令和6年2月9日判決言渡同日原本交付裁判所書記官令和5年(ネ)第1657号実験装置使用差止等請求控訴事件(原審大阪地方裁判所令和2年(ワ)第12387号)口頭弁論終結日令和5年10月17日判決 控訴人(一審原告) P1(以下「控訴人P1」という。) 控訴人(一審原告)P2(以下「控訴人P2」という。)上記両名訴訟代理人弁護士川村和久同藤岡亮 被控訴人(一審被告)大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構同訴訟代理人弁護士小林哲也同小林理英子同本田耕一 主文 1 控訴人らの本件控訴をいずれも棄却する。 2 控訴費用は控訴人らの負担とする。 事実及び理由 第1 請求 1 原判決を次のとおり変更する。 2 被控訴人は、原判決別紙物件目録記載1ないし3の実験装置を、研究のために使用し、又は第三者に開示、使用させてはならない。 3 被控訴人は、控訴人らに対し、本件物件を引き渡せ。 4 被控訴人は、控訴人ら各自に対し、それぞれ2500万円及びこれに対する令和3年3月20日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 5 訴訟費用は、第1、2審とも被控訴人の負担とする。 6 仮執行宣言 第2 事案の概要以下で使用する略称は、特に断らない限り、原判決の例による。 1 本件は、被控訴人所属の研究者として、振興会の科学研究費助成事業により交付される科研費を用いてするUCN(超冷中性子)の研究に従事していた控訴人 は、特に断らない限り、原判決の例による。 1 本件は、被控訴人所属の研究者として、振興会の科学研究費助成事業により交 付される科研費を用いてするUCN(超冷中性子)の研究に従事していた控訴人らが、同研究において製作し、被控訴人に寄付された本件物件の取扱いを巡り、次のとおりの請求をした事案である((1)アの請求と(2)アの請求の関係、及び(1)イの請求と(2)イの請求の関係は、いずれも選択的である。)。 (1) 振興会による科研費交付決定に伴い成立する、科研費を得てする補助事業と しての研究に従事する控訴人らと被控訴人及び振興会との間の契約(以下「本件科研費契約」という。)に附随して被控訴人が控訴人らに対して秘密保持義務を負うことを前提とする次の各請求ア同義務の履行請求としての本件物件の使用等の差止請求及び同各物件の引渡請求 イ同義務の債務不履行を理由とする損害賠償請求(2) 被控訴人による本件物件を使用等する行為が、控訴人らが本件物件について有する営業秘密についての不正競争防止法(不競法)2条1項7号の不正競争に該当することを理由とする次の各請求ア同法3条に基づく本件物件の使用等の差止請求及び同各物件の引渡請求 イ同法4条に基づく損害賠償請求 (3) 被控訴人が控訴人らの意に反して本件物件を使用等したことを理由とする人格権等の侵害を理由とする次の各請求ア本件物件の使用等の差止請求及び同各物件の引渡請求イ不法行為に基づく損害賠償請求 2 原審は、控訴人らの主張する営業秘密が特定されていないから請求(訴訟物)は 特定されておらず本件訴えが不適法であるとする被控訴人の本案前の申立てに対し、本件差止め等の対象は本件物件であり、控訴人らの請求(訴訟物)に関する限り不明確 定されていないから請求(訴訟物)は 特定されておらず本件訴えが不適法であるとする被控訴人の本案前の申立てに対し、本件差止め等の対象は本件物件であり、控訴人らの請求(訴訟物)に関する限り不明確とまではいえないとして、これを採用せず、控訴人らの各請求につき、いずれも理由がないとして棄却したところ、これを不服とする控訴人らが本件控訴を提起した。なお、控訴人らは、損害賠償請求について、各自に対し2500 万円(主張する損害額合計の2分の1の合計額)合計5000万円の支払を求める限度で不服を申し立てた。 他方、被控訴人は、訴えが不適法であるとする本案前の答弁を、当審において、上記1(2)アの請求(以下「不競法に基づく差止等請求」という。)に係る訴えに対するものに限定した。 3 前提事実は、次のとおり補正するほか、原判決「事実及び理由」欄第2の2(原判決2頁19行目から5頁12行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。 (1) 原判決3頁4行目の「准教授である」を「准教授の地位にあった者であるが、令和4年3月に退職した」に改める。 (2) 原判決3頁5行目冒頭から同頁7行目末尾までを次のとおり改める。 「控訴人P1は、被控訴人所属の研究者であった当時、同所属の研究者として、振興会の科学研究費助成事業により交付される科研費を用いてするUCNの研究に研究代表者として従事し、控訴人P2は、同研究に研究分担者として参加していた。」 (3) 原判決3頁17行目の「科研費等」の後に「(補助事業期間を平成12年から 平成14年までとする科研費基盤研究Aに係るもの)」を加える。 (4) 原判決3頁19行目の「その」から同頁23行目の末尾までを「その主な構成は原判決別紙物件目録添付の模式図1のとおりである 平成14年までとする科研費基盤研究Aに係るもの)」を加える。 (4) 原判決3頁19行目の「その」から同頁23行目の末尾までを「その主な構成は原判決別紙物件目録添付の模式図1のとおりである(原判決別紙物件目録添付の写真1-1ないし1-3の白い線で囲まれた部分及び同1-4参照))。 (5) 原判決4頁1行目の「科研費等」の後に「(補助事業期間を平成21年から平 成25年までとする科研費基盤研究Sに係るもの)」を加える。 (6) 原判決4頁6行目の「構成されるものであり」から同頁8行目末尾までを「構成される(原判決別紙物件目録添付の写真2-1ないし2-4の白い線で囲まれた部分(ただし、同2-4は中央及び右側の部分)参照)。」(7) 原判決4頁11行目から同頁12行目にかけての「平成18年から平成25 年の科研費基盤研究に係るもの」を「補助事業期間を平成18年から平成20年までとする科研費基盤研究Bに係るもの」に改める。 (8) 原判決4頁18行目冒頭から25行目末尾までを削る。 (9) 原判決5頁10行目末尾に改行して次のとおり加える。 「(4) 本件物件の管理状況 ア本件物件は、関係規定に基づき、控訴人らから被控訴人に寄付された後、被控訴人の承諾の下、RCNPから搬送されて大阪大学大学院理学研究科に設置されたが、そのうち本件物件1、本件物件2のうち冷中性子源及び超流動He-Ⅱ容器(前記イの①及び②)並びに本件物件3は、平成28年頃、前記研究科からカナダの国立研究所であるトライアンフ (TRIUMF)に搬送され、トライアンフらとの共同研究の用に供されている(甲8~10、22)。 イ本件物件2のうちのHe-Ⅱ冷凍器(前記イの③)は、前記研究科で保管されていたところ、被控訴人が提起した別件訴訟に係る され、トライアンフらとの共同研究の用に供されている(甲8~10、22)。 イ本件物件2のうちのHe-Ⅱ冷凍器(前記イの③)は、前記研究科で保管されていたところ、被控訴人が提起した別件訴訟に係る確定判決に基づき、引渡しの強制執行がされ、現在、被控訴人が占有し管理してい る。」 (10) 原判決5頁11行目の「(4)」を「(5)」に改める。 4 争点(1) 被控訴人は本件科研費契約に付随する秘密保持義務に違反したか(2) 不競法違反を理由とする差止等請求に係る訴えは不適法か(本案前の争点)(3) 不競法違反の成否 ア控訴人ら及び被控訴人は「事業者」(不競法1条)に当たるかイ本件情報が控訴人らの「営業秘密」(不競法2条6項)に当たるかウ被控訴人が「営業秘密を示された」(不競法2条1項7号)といえるかエ被控訴人が「不正の利益を得る目的で」本件情報を「使用し」た(不競法2条1項7号)といえるか (4) 被控訴人が控訴人らの人格権等を侵害したか(5) 損害の発生及びその額(6) 差止め等の必要性があるか 5 争点に関する当事者の主張(1) 争点(1)(被控訴人は本件科研費契約に付随する秘密保持義務に違反したか) について(控訴人らの主張)次のとおり補正するほか、原判決6頁12行目から7頁5行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。 ア原判決6頁22行目から同頁23行目にかけての「定められていることか ら、研究機関は、当該設備等の所有権を「管理」目的で取得するにすぎず」を「定められていることなどからすると、寄付を受け入れた研究機関は、補助事業者である研究者に代わり、当該設備等を科研費の交付目的に従って適正に管理することが求められるのであって、 取得するにすぎず」を「定められていることなどからすると、寄付を受け入れた研究機関は、補助事業者である研究者に代わり、当該設備等を科研費の交付目的に従って適正に管理することが求められるのであって、当該設備等の所有権をこのような「管理」目的で取得するにすぎず」に改める。 イ原判決7頁2行目の「本件契約に付随する信義則上の秘密保持義務を負う ものというべきである」を「本件科研費契約に付随して、信義則上、上記目的外で自ら使用したり、第三者に漏洩・開示等したりしてはならない義務(秘密保持義務)を負うものというべきである。」に改める。 ウ原判決7頁5行目を次のとおり改める。 「被控訴人の上記行為は、上記秘密保持義務に違反する行為であり、控訴人 らは、被控訴人に対し、使用等の差止請求権を有するともに、同義務違反を理由とする債務不履行に基づく損害賠償請求権を有する。」(被控訴人の主張)原判決7頁6行目から同頁14行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。 (2) 争点(2)(不競法違反を理由とする差止等請求に係る訴えは不適法か)について(被控訴人の主張)控訴人ら主張に係る営業秘密である本件情報は抽象的に表現されているものであって、その範囲を画することができず、特定されているとはいえない。し たがって、本件情報を営業秘密とする不競法上の請求は、請求(訴訟物)が特定されているとはいえないから、不競法に基づく使用等の差止等請求に係る本件訴えは、民訴法(令和4年法律第48号による改正前のもの。以下同じ。)133条2項2号に違反する不適法なものであって、却下されるべきである。 (控訴人らの主張) 控訴人らは、本件情報を本件物件に化体したものと特定しており、本件物件が社会通念上他の有 じ。)133条2項2号に違反する不適法なものであって、却下されるべきである。 (控訴人らの主張) 控訴人らは、本件情報を本件物件に化体したものと特定しており、本件物件が社会通念上他の有体物から識別できる程度に特定されているから、営業秘密の特定に欠けるところはない。したがって、不競法に基づく使用等の差止請求に係る訴えは、民訴法133条2項2号に違反するところはなく、本件訴えは適法である。 (3) 争点(3)(不競法違反の成否)について ア控訴人ら及び被控訴人は「事業者」(不競法1条)に当たるか(控訴人らの主張)原判決8頁1行目の「本件において、」を「本件に」に改めるほか、原判決7頁16行目から8頁3行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。 (被控訴人の主張)原判決8頁4行目から同頁11行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。 イ本件情報が控訴人らの営業秘密(不競法2条6項)に当たるか(控訴人らの主張) 次のとおり補正するほか、原判決8頁14行目から9頁23行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。 (ア) 原判決8頁15行目の「本件物件の」を「本件物件それぞれの」に改める。 (イ) 原判決8頁17行目の「本件物件」を「本件物件それぞれの」に改め る。 (ウ) 原判決8頁19行目の「営業秘密に当たる」を「いずれも不競法2条6項の「営業秘密」の要件に合致しており、同法2条1項4号ないし9号の保護対象となる」に改める。 (被控訴人の主張) 原判決9頁24行目から11頁3行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。 ウ被控訴人が「営業秘密を示された」(不競法2条1項7号)といえるか(控訴人らの主張) 原判決9頁24行目から11頁3行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。 ウ被控訴人が「営業秘密を示された」(不競法2条1項7号)といえるか(控訴人らの主張)被控訴人は、本件科研費契約に基づき、控訴人P1の寄付を受け入れ、本 件物件の所有権を本件科研費契約上の「適正管理」目的にて取得したが、こ れにより、あるいはこの際に、本件物件に化体した営業秘密たる本件情報を示された。 (被控訴人の主張)控訴人ら主張に係る本件情報では、不競法2条6項の「営業秘密」の範囲が画されておらず、被控訴人は、その内容を示されていないから「営業秘密 を示された」とはいえない。 エ被控訴人が「不正の利益を得る目的で」本件情報を「使用し」た(不競法2条1項7号)といえるか(控訴人らの主張)原判決11頁16行目末尾に次のとおり加えて補正するほか、同頁6行目 から同頁16行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。 「すなわち、同号にいう「使用」は特許法における「物の発明」についての「実施」の一態様である物の「使用」(発明の目的を達するような方法で物を使用する行為)とパラレルに考えることができ、営業秘密が化体した本件物件を本来の研究目的であるUCN研究目的において研究の用途に(研究 の手段として)使用することも、同号にいう「使用」に該当する。」(被控訴人の主張)原判決11頁18行目から同頁19行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。 (4) 争点(4)(被控訴人が控訴人らの人格権等を侵害したか)について (控訴人らの主張)被控訴人は、控訴人らの信用を裏切り、控訴人らの意に反して入手した本件物件(ただし、本件物件2のうちHe-Ⅱ冷 (被控訴人が控訴人らの人格権等を侵害したか)について (控訴人らの主張)被控訴人は、控訴人らの信用を裏切り、控訴人らの意に反して入手した本件物件(ただし、本件物件2のうちHe-Ⅱ冷凍器を除く。この段落において、以下同じ。)を使用した実験成果を自らの研究業績・成果のように対外的に公表するなどして、研究倫理上到底容認されない行為を行っている。具体的には、 ①本件物件(同上)の無断使用によって、控訴人らの本件情報に係る権利が侵 害され、②本件物件(同上)を国外に持ち出すことによって、控訴人らの研究活動が著しく阻害され、③上記①の明白な研究不正行為によって、控訴人らの研究者としての名誉が侵害されたものである。 また、控訴人らが本来その使用収益を認められてしかるべき本件物件を控訴人らから取り上げ、その使用を不可能にする被控訴人の行為は、控訴人らの研 究活動の自由を妨害し、制限を加えるものであって、控訴人らの学問の自由を著しく侵害している。 被控訴人のかかる行為は、控訴人らの研究者としての人格権や学問の自由を著しく侵害するものであって、不法行為を構成する。 (被控訴人の主張) 争う。 (5) 争点(5)(損害の発生及びその額)について(控訴人らの主張)次のとおり補正するほか、原判決12頁9行目から13頁1行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。 ア原判決12頁10行目の「合計1億円」を「各控訴人に5000万合計1億円」に改める。 イ原判決12頁11行目及び同頁13行目の「3000万円」をそれぞれ「各控訴人に1500万円合計3000万円」に改める。 ウ原判決12頁16行目及び同頁18行目の「3000万円」をそれぞれ「各 控訴人に1500万円合計3000万円 3000万円」をそれぞれ「各控訴人に1500万円合計3000万円」に改める。 ウ原判決12頁16行目及び同頁18行目の「3000万円」をそれぞれ「各 控訴人に1500万円合計3000万円」に改める。 エ原判決12頁20行目及び同頁23行目の「3100万円」をそれぞれ「各控訴人に1550万円合計3100万円」に改める。 オ原判決12頁24行目及び同頁26行目から13頁1行目にかけての「900万円」をそれぞれ「各控訴人に450万円合計900万円」に改める。 (被控訴人の主張) 原判決13頁2行目から同頁3行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。 (6) 争点(6)(差止め等の必要性があるか)について(控訴人らの主張)原判決13頁5行目から同頁10行目までに記載のとおりであるから、これ を引用する。 (被控訴人の主張)原判決13頁11行目から同頁12行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。 第3 当裁判所の判断 1 争点(1)(被控訴人は本件科研費契約に付随する秘密保持義務に違反したか)について(1) 前記前提事実(4)アのとおり、本件物件は関係規定に基づき控訴人らから被控訴人に寄付されたものであるところ、控訴人らは、上記寄付を受け入れた研究機関である被控訴人としては、本件科研費契約上、補助事業者である研 究者に代わり本件物件を科研費の交付目的に従って適切に管理することが求められるのであり、本件物件に化体している本件情報に関する権利については、同契約に付随して、信義則上、上記目的外で自ら使用したり、第三者に漏洩・開示等したりしてはならない義務(秘密保持義務)を負っている旨を主張する。 (2) そこで検討するに、公金である補助金に 約に付随して、信義則上、上記目的外で自ら使用したり、第三者に漏洩・開示等したりしてはならない義務(秘密保持義務)を負っている旨を主張する。 (2) そこで検討するに、公金である補助金により購入された設備等の取り扱いについては、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律を始めとする関係各規定により詳細が定められ、本件物件もこれに従い控訴人らから被控訴人に寄付されたものであるところ、まず寄付とは、一般的に、公共性、公益性を有する事業や団体などに対し、財産を贈与することであり、その目的 が物であれば、その所有権の無償による譲渡を意味するものである。そして、 大学共同利用機関取扱要領22条によると、寄付を受けた設備等は、固定資産管理規則に基づき管理するものとされているところ、同規則11条には、「資産管理責任者は、固定資産等を寄附により取得する場合」との記載があること、平成18年12月26日付けで作成された文部科学省の「研究費の不正対策検討会報告書」には、「現在の競争的資金等の制度においては、例え ば機器を購入した場合(中略)個人補助の科学研究費補助金の場合、所有権はいったん研究者に帰属し、所属する研究機関に寄付することになっており」との記載があること(甲63の1・2)、振興会作成の科研費ハンドブックに掲載された「科研費FAQ」には、「直接経費により購入した設備等は、研究代表者又は研究分担者が所属する研究機関に寄付しなければなりません。 【Q 4405】」、「科研費により購入した設備等は、購入後直ちに研究機関に寄付することとしていますので、研究期間終了後も、研究機関の定めに従い、別の研究等で使用することは差し支えありません。【Q44071】」との記載があること(甲21)がそれぞれ認められ、これらの記載は 付することとしていますので、研究期間終了後も、研究機関の定めに従い、別の研究等で使用することは差し支えありません。【Q44071】」との記載があること(甲21)がそれぞれ認められ、これらの記載はいずれも、科研費により設備等を購入した研究者がその所属する研究機関に行う寄付が、留 保を伴わない所有権の無償譲渡を意味するものであることを前提としていると解するのが相当である。これらに加え、平成23年に締結された被控訴人、RCNP、TRIUMF及びウィニペグ大学の4研究機関によるUCNの共同研究に係る合意(2011年覚書)には、被控訴人が本件物件の所有権を有している旨の定めが置かれており(原文は英文)、本件情報に関して控訴人 らが主張する権利について特段の留保は付されていないことも認められる(甲8)。 そうすると、そもそも控訴人らによる寄付を義務付けた関係各規定にいう寄付は一般的な寄付と同様の意味に解されるし、本件物件の寄付を受けることでその所有権を取得した被控訴人が寄付を受けた本件物件の使用、収益及 び処分について制約を受けるべき根拠は関係各規定中に見当たらないから、 控訴人ら主張に係る本件科研費契約なるものが科研費の交付決定に伴い関係者間に成立するとしても、これに付随して、信義則上、被控訴人が、その一方的負担となる秘密保持義務を控訴人らに対して負うことになると解する余地はないというほかない。 (3) この点に関し、控訴人らは、科研費により取得される設備等に関し、設備 等の寄付を行った研究代表者等が他の研究機関に所属することとなる場合において、当該研究代表者等に当該設備等の継続使用の希望があるときは、当該設備等を研究代表者等に返還しなければならない旨の「返還ルール」が定められている旨を指摘し、同ルール に所属することとなる場合において、当該研究代表者等に当該設備等の継続使用の希望があるときは、当該設備等を研究代表者等に返還しなければならない旨の「返還ルール」が定められている旨を指摘し、同ルールは設備等(本件物件)の寄付を受けた被控訴人において負担する上記制約の顕れである旨を主張する。 確かに、機関ルール2-3及び3-28には、上記趣旨の記載が存在するが、他方、上記科研費FAQには、補助事業期間中に他の研究機関に異動する場合は、研究機関は研究機関の定めに基づき、当該設備等を当該研究者に返還する旨【Q4405】、令和2年度以降に購入した設備等に関しては、研究期間終了後(補助事業を廃止した場合を含む)5年以内の場合も同様に取 り扱う旨【Q4405、44071】、令和2年度以前に購入した設備等に関しては、研究期間終了後も、研究機関の定めに従い、別の研究等で使用することも差し支えない旨【Q44071】がそれぞれ記載されている。 しかし、これらの記載からすると、少なくとも令和2年度以前において、「返還ルール」は、補助事業期間中のルールであり、研究機関が異動する研 究者の返還請求に応じるべきであるのは、補助事業期間中に限られていることを前提としているものと解するのが相当であるところ、本件物件のうち、本件物件1に係る基盤研究Aの補助事業期間は平成12年から同14年まで、本件物件2に係る基盤研究Sの補助事業期間は平成21年から同25年まで、本件物件3に係る基盤研究Bの補助事業期間は平成18年から同20年まで というのであって(甲4、16~18、当審第1回口頭弁論調書)、本件物件 については、いずれも補助事業期間を経過している。 したがって、上記のような「返還ルール」の存在を斟酌しても、寄付により本件物件の所有 4、16~18、当審第1回口頭弁論調書)、本件物件 については、いずれも補助事業期間を経過している。 したがって、上記のような「返還ルール」の存在を斟酌しても、寄付により本件物件の所有権を取得した被控訴人が、その使用、収益及び処分に制約を受けることになる秘密保持義務を、控訴人らに対して信義則上負うべきものとは解されない。 (4) なお、本件科研費契約に付随する秘密保持義務違反にいう秘密とは、控訴人らが本件において営業秘密と主張する本件情報と同じものと主張されているが(当審第1回口頭弁論調書)、後記3(2)でみるとおり、本件情報は、本件物件の外観を見ただけでは解析が不可能であり、控訴人らの関与なしにはこれを取得できないというのである。そうであるとすると、本件物件をトラ イアンフその他の第三者との共同研究の用に供しているとしても、控訴人ら主張に係る秘密(本件情報)は明らかにされることはないことになる。ましてや、第三者が本件物件を分解して主張に係る秘密(本件情報)を探索することも想定できないから、仮に秘密保持義務を負うとしても、そもそも第三者との共同研究の用に供されることをもって、秘密保持義務違反の状態が起き ることはあり得ないということが指摘できる。 また、控訴人らは、秘密保持義務を根拠づけるものとして、本件物件の所有権の所在とそれに化体しているノウハウなどの技術情報の所在とは別次元の問題であり、寄付により本件物件の所有権を被控訴人に無償譲渡したことになるとしても、控訴人らにおいて本件情報に係る権利まで譲渡する意思は なかったから、被控訴人が本件物件に化体したノウハウを自由に使用してよいことにはならないとも主張する。しかし、上記説示のとおり、本件物件を研究の用に供することのみでは秘密保持義務違反の 思は なかったから、被控訴人が本件物件に化体したノウハウを自由に使用してよいことにはならないとも主張する。しかし、上記説示のとおり、本件物件を研究の用に供することのみでは秘密保持義務違反の状態が起きないから、本件物件が価値のあるノウハウを使用したものであるとしても、そのことを理由に本件物件そのものの使用、収益及び処分に制限を及ぼすことは、結局、 設備等の寄付を無意味ならしめるものであるといわざるを得ず、控訴人らの 上記主張は採用することができない。 (5) したがって、控訴人らの秘密保持義務違反に関する主張は採用することができないから、被控訴人の秘密保持義務違反を前提とする前記第2の1(1)ア、イの各請求は、その余の判断に及ぶまでもなく理由がない。 2 争点(2)(不競法違反を理由とする差止等請求に係る訴えは不適法か)について 控訴人らは、営業秘密たる本件情報を、具体的には「本件物件の外部形状、内部構造及びその機能を発揮させるため組み上げられた各部の装置や機器(構成部品)を含む仕組み自体であり、形状及び構造にあっては、本件物件全体及び各構成部品の形状、寸法、加工及び組立てに関する情報」であると主張する。 控訴人らの主張に係る営業秘密たる本件情報は、控訴人らの主張によれば、実 在する本件物件(これが有体物として社会通念上他と識別できる程度に特定していることは明らかである。)に化体されているというのであるから、本件物件を特定することにより、本件情報も少なくともその外延が画される限度で特定しているといえる関係にある。そうすると、このことを前提にした本件物件を対象とする差止等請求は、請求(訴訟物)の特定という点において欠けるところはないとい うべきである。 したがって、控訴人らの求める不競 る関係にある。そうすると、このことを前提にした本件物件を対象とする差止等請求は、請求(訴訟物)の特定という点において欠けるところはないとい うべきである。 したがって、控訴人らの求める不競法違反を理由とする差止等請求が民訴法133条2項2号に違反するということはできない。 3 争点(3)イ(本件情報が控訴人らの営業秘密(不競法2条6項)に当たるか)及びウ(被控訴人は「営業秘密を示された」(同条1項7号)といえるか)について (1) 事案に鑑み、争点(3)イと同ウを合せて検討するが、控訴人らは、その主張に係る本件情報を、不競法2条6項の要件に従い、秘密管理性、有用性及び非公知性の要件に分けて主張し、また、本件物件の寄付を受け入れることにより、あるいはその際、被控訴人は本件情報(営業秘密)を示されたと主張する。 (2) まず、本件情報が営業秘密としての特定(請求を理由づける事実としての特 定(民訴規則53条1項))として足りているかどうかの点をさておき、争点 (3)イのうち、非公知性の点についてみると、控訴人らが主張する本件情報は、要するに本件物件の構造等にかかわるものであって本件物件そのものに使用されているものというのであるから、本件物件が既に控訴人ら以外の者(なお、上記1で認定説示したとおり被控訴人は秘密保持義務を負っておらず、その余の第三者も負っていない。)によって管理されその自由に利用される状態 となっていることで、営業秘密としての非公知性が失われてしまっていることが考えられるが、この点につき控訴人らは、営業秘密たる本件情報は、本件物件の外観を見ただけでは解析が不可能であり、控訴人らの関与なしにはこれを取得できないため非公知性は維持されていると主張する。 確かに、本件情報が控訴人ら主張のような 、営業秘密たる本件情報は、本件物件の外観を見ただけでは解析が不可能であり、控訴人らの関与なしにはこれを取得できないため非公知性は維持されていると主張する。 確かに、本件情報が控訴人ら主張のような技術情報であるなら、本件物件2 のうちHe-Ⅱ冷凍器は被控訴人が管理し、その余の本件物件は第三者が管理しているものの、本来の目的である実験等に利用されているだけであって、控訴人ら主張の本件情報を得るための詳細な分解検討等がなされたわけではない以上(科研費で購入された本件物件につき、その可能性も考え難い。)、控訴人らの関与なしにはこれを取得できないとされる本件情報(本件物件の外部 形状、内部構造及びその機能を発揮させるため組み上げられた各部の装置や機器を含む仕組み自体、あるいは本件物件全体及び上記各構成部品の形状、寸法、加工及び組立てに関する情報)は、なおこの被控訴人を含む第三者によっても知られていないと考えられる。そして、そうであれば、本件情報が営業秘密としての特定が不十分であることはさておき、その非公知性はなお維持され ていることを否定できないというべきである。 しかし、そうであれば、被控訴人が本件物件の寄付を受け、これらをその管理下においたとしても、それだけでは本件情報を知ることができないということになるから、争点(3)ウにおける被控訴人が本件物件の寄付を受けることで、これにより、あるいはその際、営業秘密たる本件情報を示された旨をいう控訴 人らの主張する事実は認める余地がないということになる。なお、控訴人らが 被控訴人に対して本件物件の引渡しのほかに本件情報を開示したとの事実は主張立証されていないことはもとより、これをうかがわせる事実はない。また、控訴人らの主張に従う限り、本件物件を実験等に利用したとし 被控訴人に対して本件物件の引渡しのほかに本件情報を開示したとの事実は主張立証されていないことはもとより、これをうかがわせる事実はない。また、控訴人らの主張に従う限り、本件物件を実験等に利用したとしても、そのことで本件物件の構造等にかかわる本件情報を知ることができないはずであるから、被控訴人は現時点においてもなお本件情報を「示された」とも認められな いということになる。 そうすると、仮に本件情報が営業秘密に該当し得るものであるとしても、本件において被控訴人に「営業秘密を示された」事実が認められず、したがって被控訴人の行為が不競法2条1項7号の不正競争に該当するという余地はないことになる(これとは逆に、本件物件の引渡しのみで本件情報を示された、 すなわち「営業秘密を示された」ことが肯定されるというのなら、前記1で説示したとおり被控訴人は秘密保持義務を負わず、またその余の第三者も同様であるから、本件物件に使用されているという本件情報は既に非公知性が失われたことになって営業秘密の要件が充足されず、この点でやはり同号の不正競争に該当しないことになる。)。 したがって、控訴人らが本件情報の内容をより具体的に特定せず、その内容に即して判断できない問題があるとしても、控訴人らのいう営業秘密たる本件情報が控訴人らの関与なしに取得できないとする主張を前提にする限り、被控訴人の行為が不競法2条1項7号の不正競争に該当するとする控訴人らの主張は採用の余地がないというほかないというべきである。 (3) なお、控訴人らの主張には、本件情報が不競法2条6項の「営業秘密」であって同条1項4号ないし9号で保護される旨をいう部分もあるのでこの点についても念のため検討するが、上記のとおり「営業秘密を示された」といえない以上、同項7号のみなら 不競法2条6項の「営業秘密」であって同条1項4号ないし9号で保護される旨をいう部分もあるのでこの点についても念のため検討するが、上記のとおり「営業秘密を示された」といえない以上、同項7号のみならず、これを前提にする同項8号、9号の不正競争が成り立つ余地はないし、また控訴人らは、被控訴人が「窃取、詐欺、強迫そ の他の不正の手段により営業秘密を取得する行為」(同項4号)をした事実を 主張しているわけではなく、また、これをうかがわせる事実があるわけではないから、これを前提とする同項4号ないし6号の不正競争は成り立つ余地もない。 (4) したがって、控訴人らの不競法違反に関する主張は採用できないから、不競法違反を前提とする前記第2の1(2)ア、イの各請求は、その余の判断に及ぶ までもなく理由がない。 4 争点(4)(被控訴人が控訴人らの人格権等を侵害したか)について(1) 控訴人らは、①被控訴人による本件物件(本件物件2のうちHe-Ⅱ冷凍器を除く。)の無断使用によって、控訴人らの本件情報に係る権利が侵害された、②被控訴人が本件物件を国外に持ち出したことによって、控訴人らの研究活動 が著しく阻害された、③被控訴人による上記①の行為は明白な研究不正行為であり、これによって、控訴人らの研究者としての名誉が侵害された旨を主張する。 しかしながら、前記1及び3で説示したとおり、被控訴人は、控訴人らから、本件物件の所有権の無償譲渡を受け、現実の引渡しを受けた上で、これを所有 権に基づき、国外に移設して共同研究の用に供するなどして使用しているので、控訴人らの上記各主張はいずれもその前提を欠くというほかない。 (2) また、控訴人らは、控訴人らが本来その使用収益を認められてしかるべき本件物件(本件物件2のHe-Ⅱ などして使用しているので、控訴人らの上記各主張はいずれもその前提を欠くというほかない。 (2) また、控訴人らは、控訴人らが本来その使用収益を認められてしかるべき本件物件(本件物件2のHe-Ⅱ冷凍器を含む。)を控訴人らから取り上げ、その使用を不可能にする被控訴人の行為は、控訴人らの学問の自由を侵害する旨 を主張する。 しかしながら、前記説示のとおり、本件物件の所有権は被控訴人に帰属し、そこに控訴人らのために何らの権利も留保されていない上、本件物件が任意又は強制執行手続によって被控訴人に現実の引渡しがされたのは、本件物件に係る科研費の補助事業期間(研究期間)終了後であるし、被控訴人はこれをトラ イアンフらとの共同研究の用に供してこれを有効利用しているといえるから、 仮にこれによって控訴人らの研究活動が事実上制約を受けるとしても、このような被控訴人の行為をもって控訴人らの学問の自由を侵害する違法なものとは認められない。 (3) したがって、被控訴人の行為が不法行為を構成するものとは認められないから、人格権等の侵害を前提とする前記第2の1(3)ア、イの各請求は、その余 の判断に及ぶまでもなく理由がない。 5 以上によると、原判決は相当であり、控訴人らの本件控訴はいずれも理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。 大阪高等裁判所第8民事部 裁判長裁判官 森崎英二 裁判官 奥野寿則 二 裁判官 奥野寿則 裁判官 岩井一真
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