主文 一被告が平成九年六月一三日付けで行った株式会社鈴屋の滞納国税に係る換価代金等の配当処分を取り消す。 二原告のその余の請求を棄却する。 三訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。 事実及び理由 第一請求被告が平成九年六月一三日付け、同年一〇月九日付け及び平成一〇年一一月二日付けで行った株式会社鈴屋の滞納国税に係る換価代金等の配当処分をいずれも取り消す。 第二事案の概要原告は、株式会社鈴屋(以下「鈴屋」という。)が、株式会社ルミネ(以下「ルミネ」という。)に対して有する入居保証金返還請求権に質権を有していたところ、被告は、鈴屋の滞納国税を徴収するため、右入居保証金を差し押さえ、入居保証金返還請求権のうち償還期日が到来したものを取り立て、三度にわたって配当処分を行ったが、右いずれの配当処分においても全額を滞納国税に配当し、原告に対する配当金額は〇円とされた。 原告は、被告による右配当処分を不服として、東京国税不服審判所に対し、それぞれ審査請求を行ったが、東京国税不服審判所は、いずれの請求も棄却する裁決を行った。 本件は、原告が、右各配当処分は右質権の被担保債権の範囲を誤ったものであり、国税徴収法一五条に違反すると主張して、右各配当処分の取消しを求めている事案である。 一争いのない事実及び証拠により容易に認定できる事実(以下「争いのない事実等」という。) 1 ルミネ新宿店の入居保証金(一) 鈴屋は、ルミネとの間で、平成四年八月二一日、東京都新宿区α一番五号JR東日本新宿駅構内所在「ルミネ新宿1」三階店舗番号三〇一号について賃貸借契約を締結した。 (二) 鈴屋は、ルミネとの間で、右(一)の賃貸借契約に基づき、平成四年八月二一日付け金銭消費貸借契約及び同年一〇月一六日 構内所在「ルミネ新宿1」三階店舗番号三〇一号について賃貸借契約を締結した。 (二) 鈴屋は、ルミネとの間で、右(一)の賃貸借契約に基づき、平成四年八月二一日付け金銭消費貸借契約及び同年一〇月一六日付け覚書を締結し、次のとおりの約定で合計金九二三二万三〇〇〇円を入居保証金として差し入れた(以下「本件第一保証金」という。)。 (1) 元本のうち、金七三三六万円については、平成五年三月三〇日まで据え置き、同年同月三一日を初回として、以降八年間の年賦均等割額を鈴屋に返済する。 (2) 元本のうち、金一八九六万三〇〇〇円については、平成八年三月三〇日まで据え置き、同年同月三一日を初回として、以降一五年間の年賦均等割額を鈴屋に返済する。 (三) 右(一)の賃貸借契約には、事前にルミネの承認を得ない限り、鈴屋は同契約に基づく債権を譲渡し又は担保に供してはならないとの約定があった(甲一)。 2 ルミネγ店の入居保証金(一) 株式会社青山商品研究所(以下「青山商品研究所」という。)は、北千住ターミナルビル株式会社(以下「北千住ターミナルビル」という。)との間で、昭和六〇年二月二八日、東京都足立区β四二番旧国鉄北千住駅構内「北千住ターミナルビル」所在三階個店第三〇八号について賃貸借契約を締結した。 (二) 青山商品研究所は、北千住ターミナルビルとの間で、右(一)の賃貸借契約に基づき、昭和六〇年二月二八日付け金銭消費貸借契約を締結し、次のとおりの約定で金四七九四万六五〇〇円を入居保証金として差し入れた(以下「本件第二保証金」といい、本件第一保証金とあわせて「本件各保証金」という。)。 昭和七〇年九月三〇日を初回として、以降一五年間の年賦均等割額を青山商品研究所に返済する。 (三) 右(一)の賃貸借契約には、事前に北千住ターミナルビルの承認を得ない限り、青山商 金」という。)。 昭和七〇年九月三〇日を初回として、以降一五年間の年賦均等割額を青山商品研究所に返済する。 (三) 右(一)の賃貸借契約には、事前に北千住ターミナルビルの承認を得ない限り、青山商品研究所は同契約に基づく債権を譲渡し又は担保に供してはならないとの約定があった(甲三)。 (四) 青山商品研究所は、北千住ターミナルビルに対し、昭和六三年八月九日、同年九月一日をもって北千住ターミナルビルの店舗に関する一切の権利を鈴屋に譲渡することを申し出、同年八月二六日、北千住ターミナルビルが右譲渡を承諾したことによって、鈴屋は本件第二保証金返還請求権を承継した(甲五の一、二)。 (五) 北千住ターミナルビルは、平成三年五月二一日、ルミネに吸収合併され、ルミネは右(一)の賃貸借契約に基づく賃貸人たる地位を承継した。 3 本件第一保証金返還請求権への質権設定(一) 鈴屋は、原告に対し、平成五年五月一三日、鈴屋が原告に対して現在及び将来負担する一切の債務の担保として、本件第一保証金のうち、金七三三六万円の返還請求権及び金一八九六万三〇〇〇円の返還請求権について、それぞれ質権を設定した(以下、それぞれ「本件第一質権1」及び「本件第一質権2」といい、これらをあわせて「本件第一質権」という。)。 (二) 本件第一質権の設定者である鈴屋は、第三債務者であるルミネに対し、「質権設定承認願(入居保証金)」と題する書面(本件第一質権1のものと本件第一質権2のものの二通が存在するが、入居保証金額及び返済方法についての記載以外は同一である。以下、これら二通をまとめて「本件第一承諾書」という。)によって右各質権設定の承諾を求め、ルミネはこれを承諾した。 本件第一承諾書には、平成五年五月一三日付けで確定日付が付された(甲八の一、二)。 4 本件第二保証金返還請求権への質 承諾書」という。)によって右各質権設定の承諾を求め、ルミネはこれを承諾した。 本件第一承諾書には、平成五年五月一三日付けで確定日付が付された(甲八の一、二)。 4 本件第二保証金返還請求権への質権設定(一) 鈴屋は、原告に対し、昭和六三年一一月三〇日、鈴屋が原告に対して現在及び将来負担する一切の債務の担保として、本件第二保証金返還請求権に質権(以下「本件第二質権」といい、本件第一質権とあわせて「本件各質権」という。)を設定した。 (二) 本件第二質権の設定者である鈴屋は、第三債務者である北千住ターミナルビルに対し、「質権設定承認申請書」と題する表面(以下「本件第二承諾書」といい、本件第一承諾書とあわせて「本件各承諾書」という。)によって右質権設定の承諾を求め、北千住ターミナルビルはこれを承諾した。 本件第二承諾書には、昭和六三年一二月二一日付けで確定日付が付された(甲一〇)。 5 鈴屋の滞納国税被告は、鈴屋に対して、平成九年二月二六日現在、別紙租税債権目録(一)記載のとおり、既に納期限を経過した本税、利子税及び延滞税の合計四億二七七六万五九〇〇円の租税債務を有していた(乙一)。右租税債権は、同年六月一三日現在では、同目録(二)記載のとおり金三億八七七二万〇二〇〇円に、同年一〇月九日現在では、新たに発生したものを加え同目録(三)記載のとおり金三億八九七七万二四〇〇円に、平成一〇年一一月二日現在では、同目録(四)記載のとおり金四九六一万三五七八円になっていた(乙二ないし四)。 6 被告による債権差押え被告の徴収職員は、平成九年二月二六日、別紙租税債権目録(一)記載の租税債権を徴収するため、鈴屋がルミネに対して有する別紙差押債権目録記載の債権を差し押さえ、右同日、右差押えに係る債権差押通知書をルミネに送達し、別紙差押債権目録記載の 別紙租税債権目録(一)記載の租税債権を徴収するため、鈴屋がルミネに対して有する別紙差押債権目録記載の債権を差し押さえ、右同日、右差押えに係る債権差押通知書をルミネに送達し、別紙差押債権目録記載の債権の取立権を取得した。 被告は、同年四月一四日、被告の徴収職員をして、別紙差押債権目録一1及び2、同二、同三2並びに同一〇記載の債権について、右のとおり差し押さえた旨通知させた。 7 被告による債権取立て及び配当処分(一) 被告は、平成九年六月一〇日、本件第一保証金のうち、同年三月末日に償還期日が到来した一〇四三万四二〇〇円並びに本件第二保証金のうち平成七年九月末日及び同八年九月末日に償還期日が到来した計六三九万八五〇〇円を取り立てた。 被告は、平成九年六月一三日、本件第一保証金の右部分については、約定に定める質権実行の手続がないとの理由で、本件第二保証金の右部分については、被担保債権が存在せず、約定に定める債権実行の手続もないとの理由で、それぞれ原告を配当から除外した上、右取立額の全額を被告に配当し(以下「第一次配当処分」という。)、同月二〇日、右同額を国税に充当した(甲一三、弁論の全趣旨)。 (二) 被告は、平成九年一〇月六日、本件第二保証金のうち同年九月末日に償還期日の到来した三一九万六〇〇〇円を取り立てた。 被告は、同年一〇月九日、本件第二保証金の右部分については被担保債権が存在しないとの理由で、原告を配当から除外し、右取立額の全額を被告に配当し(以下「第二次配当処分」という。)、同月一六日、右同額を国税に充当した(甲一四、弁論の全趣旨)。 (三) 被告は、平成一〇年一〇月三〇日、本件第二保証金のうち、同年九月末日に償還期日の到来した三一九万六〇〇〇円を取り立てた。 被告は、同年一一月二日、本件第二保証金の右部分については、被担保 。 (三) 被告は、平成一〇年一〇月三〇日、本件第二保証金のうち、同年九月末日に償還期日の到来した三一九万六〇〇〇円を取り立てた。 被告は、同年一一月二日、本件第二保証金の右部分については、被担保債権不存在との理由で原告を配当から除外し、右取立額の全額を被告に配当し(以下「第三次配当処分」といい、第一次配当処分及び第二次配当処分とあわせて「本件各配当処分」という。)、同月九日、右同額を国税に充当した(甲一五、弁論の全趣旨)。 8 本件各配当処分に対する原告の不服申立て(一)(1) 原告は、平成九年六月二〇日、第一次配当処分を不服として、国税不服審判所長に対して審査請求を申し立てた。 (2) 原告は、平成九年一〇月一六日、第二次配当処分を不服として、国税不服審判所長に対して審査請求を申し立てた。 (3) 原告は、平成一〇年一一月九日、第三次配当処分を不服として、国税不服審判所長に対して審査請求を申し立てた。 (二) 国税不服審判所長は、平成一一年一〇月二〇日、原告の右各審査請求をいずれも棄却するとの裁決をし、東京国税不服審判所長は、同月二二日、右裁決の総決書謄本を原告に送達する手続を行った。 二争点 1 争点1本件各保証金のうち償還期日の三〇日前までに質権者の請求がない償還金返還請求権について、本件各質権の効力が及ぶかどうか 2 争点2本件第二質権の被担保債権には、原告の鈴屋に対する現在及び将来の一切の債権が含まれるかどうか三争点に関する当事者の主張 1 争点1(本件各保証金のうち償還期日の三〇日前までに質権者の請求がない償還金返還請求権について、本件各質権の効力が及ぶかどうか)について(被告の主張)(一) 民法上、指名債権に対する質権設定についての第三債務者に対する通知又は承諾は、真実の権利関係に符号するものでなければなら 求権について、本件各質権の効力が及ぶかどうか)について(被告の主張)(一) 民法上、指名債権に対する質権設定についての第三債務者に対する通知又は承諾は、真実の権利関係に符号するものでなければならない。仮に質権設定契約における真実の権利関係と異なる内容の通知又は承諾がされた場合には、第三債務者又はその他の第三者に対する関係においては、対抗要件としての効力が否定されるか、少なくとも、右通知又は承諾に係る内容の範囲においてこれを対抗し得るにすぎない。 国税徴収法一五条二項は、右のような民法上の公示の原則の要請を前提として規定されたものと解するべきである。同条項各号所定の書類による証明は質権設定時期のみを対象とすべきではなく、第三債務者又はその他の第三者に対してその優先性を主張することができる質権により担保される債権は、同条項各号所定の書類に係る内容の範囲に限られ、右書類以外の書類をもってこれと異なる内容の質権を主張することは許されない。 したがって、国税の法定納期限前にその設定した事実を証明し得る質権とは、その質権により担保される債権の発生及び内容並びにその質権の成立及び内容に照らして、国税徴収法一五条二項各号所定の書類により、国税の法定納期限等前に設定したことを証明し得ると認められる質権のことであり、同法一五条一項により国税に優先するものとして扱われる質権により担保される債権とは、右のような質権により担保される債権のことをいうものと解するべきである。 (二) 本件各保証金の返還請求権については、あらかじめルミネの承諾を得なければ、これを第三者に譲渡し、又は担保に供してはならない旨の特約(以下「本件譲渡禁止特約」という。)が付されている。譲受人又は担保権者が、その特約の存在につき悪意であるか又はその存在を知らないことに重大な過失があると に譲渡し、又は担保に供してはならない旨の特約(以下「本件譲渡禁止特約」という。)が付されている。譲受人又は担保権者が、その特約の存在につき悪意であるか又はその存在を知らないことに重大な過失があるときは、譲受人又は担保権者は、債権譲受の効力又は担保権設定の効力を主張し得ない。 そして、入居保証金には、通常譲渡禁止特約が付されているから、原告は本件譲渡禁止特約について悪意であったか、少なくとも、善意であることにつき重大な過失があった。 (三) 本件各質権において、国税徴収法一五条二項各号所定の書類とは、本件各承諾書である。また、ルミネは本件各承諾書に記載された範囲の質権についてしか設定を承諾していない。そして、本件各承諾書の条項において、質権者があらかじめ所定の期間内に償還金を請求しない場合には、直接質権設定者に支払うこととされているから、右返還請求がない部分について本件各質権の効力は及ばない。 (原告の主張)(一) 約定担保権たる債権質の設定及びこれに対する承諾については、質権者、質権設定者及び第三債務者という当事者のみならず、差押債権者などの第三者も、右当事者の合意した契約内容に従わざるを得ないから、本件各質権の効力が及ぶ範囲は、本件各質権の本件各承諾書の各約定の解釈によって決まる。 (二) 本件各承諾書の条項には、質権者である原告からの請求がない場合には直接質権設定者に支払う旨の記載があるのみであって、「本質権は当然消滅するものとする。」などと記載されているのではない。 原告は、ルミネに対し、平成九年三月二一日、本件第一保証金のうち、同月末日に償還期日が到来する部分の支払請求を行っているが、この際、ルミネは、期限が到来しても支払わずに留保しておく旨回答しており、ルミネは本件償還金に対して本件第一質権の効力が及んでいることを前提とし 日に償還期日が到来する部分の支払請求を行っているが、この際、ルミネは、期限が到来しても支払わずに留保しておく旨回答しており、ルミネは本件償還金に対して本件第一質権の効力が及んでいることを前提としていた。 また、本件第一保証金のうち、平成六年度ないし同八年度分は、ルミネから鈴屋に対して弁済されているが、いずれの際も、まず原告がルミネに対して償還期日以後に本件第一質権の解除通知をし、それを受けて、同日に弁済されたものである。 右解除通知は、ルミネ作成に係るルミネ宛の書面が、ルミネから鈴屋を介して原告に対して差し入れられ、返信用の書面に原告及び鈴屋が記名捺印した後、再度鈴屋を介してルミネに差し入れられる方法で行われている。この間、ルミネが一方的に鈴屋へ弁済するなどと申し出たことはなく、三者間で異議が出されたこともない。 (三) 右(二)のとおり、当事者は、原告の解除通知がない限り、質権の効力が及んでいると考えており、右当事者の意思を考慮して、本件各承諾書の条項を解釈すると、本件各保証金のうち所定の期間内に質権者の請求がない償還金返還請求権についても、本件各質権の効力が及ぶというべきである。すなわち、質権者においてあらかじめ所定の期間内に請求を要するとの右条項は、ルミネの不安定な立場を考慮して、あらかじめ所定の期間内に請求がない償還金については、鈴屋に対する弁済を有効とするルミネのための免責条項と解するべきである。 2 争点2(本件第二質権の被担保債権には、原告の鈴屋に対する現在及び将来の一切の債権が含まれるかどうか)について(被告の主張)(一) 国税徴収法一五条の趣旨については、前記1(被告の主張)(一)のとおりである。 また、原告が本件譲渡禁止特約について悪意であるか又は善意であることに重過失があることについては、前記1(被告の主張)( 税徴収法一五条の趣旨については、前記1(被告の主張)(一)のとおりである。 また、原告が本件譲渡禁止特約について悪意であるか又は善意であることに重過失があることについては、前記1(被告の主張)(二)のとおりである。 (二) 国税徴収法一三〇条一項は、配当を受ける権利を有する者は債権現在額申立書を提出しなければならない旨定め、同条二項は、税務署長は債権現在額を調査して確認する旨を規定している。また、国税徴収法施行令四八条一項は、債権現在額申立書には、債権の元本及び利息その他の附帯債権の現在額、弁済期限その他の内容を記載し、これらの事項を証明する書類を添付しなければならない旨定め、同条二項は、債権を有する者が差押債権の取立ての時までに債権現在額申立書を提出しないときは、配当を受けることができない旨規定する。 したがって、原告が本件第二保証金から配当を受けるには、その取立ての時までに所定の内容を記載し、所定の書類を添付した債権現在額申立書を提出して、本件第二質権の被担保債権である債権を特定し、右債権が現に存在することを証明しなければならない。 (三) 本件第二質権において、国税徴収法一五条二項各号所定の書類とは、本件第二承諾書であり、右申請書には、本件第二質権が「北千住ターミナルビル出店に関して負担する債務金の担保として」設定されていることが記載されている。原告は、被告に対して、自らその特定が困難であることを申し出ており、被告は、本件各配当処分に際して、債権現在額申立書によっても、いずれの元本債権が「北千住ターミナルビル出店に関して負担する債務金」であるのか特定することができなかった。 したがって、原告は、債権が現に存することを証明することができなかったのであり、本件第二保証金について原告に配当しなかった本件各配当処分に違法な点はない。 であるのか特定することができなかった。 したがって、原告は、債権が現に存することを証明することができなかったのであり、本件第二保証金について原告に配当しなかった本件各配当処分に違法な点はない。 (原告の主張)(一) 本件第二質権は、ビル入居保証金担保差入証における「現在及び将来負担する一切の債務の根担保として」との文言からも明らかなとおり、質権者である原告と、質権設定者である鈴屋との間で、設定行為において、被担保債権を限定しない包括根質権として、民法三四六条にいう「特段の定め」をしたものである。 (二) 国税徴収法一五条は、当該質権の設定時期と法定納期限等の先後によって優劣を決することを定めたものであり、同条二項が右優劣を定める基準として、同条項各号に定める一定の書類に限るとしたのは、大量的な現象を処理する行政上の要請に基づくにすぎない。同条項の「設定の事実」とは、いつ当該質権が設定されたかの事実を意味しており、他の書類と相まって質権の内容を証明することを排除する趣旨ではない。 (三) ビル入居保証金担保差入証によると、本件第二質権の被担保債権の範囲は、「北千住ターミナルビル出店に関して負担する債務金」に限定されず、原告の鈴屋に対する債権の全額に及ぶから、原告が被告に提出した債権現在額申立書において、原告の鈴屋に対する債権全額を記載したのは当然である。 したがって、右債権現在額申立書の記載によって被担保債権の特定がされていないとして、原告の配当額を〇円とした本件各配当処分は違法である。 第三当裁判所の判断一本件各質権の被担保債権の範囲について 1 前記争いのない事実等1(三)及び2(三)のとおり、鈴屋が本件各賃貸借契約に基づいてルミネに対して有する債権については、いわゆる譲渡禁止特約が付されており、弁論の全趣旨によると、原告も について 1 前記争いのない事実等1(三)及び2(三)のとおり、鈴屋が本件各賃貸借契約に基づいてルミネに対して有する債権については、いわゆる譲渡禁止特約が付されており、弁論の全趣旨によると、原告も本件各質権設定に当たり右特約の存在を認識していたことが認められ、同3(二)及び同4(二)のとおり、本件各質権については、第三債務者であるルミネが、質権設定者である鈴屋に対し、本件各承諾書によって各質権設定を承諾している。 したがって、原告は、第三者である被告に対しては第三債務者であるルミネに対すると同様に、それぞれ本件各承諾書によって承諾が与えられた範囲に限り、本件各質権の効力を対抗できるというべきである。 2 原告は、本件各配当処分の際、本件各質権により担保される債権の存在を証明するために、債権現在額申立書とともに本件各承諾書を提出した(甲八の一、二、甲一〇、甲一二の一ないし三、甲一六、弁論の全趣旨)ところ、本件各承諾書は、国税徴収法一五条二項二号にいう「登記所又は公証人役場において日附のある印章が押されている私署証書」に当たるから、本件各質権を設定した事実を本件各承諾書によって証明すべきことは、同法に基づく要請でもあるといえる。 3 そうすると、右いずれの観点からも、本件各質権の被担保債権の範囲は、本件各承諾書に基づいて判断しなければならないのであるから、このことを前提として、争点について判断することとする。 二争点1について 1 本件第一承諾書には、「2.質権者がその債権を他人に譲渡したときは、本質権は当然消滅するものとする。 3.入居保証金の返還請求権については、特に質権者の請求がない場合には、直接質権設定者に支払うものとする。質権者の請求は、支払期日の三〇日前までとする。 4.質権解除の際は、質権者から株式会社ルミネ新宿店に通知する 還請求権については、特に質権者の請求がない場合には、直接質権設定者に支払うものとする。質権者の請求は、支払期日の三〇日前までとする。 4.質権解除の際は、質権者から株式会社ルミネ新宿店に通知するものとする。」との条項があり(甲八の一、二)、本件第二承諾書には、「3.質権の実行は、上記入居保証金の返還期の到来ごとに、その1か月前までに債権者がビル会社に債権証書を呈示し、書面をもって支払を請求することによって行う。上記の請求がない場合には、ビル会社は入居者に対して入居保証金の返還を行う。」及び「5.質権消滅の際は、質権者並びに質権設定者から連署をもって貴社に通知する。」との条項がある(甲一〇)。 2 被告は、本件各承諾書の条項3の趣旨からして、原告が右各条項所定の期間内に請求しなかった部分には本件各質権の効力は及ばないと主張する。 しかし、右各条項の文言のみからは、質権の効力の範囲を画する趣旨のものと断定することは困難である。その上、右1のとおり、本件第一承諾書の条項2が、質権者が質権設定者に対する債権を譲渡したときは、「本質権は当然消滅するものとする。」との表現を用いており、同条項4が「質権解除」、本件第二承諾書の条項5が「質権消滅」との表現を用いているのに対して、条項3では、特に質権者の請求がない場合には、本件第一承諾書では、直接質権設定者に「支払うものとする。」とし、本件第二承諾書では、入居者に対して「入居保証金の返還を行う。」とされており、これらの条項との対比からすると、各条項3は、質権自体の効力に関するものではなく、第三債務者の弁済による免責に関する規定とみる方が素直な解釈と考えられる。そして、質権者である原告、質権設定者である鈴屋及び第三債務者であるルミネにおいても、本件第一保証金のうち、平成六年度ないし同八年度分の償還金に る免責に関する規定とみる方が素直な解釈と考えられる。そして、質権者である原告、質権設定者である鈴屋及び第三債務者であるルミネにおいても、本件第一保証金のうち、平成六年度ないし同八年度分の償還金について、原告が、ルミネに対し、右各償還金の償還期日の到来後に初めて本件第一質権の解除を通知した上で、ルミネから鈴屋に対して弁済されており、また、本件第二保証金のうち、平成七年及び同八年分の償還金については、原告があらかじめ請求をすることなく、質権の解除に応ずることもないため、償還を留保していたのであり、この間、右のような取扱いについて、右三者間で異議が述べられたこともない(甲一六、一七の一ないし三、一八の一、二、弁論の全趣旨)というのであるから、右各当事者は、第一保証金の償還金の償還期限が到来しても、質権の効力は右償還金に及んでいると考えていたということができる。 3 右2のように、各条項3の文言自体のほか、他の条項の文言との対比及び当事者の実際の取扱いからすると、右各条項3を、第一保証金の各償還金について、質権者から所定の請求がない場合には、当然に右償還金の返還請求権は質権の目的から除外されると解釈することはできず、本件において、ほかに右のような解釈をすべき事情は存在しない。むしろ、右各条項3は、本来、原告の鈴屋に対する債権の弁済期よりも前に、本件第一保証金の償還金返還請求債権の弁済期が到来した場合、民法三六七条三項によって、原告がルミネに右償還金を供託させることができるところ、ルミネの右供託業務を免除するとともに、ルミネのために、右償還金の弁済期の三〇日又は一か月前には支払先を確定させることができるようにする趣旨の条項であると解釈するのが相当である。 4 そうすると、原告が、ルミネに対し、本件各保証金の償還期限の前に、右償還金の請求をして の三〇日又は一か月前には支払先を確定させることができるようにする趣旨の条項であると解釈するのが相当である。 4 そうすると、原告が、ルミネに対し、本件各保証金の償還期限の前に、右償還金の請求をしていないからといって、右償還金の返還請求債権が本件各質権の目的から除外されるものではなく、このことは国税徴収法一五条二項所定の書類である本件各承諾書自体の解釈から導かれるのであるから、原告の右請求がないことを理由に本件各質権の被担保債権の国税債権に対する優先を認めないことは許されないというべきである。 三争点2について 1 本件第二質権の質権設定契約書であるビル入居保証金担保差入証には、「私は、別に差し入れた銀行取引約定書の各条項に基づき貴行本支店に対し現在および将来負担するいっさいの債務の根担保として、上記約定の各条項のほか下記条項を承認のうえ、私が有する下記表示の債権に質権を設定しました。」と記載されている(甲九)。 これに対して、本件第二承諾書においては、「株式会社鈴屋(以下「入居者」という。)は、株式会社富士銀行に対し、北千住ターミナルビル出店に関して負担する債務金の担保として、貴社に対する入居保証金返還請求権の上に、下記の事項によって質権を設定したいと存じますので、ご承認願います。」と記載されている(甲一〇)。 2 右入居保証金に譲渡禁止特約が付されていること、及び本件第二承諾書には北千住ターミナルビルの用意した書式が使用された(甲一〇、弁論の全趣旨)ことからすると、本件第二質権の被担保債権の範囲は、前記1の担保差入証の記載にかかわらず、本件第二承諾書によって承諾が与えられた「北千住ターミナルビル(ルミネγ店)出店に関して負担する債務金」の範囲に限られると解するのが相当である。 3 本件第二質権の被担保債権は原告の鈴屋に対する多数の 件第二承諾書によって承諾が与えられた「北千住ターミナルビル(ルミネγ店)出店に関して負担する債務金」の範囲に限られると解するのが相当である。 3 本件第二質権の被担保債権は原告の鈴屋に対する多数の貸金債権であるところ、原告は、債権現在額申立書において、鈴屋が借入金をどの店舗のために用いたかなどの使途を一切明らかにすることなく、鈴屋に対する債権全額を一括して届け出ており、被告からの「「ルミネγ」にかかる分については、被担保債権が「出店に関して」のものであることの証明が必要と思われます」との連絡に対しては、「質権設定承諾書上の「出店に関して」とは、文言上は当初出店時にかかる敷金・保証金の支払資金や店舗の造作・工事等の設備資金が当然に考えられますが、実際には出店に付随する下記資金も含まれるものと考えられます。①当該店舗に陳列・販売する商品および品揃えとして置く在庫品等の仕入資金 ②当該店舗に配置する販売員給与等人件費 ③その他店舗の維持費用等上記資金につきましては、債務者株式会社鈴屋殿とすれば本来は「当該店舗の出店資金」として長期のお借入をされるのが適当ですが、実際には短期の運転資金の中に吸収されており、出店費用のお借入を限定することは極めて困難です。」と述べるにとどまり(乙一〇の一、二)、右のほかに、原告は、被告に対して、「北千住ターミナルビル出店に関して負担する債務金」を特定するための資料は提出していない。 しかし、前記2で説示したとおり、本件第二質権の被担保債権の範囲は、鈴屋の原告に対する一切の債務ではなく、「北千住ターミナルビル出店に関して負担する債務金」の範囲に限定されるのであり、右文言の意味は必ずしも明確ではないが、少なくともルミネγ店の営業に直接関係があると認められない債権は被担保債権に含まれないと解するのが相当である。そ て負担する債務金」の範囲に限定されるのであり、右文言の意味は必ずしも明確ではないが、少なくともルミネγ店の営業に直接関係があると認められない債権は被担保債権に含まれないと解するのが相当である。そうすると、原告としては、このような債権を除外したもののみを債権現在額申立書に記載し、そのことを明らかにする資料を提出してはじめて、その優先権を主張し得るものというべきである。 4 前記の事実関係によると、原告は、債権現在額申立書記載の債権のうち、本件第二質権の被担保債権を特定することができなかったというべきであるから、被告が、右質権の被担保債権が存在しないとして、差し押さえた第二保証金を原告に配当しなかった点に違法はない。 したがって、その余の点について判断するまでもなく、第二次及び第三次配当処分に違法はなく、第一次配当処分のうち第二保証金に関する部分にも違法はないというべきである。 四以上の次第で、本件各配当処分のうち、第二次及び第三次配当処分並びに第一次配当処分のうち第二保証金を原告に配当しなかった点に違法はないが、第一次配当処分のうち第一保証金を原告に配当しなかった点は違法であり、第一次配当処分は、この点で不可分一体のものとして取消しを免れないから、本訴請求のうち、第一次配当処分の取消しを求める部分のみを認容し、その余は棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条、六四条本文を適用して、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第三部裁判長裁判官藤山雅行裁判官谷口豊裁判官杜下弘記
▼ クリックして全文を表示