主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 被告は,原告Aに対し,金1000万円及びこれに対する平成12年1月1日から支払済みに至るまで年6分の割合による金員を支払え。 2 被告は,原告Bに対し,金500万円及びこれに対する平成12年1月1日から支払済みに至るまで年6分の割合による金員を支払え。 3 被告は,原告Cに対し,金500万円及びこれに対する平成12年1月1日から支払済みに至るまで年6分の割合による金員を支払え。 4 仮執行宣言第2 事案の概要本件は,河川中から遺体で発見された者の相続人である原告らが,当該死亡は被保険自動車の自損事故によるものであり,保険金支払事由が生じ,保険金請求権を法定相続分に従って相続により取得したとして保険金の請求をしたのに対し,被告が,自殺の可能性があるとして,保険金支払事由の発生を争っている事案である。 1 前提となる事実等(1) 亡Dと被告との間には,以下の内容の保険契約(以下「本件保険契約」という。)が存在する。 ① 保険期間平成10年4月4日から平成11年4月4日まで② 被保険自動車旭川abたcdef(以下「本件自動車」という。)③ 種類自動車総合保険(自損事故条項による1500万円,搭乗者傷害条項による500万円を含む。)(2) Dは,平成11年4月1日に本件自動車に乗って家を出たが,同日以降自宅に戻らず,勤務先にも出勤しなかった。 (3) 平成11年5月12日午後4時ころ,北海道雨竜郡g町付近のh川の水中に本件自動車が沈んでいるのが発見され,警察が引き上げ作業を開始したが,水量が増してきたため中断された。このとき,本件自動車内に男性の姿(遺体)が確認されている。 同月13日,本件自動車が引 の水中に本件自動車が沈んでいるのが発見され,警察が引き上げ作業を開始したが,水量が増してきたため中断された。このとき,本件自動車内に男性の姿(遺体)が確認されている。 同月13日,本件自動車が引き上げられたが,車中に男性の遺体はなく,翌日の同月14日に,さらに下流の,北海道雨竜郡i町字jk番地付近のh川内で男性の遺体が発見され,これがDであった。 (4) Dの直接死亡原因は溺水による窒息である。 (5) Dの相続人は,妻の原告A並びに子の原告B及び原告Cであり,法定相続分は,原告Aが2分の1,原告B及び原告Cが各4分の1である。 (6) 本件保険契約に基づいて,自損事故条項による保険金及び搭乗者傷害条項による保険金を請求するためには,自動車の運行に起因する,急激かつ偶然な外来の事故の発生を立証する必要があるところ,被告はその立証がされていないとして争っている。 2 争点Dの死亡は,急激かつ偶然な外来の事故によるものといえるか。 3 争点についての当事者の主張(原告ら)(1) 自動車に乗ったまま,河川や海,崖下に転落するという自殺事件がどの程度あるのかは明らかではないものの,それよりは偶然の事故としての路外逸脱,転落事故の数の方がはるかに多いことは明らかである。たまたま,事故場所や態様が不明であるからといって,他の特殊事情なくして,自殺である可能性が高まるものではない。そのような特殊事情がなければ,偶然の事故であると考えられる。 (2) Dは,死亡時37歳の健康な男性であり,妻と子2人と幸福な生活を営んでおり,E産業株式会社のm営業所に重機のオペレーターとして勤務していた。 平成11年4月1日午前1時,Dは,本件自動車に搭乗して勤務先に向かうべく家を出た。自宅から勤務先のm営業所までは国道n号線を北上する形になる。国道n号線に並行し オペレーターとして勤務していた。 平成11年4月1日午前1時,Dは,本件自動車に搭乗して勤務先に向かうべく家を出た。自宅から勤務先のm営業所までは国道n号線を北上する形になる。国道n号線に並行してh川が流れている。自宅から勤務先までは約40分程度の道程であり,冬期間の勤務先での主な作業は国道の除雪作業であるため,早朝の午前1時に家を出た。 出がけに,依頼していた弁当を原告Aが用意していなかったことから,Dと原告Aとの間に若干の諍いはあったが,自殺する動機足り得ない些細なことである。 Dには精神疾患もなく,日頃の性格からしても自殺を図る人物ではない上,他に,家族関係,経済関係,健康問題で悩んでいたという事情はない。遺書などもない。さらに,熱心なFの信者であり,来世を信じていたこと,自殺は良くないことと宗教上教えられていたことなどからしても,自殺を図るとは考えられない。 以上から,Dには自殺の動機はない。 (3)ア本件自動車は,平成11年5月12日午後4時ころに,北海道雨竜郡g町付近のh川下流の水中で発見され,中に遺体があることも確認されたが,この場所は転落場所を意味しない。この時期,h川は雪解け水で水量が増し,非常に流れが速かった。そのため,本件自動車の引き上げは難航し,引き上げられた同月13日には遺体はすでに流され,本件自動車の発見現場からさらに20キロメートルほど下流で発見されたのである。これを考えると,本件自動車は4月1日に,h川の発見場所よりも上流で転落し,下流に流されたのである。 イ Dは,道路の除雪作業を監督し,また,自ら除雪車を運転して除雪作業をすることもあったから,道路の降雪の状況を確認したり,雪捨場の状況を確認するなどの作業をしており,早朝勤務先に向かう場合には,途中でそのような確認作業をすることが考えられる。本件 運転して除雪作業をすることもあったから,道路の降雪の状況を確認したり,雪捨場の状況を確認するなどの作業をしており,早朝勤務先に向かう場合には,途中でそのような確認作業をすることが考えられる。本件自動車の発見場所から上流の,Dの勤務先であるE産業m営業所付近までにあるh川沿いに,2か所の雪捨場があるが,Dはその雪捨場に入り,不用意に川の上に堆積した捨て雪の上を走行しようとし,そのまま川に転落したとも推測される。転落した本件自動車は山間部の人目のつきにくい川のどこかで引っかかって時間が経過し,5月になって雪解け水で水かさが増し,川の流れが速くなるのに従って下流に流されたのである。 ウ平成11年4月1日に,Dが走行したと推定される自宅からm営業所までの経路に,転落事故が起きたと特定できる場所はない。冬は車道の端には雪山ができているし,ほとんどの場所では車道とh川の間には距離があり,雑木林がある。橋には欄干が設けられているから,転落が起これば跡が残るはずである。自動車ごと転落するには雪山をはね除け,雑木林を縫って川にたどり着かなくてはならない。このような状況で転落が起こりにくいのは事故であっても自殺であっても同じであり,これをもって事故が起こりえないと推論するのは無意味である。 (4)ア h川沿いの国道n号線とh川との前記の位置関係,状況を考えると,仮に自殺を図るとした場合,自動車ごと川に転落する自殺方法は,直ちに困難が予想されるから,このような方法を思いつき選択する可能性はない。 イ Dが自宅に戻らず勤務先に出勤もせずに失踪した後,家族は数日帰宅を待ち,平成11年4月4日なって警察に捜索願を出している。勤務先でも,Dの自殺を疑った者はおらず,事故と想定して捜索をしているのであり,周囲の者はDの自殺を考えていなかった。 ウ Dの死亡に関 宅を待ち,平成11年4月4日なって警察に捜索願を出している。勤務先でも,Dの自殺を疑った者はおらず,事故と想定して捜索をしているのであり,周囲の者はDの自殺を考えていなかった。 ウ Dの死亡に関しては,自動車安全運転センターによる交通事故証明書が発行されている。 (被告)(1) 自動車保険は,生命保険とは異なり,単純に「死亡」自体を保険金の支払要件としないで,急激・偶然・外来の事故との因果関係を要する外,その傷害を直接の原因として死亡した場合に保険金を支払うと規定しているので,保険金の請求者が急激・偶然・外来の3要件の立証責任を負うと解されている。 また,偶然性については,請求者側の故意,自殺等の内心の意思に関わることであり,少なくとも偶然であることの高度の蓋然性のあることまでの立証は必要であり,その立証ができたときに自殺でないこと,故意でないことが推認されることになると理解されるものである。 (2) 原告らは,Dが平成11年4月1日の午前1時ころに本件自動車に乗って出勤した旨主張するが,これを前提とすると,Dは深川市内の自宅を出て本件自動車を運転し,通勤経路にあたる道路を走行してm営業所に向かっていたはずであり,その間のどこかで本件自動車ごとh川に転落したと考えなければならない。 しかし,自宅から深川市opにある雪捨場付近までの道路はh川に近接しておらず,この間を走行中に誤って川に転落することはあり得ない。さらに,oからmまでの間の国道n号線は,比較的h川に近接しているといえるが,それでも,走行中に運転を誤って路外に逸脱しても直ちに川に転落するほどに近接した場所は存在しない。のみならず,川との間には街路樹があり,冬期間は除雪された雪が道路両側にうずたかく積み上げられているため,たとえ走行中に居眠りをしたとしても,これらに阻まれて 落するほどに近接した場所は存在しない。のみならず,川との間には街路樹があり,冬期間は除雪された雪が道路両側にうずたかく積み上げられているため,たとえ走行中に居眠りをしたとしても,これらに阻まれて,川に転落することはあり得ない。h川にかかっているすべての橋の両側には転落防止のための欄干が設けられていて,少なくとも,道路を通常走行中に誤って川に転落する可能性はなく,現に転落に際して橋の欄干が損傷していたとの報告はない。 さらに,深川市opの雪捨場よりやや下流にqという場所があるが,この地点に高さ2メートルの堰堤があり,人を含めると相当の重量になる本件自動車がこの堰堤を越えて下流に流される可能性は低く,本件自動車はこのさらに下流において転落した公算が大きいところ,qよりも下流はh川と国道n号線は最も近接した場所で200メートルも離れており,運転を誤ってh川に転落することはあり得ない。 原告らは,自動車ごと転落することが不可能なことは,偶然の事故の場合だけでなく,覚悟の上での自殺でも同様であると主張するが,意図的に転落することが不可能な場所においては誤って転落することも不可能であるのに対し,誤って転落することが困難ないし不可能な場所でも意図的に転落することは可能である。Dが乗っていた本件自動車は,馬力の強い四輪駆動車であったから,路側の雪山を意図的に乗り越え,多少の雑木林を縫って川に向かって走行して川にたどり着くこともできたはずである。 さらに,深川市op及びmにある雪捨場においては,その雪山の端は川側に向かって切り立っているものではなく,台形状に形成されており,のみならず,台形の端と河川までの距離は10メートル以上確保するよう北海道開発局から指導されており,現にそのようになっていたから,D運転の本件自動車が雪捨場の雪山から誤って転落した 形成されており,のみならず,台形の端と河川までの距離は10メートル以上確保するよう北海道開発局から指導されており,現にそのようになっていたから,D運転の本件自動車が雪捨場の雪山から誤って転落したとしても川に入る前に雪山のどこかにひっかかって停止するはずで,一直線に落下して川に落ちることはあり得ない。転落に際し,あるいは転落後意図的にアクセルを踏み込んで突破すれば車ごと川に転落することは可能である。 (3) 原告らは,①路外逸脱や転落の場合,自殺よりも事故の方が多い,②遺書が存在しない,③動機がない,④自殺はよくないと教えているFの信者である,⑤警察が事故証明書上事故と扱っている,等の事情を述べているが,①は何の立証にもなっていないし,②は遺書がない自殺はいくらでもあって特段不自然とはいえない。③は自殺を認定する際の重要なメルクマールであるが,Dが失踪してから原告Aが自ら捜索願を出すこともせず,あわてて行方を捜す等の行動をとっていないこと,Dの前妻が子らを置いて家を出たあと原告Aと再婚し,Dの死後,子である原告B及び原告Cの未成年後見人として原告AではなくDの父が就任していること等の複雑な家庭環境を考えると,Dが家庭の内外で問題を抱えていた可能性も否定できない。⑤についても,いまだなお転落場所,転落状況も明らかとなっておらず,警察も事故と断定するだけの根拠を持ち合わせていないが,積極的に自殺と断定するだけの根拠も無かったために,遺族の心情を考慮して事故として取り扱ったに過ぎない。北海道開発局札幌開発建設部に対しても,本件に関し事故としての報告はなされていない。 (4) 原告Aは,Dが出勤していないことが分かった後も,付近のパチンコ店の駐車場を探しただけで自宅にいて特段捜索活動をしておらず,会社への連絡,捜索等を実父や勤務先に任せきり 告はなされていない。 (4) 原告Aは,Dが出勤していないことが分かった後も,付近のパチンコ店の駐車場を探しただけで自宅にいて特段捜索活動をしておらず,会社への連絡,捜索等を実父や勤務先に任せきりにしていて,突然夫の行方が不明となった妻の行動としては不自然である。 また,Dの同僚らは,Dは除雪・排雪作業を担当していないと述べており,そもそも,深夜,Dが業務の都合上雪捨場に入る理由はなく,特に夜間雪捨場には照明も人気もない場所であるから,h川への転落場所が雪捨場の雪山であるとするならば,強く自殺を疑わせる。 第3 争点に対する判断 1 まず,争いのない事実,証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 (1) Dは,死亡時37歳で,深川市内の自宅に,妻である原告Aと,子である原告B及び原告Cとの4人で生活していた。深川市内に本社のあるE産業に勤務し,勤務場所はh川上流沿いにあるm営業所で,運転手として稼動していた。 (2) Dは,平成11年3月31日に勤務先から帰宅した後,夕方から夜にかけて外出していたが,途中,原告Aに弁当を用意するように依頼した。ところが,原告Aは弁当を用意できず,同年4月1日午前0時過ぎころに帰宅したDと諍いになり,Dは,同日午前1時ころ,原告Aに出勤する旨を伝えて,深川市内の自宅を本件自動車に乗って出発した。 ところが,同日昼ころに,同じE産業のm営業所に勤務する原告Aの実父から原告Aに電話があり,Dが出勤していないことを伝えられた。その際,原告Aは,Dとの間で諍いがあったことを話したくなかったこと,無断欠勤を勤務先に隠そうと思ったことから,風邪を引いて休んでいる旨を伝えた。原告Aは,Dが原告Aとの間をとりなしてもらうために実家に戻ったことも考えたが,すぐにDの実家に連絡することはせず,Dの携帯電話に電 務先に隠そうと思ったことから,風邪を引いて休んでいる旨を伝えた。原告Aは,Dが原告Aとの間をとりなしてもらうために実家に戻ったことも考えたが,すぐにDの実家に連絡することはせず,Dの携帯電話に電話したがつながらず,Dがいそうなパチンコ店の駐車場に本件自動車がないかどうか見に行くなどしたが見つからず,自宅に戻り,Dの帰りを待った。 同日夜になってもDが帰宅しなかったことから,原告Aは,Dの実家に電話をして事情を話し,深川のDの自宅まで来たDの両親と対応策を話し合ったところ,Dの両親から,頭を冷やしたら帰ってくるから伏せておいてほしい,帰って来づらくなるから捜索願は出さないでほしい旨を言われ,もう少しDの帰りを待つこととなった。ただ,勤務先には隠しておくこともできなかったので,Dの両親とともに,原告Aの実家に事情を話し,その上で,同月2日に勤務先に事情を説明した。 同月3日になってもDは帰宅せず,原告Aは,Dの父とともに,警察に赴いて捜索願を出した。 (3) 本件自動車は,平成11年5月12日午後4時ころ,北海道雨竜郡g町付近のh川下流の水中に沈んでいるところを発見された。警察が引き上げ作業を開始し,本件自動車内に男性の遺体があったことが確認されたが,h川の水量が増してきたことなどから引き上げ作業はいったん中断された。 そして,翌日の同月13日,本件自動車が引き上げられたが,車中に男性の遺体はなく,その翌日である同月14日に,さらに10キロメートル程度下流の,北海道雨竜郡i町字jk番地付近のh川内で男性の遺体が発見され,これがDであった。 死体検案の結果,Dの直接死因は溺水による窒息であり,死亡したのは平成11年4月1日ころとされた。遺体は巨人様化しており,胸腔内には,左側に260ミリリットル,右側に100ミリリットルの水分貯留が認め 検案の結果,Dの直接死因は溺水による窒息であり,死亡したのは平成11年4月1日ころとされた。遺体は巨人様化しており,胸腔内には,左側に260ミリリットル,右側に100ミリリットルの水分貯留が認められた。 本件自動車についても,発見当時全体がひしゃげた状態で窓ガラスも割れている状況であった。 (4) Dは,運転手としてE産業の砂利部に所属しており,勤務時間は午前7時30分から午後5時までであり,午前6時ころに自宅を出て,午前7時ころに出勤することが多かった。夏場は砂利の運搬などを担当していたが,冬場は砂利運搬の仕事はほとんどなくなるため,E産業が請け負っていた国道n号線等の場所における除雪及び排雪作業にも従事していた。 ただ,熟練の運転手ということではなかったため,特定の除雪車の運転手に指定されていたわけではなく,助手として除雪車に同乗したり,砂まきや排雪,屋根の雪下ろし等必要とされる作業全般に関わっていた。除排雪の要否は,当日朝までの降雪量をみて,除雪車運転手により決定されており,除排雪が必要と判断された場合には,朝4時ころに出勤して作業を開始する必要があった。 そのほか,m営業所近辺で降雪がなくても,峠などで降雪がある場合も考えられるので,そのような場所の除排雪作業の要否を判断するため,早朝に峠や山道を走ったり,雪捨場の状況を見るなどの作業を担当する者もいたが,そのような早朝パトロールを担当していたのは,平成10年12月から平成11年3月まではGという者であり,Dに早朝パトロールの業務命令が出されたことはなかった。 E産業が請け負って除排雪を行う場合,雪捨場として使用していたのは,h川沿いの2か所の雪捨場であり,1か所は,g町との境に位置する深川市opに,もう1か所は,m営業所を過ぎたところにある深川市mrにある。雪捨場においては を行う場合,雪捨場として使用していたのは,h川沿いの2か所の雪捨場であり,1か所は,g町との境に位置する深川市opに,もう1か所は,m営業所を過ぎたところにある深川市mrにある。雪捨場においては,当該場所に,排雪した雪を集めて捨てていくことになるが,雪がたい積してくるとブルドーザーで雪を川側に押していく作業が必要となる。ただし,川縁から一定の距離を保つように指定されて,無限定に川に向かってたい積した雪を押すことにはならない。 (5) Dの通勤経路は,深川市内の自宅を出て,ほぼ南北に通る道路を北上し,深川市oで国道n号線に合流して,国道n号線をmまで北上するというものであった。oからmまでの国道n号線は,h川に沿っていたが,h川の本流と交差する場所はなく,また,h川との間はそれほど接近しておらず,高低差があるほか,路側から川岸までの間には雑木林などがある状況であった。 深川市opの雪捨場がある場所からh川を少し下ったところに,灌漑排水のために2メートル以上の高さのある堰堤が設けられている場所があり,堰堤の手前で用水路に一定の河水が流れるようになっている。ただし,その手前でh川の流れが二手に分かれており,この堰堤部分を通らない流れもある。 h川は,平年,4月10日過ぎころまでは水面が凍結して,凍結した川面の上に積雪する状況であり,4月10日過ぎに川面の氷が溶けて川の水が流れるようになり,その後,雪解け水や上流のダムの放流などで水量が増し,流れも速くなる。 本件自動車が発見された場所付近からm営業所までの間の国道n号線とh川とが交差するのは,本流との交差が深川市o付近の1か所のみで,その他の場所はh川支流との交差である。そして,それらの場所で設置されている橋には,いずれも1メートル前後の高さの欄干が設けられていた。 また,これらの橋を管理 との交差が深川市o付近の1か所のみで,その他の場所はh川支流との交差である。そして,それらの場所で設置されている橋には,いずれも1メートル前後の高さの欄干が設けられていた。 また,これらの橋を管理する北海道開発局札幌開発建設部では,平成11年4月1日に橋から自動車が転落した旨の事故報告は受けていない。 (6) Dは,原告Aと婚姻する前は,前妻が子らをおいて家を出たために,実家において両親の援助を受けながら子らの養育にあたっていた。原告Aと婚姻してからは子らも含めて4人で生活しており,子らと原告Aとの関係は特に問題はなかった。ただ,D失踪後,原告Aが不安定な精神状態にあったことから,子らはDの両親のもとで生活することとなり,学校の転校手続もとり,その後,Dの死亡が判明してからは,原告Aの将来などを考え,Dの父が子らの未成年後見人に就任した。 Dは,原告Aとの婚姻前は,無断欠勤したり,会社を辞めるのに自ら言い出せず,原告Aが一緒に会社に謝りに赴くようなこともあった。E産業に勤務し,原告Aと婚姻してからは,そのような状況はなくなっていた。 なお,DはFの信者であり,青年部のリーダーを務めるなどしていた。 2 以上の事実関係をもとに検討する。 (1) 本件保険契約に基づいて保険金を請求するためには,自損事故条項及び搭乗者傷害条項のいずれに基づく請求についても,Dの死亡が急激・偶然・外来の事故により生じたものであることの立証が必要であり,それを原告らが負担していることについて,当事者間の争いはない。 急激性の要件は,事故発生の態様が急速で突発的なことを意味するものであるが,一般的には,傷害を生じる程度の事故はこの要件を満たすものであり,疾病に基づく身体の侵襲を不担保にする趣旨であると解されている。 外来性の要件は,傷害を発生させる事故が外部から被保険 ものであるが,一般的には,傷害を生じる程度の事故はこの要件を満たすものであり,疾病に基づく身体の侵襲を不担保にする趣旨であると解されている。 外来性の要件は,傷害を発生させる事故が外部から被保険者の身体に及ぶことが必要であるとするものである。 本件においては,Dの直接の死亡原因が溺水による窒息であり,短時間で死亡に至ったことから,急激性の要件,外来性の要件ともに充足されると解される。 (2) 偶然性の要件は,事故の原因の発生,結果の発生,または原因及び結果の発生のいずれもが,被保険者において予知できないものである場合に充足される。被保険者の意思によらないという意味であるが,保険請求者の方で,一応意思によらないものであること,すなわち,自殺によるものでないことが推認できる程度に立証する必要があると解される。 そこで,以下,本件における偶然性の要件を検討する。 アまず,本件自動車がh川に沈んでいるところを発見されたこと,その際,車内の男性の遺体が発見されていること,本件自動車が発見された翌日に引き上げられた際には遺体は車内になく,さらにその翌日に同地点から10キロメートル以上下流の地点で発見され,遺体が巨人様化していたことからすると,Dは,平成11年4月1日ころに本件自動車ごとh川に転落して死亡したことが推認される。 そして,本件自動車が,全体にひしゃげ,窓ガラスが割れている状況で発見されていること,わずか1日半程度の期間で遺体が10キロメートル以上も流されていることからすると,本件自動車は,発見地点よりも上流の地点でh川内に進入し,又は転落し,その後発見地点まで流されたと推認される。なお,被告は,深川市opの雪捨場がある場所からh川を少し下ったqに,灌漑排水のための2メートル以上の高さのある堰堤が設けられており,流れが速いとしても, ,その後発見地点まで流されたと推認される。なお,被告は,深川市opの雪捨場がある場所からh川を少し下ったqに,灌漑排水のための2メートル以上の高さのある堰堤が設けられており,流れが速いとしても,重量のある本件自動車がこの堰堤を乗り越えるのは難しく,堰堤よりも下流で本件自動車がh川に転落した可能性が高い旨主張するが,堰堤の手前でh川の流れが二手に分かれており,この堰堤部分を通らない流れもあるから,本件自動車が堰堤を乗り越えたとも限らず,この堰堤の存在によって,本件自動車の転落地点を被告主張のように限定することはできないと解される。 イ他方,Dの通勤経路とh川との位置関係を考えると,Dの自宅からm営業所までにおいてh川に接するのは,Dの自宅から北上して国道n号線に合流する深川市oの地点からmまでの国道n号線上であるが,その区間の国道n号線とh川とはそれほど近接していない箇所がほとんどであり,近接した場所においても,道路と川との間には雑木林がある状況である。冬期間は路側に除雪された雪が雪山となっており,それを乗り越えなければ道路の外にはずれることはない。 本件自動車が発見された場所付近からm営業所までの間の国道n号線とh川とが交差するのは,本流との交差が深川市o付近の1か所のみで,その他の場所はh川支流との交差である。そして,それらの場所で設置されている橋には,いずれも1メートル前後の高さの欄干が設けられており,橋を管理する担当部署に対し,平成11年4月1日に橋から自動車が転落した旨の事故報告はされていない。 当該通勤経路付近にあるh川沿いの雪捨場は,深川市opにあるものと,m営業所を過ぎたところにあるrのものの2か所であるが,pの雪捨場は国道を少しはずれて川方向に向かう道路を進まなければならないし,rの雪捨場は国道からは近いが,m営 捨場は,深川市opにあるものと,m営業所を過ぎたところにあるrのものの2か所であるが,pの雪捨場は国道を少しはずれて川方向に向かう道路を進まなければならないし,rの雪捨場は国道からは近いが,m営業所を過ぎた場所であり,いずれも,Dの通勤経路上にあるとは言えない。Dは,当時E産業で除排雪の作業にも従事していたが,補助的な作業を行っていたのであり,全体を監督するような立場にはなく,雪捨場の見回りなども行う早朝パトロールの仕事も担当していなかったのであって,通勤途上に雪捨場に寄って見回りをするというのも考えにくい。そもそも,雪捨場の雪山から川までは一定の距離を保つようにされているものの,道路から川に向かって下っていく河川敷に積み上げられる雪は道路と同程度の高さになり,台形状の雪山を形成し,その端と川面との高低差ができるものである上,このような雪捨場の照明施設などはないから,夜間は特に危険な場所であるということができ,その点からも,通勤経路から少しはずれて立ち入るということは,通常では想定しにくい。しかも,車両に乗ったまま雪山の端から川に転落する事態が生ずるのは,雪山の内部の雪が溶けて抜けるような状況があったとしても,台形状の雪山の頂上の端を走行するような場合であると考えられるが,このような危険な走行をすることも不自然である。 Dの通勤経路と本件自動車発見地点までの区域については,国道n号線とh川がさらに離れており,国道から脇道を川に向かってかなり走らなければ川岸にたどり着くことはない。 ウこれらの事情を考慮すると,自宅から勤務先に向かうとして本件自動車を運転していたDが,誤って,本件自動車ごとh川に進入し,あるいは,転落するということの可能性は極めて低いと言わざるを得ない。 エこの点,原告らは,転落の可能性の低さは,事故の場合と自殺 本件自動車を運転していたDが,誤って,本件自動車ごとh川に進入し,あるいは,転落するということの可能性は極めて低いと言わざるを得ない。 エこの点,原告らは,転落の可能性の低さは,事故の場合と自殺の場合とで異ならず,実際にDが本件自動車ごとh川に流されているのであるから,転落の可能性を論ずることは意味がない旨を主張する。 しかし,誤って転落する可能性が低くても,意思に基づいて転落する可能性が低いとはいえず,特殊な方法を用いなければ川に進入できないというような場合以外は,その可能性に違いはあると解されるところである。 オさらに,原告らは,本件自動車ごと転落することについては困難が予想されるので,自殺の方法として選択する可能性は低いこと,自動車ごと転落する場合としては不慮の事故の方が多いことを主張するが,いずれについても,必ずしもこのようにいうことはできないと思われるので,原告らの主張を採用することはできない。 カ原告らは,Dにおいて,家族や仕事の関係での悩み,経済的困難,精神疾患もなく,熱心なFの信者として活動し,自殺を否定する旨の教えを受けていたのであって,自殺の動機がなく,現に,Dの周囲の者は,D失踪後に同人の自殺を疑わず,自動車安全運転センター北海道旭川方面事務所長による交通事故証明書が発行されている旨を主張する。 たしかに,Dには,特段,悩みがあったことをうかがわせる事情は認められないし,平成11年4月1日に家を出る際に原告Aとの間で諍いがあったことは認められるものの,それのみで自殺の動機足り得るような事情とは言えない。周囲の者の対応や交通事故証明書の発行の事実も,本件において,自殺を疑わせる決定的な事情はなかったことを示しているものと考えられる。 しかし,Dが家を出る際の諍いについては,原告Aも,珍しく言い返したと感じ, 応や交通事故証明書の発行の事実も,本件において,自殺を疑わせる決定的な事情はなかったことを示しているものと考えられる。 しかし,Dが家を出る際の諍いについては,原告Aも,珍しく言い返したと感じ,Dが原告Aとの間を取り持ってもらうために家に行ったのかもしれないと考えていたこと,原告Aから話を聞いたDの両親も,頭を冷やしたら戻ってくると原告Aに伝えていることからすると,それなりに険悪なものであったと考えられるし,Dが,以前に勤務していた職場において,無断欠勤をしたり,退職する旨をなかなか言い出せず,原告Aとともに会社に赴いて告げることがあったとの事情なども併せ考慮すると,Dの精神的な脆さもうかがうことができる。 もちろん,このことによって自殺の動機が認定できるものではないが,自殺の可能性を全く否定するほどの事情であるということもできないと解されるところである。 キ以上からすると,本件においては,本件自動車のh川への進入又は転落がDの意思による可能性も否定できないのであり,他に,本件が偶然の事故であることを認めるに足りる証拠はなく,これを認めることはできないと言わざるを得ない。 第4 結論以上の次第であり,原告らの請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし,訴訟費用の負担について,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。 札幌地方裁判所民事第1部裁判官山田真紀
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