昭和39(行ウ)85 国費外国人留学生の身分打切処分取消請求等併合事件

裁判年月日・裁判所
昭和44年4月18日 東京地方裁判所 警察関係
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【DRY-RUN】主   文  被告文部大臣が原告に対して昭和三九年九月四日付三九調留第五号をもつてした 国費外国人留学生の身分打切りの処分を取消す。  訴訟費用は同被告の負担とする。        事   実 第一 

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主文 被告文部大臣が原告に対して昭和三九年九月四日付三九調留第五号をもつてした国費外国人留学生の身分打切りの処分を取消す。 訴訟費用は同被告の負担とする。 事実 第一当事者の求める裁判一原告1、(被告文部大臣に対する請求の趣旨)被告が原告に対して昭和三九年九月四日付三九調留第五号をもつてした国費外国人留学生の身分打切りの処分を取消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 2、(被告国に対する請求の趣旨)かりに右1の請求が理由がないときは、原告と被告国との間において、原告が国費外国人留学生制度実施要項に基づく昭和三七年度国費留学生たる地位を有することを確認する。 訴訟費用は被告の負担とする。 二被告文部大臣1、(本案前の申立)本件訴を却下する。 訴訟費用は原告の負担とする。 2、(請求の趣旨に対する答弁)原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 三被告国原告の請求を棄却する。 第二原告の主張甲 (被告文部大臣に対する主張)一請求原因(一) 原告は、被告により、国費外国人留学生制度実施要項(昭和二九年三月三一日文部大臣裁定昭和三〇年九月一日、同三四年七月一六日、同三六年七月二七日、同三七年四月一日、同三九年四月一日各改正)に基づき、昭和三七年度(一九六二年度)国費外国人留学生として、シンガポール自治州で募集、採用され、昭和三七年四月千葉大学留学生課程に配属されて勉学をはじめた。当時原告は、イギリス国籍を有し、昭和三八年九月マレーシヤ連邦成立後はマレーシヤ国籍の留学生であつたものである(昭和四〇年八月シンガポール州が同連邦から分離独立後はシンガポール国籍を有している)。 (二) ところで、右実施要項第九によれば「文部大臣は、所定の申請書により、国費外国人留学生に対して国 のである(昭和四〇年八月シンガポール州が同連邦から分離独立後はシンガポール国籍を有している)。 (二) ところで、右実施要項第九によれば「文部大臣は、所定の申請書により、国費外国人留学生に対して国費外国人留学生として必要と認められる条件について誓約させる。国費外国人留学生が前項の規定する条件等に違反した場合には、給与の打切りその他必要な処置を講ずることがある。」と定められ、原告は一九六二年度の被告の募集に際し、所定の申請書で次のとおり誓約し、千葉大学において学習研究につとめてきた。 その誓約条項というのは「(イ) わたくしは国費外国人留学生として次の事項を守ることを約束します。 (1) 留学の目的を果たすために日本の大学において最善をつくして学習研究を行なうこと。 (2) 日本の社会秩序に違反しないよう行動すること。 (3) 入学する大学もしくはその他のことについて日本政府の決定ならびに入学した大学の学則等に忠実に従うこと。 (4) 日本政府から支給される給与を超えて必要とする経費については、自己負担とし、給与の増額は要求しないこと。 (5) 日本において債務を負つた際は、自己の責任において弁済すること。 (ロ) 上記の事項に違反した場合、または日本政府により成業の見込みがないと判断された場合において、国費留学生としての身分を打ち切られ、また帰国を命ぜられても不服を申し立てることなくこれに従います。」というものである。 (三) ところが、被告は、原告が千葉大学留学生部(留学生課程)第三年次に在学中、昭和三九年九月四日付、三九調留第五号をもつて「原告の国費外国人留学生の身分は打切りましたので通知します。これは貴マレーシヤ国政府の要請にかんがみ、あなたの留学生目的が達せられないと認め措置したものです。」との留学生身分剥奪の処分をなし、原告は 告の国費外国人留学生の身分は打切りましたので通知します。これは貴マレーシヤ国政府の要請にかんがみ、あなたの留学生目的が達せられないと認め措置したものです。」との留学生身分剥奪の処分をなし、原告は同月九日この処分の通知を受けた。 (四) しかしながら本件身分打切処分は違法であるから、取消しを求めるものである。 二被告の本案前の申立の理由に対する反論 1 被告文部大臣のなした本件処分は、被告が文教に関する行政権の主体としての優越的地位に基づき、公権力の発動として原告の国費外国人留学生の身分を一方的に打切つた意思表示であるから抗告訴訟の対象となるものというべきである。 2 即ち、原告と被告文部大臣、従つて日本国との関係は、いわゆる特別権力関係であつて、これを打切る処分は行政処分にほかならない。 (1) 原告は被告が実施した国費外国人留学生制度実施要項に基づくシンガポールでの募集に応じたのち、被告により国費外国人留学生として採用決定されたものである。これにより、日本国政府は、原告に対し、国費により、日本の大学において教育を受けさせる義務を負い、原告は誓約事項を遵守して学習研究する義務を負うものである。そして国費外国人留学生として原告が受ける所遇は、奨学金の支給を受け、かつ留学生寮を使用して、被告の指定する大学において一般教養及び専攻にかかる専門教育等精神的、文化的役務の供給を受けるところにある。 ところで右原告と被告との関係は、国と国立大学の学生との間にみられる関係とまつたく同種のものである。国は精神的、文化的利益又は役務の供給という如き公の目的達成の一手段として教育、研究施設及び教授陣等人的、物的施設の総体として大学という営造物を設置し、その指定、規制した条件に合致した一般公衆の使用に供している。この大学という営造物の利用は、単純な経済的給付 一手段として教育、研究施設及び教授陣等人的、物的施設の総体として大学という営造物を設置し、その指定、規制した条件に合致した一般公衆の使用に供している。この大学という営造物の利用は、単純な経済的給付を内容とするものではなく、精神的、文化的利益又は役務の提供を内容とする倫理的性質を有するものであり、この利用の態様はその利用目的を達成する迄の一定期間継続しているものであり、かつ、その利用の過程において営造物の権力作用によつて著しい支配を受けるものである。一般に営造物の利用関係の性質について、公法関係説と私法関係説とに見解が分かれるも、大学という営造物の利用関係については、これを公法関係と解するのを通説とする。そこで国と国立大学の学生との法律関係が公法関係であつてみれば、大学に於ける専門教育の享有を内容とする原告と被告との関係はこれと同様に公法関係ということになるのである。 ところで国と国立大学の学生との関係が公法関係であるとして、それは国立大学の学生が学生として大学の管理権に服し、その権力に基づく種々の制約を受ける関係であつて、特別の公法上の特定の目的のために必要な限度において特定の者に包括的な支配権が与えられ、これに服する者に対しては、いちいち法律の規定によることなく、命令強制がなされうる権力関係で、これを公法関係のうちで特別権力関係又は特別支配関係と呼ばれるものである。 (2) 特別権力関係内における処分の性質について特別権力関係の権力主体は特別権力関係設定の目的に照らして必要な限りにおいて、即ち法律の規定あればその限りで、又法律の規定なき場合においても、相手方の同意から推測して社会通念上合理的と判断され得る範囲の命令権、懲戒権による支配を及ぼすことができる。而して右支配権による処分は、公権力の主体がその優越的地位に立つて、法律に基 合においても、相手方の同意から推測して社会通念上合理的と判断され得る範囲の命令権、懲戒権による支配を及ぼすことができる。而して右支配権による処分は、公権力の主体がその優越的地位に立つて、法律に基づきその定めに従つて、人民に対し、命令し強制する権能による処分と本質的には何等異るものではない。この点国立大学の学生の退学処分について、それは行政処分であることは判例の一致して認めるところである。 (3) 権力主体による特別権力関係からの一方的排除について大学という営造物の利用関係における本来的な終了事由は利用者における利用目的の完了による消滅であるが、営造物の利用者は原則として、その利用関係より任意に脱退できることは明らかである。ところで営造物の利用者が法令又は利用条件に違反するときは、一定の要件の下に、営造物主体は利用者を利用関係より排除することができる。そしてどのような場合に利用関係より排除することができるかは別段の定めのある場合のほかは、具体的事例に即し、社会通念に従つて決すべきである。今営造物の利用関係の一つである国と国立大学の学生との間の特別権力関係からの排除である退学なる懲戒処分について、これが法規裁量か自由裁量かについて検討してみるに、一般的に言つて、権利又は自由を制限剥奪する行為は、法治国の原則から言つて明文の定めのない場合においても、条理上、法の羈束が存するものと解すべきで、従つて原則として羈束裁量又は法規裁量に属するものとみるべきであり、懲戒処分の一つである退学処分は、特別権力関係である営造物の利用関係の設定によつて利用者が有した既得の権利、利益を全面的に奪うものであつて、特別権力関係内において既得の権利、利益の行使を制限する場合と異つて、退学という懲戒事由につき具体的な事情を厳密に考察し、教育的見地、社会通念に従つてな た既得の権利、利益を全面的に奪うものであつて、特別権力関係内において既得の権利、利益の行使を制限する場合と異つて、退学という懲戒事由につき具体的な事情を厳密に考察し、教育的見地、社会通念に従つてなさるべきもので、行政庁たる権力主体の自由な裁量を許さないものであり、法規裁量と解すべきものである。 (4) 被告の原告に対する国費外国人留学生の身分打切処分について原告と被告との間の法律関係は国費外国人留学生という身分の付与と共に、大学たる営造物の利用と言う特別権力関係を設定するものであつて、原告に対する国費外国人留学生の身分打切りは、単に奨学金請求権や留学生寮の使用関係を消滅させるだけにとどまらず、営造物利用の前提たる資格の剥奪であり、当該大学における学生(留学生)たる身分そのものの消滅に連なるものであつて、いわば、日本の国立大学の学生が一個の退学処分により、学生たる身分と、支給主体は異なるけれども奨学金の支給とを打切られる関係にひとしく、本件身分打切りの処分は、国立大学の学生の退学処分と実質において異なるところなく、行政処分たる性質を有するものというべきである。 被告は、国費外国人留学生たる身分を喪失した後において、原告が千葉大学留学生部の学生たる身分を失うかどうかは、留学生部教授会の決定に委ねられていると主張するけれども、それは単なる形式的な論理にすぎず、全く事実に反する。即ち、原告が千葉大学から除籍されたのは本件身分打切り処分に起因し、文部省から千葉大学に対して原告を退学処分にするよう指示がなされたことに基づくものであることは、文部省原議書(乙第二二号証)にも明らかであり、また千葉大学学長のした除籍処分とこれに対する留学生部教授会の関与程度、除籍の事後確認のための同教授会における調査会設置、同教授会の事後確認の経過、昭和四〇年三月 書(乙第二二号証)にも明らかであり、また千葉大学学長のした除籍処分とこれに対する留学生部教授会の関与程度、除籍の事後確認のための同教授会における調査会設置、同教授会の事後確認の経過、昭和四〇年三月三〇日開催の同教授会における原告の再入学許可の決議成立の経過、大学評議会の態度、全学学生の抗議集会等一連の事実に照らしても明らかである。 3 次に、本件取消訴訟の訴の利益について付言する。 本件取消訴訟の権利保護の利益は原告の国費留学生たる身分の回復と、その身分に伴う奨学金請求権、その他の権利、利益の回復をはかるものに外ならない。 なるほど、国費外国人留学生制度実施要項によれば、学部留学生の留学期間は原則として五年であり、昭和三七年四月、国費外国人留学生として採用された原告は、形式的には五年を経過した昭和四二年三月をもつて、前記留学期間が満了し、現在においては、国費留学生たる身分の回復そのものは一応無意味であるかのような外観を呈している。 しかし、この点についてはさらに実質的な考察を必要とする。 第一に、右留学期間が五年であるというのは、あくまで原則であり、前記要項第三条但書によれば文部大臣は、「特別な事情があると認めた場合は、必要な期間を延長することができる」のである。したがつて、原告においては、昭和四三年三月、大阪大学大学院工学研究科修士課程に合格し、同年四月以降同大学院に在学しているのであるから文部大臣は、このような場合、右期間の延長をなしうるのである。 第二に、文部大臣は、右条項に基づき、現に国費留学生の留学期間の延長を認めてきており、実例によれば単に学部在学年限の延長に伴う留学期間の延長のみではなく、学部留学生として採用された者が、引続き大学院へ進学した場合も留学期間を延長し、従来どおり国費留学生として処遇している例も少くない。 例によれば単に学部在学年限の延長に伴う留学期間の延長のみではなく、学部留学生として採用された者が、引続き大学院へ進学した場合も留学期間を延長し、従来どおり国費留学生として処遇している例も少くない。 しかも、右取扱は本人が希望すればほぼ全面的に認められており、特殊例外的なものではない。従来の例に照らせば、原告の留学期間の延長は、むしろ承認されなければならないのである。 次に仮りに、右留学期間の延長が由なく、留学生としての身分を回復しうる余地がないとしても尚原告は本件違法な処分がなければ適法に国費留学生たり得た期間、即ち昭和三九年九月四日以降昭和四三年三月末日までの間(けだし本件処分により一年間を空費させられ、やむなく同時期に卒業したのであるから)国費留学生として受けることのできた奨学金研究旅費、医療費補助、下宿料補助、私費留学生として大阪大学に支払つた授業料等を本件処分の取消により支給又は補填され得るのである。 さらに、本件処分が存在するが故に、原告は、在留期間の面においてすでに不利益に取扱われており、また国費留学生であつた者に比べ、大学院その他において不利益をうけるおそれは十分ある。かつ本国に帰国して公職につく際は、一層の不利益を受けるであろうことは、原告が国費留学生として本国政府から推せんされ、帰国後の国家への貢献を期待されている点からして、顕著である。このように、国費留学生たる身分に伴う権利利益の回復をはかることは有意味かつ可能であり、原告は本件取消の訴の利益を有するものというべきである。 三被告の主張に対する反論(一) 被告文部大臣の主張中、(二)の国費外国人留学生受入れ制度の1国費外国人留学生制度概要((1)基本方針、(3)留学生の種類、(4)留学生の主な待遇、(5)募集選考、(6)大学の教育、補導)は認める。(2)の受入 の主張中、(二)の国費外国人留学生受入れ制度の1国費外国人留学生制度概要((1)基本方針、(3)留学生の種類、(4)留学生の主な待遇、(5)募集選考、(6)大学の教育、補導)は認める。(2)の受入れの態様は知らない。同じく(二)2の(シンガポール州からの国費外国人留学生受入れ制度の特殊性)のうち、(2)の国費留学生の選考経過は認める。(3)の昭和三七年度におけるシンガポール政府の国費外国人留学生の選考については知らない。 その余の事実((1)、(4))は否認する。(二)3の国費外国人留学生受入れ制度等の実施状況中(1)の事実は認めるが、(2)の事実は不知。(三)の本件処分の経緯中1の事実、及び3のうち本件留学生の身分打切りが九月四日なされたことは認める。3のうち慎重審議を重ねたことは否認する。その余の事実は不知。 (四)、(五)の主張は争う。 (二) シンガポール州からの国費外国人留学生受入れ制度及び同留学生と日本国政府との間の法律関係の特殊性についてシンガポール州からの国費外国人留学生受入れ制度及びその法律関係について被告の主張するような特殊性は、存在しない。 (1) シンガポール州の「推薦」について昭和三七年度の場合をみると、まずシンガポール政府は昭和三七年一月二六日の面接によつて選ばれた七名を候補者として日本政府に推薦してきた。ついで三月一六日日本の文部省外国人留学生問題協議会選考分科会において七名の中から四名を選び、その四名が同月二二日調査局長決裁(名義者は被告文部大臣)によつて正式に採用が決定された。 採用の時点でのシンガポール政府の推薦に何か特殊性があるかのように被告は主張するが、それは次のような事実からみても存在しえない。即ちシンガポール政府の推薦を通報してきた在シンガポール日本総領事館からの公文にも「御審査の結果採 府の推薦に何か特殊性があるかのように被告は主張するが、それは次のような事実からみても存在しえない。即ちシンガポール政府の推薦を通報してきた在シンガポール日本総領事館からの公文にも「御審査の結果採用決定の上は至急御回報願いたい」(乙五号証)とあり、また、四名が日本で決定され先方政府に通報された後に辞退者が現われ、後任を推薦してきた場合においてさえも「採用方御審議相成り決定の上は………」(乙一四号証の一)とあり、このことは日本政府が独自に採用を決定するものであることを明らかにしている。 また国費留学生の選考は一般に第一次、第二次、最終選考と三段階になつているが、シンガポール政府が担当したのは第一次のみで、後の二次はいずれも日本政府が行なつており、しかもシンガポールの第一次選考で選ばれた七名が日本で四名にしぼられて最終決定となつている。 このように二重の選考を経ていることは、日本政府に最終決定権があることにほかならず、推薦はそれを重んじこそすれ、それに従うということでは決してない。 採用の経緯について多少の異同があつたとしても、被告が述べているように、「手続面等において相手国政府の希望に副うことは何ら支障のないこと」であり、ましてや原告と被告との法律関係に一般国費留学生のそれと異るような影響を与えることはありえない。 (2) 「同意書」について被告はシンガポール政府の推薦は同政府と原告との間にかわされた同意書に基づいているように主張しているが、それは事実に反し、以下の理由から原告と被告の法律関係には何ら影響を及ぼすものではないと考える。 即ち、原告がシンガポール政府から日本に推薦される時点では同意書にはまだサインしておらず(乙第八号証)、その推薦が同意書に記載された内容を何らかの前提とすることは不可能である。さらに右同意書によれば、打切 原告がシンガポール政府から日本に推薦される時点では同意書にはまだサインしておらず(乙第八号証)、その推薦が同意書に記載された内容を何らかの前提とすることは不可能である。さらに右同意書によれば、打切りの時点につき、一ケ月の猶予期間をおいてシンガポール政府と原告との間の法律関係が解消できるとなつているが、本件は右期限とは全く別に日本政府が処分を行なつており、二つの法律関係は全く別個のものである事実を示している。 なお、マレーシア政府は少くとも昭和三九年八月五日以前に原告の奨学金の授与を取消したはずのところ(乙第九号証の二、および三)、原告は被告による打切処分あるまで奨学金の支給を受け、国費留学生の身分を取得していたのである。 シンガポール政府と原告との間において、原被告間の法律関係を如何に解し、どのような同意が交わされようとも、それは別個独立の法律関係であつて原告と日本国政府との法律関係につき、基本的に影響を及ぼすものではない。 (3) 右同意書の存在により、他国からの留学生と原告とが取扱を異にされる根拠とはなり得ない。 けだし、東南アジア、中近東諸国からの国費外国人留学生のうち、「マレーシア(シンガポール)からの留学生のみが、帰国後一定期間政府の指定する公職に就く義務等の厳重な条件を誓約せしめられているわけではなく、また、これに違反する場合政府から奨学金の返還を請求されるわけでもない。 一般留学生たるビルマ、セイロン、中国、インド等、殆んど全ての留学生が、右同様の事項を自国政府に誓約しているのである。 (4) 被告の主張自体失当である。 被告は、シンガポール州から派遺される開発要員は、シンガポールが自治州となつた以降の昭和三五年から、国費外国人留学生として受入れるようになつたというが、昭和三七年度以降右留学生は採用されるに至つたもので は、シンガポール州から派遺される開発要員は、シンガポールが自治州となつた以降の昭和三五年から、国費外国人留学生として受入れるようになつたというが、昭和三七年度以降右留学生は採用されるに至つたものであつて、しかも、同州からの国費留学生は、実際はすでに昭和三四年度から受入れられていた(乙第一二号証の一)。つまり、シンガポールからは、自治州となつた当初から、国費留学生が受入れられ、被告の主張する特殊な留学生は生ずる余地なく、現在まで、一般国費留学生として取扱われてきたものである。 (5) 私費留学生から国費留学生への採用例について(ア) a(シンガポール出身)の場合同人についてはその所属大学長の推薦状、しかもその名宛人が、留学生の事務を所掌せず、留学生問題とは何ら関係のない文部省社会教育局長である推薦状(乙一九号証)によつて、原告が採用された同じ昭和三七年度に私費留学生から国費留学生に採用されている。この点に関し被告は同人が研究留学生だと弁明しているが、研究留学生といえども同一の国費留学生制度に基づいて採用された留学生であることにかわりはない。aのケースは、被告の主張する「私費留学生と別個に折衝して国費留学生を採用した事実はない」ということと明白に矛盾する。 (イ) b(台湾出身)の場合同人は所属大学長の推薦状(乙第二一号証)と大使館の証明書(乙第二〇号証)によつて、昭和三二年度に私費から国費留学生に採用された。乙第二〇号証は国費留学生として推薦する趣旨の文書ではなく、単に国籍を証明するのにもすぎず、従つて宛名も明示されていない。 以上のとおり、国費留学生の留学関係は、日本国と当該個人の個人的法律関係に帰着することを物語つており、とりわけaの場合は、シンガポールからの国費留学生が、被告主張とは全く異り、他の国からの留学生の場合と同一の り、国費留学生の留学関係は、日本国と当該個人の個人的法律関係に帰着することを物語つており、とりわけaの場合は、シンガポールからの国費留学生が、被告主張とは全く異り、他の国からの留学生の場合と同一の関係にあることを示して余りある。 (三) 本件身分打切りとマレーシア政府の要請との関係について被告は本件身分打切り処分が、マレーシア政府の要請に基づくものでやむをえずなされたかのように主張するが、そのような弁解は成り立たない。 (1) 本件処分は被告がその権限にもとづき、自主的に判断してなされたものである。 本件処分は文部省原議書(昭和三九年九月一日起案、三日決裁)によつてなされ、その起案書にも「要請に答え、身分を打ち切ることとしたい」の一項が明記されており、被告が独自に判断して行なつたものであることは明らかである。しかも文部省原議書の最高位の決裁者である文部省調査局長は、文部省設置法のもとに施行されている文部省内部部局文書決裁規定によつて国費留学生の「選定」の専決者となつており(名義者は被告文部大臣)、選定の内容には身分打切りが含まれていることは被告が認めているとおりである。さらに処分は、国費留学生制度実施要項第九(誓約)にある誓約事項1の(1)の留学目的を果せなくなつたものとして行なわれている。このことは、被告が「留学目的が果せなくなつた」ことを主体的に判断していることを示し、本件処分が被告の自主的判断によつて意図的に行なわれたことを意味している。同時に被告自身「身分の打切要請がなされた以上………前記誓約条項に違反する結果を生じたもの」と主張しながら、他方「要請の理由にかかる反マレーシア活動等につき慎重審議した結果」と主張して実質的内容に立入つて判断しているところからも右のことはうかがわれるのである。 (2) マレーシア政府からの身分打 ながら、他方「要請の理由にかかる反マレーシア活動等につき慎重審議した結果」と主張して実質的内容に立入つて判断しているところからも右のことはうかがわれるのである。 (2) マレーシア政府からの身分打切要請以前に日本政府は原告の身分打切りを示唆するための情報提供を行なつている。 被告の主張によると本件処分はマレーシア政府からの要請をその出発点としているが、それは事実に反する。即ち本件発生後シンガポール立法議院で本件がとりあげられた時、c総理は答弁の中で、日本政府から原告の身分打切りを示唆するための情報提供がなされた事実を明らかにしている(甲第三号証、甲第四号証1一及び二)。 又昭和三八年九月一六日原告をはじめ日本に留学中の約一〇〇名のマラヤ学生はバス二台に分乗してイギリス大使館と祖国のマラヤ大使館を訪れ、マレーシア連邦結成に反対の意志を伝える抗議書を手渡した。この際日本の警官は原告たちが自国の大使館を訪れることをも不当に妨害したのみならず私服刑事はこの場面の写真さえも撮り、留学生たちのきびしい追求をうけたことがある。この時撮つたと思われる写真の一葉は執行停止申請事件の疎明資料として裁判所にも提出されている。 日本政府からの情報提供の結果、マレーシア政府からの打切り要請がなされ、本件処分となつた。身分打切りを示唆した情報提供が事前になされているためだろうと思われるが、日本政府内での打切り処分は極めて簡単になされている。即ち、昭和三九年八月二六日付で在日マレーシア大使館から口上書が日本の外務省に発せられ、同月二九日付で外務省から文部省に文書が出されたが、三〇日は日曜で三一日に文部省はこれを受領している(乙第一〇号証の一)。そして翌日の九月一日起案、三日決裁となつており(乙第二二号証)、これだけ重大な処分では想像もできないほど迅速に行なわれ たが、三〇日は日曜で三一日に文部省はこれを受領している(乙第一〇号証の一)。そして翌日の九月一日起案、三日決裁となつており(乙第二二号証)、これだけ重大な処分では想像もできないほど迅速に行なわれている事実は、身分打切りを示唆した事前の情報提供でもなければ理解できない。 (四) 原告と日本国政府間の法律関係について原告と日本国との法律関係は、前にも随時ふれてきたが、原告が国費外国人留学生として採用されるまでの間に被告主張のような特殊事情が介在したとしても、次のように要約することができる。 (1) 原告は、文部大臣裁定「国費外国人留学生制度実施要項」に基づき、他の国費外国人留学生と全く同様に採用(受入れ)されたものである。 (2) 国は原告に対し、国費によりわが国の大学において教育を受けさせる義務を負い、原告は誓約条項を遵守して学習、研究する義務を負う。 (3) 文部大臣が原告の身分を打切ることができるのは誓約条項に違反した場合又は成業の見込みがないと判断した場合である。なお、この点について付言すると、被告は本件処分にあたり「留学目的が果せなくなつた」と判断しているが、留学目的が果せなくなつたとは留学生が自己の能力あるいは身体の欠陥によつて勉学の継続が不可能となつた場合を指すもので、本国政府の打切り要請によることを含むものではない。また、本件処分は、原告が昭和三八年当時行なつたマレーシア連邦結成反対の言論活動がその原因となつていることを否みがたいが、このような政治活動を、身分打切り事由に該当するものとして、その判断の根拠とすることはできない。もつとも、本件発生後被告はその善後策としてか、昭和四〇年四月から国費外国人留学生が提出する誓約書の中にあらたに政治活動禁止の条項を加えたのであるが、この条項の存しなかつた当時にこれを遡及適用して誓約条 とも、本件発生後被告はその善後策としてか、昭和四〇年四月から国費外国人留学生が提出する誓約書の中にあらたに政治活動禁止の条項を加えたのであるが、この条項の存しなかつた当時にこれを遡及適用して誓約条項違反とすることはできない。 (4) 国費外国人留学生たる原告と日本国との間における法律関係は、第三者たる出身国政府の意向にかかわりなく存在し、かつ継続するものであり、その身分打切りは、前項の場合に限り、当該大学の学長とは別個に文部大臣が発動しうるにすぎない。 (5) 以上の身分関係は、出身国政府の身分打切要請(推薦取消)によつては当然に消滅するものではない。 (五) 違法事由被告文部大臣は、マレーシア政府からの身分打切りの要請に基づき、両国間の友好親善関係への影響を考慮し、原告の留学目的が果せなくなつたと判断して、本件身分打切処分をしたと主張するのであるが、本件処分は次に述べるように瑕疵があり、違法であるから取消しを免れない。 1 被告のいう打切要請は、被告等日本国政府機関を拘束するものではない。けだし、マレーシア大使館からの口上書(乙第一〇号証の二)も、所詮は、外交権を有しないシンガポール州政庁のパブリツク・サービス・コミツシヨンからの外交ルールを無視した協力要請を確認したものにすぎず、いわば両国政府間の公的文書とは解しがたいからである。このことは、パブリツク・サービス・コミツシヨンからの文書(乙第九号証の二)が「d」個人に発せられていることからも明らかである。 2 右要請の端緒は、日本政府自ら原告の政治活動を意識的にシンガポールに通報し、シンガポール・パブリツク・サービス・コミツシヨンをして、クワラルンプールのマレーシア政府に対する関係からかかる措置に出でざるを得なくさせたものである。(甲第三、四号証の一、二)かかる経緯に照らせば、右要 ポール・パブリツク・サービス・コミツシヨンをして、クワラルンプールのマレーシア政府に対する関係からかかる措置に出でざるを得なくさせたものである。(甲第三、四号証の一、二)かかる経緯に照らせば、右要請は日本政府自ら演出した不当なものであり、「外交関係を考慮した」という被告の弁解は成立たない。 3 マレーシア連邦シンガポール政府の原告の身分打切り要請事由は、原告が在日マレーシア大使館並びにイギリス大使館に対しマレーシア連邦結成に対する抗議書を手交したことにある。外国人といえども日本国内において、表現の自由を有していることは当然である。日本国民が在外のわが国大使館等に対して有する同種の表現の自由を、当該国の憲法法律により保障されていることも自明である。 かような場合に、国は当該国政府に対し、その者が当該国の国費留学生の場合、身分打切りの要請をするであろうか。また同種事案に対して、これまで文部大臣は同一の態度をとつたことがあるであろうか。ちなみに、南ベトナムからの国費外国人留学生eは昭和四一年四月本国からの帰国命令が出され、在日ベトナム大使館から旅券の延長申請も拒否され、その後有効な旅券を有しないにかかわらず、文部大臣は同留学生の身分打切処分には及ばなかつた。 右事実に徴すれば、国費外国人留学生の身分打切りがわが国文部大臣の独自の裁量による行政処分であることは疑いない。そして原告が現に本国の旅券(有効期間は昭和四二年九月から昭和四三年九月まで)を有しているということは、マレーシア政府が原告の日本国における留学のための在留を承認していることの証左である。 そうとすれば、本件の場合、被告が直ちに原告の身分を打切ることが両国の真の友好親善関係に資するものでないこと、またわが国と当該学生の本国との友好親善関係が常に当該学生の身分のいかんについて考 る。 そうとすれば、本件の場合、被告が直ちに原告の身分を打切ることが両国の真の友好親善関係に資するものでないこと、またわが国と当該学生の本国との友好親善関係が常に当該学生の身分のいかんについて考慮されてはいないことを示すものであり、シンガポール政府の身分打切り要請自体不合理であるのに、被告はこの要請を唯一かつ決定的理由として本件処分を行なつたものであつて、かかる処分は甚だしく妥当性を欠くものとして違法である。 4 被告が処分理由とする「シンガポールからの国費外国人留学生受入事情」の特殊性と「要請の理由にかかる反マレーシア法動の事実」は、いずれも根拠がない。 前者については、さきに述べたように他の諸国からの留学生を打切処分にする際と取扱いを異にすべき特殊性はなく、後者についても、いわゆる反マレーシア活動即留学目的を達成できない事由とは考えられない。なぜなら、すでに昭和四〇年八月一三日、反マレーシア活動を批難した当のシンガポールが自らマレーシアを脱退したことに象徴されるように、反マレーシア活動といつても非常に流動的な東南アジアの情勢を反映しているのであり、特定の時間における留学生の特定の言動をとらえて外交関係を云々すること自体が反省を余儀なくされているからである。 しかも、かような不安定な国から留学する学生は、決してある特定の政治的立場を標榜する政権、政府のために勉学することがその「留学の目的」ではなく、その国土を開発し、国民を指導する層として期待される自覚をもつて日本において教育を受けているのであるから、一定の時期における政府の見解政策によつて絶えずその「留学目的が左右されては安んじて勉学に励むことができないのである。これは、留学制度がすぐれて学問的、教育的立場から運営されねばならないという特殊性からも首肯できるところである。 5 被告 えずその「留学目的が左右されては安んじて勉学に励むことができないのである。これは、留学制度がすぐれて学問的、教育的立場から運営されねばならないという特殊性からも首肯できるところである。 5 被告が仮りに原告を処分しうるとすれば、原告のいわゆる反マレーシア活動が具体的に前記誓約条項(イ)の(1)から(5)までに違反するものと認められる場合でなければならない。「留学の目的」が以上のとおりであるとすれば、(1)項については、原告は右目的を達するために千葉大学において最善をつくして学習研究し、(2)項については、原告は日本の社会秩序に従つて、整然と発言し、行動し、(3)項については、日本政府の決定や、千葉大学の学則等を遵守したのであり、(4)、(5)項に至つては全く論外である。 かように、原告はいわゆる反マレーシア活動の事実があつても、何ら誓約事項には違反していない。 6 文部大臣が原告の身分を打切ることができるのは、誓約条項に違反した場合又は成業の見込みがないと判断した場合に限ることは、さきに述べたとおりである。 しかるに本件打切処分には法的根拠が全くなく違法である。被告は誓約書条項違反を主張するが、そもそも法的には右誓約書条項違反が直ちに打切事由となり得るものではなく、本件打切処分が法的に可能であるためには適法な手続で制定された上位規範が必要である。 しかるに、本件において被告はかかる上位規範の存在ないし内容について主張も立証もしない。何らの法的根拠なくしてなされた本件処分は右理由のみで違法、無効といわねばならない。 7 仮に然らずとするも、本件処分に至る手続には重大な曖昧さないし瑕疵があり、処分の違法性を招く。 (1) 被告のいうマレーシア政府の打切要請から本件打切処分まで原告に対する一回の事実調査、審問もなく、形式的現象的な、いわゆる 処分に至る手続には重大な曖昧さないし瑕疵があり、処分の違法性を招く。 (1) 被告のいうマレーシア政府の打切要請から本件打切処分まで原告に対する一回の事実調査、審問もなく、形式的現象的な、いわゆる反マレーシア活動(実際は、マラヤ愛国活動)が取上げられ、原告に対し告知聴聞の機会を与えていない。 しかも、右要請が、現実に被告に伝達され、被告から打切通知が発せられるまでわずか五日間しかない。これは、いかに性急なずさんな処分であるかを物語つている。 (2) 国費留学生としての選定配置につき協議をうける外国人留学生問題協議会、千葉大学関係機関を一切無視して、本件処分はなされている。 (3) もともと、被告は留学生が安全に勉学を続けられるよう特段の配慮をしなければならないのである(文部省設置法第九条第一三号、同施行令第三五条第三号)。又、当時の国際文化課長が在留に関する身元保証人とさえなつているのであるから、原告の身分継続(在留資格の維持)につき努力しなければならない立場にありながらこれを忘れ、たゞ政治的理由のみで行動した。これは、留学生を受入れ、教育を実施する機関として明らかにその任務に反した軽卒な措置といわねばならない。 8 本件打切処分は、世界人権宣言及び日本国憲法に違反する。 (1) 人権に関する世界宣言第一九条は「何人も思想、良心及び宗教の自由を享有する権利を有する」ことを保障している。しかるに、本件処分は、これに反し、原告の反マレーシア活動即ち、原告の思想の故になされたものである。また同宣言第二六条は「何人も教育を受ける権利を有する」ことを保障し、かつ「高等教育は、能力本位で全ての者に等しく開放しなければならない」「教育は、人格の完全な発展と人権及び基本的自由の尊重の強化とを目的としなければならない」「教育はすべての国及び人種的又は宗教 、かつ「高等教育は、能力本位で全ての者に等しく開放しなければならない」「教育は、人格の完全な発展と人権及び基本的自由の尊重の強化とを目的としなければならない」「教育はすべての国及び人種的又は宗教的団体の間における理解、寛容及び友好関係を増進しなければならない」と教育の目的を定めた。 しかるに、本件処分はこれに逆行すること甚しく、原告の教育を受ける権利を違法に侵害したのである。右世界人権宣言は、日本国が国際連合の一員たる以上当然遵守されなければならない規範であり、国内法として裁判規範たり得ることも多言を要しないであろう。したがつて、右諸規定に反する本件処分は当然無効たるを免れない(憲法第九八条)。 (2) 国費外国人留学生も憲法の保障する人権を享有しているのであつて、本件処分は憲法に違反するものである。 (ア) (憲法第二一条違反)、本件処分が、原告の反マレーシア活動即ちマレーシア大使館への抗議行動を含む一連の活動を決定的理由とするものであり、表現の自由を侵害すること明らかである。 (イ) (同第二三条違反)、本件処分は原告が日本において学問する自由を違法に侵害するものである。 (ウ) (同第二五条違反)、本件処分は、該処分により原告が奨学金その他の支給を断たれ、異国において文化的最低限度の生活さえ営み得なくなることを知りながらなされたものであり、同条違反たること明白である。 (エ) (同第一四条違反)、本件処分は、前記の通り、原告の思想、反マレーシア活動の故になされた差別処分で原告が英国籍のシンガポール出身者であることを理由とする差別であり、法の下の平等に反する。 (オ) (同第二六条違反)、本件処分は、原告が日本において、留学生としての教育をうける権利を侵害したものである。本来教育は何者にも左右されてはならず、外部からの圧力により教育 の下の平等に反する。 (オ) (同第二六条違反)、本件処分は、原告が日本において、留学生としての教育をうける権利を侵害したものである。本来教育は何者にも左右されてはならず、外部からの圧力により教育の機会を奪うことは到底許されない。このことは外国人留学生に対する関係においても全く同様である。 以上のとおり、日本国憲法の基本的人権は等しく外国人にも保障されなければならず、「国民」という限定句が仮りにおかれていても、取扱を異にすべきものではない。したがつて、原告も日本国憲法の前記条項の保護を与えられるべきであり、右条項に反する本件処分は無効である。 乙 (被告国に対する主張)一被告国に対する請求の主観的予備的追加について(1) 原告は、被告文部大臣に対し、本件身分打切処分が抗告訴訟の対象である行政処分にあたることを前提として、当該処分の取消を求めて訴を提起したのであるが、かりに右処分が抗告訴訟の対象とならないとすれば、被告文部大臣に対する右請求は却下され、結局取消訴訟による救済がえられなくなる。その場合は、原告は、行政事件訴訟法第一九条により、予備的に、被告国に対し、前記第一、一、2のような留学生たる地位を有することの確認の請求をするものである。 (2) 右請求の追加申立に関する原告の見解は次のとおりである。 行政事件訴訟法第四条の当事者訴訟たる本申立は同法第一九条第一三条第六号の「関連請求」であり、同第一九条の「併合」は請求の客観的併合、主観的併合のいずれをも含むものであるから、主観的併合の一態様たる本件予備的併合も当然可能であると考える。 主観的予備的併合に関しては、たしかに同法に明文の根拠を欠くが、同法第七条により民事訴訟法上の取扱に照らしてみるに、これを認めるのを相当と解するから疑問の余地はないものと思われる。否むしろ、行政訴訟 主観的予備的併合に関しては、たしかに同法に明文の根拠を欠くが、同法第七条により民事訴訟法上の取扱に照らしてみるに、これを認めるのを相当と解するから疑問の余地はないものと思われる。否むしろ、行政訴訟においては(1)行政庁と国もしくは公共団体は実質的には同一主体と見做しうるし(2)行政庁の行為はその性質の如何にかかわらず早期に有効無効が確定さるべきものである。 したがつて、予備的に被告となる者の訴訟における地位の不安定さは仮りにあるとしても、原告たる人民の便宜を無視してもなお保護されねばならないほどのものではないから、民事訴訟におけるよりも一層大巾に主観的予備的併合が認められてしかるべきである。 右第一九条は、取消訴訟の「口頭弁論の終結に至るまで」関連請求の追加的併合を認めているのであるから、とくに主観的予備的併合のみを排斥し、一旦取消訴訟につき敗訴判決を経て再度関連請求を提起し直すべしというが如きは、右法条の文理にも目的にも反するであろう。 なお、取消訴訟を国又は公共団体に対する請求に「変更」することを認めた同法第二一条はすでに右変更が相当であると明らかになつたときのことを前提とするものであるから、行政庁の当該行為の性質につきにわかに決し難いときにまで原告に危険を負担させて訴の交替的変更を申立てさせるものではない。 同条の存在により、いささかも主観的予備的併合が排斥されるものではない。 二請求原因(1) 被告国に対する請求原因事実は、本件身分打切処分が公権力の行使である行政処分であるとの点を除き、また、本件処分の違法事由として主張するところを本件身分打切りの意思表示の無効原因として修正して主張するほか、すべて被告文部大臣に対する請求原因事実と同一である。 (2) 国費外国人留学生たる原告と被告国との関係が、いわゆる特別権力関係のよ を本件身分打切りの意思表示の無効原因として修正して主張するほか、すべて被告文部大臣に対する請求原因事実と同一である。 (2) 国費外国人留学生たる原告と被告国との関係が、いわゆる特別権力関係のように公権力の行使の下に服する関係でないとすれば、それは私法上、または公法上の契約関係とみるべきものである。 (ア) 原告と被告との法律関係は私法上の契約関係である。 すなわち、原告の国費留学生の身分の取得は、原告から被告に対する国費留学生の申請行為を申込とし、被告の採用決定を承諾とする私法上の契約に基づくものである。 原告は右申請当時、英国に国籍があり、従つて日本国の権力に何等服することがなかつたのであるから、右契約の内容を決定する自由な地位を有していたものである。しかし日本国政府における多数の留学生の画一的取扱の便宜上、申請と採用の経緯がいわゆる附合契約の形になつたものである。日本国の主権が及ばない地域の外国人が、日本国との間で権利、義務関係を設定することは、その間に契約関係が存してこそ始めて可能である。 原被告間の右契約内容は被告の募集行為及び申請書記載事項の内容によつて定まる。しかし、原告とシンガポール自治州政府との合意は右契約の内容とはならない。原告とシンガポール自治州政府との間で、原被告間の法律関係を如何に解し、どのように約したとしてもそれは別個独立の法律関係であつて契約自由の範囲に属する問題である。このことは被告が自認する如く自国政府との間に何等の合意も存しない国費留学生が現に存することによつてもうかがえる。 (イ) そうでないとすれば、原被告間の関係はいわゆる公法上の契約関係である。 すなわち、被告は教育行政の一環として国費留学生制度を設置し、運用する。こうした公法上の国費留学生の身分を取得し又は付与するために申請行為と採用決 原被告間の関係はいわゆる公法上の契約関係である。 すなわち、被告は教育行政の一環として国費留学生制度を設置し、運用する。こうした公法上の国費留学生の身分を取得し又は付与するために申請行為と採用決定があつたと解されるからである。 ところで公法上の契約については一般的な規定とみるべきものがなく従つて具体的にどういう法及び法原則が支配するかが問題となるが、公法上の契約も当事者の意思の合致たる点においては私法上の契約と本質を等しくするから、私法上の契約の法原則が類推適用されるべきである。 三本件確認訴訟の対象たる現在の法律関係について前記のとおり、国費外国人留学生制度実施要項第三条但書及び該規定の運用状況からして、原告は、現在においてもなお、三七年度国費留学生たる地位を有するのである。国(文部大臣)は、現在当然に留学期間延長の手続をとり、引続き原告を国費留学生として取扱わなければならず、それまで違法に遅滞していた前項の諸給付をなさなければならない。 原告は現在、国に対し、「三七年度国費留学生」として、本件処分後、違法に遅滞された給付をうけうる地位と引続き国費留学生たりうる地位を有しているのである。 そして更に三七年度国費留学生として、何ら不都合なく正常な学業を経てきた経歴を有するものとしての現在の地位が確認されなければならない。 第三被告文部大臣の答弁および主張一本案前申立の理由(一) 国費外国人留学生の受入れは、後で述べるように、行政庁たる被告文部大臣が組織法上の権限に基づいて、直接根拠となる法律(作用法)なくして、行なう行政作用(行政上の措置)に過ぎない(なお国費外国人留学生の事務については、文部省設置法(第九条一三、第一一条一一等)および文部省設置法施行令(第一六条五、第三五条一ないし四、第三六条七等)に諸規定があり、こ 行政上の措置)に過ぎない(なお国費外国人留学生の事務については、文部省設置法(第九条一三、第一一条一一等)および文部省設置法施行令(第一六条五、第三五条一ないし四、第三六条七等)に諸規定があり、これら事務遂行のため所要の予算を計上している。)。そして国費外国人留学生とわが国政府との関係、国立大学の学生たる身分との関係が後記のとおりであることからみても、国費外国人留学生の身分を打切る行為が抗告訴訟の対象となる行政処分であると解することには疑問がある。 (二) 次に本件取消訴訟の訴えの利益について付言する。 本件取消訴訟の勝訴判決によつて、原告が国費外国人留学生たる身分を回復するという原告の主張は、理由がない。 国費外国人留学生には学部留学生と研究留学生の二種類があり、その制度の目的、学歴資格、留学期間、国別割当等が異ることは後で述べるとおりであつて、学部留学生の資格を有していたものが学部を卒業すれば当然に研究留学生に採用されるものでもなければ、また文部大臣に対してその採用を要求する権利が認められているものでもない。研究留学生は、文部大臣がその裁量に基づいて採用してはじめて研究留学生としての身分を取得するものである。従来、学部留学生であつた者を学部卒業の後あらためて研究留学生に採用した例はあるが、これは、人員及び予算に余裕がある場合、本国政府の推薦承認に基づいて採用したにすぎないのである。 原告が、昭和四三年三月大阪大学工学部を卒業し、同学大学院工学研究科修士課程の入学試験に合格し、現在大学院に在学していることは、原告の自認するところである。従つて、原告については、もはや学部留学生としての国費外国人留学生の身分を回復する余地はないものといわなければならない。 勿論、原告に対する国費外国人留学生の身分打切り処分が取消されれば、原告は、既 つて、原告については、もはや学部留学生としての国費外国人留学生の身分を回復する余地はないものといわなければならない。 勿論、原告に対する国費外国人留学生の身分打切り処分が取消されれば、原告は、既往の給与等の支給を受けうるから、本件処分の取消を求める利益を有することについては、被告もあえて争わないが、前述の如く、原告はもはや昭和三七年度国費外国人留学生としての身分を有していないのである。 二本案の答弁および主張(一) 請求原因に対する答弁請求原因第一、二、三項は認める。第四項の本件処分が違法であるとの主張は争う。 (二) 国費外国人留学生受入れ制度 1 国費外国人留学生制度の概要政府は、昭和二九年以降、文部大臣裁定「国費外国人留学生制度実施要項」に基づいて、国費外国人留学生受入制度を実施し、外国人留学生を、国費により、わが国の大学または大学付置研究所等において、教育あるいは研究指導を受けさせている。 (1) 基本方針政府の国費外国人留学生受入れの目的は、わが国と諸外国との国際文化交流をはかり、その友好、親善を促進しようとするものであり、併せてとくに東南アジア・中近東諸国については、その社会的、経済的発展に寄与する人材養成に積極的に教育協力することを主眼としている。この国費外国人留学生の受入れは政府の外交方針を基調として行なつており、このため国費外国人留学生の国別割当に当つては、文部大臣は外務大臣と協議して決定することとしている。(国費外国人留学生実施要項第五参照)。 (2) 受入れの態様政府は、前記基本方針に基づき、各国別割当に応じて国費外国人留学生を受入れるわけであるが、その受入れの態様は、現状においておよそ次の二つに大別される。 つまり、第一は主として東南アジア・中近東諸国からの受入れのように、当該国の国内開発の人 じて国費外国人留学生を受入れるわけであるが、その受入れの態様は、現状においておよそ次の二つに大別される。 つまり、第一は主として東南アジア・中近東諸国からの受入れのように、当該国の国内開発の人材養成計画による当該国政府の募集、選考に基づく留学生の受入れであり、第二は、主として欧米諸国からの受入れのように、当該国における個人の申請に基づく留学生の受入れである。 前述のとおりアジア・中近東における多くの国においては、国内開発を目途に社会的・経済的開発要員の計画的養成を重要施策としており、有為な人材を先進諸国に留学せしめているのが実情である。わが国政府がこの実情を十分認識して、これら諸国の国家的要請に応じ、国費外国人留学生を受入れることは、現状において重要かつ最も必要なことであるばかりでなく、これら諸国に対する教育協力の基本的な前提条件となつているのである。よつて、この前提条件を度外視しては、アジア・中近東諸国の多くの国からの国費外国人留学生の受入れは考えられず、このことは国費外国人留学生の受入制度の大きな特色となつているのである。従つて、これらの国費外国人留学生が、自国政府から何等かの制約を受けるのもまた自然のことであり、ビルマのごときも、留学後自己の意志で専攻分野を変えることが出来ないようになつているが、このような当該国の意志は如上の見地から政府もこれを十分に尊重しなければならないのである。 (3) 留学生の種類国費外国人留学生には学部留学生(原告はこれに該当する。)と研究留学生の二種類がある。前者は、外国において一二年の学校教育を修了したもの、または、これと同等以上の学力を有するもので、わが国の大学において一年間の予備教育(日本語教育)と四年間の大学教育(医、歯学専攻は六年、商船専攻は四年半)を受けるものであつて、東南アジア、 たもの、または、これと同等以上の学力を有するもので、わが国の大学において一年間の予備教育(日本語教育)と四年間の大学教育(医、歯学専攻は六年、商船専攻は四年半)を受けるものであつて、東南アジア、中近東諸国のみを対象として前記の如くこれら諸国の人材養成に協力しようとして、世界にさきがけてわが国が実施した独自の制度である。他方後者は、外国において大学を卒業したものまたはそれと同等以上の学力を有するもので、わが国の大学において二年間の専門的研究の指導を受けるものであり、前者の如くその対象を限ることなく広く欧米諸国からも受け入れている。 (4) 留学生の主な待遇これら留学生には、渡日、帰国旅費、渡日一時金(一人一万円)、奨学金(月三万円)、研究旅費(年額二万五千円、但し、学部留学生は最終年次生のみ)が支給される。 さらに千葉大学留学生部に在学する学部留学生のために同大学に一三九人収容の留学生寮があり、東京には東京外国語大学留学生課程に在学する学部留学生及び東京在住の他の国費留学生のために財団法人日本国際教育協会の留学生寮がある。 (5) 募集、選考各国別留学生受入れ数は、文部大臣が、わが国とそれぞれの国との外交関係、それぞれの国からの要請、従来からの応募実績と質、文化協定締結状況との関連、各種技術援助計画による援助状況との関連、わが国からの留学生招致数等所定の要件を勘案して、外務大臣と協議して決定する。 文部省は、右国別割当に基づき外務省を通じて在外日本公館に募集を依頼する。 在外日本公館は、任国政府の協力のもとに募集するか、あるいは当該国政府自体において募集してもらう。 応募者の中から在外日本公館が任国政府協力のもとに実施する選考試験の結果に基づき選考し、あるいは当該国政府自体が選考したそれらの結果を、在外日本大使公館は、外務省を通 体において募集してもらう。 応募者の中から在外日本公館が任国政府協力のもとに実施する選考試験の結果に基づき選考し、あるいは当該国政府自体が選考したそれらの結果を、在外日本大使公館は、外務省を通じ文部省に推薦する(第一次選考)。文部大臣は、この推薦された候補者について文部省に設けられた「外国人留学生問題協議会」の議に付して選考し(第二次選考)、その選考結果を勘案してその採用につき最終決定を行なう。 (6) 大学の教育、補導(ア) 学部留学生日本語教育および一般教育については、文科系は東京外国語大学の留学生課程に、理科系は千葉大学留学生部において行なう。この教育期間は、原則として三年である。 右日本語教育及び一般教育を修了したものについての専門教育は、文部大臣が、留学生の志望専攻、学業成績等を勘案して配置した大学において行なう。 (イ) 研究留学生日本語能力のあるものについては直ちにそれぞれの専攻に応じ研究指導を受ける大学に入学させるが、日本語能力に欠けるものについては原則として大阪外国語大学留学生別科に入学させ、半年ないし一年間の日本語学習の後、それぞれの専攻に応じ研究指導を受ける大学に入学させる。 2 シンガポール州からの国費外国人留学生受入れ制度の特殊性政府は、昭和三五年以降シンガポール自治州からも国費外国人留学生を受け入れているのであるが、その招致の経緯が他の諸国の場合(日本側が先方政府に要請して始める)と異り、シンガポール政府の日本政府に対する協力要請に基づき同政府の国内経済開発計画遂行のための技術者養成計画に協力するという形で、両政府の合意のもとに、前記国費外国人留学生受入れ制度を適用することとしたため、その選考手続きも他の場合と異なり、わが国、シンガポール州政府(昭和三八年九月マレーシア連邦独立後は同国政府)及 形で、両政府の合意のもとに、前記国費外国人留学生受入れ制度を適用することとしたため、その選考手続きも他の場合と異なり、わが国、シンガポール州政府(昭和三八年九月マレーシア連邦独立後は同国政府)及び国費外国人留学生間の関係に、他の多くの諸国の場合にはみられない特異性を有するに至つたものである。 (1) 国費外国人留学生受入れの経緯国費外国人留学生の受入れは、原則として独立国を対象としていたため、シンガポールの場合、同地が昭和三四年六月自治州となるまで英国の植民地であるという理由で正式に受入れていなかつた。 しかるに同地が自治州となり、民選の州政府が出現したのであるが、同政府は、その政策の重点を国内経済開発(特にシンガポールの工業化)におき、その開発要員を養成するため各国の援助を積極的に要請するに至つた。わが国に対する協力要請も漸増してきたのであるが、特に技術研究制度による短期研修員の受入れと平行して、コロンボ計画による長期的な学位取得可能な修学コース開設方を強く要請してきた。わが方としてはコロンボ計画下では学位取得が不可能である事情に鑑み、前記国費外国人留学生受入れ制度による留学生を受け入れることを提案し、シンガポール州政府もこれを歓迎した。 よつてわが方もこの要請に応ずることとし、昭和三五年以降正式に国費外国人留学生を受け入れることとなつたものである。 (2) 国費外国人留学生の選考経過文部省の依頼により外務省は、シンガポール州の割当数を在シンガポール総領事館に通報するとともに、候補者の推薦方を指示する(昭和三八年九月マレーシア連邦成立後以降は、在マレーシア日本大使館にマレーシア分として一括して割り当て、同大使館は中央政府と協議の上各地区内の割当数を定め、在シンガポール総領事館に指示する。)。 総領事館は、シンガポール州政府 立後以降は、在マレーシア日本大使館にマレーシア分として一括して割り当て、同大使館は中央政府と協議の上各地区内の割当数を定め、在シンガポール総領事館に指示する。)。 総領事館は、シンガポール州政府に募集ならびに候補者の選考を依頼する。州政府の募集選考主体は昭和三七年度までは教育省及び財務省で昭和三八年度以降は公務員委員会(パブリツク、サーヴイス、コミツシヨン)である。 候補者の選考は、まづ書類のみで行なわれ、次で日本側より送付した申請書記載の条件に合致しているが、相当の学力を有しているか等について実質的に審査が行なわれる。最終的に後記委員による面接において決定され、日本総領事館に通報される。委員は、公務員委員会委員長、学識経験者三名、教育大臣代理教育局長及び総領事館員(オブザーバー)である。右通報に基づき総領事館は、(マレーシア連邦成立後は在マレーシア大使館を通じ)候補者を文部大臣に推薦する。 文部大臣が候補者について採否を決定するにあたつても総領事館よりの推薦順位(即ちシンガポール州政府の推薦順位)は、受入れ能力の範囲内である限り尊重される。 総領事館は採用者名をシンガポール州政府に通報する。被採用者は、渡日前に同州政府との間に同意書をとりかわし、この契約締結を拒否したものは渡日できないこととなつている。 (3) 昭和三七年度におけるシンガポール政府の国費外国人留学生の選考昭和三七年度における選考は次のとおり行なわれている。 (ア) 教育省において、書類選考が行なわれ、候補者八六名中一六名が公務員委員会(PSO)に報告された。 (イ) 公務員委員会(PSO)において特別選考委員会を設け、次のとおり面接試験を行ない、最終候補者として七名を日本政府に推薦した。 A 日時昭和三七年一月二六日(金) 午前九時一五分B 場所 PSO事務局 務員委員会(PSO)において特別選考委員会を設け、次のとおり面接試験を行ない、最終候補者として七名を日本政府に推薦した。 A 日時昭和三七年一月二六日(金) 午前九時一五分B 場所 PSO事務局(シンガポール最高裁ビル)C 選考委員 PSO委員長f博士(委員長)、シンガポール大学代表(委員)、ナンヤン大学代表(委員)、シンガポール工科大学代表(委員)、教育省代表(委員)、教育大臣代理(委員)、日本総領事館代表g領事(オブザーバー)D 推せんされた候補者h(冶金工学)、i(化学工学)、j(電気工学)、k(船舶工学)、l(電気工学)、m(工業意匠)、n(機械工学)なお、政府は右七名の候補者について昭和三七年三月一六日文部省外国人留学生問題協議会選考分科会において、最終選考を行ない。次の四名が推薦され、これが四月二二日調査局長決裁を経て決定された。(調査局長は、「文部省内部部局文書決裁規程」によつて国費外国人留学生の「選定」の専決者となつており、「選定」の内容には、身分打切りが含まれている。)E 選考委員東京工業大学教務部長 o(分科会長)東京外国語大学教授 p慶応義熟大学教務部長 q東京大学事務局長 r財団法人国際学友会理事長 s千葉大学文理学部長 t法務省入国管理局長 u早稲田大学教務部長 vF 合格者h、i、j(のち辞退)、k(補欠)l(教育省の要請でjのかわりに採用したが、またのちに辞退した。)m(教育省の要請によりlのかわりに採用)(4) シンガポール州からの留学生受入れ制度の特殊性前記国費外国人留学生受入れ制度においては、もちろん被招致国の政府の意向を無視することはできないにしても、一応留学生志望者の申請に基づいて日本政府がその採否を決定する建前を原則とするのであるが、シンガポ 国費外国人留学生受入れ制度においては、もちろん被招致国の政府の意向を無視することはできないにしても、一応留学生志望者の申請に基づいて日本政府がその採否を決定する建前を原則とするのであるが、シンガポール州から受け入れる国費外国人留学生については、同州政府の人材養成計画に協力する手段として、文部大臣裁定「国費外国人留学生制度実施事項」による国費外国人留学生受入れ制度を利用するとの両国政府の合意に基づくものであるため、同州政府が実質的に選考決定して留学生を派遣し、わが方はこれを承認して受入れるという関係にあり、従つて日本政府と留学生個人との間に生ずる問題も前記政府間の関係を度外視して論ずるわけにはいかない。つまり、日本政府と留学生個人との間の法律関係も、政府間の関係を前提としているのであり、その基礎の上に立つてのみ理解されるべきものなのである。これらのことは、前述の本制度適用に当つての両政府間の交渉経過、留学生の選考決定の経緯等に徴しても明らかなことである。 なお、このことについては、シンガポール政府において奨学金は直接留学生に与えられるものではなく、いわば技術経済援助の一たんとして同州政府が取得し、これを自国留学生に支給するものとみなし留学生の渡日に際して提出させる同意書においても「学生に対して行なわれる奨学金の授与は資金及び設備を提供し政府を援助せんとする日本政府の計画により、政府が学生を上記の日本における勉学コースに推せんすることによつて政府が独自に行なうものであること」「政府は、学生またはその代理人に対し別表記載の手当(日本政府奨学金の規定により支給されるすべての手当)を支給する」旨を明記しその他帰国後五年間政府の指定する公職に就く義務を負わしめる等厳重な条件を誓約せしめて、これに違反する場合には同政府は奨学金の支給を打切り、さら により支給されるすべての手当)を支給する」旨を明記しその他帰国後五年間政府の指定する公職に就く義務を負わしめる等厳重な条件を誓約せしめて、これに違反する場合には同政府は奨学金の支給を打切り、さらにその返還を請求しうることとしているのである。 そして同政府は、留学生が前記契約の締結を承諾しない限り渡日を認めない建前になつている。 日本政府は、当初からこれらの事情を充分承知し暗黙裡にこれを承認する態度をとつてきた。もつとも両国政府間に積極的に合意があつたというものではなく、シンガポール州政府のとつている方法、処置等を日本国政府が了解しているという程度のことである。それはわが方としては教育協力の目的が達成され、両国間の友好、親善が促進される限り、手続面等において相手国政府の希望に副うことは何ら支障のないことだからである。殊にわが方としても将来学業を終え、帰国した学生に政府幹部職員候補としての道が約束されるわけであり、また同地では従来から英連邦諸国の大学の学位しか認めていなかつたことに対し、今後、わが国の大学の学位も自動的に承認されるきつかけとなるのであるから、むしろ好ましいこととして評価されるべきものなのである。 3 国費外国人留学生受入れ制度等の実施状況(1) 国費外国人留学生受入れ制度は、実施当初の昭和二九年度は一一国から二三名の留学生(学部一七名研究六名)を受入れたに過ぎなかつたが、その後年とともにその受入留学生数及び被招致国数は増大し昭和三九年度には四一ケ国から一九二名(学部は一〇国から五九名、研究は四〇国から一三三名)の留学生を受入れるに至り、過去一一年間における受入れ留学生総数は八二九名(学部四〇四名、研究四二五名)の多きに及んでいる。 (2) この制度は他の「インドネシア賠償留学生受入制度」、あるいはコロンボ計画等の諸技術援 に至り、過去一一年間における受入れ留学生総数は八二九名(学部四〇四名、研究四二五名)の多きに及んでいる。 (2) この制度は他の「インドネシア賠償留学生受入制度」、あるいはコロンボ計画等の諸技術援助制度とともに、我が国の国際文化交流並びに低開発国に対する経済、技術援助の政策に多大の貢献をなし、併せてこれら諸国との友好、親善に役立つているのである。 (三) 本件処分の経緯 1 原告は、シンガポール自治州の市民であつた時、昭和三七年度の学部留学生に採用されて渡日し、その専攻志望科目が、造船工学であるため、千葉大学留学生部に入学し、身分を打ち切つた当時は三年次生で、マレーシア連邦国民であつた。 2 昭和三九年八月五日、シンガポール州政府から在シンガポール日本総領事に対し、同政府は原告に与えられた政府の奨学金を打切ること並びに、原告を至急帰国せしめることに決定したので、日本政府の同意を得たい旨の申入れがあり、ついで同月二六日在京マレーシア大使館より外務省に対し口上書をもつて、同大使館はシンガポール州政府の原告召還決定を確認し、日本側関係当局が原告の早期帰国実現方協力するよう要請する旨の申入れがあつた。 3 よつて政府は、外務、法務、文部各省関係当局においてシンガポールからの国費外国人留学生の受入れの事情および要請の理由にかかる反マレーシア活動の事実等につき慎重審議を重ねた結果、留学を存続させることは、両国間の友好、親善をはかる国費外国人留学生制度本来の趣旨に反し、留学目的を達成することが困難であると認め、九月四日付で国費外国人留学生の身分を打切つたのである。なお、身分打切り後の昭和三九年九月二九日在日マレーシア大使館から外務省あて口上書をもつて、原告wに対し、帰国手続きのため出頭を命じた旨の通報を受けるとともに、さらに昭和三九年一一月二〇日在シン 。なお、身分打切り後の昭和三九年九月二九日在日マレーシア大使館から外務省あて口上書をもつて、原告wに対し、帰国手続きのため出頭を命じた旨の通報を受けるとともに、さらに昭和三九年一一月二〇日在シンガポール日本総領事から外務大臣あて、シンガポール政府が本人への帰国指示をした旨通告を受けている。 4 文部省は、昭和三九年八月二九日外務省情報文化局文化事業部長から調査局長あての身分打切り要請のもとに、同年九月三日国費外国人留学生実施要項第九の規定の誓約事項1の(1)の留学目的を果せなくなつたものとして、調査局長決裁を経て九月四日付で身分を打切り、この旨関係機関へ通報した。 (四) シンガポール州からの国費外国人留学生の受入れに伴つて生ずる諸法律関係 1 両国間の法律関係についてシンガポールからの国費外国人留学生の受入れは、同国政府(当時は州政府)の教育協力要請を受諾してわが国政府と同国政府との間に成立した合意に基づくものである。即ち、昭和三四年シンガポールが自治州となり、民選の州政府ができたのであるが、同政府はその政策の重点を国内経済の開発におきその開発要員を養成するため、各国の援助を要請するに至つた。わが国に対する協力要請も漸増してきたのであるが、特に技術研修制度による短期研修員の受入れと平行してコロンボ計画による長期的な学位取得可能な修学コース開設方を強く要請してきた。昭和三四年夏から秋頃にかけて在シンガポール日本総領事館がシンガポール政府教育省等と折衝したが、わが方としては、コロンボ計画下では学位取得が不可能である事情に鑑み国費外国人留学生受入制度による留学生を受入れることを提案し、シンガポール政府もこれに同意したので、ここにシンガポール政府の人材養成計画にわが国が協力する手段として国費外国人留学生受入れ制度を利用する旨の合意が両国政 入制度による留学生を受入れることを提案し、シンガポール政府もこれに同意したので、ここにシンガポール政府の人材養成計画にわが国が協力する手段として国費外国人留学生受入れ制度を利用する旨の合意が両国政府間に成立した。右合意は、両国政府担当官の間に口頭によりなされたものであるが、国際法上の合意として法的効力を有するものである。 右合意により、わが国政府は、シンガポール政府に対し、国費外国人留学生をシンガポールにも割当て、文部大臣が国費外国人留学生として採用を決定した者に対しては国費外国人留学生制度実施要項に基づいてわが国の国費により、わが国の大学において教育を受けさせ、もつてシンガポール政府の人材養成計画に協力すべき法的義務を負うに至つたのである。なお国費外国人留学生採用にあたつて、文部大臣は、シンガポール政府の推薦した候補者について、可能なかぎりその推薦順位を尊重して決定する取扱いとなつている。 なお本件につき自治州時代のシンガポール州政府が国際法上の合意の主体となり得たことについて、付言する。 元来国際法上の合意の主体となり得るものとして代表的なものは主権国家であるが、それ以外にも、国際機関、被保護国ないし従属国、さらには主権国家の構成部分たる州や自治領などが、一定の範囲内で国際法上の合意の主体となり得る場合がある。 主権国家の構成部分たる州や自治領などが一定の範囲内で国際法上の合意の主体となり得る場合、その範囲は当該国の決定に委ねられている。 ところで自治州時代のシンガポール州政府は、軍事及び外交を除くすべての事項を処理する権限を有していたこと、及び本件のごとき奨学金に関する事項は、ここでいう外交に属さず、植民地の時代からシンガポール教育省の権限の範囲内にあつたことは、一九六六年五月一六日付公務員委員会の在シンガポール日本総領事 いたこと、及び本件のごとき奨学金に関する事項は、ここでいう外交に属さず、植民地の時代からシンガポール教育省の権限の範囲内にあつたことは、一九六六年五月一六日付公務員委員会の在シンガポール日本総領事あての文書(乙第二五号証)によつても明らかである。従つてシンガポール州政府は本件につき国際法上の合意の主体となり得たこととなる。 2 わが国政府と国費外国人留学生間の法律関係について(1) わが国がシンガポールからの国費外国人留学生を採用するに当つては、同国政府から推薦された者であることを不可欠の基本条件としておるのであるがわが国政府(文部大臣)が被推薦候補者のなかから国費外国人留学生の採用を決定し、シンガポール政府を経て本人に通知することにより、わが国と国費外国人留学生との間に次のような法律関係が生じるわが国政府は、国費外国人留学生に対して、同人がシンガポール政府の推薦を受け、かつそれが継続していることを条件として、「日本政府招致国費外国人留学生募集要項(学部留学生)」(乙第二号証)に基づき、わが国の国費でわが国の大学において教育を受けさせる義務を負い、国費外国人留学生は、わが国政府に対し誓約条項(乙第六号証)を遵守して、留学の目的を果すために最善をつくして学習研究を行なう義務を負うのである。シンガポール政府の推薦が同国からの国費外国人留学生の資格要件となつていることは、同国からの国費外国人留学生の受入れがわが国政府とシンガポール政府の合意に基づき、それの履行としてなされるものであり、従つてわが国政府と国費外国人留学生間に成立する法律関係は、両国政府間の関係を前提としており、それから派生したものであること、また国費外国人留学生の選考に当つても他の諸国の場合と異り、シンガポール政府が公募し、自国の人材養成計画に従つて候補者を決定し、わが国政府 府間の関係を前提としており、それから派生したものであること、また国費外国人留学生の選考に当つても他の諸国の場合と異り、シンガポール政府が公募し、自国の人材養成計画に従つて候補者を決定し、わが国政府は同国政府の意思を可能なかぎり尊重する取扱いとなつており、応募する国費外国人留学生もこの間の事情を充分承知している点からしても明らかである。 (2) なお、わが国の政府の負つている右の義務を果たすため、文部大臣は、国費外国人留学生に対し、次のような行政上の措置をこうじている。 (ア) わが国の学術研究機関又は教育機関において特定の研究を行ないまたは教育を受けようとする者(いわゆる外国人留学生)は、出入国管理令施行規則(昭和二六年外務省令第一八号)第三条第二項第一号に定める書類を法務大臣に提出し、わが国に上陸する以前に出入国管理令(昭和二六年政令第三一九号)第四条第三項に定める資格証明書(留学資格証明書)の交付を受けなければならない。しかし国費外国人留学生に採用され、新たにわが国に上陸しようとする者に対しては、前記書類の提出を免除し、文部省より法務省宛の文書をもつて前記書類に代えている。 (イ) 新たに国費外国人留学生に採用された者に対し渡日するために必要な旅費を支給し、渡日した者に対しては財団法人国際教育協会補助金により渡日一時金を支給し、渡日時にかかる諸費用の一部援助を行なつている。また、留学期間が終了し帰国しようとする者には帰国旅費を支給している。さらに言うまでもなく、国費外国人留学生としての留学期間中生活費として月額三万円の給与を支給している。 (ウ) 国費外国人留学生(学部留学生)のための教育機関として千葉大学及び東京外国語大学にそれぞれ三年の留学生部、留学生課程を設置し、ここでわが国の大学で教育を受けるに必要な日本語及び一般教育を履習せし ) 国費外国人留学生(学部留学生)のための教育機関として千葉大学及び東京外国語大学にそれぞれ三年の留学生部、留学生課程を設置し、ここでわが国の大学で教育を受けるに必要な日本語及び一般教育を履習せしめるとともに、これら両機関から大学に進学する者については受入大学の学長と協議することにより、特別選考による入学を依頼している。 (エ) 国費外国人留学生については、本来学生が大学に納入すべき授業料、入学料、検定料等大学教育を受けるに必要な諸費用は、国立大学の場合これを徴収せず、公私立大学の場合はこれを文部省が負担している。又国立大学に在学している者のため、特に特別指導費や日本人学生と同様の学生経費等を大学に支出している。さらに最終年次にある学部留学生及び研究留学生に対し、研究旅費を支給し、留学生が自己の研究目的にそつた研究を行なうに必要な日本国内における旅行を行なわせている。 (オ) 国費外国人留学生のための宿舎に関しては、主としてその厚生補導又は援護に関する団体として設立された財団法人国際教育会が、駒場留学生会館及び関西留学生会館を経営し特設宿舎として国費外国人留学生にこれを提供している。又これら特設宿舎に居住できない者には、協会が民間宿舎を斡旋するとともに下宿一時金の支給及び下宿料の補助を行なつている。さらに国費留学生で、疾病、傷害に罹つた者には、この協会より医療費の補助が行なわれている。 (3) 右に述べたところにより、シンガポール政府が留学の途中においてその推薦を取消した場合には、わが国は、当該留学生に関してシンガポール政府に対して負つている前記合意に基づく義務を免れることとなる。それにともなつて、わが国と当該留学生との間に派生した法律関係は、当然には消滅しないがわが国は、これを解消しうることとなるのである。しかしわが国は、これを解消す 記合意に基づく義務を免れることとなる。それにともなつて、わが国と当該留学生との間に派生した法律関係は、当然には消滅しないがわが国は、これを解消しうることとなるのである。しかしわが国は、これを解消することを拘束されるものではない。即ち、わが国とシンガポールからの国費外国人留学生との間に派生する前記内容の法律関係は、わが国が前記合意に基づく法的義務の履行としてシンガポールから国費外国人留学生を受け入れているものであること、従つて、同人は、シンガポール政府から同政府の人材養成計画に従つてわが国に派遣されたものであることを当然の前提として、その基礎の上に成立しているものである。従つて、シンガポール政府の推薦が取消され、同政府の人材養成計画からはずされると、わが国と当該留学生との間の法律関係は、その成立の基礎を失なつたことになり、国費外国人留学生受入れ制度をいわば利用してシンガポール政府の人材養成計画に協力するという同国からの国費外国人留学生の受入れの目的を達成することができなくなるので、制度本来の趣旨に則り、わが国と当該留学生との間の法律関係を解消しうることとなるのである。 原告に対する国費外国人留学生の身分打切りに際して考慮の対象となつたのは、外交ルートを通じたシンガポール政府から原告に対する国費外国人留学生の身分打切りの要請があつたことおよび両国間の友好、親善関係に及ぼす影響である。従つて、これらの点については、国費外国人の身分打切り前に原告に対し弁明の機会を与えるべき筋合のものではなく、またこれをなしてはいない。 3 シンガポール政府と国費外国人留学生間の法律関係についてシンガポール政府と同国から受入れられた国費外国人留学生間の法律関係は、両国政府間の前記合意から生ずる効果の面からみるかぎり、推薦者と被推薦者の関係に過ぎない。しかし 人留学生間の法律関係についてシンガポール政府と同国から受入れられた国費外国人留学生間の法律関係は、両国政府間の前記合意から生ずる効果の面からみるかぎり、推薦者と被推薦者の関係に過ぎない。しかし同政府は、右の合意と別個に国費外国人留学生から詳細な事項を定めた同意書(乙第八号証)を徴しているので、両者間には右同意書に定められた法律関係が成立する。右同意書によれば、国費外国人留学生は、誓約条項を遵守して勉学して推薦されたコースを終了し、一定期間政府の指定する職に勤務する義務を負い、また所定の場合には支給を受けた奨学金等の償還、損害賠償の義務を負うことになつている。一方同政府は、わが国政府が留学生に支給する奨学金は、資金および施設を提供し、同国政府を援助せんとする日本国政府の計画により、同国政府が学生をわが国における勉学コースに推薦することにより、同国政府が独自に支給するものであると解して、国費外国人留学生に一定の手当を支給することを約するとともに、一ケ月の猶予期間をおいて両者間の法律関係を解消する権限を留保している。 4 国費外国人留学生の身分打切りと国立大学における学生たる身分との関係について(1) 文部大臣の国費外国人留学生の身分打切りによつては、国費外国人留学生制度実施要項(文部大臣裁定)による奨学金その他の経済援助および進学の便宜等を享受する資格を喪失するにとどまり、当然に留学生の在籍している当該国立大学における学生たる身分の消滅をきたすものではない。学生たる身分の得喪はあくまで当該大学の決定するところに委ねられている。従つて国費外国人留学生の身分打切りと国立大学の学生に対する退学処分とを同日に論ずることはできない。 (2) 国費外国人留学生に採用され千葉大学留学生部に入学を許可された者が、在学するために国費外国人留学生たる身分 留学生の身分打切りと国立大学の学生に対する退学処分とを同日に論ずることはできない。 (2) 国費外国人留学生に採用され千葉大学留学生部に入学を許可された者が、在学するために国費外国人留学生たる身分を継続する事が必要であるか否かはまず第一に千葉大学学則(千葉大学留学生部規程を含む)の定めるところによるのであるが、当該学則にはこの点につき特に規定されていない。昭和三五年四月一日に国費外国人留学生(学部留学生)の日本語教育機関として設置された留学生課程は昭和三九年四月一日に日本語教育の強化ならびに一般教育の充実を目途とし、三年制の教育機関として改組され留学生部と改称された。そして当該留学生部は、原則として国費外国人留学生をその教育の対象としている。しかし当該留学生部規程第二条但書の規定によれば、当該留学生部に欠員があるときは、私費外国人留学生を入学させることもできる。したがつて千葉大学留学生部に在籍するためには、国費外国人留学生たる身分の保有が絶対不可欠の要件であるとは言えない。 また、国費外国人留学生たる身分を喪失した者が所定の手続を経て、教授会において認められた場合は、私費外国人留学生として在籍する方途もあるので、当該身分の喪失が直ちに除籍の対象になるのではない。 結局、明確な規定が置かれていない以上、国費外国人留学生たる身分と、千葉大学留学生部の学生たる身分との関係は、前記留学生部の設置目的を考慮した上で、当該留学生部教授会の決定に委ねられていると言える。 ところで本件に関して言えば、昭和三九年一一月三〇日に開かれた千葉大学留学生部教授会の議により、原告は今後同留学生部において学業を継続する意志なきものと決定された結果、同大学学則第二二条の二の準用により、同年九月四日に遡り除籍されたものである。 (五) 本件処分は、適法である。 議により、原告は今後同留学生部において学業を継続する意志なきものと決定された結果、同大学学則第二二条の二の準用により、同年九月四日に遡り除籍されたものである。 (五) 本件処分は、適法である。 国費外国人留学生の身分を打切る行為が抗告訴訟の対象となる行政処分であると解しうるとしても、被告は、マレーシア政府の要請に基づいて国費外国人留学生の身分を打切つたのであつて、右処分には原告の主張するような取消さるべき瑕疵は存しない。シンガポール州からの国費外国人留学生は、同州政府の教育協力要請を受諾して日本政府と同政府間の合意に基づき受入れられているものであつて、他の諸国の場合の如く留学生個人の申請に基づいて日本政府がその採否を決定の上、受入れているのと異ることは、すでに述べたとおりである。従つてシンガポール州からの国費外国人留学生は、いわば同州政府から派遣されたものを日本政府が委託を受けて教育している関係にあるわけである。原告の日本政府に対する法律関係、換言すれば国費外国人留学生の身分に基づいて生ずる法律関係は、同人がシンガポール政府から派遣されたことを当然の前提としてその基礎の上に成立しているものといいうるのである。従つて、同政府から国費外国人留学生の身分打切りの要請がなされた以上、日本政府と原告との間の前記法律関係は、その成立の基礎を失つたことになり、国費外国人留学生受入れの目的を達成することができなくなつたのであるから、被告が制度本来の趣旨に則り、原告に対し国費外国人留学生の身分を打切つたのは、むしろ当然であつて、右処分には何らの違法はない。 そもそも国費外国人留学生受入制度は、縷説した如く国際間の文化交流をはかるとともに技術援助、教育協力をすることにより、我が国と当該国間の友好、親善を促進することを主たる目的とするものであつて、留学生 そもそも国費外国人留学生受入制度は、縷説した如く国際間の文化交流をはかるとともに技術援助、教育協力をすることにより、我が国と当該国間の友好、親善を促進することを主たる目的とするものであつて、留学生個人に恩恵を与えることを直接の目的とするものではない。むしろ、それは反射的利益に過ぎないともいうべきである。 従つて当該国政府の意向、しかも正式に外交ルートを通じて表明された意向を無視してまでも国費外国人留学生の身分を存続させることは制度本来の趣旨に反することであり、逆に国費外国人留学生の身分を打切られてももともと限られた範囲内において利益をうけうるに過ぎない留学生にとつては、そのことは当然受忍すべき事柄といわなければならない。 原告は、応募に際し被告に対してなした誓約条項には違反していないから、これに違反するものとしてなした本件処分は違法であると主張する。しかしながら原告については、政府から国費外国人留学生の身分の打切り要請がなされた以上、前述の如き制度本来の趣旨、留学のための渡日の経緯、特に自国政府との関係に鑑みると、原告は、もはや国費外国人留学生制度による留学の目的を果すことができなくなつたものといわなければならない。従つて本件処分は前記誓約条項に違反する結果を生じたものというべきであるから、右条項の面からみても国費外国人留学生の身分打切りの理由があり何ら違法の瑕疵はない。 三原告の反論に対する主張 1 昭和三七年度以降からシンガポールの開発要員を国費外国人留学生として受入れたということについてシンガポール政府の人材養成計画に基づくシンガポールからの国費外国人留学生の受入れは、すでに詳述しているとおり、昭和三五年度からであつて、昭和三七年度以降からではない。このことはシンガポール政府のメモランダムに徴しても明らかなことである(乙 ポールからの国費外国人留学生の受入れは、すでに詳述しているとおり、昭和三五年度からであつて、昭和三七年度以降からではない。このことはシンガポール政府のメモランダムに徴しても明らかなことである(乙第一三号証の一および二)。 2 在日私費留学生から国費留学生への採用について文部省が在日私費留学生に対し個別的に折衝して国費外国人留学生を採用した事実はない。 原告は、わが国に留学している私費留学生に対してこれと個別的に折衝し国費外国人留学生の身分を与えていると主張するが、かかる事実は存しない。昭和三九年度に特別措置として私費留学生のうちから大学長の推薦する者を対象として一九名を採用したことはあるが、それは以下に述べるごとき経緯によるものである。 昭和三九年度の国費外国人留学生の採用数が当初一〇〇名であつたところ、年度途中においてさらに一〇〇名増加(研究留学生のみ)したので、この追増分一〇〇名について各国からの推薦を求めたところ、適格者が採用予定数に達しなかつたため、特例的に在日私費留学生で当該国在日公館の推薦状または同意書を提出した者のうちから選考採用したのである。従つて、大学長の推薦は受けたが当該国在日公館の推薦状等が得られないため採用されなかつた例もあつたわけである。 これ以前にも在日私費留学生のなかから国費留学生を採用した例が若干あるが、これらはすべて当該国の採用割当数の枠内での採用方を当該国政府が要請してきたものに限られている。 以上は、いずれも例外的措置であるが、それにしても文部省が当該国政府の意向にかかわりなく、在日私費留学生と直接的個別的に折衝して国費留学生を採用したことはないのである。ただ、割当ての枠外の採用については例外的に当該国政府の要請に基づかずして採用した例もある。昭和三七年当時シンガポール州には研究留学生、ま 的個別的に折衝して国費留学生を採用したことはないのである。ただ、割当ての枠外の採用については例外的に当該国政府の要請に基づかずして採用した例もある。昭和三七年当時シンガポール州には研究留学生、また台湾には学部留学生の採用を割り当てていなかつたのである。原告の主張するa(研究留学生)b(学部留学生)は、この例外的採用によるものである。 3 日本政府が原告の身分打切りを示唆するための情報提供を行なつていたということについて日本政府がマレーシア政府からの身分打切り要請以前に、原告の身分打切りを示唆するための情報提供を行なつたことは全くない。原告は、シンガポール立法議院におけるc総理の答弁を引用しているが同総理は、本件に関する事実を知らなかつたために適切な答弁ができず、さらに他の質問ととり違えて答弁したものである。 シンガポール政府は、原告の身分打切りを示唆する何等の情報提供も、日本政府から受けていないことは、シンガポール政府総理府事務次官も認めているのである(乙第二四号証の二)。 また、原告は打切り処分が迅速に行なわれている事実をあげているが、原告の身分打切りについてのシンガポール政府の意向についてはすでに昭和三九年八月六日付在シンガポール日本総領事から外務大臣あてに報告されているところである(乙第九号証の一)。 4 南ベトナムからの留学生eの事例について原告は、南ベトナムからの国費外国人留学生eの例を引用して被告の主張に対して反論するが同人の例は次に述べるように、原告の場合と全く事情を異にしている。即ち、eに関しては、本国政府からわが国政府に対して公式に国費外国人留学生の身分の打切りを要請してきたものではなく、ただ単に本人に対して本国政府から帰国命令が出されたにとどまるのである。従つて本国政府の右命令に従うか否か、また旅券延長申請の 対して公式に国費外国人留学生の身分の打切りを要請してきたものではなく、ただ単に本人に対して本国政府から帰国命令が出されたにとどまるのである。従つて本国政府の右命令に従うか否か、また旅券延長申請の拒否にしても、いずれも本人と本国政府間の問題であつて、直接わが国政府の関与すべき問題ではなかつたのである。ただ本国政府により旅券の延長が認められなかつた結果、わが国政府にとつては出入国管理令に基づき処置すべき問題が生じたにとどまるのである。 5 原告が本国の旅券を現有していることについて原告は、本国の旅券を現有していることは、マレーシア政府が原告のわが国における留学のための在留を承認していることの証左であると主張する。なるほど、原告は、最近にいたり、シンガポール政府発行の旅券を新たに付与されたのであるが、それにより、その後マレーシアから独立し、当時とは事情を異にするに至つたシンガポール政府が、原告の現在私費留学生としてわが国に在留していることを承認しているものということはできるにしても、右旅券発行の事実をもつて遡つて原告に対する国費外国人留学生の身分打切りの当時からマレーシア政府あるいはシンガポール州政府が、原告が国費外国人留学生としてわが国に在留することを承認していたものといいえないことは多言を要しないところである。 6 本件身分打切りと世界人権宣言、憲法等の違反について文部大臣の措置は、世界人権宣言、憲法に違反するものではない。 (1) 原告は、世界人権宣言は、条約に準ずる規範ないし国連加盟国の行為の基準となるべきものであり、右宣言第一九条に違反する本件処分は憲法第九八条第二項に違反すると主張する。しかしながら、世界人権宣言は、条約として結ばれたものではなく、国際法上の拘束力を持たないものである。このことは、宣言が何ら具体的実体法的な規 する本件処分は憲法第九八条第二項に違反すると主張する。しかしながら、世界人権宣言は、条約として結ばれたものではなく、国際法上の拘束力を持たないものである。このことは、宣言が何ら具体的実体法的な規定ではなく、抽象的な倫理的基本法則から成りたつていることからも明らかであるがその成立の経緯をみれば、もはや疑問の生ずる余地はないものと考える。 即ち、国連憲章の人権尊重・擁護に関する規定は甚だ瞹昧かつ不充分であるので、その内容を詳細に規定し、実施規定を作ることは憲章成立のときから将来の課題とされていた。そこで憲章第六八条に基づいて設立された人権委員会は、当初世界人権章典を作ろうとし、一九四七年草案起草委員会を設けて人権規約草案を検討した。しかるに人権章典が単なる原則の宣言に止まるべきであるとの意見と法的拘束力をもつべきであるとの意見が対立してまとまらないので、結局単一の人権章典でなしに、まず最初に広範囲に人権の内容を規定した法的拘束力を持たぬ人権宣言と一定の人権の尊重を条約のかたちで義務づける人権規約をつくりさらに規約に規定された人権の国際的保障を支えるための実施措置を定めることとした。一九四八年人権委員会は、宣言起草委員会の手になる草案(ジユネーブ草案)につき検討し、前文を付し、その内容を簡潔にして同委員会としての確定案を作成し、経済社会理事会は、同年九月同案をそのまま採択し、第三回国連総会に提出した。総会では各国代表からそれぞれ修正案が提出され、激しい検討の後同年一二月一〇日この宣言は、法的拘束力をもつものではないとの了解のもとに賛成四八国、棄権九国反対なしで総会決議の形で採択されたのである。即ち、各国の代表の大部分は、この宣言はかれらの国家および政府に対して法的拘束力をもつことに反対し、わずかにフランスとベルギーの代表がこの宣言の中に 九国反対なしで総会決議の形で採択されたのである。即ち、各国の代表の大部分は、この宣言はかれらの国家および政府に対して法的拘束力をもつことに反対し、わずかにフランスとベルギーの代表がこの宣言の中にある程度の法的拘束力を認めようとしたにすぎない。そこで総会議長は、ここに採択された文書は各国に対して基本的人権の実現のために行動するように拘束する協定ではないことを認めると同時に、なおかつそれが人類社会の偉大な進歩にむかつての前進であると信ずると述べたのである。なお、x人権委員会議長も委員会においてこの宣言の効力について何ら拘束力をもつものでない旨を述べている。 なお前述の人権規約は、その草案が人権宣言草案と同じく一九四八年の人権委員会によつて採択され、一九五〇年各国の意見回答とともに総会に提出されたが、再検討のため人権委員会に回付され、その後、一九五二年、一九五四年の人権委員会において検討され、その後一九六六年一二月一六日第二一回国連総会において採択されたが、加入または批准した国はない。 以上述べたように世界人権宣言は実定的な国際法としてではなく諸国家の向うべき共通の目標を示したもの、換言すれば、倫理的な効力をもつものとしてほとんど満場一致に近い支持の下に承認されたものであるその成立経緯からしても法的拘束力をもつ憲章たらしめようとしたならば、この人権宣言は、有力な反対によつて成立を阻止されたであろうことは明らかである。 世界人権宣言が法的拘束力をもつものでないことについては学説においても異論を見ないところであつて原告らの主張は、独自の見解に立つて被告の処分の効力を争うものであつて、理由のないものといわねばならない。 (2) 原告は、文部大臣の原告に対する外国人国費留学生の身分打切りの措置が、憲法に違反すると主張するが理由はない。 (ア) 被告の処分の効力を争うものであつて、理由のないものといわねばならない。 (2) 原告は、文部大臣の原告に対する外国人国費留学生の身分打切りの措置が、憲法に違反すると主張するが理由はない。 (ア) (憲法第二一条違反の主張について)前述のとおり文部大臣はシンガポール政府の要請に基づいて原告の外国人国費留学生の身分を打切つたのである。シンガポール政府の日本政府に対する身分打切りの要請が仮に原告の反マレーシア活動に基づくものでありさらに原告の主張するようにマレーシア大使館への抗議行動を含む一連の活動を決定的理由とするものであつたとしても、文部大臣は原告のこれらの行動に何らの制約を加えていなかつたのであつて、外国人国費留学生の身分打切りの措置をもつて原告の表現の自由を侵害するものということができないことは明らかである。 (イ) (憲法第二三条違反の主張について)憲法の保障する学問の自由とは学問的研究の自由とその研究結果の発表の自由をいうのである(昭和三八年五月二二日最高裁判所大法廷判決、刑集一七巻四号三七〇頁)。しかるに原告に対する外国人国費留学生の身分打切りの事由は前述のとおりであつて、文部大臣の右措置が原告の学問の自由とは何らの関係もないことはいうまでもないところと考える。右措置は、原告が私費留学生としてわが国の大学で教育を受けることを妨げるものではなく、原告は、大阪大学工学部を卒業したのである。 (ウ) (憲法第二五条、第二六条の違反の主張について)健康で文化的な最低限度の生活を営む権利及びひとしく教育を受ける権利については、憲法は、外国人に対してまでこれらの権利を保障するものではない。 (エ) (憲法第一四条違反の主張について)原告の主張は理解に若しむところであるが、文部大臣の前記措置は、原告の政治思想、国籍、人種等を理由としてなされた てまでこれらの権利を保障するものではない。 (エ) (憲法第一四条違反の主張について)原告の主張は理解に若しむところであるが、文部大臣の前記措置は、原告の政治思想、国籍、人種等を理由としてなされたものではないことはいうまでもない。なお本条も専ら日本国民について定められたものであつて、外国人に対して適用される規定ではない。 第四被告国の答弁および主張被告文部大臣の答弁および主張と同一である。 第五証拠(省略) 理由 第一被告文部大臣に対する請求について一、原告が、文部大臣裁定(昭和二九年三月三一日。その後数次の改正がある。)「国費外国人留学生制度実施要項」に基づく募集に応じ、シンガポール自治州からの昭和三七年度国費外国人留学生として被告により採用され、昭和三七年四月から千葉大学留学生課程に配属されて勉学に従事したこと、原告は右採用の当時シンガポール自治州の市民でイギリス国籍を有していたが、昭和三八年九月マレーシヤ連邦成立後はマレーシヤ国籍の留学生であり、昭和四〇年八月シンガポールが分離独立した後はシンガポール国籍を有して現在にいたつていること、被告は、原告が千葉大学留学生部(留学生課程廃止後これに代るもの)第三年次に在学中、原告に対し、昭和三九年九月四日付で、原告の国費外国人留学生身分打切の処分をなし、原告は同月九日この処分の通知を受けたことは、当事者間に争いがない。 二、被告は本件身分打切処分は抗告訴訟の対象となる行政処分に当らないと主張するが、それにはまず国費外国人留学生の身分ないし法的地位をどのように解するか、従つてこれを打切る行為が公権力の行使たる行政処分に当るかどうかを検討することが必要である。 ところで、この点について、原告は、昭和三七年度採用にかかる国費外国人留学生である原告は、東南アジア、中近東諸国 れを打切る行為が公権力の行使たる行政処分に当るかどうかを検討することが必要である。 ところで、この点について、原告は、昭和三七年度採用にかかる国費外国人留学生である原告は、東南アジア、中近東諸国からの一般の国費外国人留学生と全く同じ身分ないし地位を有すると主張するのに対して、被告は、シンガポール自治州からの国費外国人留学生の身分については、日本とシンガポール自治州の両政府間の特別の合意がその前提ないし基礎となつているため、他の諸国からのそれと異る特殊性があると主張する。ところで、原告を含むシンガポール自治州からの国費外国人留学生の受入れについて、他の諸国からのそれと同様、前記文部大臣裁定「国費外国人留学生制度実施要項」による国費外国人留学生の受入制度を適用ないし利用していることは、被告もこれを認めているので、被告のいう国費外国人留学生の受入制度の利用ということが、その制度の外形だけを形式的に利用するにとどまるものであろうと仮定しても、本件身分打切処分が抗告訴訟の対象となるかどうかの問題は、結局、右の文部大臣裁定の実施要項に基づく国費外国人留学生の受入制度のもとにおける留学生の採用、在学関係とその身分打切りがどのような法的意味ないし効果をもつものであるかを明らかにすることによつて解決されるものといわなければならない。 よつて、以下この点について考察する。 三、そこで国費外国人留学生の受入れ制度とその実施について考察し、本件身分打切処分が抗告訴訟の対象となるかどうかを検討する。 (一) 政府は、わが国と諸外国との国際文化交流をはかり、その友好親善を促進し、あわせて、とくに東南アジア、中近東諸国を重点とし、その社会的・経済的発展に寄与する人材養成に協力する目的をもつて、昭和二九年以降前記文部大臣裁定「国費外国人留学生制度実施要項」に基づい を促進し、あわせて、とくに東南アジア、中近東諸国を重点とし、その社会的・経済的発展に寄与する人材養成に協力する目的をもつて、昭和二九年以降前記文部大臣裁定「国費外国人留学生制度実施要項」に基づいて国費外国人留学生の受入制度を実施し、国費により外国人留学生を招致して、わが国の大学または大学付置研究所等において教育あるいは研究指導を受けさせてきている。これには、学部留学生と研究留学生の二種類があるが、このうち学部留学生は、外国において一二年の学校教育を修了したもの、または、これと同等以上の学力を有するもので、わが国の大学において一年間の予備教育(日本語教育)と四年間の大学教育(医、歯学専攻は六年、商船専攻は四年半)を受けるものであつて、東南アジア、中近東諸国のみを対象として、これら諸国の人材養成に協力しようとして世界にさきがけてわが国が実施した独自の制度である。他方研究留学生は、外国において大学を卒業したもの、または、これと同等以上の学力を有するもので、わが国の大学において二年間の専門的研究の指導を受けるものであり、学部留学生のようにその対象を限ることなく、広く欧米諸国からも受入れている。各国留学生の受入れ数は、文部大臣が、わが国とそれぞれの国の外交関係、それぞれの国からの要請、従来からの応募実績と質、文化協定締結状況との関連、各種技術授助計画による援助状況との関連、わが国からの留学生招致数等所定の要件を勘案して、外務大臣と協議して決定する。文部省は、右国別割当に基づき、外務省を通じて在外日本公館に募集を依頼する。在外日本公館は任国政府の協力のもとに募集するか、あるいは、当該国政府自体において募集してもらう。 選考は、在外日本公館が応募者の中から任国政府協力の下に実施する選考試験の結果に基づき選考し、あるいは、当該国政府自体が選考した もとに募集するか、あるいは、当該国政府自体において募集してもらう。 選考は、在外日本公館が応募者の中から任国政府協力の下に実施する選考試験の結果に基づき選考し、あるいは、当該国政府自体が選考したそれらの結果を、在外日本公館が外務省を通じ文部省に推薦する(第一次選考)。次に文部大臣はこの推薦された候補者について、文部省に設けられた外国人留学生問題協議会の議に付して選考し(第二次選考)、その選考結果を勘案してその採用につき最終決定を行なう。 留学生の主な待遇としては、これらの留学生には、渡日、帰国旅費、渡日一時金(一人一万円)、奨学金(月三万円)、研究旅費(年額二万五千円、ただし学部留学生は最終年次生のみ)等が支給される。さらに、原告のような千葉大学留学生部(留学生課程)に在学する学部留学生のため、同大学に特設宿舎たる学寮が付置される。 なお学部留学生に対する大学の教育補導についていうと、日本語および一般教育が、文科系志望の学部留学生に対しては東京外国語大学の留学生課程において、理科系志望の学部留学生に対しては千葉大学留学生部(留学生課程)において、それぞれ、原則として三年の教育期間を設けて行なわれる。右日本語教育及び一般教育を終了した者についての専門教育は、文部大臣が留学生の志望専攻、学業成績等を勘案して配置した大学において、行なう。 国費外国人留学生制度の概要が、以上のとおりであることについては、当事者間に争いがない。 (二) 次に、右制度実施上の細目について調べてみると、成立について争いのない乙第一、二、六、七号証、その方式および趣旨により公務員が職務上作成したものと認められ真正に成立した公文書と推認しうる乙第四、五号証、成立につき争いのない乙第二六号証の一ないし三、証人gの証言および原告本人尋問の結果によれば、次のように認 により公務員が職務上作成したものと認められ真正に成立した公文書と推認しうる乙第四、五号証、成立につき争いのない乙第二六号証の一ないし三、証人gの証言および原告本人尋問の結果によれば、次のように認めることができる。 1 「国費外国人留学生制度実施要項」は前記の経済的利益供与のほか、国費外国人留学生の国立大学における検定料、入学料、授業料を徴収しないと定めている。 2 「国費外国人留学生制度実施要項」に基づいて、外国において留学生の募集が行なわれる場合には、「日本政府招致国費外国人留学生募集要項(学部留学生)」(以下単に「募集要項」という。)が頒布されるので、応募者は所定の日本政府あての申請書を付属書類とともに、在外日本公館に提出し、選考、推薦を受けることになる。 しかし、原告を含む昭和三七年度国費外国人留学生のシンガポール自治州における募集については、シンガポール政府教育省が、在シンガポール日本総領事館から委任をうけて、右募集要項による応募事務一切を担当し、応募者八三名中一六名を適格候補者と定めて、公務員委員会に報告し、同委員会は特別選考委員会を設けて原告を含む七名を最終候補として推薦する旨被推薦者の申請書その他の書類をそえて、在シンガポール日本総領事館に通知し、同総領事館は外務大臣を経由して被告文部大臣に右七名の候補者を推薦したものである。なお、原告は、造船工学の専攻を希望する留学生として応募し、昭和三七年一月一一日付の日本政府あての申請書を作成してシンガポール政府教育省に提出したが、その申請書は同政府から在シンガポール日本総領事館を経由して、文部大臣に送付されたものである(これに対して、文部省においては、昭和三七年三月二二日調査局長決裁をへて原告ら四名の採用が決定されたことは、弁論の全趣旨により認められる。)。 3 国費外国人留学生 、文部大臣に送付されたものである(これに対して、文部省においては、昭和三七年三月二二日調査局長決裁をへて原告ら四名の採用が決定されたことは、弁論の全趣旨により認められる。)。 3 国費外国人留学生の大学への配置については、前記「国費外国人留学生制度実施要項」によると、国費外国人留学生を入学又は入所させる大学又は大学付置研究所等は、文部大臣があらかじめ当該大学長又は所長等と協議して決定すると定められているが、前記募集要項においても次のように定められている。 即ち、日本政府は、留学生の専攻分野により、前期教育三年(留学生課程)、後期教育二年(専門課程)についてそれぞれ入学すべき大学を指定し、正規の学生として当該大学に入学させる。この指定に対する異議は認めない。そして前期(留学生課程)については、既に説示したように、原則として最初の三年間、東京外国語大学(文科系専攻志望)、または千葉大学(理科系専攻志望)の各留学生課程に入学させる。留学生課程の三箇年のうち、第三年次は日本の大学教育の第二年次に相当する。留学生課程には原則として三年以上在学し、所定の課程を修了した者は、大学の専門課程(後期)に入学させる。 また右募集要項によると、留学生課程在学中における専門学科の変更は原則として認めない。ただし、自国政府の要請があり、かつ、在学する大学が適当と認めた場合には、日本政府が当該留学生の適性その他を考慮の上、その変更を認めることがある、とされ、専門課程進学後の専攻学科の変更を認めないとされている。 4 千葉大学留学生課程規程又は千葉大学留学生部規程(同大学学則第五三条の三による。)には、国費外国人留学生の入学、在学および進学関係について次のように定めてある。千葉大学の留学生課程(昭和三九年四月一日廃止後は留学生部、以下同じ。)に入学させる学生は原則 則第五三条の三による。)には、国費外国人留学生の入学、在学および進学関係について次のように定めてある。千葉大学の留学生課程(昭和三九年四月一日廃止後は留学生部、以下同じ。)に入学させる学生は原則として東南アジア、中近東諸国からの国費外国人留学生とする。ただし、欠員があるときは、私費外国人留学生を入学させることがある(留学生課程規程および留学生部規程の各第二条)。留学生課程の入学志願者に対しては、選考のうえ入学を許可する。ただし、国費外国人留学生については、学長が文部大臣と協議して定める(第七条、留学生部規程では第六条)。留学生課程を修了した者は本学または他の大学学部の第三年次に編入学を志願することができる。国費外国人留学生の編入学すべき大学については、学長が文部大臣と協議して定める(第一八条、留学生部規程では第一七条)。外国人留学生は検定料、入学料、授業料を納入しなければならないが、国費外国人留学生からはこれを徴収しない(第二七条、留学生部規程では第二六条)。 5 国費外国人留学生制度実施要項によると、「文部大臣は所定の申請書により、国費外国人留学生に対して、国費外国人留学生として必要とみとめられる条件について誓約させる。国費外国人留学生が右条件等に違反した場合には給与の打切り、その他必要な処置を講ずることがある。」と定められ、また募集要項にも、注意事項として、申請書類に虚偽の記載をし、誓約事項に違反し、または成業の見込みがないと日本政府が判断した場合は留学中であつても、留学生としての身分を取消すことがある、と表示されている。 原告は昭和三七年一月一一日付文部大臣あての誓約書を作成して申請書等とともに文部大臣に提出したが、その誓約書の方式は一様のものであつて、次のような事項が記載されている(誓約条項の内容については当事者間に争いがな 七年一月一一日付文部大臣あての誓約書を作成して申請書等とともに文部大臣に提出したが、その誓約書の方式は一様のものであつて、次のような事項が記載されている(誓約条項の内容については当事者間に争いがない。)。 「1、わたくしは、国費外国人留学生として、次の事項を守ることを約束します。 (1) 留学の目的を果たすために、最善をつくして、日本の大学において学習研究を行なうこと(2) 日本の社会秩序に違反しないよう行動すること(3) 入学する大学もしくはその他のことについて、日本政府の決定ならびに入学した大学の学則等に忠実に従うこと(4) 日本政府から支給される給与を超えて必要とする経費については、自己負担とし、給与の増額は要求しないこと(5) 日本において債務を負つた際は、自己の責任において弁済すること2、上記の事項に違反した場合、または日本政府により成業の見込みがないと判断された場合において、国費留学生としての身分を打ち切られ、また帰国を命ぜられても、不服を申立てることなくこれに従います。」なおその末尾には、「下記の者が日本政府国費外国人留学生として学習研究を行なうことに同意し、上記のことを守らせることを保証します。」との保証人の保証文言の記載がある。 (三) 以上の諸事実によると、原告は昭和三七年三月二二日付で自然科学系学科を専攻する国費外国人留学生(学部留学生)として被告文部大臣に採用されたが、それは被告が提示する一定の条件に服する旨の原告の承諾のもとになされたものであつて、シンガポール自治州とは独立した人格者である原告の意思の存在を前提としていることが明らかである。そして、原告の同意に基づく被告の国費外国人留学生の採用行為によつて、わが国の政府は、国費外国人留学生たる原告に対して、募集要項に基づき日本の国立又は公私立の大学において教育 いることが明らかである。そして、原告の同意に基づく被告の国費外国人留学生の採用行為によつて、わが国の政府は、国費外国人留学生たる原告に対して、募集要項に基づき日本の国立又は公私立の大学において教育を受けさせる義務を負い、国費外国人留学生(原告)は誓約条項を遵守して留学目的を果すために最善をつくして学習研究を行なう義務を負い、留学生に誓約条項等の違反があれば、わが国政府は何時にても留学生たる身分を取消しうるという法律関係が成立するものと解することができる。更にわが国政府の募集要項に基づく義務は具体的には次のようにして実現される。即ち、(1) 原告に対し、渡日費用、留学期間中の毎月の奨学金等を支給する。国立大学における入学料、授業料、検定料を徴収しない。千葉大学留学生課程に付置される特設宿舎の使用資格を与える。 (2) 原告を千葉大学留学生課程に入学させる(なお、原告は文部大臣と千葉大学学長との協議によつて、昭和三七年四月同大学留学生課程への入学を許可された。)。 (3) 千葉大学留学生課程(留学生部)における前期教育三年を修了して後期教育の専門課程たる国立又は公私立の大学の学部に進学するには文部大臣と受入れ先の大学の学長との協議が必要である。 (4) 千葉大学留学生課程に配属された後においても、同課程は原則として国費外国人留学生の前期教育のために特別に設けられた教育施設であるから、国費外国人留学生たる資格を失うことは(当然に学生たる身分の消滅をきたすものではないが)、私費留学生として別途に入学または編入学を志願して大学当局より許可を受けない限り、同大学における在学関係の解除原因となるものと解せられる(なお、成立につき争いのない甲第六号証の一により認められるように、原告は昭和三九年一二月一七日千葉大学学長によつて除籍処分を受けている)。そ 、同大学における在学関係の解除原因となるものと解せられる(なお、成立につき争いのない甲第六号証の一により認められるように、原告は昭和三九年一二月一七日千葉大学学長によつて除籍処分を受けている)。そして、国費外国人留学生の資格を奪われた場合に、私費留学生として入学許可を受けられることについては、何らの法的保障はないのである。 原告と被告ないしわが国との法律関係は、以上のような内容のものであるが、わが国政府の経済的負担についての右(1)の義務ないし法律関係は、実質的には、民間基金による外国人留学生への奨学金制度によつても実現できるのであつて、その点では両制度の間に質的な相違はないといいうる。しかし、右(2)ないし(4)の留学生が国立大学で教育を受ける関係は、これと異り、公の施設の利用について管理権を有するものの行為をまつて実現できることがらであり、しかも文部大臣は千葉大学留学生課程(留学生部)における留学生の在学関係を間接に管理するものであり、また留学生が同課程(部)を終了して専門課程の国立大学に進学するには、更に文部大臣との協議による当該大学の学長の入学許可を必要とするのであつて、その限りにおいて、国費外国人留学生の全教育課程は、わが国政府(文部大臣)の留学生に対する優越的意思による関与のもとに成り立つものということができる。 このような意味において、原告のような自然科学系学科を専攻する者についていうと、国費外国人留学生たる身分ないし地位は、千葉大学留学生課程(留学生部)への入学資格であり、またその喪失が同大学における既存の在学関係の解除原因をなしているのみならず、専門課程の国立大学への進学のため不可欠の要件をもなしているのであつて、千葉大学留学生課程(留学生部)第三年次在学中の原告に対する被告文部大臣の身分打切り処分は、国立大学に をなしているのみならず、専門課程の国立大学への進学のため不可欠の要件をもなしているのであつて、千葉大学留学生課程(留学生部)第三年次在学中の原告に対する被告文部大臣の身分打切り処分は、国立大学における一般学生の除籍ないし退学処分と類似する法的性格をもつものであり、公権力の行使にあたる行為として抗告訴訟の対象となるものと解すべきである。 四、次に本件身分打切りの処分の取消を求める訴の利益の有無について考察する。 前記のとおり、原告は昭和三七年三月二二日付で国費外国人留学生として採用されたものであるが、前掲乙第一、第二号証によれば募集要項及び実施要項を適用すると、原告の留学期間は昭和三七年四月から五年間であり、文部大臣が特別の事情があると認めた場合に必要な期間を延長することができるものとなつている。従つて昭和三七年四月から五年の留学期間を経過したときは、特別の事情に基づく文部大臣の期間延長の行為がないかぎり、国費外国人留学生たる身分はなくなるものと解するのが相当である。この点について原告の主張する事由は、原告が国費外国人留学生としての身分を現有することの法的根拠となるものということはできない。 しかし、本件身分打切り処分によつて原告が国費外国人留学生たる地位に伴い有する毎月の奨学金その他の請求権の回復を図るためには、本件処分の取消を求めなければならないのであるから、原告は本件身分打切り処分の取消を求める訴の利益を有するものというべきである。 五、続いて、本件身分打切処分の適否について検討する。 まず、本件処分の経過、ことに被告文部大臣に対するマレーシヤ国政府の要請との関連について争いがあるので、この点について判断する。 その方式及び趣旨により公務員(乙第九号証の一、乙第一〇号証の一、乙第二四号証の一につき)、または外国の公務員(乙第一〇号 シヤ国政府の要請との関連について争いがあるので、この点について判断する。 その方式及び趣旨により公務員(乙第九号証の一、乙第一〇号証の一、乙第二四号証の一につき)、または外国の公務員(乙第一〇号証の二、乙第二四号証の二につき)が、それぞれ職務上作成したと認められ、いずれも真正に成立した公文書または外国の公文書と推認しうる乙第九号証の一、乙第一〇号証の一、二、乙第二四号証の一、二、成立につき争いのない甲第二号証、乙第九号証の三、四、乙第二二号証、乙第二三号証を総合すれば、(一)シンガポール政府は昭和三九年八月五日付書面をもつて在シンガポール日本総領事館y総領事に対して、原告が同年七、八月頃在日マラヤ学生協会の指導者として、東京で反マレーシヤ活動を行なつているので、同政府としてはその推薦によつて送られた国費外国人留学生のかかる行動を黙許することができないという理由で、日本政府が原告の有する国費外国人留学生としての身分を打切り帰国させるよう要請し、かつ、シンガポール政府機関である人事委員会より原告あての書面(造船工学を専攻するため昭和三七年度に原告に与えられた日本政府奨学金をシンガポール政府が破棄した旨を知らせる旨、また、それは原告が昭和三八年度の委員長であり現在副委員長である在日マラヤ学生会の反マレーシヤ、反国家活動に原告が参加したためである旨の記載がある。)を原告に手交されたい旨の依頼をしてきたので、y総領事は同年八月六日付でこれを外務大臣に報告したこと、(二)同年八月二六日在日マレーシヤ大使館は、わが国の外務省に対して口上書をもつて、ほぼ右と同趣旨の要請をし、かつ、原告に与えられた日本政府の国費外国人留学生の奨学金を打切ること並びに原告に対して直ちに帰国方を要求することが本国政府当局において決定されたことを確認するとともに、日本側 と同趣旨の要請をし、かつ、原告に与えられた日本政府の国費外国人留学生の奨学金を打切ること並びに原告に対して直ちに帰国方を要求することが本国政府当局において決定されたことを確認するとともに、日本側関係当局が原告の早期帰国の実現方協力を要請してきたので、外務省は文部省(調査局長)にこれを通報するとともに、シンガポール政府の要請に応ずるために、原告の留学生身分打切について早急の措置をとるよう依頼したこと、(三)被告文部大臣は同年九月九日に、同月四日付三九調留第五号通知書(文部省調査局留学生課長名義)で、原告に対して「昭和三九年九月四日付であなたの国費外国人留学生の身分を打切りましたので通知します。これは貴マレーシヤ国政府からの要請にかんがみあなたの留学目的が達せられないと認め措置したものです。 」との通知をしたことを認めることができる。以上のように認められるのであつて、この点に関する甲第三号証、第四号証の一、二の記載は、前掲の証拠に照らして、いまだ右の認定を左右するに足りず他に右認定を動かすに足る証拠はない。 右のように、本件身分打切処分は、原告の出身国であつたマレーシヤ国政府の要請によつてなされたものであるが、かかる処分の適否について、原告は、昭和三七年度採用の国費外国人留学生としての原告の身分は、東南アジア、中近東諸国からの国費外国人留学生のそれと異なるところはなく、従つて被告の本件処分事由にあるように、出身国の政府の要請によつて留学生の身分を打切るがごとき処分は、違法であると主張するのに対し、被告は、シンガポール自治州からの国費外国人留学生の受入れ制度及び留学生の身分には、他の諸国にみられない特殊性があるので、同州の要請によつてなした本件処分は適法であると主張する。そこで、判断の便宜上、先ず原告の身分が東南アジア諸国からのいわば一般の 受入れ制度及び留学生の身分には、他の諸国にみられない特殊性があるので、同州の要請によつてなした本件処分は適法であると主張する。そこで、判断の便宜上、先ず原告の身分が東南アジア諸国からのいわば一般の国費外国人留学生のそれと異ならないとした場合に、本件の身分打切事由のような事由による処分が適法であるかどうかを考察し、ついで被告主張の制度の特殊性の有無を判断し、その特殊性が右の一般的な国費外国人留学生受入れ制度やそのもとにおける留学生の身分関係にどのような影響を及ぼすかについて考察を進めることにする。 (一) 一般の国費外国人留学生に対して本件処分事由と同一の事由をもつて身分打切りがなされた場合の打切処分の適否についてさて、原告主張のように、原告が東南アジア諸国からの一般の国費外国人留学生と異ならない身分を有すると仮定した場合には、その採用によつて、原告とわが国との間には、前に認定したような一種の継続的な法律関係が生ずる。即ち、再言すれば、わが国政府は、原告に対して、昭和三七年四月から昭和四二年三月までの留学期間、日本政府招致国費外国人留学生募集要項(学部留学生)の規定するところに基づき、わが国の大学において教育を受けさせる義務を負い、国費外国人留学生たる原告は、わが国政府に対し、誓約条項(その内容は前記のとおり)を遵守して留学目的を果すために最善をつくして学習研究を行なう義務を負うものであり、また留学生が誓約条項に違反し、または成業の見込みがないと日本政府が判断した場合は、留学期間中であつても留学生としての身分を取消すことがあるとされている。ところで、この身分取消事由を限定列挙事由とみるか、または例示的事由とみるかは、諸外国政府の国内開発の施策、募集協力、推薦等が、留学生の受入れを実現する諸要因として、実際上介在しているので、結局、国費 ころで、この身分取消事由を限定列挙事由とみるか、または例示的事由とみるかは、諸外国政府の国内開発の施策、募集協力、推薦等が、留学生の受入れを実現する諸要因として、実際上介在しているので、結局、国費外国人留学生招致制度のもとにおけるわが国と留学生との間の法律関係の意味、内容をどのように解するかによつて、結論を異にするであろう。 国費外国人留学生招致制度は、わが国と諸外国との国際文化交流をはかり、その友好親善を促進することを目的とするが、そのうち学部留学生招致制度は、特に大学数の少ない東南アジア、中近東諸国の、社会的経済的発展に寄与する人材の養成、即ち国づくりの指導者養成に積極的に協力する目的をもつて、わが国が世界にさきがけて実施してきた独自の制度であることは、前に説示したとおりであり、これら諸国の国家的要請に応じて教育協力をするものであつて、その意味では留学生個人に恩恵を与えることを目的とするものではないということができる。しかし、海外先進諸国が熱意をもつて他国の留学生を招致しつつある国際環境のもとにおいて、概して若い世代の、感受性と吸収力の強い優秀な学徒を、わが国に招致して、かれらがわが国の人たちと同じ環境の中で、わが国の専門家のもとで、わが国の教育を受けて、直接学習、研究をするということも留学生制度の重要な目的であるから、その目的を達成するためには、留学生個人の意思と人格を尊重し、相互の信頼を基礎として、その個人的成果を期待するという個人的・倫理的要素も必要不可欠であつて、わが国の政府が、政府間の合意という法形式によらずに、外国政府の協力のもとにできるだけ広く人材を求めるため、募集要項によつて直接外国の学徒に対し個人的に呼びかけ、その個人の資格による自主的な同意を前提として留学生として採用するという法形式をとつているのは、単なる形 のもとにできるだけ広く人材を求めるため、募集要項によつて直接外国の学徒に対し個人的に呼びかけ、その個人の資格による自主的な同意を前提として留学生として採用するという法形式をとつているのは、単なる形式的便宜や技術的考慮によるものではなく右の実質的要請によるものと解せられる。そして、前認定のとおり、留学生として採用されるに先だち提出される誓約書には、「留学の目的を果すために、最善をつくして、日本の大学において学習研究を行うこと」その他の誓約条項のほか、「日本政府により成業の見込みがないと判断された場合・・・国費留学生としての身分を打切られても・・・不服を申立てることなくこれに従う」などのように、包括的条項が定められていて、これらの誓約条項は、例示的ではなく、むしろ限定的なものと推定されるのである。これらの意味において、身分取消に関する誓約条項は、国費外国人留学生のわが国政府に対する勉学上の義務ないし責任(身分打切りなどの不利益を生ずべき可能性)の範囲を明確にし、その反面として、わが国政府が身分打切事由を特定の事由に限定し、それ以外の事由によつてはみだりに身分の打切りをしないといういわば身分剥奪権行使の自己制約によつて、留学生をして留学期間中安んじて学習研究に従事させるとともに、その成果を挙げさせようとする趣旨に出たものと解するのが相当である。 このように考えると、わが国は、たとえ恩恵ないし利益を与えることを内容とするものであつても、一たん国費外国人留学生として採用した以上は、自らも右のような誓約条項の趣旨に拘束されるものであつて、前記誓約条項の違反や募集要項の定める打切り事由以外の事由によつてみだりに留学生の身分を打切ることは許されず、または国交の断絶、出身国の他国への併合などの事情の変更や留学生の身分を維持することがそれ自体留学生制度 反や募集要項の定める打切り事由以外の事由によつてみだりに留学生の身分を打切ることは許されず、または国交の断絶、出身国の他国への併合などの事情の変更や留学生の身分を維持することがそれ自体留学生制度の本旨に反するなどの特段の事情がない限り、右法律関係を解消することはできないものというべきである(その反面として、国費外国人留学生は、誓約条項に違反することがなく、また成業の見込がないと判断されることがない限り、留学期間中は、毎月定額の奨学金の給付請求権を有し、授業料を徴収されず、その他の特典を享受することになる。)。 そこで、右のような一般の国費外国人留学生について、その身分を本件と同じ処分事由により打切つた場合、その打切り処分の適否について検討してみると、当該留学生を推薦した外国政府から正式にわが国政府に対して当該留学生の身分打切りと帰国の要請があつたからといつて、そのようなことは、誓約条項の違反に当るものではなく、また成業の見込がない場合に当るものと解することもできない。即ち、誓約書にある誓約条項は留学生個人の生活圏内において自己の意思によつて支配できる事項を指すものであることは、事柄の性質からみても、また文理上も明らかであるのみならず、さらに誓約書の末尾に保証人が、「上記のことを守らせることを保証」していることからみても明らかであり、また募集要項にいう成業の見込があるかどうかも、留学生個人の意思ないし勉学の努力いかんに左右される事柄である。更に、国費外国人留学生の招致制度は、国内開発のための指導者養成という諸外国政府の国家的要請に応じて、わが国が教育協力をするため設けられたものではあるが、そうであるからといつて、当該政府からなされた留学生の身分打切りの要請は、条約上の要請権がある場合とは異なり、その要請に反する法律状態の存続を否定す 国が教育協力をするため設けられたものではあるが、そうであるからといつて、当該政府からなされた留学生の身分打切りの要請は、条約上の要請権がある場合とは異なり、その要請に反する法律状態の存続を否定する効力を有する道理はないのみならず、わが国政府がこの要請を契機として、当該留学生の身分を当然に取消しうるものと解すべき法律上の根拠はない。もし、当該外国政府の要請があれば、理由のいかんを問わないで、わが国政府が留学生の身分を取消しうべきものとするならば、留学生がそれまでの学習によつて得た成果は全く無駄なものとなり、他面留学生らは自己の意思の及びようのない自国政府の要請を常に念頭において不安のうちに勉学に従事しなければならなくなるのであつて、右のような解釈は、留学生個人の意思と人格を尊重し、個人の同意を前提として留学生として採用するということを基礎として成り立つている国費外国人留学生招致制度を根底からくつがえすものとして、とうてい許されないものというべきである。 このことは、国費留学生が自国政府の推薦によつてわが国政府によつて採用された場合においても、同様に解すべきである。 従つて、一般の国費外国人留学生に対して、本件処分事由と同様、自国政府の身分打切りの要請があつた場合に、わが国政府が右の要請があつたことを処分事由として、当該国費留学生の身分を取消すことは違法であるといわなければならない。 (二) シンガポール自治州ないしマレーシヤ連邦からの国費外国人留学生受入れ制度の特殊性について前記乙第二号証、第三号証の一、二、乙第四、五号証、成立に争いのない乙第八号証、乙第一二号証の一、乙第一五号証、乙第一六号証の一、乙第一七、一八号証、その方式及び趣旨により外国の官庁が職務上作成したと認められ真正な外国公文書と推定しうる乙第一六号証の二、乙第二五 乙第八号証、乙第一二号証の一、乙第一五号証、乙第一六号証の一、乙第一七、一八号証、その方式及び趣旨により外国の官庁が職務上作成したと認められ真正な外国公文書と推定しうる乙第一六号証の二、乙第二五号証、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したと認められ真正な公文書と推定しうる乙第一四号証の一、二、乙第一三号証の一、同号証の一によつて外国の官庁が職務上作成した文書の写と認めうる同号証の二、証人斎藤貞雄の証言を総合すれば、次のように認められる。 (1) 昭和三四年六月一日英領シンガポール州が自治州となり、民選の政府が成立したが、同州政府は国内開発のための技術要員の養成計画をたて、各国に対しその援助を要請し、その一環として、わが国に対してもコロンボ計画による技術援助を要請し、わが国も同計画による研修制度をもつてこれに応じてきた。 (2) ところでわが国のシンガポール政府に対する技術協力案件は昭和三五年以降飛躍的に増大し、とくに昭和三六年になつてからは、高度の資格を取得しうる研修課程の要請が増加した。たとえば、工業関係技術者は政府部内で昇任の際、英国の制度を基準とした一定の資格が必要とされており、また英国人が帰国したあとのポストを補充するための現地人を昇任せしめる場合もこの資格が問題となる。したがつて、シンガポール政府部内で最も要求されている研修部門は資格(学位、大学卒業者)のとれる研修制度であり、オーストラリヤ、ニユージーランド等がコロンボ計画によりわが国の国費外国人留学生制度と同様長期にわたる研修制度を提供している関係から、在シンガポール日本総領事館に対しても同様の研修課程の要請が多くなり、コロンボ計画による研修制度では、他の東南アジア諸国と異なりシンガポール政府を十分満足せしめないのではないかと懸念されるにいたつた。 (3) すなわち、 事館に対しても同様の研修課程の要請が多くなり、コロンボ計画による研修制度では、他の東南アジア諸国と異なりシンガポール政府を十分満足せしめないのではないかと懸念されるにいたつた。 (3) すなわち、昭和三六年三、四月頃になつて、シンガポール政府は、在シンガポール日本総領事館を通じて、わが国政府に対し、機械工学、化学工学、漁業技術、船舶工学、造船学、電気工学、テレビジヨン工学等七種類にわたり、期間三年ないし八年でわが国の大学の学位を取得しうる研修コースの要請をしてきた。総領事館としては、これに対し、(イ)コロンボ計画による研修の趣旨上学位を授与できる課程は供与できないこと、(ロ)学位取得を希望する場合はむしろ国費外国人留学生の制度によるべきであること、(ハ)学位を必要としない研修の場合にはコロンボ計画により三箇年の期間で一〇名受入れる用意がある旨回答し、同時にわが国政府にも報告した。その後シンガポール州からの国費外国人留学生受入れの案件について、わが国総領事館側は斎藤貞雄領事が担当者となり、シンガポール政府の財務省及び教育省の担当者と折衝を行なつたが、この折衝の間に、わが国の文部大臣と外務大臣とを代表して、総領事の指揮下にある斎藤領事が、「国費外国人留学生制度を利用して、シンガポール政府の人材養成計画に基づく留学生を受入れる」ことを提案し、シンガポール州政府もこれを歓迎してその旨の要請をしたので、斎藤領事がこれを承諾し、ここに両者の合意が成立した。その際、国費外国人留学生の採用については日本政府に最終決定権があるが、募集業務は日本政府の募集要項その他所要資料を受けてシンガポール政府がその一切を取扱うこととし、候補者選考のための特別委員会を組織して面接試験を行なつた上(日本側の領事は選考内容に関与せず、単にオブザーバーとして立会う。)、最終 の他所要資料を受けてシンガポール政府がその一切を取扱うこととし、候補者選考のための特別委員会を組織して面接試験を行なつた上(日本側の領事は選考内容に関与せず、単にオブザーバーとして立会う。)、最終候補者を決定して日本側総領事館に推薦をかねて通報するが、日本政府はシンガポール州政府の推薦順位を尊重して決定することなどを申し合せた。そしてこの合意成立の日時は、不詳であるが、口頭でなされ、公文や覚書は取りかわされなかつた。 (4) 原告を含む昭和三七年度国費外国人留学生(学部留学生)のシンガポール州における募集については、シンガポール政府教育省が、在シンガポール日本総領事館からの委任を受けて、前記募集要項による募集事務一切を担当し、昭和三七年一月一五日までの応募者中の適格者八三名から一七名を選考して、これを公務員委員会に報告し公務員委員会では特別選考委員会を設けて原告を含む七名を最終候補として決定し、これを推薦する旨在シンガポール日本総領事館に通知するとともに、被推薦者の日本政府に対する申請書、誓約書その他必要書類を送付し、同総領事館は、同年二月二日、これを外務大臣を経由して被告文部大臣に報告し、採用決定を求めた。 なお、原告は、造船工学の専攻を希望する留学生として応募し、昭和三七年一月一一日付の日本政府あての申請書及び被告文部大臣あての誓約書を作成して、シンガポール政府教育省に提出したが、その申請書、誓約書は、同政府から日本総領事館を経由して被告文部大臣に送付された。 (5) 被告文部大臣は、制度要項に基づき、同年三月一六日文部省外国人留学生問題協議会選考分科会において最終選考を行なわせ、原告らを含む四名が選考されたので同月二二日文部省調査局長の決裁をへて、原告ら四名の採用が決定された(この頃は、本件口頭弁論の全趣旨によつてこれを認定する 協議会選考分科会において最終選考を行なわせ、原告らを含む四名が選考されたので同月二二日文部省調査局長の決裁をへて、原告ら四名の採用が決定された(この頃は、本件口頭弁論の全趣旨によつてこれを認定する。)。 (6) シンガポール政府は、その頃右の決定通知を受けたので、原告に、留学生に関する詳細な誓約事項を定めた同意書を同年四月五日付で作成提出させ、原告は同意書記載事項を誓約したので、同年四月下旬原告を渡日させた。この同意書によると、原告は誓約事項を遵守して勉学し、推薦された課程を終了して帰国後五年間政府の指定する職に勤務する義務を負い、また所定の場合には支給を受けた奨学金等の償還、損害賠償の義務を負うことになつている。他方シンガポール政府は、わが国政府が留学生に支給する奨学金の授与は、シンガポール政府を援助しようとする日本国政府の計画により、シンガポール政府が自国の学生をわが国における勉学コースに推薦することによつて、シンガポール政府が独自に行なうものであると解し、この解釈のもとに、同政府が自国留学生に一定の手当を支給することになるものである旨を表明するとともに、一箇月の期間をおいて、留学生と同政府間の法律関係を解消する権限を留保している。国費外国人留学生の受入れについて、シンガポール政府では、留学生の採用決定通知を受けたものであつても、右の同意書を同政府に提出しないと所定期限までの渡日を許さなかつたので、留学生の推薦について同政府側で一定の条件を付していたことになる。しかし、このような同意書を同政府に提出した応募者ないし被推薦者だけを採用の対象にするというような積極的な申し合せは、日本政府との間において全くなかつた。しかし在シンガポール日本総領事館としては、とくに、同意書の内容を記録にとどめるようなこともせず、ただ、国費外国人留学生が将 するというような積極的な申し合せは、日本政府との間において全くなかつた。しかし在シンガポール日本総領事館としては、とくに、同意書の内容を記録にとどめるようなこともせず、ただ、国費外国人留学生が将来研修を終えて帰国後一定期間開発計画のなかで働くことができることは、職場が保証され将来幹部職員になるという観点からも、またコロンボ計画などの技術援助計画の条件と考え合せてみても、ふさわしいものであるという程度に了解していた。 (7) その後、シンガポール州からの国費外国人留学生の受入れは、右の両政府間の合意に基づいて行なわれ、同州政府、マレーシヤ連邦シンガポール政府等の政府機関(昭和三七年までは財務省、教育省、昭和三八年以降は公務員委員会)は、わが国政府の依頼により募集事務一切を取扱い、自国の開発計画に合わせた要員を選考し推薦することによつて実施されてきたのであつて昭和三八年度は六名の留学生が推薦されて来日し、昭和三九年度からはマレーシヤ連邦として一括して推薦されてきたのである。 また日本政府は留学生の割当て数をシンガポール政府に通報するだけで自ら募集事務を行なわず、シンガポール政府の選考に委せてきたのが実情である。 以上認定の事実によると、シンガポール州からの国費外国人留学生(学部留学生)の受け入れは、要するに、シンガポール州政府の要請、すなわち、国内開発計画のもとに、高度の資格を取得しうる工業技術分野における研修課程の提供という強い要請に基づくものである点で、他の東南アジア諸国にみられない特殊性があり、また、その要請を実現する方法として、その法的効力の点はしばらくおき、日本政府が右要請を受け入れる旨のシンガポール政府との合意が成立し、じらい現在まで同州からの学部留学生は、応募の窓口となつているシンガポール政府の募集業務、選考手続を経て、 効力の点はしばらくおき、日本政府が右要請を受け入れる旨のシンガポール政府との合意が成立し、じらい現在まで同州からの学部留学生は、応募の窓口となつているシンガポール政府の募集業務、選考手続を経て、同政府の日本政府に対する推薦を経るという手続のもとに採用されてきたものであること、被採用者は渡日前に同政府との間に同意書による契約を取りかわし、この契約締結を拒否した者は渡日できないこととなつている点に、特殊性があるということができる。 ところで、被告は、シンガポール政府と日本政府間の右合意成立の時期は昭和三四年夏から秋にわたつて行なわれた折衝期間中であると主張する。 しかし前掲乙第一二号証の一、乙第一五号証、乙第一六号証の一、二、乙第一七、一八号証を総合すると、シンガポール州からの国費外国人留学生の受入れについては、昭和三四、三五年度において学部留学生は各一名、昭和三六年度に三名であり、いずれもシンガポール政府の推薦によるものであることが認められ、昭和三四年六月以降にそのような合意がなされたのではないかと考えられないわけではなく、また証人斎藤貞雄もそのように供述するけれども、同人の証言部分は記憶によるもので漠然としているし、むしろ前掲乙第三号証の一、二、乙第四、五号証の記載によるときは、本格的な交渉が行なわれたのは、むしろ前認定のように、昭和三六年夏頃から秋にかけての時期であつて、その折衝中に両国政府間の合意が成立したと認めるのが相当である。なお昭和三九年一一月頃在シンガポール総領事館が受領したシンガポール政府からのメモランダム(乙第一三号証の二)によると、同政府は、一九五九年に国費外国人留学生の募集方法が一般大衆に通報する形から、シンガポール政府への通報の形に変えられたことが、奨学金をシンガポール政府に付与するという日本政府の政策の変更 によると、同政府は、一九五九年に国費外国人留学生の募集方法が一般大衆に通報する形から、シンガポール政府への通報の形に変えられたことが、奨学金をシンガポール政府に付与するという日本政府の政策の変更の表明であると解しているけれども、それだけでは前記認定をくつがえすに足りない。 次に被告は、両国政府の合意の効力について、国際法上の合意として法的効力を有すると主張するが、右の合意は、抽象的、一般的な事項を取りきめたものであつて、前に認定した程度以上に具体性のある取りきめがあつたことを認めうる証拠はない。また右合意の内容ないし解釈についての両国政府の受けとめ方についてみると、前掲乙第四、五号証によると、昭和三七年一月及び二月頃の在シンガポール総領事から外務大臣あて昭和三七年度間国費外国人留学生募集状況中間報告の件によると、右留学生募集については、「シンガポール政府の全面的協力をえて円滑に進捗している」との表現があり、また前認定のとおり同年度の学部留学生の割当ては四名であるのに、シンガポール政府は最終候補者として、順位を付して七名の推薦をよこしてきていることをみると、当時日本政府側において、シンガポール州からの国費外国人留学生の受入れが、具体的に確定された日本側の国際法上の義務であり、またそれに対応する具体的権利がシンガポール政府にあるとまで考えていたとすることについては、疑をいれる余地がないわけではない。これに対して前掲乙第一三号証の二によると、シンガポール政府は、本件訴訟提起後の昭和三九年一一月頃メモランダムによつて、日本政府が国費外国人留学生としてシンガポール政府によつて指名された者(被指名者)の最終決定権を持つていることは当然のことと了解しているが、この制限条項にもかかわらず、この留学生制度による奨学金はシンガポール政府の利用に供せら てシンガポール政府によつて指名された者(被指名者)の最終決定権を持つていることは当然のことと了解しているが、この制限条項にもかかわらず、この留学生制度による奨学金はシンガポール政府の利用に供せられるため同政府に付与あるいは贈与されたものであると了解しており、従つて同政府は、自由に被指名者の研究分野、そのタイプ及び奨学金受給条件を決定できること、また、シンガポール政府と被指名者との契約に基づいていうと、日本政府はシンガポール政府の代理人、すなわち、シンガポール政府により指名された者の研修を好意的に引受けるものであるというように、極めて具体的、かつ、確定的な内容のものと解釈している。このように右の合意についての両国政府の解釈には、かなりの隔たりがあつて、一致しているとはいいがたい。 もしそれが具体的にその内容を確定できる国際法上の合意としての効力をもつものとすれば、少くとも、その合意の有効期間、研修分野の特定並びに年間の留学生割当人員、合意の解除原因、選考権と最終決定権との関係などの基本的事項について具体的に定めておくのが当然といえようが、何らの取りきめはないのであつて、そのような事項の決定ないし調整については、もつぱら両国政府間の友好的な交渉による運営に委されているものとみるのほかなく、むしろ、右合意は、シンガポール州の技術援助の要請に対して、日本政府の国費留学生招致制度の方式を利用することによつて協力し、シンガポール政府の推薦した者に対しては、その順位や研修分野を尊重して、好意的にこれを受入れるという国際間の了解と認めるのが相当である。 (三) 右の特殊性が原告の留学生としての身分に及ぼす影響と本件身分打切事由の適否について被告は、シンガポール州からの国費外国人留学生の採用によつてわが国と当該留学生との間に生ずる法律関係の特殊性に ) 右の特殊性が原告の留学生としての身分に及ぼす影響と本件身分打切事由の適否について被告は、シンガポール州からの国費外国人留学生の採用によつてわが国と当該留学生との間に生ずる法律関係の特殊性について、概略次のように主張する。 即ち、シンガポール州からの学部留学生の受入れは、他の諸国からのそれが個人申請に基づくのと異なり、国際法上の拘束力ある両国政府間の合意に基づくものであり、わが国と留学生との法律関係は、両国間の合意による法律関係を前提とし、それより派生したものであつて、シンガポール政府から派遣された者をわが国政府が委託を受けて教育している関係である。換言すれば、わが国政府は、国費留学生に対し、同人がシンガポール政府の推薦を受け、かつ、それが継続していることを条件として、留学生募集要項に基づきわが国の大学において教育を受けさせる義務を負うのであつて、シンガポール政府の推薦が取消され同政府の人材養成計画からはずされると、同政府からの留学生受入れの目的を達成できなくなるので、わが国と留学生との間の法律関係は成立の基礎を失なうこととなり、わが国政府は制度本来の趣旨にのつとり、右の法律関係を解消することができる、というのである。 たしかに、シンガポール州からの学部留学生は、シンガポール政府の推薦を得ないと国費留学生となることができないし、わが国政府からの採用通知を受けても同州政府との間に同意書による誓約をしなければ国費留学生として渡日することができないことは、前認定のとおりであり、このことは、少くとも、国費留学生に採用されるための事実上の要件をなしているが、州政府の推薦が継続していること、あるいは同国からの派遣関係が存続していることが、わが国と留学生間に成立する法律関係の内容をなし、または、その成立の基礎をなしているかどうかは、結局シン しているが、州政府の推薦が継続していること、あるいは同国からの派遣関係が存続していることが、わが国と留学生間に成立する法律関係の内容をなし、または、その成立の基礎をなしているかどうかは、結局シンガポール州からの当該留学生とわが国との間の法律関係をどのように解するかによつてきまるものといわなければならない。 ところで、被告の主張する両国政府間の合意(国費外国人留学生受入れ制度を利用して、シンガポール政府の人材養成計画に基づく留学生を受入れる旨の合意)が国際法上の拘束力を有するものでないことは前認定のとおりであるから、わが国と原告との法律関係が、両国政府間の合意による法律関係を前提とし、それより派生したものであると断定することはできない。しかし、右の合意の法律上の性質が国際間の了解である場合においても、そのような了解のあることが、シンガポール州からの学部留学生の受入れの前提条件であり、その受入れにおける特殊性をなしていることを否定することができないのであるから、このような特殊性が、わが国と原告ら留学生との法律関係にどのような影響を与えているかを吟味しなければならない。 前に認定したように、両国政府間の右の合意は、わが国政府がシンガポール州政府の特別の要請に応ずるため、少くとも他国より優先的に既存の国費外国人留学生招致制度(学部留学生)を適用して、その制度のもとにおいて資格を有する留学生を受入れることを約したものであつて、わが国政府が昭和二九年以降世界にさきがけて実施してきた学部留学生の制度の本質に変改を加えて、これと別個独自の制度を設け、特別の手続や資格を定めて留学生を受入れることを約したものではない。 またシンガポール政府に募集業務や選考を大幅にまかせ、その人材養成計画に基づく留学生の受入れを約束し実施しているが、同州からの留学生の受 の手続や資格を定めて留学生を受入れることを約したものではない。 またシンガポール政府に募集業務や選考を大幅にまかせ、その人材養成計画に基づく留学生の受入れを約束し実施しているが、同州からの留学生の受入れはわが国政府が一方的義務ないし債務履行国としての立場において、法的拘束のもとに行なつているのではなく、相手国の強い要請に応じたものであるとはいえ、留学生の割当数の決定権を留保しているわが国政府があくまでも国際的な協力国としての立場において好意的に行なつているものであることは、前認定のとおりである。そして、昭和三七年度におけるシンガポール州からの国費留学生(学部留学生)の募集においても、他の諸国における募集と同様、わが国政府の作成名義の募集要項が留学希望の学徒に個々に提示され、これに対する留学希望者個人の申請書や誓約書が提出されて、わが国政府の採用決定がなされたことも、前認定のとおりである。 してみると、シンガポールからの留学生の受入れに学部留学生の制度を利用するという合意は、募集から選考までの手続に大幅な修正を加え、採用決定においてシンガポール政府の要請を尊重するほかは、特段の事由がない限り、既存の国費外国人留学生招致制度を、内容、形式両面にわたつて、そのまま適用して留学生を受入れることを意味するものということができ、留学生採用決定後の留学生とわが国との間の法律関係は、既存の学部留学生制度の定めるところによつて規律されることを予定していたものと解するのが相当である。 ことに、前述のように、国費外国人留学生招致制度において、個人的倫理的要素が不可欠とされ、この要請をみたすために留学生個人の承諾を前提として採用することをこの制度の基礎においていることにかんがみ、シンガポール州からの留学生を受入れるに際し、このような要素及び採用方式による法律 欠とされ、この要請をみたすために留学生個人の承諾を前提として採用することをこの制度の基礎においていることにかんがみ、シンガポール州からの留学生を受入れるに際し、このような要素及び採用方式による法律関係の形成を否定しなければならない特別の事由は認められず、またこれを排除するために、両国政府間に国際法上の拘束力ある何らかの合意がなされた事実も認められないのである。まして、原告らシンガポール州からの留学生が、わが国政府に対し、本国政府の推薦の継続ないし派遣関係の存続を国費留学生の身分保持の要件とする旨の明示または黙示の承諾をしたことを認めるに足る証拠もない。 のみならず、被告が主張するように、シンガポール政府の委託を受けてその派遣する留学生を教育するという特殊の制度目的を達成するため、既存の国費留学生招致制度(学部留学生)を利用するということ自体、後者の制度の主要部分に対し形式及び内容の両面にわたつて適切かつ重要な変更を加えて適用するのでなければ、正常にこれを実施することはできないものといわなければならない。けだし、もし一般の国費外国人留学生(学部留学生)を募集するに際し、募集要項に招致条件として「出身国政府の派遣学生であること」という資格を加え、または身分打切りの条件として「出身国政府から日本国政府に対し当該留学生の身分打切りの要請があるとき」という条項を付加した場合、果して人材を広く求めることができるか、留学生の意思及び人格の尊重に差異をきたさないか、または留学生をして留学期間、安心して学習研究に従事させることができるかなどの見地から、かかる条項のない一般の場合と比較検討するならば、このような資格要件や身分打切り条項を追加することはわが国政府が世界にさきがけて実施してきた既存の国費外国人留学生招致制度(学部留学生)の本質的部分に重要な 項のない一般の場合と比較検討するならば、このような資格要件や身分打切り条項を追加することはわが国政府が世界にさきがけて実施してきた既存の国費外国人留学生招致制度(学部留学生)の本質的部分に重要な変更を加えるものと解さざるをえないからである。 以上の意味において、わが国の政府は、シンガポール州からの学部留学生の受入れについても、応募者個々人の承諾を前提として留学生として採用するという、他の東南アジア諸国からの一般の国費外国人留学生招致制度におけると全く同じ法形式を用いているといえるのであつて、その点で、留学生個人の承諾を必ずしも必要としない政府間の教育委託協定のような法形式とは全く趣を異にしているものというべきである。したがつて、わが国政府も、シンガポール州からの国費留学生たる原告について他の諸国からの一般の国費外国人留学生の身分打切事由に関して説示したのと全く同じように、誓約条項の違反、成業の見込なき場合以外の事由によつてみだりに留学生の身分を打切ることは許されず、または事情の変更、その他留学生の身分を維持することが、それ自体留学生制度の本旨に反するなどの特段の事情がない限り、当該留学生とわが国との間に成立する法律関係を解消することができないのであつて、これに反する身分打切り処分は違法たるを免れない。 以上述べたとおり、シンガポール州からの学部留学生である原告とわが国との間の法律関係については、被告の主張するような特殊性は認められないから、これを前提とする被告の右の主張は失当というべきである。結局、原告とわが国との間の法律関係は、募集、選考、採用決定後における自国政府との間の同意書の取りかわし、渡日の制限などの点で他の諸国と異なる事情があるけれども、他の諸国からの国費外国人留学生(学部留学生)とわが国との間に成立する法律関係と異な 考、採用決定後における自国政府との間の同意書の取りかわし、渡日の制限などの点で他の諸国と異なる事情があるけれども、他の諸国からの国費外国人留学生(学部留学生)とわが国との間に成立する法律関係と異ならないものというべきである。 そして、被告文部大臣が、原告に対し、その出身国政府の要請により、原告の留学目的が達せられないとの理由でなした本件身分打切処分は、前認定の特殊の事情を考慮に入れてもなお、誓約条項違反、成業の見込なき場合、事情の変更等原告とわが国との間の法律関係を解消しうべき前記諸事由のいずれにも該当しない事由によつてなされたものというべきであるから、違法であつて取消しを免れず、原告の請求は理由があるものというべきである。 もつとも、前認定の事実から、シンガポール政府のわが国政府に対する原告の身分打切りについての要請が極めて強いものであつたことがうかがわれ、またわが国政府の関係諸機関、ことに外務省、文部省、法務省等においても右の要請をいれて原告の身分を打切ることがシンガポール州からの国費外国人留学生招致制度の本旨に合致し、両国の外交関係に寄与するゆえんであるとの見解であつたものと推認しうるし、シンガポール政府の要請をいれなければ、両国の外交関係に影響を及ぼすであろうことは容易に推測できることである。 しかし、シンガポール州からの国費外国人留学生(学部留学生)の制度及びその留学生の身分を前記説示のように解するときは、シンガポール政府からの外交上の要請があるからといつてみだりに原告の国費留学生たる身分を剥奪することは許されないし、また原告の国費留学生たる身分を継続させることが前記の意味における留学生招致制度の本旨に反し、又は、わが国とマレーシヤ国(シンガポール州)との間の国交に重大な影響を生じ、かつ右制度を維持することが無意味となる 国費留学生たる身分を継続させることが前記の意味における留学生招致制度の本旨に反し、又は、わが国とマレーシヤ国(シンガポール州)との間の国交に重大な影響を生じ、かつ右制度を維持することが無意味となるごとき特段の事情が存在することについては、これを認めるに足る証拠もないのであるから、本件身分打切りを適法とする被告の主張は、結局、排斥を免れない。 第二被告国に対する請求について本件のような国に対する予備的請求の併合は適法と解すべきであるが(なお、最高裁判所昭和三三年(オ)第一〇七八号昭和三七年二月二二日第一小法廷判決、最民集一六巻二号三七五頁参照)、右のとおり第一次的請求が理由があるので、予備的請求についての判断を加える余地はない。 右の次第であつて、被告文部大臣に対する原告の本訴請求は正当としてこれを認容すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。 (裁判官緒方節郎小木曾競山下薫)

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