令和2(行ウ)9 契約無効確認等請求事件

裁判年月日・裁判所
令和4年11月18日 佐賀地方裁判所
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判決文本文14,950 文字)

主文 1 被告は、Aに対し、4億0548万6620円を武雄市に支払うよう請求せよ。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求主文1項と同旨。 第2 事案の概要本件は、武雄市(以下「市」ともいう。)と株式会社ケーブルワン(以下「ケーブルワン」という。)との間の「武雄市防災情報発信システム構築業務」の委託契約(以下「本件契約」という。)につき、市の住民である原告らが、本件契約は地方自治法(以下「法」という。)96条1項5号又は同項8号に規定する議会の議決を経ることを要するものであったところ、市長の職にあるAは、議会の議決を経ずに違法に本件契約を締結したものであるとして、法242条の2第1項4号に基づき、被告を相手に、Aに対して損害賠償請求をすることを求める住民訴訟である。 1 関係法令の定め⑴ 法法96条1項柱書きは、普通地方公共団体の議会は、同項各号に掲げる事件を議決しなければならないと規定している。 同項5号は、「その種類及び金額について政令で定める基準に従い条例で定める契約を締結すること」を、同項8号は、「前二号に定めるものを除くほか、その種類及び金額について政令で定める基準に従い条例で定める財産の取得又は処分をすること」をそれぞれ議会の議決事項としている。 ⑵ 地方自治法施行令(以下「施行令」という。)施行令121条の2第1項及び別表第3は、法96条1項5号に規定する政令で定める基準として、契約の種類を、「工事又は製造の請負」とし、普通地方 公共団体が市(指定都市を除く。)の場合は、その金額を、予定価格の金額が1億5000万円を下らないものと定める。 施行令121条の2第2項及び別表第4は、法96条1項8号に規定する政令で定める基準として、財産の取得又 市を除く。)の場合は、その金額を、予定価格の金額が1億5000万円を下らないものと定める。 施行令121条の2第2項及び別表第4は、法96条1項8号に規定する政令で定める基準として、財産の取得又は処分の種類を、「不動産若しくは動産の買入れ若しくは売払い又は不動産の信託の受益権の買入れ若しくは売払い」とし、普通地方公共団体が市(指定都市を除く。)の場合は、その金額を、予定価格の金額が2000万円を下らないものと定める。 ⑶ 武雄市議会の議決に付すべき契約及び財産の取得又は処分に関する条例(甲3。以下「本件条例」という。)本件条例2条は、予定価格1億5000万円以上の工事又は製造の請負に当たる契約を締結することについて、議会の議決に付さなければならない旨定める。 本件条例3条は、予定価格2000万円以上の動産の買入れをすることについて、議会の議決に付さなければならない旨定める。 ⑷ 小括以上によれば、武雄市議会(以下「市議会」という。)は、予定価格1億5000万円以上の工事又は製造の請負に当たる契約を締結すること及び予定価格2000万円以上の動産の買入れをすることについて、議決しなければならない。 2 前提事実(争いのない事実並びに後掲の証拠及び弁論の全趣旨から容易に認められる事実)⑴ 当事者及び関係者(争いがない)ア原告らは、いずれも武雄市の住民である。 イ被告は、市の執行機関であり、Aは、平成27年1月11日以降、武雄市長の職にある者である。 ウケーブルワンは、ケーブルテレビ放送を業とする株式会社である。 ⑵ 予算の議決(乙13の1~3)市議会は、令和2年3月定例市議会において、防災情報発信システム構築業務委託料として2か年に分けて合計6億8690万7000円(令和2年度に ある。 ⑵ 予算の議決(乙13の1~3)市議会は、令和2年3月定例市議会において、防災情報発信システム構築業務委託料として2か年に分けて合計6億8690万7000円(令和2年度に3億3540万7000円、令和3年度の限度額3億5150万円)を予算として計上するという内容を含む市一般会計予算議案を可決した(以下「本件予算議決」という。)。 ⑶ 防災情報発信システム構築業務委託契約の締結(甲1、4、乙11)被告は、令和2年7月14日、ケーブルワンとの間で、以下の業務委託契約(本件契約)を締結した。 委託業務の名称武雄市防災情報発信システム構築業務契約の履行場所市役所地内及び市一円契約期間令和2年7月14日から令和4年3月31日まで業務委託料 5億7841万2120円内訳令和2年度 3億0930万8560円令和3年度 2億6910万3560円業務内容市内の各家庭等に設置する戸別受信機と伝達する情報を登録し、戸別受信機への発信及び防災行政無線など既存の情報発信ツールとの連携を担う防災情報発信システム本体から構成される防災情報発信システムを構築する。 業務範囲は、市役所庁舎内の4階に整備する防災情報発信システム及び市内世帯の戸別受信機設置業務とし、戸別受信機設置台数は、1万5000台とする。 通信方式は、ケーブルテレビ回線を用いた有線方式とする。 ⑷ 原告らの監査請求及び訴訟提起(甲2、乙6) 原告らは、令和2年9月30日、本件契約は法96条1項5号で求められる市議会の議決を経ずに締結された違法な契約であると主張して、本件契約の解除及び本件契約について議会の議決を行うよう勧告することを求 原告らは、令和2年9月30日、本件契約は法96条1項5号で求められる市議会の議決を経ずに締結された違法な契約であると主張して、本件契約の解除及び本件契約について議会の議決を行うよう勧告することを求める住民監査請求をした。 市監査委員は、同年11月24日、上記住民監査請求を棄却した。 原告らは、同年12月21日、本件契約の履行及び公金支出の差止めを求めて本件訴訟を提起した。 ⑸ 本件契約に基づく公金の支出及び訴えの変更被告とケーブルワンは、令和4年2月3日から同年3月25日にかけて、本件契約の戸別受信機の取得台数の変更等に伴い、業務委託料を減額する内容の3件の業務委託変更契約を締結し、本件契約の業務委託料は当初から1億7292万5500円減額され、4億0548万6620円となった。(乙29の1、30の1、30の2)ケーブルワンは、令和4年3月31日までに、変更後の本件契約に基づく業務を完了させた。市は、ケーブルワンに対し、変更後の本件契約に基づき、令和3年5月から令和4年5月までの間に、業務委託料として合計4億0548万6620円を支払った。(乙28、29の2、30の3)原告らは、上記支払を受け、令和4年7月1日、本件訴訟における請求を、前記第1の請求のとおりとする訴えの交換的変更をした。 3 争点⑴ 本件契約の締結に法96条1項所定の議決が必要か(争点1)ア本件契約は「工事の請負」(法96条1項5号、施行令121条の2第1項及び別表第3、本件条例2条)に当たるか(争点1-ア)イ本件契約は「動産の買入れ」(法96条1項8号、施行令121条の2第2項及び別表第4、本件条例3条)に当たるか(争点1-イ)⑵ 本件予算議決により、実質的に議会の議決を経たものといえるか(争点2) ⑶ 議決を経 法96条1項8号、施行令121条の2第2項及び別表第4、本件条例3条)に当たるか(争点1-イ)⑵ 本件予算議決により、実質的に議会の議決を経たものといえるか(争点2) ⑶ 議決を経ないまま本件契約を締結したことにつき、Aに故意又は過失が認められるか(争点3)⑷ 損益相殺が認められるか(争点4) 4 争点に対する当事者の主張⑴ 争点1-ア(本件契約は「工事の請負」に当たるか)(原告らの主張)本件契約は「工事の請負」に当たる。 ア法96条1項5号、施行令121条の2第1項及び別表第3、本件条例2条が、一定の規模以上の工事の請負に係る契約について議会の議決を要求する趣旨は、地方公共団体の財政において、経済的合理性及び公正性を確保し、かつ契約の民主的統制を図ることにあり、その趣旨及び文理解釈からすれば、「工事」とは建設工事に限定されるものではなく、電気工事や電気通信工事も含まれる。 イ本件契約の主要な目的は戸別受信機の設置にあり、戸別受信機設置作業は電気工事、電気通信工事に当たる。本件契約の締結時の業務委託料5億7841万2120円のうち、戸別受信機の購入及び設置作業に係る費用が約4億3700万円を占めていたことからも、本件契約は「工事の請負」に当たる。 (被告の主張)本件契約は「工事の請負」に当たらない。 ア法96条1項5号、施行令121条の2第1項及び別表第3、本件条例2条の「工事」は、制限的に解釈すべきであって、建設業法上の「建設工事」(土木建築に関する工事。建設業法2条1項)を指すと解すべきである。上記各規定は、建設工事は、類型的に予算規模が大きく、工期も長期にわたり、受注業者の資質・能力が工事の成果に直接影響すること等から、契約締結段階において、議会が契約の必要 )を指すと解すべきである。上記各規定は、建設工事は、類型的に予算規模が大きく、工期も長期にわたり、受注業者の資質・能力が工事の成果に直接影響すること等から、契約締結段階において、議会が契約の必要性や相手方の適格性の審査を行う必要性が高 いことを考慮したものである。 イ仮に、前記アの「工事」が建設業法上の「建設工事」に限られないとしても、少なくとも建設工事と同等の実質を備えた工事(工期が長期にわたり、物理的規模も大きく、受注業者の資質・能力が工事の成果に直接影響するような工事)を指すというべきであり、簡易な宅内作業などはこれに含まれない。 ウまた、前記アの「工事」の解釈如何にかかわらず、「工事の請負」とは、「工事」そのものを請負の目的とする契約をいうと解すべきである。 本件契約は、機器類の設置と防災情報等の情報処理・発信プログラムの設計、実装を目的としており、情報システムの構築という役務提供型の請負契約であるから、機器類の設置の部分が「工事」であるとしても、それは履行過程の一部に過ぎず、「工事」自体が請負の目的ではない以上、議決が必要とされる「工事の請負」には当たらない。 ⑵ 争点1-イ(本件契約は「動産の買入れ」に当たるか)(原告らの主張)本件契約は「動産の買入れ」に当たる。 ア本件契約には、契約締結当時において、総額1億2900万円で戸別受信機(1個あたり8600円)を1万5000台購入する内容が含まれている。 イ前記アは、予定価格2000万円以上の「動産の買入れ」(法96条1項8号、施行令121条の2第2項及び別表第4、本件条例3条)に当たる。 (被告の主張)本件契約は「動産の買入れ」に当たらない。 ア法96条1項8号、施行令121条の2第2項及び別表第4、本件条例3条が定める「動産の 2項及び別表第4、本件条例3条)に当たる。 (被告の主張)本件契約は「動産の買入れ」に当たらない。 ア法96条1項8号、施行令121条の2第2項及び別表第4、本件条例3条が定める「動産の買入れ」とは、地方公共団体が売買契約の主体となって直接動産を買い入れる場合をいい、本件契約はこれに該当しない。 イ仮に「動産の買入れ」が直接の売買契約に限られないとしても、本件契約 において戸別受信機の調達は情報システムの構築という請負契約の目的を達成するための履行過程の一部として行ったにすぎず、「動産の買入れ」自体が本件契約の目的ではない以上、議決が必要とされる「動産の買入れ」には当たらない。 ⑶ 争点2(本件予算議決により、実質的に議会の議決を経たものといえるか)(被告の主張)本件予算議決により、実質的に議会の議決を経たものということができる。 ア本件契約に先立って、令和2年3月定例市議会の市議会総務常任委員会において、令和2年度市一般会計予算の予算審議(以下「本件予算審議」という。)が行われた。 イ本件予算審議において、本件契約の業務委託料の総額のほか、戸別受信機の機能、機種、使用方法、本件契約の受託業者はプロポーザル方式により選定すること等につき具体的な質疑がなされた上で、本件予算議決が行われた。 ウ以上によれば、本件契約が議会により議決すべきことが認識され、かつ、その必要性・妥当性につき審査を経て議決されたものであるから、本件予算議決により実質的に議会の議決を経たものということができる。 (原告らの主張)本件予算議決により、実質的に議会の議決を経たものということはできない。 ア法96条1項5号及び8号が、普通地方公共団体が一定の契約又は財産の処分を締結することについて、予算議決とは別に議決 本件予算議決により、実質的に議会の議決を経たものということはできない。 ア法96条1項5号及び8号が、普通地方公共団体が一定の契約又は財産の処分を締結することについて、予算議決とは別に議決を必要と定める趣旨は、多額の公金の支出を伴う債務負担行為について、その適正性について議会が監視すること、住民の関心に応えること、契約の相手方となる業者の適格性を検査し、問題が起こることを未然に防止して公正な市政運営と担保することにある。 イその趣旨からすれば、予算議決が議決を代替することができる場合とは、議決ができる程度に具体的な情報が議会に提供された上で、議会で審議され ることを必要とする。 請負契約の締結について議決ができる程度に具体的な情報が提供されたというためには、議会に対し、少なくとも、工事内容、代金、請負業者の情報が提供されていることが必要である。 ウ本件では、戸別受信機が有線方式か無線方式かにより工事内容やメリット・デメリットが異なるため、市が有線方式を導入するのであれば、無線方式ではなく有線方式を導入する理由を具体的に説明する必要があったが、その説明は行われていない。 ⑷ 争点3(議決を経ずに本件契約を締結したことにつき、Aに故意又は過失が認められるか)(原告らの主張)Aは、本件契約の締結に議決が必要であるにもかかわらず、議決を経ずに本件契約を締結したことについて、故意又は過失がある。 (被告の主張)Aは、令和元年12月定例市議会以降、市及び議会が戸別受信機取得・設置に向けて議論を進め、令和2年3月定例市議会において、法96条1項に係る議決審議の場合と同視できる程度の審議がされて本件予算議決がされたと認識して、本件契約を締結したため、故意又は過失は認められない。 ⑸ 争 め、令和2年3月定例市議会において、法96条1項に係る議決審議の場合と同視できる程度の審議がされて本件予算議決がされたと認識して、本件契約を締結したため、故意又は過失は認められない。 ⑸ 争点4(損益相殺が認められるか)(被告の主張)仮に被告の本件契約の締結が違法であり、契約に基づく公金支出によって市に支出額相当の損害が生じたとしても、市は、契約上対価関係にある役務の提供を受けており、損害と同一の原因により利益を得ているから、損益相殺がされるべきであり、市には損害がない。 (原告らの主張)損益相殺は認められない。 ア有線方式の戸別受信機は、床上浸水が想定される豪雨災害では、住宅の二階に避難する際に個別受信機を持って移動することができず無益であるから、市は利益を得ていない。 イ本件契約の締結は、議会の議決も、これに代わる審議、議決も存在せずにされたものであり、無線方式と有線方式によって契約内容もその機能面の違いも多く存在し、議員の多くは本件契約とは逆に無線方式を導入するものと考えていたことからすれば、本件契約による利益が仮にあったとしても、違法な支出による損失と相当因果関係があるものではない。 ウ安易に損益相殺を認めることは、法96条の趣旨を没却するため妥当でない。 第3 当裁判所の判断 1 認定事実前提事実、後掲の証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。 ⑴ 令和元年12月定例市議会令和元年8月28日の豪雨により、市において、死者3名、家屋の床上・床下浸水1500件を超える大きな被害が生じた。市では当時、防災行政無線が整備されていたほか、市の9町のうち3町では、無線方式の戸別受信機が導入されていたものの、残り6町では導入されていなかった。令和元年12月 00件を超える大きな被害が生じた。市では当時、防災行政無線が整備されていたほか、市の9町のうち3町では、無線方式の戸別受信機が導入されていたものの、残り6町では導入されていなかった。令和元年12月定例市議会において、防災行政無線では、豪雨の雨音で防災無線が聞こえにくくなるという問題点が指摘され、複数の議員から、市の全戸に戸別受信機を設置すべきだという意見、要望が述べられた。(甲26、乙19、証人B)⑵ 市の予算案作成市は、令和2年1月、「武雄市創造的復興プラン」を策定し、「災害に強いまちの創造」プランとして、「防災アプリの構築」とともに「市内全戸への戸別受信機設置」を掲げた概要を市公式ホームページに掲載した。(乙20)市は令和元年12月から令和2年1月にかけて、令和2年度予算案作成の参 考にするため、ケーブルワンを含めた3社から防災情報発信システム構築業務の見積書の提出を受けた。市は、3社のうちから、ケーブルワンの見積金額6億8690万6000円を基に、防災情報発信システム構築業務委託料として6億8690万7000円を計上した予算案を作成した。(前提事実⑵、甲71、乙22)⑶ 令和2年3月定例市議会における本件予算審議及び本件予算議決令和2年3月11日及び同月12日に市議会総務常任委員会が開催され、第24号議案として、本件予算審議が行われた。(乙13の4)その際、委員に配布された予算書(乙13の1)及び予算説明書(乙13の2)には、災害対策費の項目中、防災情報発信システム構築業務委託料として令和2年度に3億3540万7000円、令和3年度に3億5150万円の合計6億8690万7000円が計上されていたものの、システムの内容や契約の相手方に関する資料は配布されなかった。(証人B)本件予算審議において、市の担当 000円、令和3年度に3億5150万円の合計6億8690万7000円が計上されていたものの、システムの内容や契約の相手方に関する資料は配布されなかった。(証人B)本件予算審議において、市の担当者は、防災情報発信システム構築業務について、上記予算額を説明した上、委員からの質問に対して、全世帯の80%が戸別受信機を設置する前提で予算を計上していること、防災情報の発信方法は、市庁舎の放送室から、直接話して放送する又はパソコンに打ち込んで電子放送で戸別受信機に発信することを予定していること、緊急時であれば音量をゼロにしておいても最大音量で放送が流れること、町や区単位での放送又は各公民館からの放送が可能であることなどを説明した。また、市の担当者は、委員からの戸別受信機を2階に持ち運びできるかとの質問に対して、今後プロポーザル方式で業者を選定するため、戸別受信機の性能や通信方式(無線方式か有線方式か)はまだ決まっておらず、本件予算審議後に機種を選定して仮契約を行い、令和2年6月の議会で承認を得る予定であることなどを説明した。また、委員からの質問の中には、導入する戸別受信機が無線方式であるとの理解を前提に、既存の戸別受信機の周波数との兼ね合いを問うものもあった。(乙13 の4)同月12日、同委員会において、第24号議案は全会一致で可決され(乙13の4)、その後、同月中に行われた市議会本会議においても、同議案は可決された。(乙13の3。本件予算議決)⑷ 本件契約の締結等市は、令和2年4月20日、プロポーザル方式で業者の公募を開始し、ケーブルワンのほか1社が応募した。市は、本件契約の締結につき議会の議決を要するか否かについて再検討し、弁護士である被告訴訟代理人と協議し、その意見を徴するなどした上、同年5月21日、本件契約を 、ケーブルワンのほか1社が応募した。市は、本件契約の締結につき議会の議決を要するか否かについて再検討し、弁護士である被告訴訟代理人と協議し、その意見を徴するなどした上、同年5月21日、本件契約を議会の議決に付さないこととし、同月28日、優先交渉権者としてケーブルワンを決定した。(甲18、65)被告は、令和2年7月14日、ケーブルワンとの間で本件契約を締結した。 業務委託料の内訳は以下のとおりである。(甲13)告知放送システム2100万円情報伝達システム900万円端末費(1万5000台)1億2900万円引込工事費(1642件)8144万3200円宅内工事費(1万3358件)2億2708万6000円諸経費5830万円消費税5258万2920円合計金額5億7841万2120円本件契約は、市内の各家庭等に戸別受信機を設置することと、伝達する情報を登録し、戸別受信機への発信及び防災行政無線など既存の情報発信ツールとの連携を担う防災情報発信システム本体の構築することの主に2点を内容とするものである。各家庭等に設置される戸別受信機の所有権は市に帰属する。 通信方式は、ケーブルテレビ回線を利用した有線方式であるため、各家庭等に 戸別受信機を設置する際は、ケーブルテレビに既に加入している場合は、宅内のテレビ配線に分配器をとりつけて分配した上で戸別受信機をつなげる作業が必要であり、テレビの近くに設置する場合の設置作業は30分から1時間程度を要し、ケーブルテレビ未加入の場合は、電柱からケーブルを宅内に配線した上で、戸別受信機をつなげる作業が必要であり、設置作業は1時間30分程度を要する。(乙5)本件契約で引用する仕様書には、本件契約は、議会の議決を要するため、議会の承認を得 ーブルを宅内に配線した上で、戸別受信機をつなげる作業が必要であり、設置作業は1時間30分程度を要する。(乙5)本件契約で引用する仕様書には、本件契約は、議会の議決を要するため、議会の承認を得られない場合は本契約として成立しない旨が記載されていた。 (甲4、64)⑸ 令和2年9月定例市議会の状況(甲59)市は、その後、令和2年6月定例市議会においても、同年7月30日の臨時市議会においても、本件契約の締結についての議案を提出しなかった。ケーブルワンは、本件契約の履行に着手し、同年8月末、戸別受信機の設置が始まったことが報道された。(甲59、62、70、証人B)令和2年9月定例市議会の一般質問では、複数の議員が本件契約を取り上げ、本件契約は、法96条1項5号及び8号により、議会の議決が必要であり、市が議会の議決を経ずに契約を進めたことを非難する意見や、無線方式であると思っていたのに、どうして有線方式になったのか、有線方式には断線のリスクや、戸別受信機を1階に設置した場合に2階に持ち運びできない等のデメリットがあるため、無線方式とすべきである等の意見、全国的には有線方式はあまりなく、ほとんど無線方式が採用されている旨の意見が述べられた。これに対し、市の担当者は、議会への説明不足があったとして謝罪した。(甲59~62、73、74)⑹ 防災情報発信システムの種類と特徴一般に、防災情報発信システムの通信方式には、有線方式と無線方式があり、無線方式には、持ち運びができるという長所がある一方、場所や状況によって 音声が届かない、途切れる可能性が否定できないという短所もある。これに対し、有線方式には、回線が確保されている限りは、安定的な音質が確保される長所がある一方、持ち運びができない、断線の場合に音声が届 音声が届かない、途切れる可能性が否定できないという短所もある。これに対し、有線方式には、回線が確保されている限りは、安定的な音質が確保される長所がある一方、持ち運びができない、断線の場合に音声が届かないという短所がある。(甲18)⑺ 他の地方公共団体の状況ア白石町(佐賀県)は、平成28年10月、ケーブルワン白石営業所との間で、白石町緊急放送端末機設置工事の請負契約を1億2798万円で締結するに際し、白石町議会の議決に付すべき契約及び財産の取得又は処分に関する条例2条の規定により、議会の議決が必要であるとして、議会の議決に付した。(甲5~7)イ嬉野市(佐賀県)は、平成24年9月、日本無線株式会社佐賀営業所との間で、嬉野市防災行政無線施設整備工事の請負契約を5億6700万円で締結するに際し、法96条1項5号及び嬉野市議会の議決に付すべき契約及び財産の取得又は処分に関する条例2条の規定により、議会の議決が必要であるとして、議会の議決に付した。(甲8、9)ウ鹿島市(佐賀県)は、平成27年7月、株式会社水城電気との間で、鹿島市防災情報伝達システム整備工事の請負契約を3億6482万4000円で締結するに際し、議会の議決に付すべき契約及び財産の取得又は処分に関する条例2条の規定により、議会の議決が必要であるとして、議会の議決に付した。(甲10~12) 2 争点1(本件契約の締結に法96条1項所定の議決が必要か)について⑴ 争点1-ア(本件契約は「工事」の請負に当たるか)についてア法96条1項5号が議会の議決を要求している趣旨は、政令等で定める種類及び金額の契約を締結することは普通地方公共団体にとって重要な経済行為に当たるものであるから、これに関しては住民の利益を保障するとともに、これらの事務の処理が住民の代表の意 旨は、政令等で定める種類及び金額の契約を締結することは普通地方公共団体にとって重要な経済行為に当たるものであるから、これに関しては住民の利益を保障するとともに、これらの事務の処理が住民の代表の意思に基づいて適正に行われること を期することにあるものと解される。 イ施行令121条の2第1項は、議決を要する種類の契約を「工事又は製造の請負」と定めるところ、前記アの法の趣旨に照らせば、「工事」とは建設工事(あるいは建設工事の実質を備えた工事)のみに限定されるべきではない。 本件契約において、戸別受信機の設置作業は、各家庭等に設置する際は、各ケーブルテレビ回線を分配する作業や、ケーブルテレビ回線を宅内に配線する作業を要するものであり(認定事実⑷)、その作業内容からすれば「工事」に当たる。また、戸別受信機の設置作業は、防災情報発信システム本体の構築と併せて本件契約の主要な内容を構成し、戸別受信機の設置件数も契約時の見積もりで合計1万5000件に上り、その設置に要する費用のみでも3億円を超えること(認定事実⑷)からすると、本件契約のうち戸別受信機の設置作業が付随的なものに過ぎないとはいえない。 そうすると、本件契約は、法96条1項5号、施行令121条の2第1項及び別表第3、本件条例2条の「工事の請負」に当たり、契約を締結する際に、議会の議決を要するというべきである。 ⑵ 争点1-イ(本件契約は「動産の買入れ」に当たるか)についてア法96条1項8号が議会の議決を要するとする趣旨は、前記⑴アと同様、政令等で定める種類及び金額の財産の取得又は処分をすることは普通地方公共団体にとって重要な経済行為に当たるものであるから、これに関しては住民の利益を保障するとともに、これらの事務の処理が住民の代表の意思に基づいて適正に行われること 取得又は処分をすることは普通地方公共団体にとって重要な経済行為に当たるものであるから、これに関しては住民の利益を保障するとともに、これらの事務の処理が住民の代表の意思に基づいて適正に行われることを期することにあるものと解される。 イ本件契約には、総額1億2900万円で戸別受信機(1個あたり8600円)を1万5000台購入する内容が含まれており(認定事実⑷)、これが「動産の買入れ」に当たることは明らかである。 ウこれに対し、被告は、「動産の買入れ」とは、単純な売買契約に限られると主張するが、動産の買入れが契約の一部分であるとしても、動産の買入れに ついて、議決が必要とされる要件を満たすのであれば、前記アの法の趣旨が及ぶというべきである。したがって、被告の上記主張は採用できない。 また、被告は、本件契約において戸別受信機の調達は情報システムの構築という請負契約の目的を達成するための履行過程の一部として行ったとも主張する。しかし、結局のところ戸別受信機を購入すること自体に変わりはなく、法96条1項8号の適用を否定すべき理由とはならない。したがって、被告の上記主張も採用できない。 ⑶ 小括以上によれば、本件契約は、予定価格1億5000万円以上の「工事の請負」に当たり、また、戸別受信機の取得の点においても、予定価格2000万円以上の「動産の買入れ」に当たるため、いずれにしても、議会の議決を経ることを要する。 3 争点2(本件予算議決により実質的に議会の議決を経たものといえるか)について⑴ 前記2のとおり、法96条1項5号及び8号の趣旨は、契約の締結や財産の取得又は処分のうち、一定の重要な種類及び金額のものについては、普通地方公共団体にとって重要な経済行為に当たるものであるから、これ 前記2のとおり、法96条1項5号及び8号の趣旨は、契約の締結や財産の取得又は処分のうち、一定の重要な種類及び金額のものについては、普通地方公共団体にとって重要な経済行為に当たるものであるから、これに関しては住民の利益を保障するとともに、これらの事務の処理が住民の代表の意思に基づいて適正に行われることを期することにあるものと解される。 そして、政令等で定める契約の締結や財産の取得又は処分が、その性質としては予算の執行行為であるにもかかわらず、法96条1項2号に規定する予算の議決とは別に、同項5号又は8号において、議会の議決を要する事件として掲げられていることからすれば、法は、本来同項5号又は8号の規定に基づく議決は、予算の議決とは別個の議案について行われることを予定しているものと解され、そのような形で議決が行われることが望ましいというべきである。 ⑵ しかしながら、独立した議案が提出・議決されない場合であっても、当該契 約に係る歳出項目などが計上された予算の審議において、当該契約の締結の適否につき議決することが認識され、当該契約を締結する必要性及び妥当性についての審査を経て議決がされるのであれば、前記⑴の法の趣旨は満たされるということができる。 ⑶ これを本件についてみると、前記のとおり、令和元年12月定例市議会以降、戸別受信機を市全戸に設置することが必要であるとの意見が述べられていたところ(認定事実⑴)、① 本件予算審議において、市の担当者は、防災情報発信システム構築業務について、業務委託料の予算額を説明した上、委員からの質問に対して、市内全世帯の80%が戸別受信機を設置する前提で予算を計上していることや、防災情報発信システムの概要を説明したにとどまり(認定事実⑶)、防災情報発信システムの無線方式及び有線方式のそれぞれの特徴 て、市内全世帯の80%が戸別受信機を設置する前提で予算を計上していることや、防災情報発信システムの概要を説明したにとどまり(認定事実⑶)、防災情報発信システムの無線方式及び有線方式のそれぞれの特徴についての説明はされなかったこと、② 市の担当者が、今後プロポーザル方式で業者を選定するため、戸別受信機の性能や通信方式(無線方式か有線方式か)はまだ決まっていない旨説明しているとおり(認定事実⑶)、通信方式も含めた契約の内容、契約金額、契約の相手方についても未定であったこと、③ 市の担当者は、委員に対し、本件予算審議後に機種を選定して仮契約を行い、令和2年6月の議会で承認を得る予定であると説明していたこと(認定事実⑶)、以上の各事実からすれば、その場に出席した委員は、契約の具体的な内容は、令和2年6月の議会で議案として提出され、議論を経て議決されるものと認識していたものと認められる。 ⑷ 以上によれば、本件予算審議は、令和2年6月の議会で議決を行うことを前提に、その準備として大枠の予算を通すために行われたものにすぎないというべきであり、本件予算審議において、本件契約の締結の適否につき議決することが認識されていたということはできない。 したがって、本件予算議決により、実質的に法96条1項5号及び8号の要求する議会の議決を経たということはできない。 4 争点3(議決を経ないまま本件契約を締結したことにつき、Aに故意又は過失が認められるか)について⑴ 前記のとおり、本件予算審議において市の担当者が令和2年6月の議会で承認を得る予定である旨述べていたこと(認定事実⑶)及び本件契約の仕様書に本件契約は議会の議決を要するため、議会の承認が得られない場合は本契約として成立しない旨が記載されていたこと(認定事実⑷)を踏まえれば、Aは、 る旨述べていたこと(認定事実⑶)及び本件契約の仕様書に本件契約は議会の議決を要するため、議会の承認が得られない場合は本契約として成立しない旨が記載されていたこと(認定事実⑷)を踏まえれば、Aは、本件契約の締結につき法96条1項等により議会の議決が必要であることを認識することができたにもかかわらず、議決を経ずに本件契約を締結したものと認められる。 ⑵ 以上によれば、Aが本件契約の締結につき議会の議決を要するか否かにつき被告訴訟代理人の意見を徴したこと(認定事実⑷)を考慮しても、Aには議決を経ずに本件契約を締結したことについて、過失があると認められる。 5 争点4(損益相殺が認められるか)について⑴ 前記1~4のとおり、Aには、法96条1項5号及び8号に反して議決を経ずに本件契約を締結したことにつき、過失による不法行為が成立するところ、本件契約に基づいてされた公金支出の額は、上記不法行為と相当因果関係のある損害と認められる。 ⑵ これに対し、被告は、ケーブルワンが本件契約(変更後のもの)に基づく業務を完了させたこと(前提事実⑸)により、市には利益があるとして損益相殺を主張する。 しかし、前記のとおり、有線方式では、豪雨災害による浸水被害から逃れるために住宅の2階に避難する際に、戸別受信機を持ち運びできないという短所があるなど、無線方式と有線方式では、防災情報発信システムの在り方が大きく異なり(認定事実⑹)、これに伴って契約内容(契約の相手方、戸別受信機の設置工事の有無、契約金額等)も大きく異なり得るものである。そして、本件契約以前に市内の3町において導入されていた戸別受信機は無線方式であっ たこと(認定事実⑴)、令和2年3月の本件予算審議においても、戸別受信機が無線方式であることを前提とした質問がされたり、2階への 前に市内の3町において導入されていた戸別受信機は無線方式であっ たこと(認定事実⑴)、令和2年3月の本件予算審議においても、戸別受信機が無線方式であることを前提とした質問がされたり、2階への持ち運びの可否が問われたりしていること(認定事実⑶)、本件契約が締結された後の令和2年9月の議会においても、議員から無線方式を導入すべきとの意見が出ていたこと(認定事実⑸)からすれば、仮に本件契約を締結する時点において、本件契約の締結について議案が提出されていれば、戸別受信機の通信方式は有線方式ではなく無線方式にすべきとして本件契約の締結に係る議案が否決され、その結果として、本件で実際に構築された有線方式の防災情報発信システムとは異なる無線方式の防災情報発信システムが構築された可能性も相当程度あったというべきである。そうすると、本件契約によって、有線方式の防災情報発信システムが構築されたことにつき、市に利得が生じているということはできない。 ⑶ 以上のとおり、本件契約によって市に利益が生じているということはできないので、損益相殺を行うことはできない。 6 小括以上によれば、原告らの法242条の2第1項4号に基づく本件請求は理由がある。 第4 結論よって、主文のとおり判決する。 佐賀地方裁判所民事部 裁判長裁判官三井教匡 裁判官水野麻子 裁判官神尾元樹

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