令和7年7月2日宣告令和5年(わ)第1364号殺人未遂被告事件(裁判員裁判)判決被告人 A被告人 B 主文 被告人Aを懲役18年に、被告人Bを懲役17年に処する。 被告人Aにつき未決勾留日数中400日をその刑に算入する。 理由 (罪となるべき事実)被告人Aは、指定暴力団C会副理事長及び同会D組三代目組長であった者、被告人Bは、前記D組E興業組長であった者であるが、被告人両名は、前記C会と対立抗争中の暴力団幹部組員を殺害しようと考え、前記E興業組員であったFと共謀の上、平成22年2月20日午後5時頃、福岡県三潴郡a 町大字bc・d 番地合併e のG方車庫付近において、被告人Bが、対立抗争中の前記暴力団幹部組員と誤認した前記G(当時●●歳)に対し、殺意をもって、自動装てん式けん銃で弾丸7発を発射し、そのうち3発を同人の右足に命中させたが、同人に加療約12週間を要する右脛腓骨遠位部開放性粉砕骨折、右下腿遠位部貫通創、右脛骨粗面部裂創及び右大腿遠位部貫通創の傷害を負わせたにとどまり、殺害の目的を遂げなかった。 (争点に対する判断)第1 前提事実及び争点本件当時、被告人Aが指定暴力団C会副理事長及び同会D組三代目組長であり、被告人Bが同会D組E興業組長であって、Fが同会D組E興業組員であったこと、Hは、本件当時I会副会長であったこと、本件当時、C会とI会は、互いの組員らを襲撃し合う対立抗争を繰り広げていたこと、被害者は、警察官であったが、平成13年3月に退職して本件当時は無職であり、被告人両名やC会等の暴力団関係者 との間でトラブルがあった形跡がなかったこと、本件当日、被告人Bが、被害者方前路上から、同方車庫内にいた被害者に対して、けん銃 退職して本件当時は無職であり、被告人両名やC会等の暴力団関係者 との間でトラブルがあった形跡がなかったこと、本件当日、被告人Bが、被害者方前路上から、同方車庫内にいた被害者に対して、けん銃で弾丸7発を発射し(以下「本件銃撃」という。)、そのうち3発が被害者の右足に命中したことに争いはなく、証拠上も優に認められる(なお、本件の公判前整理手続の結果、被告人Bが本件銃撃の犯人であるかが争点の1つとされたが、被告人Bは、当公判廷で、本件銃撃の犯人が自分である旨認めた。)。 本件における争点は、①被告人BとFとの共謀が認められるか、②被告人Aが被告人Bらに本件銃撃を指示したと認められるかである。 当裁判所は、いずれの事実も認められると判断したので、以下、その理由について説明する。 第2 争点①について 1 Fの供述Fは、本件当日の被告人B及びFの行動について、概ね次のとおり供述する(公判供述のほか、Fの裁判官面前調書及び検察官調書のうち、刑訴法321条1項1号後段及び同項2号後段に基づき採用した部分を含む。)。 ⑴ 本件当日、被告人Bから電話で呼び出され、被告人Bが運転するハイエースに同乗したところ、被告人Bは、運転しながら、「今からHのところ行く」「今からHを襲撃に行くぞ」「車はどっかに停めていく」「逃げるときバイクを運転しろ」などと言った。 ⑵ 被告人Bは、被害者方から2、3km離れた場所にハイエースを停車させ、積載していたラダーレールを使用して青色のオフロードタイプのバイク(スズキジェベル)を荷台から降ろし、その後部にFを乗せて、出発した。被告人Bは、被害者方近くでバイクから降り、Fに「音が鳴ったら迎えに来い」と言って、被害者方の方向に向かって歩いて行った。 ⑶ Fがバイクを止めた場所で待っていると、銃声が聞こえた せて、出発した。被告人Bは、被害者方近くでバイクから降り、Fに「音が鳴ったら迎えに来い」と言って、被害者方の方向に向かって歩いて行った。 ⑶ Fがバイクを止めた場所で待っていると、銃声が聞こえたので、バイクを運転して被害者方の前まで行き、被告人Bをバイクの後ろに乗せ、ハイエースを停車 させている場所に向かった。ハイエースにバイクを積んだ後、その助手席に座り、被告人Bの運転で帰路に就いた。 ⑷ 本件当日午後9時頃、被告人Bから電話があり、「ニュース見たか」「Hじゃなくて元警官やったらしいな、どういうことやろうか」などと驚いた様子で話していた。 2 Fの供述の信用性本件当日の行動に関するFの供述は、具体的である上、自身が実行犯であることを認める被告人Bの供述のほか、「銃声が聞こえた直後に、バイクに乗った人間が被害者方付近に来て、犯人を後部座席に乗せて逃走した」旨の目撃者の供述と整合している。さらに、本件当時、Fが、被告人Bが組長を務めるE興業に所属する組員であり、被告人Bと養子縁組をしていたことや、F自身、本件への関与を認めて、既に懲役7年の有罪判決を受けて服役しているにもかかわらず、本件の証人尋問では、本件銃撃の犯人の行動については供述したものの、その犯人が被告人Bであるとは供述することができなかったことからすると、Fが、組長であり、養親でもあった被告人Bを恐れていることは明らかであり、あえて被告人Bに不利なうその供述をするとは考え難い。Fの前記供述は信用することができる(被告人両名の各弁護人も、その信用性を特に争っていない。)。 3 小括以上のとおり信用できるFの供述によれば、Fは、被告人Bによる本件銃撃の意図を知りながら、被告人Bの指示により、同被告人が本件銃撃後、被害者方から逃走する際のバイクの運転手役を担 。 3 小括以上のとおり信用できるFの供述によれば、Fは、被告人Bによる本件銃撃の意図を知りながら、被告人Bの指示により、同被告人が本件銃撃後、被害者方から逃走する際のバイクの運転手役を担っていることが明らかであり、被告人BとFとの共謀が認められる。 第3 争点②について 1 J供述及びその信用性⑴ Jの供述本件当時、C会D組U組組員であったJは、当公判廷において、証人として、概 ね次のとおり供述する。 ア平成21年11月下旬から同年12月初旬頃、被告人Aは、C会本部からの指示を受け、Jと、同じU組組員で、Jの親(暴力団の疑似血縁関係)であるKを連れてL競輪場(以下、単に「競輪場」ともいう。)に行き、Jに対し、目的の人物(以下「対象者」という。)を見つけ、その後方から指差しながら、「あいつの家を探せ」と言った。対象者は、年は60歳前後、中肉中背で、耳を柔道等で内出血していて、餃子耳になっていたのが特徴的であり、その日はプレジデントに乗って競輪場を出た。 イ Jは、対象者の自宅を特定するため、Kと共に、約1か月間にわたり、車で競輪場に来ていた対象者を車で追尾するなどして対象者の行動確認を行ったところ、対象者は、スズキワゴンR、プレジデント、センチュリーを使用していたことが判明し、センチュリーにGPSを取り付けるなどしたが、その自宅を特定することができなかった。 ウ平成22年1月頃、被告人Aの指示で、行動確認に参加する組員が増員された。このとき増員された組員は、E興業所属の被告人B、F及びMの3名、C会D組N組所属のOら並びにU組所属のP及びQなどであった。増員されたメンバーの中での取りまとめ役は、被告人Aの指示で被告人Bになった。対象者の車両を追跡するなどした結果、本件銃撃の3日ないし7日前、対象者の 所属のOら並びにU組所属のP及びQなどであった。増員されたメンバーの中での取りまとめ役は、被告人Aの指示で被告人Bになった。対象者の車両を追跡するなどした結果、本件銃撃の3日ないし7日前、対象者の自宅を特定することができた。なお、メンバー間では、対象者を「R」と呼んでいた。 エ対象者の自宅を特定した後も、行動確認に参加していた組員らは、実際には対象者を追っていないが、競輪場から対象者の自宅まで対象者を追跡する予行演習を行った。 オ Jは、本件銃撃の2日後、Fに呼び出されて、L駅近くのファミリーレストランで話をした。Fは、Jに対し、Fが運転するバイクの後部座席に座っていた被告人Bが人に向けてけん銃を発射したこと、乗っていたバイクはS名義の青色オフロードタイプのバイクであったこと、当初は知らなかったが、事件後のニュースで 撃った相手は元警察官であったと知ったこと、この時に使用していたバイクをT川に捨てたことなどを述べた。 カ被告人Aは、同年4月頃、Jに対し、「競輪場にまだあいつが来とる。あいつ懲りとらんけえ、もう1回行ってこい。」などと言い、対象者の再襲撃を指示した。 ⑵ Jの供述の信用性Jの供述は、以下のとおり、具体的で、関係証拠に整合するもので、全体として自然な内容であり、殊更に被告人両名に不利なうそを述べる理由も考え難く、十分に信用することができる。 ア Jが供述する、被告人AがJらに対して対象者の住居を特定するよう指示したものの、特定することができなかったため、被告人Aの指示で、行動確認に参加する組員が増員され、その結果、対象者の住居を特定することができ、予行演習を経て、本件銃撃に至ったというという事実経過は、事態の流れに沿う自然なものであり、十分に納得できるものである。 イ Jの供述のうち、増員後の対象者の 果、対象者の住居を特定することができ、予行演習を経て、本件銃撃に至ったというという事実経過は、事態の流れに沿う自然なものであり、十分に納得できるものである。 イ Jの供述のうち、増員後の対象者の行動確認(上記⑴ウ)及び対象者の自宅特定後の予行演習(同エ)については、被告人Bから指示を受け、D組傘下のE興業、N組及びU組の各組員らが、対象者の行動確認を行って住居を特定したこと、対象者の住居が判明した後も、L競輪場から対象者の住居までのルートを車で確認しながら時間を計測し、その結果をBに報告していたことなどを述べるMの供述や、被告人Bから指示を受け、被告人B、M、J及びOらと対象者を尾行する練習をし、対象者の自宅を確認したことなどを述べるFの供述とよく整合しており、相互に信用性を高め合っている。 ウ本件銃撃後、Fから本件銃撃に加担した旨告白された点(上記⑴オ)は、告白内容やこれに対するJのアドバイス、襲撃の相手が元警察官と知って、警察に絶対に捕まるとおびえていたFの様子等について、具体的で詳細であり、そのような出来事がないのに、うその作り話をしているとは考え難い。 エ Jが、被告人らを始めとするC会関係者から報復される危険を冒してあえて 被告人Aに不利なうその供述をするとは考え難い。 ⑶ 弁護人の主張に対する判断これに対し、弁護人は、①L競輪場の排除対象者となっていた被告人Aが、同じく排除対象者となっていたHが競輪場にいることを予測し、競輪場においてHを指し示すというのは不自然である上、その指示方法も対象者の後方10m未満の場所から指し示すという、抗争中にしてはあまりに無防備なものであり、自身の直属の子分ではないJ及びKに対して指示している点でも不自然であること(被告人Aの弁護人の主張)、②Jの供述には、信用できるFの供 から指し示すという、抗争中にしてはあまりに無防備なものであり、自身の直属の子分ではないJ及びKに対して指示している点でも不自然であること(被告人Aの弁護人の主張)、②Jの供述には、信用できるFの供述と整合しない部分があること(両弁護人の主張)、③本来の襲撃対象であったはずのHと被害者の顔貌は似ておらず、両者を誤認したというのは不自然であること(被告人Aの弁護人の主張)、④被告人Aが本件銃撃後に「あいつ懲りとらん」などと述べたことは、被害者が元警察官であることを知っていた被告人Aの発言として不自然であること(両弁護人の主張)などを指摘し、Jの供述が信用できない旨主張する。 しかしながら、①については、被告人A及びHはいずれもL競輪場において排除対象者となっていたものの、競輪場に全く出入りできなかったわけではなく、実際に、両名について、排除対象者となった後も競輪場への出入りが確認されている。 また、Jによれば、被告人AがC会本部からの指示を受けてJらと共にL競輪場に向かい、目的の人物を見つけたというのであり、被告人A及びHが競輪場内に同時にいることは当然といえる。被告人Aが対象者の後方10m未満の場所から対象者を指し示した点についても、その距離から長時間にわたりHを指し示していたという事情はうかがわれず、周囲に他にも一定数の客が存在していたと考えられることからすれば、当時抗争中であることを踏まえても、その指示方法が無防備で不自然であるとまではいえない。被告人Aが自身の直属の子分ではないJらに対して行動確認を指示した点についても、当時、Jらの組長であるVが服役しており、Vの親(暴力団の疑似血縁関係)に当たる被告人AがU組の事務所で寝泊まりしていたため、U組の組員であるJらと関わる機会が多かったことを踏まえれば、Jらが被告 人Aから指 るVが服役しており、Vの親(暴力団の疑似血縁関係)に当たる被告人AがU組の事務所で寝泊まりしていたため、U組の組員であるJらと関わる機会が多かったことを踏まえれば、Jらが被告 人Aから指示を受けることも十分に考えられる。 ②については、確かに、Fは、既に対象者の自宅が判明していた本件銃撃の二、三日前に、被告人Bの指示で他の組員と共に尾行の練習をしたことは供述するものの、対象者の自宅を特定するまでの行動確認に参加していたことは供述せず、また、Jに対して本件銃撃に加担した旨告白した事実を否定し、本件銃撃に使用したバイクをFが投棄したこともないなどと、Jの供述(上記⑴ウ、オ)と整合しない供述をする。しかしながら、Fの供述のうち、本件当日のF及び被告人Bの行動に関する部分や尾行の練習については、前記のとおり信用できる一方、それ以外のFの関与に関する部分については、全てを正直に話していない可能性が否定できない。すなわち、前記⑵イのとおり、Fが増員後の対象者の行動確認に参加していた事実は、Jのみならず、Mも供述しており、両供述は整合して、相互に信用性を高め合っている上、被告人Bが、自分の組員で、養子であるばかりか、本件銃撃に唯一行動を共にさせ、逃走時のバイクの運転手役という極めて重要な役割を担わせ、当時最も信頼していたと考えられるFについて、自らが取りまとめ役を務め、3つの組を挙げて行った対象者の行動確認に参加させず、本件銃撃の直前になって初めて関与させたというのはあまりに不自然である。また、Fの犯行告白に関するJの供述は、うその作り話をしているとは考え難いほど具体的で詳細であるのは前記のとおりである上、本件銃撃までの行動確認等についてはD組傘下の3組織が参加したものの、本件銃撃はE興業の被告人BとFのみが関与していること、犯行に使用し るとは考え難いほど具体的で詳細であるのは前記のとおりである上、本件銃撃までの行動確認等についてはD組傘下の3組織が参加したものの、本件銃撃はE興業の被告人BとFのみが関与していること、犯行に使用したけん銃は、被告人Bの指示でE興業の組員のMが川に投棄していることからすると、犯行の後始末をE興業内で完結させるべく、F自らバイクを投棄したというのも合理的と考えられる。以上によれば、Jの供述と整合しないFの供述によって、Jの供述の信用性が直ちに否定されるとは考え難い。 ③については、本来の襲撃対象であったはずのHと被害者とはその体格等に類似性がある上、Jは元々Hを知らず、競輪場で被告人Aから指し示されて体格や特徴を覚えたのみで、Hと被害者を同時に対比する機会があったとはうかがわれないこ とを踏まえれば、Jが、体格や耳の特徴等を基に、ワゴンRに乗っている人物を対象者と思い込むなどして、Hと被害者を誤認混同することがあったとしても不自然ではない。 ④については、確かに、本件銃撃の翌日には被害者が元警察官であることが複数回にわたり報道されており、被告人Aにおいても、本件銃撃が対象者を誤ったものであることを当然認識していたと考えられることからすると、被告人Aが、Jに対し、対象者が懲りていないとして再襲撃を指示することは不自然とも思われる。しかし、Jの供述によれば、Jは、本来の襲撃対象がHであることを知らされておらず、本件銃撃後も対象者を誤ったことを把握していなかったことがうかがわれる。 そもそも、他の暴力団組織との抗争中に、抗争相手を襲撃しようとして、組を挙げて準備していたのに、対象を誤って一般人を襲撃したというのは、暴力団組織にとって不名誉なことと考えられ、被告人AらがD組内において本件銃撃が人違いであった事実を伏せていたというのも十分 て、組を挙げて準備していたのに、対象を誤って一般人を襲撃したというのは、暴力団組織にとって不名誉なことと考えられ、被告人AらがD組内において本件銃撃が人違いであった事実を伏せていたというのも十分に考えられるところであり、現に、JやMの供述からも、本件銃撃が人違いであった旨のD組上位者による組内の説明はなかったことがうかがわれる。そうすると、被告人Aが、本件銃撃後も、本件銃撃が人違いではなかったことを前提に、一度競輪場においてHを指し示して行動確認を指示したことのあるJに対し、人違いであったことを伏せたまま、「あいつ懲りとらん」などともっともらしい理由を述べて、再襲撃を指示することも十分に考えられるところであり、不自然とはいえない。 なお、Jは、被告人Aと共に競輪場に行った時に、被告人Aから再襲撃の指示を受け、その際、対象者がワゴンRに乗り込むのを目撃した旨供述するところ、証拠によれば、当時のHの使用車両はセンチュリーとプレジデントであり、ワゴンRは被害者の使用車両であって、Hは使用していないことが認められ、対象者がワゴンRに乗り込んだというのが正しければ、その人物はHではないことになり、被告人Aが被害者の再襲撃を指示することは考えられないから、この点のJの供述は不合理というべきことになる。しかしながら、本件の捜査を担当したW警察官によれば、 平成22年8月頃、警察に対し、「被告人Aから「あいつはまだ懲りとらんからもう1回行ってこい」と言われてL競輪場に行ったところ、プレジデントという車種の車に乗った元警察官を見た」という匿名の情報提供があったことが認められ、その情報の類似性に照らし、この情報はJによって提供された可能性が高い。この情報提供の内容にも照らすと、Jの供述のうち、被告人Aから再襲撃の指示を受けた際に対象者が乗り込 供があったことが認められ、その情報の類似性に照らし、この情報はJによって提供された可能性が高い。この情報提供の内容にも照らすと、Jの供述のうち、被告人Aから再襲撃の指示を受けた際に対象者が乗り込んだのがワゴンRであったとする点は、出来事から長期間経過したこと等を理由とするJの勘違いや記憶違いによるものと考えられる。他方で、Jの供述の核心部分である被告人Aの本件に関する指示については、Jが、同様の勘違いや記憶違いによって被告人Aによる指示を受けたと述べているとは考えられず、その信用性が覆されるものではない。 2 行動確認にD組傘下の複数の組織の組員が関与していることについて前記J及びMの各供述によれば、増員後の対象者の行動確認には、D組傘下のN組、U組、E興業の3つの組織の組員が参加していたことが認められる。異なる複数の組織の組員を動員するときは、通常、それらの組織の上位者が指揮を執ると考えるのが自然であるから、対象者の行動確認についても、D組の組長であった被告人Aの指示があったと考えるのが合理的である。対象者の行動確認にD組傘下の複数の組員が関与していたことは、被告人Aが対象者の行動確認を指示したというJの供述を裏付けるとともに、行動確認の結果、対象者の自宅が特定され、本件銃撃に至ったことも併せると、それ自体、本件銃撃について、被告人Aの指示があったことを推認させるものといえる。 3 本件銃撃に供された車両について⑴ Fの供述によれば、本件銃撃の際に使用されたバイクは、青色のスズキジェベルであったことが認められる。 また、C会D組X組の組員であったSは、平成20年11月21日に自己名義で届出をしたバイク(青色のスズキジェベル)について、店舗でバイクの引渡しを受けた後、被告人Aがそのバイクに乗って帰り、その後はD組の事務所や X組の組員であったSは、平成20年11月21日に自己名義で届出をしたバイク(青色のスズキジェベル)について、店舗でバイクの引渡しを受けた後、被告人Aがそのバイクに乗って帰り、その後はD組の事務所や同組の倉庫 等で保管されていた旨供述する(公判供述のほか、Sの検察官調書のうち、刑訴法321条1項2号後段に基づき採用した部分を含む。)。Sは、バイク購入時の状況やその後の保管状況について具体的に供述している上、本件の証人尋問において、被告人Aに関する事項については供述できなかったことからすると、Sが、被告人らによる報復を恐れていることは明らかであり、あえて被告人Aに不利なうその供述をするとは考え難い。Sの供述は十分信用できる。 これらの事実のほか、Jが、Fから、本件銃撃の際に使用したバイクはS名義の青色オフロードタイプのバイクであった旨聞いていること(前記1⑴オ)や、Jの供述(前記1⑴オと同旨のもの)を基にして行われた捜索によってT川から発見されたバイクフレームがS名義の上記バイクのものである可能性が高いことを併せると、S名義のバイクと本件銃撃に用いられたバイクとは同一のものであり、本件当時、D組の管理下にあったものと認められる。 ⑵ さらに、Fの供述によれば、本件銃撃の際に使用された車は、ラダーレールが設置されたハイエースであると認められる。Y警察官によれば、平成22年11月に道路交通法違反により現行犯逮捕されたU組組員が乗車していたハイエースについて、S名義のものであり、後部座席が取り外されてラダーレールが設置されていたと認められ、本件銃撃の際に用いられたハイエースは、D組において管理されていたことがうかがわれる。 ⑶ 抗争相手を銃撃する際に、D組の組長である被告人Aに無断で、D組の管理下にある車両を使用した上、そのバ 、本件銃撃の際に用いられたハイエースは、D組において管理されていたことがうかがわれる。 ⑶ 抗争相手を銃撃する際に、D組の組長である被告人Aに無断で、D組の管理下にある車両を使用した上、そのバイクを川に投棄するとは考え難く、本件銃撃について、被告人Aの指示があったと推認することができる。 4 被告人Aによる口止めについてSは、令和3年頃、被告人Aに呼び出されて、「警察に呼ばれとるやろ」「バイクの件で色々話聞かれよるやろ」「もし聞かれても、何も知らんと言っとけばいい」などと言われた旨供述する。この点のS供述についても、Sが報復の危険を冒してまであえて被告人Aに不利なうその供述をするとは考え難いことからすると、信用で きる。 被告人Aが本件に一切関与していないのであれば、Sがバイクについて警察から取調べを受けていることについて関心を持つ理由はなく、Sを呼び出してまで口止めをする必要もない。この点も、本件銃撃について被告人Aの指示があったとの推認を支える一事情であるといえる。 5 結論以上のとおり、信用できるJの供述を含む関係証拠によれば、被告人Aは、競輪場において、J及びKに対し、Hを指し示してその自宅を調査するよう指示した上、その後被告人Aの指示により増員され、被告人Bを取りまとめ役として、D組傘下のE興業、U組、N組の組員が対象者の行動確認を行った結果、対象者をHから被害者に間違えた末、被害者の自宅を特定し、その後予行演習を経て、被告人BがFと共に被害者の自宅に赴き、本件銃撃に至ったことが認められる。以上に加え、対象者の行動確認が、被告人Aが組長を務めるD組傘下の3組織の組員によって行われたことや、本件銃撃にD組が管理するバイクや車が使用されたこと、被告人Aが本件銃撃に使用されたバイクの名義人であるSに口 象者の行動確認が、被告人Aが組長を務めるD組傘下の3組織の組員によって行われたことや、本件銃撃にD組が管理するバイクや車が使用されたこと、被告人Aが本件銃撃に使用されたバイクの名義人であるSに口止めをしたことなど、本件銃撃につき被告人Aの指示があったことをうかがわせる事実が認められる。加えて、本来の襲撃対象であったと考えられるHが、本件銃撃当時、C会と対立抗争中のI会の幹部であり、抗争によってC会三代目会長で先代D組組長であったZが射殺された被告人Aにおいて、Hを襲撃する動機があったと考えられることも踏まえると、被告人Aが、被告人Bらに本件銃撃を指示したことが優に認められる。 (量刑の理由) 1 本件は、抗争中の暴力団組織の組長である被告人Aの指示の下、その準備段階において配下組員らが各自役割を分担した上、被告人Bを実行犯として、抗争相手の暴力団幹部を標的にして、組織的かつ計画的に行われた銃撃殺人未遂の事案である。その犯行は、暴力団特有の反社会的な動機に基づくものである上、けん銃を至近距離から7発発射するという、人の生命を奪う危険性が高い悪質なものであ る。しかも、本件においては、あろうことか標的を誤認した結果、全く無関係の何ら落ち度のない一般人である被害者が自宅で銃撃された上、相当期間の入院治療を要する重傷を負うという重大な結果が生じた。被害者は、幸いにも一命を取り留めたとはいえ、肉体的にも精神的にも多大な苦痛を受けており、被告人に対する厳罰を望んでいるのも当然といえる。地域社会に対し強い恐怖を与えた社会的影響も大きい。 2 被告人Aは、準備段階から本件銃撃に至るまでの一連の経過において、配下の組員に襲撃対象者の行動確認を指示し、被告人Bに対して襲撃を指示するなど主導的な役割を果たしており、その指示がなければ本件銃撃 被告人Aは、準備段階から本件銃撃に至るまでの一連の経過において、配下の組員に襲撃対象者の行動確認を指示し、被告人Bに対して襲撃を指示するなど主導的な役割を果たしており、その指示がなければ本件銃撃はなかったといえるから、その責任は極めて重い。 被告人Bは、被告人Aとの関係では従属的な地位にあると評価することも可能ではあるものの、対象者の行動確認においては取りまとめ役として中心的な役割を果たした上、実行犯として本件銃撃を遂行する上で必要不可欠な役割を担ったものであるから、被告人Aに次ぐ重い責任を負うべきである。しかも、被告人Bは、累犯前科を含む複数の服役前科を有するにもかかわらず、前刑の執行終了後約1年半で本件銃撃に及んでおり、その法を守る意識は鈍麻しているというほかない。 このような犯情からすれば、本件は、同種事案(銃器類を凶器として使用した殺人未遂、処断罪と同一又は同種の罪の件数1件)の量刑傾向の中でも、最も重い部類に位置付けられる。 3 その上で、被告人Aについては、一貫して本件への関与を否定し、反省の態度が全くうかがわれない。被告人Bについては、当公判廷において本件銃撃の事実を認め、被害者に対し一応の謝罪の言葉を述べたものの、共犯者らの証言の後にようやく限定的に事実を認めるに至り、被告人Aの関与については頑なに否定していることなどに照らせば、その反省が真摯なものであるとは評価し難い。本件は異種服役前科に係る確定裁判前の余罪であるものの、被告人らの自白がない中で前科と同時に処理することは困難といえるから、この点を考慮するにも限度があるという べきである。 4 以上の各事情を考慮して、被告人両名に対しては主文の刑を科すことが相当であると判断した。 (求刑:被告人両名につき懲役18年)令和7年7月2日福岡地方裁 いう べきである。 4 以上の各事情を考慮して、被告人両名に対しては主文の刑を科すことが相当であると判断した。 (求刑:被告人両名につき懲役18年)令和7年7月2日福岡地方裁判所第1刑事部裁判長裁判官今泉裕登裁判官西木文香裁判官高橋聡
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