならないことや本件契約1に既に説示したような不可解・不自然な点があることを認識していたと認められることに加え,B銀行本店のグループ・クレジット委員会がAの権限につき疑問を抱き,B銀行東京支店に対し,Aの権限を確認するまでは本件契約を締結してはならないと指示し,また,証拠(証人F)によれば,営業担当者であったFもこれを知っていたことが認められることにかんがみると,Fは,Aの権限の範囲につき疑問を抱き,Aが本件契約を締結する権限を有するか否かにつき確認する措置をとるべきであったというべきである。しかるに,B銀行東京支店が原告に対して本件契約に関し取締役会の承認を経ているか否かの確認をしなかったことは当事者間に争いがなく,また,証拠(証人F)及び弁論の全趣旨によれば,Fを含めたB銀行の担当者は,Aの権限の範囲につき特段の確認措置を講ずることのないままに,同年7月25日に本件契約1-①を締結し,さらに,同年9月26日に本件契約1-②を締結したことが認められる。 以上のとおり,Fは,本件契約1の性質やその内容の不可解・不自然さにかんがみて,Aの権限の範囲につき疑問を抱き,Aが本件契約を締結する権限を有するか否かにつき確認する措置をとるべきであり,かつ,Aの上司や資金調達についての権限を有することの明らかな原告財務部に照会し,あるいは本件契約1についての取締役会が承認したことを証する書面を求めることにより,容易に確認することができたと考えられるにもかかわらず,Fは,Aの権限を確認する措置をとらないまま,漫然とAに本件契約を締結する権限があると信じて,本件契約1を締結したものであるから,Fは,重大な過失によって,Aが社内規定による包括的 にもかかわらず,Fは,Aの権限を確認する措置をとらないまま,漫然とAに本件契約を締結する権限があると信じて,本件契約1を締結したものであるから,Fは,重大な過失によって,Aが社内規定による包括的代理権の制限に違反して本件契約1を締結したことを知らなかったものとみるのが相当である。 イまた,既に説示したとおり,その後,本件契約1の実質的な支払期限の延長を目的とする本件契約2の締結に当たり,B銀行日本地域審査部のIは,平成7年11月2日,N及びJに対し,本件契約について取締役会の承認を受けなかった理由やAに本件契約を締結する権限があるのか否かにつき回答を求めたこと,Jは,同月6日,Iに対し,日本では金融機関が取引相手に対して取締役会の承認を要求することは一般的でなく,仮にB銀行が原告に対して取締役会の承認を求めた場合には,原告は,B銀行にとって利益率の高い本件契約を更新しないと予想されること,仮にAに締結権限がない場合でもB銀行は表見代理によって保護されうることなどを書面で報告したこと,Iは,同月10日,本件契約につき取締役会の承認が不要であることに同意したが,原告との間でISDAマスター契約を締結しない限り,本件契約の期限の延長は認められないと指示したことが認められる。このように,本件契約2の締結に際し,Iが,Aに本件契約を締結する権限がないのではないかとの懸念を抱き,この点を指摘したにもかかわらず,FはAの権限の範囲を確認する為の特段の措置を講じることはなく本件契約2を締結したものであり,この間,Fが,重大な過失によって,Aが社内規定に違反して本件契約を締結したことを知らなかったとの事情に変化はないものとみるのが相当である。 なお,既に認定したとおり,B銀行は,平成7年11月19日,原告から本件権限証明書の交付を受け,同年12月 反して本件契約を締結したことを知らなかったとの事情に変化はないものとみるのが相当である。 なお,既に認定したとおり,B銀行は,平成7年11月19日,原告から本件権限証明書の交付を受け,同年12月1日には,原告との間で,ISDAマスター契約を締結したことが認められるが,B銀行が確認すべきであったことは,Aが銅地金取引を行う権限を有するかという点ではなく,銅地金取引の形態によって金融機関から直接資金調達する権限を有するかという点であり,上記の権限通知書等によって,Aが銅地金取引の権限を有していたことを確認したとしても,Aが実質的融資契約の意味を有する本件契約を締結する権限があるか否かを確認する措置としては不十分というほかないから,B銀行は,本件権限通知書の確認やISDAマスター契約の締結によっても,Aの権限の範囲について十分な確認措置を講じたものとみることはできない。 ウ既に説示したとおり,Aは,本件契約3を締結するに際し,本件契約2に基づく実質的な借入金債務の全額をいったんB銀行に返済し,その上で本件契約3に基づく実質的な借入金の交付を受けている。 本件契約3は,本件契約1及び2とは異なり,銅地金先渡相互取引契約の形をとっているが,銅地金の取引と称しながら目的物の引渡は予定されていない上に,当初B銀行が支払う代金額及び契約満了時に原告が支払うべき代金額がいずれも確定していることから,実質的融資としての性質を有していることは本件契約1及び2と同様であり,それが商社の営業部門の部長が行う巨額の実質的融資取引として不可解・不自然なものであるとの事情に何ら変わりはないものと認められる。 進んで,Fを含むB銀行の担当者が本件契約3の締結に際して講じたAの権限に関する確認措置について検討するに,被告は,KとPが当時取締役兼非鉄金属本部長であ 情に何ら変わりはないものと認められる。 進んで,Fを含むB銀行の担当者が本件契約3の締結に際して講じたAの権限に関する確認措置について検討するに,被告は,KとPが当時取締役兼非鉄金属本部長であったGと面談して同人が本件契約を認識していることを確認したと主張し,Kの供述録取書(甲22の1)及び内部メモ(乙14)にはこれに沿う内容の記載がある。 しかしながら,Kの供述録取書には,Gとの面談の目的は本件契約の存在をGが認識しているか否かを確認することにあったとの記載があるが,他方で,同供述録取書には,KはGとの面談に先立って本件契約に関する書類を確認せず,その結果,AとB銀行がどのような取引をしていたのかについて把握しないまま,Gとの面談に臨んだ旨の記載があり,さらに,Gとの面談においても本件契約に関する書類を持参せず,Gに対して提示しなかった旨の記載がある。以上のとおり,Kは,B銀行と原告との間で締結された本件契約に関する事情を把握していなかっただけでなく,Gとの面談に際して本件契約に関する書類を持参しなかったことを自ら認めていることにかんがみると,Gとの面談の目的は本件契約の存在をGが認識しているか否かを確認することにあったとするKの供述録取書の記載内容は不自然というほかないから,Kの供述録取書及び内部メモの記載内容は信用することができず,本件記録を精査しても,他にGがKと面談した際に本件契約を認識している旨発言した事実を認めるに足りる証拠はない。 その他,FあるいはB銀行の他の担当者において,Aの本件契約3の締結権限について適切な調査を行ったとの事情はうかがえないから,本件契約3の締結に際して,Fが,重大な過失により,Aが社内規定に違反して本件契約を締結したことを知らなかったとの事情に変化はなかったものとみるのが相当である。 を行ったとの事情はうかがえないから,本件契約3の締結に際して,Fが,重大な過失により,Aが社内規定に違反して本件契約を締結したことを知らなかったとの事情に変化はなかったものとみるのが相当である。 エその後,本件契約3の実質的な期限延長を目的とする本件契約4及び5の締結に至るまでの間の事情につき検討するに,既に説示したとおり,原告財務グループ為替資金部為替予約課のウが原告名義の本件当座預金口座の入出金についてFに対して問い合わせた際,Fは,当初,ウに対し,本件当座預金口座の入金のうち,6件については英国E商事又はE商事香港との間の銅地金取引に係る資金を誤入金したものであり,その余の2件の入金については銅地金取引に関係なく,B銀行が誤入金したものであると説明したが,その後,原告為替資金部為替予約課長のLに対し,問題となっていた入出金すべてが銅地金取引にかかわるものであり,同年4月に反対取引を行ったために残高がゼロになったと説明したこと,LがFに対して上記の反対取引について説明を求めると,Fは,Lに対し,キャッシュフロー表を送付したが,同表には,275万2805.78米ドルを同年3月29日にサスペンスアカウントに振り込み,そのうち,233万7000米ドルについては同年4月26日にB銀行本店に送金し,41万5805.78米ドルについては同年5月30日にB銀行本店に送金した旨の記載があり,Fの上記説明と異なっていたこと,LがFに対して上記出金に係る出金指示書の提出を求めると,Fは,Aに財務部との対応について相談し,Aがその場で手書きにより現実に使用されたものとは別個の出金指示書2を作成するや,これをAから受け取って,Lに送付している。このように,Fの本件当座預金口座に係る入出金に関する説明が二転三転していること,Fが原告担当者から出金指示 されたものとは別個の出金指示書2を作成するや,これをAから受け取って,Lに送付している。このように,Fの本件当座預金口座に係る入出金に関する説明が二転三転していること,Fが原告担当者から出金指示書の提出を求められるや,Aと協議の上,実際に使われたのとは別個の出金指示書を送付していること,実際に使用された出金指示書1には,本件契約4の期限の延期に関する記載が存することを考慮すると,Fは,本件契約の存在をA以外の原告担当者に対して秘匿しようとしていたものとみるのが相当であり,これら一連のFの行動は,極めて不可解かつ不審なものであって,遅くともこのころ,Fは,Aが社内規定による包括的代理権の制限に違反して本件契約を締結している事実を認識していたのではないかとの疑いを抱かせるものということができる。さらに,本件契約4ないし5を締結するまでに,Fを含むB銀行の担当者がAの権限の範囲につき確認する措置を講じた事実はうかがわれない。そうすると,少なくとも,本件契約4及び5の締結に際し,Aが代理権の制限に違反していることを知らなかったとしても,そのことについてFに重過失があったとの事情には,何ら変化はなかったことが明らかというべきである。 オ以上によれば,Fは,Aが社内規定に違反して本件契約を締結していたことを知らなかったとしても,そのことについて重大な過失があったものとみるのが相当である。そして,本件契約は全てFとAの合意によって成立しており,弁論の全趣旨によれば,B銀行においてFの本件契約締結権限を否定しているとは認められないから,Fは本件契約を締結する代理権を有していると認められる。そうすると,Fの重過失をもってB銀行の重過失と同視できるから,原告は,被告に対し,Aが社内規定による包括的代理権の制限に違反して本件契約を締結したことを対抗で する代理権を有していると認められる。そうすると,Fの重過失をもってB銀行の重過失と同視できるから,原告は,被告に対し,Aが社内規定による包括的代理権の制限に違反して本件契約を締結したことを対抗できるものと解すべきである。 (6) また,B銀行は,Aが本件契約を締結する権限を有していなかったことを重大な過失により知らないで,本件契約を締結したのであるから,民法109条又は同法110条の表見代理が成立しないことは明らかである。 (7) 以上のとおり,Aは,銅地金取引に関する包括的代理権を有していたが,原告は,被告に対して,Aの包括的代理権に加えられた制限を対抗でき,また,民法109条又は民法110条の表見代理も成立しないから,本件契約の効果は原告に帰属しないものと解するのが相当である。 3 争点(2)(B銀行の原告に対する不当利得返還請求権の有無)について(1) 前記認定のとおり,B銀行は,平成7年7月27日,本件契約1-①に基づきAの指定したE商事香港名義の口座に2億0500万米ドルを,同年10月初めころ,本件契約1-②に基づき同口座に4964万6550米ドルを,それぞれ送金し,同年11月24日には本件契約2によりその期限を延長し,その期限である平成8年2月28日にいったん元利金(英国E商事から1億7354万8375米ドル,E商事香港から8516万5446.28米ドルの合計2億5871万3821.28米ドル)の返済を受けた後,さらに同日本件契約3に基づきAの指定した英国E商事及びE商事香港名義の口座に合計2億5500万米ドル(英国E商事に1億5280万4200米ドル,E商事香港に1億0219万5800米ドル)を送金しているところ,前記各送金に係る金員のうちのいずれについて不当利得の成否を検討すべきかが問題となる。本件契約3による送金額2 80万4200米ドル,E商事香港に1億0219万5800米ドル)を送金しているところ,前記各送金に係る金員のうちのいずれについて不当利得の成否を検討すべきかが問題となる。本件契約3による送金額2億5500万米ドルは,本件契約1による合計送金額2億5464万6550米ドルにほぼ等しく,しかも,本件契約1の元利金が返済されたのと同日に送金されていることからすると,本件契約3は,実質的には本件契約1及び2の期限の延長を目的としているものと解し得ないではない。しかしながら,本件契約1及び2は銅地金代金付加払特約付金利交換契約であるのに対し,本件契約3ないし5は銅地金先渡相互取引契約であり,その契約の形式を異にしていること,その送金額が全く同一ではなく,英国E商事及びE商事香港からの各返済額とこれら各社に対する送金額もそれぞれ異なっていること,本件契約1及び2の元利金がいったんは現実に返済されていることを考慮すると,本件契約1及び2による契約関係はその元利金の返済により終了し,その後本件契約3による実質的融資が行われたとみるのが相当であるから,結局,B銀行の原告に対する不当利得返還請求権の成否を検討するに際しては,平成8年2月28日の送金を問題とすれば足りることとなる。 原告は,本件契約3に係る資金がAと銅地金ディーラーとの間の銅地金の簿外取引による損失の補填に充てられたと自認しているところ,被告は,本件契約3に係る資金2億5500万米ドルがAによる銅地金の簿外取引の損失の補てんに充てられた場合,これにより原告が銅地金ディーラーに対して負う債務が減少するから,本件契約3の効果が原告に帰属しない以上,原告は,法律上の原因なく2億5500万米ドル相当の利得を得たことになり,これを不当利得としてB銀行に返還すべき義務を負っていたと主張している。 するから,本件契約3の効果が原告に帰属しない以上,原告は,法律上の原因なく2億5500万米ドル相当の利得を得たことになり,これを不当利得としてB銀行に返還すべき義務を負っていたと主張している。 (2) そこで,まずAと銅地金ディーラーとの間の銅地金の簿外取引の効果が原告に帰属するか否かにつき検討するに,Aは,原告の非鉄金属本部非鉄金属部長兼ディーリングチームのチームリーダーとして,原告から銅地金取引に関する委任を受けた商法43条1項所定の商業使用人に該当し,銅地金取引に関する包括的代理権を有していたことは,既に認定説示したとおりである。そして,Aと銅地金ディーラーとの間の銅地金取引は,たとえ簿外で行われていたものであっても,客観的にみて委任事項である銅地金取引の範囲内に含まれることは明らかである。したがって,Aと銅地金ディーラーとの間の銅地金取引の効果は,たとえ簿外で行われていても,原告に帰属することになるのが原則である。 (3) 以上に対し,原告は,Aに付与されていた銅地金取引に関する権限は無制約なものではなく,原告の設定した取引限度枠等による厳しい社内規制によって制限されているところ,Aは,かかる社内規制に違反して銅地金の簿外取引を行ったものであるから,Aによる銅地金の簿外取引の法的効果は,原告の追認がなされない限り,当然に原告に帰属することになるものではないと主張する。 しかしながら,既に説示したとおり,営業主である原告が,Aの包括的代理権に制限を加えても,これをもって善意・無重過失の第三者に対抗することはできず,原告は,第三者である銅地金ディーラーにおいて,Aが原告の社内規制に違反して取引を行っていたことを知っていたか,又は重大な過失により知らなかったことを主張・立証しない限り,当該取引の効果が原告に帰属することを否定できな 地金ディーラーにおいて,Aが原告の社内規制に違反して取引を行っていたことを知っていたか,又は重大な過失により知らなかったことを主張・立証しない限り,当該取引の効果が原告に帰属することを否定できない。 また,原告は,Aと銅地金取引を行った銅地金ディーラーの中には,Aが社内規制を無視して取引を行っていることを知り,又は過失により知らなかった者が相当数含まれていたとも主張するが,仮に原告の主張するとおり,Aと銅地金取引を行った銅地金ディーラーの一部に,悪意・重過失の者がいたとしても,原告がその事実を個別具体的に主張立証した場合に,当該銅地金ディーラーとAとの間の銅地金取引の限度で,その効果が原告に帰属することを否定できるにとどまるというべきである。 (4) 以上のとおり,Aと銅地金ディーラーとの間の銅地金取引の効果は,たとえ簿外で行われていても,原告に帰属するのが原則であり,Aと取引を行った銅地金ディーラーにおいて,Aが社内規定に違反して取引を行っていたことを知っていたか,又は重大な過失により知らなかったことを原告が主張・立証した場合に,初めて,当該銅地金ディーラーとの間の取引の効果帰属を否定できるにとどまるのであって,そのような主張立証がされない限り,原告としては,Aが簿外で原告の社内規制に違反して行った取引であっても,その効果が自己に帰属することを否定できないのである。そして,銅地金ディーラーとの取引が原告に帰属する以上,Aが本件契約3によって得た資金を当該取引上の債務の弁済に充てた場合には,それにより原告は,自己に帰属する取引上の債務の負担を免れるという利得を得たことになるというべきである。 したがって,本件契約3に係る2億5500万米ドルがAによる簿外取引による損失の補填に充てられたことによって,原告は,銅地金ディーラーに対して を免れるという利得を得たことになるというべきである。 したがって,本件契約3に係る2億5500万米ドルがAによる簿外取引による損失の補填に充てられたことによって,原告は,銅地金ディーラーに対して負担していた同額の清算金の支払義務を免れ,法律上の原因なく,B銀行の損失の下に利得したものと認められるのが原則であり,原告は,本件契約3に係る資金の全部又は一部が特定の銅地金ディーラーに支払われたこと,当該銅地金ディーラーにおいて,Aが原告の社内規制に違反して取引を行っていたことを知っていたか,又は重大な過失により知らなかったことを主張・立証しない限り,銅地金ディーラーに対する債務を免れて利得を得たことを否定できないものと解すべきである。 しかるに,原告は,被告及び裁判所からの求めにもかかわらず,本件契約3に係る資金の流れを明らかにせず,Aと銅地金取引を行った銅地金ディーラーの中には,Aが社内規制を無視して取引を行っていることを知り,又は過失により知らなかった者が相当数含まれていたと主張するにとどまっている。仮に原告の主張するように,Aと銅地金取引をした銅地金ディーラーの中に,Aが社内規制に違反して銅地金取引を行っていることを知り,又は重大な過失により知らなかった者がいた場合には,Aと当該銅地金ディーラーとの間の銅地金取引の効果は原告に帰属しないことになるが,Aが本件契約3によって得た資金の全部又は一部を支払った相手先の銅地金ディーラー,当該銅地金ディーラーに支払われた本件契約3に係る資金の額及び取引の内容,当該銅地金ディーラーが前記資金を受領した当時Aの無権限について悪意又は重過失であったことについての具体的な主張・立証はいまだされていないといわざるを得ないから,原告が銅地金ディーラーに対して負担していた債務を免れて利得を得たことを否定 た当時Aの無権限について悪意又は重過失であったことについての具体的な主張・立証はいまだされていないといわざるを得ないから,原告が銅地金ディーラーに対して負担していた債務を免れて利得を得たことを否定することはできないというべきである。 したがって,本件契約3に係る2億5500万米ドルがAによる簿外取引による損失の補填に充てられたことによって,原告は,銅地金ディーラーに対して負担していた同額の清算金の支払義務を免れ,法律上の原因なく,B銀行の損失の下に利得したものと認められ,B銀行は,原告に対し,同額の不当利得返還請求権を取得したものとみるのが相当である。 (5) また,原告は,仮にAが本件契約3に係る資金を簿外取引の決済に充てたことによって,原告が何らかの利得を得たとしても,原告は,AがB銀行から本件契約3に係る資金を得ていたことはもとより,Aが簿外取引を行っており,本件契約3に係る資金を簿外取引の決済に充てていたことについて悪意・重過失ではなかったから,最高裁判所判決(最高裁昭和49年9月26日民集28巻6号1243頁)に照らし,原告の受けたとする利得には法律上の原因があることになり,B銀行が原告に対して不当利得返還請求権を取得することはないと主張する。 しかしながら,本件は,既に認定説示したとおり,Aが本件契約3により得た資金で原告の負担に帰する取引上の債務を弁済したという事案であり,利得者とされる原告が本件契約3により得られた資金を直接受領したという場合ではないから,原告の引用する判例は,本件と事案を異にするものというべきである。仮に,同判例の趣旨が本件についても当てはまるものとした場合には,前記悪意重過失をいずれの者について判定すべきかが問題となるが,前記判例の趣旨にかんがみると,本件における利得者である原告の悪意あるいは重過 同判例の趣旨が本件についても当てはまるものとした場合には,前記悪意重過失をいずれの者について判定すべきかが問題となるが,前記判例の趣旨にかんがみると,本件における利得者である原告の悪意あるいは重過失は,原告の社内において利得を取得する権限を有する者について判定すべきこととなると考えられる。そして本件において,原告は,自己に帰属する取引上の債務の負担を免れるという利得を得ているのであるから,この場合の利得を取得する権限を有する者とは,当該債務を弁済してこれを免れる権限を有する者ということになるが,本件当時Aは,原告の非鉄金属本部非鉄金属部長を務めていたのであり,当然同人が原告の名義で行った銅地金取引についての取引上の債務を弁済してその負担を免れる権限を有していたものと推認することができる。そして,Aが利得を取得する権限を有していると認められる以上,Aの悪意が明らかである本件においては,仮に前記判例の趣旨が本件に適用されることになるとしても,原告が得た利得は法律上の原因を欠くものであるということになるから,結局この点についての原告の主張は理由がないというべきである。 (6) 以上のとおり,本件契約3に係る資金がAによる銅地金取引による損失の補填に充てられたことにより,B銀行は,原告に対し,2億5500万米ドルの不当利得返還請求権を取得したものであるが,被告は,A及びその使用者である原告は,法律上の原因のないことにつき悪意又は重過失ある受益者であり,原告は2億5500万米ドルに対する遅延損害金の支払義務を負担していたと主張する。 そこで検討するに,民法704条の悪意の有無は受益者について決すべきところ,法人が受益者である場合には,当該法人において受益の権限を有する者が悪意であるか否かを判断すべきこととなる。そして,前項において説示したとお ,民法704条の悪意の有無は受益者について決すべきところ,法人が受益者である場合には,当該法人において受益の権限を有する者が悪意であるか否かを判断すべきこととなる。そして,前項において説示したとおり,本件においては,法人である原告が自己に帰属する取引上の債務の負担を免れるという利益を得たというのであるから,当該債務を弁済してこれを免れる権限を有していた者,すなわちAについて悪意の有無を論ずべきところ,Aが本件契約3により得られた資金によって簿外取引による銅地金ディーラーに対する債務を弁済した当時,それによる原告の受益に法律上の原因がないことを知っていたことは明らかであるから,原告は悪意の受益者に当たり,したがって原告は,利得額である2億5500万米ドルに対する受領の時から年5分の割合による利息を支払う義務を負っていたものというべきである。 4 争点(3)(B銀行の原告に対する損害賠償請求権の有無)本件契約に係るAの取引行為は,その外形からみて,使用者である原告の事業の範囲内に属すると認められる。しかしながら,既に認定説示したとおり,本件契約に係るAの取引行為は,社内規定に違反して行われたものであり,かつ,その相手方であるB銀行が少なくとも重大な過失により上記事情を知らないで本件契約を締結したことは既に認定説示したとおりであるから,Aの行為によるB銀行の損害は民法715条にいわゆる「被用者カ其事業ノ執行ニ付キ第三者ニ加ヘタル損害」とはいえず,したがって,B銀行は,平成8年7月当時,Aの使用者である原告に対し,不法行為(使用者責任)に基づく損害賠償請求権を有していなかったものと解するのが相当である。 5 争点(4)(原告の被告に対する損害賠償請求権の有無)について原告は,Aによる銅地金の不正取引が発覚した直後の混乱した状況下において 賠償請求権を有していなかったものと解するのが相当である。 5 争点(4)(原告の被告に対する損害賠償請求権の有無)について原告は,Aによる銅地金の不正取引が発覚した直後の混乱した状況下において,B銀行の融資担当者が,本件契約に係る金員について原告に返済義務がないことを知りながら,原告に対し,Aが本件契約により調達していた金員の支払を強く求め,原告をして,B銀行に対する返還義務のない金員の支払を余儀なくさせたとして,被告に対し,不法行為(使用者責任)に基づき,2億5735万5000米ドル及びこれに対する遅延損害金の支払を請求している。 しかしながら,被告は原告に対して,本件契約3による支払額2億5500万米ドル及びこれに対する支払日である平成8年2月28日から年5分の割合による利息相当額の不当利得返還請求権を有していることは既に説示したとおりであり,その元本及び同年7月26日までの利息の合計額が原告の前記請求権の額を上廻っていることにかんがみると,B銀行の融資担当者が原告に対して2億5735万5000米ドルの支払を要求したことが違法であるとみることは困難であるというほかない。 よって,原告は,B銀行に対し,不法行為(使用者責任)に基づく損害賠償やこれに対する遅延損害金の支払を請求することはできない。 6 争点(5)(原告の被告に対する不当利得返還請求権の有無)について前記説示のとおり,本件契約の効果は原告に帰属しないから,原告が平成8年7月26日に支払った2億5735万5000米ドルは法律上の原因に基づかないものということになり,原告は被告に対して,同額の不当利得返還請求権を有していることになる。 しかしながら,被告も原告に対して,本件契約3による支払額2億5500万米ドル及びこれに対する支払日である平成8年2月28日から年5分 告に対して,同額の不当利得返還請求権を有していることになる。 しかしながら,被告も原告に対して,本件契約3による支払額2億5500万米ドル及びこれに対する支払日である平成8年2月28日から年5分の割合による利息相当額の不当利得返還請求権を有していることは既に説示したとおりであり,その元本及び同年7月26日までの利息の合計額が原告の前記請求権の額を上廻っていることは明らかである。 そして,被告が,原告に対する前記不当利得返還請求権を自働債権とし,原告の被告に対する不当利得返還請求権を受働債権として,対当額において相殺する旨の意思表示をしたことは当裁判所に顕著であるから,原告の不当利得返還請求権は相殺により消滅したものというべきである。 7 結論以上によれば,原告の請求は理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担について民訴法61条を適用して,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第25部裁判長裁判官藤下健裁判官葛西功洋裁判官小池晴彦は転補のため署名押印することができない。 裁判長裁判官藤下健

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