平成21(行ウ)155 所得税更正請求に対する通知処分取消請求事件

裁判年月日・裁判所
平成23年10月14日 大阪地方裁判所 租税
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判決文本文27,495 文字)

主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由 第1 請求近江八幡税務署長が平成20年3月10日付けでした原告の平成18年分所得税に係る更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分を取り消す。 第2 事案の概要 1 事案の骨子原告は,昭和58年に「○」に関する職務発明(以下「本件職務発明」といい,本件職務発明に係る特許を受ける権利を「本件特許を受ける権利」という。)を行い,平成17年7月,当時の使用者である株式会社A(以下「A」という。)に対し,特許法(平成16年法律第79号による改正前のもの。以下,特に明示しない限り「特許法」は上記改正前のものを指す。)35条3項の「相当の対価」の支払を求める訴えを提起し,平成18年6月に和解金3000万円(以下「本件和解金」という。)を受領した。原告は,本件和解金につき,平成18年分所得税の確定申告を行うに当たり,いったん雑所得に区分して申告したが,その後,本件和解金は譲渡所得に該当するとして更正の請求(以下「本件更正請求」という。)をしたところ,近江八幡税務署長から,本件和解金は雑所得に該当し譲渡所得には該当しないとして,更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)を受けた。本件は,原告が,本件和解金は譲渡所得に該当すると主張して,本件通知処分の取消しを求めている事案である。 2 関係法令等の定め(1) 所得税法33条1項は,譲渡所得とは,資産の譲渡による所得をいう旨規定し,同法35条1項は,雑所得とは,利子所得,配当所得,不動産所得, 事業所得,給与所得,退職所得,山林所得,譲渡所得及び一時所得の 33条1項は,譲渡所得とは,資産の譲渡による所得をいう旨規定し,同法35条1項は,雑所得とは,利子所得,配当所得,不動産所得, 事業所得,給与所得,退職所得,山林所得,譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しない所得をいう旨規定する。 なお,所得税法施行令82条は,所得税法33条3項1号に規定する政令で定める所得は,「自己の研究の成果である特許権,実用新案権その他の工業所有権」等の譲渡による所得とする旨規定する(これにより,上記工業所有権に係る譲渡所得は同法33条3項2号に掲げる所得(いわゆる長期譲渡所得)に該当することになるため,同法22条2項2号により,その譲渡に要した費用等を控除した後の金額のうち2分の1が総所得金額に算入される。)。 (2) 特許法35条3項は,従業者等は,契約,勤務規則その他の定により,職務発明について使用者等に特許を受ける権利若しくは特許権を承継させ,又は使用者等のため専用実施権を設定したときは,相当の対価の支払を受ける権利を有する旨規定し,同条4項は,前項の対価の額は,その発明により使用者等が受けるべき利益の額及びその発明がされるについて使用者等が貢献した程度を考慮して定めなければならない旨規定する。 なお,特許法35条は,平成16年法律第79号により改正されているが,同法の附則により,その施行(平成17年4月1日)前にした特許を受ける権利若しくは特許権の承継又は専用実施権の設定に係る対価については,なお従前の例によるとされている。 (3) 所得税基本通達23~35共-1(1)(平成17年6月24日付け課個2-23ほか3課共同の「『所得税基本通達の制定について』の一部改正について(法令解釈通達)」による改正後のもの(乙10))は,業務上有益な発明,考案又は創作に係る特許 平成17年6月24日付け課個2-23ほか3課共同の「『所得税基本通達の制定について』の一部改正について(法令解釈通達)」による改正後のもの(乙10))は,業務上有益な発明,考案又は創作に係る特許を受ける権利,実用新案登録を受ける権利若しくは意匠登録を受ける権利又は特許権,実用新案権若しくは意匠権を使用者に承継させたことにより支払を受けるものの所得区分について,「これらの権利の承継に際し一時に支払を受けるものは譲渡所得,これらの権利を承 継させた後において支払を受けるものは雑所得」とする旨定めている。 3 前提となる事実(当事者間に争いのない事実及び証拠等により容易に認められる事実。以下,書証番号は特に断らない限り枝番号を含む。)(1) 基本的な事実関係(甲1,乙11~25,27,弁論の全趣旨)ア原告は,昭和43年4月にAに入社し,平成19年9月8日に同社を退職した。 イ原告は,Aの高周波開発部に所属していた昭和58年頃,「○」に関する発明(本件職務発明)をした。Aは,同年11月25日,本件職務発明につき特許の出願をした(なお,本件職務発明に関する特許を受ける権利の承継時期については,後述のとおり当事者間に争いがある。)。 ウ本件職務発明は,日本において,平成3年6月20日に公告され,平成4年6月26日にA名で特許の設定登録がされた。また,外国においても,本件職務発明につき特許の設定登録がされた(以下,本件職務発明に係る特許権を「本件特許権」という。)。 エ Aは,昭和44年3月21日以降に従業員がした発明で,その性質上会社の業務範囲に属し,その発明をするに至った行為が,その従業員の現在又は過去の職務に属するもの(職務発明)について,発明考案等取扱規定(昭和44年3月 月21日以降に従業員がした発明で,その性質上会社の業務範囲に属し,その発明をするに至った行為が,その従業員の現在又は過去の職務に属するもの(職務発明)について,発明考案等取扱規定(昭和44年3月21日施行。以下「本件取扱規定」という。)及び発明報償金規定(平成4年4月1日施行。以下,本件取扱規定と併せて「本件各規定」という。)を定めている。なお,発明報償金規定は,平成4年4月1日に本件取扱規定から報償金算出に関する部分を独立させて定められたものである。 オ Aは,本件各規定に基づき,原告に対し,別紙1「本件職務発明に関する各報償金の支払明細」記載のとおり,昭和58年から平成17年までの間に,16回にわたり,本件職務発明についての各種報償金を支払った。 カ原告は,本件職務発明に関するロイヤリティ報償金163万1300円 が特許法35条3項の「相当の対価」の額に満たないなどとして,平成17年7月5日,Aを被告として,ロイヤリティ収入に対する原告が得るべき相当の対価として,5339万2003円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める訴え(大阪地方裁判所平成○年(ワ)第○号対価支払請求事件,以下「別件訴訟」という。)を提起した。そして,原告は,同年11月30日,クロスライセンス契約に基づく利益に対する相当の対価を加え,別件訴訟における請求額を7000万円(ただし,1億8930万0762円の内金)及びこれに対する遅延損害金に拡張した。 キ別件訴訟は,平成18年6月7日,原告とAとの間で訴訟上の和解が成立し(以下「本件和解」という。),終了した。本件和解における和解条項第1項は,次のとおりである(同項の「被告」とはAである。)。 「被告は,原告に対し,本日までに,原告が被告においてした職務発明,考 本件和解」という。),終了した。本件和解における和解条項第1項は,次のとおりである(同項の「被告」とはAである。)。 「被告は,原告に対し,本日までに,原告が被告においてした職務発明,考案にかかる権利の譲渡の対価として3000万円の支払義務があることを認める。」ク原告は,同月26日,Aから本件和解金3000万円の支払を受けた。 (2) 本件訴訟に至る経緯等(甲2,乙1~9,顕著な事実)ア原告は,平成19年3月15日,近江八幡税務署長に対し,本件和解金を雑所得として,平成18年分所得税の確定申告書を提出した。 イ原告は,平成19年12月7日,近江八幡税務署長に対し,「所得区分誤りのため雑所得→譲渡長期所得」との理由を記載した平成18年分所得税に係る更正の請求書を提出し,本件更正請求を行った。これに対し,同署長は,平成20年3月10日付けで,本件更正請求についてはその更正をすべき理由がないと認められるとして,更正をすべき理由がない旨の本件通知処分をした。 ウ原告は,同月11日,近江八幡税務署長に対し,「医療費控除を追加」との理由を記載した平成18年分所得税に係る更正の請求書を提出し,更 正の請求(以下「更正請求②」という。)を行った。これに対し,同署長は,平成20年4月24日付けで,医療費控除として10万5199円を認め,原告の平成18年分所得税につき減額更正をした(なお,更正請求②は,医療費控除の点のみにつき更正を求めるものであり,上記減額更正もこの点のみに係るものである。)。 エ原告は,平成20年4月11日,近江八幡税務署長に対し,本件通知処分の全部取消しを求める旨の異議申立てをしたが,同署長は,同年7月2日付けで,上記異議申立てを棄却する旨の異議決定 )。 エ原告は,平成20年4月11日,近江八幡税務署長に対し,本件通知処分の全部取消しを求める旨の異議申立てをしたが,同署長は,同年7月2日付けで,上記異議申立てを棄却する旨の異議決定をした。 オ原告は,同年8月2日,国税不服審判所長に対し,本件通知処分の全部取消しを求める旨の審査請求をしたが,同所長は,平成21年4月23日付けで,上記審査請求を棄却する旨の裁決をした。 カ原告は,同年9月15日,本件通知処分の取消しを求めて本件訴訟を提起した。 (3) 課税の経緯(弁論の全趣旨)原告の確定申告から国税不服審判所長による上記裁決までの課税の経緯は,別紙2「課税の経緯」記載のとおりである。 なお,同別紙の「その他の所得控除の金額」につき,「本件更正請求」及び「更正請求②」に係る各金額が318万3478円となっているのに対し,「確定申告」及び「更正処分」に係る金額は318万3748円となっているのは,本件更正請求及び更正請求②の各請求書の記載に誤記があったためであり,「確定申告」及び「更正処分」に係る金額(318万3748円)が正しい。 第3 主たる争点及び当事者の主張 1 主たる争点本件における主たる争点は,本件通知処分の適法性であり,具体的には,本件和解金が譲渡所得に該当するか否かである。 2 上記の各争点に関する当事者の主張は別紙「当事者の主張」記載のとおりであり,その骨子は次のとおりである。 (1) 原告の主張の骨子ア原告がAに対して本件特許を受ける権利を承継したのは,本件和解金を受け取った平成18年6月であると解されるから,本件和解金は正に権利の承継に際しその対価として受け取ったものであり,譲渡所得に該当する。 イ 本件特許を受ける権利を承継したのは,本件和解金を受け取った平成18年6月であると解されるから,本件和解金は正に権利の承継に際しその対価として受け取ったものであり,譲渡所得に該当する。 イ仮に本件特許を受ける権利の承継時期が昭和58年であったとしても,次のとおり,本件和解金は譲渡所得に該当する。 (ア) 本件和解金は,原告が本件特許を受ける権利をAに承継させたことの対価として,特許法35条3項の規定により取得した相当の対価支払請求権を実現させたものであるから,特許を受ける権利の譲渡の対価として,当然に譲渡所得に該当する。 (イ) あるいは,原告が特許を受ける権利の承継の対価として取得した相当の対価支払請求権は,総額も請求時期も定まっていない抽象的な請求権であるところ,原告は,本件和解によって,このような抽象的な請求権を原告の支配から離脱させる対価として,Aに対する具体的な請求権を取得したものであり,本件和解金は原告の有する抽象的な相当の対価支払請求権の譲渡の対価であるといえるから,譲渡所得に該当する。 (2) 被告の主張の骨子ア本件特許を受ける権利は,遅くとも昭和58年11月25日に,原告から使用者であるAに承継された。このことは,本件取扱規定及び昭和58年11月25日付け「譲渡証書」と題する書面(乙27)等により明らかである。 イ本件和解金は,次のとおり譲渡所得に該当せず,雑所得に該当する。 (ア) 譲渡所得に対する課税は,資産の値上がりによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として,その資産が所有者の支配を離れて他に 移転するのを機会に,その所有期間中の増加益を清算して課税する趣旨のものであるところ,本件和解金の実質からすると,本件和解金は,原告が本件特許 所得として,その資産が所有者の支配を離れて他に 移転するのを機会に,その所有期間中の増加益を清算して課税する趣旨のものであるところ,本件和解金の実質からすると,本件和解金は,原告が本件特許を受ける権利を有していた期間中の増加益であるとはいえず,また,本件和解金に対する課税は,本件特許を受ける権利が使用者に移転するのを機会に清算して課税するものでもないから,本件和解金は譲渡所得には該当しない。 (イ) 原告は,本件和解金を,抽象的な相当の対価支払請求権の譲渡の対価であるとも主張するが,譲渡の対象についての前提を誤っている上,原告が本件和解金を受領したことにより,原告が取得していた相当の対価支払請求権は消滅するのであるから,「譲渡」とすらいえず,失当である。 第4 当裁判所の判断 1 本件特許を受ける権利の承継時期について(1) 前記前提となる事実,証拠(乙12,27)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。 ア昭和58年当時の本件取扱規定は,特許を受ける権利の承継に関し,以下のとおり定めていた(表記は原文のまま)。 3条1項職務発明に関する特許,実用新案登録または意匠登録を受ける権利(以下特許を受ける権利という)は,会社がこれを承継する。ただし,会社がその権利を承継する必要がないと認めたときは,この限りでない。 5条性質上会社の業務範囲に属する発明をした従業員は,すみやかにその発明の内容を所属長を経由して技術管理部長に届出なければならない。 6条1項技術管理部長は前条の届出があったときは,その届出にかかわる発明が職務発明であるかどうかの認定をし,職務発明であると認定したときは,その発明について特許を受ける権利を会社が承継するかどう かの決 管理部長は前条の届出があったときは,その届出にかかわる発明が職務発明であるかどうかの認定をし,職務発明であると認定したときは,その発明について特許を受ける権利を会社が承継するかどう かの決定をするものとする。 6条3項技術管理部長は前2項の規定により特許を受ける権利を会社が承継すると決定したときはすみやかに出願するかどうか決定しなければならない。 8条発明者は,第6条第1項の規定によりその発明者の発明についての特許を受ける権利を会社が承継すると決定したときは,その権利を会社に譲渡しなければならない。 イ原告は,昭和58年10月1日,Aに対し,本件取扱規定5条に基づき,本件職務発明に係る届出(発明届出書番号×-×)をした。これを受けて,Aは,その頃,本件職務発明が職務発明である旨認定し,本件職務発明に係る特許を受ける権利(本件特許を受ける権利)を承継することを決定した。 ウ原告は,同年11月25日,同日付け「譲渡証書」と題する書面に自ら押印し(原告は同書面の成立の真正について争っていない。),これをAに交付した。同書面には,「下記の発明または考案に関する特許を受ける権利または実用新案登録を受ける権利を貴社に譲渡したことに相違ありません。 記発明または考案の名称 ○ 発明届出書NO.×-×」と記載されている。 エ Aは,同日,原告ほか1名を発明者とし,Aを特許出願人として,本件職務発明について特許出願をした。なお,特許出願における発明の名称は「○」である。 (2) 以上によれば,本件取扱規定に則って,原告が本件職務発明に係る届出をし,Aが本件特許を受ける権利の承継を決定し,Aが本件職務発明に係る特許出願をしたという経緯が認められ,さらに,原告が押印した「譲渡証書」と題する 件取扱規定に則って,原告が本件職務発明に係る届出をし,Aが本件特許を受ける権利の承継を決定し,Aが本件職務発明に係る特許出願をしたという経緯が認められ,さらに,原告が押印した「譲渡証書」と題する書面(乙27)の内容からすれば,本件特許を受ける権利は,遅くとも昭和58年11月25日までに,原告からAに承継されたものと認めら れる。 これに対し,原告は,相当の対価を受領することなくして本件特許を受ける権利を譲渡するなどという意思は有しておらず,本件和解成立により相当の対価の額が定まったことにより初めて本件特許を受ける権利を譲渡することにしたなどとして,本件特許を受ける権利の移転に関する合意は平成18年6月まで成立していない旨主張する。しかし,上記認定事実のとおり,原告は,自ら本件職務発明に係る届出をした上,本件特許を受ける権利をAに譲渡した旨認めているのであり,本件取扱規定の規定内容等も考慮すれば,原告が昭和58年当時本件特許を受ける権利をAに承継させる意思を有していたことは明らかであって,原告の上記主張は採用することができない。 また,原告は,本件取扱規定にはいつ特許を受ける権利を承継するかという時期についての定めはなく,これと特許法35条3項とを併せ読めば,Aが特許を受ける権利を承継取得するためには「相当の対価」の支払を要する旨主張する。しかし,特許を受ける権利の承継取得は特許出願の前提となるものであるから,本件取扱規定3条1項は,必要と認めた場合には特許を受ける権利を直ちに承継取得する趣旨であるというべきであるし,特許法35条3項は,「特許を受ける権利…を承継させ…たときは,相当の対価の支払を受ける権利を有する」と,権利を承継させたことが相当の対価支払請求権発生の条件となることを規定したものというべきであ 特許法35条3項は,「特許を受ける権利…を承継させ…たときは,相当の対価の支払を受ける権利を有する」と,権利を承継させたことが相当の対価支払請求権発生の条件となることを規定したものというべきであり,特許を受ける権利の承継と「相当の対価」の支払とを同時履行の関係とするものではないと解される(最判平成15年4月22日・民集57巻4号477頁(以下「平成15年最判」という。)参照)。したがって,本件取扱規定と特許法35条3項を併せ読んでも,権利の承継と「相当の対価」支払との同時履行の関係は導かれないから,原告の上記主張は採用することができない。 2 本件和解金の譲渡所得該当性について(1) 譲渡所得課税の趣旨等 ア譲渡所得とは,資産の譲渡による所得(所得税法33条1項)であるところ,資産の譲渡所得に対する課税は,資産の値上がりによりその資産の所有者に帰属する増加益(キャピタルゲイン)を所得として,その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に,これを清算して課税する趣旨のものであり,売買交換等によりその資産の移転が対価の受入を伴うときは,その増加益は対価のうちに具体化されるので,これを課税の対象としてとらえたのが所得税法33条1項の規定である(最判昭和43年10月31日・裁判集民事92号797頁参照)。そして,年々に蓄積された当該資産の増加益が所有者の支配を離れる機会に一挙に実現したものとみる建前から,累進税率のもとにおける租税負担が大となるので,同条3項2号に係るいわゆる長期譲渡所得(資産の譲渡でその資産の取得の日以後5年経過後にされたものによる所得など)については,その租税負担の軽減を図る目的で,同法22条2項2号により,長期譲渡所得の金額の2分の1に相当する金額をもって課税標準とされている(最 取得の日以後5年経過後にされたものによる所得など)については,その租税負担の軽減を図る目的で,同法22条2項2号により,長期譲渡所得の金額の2分の1に相当する金額をもって課税標準とされている(最判昭和47年12月26日・民集26巻10号2083頁(以下「昭和47年最判」という。)参照)。 また,譲渡所得の金額は,その年中の当該所得に係る総収入金額から当該所得の基因となった資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用の額の合計額を控除し,その残額の合計額から譲渡所得の特別控除額(50万円)を控除した金額とするものとされているが(同法33条3項,4項),所得税法上,同一の原因に基づく譲渡所得が複数年度にわたる場合の控除の方法について定めた規定はない。そして,仮に複数年度にわたり資産の取得費等が控除されるとすれば,二重控除となり課税の公平を害する不合理な結果となることも踏まえると,所得税法は,そもそも,同一の原因に基づく譲渡所得が複数年度にわたり計上されることを想定していないと解するのが合理的である。 イ以上のような,譲渡所得に係る課税の趣旨や制度の仕組みなどからすれば,ある所得が譲渡所得に該当するためには,その所得が「当該資産の増加益が所有者の支配を離れる機会に一挙に実現したもの」であること,すなわち,資産の所有権その他の権利が相手方に移転する機会に一時に実現した所得であることを要すると解するのが相当である(この点,B東京大学大学院教授も,その意見書(乙32)において,資産の譲渡が既に済んでしまっている場合に,譲渡所得が発生しないことは,昭和47年最判からも明らかであるとしており,上記と同様の理解に立っているものと考えられる。)。 上記のような理解は,譲渡所得についての収入金額の権利確定の時期 渡所得が発生しないことは,昭和47年最判からも明らかであるとしており,上記と同様の理解に立っているものと考えられる。)。 上記のような理解は,譲渡所得についての収入金額の権利確定の時期が,当該資産の所有権その他の権利が相手方に移転する時であるとされていること(最判昭和40年9月24日・民集19巻6号1688頁参照)とも整合するものである。すなわち,譲渡所得についての収入金額の権利確定の時期が,当該資産の所有権その他の権利が相手方に移転する時であるということは,裏を返せば,当該資産の所有権その他の権利が相手方に移転する時に権利が確定する所得のみが当該資産に係る譲渡所得になるということであって,ある所得が譲渡所得に該当するためには,当該資産の所有権等が相手方に移転する機会に一時に実現した所得であることを要するという上記理解に正に合致するのである。 ウ以上によれば,ある所得が譲渡所得に該当するためには,資産の所有権その他の権利が相手方に移転する機会に一時に実現した所得であることが必要であるものと解される。 (2) 本件和解金に係る所得が実現した時期についてア本件和解金は,本件職務発明に係る特許法35条3項の「相当の対価」として支払われたものである(甲1,乙20~23,弁論の全趣旨)。 ところで,特許法35条3項は,従業者等は,契約,勤務規則その他の 定により,職務発明について使用者等に特許を受ける権利等を承継させたときは,相当の対価の支払を受ける権利を有する旨規定し,同条4項は,上記対価の額は,その発明により使用者等が受けるべき利益の額及びその発明がされるについて使用者等が貢献した程度を考慮して定めなければならない旨規定するところ,上記各規定の文言,特に,相当の対価の額を定める の額は,その発明により使用者等が受けるべき利益の額及びその発明がされるについて使用者等が貢献した程度を考慮して定めなければならない旨規定するところ,上記各規定の文言,特に,相当の対価の額を定める考慮事項として「その発明により使用者等が受けるべき利益」とされていることなどに照らすと,相当の対価支払請求権は,理論上,特許を受ける権利等を承継させたときに発生するものと解される。 しかし,特許を受ける権利等の承継時においては,そもそもその特許を受ける権利(職務発明)につき特許出願がされるのかどうか,特許出願をした場合に特許が付与されるかどうかなどは不確定であり,特許が付与されたとしても,現実に使用者が得る利益は,当該使用者の資本,設備,営業能力,経営判断,その時々の景気,需要者の嗜好の変化,代替技術の出現等によって大きく左右されるから,実際には,特許を受ける権利等の承継時に「相当の対価」の額を的確に算定することは極めて困難である(このため,実務上,多くの企業では,職務発明規程等により,特許を受ける権利の承継後の出願時,登録時,実施時,ライセンス時などに分けて,職務発明規程等に従って算定した額を支払う実績報償制度を採用しており,実施後の各種報償金等の算定に当たっては,使用者等が当該特許の実施により得た利益を基礎として算定されるのが一般的であり,Aにおいても,これと同様の制度を採用している。)。 このような「相当の対価」の算定の困難性に照らすと,特許を受ける権利等が承継された時(相当の対価支払請求権が発生した時)においては,その機会に現実に金銭が支払われた(又は将来支払われる具体的な金額が確定している)部分を除き,当該特許を受ける権利等の承継に係る「相当の対価」につき所得が実現したと評価することはできない。 機会に現実に金銭が支払われた(又は将来支払われる具体的な金額が確定している)部分を除き,当該特許を受ける権利等の承継に係る「相当の対価」につき所得が実現したと評価することはできない。 イ以上によれば,本件職務発明に係る特許法35条3項の「相当の対価」については,出願報奨金として原告に支払われた1000円を除き,本件特許を受ける権利が承継された機会において所得が実現したということはできないから,本件職務発明に係る「相当の対価」として支払われた本件和解金についても,本件特許を受ける権利が承継された機会において所得が実現したということはできない(なお,前記前提となる事実によれば,本件和解金が所得として実現したのは,本件和解が成立した平成18年6月であると認められる。)。 (3) 小括したがって,本件和解金は,本件特許を受ける権利がAに移転する機会に一時に実現した所得ではないから,本件特許を受ける権利に係る譲渡所得には該当しない。 (4) 原告の主張についてア原告は,特許法35条3項は,「特許を受ける権利若しくは特許権を承継させたこと」の対価として従業員が相当額の金員を受け取るべきことを定めるものであって,そこで従業員が受け取った金員は正に資産(特許を受ける権利等)の譲渡による収入であるから,このような金員に基づく所得が「資産の譲渡による所得」として譲渡所得に該当することは明らかであると主張し,これに反する被告の主張は,所得税法の文言を無視したものであり,租税法律主義の原則から大きくかけ離れたものである旨主張する。 確かに,法的安定性や予測可能性の観点から,租税に関する法律は原則としてその文言に即して解釈されなければならない。しかし,その文言の通常の意味を踏まえつつ,そ たものである旨主張する。 確かに,法的安定性や予測可能性の観点から,租税に関する法律は原則としてその文言に即して解釈されなければならない。しかし,その文言の通常の意味を踏まえつつ,その法条の趣旨目的に即した解釈をすることは許されるというべきであり,上記(2)で示した解釈が租税法律主義の原則(厳格な文言解釈の要請)に悖るものではないというべきである。 特許法35条の定める「相当の対価」は,文字どおり特許を受ける権利等の対価的性質を有するものではあるが,権利の承継時に実現した部分を除いては,譲渡によって実現した所得ということはできず,「譲渡による」所得に該当せず,特許法が定めた相当の対価支払請求権が具体化することによって実現した所得と解されるのであり,このような解釈が所得税法の文言に反するものではない。 イ原告は,本件和解金は,特許法35条の規定に基づいて本件特許を受ける権利の対価を再評価した,いわば資産の再評価額であるから,本件和解金に対する課税は,正に資産の値上がりによりその資産の所得者に帰属する増加益(キャピタルゲイン)に対する課税であって,譲渡所得課税の趣旨に合致すると主張する。 しかし,所有資産の価値の増加益の実現という実質の有無と譲渡所得該当性の判断との関係については検討の余地があるが,少なくとも,本件和解金は本件特許を受ける権利の価値の増加益の実現であるとはいえないから,原告の上記主張は採用することができない。すなわち,最判平成18年10月17日(民集60巻8号2853頁)は,「(特許法35条)3項及び4項の規定は,職務発明の独占的な実施に係る権利が処分される場合において,職務発明が雇用関係や使用関係に基づいてされたものであるために,当該発明をした従業者等と使用 )は,「(特許法35条)3項及び4項の規定は,職務発明の独占的な実施に係る権利が処分される場合において,職務発明が雇用関係や使用関係に基づいてされたものであるために,当該発明をした従業者等と使用者等とが対等の立場で取引をすることが困難であることにかんがみ,その処分時において,当該権利を取得した使用者等が当該発明の実施を独占することによって得られると客観的に見込まれる利益のうち,同条4項所定の基準に従って定められる一定範囲の金額について,これを当該発明をした従業者等において確保できるようにして当該発明をした従業者等を保護し,もって発明を奨励し,産業の発展に寄与するという特許法の目的を実現することを趣旨とするものである」と説示しているが,これによれば,要するに,同条3項及び4項は, 職務発明に係る特許を受ける権利等が使用者等に承継されたときは,「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」のうち,「その発明がされるについて使用者等が貢献した程度」を考慮して定められる一定の範囲の金額を,当該発明をした従業者等において確保できるようにした規定であるというのである。そうすると,特許法35条3項の「相当の対価」とは,特許を受ける権利等の承継時における適正な代金額(客観的交換価値)とは全く異なる概念であって,むしろ,貢献度に応じた独占実施利益の分配金という方が,その実質によく合致するというべきである。このことは,「相当の対価」の額を定めるに当たり,当該特許を受ける権利の客観的交換価値とは直接関係のない,「その発明がされるについて使用者等が貢献した程度」を考慮しなければならないとされていることからも明らかである(この考慮事情は,裏を返せば,「相当の対価」の額を定めるに当たり,従業者等が貢献した程度を考慮しなければならないということである した程度」を考慮しなければならないとされていることからも明らかである(この考慮事情は,裏を返せば,「相当の対価」の額を定めるに当たり,従業者等が貢献した程度を考慮しなければならないということであるから,「相当の対価」は従業者等の職務遂行とその成果に対する報償たる性格を有しているということもできよう。)。したがって,特許法35条3項に基づく本件和解金が,本件特許を受ける権利の対価の再評価額であるということはできず,譲渡所得課税の趣旨に合致する旨の原告の上記主張は,その前提を誤るものであり採用することができない。 この点に関連して,原告は,原告がAから受け取った各種報償金は,本件特許権の実績に応じてその利益の一部を還元するという本件各規定に基づいて支払われたものであり譲渡所得には該当しないが,本件和解金は,相当の対価支払請求権に基づくものであり譲渡所得に該当する旨主張している。しかし,原告が受け取った各種報償金が本件特許を受ける権利の「相当の対価」の一部として評価されるべきものであることは,平成15年最判の説示に照らして明らかというべきであり,原告自身,別件訴訟において,そのような理解を前提とした請求及び主張を行っている(乙20, 22)。そうすると,本件和解金は,「相当の対価」の一部として支払われたロイヤリティ報償金等の不足分を補うものであり,原告が受け取った各種報償金とその性質を同じくするものであるから,原告の上記主張は採用することができない。 3 本件和解金が相当の対価支払請求権の譲渡の対価である旨の主張について原告は,原告が本件特許を受ける権利の承継の対価として取得した相当の対価支払請求権は,総額も請求時期も定まっていない抽象的な請求権であるところ,そのような抽象的な請求権を本件和解によって原 原告は,原告が本件特許を受ける権利の承継の対価として取得した相当の対価支払請求権は,総額も請求時期も定まっていない抽象的な請求権であるところ,そのような抽象的な請求権を本件和解によって原告の支配から離脱させる対価として原告はAに対して具体的な請求権を取得したものであり,本件和解金は原告の有する相当の対価支払請求権の譲渡の対価として,本件和解の成立した日の属する年の譲渡所得として計算される旨主張する。 しかし,原告がAに対して有する相当の対価(不足分)支払請求権は,それまで金額が定まっていなかったものが,本件和解により具体的な金額が確定したにすぎず,本件和解金は上記相当の対価支払請求権に対する弁済として支払われたものであり,本件和解により原告が抽象的な相当の対価支払請求権をAに譲渡し,その対価として原告が具体的な相当の対価支払請求権を取得したなどと評価すべきものではない。そもそも,原告の上記主張は,抽象的な相当の対価支払請求権と具体的な相当の対価支払請求権とが別個の請求権であることを前提とするものであるが,そのような技巧的な法律構成を採用すべき理由はなく,上記主張はその前提を誤るものであり採用することができない。 4 本件和解金の所得区分について以上のとおり,本件和解金は譲渡所得に該当しない。しかも,本件和解金は,利子所得,配当所得,不動産所得,事業所得,給与所得,退職所得,山林所得及び一時所得のいずれにも該当しないから,結局,雑所得に該当することとなる(所得税法35条1項)。 なお,本件和解金は,本件職務発明の「相当の対価」として支払われたもの であるところ,特許法35条3項の「相当の対価」とは,従業者等の労務及びその成果(職務発明)に対する対価たる性質を有しているというべきであり,「労 発明の「相当の対価」として支払われたもの であるところ,特許法35条3項の「相当の対価」とは,従業者等の労務及びその成果(職務発明)に対する対価たる性質を有しているというべきであり,「労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないもの」(所得税法34条1項)とはいえないから,一時所得には該当しない。 5 結論以上によれば,本件和解金が雑所得に該当するとしてされた本件通知処分は適法であるから,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。 大阪地方裁判所第2民事部 裁判長裁判官山田明 裁判官徳地淳 裁判官内藤和道 (別紙)当事者の主張 第1 原告の主張 1 本件特許を受ける権利が承継されたのは平成18年6月であること(1) 従業者等(労働者)から使用者等(会社)に権利が移転する時期について職務発明に係る特許を受ける権利は,原始的には発明者である従業者等に帰属し(特許法29条),当該従業員から使用者等に譲渡されることによって使用者等に移転する。そして,この権利移転は,当事者間の権利移転に関する合意等(労働契約,労働契約とは別の譲渡契約,労働協約,就業規則等)によってその効果が生じるものであり,使用者等がその一方的意思により従業者等から特許を受ける権利を奪い取ることができるものではない。そして,特許法は,従業者等から使用者等へ特許を受ける権利が移転する時期について特段の定めを置いておらず,その権利移転時期は,当事者間の権利移転に関する合意があった時であるということになる。 (2) 本件特許を受ける権利が移転されたのは平成18年6月 移転する時期について特段の定めを置いておらず,その権利移転時期は,当事者間の権利移転に関する合意があった時であるということになる。 (2) 本件特許を受ける権利が移転されたのは平成18年6月であることア原告は本件和解が成立するまでAに対して特許を受ける権利を承継させるとの意思を有していなかったこと原告は,昭和58年頃に本件職務発明を行い,その後も種々の職務発明を行ったが,原告としてはそれらの発明に関する特許を受ける権利を,相当の対価を受領することなくしてAに対して譲渡するなどという意思は有していなかった。そして,原告は,本件職務発明に関し,報償金名目でAが一方的に定めたわずかな金銭を受け取ってはいたが,本件特許を受ける権利の譲渡の対価を受け取ったとは認識しておらず,ひいては,相当の対価を受領するまでは自己の職務発明をAに承継させるなどという意思を有してはいなかった。 原告は,本件和解により本件職務発明等の「相当の対価」が定まり,その対価を取得することができることが明らかになって初めて,Aに対して本件職務発明等に関する権利を譲渡することにしたのである。 イ本件取扱規定等の解釈Aの本件取扱規定3条1項は,「職務発明に関する特許,実用新案登録または意匠登録を受ける権利は,会社がこれを承継する。ただし,会社がその権利を承継する必要がないと認めたときは,この限りでない。」と定めているが,いつその権利を承継するかという時期についての定めはない。 そして,特許法は従業者等が使用者等に特許を受ける権利若しくは特許権を承継させたときは,従業者等は使用者等に対して「相当の対価」の支払を受ける権利を有する旨を定めているのであるから,これらを併せて読めば,本件においては,原告の意思なく 許を受ける権利若しくは特許権を承継させたときは,従業者等は使用者等に対して「相当の対価」の支払を受ける権利を有する旨を定めているのであるから,これらを併せて読めば,本件においては,原告の意思なく就業規則の定めによってAが一方的意思により特許を受ける権利を取得するためには,相当の対価の支払を要すると解するのが素直である。 (3) 小括以上のとおり,昭和58年に本件職務発明に関する権利を承継させることに関する原告とAとの間の合意はなく,また,Aの本件取扱規定等によっても,相当の対価を支払うことなく一方的に原告から職務発明に関する権利を承継することはできないと解されるのであるから,昭和58年に原告からAに本件職務発明に関する権利が承継されたとはいえない。原告からAに対して本件特許を受ける権利が承継されたのは,本件和解が成立した平成18年6月である。 したがって,その対価として原告がAから受領した本件和解金は,権利の承継に際しその対価として受け取ったものであるから,譲渡所得に該当することは明らかである。 2 本件和解金が譲渡所得に該当すること (1) 本件和解金は権利の譲渡の対価として受け取ったものであることア自由発明と職務発明の峻別特許法35条は,従業者等がした発明について,職務発明に該当するものの取扱いと自由発明に該当するものの取扱いを峻別している。そして,自由発明については,あらかじめ使用者等に特許を受ける権利若しくは特許権を承継させることを定める契約,勤務規則その他の定めの条項は無効とする旨が定められており(同条2項),従業者等は発明後に個別に契約を締結することによって使用者その他の第三者に対して当該職務発明に係る特許権若しくは特許を受ける権利を譲渡する。その めの条項は無効とする旨が定められており(同条2項),従業者等は発明後に個別に契約を締結することによって使用者その他の第三者に対して当該職務発明に係る特許権若しくは特許を受ける権利を譲渡する。その個別の契約においては,従業者等が金員等の何らかの財産を取得する旨の条項が定められるのが通常であるが,その財産の所得税法上の所得区分については,当該契約の合理的解釈や当該財産の性質を実質的に検討することによって判断されることになろう。 イ職務発明については特別に相当の対価支払請求権に関する規定が置かれていること従業者等がした発明が職務発明に該当する場合について,特許法は,自由発明とは全く異なる取扱いを定めている。すなわち,同法35条3項は,発明をした従業者等が使用者等に特許を受ける権利若しくは特許権を承継させたときは,従業者等に「相当の対価」の支払を受ける権利を取得させる旨を規定している。従業者等は,使用者等に特許権等を承継させたときは,その承継させたという事由に基づいて「相当の対価支払請求権」を取得することが明示されているのである。 このように,従業者等は特許法35条3項の定めに基づいて「相当の対価支払請求権」を取得するが,その請求権が,「特許を受ける権利若しくは特許権を承継させたこと」の対価であることは同項の文言から明らかである(この点については,被告も,「相当の対価」が特許を受ける権利の 承継の代償として特許法35条3項により特別に与えられた「相当の対価支払請求権」に基づいて使用者から支払われるものであると主張しており,同項に基づいて使用者から支払われる金員が特許を受ける権利の承継の対価であることを認めている。)。 ウ相当の対価支払請求権の特性このように,従業者等が使用 あると主張しており,同項に基づいて使用者から支払われる金員が特許を受ける権利の承継の対価であることを認めている。)。 ウ相当の対価支払請求権の特性このように,従業者等が使用者等に特許権等を承継させたときは,従業者等は使用者等に対する「相当の対価支払請求権」を取得する。しかし,この特許法が特に認めた上記請求権は,資産を売却した際に通常生じる請求権(売掛金等)とは異なる性質を有する。すなわち,一般に資産(不動産,動産,債権など)を承継する場合においては,その承継の合意をするときに,その承継の対価を当事者間の合意によって定めることは可能であり,通常もそのようにして承継の対価を定めている。この対価が譲渡所得とされることは言うまでもない。 ところで,本件のような職務発明に係る特許権若しくは特許を受ける権利の承継については,通常の資産と異なり,権利の性質上,その承継時にそれに見合う相当の対価を終局的に決定することはおよそ全ての人にとって不可能である。そこで,従業者等が就業規則等に従って使用者等からいくばくかの報償金等を受領した場合であっても,従業者等は,特許を受ける権利等の承継時に特許法35条3項の規定に基づいて使用者等に対する「相当の対価支払請求権」を取得し,従業者等が使用者等から受け取った額が相当の対価額に満たない場合には,従業者等は,当該特許を受ける権利等の承継時ではなく,後日,相当の対価支払請求権を行使し,使用者等に対して相当の対価を求めることが認められているのである。 エ本件和解金の所得区分このように,職務発明について,従業者等は当該特許権等の承継時ではなく,後日,相当の対価支払請求権を行使し,使用者等に対して対価を求 めることが認められている。そして,本件においても, このように,職務発明について,従業者等は当該特許権等の承継時ではなく,後日,相当の対価支払請求権を行使し,使用者等に対して対価を求 めることが認められている。そして,本件においても,原告はAに対して,特許を受ける権利の承継から相当期間経過後に対価の支払を請求し,本件和解において,両当事者間において終局的な相当の対価額を決定し,それを取得した。 ① このようにして原告が得た金員については,原告が特許権若しくは特許を受ける権利の承継の対価として特許法35条3項の規定により取得した相当の対価支払請求権を実現させたものであるので,正に特許権若しくは特許を受ける権利の譲渡の対価として,所得区分としては当然譲渡所得(所得税法33条が規定する資産の譲渡による所得)と解され,権利確定主義によって,その金額が確定した年の所得として計算される。 あるいは,② 原告が特許権若しくは特許を受ける権利の承継の対価として取得した相当の対価支払請求権は,総額も請求時期も定まっていない抽象的な請求権であるところ,そのような抽象的な請求権を本件和解によって原告の支配から離脱させる(換言すると,このような抽象的な請求権をAにいわば譲渡することにより,その後原告からAに対して特許を受ける権利の承継の対価を請求することを不可能とする)対価として原告はAに対して具体的な請求権を取得したものであり,本件和解金は原告の有する相当の対価支払請求権の譲渡の対価として,本件和解の成立した日の属する年の譲渡所得として計算される,と解されるのであって,いずれにせよ,これが譲渡所得に該当することは明らかである。 第2 被告の主張 1 本件特許を受ける権利の承継時期は遅くとも昭和58年11月25日であること(1) 本件特 のであって,いずれにせよ,これが譲渡所得に該当することは明らかである。 第2 被告の主張 1 本件特許を受ける権利の承継時期は遅くとも昭和58年11月25日であること(1) 本件特許を受ける権利は,遅くとも昭和58年11月25日に,原告から 使用者であるAに承継された。このことは,本件取扱規定及び昭和58年11月25日付け「譲渡証書」と題する書面(乙27)等により明らかである。 (2) 原告は,職務発明に係る特許を受ける権利については,使用者(会社)がその一方的意思によって従業者からその権利を取得することはできず,権利移転時期については,当事者間の権利移転に関する合意があった時であると解すべきであると主張する。 しかし,特許法35条2項の反対解釈によれば,職務発明については,あらかじめ使用者等に特許を受ける権利若しくは特許権を承継させることを定めた契約,勤務規則等の条項は有効であって,特許を受ける権利の移転時期は当事者の当該権利移転に関する合意があった時のみであるかのように主張する原告の主張は失当である。また,原告は,昭和58年11月25日までに本件特許を受ける権利をAに譲渡した旨の書面を提出しているから,本件では,原告がA内の手続にのっとって当該権利を上記年月日までに譲渡したことは明らかである。 2 本件和解金は譲渡所得に該当しないこと(1) 譲渡所得の意義ア譲渡所得の本質譲渡所得とは,「資産の譲渡による所得」(所得税法33条1項)であり,「資産の譲渡所得に対する課税は,資産の値上りによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として,その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に,これを清算して課税する趣旨のもの」(昭和47年最判),「譲渡所得…の本質 は,資産の値上りによりその資産の所有者に帰属する増加益を所得として,その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に,これを清算して課税する趣旨のもの」(昭和47年最判),「譲渡所得…の本質は,キャピタル・ゲイン,すなわち所有資産の価値の増加益であって,譲渡所得に対する課税は,資産が譲渡によって所有者の手を離れるのを機会に,その所有期間中の増加益を清算して課税しようとするものである」(金子宏・租税法第15版210頁)とされる。 したがって,本件和解金の譲渡所得該当性は,本件和解金を譲渡所得として課税することが,上記で示した譲渡所得課税の趣旨に合致するか否かにより判断されることになる。 イ譲渡所得は,資産の譲渡により実現した所得に対し課税するものであることまた,上記のとおり,譲渡所得に対する課税は,所有者の所有期間中の増加益を所得として,その資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に,これを清算して課税するものであるが,所得税法上,「抽象的に発生している資産の増加益そのもの」に課税する趣旨ではなく,資産の譲渡により「実現した」所得に課税するものである(最判平成18年4月20日・裁判集民事220号141頁)。 (2) 本件和解金の実質ア本件和解金は「相当の対価」の一部であること「相当の対価」の支払実務においては,分割払い方式の実績報償制度が採用されることが多く,使用者は,勤務規則等に実績報償等の定めを置き,特許権の実施後の成績に応じて,従業員に対し報償金等を支払っているのであり,このような金員が,「相当の対価」の一部に該当するものであることは明らかである(平成15年最判)。 そして,原告も,別件訴訟において,このことを前提として,「 金等を支払っているのであり,このような金員が,「相当の対価」の一部に該当するものであることは明らかである(平成15年最判)。 そして,原告も,別件訴訟において,このことを前提として,「同規定(Aの発明報償金規定)に従って算出される報償金額は,特許法35条3項にいう『相当の対価』としては,低額に過ぎる。また,平成13年3月31日以前に被告が得たロイヤリティ収入に対しては,原告に対し,何らの対価が支払われていない」などと主張して,本件特許権によりAが得たロイヤリティ収入及びクロスライセンス契約より受けた利益の額を指摘するなどして,「相当の対価」の支払を求め,最終的に,上記訴訟物を維持(額自体は拡張された。)して本件和解に至ったものである。 かかる別件訴訟の経緯からすると,本件和解金は「相当の対価」の一部であるといえる。 イ 「相当の対価」の実質(ア) 特許実施権の収益の利益分配の実質を有することところで,特許権は,発明者の技術的思想の創作である特許発明の独占的実施権であり,所有権に類似した物権的権利であるとされている。 その効力は,特許発明を独占的に実施することができるということであり,専用実施権との関係は,特許権が土地の所有権であれば,専用実施権は排他的用益物権である地上権になぞらえて説明されているところである。そうすると,専用実施権によって得た対価は,特許権の利用収益による対価であることになる。 そして,特許法35条3項は,「特許を受ける権利若しくは特許権を承継させたときは」相当の対価の支払を受ける権利を有すると規定されているものであるが,この相当の対価は,同条4項において,使用者が受けるべき利益の額や,使用者が貢献した程度を考慮して定めるとされており, せたときは」相当の対価の支払を受ける権利を有すると規定されているものであるが,この相当の対価は,同条4項において,使用者が受けるべき利益の額や,使用者が貢献した程度を考慮して定めるとされており,使用者が貢献した程度というのは当該発明そのもののみならず,当該発明が収益を上げるに当たって貢献したものも含まれていると解されているところ,特許権の行使によって使用者が受けるべき利益のうち,特に経済的価値が大きいものは,特許権を実施して計上する利益,又は他者に実施許諾をして得る実施料の受領による利益である。そうすると,この「相当の対価」というのは,特許実施後の実施権行使によって得られた収益に関する利益分配の実質を有していると解することができる。 (イ) 相当の対価の法的性質論との関係このように解することが,相当の対価の法的性質について,特許を受ける権利の承継を取引とみて,取引目的物の「代金」と解する説ではなく,従業員の職務発明へのインセンティブを促進するために,法が特別 に政策的に認めた法定債権であるとする多数説にもよく符合するところである。 ウ本件を含め,訴訟における「相当の対価」の算定は,承継後の実施成績を基礎として算定されていること(ア) 訴訟における「相当の対価」の算定方法a 本件和解金は「相当の対価」の一部であるところ,相当の対価が一般にどのように算定されているかをみておくと,特許法35条3項は,「相当の対価」の支払を受ける権利について規定しており,「相当の対価」を定めるに当たっては,「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」及び「その発明がされるについて使用者等が貢献した程度」を考慮して定めなければならないと規定されている(同条4項)。 (a) に当たっては,「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」及び「その発明がされるについて使用者等が貢献した程度」を考慮して定めなければならないと規定されている(同条4項)。 (a) 「使用者の受けるべき利益」の額このような条文の文言上,特許を受ける権利の承継時には,「相当の対価」請求権が発生し,この「相当の対価」額も客観的に定まっているかのように読めるが,現実には,「使用者の受けるべき利益」を算定しようとしても,現実に使用者が得る利益というのは,使用者の資本,設備,営業能力,経営判断,その時々の景気・為替相場,需要者の嗜好の変化,代替技術の出現,さらには「運」等によって大きく左右されるものであり,特許を受ける権利の承継時において,「使用者の受けるべき利益」を的確に算定することは困難である。そのため,実務上,多くの企業では,職務発明規程等により,特許を受ける権利の承継後の出願時,登録時,実施時,ライセンス時などに分けて,職務発明規定に従って算定した額を支払う実績報償制度を採用しており,このような制度の採用は裁判例においても是認されているところであり,これらの実績報償によっても賄いきれない場合に,訴訟等において,「相当の対価」の算定が問題 になるのである。 そして,「相当の対価」支払請求訴訟において,「相当の対価」を算定するに当たっては,「使用者の受けるべき利益」とは,特許により排他的独占的に実施できることによる利益を指すことを前提に,承継後の実施実績やライセンス実績等,承継後の実施成績を基礎として「相当の対価」を算定しているのが多くの裁判例である。 すなわち,使用者が発明の実施を排他的に独占することによって得た利益,具体的には,ライセンス契約等により取得した実施料(当該特 成績を基礎として「相当の対価」を算定しているのが多くの裁判例である。 すなわち,使用者が発明の実施を排他的に独占することによって得た利益,具体的には,ライセンス契約等により取得した実施料(当該特許権の貢献度を乗じることもある。)に基づいて使用者等が得た利益の額を算定し,これに使用者等が貢献した程度等を乗じて算定されるのが通常である(なお,実績報償制度に基づき既に支払われた報償金等は控除される。)。 (b) 「使用者が貢献した程度」についてまた,「使用者が貢献した程度」を考慮するに当たっては,その発明を出願し権利化し,さらに特許を維持するについての貢献度,実施料を受ける原因となった実施許諾契約を締結するについての貢献度,実施製品の売上げを得る原因となった販売契約等を締結するについての貢献度等といった発明完成(承継)後の事情も考慮されるべきである。この点,平成16年法律第79号による改正後の特許法35条5項も,「相当の対価」の額は,「その発明に関連して使用者等が行う負担,貢献及び従業者等の処遇その他の事情を考慮して定めなければならない。」と規定し,「相当の対価」の算定に当たり,発明完成(承継)後の事情をも考慮すべきことを明確にしている。 b 以上のとおり,「相当の対価」支払請求訴訟において,「相当の対価」の算定に当たっては,特許を受ける権利等を使用者に承継させた 後の,使用者が特許権を排他的独占的に実施して得た利益を基礎として,使用者等が貢献した程度等が考慮されているものといえる。このことは,上記のとおり,「相当の対価」とは,特許権譲渡後の収益についての利益分配請求の実質を有することとよく符合する。 (イ) 本件和解金は,承継後の実施成績を基礎として算定されたものであ は,上記のとおり,「相当の対価」とは,特許権譲渡後の収益についての利益分配請求の実質を有することとよく符合する。 (イ) 本件和解金は,承継後の実施成績を基礎として算定されたものであることAにおいても実績報償制度が採用されているところ,Aは,本件取扱規定等に基づき,原告に対し,出願報償,登録報償(外国),登録報償(日本),実施報償,ロイヤリティ報償及びクロスライセンス報償を支払っていたものであるが,原告は,これらの支払をもってしても「相当の対価」に満たないとして別件訴訟を提起した。その後,別件訴訟においては,「相当の対価」の額を算定するに当たって,「使用者(被告)が受けるべき利益の額について」として,上記譲渡後の特許開始からのロイヤリティ収入やクロスライセンス収入の額が争われ,その結果として,本件和解において本件和解金の額が決まり,原告は,本件和解金を受領したのである。 このように,別件訴訟において,「相当の対価」算定のための基礎事実として,上記ロイヤリティ収入等の額が主張・立証されていること,及び上記の「相当の対価」の算定方法に照らすと,本件和解金は,本件特許を受ける権利がAに譲渡された後に,Aが本件特許権の専用実施権行使による収益として得た利益・成績を基礎として,使用者等が貢献した程度をも考慮して,事後的に算定されたものであることは明らかである。この点,原告も,別件訴訟において,Aが本件特許を受ける権利の承継を受けた後に特許の実施により得た利益を「相当の対価」算定の基礎としている。 (ウ) 本件和解金の実質 以上によれば,本件和解金の実質は,原告から本件特許を受ける権利を譲渡されたAが,その承継後の特許出願,登録,独占的実施等を行っていた期間中に,本 (ウ) 本件和解金の実質 以上によれば,本件和解金の実質は,原告から本件特許を受ける権利を譲渡されたAが,その承継後の特許出願,登録,独占的実施等を行っていた期間中に,本件特許権を排他的独占的に実施して得た利益を基礎として算定され,原告に対し,「相当の対価」として支払われたものであって,本件特許を受ける権利の譲渡代金(その後払いとしての性格のもの)と同視することはできない。 (3) 本件和解金は譲渡所得に該当しないこと以上を前提に,本件和解金の譲渡所得該当性について検討するに,上記のとおり,本件特許を受ける権利は昭和58年に既に使用者に承継されており,本件和解金の支払は平成18年に行われているのであるから,本件和解金の支払に,資産の移転という形式的外観は備わっておらず,資産が所有者の支配を離れて他に移転するのを機会に課税するものであるとはいえない。 また,本件和解金の実質は,原告から本件特許を受ける権利の承継を受けたAが,承継後の特許出願,登録,独占的実施等を行っていた期間中に,本件特許権を排他的独占的に実施して得た利益を基礎として算定され,原告に対し,「相当の対価」として支払われたものであるから,上記のとおり,「相当の対価」請求権が,特許権の承継を擬制して承継後の収益の利益分配を制度的に認める趣旨に基づいて法が創設した法定債権という性質を有していることをも考慮すると,原告が資産である本件特許を受ける権利を所有していた期間中の同権利の増加益として算定されたものであると評価することもできない。 以上のことからすると,本件和解金は,譲渡所得課税の趣旨に合致しないことは明らかであり,これを譲渡所得として課税することは,譲渡所得の課税の趣旨に反することは明らかである。したがって,本 以上のことからすると,本件和解金は,譲渡所得課税の趣旨に合致しないことは明らかであり,これを譲渡所得として課税することは,譲渡所得の課税の趣旨に反することは明らかである。したがって,本件和解金は,譲渡所得に該当しない。B教授の意見書(乙32)も,本件和解金は譲渡所得には該当しないという被告の主張を正当に支持している。 (4) 本件和解金を譲渡所得に区分すれば課税上の弊害が生じること仮に,本件和解金を譲渡所得に区分すれば,以下のとおり,課税上の弊害が生じることになり,その観点からも,本件和解金を譲渡所得に区分することは許容できない。 ア国税通則法上,国税の賦課権については,更正又は決定等の種類に応じ,3年,5年あるいは7年の期間制限が設けられており(同法70条),徴収権については,5年間あるいは7年間の消滅時効期間が定められている(同法72条1項,73条3項)。 このため,仮に原告の主張に従い,権利の譲渡時から相当期間経過した後に従業員等が使用者等から特許法35条3項の「相当の対価」として得た金銭について,当該譲渡時において支払われるべき金額の後払いであると解した上で,当該譲渡時における譲渡所得として区分したとすれば,事後において,「相当の対価」の額が初めて具体的数値として明らかになった時には,もはや上記期間制限ないし消滅時効の規定により,修正申告を求めることも更正処分を行うことも不可能となる。特許権は,出願から登録まで,あるいは特許権取得後も実施により利益を上げるには相当長期間を要することが一般であり(本件特許権についても,登録に至ったのは平成4年6月26日というのであり,9年後となっている。),また,実績報償制度下においては,同制度に基づき報償金等の支払を受けてい 間を要することが一般であり(本件特許権についても,登録に至ったのは平成4年6月26日というのであり,9年後となっている。),また,実績報償制度下においては,同制度に基づき報償金等の支払を受けていたものの,これが「相当の対価」に満たないとして,「相当の対価」支払請求訴訟が提起され,最終的に提訴から相当期間を経過した後に「相当の対価」が確定されるといった事態が想定されるが,やはり「相当の対価」の額が確定するまでには長期間を要するものである。このような実情に照らせば,原告の主張を前提とすると,事実上,法令上の規定のない非課税所得を生じさせるに等しい結果となり,到底是認できない。 イまた,特許を受ける権利等が承継された後に支払われる金員等を含めて 「相当の対価」が確定した時点をもって,「相当の対価」の確定額を譲渡所得として計上することとすると,「相当の対価」の総額が終局的に確定しなければ譲渡所得として確定することができなくなり,このような結論が租税の徴収を確保し,納税者間の公平を維持するという所得税法の趣旨に反する上,法的安定性をも害するものであることは明らかである。 ウさらに,「相当の対価」が複数年にわたって支払われる場合に,その支払を受けた都度,当該年度の収入金額に計上することとし得るとしても,資産の譲渡後2年目以降の譲渡所得の計算において,具体的には控除すべき金額が計算できないという不合理が生じ,譲渡所得の計算ができないことになる。 すなわち,所得税法33条3項は,譲渡所得の金額は,その年中の当該所得に係る総収入金額から当該所得の基因となった資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用の額の合計額を控除し,その残額の合計額から譲渡所得の特別控除額を控除した金額であると規定し,他方で,同法3 所得に係る総収入金額から当該所得の基因となった資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用の額の合計額を控除し,その残額の合計額から譲渡所得の特別控除額を控除した金額であると規定し,他方で,同法36条は「その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は,別段の定めがあるものを除き,その年において収入すべき金額(中略)とする」と規定しているところ,複数年にわたる支払の場合には,収入金額が通常確定しているのを受けて,収入金額は現実の収入ではなく,収入すべき権利ないし経済的利益が確定した金額を当該年分の収入金額に算入すると規定している反面,総収入金額から控除される金額の2年目以降の計算方法については,何らの規定が設けられていない仕組みとなっている。そこで,上記の控除すべき金額について,所得税法33条3項を文言どおりに捉え,2年目以降も,1年目と同様に再び資産の取得費,その資産の譲渡に要した費用の額及び特別控除額を控除するとすれば,それは二重控除の結果となり,本来所得として課税すべき利得に対し課税されない結果となってしまい,課税の公平に反し,人の担税 力を増加させる利得は全て所得を構成するという所得税法の考え方に明らかに反することとなってしまうのである。 また,そもそも譲渡所得の本質からすると,譲渡所得課税においては,資産の移転があった年分において譲渡代金の総額が課税されることになり,譲渡所得は資産の移転があった年分にのみ生じることになるはずである。 このように,所得税法は,一個の資産の譲渡について,対価額があらかじめ具体的に定まらないまま複数年分にわたって所得に計上する場合の具体的な計算方法を規定していないのであり,換言すれば,所得税法は,譲渡所得について,譲渡代金が定ま 産の譲渡について,対価額があらかじめ具体的に定まらないまま複数年分にわたって所得に計上する場合の具体的な計算方法を規定していないのであり,換言すれば,所得税法は,譲渡所得について,譲渡代金が定まらないまま,その一部の支払を受けた都度課税するという事態は想定しておらず,そのようなものは譲渡所得とは考えていないともいい得るのである。 エ以上のように,本件和解金を譲渡所得に区分したとすれば,いずれにしても課税上の弊害が生じることになり,その観点からも,本件和解金を譲渡所得として区分することは許容できないといわざるを得ない。 3 本件和解金は雑所得に該当すること本件和解金は,原告が職務発明を行い,特許を受ける権利を使用者(A)に譲渡したことにより,その後にAが当該権利を排他的独占的に実施するなどして得た利益を基礎として,「相当の対価」として支払われたものであって,一時所得該当性の判断基準である「対価」性(所得税法34条1項)を有することは否定できないから一時所得に該当せず,雑所得を除く利子所得から一時所得までの9種類のいずれの所得にも該当しない。 したがって,本件和解金は,雑所得に該当する。 4 小括以上によれば,本件和解金は雑所得に該当するとして,本件更正請求を認めなかった本件通知処分は適法である。

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