- 1 -平成27年12月17日判決言渡同日原本交付裁判所書記官平成26年(ワ)第29478号特許権侵害に基づく損害賠償請求事件口頭弁論終結日平成27年9月15日判決 原告株式会社タムラ製作所同訴訟代理人弁護士木 内 加奈子 西村美香同訴訟代理人弁理士木内光春 大熊考一 片桐貞典 中 島 由布子 被告千住金属工業株式会社同訴訟代理人弁護士長沢幸男 鮫島正洋 髙見 憲同訴訟復代理人弁護士篠田淳郎主文原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求被告は,原告に対し,●(省略)●円及びこれに対する平成26年11月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要- 2 -本件は,発明の名称を「ソルダペースト組成物及びリフローはんだ付方法」とする特許権を有する原告が,被告に対し,被告によるソルダペーストの製造等が特許権侵害に当たると主張して,民法709条並びに特許法102条2項及び3項に基づき,損害賠償金●(省略)●円及びこれに対する不法行為の後の日(訴状送達の日の翌日)である平成26年11月15日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1 前提事実(当事者間に争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)当事者ア原告は,電子部品,電子化学実装及び情報機器の開発,製作及び販売等を業とする株式会社である。 イ被告は, びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)当事者ア原告は,電子部品,電子化学実装及び情報機器の開発,製作及び販売等を業とする株式会社である。 イ被告は,金属の粉末及び軸受,はんだ付用溶剤及び接着剤の製造,販売等を業とする株式会社である。 原告の特許権ア原告は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,その特許請求の範囲請求項2に係る特許を「本件特許」という。)の特許権者である。 特許番号第4447798号出願日平成13年3月23日登録日平成22年1月29日発明の名称ソルダペースト組成物及びリフローはんだ付方法イ本件特許権の特許請求の範囲請求項1及び2の記載は,次のとおりである(以下,本件特許権の特許請求の範囲請求項2に係る発明を「本件発明」といい,その特許出願の願書に添付された明細書及び図面を「本件明細書」という。)。 請求項1「 無鉛系はんだ粉末,ロジン系樹脂,活性剤及び溶剤を含有するソル- 3 -ダペースト組成物において,分子量が少なくとも500であるヒンダードフェノール系化合物からなる酸化防止剤を含有するソルダペースト組成物。」 請求項2「 分子量が少なくとも500であるヒンダードフェノール系化合物がトリエチレングリコール-ビス〔3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕,1,6-ヘキサンジオール-ビス-〔3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕,ペンタエリスリチル-テトラキス〔3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕,2,2-チオ-ジエチレンビス〔3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕,N, ル-テトラキス〔3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕,2,2-チオ-ジエチレンビス〔3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕,N,N’-ヘキサメチレンビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロシンナマミド)等である請求項1記載のソルダペースト組成物。」ウ本件発明は,以下の構成要件に分説される(以下,それぞれの構成要件を「構成要件a-1」などという。)。 a-1 無鉛系はんだ粉末,a-2 ロジン系樹脂,a-3 活性剤a-4 及び溶剤を含有するソルダペースト組成物において,b 分子量が少なくとも500であるヒンダードフェノール系化合物からなる酸化防止剤を含有するソルダペースト組成物c 分子量が少なくとも500であるヒンダードフェノール系化合物がトリエチレングリコール-ビス〔3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕,1,6-ヘキサンジオール-ビス-〔3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)- 4 -プロピオネート〕,ペンタエリスリチル-テトラキス〔3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕,2,2-チオ-ジエチレンビス〔3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕,N,N’-ヘキサメチレンビス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロシンナマミド)等である。 訂正請求(甲94の1~3)原告は,本件特許に係る特許無効審判事件(無効2015-800058)において,平成27年5月26日付けで訂正請求書(甲94の1)を提出し,特許請求の範囲請求項2につき,「等」を削除する旨の訂正請求をした。 被告の行為等ア被告は,平成20年 -800058)において,平成27年5月26日付けで訂正請求書(甲94の1)を提出し,特許請求の範囲請求項2につき,「等」を削除する旨の訂正請求をした。 被告の行為等ア被告は,平成20年頃から,別紙被告製品目録記載1~18のソルダペースト(以下,これらを総称して「被告各製品」という。)の製造,販売をしている。 イ被告各製品は,無鉛系はんだ粉末,ロジン,有機酸,溶剤及びトリエチレングリコール-ビス〔3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕を含有するソルダペースト組成物である。 2 争点被告各製品の構成中のロジン及び有機酸はそれぞれ本件発明のロジン系樹脂及び活性剤に対応するものであり,被告は,被告各製品が構成要件a-1~4を充足することを争っていない。 本件の争点は,以下のとおりであるの可否は争点に対する判断に影響しない。)。 被告各製品が構成要件b及びcの「ヒンダードフェノール系化合物」を充足するか否か- 5 - 本件特許が特許無効審判により無効にされるべきものとして,原告が本件特許権を行使することができないか否か被告は,本件特許には以下の無効理由があると主張している。 ア特開平5-185283号公報(以下「乙1公報」という。)に記載された発明(以下「乙1発明」という。)に基づく新規性欠如イ乙1発明に基づく進歩性欠如ウ国際公開第99/64199号(以下「乙2文献」という。)に記載された発明(以下「乙2発明」という。)に基づく進歩性欠如エサポート要件(平成14年法律第24号による改正前の特許法36条6項1号)違反オ実施可能要件(同条4項)違反カ明確性要件(同条6項2号)違反(その1。ヒンダードフェノ エサポート要件(平成14年法律第24号による改正前の特許法36条6項1号)違反オ実施可能要件(同条4項)違反カ明確性要件(同条6項2号)違反(その1。ヒンダードフェノール系化合物について)キ明確性要件違反(その2。特許請求の範囲の「等」の記載について) 損害の額 3 争点に関する当事者の主張 (被告各製品が構成要件b及びcの「ヒンダードフェノール系化合物」を充足するか否か)について(原告の主張)ア 「ヒンダードフェノール系化合物」とは,本件特許の出願当時の化学分野における知見(甲42,43,84~93)及び文献(甲44~47,乙11,28)の記載に鑑みれば,一方又は両方のオルト位置に立体障害作用を示す置換基を持ったフェノール系化合物をいうことが明らかである。また,本件特許の出願前の出願に係る特許公報には,特許請求の範囲に「ヒンダードフェノール系」を含むものが400件,「ヒンダードフェ- 6 -ノール系化合物」を含むものが190件存在しており,「ヒンダードフェノール系化合物」は当業者にとって明確な表現である。 被告各製品が含有するトリエチレングリコール-ビス〔3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕は,ヒドロキシフェニルのOH基に対する一方のオルト位置に立体障害作用のある置換基であるt-ブチル基を有しているから,「ヒンダードフェノール系化合物」に当たる。 イ原告が本件特許の審査段階で提出した意見書(乙27)に被告が主張する記載(後記(被告の主張)イ及びエの記載)があることは認めるが,これらの記載はいずれも誤記である。 原告は,審査段階においては一貫して,トリエチレングリコール-ビス〔3-(3-t-ブチル-5-メチル-4- 記(被告の主張)イ及びエの記載)があることは認めるが,これらの記載はいずれも誤記である。 原告は,審査段階においては一貫して,トリエチレングリコール-ビス〔3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕を「ヒンダードフェノール系化合物」の例として説明しており,本件発明の特許請求の範囲の請求項2においては上記化合物を筆頭に記載している。また,原告は,上記の誤記に基づいて,発明として効果がある,又は引用文献1(乙1公報)と比較して進歩性がある等の主張は行っておらず,上記の誤記は本件発明の進歩性の判断に影響しない。したがって,上記化合物を「ヒンダードフェノール系化合物」から排除していないことは明らかであり,このような解釈を採ることは信義則違反又は権利濫用に当たらない。 ウ以上によれば,被告各製品は,構成要件b及びcを充足する。 (被告の主張)ア原告が主張する「ヒンダードフェノール系化合物」の定義を直接記載している公知文献は存在しない。かえって,フェノール性ヒドロキシ基(OH基)の両方のオルト位置にt-ブチル基等の立体障害作用を示す置換基を有することを要するとしている文献(乙29,30),フェノール性ヒ- 7 -ドロキシ基(OH基)の一方又は両方のオルト位置に上記置換基を有することを要するとしている文献(乙11),上記置換基を有するオルト位置の数が不明な文献(甲44),フェノール性ヒドロキシ基のオルト位置に上記置換基を有していてもよいが,有することを必須としていない文献(乙28,31~36)があることからすれば,「ヒンダードフェノール系化合物」の意義は多様であり,一義的に特定することはできない。 イ原告が本件特許の審査段階で提出した意見書(乙27)には,①「ヒンダードフ 6)があることからすれば,「ヒンダードフェノール系化合物」の意義は多様であり,一義的に特定することはできない。 イ原告が本件特許の審査段階で提出した意見書(乙27)には,①「ヒンダードフェノール系化合物」とはバルキーな第3級ブチル基の2個がOH基に対してオルト位にあるものをいう旨の記載,②引用文献1(乙1公報)に挙げられている酸化防止剤のうち分子量が500以上のヒンダード型フェノール系化合物とは「(化合物名中,-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル),の表記のあるもの」をいう旨の記載がある。これらの記載によれば,「ヒンダードフェノール系化合物」とは,フェノール性ヒドロキシ基(OH基)の両方のオルト位置にt-ブチル基等の立体障害作用を示す置換基を有するもの(バルキーな第3級ブチル基の2個がOH基に対してオルト位にあるもの)と解釈すべきである。そして,被告各製品が含有するトリエチレングリコール-ビス〔3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕は,OH基の一方のオルト位置に立体障害作用を示す置換基があるから(他方のオルト位置にあるのはメチル基である。),構成要件b及びCの「ヒンダードフェノール系化合物」に該当しない。 ウ以上によれば,被告各製品は,構成要件b及びcを充足しない。 エ加えて,原告は,上記意見書において,トリエチレングリコール-ビス〔3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕について,本来の構造式とは異なる構造式(二つのメチル基をそれぞれ第3級ブチル基に変えたものであり,上記①の「ヒンダードフェ- 8 -ノール系化合物」の定義に該当することになる。)を示し,かつ,本来の分子量(586.8)とは異なる分子量(662)を記載した れ第3級ブチル基に変えたものであり,上記①の「ヒンダードフェ- 8 -ノール系化合物」の定義に該当することになる。)を示し,かつ,本来の分子量(586.8)とは異なる分子量(662)を記載した上で,特許査定を得たのである。このことからすれば,原告が「ヒンダードフェノール系化合物」の解釈について上記①と異なる解釈を採って被告各製品が構成要件b及びcを充足すると主張することは,信義則違反又は権利濫用に当たり,許されない。 (本件特許が特許無効審判により無効にされるべきものとして,原告が本件特許権を行使することができないか否か)についてア乙1発明に基づく新規性欠如(被告の主張)本件特許の出願前に頒布された乙1公報には本件発明と実質的に同一の発明が開示されているから,本件発明は新規性を欠く(特許法29条1項3号)。 原告は,本件発明と乙1発明は,①本件発明が無鉛系はんだ粉末を用いているのに対し,乙1発明が無鉛系はんだ粉末に限定していない点(以下「相違点1-①」という。),②本件発明が酸化防止剤として分子量が少なくとも500であるヒンダードフェノール系化合物を用いているのに対し,乙1発明が酸化防止剤として用いるヒンダードフェノール系化合物の分子量を限定していない点(以下「相違点1-②」という。)で相違すると主張する。 相違点1-①については,乙1公報には「クリームはんだに添加されるはんだ粉末は,通常の共晶はんだを初め,ビスマス入り,銀入り等が挙げられる。」との記載があるところ(乙1公報の段落【0009】),本件特許の出願当時,「共晶はんだ」としては無鉛系はんだの代表例であるSn-Ag共晶はんだが(乙3,37~40),「ビスマス入り」としてはビスマスを含有する無鉛系はんだが(乙4,37,40~4 ),本件特許の出願当時,「共晶はんだ」としては無鉛系はんだの代表例であるSn-Ag共晶はんだが(乙3,37~40),「ビスマス入り」としてはビスマスを含有する無鉛系はんだが(乙4,37,40~45),- 9 -「銀入り」としては銀を含有する無鉛系はんだが(乙5,37~40,42,44~49),いずれも周知であったことからすれば,乙1公報には無鉛系はんだ粉末が実質的に開示されているといえるから,相違点1-①は相違点とならない。 相違点1-②については,乙1公報にはトリエチレングリコール-ビス〔3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕等の分子量が少なくとも500である酸化防止剤が3種類開示されているから(乙1公報の段落【0006】),相違点とならない。 (原告の主張)本件発明と乙1発明を対比すると,相違点1-①及び相違点1-②の各点において相違しているから,本件発明は新規性を有する。 相違点1-①については,本件特許の出願日当時,当業者は「通常の共晶はんだ」(乙1公報の段落【0009】)を鉛と錫の共晶組成はんだを指すものと理解していたこと(甲62,63,65~68,98,99,乙3),ビスマス入りや銀入りのはんだ粉末については鉛入りのものが一般的に用いられており(甲63,69),「共晶はんだ」の記載に続いて「ビスマス入り」及び「銀入り」と記載される場合には(上記段落【0009】)ビスマス入り及び銀入りのいずれも鉛入りのものであることが一般的であったこと(甲70,71)からすれば,乙1公報には無鉛系はんだ粉末は開示されていない。 相違点1-②については,乙1公報は,分子内に第3ブチル基のついたフェノール骨格を1つ又はそれ以上含む酸化防止剤として12の化合物を例示しているも 報には無鉛系はんだ粉末は開示されていない。 相違点1-②については,乙1公報は,分子内に第3ブチル基のついたフェノール骨格を1つ又はそれ以上含む酸化防止剤として12の化合物を例示しているものの(乙1公報の段落【0006】),分子量には一切言及しておらず,また,分子量に着目する示唆もないため,乙1公- 10 -報に分子量が少なくとも500であるヒンダードフェノール系化合物を用いることが開示されているとはいえない。 イ乙1発明に基づく進歩性欠如(被告の主張)相違点1-①及び相違点1-②が相違点であるとしても,以下のとおり,いずれの点についても当業者であれば本件発明の構成に至ることは容易であったといえるから,本件発明は進歩性を欠く(特許法29条2項)。 相違点1-①の容易想到性本件特許の出願当時,無鉛系はんだである共晶はんだ,ビスマスを含有する無鉛系はんだ及び銀を含有する無鉛系はんだは,いずれも周知技術であった(乙3~5,37~50)。 また,本件特許の出願当時,鉛入りはんだを鉛フリーはんだに置換していくことが当業者の間における歴史的な潮流であったところ(乙6~8),鉛入りはんだ粉末用のフラックスをベースにして無鉛系はんだ粉末用のフラックスの検討がされていた(乙9)。このような鉛入りはんだ粉末用のフラックスの組成をそのまま維持し,はんだ粉末のみを無鉛系はんだ粉末に変更して,無鉛系はんだ粉末用のフラックスの検討を開始することは通常の開発手順であって,合理的な方法であり(乙54),現に,鉛入りはんだと無鉛系はんだを区別せずに,同じ組成のフラックスを適用して同じ効果が得られた事例も存在する(乙51)。 さらに,はんだペーストにおける酸化の問題は鉛入りはんだ及び無鉛系はんだのいずれもが錫を主成分としてい んだを区別せずに,同じ組成のフラックスを適用して同じ効果が得られた事例も存在する(乙51)。 さらに,はんだペーストにおける酸化の問題は鉛入りはんだ及び無鉛系はんだのいずれもが錫を主成分としていることによって生ずるものであり,その解決手段は鉛の有無によって大きな差異があるわけではない(乙54)。本件発明と乙1発明は,いずれも酸化が起こりやすい条件でのリフローを行う際のはんだ等の酸化を防止することを課題としてお- 11 -り,この課題を解決する手段として同じ酸化防止剤を用いているから,課題及び解決手段の共通性がある。 以上によれば,乙1発明に接した当業者が乙1発明においてはんだ粉末以外の組成を変更することなく無鉛系はんだ粉末に変更する動機付けは十分にあるといえるから,相違点1-①に係る本件発明の構成に至ることは容易であった。 相違点1-②の容易想到性本件特許の出願当時,無鉛系はんだ粉末を用いたはんだペーストは鉛入りはんだ粉末を用いたものよりもリフローの温度が高いことは技術常識であったところ(乙15~22),温度が高い場合には,酸化防止性能を奏する酸化防止剤が蒸発しやすく,はんだの酸化やフラックスの熱分解及び劣化が問題となりやすいことは周知の課題であった(乙6,14)。そして,本件特許の出願当時,酸化防止剤が使用中に蒸発することを防止するために分子量の大きなフェノール系化合物を用いることが有利であることが知られていた(乙23)。 また,本件特許の出願当時,本件発明の「ヒンダードフェノール系化合物」として例示された化合物のうち乙1公報に記載がないものはいずれも酸化防止剤として汎用されていた(乙10)。 そうすると,当業者が高温のリフローによるはんだの酸化反応やフラックスの熱分解及び劣化を防止することを目的とし,蒸発しにく 公報に記載がないものはいずれも酸化防止剤として汎用されていた(乙10)。 そうすると,当業者が高温のリフローによるはんだの酸化反応やフラックスの熱分解及び劣化を防止することを目的とし,蒸発しにくい分子量の大きいフェノール系化合物を酸化防止剤として用いることは容易に想到し得る事項であり,分子量と蒸気圧(蒸発しやすさ)の強い相関関係(分子量が大きいほど蒸発しにくい)に照らして分子量の大きいフェノール系化合物(酸化防止剤)の範囲を「分子量が少なくとも500」とすることは当業者が適宜行う事項であったといえるから,相違点1-②に係る本件発明の構成に至ることは容易であった。 - 12 -顕著な効果の有無本件明細書には,本件発明(分子量が少なくとも500であるヒンダードフェノール系化合物からなる酸化防止剤)の場合と分子量が500未満のヒンダードフェノール系化合物からなる酸化防止剤を含有する場合との効果の差異は全く明らかになっていない。 また,被告が行った再現実験の結果(乙26)によれば,両者の場合について,高温でのプリヒートを行った際の酸化防止性能に有意な差は見られなかった。 したがって,本件発明が顕著な効果を奏するとはいえない。 (原告の主張)相違点1-①の容易想到性乙1公報には,鉛入りはんだを使用している記載は存在するものの,無鉛系はんだの使用については何ら記載されていないから,無鉛系はんだの使用を試みる示唆は一切ない。また,本件特許の出願当時,無鉛系はんだの使用は,リフロー実装を行うソルダペーストの分野において全くもって確立されておらず,周知技術ではなかった。 本件特許の出願当時,鉛入りはんだと鉛フリーはんだに置換していくことが当業者の間における歴史的潮流であったことは認めるが,鉛フリーはんだの使用に当た もって確立されておらず,周知技術ではなかった。 本件特許の出願当時,鉛入りはんだと鉛フリーはんだに置換していくことが当業者の間における歴史的潮流であったことは認めるが,鉛フリーはんだの使用に当たっては新たな課題を数多く解決する必要があり,鉛入りはんだを鉛フリーはんだに置換することは技術的に大きな困難を伴うものであった。このため,鉛入りはんだに採用されていた構成を単に転用するだけで鉛フリーはんだを容易に実現できないことは技術常識であった(甲51~61,乙2,3,6~9)。そうすると,乙1発明の鉛入りはんだ粉末を無鉛系はんだ粉末に置換する動機付けがあったとはいえない。 - 13 -本件発明は融点の高い鉛フリーはんだを用いることによって生ずる加熱熱量の増加による酸化防止を課題とするのに対し,乙1発明は鉛入りはんだを用いたクリームはんだについて高酸素濃度雰囲気中での酸化防止を課題としており,両者は酸化防止を終局的な課題とするものの,酸化条件を構成する要素が全く異なるので,課題の共通性はない。また,本件発明と乙1発明はヒンダードフェノール系化合物を酸化防止剤として添加する点で共通するが,本件発明は分子量が500以上のものに限定しているから,解決手段の共通性もない。 以上によれば,相違点1-①に係る本件発明の構成に至ることは容易でない。 相違点1-②の容易想到性酸化防止剤を選択するに当たって考慮すべき要素としては,分子量のほかに融点,沸点,水酸基当量,フェノール水酸基価数等もあるところ,乙1公報には分子量のみに着目して分子量の大きな酸化防止剤を用いることの示唆はない。 乙1発明は鉛入りはんだを用いており無鉛系はんだに特有の加熱熱量増加の課題が存在しないので,乙1公報に接した当業者が酸化防止剤成分の熱安定性に着目する動機付 酸化防止剤を用いることの示唆はない。 乙1発明は鉛入りはんだを用いており無鉛系はんだに特有の加熱熱量増加の課題が存在しないので,乙1公報に接した当業者が酸化防止剤成分の熱安定性に着目する動機付けがないから,熱安定性の観点から分子量に着目することはない。また,本件発明と乙1発明は課題及び解決手段の共通性がない。 ポリマー添加剤製品カタログ(乙10)に記載された酸化防止剤はポリマーに添加するものであり,上記カタログにはソルダペースト中のはんだ粉末の酸化防止剤として使用することについて記載や示唆は全くない。 以上によれば,相違点1-②に係る本件発明の構成に至ることは容易でない。 - 14 -顕著な効果の有無本件明細書には,分子量500以上のヒンダードフェノール系化合物を酸化防止剤として用いている実施例2(段落【0014】)と酸化防止剤を用いていない比較例1(段落【0015】)との比較実験において,比較例1のはんだ付け状態を1と評価した場合に実施例2は5又は4という顕著な効果を奏していることが記載されている(段落【0016】)。また,原告が行った追加実験においても,本件発明の実施品が顕著な効果を奏していることが示された(甲73)。 被告が行った再現実験(乙26)は,昇温速度,本加熱時間及び印刷径等の実験条件が本件明細書に記載された条件(段落【0013】等)や技術常識と大きく異なっているので,適正な実験とはいえない。 以上によれば,本件発明が顕著な効果を奏することは明らかである。 ウ乙2発明に基づく進歩性欠如(被告の主張)本件発明と乙2発明の一致点及び相違点本件発明と本件特許の出願前に頒布された乙2文献に記載された発明(乙2発明)を対比すると,①本件発明が酸化防止剤として分子量が少なくとも (被告の主張)本件発明と乙2発明の一致点及び相違点本件発明と本件特許の出願前に頒布された乙2文献に記載された発明(乙2発明)を対比すると,①本件発明が酸化防止剤として分子量が少なくとも500であるヒンダードフェノール系化合物を用いているのに対し,乙2発明が酸化防止剤として用いるヒンダードフェノール系化合物の分子量を限定していない点(以下「相違点2-①」という。),②本件発明がヒンダードフェノール系化合物をトリエチレングリコール-ビス〔3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕等としているのに対し,乙2発明がヒンダードフェノール系化合物を限定していない点(以下「相違点2-②」という。)で相違し,その余の点で一致する。 相違点2-①の容易想到性- 15 -相違点2-①に係る構成は乙1公報に開示されているところ(乙1公報の段落【0005】,【0006】),前記おり,当業者が高温のリフローによるはんだの酸化反応やフラックスの熱分解及び劣化を防止することを目的として蒸発しにくい分子量の大きいフェノール系化合物を選択する動機付けがあるとともに,乙2発明と乙1発明は課題及び解決機序の共通性があることから,乙2発明に乙1公報に記載された酸化防止剤のうち分子量が大きいものを組み合わせることは容易であり,また,ヒンダードフェノール系化合物の分子量を少なくとも500と限定したことに格別の困難性はない。したがって,相違点2-①に係る本件発明の構成に至ることは容易であった。 相違点2-②の容易想到性相違点2-②に係る本件発明の5種類の化合物のうち,3種類は乙1公報に開示されていたところ(乙1公報の段落【0006】),のとおり,乙2発明に乙1公報を組み合わせることは容易であった。 容易想到性相違点2-②に係る本件発明の5種類の化合物のうち,3種類は乙1公報に開示されていたところ(乙1公報の段落【0006】),のとおり,乙2発明に乙1公報を組み合わせることは容易であった。また,残りの2種類は,本件特許の出願当時,耐熱安定剤として汎用されていたものであった(乙10)。したがって,乙2発明におけるヒンダードフェノール系化合物を本件発明における5種類の化合物に置換することは容易であったといえる。 顕著な効果の有無前記顕著な効果を奏するとはいえない。 (原告の主張)相違点2-①及び2-②の容易想到性乙2発明は常温での保存中に生ずるはんだ粉の酸化を問題とするのに対し,乙1発明は高酸素濃度雰囲気下におけるリフロー中の再酸化,すなわち加熱による酸化を問題としていることから,解決課題が異なる。 - 16 -乙2発明はハロゲンのアクセプターとなることにより酸化を防ぐのに対し,乙1発明はラジカルを捕捉することで酸化を防いでおり,解決に至る機序が異なる。乙2発明は通常樹脂などの酸化防止剤として使用され,溶剤に溶解可能な酸化防止剤であればよいのに対し,乙1発明はラジカル捕捉数が大きいことによって積極的な再酸化防止効果を有する酸化防止剤を用いており,解決手段が異なる。このように,乙2発明と乙1発明は,解決課題,解決に至る機序及び解決手段に共通性はないから,乙2発明に乙1発明を組み合わせる動機付けはない。 乙2文献は,化合物を並列に並べるのみであって,ヒンダードフェノール系化合物の酸化防止機能については何ら開示又は示唆をしていない。 また,ヒンダードフェノール系化合物はラジカル捕捉数が大きいために酸化防止剤として優れた効果を有するところ,上記のとおり,乙2発明ではハロゲンの捕捉が問題とされており,ラジカ 又は示唆をしていない。 また,ヒンダードフェノール系化合物はラジカル捕捉数が大きいために酸化防止剤として優れた効果を有するところ,上記のとおり,乙2発明ではハロゲンの捕捉が問題とされており,ラジカル捕捉数は問題とならないから,乙2文献に接した当業者がヒンダードフェノール系化合物に着目する動機はない。さらに,「ポリマー添加剤製品カタログ」と題する文献(乙10)及び「酸化と酸化安定剤」と題する文献(乙23)は,いずれもプラスチック等を対象とするものであって本件発明とは技術分野が異なることから当業者は参照しないので,分子量の大きなヒンダードフェノール系化合物を選択する動機付けはない。 以上によれば,相違点2-①及び相違点2-②に係る本件発明の構成に至ることは容易でない。 顕著な効果の有無前記 エサポート要件違反(被告の主張)- 17 -従来の無鉛系のはんだ合金粉末を含有するソルダペーストには,高温のプリヒート時において無鉛系はんだ粉末及びフラックス膜に熱劣化が起きてリフロー時にフラックス膜やはんだ粉末に不溶物が生じるために,はんだ付け強度を低下させる等の問題があった。本件発明の課題は,これらを防止することができるソルダペースト組成物を提供することである。本件明細書には比較例として酸化防止剤を用いていない組成物が用いられているが(段落【0015】),従来の無鉛系はんだ粉末を含有するソルダペースト,具体的には,分子量が500未満のヒンダードフェノール系化合物からなる酸化防止剤を含有するものとの効果の差異は全く明らかになっていない。したがって,本件発明は発明の詳細な説明の記載及び技術常識に基づき当業者が課題を解決できると認識し得るものでないから,本件特許はサポート要件に違反する。 (原告の主張) かになっていない。したがって,本件発明は発明の詳細な説明の記載及び技術常識に基づき当業者が課題を解決できると認識し得るものでないから,本件特許はサポート要件に違反する。 (原告の主張)本件明細書には分子量500以上のヒンダードフェノール系化合物の酸化防止剤を含有するソルダペーストが酸化防止に優れた効果を有することが開示されている(段落【0010】,【0016】)。したがって,本件発明は発明の詳細な記載により当業者が課題を解決できると認識できるものであるから,本件特許はサポート要件に違反しない。 オ実施可能要件違反(被告の主張)前記エ(被告の主張)のとおり,本件発明は従来の無鉛系はんだ合金粉末を含有するソルダ-ペーストが有する問題を防止することを作用効果とするものであるところ,本件明細書には本件発明と上記ソルダペーストとの効果の差異は全く明らかになっていない。 したがって,発明の詳細な説明には本件発明が所期する作用効果を奏することを裏付ける記載がないから,本件特許は実施可能要件に違反する。 - 18 -(原告の主張)本件明細書の記載(段落【0013】,【0014】)及び技術常識に照らせば,本件発明の作用効果を奏するソルダペーストを製造することは可能であるから(甲73),本件特許は実施可能要件に違反しない。 カ明確性要件違反(その1)(被告の主張),本件発明の構成中の「ヒンダードフェノール系化合物」の意義は一義的に特定できないから,本件特許は明確性要件に違反する。 (原告の主張)の意義は一義的かつ当業者に明らかであるから,本件特許は明確性要件に違反しない。 キ明確性要件違反(その2)(被告の主張)本件発明は,構成要件cにお (原告の主張)の意義は一義的かつ当業者に明らかであるから,本件特許は明確性要件に違反しない。 キ明確性要件違反(その2)(被告の主張)本件発明は,構成要件cにおいて,各種化合物の化合物名が記載された後に「等」と記載され,化合物名の記載が単なる例示となっているから,不明確である。したがって,本件特許は明確性要件に違反する。 (原告の主張)原告は,本件特許に係る特許無効審判事件において,本件特許の特許請求の範囲の請求項2の「等」の記載を削除する旨の訂正請求をした。当該訂正請求は適法なものであり,これによって本件発明の不明確性は解消される。 (損害の額)について(原告の主張)- 19 -原告は,被告による本件特許権の侵害により,後記ア及びイの合計●(省略)●円の損害を被った。 ア実施料相当額又は被告の利益相当額 ●(省略)●円被告が平成22年2月から平成26年9月までの間に被告各製品を販売したことにより得た売上げは●(省略)●ところ,本件発明の相当な実施料率は●(省略)●,本件発明の実施料相当額は●(省略)●となるので,原告は同額の損害を被った(特許法102条3項)。 また,被告各製品の利益率は●(省略)●%であり,被告の利益額は●(省略)●から,原告は●(省略)●円の損害を被った(同条2項)。 イ弁護士費用 ●(省略)●円(被告の主張)争う。 第3 当裁判所の判断 (被告各製品が構成要件b及びcの「ヒンダードフェノール系化合物」を充足するか否か)について本件発明はその特許請求の範囲において「ヒンダードフェノール系化合物」として5種類の化合物を具体的に開示している(構成要件c)ところ,これらの中には,一方 系化合物」を充足するか否か)について本件発明はその特許請求の範囲において「ヒンダードフェノール系化合物」として5種類の化合物を具体的に開示している(構成要件c)ところ,これらの中には,一方のオルト位置に立体障害作用を示す置換基を有するもの(トリエチレングリコール-ビス〔3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕)と両方のオルト位置に立体障害作用を示す置換基を有するもの(1,6-ヘキサンジオール-ビス-〔3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕等)が含まれているから(乙10,弁論の全趣旨),構成要件b及びcの「ヒンダードフェノール系化合物」は一方又は両方のオルト位置に立体障害作用を示す置換基を有するフェノール系化合物と解することができる。したがって,一方のオルト位置に立体障害作用を示す置換基を有するフェノール系化合物で- 20 -あるトリエチレングリコール-ビス〔3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕を含有する被告各製品は,構成要件b及びcの「フェノール系化合物」を充足するものと認められる。 これに対し,被告は,①原告が本件特許の審査段階で提出した意見書(乙27)の記載に照らせば,構成要件b及びcの「ヒンダードフェノール系化合物」は両方のオルト位置に立体障害作用を示す置換基をもったフェノール系化合物をいうと解釈すべきである,②原告は,上記意見書において,トリエチレングリコール-ビス〔3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕の構造式及び分子量として本来とは異なるものを記載して特許査定を得たので,被告各製品が構成要件b及びcを充足すると主張することは信義則違反又は権利濫用に当たる旨主張する キシフェニル)プロピオネート〕の構造式及び分子量として本来とは異なるものを記載して特許査定を得たので,被告各製品が構成要件b及びcを充足すると主張することは信義則違反又は権利濫用に当たる旨主張する。 そこで判断するに,上記意見書に記載の誤りがあることは原告の認めるところであるが,一方,上記意見書にはトリエチレングリコール-ビス〔3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕がヒンダードフェノール系化合物として説明されており,一方のオルト位置に立体障害作用を示す置換基を持ったフェノール系化合物は排除されていないものと解される。また,構造式及び分子量の記載の誤りについても,本件の関係証拠上,この点が本件発明の進歩性の判断の基礎とされ,本件特許に係る特許査定に影響を与えたとは認められない。したがって,被告の上記主張を採用することはできない。 そして,被告各製品が構成要件a-1~4を充足すること,「ヒンダードフェノール系化合物」の点を除いて構成要件b及びcを充足することは当事者間に争いがないから,被告各製品は本件発明の技術的範囲に属するものと認められる。 ア(乙1発明に基づく新規性欠如)について- 21 - 乙1公報は本件特許の出願前に頒布された刊行物であるところ,乙1公報には,以下の趣旨の記載がある。 ア分子内に第3ブチル基のついたフェノール骨格を1つ又はそれ以上含む酸化防止剤の1種又はそれ以上を1~30重量%含有することを特長とするはんだ付け用フラックス。(【特許請求の範囲】【請求項1】)イ請求項1に記載のはんだ付け用フラックス及びはんだ粉を含有するクリームはんだ。(同【請求項2】)ウフローソルダリング及びリフローソルダリング中に,再酸化防止効果のある分子内に第3 1】)イ請求項1に記載のはんだ付け用フラックス及びはんだ粉を含有するクリームはんだ。(同【請求項2】)ウフローソルダリング及びリフローソルダリング中に,再酸化防止効果のある分子内に第3ブチル基のついたフェノール骨格を含む酸化防止剤としては,①2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール,②tert-ブチルヒドロキシアニソール,③n-オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート,④2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-tert-ブチルフェノール),⑤2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール),⑥4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール),⑦テトラキス〔メチレン-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン,⑧4,4’-チオビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェノール),⑨2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-ブチルフェノール)ベンゾトリアゾール,⑩2,4-ジ-tert-ブチルフェノール-3’,5’-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンゾエート,⑪トリエチレングリコールビス〔3-(3-tert-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕,⑫1,6-ヘキサンジオールビス〔3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕等が挙げられる。(段落【0006】)- 22 -エ従来の高固形分タイプのはんだ付け用フラックス及びクリームはんだ用フラックスに添加しているロジン等の天然樹脂及び合成樹脂では,僅かな還元作用と被覆効果しかないので添加量を減少すると十分な再酸化防止作用が得られないが,本発明において添加している分子内に ムはんだ用フラックスに添加しているロジン等の天然樹脂及び合成樹脂では,僅かな還元作用と被覆効果しかないので添加量を減少すると十分な再酸化防止作用が得られないが,本発明において添加している分子内に第3ブチル基のついたフェノール骨格を含む酸化防止剤は,単なる被覆効果だけではなく積極的な酸化防止効果があるため,添加量を少なく抑えても十分な再酸化防止作用を発揮するので,低固形分(低残渣)タイプのはんだ付け用フラックス及びクリームはんだ用フラックスに適用できる。(段落【0008】)オその他の成分としては,通常はんだ付け用フラックスに使用されている添加剤,例えばアミンのハロゲン化水素酸塩,アミンの有機酸塩等の活性剤,天然及び合成樹脂及びイソプロパノール,エタノール,トルエン等の溶剤が挙げられ,クリームはんだ用フラックス成分としては,一般の前記活性剤,カスターワックス等のチクソトロピー付与剤,天然及び合成樹脂,増粘剤及びブチルカルビトール,プロピレングリコールモノフェニルエーテル等の溶剤が挙げられる。また,クリームはんだに添加されるはんだ粉末は,通常の共晶はんだを始め,ビスマス入り,銀入り等が挙げられる。 (段落【0009】) が開示されているものと認められる。 「 はんだ粉末,ロジン系樹脂,活性剤及び溶剤を含有するソルダペースト組成物において,分子内に第3ブチル基のついたフェノール骨格を1つ又はそれ以上含む酸化防止剤を含有するソルダペースト組成物であって,上であるソルダペースト組成物。」 本件発明と乙1発明を対比すると,①本件発明が無鉛系はんだ粉末を用いているのに対し,乙1発明が無鉛系はんだ粉末に限定して- 23 -いない点(相違点1-①),②本件発明が酸化防止剤として分子量が少なくとも500であるヒンダードフェノ 明が無鉛系はんだ粉末を用いているのに対し,乙1発明が無鉛系はんだ粉末に限定して- 23 -いない点(相違点1-①),②本件発明が酸化防止剤として分子量が少なくとも500であるヒンダードフェノール系化合物を用いているのに対し,乙1発明が酸化防止剤として用いるヒンダードフェノール系化合物の分子量を限定していない点(相違点1-②)で相違し,その余の点で一致する。 これに対し,被告は,①乙1公報には無鉛系はんだ粉末が実質的に開示されているから相違点1-①は相違点とならない,②乙1公報には前記等の分子量が少なくとも500である酸化防止剤が3種類開示されているから,相違点1-②は相違点とならない旨主張するが,以下のとおり,いずれも採用することができない。 ア上記①の主張について本件特許の出願当時に頒布されていた無鉛系はんだに関する文献を見ると,いずれも「無鉛」若しくは「鉛フリー」といった無鉛系であることを示す積極的な記載があり,又は鉛を含有しないことがはんだに用いられる合金の具体的な組成(例えば,Sn-Ag)をもって示されている(乙3~5,37~49)。一方,乙1公報には,「はんだ粉末は,通常の共晶はんだを初め,ビスマス入り,銀入り等が挙げられる。」との記載があるのみで(乙1公報の段落【0009】),「無鉛」等の記載はなく,はんだに用いられる合金の具体的な組成も開示されていない。 そうすると,乙1公報の段落【0009】の記載をもって無鉛系はんだ粉末が開示されているとみることはできないというべきである。 イ上記②の主張について乙1公報には挙されているが,これらの化合物の分子量に言及する記載はないから,乙1公報が酸化防止剤として用いるヒンダードフェノール系化合物の分子量が少なくとも500であることを開示して について乙1公報には挙されているが,これらの化合物の分子量に言及する記載はないから,乙1公報が酸化防止剤として用いるヒンダードフェノール系化合物の分子量が少なくとも500であることを開示しているとは認めることはできない。 - 24 -以上によれば,本件発明と乙1発明は相違点1-①及び1-②の点で相違するから,本件発明が新規性を欠くとは認められない。 (乙1発明に基づく進歩性欠如)について 相違点1-①(無鉛系はんだ粉末の使用)の容易想到性ア後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 電子機器のプリント配線基板等のはんだ付けには,従前,錫及び鉛を含有するはんだが用いられていたが,平成2年頃以降,鉛の毒性が環境問題とされ,先進各国で鉛入りはんだを無鉛系はんだに置換していく動きが活発化した。このような世界的潮流の中で,本件特許の出願当時,我が国においても,鉛入りはんだを無鉛系はんだに置換していくことが大きな課題となっていた。無鉛系はんだとしては,本件特許の出願以前から,種々のものが周知であった。(乙3~8,37~49) 配線基板等のはんだ付けを行う場合,金属であるはんだ粉末と樹脂,活性剤及び溶剤を含有するソルダペーストが用いられることが多い。ソルダペーストの組成ははんだ粉末の種類等により異なり得るところ,本件特許の出願当時,無鉛系はんだ粉末を含有するソルダペーストの組成を検討するに当たっては,従来から存在していた鉛入りはんだ粉末を含有させたフラックスの組成を基にして行われることが多かった。また,鉛入りはんだ及び無鉛系はんだの双方に用いられるフラックスも存在していた。(乙9,51,54)。 イ上記アの事実関係によれば,鉛入りはんだを無鉛系はんだに置換していくという周知の課 った。また,鉛入りはんだ及び無鉛系はんだの双方に用いられるフラックスも存在していた。(乙9,51,54)。 イ上記アの事実関係によれば,鉛入りはんだを無鉛系はんだに置換していくという周知の課題が存在した中で,無鉛系はんだ粉末を含有するソルダペーストの開発手法としては,結果の良し悪しはさておき,まずは,従来からある鉛入りはんだ粉末を含有させたフラックスの組成を維持したまま,はんだ粉末を鉛入りのものから無鉛系のものに置換することが試みられていたと解されるから,乙1発明に接した当業者であれば,上記課題を- 25 -解決するために,乙1発明のソルダ-ペーストに無鉛系はんだ粉末を用いることは容易であったと認められる。そして,無鉛系はんだ粉末自体は周知技術であったから,これを用いることに技術上の困難性はない。そうすると,相違点1-①に係る本件発明の構成は当業者であれば容易に想到し得る事項であると解すべきである。 ウこれに対し,原告は,鉛フリーはんだの使用には多くの課題があり,鉛入りはんだに採用されていた構成を単に鉛フリーはんだに転用することは困難であったから,相違点1-①に係る本件発明の構成に容易に想到することはないと主張する。 そこで判断するに,証拠(甲51,乙2,3,6,9,14)及び弁論の全趣旨によれば,本件特許の出願当時,無鉛系はんだにはフラックスの熱分解,低融点化,凝固偏析等の従来の鉛入りはんだにはみられない課題が複数存在していたことが認められるが,上記イで説示したとおり,無鉛系はんだ粉末を含有するソルダペーストの開発に当たっては,最初の試みとして鉛入りはんだを無鉛系はんだに置換することが検討されるのが通常であったといえるから,上記のような課題が存在し,結果的に鉛入りはんだに採用されていた構成を無鉛系はんだに転用するこ は,最初の試みとして鉛入りはんだを無鉛系はんだに置換することが検討されるのが通常であったといえるから,上記のような課題が存在し,結果的に鉛入りはんだに採用されていた構成を無鉛系はんだに転用することができなかったとしても,鉛入りはんだの無鉛系はんだへの置換の試み自体が妨げられることにはならない。したがって,原告の上記主張は,相違点1-①の容易想到性の判断を左右するものでないというべきである。 相違点1-②(分子量の限定)の容易想到性ア後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。 本件発明は,無鉛系のはんだ粉末を含有するソルダペーストを用いたリフローはんだ付け方法においては,鉛系のはんだ粉末の場合に比し,加熱熱量を増やす必要があり,これによりフラックスが酸化して熱劣化を起こしやすいという問題があったので,これを解決するため,分子量- 26 -500以上のヒンダードフェノール系化合物からなる酸化防止剤を含有させるとの構成を採用したものである(甲2。段落【0003】~【0005】)。ただし,本件明細書には,分子量500以上の上記化合物からなる酸化防止剤を含有させた実施例2例と酸化防止剤を含有させない比較例が記載されているのみであり(同【0013】~【0016】),上記分子量が500以上である場合と500未満である場合の効果を比較した例は記載されていない。 本件特許の出願当時,無鉛系はんだ粉末を含有するソルダペーストは,鉛入りはんだ粉末を含有するものと比べて酸化に弱く,高温となるリフロー時において,はんだの酸化,フラックスの熱分解及び劣化が問題となること,酸化を防ぐためには,高分子量の安定剤,すなわち2個以上のベンゼン核を含んだフェノール系の化合物がより有利であることが知られていた(乙6,14,23)。 ックスの熱分解及び劣化が問題となること,酸化を防ぐためには,高分子量の安定剤,すなわち2個以上のベンゼン核を含んだフェノール系の化合物がより有利であることが知られていた(乙6,14,23)。 乙1公報の段落【0006】には,フェノール系化合物として12種類の化合物が列挙されているが,このうち分子量が500以上のものは4種類であり(前記2明に挙げられたものと共通する。また,本件発明に挙げられた化合物のうち残りの2種類は本件特許の出願前に頒布されていた「ポリマー添加剤製品カタログ」と題する文献に化学式及び分子量と共に記載されている。(乙1,10)イ上記認定事実によれば,無鉛系はんだ粉末を含有するソルダペーストにはリフロー時の高温におけるはんだの酸化等の課題があったところ,これを改善する手段として,分子量の大きなフェノール系化合物を用いることが有利であることが知られていたのであるから,乙1発明に接した当業者が乙1発明のソルダペーストに無鉛系はんだ粉末を用いた場合(このことイのとおりである。)には,上記課題を解- 27 -決するために分子量の大きなヒンダードフェノール系化合物を酸化防止剤として用いることは容易であったと認められる。しかも,分子量が500以上の酸化防止剤が複数知られていたことに照らすと,分子量の下限値を500とすることについても,格別困難であったとは認められない。そうすると,相違点1-②に係る本件発明の構成は当業者であれば容易に想到し得る事項であると解すべきである。 ウこれに対し,原告は,乙1公報には分子量のみに着目して分子量の大きな酸化防止剤を用いることの記載や示唆がないから相違点1-②に係る本件発明の構成に容易に想到することはない旨主張する。 そこで判断するに,上記イで説示したとおり,無鉛系はんだ粉末 目して分子量の大きな酸化防止剤を用いることの記載や示唆がないから相違点1-②に係る本件発明の構成に容易に想到することはない旨主張する。 そこで判断するに,上記イで説示したとおり,無鉛系はんだ粉末を含有するソルダペーストにはリフロー時の高温におけるはんだの酸化等の周知の課題があったところ,この課題を解決するために分子量の大きなフェノール系化合物を用いることが有利であることが知られていたから,乙1公報に酸化防止剤の分子量に言及する記載がなかったとしても,無鉛系はんだ粉末を用いたソルダペーストについて分子量の大きな酸化防止剤を用いる動機付けがあったと認められる。したがって,原告の上記主張は採用することができない。 本件発明の効果ア原告は,本件発明は原告による実験結果(甲73)に示されたとおり顕著な効果を奏しているから進歩性があると主張する。 イそこで判断するに,乙1公報には分子量が500以上のヒンダードフェノール系化合物であるn-オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートを酸化防止剤として用いた実施例4のはんだ広がり試験の結果が良好であった旨記載されている(乙1公報の段落【0015】)。これに加え,証拠(乙10,23)及び弁論の全趣旨によれば,本件特許の出願当時,高分子量のフェノール- 28 -系化合物が高温での酸化防止性能に優れていると当業者に認識されていたことが認められる。これらの事実関係からすれば,原告による上記実験結果が適正なものであるとしても,本件発明の効果は当業者において予測し得る範囲のものと解されるから,原告の上記主張を採用することはできない。 小括以上によれば,本件発明は乙1発明に基づいて容易に想到することができたと認められるから, 果は当業者において予測し得る範囲のものと解されるから,原告の上記主張を採用することはできない。 小括以上によれば,本件発明は乙1発明に基づいて容易に想到することができたと認められるから,原告は被告に対して本件特許権を行使することができない。 4 結論以上の次第で,その余の点を判断するまでもなく,原告の請求は理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第46部 裁判長裁判官長谷川浩二 裁判官中嶋邦人 裁判官清野正彦は,転官のため,署名押印することができない。 裁判長裁判官長谷川浩二 (別紙)被告製品目録無鉛系はんだ粉末,ロジン,有機酸及び溶剤を含有するソルダペースト組成物において,トリエチレングリコール-ビス〔3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕を含有するソルダペースト組成物。 例えば,下記製品名のソルダペースト(ただし,製品名の一部に下記製品名を有するものを含む。)記 1 M705-GRN360-K2-V 2 M40-LS720HF 3 M40-LS720 4 M46-LS720HF 5 M46-LS720 6 M40-LS730 7 M40-LS730HF 8 M705-GRN360-K2-VZH 9 M705-GWS 10 S70G 11 M705-345F 12 M731-GWS 13 M705-PLG 14 M705-GRN360-BT 15 M705-GRN360-K(N)3 16 S70G-3 17 M705-STG 18 M705-SHF 主文 14M705-GRN360-BT 15M705-GRN360-K(N)3 16S70G-3 17M705-STG 18M705-SHF
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