主文 被告人を懲役4年に処する。 未決勾留日数中140日をその刑に算入する。 理由 (犯行に至る経緯)被告人は,平成9年に結婚し,長女をもうけ,食品加工会社でアルバイトとして働きながら,妻子を養っていたが,次第に,夫婦関係が行き詰まるようになり,離婚を考えていたところ,平成13年10月ころ,同じ職場に入社したA女と知り合い,同女にも2回の離婚歴があり,当時は,前夫との間の子である長男Bと二男Cと暮らしていることを知って,自分の離婚の相談をするうちに親密になり,交際するようになった。被告人は,平成14年1月,妻と離婚し,同年2月11日から,住所地で,A,B,Cと一緒に暮らすようになった。しかし,Bはそれほどではないものの,Cは,Bに比べてまだ幼く,わがままで,被告人の言うことをなかなか聞こうとしないことから,被告人は,程なくして,しつけの目的で,Cに対して,食事の挨拶の声が小さいことや,寝相が悪いことを理由に,暴力を振るうようになり,また,着替えが遅いと言って,食事をさせないといったことを繰り返すようになったことから,かえって,Cは,被告人を恐れて,懐こうとしなかった。被告人,,,,はCが自分に一向に懐かないことで益々Cに対する苛立ちや嫌悪感を募らせ同年3月ころからは,Cに暴力を加えることが多くなった。被告人は,Cを入浴させたりもしていたが,洗髪の際に嫌がるのも構わず,Cの頭からお湯をかけたり,足が届かない浴槽へ上がり下りをさせて,Cが洗い場に落ちるなどし,元々,引きつけを起こしやすい体質であったCは,被告人に対する恐怖心が一因とも思われる引きつけを起こすようになり,同月上旬ころには引きつけを起こしたCが救急車で病院に搬送されたこともあった。このためAは,できるだけ被告人にCの入浴を任せないようにするとともに,Cの頭部 とも思われる引きつけを起こすようになり,同月上旬ころには引きつけを起こしたCが救急車で病院に搬送されたこともあった。このためAは,できるだけ被告人にCの入浴を任せないようにするとともに,Cの頭部を叩かないように再三にわたって注意していたが,被告人は構わずCに対する暴力を続けていた。同月下旬ころには,Cが布団から出て寝ていることに腹を立てた被告人が,Cの顔面を叩いたり,Cの寝付きが悪いといって,Cの頭に毛布を掛けて,物差しで額を叩いたことがあり,Cの顔や額にあざができていることに気付いた保育園の先生らからは,被告人がCに暴力を振るっているのではないかと心配されてもいた。 被告人とAらは,同月29日午後8時過ぎに被告人が帰宅した後,4人で食事をし,Aが,先にBを風呂に入れ,2日ほど前から風邪のため熱が出ていて,風呂に入れずにいたCのことは,Aが入浴後に体を拭いてやる予定になっていたが,被告人が,自分が入浴する際に浴室内でCの体を拭いてやると言い出したため,被告人がCを入浴させることに反対していたAはこれを断わったものの,かえって被告人を苛立たせ,結局,被告人がCの体を拭いてやることになってしまった。そこで,AとBは,先に入浴したが,残されたCは被告人のことを嫌がって,ぐずり始め,このことに腹を立てた被告人は,Cを怒鳴りつけた上,電気を消して暗くした子供部屋でCを一人で正座させていた。その後,被告人が浴室でCの体を拭く段になったが,その際,Aから頭だけは洗わないで欲しいと言われたことから,被告人は,Aが自分のことを信用していないと感じて,Aにも腹立ちを覚え,口論となり,さ,,,らに一度は脱衣場まで来ていたCも子供部屋に行ってしまい浴室から呼んでも嫌がって一向に来ようとしなかったことから,怒り極まって,被告人は,日頃から自分を嫌悪し, ちを覚え,口論となり,さ,,,らに一度は脱衣場まで来ていたCも子供部屋に行ってしまい浴室から呼んでも嫌がって一向に来ようとしなかったことから,怒り極まって,被告人は,日頃から自分を嫌悪し,今もまた自分の言うことを全く聞こうとしないCに対して憎悪し,力づくでも言うことを聞かせるしかないと考えて,小走りに浴室から子供部屋に向かった。 (罪となるべき事実)被告人は,平成14年3月29日午後10時30分ころ,岡山市ab番地のc所在のD棟e号室被告人方において,内妻Aの二男C(当時2歳)が自分の言い付けを聞かないことなどに立腹し,子供部屋で,浴室から小走りにやってきた被告人の姿に驚いて,座った状態から立ち上がったCに対して「早ようせえ」と怒鳴り,。 ながら,Cの頭上に足を振り上げ,そのまま,Cの頭部に向けて,勢いよく,垂直に足のかかとを振り下ろす,いわゆるかかと落としの方法で,Cの頭頂部付近を1回蹴り付け,さらに,蹴り付けられた衝撃で,その場にうつぶせとなった状態から体を起こそうとしていたCの後頭部を同様の方法により,立て続けに2回蹴り付ける暴行を加え,よって,同人に頭部打撲に基づく脳幹損傷,硬膜下血腫等の傷害を負わせ,同年4月26日午後10時39分ころ,同市fg丁目h番i号所在の総合病院E病院において,同人を上記傷害により死亡させたものである。 (法令の適用)被告人の判示所為は刑法205条に該当するので,その所定刑期の範囲内で被告人を懲役4年に処し,同法21条を適用して未決勾留日数中140日をその刑に算入し,訴訟費用は,刑事訴訟法181条1項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。 (量刑の理由)本件は,被告人が,内妻の連れ子である当時2歳の男児に対し,暴行を加え,死亡させたという事案である。 被告人は,もともと被害者の 項ただし書を適用して被告人に負担させないこととする。 (量刑の理由)本件は,被告人が,内妻の連れ子である当時2歳の男児に対し,暴行を加え,死亡させたという事案である。 被告人は,もともと被害者のCに対するしつけという目的から暴行を加えたりしていたが,やがて,なかなか被告人に懐かず,被告人のことを嫌悪して,言うことを聞こうとしないCに対し,苛立ちや憎悪の念を募らせ,しつけ名目で勝手気ままな暴力を振るっていたものであり,本件も,Cが言うことを聞かないことや,その母親であるAの言動に対する憤りの念を,激情の赴くままに,いたいけな2歳の幼児に対してぶつけたものにすぎず,犯行に至る経緯や動機は短絡的で酌量の余地はない。 ,,,被告人はこれまでにもAからCの頭を叩かないよう再三注意されていたのにあろうことか本件では,Cの頭部に対し,振り上げた足を力任せに振り下ろしてかかとで蹴り付けるという蛮行(いわゆるかかと落とし)に及び,しかも立て続けに3回も蹴り付けたものであって,そこには,いまだ自分の意思や気持ちを言葉で十分表現することもできない弱者である2歳の幼児に対する配慮など微塵も看て取ることはできず,犯行態様は,まことに悪質である。 Cは,本件暴行に起因する脳幹損傷等のため,本件暴行の直後に心停止や呼吸停止を起こし,意識不明となって倒れ,ただの一瞬も意識を回復することなく,そのまま約1か月後に死亡したもので,その結果は重大である。Cは,両親が離婚した後,実母であるAに引き取られ,Aが被告人と同棲し始めたことから,Cにとっては「怖いおじさん」でしかない被告人との生活に否応なしに巻き込まれ,その直後からしつけと称して日常的に暴力を振るわれるようになり,恐怖と苦痛のうちに過ごしたあげく,幼くしてこの世を去らねばならなかったものであって,哀れの一語 被告人との生活に否応なしに巻き込まれ,その直後からしつけと称して日常的に暴力を振るわれるようになり,恐怖と苦痛のうちに過ごしたあげく,幼くしてこの世を去らねばならなかったものであって,哀れの一語に尽きる。Aは,被告人がCに暴力を振るうことなどから,被告人と別れることも考えつつも,経済的な事情から思うにまかせないうちに,結局,最悪の事態を招いたものであるが,実の子が目の前でかくも無惨な暴力の犠牲となった衝撃は計り知れず,実際Aは,被告人と決別することを前提として厳罰を求めており,処罰感情は峻烈である。Cの祖母にとっても,突然,最愛の孫を奪われた悲しみは深く,同様に厳しい処罰を求めている。また,残されたBにとっても,寝食を共にしていた兄弟を亡くした衝撃は大きいと思われる。被告人からCの遺族に対しては,金銭的な慰謝の措置は全く取られておらず,被告人の経済状態等からは今後もその見込みは薄い。 さらには,被告人は,犯行直後,Cが意識不明となって失禁し,Aが必死で介抱している状況にもかかわらず,放っておいたらすぐに直るなどと無責任に振る舞った上,当初は,手拳で殴打したため被害者の容態が悪くなったなどと虚偽の説明をし,逮捕後,内妻に説得されてようやく本当のことを供述するに至ったもので,犯行後の事情も悪い。 加えて,児童虐待と目される事件が頻発し,大きな社会問題となっている今日において,本件が地域社会に与えた影響も看過できないものがある。 したがって,被告人の刑事責任は相当重いから,他方で,被告人は,本件暴行の,,,時点ではもとより被害者を死亡させることまでは意図しておらずその意味では本件の結果は,客観的に見れば,当然予想されたはずの事態とはいえ,被告人にとっても不幸な出来事であったこと,被告人は,犯行を認め,幼い被害者を死亡させたことを反省, までは意図しておらずその意味では本件の結果は,客観的に見れば,当然予想されたはずの事態とはいえ,被告人にとっても不幸な出来事であったこと,被告人は,犯行を認め,幼い被害者を死亡させたことを反省,悔悟しており,反省文も書いていること,被告人は,当時は,定職に就いて真面目に働いていたが,本件が原因となり,勤務先を解雇された上,本件が新聞等でも大きく取り上げられたことにより,被告人やその親族は相応の社会的制裁を受けていること,被告人は,中学生の時,父親を亡くした上,母親が難病となったことが原因で,高校を中退せざるを得なくなるなど,生い立ちには不幸な面,,,,があり現在も難病を抱え生活保護を受けながら生活している母親のためにも被告人の社会復帰が望まれること,前科前歴はないことなど被告人にとって有利に斟酌すべき事情を最大限考慮しても,被告人を主文の程度の実刑に処することはやむを得ないものと思料される。 よって,主文のとおり判決する。 (求刑懲役5年)平成14年11月8日岡山地方裁判所第1刑事部裁判長裁判官西田真基裁判官金子隆雄裁判官太田寅彦
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