平成14(ワ)715 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成19年1月31日 岡山地方裁判所
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判決文本文22,328 文字)

- 1 -主文 被告らは,各自,原告Aに対して3103万3269円,同B及び同Cに対して各1551万6634円並びに各金員に対する平成13年12月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。 訴訟費用はこれを10分し,その4を原告らの負担とし,その余を被告らの負担とする。 この判決は,第1項に限り仮に執行することができる。 事実 及び理由第1当事者の求めた裁判 請求の趣旨(1)被告らは,各自,原告Aに対し5240万4007円,同B及び同Cに対し各2620万2004円並びに各金員に対する平成13年12月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (2)訴訟費用は被告らの負担とする。 (3)仮執行宣言 請求の趣旨に対する答弁(1)原告らの請求をいずれも棄却する。 (2)訴訟費用は原告らの負担とする。 (3)仮執行免脱宣言第2事案の概要本件は,亡Dが,被告医療法人E(以下「被告法人」という。)経営の病院で,被告Fにより受けたERCP(内視鏡的逆行性膵胆管造影)検査及びENBD(内視鏡的経鼻胆道ドレナージ)後に発生した急性膵炎により死亡したことにつき,被告Fには検査義務違反及び治療義務違反が,被告法人には使用者責任があるとして,亡Dの相続人である原告らが,被告ら各自に対して,不法- 2 -行為による損害賠償を請求した(附帯請求は,不法行為後であり,亡Dが死亡した日である平成13年12月28日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の請求である。)事案である。 前提となる事実(証拠により認定した事実については,かっこ内に証拠を掲記する。その余の事実については当事者間に争いがない。)(1)当事者ア原告Aは,亡 延損害金の請求である。)事案である。 前提となる事実(証拠により認定した事実については,かっこ内に証拠を掲記する。その余の事実については当事者間に争いがない。)(1)当事者ア原告Aは,亡Dの妻である。 原告Bは,亡Dの長男である。 原告Cは,亡Dの長女である。 イ被告法人は,G病院(岡山市a字bc番地d所在。以下「被告病院」という。)を開設・経営している。 ウ被告Fは,被告法人に雇用され,被告病院に勤務する医師である。 (2)診療経過ア平成13年11月30日(以下,特に断らない限り,平成13年の月日を指す。)亡Dは,風邪の症状で医療法人HIクリニックへ行ったところ,急性肝炎の疑いがあるとのことで,被告病院を紹介され,同病院へ入院した。亡Dの担当医師は,J医師となった。 同日の血液生化学検査では,ビリルビン,胆道系の酵素が著増しており,閉塞性黄疸が示唆されたが,腹部CT検査(1回目)では,総胆管の拡張ははっきりせず,点滴で経過を見ることにした(乙1)。 イ12月1日亡Dの担当医師が,J医師(腎臓専門)と被告F(消化器専門)の共同となった(乙1,被告F)。 午前中,腹部超音波検査(1回目)を行ったところ,肝内胆管拡張が認められた(乙1)。 - 3 -午後2時20分,腹部CT検査(2回目)を行ったところ,肝内胆管拡張が認められたが,胆石の存在は指摘できなかった(乙1)。 午後4時32分,腹部超音波検査(2回目)を行ったところ,肝内胆管拡張が認められたが,結石も腫瘍も見えず,総胆管結石か総胆管癌かは判別できなかった(乙1)。 亡Dは,同日行われた血液検査の結果と2回にわたる腹部超音波検査及び腹部CT検査により,閉塞性黄疸と診断された。被告病院医師は,処置として,絶食を指示し,抗生剤,輸液2000mの点滴を開始した。 l( ,同日行われた血液検査の結果と2回にわたる腹部超音波検査及び腹部CT検査により,閉塞性黄疸と診断された。被告病院医師は,処置として,絶食を指示し,抗生剤,輸液2000mの点滴を開始した。 l(以上につき乙1)ウ12月2日亡Dの全身状態に変化はなかったが,便が出ないとの訴えがあったため,J医師は,このまま排便がなければ,ラキソベロン(下剤)を増量するよう指示をした(乙1,証人J)。 エ12月3日血液検査と血液生化学検査の結果でも,引き続き閉塞性黄疸が示唆されていた(被告F)。そこで,被告Fは,亡D及び原告Aに対し,肝機能が改善せず,総胆管癌,総胆管結石の疑いがあるので,ERCP検査を行い,場合によっては胆管にカテーテルを入れて治療(ENBD)を行う必要があること,ERCP検査に伴う危険性として,急性膵炎,消化管穿孔,発熱,誤㨯のおそれがあることを説明し,同意を得た(甲4,乙1,被告F)。 オ12月4日午前中,K医師(外科専門)は亡Dに対して胃カメラによる検査を行った。その結果,亡Dは,多発性胃潰瘍と診断された。 午後,被告F,L医師,M医師ら(いずれも消化器専門)は,亡Dに対してERCP検査を行った。その結果,15×10㎜の結石が認められ,- 4 -亡Dは総胆管結石嵌頓による閉塞性黄疸と診断された。今後,総胆管結石嵌頓による重症膵炎,化膿性胆管炎を併発し,生命の危険を来す可能性も考えられたので,減黄目的の治療としてENBDを行った。(以上につき乙1)他方,ERCP検査の直後から,術後膵炎の予防として,生理食塩水とフサン(蛋白分解酵素阻害剤)の点滴投与及び抗生物質であるミノマイシンを投与した(乙1)。 ERCP検査及びENBD施行の3時間後の血液検査の結果では,アミラーゼが728IU/であり,飲水のみを許可した(乙1 分解酵素阻害剤)の点滴投与及び抗生物質であるミノマイシンを投与した(乙1)。 ERCP検査及びENBD施行の3時間後の血液検査の結果では,アミラーゼが728IU/であり,飲水のみを許可した(乙1)。 l亡Dは,午後10時,腹満感と腹痛を訴えたので,被告Fは,浣腸,プリンペラン(制吐剤)と生理食塩水の点滴,フィジオゾール(輸液)の点滴内にザンタック(制酸剤)を追加することを指示し,疼痛緩和のためにペンタジンの筋肉注射が行われた(乙1)。 カ12月5日早朝,亡Dは血液検査を受けた。その結果では,アミラーゼが859IU/,CRPが1.61㎎/d ,WBC(白血球)が6900であった。 ll被告Fが,亡Dを診察したところ,診察時には腸音は前日より増大していた。(以上につき乙1)被告Fは,午後,膵炎の重症度を判定するため,腹部CT検査(3回目)を行った。その結果,膵炎の所見は認められたが,重症膵炎の所見は認められず,内科的治療の範囲内と判断して,フサン及びミノマイシンの点滴を続けた。(以上につき乙1,被告F)被告Fは,午後9時30分,自宅から電話で亡Dの病状を確認し,点滴内にプリンペランを追加するように指示をした(乙1)。 キ12月6日被告Fは,日本肝臓学会西部会へ出席するため,高知市へ出張した。被- 5 -告Fは,出張中,J医師,L医師及びM医師に代診を依頼していた。(以上につき被告F)被告Fは,午前8時45分,電話で血液検査を指示した。J医師は,午前11時10分頃,亡Dを診察し,腹痛の訴えに対してペンタジンの筋肉注射を追加した。血液検査の結果,WBC11300,CRP>7.0㎎/d ,アミラーゼ267IU/等を確認したので,J医師は,被告Fと電ll話で協議して,今までの急性膵炎の治療を継続するとともに,炎症反応の 血液検査の結果,WBC11300,CRP>7.0㎎/d ,アミラーゼ267IU/等を確認したので,J医師は,被告Fと電ll話で協議して,今までの急性膵炎の治療を継続するとともに,炎症反応の増強に対して,ミノマイシンからより強力な抗生物質であるフルマリンとカルベニンの2剤の投与に変更した。なお,同日の血液検査では,一般検血・CRP・総ビリルビン値・トランスアミナーゼ値・γ-GTP値・血糖値が測定されているが,膵炎重症度判定の他の検査(血液ガス分析,腎機能,血清蛋白値,血清Ca値,プロトロンビン値など)は施行されていない。(以上につき乙1,27の1,証人J)J医師は,亡Dに,腹満感が強く,尿量の減少,呼吸が荒くなる等の症状があったので,午後7時ころ,従前からの点滴の続行及びラシックス(利尿剤)の投与を指示した。また,被告Fは,午後10時ころ,電話でラシックスの投与を指示した。(以上につき乙1)ク12月7日同日の亡Dの血液検査の結果では,アミラーゼは143IU/と減少しlたが,尿量が減少し,腹痛が持続し,呼吸状態の改善も見られなかったので,J医師は,L医師と協議して,腹部CT検査(4回目)を行った。その結果,亡Dは,重症膵炎及び腹膜炎と診断された。 L医師は,被告Fと電話で協議し,重症膵炎の治療を行いつつ,ICUにおける集中治療が必須と考えられたので,亡DをN病院に転院させることにした。J医師,K医師の立会いの下,L医師が,亡Dの家族に,病状の変遷を説明し,同意を得た上で,午後2時過ぎにN病院に移送した。 - 6 -(以上につき乙1,証人J)ケ亡Dは,N病院で治療を受けたが,12月28日,多臓器不全により死亡した。 (3)急性膵炎の診断膵酵素の活性化により膵臓が自己消化され,重症例では全身の臓器に炎症が広がるのが急 1,証人J)ケ亡Dは,N病院で治療を受けたが,12月28日,多臓器不全により死亡した。 (3)急性膵炎の診断膵酵素の活性化により膵臓が自己消化され,重症例では全身の臓器に炎症が広がるのが急性膵炎の病態である。極めて多彩な臨床像を来し,死亡率は中等症で約2%,重症例で20%から30%と,重症度により治療成績が大きく異なることから,重症度を早期に判断し,的確な治療方針を立てる必要がある。(以上につき甲10,乙6)①上腹部の急性腹痛発作と圧痛,②血中,尿中あるいは腹水中に膵酵素の上昇,③画像で膵に急性膵炎に伴う異常の3項目中2項目以上を満たし,他の膵疾患及び急性腹症を除外したものを,急性膵炎と診断する(急性膵炎臨床診断基準)。(以上につき甲10,乙24)(4)急性膵炎重症度判定基準厚生労働省急性膵炎の重症度判定基準と重症度スコア(以下「重症度判定基準」という。)の予後因子は以下のとおりである(甲10,乙24)。 予後因子①ショック,呼吸困難,神経症状,重症感染症,出血傾向,Ht(ヘマトクリット)≦30%,BE(血液ガス分析)≦-3mEq/,BUN(尿素窒素)≧40㎎/d (又はCr(クllレアチニン)≧2.0㎎/d )…各2点l予後因子②Ca(カルシウム)≦7.5㎎/d ,FBS(血糖)≧20l0㎎/d ,PaO(動脈血酸素分圧)≦60mmHg,LDHl (乳酸脱水素酵素)≧700IU/,TP(総蛋白)≦6. l0g/d ,プロトロンビン時間≧15秒,血小板≦10万/l㎣,CTGrade(後述)Ⅳ,V…各1点予後因子③SIRS診断基準における陽性項目数≧3…2点- 7 -年齢≧70歳…1点予後因子①を認めず,予後因子②が1項目のみ陽性のものを中等症と判定する。予後因子①が1項目以上,あるいは予後因 後因子③SIRS診断基準における陽性項目数≧3…2点- 7 -年齢≧70歳…1点予後因子①を認めず,予後因子②が1項目のみ陽性のものを中等症と判定する。予後因子①が1項目以上,あるいは予後因子②が2項目以上陽性のものを重症と判定する。 (5)急性膵炎重症度判定基準のCTGrade分類(甲10,乙24)GradeⅠ:膵に腫大や実質内部不均一を認めない。 GradeⅡ:膵は限局性の腫大を認めるのみで,膵実質内部は均一であり,膵周辺への炎症の波及を認めない。 GradeⅢ:膵は全体に腫大し,限局性の実質内部不均一を認めるか,あるいは膵周辺(網嚢を含む腹腔内,前腎傍腔)にのみfluidcollection又は脂肪壊死を認める。 GradeⅣ:膵の腫大の程度は様々で,膵全体に実質内部不均一を認めるか,あるいは炎症の波及が膵周辺を越えて,胸水や結腸間膜根部又は左後腎傍腔に脂肪壊死を認める。 GradeⅤ:膵の腫大の程度は様々で,膵全体に実質内部不均一を認め,かつ後腎傍腔及び腎下極より以遠の後腹膜腔に脂肪壊死を認める。 争点 (1)被告F及び被告病院医師の過失の有無(原告らの主張)ア被告Fは,亡DについてERCP検査及びENBDが実施された後,急性膵炎が疑われていたのであるから,急性膵炎が重症化しないように適切な治療を行うとともに,重症化した場合,直ちに集中治療に移行できるように経過観察,臨床兆候,血液検査,画像診断を行うべきであったにもかかわらず,これを怠った。 (ア)12月4日- 8 -a午後5時,ERCP検査及びENBDを実施して終了したが,被告病院は「一般的な急性膵炎の治療として,先ず膵臓を安静に保つため食事や水分の摂取は禁じ」(乙6)なければならないにもかかわらず,午後6時には飲水を指示し,12月7日,N病院ICU て終了したが,被告病院は「一般的な急性膵炎の治療として,先ず膵臓を安静に保つため食事や水分の摂取は禁じ」(乙6)なければならないにもかかわらず,午後6時には飲水を指示し,12月7日,N病院ICUに搬入されるまで,飲水を禁止しなかった。 bERCP検査及びENBD実施の3時間後の血液検査の結果,アミラーゼ値が急上昇しており,亡Dが急性膵炎を発症している兆候があった。急性膵炎の治療は初期の48時間以内の適切な治療にかかっており,急性膵炎の治療としては,絶食,水分摂取の禁止に加えて抗生剤とフサンの投与が初期に必要であるが,被告病院においては,同日,ERCP検査及びENBD実施後に予防目的でフサンが10㎎が投与されているにすぎない。 (イ)12月5日被告Fは,同日,亡DについてCTを撮影した結果,膵臓が炎症を起こし極端に腫大し,膵炎が悪化していることが認められ,臨床徴候からいえば,亡Dの症状は悪化しており,被告Fも急性膵炎と判断しているにもかかわらず,十分な診察や経過観察,急性膵炎重症度の判定に必要な各種検査をしなかった。カルテ上からも,被告Fが,十分な観察,診断を行っていた形跡も見えず,被告Fが軽症から中等症の急性膵炎と判断した根拠はうかがえない。 (ウ)12月6日亡Dの白血球は著しく上がっており,亡Dが激しい腹痛,呼吸困難を訴え,ベッドに寝たまま何もできない状態になっていたにもかかわらず,膵炎の重症度を判定する各種検査もなさず,CT,X線など画像診断もしなかった。J医師は,午前11時10分の1回だけ亡Dを診察し,その際,せき止めをやめ,抗生剤を変更しただけで,急性膵炎に関する十- 9 -分な治療は行われなかった。 イ12月5日から同月7日にかけ,ENBDチューブを抜去しなかった過失亡Dに急性膵炎が発症し,悪化・重症化し め,抗生剤を変更しただけで,急性膵炎に関する十- 9 -分な治療は行われなかった。 イ12月5日から同月7日にかけ,ENBDチューブを抜去しなかった過失亡Dに急性膵炎が発症し,悪化・重症化した主原因は,留置したENBDチューブが膵管口を閉塞し,膵液の流出を阻害したためと考えられる。 被告Fは,12月4日のERCP検査及びENBD実施後,ENBDチューブが急性膵炎の原因と考えられると推測したにもかかわらず,亡Dの腹痛等の容態が悪化の一途をたどった同月5日から7日にかけて,確たる検討もせず,ENBDチューブを抜去しなかった。 CT検査の結果,亡Dの急性膵炎が軽症から中等症に達する所見と判断され,亡Dの腹部の異常なまでの激痛が継続し悪化していた同月5日の時点では,膵炎の重症化防止のため,速やかにENBDチューブを抜去すべきであった。 ウパピロトミーを行わなかった過失ENBDは総胆管結石に対する根治的治療法ではなく,総胆管結石の根治的治療には,一般的にパピロトミー(EST=内視鏡的乳頭括約筋切開術)が選択される。ENBDを行う際は,膵管開口部の圧迫・閉塞による急性膵炎を防止するためにパピロトミーを行うのが医療水準であり,医療の常識である。 特に,亡Dの膵管・胆管の合流形態はY字型であり,パピロトミーをしない限りENBDチューブが膵管口を閉塞することによる急性膵炎の発症及び悪化・重症化の危険性が高かったのだから,パピロトミーが選択されるべきであった。 エ説明義務違反(ア)医師は,一般に,㨯現在の病気の状態,②治療行為の内容・効果・危険性,③代替可能な治療行為の内容・効果・危険性,㨯治療しない場- 10 -合に予測される結果について,具体的に説明する義務を負う。 (イ)総胆管結石の根治的治療としては,パピロトミーやバルーン拡張法 ③代替可能な治療行為の内容・効果・危険性,㨯治療しない場- 10 -合に予測される結果について,具体的に説明する義務を負う。 (イ)総胆管結石の根治的治療としては,パピロトミーやバルーン拡張法(EPBD。以下「EPBD」という。)がある。特にパピロトミーは,簡単な手術と一般にいわれ,急性膵炎が発生しても重症化しないとされており,出血・穿孔の危険性も大きな問題とはされておらず,重篤な偶発症も少なく,さらに亡Dはパピロトミーの困難例にも当たらなかった。 そして仮に亡Dに具体的出血・穿孔の危険性があったなら,パピロトミーでなく同じ内視鏡的治療としてEPBDの方法を選択することも可能であった。 また,ERCP検査及びENBD実施後,胆のう内結石の存在はなお「可能性」レベルにとどまっており,胆のう摘出術という外科的手術には緊急性がない上,必要性にも疑問があった。 亡Dや原告らは,このことを知っていれば,総胆管結石の治療法として,内視鏡的治療を選択し,外科的な胆のう摘出術を選択しなかった。 (ウ)被告Fら被告病院医師は,総胆管結石の治療法として,パピロトミーなしにENBDのみを行った理由として,胆のう内にも結石が存在する可能性があり,総胆管内の結石を除去しても外科的に胆のう摘出術を行う必要があると考えられたので,ENBDによる黄疸等の軽減後,開腹手術をすることを予定していたことを主張するが,このような説明はもちろんのこと,パピロトミーなしのENBDの危険性について一切説明しなかった。同意書(甲4)には,手術の目的,手順,危険性についての説明がなされた旨が記載されているが,その説明は極めて不十分なものであり,ERCPにより胆管を検査し,場合によりENBDにより減黄するとの簡単な説明がなされたのみであった。 被告Fら被告病院医師は,総胆管結石に関 旨が記載されているが,その説明は極めて不十分なものであり,ERCPにより胆管を検査し,場合によりENBDにより減黄するとの簡単な説明がなされたのみであった。 被告Fら被告病院医師は,総胆管結石に関し,外科的な開腹手術に代わる根治的治療方法で,劇的な治療効果が期待できるパピロトミーやE- 11 -PBD等内視鏡的治療法の存在や,内容・効果・危険性に関して,何ら亡Dや原告らに説明しなかったものであるから,被告Fらには,前述の㨯治療行為の内容・効果・危険性,㨯代替可能な治療行為の内容・効果・危険性の点につき明らかな説明義務違反が認められる。 (エ)なお,12月5日の時点で,被告Fは,ENBDチューブを抜去するかしないかについても,亡Dや家族がいずれの治療行為を選択するか決定するために必要な情報として,抜去した場合と抜去しない場合の効果・危険性等について十分説明すべき義務があったのに,その説明義務を怠った。 (被告らの主張)ア原告らは,12月4日から6日までに適切な診察,検査,治療等を怠ったと主張するが,被告Fらは亡Dに対し,以下の処置をとっている。 (ア)12月4日a午後7時に血液検査の確認を行い,午後8時30分に診察した。また,午後10時に,腹痛がある状態で診察した。さらに,午後11時40分に診察した。 被告Fらは,ERCP検査の直後から,術後膵炎の予防として,生理食塩水にフサン10㎎を加えた点滴を1回,抗生物質であるミノマイシン100㎎を2回投与した。 ERCP検査及びENBD実施の3時間後に血液検査を行い,その結果では,アミラーゼが728IU/であった。 l午後10時には腹満感,腹痛の訴えがあったので,被告Fは,浣腸,生理食塩水にプリンペランを加えた点滴をし,フィジオゾールの点滴内にザンタックを追加することを指示し,疼 が728IU/であった。 l午後10時には腹満感,腹痛の訴えがあったので,被告Fは,浣腸,生理食塩水にプリンペランを加えた点滴をし,フィジオゾールの点滴内にザンタックを追加することを指示し,疼痛緩和のためにペンタジンの筋肉注射が行われた。 なお,被告Fは,午後11時40分に亡Dを診察した際,亡Dの症- 12 -状が改善傾向にあることを確認している。 b急性膵炎に対する治療は,絶食をはじめとした膵の安静(膵外分泌刺激の回避)などを徹底することが基本とされているが,これは食事摂取による膵外分泌の刺激を抑えるためであって,水分摂取では膵外分泌刺激はない。 なお,原告らは,ERCP検査及びENBD施行の1時間後に飲水を指示したと主張するが,被告Fは飲水するように指示を与えたわけではなく,検査後ずっと絶食にしているため,のどが乾くので,口の中をゆすいだり,ごく少量飲み込むことは構わないという意味のことを許可したにすぎない。カルテにも「飲水可の指示あり」と記述されている。 (イ)12月5日早朝,血液検査を実施してその結果を評価し,診察した。午後も膵炎の重症度を判定するために腹部CT検査(3回目)を行い,その前後に診察も行った。 腹部CT検査(3回目)を行った結果,膵臓の腫大を認めたが,急性膵炎重症度判定基準のCTGrade分類(第2の1(5))にいうGradeⅢと診断され,GradeⅣ又はⅤに至る重症膵炎の所見は見られなかったことから,被告Fは,軽症から中等症の急性膵炎と診断した。なお,この診断が妥当であることはN病院でも確認されている。 早朝,血液検査を行い,その結果では,アミラーゼが859IU/,lCRPが1.61㎎/d ,WBCが6900であった。被告Fが亡Dをl診察したところ,腹満感はあるものの,自制内であり,診察時に腸 朝,血液検査を行い,その結果では,アミラーゼが859IU/,lCRPが1.61㎎/d ,WBCが6900であった。被告Fが亡Dをl診察したところ,腹満感はあるものの,自制内であり,診察時に腸音は前日より増大していた。 午後,膵炎の重症度を判定するため,腹部CT検査(3回目)を行った。膵炎の所見は認められたが,ENBDチューブの位置は良好で,重- 13 -症膵炎の所見は認められず,内科的治療の範囲内と判断して,フサン10㎎を2回,ミノマイシン100㎎を2回,それぞれ点滴投与を続けた。 被告Fは,午後9時30分,自宅から電話で亡Dの病状を確認し,点滴内にプリンペランを追加するよう指示した。 (ウ)12月6日被告Fは,高知市に出張したが,出張中は,J医師のほか,L医師及びM医師に代診を依頼していた。 被告Fは,午前8時45分に電話で血液検査を指示した。J医師は午前11時10分ころ亡Dを診察し,腹痛の訴えに対してペンタジンの筋肉注射を追加した。血液検査の結果,白血球(WBC)11300,(CRP)>7.0㎎/d ,アミラーゼ267IU/等を確認した。Jll医師は電話で被告Fと協議して,今までの急性膵炎の治療を継続すると共に,フサン10㎎を2回投与するほか,炎症反応の増強に対してミノマイシンから,より強力な抗生物質であるフルマリン1gとカルベニン0.5gの2剤の投与に変更した。 J医師は,午前11時10分ころ,亡Dを十分診察し,意識,血圧,呼吸などを検討している。亡Dは前ショック状態ではなく,酸素投与が必要な状態でもなく,人工呼吸器を必要とする呼吸困難も来していなかった。亡Dの意識は鮮明であり,重症感染症,消化管・腹腔内出血を認める出血傾向などの臨床的徴候は認めていない。 (エ)12月7日朝,J医師が診察したところ,症状とし 要とする呼吸困難も来していなかった。亡Dの意識は鮮明であり,重症感染症,消化管・腹腔内出血を認める出血傾向などの臨床的徴候は認めていない。 (エ)12月7日朝,J医師が診察したところ,症状として尿量の減少が見られ,腹痛が持続し,呼吸状態の改善が見られなかった。 早朝の血液検査の結果では,Na127mEq/,K4.0mEq/,llCl90mEq/,Ca4.1㎎/d ,BUN29.1㎎/d ,CRE3. lll58㎎/d ,アミラーゼ143IU/,T-Bil10.64㎎/d ,lll- 14 -D-Bil7.97㎎/d ,GOT68IU/,GPT107IU/,γlll-GTP453IU/,血糖288㎎/d ,CRP49.80㎎/d ,lll白血球(WBC)11.100,赤血球(RBC)464万,ヘモグロビン15.6g/d ,ヘマトクリット(HCT又はHt)47.8%,l血小板(PLT)21万3000であった。 午前10時ころ,L医師も診察し,J医師と協議して腹部CT検査(4回目)を行った。その結果,急性膵炎重症度判定基準のCTGrade分類(第2の1(5))のGradeⅤに至る重症膵炎の所見を認めた。そこで,J医師とL医師は,被告Fと電話で協議した上,外科のK医師,内科のM医師も加わって臨床徴候,血液検査の結果,腹部CT所見から重症度スコア8点以上と判断し,亡Dの救命の可能性を向上させるため,N病院に受入れの許可をもらい,L医師同乗のもとに亡DをN病院に搬送した。 なお,被告病院においても,重症膵炎の治療として,中心静脈にカテーテルを挿入して,各種栄養剤,フサン10㎎,FOY(抗膵酵素薬)1000㎎,ミラクリッド(抗膵酵素薬)30万単位,25%アルブミン50m ,ラシックス20㎎を5アンプル,ザ として,中心静脈にカテーテルを挿入して,各種栄養剤,フサン10㎎,FOY(抗膵酵素薬)1000㎎,ミラクリッド(抗膵酵素薬)30万単位,25%アルブミン50m ,ラシックス20㎎を5アンプル,ザンダック50㎎を3アンlプル,カルベニン(抗生物質)0.5gを2回の投与を行った。 (オ)以上のとおり,被告病院においては,亡Dについて,経過観察,臨床兆候,血液検査,画像診断を十分行っており,急性膵炎及びその重症化に対する治療も適切に行っている。 イ12月5日から同月7日にかけ,ENBDチューブを抜去しなかった点について亡Dについては,12月4日にERCP検査及びENBDを行った3時間後の血液検査の結果では,アミラーゼが728IU/と上昇しており,l急性膵炎の可能性が考えられた。しかし,重症膵炎ではなく,その原因と- 15 -しても,ENBDチューブによる膵管口圧迫,造影剤の影響,十二指腸乳頭部の浮腫,胆のう炎等が考えられた。 仮に,造影剤の影響,十二指腸乳頭部の浮腫が原因であれば,ENBDチューブを抜去しても急性膵炎は改善されない。他方,同月5日の血液検ll査の結果では,ビリルビンが前日の9.47㎎/dから6.20㎎/dへ下がっていて,ENBDチューブ挿入により閉塞性黄疸は改善してきていた。また,ENBDチューブを抜去した場合,総胆管結石が再び嵌頓して胆汁の排出を妨げ,閉塞性黄疸の悪化及び胆管内の細菌感染を来し,急性化膿性胆管炎を起こして,全身状態が抜去前より悪化する可能性も考えられる。 以上の事情に加え,同日の時点では,急性膵炎は軽症から中等症と判断されたことから,ENBDチューブを抜去せず,抗生物質,膵酵素阻害剤による治療を継続した。なお,同日時点でENBDチューブを抜去したとしても,急性膵炎が改善したとはいえない 炎は軽症から中等症と判断されたことから,ENBDチューブを抜去せず,抗生物質,膵酵素阻害剤による治療を継続した。なお,同日時点でENBDチューブを抜去したとしても,急性膵炎が改善したとはいえない。 よって,被告Fが,同日時点でENBDチューブを抜去しなかったことに過失はない。 ウパピロトミーを行わなかった過失について(ア)ERCPによる胆管造影に引き続きENBDの手術を実施する場合,そのチューブの挿入に先立って,まずパピロトミーを行うとする見解もあるが,他方,ENBDの手術に先立ってパピロトミーをすることを不要とする見解も存する。 (イ)また,パピロトミーには,合併症として,十二指腸乳頭部の切開部からの大量出血,腹腔内への穿孔を起こす可能性がある。 亡Dには著明な黄疸や肝機能の異常が認められており,もし上記の合併症を来して緊急開腹手術となった場合には,生命の危険性はかなり高い。このような場合,黄疸や肝機能の異常が改善されるのを待ってパピ- 16 -ロトミーを行うのが通常である。 (ウ)パピロトミーを行うには,その前提としてERCP検査を行う必要があるところ,その検査で用いられる造影剤は,急性膵炎や急性胆管炎や急性胆のう炎のように,急性炎症を生じている病態について炎症を増悪させる可能性がある。よって,急性膵炎の病態にある者に対しては,ERCP検査を行うことは一般的に禁忌とされている(甲8)。 亡Dは,12月5日の時点で急性膵炎の病態を示していた上,黄疸や肝機能の異常があったことから,パピロトミーをするに適当な状態にはなかった。よって,同日の時点でパピロトミーを行わなかったことについて,被告Fに過失はない。 エ説明義務違反について(ア)亡Dは,11月30日,被告病院へ入院し,血液検査や2回の腹部CT検査及び2回の腹部超音波 同日の時点でパピロトミーを行わなかったことについて,被告Fに過失はない。 エ説明義務違反について(ア)亡Dは,11月30日,被告病院へ入院し,血液検査や2回の腹部CT検査及び2回の腹部超音波検査によって,閉塞性黄疸であることが診断された。その原因としては,総胆管癌,乳頭部癌,総胆管結石が疑われたものの,12月4日午前中の時点では,いまだその原因についての診断は確定していなかった。 被告Fは,亡Dに対して,閉塞性黄疸の原因を調べるため,ERCP検査を行うこと及びその手技の内容を説明し,併せて,黄疸の症状を軽減するため,総胆管にカテーテルの挿入が可能であるときは,ENBDの処置をも同時に行うこと及びその手技の内容を説明した。 したがって,上記のように,ERCP検査及びENBDの処置をするに当たって,被告Fらは,亡Dに対し上記のような説明をして同意を得ているので,説明義務に欠けることはない。 (イ)総胆管結石の治療法としての各種手術については格別説明をしていないが,それは,外科的手術に加え,内視鏡的治療を選択することを考慮しても,手術を実施する際に行えば足りるところであると考えたから- 17 -である。 そして,12月4日の時点では,亡Dに著明な黄疸や肝機能障害が認められたので,それらの症状が改善されるのを待って外科的手術を行う考えであった。したがって,同日までの時点で,総胆管結石の治療法としての各種手術方法に関する説明がなされていないことをもって,説明義務に欠けることにはならない。 なお,被告Fは,亡Dや原告らに対し,ENBD挿入後の処置として,黄疸の症状がなくなれば,外科的処置により結石を取り除く予定である程度の説明は行っていた。 (2)原告らの損害額(原告らの主張)ア被告らの過失により,亡Dは12月7日に重症膵炎に至り として,黄疸の症状がなくなれば,外科的処置により結石を取り除く予定である程度の説明は行っていた。 (2)原告らの損害額(原告らの主張)ア被告らの過失により,亡Dは12月7日に重症膵炎に至り,同月28日に死亡した。これにより,亡Dが被った損害は,以下の合計1億0480万8014円である。 ①治療費207万6960円12月7日から同月28日まで,N病院での治療費。 ②入院付添費17万4000円11月30日から同年12月28日まで合計29日間,1日につき6000円の合計額。 ③入院雑費3万7700円11月30日から同年12月28日まで合計29日間,1日につき1300円の合計額。 ④文書費3675円⑤逸失利益4181万5679円亡Dは,死亡当時53歳の男子であり,O株式会社に勤務し,死亡の前年の平成12年の税引き後の手取り年収は603万4862円(甲1- 18 -1)で,本件不法行為がなければ,少なくとも67歳まで14年間は同程度の収入を得ることができたはずである。 同年収を基礎にし,生活費を30%控除し,ライプニッツ式により年5分の割合による中間利息を控除してこの間の逸失利益を算定すると,その額は,4181万5679円(=603万4862円×(1-0. 3)×9.8986)になる。 ⑥慰謝料5000万円全く予想していなかった亡Dの突然の死により,亡D本人はもとよりその家族である原告らも,筆舌に尽くし難い精神的苦痛を受けたことは明らかであるので,その精神的苦痛に対する慰謝料は,5000万円が相当である。 ⑦葬儀費用120万円⑧弁護士費用950万円イ原告らは,亡Dの相続人として,上記損害賠償請求権を,原告Aは2分の1の割合で,同B及び同Cは各4分の1の割合でこれを相続した。 よって,被告らに対し 費用120万円⑧弁護士費用950万円イ原告らは,亡Dの相続人として,上記損害賠償請求権を,原告Aは2分の1の割合で,同B及び同Cは各4分の1の割合でこれを相続した。 よって,被告らに対し,原告Aは5240万4007円,同B及び同Cは各2620万2004円の損害賠償請求権を有する。 (被告らの主張)原告ら主張の損害額については争う。 第3当裁判所の判断 争点(1)(被告F及び被告病院医師の過失の有無)について(1)被告Fらに,ERCP検査及びENBD施行後において,亡Dについて経過観察等を怠り,急性膵炎が重症化しないように適切な治療を行わなかった過失があるか否かについてア前記前提となる事実,証拠(甲8,9,21,25の1ないし3,乙1,証人J,証人P,被告F)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認め- 19 -られる。 (ア)亡Dの血液検査の結果は,12月1日の時点においては,肝機能関係の数値がいずれも高く,CRP値も1.72㎎/dと高かったものlの,アミラーゼ値は15IU/(基準値33~120),膵アミラーゼl値は5IU/(基準値14~41)と低かった。同月4日の術前においlても,肝機能関係の数値がいずれも高く,アミラーゼ値は15IU/でlあった。ERCP検査及びENBD施行の3時間後の血液検査の結果では,アミラーゼ値が728IU/と上昇した。同月5日の血液検査の結ll果,肝機能関係の数値は下がったものの,アミラーゼ値は859IU/と高いままであった。同月6日の血液検査の結果,アミラーゼ値は低下したものの,CRP値は7㎎/dと高い値を示していた。同月7日のl血液検査の結果,アミラーゼ値は143IU/,膵アミラーゼ値は12l9IU/であったが,CRP値は49.8㎎/d とさらに したものの,CRP値は7㎎/dと高い値を示していた。同月7日のl血液検査の結果,アミラーゼ値は143IU/,膵アミラーゼ値は12l9IU/であったが,CRP値は49.8㎎/d とさらに上昇した。 ll被告Fは,同月5日午後,腹部CT検査を行い,膵炎の所見は認めたものの,重症膵炎の所見は認められないと判断した。 (イ)亡Dは,12月4日午後10時ころ,ナースコールをし,腹痛,腹満感を訴え,吐気,嘔吐の症状もあった。翌5日午前8時30分ころ,腹部全体の痛みは自制内であったが,腹満感は強かった。その後,午後5時になっても強い腹満感は継続しており,同月6日深夜には腹満感が増強していると訴えた。その後も,同日午前8時30分になっても腹満感は改善せず,同日午前8時50分,午前11時10分,午後2時,午後5時と腹満感が続いた。また,同日午前8時50分,午前11時10分には腹痛が増強した。同日午後7時には,多量の発汗と,呼吸が荒くなる症状が見られた。 (ウ)被告Fは,12月4日午後11時40分ころ,亡Dを診察した。被告Fは,この時点で,亡Dの急性膵炎の原因として,ENBDチューブ- 20 -による膵管口圧迫の可能性があることを意識し,J医師にもその旨告げていた。 J医師は,同月6日には,午前11時10分ころに1回亡Dを診察したのみであり,L医師,M医師は,同日,亡Dを診察していない。 J医師は,同日,亡DのCRP値が上がっており,亡Dの腹痛の訴えが継続していることを見て,亡Dの状況について注意する必要を感じたが,亡Dの症状は前日と変化がなく臨床的に膵炎が進行して重症膵炎に至っているという所見が示唆されていないこと,また,被告Fと電話で相談した結果,亡Dの急性膵炎は中程度と判断したことから,CT検査を行わなかった。 J医師は,同日 く臨床的に膵炎が進行して重症膵炎に至っているという所見が示唆されていないこと,また,被告Fと電話で相談した結果,亡Dの急性膵炎は中程度と判断したことから,CT検査を行わなかった。 J医師は,同日,半日勤務であり,午後3時ころまでは被告病院にいたが,その後は帰宅し,同日午後から夜間にかけての亡Dの症状については看護師から電話で聞き,カルテに記載した。看護師からの電話で,午後7時ころに亡Dの尿量が減ったという報告を受けて,利尿剤と下剤の投与を指示した。 (エ)被告病院における治療状況a12月4日被告Fらは,ERCP検査の直後から,術後膵炎の治療として,生理食塩水にフサン10㎎を加えた点滴を1回,抗生物質であるミノマイシン100㎎を2回投与した。 ERCP検査及びENBD実施の3時間後に血液検査を行い,その結果では,アミラーゼが728IU/であった。 l午後10時には腹満感,腹痛の訴えがあったので,被告Fは,浣腸,生理食塩水にプリンペランを加えた点滴をし,フィジオゾールの点滴内にザンタックを追加することを指示し,疼痛緩和のためにペンタジンの筋肉注射が行われた。 - 21 -b12月5日早朝,血液検査を行い,その結果では,アミラーゼが859IU/,lCRPが1.61㎎/d ,WBCが6900であった。被告Fが亡Dlを診察したところ,腹満感はあるものの,自制内であり,診察時に腸音は前日より増大していた。 午後,膵炎の重症度を判定するため,腹部CT検査(3回目)を行った。膵炎の所見は認められたが,ENBDチューブの位置は良好で,重症膵炎の所見は認められず,内科的治療の範囲内と判断して,フサン10㎎を2回,ミノマイシン100㎎を2回,それぞれ点滴投与を続けた。 被告Fは,午後9時30分,自宅から電話で亡Dの病状を確認し,点 症膵炎の所見は認められず,内科的治療の範囲内と判断して,フサン10㎎を2回,ミノマイシン100㎎を2回,それぞれ点滴投与を続けた。 被告Fは,午後9時30分,自宅から電話で亡Dの病状を確認し,点滴内にプリンペランを追加するよう指示した。 c12月6日被告Fは,高知市に出張したが,出張中は,J医師のほか,L医師及びM医師に代診を依頼していた。 被告Fは,午前8時45分に電話で血液検査を指示した。J医師は午前11時10分ころ亡Dを診察し,腹痛の訴えに対してペンタジンの筋肉注射を追加した。血液検査の結果,白血球11300,CRP7.0㎎/d ,アミラーゼ267IU/等を確認した。J医師は電話llで被告Fと協議して,今までの急性膵炎の治療を継続すると共に,フサン10㎎を2回投与するほか,炎症反応の増強に対してミノマイシンから,より強力な抗生物質であるフルマリン1gとカルベニン0.5gの2剤の投与に変更した。 (オ)亡Dは,12月7日,N病院に転院された。N病院のP医師らは,亡Dを診察した結果,亡Dが壊死性膵炎の状態にあり,その原因がENBDチューブにあると判断し,同月8日午前9時30分,原告らに対し,- 22 -亡Dに急性膵炎が発症し,それが重症化した原因がENBDチューブの留置にある旨説明し,同日午後6時,N病院においてENBDチューブが抜去された。 イ上記認定事実によると,亡Dに急性膵炎が発症し,それが重症化するに至ったのは,ENBDチューブを留置したことにあると認定することができる。そこで,ENBDチューブを抜去しなかったことを含め,被告病院における亡Dの治療等に過失がなかった否かを検討する。 (ア)ENBDを実施した場合,留置したENBDチューブによる膵管開口部圧迫に起因する急性膵炎が偶発症としてあることがよく知られ 含め,被告病院における亡Dの治療等に過失がなかった否かを検討する。 (ア)ENBDを実施した場合,留置したENBDチューブによる膵管開口部圧迫に起因する急性膵炎が偶発症としてあることがよく知られている(甲9)。したがって,施行後,経時的に,特に3時間後の血清アミラーゼ値をチェックし,腹痛,発熱の有無や腹部の他覚的所見等を注意深く経過観察することが必要である。 (イ)前提となる事実のとおり,12月4日のERCP検査及びENBD施行の3時間後の血液検査の結果では,亡Dの血清アミラーゼ値は728IU/と高値であり,被告Fは,絶食の指示とフサン10㎎の投与をlした。同月5日には,血液検査により,血清アミラーゼ値が測定され,前日の728IU/から859IU/に上昇していたことから,画像検ll査として腹部CT検査をし,その結果,膵の腫大と膵周囲への炎症の波及が認められたため,被告Fらは,亡Dの膵炎をCTGradeⅢと診断し,絶食・補液のほか,フサン10㎎を1日2回,ミノマイシン100㎎を1日2回投与した。 (ウ)しかしながら,12月5日から6日にかけて,亡Dが強い腹満感を訴え続け,その腹満感は同日午後5時まで続いており,同日午前8時50分,午前11時10分には腹痛が増強し,同日午後7時には,多量の発汗と,呼吸が荒くなる症状が見られるなど,亡Dの症状は改善せず,むしろ悪化していたにもかかわらず,被告FやJ医師は,これらの亡D- 23 -の症状について,看護師から電話で連絡を受けて投薬などの指示を行い,同日に,血液検査を午前中1回したのみであり,J医師が直接診療したのも午前中の1回にとどまる。 (エ)前提となる事実認定のとおり,中等症の急性膵炎の死亡率は2%であるのに対し,重症急性膵炎の場合,死亡率は20%から30%と極端に みであり,J医師が直接診療したのも午前中の1回にとどまる。 (エ)前提となる事実認定のとおり,中等症の急性膵炎の死亡率は2%であるのに対し,重症急性膵炎の場合,死亡率は20%から30%と極端に高くなることから,急性膵炎が発症した場合,重症化しないように治療に努めなければならない。ところで,被告Fらは,ENBDの実施後の血液検査や亡Dの症状から,12月4日の夜には,急性膵炎の発症を疑い,その原因がENBDチューブの留置にある可能性を認識し,同月5日の腹部CT検査の結果により,急性膵炎が発症したと診断し,かつ,亡Dの症状が改善しなかったのであるから,各種の検査を頻回に行うことにより,投与している膵酵素阻害剤(フサン)などの薬剤の効果を確認し,亡Dの急性膵炎の原因が留置したENBDチューブによる膵管開口部圧迫に起因するものであるかの検証を行うべきであったのに,同月7日に,亡Dの急性膵炎が重症であるとの判断をするまで,腹部CT検査は,同月5日の1度のみで,血液検査の結果も日に1回,投薬についても,同月6日に,抗生物質の種類を変更したのみであり,薬剤の効果や急性膵炎の原因を探ることを怠り,ENBDチューブ抜去の判断を含め,亡Dの急性膵炎の治療が適切でなかった結果,膵炎を重症化させたというべきである。 なお,ERCP検査の施行によっても,偶発症として,急性膵炎を発症することが知られているが,被告病院での検査,治療は,仮にERCP検査の偶発症としての急性膵炎に対するものとしても,適切とはいえず,また,前記のとおり,被告病院において,亡Dの急性膵炎の原因を探らなかったことに,過失があるといえる。 (オ)被告らは,亡Dの閉塞性黄疸の治療のため,ENBDチューブを留- 24 -置することが必要であったと主張し,確かに,12月5日の血液検査の結 因を探らなかったことに,過失があるといえる。 (オ)被告らは,亡Dの閉塞性黄疸の治療のため,ENBDチューブを留- 24 -置することが必要であったと主張し,確かに,12月5日の血液検査の結果では,ビリルビンが前日の9.47㎎/dから6.20㎎/dへll下がっていて,ENBDチューブ挿入により閉塞性黄疸は改善してきており,また,ENBDチューブを抜去した場合,総胆管結石が再び嵌頓して胆汁の排出を妨げ,閉塞性黄疸の悪化及び胆管内の細菌感染を来し,急性化膿性胆管炎を起こして,全身状態が抜去前より悪化する可能性も考えられたことは認められる。 しかしながら,閉塞性黄疸の治療方法は,ENBDチューブによる方法以外にもあるのに対し,膵炎が重症化した場合には,膵臓の細胞の壊死が生じ,不可逆的状況が生じるのであるから,膵炎を重症化させないことを優先すべきであった。そして,前記認定のとおりの亡Dの臨床経過によれば,亡Dの膵炎は悪化の一途をたどっていたと認められ,その原因が留置したENBDチューブによる膵管開口部圧迫に起因するものであったのであるから,被告Fらは,亡Dの膵炎が重症化するまでに,ENBDチューブを抜去することを決断すべきであった。それにもかかわらず,被告Fらは,各種検査等を怠り,亡Dの膵炎が悪化しているとの認識を欠き,亡DをN病院に転院させるまで,ENBDチューブを抜去することを検討すらしなかったものである。 (カ)よって,被告Fら被告病院の医師らには,亡Dの急性膵炎について,その経過観察を怠り,ENBDチューブの抜去を含む治療方法等についても適切さを欠いた過失により,亡Dの急性膵炎を重症化させたというべきである。 (2)因果関係についてQ病院副院長R医師の意見書(乙27の1)には,「仮定の話として,12月6日に腹部C 等についても適切さを欠いた過失により,亡Dの急性膵炎を重症化させたというべきである。 (2)因果関係についてQ病院副院長R医師の意見書(乙27の1)には,「仮定の話として,12月6日に腹部CT検査が施行され,また膵炎重症度判定の血液マーカー(血液ガス分析,腎機能,血清蛋白値,血清Ca値,プロトロンビン値な- 25 -ど)を測定していれば重症膵炎と判定されていた可能性は排除できないが,この時点でN病院に搬送されていても患者の生命を救えたか否かについては不明である。」との記載がある。 もっとも,医療法人社団STクリニックU医師は意見書(甲30)において,「早期に重症度の検査,画像診断と適切な処置がなされ早期に集中治療が行われれば,不幸な結果に至る可能性は回避できたかもしれない。」,12月「6日に血清アミラーゼ値は低下しているが,その変化は重症膵炎の特徴でもある。それにもかかわらず,検査,指示の変更がないため,早期の診断ができず,結果的に7日になって重症膵炎と診断されている。ERCP後に膵炎を来す可能性は極めて高く,その後重症化することへの認識が少なかったと判断される。」と述べ,同医師は,同日の検査の不十分性と,同日検査が行われ早期治療がなされていれば救命できた可能性を指摘している。そして,前提となる事実によると,12月5日の時点で,亡Dの膵炎は中等症と診断しているのであるから,亡Dの膵炎が重症化していることを疑い,CT検査や膵炎重症度判定の血液マーカー(血液ガス分析,腎機能,血清蛋白値,血清Ca値,プロトロンビン値など)の検査等を行っていれば,ENBDチューブの抜去を含む適切な治療を行い,膵炎の重症化を防ぎ得た可能性又は重症膵炎に対する治療をより早期になし得た可能性は高いというべきである。 また,同月6日の時点でN病院に搬送され れば,ENBDチューブの抜去を含む適切な治療を行い,膵炎の重症化を防ぎ得た可能性又は重症膵炎に対する治療をより早期になし得た可能性は高いというべきである。 また,同月6日の時点でN病院に搬送されていれば亡Dを救命できたか否かを判断できない事態となったのは,被告病院医師らが同日CT検査を行っていなかったため,同日時点での亡Dの膵炎の程度を立証できないからであることに鑑みると,上記事実を立証できないことによる不利益を原告らに負わせるのは妥当でないというべきであるから,上記事実関係の下では,同日時点で上記検査等を被告病院医師らが行っていれば,亡Dを救命できた高度の蓋然性があったというべきである。 - 26 -以上より,被告病院医師らの上記過失と亡Dが同月7日に重症膵炎に至り,同月28日に死亡したことの因果関係は認められる。 争点(2)損害額について(1)被告病院医師らの上記過失により亡Dに生じた損害額は以下の合計である。 ア治療費(12月7日から28日までのN病院におけるもの)207万4860円証拠(甲17)によれば,N病院に支払った入院費のうち,文書料2100円を除く207万4860円が治療費として認められる。 イ入院付添費13万8000円入院患者が近親者に付添看護を求めるのは,愛情のこもった看護を期待することによるものであることから,亡Dの症状等を考慮すると,被告Fの過失が認められる12月6日から,亡Dの死亡した同月28日まで合計23日間,1日つき6000円の合計額である13万8000円をもって相当とする。 ウ入院雑費亡Dについては,被告Fらの過失がなくても,総胆管結石の入院治療の必要があったと認められるから,因果関係ある損害とは認められない。 エ文書費5775円証拠(甲17,18)によると,2100円と36 Dについては,被告Fらの過失がなくても,総胆管結石の入院治療の必要があったと認められるから,因果関係ある損害とは認められない。 エ文書費5775円証拠(甲17,18)によると,2100円と3675円の合計5775円と認められる。 オ逸失利益3614万7903円亡Dは,死亡当時53歳であり,亡Dが死亡する前年の平成12年の収入金額は603万4862円であったことが認められるから(甲11),定年60歳までの基礎年収を上記金額とする。 定年後である61歳から64歳までの基礎年収は,平成13年度賃金セ- 27 -ンサス産業計全労働者60から64歳の基礎年収422万3400円(決まって支給する現金給与額29万0900円×12+年間賞与その他特別給与額73万2600円)で,65歳から67歳までの基礎年収は平成13年度賃金センサス産業計全労働者65歳以上の年収額381万6700円(決まって支給する現金給与額27万2800円×12+年間賞与その他特別給与額54万3100円)でそれぞれ計算することとする。 生活控除費は3割とする。 以上を前提とすると,計算式は以下のとおりとなる。 603万4862円×(1-0.3)×5.7863+422万3400円×(1-0.3)×(8.3064-5.7863)+381万6700円×(1-0.3)×(9.8986-8.3064)≒3614万7903円カ葬儀費用120万円亡Dは一家の生計を担うものであることを考慮し,葬儀費用は120万円をもって相当とする。 キ慰謝料1700万円本件における被告Fの義務違反の態様,多臓器不全による死亡の原因が被告FらによるENBDチューブの留置にあったことの事実経過,亡Dの総胆管結石による肝機能の低下も認められること等,その他本件口頭弁論に現れた一切の諸事情を考慮する 様,多臓器不全による死亡の原因が被告FらによるENBDチューブの留置にあったことの事実経過,亡Dの総胆管結石による肝機能の低下も認められること等,その他本件口頭弁論に現れた一切の諸事情を考慮すると,その精神的苦痛に対する慰謝料は1700万円をもって相当とする。 ク弁護士費用550万円本件事案の性質,難易度,審理の経過及び認定額等を考慮すると,原告らが被告らに対し,被告Fの不法行為と相当因果関係のある損害として賠償を認め得る弁護士費用の額は,550万円をもって相当とする。 ケ合計損害額- 28 -上記アないしクの合計損害額は6206万6538円であるところ,原告Aが亡Dの妻,同B及び同Cは,亡Dの子であり,いずれも亡Dの法定相続人であることは当事者間に争いがないから,相続により,原告Aは亡Dの上記損害の2分の1である3103万3269円を,同B及び同Cはそれぞれ4分の1である1551万6634円を相続した。 結論 以上によれば,原告らの請求は,原告Aに対して3103万3269円,同B及び同Cに対して各1551万6634円並びに各金員に対する不法行為の後であり亡Dの死亡した日である平成13年12月28日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し,その余は理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条,64条本文,65条1項本文を,仮執行の宣言について同法259条1項をそれぞれ適用し,仮執行免脱宣言については相当でないからこれを付さないこととして,主文のとおり判決する。 岡山地方裁判所第2民事部裁判長裁判官㨯永伸行裁判官芹澤俊明裁判官松岡洋美 決する。 岡山地方裁判所第2民事部 裁判長裁判官 㨯永伸行 裁判官 芹澤俊明 裁判官 松岡洋美

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