平成17年(ワ)第3223号損害賠償請求事件判決主文 被告は,原告Aに対し,9853万1901円及びこれに対する平成11年9月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 被告は,原告B及び原告Cに対し,各162万円及びこれに対する平成11年9月6日から支払済みまで年5分の割合による金員をそれぞれ支払え。 原告らのその余の請求を棄却する。 訴訟費用は,これを3分し,その2を被告の負担とし,その1を原告らの負担とする。 ,,。 , この判決は第1項及び第2項に限り仮に執行することができるただし被告が原告Aに対し5800万円,原告Bに対し100万円,原告Cに対し100万円の担保をそれぞれ供するときは,その仮執行を免れることができる。 事実 及び理由第1請求 被告は,原告Aに対し,1億5243万2993円及びこれに対する平成11年9月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 被告は,原告B及び原告Cに対し,それぞれ350万円及びこれに対する平成11年9月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要本件は,原告らが,被告の開設するD病院において重度の仮死状態で出生した原告Aに脳性麻痺による後遺障害が残ったことについて,原告Cに対する分娩監視の義務違反,及び,その結果としての分娩措置の義務違反を主張して,被告に対し,不法行為または債務不履行に基づき,原告Aについて,1億5243万2993円の損害賠償及びこれに対する平成11年9月6日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を,原告B及び原告Cについて,各350万円の損害賠償及びこれに対する同日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求めた事案である。 前提事実(当事者間に よる遅延損害金の支払を,原告B及び原告Cについて,各350万円の損害賠償及びこれに対する同日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求めた事案である。 前提事実(当事者間に争いがない)(1) 当事者ア原告Aは,平成11年9月6日,原告Bと原告Cの子として出生した。 イ被告は,名古屋市a区b町c番地所在のD病院を開設,運営している。 E准看護師及びF准看護師(現在の姓はG)は,本件当時,D病院に。 勤務していた准看護師であり,H医師は,本件当時,D病院に勤務していた医師である。 (2) 事実経過ア原告Cの妊娠原告Cは,平成11年1月13日,D病院を受診したところ,妊娠中であり,分娩予定日は同年9月4日と診断された。 イ平成11年9月6日の経過(以下,本判決において,時刻のみ記載している場合は「平成11年9月6日」の記載を省略しているものとする),。 原告Cは,午前2時30分ころより陣痛が生じ,午前3時55分,D病院に入院した。 ,,,E准看護師は原告Cの入院の受け入れを担当し午前5時30分ころ原告Cを陣痛室へ移し,分娩監視装置を装着した。F准看護師は,午前6時ころ,E准看護師から,原告Cの分娩監視を引き継いだ。 胎児心拍の異常に気付いたF准看護師から連絡を受けたH医師は,午前8時ころ,原告Cに対し,帝王切開手術を実施した。 原告Aは,午前8時18分,重度の仮死状態で出生し,出生後直ちに蘇生処置を受けた上で,午前10時ころ,I病院新生児集中治療室へ搬送さ,,,,,れ重症新生児仮死低酸素性虚血脳症右側気胸貧血の各診断を受け集中治療を受けた。 ウ原告Aの後遺障害,,原告Aは脳性麻痺による歩行困難な体幹機能障害等の後遺障害が残り身体障害等級3級及び第1種知的障害者の各認定を受けた。 右側気胸貧血の各診断を受け集中治療を受けた。 ウ原告Aの後遺障害,,原告Aは脳性麻痺による歩行困難な体幹機能障害等の後遺障害が残り身体障害等級3級及び第1種知的障害者の各認定を受けた。 本件に関する医学的知見証拠(甲B1ないし7,9,乙B1,6,10,16,17,23,30の11・12,31)及び弁論の全趣旨によれば,本件に関する医学的知見について,以下のとおり認められる。 (1) 分娩監視について分娩時において,連続的に胎児の心拍数(FHR,fetalheartrate)を監視することを胎児心拍モニタリングまたは分娩監視といい,胎児の健康状態を判断する上で有用とされる。 分娩監視装置により,胎児の心拍数を経時的に記録したものを胎児心拍図といい,陣痛の状態も並列的に記録したものを胎児心拍陣痛図(CTG,cardiotocogram)という。 (2) 胎児心拍図の読み方についてア胎児心拍数基線(FHRbaseline)胎児心拍数基線とは,10分間程度の平均胎児心拍数を5bpm(beatperminute)ごとの増減で表したものをいう。 胎児心拍数基線の正常値は,120(110とする見解もある。以下同じ)~160bpmとされる。 。 イ胎児心拍数基線細変動(FHRbaselinevariability,バリアビリティ)胎児心拍数基線細変動とは,胎児心拍数基線の細かい心拍数の変動をいい,肉眼的に判断される。 6~25bpmの変動が正常とされ,5bpm以下の変動は減少,肉眼的に認められない変動は消失とされる。 ウ一過性頻脈胎児心拍数基線が160bpmを超えると頻脈とされ,基線心拍数より15bpm以上増加した頻脈が15秒以上継続し,2分未満で基線に戻る頻脈を一過性頻脈という。 エ一過性徐脈胎児心拍数基線が 性頻脈胎児心拍数基線が160bpmを超えると頻脈とされ,基線心拍数より15bpm以上増加した頻脈が15秒以上継続し,2分未満で基線に戻る頻脈を一過性頻脈という。 エ一過性徐脈胎児心拍数基線が120bpm未満であれば徐脈とされ(特に,100bpm未満の徐脈は高度徐脈とされる,一時的に心拍数が減少したのち基線。)に回復する徐脈を一過性徐脈という。 一過性徐脈は,次のように分類される。 (ア) 早発一過性徐脈子宮収縮に伴って規則的に反復する一過性徐脈をいい,子宮収縮の開始と同時に心拍数の低下が始まり,子宮収縮の終了とほぼ同時に回復するものをいう。 (イ) 遅発一過性徐脈心拍数の低下が子宮収縮の開始より遅れて始まり,心拍数の最下点が子宮収縮のピークより遅れ,徐脈からの回復も子宮収縮の終了より遅れる一過性徐脈をいう。子宮収縮の度に規則的に出現し,収縮の程度が同じであれば毎回類似の波形を示す。 遅発一過性徐脈は,子宮収縮により,絨毛間腔への血流量が減少し,それによる胎盤での換気不全で胎児血POがあるレベル以下に低下す るために生じるとされ,胎児の低酸素状態の存在を示唆する。 (ウ) 変動一過性徐脈繰り返し出現する一過性徐脈の波形がそれぞれ異なり,子宮収縮と一過性徐脈の時間関係も一定ではない一過性徐脈をいい,15bpm以上の心拍数減少が30秒未満の経過で急速に起こり,開始から元に戻るまで15秒以上2分未満を要するものをいう。特に,60秒以上持続し,最も減少したときの心拍数が60bpm未満のものを高度変動一過性徐脈という。 臍帯は,子宮収縮時において,胎児と子宮壁に挟まれ圧迫されることがあり,臍帯が圧迫されると,臍帯の血流が障害される結果,心拍数の低下を引き起こし,変動一過性徐脈が生じるとされる。 臍帯の圧迫は,殆どの場合は可逆的であり おいて,胎児と子宮壁に挟まれ圧迫されることがあり,臍帯が圧迫されると,臍帯の血流が障害される結果,心拍数の低下を引き起こし,変動一過性徐脈が生じるとされる。 臍帯の圧迫は,殆どの場合は可逆的であり,圧迫が自然に解除されると,胎児心拍は正常値に戻るが,臍帯の圧迫が持続すると,胎児心拍の戻り方は緩やかになり,基線細変動の消失や遷延性(持続性)徐脈が生じる。 (エ) 遷延一過性徐脈心拍数の減少が15bpm以上で,開始から元に戻るまでの時間が2分以上10分未満の一過性徐脈をいう。なお,2分以上継続しているものを,10分未満で元に戻るかどうかにかかわらず,本判決では遷延性除脈という。 オnon-reassuringパターン(non-reassuringfetalstatus)(ア) 子宮内において,胎児の呼吸・循環機能が障害されている疑いのある状態を,non-reassuringパターン(安心できないパターン)という。 胎児心拍数基線及び胎児心拍数基線細変動が正常であり,一過性頻脈があり,かつ,一過性徐脈がない状態をreassuringパターン(安心できるパターン)といい,同パターン以外の胎児心拍図上何らかの異常所見が認められる場合をnon-reassuringパターンという。 reassuringパターンの場合,胎児が健康であると判断できる的中率はほぼ100%であるが,non-reassuringパターンの場合,胎児の健康を保障できないという程度にとどまり,胎児が健康でないと断定することはできない。 (イ) なお,non-reassuringパターンという用語は,平成13年ころから用いられるようになったもので,本件当時,これに代わるものとして,胎児仮死又は胎児ジストレス(fetaldistress)といった用語が用いられていた。ただ, ーンという用語は,平成13年ころから用いられるようになったもので,本件当時,これに代わるものとして,胎児仮死又は胎児ジストレス(fetaldistress)といった用語が用いられていた。ただ,本判決では,便宜上,non-reassuringパターンの用語も用いることとする。 (3) asphyxia(アスフィキシア)についてasphyxiaとは,胎児の低酸素・虚血による代謝性アシドーシス,または代謝性と呼吸性の混合性アシドーシスの状態を指し,出生児の臍帯動脈血phが7未満の代謝性アシドーシスが認められ,5分後のアプガースコアが3点以下であり,かつ,新生児期の神経学的異常所見及び多臓器不全が認められる場合をいうとされる。 asphyxiaのうち,軽度から中等度の低酸素・虚血によるものをpartialasphyxiaといい心停止や著しい低血圧・無酸素状態によるものをprofoundn,(ear-total)asphyxiaという。なお,完全な無酸素状態をtotalasphyxiaというが,人間がtotalasphyxiaに陥ることはごく稀とされる。 (4) 脳性麻痺とMRI所見についてア脳性麻痺について(ア) 脳性麻痺とは,受胎から新生児期までの間に脳に障害を受け,永続的な非進行性の運動障害を残した状態をいい,てんかんや知的障害が合併する場合もある。 脳性麻痺は臨床的な症候群であり,診断は臨床診断による。脳性麻痺,。 の確定診断は早くても1歳以後での発達チェック及び臨床診断による(イ) 脳性麻痺は,痙直型(痙性)やアテトーゼ型等に分類され,複数の型が合併した混合型も存在する。 痙直型とは,基本的には大脳皮質,基底核及び脊髄間の連絡経路に障害を受けたことから生じる,動きの減少する型をいう。障害が強いほど脳皮質にも障害を 等に分類され,複数の型が合併した混合型も存在する。 痙直型とは,基本的には大脳皮質,基底核及び脊髄間の連絡経路に障害を受けたことから生じる,動きの減少する型をいう。障害が強いほど脳皮質にも障害を受けている可能性があり,知的障害やてんかん,視覚障害等の合併症を伴うことも多い。 アテトーゼ型とは,大脳基底核に障害を受け,過剰運動,不随意運動(意志に反して出現する運動)を示す型をいう。新生児仮死による低酸,,素脳症が基底核に及んだものや基底核出血等が原因となることが多く痙直型脳性麻痺に合併した混合型脳性麻痺として認められる場合もある。アテトーゼ型は四肢麻痺であり,言語障害を伴う場合があるも,知的障害を合併する場合は少ないとされる。また,基底核損傷がMRI所見の大きな特徴とされる。 イMRI検査の限界脳の破壊性病変のMRI検査画像所見は,障害を受けた時期とその種類により,ある程度特徴的な像を示すとされる。 ,,しかし脳性麻痺が臨床上認められるものの画像上は正常である場合や画像上の損傷部位と臨床所見とが一致しない場合もあり,必ずしも画像と臨床的予後は一致しないことから,MRI検査の目的は,診断名をつけることではなく,病像と発達を理解するための一助とすることにあるとされる。 争点 (1) 本件後遺障害の原因(2) 注意義務違反の有無(3) 因果関係の有無(4) 損害 争点に対する当事者の主張(1) 争点(1)(本件後遺障害の原因)について【原告らの主張】ア要旨原告Aの後遺障害は,分娩中の急性低酸素症による脳性麻痺を原因とするものである。 原告Aは,次のとおり「脳性麻痺の原因としての分娩中の急性低酸素,症の診断基準」を満たすことが明らかであるから,分娩中の急性低酸素症が後遺障害(低酸素性虚血性脳症Ⅲ)の原因であると るものである。 原告Aは,次のとおり「脳性麻痺の原因としての分娩中の急性低酸素,症の診断基準」を満たすことが明らかであるから,分娩中の急性低酸素症が後遺障害(低酸素性虚血性脳症Ⅲ)の原因であるといえる。 イ根拠(ア) 脳性麻痺の原因としての分娩中の急性低酸素症の診断基準は,以下のとおりである。 A基本的診断基準(4項目全て必要)①臍帯動脈血中に代謝性アシドーシスが認められること(ph<7かつ不足塩基量≧12mmol/l)②34週以降の出生早期にみられる中等ないし重症の新生児脳症③痙性四肢麻痺またはジスキネジア型脳性麻痺④外傷,凝固系異常,感染,遺伝的疾患等の病因が除外されることB分娩中に脳性麻痺が生じたことを総合的にうかがわせる診断基準①分娩直前または分娩中に急性低酸素状態を示す事象が起こっていること②胎児心拍モニター上,特に異常のなかった症例で,通常,前兆となるような低酸素状況に引き続き,突発性で持続性の胎児徐脈または心拍細変動の消失が頻発する遅発性または変動性徐脈を伴っていること③5分以降のアプガー指数が0から3点④複数の臓器機能障害の徴候が出生後72時間以内に観察されること⑤出生後早期の画像診断にて,急性の非限局性の脳の異常を認めること(イ) 診断基準Aについて原告Aは,全ての項目を満たしている。 具体的には,①午前8時27分実施の臍帯動脈血ガス検査では,phは6.889であり,また,BE(塩基過剰)が-21.1mmol/lであったことからすれば,代謝性アシドーシスの所見が認められ,②出生時40週2日目であり,かつ,1分後のアプガースコアが2点の重症新生児仮死・低酸素虚血性脳症Ⅱ~Ⅲ等の診断病名で緊急搬送されており,③痙性四肢麻痺も認められ,④D病院小児科医師作成の新生児搬送連絡書に 週2日目であり,かつ,1分後のアプガースコアが2点の重症新生児仮死・低酸素虚血性脳症Ⅱ~Ⅲ等の診断病名で緊急搬送されており,③痙性四肢麻痺も認められ,④D病院小児科医師作成の新生児搬送連絡書において「搬送までの症状経過」として「外傷,凝固系異常,感染,,,遺伝的疾患等の病因」をうかがわせる記述は認められない。 (ウ) 診断基準Bについて④以外の項目は,全て満たすか,満たすものと推認される。 具体的には,①分娩直前の午前7時45分,急性低酸素状態を示す持続的徐脈,基線細変動減少が観測され,②胎児心拍モニター上,特に異常がなかったところ,午前4時50分に前兆となるような一過性徐脈が観測され,その後,上記①の午前7時45分の状況に鑑みれば「突発,性で持続性の胎児徐脈または心拍変動の消失が頻発する遅発性または変動性徐脈」が生じたものと推認され,③1分後のアプガー指数が2点で,「」,あり緊急搬送時の所見としてメイロン5cc使用するも効果みられず「自発呼吸(-,挿管しました」とある上,緊急搬送先において「入),(),(),(),()」院時自発運動-自発呼吸±刺激に対する反応-反射-という症状から「低酸素性虚血脳症」と診断されていることから,5分後のアプガー指数が2点であったことは自明であり,⑤日齢5で実施された超音波画像診断の結果「大脳白質のエコー輝度は全体的にやや高,い」との異常所見がみられる。 残る④について,原告Aに複数の臓器機能障害の徴候が出生後72時間以内に確認されているわけではないが,Bの基準は,その全てが必須項目とされているわけではない。しかし,被告が提出している意見書の作成者であるJ医師の論文によれば,asphyxiaの定義は「①出生時の臍帯動脈phが7.0未満の代謝性アシドーシ は,その全てが必須項目とされているわけではない。しかし,被告が提出している意見書の作成者であるJ医師の論文によれば,asphyxiaの定義は「①出生時の臍帯動脈phが7.0未満の代謝性アシドーシス,②5分後のアプガースコアが3点以下,③新生児の神経学的異常所見,④新生児期の多臓器不全の4項目が全て揃ってasphyxiaと定義される」とされているから,被告が④が存在しなかったとして当該所見を否定するのであれば,被告のasphyxiaに関する主張・立証の前提が根底から否定されるといった背理が生ずることになる。 ウ被告の主張に対する反論(ア) 原告Aにtotal(profound)asphyxiaが発生した事実については知らない。仮に,原告Aにtotal(profound)asphyxiaが発生していたとしても,その原因に関する被告の主張は争う。 (イ) 午前4時50分ころに発生した徐脈が変動一過性徐脈であったとしても,その原因が臍帯圧迫であることについて異論はなく,かつ,分娩の直前にtotalasphyxiaが起きたか,profoundasphyxiaが起きたかは措くとして,低酸素性虚血性脳症Ⅲの最も有力視される原因が臍帯圧迫であることも異論はないと思料される。 そして,被告が主張するように,何の前触れもなく,低酸素症の予兆としての遅発一過性徐脈や高度変動一過性徐脈の反復もなく,基線細変動の減少もなく,午前7時45分の直前に,profoundasphyxiaが生じたとして,その症状と原因としての臍帯圧迫とを矛盾なく説明しようとすれば,被告も自認するとおり「母体の体位変換に伴う臍帯圧迫」の,ごとき,何か大きな,あるいは特異な状態の変化が必要である。 ところが,原告Cにとって,午前7時前後の時間帯は,疲労と陣痛と眠気が頂点に達する 告も自認するとおり「母体の体位変換に伴う臍帯圧迫」の,ごとき,何か大きな,あるいは特異な状態の変化が必要である。 ところが,原告Cにとって,午前7時前後の時間帯は,疲労と陣痛と眠気が頂点に達する時期であって,半覚醒のまま,身重の体をうつ伏せ状態にしたまま,ぐっと苦痛・疲労に耐え続けていたのであるから,自ら急激なprofoundasphyxiaの原因となるほどの臍帯圧迫を惹起する姿勢・体位を取り得なかったことは明らかである。 (ウ) また,一般に,胎児仮死は,おおよそ正常胎児心拍数図→nonreactiveNST→胎児心拍数基線細変動の減少・消失,遅発一過性徐脈の発生の経過をとって重症化するとされている。 そして,D病院が胎児心音の異常に気付いたとする午前7時42分ころの時点では,既に,当該重症化のパターン・経過を通り越した後に発生するはずの持続性の徐脈の段階に至っていたというべきであり,午前6時15分から午前7時45分の間に,持続性の徐脈に至る前に何らかの異常な徴候が発見されたはずであるから,何の前触れもなくprofoundasphyxiaが生じたとはいえない。 【被告の主張】ア要旨運動障害については,分娩時に臍帯圧迫等による急激で重篤な血流阻害により,急性の低酸素症となり,その結果,基底核・視床障害が起こったためであると考えられる。 一方,知的障害については,単に分娩中の急性低酸素症に該当するというのみで発生するものではないから,知的障害の原因は不明である。周産期以前の障害の可能性,あるいは,痙攣発作等の周産期以後の原因の可能性もある。 原告Aは,身体障害(3級)よりも知的障害(1級)のほうが重症であると推認されるところ,その理由は病変部位に基づくと考えられる。すなわち,画像上で障害が認められる視床は,運動や感覚の中継路 もある。 原告Aは,身体障害(3級)よりも知的障害(1級)のほうが重症であると推認されるところ,その理由は病変部位に基づくと考えられる。すなわち,画像上で障害が認められる視床は,運動や感覚の中継路であり,運動の統御や感覚の発達に重要であり,また,基底核とともにジストニアの病巣ともなる。海馬は,記憶の形成に重要な部位であり,その障害は知的発達の障害に関与する。原告Aの場合,視床外側部の病変と海馬の硬化は知的障害の原因となりうると考えられるが,海馬の障害が責任病変とまでは確定できない。また,難治性てんかんも知的障害の原因とされているところ,原告Aは,てんかん発作が認められており,てんかん発作が知的障害の原因とも考えられる。 イ脳性麻痺の原因としての分娩中の急性低酸素症の診断について(ア) 原告主張の「脳性麻痺の原因としての分娩中の急性低酸素症の診断基準」は,認める。 (イ) 診断基準Aについて①及び④は満たしていると考える。 ②について,新生児脳症による神経学的所見の有無が問題となるものであり,重症新生児仮死・低酸素性虚血性脳症Ⅱ~Ⅲであるから②の項目を満たすとの判断は適切でない。ただ,I病院への搬送日において,痙攣(+,反射(-,対光反射弱いといった所見が認められたこと))から,新生児脳症はあったと認めて良いと考える。 ③について,原告Aに痙性四肢麻痺が認められることは否認する。ただ,原告Aは,痙性四肢麻痺ではなく,ジスキネジア型脳性麻痺である可能性が高く,ジスキネジア型脳性麻痺は,基底核・視床病変に認められる運動麻痺である。 (ウ) 診断基準Bについて②について,原告らは「突発性」で持続性の胎児徐脈が生じたもの,と合理的に推認される旨を主張しているところ,午前7時45分前に認められた遷延性徐脈が,まさに突発性で持続性の胎児 診断基準Bについて②について,原告らは「突発性」で持続性の胎児徐脈が生じたもの,と合理的に推認される旨を主張しているところ,午前7時45分前に認められた遷延性徐脈が,まさに突発性で持続性の胎児徐脈であったことは認める。 ウtotal(またはprofound。以下同じ)asphyxiaの発生について。 原告Aには基底核・視床病変が認められるところ,基底核・視床が障害されるのは,短時間のtotalasphyxiaによるものであるから,原告Aの脳障害部位からすると,totalasphyxiaが長時間継続したとは認められない(長時間継続した場合は大脳半球にも広汎な障害が及び,死に至ることが多い。 )一方,partialasphyxiaが長時間持続した場合には,大脳動脈支配境界,,領域梗塞の所見が認められることが多いが原告Aの頭部MRI検査では。 ,,そのような所見は認められていないそしてpartialasphyxiaが先行しその後にtotalasphyxiaが起こった場合には,羊水混濁が起こることが多い。すなわち,胎児が低酸素症になると,迷走神経の刺激で腸管の蠕動運動が亢進し,肛門括約筋が弛緩して,胎便が漏出し羊水が混濁するのである。本件では,帝王切開時に羊水混濁は認められていないので,partialasphyxiaが先行したとは考えられない。 したがって,基底核・視床病変の認められる原告Aに,partialasphyxiaが先行しないで,突然totalasphyxiaが起こったことは明らかである。 エ午前7時42分の数分前ころからの遷延性徐脈が生じた原因について本件において厳密な意味での徐脈発生の機序は不明である。ただし,破水しておらず,臍帯脱出は否定されるし,帝王切開時に胎盤早期剥離,羊水混濁,臍帯巻絡も認め 前ころからの遷延性徐脈が生じた原因について本件において厳密な意味での徐脈発生の機序は不明である。ただし,破水しておらず,臍帯脱出は否定されるし,帝王切開時に胎盤早期剥離,羊水混濁,臍帯巻絡も認められておらず,これらの要因も否定される。 上記事情を総合的に勘案し,徐脈発生の原因を,あえて周産期に求めるとすれば,徐脈発生後,F准看護師が直ちに陣痛室に赴いたとき,原告Cが膝立ちの姿勢で上体を前後に揺らしていたという事情も併せて考慮すると,消去法的に,母体の体位変換に伴う臍帯圧迫の可能性が残る。 なお,原告ら主張のとおり,原告Cが仰臥位姿勢からうつ伏せ状態に至るまでの体位変換を行っているとしても,そのような体位変換により臍帯圧迫をきたすことは十分起こりうる。また,臍帯圧迫は,子宮内で胎児の体の一部により臍帯が圧迫されることにより生じるものであり,これは胎児の比較的軽微な体位の変動によっても起こりうるものであり,破壊的な母体の体位変換が必須であるとは限らない。臍帯下垂や臍帯脱出等も破壊的な体位変換等が存在しなくても起こりうる。 (2) 争点(2)(注意義務違反の有無)について【原告らの主張】ア午前4時50分ころの注意義務違反について(ア) 原告Cは,午前4時50分ころ,一過性徐脈が認められ,non-reassuringパターンに該当した。 したがって,上記徐脈が変動性のものであろうと,遅発性のものであろうと,准看護師としては,医師に対し,直ちに上申・相談すべき注意義務があるとともに,厳重な経過観察・分娩監視をすべき注意義務があった。 また,医師としては,可能な限り原因を検索・診断した上,①体位変換,②母体酸素吸入,③子宮収縮を弱める(子宮収縮剤の投与中であれば,減量または中止する,④低血圧があれば回復させる,⑤7%重曹)水の母体静注等を ては,可能な限り原因を検索・診断した上,①体位変換,②母体酸素吸入,③子宮収縮を弱める(子宮収縮剤の投与中であれば,減量または中止する,④低血圧があれば回復させる,⑤7%重曹)水の母体静注等を行って改善しないか,胎児ジストレスの所見が認められる場合,リトドリン10㎎を20mℓに希釈したもの1~3㎎程度を数分かけてゆっくり静注する,⑥変動一過性徐脈が出現しているような場合,温生理食塩水200~300mℓを,1分間に10~15mℓの速度で人工羊水として注入を試みる,⑦これらの処置で胎児ジストレスの所見が改善しないか増悪した場合,急速遂娩を行うべき注意義務があった。 (イ) しかし,E准看護師は,原告Cの一過性徐脈を認めたにもかかわらず,その旨を医師に上申・相談せず,その結果,D病院の医師も原告C,。 を全く診察せず上記①ないし⑥の必要な処置が全く尽くされなかったイ午前6時15分から午前7時45分までの間の注意義務違反についてまた,F准看護師は,午前6時15分から午前7時45分までの約1時間30分の間,厳重な経過観察・分娩監視をして,一過性徐脈が認められれば,医師に対し,直ちに上申・相談すべき注意義務があったが,これを怠った。 その結果,D病院の医師も原告Cを全く診察せず,上記アの必要な処置が全く尽くされなかった。 ウ関連事実(ア) 杜撰な観察本件では,助産師資格のない准看護師が分娩監視装置の記録を判断し,「」,「」,ており看護記録上もKHT120bpmFHR良好等の記載しかなく胎児心拍数のみを聴取し,子宮収縮との関係を厳重に観察した形跡はない。また,70bpm台の高度徐脈を,看護記録上に「FHR90代」と記載し,判読を誤る等もしており,原告Cに対して極めて杜撰な観察が行われていた。 (イ) 原告Cがうつ伏 係を厳重に観察した形跡はない。また,70bpm台の高度徐脈を,看護記録上に「FHR90代」と記載し,判読を誤る等もしており,原告Cに対して極めて杜撰な観察が行われていた。 (イ) 原告Cがうつ伏せ状態をとったこと陣痛室へ入室した原告Cは,午前5時30分ころ,分娩監視装置を装着され,その時点では仰向けに寝ていた。 ところが,原告Cは,午前6時15分ころ,F准看護師が陣痛室を退室した後,間もなく陣痛が増強してきて,強度の苦痛を覚えるようになったため,自然にうつ伏せ状態となった。 誰でも,ベッド等の平坦な場所で腹痛を覚えるとき,自然かつ無意識,,に腹筋が伸張しないよう腹部を抱え込むように大腿部を屈曲させつつうつ伏せ状態か横臥位になり,少しでも疼痛を緩和させるような姿勢をとることは医学の常識であるとともに社会常識である。妊婦がうつ伏せ状態になっても,両肘・両前腕部で上体の重みを支えているので,腹部を圧迫することにはならない。 したがって,身重の原告Cが,ベッド上で膝立ち状態になっていたとの被告の主張は不自然・不合理であると言わざるを得ない。 なお,F准看護師が陣痛室に訪室した午前7時45分ころ,胎児心拍は既に70bpm台の徐脈を維持する状態であった。 【被告の主張】ア午前4時50分ころの注意義務違反について(ア) 午前4時51分ころから一過性徐脈が認められたことは認める。 なお,non-reassuringとの用語は,平成15年の産科・婦人科学会の,,用語定義委員会にて提案されたものであるから本件当時には妥当せずまた,胎児仮死,胎児ジストレスと同義ではない。現在は,胎児ジストレスの概念に代えて,胎児機能不全という用語が提唱されている。 (イ) 上記徐脈は,単発であって陣痛ごとに反復するものではなく,回復は急峻であり,基線細変動が保た スと同義ではない。現在は,胎児ジストレスの概念に代えて,胎児機能不全という用語が提唱されている。 (イ) 上記徐脈は,単発であって陣痛ごとに反復するものではなく,回復は急峻であり,基線細変動が保たれていた。このパターンは,胎児機能不全と評価されるものではなく,この時点において,直ちに医師に対して上申・相談すべき注意義務があるとはいえず,原告らの主張する前記①ないし⑦の処置が必要とされる所見ではなく,これを実施する具体的注意義務もない。看護師が観察し,徐脈が反復しないことと基線細変動が維持されていることを確認していれば,その後,分娩監視装置を持続的に装着して観察することで必要かつ十分であり,敢えて,医師に上申して診察を求めるまでの必要はない。E准看護師が,医師に上申・相談しなかったことに分娩監視義務違反はない。 そして,本件では,陣痛室に入室してからは,原告Cに連続して分娩監視装置が装着されており,E准看護師は,ナースステーションにおいて,モニター及びスピーカーから流れる胎児心音を聴取することで監視しており,分娩監視は適正に行われていた。 なお,基線細変動を伴わない一過性徐脈の取扱については,日本産婦人科学会周産期委員会で指針を検討中であり,確立した診断基準や取扱指針はない。本件の一過性徐脈は,早朝の午前4時51分ころから認められたものであるところ,急速遂娩等が必要とは認められないようなも,,,ので基線細変動も消失していないパターンについて早朝の時間帯に医師による診察が義務であると認定されるようであれば,産婦人科医療は崩壊する。 (ウ) 准看護師でも診療の補助としての分娩監視装置による分娩監視を行いうる。反復する徐脈の発生や基線細変動の消失があれば,すぐに医師に連絡するようにとの指示のもと,准看護師が分娩監視装置による分娩監視 准看護師でも診療の補助としての分娩監視装置による分娩監視を行いうる。反復する徐脈の発生や基線細変動の消失があれば,すぐに医師に連絡するようにとの指示のもと,准看護師が分娩監視装置による分娩監視を行うことに法的問題はない。 イ午前6時15分から午前7時45分までの間の注意義務違反についてF准看護師は,ナースステーションにおいて,他の新生児当番の准看護師によるおむつ交換や授乳を手伝いつつ,セントラルモニターで,原告Cの胎児心拍及び陣痛の状況を観察していた。分娩監視装置は,電波状況の都合で,時折電波が途切れることがあったが,心拍数が適正であり,基線細変動が保たれていることを確認していた。 したがって,分娩監視義務に欠けるところはない。 ウ原告Cがうつ伏せ状態を取ったとの原告らの主張について(ア) 原告Cが次第にうつ伏せ状態になったことは否認ないし不知。 妊婦が,陣痛のため,四つん這い等の姿勢を取ることはあるが,原告ら主張のように腹部を圧迫する(胎児に対するストレスとなる)ようなうつ伏せ姿勢を取ることが常識であるとは認めがたい。また,この体位では,胎児心拍を正確に計測できるはずもない。 (イ) 午前7時45分ころにおける原告Cの状態午前7時42分の数分前ころから(なお,診療録・看護記録上の記載は午前7時45分である。以下同じ,セントラルモニターの胎児心。)拍が次第に下がり始めた。F准看護師が直ちにナースステーションから陣痛室に向かったところ,原告Cは,ベッド上に膝立ち(膝を屈曲し,膝から上は立ち上がった)姿勢で,小刻みに体を前後に揺らしていた。 (3) 争点(3)(因果関係の有無)について【原告らの主張】アnon-reassuringパターンが生じた場合,医師は,前記(2)原告らの主張ア(ア)記載の①ないし⑦の処置をとることが要請 。 (3) 争点(3)(因果関係の有無)について【原告らの主張】アnon-reassuringパターンが生じた場合,医師は,前記(2)原告らの主張ア(ア)記載の①ないし⑦の処置をとることが要請されるところ,同パターンを発見後,約30分以内に同処置に着手すれば,経験則上,大半の症例において,胎児の低酸素虚血性脳障害の発生を予防・回避できることが前提として論じられている。 イ本件では,①原告Cは,午前6時15分から午前7時45分までの約1時間30分もの間,全く分娩監視が行われていないまま放置されていたところ,持続性の高度徐脈が発生した状況で突如発見されたこと,②原告Cは,分娩予定日(平成11年9月4日)を1日強超過していたとはいえ,妊娠経過において,妊娠中毒症等もなく,格別の異常はなかった上,③臍帯標本の病理組織検査の所見も「絨毛(villi)表面にはフィブリノイ,ド物(fibrinoid物)が目立ち,余り広くはないが,小梗塞巣を認める。 高度とする程ではないが,石灰沈着が見られ,血管壁の肥厚,内腔の狭小」,,化が見られるというもので原告Cの分娩時における臍帯圧迫の強度は広範かつ高度なものではなく,胎盤機能の低下も格別著しいものではなかったと認められる。 したがって,本件で分娩監視が適正になされ,当直のH医師またはF准看護師らが,non-reassuringパターンを認めた時点で,原告Cに対し,体位変換・酸素投与等の医療措置を取っていれば,十分に改善・回復可能であったものと合理的に推認できる。 ウ被告の主張に対する反論(ア) 被告の主張するように,体位変換に伴う臍帯圧迫が低酸素症の原因となったというのであれば,かえって,non-reassuringパターンが生じたとき,真っ先に行うべきとされている体位変換が適正に行われてい の主張するように,体位変換に伴う臍帯圧迫が低酸素症の原因となったというのであれば,かえって,non-reassuringパターンが生じたとき,真っ先に行うべきとされている体位変換が適正に行われていれば,臍帯圧迫も容易に解除でき,低酸素症の症状も改善されたはずであるから,むしろ,経過観察義務の懈怠と後遺障害の発生との因果関係を基礎づけることになる。 (イ) また「急性の破滅的な低酸素症が起こった」との前提事実や「原,,告Aの脳障害が30分で発生している」との前提事実は,何ら証明されていない。 急性の破滅的な分娩中の虚血は「臍帯脱出,常位胎盤早期剥離,肩,甲難産,母体心停止,破滅的な子宮破裂」等のエピソードにより生じるものであるところ,原告Cには,上記エピソードは存在しない。また,胎児心拍モニタリングに関し,lowrisk症例において,適切な観察であれば,助産師による間欠聴診30分ごとでも良いとされているのは,間欠時にある程度急激な状態変化があっても,30分以内に適切な対応をとりうる態勢にあれば大事には至らないという経験則を基礎にしているものと考えられるから,30分の時間経過だけで回復不能なまでに胎児仮死が重症化したという被告の主張は,医学的な経験則に反したものというべきである。 【被告の主張】ア午前7時42分の数分前ころからの遷延性徐脈の原因が臍帯圧迫であり,臍帯圧迫による血流阻害が午前4時50分から持続しており,午前4時51分ころからの一過性徐脈が臍帯圧迫の予兆であるとすれば,同一過性徐脈は,反復して発生しているのが通常であるが,そのような所見は認められない。午前4時51分ころからの一過性徐脈が臍帯圧迫が原因であるにせよ,この臍帯圧迫は一過性のものであり,その後に反復していない以上,午前7時42分の数分前からの遷延性徐 ,そのような所見は認められない。午前4時51分ころからの一過性徐脈が臍帯圧迫が原因であるにせよ,この臍帯圧迫は一過性のものであり,その後に反復していない以上,午前7時42分の数分前からの遷延性徐脈の発生とは何ら関連性を持たない。 また,同遷延性徐脈が生じた原因からすると,後遺障害の発生を回避することは不可能であり,結果回避可能性はなかったものである。 イ原告らが主張する前記①ないし⑦の処置について原告らが主張する前記①ないし⑦の処置は,その実施により,non-reassuringが解消する高度の蓋然性まで認めることはできない。臍帯圧迫が起こった場合,母体の体位変換を行うことで臍帯圧迫の解除を試みるのは一つの方法であり,本件においても,原告Cを改めて仰臥位姿勢に戻させる等の体位変換を行った。しかし,体位変換を行っても,遷延性徐脈は改善されなかったため,緊急帝王切開に至ったという本件の経過からみても,体位変換により,必ず臍帯圧迫が解除されるとは限らない。 また,午前4時51分ころからの一過性徐脈が認められた段階で体位変換を実施しても,その後,原告Cは,原告らが主張するような腹部を圧迫するようなうつ伏せ姿勢になったり,あるいは,膝立ちの姿勢になっているから,午前7時42分の数分前からの遷延性徐脈が回避できたという医学的因果関係はない。 したがって,午前4時51分に体位変換や酸素投与を実施しても,午前7時42分の数分前からの遷延性徐脈の発生を防ぎ得た関係にはない。 ウ原告Aの脳障害が30分間で生じうることについて(ア) 原告Aについては,①重度の低酸素性虚血性脳症があったと考えられ,②臨床症状からは,基底核・視床の病巣が推測され,③出生直後には自発呼吸がほとんど無く,血圧が低いことから,totalasphyxia,あるいは,脳幹障害型 低酸素性虚血性脳症があったと考えられ,②臨床症状からは,基底核・視床の病巣が推測され,③出生直後には自発呼吸がほとんど無く,血圧が低いことから,totalasphyxia,あるいは,脳幹障害型があると考えられる。 基底核・視床の障害は,急性の破滅的な分娩中のasphyxiaによって引き起こされる。低酸素に陥った場合,酸素活性が高く,髄鞘形成が盛んな部位に血流が優先的に配分されるのであり(ホメオスタシス,生命)中枢である脳幹部に優先的に血流が配分され,次いで,運動を司る基底核・視床に血流が配分される。本件で,原告Aが脳幹部や基底核・視床に障害を受けていることは,急性の破滅的な低酸素が起こったことを意味する。 そして,基底核・視床に重症の神経学的後遺障害が生じるには,30分で十分であるとされている。 (イ) 本件において,遷延性徐脈の発生を認識し,医師の診察を経て,緊急帝王切開が必要であると判断するのに10分程度,緊急帝王切開を決断してから胎児を分娩させるまで30分程度を要しているが,原告Aの脳の後遺障害は30分で既に生じてしまっている。 したがって,本件においては,後遺障害の発生を回避することは不可能であり,回避可能性がなかったといわざるを得ない。 (ウ) 原告らの主張に対する反論原告らは,わずか30分の時間経過だけで回復不能なまでに胎児仮死が重症化することは,医学的な経験則に反していると主張する。 しかし,成人であれば,わずか3,4分程度の血流途絶で不可逆的な脳障害を起こす。胎児は比較的低酸素に強いといわれているが,それが20分以上,あるいは30分も持続すれば,不可逆的な脳障害を起こすことはアメリカ産婦人科学会の報告でも認められており,今や小児神経学における常識である。 (4) 争点(4)(損害)について【原告らの主張】ア逸 いは30分も持続すれば,不可逆的な脳障害を起こすことはアメリカ産婦人科学会の報告でも認められており,今や小児神経学における常識である。 (4) 争点(4)(損害)について【原告らの主張】ア逸失利益3945万8227円497万7700円《平成12年の全労働者全年齢平均年収》×7.927《労働能力喪失期間を49年とし,症状固定時を1歳として,ライプニッツ係数を適用》×1《労働能力喪失率を100%とする》=3945万8227円イ介護費用8197万4766円1万2000円《1日あたりの介護費用》×365×(19.6680-0.9523《症状固定時を1歳とし,平成15年簡易生命表により)余命を84年として,ライプニッツ係数を適用》=8197万4766円ウ後遺障害慰謝料2500万円エ原告B及び原告C固有の慰謝料各300万円オ弁護士費用700万円原告Aについて600万円,原告B及び原告Cについて各50万円。 【被告の主張】否認ないし争う。 第3争点に対する当裁判所の判断 本件の診療経過について前記前提事実に加え,証拠(甲A1ないし3,甲B1,11,乙A1ないし13,乙B7,12,16,20,26,27,29の1,30の1,証人E准看護師,証人F准看護師,原告C本人)及び弁論の全趣旨によれば,本件の診療経過について,以下の事実が認められる。なお,上記証拠のうち,以下の認定に反する部分については採用しない。 (1) 原告Cの妊娠経過原告Cは,平成11年1月13日,D病院を受診したところ,妊娠中であり,分娩予定日は同年9月4日と診断された。 その後,原告Cは,同年2月10日から同年9月3日までD病院に定期的に通院した。原告Cは,妊娠経過において,貧血はなく,血圧は収縮期圧93~105㎜Hg,拡張期圧57~68㎜H 月4日と診断された。 その後,原告Cは,同年2月10日から同年9月3日までD病院に定期的に通院した。原告Cは,妊娠経過において,貧血はなく,血圧は収縮期圧93~105㎜Hg,拡張期圧57~68㎜Hgと正常範囲内であり,尿糖・尿蛋白は陰性であり,胎児の発育・羊水量も正常とされる等,特段の異常は認められなかった。 (2) D病院への入院ア原告Cは,平成11年9月6日午前2時30分ころから10分間隔の陣,,。 ,痛が現れたことから午前3時55分D病院を受診した同日において原告Cの妊娠週数は40週2日であった。受診時,D病院では,分娩監視が必要な入院患者はおらず,また,正看護師,E准看護師,F准看護師,看護助手の4名が産婦人科の夜勤帯の当直勤務に当たっており,当直看護師が分娩,新生児のケア,入院患者のナースコール等に対応することとしていた。 当直勤務に当たっていたE准看護師は,処置室で原告Cを内診し,陣痛の間隔が5~10分,陣痛発作の継続が30秒,子宮口の開大度が1~2㎝,胎児下降度(ステーション)が-2,子宮頸部展退度が80%,破水はなく,性器出血もなく,ドップラーで聴取した胎児心拍音も正常である等,特段の異常を認めなかった。 E准看護師は,陣痛が10分間隔で起きていたことから,D病院の基準に従い,原告Cを入院させることとした。 イE准看護師は,午前4時30分ころ,病室へ移った原告Cに分娩監視装置を装着し,ナースステーションのレコーダーでモニター記録の印刷を開始した。 午前4時50分ころ,胎児心拍数が徐々に80bpm台まで低下し,約60秒間の変動一過性徐脈が認められたが,基線細変動は正常に保たれており,胎児心拍数の低下から約3分後には130bpmに回復した。 その後,午前5時8分ころ,分娩監視装置が外され,分娩監視を終了し 0秒間の変動一過性徐脈が認められたが,基線細変動は正常に保たれており,胎児心拍数の低下から約3分後には130bpmに回復した。 その後,午前5時8分ころ,分娩監視装置が外され,分娩監視を終了した。 (3) 陣痛室への移動ア原告Cは,午前5時30分ころ,陣痛室へ移動するよう指示を受けた。 原告Cは,陣痛室へ移動した後,分娩監視装置を継続して装着したが,モニター記録の印刷はなされなかった。陣痛室でモニタリングされた胎児心拍数と陣痛の状況は,陣痛室の分娩監視装置から分娩室の分娩監視装置へ送信され,分娩室の分娩監視装置からケーブルで繋がれたナースステーションのモニター上に過去20分間分の記録が表示されるとともに,ナース。 ,ステーションに設置されたスピーカーから聴取できる状態にあったなお分娩監視装置は,電波の受信状況の都合により,時折電波が途切れることがあった。また,陣痛室においては,胎児心拍数のモニター表示はできないが,胎児心拍をスピーカーから聴取することは可能であった。 E准看護師が陣痛室へ移動した原告Cを内診すると,子宮口の開大度が2~3㎝,胎児下降度が-2,子宮頸部展退度が80%,陣痛発作時に胎胞形成が認められ,少量の出血が確認された。また,E准看護師がナースステーションに戻ったとき,モニター上,胎児心拍数が120bpm台であることが確認できた。 E准看護師は,午前6時ころ,分娩担当であったF准看護師に対し,原告Cの引継ぎを行った後,未熟児室担当業務に当たった。 イ引継ぎを受けたF准看護師は,午前6時15分ころ,陣痛室へ訪室し,原告Cの陣痛の間隔が3~4分,陣痛発作の継続が40~50秒との所見を確認し,分娩監視装置にて,基線細変動が正常であり,一過性頻脈があり,心音の低下・徐脈がないことを確認した。以後,F准看護師は,ナース の陣痛の間隔が3~4分,陣痛発作の継続が40~50秒との所見を確認し,分娩監視装置にて,基線細変動が正常であり,一過性頻脈があり,心音の低下・徐脈がないことを確認した。以後,F准看護師は,ナースステーションのモニター上の表示とスピーカーから聞こえる胎児心拍音をもとに分娩監視に当たった。なお,他の看護師・准看護師らも,自らの担当業務を行う傍ら,ナースステーションにいるときは胎児心拍音を聴取することが可能であった。 分娩担当業務に当たっていたF准看護師は,原告Cの分娩監視と並行して,ナースステーションにおいて,午前7時ころから始まる新生児室での,,,授乳業務に備え午前6時30分ころから調整されたミルクを温めたり哺乳瓶に小分けする等のミルクの準備や,ナースコールの対応,ナースステーションに訪れた患者の対応に当たっていた。 (4) 徐脈の出現アF准看護師は,午前7時40分ころ,スピーカーから聞こえる胎児心拍音の異常に気付き,胎児心拍数が90bpm台へ下降しているのをナースステーションのモニター上で確認したことから,陣痛室へ訪室した。 原告Cは,ベッド上で膝を曲げて上半身を直立させ,小刻みに体を揺らしていたことから,F准看護師は,分娩監視装置の装着位置がずれ,正確に胎児心拍を拾えていないのではないかと考え,分娩監視装置を着け直したが,胎児心拍音を明確に聞き取ることができなかった。そこで,F准看護師は,原告Cを仰向けにさせた上,分娩監視装置の受信状況が悪い可能性等も考慮して,別の分娩監視装置を装着させて胎児心拍を確認したところ,それでも胎児心拍音を明確に聴取することはできなかった。 なお,原告Cは,F准看護師が陣痛室へ訪室した際,四つん這いの状態であった旨供述するが,原告Cの供述によれば,当時,原告Cは陣痛の痛みに耐えるので精一杯の状態 音を明確に聴取することはできなかった。 なお,原告Cは,F准看護師が陣痛室へ訪室した際,四つん這いの状態であった旨供述するが,原告Cの供述によれば,当時,原告Cは陣痛の痛みに耐えるので精一杯の状態であり,意識が朦朧としていたことが認められ,F准看護師が陣痛室へ訪室した際の原告Cの姿勢について,原告Cの当時の記憶の正確さに疑問を差し挟む余地があることは否定しがたいから,原告Cの上記供述を採用することはできない。なお,原告Cが,F准看護師が陣痛室へ訪室したときとは別の時点において,四つん這いの状態であったことまで否定するものではない。 イ胎児心拍音を聴取できなかったF准看護師は,そのとき陣痛室に来た看護助手に対し,酸素投与のためのマスクを持ってくること,分娩監視装置のモニター記録を分娩室のレコーダーで印刷すること,当直医のH医師へ連絡すること,E准看護師を応援に呼ぶことを指示した。 また,F准看護師が原告Cを内診したところ,子宮口の開大度が6㎝,胎児下降度が-2,子宮頸部展退度が60~80%であると認められた。 ウ連絡を受けた当直のH医師は,直ちに陣痛室へ訪室し,分娩室のレコーダーから印刷された分娩監視装置のモニター記録を見たところ,午前7時45分ころから胎児心拍数が70bpm台を持続していることが確認でき,遷延性徐脈と診断した。 胎児心拍数を確認したH医師は,午前7時50分ころ,一旦分娩監視装置を外して内診や超音波検査を実施し,子宮口開大度が5~6㎝,胎児下降度が-2,胎胞が緊満であり十分な羊水量があること,胎盤早期剥離がないこと,及び,臍帯脱出がないことを確認した後,再び分娩監視装置を装着した。 H医師は,原告Aが胎児仮死の状態にあると考えて,午前7時53分ころ,帝王切開を実施することとし,原告Bの母であるKに対して帝王切開の必要 脱出がないことを確認した後,再び分娩監視装置を装着した。 H医師は,原告Aが胎児仮死の状態にあると考えて,午前7時53分ころ,帝王切開を実施することとし,原告Bの母であるKに対して帝王切開の必要性を説明した上で,午前8時ころ,手術室へ入室し,連絡を受けたD病院院長のL医師も加わった上で,緊急帝王切開手術が実施された。 (5) 原告Aの出生原告Aは,午前8時18分,体重が2696グラム,1分後のアプガースコアが2点の状態で出生した。 H医師らは,直ちに気管内挿管,酸素投与等の蘇生措置を開始した。出生時において,胎盤の早期剥離,羊水の混濁,臍帯の脱出・巻絡の各所見は,いずれも認められなかった。 H医師は,午前8時28分ころ,臍帯動脈血ガス分析を実施したところ,phが6.889,BE(塩基過剰。0±2mmol/lが正常値であり,代謝性アシドーシスのとき-の値をとる)が-21.1mmol/lであったため,アシド。 ーシス改善のために,原告Aにメイロン5mℓを静注し,その後,さらにメイロン10mℓを静注した。 午前8時58分ころ,H医師が臍帯動脈血ガス分析を実施したところ,phが7.301,BEが-6.9mmol/lであり,再びメイロンを5mℓ静注するも,元気さがなく,モロー反射もなかったため,H医師は,原告AをI病院へ搬送することとし,午前9時30分ころ,同病院の医師を乗せた救急車が到着し,原告Aは搬送された。 (6) I病院での診療経過ア原告Aは,午前10時ころ,同病院新生児集中治療室へ到着し,重症新,,,,生児仮死低酸素性虚血性脳症Ⅱ~Ⅲ度右側気胸貧血の各診断を受け治療が開始された。 原告Aは,入院時において,弱いながら対光反射が認められるも,モロー反射はなく,瞳孔はやや散大気味であり,また,痙攣の様な動きが見られ,バタバタ Ⅲ度右側気胸貧血の各診断を受け治療が開始された。 原告Aは,入院時において,弱いながら対光反射が認められるも,モロー反射はなく,瞳孔はやや散大気味であり,また,痙攣の様な動きが見られ,バタバタと四肢を動かす等やや不穏状態が目立った。 イ原告Aは,平成11年9月11日,脳エコー検査を受けたところ,脳室,,上衣下出血・脳室内出血はなく脳室周囲白質軟化症の所見もないものの大脳白質のエコー輝度が全体的にやや高く,大脳皮質下の低酸素性脳症の可能性があるとの病的所見を指摘され,また,NSE(髄液神経特異性エノラーゼ)検査の結果は40.5ng/mℓであり,予後不良群と診断された。 同月12日,全身の間代性痙攣が認められた。セルシンを投与しても痙,,。 攣は止まらなかったが時間の経過により消失したので経過観察としたまた,ペダルこぎの様な動きが見られ,痙攣の可能性が疑われた。 同月13日,左下肢にペダルこぎの様な動き及び左上肢にクロールの様な動きが見られ,間欠的に繰り返し出現した。また。同日実施の脳波検査では,痙攣波を疑わせる波形が認められた。 同月14日,ペダルこぎの様な動きが出現し,痙攣症状が疑われたが,セルシン・ワコビタールの投与により消失した。また,同日に実施された脳エコー検査では,脳萎縮は認められず,正常であると診断された。 同月28日実施の頭部CT検査では,脳実質において,下位髄鞘形成が認められ,出血を疑うような高吸収や正中構造の偏位は認められず,脳脊髄液腔において明らかな拡大や狭小化は認められず,硬膜下腔・硬膜外腔において明らかな液体貯留は認められなかったが,左頭頂葉に低濃度領域が疑われたことから,左頭頂葉について経過観察が必要と診断された。 同年10月20日,原告Aは,四肢に痙性が認められ,脳性麻痺が生じる可能性があると診断され は認められなかったが,左頭頂葉に低濃度領域が疑われたことから,左頭頂葉について経過観察が必要と診断された。 同年10月20日,原告Aは,四肢に痙性が認められ,脳性麻痺が生じる可能性があると診断された。 同月31日,原告Aは同病院を退院し,外来受診にて経過観察を継続することとした。 同年11月16日,原告Aは,頭部MRI検査を受けたところ,脳実質において,明らかな異常信号域や奇形は認められず,脳脊髄液腔において,両前頭葉周囲・左側頭葉周囲に液体貯留が認められると診断された。 ウ平成14年原告Aは,平成14年,脳性麻痺による歩行困難な体幹機能障害の障害名のもと,身体障害者3級の認定を受けた。 エ平成16年原告Aは,平成16年2月1日,痙攣発作でI病院に入院した。入院時において,左半身不全麻痺を疑うような状態であり,手足をカクカクさせるような発作もあったが,次第に症状が落ち着き,四肢の動きも良くなったため,同日中に退院した。同日実施の頭部CT検査では,明らかな異常所見は指摘されなかった。また,脳波検査では,左側頭部にてんかん発作波の頻発が認められた。 原告Aは,同月12日,第1種知的障害者の認定を受けた。 同年3月1日実施の頭部MRI検査では,両側視床外側部にT2で高信号,FLAIR法で嚢胞様の周囲に高信号があり,てんかん発作とはおそらく無関係で,新生児期の影響と診断された。 ,,。 ,原告Aは同年8月16日痙攣重積発作でI病院に入院した痙攣は全身性強直間代性であり,明らかな左右差は認められなかった。入院後,痙攣が治まったことから,翌17日に退院した。 原告Aは,同年10月25日,痙攣重積発作でI病院に再び入院した。 翌26日,脳波検査にて,てんかん発作波が認められたが,ほぼ普段通りの状態に戻ったことから退院した。 オ平成17年 日に退院した。 原告Aは,同年10月25日,痙攣重積発作でI病院に再び入院した。 翌26日,脳波検査にて,てんかん発作波が認められたが,ほぼ普段通りの状態に戻ったことから退院した。 オ平成17年原告Aは,平成17年8月20日,右半身に間代性痙攣が生じたことから救急車でI病院に来院し,痙攣重積後の意識低下遷延及び呼吸不全のため入院した。救急車内で痙攣は一旦治まったものの,入院後,右上半身に再び間代性痙攣発作が生じたが,ドルミカムの投与により,大きな発作は消失した。その後,血液検査上のデータが改善したことから,同月25日に退院した。 争点(1)(本件後遺障害の原因)について(1) 争点の所在本件では,原告Aに低酸素性虚血性脳症が生じたこと,その結果として,脳性麻痺が生じたことについて概ね争いはないが,低酸素性虚血性脳症の発症機序について争いがある。そこで,原告Aに生じた低酸素性虚血性脳症の発症機序について検討した上で,本件後遺障害が残った原因について検討する。 (2) 低酸素性虚血性脳症の発生機序ア低酸素性虚血性脳症の発生原告Aの出生前後の事情として,①原告Cの妊娠経過において,特段の異常が認められなかったこと,②午前7時45分以降において70bpm台の遷延性徐脈が認められたこと,③原告Aの1分後のアプガースコアが2点であり,臍帯動脈血ガス分析の結果,phが6.889,BEが-21.1mmol/lの代謝性アシドーシスが認められたこと,④搬送先のI病院において,重症新生児仮死及び低酸素性虚血性脳症Ⅱ~Ⅲ度と診断された上,痙攣が生じたことが認められる。 上記事情を総合すれば,原告Aは,分娩中において,低酸素性虚血性脳症に陥ったことが認められる。 イ脳の障害部位及び脳性麻痺の型次に,低酸素性虚血性脳症の発症機序を検討する前提とし とが認められる。 上記事情を総合すれば,原告Aは,分娩中において,低酸素性虚血性脳症に陥ったことが認められる。 イ脳の障害部位及び脳性麻痺の型次に,低酸素性虚血性脳症の発症機序を検討する前提として,原告Aの脳障害部位及び脳性麻痺の型について検討する。 証拠(乙A8,12,乙B7,12,27,29の1,30の1)によれば,臨床経過及び頭部MRI検査の結果からみて,原告Aの脳の障害部位は,大脳基底核・視床に存在すること,脳性麻痺の型については,痙直型とアテトーゼ型の混合型のうちアテトーゼ型が優位の型であると認められる。 ウprofoundasphyxiaの発生当事者間において,原告Aが重篤な低酸素状態で出生したことについて概ね争いはないところ,①午前7時45分ころ以降,70bpm台の高度の遷延性徐脈が認められたこと,②原告Aは,出生1分後のアプガースコアが2点であり,分娩直後に,臍帯動脈血のphが6.889,BEが-21. 1mmol/lの重篤な代謝性アシドーシスが認められたことからすれば,原告Aには,profoundasphyxiaが生じていたといえる。 そして,証拠(乙B12,16,31)によれば,profoundasphyxiaの要因として,常位胎盤早期剥離,母体心肺停止・母体ショック・子宮破裂等の母体の要因,臍帯脱出・臍帯巻絡・臍帯圧迫等の臍帯に関する要因等が存在することが認められるところ,本件では,常位胎盤早期剥離等の母体の要因,臍帯脱出・臍帯巻絡の所見は認められない。 したがって,原告Aに生じたprofoundasphyxiaの要因は,残った要因である臍帯圧迫である可能性が高いというべきである。すなわち,子宮の収縮に伴い,何らかの要因が重なって,臍帯が原告Aの身体と子宮壁との間に挟まれた結果,profoundasp の要因は,残った要因である臍帯圧迫である可能性が高いというべきである。すなわち,子宮の収縮に伴い,何らかの要因が重なって,臍帯が原告Aの身体と子宮壁との間に挟まれた結果,profoundasphyxiaが生じたものと推認される。 エ午前6時15分ころ以降の胎児心拍数の変動本件では,午前6時15分ころ,徐脈が生じていないことが確認されているが,その後,午前7時45分ころまでの間,分娩監視装置の記録が印刷されていないことから,この間の胎児心拍数の変動について直接的に認識することはできない。 もっとも,証人F准看護師によれば,胎児心拍に異常がない場合,陣痛室のスピーカーから,歯切れの良い軽快なリズムで胎児心拍音を聴取できることが認められるところ,午前7時40分ころ,F准看護師が徐脈に気付いて陣痛室を訪室し,分娩監視装置の付け直しや,別の分娩監視装置を装着しても,なお胎児心音を明確に聴き取ることができなかったことからすると,午前7時40分ころ以降,徐脈は改善することなく継続していたというべきであるから,原告Aは,午前7時40分ころにおいて,遷延性徐脈に陥っていたとするのが相当である。 そして,本件では臍帯の圧迫が起こったと推認されるところ,臍帯が圧迫されると,臍帯の血流が障害される結果,心拍数の低下を引き起こし,変動一過性徐脈が生じることからすれば,特段の事情のない限り,午前6時15分ころから午前7時40分ころの間のある時点において,変動一過性徐脈が生じ,これが持続した結果,午前7時40分ころの時点では,遷延性徐脈へ移行していたというべきである。 オ上記認定に反する証拠の検討,,,上記認定に対し被告は原告Aの大脳基底核・視床に障害が認められ大脳動脈支配境界領域梗塞が認められないことから,変動一過性徐脈等の前兆はなく,突如として 。 オ上記認定に反する証拠の検討,,,上記認定に対し被告は原告Aの大脳基底核・視床に障害が認められ大脳動脈支配境界領域梗塞が認められないことから,変動一過性徐脈等の前兆はなく,突如としてprofoundasphyxiaが生じ,F准看護師が徐脈に気付いた午前7時40分ころ,遷延性徐脈が認められたと主張する。 ,,そこで被告が上記主張の根拠として提出する意見書等について検討し上記特段の事情が認められるか否かを判断する。 (ア) M大学N講師の意見書(乙B12),,,要旨として大脳基底核・視床障害はpartialasphyxiaが発生してその後にprofoundasphyxiaが発生する場合だけでなく,突然profoundasphyxiaが発生しても生じるところ,臨床現場では突然profoundasphyxiaが発生することが報告されており,その原因としては臍帯脱出や常位胎盤早期剥離等が考えられ,本件においてもpartialasphyxiaが発生しておらず,突然profoundasphyxiaが発生した旨が記載されている。 しかし,本件においては,臍帯脱出や常位胎盤早期剥離等が生じたとは認められないのであるし,上記意見書は午前7時40分ころまで胎児心拍に何らの異常所見も見られなかったことを前提としているから,本件において突然profoundasphyxiaが発生したとする根拠は弱いというべきであり,上記記載内容を直ちに採用することはできない。 (イ) O病院J院長の意見書(乙B16)要旨として,totalasphyxiaが10~15分継続すれば,大脳基底核・視床障害が生じる旨が記載されている。 しかし,上記記載内容は動物実験の結果を根拠とするところ,上記意見書にも記載されているように,動物実験から得られた結果は aが10~15分継続すれば,大脳基底核・視床障害が生じる旨が記載されている。 しかし,上記記載内容は動物実験の結果を根拠とするところ,上記意見書にも記載されているように,動物実験から得られた結果は,その実験動物の種類や個体差によって相違が生じるだけでなく,人間において直ちに妥当するのかも不明と言わざるを得ない。 とすれば,上記意見書の記載内容を直ちに採用することはできない。 (ウ) P病院Q医療センターRセンター長の意見書(乙B26)要旨として,突然profoundasphyxiaが生じると大脳基底核・視床障害が認められるが,partialasphyxiaが生じた後にprofoundasphyxiaが生じると大脳動脈支配境界領域梗塞も生じるので,大脳動脈支配境界領域梗塞が生じていない本件では,突然profoundasphyxiaが生じた旨が記載されている。 上記記載内容の具体的根拠は必ずしも明らかではないが,被告の提出する文献(乙B1)にも同旨の記載があるところ,同記載はサルを用いた動物実験の結果を根拠としている。証拠(乙B9)によれば,同動物実験の結果に対しては「totalasphyxiaによりサルの胎児に起きる脳,障害のパターンは,人間の周産期損傷に典型的に見られる病理学的変化とは関連がない」旨の指摘や「人間の新生児の脳の状態と,サルの新,生児の脳の状態とは,かなり差異がある」旨の指摘がなされていることが認められる。 とすれば,上記意見書の上記記載内容を直ちに採用することはできないというべきである。 (エ) 被告は,羊水が混濁していなかったことも,partialasphyxiaが先行してprofoundasphyxiaが生じたものではない根拠として,主張している。 しかし,証拠(乙B39)によれば,胎児は低酸素症に していなかったことも,partialasphyxiaが先行してprofoundasphyxiaが生じたものではない根拠として,主張している。 しかし,証拠(乙B39)によれば,胎児は低酸素症になると,迷走神経の刺激で腸管の蠕動運動が亢進し,肛門括約筋が弛緩して,胎便を漏出するため,羊水混濁の状態になるとされているが,羊水混濁が生じるメカニズムは十分解明されていないことが認められる。本件では,破水する前に胎児が重度の低酸素症になったことは明らかであるが,羊水は混濁していなかったのであり,低酸素症がどの程度継続すれば羊水が混濁するのかも明らかではない。そうすると,羊水混濁がなかったからといって,partialasphyxiaが先行していないといえるものではない。 (オ) なお,午前7時50分ころにおいて,原告Cは破水しておらず,十分な羊水量が認められたことからすると,羊水は臍帯の圧迫に対する一定の緩衝になり得たというべきであるから,臍帯巻絡の所見も認められ,,,ない本件において臍帯脱出が生じた場合のように臍帯が突如として急激に圧迫される事態が生じることは,直ちには想定しがたいというべきである。 カ小括したがって,上記被告の主張を考慮しても,本件において特段の事情を認めることはできないから,本件では,午前6時15分ころから午前7時40分ころの間のある時点において,臍帯の圧迫により変動一過性徐脈が生じ,この臍帯の圧迫が持続し,午前7時40分ころにおいて,既に遷延性徐脈へ移行していた結果として,原告Aは低酸素性虚血性脳症に陥ったものと推認される。 (3) 低酸素性虚血性脳症と脳性麻痺の関係ア証拠(乙B1,2)によれば,脳性麻痺は,必ずしも低酸素性虚血性脳症に付随する関係にないことが認められ,前記「脳性麻痺の原因としての」( 推認される。 (3) 低酸素性虚血性脳症と脳性麻痺の関係ア証拠(乙B1,2)によれば,脳性麻痺は,必ずしも低酸素性虚血性脳症に付随する関係にないことが認められ,前記「脳性麻痺の原因としての」(【】)分娩中の急性低酸素症の診断基準第2の4(1)原告らの主張イ(ア)を満たす場合に限り,低酸素性虚血性脳症が脳性麻痺の原因と判断できることに争いはない。 そこで,同診断基準に従い,原告Aに生じた低酸素性虚血性脳症が脳性麻痺の原因であるかについて検討する。 (ア) 診断基準A①②④を満たすことについて,争いはない。 ③について,前記認定のとおり,原告Aは痙直型とアテトーゼ型の混合型脳性麻痺であることからすると,③を満たすといえる。 (イ) 診断基準Bについて①について,上記認定のとおり,午前6時15分ころから午前7時40分ころの間において,午前7時45分ころ以降,70bpm台が持続するような遷延性徐脈が持続する程度の臍帯の圧迫が継続していたことからすると,①を満たすといえる。 ②について,分娩監視装置を装着した午前4時30分ころから午前4時50分ころまでの間,胎児心拍数はreassuringパターンであったといえ,特段の異常は認められないこと,上記認定のとおり,変動一回性徐脈が継続した後に,午前7時40分ころの時点で遷延性徐脈に陥っていたことからすると,②も満たすといえる。 ③について,診療録上,5分後のアプガースコアの計測記録は認められないが,1分後のアプガースコアが2点であり,前記認定の診療経過に照らせば,③も満たすといえる。 ④について,複数の臓器機能障害の徴候は出生後72時間以内に確認されていないから,④は満たしていない。 ⑤について,平成11年9月11日実施の脳エコー検査の結果,大脳白質のエコー輝度が全体的にやや高く,大 いて,複数の臓器機能障害の徴候は出生後72時間以内に確認されていないから,④は満たしていない。 ⑤について,平成11年9月11日実施の脳エコー検査の結果,大脳白質のエコー輝度が全体的にやや高く,大脳皮質下の低酸素性脳症の可能性があるとの病的所見を指摘されたことからすると,⑤についても満たしているということは可能である。 イ証拠(乙B2)によれば,上記診断基準Aは,その全ての項目を満たすことが必要となるも,上記診断基準Bは,分娩中に脳性麻痺が発生したことを総合的にうかがわせる診断基準であって,その全ての項目を満たす必要はないといえる。 そして,上記のとおり,上記診断基準Aについては全項目を満たし,上記診断基準Bについては,④を除く項目が満たしているか,満たしているということも可能であることからすれば,原告Aは,特段の事情の,「」ない限り脳性麻痺の原因としての分娩中の急性低酸素症の診断基準を満たすというべきであり,特段の事情を認めるに足りる証拠はない。 したがって,原告Aに生じた脳性麻痺の原因は,分娩中に見られた低酸素性虚血性脳症であると認められる。 (4) 低酸素性虚血性脳症と本件後遺障害との関係ア運動障害について上記認定のとおり,原告Aは,痙直型とアテトーゼ型の混合型の脳性麻痺による運動障害が認められ,また,同脳性麻痺は,分娩中に見られた低酸素性虚血性脳症が原因であることが認められる。 したがって,原告Aは,低酸素性虚血性脳症を発症したことにより,運動障害が残ったことが認められる。 イ知的障害について知的障害は,脳性麻痺の合併症として発症する場合もあるが,脳性麻痺自体から直接的に生じるものではない。もっとも,知的障害の発症においては,先天的要因を除けば,脳に対する何らかのダメージを受けることが。 ,,必要というべきで して発症する場合もあるが,脳性麻痺自体から直接的に生じるものではない。もっとも,知的障害の発症においては,先天的要因を除けば,脳に対する何らかのダメージを受けることが。 ,,必要というべきであるそして先天的要因を認めるに足りる証拠はなく脳にダメージを与える要因としては,低酸素性虚血性脳症が考えられ,その他の要因については,これを認めるに足りる証拠はない。 したがって,原告Aは,低酸素性虚血性脳症を発症したことにより,知的障害が残ったことが認められる。 争点(2)(注意義務違反の有無)について(1) 午前4時50分ころにおける注意義務違反ア本件では,午前4時50分ころ,基線細変動は保たれているが,単発的な変動一過性徐脈が生じたことが認められる。 イ上記徐脈について,原告らは,これを発見したE准看護師に,医師に対し,直ちに上申・相談すべき注意義務があるとともに,厳重な経過観察・分娩監視をすべき注意義務があると主張する。 証拠(甲B3)によれば,臍帯圧迫を原因とする変動一過性徐脈は,直ちに胎児の健康状態の悪化を意味するものではなく,それが反復して生じる場合に,胎児の健康状態の悪化が推認されることが認められる。 だとすれば,単発的な変動一過性徐脈を発見した准看護師としては,分娩監視を継続し,変動一過性徐脈が反復しないか経過観察を続ければ足りるというべきであり,直ちに医師に上申・相談する注意義務までは認められない。 本件についてこれをみると,E准看護師は,上記徐脈について,医師に上申・相談していないが,それは注意義務違反を構成するものではない。 また,E准看護師は,原告Cを陣痛室へ移し,分娩監視装置を持続的に装着させ,分娩監視を継続したことからすると,分娩監視義務を果たしているというべきである。 ウまた,原告らは,上記徐脈について, 。 また,E准看護師は,原告Cを陣痛室へ移し,分娩監視装置を持続的に装着させ,分娩監視を継続したことからすると,分娩監視義務を果たしているというべきである。 ウまた,原告らは,上記徐脈について,医師の注意義務違反をも主張しているが,同主張は准看護師による上申・相談がなされたことを前提としたものであって,同主張はその前提を欠くものである。 エ小括,。 したがって午前4時50分ころにおける注意義務違反は認められない(2) 午前6時15分ころ以降における注意義務違反ア本件では,前記2(2)エ認定のとおり,午前6時15分ころから午前7時40分ころの間のある時点において,臍帯の圧迫により変動一過性徐脈が生じ,この臍帯の圧迫が持続し,午前7時40分ころにおいては,既に遷延性徐脈が生じていたものと認められる。 イ上記徐脈について,原告らは,F准看護師に,医師に対し,直ちに上申・相談すべき注意義務があるとともに,厳重な経過観察・分娩監視をすべき注意義務があると主張する。 ,,本件では午前7時40分ころに既に遷延性徐脈へ移行していたところそれに至る前の段階として,午前6時15分ころから午前7時40分ころの間のある時点に,変動一過性徐脈が生じ,持続・反復していたというべ,,,きであるからその時点において分娩監視に当たっていたF准看護師は医師に対して上申・相談すべき注意義務があったというべきである。 本件についてこれをみると,F准看護師は,午前7時40分ころ,スピーカーから聞こえる胎児心拍音の異常に気付いたことが認められるが,上記のとおり,午前7時40分ころよりも前の時点から,変動一過性徐脈が生じ,持続・反復していたというべきであるから,F准看護師には,分娩監視義務違反が認められる。 ウ上記認定に対し,F准看護師は,午前6時15分から 7時40分ころよりも前の時点から,変動一過性徐脈が生じ,持続・反復していたというべきであるから,F准看護師には,分娩監視義務違反が認められる。 ウ上記認定に対し,F准看護師は,午前6時15分から午前7時40分ころまでの間,ナースステーションにおいて,モニター及びスピーカーから聞こえる胎児心拍音を聴取することで分娩監視を行っており,分娩監視は適正に行われていたと供述する。 しかし,F准看護師は,分娩監視と並行して,ナースステーションにおいて,午前6時30分ころから,新生児室における授乳業務に備え,調整されたミルクを温めたり,哺乳瓶に小分けする等のミルクの準備や,ナースコールの対応,ナースステーションに訪れた患者の対応にも当たっていたことが認められ,これらの別の作業に気をとられ,モニターの監視及びスピーカーから聞こえる胎児心拍音を注意深く聴取することがおろそかになっていた可能性が十分あり,記録もなされていないのであるから,上記F准看護師の供述を採用することはできない。 エ小括したがって,午前6時15分ころから午前7時40分ころの間のある時点において,F准看護師の分娩監視義務違反が認められる。 なお,原告らが主張する医師の注意義務違反については,医師が上申・相談を受けたことを前提とする主張であるから,原告らの主張はその前提を欠くものである。 争点(3)(因果関係の有無)について(1) 上記認定のとおり,午前6時15分ころから午前7時40分ころの間のある時点における分娩監視義務違反が認められるところ,前記認定の診療経過及び医学的知見に基づき,同義務違反と本件後遺障害との間の因果関係について検討する。 (2) 証拠(甲B4,6)によれば,変動一過性徐脈の持続・反復が認められたとき,母体の体位変換,母体の酸素吸入,陣痛抑制,母体アシドー ,同義務違反と本件後遺障害との間の因果関係について検討する。 (2) 証拠(甲B4,6)によれば,変動一過性徐脈の持続・反復が認められたとき,母体の体位変換,母体の酸素吸入,陣痛抑制,母体アシドーシスの補正等の処置を行った上,改善が認められない場合には,急速遂娩を行い,胎児の健康状態の維持を図ることが認められる。 本件では,午前6時15分ころから午前7時40分ころの間のある時点において,変動一過性徐脈の持続・反復が認められたとき,F准看護師により分娩監視義務が尽くされていれば,その時点で医師に対する上申がなされるとともに,上記各処置が取られることになり,より早く低酸素状態の改善またはそれに対する処置が図られることになるから,変動一過性徐脈の持続・反復が認められた時点が午前7時40分に近い時点であった場合には,何らの後遺障害も残らなかったと認めることはできないものの,実際に生じた本件後遺障害の発生を防ぐことができた高度の蓋然性は認められるというべきである。 (3)アこれに対し,被告は,原告Aに生じた脳障害の部位からすると,原告Aには,何の前兆もなく,突如として急激なprofoundasphyxiaが生じたのであり,profoundasphyxiaによる脳障害は30分以内に完成し,帝王切開の開始から娩出まで少なくとも30分間は必要となるから,本件後遺障害の発生を回避することは不可能であったと主張する。 しかし,前記2(2)認定のとおり,本件では,何の前兆もなく,突如としてprofoundasphyxiaが生じたとは認められないから,被告の上記主張は,その前提を欠くものと言わざるを得ない。 イなお,被告が,profoundasphyxiaによる脳障害は30分以内に完成す,(),ると主張する根拠はサルを用いた動物実験の結果であ 記主張は,その前提を欠くものと言わざるを得ない。 イなお,被告が,profoundasphyxiaによる脳障害は30分以内に完成す,(),ると主張する根拠はサルを用いた動物実験の結果であるところ乙B1サルに対する実験結果が直ちに人間に該当するかどうか疑問が残ることは,前記2(2)判断のとおりである。 ,。 ウしたがって被告の上記主張を直ちには採用しがたいというべきである(4) 小括以上から,分娩監視義務違反と本件後遺障害の発生との間には,相当因果関係を認めることができる。 もっとも,変動一過性徐脈の持続・反復が午前6時15分ころから午前7時40分ころの間のどの時点で発生したのかを認定できる証拠はなく,准看護師らが長時間にわたり変動一過性除脈の発生に気付かなかった可能性は低いので,午前7時40分に近い時点で変動一過性除脈が発生した可能性も十分あるといえる。そうであったとすれば,母体の体位変換,母体の酸素吸入などの処置を行い,改善が認められない場合に急速遂娩を行ったとしても,その間に一定の時間を要するので,本件よりも短時間のprofoundasphyxiaが持続したことになり,その結果,本件よりは軽度とはいえ,原告Aに一定の後遺障害が残った可能性は高いというべきである。この点は,損害額の算定において考慮すべきことである。 争点(4)(損害)についてF准看護師には分娩監視を怠った過失が認められ,被告は,F准看護師の使用者として,使用者責任に基づき,原告らに対し,同過失と相当因果関係の認められる損害を賠償すべき責任を負う。 以下,損害の範囲・額について検討する。 (1) 逸失利益原告Aは,身体障害者3級及び第1種知的障害者に該当し,第1種知的障害者に該当することをもって,労働能力を100%喪失したと認められる。 次に,原 ,損害の範囲・額について検討する。 (1) 逸失利益原告Aは,身体障害者3級及び第1種知的障害者に該当し,第1種知的障害者に該当することをもって,労働能力を100%喪失したと認められる。 次に,原告Aは,第1種知的障害者の認定を平成16年2月12日に受けたところ,1歳になった平成12年9月の時点において,第1種知的障害者に該当する障害が残ったというべきである。分娩監視義務が尽くされたとしても,一定の後遺障害が残り,労働能力に影響した可能性があることを考慮して,平成12年の賃金センサスの産業計・企業規模計による女性労働者の平均年収349万8200円の75%の金額をもって,基礎収入とするのが相当である。 また,労働能力喪失期間を49年とし,症状固定時が1歳であるから,そのライプニッツ係数は,7.927である。 以上をもとに,逸失利益を算定すると,下記の計算式のとおり,2079万7673円となる。 (計算式)3,498,200×0.75×7.927≒20,797,673(2) 介護費用前記認定の診療経過及び弁論の全趣旨に照らし,原告Aは,若干の動きは可能であるものの,基本的に介護を要する状態にあると認めることができ,,。 1歳になった平成12年9月の時点においてその状態が固定したといえるそして,原告Aの障害の程度等を考慮すると,1日あたりの介護費用は7500円とするのが相当である。 また,平成12年簡易生命表による1歳女子の平均余命は約84年であることから,1歳時から83年間をもって介護を要する期間とするのが相当であり,中間利息の控除はライプニッツ係数を使用する。 以上をもとに,介護費用を算定すると,下記の計算式のとおり,5123万4228円となる。 (計算式)7,500×365×(19.6680-0.9523)≒51,234,228(3 ツ係数を使用する。 以上をもとに,介護費用を算定すると,下記の計算式のとおり,5123万4228円となる。 (計算式)7,500×365×(19.6680-0.9523)≒51,234,228(3) 原告Aの後遺障害慰謝料原告Aは,身体障害者3級及び第1種知的障害者に該当する運動障害及び知的障害を負ったものであり,重度の障害により原告Aは,甚大な精神的苦痛を被ったと認めることができ,分娩監視義務が尽くされたとしても一定の後遺障害が残った可能性があること等本件に現れた全ての事情を考慮し,原告Aの後遺障害慰謝料として,2000万円を認めるのが相当である。 (4) 原告B及び原告Cの慰謝料原告Aに生じた本件後遺障害の内容からみて,両親固有の慰謝料請求も認められるが,分娩監視義務が尽くされたとしても一定の後遺障害が残った可能性があること等本件に現れた全ての事情を考慮し,原告B及び原告Cの慰謝料として,各150万円を認めるのが相当である。 (5) 弁護士費用原告らが本件訴訟の提起・遂行のため,弁護士である原告ら代理人に訴訟を委任したことは本件記録上明らかである。本件事案の内容,本訴の経緯等を総合すると,本件不法行為と相当因果関係のある弁護士費用の額は,原告Aについて,650万円と認め,原告B及び原告Cについて,各12万円と認めるのが相当である。 結論 以上によれば,原告Aの請求は,不法行為に基づき,9853万1901円及びこれに対する平成11年9月6日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,原告B及び原告Cの請求は,不法行為に基づき,各162万円及びこれに対する上記同様の遅延損害金の各支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余の各請求は理由がないからこれを棄却し,主文 し,原告B及び原告Cの請求は,不法行為に基づき,各162万円及びこれに対する上記同様の遅延損害金の各支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余の各請求は理由がないからこれを棄却し,主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第4部裁判長裁判官永野圧彦裁判官伊藤孝至裁判官田邊浩典は,転補のため署名押印することができない。 裁判長裁判官永野圧彦
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