平成25(ワ)3707 福島第一原発事故損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
平成31年2月20日 横浜地方裁判所
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判決文本文1,082,506 文字)

平成31年2月20日判決言渡同日原本領収裁判所書記官平成25年(ワ)第3707号,同第5050号,平成26年(ワ)第967号,同第5181号福島第一原発事故損害賠償請求事件口頭弁論終結日平成30年7月19日判決 当事者の表示省略 主文 1 被告東電は,別紙認容額等一覧表(第4分冊)の「認容/棄却の別」欄に「一部認容」との記載がある各原告に対し,同一覧表の各「認容額」欄記載の金員及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 被告国は,別紙認容額等一覧表の「認容/棄却の別」欄に「一部認容」との記載がある各原告に対し,同一覧表の各「認容額」欄記載の金員及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 3 別紙認容額等一覧表の「認容/棄却の別」欄に「一部認容」との記載がある 各原告の被告らに対するその余の請求をいずれも棄却する。 4 別紙認容額等一覧表の「認容/棄却の別」欄に「棄却」との記載がある各原告の被告らに対する請求をいずれも棄却する。 5 訴訟費用は,⑴ 別紙認容額等一覧表の「認容/棄却の別」欄に「一部認容」との記載があ る各原告と被告らとの間にそれぞれ生じた費用は,各原告に対応する同一覧表の「訴訟費用(被告ら負担割合)」欄記載の割合を被告らの負担とし,その余を当該各原告の負担とする。 ⑵ 別紙認容額等一覧表の「認容/棄却の別」欄に「棄却」との記載がある各原告と被告らとの間にそれぞれ生じた費用は,全て当該各原告の負担とする。 6 この判決は,第1項及び第2項に限り,仮に執行することができる。 ただし,被告らが,それぞれ,別紙認容額等一覧 各原告と被告らとの間にそれぞれ生じた費用は,全て当該各原告の負担とする。 6 この判決は,第1項及び第2項に限り,仮に執行することができる。 ただし,被告らが,それぞれ,別紙認容額等一覧表の「担保額」欄に金額の記載がある各原告に対し,同金員の担保を供するときは,当該担保を供した被告は,当該原告との関係において,その仮執行を免れることができる。 (以下本頁余白) 事実 及び理由(本判決中で使用する略語等は,本文中で注記したものを含め,別紙略語・用語表(第4分冊)記載のとおりである。なお,本判決中で略語や用語を用いる際には,その初出の箇所において,正式名称と共に別紙略語・用語表記載の略語・用語を併記することとし,その他,分かりやすさの観点から,適宜の箇所において,正式名称と略語・ 用語を併記することとする。また,福島県内の市町村においては,原則として県及び郡の表記を省略する。 本判決中で,別の判示箇所を引用する場合には,その頁数を「[❶-○○頁]」の形態(白抜き丸数字は,分冊番号を指す。)で表記する。 証拠を掲記する際には,「【 】」を用いる。 なお,目次は別紙細目次(第4分冊)のとおりである。)(以下本頁余白) 第1章請求被告らは,別紙認容額等一覧表(第4分冊)の各原告に対し,連帯して各原告に係る同一覧表の「請求額」欄記載の各金員及びこれに対する平成23年3月11日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 (以下本頁余白) 第2章事案の概要第1節請求の概要本件は,平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震(以下「本件地震」という。)に伴う津波(以下「本件津波」といい,本件地震及び本件津波による災害を総 章事案の概要第1節請求の概要本件は,平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震(以下「本件地震」という。)に伴う津波(以下「本件津波」といい,本件地震及び本件津波による災害を総称して「東日本大震災」という。)の影響で,被告東電が設置運営す る福島第一原子力発電所(以下「福島第一原発」という。)において,建物・設備が損壊し放射性物質が放出されるという事故(以下「本件事故」という。)が発生したために,放射能汚染が広範囲に広がり,居住地からの避難を余儀なくされたとする原告らが,被告らにおいて,福島第一原発の敷地高を超える津波を予見することが,主位的には遅くとも平成18年頃までに,予備的に平成20年1月な いし4月頃までには可能であったところ,上記各時点で必要な津波防護対策を施していれば,本件事故を回避することが可能であったと主張して,①被告東電については,原子力損害の賠償に関する法律(以下「原賠法」という。)3条1項又は民法709条に基づき(選択的主張),②被告国については,規制権限の不行使を理由として国家賠償法(以下「国賠法」という。)1条1項に基づき,それぞれ 損害賠償責任が生じ,両者は不真正連帯債務の関係にあるとして,被告らに対し,原告らに生じた損害(精神的損害として,避難生活に伴う慰謝料1人当たり月額35万円,いわゆるふるさと喪失・生活破壊慰謝料1人当たり2000万円,財物損害として不動産損害〈全期間固定金利住宅ローンであるフラット35利用者の不動産取得費の全国平均額を基準とするもの〉,家財損害〈損害保険料率算定機 構の算定に基づく世帯構成別の家財所有額の全国平均額を基準とするもの〉,その他の各種損害の合計額)の一部金(明示の一部請求)及びこれらそれぞれの請求額に対する本件事故発生日である平 率算定機 構の算定に基づく世帯構成別の家財所有額の全国平均額を基準とするもの〉,その他の各種損害の合計額)の一部金(明示の一部請求)及びこれらそれぞれの請求額に対する本件事故発生日である平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の各支払を求めた事案である。 (以下本頁余白) 第2節前提となる事実(証拠を付したものの他はいずれも当事者間に争いがない。)第1 東日本大震災発生,津波の発生 1 本件地震の概要平成23年3月11日午後2時46分,三陸沖を震源とするM(マグニチュ ード)9.0の地震(本件地震)が発生した。この地震は,国内観測史上最大規模であり,宮城県栗原市で震度7,宮城県,福島県,茨城県及び栃木県の4県37市町村で震度6強を観測したほか,東日本を中心に,北海道から九州地方にかけての広い範囲で震度6強から震度1を観測した。 本件地震は,西北西-東南東方向に圧力軸をもつ逆断層型(水平の方向から 岩盤が圧縮されたため,断層面を挟んで上側の岩盤がずり上がる動きをしたもの)【丙C2・26頁】で,太平洋プレートと陸のプレートの境界の広い範囲で破壊が起きたことにより発生した。 2 本件津波の発生本件地震により,東北地方から関東地方北部の太平洋側を中心に,北海道か ら沖縄県にかけての広い範囲で津波を観測した。各地の津波観測施設では,福島県相馬で高さ9.3m,宮城県石巻市鮎川で高さ8.6mなど,東北地方から関東地方北部の太平洋側を中心に非常に高い津波が観測されたほか,北海道から鹿児島県にかけての太平洋沿岸や小笠原諸島で高さ1m以上の津波を観測した。その後の気象庁の現地調査によれば,到達した津波の高さは,岩手県沿 岸で10mを超えたほか,北 測されたほか,北海道から鹿児島県にかけての太平洋沿岸や小笠原諸島で高さ1m以上の津波を観測した。その後の気象庁の現地調査によれば,到達した津波の高さは,岩手県沿 岸で10mを超えたほか,北海道から四国に至る太平洋沿岸各地で数mの津波の痕跡が観測された。 本件津波による浸水範囲面積は,宮城県が327㎢,福島県が112㎢,岩手県が58㎢に及んでいる。 3 本件地震及び本件津波による被害 本件地震及び本件津波により,平成23年12月1日時点において,1都1 道10県で死者1万5840人,6県で行方不明者3547人,1都1道18県で負傷者5951人の人的被害が発生している。また,本件地震及び本件津波による建築物に対する被害は,同日時点において,1都1道18県で100万9074戸に上っている。 第2 福島第一原発の概要 【甲Bの2の1・本文編9頁以下】 1 施設の概要,規模,性能,設置経緯等福島第一原発は,福島県双葉郡大熊町及び双葉町に位置し,東は太平洋に面している。敷地は海岸線に長軸をもつ半長円状の形状となっており,敷地全体の広さは約350万㎡である。 福島第一原発は,被告東電が初めて建設・運転した原子力発電所であり,昭和42年4月に1号機の建設に着工して以来,順次増設を重ね,現在6基の原子炉を有している(1~6号機の総発電設備容量は469万6000㎾)。 2 施設の配置,構造等福島第一原発の原子炉の1号機から4号機まで(以下,特段の断りがない限 り,号機の記載は福島第一原発の原子炉の各号機のことを示し,例えば1号機から4号機までを併せて示す場合は,「1~4号機」のように表示する。)は大熊町に,5号機及び6号機は双葉町に設置されている。各号機の配置は資料1及び資料2(第6分冊)のとお ことを示し,例えば1号機から4号機までを併せて示す場合は,「1~4号機」のように表示する。)は大熊町に,5号機及び6号機は双葉町に設置されている。各号機の配置は資料1及び資料2(第6分冊)のとおりである。 各号機は,原子炉が設置されている原子炉建屋(「R/B」ともいう。),ター ビン発電機が設置されているタービン建屋(「T/B」ともいう。),制御室が設けられているコントロール建屋等から構成されている(これら各号機ごとの施設を総称して「プラント」ということがある。)。これら建屋に設けられた設備のうち一部については,隣接するプラントと共用となっているものがある。これらのうち1~4号機の各建屋等の配置は資料2(第6分冊)のとおりである。 3 発電の基本原理及び原子炉の基本的な構造 【甲B3・166頁以下】原子力発電所は,ウラン燃料に中性子を当てて核分裂させ,その際に発生する核分裂エネルギーによる熱を利用してタービン発電機を作動させて発電する仕組みの発電所である。原子力発電所に利用されている原子炉の種類には複数あるが,福島第一原発において設置されている原子炉は,沸騰水型軽水炉(ウ ラン燃料の核分裂連鎖反応を維持するための減速材と,原子炉の炉心の熱を取り出すための冷却材に,軽水(普通の水)を用いる発電用原子炉。BWR(「BoilingWaterReactor」の略)ともいう。)である。 原子炉の中心には,原子炉圧力容器(以下「圧力容器」という。)が設置されており,圧力容器の中央部に多数の燃料棒から構成される炉心が納められてい る(資料6(第6分冊)参照)。 圧力容器は,鋼板製の原子炉格納容器(以下「格納容器」という。)の中に設置されている。格納容器は,圧力容器が損傷して核分裂生成物が放出されても, められてい る(資料6(第6分冊)参照)。 圧力容器は,鋼板製の原子炉格納容器(以下「格納容器」という。)の中に設置されている。格納容器は,圧力容器が損傷して核分裂生成物が放出されても,環境への漏えい量を十分低い値に抑制することを目的に設置されるものである。 格納容器は,圧力容器そのものを格納するドライウェル(D/W)と,水を蓄 えたサプレッションチャンバー(S/C。「圧力抑制室」「トーラス室」ともいう。)から構成されている(資料7(第6分冊)参照)。 4 原子炉施設の安全を確保するための仕組み【甲B3・166頁以下】原子炉施設には,ウランの核分裂により生じた強い放射能をもつ放射性物質 が原子炉内に存在する。そこで,何らかの異常・故障等により放射性物質が施設外へ漏出することを防止するために,原子炉施設には,多重防護(設計,建設,運転の各段階において,①異常の発生防止,②異常の拡大防止と事故への発展の防止,及び③周辺環境への放射性物質の異常な放出の防止というように重層的な安全確保対策を行うという考え方)の思想に基づいて複数の安全機能 が備え付けられている。具体的には,①異常の発生の防止,②異常の拡大及び 事故への進展の防止及び③周辺環境への放射性物質の異常放出防止を図ることにより周辺住民の放射線被ばくを防ぐことを目的とした上,②異常の拡大及び事故への進展の防止の観点からは,異常を検出して原子炉を速やかに停止する機能(止める機能)が,③周辺環境への放射性物質の異常放出防止の観点からは,原子炉停止後も放射性物質の崩壊により発熱を続ける燃料の破損を防止す るために炉心の冷却を続ける機能(冷やす機能)及び燃料から放出された放射性物質の施設外への過大な漏出を抑制する機能(閉じ込める機能)がそれぞれ備え 質の崩壊により発熱を続ける燃料の破損を防止す るために炉心の冷却を続ける機能(冷やす機能)及び燃料から放出された放射性物質の施設外への過大な漏出を抑制する機能(閉じ込める機能)がそれぞれ備え付けられている。 ⑴ 止める機能(原子炉停止機能)原子炉を止める機能を担う設備は,原子炉停止系と呼ばれる。原子炉停止 系の代表的な設備として制御棒がある。制御棒は,原子炉の反応度を制御するための中性子吸収材と構造材から構成されており,制御棒を燃料集合体の間に入れると中性子が吸収され,核分裂反応が抑制され,原子炉の出力が低下する。原子炉の異常時には燃料の損傷を防ぐため急速に制御棒を炉心に挿入して,原子炉を緊急停止させる。このような制御棒による緊急停止の仕組 みを「スクラム」という。 ⑵ 冷やす機能(原子炉冷却機能)炉心に制御棒を挿入して原子炉を停止させた場合においても,燃料棒内に残存する多量の放射性物質の崩壊により発熱が続くことから,燃料の破損を防止するために炉心の冷却を続ける必要がある。そこで,原子炉施設には, 通常の給水系統の他に種々の注水系統が備えられている。 ⑶ 閉じ込める機能(格納機能)原子炉施設の潜在的な危険性は,原子炉内に蓄積される放射性物質の放射能が極めて強いことにある。したがって,放射性物質の施設外への過大な放出を防止するための機能が原子炉施設には備えられており,この機能を格納 機能という。 格納機能は,大別して5段階に整理される。第一は,放射性物質の大部分を留めることができるという燃料棒そのものの材質(ペレット)であり,第二は,燃料棒の周囲を覆う被覆管であり,第三は圧力容器,第四は格納容器,第五は原子炉建屋そのものである。 第3 本件事故の概要 【甲B2の1・17頁 料棒そのものの材質(ペレット)であり,第二は,燃料棒の周囲を覆う被覆管であり,第三は圧力容器,第四は格納容器,第五は原子炉建屋そのものである。 第3 本件事故の概要 【甲B2の1・17頁以下,甲B3・30頁以下】 1 福島第一原発で観測された本件地震及び本件津波本件地震に関し,福島第一原発が位置する大熊町及び双葉町において観測された最高震度は6強であり,震度5弱以下の余震が多数回観測された。 本件津波の第1波は,平成23年3月11日午後3時27分頃に福島第一原 発に到達した。また,第2波は,同日午後3時35分頃に福島第一原発に到達しており,その後も断続的に福島第一原発に津波が到達した。 2 本件津波による福島第一原発主要施設の浸水概要本件津波により,福島第一原発の海側のエリア及び主要建屋が設置されたエリアはほぼ全域が浸水した。浸水域,浸水高及び浸水深の詳細は資料8(第6 分冊)のとおりである。 1~4号機主要建屋設置エリアの浸水高(小名浜港工事基準面(O.P.+)からの浸水の高さ)は,O.P.+約11.5mから約15.5mであった。 同エリアの敷地高はO.P.+10mであることから,浸水深(地表面からの浸水の高さ)は約1.5mから約5.5mであった。同エリアの南西部では, 局所的に,O.P.+約16mから約17mの浸水高が確認されており,浸水深は約6mから7mであった。 3 福島第一原発における被害の概要(1~4号機関連)福島第一原発では,本件地震発生後間もなく,1~3号機において,全制御棒が全挿入して原子炉がスクラムした(4号機は,定期検査中であり,全燃料 が圧力容器から使用済燃料プールに取り出されていた)が,地震により外部電 源設備はその機能を喪失した。これとほぼ同時に,外部電 子炉がスクラムした(4号機は,定期検査中であり,全燃料 が圧力容器から使用済燃料プールに取り出されていた)が,地震により外部電 源設備はその機能を喪失した。これとほぼ同時に,外部電源喪失時に備えて設置されていた非常用D/G(非常用ディーゼル発電機)が全号機で起動し,原子炉施設を安全に停止するために必要な交流電源が供給されていたものの,本件津波到達後間もなく,非常用D/Gや配電盤の多くが津波により被水し,その結果,1~4号機は全交流電源を喪失するに至り,1号機及び2号機では直 流電源も喪失する全電源喪失の状態となった。このため,電源を必要とする多くの冷却設備が利用不能となるとともに,計器類の参照も困難となり,1~3号機において,冷却機能は喪失されていたか十分に機能しない状態となった。 その結果,それぞれの号機において,以下のとおりの設備損傷が生じ,放射性物質が外部に漏えいした(本件事故)。 ⑴ 1号機1号機においては,外部電源,非常用交流電源のみならず,非常用直流電源も喪失し,全電源喪失の状況となった。また,冷却設備も十分に機能せず,その結果,炉心に十分な冷却水を送り込むことができずに炉心が露出し,炉心損傷が発生・進行して圧力容器・格納容器から放射性物質が漏えいした。 また,原子炉建屋内に蓄積した水素に引火して原子炉建屋が爆発・損傷し,圧力容器・格納容器から放射性物質が更に外部に漏えいした。 ⑵ 2号機2号機においても,1号機と同様に全電源喪失となったが,当初は炉心冷却設備が機能して,炉心への注水が継続されていた。しかし,その後,炉心 冷却設備が機能不全に陥り,炉心への注水が実施できなくなったことにより,炉心損傷が発生・進行して圧力容器・格納容器が破損し,同所から大量の放射性物質が外部に されていた。しかし,その後,炉心 冷却設備が機能不全に陥り,炉心への注水が実施できなくなったことにより,炉心損傷が発生・進行して圧力容器・格納容器が破損し,同所から大量の放射性物質が外部に漏えいした。 ⑶ 3号機3号機は,全交流電源喪失後も直流電源設備が機能を喪失しなかったので, 冷却設備が機能し,炉心の冷却が継続できていた。しかし,その後,結果的 に冷却設備の運転が停止され,これに代わる冷却設備の運転を開始できなかったことにより,炉心損傷が発生・進行して圧力容器・格納容器が破損し,さらに,原子炉建屋内に蓄積した水素に引火して原子炉建屋が爆発・損傷して,放射性物質が外部に漏えいした 4 本件事故に伴う被災状況 ⑴ 放射性物質の放出状況本件事故により,1~3号機から大気中に大量の放射性物質が放出された。 その量は,原子力安全・保安院(以下「保安院」という。)の推計によれば,ヨウ素131が約16万TBq(テラベクレル。ベクレル(Bq)は放射線の強さを表す単位である。第4章第5節第1,3⑴[❷-259 頁]参照),セシウム13 7が約1.5万TBq であり,原子力安全委員会の推計によれば,ヨウ素131が約13万TBq,セシウム137が約1.1万TBq であった。また,本件事故後の,福島県及びその近隣県における地表面から1mの高さの空間線量率の推移は,資料9(第6分冊)のとおりである(甲共102)。 ⑵ 本件事故後の避難の概況 本件事故を受け,国の原子力災害対策本部は,平成23年4月22日,原子力災害対策特別措置法(以下「原災法」という。)に基づき,福島第一原発から半径20㎞圏内を警戒区域に,事故発生から1年間の積算線量が20mSv(Sv(シーベルト)は,人が受ける被ばく線量の単位である。 災害対策特別措置法(以下「原災法」という。)に基づき,福島第一原発から半径20㎞圏内を警戒区域に,事故発生から1年間の積算線量が20mSv(Sv(シーベルト)は,人が受ける被ばく線量の単位である。第4章第5節第1,3⑴[❷-259 頁]参照)に達するおそれのある区域(警戒区域を除く) を計画的避難区域に,今後なお緊急時に屋内退避や避難の対応が求められる可能性がある区域(警戒区域及び計画的避難区域を除く)を緊急時避難準備区域に指定した。これらの措置により,平成23年11月4日現在,上記避難指定区域から,概ね11万人以上が避難した。 第4 本件事故後の救済措置の概況 1 原子力損害賠償紛争審査会による指針類の策定 原賠法は,原子力損害の賠償に関する紛争の自主的な解決を促進するために,文部科学省に原子力損害賠償紛争審査会(以下「原賠審」という。)を置くことができるものとし,原賠審は,和解の仲介を行い,原子力損害の範囲について一般的な指針を定めることができる旨を規定する(18条)。これに基づき,原賠審は,賠償されるべき原子力損害の範囲について,平成23年8月5日付け で「東京電力株式会社福島第一,第二原子力発電所事故による原子力損害の判定等に関する中間指針」(以下「中間指針」という。)【乙共1】を策定し,その後,第一次ないし第四次にわたり,中間指針追補を策定,公表した(以下「中間指針等」という。)。【乙共2,3,9】 2 原賠センターの和解仲介手続(ADR) また,原子力損害賠償に関わる紛争の迅速かつ適切な解決のため,原賠審の和解仲介業務を実施する下部機関として,原子力損害賠償紛争解決センター(以下「原賠センター」という。)が設置され,平成23年9月1日から,和解仲介手続(以下「原賠ADR」という。 決のため,原賠審の和解仲介業務を実施する下部機関として,原子力損害賠償紛争解決センター(以下「原賠センター」という。)が設置され,平成23年9月1日から,和解仲介手続(以下「原賠ADR」という。)の業務を開始した。原賠ADRにおいては,被害者から申立てを受けた原賠センターの仲介委員は,民法及び関係法令のほ か,原賠審が策定した中間指針等,原賠センターの総括委員会が定めた総括基準及び和解事例を参照,遵守しつつ,紛争の解決に当たり,当事者の意見を聴取するなどして,中立・公正な立場からの和解案の提示を行う。当事者間に合意が成立すれば,和解契約を締結して当該手続が終了することとなる。 3 被告東電の自主的賠償基準の策定及び被告東電に対する直接請求 被告東電は,中間指針等の策定を受け,中間指針等の規定する損害項目・損害期間・損害額・対象地域等の賠償範囲を追加・拡大した内容の自主的賠償基準を定め,本件事故による被害者への賠償を行っている。被害者が被告東電に対して直接賠償請求を行う場合の平均処理期間は,平成25年7月時点で約21日であり,中間指針等及び自主的賠償基準に従って請求する限りは,賠償処 理は相応に迅速に行われている。【甲共13・259頁】 4 その他の賠償請求本件事故による被害者が被告東電に損害賠償を求めるには,前記3の直接請求によるか,前記2の原賠ADRへの和解仲介の申立てをするほか,被告東電に対して民事訴訟を提起する方法がある。これら3種類の請求手続は,それぞれ並行して実施されている。 これら手続の結果,被告東電による賠償総額は,平成30年4月27日時点で,個人,法人及び個人事業主合計265万件余りについて,合計約8兆1832億円に上っている。【乙共275】第5 原子力事業の安全規制に の結果,被告東電による賠償総額は,平成30年4月27日時点で,個人,法人及び個人事業主合計265万件余りについて,合計約8兆1832億円に上っている。【乙共275】第5 原子力事業の安全規制に関する状況(本件事故時) 1 法令等の定め 我が国の原子力安全に関する法律体系では,最も上位にあって我が国の原子力利用に関する基本的理念を定義する原子力基本法の下,政府が行う安全規制を規定した核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(以下「炉規法」という。),放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律等が制定されている。また,原子炉施設を電気工作物の観点から規制する電気事業 法,原子力災害への対応を規定した原災法(原子力災害対策特別措置法)等,原子力安全を確保するために必要な法律が整備されている。 これ以外にも,原子力安全委員会は,規制当局(実用発電用原子炉においては保安院)が実施した安全審査のレビューを行う際に用いる指針類を策定しており,国の安全審査の効率化と円滑化の観点から,この指針類は規制当局が安 全審査を行う際にも採用されている。 2 原子炉施設の設計及び建設に関する規制上の手続⑴ 原子炉施設設置許可の枠組み我が国において,原子炉施設を設置,運転するためには,炉規法の規定に基づき,設置の許可を受け,その後に電気事業法の規定に基づき原子炉施設 の詳細設計について工事計画の認可を受けなければならない。 実用発電用原子炉を設置しようとする者は,炉規法の規定に基づき,原子炉施設の基本設計ないし基本的設計方針について,保安院の安全審査及び原子力安全委員会の二次審査(以下,両者を併せて「安全審査等」という。)を経て原子炉設置許可を受けなければならない。 許可を受けようとする者は, 計ないし基本的設計方針について,保安院の安全審査及び原子力安全委員会の二次審査(以下,両者を併せて「安全審査等」という。)を経て原子炉設置許可を受けなければならない。 許可を受けようとする者は,使用の目的,原子炉の型式,熱出力及び基数, 原子炉を設置する工場又は事業所の名称及び所在地,原子炉及びその付属施設の位置,構造及び設備,使用済燃料の処分の方法等を記載した申請書を経済産業大臣に提出しなければならない。当該設置許可申請書には,原子炉施設の安全設計に関する説明書,原子炉の事故の種類,程度,影響等に関する説明書などを添付するとともに,事業者は,原子炉施設を立地した場合の安 全評価を実施しその結果を添付する。 安全審査等においては,立地地点に関する要因についても評価が行われ,申請者は,原子炉を設置しようとする場所に関する気象,地盤,水理,地震,社会環境等の状況に関する説明書を原子炉設置許可申請書に添付することが求められている。 ⑵ 安全審査等において用いられる指針安全審査等で用いられる,自然現象などの外的事象に対する設計規定として「発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針」(以下「安全設計審査指針」という。)がある。安全設計審査指針には,以下のような定めがある。 ア安全機能を有する構築物,系統及び機器は,その安全機能の重要度及び 地震によって機能の喪失を起こした場合の安全上の影響を考慮して,耐震設計上の区分がなされるとともに,適切と考えられる設計用地震力に十分耐えられる設計であること。 イ安全機能を有する構築物,系統及び機器は,地震以外の想定される自然現象によって原子炉施設の安全性が損なわれない設計であること。重要度 の特に高い安全機能を有する構築物,系統及び機器は,予想される自然現 する構築物,系統及び機器は,地震以外の想定される自然現象によって原子炉施設の安全性が損なわれない設計であること。重要度 の特に高い安全機能を有する構築物,系統及び機器は,予想される自然現 象のうち最も苛酷と考えられる条件,又は自然力に事故荷重を適切に組み合わせた場合を考慮した設計であること。 ウ安全機能を有する構築物,系統及び機器は,想定される外部人為事象によって,原子炉施設の安全性を損なうことのない設計であること。 ⑶ 耐震についての審査指針 耐震については,耐震安全性の確保の観点から耐震設計方針の妥当性について判断する際の基礎を示すことを目的として,特に「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」(以下「耐震設計審査指針」という。)が定められており,これを用いた安全審査等が行われている。津波については,耐震設計審査指針中において,地震随伴事象として取り上げられている。 3 原子力安全に関する規制機関我が国の発電用原子炉施設は経済産業大臣が所管しており,その安全規制は,経済産業省(以下「経産省」という。)資源エネルギー庁の特別の機関として,発電用原子炉施設の安全確保等のために設置された保安院が行っている。 これら規制当局が行う安全規制について,内閣府に設置された原子力安全委 員会が,その適切性を第三者的に監査・監視しており,安全規制の独立性,透明性の確保を図っている。 また,保安院の技術支援機関として,独立行政法人原子力安全基盤機構(JNES。以下「JNES」という。)が設置されている。JNESは,法律に基づく原子力施設の検査を保安院と分担して実施しているほか,保安院が行う原 子力施設の安全審査や安全規制基準の整備に関する技術的支援等を行っている。 4 地震・津波に関する防災行政 は,法律に基づく原子力施設の検査を保安院と分担して実施しているほか,保安院が行う原 子力施設の安全審査や安全規制基準の整備に関する技術的支援等を行っている。 4 地震・津波に関する防災行政担当機関【丙C57】⑴ 中央防災会議中央防災会議は,災害対策基本法(昭和36年法律第223号)に基づき 内閣府に設置された機関であり,防災基本計画を作成し,及びその実施を推 進すること(同条2項1号),内閣総理大臣の諮問に応じて防災に関する重要事項を審議すること(同項3号)などの事務をつかさどっている。中央防災会議は,内閣総理大臣を会長とし(同法12条2項),全閣僚,指定公共機関の代表者及び学識経験者により構成されている(同条5項)。 中央防災会議は,その議決により,専門調査会を置くことができる(災害 対策基本法施行令4条1項)。同専門調査会のうちの一つとして,日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に関する専門調査会(以下「日本海溝・千島海溝専門調査会」という。)が設置されている。 平成18年1月,中央防災会議の日本海溝・千島海溝専門調査会は,「日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に関する専門調査報告」と銘打って,防災対 策の対象とすべき地震の選定及び対象地震による揺れの強さや津波の高さについての評価に関する検討成果を取りまとめて報告・発表した(以下「中央防災会議報告」という。また,同報告の作成・発表主体について判示するときは,上記専門調査会の名称を省略し,単に「中央防災会議」とのみ表記することがある。)【丙C11】 ⑵ 地震調査研究推進本部【甲C4】平成7年に発生した阪神・淡路大震災を踏まえ,全国にわたる総合的な地震防災対策を推進するため,地震防災対策特別措置法が制定され,同法7条1項に基づき, ⑵ 地震調査研究推進本部【甲C4】平成7年に発生した阪神・淡路大震災を踏まえ,全国にわたる総合的な地震防災対策を推進するため,地震防災対策特別措置法が制定され,同法7条1項に基づき,総理府に政府の特別の機関として地震調査研究推進本部(以 下「地震本部」という。)が設置され,平成13年1月6日,文部科学省に移管された。 地震本部は,地震に関する観測,測量,調査及び研究の推進について総合的かつ基本的な施策を立案すること(同法7条2項1号),関係行政機関の地震に関する調査研究予算等の事務の調整を行うこと(同項2号)などの事務 をつかさどっている。 地震本部には,政策委員会(同法9条)及び地震調査委員会(同法10条)が置かれている。このうち,地震調査委員会は,地震に関する観測,測量,調査又は研究を行う関係行政機関,大学等の調査結果等を収集し,整理し,及び分析し,並びにこれに基づき総合的な評価を行っている(同法10条1項)。地震調査委員会の委員は,関係行政機関の職員及び学識経験者のうちか ら,文部科学大臣が任命することとされている(同条3項)。 平成14年7月,地震本部地震調査委員会は,全国を概観した地震動予測地図の作成ないし陸域の浅い地震又は海溝型地震の発生可能性の長期的な確率評価に関する調査検討活動の一環として,海溝型地震である三陸沖に発生する地震を中心にして,三陸沖から房総沖にかけての地震活動について評価 した結果を取りまとめ「三陸から房総沖にかけての地震活動の長期評価について」と題して発表した(以下「長期評価」という。)。【丙C7】⑶ 中央防災会議と地震本部の関係我が国の防災対策は,中央防災会議の定める防災基本計画に示される方針の下に進められており,地震調査研究もその中に位置付け (以下「長期評価」という。)。【丙C7】⑶ 中央防災会議と地震本部の関係我が国の防災対策は,中央防災会議の定める防災基本計画に示される方針の下に進められており,地震調査研究もその中に位置付けられている。地震 本部は,地震調査研究に関する総合的かつ基本的な施策を立案する際には,中央防災会議の意見を聞き,防災対策全般と地震に関する調査研究との調整を図っている。 5 事業者団体等⑴ 電気事業連合会 【丙C46,甲B1・451頁以下,弁論の全趣旨】電気事業連合会(以下「電事連」という。)は,我が国の電気事業者により構成される団体であり,被告東電もその構成員に名を連ねている。 電事連は,しばしば,保安院と各電気事業者との間に入り,保安院からの指示等を受ける電力事業者側の窓口となったり,電気事業者側の要望や見解 を取りまとめて保安院に伝達するなどした。 また,電事連は,電力事業者に共通のニーズがある大きなテーマについて,「電力共同研究」と銘打った研究活動を行っていた。 ⑵ 土木学会大正3年,土木工学の進歩及び土木事業の発達並びに土木技術者の資質の向上を図り,もって学術文化の進展と社会の発展に寄与することを目的とし て,社団法人(現在は公益社団法人)土木学会が設立された。 平成11年,原子力施設の津波に対する安全性評価技術の体系化及び標準化について検討を行うことを目的として,土木学会原子力土木委員会に津波評価部会(以下「津波評価部会」という。)が設置された。津波評価部会は,平成14年12月に,原子力発電所の設計津波水位の標準的な設定方法を提 案するものとして「原子力発電所の津波評価技術」(以下「津波評価技術」という。)を発表した。【丙C5の各枝番】(以下本頁余白) 発電所の設計津波水位の標準的な設定方法を提 案するものとして「原子力発電所の津波評価技術」(以下「津波評価技術」という。)を発表した。【丙C5の各枝番】(以下本頁余白) 第3章争点及びこれに関する当事者の主張第1節本件の争点本件の争点は以下のとおりである。 第1 責任論 1 被告東電に対する一般不法行為に基づく請求の可否(争点1) 2 被告国の規制権限不行使の違法性⑴ 本件事故の予見可能性に関する議論の前提としての予見の対象(争点2)⑵ 本件事故の予見可能性(争点3)⑶ 本件事故の結果回避可能性(争点4)⑷ 原告ら主張の具体的結果回避措置に関して被告国が規制権限を行使するこ とができたか。(争点5)⑸ 被告国が規制権限を行使できたとして,その規制権限不行使が国賠法1条1項の適用上違法となるか否か。(争点6) 3 被告東電の責任と被告国の責任の関係(争点7)第2 損害総論ないし損害各論の総論 1 本件で賠償の対象となるべき精神的損害の範囲及び法的性質並びに慰謝料の額(争点8) 2 避難指示区域の指定がない居住地から避難した場合の避難の合理性(争点9) 3 主な財物損害についての損害認定の在り方(争点10)第3 損害各論 1 弁済の抗弁の肯否(争点11) 2 損害発生の有無及びその数額(争点12)(以下本頁余白) 第2節争点に関する当事者の主張第1 争点1(被告東電に対する一般不法行為に基づく請求の可否)について 1 原告らの主張原賠法3条1項は,「原子炉の運転等の際,当該原子炉の運転等により原子力損害を与えたときは,当該原子炉の運転等に係る原子力事業者がその損害を賠償 する責めに任ずる について 1 原告らの主張原賠法3条1項は,「原子炉の運転等の際,当該原子炉の運転等により原子力損害を与えたときは,当該原子炉の運転等に係る原子力事業者がその損害を賠償 する責めに任ずる。ただし,その損害が異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によって生じたものであるときは,この限りでない。」として,原子力事業者が,原子力損害について無過失責任を負うこと(本文),及びその免責事由(ただし書)を規定する。しかし,原賠法3条1項は,その文言上,原子力事業者に対する損害賠償請求について民法709条の適用を排除するとは定めていないことから, この点の解釈が問題となる。 この点,原賠法1条は,「この法律は,原子炉の運転等により原子力損害が生じた場合における損害賠償に関する基本的制度を定め,もって被害者の保護を図り,及び原子力事業の健全な発達に資することを目的とする。」と定め,被害者の保護の目的を全面に打ち出している。したがって,民法709条の適用が排除され るか否かについては,まず,被害者の保護という目的との関係において考察する必要がある。そうすると,原賠法が無過失責任を規定したのは,被害者の損害回復を容易にするためのものであるから,それを利用するか否かは被害者の自由な選択に委ねられるべきであって,原賠法3条1項が原子力事業者に対する損害賠償請求について民法709条の適用を排除するという解釈は,被害者保護の目的 に資するものではない。被害者が,民法709条に基づき,原発事業者の故意過失を公開の法廷において明確にし,損害の賠償を求めることは,被害者保護のための無過失責任規定と何ら矛盾するものではないのである。また,このような解釈は,原賠法のもう1つの目的である「原子力事業の健全な発達」との関係においても何ら矛盾しない。 めることは,被害者保護のための無過失責任規定と何ら矛盾するものではないのである。また,このような解釈は,原賠法のもう1つの目的である「原子力事業の健全な発達」との関係においても何ら矛盾しない。 したがって,原賠法1条に定める同法の目的との関係によれば,同法3条1項 が原子力事業者の民法709条に基づく損害賠償請求責任の適用を排除するということはできない。 2 被告東電の主張原告らによる損害賠償請求は,原賠法2条2項に規定される「原子力損害」を請求するものに当たる。そして,原賠法に規定する原子力損害の賠償責任は,原 子力事業者に対して原子力損害に関する無過失責任を規定するなどした民法の損害賠償責任に関する規定の特則であり,民法上の債務不履行又は不法行為の責任発生要件に関する規定は適用を排除され,その類推適用の余地もないから,原告らは被告東電に対して,民法上の不法行為に基づいて損害賠償を求めることはそもそもできない(水戸地判平成20年2月27日・判例時報2003号67頁。 なお,控訴審である東京高判平成21年5月14日・判例時報2066号54頁においても,当該争点については第一審の判断を引用して同様の判断がなされ,上告不受理によって確定している。また,東京地判平成16年9月27日・判例時報1876号34頁は,主位的に原賠法3条に基づく請求を,予備的に民法709条に基づく請求をした事案において,原賠法3条1項による無過失賠償責任 と別個に民法709条による賠償責任が成立する余地はない旨判示し,同控訴審である東京高判平成17年9月21日・判例時報1914号95頁においても,当該争点については第一審の判断をそのまま引用して同様の判断がなされている。)。 したがって,被告東電の賠償責任に関し,民法709 東京高判平成17年9月21日・判例時報1914号95頁においても,当該争点については第一審の判断をそのまま引用して同様の判断がなされている。)。 したがって,被告東電の賠償責任に関し,民法709条に基づく賠償責任は成 立しない。 (以下本頁余白) 第2 争点2(本件事故の予見可能性に関する議論の前提としての予見の対象)について 1 原告らの主張本件事故の直接的原因は,福島第一原発の炉心損傷であり,そして,炉心損傷を招いたのは,原子力発電所における全交流電源喪失である。したがって,津波 の発生についての予見可能性の対象を定めるのであれば,「全交流電源喪失を招来し得る程度の津波の発生」ということになる。そうすると,実際にどの程度の津波が発生すれば全交流電源喪失に至るのか,ということが解明される必要がある。本件において,実際に発生した事象がO.P.+15.5mの津波であるとしても,仮に,その程度に至らない,たとえば,O.P.+10mの津波,ある いは,それ以下の津波の発生によっても本件事故と同様の事態が招来されるといえるのかどうかが見極められなければならないのである。 そして,もし,O.P.+10mの津波,あるいは,それ以下の津波によっても全交流電源喪失という事態が招来され得るといえるのであれば,それを「全交流電源喪失を招来し得る程度の津波」の具体的な内容として予見可能性の対象と 位置づけることが可能なのであって,実際に発生した事象としてのO.P.+15.5mの津波は,予見可能性の対象とは切り離されることになるのである。 本件事故においては,1号機及び4号機の非常用DGや非常用冷却ポンプ等の設置場所や仕組み等にバリエーションはあり,被水の状況に差異はあったものの,結局のところ,非常用ディ れることになるのである。 本件事故においては,1号機及び4号機の非常用DGや非常用冷却ポンプ等の設置場所や仕組み等にバリエーションはあり,被水の状況に差異はあったものの,結局のところ,非常用ディーゼル発電機によって作出された電気を各冷却装置に 供給するための非常用M/C(非常用高圧配電盤)が,タービン建屋(一部は共用プール建屋(運用補助共用施設。以下「共用プール建屋」という。)の地下1階に設置されていたために,非常用M/Cが被水し,非常用電源設備は全体として全く機能せず,全電源喪失を招来した。被告東電も,本件事故の決定的原因が非常用M/Cの被水にあることを認めている。 このように,配電盤が全て建屋の地下1階に設置されていたとすると,タービ ン建屋等が存する敷地の高さ(以下「敷地高」という。)であるO.P.+10mを超える津波が発生すれば,全電源喪失の可能性があるということになる。本件事故の津波は,結果的に,敷地高を大幅に上回るO.P.+約15.5mであったが,それよりも波高の小さい津波でも本件事故と同様の結果が招来され得るのである。 したがって,本件で問題となる予見の対象は,敷地高O.P.+10mを超える津波の発生である。 2 被告国の主張⑴ 国賠法上の法的義務違背の前提となる予見可能性規制権限の不行使は,その権限を定めた法令の趣旨,目的や,権限の性質等 に照らし,具体的事情の下において,その不行使が許容される限度を逸脱して,著しく合理性を欠くと認められるときは,その不行使により被害を受けた者との関係において,国賠法1条1項の適用上違法となる。仮に,ある特定の事象について規制をしたとしても,規制の対象である事象と結果発生との間に因果関係が認められなければ,そもそも結果を回避することができ の関係において,国賠法1条1項の適用上違法となる。仮に,ある特定の事象について規制をしたとしても,規制の対象である事象と結果発生との間に因果関係が認められなければ,そもそも結果を回避することができず,結果回避可 能性がないし,被害を受けた者に対する関係で規制が法的に義務付けられるということもできない。そうすると,規制権限は,結果発生の原因となる事象について行使されるものであり,規制権限不行使の国賠法上の違法は,結果発生の原因となる事象に対する防止策に係る法的義務違背を問うものということになるから,その前提となる予見可能性も,結果発生の原因となる事象につい て判断されるべきである。 ⑵ 本件における予見可能性の対象本件事故は,本件地震及びこれに伴う津波により,福島第一原発が全交流電源喪失に陥り,直流電源も喪失又は枯渇するなどして炉心冷却機能を失い,外部環境に放射性物質を放出するに至ったものであるから,本件において被告国 による規制権限の不行使が違法とされる前提としての予見可能性ありと評価 されるためには,原告らに対して損害を与えた原因とされる本件地震及びこれに伴う津波と同規模の地震,津波の発生又は到来についての予見可能性が必要である。 これに対し,原告らは,福島第一原発の建屋の敷地高さを前提に,予見可能性の対象を「O.P.+10m」を超える津波が福島第一原発に到来すること であると主張する。しかし,実際に福島第一原発に発生,到来した本件地震及びこれに伴う津波と同規模の事象ではなく,このような規模に至らない,単に敷地高さを超える津波が到来したというだけで,本件事故が発生したと認めるに足る証拠はないから,「O.P.+10m」を超える津波の到来が本件の予見可能性の対象となるものではない。すなわち,地震及 単に敷地高さを超える津波が到来したというだけで,本件事故が発生したと認めるに足る証拠はないから,「O.P.+10m」を超える津波の到来が本件の予見可能性の対象となるものではない。すなわち,地震及びこれに伴う津波により 全交流電源喪失に陥るか否か,炉心冷却機能を失い,放射性物質を放出する事故に至るか否かについては,地震及び津波による被災の範囲や程度,津波の遡上経路,各種設備・機器への影響の有無や程度(地震による損傷の有無・程度,津波による浸水の有無・程度・時間等),復旧に要する作業内容や時間等といった様々な要因によって定まるものであり,これらの要因は襲来する地震及び津 波の規模(地震の大きさ,津波の水量,水流,水圧等)に大きく左右されるものと解される。したがって,単に敷地高さを超える津波が到来したというだけでは,本件事故が発生したと認める証拠はない。 そもそも,予見可能性は,被告国において具体的な防止策に係る規制権限を行使することが可能な程度に一定規模の範囲の具体的な事象として予見可能 であることが必要であるところ,「O.P.+10m」を超える津波というだけでは,いったいどの程度の規模を想定して対策を講じることを要するのか判断することができない。例えば,原告らにおいて,被告国が規制権限を行使することにより講じるべきであるとする,「防潮堤の新築,防潮扉の設置,重要機器の水密化,電源供給設備の機能喪失に備えた代替設備の確保等」を現実に講じ るためには,一定程度具体的な浸水高の津波を想定して実施するのでなければ, 設置する防潮堤の高さなどを定めることができないから,抽象的に敷地高さを超えるというだけで措置を講じることは実際には困難であるし,実効性を伴わない措置になりかねず,失当である。 したがって,本件 設置する防潮堤の高さなどを定めることができないから,抽象的に敷地高さを超えるというだけで措置を講じることは実際には困難であるし,実効性を伴わない措置になりかねず,失当である。 したがって,本件においては,実際に福島第一原発に発生,到来した本件地震及びこれに伴う津波(O.P.+約11.5ないし約15.5m)と同程度 の地震及び津波の発生,到来について予見可能性があったといえなければならない。 3 被告東電の主張原告らの主張によれば,福島第一原発に現実に生じた本件津波(最大でO.P. +約15.5mの浸水高)については,被告東電において予見できなかったこと を原告らは事実上認めつつ,実際に生じた津波よりも小規模の仮想的な津波を措定して,これを予見できたであろうと主張しているものであるところ,原告らが主張する津波規模と実際に生じた本件津波とは程度も規模も異なるものであるから,かかる仮想的な津波によってそもそも本件事故が発生するか否かについては何ら明らかにされているということができない。 また,不法行為訴訟において,実際に生じた事象と異なる,それとは別個の仮定的な(実際に生じていない)事象についての予見可能性を問題にすること自体が極めて異例である。 仮にこのような主張が成り立つと解するとしても,少なくとも,原告らが主張する津波がいかなる浸水高の津波を指すのかが明らかにされるとともに,そのよ うな津波によって本件事故と同程度の事象が生じ,福島第一原発から放射性物質が放出されるに至ることについて具体的な主張立証が必要であるが,この点は何ら自明ではない上,原告らによって具体的な主張立証もなされていない。 (以下本頁余白) 第3 争点3(本件事故の予見可能性)について 1 原告らの主張⑴ 津波に関す が,この点は何ら自明ではない上,原告らによって具体的な主張立証もなされていない。 (以下本頁余白) 第3 争点3(本件事故の予見可能性)について 1 原告らの主張⑴ 津波に関する知見に基づき,平成14年頃には予見可能性があったことア 4省庁報告書(ア) 4省庁報告書の策定 被告国の4省庁(農林水産省構造改善局,農林水産省水産庁,運輸省港湾局,建設省河川局。(以下「4省庁」という。))は,総合的な津波防災対策計画を進めるための手法を検討することを目的として,平成8年度の国土総合開発事業調整費に基づき,「太平洋沿岸部地震津波防災計画手法調査」を実施し,その成果を平成9年3月,「太平洋沿岸部地震津波防災計画 手法調査報告書」(以下「4省庁報告書」という。)にまとめた。【甲C1の1】調査委員会には,委員長の堀川清司氏(埼玉大学長)の他,日本を代表する地震学の専門家である首藤伸夫氏,阿部勝征氏,相田勇氏らが委員に加わっていた。【同・2頁「構成メンバー」参照】 4省庁報告書は,津波地震研究における当時の第1人者らの指導・助言のもとに作成された,権威ある見解であった。 (イ) 4省庁報告書の内容4省庁報告書(及び後記イの7省庁手引き)は,将来起こり得る地震や津波について,過去の例に縛られることなく想定するという基本的立場を 前提に,既往最大津波と現在の知見に基づいて想定される最大地震による津波を比較し,より大きい方を対象津波として設定するという津波予測の手法を採っている。 4省庁報告書は,想定地震の設定として,地体区分別の最大規模地震を検討し,その結果として,「G2」領域(資料23(第6分冊)参照。以下 同じ)についてはM8.5の1896年明治三陸地震,「G3」領域につい 想定地震の設定として,地体区分別の最大規模地震を検討し,その結果として,「G2」領域(資料23(第6分冊)参照。以下 同じ)についてはM8.5の1896年明治三陸地震,「G3」領域につい てはM8.0の1677年常陸沖(延宝房総沖)地震がこれにあたるものとして特定した上で【甲C1の1・10頁及び136頁】,それに留まらず,「過去に発生した地震・津波の規模及び被害状況を踏まえ,想定し得る最大規模の地震を検討」するという観点から,各領域ごとの想定地震震源断層パラメータを設定した。【同・12頁,156頁】 また,「想定地震の発生位置は既往地震を含め太平洋沿岸を網羅するように設定する。」【甲C1の1・9頁】という考え方に基づいて,対象津波の波源について,領域内を移動させて複数の計算を行っている。【同・14頁及び157頁。想定する波源位置の実際は同160,162頁など】そして,代表的な既往地震の断層モデル(波源モデル)【同・186頁】 に基づく再現計算により各地の最大津波水位の計算値を得た上,これと津波の痕跡値との比較を行い,計算値に増幅率(平均倍率)1.242(全既往地震の重み付け平均)を乗じ,沿岸での津波水位の計算値を現実に近いものに補正している。【甲C1の1・188~189頁】また,想定地震について得られた計算値についても,既往地震の場合と同様に,平均倍率 1.242を乗じた補正を行っている。 【甲C1の1・203頁,189頁】その結果算出された既往地震の津波水位と想定地震の津波水位を比較して,比較津波高を得ることとなる。【甲C1の1・204頁調査フロー,213頁図4.15 比較津波高の分布と要因】4省庁報告書の「参考資料」によれば,福島第一原発5,6号機が所在 する福島県双葉町は最大平均 得ることとなる。【甲C1の1・204頁調査フロー,213頁図4.15 比較津波高の分布と要因】4省庁報告書の「参考資料」によれば,福島第一原発5,6号機が所在 する福島県双葉町は最大平均6.8m,1~4号機が所在する大熊町も最大平均6.4mの津波高さとなる。【甲C1の2・148頁「表-2(3)市町村別津波高と施設設備状況」】そして,4省庁報告書は,「計算値は絶対的な値ではなく,様々な要因によりある程度の幅を考慮して取り扱う必要がある性質のものである」【甲 C1の1・201頁末尾】という基本的考え方に立って,実測値が取り得 る範囲に幅をもたせているところ,計算値が5mの場合,少なくとも標準偏差分の2倍まで考慮する必要があるから,最大14.9mの津波高を想定しなければならない。【甲C1の1・201頁,表4.6】当然,計算値が6.4mとされた大熊町及び6.8mとされた双葉町については,15mを大きく超える津波高を想定しなければならないことになる。 (ウ) まとめ平成9年3月の4省庁報告書の内容からすれば,被告国及び被告東電は,福島第一原発が立地する大熊町及び双葉町において,敷地高10mを容易に超える津波が発生する可能性があることを予見することができた。 イ 7省庁手引き,津波災害予測マニュアル及び津波浸水予測図 (ア) 7省庁手引き及び津波災害予測マニュアルの作成被告国は,平成9年3月,前記アのとおり4省庁報告書を作成するとともに【甲C1の1】,平成10年3月には,国土庁,農林水産省構造改善局,農林水産省水産庁,運輸省(当時),気象庁,建設省(当時)及び消防庁の7省庁の連名で,「地域防災計画における津波対策強化の手引き」(7省庁 手引き)【乙B4】を公表した。この7省庁手引きは,「防 林水産省水産庁,運輸省(当時),気象庁,建設省(当時)及び消防庁の7省庁の連名で,「地域防災計画における津波対策強化の手引き」(7省庁 手引き)【乙B4】を公表した。この7省庁手引きは,「防災に携わる行政機関が,沿岸地域を対象として地域防災計画における津波対策の強化を図るため,津波防災対策の基本的な考え方,津波に係る防災計画の基本方針並びに策定手順等についてとりまとめた」ものである。【甲C1の1・216頁,乙B4・3頁】 この7省庁手引きの作成・公表に際しては,同手引きの「別冊」として,同時に「津波災害予測マニュアル」(以下「津波災害予測マニュアル」という。)【甲C55】が公表された。これは,同「手引き」に基づいて「地方公共団体が個々の海岸線におけるきめ細かな津波災害対策を行うには,海岸ごとに津波の浸水予測値を算出した津波浸水予測図・・・等を作成する ことが有効である」として,「予測図の作成方法等について明示する」こと を目的としたものであった。【同・「まえがき」】そして,この「津波災害予測マニュアル」に基づいて,「津波浸水予測図」(以下「津波浸水予測図」という。)が作成され,平成11年に公表された。 【甲C56,57】この「津波浸水予測図」は,被告国(国土庁)が,福島第一原発の立地 点をも含む沿岸部を対象として,想定される海岸に到達する津波高さによって,対象沿岸地域においてどの程度の津波による浸水(浸水高及び浸水域)がもたらされるかについて,海岸地形や地上の地形データを踏まえて,具体的に推計したものであって,被告国による津波防災対策の推進の過程において,基礎的かつ中心的な役割を担うべきものとして重要な位置を占 めるものである。 (イ) 津波災害予測マニュアルに基づく津波浸水予測図の のであって,被告国による津波防災対策の推進の過程において,基礎的かつ中心的な役割を担うべきものとして重要な位置を占 めるものである。 (イ) 津波災害予測マニュアルに基づく津波浸水予測図の重要性7省庁手引きは,「沿岸津波水位」の把握に留まらず,「さらに詳細な検討が必要な場合には,陸上遡上計算を用いて対象沿岸地域とその背後地域における浸水域を想定し,被害を想定し,その評価を行う。」ことが必要で あるとしている。【甲C1の1・242頁,乙B4・34頁】沿岸の津波水位よりも陸上に遡上する津波水位は高くなることからすると,津波防災の観点からは,津波浸水予測計算の最終目的である「陸上への津波の遡上の態様の想定」まで進むべきことは当然であり,陸上への遡上計算の結果を踏まえて具体的な津波防災対策を検討する必要性のあ ることは明らかである。 こうした観点から,1997(平成9)年3月,7省庁手引きの別冊として「津波災害予測マニュアル」【甲C55】が作成された。 「津波災害予測マニュアル」は,首藤伸夫,阿部勝征及び佐竹健治など,日本を代表する地震・津波学者らによって構成される委員会【同・2枚目 「委員名簿」】によって作成され,7省庁手引きの別冊として,1998 (平成10)年3月,7省庁手引きと一体をなすものとして公表されたものである。 そして,同「マニュアル」においては,津波浸水予測計算が3つの段階によって構成されていることを整理した上で【同・50頁】,津波防災対策に万全を期する観点から,「津波浸水予測図」を作成,公表するものとして いる。 「津波浸水予測図」は,主として,各県や各市町村における一般住民を対象とした津波防災対策を念頭において作成されたものであるが,同時に,沿岸部に立地する原子力発電 ,公表するものとして いる。 「津波浸水予測図」は,主として,各県や各市町村における一般住民を対象とした津波防災対策を念頭において作成されたものであるが,同時に,沿岸部に立地する原子力発電所の津波防災対策にも生かされるべきものであることは当然である。それに留まらず,原子力発電所においては「深 刻な災害が万が一にも起こらないようにする」という極めて高度な安全性が求められることからすれば,被告国(気象庁,国土庁など)が作成する「津波浸水予測図」の示す津波によって浸水が生じる範囲(面的な広がり),及び生ずる可能性のある深さ(浸水高)についての想定は,原子炉の津波防災対策においても十分に考慮に入れられるべきものである。 (ウ) 津波浸水予測図に基づく認識・予見の内容甲C57は,被告国(国土庁)が平成11年3月に発表した,福島第一原発の立地点を含む地域の「津波浸水予測図」のうち一部(設計津波高を8mとしたもの)である。これは,気象庁の津波予報の,予測津波高さ(沿岸で予想される津波の高さ)に対応させて,沿岸領域での浸水状況の分布 をあらかじめそれぞれ数値計算し,その結果を1/25,000 縮尺の地図上に表示したものである。【甲C56・50頁左段「津波浸水予測図の作成とその活用」岡山和生,中辻剛〔国土庁防災局震災対策課〕】「津波浸水予測図」は,7省庁手引き・別冊の「津波災害予測マニュアル」【甲C55】に基づいて,主に,一般防災レベルを念頭に置きながら, 海岸線において想定される一定の津波高さを前提とした場合に,各市町村 の沿岸部において,各地点ごとに,津波が陸上において,どの程度の浸水をもたらすかについて,海上保安庁発行の「海底地形図」なども踏まえながら推計計算を行ったものである。【甲C55・58 村 の沿岸部において,各地点ごとに,津波が陸上において,どの程度の浸水をもたらすかについて,海上保安庁発行の「海底地形図」なども踏まえながら推計計算を行ったものである。【甲C55・58頁「開発したモデルにおける計算手順」,及び62頁「初期条件及び計算条件」の項など参照】被告国(国土庁)自身によっても,津波浸水予測図は「個々の海岸線に おける事前の津波対策を検討するための基礎資料となる」ものであり,かつ,「具体的には,この地図を見ることにより津波による浸水域の広がり,浸水高さ及びその中に含まれる市街地・行政機関等の公共施設,工場等を抽出する事ができ,その地域における津波防災対策の課題を明らかにすることが出来る。」【甲C56・50頁】とされている。ここで,例示として 「工場等」への浸水状況の予測(予見)が挙げられているが,当然のことながら,沿岸部に立地する原子炉施設への浸水予測(予見)も含まれる。 津波浸水予測図によれば,沿岸での津波水位が8mとなれば,福島第一原発の敷地に津波が遡上し,地下1階に配電盤が設置されているタービン建屋が3mから5mほど浸水することは明らかである。第2で述べたとお り,敷地上に3mから5m浸水するというのは,その高さに盛り上がった海水のいわば塊が,10分以上にわたって敷地上に押し寄せることを意味する。 (エ) まとめ以上述べてきたことをまとめると,1999(平成11)年当時,被告 国は,福島第一原発付近に8mを超える津波が到来する可能性があることを認識し,そして,もし,そのような高さの津波が到来すれば,津波が福島第一原発の敷地上に遡上し,タービン建屋地下にある配電盤が全面的に被水し,機能しなくなることを予見したということになる。 ウ地震本部の長期評価と被告らの のような高さの津波が到来すれば,津波が福島第一原発の敷地上に遡上し,タービン建屋地下にある配電盤が全面的に被水し,機能しなくなることを予見したということになる。 ウ地震本部の長期評価と被告らの予見可能性 (ア) はじめに 平成7年の阪神淡路大震災を契機に設置された文部科学省・地震調査研究推進本部(地震本部)の地震調査委員会は,平成14年7月31日,長期評価(「三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価について」)を発表した。 この長期評価は,阪神淡路大震災が,神戸市周辺に見られる活断層の危 険が指摘されていたにもかかわらず,それに対する備えが地域防災計画に盛りこまれなかったことで甚大な被害を生じさせたという反省を踏まえ,二度とこのような深刻・甚大な被害を発生させないという観点から,研究の成果を発表したものである。この長期評価から把握できる平成14年当時の津波の知見に基づき,被告東電が直ちに試算を実施するなどして,原 子力発電所の安全確保に努めていれば,約9年後の東北地方太平洋沖地震によってもたらされた津波,そして福島第一原発事故による災害を回避できたことは確実であるため,以下,この長期評価の内容とそれを巡る被告らの対応について詳述する。 (イ) 地震本部の設立及び長期評価の意義について a 地震本部の設立の経緯まず,地震本部の設立の経緯は以下のとおりである。【甲C4・1頁】「平成7年1月17日に発生した阪神・淡路大震災は,6434名の死者を出し,10万棟を超える建物が全壊するという戦後最大の被害をもたらすとともに,我が国の地震防災対策に関する多くの課題を浮き彫 りにしました。 これらの課題を踏まえ,平成7年7月,全国にわたる総合的な地震防災対策を推進するため,地震防災対 大の被害をもたらすとともに,我が国の地震防災対策に関する多くの課題を浮き彫 りにしました。 これらの課題を踏まえ,平成7年7月,全国にわたる総合的な地震防災対策を推進するため,地震防災対策特別措置法が議員立法によって制定されました。 地震本部は,地震に関する調査研究の成果が国民や防災を担当する機 関に十分に伝達され活用される体制になっていなかったという課題意 識の下に,行政施策に直結すべき地震に関する調査研究の責任体制を明らかにし,これを政府として一元的に推進するため,同法に基づき総理府に設置(現・文部科学省に設置)された政府の特別の機関です。」このように,地震本部は,地震防災対策の強化,特に地震による被害の軽減に資する地震調査研究の推進を基本的な目標とし, 1.総合的かつ基本的な施策の立案2.関係行政機関の予算等の事務の調整3.総合的な調査観測計画の策定4.関係行政機関,大学等の調査結果等の収集,整理,分析及び総合的な評価 5.上記の評価に基づく広報という役割を果たすものとされる。【甲C4・1頁】地震本部は,政策委員会と地震調査委員会に分かれる。地震調査委員会は,地震に関する観測,測量,調査又は研究を行う関係行政機関,大学等の調査結果等について,収集,整理,分析し,そしてこれに基づき 総合的な評価を行うこととされている。【甲C4・6頁】地震調査委員会はさらに,長期評価部会,強震動評価部会などに分かれ,各部会において様々な地震の評価が実施されている。長期評価部会において実施され,かつ本件で特に問題となる長期評価は,主な活断層と海溝型地震を対象にした地震の規模や一定期間内に地震が発生する 確率などについての長期的な観点からの評価結果を指すものである。 b 中 施され,かつ本件で特に問題となる長期評価は,主な活断層と海溝型地震を対象にした地震の規模や一定期間内に地震が発生する 確率などについての長期的な観点からの評価結果を指すものである。 b 中央防災会議との関係について他方,昭和36年の災害対策基本法に基づき内閣府に設置され,「防災基本計画」,「地域防災計画」の作成及びその実施の推進等を行う機関として,中央防災会議がある。 平成17年7月「防災基本計画」で,「地震調査研究推進本部は,地震 に関する調査研究計画を立案し,調査研究予算等の事務の調整を行うものとする」と定めているとおり,地震に関する調査研究計画の立案を行うのは,地震本部である。【甲C4・1,3頁】中央防災会議は地震本部と連携関係に立ち(上下関係ではない,3頁),地震本部の立案に際し意見を述べる(4頁)。無論,意見を述べるのは計画の立案に対してであっ て,「関係行政機関,大学等の調査結果等の収集,整理,分析及びこれに基づく総合的な評価」は,地震本部がその時々の最新の知見を踏まえて打ち出すことが予定されている。 (ウ) 地震本部の長期評価の内容a 長期評価による「次の地震」の予測 長期評価において,「次の地震」として,ⅰ)三陸沖北部のプレート間大地震ⅱ)三陸沖北部から房総沖の海溝寄りのプレート間大地震(津波地震)ⅲ)三陸沖北部から房総沖の海溝寄りのプレート内大地震ⅳ)ⅰ)~ⅲ)以外の地震 のそれぞれについて,発生時期,発生確率等の評価がなされた。ⅰ)並びに,ⅳ)のうち,「三陸沖南部海溝寄り」及び「福島県沖」については,以下のとおり評価がなされている。 ① 三陸沖北部から房総沖の海溝寄りのプレート間大地震(津波地震)1896年の明治三陸地震についてのモデルを参考 三陸沖南部海溝寄り」及び「福島県沖」については,以下のとおり評価がなされている。 ① 三陸沖北部から房総沖の海溝寄りのプレート間大地震(津波地震)1896年の明治三陸地震についてのモデルを参考にし,断層の長 さが日本海溝に沿って200㎞程度,幅が約50㎞の地震が三陸沖北部から房総沖の海溝寄り(日本海溝付近)の領域内のどこでも発生する可能性がある。【丙C7・10頁】M8クラスのプレート間の大地震は,過去400年間に3回発生していることから,この領域全体では約133年に1回の割合でこのよ うな大地震が発生すると推定される。 今後30年以内の発生確率は20%程度,今後50年以内の発生確率は30%程度と推定される。【丙C7・24頁】② 三陸沖南部海溝寄り三陸沖南部海溝寄りの地震については,1793年に宮城県沖と連動する形にて,1897年8月には海溝寄り単独にて,発生したと考 えられる。地震の発生間隔については,105年程度であったと考えられる。【丙C7・4頁】この領域の地震はすでに「宮城県沖地震の長期評価」で評価されているように,宮城県沖の地震と連動する可能性がある。【丙C7・25頁】 ③ 福島県沖福島県沖については,1938年の福島県東方沖地震のようにほぼ同時期に複数のM7.4程度の地震が発生したものが,過去400年に1回だけあった。このため,この領域では,このような地震の発生間隔は400年以上と考えられる。次の地震の規模は,過去の事例か らM7.4前後と推定され,複数の地震が続発することが想定される。 【丙C7・4頁,7頁】b 長期評価の根拠と正当性長期評価が1896年明治三陸地震のような津波地震が日本海溝付近のどこでも起こり得ると判断したことについては十分な根拠 発することが想定される。 【丙C7・4頁,7頁】b 長期評価の根拠と正当性長期評価が1896年明治三陸地震のような津波地震が日本海溝付近のどこでも起こり得ると判断したことについては十分な根拠がある。 すなわち,1611年の慶長三陸地震(三陸沖)及び1896年の明治三陸地震(三陸沖)は,津波数値計算等から得られた震源モデルから,日本海溝軸付近に位置することが分かっている。また,1677年の延宝房総沖地震(房総沖)については,津波地震であることが明らかであるため,日本海溝で発生したものと推定される。そして,日本海溝で発 生する津波地震は,太平洋プレートの沈み込みによって発生するが,津 波被害の記録から,1611年の慶長三陸地震及び1896年の明治三陸地震は,日本海溝の北部にて,1677年の延宝房総沖地震については,日本海溝の南部にて発生したものと推定される。そして,この日本海溝の北部・中部・南部には,地形などについて,大きな違いがみられない。また,中部だけは発生しないという主張を支持する証拠もない。 そうすると,この日本海溝付近においては,海溝の北部と南部だけで津波地震が発生し,中部だけは起こらないとは考えにくい。そしてこのことは,プレートテクトニクスに基づけば当然の結論である。長期評価が直接の対象とした過去400年間に宮城県沖や福島県沖の海溝付近で津波地震が発生していないことについても,単にたまたま発生してい ないにすぎないのである(『科学』2011年10月号より「予測されたにもかかわらず,被害想定から外された巨大津波」【甲C6・1003頁】)。 以上の理由から,宮城県沖や福島県沖の海溝付近も含め,どこでも津波地震が発生し得ると考えるべきなのである。 (エ) 被告らは長期評価に から外された巨大津波」【甲C6・1003頁】)。 以上の理由から,宮城県沖や福島県沖の海溝付近も含め,どこでも津波地震が発生し得ると考えるべきなのである。 (エ) 被告らは長期評価に基づいて敷地高10mを超える津波の発生を予見することができたこと被告東電は,遅くとも平成20年1月から4月ころ,明治三陸地震の断層モデル(波源モデル)を福島県沖日本海溝沿いに置いた試算を実施している。【甲B1・88頁】 上記試算の結果,1~6号機の各海水系ポンプ位置での津波水位はO. P.+8.4mから9.3m,5・6号機の各建屋のさらに北側の敷地ではO.P.+10.2m,及び1~4号機の各建屋のさらに南側の敷地ではO.P.+15.7mとなった。【甲C8・2頁(平成23年3月7日打ち合わせ資料)】 また,被告東電が国会事故調査委員会に提出した資料によれば,被告東 電は,当時試算した津波によって4号機原子炉建屋周辺が2.6mの高さで浸水すると予想していた。【甲B1・84頁】上記の試算による津波水位は,海水系ポンプの存する海側4mの高さを遥かに超え,敷地南側でO.P.+15.7mにもなり,4号機原子炉建屋周辺は2.6mの高さで浸水するというのであるから,1~6号機全てで 全交流電源喪失を発生させるに十分な津波高さである。 上記の試算は,長期評価が発表されてから約6年後に実施されているが,長期評価が発表された平成14年当時に同様の試算を行うことは技術的に充分可能だった。この点,地震本部において長期評価部会の部会長であった島崎邦彦氏も以下のとおり指摘していることに留意すべきである。 【甲C9・130頁左段最下行~右段5行目】「福島第一原発の津波評価では,明治三陸地震の津波波高も計算している。よって,長 った島崎邦彦氏も以下のとおり指摘していることに留意すべきである。 【甲C9・130頁左段最下行~右段5行目】「福島第一原発の津波評価では,明治三陸地震の津波波高も計算している。よって,長期予測に従った評価をするには,断層モデルの位置を福島県沖の海溝付近へ移動して計算を行えば良い。このような計算を行えば2002年の時点で,福島第一原発に10mを超える津波が襲う危険が察知 されたはずである。」長期評価は平成14年には公表されており,被告東電が検討を開始した平成20年までに,長期評価自体の知見のレベルが上昇(変更)したということはない。また,平成9年の4省庁報告書や平成14年の土木学会の津波評価技術(この内容については後述する。)によって明治三陸地震の 断層モデル(波源モデル)が与えられていた。 このように,平成14年の時点で,明治三陸地震の断層モデル(波源モデル)を福島県沖に設定して津波リスクの計算をすることには何らの技術的困難もないのである。 (オ) 長期評価に対する被告らの対応 a 長期評価発表直前において内閣府が発表阻止の画策をしたこと 内閣府中央防災会議事務局の地震・火山対策担当官は,地震本部による長期評価の発表予定の6日前である平成14年7月25日に,地震本部事務局に対し,「内閣府の中で上と相談したところ,非常に問題が大きく,今回の発表は見送り,取り扱いについて政策委員会で検討したあとに,それに沿って行われるべきである,との意見が強く,このため, できればそのようにしていただきたい」,「やむを得ず,今月中に発表する場合においても,最低限表紙を添付ファイルのように修正(追加)し,概要版についても同じ文章を追加するよう強く申し入れます」との威圧的なメールを送りつけた。【甲C3 」,「やむを得ず,今月中に発表する場合においても,最低限表紙を添付ファイルのように修正(追加)し,概要版についても同じ文章を追加するよう強く申し入れます」との威圧的なメールを送りつけた。【甲C31・1枚目下~2枚目,甲C12の2・308~309頁】 上記添付ファイルの文案は,「今回の評価は,データとして用いる過去地震に関する資料が十分にないこと等のために評価には限界があり,評価結果である地震発生確率や予想される次の地震の規模の数値には相当の誤差を含んでおり…地震発生の切迫性を保証できるものではなく,防災対策の検討にあたってはこの点に十分注意することが必要であ る。」というものであった。 内閣府中央防災会議事務局の地震・火山対策担当官は,上記のような文章を追加せよと求める根拠となる「考え方」をまとめたメモも,地震本部事務局に同時に送りつけてきた。その要点は,以下のとおりであった。【甲C12の2・309頁】 ① 国の機関が発表する情報は,学界での発表と違い,責任を伴う。 地震本部の社会への発表は,地震調査委員会だけで勝手にするのではなく,政策委員会を通すべきだ。 ② 三陸沖北部から房総沖の海溝寄りのプレート間大地震(津波地震)について,過去に大きな地震発生の記録のない空白地域についても, 他の海域と同じように地震が起こると予測しているが,それは保証 できるものではない。そういう不確かなものについて,防災対策に多大の投資をすべきか,慎重な議論が必要である。 地震本部による長期評価が対象としている領域は広く7つに及ぶが,上記の「考え方」メモは,他のどこでもない,「三陸沖北部から房総沖の海溝寄りのプレート間大地震(津波地震)について,過去に大きな地震 発生の記録のない空白地域」,すなわち福島県 く7つに及ぶが,上記の「考え方」メモは,他のどこでもない,「三陸沖北部から房総沖の海溝寄りのプレート間大地震(津波地震)について,過去に大きな地震 発生の記録のない空白地域」,すなわち福島県沖や茨城県沖の扱いを問題にしている。そして,防災対策のための多大の投資を回避する,という動機を露骨に述べているのである。 このように,内閣府・中央防災会議は,沿岸に原子力発電所を抱える福島県や茨城県における防災対策の見直しを迫られることを回避する ため,地震本部という国の機関が,日本海溝沿いの「空白域」,すなわち福島県沖や茨城県沖につき,将来津波地震が発生し得るという予測を発表することを何としても阻止しようとしたのである。 内閣府・中央防災会議からこのような威圧的申入れがあった事実を文科省の地震本部事務局から知らされた地震調査委員会・長期評価部会長 の島崎邦彦氏(東京大学地震研究所教授・当時)は,長期評価の発表文書の表紙に信頼性の低いことを表明するような文章を刷り込むことは絶対に納得できないと表明した。 しかし,地震本部事務局は,地震調査委員会の津村委員長,阿部勝征委員長代理及び島崎部会長に「内閣府と幾度もやり取りをした後に,最 終的に評価文の前文を添付ファイルのように修正することで収拾することとなりました。この修正文をもとに,内閣府は本日大臣説明を行い,了解されたようです。」とのメールを送った。【甲C31・1枚目】島崎氏はこれに抗議したが,地震本部事務局担当者は,内閣府で大臣決裁まで済んでいるのでこれ以上交渉しようもないと言うばかりで,喧 嘩別れに終わった。【甲C12の2・310頁】 こうして,内閣府の強力な圧力に文科省の地震本部が屈する形で,中央防災会議事務局が作成した当初の文案と殆ど同じ文 言うばかりで,喧 嘩別れに終わった。【甲C12の2・310頁】 こうして,内閣府の強力な圧力に文科省の地震本部が屈する形で,中央防災会議事務局が作成した当初の文案と殆ど同じ文章が長期評価の表紙に捻じ込まれることとなったのである。 上述したように,地震に関する調査研究計画の立案を行うのは,地震本部であり,中央防災会議は地震本部の計画の立案に際し意見を述べる ことはできても,関係行政機関,大学等の調査結果等の収集,整理,分析及びこれに基づく総合的な評価については,地震本部がその時々の最新の知見を踏まえて打ち出すことが予定されているのである。それにもかかわらず,地震本部が立案した調査研究計画である長期評価は,内閣府(中央防災会議)により不当な介入を受け,結果として捻じ曲げられ てしまったのである。 b 長期評価発表後において被告東電が対策を検討すらしなかったこと長期評価発表の1週間後,被告東電の津波想定の担当者は,地震本部で長期評価を取りまとめた海溝型分科会委員に「(土木学会と)異なる見解が示されたことから若干困惑しております」とのメールを送り,地 震本部がこのような長期評価を発表した理由を尋ねた。これに対し,委員は「1611年,1677年の津波地震の波源がはっきりしないため,長期評価では海溝沿いのどこで起きるかわからない,としました」と回答した。 このような情報があったにもかかわらず,被告東電の担当者は,この 津波予測への対策を検討することを見送った。「文献上は福島県沖で津波地震が起きたことがない」というのが,対策を検討しないことの主な理由であった。【甲B1・87頁】すでに4省庁報告書,地震本部の長期評価により,過去に起きていない地震は将来も起きないという考え方は明確に退けられてい ない」というのが,対策を検討しないことの主な理由であった。【甲B1・87頁】すでに4省庁報告書,地震本部の長期評価により,過去に起きていない地震は将来も起きないという考え方は明確に退けられていたが,被告 東電はこのような考え方を都合良く採用し,対策を検討すらしなかった のである。 c 電力会社側の姿勢と規制庁の受け入れこのような,地震本部の長期評価という公的な機関により示された知見であっても受け入れようとしない被告東電の姿勢は,1997(平成9)年に被告東電を中心とする電事連が取りまとめ通産省(当時)に報 告した「耐震設計に関わる新見解に対する電力の対応方針」にも現れている。 その概要は以下のようなものであった。【甲C5,平成15年9月8日原子力安全委員会作成「耐震設計審査指針の検討に関する保安院打合せメモ」,「地震調査研究推進本部による活断層評価に対する対応方針」 (以下本項において「対応方針」という。)・通し頁39頁】① “新見解”のうち,原子力施設の耐震安全性の観点から採用することが適切なものを“確認された知見”と位置付ける。ただし,“確認された知見”は,原子力安全委員会での議論を経るなどの確認行為が必要。 ② “確認された知見”に対しては,既設プラントの安全評価を行う。 ③ “確認された知見”として確定しない段階は,“新見解”に対し電力自ら技術的検討を行い,対応を判断する。 このように,耐震設計に関わる知見(“新見解”)が出されたとしても,全てを知見として受け入れるのではなく,原子力安全委員会での議論を 経る等の「確認行為」を経て「原子力施設の耐震安全性の観点から採用することが適切」なものだけを「採用」せよ,といういわば知見の選別方針を,規制対象であるはずの被告東電ら 安全委員会での議論を 経る等の「確認行為」を経て「原子力施設の耐震安全性の観点から採用することが適切」なものだけを「採用」せよ,といういわば知見の選別方針を,規制対象であるはずの被告東電ら電力会社が作成し,通産省(平成9年当時)に報告していたのである。このようなこと自体,まさに主客が転倒した異常な事態といえる。 そして,「対応方針」に「現時点で,この電力対応方針を改める理由は なく,今後も踏襲されるべきものと考える」との記載があることから,かかる知見の選別方針について被告国(保安院及び原子力安全委員会)も了承していたことが明らかである。【甲C5・39頁中段】さらに「対応方針」では,「地震調査研究推進本部に対する検討」において,地震本部の活断層評価が公表される都度,“確認された知見”であ るかどうかを明確にする必要があるとした上で,以下のように述べている。【甲C5・40頁】「しかしながら,過去の電力対応方針どおりに推本評価内容を“確認された知見”とするか否かを原安委等で議論する(前述の①)のは現実的でない(今のところ要求もない)ことから,評価内容について電力自 ら技術的検討を行い,METI審査課と協議して対応を判断するのが適当と考える(前述の③)。また,検討の結果,対応が不要と判断された場合は,安全評価不要(規制側としての確認も不要)とのポジションを確認する必要がある。」耐震設計に関わる知見一般については,一応「原子力安全委員会での 議論を経る等の確認行為」が必要として,原子力安全委員会の判断を尊重する建前をとっていた被告東電ら電力会社が,地震本部の知見に対しては,その建前すらかなぐり捨て,自ら対応を判断すると宣言している。 その上で,電力会社が対応不要と判断した場合は「安全評価不要 断を尊重する建前をとっていた被告東電ら電力会社が,地震本部の知見に対しては,その建前すらかなぐり捨て,自ら対応を判断すると宣言している。 その上で,電力会社が対応不要と判断した場合は「安全評価不要(規制側としての確認も不要)とのポジションを確認」せよと規制側である被 告国(原子力安全委員会)に迫っているのである。 耐震設計に関わる知見の内でも,とりわけ全国にわたる総合的な地震防災対策を推進するため設置された地震本部が表明する知見に対して,被告東電を含む電力会社はこれを強く警戒し,これらの知見が極力原子力発電所の安全性評価に反映されぬよう,規制をされる側が,知見を取 捨選別し採否を決定する役割を担おうとしたのである。 そして問題なのは,電力側のこのような姿勢に対する規制側である被告国の対応である。この「対応方針」が保安院から資料として持ち込まれた平成15年9月8日の打合せにおいて,こうした電力会社の傲慢な方針に対し,原子力安全委員会がこれを問題視したり批判したりした様子は全くない。【甲C5・1~2頁「打合せ概要」】電力会社の意をうけ た保安院が「対応方針」を資料として打合せに持ち込み,安全委員会に対して了承と意思統一を図り,安全委員会もこれを受け入れたと見るほかない。規制する側と規制を受ける側の主客が事実上逆転しているのを明確に見てとることができる。 d その後の被告らの長期評価に対する対応 被告東電が国会事故調査委員会に開示した文書によれば,発表から約6年が経過した平成20年の時点における被告東電の長期評価に対する対応は,明治三陸地震の断層モデル(波源モデル)を福島県沖日本海溝沿いに置いた試算を行い,敷地高を遙かに超える高さの波高を算出しながらも,結論的には,依然として,以下のように「採用し 期評価に対する対応は,明治三陸地震の断層モデル(波源モデル)を福島県沖日本海溝沿いに置いた試算を行い,敷地高を遙かに超える高さの波高を算出しながらも,結論的には,依然として,以下のように「採用しない」とい うものであった。【甲B1・88頁】「推本(地震本部)で,三陸・房総の津波地震が宮城沖~茨城沖のエリアのどこで起きるか分からない,としていることは事実であるが,原子力の設計プラクティスとして,設計・評価方針が確立しているわけではない。(中略)以上について有識者の理解を得る(決して,今後何ら対 応をしないわけではなく,計画的に検討を進めるが,いくらなんでも,現実問題での推本即採用は時期尚早ではないか,というニュアンス)以上は,経営層を交えた現時点での一定の当社結論となります。」そして,被告国(原子力安全・保安院等)も,地震本部の知見の採否については電力会社に任せるという「対応方針」【甲C5・39~40 頁】に,忠実に従い,被告東電に対し,地震本部の長期評価に基づく試 算の実施や対策の検討を求めることを一切行わなかったのである。 e 長期評価に対する被告らの対応と予見可能性被告らが,長期評価が発表された平成14年の時点において,敷地高10mを超える津波が発生することを予見可能性であったことはすでに指摘したとおりである。そして,そのことは,長期評価の発表前から 発表後に至るまでの被告らの対応を見れば,より一層明らかである。 被告らは,長期評価に示された知見を認識していなかったのではない。 むしろ逆に,その内容を良く認識していたのである。もしこの内容が政府の知見としてオーソライズされ,その結果,福島県沖や茨城県沖での地震・津波に備えて原発事故を防止するために高額な費用を投じなけれ ばならな の内容を良く認識していたのである。もしこの内容が政府の知見としてオーソライズされ,その結果,福島県沖や茨城県沖での地震・津波に備えて原発事故を防止するために高額な費用を投じなけれ ばならないとすれば不都合であるとの考えから,人々の生命の安全を軽視して,恣意的に長期評価の価値・信用性を引き下げ,これを葬り去ろうとしたのである。被告らは,長期評価の内容をよく認識していたからこそ,さまざまな策を弄したのであった。 このように見てくると,被告らに予見可能性があったことは明白であ り,さらにそのレベルを超えて,極めて悪質とさえいえるのである。 エ小括以上のとおり,長期評価は,地震防災対策特別措置法に基づいて設置された地震本部が策定したものであり,異論の存在も踏まえ最大公約数的に意見をまとめたものといえる以上,被告国は,地震発生の規模,確率を示 した無視することができない知見としてこれを津波対策に取り入れなければならなかった。 そして,被告国が,平成14年7月31日に発表された長期評価に基づいて,想定津波の高さを試算し,又は被告東電に試算させていれば,福島第一原発1~4号機敷地南側にO.P.+15.7mの津波が到来するこ と,かかる津波により非常用電源設備の機能が喪失すること,非常電源設 備が喪失すれば全交流電源喪失により放射性物質が外部に漏出するような重大事故に至る可能性があることを予見することが可能であったものである。 ⑵ 平成18年時点又は,遅くとも平成21年~22年の時点で予見可能性があったこと(予備的主張) 以下のとおり,国内外で実際に発生した原子力発電所の溢水事故等と,安全情報検討会,溢水勉強会等の経緯を踏まえれば,どんなに遅くとも,平成18年までには,被告国において敷地高を超え 備的主張) 以下のとおり,国内外で実際に発生した原子力発電所の溢水事故等と,安全情報検討会,溢水勉強会等の経緯を踏まえれば,どんなに遅くとも,平成18年までには,被告国において敷地高を超える津波の到来を予見することが可能であったものであり,更に予備的に,貞観津波に関する知見をも踏まえれば,平成21年9月から22年3月までの間には上記同様の予見可能性が生じて いたものである。 ア国内外で実際に発生した原子力発電所の溢水事故等(ア) 被告東電における平成3年の海水漏えい事故福島第一原発1号機において平成3年10月30日に,補機冷却水系海水配管からの海水漏えいに伴う原子炉手動停止の事故が発生し,被告東電 による最終報告書において,以下のような報告がされた。 すなわち,1/2号機共通非常用D/G(非常用ディーゼル発電機)室内には相当の深さの水がたまり,発電機等が水没した。ディーゼル発電機は,ステータもロータも取り外して工場に持ち込んで修理がされ,制御盤類も工場に持ち込まれ,浸水部品類が取り換えとなった。 このときの事故状況から,非常用D/Gは水を被ればショートを起こし,機能しないことが事実をもって実証された。平成3年の海水漏えい事故は,床下から流出した海水が電線管を通じて地下1階のいくつものエリアに浸水したというものであり,電線管は,電気機器が存在する場所全てに配線されているものであるから,流出場所よりも高所にあるエリア以外のど こにでも浸水する具体的な可能性があり,そうなれば設置機器の被水によ り同時的に機能喪失が起こることがこの事故から明らかになったといえる。 (イ) フランスのルブレイエ原子力発電所事故フランスのルブレイエ原子力発電所において,平成11年12月27日,暴風雨の り同時的に機能喪失が起こることがこの事故から明らかになったといえる。 (イ) フランスのルブレイエ原子力発電所事故フランスのルブレイエ原子力発電所において,平成11年12月27日,暴風雨の影響で外部電源が失われ,非常用電源が起動したが,高潮と満潮 が重なりジロンド河口に波が押し寄せた結果,河川が増水し,川の水が洪水防水壁を越えて浸入し,1号機と2号機でポンプと電源設備が浸水して冷却機能が喪失した。直流電源の稼働が可能であり,また,当時停止していた4号機の再起動等で所内の電源は復旧し,過酷事故には至らなかった。 洪水防水壁は最大潮位を考慮していたが,これに加わる波の動的影響を考 慮していなかったために洪水防止壁が押し流されたことが原因だと分析された。 この外部溢水事故は,想定(設計基準)を越えた自然現象(外部現象)が発生して原子炉の重要な安全設備を機能喪失させることがあり得ること,電気系統が被水に弱いことを改めて認識させるものといえた。 (ウ) インドのマドラス原発の事故による電源喪失事故平成16年12月26日,スマトラ沖地震が発生した。インド南部の海岸線にあるマドラス原子力発電所において,2号炉は当時ほぼ定常運転中であったところ,取水トンネルを通って海水がポンプハウス内に入り込み,水が復水器冷却ポンプの途中までに上昇したため,当該ポンプが停止した。 コントロール室で海水の異常を知らせる警報が鳴り,担当者が手動でタービンを停止し,その結果原子炉も停止した。停止したポンプは,復水器冷却ポンプの全て,1台を除くプロセス海水ポンプの全て,非常用プロセス海水ポンプの全てであった。1台のプロセス海水ポンプは運転可能であってプロセス水熱交換機の冷却水を供給したこと,外部電源は利用可能であ ったこと,敷地は ロセス海水ポンプの全て,非常用プロセス海水ポンプの全てであった。1台のプロセス海水ポンプは運転可能であってプロセス水熱交換機の冷却水を供給したこと,外部電源は利用可能であ ったこと,敷地は海面から約6m,コントロール室等の主要部分はそれよ り約20m高いところにあったこと等から,それ以上の被害はなかった。 (エ) 米国キウォーニー原発における対策米国のNRC(原子力規制委員会)は,平成17年11月7日,キウォーニー原発について「タービン建屋で低耐震クラスの循環水系配管が破断した場合を想定すると水位の上昇したタービン建屋から,非水密扉や逆止 弁がついていない床ドレン配管を通って水が逆流し,工学的安全設備が配置された室内に水が流入し,補助給水系,非常用D/G等が浸水して安全停止機能が失われる可能性がある」ことがわかったとして,その旨事業者に通知した。そして,原子力規制委員会は,上記の対策として,仮設ポンプ設置,土嚢設置,人員増員等を行い,プラント機器設計を検討した。 イ安全情報検討会(ア) 安全情報検討会の設置平成14年に発生した被告東電による自主点検記録改ざんという不正問題を契機にして,保安院は,平成14年6月に総合資源エネルギー調査会・原子力安全・保安部会報告「原子力施設の検査制度の見直しの方向性 について」を公表し,原子力安全のための検査制度の見直しの方向性を示した。 不正問題の本質が事故隠しにあったことから,炉規法等に基づく原子炉の安全規制の趣旨,目的を適時にかつ適切に遂行するための当然の前提として被告国に課せられた情報収集・調査義務を果たすために,「国内外の 事故・トラブルや安全規制に係る情報(規制関係情報)を収集し,評価・検討を行い,これを踏まえて事業者に対して必要な措 前提として被告国に課せられた情報収集・調査義務を果たすために,「国内外の 事故・トラブルや安全規制に係る情報(規制関係情報)を収集し,評価・検討を行い,これを踏まえて事業者に対して必要な措置を求めるとともに,検査方法,基準の見直しなど安全規制に反映させることは,安全規制当局が行うべき重要な活動である」ことが改めて確認された(「規制当局における安全情報(規制関係情報)の収集及び活用について」平成19年6月)。 そして,「国は,法令上の報告対象となるトラブルのみならず,事業者か ら提供される軽微な事象に係る情報についても,これを適切に分析し,より大きなトラブルの防止に活用するなど,規制行政に反映していくべきである」旨が指摘された。 保安院とJNES(独立行政法人原子力安全基盤機構)は,こうした提言を踏まえ,平成15年以降,両者が連携して,国内外の規制関係情報を 収集するとともに,これらの情報を評価し,必要な安全規制上の対応を行うために「安全情報検討会」を設置し,定期的に開催することとした。 安全情報検討会のメンバーは,保安院側が,実用発電用原子炉担当審議官,原子力安全基盤担当審議官,主席統括安全審査官,及び原子力関係課室長であり,JNES側が,技術顧問,企画部長,安全情報部長,規格基 準部長,解析評価部長,関係グループ長他とされている。また,開催頻度は,月に2回程度とされている。 (イ) 安全情報検討会における具体的な検討内容上記のルブレイエ原子力発電所における溢水事故,キウォーニー原子力発電所にかかる通知及びマドラス原子力発電所事故については,安全情報 検討会で検討がなされ,敷地高を超える津波が発生した場合の対策として防波堤,防護壁の設置,海水ポンプの機能確保が検討されたり,スマトラ島 通知及びマドラス原子力発電所事故については,安全情報 検討会で検討がなされ,敷地高を超える津波が発生した場合の対策として防波堤,防護壁の設置,海水ポンプの機能確保が検討されたり,スマトラ島沖地震に伴う事故情報については,我が国の全プラントで対策状況を確認し,必要ならば対策を立てるように指示するものとされ,「そうでないと『不作為』を問われる可能性がある。」との記載もなされていた。【甲C 98・安全情報検討会「進捗情報管理表No8」】また,平成16年12月26日のスマトラ沖地震に伴う地震の発生を受け,平成17年6月8日に開催された第33回安全情報検討会において,外部溢水問題に関する検討が開始され,同月16日に開催された第40回安全情報検討会において内部溢水に関する情報の検討の必要性が認識さ れたことも指摘できる。 ウ溢水勉強会(ア) 開催の提案米国キウォーニー原子力発電所の情報がもたらされた直後に,平成17年12月14日,保安院の審査課,JNES(原子力安全基盤機構)によって打ち合わせが持たれ,保安院とJNESより「津波によって施設内の ポンプ等が浸水した場合にどういう事態になるのか,何か対策しておくべきなのかに関する説明ができないことに対して,NISA(保安院)上層部は不安感があり,審査課に説明を求めてくる可能性がある。そこで,設計波高を越えた場合に施設がどうなるのかを早急に検討したいと考えている」と説明があり,施設の脆弱性を把握することを目的に「保安院審査 課・JNES・電力会社で集まり,定期的な状況報告会を開いてはどうか」と提案された。 【甲C94・津波評価技術に関する打ち合わせ議事メモ②】(イ) 第3回溢水勉強会の開催同年5月11日に開催された第3回溢水勉強会に 集まり,定期的な状況報告会を開いてはどうか」と提案された。 【甲C94・津波評価技術に関する打ち合わせ議事メモ②】(イ) 第3回溢水勉強会の開催同年5月11日に開催された第3回溢水勉強会においては,福島第一原発5号機を対象として,敷地高さを1m超過する津波が長時間継続するこ とを前提として,敷地高さを超える津波によって,原子炉施設にどのような影響が生じ得るかを検討して,その結果を報告している。この報告の中で,被告東電は,タービン建屋への浸水の経路と浸水の影響を具体的に予見している。浸水の影響についても,「浸水による電源の喪失に伴い,原子炉の安全停止に関わる原動機,弁等の動的機能を喪失する。」とされてお り,具体的には,非常用D/Gが機能喪失することが明示されており,またそれにとどまらず,限定された時間ではあるものの電源を用いることなく炉心冷却を行い得るとされているRCIC(原子炉隔離時冷却系)も機能喪失することが確認されている。【甲C23】(ウ) 小括 以上のとおり,被告国(保安院)は,ルブレイエ原子力発電所での事故 やマドラス原子力発電所での溢水事故等を受けて,平成17年の時点では津波予測の不確定さ,困難さを前提に,プラントの脆弱性について現状の把握と対策が急務と考えて溢水勉強会を立ち上げ,そして,溢水勉強会の検討の結果,平成18年5月には福島第一原発において,敷地高を越える津波が継続すれば,地下にある非常用電源設備は被水し,全電源喪失に至 る可能性があること,したがって,津波対策を講じる必要性のあることを認識したのである。 エ明治三陸沖地震についてのさらなる知見の進展平成15年,阿部勝征氏「津波地震とは何か―総論―」【甲C13,「月刊地球」2003年5月号337~342頁】 性のあることを認識したのである。 エ明治三陸沖地震についてのさらなる知見の進展平成15年,阿部勝征氏「津波地震とは何か―総論―」【甲C13,「月刊地球」2003年5月号337~342頁】において,1896年の明治三 陸地震は,ハワイやカリフォルニアの検潮所の津波高さからはMt8.6,三陸における遡上高の区間平均最大値からはMt9.0と推定されることが示された。 これは,長期評価策定時の想定(Mt8.2)を大幅に上回る数値であった。 通産省顧問,4省庁報告書調査委員会委員,土木学会津波評価部会委員,地震本部地震調査委員会委員長代理等を歴任した,地震学の権威である阿部氏が,長期評価を踏まえた専門誌の特集号でMt8.6あるいはMt9.0との見解を示したことの意味は大きい。 被告東電は,原子力発電所を管理する電気事業者として,徹底して安全側 に立ち,この数値をもとに1896年の明治三陸地震の断層パラメータを設定し,日本海溝沿いに移動させて試算を実施すべきであった。そうすれば,福島第一原発の建屋等の所在する敷地高さ10mをはるかに超える試算結果を得ていたはずである。 オ福島沖の日本海溝でも津波地震が起きるとのアンケート回答 平成16年に,土木学会津波評価部会は,日本海溝で起きる地震に詳しい 地震学者5人にアンケートを送り,地震本部の長期評価について意見を聞いた。その結果,「津波地震は(福島沖を含む)どこでも起きる」とする方が,「福島沖は起きない」とする判断より有力だった。【甲B1・87~88頁,甲C7・78頁】津波評価部会に委員を擁する被告東電は,当然,2004(平成16)年当時に上記結果を認識していた。 カマイアミ論文における知見被告東電は,平成18年7月,米国フロリダ州マ 甲C7・78頁】津波評価部会に委員を擁する被告東電は,当然,2004(平成16)年当時に上記結果を認識していた。 カマイアミ論文における知見被告東電は,平成18年7月,米国フロリダ州マイアミで開催された第14回原子力工学国際会議(ICONE-14)において,「DevelopmentofaProbabilisticTsunamiHazardAnalysisinJapan」(「日本における確率論的津波ハザード解析法の開発」)を発表した(マイアミ論文)。【甲C21の1 (原文),甲C21の2(和訳文)】(ア) マイアミ論文の概要被告東電は,同論文の冒頭において「津波評価では,耐震設計と同様に,設計基準を超える現象を評価することが有意義である。なぜなら,設計基準の津波高さを設定したとしても,津波という現象に関しては不確かさが あるため,依然として,津波高さが,設定した設計津波高さを超過する可能性があるからである」と繰り返し述べている。【甲C21の2・1頁】(イ) マイアミ論文におけるMw(モーメントマグニチュード)の仮定マイアミ論文において,被告東電は,確率論的な津波リスク評価の手法【甲C21の2・1~2頁】に基づき,対象地点として福島県の沿岸を選 定し,波源域を設定している。ここで被告東電は,JTT系列(三陸沖北部から房総沖の海溝寄りのプレート間大地震)について,「JTT系列はいずれも似通った沈み込み状態に沿って位置しているため,日本海溝沿いのすべてのJTT系列において津波地震が発生すると仮定してもよいのかもしれない」と述べている。【甲C21の2・3頁】そして,既往津波が 確認されていないJTT2の領域【甲C21の2・4頁図2,表1】につ いても,既往地震であるJTT してもよいのかもしれない」と述べている。【甲C21の2・3頁】そして,既往津波が 確認されていないJTT2の領域【甲C21の2・4頁図2,表1】につ いても,既往地震であるJTT1(1896年の明治三陸沖津波)と同じMw(モーメントマグニチュード)を仮定している。 (ウ) 最大Mw(モーメントマグニチュード)8.5を想定していることマイアミ論文は,JTT1における既往津波の最大のMw(モーメントマグニチュード)は1896年の明治三陸津波の8.3としつつ,「しか し,既往最大MwがJTT1における潜在的最大Mwではない可能性がある。その可能性を取り入れるため,…(中略)…,本稿では,潜在的最大マグニチュードはMw=8.5と仮定する」と述べている【甲C21の2・3頁末尾~4頁冒頭】。そして,JTT1より南方のJTT2についても,「JTT1と同じMwと仮定される」【甲C21の2・4頁表1】と述べ, 最大Mw8.5を想定している。 (エ) 今後50年以内に起こり得る事象の分析以上のような想定に立って,マイアミ論文は約1075通りの津波波源につき数値解析を行い,今後50年以内に起こり得る事象を分析し,グラフを示している。 これによれば,今後50年以内に,9m以上の高い波がおよそ1パーセントかそれ以下の確率で押し寄せる可能性があり,13m以上の津波が0. 1%かそれ以下の確率で生じ得る。高さ15mを超す大津波が発生する可能性も示唆されている。【甲C22・「特別リポート:地に落ちた安全神話-福島原発危機はなぜ起きたか」】 キ予見可能性に関する予備的主張まとめ(ア) 平成18年頃に予見可能性があったこと被告国は,国内及び海外で実際に溢水事故が発生し,アメリカでは溢水事故の対策を実施し始め きたか」】 キ予見可能性に関する予備的主張まとめ(ア) 平成18年頃に予見可能性があったこと被告国は,国内及び海外で実際に溢水事故が発生し,アメリカでは溢水事故の対策を実施し始めたことから,一度溢水事故が発生した時の電源設備の脆弱性を目の当たりにするとともに,想定を超える事象も一定の確率 で発生するとの問題意識を持ち,強い危機感をもって平成18年1月には, 溢水勉強会を設置し,同年5月の勉強会では,敷地高を1mでも超える津波が発生すれば,全電源喪失に至る危険性があることを認識した。 また,平成14年の長期評価の発表後,明治三陸沖地震についてさらなる知見が進展したほか,被告東電においても,土木学会のアンケートを通じ,また,被告東電自身が発表したマイアミ論文の検討結果から,明治三 陸地震の断層モデル(波源モデル)を福島県沖日本海溝沿いに置いた試算を実施した結果,敷地高を超える程度の津波が発生する危険性を認識していた。 したがって,どんなに遅くとも,被告国は,平成18年の時点において,長期評価を踏まえた試算に基づき,被告東電に対して対策を講じさせるべ く,技術基準適合命令を発する義務があったというべきである。 (イ) 平成21年9月~平成22年3月に予見可能性があったこと被告国(保安院)は,平成21年9月7日ころ,被告東電から,佐竹健治・行谷佑一・山木滋「石巻・仙台平野における869年貞観津波の数値シミュレーション」(平成20年)(以下「貞観津波に関する佐竹論文」と いう。)に基づいて試算した波高の数値の説明を受けて,津波が福島第一原発の敷地高を超えて到来する可能性があることを認識した。被告国は,すでに平成14年において,明治三陸地震級の津波地震が福島県沖で発生する可能性があることを 波高の数値の説明を受けて,津波が福島第一原発の敷地高を超えて到来する可能性があることを認識した。被告国は,すでに平成14年において,明治三陸地震級の津波地震が福島県沖で発生する可能性があることを認識した(これに基づいて自ら試算をし,又は被告東電をして試算をさせていれば敷地高を超える津波の到来を予見する ことができた)のであるが,その上さらに,既往地震である貞観地震と同規模の地震が発生すれば,敷地高を超える津波が到来する危険性があることを予見したのである。そして,さらにその半年後の平成22年3月には貞観津波と同規模の地震が発生すれば福島第一原発に敷地高を超える津波が到来する可能性があることについて,担当者間で連絡し合うほどに明 確に認識していた。 このように,被告国は,平成21年9月,あるいは,平成22年3月には,福島第一原発に敷地高を超える津波が到来する可能性があることを現に「予見した」といっても過言ではないのであるから,被告東電に対して対策を講じさせるべく,技術基準適合命令を発する義務のあることは明らかである。 ⑶ 津波評価技術の問題性について社団法人土木学会が平成14年2月に公表した「原子力発電所の津波評価技術」(津波評価技術)は,将来の津波を想定するに当たり,おおむね400年間(地球規模からすればあまりに短い期間)の歴史資料に現れる過去の津波のうち信頼できると判断したものを前提に検討しており,400年間のうちに現れ た既往津波から想定できる津波以上の津波が発生することを想定していない。 また,これに加えて,想定される津波の高さに掛けて安全性を高めるべき安全率の考え方を放棄し,想定した津波の高さに全く余裕をもたせない危険なものであった。 そして,そもそも津波評価技術は民間基準であること これに加えて,想定される津波の高さに掛けて安全性を高めるべき安全率の考え方を放棄し,想定した津波の高さに全く余裕をもたせない危険なものであった。 そして,そもそも津波評価技術は民間基準であること,津波評価技術を策定 した土木学会原子力委員会津波評価部会のメンバーは電力業界の人間に偏っていたこと,本件事故が発生するまで議事録が公表されていなかったこと等から,被告国が規制の基準として用いることができる性質のものではなかったのである。 したがって,津波評価技術に従って津波の水位を想定することに何ら合理性 はない。 ア津波評価技術は4省庁報告書・長期評価と比較して断層モデルの設定範囲が狭いこと将来の津波水位の推計の前提となる「断層モデルの設定」の作業においては,既往の「対象津波の選定」及びその津波に基づく「再現性の確認」が必 要となるが,津波評価技術は,この「対象津波の選定」に関して,「文献調査 等に基づき,評価地点に最も大きな影響を及ぼしたと考えられる既往津波を評価対象として選定する」とする。そして,その「解説」において,「評価地点に大きな影響を及ぼしたと考えられる既往津波のうち,おおむね信頼性があると判断される痕跡高記録が残されている津波を評価対象として選定する。」としており,文献記録に残っていない地震・津波についての考慮は示さ れていない。【丙C5の2・1-23頁】そのため,過去に大規模な津波が発生した記録がないとして,福島県沖の日本海溝沿いに津波波源を想定することはなかったのである【丙C5の2・1-59頁,「津波の痕跡高を説明できる断層モデルの既往最大Mw」】(福島県沖の日本海溝沿いだけが除外されている。)。 プレートテクトニクス理論に基づけば,東北地方の太平洋沖約200㎞を南北 59頁,「津波の痕跡高を説明できる断層モデルの既往最大Mw」】(福島県沖の日本海溝沿いだけが除外されている。)。 プレートテクトニクス理論に基づけば,東北地方の太平洋沖約200㎞を南北に貫く長さ約800㎞の日本海溝において,海溝の北部と南部だけで津波地震が発生し,中部だけは起こらないなどという理論はあり得ない。福島県沖の日本海溝沿いが除外されたことは意図的というほかないものである。 また,本体作業である「想定津波による設計津波水位の検討」の出発点を なす「想定津波の設定」についても,「将来発生することを否定できない地震に伴う津波を評価対象」として想定津波とするが,その際には,「太平洋沿岸のようなプレート境界型の地震が歴史上繰り返して発生している沿岸地域については,各領域で想定される最大級の地震津波をすでに経験しているとも考えられる」という基本認識に基づいて,これに一定の裕度を付加するの みにとどめている。【同,1-31頁】同様の観点から,想定する最大のMw(モーメントマグニチュード)も,「各海域における既往最大の地震規模」とするとされている。【同・1-10頁(3)】さらに,「想定津波」の設定が適正になされているかについての確認に際 しても,歴史記録に残っている既往津波に依存している。すなわち,津波評 価技術自身が述べるように,「設計想定津波が十分なものであることを確認する方法として,設計想定津波の計算結果が既往津波の計算結果または痕跡高を上回ることを確認するという方法をとっている。」【同・1-9頁】のであり,想定津波の設定自体が,歴史記録に残っている既往津波に依存する関係にある。 このように津波評価技術においては,将来発生し得る津波水位の推計の出発点ともいうべき想定津波の設定にお 】のであり,想定津波の設定自体が,歴史記録に残っている既往津波に依存する関係にある。 このように津波評価技術においては,将来発生し得る津波水位の推計の出発点ともいうべき想定津波の設定において,歴史記録に残っている「既往最大」という考え方が全ての基本となっている。 しかし,このような,わずか400年程度の歴史記録に残る「既往最大の地震・津波」のみを検証対象としたにすぎない津波評価技術の手法は,「深刻 な災害が万が一にも起こらないようにする」という原子力発電所に求められる安全性の水準に照らすと,不十分なものであるといわざるを得ない。 イ 「安全率」の考え方を放棄し,補正係数を1.0としたこと津波評価の基準を作成する際においては,様々な不確定性(波源の不確定性,数値解析上の誤差,海底地形の違いによる誤差等)についてどのように 基準に反映させるかが常に重要な課題となる。 土木学会津波評価部会の幹事会(被告東電はその中心である)は,部会での議論の進行の当初においては,①波源の不確定性については多数のパラメータスタディを行うことにより対処し,②数値解析上の誤差や海底地形の違いによる誤差については,一定の「安全率」を掛けることにより,いわば2 段構えで安全側に立った基準を作成するという方針であった。【甲C5・通し頁の38頁】ところが,第6回部会では「安全率」という用語は消え去り,代わりに幹事団から,各海域での痕跡高との比較に基づき決定する「想定津波補正係数」という用語が持ち出され【甲C28・3頁】,かつ想定津波補正係数を1.0 としたいという提案がなされた。【甲C28・6頁】 これは,想定津波について「安全率」を掛けるという前回までの幹事団の方針を完全に放棄するものであった。また,「想定津波補 1.0 としたいという提案がなされた。【甲C28・6頁】 これは,想定津波について「安全率」を掛けるという前回までの幹事団の方針を完全に放棄するものであった。また,「想定津波補正係数1.0」ということは,要するに想定津波の高さが既往津波の痕跡高と同じであれば良い,ということを意味する。【甲C28・3頁】これは,「将来起こり得る地震や津波を過去の例に縛られることなく想定」し,かつ「想定を上回る津波が発 生する可能性があることは否定でき」ないとする4省庁報告書,7省庁手引きの基本的考え方に明らかに反するものであった。 第6回部会では,この提案に対して「想定を上回る津波の可能性を考慮する必要はないのか」という至極当然の質問があった。これに対して被告東電ら幹事団は,「原子力施設の安全性評価の視点からは,想定を上回る津波が 来襲する場合の対処法も考えておく必要があると思うが,本部会では,補正係数を1.0としても工学的に起こり得る最大値として妥当かどうかを議論して頂きたいと考えている」と回答している。【甲C28・6頁】この発言は,原子力施設の安全性評価の視点から想定を上回る津波の来襲時の対処法を検討することが必要だと認識しながら,津波評価部会では検討 しない,同部会では工学的に起こり得るかどうかを議論するという,被告東電ら幹事団の姿勢をあらわすものである。 このような幹事団の「提案」に対して,4省庁報告書作成を指導・助言した首藤氏は毅然とした批判を加えるべきであったが,「補正係数の値としては議論もあるかとは思うが,現段階では,とりあえず1.0としておき,将 来的に見直す余地を残しておきたい」と述べるにとどまった。【甲C28・6頁】また,部会委員を務めていた東北大学の今村文彦教授によれば,「安全率 ,現段階では,とりあえず1.0としておき,将 来的に見直す余地を残しておきたい」と述べるにとどまった。【甲C28・6頁】また,部会委員を務めていた東北大学の今村文彦教授によれば,「安全率は危機管理上重要で1以上が必要との意識はあったが,一連の検討の最後の時点での課題だったので,深くは議論せずそれぞれ持ち帰った」とのことで ある。【甲B2の1・政府事故調中間報告381頁】 このような地震学の専門家らの姿勢にも助けられ,続く第7回部会において,議論が混乱を極めたにもかかわらず【甲C29・4頁以降の「付録」】,想定津波補正係数1.0との提案が了承された。1.0をかけても,数値は変わらない。これは,「結果的にはパラスタのみ実施し,補正係数を持ち込まないことと等価」であった。【甲C29・2頁】 こうして,被告東電ら津波評価部会幹事団は,「津波評価法の基本的考え方」と自ら位置付け,首藤主査・阿部委員らにも説明してきたはずの「安全率」を掛ける評価方法を,「原子力施設の安全性評価の視点」もろとも,審議の途中で放棄するに至った。想定される津波について,全く裕度を定めなかったのである。 このように,「安全率」の考え方を放棄した上で提案・了承された「想定津波補正係数」であるが,完成された津波評価技術には,本文【丙C5の2】・付属編【丙C5の3】とも,文中に一度たりとも登場しない。 ウ津波評価技術は民間基準であり,規制に用いるための要件を充たしていないこと そもそも津波評価技術をはじめ土木学会がいかなる基準を作成しようとも,それは民間で策定された技術基準にすぎない。 策定に必要な研究費全額(1億8378万円),審議のため土木学会に委託した費用の全額(1350万円)は,電力会社が負担しており,公正性に 作成しようとも,それは民間で策定された技術基準にすぎない。 策定に必要な研究費全額(1億8378万円),審議のため土木学会に委託した費用の全額(1350万円)は,電力会社が負担しており,公正性に疑問がある。津波評価技術策定時における津波評価部会のメンバー構成につ いても,委員・幹事等30人のうち13人は電力会社,3人が研究費の9割を電力会社からの給付金でまかなう電力中央研究所,1人が被告東電子会社の所属であり,電力業界が過半数を占めていた。また,総額約2億円の研究費の全額は電力会社が負担していた。議事の公開については,本件事故の8か月後の2011(平成23)年11月に,発言者や提出資料の内容が不明 の極めて不十分な議事要旨がようやく公開されたのであり,本件事故が起き なければ,全く公開されなかったであろうと推測される。 エ結論以上のとおり,津波評価技術は,被告国が作成した4省庁報告書や長期評価と異なり,過去400年間の既往津波に依拠し,福島県沖の日本海溝沿いを波源から除外した上,誤差(ばらつき)についても,裕度をもたせないな ど,その内容自体に問題がある上,そもそも,民間基準であり,策定メンバーの不公正さ等からしても,これを,被告らが依拠すべき正当な基準(知見)になり得ないことは明らかである。 ⑷ 中央防災会議報告についてア中央防災会議が長期評価を採用しなかったこと自体が問題であること 内閣府の中央防災会議(災害対策基本法11条1項)も,長期評価を策定した文部科学省地震本部も,共に被告国の内部機関である。そうすると,本来なら行政機関どうしの連携があってしかるべきであるが,中央防災会議は,長期評価の考えを採用しなかった。しかし,被告国は,長期評価の内容を認識していたのであるから,中央防 機関である。そうすると,本来なら行政機関どうしの連携があってしかるべきであるが,中央防災会議は,長期評価の考えを採用しなかった。しかし,被告国は,長期評価の内容を認識していたのであるから,中央防災会議が長期評価の考えを採用しなかった ことを理由として,被告国の予見可能性を否定することはできない。本件では,中央防災会議が,何ら合理的理由なく,長期評価の考えを排斥したこと自体が問題だったのである。 イ中央防災会議においても反対の意見が多数出ていたこと中央防災会議では,福島県沖の津波地震を防災の検討対象としないという 方針について,地震学者の多くが反対していた。【甲C7・65頁,甲B2の2・306頁】ウ中央防災会議の最終的な報告内容中央防災会議における審議にて,多数の反対意見が出ていたにもかかわらず,事務局が当初提案したとおりの,長期評価で示された見解(津波地震が 日本海溝付近のどこでも起こり得るという見解)をとらないという方針【甲 C32・11頁,19頁参照】に基づき,次のとおり中央防災会議において最終的にまとめられたのである。 「防災対策の検討対象とする地震としては,過去に大きな地震(M7程度以上)の発生が確認されているものを対象として考える。このことから,三陸沖中部の領域は除外される。大きな地震が繰り返し発生しているものにつ いては,近い将来発生する可能性が高いと考え,防災対策の検討対象とする。 ただし,震度分布が周辺の他の領域で発生する地震に包含されるものは除外する。このことから,択捉島沖の地震,色丹島沖の地震,根室沖・釧路沖の地震,十勝沖・釧路沖の地震,500 年間隔地震,三陸沖北部の地震,明治三陸タイプ地震,宮城県沖の地震,が検討対象となる。なお,浦河沖の地震は, 十勝沖の 震,色丹島沖の地震,根室沖・釧路沖の地震,十勝沖・釧路沖の地震,500 年間隔地震,三陸沖北部の地震,明治三陸タイプ地震,宮城県沖の地震,が検討対象となる。なお,浦河沖の地震は, 十勝沖の領域の地震によりその震度が包含されることから,検討対象から除外する。大きな地震が発生しているが繰り返しが確認されていないものについては,発生間隔が長いものと考え,近い将来に発生する可能性が低いものとして,防災対策の検討対象から除外することとする。このことから,海洋プレート内地震,及び福島県沖・茨城県沖のプレート間地震は除外される。 ただし,延宝房総沖地震は,プレート間地震と考えられるが,それ以前の同じタイプの地震の発生は,現時点において確認されていない。このことから,現時点では繰り返し発生が確認されていない地震として区分する。」【丙C11・13頁~14頁】この決定は,東北地方を前提とすれば,記録に残っている約400年間と いう,地球の歴史からすると非常に僅かな期間において繰り返しが確認できた大きな地震・津波のみを検討対象とするものである。そして,約400年間で繰り返しが確認できない地震・津波について,一律に防災対策の検討対象から除外することを意味するものであり,合理的な判断とは到底いえないものであった。 エ小括 中央防災会議は,地震・津波に関する報告をまとめるに当たり,多数の者の利害や財政上の問題等を多分に考慮するあまり,純粋な地震・津波の学術的な知見の検討を受け入れる素地がなかった。多数の反対意見が出ていたにもかかわらず,長期評価において検討対象としていた地震を検討対象から外した過程には,そのような姿勢がうかがえるところであって,中央防災会議 は,福島第一原発事故という重大事故が発生した後にな にもかかわらず,長期評価において検討対象としていた地震を検討対象から外した過程には,そのような姿勢がうかがえるところであって,中央防災会議 は,福島第一原発事故という重大事故が発生した後になって初めてその軽率さを反省するに至ったのである。このようにみると,中央防災会議による報告において長期評価が採用されなかったこと自体が問題なのであって,中央防災会議が長期評価の考え方を採用しなかったために被告国に予見可能性がなかった旨の主張は,正鵠を射ないものである。 2 被告国の主張⑴ 規制権限を行使すべき作為義務を生じさせるために必要な予見可能性を裏付ける科学的根拠の程度についてア通説的な見解といえる程度に形成,確立した科学的根拠の必要性規制権限の行使は,被規制者に対して,権利・利益の制限や義務・負担を 発生させるだけでなく,場合によっては刑事罰等による制裁を課すことになることになるものであるから,その規制権限の行使が認められるのは,規制権限の行使を正当化できるだけの客観的かつ合理的な根拠がある場合に限られるというべきである。そのため,被害が発生していない時点における行政庁の規制権限の行使が裁量の範囲内にあるというためには,少なくとも, 規制権限の不行使の違法性が問われている時点において,予見すべき被害の内容が規制権限の行使を正当化できるだけの客観的かつ合理的な根拠(その根拠が科学的知見である場合には,当該規制に関わる専門的研究者の間で正当な見解であると是認され,通説的見解といえる程度に確立した科学的知見)によって裏付けられている必要があるというべきである(そのため,行政 庁がそのような根拠なくして規制権限を行使した場合には,その規制権限の 行使は違法となると考えられる。)。 そして,この 裏付けられている必要があるというべきである(そのため,行政 庁がそのような根拠なくして規制権限を行使した場合には,その規制権限の 行使は違法となると考えられる。)。 そして,この考え方の正当性については,原子力工学の観点だけでなく,津波工学の観点からも裏付けられている。【丙C127・2ないし8頁(津波工学の第1人者であり,東北大学災害科学国際研究所所長である今村教授の意見書)】 この点,原告らは,規制権限の行使を義務づけるために必要とされる科学的知見の程度について,「規制権限が付された趣旨,目的や,規制権限の性質等に照らし,規制権限の行使を義務付ける程度に客観的かつ合理的根拠を有する科学的知見であれば足りる」と主張する。しかしながら,原告の主張では,「規制権限の行使を義務付ける程度に客観的かつ合理的根拠を有する科 学的知見」がいかなる程度の知見なのかが不明であるため,規制権限の行使を義務づけるために必要とされる科学的知見の程度を示す基準としては用をなさない。そのため,規制権限の行使を義務づけるために必要とされる科学的知見の程度については,原告の主張する基準とは別の基準が立てられる必要がある。 イ従来の最高裁判所の立場規制権限不行使の違法が問われた最高裁判例も,規制権限を行使すべき作為義務が生じる予見可能性が認められるというためには,通説的な見解といえる程度に形成,確立した科学的根拠に基づいて,具体的な法益侵害の危険性が予見できることが必要であると理解しているものと考えられる。 そして,この最高裁判例の考え方は,以下のとおり,原子力発電所の安全規制においても妥当すると考えることができる。 すなわち,最高裁平成4年10月29日第一小法廷判決・民集46巻7号1174頁(伊方原発設置許 の最高裁判例の考え方は,以下のとおり,原子力発電所の安全規制においても妥当すると考えることができる。 すなわち,最高裁平成4年10月29日第一小法廷判決・民集46巻7号1174頁(伊方原発設置許可処分取消訴訟判決。以下「最高裁平成4年判決」という。)は,原子炉設置許可処分の違法性については,「現在の科学技 術水準に照らし」て安全審査・判断の過程に看過し難い過誤,欠落があると 認められるかどうかという観点から判断すべきであるとしているところ,同判決の判例解説(高橋利文・最高裁判所判例解説民事篇(平成4年度)399頁)は,「従来の科学的知識の誤りが指摘され,従来の科学的知識に誤りのあることが現在の学界における通説的見解となったような場合には,現在の通説的見解(中略)により判断すべきであろう」(同423頁),「現在の通説 的な科学的知識によれば,右事故防止対策は不十分であり,その基本設計どおりの原子炉を設置し,将来,これを稼働させた場合には,重大な事故が起こる可能性が高いと認定判断されるときには,当該原子炉の安全性を肯定した設置許可処分は違法であるとして,これを取り消すべきであろう。」(同424頁)と述べており,原子炉設置許可処分の取消事由となる違法性の有無 を判断するために用いられる科学的知見は「通説的見解」によるべきとしている。 実用発電用原子炉設置に関する炉規法及び電気事業法による安全規制では,段階的規制がとられており,設置許可処分段階では基本設計ないし基本的設計方針が審査されるところ,原子炉を設計する際に想定する津波(設計 基準津波)は,基本設計ないし基本的設計方針の一部として,設置許可処分段階で審査されることになる。そうすると,最高裁平成4年判決は,この設置許可処分の段階の安全審査,すなわち, る津波(設計 基準津波)は,基本設計ないし基本的設計方針の一部として,設置許可処分段階で審査されることになる。そうすると,最高裁平成4年判決は,この設置許可処分の段階の安全審査,すなわち,原子炉を設計する際に想定する津波の内容を含めた基本設計ないし基本的設計方針の妥当性の審査においては,「通説的見解」に基づいて審査されれば良いと判断していることになる から,被告国は,原子力発電所に到来するおそれがある津波を想定するに当たっては,「通説的見解」に基づいて想定をすれば足りるはずである。 そして,「通説的見解」に基づいて安全性を判断するという基準については,設置許可処分の段階とそれ以降とで格別違いを設けるべき合理的な理由はない。そもそも,段階的安全審査の仕組み自体が,詳細設計が,基本的設 計ないし基本的設計方針の枠内にあって連続性が担保されたものとなるこ とを予定しているし,定期検査等において異なる基準を容認することになれば,基本設計等における安全性に裏打ちされた連続性ある安全性とならない懸念すら生じかねない。したがって,被告国が設置許可処分後に科学的知見が進展したことを理由として規制権限の行使を検討する際には,その時点における「通説的見解」に基づいて規制権限の行使の適否を判断すれば足りる ことになる。 したがって,最高裁平成4年判決からすれば,被告国が原子力規制との関係で予見する必要がある津波は,「通説的見解」によって予見できる津波であり,「通説的見解」に至っていない見解によらなければ予見できない津波は,予見の対象とすべき津波ではないというべきである。そのため,仮に, 本件事故以前において,「通説的見解」に至っていない見解が,福島第一原発に敷地高を超える津波が到来する可能性があることを示唆してい の対象とすべき津波ではないというべきである。そのため,仮に, 本件事故以前において,「通説的見解」に至っていない見解が,福島第一原発に敷地高を超える津波が到来する可能性があることを示唆していたとしても,それによって,福島第一原発に敷地高を超える津波が到来することの予見可能性があったことにはならないし,それに依拠すべきという結論はあり得ないというべきである。 ウ被害がいまだ発生していない場合についての考え方規制権限不行使の違法が問われたこれまでの最高裁判決は,いずれも,既に重大な被害が現実に多数発生していた中での規制権限不行使の違法性が問われた事案であり,その被害の拡大を防止するために一刻も早く規制権限を行使する必要があった事案であることから,作為義務を導く予見可能性を 裏付ける科学的知見の確立の程度については,一定程度緩めるという考え方も成り立ち得る状況にあったにもかかわらず,前記のとおり,規制権限を行使すべき作為義務が生じる予見可能性が認められるというためには,通説的な見解といえる程度に形成,確立した科学的根拠に基づいて,具体的な法益侵害の危険性が予見できることが必要であると判断したと解されている。 これに対し,本件は,原子力発電所敷地にいまだ到来したことのない規模 の津波による原子力発電所事故の事案において,現実に被害が何ら発生していない時点で,過去に生じたことのない規模の津波が将来到来し被害が発生するという仮定を置き,懲役刑によって強制されるなどの重い負担を被規制者に課すことになる規制権限を行使しなかったことの違法性が問われている事案であるから,作為義務を導く予見可能性を裏付ける科学的知見の確立 の程度を緩める余地がない事案である(なお,前記のとおり,原子力発電所の安全規制と規 行使しなかったことの違法性が問われている事案であるから,作為義務を導く予見可能性を裏付ける科学的知見の確立 の程度を緩める余地がない事案である(なお,前記のとおり,原子力発電所の安全規制と規制権限の不行使の違法性が問われたこれまでの最高裁判例の事案とでは,被害の重大性に違いはないと考えられるから,本件においては,被害の重大性を根拠に,作為義務を導く予見可能性を裏付ける科学的知見の確立の程度を緩めることはできないというべきである。)。 そうすると,いまだ発生していない被害の発生防止のための規制権限の不行使が違法と評価されるためには,確立された科学的知見に基づく具体的な危険発生の可能性の予見が必要不可欠である。 エ被害発生の切迫性規制権限の不行使が国賠法上違法と評価されるということは,行政庁が, 法律上認められている,特定の規制権限を行使するか否かという点についての裁量や,規制権限を行使するとしていつ行使するかという点についての裁量を失って,責任を負うべきとされる一定の時点で,特定の内容の規制権限を行使すべき法的義務(作為義務)を負うということを意味するのであるから,実際に被害が発生していないにもかかわらず,そのような事態に陥るの は,直ちに規制権限を行使しなければ被害の発生を回避できない高度な危険性が認められ,かつ,行政庁がその危険性を認識していた又は容易に認識し得た場合に限られるというべきである。前記のとおり,本件は,被告国の規制権限不行使が問題とされてきた最高裁判例の事例のように,一定の被害が現実に生じており,これを被告国が認識している段階において,更なる類似 被害の発生や既発生の被害の拡大・増悪を防止する場面での規制権限の行使 ではなく,将来の不確実な自然災害に基づく被害の発生を予 り,これを被告国が認識している段階において,更なる類似 被害の発生や既発生の被害の拡大・増悪を防止する場面での規制権限の行使 ではなく,将来の不確実な自然災害に基づく被害の発生を予防する場面での規制権限の行使が問題とされている事案であり,当該時点で事業者に対して権限を行使して権利を制約しても,直ちに国民に対して具体的な被害の回避といった現実的な利益を提供できるわけではないことからすると,規制権限の行使に当たって,被告国がより謙抑的になるのはやむを得ないところであ り,法的義務を導く際にはかかる事情も当然に考慮されるべきである。 オまとめ以上からすると,一定の時点で規制行政庁に規制権限を行使すべき法的義務(作為義務)が発生する程度に予見可能性があるというためには,少なくとも,①実際に生じた被害と同程度の被害(ないしこれをもたらす災害)が 発生する危険性が高度にかつ切迫していること,②①が確立した科学的知見に裏付けられていること,③当該公務員が①及び②を認識していた又は容易に認識し得る状況にあったことが必要であるというべきである。 したがって,予見すべき被害の内容が,行使すべき規制権限の内容を特定できないような抽象的なものにすぎなかったり,実際の被害の内容からかけ 離れていたりする場合や,予見すべき被害が確立した科学的知見に基づかないような場合には,行政庁に規制権限を行使すべき法的義務(作為義務)が発生することは考えられないというべきである。特に,津波のような自然災害においては,抽象的な内容の被害の発生のおそれや,確立した科学的知見に基づかない被害発生のおそれによって安易に予見可能性が肯定されること になってしまうと,現在の地震学及び津波学の到達水準によっても,我が国のほとんど全ての海岸が, それや,確立した科学的知見に基づかない被害発生のおそれによって安易に予見可能性が肯定されること になってしまうと,現在の地震学及び津波学の到達水準によっても,我が国のほとんど全ての海岸が,その敷地高に関係なく,敷地高を超える津波が到来することの予見可能性があることになってしまうなど,予見可能性が法的義務(作為義務)導出のための基準として意味をなさなくなってしまうことになるから,そのような考えが採り得ないことは明らかというべきである。 ⑵ 本件津波と同程度の津波の予見可能性 本件で経済産業大臣に予見可能性があるというためには,①本件津波と同程度の津波が福島第一原発に到来する危険性が高度にかつ切迫していること,②①が確立した科学的知見に裏付けられていること,③経済産業大臣が①及び②を認識し又は容易に認識し得る状況にあったことが認められる必要があるというべきである。 本件事故前においては,地震や津波の専門家においても,福島県沖の海溝沿いで,本件のごときM9クラスの巨大地震及び巨大津波の発生・到来は想定されていなかったものである(M(マグニチュード)は,1大きくなるとエネルギーが約31.6倍になるという関係にあるから,本件地震は,長期評価の見解が予測していたM8クラスの地震よりもはるかに大きいものである。)。しか も,「2011年東北地方太平洋沖地震は,1896年明治三陸地震と同様な津波地震タイプと,869年貞観地震タイプの地震が同時に発生し,連動することによって規模が大きくなったと考えられ」ているところであるが【丙C71(佐竹意見書)・34頁】,本件事故前においては,そもそも福島県沖の海溝沿いで津波地震が発生する可能性の有無という点(上記のうち前者のタイプの 地震発生可能性)だけ見ても地震学 るが【丙C71(佐竹意見書)・34頁】,本件事故前においては,そもそも福島県沖の海溝沿いで津波地震が発生する可能性の有無という点(上記のうち前者のタイプの 地震発生可能性)だけ見ても地震学者の間で賛否が分かれていた状況にあっただけでなく,貞観地震(後者のタイプ)の地震像,つまり発生領域や規模,再来間隔についてもその知見を確立するためにはなお調査研究を継続する必要がある段階にあったのであり,いずれも知見が確立したというには到底いえない状況にあった。ましてや,それぞれ単体でも低頻度の自然事象であることが 明らかな貞観地震タイプの地震と明治三陸地震と同様の津波地震タイプの地震が従来誰も予想だにしなかった領域の連動により同時発生するなどということは,地震学界では全く想定されていなかったことである。【甲B2の2・303及び304頁参照】このことは,地震本部地震調査委員会が本件事故当日に,本件地震の評価を公表した際に「宮城県沖・その東の三陸沖南部海溝寄り から南の茨城県沖まで個別の領域については地震動や津波について評価して いたが,これら全ての領域が連動して発生する地震については想定外であった」としていることに端的に表れている。【丙C71・23頁】このように,本件事故以前においては,福島第一原発に本件津波と同規模の津波が到来する可能性があることを示唆する知見は存在しなかったのであるから,被告国が,本件事故以前に,本件津波と同規模の津波の到来を予見する ことは不可能であったといわざるを得ない。 ⑶ 敷地高を超える津波の予見可能性津波評価技術は,4省庁報告書や7省庁手引きの策定を踏まえつつ,当時の地震学・津波学及び津波工学の知識の粋を集めて策定された知見であり,正に,本件事故前の時点において,「最新の科学的, 予見可能性津波評価技術は,4省庁報告書や7省庁手引きの策定を踏まえつつ,当時の地震学・津波学及び津波工学の知識の粋を集めて策定された知見であり,正に,本件事故前の時点において,「最新の科学的,技術的知見を踏まえた合理的な 予測」によって福島第一原発における津波対策を考えるものとして,最も合理性が認められるべき科学的知見であったといえる。その後,中央防災会議報告,溢水勉強会などを経て新たな知見が獲得されたものもあるが,一部は現実的な仮定を前提としない仮想的なただの計算結果にすぎないものも存在する。そして,そこでの議論状況や検討結果は,津波評価技術による津波対策及び被告国 や被告東電の対応の正当性の裏付けともいうべき知見であったといえる。他方,津波評価技術と同じ時期に表明された長期評価の見解やその後の貞観津波に関する知見の進展については,多くの理学者及び工学者が「最新の科学的,技術的知見を踏まえた合理的な予測」によってリスクを示唆する知見ではなかった旨の評価を下しているものであって,津波評価技術に基づく安全性評価の信 頼性を覆す知見を含むものではなかった。 ア福島第一原発の設置(変更)許可処分当時の考え方について本件事故前の時点では,津波に対する事故防止対策について,基本設計ないし基本的設計方針として,敷地高さを想定される津波の高さ以上のものとして津波の侵入を防ぐことを基本とし(ドライサイト),津波に対する他の 事故防止対策も考慮して,津波による浸水等によって施設の安全機能が重大 な影響を受けるおそれがないものとすることを求めていたところ,福島第一原発1~4号機については,主要建屋の敷地高さがO.P.+10mであるのに対し,各設置(変更)許可処分当時の想定津波はチリ地震津波によるO. P.+3. ないものとすることを求めていたところ,福島第一原発1~4号機については,主要建屋の敷地高さがO.P.+10mであるのに対し,各設置(変更)許可処分当時の想定津波はチリ地震津波によるO. P.+3.1mであり,津波の性質上,波高等に不確定な要素があることを考慮しても,敷地高さと想定津波との間に十分な高低差があることをもって, 津波対策に係る基本設計ないし基本的設計方針が妥当なものであると評価されていた。 イ 4省庁報告書と7省庁手引きについて4省庁報告書及び7省庁手引きは,平成5年7月に北海道南西沖地震津波が発生し,奥尻島で被害が生じたことを契機として,関係省庁により津波対 策の再検討が行われ策定に至ったものであり,4省庁報告書は,平成9年3月に農林水産省,水産庁,運輸省,建設省によって,7省庁手引きは,前記4省庁に国土庁,気象庁及び消防庁を加えた7省庁によって策定されたものである。 このうち,4省庁報告書は,「総合的な津波防災対策計画を進めるための 手法を検討することを目的として,推進を図るため,太平洋沿岸部を対象として,過去に発生した地震・津波の規模及び被害状況を踏まえ,想定し得る最大規模の地震を検討し,それにより発生する津波について,概略的な精度であるが津波数値解析を行い津波高の傾向や海岸保全施設との関係について概略的な把握を行った」ものであり【甲C1の1「はじめに」】,7省庁手 引きは,津波災害の特殊性を十分踏まえ,地域に応じたハード対策,ソフト対策が一体となった総合的な観点から津波防災対策を検討し,その一層の充実を図るため,国土庁,気象庁,消防庁が,海岸整備を担当する農林水産省,水産庁,運輸省,建設省との連携の下に,地域防災計画における津波対策の強化を図る際の基本的な考え方,津波に対する防災計画の の充実を図るため,国土庁,気象庁,消防庁が,海岸整備を担当する農林水産省,水産庁,運輸省,建設省との連携の下に,地域防災計画における津波対策の強化を図る際の基本的な考え方,津波に対する防災計画の基本方針並びに策 定手順等についてとりまとめたものである。【乙B4】 (ア) 「4省庁報告書」によって導き出される津波本件事故を惹起するに足りる地震・津波がどのようなものであるにせよ,少なくとも,津波が主要建屋の敷地高さを超えない限り,炉心冷却機能が完全に失われることはあり得ないため,特定の知見に基づいて導き出される津波高さが福島第一原発の主要建屋の敷地高さ(O.P.+10m)を 超えるものでない限り,当該知見が本件事故の予見可能性を基礎づける知見となる余地はない。 しかるに,4省庁報告書においては,津波高に関する情報等を市町村単位で整理した結果として,福島第一原発1~4号機が所在する福島県双葉郡大熊町について想定津波が記載されているところ,これによって計算さ れる想定津波の計算値は平均6.4mと算出されているのであって,福島第一原発の主要建屋の敷地高さ(O.P.+10m)を超える津波高さは導き出されない。【甲C1の2・148頁】したがって,そもそも,4省庁報告書によって導き出される津波高さでは,津波が主要建屋の敷地高さを超え,炉心冷却機能が完全に失われる可 能性すらないのであるから,当該知見が本件事故の予見可能性を基礎づける知見となる余地はない。 また,4省庁報告書は,津波高さの点を別としても,以下に述べるとおり,「最新の科学的,技術的知見を踏まえた合理的な予測」によってリスクを示唆する知見と呼べるまでの精度を有しているものではなかった。 すなわち,4省庁報告書は,その位置づけとして, べるとおり,「最新の科学的,技術的知見を踏まえた合理的な予測」によってリスクを示唆する知見と呼べるまでの精度を有しているものではなかった。 すなわち,4省庁報告書は,その位置づけとして,津波高の傾向等について「概略的な把握」を行ったものであって,自治体等が具体的な津波対策を実施する際には,より詳細な津波数値解析を実施することを想定しており,同調査による数値解析の結果を直接津波対策の設計条件に適用するものとは位置づけられていない。【甲C1の1・16頁】具体的には,4省 庁報告書では,「津波数値解析手法としては,①対象領域が広大であるこ と②対象計算ケースが多量であること③沿岸部における津波高の傾向の概略把握が目的であることから簡易的なモデルを利用した」【甲C1の1・16頁】とされており,「従来の津波数値計算モデルの一部を簡略化した『高速演算型津波数値計算モデル』を使用する」【同・176頁】ものとされた。そのため,注意点として,「個々の地点の津波高を対象とするには精 度が十分ではない場合も含まれている。したがって,本調査での比較は,太平洋全沿岸での傾向について概略の議論をするには有効であっても,個々の地点での具体的な防災計画の実施に対しては不十分なことがあり得るので注意が必要である。個々の地点での防災計画立案に際しては,もっと詳細な数値計算を含めて十分な検討を行わなくてはならない。」【甲C 1の1・211頁】ことが挙げられている。 このように,4省庁報告書は,上記の津波高さの点をおいても,報告書自身が「最新の科学的,技術的知見を踏まえた合理的な予測」とするには精度が足りず,「合理的な予測」を行うに当たっては,4省庁報告書の考え方をベースに,精緻なモデルの設定や計算を行うべきことを求めているの 新の科学的,技術的知見を踏まえた合理的な予測」とするには精度が足りず,「合理的な予測」を行うに当たっては,4省庁報告書の考え方をベースに,精緻なモデルの設定や計算を行うべきことを求めているの である(そして,正に,その精緻なモデルの設定や計算を行っているのが後述する津波評価技術なのである。)。 (イ) 7省庁手引きによって導き出される津波7省庁手引きは,「現在の技術水準では,津波がいつどこで発生するか予測することは困難であり,また,津波が発生した場合においても,地域 の特性によって津波高さや津波到達時間,被害の形態等が異なるため,津波防災対策の検討が極めて難しいものとなっている。さらに,これまでの津波災害は,必ずしも人口稠密な大都市域で発生したものではないため,今後,臨海大都市で発生する危険性がある都市津波災害に対する対策も新たに講ずる必要がある。そのため,津波という災害の特殊性を十分踏まえ, 総合的な観点から津波防災対策を検討し,津波防災対策のより一層の充実 を図ることが必要不可欠になっている」との認識から「防災に携わる行政機関が,沿岸地域を対象として地域防災計画における津波対策の強化を図るため,津波防災対策の基本的な考え方,津波に係る防災計画の基本方針並びに策定手順等についてとりまとめた」ものであるとされている。【乙B43頁】 この7省庁手引きについては,その策定を主導した首藤名誉教授が意見書において,「既往最大の津波だけではなく,『近年の地震観測結果等により津波を伴う地震の発生の可能性が指摘されているような沿岸地域については,別途想定し得る最大規模の地震津波をも検討し』,両者の大きい方を対象とし,その上でハード面とソフト面を統合した津波防災を考える というものになりました。」【 れているような沿岸地域については,別途想定し得る最大規模の地震津波をも検討し』,両者の大きい方を対象とし,その上でハード面とソフト面を統合した津波防災を考える というものになりました。」【丙C129・12頁】と述べるとおり,既往最大津波だけでなく,理学的根拠に基づいて想定される最大規模の地震津波を考慮した対策を求める方向性を打ち出すものであったが【乙B4・14頁参照】,同意見書に,「もっとも,『地域防災計画における津波対策強化の手引き』は,予想される最大地震による津波という概念を取り入れたも のの,具体的な評価手法までを定めたものではありませんでした。」【丙C129・12頁】とあるとおり,その具体的な評価方法までは定められておらず,その結果,それ自体が特定地点において想定すべき津波高さを導き出すものではないから,本件事故の予見可能性を基礎づける知見といえるものではなかった。 そのため,4省庁報告書と同様に,「最新の科学的,技術的知見を踏まえた合理的な予測」によって津波対策を行うべき津波高さを導き出すためには,別途,7省庁手引きの考え方をベースに,理学的根拠に基づいた対象津波の設定を行う必要があった(そして,津波評価技術は,7省庁手引きの考え方をベースに策定されている。)。 (ウ) 小括 以上のとおり,4省庁報告書から導き出される津波高さは,そもそも福島第一原発の主要建屋の敷地高さを超えないものであった上,同報告書自体が,「最新の科学的,技術的知見を踏まえた合理的な予測」とするには精度が足りず,「合理的な予測」を行うに当たっては,4省庁報告書の考え方をベースに,精緻なモデルの設定や計算を行うべきことを求めているので あるから,4省庁報告書は,本件事故の予見可能性を基礎づける知見とは 「合理的な予測」を行うに当たっては,4省庁報告書の考え方をベースに,精緻なモデルの設定や計算を行うべきことを求めているので あるから,4省庁報告書は,本件事故の予見可能性を基礎づける知見とはならない。また,7省庁手引きも,具体的な津波評価方法までは定めておらず,4省庁報告書同様に,「最新の科学的,技術的知見を踏まえた合理的な予測」によって津波対策を行うべき津波高さを導き出すためには,別途,7省庁手引きの考え方をベースに,理学的根拠に基づいた対象津波の設定 を行う必要があった。したがって,これらの報告書は,やはり本件事故の予見可能性を基礎づける知見とはなり得ないというべきである。 ウ原告ら主張の長期評価の見解について(ア) 原告ら主張の長期評価の見解の内容地震本部は,平成14年に長期評価(「三陸沖から房総沖にかけての地 震活動の長期評価について」【丙C7】)を公表している。 どのような規模の地震及び津波であれば本件事故を惹起するに足りる地震・津波であるかについては,地震及び津波による被災の範囲や程度,津波の遡上経路,各種設備・機器への影響の有無や程度(地震による損傷の有無・程度,津波による浸水の有無・程度・時間等),復旧に要する作業 内容や時間等といった様々な要因によって定まるものであり,これらの要因は襲来する地震及び津波の規模(地震の大きさ,津波の水量,水流,水圧等)に大きく左右されるものと解されるところ,原告ら主張の長期評価の見解を前提に,福島県沖で明治三陸地震と同規模の津波地震が発生するものと仮定したとしても,その場合に起こり得る地震及び津波と本件地震 及び本件津波は,規模が全く違うものであり,かつ,長期評価の見解を前 提として考えられる地震及び津波によって本件事故が惹起されること ても,その場合に起こり得る地震及び津波と本件地震 及び本件津波は,規模が全く違うものであり,かつ,長期評価の見解を前 提として考えられる地震及び津波によって本件事故が惹起されることについては具体的な主張・立証がされていないことから,そもそも,長期評価の見解が,被告国の予見可能性を基礎づけるものであるとする原告らの主張は,前提を欠くものというべきある。 そして,個々の知見が「最新の科学的,技術的知見を踏まえた合理的な 予測」によってリスクを示唆する知見と評価できるかについては,地震学・津波学の理学分野における知見の成熟性の評価や津波工学に基づいた専門技術的判断が必要となってくる。 しかるところ,長期評価の中でも原告らが主張する長期評価の見解は,これと異なる理学的知見が多く示されていたほか,その策定に関与した専 門家を含む地震学・津波学及び津波工学の専門家らも,一様に長期評価の見解が理学的根拠に乏しいものであった旨の意見を述べており,これを裏付ける事実関係も多々存在することから,長期評価の見解はおよそ「最新の科学的,技術的知見を踏まえた合理的な予測」によってリスクを示唆する知見とは呼べないものであった。 (イ) 日本海溝沿いの北部と南部の地形・地質の違いの不考慮日本海溝沿いの北部と南部で地形・地質が大きく異なることは,1980年代から行われている海底探査によって判明している観測事実であり,長期評価策定当時においても,複数の論文が発表されていたことからすると,地震学者の間でも周知の事実であった。 また,日本海溝沿いの北部と南部とでは低周波地震の起こり方に違いが見られることについても,論文が発表されている。 さらに,長期評価に引用された微小地震の分布図【丙C7の図4-1・42枚目】を見ると また,日本海溝沿いの北部と南部とでは低周波地震の起こり方に違いが見られることについても,論文が発表されている。 さらに,長期評価に引用された微小地震の分布図【丙C7の図4-1・42枚目】を見ると,海溝軸付近においては,北部に当たる青森県沖(D)や岩手県沖(E)の方が,南部に当たる福島県沖(G)と比較して明らか に多くの微小地震の発生を示す点が分布しているのであって,三陸沖北部 から房総沖の日本海溝沿いの領域内では,北部と南部とで微小地震の起こり方に違いが見られる。 しかしながら,長期評価を策定するに当たって,地震本部の地震調査委員会長期評価部会海溝型分科会において,日本海溝沿いのプレート構造や地形の違いについて具体的に議論された形跡は見られない。 したがって,長期評価における領域区分は,日本海溝沿いの北部と南部の地形や地質に違いがないことを根拠にしたものではなく,陸寄りの領域及び海溝寄りの領域のいずれについても過去に発生した地震に基づいて区分されたものである。 (ウ) 防災行政的な観点からの便宜的整理 長期評価においては,1896年の明治三陸地震,1611年の慶長三陸地震,1677年の延宝房総沖地震の3つを日本海溝沿いの領域で発生した津波地震として整理したが,海溝型分科会における議論の過程では,1611年の慶長三陸地震及び1677年の延宝房総沖地震は,いずれも震源域が不明であり,1611年の地震については,北海道における17 世紀初頭の津波堆積物から千島海溝における地震の可能性が指摘されたり,1677年の地震については,海溝付近ではなくて陸寄りの地震であり,津波地震ではない可能性も指摘されていた。 このような議論の中で,1611年及び1677年の地震については発生場所が不明であるものの,こ 7年の地震については,海溝付近ではなくて陸寄りの地震であり,津波地震ではない可能性も指摘されていた。 このような議論の中で,1611年及び1677年の地震については発生場所が不明であるものの,これについて日本海溝沿いのどこかで起きた と整理しなければ,日本海溝沿いで発生した津波地震は1896年の明治三陸地震のみとなり,津波地震の発生する確率が小さくなって防災的な警告の意味をなさなくなるとの危惧感から,便宜的に上記3つの地震を日本海溝沿いのどこかで発生した津波地震であると整理された。 海溝型分科会における議論の過程において,福島県沖の日本海溝沿いで 津波地震が発生する旨積極的に主張した委員はおらず,日本海溝沿いの北 部から南部の領域のどこでも津波地震が発生するとの積極的な議論がなされたものではない。【丙C75・37ないし39頁】(エ) ポアソン過程に基づく確率計算の前提としての意味合い海溝型分科会における議論においては,防災行政的な観点から便宜的に震源域が不明な2つの地震を含めた3つの津波地震が日本海溝沿いの領 域で発生したと整理された。 そして,慶長三陸地震及び延宝房総沖地震の震源域が明らかでなかったことから,これらを固有地震として扱うことができなかったため,ポアソン過程を用いて確率計算をする必要があり,その前提として津波地震が日本海溝沿いのどこでも起こり得ると整理する必要があった。長期評価にお いて三陸沖北部から房総沖の日本海溝沿いのどこでも津波地震が起こり得ると整理したのは,上記事情によるものにすぎない。 (オ) 津波地震の発生メカニズムの未解明性津波地震とは,長期評価の定義によれば,断層が通常よりゆっくりとずれて,人が感じる揺れが小さくても,発生する津波の規模が大きくなるよ ぎない。 (オ) 津波地震の発生メカニズムの未解明性津波地震とは,長期評価の定義によれば,断層が通常よりゆっくりとずれて,人が感じる揺れが小さくても,発生する津波の規模が大きくなるよ うな地震をいう。【丙C7・3頁】津波地震の発生メカニズムに関する研究は,金森博雄が昭和47(1972)年に地震の規模の割に大きな津波を発生させた地震を「津波地震」と名付けたことから始まる。 明治三陸地震が津波地震であることは知られており,明治三陸地震の発 生直後から,その発生原因として様々な説が唱えられた【丙C101・576頁】が,十分に解明されなかった。 その後,平成4(1992)年にニカラグア,平成8(1996)年にペルーでそれぞれ津波地震が発生し,それらの津波波形や地震動に関するデータに基づく研究が進展していくに伴って,津波地震の発生メカニズム に関する研究も進展し,津波地震が海溝軸近くのプレート境界の浅い領域 で発生する低周波地震の一種であることが明らかにされた。 もっとも,これによって津波地震の発生メカニズムが解明されたわけではなかった。津波地震の発生が極めてまれであったため,海溝軸付近の浅い領域ということに加えて,津波地震を発生させる要素について多くの地震学者により様々な説が提唱され,研究が進められた。 谷岡勇市郎,佐竹健治「津波地震はどこで起こるか明治三陸津波から100年」(平成8年)【丙C101】は,明治三陸地震が発生した場所付近の海底には凸凹があり,へこんでいる部分には堆積物(付加体)が入り,凸の部分(地塁)には堆積物が溜まらないため,陸側のプレートとより強くカップリング(固着)するため,そのような場所では,海溝付近で も地震が発生し,津波地震になる,他方,海底地形に凸凹がない ,凸の部分(地塁)には堆積物が溜まらないため,陸側のプレートとより強くカップリング(固着)するため,そのような場所では,海溝付近で も地震が発生し,津波地震になる,他方,海底地形に凸凹がないところでは堆積物が一様に入ってくるので,堆積物(付加体)の下ではカップリング(固着)が弱くなって地震を起こしにくいとして,津波地震が特定の場所で発生するという見解を示した。【丙C75・24頁】鶴哲朗ほか「日本海溝域におけるプレート境界の弧沿い構造変化:プレ ート間カップリングの意味」(2002年)【丙C99の2】は,海溝軸付近の南北における堆積物の厚さの違いが津波地震を含むプレート境界地震の発生に影響を与えるとの見解を示した。 平成15年5月に発表された松澤暢,内田直希「地震観測から見た東北地方太平洋下における津波地震発生の可能性」【丙C12】は,大規模な津 波を発生させるためには,海底の大規模な上下変動が必要であるところ,三陸沖以外においては巨大低周波地震が発生しても津波地震には至らないかもしれないと結論づけた。 その後も,津波地震に関する研究が行われたが,平成21年に発表された谷岡勇市郎「津波データに基づく震源・津波発生過程の研究」【丙C10 2】においても,津波地震の発生メカニズムの解明には至らず,この状況 は本件地震発生当時も変わらなかった。【丙C75・55頁】このとおり,津波地震の発生メカニズムについては長期評価策定当時も十分解明されておらず,その発生場所や規模等については,種々の見解が存在していた。 (カ) 長期評価の見解と整合しない文献の存在 a 都司嘉宣,上田和枝「慶長16年(1611),延宝5年(1677),宝暦12年(1763),寛政5年(1793),および安政3年(185 (カ) 長期評価の見解と整合しない文献の存在 a 都司嘉宣,上田和枝「慶長16年(1611),延宝5年(1677),宝暦12年(1763),寛政5年(1793),および安政3年(1856)の各三陸地震津波の検証」(平成7年)【甲C79】都司氏は,「慶長16年(1611)三陸津波の特異性」(平成15年)(丙C13)において,慶長三陸津波の発生原因を長期評価とは異なり 「海底地滑りである可能性が高い」と論じている。 そして,都司嘉宣,上田和枝「慶長16年(1611),延宝5年(1677),宝暦12年(1763),寛政5年(1793),および安政3年(1856)の各三陸地震津波の検証」(平成7年)【甲C79】は,慶長三陸津波について,「津波地震」とする説とは別に「海底地滑り説」 を立てている。 したがって,都司氏が,「慶長16年(1611)三陸津波の特異性」(平成15年)【丙C13】において,慶長三陸津波の発生原因を「海底地滑りである可能性が高い」と論じていることは,慶長三陸津波の発生原因を津波地震とすることに疑問を呈するものと解するほかなく,これ を津波地震とした長期評価とは異なる見解というべきである。 b 石橋克彦「史料地震学で探る1677年延宝房総沖津波地震」(平成15年)【丙C14】同論文は,延宝房総沖地震について,「1611年三陸沖地震(慶長三陸地震)・1896年明治三陸津波地震と一括して『三陸沖北部から房 総沖の海溝寄りのプレート間大地震(津波地震)』というグループを設 定し,その活動の長期評価をおこなった地震本部地震調査委員会(2002)の作業は適切ではないかもしれず,津波防災上まだ大きな問題が残っている。」【同・387及び388頁】とし,長期評価に異を唱えている。 その活動の長期評価をおこなった地震本部地震調査委員会(2002)の作業は適切ではないかもしれず,津波防災上まだ大きな問題が残っている。」【同・387及び388頁】とし,長期評価に異を唱えている。 c 地震本部「日本の地震活動」(第2版)(平成21年3月)【丙C1 03】地震本部が平成21年3月に発行した「日本の地震活動」(第2版)【丙C103】では,延宝房総沖地震については,「震源域の詳細は分かっていません」とされていることに加え,「プレート間地震であったか,沈み込むプレート内地震であったかも分かっていません」とされており, 「『津波地震』と呼ばれる特殊な地震(中略)であった可能性が指摘されています。」とされるにとどまっている。【同・153頁】すなわち,延宝房総沖地震については,震源域が明らかになっておらず,津波地震であったかどうかはもとより,プレート間地震であったかどうかも明らかになっておらず,津波地震とするのは飽くまで一つの説 にすぎないことを長期評価の発表後においても地震本部自らが明らかにしている。 (キ) 地震本部地震調査委員会での異論・指摘長期評価の見解に対しては,それが議論された地震本部の地震調査委員会長期評価部会海溝型分科会において異なる見解が示されていたもので あり,地震調査委員会及び同委員会長期評価部会においてもそれぞれ長期評価の問題点が示されていた。すなわち,慶長三陸地震については震源域が明らかでなく,日本海溝沿いではなく千島沖で発生したとする見解があったほか,延宝房総沖地震については,震源域が明らかでないばかりか,そもそもプレート間地震ではなく,プレート内地震であるとする見解も存 在した。 このように,海溝型分科会では長期評価の見解とはそぐわない上記の見 は,震源域が明らかでないばかりか,そもそもプレート間地震ではなく,プレート内地震であるとする見解も存 在した。 このように,海溝型分科会では長期評価の見解とはそぐわない上記の見解が示され,長期評価部会及び地震調査委員会自身が,長期評価の内容に対して問題点や異なる領域設定を検討する必要性を指摘していた。 (ク) 長期評価の結論が地震学者の見解の最大公約数とはいえないこと長期評価は,海溝分科会で種々の意見が出されていた中で,多数ある科 学的見解のうち,「最大公約数」というべき共通部分がないにもかかわらず,時間的な制約上,座長の権限で,同人の意向に比較的沿うようにまとめただけにすぎないのであって,その策定に携わった専門家の知見の「最大公約数」とは到底いえないものである。 (ケ) 長期評価における地震の予測に対する評価の信頼度 そもそも,長期評価には,「データとして用いる過去地震に関する資料が十分にないこと等による限界があることから,評価結果である地震発生確率や予想される次の地震の規模の数値には誤差を含んでおり,防災対策の検討など評価結果の利用に当たってはこの点に十分留意する必要がある。」【丙C7・1枚目】とのなお書きが付されている。 また,地震本部は,平成15年3月24日,「プレートの沈み込みに伴う大地震に関する長期評価の信頼度について」【丙C10】を公表した。 上記「プレートの沈み込みに伴う大地震に関する長期評価の信頼度について」においては,地震本部が公表したプレートの沈み込みに伴う大地震(海溝型地震)に関する長期評価について,「評価に用いられたデータは 量および質において一様でなく,そのためにそれぞれの評価結果についても精粗があり,その信頼性には差がある」【同・1頁】として,評価の 地震)に関する長期評価について,「評価に用いられたデータは 量および質において一様でなく,そのためにそれぞれの評価結果についても精粗があり,その信頼性には差がある」【同・1頁】として,評価の信頼度を「A:(信頼度が)高い B:中程度 C:やや低い D:低い」の4段階にランク分けしている。その中で,長期評価における「三陸北部から房総沖の海溝寄りのプレート間大地震(津波地震)」について,「(1) 発生 領域の評価の信頼度 C」,「(2) 規模の評価の信頼度 A」,「(3) 発生確 率の評価の信頼度 C」【同・8頁表】とされている。 (コ) 本件地震の規模(長期評価の想定との相違)a 本件地震の規模は明治三陸地震及び貞観地震を大幅に上回ること地震によるすべり量が大きいほど,海底の隆起,沈降も大きくなりやすいため,すべり量が大きければ津波も大きくなるという関係に立つ。 本件地震の最大すべり量は,長期評価の第二版においては,50m以上と推定されている【丙C3・44頁】ところ,その後も,本件地震の断層モデル,すべり量については,様々なところで検討されている。中央防災会議の「南海トラフの巨大地震モデル検討会」が平成24年3月に発表した「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震の津波断 層モデルについて」においても,最大すべり量が約50mとされているほか,引用されている論文においては,約30ないし63mとされている。【丙C108・3頁】これに対し,明治三陸地震のすべり量は,長期評価においては12. 5mとされていた(丙C727頁表5-1)。また,貞観津波に関する佐 竹論文における貞観地震のすべり量は「モデル8」の場合に10mと設定されていた。【丙C29・75頁第1表】したがって,本件地震の最 ていた(丙C727頁表5-1)。また,貞観津波に関する佐 竹論文における貞観地震のすべり量は「モデル8」の場合に10mと設定されていた。【丙C29・75頁第1表】したがって,本件地震の最大すべり量は,明治三陸地震及び貞観地震と比較しても極めて大きいものであった。 b 本件地震は津波地震型及び貞観地震型の複合型であること 前記のとおり,本件地震は,1896年の明治三陸地震や佐竹氏らが提示した869年の貞観地震の断層モデルと比べても,極めて規模が大きいものである。この点,佐竹氏は,本件地震のすべり分布について,「海溝軸付近の大きなすべりは,明治三陸地震の断層モデルとよく似ている(中略)いっぽう,プレート境界深部でのすべりは,貞観地震の断 層モデルと位置が似ている」とした上で,本件地震は「1896年明治 三陸地震と同様な津波地震タイプと,869年貞観地震タイプの地震が同時に発生し,連動することによって規模が大きくなったと考えられる」と述べている。【丙C71・34頁,丙C75・51及び52頁】中央防災会議の東北地方太平洋沖地震を教訓とした地震・津波対策に関する専門調査会が平成23年9月28日に取りまとめた報告【丙C1 09】においても,本件地震による「今回の津波は,従前の想定をはるかに超える規模の津波であった。」,「津波高が巨大となった要因として,今回の津波の発生メカニズムが,通常の海溝型地震が発生する深部プレート境界のずれ動きだけでなく,浅部プレート境界も同時に大きくずれ動いたことによるものであったことがあげられる」【同・3頁】とされて いる。 このように,本件地震規模は,明治三陸地震及び貞観地震のいずれと比べても極めて大きく,これに伴う津波も極めて大規模なものであったことは明らかである あげられる」【同・3頁】とされて いる。 このように,本件地震規模は,明治三陸地震及び貞観地震のいずれと比べても極めて大きく,これに伴う津波も極めて大規模なものであったことは明らかである。この点は,長期評価を公表した地震本部自身も「宮城県沖・その東の三陸沖南部海溝寄りから南の茨城県沖まで個別の領域 については地震動や津波について評価していたが,これらすべての領域が連動して発生する地震については想定外であった」【丙C8】としている。 c 本件地震は長期評価の想定領域で発生したものではないこと本件地震の震源域には,福島県沖海溝沿いの領域も含まれるものの, 本件地震は,北部で発生した地震に連動して,福島県沖を含む南部でも岩石破壊が生じたものであって,福島県沖海溝沿いの領域において長期評価が指摘したような明治三陸地震クラスの津波地震が単独で発生したものではなく,本件地震は,長期評価が想定した領域で発生した地震ではない。 (サ) 小括 以上のとおり,長期評価は,①日本海溝沿いの北部と南部には,地形・地質のほか,地震活動に違いのあることを考慮せず,②震源域が不明であった慶長三陸沖地震,延宝房総沖地震も,防災行政的な観点から便宜的に日本海溝沿いの領域で発生したと仮定して,日本海溝沿いの地域を一体として評価した点に問題があって,信用性に乏しく,被告国の予見可能性を 基礎付けるに足りない。また,長期評価が信用性に乏しいことは,内外から異論が示されていたことや,長期評価自身が,地震予測に対する評価を「やや低い」としていたことなどからも明らかであり,これに高度の信頼性があるとする原告らの主張は失当である。さらに,そもそも,本件地震は,規模及び発生領域のいずれから見ても,長期評価が想定していた地震 い」としていたことなどからも明らかであり,これに高度の信頼性があるとする原告らの主張は失当である。さらに,そもそも,本件地震は,規模及び発生領域のいずれから見ても,長期評価が想定していた地震 とは異なるものであり,これに伴う津波も極めて大規模なものであったという点においても,長期評価によって被告国の予見可能性を基礎付けることができないことは明らかである。 エ中央防災会議報告について(ア) 中央防災会議について 中央防災会議は,災害対策基本法11条1項に基づき内閣府に設置された機関であり,防災基本計画を作成し,及びその実施を推進すること(同条2項1号),内閣総理大臣の諮問に応じて防災に関する重要事項を審議すること(同項3号)などの事務をつかさどっている。中央防災会議は,内閣総理大臣を会長とし(同法12条2項),全閣僚,指定公共機関の代表 者及び学識経験者により構成されている(同条5項)。 中央防災会議は,その議決により,専門調査会を置くことができ(災害対策基本法施行令4条1項),日本海溝・千島海溝専門調査会もその一つであったところ,中央防災会議報告においては,中央防災会議が地震・津波防災対策の検討を行う前提として,科学的知見についての専門技術的判 断の結果が示された。 (イ) 中央防災会議報告の判断内容日本海溝・千島海溝調査会は,北海道及び東北地方を中心とする地域に影響を及ぼす地震のうち,特に日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に着目して,防災対策の対象とすべき地震を選定し,その結果を中央防災会議報告【丙C11,丙C58】に取りまとめた。 調査対象領域の分類については,「千島海溝沿いの地震活動の長期評価」及び長期評価による分類が基本とされたものの,防災対策の検討対象とする地震(推 報告【丙C11,丙C58】に取りまとめた。 調査対象領域の分類については,「千島海溝沿いの地震活動の長期評価」及び長期評価による分類が基本とされたものの,防災対策の検討対象とする地震(推進地域の指定に当たって検討対象とする地震)については,理学的知見の程度に基づいた選定が行われた結果,三陸沖北部の地震,宮城県沖の地震,明治三陸タイプの地震(明治三陸地震の震源域の領域で発生 する津波地震)等が検討対象とされたが,福島県沖海溝沿いの領域については検討対象として採用されなかった。すなわち,長期評価の見解は理学的根拠を十分に伴っていなかったため,防災計画を策定すべき対象として採用される段階にないものと専門技術的判断が下されたのである。 なお,福島県沖・茨城県沖の領域については,「M7クラスの地震(中略) が発生しているが,これらの地震の繰り返し発生は確認されていない。」と判断された。【丙C11,丙C58・4,6,9及び14,52ないし67頁】そして,その結果,中央防災会議報告において防災対策の検討対象とした地震による海岸での津波高さの最大値は,福島第一原発がある福島県双 葉郡大熊町において5m(T.P.(=東京湾平均海面)基準)を超えないものと判断され,その周辺自治体の津波高さも最大で5m前後と判断されたのである。【丙C11,丙C58・65頁】(ウ) 小括以上のとおり,中央防災会議報告は,我が国の防災分野における地震・ 津波防災対策の検討として,長期評価の見解を含む科学的知見につき専門 技術的判断を行った結果を示したものであることから,「最新の科学的,技術的知見を踏まえた合理的な予測」によってリスクを示唆した知見であると評価できるものであるところ,そこでは敷地高さを超える津波を想定 的判断を行った結果を示したものであることから,「最新の科学的,技術的知見を踏まえた合理的な予測」によってリスクを示唆した知見であると評価できるものであるところ,そこでは敷地高さを超える津波を想定するものではない以上,同報告によっても本件事故の予見可能性は基礎づけられるものではない。むしろ,津波評価技術で導き出された津波高さの 方が長期評価の見解を含む科学的知見の想定する津波の高さより高くなっていることは,津波評価技術が最も安全寄りの津波対策をするための知見であったことを裏付けるものである。そして,結果として津波対策に関して長期評価の見解が取り入れられなかったということは,当時の専門家の間では,同知見が「最新の科学的,技術的知見を踏まえた合理的な予測」 によってリスクを示唆する知見でなかったと評価されていた事実を,何よりも実証するものといえる。 オ 「溢水勉強会」について(ア) 「溢水勉強会」の趣旨について保安院とJNES(原子力安全基盤機構)は,平成16年12月26日, スマトラ沖地震に伴う津波の発生を受け,原子力発電所に係る国内外の事故やトラブルや安全規制に関わる情報を収集するとともに,これらの情報を評価し,必要な安全規制上の対応を行う目的で,定期的に安全情報検討会を開催していたが(第1回は,平成15年11月6日に開催されている。),平成17年6月8日に開催された第33回安全情報検討会は,上記 事象等を踏まえ,外部溢水問題に関する検討を開始することとした。【丙C15,丙C16】また,NRC(米国原子力規制委員会)は,平成17年11月7日,米国キウォーニー原子力発電所で低耐震クラス配管である循環水系配管の破断を仮定すると,タービン建屋の浸水後,工学的安全施設及び安全停止 系機器が故障すること 委員会)は,平成17年11月7日,米国キウォーニー原子力発電所で低耐震クラス配管である循環水系配管の破断を仮定すると,タービン建屋の浸水後,工学的安全施設及び安全停止 系機器が故障することが判明するとの情報を事業者に通知した。この情報 は,同月16日に開催された安全情報検討会において紹介され,今後の検討項目とされた。【丙C15,16】そこで,上記各事象に係る我が国の現状を把握するため,平成18年1月,保安院,JNES,電気事業者等で構成する溢水勉強会を立ち上げ,調査検討を開始した。【丙C15,16】 この溢水勉強会は,保安院とJNESで構成し,電気事業者,電気事業連合会,原子力技術協会及びメーカーは,オブザーバーで参加するというものであった。 溢水勉強会は,平成18年1月から平成19年3月まで,合計10回にわたり開催され,平成19年4月,「溢水勉強会の調査結果について」と題 する報告書をまとめた。【丙C16】(イ) 「溢水勉強会」の検討結果について溢水勉強会は,津波が到来する可能性の有無・程度や,津波が到来した場合に予想される波高に関する知見を得る目的で設置されたものではなく,実際にも,上記の各知見が獲得・集積されたことはなかったのであり, あくまでも仮定された水位の津波が到来し,かつ,それによる浸水が長時間継続したと仮定した場合における原子力発電所施設への影響を検討したにすぎないものであった。 すなわち,第2回溢水勉強会における資料「想定外津波に対する機器影響評価の計画について(案)」において,津波に対するプラントの安全性 は,設計条件にて十分確保されているという考えの下,念のためという位置づけで,想定外津波に対するプラントの耐力について検討を行うもので,最終的には,リスクと て,津波に対するプラントの安全性 は,設計条件にて十分確保されているという考えの下,念のためという位置づけで,想定外津波に対するプラントの耐力について検討を行うもので,最終的には,リスクとコストのバランスを踏まえた合理的な対策を立案することを目的とするものであり,想定外津波に対するプラントの耐力・対策コストについて概略的なイメージをもつため,代表プラントにて決定論 的な検討を行うこととするというものであった。 実際,第3回溢水勉強会で報告された福島第一原発についての影響評価の前提としての想定外津波水位の設定についてみても,福島第一原発5号機では,建屋設置レベルがたまたまO.P.+13mであったことから,想定外津波水位が「O.P.+14m[敷地高さ(O.P.+13m)+1.0m]」と仮定されたにすぎない。【丙C19】同様に,浜岡発電所4 号機では,「想定外津波による浸水を敷地高さ+1m(T.P.+7.0m)と仮定する。」【丙C20の1「想定外津波に対する浜岡原子力発電所の機器影響評価(概要)」】,大飯発電所3号機では,「勉強会用に水位を大飯3号機の建屋周辺の敷地高さ(EL+9.7m)に+1mとした。」【丙C20の2「想定外津波の影響評価について」】,泊発電所1・2号機では,「T. P.+11m[敷地高さ(T.P.+10.0m)+1.0m]」【丙C20の3「想定外津波検討状況について」】,女川発電所2号機では,「想定外津波水位は,敷地高さ(O.P.+14.8m)+1mとする。」【丙C22の3】とされ,全てのプラントについて,機械的に等しく建屋の敷地高さ+1mを仮定水位として設定しているため,それぞれの想定外津波水位 は,敷地の高さに応じて異なる高さとなっており,各プラントの地理的状況に応じ のプラントについて,機械的に等しく建屋の敷地高さ+1mを仮定水位として設定しているため,それぞれの想定外津波水位 は,敷地の高さに応じて異なる高さとなっており,各プラントの地理的状況に応じて,それぞれの発電所においてどのくらいの高さの津波が到来する可能性があるかといった観点からの津波水位の設定は全くされていないのである(上記のとおり,大飯発電所3号機については単に「勉強会用」であることが明記されているが,ほかも同趣旨であることは明らかであ る。)。なお,福島第一原発5号機においては,O.P.+14m(これは,敷地高さ+1mである。)の水位のほかに,O.P.+10mの水位についても影響評価を行っているが,これも,仮定水位と設計水位との中間の水位であって,便宜上設定されたことが明らかにされている。【丙C19】しかも,津波水位の継続時間に関して,仮定水位の継続時間は考慮せず, 長時間継続するものと仮定して,影響評価が行われているなど,現実の津 波ではあり得ない想定の下での影響を評価したものでもある。 このように,津波に関して溢水勉強会で検討されたことは,机上で一定の津波水位と継続時間を仮定した上で,当該仮定した事象が実際に発生するかどうかはさておいて,仮定した事象による建屋,構築物,機器への影響をみることにあったのであり,それ以上に,仮定した水位の津波が到来 する可能性があるか否かを検討したり,到来する可能性がある津波の高さについての知見を集約,蓄積したりするものではなかった。福島第一原発についても,他のプラントと同様に,敷地高を超える津波が到来する可能性や,到来するおそれのある津波高さについての調査,検討が行われたものではなかったのである。 また,第4回溢水勉強会では,被告東電がロジックツリ トと同様に,敷地高を超える津波が到来する可能性や,到来するおそれのある津波高さについての調査,検討が行われたものではなかったのである。 また,第4回溢水勉強会では,被告東電がロジックツリーアンケートによる重み付け結果に基づき確率論的津波ハザード評価手法を試行したマイアミ論文【甲C21の1及び2】を前提に,福島第一原発5号機の評価例【丙C22の2・2枚目図-5】のハザード曲線において,同号機においてO.P.+10mを超える津波高さが到来する年超過確率が10⁻⁴を 下回ることを報告したが,かかる評価手法が開発途上のものであり,これに基づいて福島第一原発の主要建屋の敷地高さを上回る津波の発生の予見可能性が基礎づけられるような性質のものではなかったことについては,マイアミ論文の著者の1人である酒井博士のほか【丙C136・5ないし10頁】,山口教授【丙B43・9ないし13頁】が述べているとおり である。 以上のとおり,溢水勉強会は,そもそも津波が到来する可能性の有無・程度や,津波が到来した場合に予想される波高に関する知見を得る目的で設置されたものではなく,実際にも,上記の各知見が獲得・集積されたことはなかったのであり,あくまでも仮定された水位の津波が到来し,かつ, それによる浸水が長時間継続したと仮定した場合における原子力発電所 施設への影響を検討したにすぎない。そして,無限時間津波が襲来するという非現実的な想定がある以上,同想定を前提とした場合に全交流電源喪失のおそれがあるという結果が示されたからといって,敷地高を越える高さの津波が到来しさえすれば,当然に全交流電源喪失の具体的危険があるということにはならず,他の知見と併せて津波対策を導き出すような知見 ともいうことはできない。しかも,最終的には 地高を越える高さの津波が到来しさえすれば,当然に全交流電源喪失の具体的危険があるということにはならず,他の知見と併せて津波対策を導き出すような知見 ともいうことはできない。しかも,最終的には,外部溢水に係る津波に関する事項は耐震バックチェックにおける検討に委ねられることとなった。 したがって,溢水勉強会が被告国の本件事故の予見可能性を基礎づける知見にならないことはもとより,津波対策を導き出すための知見にもならないことは明らかである。加えて,溢水勉強会の存在は,津波評価技術に よる津波対策の合理性が認められてきた中でも,規制機関や事業者が津波の不確かさが残ることを前提に,更なる安全性の向上を図るべく,たゆまぬ検討・研究を続けてきたことを表すものというべきであり,この点は,規制権限不行使の違法性の判断に当たって,被告国が権限行使以外に取り組んできたその他の施策として考慮されるべき事情といえる。 カ 「貞観津波」に関する知見の進展について貞観地震とは,西暦869年に東北地方沿岸を襲った巨大地震とされ,その地震によって東北地方に貞観津波が到来したとされている地震である。しかし,貞観地震及び貞観津波は,「日本三代実録」と題する歴史書に地震の状況等を描写した記述があるだけで,貞観津波の潮位等の記録はないものであ った。 貞観津波については,本件事故前までに進展した知見を踏まえても,本件事故を惹起するに足りるような規模の津波の予見が可能となるか否かについて判然とせず,そもそも貞観津波に関する知見が被告国の予見可能性を基礎づける知見といえるか否かについては,前提からして主張立証が尽くされ ているといえない。 また,この点をおくとしても,以下に述べるとおり,貞観津波の知見については,津波の堆積物の分 ける知見といえるか否かについては,前提からして主張立証が尽くされ ているといえない。 また,この点をおくとしても,以下に述べるとおり,貞観津波の知見については,津波の堆積物の分布を調査する堆積物調査等により地震の断層モデルを推定する研究が進められてきたが,本件事故に至るまでの間,その詳細は確定せず,「最新の科学的,技術的知見を踏まえた合理的な予測」によってリスクを示唆する知見として成熟するには至らなかったものである。 (ア) 平成18年までの貞観津波に関する研究結果について平成18年までに貞観津波について言及されている文献のうち,主要なもの【甲B2の1】は,以下のとおりである。 ① 阿部壽・菅野喜貞・千釜章「仙台平野における貞観11年(869年)三陸津波の痕跡高の推定」(平成2年)【丙C27】 同論文は,貞観津波に関する仙台平野での初めての堆積物調査の結果に基づき,津波痕跡高を推定したものであり,東北電力株式会社(以下「東北電力」という。)による独自調査として行われたものである。貞観津波の痕跡高は,仙台平野の河川から離れた一般の平野部で2.5mから3mで浸水域は海岸線から3㎞ぐらいの範囲であったと推定してい る。 同論文は,あくまでも貞観津波の「仙台平野における痕跡高を考古学的所見及び堆積学的検討に基づく手法により推定し,さらに当時の仙台平野での社会,地形状況などと照査」した研究であって(同論文「§1まえがき」),福島第一原発付近の沿岸に到来する津波の規模については 何ら言及するものではなかった。 ② 菅原大助・箕浦幸治・今村文彦「西暦869年貞観津波による堆積作用とその数値復元」(平成13年)【丙C28】この論文は,津波堆積物の調査を行い,福島県相馬市の松川浦付近で仙台平 なかった。 ② 菅原大助・箕浦幸治・今村文彦「西暦869年貞観津波による堆積作用とその数値復元」(平成13年)【丙C28】この論文は,津波堆積物の調査を行い,福島県相馬市の松川浦付近で仙台平野と同様の堆積層を検出した上で,貞観津波の波源モデルを推測 した論文である。この論文では,「海岸線に沿った津波波高は,大洗(茨 城県大洗町)から相馬(福島県相馬市)にかけて小さく,およそ2~4m,相馬から気仙沼(宮城県気仙沼市)にかけては大きく,およそ6~12mとなった。」【丙C28の5・9頁】と記述されている。この記述から明らかなとおり,同論文によれば,貞観津波によって福島第一原発付近の沿岸部に到来した津波の波高は,2~4mとされているのであっ て,同論文によって得られた知見によっては,そもそも福島第一原発の主要建屋の敷地高さを超える津波高さが導き出されないことから,本件事故の予見可能性を基礎づける知見とはならない。 (イ) 平成18年以降の貞観津波に関する研究結果について平成18年以降においても,貞観津波について確定した波源モデルが示 されていたわけでもなく,ましてや,貞観津波の研究に基づいて,福島第一原発において本件事故を惹起するに足りる津波が到来するとの科学的知見が得られたわけではない。 すなわち,貞観津波については,平成20年に貞観津波に関する佐竹論文【丙C29】,平成22年に「平安の人々が見た巨大津波を再現する-西 暦869年貞観津波-」(穴倉正展,澤井祐紀,行谷佑一,岡村行信)【丙C30】が順次,刊行され,貞観津波に関する知見が集積しつつあり,資源エネルギー庁に設置されている総合資源エネルギー調査会の「原子力安全・保安部会耐震・構造設計小委員会地震・津波ワーキンググループ」及び同小委員会「 行され,貞観津波に関する知見が集積しつつあり,資源エネルギー庁に設置されている総合資源エネルギー調査会の「原子力安全・保安部会耐震・構造設計小委員会地震・津波ワーキンググループ」及び同小委員会「地震・地盤ワーキンググループ」による「合同ワーキング グループ」(以下「エネ庁合同WG」という。)でも貞観津波について議論された。【丙C31の1,2】しかし,これらの論文でも貞観地震の断層モデルは確定されておらず,エネ庁合同WG内でも,貞観津波の検討の必要性を指摘する委員がいたものの,その際の当該委員の発言内容は,貞観津波が福島県沿岸にどの程度の規模の津波が到来するのかという点を,具体 的に示したものではなかった。 貞観地震の断層モデルが確定していなかったことは貞観津波に関する佐竹論文の論文内容からも明らかである。貞観津波に関する佐竹論文においては,10の断層モデルを仮定し,津波のシミュレーション結果と津波堆積物調査の結果を比較した結果,「プレート間地震で幅が100㎞,すべりが7m以上の場合には,浸水域が大きくなり,津波堆積物の分布をほ ぼ完全に再現できた。」【丙C29・73頁】とされている。 しかしながら,同論文においては,上記の「プレート間地震で幅が100㎞,すべりが7m以上」の条件を満たす断層モデルとして,「モデル8」と「モデル10」の二つの断層モデルが仮定されており【丙C29・75頁第1表】,「これらの場合(「モデル8」及び「モデル10」の場合)は, 仙台平野での浸水距離も長く,津波堆積物の分布をほぼ再現できている。」【同・73頁】とされているにとどまり,「モデル8」と「モデル10」のいずれがより妥当であるかは明らかにされておらず,同論文の中においても,貞観地震の断層モデルは確定していない。 さ きている。」【同・73頁】とされているにとどまり,「モデル8」と「モデル10」のいずれがより妥当であるかは明らかにされておらず,同論文の中においても,貞観地震の断層モデルは確定していない。 さらに,同論文においては,「本研究では,断層の長さは3例を除いて2 00㎞と固定したが,断層の南北方向の広がり(長さ)を調べるためには,仙台湾より北の岩手県あるいは南の福島県や茨城県での調査が必要である。」【丙C29・73頁】と記されているとおり,福島県沿岸における貞観津波の影響がどのようなものであったかは同県や茨城県での調査が必要であるとされ,未解明とされていた。 したがって,貞観津波に関する佐竹論文によっても貞観地震の波源モデルが確定していなかったことは明らかである。 このように平成18年以降も本件事故に至るまでの間,貞観津波の詳細は不明であったため,貞観津波に関する知見の進展は「最新の科学的,技術的知見を踏まえた合理的な予測」によってリスクを示唆する知見となる には至らないものであった。 キ津波評価技術について(ア) 津波評価技術による設計津波水位の評価方法平成11年に原子力施設の津波に対する安全性評価技術の体系化及び標準化について検討を行うことを目的として,社団法人土木学会原子力土木委員会に津波評価部会が設置された(なお,平成13年3月当時の主査 は岩手県立大学の首藤伸夫であり,委員は東京大学の阿部勝征らであった。)。 土木学会原子力土木委員会は,平成14年2月,「原子力発電所の津波評価技術」(津波評価技術)を刊行した。【丙C5の1~3】これは,平成14年から本件地震発生に至るまでの間において,被告国が把握していた 限り,津波の波源設定から敷地に到達する津波高さの算定までにわたる津 津波評価技術)を刊行した。【丙C5の1~3】これは,平成14年から本件地震発生に至るまでの間において,被告国が把握していた 限り,津波の波源設定から敷地に到達する津波高さの算定までにわたる津波評価を体系化した唯一のものであり,そこで示された設計津波水位の評価方法の骨子は,次のとおりである。 ① 既往津波の再現に必要な数値文献調査等に基づき,評価地点に最も大きな影響を及ぼしたと考えら れる既往津波を評価対象として選定し,痕跡高の吟味を行うとともに,沿岸における痕跡高をよく説明できるように断層パラメータ(媒介変数)を設定し,既往津波の断層モデルを設定する。 ② 想定津波による設計津波水位の検討の方法既往津波の痕跡高を最もよく説明する断層モデルを基に,津波をもた らす地震の発生位置や発生様式を踏まえたスケーリング則に基づき,想定するMw(モーメントマグニチュード)に応じた基準断層モデルを設定する(日本海溝沿い及び千島海溝(南部)沿いを含むプレート境界型地震の場合)。その上で,想定津波の波源の不確定性を設計津波水位に反映させるため,基準断層モデルの諸条件を合理的範囲内で変化させた 数値計算を多数実施し(パラメータスタディ),その結果得られる想定 津波群の波源の中から評価地点に最も影響を与える波源を選定する。このようにして得られた設計想定津波について,既往津波との比較検討(既往津波等を上回ることの検討)を実施した上で設計想定津波として選定し,それに適切な潮位条件を足し合わせて設計津波水位を求める。 (イ) 設計想定津波の評価は既往津波の痕跡高の約2倍となっていること 上記評価の結果,「提案する方法に基づいて計算される設計想定津波は,平均的には既往津波の痕跡高の約2倍となっていることが確認されて 設計想定津波の評価は既往津波の痕跡高の約2倍となっていること 上記評価の結果,「提案する方法に基づいて計算される設計想定津波は,平均的には既往津波の痕跡高の約2倍となっていることが確認されている」【丙C5の2・1ないし7頁】とされた。 (ウ) 津波評価技術による設計想定津波の発想上記のように,津波評価技術に記載されたところによれば,津波の不確 定性を考慮して設計想定津波を算定する手順を策定していたのであり,かつ,その手順によって計算される設計想定津波は平均的には既往津波の痕跡高の約2倍となっていることが確認されているというのであるから,津波評価技術においては,安全側の発想に立って設計想定津波を計算するという態度が採られていたものである。 (エ) 歴史上の地震を考慮しないことが不合理といえないこと津波評価技術による設計津波水位の評価方法については,評価地点に最も大きな影響を及ぼしたと考えられる既往津波を評価対象として選定し,既往津波の痕跡高を最もよく説明する断層モデルを基に基準断層モデルを設定した上,想定津波の波源の不確定性を設計津波水位に反映させるた め,基準断層モデルの諸条件を合理的範囲内で変化させた数値計算を多数実施し(パラメータスタディ),その結果得られる想定津波群の波源の中から評価地点に最も影響を与える波源を選定することにより,想定される最大の津波を評価するものである。 そのため,信頼性の高い算定結果を得るためには,信頼性の高い断層モ デル(波源モデル)の設定が極めて重要となる。したがって,歴史上の地 震については,信頼性の高い断層モデル(波源モデル)のデータを得ることができなければ,これを取り上げて津波評価を行うことはできない。 なお,原告らが「文献記録に残っていない地震 史上の地 震については,信頼性の高い断層モデル(波源モデル)のデータを得ることができなければ,これを取り上げて津波評価を行うことはできない。 なお,原告らが「文献記録に残っていない地震・津波」として考慮すべきものと主張すると思われる貞観津波については,歴史書に地震の状況等を描写した記述があるだけで,平成14年当時はもとより,平成18年当 時においても,津波の堆積物の分布を調査する堆積物調査等により貞観地震の断層モデルを推定する研究が進められていたが,確定した具体的波源モデルが示されるような状況にはなく,そもそも貞観地震を取り上げて津波評価を行うことはできなかった。したがって,津波評価技術において,貞観地震,貞観津波が取り上げられていないことをもって,当時の科学的 知見に照らし,不合理であるとはいえない。 (オ) 基準断層モデルの設定が不合理といえないことまた,津波評価技術における波源位置の設定については,過去の地震の発生状況等の地震学的知見等を踏まえ,合理的と考えられる位置に津波の発生様式に応じて設定することができるとされている。【丙C5の2・1 ないし31頁】本件地震以前には,日本海溝沿い南部の福島県沖の領域については過去に大地震が発生した記録がなく,比較沈み込み学により,「東北地方南部のように1億年以上もの古いプレートが沈み込んでいる場所で,M9の地震が発生している例は過去に知られていなかったため,この領域は固着が 弱くて,M9の地震はおろか,M8の地震すらめったに起こせないと考えられていた。」【丙B11・1022頁】ことなどからすれば,日本海溝沿いの南部に基準断層モデルを設定しなかったことには合理的根拠があったと解され,恣意的な領域区分をしたものとは認められず,当時の科学的知見に照ら 【丙B11・1022頁】ことなどからすれば,日本海溝沿いの南部に基準断層モデルを設定しなかったことには合理的根拠があったと解され,恣意的な領域区分をしたものとは認められず,当時の科学的知見に照らし,不合理であるとはいえない。 (カ) 補正係数が1.0とされたことが不合理といえないこと 津波評価技術における「手法の特長は,津波予測の過程で介在する種々の不確定性を設計の中に反映できること」【丙C5の1・ⅰ頁】にあり,津波評価技術による設計津波水位の評価は,想定津波の波源の不確定性を設計津波水位に反映させるため,基準断層モデルの諸条件を合理的範囲内で変化させた数値計算を多数実施し,その結果得られる想定津波群の波源の 中から評価地点に最も影響を与える波源を選定しており,この手順によって計算される設計想定津波は平均的には既往津波の痕跡高の約2倍となっていることが確認されているのであるから,その計算値は安全側の発想に立って計算された値と評価することができる。 したがって,補正係数を1.0としたことをもって,科学的に不合理で あるとは認められない。 (キ) 津波評価技術は国際的にも評価された合理的手法であることさらに,津波評価部会の部会主査であった岩手県立大学の首藤伸夫教授は,津波評価技術の巻頭において,「現時点で確立しており実用として使用するのに疑点のないものが取りまとめられている。」と述べていた。津 波評価技術は,米国原子力規制委員会(USNRC)が2009年(平成21年)に作成した報告書において,「世界で最も進歩しているアプローチに数えられる」と評価され【丙C63・59頁】,IAEA(国際原子力機関)が本件事故後の平成23年11月に公表した報告書においても,IAEA基準に適合する基準の例として参照 も進歩しているアプローチに数えられる」と評価され【丙C63・59頁】,IAEA(国際原子力機関)が本件事故後の平成23年11月に公表した報告書においても,IAEA基準に適合する基準の例として参照されており【丙C62・113 ないし119頁】,国際的にも評価を受けていることからすれば,客観的に合理性を有する評価方法であったというべきである。 ク 「明治三陸地震についての知見」について阿部勝征「津波地震とは何か-総論-」【甲C13】においては,「遡上高の平均値に阿部(1999)のMt決定法を適用すると9.0が求められる が,この値は過大評価気味である。(中略)Abe(1979)により海外の データから求められた8.6を採用することにする。」【同・339頁】と述べており,明治三陸地震をM9.0と評価しているわけではない。また,平成21年3月に地震本部地震調査委員会が全国の地震活動の概要等をまとめた「日本の地震活動-被害地震から見た地域別の特徴-」〔第2版〕【丙C60】においては,阿部氏の上記論文の見解と異なり,明治三陸地震のM(マ グニチュード)は8.2とされている【同・83頁】。したがって,阿部氏の上記論文に基づいて,本件地震と同規模の地震が発生することを予見することができたと認めることはできないし,同論文及び長期評価に基づいて本件地震及びこれに伴う津波と同規模の地震及び津波が福島第一原発に発生又は到来することはもとより,O.P.+10m又はこれを超える程度の津波 が到来することについて予見可能性を認めることもできない。 ケマイアミ論文は研究途上のものであったこと(ア) 確率論的津波ハザード解析手法について津波高さの推定には,波源モデルの設定や海底地形の誤差などの各種の不確定性が存在する。マ もできない。 ケマイアミ論文は研究途上のものであったこと(ア) 確率論的津波ハザード解析手法について津波高さの推定には,波源モデルの設定や海底地形の誤差などの各種の不確定性が存在する。マイアミ論文で用いられている確率論的津波ハザー ド解析手法とは,津波高さの推定に関する各種の不確定性を系統的に処理し,工学的判断のための資料を提供するものであり,一定地点で将来の一定期間に一定の津波高さを超過する確率(超過確率)を評価する手法である。解析結果は,横軸を津波高さ,縦軸を超過確率(例えば,年超過確率)で表される表上に津波ハザード曲線(津波高と超過確率の関係)として表 示される。 確率論的方法では,不確定性の評価が重要であるが,その不確定性を偶発的不確定性と認識論的不確定性の二つに分けて考えることが一般的となっている。 偶発的不確定性とは,地震の規模や地震動の強さのばらつきのように, 現実に存在はしているが現状では予測不可能と考えられる性質(ランダム に発生する性質)による不確定性で,低減することができないものであり,ハザード曲線の評価では1本のハザード曲線の計算で評価される。 これに対し,認識論的不確定性とは,ハザード解析モデルのパラメータやモデル化自体に関する不確定性で,科学技術の進歩により低減できるものであり,不確定なモデルパラメータをロジックツリーの分岐として表現 することによりモデル化され,多数のハザード曲線として反映される。 ロジックツリーの分岐とは,具体的には,津波発生域をどこに設定するか,地震の規模をどのくらいに設定するか,地震の発生頻度をいかなる間隔で設定するかなど判断が分かれる事項について,複数の選択肢あるいは連続的な確率分布,すなわちロジックツリーで場合分けをし,その分岐の 地震の規模をどのくらいに設定するか,地震の発生頻度をいかなる間隔で設定するかなど判断が分かれる事項について,複数の選択肢あるいは連続的な確率分布,すなわちロジックツリーで場合分けをし,その分岐の 中で主に不連続的な分岐に対しては,専門家に対するアンケート調査により重みを設定するものである。 そして,ロジックツリーの組合せ経路ごとにハザード曲線を計算し,それぞれに信頼度を与える。 このような確率論的津波ハザード解析手法の研究は,平成14年2月に 津波評価技術が策定された後,新たに確率論に立脚した津波評価手法を研究,開発する目的の下,後続研究として行われたものであって,原子力土木委員会津波評価部会においても,平成14年度から平成17年度にかけて,電力共通研究として,確率論的津波ハザード解析手法が審議されていた。 (イ) 確率論的津波ハザード解析手法は確立された手法ではなかったことマイアミ論文は,前記津波ハザード解析手法を用いて福島県沿岸における津波高さ及び年超過率を試算したものであるが,マイアミ論文で発表された内容は,その発表当時,研究途上のものであり,津波高さの予測に当たって確立した手法ではなかった。 IAEAが本件事故後の平成23年11月に発表した報告書において, 確率論的津波ハザード解析手法について,「津波ハザードを評価するために各国で適用されている現在の実務ではない。確率論的アプローチを用いた津波ハザード評価の手法は提案されているが,標準的な評価手順はまだ開発されていない。」【丙C62・61頁】と評価されているとおり,確率論的津波ハザード解析手法は,平成18年当時のみならず,本件事故時に おいても,国内外で研究,開発途上にあり,確立した手法ではなかったことは明らかである。 1頁】と評価されているとおり,確率論的津波ハザード解析手法は,平成18年当時のみならず,本件事故時に おいても,国内外で研究,開発途上にあり,確立した手法ではなかったことは明らかである。 (ウ) 地震の発生地域の設定について確率論的方法は,不確定性を前提とした手法であり,津波発生域をどこに設定するか,地震の規模をどのくらいに設定するかといった判断が分か れる事項である認識論的不確定性について,ロジックツリーで場合分けした上で,主に不連続的な分岐に対してはアンケート調査によって重みを設定して確率を算出するものである。したがって,その分岐項目の一つとして,日本海溝沿いの3領域(三陸沖北部,福島県沖,房総沖)全てで発生するという項目を設定したからといって,その設定された分岐項目自体が, 確立した知見に基づくものなどとはいえない。マイアミ論文において,JTT2(福島県沖)でMw(モーメントマグニチュード)8.5の地震が起きることを分岐項目の一つとして設定したからといって,それが確立した知見に基づくものなどとはいえない。 (エ) 小括 以上のとおり,マイアミ論文で用いられた確率論的津波ハザード解析手法は,同論文が発表された平成18年当時のみならず本件事故当時においても,研究,開発途上のものであり,津波高さの予測に当たって確立した手法ではなかったこと,マイアミ論文が分岐項目の一つとして設定した地震の発生地域の設定自体が,確立した知見に基づくものとはいえないこと からすれば,マイアミ論文に基づいて,被告国が,平成18年の時点にお いて,福島第一原発で本件地震に伴う津波と同規模の津波はもとよりO. P.+10mを超える津波の到来について予見していたといえないことは明らかである。 コ安全情報検討 8年の時点にお いて,福島第一原発で本件地震に伴う津波と同規模の津波はもとよりO. P.+10mを超える津波の到来について予見していたといえないことは明らかである。 コ安全情報検討会について安全情報検討会は,国内外の情報を収集して必要な安全規制上の対応を行 うためのものであり,原告ら主張の進捗状況管理表における記載は,その後の知見の進展によっては,事業者にとらせるべき対策が明確になる場合も想定されることから,そのような場合に,対策をとるよう指示等をしないと,安全情報検討会としての不作為を問われる可能性があるという一般的事項を記載したものにすぎない。 サ被告国は平成20年試算の存在を知り得なかったこと仮に,被告国が,福島第一原発の敷地高を超える津波を予見することが可能であったのであれば,被告国に予見可能性があったと解する余地があるとしても,原告らが主張する本件事故以前の津波の知見のうち,福島第一原発の敷地高を超える津波を示唆する知見は,平成20年試算(長期評価の見解 に基づいて被告東電が津波の高さを試算したもの)だけであるところ,被告国は,本件地震の4日前である平成23年3月7日に,被告東電から平成20年試算に基づいた報告を受けるまで,福島第一原発の敷地高(O.P.+10m)を超える津波が到来するという可能性があることを示す試算結果の報告を受けたことがなかったものである。 したがって,被告国は,本件地震の4日前まで,福島第一原発に敷地高を超える津波が到来することを予見することができなかったというべきであるから,原告らの主張する平成14年,平成18年,平成21年,又は平成22年の時点では,福島第一原発に敷地高を超える津波が到来することを予見することができなかったというべきである。 うべきであるから,原告らの主張する平成14年,平成18年,平成21年,又は平成22年の時点では,福島第一原発に敷地高を超える津波が到来することを予見することができなかったというべきである。 シ長期評価の見解に基づく津波の福島第一原発に対する影響を自ら試算する又は被告東電に試算させる義務について被告国が平成20年試算について報告を受けたのが,本件地震の4日前である平成23年3月7日であるにもかかわらず,被告国が,原告らの主張する平成14年,平成18年,平成21年,又は平成22年までに,平成20 年試算と同様の試算結果を認識し得たといえるためには,長期評価の見解に基づいて福島第一原発に到来する可能性のある津波の高さを自ら試算したり,事業者に対してその試算をさせたりするといった,情報収集義務・調査義務を負っていたことが前提となる。 しかしながら,被告国は,原子炉の安全確保について二次的責任を負うに とどまる上,原子力発電設備の安全性に関する事項が高度の科学的,専門技術的判断に基づくものであることからすると,被告国に津波の到来についての情報収集義務・調査義務が生ずるためには,少なくとも,福島第一原発の敷地高(O.P.+10m)を超える津波が到来するかもしれないとの疑念が専門家の間で形成されていなければならないというべきである。ところが, 長期評価の見解は,専門家の間でもその妥当性について議論が分かれており,評価の信頼度はC(やや低い)とされ,福島沖を含めた日本海溝沿いの長大な領域で一様に明治三陸沖地震と同じ規模の津波地震が起こるとすることにはデータが少なく,理学的にもなお検討を要するものとされていた。実際,中央防災会議において,平成15年10月から平成18年1月までの間に, 原子力発電所 同じ規模の津波地震が起こるとすることにはデータが少なく,理学的にもなお検討を要するものとされていた。実際,中央防災会議において,平成15年10月から平成18年1月までの間に, 原子力発電所を含めた地震・津波防災対策の一環として,日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震についての専門技術的検討が行われ,その中で長期評価の見解を採用しないという判断まで下されたが,これと反対に,長期評価の見解を裏付ける新たな理学的知見(たとえば,福島沖に津波地震が発生する可能性を根拠づける理学的情報を含む論文等)は何ら公表されなかったのであ る。このような一連の経過に照らすと,被告国が,専門家の間でも評価が一 致していない長期評価の見解を前提に,平成14年の時点で直ちに平成20年試算と同様の津波高の試算をすべき義務があったとか,平成18年,平成20年,平成21年又は平成22年の時点において,長期評価の見解に基づいた津波高の試算をすべき義務があったなどということはできない。 そもそもこのような積極的な情報収集義務,調査義務は,いわゆる四大公 害裁判において企業の注意義務の内容として認められてきたものであるが,不法行為法上認められる企業の情報収集義務,調査義務なるものは,企業活動の中に他者の生命,身体等に対する侵害の危険性が内包されており,企業がかかる危険を支配管理しているという危険責任の法理に由来するものである。被告国は,事業者と異なり,原子力発電所が有する危険性を直接に支 配管理しているわけではないから,原子力発電所の安全性に関して,事業者と同等の情報収集義務,調査義務まで負うわけではない。 したがって,被告国が,平成23年3月7日よりも前の時点において,積極的に情報収集を行って,平成20年試算の試算結果を認識しなければなら 業者と同等の情報収集義務,調査義務まで負うわけではない。 したがって,被告国が,平成23年3月7日よりも前の時点において,積極的に情報収集を行って,平成20年試算の試算結果を認識しなければならなかったとはいえないというべきである(とはいえ,被告国は,長期評価の 見解を無視していたのではなく,後記のとおり,長期評価の見解が公表された直後の平成14年8月に,被告東電のヒアリングを行って,被告東電の長期評価の見解の取り扱いについて確認をしている。)。 ス敷地高を超える津波の予見可能性に関する結論以上のとおり,本件事故前の時点において,津波評価技術は,4省庁報告 書や7省庁手引きの策定を踏まえつつ,当時の地震学・津波学及び津波工学の知識の粋を集めて策定された知見であり,正に,「最新の科学的,技術的知見を踏まえた合理的な予測」によって福島第一原発における津波対策を考えるものとして最も合理性が認められるべきものであったことから,これに基づき福島第一原発の最大想定津波をO.P.+6.1mとして津波対策を行 っていた被告東電の津波対策は十分に合理的なものであったと認められる。 また,4省庁報告書や7省庁手引き,中央防災会議報告,溢水勉強会などの知見は,何ら本件事故の予見可能性に結びつく知見ではなく,むしろ,津波評価技術による津波対策及び被告国や被告東電の対応の正当性の裏付けとなるべき知見というべきである。 他方,原告らが予見可能性の主要論拠としている長期評価の見解や貞観津 波に関する知見の進展については,多くの理学者及び工学者が異口同音に「最新の科学的,技術的知見を踏まえた合理的な予測」によってリスクを示唆する知見ではなかった旨を述べている上に,中央防災会議においても,防災上のハード面での対策の基礎とな 学者及び工学者が異口同音に「最新の科学的,技術的知見を踏まえた合理的な予測」によってリスクを示唆する知見ではなかった旨を述べている上に,中央防災会議においても,防災上のハード面での対策の基礎となるべき知見と評価されず,この点が議論されて取り入れられることもなかったから,これらによって被告国につき本 件事故の予見可能性が基礎づけられる余地はない。 さらに,原告らが予見可能性の根拠とする明治三陸地震についての阿部論文の内容,マイアミ論文,スマトラ沖地震の発生によるマドラス原発事故の状況,安全情報検討会での検討状況も,いずれも,被告国の予見可能性を積極的に裏付けるような事情とは評価できない。 したがって,本件事故に至るまでの間,被告国において,福島第一原発の敷地高を超える津波が襲来することについての予見可能性を基礎づける事情が存在しなかったことは明らかである。 3 被告東電の主張⑴ 4省庁報告書について 4省庁報告書【甲C1の1及び2】は,既往津波だけでなく想定津波まで考慮すべきとした点では先駆的なものであったとはいえ,同報告書が示した想定津波の算定方法は,特定地点における津波高や遡上高を正確に把握することを目的とするものではなく,防災対策検討のために広範囲について津波の傾向を推考することを目的とするものであった。 そのため,4省庁報告書は,時間短縮のために計算式を簡略化した「高速演 算モデル」を採用し(「遡上計算には不適当」とされている)【甲C1の1・176頁】,わずか数種類の波源パラメータしか検討せず,津波想定の誤差修正も主として数値計算上の誤差のみを補正(増幅率1.242を乗じる)する等の点において概略的な把握をするにとどまり,直ちに原子力発電所の設計検討(特定評価地点における津波 検討せず,津波想定の誤差修正も主として数値計算上の誤差のみを補正(増幅率1.242を乗じる)する等の点において概略的な把握をするにとどまり,直ちに原子力発電所の設計検討(特定評価地点における津波評価)において用いることができるものではなか った。 ⑵ 7省庁手引き,津波災害予測マニュアル及び津波浸水予測図について前記のとおり,4省庁報告書そのものが線形方程式を用いるなど非常に粗いものであり,津波水位評価に用い得るような精度を有するものではない。 また,津波浸水予測図は,気象庁の量的津波予報(全国を66区域に分け, それぞれの区域について示される津波高さの予報)に基づく予測値を前提にしたものであり,気象庁がそのような予測値を公表することを前提としたものとなっているから,そもそもそれ以外の数値を代入することもできない。 さらに,「津波浸水予測図」は,格子間隔を100mとし(津波評価技術では5m),遡上計算において防波堤や水門等の防災施設や沿岸構造物を考慮して いないなど【甲C56・51頁】,その精緻さは後述の津波評価技術より大幅に劣るのであって,かかる津波浸水予測図に基づき敷地高を超える津波の襲来を予見し得たというには無理がある。【丙C76の1・52頁以下,同66頁以下,同74頁以下】⑶ 長期評価について 平成14年7月に,地震本部が長期評価を公表し,その中で,①三陸沖北部から房総沖の海溝寄りのプレート間大地震(津波地震)が三陸沖で1611年(慶長15年),1896年(明治29年),房総沖で1677年(延宝4年)に発生していること,②これらの地震が同じ場所で繰り返し発生しているとはいい難いため,固有地震としては扱わずに,同様の地震が三陸沖北部海溝寄り から房総沖海溝寄りにかけてどこでも発生する可能 に発生していること,②これらの地震が同じ場所で繰り返し発生しているとはいい難いため,固有地震としては扱わずに,同様の地震が三陸沖北部海溝寄り から房総沖海溝寄りにかけてどこでも発生する可能性があることとすること, ③このような大地震の発生頻度は上記①のとおり過去400年間に3回発生していることから,この領域全体では133年に1回の割合で発生すると推定すること,④ポアソン過程を適用すると,この領域全体では今後30年以内の発生確率は20%程度,今後50年以内の発生確率は30%程度と推定されることを指摘した。【丙C7】 しかしながら,かかる長期評価は,単に三陸沖北部から房総沖までの海溝寄りをまとめて,同範囲においてM8クラスの地震が発生する可能性を否定することができないとしたものにとどまり,かつ,その点についての具体的根拠が示されているものではなかった。 また,地震発生の確率についても,北側の三陸沖も南側の房総沖も含めて全 体で過去400年に3回発生しているから133年(400 年÷3=133 年)に1度発生する,特定の領域でいえば,発生する地震の断層の長さが200㎞とすると全体の領域の長さ(800㎞)の4分の1であるから,133年に1度の確率の4分の1である530年に1度の確率で(1/133 年×1/4≒1/530 年)発生するとしているにとどまるものであった。 この長期評価を公表した地震本部も,翌年3月に行った長期評価の信頼性に関する自己評価において,「評価に用いられたデータは量および質において一様ではなく,そのためにそれぞれの評価結果についても精粗があり,その信頼性には差がある」と前置きし,「三陸沖北部から房総沖の海溝寄りのプレート間大地震(津波地震)」の項目については,「発生領域」及び「発 はなく,そのためにそれぞれの評価結果についても精粗があり,その信頼性には差がある」と前置きし,「三陸沖北部から房総沖の海溝寄りのプレート間大地震(津波地震)」の項目については,「発生領域」及び「発生確率」の各 評価の信頼度をいずれも「C」(下から2番目)としていた。【丙C10・8頁】加えて,長期評価は一定の領域(問題となっているのは三陸沖北部から房総沖の海溝寄り)における地震の発生可能性であって,仮に当該領域において最大規模の地震が発生した場合に,そもそも地震が発生した場合に当該領域のうちどの地点の海底地盤がどの程度の規模で,どの方向に,どの程度のすべり量 で跳ね上がり(波源),そのため太平洋側の特定の沿岸においてどの程度の高 さの津波が襲来し,どの程度の高さの浸水高(海底及び地上の地形や津波の波長等様々な要素によって変わり得る。)になるのかについて,一切検討していない。また,長期評価は波源を一切検討していない以上,長期評価に基づき特定の領域における波源モデルを移動させることはできないし,本件津波の発生前にそのような知見も存在していなかった。 したがって,長期評価によっては,福島第一原発において津波がO.P.+10mの地盤面を大幅に超えて遡上し,建屋内に大量に浸水して全交流電源を喪失させることを予見できない。 なお,この長期評価が発生可能性を否定できないとしたのも,あくまで個別の領域における地震,それもM8クラスの地震であり,今回発生した本件地震 のようにそれぞれの領域をまたがり,かつそれぞれが連動して発生するようなM9.0,Mt(津波マグニチュード)9.1クラスの巨大地震・巨大津波を想定していたものではない。 ⑷ 津波評価技術について前記2⑶キ[❶-94 頁]の被告国の主張と同様である。 発生するようなM9.0,Mt(津波マグニチュード)9.1クラスの巨大地震・巨大津波を想定していたものではない。 ⑷ 津波評価技術について前記2⑶キ[❶-94 頁]の被告国の主張と同様である。 ⑸ 耐震バックチェックへの対応と長期評価についての検討ア保安院による耐震バックチェックの指示平成18年9月に耐震設計審査指針が改訂されると,保安院は,原子力事業者に対し原子力発電所の耐震バックチェックを指示し【乙B1】,バックチェックの基本的な考え方や具体的評価方法,確認基準を示したバックチェ ックルール【同・別添】を公表した。 この耐震バックチェックは,既設発電用原子炉施設については従来の安全審査等によって耐震安全性は十分に確保されていることを前提に,安全性に対する信頼の一層の向上を図ることを目的として指示されたものと位置付けられている。【乙B1・1頁】 バックチェックルールにおいては,津波に対する安全性の評価方法として, 津波の評価に当たって,「既往の津波の発生状況,活断層の分布状況,最新の知見等を考慮して,施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性があると想定することが適切な津波を想定し,数値シミュレーションにより評価することを基本とする」とし,その具体的な評価方法としては,前述のとおり津波評価技術と同様の手法により行うことが明記されている【丙B 1・389頁,乙B1・別添44~45頁】。津波評価技術が原子力発電所の津波評価方法として定着していたことは,この点からも裏付けられる。 被告東電は,これまで一貫してかかる津波評価技術に基づき津波対策を講じていたが,耐震バックチェックの指示時点においても,なお福島県沖海溝沿い領域に関する津波評価技術の考え方を覆すような新たな知見が判明 告東電は,これまで一貫してかかる津波評価技術に基づき津波対策を講じていたが,耐震バックチェックの指示時点においても,なお福島県沖海溝沿い領域に関する津波評価技術の考え方を覆すような新たな知見が判明し たわけではなかった。 他方で,バックチェックルールにおいては,津波評価技術と同様の方法で津波評価を行うに当たり,「最新の知見等」を考慮することが求められていたため,被告東電は,平成19年6月には福島県の「福島県沿岸津波浸水想定検討委員会」が用いた波源モデルを,翌平成20年3月には茨城県の「茨 城沿岸津波浸水想定検討委員会」が用いた波源モデルをそれぞれ入手し,福島第一原発立地点における設計想定津波の評価を実施した。 しかし,その結果はいずれもO.P.+4.1m~5m程度となり,福島第一原発の設計想定津波高を上回らないことを確認した。【甲B4の2・18頁,丙B1・395頁】 同様に,被告東電は,このバックチェックの中で,中央防災会議の日本海溝・千島海溝専門調査会が平成17年6月に公表した波源モデルに基づく津波評価も行ったが,その結果は最大でもO.P.+4.8m(福島第一原発6号機の取水ポンプ位置)となり,やはり設計想定津波高を上回るものではなかった。 以上に加えて,津波評価技術におけるパラメータスタディも考慮すれば, 福島第一原発の津波に対する安全性については,本件事故当時,十分な裕度をもって確保されていると考えられていたものである。 イ明治三陸沖地震の波源モデルを用いた津波の試計算他方,被告東電が,平成20年ころに,専門家に対して,地震本部による前記長期評価の見解をバックチェックの中でどのように取り扱うべきか意 見を求めたところ,「現時点で設計事象として扱うかどうかは難しい問題」と述 ,平成20年ころに,専門家に対して,地震本部による前記長期評価の見解をバックチェックの中でどのように取り扱うべきか意 見を求めたところ,「現時点で設計事象として扱うかどうかは難しい問題」と述べる専門家もいる一方で,「福島県沖海溝沿いで大地震が発生することは否定できない」とする意見もあり,専門家の間でも意見が定まった状況ではなかった。【甲B4の2・22~23頁】前述のとおり,福島県沖の海溝沿いでは,これまで大きな地震がなく,こ れは相対するプレートの固着(カップリング)が弱く,大きな地震を発生させるような歪みが生ずる前に「ずれ」が生じることから,大きなエネルギーが蓄積しないためとも考えられていた。 このため,福島県沖の海溝沿いの津波評価をするために必要となる波源モデルは定まっていない状況にあったが(中央防災会議においても想定モデル は定まっていなかった。),平成20年1月から4月ころに,バックチェック報告書の中でこのような長期評価の見解をどのように扱うか検討するための内部検討の一環として,福島県沿岸に最も厳しくなる明治三陸地震の波源モデルを福島県沖海溝沿い領域にそのまま用いて津波高の試みの計算を行った。 その結果,① 福島第一原発正面から遡上した津波は,1~4号機の取水ポンプ付近でO.P.+8.4~9.3m,5号機及び6号機の取水ポンプ付近でO.P.+10.2mに至るものの,敷地高までは遡上しないこと,② 敷地北側ないし南側から遡上した津波は,5号機及び6号機の各建屋 の北側敷地(建屋自体は存在しない。)でO.P.+13.7m,1~4 号機の各建屋の南側敷地(同じく建屋自体は存在しない。)でO.P.+15.7mに至るとの結果を得た。【甲B4の2・20~21頁】ただし,このよ 。)でO.P.+13.7m,1~4 号機の各建屋の南側敷地(同じく建屋自体は存在しない。)でO.P.+15.7mに至るとの結果を得た。【甲B4の2・20~21頁】ただし,このような試計算の結果については,明治三陸地震を福島県沖にそのままあてはめたものであったため,かかる結果に基づいて直ちに津波対 策を求められるような性格の計算結果ではなかったが,かかる結果も踏まえて,被告東電においては対応を検討することとしたものである。 O.P.+13.7mないし15.7mとの試算結果が出たのは,あくまで建屋の存しない敷地北側ないし南側であって,福島第一原発各号機の正面(O.P.+4mの取水ポンプ位置)に到達したと算定された津波は,いず れも主要建屋敷地まで遡上しないという結果であった。 これに対し,本件津波の遡上経路は取水ポンプ位置から全面的に敷地高まで遡上しているものであるから(遡上高の最大はO.P.+15.5mと推定されている。),仮に上記試算に基づき一定の対処をしていれば(具体的には建屋北側ないし南側からの遡上を防ぐような対処をしていれば),本件事 故を防ぐことができたということもできないのである。 (以下本頁余白) 第4 争点4(本件事故の結果回避可能性)について 1 原告らの主張⑴ 結果回避可能性が生じる時期についてア平成14年以降遅くとも平成18年までの間(主位的主張)被告東電は,平成20年4月,長期評価を踏まえ,明治三陸地震(189 6年)の波源モデルを南の福島県沖にずらし,津波評価技術を用いて,福島第一原発における津波高さを試算した。【甲C63】その結果,南側敷地でO.P.+15.707mとの試算結果が得られた。 この試算結果は,平成14年に,被告国が自ら ずらし,津波評価技術を用いて,福島第一原発における津波高さを試算した。【甲C63】その結果,南側敷地でO.P.+15.707mとの試算結果が得られた。 この試算結果は,平成14年に,被告国が自ら試算し,あるいは被告東電に試算させていた場合でも同様の結果が得られていたものであり,被告国と しては,長期評価に基づく試算結果を得ていれば,福島第一原発1~4号機の敷地を超える津波の到来を予見することができた。 これは,平成23年改正前の発電用原子力設備に関する技術基準を定める省令(昭和40年通商産業省令第62号)(以下「省令62号」という。)4条1項に定める「想定される自然現象(津波)により原子炉の安全性を損な うおそれ」がある状況であり,福島第一原発が技術基準に適合しない状況となっていることから,被告国は電気事業法40条に基づき,津波対策措置を講じるよう規制権限を行使することができた。 被告国が技術基準適合命令を行使した場合,被告東電は,平成20年試算と同様の試算結果に基づいて,電源設備の水密化,非常用D/Gの被水回避 及び燃料タンクの高台新設,防潮堤の設置等の津波対策を講じることになる。 これらの津波対策は,いずれも,裕度を考慮し,かつ,工学設計の常識から,敷地の南北・東側を問わず,津波高さO.P.+17.5mを想定し,それに耐え得るものとして設計・施工されるものであるから,本件事故の原因となった津波(タービン建屋,原子炉建屋周辺で最大O.P.+15.5 m)によっても有効であり,1~4号機のO.P.+4mの高さに設置され ている非常用海水ポンプ等が被水により機能喪失すること,O.P.+10mの高さに設置されている原子炉建屋,タービン建屋内の重要設備(とりわけ配電盤)が被水により機能喪失すること, され ている非常用海水ポンプ等が被水により機能喪失すること,O.P.+10mの高さに設置されている原子炉建屋,タービン建屋内の重要設備(とりわけ配電盤)が被水により機能喪失すること,をいずれも防ぐことができ,本件事故を回避することができたのである。【甲B8,甲B8の2(筒井・後藤意見書)】 イ平成21年9月以降平成22年3月までの間(予備的主張)前記のとおり,被告国は,平成21年9月7日ころ,被告東電から,貞観津波に関する佐竹論文に基づいて試算した波高の数値の説明を受けて,津波が福島第一原発の敷地高を超えて到来する可能性があることを認識した。被告国は,すでに平成14年において,明治三陸地震級の津波地震が福島県沖 で発生する可能性があることを認識していたのであるが,その上さらに,既往地震である貞観地震と同規模の地震が発生すれば,敷地高を超える津波が到来する危険性があることを予見したのである。 そして,さらにその半年後の平成22年3月には貞観地震と同規模の地震が発生すれば福島第一原発に敷地高を超える津波が到来する可能性がある ことについて,担当者間で連絡し合うほどに明確に認識していた。 被告国は,どんなに遅くとも,この段階においては,被告東電に対し技術基準適合命令を発することによって津波対策を命じる義務があったというべきであるが,もし,被告国が被告東電に津波対策を命じたとすれば,長期評価,及び,貞観津波に関する佐竹論文の波源モデルを踏まえた対策となる (名倉繁樹安全審査官(当時)自身,被告東電から「現状分析・検討内容一覧」なる資料【甲C42・通し29頁】を受領しているところ,その資料には,貞観津波に関する知見,及び長期評価いずれもが明確に記載されている。)。 貞観津波に関する佐竹論文の波源 状分析・検討内容一覧」なる資料【甲C42・通し29頁】を受領しているところ,その資料には,貞観津波に関する知見,及び長期評価いずれもが明確に記載されている。)。 貞観津波に関する佐竹論文の波源モデルに基づいて試算した資料が本訴 訟に証拠資料として顕出されていないので,試算結果(場所ごとの具体的な 津波高さや誤差(ばらつき)の内容等)は不明であるが,被告東電は平成20年4月に長期評価に基づく試算を行っていたのであるから【甲C63】,少なくとも,この試算結果を踏まえた上で有効な対策が行われることになることは確実である。 そうだとすると,筒井・後藤意見書記載のような津波対策が講じられるこ とになるのであり,本件事故の際に現実に到来した津波に対しても耐え得るものであったことは明らかである。 また,精緻な津波堆積物調査に基づいて,貞観地震という,過去に実際に発生したものと同規模の地震がもし再度発生すれば福島第一原発の敷地を超えて津波が到来する危険性があることを認識したのであるから,その規模 や再来周期を考えて,被告国は,被告東電に対して,早急に対策工事を進めるよう技術基準適合命令を発することができた。そうすると,被告東電は電源設備の水密化を優先して工事を実施することになったと考えられる。 いずれの対策工事にしても,被告国や被告東電がやろうと思えば1年で対策工事は完遂するのであり【甲B8】,平成21年9月ないし平成22年3 月において規制権限が行使されたとしても,本件事故は回避することができたといえるのである。 ⑵ 結果回避措置の具体的内容ア主位的主張(ア) 津波が直接敷地上に遡上することを防止する措置(防潮堤の設置) 襲来する津波が敷地に遡上しないようにするためには,予見することが可 ⑵ 結果回避措置の具体的内容ア主位的主張(ア) 津波が直接敷地上に遡上することを防止する措置(防潮堤の設置) 襲来する津波が敷地に遡上しないようにするためには,予見することが可能な津波の高さを上回る防潮堤を設置することが最も有効な手段である。 例えば,中国電力株式会社(以下「中国電力」という。)が設置する島根原子力発電所においても,本件事故を受けて,海抜15mの高さの防潮堤 を建設している。【甲C43】また,被告東電が設置する柏崎刈羽原子力発 電所でも,福島第一原発事故を受けて,防潮堤を完成させている。【甲C44】(イ) 海水ポンプ(取水路)からの遡上を防止する措置海水が敷地上に遡上するルートは,津波が防潮堤を超え,さらに敷地高(O.P.+10m)を上回って敷地上に遡上する場合と,海水ポンプ(取 水路)から敷地上に遡上するルートがある。海水ポンプエリアからの浸水を防止する方法としては,防水壁を設置する方法と,防水蓋を設置する方法がある。 (ウ) 建屋内への浸水を防止する措置建屋には,通気口,出入口扉の隙間,ケーブル・配管等の貫通部の隙間 など,浸水が考えられるルートが多数ある。敷地上に津波が到来した場合に備えて,以下のような対策を講じることができる。 a 建屋開口部の防潮壁・防潮板の設置敷地内に海水が遡上・浸水してきたとしても,建屋の通気口などの開口部に防潮壁・防潮板があることで建屋内部への浸水を回避することが できる。 実際に,被告東電の柏崎刈羽原子力発電所では,建屋開口部に防潮壁・防潮板を設置している。 b 扉部分の水密化また,建屋の外部扉を水密化することで,建屋内部への浸水を防止す ることができる。実際に,中国電力島根原子力発電所では,建屋の水密 口部に防潮壁・防潮板を設置している。 b 扉部分の水密化また,建屋の外部扉を水密化することで,建屋内部への浸水を防止す ることができる。実際に,中国電力島根原子力発電所では,建屋の水密化を行っている。【甲C48】c ケーブル・配管等の貫通部の止水処理(シーリング処理)建屋のケーブルや配管等の貫通部に関しては,ケーブルや配管等と壁の隙間を埋めるシーリング処理を行うことで,建屋への浸水を防止する ことができる。【甲C49・添付資料3-3】 (エ) 建屋内に海水が侵入したことに備える措置a 重要機器の水密化建屋内に海水が浸水してきたとしても,電源設備及び冷却設備といった原子炉の冷却を継続するために必要となる重要な設備が置かれている区画について水密扉の設置,貫通部の止水処理といった対策を採るこ とは十分可能であった。 現に,中部電力電力株式会社(以下「中部電力」という。)浜岡原子力発電所では,本件事故後,重要設備が置かれている区画について水密扉を設置している。【甲C45】また,被告東電の柏崎刈羽原子力発電所では貫通部の止水処理を行っ ている。【甲C47・3頁】b 浸水経路への堰・排水ポンプの設置建屋内に浸水したとしても,建屋内の電源盤等への浸水防止対策として,浸水経路への堰を設置することができたし,また,建屋内に浸水したとしても,これを建屋外に排水するポンプを設置することが可能であ る。これら措置を施せば建屋内の重要機器の機能喪失を回避することができた可能性がある。 東北電力の東通原子力発電所では,本件事故の後,このいずれの対策も講じている。 (オ) 配電盤等の電源設備の設置場所の高所化 本件では,非常用D/Gによって作出された電気を各冷却装置に供給する の東通原子力発電所では,本件事故の後,このいずれの対策も講じている。 (オ) 配電盤等の電源設備の設置場所の高所化 本件では,非常用D/Gによって作出された電気を各冷却装置に供給するための非常用M/C(非常用高圧配電盤)が,タービン建屋等の地下1階に配置されていたために,配電盤が被水し,これが決定的要因となって全電源喪失に至っている。 敷地高を超える津波が到来,建屋内に侵入すれば,地下1階にある配電 盤等の電源設備が被水し,全ての機能が喪失することは容易に想定できる ことである。電源確保のための配電盤等を,地上のより高い場所に設置していれば,全電源喪失を回避することができたといえる。 イ予備的主張1(空冷式非常用D/G等の移設・水密化)本件事故の際,共用プール建屋1階に設置されていた非常用D/G2台(2号機,4号機)は,地上階に設置されていたため,津波によって被水は したものの水没はせず,使用できる状態にあった。しかも,この2台は,ディーゼルエンジンの冷却方式が空冷式であったため,海岸近くにあって被水し全滅した海水ポンプの影響を受けず,稼働可能な状態であった。しかし,地下1階に設置されていた非常用配電盤が被水したため,電源供給機能を喪失し,全交流電源喪失に至った。 もし,非常用配電盤が浸水していなければ,1号機と2号機,3号機と4号機は,それぞれ電源を融通し合えるように設計されていたことから,事故は炉心損傷に至らず,軽微なもので済んだ可能性が高い。【甲B3・42~44頁】被告東電が平成20年に実施した,明治三陸地震を福島県沖にずらした津 波高さの試算結果【甲C63・15頁】によれば,共用プール建屋付近は浸水深5m程度の深さで浸水し,一方で,海側の4m盤上にある海水ポンプも 0年に実施した,明治三陸地震を福島県沖にずらした津 波高さの試算結果【甲C63・15頁】によれば,共用プール建屋付近は浸水深5m程度の深さで浸水し,一方で,海側の4m盤上にある海水ポンプも被水し,ほぼ全滅することが想定された。事故前にこのような試算結果を認識することができていれば,最小限の措置として,共用プール建屋1階の空冷式非常用D/Gと同建屋地下1階の非常用配電盤が機能喪失しないよう にこれらを高台に設置し,又は,同建屋や電源設備を水密化する措置を考えることが可能であった。1~4号機のタービン建屋内の水冷式の非常用D/G及び配電盤を高台に設置しても,それに併せて,ディーゼル発電機を冷却するための海水ポンプの被水回避措置を施さなければならないが,空冷式の非常用D/Gの場合には,これを稼働させるために,とりあえずは海水ポン プの被水回避を考えなくてよく,共用プール内の空冷式ディーゼル発電機と 配電盤を高台設置又は水密化によって守ればよいからである。 共用プール内の空冷式非常用D/G及び配電盤を高台に設置するに当たっては,既設の設備を移設するのではなく,新設する方が,現場施工の負担や時間の観点から望ましい。なお,甲B3・133頁は,あり得た現実的な対応策(設備面)として,配電盤設置場所の多様性の確保を挙げるところ, 同記載は,上記原告らの主張と同旨と考えられる。 なお,福島第一原発の敷地はO.P.+10mの高さにあるが,電源設備を高所移設する場合,その高さはO.P.+35mの高台である。建物や設備の安定性という観点からいえば,安定した地盤上に設置することが不可欠であり,想定される津波高さがO.P.+15m程度だとしても,O.P. +35mの高台に設置すべきである。甲B8の2・5頁によれば,電源 いう観点からいえば,安定した地盤上に設置することが不可欠であり,想定される津波高さがO.P.+15m程度だとしても,O.P. +35mの高台に設置すべきである。甲B8の2・5頁によれば,電源設備を高台に設置した場合,ケーブルや配管を堅固に設置することは困難なことではなく,中間に距離があるからといって決して脆弱ではないと指摘されている。 以上のとおり,部分的措置として,共用プール建屋1階の空冷式非常用D /Gと同建屋地下1階の非常用配電盤が機能喪失しないようにこれらを高台に設置し,又は,同建屋や電源設備を水密化していれば,本件事故の結果を回避することができたといえる。 ウ予備的主張2(直流電源設備の移設等)(ア) 直流電源の機能状況 本件では,1~4号機のうち,1,2及び4号機では,交流電源のみならず直流電源も喪失したのに対し,3号機の直流電源は生き残った。 1,2及び4号機の直流電源がコントロール建屋の地下1階に設置されていたのに対し,3号機だけはタービン建屋の中地下階(地下1階と1階の間)に設置されていたため,被水を免れた。【甲B4の2・添付資料7- 4】 本件事故において,モータで動く高圧注水用のポンプについては全ての交流電源が喪失し使用できなかったことから,蒸気駆動の高圧注水設備が重要となるが,具体的には,1号機のIC(非常用復水器)やHPCI(高圧注水系),2号機及び3号機のRCIC(原子炉隔離時冷却系)やHPCIが挙げられる。これらを確実に起動,制御するためには,直流電源の確 保が必要になる。【甲B4の2・330頁】1号機のICは,津波襲来前まで原子炉圧力・温度の手動制御に用いられていたが,津波襲来によって,地下1階に設置されていた直流電源が被水して機能喪失し,表 保が必要になる。【甲B4の2・330頁】1号機のICは,津波襲来前まで原子炉圧力・温度の手動制御に用いられていたが,津波襲来によって,地下1階に設置されていた直流電源が被水して機能喪失し,表示灯が消灯し,弁の開閉状態の確保も弁の操作もできない状態となった。また,ICと同様に直流で操作可能なHPCIにつ いても,制御盤の表示灯が消灯し起動不能な状態となった。この結果,原子炉水位は不明で,原子炉への注水状況を確認できない状態となった。 【甲B4の2・123頁】2号機のRCICは,津波襲来前に起動され,原子炉の水位確保に用いられていたが,津波襲来によって,地下1階に設置されていた直流電源が 被水して機能喪失し,運転は継続しているものの制御できない状態になった。また,監視計器や各種ランプも消灯し,原子炉水位やRCICによる原子炉への注水状況が確認できない状態となった。【甲B4の2・156頁,159頁】3号機は,上記のとおり,1号機及び2号機とは異なり,直流電源が中 地下階に設置されていたため,津波襲来があっても被水を免れ,直流電源は生き残った。このため,直流電源で起動できるRCICによりその流量を調整しながら,かつ,バッテリーの節約措置をとりながら冷却を継続することができた。 その後,RCICが自動停止し,原子炉水位が低下したが,HPCIが 自動起動し,原子炉水位が回復するとともに,原子炉減圧が開始され始め た。また,HPCIの後は,D/DFP(ディーゼルエンジン駆動の消火系ポンプ。「DieselDrivenFirePump」の略)により注水する旨が発電所対策本部(本件地震を受けて福島第一原発免震重要棟に設置された災害対策本部)と中央制御室で共有されていた。【甲B4の2・178頁,18 DrivenFirePump」の略)により注水する旨が発電所対策本部(本件地震を受けて福島第一原発免震重要棟に設置された災害対策本部)と中央制御室で共有されていた。【甲B4の2・178頁,182頁】 また,電源復旧のために電源車を配備したところ,4号機のP/C(低圧配電盤。パワーセンター)は使用可能な状態にあったため,電源復旧は可能な状態に至っていた。【甲B4の2・183頁】(イ) 直流電源喪失の影響福島第一原発の1~3号機が炉心損傷事故に至った直接的な原因は,1 号機では津波襲来によって早い段階で全ての冷却手段を失ったことである。 2,3号機では,津波襲来後もRCICなどの高圧注水設備が機能したことで2~3日の対応時間を確保することはできた。しかし,1号機の水素爆発等によって作業環境が悪化し,建屋周辺での活動が制約され時間を 要することになり,高圧炉心注水から安定的に冷却を継続する低圧炉心注水に移行できず,最終的に全ての冷却手段を失ってしまったのである。 【甲B4の2・325頁】1号機の水素爆発の原因は,炉心損傷により発生した水素であると考えられる。【甲B2の2・46頁以下,甲B3・110~112頁】 1号機は,全ての交流電源及び直流電源が喪失したため,フェールセーフ機能が作動し,全ての隔離弁が全閉又はそれに近い状態となったことから,ICの冷却機能はほとんど発揮されなかった可能性が高いが【甲B2の1・23頁】,上記のとおり,直流電源を喪失し,表示灯が消灯し,弁の開閉状態の確認も弁の操作もできない状態となったことにより,代替注水 措置の必要性についての判断が大幅に遅れた。 1号機において,あらかじめAM策(アクシデントマネジメント策)として定められた代替注水手段の中で 状態となったことにより,代替注水 措置の必要性についての判断が大幅に遅れた。 1号機において,あらかじめAM策(アクシデントマネジメント策)として定められた代替注水手段の中で利用可能なものとしては,電源を必要としないD/DFPを駆動源としてFP系(消火系),MUWC系(復水補給系),RHR系(残留熱除去系)(又はCS(炉心スプレイ系))を用いる代替注水が準備されており【甲B2の1・35頁,122頁,甲B3・2 1頁】,本件においては,消防車を用いたFP系注水が実施されたのであるが,上記のとおり,直流電源の喪失により,ICの機能不全の認識に至るまで時間がかかり,継続的に注水が開始することができたのは,全電源を喪失し,ICが機能不全に陥ってから14時間以上経過した後であった。 【甲B2の1・135頁】 もし,1号機において,直流電源が津波の影響を受けずに機能している状況であれば,ICやHPCIによる炉心の冷却,減圧の可否を監視計器等によって見極め,これらによる炉心冷却,減圧が困難であれば,速やかにD/DFPによる代替注水を実施し,炉心を冷却することができたはずであり(その際,原子炉圧力がD/DFPの吐出出力を上回るようであれ ば,SR弁(逃し安全弁)【甲B3・21頁,188頁~】を用いて蒸気を逃して減圧する必要があるが,SR弁は直流電源で操作可能である。),津波襲来から約1日後という極めて早い時点の水素爆発を回避し,全ての原子炉について,電源復旧がスムーズになされ,その結果,本件事故を回避し,あるいは,放射線の漏えいの程度を少量に抑え込むことができた可能 性が高い。 (ウ) 直流電源防護のためにとり得る措置前記のとおり,福島第一原発において,1,2及び4号機の直流電源は,いずれも,コン 射線の漏えいの程度を少量に抑え込むことができた可能 性が高い。 (ウ) 直流電源防護のためにとり得る措置前記のとおり,福島第一原発において,1,2及び4号機の直流電源は,いずれも,コントロール建屋地下1階に設置されていたのに対し,3号機の直流電源はタービン建屋の中地下階に設置されていた。3号機の直流電 源の設置場所は,他号機と比較して高い位置にあったために津波によって 機能喪失することを免れたのである。 被告らは,敷地高であるO.P.+10mを超える程度の津波の襲来を予見することができたのであるから,直流電源設備が建屋の地下1階に設置されていた1,2及び4号機については,直流電源が被水により機能喪失し,その結果,全電源喪失に至ることを予見することができたことは明 らかである。【甲B1・84頁参照】直流電源を喪失すると,冷却設備・機器の動作状況すら把握できなくなり,把握できたとしても操作ができなくなることからすると,直流電源を喪失するという事態は絶対に避けなければならなかった。このような事態を回避すべく,直流電源の可搬式バッテリー及び付随する電源盤を津波に よる被水を免れる高台(O.P.+35m)に配備し,さらには,長時間使用するために電源車並びに可搬式の充電器を配備すること等を当然に検討すべきであり,このような措置を講じていれば,本件事故を回避することができたというべきである。このような措置は,経済的負担が小さく,かつ,建屋等に対する構造的影響も小さく,被告東電が容易になし得る措 置である。 2 被告国の主張⑴ 結果回避可能性の判断枠組みについて規制権限の不行使が違法となる根拠は,ある時点において,予見可能な被害に応じた適切な結果回避措置(規制権限の行使)をすべきであったにも 2 被告国の主張⑴ 結果回避可能性の判断枠組みについて規制権限の不行使が違法となる根拠は,ある時点において,予見可能な被害に応じた適切な結果回避措置(規制権限の行使)をすべきであったにもかかわ らず,それを怠ったという行為規範からの逸脱という点に求められるから,結果回避可能性を考える上では,その当時適切と考えられていた結果回避措置によって結果を回避できる可能性があったのかどうかを問題とすべきである。しかも,規制権限の不行使が違法となるということは,行政庁に一定の規制権限の行使を義務付けるということであり,それによって,事業者は行使された規 制権限の内容に沿って結果回避措置を実施しなければならないことになるの であるから,事業者にそのような負担を負わせる前提として,規制権限の行使により実施される結果回避措置によって被害発生の回避が可能であることについて,客観的かつ合理的な根拠がなければならないというべきである。そうすると,ある結果回避措置に結果回避可能性があるというためには,原則として,規制権限の不行使が問題となっている時点で,当該結果回避措置をとるこ とが物理的に可能であっただけでは足りず,当時の確立した科学的・工学的知見によって,当該結果回避措置が問題となっている被害を回避できる措置として支持される,あるいは導かれる状況にあったことが必要となるというべきである。 この点,大阪泉南アスベスト最高裁判決は,既に重要な法益に重大かつ深刻 な被害が生じていたというような,結果回避措置を早急に実施しなければならないという状況にあったことなどを特に考慮して,いささか強行的ともいえる形で,結果回避可能性が認められる時期を工学的知見が確立するよりも早めたものと解されるが,他方で,「昭和33年には,局所 ばならないという状況にあったことなどを特に考慮して,いささか強行的ともいえる形で,結果回避可能性が認められる時期を工学的知見が確立するよりも早めたものと解されるが,他方で,「昭和33年には,局所排気装置の設置等に関する実用的な知識及び技術が相当程度普及して石綿工場において有効に機能する 局所排気装置を設置することが可能とな」っていたことをもって,「石綿工場に局所排気装置を設置することを義務付けるために必要な実用性のある技術的知見が存在するに至っていた」という判断もしているのであって,結果回避可能性があるというためには,少なくとも,その知見が相当程度確立していることが必要であることを前提としているものと考えられる。 また,それまでの最高裁判決もまた,結果回避の可否に当たって,単なる物理的可否だけを問題にすれば足りるという前提でないと理解すべきであり,工学的知見に基づいた具体的な措置に基づく結果回避の可否を問題にしているのは,これまで最高裁が一貫してとってきた立場というべきである。すなわち,筑豊じん肺最高裁判決においても,その結果回避につながる措置が当時の技術 水準からかなり限定されて特定されていたために,どのような結果回避措置を 想定すべきかが正面から論じられたわけではないが,少なくとも,筑豊じん肺訴訟判決では,昭和30年代において,衝撃式さく岩機の湿式型化により粉じんの発生を著しく抑制できるという工学的知見が明らかであったこと及びそれを導入する技術的知見があったことが前提となっており,当時の被害拡大のための措置として当時の工学的知見及び技術的知見によると,湿式化した衝撃 式さく岩機しか一般的に考えられないことを踏まえたものであり,当時の結果回避措置を考えるに当たって,工学的知見及び技術的知見を取 措置として当時の工学的知見及び技術的知見によると,湿式化した衝撃 式さく岩機しか一般的に考えられないことを踏まえたものであり,当時の結果回避措置を考えるに当たって,工学的知見及び技術的知見を取り入れることを所与のものとしているといえる。 このような大阪泉南アスベスト最高裁判決に至るまでの一連の最高裁判決の考え方からすれば,本件のように,いまだに被害が生じておらず,被害発生 の切迫性が高かったといえない事案においては,規制権限の不行使が問題となっている時点で,当該結果回避措置をとることが物理的に可能であることだけでなく,当時の確立した科学的・工学的知見によって,当該結果回避措置が問題となっている被害を回避できる措置として支持される,あるいは導かれる状況にあったことが必要というべきであり,このような当該結果回避措置を前提 とした結果回避の可否が論じられるべきである。 ⑵ 特定の津波に対する対策として複数の対策が存在する場合の考え方被告国は,事業者に津波対策を実施するように求めるかどうかという点だけでなく,事業者にいかなる対策を求めるのかという点についても広範な裁量を有していると考えられるから,O.P.+10mの津波に対する対策が複数存 在する場合には,被告国は,科学的,専門技術的判断として,そのうちの一つを合理的なものとして選択することが許されるのであって,直ちに複数の対策の中の特定の対策を命ずる法的義務まで生じるものではない。それを超えて,被告国が事業者に特定の津波対策を命ずる法的義務を負うことがあるとすれば,それは,他の対策ではなく,正に当該特定の対策が選択されなければなら ないといえるだけの具体的な事情が存在する場合である。もちろん,選択肢が 特定の対策に集中していくには,当該特定の津波 ,他の対策ではなく,正に当該特定の対策が選択されなければなら ないといえるだけの具体的な事情が存在する場合である。もちろん,選択肢が 特定の対策に集中していくには,当該特定の津波対策が有する負の側面,他に及ぼす影響や問題点も考慮されていることはいうまでもない。そして,原告らは,かかる事情や影響・問題点についても具体的に主張立証しなければならないのである。 ⑶ 本件事故以前において措定し得る結果回避措置について ア本件事故後に講じられた規制措置について仮に,本件事故前において,被告国に,平成20年試算で試算された津波と同程度の津波が到来することが予見できたと認められる余地があると仮定しても,本件事故以前の原子力工学の知見から導かれる結果回避措置は,防潮堤の設置であったのであるから,仮に,予見可能性が認められるのであ れば,結果回避措置としては防潮堤の設置が導かれることになるはずである。 防潮堤の設置が,非常時の際においても,現場の作業員の生命・身体に対するリスクを伴わない最も安全で確実な方法であることはいうまでもなく,このような観点からも合理的な措置といえる。 イ津波対策として主要施設を水密化することは後知恵であること (ア) 溢水勉強会の評価について平成18年6月に作成された溢水勉強会の資料【甲C97】の中では,福島第一原発の代表プラントである5号機について,敷地高さ+1mの津波が到来することを前提として,屋外の海水ポンプ設置建屋の建屋,扉,ポンプシールへの浸水可能性が調査・評価されているが,海水ポンプの電 動機は,O.P+4m盤に設置されているものであるから,この海水ポンプの電動機の水密化が検討されていることをもって,O.P.+10m盤にあるタービン建屋等も同様に水密化すると 海水ポンプの電 動機は,O.P+4m盤に設置されているものであるから,この海水ポンプの電動機の水密化が検討されていることをもって,O.P.+10m盤にあるタービン建屋等も同様に水密化するとの対策が導き出されたはずであると評価することはできない。また,海水ポンプの水密化とタービン建屋の水密化の間では,防護対象とする機器や構造物の大きさや性質,部 材,設置箇所の地下構造等に関して多くの点が異なっており,防護方法の 検討内容が大きく異なることも,上記評価ができないことの理由である。 例えば,O.P.+10m盤に現に存在する巨大な建造建築物であるタービン建屋等の水密化の場合,特に大物搬入口のような広い開口面積の扉を津波の外力に備えて水密化するなどということは,前例がなく,実物大の扉でもって実験でもしない限りその耐性を満たす強度設計と施工を実施 することができない。その上,物の出入りに供しつつも,緊急時には迅速に開閉できなければならないという機能上の要求も満たさなければならない。さらに,他の開口部やケーブル貫通部の封止にあっては,設計上浸水を想定する範囲や浸水深を特定し,大量に存在する開口部や貫通部から封止すべき箇所を過不足なく特定し,それぞれに加わる波力を計算した上, これに耐える強度で設計したシール材等を取り付ける必要があるなど,電気・機械設計上の観点からの検討を要する電動機の水密化と,全く異なる様々な観点からの技術的検討を要するものである。 このように,海水ポンプの水密化と主要建屋の水密化は,多くの点で異なっていることから,溢水勉強会において海水ポンプへの浸水可能性が調 査・評価されていたからといって,主要施設の水密化が後知恵でないと評価することはできないというべきである。 (イ) 溢水勉強会 ていることから,溢水勉強会において海水ポンプへの浸水可能性が調 査・評価されていたからといって,主要施設の水密化が後知恵でないと評価することはできないというべきである。 (イ) 溢水勉強会の中で議論された建屋内の水密扉の意味合い溢水勉強会資料【甲C97】の中には,「建物内への浸水による機器への影響範囲の把握」,「例えば,水密扉の機能の把握及び維持等の根拠,ファ ンネルが隔離された部屋と連結している場合の影響についても把握する」と記載されているが,ここでいう水密扉は,福島第一原発5号機の部屋の入口扉で,建屋内の配管破断等による内部溢水対策として設置されたものであって,津波など外部溢水対策として設置されたものではないところ,外部溢水対策としての水密化をする場合には,波力,浸水経路,浸水深, 継続時間,漂流物の衝突による影響といった事項を考慮した設計が必要不 可欠であるのに対し,内部溢水対策として水密化する場合には,これらの事項を考慮した設計が必要とならないのであり,両者には根本的差異が存在するのであるから,本件事故前から福島第一原発5号機の部屋の出入り口に水密扉が設置されていたからといって,津波対策として主要建屋の水密化をするという設計思想が後知恵でないとはいえない。 ウ原告ら主張の相当程度の安全裕度について筒井・後藤意見書(2)【甲B8の2】では,水圧の大きさについて,「安全率を3~4倍取って設計条件とするのが通常である」としているが,「水圧」や「波力」,「安全率」といった言葉の用い方が交錯しており,その内容がにわかに判然としない部分もあるし,それより以前に提出された筒井・後藤意 見書【甲B8】における,予想される津波高さの1割増し程度の安全裕度を持たせて設計するのが合理的であるか り,その内容がにわかに判然としない部分もあるし,それより以前に提出された筒井・後藤意 見書【甲B8】における,予想される津波高さの1割増し程度の安全裕度を持たせて設計するのが合理的であるから,地盤から7.5mの高さの津波による水圧に十分耐え得る設計にすべきとの主張と明らかに矛盾している。にもかかわらず,筒井氏及び後藤氏は,本件事故以前に,原子力発電所の防潮堤及び水密扉の「安全率」を3~4倍とることを裏付ける根拠を全く示して いない。 ⑷ 本件事故前の工学的知見に基づく対策を講じた場合の結果回避可能性被告東電は,長期評価の見解を前提とした想定津波に対し,試算津波で高い波高が予測される場所に防潮堤を設置してドライサイトであることを維持する対策を講じた場合のシミュレーションを行い,本訴訟においては,その結果 が書証として提出されている。【丙C121】上記津波対策が,工学的に合理性を有するものであることについては,今村教授,岡本教授及び山口教授がその意見書等で述べるとおりである。【丙C127・40頁,丙B41・14頁,丙B43・7頁】被告東電が行った前記シミュレーションのように,試算津波で高い波高が予 測される場所に防潮堤を設置してドライサイトであることを維持する対策を 講じた場合,試算津波が福島第一原発の主要建屋設置エリアに流入することを完全に阻止できることとなる。 しかしながら,試算津波が前提としている地震と本件地震とでは,地震エネルギーの大きさ,動いた断層領域の広さ,断層すべり量などが大幅に異なっていたことから,福島第一原発に襲来する津波も試算津波と本件津波とでは,津 波の規模(継続時間の違いを前提にした水量,水圧のほか浸水域や浸水域ごとの浸水深,津波の遡上方向等)も全く異なるものと ていたことから,福島第一原発に襲来する津波も試算津波と本件津波とでは,津 波の規模(継続時間の違いを前提にした水量,水圧のほか浸水域や浸水域ごとの浸水深,津波の遡上方向等)も全く異なるものとなっている。そのため,被告東電が行った前記シミュレーションのように,試算津波で高い波高が予測される場所に防潮堤を設置してドライサイトであることを維持する対策を講じた場合では,東側からO.P.+10m盤への津波の流入を防ぐことができず, 1~4号機の主要建屋付近の浸水深は,本件事故時の現実の浸水深と比べ,ほとんど変化がないことが明らかとなっている。 ⑸ 原告ら主張の措置の困難性ア水密化について原告らは,共用プール建屋や電源設備を水密化すべきであったと主張する が,M/C(高圧配電盤)は,大型の電気設備で放熱も必要となること等から,それ自体に水密性を持たせることは技術的には合理的でなく,完全に水密性能をもつM/Cが実機に配備された例は見当たらない。M/Cが設置された部屋の水密化そのものは物理的に可能であるものの,地下空間における津波の挙動解析手法は現時点でも確立していない上,その波力を適切に評価 できる算定式も存在しないことから,津波波力に耐えられる水密扉を設備することは技術的に極めて困難であった。ハッチやケーブル等の貫通部が水密化されていたとしても,内部溢水とは比較にならない程度に大きな規模で襲来した本件津波の波力に耐えられず,前記M/C等を浸水から守ることはできなかったと考えられる。そうすると,全ての配電盤の設置場所を水密化す ることには種々の困難が伴うものと考えられるから,被告国が,全ての配電 盤の設置場所を水密化するように規制権限を行使する法的義務を負うものではない。 イ電源設備の高所設 化す ることには種々の困難が伴うものと考えられるから,被告国が,全ての配電 盤の設置場所を水密化するように規制権限を行使する法的義務を負うものではない。 イ電源設備の高所設置について非常用ディーゼル発電機や配電盤などの電源設備を高台に設置する場合には,同所と建屋との間にケーブル等を敷設する必要が生じるなど,より多 くの設備が必要になるのであり,設備が増えた場合には,それらが津波によって流されるリスク,津波に先立って起きた地震による破損のリスクも生じてくるのであって,現に,本件津波では重油タンクなどの多くの設備が津波によって流されたり,地震対策として地上に設置されていた消火系配管等や変圧器防災配管等が地震・津波により損壊するなどの被害が生じている。し たがって,電源設備を高台に設置することができたとしても,津波やそれに先立つ地震によってケーブル等の設備が破損して機能を喪失したり,地震動によって敷地が破損したりして,電源の供給が維持できなかった可能性がある。 また,電源設備等,具体的には非常用ディーゼル発電機は,本件当時の耐 震設計審査指針で最高のSクラスの耐震安全性を備えることが規制上要求され,それを支持する建屋については,非常用ディーゼル発電機の耐震設計用の地震力に対して,それらの機器を支持する機能が求められていたところ,被告東電が福島第一発電所の立地地点の本来の地盤(O.P.+35m)の上部が比較的崩れやすい砂岩であるため,安定した基礎を得る目的で地盤を 掘り下げて主要地盤(O.P.+10m)を造成したことに照らすと,果たして建屋が上記規制要求を満たす耐震安全性を確保できるのか大いに疑問であり,その建屋あるいは内部に設置された非常用ディーゼル発電機等そのものが本件津波に先立つ地震 m)を造成したことに照らすと,果たして建屋が上記規制要求を満たす耐震安全性を確保できるのか大いに疑問であり,その建屋あるいは内部に設置された非常用ディーゼル発電機等そのものが本件津波に先立つ地震により破損する危険性もある。 さらに,非常用ディーゼル発電機などの電源設備を高台に設置し,これら が被水を免れたとしても,電源の供給を再開するには,再度,ケーブル等の 敷設を行う必要があるところ,津波後にケーブルを接続する作業をするとすれば,津波襲来後のがれきの散乱した敷地の状況では,道路の状況等の敷地の状況を確認してがれきを撤去して敷設経路を確保する作業なども必要となってくる。実際,福島第一発電所事故時には,地震や津波の影響で発電所構内の道路は,法面の土砂が崩れたり,ひび割れが生じたり,ガラ等の障害 物でふさがれたりして,通行不能となった場所が複数認められ,本件津波が襲来した後,構内の通行可能なルートを検討した上で,各原子炉建屋への通路が確保されたのは平成23年3月11日午後7時から翌12日未明にかけてのことであったのである。【甲B2の1・本文編124頁】他方,福島第一発電所事故においては,1号機を皮切りに平成23年3月 11日午後6時頃以降に炉心が露出し,炉心損傷に至っているものと推測されるところ,状況確認すら困難を極めた福島第一発電所事故当時の状況下で,同日午後7時以降に再度ケーブルの敷設作業等を開始したとしても,福島第一発電所事故を回避できたとは限らない。 なお,共用プール内の空冷式非常用ディーゼル発電機を高台に設置するに 当たって,これを新設する場合には設置変更許可が必要となる。 そうすると,非常用ディーゼル発電機の増設工事をするには,当該工事のみならず,その前提として,許認可に係る規定の整備 に設置するに 当たって,これを新設する場合には設置変更許可が必要となる。 そうすると,非常用ディーゼル発電機の増設工事をするには,当該工事のみならず,その前提として,許認可に係る規定の整備(技術基準規則の策定)や認可手続(設置変更,工事計画,使用前検査),地元への説明など様々な工程が必要となるのであって,当該工事の完了までに相当長期間を要する。 したがって,原告らが主張する空冷式非常用ディーゼル発電機の増設は,時間的な側面からしても,本件事故の結果回避可能性が認められない。 ウ直流電源等の高台配備について(ア) 接続の困難性福島第一原発1号機においては,平成23年3月11日午後6時頃には 既に炉心損傷が始まり,その後,燃料が溶解したと推定されている【丙B 95・3及び4頁,丙B96・Ⅳ‐40頁】から,本件事故の結果を回避するためには,津波の襲来から2~3時間という極めて短時間のうちに,代替注水が行われなければならない。 しかし,高台に配備した可搬式バッテリー等を短時間のうちに監視計器等に接続することは困難であった。したがって,可搬式バッテリー等を高 台に設置していたからといって,津波の襲来から2~3時間以内に代替注水を行うことはできなかった。 (イ) D/DFP(ディーゼルエンジン駆動の消火系ポンプ)による注水の困難性直流電源によりIC(非常用復水器)及びHPCI(高圧注水系)の動作状況を把握できたとしても,1号機においてD/DFP(ディーゼルエンジン 駆動の消火系ポンプ)による低圧注水を実施するには,D/DFPの起動と代替注水ラインの構成の双方が必要となるところ,この代替注水ラインの構成のための弁操作は,通常であれば,中央制御室で行うことができるが,全 ゚ンプ)による低圧注水を実施するには,D/DFPの起動と代替注水ラインの構成の双方が必要となるところ,この代替注水ラインの構成のための弁操作は,通常であれば,中央制御室で行うことができるが,全電源喪失の状態で,監視機器に直流バッテリーをつないだとしても,中央制御室で注水ライン構成のための弁操作ができるというわけではな いから,同ライン構成のためには手動で弁を操作する必要があり,そのために相当の時間を要したと考えられるから,D/DFPによる低圧注水も困難であった。 D/DFPによる代替注水の際,原子炉圧力がD/DFPの吐出圧力を上回るようであれば,SR弁(逃し安全弁)を用いて蒸気を逃がして減圧 する必要があるが,冷却水がまだ十分にある状態でSR弁を開く場合には,原子炉圧力が急速に低下するのに伴い,炉内の冷却水の沸騰温度が低下するため,急激に炉内の冷却水の沸騰が始まり,発生する蒸気がSR弁を通じてS/C(サプレッションチャンバー)に流れ込む結果,原子炉水位が急速に低下して,一気に炉心損傷に至るおそれがあり,結局,原子炉圧力 が低圧注水可能な程度に減圧できずにD/DFPによる低圧注水ができ ない可能性があった。 D/DFPを使用した代替注水は,ろ過水タンクの淡水を水源とするものと解されるところ,実際の事実経過においては,ろ過水タンクから各号機に向かう建屋外の配管には,複数の破断箇所があり,ろ過水タンクにつながる複数の消火栓から水が噴き出していることが確認されていたから, ろ過水タンクを水源とする低圧注水方法が有効であったとは断じ難い。 (ウ) 消防車による注水の困難性吉田昌郎福島第一原発所長(以下「吉田所長」という。)が臨機の対応として消防車による注水の検討を指示した後,各原子炉建屋への消防車の が有効であったとは断じ難い。 (ウ) 消防車による注水の困難性吉田昌郎福島第一原発所長(以下「吉田所長」という。)が臨機の対応として消防車による注水の検討を指示した後,各原子炉建屋への消防車の通路が確保されたのは,平成23年3月11日午後7時から翌12日未明に かけてのことであったから,仮に直流電源が供給できていてIC等の稼働状況を確認できていたとしても,速やかに消防車による給水が開始できたとはいえない本件事故の発生前においては,消防車を用いた海水注水策は,そもそもアクシデントマネジメント策として取り入れられていなかったのである から,これを本件事故に係る結果回避措置とすること自体が後知恵にすぎない。 したがって,消防車による注水を速やかに行うことは困難であった。 そもそも,消防車による注水の効果については,本件事故後の検討により,消防ポンプがはき出した全量が原子炉へ注水されていた可能性が低く, 消防車の代替注水による炉心冷却の効果は,現時点においても十分に解明されていないのであるから,全電源喪失後,速やかに消防車による代替注水が実施できたとしても,本件事故の発生を回避することができたとはいえない。 (エ) HPCI(高圧注水系)の利用困難性 HPCIを起動させるためには,複数の系統の弁や補助油ポンプに直流 電源を供給する必要があるところ,HPCIの設置されている原子炉建屋地下1階は,本件津波により浸水しており,1号機の炉心損傷に至る前に,HPCIに直流バッテリーを接続することは困難であったから,起動は困難であった。 仮にHPCI等により注水・減圧できたとしても,最終的には,原子炉 停止時冷却系,原子炉補機冷却系及び原子炉補機冷却海水系により崩壊熱を最終ヒートシンク(原子力 たから,起動は困難であった。 仮にHPCI等により注水・減圧できたとしても,最終的には,原子炉 停止時冷却系,原子炉補機冷却系及び原子炉補機冷却海水系により崩壊熱を最終ヒートシンク(原子力発電所の冷却設備における最終的な熱の逃し先)である海水に移行させる必要があるが,そのための海水ポンプは,本件津波による被水によって機能喪失していたから,この復旧作業を短時間で行うことなど到底不可能であった。 したがって,直流電源を用いて,高圧注水系であるHPCIを起動させて原子炉注水と減圧を行うことにより,あるいは,上記減圧を行った上で,非常用空冷式ディーゼル発電機に接続されているM/C(高圧配電盤)と低圧注水系の交流電源駆動のモータを直接接続することにより,1号機に速やかに注水することは困難であった。 ⑹ 本件事故前の状況及び許認可手続に要する時間等について本件事故前の科学的・工学的知見によって導かれる対策では,本件事故を防ぐことはできないが,さらに言えば,当該対策工事に要する時間等を踏まえると,時間的な側面からも本件事故の結果回避可能性は認められない。 すなわち,被告国(保安院)が,被告東電から平成20年試算の結果の報告 を受けたのは,本件地震の4日前である平成23年3月7日であり【甲B2の1・本文編404頁】,上記試算を根拠として規制権限を行使したとしても,4日間で対策工事を行うことなどはおよそ不可能である。 また,この点をおいて,仮に,被告東電が平成20年試算を行った時期を起点として,規制権限を行使して対策工事を行わせようとしたとしても(いうま でもなく,被告国が,被告東電の試算に先立ち,同社に代わって,明治三陸地 震の波源モデルを福島県沖に移して平成20年試算と同様の津波高さの試算をす わせようとしたとしても(いうま でもなく,被告国が,被告東電の試算に先立ち,同社に代わって,明治三陸地 震の波源モデルを福島県沖に移して平成20年試算と同様の津波高さの試算をする義務などなく,被告東電に依頼して同様の試算をする義務もないから,規制権限行使の局面において,結果回避措置の起算点が,被告東電の上記試算時点より遡る余地はないというべきである。),以下に主張するとおり,およそ対策工事の完了に至ったとは認められない。 本件事故前の時点で前記のような対策工事を行おうとした場合に要する期間について,原子力工学者として学識経験を有し,原子力発電所における総合的な安全性の構築や耐震審査を含め我が国の規制基準にも精通している岡本教授は,その意見書において,少なく見積もっても3年を大幅に上回るものであった旨述べている。【丙B42・14,15頁】 そして,これらの結果回避措置を講じるには,当該工事のみならず,その前提として,許認可に係る規定の整備(技術基準規則の策定)や認可手続(設置変更,工事計画,使用前検査),地元への説明など様々な工程が必要となるところ,この点については,保安院で原子炉の安全審査に携わってきた現職の審査官である青木氏が,津波が主要地盤に浸水してくることを前提とする津波対策 の許認可手続には,少なくとも設置変更許可申請から許可までで少なくとも約2年,工事計画の申請から認可までで約3か月が必要となる上,実際に対策が完了するまでの期間を推測するのであれば,この約2年3か月に,東電が行う実験データの取得,設備施設の設計・施工に要する期間のほか,これら所要期間を延ばすであろう種々の要因(論点の重要さや社会的影響の大きさ,指針改 訂の動向,地元了解の必要性など)が加わるので,さらに長い期間 取得,設備施設の設計・施工に要する期間のほか,これら所要期間を延ばすであろう種々の要因(論点の重要さや社会的影響の大きさ,指針改 訂の動向,地元了解の必要性など)が加わるので,さらに長い期間が必要となったと考えられる旨述べるとおりである。【丙B50・12,13頁】さらに,本件事故の教訓を踏まえて新規制基準として新たに技術基準規則が設けられるだけでも本件事故から約2年3か月を要していることや,実際には,これら以外に地元の了解を得るための期間や被告東電による対策工事の設計, 施工に要する期間等が加わることから,それらを含めると,全体として,被告 国が対策工事を行わせるために規制権限を行使したとしても,権限行使に向けた動機付けを受けた時点から被告東電による結果回避措置が完了するまでに,優に約5年を超える期間を要したと考えられる。 前記のような結果回避措置を講ずるために要する時間を検討する場合,当時の社会状況(本件津波が発生していない状況)を前提に時間的な検討をしなく てはならず,本件事故後の防潮堤等の設置時間を根拠に論じることはハインドサイトバイアス排除の観点から許されないものである。本件事故の前と後とでは,時期の違いに基づく専門的技術的知見の充実度の差異があることはもとより,検討対象となる対策工事の内容の範囲や施工期間の長短,事業者の予算額,投入される人的資源,取り巻く社会情勢等,様々な点で大きく違うのであり, 本件津波の後は,津波被害に遭った東北各地の震災復旧工事で土木関係の労働力が全国から東北に集中し,他の地域で資材や人材不足が深刻な問題となっていた中で,全国各地の原子力発電所では,数多くの労働力が集中的に動員され,各種対策工事が不眠不休で行われていたのである。また,再稼働を目指す各事業者間の競 の地域で資材や人材不足が深刻な問題となっていた中で,全国各地の原子力発電所では,数多くの労働力が集中的に動員され,各種対策工事が不眠不休で行われていたのである。また,再稼働を目指す各事業者間の競争原理も対策工事のスピードを速めた事情として挙げられる。この ように,本件津波が歴史的事実となる前と後とでは,津波対策の完了までに要する期間等が大きく異なるのは明らかであるから,本件津波後の緊急安全対策やそれに引き続く中長期的な津波対策の進捗状況から本件津波の発生前の対策に要する時間等を推測するのは避けるべきである。 したがって,本件事故前の状況下で,被告国が,長期評価の見解を前提に防 潮堤設置による対策工事をさせるべく規制権限を行使したとしても,対策工事終了までは優に5年以上を要したと認められるのであるから,平成20年試算時を起算点とした場合,時間的な側面からも本件事故についての結果回避可能性は認められない。 ⑺ まとめ 以上のとおり,仮に,被告国が,本件事故以前に,被告東電に対して,平成 20年試算と同様の試算に基づく津波に対する対策を求めたとしても,本件事故を防げなかったことは明らかである。 3 被告東電の主張長期評価の見解の公表後において,本件津波と同程度の津波はもとより,福島第一原発敷地地盤面に遡上する(浸水高O.P.+10mを超える)ような津波, 本件訴訟で原告らが主張するような予見対象津波であっても(福島第一原発1~4号機の敷地高であるO.P.+10mを超える高さの津波),襲来することを予見し得べき状況にはなかったものであるから,福島第一原発の敷地に浸水することがあり得ることを想定して,本件事故という結果を回避すべき事前の措置を講ずべき義務が生じていたとはそもそもいうことができ 予見し得べき状況にはなかったものであるから,福島第一原発の敷地に浸水することがあり得ることを想定して,本件事故という結果を回避すべき事前の措置を講ずべき義務が生じていたとはそもそもいうことができない。 また,本件事故発生以前の津波に対する安全確保の考え方は,確定論に基づくものであり,この確定論による安全確保の思想は確立され,広く受け入れられている状況にあり,また,発生確率の低い津波を考慮するための確率論的津波評価の手法は本件事故発生時点においても開発途上なものに留まっていた。このため,本件事故発生当時においては,確定論に基づいて定められた想定津波に対する安 全対策を講ずることを超えて,確定論の過程で想定されなかった津波についての安全確保措置を講ずるべきであるとは考えられていなかったものであり,確定論に基づく想定津波を超える事態を想定しての結果回避義務が法的に生じていたと解することはできない。 過失の注意義務違反の有無の判断に当たっては,本件事故後の教訓や知見を捨 象して,本件事故発生当時において広く受け入れられていた一般的・合理的な認識水準に基づいて,注意義務違反があったかどうかが判断されなければならないのであり,本件事故以前の福島第一原発立地点での津波の予見可能性に関する前記状況や津波に対する確定論に基づく安全確保の確立された考え方(確定論は現在でも安全確保の基本的な考え方である。)にかんがみても,被告東電が福島第 一原発の敷地高を超える津波が襲来し敷地への浸水があり得ることまでを想定 して,具体的な結果回避措置を採るべき法的義務を負っていたとは到底解することができない。 さらに,仮に長期評価の見解を踏まえて被告東電が平成20年に実施した試算に基づいて,これにより得られた最大津波を防ぐため な結果回避措置を採るべき法的義務を負っていたとは到底解することができない。 さらに,仮に長期評価の見解を踏まえて被告東電が平成20年に実施した試算に基づいて,これにより得られた最大津波を防ぐための措置を講じていたとしても,本件津波の規模は平成20年に被告東電が実施した試算(以下「平成20年 東電試算」という。)が示した津波よりも大きいものであったため,本件津波による福島第一原発敷地への津波の浸入を回避することはできなかったものである。 その余の諸点については,前記2の被告国の主張と同旨である。 したがって,被告東電に本件事故に関する結果回避義務違反があったとする原告らの主張にはいずれも理由がない。 (以下本頁余白) 第5 争点5(原告ら主張の具体的結果回避措置に関して被告国が規制権限を行使することができたか)について 1 原告らの主張⑴ 規制権限不行使の違法性の判断枠組みア規制権限不行使の違法性について判断した最高裁判例の判断枠組み これまでに,最高裁判所が国又は公共団体の公務員による規制権限の違法性について判断した判例は,①宅建業者訴訟最判(平成元年11月24日,民集43巻10号1169頁),②クロロキン薬害訴訟最判(平成7年6月23日,民集49巻6号1600頁),③筑豊じん肺訴訟最判(平成16年4月27日,民集58巻4号1032頁),④水俣病関西訴訟最判(平成16年1 0月15日,民集58巻7号1802頁),⑤泉南アスベスト訴訟最判(平成26年10月9日,民集68巻8号799頁)の5つである。 いずれの最判も「国又は公共団体の公務員による規制権限の不行使は,その権限を定めた法令の趣旨,目的や,その権限の性質等に照らし,具体的事情の下において,その不行使が許容される限度を の5つである。 いずれの最判も「国又は公共団体の公務員による規制権限の不行使は,その権限を定めた法令の趣旨,目的や,その権限の性質等に照らし,具体的事情の下において,その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠 くと認められるときは,その不行使により被害を受けた者との関係において,国賠法1条1項の適用上違法となるものと解するのが相当である」と規制権限不行使の違法性の一般的な判断枠組みを示しており,この判断枠組みが判例準則として確定しているといえる。 したがって,本件においても,まず,国の規制権限を定めた法令の趣旨, 目的や,その権限の性質等を明らかにした上で,具体的な事情を検討し,その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠いていると認められる場合には,国の規制権限不行使が,国賠法1条1項の適用上違法と判断されることになる。 イ規制権限等を定めた法令の趣旨,目的,その権限の性質等について (ア) 原子力基本法(平成24年改正前) 日本における原子力利用に関する基本理念等を定義する原子力基本法は,基本方針として,「原子力の研究,開発及び利用は,平和の目的に限り,安全の確保を旨として,民主的な運営の下に,自主的にこれを行なうものとし,その成果を公開し,進んで国際協力に資するものとする」と規定(同法2条)していた。 同規定においては,原子力の利用は「安全の確保を旨として」行うとされていたのであるから,国民の生命,健康及び財産の保護は同法の目的とされ,我が国における原子力政策の基本とされていたものといえる。 (イ) 炉規法(核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律)(平成24年改正前) 炉規法24条1項は,原子炉の設置許可の基準の1つとして,「原子炉の されていたものといえる。 (イ) 炉規法(核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律)(平成24年改正前) 炉規法24条1項は,原子炉の設置許可の基準の1つとして,「原子炉の運転を適確に遂行するに足りる技術的能力があること。」や,原子炉施設の位置,構造及び設備が「原子炉による災害の防止上支障がないものであること。」を求めていた(なお,平成24年改正後は,43条の3の6が発電用原子炉の設置許可基準を規定しているが,同改正前は24条1項が 発電用原子炉についても設置許可基準を規定していた。)。 また,同法35条は,原子炉設置者に対し,原子炉施設の保全,原子炉の運転等について,「主務省令(略)で定めるところにより」「保安のために必要な措置」を講ずる義務を課し,35条の義務違反がある場合には,主務大臣は,原子炉の設置者に対し,「原子炉施設の使用の停止,改造,修 理又は移転,原子炉の運転の方法の指定その他の保安のために必要な措置を命ずることができる。」(同法36条1項)と規定していた。 さらに同法37条は,原子炉設置者に対し,「主務省令で定めるところにより,保安規定(略)を定め」る義務を課す(1項)。この保安規定が「原子炉による災害の防止上十分でないと認めるときは,前項の許可をしては ならない。」(2項),「原子炉による災害の防止のために必要があると認め るときは,原子炉設置者に対し,保安規定の変更を命ずることができる。」(3項)と定めていた。 以上の炉規法の各条文の文言からも,炉規法による規制の目的・趣旨が「原子炉による災害の防止」にあることは明らかである。 また,このように炉規法が原子炉による災害の防止のために各種規制を しているのは,原子力災害の特殊性ゆえである。原子炉の安全性が 的・趣旨が「原子炉による災害の防止」にあることは明らかである。 また,このように炉規法が原子炉による災害の防止のために各種規制を しているのは,原子力災害の特殊性ゆえである。原子炉の安全性が損なわれ,一度原発事故が発生してしまえばその際に生じる被害の範囲・程度が極めて広範かつ重大なものとなり,その被害を空間的,時間的,社会的に限定することが不可能ないし著しく困難となり,広範囲かつ多数の国民の生命・健康・財産や環境に対して,極めて重大かつ不可逆的な被害をもた らす。このように,原子力発電所は,他の発電施設である火力発電所や水力発電所等とは異質かつ重大な危険性があるために,原子炉の安全を国の積極的な関与の下で確保して,万が一にも原子力発電所における事故(原発事故)が発生することを防止しようとしているのである。更に,原子力発電をエネルギー政策として国が積極的に推進してきたことを考えると, ここで国に課される原子炉の安全確保の責任は,事業者を単に監督すれば足りるといった消極的なものではなく,自ら最新の情報を入手し,その時々に必要となる措置を迅速にとることを含む極めて積極的かつ厳格なものというべきである。 伊方原発訴訟最高裁判決が,平成24年改正前の炉規法24条1項3号, 4号の趣旨について,「原子炉が原子核分裂の過程において高エネルギーを放出する装置であり,その稼働により,内部に多量の人体に有害な放射性物質を発生させるものであって,原子炉を設置しようとする者が,原子炉の設置,運転につき所定の技術能力を欠くとき,又は原子炉施設の安全性が確保されないときは,当該原子炉施設の従業員やその周辺の住民等の 生命,身体に重大な危害を及ぼし,周辺の環境を放射線によって汚染する など,深刻な災害を引きおこすおそ 設の安全性が確保されないときは,当該原子炉施設の従業員やその周辺の住民等の 生命,身体に重大な危害を及ぼし,周辺の環境を放射線によって汚染する など,深刻な災害を引きおこすおそれがあることにかんがみ,右災害が万が一にも起こらないようにするため,原子炉設置許可の段階で(中略)申請にかかる原子力施設の位置,構造及び設備の安全性につき,科学的,専門技術的見地から,十分な審査を行なわせることにあると解される」としているのも同趣旨である。 (ウ) 電気事業法(平成24年改正前)電気事業法39条1項は,「事業用電気工作物を設置する者は,事業用電気工作物を経済産業省令で定める技術基準に適合するように維持しなければならない。」とし,同条2項は,「前項の経済産業省令は,次に掲げるところによらなければならない。」とした上,その要件の1つとして,事 業用電気工作物の安全性に関して「事業用電気工作物は,人体に危害を及ぼし,又は物件に損傷を与えないようにすること。」と定めている。この「人体に危害を及ぼし,又は物件に損傷を与えないようにすること。」というのは,原子力発電所においては,炉規法24条1項の「原子炉による災害の防止上支障がないものであること」を含むものである。 以上からすれば,電気事業法39条が経済産業大臣に規制権限(技術基準を制定する権限)を与えた趣旨は,原子炉の安全を確保し,原子力発電所から万が一にも原発事故が発生しないようにするために,日々進展する原子炉の安全確保に関する各種情報に基づき,その時々での最新かつ最適の科学技術基準等に即応して安全規制の基準をつくるところにある。 そして,炉規法を受けた電気事業法の39条1項では,事業用電気工作物が経済産業省令で定める技術基準に適合するよう維持する 最適の科学技術基準等に即応して安全規制の基準をつくるところにある。 そして,炉規法を受けた電気事業法の39条1項では,事業用電気工作物が経済産業省令で定める技術基準に適合するよう維持することが求められており,電気事業法40条では,同基準に適合しない場合に,経済産業大臣が,事業用電気工作物を設置する者に対し,その技術基準に適合するように事業用電気工作物を修理し,改造し,若しくは移転し,若しくは その使用を一時停止すべきことを命じ,又はその使用を制限することがで きるとする。 また,電気事業法39条,40条には,被告国が主張するような経済産業大臣が技術基準を制定し得る範囲や技術基準適合命令を出し得る範囲(権限の範囲)を限定する文言はない。むしろ,同法39条2項1号によれば,技術基準の内容について,原子力発電所の施設を含む事業用電気工 作物が「人体に危害を及ぼし,又は物件に損傷を与えないようにすること。」を求めているのであるから,法は,基本設計ないし基本的設計方針に関する事項であろうとなかろうと関係なく,原子力発電所の施設が原発事故を起こすことによって人体に危害を及ぼす危険性が無いような技術基準の制定を求めていると解釈すべきである。 技術基準に適合していない場合に発せられる適合命令の内容の文言も,原子力発電所の施設の「修理,改造,移転,一時使用停止,使用制限」というものであり,基本設計ないし基本的設計方針に関わる事項を除外するような内容・文言ではない。むしろ「改造,移転,使用制限」という規制内容の文言からすれば基本設計ないし基本的設計方針に関わる事項につ いても技術基準適合命令を出し得ると解釈するのが自然な文理解釈である。 また,電気事業法が基本設計ないし基本的設計方針に関して規制してい らすれば基本設計ないし基本的設計方針に関わる事項につ いても技術基準適合命令を出し得ると解釈するのが自然な文理解釈である。 また,電気事業法が基本設計ないし基本的設計方針に関して規制していないと考えると,炉規法のように並行して規制している法の存在しない火力発電所や水力発電所では,基本設計を規制する法律が存在しないという 不合理を認めることになってしまうのであり,不当な解釈といわざるを得ない。 たしかに,電気事業法40条の技術基準適合命令は,典型的には,事業用電気工作物の設置若しくは変更の工事後の周囲の環境の変化若しくは事業用電気工作物の損耗等により技術基準に適合しなくなったにもかか わらずそのまま放置されている場合には,技術基準に適合するよう監督す る必要があることから,そのような場合に命令が発動されることが想定されている。 しかし,電気事業法に基づく事業用電気工作物の安全規制の目的が,公共の安全確保及び原子炉施設において万が一にも災害を起こさないことであることからすれば,同条に基づく技術基準適合命令は,知見の進展に よって原子炉の安全性を確保できない危険が認識されながら対策が何ら施されずに放置されている場合に適用を排除するものではなく,そのような場合についても,新たな知見等に基づく最新の基準に適合することを命令する制度であると解すべきである。 (エ) 省令62号(平成23年改正前) 電気事業法39条1項による委任に基づき制定されていた省令62号(「発電用原子力設備に関する技術基準を定める省令」)4条1項は,「原子炉施設並びに一次冷却材又は二次冷却材により駆動される蒸気タービン及びその附属設備が想定される自然現象(地すべり,断層,なだれ,洪水,津波,高潮,基礎地盤の不同沈下等をい 省令」)4条1項は,「原子炉施設並びに一次冷却材又は二次冷却材により駆動される蒸気タービン及びその附属設備が想定される自然現象(地すべり,断層,なだれ,洪水,津波,高潮,基礎地盤の不同沈下等をいう。ただし,地震を除く。)に より原子炉の安全性を損なうおそれがある場合は,防護措置,基礎地盤の改良その他の適切な措置を講じなければならない。」と定めていた。 ⑵ 被告国が規制権限を行使することができたことこれらの原子力基本法,炉規法,電気事業法の目的並びに電気事業法39条,40条の趣旨からすると,経済産業大臣の有する技術基準適合命令を発する規 制権限は,原子炉が,その稼働により内部に人体に有害な放射性物質を大量に発生させるので,原子炉施設の安全が確保されないときには,原子炉施設の従業員やその周辺住民等の生命,身体,健康及び財産の安全に重大な危害を及ぼし,周辺の環境を放射能によって汚染するなど,深刻な災害を引き起こすことに鑑み,基本設計について安全性が審査された上で設置許可処分が下されて稼 働が開始した原子炉施設についても,その後の時の経過によって進展した最新 の科学的知見等に照らして,技術基準への適合性を通じて安全性を審査する必要があり,審査の結果,原子炉施設が技術基準に適合しないときには技術基準適合命令を発することによって,原子炉施設の事故等がもたらす災害により直接的かつ重大な被害を受けることが想定される範囲の住民の生命,身体の安全等を保護する趣旨で,経済産業大臣に付与されたものである。 そして,この規制権限は,上記の趣旨によれば,上記周辺住民の生命,身体等の安全の確保を主要な目的として,最新の科学的知見等を踏まえて,適時にかつ適切に行使されるべき性質のものである。 これを本件において問題となる津 限は,上記の趣旨によれば,上記周辺住民の生命,身体等の安全の確保を主要な目的として,最新の科学的知見等を踏まえて,適時にかつ適切に行使されるべき性質のものである。 これを本件において問題となる津波対策についてみると,経済産業大臣は,福島第一原発の1~4号機の原子炉施設並びに一次冷却材又は二次冷却材に より駆動される蒸気タービン及びその附属設備が,津波により損傷を受けて原子炉の安全性を損なうおそれがあると認められるにも関わらず,設置者である被告東電が適切な防護措置等を講じない場合には,適時にかつ適切に技術基準適合命令を発すべき権限を有するとともに,その権限の不行使が,許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められる場合には,その不行使により 被害を受けた周辺住民等との関係で国賠法1条1項の責任を負うことになる。 ⑶ 伊方原発訴訟最高裁判決に関する被告国の主張について被告国は,伊方原発訴訟最高裁判決を引いた上で,原子炉の安全規制については段階的規制が採用されていることを理由に,経済産業大臣は,基本設計ないし基本的設計方針の安全性に関する事項について,省令62号を改正し,あ るいはこれを改正した上で技術基準適合命令を発令することにより是正する規制権限を有していなかったと主張する。 しかし,伊方原発訴訟における最高裁判所の判断は,原子炉設置許可処分の取消・無効確認という行政訴訟において,設置許可の段階において規制の対象になるのはどの範囲か,ということを判断したものであり,電気事業法に基づ く経済産業大臣の権限の範囲についての判断ではない。 同最高裁判決は,炉規法が,最初の規制である設置許可の後に,各規制処分を規定していることに着目して,設置許可の処分の際には,基本設計が規制の対象となり,後続 についての判断ではない。 同最高裁判決は,炉規法が,最初の規制である設置許可の後に,各規制処分を規定していることに着目して,設置許可の処分の際には,基本設計が規制の対象となり,後続する規制のための処分が対象とする事項は審査の対象とならないと判示したにとどまるのであり,設置許可以降その時々の安全性審査の際に,基本設計について審査権限がないと判示したものではないのである。 ⑷ 基本設計ないし基本的設計方針の意義について被告国のいう「基本設計」又は「基本設計ないし基本的設計方針」という用語は,そもそも法令用語ではなく,工学的分野における設計において用いられる概念を原子炉の安全確保対策とその運用の体系のなかに持ち込んで使用している用語である。したがって,何が「基本設計」なのか,あるいは,何が「基 本設計ないし基本的設計方針」なのか,ということ自体が法令解釈上,一義的に明確にされているものではない。 被告東電を含む,原子炉設置許可処分によって詳細設計に係る工事方法認可申請をなし得る地位を付与された事業者は,数回あるいは十数回に分けて工事方法認可申請を行う。これは原子炉の建設運転を目的とした一連の手続過程の 一環であり,技術的要素が極めて強いものである。その中でどこからどこまでが「基本設計ないし基本的設計方針」であって,どこからどこまでが「詳細設計」なのかを明確に区別することなどできない。 したがって,詳細設計ないし後段規制(原子炉施設設計の方法及び工事の方法の認可や,施設定期検査の段階における規制の局面。以下「後段規制」とい う。)については,技術基準適合命令による規制権限を及ぼすことができるが,基本設計ないし基本的設計方針の安全性に関する問題については技術基準適合命令による規制権限を及ぼすことがで 規制」とい う。)については,技術基準適合命令による規制権限を及ぼすことができるが,基本設計ないし基本的設計方針の安全性に関する問題については技術基準適合命令による規制権限を及ぼすことができない,という国の主張は,規制権限の及ぶ範囲(技術基準省令を制定し得る範囲及び技術基準適合命令を出せる範囲)が不明確になり,本来ならば省令を制定ができる事項,出すべき事項,あ るいは,技術基準適合命令が出せる事項,出すべき事項について,規制権限が ないので何もできないという事態を招きかねず,原子炉の安全確保という炉規法の趣旨・目的を達成し得なくするものであって,失当である。 なお,後記のとおり,基本設計ないし基本的設計方針の安全性に関わる問題は,技術基準適合命令では是正できないという前提に立ったとしても,原告らが主張する具体的結果回避措置は,基本設計ないし基本的設計方針の安全性に 関わる問題ではなく,技術基準適合命令により,それらの措置を命じることが可能であるが,そのように,原告らが主張する具体的な津波対策に係る結果回避措置が基本設計ないし基本的設計方針の変更を要するものか否かについて,被告国と原告らで解釈が分かれるのは,結局のところ,上記のとおり「基本設計ないし基本的設計方針」の範囲が法令解釈上,一義的に明確にならないため である。 そうすると,規制権限が及ぶ範囲について,「基本設計ないし基本的設計方針」という法令解釈上,範囲が一義的に明確にならない工学的分野における概念によって画されるという主張は失当と言わざるを得ない。 2 被告国の主張 原告らが技術基準に定めるべき内容として主張する事項が,本件地震に伴う津波と同程度の津波又は福島第一原発の建屋の敷地高さを前提にした津波の到来に対する対策を講じる い。 2 被告国の主張 原告らが技術基準に定めるべき内容として主張する事項が,本件地震に伴う津波と同程度の津波又は福島第一原発の建屋の敷地高さを前提にした津波の到来に対する対策を講じることを求めるというものであるとすれば,それらの事項は,いずれも基本設計ないし基本的設計方針の変更を要するものであり,詳細設計の変更ではない。段階的な安全規制の仕組みを前提とする炉規法及び電気事業法に おいて,経済産業大臣は,基本設計ないし基本的設計方針の安全性に関する事項について,省令62号を改正し,あるいはこれを改正した上で技術基準適合命令を発令することにより是正する規制権限を有していなかった。すなわち,設置許可処分において,安全性が確認された基本設計ないし基本的設計方針を前提として,その詳細設計について規制すべき省令62号の改正や,これを改正した上で の電気事業法40条に基づく技術基準適合命令により上記事項を是正すること は,できなかったといわざるを得ず,原告らの主張は,その前提において失当である。 ⑴ 炉規法の段階的規制の仕組み実用発電用原子炉施設に関する炉規法及び電気事業法による安全規制は,原子炉施設の設計から運転に至るまでの過程を段階的に区分し,それぞれの段階 に応じて,原子炉施設の設置,変更の許可(炉規法23条ないし26条),設置工事の計画の認可(電気事業法47条),使用前検査(同法49条),保安規定の認可及び保安検査(炉規法37条),定期検査(電気事業法54条),定期安全管理検査(同法55条),立入検査(同法107条1項)等の各規制を設けている。 すなわち,炉規法における安全規制は,原子炉施設の設計から運転に至る過程までを段階的に区分し,それぞれの段階に対応して,一連の許認可等の規制手 同法107条1項)等の各規制を設けている。 すなわち,炉規法における安全規制は,原子炉施設の設計から運転に至る過程までを段階的に区分し,それぞれの段階に対応して,一連の許認可等の規制手続を介在させ,これらを通じて原子炉の利用に係る安全の確保を図るという,段階的安全規制の体系が採られている。 原子炉の設置許可に係る安全審査は,前述した段階的安全規制の冒頭に位置 づけられており,基本設計ないし基本的設計方針の妥当性を審査,判断するものであり,これに続く原子炉施設の細部にわたる具体的な設計や原子炉施設の建設,工事の前提となる基本的事項を確定する機能を有するものである。 この設置許可処分時における安全審査の段階で,原子炉施設の基本設計及び基本的設計方針の妥当性が認められた場合は,その後の安全規制の段階では, 基本設計及び基本的設計方針が妥当であることを前提に,これを土台として策定された詳細設計の妥当性や安全性が審査された上で,工事計画の認可を経て,この認可に係る詳細設計に従って実際の原子炉施設の建設,工事が行われることになる。また,原子炉の建設工事が終了しても,詳細設計に照らして行われる使用前検査に合格し,保安規定の認可を受けた後でなければ,原子炉の運転 を開始することはできない。さらに,原子炉の運転開始後においても,施工さ れた具体的な部材,設備,機器等の強度,機能に問題がないかどうか,あるいは,運転・保安体制が適切であるかどうか等が保安検査,定期検査,定期安全管理検査及び立入検査において確認される仕組みとなっている。 このように,実用発電用原子炉に関する炉規法及び電気事業法による安全規制は,設置許可処分に当たっての安全審査により,その土台となる基本設計及 び基本的設計方針の妥当性が審査され, なっている。 このように,実用発電用原子炉に関する炉規法及び電気事業法による安全規制は,設置許可処分に当たっての安全審査により,その土台となる基本設計及 び基本的設計方針の妥当性が審査され,これに続く後段規制では,基本設計及び基本的設計方針が妥当であることを前提として,詳細設計の安全性に問題がないか否か,更には具体的な部材,設備,機器等の強度,機能の確保が図られているか否かといったより細緻な事項へと段階を踏んで審査がされる方法が採用されているのである。そして,この段階的な安全規制の下においては,基 本設計ないし基本的設計方針は,後段規制に対し,基本的な枠組みを与えるものとして機能するものである。 この点に関し,最高裁平成4年判決も,原子炉設置許可処分の取消訴訟において,炉規法第4章所定の原子炉の設置,運転等に関する規制及び電気事業法による規制を概観した上で,「原子炉の設置の許可の段階においては,専ら当 該原子炉の基本設計のみが規制の対象となるのであって,後続の設計及び工事方法の認可(27条〔炉規法27条〕)の段階で規制の対象とされる当該原子炉の具体的な詳細設計及び工事の方法は規制の対象とはならないものと解すべきである。右にみた規制法(炉規法)の規制の構造に照らすと,原子炉設置の許可の段階の安全審査においては,当該原子炉施設の安全性にかかわる事項の すべてをその対象とするものではなく,その基本設計の安全性にかかわる事項のみをその対象とするものと解するのが相当である。」と判示している(高速増殖炉もんじゅの設置許可処分の無効確認訴訟の最高裁平成17年5月30日第一小法廷判決・民集59巻4号671頁も,最高裁平成4年判決と同様に,段階的安全規制を前提とした判示をしている。)。 ⑵ 段階的安全規制における技術 効確認訴訟の最高裁平成17年5月30日第一小法廷判決・民集59巻4号671頁も,最高裁平成4年判決と同様に,段階的安全規制を前提とした判示をしている。)。 ⑵ 段階的安全規制における技術基準適合命令 ア段階的安全規制における技術基準の位置づけ実用発電用原子炉について,電気事業者は,電気事業法39条に基づき,実用発電用原子炉施設に係る事業用電気工作物につき技術基準適合維持義務を負い,原子力規制委員会等は,電気事業法40条に基づき,事業用電気工作物が技術基準に適合していないと認めるときは,実用発電用原子炉施設 の一時使用停止命令を含む技術基準適合命令を発令することができる。 前記の技術基準は,基本設計ないし基本的設計方針の妥当性が原子炉設置許可の段階で確認されていることを前提に,これを踏まえた詳細設計に基づき,工事がされ,使用に供される事業用電気工作物の具体の部材,設備等の技術基準として省令62号により定められているものであり,工事計画認可 (電気事業法47条3項1号),使用前検査(同法49条1項,2項)等の規制の基準とされるものである。すなわち,電気事業法47条3項は,「主務大臣は,前二項の認可(工事計画認可及び工事計画変更認可)の申請に係る工事の計画が次の各号のいずれにも適合していると認めるときは,前二項の認可をしなければならない。一その事業用電気工作物が第39条第1項の主 務省令で定める技術基準に適合しないものでないこと。」と規定し,事業用電気工作物の技術基準適合性を工事計画認可の要件の一つとして定めている。また,同法49条2項は,「前項(使用前検査)の検査においては,その事業用電気工作物が次の各号のいずれにも適合しているときは,合格とする。 一(略)二第39条第1項の主務省令で定め して定めている。また,同法49条2項は,「前項(使用前検査)の検査においては,その事業用電気工作物が次の各号のいずれにも適合しているときは,合格とする。 一(略)二第39条第1項の主務省令で定める技術基準に適合しないもの でないこと。」と規定し,同じく技術基準適合性を使用前検査に合格するための要件の一つとして定めている。 また,原子炉施設に利用された部材,設備等の経年劣化や磨耗等により当該原子炉施設の機能や安全性が損なわれない状態を維持するため,電気事業法39条は,電気事業者に対し,技術基準維持義務を課しており,定期検査 及び立入検査において,それらの部材,設備等の技術基準適合性の有無が確 認されることになる。 このように,後段規制の段階では,技術基準が,事業用電気工作物としての原子炉施設の工事計画認可から運転開始後に至るまでの全段階にわたり,当該原子炉施設の具体の部材,設備等の安全性を確保するための基準として位置づけられ,機能しているのである。 イ技術基準適合命令の対象電気事業法40条は,同法39条1項が「事業用電気工作物を設置する者は,事業用電気工作物を主務省令で定める技術基準に適合するように維持しなければならない。」と規定していることを受け,「主務大臣は,事業用電気工作物が前条第1項の主務省令で定める技術基準に適合していないと認め るときは,事業用電気工作物を設置する者に対し,その技術基準に適合するように事業用電気工作物を修理し,改造し,若しくは移転し,若しくはその使用を一時停止すべきことを命じ,又はその使用を制限することができる。」と規定している。この文理に照らせば,同法40条が事業用電気工作物が技術基準に適合していないと認められる場合に,これを技術基準に適合させる た とを命じ,又はその使用を制限することができる。」と規定している。この文理に照らせば,同法40条が事業用電気工作物が技術基準に適合していないと認められる場合に,これを技術基準に適合させる ための措置を命ずることを規定した趣旨であることは明らかである。同条はもとより電気事業法のその他の規定を見ても,原子炉施設の基本設計ないし基本的設計方針が炉規法24条1項4号の設置許可の基準に適合しないことが明らかになった場合に,技術基準適合命令を発して当該基本設計ないし基本的設計方針の是正を命ずることができると解し得るような規定は存在 しない。 このように,本件事故当時の法令上,技術基準は,飽くまで後段規制において,事業用電気工作物の具体の部材,機器等の機能や安全性等を維持するための基準として位置づけられているものであり,技術基準適合命令は,後段規制により原子炉施設の安全確保を図る方策として,この技術基準の不適 合を是正するものとしてのみ規定されていたのである。 ⑶ 基本設計ないし基本的設計方針の安全性に関わる問題についての規制権限の有無以上の検討によれば,炉規法及び電気事業法は,後段規制においては,設置許可処分の際の安全審査において基本設計ないし基本的設計方針の妥当性が確認されていることを前提に,電気事業者に対し,事業用電気工作物としての 具体の部材,機材等の性能,機能等の技術基準維持義務を課すとともに,技術基準適合性が維持されていない場合には,必要に応じて技術基準適合命令を発することによってこれを是正する仕組みを採用しているものである。基本設計ないし基本的設計方針の安全性は後段規制の前提であって,これに関わる問題については後段規制の対象となり得ず,事後的に問題が生じた場合であっても, それについて 採用しているものである。基本設計ないし基本的設計方針の安全性は後段規制の前提であって,これに関わる問題については後段規制の対象となり得ず,事後的に問題が生じた場合であっても, それについて後段規制としての技術基準適合命令によって是正する仕組みは採られていないのである。 したがって,仮に,既存の原子炉施設において基本設計ないし基本的設計方針の安全性に関わる事項に問題が生じた場合には,この問題を省令62号の改正や技術基準適合命令により是正する余地はない。この問題により既存の原子 炉施設が原子炉設置許可の要件を欠くような事態となれば,経済産業大臣は,事業者に対し設置変更許可処分の申請を促す行政指導を行い,当該申請があればこれを許可するか否かを判断し,あるいは容易に想定し難いことではあるが,これに応じて申請しない場合には設置許可処分の取消しにより是正し得るほかないのである。 ⑷ 原告ら主張の各措置の基本設計ないし基本的設計方針への該当性原告らが講じるべきとする各措置については,次のとおり,いずれも,基本設計ないし基本的設計方針に関わる事項であることが明らかである。 ア防潮堤の設置,海水ポンプエリアについて防水壁・防水蓋の設置についてまず,防潮堤の設置,海水ポンプエリアについて防水壁・防水蓋の設置に ついて,原告らが,「予見することが可能な津波の高さを上回る防潮堤」の設 置を求めていることからすると,本件地震に伴う津波(O.P.+約11. 5~約15.5m)と同程度の津波又は福島第一原発の建屋の敷地高さを前提にした津波(O.P.+10m)の到来により津波が原子炉の敷地に遡上することを未然に防止し得る対策を講じることを求めているものと解される。そうすると,当該措置は,安全審査において,原子炉施設の基 提にした津波(O.P.+10m)の到来により津波が原子炉の敷地に遡上することを未然に防止し得る対策を講じることを求めているものと解される。そうすると,当該措置は,安全審査において,原子炉施設の基本設計な いし基本的設計方針について確認すべき事項の一つである,自然的立地条件との関係をも含めた事故防止対策を根本的に変更することになるため,基本設計ないし基本的設計方針に係る措置となる。そのため,設置許可処分において安全性が確認された基本設計ないし基本的設計方針を前提として,その詳細設計について規制すべき省令62号について,これを改正することによ り,あるいは,これを改正した上で電気事業法40条に基づく技術基準適合命令により,これを是正することはできなかったものである。 イ建屋開口部への防潮壁・防潮板の設置,建屋の外部扉の水密化,建屋の配管等の貫通部のシーリング処理,重要機器の水密化,浸水経路への堰・排水ポンプの設置,配電盤等の電源設備の設置場所の高所化について 建屋開口部への防潮壁・防潮板の設置,建屋の外部扉の水密化,建屋の配管等の貫通部のシーリング処理,重要機器の水密化,浸水経路への堰・排水ポンプの設置,配電盤等の電源設備の設置場所の高所化について見ても,福島第一原発についていえば,いずれも同発電所の建屋の敷地高さを超えて津波が到来することを前提とした措置であり,自然的立地条件との関係をも含 めた事故防止対策を根本的に変更することになる。そのため,当該措置は,上記アと同様に,基本設計ないし基本的設計方針に関わる事項であるから,設置許可処分において,安全性が確認された基本設計ないし基本的設計方針を前提として,その詳細設計について規制すべき省令62号について,これを改正することにより,あるいは,これを改正した であるから,設置許可処分において,安全性が確認された基本設計ないし基本的設計方針を前提として,その詳細設計について規制すべき省令62号について,これを改正することにより,あるいは,これを改正した上で電気事業法40条に 基づく技術基準適合命令を発令することにより,これを是正することはでき なかったものである。 ウ帰結したがって,本件において,省令62号の改正や技術基準適合命令により規制しなかったことの違法を主張する原告らの主張は,基本設計における安全審査の対象事項と後段規制におけるそれとを混同したものといわざるを 得ず,失当である。 ⑸ 省令62号と外部事象との関係原子炉施設に対する安全規制においては分野別,段階的安全規制の体系が採られており,平常運転時における被ばく低減対策及び自然的立地条件との関係も含めた事故防止対策を適切に講じていることを確認することにより, 設置等許可処分の申請があった原子炉施設の位置,構造及び設備が,その基本設計ないし基本的設計方針において,原子炉等による災害の防止上支障がないものであることがまず確認される。その上で,こうした基本設計ないし基本的設計方針の妥当性が認められたことを前提に,その後の安全規制の段階では,これを土台として申請された詳細設計の妥当性や安全性が審査され, 設置許可処分において確認された事項が具体的な形となり,安全性が確保されているかが確認されることとなる。原子力安全委員会が策定する指針類及び省令62号も上記のような体系にのっとって規定されているものであり,これらにおいては津波を含む外部事象と内部事象とは,分けて規定されている。外部事象については,共通要因故障(二つ以上の系統又は機器に同時に 作用する要因によって生じる故障)の原因となる あり,これらにおいては津波を含む外部事象と内部事象とは,分けて規定されている。外部事象については,共通要因故障(二つ以上の系統又は機器に同時に 作用する要因によって生じる故障)の原因となることが必然であると予見される自然現象も含めた設計上の考慮を要求し,予見される自然現象によって安全上の重要度の特に高い安全機能を失うことを防止している。他方,内部事象については,まず,基本設計ないし基本的設計方針において,安全設計審査指針の求める事故防止対策に関する設計上の考慮が行われていること を確認し,続いて,この基本設計ないし基本的設計方針が妥当であることを 確認するために,設計基準事象(原子炉施設を異常な状態に導く可能性のある事象であり,安全設計の評価に当たり考慮すべきとされる内部事象)を想定し,さらに,単一故障を仮定して事故解析評価を行うことにより,安全性が確保されていることを確認し,事故防止対策の妥当性を確認している。このような安全確保体系及び単一故障の仮定の考え方の合理性は,従来の裁判 例においても肯定され,新規制基準の下でも維持されている。 本件事故当時の省令62号4条は,上記のような考え方の下,津波を含む外部事象について,基本設計ないし基本的設計方針が示した事故防止対策の実現可能性を確保するために詳細設計上の要求を規定したものである。 そうすると,福島第一原発の建屋の敷地高さを超えて津波が到来すること を前提に事故防止対策の妥当性を考える場合には,省令62号4条は問題とならず,もとより同省令の内部事象に係る条項も適用されないのであるから,同省令を改正することにより,あるいは,これを改正した上で電気事業法40条に基づく技術基準適合命令を発令することにより,これを是正することはできなかったものである る条項も適用されないのであるから,同省令を改正することにより,あるいは,これを改正した上で電気事業法40条に基づく技術基準適合命令を発令することにより,これを是正することはできなかったものである。 ⑹ 改正後の炉規法についてア改正後の炉規法の規定平成24年改正後の炉規法43条の3の23は,発電用原子炉施設の使用の停止,改造,修理又は移転,発電用原子炉の運転の方法の指定その他保安のために必要な措置(以下,同規定に定める上記の保安のために必要な措置 を併せて「使用停止等処分」という。)を行い得る場合として,「発電用原子炉施設が第43条の3の14の技術上の基準に適合していないと認めるとき」に加え,「発電用原子炉施設の位置,構造若しくは設備が第43条の3の6第1項第4号の基準に適合していないと認めるとき」を規定した。これにより,発電用原子炉施設の位置,構造及び設備が核燃料物質若しくは核燃料 物質によって汚染された物又は発電用原子炉による災害の防止上支障がな いものとして原子力規制委員会規則で定める基準に適合しないと認める場合,すなわち,基本設計ないし基本的設計方針に関わる事項であっても,使用停止等処分をなし得ることを明文で規定した。 イ平成24年改正後の炉規法43条の3の23について上記のとおり,平成24年改正後の炉規法43条の3の23は,使用停止 等処分を行い得る場合として,平成24年改正前の電気事業法40条と同様の「発電用原子炉施設が第43条の3の14の技術上の基準に適合していないと認めるとき」に加え,「発電用原子炉施設の位置,構造若しくは設備が第43条の3の6第1項第4号の基準に適合していないと認めるとき」を規定している。この規定は,「最新の知見を規制の基準に取り入れ,既に許可を得 き」に加え,「発電用原子炉施設の位置,構造若しくは設備が第43条の3の6第1項第4号の基準に適合していないと認めるとき」を規定している。この規定は,「最新の知見を規制の基準に取り入れ,既に許可を得 た施設に対しても新基準への適合を義務づける制度」を新たに創設したものであるとされている(丙B24・4枚目)。すなわち,同法43条の3の23は,発電用原子炉施設が技術基準に適合しない場合に加え,最新の科学技術的知見を反映した設置許可要件として原子力規制委員会規則で定める基準である「発電用原子炉施設の位置,構造及び設備が核燃料物質若しくは核燃 料物質によつて汚染された物又は発電用原子炉による災害の防止上支障がないものとして原子力規制委員会規則で定める基準」を使用停止等処分の基準としても位置づけ,これに適合しないと認められる場合には,使用停止等処分をなし得ることを明文で規定したものである。したがって,この改正により,基本設計ないし基本的設計方針の是正を図ることが可能となったので ある。 ウ平成24年改正前の電気事業法40条の解釈についてこのように,平成24年改正後の炉規法43条の3の23は,使用停止等処分の要件として,技術基準に適合しない場合に加え,新たに設置許可処分の基準に適合しない場合を明記した。このことに照らせば,前者の場合のみ を技術基準適合命令の要件と定める平成24年改正前の電気事業法40条 に基づいて,設置許可処分の要件充足性につき,技術基準適合命令を発することができなかったとの解釈は,文言解釈としても,趣旨解釈としても相当である。したがって,平成24年改正前の電気事業法40条について,設置許可処分の要件を充足しないことが判明した場合についても同条に基づいて技術基準適合命令を発してそれを是 ても,趣旨解釈としても相当である。したがって,平成24年改正前の電気事業法40条について,設置許可処分の要件を充足しないことが判明した場合についても同条に基づいて技術基準適合命令を発してそれを是正することができるという解釈をす ることは,相当とはいえないことが明らかである。 ⑺ まとめ以上のとおり,平成24年の炉規法改正前は,法令上,経済産業大臣は,基本設計ないし基本的設計方針の安全性に関する事項について,省令62号を改正し,これを改正した上で技術基準適合命令を発令することにより是正する規 制権限を有していなかったから,上記事項について技術基準適合命令等の規制権限を行使しなかったことの違法をいう原告らの主張は失当である。 (以下本頁余白) 第6 争点6(被告国が規制権限を行使できたとして,その規制権限不行使が国賠法1条1項の適用上違法となるか否か)について 1 原告らの主張⑴ 原子力発電事業の特殊性そもそも,原子力発電を行うに際しては,必ず放射線が発生するが,放射線 が人体に深刻な悪影響を及ぼすことが,原子力発電が実用化される遙かに前から既に明確になっていたこと,及び,被告国は,昭和30年に原子力基本法を制定し,翌昭和31年以降,概ね5年ごとに,「原子力の研究,開発及び利用に関する長期計画(原子力開発利用長期計画」)」を策定するなどして,国策として積極的に原子力発電事業を推進してきた点で,原子力発電事業と他の一般的 な事業は全く異なる。 ア原子力発電事業の悪影響に対する事業開始前の認識(ア) 放射線が人体に深刻な悪影響を及ぼすことの認識まず,放射線が人体に深刻な悪影響を及ぼすことは,1915年(大正4年)にイギリスにおいて「X線技術者の防護に関する勧告」が発 業開始前の認識(ア) 放射線が人体に深刻な悪影響を及ぼすことの認識まず,放射線が人体に深刻な悪影響を及ぼすことは,1915年(大正4年)にイギリスにおいて「X線技術者の防護に関する勧告」が発表され, 1925年(大正14年)には,第1回国際放射線会議が開催され,1950年(昭和25年)には,国際放射線防護委員会が設立されるなど,遅くとも昭和30年以前には明らかになっていた。 また,我が国においては,広島・長崎への原爆投下(昭和20年)や,第5福竜丸事件(昭和29年)の悲惨な被爆体験によって,放射線が人の 生死に関わるほど,人体へ深刻な悪影響を及ぼすことは,国民にも広く認識されていた。 昭和30年に原子力基本法が制定され,原子力発電が実用化に向けて研究が開始される時点において,既に放射線が人の生死に関わるほどの深刻な悪影響を人体に及ぼすことは,広く認識されていたのである。 (イ) 他の一般的な事業と,原子力発電事業の差異 他方,他の一般的な事業においては,その事業の開始の時点において,人の生死に関わるほど人体に深刻な悪影響を及ぼす廃棄物・副産物等が発生することが既に明らかになっている事業など存在しない。 例えば,熊本水俣病の事例においては,チッソ株式会社が戦後,水俣工場でアセトアルデヒドの製造を再開したのは昭和21年であったが,水俣 病の公式発見は昭和31年であり,昭和32年以降も多数の患者が発生したので,保健所・医学部・厚生省などが原因の究明に当たった。原因物質がある種の有機水銀化合物であり,その排出源がアセトアルデヒド製造施設であることをようやく認識し得たのは昭和34年12月頃であった。 また,泉南アスベスト訴訟で問題となった石綿も,古くから紡織品等に 広く使用されており,大 その排出源がアセトアルデヒド製造施設であることをようやく認識し得たのは昭和34年12月頃であった。 また,泉南アスベスト訴訟で問題となった石綿も,古くから紡織品等に 広く使用されており,大阪府南部の泉南地域においては,戦前(昭和20年以前)から,原料石綿から石綿糸・石綿布などをつくる石綿紡織品の製造工場が多数存在したが,工場が設立された当時は,石綿粉じんが人体へ深刻な悪影響を及ぼすことは認識されておらず,石綿肺の医学的知見が確立したのは,昭和33年3月頃のことであった。 このように,結果的に深刻な公害事件を引き起こしてしまった事業であっても,その事業が開始された当初においては,人体へ深刻な悪影響を及ぼす廃棄物・副産物等が発生することは認識されていなかったのである。 他方,原子力発電事業は,上記のとおり,それが実用化されるようになり始めた昭和30年以前の段階で,既に,原子力発電に伴って必ず発生す る放射線は,人体へ深刻な悪影響を及ぼすことが一般国民にまで,広く認識されていた。 イ原子力発電事業は,国が率先してその導入・拡大を図ってきた国策事業であることさらに,原子力発電事業は,被告東電を含む電力事業者が専ら自主的に営 業してきた事業ではなく,被告国が率先して,その導入・拡大を図ってきた 国策事業であった。 具体的には,昭和30年に原子力基本法を制定後,昭和31年から,おおむね5年ごとに原子力の研究,開発及び利用に関する長期計画を策定し,積極的に原子力発電事業の導入を図ってきた。 昭和36年以降,累次の長期計画が策定されているが,いずれの長期計画 においても,国の政策として,原子力発電事業を積極的に推進していくこと,そして,原子力施設の安全確保についても被告国自身が積極的に関与してい ,累次の長期計画が策定されているが,いずれの長期計画 においても,国の政策として,原子力発電事業を積極的に推進していくこと,そして,原子力施設の安全確保についても被告国自身が積極的に関与していくことが記載されており,被告国は,当初から明確な国家政策のもとに,政府の事業として原子力発電事業の体制を構築し,その推進を図ってきたのである。 ウ原子力発電事業の異質かつ重大な危険性核エネルギーを利用した原子力発電には,以下に述べるとおり,他の発電技術(火力発電・水力発電等)とは全く異なる「異質かつ重大」な危険性がある。 第一に,原子力発電施設において事故が発生し,大量の放射性物質が施設 に放出され,あるいは強烈な放射線が施設外に漏れ出すと,もはやそれをコントロールする手段は存在せず,その被害が,空間的にどこまでも広がり,非常に多数の国民に重大な被害が生じる危険があるということである。 第二に,事故の被害が,時間的にも将来にわたって危害をおよぼすということである。 すなわち,放射線による健康被害には,急性障害とともに晩発性障害があり,放射線被曝は,高線量の被曝はもちろんのこと,たとえ低線量であっても,将来,発がんなどの晩発性障害がおこる危険がある。 一度原発事故が発生し,大量の放射性物質が広く拡散されてしまうと,もはやそれを完全に除去することは困難であり,被害が事故後も長期間にわた って発生し続け,それがいつ収束するのかの見通しすらつかないこともある。 現に,福島第一原発事故においても,事故発生から既に6年以上が経過しているにも関わらず,大熊町・双葉町・浪江町などを中心に現在も帰還困難区域に指定され続けている地域があり,それについては指定解除の時期の見通しは全く立っておらず,また,福島第 ら既に6年以上が経過しているにも関わらず,大熊町・双葉町・浪江町などを中心に現在も帰還困難区域に指定され続けている地域があり,それについては指定解除の時期の見通しは全く立っておらず,また,福島第一原発においても汚染水の発生が止まっていない。 第三に,原子力発電施設での事故は,周辺住民の避難を余儀なくさせることから,地域社会の存続さえも危うくするということである。 福島第一原発事故においても,福島県内の広範な区域が警戒区域・計画的避難区域等に指定され,それらの地域のコミュニティが完全に破壊された。 第四に,ひとたび事故による被害が生じてしまえば,その被害を回復させ ることが極めて困難であるということである。 人の生命・身体の健康が害されたときにそれを回復させることは不可能ないし著しく困難であるし,破壊させてしまった地域のコミュニティを完全に元どおりにすることも事実上不可能である。 以上のとおり,原子力発電施設における事故は,それが発生した際に生じ る被害の範囲・程度は極めて広範かつ重大であり,その被害を空間的,時間的,社会的に限定すること,被害を事後的に回復させることが不可能ないし著しく困難である。 ひとたび事故が発生してしまうと,非常に広範囲かつ多数の国民の生命・健康・財産や環境に対し,極めて重大かつ不可逆的な被害をもたらすという 点で,原子力発電事業は,「異質かつ重大」な危険を内包しているのである。 エ地震や津波などの自然現象の発生し得る最大規模や,時期を正確に予測することは不可能であること原子力発電事業,とりわけ原子炉の安全性を脅かす要因の一つである地震や津波などの自然現象は,その発生のメカニズム自体も十分に解明されてい ない。また,大規模な地震や津波は,その発生頻度も数百年に一度あるか 業,とりわけ原子炉の安全性を脅かす要因の一つである地震や津波などの自然現象は,その発生のメカニズム自体も十分に解明されてい ない。また,大規模な地震や津波は,その発生頻度も数百年に一度あるかな いかというレベルであるため,過去に発生した大規模な地震や津波の知見・データ・情報等の蓄積も必ずしも十分ではない。 そのため,発生し得る地震や津波の最大規模や発生時期を予測することは容易ではなく,これを100%に近い高い確率で正確に予測することなど到底不可能である。 したがって,国策として原子力発電事業を推進し,その安全確保について責任をもつべき立場にある被告国は,発生し得る地震や津波の最大規模や発生時期を正確に予測することなど到底不可能であることを前提にして,それでも万が一にも大規模な事故を起こさないようにするために,常に安全を重視する立場に立って,規制権限を行使しなければならず,その前提となる知 見の収集や,調査・研究に全力を傾注しなければならないのである。 オ原子力事業の特殊性と被告国の規制権限不行使の違法性判断本件において,被告国の規制権限不行使の違法性を判断するに当たっては,以上述べたように,原子力発電事業が,当初から放射線の危険性は十分に認識されていたにもかかわらず進められた国策事業であること,しかし,その 危険性がひとたび現実化すれば被害は広範・重大で不可逆的であること,その危険性を現実化させるおそれのある事象は地震・津波という自然現象であり,規模や発生時期の正確な予測は不可能であること,といった,他の一般的な事業とは全く異なる特殊性があることを十分に踏まえなければならないのである。 ⑵ 規制権限不行使の違法性の判断枠組み前記のとおり,累次の最高裁判例によれば,「国又は公共団 ,他の一般的な事業とは全く異なる特殊性があることを十分に踏まえなければならないのである。 ⑵ 規制権限不行使の違法性の判断枠組み前記のとおり,累次の最高裁判例によれば,「国又は公共団体の公務員による規制権限の不行使は,その権限を定めた法令の趣旨,目的や,その権限の性質等に照らし,具体的事情の下において,その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときは,その不行使により被害を受けた 者との関係において,国賠法1条1項の適用上違法となるものと解するのが相 当である」と規制権限不行使の違法性の一般的な判断枠組みを示しており,この判断枠組みが判例準則として確定しているといえる。 したがって,本件においても,まず,国の規制権限を定めた法令の趣旨,目的や,その権限の性質等を明らかにした上で,具体的な事情を検討し,その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠いていると認められる場 合には,国の規制権限不行使が,国賠法1条1項の適用上違法と判断されることになる。 そして,本件において問題となる津波対策についてみると,経済産業大臣は,福島第一原発の1~4号機の原子炉施設並びに一次冷却材又は二次冷却材により駆動される蒸気タービン及びその附属設備が,津波により損傷を受けて原 子炉の安全性を損なうおそれがあると認められるにも関わらず,設置者である被告東電が適切な防護措置等を講じない場合には,適時にかつ適切に技術基準適合命令を発すべき権限を有するとともに,その権限の不行使が,許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められる場合には,その不行使により被害を受けた周辺住民等との関係で国賠法1条1項の責任を負うことになる。 ⑶ 本件における被告国の規制権限不行使の違法性本 逸脱して著しく合理性を欠くと認められる場合には,その不行使により被害を受けた周辺住民等との関係で国賠法1条1項の責任を負うことになる。 ⑶ 本件における被告国の規制権限不行使の違法性本件において被告国は,福島第一原発に関して,津波により原子炉の安全性を損なうおそれがある場合には,被告東電に対して防護措置を講じるよう命じる規制権限を有しており,その規制権限は,最新の科学的知見等を踏まえて,適時にかつ適切に行使されるべき性質のものである。 ア保護法益の重大性について原子力基本法や,炉規法,電気事業法等が被告国に規制権限を付与した主要な趣旨,目的は,これまでに繰り返し主張したとおり,国民の生命・身体(健康)・財産の安全を直接的に保護することである。国民の生命・身体(健康)・財産の安全という保護法益が,性質上,不可侵・重大なものであるとい うことは,至極当然のことである。なぜならば,個人の生命,身体,精神及 び生活に関する利益は,各人の人格に本質的なものであって,その総体が人格権である。そして,人格権は憲法上の権利であり(憲法13条,25条),また人の生命を基礎とするものであるがゆえに,我が国の法制下においてはこれを超える価値を他に見出すことはできないからである。 他方,原子力発電所は,電気の生産という社会的には重要な機能を営むも のではあるが,原子力の利用は平和目的に限られているから(原子力基本法2条),原子力発電所の稼動は法的には電気を生み出すための一手段たる経済活動の自由(憲法22条1項)に属するものであって,憲法上は人格権の中核部分よりも劣位に置かれるべきものである。 もし仮にひとたび原発事故が発生した場合には,極めて多数かつ広範囲の 人々の健康や生活に深刻な被害を生ぜしめ,その ものであって,憲法上は人格権の中核部分よりも劣位に置かれるべきものである。 もし仮にひとたび原発事故が発生した場合には,極めて多数かつ広範囲の 人々の健康や生活に深刻な被害を生ぜしめ,その被害は不可逆的なものであることからすれば,被告国は,万が一にも原発事故が発生することがないようにするために,適時かつ適切に,強力に規制権限を行使しなければならないのであって,事業者の経済的利益に対する配慮等から権限行使を躊躇するようなことは,断じてあってはならないのである。 イ本件事故の予見可能性について前記のとおり,被告国は,国内及び海外で実際に溢水事故が発生し,アメリカでは溢水事故の対策を実施し始めたことから,一度溢水事故が発生した時の電源設備の脆弱性を目の当たりにするとともに,想定を超える事象も一定の確率で発生するとの問題意識をもち,強い危機感をもって平成18年1 月には,溢水勉強会を設置し,同年5月の勉強会では,敷地高を1mでも超える津波が発生すれば,全電源喪失に至る危険性があることを認識した。したがって,被告国は,平成18年の時点において,本件事故の予見可能性があった。 また,被告国(保安院)は,平成21年9月7日ころ,被告東電から,貞 観津波に関する佐竹論文に基づいて試算した波高の数値の説明を受けて,津 波が福島第一原発の敷地高を超えて到来する可能性があることを認識した上,その半年後の平成22年3月には貞観地震と同規模の地震が発生すれば福島第一原発に敷地高を超える津波が到来する可能性があることについて,担当者間で連絡し合うほどに明確に認識していた。したがって,平成21年9月,あるいは,平成22年3月には,福島第一原発に敷地高を超える津波 が到来する可能性があることを現に「予見した」とい て,担当者間で連絡し合うほどに明確に認識していた。したがって,平成21年9月,あるいは,平成22年3月には,福島第一原発に敷地高を超える津波 が到来する可能性があることを現に「予見した」といっても過言ではない。 ウ本件事故の結果回避可能性について前記のとおり,平成14年の時点で本件事故の予見可能性が生じていた被告国において,遅くとも平成18年までに,電気事業法40条に基づき,津波対策措置を講じるよう規制権限を行使していれば,被告東電において,電 源設備の水密化,非常用D/Gの被水回避及び燃料タンクの高台新設,防潮堤の設置等の津波対策を講じることとなり,その結果,1~4号機のO.P. +4mの高さに設置されている非常用海水ポンプ等が被水により機能喪失すること,O.P.+10mの高さに設置されている原子炉建屋,タービン建屋内の重要設備(とりわけ配電盤)が被水により機能喪失することをいず れも防ぐことができ,本件事故を回避することができた。 また,平成21年ないし平成22年3月までの時点で本件事故の予見可能性が生じていた被告国において,速やかに上記規制権限の行使に及んでいれば,長期評価,及び,貞観津波に関する佐竹論文の波源モデルを踏まえた対策が施されることとなり,本件事故を回避することができたといえるのであ る。 エ結果回避措置をとり得る主体の非代替性(被告国への期待可能性)電力事業者に安全確保の責任があることはいうまでもない。しかし,原子力事業は被告国が国策として行ってきた事業であり,本来的に生命・身体に対する危険性を有し,地域社会すら破壊しかねない原子力を,安全性を確保 するという絶対条件のもとに,被告国が許可して原発の稼働を認めてきてい るものである。地域住民や国民が,安全性に疑問 危険性を有し,地域社会すら破壊しかねない原子力を,安全性を確保 するという絶対条件のもとに,被告国が許可して原発の稼働を認めてきてい るものである。地域住民や国民が,安全性に疑問を差し挟んだとしても,自ら原発の安全性を確保する手段は何ももたない。原発の安全性の確保は,専ら規制権限を有している被告国に委ねられ,規制権限の行使が可能な主体において,全く代替性がないのである。 このような原子力事業における被告国の責任の大きさを考えるとき,原発 の安全性を確保するための規制権限が適時かつ適切に発動されなければならないことは当然であって,安全対策を講ずべきタイミングに関して広範な裁量権を論じることはナンセンスである。 オ規制権限不行使の違法以上のとおり,原子力事業の特殊性,規制法令が保護しようとする法益の 重大性(不可侵性),本件事故の予見可能性,結果回避可能性,そして結果回避措置をとり得る主体の非代替性等に照らせば,ここまで知見が集積されていたにもかかわらず,被告国が被告東電に対して規制権限を行使しなかったことは,規制権限を与えた法令の趣旨,目的,その権限の性質等に照らし,被害を被った原告らとの関係で違法となることは明らかである。 2 被告国の主張⑴ 規制権限不行使の違法性の判断枠組み及びその考慮要素について被告国に規制権限が認められる場合にその不行使が国賠法1条1項の適用上違法となるのは,その権限を定めた法令の趣旨,目的や,その権限の性質等に照らし,具体的事情の下において,その不行使が許容される限度を逸脱 して著しく合理性を欠くと認められるときに限られ,その判断に当たっては,被害の予見可能性,結果回避可能性及び同容易性のほか,実際に講じられた措置の有無及び内容等の,権限不行使が問題と を逸脱 して著しく合理性を欠くと認められるときに限られ,その判断に当たっては,被害の予見可能性,結果回避可能性及び同容易性のほか,実際に講じられた措置の有無及び内容等の,権限不行使が問題とされる当時の具体的事情の一切が斟酌される必要がある。 そして,大阪泉南アスベスト最高裁判決の調査官解説は,その当時の具体 的事情として,「最高裁は,①規制権限を定めた法が保護する利益の内容及び 性質,②被害の重大性及び切迫性,③予見可能性,④結果回避可能性,⑤現実に実施された措置の合理性,⑥規制権限行使以外の手段による結果回避困難性(被害者による被害回避可能性),⑦規制権限行使における専門性,裁量性などの諸事情を総合的に検討して,違法性を判断しているもの」と解している(角谷昌毅・法曹時報68巻12号181ないし184頁)。 そこで,以下では,本件における被告国の規制権限の不行使が,これらの考慮要素に照らし,国賠法1条1項の適用上違法と評価されることがないことについて,整理して主張する。 ⑵ 原子力規制に関する法令の趣旨・目的についてア原子力規制において求められる安全性の内容について 原子力基本法等の原子力規制に関する法令の趣旨・目的については,平成24年法律第47号による改正前の原子力基本法が,その目的を「原子力の研究,開発及び利用を推進することによって,将来におけるエネルギー資源を確保し,学術の進歩と産業の振興とを図り,もって人類社会の福祉と国民生活の水準向上とに寄与すること」(同法1条)と定め,原子力技 術を受け入れ,推進することを明らかにした上,原子力利用の基本方針について「平和の目的に限り,安全の確保を旨」とするものと規定していた(同法2条)。 また,本件事故当時,炉規法及び電気事業法 術を受け入れ,推進することを明らかにした上,原子力利用の基本方針について「平和の目的に限り,安全の確保を旨」とするものと規定していた(同法2条)。 また,本件事故当時,炉規法及び電気事業法が原子力の安全を確保するための規制をしていたところ,炉規法は,原子炉の設置許可の基準の一つ として「原子炉施設の位置,構造及び設備が核燃料物質(中略),核燃料物質によって汚染された物(中略)又は原子炉による災害の防止上支障がないものであること」を挙げ(同法24条1項4号),電気事業法は,原子炉の工事計画認可以降の段階における規制(後段規制)に用いる技術基準を経済産業省令で定めるに当たっての基準の一つとして「事業用電気工作物 は,人体に危害を及ぼし,又は物件に損傷を与えないようにすること」を挙げていた(同法39条2項1号)。 これらの規定からすれば,原子力規制に関する法令の趣旨・目的に,原子炉の安全性を確保することで原子炉施設の周辺住民の生命・身体や財産を保護することが含まれていることは否定できない。 しかしながら,これらの規定は,あくまでも,原子力技術という科学技術を受け入れて利用することを前提として,これを規制するものである以上,これらの規定が想定する安全性は,科学技術を利用した施設に求められる安全性を意味していると解するのが相当である。そして,科学技術の分野においては,「絶対的な安全性」,すなわち,どのような重大かつ致命 的な人為ミスが重なっても,また,どのような異常事態が生じても,原子炉内の放射性物質が外部の環境に放出されることが絶対にないといった達成不可能な安全性が確保できたことをもって安全と評価されるのではなく,「相対的安全性」,すなわち,科学技術を利用した施設などでは,常に何らかの程度の 外部の環境に放出されることが絶対にないといった達成不可能な安全性が確保できたことをもって安全と評価されるのではなく,「相対的安全性」,すなわち,科学技術を利用した施設などでは,常に何らかの程度の事故発生等の危険性を伴っているものであるが,その危険 性の程度が科学技術の利用により得られる利益の大きさとの対比において,社会通念上容認できる水準であると一般に考えられる場合には,これをもって安全と評価されるという考え方に依拠しているのであるから,これらの規定が想定する安全性は,このような「相対的安全性」を前提とした一定レベルの安全性を意味していると考えられる(高橋利文・最高裁判 所判例解説民事篇(平成4年度)417ないし419頁参照)。 イ原子炉の安全確保に関する被告国の二次的・補完的責任(ア) 各種法令の定めについて原子炉の利用及び安全確保については,後記のとおり,原子力利用に関する各種法令の規定からして,事業者が一次的責任を負っており,被 告国は二次的かつ補完的責任を負うにとどまることが明らかであるか ら,規制権限不行使の違法性を判断する上では,被告国の責任が二次的かつ補完的責任を負うにとどまるということも踏まえた判断がされなければならない。 a まず,原子力基本法2条は,「原子力の研究,開発及び利用は,(中略)安全の確保を旨として,民主的な運営の下に,自主的にこれを行 うものとし(以下,略)」と規定しており,原子炉施設を設置するために許可を受けた者が原子力の平和利用及びその安全確保について,一次的な責任を負うことを明確にしている。【丙A1・56頁】b 次に,炉規法は,23条及び24条において,原子炉については,飽くまで「原子炉を設置しようとする者」がその位置,構造及び設備 等を定 な責任を負うことを明確にしている。【丙A1・56頁】b 次に,炉規法は,23条及び24条において,原子炉については,飽くまで「原子炉を設置しようとする者」がその位置,構造及び設備 等を定め,申請書を提出し,主務大臣がこれを許可するという仕組みを採用しているのであり,このような許可の仕組みからも,その安全性について一次的責任を負うのは原子炉設置者であることが明らかである。 c さらに,電気事業法39条は,「事業用電気工作物を設置する者は, 事業用電気工作物を経済産業省令で定める技術基準に適合するように維持しなければならない。」と定め,一次的には,事業用電気工作物を設置する者に技術基準維持義務を課しており,本件規制権限の根拠規定である電気事業法40条は,「経済産業大臣は,事業用電気工作物が前条第1項の経済産業省令で定める技術基準に適合していないと認め るときは,事業用電気工作物を設置する者に対し,その技術基準に適合するように事業用電気工作物を修理し,改造し,若しくは移転し,若しくはその使用を一時停止すべきことを命じ,又はその使用を制限することができる。」と規定しているのであり,同規定は飽くまで,同法39条によって事業者に課された技術基準維持義務が果たされない ときに限って規制権限を行使することができることを規定している。 d しかも,原災法は,原子力事業者の責務として,「原子力事業者は,この法律又は関係法律の規定に基づき,原子力災害の発生の防止に関し万全の措置を講ずるとともに,原子力災害(原子力災害が生ずる蓋然性を含む。)の拡大の防止及び原子力災害の復旧に関し,誠意をもって必要な措置を講ずる責務を有する。」(同法3条)と規定し,原子力 事業者が原子力災害の発生の防止等に関し,必要な措置を 生ずる蓋然性を含む。)の拡大の防止及び原子力災害の復旧に関し,誠意をもって必要な措置を講ずる責務を有する。」(同法3条)と規定し,原子力 事業者が原子力災害の発生の防止等に関し,必要な措置を講ずる責務があることを明らかにしている。一方,同法は,国の責務として,「主務大臣は,この法律の規定による権限を適切に行使するほか,この法律の規定による原子力事業者の原子力災害予防対策,緊急事態応急対策及び原子力災害事後対策の実施が円滑に行われるように,当該原子 力事業者に対し,指導し,助言し,その他適切な措置をとらなければならない。」(同法4条3項)と規定し,国が原子力事業者の原子力災害予防対策等について,指導・助言等の適切な措置を講ずべき責務を定めている。このような同法の規定からも明らかなとおり,同法は原子力災害の防止等については飽くまで原子力事業者が一次的な責任を 負うことを前提としており,国の責務は原子力事業者による対策が円滑に行われるよう指導・助言等を行うという二次的な責任であることを明らかにしている。 e 以上からすると,本件においても,福島第一原発の安全性確保について一次的かつ最終的な責任を負うのは,福島第一原発の設置・運営 に当たっていた被告東電であり,被告国の規制権限不行使の責任は二次的かつ補完的なものにとどまるというべきである。 (イ) 被告国が原子力発電所事業を推進したという事実との関係仮に,被告国が原子力発電所事業を推進したことが認められるとしても,原子力発電所事業を推進したことと個々の原子力発電所の安全確保 に係る法的責任の所在は直接的に結びつくものではない。実際,筑豊じ ん肺最高裁判決では,石炭鉱山について,「いわば国策としての強力な石炭増産政策が推進されるなどしてきたの 全確保 に係る法的責任の所在は直接的に結びつくものではない。実際,筑豊じ ん肺最高裁判決では,石炭鉱山について,「いわば国策としての強力な石炭増産政策が推進されるなどしてきたのに,上記金属鉱山等保安規則の改正後も,石炭鉱山保安規則によるけい酸質区域指定制度が維持され」たなどとして,石炭増産が国策として行われたものであることを前提としつつも,国の責任を二次的なものであるとの判断を下しているのであ る。 したがって,仮に,被告国が原子力発電所事業を推進したことが認められるとしても,その事実は被告国の責任が二次的責任であることを否定する論拠にはならないところ,この考え方は従前の最高裁判決も前提としていると考えられるから,被告国が原子炉の利用及び安全確保につ いて一次的な責任を負っていたかのような原告らの主張は,規制権限の不行使の違法性を判断するに当たって事業者の一次的かつ最終的判断を前提としてきた宅建業者最高裁判決,クロロキン最高裁判決,筑豊じん肺最高裁判決,関西水俣病最高裁判決及び大阪泉南アスベスト最高裁判決など累次の最高裁判例の考え方からも逸脱したものといわざるを得な い。 ウ規制権限の性質(規制権限行使における専門性及び裁量性など)について(ア) 原子力発電施設に係る「相対的安全性」の判断についての行政庁の裁量規制権限の行使の判断(原子力発電所の設置許可段階の安全審査や後段規制の工事計画認可段階の技術基準への適合性審査における原子力発 電所の安全性の判断)は,「相対的安全性」を前提とする判断であり,その当時の科学技術水準に基づく原子力発電所の安全性の判断にとどまらず,我が国の社会がどの程度の危険性であれば容認するかという観点をも踏まえた判断ということになる。 そして,この原子力 断であり,その当時の科学技術水準に基づく原子力発電所の安全性の判断にとどまらず,我が国の社会がどの程度の危険性であれば容認するかという観点をも踏まえた判断ということになる。 そして,この原子力発電所における科学技術水準に基づく安全性(裏 返せば危険性)の判断は,原子力工学を始め,核物理学,機械工学,放 射線医学,地震学,津波工学,地質学等多方面にわたる専門分野の知識経験を踏まえた将来予測となるところ,津波対策の安全性の判断については,その判断の基礎となる地震学,津波学といった学術分野に未解明の事項が多く残されていることから,その将来予測は,その当時の知見の到達点を踏まえた専門的判断となる。 したがって,本件における規制権限行使の判断(津波に対する原子炉の安全性に係る判断)は,規制行政庁の高度な科学的,専門技術的な判断を必要とするものであるから,前記のとおり,原子力規制に関する法令の趣旨・目的に,原子炉施設の周辺住民の生命・身体といった重要な法益の保護が含まれていることや,原子力発電所事故は,その性質上, 被害が重大なものとなりやすいことなどを考慮しても,その裁量は高度の専門性に裏付けられたものであって,本来,法的な評価・判断とは異質の科学的,専門技術的判断を行うことについての適格性を有しない司法権による審査が及ぶ範囲は極めて限られたものになるといわざるを得ない。 (イ) 規制権限の行使に当たって必要となる科学的,専門技術的判断本件では,本件津波によって発生した全電源喪失状態が原因となって原子炉の炉心損傷が生ずるに至ったと推定されている。被告国が,事業者に対して津波に対する対策を講ずるよう命ずる権限を行使する上では,まずもって,被告国において,事前に上記の事故の経過に沿ったシ ナ の炉心損傷が生ずるに至ったと推定されている。被告国が,事業者に対して津波に対する対策を講ずるよう命ずる権限を行使する上では,まずもって,被告国において,事前に上記の事故の経過に沿ったシ ナリオが想定されていなければならない。被告国がかかるシナリオを想定するためには,津波の到来に関する予見,津波が発電所施設の電源系統に及ぼす影響,電源系統の異常が原子炉の炉心損傷に及ぼす影響といった点の検討が十分にされている必要があるが,これらの検討には,当然ながら地震学,津波工学,地質学,原子力工学,機械工学といった科 学的,専門技術的知見が必要となる。 しかも,かかる想定がされた上で,仮に,被告国において,事業者に敷地高さを超える津波に対する対策を求める必要が生じたとしても,その敷地高さを超える津波から原子炉を守るための対策としては,原告らが主張するように,防潮堤の設置,海水ポンプエリアについて防水壁・防水蓋の設置,建屋開口部への防潮壁・防潮板の設置,建屋の外部扉の 水密化,建屋の配管等の貫通部についてのシーリング処理,重要設備が置かれている区画についての水密扉の設置及び貫通部の止水処理といった非常用D/G等の重要機器の水密化,浸水経路への堰・排水ポンプの設置,配電盤等の電源設備の設置場所の高所化といった防護措置といった様々な対策が考えられるのであり,その対策の内容は一義的に定まる ものではない。そのため,被告国が,事業者に津波対策を命じる際には,当該対策が確実に予見対象の津波による被害を防止できることを前提として,当該対策の有する安全性の程度,他の対策の有無やその安全性,原子炉の他の設備との関係,経済性の程度など,様々な事情を踏まえた専門技術的な判断(工学的判断)をすることが必要となる。 このよう 当該対策の有する安全性の程度,他の対策の有無やその安全性,原子炉の他の設備との関係,経済性の程度など,様々な事情を踏まえた専門技術的な判断(工学的判断)をすることが必要となる。 このようにして,被告国は,事業者に津波対策を実施するように求めるかどうかという点だけでなく,事業者にいかなる対策を求めるのかという点についても,科学的,専門技術的判断としての広範な裁量を有しているのである。 (ウ) 「グレーデットアプローチ」について 仮に,規制権限不行使の違法性の判断枠組みにおける予見可能性の程度について,被害が発生する危険性が高度にかつ切迫していることを示す知見が,科学的に確立していることまでは必要ないと解する余地があるとしても,その場合には,他の対策に優先して津波対策を採ることまでが直ちに求められるわけではない。すなわち,原子力発電所には,内的要因はも とより,外的要因についても,津波に限らず,地震,火災,航空機落下, テロ等様々なリスクが存在している。このような様々なリスクがある一方で,行政庁や原子力事業者の投資できる資源(人的資源及び物的資源)は有限であるから,行政庁が様々なリスクの中から特定のリスクを選択し,対策を実施していく上では,リスクの程度,対策の有効性・確実性,対策が施設に及ぼす影響,コスト等といった観点から,科学的,専門技術的知 見に基づいて総合的に判断する必要がある。そして,機械工学,原子力工学の世界では,そのような専門技術的判断を行うに当たっては,「リスクの大きさに基づいてリソース(資源)を割く。」という「グレーデッドアプローチ」に基づく考え方が基本的に妥当するのである。【丙B78(IAEA基本原則(SF-1))原則5,丙B41・11頁,丙C127・7頁, 丙B51・ 資源)を割く。」という「グレーデッドアプローチ」に基づく考え方が基本的に妥当するのである。【丙B78(IAEA基本原則(SF-1))原則5,丙B41・11頁,丙C127・7頁, 丙B51・9,10,45頁】したがって,仮に,津波に関して,被害が発生する危険性が高度にかつ切迫していることを示す知見が科学的に確立しているとまではいえないにもかかわらず,行政庁がそれに応じた津波対策を検討する場合には,上記の「グレーデッドアプローチ」の考え方を基本とした科学的,専門技術的裁量が妥当することになるところ,その裁 量が危険の現実化が切迫していない段階におけるものであることも考慮すると,その裁量はかなり広いというべきである。 ⑶ 被害の予見可能性・切迫性について仮に,低い程度の予見可能性であっても規制権限不行使の違法を基礎付ける程度の予見可能性となり得ると解する余地があったとしても,その内容等に照 らし,本件において,被告国が規制権限を行使しなかったことが違法と解されることはない。 ア本件事故前における予見可能性・切迫性に関する事情長期評価の見解は,日本海溝沿いであれば南北を問わずどこでも明治三陸地震級の津波地震が起こり得るとしていたが,明治三陸地震と同様の地震が 三陸沖北部から房総沖の海溝寄りの特定海域で発生する発生間隔について は,1896年の明治三陸地震の断層長が三陸沖北部から房総沖の海溝寄り全体の0.25倍程度を占めることから,特定の海域では同様の地震が530年に1回発生するものとして,ポアソン過程から今後10年以内の発生確率を2パーセント程度,20年以内で4パーセント程度,今後30年以内で6パーセント程度と算出しており【丙C7・5,14頁】,他の領域で起こり 得る次の地震の発生確率に比 ら今後10年以内の発生確率を2パーセント程度,20年以内で4パーセント程度,今後30年以内で6パーセント程度と算出しており【丙C7・5,14頁】,他の領域で起こり 得る次の地震の発生確率に比しても特段高いものではなかった。そうすると,長期評価における発生確率をもってしては,本件事故前において,福島第一原発の主要地盤に遡上してくる津波が到来する危険性が高いとも切迫していたともいえないし,被告国がそのことを認識できたともいえない。敷地高を超える津波が起こり得ることと,その津波が起こる危険性が高度にかつ切 迫していることとは截然と区別され,これを混同して論ずることは許されないところ,後者については,その津波の原因となる地震の繰り返し性など別の観点から判断する必要がある。 このように,本件においては,万が一,長期評価によって福島第一原発の敷地高を超える津波の発生を予見することができたと判断される余地があ るとしても,本件事故前においては,その危険性は高度とも,切迫していたともいえなかったのであるから,他に優先的に行う事柄があれば,その対策を優先することも許される状況にあったというべきである。 イ本件事故前に認識されていた課題本件事故前においては,地震対策が喫緊の課題と認識されており,その 対策に物的,人的資源(資金や人材等)を傾けていたのであるから,津波対策を優先すべく規制権限を行使しなかったことをもって,規制権限の不行使が違法になるとはいえない。 すなわち,本件事故前は,いわゆる「阪神・淡路大震災」を契機として一連の地震対策が喫緊の課題と考えられていたことから,被告国は,平成 13年に安全設計審査指針及び発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指 針(耐震設計審査指針)の改訂作業を始め,平成1 の地震対策が喫緊の課題と考えられていたことから,被告国は,平成 13年に安全設計審査指針及び発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指 針(耐震設計審査指針)の改訂作業を始め,平成18年9月19日にこれを改訂し,同月20日から耐震バックチェックを進めていたものであり,その中で,平成19年7月16日に,新潟県中越沖地震が発生し,柏崎刈羽原子力発電所において設計時に想定していた地震動を大きく上回るという事態も生じていたことから,人的,物的資源を地震対策に投入せざるを 得ない状況であったのであり,優先度の高くない津波対策に十分な資源を投入することができる状況ではなかったのである【丙C47,丙B41・11頁,丙B51・43頁】。とはいえ,被告国は,津波の危険性を無視あるいは軽視していたわけではなく,平成18年に改訂された耐震設計審査指針の中に津波対策の必要性を明記した上で,耐震バックチェックを実施 する中で,事業者に対して,津波の対策も検討するように求めていた。 また,被告国は,長期評価を地震と津波双方に関連する新たな知見になり得ると認識し,その公表後直ちに被告東電のヒアリングを行うなどした上で,被告東電が長期評価の見解を決定論ではなく確率論において取り扱っていく方針であるとの報告を受けて了承しているところ,当時,被告国において は,上記のような原子力発電所の自然事象に対する対策だけでなく,規制基盤の整備のため,確率論的手法により導き出される様々なリスク情報を原子力規制に取り入れ,安全規制の合理性や整合性,透明性の向上,安全規制活動のための資源の適正配分を実現するための取り組みを進める(いわゆる「リスク情報を活用した規制」)など,数ある規制課題に並行して取り組ん でいた。保安院がその発足当初から規制にリ ,安全規制活動のための資源の適正配分を実現するための取り組みを進める(いわゆる「リスク情報を活用した規制」)など,数ある規制課題に並行して取り組ん でいた。保安院がその発足当初から規制にリスク情報を活用するための規制基盤の整備に向けた取り組みを着実に行ってきたこと等については,山口意見書2【丙B79・7ないし9頁】で具体的に述べられているとおりである。 このように,保安院は,本件事故前,数ある規制課題に着実に取り組んでいた上,原子力発電所において対策を検討すべき自然事象の中では,津 波ではなく地震対策が喫緊の課題と考えられていたのであるから,そうし た本件事故前の状況に照らすと,被告国が,福島第一原発の敷地高を超える津波が到来する危険性が高度にかつ切迫しているとはいえない状況において,地震対策を優先して,原告らが指摘するような規制権限を行使しなかったことが著しく合理性を欠くと評価される余地はなく,規制権限の不行使が違法になる余地はないというべきである。 ウまとめ以上のとおり,仮に,低い程度の予見可能性であっても規制権限不行使の違法を基礎付ける程度の予見可能性となり得ると解する余地があったとしても,地震対策が喫緊の課題と考えられていた本件事故前の状況に照らすと,被告国が規制権限を行使しなかったことが違法と評価される余地はないと いうべきである。 ⑷ 結果回避可能性について本件において,原告ら主張の結果回避可能性が認められないのは,前記第3,2[❶-62 頁]で主張したとおりであるところ,その主張の根拠として掲げた諸事情に照らしても,被告国が規制権限を行使しなかったことが違法 と評価される余地はない。 ⑸ 現実に実施された措置(対応)の合理性についてア総論公務員は,特定の の根拠として掲げた諸事情に照らしても,被告国が規制権限を行使しなかったことが違法 と評価される余地はない。 ⑸ 現実に実施された措置(対応)の合理性についてア総論公務員は,特定の規制権限について,それを行使する場合が法令で具体的に規定されていない限り,その特定の規制権限を直ちに行使する義務を 負うものではなく,その規制権限を行使する時期等についても裁量を有しているというべきである。そのため,仮に,特定の規制権限を行使する要件が充足されたとしても,公務員は,その状況を改善するために,その規制権限を直ちに行使することをせず,その規制権限を行使する前段階として,何らかの別の措置を講じることが求められる場合があるというべきで ある。そのため,公務員が,その問題状況を改善するために,合理的な内 容の措置を実施している場合には,当該措置を講じたことが,規制権限の不行使が違法ではなかったことを基礎づける一要素となるというべきである。 イ長期評価の見解を確率論において取扱う旨の被告東電の方針に対する被告国の了承 被告国(保安院)は,長期評価の見解が公表された直後,被告東電に対するヒアリングを行い,被告東電が,長期評価の見解の成熟性に応じた対応として,決定論ではなく確率論においてこれを取り扱っていく方針であるとの報告を受けてこれを了承した事実が確認されており,被告国も被告東電も長期評価の見解公表後,速やかに当該知見を覚知し,科学的知見の 成熟性の程度に応じた対応をしていた。 すなわち,保安院においても,本件事故前から,原子力施設の耐震安全性に係る新たな科学的知見の収集・評価をして,重要な知見については耐震安全評価に反映させていたところ,平成14年7月31日に長期評価の見解を含む長期評価が公 も,本件事故前から,原子力施設の耐震安全性に係る新たな科学的知見の収集・評価をして,重要な知見については耐震安全評価に反映させていたところ,平成14年7月31日に長期評価の見解を含む長期評価が公表されたことから,保安院の原子力発電安全審査 課耐震班においてこれを把握し,同年8月5日までの間に長期評価の見解によっても福島第一原発の津波に対する安全性が確保されているか否かや長期評価の見解に対する対応方針及び長期評価の見解の科学的知見としての成熟性の程度につき被告東電のヒアリングを行っている。【丙C168・2ないし7頁及び資料①】 これに対し,被告東電は,同月7日,津波評価技術及び長期評価の見解の双方の策定に関与するとともに第一線の津波地震の研究者である佐竹教授に対し,長期評価の見解の科学的知見としての成熟性の程度について問い合わせるなどし【同・8,9頁及び資料③ないし資料⑤】,同月22日には長期評価の見解については理学的な成熟性が低いものであったことか ら,その成熟性の程度に応じた対応として,今後,被告東電としては確率 論に基づく安全対策の中で取り入れていく方針である旨報告したため,保安院はこのような方針を了解したものである。【同・9ないし12頁及び資料⑥】以上のとおり,被告国(保安院)は,正に理学的な成熟性の程度を踏まえた受け手側での検討を経て取り扱っており,またかかる対応は工学的に 正当性を有する判断であった。 ウ被告国の措置の合理性被告国は,これ以外にも,耐震バックチェックなどを通じて地震や津波の知見の収集に努めていただけでなく,事業者に対してシビアアクシデント対策の実施を促す行政指導も行ってきた。本件事故以前は,福島第一原 発の敷地高を超える津波が到来する危険性は切迫してい 津波の知見の収集に努めていただけでなく,事業者に対してシビアアクシデント対策の実施を促す行政指導も行ってきた。本件事故以前は,福島第一原 発の敷地高を超える津波が到来する危険性は切迫していなかったのであるから,被告国が,上記のような方法で地震や津波の情報を収集したり,事業者に対してシビアアクシデント対策を促したりしていたことは,一定の合理性を有する措置であったというべきである。 エまとめ 以上のとおり,被告国は,長期評価の見解が公表された直後の平成14年8月に,長期評価の見解の理学的な成熟性の程度を踏まえて工学的に正当性を有する対応をするなど,地震や津波の知見の収集に努めた上で,その時々に得られた知見に基づいて,事業者に安全対策を講じるように行政指導を行ってきたものである。このように,被告国が,事業者(被告東 電)に対して,原子力発電所の安全確保に向けて,合理的な内容の措置を実施してきたことからすると,被告国が被告東電に対して具体的な結果回避措置を講じるように規制権限を行使しなかったことが著しく不合理であると評価される余地はないというべきである。 ⑹ 規制権限行使以外の手段による結果回避困難性(規制対象者の結果回避に向 けた活動が期待できないこと) ア 「規制対象者による結果回避が期待できないこと」の意味合い大阪泉南アスベスト最高裁判決の調査官解説では,規制権限不行使の違法性を判断する上で考慮すべき事情の一つとして,「⑥規制権限行使以外の手段による結果回避困難性(被害者による被害回避困難性)」を挙げており,一見すると,被害者による被害回避困難性だけを「規制権限行使以外 の手段による結果回避困難性」として考慮し,「規制対象者の結果回避に向けた活動が期待できないこと」は「規制権限行 」を挙げており,一見すると,被害者による被害回避困難性だけを「規制権限行使以外 の手段による結果回避困難性」として考慮し,「規制対象者の結果回避に向けた活動が期待できないこと」は「規制権限行使以外の手段による結果回避困難性」として考慮しないかのような記載になっている。 しかしながら,この部分の記載は,「規制権限行使以外の手段による結果回避困難性」の一つの例として,「被害者による被害回避困難性」を挙げた にすぎず「規制権限行使以外の手段による結果回避可能性」に「規制対象者の結果回避に向けた活動が期待できないこと」が含まれないことを意味するものではないと解される。 イ被告国の二次的・補完的責任原子炉の利用及び安全確保については,原子力利用に関する各種法令の 規定からして,事業者が一次的責任を負っており,被告国は二次的かつ補完的責任を負うにとどまることが明らかである。 そうすると,被告国は,事業者が原子炉の安全を確保するために必要不可欠な活動を長期間にわたって放置しているなど,事業者に任せておいたのでは原子炉の安全性の確保が期待できないような場合でなければ,規制 権限を行使する必要性が高まらないというべきである。 ウ被告東電によって津波対策が適切にされることが期待できる状況であったことしかるところ,本件事故以前において,被告東電は,喫緊の課題であった地震対策に優先的に取り組みつつ,津波対策についても,前記方針に従 ってマイアミ論文を発表し,土木学会原子力土木委員会津波評価部会で研 究を進めていた確率論的津波ハザード解析手法の中間とりまとめを行うなど,種々の試行をしながら可能な限りの合理的な対応をしてきたのであり,必要な津波対策を長期間にわたって放置しているなど,被告東電に任せておい いた確率論的津波ハザード解析手法の中間とりまとめを行うなど,種々の試行をしながら可能な限りの合理的な対応をしてきたのであり,必要な津波対策を長期間にわたって放置しているなど,被告東電に任せておいたのでは十分な津波対策がされない可能性があることをうかがわせる事情は客観的に存しなかったのであるから,この点からも,被告国が 規制権限の行使を義務づけられる状況にあったとはいえないというべきである。 ⑺ まとめ以上のとおり,規制権限の不行使の違法性の判断に当たっては,予見可能性や結果回避可能性が認められた場合に,直ちに規制権限の不行使が違法となる ものではなく,規制権限の行使が問題となる当時の具体的事情の一切が斟酌されるところ,そもそも,本件事故以前の知見を前提にした場合には,被告国には作為義務が生じるための前提となる予見可能性や結果回避可能性が認められないことに加え,被告国は,長期評価の見解が公表された直後の平成14年8月に,長期評価の見解の理学的な成熟性の程度を踏まえて工学的に正当性を 有する対応をするなど,地震や津波の知見の収集に努めた上で,その時々に得られた知見に基づいて,事業者に安全対策を講じるように行政指導を行ってきたこと,リスク情報を活用した規制の導入に向けた規制基盤の整備などの種々の規制課題に取り組んでいたこと,福島第一原発の安全性について一次的責任を負う被告東電が被告国と協議した方針に従って津波対策を進めている状況 にあり,被告東電によって適切に津波対策が実施されることが期待できる状況にあったことなどの規制権限不行使の違法の有無について考慮されるべきその他の事情も併せ考慮すれば,被告国の規制権限不行使に違法性が認められる余地はないというべきである。 (以下本頁余白) 制権限不行使の違法の有無について考慮されるべきその他の事情も併せ考慮すれば,被告国の規制権限不行使に違法性が認められる余地はないというべきである。 (以下本頁余白) 第7 争点7(被告東電の責任と被告国の責任の関係)について 1 原告らの主張被告東電と被告国とは,民法719条1項が定める共同不法行為責任を負う。 すなわち,既に主張したとおり,福島第一原発は,被告国が国策として推進し,被告国の規制・監督のもとに,被告東電が操業していたところ,被告国において 必要な規制権限の行使を怠る等し,被告東電においても必要な事前・事後の措置を怠った結果によって,福島第一原発事故が発生したものであるから,その両者の過失行為は,「結果の発生に対して社会通念上,全体として一体の行為と認められる程度の一体性を有していること」は明らかであり,客観的な関連共同性が認められる。 よって,被告らは,国賠法4条及び民法719条1項前段に基づき,連帯して,福島第一原発事故により発生した損害を賠償すべき責任を負う。 なお,被告東電が原賠法3条1項により責任を負う場合についても,同項による賠償責任は,被害者の立証上の負担を軽減するために無過失責任とされてはいるが,被害者の損害を回復するという目的においては不法行為責任と性質が異な ることはないから,民法719条1項前段が適用され,被告国との間で共同不法行為が成立することに変わりはない。 2 被告国の主張福島第一原発を管理・運営し,その利益を享受しているのは被告東電であり,被告国ではない。そして,被告国は,その設置等に際し,許認可をしたり,定期 検査等をしているものの,これらは,被告東電の原子力施設に対する安全管理義務を軽減したり,免責するものではない。したが 被告国ではない。そして,被告国は,その設置等に際し,許認可をしたり,定期 検査等をしているものの,これらは,被告東電の原子力施設に対する安全管理義務を軽減したり,免責するものではない。したがって,福島第一原発の安全管理は,一次的には,被告東電において行われるべきものであり,被告国は,これを後見的・補充的に監督するにとどまる。 そして,民法719条1項前段の共同不法行為が成立するためには,客観的に みて一個の共同行為があるとみられることが必要と解される(加藤一郎・不法行 為〔増補版〕205頁以下参照)ところ,被告国の規制権限の行使は,対象者の自由な活動に一定の制約を課し,不利益を与えるものであって,対象者に対し,責任や注意義務を軽減し,免責するという性格のものではなく,両者は次元を異にする責任である。また,被告国と被告東電では,安全対策の要否を検討するために必要な情報の収集や,これを分析する能力に大きな差があり,同じ情報を把 握していたとしても,被告国と被告東電では検討に要する時間を異にする上,何らかの対策が必要との結論に達したとしても,それから,規制権限の行使に至るためには,様々な過程を経る必要のあることも考慮すると,被告国の規制権限行使と規制対象者である原子力事業者の不法行為との間に,客観的にみて一個の不法行為があるとみることはできない。 そうすると,仮に被告国の規制権限不行使について,国賠法1条1項の違法が認められるとしても,これと被告東電の不法行為は,共同不法行為とはならず,単に不法行為が競合しているにすぎないこととなる。 このような場合において,損害の公平な分担という損害賠償の基本理念に照らし,上記諸事情を勘案すると,被告国の責任の範囲は,第一次的責任者である被 告東電に比して,相 るにすぎないこととなる。 このような場合において,損害の公平な分担という損害賠償の基本理念に照らし,上記諸事情を勘案すると,被告国の責任の範囲は,第一次的責任者である被 告東電に比して,相当程度限定されたものになるべきである(関西水俣病訴訟に係る大阪高裁平成13年4月27日判決・判例時報1761号3頁,じん肺訴訟に係る札幌高裁平成16年12月15日判決・判例時報1901号71頁,福岡高裁平成13年7月19日判決・判例時報1785号89頁,福岡地裁平成19年8月1日判決・判例時報1989号135頁等参照)。 (以下本頁余白) 第8 争点8(本件で賠償の対象となるべき精神的損害の範囲及び法的性質並びに慰謝料の額)について 1 原告らの主張⑴ 総論ア原告らの被侵害利益 原告らは,本件事故により従前の生活全てを失った。放射能汚染により,物理的な生活基盤である土地や家屋,家財,墓などの財産的な権利(憲法29条)が侵害されたことは言うまでもなく,自宅に居住し続けることを許されず,又は生命・身体に対する危険を回避するために居住し続けることができない状態に追い込まれ,生活する場所を選択し決定する自由(憲法22条 1項)を奪われた。生活の糧であると共に自己実現の手段である職業を奪われ(憲法22条1項),子ども達は希望する学校で学習する機会を奪われた(憲法26条1項)。しかし,これらの権利が個々に侵害されたのではない。 本件事故による被害の特徴は,広範囲に及ぶ大量の地域住民が長期間の避難を余儀なくされ,地域社会と人びとの生活が根底から破壊されたところにあ る。すなわち,原告らが侵害された利益は,福島の地において生活をすることから得られる利益であり,社会生活全般にわたって有機的に結びついて ,地域社会と人びとの生活が根底から破壊されたところにあ る。すなわち,原告らが侵害された利益は,福島の地において生活をすることから得られる利益であり,社会生活全般にわたって有機的に結びついていた価値全てなのである。人が生きていくためには,他者と支え合い,助け合うことが必要不可欠である。そして,家庭,学校,職場,地域社会等それぞれのコミュニティにおいて,役割を与えられ,仲間達と信じ合い,どんなと きも話し合えるような関わりにおいて人格を形成し,幸福を追求していくのである(憲法13条)。どのような地域・場所を生活の本拠にし,どのような家で子育てをし,あるいはどのような学校で学び,どのような職業を選択して生業を営むのかということが有機的に結びついてこそ,どのようなライフスタイルで自己の人格を発展させ自己実現していくかを決定できる。原告ら は,財産権のみならず,このような「個人の生命,身体,精神及び生活に関 する利益」を侵害されたものであって,これらの利益は,「各人の人格に本質的なものであって,その総体が人格権であるということができ」る。 「人格権は憲法上の権利であり(13条,25条),また人の生命を基礎とするものであるがゆえに,我が国の法制下においてはこれを超える価値を他に見出すことはできない」。人の生存を基礎とする「人格権」は,「公 法,私法を問わず,すべての法分野において,最高の価値を持つ」ものである(福井地方裁判所平成26年5月21日判決(関西電力大飯原子力発電所の運転差止め訴訟)。本件では,このように「最高の価値を持つ」人格権が広範にわたり侵害されたものであることを十分に認識した上で損害が評価されるべきである。 イ不法行為法における損害賠償の基本原理不法行為法は,「被害者に生じた損 高の価値を持つ」人格権が広範にわたり侵害されたものであることを十分に認識した上で損害が評価されるべきである。 イ不法行為法における損害賠償の基本原理不法行為法は,「被害者に生じた損害の填補を目的とする」(注釈民法(19)・6頁)ものであるが,その解釈に際しては,「被害者の事後的な妥当な救済という見地から,具体的妥当性を尊重する」(同書・5頁)べきものと解されている。 この「損害」の概念については,「不法行為がなかったならば有したであろう利益」と,「被害者が現に有している利益」との差額のことを指すとする,いわゆる差額説が通説とされている。しかし,この差額説によって把握される金銭的な被害が,被害回復の方法を観念的に限定するものであるのであれば,それは適切でない。 不法行為法の究極的な問題は,「広義の事故の結果発生した損害を,誰にどのように負担させるかという点にある」(注釈民法(19)・5頁)とされ,損害を「妥当に,公平に,合理的に」(同書・5頁)負担させることが重視される。したがって,妥当,公平,合理的な回復方法として観念できる限り,損害の評価の方法は複数認められ得る。たとえば,何らかの物品の一部が壊 れたような場合には,壊れる前後の時価を算定し,その差額を損害とするこ ともできるし,修復にかかった金額を損害とすることも可能である。また,幼児の逸失利益について,従前の収入はなく,どのような職業に就くかも分からないことから,平均賃金を元に算定するという合目的的な解釈が行われていることも改めて指摘するまでもない。 差額説は,その算定によって妥当,公平,合理的な賠償ができる限りにお いて妥当なものであるが,このような前提を欠く場合には,規範的,合目的的に賠償を算定するべきなのである。 摘するまでもない。 差額説は,その算定によって妥当,公平,合理的な賠償ができる限りにお いて妥当なものであるが,このような前提を欠く場合には,規範的,合目的的に賠償を算定するべきなのである。 ウ本件の賠償において考慮すべき要素本件事故は,ここまで述べてきたとおり,極めて広範囲の人々が,継続的に,全面的・深刻な被害を受けた,未曽有の規模の原発事故である。事故の 大規模化・長期化により,被害者の生活の全てが奪われ,その「被害の回復」と一口に言っても,事故がなかった状態に完全に戻すことはおよそ不可能となってしまった。 放射能性物質による汚染を厳密に事故前の状況まで除去することは時間的・金銭的制約を考えれば極めて困難である。また,事故によってありとあ らゆる生活基盤,人間的な繋がりが失われてしまったが,既に2年半以上に及んでいまだ事故が収束せず,復興の道筋もたたないままに過ごしてきた時間の中で,避難先の地において,新たな生活をどうしていくのか,選択する余裕すら与えられてこないまま過ごしてきた被害者の現状からすれば,これらの全てを戻すような選択を強いるのは不可能であるし,むしろ回復方法と して不適切とも言える。 不法行為前後の時価差額を基準とする支払が妥当な救済となるのは,その支払が不法行為前の状態に戻すために最も合理的な方法であることが通常であるからである。しかし,本件事故は,およそ元に戻すことが観念できない,あるいは観念するべきではない程に,被害者の生活基盤の全般を奪った ものであるから,実体として,個々の財産の市場価値では把握しきれない価 値の喪失があるし,個別の損害を積み上げていくことは現実的でもない。本件において,市場価値を基準にした損害の算定は,妥当でも合理的でも公平でもないので 産の市場価値では把握しきれない価 値の喪失があるし,個別の損害を積み上げていくことは現実的でもない。本件において,市場価値を基準にした損害の算定は,妥当でも合理的でも公平でもないのである。そこで,このような極めて深刻な事態が起きてしまったことを前提として,具体的事情を考慮した,より合目的的な方法で損害額を算定するのが妥当である。 また,本件事故の加害者と被害者との関係にも着目する必要がある。本件は公害であり,加害者と被害者との関係は非互換的で,加害者の行為は利潤を生むための行為であった。このような関係性からは,損害の公平な分担や,加害者の行動の自由への配慮は不要であり,公平な損害賠償として,原状回復に可能な限り近づけることが求められ,この観点からも合目的的な損害の 算定が必要となる。 エ本件の賠償額算定の一般論以上の事情を考慮すれば,本件においては,被害を完全に元に戻すことは不可能であるという認識を前提として,奪われた生活を再建するため,被害者が自らの生のあり方を自ら選択できることに最大限配慮した損害賠償が 認められるべきものと解される。 すなわち,被害者が,その選択した時に,その選択した地において,元の生活に可能な限り近い生活ができるだけの財産を得ることこそが,損害賠償による原状回復にできる限り近づけるために必要なのであって,そのような観点から,本件における損害額の算定をするべきである。 ⑵ 精神的損害についての考え方ア避難生活に伴う慰謝料(ア) 結論原告らは,避難生活に伴い継続的に発生する慰謝料としては,1人原則月額35万円を下ることはなく,また,避難区域指定の有無で額が変わる こともないと主張するものである。 (イ) 原則月額35万円であるべきこ 的に発生する慰謝料としては,1人原則月額35万円を下ることはなく,また,避難区域指定の有無で額が変わる こともないと主張するものである。 (イ) 原則月額35万円であるべきことの根拠原告らは,従前営んでいた日常から隔離され,戻りたくても戻ることができず,土地勘もない見知らぬ場所での生活を強いられている。しかも,その居住場所は,原告らが着の身着のまま,収入も絶たれた中で探したものであり,その生活状況は従前の生活にはほど遠いものである。原告らが 避難した後の生活は,とりあえず生きるために必要なものを揃えた最低限度の生活に過ぎず,この状況は,現在もなお変わらない。 ところで,不法行為(交通事故)により傷害を被り,入院を余儀なくされた場合には,一般的に1月当たり53万円(通院の場合28万円),いわゆる「むち打ち」など他覚症状のない場合でも1月当たり35万円(同様 に通院の場合で19万円)程度の慰謝料が認められている(いわゆる「赤い本」) 。 本件事故により避難生活を余儀なくされた原告らについても,既に述べてきたような過酷な避難生活の実情からすれば,事故以前の居住場所からの隔離を受けているという点で,交通事故による入院の場合と同視できる 程度の身体の拘束を受けているというべきである。 さらに,避難生活の場所が今まで住み慣れた地域とは遠く離れており,周囲とのコミュニケーションには困難も伴い,一部では差別,いじめ,引きこもりなども起きていることや,深刻な放射能汚染の影響によって将来の生活の目処すら全く立たないという不安の中にあり,精神的・肉体的な 変調を来している者も少なくないこと,さらに,本件事故は交通事故とは異なり,被害者である原告らと加害者たる被告東電との立場に互換性はなく,被告東電が利潤 いう不安の中にあり,精神的・肉体的な 変調を来している者も少なくないこと,さらに,本件事故は交通事故とは異なり,被害者である原告らと加害者たる被告東電との立場に互換性はなく,被告東電が利潤を得るための営利事業の過程で起きたものであること等も考慮されなければならない。 以上からすれば,原告らに本件事故による直接の肉体的な受傷がなくと も,その避難生活によって継続的に発生する精神的苦痛に対する賠償とし ては,上記の交通事故による場合の基準に照らし,いかに少なくとも,他覚症状のない場合の入院慰謝料額である月額35万円(いわゆる「赤い本」別表Ⅱ)を下ることはないというべきである。そして,原告らの避難生活における苦痛は時の経過によって低減する性質のものではなく,むしろ今後への不安は,避難生活が長期化すればするほど増大するものでもあるこ と等からすれば,避難生活の開始から終了までを通じ,月額35万円が賠償されるべきである。 なお,被害を受けた地域,コミュニティに住む者は,その属性にかかわらず本件事故に巻き込まれたのであり,避難者の中には,高齢者,障がい者,妊娠中の女性など,緊急の避難行動に対して脆弱な者も含まれている。 それゆえ,これらの高齢者や障がい者等,脆弱な者が被った特別な精神的苦痛については,当然のことながら別途考慮されるべきであり,上記の1人原則月額35万円という基準にかかわらず,各原告の個別の事情により慰謝料は増額されるべきである。 (ウ) 避難区域指定の有無で慰謝料は変わらないこと 既に述べたとおり,放射線被ばくによる健康への影響があることは明らかである。被ばくにより生じる可能性のある健康影響としては,ガンの発生など生命に直接関わる重篤な被害があり,また,次世代に遺伝する影響も含ま たとおり,放射線被ばくによる健康への影響があることは明らかである。被ばくにより生じる可能性のある健康影響としては,ガンの発生など生命に直接関わる重篤な被害があり,また,次世代に遺伝する影響も含まれている。さらには,そのような健康被害を理由とした,就職や結婚・出産等におけるいわれのない差別や偏見も懸念されるところである。 そのような中,放射線被ばくによる被害を恐れ,政府による避難指示がなくとも,少しでも放射線量の低い地域に避難しようと考えることは,十分に合理的である。特に,子どもや妊婦は放射線による健康への影響が大きいため,その意思決定は十分に尊重されなければならない。 したがって,原告らの本件事故当時の居住地が,政府による避難等指示 の対象区域内であるか否かに拘わらず,原告らに対しては,1人原則月額 35万円の慰謝料が支払われなければならない。 (エ) 小括以上より,原告らは,避難生活に伴い継続して発生する精神的苦痛に対する慰謝料として,避難生活の始期である平成23年(2011年)3月から本件提訴の前月である平成25年(2013年)8月まで,1人当た り原則として月額35万円の支払を請求するものである。 なお,現時点までに,被告東電から避難慰謝料の一部の支払を受けている原告については,上記金額から,上記期間について既に支払われた金額を控除した額を請求する。 イふるさと喪失・生活破壊慰謝料 (ア) 避難慰謝料との関係上記アの避難に伴う慰謝料は,原賠審の中間指針等でも認められているものであり,避難生活の経過とともに継続して発生し続ける性質を有する。 しかしながら,既に詳しく述べたとおり,本件事故による被害はきわめて広範かつ深刻なものであり,原告らが被った苦痛は,1人原則月額35 避難生活の経過とともに継続して発生し続ける性質を有する。 しかしながら,既に詳しく述べたとおり,本件事故による被害はきわめて広範かつ深刻なものであり,原告らが被った苦痛は,1人原則月額35 万円という避難慰謝料のみで慰謝し尽すことは到底できないものである。 原告らは,ある者は日常生活の全てを,またある者はふるさとの全てを,そして多くの者はその両方の全てを失ったのである。たとえ,避難及び生活再建に十分な財産的損害が填補されようが,除染が実施されようが,事故前の状況が完全回復されることはあり得ない。以前の日常生活は,そし て親族や旧友らの待つ「ふるさと」は,永遠に戻ってこないのである。 避難に伴う慰謝料は,交通事故における入院慰謝料を目安としているように,その実質は,避難により一時的に生活拠点を移動させられたことに関する慰謝料である。賠償額が月額によって計算され,また,損害の始期及び終期が観念されるのも,避難に伴う慰謝料が一時的なものとして観念 されるからである。したがって,避難に伴う慰謝料には,その性質上,不 可逆的な損害に対する賠償は包含されていない。 このように,避難に伴う慰謝料では,原告らが被った,ふるさと喪失,日常生活の破壊といった,将来に及ぶ不可逆的な損害を評価することはできないため,このような無形かつ広範に及ぶ損害について,原告らは「ふるさと喪失,生活破壊慰謝料」として,包括的に慰謝料を請求するもので ある。 (イ) 「ふるさと喪失・生活破壊慰謝料」を基礎づける事実原告らが請求する「ふるさと喪失・生活破壊慰謝料」の発生を基礎付ける具体的な事実は,前記で述べたほか,様々なものがあるが,多くの原告らに共通する事実について簡潔に主張する。 a 「ふるさと」の喪失人は誰しも,自 喪失・生活破壊慰謝料」の発生を基礎付ける具体的な事実は,前記で述べたほか,様々なものがあるが,多くの原告らに共通する事実について簡潔に主張する。 a 「ふるさと」の喪失人は誰しも,自らが生まれ育った家,地域,学校を有しており,また,その中で形成してきた人間関係を有している。それらは包括して端的に「ふるさと」と呼ばれる。ふるさとは,日常の生活の中で格段に意識はしないが,しかし,何かあったときにはいつでも帰ることのできる安寧 の場所として,大きな心の支えとなるものである。 しかし,原告らが慈しんできた福島の自然は放射線で深く汚染され,現地の親族,知人らは散り散りに避難してしまい,地域のコミュニティが崩壊しまうなど,ふるさとが自体が喪失してしまったり,あるいは,物理的にはコミュニティが残されていても,様々な理由から帰還できな い状況に追い込まれ,従前の人間関係も失うなど,原告らは,本件事故によって,これまで心の拠り所となってきた「ふるさと」を失ってしまった。 b 住環境の喪失また,原告らは,住み慣れた福島を離れ,神奈川県へと避難を余儀な くされた結果,自宅の荒廃やインフラ整備の不足,人間関係の喪失,放 射線量の高さ等,様々な理由から帰還を諦めている者も少なくない。仮に,将来的に福島に戻ることができるとしても,それは従前の住環境とは全く異なった環境となってしまうことはほぼ確実である。 言うまでもなく,住環境は人間が生きていくに当たり最も基本的な要素である。その場を理不尽に奪われ,永遠に回復することができなくな ったという事実は,財産的損害という費目だけでは到底評価し尽くせない。 c 学びの環境の喪失福島で暮らしてきた子どもたちにとっては,日々の生活全てが学びの場であった。しかし, できなくな ったという事実は,財産的損害という費目だけでは到底評価し尽くせない。 c 学びの環境の喪失福島で暮らしてきた子どもたちにとっては,日々の生活全てが学びの場であった。しかし,幼い子どもたちは大声を出して走り回れる野山や 広場を奪われ,学齢期の子どもたちは学校での人間関係や進学先を失った。本件事故によって,子どもたちの学習の場は失われてしまい,その将来は一転させられた。 d 職場・人生設計の喪失本件事故により,これまでどおり農業や林業などに従事することがで きなくなった者,定年後まで安定した生活が保障されていた状況から突然無職となり先の見えない状況下に落とされた者,リタイアして悠々自適の生活をしていた状況から狭い空間で生き甲斐もなく毎日を過ごさざるを得なくなってしまった者など,原告らの中には,人生設計が回復困難なほどに変更させられた者も少なくない。 また,就職先からの内定が取り消されたり,さらには,望まれた妊娠にも拘わらず,放射線被ばくによる母子への影響に不安を抱き中絶を余儀なくされるなど,近い時期に見えていた明るい未来までもが,本件事故によって暗転させられた。 e 被ばくの影響に対する恐怖 本件事故直後に原発の近隣地域にいた者たちは,数日の間,高線量の 放射線を浴びている。今後,被ばくによる疾病の発症を,一生心のどこかで気にしながら暮らしていかなければならない。 また,現在では避難指示が解除されている区域であっても,依然として放射線量は高く,仮にそれらの区域に帰還すれば,やはり被ばくすることになる。 「低線量被ばくの安全性」が完全に立証されていない以上, 常に被ばくによる健康被害に大きな不安を抱えながら生活していかざるを得ないのであり,事故前の,被ばくのこと やはり被ばくすることになる。 「低線量被ばくの安全性」が完全に立証されていない以上, 常に被ばくによる健康被害に大きな不安を抱えながら生活していかざるを得ないのであり,事故前の,被ばくのことなど考えることなく暮らすことのできた生活には,もはや戻れないのである。 f 周囲の人間関係の悪化原告らは,避難先では「金だけ貰って気楽な生活して」と揶揄される こともあり,また,福島ナンバーというだけで車に悪戯されるなど,無知・誤解に基づく偏見や差別に苦しんでいる。 さらには,同じ本件事故の被害者同士にあっても,賠償内容に不平等を感じたり,境遇の差を受け入れられずに軋轢・差別が生じている。それまで良き隣人だった同郷の者同士でも対立を強いられかねない現状 は,被害者の苦しみを二重,三重のものにしている。 g 家族・親族関係の悪化原告らの多くは,避難により家族,親族間の別居・離別を強いられた。 また,放射線被ばくへの不安感の違い,環境の変化等によるストレス等によって,夫婦間,親子間,きょうだい間に無用な諍いを生じされられ ている。 他方,神奈川に元々住んでいた親族を頼って避難してきた原告らの中には,突然の同居により親族に負担をかけてしまうこととなってしまい,心苦しい気持ちをみな多かれ少なかれ経験している。 (ウ) 慰謝料額 以上のような精神的苦痛を基礎付ける事情の詳細は,各原告ごとに様々 であるが,原告全員に共通することは,本件事故により,彼らの「ふるさと」を,そして彼らの生活のほとんど全てを失ってしまい,人生を不可逆的に一変させられたという被害の深刻さである。 このような被害の実態に加え,本件事故が公害であり,本件における加害者と被害者は非互換的であり加害行為には利潤性があること等を考慮 ,人生を不可逆的に一変させられたという被害の深刻さである。 このような被害の実態に加え,本件事故が公害であり,本件における加害者と被害者は非互換的であり加害行為には利潤性があること等を考慮 したとき,原告らの上記「ふるさと喪失・生活破壊」に伴う精神的苦痛に対する慰謝料は,1人当たり金2000万円を下ることはないというべきである。 (エ) 小括以上より,原告らは,避難生活に伴い継続して発生する精神的苦痛に対 する慰謝料とは別に,ふるさと喪失・生活破壊に伴う精神的苦痛に対する慰謝料として,1人当たり金2000万円を請求するものである。 (オ) 単身赴任者等について原告らの中には,本件事故時点で単身赴任中であったり,就職や就学のために福島の実家を出たりしたことにより,本件事故発生時の居住地が, 避難指示等が出されていた区域にも,自主的避難等対象区域にも該当しない者がいる。 しかし,このような原告らの本件事故当時の居住地は一時的なものにすぎず,近い将来には生活の本拠である福島に戻り,家族と共に生活する予定であったり,生活の本拠自体は福島にはないものの,故郷である福島と の間を継続的に行き来しつつ,近い将来は福島に帰還することを予定していたものである。 したがって,これらの者についても,原告ら主張のふるさと喪失・生活破壊慰謝料が認められるべきである。 2 被告東電の主張 原告らは,政府による避難指示等により避難を余儀なくされた避難等対象者, 政府による避難指示等の対象とはされなかった区域(本件事故後に,中間指針追補により「自主的避難等対象区域」に指定された区域とそれ以外の区域の双方を含む。)の居住者であり,本件事故後に置かれていた状況はそれぞれに異なっており,本件事故の影響によって原 事故後に,中間指針追補により「自主的避難等対象区域」に指定された区域とそれ以外の区域の双方を含む。)の居住者であり,本件事故後に置かれていた状況はそれぞれに異なっており,本件事故の影響によって原告ら各人につきいかなる法的に保護された利益の侵害があったと評価されるかについては,そのような本件事故後に置かれてい た状況の相違を無視して論ずることができないことはいうまでもない。 すなわち,原告らが本件事故発生当時に生活の本拠としての住所を有していた区域が,①政府による避難指示を受けて,強制的な避難を余儀なくされた場合,②強制的な避難の指示ではないが,政府により屋内退避又は緊急時における避難の準備が求められる等の指示を受けた場合,③これらの指示を受けずに滞在し又 は自主的避難をした場合,については,それぞれ,平穏生活権の侵害を認めるとしてもその内容や程度,侵害の期間等においてそれぞれの事情に基づき相違があり,また上記①の場合においても,既に避難指示が解除されている区域と現時点で解除の見通しが立っていない区域とでは,精神的苦痛や法益侵害の内容・程度も異なると考えられる。 このように,本件訴訟で原告らが求めている一律の精神的損害の賠償請求については,本件事故後に原告らが置かれた状況に即して,妥当な賠償額を検討する必要があり,政府による避難指示等の指定区分毎に検討することが適切である。 ⑴ 避難指示区域の居住者に係る慰謝料についてア被侵害利益の具体的内容 政府の避難指示によって強制的な避難を余儀なくされた区域の住民については,平穏な日常生活の侵害,避難所等での生活における苦痛,避難と避難生活における苦難及び家族関係への影響などについては,避難指示に伴い通常生じ得る事象であるから,これらの事象から生じる精神的損害に ては,平穏な日常生活の侵害,避難所等での生活における苦痛,避難と避難生活における苦難及び家族関係への影響などについては,避難指示に伴い通常生じ得る事象であるから,これらの事象から生じる精神的損害については,賠償の対象となるものと考えられる。しかし,避難生活が長期化すれば, 避難先で再就職するなど避難先での生活が安定し,人間関係も形成され,一 般的には避難生活における苦痛は次第に軽減するものと考えられる。 また,避難指示区域については,帰還困難区域,居住制限区域及び避難指示解除準備区域に再編され,居住制限区域及び避難指示解除準備区域(大熊町及び双葉町を除く)については,全て解除済みであり,帰還が可能な状態にあり,帰還すれば平穏な生活は時間の経過とともに次第に回復して,何れ かの時点で賠償に値する平穏生活権侵害の状態ではなくなるものと考えられる。そうであれば,客観的には帰還が可能であったとしても,避難先における生活が安定するなどの事情から帰還しないとの判断をした場合には,遅くとも解除後に帰還した者の賠償の終期までには,帰還しなかった者についても賠償の終期が到来するものと考えられる。 イ被告東電の精神的損害の賠償の考え方(ア) 帰還困難区域について帰還困難区域については,いまだ避難指示解除の見通しが立っておらず,避難がさらに長期化することが見込まれている。 帰還困難区域については,他の避難等対象区域と同様に避難指示によっ て避難し平穏な生活が侵害されたことについて精神的損害が発生したと考えられるが,避難の概念は何れかの時点で帰還することが可能になることを前提にしているとも考えられるため,避難が長期化することが確実になった時点で避難慰謝料は質的に変化し,平穏生活権が長期的に侵害されることについ 難の概念は何れかの時点で帰還することが可能になることを前提にしているとも考えられるため,避難が長期化することが確実になった時点で避難慰謝料は質的に変化し,平穏生活権が長期的に侵害されることについて一括して評価することが妥当である。 本件事故時の住所地が帰還困難区域に指定されている原告に対しては,①平成23年3月11日(平成23年3月分は1か月分として10万円)から平成24年5月末までの15か月について中間指針及び被告東電の賠償基準に基づき1人当たり月額10万円の賠償を逓減させずに継続して合計150万円(避難所等での避難がある月については月額12万円), ②中間指針第二次追補に基づく600万円(平成24年6月~平成29年 5月までの5年間)の支払がなされ,③さらに中間指針第四次追補に基づき,当該地区については移住を余儀なくされる状態にあるとの評価に基づき,1000万円の慰謝料が認定されるが,そのうち②の賠償額との重複分を将来に向けてのみ控除することとして,700万円の追加賠償がなされることとなり,この結果として,避難等に係る慰謝料の賠償総額は,1 人当たり1450万円となり,かかる慰謝料額を賠償しているところである。 (イ) 居住制限区域・避難指示解除準備区域について本件事故時の住所地が避難指示解除準備区域又は居住制限区域(いずれも既に解除されている。)に指定されていた原告については,中間指針,中 間指針第二次追補,同第四次追補(避難指示解除後の相当期間に関する指針部分)を踏まえて,また政府復興指針【乙共134】に基づき,実際に避難指示が解除された時期を問わず(楢葉町は平成27年9月5日,南相馬市は平成28年7月12日,浪江町及び飯舘村は平成29年3月31日,富岡町は平成29年4月1日に各避 乙共134】に基づき,実際に避難指示が解除された時期を問わず(楢葉町は平成27年9月5日,南相馬市は平成28年7月12日,浪江町及び飯舘村は平成29年3月31日,富岡町は平成29年4月1日に各避難指示解除),本件事故後6年経過時 点で避難指示が解除されたものと同等の賠償を行うものとして,被告東電は,平成23年3月11日~平成30年3月末までの7年1か月分について,時間の経過による賠償額の逓減をすることなく,月額10万円の精神的損害の賠償を継続することとしており,総額1人当たり850万円となる。 居住制限区域・避難指示解除準備区域内においては,遅くとも平成28年4月末頃以降においてはその空間放射線量が年間20mSv を大幅に下回る水準となっており,例えば,a 旧富岡町役場においては,平成28年4月30日に0.36μSv/時間 平成29年4月30日に0.20μSv/時間 b 浪江町役場においては,平成28年4月30日に0.08μSv/時間平成29年4月30日に0.07μSv/時間c 飯舘村役場においては,平成28年4月30日に0.17μSv/時間 平成29年4月30日に0.15μSv/時間d 南相馬市小高区役所においては,平成28年4月30日に0.07μSv/時間平成29年4月30日に0.07μSv/時間となっており,避難指示解除後においては本件事故による追加線量年間 1mSv も下回っている。 したがって,かかる区域の原告らについては,避難指示の解除がなされることによって,その後においては本件事故時住所地に帰還することは可能な状態になったものであるが,本件事故時に居住していた住宅の補修(その費用も別途の財産的損害の賠償対象とされている。)に相応の時間 ことによって,その後においては本件事故時住所地に帰還することは可能な状態になったものであるが,本件事故時に居住していた住宅の補修(その費用も別途の財産的損害の賠償対象とされている。)に相応の時間 を要し,あるいは避難が長期化したことにより実際の帰還までに一定の時間を要すること等を考慮しても,避難指示の解除から相当期間が経過した後以降においては(被告東電の賠償の考え方からすれば,平成30年4月以降においては),本件事故の影響によって引き続き帰還することができず,本件事故と相当因果関係のある旧居住地における法益侵害の状態が引 き続き継続しているとは評価することができない。 ウ避難慰謝料について(ア) 中間指針等の意義a 中間指針等とは原子力発電所においてひとたび原子力事故が発生すると,極めて広範 囲にわたって多種多様な損害が発生することになり,事故が落ち着き, あるいは収束した後は損害賠償を巡る紛争が多数生ずることが予想される。 このため,原賠法18条は,適正かつ迅速な賠償実施が可能となるよう,審査会の設置について規定するとともに,審査会の所掌事務として,「原子力損害の賠償に関する紛争について和解の仲介を行うこと」(同 条2項1号)と並んで,「原子力損害の賠償に関する紛争について原子力損害の範囲の判定の指針その他の当該紛争の当事者による自主的な解決に資する一般的な指針を定めること」(同項2号)を定めている。 そして,同法は,かかる指針策定のために「必要な原子力損害の調査及び評価を行うこと」(同項3号)をも審査会の所掌事務とし,審査会に 原子力損害の調査及び評価を行わせるための専門委員を置くことを定めている(原子力損害賠償紛争審査会の組織等に関する政令4条)。 こうした法令上の根拠 3号)をも審査会の所掌事務とし,審査会に 原子力損害の調査及び評価を行わせるための専門委員を置くことを定めている(原子力損害賠償紛争審査会の組織等に関する政令4条)。 こうした法令上の根拠に基づき,審査会は,原子力事故が発生した際には,必要かつ十分な事実関係の調査・分析を行って審議・検討を行い,原子力損害の賠償に関する紛争についての「原子力損害の範囲の判定の 指針」等を示すことによって,広範囲に及び得る原子力損害の賠償に関する紛争の適正・迅速な解決を促進することが法令上予定されている。 そして,このような原賠法の定めを踏まえて,審査会が策定する「原子力損害の範囲の判定の指針」は,損害賠償法理の観点から被害者との紛争を解決するに足る合理的なものでなければならないことが法令上 当然に要求されているものと解される。けだし,そうでなければ紛争の解決規範として機能し得ないからである。 b 本件事故に関する審査会の設置本件事故に関しても,原賠法に定めるところに従い,本件事故後の平成23年4月11日付けで,第一線の法学者及び放射線の専門家等の委 員からなる原子力損害賠償紛争審査会(原賠審)が設置され,原子力損 害の賠償に関する紛争の解決基準である中間指針等が策定されている。 【乙共1~3】原賠審の委員は計10名であるが,そのうち法律の専門家は6名(民法の研究者が3名,環境法の研究者が1名,行政法の研究者が1名,弁護士(元東京高裁判事)が1名)である。また,当該研究者らの多くが過去に東海村JCO臨界事故あるいは原賠法の改正にも 関与しており,中間指針等の策定に当たっては,その知見や経験が最大限活用されている。 原賠審は,平成23年4月に設置されて以降,数十回にわたり公開の議場で十分な審議を重ね,本件事 の改正にも 関与しており,中間指針等の策定に当たっては,その知見や経験が最大限活用されている。 原賠審は,平成23年4月に設置されて以降,数十回にわたり公開の議場で十分な審議を重ね,本件事故による被害の全体像について関係省庁・関係自治体からの説明の聴取等を行い,その被害の実情の把握の上 に,多数の被害者に対して適用されるべき公平・適切な原子力損害の賠償の範囲の判定等のための指針(中間指針等)を策定・公表している。 c 中間指針等が果たしてきた役割中間指針等は,それ自体は「法令」に該当するとはいえないため,直ちに裁判所に対する法的拘束力を有するわけではない。 しかしながら,中間指針等は,前述したとおり我が国の原子力損害賠償の法体系において明確に位置づけられた法令に根拠を有する指針である。また,自主的避難等対象者だけでも約130万人以上にも上る本件事故の特質にもかんがみれば,多数の被害者に対して合理的な賠償を実現することが重要であり,同様の被害状況に置かれている場合には同 様の救済が与えられるべきであるという考え方が妥当する。 そして,被告東電は,原賠審が原賠法に基づき策定した中間指針等に基づき,これまで既に多数の賠償を実施しており,約130万人以上に上る自主的避難等対象者に係る賠償実施件数は,平成30年6月8日時点で130万8000件(賠償額約3537億円)に上っており,避難 等対象者や法人賠償を含めると,直接賠償の実施件数は同時点で266 万4000件(賠償総額約8兆2034億円)に上っている。【乙共292】また,原賠法18条2項1号に基づく原子力損害賠償紛争審査会の下に設置された原子力損害賠償紛争解決センターにおける和解仲介手続(ADR手続)においても,平成23年から平成28 る。【乙共292】また,原賠法18条2項1号に基づく原子力損害賠償紛争審査会の下に設置された原子力損害賠償紛争解決センターにおける和解仲介手続(ADR手続)においても,平成23年から平成28年までに個人(避 難等対象者以外の個人を含む。)による申立件数は累計で1万6668名に上り,中間指針等に基づいて個々の紛争解決が行われている実情にある。 原賠審が策定した中間指針等は,策定後6年以上にわたってADR手続や訴訟を含む多数の紛争解決において用いられ,圧倒的多数の被害者 が同指針に基づく和解を受け入れて紛争が解決されてきており,原賠審が企図したとおり,既に本件事故による紛争解決に当たり事実上の法規範に近いものとして機能している。 したがって,このような我が国の原子力損害賠償の法体系を踏まえれば,原賠法に基づき策定された中間指針等は,判例法理をリステイトし たものであり,実質的に法的規範として機能することが社会的にも期待されているのであり,同指針等に定める賠償指針は,その内容自体が著しく不合理でない限り,裁判手続においても法規範に準ずる規範として最大限尊重されるべきものである。 以上のことは,原賠法18条の解釈から導かれるものである。 (イ) 中間指針等が定める慰謝料額について中間指針等に定める避難慰謝料は,避難者の主観的・個別的事情を捨象した「最低限の基準」として定められたのではなく,本件事故によって避難等対象者に生ずる被害状況に基づく精神的苦痛を類型的・包括的に考慮して,「合理的な慰謝料額」の指針を定めたものと解される。 このことは,以下の諸点から裏付けられる。 a 個別の慰謝料額の算定を省略した一律賠償であること中間指針は,「各損害に共通する考え方」として,「損害の算定 ものと解される。 このことは,以下の諸点から裏付けられる。 a 個別の慰謝料額の算定を省略した一律賠償であること中間指針は,「各損害に共通する考え方」として,「損害の算定に当たっては,個別に損害の有無及び損害額の証明をもとに相当な範囲で実費賠償をすることが原則であるが,本件事故による被害者が避難等の指示等の対象となった住民だけでも十数万人規模にも上り,その迅速な救済 が求められる現状にかんがみれば,損害項目によっては,合理的に算定した一定額の賠償を認めるなどの方法も考えられる。」【乙共1・5頁】とされており,「最低限の賠償額」を定めるとの考え方は示されていないところ,中間指針において「一定額」の賠償指針が示されているのは精神的損害のみであるから,1人月額10万円という避難慰謝料額の指 針は,審議を経て合理的な一定額の賠償として定められていると解される。 実際に,中間指針における避難等対象者の精神的損害に係る指針の説明箇所においても,「最低限の賠償額」であることを窺わせる記載は存しない。 b 審査会における審議の経緯避難等対象者が避難を余儀なくされた場合に生ずる精神的苦痛は本来原告ら各人ごとに本来極めて個別的・主観的な形をとって現れると考えられるが,審査会が合理的な慰謝料額を考えるに当たっては,避難等対象者に広く生ずる精神的苦痛を類型的・包括的に考察した上で,一般 に生じ得る精神的苦痛に基づく賠償額の検討が進められたものである。 すなわち,審査会第7回の資料3【乙共293】の2頁においては,「本件精神的損害の要素として,①平穏な日常生活の喪失,②自宅に帰れない苦痛,③避難生活の不便さ,④先の見通しがつかない不安などが考えられるのではないか。」と整理され,審議経緯からも,避難等 ては,「本件精神的損害の要素として,①平穏な日常生活の喪失,②自宅に帰れない苦痛,③避難生活の不便さ,④先の見通しがつかない不安などが考えられるのではないか。」と整理され,審議経緯からも,避難等対象者 にこのような精神的苦痛が生じていることを類型的・包括的に捉えて, 賠償額の指針が定められていると解される。 そして,例えば,上記の①は,本件事故以前に享受していた平穏な日常生活を奪われたこと,つまり,本件事故以前に享受していたふるさとでの生活基盤の喪失やコミュニティの喪失を意味するものであるところ,本件事故以前に享受していた生活スタイルや従事していた職業など は各人ごとに差異があるとしても,そのような生活やコミュニティを避難指示等によって奪われたと評価され得ることを考慮して,慰謝料額が定められているのである。 また,上記②についても,自宅に帰れないと感じることによる精神的苦痛の感じ方にも個々人によって差異はあり得るものの,通常生ずると 考えられる苦痛については賠償の対象として考慮されていると解されるのである。 このように,本件事故による政府避難指示等によって避難等対象者に生ずる精神的苦痛については,その具体的な現れ方や感じ方は年齢や職業等又それぞれ各人の感じ方によって差異があり得,また,避難指示等 対象区域のうち例えば旧屋内退避区域及び旧緊急時避難準備区域では避難までは求められておらず,外出せずに自宅など屋内で待機することが求められたり,緊急時のために備えることが求められたりした区域にとどまっていることから,強制的な避難を余儀なくされた区域ではなく,この点で,強制的な避難を求められた避難指示区域とは実情が異なって いるが,そのような中でも,上記のような精神的苦痛が生じ得ることが広く類型 とから,強制的な避難を余儀なくされた区域ではなく,この点で,強制的な避難を求められた避難指示区域とは実情が異なって いるが,そのような中でも,上記のような精神的苦痛が生じ得ることが広く類型的・包括的に評価されて避難慰謝料の対象とされている。 したがって,避難等対象者各人の主観的・個別的事情は捨象されているのではなく,むしろ,広く,上記①ないし④に該当するような避難等対象者の主観的・個別的な事情が,避難慰謝料において包括的に考慮さ れているのである。 c 本来原告個々の慰謝料額を算定すべきであること1人月額10万円の避難慰謝料額は,このように,避難指示によって避難等対象者に通常生じ得ると考えられる精神的苦痛を類型的・包括的に考慮して定められたものであると解される。 ところが,原告によっては故郷での生活に特段の思い入れがない人や 平成23年4月以降に例えば東京の大学に進学予定があったような居住者,また,本件事故時点の生活の本拠地とは別に住居があり,そこに転居することで生活の再建が比較的容易な居住者,さらには,避難指示後に新居を購入して移住をし,避難生活を終了した避難等対象者など,避難指示等の対象となったとしても,その後の精神的苦痛のあり方には 各人の事情によって大きな差異や様々な軽重があることが容易に推察される。 したがって,そのような事情を考慮すれば,法的に認められ得る避難等対象者の慰謝料額は各人毎に大きく異なり得るし,本来,1人月額10万円を下回る賠償額に留まる場合も当然あり得るのである。このため, 中間指針等が定める避難慰謝料額が避難等対象者に対して等しく適用される「最低限の基準」であるなどというのは全くの誤りであり,法理上,何らの根拠もないものというほかない。 そうではなく, , 中間指針等が定める避難慰謝料額が避難等対象者に対して等しく適用される「最低限の基準」であるなどというのは全くの誤りであり,法理上,何らの根拠もないものというほかない。 そうではなく,中間指針の定めた1人月額10万円の慰謝料額は,あくまで,避難指示等によって避難等対象者に生ずると考えられる精神的 苦痛を類型的・包括的に考慮して定められたものとみるのが正しく,このような指針を定めることによって迅速な賠償を可能とすることを企図するものである。このため,他の避難者に比して精神的苦痛が小さいことを基礎付ける事情がある場合には,1人月額10万円を下回る避難慰謝料額が妥当であると解されることは当然あり得ることとなる。 d 大量・迅速処理の要請に基づく中間指針等の賠償額の設定 中間指針等は,原賠法18条2項2号に基づき,「原子力損害の賠償に関する紛争について原子力損害の範囲の判定の指針その他の当該紛争の当事者による自主的な解決に資する一般的な指針を定めること」との所掌事務に基づき策定されるものであるため,その指針は合理的なものでなければ自主的な紛争解決につながらず,早期の賠償解決を実現し 得ない。換言すれば,中間指針等が合理的なものとして定められなくてはならないことは,法が当然に前提として要求しているものと解される。 そして,膨大な数の損害賠償請求を処理するに当たっては,当該事案の特殊性に着目した個別対応を行うことはほぼ不可能であるため,請求者から見て満足のいくものとして受け入れられやすい水準の賠償をし ようとすると,一般に訴訟になる場合に想定される認容額よりも賠償額が高いものとならざるを得ない傾向があり,中間指針等の慰謝料額の指針も,裁判外での自主的な紛争解決を促進するという観点から,被害者 ようとすると,一般に訴訟になる場合に想定される認容額よりも賠償額が高いものとならざるを得ない傾向があり,中間指針等の慰謝料額の指針も,裁判外での自主的な紛争解決を促進するという観点から,被害者救済に十分に意を用いた賠償額を指針として示していると解されるのである。 仮に,1人月額10万円の避難慰謝料額があくまで「ミニマム」の出発点にとどまり,多くの避難等対象者において増額が成り立つということであれば,紛争解決のための指針としての効力は損なわれ,その機能を果たすことが困難になるから(ほぼ全てが増額分を巡っての紛争状態になってしまい,紛争解決機能を期待し得ない。),そのような指針の解 釈は妥当ではなく,自主的な紛争解決を促進するという法の意図に反する結果となってしまう。実際にも,原賠審が,指針の記載や審議経過に照らしても,「ミニマム」のものとしての避難慰謝料の指針を定めたとは到底解されないのであり,自主的な紛争解決をするに足る被害者からみて満足のいく適正な賠償額を検討して,指針として定めたものと解さ れるのである。 e 原賠審における過去の裁判例についての検討原賠審が「避難に係る慰謝料」額を定めるに当たっては,過去の裁判例についての検討も行われている。【乙共31】ここで検討されている居住不能・転居を余儀なくされた事案における慰謝料に関する裁判例においては,避難又は借家等での居住の期間に応 じて月額の賠償額を積み上げて算定するのではなく,諸般の事情を総合考慮して一括して賠償額を定めているものが多いため,月額の賠償額を賠償算定の基礎とする中間指針等の考え方と直ちに比較することは困難であるが,身体的損害がない場合における擁壁の崩落や地滑り事故による家屋の損壊に起因する避難事案【乙共31の「身体 め,月額の賠償額を賠償算定の基礎とする中間指針等の考え方と直ちに比較することは困難であるが,身体的損害がない場合における擁壁の崩落や地滑り事故による家屋の損壊に起因する避難事案【乙共31の「身体的損害なし」の 3番】においては,においては慰謝料額として300万円が認容されており,また,同じく避難期間が約7年7か月の地滑り事故事案【乙共31の「身体的損害なし」の4番】では,財物喪失による慰謝料として50万円,仮設プレハブ住宅に居住していた者には150万円の慰謝料が認容されている。また,地滑り災害事案において,避難期間約1週間か ら約3年9か月の事案においては,避難生活期間に関わらず概ね300~400万円の慰謝料が認容されている。【乙共31の「身体的損害なし」の2番】これらに加え,本件訴訟は身体的損害がある場合ではないが,身体的損害がある場合の裁判例等も踏まえて検討が行われている。 このようにして定められた本件事故により避難等を余儀なくされたことによる中間指針等の定める避難慰謝料の水準は,前記の裁判例の賠償水準を上回るものであり,月額で定められ,賠償終期までの間,金額が低減されることなく継続して支払われるものであることも併せ考慮すると,本件事故の被害者に対する救済の観点を重視した慰謝料額とし て定められているものということができる。 fADRについてこのように,中間指針等が定める避難慰謝料額は避難等対象者の精神的損害に対する合理的な賠償指針であると解されるが,避難等対象者各人の事情によって,精神的苦痛を増大させる特段の個別事情がある場合には,1人月額10万円を上回る慰謝料額を認定することが正当視され ることがないとはいえない。 ただし,その場合であっても,前述のとおり,避難等対 精神的苦痛を増大させる特段の個別事情がある場合には,1人月額10万円を上回る慰謝料額を認定することが正当視され ることがないとはいえない。 ただし,その場合であっても,前述のとおり,避難等対象者において生ずる避難に係る精神的苦痛については,中間指針等に基づく「避難に係る慰謝料」において類型的・包括的に賠償の対象として考慮されているから,その増額事由に当たると解される事情が仮に認められるとして も,それが,他の一般の避難等対象者に比して客観的に強度の精神的苦痛を受けたと認められる場合であることを要すると解される。 原子力損害賠償紛争解決センターのADRにおいても,弁護士資格を有する仲介委員が申立人から個別具体的な被災状況等を聴取し,場合によっては口頭審理期日を開いて申立人の言い分を直接聴いた上で和解 案を提示するが,その際,申立人が単に主観的・個別的事情を追加主張しさえすれば常に慰謝料を増額するなどといった取扱いはしていない。 同センターは,そのADRにおいて活用する基準である総括基準(精神的損害の増額事由等について)【乙共29】を定めて,「下記の事由があり,かつ,通常の避難者と比べてその精神的苦痛が大きい場合には, 中間指針において目安とされた額よりも増額することができる。」として,「下記の事由」として,「要介護状態にあること」,「身体または精神の障害があること」,「重度または中程度の持病があること」,「上記の者の介護を恒常的に行ったこと」,「懐妊中であること」,「乳幼児の世話を恒常的に行ったこと」,「家族の別離,二重生活等が生じたこと」,「避難 所の移動回数が多かったこと」,「避難生活に適応が困難な客観的事情で あって,上記の事情と同程度以上の困難さがあるものがあったこと」を挙げている 二重生活等が生じたこと」,「避難 所の移動回数が多かったこと」,「避難生活に適応が困難な客観的事情で あって,上記の事情と同程度以上の困難さがあるものがあったこと」を挙げている。 このように,ADRにおいても,中間指針等に定める慰謝料額が主観的・個別的事情を捨象した最低限の基準などではなく,様々な主観的・個別的事情を申し立てた避難者に対しても,その基本的な精神的苦痛に ついては1人月額10万円の慰謝料において考慮されていることを前提とした上で,通常の避難者と比しても特に精神的苦痛が大きい「客観的な事情」があるかどうかを審理しているのである。 仮に避難慰謝料を増額することが相当であると考えられる事情がある場合であっても,その増額の幅としては,避難所生活の場合でもその 期間に限って2割増しとされていること,交通事故の傷害慰謝料についても傷害の部位によって2~3割程度の増額をするとされていること(民事交通事故訴訟・損害賠償額算定基準,いわゆる赤い本の基準)などを踏まえれば,これと同程度以内の相当な増額幅とされるべきであり,また増額される時間的範囲もそのような増額事由が存すると認められ る期間に限って対象とされるべきである。 (ウ) 平穏な日常生活とその基盤の喪失による精神的苦痛の取扱い中間指針は,政府の避難指示等に基づく避難等対象者の精神的損害について,以下のように述べる。【乙共1の19~20頁】「本件事故においては,少なくとも避難等対象者の相当数は,その状況 に応じて,①避難及びこれに引き続く対象区域外滞在を長期間余儀なくされ,あるいは②本件事故発生時には対象区域外に居り,同区域内に住居があるものの引き続き対象区域外滞在を長期間余儀なくされたことに伴い,自宅以外での生活を長期間余儀なく 象区域外滞在を長期間余儀なくされ,あるいは②本件事故発生時には対象区域外に居り,同区域内に住居があるものの引き続き対象区域外滞在を長期間余儀なくされたことに伴い,自宅以外での生活を長期間余儀なくされ,あるいは③屋内退避を余儀なくされたことに伴い,行動の自由の制限等を長期間余儀なくされるなど,避 難等による長期間の精神的苦痛を被っており,少なくともこれについては 賠償すべき損害と観念することが可能である。したがって,この精神的損害については,合理的な範囲で賠償すべき損害と認められる。」このように中間指針においては,「避難等による長期間の精神的苦痛」を賠償すべき精神的損害として位置付けており,避難に伴う多様な精神的苦痛を個々に区分して論ずるのではなく,これらを包括的に考慮の上で, 同指針に基づく精神的損害の賠償額の指針を定めている。そして,中間指針は,第1期(本件事故発生から6か月間)について,「地域コミュニティ等が広範囲にわたって突然喪失し,これまでの平穏な日常生活とその基盤を奪われ,自宅から離れ不便な避難生活を余儀なくされた上,帰宅の見通しもつかない不安を感じるなど,最も精神的苦痛の大きい期間といえる。 したがって,本期間の損害額の算定に当たっては,・・・・上記のように大きな精神的苦痛を被ったことや生活費の増加分も考慮し,1人当たり月額10万円を目安とするのが合理的である」(同・21頁)としていることからしても,避難生活中の日常生活の不便さだけではなく,本件事故以前の生活やその基盤を喪失したことに対する精神的苦痛や避難を余儀なくさ れたことに伴う帰宅の見通しのつかない不安等についても中間指針に基づく「避難等に係る慰謝料」の対象とされている。 この点について,原告らは,「地域コミュニティ」の喪失 苦痛や避難を余儀なくさ れたことに伴う帰宅の見通しのつかない不安等についても中間指針に基づく「避難等に係る慰謝料」の対象とされている。 この点について,原告らは,「地域コミュニティ」の喪失や「帰宅の見通しのつかない不安」に係る精神的苦痛は,1人月額10万円という「避難等に係る慰謝料」の対象とされていないと主張するが,上記のとおり,か かる主張は誤りである。「地域コミュニティ等が広範囲にわたって突然喪失し,これまでの平穏な日常生活とその基盤を奪われたこと」に対する大きな精神的苦痛があることを正面から評価した上で,「避難等に係る慰謝料」の損害額の指針が定められているものである。 (エ) 「1人月額10万円」の合理性 その上で,以下のような事情を踏まえても,中間指針による「避難等に 係る慰謝料」の損害額である「1人月額10万円」については,裁判上の損害額としても十分に合理性・相当性が認められる賠償水準となっている。 a 「合理的に算定した一定額の賠償」として定められていること中間指針は,その総論部分において「損害の算定に当たっては,個別に損害の有無及び損害額の証明をもとに相当な範囲で実費賠償をする ことが原則であるが,本件事故による被害者が避難等の指示等の対象となった住民だけでも十数万人規模にも上り,その迅速な救済が求められる現状にかんがみれば,損害項目によっては,合理的に算定した一定額の賠償を認めるなどの方法も考えられる。」としているところ【乙共1・5頁】,中間指針等において具体的な「一定額の賠償」を指針として定め ているのは精神的損害の賠償額のみである。 したがって,中間指針等に定める精神的損害に関する賠償額の指針は,上記総論部分にいう「合理的に算定した一定額の賠償」を示したものであ 針として定め ているのは精神的損害の賠償額のみである。 したがって,中間指針等に定める精神的損害に関する賠償額の指針は,上記総論部分にいう「合理的に算定した一定額の賠償」を示したものであると解される。 b 負傷を伴う場合における自動車損害賠償責任保険等の基準を参考と していること原賠審においては,対象となる精神的苦痛は身体的な負傷を伴うものではないが,自賠責保険における慰謝料額をも参考にした上で,損害額の指針を定めている。 c 時間の経過に伴う賠償額の逓減がなされていないこと 身体的負傷を伴う交通事故の損害賠償では,時間の経過とともに精神的損害の賠償額が逓減することが一般である。 本件事故の避難者においても,身体的負傷は伴わないものの,本件事故直後の混乱期に比して,その後時間の経過とともに,仮設住宅や借上げ住宅等への入居が進むなどして避難生活の過酷さが緩和されること が考えられることから,中間指針は,第2期(本件事故発生後6か月経 過後から12か月経過後までの間)については,希望すれば大半の者が仮設住宅等への入居が可能となるなど長期間の避難生活のための基盤が形成され,避難生活等の過酷さも第1期(本件事故発生から6か月間)に比して緩和されると考えられることを考慮し,交通事故損害賠償における期間経過に伴う慰謝料の変動状況も参考として,1人月額5万円を 目安とするとの指針を示しているが【乙共1・22頁】,被告東電においては,第2期においても(及びその後においても)1人月額10万円の賠償を維持し,継続している。 このため,避難先等で新居を購入するなどして,生活の本拠を移転し(転居し),客観的に避難の状態が終了したとみられる場合や,避難先 において平常の生活を営んでいると認められる ,継続している。 このため,避難先等で新居を購入するなどして,生活の本拠を移転し(転居し),客観的に避難の状態が終了したとみられる場合や,避難先 において平常の生活を営んでいると認められる場合においても,本件事故直後の避難慰謝料と同額である1人月額10万円の賠償額を逓減させることなく賠償している。 d 避難費用,就労不能損害,営業損害,財物損害等について別途賠償されるものであること 避難等対象者については,避難等に係る慰謝料(これには,生活費の増加費用が合算されている。)のほかに,避難費用,自宅の宅地・建物・家財等の財物損害,就労不能損害,営業損害等の賠償がなされており【乙共273,乙共27,乙共25,乙共26,乙共277,乙共278,乙共279~乙共282】,これらの財産的損害については,精神的損 害とは別途に賠償がなされるものである。 e 1人当たりの賠償額であることこの賠償額は1人当たりの金額であり,年齢による差異も設けられておらず,例えば,4人家族であれば,世帯単位では毎月40万円の精神的損害が賠償終期まで支払われるものとなっている。 f まとめ 以上の諸事情を踏まえれば,避難等に係る慰謝料の基礎額となる1人月額10万円の損害額については,長期の避難に係る精神的苦痛を包括的に慰謝する慰謝料額として合理性・相当性を有するものであり,かかる賠償額が原告らに共通する精神的損害の賠償額として不十分であるとする原告らの主張には理由がない。 (オ) 交通事故に関する「赤い本」に準拠した慰謝料額との比較一般に,交通事故をはじめとする人身損害にかかる損害賠償請求事件では,その損害額は,「赤い本」の基準額が参考とされているところ,仮に,避難等対象者の慰謝料額を交通事故による身体傷 慰謝料額との比較一般に,交通事故をはじめとする人身損害にかかる損害賠償請求事件では,その損害額は,「赤い本」の基準額が参考とされているところ,仮に,避難等対象者の慰謝料額を交通事故による身体傷害を受けた場合の慰謝料額の水準と比較すると以下のとおりである。 すなわち,第1に,本件事故の場合には,交通事故のように傷害を伴うものではなく,それによる肉体的苦痛や日常生活上の苦痛は生じていない。 また,身体的損傷を治療するための入院の場合は,家族との分離も余儀なくされるが,本件事故の場合は,そのような事情もない。さらに,本件事故時の場合には,居住地からの避難を余儀なくされるものの,その余の行 動の自由は制約されていない。 したがって,身体に傷害を受けて,かつ入院によって行動の自由を制約されるという入院の場合に比して,身体に傷害を受けておらず,避難後は行動の自由を制約されていない本件の場合には,精神的苦痛の度合いは低いと考えられる。 第2に,被告東電が公表している1人当たり850万円という慰謝料額は,いずれにせよ,「赤い本」に基づく慰謝料額を大きく上回る水準となっている。 すなわち,仮に「赤い本」に準拠して検討するとしても,交通事故によって人身傷害(他覚所見あり)を負った場合においては,別表Ⅰ(上記表 1)に基づいて入通院慰謝料が算定されるところ,仮に15か月間入院し, その後15か月間通院をしたと仮定した場合の入通院慰謝料額は370万円となる。他覚所見がない場合については別表Ⅱ(表2)が適用され,同様の期間入院及び通院をした場合の入通院慰謝料額は243万円となる。 本件事故との比較においては,本件事故の場合には,たとえば,旧避難 指示解除準備区域である南相馬市小高区においては本件事故後から 期間入院及び通院をした場合の入通院慰謝料額は243万円となる。 本件事故との比較においては,本件事故の場合には,たとえば,旧避難 指示解除準備区域である南相馬市小高区においては本件事故後から平成28年7月12日(同区域指定解除の日)までの間(5年4か月=64か月)避難指示区域として指定されていることにかんがみ,仮に64か月入院が続いたとした場合の入院慰謝料は別表Ⅰの場合で634万円であり,別表Ⅱの場合で473万円である。また,旧居住制限区域又は旧避難指示 解除準備区域である富岡町,浪江町,飯舘村においては平成29年3月31日(富岡町については指定の解除が平成29年4月1日午前0時)まで避難指示区域として指定されていることにかんがみ,平成30年3月末までの85か月分の入院が続いたと仮定した場合の入院慰謝料は,別表Ⅰの場合で760万円であり,別表Ⅱの場合で578万円である。 また,従前の生活の本拠や生活基盤から長期間隔絶されるという点では例えば85か月間にわたる長期入院の場合も避難の場合も同じであり,85か月にわたって長期入院していた場合に,退院後の生活に係る周囲の環境やコミュニティが85か月前と変わるということもあり得ることであり,これらの点では,顕著な差異があるとはいえない。 したがって,仮に「赤い本」を参照して本件事故に関する原告らの慰謝料額を検討するとしても,本件事故による精神的損害の評価に当たっては,交通事故によって受傷して85か月間入院する場合の別表Ⅱの場合の慰謝料額(578万円)から,肉体的苦痛とそれに伴う日常生活上の苦痛及び行動の自由が制約されることに伴う精神的苦痛に相当する分を減じる ことになるから,同額をさらに下回るものと評価することができる。被告 東電は,旧居住制限 に伴う日常生活上の苦痛及び行動の自由が制約されることに伴う精神的苦痛に相当する分を減じる ことになるから,同額をさらに下回るものと評価することができる。被告 東電は,旧居住制限区域及び旧避難指示解除準備区域に居住していた原告らに対して1人当たり850万円の慰謝料額を支払う旨公表しているのであり,これは,交通事故実務で受け入れられている慰謝料額の水準に比しても,これを大きく上回っているものと評価できる。 このように,仮に「赤い本」と比較したとしても,原告らに対する85 0万円の慰謝料額は十分にその精神的苦痛を慰謝するに足りる水準である。 (カ) 結論以上のとおり,避難指示等対象区域における慰謝料額は,原告らの被侵害利益に対する賠償としては,月額10万円を上回ることはなく,避難直 後に避難所等で生活をしていたとか,看護を必要とする状況でありながら避難を強いられた等の特別な事情が存する場合にのみ,当該事情の存する間,上記裁判例に照らして通常の避難者を特に超える精神的苦痛が生じたか否かを検討すれば足りる。 エふるさと喪失慰謝料について (ア) 被侵害利益の具体的な内容原告らが主張する具体的な損害のうち,住環境の喪失,学びの環境の喪失,職場・人生設計の喪失,被ばくの影響に対する恐怖,周囲の人間環境の悪化及び家族・親族関係の悪化については,原告自身が主張する避難慰謝料の具体的な損害と同じ内容のものであり,避難指示に基づいて通常生 ずべき範囲内のものであれば,避難慰謝料の賠償に含まれており,これとは別に慰謝料の発生を基礎付けるものではない。 また,ふるさとの喪失については,帰還困難区域及び大熊町,双葉町(以下,本項において「帰還困難区域等」という。)を除き,既に避難指示は解除され,生活に は別に慰謝料の発生を基礎付けるものではない。 また,ふるさとの喪失については,帰還困難区域及び大熊町,双葉町(以下,本項において「帰還困難区域等」という。)を除き,既に避難指示は解除され,生活に支障のない程度の空間線量に低下しており,インフラも整 備され,次第に住民が帰還しつつあるものであり,本件事故以前のコミュ ニティが恒久的に失われたとは客観的に評価しえない。 帰還困難区域等については,帰還困難区域への帰還が相当長期間にわたって困難とあり,社会通念上帰還不能になったとの評価が成り立ち得るところ,この点について帰還可能となるまでの長期間にわたる平穏生活権の侵害をもって賠償の対象とするのではなく,かかる精神的損害をも包括評 価して帰還不能による損害が賠償の対象となるものである。 中間指針等の避難慰謝料においては,政府による避難指示によって,避難等対象者が従前暮らしていた生活の本拠や地域コミュニティ等の生活基盤を喪失したことや将来の不安を感じることについても,賠償の対象となる精神的苦痛として考慮されている。 a 中間指針は,「本件事故後,避難等対象者の大半が仮設住宅等への入居が可能となるなど,長期間の避難生活のための基盤が形成されるまでの6ヶ月間(第1期)は,地域コミュニティ等が広範囲にわたって突然喪失し,これまでの平穏な日常生活とその基盤を奪われ,自宅から離れ不便な避難生活を余儀なくされた上,帰宅の見通しもつかない不安を感 じるなど,最も精神的苦痛の大きい期間といえる。」【乙共1・21頁】とした上で,1人月額10万円の慰謝料額の指針を示している。 このように,中間指針等の定める避難慰謝料は,本件事故以前に原告らが享受していたふるさとでの生活基盤やそこでの地域コミュニティを避難指示によって喪失 1人月額10万円の慰謝料額の指針を示している。 このように,中間指針等の定める避難慰謝料は,本件事故以前に原告らが享受していたふるさとでの生活基盤やそこでの地域コミュニティを避難指示によって喪失したことや将来の不安を感じることによる精 神的苦痛も対象として,慰謝料額が定められている。 b 政府の避難指示によって,避難等対象者に生じている被害をありのままにみれば,避難に伴い,それまで慣れ親しんできた生活基盤やコミュニティからの離脱を余儀なくされ,それまでの平穏な日常生活を奪われるという被害が生じるとともに,同時に,避難先での不便な避難生活を 強いられることになり,いわば「旧生活の喪失」と「新生活の苦難」と いう二つの被害がいわば同時にかつ一体のものとして生じているということができる。 したがって,避難に起因して生ずる精神的苦痛を考える上で,両者を別個の訴訟物を構成する慰謝料請求権であると観念する必然性はなく,そのように細分化して捉えることが合理的であるとも到底いうことが できない。 このため,中間指針等も,生活基盤の喪失やコミュニティの喪失に係る精神的苦痛や将来の不安に係る精神的苦痛,避難生活の不便さなども包括的に考慮の上で,避難慰謝料の対象として包括的に把握しているのであり,かかる慰謝料の捉え方は合理的である。 c 中間指針第二次追補【乙共3】においては,避難指示区域の見直しが行われて,帰還困難区域,居住制限区域及び避難指示解除準備区域に再編がなされたことを受けて,避難の長期化が見込まれていることから,これに伴い「いつ自宅に戻れるか分からないという不安な状態が続くことによる精神的苦痛」の増大等を考慮して,1人月額10万円の避難慰 謝料額に基づいて,以下の賠償の考え方を示している。【同 ら,これに伴い「いつ自宅に戻れるか分からないという不安な状態が続くことによる精神的苦痛」の増大等を考慮して,1人月額10万円の避難慰 謝料額に基づいて,以下の賠償の考え方を示している。【同・3~6頁】① 避難指示解除準備区域については,比較的近い将来に避難指示の解除が見込まれることから,これまでと同様に月単位で算定することとする(1人月額10万円を継続する。)② 帰還困難区域では,長年住み慣れた住居及び地域における生活の断 念を余儀なくされたために生じた精神的苦痛が認められるとされ,今後5年以上帰還できない状態が続くと見込まれることから,こうした長期にわたって帰還できないことによる損害額を一括して算定することとした(1人600万円を一括賠償する。)③ 居住制限区域では,現時点で解除までの具体的な期間が不明である ものの,ある程度長期化すると見込まれることを踏まえ,基本的には 月単位で算定することとしつつ,被害者救済の観点から,当面の損害額として一定期間分を想定した一括の支払を受けることができるものとする(1人月額10万円を基本としつつ,2年分として1人240万円の一括請求ができるものとする。)このような中間指針第二次追補の定めからしても,避難生活が長期化 し,これによって相当期間帰還が妨げられることによる精神的苦痛については,1人月額10万円の避難慰謝料において考慮されていることが裏付けられている。 d このように,中間指針及び同第二次追補においては,避難慰謝料は,避難指示が出されている期間に応じて,「月単位」で賠償されるとの考 え方がとられているところ,帰還困難区域については平成25年12月の時点においても本格的な除染や住民帰還のためのインフラ復旧等を実施する計画すら策定さ に応じて,「月単位」で賠償されるとの考 え方がとられているところ,帰還困難区域については平成25年12月の時点においても本格的な除染や住民帰還のためのインフラ復旧等を実施する計画すら策定されておらず,将来において帰還が可能であるとしてもその見通しがいつになるかを判断することが困難であること,仮に長期間経過後に帰還が可能となったとしても,帰還が不能なため「移 住を余儀なくされた」として扱うことも合理的と考えられることなどから,中間指針第四次追補においては,帰還困難区域及び町の大半が帰還困難区域となっている大熊町及び双葉町(帰還困難区域等)については,「長年住み慣れた住居及び地域が見通しのつかない長期間にわたって帰還不能となり,そこでの生活の断念を余儀なくされた精神的苦痛等」 を一括して賠償することとして,1000万円の慰謝料額の賠償指針を示している。【乙共9の4~6頁】しかしながら,他方で,上述のとおり,中間指針第四次追補の策定以前に賠償対象とされてきた避難に係る慰謝料(中間指針第二次追補において,帰還困難区域については,避難指示区域見直しの時期から5年分 (平成24年6月1日~同29年5月31日)に相当する600万円の 慰謝料をまとめて賠償する旨の指針が示されている。)においても,上記のとおり,避難生活が長期化し,本件事故以前の住居環境を相当期間にわたって喪失したことに係る不安や精神的苦痛がすでに賠償対象とされていることから,中間指針第四次追補は,「第二次追補において,長期にわたって帰還できないことによる損害額を5年分の避難に伴う慰 謝料として一律に算定していることから,このうちの平成26年3月以降に相当する部分は「『長年住み慣れた住居及び地域が見通しのつかない長期間にわたって帰還不能 による損害額を5年分の避難に伴う慰 謝料として一律に算定していることから,このうちの平成26年3月以降に相当する部分は「『長年住み慣れた住居及び地域が見通しのつかない長期間にわたって帰還不能となり,そこでの生活の断念を余儀なくされた精神的苦痛等』,に包含されると考えられるため,その分を加算額から控除することとした」【乙共9・6頁参照】とし,中間指針第二次追 補に基づく600万円の一括賠償がすでになされていることを前提として,中間指針第四次追補に定める避難が長期化する場合の慰謝料と,中間指針第二次追補に基づく避難慰謝料(平成26年3月以降に相当する既払い分)との間の重なり合いを認めて,1000万円の慰謝料額から重複分を控除することとし,第3期(避難指示区域の見直し)の始期 が平成24年6月の場合には,控除後の額は700万円とするとの指針を示しているものである。 このように,月額10万円を基礎とする避難に係る慰謝料と中間指針第四次追補に基づく避難が長期化する場合の慰謝料は,連続性のあるものとして捉えられており,それゆえ,両者間の賠償対象の重複の調整が 行われている。 このような中間指針第四次追補とそれまでの避難に係る慰謝料の関係からしても,中間指針等に基づく1人月額10万円の避難に係る慰謝料においては,長期間にわたって帰還できないことによる精神的苦痛がすでに賠償の対象とされていることが裏付けられているものである。 (イ) 帰還困難区域等の旧居住者の慰謝料額 帰還困難区域等の旧居住者の精神的損害については,中間指針第二次追補(平成24年3月16日策定)【乙共3】において,避難指示区域の見直しがなされるに当たって,帰還困難区域においては今後5年以上帰還できない状態が続くと見込まれることから ついては,中間指針第二次追補(平成24年3月16日策定)【乙共3】において,避難指示区域の見直しがなされるに当たって,帰還困難区域においては今後5年以上帰還できない状態が続くと見込まれることから,かかる長期にわたって帰還できないことによる損害額を一括して600万円の賠償指針を定めている。【乙 共3・2~6頁】かかる賠償額の算定に当たっても,避難期間中の生活上の不便のみならず,「長年住み慣れた住居及び地域における生活の断念を余儀なくされたために生じた精神的苦痛が認められ」【同・5頁】とされているとおり,本件事故以前の生活環境を丸ごと喪失したことを損害の対象として正面から評価して,考慮しているものである。 また,中間指針第四次追補(平成25年12月26日策定)【乙共9】においては,同第二次追補策定後の状況を踏まえ,「帰還困難区域においては,将来にわたって居住を制限することが原則とされており,区域内の除染やインフラ復旧等は実施されておらず,現段階で避難指示解除までの見通しすら立たない状況であり,避難指示が長期化することが想定される」 【同・1~2頁】との認識の下,最終的に帰還するか否かを問わず,「長年住み慣れた住居及び地域が見通しのつかない長期間にわたって帰還不能となり,そこでの生活の断念を余儀なくされた精神的苦痛等」を一括して賠償することとした,として【同・5~6頁】,1人当たり1000万円の賠償額の指針を定めている。 この賠償額の算定に当たっては,「過去の裁判例及び死亡慰謝料の基準等も参考にした上で,避難指示が事故後10年を超えた場合の避難に伴う精神的損害額(生活費増加費用は含まない。)の額を十分に上回る金額とした」とし,また,「第二次追補において,長期にわたって帰還できないことによる損害額を5年分の避 故後10年を超えた場合の避難に伴う精神的損害額(生活費増加費用は含まない。)の額を十分に上回る金額とした」とし,また,「第二次追補において,長期にわたって帰還できないことによる損害額を5年分の避難に伴う慰謝料として一律に算定している ことから,このうち平成26年3月以降に相当する部分は『長年住み慣れ た住居及び地域が見通しのつかない長期間にわたって帰還不能となり,そこでの生活の断念を余儀なくされた精神的苦痛等』に包含されると考えられるため,その分を加算額から控除することとした」としているものである。 このように中間指針等に基づく帰還困難区域等の旧居住者に対する精 神的損害の賠償の考え方は,法的評価として,「帰還困難区域での生活を断念することを余儀なくされた」ことを前提として,このような喪失に係る精神的苦痛について過去の裁判例や死亡慰謝料の水準などを考慮の上で包括的な賠償額を定めたものであり,帰還困難区域に帰還し得ない前提でのその喪失に係る精神的損害について,多面的な審議を経た後に定めら れており,裁判上の損害賠償法理を前提としても,帰還困難区域等の旧居住者の精神的苦痛を十分慰謝することのできる賠償水準として指針が示されているものである。 したがって,帰還困難区域等の旧居住者である原告らの精神的損害については,被告東電が公表している1人当たり1450万円を超えるものと は解されないのであり,原告らの請求には理由がない。 なお,原告らは,精神的損害について月額35万円の継続的慰謝料とふるさと喪失に係る2000万円の慰謝料の2つを求めているが,原賠法3条1項に基づく損害賠償請求権として,これらの2つの請求の訴訟物は1個であると解されるから,被告東電が主張しているとおり,帰還困難区域 等の旧居 00万円の慰謝料の2つを求めているが,原賠法3条1項に基づく損害賠償請求権として,これらの2つの請求の訴訟物は1個であると解されるから,被告東電が主張しているとおり,帰還困難区域 等の旧居住者の精神的損害として,政府避難指示により避難を余儀なくされたこと及びその後帰還困難区域に指定された結果として長期にわたり帰還が困難となり,法的評価としては,帰還を断念し移住を余儀なくされる状態に至ったとの被害を受けたことを前提として,その精神的損害の賠償額を論じることが相当であり,かかる観点から,帰還困難区域等の旧居 住者である原告らの精神的損害の賠償額は1人当たり1450万円を超 えるものではないのである。 (ウ) 旧居住制限区域及び旧避難指示解除準備区域の居住者の慰謝料額中間指針,中間指針第二次追補,同第四次追補(避難指示解除後の相当期間に関する指針部分)を踏まえて,また政府復興指針【乙共134】に基づき,実際に避難指示が解除された時期を問わず(楢葉町は平成27年 9月5日,南相馬市は平成28年7月12日,浪江町及び飯舘村は平成29年3月31日,富岡町は平成29年4月1日に各避難指示解除),本件事故後6年経過時点で避難指示が解除されたものと同等の賠償を行うものとして,被告東電は,平成23年3月11日~平成30年3月末までの7年1か月分について,時間の経過による賠償額の逓減をすることなく, 月額10万円の精神的損害の賠償を継続することとしており,総額1人当たり850万円となる。 原告らは,かかる被告東電が公表する精神的損害の賠償額を超えて,別途2000万円のふるさと喪失慰謝料が認められるべきであるかのように主張するが,かかる請求には理由がない。 a 生活環境や生活基盤の喪失についての取扱い中 精神的損害の賠償額を超えて,別途2000万円のふるさと喪失慰謝料が認められるべきであるかのように主張するが,かかる請求には理由がない。 a 生活環境や生活基盤の喪失についての取扱い中間指針等は,避難指示により原告らに避難生活の苦痛が生ずることだけではなく,本件事故以前に享受してきたコミュニティの喪失や生活基盤の喪失が生ずることも考慮した上で,1人月額10万円の慰謝料額を定めている。 すなわち,原賠審第7回の資料3【乙共293】の2頁においては,「本件精神的損害の要素として,①平穏な日常生活の喪失,②自宅に帰れない苦痛,③避難生活の不便さ,④先の見通しがつかない不安などが考えられるのではないか。」と整理され,審議経緯からも,避難等対象者にこのような精神的苦痛が生じていることを類型的・包括的に捉えて, 合理的な賠償額の指針が定められていると解される。 そして,上記の①の要素は,本件事故以前に享受していた平穏な日常生活を奪われたこと,つまり,本件事故以前に享受していたふるさとでの生活基盤の喪失やコミュニティの喪失を意味するものであるところ,本件事故以前に享受していた生活スタイルや従事していた職業などは各人ごとに差異があるとしても,そのような生活やコミュニティを避難 指示によって奪われたことに変わりはなく,この点に関する精神的苦痛は広く避難慰謝料の対象とされており,この点は①としてまず第一に掲げられているのである。 また,上記②についても,自宅に帰れないことによる精神的苦痛の感じ方にも個々人によって差異はあり得るものの,通常生ずると考えられ る苦痛については賠償の対象として考慮されていると解されるのである。 このように,本件事故による政府避難指示によって避難等対象者に生ずる精神的苦 差異はあり得るものの,通常生ずると考えられ る苦痛については賠償の対象として考慮されていると解されるのである。 このように,本件事故による政府避難指示によって避難等対象者に生ずる精神的苦痛については(その具体的な現れ方や感じ方は年齢や職業等又それぞれ各人の感じ方によって差異があり得るが),③の「避難生 活の不便さ」だけではなく,本件事故以前に享受していた生活基盤から避難指示によって隔絶されたことを含めて,上記①から④の要素を広く類型的・包括的に評価して避難慰謝料の評価対象としているものであり,そのような考慮の結果として,1人月額10万円という避難等対象者の慰謝料額の指針が定められているのである。 原告らが主張する「ふるさとからの隔絶」は,本件事故直後の政府避難指示によって生じているものであり,上記慰謝料額でこれが考慮されていないなどということはあり得ない。そして,避難指示の解除によって,避難を余儀なくされ帰還し得ないという状況は終了するため,「ふるさとからの隔絶」の程度は緩和ないし解消されるのであり,実際に相 当数の住民が帰還している実情にある。 そのような中でも,被告東電は,本件事故発生当初の時期と同額の1人当たり月額10万円の慰謝料額を,避難指示解除後においても,継続して賠償し,避難指示解除後の相当期間を含めて本件事故後7年1か月にわたって,平成30年3月まで賠償するものであり,当該原告らの精神的苦痛を慰謝するに足りる賠償水準となっているということができ る。 b 権利侵害状態が継続していると評価することはできないこと旧居住制限区域及び旧避難指示解除準備区域においては,上述のとおり,平成29年4月1日までにいずれも避難指示が解除されている。被告東電は,かかる避難指示解除後に ていると評価することはできないこと旧居住制限区域及び旧避難指示解除準備区域においては,上述のとおり,平成29年4月1日までにいずれも避難指示が解除されている。被告東電は,かかる避難指示解除後において,避難指示解除後の相当期間 を含めて,平成30年3月末まで,本件事故発生直後の時期の慰謝料の基礎額と同額である1人当たり10万円の慰謝料額(年齢を問わない。)の賠償を,時間の経過に伴い低減させることなく,また,避難指示が解除された後においても低減させることなく,賠償することとしているものである。 確かに,避難指示が解除された後においても,従前の住民等が皆帰還するわけではなく,避難指示が解除されても戻らない住民や事業者があること(又はそのことから派生する事情)によって,旧同区域内の状況が本件事故以前と同様の状況に直ちに戻るとはいえないことは事実である。 しかし,避難指示が解除され,それからさらに1年(楢葉町や南相馬市においてはそれ以上の期間)が経過した平成30年4月以降においても,本件事故による放射線の作用によって旧居住者や事業者が客観的に戻れない状態が今後も続いているというのであれば格別,避難指示の解除後においてはそのような侵害状態自体は解消されており,そのような 中で,居住者数が本件事故以前に比して減少したとしても,遅くとも避 難指示解除がなされた平成29年4月1日から1年が経過した平成30年4月以降においては,そのような人口減少という結果として生じている現象面のみを捉えて,本件事故と相当因果関係のある権利侵害状態が継続していると評価することはできない。 すなわち,避難者各人が,避難指示により避難を余儀なくされた後, 当該避難指示が解除された場合に,どこに生活の本拠を定めるかという のある権利侵害状態が継続していると評価することはできない。 すなわち,避難者各人が,避難指示により避難を余儀なくされた後, 当該避難指示が解除された場合に,どこに生活の本拠を定めるかということは,誰にも強制されずに,各人が決めるべき事柄といわざるを得ない。そして,帰還した住民においては,帰還した住民による新たなコミュニティを形成することが期待でき,実際に形成されているということができる。自治体も帰還に伴う復興施策を推進しており,平成30年4 月以降において,少なくとも本件事故に起因して避難指示が解除された区域において生活することができない状態に置かれているとか,コミュニティを再生することができない状態が継続しているとは評価し得ない。 他方で,帰還をせずに,別の場所で住居を確保して移住することを選 択した者においても,当該移住先において,新たなコミュニティを構成し,自己の生活を再建することが期待でき,帰還をせずに移住することとした者に対しては,被告東電は,移住の合理性が認められる場合には,自宅不動産の財物損害の賠償を行うことに加えて,移住を余儀なくされた住民に対する住居確保損害の賠償として,新居購入費用と財物賠償額 の差額の一定割合を追加的費用の損害として賠償するなど,そのような移住に伴う損害についても賠償することとしているから,そのような場合には,本件事故の放射線の影響による避難は終了し,各人の新しい生活が始められていると評価できる(その基礎となる財産的損害の賠償は別途行われている。)。 また,帰還するか,移住するかについて未定の場合でも,上記いずれ かの選択をすることは可能であり,本件事故発生から約7年1か月が経過する平成30年3月末までの85か月分の慰謝料を賠償することをもって か,移住するかについて未定の場合でも,上記いずれ かの選択をすることは可能であり,本件事故発生から約7年1か月が経過する平成30年3月末までの85か月分の慰謝料を賠償することをもって,その精神的苦痛については慰謝されるものと解することが相当である。 このように,避難指示の解除後に,各旧居住者が実際に本件事故時の 居住地に帰還するか否かは,結局は旧居住者各人がそれぞれの事情に基づいて判断することができるものであり,何人も帰還を強制できるものではない。そして,そのような旧居住者の判断の集積の結果として,避難指示が解除された区域内の居住者人口が本件事故以前に比して減少することはあり得るところではあるが,ある地域において他の住民が自 らの判断に基づいてどのように行動するか如何によって,各住民の居住権や平穏な生活権に関する権利侵害の有無や精神的損害の賠償額が左右されると解することは相当ではないのである。 したがって,原賠法に基づく原子力損害(核燃料物質の放射線の作用等による損害)の賠償請求の観点からは,放射線の影響等を考慮し,イ ンフラの復旧も踏まえて,自治体とも協議の上で政府の避難指示が解除され,本件事故の放射線の影響に基づく住民に対する居住・移転の制限が解除され,帰還し得るという状況に至った場合には,本件事故による権利侵害状態は基本的に解消されると解されるのであり,そのような中で,各住民が,帰還をするかしないかを判断し,帰還をするとした場合 においてもその準備のために必要と考えられる相当な期間(中間指針第四次追補に基づき1年)【乙共9・4~5頁】の経過をもって,原子力損害としての慰謝料賠償は終期を迎えるとする中間指針等の考え方には合理性がある。 避難指示の解除は,線量の低減のみならず生活環境確保の 次追補に基づき1年)【乙共9・4~5頁】の経過をもって,原子力損害としての慰謝料賠償は終期を迎えるとする中間指針等の考え方には合理性がある。 避難指示の解除は,線量の低減のみならず生活環境確保のためにイン フラの回復も前提として行われ,自治体とも協議の上で行われるもので ある【乙共23・8頁参照】。避難指示解除後においては,本件事故の放射線の影響による原子力損害の有無の観点からは,かかる放射線の影響により避難を必要とする状況は解消されており,帰還し得る状況に至っている。実際に相当数の住民が帰還して生活している。 そのような中で,被告東電は,避難指示解除後も平成30年3月まで にわたって,本件事故直後の避難に係る慰謝料額と同額である1人月額10万円の慰謝料賠償を継続することとしているのであり,かかる賠償は,本件事故と相当因果関係のある原告らの避難慰謝料の賠償として十分に合理的なものと評価されるべきである。 c 避難慰謝料と生活基盤の破壊・喪失等に係る慰謝料の関係 上記述べたとおり,被告東電が公表している1人月額10万円の慰謝料においては,そもそも,本件事故発生直後より,政府の避難指示による避難生活の苦痛だけではなく,避難指示により従前享受してきた生活コミュニティからの隔絶や生活基盤の喪失等が生じることによる精神的苦痛を慰謝する趣旨を含んでいるのであり,被告東電が公表している 精神的損害の賠償の考え方において,避難指示期間中及び避難指示解除後の相当な期間を対象として,一貫して,本件事故と相当因果関係のある生活基盤の喪失等に係る精神的苦痛に対する精神的損害を賠償対象としている。 d 1人当たり850万円という慰謝料額の十分性 以上に加えて,1人当たり850万円という慰謝料額は,例えば85 る生活基盤の喪失等に係る精神的苦痛に対する精神的損害を賠償対象としている。 d 1人当たり850万円という慰謝料額の十分性 以上に加えて,1人当たり850万円という慰謝料額は,例えば85か月間にわたる交通事故による入院慰謝料の賠償水準をも上回るものであり,また,前記のような他の裁判例における慰謝料の認容水準を考慮しても,十分に当該原告らの精神的苦痛を慰謝するに足る賠償額となっている。 また,このような精神的損害の賠償に加えて,本件事故による財産的 損害として,自宅土地や家財等の財物損害,移住する際の住居確保損害,就労不能損害・営業損害,一時帰宅費用や家族間交通費等の財産的損害については,かかる精神的損害において一括評価されることなく,別途賠償の対象とされているのであり,かかる財産的損害の賠償も含めて,その被害の総体について賠償することが企図されているものである。 e 小括したがって,原告らが請求するふるさと喪失慰謝料を考慮しても,旧居住制限区域及び旧避難指示解除準備区域の居住者である原告らに認められるべき慰謝料額は,850万円を超えるものではないというべきである。 オまとめ以上に述べたとおり,帰還困難区域等の原告については,一定期間の避難に伴う精神的苦痛をも含めて事実上帰還不能とも評価し得るほどの避難の長期化に伴う精神的苦痛として包括評価して賠償額を算定すべきであり,かかる賠償額として1人当たり1450万円(年齢を問わない。4人世帯であ れば世帯合計で5800万円となる。)という水準は過去の裁判例や裁判実務に照らしても十分な水準である。 また,既に避難指示が解除された旧居住制限区域・旧避難指示解除準備区域の原告らについても,1人当たり850万円(年齢を問わない。4人世 う水準は過去の裁判例や裁判実務に照らしても十分な水準である。 また,既に避難指示が解除された旧居住制限区域・旧避難指示解除準備区域の原告らについても,1人当たり850万円(年齢を問わない。4人世帯であれば世帯合計で3400万円となる。)の慰謝料額を賠償することとし ており,これは,過去の裁判例の認容額に比しても,原告らの精神的苦痛を慰謝するに十分な水準である。 したがって,かかる精神的損害の賠償額を超えて,原告らが求めるふるさと喪失慰謝料の請求には理由がない。 ⑵ 旧緊急時避難準備区域の居住者に係る慰謝料について ア基礎となる事情 (ア) 避難の任意性旧緊急時避難準備区域に指定されたのは,広野町,楢葉町,川内村,田村市の一部及び南相馬市の一部であって,福島第一原発から半径20㎞圏内を除く区域であったところ【乙共18】,この緊急時避難準備区域においては,当該区域内の居住者等は,基本的に「常に緊急時に避難のための 立退き又は屋内への退避が可能な準備を行うこと」が求められたものであり,併せて,当該区域においては,引き続き避難指示に基づかない任意の避難をし,特に子ども,妊婦,要介護者,入院患者等は,当該区域内に入らないようにすること,当該区域においては,保育所,幼稚園,小中学校及び高等学校は,休所,休園又は休校とすること,勤務等のやむを得ない 用務等を果たすために当該区域内に入ることは妨げられないが,その場合においても常に避難のための立退き又は屋内への退避を自力で行えるようにしておく旨が指示されたものである。【乙共18】このように,緊急時避難準備区域においては,区域内の住民に対して強制的な避難が求められたものではなく,立入りが一律に制限されたもので もなく,この点で,住民が選択の余 のである。【乙共18】このように,緊急時避難準備区域においては,区域内の住民に対して強制的な避難が求められたものではなく,立入りが一律に制限されたもので もなく,この点で,住民が選択の余地なく,強制的に避難を余儀なくされた警戒区域や計画的避難区域とは事情が大きく異なっている。また,上記のとおり,子ども,妊婦,要介護者等の一定の住民に対して任意の避難の呼びかけが行われているが,強制的なものではない。 (イ) 本件事故後の状況 旧緊急時避難準備区域の原告らについては,その居住地が南相馬市又は田村市に所在するところ,これら地域においては,空間放射線量も時間の経過とともに低減し,本件事故から約6か月半が経過した平成23年9月末には緊急時避難準備区域の指定も解除されている。その後も,教育機関,行政機関,公共交通網,商業施設,医療機関もほぼ再開しており,各種の 社会的活動も行われているという実情にある。 イ旧緊急時避難準備区域の居住者の慰謝料額について(ア) 被侵害利益について旧緊急時避難準備区域の住民においては,政府指示により,基本的に「常に緊急時に避難のための立退き又は屋内への退避が可能な準備を行うこと」が求められたものであり,併せて,当該区域においては,引き続き任 意の避難をし,特に子ども,妊婦,要介護者,入院患者等は,当該区域内に入らないようにすること,当該区域においては,保育所,幼稚園,小中学校及び高等学校は,休所,休園又は休校とすること,勤務等のやむを得ない用務等を果たすために当該区域内に入ることは妨げられないが,その場合においても常に避難のための立退き又は屋内への退避を自力で行え るようにしておく旨が指示されている。【乙共18・2~3頁】このような本件事故後の状況を踏ま 入ることは妨げられないが,その場合においても常に避難のための立退き又は屋内への退避を自力で行え るようにしておく旨が指示されている。【乙共18・2~3頁】このような本件事故後の状況を踏まえ,強制的な避難指示ではないものの,上記指示内容を踏まえて,本件事故後に一定の合理的な期間においては同区域からの避難を選択することも合理的であり,これにより,精神的苦痛が生じ得るものと解される。 そして,緊急時避難準備区域からの避難者に想定される精神的苦痛としては,①平穏な日常生活の喪失,②自宅に帰れない苦痛,③避難生活の不便さ,④先の見通しがつかない不安などが考えられるところであり【乙共293・2頁参照】(ただし,これは強制的な避難指示の対象区域からの避難者も含めて検討されている精神的苦痛の内容である。),このような平穏 な日常生活を送る法的に保護された権利利益が侵害されたものと評価することができるというべきである。 (イ) 強制的に避難が求められた区域との比較緊急時避難準備区域からの避難者に想定される賠償の対象となる精神的苦痛について,旧緊急時避難準備区域と強制的に避難が求められた区域 とを比較すると以下のとおりであると考えられる。 まず,緊急時避難準備区域においては,平成23年4月22日以降,常に緊急時に避難のための立退き又は屋内への退避が可能な準備を行うことが求められてはいたものの,同区域への立入りに制限はなく,居住も許されている状況にあったものである。 これに対して,同日以降,原子力災害対策特別措置法28条2項におい て読み替えて適用される災害対策基本法63条1項の規定に基づく警戒区域に指定された区域においては,緊急事態応急対策に従事する者以外の者に対して,原則として立入りが禁じられ, 法28条2項におい て読み替えて適用される災害対策基本法63条1項の規定に基づく警戒区域に指定された区域においては,緊急事態応急対策に従事する者以外の者に対して,原則として立入りが禁じられ,又は当該区域から退去しなければならないとされ,これに反した場合の罰則も定められており(同法116条2号),実際にゲートが設けられて入域管理が行われた。 このように,緊急時避難準備区域に指定された区域の住民と強制的な避難を余儀なくされた住民との間には,本件事故後に政府がした指示の内容に大きな相違があり,それゆえ,政府指示に起因する生活の阻害の内容,程度においても大きな相違があると考えられる。 まず,「①平穏な日常生活の喪失」の点については,緊急時避難準備区域 では,強制的な避難を余儀なくされた区域とは異なり,同区域内での生活基盤から隔絶されることを強制されたものではなく,居住や立入りについても制約が課されていなかったことから,本件事故以前に享受していた生活基盤への侵襲の程度や隔絶の程度は,強制的な避難指示の対象区域の住民と比較すれば相対的に低いものであったといい得る。実際に相当数の住 民が緊急時避難準備区域内にとどまり,居住を継続していたのである。 また,その指示対象期間は平成23年9月30日までと,本件事故発生後約6か月半の期間にとどまっており,強制的な避難指示区域のように長期化したものではない。 さらに,その指示期間中においても居住や立入りをすることに制約はな く,その指示対象期間の面からみても,本件事故以前の生活基盤に対する 本件事故による侵襲の程度は,長期にわたって強制的な避難を余儀なくされた場合に比して,大きいものではないと評価し得る。 次に,「②自宅に帰れない苦痛」についても,強制的な避難 に対する 本件事故による侵襲の程度は,長期にわたって強制的な避難を余儀なくされた場合に比して,大きいものではないと評価し得る。 次に,「②自宅に帰れない苦痛」についても,強制的な避難指示区域においてはそのような事情が認められるものの,緊急時避難準備区域においては,仮に避難を選択したとしても,自宅に帰れないという事情は全くなく, 自由な意思に基づいて,帰還することが可能な状態にあったことから,そのような精神的苦痛の程度も,強制的な避難指示の対象区域の住民と比較すれば相対的に低いといい得る。 さらに,「③避難生活の不便さ」による苦痛自体については,両者に特に差異はないものと考えられ,最後に,「④先の見通しがつかない不安」につ いては,緊急時避難準備区域では,居住者もおり,本件事故後も生活インフラの復旧等が進められていたこと,その上で,本件事故発生から約6か月半が経過した平成23年9月末をもって指定が解除されており,その指示期間は比較的短期にとどまっていることなどからすれば,強制的な避難指示区域では長期にわたっての避難指示が継続している事情と比較して も,そのような不安自体,強制的な避難指示の対象区域の住民が置かれていた状況に比しても,相対的に大きなものではないということができる。 このように,緊急時避難準備区域と強制的な避難指示の対象区域とでは,その住民に生ずる精神的苦痛の内容や程度については,上記のような相違があると考えられるが,中間指針等においては,政府による指示の対象区 域であるという点に着目して両者を区別せず,強制的に避難を余儀なくされた住民と同額の基礎額(1人当たり月額10万円)に基づく慰謝料額を旧緊急時避難準備区域の居住者に対しても賠償する旨の指針を定めている。被告東電も,かかる指針に を区別せず,強制的に避難を余儀なくされた住民と同額の基礎額(1人当たり月額10万円)に基づく慰謝料額を旧緊急時避難準備区域の居住者に対しても賠償する旨の指針を定めている。被告東電も,かかる指針に基づいて,旧緊急時避難準備区域の住民の避難等に係る慰謝料額を賠償している。 したがって,このように被告東電が公表している避難等に係る慰謝料額 は,本件事故後に緊急時避難準備区域内の住民が置かれていた状況については,強制的な避難を余儀なくされた住民の状況とは異なる事情があり,旧緊急時避難準備区域の居住者の精神的苦痛は強制的にかつ長期にわたって避難指示の対象となった住民に比しても相対的に大きなものではないと評価できる中でも,強制的な避難指示の対象者に対する慰謝料の基礎 額である月額10万円と同額の基礎額に基づいて算定しているものであり,この点においても,かかる慰謝料額の基礎額が不合理に低額なものであるとは評価し得ない。 (ウ) 中間指針等が定める慰謝料額の合理性a 1人当たり月額10万円の慰謝料額について 原賠審は,1人当たり月額10万円という避難等に係る精神的損害の賠償額を導くに当たっては,本件事故においては負傷を伴う精神的損害が生じているものではないが,負傷を伴う場合の自動車損害賠償責任保険における慰謝料額(日額4200円,月額換算12万6000円)を参考にしている(中間指針)。【乙共1・21頁参照】 また,かかる避難等に係る慰謝料額を定めるに当たっては,過去の裁判例についての検討も行われている。【乙共31】このように,中間指針の定める避難等に係る慰謝料の水準(1人月額10万円)は,緊急時避難準備区域に指定されたことにより,避難を強制されたとはいえないものの,一定の合理的な期間においては避難 31】このように,中間指針の定める避難等に係る慰謝料の水準(1人月額10万円)は,緊急時避難準備区域に指定されたことにより,避難を強制されたとはいえないものの,一定の合理的な期間においては避難する こともやむを得ないと評価し得る旧緊急時避難準備区域の旧居住者に対する慰謝料額の基準として,その多数の被害者の精神的苦痛を十分に慰謝するに足りる水準であるということができる。 b 時間の経過によって減額されず,区域指定の解除後も11か月間にわたって継続して賠償されること 中間指針においては,本件事故発生から6か月間(第1期)について は,避難等に係る慰謝料額を1人当たり月額10万円としつつ,第1期終了後6か月間(第2期)については,「突然の日常生活とその基盤の喪失による混乱等という要素は基本的にこの段階では存せず,この時期には,大半の者が仮設住宅等への入居が可能となるなど,長期間の避難生活の基盤が整備され,避難先での新しい環境にも徐々に適応し,避難生 活の不便さなどの要素も第1期に比して縮減すると考えられる」として,第2期の慰謝料額は1人当たり月額5万円としている。【乙共1・18~22頁参照】そのような中で,被告東電においては,平成23年9月末までの緊急時避難準備指示期間中のみならず,同年10月以降においても,指定解 除後の相当期間として帰還に要する準備期間等も考慮の上で,平成24年8月末までの11か月にわたって,本件事故発生後6か月間(第1期)の慰謝料額と同額の1人当たり月額10万円を,減額することなく賠償する旨公表しているものである。 この結果として,被告東電が公表する旧緊急時避難準備区域の住民に 対する慰謝料額は180万円となるが,これは,旧緊急時避難準備区域が強制的な避難が求め く賠償する旨公表しているものである。 この結果として,被告東電が公表する旧緊急時避難準備区域の住民に 対する慰謝料額は180万円となるが,これは,旧緊急時避難準備区域が強制的な避難が求められた区域ではなく,かつ,平成23年9月末には指定解除されていること,前述のとおりのその後の南相馬市原町区内の平成24年8月頃までの空間放射線量も時間の経過とともに低減しており,その他インフラ復旧や社会的活動の再開状況等にかんがみても, 本件事故と相当因果関係のある精神的苦痛を十分慰謝するに足りる慰謝料額となっていると評価することができるというべきである。 c 賠償終期の考え方中間指針第二次追補【乙共3】は,旧緊急時避難準備区域の居住者に係る精神的損害の賠償終期については平成24年8月末を目安とする としているが,その理由として,①この区域におけるインフラ復旧は平 成24年3月末までに概ね完了する見通しであること,②その後も生活環境の整備には一定の期間を要する見込みではあるものの,平成24年度第2学期が始まる同年9月までには関係市町村において,当該市町村内の学校に通学できる環境が整う予定であること,③避難者が従前の住居に戻るための準備に一定の期間が必要であること等を考慮したとさ れている。【同・7~8頁】このような考え方については,旧緊急時避難準備区域が,緊急時に備えて避難の準備ができるように求めるものであったこと,指定解除に先立って,対象自治体が復旧計画を策定し,政府(原子力災害対策本部)に提出しており,これに基づく政府と関係市町村との意見交換や連携を 経た上で,原子力安全委員会も指定解除について「差し支えない」と回答していることも踏まえ,平成23年9月30日をもって指定が解除されていること,そ 基づく政府と関係市町村との意見交換や連携を 経た上で,原子力安全委員会も指定解除について「差し支えない」と回答していることも踏まえ,平成23年9月30日をもって指定が解除されていること,その前後を通じて本件事故後には同区域での居住や立入は禁じられていないこと,旧緊急時避難準備区域においては,平成24年8月頃までにはインフラの回復などが進捗しており,空間放射線量も 低減していることなどを踏まえて上記の終期が定められたものであり,前述した本件事故後の状況等を踏まえても,かかる賠償終期には合理性・相当性がある。 d 避難費用,就労不能損害,営業損害などの財産的損害は別途賠償の対象となること 旧緊急時避難準備区域の旧居住者に対しては,上記のとおり,避難等に係る精神的損害(1人月額10万円)のほか,本件事故と相当因果関係のある避難費用,一時立入り費用,就労不能損害(給与所得者の場合),営業損害(事業主の場合)などの財産的損害については,別途,中間指針等に基づいて賠償されるものである。 このように,精神的損害の賠償のみならず,財産的損害についても別 途賠償することによって本件事故により生じた損害の総体を賠償することとしているものであり,被告東電が公表している慰謝料額は,いわゆる包括的慰謝料として,一切の財産的損害を考慮して定めた慰謝料の賠償によってその全体の損害を填補するとの考え方が採られているものではない(1人当たり月額10万円の基礎額には通常生じ得る生活費 の増加分のみが合算考慮されているにとどまる。)。 したがって,そのような賠償の全体像からみても,被告東電が公表している慰謝料額は,通常の生活費増加分を超える本件事故と相当因果関係のある財産的損害については別途賠償の対象となることを前提と 。)。 したがって,そのような賠償の全体像からみても,被告東電が公表している慰謝料額は,通常の生活費増加分を超える本件事故と相当因果関係のある財産的損害については別途賠償の対象となることを前提とする損害額として公表されているものであり,そのような観点からも,不 当な賠償額ではない。 e 小括以上のとおりであり,旧緊急時避難準備区域の指定の趣旨やその解除時期,南相馬市原町区内における本件事故後の空間放射線量の状況や社会的活動の再開状況等を踏まえれば,その住民の避難に係る慰謝料額と しては,被告東電が中間指針等を上回る慰謝料額として公表している180万円(賠償対象期間:平成24年8月末までの18か月)の慰謝料額及び期間を超えるものではないというべきである。 ⑶ 旧屋内退避区域及び南相馬市要請区域の居住者に係る慰謝料についてア旧屋内退避区域及び南相馬市要請区域の概要 (ア) 旧屋内退避区域における指示の内容,対象範囲及び対象期間について旧屋内退避区域とは,平成23年3月15日に,福島第一原発から半径20㎞以上30㎞圏内について,政府が原災法に基づいて各地方公共団体の長に対して住民の屋内退避(外出せず,自宅など屋内に待機すること【乙共15】)を指示した区域として指定された区域であり,かつ,同年4月2 2日に当該屋内退避区域の指定が解除された後に,何らの政府指示の対象 とならなかった(計画的避難区域又は緊急時避難準備区域のいずれにも指定されなかった)区域である。具体的には,いわき市内の福島第一原発から半径20㎞以上30㎞圏内に位置する一部の区域(久之浜町,大久町,小川町,川前町の一部)がこれに該当し,いわき市内の大部分に当たるその余の区域は,中間指針追補において定められた「自主的避難等対象 ら半径20㎞以上30㎞圏内に位置する一部の区域(久之浜町,大久町,小川町,川前町の一部)がこれに該当し,いわき市内の大部分に当たるその余の区域は,中間指針追補において定められた「自主的避難等対象区域」 に当たる。 (イ) 南相馬市要請区域における指示の内容,対象範囲及び対象期間について南相馬市要請区域は,南相馬市が平成23年3月16日に,市民の生活の安全確保等を理由として,原災法に基づくものではなく,南相馬市の独自の判断に基づいて,南相馬市の住民に対して一時避難を要請した区域で あり,同年4月22日に緊急時避難準備区域,警戒区域又は計画的避難区域のいずれにも指定されなかった南相馬市内の区域(具体的には,南相馬市の福島第一原発から半径30㎞圏外で,かつ計画的避難区域に指定されなかった区域)がこれに該当する。 南相馬市要請区域は,そもそも政府による指示の対象とはなっておらず, あくまで南相馬市の判断による一時避難が要請された区域であり,その要請も避難を強制するものではなく,また,平成23年3月16日から約40日が経過した同年4月22日には帰宅を許容するとの見解が示されている。 イ基礎となる事情 (ア) 避難の任意性旧屋内退避区域においては,政府指示により,住民において外出せず,自宅など屋内に待機すること(屋内退避)が指示されたものであり,避難することが強制されたものではない。また,南相馬市要請区域においては,そもそも政府指示の対象とはされておらず,南相馬市の独自の判断によっ て任意の一時避難が要請されたものにとどまり,いずれにしても,避難す ることが強制された区域ではない。 この結果,旧屋内退避区域等では,本件事故発生当初の時期においても,相当数の住民が当該区域から避難をせずに れたものにとどまり,いずれにしても,避難す ることが強制された区域ではない。 この結果,旧屋内退避区域等では,本件事故発生当初の時期においても,相当数の住民が当該区域から避難をせずに,滞在していたという実情にある。 (イ) 福島第一原発からの距離 旧屋内退避区域は,福島第一原発から半径20㎞以上30㎞圏内に位置するいわき市内北部の一部区域であり,強制的な避難の対象となった福島第一原発から半径20㎞圏内の警戒区域と比較して,福島第一原発からの距離が離れており,また,その余の大部分のいわき市内の地区は,避難指示の対象ではなく,自主的避難等対象区域に当たる。 また,南相馬市要請区域は,福島第一原発から半径30㎞圏外に位置する南相馬市内の区域であり,強制的な避難の対象となった福島第一原発から半径20㎞圏内の警戒区域と比較して,福島第一原発からの距離が更に離れている。 (ウ) 指定又は要請の対象期間 旧屋内退避区域においては平成23年4月22日に屋内退避指示が解除され,その後政府指示の対象とされていない。また,南相馬市要請区域においては,そもそも政府による指示の対象ではなく,南相馬市の要請に関しても,同日には帰宅を許容するとの見解が南相馬市から示されている。 このようにいずれの指定又は要請も,その対象となった期間は本件事故 発生後約40日間であり,本件事故発生当初の時期という短期間の時期に限られており,その後は指示ないし要請の対象となっていないものである。 (エ) 本件事故後の状況旧屋内退避区域等においては,空間放射線量も時間の経過とともに低減し,その後,教育機関,行政機関,公共交通網,商業施設,医療機関もほ ぼ再開しており,各種の社会的活動も行われているという実情にある。ま おいては,空間放射線量も時間の経過とともに低減し,その後,教育機関,行政機関,公共交通網,商業施設,医療機関もほ ぼ再開しており,各種の社会的活動も行われているという実情にある。ま た,福島県が実施する県民健康調査(ホールボディーカウンターによる内部被ばく検査)の結果,いわき市及び南相馬市のいずれの地域においても,被検者全員について,預託実効線量は健康に影響が及ぶ数値ではなかったとの結果が出ている。 ウ旧屋内退避区域等の住民に係る精神的損害の賠償対象期間及び慰謝料額 (ア) 中間指針の考え方a 慰謝料額中間指針は,旧屋内退避区域等の住民の精神的損害として1人月額10万円(旧屋内退避区域に滞在して屋内退避をした者については10万円)とする指針を示している。【乙共1・17~19頁】 b 賠償終期中間指針は,「避難費用」に関する指針において,旧屋内退避区域等に関して,「同日(平成23年4月22日)から相当期間経過後は,賠償の対象とならない。この相当期間は,これらの区域における公共施設の復旧状況等を踏まえ,解除等期日から住居に戻るまでに通常必要となると 思われる準備期間を考慮し,平成23年7月末までを目安とする。但し,これらの区域に所在する学校等に通っていた児童・生徒等が避難を余儀なくされている場合は,平成23年8月末までを目安とする」としている。【乙共1・14頁】(イ) 被告東電の賠償の考え方 被告東電は,旧屋内退避区域等の住民に関し,上記中間指針も踏まえて,平成23年3月から同年9月までの7か月間について,1人月額10万円(ただし,避難所等での避難がある月については月額12万円),合計70万円を基本とする避難等に係る精神的損害の賠償を行う旨公表している。【乙共28】 9月までの7か月間について,1人月額10万円(ただし,避難所等での避難がある月については月額12万円),合計70万円を基本とする避難等に係る精神的損害の賠償を行う旨公表している。【乙共28】 (ウ) 賠償対象期間の検討 前記で述べたような諸事情を踏まえて,旧屋内退避区域等の住民の精神的損害の賠償対象期間について検討するに,① 政府による屋内退避の指示及び南相馬市の独自の判断に基づく任意の避難要請内容については,旧屋内退避区域においては,外出を控えるなどの屋内での退避を求めるものであり,避難を強制したものではなく, また,南相馬市要請区域においては,政府による指示対象ではない中で,南相馬市の独自の判断に基づき,任意の一時避難が要請されたというものであり,いずれの地区でも住民が避難を強制されたという状況にはなく,実際に相当数の住民が滞在・生活を継続していること② かかる指示及び要請は,いずれも平成23年4月22日に解除され, その期間は本件事故発生後当初の時期である約40日という短期間に限られており,その後,旧屋内退避区域等は,避難等の指示の対象となっていないこと③ 平成23年4月22日以降,旧屋内退避区域等では学校やインフラの復旧がなされており,社会的活動も再開され,そこでの生活状況も落ち 着きを取り戻していること④ 平成23年4月22日以降においても,旧屋内退避区域等を含む強制的な避難指示の対象となっていない区域に滞在して生活することについての健康影響に関する情報提供が継続的になされており,避難していたとしても旧屋内退避区域等に帰還することに支障はないこと からすれば,旧屋内退避区域等の住民に関する平穏生活権侵害の程度は,他の避難指示等対象区域とは大きく異なり,平成23 り,避難していたとしても旧屋内退避区域等に帰還することに支障はないこと からすれば,旧屋内退避区域等の住民に関する平穏生活権侵害の程度は,他の避難指示等対象区域とは大きく異なり,平成23年4月22日以後速やかに本件事故前の状態と大きく変わらない状態にまで回復したものと考えられる。 また, ⑤ 旧屋内退避区域等から避難した者においても,その後の状況を踏まえ て帰還するために必要な準備期間も一定期間を要すると考えられることなどの事情が認められ,これらを考慮すれば,旧屋内退避区域等の住民に対して本件事故の影響による生活の平穏に対する相当程度の侵害状態が継続していたものとして本件事故による精神的損害を基礎付けると解される期間(賠償対象期間)としては,中間指針も示していると おり,平成23年7月末又は児童・生徒等がいる場合には同年8月末までと解することが十分に合理的であること⑥ 旧屋内退避区域等に近接し,当該区域等よりも福島第一原発からの距離が短く,また,当該区域等における指示等が解除された平成23年4月22日以降も政府指示が継続されていた福島第一原発から半径20 ㎞以上30㎞圏内の緊急時避難準備区域についても,原子炉施設の安全性及び空間放射線量率等の観点から原子力災害対策本部によって安全性が確認され,その後,同区域内において復興計画が策定されインフラ復旧の目処が立ったことから,緊急時避難準備区域の指定が解除されるに至った同年9月末を超えて,旧屋内退避区域等の住民の法的に保護さ れた利益の侵害状態が継続していると評価することはできないことからすれば,旧屋内退避区域等の住民に対する精神的損害の賠償対象期間は,被告東電が公表しているとおり,遅くとも平成23年9月末を超えるものではない。 が継続していると評価することはできないことからすれば,旧屋内退避区域等の住民に対する精神的損害の賠償対象期間は,被告東電が公表しているとおり,遅くとも平成23年9月末を超えるものではない。 (エ) 慰謝料額の合理性 旧屋内退避区域等の住民については,本件事故による日常生活に対する侵襲の程度やその指示期間の長さ等において,強制的に避難を余儀なくされた住民とは相違があり,また,南相馬市要請区域においては政府による指示ではなく,南相馬市の独自の判断に基づく要請に止まるものであり,それらの指示又は要請による日常生活への侵襲の程度は政府指示によっ て強制的な避難を余儀なくされた避難者と比して大きなものであるとは いえない。また,これらの指示又は要請はいずれも平成23年4月22日には解除されており,その指示等の対象期間は避難指示区域に比しても短期間に止まるものであった。 そのような中で,被告東電においては,中間指針等に基づき,旧屋内退避区域等の住民に対しても,強制的に避難指示の対象となった住民と同額 の1人月額10万円という慰謝料の基礎額に基づいて,指示等の解除後においてもこれを減額することなく,平成23年9月末まで継続して賠償するとしているものであり(1人当たり70万円,4人家族であれば280万円の慰謝料額となる。),前述のとおりの本件事故後の旧屋内退避区域等の客観的な状況や社会的活動の状況を合わせて考慮しても,かかる慰謝料 額は,旧屋内退避区域等の住民であった原告らの本件事故と相当因果関係のある精神的苦痛を十分慰謝するに足りるものである。 そして,避難等対象者に対する中間指針等の定める避難に係る慰謝料は,指針が,裁判外で「自主的な紛争解決」の機能を果たすことが求められることの帰結として,自ずから を十分慰謝するに足りるものである。 そして,避難等対象者に対する中間指針等の定める避難に係る慰謝料は,指針が,裁判外で「自主的な紛争解決」の機能を果たすことが求められることの帰結として,自ずから多数の被害者が満足し得る賠償水準として設 定されざるを得ず,少なくとも平均的・中間的な精神的苦痛を下回らない水準を念頭に定められる傾向があるものと推認されるのであって,本件事故により避難等対象者に広く通常生じ得る被害状況に基づく精神的苦痛を類型的・包括的に考慮し,①平穏な日常生活の喪失,②自宅に帰れない苦痛,③避難生活の不便さ,④先の見通しがつかない不安などを広く対象 として定められたものであり,「最低限の賠償額」を示したものなどではなく,本来であれば個々人の事情によって賠償額には差異が生じ得るところ,広く一般に生じると考えられる要素を評価して,多数の被害者の精神的苦痛を慰謝し得る水準として慰謝料額の指針が示されているものと考えられるのである。 したがって,前述のとおりの旧屋内退避区域等の住民が置かれていた状 況やその後の活動に対する制約の程度,社会的活動の状況や中間指針等の上記性格を踏まえて検討しても,旧屋内退避区域等の住民である原告らに認められるべき相当な慰謝料額は,1人当たり70万円を超えるものではないというべきである。 ⑷ 避難指示の対象とされていない区域に居住する住民に係る慰謝料について ア基礎となる事情避難指示の対象とされていない区域については,以下の事情を認めることができる。 ① 本件事故の直後である平成23年3月16日頃から,避難指示等対象区域外における空間放射線量の状況や,これによって直ちに健康影響が生ず るものではなく,今後の推移を見守る必要があるとの専門家の意見が繰 故の直後である平成23年3月16日頃から,避難指示等対象区域外における空間放射線量の状況や,これによって直ちに健康影響が生ず るものではなく,今後の推移を見守る必要があるとの専門家の意見が繰り返し地元紙及び全国紙において報道され,専門的な知見に基づき冷静な対応をとることが促されており,避難指示等対象区域外の居住者が避難することが科学的に必要であるという論調は見当たらない。 ② 福島第一原発の状況についても連日報道され,原子炉の冷却に向けての 取り組みや電源復旧の進展状況や汚染水の問題が生じている中で,同年4月17日には,事故の収束に向けての道筋が公表され,今後6~9か月程度で原子炉の冷温停止を目指すスケジュールが公表され,冷温停止のためになすべきことが明確化されるなど収束に向けての方向性が示されている。 ③ 同年4月以降は福島第一原発敷地内での汚染水の問題なども報道されているが,避難指示等対象区域外における空間放射線量の状況は同年3月16日以降報道がなされており,時間の経過とともに大きく低減し,汚染水の問題等の福島第一原発の状況によって30㎞圏外の居住者の生活環境中の放射線量が上昇するという状況にはない。 ④ 同年4月7日には,一部の地域を除き,福島県内の避難指示の対象外の 地域において,農家に対する作付け延期要請が解除され,避難指示等対象区域外での農業再開が見込まれる状況になっており,同月19日には文部科学省・厚生労働省より,小・中学校等の校庭・園庭利用の基準として毎時3.8μSv の基準が示され,4月末にかけて学校での屋外活動の制限が概ね解除されたことが報道されており,また,同月22日には,避難指示 区域と接する福島第一原発から20以上30㎞圏内において屋内退避区域の指定が解除さ れ,4月末にかけて学校での屋外活動の制限が概ね解除されたことが報道されており,また,同月22日には,避難指示 区域と接する福島第一原発から20以上30㎞圏内において屋内退避区域の指定が解除され,緊急時避難準備区域として再編されるに至っている。 ⑤ 南相馬市の独自の判断に基づく一時避難の要請についても,同月22日には帰宅を許容する旨の見解が示されるに至っている。 ⑥ 自主的避難等対象区域内では,平成23年4月以降学校や企業の活動が 再開されており,同月下旬にはほとんどの学校で屋外活動の制限が解除されており,本件事故発生から同月下旬にかけての時間の経過の中で,放射線量の低下や学校や企業の再開なども進み,生活も落ち着きを取り戻しつつある。 イ被侵害利益について 本件事故後の状況の下で,避難指示等の対象とされていないものの,避難等対象区域の周辺において,「本件事故による恐怖や不安を抱かざるを得ないという状況に一定期間置かれたことにより正常な日常生活が相当程度阻害されたこと」(平穏生活権の侵害)については法的に保護される権利利益の侵害に当たるということができるものと考えられる。 そして,本件事故後の避難指示等対象区域外における本件事故由来の放射線による健康リスクは,客観的に健康に対する危険が生じていたとまでは評価できない(後記第9の2[❶-278 頁]参照)ものの,他方で,本件事故発生当初の時期においては,状況は必ずしも明確でなく,自己の置かれている状況についての情報を正確に把握することが困難な時期があったことも 確かであり,また,本件事故の今後の進展について恐怖や不安を覚えること もやむを得ない状況にあったことが認められる。 したがって,本件事故の今後の進展や健康影響が分からないことにより 確かであり,また,本件事故の今後の進展について恐怖や不安を覚えること もやむを得ない状況にあったことが認められる。 したがって,本件事故の今後の進展や健康影響が分からないことにより,平均的・一般的な人を基準として,感じることがやむを得ないと考えられる恐怖や不安に基づいて,自主的な避難を選択し,又は,そのような不安の中で滞在を継続することによって,本件事故が発生しなければ生じなかった日 常生活の阻害が生じると考えられる範囲においては,これによる精神的損害は賠償の対象となると解することが可能であると考えられる。 他方で,原告らの被侵害利益をこのように捉える場合,これに基づいて,損害賠償の範囲(相当因果関係)及び損害額を検討するに当たっては,以下の点について留意すべきである。 ① 避難指示が発せられていない中で,「放射線に対する恐怖・不安」によっていかなる損害が基礎付けられるか,が問題となるものであり,「放射線による客観的な危険」が現に生じていると評価されるものではない(避難指示の対象とはされていない)が,そのような中でも生じる恐怖や不安について,いかなる範囲で法的に保護されるべき利益と解すべきかが問題と なる。 ② 避難指示の対象ではなく,客観的な危険が生じているとまでは評価できないことも踏まえ,本件事故発生直後の時期において,原告らが感じる恐怖や不安の内容としては,本件事故の進展の状況や今後の放射線量の推移,放射線被ばくによる健康影響について「よくわからないことにより生ずる 不安」をその本質とするものといい得る。 ③ そのような不安や恐怖を抱いた場合においては,自己の生活圏における放射線の状況(今後の見込みを含む。)が安全か否かに関する情報は居住者にとって最大の関心事であり,住民においても のといい得る。 ③ そのような不安や恐怖を抱いた場合においては,自己の生活圏における放射線の状況(今後の見込みを含む。)が安全か否かに関する情報は居住者にとって最大の関心事であり,住民においてもそのような情報を一般住民に通常可能な範囲において収集することは期待されているといえる。こ の点については,前述のとおり,新聞報道等により,政府や専門家によっ て,遅くとも本件事故発生の数日後からはこの点に関する情報提供がなされているものの,そのような政府の説明や専門家の知見についても信じてよいのか分からないという心理により不安が生じている場合や,又はそのような専門家の知見は信じることができないという認識に基づく不安が生じている場合もあり得る。 ④ このような政府や専門家等によって提供される情報の受け止め方や感じ方には人によって個人差があり,放射線に対する忌避感が非常に強い人もいる。このような受け止め方の相違によってその後の行動が大きく左右されるという性格がある。 ⑤ このように,避難指示の対象となっていない区域については,放射線に よる客観的な健康への危険が生じているとは評価できず,その旨の情報提供は新聞報道等でもなされており,福島県知事も冷静な対応を呼びかけている状況にある。新聞報道においても,避難指示等対象区域外の居住者も避難すべきであるという論調は見当たらない中で,避難指示等対象区域外の居住者に生じ得る恐怖や不安については,避難指示等により避難を余儀 なくされた避難指示区域の居住者と比較して,権利侵害の程度は小さいと考えられる。 ⑥ 避難指示等対象区域外からの避難者の損害については,政府の避難指示等によって避難を余儀なくされたことによって生じたものではなく,通常よりも高い放射線量や本件事故の進 度は小さいと考えられる。 ⑥ 避難指示等対象区域外からの避難者の損害については,政府の避難指示等によって避難を余儀なくされたことによって生じたものではなく,通常よりも高い放射線量や本件事故の進展の状況に対する不安や恐怖を覚え ざるを得ない状況に置かれたことによる日常生活の阻害をもって賠償の対象とみることが相当であり,避難指示により強制的に居住権の制約を受けた避難等対象者の損害とは異なる。 したがって,このような避難指示等対象区域外からの避難者の被侵害利益の特徴も踏まえて相当因果関係を考えるに当たっては,自主的避難等対象区 域内に居住している平均的・一般的な人を基準として,相当程度の恐怖や不 安を抱いたことにつき,慰謝料や避難の相当性を基礎付ける程度の権利侵害状態が継続しているか否か,そのように評価し得るのはいつまでか,及び,その適正な損害額はいくらか,について検討すべきであると考えられる。 広く提供され,入手可能な公正な情報を受け入れずに,放射線に対する極めて強い忌避の気持ちから長期間にわたって避難指示に基づかない避難を 継続するとしても,法的判断としては,あくまで平均的・一般的な人を基準として,上述した相当程度の不安や恐怖を抱かざるを得なかったと考えられるのはいつまでか,という観点から判断されるべきである。 ウ賠償対象期間について(ア) 大人(妊婦・子ども以外)の賠償期間について a 精神的損害の賠償対象期間被告東電においては,妊婦・子ども以外の大人(以下,単に「大人」ということがある。)の自主的避難等対象者に対する精神的損害等の賠償対象期間を本件事故発生当初の時期として,1人当たり8万円の賠償を行っており,この「本件事故発生当初の時期」としては,概ね平成23 年4月22日 の自主的避難等対象者に対する精神的損害等の賠償対象期間を本件事故発生当初の時期として,1人当たり8万円の賠償を行っており,この「本件事故発生当初の時期」としては,概ね平成23 年4月22日頃までを目安としている。【乙共7・13頁参照】すなわち,前記アの事情を総合すれば,自主的避難等対象区域の居住者について慰謝料を基礎付ける程度の恐怖や不安を抱くことが法的にやむを得ないと認められる期間としては,本件事故発生当初の時期として,概ね平成23年4月22日頃までと解することが相当である。 b 中間指針追補の考え方中間指針追補のQ&Aにおいては,①本件事故発生以降,原子力発電所の状況や放射線量に関する情報が行政機関等によって徐々に公表されたこと,②こうした情報をもとに平成23年4月22日には屋内退避区域の指定が解除され,緊急時避難準備区域及び計画的避難区域の範囲 が示され,これによって政府による避難指示等の対象区域が概ね確定し たこと,③したがって,その頃以降は,自らの置かれている状況について十分な情報がない時期とはいい難いと考えられることから,概ね本件事故発生から平成23年4月22日頃までの時期が目安になるとの考え方が示されている。【乙共7・13頁参照】c 避難者も滞在者も同様であること 上記の点は,政府による避難指示等に基づかずに避難した避難者(以下「自主的避難者」という。)であると滞在者であるとを問わず,妥当するというべきである。まず,滞在者については,滞在に伴い上記のような不安や恐怖を感じるとしても,精神的損害の賠償の対象として評価すべき相当程度の恐怖や不安を抱かざるを得なかったと考えられるのは, 上記の諸事情を踏まえれば,概ね4月22日頃までと解されるものである。また,自主的避 ても,精神的損害の賠償の対象として評価すべき相当程度の恐怖や不安を抱かざるを得なかったと考えられるのは, 上記の諸事情を踏まえれば,概ね4月22日頃までと解されるものである。また,自主的避難者についても,「避難」とは,移転や移住とは異なり,一定の危険を回避するために,居所を一時的に移動することをいうものと解されるところ,避難の原因となった危険の状況について,新聞報道等により情報の提供がなされ,自己が置かれている立場について情 報がないとはいえない状態となり,社会的にも避難指示等対象区域外においてそのような認識が受け入れられるに至り,社会活動も再開されるという状況に至った場合には,以後の自主的避難を継続することには法的見地から合理性があるとは評価し得ず,以後の自主的避難の継続によって権利侵害が基礎付けられるということはできない(すなわち,精神 的損害を認める根拠となった情報不足による混乱の事態が解消された以上,自主的避難に対して損害賠償すべき根拠が消滅したものというべきである。)からである。 そして,自主的避難者は,従前の居住地の放射線量や放射線と健康被害との関係について関心をもって注視していると考えられるところ,地 元紙のみならず全国紙においても,福島県内の状況については4月下旬 頃までにかけて,広くかつ詳細に報道されている実情にあり,自主的避難先においても,かかる情報に接することは可能であったと考えられる。 したがって,大人の精神的苦痛や避難に伴う損害の賠償対象期間について,自主的避難者と滞在者を別異に解する理由はないというべきである。 (イ) 妊婦・子どもの自主的避難等対象者の精神的損害の賠償対象期間について被告東電は,妊婦・子どもは放射線への感受性が高い可能性があることが一 異に解する理由はないというべきである。 (イ) 妊婦・子どもの自主的避難等対象者の精神的損害の賠償対象期間について被告東電は,妊婦・子どもは放射線への感受性が高い可能性があることが一般に認識されていることも踏まえて,平成24年8月末までを対象として精神的損害の賠償を行っている。 これは,危険に関する情報の周知状況や社会の受け止め方を踏まえつつも,妊婦・子どもがいる世帯においては,特に放射線被ばくに対する不安が大きいものとなると考えられることを踏まえ,妊婦・子どもに対しては,大人とは異なり格段に長期間にわたっての精神的損害の賠償を行うこととしているものである。 自主的避難等対象者に対する精神的損害の問題は,ある意味で,妊婦や子どもの健康影響に対する不安が核心的な問題であるといい得る。被告東電は,妊婦や子ども自身の健康上の不安に係る精神的苦痛であることから,親ではなく,妊婦や子どもに対して精神的損害を賠償することとしているが,かかる賠償は,広い意味で妊婦や子どもがいる世帯全体に対する精神 的損害の賠償としての意味も有しているものである(子どもの健康上の不安が生じている場合には,親がこれを憂慮することは自然であるが,これを親固有の精神的損害として考慮するのではなく,子どもの精神的損害として一括評価して賠償するというのが中間指針等の考え方でもある。)。 そして,中間指針第二次追補において,平成23年9月30日に指定が 解除された旧緊急時避難準備区域に生活の本拠を有する避難等対象者へ の精神的損害の賠償の終期が平成24年8月末までを目安とする旨定められていることも踏まえ,避難等対象者ではない妊婦・子どもの自主的避難等対象者に対する賠償の対象期間を平成24年8月31日までとすることは,被 害の賠償の終期が平成24年8月末までを目安とする旨定められていることも踏まえ,避難等対象者ではない妊婦・子どもの自主的避難等対象者に対する賠償の対象期間を平成24年8月31日までとすることは,被害者保護の観点にも十分配慮して定められた賠償対象期間であり,合理的かつ相当である。 (ウ) 大人の同伴者である自主的避難等対象者の精神的損害の賠償対象期間について一般に子どもや妊婦がいる世帯には,それ以外の大人(たとえば保護者や配偶者等)がおり,妊婦・子どもの避難に同伴することが必要になる場合が想定される。 しかしながら,被告東電は,そうした同伴者の同伴費用も妊婦・子ども自身の損害に含めて賠償額を設定している。 かかる取扱いは,交通事故の事件において入通院の付添いが必要となる場合に,当該付添費用については付添人の損害ではなく被害者本人の損害として処理されていることと軌を一にするものである。 仮に,同伴者固有の精神的損害が問題となるのであれば,それは妊婦や子どもが避難を行ったことにより生ずる損害であって,いわゆる第三者損害(間接損害)であるというべきであり,相当因果関係を欠く(その例外が民法711条に規定された場合である。)。 この点について,中間指針追補は「損害額の算定に当たっては,身体的 損害を伴わない慰謝料に関する裁判例等を参考にした上で,精神的苦痛並びに子ども及び妊婦の場合の同伴者や保護者分も含めた生活費の増加費用等について,一定程度勘案することとした」としている。【乙共2の8頁】エ賠償額について (ア) 大人(妊婦・子ども以外)について(同伴者を含む。) 自主的避難等対象者である大人について,本件事故と相当因果関係のある精神的損害の賠償対象期間は,本件事故発生当初の時 (ア) 大人(妊婦・子ども以外)について(同伴者を含む。) 自主的避難等対象者である大人について,本件事故と相当因果関係のある精神的損害の賠償対象期間は,本件事故発生当初の時期である概ね平成23年4月22日頃までと解することが相当であり,大人個人に対する当該期間についての精神的損害の賠償額は,以下の事情及び裁判例を考慮すれば,1人当たり8万円が合理的である。被告東電は,これらの事情及び 中間指針追補を踏まえて,1人当たり8万円の精神的損害等の賠償を行うとともに,4万円の追加的費用の実費賠償を行っている。 ① 中間指針において,屋内退避区域の居住者に対しては当該指示の期間が約40日間で10万円の慰謝料額が定められているところ,自主的避難等対象者については,政府指示によって屋内退避を余儀なくされた居 住者の精神的苦痛を上回る精神的苦痛が生じていると解することは合理的でないこと。 ② 避難指示等の対象とはされていない自主的避難等対象区域においては,本件事故後の空間線量率の情報(平成23年4月1日時点で多くは1μSv/時間前後であり,平成24年4月1日時点で多くは0.23μ Sv/時間を下回っている。)に照らしても,放射線被ばくによる客観的な健康リスクにさらされているとは評価できず,そのような科学的な知見は新聞報道等によって本件事故発生直後の時期から地元紙及び全国紙において継続的に情報提供がなされていると認められ,そのような中で,それでもなお生じる不安や恐怖に基づく日常生活阻害の精神的苦痛 がここでの賠償対象であり,具体的な権利侵害を認め得るとしてもその侵害の程度は,避難指示により避難を強いられた避難等対象者に比して大きいものではなく,前述のとおり,不安を緩和する情報提供がなされていることも 賠償対象であり,具体的な権利侵害を認め得るとしてもその侵害の程度は,避難指示により避難を強いられた避難等対象者に比して大きいものではなく,前述のとおり,不安を緩和する情報提供がなされていることも考慮する必要があること。 ③ 妊婦や子どもが世帯内にいる場合には,妊婦や子ども各人1人当たり, 精神的損害と生活費の増加費用等を一括した一定額として,平成23年 分40万円及び平成24年1月から同年8月までの分8万円(1人当たり合計48万円)を賠償するとともに,妊婦・子どものうち実際に自主的避難を実行した者に対しては,追加的費用として平成23年分20万円及び平成24年1月から同年8月まで4万円(1人当たり合計24万円)を賠償しており,自主的避難をした場合には子ども1人当たり72 万円,子どもが2人であれば144万円の賠償が行われるものであり,このような妊婦・子どもに対する賠償において,世帯内に妊婦・子どもがいることによる精神的苦痛や実費の支出分については填補されること。 (イ) 妊婦・子どもについて 被告東電は,妊婦や子ども各人1人当たり,①精神的損害と生活費の増加費用等を一括した一定額として,平成23年分40万円及び平成24年1月から同年8月までの分8万円(1人当たり合計48万円)を賠償するとともに,②妊婦・子どものうち実際に自主的避難を実行した者に対しては,追加的費用として平成23年分20万円及び平成24年1月から同年 8月まで4万円(1人当たり合計24万円)を賠償している。この結果,滞在者である妊婦・子どもについては1人当たり48万円,自主的避難者である妊婦・子どもについては1人当たり72万円の損害額が賠償されることになる。 この点については,政府による避難指示等を受けた避難等対象者につい 子どもについては1人当たり48万円,自主的避難者である妊婦・子どもについては1人当たり72万円の損害額が賠償されることになる。 この点については,政府による避難指示等を受けた避難等対象者につい ての本件事故発生から平成23年12月31日まで慰謝料額は80万円(中間指針上,平成23年3月から8月までは月額10万円,平成23年9月からは月額5万円とされている。)とされていることとの対比で考えた場合においても均衡を失するものではなく,また大人(妊婦・子ども以外)に対して同年3月11日から同年4月22日頃までの慰謝料額として 8万円を賠償していることとの対比においても均衡を失するものではな く,妊婦及び子どもの自主的避難等対象者に対する平成23年12月末までの期間に対する精神的損害の賠償額を40万円とすることには合理性があると解される(なお,被告東電は,実際に自主的避難を行った妊婦及び子どもに対し,この40万円にさらに20万円の実費賠償を上乗せして,1人当たり60万円の賠償を行っている。)。 このため,自主的避難をした大人2人(12万円×2=24万円),子ども2人(72万円×2=144万円)の4人世帯では賠償額は合計168万円となり(滞在者の4人世帯であれば合計128万円となる。),世帯単位で合理的な損害の填補がなされている実情にある。 (ウ) 自主的避難実行者と滞在者の損害額について 前記のとおり,自主的避難者と滞在者の行動の相違に基づき,具体的な精神的苦痛のあり方は異なるものではあるが,いずれも放射線被ばくに対する恐怖や不安を基礎として生じている精神的苦痛であり,本件事故の放射線の作用と相当因果関係のある日常生活の阻害に基づく精神的損害の評価上,自主的避難者と滞在者とで画然とした差異があるとい ばくに対する恐怖や不安を基礎として生じている精神的苦痛であり,本件事故の放射線の作用と相当因果関係のある日常生活の阻害に基づく精神的損害の評価上,自主的避難者と滞在者とで画然とした差異があるということはで きないこと(いずれの精神的苦痛が大きいかについても人によって異なる面もあると考えられる。)を考慮すれば,自主的避難者と滞在者の賠償額に差を設けることは公平かつ合理的とはいい難いというべきである。 オ中間指針等の考え方について中間指針追補は,福島第一原発からの距離,避難指示等対象区域との近接 性,政府や地方公共団体から公表された放射線量に関する情報,自己の居住する市町村の自主的避難の状況(多寡など)等の要素を総合的に勘案した上で,避難指示等対象区域外の一定の区域を自主的避難等対象区域と定めた上で,自主的避難等対象区域においては,住民が「放射線被ばくへの相当程度の恐怖や不安」を抱いたことには相当の理由があり,また,その危険を回避 するために自主的避難を行ったことについてもやむを得ない面があるとし た上で,(ア)放射線被ばくへの恐怖や不安により自主的避難等対象区域内の住居から自主的避難を行った場合において,自主的避難によって生じた生活費の増加費用,自主的避難により,正常な日常生活の維持・継続が相当程度阻害されたために生じた精神的苦痛,避難及び帰宅に要した移動費用が,また,(イ)放射線被ばくへの恐怖や不安を抱きながら自主的避難等対象区 域内に滞在を続けた場合において,放射線被ばくへの恐怖や不安,これに伴う行動の自由の制限等により,正常な日常生活の維持・継続が相当程度阻害されたために生じた精神的苦痛,放射線被ばくへの恐怖や不安,これに伴う行動の自由の制限等により生活費が増加した分があれば,その増加費 行動の自由の制限等により,正常な日常生活の維持・継続が相当程度阻害されたために生じた精神的苦痛,放射線被ばくへの恐怖や不安,これに伴う行動の自由の制限等により生活費が増加した分があれば,その増加費用についてはそれぞれ賠償すべき損害と認められるとし,自主的避難者の場合と滞 在者の場合の上記の合算損害額は同額として算定するのが公平かつ合理的であるとしている。【乙共2・5頁】そして,特に本件事故発生当初において,大量の放射性物質の放出による放射線被ばくへの恐怖や不安を抱くことは,年齢等を問わず一定の合理性を認めることができるとし,また,その後においても,少なくとも子ども及び 妊婦の場合は,放射線への感受性が高い可能性があることが一般に認識されていること等から,比較的低線量とはいえ通常時より相当程度高い放射線量による放射線被ばくへの恐怖や不安を抱くことについては,人口移動により推測される自主的避難の実態からも,一定の合理性を認めることができるとして,自主的避難等対象者のうち子ども及び妊婦については,本件事故発生 から平成23年12月末までの損害額として1人40万円,また,その他の自主的避難等対象者については,本件事故発生当初の時期(①本件事故発生以降,福島第一原発の状況や放射線量に関する情報が行政機関等によって徐々に公表されたこと,②平成23年4月22日には政府による避難指示等の対象区域が概ね確定したこと,③したがって,その頃以降は,自らの置か れている状況について十分な情報がない時期とはいい難いと考えられるこ と,から,概ね本件事故発生から平成23年4月22日頃までが目安となるとされている。)【乙共7・13頁】の損害として1人8万円との賠償指針を示している。 その後,中間指針第二次追補において,か と,から,概ね本件事故発生から平成23年4月22日頃までが目安となるとされている。)【乙共7・13頁】の損害として1人8万円との賠償指針を示している。 その後,中間指針第二次追補において,かかる自主的避難等に係る損害について,平成24年1月以降に関する考え方として,少なくとも子ども及び 妊婦については,個別の事例又は類型毎に,放射線量に関する客観的情報,避難指示区域との近接性等を勘案して,放射線被ばくへの相当程度の恐怖や不安を抱き,また,その危険を回避するために自主的避難を行うような心理が,平均的・一般的な人を基準としつつ,合理性を有していると認められる場合には,賠償の対象となるとの考え方が示されている。 被告東電の前記賠償基準も,このような中間指針等を踏まえたものである。 カ小括本件に関していえば,避難指示の対象とされていない避難指示等対象区域の周辺区域においては,客観的に居住者に対する放射線被ばくによる健康被害の危険が現実に生じているとは評価できず,また,そのことについては新 聞報道等によって情報提供が繰り返しなされていると認められること,本件事故の進展状況についても日々報道され,本件事故に起因する当該周辺地域での空間放射線量の状況や推移についても,本件事故直後より報道がなされ,本件事故発生後1か月の間に大きく低減していることも報じられていることなどを踏まえれば,それでもなお生ずる恐怖や不安に基づく精神的損害に ついて被告東電が公表している自主的避難等対象者に対する精神的損害等の賠償の考え方は,上記の各裁判例の考え方を踏まえればなおのこと,自主的避難等対象者に生じた恐怖や不安に基づく日常生活阻害の精神的苦痛を慰謝するに足りるものと評価できる。 これを超える慰謝料を求める原告らの請求には理由 の各裁判例の考え方を踏まえればなおのこと,自主的避難等対象者に生じた恐怖や不安に基づく日常生活阻害の精神的苦痛を慰謝するに足りるものと評価できる。 これを超える慰謝料を求める原告らの請求には理由がないというべきで ある。 キ区域外の居住者(単身赴任者等)の損害に関する考え方避難指示等対象区域ではなく,かつ自主的避難等対象区域にも該当しない区域(区域外)については,自主的避難等対象区域と同様又はそれ以上に,放射線被ばくによる健康被害のリスクについては問題がない水準であり,それゆえに避難指示等対象区域外では政府によっても避難等の指示の対象と なっていないものである。 また,一般的に,区域外は福島第一原発や避難指示等対象区域から相応に遠く,あるいはそれが福島県外であれば混乱の状況には同県内と少なからず相違があったと考えられる上,その空間線量も低く,福島第一原発の状況や放射線被ばくに対する不安感に基づく避難が平均的・一般的な人を基準とし て相当であるとは解し難い。 そのため,福島第一原発からの距離,避難指示等対象区域との近接性,政府や地方公共団体から公表された放射線量に関する情報,自己の居住する市町村の自主的避難の状況(自主的避難者の多寡など)等に照らしても,平均的・一般的な人を基準として,その居住者において自主的に避難することも やむを得ない程度に恐怖や不安を抱いたということはできないというべきであり,原賠審においても,原子力損害としての賠償の要否及び賠償する場合の基準を示すために議論を重ねて,自主的避難等対象区域以外については,空間線量が高くないことや当該区域において避難した者が少ないこと等を勘案して賠償対象としなかったのであるから,特段の事情がない限り,その 居住者の慰謝料や避難に 避難等対象区域以外については,空間線量が高くないことや当該区域において避難した者が少ないこと等を勘案して賠償対象としなかったのであるから,特段の事情がない限り,その 居住者の慰謝料や避難に伴う損害について本件事故との相当因果関係は認められないというべきである。 3 被告国の主張原告らは,本件訴訟において平穏生活権を侵害されたなどと主張して慰謝料の支払を求めているが,中間指針等は,原賠審における法律,医療又は原子力 工学等に関する学識経験を有する者による審議を経た上で策定されたもので あり,低線量被ばくに関する合理的な知見を基に設定した避難区域等を前提として,自動車損害賠償責任保険における慰謝料や民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準による期間経過に伴う慰謝料の変動状況等を参考に賠償額を定めていることから,裁判規範ではないものの合理的である。また,中間指針等に関する策定経過の議事録を子細に検討すると,被災者救済に力点を置いた 政策的観点も加味されていることから,中間指針等は賠償の範囲や額としても被災者に十分配慮されたものであり,被災者ごとに生じた個別の特別事情についても,中間指針等で示された賠償範囲や額で,十分填補されているといえる。 したがって,中間指針等で示された賠償の範囲を超える部分については,本件事故との間に相当因果関係が認められる損害とはいえないし,被告国が二次 的かつ補完的責任を負うにすぎないことに照らせば,万が一,被告国の賠償責任が認められた場合にも,その責任の範囲は,被告東電に比して相当程度限定されたものになるべきところ,これまで被告東電が支払ってきた賠償額を超えるものではなく,既に弁済により填補されているというべきである。 (以下本頁余白) 第9 争 定されたものになるべきところ,これまで被告東電が支払ってきた賠償額を超えるものではなく,既に弁済により填補されているというべきである。 (以下本頁余白) 第9 争点9(避難指示区域の指定がない居住地から避難した場合の避難の合理性)について 1 原告らの主張⑴ 低線量被ばくの健康影響についてア基本的考え方 本件事故による被害の甚大さ,深刻さを特徴づけているのは,広範囲にわたる放射線汚染である。放射線被ばくの健康影響のメカニズムのほとんどは未解明であり,それ故,放射線の健康影響については統計データの疫学的解析に依拠せざるを得ないこと,これまでの放射線の健康影響の知見は主として広島・長崎の原爆被爆者の調査によって進められてきたこと,「広島・長崎 の原爆の人体に対する影響の調査は,その規模からも,調査の精緻さからも世界の放射線疫学研究の基本」(低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループの報告書【乙共4・3頁】。以下,低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループを「低線量被ばくWG」といい,その報告書を「低線量被ばくWG報告書」という。)となっていることは争いようのない事実 である。 100mSv 以下のいわゆる低線量被ばくの健康影響についても同様で,それについての疫学研究の集積に関する評価が問われている。 イ被ばくの健康影響が「科学的に実証される」ことの意味がん等にしきい値(放射線の照射によって生じる確定的影響について,あ る一定以上の放射線を照射されると症状が現れ,それ未満では症状が現れないという線量値。以下「しきい値」という。)はなく,ゼロ線量から被ばく線量が増加するのに比例して,リスクが直線的に増加していくというのがLNTモデル(直線しきい値なし 現れ,それ未満では症状が現れないという線量値。以下「しきい値」という。)はなく,ゼロ線量から被ばく線量が増加するのに比例して,リスクが直線的に増加していくというのがLNTモデル(直線しきい値なしモデル)である(したがって,このモデルによれば低線量被ばくの健康影響は肯定される)が,被告らはこのLNTモデル が「科学的に実証されていない」ことを強調し,事実上,低線量被ばくの健 康影響を否定している。 しかし,被ばくの健康影響に関してはほとんど未解明であることは,すでに述べてきたとおりであり,争いようのない事実である。被告らは,100mSv を超える放射線の健康影響については肯定している(つまり「科学的に実証されている」とする)が,これについても実証実験などによる自然科学 的な証明に依拠しているのではなく,疫学データの評価によって肯定されているということにすぎないものであることに留意しなければならない。つまり,100mSv を超える放射線の健康影響についても,100mSv 以下の健康影響についても,どちらも疫学データの評価に係る問題であることを確認することが重要である。 ところで,被ばくのリスクを示す疫学データが「確からしい」(有意差がある)とされるための一般的な指標には,そのデータのP値が0.05未満であることや,95%信頼区間等が用いられている。これについても,すでに述べたとおり,P値(有意確率)が0.05%未満,あるいは信頼区間の範囲を95%に設定するという指標が用いられている理由は慣習以外になく, それが絶対的な基準ではないということに留意しなければならない。 原爆症認定訴訟における東京高裁判決【甲共137】において,P値0. 10の疫学データに基づいて甲状腺機能亢進症(バセドウ病)について放 それが絶対的な基準ではないということに留意しなければならない。 原爆症認定訴訟における東京高裁判決【甲共137】において,P値0. 10の疫学データに基づいて甲状腺機能亢進症(バセドウ病)について放射線起因性を認めた際に,「一般に『(統計上の)確からしさ』とは連続性をもった概念であって,P値が0.05を上回っていても,放射線起因性の法律 判断の前提となり得る資料として採用することは許容される」と判示したことは,このことをよく示している。つまり,統計上の有意差を確認する慣習上の指標を満たしていなかったとしても,そのデータは直ちに無意味となるわけでなく,統計上の「確からしさ」の確認においてはなお意味をもち得るということである。 ウ LNTモデルが「科学的に実証されていない」ということの正確な意味 被告らがLNTモデル(すなわち低線量被ばくの健康影響)が「科学的に実証されていない」と述べるのは,主として広島・長崎の原爆被爆者の疫学データを,前述の指標に照らした場合に,統計上の有意差の確認ができていないということを意味するにすぎない。そして,原告らも,この限りにおいて,そのことを積極的に争うものではない(より正確にいえば,LNTモデ ルは,「統計上の有意差」の確認の途上にあるということである。)。 エ低線量被ばくにおいて統計上の有意差が確認できていないことの要因と克服の可能性(ア) 疫学データ上の限界低線量被ばくにおいて統計上の有意差が確認できていないことの一つ の要因は,広島・長崎の原爆被爆者の疫学データのもつ限界である。すなわち,本来非曝露群として比較対象となるべきであるゼロ線量集団を形成できず,最小線量群は5mSv 未満として設定されていること,さらにその中に残留放射線の影響を受けた者が ータのもつ限界である。すなわち,本来非曝露群として比較対象となるべきであるゼロ線量集団を形成できず,最小線量群は5mSv 未満として設定されていること,さらにその中に残留放射線の影響を受けた者が多数含まれている可能性があることである。残留放射線の影響を受けた者の被ばく線量はコホート作成時には 考慮されていないため,低線量域になればなる程,曝露群と非曝露群との実質的な線量の差異が小さくなってしまう。そのため統計上の有意差の確認が困難になっているのである。 (イ) 統計上の検出力の問題確率的影響は低線量になればなる程,確率的に影響が低くなっていくの で,低線量領域での差異の観察は母数が相当大きくなければ見えづらくなる。広島・長崎の原爆被爆者データの母数は約12万人であるため,母数の大きさに不十分さを内包しているのである。しかし,統計上の検出力はデータの追跡調査の期間が長くなることで克服されていく。確率的影響は晩発影響ともいわれるとおり,被ばく後相当期間を経過後表れてくるもの であるから,時間の経過によって症例数が増加することにより,統計上の 有意差を確認することができてくるようになる。【甲共123・56頁,証人聞間元①11~12頁】実際の広島・長崎の原爆被爆者の死亡原因調査(LSS)においても,追跡調査の期間が長くなるにしたがって様々な統計上の有意差が明らかになってきており,前述のとおりデータに固有の限界のある低線量被ばく の影響についてであっても,観察期間が延びるにしたがって徐々に解明されてきているのである。例えば,LSS第14報において,過剰相対リスク(放射線被ばくを受けた場合の死亡率(又は罹患率)の,被ばくを受けなかった場合の死亡率(又は罹患率)に対する増加分を示す指標。以下「過剰相対 のである。例えば,LSS第14報において,過剰相対リスク(放射線被ばくを受けた場合の死亡率(又は罹患率)の,被ばくを受けなかった場合の死亡率(又は罹患率)に対する増加分を示す指標。以下「過剰相対リスク」というが,ERR(「ExcessRelativeRisk」の略)という こともある。)が統計上有意とされる最低推定線量範囲である0-0.2Gy(=200mSv)を例にとっても,1950年~1985年における同範囲のP値は0.50であったのに対し,1950年~1995年におけるP値は0.16となり,LSS第14報の対象期間である1950年~2003年においてP値が0.02となっており,(LSS第14報,表7) 【甲共4の3・13頁】調査期間が長くなるに従って統計上の有意差がより精密に確認できるようになっているのである。したがって,広島・長崎の原爆被爆者のデータによって,現時点で低線量被ばくの健康影響に関する統計上の有意差が確認できていないとしても,それは固定的にとらえるべきものでなく,今後有意差が確認されることが十分期待されるものであ ることは,LSS第14報に至る財団法人放射線影響研究所(以下「放影研」という。)の継続した疫学研究の結果そのものが体言しているのである。 オ統計上の有意差未確認と低線量被ばくの健康影響その上で,原告らが主張しているのは,広島・長崎の原爆被爆者の疫学デ ータにおいて,慣習上の指標に基づけば低線量被ばくの健康影響についての 統計上の有意差が確認できなかったとしても,そのことが低線量被ばくの健康影響を否定することには直結しないということである。 その理由は,前述のとおり,有意差の確認についての慣習に基づく指標を満たさないデータ結果であっても,リスク判断についてはな とが低線量被ばくの健康影響を否定することには直結しないということである。 その理由は,前述のとおり,有意差の確認についての慣習に基づく指標を満たさないデータ結果であっても,リスク判断についてはなお有用であるからである。そして,100mSv 以下の被ばく線量においても健康影響を示唆 する研究結果は多数存在しているからである。すなわち,100mSv 以下の被ばくの健康影響について,慣習に基づく指標によって統計的有意差が確認できていないとしても,それを示唆する科学的知見の集積によって,低線量被ばくの健康影響は十分確認できるということである。 カ LNTモデルに対する合理的な支持 ICRP(国際放射線防護委員会)もLNTモデルを支持し,放射線防護の体系に採用している。 被告らは,前述したようにLNTモデルは「科学的に実証されていない」ことを繰り返し強弁しているが,当のICRPの委員であり,京都地裁において被告国の申請した証人佐々木康人氏が「ICRPがLNT仮説を取り入 れているのには全く根拠がないわけではなくて,LNTをサポートするような研究成果というのは,実はいろいろとあると。そういう論文を集め,また議論をした刊行物が99例あります。それをもって,ICRPがLNTモデルを放射線防護の体系に採用するということは,科学的にももっともらしいことである」【丙共31・4頁】と証言していることは極めて示唆的であり, ICRPがLNTモデルを採用したことに科学的合理性のあることを明確に示している。そして,LSS第14報においても,「総固形がん死亡の相対過剰リスクは被爆放射線量に対して直線の線量反応関係を示し,その最も適合するモデル直線の閾値はゼロである」【甲共4の2】として,LNTモデルの支持を公然と述べている。これは広島 総固形がん死亡の相対過剰リスクは被爆放射線量に対して直線の線量反応関係を示し,その最も適合するモデル直線の閾値はゼロである」【甲共4の2】として,LNTモデルの支持を公然と述べている。これは広島・長崎の原爆被爆者の疫学データの 解析結果からみても,LNTモデルが合理的に支持できること(「科学的に もっともらしい」)を述べたもので,極めて重みのある指摘である。つまり,LNTモデルについて,(慣習上の指標に基づく)統計上の有意差の確認ができなくても,データ解析の結果,合理的に推認できるものと位置づけているのである。 ここで述べたICRP2007年勧告,及びLSS第14報以外にも,プ レストンら第2報告【甲共113の2】,BEIR委員会(全米科学アカデミー電離放射線の生物影響に関する委員会)報告【甲共113の1・20頁】,UNSCEAR(原子放射線の影響に関する国連科学委員会)2000年報告書【甲共113の1・16~17頁】,ピアーズらのランセット掲載論文【甲共17】,小児期あるいは青年期にCTスキャンを受けた68万人のが んリスクに関する研究【甲共99】,フランス,イギリス,アメリカの労働者に対するコホート研究【甲共100】その他,多数の科学的知見が低線量被ばくの健康影響を肯定し,LNTモデルを支持している。 また,原爆症認定実務においても,がん,白血病,心臓疾患等が年間1mSvの被ばく線量で発症し死亡するリスクがあることを前提とした制度となっ ていることも,すでに主張したとおりである。【甲共113の10・証人聞間元①参照】キ放射線の健康影響についての司法判断の手法とその到達点司法判断における放射線に関する科学的知見の位置づけを明確に整理したのが,東京高裁2009年5月28日判決【丙共46・ 人聞間元①参照】キ放射線の健康影響についての司法判断の手法とその到達点司法判断における放射線に関する科学的知見の位置づけを明確に整理したのが,東京高裁2009年5月28日判決【丙共46・8頁】である。 同判決は,科学的知見について「当裁判所は,本件に必要とされる科学的知見について,確立した知見であるかどうかという観点から検討を加えてきたが,それが司法裁判所の訴訟上の審理目標であるとともに裁判手続上の限界でもある。対立する科学的知見について,厳密な学問的な意味における真偽を見極めることは裁判手続において必ずしもよくなし得るところではな く,厳密な意味では訴訟上の課題であるともいい難い。裁判手続の課題とし ては,一定水準にある学問成果として是認されたものについては,そのあるがままの学的状態において法律判断の前提としての科学的知見を把握することで足りるものというべきである。」とし,法律判断については,「放射線起因性とは,原爆放射線と疾病(後障害)との因果関係の判断である。一般に因果関係の判断が法的に極めて評価的な判断であることは周知のところ である。…前記の最高裁平成12年判決(松谷訴訟判決)の説示が由来するとされるルンバール事件判決の要点は,その事案に即してみると,『訴訟上の因果関係の立証は,一点の疑義も許されない自然科学的証明ではない』との点にある。つまり,民事訴訟においては,科学的な因果関係の有無を確定しようとするのが目的ではなく,法律要件としての因果関係という要証事実 の立証があるかどうかを確定することが目的である。科学的知見が不動のものであれば,これに反することは違法であるが,科学的知見の通説に対して異説がある場合は,通説的知見がどの程度の確かさであるのかを見極め,両説ある場合にお 定することが目的である。科学的知見が不動のものであれば,これに反することは違法であるが,科学的知見の通説に対して異説がある場合は,通説的知見がどの程度の確かさであるのかを見極め,両説ある場合においては両説あるものとして訴訟手続上の前提とせざるを得ない。科学的知見によって決着が付けられない場合であっても,裁判所は, 『経験則に照らして全証拠を総合検討し,特定の事実が特定の結果発生を招来した関係を是認し得る高度の蓋然性』の証明の有無を判定すべきであり,その場合の判定の基準は,『通常人が疑いを差し挟まない程度に真実性の確信を持ち得るものであることを必要とする』というのが,確立した判例の法理である。」と判示する。 これは科学的知見に基づく司法判断の手法について,極めてよく整理されたものであり,厚生労働省の主催する原爆症認定制度の在り方に関する検討会においても紹介されたものである。【丙共46・8頁】低線量被ばくの健康影響が問題となっている本件においても,科学的知見をどのように整理,判断するのかについての枠組みとなるものである。 低線量被ばくの健康影響に関しても知見の対立があるが,少なくとも被告 の述べる知見が不動のもの,又は通説的見解とは到底いえないのはこれまで述べてきたことから明らかであるし,低線量被ばくの健康影響について,仮に厳密な意味で科学的知見によって決着が付けられないとしても,前述の知見に照らせば100mSv 以下の低線量の被ばくであっても生命・身体に対する重大な影響を及ぼす可能性があることについて,十分な確信をもち得るも のであるといえるのである。 このようにがん,白血病,心臓疾患などの確率的影響にしきい値は存在せず,どんなに低い線量でも影響が発生する確率はゼロではないということは,被 分な確信をもち得るも のであるといえるのである。 このようにがん,白血病,心臓疾患などの確率的影響にしきい値は存在せず,どんなに低い線量でも影響が発生する確率はゼロではないということは,被告国の提出証拠にも明確に述べられているもので,「グローバルスタンダード」【証人聞間元①10頁】といえるものである。 ク低線量被ばくの健康影響に関する司法判断の到達点原爆症訴訟における東京高裁判決【甲共137】は,以下のとおり,低線量被ばくにおける様々な知見を総合して,固形がんのしきい値は観念されないと明確に判断している。 「プレストンら第2報告は,0ないし2Gy の範囲では一貫して線形の線量 反応関係が認められ,さらに,被曝線量が0.15Gy 以下の対象者に解析を限定した場合にも,統計的に有意な線量反応が認められたとし,さらに,LSS第14報も,0ないし0.20Gy の線量範囲で線量に応じた過剰相対リスクが認められ,定型的な線量しきい値解析ではしきい値は示されず,ゼロ線量が最良のしきい値であったとし,LNT仮説については,いまだ定説が ない状況にあるということができるものの,全米科学アカデミーの離放射線の生物影響に関する委員会(以下「BEIR委員会」という。)が,発がんリスクは低線量域でもしきい値なく線形で連続しているとの結論に達したとし,ICRP2007年勧告も,その勧告する実用的な放射線防護体系は,約100mSv を下回る線量においては,ある一定の線量の増加はそれに正比 例して放射線起因の発がん又は遺伝性影響の確率の増加を生じるであろう という仮定に根拠を置くこととするとしているのであって,かかる仮説を一概に否定することはできないこと,UNSCEAR2000年報告書も,LNT仮説が,低線量電離 の増加を生じるであろう という仮定に根拠を置くこととするとしているのであって,かかる仮説を一概に否定することはできないこと,UNSCEAR2000年報告書も,LNT仮説が,低線量電離放射線によるがんリスク評価として一般的に国内及び国際組織から受け入れられてきたとしているものであること,ピアースら報告においては,CT検査による線量と脳腫瘍との間に正の相関を認めたと されていること,これらの知見を含む各種知見を総合すれば,固形がんのしきい値は観念されないものというべきである」【同・119頁】「若年での被爆はリスクを相当程度高めるものというべきである」【同・120頁】この判決は,先の2009年東京高裁判決の判断手法にしたがって,適切 な司法判断を下したもので,LNTモデルの科学的合理性に相当の根拠があること,がんにしきい値がないことについては,司法判断として確立したものといえる。 したがって,本件の区域外避難者の避難行動についても法的相当性のあることは明らかになったといえる。 ケ DDREF(線量・線量率効果係数)についてDDREF(「DoseandDoseRateEffectivenessFactor」の略。線量・線量率効果係数)は,高線量を被ばくした場合のリスクから,実際のデータがない低線量におけるリスクを予想する際,あるいは,急性被ばくのリスクから慢性被ばくや反復被ばくのリスクを推定する際に用いられる補正値で ある。 被告国は,原告らがLSS第14報は「DDREF期待値は1.0に近い」【甲共4の3・16頁】と述べているとしていることにつき,この記載は参考文献(Jacob.Pらの「放射線従事者のがんリスクは予想を超えるか?」)の内容を紹介しているだけで,放影研の研究結果の記載 」【甲共4の3・16頁】と述べているとしていることにつき,この記載は参考文献(Jacob.Pらの「放射線従事者のがんリスクは予想を超えるか?」)の内容を紹介しているだけで,放影研の研究結果の記載ではないと 反論している。 確かに,放影研による翻訳には分かりづらいところがあるが,LSS第14報の当該部分で述べられているのは,LSS第14報の執筆者が,参考文献に挙げられているJacob・Pらの論文の12の調査で得られたそれぞれの線量当たりのERR(過剰相対リスク)の値と,LSSで得られたERRの比較を行った結果,それによって導きだされるDDREF期待値は1. 0に近いことが述べられているのである。つまり「DDREF期待値が1. 0に近い」と述べているのは,LSS第14報自身であって,単なる文献の紹介ではない。被告国の主張は,LSS第14報の当該部分の誤読によるものである。 また,被告国は,LSS第14報の上記指摘の後の「しかし,検討された 調査の数は,LSSに合わせた値の計算を可能にする条件で,報告書の出版年が2002-2007年のものに限定されたため得られた結果にはまだ議論がある」とした部分を引いて,この部分は,Jacob・Pらの論文の問題点を指摘しているのであり,DDREFを1.0とする見解を支持すると結論づけていないことは明らかであると主張する。 しかし,当該部分はLSS第14報が「DDREF期待値が1.0に近い」と結論づけたことに対し,その比較対象となったJacob・Pらの論文の調査結果が2002~2007年の出版期間に限定されていることの限界を示しているのであり,ここにおける国の主張もLSS第14報の誤読によるもので失当である。つまり,ここで「議論の余地がある」とされているの 2~2007年の出版期間に限定されていることの限界を示しているのであり,ここにおける国の主張もLSS第14報の誤読によるもので失当である。つまり,ここで「議論の余地がある」とされているの は,LSS第14報がDDREF期待値を1.0としたことそのものについて慎重な言い方をしているのであり,Jacob・Pらの論文についての評価ではない。 このように,長期間にわたる被ばくであっても,短期被ばくと同様の影響が認められるというのがLSS第14報の立場であることは明らかで,被告 国の反論は全く当たらない。 以上を前提にすると,広島・長崎の被爆者データによっても,累積50mSvの被ばくによって200人に1人の割合のがんによる過剰死亡が起きることが認められることになる。これはすでに紹介した医療被ばくに関する疫学調査などの結果と比べると相当控えめな数字ではあるが,それでもこの数字は極めて重い。これは完全に顔が見える範囲の現実的な確率であって,避難 継続の相当性との関係でいえば,原告らが避難を継続するのに必要十分なリスクといえるのであり,避難継続の相当性を基礎付ける重要な要素となっている。 因みに,百歩譲って,ICRP見解に依拠してDDREFを2とした場合,累積50mSv の被ばくによって400人に1人の割合のがんによる過剰死亡 が起きることになり,また米国科学アカデミーのBEIR報告に依拠してDDREFを1.5とした場合は,累積50mSv の被ばくによって300人に1人の割合のがんによる過剰死亡が起きるということになる。これらのリスクも十分に顔の見える範囲の現実的な確率であり,避難継続の相当性を肯定するのに十分であるといえる。 コ原告らの従来の居住地の累積被ばく線量について(ア) 累積被ばく線 る。これらのリスクも十分に顔の見える範囲の現実的な確率であり,避難継続の相当性を肯定するのに十分であるといえる。 コ原告らの従来の居住地の累積被ばく線量について(ア) 累積被ばく線量積算の想定条件原告らが提出した,「東京電力福島第一原発事故により放出された放射性物質による原告の元居住地(福島県内)における空間線量率および積算線量推計調査」【甲共114】においては,①屋外のみの50年間積算線量 と,②被告国が用いている,1 日の滞在時間を屋内16時間,屋外8時間とし,さらに木造家屋の屋内の低減係数を0.4とした場合の50年間積算線量,の2つの積算線量が推計されている。 原告らは,この2つのうち①の屋外のみの積算線量の方が合理性があると判断し,その数値を用いて被ばく線量を想定している(原告準備書面4 2末尾一覧表参照)。その理由は,以下のとおりである。 a そもそも物理的半減期にしたがって放射線量が確実に漸減していくということ自体が,当該地点に存在する放射性物質の総量が不変であるという仮定を前提としている。このような前提に立つからこそ,当該地点の放射線量は物理的半減期に応じて漸減していくことになるのである。しかし,この前提はフィクションである。実際は,当該地点に雨水 や風等によって周辺山林等からの放射性物質が流れてくれば,直ちに放射線量が跳ね上がることは測定結果から明らかになっており,当該地点の放射性物質の総量については一定でなく,折に触れて増加することが当然あり得るのである。放射性物質の総量が増加すれば,それに伴い放射線量は増加する。したがって,当該地点の放射性物質の総量が不変で あることと仮定した累積線量は,もともと実際のものより過小評価となっている可能性を有している。 b 増加すれば,それに伴い放射線量は増加する。したがって,当該地点の放射性物質の総量が不変で あることと仮定した累積線量は,もともと実際のものより過小評価となっている可能性を有している。 b 上記②は,もともと過小評価の可能性のある上記①に,さらなる仮定を積み重ねて累積線量を低減するものであり,過小評価の可能性はさらに大きくなる。 そもそも屋外での活動時間が8時間しかないという仮定に無理があり,午前8時に家を出て,午後3時に家に戻るというライフスタイルは,通常の社会人としてはあり得ず,小学生の子どもを考えても現実的でないことは容易に分かるはずである。家庭の主婦であっても農業従事者の多い福島県においては,やはり,屋外での活動時間が8時間しかないと いう想定は合理的とはいえない。 c それに加えて屋内の遮へい係数を0.4としていることの問題性を指摘しなければならない。これはIAEA(国際原子力機関)の用いている,土壌に「沈着した放射性物質のガンマ線による被ばくの低減係数のうち,平屋あるいは2階建ての木造家屋の係数を採用したもの【丙 共43・51頁】である。しかし,同じIAEAの「浮遊放射性物質の ガンマ線による被ばくの低減係数」では,木造家屋は0.9【甲共169】とされていて,両者の係数にはこのように大きな差がある。ここでは空間線量が問題となっているのであるから,土壌に沈着した放射性物質よりも,大気中に浮遊している放射性物質の影響を重視すべきともいいうる。いずれにせよ,これだけ大きな差のある遮へい係数のうち,遮 へい効果のかなり大きい0.4という係数のみを用いることは,「浮遊放射性物」は存在しないことにしてしまうものであり,線量評価の過小評価に繋がることになる。 16時間という長時間を家屋 ち,遮 へい効果のかなり大きい0.4という係数のみを用いることは,「浮遊放射性物」は存在しないことにしてしまうものであり,線量評価の過小評価に繋がることになる。 16時間という長時間を家屋内で滞在するという現実に想定し難い条件を設定し,さらに遮へい効果の最も高い係数のみを用いて屋内にい る16時間の被ばく線量を推定するという手法は,実際の被ばく線量よりも相当程度低い値となることは明らかであり,極めて不合理である。 もともと実際の被ばく線量よりも過小評価となる可能性の高い,物理的半減期の値を用いた屋外線量に,さらに二重の仮定を用いた得られた放射線量に合理性を見いだせない理由はここにある。 屋外のみの数値は,前述のとおり過小評価の可能性の大きいのであるから,屋内に滞在する時間に遮へい効果による微減があることを踏まえても,上記②より信憑性があると判断することが合理的である。 d 被告国は,区域外原告について屋内滞在時間16時間として推計した累積線量は,ほとんどの世帯は50mSv を下回るとして,原告らの主張 によったとしても大部分の原告らには避難の合理性は認められないと主張する。 しかし,前述のとおり,累積線量については屋外線量をみるのがより合理的であること,空間線量に加えて土壌汚染の状況も加味して総合的に判断しなければならないこと,そして何より累積50mSv という指標 は,特に低線量域の評価として,限界のある原爆被爆者データから導い た最低限のものであることに十分留意しなければならない。また,そもそも,がんについては,しきい値は存在しないのだから,50mSv を下回ったから直ちに避難の相当性が否定されるものではない(50mSv はあくまで一つの目安にすぎない)。このように考えれば,被告 もそも,がんについては,しきい値は存在しないのだから,50mSv を下回ったから直ちに避難の相当性が否定されるものではない(50mSv はあくまで一つの目安にすぎない)。このように考えれば,被告国の前記批判は全く当たらない。 (イ) 原告らの従前の居住地の累積被ばく線量こうした考察の結果,本件事故時の住所によって大きな差異はあるものの,最も高い原告では50年間累積被ばく線量が3000mSv を超え,最も低い原告でも概ね50mSv となっていたことが確認されている。 土壌についても差異は大きいものの,ほとんどの原告らの自宅周辺から, 放射線管理区域の法定基準値である1㎡当たり4万Bq を超える放射線が計測されている(原告準備書面42末尾一覧表参照。なお,ここで示した50年間の累積線量は物理的半減期に基づく屋外線量についてのものである。原告らが屋内滞在時間を考慮しない数値を用いたのは,上記のとおりである。)。 既に指摘したとおり,避難を中止して帰還するということは,数十年単位の長期間にわたり,元の居住地で生活を続けるということを意味する。 したがって,被ばくの健康影響に関しては,その間の累積線量が重要であり,避難継続の相当性の判断も,それをもとになされなければならないことは当然である。 こうした原告らの元の居住地の累積被ばく線量に鑑みれば,原告らの避難(避難継続)の相当性は優に肯定されるものである。 ⑵ 避難行動の相当性,避難指示等区域設定の不合理性政府の避難指示等区域の指定には合理性がなく,安全面より社会的,政策的判断を優先したものであった。 特に,緊急時避難準備区域の設定の不合理性として原発の北側の南相馬市に おいては,30㎞の距離で区域を分けているのに対し,原発の南側及び 的,政策的判断を優先したものであった。 特に,緊急時避難準備区域の設定の不合理性として原発の北側の南相馬市に おいては,30㎞の距離で区域を分けているのに対し,原発の南側及び西側の市町村においては,原発からの距離によらずに区域を分け,具体的には,原告番号6番の原告ら(いわき市)の本件事故時の住所は,福島第一原発から30㎞以内であるにもかかわらず,何ら避難指示区域等に指定されなかったことの問題や,福島市の例を挙げながら,同市内に,放射線量が高いにもかかわらず 区域指定されなかった地域があることの問題が挙げられる。 さらに,原子力損害賠償紛争審査会より平成23年12月6日に公表された「東京電力株式会社福島第一,第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針追補(自主的避難等に係る損害について)」(中間指針追補)で賠償が認められている「自主的避難等」の対象区域に,区域外避難 者とされる本件原告らの事故時住所地が全て入っており,被告国の機関である原賠審や被告東電も,区域外避難者の避難の合理性を認め,(その金額は極めて不十分であるものの)賠償を行っている。 前述したとおりの汚染状況からすれば,放射線量が高い地点があったにもかかわらず区域指定されなかったという点では,福島市のみならず,区域外避難 者とされる本件原告らが本件事故当時に居住していた他の地域においても同様というべきである。 また,いわき市のように市が独自に自主避難を奨めたという事例もある。 【甲共177・28頁】以上のとおり,政府による避難指示等の区域指定に合理性はなく,区域指定 の有無のみで避難の相当性を判断することはできない。 区域外避難者とされる本件原告らの生活圏における放射性物質の汚染状況,原告ら事故時住 府による避難指示等の区域指定に合理性はなく,区域指定 の有無のみで避難の相当性を判断することはできない。 区域外避難者とされる本件原告らの生活圏における放射性物質の汚染状況,原告ら事故時住所における50年間の累積線量の高さ,平成23年9月時点において政府等に把握されていた区域外避難者の人数が避難者総数の約3分の1に当たる約5万人にも達し,平成27年(2015年)10月時点でもいま だ約2万5000人が避難を続けていること等に鑑みれば,区域外の住民であ る本件原告らが居住地からの避難行動をとったことは十分に避難行動の相当性が認められるというべきである。 このことは,被告ら自身,本件原告ら居住地域の区域外避難者に対しては(極めて不十分な金額ではあるがであるが)賠償を行うべきことを決定していることからも自明であると考える。 ⑶ 避難を継続することの相当性ア放射線被ばくによる健康被害のおそれと放射性物質の汚染状況等原告らは,航空機モニタリングの結果をもとに,各原告の事故後50年間の積算被ばく線量を推計した。【甲共114】その結果,区域によって大きな差異はあるものの,最も低い原告でも概ね50mSv となっていたことが確認 されている。土壌についても差異は大きいものの,ほとんどの原告らの自宅周辺から,放射線管理区域の法定基準値である1㎡当たり4万Bq を超える放射線が計測されている。 既に指摘したとおり,避難を中止して帰還するということは,数十年単位の長期間にわたり,元の居住地で生活を続けるということを意味する。 特に,子ども達においては,放射線感受性も高いとされる上,避難を中止して帰還する場合,原告らが,航空機モニタリングの結果をもとに,各原告の事故後50年間の積算被ばく線量を推計した【 する。 特に,子ども達においては,放射線感受性も高いとされる上,避難を中止して帰還する場合,原告らが,航空機モニタリングの結果をもとに,各原告の事故後50年間の積算被ばく線量を推計した【甲共114】ものよりも,さらに長期間にわたって元の居住地で生活を続けることとなり,その影響は上記推計以上のものとなると考えられる。 以上のとおり,被ばくの健康影響に関しては,その間の累積線量が重要であり,避難継続の相当性の判断も,これをもとになされなければならないことは当然である。 そして,こうした原告らの元の居住地の累積被ばく線量【甲共114】に鑑みれば,原告らの避難の相当性はもとより,避難継続の相当性も優に肯定 されるものである。 イ放射性物質の汚染状況の継続等本件事故から既に6年以上が経過した段階でも,福島県内の放射性物質の汚染状況,放射線量はいまだに高水準のままである。【甲共102等】特に,福島県内の放射性物質の汚染状況は空間線量率以上に変化が少ない。 【甲共164の1~7】 また,航空機モニタリング汚染状況,空間線量等から見たリスク評価としても,区域外の住民である本件原告らの本件事故時の居住地及びその生活圏における放射性物質の汚染状況は深刻であり,放射線量についても,特に長期にわたる累積線量という観点からすれば,依然として高いというべきであり,避難指示等対象区域外から避難した原告らの避難継続の相当性を判断す る上で的確に考慮されるべきである。【甲共178】ウ避難指示等対象区域外からの避難者が多いこと(ア) 区域外避難者の人数は政府等の発表よりも多いこと政府等は実際の避難者の人数を把握できておらず,特に避難指示等対象区域外からの避難者については正確に把握されておらず,避難者 難者が多いこと(ア) 区域外避難者の人数は政府等の発表よりも多いこと政府等は実際の避難者の人数を把握できておらず,特に避難指示等対象区域外からの避難者については正確に把握されておらず,避難者の実数は 政府等の発表より多い。 (イ) 全避難者における区域外避難者の割合,人数とその継続また,政府等の発表する避難者数は実数よりも少ないという前提においても,2011年(平成23年)9月時点において政府等に把握されていた区域外避難者の人数が避難者総数の約3分の1に当たる約5万人にも 達し【甲共104の1】,その後,2015年(平成27年)10月時点でもいまだ少なくとも約2万5000人もの区域外避難者が避難を続けていたという事実,その後も相当数の区域外避難者が避難を続けているという事実は,避難継続の相当性を考慮する上で重要である。 (ウ) 避難指示等対象区域からの避難者においても避難指示によらずに避難 するとの判断をした者は少なくなかったこと さらに,避難指示が出された区域からの避難者においても,避難指示によらずに避難するとの判断をした者は少なくなく,特に,比較的避難指示が出されるのが遅かった区域においてはその傾向はより顕著であった。こうしたことから,避難指示等対象区域の内外を問わず,放射線の影響を避け,自身や家族の生命や身体を守るため,避難指示によらずに避難すると の判断をすることは自然であり,合理的な行動であったといえる。 (エ) 小括上記の全避難者における区域外避難者の割合,人数とその継続という事実,避難指示等対象区域からの避難者においても避難指示によらずに避難するとの判断をした者は少なくなかったという事実からしても,原告らの うち避難指示等対象区域外の住民である者が居住地からの避 実,避難指示等対象区域からの避難者においても避難指示によらずに避難するとの判断をした者は少なくなかったという事実からしても,原告らの うち避難指示等対象区域外の住民である者が居住地からの避難行動を継続していることの相当性が認められるというべきである。 エ報道等からみた避難継続の相当性本件事故による汚染状況(放射性物質の大量放出とその継続)については報道等を通じ,広く知られるところであった。特に,本件事故により大量の 放射性物質が放出され,現在に至るも,大気,河川,海洋,土壌を汚染し続けている状況についてはさまざま報道がなされた。避難指示等対象区域外からの避難者は,こうした報道も判断材料として,自分や家族等の生命や健康を守るために避難し,避難を継続する者も多い。本件事故による汚染状況(放射性物質の大量放出とその継続)についての報道等の状況からしても,原告 らのうち避難指示等対象区域外の住民である者が居住地からの避難行動を継続していることの相当性が認められるというべきである。 オ放射性物質の汚染による原告らの事故時住所及び生活圏の生活の変容(ア) 原告らの事故時住所及び生活圏の変容本件事故及び放射性物質の汚染により,避難指示等対象区域外の地域で あっても福島に暮らす人々の生活は大きく変容した。すなわち,①日常生 活上,放射線を意識せざるを得なくなり様々な制約が生じている状況,②特に子どもの生活環境に大きな影響が出ていること(運動不足による子どもの肥満や体力低下が深刻な問題となっていること等),③子どもや子育て世代の減少,子どもにPTSDがみられること,各産業への深刻な影響等,避難指示等対象区域外の各市町村が深刻な問題を抱えている状況,等 が明らかなっている。このように,福島では,地 子どもや子育て世代の減少,子どもにPTSDがみられること,各産業への深刻な影響等,避難指示等対象区域外の各市町村が深刻な問題を抱えている状況,等 が明らかなっている。このように,福島では,地元での収穫物が味わえなくなり,農業,漁業にも大きな打撃が生じ,子ども達が外で遊ぶことすら避けなければいけないほど,その生活には大きな変化が生じており,子どもらの運動不足や肥満等の問題が顕在化している。 (イ) 商業,経済構造の変化 避難区域外では,特に,子どもの健康に対する不安から母子や若い家族が避難をしているため,人的構造は大きく変化し,産業のあり方にも影響を与えている。 また,避難区域の経済圏が事実上ほとんど消滅したため,これら地域を対象に取引をしていた区域外の事業者の経済活動も大きく変化し,連鎖倒 産ともいえる事態も生じた。 他方,復興需要とも呼ばれる復興事業による作業員等の流入とこれに伴う関連商売の繁盛により,一部事故前よりも景気が良くなったかのように見られる統計もあり,被告東電はこの点を強く主張している。しかし,それは表面的な数値に過ぎず,本件事故前の商業や経済構造は確実に変化し, 事故前の地域は大きく変容している。 カ福島で暮らす住民らに対するアンケート結果福島に暮らす住人を対象とした,中京大学教授成元哲作成の意見書【甲共143】によると,原発事故から3年が経っても,「放射線量の低いところに保養に出かけたいと思う」(66.0%),「放射能の健康影響についていの不安 が大きい」(63.7%),「福島で子どもを育てることに不安を感じる」(60.3%) など,根強い放射線に対する不安が続いていることがうかがえ,安心して子育てをできていた本件事故前の生活が大きく変容していることがわか で子どもを育てることに不安を感じる」(60.3%) など,根強い放射線に対する不安が続いていることがうかがえ,安心して子育てをできていた本件事故前の生活が大きく変容していることがわかる。 精神の健康度を測るK6テストにおいて,『平成22 年国民生活基礎調査』における30~34 歳の女性(こちらを「全国平均」とする)と比較してみると,一般的な精神疾患のカットオフポイントを上回る人(同テストの9 点以 上)は,全国平均では15.9%であるのに対し,成意見書が対象とした福島県中通り地区の母は,事故直後は68.6%,半年後48.1%,調査前1か月で18.0%と明らかに高い割合であった。 また,気分障害・不安障害が強い状態とされる13 点以上は,全国平均が6.2%であるのに対し,中通り地区の母は,原発事故直後52.9%,半年後28.2%, 調査前1 ヶ月7.7%と,こちらも高い割合であった。 このように,統計上も,福島で安心して子育てのできる環境は大きく変容したといえる。 キ除染の不十分さ被告らは,各市町村で除染が行われていることを主張するが,これは以下 述べるとおり,極めて不十分なものである。 すなわち,①除染対象が一部に留まり,汚染地域全体を除染するものではなく,大局的に見ても除染の効果は確認できないこと,②除染土壌等の処理に問題があること,除染の実態は汚染物質を「移動させる」だけにとどまっていること,その処理の実態が極めて杜撰なものであり,除染土壌の現場保 管が強いられる例,除染土壌を中間貯蔵施設へ搬入できない例等より,住民の生活圏内に除染廃棄物が放置されたままとされたこと,等が明らかである。 被告らが各市町村で除染が行われていると主張しているものの,除染の不十分な実態からすれば,原告らが避 入できない例等より,住民の生活圏内に除染廃棄物が放置されたままとされたこと,等が明らかである。 被告らが各市町村で除染が行われていると主張しているものの,除染の不十分な実態からすれば,原告らが避難を継続することの相当性は揺るがないというべきである。 ク再度の事故の不安 福島第一原発内では,福島第一原発事故から7年が経過した現在でも,原子炉建屋内には依然として大量の核燃料が残されたままであり,そこから直接,あるいは核燃料冷却のため大量に投入されている冷却水を通じ(汚染水),環境中への放射性物質の放出が続いている。今後,少なくとも数十年を要する廃炉に向けた作業の中で,大きなリスクを伴う核燃料の取り出しを行わね ばならず,また,増え続ける汚染水については,これが海洋に放出されるという可能性がある。さらには,新たな地震など自然災害の発生等によって,再び核燃料を冷却できない事態が生じたり,排気筒が倒壊することなどにより,放射性物質がさらに大量に環境中へ放出される危険性が今もなお残されている。 このような現状において,再度の地震や津波が来たらどうなるのか,前回の事故以上の大規模な汚染が生じるのではないか,そういった原告らの当然の疑問に対し,被告らは納得できる回答を有していない。 原告らはこのような現状に強い危機感を有して避難を継続しているものである。 ケ避難先での定着や帰還先の喪失原告らの中には,避難先にて生活を行ううちに,そちらの生活に定着し,福島に帰還することが事実上不可能となった者も多い。 特に,子ども連れの避難においてはその傾向が強く,子どもらが避難先の学校や生活にようやく馴染んだ中,無理に再度の転校を強いることは子ども にとって極めて大きな悪影響を生じさせかねない。 ま 特に,子ども連れの避難においてはその傾向が強く,子どもらが避難先の学校や生活にようやく馴染んだ中,無理に再度の転校を強いることは子ども にとって極めて大きな悪影響を生じさせかねない。 また,高齢者でも,今回の避難で疲れ果てて体調を崩し,今後,福島に戻るという再度の環境変化にはもう耐えられないと話す原告もいる。 さらに避難先で新たな仕事を見つけた避難者は,福島に戻るためには再度の転職活動が必要になるほか,既に福島の住居については賃貸借契約を解約 したり売却したりしてしまい,既に戻る場所がなくなってしまったという原 告も少なくない。 それ以外にも,それまでの同居人と別々に避難してしまい,再度の同居が困難となって帰還できない高齢者,避難したことで福島における親族や知人らとの関係がこじれてしまい,福島に居場所のなくなってしまった避難者等,様々な理由によって避難先からの帰還が困難になっているのである。 コ体調不良や健康不安原告らは皆,最も放射線量の高くなった福島第一原発事故直後に福島県にいた。そのため健康についての不安は大きく,実際,原告の中には事故の際や避難直後に体調を崩した者も多い。 また,甲状腺検査において,問題を指摘されたり,嚢胞があると診断され た原告もおり,また,周囲にそういう子どもがいたという話を聞いたりした原告も多い。 これらの体調不良は,事故との因果関係の存在を現時点において証明するのは困難であるが,一方で「因果関係がない」と証明されてもいない。体調不良を福島第一原発事故によるものと考え,自己防衛のために避難を決断す ることは,むしろ当然のことである。万が一,福島第一原発事故が原因で取り返しの付かない病気に罹患してしまったとしても,被告らがその責任を果たして自ら認めるこ え,自己防衛のために避難を決断す ることは,むしろ当然のことである。万が一,福島第一原発事故が原因で取り返しの付かない病気に罹患してしまったとしても,被告らがその責任を果たして自ら認めることがあるだろうか。 サ治安の悪化今回取り上げた避難指示等対象区域外の各市町村においては,本件事故に より多くの住民が避難し,特に女性や子どもの数が大きく減少した。その代わりに新しい受入避難者や除染・復興作業の従事者が入ったことにより,街の雰囲気は大きく変わった。除染作業員による犯罪の問題も報道されており,住民らは従前との住環境の変化に戸惑っている。 福島県内において,2015年1月~9月の除染作業員による検挙人数は 167人であり,前年同期比より39人増加している。検挙者数の累計は, 2011年3月から2015年9月までで520人にも上る。 さらに,2015年8月には,大阪府寝屋川市で発生した殺人事件の容疑者が福島で除染作業に従事していたことが明らかになったことから,除染作業が行われている地域で犯罪の摘発が強化されたという事情もある。 また,犯罪に至らないまでも,危険な自動車の運転態度や街でのマナーの 悪さなども多々指摘されているところである。 本件事故以前の町の姿は,既にもう無いものといわざるを得ない。 シ中間指針第二次追補の意義とその限界平成23年12月6日に公表された「中間指針追補」において,自主的避難対象区域の避難者に対し賠償が認められ,その後,平成24年3月16日 に公表された,「東京電力株式会社福島第一,第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針第二次追補(政府による避難区域等の見直し等に係る損害について)」において,「少なくとも,子供及び妊婦については,個 会社福島第一,第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針第二次追補(政府による避難区域等の見直し等に係る損害について)」において,「少なくとも,子供及び妊婦については,個別の事例又は類型毎に,放射線量に関する客観的情報,避難指示区域との近接性等を勘案して,放射線被曝への相当程度の恐怖や不安 を抱き,また,その危険を回避するために自主的避難を行うような心理が平均的・一般的な人を基準としつつ,合理性を有していると認められる場合には,賠償の対象となる」という指針が示された。 そして同追補では,「本件事故を受けて自主的避難に至った主な類型は2種類考えられるが,いずれの場合もこのような恐怖や不安は,東京電力株式 会社福島第一原発の状況が安定していない等の状況下で,同発電所からの距離,避難指示等対象区域との近接性,政府や地方公共団体から公表された放射線量に関する情報,自己の居住する市町村の自主的避難の状況(自主的避難者の多寡など)等の要素が複合的に関連して生じたと考えられる。以上の要素を総合的に勘案すると,少なくとも中間指針追補の対象となる自主的避 難等対象区域においては,住民が放射線被曝への相当程度の恐怖や不安を抱 いたことには相当の理由があり,また,その危険を回避するために自主的避難を行ったことについてもやむを得ない面がある。」との解説がなされている。 これを受けて,被告東電は,18歳以下の子供及び妊婦を対象に,平成24年1月1日から同年8月31日の間における精神的苦痛等に対し,1人当 たり8万円を賠償している。すなわち,被告東電も,少なくとも,自主的避難対象区域の子供と妊婦については,平成24年8月31日までの間は,平均的・一般的な人を基準としても避難継続の合理性を認めているの たり8万円を賠償している。すなわち,被告東電も,少なくとも,自主的避難対象区域の子供と妊婦については,平成24年8月31日までの間は,平均的・一般的な人を基準としても避難継続の合理性を認めているのである。 しかしながら,それだけでは不十分である。前述したような,区域外避難者の置かれた状況からすれば,少なくとも現時点まではなお避難を継続する 合理性・法的相当性が認められるべきである。 なお,中間指針第二次追補では,子ども及び妊婦のみに言及しているが,原賠審が特に子どもと妊婦の賠償に言及したのは,両者は放射線への感受性が高いという理由からであるが,それは一般的には子どもや妊婦に比して放射線感受性が低いとされるそれ以外の者について,避難の必要性,合理性を 否定するものではない。子ども及び妊婦以外の者についての避難継続の合理性についても,同様に認められるべきである。 ス小括以上のとおり,原告らのうち避難指示等対象区域外から避難した者は,放射線被ばくによる健康被害のおそれと放射性物質の汚染状況等において述 べたとおり,被ばくの影響から生命や健康を保護するという理由やその他上述した様々な理由から長期的な避難の継続を強いられているものであり,原告らが避難を継続している理由に合理性があることは明らかである。 2 被告東電の主張⑴ 放射性物質・放射線とは ア放射性物質・放射線とは 世の中の全ての物質を構成する原子は,原子核と電子から成り,原子核は陽子と中性子から成り立っている。この原子核の中には,不安定な性質をもち,エネルギーを放出して安定した別の原子核に変わろうとするものがあり,原子核が壊れるこの現象を放射性壊変(崩壊)といい,そのときに放出される高速の粒子と高いエネルギーをもった電磁波のこと 性質をもち,エネルギーを放出して安定した別の原子核に変わろうとするものがあり,原子核が壊れるこの現象を放射性壊変(崩壊)といい,そのときに放出される高速の粒子と高いエネルギーをもった電磁波のことを「放射線」と呼ぶ。 そして,放射線を出す能力のことを「放射能」といい,そのような能力をもつ物質を「放射性物質」という(ただし,一般には,放射能が放射性物質と同じ意味で使用されることもある。)。 イ自然放射線と人工放射線放射線は自然放射線と人工放射線に大別することができる。 自然放射線とは,宇宙から地球に降り注いでいる宇宙放射線や土壌中,大気中,海水中に存在する放射性物質に由来する放射線のことをいう。大地に由来する放射線は,地球の地殻中に存在するウラン,トリウム,カリウム40などから放出され,花崗岩(御影石)には相対的に多くの放射性物質が含まれている。人体は,食物摂取を通じてカリウム40,ポロニウム210な どを摂取している。また,呼吸を通じて空気中の放射性物質であるラドンを体内に取り込んでいる。【乙共41・6~9頁,乙共42・13~24頁,乙共43・34~36頁,乙共44】体重60㎏の平均的な日本人の場合,体内の放射性物質の量は,カリウム40が4000Bq,炭素14が2500Bq,ルビジウム87が500Bq,鉛 210・ポロニウム210が20Bq,とされている。【乙共43・42頁】また,世界平均で年間1人当たり約2.4mSv(2400μSv),日本平均で年間1人当たり約1.5mSv(1500μSv)の自然放射線を受けているとされている。上記の世界平均(年間)の内訳は,宇宙から0.39mSv(390μSv),大地から0.48mSv(480μSv),食べ物から0.29mSv(2 90μSv),空気中( 受けているとされている。上記の世界平均(年間)の内訳は,宇宙から0.39mSv(390μSv),大地から0.48mSv(480μSv),食べ物から0.29mSv(2 90μSv),空気中(主にラドンの吸入)から1.26mSv(1260μSv) と見積もられている。 また,高度が上がることにより,宇宙放射線の影響を受けやすくなり,例えば,成田・ニューヨーク間を飛行機で1回往復すると,約0.2mSv(約200μSv)の放射線を宇宙から受けるとされている。【乙共41・34頁】他方,人工放射線とは,人工的に作られた放射線のことをいい,1895 年にレントゲン博士によりエックス線が発見されて以来,医療や工業,農業などで様々な用途のために人工放射線が用いられている。これらの人工放射線の利用に当たっては,例えば,胸部X線コンピューター断層撮影検査(胸部CTスキャン)では1回当たり約7mSv(7000μSv),胃のX線集団検診では1回当たり0.6mSv(600μSv),胸部X線集団検診では1回当た り0.05mSv(50μSv)の放射線量を一般に受けるとされている。【乙共41の36頁】このように,日本では,自然放射線のほかに放射線を利用した医療診断によって,国民1人当たり平均で年間2.25mSv の放射線量を受けているとされている。【乙共42・24頁】 ウ放射線被ばく「被ばく」とは放射線を受けることをいい,「汚染」とは放射性物質が皮膚や衣服に付着した状態をいう。また,土壌・建物・食品等への付着についても「汚染」という言葉が用いられる。放射性物質による「汚染」を取り除くことを「除染」という。 そして,放射性物質が体の外部にあり,体外から被ばくする(放射線を受ける)ことを「外部被ばく」という。 染」という言葉が用いられる。放射性物質による「汚染」を取り除くことを「除染」という。 そして,放射性物質が体の外部にあり,体外から被ばくする(放射線を受ける)ことを「外部被ばく」という。皮膚や衣服に付着した放射性物質によっても外部被ばくすることとなるが,これらの放射性物質は,シャワーを浴びたり洗濯をしたりすることにより洗い流すことができる。 一方,放射性物質を体内に摂取することにより,体内から放射性物質に被 ばくすることを「内部被ばく」という。内部被ばくは,空気を吸ったり,水 や食物などを摂取したりすることにより,それに含まれている放射性物質が体内に取り込まれることによって起こる。 ⑵ 放射線と健康影響に関する科学的知見前述したところを踏まえて,以下では,低線量の放射線被ばくを受けた場合の人体への健康影響に関する科学的知見を整理して主張する。 ア低線量被ばくWG報告書において整理されている科学的知見と国際的合意本件事故による放射性物質汚染対策において,低線量被ばく(「低線量」の定義については最近では200mSv 以下とされることが多いとされている。 【乙共4・4頁】の注1参照)のリスク管理を適切に行うため,平成23年 11月,政府の要請により,内閣官房の放射性物質汚染対策顧問会議の下に,低線量被ばくWG(低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ)が設置され,低線量被ばくと健康影響に関する国内外の科学的知見の整理等が行われ ,同年12月22日,その結果を取りまとめた報告書(低線量被ばくWG報告書)【乙共4】が公表されている。 この低線量被ばくWG報告書においては,「2.科学的知見と国際的合意」という項において,「国際的に合意されている科学的知見」として,原子放射線の WG報告書)【乙共4】が公表されている。 この低線量被ばくWG報告書においては,「2.科学的知見と国際的合意」という項において,「国際的に合意されている科学的知見」として,原子放射線の影響に関するUNSCEAR(原子放射線の影響に関する国連科学委員会),WHO(世界保健機関)及びIAEA(国際原子力機関)等の報告書に準拠することが妥当であるとした上で【乙共4・3頁】,広島・長崎の原爆の 人体に対する影響の精緻な調査,チェルノブイリ原発事故(昭和61年に旧ソ連チェルノブイリ原子力発電所において発生した事故)に関する調査結果に関する国際機関の報告等に基づいて,以下のとおり,科学的知見を整理している。 ① 現在の科学で分かっている健康影響として,広島・長崎の原爆被爆者 の疫学調査の結果からは,被ばく線量が100mSv を超える辺りから, 被ばく線量に依存して発がんのリスクが増加することが示されている。 そして,国際的な合意では,放射線による発がんのリスクは,100mSv以下の被ばく線量では,他の要因による発がんの影響によって隠れてしまうほど小さいため,放射線による発がんリスクの明らかな増加を証明することは難しいとされている。【乙共4・4頁】 ② この100mSv は短時間に被ばくした場合の評価であり,低線量率の環境で長期間にわたり継続的に被ばくし,積算量として合計100mSvを被ばくした場合は,短時間で被ばくした場合よりも健康影響は小さいと推定されている。この効果は動物実験においても確認されている。本件事故によって環境中に放出された放射性物質による被ばくの健康影 響は,長期的な低線量率の被ばくであるため,瞬間的な被ばくと比較し,同じ線量であっても発がんリスクはより小さいと考えられる。【同・4 故によって環境中に放出された放射性物質による被ばくの健康影 響は,長期的な低線量率の被ばくであるため,瞬間的な被ばくと比較し,同じ線量であっても発がんリスクはより小さいと考えられる。【同・4~5頁】③ 子ども・胎児への影響については,一般に,発がんの相対リスクは若年ほど高くなる傾向があるが,低線量被ばくでは,年齢層の違いによる 発がんリスクの差は明らかではない。また,放射線による遺伝的影響について,原爆被爆者の子ども数万人を対象にした長期間の追跡調査によれば,現在までのところ遺伝的影響は全く検出されていない。チェルノブイリ原発事故における甲状腺被ばくに比べても,本件事故による小児の甲状腺被ばくは限定的であり,被ばく線量は小さく,発がんリスクは 非常に低いと考えられる。【同・7頁】④ 放射線防護や放射線管理の立場からは,低線量被ばくであっても,被ばく線量に対して直線的にリスクが増加するという考え方(直線しきい値なしモデル(LNTモデル))を採用する。 これは,科学的に証明された真実として受け入れられているのではなく, 科学的な不確かさを補う観点から,公衆衛生上の安全サイドに立った判断と して採用されているものである。【同・8頁】このように,放射線防護上では,100mSv 以下の低線量であっても被ばく線量に対して直線的に発がんリスクが増加するという考え方は重要であるが,この考え方に従ってリスクを比較した場合,年間20mSv 被ばくするとした場合の健康リスクは,喫煙,肥満,野菜不足などの他の発がん要因に よるリスクと比べても低い。【同・9~10頁】このように,少なくとも100mSv を下回る低線量被ばくについては,健康影響との関係は一般に明らかになっていないとされている。 また,放射 に よるリスクと比べても低い。【同・9~10頁】このように,少なくとも100mSv を下回る低線量被ばくについては,健康影響との関係は一般に明らかになっていないとされている。 また,放射線防護の観点から,公衆衛生上の安全サイドに立った判断として,仮に,かかる低線量であっても被ばく線量に対して直線的に発がんリス クが増加するという考え方に従ってリスクを比較したとしても,「年間20mSv 被ばくすると仮定した場合の健康リスクは,例えば他の発がん要因(喫煙,肥満,野菜不足等)によるリスクと比べても低い」とされ,喫煙(1000~2000mSv の被ばくと同等),肥満(200~500mSv の被ばくと同等),野菜不足や受動喫煙(100~200mSv と同等)よりも低いレベル とされている。【同・9~10頁】そして,この低線量被ばくWG報告書を踏まえて内閣官房において作成されたパンフレット【乙共5】には次のとおり記載されている。 ① 国際放射線防護委員会(ICRP)の推計では,100mSv を被ばくすると,生涯のがん死亡リスクが約0.5%増加するとされています。 【同・1頁】② 放射線による発がんリスクは,100mSv 以下の被ばく線量では,リスクの明らかな増加を証明することは難しいとされています。それは,他の要因による発がんの影響で隠れてしまうほど小さいためです。疫学調査以外の科学的手法でも,同様に発がんリスクの解明が試みられまし たが,現時点では,人のリスクを明らかにするには至っていません。 【同・ 1頁】③ 年間20mSv の被ばくによる健康リスクは,他の発がん要因(喫煙,肥満,野菜不足等)によるリスクと比べても十分低い水準です。【同3~4頁】イ財団法人放射線影響協会の見解 1頁】③ 年間20mSv の被ばくによる健康リスクは,他の発がん要因(喫煙,肥満,野菜不足等)によるリスクと比べても十分低い水準です。【同3~4頁】イ財団法人放射線影響協会の見解 財団法人放射線影響協会が作成した「放射線の影響がわかる本」【乙共42】によれば,今日の科学的知見について次のとおり記載されている。 ① 広島や長崎で原子爆弾に起因する放射線被ばくを受けた方々の追跡調査からは,100mSv を超える被ばく線量では被ばく量とその影響の発生率の間に比例性があると認められております。一方,100mSv 以 下の被ばく線量では,がんリスクが見込まれるものの,統計的な不確かさが大きく,疫学的手法によってがん等の確率的影響のリスクを直接明らかにすることはできないとされています。 【乙共42・巻頭言前の頁】② 同じ量の放射線でも,急激に受けた場合と少しずつ時間をかけ緩やかに受けた場合(緩照射という。)とでは,あらわれる影響の度合いが異な ります。ゆっくり受けた方が影響が小さいのです。この現象は動物実験ではっきり認められます。 例えば,実験動物に3000mSv を1分間という短時間に一度にかけた場合と,1日当たり10mSv ずつ300日にわたって合計3000mSvかけた場合とでは,同じ3000mSv でもがんになる率は異なります。 毎日少しずつ放射線をかけた場合は,一度にかけたのに比べて3分の1~10分の1くらいしかがんになりません。 これは少しずつ時間をかけてあてた場合は,いったん細胞の遺伝子が傷ついても,細胞が本来もっている修復機能によって元どおりに回復させる余裕があり,一度に大量の放射線を当てた場合よりもがんになる率 が少なくなるのだろうと考えられています。【同・79~80頁】 も,細胞が本来もっている修復機能によって元どおりに回復させる余裕があり,一度に大量の放射線を当てた場合よりもがんになる率 が少なくなるのだろうと考えられています。【同・79~80頁】 ③ 人については広島・長崎の原爆で大量の放射線を受けた場合でも,放射線の遺伝への影響は認められていません。【同112頁】④ 放射線防護を考える上では,今のところがんと遺伝的影響はいくら低い線量でも影響のある確率的影響と仮定されているが,低線量ではがんによる死亡者数が過剰に発生したという結果は出ていない。また,遺伝 的影響は高線量の場合でもみられていない。【同・179頁】ウ経済産業省の説明資料について本件事故後,政府においては,積算線量が年間20mSv を避難指示の基準として用いているところ,このような避難基準である年間20mSv に関する経済産業省の説明資料【乙共33】においても,低線量被ばくによる健康影 響に関して,次のとおり記載されている。【同・5~6頁】① 広島・長崎の原爆被爆者の疫学調査の結果からは,100mSv 以下の被ばくによる発がんリスクは他の要因による影響によって隠れてしまうほど小さいとされています。この評価は,原子爆弾による短時間の被ばくによる影響の評価ですが,長期間の継続的な低線量被ばくの場合に は,同じ100mSv の被ばくであっても,より健康影響が小さいと推定されています。 なお,低線量被ばくにおいて,年齢層の違いによる発がんリスクの差を明らかにした研究はありません。また,原爆被爆者の子ども7万人を対象にした長期間の追跡調査では,現在のところ遺伝的影響が生じた証 拠はありません。 ② 「それを下回るとガンを誘発しないというしきい値が存在するとは考えないが,低線量被ばくに ども7万人を対象にした長期間の追跡調査では,現在のところ遺伝的影響が生じた証 拠はありません。 ② 「それを下回るとガンを誘発しないというしきい値が存在するとは考えないが,低線量被ばくによる発ガンリスクはあったとしても,小さいだろうと考えている。」(米国科学アカデミー「放射線生物学的影響次レポート」,2012年) ③ 「数十万人もの被験者を対象とする疫学的研究でさえ,発ガン率はラ イフスタイルに非常に大きく左右されるため,〔低線量〕被ばくによる非常に小さな増分を明らかにするものとはならないだろう。」(フランス科学アカデミー及び医学アカデミー「低線量放射線の発ガン作用の相関関係」,2005年)④ 我が国のがん研究の専門機関である国立がん研究センターによる「わ かりやすい放射線とがんのリスク」(2011年)によれば,放射能と生活習慣によってがんになるリスクについて以下のとおり整理されている。 ・喫煙,毎日3合以上飲酒1.6倍・2000mSv の被ばく1.6倍 ・毎日2合以上飲酒1.4倍・1000~2000mSv の被ばく1.4倍・やせすぎ1.29倍・肥満1.22倍・運動不足1.15倍~1.19倍 ・200~500mSv の被ばく1.16倍・塩分の取りすぎ1.11倍~1.15倍・100~200mSv の被ばく1.08倍・野菜不足1.06倍・受動喫煙1.02~1.03倍 エまとめ以上のとおり,国際的にも合意された科学的知見によれば,低線量被ばくによる健康影響は,100mSv 以下の被ばくについては他の要因による発がんの影響によって隠れてしまうほど小さいため,放射線による発がんリスクの明らかな も合意された科学的知見によれば,低線量被ばくによる健康影響は,100mSv 以下の被ばくについては他の要因による発がんの影響によって隠れてしまうほど小さいため,放射線による発がんリスクの明らかな増加を証明することは難しいとされており,本件事故において避 難の基準とされている年間20mSv の被ばくについても,他の発がん要因(喫 煙,肥満,野菜不足等)によるリスクと比べて十分低い水準にあることが明らかにされている。 ⑶ 放射線防護の考え方ア ICRPの勧告による放射線防護の考え方上記の科学的知見に立った上で,人体の安全確保という観点からは,どの ような考え方及びどのような水準で人体を放射線から防護すべきかという問題が「放射線防護」の問題である。 ICRPは,放射線防護の分野において国際的権威とされる放射線医学,保健物理学,遺伝学,生物学等の専門家によって構成された任意団体であり,その勧告は各国で権威のあるものとして尊重されており,我が国を始めとし て各国の放射線防護関連法令の基礎となっている。 ICRPによる最新の勧告である2007年勧告(Publication103。「2007年勧告」)【乙共45】は,放射線による健康影響に関する科学的知見を基礎としつつも,不必要な放射線への被ばくを避けるために,放射線被ばくについては合理的に達成できる限り低く抑える(ALARAの 原則。「AsLowAsReasonablyAchievable」の略)ことを基本原則(最適化の原則)として,計画被ばく状況(前もって放射線防護を計画できるいわゆる平常時の状況)の下で平常時の一般公衆の被ばく線量限度を1年間当たり1mSv と定めるとともに,かかる線量限度は,計画被ばく状況の下でのみ適用されるものであること って放射線防護を計画できるいわゆる平常時の状況)の下で平常時の一般公衆の被ばく線量限度を1年間当たり1mSv と定めるとともに,かかる線量限度は,計画被ばく状況の下でのみ適用されるものであることを明らかにした上で,本件事故の発生後のような緊 急時被ばく状況(至急の注意を要する予期せぬ被ばく状況)においては,参考レベルは予測線量20mSv から100mSv の範囲にあるものとし,また,事故による汚染が残存している状況の下(現存被ばく状況)においては,1mSv から20mSv のバンドに通常設定すべきであるとしている。 本件事故による政府による避難指示における避難基準である年間20mSv の基準は,このようなICRPの勧告内容の緊急時被ばく状況における下限 の基準を採用したものである。 そして,国際的に合意された放射線による健康影響に係る科学的知見によれば,LNTモデルを採用すると仮定しても,年間20mSv の被ばくについてのリスクは,他の発がん要因(喫煙,肥満,野菜不足等)によるリスクと比べても十分低い水準にあることが明らかにされていることについては,既 に述べたとおりである。 なお,ICRPは,本件事故後の平成23年3月21日に改めて,「緊急時に公衆の防護のために,委員会は,国の機関が,最も高い計画的な被ばく線量として20~100mSv の範囲で参考レベルを設定することをそのまま変更することなしに用いることを勧告します。」,「放射線源が制御されても汚 染地域は残ることになります。国の機関は,人々がその地域を見捨てずに住み続けるように,必要な防護措置をとるはずです。この場合に,委員会は,長期間の後には放射線レベルを1mSv/年へ低減するとして,これまでの勧告から変更することなしに現時点での参考レベ を見捨てずに住み続けるように,必要な防護措置をとるはずです。この場合に,委員会は,長期間の後には放射線レベルを1mSv/年へ低減するとして,これまでの勧告から変更することなしに現時点での参考レベル1mSv/年~20mSv/年の範囲で設定することを用いることを勧告します。」等を内容とする声明を 公表し【乙共46】,2007年勧告の考え方がそのまま本件事故後の状況に適用されるべきものであることが重ねて勧告されている。 イ低線量被ばくにおけるしきい値について低線量被ばくにおけるしきい値の問題とは,100mSv 未満の低線量被ばくによる健康影響について,一定のしきい値以下の被ばくであればリスクは ないと考えてよいのかどうかという問題である。 米国の保健物理学会では,放射線の健康影響は100mSv 未満では認められていない,この線量未満でも影響の評価が行われているが,それは推測にすぎず,放射線のリスク評価は,自然放射線以外に少なくとも年間50mSvあるいは生涯100mSv 以上の線量を受けた者に限定すべきとの声明を発表 している。【乙共42・179~180頁】 また,フランスアカデミーの2005年の報告書においても,放射線発がんのリスクに対する実用的なしきい値の支持が主張されている。 【乙共45・17頁,65項】このように,科学的知見に基づいてしきい値を認める見解も専門家により提示されている一方で,ICRPは,前述のとおり,放射線防護の観点から, 確率的影響(がん及び遺伝的影響)の発生の増加率は,バックグラウンド線量(自然放射線による被ばく線量)を超えた放射線量の増加に比例するとする直線しきい値なしモデル(LNTモデル)を仮定することが放射線被ばくのリスクを管理する最もよい実用的なアプローチであ ラウンド線量(自然放射線による被ばく線量)を超えた放射線量の増加に比例するとする直線しきい値なしモデル(LNTモデル)を仮定することが放射線被ばくのリスクを管理する最もよい実用的なアプローチであり,ユネスコの予防原則にもふさわしいとしている。【乙共45の9頁,36項】 ICRPも,このLNTモデルの根拠となる仮説を明確に実証する生物学的/疫学的知見がすぐに得られそうにないことを強調しているが【同・17頁,66項】,放射線防護の観点からは,このような仮定に立った方が危険率を大きく見積もることとなるため,安全サイドとなり,予防的・実践的な観点からはこのような仮定に立つことがより慎重であり,適切であるとされて いるものである。 なお,LNTモデルそれ自体に対しては,現在でも,・数多くの調査・研究でも低線量の放射線で影響があるという証拠はない。データの多くはリスクがないかむしろ有益な効果さえ示している。 ・分子生物学の進展により,細胞や生体は自然に起こっている大量のD NA損傷を修復・コントロールしていることが判明しており,放射線の影響があった場合も,とくに低線量被ばくでDNAの損傷が少ない場合はこのような作用が有効に働き,低線量被ばくの影響が直線的にならないことを示している。 ・広島・長崎におけるような大量の放射線の急激な被ばくの場合には, DNAの二重鎖切断(修復が難しくなる。)などが数多く起こるが,この ような場合のリスクを緩やかな低線量被ばくの場合にあてはめようとするのは科学的ではない。 といった専門家からの反論もなされており【乙共42・181~182頁】,かかるモデルは,ICRPも認めるとおり,実証されていない仮説にとどまっている。 また,ICRPが放射線防護の観点から といった専門家からの反論もなされており【乙共42・181~182頁】,かかるモデルは,ICRPも認めるとおり,実証されていない仮説にとどまっている。 また,ICRPが放射線防護の観点からLNTモデルを採用していることは,100mSv 以下の低線量被ばくのリスクの程度が大きいということを何ら意味するものではない。 すなわち,仮に,LNTモデルに従ってリスクを比較したとしても,「年間20mSv 被ばくすると仮定した場合の健康リスクは,例えば他の発がん要因 (喫煙,肥満,野菜不足等)によるリスクと比べても低い」とされ,喫煙(1000~2000mSv の被ばくと同等),肥満(200~500mSv の被ばくと同等),野菜不足や受動喫煙(100~200mSv と同等)よりも低いレベルとされている。【乙共4・9~10頁】また,国際的な合意では,放射線による発がんのリスクは,100mSv 以 下の被ばく線量では,他の要因による発がんの影響によって隠れてしまうほど小さいため,放射線による発がんリスクの明らかな増加を証明することは難しいとされている【乙共4・4頁】のであり,低線量被ばくのリスクが上記のとおり小さいと考えられていることに何ら変わりはない。 ウ日本の放射線防護体制 我が国の法令においては,ICRP勧告を踏まえて,一般公衆に対する放射線量の限度を年間1mSv としている(「核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」,「実用発電用原子炉の設置,運転等に関する規則」1条2項6号(現2条2項6号),「同規則の規定に基づく線量限度を定める告示」3条1項)。 そして,本件事故後の緊急時被ばく状況の下では,上記のICRPの考え 方を基本に,ICRPの示す年間20~100mSv の範囲のう 定に基づく線量限度を定める告示」3条1項)。 そして,本件事故後の緊急時被ばく状況の下では,上記のICRPの考え 方を基本に,ICRPの示す年間20~100mSv の範囲のうち最も厳しい値に相当する年間20mSv が避難指示の基準として採用されている。 【乙共47・1~2頁】すなわち,平成23年3月11日から12日にわたって避難・退避区域が設定・拡大され,最終的に福島第一原発から半径20㎞以内が避難区域に, さらに同年3月15日には半径20㎞以上30㎞の範囲が屋内退避区域に設定された。その後,同年4月22日には,事故発生後1年間の積算線量が20mSv を超える可能性がある半径20㎞以遠の地域が計画的避難区域に設定されている。【乙共47】そして,平成23年11月11日に閣議決定された「平成23年3月11 日に発生した東北地方太平洋沖地震に伴う原子力発電所の事故により放出された放射性物質による環境の汚染への対処に関する特別措置法」に基づく基本方針【乙共48】も,上記のICRPの考え方を踏まえて,「自然被ばく線量及び医療被ばく線量を除いた被ばく線量(追加被ばく線量)が年間20mSv 以上である地域については,当該地域を段階的かつ迅速に縮小すること を目指すものとする。」,「追加被ばく線量が年間20mSv 未満である地域については,長期的な目標として追加被ばく線量が年間1mSv 以下となることを目指すものとする。」としている。【同・5頁】このような考え方は,2007年勧告の緊急時被ばく状況及び現存被ばく状況における放射線防護の考え方と合致するものである。 エ福島県内の学校等の校舎・校庭の利用に関する取扱い文部科学省は,福島県内の学校等の校舎・校庭等の利用判断における暫定的な基準 く状況における放射線防護の考え方と合致するものである。 エ福島県内の学校等の校舎・校庭の利用に関する取扱い文部科学省は,福島県内の学校等の校舎・校庭等の利用判断における暫定的な基準について,年間上限20mSv(毎時3.8μSv)を目安とするものとした(平成23年4月19日付け文部科学省「福島県内の学校の校舎・校庭等の利用判断における暫定的考え方について(通知)」)。 【乙共49】これは, ICRPが,その2007年勧告も踏まえて,平成23年3月21日に改め て「今回のような非常事態が収束した後の一般公衆における参考レベルとして,1~20mSv/年の範囲で考えることも可能」とする内容の声明【乙共46】を公表していることを受けてのものである。 このように,我が国の政府(文部科学省)の取扱いにおいても,原子力安全委員会の助言を踏まえた原子力災害対策本部の見解を受け,また,国際的 な専門機関であるICRPの勧告も踏まえ,復興時において,年間20mSvまでの被ばくについては学校の校舎・校庭利用の観点からも支障がないとの考えが明らかにされている。 この20mSv という水準は,前記の科学的知見にいう100mSv よりも一層低い値として設定されているが,これは放射線被ばくについては合理的に 達成できる限り低く保たれるべきであるという放射線防護の考え方(ALARAの原則,最適化の原則)に基づくものであり,20mSv を超えたら健康影響があるという考え方に基づくものではないことは前述のとおりである。 その後,平成23年8月26日には,文部科学省は,既に校庭・園庭において毎時3.8μSv 以上の空間線量率が測定される学校はなくなっていると して,夏季休業終了後の学校において児童生徒等が受ける線量について 3年8月26日には,文部科学省は,既に校庭・園庭において毎時3.8μSv 以上の空間線量率が測定される学校はなくなっていると して,夏季休業終了後の学校において児童生徒等が受ける線量については原則年間1mSv 以下(児童生徒等の行動パターンを考慮し毎時1μSv 未満)を目安とし,仮に毎時1μSv を超えることがあっても屋外活動を制限する必要はないが,除染等の速やかな対策が望ましいとした(平成23年8月26日付け文部科学省「福島県内の学校の校舎・校庭等の線量低減について(通 知)」)。【乙共50】このような対応についても,放射線防護に関するALARAの原則(最適化の原則)に則ったものであると考えられる。 オ IAEA国際フォローアップミッション最終報告書平成25年10月には,福島第一原発外の地域の環境回復活動を評価する ことを主な目的として,13人の国際専門家等が参画するIAEAの国際フ ォローアップミッションチームが日本を訪問して調査を行い,その調査結果に係る最終報告書【乙共51】を公表している。 この報告書でも,「除染を実施している状況において,1~20mSv/年という範囲内のいかなるレベルの個人放射線量も許容しうるものであり,国際基準および関連する国際組織,例えば,ICRP,IAEA,UNSCEA R及びWHOの勧告等に整合したものであるということについて,コミュニケーションの取組を強化することが日本の諸機関に推奨される。」とし,「政府は,人々に1mSv/年の追加個人線量が長期の目標であり,例えば除染活動のみによって,短期間に達成しうるものではないことを説明する更なる努力をなすべきである。」と報告している。【乙共51の8頁】 カ原子力規制委員会の見解平成25年11月20日に 除染活動のみによって,短期間に達成しうるものではないことを説明する更なる努力をなすべきである。」と報告している。【乙共51の8頁】 カ原子力規制委員会の見解平成25年11月20日には,原子力規制委員会は,ICRPの勧告やIAEAの国際フォローアップミッション最終報告書等に示されている国際的な知見や,福島県伊達市における除染の取組み等を踏まえて,「帰還に向けた安全・安心対策に関する基本的考え方(線量水準に応じた防護措置の具 体化のために)」【乙共52】を公表している。 ここでも,放射線による被ばくに関する国際的な知見として,「放射線による被ばくがおよそ100mSv を超える場合には,がん罹患率や死亡率の上昇が線量の増加に伴って観察されている。100mSv 以下の被ばく線量域では,がん等の影響は,他の要因による発がんの影響等によって隠れてしまう ほど小さく,疫学的に健康リスクの明らかな増加を証明することは難しいと国際的に認識されている。」,「公衆の被ばく線量限度(年間1mSv)は,ICRPが低線量率生涯被ばくによる年齢別年間がん死亡率の推定,及び自然から受ける放射線による年間の被ばく線量の差等を基に定めたものであり,放射線による被ばくにおける安全と危険の境界を表したものではないとして いる。放射線防護の考え方は,いかなる線量でもリスクが存在するという予 防的な仮定にたっているとしている。」,「ICRPは,緊急事態後の長期被ばく状況を含む状況(以下,「現存被ばく状況」という。)において汚染地域内に居住する人々の防護の最適化を計画するための参考レベルは,長期的な目標として,年間1~20mSv の線量域の下方部分から選択すべきであるとしている。」と記載されている。【同・3頁】 その上で,「 する人々の防護の最適化を計画するための参考レベルは,長期的な目標として,年間1~20mSv の線量域の下方部分から選択すべきであるとしている。」と記載されている。【同・3頁】 その上で,「我が国では,ICRPの勧告等を踏まえ,空間線量率から推定される年間積算線量(20mSv)以下の地域になることが確実であることを避難指示解除の要件の一つとして定めている。」,「長期目標として,帰還後に個人が受ける追加被ばく線量が年間1mSv 以下になるよう目指すこと」としている。【同・4頁】 キまとめ放射線防護においては,前記2においてみた放射線による健康への影響に関する国際的な科学的知見を踏まえつつ,放射線被ばくについては合理的に達成できる限り低く保たれるべきであるという放射線防護の考え方(ALARAの原則,最適化の原則)に基づいて平常時の線量限度を1mSv とし,ま た,100mSv 以下の低線量被ばくによる影響について,低線量放射線被ばくのリスクの管理に対して安全サイドに立って,LNTモデル(直線しきい値なしモデル)を採用しつつも,このモデルの根拠となっている仮説を明確に実証する生物学的/疫学的知見がすぐには得られそうにないことを強調している。低線量被ばくWG報告書も述べるように,このような考え方は公 衆衛生上の安全サイドに立った判断として,被ばくを低減するための管理上の実践的な手段として採用されているものである。 また,ICRPは,計画被ばく状況(平常時のこと)における公衆の個人線量限度を1mSv/年としているが,これを唯一の放射線防護基準とするのではなく,100mSv 以下では放射線による発がんリスクは他の要因による 発がんの影響によって隠れてしまうほど小さいため,リスクの明らかな増加 れを唯一の放射線防護基準とするのではなく,100mSv 以下では放射線による発がんリスクは他の要因による 発がんの影響によって隠れてしまうほど小さいため,リスクの明らかな増加 を証明することは難しいとされていることなどの科学的知見も踏まえて,緊急時被ばく状況や現存被ばく状況においてはそれぞれ20~100mSv/年,1~20mSv/年を参考レベルとして定めている。 このように,国際的な放射線防護の考え方は,放射線の健康影響に関する科学的知見を踏まえつつ,平常時においては,ALARAの原則をはじめと する基本原則に基づいて,いかなる線量でもリスクは存在するという予防的な仮定に立って,人体にとってより安全サイドになるように定めるとともに,事故時等においては,100mSv 以下の水準において線量管理を行うことが許されるものとしているのである。 ⑷ 政府による避難指示が年間20mSvの基準を採用していること 以上のとおり,国際的にも,100mSv を下回る放射線被ばくによる健康リスクは検出することが困難なほど小さいものであると考えられているところ,政府は,ICRPの2007年勧告に基づく緊急時被ばく状況の参考レベル(年間100~20mSv)の最下限値を採用して,年間20mSv をもって避難指示基準としている。 そして,福島県内の避難指示等対象区域外の空間放射線量は,平成23年4月1日時点をみてもこのような年間20mSv(時間換算値で毎時3.8μSv)に達しない水準となっており,時間の経過とともにさらに低減している状況にあるから,客観的に健康被害を生じさせる放射線被ばくの水準には至っていない。 ⑸ まとめ 以上のとおり,100mSv 以下の低線量の放射線被ばくによる健康への影響については実証さ る状況にあるから,客観的に健康被害を生じさせる放射線被ばくの水準には至っていない。 ⑸ まとめ 以上のとおり,100mSv 以下の低線量の放射線被ばくによる健康への影響については実証されているわけではないところ,被告国が避難の基準とした年間20mSv という基準は,ICRPの2007年基本勧告において緊急時被ばく状況に適用することとされている参考レベルのバンド20~100mSv(急性若しくは年間)の下限である20mSv/年を適用することが適切であ るとして決定した基準であって,緊急時被ばく状況,すなわち,急を要する防 護対策と,長期的な防護対策の履行を要求されるかもしれない不測の状況において,実際の実情に合わせて柔軟にかつ最適な防護対策を展開するに当たり選択された合理的な基準である。 したがって,本件事故後の年間線量が年間20mSv を下回る地域から避難した原告らについては,その年間線量のみを根拠として避難の合理性が基礎づけ られることはない。 3 被告国の主張被告国は,前記2の被告東電の主張と同様の主張のほか,以下のとおり主張する。 ⑴ 低線量被ばくの健康影響に対する不安感についての賠償の考え方 ア慰謝料の支払が必要な程度の精神的苦痛についての考え方国賠法1条1項は,「違法」に他人に損害を加えたことを要件としているところ,公権力の行使は本質的に権利侵害を伴うものが多いことから,国賠法1条1項における違法性と,民法709条の適用上考慮される違法性とを全て同列に論じることはできない。しかし,国賠法1条1項における違法性 を判断するに当たっても,被侵害利益の種類・性質,損害の重大性は重要であって,一般不法行為において,受忍限度論が妥当するような軽微な損害については,国賠法におい 国賠法1条1項における違法性 を判断するに当たっても,被侵害利益の種類・性質,損害の重大性は重要であって,一般不法行為において,受忍限度論が妥当するような軽微な損害については,国賠法においても責任が認められるべきでないのは当然のことである。本件は,「公権力の行使」に必然的に伴うような内在的な権利侵害が「損害」として問題となっているわけではないが,「公権力の行使」の前後で 何らかの事実状態の差が生じ,一般人を基準として「不利益」と評価されるものであるとしても,これが直ちに賠償の対象となる「損害」と評価されるものではない。 イ健康被害のリスクが他の要因による影響に隠れてしまうほど小さいと考えられる事象に対する単なる不安感について 健康被害のリスクが他の要因による影響に隠れてしまうほど小さいと考 えられる事象に対する不安感について検討すると,一般に,生命・身体へ向けられた加害行為による精神的苦痛は,傷病等の身体的被害の結果が大きくなるにつれて増大すると考えられるところ,上記のような不安感によって生じる精神的苦痛は,肉体的な痛みを伴わないことはもとより,健康被害へのリスクが,日常生活上の他のリスクと同程度ないしそれより小さいと考えら れることから,その苦痛の程度も軽微なものということができる。 特に,現代社会においては,情報化社会の名の下,様々な情報があふれているが,健康に関連する情報についても同様であって,根拠が薄弱ないし不明確な情報も少なくない。そうすると,不安感が科学的,合理的根拠に欠けるものであれば,実際に感じる不安感がいかに大きいものであったとしても, それは,単なる主観的な不安にとどまるのであって,直ちに損害賠償の対象となるものではない。 そもそも,誰もが放射線を被ばくしながら日 ,実際に感じる不安感がいかに大きいものであったとしても, それは,単なる主観的な不安にとどまるのであって,直ちに損害賠償の対象となるものではない。 そもそも,誰もが放射線を被ばくしながら日常生活を送っているにもかかわらず,このような被ばくやそのリスクをそれぞれ意識しながら毎日を送っているわけではない。これは,裏を返せば,日常生活上も受けるような被ば くについては,金銭賠償を伴うような場面とはいえないということを意味する。地域差はあるが,自然の中でも一定の放射線は存在し,比較的高線量の地域も存するが【丙共43・66ないし68頁】,そのような地域から避難するとか,立ち入らないように意識しながら生活するということは行われていない。 放射線被ばくと同様に発がんなどのリスクが問題とされている化学物質について見ると,放射線と同様,自然界にも一定の化学物質は存在する上,排気排ガス,食品や化粧品の添加物等,身近に化学物質があふれ,自家用車に乗ることによって排気ガスを産生する等,個人が多かれ少なかれ化学物質の産生に寄与している現代社会において,健康被害やこれに対する有意なリ スクを伴わない限り,ある者が何らかの不安を抱くことはあっても,これが 賠償の対象になるとは考えられていない。 以上によれば,健康被害のリスクが他の要因による影響に隠れてしまうほど小さいと考えられる事象に対する不安感が生じたとしても,それは科学的根拠を欠く極めて主観的なものというべきであり,直ちに賠償の対象とされるべきようなものではないというべきである。 ウ危険が現実化する客観的・科学的根拠を不要とする原告らの主張についてところで,被告国は,本件において,低線量であれば被ばくしても安全であるとか,健康上のリスクがないなどとは主張 ある。 ウ危険が現実化する客観的・科学的根拠を不要とする原告らの主張についてところで,被告国は,本件において,低線量であれば被ばくしても安全であるとか,健康上のリスクがないなどとは主張していない。原告らが被ばくによる不安感を被侵害利益として損害賠償請求をしているため,そのような不安感が損害賠償の対象となる損害と認められるためには主観的なもので は足りず,科学的,合理的根拠に基づいている必要があるところ,100mSv以下の低線量被ばくの健康影響のリスクが,仮にあるとしても他の要因による影響に隠れてしまうほど小さいということが国際的な合意内容であることに照らすと,原告らが抱いている不安感の大小いかんにかかわらず,その不安感は科学的,客観的根拠を欠く主観的なものである上,日常生活上の他 のリスクと同程度ないしそれより小さいといわざるを得ないから,その不安感に関して損害賠償請求は認められないと主張しているにすぎない。他方,原告らは,LNTモデルの仮説が近時の疫学研究により科学的に証明されるに至っており,どれだけ低線量であっても被ばくに健康被害のリスクがあるのであるから,少なくとも1mSv を超える被ばくは容認できず,これを避け るための避難には合理性があると主張している。かかる当事者の主張を踏まえると,本件において審理すべきは,低線量被ばくによる健康影響の有無や程度について,本件事故前後の国内外の専門的知見を踏まえて検討した結果として,どこまでが,客観的,科学的に証明された事実として認められているかという点にあることは明らかであって,専門家に求められるのも,その 科学的事実の形成過程や現状における科学の到達点をありのままに示すこ とである。 これに対し,原告らは,「たとえいわゆる『低線量』で 明らかであって,専門家に求められるのも,その 科学的事実の形成過程や現状における科学の到達点をありのままに示すこ とである。 これに対し,原告らは,「たとえいわゆる『低線量』であっても,放射線に被ばくすることそのこと自体が,生命・身体に対する重大な危険を及ぼす可能性」があるから,「不安や恐怖」といった「主観的利益が法的保護の対象となるのかということが直接的に問われているのではない」として,「いわゆ る『低線量』の被ばくであっても,生命・身体に対する重大な影響を及ぼす危険のあることを否定できないことが立証されれば,区域外避難者等の避難行動や避難を継続することが,本件事故と相当因果関係にあることが証明されたことになる」,「仮に厳密な意味で科学的知見によって決着が付けられないとしても,前述の知見に照らせば100mSv 以下の低線量の被ばくであっ ても生命・身体に対する重大な影響を及ぼす可能性があることについて,十分な確信をもちうるものであるといえる」と主張する。このような主張からすると,原告らにおいては,低線量被ばくの健康影響のリスクが客観的には小さいことを認めつつも,「被ばくが原因でがんに罹患し死亡した当人にとっては,そのことが全てであり,割合の大小などは全く意味をもたない」か ら,リスクが小さくとも,リスクが存在することは確かである以上,避難行動には合理性があると主張しているものと解される。 しかしながら,前記のとおり,健康被害のリスクが他の要因による影響に隠れてしまうほど小さいと考えられる事象に対する単なる不安感は,直ちに賠償の対象とすべきものではなく,これまでの裁判例も同様の枠組みで判断 しているものと解される。そうすると,100mSv 以下の低線量被ばくの健康影響のリスクは,仮にこれが る不安感は,直ちに賠償の対象とすべきものではなく,これまでの裁判例も同様の枠組みで判断 しているものと解される。そうすると,100mSv 以下の低線量被ばくの健康影響のリスクは,仮にこれがあるとしても他の要因による影響に隠れてしまうほど小さいということが国際的な共通認識であるから,そのような低線量被ばくの健康影響のリスクでは,危険の現実化する客観的な蓋然性があるとはいえず,直ちに賠償の対象となるものではないというべきである。 なお,原告らがいう「たとえいわゆる『低線量』であっても,放射線に被 ばくすることそのこと自体が,生命・身体に対する重大な危険を及ぼす可能性」とか,「いわゆる『低線量』の被ばくであっても,生命・身体に対する重大な影響を及ぼす危険のあることを否定できないことが立証され」た程度の危険というのは,「リスクがないことが立証されていないから,リスクがある」と言っているに等しい。そのような危険というものは,危険の現実化す る客観的な蓋然性が認められるものではなく,漠然とした不安感にすぎない。 ⑵ 原告らの元居住地における本件事故後50年における積算空間線量に関する主張について原告らが依拠する航空機モニタリングを基に原告らの元居住地の事故後50年の積算線量を推定したもの【甲共114】は,①本件事故直後のピーク時, ②屋内退避指示解除時(平成23年4月22日),③緊急時避難準備区域指定解除時(平成23年9月30日)の3時点における,原告ら元居住地近傍の空間線量率について,第1次航空機モニタリング等における空間線量率とその時点のモニタリングポストの測定値の比から補正することにより推計し,これらと第1次から第10次までの航空機モニタリングによる空間線量率の結果及 びその後の放射性核種の における空間線量率とその時点のモニタリングポストの測定値の比から補正することにより推計し,これらと第1次から第10次までの航空機モニタリングによる空間線量率の結果及 びその後の放射性核種の物理的半減期を考慮して,本件事故が発生してから将来50年間の原告らの元居住地における積算線量を推計するものと解される。 航空機モニタリングは,山林などの人や車によるモニタリングでは測定しにくい場所も含めて面的に一定範囲の平均線量を測ることが可能であり,避難指示等対象区域の見直しに適した測定方法であるとされているが【丙共75】, 個人の積算線量の評価に用いる場合は,測定方法や範囲等が異なることから相応の差が生じるものである。したがって,航空機モニタリングの測定値から個人の本件事故後50年間の積算線量を評価するなどという方法は,個人の被ばく影響の観点からはあまり意味のないことである。 また,本件事故直後のピーク時における空間線量率は,本件事故に伴う放射 性プルーム(雲)の通過に伴うものであり,それ以降の時期に比較して非常に 大きな値であるから,甲共114の推計計算における本件事故後50年間の積算空間線量は,本件事故直後の一時的な値が大きく寄与していると考えられる。 更に付言すれば,甲共114が述べる「元居住地に最も近いモニタリングポスト」については,原告らの元居住地との位置関係や距離等が何も示されていない。 以上のとおり,原告らが依拠する甲共114による推計計算は信頼性に乏しいものであるから,それに基づき本件事故後50年間の積算空間線量が50mSv を超えるとする原告らの主張に理由はない。 (以下本頁余白) 第10 争点10(主な財物損害についての損害認定の在り方)について本件に の積算空間線量が50mSv を超えるとする原告らの主張に理由はない。 (以下本頁余白) 第10 争点10(主な財物損害についての損害認定の在り方)について本件において,原告らは,これまで適示したところ以外にも様々な損害項目を掲げて請求権を主張し,被告らも,これら損害項目に応じて種々の反論を行っている。 そこで,本項においては,複数の原告らにまたがって議論される財物損害項目 (不動産損害,家財損害)について,特に当事者らの主張を適示することとする。 本項で適示しなかった個別損害に係る主張は,後記第12において,原告ら個別に適示することとする。 1 原告らの主張⑴ 総論 不法行為に基づく損害賠償制度は,被害者に生じた現実の損害を金銭的に評価し,加害者にこれを賠償させることにより,被害者が被った不利益を補てんし,不法行為がなかったときの状態に回復させることを目的とするものである。 しかるに,本件では,事故前の状態それ自体を完全に回復することは不可能という認識を前提とすることが必要であり,奪われた生活を再建するため,被害 者が自らの生のあり方を自ら選択できることに最大限配慮した損害賠償が求められるのであって,本件において「不法行為がなかったときの状態に回復させること」とは,本件事故前のふるさと・コミュニティにおけるのと同等のレベルの生活を避難先で回復することを意味するというべきである。 したがって,不動産や家財などの財物について言えば,起臥寝食をし,生業 を営み,地域の他の人々とコミュニティを育むための生活の基盤を,新たに立て直すため必要な賠償である必要がある。 それでは,かかる生活の基盤を立て直すためには,どの程度の賠償が必要と考えるべきか。この点,単に「土地」「建物」「家財 ティを育むための生活の基盤を,新たに立て直すため必要な賠償である必要がある。 それでは,かかる生活の基盤を立て直すためには,どの程度の賠償が必要と考えるべきか。この点,単に「土地」「建物」「家財」を時価に引き直すだけでは,到底,原告らの生活の基盤を立て直すことができないことは明らかである。 また,本件事故前の交換価値(時価)で損害を算定することは,被告らの不法 行為によって,原告らがその財物の市場における交換を強制されることを意味する。すなわち,時価による評価は,原告らが望んでもいないのに,本件事故時点の交換価値で住み慣れた土地・建物や愛着のある家財を手放すことを強制されることにもなり,その意味で不当であるし,また現実には,深刻な放射能汚染による地域経済の崩壊等によって,原告らの財物を適正に評価し交換する 市場それ自体が存在しなくなっているともいえるのであって,その意味からも時価評価は不合理である。 本件事故は,被告国の原子力施策や被告東電が利潤を享受していた延長線上で発生したものであることを考えるとき,これら財物の損害を,本件事故当時の時価で評価することが不当であることは明らかである。本件事故は,原告ら に対し何らの時間的余裕を与えずに避難を余儀なくさせ,原告らの生活の基盤は一瞬にして破壊された。原告らが従前生活の拠点としてきた住宅は,放射能汚染や長期の強制的・集団的避難等により,生活の基盤としての機能を全面的に喪失し,本件事故から2年半が経過した現在もなおこの状態は継続している。 原告らを含めた原発被害者は,限られた情報の中で,それぞれの縁や伝手を頼 りに,着の身着のまま,全国各地へやむなく避難していった。全ての原告らにとって,移転先を選択する余地などなく,何らかの縁で,それぞれの避難先に辿り 限られた情報の中で,それぞれの縁や伝手を頼 りに,着の身着のまま,全国各地へやむなく避難していった。全ての原告らにとって,移転先を選択する余地などなく,何らかの縁で,それぞれの避難先に辿り着くこととなった。従前の居住地が生活基盤としての価値を喪失している以上,原告らは,自身が再出発をすると決意した場所での生活再建のための基盤を構築せざるを得ないのである。 従前の生活基盤を失わせ,別の場所において生活基盤を構築せざるを得ないという本件事故の被害実態を考慮すれば,本件事故による財物損害に対しては,原告らがそれぞれの移転先において生活基盤を回復できるだけの賠償,すなわち,当該移転地での生活基盤の再取得価額の賠償がなされなければならない。 なお,中間指針や被告東電も,不動産賠償について通常の時価額賠償では足 りない場合があることを認めている。すなわち,中間指針第四次追補において は,住宅確保損害の賠償を認めており,それを受けて被告東電も後述のとおり,住宅確保費用の賠償を実施しているところである。 ⑵ 居住用土地前述のとおり,いかなる場所で原告らが再出発をする場合でも,その場所での生活基盤の回復が必要であるから,最低限,その場所における,一般的な広 さの居住用土地を購入できるだけの金額の賠償がなされるべきである。しかしながら,土地の地価については地域差があるため,控え目な賠償価額として,少なくとも全国平均値としての土地購入価格での賠償を認めるのが相当である。そこで,全国の地価についての統計資料に基づくこととし,住宅金融支援機構「平成23年度フラット35利用者調査報告」を見ると,土地付き注文住 宅利用者の土地取得費の全国平均額は金13,688,000 円である。したがって,この額を,生活再建のため 住宅金融支援機構「平成23年度フラット35利用者調査報告」を見ると,土地付き注文住 宅利用者の土地取得費の全国平均額は金13,688,000 円である。したがって,この額を,生活再建のための土地を取得する最低限の賠償額とすべきである。 ただし,土地面積が広く上記金額では単位面積当たりの賠償額が低額になってしまうなど,原告らの実情に応じて,より大きな被害を受けた原告については,当然,個別の立証による損害賠償(生活基盤の価値の侵害とそれを回復す るためのあるべき生活再建のための居住用土地再取得)が認められるべきである。 ⑶ 居住用不動産(建物)また,居住用建物についても,居住用土地と同様,いかなる場所で生活基盤を築く場合でも,その場所での生活基盤の回復が必要であり,本来は,その場 所における,一般的な広さの居住用建物を購入できるだけの賠償が認められるべきである。この点,時価によって評価することが不当なことは前述したとおりであり,時価評価を前提として経年減価を考慮することもまた不当である。 あくまでも,生活基盤としての価値が賠償されるべきである以上,かかる価値の回復のためには,避難先(生活再建先)での建物再取得が可能な賠償額が必 要となる。以上より,少なくとも全国平均値での建物購入価格が賠償されるべ きであり,減価償却は考慮されるべきではない。そこで,土地と同様に前記「フラット35」に関するデータによれば,住宅建設費の全国平均値は金22,380,000 円(住宅面積の平均値は115.3 ㎡)であり,この額が最低限の賠償価格となる。 ただし,個々の原告によっては,従前の建物の再取得価格がこの計算の結果 を超える場合がありうる。その場合には,原告の実情に応じ,個別の立証による損害賠償(生活基盤の価 低限の賠償価格となる。 ただし,個々の原告によっては,従前の建物の再取得価格がこの計算の結果 を超える場合がありうる。その場合には,原告の実情に応じ,個別の立証による損害賠償(生活基盤の価値の侵害とそれを回復するためのあるべき生活再建のための居住用建物再取得)が認められるべきである。 ⑷ 家財居住用不動産と同様,いかなる場所に避難した場合でも,その場所での生活 基盤の回復が必要であり,再建のための家財一式の購入が必要不可欠となる。 なお,家財道具は,個々の永続的な暮らしを前提として多様なものが取り揃えられ,生活基盤の一部を構成するものである。したがって,避難時に暫定的に購入した家財道具(安価なものが多い)と本項目の損害は明確に区別されるべきであり,それぞれが別個の損害として認められるべきである。 家財道具の損害の算定に当たっても,既に述べてきたような考え方に立ち,全国の平均的な家財所有額に基づく賠償が認められるべきである。具体的には,損害保険料率算定機構が公的統計資料等を用いて算出した,下記の算定表を用い,世帯主の年齢と世帯人数に応じて算定した金額を請求する。 なお,下記の算定表において灰色に塗りつぶした部分に関して説明すると, 世帯構成員の年齢構成次第によっては,被告東電が平成24年(2012年)7月24日付けプレスリリースにおいて発表した家財の賠償基準による金額よりも小さな額になる場合があるところ,このような場合に関しては,被告東電が家財損害額として自認しているものであることから,被告東電発表の基準によることとしたものである。 (算定表:単位万円) 1人2人3人4人5人6人以上20代以下 773 1140 ととしたものである。 (算定表:単位万円) 1人2人3人4人5人6人以上20代以下 773 114030代 933 132540代 11221198 1295 158750代 111713551557 1696 190560代以上 113514781584 1733 1878※縦軸は世帯主の年齢,横軸は世帯人数 2 被告東電の主張⑴ 不動産の財物損害に関する主張についてア損害概念損害とは,事故がなかったと仮定した場合の状態と事故があったために生 じている状態との差であるところ,原告らは,事故がなかったと仮定した状態についても,事故があったために生じた状態についても,何ら主張立証を行わない。 事故がなかったと仮定した状態については立証が困難であるため,一般的には事故直前の価値(客観的に認定するためには,交換価値)と事故後の価 値との差額から,事故がなかったとしても生じうる価値下落(例えば時間の経過による建物の老朽化)を除いたものが損害となる。 イ再取得価格は損害ではないことこれに対して原告らは,本件事故時点における不動産の所在地,避難指示等の状況,その解除状況,帰還や移住の有無,費用支出の有無などを問わず, 避難先で居住用不動産を購入することが可能な価格を損害として認容すべきである旨主張し,これを具体化するものとして一律にフラット35に基づく算定額をもって損害と主張する。 しかし,避難先で不動産を購入した場合には,流動資産を支出する代わり に同じ価値の当該不動産を資産として を具体化するものとして一律にフラット35に基づく算定額をもって損害と主張する。 しかし,避難先で不動産を購入した場合には,流動資産を支出する代わり に同じ価値の当該不動産を資産として保有することになるのであるから,避難先で不動産を購入することによって「損害」は発生していない。 のみならず,帰還困難区域等を除き,本件事故後に本件事故時の居住用不動産に戻って居住することは可能であり(後記のとおり,補修・清掃費を賠償している世帯もある。),避難先に居住し続けるのは自主的な判断に基づく ものであるから,避難先で居住用不動産を購入することが必然の結果とは言えず,そもそも不動産の購入について相当因果関係があるともいい難い。 原告らが避難先での不動産取得に要する費用自体が損害であるという趣旨であれば,それは差額説と著しく異なる見解であるだけでなく,実際の取得額ではなく全国平均の値を使用し,原告によっては本件事故時の居住用不 動産の面積を乗じているという点において,論理的な整合をも欠いている。 なお,原告らがあくまで本件事故時に居住していた不動産自体について損害を主張する趣旨であれば,そもそも避難先での居住用不動産の取得に要する費用が「損害」であるとするのは,理論的裏付けを欠く。 ウ損害について主張立証を欠くこと 財物賠償の基準となる財物の価額は本件事故発生時点における財物の価値であるとの確定判例の考え方【乙共1・31頁参照】に照らし,当該財物の本件事故時の実際の価値を離れて,平均住宅取得価格等に基づいて原告らの特定の財物の損害額を算定することが相当でないことは明らかであり,原告らの上記主張は失当である。財物損害の賠償額の算定に当たっては,あく まで,本件事故時の時価を基準として算定すべきものであるが,前記 物の損害額を算定することが相当でないことは明らかであり,原告らの上記主張は失当である。財物損害の賠償額の算定に当たっては,あく まで,本件事故時の時価を基準として算定すべきものであるが,前記原告らは固定資産税評価証明書(本件事故時の時価を直接示すものではない。)を提出するにとどまる。 また,本件事故時における財物の価値のうち損害賠償の対象となるのは,本件事故により喪失し又は下落した価値の範囲に限られるものであるとこ ろ,原告らはかかる価値の喪失分又は下落分を何ら具体的に主張立証してい ない。 なお,かかる価値の喪失又は下落について,避難指示区域を除く地域に所在する不動産については,そもそも本件事故に伴って不動産の管理不能が生じたという事実自体が認められず,その価値が喪失又は下落したということはできない。また,避難指示区域に所在する不動産であっても,当然に不動 産の価値が喪失したということはできず(実際,避難指示期間中やその解除後にも不動産取引は行われており,避難指示によって不動産の価値が喪失したなどという実情には全くない。),あるいは,その下落を抽象的に観念し得るとしても,その具体的な額を特段の立証(不動産鑑定評価等)を経ずして特定し得るものでは全くない。 エ中間指針等に基づく賠償は十分なものであること被告東電は,経済産業省が(平成24年)2012年7月20日付けで公表した「避難指示区域の見直しに伴う賠償基準の考え方」【乙共78の1ないし3】を踏まえつつ,その内容を一部進めて各種の財物賠償を実施している。 これは被害者の方々の生活に直結する住居について簡易かつ迅速に十分な賠償金をお支払いするという政策的観点をも加味した,各種の推認やむなしを前提とするものであり,その内容が裁判上 ている。 これは被害者の方々の生活に直結する住居について簡易かつ迅速に十分な賠償金をお支払いするという政策的観点をも加味した,各種の推認やむなしを前提とするものであり,その内容が裁判上直接に妥当するものでないことはもちろんのこと,これに基づいて算定される賠償額は,裁判上認められることがありうる財物損害の額を十分上回るものとなっている。 のみならず,被告東電は,中間指針第四次追補を踏まえて,さらに帰還困難区域等移住を余儀なくされた区域の住民については住居確保損害の賠償(宅地建物の再取得に要した費用が宅地・建物・借地権の賠償金額を超過した場合の一定範囲の超過額)をも別途実施しているところであり,裁判上の確定法理でもある時価賠償の考え方に基づいて賠償対応を行うことが被害 者救済を阻害するものであるということもできない。 ⑵ 家財の財物損害に関する主張について前述のとおり,財物損害の賠償額は,あくまで本件事故時の時価を基準としつつ,本件事故によりその価値が喪失又は下落した額に相当する。 しかるに,原告らは,各自が所有していた家財の時価や本件事故による家財の喪失又は下落分について何ら具体的な立証を行っておらず,少なくとも前述 した既払金を越える損害の発生は全く認められないから,原告らの主張は失当である。 3 被告国の主張被告東電に同旨である。 (以下本頁余白) 第11 争点11(弁済の抗弁の肯否)について 1 被告東電の主張⑴ 総論被告東電は,原告らの各請求に対し,弁済の抗弁として,被告東電従業員作成の報告書【乙共336】記載のとおり弁済したことを主張する。 原告らは,避難慰謝料,生活破壊慰謝料,財産的損害(土地,建物,家財等),就労不能損害及 対し,弁済の抗弁として,被告東電従業員作成の報告書【乙共336】記載のとおり弁済したことを主張する。 原告らは,避難慰謝料,生活破壊慰謝料,財産的損害(土地,建物,家財等),就労不能損害及びその他損害(様々な費用)を請求しているところ,これに対して被告東電は,同報告書に記載のとおり,多種多様な名目で原告らに生じた損害を賠償した。 ⑵ 避難慰謝料の補完的機能 慰謝料については,財産的損害の発生が認められるがその立証が困難であるような場合に,慰謝料額の算定においてこれを斟酌して賠償を認める補完的機能が広く認められている。そして,中間指針等に基づいて被告東電が直接請求手続において賠償している慰謝料についても,ADR手続において賠償している慰謝料についても,生活費増加費用等の費用を含んで賠償している。 本件訴訟においても,被告東電が既に賠償している様々な費用(訴訟におけるような厳密な立証を要求せず賠償しているものである。)を含むものとして慰謝料が認定される可能性が完全には否定できない以上,被告東電が行った賠償は,どのような名目で支払われたものであっても,原告ら主張のあらゆる損害項目との関係で,これに対する弁済と評価し得るものである。そこで,被告 東電は,如何なる項目で賠償したかを問わず,原告ら主張の全ての損害項目との関係で,弁済の抗弁を主張する。 ⑶ 原告らが主張する生活破壊慰謝料の補完的機能また,原告らは生活破壊慰謝料を請求するが,この慰謝料を基礎付ける事実は,(ア)地域コミュニティの喪失,(イ)住環境の喪失,(ウ)学びの環境の喪 失,(エ)職場・人生設計の喪失,(オ)被ばくの影響に対する恐怖,(カ)周囲 の人間関係の悪化,(キ)家族・親族関係の悪化とのことであるから,原告らは生活破壊 ウ)学びの環境の喪 失,(エ)職場・人生設計の喪失,(オ)被ばくの影響に対する恐怖,(カ)周囲 の人間関係の悪化,(キ)家族・親族関係の悪化とのことであるから,原告らは生活破壊慰謝料に,一般的な慰謝料よりも遙かに広汎な補完的機能を認めるべきと主張しているものと考えられる。 被告東電は,帰還困難区域等を除き,生活破壊慰謝料を避難慰謝料とは別に認める必要はないと主張しているが,万が一,生活破壊慰謝料が認められるこ とがあるとすれば,原告らがこのように極めて広汎な補完的機能を有する慰謝料を主張する以上,財産的損害(土地,建物,家財等)については(イ)住環境の喪失によって生じる慰謝料部分に対する弁済の抗弁として,就労不能損害については(エ)職場・人生設計の喪失によって生じる慰謝料部分に対する弁済の抗弁として主張する。 ⑷ 結論そこで,被告東電は,如何なる項目で賠償したかを問わず(直接請求手続又はADR手続において支払った項目と原告が請求する損害項目とは,実質的に同じ損害であるのに異なる項目で賠償したかの外観を呈することがある。),全ての支払項目にかかる既払金をもって原告主張の損害の全項目に対する弁済 の抗弁を主張するものである。 2 被告国の主張被告東電の主張を援用する。 3 原告らの主張争う。なお,原告らは,本件請求を構成する大部分の損害項目についてこれを 一部請求としており,被告東電の既払金はその外側から控除されるべきものであるところ,原告らが把握している被告東電の既払金は,別紙損害一覧表の【既払金整理表】〈原告記載欄〉のとおりであり,結果として,被告東電の既払金は,原告らの一部請求に係る部分の外側において控除済みとなっている。 (以下本頁余白) の【既払金整理表】〈原告記載欄〉のとおりであり,結果として,被告東電の既払金は,原告らの一部請求に係る部分の外側において控除済みとなっている。 (以下本頁余白) 第12 争点12(損害発生の有無及びその数額)について原告らが主張する損害の額は,それぞれ別紙損害一覧表(第5分冊)の「算定金額」欄記載のとおりであり,原告らは,これら損害のうち,同一覧表の「請求額」欄に記載の額を内金として請求するものである(明示の一部請求)。 また,原告ら主張の損害額のうち,慰謝料や主な財物損害についての損害算定 の考え方については,前記第8,1[❶-182 頁]及び第10,1[❶-302 頁]に記載のとおりである。 以下の判示においては,原告ら主張の損害額のうち,慰謝料や主な財物損害として主張を適示したもの以外の項目を主張する原告らについて,個別に,原告らの主張及び被告らの主張を適示する。なお,被告らの主張のうち,既払金に係る 部分は,前記第11,1[❶-310 頁]に記載のとおりである。 なお,以下の判示においては,原告らをいずれも原告番号で呼称する。複数人で1個の世帯を形成する場合には,各原告ら個人を指称する場合には枝番を付し,世帯全員を指すときは,原告番号の後に「ら」を付して呼称する(例:「原告番号1ら」。訴訟承継が生じている場合で,原告番号の後に「ら」を付して呼称してい るときは,原告の地位と訴訟承継人の地位を併有している者を含むが,原告の地位を併有しない訴訟承継人は含まない。)。 1 原告番号2の世帯について⑴ 原告番号2らの主張ア長女への賃料相当額について 原告番号2-1は,本件事故後,現在に至るまで,原告番号2-1とその長女が2分の1ずつ共有する@@@@@@@@@に所在 帯について⑴ 原告番号2らの主張ア長女への賃料相当額について 原告番号2-1は,本件事故後,現在に至るまで,原告番号2-1とその長女が2分の1ずつ共有する@@@@@@@@@に所在するマンションの1室(以下,本項において「本件@@@マンション」という。)に避難しているところ,平成23年5月16日,原告番号2-1と長女との間で,原告番号2-1が本件マンションを,賃料月額8万円,共益費・管理費月額1万2 000円で借りる旨の賃貸借契約を締結した。 そこで,原告番号2-1が支出した平成23年12月から平成28年6月までの55か月分の賃料合計440万円が損害に当たる。 イ駐車場賃料について原告番号2-1は,本件@@@マンションの駐車場を長女名義で賃借した上,月額1万2500円の賃料を原告番号2-1が直接管理会社に支払って いる。したがって,原告番号2-1が支払った平成23年5月から平成28年6月までの62か月分の賃料合計77万5000円が損害に当たる。 ウ賠償説明会等への交通費について原告番号2-1は,避難前住所地である@@@が現地で行う賠償説明会や原発事故説明会,具体的には,@@@@@@@での@@地方総決起大会,@ @文化会館での福島県暮らしサポートミーティング,@@@@での震災避難者研究会,@@@@@ホテルでの福島県被災同好会,@@中央病院での福島県民健康調査,@@@@@におけるふくしま避難者の集いに参加したところ,その交通費の合計金額は7万5000円を下ることはない。 よって,同額が損害に当たる。 ⑵ 被告東電の主張ア長女への賃料相当額について原告番号2-1は,本件マンションの「購入資金の半分を援助」【甲個2の19・2頁】した本件マンションの所有者なのであり【 害に当たる。 ⑵ 被告東電の主張ア長女への賃料相当額について原告番号2-1は,本件マンションの「購入資金の半分を援助」【甲個2の19・2頁】した本件マンションの所有者なのであり【甲個2の6】,所有者である原告番号2-1が賃貸借契約に基づき長女に対して賃料月額8万円 を支払う必要があるとは認められず,そもそも本件事故と相当因果関係のある損害とは認められない。 原告番号2-1が,長女に対して賃料又は賃料名目で月額8万円支払っていることについては立証がない。 イ駐車場賃料について 原告番号2-1が,駐車場賃料の支払の証拠として提出する甲個2の18 に係る「納入済証明書」は,期間や宛名がまちまちであり,立証不十分である。 ウ賠償説明会等への交通費について@@地方総決起大会,福島県暮らしサポートミーティング,震災避難者研究会,福島県被災同好会,ふくしま避難者の集いに参加するための交通費が 本件事故と相当因果関係のある損害であるとは認められない。 原告番号2-1が,上記交通費を支出した事実については立証がない。 エ陳述書が反対尋問を経ていないことなお,原告番号2らについては本人尋問が実施されておらず,その陳述書は反対尋問を経ていない。 ⑶ 被告国の主張被告東電の主張に同旨である。なお,原告番号2-1については,陳述書の信用性を吟味すべく被告国において尋問の申請をしたにもかかわらず,却下決定されたものである。 2 原告番号4の世帯について ⑴ 原告番号4らの主張ア就労不能損害について(ア) 原告番号4-1原告番号4-1は,本件事故当時は@@@@@@@@@@@@の工場に勤め,平成23年3月分の給与としては12万5627円であった。 したがっ 就労不能損害について(ア) 原告番号4-1原告番号4-1は,本件事故当時は@@@@@@@@@@@@の工場に勤め,平成23年3月分の給与としては12万5627円であった。 したがって,平成23年3月分から平成27年12月分の58か月分×12万5627円の合計728万6366円が本件事故による就労不能損害に当たる。 (イ) 原告番号4-4原告番号4-4は,本件事故当時,@@@@@@@@@@@から,就業 場所を@@@のホテルとして採用内定を得ていたが,本件事故後,採用内 定を取り消された。同社で予定されていた基本給は12万円であった。 したがって,平成23年3月分から平成27年12月分までの58か月分,686万円が本件事故による就労不能損害に当たる。 イ宿泊費について原告番号4-1,4-3,4-4,4-5は,本件事故後,平成23年3 月12日から同年10月23日まで,@@@@@@@@@@にある原告番号4-2の母親の自宅に避難していた。 したがって,被告東電の基準に則り,宿泊費として一日1人8000円,上記期間分の4人分合計723万2000円が原告番号4-1の損害に当たる。 ⑵ 被告東電の主張ア就労不能損害について(ア) 原告番号4-1原告番号4-1は,本件事故により神奈川県に避難した後も,従前の勤務先の@@@@@@@@@@@@に所在する本社で勤務し,@@@@工場 に勤務していた頃よりも@@@本社で勤務していた頃の方が給料が高くなっていた。 @@@@@@@@@@@@本社退職の理由は,本件事故とは関係のない自己の意思によるものである。 原告番号4-1は,平成23年7月に@@@@@@@@を退職した後, 平成25年になるまで勤務していなかったものであるが,就労 退職の理由は,本件事故とは関係のない自己の意思によるものである。 原告番号4-1は,平成23年7月に@@@@@@@@を退職した後, 平成25年になるまで勤務していなかったものであるが,就労不能であったと認めるに足りる事情はない。 原告番号4-1は,平成25年には就労して収入を得ている。 したがって,そもそも,原告番号4-1について,本件事故と相当因果関係のある就労不能損害は生じていない。 仮に,原告番号4-1について就労不能損害が認められるとしても,本 件事故後に就労して得ていた収入は控除されるべきであるが,減収の立証がない。 (イ) 原告番号4-4@@@@@@@@@@@における稼働は,平成23年4月1日から予定されていたものと解されるから,原告番号4-4に平成23年3月分の就 労不能損害は生じていない。 原告番号4-4は,遅くとも平成23年の秋以降,継続的に稼働している。 仮に,就労不能損害が認められるとしても,当該期間における収入は就労不能損害から控除されるべきであるが,減収の立証がない。 イ宿泊費について原告4-1が,実際に出捐した宿泊費については,立証がない。 ⑶ 被告国の主張被告東電の主張に同旨である。 3 原告番号5の世帯について ⑴ 原告番号5らの主張(通院慰謝料及び後遺障害慰謝料)原告番号5-1は,原告番号5-1が避難を余儀なくされたことにより体力が低下し,そのリハビリ中に転倒して右上腕部を骨折し,その後遺障害が残存した。 したがって,これによる通院慰謝料19万6000円及び後遺障害慰謝料8 30万円が損害に当たる。 ⑵ 被告東電の主張原告番号5-1が転倒して負傷したことと,本件事故とは,相当因果関係がない。 ⑶ 被告国の主張 謝料19万6000円及び後遺障害慰謝料8 30万円が損害に当たる。 ⑵ 被告東電の主張原告番号5-1が転倒して負傷したことと,本件事故とは,相当因果関係がない。 ⑶ 被告国の主張 被告東電の主張に同旨である。 4 原告番号6の世帯について⑴ 原告番号6らの主張ア交通費及びレンタカー代について原告番号6-1は,本件事故後の平成23年10月以降,平成25年7月までに13回神奈川県と福島県の間を往復した。 したがって,被告東電が避難・帰宅に係る費用の標準額としている1回の往復2万8000円を基準に,13回分合計36万4000円が損害に当たる。 また,上記13回の往復のうち,平成24年5月23日から同月24日の往復についてはレンタカーを借りたから,レンタカー代7000円も損害に 当たる。 イ家具・生活雑貨購入について原告番号6-1は,避難先の部屋に薄手のレースのカーテンしか付いていなかったので,厚手のカーテン購入代金5440円を支出した。また,押入の中に置く衣類等を入れる際にチェストも必要だったので,チェスト購入代 金7960円を支出した。したがって,これら金額が損害に当たる。 ウ食費の増加について原告番号6-1は,避難後に食費が少なくとも毎月1万円増加したから,平成23年3月から平成25年8月までの30か月分合計30万円が損害に当たる。 エ 1人暮らしの際の費用及び長男への謝礼について原告番号6-5は,平成23年4月16日から原告番号6-1,6-2,6-3,6-4と共に@@@@@の賃貸アパートに入居したが,同アパートが5人で暮らすには狭く,また,エレベーターのない5階の部屋であったため,高齢の原告番号6-5は,平成24年8月31日から@@@@@@ 3,6-4と共に@@@@@の賃貸アパートに入居したが,同アパートが5人で暮らすには狭く,また,エレベーターのない5階の部屋であったため,高齢の原告番号6-5は,平成24年8月31日から@@@@@@@に アパートを借りて1人暮らしを始め,その1人暮らしが原告番号6-5の長 男宅に移るまで約4か月間続いたものであるから,その約4か月間の1人暮らしにかかった家賃10万0833円,駐車場代2万0167円,仲介手数料2万1000円,退去後のクリーニング代1万7000円,家財保険料2310円がそれぞれ損害に当たる。 また,この転居から約4か月後に長男が同居するようになり,その後は, 長男に同居に伴う謝礼等32万円(平成25年1月から8月まで8か月,月額4万円)を支払ったから,同額が損害に当たる。 ⑵ 被告東電の主張ア交通費及びレンタカー代について原告番号6-1が交通費として同主張額を実際に出捐した事実について は立証がない。 レンタカー代が支出されたのは平成25年5月であり,既に原告番号6らに対する権利侵害がやんでいる時期のことであるから,本件事故との相当因果関係がない。 イ家具・生活雑貨購入について 原告番号6-1が上記カーテンやチェストを購入したのは平成24年10月であり,既に原告番号6らに対する権利侵害がやんでいる時期のことであるから,本件事故との相当因果関係がない。 ウ食費の増加について原告番号6-1の食費が避難前より月額1万円増額した事実については 立証がない。 エ 1人暮らしの際の費用及び長男への謝礼について原告番号6-5が1人暮らしを開始したのは平成24年8月であり,既に原告番号6-1らに対する権利侵害がやんでいる時期のことであるから,本件事故との相当因果関係が の際の費用及び長男への謝礼について原告番号6-5が1人暮らしを開始したのは平成24年8月であり,既に原告番号6-1らに対する権利侵害がやんでいる時期のことであるから,本件事故との相当因果関係がない。また,原告番号6-5は,若年者である原 告番号6-3及び6-4への同伴という目的を離れて1人暮らしを始めた ものであるから,その意味でも本件事故との相当因果関係がない。その後の長男に対する謝礼の支払についても,上記同様の理由により本件事故との相当因果関係がない。 オ陳述書が反対尋問を経ていないことなお,原告番号6らについては本人尋問が実施されておらず,その陳述書 は反対尋問を経ていない。 ⑶ 被告国の主張被告東電の主張に同旨である。なお,原告番号6-1については,陳述書の信用性を吟味すべく被告国において尋問の申請をしたにもかかわらず,却下決定されたものである。 5 原告番号7の世帯について⑴ 原告番号7らの主張(一時帰宅費用について)原告番号7-1は,本件事故後,原告番号7-2と合わせて年に10回の割合で@@の実家に帰っていたから,@@@から@@@@@@@@までの往復交通費1万7180円×60回の合計103万0800円が損害に当たる。 ⑵ 被告東電の主張原告番号7-1が一時帰宅費用として同主張額を実際に出捐した事実については立証がない。 なお,原告番号7らについては本人尋問が実施されておらず,その陳述書は反対尋問を経ていない。 ⑶ 被告国の主張被告東電の主張に同旨である。なお,原告番号7-1については,陳述書の信用性を吟味すべく被告国において尋問の申請をしたにもかかわらず,却下決定されたものである。 6 原告番号10について ⑴ 原告番号10の主張 なお,原告番号7-1については,陳述書の信用性を吟味すべく被告国において尋問の申請をしたにもかかわらず,却下決定されたものである。 6 原告番号10について ⑴ 原告番号10の主張 ア就労不能損害について原告番号10は,本件事故時は@@@@@@@@@@@@@@@@@@に登録し,@@@@@@@@@@@の管理業務等に勤務し,月収は8万7105円であったから,平成26年3月分から平成30年1月19日までの46か月と19日分の合計406万0201円が損害に当たる。 イ食費増加分について原告番号10は,避難後,食費が毎月平均4166円程度増加したから,平成25年4月から平成30年1月までの58か月分合計24万1628円が損害に当たる⑵ 被告東電の主張 ア就労不能損害について原告番号10は,本件事故時,@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@,特定の施設で継続して就労することが保証されているものではないから,本件事故前の収入を継続的に得ていた蓋然性が認められない。 また,原告番号10は,避難後,平成24年10月頃からレストランに勤 務したというのであるから,減収の立証がない。 なお,本件事故から3年以上を経過する期間については,減収があっても本件事故との相当因果関係が認められない。 イ食費増加分について原告番号10-1の食費が避難前より月額1万円増額した事実について は立証がない。 ⑶ 被告国の主張被告東電の主張に同旨である。 7 原告番号17について⑴ 原告番号17の主張(就労不能損害について) 原告番号17は,本件事故時は@@@@@@@@@に勤務し,@@@@@@ @@@@@等の業務に従事しており,月収は@@@@@@@@であったか 番号17の主張(就労不能損害について) 原告番号17は,本件事故時は@@@@@@@@@に勤務し,@@@@@@ @@@@@等の業務に従事しており,月収は@@@@@@@@であったから,平成26年3月分から平成29年2月分までの36か月分合計@@@@@@@@@本件事故による就労不能損害に当たる。 ⑵ 被告東電の主張原告番号17が本件事故当時に勤めていた会社を平成23年5月16日に 退職したのは,当該会社が社員の健康を考えない体制の会社だったということであり,会社自体が嫌になったため,原告の自主的な選択によって退職したものであるから,本件事故と退職及びその後の減収との間に因果関係はない。 また,原告番号17は,平成24年の夏前頃から約1年間,@@@@@@@@@に従事し,平成28年6月からは@@@@@@に勤務するなどして就労し ているのであるから,平成24年の夏前頃以降については,就労不能とはなっていない。 仮に,就労不能損害が認められるとしても,当該期間における収入は就労不能損害から控除されるべきであるが,減収の立証がない。 ⑶ 被告国の主張 被告東電の主張に同旨である。 8 原告番号23の世帯について⑴ 原告番号23-2の主張(営業再建費用について)@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@ @@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@ @@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@ @@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@ @@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@ @@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@⑶ 被告国の主張 被告東電の主張に同旨である。 9 原告番号35の世帯について⑴ 原告番号35らの主張ア自動車について原告番号35-1は,本件事故により,その所有に係る自動車を放棄せざ るを得なかったものであるから,同自動車の価額相当の300万円が損害に当たる。 イ食費の増加について原告番号35-2は,避難後,食費が毎月平均11万円程度増加したから,平成23年3月から平成26年12月までの46か月分合計506万円が 損害に当たる。 ウ就労不能損害について(ア) 原告番号35-1原告番号35-1は,本件事故時は@@@@@@@@@@@@@@の事業所に勤務し,月収は平均28万2275円であったから,平成25年1 月分から平成27年12月分の36か月分合計1016万1900円が本件事故による就労不能損害に当たる。 (イ) 原告番号35-2原告番号35-2は,本件事故時は@@@@@@@@@@@@@及び@@@@@@@@@に勤務し,月額合計15万2799円の収入があったか ら,平成25年1月分から平成27年12月分までの36か月分合計55 0万0764円が本件事故による就労不能損害に当たる。 (ウ) 原告番号35-3原告番号35-3は,本件事故時は@ ら,平成25年1月分から平成27年12月分までの36か月分合計55 0万0764円が本件事故による就労不能損害に当たる。 (ウ) 原告番号35-3原告番号35-3は,本件事故時は@@@@@@に勤務し,月収は18万2941円であったとから,平成25年1月分から平成27年12月分の36か月分合計685万5876円が本件事故による就労不能損害に 当たる。 (エ) 原告番号35-4の就労不能損害について原告番号35-4は,本件事故時には@@@@@@@@に就職の内定を得ていたが,本件事故によって内定は取消しになり,平成23年6月から勤務を開始した@@@@@@@@@@では,月額20万円の給与を得てい たので,平成23年5月25日から平成27年12月末日までの55か月と7日分合計1104万5161円が本件事故による就労不能損害に当たる。 ⑵ 被告東電の主張ア自動車について 原告番号35-1主張の自動車が本件事故によって財産的価値を喪失したという点について何ら立証がない。 同自動車は,平成5年式の車両であり,平成18年5月22日に車検の有効期間が満了し【甲個35の7の1】,その後車検を取得したとは認められないから,本件事故時に財産的価値があったとは考え難い。 イ食費の増加について原告番号35-2の食費が避難前より月額11万円増額した事実については立証がない。 ウ就労不能損害について(ア) 原告番号35-1 原告番号35-1は,本件事故により神奈川県に避難した後,平成24 年5月から平成25年9月までは,@@@という会社に正社員,契約社員として勤務していたのであり,減収の立証がない。 また,原告番号35-1が@@@を退職したのは,主に職場の人間関係に関するスト 年5月から平成25年9月までは,@@@という会社に正社員,契約社員として勤務していたのであり,減収の立証がない。 また,原告番号35-1が@@@を退職したのは,主に職場の人間関係に関するストレスが原因と考えられ,就労不能であったとは認められない。 さらに,平成27年4月以降は,再び@@@@@@@@@@において, 本件事故前と同じ待遇で勤務している。 仮に,原告番号35-1について就労不能損害が認められるとしても,本件事故後に就労して得ていた収入は控除されるべきであるところ,上記のとおり減収の立証はない。 (イ) 原告番号35-2 原告番号35-2は,既に,被告東電から,平成23年3月11日から平成25年12月31日までを対象期間とする就労不能損害として404万1792円の賠償を受けているところ,平成26年1月以降については,就労不能であったことの立証がない。 (ウ) 原告番号35-3 原告番号35-3は,既に,被告東電から,平成23年3月11日から平成25年12月31日までを対象期間とする就労不能損害として621万9994円の賠償を受けているところ,平成26年1月以降については,就労不能であったことの立証がない。 (エ) 原告番号35-4 原告番号35-4の平成23年5月25日以降の収入及び本件事故前の収入からの減収の事実については何ら主張・立証がない。 ⑶ 被告国の主張被告東電の主張に同旨である。 10 原告番号46の世帯について ⑴ 原告番号46らの主張(就労不能損害について) 原告番号46-1は,本件事故時は@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@に勤務していたが,避難後,度重なる転職を余儀なくされたとして,平成22年の収入と比較して平成23年から平成25 原告番号46-1は,本件事故時は@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@に勤務していたが,避難後,度重なる転職を余儀なくされたとして,平成22年の収入と比較して平成23年から平成25年までの3年間で161万6544円の減収があったから,同額が本件事故による就労不能損害に当たる。 ⑵ 被告東電の主張自主的避難等対象区域においては,本件事故直後の混乱期(平成23年4月22日)までの一時的な避難を超えて避難すること,若しくは混乱期の後に避難することは,避難者自らの判断によるところであるから,これによる減収について本件事故との間に相当因果関係を認めることはできない。 ⑶ 被告国の主張被告東電の主張に同旨である。 11 原告番号52について⑴ 原告番号52の主張ア生命・身体的損害について 原告番号52は,本件事故により@@@@@@@発症した。したがって,これによる精神的苦痛に対する慰謝料として,平成23年4月6日から同年5月7日までの32日間について一日当たり3万円(合計96万円),平成23年5月8日から平成27年6月30日までの1515日間について一日当たり1万円(合計1515万円),合計1611万円が損害に当たる。 イ就労不能損害について原告番号52は,本件事故後の平成24年3月8日に60歳の定年となり,以後,同じ会社で嘱託として勤務することとなったが,本件事故後に発症した@@@が原因で平成24年6月30日付けで退職した。本件事故がなけれれば,65歳となる平成29年3月末まで稼働できたはずであるから,嘱託 勤務時の給与額30万円×57か月分の合計1710万円が本件事故によ る就労不能損害に当たる。 ウ増加食費について原告番号52は,避難後に食費が できたはずであるから,嘱託 勤務時の給与額30万円×57か月分の合計1710万円が本件事故によ る就労不能損害に当たる。 ウ増加食費について原告番号52は,避難後に食費が一日当たり221円増加したから,平成25年12月から平成27年6月30日までの577日分合計12万7517円が損害に当たる。 エ家賃について原告番号52は,本件事故により@@@となったことにより,平成24年11日から平成27年10月まで@@@の借家に引っ越したから,これに伴う同借家の家賃月額8万円,礼金8万円の合計300万2666円が損害に当たる。 ⑵ 被告東電の主張ア生命・身体的損害について原告番号52が,本件事故によりいかなる@@@障害を発症したのかという点については,何ら客観的な立証がない。仮に,原告番号52が,何らかの@@@障害を発症していたとしても,その要因は,本件事故以外のものが 関与しているとうかがわれる。 イ就労不能損害について原告番号52が平成24年3月8日の定年後,嘱託として65歳になる平成29年3月になるまで勤務する蓋然性は明らかでない。 ウ増加食費について 原告番号52の食費が避難前より日額221円増額した事実については立証がない。 エ家賃について原告番号52が損害として主張する家賃及び礼金の支払については立証がない。むしろ,原告番号52が賃借したとする借家に係る賃貸借契約書に おいて賃借人とされているのは,原告番号52ではない。 オ陳述書が反対尋問を経ていないことなお,原告番号52については本人尋問が実施されておらず,その陳述書は反対尋問を経ていない。 ⑶ 被告国の主張ア生命・身体的損害について 原告番号52が主張 反対尋問を経ていないことなお,原告番号52については本人尋問が実施されておらず,その陳述書は反対尋問を経ていない。 ⑶ 被告国の主張ア生命・身体的損害について 原告番号52が主張する精神的損害の算定(1日当たり3万円又は1万円)の根拠が不明である。 イその他について被告東電の主張に同旨である。なお,原告番号52については,陳述書の信用性を吟味すべく被告国において尋問の申請をしたにもかかわらず,却下 決定されたものである。 12 原告番号53の世帯について⑴ 原告番号53らの主張ア避難費用(交通費)について原告番号53-1は,避難のための交通費として,合計38万3600円 を支出したものであるから,同額が損害に当たる。 イ自治会費について原告番号53-1は,避難先の神奈川県の住宅に係る自治会費として,平成25年5月分から平成27年12月分まで合計1万2800円を支払ったから,同額が損害に当たる。 ウ生活費の増加について原告番号53-1は,二重生活に伴い増加した生活費及び@@@@の勤務先に毎週帰宅する交通費(通勤費)として平成25年5月分から平成27年12月分まで合計277万7583円を支出したから,同額が損害に当たる。 エ避難雑費について 原告番号53-1は,子ども英会話教室費用として,平成25年5月分か ら平成27年12月分まで合計192万円を支出したところ,同額は,避難雑費として損害に当たる。 ⑵ 被告東電の主張ア避難費用(交通費)について原告番号53-1が避難のための交通費として同主張額を実際に出捐し た事実については立証がない。 イ自治会費について原告番号53-1が自治会費として同主張額を実際に出捐した事実について 原告番号53-1が避難のための交通費として同主張額を実際に出捐し た事実については立証がない。 イ自治会費について原告番号53-1が自治会費として同主張額を実際に出捐した事実については立証がない。また,自治会に加入するか否かは自由であるから,原告らが自治会に加入して自治会費を支払う法的義務を負担しているものとは 認められないし,仮に,自治会に加入することが一般的であるとすれば,自治会費というのは,どこで生活する上でも必要となる費用である。したがって,その負担について本件事故との相当因果関係を欠く。 ウ生活費の増加について原告番号53-1の生活費が増加した事実については立証がない。 エ避難雑費について原告番号53-1が避難雑費として同主張額を支出した事実については立証がない。 ⑶ 被告国の主張ア避難雑費について 子どもを英会話教室に通わせるか否かは原告番号53-1の自由であるし,本件事故がなければ英会話教室に通わせていなかったということもできないから,英会話教室の費用について,本件事故との相当因果関係も認められない。 イその他について 被告東電の主張に同旨である。 (第1分冊終わり) 第4章認定事実等本章においては,前記前提事実に加え,証拠及び弁論の全趣旨によれば認定することのできる事実を適示するとともに,原子力規制法制の状況や,本件の前提となる自然科学的知見,各種研究者の意見の内容について摘示する。なお,認定事実としては,本件において,被告国の国賠法に基づく責任が大きな争点となっていることに鑑み, 被告国が関与ないし接した事実関係を主に摘示することとし,被告東電の内部事情等,被告国において関与ないし接していない事実関係については, の国賠法に基づく責任が大きな争点となっていることに鑑み, 被告国が関与ないし接した事実関係を主に摘示することとし,被告東電の内部事情等,被告国において関与ないし接していない事実関係については,後記第5章第3節第3,3⑴ア[❸-42 頁]において適宜認定・判示することとする。また,原告ら個別の損害論に関係する認定事実については,後記第5章第12節において,個別に認定・判示することとする。 (以下本頁余白) 第1節認定事実(本件事故発生まで)前記前提事実に加え,証拠(判示中に掲記のもの)及び弁論の全趣旨によれば,本件事故発生までの事実関係として,以下のとおり認定することができる。 第1 福島第一原発の概要 1 立地条件等 福島第一原発は,福島県太平洋岸のほぼ中央,大熊町と双葉町にまたがって建設されている。敷地の形状は,海岸線に長軸をもつ半楕円状であり,敷地面積は約350万㎡である。【甲B4の1・1頁】敷地はもともとほぼ平坦な丘陵(標高30~35m)であり,南北に延びる急峻な海食崖で太平洋に落ち込んでいた。同敷地内に,丘陵を約20m掘り下げて 原子炉が設置されており,造成された敷地高は,大熊町側に設置されている1~4号機でO.P.+10m(「O.P.+」は小名浜港工事基準面を基準とした高さを示す。),双葉町側の5及び6号機でO.P.+13mであった。福島第一原発主要部の断面は,概ね資料3(第6分冊)のとおりであり【甲B3・18頁】,その敷地を高低差によって区分すると,概ね資料5(第6分冊)のとおりとなる 【甲B7・26頁】。 2 各種設備の配置・機能等⑴ 各原子炉の配置等福島第一原発には6基のBWR(沸騰水型軽水炉)が設置されており,1~4号機は,発電所の南部分(大熊 とおりとなる 【甲B7・26頁】。 2 各種設備の配置・機能等⑴ 各原子炉の配置等福島第一原発には6基のBWR(沸騰水型軽水炉)が設置されており,1~4号機は,発電所の南部分(大熊町側)に立地し,南から4,3,2,1号機 の順に配置され,5及び6号機は,発電所の北部分(双葉町側)に立地し,南から5,6号機の順に配置されている。 各号機の発電機出力は,1号機が46万㎾,2~5号機が各々78.4万㎾,6号機が110万㎾であり,総発電設備容量は469.6万㎾である。 1~5号機には,マークⅠ型(フラスコ型の格納容器とドーナツ型の圧力抑 制室を有するタイプ)の原子炉格納容器が設置されている。6号機には,同じ BWRであってもマークⅠ型よりは新しい型に当たるマークⅡ型(格納容器が円錐型のタイプ)が設置されている。 各号機の配置は資料1,2(第6分冊)のとおりである。 各号機は,原子炉建屋,タービン建屋(T/B),コントロール建屋,サービス建屋(S/B),放射性廃棄物処理建屋等から構成されている。 【甲B2の1・9頁】原子炉建屋は,原子炉を収納する建造物であり,地上5階・地下1階の構造で,高さは地上約45mである。原子炉建屋には,圧力容器や格納容器,使用済み燃料プールなどがある。また,非常用冷却設備のポンプの多くが原子炉建屋地下1階に配置されていたほか,1号機の原子炉建屋4階には,IC (「IsolationCondenser」の略。非常用復水器)が配置されていた。 タービン建屋は,タービン発電機を収納する建造物であり,主復水器のほか,多くの電源設備が配置されている。 各原子炉の制御は,隣接する2プラント(1号機と2号機,3号機と4号機,5号機と6号機)の中間に設置されたコントロール建屋内 収納する建造物であり,主復水器のほか,多くの電源設備が配置されている。 各原子炉の制御は,隣接する2プラント(1号機と2号機,3号機と4号機,5号機と6号機)の中間に設置されたコントロール建屋内の中央制御室におい て,各プラントの中央制御盤を通じて遠隔操作する等の方法により行われていた。 ⑵ 原子炉及び原子力発電の仕組み原子力発電は,ウラン燃料に中性子を当てて核分裂させ,その際に発生する核分裂エネルギーによる熱で水蒸気を発生させ,その水蒸気でタービン発電機 を回転させることにより行う発電方法である。福島第一原発1~4号機で採用されていたBWRについてみると,原子炉の中心には圧力容器があり,圧力容器の中央部に多数の燃料棒から構成される炉心が納められている。BWRは圧力容器内部で蒸気が発生することから,炉心の上部に水と蒸気を分けるための気水分離機と蒸気乾燥機が設けられており,制御棒は,圧力容器の下側から案 内管を介して炉心に挿入されている(資料6(第6分冊)参照)。 冷却水は,容器胴の中間部から給水され,上部から蒸気として出て行く。圧力容器の内部では,冷却水は炉心を構成する燃料棒の隙間を下部から上部に抜け,炉心の外側を下降して中間部に戻る経路を,ジェットポンプによる駆動で循環している。流量が増えると,温度の低下によって水や燃料の物性値が核分裂が活発になる方向に変化し,発熱量が増えることとなるが,このような自然 がもつ自己制御性を利用し,冷却水の循環流量によって熱出力を制御できるようになっている。これらの冷却水流路は,気水分離機・蒸気乾燥機の指示機構を兼ねたシュラウドで仕切られている。 原子力発電の燃料は,ウランU235及びウランU238の酸化物から構成されている。ウランU235は,天然ウランの中に 水流路は,気水分離機・蒸気乾燥機の指示機構を兼ねたシュラウドで仕切られている。 原子力発電の燃料は,ウランU235及びウランU238の酸化物から構成されている。ウランU235は,天然ウランの中には0.7%しか含まれない 核分裂性の物質であり,原子力発電の燃料として用いる場合は,これを,燃料体全体の4%程度まで濃縮している。燃料体の残りの部分は不燃性のウランU238である。濃縮ウランは,セラミックス状に焼き固めて,ジルコニウム製の筒(被覆管)に収納し(燃料棒),圧力容器内に装着される。 原子力発電機を運転するには,ウランU235に中性子を当てて核分裂させ, その時に発生する核分裂エネルギーによる熱を発電に利用する。核分裂時には,エネルギーと同時に約2個の中性子が放出される。これらの中性子が他のウランU235に衝突すると,次の核分裂反応が起きることから,制御棒(後記⑶ア[❷-5 頁])を用いて中性子の量をコントロールすることにより,核分裂を連続して起こしながら(核分裂連鎖反応)発電を続けることができる。余った 中性子は,ウランU238に捕獲されたり,外部に逃げ出す。制御棒が燃料の間に挿入されると,中性子が燃料棒に吸収されて連鎖反応が停止する。 核分裂によって生じる破片を核分裂生成物と呼び,分裂の直後は一般に不安定である。これらは,熱(崩壊熱)と放射線(α 線,β 線,γ 線)を発生させながら,徐々に放射線を出さない安定な物質に変化する。運転停止直後は, 不安定な核分裂生成物が多いことから,その崩壊熱は,運転時の発熱量の6% ほどに及ぶが,これら物質の安定化によって徐々に低下する。このような機序により,原子炉の燃料は,運転中だけでなく,運転停止後もしばらく発熱を続ける。したがって,運転停止後も燃料を冷却す % ほどに及ぶが,これら物質の安定化によって徐々に低下する。このような機序により,原子炉の燃料は,運転中だけでなく,運転停止後もしばらく発熱を続ける。したがって,運転停止後も燃料を冷却するため,原子炉には,RHR(残留熱除去系。後記⑶イ(イ)b[❷-9 頁])が設けられている。さらに,時間が経過すると崩壊熱はわずかになるものの,ゼロになることはないため,一定程 度経過した燃料は燃料プールで保管することとなる。 【甲B3・166頁以下】⑶ 安全確保のための諸設備の状況原子炉施設には,ウランの核分裂により生じた強い放射能をもつ放射性物質が原子炉内に存在する。そこで,何らかの異常・故障等により,放射性物質が 施設外へ漏出することを防止するために,原子炉施設には多重防護の考え方に基づいて複数の安全機能が備え付けられている。 具体的には,「異常の発生の防止」,「異常の拡大及び事故への進展の防止」及び「周辺環境への放射性物質の異常放出防止」を図ることにより周辺住民の放射線被ばくを防止することを目的とし,「異常の拡大の防止及び事故への進展 の防止」の観点からは,異常を検出して原子炉を速やかに停止する機能(止める機能)が,「周辺環境への放射性物質の異常放出防止」の観点からは,原子炉停止後も放射性物質の崩壊により発熱を続ける燃料の破損を防止するために炉心の冷却を続ける機能(冷やす機能)及び燃料から放出された放射性物質の施設外への過大な漏出を抑制する機能(閉じ込める機能)が,それぞれ備え付 けられている。 ア止める機能(原子炉停止機能)原子炉を止める機能を担う設備は,原子炉停止系と呼ばれる。原子炉停止系は,原子炉に異常が発生した際に炉心における核分裂反応を停止させて出力を急速に停止させるための設備であり,代 (原子炉停止機能)原子炉を止める機能を担う設備は,原子炉停止系と呼ばれる。原子炉停止系は,原子炉に異常が発生した際に炉心における核分裂反応を停止させて出力を急速に停止させるための設備であり,代表的な設備として制御棒がある。 制御棒とは,原子炉の反応度を制御するための中性子吸収材と構造材から構 成されており,制御棒を燃料集合体の間に挿入すると中性子が吸収されて核分裂反応が抑制され,原子炉の出力が低下する(資料6(第6分冊)参照)。 原子炉の異常時には,燃料の損傷を防ぐため急速に制御棒を炉心に挿入して原子炉を緊急停止させる。この緊急停止措置を「スクラム」という。 その余の原子炉停止系の設備として,SLC(ホウ酸水注入系)がある。 これは,ホウ酸貯蔵タンク,ポンプ,テストタンク,配管,弁等から構成され,制御棒が挿入不能の場合に,原子炉に中性子吸収材であるホウ酸水を注入して負の反応度を与えて原子炉を停止する機能を有する。 イ冷やす機能(原子炉冷却機能)炉心に制御棒を挿入して原子炉を停止させた場合においても,燃料棒内に 残存する多量の放射性物質の崩壊により発熱が続くことから,燃料の破損を防止するために炉心の冷却を続ける必要がある。そこで,原子炉施設には,通常の給水系の他に,様々な注水系が備えられている。これら注水系は,原子炉で発生する蒸気を駆動源とするタービン駆動又は電動のポンプにより,原子炉へ注水する。また,これら注水系には,原子炉が高圧の状態でも注水 が可能なHPCI(「HighPressureCoolantInjection」の略。高圧注水系)と,原子炉の減圧をすることによって初めて注水が可能となるLPCI(「LowPressureCoolantInjection」の略。低圧注水系)とがあ tInjection」の略。高圧注水系)と,原子炉の減圧をすることによって初めて注水が可能となるLPCI(「LowPressureCoolantInjection」の略。低圧注水系)とがある。 福島第一原発の各号機に設置されている原子炉冷却機能を有する主な設備は,以下のとおりである。 (ア) 1号機1号機には,原子炉冷却機能を有する主な設備として,CS(炉心スプレイ系)2系統,IC(非常用復水器)2系統,HPCI(高圧注水系)1系統及びCCS(「ContainmentCoolingSystem」の略。格納容器冷却系)2系統等が設置されている。 aCS(炉心スプレイ系) CS(「CoreSpraySystem」の略。炉心スプレイ系)とは,何らかの原因による冷却材喪失事故によって炉心が露出した場合に,燃料の加熱による燃料自体及び被覆管の破損を防ぐために,S/C(「SuppressionChamber」の略。サプレションチャンバー,圧力抑制室,トーラス室等様々な呼び名がある。)内の水を水源として,炉心上に取り付けられた ノズルから燃料にスプレイすることによって炉心を冷却する設備である。その冷却水の循環経路は,資料10(第6分冊)の水色矢印のとおりである(資料10は,分かりやすさのため,複数系統がある設備については,その一部系統のみに着色したものである。以下の各冷却系の説明において同じ。)。 bIC(非常用復水器)IC(非常用復水器)とは,主蒸気管が破断するなどして主復水器が利用できない場合に,圧力容器内の蒸気を非常用の復水器タンクにより水へ凝縮させ,その水を炉内に戻すことによって,ポンプを用いずに炉心を冷却する設備である。自然循環力によって炉心から運ばれた熱は, 用できない場合に,圧力容器内の蒸気を非常用の復水器タンクにより水へ凝縮させ,その水を炉内に戻すことによって,ポンプを用いずに炉心を冷却する設備である。自然循環力によって炉心から運ばれた熱は, 復水器タンクの水を蒸発させ,発生した蒸気が,原子炉建屋西側壁面にある二つ並んだ排気口(通称「豚の鼻」。【甲B2の1・104頁】)から大気中に放出される。すなわち,最終的な熱の逃し先(最終ヒートシンク)は大気である。ICの冷却水の循環経路は,資料10(第6分冊)の赤色矢印のとおりである。 cHPCI(高圧注水系)HPCI(高圧注水系)とは,配管破断等を原因として冷却材喪失事故が発生したような場合に,圧力容器から発生する蒸気の一部を用いるタービン駆動ポンプにより,復水貯蔵タンク又はS/C(圧力抑制室)内の水を水源として,圧力容器内へ注水することによって炉心を冷却す る設備である。その冷却水の循環経路は,資料10(第6分冊)の橙色 矢印のとおりである。後記(イ)a[❷-8 頁]のRCIC(原子炉隔離時冷却系)と仕組みが類似するが,HPCIのポンプ容量はRCICのそれの約10倍に及ぶ点で異なる【甲B3・186頁】。このような違いは,HPCIが,従来最も過酷な事故として想定されてきた配管破断によるLOCA(「LossOfCoolantAccident」の略。冷却材喪失事故) を緩和するために設けられたECCS(非常用炉心冷却設備)であるのに対し,RCICは,後記(イ)a[❷-8 頁]のとおり,原子炉停止後に何らかの原因で給水系が停止した場合等を念頭に置いたものであり,ECCS(非常用炉心冷却設備)の位置づけではなかったことによる【甲B3・186頁】。 dCCS(格納容器冷却系)CCS(格納容器 因で給水系が停止した場合等を念頭に置いたものであり,ECCS(非常用炉心冷却設備)の位置づけではなかったことによる【甲B3・186頁】。 dCCS(格納容器冷却系)CCS(格納容器冷却系)とは,冷却材喪失事故が発生した際に,S/C(圧力抑制室)内の水を水源として,これを熱交換器を介して冷却した後,格納容器内にスプレイすることによって,格納容器を冷却する設備である。その冷却水の循環経路は,資料10(第6分冊)の紫色矢 印のとおりである。 (イ) 2~5号機2~5号機には,原子炉冷却機能を有する主な設備として,CS(炉心スプレイ系)2系統及びHPCI(高圧注水系)1系統のほか,RCIC(原子炉隔離時冷却系)1系統及びRHR(残留熱除去系)2系統が設置 されている。なお,6号機については判示を省略する。 aRCIC(原子炉隔離時冷却系)RCIC(「ReactorCoreIsolationCoolingsystem」の略。原子炉隔離時冷却系)とは,原子炉停止後に何らかの原因で給水系が停止した場合等に,圧力容器から発生する蒸気の一部を駆動源とするタービン 駆動ポンプにより,復水貯蔵タンク(各タービン建屋に隣接して建造さ れたタンク。資料2(第6分冊)参照)又はS/C(圧力抑制室)内の水を水源として,蒸気として失われた冷却材を原子炉に補給し,炉心を冷却する設備である。そのポンプ容量がHPCIと大きく異なるのは,前記(ア)c[❷-7 頁]のとおりである。また,RCICは,S/Cプールを水源とする場合,その構造上,最終的な熱の捨て場(最終ヒートシ ンク)がないことから,運転を継続すると,次第に,タービンの駆動に必要な原子炉内とS/Cプールの圧力差が小さくなり,また,水源であるS/C る場合,その構造上,最終的な熱の捨て場(最終ヒートシ ンク)がないことから,運転を継続すると,次第に,タービンの駆動に必要な原子炉内とS/Cプールの圧力差が小さくなり,また,水源であるS/Cプールの温度が上昇して,冷却機能が低下することとなる。RCICの冷却水の循環経路は,資料11(第6分冊)の赤色矢印のとおりである。 bRHR(残留熱除去系)RHR(残留熱除去系)とは,原子炉停止時の残留熱の除去を目的とするもので,ポンプや熱交換器を利用して冷却剤を冷却(燃料の崩壊熱の除去)したり,非常時に冷却水を注入して炉水を維持する系統(ECCS(非常時炉心冷却系)のひとつ)であり,原子炉を冷温停止にもち 込めるだけの能力を有している。ポンプ流量・熱交換器ともに能力が高く,弁の切替操作で使用モードを変えることにより,複数の機能を有している。これら使用モードのうち,原子炉停止時冷却モード(原子炉が停止したときに,炉心より発生する崩壊熱及び残留熱を除去・冷却するもの)の際の循環経路は,資料11(第6分冊)の緑色矢印のとおりで ある。また,前記使用モードのうち,格納容器スプレイモード(冷却材喪失事故時にECCS(非常時炉心冷却系)の一部として機能するもので,S/C(圧力抑制室)内の水を水源として,格納容器内にスプレイすることによって,格納容器を冷却する設備。前記(ア)dのCCS(格納容器冷却系)と類似の構造)の際の循環経路は,資料11(第6分冊) の紫色矢印のとおりである。 cCS及びHPCI2~5号機には,1号機と同じくCS(炉心スプレイ系)及び(HPCI(高圧注水系)が備え付けられている。これらの循環経路は,資料11(第6分冊)のうち,CSが水色矢印,HPCIが橙色矢印のとおりである(資 機には,1号機と同じくCS(炉心スプレイ系)及び(HPCI(高圧注水系)が備え付けられている。これらの循環経路は,資料11(第6分冊)のうち,CSが水色矢印,HPCIが橙色矢印のとおりである(資料10(第6分冊)と同一の配色を施してある。)。 (ウ) FP(消火系設備)各原子炉には,火災発生時の消火栓のほか,油火災のための炭酸ガス消火系等として,消火系等の給水ラインが設けられている(FP。「FireProtectionSystem」の略。消火系)。被告東電においては,平成15年頃までに,アクシデントマネジメント策(過酷事故に至るおそれがある事象 が万一発生しても,それが過酷事故に拡大するのを防止し,あるいは万が一過酷事故に拡大した場合にもその影響を緩和するために現有設備を最大限に利用してこれに対処するための手順書の整備,設備の充実,教育・訓練等の活動全般)として,交流モーター又はディーゼルエンジン駆動の消火ポンプから吐出される消火用の水を,原子炉の冷却用に切り替えるこ とができるようになっていた。この場合の水源は,敷地西側にあるろ過水タンク(その場所は,資料1(第6分冊)参照)である。消火系設備のうち,ディーゼルエンジン駆動の消火ポンプのことをD/DFP(「DieselDrivenFirePump」の略)という。 ウ閉じ込める機能(格納機能) 原子炉施設の潜在的な危険性は,原子炉内に蓄積される放射性物質の放射能が極めて強いことにある。したがって,放射性物質の施設外への過大な放出を防止するための機能が原子炉施設には備え付けられており,この機能を格納機能という。 格納機能を有するものの第1はペレット(原子炉の燃料そのもの)である。 ペレットは,化学的に安定な物質である二酸化ウランの粉末 が原子炉施設には備え付けられており,この機能を格納機能という。 格納機能を有するものの第1はペレット(原子炉の燃料そのもの)である。 ペレットは,化学的に安定な物質である二酸化ウランの粉末を陶器のように 焼き固めたものであり,放射性物質の大部分をこの中にとどめることができる。 第2は,燃料棒の周囲を覆う被覆管である。ペレットは,被覆管の中に納められて燃料棒を構成している。被覆管は気密に作られており,ペレットの外に出てくる放射性物質を被覆管の中にとどめることができる。 第3は,燃料棒が格納されている圧力容器である。何らかの原因により被覆管が破損すると放射性物質が冷却材中に漏出することとなるが,圧力容器は高い圧力にも耐えられる構造となっており,また機密性も高いことから,その中に漏出した放射性物質をとどめることができる。圧力容器の詳細は後記(ア)のとおりである。 第4は,圧力容器を包み込む格納容器である。格納容器は,鋼鉄製の容器であり,圧力容器を含む主要な原子炉施設を覆っている。格納容器の詳細は後記(イ)のとおりである。 第5は,格納容器が納められている原子炉建屋(R/B)そのものである。 (ア) 圧力容器について 圧力容器は,燃料棒の発熱によって水を沸騰させて蒸気を生成する機能を有する。ここで発生した蒸気の温度が高温であるほど,発電効率は高くなるところ,圧力容器内部においては,286℃の高温の蒸気を作るため,約7MPa(メガパスカル。圧力の単位であり,1MPa は100万パスカル)程度の高圧状態を作り出している。このため,圧力容器は,高温高圧に耐 える必要があり,強靱な低合金鋼で製作された板厚約160mm の厚肉容器となっている。福島第一原発1~4号機の圧力容器の設計圧力は,いずれも り出している。このため,圧力容器は,高温高圧に耐 える必要があり,強靱な低合金鋼で製作された板厚約160mm の厚肉容器となっている。福島第一原発1~4号機の圧力容器の設計圧力は,いずれも8.62MPagage(MPagage とは,大気圧を基準に,これとの差で表した圧力の単位。通常の圧力ゲージに表示される圧力であり,ゲージ圧ともいう。これに対し,MPaabs〈絶対圧〉とは,MPagage から大気圧を控除 した圧力値のことをいい,これがゼロの場合には,すなわち真空状態を指 す。)であり,設計温度はいずれも302℃である。 圧力容器の全体構造の概要は資料6(第6分冊)圧力容器構造図のとおりである。圧力容器は,燃料交換時に上部の蓋を開ける必要があることから,上鏡部はフランジとメタルOリングを介して,スタッドボルトとナットで結合されている。容器を貫通する主な構造物として,冷却水を循環さ せるための蒸気出口管,給水管,炉心流量により出力制御するための再循環水の入口管・出口管,非常時注水用の炉心スプレイ管,頂部スプレイ管,低圧スプレイ管,計装用の水位計測管・炉内中性子計装管,制御棒案内管などがある。 (イ) 格納容器について 格納容器は,圧力容器が損傷して核分裂生成物が放出されても,環境への漏えい量を十分低い値に抑制することを目的に設置されている。福島第一原発に利用されている格納容器は,米国からの導入技術に基づいたマークⅠ型,マークⅡ型と呼ばれるものであり,圧力容器を格納するD/W(「DryWell」の略。ドライウェル)と,水を蓄えたS/C(圧力抑制室) から構成される。その全体構造は,資料7(第6分冊)格納容器構造イメージ図のとおりである。 格納容器の設計温度と設計圧力は,圧力容器に の略。ドライウェル)と,水を蓄えたS/C(圧力抑制室) から構成される。その全体構造は,資料7(第6分冊)格納容器構造イメージ図のとおりである。 格納容器の設計温度と設計圧力は,圧力容器に接続する配管が運転中に大破断した場合(LOCA,冷却材喪失事故)に生じる最大値に基づいて定められている。各号機の格納容器の設計圧力は,1号機は約0.43MPa gage であり,2~4号機は0.38MPagage である。他方,各号機の設計温度は,いずれも138℃である。これら格納容器は,板厚30mm 前後の鋼板で作られている。 機器搬入時には,格納容器上部の蓋を開ける必要があることから,上鏡部はフランジとシリコンゴム製のガスケットを介してボルト結合されて いる。容器を貫通する主な構造は,冷却系の配管,計装や制御系の配管, 換気系の配管,電気配線貫通部,機器搬入用ハッチ,エアロック,マンホールなどである。 格納容器下部に設置されているS/Cプールは,常時約3000㎥の冷却水を保有している。その主な目的は,配管破断時に圧力容器から放出された蒸気を凝縮して圧力上昇を抑制する機能と,プール内の水を圧力容器 内へ注水する水源としての機能である。また,事故時には,圧力容器内から蒸気とともに放出される核分裂生成物を,プールの中を通すことにより,100分の1以下に除去するフィルター機能も有している。 【甲B2の1・11頁以下,甲B3・16頁以下,同・175頁以下,甲B4の1,甲B7】 (ウ) SR弁(逃し安全弁)について圧力容器からタービン発電機へと接続する主蒸気管に,SR弁(逃し安全弁)が設置されている。 SR弁は,圧力容器の過圧による破裂を防止するための装置であり,圧力容器が一定圧力になると自動的に作動 圧力容器からタービン発電機へと接続する主蒸気管に,SR弁(逃し安全弁)が設置されている。 SR弁は,圧力容器の過圧による破裂を防止するための装置であり,圧力容器が一定圧力になると自動的に作動する「安全弁機能」と,外部から の操作で作動する「逃し弁機能」という2つの機能を有する。「安全弁機能」はバネの作用を利用し,圧力容器が一定の圧力になると,自動的に,圧力容器からの蒸気を主としてS/C(圧力抑制室)に吹き出させて圧力容器の圧力を減圧する仕組みとなっている。「逃し弁機能」は,「安全弁機能」の作動圧以下の場合であっても,外からの追加注水を容易にするなど の目的で圧力容器を減圧するため,中央制御室からの制御信号による遠隔操作で強制的に減圧する仕組みとなっている。SR弁の各機能についての作動原理は,資料12(第6分冊)のとおりである。【甲B3・188頁以下,甲B2の2・109,110頁】エベント設備について 前記アないしウのとおり,原子炉施設は,「止める」「冷やす」「閉じ込め る」の3機能により,放射性物質が施設外へ漏出することを防止する仕組みとなっているが,過酷事故時においては,格納容器の過圧破壊防止のための安全弁として,ベント設備が備えられている。ベント設備には,S/C内の蒸気を,S/Cベントラインを介して排気筒から大気中に放出するS/Cベント(ウェットウェルベント)と,D/W(ドライウェル)内の蒸気を,D /Wベントラインを介して排気筒から大気中に放出するD/Wベント(ドライウェルベント)とがある。S/Cベントは,放射性物質を含んだ蒸気をS/Cプール内の水にくぐらせ,これにより放射性物質の大部分を除去した上で,除去後の蒸気を大気中に放出するものであるのに対し,D/Wベントは,S/Cベ ある。S/Cベントは,放射性物質を含んだ蒸気をS/Cプール内の水にくぐらせ,これにより放射性物質の大部分を除去した上で,除去後の蒸気を大気中に放出するものであるのに対し,D/Wベントは,S/Cベントのような除染を実施することなく,D/W内の放射性物質を含 んだ蒸気を直接大気中に放出するものであり,S/Cベントに比して,大気中への放射性物質の拡散の度合いが格段に高まる特徴を有する。過酷事故時に格納容器圧力が上昇を続ける場合,まずはS/Cベントを実施するが,これが困難な場合には,格納容器の破壊を回避するためのやむを得ない手段として,D/Wベントを実施するという位置づけとなっている。ベントライン の概要は,資料13(第6分冊)のとおり(資料13は,2号機のベントライン)である。【甲B3・190頁以下,甲B2の2・129頁】⑷ 電源設備の状況原子力発電所においては,通常運転中は自ら発電した電力を使用するが,発電が止まったときには外部電源を使用し,外部電源も喪失した時には,非常用 の電源設備を利用することになる。 ア外部電源設備福島第一原発は,主に福島第一原発の南西約9㎞の場所に位置する新福島変電所から電源供給を受けていた。 1号機及び2号機には,新福島変電所から,大熊線1L及び2Lを通じて 27万5000Vの高圧交流電源が供給されている。この高圧交流電源を降 圧するための1/2号開閉所は,1号機原子炉建屋の西側に設置されている(資料1(第6分冊)参照。開閉所には橙色を着色してある。)。また,予備線として,東北電力から,東北電力原子力線を通じて6万6000Vの高圧交流電源が供給されている。 3号機及び4号機には,新福島変電所から大熊線3L及び4Lを通じて, 27万5000Vの高圧交流電源が て,東北電力から,東北電力原子力線を通じて6万6000Vの高圧交流電源が供給されている。 3号機及び4号機には,新福島変電所から大熊線3L及び4Lを通じて, 27万5000Vの高圧交流電源が供給されている。この高圧交流電源を降圧するための3/4号開閉所は,3号機原子炉建屋の西側に設置されている(資料1(第6分冊)参照)。 イ各種配電盤(ア) M/C(高圧配電盤,金属閉鎖配電盤,メタクラ) M/C(高圧配電盤,金属閉鎖配電盤,メタクラ)とは,6900Vの所内高電圧回路に使用される動力用電源盤で,遮断機,保護継電器,附属計器等を収納したものであり,高圧配電盤,金属閉鎖配電盤,メタクラなどとも呼ばれる。M/Cは,前記のとおり降圧された外部電源及び非常時には非常用D/G(非常用ディーゼル発電機)から供給される電源を,復 水ポンプ,海水ポンプ等の大型設備の駆動源として6900Vの高圧電源を供給するとともに,後記P/C(パワーセンター)に電力を供給する。 M/Cは,常用,非常用及び共通(隣接号機等への給電にも用いられている系統)の3系統に分かれて設備されている。 (イ) P/C(パワーセンター)及びMCC(モーターコントロールセンター) P/C(パワーセンター)とは,M/Cから変圧器を経て降圧された480Vの所内低電圧回路に使用される動力用電源盤で,遮断機,保護継電器,附属計器を収納したものである。P/Cは,各種ポンプ,電動弁など,発電所内の多くの設備に480Vの低圧電源を供給するとともに,モータMCC(ーコントロールセンター)に電力を供給する。 MCCとは,P/Cから受電した電力を,小型開閉器を介して,小容量 の所内低電圧回路に使用する動力電源盤で,遮断機,電磁接触器,保護継電器を収納した センター)に電力を供給する。 MCCとは,P/Cから受電した電力を,小型開閉器を介して,小容量 の所内低電圧回路に使用する動力電源盤で,遮断機,電磁接触器,保護継電器を収納したものである。MCCから給電される電力は,480Vないし100Vである。 (ウ) DC(直流電源)MCCからの交流電力は,さらに直流に変換され,バッテリーを充電し たり,制御・計測用機器及び直流電動弁などの駆動源として使用される。 直流電源には,主として,250V,125V及び24Vの3種類がある。 ウ非常用D/G(非常用ディーゼル発電機)非常用D/G(非常用ディーゼル発電機)は,外部電源が喪失したときに,原子炉施設に交流電源(6900V)を供給するための非常用予備電源設備 であり,ディーゼルエンジンで駆動する発電機である。非常用D/Gは,非常用のM/C(高圧配電盤)に電源を供給し,外部電源が喪失した場合でも,原子炉を安全に停止するために必要な電力を供給する。非常用D/Gには,海水冷却式及び空気冷却式のものがあり,海水冷却式の非常用D/Gには,これを冷却するための海水ポンプが付属している。各号機には,それぞれ2 系統ずつの非常用D/Gが各号機専用として設置されているところ,2号機,4号機及び6号機に設置された専用非常用D/Gのうち,それぞれ1系統ずつが空気冷却式であり,その余の非常用D/Gは全て海水冷却式である。 エ各種電源設備の設置場所本件事故に関連する1~4号機について,各種電源設備の設置場所は,資 料15~18(第6分冊)記載のとおりであり,断面でみると,各号機ごとに異なる点もあるものの概ね資料4(第6分冊)のとおりであるところ,具体的にまとめると以下のとおりである【甲B1・139頁,甲B2の1・資料 (第6分冊)記載のとおりであり,断面でみると,各号機ごとに異なる点もあるものの概ね資料4(第6分冊)のとおりであるところ,具体的にまとめると以下のとおりである【甲B1・139頁,甲B2の1・資料編76頁,甲B3・18頁】。 (ア) 1号機関連 a タービン建屋(T/B) タービン建屋(T/B)地下1階に,非常用D/G2系統(いずれも海水冷却式)が設置されていた。 また,タービン建屋地上1階には,非常用M/C2系統,常用M/C3系統,常用P/C3系統が設置されていた。 b コントロール建屋 中央制御室が存在するコントロール建屋(その場所は,資料1及び資料2(第6分冊)のとおり)の地下1階には,非常用P/C2系統及び直流電源設備が設置されていた。 (イ) 2号機関連a タービン建屋(T/B) タービン建屋(T/B)地下1階に,非常用D/G1系統,非常用M/C2系統,常用M/C3系統,常用P/C2系統が設置されていた。 また,タービン建屋地上1階には,非常用P/C2系統,常用P/C2系統が設置されていた。 b コントロール建屋 コントロール建屋の地下1階には,直流電源設備が設置されていた。 c サービス建屋(S/B)2号機については,常用M/C1系統が,タービン建屋の海側に建造されたサービス建屋(S/B)の1階に設置されていた。 d 運用補助共用施設(共用プール建屋) 平成10年頃まで,非常用D/Gは,各号機に専用のものが1台ずつ設置されるとともに,隣接するプラント間で共用のものが1台設置されていた(1号機及び2号機についていえば,1号機タービン建屋地下1階に設置された非常用D/G2系統のうちの1系統が,1号機及び2号機の共用とされていた。)。被告東電は,外部電源喪失 のが1台設置されていた(1号機及び2号機についていえば,1号機タービン建屋地下1階に設置された非常用D/G2系統のうちの1系統が,1号機及び2号機の共用とされていた。)。被告東電は,外部電源喪失時のアクシデント マネジメント策として,平成10年1月から平成11年3月までの間, 各号機がそれぞれ2台ずつ非常用D/Gを有するように設置を見直し,非常用D/Gの専用化を図ることとした。これに従い,被告東電は,2号機及び4号機の非常用電源として,非常用D/G2台を,いずれも運用補助共用施設(共用プール建屋)の地上1階に追設した。また,併せて,2号機及び4号機につき,それぞれ,非常用M/C,非常用P/C 及び直流電源が,各1系統ずつ,共用プール建屋地下1階に設置された。 そして,上記アクシデントマネジメント策によれば,原子炉施設が全交流電源を喪失した場合には,各種非常用冷却設備により炉心を冷却しつつ外部電源を復旧し,非常用D/Gを手動起動すること及び隣接するプラント間で動力用の高圧交流電源(6900V)及び低圧交流電源(4 80V)を融通することが手順化されていた。 【甲B3・434頁】(ウ) 3号機関連a タービン建屋(T/B)タービン建屋(T/B)地下1階に,非常用D/G2系統,非常用M /C2系統,常用M/C2系統,非常用P/C2系統,常用P/C2系統が設置されていた。 また,他のプラントと異なり,3号機の直流電源は,タービン建屋の中地下階(地上1階と地下1階の間)に設置されていた(資料17(第6分冊))。 b コントロール建屋コントロール建屋地下1階には,常用M/C2系統及び非常用P/C2系統が設置されていた。 (エ) 4号機関連a タービン建屋(T/B) タービ ))。 b コントロール建屋コントロール建屋地下1階には,常用M/C2系統及び非常用P/C2系統が設置されていた。 (エ) 4号機関連a タービン建屋(T/B) タービン建屋(T/B)地下1階に,非常用D/G1系統,非常用M /C2系統,常用M/C2系統が設置されていた。 また,タービン建屋地上1階には,非常用P/C2系統及び常用P/C3系統が設置されていた。 b コントロール建屋コントロール建屋地下1階には,4号機の直流電源が設置されていた。 c 共用プール建屋前記(イ)dのとおり,被告東電は,外部電源喪失時のアクシデントマネジメント策として,4号機についても,非常用D/G1系統を,共用プール建屋地上1階に追設していた。また,併せて,非常用M/C,非常用P/C及び直流電源各1系統ずつが,共用プール建屋地下1階に設 置された。 ⑸ 各種設備の駆動源上記安全確保のための各種設備は,その駆動源として,電力を用いるものもあれば,圧力容器由来の蒸気を流用するものもあり,また,電力を用いるものについても,交流電源又は直流電源ないしこれら両者を併用するものなど多種 にわたっている。 ア主要計装機器主要計装機器(原子炉圧力計,原子炉水位計,D/W圧力計,S/C圧力計)は,交流120V原子炉保護系分電盤等から交流を直流に変換して得られる直流24V電源装置を用いている。ただし,読み取りのために必要な表 示用計器の中には,直流24V電源の供給のみで表示可能なものもあれば,別途交流120V電源による供給を要するものもある。後者の場合,交流120V電源が確保できなければ表示用計器による表示ができないが,それでも,直流24Vの電源供給がなされている限り計測は行われ,信号変換処理 120V電源による供給を要するものもある。後者の場合,交流120V電源が確保できなければ表示用計器による表示ができないが,それでも,直流24Vの電源供給がなされている限り計測は行われ,信号変換処理部までは計測結果に応じた電流が流れているので,テスターでその電流の大 小やこれが変換された電圧の大小を計測して換算することによって計測が 可能となる【甲B2-2・16頁】。 イ原子炉停止機能(ア) スクラム原子炉の異常時には,自動的に制御棒が核燃料の集合体の間に挿入され,核分裂を止めるというスクラムが自動的に実施される。制御棒の挿入は, 高圧の窒素ガスと水圧を駆動源としてなされるものであり,電源は不要である。 (イ) SLC(ホウ酸水注入系)制御棒が挿入不能の場合に,原子炉に中性子吸収材であるホウ酸水を注入するSLC(ホウ酸水注入系)を駆動するためには,交流電源を必要と する。【甲B4の2・添付4-2(2/9)】ウ原子炉冷却機能(ア) CS(炉心スプレイ系)(1~4号機に装備)CS(炉心スプレイ系)は,S/C(圧力抑制室)内の水を水源として,これをポンプを用いて循環させて圧力容器内へ注水するものであるとこ ろ,同ポンプを駆動するためには交流電源が必要である。【甲B3・182頁,甲B4の2・添付4-2(2/9)】(イ) IC(非常用復水器)(1号機に装備)IC(非常用復水器)は,ポンプを用いることなく,炉心と水源との高低差と温度差による自然循環力で駆動するため,稼働自体には電源を要し ない。しかし,冷却水の流路となる配管には合計4個の隔離弁が設置されていて,これら隔離弁全てを開状態にしなければICは起動できないところ,隔離弁の開閉操作のためには電源を必要とする。4個の隔離弁 ない。しかし,冷却水の流路となる配管には合計4個の隔離弁が設置されていて,これら隔離弁全てを開状態にしなければICは起動できないところ,隔離弁の開閉操作のためには電源を必要とする。4個の隔離弁のうち,格納容器内にある2個については,交流480Vにより弁を開閉する仕組みになっており,格納容器外にある残りの2個については,直流125V により弁を開閉する仕組みとなっている。ICの各隔離弁の設置状況につ いては,資料19(第6分冊)のとおりである。ICにはABの2系統が存在するところ,資料19の左側がA系統であり,右側がB系統である。 A系統につき,電動弁1Aないし4Aが設置されているところ,1A及び4Aが交流駆動の隔離弁(以下「交流駆動のIC隔離弁」という。)であり,2A及び3Aが直流駆動の隔離弁(以下「直流駆動のIC隔離弁」という。) である【甲B2の2・80頁以下】。ICを操作する際には,格納容器外側の3A(B)弁を開閉することとされており,残りの弁は,常時開放状態とされていた【甲B2の2・85頁】。 なお,ICは,IC配管の破断を検出し,ICを隔離するために上記隔離弁を閉動作させる回路を有している。同回路には,常時直流電流が流れ ており,同回路中を流れる直流電源が失われた場合には,検出信号が発信されると同時に,4個の隔離弁がそれぞれ閉動作することとなる(このように,何らかの故障が生じた場合であっても,常に安全状態に向かうような設計思想に基づいて設計された機能のことをフェールセーフ機能という。)。もっとも,交流電源の喪失が直流電源の喪失に先立って生じた場合 には,交流駆動のIC隔離弁が閉動作しないということがありうる。【丙C32・78頁】(ウ) RCIC(原子炉隔離時冷却系)(2~4号機に装備 電源の喪失が直流電源の喪失に先立って生じた場合 には,交流駆動のIC隔離弁が閉動作しないということがありうる。【丙C32・78頁】(ウ) RCIC(原子炉隔離時冷却系)(2~4号機に装備)RCIC(原子炉隔離時冷却系)は,圧力容器とS/Cプールとの圧力差を利用して蒸気を流し,タービンポンプを駆動して冷却水を圧力容器内 に注水するため,稼働自体には電源を要しないが,IC(非常用復水器)と同様,冷却水の流路となる配管に設置された隔離弁を開操作してRCICを起動するためには,直流電源が必要となる。 【甲B3・182頁,甲B4の2・添付4-2(3/9)】(エ) HPCI(高圧注水系)(1~4号機に装備) HPCI(高圧注水系)は,RCIC(原子炉隔離時冷却系)と同様, 圧力容器から発生する蒸気の一部を用いるタービン駆動ポンプにより,冷却水を圧力容器内へ注水するため,稼働自体には電源を要しないが,これを起動するには,弁を開操作するための直流電源が必要となる。 【甲B3・182頁,甲B4の2・添付4-2(2/9)】(オ) CCS(格納容器冷却系)(1号機に装備) CCS(格納容器冷却系)は,冷却水を格納容器内にスプレイするためのポンプ及び熱交換器に用いる海水ポンプの駆動のために,交流電源を必要とする。 【甲B3・182頁,甲B4の2・添付4-2(2/9)】(カ) RHR(残留熱除去系)(2~4号機に装備) RHR(残留熱除去系)は,CCS(格納容器冷却系)と同様,冷却水をスプレイするためのポンプ及び熱交換器に用いる海水ポンプの駆動のために,交流電源を必要とする。 【甲B3・182頁,甲B4の2・添付4-2(2/9)】(キ) FP(消火系設備) FP(消火系設備)は,交流 ンプ及び熱交換器に用いる海水ポンプの駆動のために,交流電源を必要とする。 【甲B3・182頁,甲B4の2・添付4-2(2/9)】(キ) FP(消火系設備) FP(消火系設備)は,交流モーター又はディーゼルエンジン駆動の消火ポンプから吐出される消火用の水を原子炉に注入するものであるところ,交流モーターの駆動には交流電源が必要なのに対し,D/DFP(ディーゼルエンジン駆動の消火ポンプ)は,電源を要しない。なお,FP(消火系設備)を冷却に用いる際には,各種弁の切替作業が必要となるが,これには 直流電源が必要である。 【甲B3・22頁,182頁,甲B4の2・添付4-2(2/9)】エ格納機能関係(ア) SR弁(逃し安全弁)SR弁(逃し安全弁)は,安全弁機能と逃し弁機能とを有するところ, 安全弁機能は,バネの作用を利用するものであるから,特に駆動源を要し ない。これに対し,逃し弁機能,とりわけ中央制御盤から遠隔する場合には,制動用電磁弁を励磁してSR弁に窒素を送り込み,主蒸気管からS/C(圧力抑制室)へと続く弁を開く必要がある。制動用電磁弁を励磁するための電源は,120V直流電源である【甲B1・178頁】。 また,SR弁(逃し安全弁)はAO弁(弁の開閉の動力として空圧を用 いるもの)であるので,その開閉のためには,電磁弁の励磁のための電源のほか,AO弁駆動用の空気圧(窒素等)を必要とする【甲B2の1・179頁】。 (イ) ベント設備ベント設備は,格納容器の加圧破壊防止のため,原子炉内の蒸気を大気 中に放出する設備であるところ,S/Cベント及びD/Wベントのいずれの場合であっても,原子炉由来の蒸気は,ベント弁(AO弁),MO弁(弁の開閉の動力として電気を用いるもの)を通過し 気を大気 中に放出する設備であるところ,S/Cベント及びD/Wベントのいずれの場合であっても,原子炉由来の蒸気は,ベント弁(AO弁),MO弁(弁の開閉の動力として電気を用いるもの)を通過した上,ラプチャーディスク(あらかじめ設定された圧力で破裂し通気可能になる板状の安全装置)を蒸気自体の圧力で破壊することで排気筒に到達することになる。ベント 弁は,S/CベントラインとD/Wベントラインにそれぞれ設置されており,いずれも,大弁と小弁(大弁の代わりとなるバイパス機能)により構成されている。 a ベント弁(AO弁)ベント弁は,上記のとおりAO弁であるから,弁に附属する空圧シリ ンダーに空圧源からエアを送り込むことによって弁を開閉させる(その作動機構は資料20(第6分冊)のとおり)。この空圧を制御するためには,交流電源で電磁弁を励磁することが必要となる。すなわちベント弁(AO弁)の開閉のためには,交流電源及び空圧源が必要である。 なお,1号機のベント弁のうち,小弁については,手動開閉用のハン ドルが設置されており,非常時には交流電源及び空圧源がなくても開閉 することが可能であった。他方,2~4号機のベント弁には,手動開閉用のハンドルは設置されていなかった。 bMO弁MO弁は,その弁の開閉のために交流電源(480V)を必要とする。 もっとも,MO弁については,1~4号機のいずれも手動開閉用のハン ドルが設置されていた。 c ラプチャーディスクラプチャーディスクは,一定の圧力が加わると機械的に破壊する仕組みとなっているので,その破壊に動力を要しない。ラプチャーディスクの破壊に要する破壊圧は,1号機について0.448MPagage,2号機 及び3号機について0.427MPagage る仕組みとなっているので,その破壊に動力を要しない。ラプチャーディスクの破壊に要する破壊圧は,1号機について0.448MPagage,2号機 及び3号機について0.427MPagage である。 【甲B3・74頁,190頁,甲B4の2・添付4-2(2/9)】第2 福島第一原発の設置許可及び建設 1 被告東電の原子力発電所建設地及びその敷地地盤高の検討被告東電は,急増する需要増大に対して火力発電を主体として重点的に開発を 進めていたが,昭和36年頃から海外の原子力開発が進んだことから,その経済性・信頼性に着目し,将来の電源は原子力発電が主流となるべきとの結論に達し,原子力発電所の設置地点を確定すべく検討を行った。その結果,東京需要地に比較的近接した候補地点として,福島県沿岸地域,とりわけ大熊町と双葉町にまたがる福島第一原発所在地が候補地に挙がった。福島第一原発所在地は,①地形は 標高30~50mの小高い海岸段丘からなる広大な平坦地であり,②地質は泥岩を主体とする富岡層であるため比較的硬く,③過去に地震被害が少なく,④復水器冷却水は前面海域から取水でき,⑤同地区の人口密度が全国的にみても極めて低く,都市への人口流出が盛んであるという特徴があった。 敷地の地盤高を決定するに当たっては,波浪及び津波などに対する防災的な配 慮とともに,原子炉及び発電機建屋出入口の高さ,敷地造成費,基礎費,復水器 冷却水の揚水電力料などがもっとも合理的で,しかも経済的となるように決定する必要があるとの考え方の下,当該地点の高極潮位は小名浜港においてO.P. +3.122m(チリ地震津波)であるので,潮位差との関係では敷地地盤高はO.P.+4.000mが一応の目安となるとされた。一方,地質条件より,原子炉建屋の基礎地盤 極潮位は小名浜港においてO.P. +3.122m(チリ地震津波)であるので,潮位差との関係では敷地地盤高はO.P.+4.000mが一応の目安となるとされた。一方,地質条件より,原子炉建屋の基礎地盤高をO.P.-4.0m(復水器天端高O.P.+9.8m) と決めたため,原子炉建屋の出入口との関係からみると,発電所敷地地盤高はO. P.+10.0mが好ましいとの検討結果が得られた。この検討結果に,敷地造成等に必要な掘削費用の合計額が最も経済的となる敷地地盤高を求めた結果,やはりO.P.+10m付近が最も低額となることが明らかになった。これらの結果により,被告東電は,福島第一原発の敷地地盤高をO.P.+10mと決定し, ポンプ室付近の地盤高はO.P.+4.0mとした。【甲C152】 2 原子炉立地審査指針の策定昭和39年5月27日,原子力委員会(我が国の原子力の研究,開発及び利用に関する国の施策を計画的に遂行し,原子力行政の民主的な運営を図るために,昭和31年1月1日に総理府に設置された機関。後に安全規制機能が原子力安全 委員会として分離。)は,原子炉立地審査指針を決定した。同指針は,陸上に定置する原子炉の設置に先立って行う安全審査の際,万一の事故に関連して,その立地条件の適否を判断するためのものである。同指針には,以下の趣旨の規定がある。 ① 大きな事故の誘因となるような事象が過去においてなかったことはもちろ んであるが,将来においてもあるとは考えられないこと。また,災害を拡大するような事象も少ないこと。 ② 万一の事故時にも,公衆の安全を確保し,かつ原子力開発の健全な発展を図ることを方針として,この指針によって達成しようとする基本的目標は次の三つである。 a 敷地周辺の事象,原子炉の特性,安全防護施設 時にも,公衆の安全を確保し,かつ原子力開発の健全な発展を図ることを方針として,この指針によって達成しようとする基本的目標は次の三つである。 a 敷地周辺の事象,原子炉の特性,安全防護施設等を考慮し,技術的見地か らみて,最悪の場合には起こるかもしれないと考えられる重大な事故(重大事故)の発生を仮定しても,周辺の公衆に放射線障害を与えないこと。 b さらに,重大事故を超えるような技術的見地からは起こるとは考えられない事故(仮想事故)(例えば,重大事故を想定する際には効果を期待した安全防護施設のうちのいくつかが動作しないと仮想し,それに相当する放射性物 質の放散を仮想するもの)の発生を仮想しても,周辺の公衆に著しい放射線災害を与えないこと。 c なお,仮想事故の場合にも,国民遺伝線量に対する影響が十分に小さいこと。 ③ 立地条件の適否を判断する際には,上記の基本的目標を達成するため,少な くとも次の3条件が満たされていることを確認しなければならない。 a 原子炉の周囲は,原子炉からある距離の範囲内は非居住区域であること。 ここでいう「ある距離の範囲」としては,重大事故の場合,もし,その距離だけ離れた地点に人が居続けるならば,その人に放射線障害を与えるかもしれないと判断される距離までの範囲をとるものとし,「非居住区域」とは,公 衆が原則として居住しない区域をいうものとする。 b 原子炉からある距離の範囲内であって,非居住区域の外側の地帯は,低人口地帯であること。ここにいう「ある距離の範囲」としては,仮想事故の場合,何らの措置も講じなければ,その範囲にいる公衆に著しい放射線災害を与えるかもしれないと判断される範囲をとるものとし,「低人口地帯」とは, 著しい放射性災害を与えないために,適切な措置を 合,何らの措置も講じなければ,その範囲にいる公衆に著しい放射線災害を与えるかもしれないと判断される範囲をとるものとし,「低人口地帯」とは, 著しい放射性災害を与えないために,適切な措置を講じうる環境にある地帯(例えば,人口密度の低い地帯)をいうものとする。 c 原子炉敷地は,人口密集地帯からある距離だけ離れていること。ここにいう「ある距離」としては,仮想事故の場合,全身被ばく線量の積算値が,国民遺伝線量の見地から十分受け入れられる程度に小さい値になるような距 離をとるものとする。 3 福島第一原発の安全審査昭和41年7月1日,被告東電は,内閣総理大臣に対し,福島第一原発原子炉設置許可申請を行った。同申請書には,プラントの配置に関し,「本敷地は,標高約35mの丘陵地帯を標高約10mまで掘削整地する。この敷地の東側に海岸線にほゞ並行してタービン建家を設置し,タービン建家の西側に主変圧器,原子炉 建家,廃棄物処理建家を設置する。超高圧開閉所は丘陵の上に設置し,事務本館はタービン建家の北側の標高10mに設置する。さらに,配置計画に当たっては,予想される波浪,高潮に対して各建屋および構築物の安全の確保,循環水ポンプの安全運転ならびに荷上げの円滑化ができるように,前面海域の南側及び北側に防波堤を設置する。」との記載があるが,敷地高と津波(予想される波浪,高潮) との関連性についての記載はない。 【丙B25・8-2-⑴頁】昭和41年11月2日,原子炉安全専門審査会(原子力安全委員会の下に置かれた原子炉に係る安全性に関する事項を調査審議する部門)は,原子力委員会委員長に対し,福島第一原発1号機の設置許可申請(昭和41年7月1日付け申請 及び昭和41年10月27日付け訂正)について,安全性は十分確保 全性に関する事項を調査審議する部門)は,原子力委員会委員長に対し,福島第一原発1号機の設置許可申請(昭和41年7月1日付け申請 及び昭和41年10月27日付け訂正)について,安全性は十分確保し得るものと認める旨を報告した。 同報告によれば,福島第一原発の立地条件のうち,海象については,「波高は,水深約10mにおいて最高約8mという記録(昭和40年台風28号)がある。 現地における潮位は,観測されていないが小名浜港(敷地南方約50㎞)におけ る観測記録によれば,チリ地震津波時(昭和35年)最高3.1m,最低-1. 9mで,平常時における干満の差約1.5mである。」とされたが,これら波高・潮位と敷地高とを関連づけた検討結果は報告されなかった。また,安全対策としては,「核,熱設計および動特性」「燃料」「計測および制御系」「原子炉冷却系」「燃料取扱系」「廃棄物処理系」「放射線管理」「原子炉の非常冷却」「放射性物質 の放出防止」「安全防護施設の機能確保」「耐震上の考慮」について,それぞれ評 価が行われたが,津波対策については特段の記述がなかった。なお,重大事故(前記2②a)として,冷却材喪失事故,主蒸気管破断事故及びガス減衰タンク破損事故を,仮想事故(同b)として,冷却材喪失事故(炉心溶融を伴うもの)及び主蒸気管破断事故(隔離弁の閉止が遅れ,冷却材全量が放出された場合)をそれぞれ想定し,大気中に放出される放射能を想定した結果,前記2③の条件を満た すと結論づけた。 【丙B20】また,昭和43年3月18日には2号機について,昭和44年12月24日には3号機について,昭和46年12月17日には4号機について,原子炉安全専門審査会が,原子力委員会委員長に対し,それぞれ安全性が十分確保し得るもの と認める旨の報 て,昭和44年12月24日には3号機について,昭和46年12月17日には4号機について,原子炉安全専門審査会が,原子力委員会委員長に対し,それぞれ安全性が十分確保し得るもの と認める旨の報告をした。これら各報告においても,波高・潮位と敷地高とを関連づけた検討結果は報告されておらず,安全対策として津波に言及されることもなかった。 【丙B21~23】 4 福島第一原発の建設 昭和42年9月,被告東電は,1号機の建設に着工した。1号機は,昭和46年3月に営業運転を開始した。 昭和44年5月,被告東電は,2号機の建設に着工した。2号機は,昭和49年7月に営業運転を開始した。 昭和45年9月,被告東電は,3号機の建設に着工した。3号機は,昭和51 年3月に営業運転を開始した。 昭和47年9月,被告東電は,4号機の建設に着工した。4号機は,昭和53年10月に営業運転を開始した。 第3 安全設計審査指針の策定昭和45年4月23日,原子力委員会は,「軽水炉についての安全設計に関す る審査指針について」(安全設計審査指針)を策定した。 安全設計審査指針は,原子炉設置許可の際に行う安全設計審査に当たって,審査の便とするため取りまとめられた指針である。また,同指針によれば,同指針の内容は,安全審査上重要な事項について集約したものであり,同指針を満足すれば安全審査はこれをもって全て足りるというものでなく,他方,申請がこれによらない場合があったとしても,理由が正当化されれば不可とされるものでもな いとされた。 1 敷地の自然条件に対する設計上の考慮について⑴ 規定の内容安全設計審査指針は,「原子炉施設全般」の「敷地の自然条件に対する設計上の考慮」として,以下の趣旨の規定を置いている。【丙A5・3 1 敷地の自然条件に対する設計上の考慮について⑴ 規定の内容安全設計審査指針は,「原子炉施設全般」の「敷地の自然条件に対する設計上の考慮」として,以下の趣旨の規定を置いている。【丙A5・3枚目】 ア当該設備の故障が,安全上重大な事故の直接原因となる可能性のある系及び機器は,その敷地及び周辺地域において,過去の記録を参照にして予測される自然条件のうち最も過酷と思われる自然力に耐えうるような設計であること。 イ安全上重大な事故が発生したとした場合,あるいは確実に原子炉を停止し なければならない場合のごとく,事故による結果を軽減若しくは抑制するために安全上重要かつ必須の系及び機器は,その敷地及び周辺地域において,過去の記録を参照にして予測される自然条件のうち最も過酷と思われる自然力と事故荷重を加えた力に対し,当該設備の機能が保持できるような設計であること。 ⑵ 規定についての解説安全設計審査指針に参考として添付された「動力炉安全設計審査指針解説」によれば,前記⑴アの「予測される自然条件」とは,敷地の自然環境をもとに,地震,洪水,津浪,風(又は台風),凍結,積雪等から適用されるものをいうとする。また,「自然条件のうち最も過酷と思われる自然力」とは,対象とな る自然条件に対応して,過去の記録の信頼性を考慮の上,少なくともこれを下 回らない過酷なものを選定して設計基礎とすることをいい,なお,自然条件のうちのそれぞれのものは,出現頻度,程度,継続時間等に関する過去の記録を参照にして設計上適切な余裕が考慮される場合には,必ずしも異種の自然条件を重畳して設計基礎とする必要はないとする。さらに,「自然条件のうち最も過酷と思われる自然力と事故荷重を加えた力」とは,例えば,原子炉格納容器 に 裕が考慮される場合には,必ずしも異種の自然条件を重畳して設計基礎とする必要はないとする。さらに,「自然条件のうち最も過酷と思われる自然力と事故荷重を加えた力」とは,例えば,原子炉格納容器 に関して,地震力と原子炉冷却材喪失事故後の内圧による荷重を加算して設計検討を行うことをいうとし,なお,事故荷重の継続時間が短い場合には,必ずしも事故荷重と自然条件を重畳して設計基礎とする必要はないとする。 2 非常用電源設備について⑴ 規定の内容 安全設計審査指針は,「非常用電源設備」の項を設けて,非常用電源設備は,単一動的機器の故障を仮定しても,工学的安全施設や安全保護系等の安全上重要かつ必須の設備が,所定の機能を果たすに十分な能力を有するもので,独立性及び重複性を備えた設計であることと定める。 また,同指針は,「単一故障」を,「単一の事象に起因して,所定の機能が失 われることをいい,単一の事象に起因して必然的に起こる多重故障も含む。」と定義付けるとともに,「動的機器」については,「それを含む系が本来の機能を果たす必要があるとき,機械的に動作する部分のあるものをいう。」と定義付けている。 ⑵ 規定についての解説 「動力炉安全設計審査指針解説」によれば,「単一動的機器の故障」の対象には,非常用内部電源設備では,これを構成するしゃ断器,制御回路の操作スイッチ,リレー,非常用発電機等のうちいずれか一つのものの不作動や故障をとるものとするとし,「所定の機能を果たすに十分な能力を有するもの」とは,原子炉緊急停止系(スクラム等),工学的安全施設(非常用炉心冷却系等)等 の事故時の安全確保に必要な設備を,それぞれが必要な時期に要求される機能 が発揮できるように作動させうるような要領を具備することをいうとす ,工学的安全施設(非常用炉心冷却系等)等 の事故時の安全確保に必要な設備を,それぞれが必要な時期に要求される機能 が発揮できるように作動させうるような要領を具備することをいうとする。また,「独立性および重複性」とは,単一動的機器の故障を仮定した場合にも,要求される安全確保のための機能が害されることのないよう,非常用発電機を2台とするなどにより,十分な能力を有する系を2つ以上とし,かつ,一方が不作動となるような不利な状況下においても,他方に影響を及ぼさないように回 路の分離,配置上の隔離などによる独立性の確保が設計基礎とされることをいうとする。 【丙A5】第4 外国における原発事故の発生等 1 TMI原発事故の発生及び原子力安全委員会による防災指針の策定 昭和54年3月28日,米国ペンシルベニア州スリーマイルアイランド原子力発電所(TMI原発)2号機において,周辺に放射性物質が放出され住民の一部が避難するという事故が発生した(以下「TMI原発事故」という。)。 同事故は,まず,冷却水を送り込むための主給水ポンプが停止したところ,通常であれば,補助給水ポンプが動き出し,主給水ポンプに代わって冷却水を送り 込むはずであったが,補助給水ポンプの弁が閉じられていたため,冷却水が給水できない状況となって,原子炉内の冷却水が減少して燃料が損傷し,炉内構造物が一部溶融するに至ったというものであった。そして,同事故に当たっては,自動起動した非常用炉心冷却系を運転員が停止したり,原子炉の圧力が下がれば閉じるはずの圧力逃し弁が開いたままになっているなどといった誤操作や故障が 重畳していた。 【丙B5・91頁】原子力安全委員会は,TMI原発事故を受けて,原子力災害特有の事象に着目し原子力発電所等の周辺に し弁が開いたままになっているなどといった誤操作や故障が 重畳していた。 【丙B5・91頁】原子力安全委員会は,TMI原発事故を受けて,原子力災害特有の事象に着目し原子力発電所等の周辺における防災活動をより円滑に実施できるよう,「原子力発電所等周辺の防災対策について」(防災指針)を取りまとめた。【丙A13】 2 チェルノブイリ原発事故の発生 昭和61年4月26日,旧ソビエト連邦ウクライナ共和国キエフ市北方約130㎞にあるチェルノブイリ原子力発電所(チェルノブイリ原発)4号機において,外部電力の供給が停止した際に,タービン発電機の慣性の回転でどの程度の電力を取り出せるかという実験をしている際,運転員が,原子炉の自動停止装置が働かないようにするなど運転規則に違反するような操作をし,実験の遂行を優先す るあまり,計画とは異なり,原子炉が不安定な性質を示す低出力で,しかも制御棒を規則に違反するレベルまで引き抜いて実験を実施したところ,原子炉の出力が急上昇し,燃料の加熱,激しい蒸気の発生,圧力管の破壊を引き起こし,ついには原子炉と建屋が一部破壊するに至ったという事故(以下「チェルノブイリ原発事故」という。)が発生した。同事故による死者は31名であり,203名が急 性放射性障害を起こして入院した。さらに,原子炉と建屋の破壊により,炉内の放射性物質が外部環境に放出され,事故直後,発電所から半径30㎞の地域の住民約13万5000人が避難した。避難した住民らが受けた放射線の総量は1万6000人・シーベルトと評価されており,この値は,避難住民1人当たりに平均すると約120mSv となる。 【丙B5・92頁】第5 アクシデントマネジメント対策の促進TMI原発事故及びチェルノブイリ原発事故をうけて,世界 ,この値は,避難住民1人当たりに平均すると約120mSv となる。 【丙B5・92頁】第5 アクシデントマネジメント対策の促進TMI原発事故及びチェルノブイリ原発事故をうけて,世界的にシビアアクシデント(設計基準事象を大幅に超える事象であって,安全設計の評価上想定された手段では適切な炉心の冷却又は反応度の制御ができない状態であり,その結果, 炉心の重大な損傷に至る事象)対策の重要性が認識されるようになった。【丙C37】そこで,原子力安全委員会は,昭和62年7月,原子炉安全基準専門部会に共通問題懇談会を設け,シビアアクシデントの考え方,確率論的安全評価手法(原子炉施設の異常や事故の発端となる事象(起因事象)の発生頻度,発生した事象 の及ぼす影響を緩和する安全機能の喪失確率及び発生した事象の進展・影響の度 合いを定量的に分析することにより,安全性を総合的・定量的に評価する方法。 以下「確率論的安全評価」というが,PSA(「ProbabilisticSafetyAssessment」の略)ということもある。),シビアアクシデントに対する格納容器の機能等について検討を行った。 1 原子力安全委員会の決定 平成4年5月28日,原子力安全委員会は,上記懇談会の報告・提案を踏まえ,「発電用軽水型原子炉施設におけるシビアアクシデント対策としてのアクシデントマネージメントについて(決定)」と題する決定を行った。 同決定は,爾後のアクシデントマネジメント(設計事象を超え,炉心が大きく損傷するおそれのある事態が万一発生したとしても,現在の設計に含まれる安全 余裕や安全設計上想定した本来の機能以外にも期待し得る機能又はそうした事態に備えて新規に設置した機器等を有効に活用することによって,それがシビア 万一発生したとしても,現在の設計に含まれる安全 余裕や安全設計上想定した本来の機能以外にも期待し得る機能又はそうした事態に備えて新規に設置した機器等を有効に活用することによって,それがシビアアクシデントに拡大するのを防止するため,若しくはシビアアクシデントに拡大した場合にもその影響を緩和するためにとられる措置。【丙C37】)の整備を一層促進するための対応方針を取りまとめたものであり,その概要は以下のとおり である。 ⑴ 第1項我が国の原子炉施設の安全性は,現行の安全規制の下に,設計,建設,運転の各段階において,①異常の発生防止,②異常の拡大防止と事故への発展の防止,及び③放射性物質の異常な放出の防止,といういわゆる多重防護の思想に 基づき厳格な安全確保対策を行うことによって十分確保されている。これらの諸対策によってシビアアクシデントは工学的には現実に起こるとは考えられないほど発生の可能性は十分小さいものとなっており,原子炉施設のリスクは十分低くなっていると判断される。 アクシデントマネージメントの整備はこの低いリスクを一層低減するもの として位置付けられる。 したがって,当委員会は,原子炉設置者において,効果的なアクシデントマネージメントを自主的に整備し,万一の場合にこれを的確に実施できるようにすることは強く奨励されるべきであると考える。 ⑵ 第2項原子炉設置者においては,原子炉施設の安全性の一層の向上を図るため,報 告書が示す提案の具体的事項を参考としてアクシデントマネージメントの整備を継続して進めることが必要である。また,行政庁においても,報告書を踏まえ,アクシデントマネージメントの促進,整備等に関する行政庁の役割を明確にするとともに,その具体的な検討を継続して進めることが必要 継続して進めることが必要である。また,行政庁においても,報告書を踏まえ,アクシデントマネージメントの促進,整備等に関する行政庁の役割を明確にするとともに,その具体的な検討を継続して進めることが必要である。 ⑶ 第3項 当委員会としては,アクシデントマネージメントに関し,今後必要に応じ,具体的方策及び施策について行政庁から報告を聴取することとする。当面は以下のとおり行うこととする。 ① 以後新しく設置される原子炉施設については,当該原子炉の設置許可等に係る安全審査(ダブルチェック)の際に,アクシデントマネージメントの実 施方針(設備上の具体策,手順等の整備,要員の教育訓練等)について行政庁から報告を受け,検討することとする。 ② 運転中又は建設中の原子炉施設については,順次,当該原子炉施設のアクシデントマネージメントの実施方針について行政庁から報告を受け,検討することとする。 ③ 上記①及び②の際には,当該原子炉施設に関する確率論的安全評価について行政庁から報告を受け,検討することとする。 ⑷ 第4項関係機関及び原子炉設置者においては,シビアアクシデントに関する研究を今後も継続して進めることが必要である。さらに,当委員会としては,これら の成果の把握に努めるとともに所要の検討を行っていくこととする。 【丙C35】 2 資源エネルギー庁によるアクシデントマネジメント対応方針の取りまとめ平成4年7月,通産省資源エネルギー庁は,上記原子力安全委員会の決定等を踏まえ,シビアアクシデント対策としてのアクシデントマネジメントに関する今後の検討の進め方に関する対応方針を,「アクシデントマネジメントの今後の進 め方について」と題する文書に取りまとめた。 同文書においては,アクシデントマネジメン クシデントマネジメントに関する今後の検討の進め方に関する対応方針を,「アクシデントマネジメントの今後の進 め方について」と題する文書に取りまとめた。 同文書においては,アクシデントマネジメントの安全規制上の位置づけとして,①我が国においては厳格な安全規制により,原子力発電所の安全性は確保され,シビアアクシデントの発生の可能性は工学的には考えられない程度に小さいこと,②アクシデントマネジメントは,これまでの対策によって十分低くなってい るリスクをさらに低減するための,電気事業者の技術的知見に依拠する「知識ベース」の措置であり,状況に応じて電気事業者がその知見を駆使して臨機かつ柔軟に行われることが望ましいものであること,③これらのことから,通産省としては,現時点においては,アクシデントマネジメントに関連した整備がなされているか否か,あるいはその具体的対策内容の如何によって,原子炉の設置又は運 転などを制約するような規制的措置を要求するものではないことがそれぞれ明らかにされた。 【丙C37】第6 「津波常習地域総合防災対策指針(案)」の策定明治以来の津波対策は,主に津波から遠ざかる高地位点によって行われたが, 昭和35年のチリ地震津波は,前年の伊勢湾台風に続く海岸の大災害であったことから,急速な対策が求められ,各地で防潮構造物等の防災対策の建設が開始された。その結果,中規模津波であれば,防災構造物でほぼ完全に浸水を防止することができるようになり,昭和43年に発生した十勝沖地震津波では,できたばかりの施設が功を奏し,被害は極めて少なかった。 しかしながら,昭和50年代に入ると,東海地震の危険が叫ばれるようになり, 津波常襲地帯とみなされる場所(三陸地方)での津波対策のあり方を,発災前に前もっ 害は極めて少なかった。 しかしながら,昭和50年代に入ると,東海地震の危険が叫ばれるようになり, 津波常襲地帯とみなされる場所(三陸地方)での津波対策のあり方を,発災前に前もって検討しようという動きが現れた。検討の中では,チリ地震津波以降に建設された防潮堤の高さが本当に充分なものなのか,どのような津波を検討の対象とすべきなのかについても議論が行われ,建設省(当時)河川局と水産庁が共同で調査研究を実施し,昭和58年に「津波常習地域総合防災対策指針(案)」が取 りまとめられた。この指針(案)では,対象津波として,過去200年程度の間の確実な資料が数多く得られる津波のうちの最大のものを選ぶとされた。また,防災施設の整備基準は対象津波のレベルに達しないこともあり得るため,構造物によるハード面での津波対策だけでなく,それを上回った場合に備え,避難計画などソフト面での津波対策を統合した対策をする考え方が取り入れられ,防災構 造物,防災地域計画,防災体制の3分野における対策を組み合わせ,対象津波に対処することとされた。 【甲B2-1・374頁,丙C129】第7 北海道南西沖地震の発生及びこれを契機とする防災対策 1 北海道南西沖地震の発生 平成5年7月12日,北海道の南西沖においてM7.8の地震が発生し,奥尻島に巨大津波が押し寄せた(北海道南西沖地震)。これにより,200名を超える死者を出すこととなった。【丙C2】前記第6のとおり,昭和50年代以降,土木工学の進歩により構造物による津波対策が奏功している中,北海道南西沖地震においては,構造物(防潮堤)によ る津波対策がなされていたが,奥尻町青苗地区では,高さ約4.5mの防潮堤は完全に近い形で残ったものの,集落は跡形もなく流され,津波が引き起こした大 道南西沖地震においては,構造物(防潮堤)によ る津波対策がなされていたが,奥尻町青苗地区では,高さ約4.5mの防潮堤は完全に近い形で残ったものの,集落は跡形もなく流され,津波が引き起こした大火災により,津波では被災しなかった多数の家屋が焼失するなどの大きな被害が生ずることとなった。そのため,我が国では,北海道南西沖地震を契機として,構造物のみならず防災教育や避難訓練などのソフト面を組み入れた総合防災対 策が考えられることとなった。【丙C129・7頁以降,同号証資料①,同資料 ②】 2 資源エネルギー庁による津波安全性の評価報告指示及び被告東電の報告北海道南西沖地震の発生を受け,平成5年10月15日,資源エネルギー庁は,電事連に対し,原子力発電所の津波に対する安全性の評価方法及び内容の統一化を図る観点から,最新の安全審査における津波評価を踏まえ,既設発電所の津 波に対する安全性評価を改めて実施するよう指示した。 被告東電は,福島第一及び第二発電所について,文献調査による既往津波の抽出や簡易予測式による津波水位予測等を実施し,平成6年3月,資源エネルギー庁に対し,津波に対する安全性のチェック結果の報告として,「福島第一・第二原子力発電所津波の検討について」を提出した。同報告書にお いては,文献調査に基づき,三陸沖~房総沖で発生した地震のうち,津波の規模が比較的大きかったものとして,貞観地震(869年),慶長三陸地震(1611年),延宝房総沖地震(1677年),明治三陸地震(1896年)及び昭和三陸地震(1933年)があるところ,これらのうち,福島第一原発の敷地及び敷地周辺に比較的大きな痕跡高を残したと考えられる津波が慶長 三陸地震及び延宝房総沖地震であること,これら2つの津波と外 陸地震(1933年)があるところ,これらのうち,福島第一原発の敷地及び敷地周辺に比較的大きな痕跡高を残したと考えられる津波が慶長 三陸地震及び延宝房総沖地震であること,これら2つの津波と外国沿岸で発★生した1960年のチリ地震津波について,シミュレーションを行った結果,福島第一原発の護岸前面での最大水位上昇量は約2.1mになり,朔望平均満潮位(朔(新月)及び望(満月)の日から前2日後4日以内に観測された,各月の最高満潮位を1年にわたって平均した高さの水位)時(O.P.+1.3 59m)に津波が来襲すると,最高水位はO.P.+3.5m程度になるが,護岸の天端高は,O.P.+4.5mあり,主要施設の整地地盤高がO.P. +10.0m以上あるため,主要施設が津波による被害を受けることはないことなどが報告された。 【丙C4】 3 沿岸部所管省庁による津波対策の検討 北海道南西沖地震の発生を受け,農林水産省構造改善局,農林水産省水産庁,運輸省港湾局及び建設省河川局のいわゆる海岸4省庁(「4省庁」)は,平成6年度及び平成7年度に,「日本海東縁部地震津波防災施設整備計画調査」を実施し,日本海東縁部地域を対象として,過去に発生した地震・津波の規模及び被害状況を整理し,地震空白域において想定される地震・津波の規模を予測す るとともに,モデル地域を選定して,避難計画等のソフト対策を盛り込んだ総合的かつ効果的な津波防災施設の整備計画の検討を行い,基本的な考え方や検討方法を取りまとめた。【甲C1の1・「はじめに」】第8 阪神・淡路大震災の発生及び地震本部の設置平成7年1月17日,兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)が発生した。 同地震のM(マグニチュード)は7.3であり,死者6000人以上,負傷 阪神・淡路大震災の発生及び地震本部の設置平成7年1月17日,兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)が発生した。 同地震のM(マグニチュード)は7.3であり,死者6000人以上,負傷者4万3000人以上,高速道路や新幹線を含む鉄道線路なども崩壊するなどの大惨事となった。【丙C2】阪神・淡路大震災においては,事前に行われていた地震の調査研究の成果が国民や防災組織に十分に伝わっていなかったという反省が残された。【甲C6・1枚目】これを契機として,我が国の地震 調査研究を一元的に推進するため,同年7月,地震防災対策特別措置法に基づき,政府の特別の機関として地震本部が設置された(前記第2章第1節第5,4⑵[❶-17 頁]参照)。 第9 4省庁報告書等の策定 1 経緯 阪神・淡路大震災においては津波は発生しなかったが,仮に同震災において大規模な津波が発生していたとすると,その被害はより深刻なものになったに違いないと推測され,地震時の津波防災を決してゆるがせにできないとの問題意識から,前記のとおり,平成6年度及び平成7年度に,「日本海東縁部地震津波防災施設整備計画調査」が実施された。 そして,平成9年には,4省庁により,平成8年度の国土総合開発事業調 整費に基づき,「太平洋沿岸部地震津波防災計画手法調査」が実施された。同調査は,総合的な津波防災対策計画を進めるための手法を検討することを目的として,太平洋沿岸部を対象として,過去に発生した地震・津波の規模及び被害状況を踏まえ,想定し得る最大規模の地震を検討し,それにより発生する津波について,概略的な精度であるが津波数値解析を行い,津波高の傾 向や海岸保全施設との関係について概略的な把握を行ったものである。 同年3月,4省庁は,「太平 を検討し,それにより発生する津波について,概略的な精度であるが津波数値解析を行い,津波高の傾 向や海岸保全施設との関係について概略的な把握を行ったものである。 同年3月,4省庁は,「太平洋沿岸部地震津波防災計画手法調査報告書」(4省庁報告書)を取りまとめた。【甲C1の1,同1の2】 2 内容4省庁報告書には,概要以下の記載がある。 ⑴ はじめに今回の津波数値解析計算は極めて広い範囲を対象に津波高の傾向を把握することに主眼をおいているため,計算過程等を一部簡略化しており,各地域における想定津波計算結果は,充分精度の高いものではない。各地域における正確な津波の規模並びに被害予測を行うには,地形条件等につい て,よりきめの細かな情報のもとに実施する詳細調査を行うことが別途必要である。津波数値解析計算自体が,震源断層モデルや津波の初期波形,津波先端部の挙動などの設定の段階において様々な仮定を設けており,それらの仮定に基づいて計算されたものであること,津波数値解析計算は,使用する微分方程式の種類や差分の形式,計算格子の大きさ等に起因して 数値誤差が発生しやすいことから,計算結果は幅をもった値として理解すべきである。津波による想定被害の評価を行うに当たっては,沖合構造物の影響やより詳細な地形を考慮した検討が必要であるとともに,想定される津波が既存の施設を超えるかどうかということだけでなく,地形条件や土地利用の状況等から陸上を遡上する津波がどのように広がるかなど,よ り詳細な検討が必要である。想定津波が高い傾向を示した地域であっても, 上述した津波計算手法の特性から算出されたと考えられるので,よりきめ細かな情報のもとに詳細調査を行う必要がある。比較的想定津波高が低い傾向を示した地域 が高い傾向を示した地域であっても, 上述した津波計算手法の特性から算出されたと考えられるので,よりきめ細かな情報のもとに詳細調査を行う必要がある。比較的想定津波高が低い傾向を示した地域においても,想定を上回る津波が発生する可能性があるため,津波に対する備えは必要である。津波高さの予測を行う場合には,沿岸地域の特性に応じて,潮位変動などの海象を考慮することが必要とな る。既往津波や想定津波を対象として津波防災施設の整備を行う場合でも,想定を上回る津波が発生する可能性があることは否定できず,津波防災施設の整備に大きく依存した防災対策には限界がある。したがって,津波防災に関わる関係機関との調整,連携を十分図りつつ,まちづくりや防災体制といった分野の施策を有機的に組み合わせて総合的な津波防災対策の検 討,策定を行うとともに,住民,海岸利用者,企業,行政が,「自分の身は自分で守る」,「自分たちの町は自分たちで守る」という共通の基本認識のもとで津波防災を少しずつ津波に強い体質に変えていくことが重要である。 今後,海岸4省庁,関係省庁,都道府県,市町村は相互に連携を図りつつ,それぞれの役割に応じてハード対策とソフト対策を積極的に講じていくこ とが重要であり,特に各地域においては,本調査で示された「地域防災計画における津波対策強化の手引き」を参考として,総合的な津波防災計画の立案・検討を進められることを期待する。 ⑵ 対象津波の設定ア内容 津波防災計画策定の前提条件となる外力として対象津波を設定する。 対象津波については,過去に当該沿岸地域で発生し,痕跡高などの津波情報を比較的精度良く,しかも数多く得られている津波の中から,既往最大の津波を選定し,それを対象とすることを基本とする。ただし,近 象津波については,過去に当該沿岸地域で発生し,痕跡高などの津波情報を比較的精度良く,しかも数多く得られている津波の中から,既往最大の津波を選定し,それを対象とすることを基本とする。ただし,近年の地震観測研究結果等により津波を伴う地震の発生の可能性が指摘さ れているような沿岸地域については,別途現在の知見により想定し得る 最大規模の地震津波を検討し,既往最大津波との比較検討を行った上で,常に安全側の発想から沿岸津波水位のより大きい方を対象津波として設定するものとする。この時,必ずしも想定し得る最大規模の地震が最大規模の津波を引き起こすとは限らないことから,地震の規模,震源の深さとその位置,指向性,断層のずれ等を総合的に評価した上で対象津波 の設定を行う必要がある。【甲C1の1・42頁】イ解説従来から,対象沿岸地域における対象津波として,津波情報を比較的精度良く,しかも数多く入手し得る時代以降の津波の中から,既往最大の津波を採用することが多かった。 近年,地震地体構造論,既往地震断層モデルの相似則等の理論的考察が進歩し,対象沿岸地域で発生し得る最大規模の海底地震を想定することも行われるようになった。これに加え,地震観測技術の進歩に伴い,空白域の存在が明らかになるなど,将来起こり得る地震や津波を過去の例に縛られることなく想定することも可能となってきており,こうした 方法を取り上げた検討を行っている地方公共団体も出てきている。 本手引きでは,このような点について十分考慮し,信頼できる資料の数多く得られる既往最大津波と共に,現在の知見に基づいて想定される最大地震により起こされる津波をも取り上げ,両者を比較した上で常に安全側になるよう,沿岸津波水位のより大きい方を対象津波として 料の数多く得られる既往最大津波と共に,現在の知見に基づいて想定される最大地震により起こされる津波をも取り上げ,両者を比較した上で常に安全側になるよう,沿岸津波水位のより大きい方を対象津波として設定 するものである。 この時,留意すべきことは,最大地震が必ずしも最大津波に対応するとは限らないことである。地震が小さくとも津波の大きい「津波地震」があり得ることに配慮しながら,地震の規模,震源の深さとその位置,発生する津波の指向性等を総合的に評価した上で,対象津波の設定を行 わなくてはならない。 【甲1の1・238頁】⑶ 福島県沿岸地域における対象津波の設定結果ア地震地体構造論による地域区分太平洋沿岸における想定地震設定の地域区分として,地震地体構造論上の知見(1991年,萩原マップ。資料23(第6分冊))に基づき, 地体区分毎に既往最大のM(マグニチュード)を想定地震のMとして設定する。上記地体区分のうち福島第一原発に近接するのは,三陸沖の「G2」(概ね宮城県沖以北),「G3」(概ね福島県沖以南)の各領域である。 「G2」領域については,1896年明治三陸地震に基づき最大M8. 5と設定する。また,「G3」については,1677年延宝房総沖地震に 基づき,最大M8.0と設定する。【甲C1の1・10頁,156頁】イ想定地震の断層モデル震源断層モデルを設定するには,これを構成する各パラメータの値を求める必要があるところ,これらのうち,断層の長さ,幅,すべり量及び地震M(マグニチュード)の間には相似則(震源断層パラメータ相似 則)が成立することが過去の研究から明らかになっている。また,それ以外のパラメータ(断層深さ,傾斜角,すべり角)については地体区分ごとに平均 )の間には相似則(震源断層パラメータ相似 則)が成立することが過去の研究から明らかになっている。また,それ以外のパラメータ(断層深さ,傾斜角,すべり角)については地体区分ごとに平均的な値が存在する。 【甲C1の1・11頁,142~153頁】これらの知見を用いて,地体区分別最大M(マグニチュード)に対応する震源断層パラメータを求め,これを想定地震の断層モデルとする。【甲 C1の1・12頁,154~157頁】ウ想定地震の位置設定想定地震の断層モデルの位置については,断層の設置範囲を,各地体区分領域を網羅するようにする点などに留意しつつ,各地体ごとに,主な既往地震と想定地震の断層モデルの位置を複数設定する。【甲C1の 1・159~162頁】 エ津波傾向の概略的把握以上のとおり,既往地震と想定地震それぞれにつき断層モデル(波源モデル)を設定した上で,既往地震と想定地震の双方を対象に津波数値解析を実施する。【甲C1の1・16頁,168~203頁】その結果,福島第一原子力発電所5,6号機が所在する福島県双葉町 は,最大平均6.8m,1~4号機が所在する大熊町は,最大平均6. 4mの津波高さとなった。【甲C1の2・148頁「表-2(3)市町村別津波高と施設整備状況」】なお,上記津波解析の手法は簡易的なものであり,格子間隔(計算対象となる領域の最小単位)は,200mないし600mであった。【甲C 1の1・168頁】また,その計算結果については,統計的なばらつきが少なくないことが注記されている。【甲C1の1・201頁】⑷ 策定に関わった専門家4省庁報告書の策定に当たっては,学識経験者及び関係機関からなる「太平 洋沿岸部地震津波防災計画手法調査委員会 いことが注記されている。【甲C1の1・201頁】⑷ 策定に関わった専門家4省庁報告書の策定に当たっては,学識経験者及び関係機関からなる「太平 洋沿岸部地震津波防災計画手法調査委員会」が指導と助言を行った。同調査委員会には,委員長堀川清司(埼玉大学長)の他,地震学や防災工学の専門家である首藤伸夫,阿部勝征,相田勇らが委員に加わっていた。【甲C1の1・2頁】 3 7省庁手引き,津波災害予測マニュアル及び津波浸水予測図の策定 ⑴ 7省庁手引きの策定4省庁報告書においては,第5項として,「地域防災計画における津波対策強化の手引き」と称する部分が作成されている【甲Cの1の1・216頁,乙B4】。同部分は,防災に携わる行政機関が,沿岸地域を対象として地域防災計画における津波対策の強化を図るため,津波防災対策の基本的 な考え方,津波に係る防災計画の基本方針並びに策定手順等について取り まとめたものである。同部分は,後に,国土庁,農林水産省構造改善局,農林水産省水産庁,運輸省,気象庁,建設省及び消防庁(7省庁)の名義で独立した一つの手引きとして運用に供されている(いわゆる「7省庁手引き」)。【乙B4】7省庁手引きにおいて,対象津波の設定については,4省庁報告書の内 容が引用されている。また,「防災施設の耐震化・耐水化」の項においては,大津波の規模を正確に求めることは困難で,計画水準以上のものがあることを覚悟しておかなければならないこと,計画を上回る津波に対しても施設が破壊されることなく,防災効果が発揮されることが望ましいことが,それぞれ掲記されている。【乙B4・52頁】 ⑵ 津波災害予測マニュアルの策定北海道南西沖地震による津波被害を受けて,気象庁では,津波予測,津 効果が発揮されることが望ましいことが,それぞれ掲記されている。【乙B4・52頁】 ⑵ 津波災害予測マニュアルの策定北海道南西沖地震による津波被害を受けて,気象庁では,津波予測,津波情報の見直しを検討してきたところ,津波災害の一層の防止・軽減に寄与するため,津波予報に津波の高さに関する量的予測を導入することとし,準備を進めていた。 しかし,気象庁から発表される津波の高さの量的予測は,100㎞内外の範囲を対象とする広域的・平均的な情報となるため,地方公共団体が個々の海岸におけるきめ細かな津波災害対策を行うには,海岸ごとに津波の浸水予測値を算出した津波浸水予測図等を作成することが有効である。 そこで,津波に関する種々の対策が円滑に行えるよう,予測図の作成方法 等を明示し,7省庁手引きの別冊として地方公共団体に提示すべく,平成9年3月,財団法人日本気象協会は,国土庁,消防庁,気象庁の指導監督の下,「津波災害予測マニュアル」を取りまとめて公表した。【甲C55】同マニュアルの策定に当たっては,首藤伸夫,阿部勝征,佐竹健治ら地震学や防災工学の専門家が,調査委員として関与した。 津波災害予測マニュアルは,「数値計算の信頼度」として,数値計算結果 は数字として表示されるから,精密な検討であるかのような強い印象を与えるが,実際には,過去の津波の再現計算でさえ誤差を伴うのが普通であること,検証資料のない予測計算では,再現計算程度の誤差,あるいはそれ以上の誤差が入り込んでいることを覚悟しておかなくてはならないこと,まずもって,津波初期波形が,地震波の情報からは一意的にも正確にも定 まらないから,計算の初期条件において誤差の入り込む余地があること,次いで,海底地形図の精度や,用いる方程式の適 いこと,まずもって,津波初期波形が,地震波の情報からは一意的にも正確にも定 まらないから,計算の初期条件において誤差の入り込む余地があること,次いで,海底地形図の精度や,用いる方程式の適格性の観点から計算途中にも誤差の入り込む余地があること,さらには,再現計算の検証に使われる痕跡値や検潮記録の正確性にも問題があることなどに留意すべき旨に言及している。【甲C55・73頁】 ⑶ 国土庁の「津波浸水予測図」作成平成11年3月,国土庁は,財団法人日本気象協会と連名で,津波災害予測マニュアルに基づいて作成した「津波浸水予測図」を公表した(以下,4省庁報告書,7省庁手引き及び津波災害予測マニュアルと併せて「4省庁報告書等」という。)。【丙C72】 津波浸水予測図は,「津波浸水予測図の使用にあたって」の項において,同予測図が,気象庁から発表される量的津波予報に対応したもので,量的津波予報で予報された津波高さに対応した浸水域,浸水状況を知ることができるものであること,同予測図は,現実的に発生する可能性が高く,その海岸に最も大きな浸水被害をもたらすと考えられる地震を想定して作成 してあるが,実際には,同じ津波高さでも,津波の周期,震源の方向等によって,浸水状況は異なることがあること,海岸域で想定した津波高さは,最大10mとしているが,地域によっては10m以上の津波高さになることもあること,格子間隔は100mなので,それ以下の規模の地形(陸上,海底)は表現されていないこと,防波堤等の港湾構造物については,10 0m以上の規模をもつものは海岸地形として考慮されているが,標高を0 mとしているため,防波堤等による津波の遮へい効果は十分には表現されておらず,さらに,構造物上の浸水深は過大 0m以上の規模をもつものは海岸地形として考慮されているが,標高を0 mとしているため,防波堤等による津波の遮へい効果は十分には表現されておらず,さらに,構造物上の浸水深は過大評価されていること,陸上の土地利用の形態・構造物の高さについては考慮していないため,陸上の摩擦係数は一律の値を用いていることなどを注記している。 津波浸水予測図が公表した福島第一原発所在地近辺の予測結果は,設定 津波高が8m,6m,4m,2mの順に,資料21(第6分冊)の1ないし4のとおりである。 第10 長期評価の策定地震本部は,平成11年以降,全国を概観した地震動予測地図の作成を地震調査研究の主要な課題とし,また,陸域の浅い地震あるいは海溝型地震の発生可能性の 長期的な確率評価を行うべく調査研究を行っていたところ,平成14年7月31日,海溝型地震である三陸沖に発生する地震を中心にして,資料22(第6分冊)に示す三陸沖から房総沖までの領域を対象とし,長期的な観点で地震発生の可能性,震源域の形態等について評価して取りまとめた結果を,「三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価について」と題して公表した(長期評価)【丙C7】。なお, 「データとして用いる過去地震に関する資料が十分にないこと等による限界があることから,評価結果である地震発生確率や予想される次の地震の規模の数値には誤差を含んでおり,防災対策の検討など評価結果の利用に当たってはこの点に十分留意する必要がある」との注記が付されている。 長期評価には,以下の趣旨の記載がある。 1 地震の発生領域及び震源域の形態日本海溝沿いに発生する地震は,主に,本州が載っている陸のプレートの下へ太平洋側から太平洋プレートが沈み込むことに伴って,これら2つのプレート がある。 1 地震の発生領域及び震源域の形態日本海溝沿いに発生する地震は,主に,本州が載っている陸のプレートの下へ太平洋側から太平洋プレートが沈み込むことに伴って,これら2つのプレートの境界面(プレート境界面)が破壊する(ずれる)ことによって発生する。また,時によっては,昭和三陸地震のように太平洋プレート内部が破壊することによっ て起こることもある。 2 過去の震源域について三陸沖北部については,1677年以降現在までに,津波(最大の高さ約6m)の襲来を伴ったと推定される大地震が4回発生したと考えられる。 三陸沖北部以外の三陸沖から房総沖にかけては,同一の震源域で繰り返し発生している大地震がほとんど知られていないため,過去に発生が認められる地震等 を根拠として,震源域を資料22(第6分冊)のような領域に分けて設定した。 3 次の地震の発生位置及び震源域の形態について次の地震の発生位置(領域)及び震源域の形態は,大地震の記録が比較的多く残っている三陸沖北部については,大地震の発生状況を踏まえて,一番最近の昭和43年(1968年)十勝沖地震を当該海域で発生する代表例と考えた。 三陸沖北部以外の三陸沖から房総沖にかけては,震源域は特定できないものの,資料22に示したそれぞれの領域内のプレート境界付近(ただし,三陸沖北部から房総沖の海溝寄りのプレート内大地震(正断層型)に関しては,太平洋プレート内部)で発生する可能性が高いと考えた。 4 地震活動 歴史地震の記録や観測成果の中に記述された,津波の記録,震度分布等に基づく調査研究の成果を吟味した上,領域分けを行った個々の領域内において,繰り返して発生する最大規模の地震を固有地震として扱うこととし,それより規模の小さい地震や繰り返しのは 波の記録,震度分布等に基づく調査研究の成果を吟味した上,領域分けを行った個々の領域内において,繰り返して発生する最大規模の地震を固有地震として扱うこととし,それより規模の小さい地震や繰り返しのはっきりしない地震は固有地震としては扱わない。 5 過去の地震について ⑴ 三陸沖北部から房総沖の海溝寄りのプレート間大地震(津波地震)津波地震とは,断層が通常よりゆっくりとずれて,人が感じる揺れが小さくても,発生する津波の規模が大きくなるような地震のことである。長期評価においては,Mt(津波マグニチュード。津波の高さの分布を使って算出する地震の大きさの指標)がM(地震マグニチュード。地震動の大きさの分布を使っ て算出する地震の大きさの指標)に比べ0.5以上大きいか,津波による顕著 な災害が記録されているにもかかわらず顕著な震害が記録されていないものについて,津波地震として扱うこととした。 三陸沖北部から房総沖の海溝寄りの領域については,過去にM8クラスの地震がいくつか知られている。そのうち昭和三陸地震はプレート内で発生した正断層型の地震であり性質が異なる。 日本海溝付近のプレート間で発生したM8クラスの地震では,17世紀以降では,1611年の慶長三陸地震,1677年11月の延宝房総沖地震,1896年の明治三陸地震(中部海溝寄り)が知られており,津波等により大きな被害をもたらした。よって,三陸沖北部~房総沖全体では同様の地震が約400年に3回発生しているとすると,133年に1回程度,M8クラスの地震が 起こったと考えられる。これらの地震は,同じ場所で繰り返し発生しているとはいい難いため,固有地震としては扱わなかった。 なお,明治三陸地震についてのモデルを参考にし,断層の長さが日本海溝に沿って200㎞程 と考えられる。これらの地震は,同じ場所で繰り返し発生しているとはいい難いため,固有地震としては扱わなかった。 なお,明治三陸地震についてのモデルを参考にし,断層の長さが日本海溝に沿って200㎞程度,幅が約50㎞の地震が,三陸沖北部から房総沖の海溝寄り(日本海溝付近)の領域内のどこでも発生する可能性があると考えた。【丙 C7・10頁】⑵ 三陸沖北部から房総沖の海溝寄りのプレート内大地震(正断層型)過去の三陸沖北部から房総沖にかけてのプレート内正断層型大地震で,津波等による大きな被害をもたらしたものは,1933年の昭和三陸地震が唯一知られているだけである。したがって,過去400年に昭和三陸地震が1回のみ 発生したことから,このような地震は400年以上の間隔をもつと推定される。 一方,世界の沈み込み帯で発生する正断層型地震の総モーメントの推定から,このようなプレート内の正断層型の地震については,三陸沖北部~房総沖全体では750年に1回程度発生していると計算される。これらから三陸沖北部~房総沖全体ではこのような地震は400~750年の間隔をもって発生した と考えた。しかし,このようなプレート内正断層型大地震は,1回しか知られ ていない地震であるので,固有地震としては扱わなかった。 6 次の地震について⑴ 三陸沖北部から房総沖の海溝寄りのプレート間大地震(津波地震)M8クラスのプレート間の大地震は,過去400年間に3回発生していることから,この領域全体では約133年に1回の割合でこのような大地震が発生 すると推定される。ポアソン過程(ランダムに発生する事象を,確率変数を用いて記述したもの。)により,今後30年以内の発生確率は20%程度,今後50年以内の発生確率は30%程度と推定される。また,特定の と推定される。ポアソン過程(ランダムに発生する事象を,確率変数を用いて記述したもの。)により,今後30年以内の発生確率は20%程度,今後50年以内の発生確率は30%程度と推定される。また,特定の海域では,断層長(200㎞程度)と領域全体の長さ(800㎞)の比を考慮して530年に1回の割合でこのような大地震が発生すると推定される。ポアソン過程によ り,今後30年以内の発生確率は6%程度,今後50年以内の発生確率は9%程度と推定される。次の地震も津波地震であることを想定し,その規模は,過去に発生した地震のMt等を参考にして,Mt8.2前後と推定される。 ⑵ 三陸沖北部から房総沖の海溝寄りのプレート内大地震(正断層型)プレート内の正断層型の地震については,過去400年に昭和三陸地震1例 しかないことと,三陸沖海溝外縁の断層地形及び正断層型地震の総モーメントの推定から,三陸沖北部~房総沖の海溝寄りの全体について400~750年の間隔で発生していると考えられる。ポアソン過程を適用することにより,今後30年以内の発生確率は1~2%,今後50年以内の発生確率は2~3%と推定される。 7 信頼度について平成15年3月24日,地震本部は,長期評価の別添として,「プレートの沈み込みに伴う大地震に関する長期評価の信頼度について」(以下「長期評価の信頼度」という。)を公表した。【丙C10】上記長期評価の信頼度においては,長期評価について,評価に用いられたデー タは量及び質において一様でなく,そのためにそれぞれの評価結果についても精 粗があり,その信頼性には差があるとして,評価の信頼度を「A:(信頼度が)高い B:中程度 C:やや低い D:低い」の4段階にランク分けしている。 ⑴ ランクの意味合いについて も精 粗があり,その信頼性には差があるとして,評価の信頼度を「A:(信頼度が)高い B:中程度 C:やや低い D:低い」の4段階にランク分けしている。 ⑴ ランクの意味合いについて各信頼度のランクの具体的意味は以下のとおりである。 ア発生領域の評価について 「A」:過去の地震から領域全体を想定震源域とほぼ特定できる。ほぼ同じ震源域で大地震が繰り返し発生しており,発生領域の信頼性は高い。 「B」:過去の地震から領域全体を想定震源域とほぼ特定できる。ほぼ同じ震源域での大地震の繰り返しを想定でき,発生領域の信頼性は中程度である。 又は,想定地震と同様な地震が領域内のどこかで発生すると考えられる。想定震源域を特定できないため,発生領域の信頼性は中程度である。 「C」:発生領域内における大地震は知られていないが,ほぼ領域全体もしくはそれに近い大きさの領域を想定震源域と推定できる(地震空白 域。いわゆる海溝型地震など,プレート境界で発生する大地震は,その震源域が互いにほとんど重ならず,大地震が起こっていない領域を埋めるように次々と起こってゆく傾向がみられる。このように大地震の発生する可能性がある領域において,隣接する領域で大地震が発生しているにもかかわらず,まだ大地震が発生していない領 域を地震空白域という。)。過去に大地震が知られていないため,発生領域の信頼性はやや低い。 又は,想定地震と同様な地震が領域内のどこかで発生すると考えられる。想定震源域を特定できず,過去の地震データが不十分であるため発生領域の信頼性はやや低い。 「D」:発生領域内における大地震は知られていないが,領域内のどこかで 発生すると考えられる。ただし,地震学的知見が不十分なため発生領域の信頼性は め発生領域の信頼性はやや低い。 「D」:発生領域内における大地震は知られていないが,領域内のどこかで 発生すると考えられる。ただし,地震学的知見が不十分なため発生領域の信頼性は低い。 イ規模の評価について「A」:想定地震と同様な過去の地震の規模から想定規模を推定した。過去の地震データが比較的多くあり,規模の信頼性は高い。 「B」:想定地震と同様な過去の地震の規模から想定規模を推定した。過去の地震のデータが多くはなく,規模の信頼性は中程度である。 「C」:規模を過去の事例からではなく地震学的知見から推定したため,想定規模の信頼性はやや低い。 「D」:規模を過去の事例からではなく地震学的知見から推定したが,地震 学的知見も不十分で想定規模の信頼性は低い。 ウ発生確率の評価について「A」:想定地震と同様な過去の地震データが比較的多く,発生確率を求めるのに十分な程度あり,発生確率の値の信頼性は高い。 「B」:想定地震と同様な過去の地震データが多くはないが,発生確率を求 めうる程度にあり,発生確率の値の信頼性は中程度である。 「C」:想定地震と同様な過去の地震データが少なく,必要に応じ地震学的知見を用いて発生確率を求めたため,発生確率の値の信頼性はやや低い。今後の新しい知見により値が大きく変わりうる。 「D」:想定地震と同様な過去の地震データがほとんど無く,地震学的知見 等から発生確率の値を推定したため,発生確率の値の信頼性は低い。 今後の新しい知見により値が大きく変わりうる。 ⑵ 三陸北部から房総沖の領域に関する信頼度の認定長期評価の信頼度が認定した三陸沖北部から房総沖の領域に関する信頼度は,以下のとおりである。 ア三陸北部から房総沖の海溝寄りのプレート間大地震(津波地 ら房総沖の領域に関する信頼度の認定長期評価の信頼度が認定した三陸沖北部から房総沖の領域に関する信頼度は,以下のとおりである。 ア三陸北部から房総沖の海溝寄りのプレート間大地震(津波地震)について 発生領域の評価の信頼度C規模の評価の信頼度A発生確率の評価の信頼度Cイ三陸北部から房総沖の海溝寄りのプレート内正断層型大地震について発生領域の評価の信頼度C 規模の評価の信頼度B発生確率の評価の信頼度D第11 津波評価技術の策定平成14年2月,土木学会原子力土木委員会は,原子力施設の設計津波の設定について,これまでに培ってきた知見や技術進歩の成果を集大成して標準的な方 法を取りまとめたものとして津波評価技術(「原子力発電所の津波評価技術」)を策定して公表した。【丙C5の1~3】津波評価技術には,以下の趣旨の記載がある。 1 巻頭言【丙C5の1・1頁】 平成5年の北海道南西沖地震津波並びに平成7年の兵庫県南部地震を契機として,各方面で防災性向上の気運が高まり,原子力土木委員会においても,原子力発電所の一層の安全性向上に向けて「新立地部会-断層活動性分科会」,「耐震性能部会」,「津波評価部会」が活動を行っており,それぞれの部会において,最近の大地震に関する最新の知見等に基づき評価技術の高度化や標準化を図りつ つある。 津波評価技術は,津波評価部会の1年半にわたる活動の成果をとりまとめたものである。すなわち,これまでに培ってきた津波の波源や数値計算に関する知見を集大成して,原子力発電所の設計津波水位の標準的な設定方法を提案したものである。提案された手法の特徴は,津波予測の過程で介在する種々の不確定性を 設計の中に反映できることである に関する知見を集大成して,原子力発電所の設計津波水位の標準的な設定方法を提案したものである。提案された手法の特徴は,津波予測の過程で介在する種々の不確定性を 設計の中に反映できることである。本成果が,原子力発電所の耐津波設計はもと より,国,電力,社会の各方面で活用され,安全性向上と安心感の醸成に貢献できることを念ずる次第である。 2 設計津波水位評価の流れ【丙Cの5の2・1-4頁以下】⑴ 全体方針 設計津波水位の評価に当たっては,以下の全体方針を基本とする。 ア設計津波の対象について評価地点に最も影響を与える想定津波を設計想定津波として選定し,それに適切な潮位条件を足し合わせて設計津波水位を求める。 原子力発電所の設計津波水位の評価に当たっては,これまでは既往津波 (近地津波及び遠地津波)及び海域活断層に想定される地震に伴う津波をその対象としてきた。その後,平成5年の北海道南西沖地震津波を契機に,プレート境界付近及び日本海東縁部に想定される地震に伴う津波についても念のため検討すべきとの考え方が示されるようになり,参考的な位置づけではあるが,プレート境界付近及び日本海東縁部に想定される地震に伴う津波 の検討が徐々に行われるようになってきている。 一方,一般の海岸施設については,平成8年3月に「日本海東縁部地震津波防災施設整備計画調査報告書」(農林水産省ほか)が,平成9年3月に「太平洋沿岸部地震津波防災計画手法調査報告書」(農林水産省ほか)及び「地域防災計画における津波対策強化の手引き」(国土庁ほか)が発表され,上 記同様に,既往津波に加えてプレート境界付近及び日本海東縁部に想定される地震に伴う津波を検討対象とすることが述べられている。 本体系化原案では,上記のような最新 土庁ほか)が発表され,上 記同様に,既往津波に加えてプレート境界付近及び日本海東縁部に想定される地震に伴う津波を検討対象とすることが述べられている。 本体系化原案では,上記のような最新の津波評価に関する状況を考慮し,原子力発電所の津波に対する設計の信頼性を向上させるとの観点から,プレート境界付近,日本海東縁部及び海域活断層に想定される地震に伴う津波の 検討結果に基づき設計津波水位を評価することを基本とする。 イ想定津波の不確定性の考慮方針について想定津波の波源の不確定性を設計津波水位に反映させるため,基準断層モデルの諸条件を合理的範囲内で変化させた数値計算を多数実施し(パラメータスタディ),その結果得られる想定津波群の波源の中から評価地点に最も影響を与える波源を選定する。 想定津波の予測計算には次に挙げる不確定性や誤差が含まれるため,過小評価とならないように,設計津波水位はこれらの項目を取り込んだものとして評価される必要がある。 ① 波源の不確定性② 数値計算上の誤差 ③ 海底地形,海岸地形等のデータの誤差しかしながら,上記誤差をひとつひとつ分解して定量的に示すことは困難であること,将来発生する津波の波源を一つに限定することができないこと等から,本体系化原案では,断層モデルの諸条件つまり断層パラメータを合理的範囲内で変化させた数値計算を多数実施し(パラメータスタディ),そ の結果得られる想定津波群の中から,評価地点における影響が最も大きい津波を設計想定津波として選定することにより,上記①~③を考慮した設計津波水位を得ることができる。パラメータスタディによって設計想定津波の評価を行えば,既往津波の痕跡高を上回る十分な高さの津波が設定されるものと考えられる。 ウ り,上記①~③を考慮した設計津波水位を得ることができる。パラメータスタディによって設計想定津波の評価を行えば,既往津波の痕跡高を上回る十分な高さの津波が設定されるものと考えられる。 ウ設計想定津波の妥当性の確認方法について設計想定津波の妥当性の確認は,①評価地点において設計想定津波の計算結果と既往津波の計算結果を比較すること,②評価地点付近において想定津波群の計算結果と既往津波の痕跡高を比較することによって行う。 本体系化原案で示す評価手順にしたがって設計想定津波の評価を行えば, その設計想定津波は既往津波の痕跡高を上回る十分な高さを有するものと 考えられる。しかし,津波評価技術付属編で示した想定津波群による津波水位の評価例は,日本の全ての沿岸で検証したものではないことから,ここでは念には念を入れ,次の2項目により設計想定津波評価方法の妥当性の確認を行うことを原則とする。ただし,評価地点そのものに評価地点に大きな影響を与えたと考えられる既往津波の痕跡高が存在し,現在の海底・海岸地形 等と照らし合わせても有効と判断される場合には,設計想定津波の計算結果がその痕跡高を上回れば良く,この場合は下記及びを行わなくても良い。 評価地点において,設計想定津波の計算結果が既往津波の再現計算結果を上回ること。 評価地点付近において,想定津波群の計算結果の包絡線が既往津波の 痕跡高を上回ること。ただし,「評価地点付近」は,評価地点に大きな影響を与えたと考えられる既往津波の痕跡高の数と分布状況,評価地点との海岸・海底地形の類似性を検討の上,適切に設定するものとする。 なお,評価地点付近に痕跡高のない既往津波は検討対象から外してもよい。 なお,既往津波の痕跡高を上回ることを基準としていることは 海岸・海底地形の類似性を検討の上,適切に設定するものとする。 なお,評価地点付近に痕跡高のない既往津波は検討対象から外してもよい。 なお,既往津波の痕跡高を上回ることを基準としていることは,一見,設計想定津波が既往津波の痕跡高と同レベルであるように見えるが,提案する方法に基づいて計算される設計想定津波は,平均的には既往津波の痕跡高の約2倍となっていることが確認されている。 エ既往津波による評価方法の妥当性の確認について 前記アないしウに先立ち,既往津波の痕跡高の再現計算を実施することにより,数値計算に基づく評価方法の妥当性の確認を行う。 これまでは,既往津波と海域活断層に想定される地震に伴う津波のどちらか大きい方を原子力発電所の設計に用いてきた。すなわち,既往津波と海域活断層に想定される地震に伴う津波は対等な位置づけであった。 一方,本体系化原案では,新たに定義した想定津波(プレート境界付近, 日本海東縁部及び海域活断層に想定される地震に伴う津波)を設計津波水位の評価に適用するため,既往津波の位置づけがこれまでとは異なったものとなる。 一つめは,設計想定津波の妥当性の確認用データとしての位置づけである(前記ウ)。本体系化原案では,設計想定津波が十分なものであることを確 認する方法として,設計想定津波の計算結果が既往津波の計算結果又は痕跡高を上回ることを確認するという方法をとっている。既往津波を妥当性確認の尺度として採用する理由は,既往津波の痕跡高の中に,波源の不確定性や伝播経路における不確定性等のような想定津波で考慮すべき種々の不確定性が含まれると考えられるからである。 二つめは,波源の断層モデル,海底地形・海岸地形等のモデル化及び数値計算方法の妥当性確認用データとしての位置づけ ような想定津波で考慮すべき種々の不確定性が含まれると考えられるからである。 二つめは,波源の断層モデル,海底地形・海岸地形等のモデル化及び数値計算方法の妥当性確認用データとしての位置づけである。本体系化原案では,数値計算により想定津波を求めることを基本とするが,用いた断層モデル及び数値計算方法が良好な再現性をもたらすものであるかどうかについては,何らかの方法で確認されなければならない。日本沿岸は,過去に数多くの津 波を経験しており,一般的に比較するに十分な数の痕跡高があることから,既往津波の痕跡高は波源の断層モデル等の妥当性確認用データとして適する。相田(1977)は,痕跡高と計算値の空間的な適合度を表す指標に基づきこれらを確認する方法を提案しており,相田の方法は最も広く認められた確認方法であることから,本体系化原案でもこの考え方を採用する。 ⑵ 用語の定義ア設計津波水位設計に使用する津波水位を指し,設計想定津波の数値計算結果に適切な潮位条件を足し合わせたものを設計津波水位と定義する。 イ想定津波 プレート境界付近,日本海東縁部及び海域活断層に想定される地震に伴う 津波を想定津波と定義する。 ウ設計想定津波想定津波群のうち,評価地点に最も大きな影響を与える津波を設計想定津波と定義する。 エ基準断層モデル 各海域における地震の特性等を踏まえて適切に設定された,想定津波の数値計算を行うための断層モデルで,パラメータスタディを実施する際の基準となる断層モデルを基準断層モデルと定義する。 オパラメータスタディ想定津波の不確定性を設計津波水位に反映させるため,基準断層モデルの 諸条件を合理的と考えられる範囲で変化させた数値計算を多数実施することをパラメータス 定義する。 オパラメータスタディ想定津波の不確定性を設計津波水位に反映させるため,基準断層モデルの 諸条件を合理的と考えられる範囲で変化させた数値計算を多数実施することをパラメータスタディと定義する。 カ想定津波群パラメータスタディを行った想定津波の集合体を想定津波群と定義する。 ⑶ 既往津波の波源の設定 ア対象津波の選定文献調査等に基づき,評価地点に最も大きな影響を及ぼしたと考えられる既往津波を評価対象として選定する。評価地点に大きな影響を及ぼしたと考えられる既往津波のうち,概ね信頼性があると判断される津波を評価対象として選定する。 イ既往津波の断層モデルの設定既往津波の断層モデルについては,沿岸における津波の痕跡高をよく説明できるように断層パラメータを設定する。 ⑷ 想定津波の波源の設定(プレート境界付近に想定される地震)ア評価対象 プレート境界付近に将来発生することを否定できない地震に伴う津波を 評価対象とする。 イ基準断層モデル津波をもたらす地震の発生位置や発生様式を踏まえ,想定するMw(モーメントマグニチュード)に応じた基準断層モデルを設定する。 ウ波源位置 波源設定のための領域区分は,地震地体構造の知見に基づくものとする。 また,基準断層モデルの波源位置は,過去の地震の発生状況等の地震学的知見等を踏まえ,合理的と考えられる位置に津波の発生様式に応じて設定することができる。 日本列島周辺については,これまでに,様々な着眼点に基づいた地震地体 構造区分図が提案されている。これらのうち,海域まで区分され,津波評価にも適用し得るものとして萩原編(1991)の地震地体構造区分図がある(資料23(第6分冊))。 萩原編(1991)の地震 構造区分図が提案されている。これらのうち,海域まで区分され,津波評価にも適用し得るものとして萩原編(1991)の地震地体構造区分図がある(資料23(第6分冊))。 萩原編(1991)の地震地体構造区分図は,地形・地質学的あるいは地球物理学的な量の共通性をもとにした比較的大きな構造区分でとりまとめ られているが,過去の地震津波の発生状況をみると,各種構造区の中で一様に特定の地震規模,発生様式の地震津波が発生しているわけではない。 そこで,実際の想定津波の評価に当たっては,基準断層モデルの波源位置は,過去の地震の発生状況等の地震学的知見等を踏まえ,合理的と考えられるさらに詳細に区分された位置に津波の発生様式に応じて設定することが できるものとする。 エ最大Mw(モーメントマグニチュード)基準断層モデルの最大Mw(モーメントマグニチュード)は,津波をもたらす地震の発生位置や発生様式ごとに既往最大津波の痕跡高を説明できる断層モデルのMw(モーメントマグニチュード)と同等以上の値とする。 3 日本海溝沿い及び千島海溝(南部)沿い海域の想定津波の基準断層モデル設定方法日本海溝沿い及び千島海溝(南部)沿い海域では,津波地震,プレート内正断層地震,プレート間逆断層地震,プレート内逆断層地震が特定の場所に発生しており,それぞれが断層パラメータに特徴をもっている。したがって,想定津波の 断層モデル設定に際しては,既往津波の痕跡高を最もよく説明する断層モデルをもとに,位置とMw(モーメントマグニチュード)に応じた基準断層モデルを設定することとする。既往津波の痕跡高を説明できる断層モデルの位置は,資料24(第6分冊)のとおりである。【丙C5の3(付属編)・2-58頁】第12 津波評価技術に基づく福島第 た基準断層モデルを設定することとする。既往津波の痕跡高を説明できる断層モデルの位置は,資料24(第6分冊)のとおりである。【丙C5の3(付属編)・2-58頁】第12 津波評価技術に基づく福島第一原発に関する津波評価の被告国への報告 津波評価技術の刊行後,各電力事業者では自主的に津波評価を行い,電事連(電気事業連合会)にて取りまとめの上,保安院へ報告した。【甲B2の1・381頁】被告東電は,福島第一原発に関して行った津波評価の結果を「津波の検討―土木学会『原子力発電所の津波評価技術』に関わる検討-」と題した書面にとりまとめ【丙C6】,これを保安院に報告した。同書面には,以下の趣旨の記載が ある。 1 近地津波に関する波源モデル(基準断層モデル)の設定福島第一原発に与える影響を考慮し,資料25(第6分冊)に示す領域3,4,5,7及び8に波源を設定した。 2 パラメータスタディの結果 前記1のとおり設定した基準断層モデルを用いてパラメータスタディを実施した結果,設計想定津波による護岸前面の最大水位上昇量及び下降量は,福島第一原発において+4.446m(遡上域+4.288m)であった。 3 想定津波と既往津波との比較設計想定津波の護岸前面における最大水位上昇量は,既往津波(敷地に与える 影響が最も大きい津波として抽出されたチリ地震津波を再現)の最大水位上昇量 を上回っており,また,パラメータスタディを実施した想定津波群の敷地周辺における計算水位は,遠地津波を含む既往津波の痕跡高を全ての地点で上回っていることを確認した。 4 津波に対する安全性の評価(津波に対する敷地の安全性)津波の数値シミュレーション結果によれば,最大水位上昇量に朔望平均満潮位 (福島第一原発:O.P.+1.359 いることを確認した。 4 津波に対する安全性の評価(津波に対する敷地の安全性)津波の数値シミュレーション結果によれば,最大水位上昇量に朔望平均満潮位 (福島第一原発:O.P.+1.359m)を考慮した設計津波最高水位は,福島第一原発では近地津波でO.P.+5.4~+5.7m,遠地津波でO.P. +5.4m~+5.5mである。 これらの水位による福島第一原発の非常用機器への影響として,6号炉非常用ディーゼル発電機冷却系海水ポンプ(屋外設置)にて電動機据付レベル(O.P. +5.58m)を上回る。福島第一原発6号炉はエアフィンクーラー付(空冷式)ディーゼル発電機を有しているため,津波水位にかかわらず非常用電源の確保が可能であり,また万一の同ディーゼル発電機の不作動を想定しても隣接プラントからの電源融通により電源を確保することが可能である(後記第14,1[❷- 64 頁])。このことから,現時点でも安全確保は可能であるが,信頼性確保の観点 から同ポンプ電動機の軸を長尺化し,下側軸受設置レベルをかさ上げした構造への変更を計画していることから,実施可能な時期において速やかに対応することとする。 第13 長期評価を踏まえた保安院の対応【丙C168】 1 保安院からの質問前記第12のとおり,被告東電をはじめとする電気事業者は,津波評価技術に基づき,決定論的な津波評価を実施していたところ,保安院の原子力発電所安全審査課耐震班は,長期評価が発表された以上,改めて,これを原子力発電所の安全性確保に影響を与える可能性がある知見として取り扱うべきかどうかを確認 する必要があると考えた。そこで,遅くとも平成14年8月までに,同班担当者 は,被告東電に対し,①長期評価によれば,三陸沖から房総沖で今後30年 知見として取り扱うべきかどうかを確認 する必要があると考えた。そこで,遅くとも平成14年8月までに,同班担当者 は,被告東電に対し,①長期評価によれば,三陸沖から房総沖で今後30年以内に津波地震が発生する確率を20%と発表したが,原子力発電所は大丈夫か,②長期評価は,三陸沖から房総沖の海溝寄り領域においてどこでも津波地震が起こることを想定しているのに対し,土木学会は,福島沖と茨城沖では津波地震を想定していないがなぜかという2点について質問を行った。 2 被告東電の回答同年8月5日,東電担当者は,保安院を訪れ,保安院担当者に対し,上記各質問について以下のとおり回答した。 ⑴ 上記質問①について原子力発電所の設置に当たっては,安全設計審査指針に基づき,予想される 津波のうち最も過酷なものを想定して施設の設計を行っていること,最新の知見として津波評価技術に基づいて発電所の安全性を確認していることから,安全性に問題はない。 なお,土木学会が示した各領域の地震規模は,地震本部が発表した地震規模より大きいものとなっている。 ⑵ 上記質問②について福島~茨城県沖の海溝沿いでは,有史以来,津波地震が発生していない。また,谷岡勇市郎,佐竹健治「津波地震はどこで起こるか明治三陸津波から100年」(平成8年)(以下「平成8年谷岡・佐竹論文」という。)(後記第4節第3,1⑴[❷-208 頁])によれば,典型的なプレート間大地震が発生してい る領域の沖(海溝付近)では津波地震は発生せず,プレート間地震が発生していない領域の沖(海溝付近)では津波地震が発生することを,プレート境界面の結合の強さや滑らかさ,沈み込んだ堆積物状態の違いから説明している。以上のことから,土木学会の報告書では,福島~茨城沖の海溝 いない領域の沖(海溝付近)では津波地震が発生することを,プレート境界面の結合の強さや滑らかさ,沈み込んだ堆積物状態の違いから説明している。以上のことから,土木学会の報告書では,福島~茨城沖の海溝寄り領域において,津波地震を想定していない。 3 保安院からの指摘及び被告東電の再回答 ⑴ 保安院からの指摘被告東電の前記回答に対し,保安院担当者は,前記2⑵の回答については合理性があると理解したものの,同⑴の回答については,長期評価の見解に基づいた場合の津波高さがどのようなものになるかについて言及がなく,長期評価の見解を前提にシミュレーションをすべきと考え,福島~茨城沖も津波地震を 計算するべきであるとか,東北電力女川原発では,かなり南まで波源をずらして検討しているなどと指摘した。その上で,長期評価において,なぜどこでも津波地震が起こると考えられたのかという点について,被告東電において調査して保安院に再回答することとなった。 ⑵ 佐竹健治への照会 平成14年8月7日,被告東電担当者は,地震学者の佐竹健治(後記第4節第4,2⑴[❷-219 頁])に対してメールを送信し,長期評価によれば,三陸沖北部から房総沖の海溝寄りのプレート間大地震(津波地震)は,領域内のどこでも発生する可能性があるとされるのに対し,津波評価技術でも引用する佐竹健治の論文(平成8年谷岡・佐竹論文)によれば,典型的なプレート間地震 が発生している領域の海溝付近では地震(津波地震)が発生していないことが述べられているところ,津波評価技術に基づいて津波の検討を実施している被告東電としては,これと異なる見解が長期評価において示されたことに若干困惑していること,長期評価が上記のように考えた理由を教示されたいことなどを伝えた。 づいて津波の検討を実施している被告東電としては,これと異なる見解が長期評価において示されたことに若干困惑していること,長期評価が上記のように考えた理由を教示されたいことなどを伝えた。 これに対し,佐竹健治は,以下のとおりメールで回答した。 「津波地震については,その発生メカニズムなどまだ完全に理解されているわけではありません。谷岡・佐竹(1996)では,少なくとも日本海溝沿いでは1896年タイプの津波地震(注:明治三陸地震)が発生する場所と,通常のプレート間地震が発生する場所とは異なる,と述べました。ただ,これが どこまで一般的に成り立つかについては,可能性を述べ,今後の研究を待つ, と結論しました。推本(注:地震本部)の海溝型分科会では,1896年のほかに,1611(慶長津波)年,1677年(房総沖)の地震を津波地震とみなし(これには私を含めて反対意見もありましたが),400年間に3回の津波地震が起きている,というデータから確率を推定しました。また,津波地震については,海溝よりの海底下浅部で起きるという点では谷岡・佐竹を採用し ましたが,これは,先の1611年,1677年の津波地震の波源がはっきりとしないためです。今後の津波地震の発生を考えたとき,どちらが正しいのかと聞かれた場合,よくわからない,というのが正直な答えです。ただ,推本では少なくとも過去400年のデータを考慮しているのに対して,谷岡・佐竹では過去100年間のデータのみ(と海底地形)を考慮した,という違いはあり ます。」⑶ 被告東電の再回答同年8月23日,被告東電担当者は,別件の会合の終了後,保安院担当者に対し,前記⑴の照会について,口頭で以下のとおり回答した。 すなわち,被告東電担当者が,長期評価部会海溝型分科会委員である佐 答同年8月23日,被告東電担当者は,別件の会合の終了後,保安院担当者に対し,前記⑴の照会について,口頭で以下のとおり回答した。 すなわち,被告東電担当者が,長期評価部会海溝型分科会委員である佐竹健 治に,上記⑴の点について質問したところ,同人の返答は,同人は分科会で異論をとなえたが,分科会としてはどこでも起こると考えることになったというものであった。被告東電としては,津波評価技術に基づいて確定論的に津波の検討をするならば,福島~茨城沖には津波地震は想定せず,電力共同研究で実施する確率論的津波ハザード解析では,福島~茨城県沖で発生する津波を分岐 として扱うことはできるので,そのように対応したい。被告東電担当者の回答内容は以上のとおりであった。 これに対し,保安院は,被告東電の上記回答を合理的なものと認め,その後,特段の指摘や指示を行わなかった。 第14 各種アクシデントマネジメント策の策定及びその一環としての全交流電源 喪失事象に対する対応の検討 1 アクシデントマネジメント策整備結果についての評価経済産業省は,平成4年5月の原子力安全委員会決定としてアクシデントマネジメントの整備を強く奨励するとの決定(前記第5,1[❷-33 頁])を契機として,電力事業者に対し,「原子力発電所が設計基準事象を超えた場合において炉心が大きく損傷するいわゆる過酷事象(シビアアクシデント)に拡大するのを 防止し,もしくは影響を緩和するためにとられるアクシデントマネジメント」【丙C42・1枚目】の整備を指示してきたところ,保安院は,平成14年3月末までに,既設52プラント全てにおいてアクシデントマネジメント整備が完了したとして,その旨及び電気事業者から提出された報告書の概要を発表した。【丙C42】 同 ,保安院は,平成14年3月末までに,既設52プラント全てにおいてアクシデントマネジメント整備が完了したとして,その旨及び電気事業者から提出された報告書の概要を発表した。【丙C42】 同年10月,経済産業省と保安院は,連名で,電気事業者から提出のあったアクシデントマネジメント整備に関する報告書に基づき,アクシデントマネジメントの整備状況,それらの整備上の基本要件への適合性及び既存の安全機能(安全設備)への影響について確認するとともに,アクシデントマネジメントの有効性を評価し,その結果を「軽水型原子力発電所におけるアクシデントマネジメント の整備結果について評価報告書」【丙C43】としてとりまとめた。 同報告書には,BWR(沸騰水型原子炉)原子炉施設に対して整備されたアクシデントマネジメント策として,代替注水(低圧注水系の作動に失敗した場合,既設の復水補給水系及び消火水系の水源及びポンプを有効活用することにより,原子炉への注水機能を向上させること。福島第一原発でいうところのFP系)や, 電源融通(複数基立地のメリットを活かして,隣接原子炉施設間で動力用交流電源の電源融通を可能にすることで,また,単独立地プラントに対しては高圧炉心スプレイ系専用のディーゼル発電機の電源を原子炉施設内で融通することで,電源供給能力を向上させること)などが掲記されている。 なお,原子力安全委員会は,上記電気事業者に対するアクシデントマネジメン ト策整備の指示の過程において,国内外で確率論的安全評価(PSA)及びシビ アアクシデントに関する事象進展の解明等の技術的知見が蓄積されてきたことを踏まえ,より的確かつ実効的な確率論的安全評価を踏まえた円滑なアクシデントマネジメント策整備が期待される旨を表明し,アクシデントマネジメント に関する事象進展の解明等の技術的知見が蓄積されてきたことを踏まえ,より的確かつ実効的な確率論的安全評価を踏まえた円滑なアクシデントマネジメント策整備が期待される旨を表明し,アクシデントマネジメント策整備を奨励していた。【甲C39,40】上記「軽水型原子力発電所におけるアクシデントマネジメントの整備結果について評価報告書」【丙C43】は,上述の経過 で,電力事業者が,既設原子炉施設のうちの代表炉について確率論的安全評価を実施し,それを踏まえて策定されたアクシデントマネジメント策の報告をとりまとめたものであった。 2 全交流電源喪失事象に関する検討原子力安全委員会は,アクシデントマネジメント策整備奨励に関する上記表明 に先立ち,平成2年8月,TMI原発事故等を踏まえて,「発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針」を定め,その後平成13年3月29日にICRP(「InternationalCommissiononRadiologicalProtection」の略。国際放射線防護委員会)による1990年勧告を受けて一部改訂がされた(以下「平成13年安全設計審査指針」という。)(後記第3節第3,4⑴[❷-195 頁])。 平成13年安全設計審査指針のうちの指針27は,「原子炉施設は,短時間の全交流動力電源喪失に対して,原子炉を安全に停止し,かつ,停止後の冷却を確保できる設計であること。」として,短時間のSBO(「StationBlackout」の略。 全交流電源喪失)に対応すべきことを定めている【甲B2の1・411頁】。 ここでいうSBOは,内部事象を起因事象とするものであり,外部事象は想定 していなかった。また,それまでの安全審査においては,慣行として,30分のSBO耐久能力の有無が問題となっていたが, ここでいうSBOは,内部事象を起因事象とするものであり,外部事象は想定 していなかった。また,それまでの安全審査においては,慣行として,30分のSBO耐久能力の有無が問題となっていたが,平成5年6月,原子力安全委員会は,原子力施設事故・故障分析評価検討会全交流電源喪失事象検討ワーキング・グループにおいて,我が国の原子力発電所におけるSBO耐久能力は,実力的にはBWR(沸騰水型原子炉)で8時間以上であるとの報告書をまとめた。同報告 は,被告東京電力の委託を受けて国内原子炉メーカーが行った直流蓄電池の耐性 に関する評価に基づいたものであった。【甲B2の2・323頁,甲C111】SBOに関する検討と並行して,原子力安全委員会は,前記1のとおり,事業者の自主的なアクシデントマネジメント策整備を強く要請・指示していたところ,被告東電は,平成6年3月までに,福島第一原発及び福島第二原発におけるアクシデントマネジメント策の検討を行い,さらに,平成14年5月までにその検討 結果を踏まえた各種アクシデントマネジメント策の整備を行って,その結果を保安院に報告した。その中で,福島第一原発及び福島第二原発においてSBOが発生した場合には,IC(非常用復水器)又はタービン駆動のRCIC(原子炉隔離時冷却系)及びHPCI(高圧注水系)により炉心を冷却しつつ外部電源を復旧し,非常用D/G(非常用ディーゼル発電機)を手動起動すること及び隣接す るプラント間で動力用の高圧交流電源(6900V)及び低圧交流電源(480V)を融通することが手順化されていた。【甲B2の1・434頁】以上のとおり,本件事故前の福島第一原発においては,仮にSBOが発生した場合の対策として,直流電源が最低でも30分(実力的には8時間)稼働することを前提に 順化されていた。【甲B2の1・434頁】以上のとおり,本件事故前の福島第一原発においては,仮にSBOが発生した場合の対策として,直流電源が最低でも30分(実力的には8時間)稼働することを前提に,その間,非常用冷却系を用いて原子炉を冷却しつつ各種交流電源を 復旧することが定められていた。 3 アクシデントマネジメント整備後の確率論的安全評価に関する評価平成14年1月,保安院は,前記1のアクシデントマネジメント整備結果についての評価を踏まえ,電気事業者に対し,代表炉以外の全ての原子炉施設についても炉心及び格納容器の健全性に関する確率論的安全評価を実施するよう要請 した。これを受けて,電気事業者は,平成16年3月,保安院に対し,「アクシデントマネジメント整備後確率論的安全評価報告書」を提出した。 平成16年10月,保安院は,電気事業者からの上記報告を踏まえ,その内容を評価した結果を「軽水型原子力発電所における『アクシデントマネジメント整備後確率論的安全評価』に関する評価報告書」【丙C45】としてとりまとめた。 その結果,前記1の代表炉に関する確率論的安全評価結果と対比した上,既設原 子炉のいずれについても,アクシデントマネジメント策の整備により安全性が向上していることを再確認できたと結論づけたが,他方,シビアアクシデントについては,物理現象的に未解明な事象もあり,国内外における安全研究等により有用な知見が得られた場合には,アクシデントマネジメントに適切に反映させていくことが重要であるとも指摘した。【丙C45・15頁】 第15 原子力安全委員会による安全目標の中間とりまとめ平成15年8月,原子力安全委員会は,安全目標を定めるべく,同委員会安全目標専門部会で検討していた内容を暫定的に取りまとめ,「安全 】 第15 原子力安全委員会による安全目標の中間とりまとめ平成15年8月,原子力安全委員会は,安全目標を定めるべく,同委員会安全目標専門部会で検討していた内容を暫定的に取りまとめ,「安全目標に関する調査審議状況の中間取りまとめ」と称してこれを公表した。ここでいう安全目標とは,国の原子力安全規制活動が事業者に対してどの程度発生確率の低い危険性まで管理 を求めるのかというリスク抑制水準を,確率論的なリスクの考え方を用いて定量的に示した目標のことをいう。【丙B13】 1 安全目標の検討の経緯原子力施設の安全確保に当たっては,その施設・設備の技術基準等に従って適切な設計余裕を見込む一方,放射性物質の拡散をもたらす可能性のある事象の発 生を想定し,その影響を防止又は緩和する安全系統を設置すること,さらには想定した異常な事故事象が起こった場合の影響緩和策を講じることというような取組でリスク管理が行われてきたところ,この場合,放射性物質の放散をもたらすどのような事象を想定するのかについては,どこまで起こりにくい事象を想定して必要な安全対策を講じるのかなどについて,過去の原子力施設の運転経験や 科学技術的な知見に基づく専門家の工学的判断に委ねられてきた。そのため,安全確保の工学的判断が正しいのか,なぜ安全と判断されているのか,定量的な根拠がはっきりしているのかなどの疑問から,国の安全性に関する判断が国民にとって分かりにくく,不透明であるなどの批判を生む理由の一つとされてきた。 こうした状況を踏まえ,国の安全規制活動が事業者に対してどの程度発生リス クの低いリスクまで管理を求めるのか,その水準を客観的に明示することにより, 社会に対する説明責任を果たし,安全規制をより合理的で透明性・整合性の取れたものに してどの程度発生リス クの低いリスクまで管理を求めるのか,その水準を客観的に明示することにより, 社会に対する説明責任を果たし,安全規制をより合理的で透明性・整合性の取れたものにすることを可能とすべく,安全目標という概念の導入が検討されることになった。 2 安全目標のとりまとめ内容前記「安全目標に関する審議状況の中間取りまとめ」には,次の趣旨の記載が ある。 ⑴ 安全目標の構成安全目標は,原子力安全規制活動のもとで事業者が達成すべき,事故による危険性(リスク)の抑制水準を示す定性的目標と,その具体的水準を示す定量的目標で構成するものとする。 リスクは,一般的に,望ましくない事象の発生確率とその事象による被害の大きさとの積和で表される。原子力利用に伴って発生することが考えられる被害には様々なものがあるが,被害を個人(例えば,あるグループの中の平均的個人)の健康被害で表す場合には,リスクはその発生確率で表される。 定量的目標の指標は,安全の水準を示す上で重要であるので,客観的であり, 健康被害が生じる可能性が完全には否定できない様々な活動に伴うリスクに共通するものであることが望ましいことから,これらの条件を満たす,公衆の個人死亡リスクを用いることとする。 このように安全目標を健康被害の発生確率の抑制基準として定めるのは,実際にそうした健康被害が生じることを容認するものではなく,安全目標をこの ように定めることによって様々な原子力活動に係るリスク管理者にそれぞれの分野で健康被害の可能性を抑制するために行うべき活動の深さや広さを共通の指標で示すことができるからである。 定量的目標が対象とする事故による影響の発生の可能性の原因事象としては,機器のランダムな故障や運転・保守要員の人的ミス等い ために行うべき活動の深さや広さを共通の指標で示すことができるからである。 定量的目標が対象とする事故による影響の発生の可能性の原因事象としては,機器のランダムな故障や運転・保守要員の人的ミス等いわゆる内的事象と, 地震及び津波・洪水や航空機落下等,いわゆる外的事象の両者を対象とする。 ただし,産業破壊活動等の意図的な人為事象は対象外とする。 定量的目標の指標として用いるのは公衆の平均的個人の死亡リスクとする。 第一の指標は最も高いリスクを受けると考えられる公衆,具体的には原子力施設の敷地境界付近の公衆の平均急性死亡リスクとする。そして,敷地境界からある距離の範囲の公衆の平均的がん死亡リスクを第二の指標とする。 なお,定量的目標は主として原子力施設の安全確保活動の深さと広さを決めるために用いられるので,原子力施設の種類ごとに,その施設に固有の重大な事故事象を選び,定量的目標に適合する事故事象の発生確率を性能目標として作成することを検討するものとする。 ⑵ 安全目標案の具体的内容 ア定性的目標案原子力利用活動に伴って放射線の放射や放射性物質の放散により公衆の健康被害が発生する可能性は,公衆の日常生活に伴う健康リスクを有意には増加させない水準に抑制されるべきである。 イ定量的目標案 原子力施設の事故に起因する放射性被ばくによる,施設の敷地境界付近の公衆の個人の平均急性死亡リスクは,年当たり100万分の1程度を超えないように抑制されるべきである。 また,原子力施設の事故に起因する放射線被ばくによって生じうるがんによる,施設からある範囲の距離にある公衆の個人の平均死亡リスクは,年当 たり100万分の1程度を超えないように抑制されるべきである。 ⑶ 課題定量的なリスク評価の結果には, 生じうるがんによる,施設からある範囲の距離にある公衆の個人の平均死亡リスクは,年当 たり100万分の1程度を超えないように抑制されるべきである。 ⑶ 課題定量的なリスク評価の結果には,一般に少なからず不確かさが伴う。これは,リスク評価の際の機器の誤動作や誤操作の発生確率の入力データや事故進展過程,事故影響発生過程に不確定性があるからである。リスク情報を活用した 意思決定は,その時点で利用可能な最善のデータに基づき行うものであるが, 不確かさを有するデータ等に基づいて評価した不確かさが明示されている評価結果は,不確かさが明示されていない結果に比べて何をどこまで信頼してよい結果であるのかが分かりやすい。そこで,より効果的で効率的なリスク管理を実現するために,信頼性データベースの充実及び更新や解析モデルの精度向上により,確率論的安全評価の不確実さを低減する努力が続けられると同時に, 不確かさについての記述も伴うリスク評価結果のピアレビューのあり方,さらには,不確実性の示された結果を効果的に活用して適切な意思決定を行う方法論についても,より合理的な方法を求めて検討が続けられることが望まれる。 第16 中央防災会議による日本海溝・千島海溝専門調査会(「日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に関する専門調査会」)の設置及び検討結果 1 日本海溝・千島海溝専門調査会(「日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に関する専門調査会」)の設置平成15年5月に宮城県沖を震源とする地震,同年7月に宮城県北部を震源とする地震,同年9月に十勝沖地震が発生し,特に東北・北海道地方における地震防災対策強化の必要性が認識されたことから,中央防災会議は,同年10月,当 該地域で発生する大規模海溝型地震対策を検討するため,地震学,地質学 勝沖地震が発生し,特に東北・北海道地方における地震防災対策強化の必要性が認識されたことから,中央防災会議は,同年10月,当 該地域で発生する大規模海溝型地震対策を検討するため,地震学,地質学,土木工学,建築学などの専門家14名からなる日本海溝・千島海溝専門調査会(「日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に関する専門調査会」)を設置した。【丙C11,丙C58・81頁】 2 日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措 置法に基づく推進地域の指定平成16年4月2日,日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法が制定され,平成17年9月1日に施行された。平成18年2月17日,同法に基づき,内閣総理大臣は,福島第一原発が所在する大熊町及び双葉町を含む地域について,日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震が発生 した場合に著しい地震災害が生ずるおそれがあるため,地震防災対策を推進する 必要がある地域(防災対策推進地域)として指定した(同法3条1項)。これにより,中央防災会議は,同地域について,日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震防災対策推進基本計画を作成し,その実施を推進することとなった(同法5条1項)。 【丙C59】 3 検討結果の報告 日本海溝・千島海溝専門調査会は,平成18年1月25日に報告を取りまとめ,「日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に関する専門調査会報告」と題して公表した。【丙C11】同報告には,以下の趣旨の記載がある。 ⑴ はじめに日本海溝・千島海溝周辺ではM(マグニチュード)7や8クラスの大規模地 震が多数発生し,1896年の明治三陸地震では約2万2千人の死者・行方不明者が発生するなど,主に津波により甚大な被害が発生している。 発生する地震 M(マグニチュード)7や8クラスの大規模地 震が多数発生し,1896年の明治三陸地震では約2万2千人の死者・行方不明者が発生するなど,主に津波により甚大な被害が発生している。 発生する地震の中には,約40年間隔で繰り返し発生する宮城県沖地震など,その切迫性が指摘されている。 また,地震のタイプは,M7前後のものからM8を超える巨大なもの,地震 の揺れのわりに大きな津波を発生するもの,プレート境界で発生するものやプレート内部で発生するものなど,多様なタイプの地震が発生している。 震源域が陸地から離れている地震が多いため,揺れによる被害は,これまで中央防災会議で扱ってきた,東海,東南海・南海地震などと比べると比較的小さいが,明治三陸地震のような巨大津波を伴う地震が発生している。また,千 島海溝沿いでは,約500年ごとに北海道の太平洋岸で10mを超える巨大な津波を発生させる地震が発生している。 平成15年5月に宮城県沖を震源とする地震,同7月に宮城県北部を震源とする地震,同9月に十勝沖地震が発生したことから,特に東北・北海道地方における地震防災対策強化の必要性が認識された。 以上の背景を踏まえて,中央防災会議では,当該地域で発生する大規模海溝 型地震対策を検討するため,専門家14名からなる日本海溝・千島海溝専門調査会(「日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に関する専門調査会」)を平成15年10月に設置した。 また,平成16年4月には「日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法」が制定され,日本海溝・千島海溝周辺海 溝型地震が発生した場合に著しい被害が生じるおそれがある地域を,日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震防災対策推進地域として指定し,国・地方公共団体・民間事業者等 制定され,日本海溝・千島海溝周辺海 溝型地震が発生した場合に著しい被害が生じるおそれがある地域を,日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震防災対策推進地域として指定し,国・地方公共団体・民間事業者等が,各種防災計画を策定するなどして,地震・津波災害を防止・軽減するための防災対策を推進していくこととなった。 日本海溝・千島海溝専門調査会では,北海道及び東北地方を中心とする地域 に影響を及ぼす地震のうち,特に日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に着目して,防災対策の対象とすべき地震を選定した。その上で,対象地震による揺れの強さや津波の高さを評価した。さらに,この評価結果をもとに被害想定を実施し,予防的な地震対策及び緊急的な応急対策などについて検討し,地震対策の基本的事項についてとりまとめた。 ⑵ 日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震の地震像ア日本海溝沿い,千島海溝沿いで発生した地震日本海溝・千島海溝周辺の領域では,地震規模から見るとM7前後のものからM8を超える巨大なもの,発生機構から見るとプレート境界で発生するものやプレート内部で発生するもの,また,地震の揺れのわりに大きな津波 を発生するいわゆる“津波地震”等,多様なタイプの地震が発生しており,繰り返しの特性についても様々である。 これらの地震については,震度分布,津波高さの過去のデータが十分ではないものもあるが,観測データの蓄積,調査研究の進展等により,当該領域で発生する地震についての知見が継続的に積み重ねられてきており,これら 最新の成果を逐次取り入れつつ当該領域で発生した大規模な地震について, 地震動の強さ,津波の高さ等の推定を行うとともに,防災対策の検討対象とすべき地震を整理した。 整理に当たっては,過去に実際に発生した地震に基づいて検討を で発生した大規模な地震について, 地震動の強さ,津波の高さ等の推定を行うとともに,防災対策の検討対象とすべき地震を整理した。 整理に当たっては,過去に実際に発生した地震に基づいて検討を行うことを基本とした。 イ調査対象領域の分類 調査対象領域は,過去の地震の震源域や現在の地震活動から見て,択捉島沖,色丹島沖,根室沖,釧路沖,十勝沖,三陸沖北部,三陸沖中部,宮城県沖,福島県沖,茨城県沖,房総沖の領域に大きく区分されているが,その領域内でさらに幾つかの区域に分かれて発生する地震,時に領域をまたがり発生する地震もある。 調査対象領域の分類については,地震調査研究推進本部地震調査委員会による「千島海溝沿いの地震活動の長期評価」及び「三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価」による分類を基本として,日本海溝・千島海溝専門調査会においては,1952年及び2003年の十勝沖地震の発生の特性を踏まえ,根室沖,十勝沖の領域を,根室沖,釧路沖,十勝沖の領域に分類 した。 ウ地震発生の特性日本海溝・千島海溝周辺で発生する地震は,プレートの境界で発生する地震(プレート間地震),プレート内で発生する地震(プレート内地震)に大別される。過去の地震資料から,繰り返し発生の可能性とその規模について, 以下のとおり整理した。 (ア) プレート間地震a 三陸沖北部の領域三陸沖北部の領域では,1856年M7.5,1968年M7.9,1994年M7.6の地震が発生している。 地震発生の仕組みから考え,この領域はM8クラスの地震が繰り返し 発生している領域と考えられる。 2003年十勝沖地震以降,三陸沖北部の領域で考えられているアスペリティ(普段は強く固着しているが,地震時には大きくすべる領 はM8クラスの地震が繰り返し 発生している領域と考えられる。 2003年十勝沖地震以降,三陸沖北部の領域で考えられているアスペリティ(普段は強く固着しているが,地震時には大きくすべる領域)のうち,北側のアスペリティの部位を残しその東側の領域がゆっくり滑っている可能性があるというGPS観測成果を利用した研究がある。こ のことから,北側のアスペリティの領域でのゆがみの蓄積が加速し地震発生に至る可能性が高まっているとの指摘がある。 b 三陸沖中部の領域三陸沖中部の領域では,大きな地震(M7程度以上)の発生が確認されていない。 c 明治三陸地震の領域明治三陸地震(M8.5)は,1896年に三陸沖の海溝寄りで発生した。この地震は,地震の規模のわりに揺れは小さく,巨大な津波が発生した,いわゆる“津波地震”である。 1611年慶長三陸地震は,明治三陸地震の震源域を含んだ領域で発 生したものと推定されることから,明治三陸地震の震源域の領域は,このタイプの津波地震(明治三陸タイプ地震)が繰り返し発生する領域と考えられる。 d (その余の領域については省略)(イ) プレート内地震 (省略)⑶ 防災対策の検討対象とする地震防災対策の検討対象とする地震としては,過去に大きな地震(M7程度以上)の発生が確認されているものを対象として考える。このことから,三陸沖中部の領域は除外される。 大きな地震が繰り返し発生しているものについては,近い将来発生する可能 性が高いと考え,防災対策の検討対象とする。ただし,震度分布が周辺の他の領域で発生する地震に包含されるものは除外する。このことから,択捉島沖の地震,色丹島沖の地震,根室沖・釧路沖の地震,十勝沖・釧路沖の地震,500年間隔地震,三陸 とする。ただし,震度分布が周辺の他の領域で発生する地震に包含されるものは除外する。このことから,択捉島沖の地震,色丹島沖の地震,根室沖・釧路沖の地震,十勝沖・釧路沖の地震,500年間隔地震,三陸沖北部の地震,明治三陸タイプ地震,宮城県沖の地震が検討対象となる。なお,浦河沖の地震は,十勝沖の領域の地震によりその震度が 包含されることから,検討対象から除外する。 大きな地震が発生しているが繰り返しが確認されていないものについては,発生間隔が長いものと考え,近い将来に発生する可能性が低いものとして,防災対策の検討対象から除外することとする。このことから,海洋プレート内地震,及び福島県沖・茨城県沖のプレート間地震は除外される。ただし,延宝房 総沖地震は,プレート間地震と考えられるが,それ以前の同じタイプの地震の発生は,現時点において確認されていない。このことから,現時点では繰り返し発生が確認されていない地震として区分する。今後,津波堆積物等の調査の進展を待って取扱いを検討することとする。 ⑷ 留意事項 防災対策の検討対象とはしないものの,過去に発生した以下の4つの地震については,次の点について留意が必要である。 ア 869年貞観三陸沖地震この地震により仙台平野で1000名が溺死したという記録があり,地域において防災対策の検討を行うに当たっては,このことに留意する必要があ る。 イ 1611年慶長三陸沖地震この地震の北側領域については,明治三陸地震の断層モデルの津波により防災対策の検討が行われることとなる。ただし,陸前高田市以南さらに福島県北部沿岸において津波が大きかったという史料があり,これらの地域にお いて防災対策の検討を行うに当たっては,このことに留意する必要がある。 ウ 1677 陸前高田市以南さらに福島県北部沿岸において津波が大きかったという史料があり,これらの地域にお いて防災対策の検討を行うに当たっては,このことに留意する必要がある。 ウ 1677年延宝房総沖地震この地震により,宮城県から千葉県及び八丈島に至る広範囲で津波が大きかったという記録があり,地域において防災対策の検討を行うに当たっては,このことに留意する必要がある。 エ 1933年昭和三陸地震 この地震による津波は,明治三陸地震に匹敵する規模であり,三陸沿岸の広い地域で3mを超える大きな津波があり,唐桑笹浜,綾里白浜などでは20mを超えるものであった。また,この地震は,えりも及び三陸南部に,歴史資料上最大の津波をもたらしたことにも留意する必要がある。 オなお書き なお,検討に当たり比較の対象とした過去の地震の震度や津波の分布は,当時の史料を基にしたものであるため,十分な精度があるとは限らない。また,シミュレーションによる想定は,地震発生のメカニズム等を背景にしたものではあっても,パラメータ等の取り方でかなり震度や津波の数値が異なる。 ⑸ 海岸での津波高さの最大値防災対策の検討対象とする地震による海岸での津波高さの最大値は,福島県双葉郡大熊町において5m(T.P.(=東京湾平均海面)基準)を超えない。 【丙C58・65頁】 4 防災の検討対象となる地震・津波の選定に関する議論状況 ⑴ 日本海溝・千島海溝専門調査会第2回会合中央防災会議の日本海溝・千島海溝専門調査会第2回会合においては,防災対策の検討対象とする地震についての審議がなされたが,この審議に先立って,事務局から「大地震発生の過去事例がなく,近い将来,地震の発生の恐れがあるとは肯定されないが,ただし可能性を否定もできないと 対策の検討対象とする地震についての審議がなされたが,この審議に先立って,事務局から「大地震発生の過去事例がなく,近い将来,地震の発生の恐れがあるとは肯定されないが,ただし可能性を否定もできないというものについては, 今後の調査研究の成果を踏まえて,必要な時点で適宜追加と見直しを行うこと としたい」という考え方が示された。【甲C32・11頁】これに対し,出席委員から,「まれに起こる巨大災害というものをここでは一切切ってしまったということになるということを覚悟しなければいけないということですね。」【甲C32・22頁】とか,「恐らく,多くの人とは言いませんけれども,多くの研究者は明治の三陸が繰り返すとは思っていませんし, 昭和の三陸が繰り返すとは思っていないけれども,あの程度のことは隣の領域で起こるかもしれないぐらいは考えているわけですね。そうすると,それが予防対策から排除されてしまって,過去に起きたものだけで予防対策を講じることになるのですねということですね。」【同・24ページ】とか,「やはり地震の歴史というか,自然の長大な時間に対して人間が見てきた時間が余りにも短い ということですね。何十万年,何百万年続いてきたことに対して,人間はわずか1200~1300年しか見ていないわけですから,今言われることはもっともだと私は思うのです。」【同頁】とか,「私も同じ考えを持つのですね。まれに起こる現象というのはわかっていないだけで,今委員が言われたように繰り返し間隔が長いので見ていないだけというふうに考えた方がよりリーズナブ ルだと私も思うのですね,サイエンスから見たら。そうすると,私たちが持っているデータ,情報は繰り返し間隔が非常に長いものについては,たまたま当たったものを見ている。それで,たまたま当たってい ルだと私も思うのですね,サイエンスから見たら。そうすると,私たちが持っているデータ,情報は繰り返し間隔が非常に長いものについては,たまたま当たったものを見ている。それで,たまたま当たっていない方が実は可能性は高いということを皆さん気にしているのだろうと思うのですね。」【同・25頁】などといった懸念の意見が示された。 これに対し,中央防災会議事務局は,「過去に実際に起こったことをベースに次のことを考えても,なかなかそこへいろいろな防災対策として人,時間,金を投資していくわけですから,その投資の一般的な合意の得られやすさというのは過去に起こったことをベースにしましたというのは得られやすい」【甲C32・29頁】などと回答した。 ⑵ 日本海溝・千島海溝専門調査会第3回会合 また,中央防災会議の日本海溝・千島海溝専門調査会第3回会合においても,検討対象とする地震について議論がなされたが,「ここで検討とする仕方と,それから推本の調査委員会で検討した内容が違う場合は,違う根拠をはっきり示さないと,一般の国民は混乱するだけになると思うのです。」【甲C33・18頁】との意見が出された。これに対し,別の委員から「同じ国が出すことに, 国民一般の誤解を招くような差があるとまずいということがありますが,1つ防災という視点と,それからそこに実際学問的な知見をどう活用していくかということになりますと,学問的知見の中にもかなり確立してきているものもあるし,まだかなりあいまいなものもある。なかなかこれを活用する場合に難しい点があろうかと思います。そういう意味で内閣府のこの作業は,あくまで防 災的な視点に立っての地震を見,かつ学問的な知見がどの程度まで確かなもので,あるいはどの程度まであいまいなものかという差をきちんと うかと思います。そういう意味で内閣府のこの作業は,あくまで防 災的な視点に立っての地震を見,かつ学問的な知見がどの程度まで確かなもので,あるいはどの程度まであいまいなものかという差をきちんと述べれば,これがある意味で形式的に推本の結果と内閣府の結果がイコーライズされるというか,そういう形式的な対応性というよりは,もともとの視点を防災にきちんと据え置きながら,学問的な知見がここまで来ていて,この辺はあいまいだ ということもきちんと書いて,どうせ学問的な知見も限界があり,極めてあいまいなものが多数あるわけですから,極めてあいまいなものであっても何とか防災に生かしていけるものならば生かしていきたい。なぜならば,5年,10年たてばそういう問題も解決していくという,そういう流れの中の作業で,これで終わりというものではないと思いますので,この時点ではこの程度のこと がいえるかもしれないという,その差をはっきりさせながら,なおかつ(中略)多角的になるべく誤解を避ける,誤解を生まないという工夫を随所にしていただければ,かなりすっきりするのではないかと思います。」との見解が示された。【甲C33・19~20頁】⑶ 繰り返しが確認されていない地震を防災対象から外すこととなった理由 上記のような日本海溝・千島海溝専門調査会の議論を踏まえ,最終的には, 一連の検討により防災対象とする地域が決まった後は防災計画の策定等が法律上義務化されていくところ,そのような行政行為を行うには,相当の説得力をもつ根拠が必要であるとの理由から,発生の可能性に関する十分な知見が得られていない地震・津波については,防災対象地震から除外されることとなった。【甲B2の2・307頁】 第17 原子力発電所における溢水事故及び問題事象の発生 の可能性に関する十分な知見が得られていない地震・津波については,防災対象地震から除外されることとなった。【甲B2の2・307頁】 第17 原子力発電所における溢水事故及び問題事象の発生平成3年頃以降,我が国及び海外の原子力発電所において,溢水を原因とする事故や問題事象が複数報告されていた。 1 平成3年の福島第一原発1号機の溢水事故平成3年10月30日,福島第一原発1号機タービン建屋の冷却水系海水管の 母管から分岐して原子炉給水ポンプ用空調機へ供給する配管の分岐部近傍に,約22㎜×40㎜の貫通穴があき,同所から海水が漏出して,タービン建屋地下1階の非常用D/G(非常用ディーゼル発電機)室に流入して非常用D/Gが水浸しになり,ほとんどの冷却系が機能不全に陥るという事故が発生した(以下「平成3年1号機漏水事故」という。)。同事故においては,外部電源が利用可能であ ったので,安全上の問題はそれほど甚大にならなかった。 【甲C91,92,126ないし129】 2 ルブレイエ原子力発電所の事故ルブレイエ原子力発電所(以下「ルブレイエ原発」という。)は,フランス中西部のジロンド河口に建設された原子力発電所である。 平成11年12月27日,ルブレイエ原発周辺において,強い低気圧と非常に強い突風(約56m/s)が潮汐と重なり,ジロンド河口に波が押し寄せた。風による大きなうねり波が既存の堤防内に氾濫し,ルブレイエ原発の一部が浸水した。同浸水により,同原発に所在する3プラントにおいて,同時に,扉,開口部,電線管貫通部を通じて浸水が広がり,地下にある重要ポンプ,モーター及び電気 系統が複数系列同時に機能喪失した上,送電網攪乱が同時に発生したこともあっ て,復旧に3ないし24時間を要するという事故が発生 て浸水が広がり,地下にある重要ポンプ,モーター及び電気 系統が複数系列同時に機能喪失した上,送電網攪乱が同時に発生したこともあっ て,復旧に3ないし24時間を要するという事故が発生した(以下「ルブレイエ原発事故」という。)。同事故においては,電源が復旧するまで,非常用D/Gによる電源供給が正常になされていた。 【甲C20,甲C49・添付資料2-2の3頁,甲C153,丙B41・6頁】 3 馬鞍山原子力発電所の事故 平成13年,台湾の馬鞍山(マアンシャン)原子力発電所(以下「馬鞍山原発」という。)において,海からの濃霧による絶縁劣化によって外部電源2回線が停止し,非常用D/G2台も起動に失敗したが,直流電源が残ったので炉心冷却が可能であり,共有できる非常用D/Gを系統に接続して2時間で復旧したという事故が発生した(以下「馬鞍山原発事故」という。)。原子力安全委員会及び保安 院は,同事故を受けて,被告東電に対し,検討・確認を指示した。 【甲C20,甲C49・添付資料2-2の3頁】 4 マドラス原子力発電所の事故平成16年12月26日,インドネシアのスマトラ島北部西方の海域で,M9. 0の超巨大地震が発生した(以下「スマトラ大地震」という。)。これによって生 じた津波は,インドネシア,タイ,インド及びアフリカ諸国のインド洋に面した各国の海岸に襲来し,世界全体で約27万人ともいわれる津波死者を出した。 同津波は,インドのマドラス原子力発電所(以下「マドラス原発」という。)にも押し寄せ,同原発2号機において,取水トンネルを通って海水がポンプハウスに入り,海水ポンプのモーターが水没して運転不能になる事故が発生した(以下 「マドラス原発事故」という。)。同事故においては,外部電源は利用可能であり,また,海 ネルを通って海水がポンプハウスに入り,海水ポンプのモーターが水没して運転不能になる事故が発生した(以下 「マドラス原発事故」という。)。同事故においては,外部電源は利用可能であり,また,海水ポンプを除き特段のプラント被害がなく,上記モーターは,浸水後数日間乾燥させて使用が可能になった。 【甲C20,甲C49・添付資料2-2の3頁,丙C15・4頁,丙C26の1】 5 キウォーニー原子力発電所の問題事象 平成17年11月7日,アメリカ原子力規制委員会(NRC)は,米国キウォーニー原子力発電所(以下「キウォーニー原発」という。)で低耐震クラス配管である循環水系配管の破断を仮定すると,タービン建屋の浸水後,工学的安全施設及び安全停止系機器(特に,非常用D/Gや開閉器といった電気機器)が故障することが判明するとの情報を事業者に通知した(以下「キウォーニー原発問題事 象」という。)。 【丙C15・6頁,丙C16,丙C26の1】第18 溢水勉強会の開催・検討平成15年以降,保安院とJNES(独立行政法人原子力安全基盤機構)(後記第3節第2,5⑷[❷-185 頁]参照)は,原子力発電所に係る国内外の事故や トラブルや安全規制に関わる情報を収集するとともに,これらの情報を評価し,必要な安全規制上の対応を行う目的で,定期的に安全情報検討会を開催していたところ,平成16年12月のマドラス原発事故を受け,平成17年6月8日に開催された第33回安全情報検討会において,外部溢水問題に関する検討を開始することとした。 また,平成17年11月のキウォーニー原発問題事象の報告を受け,保安院とJNESは,同月16日開催の安全情報検討会において,溢水に対する安全対策を検討項目に挙げた。 そこで,上記各事象に係る我 また,平成17年11月のキウォーニー原発問題事象の報告を受け,保安院とJNESは,同月16日開催の安全情報検討会において,溢水に対する安全対策を検討項目に挙げた。 そこで,上記各事象に係る我が国の現状を把握するため,平成18年1月,保安院,JNES,電気事業者等で構成する溢水勉強会が立ち上げられ,調査検討 を開始したこの溢水勉強会は,保安院とJNESで構成し,電気事業者,電気事業連合会,原子力技術協会及びメーカーは,オブザーバーで参加するというものであった。 【丙C15,16】 1 溢水勉強会の経過 ⑴ 第1回溢水勉強会 【丙C17の1,2】平成18年1月30日,第1回溢水勉強会が開催された。この際に配布された資料【丙C17の2】には,外部溢水,内部溢水に関する処理状況についてまとめた表が掲載されており,同表中,緊急度として,内部溢水に関するルブレイエ原発事故,キウォーニー原発問題事象の検討が「ニーズ高」,外部溢水 に対する津波溢水アクシデントマネジメント(浸かったと仮定しプラント停止,浸水防止,冷却維持の調査)も「ニーズ高」との整理がされていた。 同日の協議においては,内部溢水に関しては,①海外の原子力発電所の内部溢水事象の調査,②国内プラントの調査・検討,③PSA(確率論的安全評価)の確立を行い,外部溢水に関しては,想定を超える津波(土木学会評価超)に 対する安全裕度等について,代表プラントを選定し,①津波ハザードの評価(太平洋,日本海各々3地点程度),②機器・設備の脆弱性の評価,③津波PSA(確率論的安全評価)の高度化(津波リスクの明確化。5年計画),④アクシデントマネジメント策の必要性等の検討を行うものとされた。 このうち,津波溢水アクシデントマネジメント対策の検討にお 波PSA(確率論的安全評価)の高度化(津波リスクの明確化。5年計画),④アクシデントマネジメント策の必要性等の検討を行うものとされた。 このうち,津波溢水アクシデントマネジメント対策の検討においては,浸水 したと仮定して,プラント停止,浸水防止,冷却維持の調査を行うものとされ,また,対策検討のスケジュールとして,平成17年度から平成22年度までの期間を想定したスケジュール(中長期検討計画)が示されている。 そして,津波溢水に関しては,平成18年5月又は6月までの目標として,①代表プラントの津波ハザードの暫定評価,②代表プラント機器への影響評価, ③中長期検討計画の見直しを行うものとされた。 ⑵ 第2回溢水勉強会平成18年2月15日,第2回溢水勉強会が開催され,外部溢水に関する検討として,「想定外津波に対する機器影響評価の計画について(案)」と題する書面【丙C18の2】が示された。同書面には,「津波に対する安全性は,設 計条件において十分に確保されているものの,念のためという位置づけで,想 定外津波に対するプラントの耐力について検討を行う。最終的には,リスクとコストのバランスを踏まえた合理的な対策を立案することを目的とするが,今回想定外津波に対するプラントの耐力・対策コストについて概略的なイメージを持つため,代表プラントにて確定論的な検討を行うこととする。」との記載がある。 ア検討対象プラントの選定電気事業者側の検討対象プラントとして,BWR(沸騰水型原子炉)について,福島第一原発5号機,東北電力女川原子力発電所2号機及び中部電力浜岡原子力発電所4号機が選定され,PWR(加圧水型原子炉)について,北海道電力株式会社泊原子力発電所1号機,関西電力株式会社大飯原子力発 電所3,4号 電力女川原子力発電所2号機及び中部電力浜岡原子力発電所4号機が選定され,PWR(加圧水型原子炉)について,北海道電力株式会社泊原子力発電所1号機,関西電力株式会社大飯原子力発 電所3,4号機が選定された。このうち,福島第一,浜岡及び大飯の各発電所については,暫定的な津波ハザード評価結果を参考とし,それ以外のプラントは,想定波高を基に検討することとされたほか,プラントの現地調査を計画することとされた。 イ外部溢水検討の具体的な手順 上記「想定外津波に対する機器影響評価の計画について(案)」と題する書面【丙C18の2】によれば,想定外津波に対するプラント耐力や対策の要否の検討フローは,以下の手順によるとされた。 ① 津波水位の仮定例えば,敷地高さ+1m等といった現行設計津波高を超える水位を仮定 する。参考のため,可能なものは津波ハザード暫定評価を実施する。 ② 津波水位による機器影響評価津波水位による建屋,構築物,機器への影響範囲を段階的に整理し,現地調査により確認する。 ⅰ 屋外の機器,建屋,構築物への影響範囲の整理として,津波到達範 囲の検討と水没による機器の機能喪失の評価を行う。 ⅱ 建屋への浸水による機器への影響範囲の整理として,浸水範囲の検討と水没による機器の機能喪失の評価を行う。 ⅲ 上記の各影響が波及して機能喪失する機器の整理を行う。 ③ プラント冷温停止移行過程における影響評価地震スクラム(緊急停止)に続いて津波が来襲した場合と,独立事象と して津波が来襲した場合について,プラント冷温停止に至る過程を整理し,津波による機器の機能喪失の影響を整理する。 ④ 影響緩和のための対策の検討津波来襲による炉心損傷を防ぐための合理的な対策を検討する。 ⑤ 津波PS ついて,プラント冷温停止に至る過程を整理し,津波による機器の機能喪失の影響を整理する。 ④ 影響緩和のための対策の検討津波来襲による炉心損傷を防ぐための合理的な対策を検討する。 ⑤ 津波PSA(確率論的安全評価)の検討 ⑥ 対策要否の検討上記①から⑤の検討を踏まえた対策の要否を検討する。 なお,福島第一原発5号機が代表プラントに選定された理由としては,日本海溝に想定される津波の影響を考慮することができる場所であり,海水に依存しない非常用D/Gを採用する2号機,4号機及び6号機を除くと,5 号機がBWRの代表プラントとして考えられると記載されていた。 ウ内部溢水検討についての方針内部溢水に関する検討として,代表プラントの選定が行われ,平成18年6月までに代表プラントでの評価を行い,その結果を参考にして,その後全プラントでの評価を行うことが示され,平成18年6月までに詳細な検討ス ケジュールを作成することとされた。また,全プラントの評価には,代表プラントでの評価完了後約4年かかると予想された。内部溢水調査に関する代表プラントは,BWRについて福島第一原発4号機とされ,PWRについて大飯発電所3号機とされた。【丙C18の2】⑶ 第3回溢水勉強会 平成18年5月11日,第3回溢水勉強会が開催され,JNES及び電気事 業者がそれぞれ内部溢水及び外部溢水に関する調査状況の報告等をした。 外部溢水に関しては,電気事業者が代表プラントについて,前記「想定外津波に対する機器影響評価の計画について(案)」【丙C18の2】に従った影響評価の結果を報告した。このうち,福島第一原発5号機についての評価は,以下のとおりである。【丙C19】 ア津波水位の仮定O.P.+14m及びO.P.+10m 【丙C18の2】に従った影響評価の結果を報告した。このうち,福島第一原発5号機についての評価は,以下のとおりである。【丙C19】 ア津波水位の仮定O.P.+14m及びO.P.+10mを仮定した。前者は,敷地高さ(O. P.+13m。福島第一原発の1~4号機の敷地高さはO.P.+10mであったが,5,6号機の敷地高さはO.P.+13mであった。)+1.0mの水位であり,後者は,上記仮定水位と設計水位(O.P.+5.6m)と の中間の水位である。検討に当たっては,仮定水位の継続時間は考慮しない,すなわち長期間継続するものと仮定した。 イ津波水位による機器影響評価(ア) 屋外機器,建屋,構築物の影響敷地高さを超える津波に対して建屋に浸水する可能性があることが確 認された具体的な流入口としては,海側に面したタービン建屋(T/B)大物搬入口,サービス建屋(S/B。その場所は資料1(第6分冊)参照)入口等があり,機器については,津波水位O.P.+14m及びO.P. +10mの両ケースともに,非常用海水ポンプが津波により使用不能な状態となる。 (イ) 建屋への浸水による機器への影響津波水位O.P.+10mの場合には,建屋への浸水はないと考えられることから,建屋内への機器への影響はないが,津波水位O.P.+14mの場合は,タービン建屋(T/B)大物搬入口,サービス建屋(S/B)入口から流入すると仮定した場合,タービン建屋の各エリアに浸水し,電 源設備の機能を喪失する可能性がある。 (ウ) 上記影響が波及して機能喪失する機器津波水位O.P.+14mのケースでは,浸水による電源の喪失に伴い,原子炉安全停止に関わる電動機,弁等の動的機器が機能を喪失する。 ある。 (ウ) 上記影響が波及して機能喪失する機器津波水位O.P.+14mのケースでは,浸水による電源の喪失に伴い,原子炉安全停止に関わる電動機,弁等の動的機器が機能を喪失する。 ⑷ 第4回溢水勉強会平成18年5月25日,第4回溢水勉強会が開催された。この時,出席した 被告東電から,「確率論的津波ハザード解析による試計算について」と題する書面が提出された【丙C22の2】。同書面には,電力共通研究として,確率論的津波ハザード解析手法の検討を実施中であること,研究内容については土木学会原子力土木委員会津波評価部会で審議してもらうこと,現在は,ひととおりの評価モデルと評価手順を構築し,試計算が可能になった段階であること などが記載されている。 ⑸ 第53回安全情報検討会(平成18年8月2日)平成18年8月2日,経済産業省で安全情報検討会が開催され,JNESから,溢水勉強会における外部溢水に関する検討状況についての報告がされた【丙C26の1】。 その際,JNESは,福島第一原発5号機において,津波水位をO.P.+14mと仮定し,タービン建屋(T/B)大物搬入口,サービス建屋(S/B)入口から流入すると仮定した場合,タービン建屋の各エリアに浸水し,電源設備の機能を喪失する可能性があることを確認したこと,機能喪失する主な設備としては,ECCS(非常用炉心冷却設備),DG(非常用D/G),RCIC (原子炉隔離時冷却系)が挙げられることをそれぞれ報告した【丙C26の2】。 ⑹ 第7回以降平成18年9月19日,原子力安全委員会は,「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」を改訂した(以下「平成18年耐震設計審査指針」という。 後記第19,1⑴【❷-88 頁)。同指針は,「8.地震随伴事象に対する 19日,原子力安全委員会は,「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」を改訂した(以下「平成18年耐震設計審査指針」という。 後記第19,1⑴【❷-88 頁)。同指針は,「8.地震随伴事象に対する考慮」 の中で,津波に関して,「施設は,地震随伴事象について,次に示す事項を十 分に考慮した上で設計されなければならない。(1)施設の周辺斜面で地震時に想定する崩壊等によっても,施設の安全機能が重大な影響を受けるおそれがないこと。(2)施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性があると想定することが適切な津波によっても,施設の安全機能が重大な影響を受けるおそれがないこと。」と定めていた。 保安院は,翌20日,上記の改訂指針を受け,被告東電を含む原子力事業者等に対し,既設発電用原子炉施設について,改訂された耐震指針に照らした耐震安全性の評価を実施し,報告するように指示した (耐震バックチェック。後記第19,2[❷-90 頁])。 この指針の改訂及びバックチェックの実施を踏まえ,以後の溢水勉強会では, 内部溢水に関する事項が取り上げられることとなった。 2 溢水勉強会の調査結果平成19年4月,溢水勉強会は,溢水勉強会での検討結果を「溢水勉強会の調査結果について」と題する書面にとりまとめた【丙C16】。 しかし,前記1のとおり,耐震バックチェックにおいて,地震随伴現象として の津波評価が行われることとなったことから,同書面においては,溢水勉強会として,外部溢水に係る津波対応は耐震バックチェックに委ねることとする旨が記載された。 また,同書面には,福島第一原発5号機において津波による浸水の可能性がある屋外設備の代表例として,非常用海水ポンプ,タービン建屋大物搬入口,サー ビス建屋入口,非常 とする旨が記載された。 また,同書面には,福島第一原発5号機において津波による浸水の可能性がある屋外設備の代表例として,非常用海水ポンプ,タービン建屋大物搬入口,サー ビス建屋入口,非常用D/G吸気ルーバの状況について調査を行ったところ,タービン建屋大物搬入口及びサービス建屋入口については水密性の扉ではなく,非常用D/G吸気ルーバについても,敷地レベルからわずかの高さしかないこと,非常用海水ポンプは,敷地レベル(+13m)よりも低い取水エリアレベル(+4. 5m)に屋外設置されていること,土木学会手法(津波評価技術)による津波によ る上昇水位は,+5.6mとなっており,非常用海水ポンプ電動機据付けレベル は+5.6mと余裕はなく,仮に海水面が上昇し電動機レベルまで到達すれば,1分程度で電動機が機能を喪失(実験結果に基づく)すると説明を受けたことが記載されていた。 第19 耐震設計審査指針の改訂及び耐震バックチェックの指示 1 耐震設計審査指針の改定 昭和53年9月,原子力委員会は,発電用軽水型原子炉施設の設置許可申請に係る安全審査のうち,耐震安全性の確保の観点から耐震設計方針の妥当性について判断する際の基礎を示すことを目的として,発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針(耐震設計審査指針)を定めた。 その後,原子力安全委員会は,昭和56年以降の地震学及び地震工学に関する 新たな知見の蓄積等を踏まえ,平成13年6月,原子力安全基準専門部会に対し,耐震安全性に係る安全設計審査指針類について必要な調査審議を行い,結果を報告するよう指示した。これを受けて,同年7月,同部会に耐震指針検討分科会が設置され,耐震設計審査指針の改定作業に着手し,平成18年9月19日,原子力安全委員会において,新たな耐震設計審査 ,結果を報告するよう指示した。これを受けて,同年7月,同部会に耐震指針検討分科会が設置され,耐震設計審査指針の改定作業に着手し,平成18年9月19日,原子力安全委員会において,新たな耐震設計審査指針が決定された(「平成18年耐 震設計審査指針」)【丙A9】。平成18年耐震設計審査指針は,平成13年に改訂された耐震設計審査指針から,基準地震動についての策定方法が高度化され,耐震安全に係る重要度分類の見直し等が行われたものである。 平成18年耐震設計審査指針には,以下の趣旨の記載がある。 ⑴ 基本方針 耐震設計上重要な施設は,敷地周辺の地質・地質構造並びに地震活動性等の地震学及び地震工学的見地から施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性があり,施設に大きな影響を与えるおそれがあると想定することが適切な地震動による地震力に対して,その安全機能が損なわれることがないように設計されなければならない。さらに,施設は,地震により発生する可能 性のある環境への放射線の影響の観点からなされる耐震設計上の区分ごとに, 適切と考えられる設計用地震力に十分耐えられるように設計されなければならない。 また,建物・構築物は,十分な支持性能をもつ地盤に設置されなければならない。 ⑵ 基本方針についての解説 ア耐震設計における地震動の策定について耐震設計においては,「施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性があり,施設に大きな影響を与えるおそれがあると想定することが適切な地震動」を適切に策定し,この地震動を前提とした耐震設計を行うことにより,地震に起因する外乱によって周辺の公衆に対し,著しい放射線被 ばくのリスクを与えないようにすることを基本とすべきである。 これは,旧指針の「基本方 地震動を前提とした耐震設計を行うことにより,地震に起因する外乱によって周辺の公衆に対し,著しい放射線被 ばくのリスクを与えないようにすることを基本とすべきである。 これは,旧指針の「基本方針」における「発電用原子炉施設は想定されるいかなる地震力に対してもこれが大きな事故の誘因とならないよう十分な耐震性を有していなければならない」との規定が耐震設計に求めていたものと同等の考え方である。 イ 「残余のリスク」の存在について地震学的見地からは,上記⑴のように策定された地震動を上回る強さの地震動が生起する可能性は否定できない。このことは,耐震設計用の地震動の策定において,「残余のリスク」(策定された地震動を上回る地震動の影響が施設に及ぶことにより,施設に重大な損傷事象が発生すること,施設から大 量の放射性物質が放散される事象が発生すること,あるいはそれらの結果として周辺公衆に対して放射線被ばくによる災害を及ぼすことのリスク)が存在することを意味する。 したがって,施設の設計に当たっては,策定された地震動を上回る地震動が生起する可能性に対して適切な考慮を払い,基本設計の段階のみならず, それ以降の段階も含めて,この「残余のリスク」の存在を十分認識しつつ, それを合理的に実行可能な限り小さくするための努力が払われるべきである。 ウ地震随伴事象に対する考慮施設は,地震随伴事象について,次に示す事項を十分考慮した上で設計されなければならない。 (ア) 施設の周辺斜面で地震時に想定し得る崩壊等によっても,施設の安全機能が重大な影響を受けるおそれがないこと。 (イ) 施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性があると想定することが適切な津波によっても,施設の安全機能が重大な影響を受け ,施設の安全機能が重大な影響を受けるおそれがないこと。 (イ) 施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性があると想定することが適切な津波によっても,施設の安全機能が重大な影響を受けるおそれがないこと。 2 耐震バックチェックの指示平成18年耐震設計審査指針は,同指針改訂後の原子炉設置等許可処分の申請に対する安全審査において適用されるものであったところ,保安院は,平成18年9月20日,原子力事業者に対し,既設の発電用原子炉施設等について,改訂された耐震設計審査指針に照らした耐震安全性の評価を実施し,報告すること, 耐震安全性評価の実施に先立ち,評価に係る対象施設,期間等を示した実施計画書を作成し,作成後遅滞なく保安院に報告すること,「残余のリスク」について定量的な評価を実施することは,将来の確率論的安全評価の安全規制への本格的導入の検討に活用する観点から意義があるとする原子力安全委員会の指摘を踏まえ,発電用原子炉施設等について,耐震安全性の評価とは別に,「残余のリス ク」に関する定量的な評価等を行い,保安院に報告することを各指示した(耐震バックチェック)。【乙B1】同指示は,保安院が,行政指導として,既設の原子炉施設においても,原子炉施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性があると想定することが適切な津波によっても施設の安全機能が重大な影響を受けるおそれがないかどうかについての評価・報告を求めたものであった。 平成19年7月13日,原子力安全委員会事務局は,バックチェックに係る検 討の全体イメージを示した。同イメージ中において,被告東電が提出した耐震バックチェックの実施計画によれば,福島第一原発については,平成18年度に地質調査が行われ,平成21年6月までをめどとし 討の全体イメージを示した。同イメージ中において,被告東電が提出した耐震バックチェックの実施計画によれば,福島第一原発については,平成18年度に地質調査が行われ,平成21年6月までをめどとして地震随伴事象である津波に対する安全性評価を含めた耐震安全性評価が行われるものとされていた。【丙B16・3頁】 第20 新潟中越沖地震の発生及び耐震バックチェック見直し指示平成19年7月16日,新潟県上中越沖で,M6.8の地震が発生した(新潟県中越沖地震)。 同地震においては,被告東電の柏崎刈羽原子力発電所(以下「柏崎刈羽原発」という。)において,設計時の地震動を大きく上回る地震動が計測されたことの ほか,被告東電の消火活動に迅速さを欠いたこと,放射能を含む水の漏えいに関する関係省庁等への報告が遅れたということがあったことから,同月20日,経済産業大臣は,被告東電を含む電気事業者に対し,同地震から得られる知見を耐震安全性の評価に適切に反映するなどして,国民の安全を第一とした耐震安全性を確認するよう指示した。【丙C47】これを受けて,被告東電は,同年8月2 0日,従前提出していたバックチェック実施計画書を見直し,平成20年3月末までに,地質調査と基準地震動Ssの策定を概ね終了し,代表プラントを対象として,安全上重要な設備について安全性の評価を実施するとした。【丙C48】平成20年3月31日,被告東電は,保安院に対し,耐震バックチェック中間報告書(「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」の改訂に伴う耐震安全 性評価結果中間報告書)を提出した。【甲C175】保安院は,耐震バックチェックに係る審議を円滑に進めるため,資源エネルギー庁に設置されている総合資源エネルギー調査会の「原子力安全・保安部会耐震・構造設計 果中間報告書)を提出した。【甲C175】保安院は,耐震バックチェックに係る審議を円滑に進めるため,資源エネルギー庁に設置されている総合資源エネルギー調査会の「原子力安全・保安部会耐震・構造設計小委員会地震・津波ワーキンググループ」及び同小委員会「地震・地盤ワーキンググループ」による「合同ワーキンググループ」(エネ庁合同WG) を設置するなどして,バックチェック中間報告の妥当性について検討を行った。 その結果,平成21年7月21日,保安院は,福島第一原発5号機について,バックチェック中間報告上の基準地震動の妥当性,施設の耐震安全性評価の妥当性ともに,これらを肯認できるとの評価結果をとりまとめたが,これらバックチェック中間報告及びその評価には,地震随伴事象としての津波安全対策については何ら触れられていなかった。【丙C49】 また,原子力安全委員会は,同委員会に設置した耐震安全性評価特別委員会において,被告東電のバックチェック中間報告書の内容及びこれに対する保安院の評価について,保安院と並行して検討を進め,同年11月19日,これらをいずれも妥当なものと認める旨の見解をとりまとめたが,同見解中においても,地震随伴事象としての津波安全対策については何ら触れられていなかった。【丙C5 2】第21 JNES(独立行政法人原子力安全基盤機構)による津波時のシナリオ検討JNES(独立行政法人原子力安全基盤機構)では,決定論的安全評価手法(評価に当たって,想定した事象の起こりやすさにかかわらず,その事象の発生を想定して安全評価を行うこと。以下「決定論的安全評価」という。)を補完する有 益な情報を提供する手段として,外的事象のうちでも特に重要な地震事象を取り上げ,プラントの耐震安全性レベルを把握するために 安全評価を行うこと。以下「決定論的安全評価」という。)を補完する有 益な情報を提供する手段として,外的事象のうちでも特に重要な地震事象を取り上げ,プラントの耐震安全性レベルを把握するために確率論的安全評価手法の整備を実施してきたところ,平成18年耐震設計審査指針の改定及び耐震バックチェック指示を踏まえ,「残余のリスク」の評価の前提としての事故シーケンスの把握等の検討を進め,併せて,平成18年耐震設計審査指針で考慮すべき事項と して指摘されている地震時の随伴事象である津波PSA(確率論的安全評価)のモデルを構築する前提的な検討として,津波時の基本的なシナリオを検討し,平成20年8月,それらの結果を,「地震に係る確率論的安全評価手法の改良=BWRの事故シーケンスの試解析=」と題した報告書にとりまとめた。【甲C115】 同報告書によれば,「津波時のシナリオの検討」として,「津波到来時に影響を 受ける重要なプラント機器/構築物としては,海上の海水取水塔,砂丘/堤防を津波が超過した場合には屋外の海水ポンプ,起動変圧器,非常用DG燃料供給設備及び復水貯蔵タンク等の給水設備,さらに原子炉建屋内に浸水した場合は建屋内の炉心冷却に関連する機器が考えられること」,「この津波で影響を受ける機器/構築物の検討結果に基づいて,津波到来時の基本的なシナリオを津波遡上時と 引き波時に分けて検討したところ,津波遡上時に炉心損傷に至る可能性のあるシナリオは資料26-1(第6分冊)のとおりであり,具体的には,影響を受ける機器/構築物の組み合わせにより異なり,冷却用の海水取水が不可能になる場合,全交流電源が喪失する場合,炉心冷却系統が全機能喪失する場合が考えられること」,「これらの検討したシナリオに対応するイベントツリーは資料26-2 わせにより異なり,冷却用の海水取水が不可能になる場合,全交流電源が喪失する場合,炉心冷却系統が全機能喪失する場合が考えられること」,「これらの検討したシナリオに対応するイベントツリーは資料26-2(第 6分冊)のとおりであり,今後,シナリオの詳細化,試解析を行っていく予定であること」などが報告された。 第22 エネ庁合同WGにおける議論及びこれを受けた保安院の対応等 1 第32回エネ庁合同WG平成21年6月24日,第32回エネ庁合同WGが開催された。このとき,福 島第一原発及び同第二原発の敷地周辺の地質・地質構造及び基準地震動の策定に関し,被告東電において,プレート間地震の地震動評価につき,塩屋崎沖地震(昭和13年(1938年)に福島県沖で発生した地震)のみを考慮する立場から説明をしたところ,委員として出席していた岡村行信が,869年の貞観津波を挙げて,産総研や東北大の調査結果を踏まえ,「震源域としては,仙台の方だけでは なくて南までかなり来ていることを想定する必要がある,そういう情報はある,そのことについて全く触れられていないのは納得できない」と指摘した。さらに岡村行信委員は,平成20年に発表された貞観津波に関する佐竹論文【丙C29】の波源モデルにも言及しつつ,貞観地震を無視することはできないとも指摘し,もう一度審議することになった。 【丙C31の1】 2 第33回エネ庁合同WG平成21年7月13日,第33回エネ庁合同WGが開催された。このとき,被告東電は,貞観地震について検討を加えた結果,地震動に関しては塩屋崎沖地震の規模を上回らないと考えられると説明したが,岡村行信委員は,貞観地震は連動型地震と考えられること,塩屋崎沖地震やその北の宮城県沖地震をまたぐ形で 貞観地震を捉えるべ 震動に関しては塩屋崎沖地震の規模を上回らないと考えられると説明したが,岡村行信委員は,貞観地震は連動型地震と考えられること,塩屋崎沖地震やその北の宮城県沖地震をまたぐ形で 貞観地震を捉えるべきこと,塩屋崎沖地震より遠い所に貞観地震の震源モデルを考えるのは誤りであることを指摘した。これに対し,被告東電は,貞観地震についてはまだ情報を収集する必要があるので引き続き検討を進めたいと述べた。なお,同会合において,保安院耐震室安全審査官として出席していた名倉繁樹は,今回の中間報告においては,被告東電は津波の評価をまだ提出していないという こともあり,本報告で津波の評価もやってくるはずである旨述べた。【証人名倉・14~15頁】 3 原子力安全委員会のワーキンググループにおける貞観地震への言及平成21年8月7日,保安院と並行してバックチェック中間報告の内容を検討していた原子力安全委員会地震・地震動評価委員会及び施設健全性評価委員会ワ ーキング・グループ1は,第14回会議を開催した。 同会議において,保安院担当者は,同会議に先立つ同年7月21日に作成されていた被告東電の耐震バックチェック中間報告書に対する保安院の評価書(「耐震設計審査指針の改訂に伴う東京電力株式会社福島第一原子力発電所5号機耐震安全性に係る中間報告の評価について」【丙B2】及び「耐震設計審査指針の 改訂に伴う東京電力株式会社福島第二原子力発電所4号機耐震安全性に係る中間報告の評価について」【丙B3】)の内容を要約して報告したが,その中で,同担当者は「現在ということで,研究機関等により869年貞観の地震に係る津波堆積物や津波の波源等に関する調査研究が行われていることを踏まえ,当院は今後事業者が津波評価及び地震動評価の観点から,適宜当該調査研究の成果に応じ とで,研究機関等により869年貞観の地震に係る津波堆積物や津波の波源等に関する調査研究が行われていることを踏まえ,当院は今後事業者が津波評価及び地震動評価の観点から,適宜当該調査研究の成果に応じ た適切な対応をとるべきと考えるとしております。」と説明した。 【丙C55・23頁】 4 保安院から被告東電に対する津波評価の検討指示平成21年8月上旬頃,保安院の名倉繁樹安全審査官は,エネ庁合同WGでの上記議論を踏まえ,被告東電に対し,貞観地震等を踏まえた福島第一原発における津波評価,対策の現況について説明を要請した。 同月28日頃,被告東電は,保安院を訪れ,事前に作成した資料を使いながら,被告東電における福島第一原発の津波評価,対策の検討状況について説明した。 その際,被告東電は,貞観津波については,その知見が確定していないことから,電力共通研究として土木学会で検討してもらい,標準化すること,耐震バックチェックは,平成14年の津波評価技術に基づき実施すること,そのため,福島第 一原発のバックチェック最終報告には貞観地震を踏まえた対策検討が間に合わないが,土木学会による検討や今後実施予定の津波堆積物調査の結果を踏まえ,改めてバックチェックを実施し,必要があれば対策工事を行うという方針を伝えるとともに,想定津波の検討結果については,津波評価技術に基づいて算出したO.P.+5mから6mという波高を説明した。説明を受けた名倉繁樹安全審査 官は,上記波高の算出結果が貞観津波を考慮しないものであったことから,バックチェックの最終報告の段階で,貞観地震を踏まえた検討結果について何も触れないというわけにはいかないのではないかなどと述べ,被告東電に対し,貞観津波に関する佐竹論文に基づく波高の試算結果を改めて説明するよう クの最終報告の段階で,貞観地震を踏まえた検討結果について何も触れないというわけにはいかないのではないかなどと述べ,被告東電に対し,貞観津波に関する佐竹論文に基づく波高の試算結果を改めて説明するよう求めた。 これを受けて,被告東電担当者は,平成21年9月7日に保安院を訪れ,出席 した小林勝耐震室長及び名倉繁樹安全審査官に対し,貞観津波に関する佐竹論文に基づいて試算した波高の数値が,福島第一原発でO.P.+約8.6mから約8.9mまでとなったことを説明した(以下「平成21年報告」という。)。 【甲B2の1,丙C126】 5 保安院担当者のメールでのやり取り 平成22年3月19日,保安院原子力安全基盤担当審議官であった森山善範は, 部下に対し,「私が持っている資料では,1F3(注:福島第一原発3号機のことを指す。)の敷地レベルはO.P.+5.6mに対し,土木学会手法での評価では+5.5mです。S2評価なので,(どの地震を対象にしているかにもよりますが)もっと大きくなる可能性が高いです。(中略)東電はどのような対策を考えているのでしょうか。」とのメールを送信した。 同月23日頃,上記照会を受けて,小林勝耐震室長は,森山善範審議官に対し,津波堆積物の調査結果を踏まえ,近々シミュレーション解析結果が出ると思うが,貞観の地震による津波は簡単な計算でも,敷地高は超える結果になっている。防潮堤を作るなどの対策が必要になると思う。シミュレーション解析結果が出たら相談させていただくなどと報告した。 上記報告を受けて,森山審議官は,同月24日頃,福島第一原発3号機の耐震バックチェックに関わる関係者に対してメールを送信した。同メールには以下の記載がある。 「1F3の耐震バックチェックでは,貞観の地震による津 て,森山審議官は,同月24日頃,福島第一原発3号機の耐震バックチェックに関わる関係者に対してメールを送信した。同メールには以下の記載がある。 「1F3の耐震バックチェックでは,貞観の地震による津波評価が最大の不確定要素である旨,院長,次長,黒木審議官に話しておきました。私の理解が不正 確な部分もあると思いますが,以下のように伝えています。 ・最近貞観の地震についての研究が進んできた。 ・耐震バックチェックWGでも,貞観の地震に関する論文を考慮し検討すべきとの専門家の指摘を受け,地震動評価を実施している。 ・また,保安院の報告書には,今後,津波評価,地震動評価の観点から調査 研究成果に応じた適切な対応を取るべきだと書いており,と宿題になっている。 ・貞観の地震については,地震動による被害より,津波による被害が大きかったのではないかとの考えもある。 ・貞観の地震についての研究は,もっぱら仙台平野の津波堆積物を基に実施 されているが,この波源をそのまま使うと,福島に対する影響は大きいと思 われる。 ・福島は,敷地があまり高くなく,もともと津波に対しては注意が必要な地点だが,貞観の地震は敷地高を大きく超えるおそれがある。 ・東電は,WGでの指摘も踏まえ,福島での津波堆積物の調査を実施しているようだ。 ・貞観の地震についての佐竹他の研究は,たぶん今年度が最終年度で,今後,地震本部での検討に移ると思われる。そうすれば,今年の夏から来年にかけて,貞観の地震についての評価がある程度固まってくる可能性は高い。 ・ただし,貞観の地震による津波の評価結果は,原子力よりも一般防災へのインパクトが大きいので,地震本部での評価も慎重になる可能性もある。 ・ 1F3について,仮に中間報告に対す は高い。 ・ただし,貞観の地震による津波の評価結果は,原子力よりも一般防災へのインパクトが大きいので,地震本部での評価も慎重になる可能性もある。 ・ 1F3について,仮に中間報告に対する保安院の評価が求められたとしても,一方で貞観の地震についての検討が進んでいる中で,はたして津波に対して評価せずにすむかは疑問。 ・津波の問題に議論が発展すると,厳しい結果が予想されるので評価にかなりの時間を要する可能性は高く,また,結果的に対策が必要になる可能性も 十二分にある。 ・東電は,役員クラスも貞観の地震による津波は認識している。 というわけで,バックチェックの評価をやれと言われても,何が起こるかわかりませんよ,という趣旨のことを伝えておきました。」【甲C42・50~52頁】 第23 地震本部による長期評価の改訂平成21年3月9日,地震本部は,日本海溝沿いのうち三陸沖から房総沖までの領域を対象とし,長期的な観点で地震発生の可能性,震源域の形態等について評価してとりまとめた内容を,「三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価(一部改訂)」【丙C114】として発表した。同とりまとめ内容によれば,次 の地震の発生位置及び震源域の形態に関し,三陸沖北部及び茨城県沖以外の三陸 沖から房総沖については,震源域は特定できないものの資料22(第6分冊)に示したそれぞれの領域内のプレート境界付近(但し,三陸沖北部から房総沖の海溝寄りのプレート内大地震(正断層型)に関しては,太平洋プレート内部)で発生する可能性が高いと考えた【同・1頁】とされ,平成14年に発表された長期評価の内容が維持された。 第24 保安院による新たな科学的・技術的知見の継続的な収集等の取組平成21年5月,保安院は,最新の科学的 いと考えた【同・1頁】とされ,平成14年に発表された長期評価の内容が維持された。 第24 保安院による新たな科学的・技術的知見の継続的な収集等の取組平成21年5月,保安院は,最新の科学的・技術的知見を収集し,必要なものは原子力施設の耐震安全性評価に反映する等,耐震安全性の一層の向上に向けた取組を継続していくことなどを目的として,原子力施設の耐震安全性に係る新たな科学的・技術的知見の継続的な収集及び評価への反映の仕組みとして,「原子 力施設の耐震安全性に係る新たな科学的・技術的知見の継続的な収集及び評価への反映等について(内規)」を定めるとともに,この内規に基づく対応(科学的・技術的知見の収集,整理及び報告等)を原子力事業者(被告東電を含む。)及び原子力安全基盤機構に対して指示した。【丙C53】この指示に基づいて,原子力事業者ら及びJNESは,平成21年度(平成2 1年4月1日~平成22年3月31日)における,内外の論文・雑誌等の刊行物,学協会等報告,国の機関等の報告等から科学的・技術的知見を収集して整理の上,平成22年4月,これを保安院に報告した。【丙C54】平成22年12月16日,保安院は,上記報告をとりまとめて「原子力施設の耐震安全性に係る新たな科学的・技術的知見の継続的な収集及び評価への反映等 のための取組について」(平成21年度)と題する報告書を作成した。同報告書によれば,地震本部作成の「全国地震動予測地図」(長期評価の内容を含むもの)が,専門家の審議を踏まえて,「新知見情報」(国内原子力施設への適用範囲・適用条件が合致し,耐震安全性評価及び耐震裕度への変更が必要なもの)ではなく,「新知見関連情報」(原子力施設の耐震安全性評価に関連する新たな情報を含み, 耐震安全性の再評価や耐震裕度の評 囲・適用条件が合致し,耐震安全性評価及び耐震裕度への変更が必要なもの)ではなく,「新知見関連情報」(原子力施設の耐震安全性評価に関連する新たな情報を含み, 耐震安全性の再評価や耐震裕度の評価変更につながる可能性のあるもの)と位置 づけられていた。【丙B49・11頁】第25 平成23年3月7日のヒアリング平成22年以降,被告東電のバックチェック最終報告にむけた検討作業は大幅に遅延し,平成23年2月頃になっても,最終報告書は提出されていなかった。 平成23年2月22日頃,保安院は,文部科学省から,地震本部の長期評価に つき貞観地震に関する最近の知見も踏まえた改訂を平成23年4月頃行う予定であるとの情報を得た。 保安院は,国の機関である地震本部が貞観地震の知見を踏まえた長期評価の改訂を行えば,保安院として長期評価の改訂を踏まえた福島第一原発の安全性確保に関する説明を求められる事態に進展するおそれがあると考え,被告東電に対し, 長期評価が改訂される情報に接したことを告げるとともに,福島第一原発における津波対策の現状について説明を要請した。 平成23年3月7日,被告東電は,保安院におけるヒアリングに臨み,その際,「福島第一・第二原子力発電所の津波評価について」と題する資料【甲C8】を用いつつ,①津波評価技術で示されている断層モデルを用いた試算結果,②長期 評価に対応した断層モデル(明治三陸地震同様の地震が三陸沖北部から房総沖の海溝寄りの領域内のどこでも発生する可能性があると考えた場合)に基づいて試算した想定波高の数値,③貞観津波に関する佐竹論文に基づく貞観津波の断層モデルを用いた場合の想定波高の数値をそれぞれ説明した。 上記②の想定津波水位は,いずれも地盤面がO.P.+10mである1号機正 面海 の数値,③貞観津波に関する佐竹論文に基づく貞観津波の断層モデルを用いた場合の想定波高の数値をそれぞれ説明した。 上記②の想定津波水位は,いずれも地盤面がO.P.+10mである1号機正 面海側においてO.P.+8.7m,2号機正面において同9.3m,3号機正面において同8.4m,4号機正面において同9.3m,敷地南側において同15.7mであった。 また,上記③の想定波高は,福島第一原発でO.P.+8.7mから9.2mであった。 これに対し,保安院の担当者は,同年4月の地震本部の公表内容によっては保 安院から指示を出すこともあること,貞観津波が話題になると予想される女川原発のバックチェック最終報告の審議次第では,福島第一原発についても保安院から口答で指示を出すことがあり得ること,土木学会が津波評価技術の改訂をした後に福島第一原発の耐震バックチェック最終報告が提出されるのでは遅きに失するのでなるべく早く津波対策を検討して耐震バックチェック最終報告書を提 出すべきことを告げた。 【甲B2の1・404頁,甲C8】(以下本頁余白) 第2節認定事実(本件事故以降)前記前提事実に加え,証拠(判示中に掲記のもの)及び弁論の全趣旨によれば,本件事故発生及びそれ以降の事実関係として,以下のとおり認定することができる。 第1 本件地震・本件津波の発生平成23年3月11日,三陸沖でM9.0の本件地震が発生した。この地震に より,宮城県栗原市で最大震度7を観測したのをはじめ,東日本を中心に強い揺れに見舞われた。また,10m以上の高い津波及び広い浸水を東日本の太平洋沿岸で観測した。 本件地震の震源域は,日本海溝下のプレート境界面に沿って,岩手県沖から茨城県沖に及ぶ南北の長さ約450㎞,東西 に見舞われた。また,10m以上の高い津波及び広い浸水を東日本の太平洋沿岸で観測した。 本件地震の震源域は,日本海溝下のプレート境界面に沿って,岩手県沖から茨城県沖に及ぶ南北の長さ約450㎞,東西の幅約200㎞に及ぶ。 また,本件地震の震源は,宮城県牡鹿半島の東南東130㎞の地点であるが,ここで発生した岩石の破壊は震源から周囲に広がり,震源の東側の日本海溝に近い,海底に近い場所で最大すべり量50m以上の極めて大きい破壊が発生した。 本件地震は,複数の震源域がそれぞれ「連動」して発生したM9.0(世界観測史上4番目の規模)の巨大地震であり,本震規模では日本国内で観測された最 大の地震である。この地震に伴い発生した津波は,津波の大きさから求められるMt(津波マグニチュード)で9.1とされ,世界で観測された津波の中で4番目の規模であり,日本では観測された津波の中で過去最大規模であった。 【甲B2の1,丙C33,34】第2 本件事故の発生 1 津波の到来本件津波は,福島第一原発の敷地にも襲来し,その津波高さは,1~4号機主要建屋設置エリアにおいて,敷地高を上回るO.P.+約11.5mから約15. 5mであった。また,5号機及び6号機側主要建屋設置エリアの津波高さは,同じく敷地高を上回るO.P.+約13mから約14.5mであった。【甲B2の 1】本件津波は,平成23年3月11日午後3時27分頃及び同日午後3時36 分頃の二度にわたり,福島第一原発敷地に到達した。【丙C32・32頁】 2 本件地震発生直後の状況(以下,本項ないし第6項において判示する年月は,特に断らない限り「平成23年3月」である。また,時刻については,特に断らない限り24時間制で表記する。) 本件地震発生後,本件津波の襲 況(以下,本項ないし第6項において判示する年月は,特に断らない限り「平成23年3月」である。また,時刻については,特に断らない限り24時間制で表記する。) 本件地震発生後,本件津波の襲来により,福島第一原発1~4号機全てにおいてSBO(全交流電源喪失)が発生した,そして,1号機においては11日から,3号機においては13日から,2号機においては14日から,それぞれ炉心損傷などの過酷事故が進行した。その経過は資料27(第6分冊)本件事故経過一覧表のとおり【甲B2の2】であるところ,その概要は以下のとおりである。【甲B 3】⑴ 本件地震発生時のプラント稼働状況11日当日,福島第一原発では,1~3号機は通常運転中であり,4~6号機は定期点検中であった。したがって,定期点検中の4号機においては,燃料が全て使用済み燃料プールへ取り出されていた。 ⑵ 地震発生から電源喪失までの状況11日14時46分,本件地震が発生した。その後,被告東電本店及び福島第一原発免震重要棟に,それぞれ災害対策本部が設置された(被告東電本店につき「本店対策本部」,福島第一原発内につき「発電所対策本部」)。発電所対策本部には,本部長である吉田昌郎福島第一原発所長(吉田所長)以下,ユニッ ト所長,副所長のほか,炉主任,発電班,復旧班,技術班,保安班等の班長,班員が集合した。本店対策本部と発電所対策本部は,テレビ会議システムを通じて情報交換を行った。 同日14時47分頃,1~3号機の全ての原子炉において,原子炉自動スクラムが行われ,引き続き,各号機の運転員は,所内電源を外部電源へ切り替え るための操作を行った。しかし,本件地震によって,大熊線1L,2Lの発電 所側受電用遮断器等が損傷したため,外部電源が喪失し,1~3号 号機の運転員は,所内電源を外部電源へ切り替え るための操作を行った。しかし,本件地震によって,大熊線1L,2Lの発電 所側受電用遮断器等が損傷したため,外部電源が喪失し,1~3号機の全てにおいて非常用D/Gが自動で起動した。 ア 1号機の状況1号機では,同日14時52分にIC(非常用復水器)が自動起動したが,同日15時03分頃には,原子炉温度の急激な低下を避けるために手動で停 止され,その後同日15時30分頃まで,3回にわたってIC1系統の起動・停止を繰り返して原子炉圧力を制御する一方,仮に炉圧が上昇してSR弁(逃し安全弁)開操作による減圧が必要となる場合に備えて,S/C(圧力抑制室)の冷却を行うため,CCS(原子炉格納容器冷却系)を起動した。 イ 2号機の状況 2号機では,スクラムに伴い給水ポンプが停止したため,同日14時50分頃,運転員はRCIC(原子炉隔離時冷却系)を遠隔操作で起動した。しかし,その1分後,RCICは,原子炉の水位が高くなりすぎたことを検知して自動停止した。同日15時02分頃,運転員は,水位の動向を注意しながらRCICを再び遠隔操作で起動した。また,同日15時頃には,前記ア と同様,S/C(圧力抑制室)の冷却を行うため,RHR(残留熱除去系)をS/Cモードで起動した。 ウ 3号機の状況3号機においても,同日15時05分頃,運転員がRCIC(原子炉隔離時冷却系)を遠隔操作で起動した。その後,同日15時25分頃,原子炉水 位が上昇してRCICは自動停止した。 ⑶ 本件津波の到来及び電源喪失同日15時27分頃に本件津波の第1波が,同日15時35分頃に第2波が福島第一原発敷地に到来した。第2波は,津波高さO.P.+約11.5mから約15.5mであり,1~4号機の 波の到来及び電源喪失同日15時27分頃に本件津波の第1波が,同日15時35分頃に第2波が福島第一原発敷地に到来した。第2波は,津波高さO.P.+約11.5mから約15.5mであり,1~4号機の敷地高であるO.P.+10mを超えて 敷地内に海水が流入した。まず,海岸に近いO.P.+4m盤に設置されてい た非常用冷却系及び非常用D/G(非常用ディーゼル発電機)用の海水系ポンプが全て被水し,機能を喪失した。 次いで,海水は,タービン建屋の搬入扉や空気取入口等から各種建屋内にも浸水し,タービン建屋,コントロール建屋及び原子炉建屋の地下1階と中地下階が全面的に浸水して,多くの電源設備が被水した。1~4号機の非常用D/ Gは,各号機ごとに2台,4機合計8台あり,そのうち,2号機の1台と4号機の1台は,タービン建屋及び原子炉建屋から若干離れた場所にある共用プール建屋1階に設置されていたため,被水はしたものの機能喪失は免れたが,他の6台は,全てタービン建屋地下1階にあったため機能を喪失した(資料14(第6分冊)の「非常用ディーゼル発電機」の欄参照)。 また,1~4号機の配電盤については,共用プール建屋に設置されていたものも含め,M/C(高圧配電盤)の全てと多くのP/C(パワーセンター)が水没して機能を喪失した(資料14(第6分冊)の「非常用M/C」,「常用M/C」,「非常用P/C」及び「常用P/C」の各欄参照)。そのため,仮に外部電源や非常用D/Gによる交流電源が確保されていても(2号機と4号機の非 常用D/Gは,前記のとおり機能喪失を免れていた。),これを各種設備に給電することは困難な状況であった。 さらに,直流電源設備については,3号機のみ中地下階に設置されていて機能喪失を免れたが,その余は全て地下1階 記のとおり機能喪失を免れていた。),これを各種設備に給電することは困難な状況であった。 さらに,直流電源設備については,3号機のみ中地下階に設置されていて機能喪失を免れたが,その余は全て地下1階に設置されていて水没し,機能を喪失した(資料14(第6分冊)の「直流125V」の欄参照)。 3 電源喪失後の1号機の状況⑴ 全電源喪失及びその後のIC(非常用復水器)の動静1号機では,上記の経緯で,11日15時37分頃に,直流を含む全電源を喪失した。中央制御室は真っ暗となり,直流電源の喪失により,制御盤上の各種計測器も全て表示しなくなり,最重要パラメータである原子炉水位や原子炉 圧力がいずれも不明となった。 IC(非常用復水器)は,それまで運転員が起動と停止を繰り返しながら順調に機能していたが,全電源喪失と同時にフェールセーフ機能(前記第1節第1,2⑸ウ(イ)[❷-20 頁])により,4つあるバルブ全てに「閉」信号が発せられた結果,格納容器内にある4つの弁(A系統の1A,4A及びB系統の1B,4B)が,いずれも途中まで閉じた状態(中間開)に,格納容器外にある 4つの弁(A系統の2A,3A及びB系統の2B,3B)が,いずれも全部閉となった。【甲B3・73頁参照】そのため,ICは,冷却されるべき原子炉の高温蒸気が復水器に循環しなくなり,冷却機能はほぼ失われた。全電源喪失の直後,中央制御室の運転員も,吉田所長以下発電所対策本部の職員も,フェールセーフ機能によりICの機能が喪失された可能性があるということには 思いが至らなかった。 ⑵ 消防車による注水の準備同日16時42分頃,中央制御室では,原因は不明であるものの水位計が見えるようになっていることに運転員が気付いた。しかし,同水位計は,当初は「- 思いが至らなかった。 ⑵ 消防車による注水の準備同日16時42分頃,中央制御室では,原因は不明であるものの水位計が見えるようになっていることに運転員が気付いた。しかし,同水位計は,当初は「-900mm」を,14分後には「-1500mm」をそれぞれ表示したものの, その後ダウンスケール(計測範囲を下回ること)して計測不能となった。このような急速な水位低下の報を受け,同日17時15分頃,発電所対策本部は,このまま推移すればTAF(「TopofActiveFuel」の略。原子炉内燃料最上部)到達まで1時間と推定した。 全電源喪失下,アクシデントマネジメント策で準備されている代替注水手段 は,IC(非常用復水器)以外には,D/DFP(ディーゼルエンジン駆動の消火ポンプ)を駆動源とするFP注水系(消火系)しかない状態であった。吉田所長は,D/DFPを駆動源とするFP注水系の水源が,原子炉建屋から陸側に500m以上離れたろ過水タンクであったことから,ろ過水タンクから原子炉建屋に至る配管等について,地震による損傷を懸念し,同日17時12分頃,ア クシデントマネジメント策としては準備されていなかったものの,臨機の処置 として,消防車によるFP注水系からの注水の検討を行うよう指示した。このとき,発電所内には消防車が3台配備されていたが,うち1台は津波の影響で使用不能であり,もう1台は,駐車場所(6号機付近)から1号機原子炉建屋付近への通路が寸断されていて臨場困難であったため,注水に利用できる消防車は1台のみであった。 同日17時30分頃,中央制御室の当直運転員は,D/DFPの起動確認を行い,いつでも起動可能となるように待機状態とした。 ⑶ 放射線量異常の検知同日17時50分頃,運転員は,I あった。 同日17時30分頃,中央制御室の当直運転員は,D/DFPの起動確認を行い,いつでも起動可能となるように待機状態とした。 ⑶ 放射線量異常の検知同日17時50分頃,運転員は,IC(非常用復水器)の復水器タンクの水量を確認するため原子炉建屋に臨場したが,二重扉(タービン建屋側から原子 炉建屋に入る入口)付近で線量が2.5μSv/hという異常値を示したことから,中央制御室に引き返した。 ⑷ IC(非常用復水器)の弁の開閉操作同日18時18分頃,中央制御室の制御盤上,それまで消灯していたIC(非常用復水器)の状態を示すランプが一時的に復旧し,ICの弁が「全閉」であ ることを示すランプが点灯していた。運転員は,フェールセーフ機能によりICの弁が全て閉まっているかもしれないとも考えたが,そうではない可能性を期待して,格納容器外側にある2A,3A弁の開操作を制御盤上の遠隔操作で行い,その旨を発電所対策本部に報告した。さらに,運転員は,中央制御室から出て原子炉建屋越しに豚の鼻(前記第1節第1,2⑶イ(ア)b[❷-7 頁]) と呼ばれる水蒸気吹出口を目視し,はじめは少量の蒸気が確認できたが,その後見えなくなった。水蒸気発生量が少ない状況から,ICの機能に疑いをもった運転員は,復水器の冷却水が減少しているために蒸気が発生しなくなっており,このままICを運転し続けると配管破損の可能性があると懸念し,同日18時25分頃,3A弁の閉操作を制御盤上の遠隔操作で行い,その結果,2A 弁は開状態のままであったが,3A弁は閉状態となった。【甲B3・73頁参 照】もっとも,ICの機能的には,冷却水が数時間で枯渇することは考えにくいことであった。 ⑸ 圧力容器圧力の判明及び水位計の復旧同日20時頃,運転員 態となった。【甲B3・73頁参 照】もっとも,ICの機能的には,冷却水が数時間で枯渇することは考えにくいことであった。 ⑸ 圧力容器圧力の判明及び水位計の復旧同日20時頃,運転員は,協力企業から調達したり,所内の大型バスから外したりして調達した直流バッテリーを,直列で水位計に接続する作業を行った。 同日20時07分頃,運転員が原子炉建屋に入り,圧力容器の圧力が6.9MPagage であることを確認した。 同日20時50分頃には,運転員が,電動弁を手動で開操作するなどしてFP注水系の注水ラインを確立し,待機状態としていたD/DFP(ディーゼルエンジン駆動の消火ポンプ)を起動した。 同日21時19分頃,水位計が復旧して「TAF+450mm」を計測した。 しかし,同数値は誤動作によるものであり,この頃には,1号機の原子炉水位は既にTAFを下回っていた。 ⑹ IC(非常用復水器)弁の再度の開操作同日21時30分頃,当直運転員は,3A弁の「閉」状態を示すランプが再 び消えかかっていることに気付いた。そのため,運転員は,このままIC(非常用復水器)を停止させていると,バッテリー切れで再起動できなくなる危険性を懸念した。さらに,この頃には,復水器の冷却水が数時間の運転で枯渇することはないことが分かってきており,「豚の鼻」から水蒸気の発生が少ない原因は,復水器タンクの枯渇によるものではないとも考えられた。そこで,運 転員は,なおフェールセーフ機能によりICの他の弁が閉じている可能性も高いものの,ICが稼働できる可能性もゼロではないと考え,再び3A弁を制御盤から遠隔操作で開操作し,その結果,2A弁,3A弁とも開状態となった。 【甲B3・73頁参照】しかし,当初は蒸気が放出されるような音が聞こえた が稼働できる可能性もゼロではないと考え,再び3A弁を制御盤から遠隔操作で開操作し,その結果,2A弁,3A弁とも開状態となった。 【甲B3・73頁参照】しかし,当初は蒸気が放出されるような音が聞こえたが,まもなくそれも聞こえなくなり,運転員は,やはりICが機能していない との考えを有していた。 結局,ICのA系統の冷却水量は,通常時にタンクに確保する目標値80%から,本件事故後において65%まで減少するにとどまった。なお,ICのB系統においては,非常用冷却水量の減少はみられなかった。【甲B3・73頁】⑺ 放射線量の大幅上昇同日21時51分,原子炉建屋が高線量となり,吉田所長は原子炉建屋への 入室を禁止する指示を出した。また,同日22時20分頃,当直運転員が原子炉建屋に入ろうとしたところ,二重扉前で線量計が約10秒間で0.8mSv(1時間当たりに換算すると300mSv)を示したので,危険を感じて中央制御室に引き返した。 他方,同日22時頃には,水位計がTAF+550mm を表示した。この時点 で,運転員らが現に接していた情報に照らすと,水位が上昇する要素は存在していなかった。 ⑻ D/W(ドライウェル)圧力の異常検知同日23時50分頃,協力企業から調達した小型発電機を中央制御室に持ち込み,D/W(ドライウェル)圧力を測定したところ,0.60MPagage を示 した。D/Wを含む格納容器の設計圧力は,1号機について0.43MPagageであり,上記測定値は極めて高い値であった。 吉田所長以下発電所対策本部のスタッフは,上記報告を受け,IC(非常用復水器)が正常に機能しておらず,圧力容器から漏えいした水蒸気によって格納容器のD/W圧力が異常上昇していると考えるに至った。 ⑼ ベン 所対策本部のスタッフは,上記報告を受け,IC(非常用復水器)が正常に機能しておらず,圧力容器から漏えいした水蒸気によって格納容器のD/W圧力が異常上昇していると考えるに至った。 ⑼ ベント準備指示D/W圧力が0.6MPagage と異常に高い値であることの報告を受けた吉田所長は,ICが機能していないと認識した。そして,さらに圧力が高まっている可能性も考え,12日0時06分頃,躊躇することなく発電所対策本部の発電班及び復旧班に対し,1号機のベントの準備を進めるよう指示を出した。ま た,同時に,2号機についても事態の悪化に備えベント準備に入るよう指示し た。同日1時30分頃までに,本店対策本部は,1号機及び2号機のベント実施について,被告東電代表取締役社長清水正孝(当時。以下「清水代表取締役」という。)の了解を得た。また,首相官邸及び保安院にも申し入れを行い,間もなく総理大臣以下の了解も取り付けた。 ⑽ 消防車による注水準備 1号機のD/DFP(ディーゼルエンジン駆動の消火ポンプ)は,同日1時48分頃までに停止していることが確認された(原因不明)。このため,発電所対策本部は,残された注水手段は消防車しかないと考え,その本格検討を開始した。しかし,消防車による原子炉への注水は,事前には想定していない事態であったため,消防車を取り扱うことのできる従業員が被告東電スタッフの 中におらず,協力企業に高線量下かつ契約外の協力を依頼せざるを得なかったり,原子炉に注水可能な注水口の位置が不明であったため,その知識のある協力企業従業員を探すのに手間どるなどの問題に直面した。 ⑾ D/W圧力の急上昇及び圧力容器圧力の大幅低下同日2時30分頃,D/W圧力が0.84MPaabs(MPaabs は,MPa のある協力企業従業員を探すのに手間どるなどの問題に直面した。 ⑾ D/W圧力の急上昇及び圧力容器圧力の大幅低下同日2時30分頃,D/W圧力が0.84MPaabs(MPaabs は,MPagage から大気圧を控除した値。絶対圧力)との報告があった。 他方,同日2時45分頃,圧力容器圧力は0.8MPa と測定され,前日20時07分頃に測定された6.9MPa から大きく低下していることが分かった。 このように,圧力容器圧力が大きく低下し,格納容器圧力と近似した値を示したことから,圧力容器から大きな蒸気漏洩が生じていることはほぼ間違いな い状況となっていた。 ⑿ 消防車による淡水注入開始同日4時頃,消防車による淡水注入が開始された。その水源は,当初は消防車のタンク内の水そのものであり,それが枯渇すると,防火水槽で汲み取ってはピストン輸送するというものであった。 ⒀ 放射線量の上昇 同日4時23分頃,福島第一原発正門付近のモニタリングポストの放射線量が,0.59μSv/hに急上昇し,同日5時20分には約1.8μSv/hに達した。また,1,2号機中央制御室は,両号機中間に位置するコントロール建屋2階にあるが,5時頃には1号機に近づけば近づくほど線量が高い状態になっていた。そのため,運転員は,2号機側に移動し,身をかがめ床に座り込ん での待機を余儀なくされていた。 ⒁ 総理大臣の訪問同日7時11分頃,総理大臣が福島第一原発を視察に訪問した。 ⒂ ベント実施に向けた試行錯誤同日9時15分頃,作業員が1号機原子炉建屋2階に赴き,ベント弁(M/ O弁)を25%開いた。このとき,原子炉建屋2階ではまだ放射線量がそれほど高くなかったので,作業員が中に入り手動のハンドル操作で開操作する ,作業員が1号機原子炉建屋2階に赴き,ベント弁(M/ O弁)を25%開いた。このとき,原子炉建屋2階ではまだ放射線量がそれほど高くなかったので,作業員が中に入り手動のハンドル操作で開操作することが可能であった。 他方,同日9時24分頃,作業員が,ベント弁(AO弁の小弁)を手動で開けるため(1号機には,AO弁の小弁にも手動ハンドルが設置されていた。前 記第1節第1,2⑸エ(イ)a[❷-23 頁]),原子炉建屋地下1階のS/C(圧力抑制室)に向かった。しかし,既に地下1階が高線量となっていたため作業を断念し,中央制御室に引き返しを余儀なくされた。 手動によるAO弁(小弁)の開操作を断念した当直員は,同日10時17分頃,中央制御室において,配管内に残留している空気に期待して,制御盤から の遠隔操作による同弁の開操作を試みた(遠隔操作によるAO弁の開操作には,エアが必要である。前記第1節第1,2⑸エ(イ)a[❷-23 頁])。その後,いったんモニタリングポストの放射線量が上昇したという報告が入ったため,発電所対策本部ではベント成功と判断したが,同日11時15分頃には放射線量が再び下がったため,発電所対策本部は上記判断を訂正し,結局,この時点で はベントは成功しなかった。 ⒃ 消防車注水の水源変更への準備開始同日12時頃,吉田所長は,消防車による注水源である防火水槽の淡水が枯渇した場合に備え,海水を注入するための注水ラインを構築するよう指示を出した。そこで,被告東電従業員や関連会社の従業員は,現場付近に使える海水がないか探索した。そして,間もなく,3号機の逆洗弁ピット(復水器に海水 を逆向きに流し,付着物などを流し除去するための弁が設置されているプール状のくぼみ)に大量の海水が貯留していることを 海水がないか探索した。そして,間もなく,3号機の逆洗弁ピット(復水器に海水 を逆向きに流し,付着物などを流し除去するための弁が設置されているプール状のくぼみ)に大量の海水が貯留していることを発見した。 ⒄ ベント準備完了及びベント実施同日12時30分頃,AO弁の開操作に必要な可搬式エアコンプレッサーを協力企業から入手することができたが,小容量のものであったため,AO弁に より近く,線量の高くない原子炉建屋大物搬入口に設置することとなり,設置作業が進められて同日14時頃には接続・設置を完了した。 また,中央制御室においても,仮設照明用小型発電機(交流)を制御盤に接続し,上記可搬式エアコンプレッサーの起動後,制御盤の遠隔操作によりAO弁を励磁した。 その結果,D/W圧力が0.75MPa から0.58MPa に低下し,テレビの映像でも1号機の排気塔から白い煙が放出されているのが確認できた。そこで,吉田所長は,同日14時50分頃,さかのぼって同日14時30分にベントが実施された旨を官庁等に通報した。 ⒅ 海水注入準備の完了 同日14時53分頃,防火水槽の淡水が枯渇したため,吉田所長は,海水注入の実施を指示した。 同日15時30分頃には,海水注入のための注水ラインの構成はほぼ完了していた。 ⒆ 水素爆発 同日15時36分頃,1号機の原子炉建屋において,炉心の露出により燃料 の被覆管の温度が高くなり,被覆管中のジルコニウムと水が反応してジルコニウムが酸化したことによって発生・蓄積した水素が爆発を起こし,建屋を激しく損傷した。この爆発で,現場で作業していた5名が負傷したほか,前記海水注入ラインの消防ホースが破損して使用不能となったり,一部完成間近であった電源復旧作業も一からのやり直しを余 起こし,建屋を激しく損傷した。この爆発で,現場で作業していた5名が負傷したほか,前記海水注入ラインの消防ホースが破損して使用不能となったり,一部完成間近であった電源復旧作業も一からのやり直しを余儀なくされることとなった。 ⒇ 海水注入の実施同日19時04分頃,水素爆発により修復を余儀なくされていた海水注入ラインが復旧し,海水による原子炉注水が可能な状況となった。これに先立ち,首相官邸に詰めていた被告東電役員から吉田所長に対し,海水注入を待機するよう指示があったが,吉田所長は同指示を無視して海水注入を敢行した。 3月13日の状況12日19時頃以降,1号機原子炉に対しては,逆洗弁ピットを水源とし,消防車を駆動源とする海水注入が継続して実施されていた。 13日午前8時33分頃,モニタリングポストにおいてそれまで35μSv/h程度であった放射線量が,1時間ほどにわたり,1000μSv/hを超える 数値を計測した。 3月14日の状況14日午前1時10分頃,3号機逆洗弁ピットからの取水が不能となり,1号機への海水注入が停止した。そこで,新たに到着していた消防車を利用して,海から直接海水を汲み上げ,1号機のタービン建屋注水口に接続する専用の海 水注水ラインの敷設作業を行った。 海水の汲み上げ注水ラインは同日9時過ぎに完成したが,その頃危機的状況にあった3号機への注水作業をまず優先させることとし,1号機への注水はすぐにはなされなかった。その後,同日11時01分には,3号機原子炉建屋が水素爆発し,注水用消防車が作動を停止するなどした。結局,同日20時30 分頃,1号機への海水注入が再開された。 3月15日以降の状況15日頃,D/Wでは高い放射線量が計測されていたが,16日夜には,そ を停止するなどした。結局,同日20時30 分頃,1号機への海水注入が再開された。 3月15日以降の状況15日頃,D/Wでは高い放射線量が計測されていたが,16日夜には,その数値も大きく低下し,1号機の事故は,その後収束に向かった。 4 電源喪失後の3号機の状況⑴ 全交流電源喪失 3月11日15時38分頃,本件津波による浸水のため,3号機は全交流電源を喪失したが,タービン建屋中地下階にあった直流電源盤及びバッテリーは,被水はしたものの機能喪失は免れ,その結果,3号機中央制御室においては,制御盤上,圧力容器圧力や水位等の主要パラメータを監視することができた。 ⑵ RCIC(原子炉隔離時冷却系)の起動 3号機のRCIC(原子炉隔離時冷却系)は,本件津波襲来の直前,原子炉の水位が上昇したことにより自動停止していた。同日16時03分頃,当直運転員は,存続していた直流電源を活用し,制御盤からの遠隔操作により,RCICを起動した。もっとも,RCICの水源である復水貯蔵タンクの水量に限定があったため,運転員は,長時間の使用を予想して,容量を制限しながらR CICの運転を継続した。 ⑶ RCICの自動停止及びHPCI(高圧注水系)の自動起動11日16時03分以降連続稼働していたRCICは,12日午前11時36分に自動停止し(原因不明),再起動もしなかった。 同日12時35分,原子炉の水位低下を検知して,HPCI(高圧注水系) が自動起動した(なお,3号機のHPCIは,原子炉建屋地下1階にあり,本件津波により水没していた。【甲B2-1・資料編34頁】)。HPCIは,RCICと同様に原子炉の蒸気で駆動され,駆動源に交流電源を必要としないが,原子炉圧力が高圧の状態でも急速注水を行うだけの大きな注 津波により水没していた。【甲B2-1・資料編34頁】)。HPCIは,RCICと同様に原子炉の蒸気で駆動され,駆動源に交流電源を必要としないが,原子炉圧力が高圧の状態でも急速注水を行うだけの大きな注水能力を有しており,いわば最後の切り札ともいうべき非常用冷却設備であるため,短時間の 運転でも原子炉水位が急上昇し,自動停止してしまうという性質を有していた。 しかし,HPCIの起動自体には直流電源を要する(前記第1節第1,2⑸ウ(エ)[❷-21 頁])ため,バッテリーの消耗を懸念した運転員は,HPCIから吐出される水の一部が復水貯蔵タンクに戻る回路を構成して,圧力容器への注水量を制限しながら運転を行った。 その後,HPCIからの注水による冷却効果で,原子炉圧力は徐々に低下し ていったが,これにより,原子炉の蒸気で駆動されている高圧注水系(HPCI)ポンプの吐出圧力も低下し始めた。 ⑷ ベント準備指示同日17時30分頃,D/W圧力は0.3MPaabs 前後であり,通常の2倍程度に高まっていた。吉田所長は,1号機でベントの実施までに長い時間を要 したことから,原子炉建屋の放射線量が上がる前に,早めにベントラインを完成させておく必要性を感じ,ベントを急ぐよう指示を出した。発電所対策本部発電班も,1号機での経験を踏まえ,ベントの操作手順を調べていた。その結果,2,3号機では1号機と異なり,ベント弁(AO弁)の大弁小弁ともに,手動用ハンドルが設置されていないこと,そのため,ベント弁の開操作にはエ アが必須となることが判明した。 ⑸ HPCI(高圧注水系)停止同日20時36分頃,3号機の原子炉水位計の電源(24V直流電源)が枯渇し,原子炉水位の監視ができなくなった。そこで,発電所対策本部復旧班は,広野火力 判明した。 ⑸ HPCI(高圧注水系)停止同日20時36分頃,3号機の原子炉水位計の電源(24V直流電源)が枯渇し,原子炉水位の監視ができなくなった。そこで,発電所対策本部復旧班は,広野火力発電所から調達していた2Vバッテリー13個を順次中央制御室に 運び込み,原子炉水位計の電源復旧作業を行ったが,その間,当直運転員は,原子炉水位を読み取ることができず,HPCI(高圧注水系)の注水実態が不分明な状況に置かれることとなり,前記⑶のとおり高圧注水系(HPCI)ポンプの吐出圧力が低下しつつある状況下,次第に,HPCIの故障に対する懸念を抱くようになっていた。 13日午前2時頃,運転員は,上記のような懸念から,発電所対策本部に対 し,HPCI停止について相談した。これに対し,発電所対策本部発電班の担当者は,班内で検討を行い,①許容範囲を下回る回転数でHPCIを運転し続ければ破損の危険があること,②SR弁(逃し安全弁)を開操作して減圧を行えば,代替注水手段であるD/DFP(ディーゼルエンジン駆動の消火ポンプ)による消火系低圧注水が可能となることなどから,HPCIの停止はやむを得ない との結論に達し,その旨を中央制御室の運転員に伝えたが,発電班長や吉田所長には共有されなかった。 同日2時42分頃,運転員は,制御盤からの遠隔操作により,HPCIを停止させた。 ⑹ 注水手段喪失 HPCIの停止を受け,中央制御室の運転員は,減圧のためにSR弁(逃し安全弁)の開操作を制御盤からの遠隔操作で試みた。ところが,同日2時45分頃及び同日2時55分頃の2回にわたり,運転員がSR弁(逃し安全弁)の開操作を試みたものの,バッテリーの電力不足によりいずれも不奏功となった。 他方,HPCI停止により,圧力容器圧 ,同日2時45分頃及び同日2時55分頃の2回にわたり,運転員がSR弁(逃し安全弁)の開操作を試みたものの,バッテリーの電力不足によりいずれも不奏功となった。 他方,HPCI停止により,圧力容器圧力は,同日3時には0.77MPa, 3時44分には4.1MPa を計測し,D/DFPによる注水の吐出圧力(約0. 4MPagage)を大きく上回ることとなった。運転員は,再度HPCI(高圧注水系)やRCIC(原子炉隔離時冷却系)を起動させようと試みたが,いずれも電力不足により奏功しなかった。このため,遅くとも同日4時頃には,3号機は,原子炉への注水手段を喪失した。 ⑺ ベントに向けた本格的な準備の開始注水手段が喪失されたことを受け,発電所対策本部及び中央制御室は,ベント弁(AO弁)大弁を開操作するために電磁弁を励磁するための作業に入った。 同日4時50分頃,中央制御室に仮設照明用小型発電機を持ち込み,電磁弁用の端子にケーブルを接続して励磁し,開操作を試みたが,運転員が原子炉建屋 地下1階に赴いて,AO弁の状況を確認したところ,AO弁(大弁)の駆動用 空気ボンベの圧力はゼロであり,弁は開いていなかった。その頃,S/C(圧力抑制室)では,高温になった部分に足をかけると靴の一部が溶解するほどに至っていた。 同日5時23分頃,AO弁を開操作するための空気ボンベを交換し,空気圧を確保した上で再度AO弁(大弁)を開ける作業を行った。その後,発電所対 策本部復旧班は,AO弁(大弁)の開度を確認するために原子炉建屋地下1階に向かったが,高線量により引き返さざるを得ず,AO弁の開状況は確認できなかった。 ⑻ 水位計復旧同日5時頃には,原子炉水位のデータが得られるようになり,水位計の値は, 5時10分頃にT に向かったが,高線量により引き返さざるを得ず,AO弁の開状況は確認できなかった。 ⑻ 水位計復旧同日5時頃には,原子炉水位のデータが得られるようになり,水位計の値は, 5時10分頃にTAF-2300mm,6時頃にTAF-2600mm を示した。 6時19分,発電所対策本部は,遡って同日4時15分頃に水位がTAFに到達していたと判断した。 ⑼ 海水注入準備開始12日19時頃から,13日午前6時頃まで,1号機において,3台の消防 車を直列につなぎ3号機の逆洗弁ピットから海水を汲み上げて原子炉への注水を行っていた(前記3⒇[❷-112 頁])。同日6時頃,3号機についても緊急に代替注水を行う必要が生じていることから,待機中のもう1台の消防車を用いて3号機への海水注入ライン構築作業に着手し,同日7時頃には同作業を終えた。 ⑽ ベントラインの構築同日7時44分,発電所内の自動車から取り外した12Vバッテリー10個を中央制御室に持ち込み,SR弁(逃し安全弁)操作のための電源を確保した(発電所内外から調達した2Vのバッテリーでは,SR弁(逃し安全弁)操作のための120V電源としては利用できなかった。)。 同日8時35分,当直運転員が原子炉建屋2階に臨場し,MO弁のハンドル を手動で操作して,同弁を15%開状態とした。また,AO弁(大弁)は,前記⑺のとおり,開操作を済ませていた。同日8時41分,発電所対策本部は,AO弁の開状態未確認ではあったものの,ベントラインの準備は完了し,格納容器圧力がラプチャーディスクの設定圧(0.427MPagage。前記第1節第1,2⑸エ(イ)c[❷-24 頁])を超えれば,自動的にベントが行われる状態に なったと判断した。 ⑾ ベント実施同日9時10分頃, スクの設定圧(0.427MPagage。前記第1節第1,2⑸エ(イ)c[❷-24 頁])を超えれば,自動的にベントが行われる状態に なったと判断した。 ⑾ ベント実施同日9時10分頃,D/W圧力は,前記ラプチャーディスク設定圧を超え,ピーク時では0.637MPa を示したが,その14分後には0.540MPa にまで低下した。そのため,発電所対策本部は,S/Cベントが9時20分頃に 実施されたと判断し,その旨を官庁等に通告した。 ⑿ 淡水注入及び海水注入の開始その後,吉田所長は,本店対策本部及び首相官邸において,3号機への海水注入に消極的な意見が出ていることを踏まえ,注水ラインの水源を防火水槽(淡水)に変更して作業をやり直すよう指示した。 同日9時25分頃,完成した注水ラインを用いて,防火水槽(淡水)を水源とする消防車による原子炉注水が開始された。 同日12時20分頃,防火水槽内の淡水が枯渇し,同日13時12分頃,再度海水を水源とする注水ラインを構築し直して注水が開始された。 ⒀ ベント弁開状態維持のための試行錯誤 同日10時55分頃,D/W圧力は,0.27MPa にまで大きく減圧された。 同日11時17分頃,D/W圧力は,再度上昇傾向を示した。発電所対策本部は,AO弁(大弁)の開状態を維持するには空気ボンベの圧力が十分でないと判断し,高線量下,作業員が2班体制(1班作業時間限度15分)で作業を行いボンベの交換などを行った。それによりD/W圧力は一旦低下したが,同 日15時頃から再び上昇傾向となった。発電所対策本部は,高線量の建屋内に 入ってたびたびボンベを交換する方法には限界があると判断し,コンプレッサーを用いる新たな方法を検討した。 ⒁ 線量の顕著な上昇同日14時31分 。発電所対策本部は,高線量の建屋内に 入ってたびたびボンベを交換する方法には限界があると判断し,コンプレッサーを用いる新たな方法を検討した。 ⒁ 線量の顕著な上昇同日14時31分頃,二重扉北側で300mSv/hという極めて高い線量が計測された。 同日15時28分頃,3・4号機中央制御室において,12mSv/hという高い線量が計測され,運転員は,中央制御室内の4号機側に退避した。 ⒂ ベントラインの安定化前記⒀の検討を受けて,協力企業から可搬式コンプレッサーを新たに調達し,AO弁(大弁)の開操作のために起動したが,小容量であったため,D/Wは, 同日20時30分頃になっても下降傾向を示さず,同日22時30分頃になって,ようやく下降を始めた。14日0時,D/W圧力はようやく0.24MPaまで下降し,AO弁(大弁)の開状態が維持できるようになった。 ⒃ 消防車による注水の停止14日午前1時10分頃,逆洗弁ピット内からの海水汲み上げが水量減少に より困難となり注水が停止した。同日3時20分頃,逆洗弁ピット内の残水を用いた注水が再開されたが,継続性に疑問があったことから,発電所対策本部は,高低差10m以上ある海面から直接海水を汲み上げて逆洗弁ピットに給水するためのライン構築の検討・準備を始めた。 ⒄ ベントラインの不穏及び作業者一時退避 同日3時40分頃,D/W圧力が再び上昇傾向を示すようになった。発電所対策本部及び中央制御室は,それまで利用していたAO弁(大弁)のみならず,AO弁(小弁)も開操作を試みることとした。そこで,仮設照明用小型発電機を用いて,電磁弁を励磁したり,コンプレッサーを福島第二原発から調達した可搬式コンプレッサーに交換するなどの作業を行った。しかし,D/W圧力は を試みることとした。そこで,仮設照明用小型発電機を用いて,電磁弁を励磁したり,コンプレッサーを福島第二原発から調達した可搬式コンプレッサーに交換するなどの作業を行った。しかし,D/W圧力は 同日7時頃まで上昇を続け,ピーク時は0.52MPa に達した(3号機格納容 器の設計圧力は0.38MPagage)。 このように,D/W圧力が0.5MPa 台を推移しており,水素爆発前の1号機の状況に近いと思われたことから,吉田所長は,本店対策本部にも相談し,同日6時30分から45分にかけて,作業員に免震重要棟への一時退避命令を出した。しかし,その後,D/W圧力はそれ以上に上昇せず,また,海面から の海水汲み上げラインの確保も急がれることから,同日7時半過ぎ,同退避命令は解除された。 ⒅ 海面からの直接給水ラインの完成同日9時頃,他の発電所から応援のため到着した消防車を用いて,海面から海水を汲み上げて逆洗弁ピットに補給する給水ラインが完成した。 ⒆ 3号機水素爆発同日11時01分,3号機の原子炉建屋が水素爆発した。これにより,逆洗弁ピットに給水すべく向かっていた自衛隊給水車に搭乗していた自衛隊員4名,東電社員4名及び協力企業の従業員3名が負傷した。また,タービン建屋前に注水のため配置してあった消防車4台は,いずれも作動を停止し,消防ホ ースも破損して使用不能になった。周囲一面には,がれき等が散乱していた。 これにより,3号機逆洗弁ピットの周辺からの注水ラインの再構築は困難な状況となった。そこで,同爆発後,海面から汲み上げた海水を,3号機及びその後代替注水を要することとなった2号機に,それぞれ直接注水する方式に注水ラインを変更した。 ⒇ 注水再開同日16時30分頃,再構築された海水注水ライン ら汲み上げた海水を,3号機及びその後代替注水を要することとなった2号機に,それぞれ直接注水する方式に注水ラインを変更した。 ⒇ 注水再開同日16時30分頃,再構築された海水注水ラインにより,3号機原子炉への注水が再開された。 3月15日以降の状況前記⒇の注水再開後,3号機の圧力容器圧力及びD/W圧力は徐々に低下し, 3号機の事故は収束に向かった。 5 電源喪失後の2号機の状況⑴ 全電源喪失及びRCIC(原子炉隔離時冷却系)の動静2号機では,前記2のとおり,11日15時37分頃に,直流を含む全電源を喪失した。1号機と共用の中央制御室は真っ暗となり,直流電源の喪失により,制御盤上の各種計測器も全て表示しなくなり,最重要パラメータである原 子炉水位や原子炉圧力がいずれも不明となった。 前記2⑵イのとおり,運転員は,全電源喪失前に,RCIC(原子炉隔離時冷却系)を制御盤による遠隔操作で起動していたが,全電源喪失により,その後のRCICの動作状況は,これを全く確認できなくなった。 ⑵ 発電所対策本部によるTAF到達予測及び水位計の復旧 発電所対策本部は,RCICの作動状況を確認できないことから,同日21時15分頃,TAF到達を21時40分,炉心損傷開始を22時00分,圧力容器損傷を23時50分頃と予想した。 同日22時頃,水位計が復旧し,2号機については原子炉水位TAF+3400mm と計測された。また,同日23時30分頃には圧力計も復旧し,圧力容 器圧力が6.3MPagage(設計圧力8.62MPagage),D/W圧力が0.141MPagage(設計圧力0.38MPagage)と,いずれも正常範囲であることが判明した。 ⑶ 原子炉隔離時冷却系(RCIC)の作動確 圧力8.62MPagage),D/W圧力が0.141MPagage(設計圧力0.38MPagage)と,いずれも正常範囲であることが判明した。 ⑶ 原子炉隔離時冷却系(RCIC)の作動確認12日1時頃及び2時頃,運転員はRCIC(原子炉隔離時冷却系)の作動 状況を現認するため,原子炉建屋地下1階のRCIC室に向かったが,流水等により,いずれもRCICの作動状況を十分に確認できなかった。 そこで,運転員が,圧力容器圧力とRCICの吐出圧力をそれぞれ読み取って比較したところ,RCICの吐出圧力が圧力容器圧力を上回っていたことから,RCICが正常に運転していることが認められた。 ⑷ RCICの水源切替 復水貯蔵タンクの保有水量には限界があったことから,同日4時30分頃,運転員は,RCICの水源を,復水貯蔵タンクから,S/C(圧力抑制室)プールに変更した。なお,RCICは,S/Cプールを水源とする場合,その構造上,最終的な熱の捨て場(最終ヒートシンク)がないことから,運転を継続すると,次第に,タービンの駆動に必要な原子炉内とS/Cプールの圧力差が 小さくなり,また,水源であるS/Cプールの温度が上昇して,冷却機能が低下することとなるという性質を有していた(前記第1節第1,2⑶イ(イ)a[❷-8 頁])。 ⑸ 1号機の水素爆発同日15時36分,1号機の原子炉建屋が水素爆発を起こした。2号機にお いては,この影響により,原子炉建屋のブローアウトパネル(建屋内に水蒸気が充満した場合に圧力上昇によって自動的に外れるように設計されたパネル)が脱落した。 ⑹ ベント準備指示同日17時30分頃,3号機同様(前記4⑷[❷-114 頁]),2号機につい ても,吉田所長から早期のベント準備の指 自動的に外れるように設計されたパネル)が脱落した。 ⑹ ベント準備指示同日17時30分頃,3号機同様(前記4⑷[❷-114 頁]),2号機につい ても,吉田所長から早期のベント準備の指示が出された。2号機においては,ベント弁(AO弁)の開操作に必要なエアの調達方法として,IA系配管(計装用圧縮空気系)に備え付けられている空気ボンベを開栓する方針を決めた。 ⑺ ベント準備13日午前8時10分頃,運転員は,2号機原子炉建屋内に入室し,MO弁 を25%開とする開操作を完了した。 また,同日10時15分頃,発電所対策本部復旧班が原子炉建屋1階に入り,IA系配管の脇に置かれていた空気ボンベの出口弁を手動で開栓し,さらに,AO弁(大弁)の電磁弁を開操作するため,持ち込んだ仮設照明用小型発電機を用いて励磁を行った。その結果,同日11時頃,AO弁(大弁)は開操作さ れ,もって,ベントラインが完成し,あとはラプチャーディスク設定圧(0. 427MPagage)をS/C圧力が上回ればベントが実施される状態となった。 もっとも,この時点では,S/C圧力は,ラプチャーディスク設定圧を上回らなかった。 さらに,同日13時10分頃には,SR弁(逃し安全弁)の開操作のために必要な自家用車用バッテリー(12V10個)を調達し,これを接続して,S R弁(逃し安全弁)の開操作の準備も完了した。 ⑻ エアコンプレッサーの手配同日18時頃,発電所対策本部は,AO弁のエア源を,1,3号機と同様に可搬式のコンプレッサーに変更することとし,他の原子力発電所に対し,テレビ会議を通じてコンプレッサーの調達を依頼した。 ⑼ 代替注水ラインの構築同日夕方頃までに,2号機についても,1号機及び3号機と同様,逆洗弁ピットを水源と ,他の原子力発電所に対し,テレビ会議を通じてコンプレッサーの調達を依頼した。 ⑼ 代替注水ラインの構築同日夕方頃までに,2号機についても,1号機及び3号機と同様,逆洗弁ピットを水源とする注水ラインが完成していた。もっとも,この頃の2号機は,RCIC(原子炉隔離時冷却系)が作動中で,圧力容器圧力も6MPa 足らずであり,消防車による注水は準備だけで待機状態とされていた。 ⑽ コンプレッサーの到着14日午前2時頃,前記⑻の発注に伴い,福島第二原発から小型のコンプレッサー1台が到着した。 ⑾ 3号機水素爆発同日11時01分,3号機の原子炉建屋が水素爆発した。これにより,待機 状態とされていた給水ラインが破損し利用不能となり,また,水素爆発の影響により,既に構築していたベントラインのAO弁励磁のための仮回路が外れ,AO弁(大弁)が再び閉状態となった。 ⑿ RCIC(原子炉隔離時冷却系)の機能低下同日12時頃以降,2号機のRCIC(原子炉隔離時冷却系)の機能が低下 し,原子炉水位が徐々に低下し始めた。前記⑷[❷-120 頁]のとおり,RC ICの水源はS/Cプールであり,冷却水は熱を逃すことなく蓄積し続けていた。そのため,同日12時30分頃,S/Cプールの温度は149℃であり,S/C圧力は0.49MPa(設計圧力0.38MPagage)という,異常な高温高圧状態となっていた。同日13時25分頃,吉田所長は,RCICが停止したと判断した。 ⒀ 代替注水準備に向けた議論状況RCICが機能を停止したため,海水注入への切替を行うこととなったが,その準備作業として,発電所対策本部は,S/Cベントを優先実施し,S/C圧力を低下させた上で,SR弁(逃し安全弁)を開操作して圧力容器を減圧す を停止したため,海水注入への切替を行うこととなったが,その準備作業として,発電所対策本部は,S/Cベントを優先実施し,S/C圧力を低下させた上で,SR弁(逃し安全弁)を開操作して圧力容器を減圧する方針を立てていた。他方,首相官邸では,被告東電の関係者の他,総理大臣 補佐官,原子力安全委員会委員長,保安院担当者,原子炉メーカー担当者が参集して対応策について協議を行っており,同協議の結果,SR弁の開操作を優先すべきとの結論が得られた。 ⒁ ベントの不奏功及びSR弁開操作の準備発電所対策本部と本店対策本部は,前記⒀の方針に従い,ベント実施を優先 すべく,可搬式コンプレッサーを用い,制御盤から電磁弁を励磁してベントラインAO弁の開操作を試みたが,同日16時頃になっても同弁の開状態を維持することができず,その旨が,同日16時30分頃に本店対策本部に伝わった。 その結果,清水代表取締役の指示により,SR弁(逃し安全弁)開操作による減圧を並行して実施することとなった。 ⒂ SR弁開操作の不奏功同日16時34分頃,中央制御室では,調達した12Vバッテリー10個を直列に接続してSR弁の電磁弁を励磁しようと試みたが,奏功せず,その後も励磁を継続して試みた。 ⒃ 燃料棒の全露出 同日18時22分,水位計がTAF-3700mm を計測し,同日18時50 分頃にはダウンスケールにより計測不能となった。そのため,発電所対策本部は,同日18時22分頃に2号機の全ての燃料棒が冷却水から露出したと認識した。 ⒄ 圧力容器の減圧成功及び注水開始同日19時3分,SR弁(逃し安全弁)の開操作が奏功し,圧力容器圧力は, 注水可能な0.63MPa に減圧された。そこで,先立つ同日16時30分頃に復旧していた海水注水ライ 圧成功及び注水開始同日19時3分,SR弁(逃し安全弁)の開操作が奏功し,圧力容器圧力は, 注水可能な0.63MPa に減圧された。そこで,先立つ同日16時30分頃に復旧していた海水注水ラインを用いて,2号機原子炉に対する注水が開始された。 その後,同日19時20分頃,注水を始めたばかりの消防車が燃料切れのため停止していることが確認され,給油の結果,同日19時57分に注水が再開 された。 ⒅ 圧力容器圧力・格納容器圧力の上昇同日21時から15日午前1時30分頃までの間,圧力容器圧力は,前後3回にわたり,1MPa を超える動きをしており,消防車の吐出圧力を超える時間帯が増大していた。 他方,S/Cベントによる減圧は依然として奏功しておらず,そのため,14日23時頃から,D/W圧力は0.7MPa(設計圧力0.38MPagage)という爆発的損傷を起こしかねない値で高止まりしていた。 そこで,吉田所長は,最後の手段として,それまで奏功しなかったS/Cベントに代え,放出される放射性物質の量が格段に大きいD/Wベント(前記第 1節第1,2⑶エ[❷-13 頁])の実施を決断して指示した。 ⒆ D/Wベントの試行15日午前0時01分,D/Wベント弁(AO弁)小弁の開操作のため,同弁の電磁弁を励磁し,併せて,可搬式コンプレッサーからエアを供給して開操作が実施された。しかし,数分後には,同弁が閉状態であることが確認された。 その後も,D/Wベントの試行が繰り返されたが,奏功しなかった。 もっとも,同日6時頃に至るまで,圧力容器圧力は0.6MPa 台で安定的に推移し,消防車による注水が継続可能な状態になっていた。 ⒇ 4号機水素爆発同日6時10分頃,中央制御室当直員は大きな衝撃音を聞いた。直 6時頃に至るまで,圧力容器圧力は0.6MPa 台で安定的に推移し,消防車による注水が継続可能な状態になっていた。 ⒇ 4号機水素爆発同日6時10分頃,中央制御室当直員は大きな衝撃音を聞いた。直後のS/C圧力計はゼロ(MPaabs)を示していた。これらのことから,当直員は,格 納容器が爆発したと解釈し,発電所対策本部は,必要最小限の人員50人程度を残して,残りの650人を福島第二原発に一時退避させた。しかし,上記衝撃音は,4号機原子炉建屋の水素爆発によるものであり,格納容器の爆発はなかった(なお,MPaabs は絶対圧の表示であるから,これがゼロ表示であることは真空状態を意味し,現実的にあり得ない。)。 3月15日以降の状況同日7時20分,D/W圧力は,0.73MPaabs を記録したが,同日11時25分には0.155MPa という,大気圧に近い値まで急落した。 同日午前9時頃,福島第一原発正門付近のモニタリングポストは,1万μSv/hという高い放射線量を計測し,その後16日にかけて,高い線量を計測し 続けた。 その後,圧力容器圧力,D/W圧力ともに,大気圧とほぼ同じ値のまま推移した。 第3 各号機における原子炉の損傷状況及び放射性物質の放出状況【甲B3】 1 1号機について1号機では,11日20時07分から12日2時45分までの間に,圧力容器において,閉じ込める機能を損なうような損傷が生じ,また,11日21時51分までには,格納容器においても,閉じ込める機能を損なうような損傷が生じ,結果として,放射性物質が外部に放出された。 2 2号機について 2号機では,14日21時18分頃までに,圧力容器において,閉じ込める機能を損なうような損傷が生じ,また,14日1 として,放射性物質が外部に放出された。 2 2号機について 2号機では,14日21時18分頃までに,圧力容器において,閉じ込める機能を損なうような損傷が生じ,また,14日13時45分から18時10分頃には,格納容器においても,閉じ込める機能を損なうような損傷が生じ,さらに,15日7時38分から16日4時頃までの間,格納容器において,閉じ込める機能を大きく損なう損傷が生じ,結果として,大量の放射性物質が外部に放出され た。 3 3号機について3号機では,13日6時30分頃から9時10分までの間に,圧力容器において,閉じ込める機能を損なうような損傷が生じ,また,13日2時42分から14日2時20分頃までの間に,格納容器において,閉じ込める機能を損なうよう な損傷が生じ,さらに,14日7時頃から21時35分までの間に,格納容器において,閉じ込める機能を大きく損なう損傷が生じ,結果として,放射性物質が外部に放出された。 第4 避難指示の状況本件事故を受けた政府による避難指示の推移は,資料28(第6分冊)のとお りであるところ,具体的には,概ね以下のとおりである。資料28(第6分冊)のとおり,避難指示の対象となった区域は,時間の経過に従って拡大・減少を繰り返して変動しているところ,これら各時点の避難指示の状況を全て重ね合わせ,避難指示の変動の別に従って上記区域を更に細分化すると,その境界線は概ね資料29(第6分冊)のとおりであり,①ないし㊾の各地域に区分されることとな る(もっとも,資料29(第6分冊)の区分けは,資料28(第6分冊)の推移を地図上で重ね合わせて区分したものにすぎず,必ずしも地理的正確性が担保されているわけではない。)。そして,資料29(第6分冊)の区分に従って,避難指示 分冊)の区分けは,資料28(第6分冊)の推移を地図上で重ね合わせて区分したものにすぎず,必ずしも地理的正確性が担保されているわけではない。)。そして,資料29(第6分冊)の区分に従って,避難指示の推移を整理すると,概ね資料30(第6分冊)のとおりとなる。また,資料30の「居住する原告番号(枝番略)」の欄に,当該地域に居住していた原告ら の原告番号を記載した(原則として,世帯を同じくする原告らについて,その 世帯主となる原告の原告番号を,枝番を省略して記載した。世帯主と居住地を異にする者がいる場合には,例外的に,枝番を付して記載してある。)。 1 屋内退避区域及び緊急時避難準備区域の指定平成23年3月11日,政府は,福島第一原発から半径3㎞圏内の住民に対して避難の指示を出すとともに,半径3㎞以上10㎞圏内を屋内退避の指示対象区 域として指定した。【乙共12】同月12日,政府は,避難の対象となる区域を福島第一原発から半径20㎞圏内及び福島第二原発から半径10㎞圏内とした。【乙共13,乙共14】同月15日,政府は,福島第一原発から半径20㎞以上30㎞圏内について,住民は外出せず,自宅等,屋内に待機するよう指示する屋内退避指示をした。【乙 共15】同年4月22日,政府は,福島第一原発から半径20㎞以上30㎞圏内に指示していた屋内への退避を解除する旨の指示をするとともに,同時に,計画的避難区域及び緊急時避難準備区域を設定した。【乙共18】この結果,福島第一原発から半径20㎞圏内の区域は次の①に,福島第一原発 から半径20㎞以上30㎞圏内の区域(屋内退避区域に指定されていた区域)は,次の②から④までの各区域に再編されることとなった。【乙共18,乙共87】① 避難指示区域(警戒区域)福島 発 から半径20㎞以上30㎞圏内の区域(屋内退避区域に指定されていた区域)は,次の②から④までの各区域に再編されることとなった。【乙共18,乙共87】① 避難指示区域(警戒区域)福島第一原発から半径20㎞圏内の区域であり,原則立入禁止とされた。 ② 計画的避難区域(その後,避難指示区域に指定) 原則として概ね1月程度の間に順次当該区域外へ避難のための立退きを行うことが求められる区域。葛尾村,浪江町,飯舘村,川俣町の一部及び南相馬市の一部であって,警戒区域(福島第一原発から半径20㎞圏内の区域。前記⑴)を除く区域。 ③ 緊急時避難準備区域 常に緊急時に避難のための立退き又は屋内への退避が可能な準備を行うこ とが求められる区域。広野町,楢葉町,川内村,田村市の一部及び南相馬市の一部であって,警戒区域(福島第一原発から半径20㎞圏内の区域)を除く区域。 ④ 福島第一原発から半径20㎞以上30㎞圏内の区域のうち上記②及び③以外の区域(旧屋内退避区域) 福島第一原発から半径20㎞以上30㎞圏内の区域(屋内退避区域)のうち,計画的避難区域(上記②)及び緊急時避難準備区域(上記③)のいずれにも指定されなかった区域。いわき市の一部区域がこれに当たる。 2 南相馬市による一時避難要請南相馬市は,平成23年3月16日に,独自の判断に基づき,市民に対して, その生活の安全確保等を理由として一時避難を要請するとともに,その一時避難を支援した。なお,同年4月22日,南相馬市は,政府による指示対象区域以外の区域については,自宅での生活が可能な者の帰宅を許容する旨の見解を示した。 【乙共1・8頁】 3 特定避難勧奨地点の指定 計画的避難区域及び緊急時避難準備区域を設定した平成23年4月22日 の区域については,自宅での生活が可能な者の帰宅を許容する旨の見解を示した。 【乙共1・8頁】 3 特定避難勧奨地点の指定 計画的避難区域及び緊急時避難準備区域を設定した平成23年4月22日の時点において,伊達市及び南相馬市の一部で局地的に年間積算線量が20mSv を超えると推定される地点が存在することは把握されていたが,面的なまとまりとしては把握されなかったため,原子力災害対策本部は,モニタリングにより線量の低下傾向につき経過観察を行うこととした。その後,同年6月3日に文部科学 省が行った積算線量推計の結果,計画的避難区域外である伊達市及び南相馬市の一部において,線量がそれほど低下せず,事故発生後1年間の積算線量が計画的避難区域の指標値である20mSv を超えると推定される地点が存在することが判明した。そこで,原子力災害対策本部は,当該地点に対する具体的対応策を検討し,同月16日,原子力安全委員会の助言を踏まえて,当該地点を特定避難勧奨 地点とすることとし,関係する地方公共団体との協議を経て,同月30日以降, 伊達市,南相馬市及び川内村の一部を特定避難勧奨地点に指定して,住居単位で,そこに居住する住民に対する注意喚起,自主避難の支援,促進を行うことを表明した。【甲B2の1・274,275頁】 4 旧緊急時避難準備区域の指定解除⑴ 緊急時避難準備区域指定の趣旨 【乙共18,乙共136】緊急時避難準備区域の指定は,本件事故の状況が平成23年4月時点でいまだ安定していなかったため,これまで屋内退避地域に指定されていた福島第一原発から半径20㎞以上30㎞圏内の大部分は,今後なお,緊急時に屋内退避や避難の対応が求められる可能性が否定できない状況にあることを踏まえた ものであった。 また,同 指定されていた福島第一原発から半径20㎞以上30㎞圏内の大部分は,今後なお,緊急時に屋内退避や避難の対応が求められる可能性が否定できない状況にあることを踏まえた ものであった。 また,同区域においては,引き続き自主的避難をし,特に,子ども,妊婦,要介護者,入院患者等は,当該区域に入らないようにすること,また,保育所,幼稚園,小中学校及び高等学校は休所,休園又は休校とすることが求められ,勤務等のやむを得ない用務等を果たすために当該区域に入ることは妨げられ ないものの,その場合においても常に避難のための立退き又は屋内への退避を自力で行えるようにしておくことが求められていた。 ⑵ 指定の解除被告国と被告東電は,平成23年7月19日,事故の収束に向けた道筋の進捗状況を公表し【乙共309】,原子炉の安定的な冷却等ができていること,福 島第一原発の敷地境界における被ばく線量評価は最大でも年間1.7mSv となっており,「放射線量が着実に減少傾向となっている」とのステップ1の目標を概ね達成したことを確認した【弁論の全趣旨】。 その後,原子力災害対策本部は,平成23年8月9日,「避難区域等の見直しに関する考え方」を公表し,当時の避難指示等のうち,緊急時避難準備区域及 び警戒区域の指定については「原子力発電所の状況が安定していないことを 理由として,発電所から一定の距離を確保するために避難や避難準備を求めているもの」と位置付け,また,計画的避難区域については「事故発生後1年間に住民が受ける積算線量が20mSv を超えると推計されることを理由として,放射線による影響を低減させるために避難を求めているもの」と位置づけた上で,今後の見直しについては,①原子炉施設の安全性を評価し,発電所からど の程度の距 を超えると推計されることを理由として,放射線による影響を低減させるために避難を求めているもの」と位置づけた上で,今後の見直しについては,①原子炉施設の安全性を評価し,発電所からど の程度の距離を確保することが必要かを判断し,②区域内の放射線量を詳細にモニタリングし住民の安全が確保されているか否かを確認した上で,③公的サービス・インフラ等を含め,住民の生活環境の復旧の目途がたった時点で見直しを実行するものとした。 その上で,緊急時避難準備区域については,ステップ1の終了により原子力 発電所の状況が著しく改善したことを踏まえて検討したところ,原子炉施設の安全性の観点からは解除の妥当性が確認されたこと,前述した,放射線量等分布マップなど通常のモニタリングに加えて,「『ふるさとへの帰還』に向けた緊急時避難準備区域に関する放射線モニタリングアクションプラン」に沿って学校や公共施設のほか,市町村の個別の要望に対応したモニタリングを実施した ところ,空間線量率などの観点からも,緊急時避難準備区域において基本的に安全性が確認されたことから,今後,各市町村による復旧計画の策定とその検討を経て,一括して区域指定を解除するという考えが示された。 【乙共310】平成23年9月30日,原子力災害対策本部は,各市町村(南相馬市,田村 市,川内村,広野町,楢葉町)が提出した「復旧計画」をも踏まえ,「緊急時避難準備区域の解除について」を公表して,緊急時避難準備区域の指定を解除した。【乙共19,乙共137】⑶ 旧緊急時避難準備区域に該当する市町村旧緊急時避難準備区域に該当する市町村は以下のとおりである。【乙共18, 乙共87】 ア広野町全域。 イ楢葉町・川内村警戒区域を除く全域。 ウ田村市 る市町村旧緊急時避難準備区域に該当する市町村は以下のとおりである。【乙共18, 乙共87】 ア広野町全域。 イ楢葉町・川内村警戒区域を除く全域。 ウ田村市 田村市の都路町,船引町横道,常葉町堀田及び常葉町山根(ただし,警戒区域に指定されている区域を除く。)エ南相馬市警戒区域及び計画的避難区域を除く福島第一原発から半径20㎞以上30㎞圏内。南相馬市原町区の一部地域を中心とする区域である。 5 警戒区域及び計画的避難区域の再編平成23年12月16日,原子力災害対策本部及び被告東電は,圧力容器底部及び格納容器内の温度は概ね100℃以下になっており,注水を継続することにより格納容器内の蒸気の発生が抑えられ,格納容器からの放射性物質の放出が抑制されている状態であり,格納容器からの放射性物質の放出による敷地境界にお ける被ばく線量は0.1mSv/年であって,1mSv/年の目標を下回っていること,循環注水冷却システムの中期的安全が確保されていることが確認できたことを踏まえ,原子炉は「冷温停止状態」に達し,不測の事態が生じた場合も敷地境界における被ばく線量が十分低い状態を維持することができるようになり,安定状態を達成し,事故そのものは収束に至ったと判断できるとして,「放射性物質の 放出が管理され,放射線量が大幅に抑えられている」というステップ2の目標達成と完了を確認した。【乙共22】平成23年12月26日,被告国は,「ステップ2の完了を受けた警戒区域及び避難指示区域の見直しに関する基本的考え方及び今後の検討課題について」【乙共23】をとりまとめ,線量の低い地域は除染を進めて避難指示解除を準備 することなども含めて警戒区域及び避難指示区域の見直しに関する基本的な考 関する基本的考え方及び今後の検討課題について」【乙共23】をとりまとめ,線量の低い地域は除染を進めて避難指示解除を準備 することなども含めて警戒区域及び避難指示区域の見直しに関する基本的な考 え方を提示し,平成24年3月30日までを目途として避難指示区域の見直しを行うことを決定した。これに基づき,原子力災害対策本部長は,警戒区域及び計画的避難区域を再編して,帰還困難区域,居住制限区域及び避難指示解除準備区域とすることとした。 帰還困難区域とは,長期間,具体的には5年間を経過してもなお,年間積算線 量が20mSv を下回らないおそれのある,年間積算線量が50mSv 超の地域をいう。 居住制限区域とは,年間積算線量が20mSv を超えるおそれがあり,住民の被ばく線量を低減する観点から引き続き避難を継続することを求める地域である。 避難指示解除準備区域とは,年間積算線量が20mSv 以下となることが確実で あることが確認されたとされる地域をいう。 平成24年4月1日,田村市及び川内村について警戒区域が解除され,居住制限区域及び避難指示解除準備区域が設定された。その後,飯舘村,楢葉町,大熊町,葛尾村,富岡町,浪江町,双葉町について,順次,区域の見直しが行われ,平成25年8月8日,川俣町について,区域の見直しが行われたことにより,警 戒区域及び計画的避難区域の見直しは全て終了し,帰還困難区域,居住制限区域及び避難指示解除準備区域に再編された。 【甲B2の2・242頁】 6 地域別の避難指示状況⑴ 大熊町 政府は,平成23年4月22日,福島第一原発の半径20㎞圏内を警戒区域に設定し,これにより,大熊町の全域が警戒区域とされた。 平成24年12月10日,大熊町中屋敷行政区が避難指示解除準備区域に 政府は,平成23年4月22日,福島第一原発の半径20㎞圏内を警戒区域に設定し,これにより,大熊町の全域が警戒区域とされた。 平成24年12月10日,大熊町中屋敷行政区が避難指示解除準備区域に,大川原1及び2行政区が居住制限区域に,野上1行政区等それ以外の地域が帰還困難区域に,それぞれ指定され【乙共91・34~36頁】,現時点まで, 見直し後の避難指示等は解除されていない。 ⑵ 双葉町政府は,平成23年4月22日,福島第一原発の半径20㎞圏内を警戒区域に設定し,これにより双葉町の全域が警戒区域とされた。 その後,平成25年5月28日,双葉町大字両竹,大字中野及び大字中浜が避難指示解除準備区域に,避難指示解除準備区域を除く町内全域が帰還困難区 域に見直された。【乙共91・37頁】その後,双葉町については,上記見直し後の避難指示等が継続しており,現時点まで解除されていない。 ⑶ 富岡町政府は,平成23年4月22日,福島第一原発の半径20㎞圏内を警戒区域 に設定し,これにより,富岡町の全域が警戒区域とされた。 その後,平成25年3月25日,富岡町仏浜行政区,栄町行政区等のそれぞれ全区域,上郡行政区等のそれぞれ一部区域が避難指示解除準備区域に,小浜行政区,中央行政区等のそれぞれ全区域,新夜ノ森行政区等のそれぞれ一部区域が居住制限区域に,小良ヶ浜行政区,夜の森駅前北行政区等のそれぞれ全区 域,新夜ノ森行政区等のそれぞれ一部区域が帰還困難区域に指定された。【乙共91・13~32頁】平成29年4月1日午前0時,上記のうち,居住制限区域及び避難指示解除準備区域については指定が解除されたが【乙共196・1頁】,その余の区域,すなわち,小良ヶ浜行政区,夜の森駅前北行政区等のそれぞれ全区域,新 4月1日午前0時,上記のうち,居住制限区域及び避難指示解除準備区域については指定が解除されたが【乙共196・1頁】,その余の区域,すなわち,小良ヶ浜行政区,夜の森駅前北行政区等のそれぞれ全区域,新夜ノ 森行政区等のそれぞれ一部区域は,なお帰還困難区域に指定されている。【乙共196・3頁】⑷ 浪江町政府は,平成23年4月22日,福島第一原発の半径20㎞圏内を警戒区域に設定するとともに,浪江町の福島第一原発から半径20㎞圏内を除いた区域 を計画的避難区域に設定した。これにより,浪江町はその全域が警戒区域又は 計画的避難区域とされた。 その後,平成25年4月1日,浪江町大字請戸,大字中浜等のそれぞれ全区域が避難指示解除準備区域に,大字牛渡,大字樋渡等のそれぞれ全ての区域が居住制限区域に,大字酒井,大字大堀等の全ての区域が帰還困難区域に見直された。【乙共91・38~39頁】 平成29年3月31日午前0時,上記のうち,居住制限区域及び避難指示解除準備区域については指定が解除されたが【乙共196・1頁】,その余の区域,すなわち,大字酒井,大字大堀等のそれぞれ全区域は,なお帰還困難区域に指定されている。【乙共196・8頁】⑸ 葛尾村 政府は,平成23年4月22日,福島第一原発の半径20㎞圏内を警戒区域に設定し,これにより葛尾村の一部が警戒区域とされた。 その後,平成25年3月22日,葛尾村大笹行政区,大放行政区等のそれぞれ全区域,岩角行政区及び広谷地行政区のそれぞれ一部区域が避難指示解除準備区域に,岩角行政区及び広谷地行政区のそれぞれ一部区域が居住制限区域に, 野行行政区の全区域が帰還困難区域に指定された。 【乙共91・40~46頁】平成28年6月12日午前0時,上記のうち,居住制限区域 行政区及び広谷地行政区のそれぞれ一部区域が居住制限区域に, 野行行政区の全区域が帰還困難区域に指定された。 【乙共91・40~46頁】平成28年6月12日午前0時,上記のうち,居住制限区域及び避難指示解除準備区域については指定が解除されたが【乙共90の1頁】,その余の区域,すなわち,野行行政区の全区域は,なお帰還困難区域に指定されている。【乙共90・37頁】 ⑹ 飯舘村政府は,平成23年4月22日,福島第一原発から半径20㎞以上30㎞圏内に指示されていた屋内退避の指示を解除し,同日,計画的避難区域及び緊急時避難準備区域を設定した。これにより,飯舘村全域が計画的避難区域とされた。 その後,平成24年7月17日,飯舘村八木沢・芦原行政区,大倉行政区等 のそれぞれ全区域が避難指示解除準備区域に,草野行政区,深谷行政区等のそれぞれ全区域が居住制限区域に,長泥行政区の全区域が帰還困難区域に指定された。【乙共91・47~48頁】平成29年3月31日午前0時,上記のうち,居住制限区域及び避難指示解除準備区域については指定が解除されたが【乙共92,乙共196の1頁】,そ の余の区域,すなわち,長泥行政区の全区域は,なお帰還困難区域に指定されている。【乙共196・10頁】⑺ 川俣町政府は,平成23年4月22日,計画的避難区域及び緊急時避難準備区域を設定し,これにより,川俣町の一部が計画的避難区域とされた。 その後,平成25年8月8日,川俣町山木屋行政区のうちの一区,甲二区等のそれぞれ全区域が避難指示解除準備区域に,山木屋行政区のうちの乙八区の全区域が居住制限区域に指定された。【乙共91の5~12頁】平成29年3月31日午前0時,上記のうち,居住制限区域及び避難指示解除準備区域につい 難指示解除準備区域に,山木屋行政区のうちの乙八区の全区域が居住制限区域に指定された。【乙共91の5~12頁】平成29年3月31日午前0時,上記のうち,居住制限区域及び避難指示解除準備区域については指定が解除され【乙共196・1頁】,これにより川俣 町における避難指示区域の指定は全て解除された。 ⑻ 南相馬市政府は,平成23年4月22日,福島第一原発の半径20㎞圏内を警戒区域に設定し,南相馬市の福島第一原発から半径20㎞以遠の区域を,一部計画的避難区域に,一部緊急時避難準備区域に設定した。これにより,南相馬市は, 小高区の全域と原町区の一部が警戒区域とされたほか,その他の一部が計画的避難区域又は緊急時避難準備区域とされた。 平成23年9月30日,上記のうち,緊急時避難準備区域については指定が解除された。 他方,南相馬市は,平成23年3月16日,独自の判断に基づき,同市内に 居住する住民に対して一時避難を要請するとともに,その一時避難を支援した (前記2[❷-128 頁])が,屋内退避区域の指定が解除された同年4月22日には,引き続き警戒区域,計画的避難区域又は緊急時避難準備区域に指定された区域を除く南相馬市内の区域から避難していた住民に対して,自宅での生活が可能な者の帰宅を許容する旨の見解を示した。【乙共1・8頁参照】また,南相馬市原町区及び鹿島区のそれぞれ一部について,平成23年7月 21日以降,142地点,153世帯が特定避難勧奨地点に指定された(前記3[❷-128 頁])。特定避難勧奨地点の指定は,いずれも平成26年12月28日に解除された。 その後,平成24年4月16日,小高区片草等の区域の全て及び原町区雫の字袖原等の区域の一部が避難指示解除準備区域に,小高区神山の字鯖沢等の区 指定は,いずれも平成26年12月28日に解除された。 その後,平成24年4月16日,小高区片草等の区域の全て及び原町区雫の字袖原等の区域の一部が避難指示解除準備区域に,小高区神山の字鯖沢等の区 域及び原町区片倉の字行津等の区域が居住制限区域に,小高区金谷の字小畑,字ドウケ,字出戸間船及び字野中の区域が帰還困難区域に,それぞれ指定された。【乙共91・2~4頁】平成28年7月12日午前0時,上記のうち,居住制限区域(小高区神山の字鯖沢等の区域及び原町区片倉の字行津等の区域)及び避難指示解除準備区域 (小高区片草等の区域の全て及び原町区雫の字袖原等の区域の一部)については指定が解除されたが【乙共90・1頁】,その余の区域,すなわち,小高区金谷の字小畑,字ドウケ,字出戸間船及び字野中の区域は,なお帰還困難区域に指定されている。【乙共90・2頁】⑼ 川内村 政府は,平成23年4月22日,福島第一原発の半径20㎞圏内を警戒区域に設定するとともに,福島第一原発から半径20㎞圏内の区域を除く川内村の全域を緊急時避難準備区域に設定した。これにより,川内村はその全域が警戒区域と緊急時避難準備区域になった。 平成23年9月30日,上記のうち,緊急時避難準備区域については指定が 解除された。【乙共19】 平成24年4月1日,川内村大字上川内の一部,大字下川内の一部が避難指示解除準備区域に,大字下川内の字貝ノ坂及び字荻のそれぞれ全区域が居住制限区域に指定された。【乙共93の1】また,川内村においては,平成23年8月3日,大字下川内字三ツ石・勝追の一部(1地点1世帯)が特定避難勧奨地点に指定された。同指定は,平成2 4年12月14日をもって解除された。 平成26年10月1日には,川内村の避難指示解 年8月3日,大字下川内字三ツ石・勝追の一部(1地点1世帯)が特定避難勧奨地点に指定された。同指定は,平成2 4年12月14日をもって解除された。 平成26年10月1日には,川内村の避難指示解除準備区域について避難指示が解除され,居住制限区域が避難指示解除準備区域に見直された。【乙共93の1ないし3】平成28年6月14日午前0時,上記避難指示解除準備区域について指定が 解除され【乙共90・1頁】,これにより川内村における避難指示区域の指定は全て解除された。 ⑽ 田村市政府は,平成23年4月22日,福島第一原発の半径20㎞圏内を警戒区域に設定し,福島第一原発から半径20㎞圏内の区域を除く田村市の一部を緊急 時避難準備区域に設定した。これにより,田村市については,都路町古道が警戒区域とされ,都路町,船引町横道,常葉町堀田及び常葉町山根から警戒区域を除く区域が緊急時避難準備区域とされた。【乙共18】平成23年9月30日,上記のうち,緊急時避難準備区域についてはその指定が解除された。【乙共19】 平成24年4月1日,福島第一原発から半径20㎞圏内に位置する都路町古道の一部の区域が避難指示解除準備区域に指定された。【乙共94の1】平成26年4月1日,上記避難指示解除準備区域について指定が解除された。 【乙共94の2】⑾ 楢葉町 政府は,平成23年4月22日,福島第一原発の半径20㎞圏内を警戒区域 に設定するとともに,楢葉町で福島第一原発から半径20㎞圏外の区域を緊急時避難準備区域に設定した。これにより,楢葉町の大半が警戒区域とされるとともに,その余は緊急時避難準備区域とされた。 平成23年9月30日,上記のうち,緊急時避難準備区域については,その指定が解除された。 その後 。これにより,楢葉町の大半が警戒区域とされるとともに,その余は緊急時避難準備区域とされた。 平成23年9月30日,上記のうち,緊急時避難準備区域については,その指定が解除された。 その後,平成24年8月10日,福島第一原発から半径20㎞圏内に位置する楢葉町井出等の区域が避難指示解除準備区域に指定された。【乙共95】平成27年9月5日,上記避難指示解除準備区域について指定が解除された。 【乙共91・1頁】第5 中間指針等の発表及び被告東電の賠償基準の公表(精神的損害について) 1 中間指針等の策定原賠法18条は,文部科学省に原子力損害の賠償に関する紛争について和解の仲介を行うこと及び当該紛争の当事者による自主的な解決に資する一般的な指針の策定に係る事務を行わせるため,原子力損害賠償紛争審査会(原賠審)を置くことができる旨を定める。 本件事故の発生後,上記規定に基づいて,本件事故による原子力損害の賠償に関する紛争についての原子力損害の範囲の判定等に関する指針を策定するために,原賠審が設置された。 原賠審は,平成23年4月に設置され,同年8月5日付けで「東京電力株式会社福島第一,第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中 間指針」(中間指針)【乙共1】を,同年12月6日付けで「東京電力株式会社福島第一,第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針追補(自主的避難等に係る損害について)」(中間指針追補)【乙共2】を,平成24年3月16日付けで「東京電力株式会社福島第一,第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針第二次追補(政府による避難区 域等の見直し等に係る損害について)」(中間指針第二次追補)【乙共3】を, 二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針第二次追補(政府による避難区 域等の見直し等に係る損害について)」(中間指針第二次追補)【乙共3】を, 平成25年1月30日付けで「東京電力株式会社福島第一,第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針第三次追補(農林漁業・食品産業の風評被害に係る損害について)」を,同年12月26日付けで「東京電力株式会社福島第一,第二原子力発電所事故による原子力損害の範囲の判定等に関する中間指針第四次追補(避難指示の長期化等に係る損害について)」(中間指 針第四次追補)【乙共9】を策定・公表した。 2 中間指針等に定める精神的損害の賠償の内容等⑴ 避難者の定義ア避難等対象者中間指針【乙共1】は,避難指示等(対象区域における政府又は本件事故 発生直後における合理的な判断に基づく地方公共団体による避難等の指示,要請又は支援・促進をいう。)により避難等を余儀なくされた者を「避難等対象者」と定義し,具体的には,以下の者を「避難等対象者」としている。 【乙共1・8頁以下】(ア) 避難 本件事故が発生した後に避難指示等対象区域内から同区域外へ避難のための立退き及びこれに引き続く同区域外滞在を余儀なくされた者(ただし,平成23年6月20日以降に緊急時避難準備区域(特定避難勧奨地点を除く。)から同区域外に避難を開始した者のうち,子供,妊婦,要介護者,入院患者等以外の者を除く。) (イ) 対象区域外滞在本件事故発生時に避難指示等対象区域外に居り,同区域内に生活の本拠としての住居があるものの引き続き対象区域外滞在を余儀なくされた者(ウ) 屋内退避屋内退避区域内で屋内への退避を余儀なくされた者 故発生時に避難指示等対象区域外に居り,同区域内に生活の本拠としての住居があるものの引き続き対象区域外滞在を余儀なくされた者(ウ) 屋内退避屋内退避区域内で屋内への退避を余儀なくされた者 なお,以上の避難,対象区域外滞在及び屋内退避を併せて「避難等」とい う。【乙共1・8~9頁】イ自主的避難等対象者中間指針追補【乙共2】は,本件事故発生時,上記避難指示等対象区域には含まれない,福島市等の県北地域や郡山市等の県中地域,相双地域の相馬市及び新地町,いわき地域のいわき市において生活の本拠としての住居があ った者(本件事故発生後に当該住居から自主的避難を行ったか否か,当該住居に滞在を続けたか否か等を問わない。)を「自主的避難等対象者」と定める。【乙共2・2~4頁】⑵ 避難等対象者に対する賠償ア中間指針の賠償の考え方 中間指針は,本件事故において,避難等対象者が受けた精神的苦痛(「生命・身体的損害」を伴わないものに限る。)のうち,以下の精神的苦痛を賠償すべき損害とする。【乙共1・17頁以下】(ア) 避難に係る精神的損害避難指示等対象区域から実際に避難した上,引き続き同区域外滞在を長 期間余儀なくされた者(又は余儀なくされている者)及び本件事故発生時には避難指示等対象区域外に居り,同区域内に住居があるものの引き続き対象区域外滞在を長期間余儀なくされた者(又は余儀なくされている者)が,自宅以外での生活を長期間余儀なくされ,正常な日常生活の維持・継続が長期間にわたり著しく阻害されたために生じた精神的苦痛(以下,こ のような精神的苦痛に係る精神的損害を「避難に係る精神的損害」という。)(イ) 屋内退避に係る精神的損害屋内退避区域の指定が解除されるまでの間,同区域における じた精神的苦痛(以下,こ のような精神的苦痛に係る精神的損害を「避難に係る精神的損害」という。)(イ) 屋内退避に係る精神的損害屋内退避区域の指定が解除されるまでの間,同区域における屋内退避を長期間余儀なくされた者が,行動の自由の制限等を余儀なくされ,正常な日常生活の維持・継続が長期間にわたり著しく阻害されたために生じた精 神的苦痛(以下,このような精神的苦痛に係る精神的損害を「屋内退避に 係る精神的損害」という。)(ウ) 生活費増加費用の扱い上記(ア)及び(イ)の精神的損害の損害額(「避難等に係る慰謝料」)については,避難費用のうち生活費の増加費用と合算した一定の金額をもって両者の損害額と算定するのが合理的な算定方法と認められるとし,上記(ア) 又は(イ)に該当する者であれば,その年齢や世帯の人数等にかかわらず,避難等対象者個々人が賠償の対象となるとする。 イ中間指針における避難等に係る慰謝料の具体的金額の目安及び算定根拠中間指針は,避難等対象者の避難等に係る慰謝料の算定を,以下のとおりとする。【乙共1・17頁以下】 (ア) 本件事故発生時(平成23年3月)から6か月間(第1期)a 避難の場合の金額及びその算定根拠避難に係る精神的損害については,本件事故後,避難等対象者の大半が仮設住宅等への入居が可能となるなど,長期間の避難生活のための基盤が形成されるまでの6か月間(第1期)は,地域コミュニティ等が広 範囲にわたって突然喪失し,これまでの平穏な日常生活とその基盤を奪われ,自宅から離れ不便な避難生活を余儀なくされた上,帰宅の見通しもつかない不安を感じるなど,最も精神的苦痛の大きい期間であるといえる。 したがって,第1期の損害額の算定に当たっては,本件は負傷を伴う 自宅から離れ不便な避難生活を余儀なくされた上,帰宅の見通しもつかない不安を感じるなど,最も精神的苦痛の大きい期間であるといえる。 したがって,第1期の損害額の算定に当たっては,本件は負傷を伴う 精神的損害ではないことを勘案しつつ,自動車損害賠償責任保険における慰謝料(日額4200円。月額換算12万6000円)を参考にした上,上記のように大きな精神的苦痛を被ったことや生活費の増加分も考慮し,1人当たり月額10万円を目安とするのが合理的であると判断した。 ただし,特に避難当初の避難所等における長期間にわたる避難生活は, 他の宿泊場所よりも生活環境・利便性・プライバシー確保の点からみて相対的に過酷な生活状況であったことは否定し難いため,この点を損害額の加算要素として考慮し,避難所・体育館・公民館等(以下「避難所等」という。)における避難生活等を余儀なくされた者については,避難所等において避難生活をした期間は,1人月額12万円を目安とする。 ただし,緊急時避難準備区域内に住居がある子供,妊婦,要介護者,入院患者等であって,同年6月20日以降に避難した者及び特定避難勧奨地点から避難した者については,当該者が実際に避難した日を始期とする。 終期については,避難指示等の解除等から相当期間経過後に生じた精 神的損害は,特段の事情がある場合を除き,賠償の対象とはならない。 b 屋内退避の場合の金額及びその根拠屋内退避に係る精神的損害については,屋内退避区域の指定が解除されるまでの間,同区域において屋内退避をしていた者(緊急時避難準備区域から平成23年6月19日までに避難を開始した者及び計画的避 難区域から避難した者を除く。)は,自宅で生活をしているという点では避難及び対象区域外滞在をした者のよ ていた者(緊急時避難準備区域から平成23年6月19日までに避難を開始した者及び計画的避 難区域から避難した者を除く。)は,自宅で生活をしているという点では避難及び対象区域外滞在をした者のような精神的苦痛は観念できないが,他方で,外出等の行動の自由を制限されていたことなどを考慮し,その損害額は1人10万円を目安とするのが妥当である。 (イ) 第1期終了から6か月間(第2期) 1人月額5万円を目安とする。なお,中間指針第二次追補により,第2期は避難指示区域見直しの時点(避難指示等対象区域において,警戒区域又は計画的避難区域の指定が解除されて,避難指示解除準備区域,居住制限区域又は帰還困難区域の設定がなされる時点)まで延長されている。 (ウ) 第2期終了から終期までの期間(第3期) 中間指針では,第3期については,今後の本件事故の収束状況等諸般の 事情を踏まえ,改めて損害額の算定方法を検討するのが妥当であると考えられるとされた。 ウ旧屋内退避区域及び地方公共団体が住民に一時避難を要請した区域について中間指針は,避難費用に関する賠償指針の備考4【乙共1・14頁】にお いて,平成23年4月22日に屋内退避区域の指定が解除されて避難指示等の対象外となった区域及び地方公共団体が住民に一時避難を要請した区域(同日に帰宅を許容する旨の見解が示されている。)について,同日から相当期間経過後は賠償の対象とならないとし,この相当期間は,これらの区域における公共施設の復旧状況等を踏まえ,解除等期日から住居に戻るまでに 通常必要となると思われる準備期間を考慮し,平成23年7月末までを目安とし,ただし,これらの区域に所在する学校等に通っていた児童・生徒等が避難を余儀なくされていた場合は,同年8月末までを目安 通常必要となると思われる準備期間を考慮し,平成23年7月末までを目安とし,ただし,これらの区域に所在する学校等に通っていた児童・生徒等が避難を余儀なくされていた場合は,同年8月末までを目安とする。 エ中間指針第二次追補その後,第2期及び第3期の賠償について,原賠審は,平成24年3月1 6日に中間指針第二次追補を策定し,以下のような考え方を示している。 【乙共3の2頁以下】(ア) 期間の変更第2期を,避難指示区域見直しの時点(避難指示等対象区域において,警戒区域又は計画的避難区域の指定が解除されて,避難指示解除準備区域, 居住制限区域又は帰還困難区域の設定がなされる時点。以下同じ。)まで延長し,当該時点から終期までの期間を第3期とする。 (イ) 精神的損害及び生活費の増加費用の具体的損害額第3期における避難指示区域における精神的損害及び生活費の増加費用の具体的損害額の算定に当たっては,避難指示区域の見直しに伴い,以 下のとおりとする。 a 避難指示解除準備区域に設定された地域避難の長期化に伴う「いつ自宅に戻れるか分からないという不安な状態が続くことによる精神的苦痛」の増大等を考慮し,また,避難指示解除準備区域は,比較的近い将来に避難指示の解除が見込まれることから,これまでと同様に月単位で算定することとし,避難に係る精神的損害の 額として,1人月額10万円を目安とする。 b 居住制限区域に設定された地域避難の長期化に伴う「いつ自宅に戻れるか分からないという不安な状態が続くことによる精神的苦痛」の増大等を考慮し,また居住制限区域は,現時点で解除までの具体的な期間が不明であるものの,ある程度長 期化すると見込まれることを踏まえ,基本的には月単位で算定することとし とによる精神的苦痛」の増大等を考慮し,また居住制限区域は,現時点で解除までの具体的な期間が不明であるものの,ある程度長 期化すると見込まれることを踏まえ,基本的には月単位で算定することとしつつ,被害者救済の観点から,当面の損害額として一定期間分を想定した一括の支払を受けることができるものとすることが適当である。 そこで,避難に係る精神的損害の額として,1人月額10万円を目安とした上,概ね2年分をまとめて1人240万円の請求をすることがで きるものとする。ただし,避難指示解除までの期間が長期化した場合は,賠償の対象となる期間に応じて追加する。 c 帰還困難区域に設定された地域帰還困難区域は,第3期の始期(避難指示区域見直し時点)から5年以上帰還できない状態が続くと見込まれることから,こうした長期にわ たって帰還できないことによる損害額を一括して,実際の避難指示解除までの期間を問わず一律に算定することとし,第3期の始期(避難指示区域見直し時点)から賠償終期までの期間について,1人600万円を目安とする。なお,この額はあくまでも目安であり,帰還できない期間が長期化する等の個別具体的な事情によりこれを上回る額が認められ 得る。 d 旧緊急時避難準備区域について避難等に係る精神的損害の額として,避難指示区域に準じて,1人月額10万円(通常の範囲の生活費の増加費用を含む。)を目安とし,賠償終期については,平成24年8月末までを目安とする(ただし,楢葉町の旧緊急時避難準備区域については,同町のほとんどが避難指示区域 である等の特別の事情を踏まえて,避難指示区域についての解除後相当期間が経過した時点までとする。)。【乙共3・6~8頁】e 特定避難勧奨地点について第3期における避難等に係る 難指示区域 である等の特別の事情を踏まえて,避難指示区域についての解除後相当期間が経過した時点までとする。)。【乙共3・6~8頁】e 特定避難勧奨地点について第3期における避難等に係る精神的損害の額としては,1人月額10万円(通常の範囲の生活費の増加費用を含む。)を目安とするものとし た上で,賠償終期については,特定避難勧奨地点の解除から3か月間を当面の目安とする。【乙共3・8~9頁】オ中間指針第四次追補原賠審は,平成25年12月26日に策定・公表した中間指針第四次追補【乙共9】において,避難指示解除の見通しがつかず避難が長期化する場合 の精神的損害【同2頁参照】について,依然として立入りが制限され,本格的な除染・インフラ復旧計画がなく,避難指示解除及び帰還の見通しが立っていない状況の中で,被害者の方々が早期の生活再建を図るためには,見通しのつかない避難指示解除の時期に依存しない賠償が必要と考えられること等から,帰還困難区域又は大熊町若しくは双葉町の居住制限区域ないし避 難指示解除準備区域に住居があった避難者について,「長年住み慣れた住居及び地域が見通しのつかない長期間にわたって帰還不能となり,そこでの生活の断念を余儀なくされた精神的苦痛等」【同5~6頁】(以下「避難が長期化する場合の精神的損害」といい,その損害額を「避難が長期化する場合の慰謝料」という。)について,最終的に帰還するか否かを問わず,一括して 賠償することとしたほか,帰還困難区域,大熊町及び双葉町以外の地域に住 居があった避難者に対する賠償指針や,避難指示解除後の賠償終期について,指針を定めた。 (ア) 帰還困難区域又は大熊町若しくは双葉町の居住制限区域ないし避難指示解除準備区域に住居があった避難者に対する賠 った避難者に対する賠償指針や,避難指示解除後の賠償終期について,指針を定めた。 (ア) 帰還困難区域又は大熊町若しくは双葉町の居住制限区域ないし避難指示解除準備区域に住居があった避難者に対する賠償指針中間指針第二次追補で帰還困難区域からの避難者について示された第 3期(避難指示区域見直しから賠償終期まで)の慰謝料1人600万円に避難が長期化する場合の慰謝料1000万円(通常の範囲の生活費の増加費用を除く。)を加算した額から,上記第3期の慰謝料600万円のうち平成26年3月(中間指針第四次追補を受けて被告東電に対する損害賠償請求が可能になると見込まれる時期)以降に相当する分(月額10万円で 換算。ただし,通常の範囲の生活費の増加費用を除く。)を控除した金額を,第3期において賠償すべき精神的損害の損害額とする。 例えば,第3期の始期(避難指示区域見直し)が平成24年6月の場合は,加算額1000万円から将来分の合計額を控除した額は700万円となり,第3期において賠償すべき精神的損害の損害総額は,当該700万 円に第二次追補で示された600万円を合計した1300万円になる。 また,大熊町若しくは双葉町の居住制限区域若しくは避難指示解除準備区域についても,町の大半が帰還困難区域であり,人口,主要インフラ及び生活関連サービスの拠点が帰還困難区域に集中していることから,帰還困難区域以外でも,帰還困難区域の避難指示が解除されない限り住民の帰 還は困難であると認められるため,上記帰還困難区域と同様に,一括で加算する賠償の対象とされている。【乙共9・4頁以下,乙共10・5頁】(イ) 上記(ア)以外の地域に住居があった避難者に対する賠償指針第3期における賠償額は引き続き1人月額10万円を目安とする。 この場合の損害額は, ている。【乙共9・4頁以下,乙共10・5頁】(イ) 上記(ア)以外の地域に住居があった避難者に対する賠償指針第3期における賠償額は引き続き1人月額10万円を目安とする。 この場合の損害額は,避難指示解除までの期間が長期化した場合には, 賠償の対象となる期間に応じて増加するが,その場合,最大でも上記(ア) による一括賠償の対象者の損害額の合計額までを概ねの目安とする。【乙共9・4頁,7頁,乙共10・7頁】(ウ) 相当期間について中間指針は,「終期については,避難指示等の解除等から相当期間経過後に生じた精神的損害は,特段の事情がある場合を除き,賠償の対象とは ならない。」とするところ,中間指針第四次追補は,特段の事情がある場合を除き賠償の対象となる終期である「相当期間」について,避難指示区域については,避難指示等の解除等から1年間を当面の目安とするとしている。 これは,①避難生活が長期にわたり,帰還するには相応の準備期間が必 要であること,②例えば学校の新学期など生活の節目となる時期に帰還することが合理的であること,③避難指示の解除は,平成23年12月の原子力災害対策本部決定に基づき,日常生活に必須なインフラや生活関連サービスが概ね復旧した段階において,子供の生活環境を中心とする除染作業の十分な進捗を考慮して,県,市町村及び住民と十分な協議を行うこと となっていること,④こうした住民との協議により,住民としても解除時期を予想して避難指示解除前からある程度の帰還のための準備を行うことが可能であること等を考慮し,目安となる期間については,特に,個々の避難者によってその節目となる時期がさまざまであり,こうした節目の時期を含み得る期間とすることが適当と考えられ,また,避難指示解除が 検討 と等を考慮し,目安となる期間については,特に,個々の避難者によってその節目となる時期がさまざまであり,こうした節目の時期を含み得る期間とすることが適当と考えられ,また,避難指示解除が 検討されている区域の現状も考慮した上で,当面の目安を1年間としたものである。【乙共10・11頁】⑶ 自主的避難等対象者の精神的損害等に対する賠償ア中間指針追補及び中間指針第二次追補の策定経緯原賠審は,平成23年8月5日に決定・公表した中間指針【乙共1】にお いて,避難等対象者に対する損害の範囲に関する考え方を示したが,その際, 政府による避難指示等に基づかずに避難した避難者(自主的避難者)に対する損害については,引き続き検討することとし,その後,審査会において,関係者へのヒアリングを含めて調査・検討を行い,避難指示等の対象区域の周辺地域で自主的避難をした者が相当数存在することが確認された。 そのような審議の中で,自主的避難に至った主な類型として, ① 本件事故発生当初の時期に,自らの置かれている状況について十分な情報がない中で,福島第一原発の原子炉建屋において水素爆発が発生したことなどから,大量の放射性物質の放出による放射線被ばくへの恐怖や不安を抱き,その危険を回避しようと考えて避難を選択した場合,及び ② 本件事故発生からしばらく経過した後,生活圏内の空間放射線量や放射線被ばくによる影響等に関する情報がある程度入手できるようになった状況下で,放射線被ばくへの恐怖や不安を抱き,その危険を回避しようと考えて避難を選択した場合が考えられることが確認された。 また,同時に,当該地域の住民は,そのほとんどが自主的避難をせずにそれまでの住居に滞在し続けており,これら避難をしなかった者が抱き続けたで を選択した場合が考えられることが確認された。 また,同時に,当該地域の住民は,そのほとんどが自主的避難をせずにそれまでの住居に滞在し続けており,これら避難をしなかった者が抱き続けたであろう上記の恐怖や不安も無視できないとされた。 かかる審査会の議論も踏まえ,平成23年12月6日,本件事故により自主的避難等対象者が受けた精神的損害等について,避難者に対しては避難に 伴う正常な日常生活の維持・継続が相当程度阻害されたために生じた精神的苦痛に対する賠償を,滞在者に対しては放射線被ばくへの恐怖や不安,これに伴う行動の自由の制限等による精神的苦痛に対する賠償を規定した中間指針追補【乙共2】が策定,公表され,さらに,平成24年3月16日に中間指針第二次追補【乙共3】が策定・公表されるに至った。 イ中間指針追補における自主的避難等対象者に対する賠償指針 (ア) 対象区域について本件事故を受けて自主的避難に至った主な類型は2種類考えられるが,いずれの場合もこのような恐怖や不安は,福島第一原発の状況が安定していない等の状況下で,同原発からの距離,避難指示等対象区域との近接性,政府や地方公共団体から公表された放射線量に関する情報,自己の居住す る市町村の自主的避難の状況(自主的避難者の多寡など)等の要素が複合的に関連して生じたと考えられる。 以上の要素を総合的に勘案すると,少なくとも中間指針追補の対象となる自主的避難等対象区域においては,住民が放射線被ばくへの相当程度の恐怖や不安を抱いたことには相当の理由があり,また,その危険を回避す るために自主的避難を行ったことについてもやむを得ない面がある。 自主的避難等の事情は個別に異なり,損害の内容も多様であると考えられるが,中間指針追補では,後記( り,また,その危険を回避す るために自主的避難を行ったことについてもやむを得ない面がある。 自主的避難等の事情は個別に異なり,損害の内容も多様であると考えられるが,中間指針追補では,後記(イ)の対象者に対し公平に賠償すること,及び可能な限り広くかつ早期に救済するとの観点から,一定の自主的避難等対象区域を設定する。 以上の考え方により,中間指針追補において自主的避難等に係る損害について賠償の対象となる区域は以下の福島県内の市町村のうち避難指示等対象区域を除く区域(自主的避難等対象区域)とする。 (県北地域)福島市,二本松市,伊達市,本宮市,桑折町,国見町,川俣町,大玉村 (県中地域)郡山市,須賀川市,田村市,鏡石町,天栄村,石川町,玉川村,平田村,浅川町,古殿町,三春町,小野町(相双地域)相馬市,新地町(いわき地域)いわき市(イ) 対象者について 中間指針追補において自主的避難等に係る損害について賠償の対象と なる者は,本件事故発生時に自主的避難等対象区域内に生活の本拠としての住居があった者(自主的避難等対象者。本件事故発生後に当該住居から自主的避難を行ったか否か,本件事故発生時に自主的避難等対象区域外に居り引き続き同区域外に滞在したか否か,当該住居に滞在を続けたか否か等を問わない。)とする。 また,本件事故発生時に避難指示等対象区域内に生活の本拠としての住居があった者についても,中間指針第3の[損害項目]の6の精神的損害の賠償対象とされていない期間並びに子供及び妊婦が自主的避難等対象区域内に避難して滞在した期間(本件事故発生当初の時期を除く。)は,自主的避難等対象者の場合に準じて賠償の対象とする。 (ウ) 精神的損害(慰謝料)等の具体的金額の目安及び算定根 避難等対象区域内に避難して滞在した期間(本件事故発生当初の時期を除く。)は,自主的避難等対象者の場合に準じて賠償の対象とする。 (ウ) 精神的損害(慰謝料)等の具体的金額の目安及び算定根拠についてa 賠償項目自主的避難等対象者が受けた損害のうち,以下のものが一定の範囲で賠償すべき損害と認められる。 放射線被ばくへの恐怖や不安により自主的避難等対象区域内の住 居から自主的避難を行った場合(本件事故発生時に自主的避難等対象区域外に居り引き続き同区域外に滞在した場合を含む。以下同じ。)における以下のもの。 ① 自主的避難によって生じた生活費の増加費用② 自主的避難により,正常な日常生活の維持・継続が相当程度阻害 されたために生じた精神的苦痛③ 避難及び帰宅に要した移動費用放射線被ばくへの恐怖や不安を抱きながら自主的避難等対象区域内に滞在を続けた場合における以下のもの。 ① 放射線被ばくへの恐怖や不安,これに伴う行動の自由の制限等に より,正常な日常生活の維持・継続が相当程度阻害されたために生 じた精神的苦痛② 放射線被ばくへの恐怖や不安,これに伴う行動の自由の制限等により生活費が増加した分があれば,その増加費用上記及びに係る損害額は,いずれもこれらを合算した額を同額として算定するのが,公平かつ合理的な算定方法と認められる。 b 慰謝料の額の目安具体的な損害額の算定に当たっては,(i)自主的避難等対象者のうち子供及び妊婦については,本件事故発生から平成23年12月末までの損害として1人40万円を目安とし,(ii)その他の自主的避難等対象者については,本件事故発生当初の時期の損害として1人8万円を目安と する。 また,本件事故発生時に避難指示等 月末までの損害として1人40万円を目安とし,(ii)その他の自主的避難等対象者については,本件事故発生当初の時期の損害として1人8万円を目安と する。 また,本件事故発生時に避難指示等対象区域内に住居があった者については,賠償すべき損害は自主的避難等対象者の場合に準じるものとし,具体的な損害額の算定に当たっては以下のとおりとする。 中間指針第3の[損害項目]の6の精神的損害の賠償対象とされて いない期間については,上記に定める金額が上記の(i)及び(ii)における対象期間に応じた目安であることを勘案した金額とする。 子供及び妊婦が自主的避難等対象区域内に避難して滞在した期間については,本件事故発生から平成23年12月末までの損害として1人20万円を目安としつつ,これらの者が中間指針追補の対象とな る期間に応じた金額とする。 ウ中間指針第二次追補における自主的避難等対象者に対する賠償指針中間指針第二次追補【乙共3】は,中間指針追補において示した自主的避難等に係る損害(前記イ)について,平成24年1月以降に関しては,①中間指針追補とは,対象期間における状況が全般的に異なること,②他方,少 なくとも子供及び妊婦の場合は,放射線への感受性が高い可能性があること が一般に認識されていると考えられること等から,中間指針追補の内容はそのまま適用しないが,個別の事例又は類型によって,これらの者が放射線被ばくへの相当程度の恐怖や不安を抱き,また,その危険を回避するために自主的避難を行うような心理が,平均的・一般的な人を基準としつつ,合理性を有していると認められる場合には賠償の対象とすることとして,以下のと おりの指針を定めた。 (ア) 少なくとも子供及び妊婦については,個別の事例又は類型 的・一般的な人を基準としつつ,合理性を有していると認められる場合には賠償の対象とすることとして,以下のと おりの指針を定めた。 (ア) 少なくとも子供及び妊婦については,個別の事例又は類型毎に,放射線量に関する客観的情報,避難指示区域との近接性等を勘案して,放射線被ばくへの相当程度の恐怖や不安を抱き,また,その危険を回避するために自主的避難を行うような心理が,平均的・一般的な人を基準としつつ, 合理性を有していると認められる場合には,賠償の対象となる。 (イ) 上記(ア)によって賠償の対象となる場合において,賠償すべき損害及びその損害額の算定方法は,原則として中間指針追補第2の[損害項目]で示したとおりとする。具体的な損害額については,同追補の趣旨を踏まえ,かつ,当該損害の内容に応じて,合理的に算定するものとする。 3 被告東電の自主的賠償基準⑴ 避難指示区域についてア中間指針及び中間指針第二次追補を受けた自主的賠償基準被告東電においては,平成24年7月20日付けで経済産業省が公表した「避難指示区域の見直しに伴う賠償基準の考え方について」【乙共26】を 踏まえて,平成24年7月24日,「避難指示区域の見直しに伴う賠償の実施について(避難指示区域内)」【乙共27】を公表し,被害者の生活再建や生活基盤の確立に向けてまとまった賠償金を早期に受領できるよう,将来分を含めた一定期間の損害項目に対する賠償金を包括して請求する方式(包括請求方式)を被害者において選択できることとし,就労不能損害及び避難・ 帰宅等に係る費用と並んで,精神的損害の賠償(避難等に伴う生活費の増分 を含む。)として,次のとおり賠償することを公表した。 (ア) 帰還困難区域1人当たり600万円(平成24年6月1 等に係る費用と並んで,精神的損害の賠償(避難等に伴う生活費の増分 を含む。)として,次のとおり賠償することを公表した。 (ア) 帰還困難区域1人当たり600万円(平成24年6月1日~平成29年5月31日)(イ) 居住制限区域1人当たり240万円(平成24年6月1日~平成26年5月31日) (ウ) 避難指示解除準備区域1人当たり120万円(平成24年6月1日~平成25年5月31日)ただし,避難指示の解除見込み時期が決定された場合には,その期間に応じた金額を賠償することとし,また,避難指示解除までの期間が長期化した場合は,実際の解除時期に応じた金額を追加的に賠償することとする。 (エ) 旧緊急時避難準備区域本件事故発生当時に旧緊急時避難準備区域(平成23年9月30日指定解除)に住居のあった避難等対象者に対しては,中間指針第二次追補において賠償終期が平成24年8月末を目安とするとされたことから【乙共3・7頁】,平成24年8月末まで1人月額10万円を賠償することとす る(平成24年6月から同年8月までについて3か月合計30万円の賠償)。【乙共25】また,旧緊急時避難準備区域に早期に帰還し,又は本件事故発生当初から避難せずに滞在し続けた者に対しては,中間指針では賠償の考え方が明記されていないが,避難等対象者と同様に,平成24年8月末までを対象 として月額10万円を賠償することとする。【乙共25,乙共28】これに加え,平成24年9月1日時点で高校生以下であった者に対しては,平成24年9月から平成25年3月31日までを対象として,1人月額5万円を賠償することとしている。【乙共274】(オ) 旧屋内退避区域及び地方公共団体が住民に一時避難を要請した区域 避難費用及び避難等 から平成25年3月31日までを対象として,1人月額5万円を賠償することとしている。【乙共274】(オ) 旧屋内退避区域及び地方公共団体が住民に一時避難を要請した区域 避難費用及び避難等に係る慰謝料を平成23年3月11日から同年9 月末まで,避難の有無を問わず,1人月額10万円(避難所等での避難の場合には1人月額12万円)を賠償する。【乙共25】イ中間指針第四次追補を受けた自主的賠償基準(ア) 帰還困難区域又は大熊町若しくは双葉町の居住制限区域又は避難指示解除準備区域に住居があった者について 被告東電は,中間指針第四次追補を受けて,平成26年3月26日,本件事故発生時点において帰還困難区域又は大熊町若しくは双葉町の居住制限区域又は避難指示解除準備区域に住居があり,避難などを余儀なくされた者で,避難指示区域見直し時点又は平成24年6月1日のうちいずれか早い時点において避難等対象者である者について,避難が長期化する場 合の慰謝料として,1人当たり700万円を賠償することとした。【乙共29】(イ) 居住制限区域又は避難指示解除準備区域について被告東電は,中間指針第四次追補の考え方を踏まえて,同日,本件事故発生当時,居住制限区域又は避難指示解除準備区域(ただし,大熊町及び 双葉町を除く。)に住居があった者に対して,避難指示が解除された後の1年間について,避難等に係る慰謝料及びその他実費(避難・帰宅等に係る費用相当額及び家賃に係る費用相当額)を賠償する旨公表し【乙共30】,避難等に係る慰謝料については,避難指示解除後1年間について,請求者の選択により120万円の包括請求又は3か月単位での賠償を行うもの とした。 ⑵ 自主的避難等対象者について被告東電は,本件事故による被害者を広 ては,避難指示解除後1年間について,請求者の選択により120万円の包括請求又は3か月単位での賠償を行うもの とした。 ⑵ 自主的避難等対象者について被告東電は,本件事故による被害者を広く公平に救済すること及び本件事故に伴う被害実態を踏まえて柔軟に対応するため,中間指針追補及び中間指針第二次追補を踏まえつつ,これに付加して賠償することを内容とする賠償基準を 策定・公表した。その内容は,中間指針追補が定める基準(前記2⑶[❷-147 頁])に基づき,自主的避難等対象者1人当たり8万円,妊婦・子供の場合には40万円をそれぞれ賠償するとともに,これに付加するというものであり,詳細は以下のとおりである。 ア本件事故発生後から平成23年12月31日までの期間中,避難に伴い特別に負担した費用に対する賠償 【乙共35】被告東電は,上記期間内に18歳以下であった者又は妊娠していた者を含む世帯については,避難生活に伴う支出が大きいと考えられることを踏まえ,18歳以下であった者又は妊娠していた者で実際に自主的避難を行った者に対して避難によって生じる費用の賠償として,中間指針追補の定める40 万円に加えて,1人当たり20万円を追加して賠償することとした。 イ賠償の対象区域の拡大【乙共36,乙共37】平成24年6月11日及び同年8月13日,被告東電は,本件事故発生当時福島県県南地域(白河市,西郷村,泉崎村,中島村,矢吹町,棚倉町,矢 祭町,塙町,鮫川村)及び宮城県丸森町に生活の本拠としての住居があった者のうち,平成23年3月11日以降同年12月31日までの間に18歳以下であった者及び妊娠していた者に対して,自主的避難により正常な日常生活の維持・継続が相当程度阻害されたために生じた精神的苦痛及び滞 のうち,平成23年3月11日以降同年12月31日までの間に18歳以下であった者及び妊娠していた者に対して,自主的避難により正常な日常生活の維持・継続が相当程度阻害されたために生じた精神的苦痛及び滞在により放射線被ばくへの恐怖や不安,これに伴う行動の自由の制限等により正常 な日常生活の維持・継続が相当程度阻害されたために生じる精神的苦痛に対する慰謝料として,1人当たり20万円を賠償することとし,その旨公表した。 ウ平成24年1月から同年8月31日までの期間の賠償基準【乙共38,乙共39】 平成24年3月16日に公表された中間指針第二次追補においては「平成 24年1月以降に関しては,①中間指針追補とは対象期間における状況が全般的に異なること,②他方,少なくとも子供及び妊婦の場合は,放射線への感受性が高い可能性があることが一般に認識されていると考えられること等から,中間指針追補の内容はそのまま適用しないが,個別の事例又は類型によって,これらの者が放射線被ばくへの相当程度の恐怖や不安を抱き,ま た,その危険を回避するために自主的避難を行うような心理が,平均的・一般的な人を基準としつつ,合理性を有していると認められる場合には賠償の対象とすることとする。」と定められている(前記2⑶ウ[❷-151 頁])。 平成24年12月5日及び平成25年2月13日,被告東電は,かかる中間指針第二次追補の考え方を踏まえて,以下のとおりの賠償基準を策定・公 表した。 (ア) 中間指針追補で定める自主的避難等対象区域に生活の本拠である住居を有していた者について平成24年1月から同年8月31日までの期間中に18歳以下であった者及び妊娠していた者に対し,平成24年1月から同年8月31日まで の期間について,① である住居を有していた者について平成24年1月から同年8月31日までの期間中に18歳以下であった者及び妊娠していた者に対し,平成24年1月から同年8月31日まで の期間について,① 自主的避難により正常な日常生活の維持・継続が相当程度阻害されたために生じた精神的苦痛及び滞在により放射線被ばくへの恐怖や不安,これに伴う行動の自由の制限等により正常な日常生活の維持・継続が相当程度阻害されたために生じる精神的苦痛に対する慰謝料として,8万 円を賠償する。 ② 自主的避難等対象区域での生活において負担した追加的費用(清掃業者への委託費用等)及び平成23年12月31日までの賠償金額(40万円)を超過して負担した生活費の増加費用並びに避難及び帰宅費用等の追加的費用として,4万円を賠償する。 (イ) 中間指針追補で定める自主的避難等対象区域に生活の本拠である住居を有していた者であって,(ア)に該当しない者について平成24年1月から同年8月31日までの期間について,自主的避難等対象区域での生活において負担した追加的費用(清掃業者への委託費用等)及び本件事故発生当初の賠償金額(8万円)を超過して負担した生活費の 増加費用並びに避難及び帰宅費用等の追加的費用として4万円を賠償する。 (ウ) 中間指針追補で定める自主的避難等対象区域外の地域のうち福島県県南地域及び宮城県丸森町に生活の本拠としての住居があった者について平成24年1月から同年8月31日までの期間中に18歳以下であっ た者及び妊娠していた者に対し,平成24年1月から同年8月31日までの期間について,① 自主的避難により正常な日常生活の維持・継続が相当程度阻害されたために生じた精神的苦痛及び滞在により放射線被ばくへの恐怖や不安, に対し,平成24年1月から同年8月31日までの期間について,① 自主的避難により正常な日常生活の維持・継続が相当程度阻害されたために生じた精神的苦痛及び滞在により放射線被ばくへの恐怖や不安,これに伴う行動の自由の制限等により正常な日常生活の維持・継続が相 当程度阻害されたために生じる精神的苦痛に対する慰謝料として,4万円を賠償する。 ② 福島県の県南地域又は宮城県丸森町での生活において負担した追加的費用(清掃業者への委託費用等)及び平成23年12月31日までの賠償金額(20万円)を超過して負担した生活費の増加費用並びに避難 及び帰宅費用等の追加的費用として,4万円を賠償する。 (エ) 中間指針追補で定める自主的避難等対象区域外の地域のうち福島県県南地域及び宮城県丸森町に生活の本拠としての住居があった者であって,(ウ)に該当しない者について福島県の県南地域又は宮城県丸森町での生活において負担した追加的 費用(清掃業者への委託費用等)として,4万円を賠償する。 4 中間指針等及び被告東電の自主的賠償基準に基づく賠償額のまとめ中間指針等及び被告東電の自主的賠償基準に基づき賠償される精神的損害の額を区域別にまとめると,資料31(第6分冊)のとおりである。 第6 中間指針等の発表及び被告東電の賠償基準の公表(財物損害について) 1 財物賠償に関する中間指針の定め 中間指針は,居住用不動産に限らず,財物に生じた損害の賠償に関しては,次のとおり定める。 ① 避難指示等による避難等を余儀なくされたことに伴い,避難指示等対象区域内の財物の管理が不能等となったため,当該財物の価値の全部又は一部が失われたと認められる場合には,現実に価値を喪失し又は減少した部分及びこれに 伴う必要かつ合理的な範囲 い,避難指示等対象区域内の財物の管理が不能等となったため,当該財物の価値の全部又は一部が失われたと認められる場合には,現実に価値を喪失し又は減少した部分及びこれに 伴う必要かつ合理的な範囲の追加的費用(当該財物の廃棄費用,修理費用等)は,賠償すべき損害と認められる。 ② そのほか,当該財物が対象区域内にあり,財物の価値を喪失又は減少させる程度の量の放射性物質に曝露した場合,又は,財物の種類,性質及び取引態様等から,平均的・一般的な人の認識を基準として,本件事故により当該財物の 価値の全部又は一部が失われたと認められる場合には,現実に価値を喪失し又は減少した部分及び除染等の必要かつ合理的な範囲の追加的費用が賠償すべき損害と認められる。 【乙共1・29頁以下】 2 経済産業省が示した財物賠償の考え方(宅地建物関係) 経済産業省は,平成24年7月20日,「避難指示区域の見直しに伴う賠償基準の考え方」を公表し,財物賠償の具体的な基準について方針を示した。【乙共78の1ないし3】そのうち宅地及び建物に関する基本的な考え方は以下のとおりである。【乙共79の1及び2】 ⑴ 基本的な考え方 ア帰還困難区域事故発生前の価値の全額を賠償する。 イ居住制限区域・避難指示解除準備区域事故時点から6年で全損として,避難指示の解除までの期間に応じた割合分(事故時点から6年経過以降:全損,5年:6分の5,4年:6分の4, 3年:半額(6分の3),2年:6分の2)を賠償する。 なお,解除の見込み時期までの期間分を当初に一括払いすることとし,実際の解除時期が見込み時期を超えた場合は,超過分について追加的に賠償を行うこととする。 ⑵ 事故発生日時点の価値の算定 ア宅地宅地については, 期間分を当初に一括払いすることとし,実際の解除時期が見込み時期を超えた場合は,超過分について追加的に賠償を行うこととする。 ⑵ 事故発生日時点の価値の算定 ア宅地宅地については,固定資産税評価額に1.43倍の補正係数をかけて事故発生日時点の時価相当額を算定する。 イ建物建物については,固定資産税評価額をもとに算定する方法,又は住宅着工 統計に基づく平均新築単価をもとに算定する方法により算定し,いずれか高い方の金額での賠償を基本とする。 ウ固定資産税評価額に補正係数をかけて事故発生日時点の価値を算定する具体的手法① まず,事故時点の固定資産税評価額をもとに,経年減点補正率(減価 償却分)を割り戻して,当該建物の新築時点での固定資産税評価額を算定し,積雪や寒冷の影響による損耗の補正を行う。 ② 次に,①で算定した固定資産税評価額と新築時点での時価相当額との調整を行うため補正係数を乗じる。 ③ さらに,新築時点と現在との物価変動幅を調整するため,それぞれの 建築年に応じた補正係数をかける。 ④ その上で,定額法による減価償却を行い,築年数に応じた事故発生時点の価値を算定する(但し,残存価値には20%の下限を設ける。)。 ⑤ 構築物については,上記手法で算定した時価相当額の10%,庭木については,経年に伴って価値が減少するとは考え難いため,上記のとおり算定した想定新築価格の5%として価値を推定する。 エ建築着工統計による平均新築単価から事故発生日時点の価値を算定する具体的手法建物の居住部分については,住宅着工統計(2011年)における福島県の木造住宅の平均新築単価をもとに,上記と同じ減価償却,残存価値の下限,構築物・庭木の評価を適用して,事故発生日時点の価値を算定 建物の居住部分については,住宅着工統計(2011年)における福島県の木造住宅の平均新築単価をもとに,上記と同じ減価償却,残存価値の下限,構築物・庭木の評価を適用して,事故発生日時点の価値を算定することも可 能である。 被告東電の策定した「平均新築単価を基礎とした単価」【乙共79】を使用することで,かかる算定が可能になる。 なお,経済産業省は,前記基準において,同基準に基づく建物の賠償の一部前払いとして,建物の修復費用等に係る賠償金という形で,建物の床面積 に比例した額(1万4000円/㎡)の支払を行うこととしている。【乙共78の3・3頁】これを受けて,被告東電も,建物の価値喪失ないし減少に対する財物賠償の一部先行支払として,上記金額の前払を実施している。 3 被告東電の賠償基準 被告東電は,建物については,経済産業省の公表した手法のほか,新築時の請負契約書等に基づく「個別評価方式」に加えて,補償コンサルタントが直接現地に赴いて対象建物の査定を行い,事後的に福島県不動産鑑定士協会の確認を経る「現地評価方式」も選択可能とした。 なお,被告東電は,かかる建物の価値喪失ないし減少に対する財物賠償の一部 先行支払として,建物の修復費用等に係る賠償金という形で建物の床面積に比例 した額(1万4000円/㎡)の支払を行っている。【乙共78の3・3頁】 4 中間指針第四次追補の定め中間指針第四次追補は,「避難が長期化する場合の精神的損害」の賠償に加えて,移住等に伴い新たな住居を取得するためや,帰還に伴い元の住宅の大規模修繕や建替えをするために,事故前の財物価値を超えて負担した必要かつ合理的な 費用について,いわゆる「住居確保に係る損害」として賠償することを示している。具体的には以下のとおりで の住宅の大規模修繕や建替えをするために,事故前の財物価値を超えて負担した必要かつ合理的な 費用について,いわゆる「住居確保に係る損害」として賠償することを示している。具体的には以下のとおりである。【乙共9・8頁以下】⑴ 帰還困難区域,又は大熊町若しくは双葉町の居住制限区域若しくは避難指示解除準備区域からの避難者帰還困難区域,又は大熊町若しくは双葉町の居住制限区域若しくは避難指示 解除準備区域からの避難者で,従前の住居が持ち家であった者が,移住又は長期避難(以下「移住等」という。)のために負担した以下の費用は賠償すべき損害と認められる。 ① 住宅(建物で居住部分に限る。)取得のために実際に発生した費用(ただし,後記③ に掲げる費用を除く。)と,本件事故時に所有し居住していた住 宅の事故前価値(中間指針第二次追補「第2の4」の財物価値)との差額であって,事故前価値と当該住宅の新築時点相当の価値との差額の75%を超えない額。 ② 宅地(居住部分に限る。)取得のために実際に発生した費用(ただし,後記③に掲げる費用を除く。)と事故時に所有していた宅地の事故前価値(中間 指針第二次追補「第2の4」の財物価値)との差額。 ③ ①及び②に伴う登記費用,消費税等の諸費用。 ⑵ 上記⑴以外の者上記⑴以外の者で,避難指示区域内の従前の住居が持ち家であった者のうち,移住等をすることが合理的であると認められる者が,移住等のために負担した 上記⑴①及び③の費用,並びに②の金額の75%に相当する費用は賠償すべき 損害と認められる。 ⑶ 上記⑴又は⑵以外の者上記⑴又は⑵以外の者で,従前の住居が持ち家だった者が,避難指示が解除された後に帰還するために負担した以下の費用は賠償すべき損害と認められる。 と認められる。 ⑶ 上記⑴又は⑵以外の者上記⑴又は⑵以外の者で,従前の住居が持ち家だった者が,避難指示が解除された後に帰還するために負担した以下の費用は賠償すべき損害と認められる。 ① 事故前に居住していた住宅の必要かつ合理的な修繕又は建替え(以下「修繕等」という。)のために実際に発生した費用(ただし,③に掲げる費用を除く。)と,当該住宅の事故前価値との差額であって,事故前価値と当該住宅の新築時点相当の価値との差額の75%を超えない額。 ② 必要かつ合理的な建替えのために要した当該住居の解体費用。 ③ ①及び②に伴う登記費用,消費税等の諸費用⑷ 従前の住居が避難指示区域内の借家であった者従前の住居が避難指示区域内の借家であった者が,移住等又は帰還のために負担した以下の費用は賠償すべき損害と認められる。 ① 新たに借家に入居するために負担した礼金等の一時金 ② 新たな借家と従前の借家との家賃の差額の8年分 5 家財道具について被告東電は,避難指示区域内に住居を有していた者を対象に,以下の基準をもって家財道具相当額を賠償することとした。 世帯構成 居住場所単身世帯の場合(定額)複数人世帯の場合(世帯基礎額+家族構成に応じた加算額) 学生世帯基礎額加算額大人1 名当たり子供1 名当たり帰還困難区域 325 万円万円 475 万円万円万円居住制限区域 245 万円万円 355 万円万円万円避難指示解除準備区域 第7 本件事故後の各地域の状況 1 大熊町⑴ 住民の避難状況 本件原発事故により,全町民1万0466人が町外への避難を余儀なくされ 万円万円避難指示解除準備区域 第7 本件事故後の各地域の状況 1 大熊町⑴ 住民の避難状況 本件原発事故により,全町民1万0466人が町外への避難を余儀なくされており,町役場についても約100㎞西に位置する会津若松市に移転をして行政運営をしている。平成30年5月1日現在,いわき市,会津若松市,郡山市等を中心に福島県内への避難者が約8割となっているが,関東地方でも多数の町民が避難生活を続けている。 【甲共24,甲共25,甲共140の20,甲共140の21】⑵ 中間貯蔵施設等除染廃棄物を集約保管する中間貯蔵施設について,大熊町は平成26年12月に町内への受け入れを表明した。後に受け入れを表明した双葉町も含め,福島第一原発を取り囲む形で設置される予定である。【甲共26,28】両町の 面積の1割超となる1600ヘクタールが建設予定地とされているが,平成28年2月12日現在,確保できた用地は15ヘクタールにとどまる。2365人に上る地権者のうち,契約に至ったのは同日現在で50人であり,連絡のつ かない地権者も多数いる。【甲共27】また,現在,大熊町内には放射性廃棄物の仮置場及び仮設焼却施設が設置されている。【甲共2の1・2】⑶ 住民帰還の見通し大熊町は,町のHP(大熊町復興サイト)において,「平成24年12月には, 町民の約95%が居住していた地域が『帰還困難区域』に再編され,町としても『5年間は帰還しない』という判断をいたしました。」「町の主要機能を含む町土の大部分が帰還困難区域に指定され,当該区域については本格除染の計画がない状況にあるなど,復興に向けた多くの課題に対して明確な時間軸の設定が出来ない状況にあり,全町民の避難から5年以上が経過した 町土の大部分が帰還困難区域に指定され,当該区域については本格除染の計画がない状況にあるなど,復興に向けた多くの課題に対して明確な時間軸の設定が出来ない状況にあり,全町民の避難から5年以上が経過した現在におい ても,具体的な復興への取り組みが出来ておりません。」としており,現時点において,住民が帰還できる目処は全く立っていない。 平成30年1月に復興庁,福島県及び大熊町が実施した「大熊町住民意向調査」によれば,大熊町には「戻らない(戻れない)」とする町民が多数となっている。 【甲共140の22】 2 双葉町⑴ 住民の避難状況本件原発事故により,全町民6890人が町外への避難を余儀なくされている。 平成30年5月31日現在,いわき市等を中心に福島県内への避難者が約6割となっているが,関東地方でも多数の町民が避難生活を続けている。 【甲共140の23,甲共140の24】⑵ 中間貯蔵施設等除染廃棄物を集約保管する中間貯蔵施設について,双葉町は,平成27年1 月に町内への受け入れを表明した。大熊町同様,用地取得交渉が難航し,本格 稼働の見通しは立っていない。 また,現在,双葉町内には放射性廃棄物の仮置場が設置されている。 ⑶ 住民帰還の見通し町民のほとんどが居住していた地域が帰還困難区域に指定されており,現在においても,住民が帰還できる目処は立っていない。 平成29年に復興庁,福島県及び双葉町が結果を公表した「双葉町住民意向調査」によれば,戻らない(戻れない)とする町民が多数となっている。 【甲共140の25】 3 富岡町⑴ 住民の避難状況 本件事故により,全町民が町外への避難を余儀なくされた。 本件事故時の富岡町の住民登録人口は1万5960人であったが,平成 いる。 【甲共140の25】 3 富岡町⑴ 住民の避難状況 本件事故により,全町民が町外への避難を余儀なくされた。 本件事故時の富岡町の住民登録人口は1万5960人であったが,平成30年3月1日現在,町内居住者は458人である。他方,避難者は合計1万2730人であり,その避難先は,いわき市,郡山市等を中心とした福島県内への避難者が約7割で,関東地方でも多数の町民が避難生活を続けている。 【甲共44,甲共45,甲共140の26~28】⑵ 除染廃棄物等平成25年12月,国は,富岡町内に所在する既存の管理型処分場「フクシマエコテッククリーンセンター」において,放射性物質に汚染された廃棄物である「特定廃棄物」を埋立処分する計画について提案し,平成27年12月, 福島県と富岡町,楢葉町(搬入路入口が所在)はこれを受け入れる方針を示した。 同処分場は,富岡町大字上郡山字太田に所在し,面積は約9.4ヘクタール(東京ドームの約10個分),埋立容量は約96万㎥とされている。 【甲共46,同47】 また現在,富岡町内には放射性廃棄物の仮置場が設置されている。【甲共4 8】⑶ 住民帰還の見通し平成29年に復興庁,福島県及び富岡町が実施した「富岡町住民意向調査」によれば,帰還の意向について,「戻らない(戻れない)」とする町民が多数となっている。 ⑷ 社会的活動の再開状況前記第4,6⑶[❷-133 頁]のとおり,富岡町においては,設定されていた居住制限区域及び避難指示解除準備区域は,平成29年4月1日をもって全て解除されているところ,同町内においては,診療所,高齢者施設,総合商業施設,銀行が開業するなど,事業活動の再開がみられる。【乙共197の各枝 番,乙共198】 4 浪 年4月1日をもって全て解除されているところ,同町内においては,診療所,高齢者施設,総合商業施設,銀行が開業するなど,事業活動の再開がみられる。【乙共197の各枝 番,乙共198】 4 浪江町⑴ 住民の避難状況本件事故により,全町民が町外への避難を余儀なくされた。 本件事故時の住民登録人口は2万1434人であったが,平成30年3月1 日現在,避難者は合計2万0599人であり,その避難先は,いわき市,福島市等を中心とした福島県内への避難者が約7割で,関東地方でも多数の町民が避難生活を続けている。 【甲共140の29,甲共140の30】⑵ 除染廃棄物等 浪江町内の,酒田,高瀬,立野下,藤橋,西台,北棚塩,幾世橋・北幾世橋北・北幾世橋南の各行政区に,除染作業により発生した放射性廃棄物の仮置場が設置され,さらに,仮設焼却施設が設置されている。【甲共56】⑶ 住民帰還の見通し平成29年12月に復興庁,福島県及び浪江町が実施した「浪江町住民意向 調査」によると,帰還の意向について,「帰還しない」とする町民が多数とな っている。【甲共140の31】⑷ 社会的活動の再開状況前記第4,6⑷[❷-133 頁]のとおり,浪江町においては,設定されていた居住制限区域及び避難指示解除準備区域は,平成29年3月31日をもって全て解除されているところ,同町内においては,仮設商業施設,コンビニエン スストア,診療所が開業したり,浪江町請戸漁港に漁船26隻が入港するなど,事業活動の再開がみられる。【乙共99の1及び2,乙共100,乙共101,乙共201,乙共202】 5 飯舘村前記第4の6⑹[❷-134 頁]のとおり,飯舘村においては,設定されていた 居住制限区域及び避難指示解除準備区域 の1及び2,乙共100,乙共101,乙共201,乙共202】 5 飯舘村前記第4の6⑹[❷-134 頁]のとおり,飯舘村においては,設定されていた 居住制限区域及び避難指示解除準備区域は,平成29年3月31日をもって全て解除されているところ,同町内においては,地域交流施設,道の駅,診療所が開業するなど,事業活動の再開がみられる。【乙共104の1,2】 6 南相馬市⑴ 住民の避難状況 南相馬市の人口は,平成23年3月11日時点の住民登録人口7万1561人に対し,平成30年2月28日時点での居住者数は5万7356人であり,そのうち,本件事故当時に同市内に住民登録を有し,平成30年2月28日時点でも同市内に居住している住民は4万6863人である。同日時点の市外避難者数は6511人であり,このうち3948人が福島県外に避難している。 同市小高区についてみると,本件事故発生時の住民登録人口1万2842人に対し,平成30年2月28日時点での居住者は2512人である。また,同市原町区についてみると,本件事故発生時の住民登録人口4万7116人に対し,平成30年2月28日時点での居住者は4万1087人である。 【甲共140の36】 ⑵ 除染廃棄物等 南相馬市内には,南部の小高区を中心に数多くの放射性廃棄物の仮置場が設定されているほか,小高区の蛯沢地内には,新たに大規模な仮設焼却施設が運転を開始しており,旧警戒区域内の仮置場に保管されていた放射性廃棄物が大量に焼却処理されている。【甲共79,甲共80,甲共81】⑶ 住民帰還の見通し 平成29年3月に復興庁,福島県及び南相馬市が実施した「南相馬市住民意向調査」によると南相馬市における政府の避難指示が解除された後も,住民が頻繁に通行する林道 81】⑶ 住民帰還の見通し 平成29年3月に復興庁,福島県及び南相馬市が実施した「南相馬市住民意向調査」によると南相馬市における政府の避難指示が解除された後も,住民が頻繁に通行する林道や農地の除染が手つかずのままであったり,福祉施設の不足や近隣住民が帰還しないことなどから,帰還に踏み切れない住民が少なくない。【甲共140の37】 ⑷ 社会的活動の再開状況平成28年3月15日時点で,南相馬市小高区において,同区内の事業所数の10分の1余りが同区内で事業を再開した。そのほか,南相馬市内においては,コンビニエンスストア,飲食店,医療施設,銀行,学校等が再開している。 【乙共105,乙共206,乙共207】 7 楢葉町⑴ 住民の避難状況本件事故により,全町民が町外への避難を余儀なくされた。 本件事故時の住民登録人口は8011人であったが,平成28年7月31日時点での避難者数は7135人であった。【乙共144の2】その後,平成3 0年4月30日時点においては,町内居住者は3302人となっている。【甲共140の32,33】平成28年7月31日現在における避難者の避難先は,いわき市等を中心に福島県内が約8割となっているが,関東地方でも多数の町民が避難生活を続けている。【甲共63】⑵ 除染廃棄物等 楢葉町内には除染作業により発生した放射性廃棄物の仮置場が多数設置さ れているほか,仮設焼却施設が設置されている。【甲共65】⑶ 住民帰還の見通し平成29年12月に復興庁,福島県及び浪江町が実施した「浪江町住民意向調査」によると,帰還の意向について,「帰還しない」とする町民が少なくない。【甲共140の34】 ⑷ 社会的活動の再開状況前記第4,6⑾[❷-137 頁]のとお が実施した「浪江町住民意向調査」によると,帰還の意向について,「帰還しない」とする町民が少なくない。【甲共140の34】 ⑷ 社会的活動の再開状況前記第4,6⑾[❷-137 頁]のとおり,楢葉町においては,設定されていた避難指示解除準備区域は,平成27年9月5日をもって解除されているところ,同町内においては,商業施設が再開したり,原子力関係の研究施設が運用を開始するなどしている。【乙共108の各枝番,乙共144の1】 8 田村市⑴ 住民の避難状況本件事故時の田村市の住民登録人口は4万1662人であり,そのうち,旧警戒区域(都路町)の人口が380人,旧緊急時避難準備区域の人口が4117人であったところ,平成28年7月31日時点での避難者数は1011人で あり,帰還者は2858人であった。【乙共147の2】⑵ 社会的活動の再開状況前記第4の6⑽[❷-137 頁]のとおり,田村市においては,設定されていた避難指示解除準備区域は,平成26年4月1日をもって解除されているところ,同町内においては,商業施設,学校,診療所などが再開している。【乙共 147の各枝番,148】 9 避難指示区域外の市町村⑴ 住民の避難状況政府による避難指示が出されていない区域から,本件事故を契機に避難した住民の数については統計が取られていないが,平成23年9月時点で,福島県 内の自主的避難者数(避難等指示区域外からの避難者数であり,地震・津波に よる避難者を含む。)は5万0327人である。【乙共160】また,復興庁によれば,平成28年10月時点においては,福島県全体の避難者数は約8.6万人,また,同年7月時点の避難指示区域等からの避難者数が約5.7万人である。【乙共314・18頁】これに基づ また,復興庁によれば,平成28年10月時点においては,福島県全体の避難者数は約8.6万人,また,同年7月時点の避難指示区域等からの避難者数が約5.7万人である。【乙共314・18頁】これに基づいて単純計算すると,現在の自主的避難者数は,約2.9万人(8.6 万人-5.7 万人=2.9 万人) となる。なお,平成23年3月1日時点の福島県全体の人口は202万4401人であり,このうち,避難指示区域の人口が概算で7万7000人(乙共89の人口を単純合計したもの)であるから,単純計算すると,避難指示の対象区域となっていない区域の福島県民約195万人(202 万4401 人-7 万7000人≒195 万人)中約2.9万人がなお自主的に避難をしている状況と推計され る。 ⑵ 社会的活動の状況ア福島市福島市においては,平成23年3月中にインフラが復旧し【乙共187】,同年4月から小・中学校の新学期が始まった【乙共315】ほか,各種経済 活動も堅調に営まれている。【乙共180の1ないし5,乙共190,乙共191】イ郡山市郡山市においては,平成23年4月1日までにインフラが復旧し【乙共181】,同年3月下旬から各種教育機関も活動を再開している。 【乙共318】 また,各種経済活動も堅調に営まれている。【乙共184】ウいわき市いわき市においては,平成23年4月中にインフラが復旧し【乙共174】,同月中に各種教育機関も活動を再開している。【乙共321】また,各種経済活動も,震災時に比して低調な面は否めないものの,相応に営まれている。 【乙共176,乙共178,乙共180の1ないし5】 第8 福島県内の残留放射線量 1 各地の計測地点における空間線量率の計測結果原子力災害対策 のの,相応に営まれている。 【乙共176,乙共178,乙共180の1ないし5】 第8 福島県内の残留放射線量 1 各地の計測地点における空間線量率の計測結果原子力災害対策本部は,平成23年4月22日に「環境モニタリング強化計画について」を公表し,放射性物質の分布状況把握のためのモニタリングの実施内容や実施体制に係る強化計画を策定した。【乙共300】 その後,文部科学省や各自治体が主体となって,福島県内をはじめとする各所に設定された測定地点における空間放射線量の計測,自動車や航空機により測定された空間線量率の計測が重ねられ,集積された。その結果,福島県内の各自治体における空間線量は,概ね以下のとおりとなっている。 なお,追加被ばく線量年間1mSv を1時間当たりの空間線量率に換算すると, 0.23μSv/h(年間1mSv の被ばくに相当する0.19μSv/hに,自然放射線量0.04μSv/hを加算したもの)となる。また,追加被ばく線量年間5mSv を1時間当たりの空間放射線量率に換算すると,0.99μSv/h,追加被ばく線量年間20mSv を1時間当たりの空間放射線量率に換算すると,19.04μSv/hとなる。 ⑴ 大熊町大熊町駅前地区集会所における空間線量率は,平成26年4月30日時点では3.74μSv/hであり,平成29年10月31日時点では2.15μSv/hである。【乙共124の1の1~5】⑵ 双葉町 双葉町内双葉体育館における空間線量率は,平成24年4月30日時点では6.11μSv/hであり,平成29年10月31日時点では1.53μSv/hである。【乙共124の3の1~9】⑶ 富岡町旧富岡町役場における空間線量率は,平成24年4月30日時点では3.8 1μSv/hであり,平成29年10月31日時点では1.53μSv/hである。【乙共124の3の1~9】⑶ 富岡町旧富岡町役場における空間線量率は,平成24年4月30日時点では3.8 9μSv/hであり,平成29年10月31日時点では0.18μSv/hである。 【乙共124の2の1~9】⑷ 浪江町浪江町役場における空間線量率は,平成24年4月30日時点では0.19μSv/hであり,平成29年10月31日時点では0.06μSv/hである。 【乙共124の4の1~10】 ⑸ 飯舘村飯舘村役場における空間線量率は,平成24年4月30日時点では0.94μSv/hであり,平成29年10月31日時点では0.26μSv/hである。 【乙共124の6の1~9】⑹ 南相馬市 南相馬市小高区役所における空間線量率は,平成24年4月30日時点では0.22μSv/hであり,平成29年10月31日時点では0.06μSv/hである。【乙共124の8の1~9】なお,旧緊急時避難準備区域であった南相馬市原町区石神生涯学習センターにおける空間線量率は,平成24年4月2日時点では0.58μSv/hであり, 平成28年4月2日時点では0.21μSv/hである。 【乙共139の2~6】また,旧屋内退避区域であった南相馬市鹿島区鹿島公民館橲原分館における空間線量率は,平成24年4月1日時点では0.93μSv/hであり,平成28年4月1日時点では0.20μSv/hである。【乙共139の2~6】⑺ 楢葉町 楢葉町役場における空間線量率は,平成24年4月30日時点では0.28μSv/hであり,平成29年10月31日時点では0.09μSv/hである。 【乙共124の11の1~9】なお,旧緊急時避難準備区域であっ における空間線量率は,平成24年4月30日時点では0.28μSv/hであり,平成29年10月31日時点では0.09μSv/hである。 【乙共124の11の1~9】なお,旧緊急時避難準備区域であった女平地区集会所における空間線量率は,平成24年4月1日時点では0.62μSv/hであり,平成28年4月1日時 点では0.12μSv/hである。【乙共139の2~6】 ⑻ 田村市田村市役所(その後田村市図書館)における空間線量率は,平成24年4月30日時点では0.13μSv/hであり,平成29年10月31日時点では0. 06μSv/hである。【乙共124の10の1~9】また,旧緊急時避難準備区域であった田村市岩井沢プール駐車場における空 間線量率は,平成24年4月1日時点では0.46μSv/hであり,平成28年4月1日時点では0.16μSv/hである。【乙共139の2~6】⑼ いわき市旧屋内退避区域であったいわき市内旧戸渡分校における空間線量率は,平成24年4月1日時点では0.82μSv/hであり,平成28年4月1日時点で は0.24μSv/hである。【乙共139の2~6】また,避難指示区域外であるいわき市役所三和支所における空間線量率は,平成23年4月1日時点では0.38μSv/hであり,平成28年4月1日時点では0.07μSv/hである。【乙共139の1~6】⑽ 福島市 避難指示区域外である福島市福島西インターチェンジにおける空間線量率は,平成23年4月1日時点では1.77μSv/hであり,平成28年4月1日時点では0.22μSv/hである。【乙共139の1~6】⑾ 本宮市避難指示区域外である本宮市役所における空間線量率は,平成23年4月1 日時点では1.88μSv/hで 成28年4月1日時点では0.22μSv/hである。【乙共139の1~6】⑾ 本宮市避難指示区域外である本宮市役所における空間線量率は,平成23年4月1 日時点では1.88μSv/hであり,平成28年4月1日時点では0.08μSv/hである。【乙共139の1~6】⑿ 郡山市避難指示区域外である郡山市役所における空間線量率は,平成23年4月1日時点では1.93μSv/hであり,平成28年4月1日時点では0.16μSv /hである。【乙共139の1~6】 ⒀ 須賀川市避難指示区域外である須賀川市役所における空間線量率は,平成23年4月1日時点では0.41μSv/hであり,平成28年4月1日時点では0.10μSv/hである。【乙共139の1~6】 2 航空機モニタリングの計測結果による累積被ばく線量の推計 原告らの依頼を受けた株式会社環境総合研究所は,公表されている航空機モニタリング調査の実測値(不足部分についてはモニタリングポストの計測値),及び,第10回航空機モニタリングより後の期間における物理的半減期を考慮した積算線量の計算に基づき,事故後50年の積算線量を推計した。推計の基となった計測結果は資料32及び同33(第6分冊)のとおりであり,累積被ばく線量 の推計結果は資料34(第6分冊)のとおりである。なお,資料34の表のうち,「木造屋内16時間」の欄は,被告国が用いるのと同様,1日の滞在時間を屋内16時間,屋外8時間とし,さらに木造家屋の屋内の低減係数を0.4とした場合の50年間積算線量を示したものである。 第9 本件事故後に全国の原子力発電所とられた防護措置 1 海水が原発敷地内に遡上することを防止する措置⑴ 防潮堤の設置中国電力が設置する島根原子力発電所におい を示したものである。 第9 本件事故後に全国の原子力発電所とられた防護措置 1 海水が原発敷地内に遡上することを防止する措置⑴ 防潮堤の設置中国電力が設置する島根原子力発電所においては,本件事故を受けて,海抜15mの高さの防潮堤を建設した。【甲C43】また,被告東電が設置する柏崎刈羽原子力発電所でも,本件事故を受けて,防潮堤を完成させた。【甲C4 4】⑵ 海水ポンプ(取水路)からの遡上を防止する措置津波が敷地上に遡上するルートは,津波が防潮堤を超え,さらに敷地高を上回って敷地上に遡上するルートと,海水ポンプ(取水路)から敷地上に遡上するルートがある。海水ポンプエリアからの浸水を防止する方法としては,以下 のとおり,防水壁を設置する方法と,防水蓋を設置する方法がある。 ア海水ポンプエリアの浸水防止のため防水壁の設置中部電力浜岡原子力発電所では,海水取水ポンプの取水槽から海水が溢れた場合に備え,海水取水ポンプの周囲に高さ1.5mの金属製パネルによる防水壁を設置した。【甲C45】イ海水ポンプエリアの浸水防止のため防水蓋の設置 中国電力島根原子力発電所では,本件事故を受けて,原子炉補機海水ポンプの浸水を防止するために防水蓋を設置する対策を講じた。【甲C46】 2 建屋内への浸水を防止する措置⑴ 建屋開口部の防潮壁・防潮板の設置敷地内に海水が遡上・浸水してきたとしても,建屋の通気口などの開口部に 防潮壁・防潮板があることで建屋内部への浸水を回避することができる。 本件事故後,被告東電の柏崎刈羽原子力発電所では,建屋開口部に防潮壁・防潮板を設置した。【甲C47】⑵ 扉部分の水密化また,建屋の外部扉を水密化することで,建屋内部への浸水を防止すること ができ ,被告東電の柏崎刈羽原子力発電所では,建屋開口部に防潮壁・防潮板を設置した。【甲C47】⑵ 扉部分の水密化また,建屋の外部扉を水密化することで,建屋内部への浸水を防止すること ができる。本件事故後,中国電力島根原子力発電所では,タービン建屋大物搬入口に鉄骨製のパネル(3t×7枚)を設置したり,扉を防水性の高いものに取り換えるなどの措置を施した。【甲C48】⑶ ケーブル・配管等の貫通部の止水処理(シーリング処理)建屋のケーブルや配管等の貫通部に関しては,ケーブルや配管等と壁の隙間 を埋めるシーリング処理を行うことで,建屋への浸水を防止することができる。 本件事故後,福島第二原発においては,配管貫通部に押さえ板や継ぎ足しスリーブを設置するなどして浸水防止策を施した。【甲C49】 3 建屋内に海水が侵入したことに備える措置⑴ 重要機器の水密化 建屋内に海水が浸水してきたとしても,電源設備及び冷却設備といった原子 炉の冷却を継続するために必要となる重要な設備が置かれている区画について,水密扉を設置したり,貫通部に止水処理を施すことによって重要機器を被水から防護することができる。 ア重要設備が置かれている区画についての水密扉の設置中部電力浜岡原子力発電所では,外側強化扉の内側に更に水密扉を設置し たり,建屋内の気密扉を水密扉に取り換えるなどの措置を施した。【甲C45】イ貫通部の止水処理被告東電の柏崎刈羽原子力発電所では,貫通部に配管スリーブを設置して止水処理を施した。【甲C47】 ⑵ 浸水経路への堰・排水ポンプの設置建屋内に浸水したとしても,建屋内の電源盤等への浸水防止対策として,浸水経路への堰を設置したり,流入した水を建屋外に排水するポンプを設置することが可能で ⑵ 浸水経路への堰・排水ポンプの設置建屋内に浸水したとしても,建屋内の電源盤等への浸水防止対策として,浸水経路への堰を設置したり,流入した水を建屋外に排水するポンプを設置することが可能である。 東北電力の東通原子力発電所では,本件事故の後,浸水防止堰や排水ポンプ を設置した。 ⑶ 電源の多重・多様化中部電力浜岡原子力発電所では,本件事故の後,ガスタービン発電機6台を海抜40mの高台に,受電用変圧器を海抜25mの高台に設置した。【甲C45】 また,中国電力島根原子力発電所では,本件事故の後,ガスタービン発電機2台を海抜40mの高台に設置した。【甲C46,甲C48】(以下本頁余白) 第3節法令及び法制度について第1 我が国の原子力規制に関する法体系 1 原子力規制に関する法令等の全体像【甲B2の1,丙B1,丙A1】我が国の原子力安全に関する法体系では,我が国の原子力利用に関する基本的 理念を定義する原子力基本法の下,政府が行う安全規制を規定した核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(炉規法),放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律(以下「放射線障害防止法」という。)などが制定されている。また,原子炉施設を電気工作物の観点から規制する電気事業法,原子力災害への対応を規定した原子力災害対策特別措置法(原災法)など,原子力 安全を確保するために必要な法律が整備されている。 これらの法律以外にも,原子力委員会又は原子力安全委員会が安全審査を行っていた際に用いられていた指針類が存在し,これらの指針類は規制行政庁が安全審査を行う際にも用いられていた。 2 原子力基本法 原子力基本法は,昭和30年12月19日に公布された,我が っていた際に用いられていた指針類が存在し,これらの指針類は規制行政庁が安全審査を行う際にも用いられていた。 2 原子力基本法 原子力基本法は,昭和30年12月19日に公布された,我が国の原子力利用に係る基本となる法律である。この法律の目的は,「原子力の研究,開発及び利用を推進することによつて,将来におけるエネルギー資源を確保し,学術の進歩と産業の振興とを図り,もつて人類社会の福祉と国民生活の水準向上とに寄与すること」(同法1条)である。この法律の中で,我が国の原子力利用の基本方針 について,「原子力の研究,開発及び利用は,平和の目的に限り,安全の確保を旨として,民主的な運営の下に,自主的にこれを行うものとし,その成果を公開し,進んで国際協力に資するものとする」(同法2条)と規定している。 また,原子力行政の民主的な運営を図るために,原子力委員会及び原子力安全委員会を設置することを規定し(同法4条),原子炉の建設等,核燃料物質の使用 等を行うに当たり,政府の規制に従わなければならないことなどが規定されて いる(同法10条,14条)。なお,原子炉の建設等を行うに当たって従うべき政府の規制は,炉規法及び電気事業法に規定されている。 3 炉規法炉規法は,昭和32年6月10日に公布された,我が国における原子炉等の安全規制を包括的に扱う法律である。この法律は,原子力基本法の精神にのっとり, 核原料物質,核燃料物質及び原子炉の利用が平和の目的に限られ,かつ,これらの利用が計画的に行われることを確保するとともに,これらによる災害を防止し,及び核燃料物質を防護して,公共の安全を図るために,製錬,加工,貯蔵,再処理及び廃棄の事業並びに原子炉の設置及び運転等に関する必要な規制等を行うほか,原子力の利 とともに,これらによる災害を防止し,及び核燃料物質を防護して,公共の安全を図るために,製錬,加工,貯蔵,再処理及び廃棄の事業並びに原子炉の設置及び運転等に関する必要な規制等を行うほか,原子力の利用等に関する条約その他の国際約束を実施するために,国際規 制物資の使用等に関する必要な規制等を行うことを目的とする(炉規法1条)。 炉規法では,原子炉の設置及び運転に関する規制として,設置の許可,設計及び工事方法の認可,使用前検査,施設定期検査,保安規定の認可,保安検査,原子炉の廃止などの安全規制の手続や許認可の基準などが定められているほか,同法の定めに従わなかった場合における運転停止や許可の取消しなどの行政処分や 罰則についても規定されている。 4 電気事業法電気事業法は,昭和39年7月11日に公布された法律で,その目的は,「電気事業の運営を適正かつ合理的ならしめることによつて,電気の使用者の利益を保護し,及び電気事業の健全な発達を図るとともに,電気工作物の工事,維持及 び運用を規制することによつて,公共の安全を確保し,及び環境の保全を図ること」(同法1条)である。 電気事業法は,原子力発電のほか,火力発電,水力発電などにも適用される,我が国の電気事業を包括的に規制する法律である。我が国の実用発電用原子炉は,炉規法による規制のほか,電気事業の一形態として,電気事業法による規制も受 けている。 5 発電用原子力設備に関する技術基準を定める省令発電用原子力設備に関する技術基準を定める省令(昭和40年通商産業省令第62号)(省令62号)は,電気事業法の規定に基づく工事計画の認可,使用前検査及び定期検査の際に用いられる技術基準について定めたものである(後記第3,3[❷-192 頁]参照)。 省令第62号)(省令62号)は,電気事業法の規定に基づく工事計画の認可,使用前検査及び定期検査の際に用いられる技術基準について定めたものである(後記第3,3[❷-192 頁]参照)。 6 原災法原災法は,平成11年12月17日に公布された法律であり,その目的は,原子力災害の特殊性に鑑み,原子力災害の予防に関する原子力事業者の義務等,原子力緊急事態宣言の発出及び原子力災害対策本部の設置等並びに緊急事態応急対策の実施その他原子力災害に関する事項について特別の措置を定めることに より,炉規法,災害対策基本法その他原子力災害の防止に関する法律とあいまって,原子力災害に対する対策の強化を図り,もって原子力災害から国民の生命,身体及び財産を保護することにある(原災法1条)。 この法律では,原子力災害への対応に特化した規定が置かれており,その他一般的な災害対策は災害対策基本法において規定されている。 7 原賠法原賠法は,昭和36年6月17日に公布された法律であり,その目的は,「原子炉の運転等により原子力損害が生じた場合における損害賠償に関する基本的制度を定め,もつて被害者の保護を図り,及び原子力事業の健全な発達に資すること」にある(同法1条)。 原賠法においては,被害者に原子力事業者の故意・過失を立証させることは被害者保護に欠けるとの観点から,同法3条により,被害者が原子力事業者の故意・過失を立証しなくとも,原子炉の運転等に起因する原子力損害に関しては原子力事業者が賠償責任を負うという無過失責任が定められている(同法3条1項)。また,同法3条の場合は,原子力事業者以外の者は責任を負わないことが 定められ(同法4条1項),原子力事業者は損害賠償に充てるべき財政的措置と して損害賠償措 (同法3条1項)。また,同法3条の場合は,原子力事業者以外の者は責任を負わないことが 定められ(同法4条1項),原子力事業者は損害賠償に充てるべき財政的措置と して損害賠償措置を講じることが義務付けられており(同法6条),同法3条の規定により損害を賠償する責めに任ずべき額が賠償措置額を超え,かつ,原賠法の目的を達成するため必要があると認めるときは,政府は原子力事業者が損害を賠償するために必要な援助を行うものとすると定められている(同法16条1項)。 8 放射線障害防止法放射線障害防止法は,昭和32年6月10日に公布された法律であり,その目的は,原子力基本法の精神にのっとり,放射性同位元素の使用,販売,賃貸,廃棄その他の取扱い,放射線発生装置の使用及び放射性同位元素によって汚染された物の廃棄その他の取扱いを規制することにより,これらによる放射線障害を防 止し,公共の安全を確保することにある(放射線障害防止法1条)。 この法律の下に,放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律施行令,同法律施行規則が定められている。 9 各種指針類炉規法24条2項は,主務大臣が原子炉設置許可をする場合においては,あら かじめ,同条1項各号に規定する基準の適用について,原子力委員会又は原子力安全委員会の意見を聴かなければならないとしており,安全審査を行う際に用いる審査基準として原子力委員会(昭和53年10月4日以後は原子力安全委員会)が各種指針類を策定していた。 これら指針類のうち,本件に関係するものとしては,発電用軽水型原子炉施設 などに関係する設計に関する指針である「発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針」(安全設計審査指針),「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」(耐震設 は,発電用軽水型原子炉施設 などに関係する設計に関する指針である「発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針」(安全設計審査指針),「発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針」(耐震設計審査指針)などがある。 【丙A2】第2 規制機関 1 原子力委員会 原子力委員会は,我が国の原子力の研究,開発及び利用に関する国の施策を計画的に遂行し,原子力行政の民主的な運営を図るために,昭和31年1月1日に総理府に設置された機関である(なお,平成13年1月6日の中央省庁改革後は内閣府に設置)。 原子力委員会は,原子力研究,開発及び利用の基本方針を策定すること,原子 力関係経費の配分計画を策定すること,炉規法に規定する許可基準の適用について主務大臣に意見を述べること,関係行政機関の原子力の研究,開発及び利用に関する事務を調整すること等について企画し,審議し,決定することを所掌している。 2 原子力安全委員会 原子力安全委員会は,昭和53年10月4日,原子力の安全確保体制を強化するため,それまで原子力委員会に属していた安全規制機能を原子力委員会から移行して新たに総理府に設置された機関である(なお,平成13年1月6日の中央省庁改革後は内閣府に設置)。 原子力安全委員会は,原子力の研究,開発及び利用に関する事項のうち,安全 の確保に関する事項についての企画,審議及び決定を行う。 原子力安全委員会では,原子力施設の設置許可等の申請に関して,規制行政庁が申請者から提出された申請書の審査を行った結果について,専門的,中立的立場から,①申請者が原子力関連施設を設置するために必要な技術的能力及び原子炉の運転を適確に遂行するに足る技術的能力があるか,②施設の位置,構造及び 設備が核燃料物質又は原子 ,専門的,中立的立場から,①申請者が原子力関連施設を設置するために必要な技術的能力及び原子炉の運転を適確に遂行するに足る技術的能力があるか,②施設の位置,構造及び 設備が核燃料物質又は原子炉による災害の防止上支障がないかについて確認を行っていた。 また,規制行政庁の行う原子力関連施設の設置許可等の後の各種規制(後段規制。後記第3,2⑴[❷-190 頁]参照)を合理性,実効性,透明性等の観点から監視・監査する規制調査を行っていた。 なお,原子力安全委員会は,原子力規制委員会の発足に伴い,平成24年9月 19日をもって廃止された。 3 保安院保安院は,平成13年1月6日の中央省庁改革時に,経済産業省の外局である資源エネルギー庁の特別の機関として設置された機関である。保安院は,従前は資源エネルギー庁が所掌していた原子力安全規制事務のほか,総理府の外局であ る科学技術庁原子力安全局が所掌していた事務のうち,文部科学省が承継した試験研究用原子炉についての安全規制など一部の事務を除いた事務を承継し,経済産業大臣の事務を分掌して,発電用原子力施設に関する安全規制についての実務を行っていた。具体的には,保安院は,原子力に係る製錬,加工,貯蔵,再処理及び廃棄の事業並びに発電用原子力施設に関する規制その他これらの事業及び 施設に関する安全の確保に関すること(本件事故当時の経済産業省設置法4条1項57号),エネルギーとしての利用に関する原子力の安全確保に関すること(同項58号)等の事務をつかさどっていた(同法20条3項)。 なお,保安院は,原子力規制委員会の発足に伴い,平成24年9月19日をもって廃止された。 4 原子力規制委員会(原子力安全委員会及び保安院の後継機関)原子力規制委員会は,平成24年 。 なお,保安院は,原子力規制委員会の発足に伴い,平成24年9月19日をもって廃止された。 4 原子力規制委員会(原子力安全委員会及び保安院の後継機関)原子力規制委員会は,平成24年9月19日,環境省の外局として設置された機関である。原子力規制委員会は,従前の原子力安全委員会及び保安院の事務のほか,文部科学省及び国土交通省の所掌する原子力安全の規制,核不拡散のための保障措置等に関する事務を一元的に処理するものとして設置された機関であ る。これに伴い,従前の原子力安全委員会及び保安院は廃止された。 なお,原子力規制委員会の事務局として原子力規制庁が置かれている。 5 機関相互の関係【丙B7の1,2】本件事故当時の上記の各機関の相互関係は次のとおりである。 ⑴ 安全規制事務の所管者 我が国の発電用原子炉施設に対する安全規制事務を所管するのは,経済産業大臣である。 ⑵ 保安院の位置付け保安院は,経済産業省設置法において「原子力その他のエネルギーに係る安全及び産業保安の確保を図るための機関」と規定されており,その組織的な位 置づけは,経済産業省資源エネルギー庁の特別の機関とされ,炉規法及び電気事業法の規定に基づく安全規制についての権限と機能を有していた。 具体的には,炉規法に基づく設置許可や電気事業法に基づく工事計画の認可や使用前検査など,原子炉施設に対する規制活動は経済産業大臣が行うが,経済産業大臣の付託を受けてこれらの規制事務を実施する保安院は,資源エネル ギー庁からの関与を受けることなく,独立して意思決定をし,又は経済産業大臣に対してその意思決定の案を諮ることができることになっていた。 ⑶ 原子力安全委員会の位置付けア権限原子力安全委員会は,原子力の利用に関わる ことなく,独立して意思決定をし,又は経済産業大臣に対してその意思決定の案を諮ることができることになっていた。 ⑶ 原子力安全委員会の位置付けア権限原子力安全委員会は,原子力の利用に関わる省庁とは独立して,内閣府に 設置された機関である(本件事故当時の原子力委員会及び原子力安全委員会設置法1条)。原子力安全委員会は,原子力利用に関する政策のうち,安全の確保のための規制に関する政策に関すること,核燃料物質及び原子炉に関する規制のうち,安全の確保のための規制に関すること等について企画し,審議し及び決定すること(同法13条)を所掌事務とする機関であり,5人 の委員によって組織されていた(同法14条1項)。原子力安全委員会の下には,原子炉に係る安全性に関する事項を調査審議する原子炉安全専門審査会(同法16条),核燃料物質に係る安全性に関する事項を調査審議する核燃料安全専門審査会(同法19条)が置かれ,関連する分野について見識を有する専門家が審査委員となって原子炉施設と核燃料物質の加工や再処理 施設等の安全性に関する調査審議を行っていたほか,耐震安全性,放射線防 護,放射性廃棄物の処理・処分等について,それぞれ見識を有する専門家の議論に基づいて,国による安全規制についての基本的な考え方を原子力安全委員会の文書,報告書,審査指針等として取りまとめ公表していた。そして,所掌事務について必要があると認めるときは,関係行政機関の長(規制当局)に対し,報告を求め,資料の提出,意見の開陳,説明その他必要な協力を求 めること(同法25条)や,内閣総理大臣を通じて関係行政機関の長(規制当局)への勧告を行うこと(同法24条)等の権限を有していた。 イ設置許可申請時の原子力安全委員会の役割経済産業大臣に対して原子 こと(同法25条)や,内閣総理大臣を通じて関係行政機関の長(規制当局)への勧告を行うこと(同法24条)等の権限を有していた。 イ設置許可申請時の原子力安全委員会の役割経済産業大臣に対して原子力施設の設置許可申請があった場合,保安院は,申請内容に係る原子炉施設が炉規法24条1項各号に規定する許可要件を 充足しているか否かにつき審査を行い,その審査結果について経済産業大臣が原子力委員会と原子力安全委員会の意見を求めるため,両委員会に諮問していた。同諮問を受けた原子力安全委員会の委員長は,原子炉安全専門審査会に対し,調査審議を指示し,同審査会における調査審議の結果を踏まえ,原子力安全委員会は,当該申請に係る原子炉施設が炉規法24条1項3号 (技術的能力に係る部分に限る。)及び4号に規定する許可要件を充足するものと認めた場合に,経済産業大臣に対し,その旨の答申をしていた。 ウ後段規制に対する原子力安全委員会の関与原子力安全委員会は,平成11年9月に発生した株式会社ジェー・シー・オーの核燃料加工施設における臨界事故を踏まえ,原子力施設の設置許可後 の建設及び運転段階における安全規制(後段規制)の段階における関与を強化するため,平成12年度から,後段規制の実施状況等を把握し確認する「規制調査」を導入した。そして,平成14年法律第178号による改正により,炉規法においては,経済産業省など一次的な原子力利用の規制機関に対し,四半期ごとに,炉規法の施行状況に関する報告書を作成し,それに対し原子 力安全委員会から意見を聴くべきことを義務付け(同法72条の3),電気 事業法においても,同旨の規定が定められた(同法107条の2(平成14年法律第179号の改正による107条の3))。 これらの改正等を踏まえ,よ ことを義務付け(同法72条の3),電気 事業法においても,同旨の規定が定められた(同法107条の2(平成14年法律第179号の改正による107条の3))。 これらの改正等を踏まえ,より一層の実効的かつ適切な規制調査を行うため,原子力安全委員会は,平成15年3月3日,「規制調査の実施方針について」【丙A3の1】を決定した。同決定においては,「(1)科学的,技術的 な合理性」,「(2)事業者の自主的な取り組みと規制」,「(3)規制の透明性」の視点に留意し(同号証「Ⅲ.規制調査の方針と視点」,「2.調査の視点」),規制行政庁が行う規制活動について,聴き取り調査や現場における確認等の調査を実施するとともに,必要に応じて,JNES(独立行政法人原子力安全基盤機構)が行う検査等の業務についても同様の調査を実施し,また,事 業者,関連企業等に対して後段規制に関連する必要な事項について聴き取り調査や現場における確認等の調査を実施し,専門委員を加えた調査チームによる分析,海外事例の調査分析等を行うこととされた。 エ小括このように,我が国の原子力発電所の安全審査については,安全規制事務 の所管者たる経済産業大臣が,その外局の特別の機関である保安院を通じて法令に基づく安全審査等を行い,内閣府に設置された独立した機関たる原子力安全委員会に安全審査結果について諮問して同委員会のチェックを受けるという多重補完的な体制となっていた。 ⑷ JNESの位置付け 経済産業大臣は,平成15年10月に設立されたJNES(独立行政法人原子力安全基盤機構)を所管していた。JNESは,原子力施設及び原子炉施設に関する検査等を行うとともに,原子力施設及び原子炉施設の設計に関する安全性の解析及び評価等を行うことにより,エネル 行政法人原子力安全基盤機構)を所管していた。JNESは,原子力施設及び原子炉施設に関する検査等を行うとともに,原子力施設及び原子炉施設の設計に関する安全性の解析及び評価等を行うことにより,エネルギーとしての利用に関する原子力の安全の確保のための基盤の整備を図ることを目的として(制定当時の独 立行政法人原子力安全基盤機構法4条)設置された独立行政法人であり,保安 院が行う原子力施設の安全審査や安全規制基準の整備に関する検討事務も実施していた(なお,JNESは,平成26年3月1日,解散してその業務を原子力規制委員会に引き継いだ。)。 第3 原子力規制に係る各種法令の具体的内容 1 炉規法 ⑴ 炉規法の定め平成14年ないし平成23年の期間における炉規法の主な条項は以下のとおりである。 ア 23条(設置の許可)1項原子炉を設置しようとする者は,次の各号に掲げる原子炉の区分に 応じ,政令で定めるところにより,当該各号に定める大臣の許可を受けなければならない。 一発電の用に供する原子炉(次号から第四号までのいずれかに該当するものを除く。以下「実用発電用原子炉」という。) 経済産業大臣二 (以下省略) 2項前項の許可を受けようとする者は,次の事項を記載した申請書を主務大臣(前項各号に掲げる原子炉の区分に応じ,当該各号に定める大臣をいう。以下この章において同じ。)に提出しなければならない。 一 (以下省略)3項文部科学大臣,経済産業大臣及び国土交通大臣は,第一項第四号及 び第五号の政令の制定又は改廃の立案をしようとするときは,あらかじめ原子力委員会及び原子力安全委員会の意見を聴かなければならない。 イ 24条(許可の基準)1項主務大臣は,第二十三条第一項の許可の申請が 令の制定又は改廃の立案をしようとするときは,あらかじめ原子力委員会及び原子力安全委員会の意見を聴かなければならない。 イ 24条(許可の基準)1項主務大臣は,第二十三条第一項の許可の申請があつた場合において は,その申請が次の各号に適合していると認めるときでなければ,同 項の許可をしてはならない。 一原子炉が平和の目的以外に利用されるおそれがないこと。 二その許可をすることによつて原子力の開発及び利用の計画的な遂行に支障を及ぼすおそれがないこと。 三その者(原子炉を船舶に設置する場合にあつては,その船舶を建造 する造船事業者を含む。)に原子炉を設置するために必要な技術的能力及び経理的基礎があり,かつ,原子炉の運転を適確に遂行するに足りる技術的能力があること。 四原子炉施設の位置,構造及び設備が核燃料物質(使用済燃料を含む。 以下同じ。),核燃料物質によつて汚染された物(原子核分裂生成物を 含む。以下同じ。)又は原子炉による災害の防止上支障がないものであること。 2項主務大臣は,第二十三条第一項の許可をする場合においては,あらかじめ,前項第一号,第二号及び第三号(経理的基礎に係る部分に限る。)に規定する基準の適用については原子力委員会,同項第三号(技 術的能力に係る部分に限る。)及び第四号に規定する基準の適用については原子力安全委員会の意見を聴かなければならない。 ウ 27条(設計及び工事の方法の認可)1項原子炉設置者は,主務省令(主務大臣の発する命令をいう。以下この章において同じ。)で定めるところにより,原子炉施設の工事に着 手する前に,原子炉施設に関する設計及び工事の方法(第二十八条の二第一項に規定する原子炉施設であつて溶接をするものに関する溶接の方法を除く。次 。)で定めるところにより,原子炉施設の工事に着 手する前に,原子炉施設に関する設計及び工事の方法(第二十八条の二第一項に規定する原子炉施設であつて溶接をするものに関する溶接の方法を除く。次項及び第三項において同じ。)について主務大臣の認可を受けなければならない。原子炉施設を変更する場合における当該原子炉施設についても,同様とする。 2項原子炉設置者は,前項の認可を受けた原子炉施設に関する設計及び 工事の方法を変更しようとするときは,主務省令で定めるところにより,主務大臣の認可を受けなければならない。ただし,その変更が主務省令で定める軽微なものであるときは,この限りでない。 3項主務大臣は,前二項の認可の申請に係る設計及び工事の方法が次の各号に適合していると認めるときは,前二項の認可をしなければなら ない。 一第二十三条第一項若しくは第二十六条第一項の許可を受けたところ又は同条第二項の規定により届け出たところによるものであること。 二主務省令で定める技術上の基準に適合するものであること。 エ 28条(使用前検査)1項原子炉設置者は,主務省令で定めるところにより,原子炉施設の工事(次条第一項に規定する原子炉施設であつて溶接をするものの溶接を除く。次項において同じ。)及び性能について主務大臣の検査を受け,これに合格した後でなければ,原子炉施設を使用してはならない。 原子炉施設を変更する場合における当該原子炉施設についても,同様とする。 2項前項の検査においては,原子炉施設が次の各号に適合しているときは,合格とする。 一その工事が前条の認可を受けた設計及び方法に従つて行われてい ること。 二その性能が主務省令で定める技術上の基準に適合するものであること。 号に適合しているときは,合格とする。 一その工事が前条の認可を受けた設計及び方法に従つて行われてい ること。 二その性能が主務省令で定める技術上の基準に適合するものであること。 オ 29条(施設定期検査)1項原子炉設置者は,主務省令で定めるところにより,原子炉施設のう ち政令で定めるものの性能について,主務大臣が毎年一回定期に行う 検査を受けなければならない。 2項前項の検査は,その原子炉施設の性能が主務省令で定める技術上の基準に適合しているかどうかについて行う。 ⑵ 炉規法が定める安全規制の概要炉規法による原子炉の設置,運転等に関する安全規制の体系は,原子炉の設 計から運転に至るまでの過程を段階的に区分し,それぞれの段階に対応して①原子炉設置の許可,②設計及び工事の方法の認可,③使用前検査の合格,④保安規定の認可並びに⑤施設定期検査といった規制手続を介在させ,これら一連の規制手続を通じて安全の確保を図るという方法を採用している。 上記流れのうち,原子炉設置許可処分の段階においては,原子炉施設の基本 設計ないし基本的設計方針の安全性に関わる事項の妥当性が判断されるという規制実務上の運用になっていた。このような原子炉設置許可処分の段階における規制の局面については,規制実務上,慣例的に「前段規制」と呼ばれていた。【弁論の全趣旨】他方,②(設計及び工事の方法の認可)から⑤(施設定期検査)までの規制 においては,原子炉施設の具体的な設計や工事方法の妥当性等が審査されることとなるが,これらの規制の局面では,規制実務上,それに先立つ基本設計ないし基本的設計方針の安全性に関わる事項の妥当性を前提として手続を進める運用となっていた。また,このような設計及び工事の方法の認可や施設定期 れらの規制の局面では,規制実務上,それに先立つ基本設計ないし基本的設計方針の安全性に関わる事項の妥当性を前提として手続を進める運用となっていた。また,このような設計及び工事の方法の認可や施設定期検査の段階における規制の局面については,規制実務上,慣例的に「後段規制」 と呼ばれていた。【弁論の全趣旨】⑶ 炉規法73条による適用除外電気事業の用に供する原子炉施設は,炉規法と電気事業法の適用を受けるところ,炉規法73条において,電気事業法及び同法に基づく命令の規定による検査を受けるべき原子炉施設については,炉規法27条から29条までの規定 の適用が除外されており,これに代わって電気事業法に基づく規制がされてい た(電気事業法による規制の詳細については,後記2参照)。 2 電気事業法⑴ 電気事業法の定め平成14年ないし平成23年の期間における電気事業法の主な条項は以下のとおりである。 ア 39条(事業用電気工作物の維持)1項事業用電気工作物を設置する者は,事業用電気工作物を経済産業省令で定める技術基準に適合するように維持しなければならない。 2項前項の経済産業省令は,次に掲げるところによらなければならない。 一事業用電気工作物は,人体に危害を及ぼし,又は物件に損傷を与え ないようにすること。 二事業用電気工作物は,他の電気的設備その他の物件の機能に電気的又は磁気的な障害を与えないようにすること。 三事業用電気工作物の損壊により一般電気事業者の電気の供給に著しい支障を及ぼさないようにすること。 四事業用電気工作物が一般電気事業の用に供される場合にあつては,その事業用電気工作物の損壊によりその一般電気事業に係る電気の供給に著しい支障を生じないようにすること。 イ ること。 四事業用電気工作物が一般電気事業の用に供される場合にあつては,その事業用電気工作物の損壊によりその一般電気事業に係る電気の供給に著しい支障を生じないようにすること。 イ 40条(技術基準適合命令)経済産業大臣は,事業用電気工作物が前条第一項の経済産業省令で定める 技術基準に適合していないと認めるときは,事業用電気工作物を設置する者に対し,その技術基準に適合するように事業用電気工作物を修理し,改造し,若しくは移転し,若しくはその使用を一時停止すべきことを命じ,又はその使用を制限することができる。 ⑵ 電気事業法による規制の概要 電気事業の用に供する原子炉施設については,炉規法73条において,同法 27条から29条までの規定の適用が除外されており,これに代わって電気事業法に基づく規制がされていた。 ⑶ 事業者に課せられた技術基準維持義務前記⑵アのとおり,電気事業法39条1項は,電気事業者に対し,技術基準維持義務を課している。そして,同条2項各号は,通商産業省令において技術 基準を定めるに当たっての基準を定めていた。これらの基準に基づいて省令62号が定められ(前記第1,5[❷-179 頁]。同省令の具体的内容は,後記3参照),電気事業者には,設計,建設段階のほか運転段階においても,事業用電気工作物を省令62号に適合するように維持することが義務付けられていた。 ⑷ 技術基準適合命令前記⑵イのとおり,電気事業法40条が,技術基準適合命令の根拠を規定した趣旨は,電気事業の用に供する原子炉施設については,工事計画の認可を受け,又は使用前検査に合格した場合には,その時点では技術基準に適合しないものではないとされることとなるが,設置又は変更の工事後の周囲の環境の変 化 する原子炉施設については,工事計画の認可を受け,又は使用前検査に合格した場合には,その時点では技術基準に適合しないものではないとされることとなるが,設置又は変更の工事後の周囲の環境の変 化や電気工作物の損耗等により技術基準に適合しなくなったにもかかわらず,そのまま放置される場合などには,技術基準に適合するよう監督する必要があるという点にある。 技術基準適合命令の内容は,当該電気工作物の修理,改造,移転,使用の一時停止又は使用の制限という種類の中で,当該電気工作物を技術基準に適合さ せるために必要な範囲に限定される。例えば,修理又は改造をもって事足りる場合に,移転を命ずるのは適当ではなく,使用の一時停止命令は,修理,改造等技術基準に適合させるため何らかの措置が講ぜられるまでの間,これに必要な限度で行われるものである。移転命令は,その場に設置されている限り修理,改造等によっては技術基準に適合させることが著しく困難である場合に発動 されるものであるが,命令の内容としては,その場所からの撤去を命ずること ができるにとどまり,移転先までを命ずることは妥当でないとされていた。使用の制限は,使用の停止には及ばないものの,修理,改造等のため,出力を一定限度以下にして使用させる必要があるような場合などに行われる。【丙A6】 3 省令62号省令62号は,電気事業法48条1項の規定に基づいて昭和40年6月15日 に制定されたものである。 ⑴ 福島第一原発の設置等許可処分時における内容福島第一原発の設置等許可処分の時点で発効していた省令62号の内容は以下のとおりである。 ア第4条(防護施設の設置等) 1項原子炉およびその附属設備(以下「原子炉施設」という。)ならびに一次冷却材により駆動される蒸気ター 効していた省令62号の内容は以下のとおりである。 ア第4条(防護施設の設置等) 1項原子炉およびその附属設備(以下「原子炉施設」という。)ならびに一次冷却材により駆動される蒸気タービンおよびその附属設備が地すべり,断層,なだれ,洪水,津波もしくは高潮,基礎地盤の不同沈下または火災等により損傷を受けるおそれがある場合は,防護施設の設置,基礎地盤の改良その他の適切な措置を講じなければならない。 2項 (以下省略)イ第5条(耐震性)1項原子炉ならびに一次冷却材により駆動される蒸気タービンおよびその附属設備は,これらに作用する地震力による損壊により公衆に放射線障害を及ぼさないように施設しなければならない。 2項前項の地震力は,原子炉施設ならびに一次冷却材により駆動される蒸気タービンおよびその附属設備の構造ならびにこれらが損壊した場合における災害の程度に応じて,基礎地盤の状況,その地方における過去の地震記録に基づく震害の程度,地震活動の状況等を基礎として求めなければならない。 ウ第33条(非常用予備動力設備等) 1項原子力発電所には,当該原子力発電所に連けいされている送電線および当該原子力発電所において常時使用されている発電機からの電気の供給が停止した場合において保安を確保するために必要な装置の機能を維持するため,内燃機関を原動力とする発電設備またはこれと同等以上の機能を有する非常用予備動力装置を施設しなければな らない。 2項原子力発電所の保安を確保するため特に必要な装置には,無停電電源装置またはこれと同等以上の機能を有する装置を施設しなければならない。 ⑵ 改正後の内容 省令62号4条及び5条については昭和50年12月23日通商産業省令第122 装置には,無停電電源装置またはこれと同等以上の機能を有する装置を施設しなければならない。 ⑵ 改正後の内容 省令62号4条及び5条については昭和50年12月23日通商産業省令第122号による改正がされ,同33条については昭和59年9月19日通商産業省令第54号による改正がされた。その後,同4条及び33条については,平成17年7月1日経済産業省令第68号による改正がされた。 平成18年ないし平成23年の時点における各規定の内容は以下のとおり であった。 ア第4条(防護措置等)1項原子炉施設並びに一次冷却材又は二次冷却材により駆動される蒸気タービン及びその附属設備が想定される自然現象(地すべり,断層,なだれ,洪水,津波,高潮,基礎地盤の不同沈下等をいう。ただし, 地震を除く。)により原子炉の安全性を損なうおそれがある場合は,防護措置,基礎地盤の改良その他の適切な措置を講じなければならない。 2項周辺監視区域に隣接する地域に事業所,鉄道,道路等がある場合において,事業所における火災又は爆発事故,危険物を搭載した車両等 の事故等により原子炉の安全性が損なわれないよう,防護措置その他 の適切な措置を講じなければならない。 3項航空機の墜落により原子炉の安全性を損なうおそれがある場合は,防護措置その他の適切な措置を講じなければならない。 イ第5条(耐震性)1項原子炉施設並びに一次冷却材又は二次冷却材により駆動される蒸 気タービン及びその附属設備は,これらに作用する地震力による損壊により公衆に放射線障害を及ぼさないように施設しなければならない。 2項前項の地震力は,原子炉施設ならびに一次冷却材により駆動される蒸気タービンおよびその附属設備の構造ならびにこれらが損壊した より公衆に放射線障害を及ぼさないように施設しなければならない。 2項前項の地震力は,原子炉施設ならびに一次冷却材により駆動される蒸気タービンおよびその附属設備の構造ならびにこれらが損壊した 場合における災害の程度に応じて,基礎地盤の状況,その地方における過去の地震記録に基づく震害の程度,地震活動の状況等を基礎として求めなければならない。 ウ第33条(保安電源設備)1項原子力発電所に接続する電線路のうち少なくとも二回線は,当該原 子力発電所において受電可能なものであつて,使用電圧が六万ボルトを超える特別高圧のものであり,かつ,それにより当該原子力発電所を電力系統に連系するように施設しなければならない。 2項原子力発電所には,前項の電線路及び当該原子力発電所において常時使用されている発電機からの電気の供給が停止した場合において 保安を確保するために必要な装置の機能を維持するため,内燃機関を原動力とする発電設備又はこれと同等以上の機能を有する非常用予備動力装置を施設しなければならない。 3項原子力発電所の保安を確保するため特に必要な設備には,無停電電源装置又はこれと同等以上の機能を有する装置を施設しなければな らない。 4項非常用電源設備及びその附属設備は,多重性又は多様性,及び独立性を有し,その系統を構成する機械器具の単一故障が発生した場合であつても,運転時の異常な過渡変化時又は一次冷却材喪失等の事故時において工学的安全施設等の設備がその機能を確保するために十分な容量を有するものでなければならない。 5項原子力発電所には,短時間の全交流動力電源喪失時においても原子炉を安全に停止し,かつ,停止後に冷却するための設備が動作することができるよう必要な容量を有する蓄電池等を ければならない。 5項原子力発電所には,短時間の全交流動力電源喪失時においても原子炉を安全に停止し,かつ,停止後に冷却するための設備が動作することができるよう必要な容量を有する蓄電池等を施設しなければならない。」 4 各種指針類 福島第一原発1~3号機の設置許可における安全審査で用いられた指針は,昭和39年5月27日に原子力委員会によって策定された原子炉立地審査指針【丙A4】であり,同4号機の設置許可における安全審査で用いられた指針は,昭和39年原子炉立地審査指針及び昭和45年4月18日に動力炉安全基準専門部会によって策定され同月23日に原子力委員会においても了承された「軽水炉に ついての安全設計に関する審査指針について」【丙A5】(安全設計審査指針)であった。 その後,これら指針類は数回にわたり改正が施された。 ⑴ 平成13年安全設計審査指針【丙A8】 ア策定経緯昭和45年に定められた安全設計審査指針は,その後の技術的知見の進展を踏まえ,昭和52年6月にその全面改訂が行われた。その後,軽水炉の技術の改良及び進歩には著しいものがあり,米国で発生したTMI原発事故等の様々な事象から得られた教訓や,軽水炉に関する経験の蓄積を踏まえ,平 成2年8月30日付け原子力安全委員会決定により全面改訂がされた。さら に,平成13年3月29日にICRP(国際放射線防護委員会)による1990年勧告を受けて一部改訂がされた(平成13年安全設計審査指針)。 平成13年安全設計審査指針は,発電用軽水型原子炉に関する経験と最新の技術的知見に基づき,発電用軽水型原子炉に係る安全審査に当たって確認すべき安全設計の基本方針を定めたものである。 イ指針の具体的内容(ア) 指針2 自然現象に対 子炉に関する経験と最新の技術的知見に基づき,発電用軽水型原子炉に係る安全審査に当たって確認すべき安全設計の基本方針を定めたものである。 イ指針の具体的内容(ア) 指針2 自然現象に対する設計上の考慮1. 安全機能を有する構築物,系統及び機器は,その安全機能の重要度及び地震によって機能の喪失を起こした場合の安全上の影響を考慮して,耐震設計上の区分がなされるとともに,適切と考えられる設計用地震力 に十分耐えられる設計であること。 2. 安全機能を有する構築物,系統及び機器は,地震以外の想定される自然現象によって原子炉施設の安全性が損なわれない設計であること。重要度の特に高い安全機能を有する構築物,系統及び機器は,予想される自然現象のうち最も過酷と考えられる条件,又は自然力に事故荷重を適 切に組み合わせた場合を考慮した設計であること。 (イ) 指針27 電源喪失に対する設計上の考慮原子炉施設は,短時間の全交流電力電源喪失に対して,原子炉を安全に停止し,かつ,停止後の冷却を確保できる設計であること。 (ウ) 指針47 計測制御系 1. (省略)2. 計測制御系は,事故時において,事故の状態を知り対策を講じるのに必要なパラメータを適切な方法で十分な範囲にわたり監視し得るとともに,必要なものについては,記録が可能な設計であること。 特に原子炉の停止状態及び炉心の冷却状態は,2種類以上のパラメー タにより監視又は推定できる設計であること。 (エ) 指針48 電気系統1. 重要度の特に高い安全機能を有する構築物,系統及び機器が,その機能を達成するために電源を必要とする場合においては,外部電源又は非常用所内電源のいずれからも電力の供給を受けられる設計であること。 2. 外部電源系 い安全機能を有する構築物,系統及び機器が,その機能を達成するために電源を必要とする場合においては,外部電源又は非常用所内電源のいずれからも電力の供給を受けられる設計であること。 2. 外部電源系は,2回線以上の送電線により電力系統に接続された設計 であること。 3. 非常用所内電源系は,多重性(同一の機能を有する同一の性質の系統又は機器が二つ以上あること)又は多様性(同一の機能を有する異なる性質の系統又は機器が二つ以上あること)及び独立性(二つ以上の系統又は機器が設計上考慮する環境条件及び運転状態において,共通要因又 は従属要因によって,同時にその機能が阻害されないこと)を有し,その系統を構成する機器の単一故障(単一の原因によって一つの機器が所定の安全機能を失うことをいい,従属要因に基づく多重故障を含む。)を仮定しても,次の各号に掲げる事項を確実に行うのに十分な容量及び機能を有する設計であること。 ① 運転時の異常な過渡変化時において,燃料の許容設計限界及び原子炉冷却材圧力バウンダリ(原子炉圧力容器及びその付属物並びに原子炉冷却材系を構成する機器及び配管)の設計条件を超えることなく原子炉を停止し,冷却すること。 ② 原子炉冷却材喪失等の事故時の炉心冷却を行い,かつ,原子炉格納 容器の健全性並びにその他の所要の系統及び機器の安全機能を確保すること。 4. (省略)⑵ 平成18年耐震設計審査指針【丙A9】 ア策定の経緯 発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針は,発電用軽水型原子炉施設の設置許可申請に係る安全審査のうち,耐震安全性の確保の観点から耐震設計方針の妥当性について判断する際の基礎を示すことを目的として昭和53年9月29日に原子力委員会が定めたものである。その後, 施設の設置許可申請に係る安全審査のうち,耐震安全性の確保の観点から耐震設計方針の妥当性について判断する際の基礎を示すことを目的として昭和53年9月29日に原子力委員会が定めたものである。その後,昭和56年7月20日の改訂において静的地震力の算定法等について見直しを行い,さら に,平成13年3月29日にICRP(国際放射線防護委員会)による1990年勧告を受けて一部改訂がされたが,その内容に大きな変更はなかった。 その後,原子力安全委員会は,昭和56年以降の地震学及び地震工学に関する新たな知見の蓄積等を踏まえ,平成13年6月,原子力安全基準専門部会に対し,耐震安全性に係る審査指針類について必要な調査審議を行い,結 果を報告するよう指示した。これを受けて,同年7月,同部会に耐震指針検討分科会が設置され,耐震設計審査指針の改定作業に着手し,平成18年9月19日,原子力安全委員会において,新たな耐震設計審査指針が決定された(平成18年耐震設計審査指針)。平成18年耐震設計審査指針は,平成13年に改訂された耐震設計審査指針から,基準地震動についての策定方法 が高度化され,耐震安全に係る重要度分類の見直し等が行われたものである。 イ指針の具体的内容(前記第1節第19,1⑴[❷-88 頁]参照)(ア) 基本方針耐震設計上重要な施設は,敷地周辺の地質・地質構造並びに地震活動性 等の地震学及び地震工学的見地から施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性があり,施設に大きな影響を与えるおそれがあると想定することが適切な地震動による地震力に対して,その安全機能が損なわれることがないように設計されなければならない。さらに,施設は,地震により発生する可能性のある環境への放射線の影響の観点からなされ る耐 適切な地震動による地震力に対して,その安全機能が損なわれることがないように設計されなければならない。さらに,施設は,地震により発生する可能性のある環境への放射線の影響の観点からなされ る耐震設計上の区分ごとに,適切と考えられる設計用地震力に十分耐えら れるように設計されなければならない。 また,建物・構築物は,十分な支持性能をもつ地盤に設置されなければならない。 (イ) 耐震設計における地震動の策定について耐震設計においては,「施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生 する可能性があり,施設に大きな影響を与えるおそれがあると想定することが適切な地震動」を適切に策定し,この地震動を前提とした耐震設計を行うことにより,地震に起因する外乱によって周辺の公衆に対し,著しい放射線被ばくのリスクを与えないようにすることを基本とすべきである。 (ウ) 「残余のリスク」の存在について 地震学的見地からは,上記のように策定された地震動を上回る強さの地震動が生起する可能性は否定できない。このことは,耐震設計用の地震動の策定において,「残余のリスク」(策定された地震動を上回る地震動の影響が施設に及ぶことにより,施設に重大な損傷事象が発生すること,施設から大量の放射性物質が放散される事象が発生すること,あるいはそれら の結果として周辺公衆に対して放射線被ばくによる災害を及ぼすことのリスク)が存在することを意味する。 したがって,施設の設計に当たっては,策定された地震動を上回る地震動が生起する可能性に対して適切な考慮を払い,基本設計の段階のみならず,それ以降の段階も含めて,この「残余のリスク」の存在を十分認識し つつ,それを合理的に実行可能な限り小さくするための努力が払われるべきである。 (エ) 地震随 い,基本設計の段階のみならず,それ以降の段階も含めて,この「残余のリスク」の存在を十分認識し つつ,それを合理的に実行可能な限り小さくするための努力が払われるべきである。 (エ) 地震随伴事象に対する考慮施設は,地震随伴事象について,次に示す事項を十分考慮した上で設計されなければならない。 a 施設の周辺斜面で地震時に想定し得る崩壊等によっても,施設の安全 機能が重大な影響を受けるおそれがないこと。 b 施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性があると想定することが適切な津波によっても,施設の安全機能が重大な影響を受けるおそれがないこと。 5 炉規法及び省令62号の改正 ⑴ 炉規法改正本件事故後,炉規法は,平成24年6月27日法律第47号により大幅に改正された(平成24年改正)。 平成24年改正後の炉規法43条の3の5は,発電用原子炉設置の許可についての規定を置いている。また,同法43条の3の6第1項は,発電 用原子炉の設置許可の要件として,原子力規制委員会は,発電用原子炉の設置許可の申請があった場合においては,その申請が次の各号のいずれにも適合していると認めるときでなければ,同項の許可をしてはならないと規定し,同項4号において,「発電用原子炉施設の位置,構造及び設備が核燃料物質若しくは核燃料物質によつて汚染された物又は発電用原子炉によ る災害の防止上支障がないものとして原子力規制委員会規則で定める基準に適合するものであること」を掲げている。このように,平成24年改正前の同法23条(前記1⑴ア[❷-186 頁]),24条(同イ[❷-186 頁])は,同改正後の43条の3の5及び6にて踏襲されている。 他方,平成24年改正前の炉規法は,同法73条により, 正前の同法23条(前記1⑴ア[❷-186 頁]),24条(同イ[❷-186 頁])は,同改正後の43条の3の5及び6にて踏襲されている。 他方,平成24年改正前の炉規法は,同法73条により,設計及び工事 の方法の認可(同法27条),使用前検査(同法28条)及び施設定期検査(同法29条)等について,発電用原子炉について適用除外としていた(同⑶[❷-189 頁])が,平成24年改正により,これらの適用除外が廃され,発電用原子炉についても,同法43条の3の9以下において,工事の計画の認可(同法43条の3の9),使用前検査(同法43条の3の11),施 設定期検査(同法43条の3の15)等の規制がされるものとされた。ま た,同法43条の3の14本文は,「発電用原子炉設置者は,発電用原子炉施設を原子力規制委員会規則で定める技術上の基準に適合するように維持しなければならない。」と規定して,同改正前の電気事業法39条(前記2⑴ア[❷-190 頁])を踏襲している。 そして,同法43条の3の23は,原子力規制委員会は,発電用原子炉 施設の位置,構造若しくは設備が第43条の3の6第1項第4号の基準に適合していないと認めるとき,発電用原子炉施設が第43条の3の14の技術上の基準に適合していないと認めるときは,その発電用原子炉設置者に対し,使用停止等処分を行うことができると規定した。 ⑵ 省令62号の改正 ア津波による損傷防止の技術基準の新設本件事故後,省令62号は,平成23年10月7日経済産業省令第53号により,同改正前の4条第1項(前記3⑵ア[❷-193 頁])が防護措置の対象とする自然現象から津波が削除され,新たに5条の2(津波による損傷の防止)として,以下のとおりの定めが設置された。 53号により,同改正前の4条第1項(前記3⑵ア[❷-193 頁])が防護措置の対象とする自然現象から津波が削除され,新たに5条の2(津波による損傷の防止)として,以下のとおりの定めが設置された。 5条の21項原子炉施設並びに一次冷却材又は二次冷却材により駆動される蒸気タービン及びその附属設備が,想定される津波により原子炉の安全性を損なわないよう,防護措置その他の適切な措置を講じなければならない。 2項津波によつて交流電源を供給する全ての設備,海水を使用して原子炉施設を冷却する全ての設備及び使用済燃料貯蔵槽を冷却する全ての設備の機能が喪失した場合においても直ちにその機能を復旧できるよう,その機能を代替する設備の確保その他の適切な措置を講じなければならない。 イその後の改正 省令62条は,平成24年9月14日経済産業省令第68号により,平成24年法律第47号(平成24年改正)の施行に伴い,関係省令を整備するため,規制の主体に原子力規制委員会を付加するなどの改正がなされた。 第4 原賠法の規定本件事故当時の原賠法の規定は以下のとおりである。 1 1条(目的)この法律は,原子炉の運転等により原子力損害が生じた場合における損害賠償に関する基本的制度を定め,もつて被害者の保護を図り,及び原子力事業の健全な発達に資することを目的とする。 2 2条(定義) 1項この法律において「原子炉の運転等」とは,次の各号に掲げるもの及びこれらに付随してする核燃料物質又は核燃料物質によつて汚染された物(原子核分裂生成物を含む。第五号において同じ。)の運搬,貯蔵又は廃棄であつて,政令で定めるものをいう。 一原子炉の運転 二加工三再処理四核燃料物質の使用 染された物(原子核分裂生成物を含む。第五号において同じ。)の運搬,貯蔵又は廃棄であつて,政令で定めるものをいう。 一原子炉の運転 二加工三再処理四核燃料物質の使用四の二使用済燃料の貯蔵五核燃料物質又は核燃料物質によつて汚染された物(次項及び次条第二 項において「核燃料物質等」という。)の廃棄2項この法律において「原子力損害」とは,核燃料物質の原子核分裂の過程の作用又は核燃料物質等の放射線の作用若しくは毒性的作用(これらを摂取し,又は吸入することにより人体に中毒及びその続発症を及ぼすものをいう。)により生じた損害をいう。ただし,次条の規定により損 害を賠償する責めに任ずべき原子力事業者の受けた損害を除く。 3項以下 (省略) 3 3条(無過失責任,責任の集中等)1項原子炉の運転等の際,当該原子炉の運転等により原子力損害を与えたときは,当該原子炉の運転等に係る原子力事業者がその損害を賠償する責めに任ずる。ただし,その損害が異常に巨大な天災地変又は社会的動 乱によつて生じたものであるときは,この限りでない。 2項前項の場合において,その損害が原子力事業者間の核燃料物質等の運搬により生じたものであるときは,当該原子力事業者間に特約がない限り,当該核燃料物質等の発送人である原子力事業者がその損害を賠償する責めに任ずる。 4 4条1項前条の場合においては,同条の規定により損害を賠償する責めに任ずべき原子力事業者以外の者は,その損害を賠償する責めに任じない。 2項前条第一項の場合において,第七条の二第二項に規定する損害賠償措置を講じて本邦の水域に外国原子力船を立ち入らせる原子力事業者が 損害を賠償する責めに任ずべき額は,同項に規定する額 い。 2項前条第一項の場合において,第七条の二第二項に規定する損害賠償措置を講じて本邦の水域に外国原子力船を立ち入らせる原子力事業者が 損害を賠償する責めに任ずべき額は,同項に規定する額までとする。 3項原子炉の運転等により生じた原子力損害については,商法(明治32年法律第48号)第798条第1項,船舶の所有者等の責任の制限に関する法律(昭和50年法律第94号)及び製造物責任法(平成6年法律第85号)の規定は,適用しない。 5 5条1項第三条の場合において,その損害が第三者の故意により生じたものであるときは,同条の規定により損害を賠償した原子力事業者は,その者に対して求償権を有する。 2項 (省略) 6 16条(国の措置) 1項政府は,原子力損害が生じた場合において,原子力事業者(外国原子力船に係る原子力事業者を除く。)が第三条の規定により損害を賠償する責めに任ずべき額が賠償措置額をこえ,かつ,この法律の目的を達成するため必要があると認めるときは,原子力事業者に対し,原子力事業者が損害を賠償するために必要な援助を行なうものとする。 2項前項の援助は,国会の議決により政府に属させられた権限の範囲内において行なうものとする。 7 18条1項文部科学省に,原子力損害の賠償に関して紛争が生じた場合における和解の仲介及び当該紛争の当事者による自主的な解決に資する一般的 な指針の策定に係る事務を行わせるため,政令の定めるところにより,原子力損害賠償紛争審査会(以下この条において「審査会」という。)を置くことができる。 2項審査会は,次に掲げる事務を処理する。 一原子力損害の賠償に関する紛争について和解の仲介を行うこと。 二原子力損害の賠償に関する紛 「審査会」という。)を置くことができる。 2項審査会は,次に掲げる事務を処理する。 一原子力損害の賠償に関する紛争について和解の仲介を行うこと。 二原子力損害の賠償に関する紛争について原子力損害の範囲の判定の指針その他の当該紛争の当事者による自主的な解決に資する一般的な指針を定めること。 三前二号に掲げる事務を行うため必要な原子力損害の調査及び評価を行うこと。 3項 (省略)(以下本頁余白) 第4節地震,津波,防災及び原子力工学に関する各種知見について第1 地震に関する一般的知見【丙C2】地震とは,地下で起こる岩盤の破壊現象のことをいう。すなわち,地震は,地下の岩盤に力が加わり,ある面(断層面)を境に急速にずれ動く断層運動という 形で発生する。 日本列島で発生する地震には,大別して,海溝付近で発生する地震と陸のプレートの浅い部分で発生する地震とがある。 海溝付近で発生する地震の発生メカニズムは次のとおりである。すなわち,地球の表面は十数枚の巨大な板状の岩盤(プレート)で覆われているが,プレート はその下のアセノスフェア(岩石が部分的に溶解して流動性のある部分)の上を,年間数㎝の速さで,それぞれが別の方向に水平運動している(プレート運動。地球の表面近くで起こるさまざまな地学的な現象をプレートの運動で説明する学説をプレート・テクトニクスという。)。日本列島の太平洋側の日本海溝や南海トラフなどでは,海のプレートが陸のプレートの下に沈み込み,陸のプレートが常 に内陸側に引きずり込まれている。この状態が進行し,蓄えられたひずみがある限界を超えると,海のプレートと陸のプレートとの間で断層運動が生じて,陸側のプレートが急激に跳ね上がり,地震が発生する。こ に内陸側に引きずり込まれている。この状態が進行し,蓄えられたひずみがある限界を超えると,海のプレートと陸のプレートとの間で断層運動が生じて,陸側のプレートが急激に跳ね上がり,地震が発生する。これをプレート間地震という。 また,海のプレート内部に蓄積されたひずみにより,海のプレートを構成する岩盤中で断層運動が生じて地震が発生することもある。これを沈み込むプレート内 の地震という。 また,陸のプレート内にも,プレート運動に伴う間接的な力によってひずみが蓄えられ,そのひずみを解消するために日本列島の深さ20㎞程度までの地下で断層運動が生じて地震が発生する。これが陸のプレートの浅い部分で発生する地震の発生メカニズムである。 このように,地震とは,地下の岩盤に力が加わり,その力に岩盤が耐えきれな くなったときに起こる破壊現象であるが,「震源」とは,この破壊が最初に生じた地点をいう。震源から始まった岩盤の破壊は,毎秒2~4㎞程度の速さで四方に広がり,やがてバリアと呼ばれる強度の高い部分に来ると止まるが,その間次々と地震波を放射し続ける。この破壊の及んだ範囲を「震源断層」,震源断層を含むエネルギーを放射した領域を「震源域」という。 震源域から放射されるエネルギー全体の大きさ(地震の規模)を表すのが「M(マグニチュード)」である。Mの数値が1大きくなると,地震のエネルギーは約30倍となる。また,地震の発生メカニズムを断層運動の数値で表したものとして「断層モデル」がある。前記のとおり,地震は,地下の断層面を境として両側の岩盤がずれること(断層運動)により発生する。この断層運動は,断層面の 全域にわたって一瞬のうちに起こるものではない。まずある一点(震源)から運動が始まり,そこから広がっていく。断層モデル 側の岩盤がずれること(断層運動)により発生する。この断層運動は,断層面の 全域にわたって一瞬のうちに起こるものではない。まずある一点(震源)から運動が始まり,そこから広がっていく。断層モデルは,断層面の向きや傾き,大きさ,断層面上でのずれの量,破壊の進行速度などの断層パラメーター(媒介変数)で表現される。【丙C1】なお,この「断層モデル」を津波の原因(波源)を説明するためのモデルとして用いる場合には「波源モデル」と呼ばれる。 第2 津波に関する一般的な知見地震が発生すると,地震の震源域では,断層面を境にして地盤がずれることとなる。これにより,海底が急激に隆起又は沈降すると,その上にある海水も同じだけ上下に移動するが,この海水を(海水の重力によって)元に戻そうとする動きが周囲へも伝わってゆく。これが津波の発生メカニズムであり,津波は,地震 の震動で海水が揺り動かされて生じる波立ちではなく,海底にできた「段差」による大量の海水の移動を伴う現象である。 このように,津波は,海底の隆起又は沈降により,その海域の海水が持ち上げられたり沈み込んだりすることによって発生するため,津波の高さは,海底の隆起・沈降の大きさによって決まる。そして,地震は,岩盤がずれ動くことで起こ るが,このずれ動く量,すなわち「すべり量」が大きいほど,海底の隆起・沈降 も大きくなりやすい。したがって,この「すべり量」が大きければ津波も大きくなるという関係に立つ。 津波高とは,検潮所や波浪計によって海上で測った潮位の高さをいい,浸水高とは,津波による浸水で構造物の濡れた部分が変色して痕跡として残った最大の高さのことをいう。 津波の波長は数㎞から数百㎞と非常に長いため,海岸に近づくと波の前側で浅く,後ろ側で深いという, とは,津波による浸水で構造物の濡れた部分が変色して痕跡として残った最大の高さのことをいう。 津波の波長は数㎞から数百㎞と非常に長いため,海岸に近づくと波の前側で浅く,後ろ側で深いという,波の前後の水深に大きな差が生じる。そして,津波の速度は,浅い前側は遅く,深い後側では前側ほどは遅くならないため,波の前後で速度差が生じる。そうすると,津波の前側は後側から押されるような形になるため,次第に波高が高くなる。 津波の周期は20分から40分程度であり,周期の短い津波であっても1山1谷の波を描くのに20分はかかるといわれる。1山の継続時間は約10分となり,一旦海面が上昇すると,その状態が約10分間かそれ以上続くことになる。このように,津波の波長が㎞単位に及び,その周期も長いことから,陸上に遡上した津波が本来の津波の高さ以上の浸水高をもたらす作用は,その津波の周期に相当 する時間継続することとなる。したがって,津波は,「波」というよりは,むしろ洪水のようなものであるともいえ,これが陸まで到達し,内陸の奥深くまで侵入することとなる。台風などによる高波・高潮においては,周期・波長が短く,海水も海面に近い部分だけが移動するものであるところ,津波は,海底から海面までの海水全体が盛り上がって移動し,これが陸に到達するものである点で,津 波のもつエネルギーは通常の高波とは桁違いに大きいものとなる。 津波は,遠く沖合で発生してもそのエネルギーはほとんど減衰することなく沿岸に到達する。この津波が沿岸の防波堤や護岸に到達したとき,前進する海底から海面までの水移動が防波堤で堰き止められることにより,海水の運動エネルギーは瞬時に位置エネルギーに変換され,海面にせり上がる。すなわち,防波堤に 衝突することにより,津波の高さは衝突 海底から海面までの水移動が防波堤で堰き止められることにより,海水の運動エネルギーは瞬時に位置エネルギーに変換され,海面にせり上がる。すなわち,防波堤に 衝突することにより,津波の高さは衝突前よりも高くなり,防波堤を越流して通 過することができるようになる。 津波は海岸線部に到達するまでは,海水が平均海面標準潮位を超えて盛り上がっているという位置エネルギーと津波の進行方向に流れるという運動エネルギーをもっている。海岸部に到達して陸上に遡上する過程においては,護岸への衝突や,津波の流れを阻止する地盤や頑丈な建物などにぶつかることにより,津波 の流れが有する運動エネルギーの一部は,前進を阻まれ強制的に位置エネルギーに変えられ,津波の高さは高くなる。また,陸上の複雑な地形や障害物の影響を受けることにより津波の高さは高くなる。さらに,地形や建物などの障害物によって遡上の限界に達した津波には海に戻ろうとする力が働き,引き波となるが,この引き波と引き続き陸上に流れ込む押し波がぶつかり合うことによっても,津 波によって陸上においてもたらされる浸水高は,本来の津波高以上のものとなる。 【甲C52,丙C2】第3 福島県沖での地震・津波の発生可能性に関する学説等(本件地震発生前のもの)福島県沖(とりわけ,三陸北部から房総沖の海溝寄りのうち,三陸沖北部を除いた領域)において,大規模な津波を引き起こす地震の発生可能性については, 本件地震発生前においても種々の論文において言及されているところ,その概要は以下のとおりである。 1 プレート間地震全般について⑴ 谷岡勇市郎,佐竹健治「津波地震はどこで起こるか明治三陸津波から100年」(平成8年)(平成8年谷岡・佐竹論文) 【丙C101】同論文によれば,北 1 プレート間地震全般について⑴ 谷岡勇市郎,佐竹健治「津波地震はどこで起こるか明治三陸津波から100年」(平成8年)(平成8年谷岡・佐竹論文) 【丙C101】同論文によれば,北緯39度以南及び40度以北では海溝から相当陸寄り(東経142度付近)で典型的なプレート間の大地震が発生しているのに対し,その間の北緯39度から40度の間では典型的なプレート間大地震は起きていないこと,海溝から海側の海底の起伏に注目すると,明治三陸地震が発生し た地点では,その他の地点に比べて海底面の起伏が大きい「粗い」海底面であ り,地塁-地溝構造が発達していることから,海側の海底が粗いところでは,海溝近くで津波地震,海溝の東側で正断層型大地震が発生し,海溝から陸寄りで低角逆断層型のプレート間大地震は発生しない一方,海溝の東側の海底がなめらかなところでは,海溝から陸寄りで典型的なプレート間大地震が発生し,海溝近くでの異常な津波地震は発生しない【同・579頁】とした上,典型的 なプレート間大地震が発生している「なめらかな」海底面では,柔らかい堆積物が多く存在することから,プレートの上盤と下盤の接触が弱いため,地震が発生せず,更にプレートが沈み込むことによって陸寄りの部分でプレートの強い固着を生み,典型的なプレート間大地震を発生させると考えられるのに対し,「粗い」海底面では,地溝に堆積物を満載した状態で海溝に沈み込み,地塁が 上盤のプレートに接触して地震を引き起こすものの,その断層運動はすぐに周辺の柔らかい堆積物の中に吸収され,ゆっくりとした断層運動となるため,津波地震となるとし,上記の考えによれば,日本海溝沿いに発生する大地震の発生パターンをうまく説明でき,明治三陸津波地震の発生機構も理解できるとする【同・580頁 ,ゆっくりとした断層運動となるため,津波地震となるとし,上記の考えによれば,日本海溝沿いに発生する大地震の発生パターンをうまく説明でき,明治三陸津波地震の発生機構も理解できるとする【同・580頁】。 上記論述の趣旨は,明治三陸地震が発生した場所付近の海底には凸凹があり,へこんでいる部分には堆積物(付加体)が入り,凸の部分(地塁)には堆積物が溜まらないため,陸側のプレートとより強くカップリング(固着)するため,そのような場所では,海溝付近でも地震が発生し,津波地震になる一方,海底地形に凸凹がないところでは堆積物が一様に入ってくるので,堆積物(付加体) の下ではカップリング(固着)が弱くなって地震を起こしにくいというものである。【丙C75号証】⑵ 鶴哲朗ほか「日本海溝域におけるプレート境界の弧沿い構造変化:プレート間カップリングの意味」(平成14年)【丙C99の2】 同論文においては,津波地震の発生場所として知られる海溝軸付近の堆積物 の形状等を観測した結果,「北部の海溝軸に平行する等間隔の地形的隆起がある」,「対照的に南部では,海洋プレートに等間隔の地形的特徴は無い」とした上で,北部の海溝軸付近では堆積物が厚く積み上がっているのに対し,南部ではプレート内の奥まで堆積物が広がり,北部のように厚い堆積物が見つかっていないと報告されている。 ⑶ 松澤暢,内田直希「地震観測から見た東北地方太平洋下における津波地震発生の可能性」(平成15年)【丙C12】同論文は1896年に発生した明治三陸地震を「津波地震」と位置づけることを前提に,津波地震については,巨大な低周波地震であるとの考え方が多く の研究者によってなされているとし,福島県沖~茨城県沖にかけての領域においても大規模な低周波地 津波地震」と位置づけることを前提に,津波地震については,巨大な低周波地震であるとの考え方が多く の研究者によってなされているとし,福島県沖~茨城県沖にかけての領域においても大規模な低周波地震が発生する可能性があるとする一方で,日本海溝沿いの構造の調査結果に基づいて,福島県沖の海溝近傍では,三陸沖のような厚い堆積物は見つかっておらず,もし,大規模な低周波地震が起きても,海底の大規模な上下変動は生じにくく,結果として大きな津波は引き起こさないかも しれないとする。 ⑷ 都司嘉宣「慶長16年(1611)三陸津波の特異性」(平成15年)【丙C13】同論文は,慶長三陸津波の原因が地震であったとするならば,それは明治三陸津波の地震と同じような,地震揺れの小さく感じられる『津波地震』であっ たことになろうが,この見解は少々不自然であるとした上,1998年にパプアニューギニア国で発生した地震及びその後の津波に関する海洋科学技術センターによる海底調査の結果,津波発生の直接原因が地震によるものではなく,地震発生後遅れて発生した海底地滑りによるものであるとする見解が出されたことなどを根拠として,慶長三陸津波の発生原因もまた,地震によって誘発 された大規模な海底地滑りである可能性が高いとする。 ⑸ 石橋克彦「史料地震学で探る1677年延宝房総沖津波地震」(平成15年)【丙C14】同論文においては,延宝房総沖地震について,同地震による各地の津波の状況や震度分布に基づき,同地震の気象庁マグニチュードに相当するマグニチュードは6.5程度かもしれないから,同地震に関する長期評価の見解は疑問で ある【同・387頁】とか,延宝房総沖地震を1611年慶長三陸地震や1896年明治三陸津波地震と一括して「三陸沖北部か ュードは6.5程度かもしれないから,同地震に関する長期評価の見解は疑問で ある【同・387頁】とか,延宝房総沖地震を1611年慶長三陸地震や1896年明治三陸津波地震と一括して「三陸沖北部から房総沖の海溝寄りのプレート間大地震(津波地震)」というグループを設定し,その活動の長期評価を行った地震調査研究推進本部地震調査委員会(2002)の作業は適切ではないかもしれず,津波防災上まだ大きな問題が残っている【同・387及び38 8頁】などといった指摘がなされている。 2 貞観地震・津波について⑴ 阿部壽・菅野喜貞・千釜章「仙台平野における貞観11年(869年)三陸津波の痕跡高の推定」(平成2年)【丙C27】 同論文は,貞観津波に関する仙台平野での初めての堆積物調査の結果に基づき,津波痕跡高を推定したものであり,東北電力による独自調査として行われたものである。貞観津波の痕跡高は,仙台平野の河川から離れた一般の平野部で2.5mから3mで浸水域は海岸線から3㎞ぐらいの範囲であったと推定している。 ⑵ 渡邊偉夫「貞観十一年(869年)地震・津波と推定される津波の波源域(総括)」(平成12年)【甲C37】平安時代の古文書である『日本三代実録』に関連する事項の再検討,貞観津波に関連すると推定される数多くの伝承,貞観津波が記述される文献,仙台平 野と福島県相馬市の津波堆積物の研究結果などを基礎として,貞観津波の波源 域は,日本海溝に沿って宮城県はるか沖から茨城県北部はるか沖にかけて長さ約200㎞,幅約50㎞であることが推定されている。 ⑶ 菅原大助・箕浦幸治・今村文彦「西暦869年貞観津波による堆積作用とその数値復元」(平成13年)【丙C28】 同論文においては,津波堆積物の調 幅約50㎞であることが推定されている。 ⑶ 菅原大助・箕浦幸治・今村文彦「西暦869年貞観津波による堆積作用とその数値復元」(平成13年)【丙C28】 同論文においては,津波堆積物の調査を行い,福島県相馬市の松川浦付近で仙台平野と同様の堆積層を検出した上で,貞観津波の波源モデルを推測した結果,海岸線に沿った津波波高は,茨城県大洗町から福島県相馬市にかけて小さく,およそ2~4m,相馬から宮城県気仙沼市にかけては大きく,およそ6~12mとなったと報告している。 ⑷ 箕浦幸治「津波災害は繰り返す」(平成13年)【甲C38】同論文においては,津波発生の理工学的解析を今村文彦災害制御研究センター教授と共同で試み,貞観津波の数値的復元に成功したこと,これにより,仙台平野の海岸で最大で9mに達する到達波が,7・8分間隔で繰り返し襲来し たと推定されたこと,相馬市の海岸には更に規模の大きな津波が襲来したと推測されること,津波堆積物の周期性と堆積物年代測定結果から,津波による海水の溯上が800年から1100年に1度発生していると推定されること,貞観津波の襲来から既に1100年余の時が経ており,津波による堆積作用の周期性を考慮するならば, 仙台湾沖で巨大な津波が発生する可能性が懸念され ることなどが述べられている。 ⑸ 佐竹健治・行谷佑一・山木滋「石巻・仙台平野における869年貞観津波の数値シミュレーション」(平成20年)(貞観津波に関する佐竹論文)【丙C29】貞観津波に関する佐竹論文においては,10の断層モデルを仮定し,津波の シミュレーション結果と津波堆積物調査の結果を比較した結果,「プレート間 地震で幅が100㎞,すべりが7m以上の場合には,浸水域が大きくなり,津波堆積物の分布 ルを仮定し,津波の シミュレーション結果と津波堆積物調査の結果を比較した結果,「プレート間 地震で幅が100㎞,すべりが7m以上の場合には,浸水域が大きくなり,津波堆積物の分布をほぼ完全に再現できた。」【同・73頁】とする一方,本研究では,断層の長さは3例を除いて200㎞と固定したが,断層の南北方向の広がり(長さ)を調べるためには,仙台湾より北の岩手県あるいは南の福島県や茨城県での調査が必要であるとして,なお未解明の部分があるとも言及してい る。 ⑹ 行谷佑一ほか「宮城県石巻・仙台平野および福島県請戸川河口低地における869年貞観津波の数値シミュレーション」(平成22年)【丙C96】同論文は,貞観津波に関する佐竹論文の断層モデル「モデル8」,「モデル1 0」のほか,これらのモデルから断層の位置や深さを変更した四つの新しい断層モデル(モデル11~14)について津波浸水計算を行い,津波堆積物の位置と計算浸水範囲を比較し,貞観地震の断層モデルを検討したものである。その結果,モデル8については「計算浸水域が請戸地区における津波堆積物の位置まで到達しなかった」とし,モデル10及びモデル10を深部に移動させた モデル11では「全地域で津波堆積物の分布を良く再現することができた。」として,貞観津波に関する佐竹論文の断層モデルの妥当性に疑問を呈している。 また,同論文においても,断層の南北の拡がり(長さ)などをさらに検討するために,今後,石巻平野よりも北の三陸海岸沿岸や,あるいは請戸地区よりも南の福島県,茨城県沿岸における津波堆積物の調査が必要であるとしている。 第4 福島県沖での地震・津波の発生可能性ないし予見可能性に関して専門家から提出された意見書の内容本件訴訟に当たり,福島県沖の日本海溝寄 における津波堆積物の調査が必要であるとしている。 第4 福島県沖での地震・津波の発生可能性ないし予見可能性に関して専門家から提出された意見書の内容本件訴訟に当たり,福島県沖の日本海溝寄りの領域で大規模な津波を引き起こす地震の発生可能性ないしその予見可能性に関し,多数の専門家から意見書が提出されている。その概要を,長期評価(前記第1節第10[❷-46 頁])の結論 を支持するものと,これに慎重な意見を述べるものとに分類すると,以下のとお りである。 1 長期評価の結論を支持するもの⑴ 島崎邦彦【甲C66の各枝番,72】ア経歴等 島崎邦彦は,平成21年3月まで,東京大学地震研究所の教授を務めていた地震学者であり,長期評価の取りまとめにおいては,地震本部地震調査委員会長期評価部会の部会長として関わったものである。 イ意見の内容【甲C66の3・26頁】 長期評価の根拠は,過去400年間に発生した3つの津波地震,1611年慶長三陸地震,1677年11月の延宝房総沖地震,1896年明治三陸地震である。30年発生確率は,これらの地震の発生頻度,すなわち133. 3年程度に1回によっており,津波マグニチュードは,明治三陸地震の値に基づいている。慶長三陸地震と明治三陸地震については,津波の数値計算か ら「日本海溝付近」で発生したと推定されている。延宝房総沖地震の津波については,津波地震であることが明らかであり,遠方の岩沼(宮城県)で死者が出ていることから「日本海溝付近」で発生したと推定した。「日本海溝付近」では,津波地震のように長く続き,低周波数の揺れが大きい地震が発生することが知られている。 「日本海溝付近」の津波地震は,太平洋プレートの沈み込みが引き起こしている,プ 「日本海溝付近」では,津波地震のように長く続き,低周波数の揺れが大きい地震が発生することが知られている。 「日本海溝付近」の津波地震は,太平洋プレートの沈み込みが引き起こしている,プレート境界地震である。これらの津波地震の正確な位置は明治三陸地震を除き不明である。また,明治三陸地震についても断層が南北にどの程度延びていたかは不明である。津波被害の記録からみると,慶長三陸地震と明治三陸地震の津波は「日本海溝付近」の北部,延宝房総沖地震は南部で 発生したものと推定される。海溝の北部,南部,中部には,地形等に大きな 違いはみられず,津波地震は「日本海溝付近」のどこでも発生すると判断した。プレートの沈み込みにより,北部と南部だけで津波地震が発生し,中部だけは起こらないとは考えにくい。たまたま,過去400年間に中部では発生しなかっただけと推定することが妥当である。中部が空白域に当たるとするのは,プレートテクニクスに基づけば当然の結論である。 慶長三陸地震では,三陸地方で午前10時過ぎに震度4程度の地震の揺れが感じられたにもかかわらず,津波は午後2時頃到達しており,地震後30分程度で伝わるはずの津波が4時間かかっている。当時の時刻については2時間程度の誤差を見込む必要があるが,4時間の差は有意である。別の地震と考え,強い揺れが感じられない津波地震が発生したものと判断した。 この地震の被害は三陸だけでなく北海道東部にも及んでいる。その発生位置は不明であるが,三陸に大きな被害をもたらしたことから「日本海溝付近」とした。三つの津波地震それぞれの被害分布は異なることから,別々の場所で発生したものと考え,ポアソン過程により確率を計算した。 長期評価が,三陸沖北部から房総沖の海溝寄りのどこでも津波地震が発生 とした。三つの津波地震それぞれの被害分布は異なることから,別々の場所で発生したものと考え,ポアソン過程により確率を計算した。 長期評価が,三陸沖北部から房総沖の海溝寄りのどこでも津波地震が発生 する可能性があると考えたことについては,日本海溝の内側斜面域に低周波地震発生帯が存在することを明らかにした研究成果(FukaoandKanjo(1980))も背景にある。 【甲C72・11頁】本件地震は,破壊が3段階に分かれ,第一段階で通常の海溝型地震,その 後の第二段階でプレート境界の極浅部,海溝付近での大きなずれが起こり,その異常に大きなずれに引きずられたように,第三段階で破壊が宮城県沖の南北(特に南)に拡大した。 この第二段階の破壊は,海溝付近に50mに及ぶ異常に大きな海底の動きを伴っており,長期評価において想定した,明治三陸地震と同じような津波 地震が宮城県から福島県沖の日本海溝寄りに発生したものと考えられてい る。 本件地震のような複数領域間での同時発生での連動型地震については,長期評価では想定していなかった。しかし,明治三陸地震と同じような津波地震が日本海溝寄り,福島県沖を含めてどこでも発生することは,長期評価で予測していたことである。 なお,本件地震以前には,比較沈み込み学にいうプレート固着の遷移構造(日本海溝北部はプレート境界の固着が強く,M8の地震が発生するが,南部では固着が弱くなり,M7の地震しか発生しないという考え方)からみて,福島県沖の陸寄りは巨大地震が起こりにくいとされていた。しかし,海溝沿いは陸よりとは異なり固着が一様に弱く,津波地震(いわゆる「ぬるぬる地 震」)が起こりやすい。したがって,長期評価は,比較沈み込み学にいうプレート固着の遷移構造とは矛盾しない。 しかし,海溝沿いは陸よりとは異なり固着が一様に弱く,津波地震(いわゆる「ぬるぬる地 震」)が起こりやすい。したがって,長期評価は,比較沈み込み学にいうプレート固着の遷移構造とは矛盾しない。 ⑵ 都司嘉宣【甲C52の各枝番】ア経歴等 都司嘉宣は,平成24年3月まで東京大学地震研究所准教授を務める地震学者であり,歴史地震(近代的な観測による記録が残される時代以前の古地震のうち,文字を主体とする記録が残っている時代の地震)【甲C52の2・1頁】を,古文書の判読等により調査分析する研究を主として行うものである。また,都司嘉宣は,長期評価の取りまとめに当たり,地震本部地震調査 委員会委員として,同委員会長期評価部会海溝型分科会に出席して議論に参加していた。 イ意見の内容【甲C52の1・57頁】長期評価は,慶長三陸地震,延宝房総沖地震及び明治三陸地震を海溝寄り のプレート間における津波地震であるとした。その上で,これら3回の地震 は,同じ場所で繰り返し発生しているとはいい難いため,固有地震としては扱わないこととし,同様の地震が,三陸北部海溝寄りから房総沖海溝寄りにかけてどこでも発生する可能性があると結論づけた。 この点,私は,慶長三陸地震の評価について,平成6年に津波地震との見解を示したが,平成7年に改訂地すべり説の可能性をも指摘し,現在では, 日本海溝の海溝軸よりも沖側(東側)で生じた正断層型地震ではないかと考えている。慶長三陸地震が発生した1611年当時の史料は,江戸幕府が安定した1677年延宝房総沖地震のときに比べても不足しており,今後も議論は続くであろうが,理学者は,過去の知見を踏まえ,それぞれの見解を自由に表明し,相互批判をする中で,地震と津波の実像に接近してゆくことが 677年延宝房総沖地震のときに比べても不足しており,今後も議論は続くであろうが,理学者は,過去の知見を踏まえ,それぞれの見解を自由に表明し,相互批判をする中で,地震と津波の実像に接近してゆくことが 使命であるところ,長期評価は,防災のために,理学者が集団的な議論を尽くし一定の結論を出したものであるから,慶長三陸地震についての私の上記見解をもって,長期評価の意義と重要性は何ら左右されない。 本件地震は,連動型超巨大地震であったとされている。連動型超巨大地震の場合,その領域は各単独の巨大地震を合計したものとなるが,その規模は 単に足し算をしただけのものとはならない。各領域での断層面上での滑りの量が,単独で起きた場合のそれらより大きくなるからである。このため,「地震が連動型になれば,津波は非常に大きくなる」という定理は成立するといえる。しかし,逆に,「津波が大きい地震は連動型である」との定理は必ずしも成り立たない。必ずしも,地震の規模が巨大でなくとも,高位の津波は 発生し得る。また,本件地震のような規模でなくとも,例えば,100年に1度といわれるクラスの地震(昭和三陸地震,明治三陸地震,延宝房総沖地震など)による津波であっても,津波の高さは10数mから20数mにもなり得る。1000年に1度といわれる連動型超巨大地震が予測不可能であったからといって,本件津波程度の高さの津波の発生が予測不可能であったと はならない。 ⑶ 鷺谷威【甲C158】ア経歴等鷺谷威は,平成24年1月当時,名古屋大学減災連携研究センター教授として研究活動を行う地震学者である。 イ意見の内容長期評価の一つの特徴は,海溝沿いにおける津波地震の発生の可能性を指摘した点である。この地域では,1600年以降に,1 研究センター教授として研究活動を行う地震学者である。 イ意見の内容長期評価の一つの特徴は,海溝沿いにおける津波地震の発生の可能性を指摘した点である。この地域では,1600年以降に,1611年慶長三陸地震,1677年延宝房総沖地震,1896年明治三陸地震の3つの地震が,揺れがあまり強くなかったのに非常に大きな津波を伴った事例として認識 されていた。なお,869年貞観地震については,最初の長期評価が行われた平成14年頃は,仙台平野における津波の痕跡に関する報告が少しあった程度で,津波の浸水範囲の広がりやその津波を起こした地震の規模についての推定がなく,評価を行うには情報不足であった。また,1933年の昭和三陸地震も大きな津波を伴ったが,この地震はプレート境界ではなく,沈み 込む太平洋プレート内部で起きたタイプの異なる地震(正断層地震)であることが知られており,また,地震による揺れも激しいことから津波地震としては扱っていない。 海溝寄りの津波地震については,通常のプレート境界地震と比べて発生頻度が低く,同じ場所で繰り返し発生した事例は,今日まで世界的にも知られ ていない。そのため,記録のある津波地震をそれぞれ固有地震として評価しようにも,再来間隔が推定できず評価できない。そこで,長期評価では,房総沖から三陸沖に至る海溝沿いの領域全体を1つの地域として扱うことによって,統計的な地震活動の扱いが可能となるよう工夫した。このとき,1600年以降に発生した3つの津波地震は固有地震ではないため,将来起こ り得る津波地震の震源域を特定することはできないことに注意する必要が ある。長期評価では津波地震が起き得る場所を具体的に指定していないが,その意味は,この南北に細長い海溝沿いの領域ではどこでもそのよ 震の震源域を特定することはできないことに注意する必要が ある。長期評価では津波地震が起き得る場所を具体的に指定していないが,その意味は,この南北に細長い海溝沿いの領域ではどこでもそのような地震が起こり得る,ということであった。1600年以降に発生した3つの津波地震がそれぞれ異なる震源域をもつことを考えれば,将来の津波地震は,これら3つの場所のみで繰り返し発生すると考えるより,海溝沿いの異なる場 所で起きると考える方が妥当である。海溝付近の津波地震は400年間で3回発生していたことから,平均発生間隔は400/3=133.3年となる。 ポアソン過程を仮定すると,1年当たりの発生確率は1/133.3=0. 75%,30年間の発生確率はその30倍で約20%となる。30年間で20%という確率は,宮城沖(99%)や三陸沖北部(90%)の確率と比べ ると低い値ではあるが,日本列島内陸の活断層のどこよりも高い確率で,十分注意を要するという意味をもった数値であった。また,当時は社会的にも十分認知されていたとは言い難かった太平洋側での津波の可能性を指摘した点は,地震学の成果を社会に活かすという意味で重要であった。 長期評価は,その時点における学問的知見をまとめるという方法では,妥 当なものであったといえ,また,巨大な津波を起こす可能性のある津波地震について的確に危険を指摘した内容であった。 2 長期評価の結論に慎重な態度を示すもの⑴ 佐竹健治【丙C71,丙C75,丙C76の1,2,丙C95,丙C101,丙C13 2,丙C133,丙C137の1,2】ア経歴等佐竹健治は,平成23年から,東京大学地震研究所地震火山情報センター長・教授の地位にある地震学者であり,長期評価の取りまとめに当たっては,地震本部地震調査 33,丙C137の1,2】ア経歴等佐竹健治は,平成23年から,東京大学地震研究所地震火山情報センター長・教授の地位にある地震学者であり,長期評価の取りまとめに当たっては,地震本部地震調査委員会委員として,同委員会長期評価部会海溝型分科会に 出席して議論に参画し,中央防災会議報告の取りまとめに当たっては,中央 防災会議の日本海溝・千島海溝専門調査会北海道ワーキンググループ委員として議論に参画し,津波評価技術の作成に当たっては,土木学会原子力土木委員会津波評価部会委員として議論に参画したものである。 その研究内容は,発生繰り返し間隔の長い巨大地震や津波を地学的な変動現象としてとらえ,地震計や水位計などの計器観測記録のみならず,史料に 基づく歴史地震学的研究手法,海岸地形や津波堆積物などの地形・地質学的研究手法,さらには海洋地質学手法も併せて,地球上で過去に発生した地震や津波について調査すると同時に,将来の発生や被害の予測を行うというものである。 イ意見の内容 (ア) 長期評価について地震本部地震調査委員会による長期予測は,今後30年間に地震が発生する可能性を確率として表現する。この際,地震の発生間隔について,BPT(BrownianPassageTime)分布を仮定する場合とポアソン過程を仮定する場合がある。 地震の発生の時間的性質については,規則正しく発生するモデル(更新過程)と,全くランダムに発生するモデル(ポアソン過程)とがある。これらのモデルについて,個々の地震の発生間隔を横軸に,それらの頻度(回数)を縦軸にとってプロットすると,更新過程の場合には特定の繰り返し間隔にピークをもつような分布になるのに対し,ポアソン過程の場合には ピークがなく,地震発生間隔が長いも に,それらの頻度(回数)を縦軸にとってプロットすると,更新過程の場合には特定の繰り返し間隔にピークをもつような分布になるのに対し,ポアソン過程の場合には ピークがなく,地震発生間隔が長いものほど少ないという対数分布になる。 地震調査委員会では,更新過程の場合の頻度分布については,物理的な意味付けのしやすさからBPTモデルを採用している。物理的な意味付けとは,プレートの沈み込みによって一定の割合で応力が蓄積する過程において,周辺に発生した地震などによる影響や揺らぎを酔歩モデルとして表現 し,応力が一定値に達すると地震が発生するというものである。酔歩モデ ルとは,酔っ払いの歩行過程を表現するモデルで,酔っているために時々道を外れ,元の道に戻るが,その外れ方は一定ではなく,大きいときも小さいときもあるというものである。プレート境界において応力の蓄積は一定であるが,地震の発生は完全に規則的でないことを表すのに,酔歩モデルが採用された。過去の地震の履歴(平均繰り返し間隔)と最新活動時期 が分かれば,それぞれのモデルに基づいて,今後の一定期間(地震調査委員会では通常30年間)の地震発生確率を計算することができる。BPTモデルのような更新過程の場合,地震が発生する確率は前回の地震発生直後には低いが,時間とともに次の地震に向かって増加する。一方,ポアソン分布を仮定すると,地震の発生する確率は時間によらず一定である。長 期評価では,更新過程が期待される場合でも,十分なデータがない場合には,ポアソン過程を仮定して確率を推定している。 長期評価をとりまとめる際には,その結論とする見解について,異論も示されていた。私自身,平成8年の論文で津波地震は決まった領域で発生するというモデルを提出していたので,津波地震がどこでも発 いる。 長期評価をとりまとめる際には,その結論とする見解について,異論も示されていた。私自身,平成8年の論文で津波地震は決まった領域で発生するというモデルを提出していたので,津波地震がどこでも発生するとは 思っていなかった。結局,慶長三陸地震及び延宝房総沖地震の波源域が明らかでないことから,過去の津波地震は海溝沿いのどこかで発生したとして評価することとなった。この評価からは,津波地震は日本海溝沿いのどこでも起こり得るという解釈になるが,福島県沖で津波地震が発生する可能性を議論したり,そのようなデータが明示的に提示されたりしたわけで はなかった。 【丙C71・18頁以降】(イ) 福島沖での地震発生の可能性について昭和47年,地震学者の金森博雄は,環太平洋の沈み込み帯について,プレート間の相互作用が異なり,それに伴って巨大地震の発生様式も異な ると提唱した。この考えは,その後,上田誠也らとともに,「比較沈み込 み学」として,M9クラスの巨大地震が発生するチリ型と,巨大地震を発生しないマリアナ型を両極端とする考えに発展した。日本海溝南部はマリアナ型に近いと考えられていた。さらに,M9クラスの超巨大地震が発生するチリ型の沈み込み帯では,沈み込むプレートの年代が若く,移動速度も速いことが統計的に示された。このことは,プレートの年代が若いほど 温度が高く密度が低いので浮力が生じ,プレート境界が固着しやすく,巨大地震が発生する一方,太平洋プレートのように古い海洋プレートは温度が低く密度が高いため,大地震を起こすことなく沈み込むと解釈された。 これらの考えや研究結果に基づくと,福島県沖では,太平洋プレートは巨大地震は発生しないで沈み込んでいると考えられ,多くの地震学者はその ように思っていた。 すことなく沈み込むと解釈された。 これらの考えや研究結果に基づくと,福島県沖では,太平洋プレートは巨大地震は発生しないで沈み込んでいると考えられ,多くの地震学者はその ように思っていた。 上記比較沈み込み学の見解に加え,GPSの観測結果から,福島沖はプレート間の固着が小さい領域であって,小さな地震等で歪みが解消されており,プレート運動から期待されるすべり量からの不足分である「すべり欠損」が蓄積されているとは考えられておらず,多くの地震学者は,本件 地震発生当時,福島沖で大規模な地震が起こるとは考えていなかった。 【丙C71・29頁】(ウ) 明治三陸地震について私は,平成8年に,谷岡勇市郎と連名で,津波地震とされる明治三陸地震の発生メカニズムについての研究成果を論文にまとめた。その結論は以 下のとおりである。 すなわち,明治三陸地震による津波の波形解析及び史料・観測結果などから,同地震の震源となった断層は日本海溝近くに位置すると推定される。 そして,日本海溝沿いで過去(1896年~1994年)に発生した大地震の発生場所を比較してみると,いずれも典型的なプレート間の逆断層地 震とされる1968年十勝沖地震,1994年三陸はるか沖地震,189 7年三陸地震及び1978年宮城県沖地震については,海溝から相当陸寄りまで震源域が達している。しかし,1994年三陸はるか沖地震と1897年三陸地震との間の領域では,典型的なプレート間地震が発生しておらず,明治三陸地震及び海溝東側で発生した正断層型地震である昭和三陸地震が発生している。このような発生状況の違いは,海溝から海側の海底 の起伏の形状の違いによって説明することができる。すなわち,海底の起伏が大きい粗い海底面の領域では,まず海溝の東側で昭和三陸地 地震が発生している。このような発生状況の違いは,海溝から海側の海底 の起伏の形状の違いによって説明することができる。すなわち,海底の起伏が大きい粗い海底面の領域では,まず海溝の東側で昭和三陸地震のような正断層型の大地震が発生して,海底の起伏を大きくし,その結果生じた粗い海底が,地溝に堆積物を満載した状態で海溝に沈み込み,海溝近くのプレート境界では,地類の部分が直接上盤と接触するので,剪断強度が大 きくなり,地震が発生するが,この断層運動は,すぐに周辺の柔らかい堆積物の中に入り込み,ゆっくりとした断層運動となって,津波地震を引き起こす。更に深く沈み込むと,堆積物が変成し,剪断強度が増すが,プレート間の結合は不均質なので,小さな結合ゾーンをたくさん作るため,1968年十勝沖地震のような大地震は発生しない。他方,プレート境界が なめらかな場合,海溝近くでプレートが多くの堆積物とともに付加体の下に沈み込むところ,このように柔らかい堆積物が多く存在する場所では,上盤と下盤の接触は弱く,地震が発生しないとされており,海溝近くのプレート境界は無地震域となる(このような無地震域が三陸沖の海溝近くに存在することは,末広潔らの海底地震計を使った微小地震観測によって確 かめられている。)。更に深くプレートが沈み込むと,堆積物が変成し,剪断強度が増して広範囲にわたって強い地震結合ゾーンを形成し,これが破壊すると1968年十勝沖地震や1978年宮城県沖地震のような低角逆断層型のプレート間大地震となる。 このような考えが正しいとすると,津波地震は常に同じ場所で起こるこ とになる。つまり,明治三陸地震の発生域で将来M7クラスの地震が起き た場合,津波地震となる可能性は非常に高い。 【丙C75・24頁,丙C101】( は常に同じ場所で起こるこ とになる。つまり,明治三陸地震の発生域で将来M7クラスの地震が起き た場合,津波地震となる可能性は非常に高い。 【丙C75・24頁,丙C101】(エ) 貞観地震について私は,いわゆる貞観津波に関する佐竹論文において,貞観地震の規模やメカニズムを推定するため,日本海溝沿いにおける様々なタイプの断層モ デルからの仙台平野及び石巻平野における津波浸水シミュレーションを実施し,既に調査されていた津波堆積物の分布と比較した。その結果,石巻・仙台平野での津波堆積物分布を説明するには,断層モデルの種類をプレート間地震と想定し,断層幅100㎞,断層長さ200㎞,すべり量7m以上の場合が良いとの結論が導き出された。もっとも,断層の南北方向 の広がりを調べるためには,仙台湾より北の岩手県あるいは南の福島県や茨城県での調査が必要であるとした。 貞観津波に関する佐竹論文発表後に本件津波が発生したが,同津波の断層モデルは,幅約200㎞,長さ約500㎞,平均すべり量約10m(最大すべりは50m以上)と推定されるところであり,貞観地震と本件地震 及びこれらによる津波は,その規模において決定的に異なる。【丙C71・29頁】(オ) 津波評価技術について津波評価技術は,原子力発電所の設計基準としてどの程度の津波を設定すべきかという観点から,原子力施設における津波対策に資する目的で策 定されたものであり,特定の地点における津波高(設計津波水位)を推定するためのものである。そのため,数値計算において,津波に適用される基礎方程式として,浅水理論(非線形長波方程式〈一般に水深が浅い領域で用いられる解析手法〉)を適用し,空間格子間隔の設定についても,最小25m程度まで小さくすることを要求してい ,津波に適用される基礎方程式として,浅水理論(非線形長波方程式〈一般に水深が浅い領域で用いられる解析手法〉)を適用し,空間格子間隔の設定についても,最小25m程度まで小さくすることを要求している。このような分析は,防 災対策検討のために広範囲にわたる沿岸地域での津波高の傾向を概略的 に把握することを目的とする4省庁報告書に比して,より精緻な分析というべきである。【丙C71・17頁】。 もっとも,津波評価技術において,想定津波の波源を設定するに当たり,個別の地震をいかに評価するかとか,個別の領域での地震発生可能性をどのように評価するかなどという点については,少なくとも津波評価技術本 編においては言及されておらず,土木学会津波評価部会でも,その点についての議論はしていない。【丙C76の1・13~14頁,23頁】⑵ 松澤暢【丙C118】ア経歴等 松澤暢は,東北大学大学院理学研究科教授の地位にあり,本件地震当時,地震本部地震調査委員会委員として長期評価部会(活断層分科会)に出席して議論に参画していた地震学者である。 イ意見の内容(ア) 福島県沖での地震・津波発生可能性について 本件地震前に,福島県沖でM(マグニチュード)9クラスの超巨大地震及びこれに伴う津波が発生することを想定していた地震・津波の専門家は,私も含めて皆無であった。地震・津波の専門家の間では,比較沈み込み学や,アスペリティモデルを根拠として,平成10年頃までは,福島県沖の最大地震はせいぜいM7.5程度と考えられており,貞観地震のことが 徐々に明らかになってきていた本件事故直前の時点でも,最大でM8クラス程度と考えていた。 本件津波以前の地震学会では,比較沈み込み学の研究によって,海のプレートの年齢が若いほ 地震のことが 徐々に明らかになってきていた本件事故直前の時点でも,最大でM8クラス程度と考えていた。 本件津波以前の地震学会では,比較沈み込み学の研究によって,海のプレートの年齢が若いほど,高温で軽いため浮力が強く,陸のプレートと衝突すると,陸のプレートよりは重いので沈み込むものの,浮力も強いため, 両者の境界面はしっかりと固着し,巨大地震が起こりやすいのに対し,海 のプレートの年齢が古いほど,海水により冷却されて重くなるため,陸のプレートと衝突すると簡単に沈み込み,両者の境界面もそれほどしっかりと固着せず,巨大地震が起こりにくいという考え方が通説的見解となっていた。また,沈み込み帯には,海のプレートが沈み込む際に海溝に堆積物が積み重なっていく「付加型」と呼ばれるタイプと,堆積物が海溝にたま らない「造溝性浸食型」と呼ばれるタイプがあるが,本件津波以前は,M9クラスの超巨大地震は,付加型の沈み込み帯でしか発生が確認されていなかった。したがって,私も含め,大多数の専門家は,若いプレートの沈み込む場所でしかM9の地震は起きず,プレートが比較的古く,かつ典型的な造溝性浸食型である日本海溝に沿っては,M9クラスの超巨大地震は 発生しないと考えていた。 また,プレート境界における2つのプレートの接触面には固着が強いところと弱いところがあり,地震は基本的に固着の強いところにおいて,陸のプレートが海のプレートと一緒に引きずり込まれて歪み(「滑り遅れ」又は「滑り欠損」)が蓄積され,地震が発生した場合には滑り欠損を生じ ている固着の強い部分が大きく動くというアスペリティモデルに従えば,大地震は,同じ場所でほぼ一定の間隔を置いて概ね同規模で発生するというとされていたところ,このような見解に,比較的小規模の ている固着の強い部分が大きく動くというアスペリティモデルに従えば,大地震は,同じ場所でほぼ一定の間隔を置いて概ね同規模で発生するというとされていたところ,このような見解に,比較的小規模の地震の発生頻度を併せ考慮すると,東北太平洋沖では,普段からゆっくりとした滑りとそれに伴う活発な地震活動により滑り欠損を解消していて,超巨大地震を 起こすほどの滑り欠損は蓄積されていないと考えられていた。また,仮に東北太平洋沖で巨大地震が発生するとしても,せいぜいM8クラスの地震までで,しかも,それが起きるのは,M7.5以上の地震を起こすアスペリティが存在する三陸沖から宮城県沖にかけての領域が中心であり,福島県沖で起こる可能性は低いと考えられていた。 (イ) 長期評価について 私は,長期評価を策定した海溝型分科会の議論に直接関わったものではないが,本来,長期評価は,いわゆる予測や予知を主目的とするものではなく,過去に起きた長期的な地震活動を評価し,それによって,将来の長期的活動も評価できるというものであった。しかし,いざ地震本部の検討結果が公表されると,国民が知りたい情報は,自分に関わりのある場所で, いつ,どれぐらいの規模の地震が,どれぐらいの確率で生じるのかに尽きていて,そこに結びつけられない科学的情報を提供しても意味がないという批判がされるようになった。こうした批判に応えるために,全国の任意の地点の地震動予測が必要となり,そのためには日本のどこかに被害をもたらす地震については,全て何らかの評価をしなければならなくなった。 過去に起こった記録の無い地震も含めて全て評価することは本来できるはずもなく,地震本部地震調査委員会の評価は,科学的な合理性はかろうじて保ちつつも,信頼度の面では後退した評価も出 くなった。 過去に起こった記録の無い地震も含めて全て評価することは本来できるはずもなく,地震本部地震調査委員会の評価は,科学的な合理性はかろうじて保ちつつも,信頼度の面では後退した評価も出さざるを得なかった。 長期評価で問題とされた津波地震の発生メカニズムは,長期評価策定当時も現在も,はっきりしたことは分かっておらず,長期評価策定当時,専 門家の間で共通認識になっていたのは,津波地震が海溝軸付近の浅いところで起きるということと,極めてまれにしか発生しないということであった。波源に関するモデルを設定して,それにより津波を計算機中に再現することは可能であったが,海溝軸付近ではプレート境界は水平に近いので,何十mもの大きなすべり量を与えなければ大きな津波にならず,それは非 現実的であると考えて,津波地震を説明する特殊なモデル(仮説)が種々考え出されていた。本件地震及び本件津波の発生をもって初めて,プレート境界が50m以上もすべることがあるということが実証された。 津波地震の発生領域について,私は,三陸沖と福島沖は,海底地形が大きく異なっていることなどから,津波地震の発生状況は,概ね宮城県沖を 境に南北で異なるだろうと考えていたが,長期評価では,日本海溝沿いを 一つの領域にまとめた上で,この領域で400年に3回津波地震が発生しているとした。日本海溝沿いでは,三陸沖で1611年慶長三陸地震及び1896年明治三陸地震,房総沖で1677年延宝房総沖地震と,それぞれ津波地震と考えられる大地震が発生しているが,宮城県沖から福島県沖の領域で津波地震が起きた証拠はなく,またその規模を予測する具体的材 料もない状況であった。結局,津波地震が起きないという確たる科学的根拠もない以上,起きないと結論づけることは科学的 ら福島県沖の領域で津波地震が起きた証拠はなく,またその規模を予測する具体的材 料もない状況であった。結局,津波地震が起きないという確たる科学的根拠もない以上,起きないと結論づけることは科学的ではなく,長期評価においては,海溝軸近くのプレートが沈み込み始めた領域という,構造の同一性に着目して一つの領域を設定しているのであるから,全く科学的根拠がないとはいえない。しかし,他方,起きないと言い切れないから起きる 可能性があるという論理も,これまた科学的とは言い難く,長期評価の見解は,全く科学的根拠がなくはないとはいえ,それほど強い根拠でもなく,私自身は,本来は「不明」と結論づけるべきだったと思う。長期評価が上記見解を示した理由は,長期評価の対象外となるような空白の領域を作るよりも,防災上の観点から,信頼度は低くても,何らかの評価を行った方 が良いと考えたものであり,実際,長期評価は,発生領域と発生確率について信頼度を限定しつつ評価結果を公表したものであるから,私は,このような公表自体はやむを得ず,むじろ,防災上の観点からも,科学的な合理性からも最適と考えていた。 ⑶ 谷岡勇市郎 【丙C134】ア経歴等谷岡勇市郎は,北海道大学大学院理学研究院附属地震火山研究観測センター長・教授の地位にある地震学者であり,平成18年当時,中央防災会議の日本海溝・千島海溝専門調査会北海道ワーキンググループで,北海道周辺及 び日本海溝周辺で発生する海溝型地震について防災対策の検討対象とすべ き地震の判定に必要な事項を整理するなどの議論に参画していたものである。 イ意見の内容私は,佐竹健治教授とともに,明治三陸地震に関する論文を発表した。その内容は,前記⑴イ(ウ)のとおりであり,明治三陸地震のような津 を整理するなどの議論に参画していたものである。 イ意見の内容私は,佐竹健治教授とともに,明治三陸地震に関する論文を発表した。その内容は,前記⑴イ(ウ)のとおりであり,明治三陸地震のような津波地震は, 非常にまれな条件が整った場合にのみ発生すると考えられると結論づけたものであった。本件地震に至るまで,多くの地震学者が津波地震を研究し,様々な仮説を提唱してきたが,総じて,明治三陸地震のような津波地震は,限られた領域や特殊な条件が揃った場合にのみ発生し得るというものが大勢を占めていた。それだけ明治三陸地震が他のプレート間地震とは違った異 質なものであったため,そのメカニズムを解明するための材料が少なく一般化が難しいものと理解されていた。 私は,中央防災会議の日本海溝・千島海溝専門調査会北海道ワーキンググループに委員として加わっていた。同ワーキンググループにおいても,私は,明治三陸地震のような津波地震は,限られた領域や特殊な条件が揃った場合 のみ発生するという方向性を説明し,それに異論は出されなかった。その結果,明治三陸地震については,三陸沖北部から三陸沖中部の海溝軸付近のプレート間地震としてのみ考慮され,明治三陸地震のような津波地震を福島県沖や茨城県沖などでも発生する可能性があるものとして取り扱うべきとはされなかった。 長期評価においては,明治三陸地震と同様の地震が,三陸沖北部から房総沖の海溝寄りの領域内のどこでも発生する可能性があるという見解が示されているが,地震学の分野では,津波地震のメカニズムを含め,多くの事項が未解明であるので,明治三陸地震のような津波地震についても,この地域で地震は起きないと断言することはできないし,可能性が否定できない以上, 地震本部地震調査委員会の立場では,ひとまず防 事項が未解明であるので,明治三陸地震のような津波地震についても,この地域で地震は起きないと断言することはできないし,可能性が否定できない以上, 地震本部地震調査委員会の立場では,ひとまず防災行政的な警告をするため にも,明治三陸地震と同様の地震が,三陸沖北部から房総沖の海溝寄りの領域内のどこでも発生する可能性があるという見解を出す意義はあると思う。 もっとも,中央防災会議などで実際にこの見解に依拠した防災対策をさせるべきかといえば,十分な理学的根拠があるのかを検証した上で判断する必要があると思われ,実際の防災対策をしていく上で,明治三陸地震と同じよ うな津波地震が福島県沖で発生すると考えることには少し無理があるのではないかと考える。 ⑷ 笠原稔【丙C135】ア経歴等 笠原稔は,平成18年頃,北海道大学大学院理学研究科付属地震火山研究観測センター長・教授の地位にあり,中央防災会議の日本海溝・千島海溝専門調査会北海道ワーキンググループの座長を務めていた地震学者である。その専門は地殻変動である。 イ意見の内容 そもそも理学的知見というものは,多くの資料が得られて精度の高いものから,資料が少なく精度の低いものまであり,地震本部が行うのは,あくまでも学術的観点のみからの理学的知見の提供であり,実際に防災に関する意思決定を行うのは中央防災会議の役割であったところ,長期評価は,理学的に否定できないレベルか,それ以上の知見であったが,中央防災会議におい ては,ハード面に関する防災対策の対象となる津波としては,記録がしっかりと残っていて,具体的なモデルが確定できる地震・津波にターゲットを絞ることとなったので,明治三陸地震のような津波地震が日本海溝沿いの領域のどこでも起こり得るとする長期評 津波としては,記録がしっかりと残っていて,具体的なモデルが確定できる地震・津波にターゲットを絞ることとなったので,明治三陸地震のような津波地震が日本海溝沿いの領域のどこでも起こり得るとする長期評価の見解は採用されなかった。もっとも,長期評価の見解が,理学的に否定できないことは事実であり,貞観地震や延 宝房総沖地震など,記録の全容が明らかになっていなかったり,繰り返し性 が確認できないものでも,「とにかく逃げる」というソフト面の対応だけでも可能となるような方向性での警鐘を鳴らすことができるような取り込み方をしていった方が良いと思っていたため,中央防災会議における貞観地震や延宝房総沖地震の取扱いについては,正直,今でも個人的に不満を感じているところはある。なお,明治三陸地震のような津波地震については,北海 道ワーキンググループにおいて,理学的知見としての精度や可能性の肯定に関し,理学的観点に基づいた議論が行われていた。 ⑸ 津村建四朗【丙C117】ア経歴 津村建四朗は,平成14年当時,地震本部地震調査委員会委員長を務めていた研究者であり,専門は,潮位を用いた地殻変動の研究,微小地震の研究を中心とした地震観測に基づく地震予知の研究等である。 イ意見の内容地震は,同じ場所で同じような規模で繰り返すという性質を有すると考え られているため,過去の地震のデータや歴史資料が重要で,これが多ければ多いほど,精度の高い知見が得られ,少なければ精度の高い知見が得られないという関係にある。南海トラフなどの領域では,過去に繰り返し発生した地震データが豊富にあり,歴史資料も多く残っていたが,三陸沖から房総沖にかけては,過去の地震データも,歴史資料も乏しかった。このような重大 な問題点があったにもか では,過去に繰り返し発生した地震データが豊富にあり,歴史資料も多く残っていたが,三陸沖から房総沖にかけては,過去の地震データも,歴史資料も乏しかった。このような重大 な問題点があったにもかかわらず,過去に津波地震の発生が確認されていない福島県沖や茨城県沖も含めた日本海溝沿いの領域が単に陸側のプレートに太平洋プレートが沈み込んでいる点で構造が同じであるという極めておおざっぱな根拠で,三陸沖から房総沖までの広大な日本海溝沿いの領域を一括りにして,津波地震が発生する可能性があると評価した長期評価は,地震 学の基本的な考え方からすると異質であり,かなりの問題があるものであっ た。私は,長期評価部会海溝型分科会の考え方は,「そういう考え方はできなくもない」程度の評価であると受け止め,疑問を感じる点もあったが,発生可能性を否定するだけの根拠もなかったので,地震調査委員会としても公表を了解した。 ⑹ 今村文彦 【丙C127】ア経歴等今村文彦は,東北大学災害科学国際研究所教授の地位にあり,本件地震当時は,同大学大学院工学研究科附属災害制御研究センター長として研究活動を行う工学者である。その専門は津波工学であり,具体的には,津波防災・ 減災技術開発及び津波数値解析である。 イ意見の内容(ア) 津波工学の視点について一般に,工学とは,理学等の知見を用いて社会的に有用な物や環境を構築することを目的とする学問である。特に,津波工学は,津波に関する理 学的知見を社会における物づくりや環境づくりに役立てるとともに,津波災害の減災・防災対策を行うことを目的とする学問のことをいう。私の所属する津波工学研究室は,工学的な立場から津波を研究する世界唯一の研究組織である。 原子炉施設における津波対策を るとともに,津波災害の減災・防災対策を行うことを目的とする学問のことをいう。私の所属する津波工学研究室は,工学的な立場から津波を研究する世界唯一の研究組織である。 原子炉施設における津波対策を工学的に検討する場合,最も重要な検討 課題は,その施設の供用期間(ライフスパン)中に一定の確率以上で発生する可能性のある津波を示し,それに対するハード面/ソフト面の対策を提示することである。ハード面の対策の代表例として防潮堤の設置や建屋の水密化,ソフト面の対策の代表例として防災対策の立案や非常時の対応訓練などが挙げられる。 一般には,ある確率以上で発生する可能性のある津波に対しては主に施 設を設計施工して防御するハード面の対策で,それ以下であれば情報などを活用して被害を軽減するソフト面で対処することになる。 そこで,以下では,ハード面の対策に着目して意見を述べる。 想像力を働かせれば津波の発生位置や規模,被害状況は無限に想定することができるが,原子炉施設を建設する際,それら全てに対抗できる構造 安全性をもたせることは物理的にはほとんど不可能である。そのため,原子炉施設で津波対策を講じるべき津波を選定することが必要となるが,津波の選定や想定といっても,理学的根拠の有無程度は様々である。あえて分類すれば,「既往最大」の考え方を採るか,「可能最大」の考え方を採るかであり,後者は,更に「理学的根拠から発生がうかがわれるという科学 的なコンセンサスが得られている津波」と,「発生がうかがわれるとの科学的なコンセンサスは得られておらず,単に理学的根拠をもって発生の可能性を否定することができないだけの津波」とに分けることができる。 本件事故当時は,一般防災/原子力防災を問わず,既往最大を基本として津波対策を講じるとい れておらず,単に理学的根拠をもって発生の可能性を否定することができないだけの津波」とに分けることができる。 本件事故当時は,一般防災/原子力防災を問わず,既往最大を基本として津波対策を講じるというのが,防災に携わる専門家のコンセンサスであ った。もっとも,「可能最大津波」のうち,「理学的根拠から発生がうかがわれるという科学的なコンセンサスが得られている津波」については,個別具体的な考慮が必要であり,具体的な根拠をもって波源の位置が特定され,波源モデルが提案されているような場合には既往津波と同様にハード面での対応を講じることになるが,そうでない場合については,発生を否 定する理学的根拠がないだけの津波と同様に,主にソフト面の対策(危機管理上)で対処することになる。 工学では,ある構造物にハード面の対策を講じることの要否を判断する際,その対策により得られるベネフィットとコストの双方を構造物全体で総合的に考える。その結果,対策を講じることが合理的であるか否かによ って,その対策の要否を判断する。自動車を例にすると,衝突時の乗員の 安全を重視し,車体を頑丈にしようとした場合,他方で重量化により走行性や燃費などの面でマイナスの要素が生じてくる。実際の設計や製造過程では,それらの一方にだけ偏るのではなく全てが総合的に考慮されて,一定の安全性能をもった自動車が完成し,流通することになる。 このように,津波工学を含む工学一般では,ベネフィットとコストの両 面が総合的に考慮されて,構造物の安全対策が講じられることになる。原子力施設,特に既設炉に対してハード対策を要求することは,莫大な支出を民間企業である事業者に強いることになるから,なおのこと慎重な検討が必要である。そのため,津波工学の観点から,少なくとも「発生が 子力施設,特に既設炉に対してハード対策を要求することは,莫大な支出を民間企業である事業者に強いることになるから,なおのこと慎重な検討が必要である。そのため,津波工学の観点から,少なくとも「発生がうかがわれるとの科学的なコンセンサスは得られておらず,単に理学的根拠を もって発生の可能性を否定することができないだけの津波」を対象としてハード面での対策を講じるべきであるという要求は導かれない。 (イ) 長期評価について太平洋沿岸では,三陸沖や房総沖では大規模なプレート間大地震の発生がみられたものの,福島沖・茨城沖では,1938年の群発地震以外には プレート間大地震はみられなかった。このように,三陸沖・房総沖と福島沖・茨城沖は実際に津波が発生したという事実又はその周辺では津波が起きなかった事実について顕著な違いがあり,その理由は,前者においては太平洋プレートと陸側のプレートの固着が強い一方,後者は固着が弱いからであると考えられていた。このような見解はGPS探査によっても裏付 けられていた。このような固着の強弱は,津波地震にも同様に当てはまり,プレート間の固着が弱い場合には,津波地震の前提となる地震自体が起きにくいと考えられていた。平成8年の谷岡・佐竹論文の知見により,海溝沿いに溜まった柔らかい堆積物が地震の揺れにより水中で大きく動き(変位),そこでは地震の揺れは緩やかで強いものではないが,海底での変位 が大きく上昇又は下降することによって津波が生じることから,地震の強 さに比して津波が異常な高さを示すという仮説が提唱されたが,海洋研究開発機構が行った音波探査の結果,日本海溝沿いの三陸沖の堆積物は厚みがあるものの陸側の沖までは堆積せず,日本海溝沿いの福島沖や茨城沖の堆積物は厚みがあまりないものの陸側 仮説が提唱されたが,海洋研究開発機構が行った音波探査の結果,日本海溝沿いの三陸沖の堆積物は厚みがあるものの陸側の沖までは堆積せず,日本海溝沿いの福島沖や茨城沖の堆積物は厚みがあまりないものの陸側の奥まで堆積していることが判明するなど,上記仮説を裏付ける理学的知見が示されていた。このようなこ とから,同じ日本海溝沿いであっても,三陸沖はプレート間の固着が強いため,大きな地震自体が起きやすく,平成8年谷岡・佐竹論文によれば津波地震の発生に影響を及ぼすとされる海溝沿いの堆積物の量が多い一方,福島沖・茨城沖はプレート間の固着が弱いため,大きな地震自体が起きにくく,平成8年谷岡・佐竹論文によれば津波地震の発生に影響を及ぼすと される海溝沿いの堆積物の量も少ないという,理学的な根拠に基づく違いがあった。 そのような状況下で,長期評価は,日本海溝付近のどこでも津波地震が起きる可能性があるということについて,従来なかった新たな理学的知見を提示するものではなく,メカニズム的に否定できないという以上の理学 的根拠を示していなかったし,津波地震が起きるとしても,その規模としてなぜ明治三陸地震と同程度のものが起こり得るのかということについては何らの具体的根拠も示していなかった。これらのことから,私は,津波工学者として,歴史的・理学的知見が十分に定まっておらず,逆に三陸沖と福島沖・茨城沖との違いを示唆する理学的知見が存在した津波地震に ついて,既往津波地震について考慮する以外に,それを超えて日本海溝沿いのどの地域でも発生すると取り扱うべきとはとても考えられなかったし,多くの専門家も同様に考えていた。 (ウ) 結果回避措置についてa 想定すべき津波の規模について 仮に,明治三陸地震により発生した津波と同規模の津波を想定し はとても考えられなかったし,多くの専門家も同様に考えていた。 (ウ) 結果回避措置についてa 想定すべき津波の規模について 仮に,明治三陸地震により発生した津波と同規模の津波を想定したと しても,その規模は,本件津波とは大きく異なる。断層破壊によって持ち上げられた海水量で比較すると,後者は前者の約10倍である。また,本件津波では,比較的ゆったりとした長周期の波と,勢いのある短周期の波が重畳し,短周期の波において支配的な動圧の作用により全体として巨大な波力が生み出されたと考えられているところ,このような現象 が観測されたのは世界史上初めてのことである。 そうすると,明治三陸地震級の巨大津波を想定し,その対策として防潮堤等を設置したとしても,ターゲットとして大きく規模の異なる本件津波に耐えることのできる構造安全性を確保することができたか,そもそも疑問がある。 b 防潮堤について我が国では,1960年のチリ地震津波被災以降,全国で盛んに防潮堤が建設されたが,その設計方法は,津波の静的な荷重(静水圧)が中心であり,動的な波力(動水圧)の特性を十分反映したものではなかった。そのため,津波の来襲時には,津波段波特有の動的な力により防波 堤や防潮堤が破壊され,その残骸など様々な物体が越流した津波の漂流物となって他の構造物に衝突するなど,大惨事になることが起こり得ると考えられるところ,動水圧については,いまだに適切な評価式が確立しているとはいえない。本件事故後の研究の進展はめざましいが,本件事故前に提案されていた評価式で評価した波力に基づいて構造物を設 計施工した場合に,その構造物が本件津波の荷重に耐えられたはずだと断言するのは困難である。 c 水密扉等による水密化について水密化の前提 れていた評価式で評価した波力に基づいて構造物を設 計施工した場合に,その構造物が本件津波の荷重に耐えられたはずだと断言するのは困難である。 c 水密扉等による水密化について水密化の前提となる構造設計を行うためには,どの範囲の構造物や設備に,どの程度の耐津波性をもたせるのかを決定しなければならない。 例えば,津波の遡上解析をして津波の敷地内での挙動を推定した結果, ルーバー等の開口部の最下端と,想定される浸水深の高さを比較し,前者の方が高いというのであれば,工学的には,そもそもその開口部を防潮板で水密化する必要がないことになる。また,その際に,時系列的に変化する浸水により波圧(最大)や継続時間を推定しておく必要があるし,そもそも津波が遡上してこないと推定された場所の建屋は水密扉で 水密化をはかる必要がない。 また,水密扉等の設備の構造設計をするには,想定する津波の波力評価をしなければならないところ,前記b同様,津波波圧の評価式については,コンセンサスの得られたものはいまだ存在しない。特に,陸上構造物の影響を考慮した条件下での評価式は,本件津波後にその知見を踏 まえて提案されるに至ったものである。仮に,明治三陸地震級の津波を想定して水密化の措置を採ったとしても,それと規模を大きく異にする本件津波に対しては,その波圧に耐えられなかった可能性を否定できない。 さらに,水密扉等で建屋の開口部の水密化をするとしても,津波によ り発生する漂流物が建屋の外壁や水密扉等に衝突して破損・変形させる可能性があるため,構造設計段階で漂流物の挙動や衝突力を適切に推定しなければならないが,本件津波当時の知見では,これを適切に推定することは困難であった。 d 非常用電源等の高所設置 原子炉の冷却に必要 め,構造設計段階で漂流物の挙動や衝突力を適切に推定しなければならないが,本件津波当時の知見では,これを適切に推定することは困難であった。 d 非常用電源等の高所設置 原子炉の冷却に必要となる非常用電源系等などを高所に移設又は増設する措置については,本件事故以前の時点においては,原子力防災関係者のコンセンサスにはなっていなかった。 ⑺ 首藤伸夫【丙C129】 ア経歴等 首藤伸夫は,東北大学名誉教授の地位にあり,本件津波当時,中央防災会議専門委員を務めていたほか,津波常襲地域総合防災設備計画調査委員会委員,津波災害予測マニュアルに関する調査委員会委員長,土木学会原子力土木委員会津波評価部会主査等を歴任してきたものである。 イ意見の内容 (ア) 津波対策の歴史我が国の津波対策は,1960年チリ地震津波までは高地移転が主であったが,同津波以降は,構造物(防潮堤)が主体となった津波対策に変化した。これは,我が国の経済が拡大し,構造物の構築に係る経済的基盤が形成されたことによる。そして,昭和43年(1968年)十勝沖地震津 波に対し,完成したばかりの堤防が完全に遡上を食い止めるなど,大きな効果を上げることとなった。 しかし,平成5年(1993年)に発生した北海道南西沖地震では,構造物による津波対策をしていたにもかかわらず大きな被害が発生することとなった。そこで,これを契機に,我が国では,構造物(ハード面)の みならず防災教育や避難訓練などのソフト面を組み入れた総合防災対策が考えられるようになっていった。 (イ) 津波工学の考え方及び7省庁手引き策定に至る経緯津波工学は,津波発生のメカニズムの解明や津波シミュレーションによる数値解析,構造物が津波の挙動に与える影響の解析など ようになっていった。 (イ) 津波工学の考え方及び7省庁手引き策定に至る経緯津波工学は,津波発生のメカニズムの解明や津波シミュレーションによる数値解析,構造物が津波の挙動に与える影響の解析などを前提にした, 工学的な設計に基づくハード面での津波対策から,防災教育や避難計画の策定などのソフト面での津波対策まで幅広い分野の研究を進めており,これらを統合することで津波防災・減災に役立てることを目的とする学術分野である。 私は,チリ地震津波以降,津波工学の分野の研究を続けてきたが,同津 波以降は,構造物による津波対策が奏功していたため,社会の中では,「津 波は構造物で十分に防げる。」という考え方が浸透していた。そのため,津波対策は構造物によるハード対策で十分であり,沿岸の街を津波に対して強くするまち作りや,ソフト面の対策も取り入れるという総合的な対処方法はなかなか理解が得られなかった。 しかし,我々人類が津波研究を始めてからの期間は,地球の歴史から比 べればほんのわずかにすぎない。医者が患者を10秒診察するだけで,その患者の病気を真に理解することが困難であるように,科学者の研究期間だけで地球上で起こり得ることを全て把握し真に理解することは困難である。科学者は,このような不確かさを抱えつつ,工学という分野で物造りの基準となるような指針を示したりするわけであるから,どのような基 準を示そうとも,「これで100%安全である。」とはいえないということを肝に銘じなければならない。私が,「津波は倍半分の可能性がある」という言葉をよく使うのは,津波の不確かさは極めて大きく,ときには倍にもなるということを示している。 また,チリ地震津波の被害調査で現地の高齢女性から聴取した内容を契 機に明治三陸地震 いう言葉をよく使うのは,津波の不確かさは極めて大きく,ときには倍にもなるということを示している。 また,チリ地震津波の被害調査で現地の高齢女性から聴取した内容を契 機に明治三陸地震や昭和三陸地震の研究を進めたところ,高いところでは30m以上の遡上を確認できるような場所もあったため,私は,構造物のみでの津波対策には限界があると考えていた。 そこで,私は,「津波は構造物で十分に防げる。」という考えは人間のおごりであるという考え方の下,津波工学の分野において,構造物によるハ ード面での津波対策だけでなく,それを上回ってしまった場合に備え避難計画などソフト面での津波対策を統合した対策の研究を続けてきた。 その後,地震で決まる断層パラメータに基づいて,海底面の鉛直変位すなわち津波初期波形を求める理論が形成されたこと,コンピュータの進歩により津波数値解析が精度的にも量的にも進歩し,広い範囲にわたって, 沿岸や陸上への津波を知ることができるようになったことなどといった, 津波研究における重要な変化が生じた。また昭和50年代に入ると,東海地震の危険性が大きく叫ばれるようになった。 そこで,建設省河川局と水産庁とが合同で「津波常襲地域総合防災対策指針(案)」を策定することになり,私もその策定に関与した。そして,同指針においては,構造物によるハード面の津波対策だけでなく,それを 上回ってしまった場合に備え,避難計画などソフト面の津波対策を統合した対策をする考えが取り入れられた。 その後,北海道南西沖地震津波によって,構造物のみによる津波対策の限界が社会にも一定程度認識されることになったことから,建設省,農林水産省,水産庁,運輸省の4省庁が「太平洋沿岸部地震津波防災計画手法 調査委員会」を設置し, って,構造物のみによる津波対策の限界が社会にも一定程度認識されることになったことから,建設省,農林水産省,水産庁,運輸省の4省庁が「太平洋沿岸部地震津波防災計画手法 調査委員会」を設置し,私もこれに委員として加わった。そして,いわゆる7省庁手引きが策定されるに至った。 先の「津波常襲地域総合防災対策指針(案)」では,三陸地方においては既に明治三陸地震津波の経験があることから,「対象津波は,対象地域における明治以降の既往最大津波とする。」として,既往最大津波のみを 念頭に津波対策を求めるものであったが,7省庁手引きにおいては,「近年の地震観測結果等により津波を伴う地震の発生の可能性が指摘されているような沿岸地域については,別途想定し得る最大規模の地震津波をも検討し,」両者の大きい方を対象とし,その上でハード面とソフト面を統合した津波防災を考えるというものになった。 もっとも,7省庁手引きは,予想される最大地震による津波という概念を取り入れたものの,具体的な評価手法までを定めたものではなかった。 (ウ) 津波評価技術について私は,土木学会原子力土木委員会津波評価部会主査として,津波評価技術の策定に向けた取組に関与した。津波評価技術は,7省庁手引きの考え 方を踏襲し,既往最大津波のみならず地震学的知見に基づき最大規模の地 震から発生し得る津波のうち大きい方を対象とすることとしており,これに加え,津波の不確実性に対する安全裕度を担保するためにパラメータスタディという計算を取り入れることとしたものである。 工学の分野では,様々なものを設計するに当たり,いわゆる安全率と呼ばれる考え方があり,原子力発電所の対津波設計をするに際しても,津波 評価技術によって算出された設計想定津波に対し,いくらか 。 工学の分野では,様々なものを設計するに当たり,いわゆる安全率と呼ばれる考え方があり,原子力発電所の対津波設計をするに際しても,津波 評価技術によって算出された設計想定津波に対し,いくらかの補正係数(安全率)をかけるべきかという問題がある。最終的に,津波評価部会では,安全率を1.0とする形でコンセンサスが得られた。このような結論に至ったのは,津波の場合,あまりにも例が数少なく,事例のばらつきに基づいて安全率を決めることはほとんど不可能であるところ,その不確定 性については,パラメータスタディがある程度補ってくれるだろうと考えられたからである。しかし,津波の不確実性は,パラメータスタディのみで完全にカバーできるものではない。そこで,私は,ひとまず設計想定津波に対する補正係数を1.0とすることに同意したが,さらに別のアプローチで説得力のある津波対策の研究をしていくべきであると考えていた。 しかし,重要施設そのものをソフト面で津波から守ることはできないし,水密性の維持に関しては,潜水深度や潜水速度の調整により静水圧下での水密性を保つことができる原子力潜水艦と異なり,津波の挙動をコントロールできない津波対策においては,動水圧による影響等を考慮する設計手法が不可欠であるところ,これも確立してはいなかった。そこで,津波評 価部会においては,津波評価技術策定後,想定津波を超える津波の危険性を示す手法として,確率論的アプローチによる津波ハザードリスクの計算手法の確立を目指すこととなった。 (エ) 長期評価について地震本部は研究調査の方向を示すもので,災害対策の方針を決めるもの ではない。防災対策の実施方針を決めるのは中央防災会議であるところ, 平成18年の中央防災会議報告で対象とするよう求められた三 究調査の方向を示すもので,災害対策の方針を決めるもの ではない。防災対策の実施方針を決めるのは中央防災会議であるところ, 平成18年の中央防災会議報告で対象とするよう求められた三陸沖の地震は,三陸沖北部の地震,明治三陸タイプ地震,宮城県沖の地震の三つであり,福島県沖に関しては,M7クラスの地震が発生しているが,これらの地震の繰り返し発生は確認されていないと記載されているのみである。 したがって,私は,福島県沖で津波を伴う地震が発生するという見解は, 専門家の間でもコンセンサスが得られていなかったものであって,確定論に取り入れて直ちに対策をとらせるような説得力のある見解とは考えていなかった。 (オ) まとめ事業者はステークホルダーである株主を納得させなければならないし, 規制をする行政も国民や事業者を納得させるだけの根拠が必要になる。そのためには,専門家が肌感覚だけで言っても意味はなく,科学的な根拠をもった説得材料を提示しなければならない。本件事故前の時点においては,そのような科学的な根拠をもった説得材料を提示することは困難であった。 第5 津波対策の在り方に関する原子力工学者・技術者の意見仮に敷地高を超える津波の到来を想定した場合,採り得る措置に関して複数の工学者・技術者が意見を述べている。 1 岡本孝司【丙B41,丙B42】 ⑴ 経歴等岡本孝司は,東京大学大学院工学系研究科教授として研究活動を行う原子力工学者であり,平成17年から平成24年まで,原子力安全委員会原子炉安全専門審査会審査委員,専門委員を務めたものである。 ⑵ 意見の内容 ア原子力工学の視点 原子力は,電力など現代社会に必要不可欠な便益を生み出す一方,潜在的には事故のリスクを抱え 査会審査委員,専門委員を務めたものである。 ⑵ 意見の内容 ア原子力工学の視点 原子力は,電力など現代社会に必要不可欠な便益を生み出す一方,潜在的には事故のリスクを抱えるものであり,原子力工学は,そのような原子力の有用性とリスクを調和させるために適切なリスク評価を行い,原子力設備等の設計・運用方法を探求していく学問分野である。原子力に限らず,工学の分野では,人間が物を作って運用する以上,そのリスクがゼロになることは あり得ず,常に壊れる可能性や事故が起こる可能性があり,100%の絶対的な安全性はあり得ない。工学は,不確かさを許容した上で,いかに安全性を確保していくかということを考える学術分野であり,この不確かさを可能な限りコントロールしていくことで安全性を高めていくこととなる。原子力工学を含む工学の分野では,このような形で事故が起きるリスクを合理的な 範囲まで小さくする方向での研究が進められてきたものである。 原子力工学において安全対策を考える場合には,1つの事項に集中した安全対策を施した場合,施設全体として安全性能が低下する可能性もあり,また,人的資源の問題や時間的な問題として,緊急性の低いリスクに対する対策に注力した結果,緊急性の高いリスクに対する対策が後手に回るといった 危険性もあるので,原子力工学において安全対策を考える場合には,総合的な安全対策を考えつつ,かつ,優先順位が高いと考えられるものから行わなければならない。 このような安全対策についての考え方に基づき,津波対策を考えた場合,「設計想定の津波」として扱われた津波に対しては,十分な信頼性をもって 安全性を確保することが求められることになるが,試算の精度・確度が高くないのであれば,対策の必要性や緊急性を確認するため,更 設計想定の津波」として扱われた津波に対しては,十分な信頼性をもって 安全性を確保することが求められることになるが,試算の精度・確度が高くないのであれば,対策の必要性や緊急性を確認するため,更に専門家に検討を委託するなどして対応を検討するのが,原子力工学の考え方では合理的である。 とりわけ,津波よりも地震の被害が圧倒的に多い日本では,平成18年か らの耐震バックチェックや,平成19年の新潟県中越沖地震の発生を踏まえ, 地震動に対する安全対策が緊急かつ最優先のものであったので,当時,地震動に対する対策を遅らせてでも,津波の試算に対する対策をするためには相当な精度・確度がある試算である必要があった。さらに,そもそも津波は地震の発生ありきのものであるので,地震動に対する適切な評価や対策がおぼつかない状態で,津波のみの対策をとることもできないというべきである。 イ結果回避措置について本件事故前においては,福島第一原発の敷地高を超えるような津波は「設計想定の津波」ではなかった。したがって,「設計想定の津波」に基づき浸水を防ぐことができる対策(ドライサイトを維持する対策)をとっているのであれば,そのこと自体,一概に合理性を否定されるものではない。 被告東電は,平成20年に,福島第一原発敷地南側で高さ15m強となる津波の試算を行っているが,仮に,同試算に十分な精度・確度が認められているとしても,ドライサイトを維持するために敷地南北にのみ防潮堤を建造すれば足り,敷地東側全面に防潮堤を立てるのは,緊急性の低いリスクに対する対策に注力した結果,緊急性の高いリスクに対する対策が後手に回る危 険性をはらみ,工学的な見地から合理性を有するとはいい難い。 また,重要設備の水密化については,これを設計する前提と に対する対策に注力した結果,緊急性の高いリスクに対する対策が後手に回る危 険性をはらみ,工学的な見地から合理性を有するとはいい難い。 また,重要設備の水密化については,これを設計する前提としての構造設計において,水密扉に作用する水圧の設定が必要となるが,このとき,静的な水圧のみならず,津波が水密扉に衝突したときの動的な水圧や,漂流物が衝突したときの衝撃力についても考慮する必要があるし,地震動によって水 密性が損なわれないような耐震設計も当然に要求されるものである。この点,安全率の設定により裕度を持たせることができるにしても,その設定如何については,試算の精度・確度を高めていくための調査・解析が不可欠なのであり,それなくして,単純に安全率を増加させれば良いという考え方はナンセンスである。 電源設備の高所化については,非常用電源設備と建屋についても十分な耐 震安全性が確保される必要があることから,O.P.+35m盤に非常用電源設備を設置する場合には,設置地盤の安定性が十分であることや,O.P. -4.0mの基盤とO.P.+35m盤の間の地層における地震波の増幅も含めた地震波の応答解析を行った上で,強度設計を行っていく必要がある。 また,これら建屋を設置する盤面についても,岩盤に設置するか,岩盤から 離れている場合には基礎杭を岩盤まで打ち込んだり,人工岩盤を基礎の上に設置する対処が必要であった可能性も考えられる。さらには,高台に設置する非常用電源建屋を免震構造とする場合には,免震構造に関する耐震基準の整備や技術的な妥当性について,十分な審査が必要であると想像される。建屋内の電源盤と接続される建物外からのケーブルは,地震時に破損すること がないように,ケーブルを収納したトレイをO.P.+35m盤から 的な妥当性について,十分な審査が必要であると想像される。建屋内の電源盤と接続される建物外からのケーブルは,地震時に破損すること がないように,ケーブルを収納したトレイをO.P.+35m盤からO.P. +10m盤に続く法面に沿って設置したり,地下にトレンチを施工してその中にケーブルを配置するなどの配慮が考えられるが,その際にも,基準地震動に対しても電源を供給する機能が損なわれないように十分な耐震設計を行うことが求められる。 非常用電源設備や配電盤などをO.P.+35m盤に移設した場合,高台から原子炉建屋等に引かれたケーブルは,各機器へ分岐し,常用電源との切り替え装置も必要となるなど,建屋内の構成は複雑なものになる。プラントから遠い位置に非常用電源が設置されるということは,仮に非常用電源の起動や切替を中央制御室から遠隔操作できるようにしたとしても,制御ケーブ ルの地震による断線や設備の不具合が発生した場合に,人間が高台へ移動するのに時間を要することや,道路の陥没などが発生した場合も想定される。 さらに,原子炉建屋内設備へのケーブル配線が複雑になるということは,不具合発生のリスクも増加することになる。このように,運用面での信頼性は,高所移設の場合,プラント近くに設置されている場合に比較して低下する。 これらの津波対策を実行しようとした場合,従来の国内発電所においてと られていたドライサイトコンセプトを変更するものとなるから,事業者は原子炉設置許可変更許可申請を提出し,見直し後の想定津波による設計水位の適正と,高台に配備される非常用電源・配電盤・代替注水設備などの基本設計の妥当性について十分な安全審査期間が必要であり,その後,設備の製作,使用前検査,設備運用方法等に関する保安措置を追加した変更認可申請等 高台に配備される非常用電源・配電盤・代替注水設備などの基本設計の妥当性について十分な安全審査期間が必要であり,その後,設備の製作,使用前検査,設備運用方法等に関する保安措置を追加した変更認可申請等が 行われることとなり,許認可だけでも2~3年を要すものである。 2 山口彰【丙B43,丙B79】⑴ 経歴等山口彰は,本件事故当時,大阪大学大学院工学研究科環境・エネルギー工学 専攻教授の地位にあった研究者であり,専門は原子炉工学及びリスク評価等である。 ⑵ 意見の内容原子力を含むエネルギーは,我々人間がより良い社会を構築するための源泉であり根幹であるが,そのような光がある一方で,これを扱う我々人間側は, 未知の現象への知識の欠如という不確かさを抱えている。原子力工学の分野では,その不確かさを定量的に評価していくことで安全対策を考えてきており,そのために,技術・工学をシミュレーションすること(現象を知る),その功罪を明らかにすること(リスクを知る),技術を社会に還元するための判断を行う根拠を確立すること(意思決定する)を繰り返すことによって,原子力工学 分野における安全対策は進歩を遂げてきた。 原子力の安全対策は,一義的に電気事業者が行うべきものであるが,事業者である以上,経済的合理性を無視した安全対策を行うことはできないし,規制を行う行政も無限の対策を講じるように指示することもできず,規制そのものも有限のリソースしか用いることができない。そのため,原子力工学分野では, ゼロリスクは求めない一方で,不当なリスクがあってはならないということを 目指した安全対策を行っていくことになる。 そして,安全対策のリソースが有限であることを前提に,不当なリスクを生じさせないための安全対策をどのよう リスクがあってはならないということを 目指した安全対策を行っていくことになる。 そして,安全対策のリソースが有限であることを前提に,不当なリスクを生じさせないための安全対策をどのように行うかという点についてみると,安全対策は,未知の現象への知識の欠如を埋めていくという作業であるから,これを最も進歩させるものは,実際の事故やニアミスなどの予兆現象の発生とそれ によって得られた教訓である。未知への現象の知識の欠如を埋められるような科学的知見,すなわち,未知の現象への予測を立てる強い動機付けとなるような科学的知見が確立したような場合には,これに基づいた安全対策を行うべきことになる。しかし,リソースが有限である中で安全対策を考える場合,「新知見」と呼ばれるようなもの全てに対し,闇雲に安全対策を施した場合には,真 に必要となる対策に割くべきリソースが不足する危険性が生じたり,余計な設備を増やすことによって,かえって施設全体の安全性に不当なリスクが生じる危険性もあるため,原子力工学において安全対策を考えるべき「新知見」というのは,論文などにおいて知見が示されただけで足りるものではなく,学会等において審査され,多数の学者がその知見が妥当なものであるという共通の認 識をもつ程度にまでなっている必要がある。 本件事故についてみると,福島第一原発の敷地を越える津波に関する知見が,多数の学者による批判的検討や検証に耐え,多数の学者が共通の認識をもつ程度まで確立していたか否かが重要であり,そのような程度にまで確立していないような知見は,工学上は「Practicallyeliminated」(物理的にあり得ない か,又は,高い信頼性をもって極めて発生しにくいと考えられ,実質的に考慮から排除される状態)なリスクとして取り扱 ,工学上は「Practicallyeliminated」(物理的にあり得ない か,又は,高い信頼性をもって極めて発生しにくいと考えられ,実質的に考慮から排除される状態)なリスクとして取り扱われ,事業者は,この知見に基づく措置を求められることにはならない。上記のような知見が,多数の学者が共通の認識をもつ程度にまで確立していたのであれば,当然,私の耳にも入るはずであるが,本件事故前には,そのような話は聞かなかったので,本件事故前 においては,福島第一原発の敷地高を超える津波が到来する可能性は,物理的 にあり得ないか,又は,高い信頼性をもって極めて発生しにくいと考えられ,実質的に考慮から排除されるリスクであったというべきである。 3 阿部清治【丙B51】⑴ 経歴等 阿部清治は,旧日本原子力研究所(現日本原子力研究開発機構)において,原子力発電所の安全研究,特に安全評価の研究に取り組んでいた研究者であり,平成15年11月には経済産業省に入省して国際原子力安全担当審議官として勤務したほか,保安院に所属して原子力施設の安全規制を担当するなどし,本件事故当時は,JNES総括参事の地位にあったものである。 ⑵ 意見の内容原子力を含むあらゆる技術は豊かさとともにある大きさのリスクをもたらす。技術が社会に受け入れられるためには,技術のもたらす正の部分(便利さや快適さ)に比べて,それが同時にもたらす負の部分(環境汚染や事故)が十分に小さく,かつ,リスクの低減のために十分な努力が払われていることが必 要とされる。安全とは危険の裏返しである。様々な危険を定量化して,そのいずれもが十分小さければ安全であるとされる。 規制当局の監督責任は適切に果たされる必要があることはもちろんであるが,安全規制が効果的 れる。安全とは危険の裏返しである。様々な危険を定量化して,そのいずれもが十分小さければ安全であるとされる。 規制当局の監督責任は適切に果たされる必要があることはもちろんであるが,安全規制が効果的であるためには,それが十分な科学的合理性をもったものであることが必要である。安全規制が科学的合理性を欠いた場合には,その 有効性が損なわれ十分な安全確保が図られないおそれがある。そして,規制の実施に当たっては,安全規制機関や原子力事業者の限られた資源をいたずらに費やすことにならないよう,いわゆる「グレーデッドアプローチ」に基づくことが必要である。 グレーデッドアプローチとはIAEA(国際原子力機関)の基本的安全原則 の原則5「防護の最適化」の中で,「安全のために設置者によって投入される リソースや,規制の対象範囲及びその厳格さとその適用は,放射線リスクの大きさとその制御可能性に見合ったものでなければならない。」と表現されており,「設置者も規制者も,リスクの大きさに基づいてリソース(資源,資金や人材など)を割く」という考え方である。具体的な防護を考える際には,当然ながら,リスクの程度,すなわちそのリスクが顕在化した場合に原子力安全に 及ぼす影響の大きさと,リスクの発生可能性を考慮する。すなわち,そのリスクが発生する緊急性があり今すぐの対策が必要なのか,あるいは緊急性がそれほど高くなくて他の緊急性の高い課題を優先しつつ検討を進めることで足りるものなのかなど,リスクマネジメントの発想から検討する。 原子力安全確保の最大の目的は,原子力施設の周辺における公衆を,放射線 災害から護ることである。その基本となる考え方は「深層防護(DefenseinDepth)」である。 深層防護について,IAEAの基本安全原 的は,原子力施設の周辺における公衆を,放射線 災害から護ることである。その基本となる考え方は「深層防護(DefenseinDepth)」である。 深層防護について,IAEAの基本安全原則では,原則8「事故の発生防止」の中で「事故の影響を防止し緩和する主たる手段は『深層防護』である。深層防護は,多くの連続かつ独立の複数レベルの防護-ひとつひとつの防護は人や 環境への有害な影響の防止に失敗し得る-を組み合わせることで履行されるものである。万一あるレベルの防護あるいは障壁が失敗あるいは喪失したとしても,次のレベルの防護あるいは障壁がある。適切に履行されさえすれば,深層防護は,いかなる単一の技術的,人的,組織的失敗も有害な影響につながらないこと,また,有意な有害影響につながるような複数の失敗の組み合わせが 起きる確率を極めて低くすることを保証するものである。異なるレベルの防護が独立の有効性を有することは深層防護における欠くべからざる要素である。」と規定されている。つまり,深層防護とは,ひとつは多段の安全対策を用意しておくことであり,もうひとつは,各段の安全対策を考えるときには他の段で安全対策が採られることを忘れ,当該の段だけで安全を確保するとの意識であ る。原子力発電所についての深層防護は,一般的には5つのレベルから成ると 整理されており,IAEAによる報告書では,①レベル1:異常運転や故障の防止,②レベル2:異常運転の制御及び故障の検知,③レベル3:設計基準内への事故の制御,④レベル4:事故の進展防止及びシビアアクシデントの影響緩和を含む,過酷なプラント状態の制御,⑤レベル5:放射性物質の大規模な放出による放射線影響の緩和とされている。原子力施設では,このような深層 防護の考え方に基づき,たと ビアアクシデントの影響緩和を含む,過酷なプラント状態の制御,⑤レベル5:放射性物質の大規模な放出による放射線影響の緩和とされている。原子力施設では,このような深層 防護の考え方に基づき,たとえ何らかのトラブルが起きても,それが拡大して原子力災害につながらないよう,様々な安全設備(安全系)が用意されている。 施設に安全上の影響を及ぼし得る誘因事象としては,自然現象(地震,津波,火山,台風など),施設外人為事象(航空機落下,有毒ガス,テロなど),施設内事象(施設内火災,施設内浸水,タービンミサイルなど)と,数多くある。 これらの誘因事象のうち,本件事故前の段階において,対策を強化すべき対象として喫緊の課題と考えられていたのは地震であり,耐震設計審査指針の改訂を受けての耐震バックチェックが進められていた。他には,施設内火災や施設内浸水は,実炉でのトラブル事例の報告が多かったことから,安全研究を進めるなど,課題に注力してきた。津波については,耐震バックチェックにおいて, 地震随伴事象として検討すべきものとはされていたが,私の知る限り,早急な対策を要する喫緊の重要課題とは認識されていなかった。 津波に対する防護措置として,多大な時間や費用を要する防潮堤の設置をせずに,水密扉,可搬式の代替電源(モバイル)等の措置だけを講じるべきだったとの見解は,原子炉安全を専門とする立場からは,とても同意できない主張 である。深層防護の観点に立てば,設計におけるレベル1の防護として,まずは安全上重要な機器が津波で故障しないことを考える。そして,レベル1の対策の中にも深層防護の考え方は適用されるから,第1に防潮堤による防護を考え,それが突破された場合に水密扉との考慮の順序になる。防潮堤を設けず,水密扉だけというのは,かなり考えにくい発想で ベル1の対策の中にも深層防護の考え方は適用されるから,第1に防潮堤による防護を考え,それが突破された場合に水密扉との考慮の順序になる。防潮堤を設けず,水密扉だけというのは,かなり考えにくい発想である。モバイル設備(可搬式 電源設備や可搬式ポンプ車など)の採用については,現行規制基準においては, いわゆるシビアアクシデント対策としての要求事項である。したがって,現行規制基準における津波対策においても,モバイル設備のみによる防護を認めるものではない。防潮堤による津波防護がなくして,敷地への浸水を前提とする水密化やモバイルだけで防護するなどという措置はあり得ない。敷地高さを超える津波を想定するのに,防潮堤による防護なしの対策は論外である。 4 筒井哲郎・後藤政志【甲B8の各枝番】⑴ 経歴等筒井哲郎は,国内の石油プラント,化学プラントの設計・建設等に携わった経験のある技術者であり,後藤政志は,大手原子力メーカーにおいて,原子炉 格納容器の設計や運転プラントの保守改良工事に従事するなどした技術者である。 ⑵ 意見の内容被告東電が平成20年に行った試算(後記第5章第3節第3,3⑴ア(キ)[❸-47 頁])に基づけば,福島第一原発南側敷地において,O.P.+15.7 mの津波到来が予測されている。そうである以上,当該部分のみならず敷地全体がこの規模の津波に耐えることができる対策を行うことが,技術者としての常識といえる。また,原子力発電所の津波対策の設計においては,極めて高い安全性が求められることから,最低でも予想される津波高さの1割増し程度の安全裕度を持たせて設計するのが合理的である。そこで,最高点でO.P.+ 17.5m(15.7m×1.1=17.3m を切り上げ)の津波が発生した場合に 低でも予想される津波高さの1割増し程度の安全裕度を持たせて設計するのが合理的である。そこで,最高点でO.P.+ 17.5m(15.7m×1.1=17.3m を切り上げ)の津波が発生した場合にも,非常用電源設備の運転継続を確かなものにすることと,配電盤及び最終ヒートシンク(燃料から発生する崩壊熱や機器の運転により発生する熱を除去し放出する最終的な熱の逃し場)が津波によって喪失しない対策を講ずることが技術者として設計すべき安全対策である。 具体的には,最短期間で講ずるべき実現可能な対策として,以下の4つの対 策が挙げられる。 ア電源設備の被水回避タービン建屋地下1階電気室内の電気設備及び地上1階床上の非常用電気設備が被水することがないように,建屋の扉などの開閉部,配管・配線の貫通部を水密化する。その際には,地盤から7.5mの高さの津波による水 圧に十分耐える設計とする。既存の建屋には,必要に応じて補強工事を行う。 床排水配管には逆止弁等のバルブを設けて,非常時には外部から水が逆流しないようにする。タービン建屋地上1階には,非常用D/G(非常用ディーゼル発電機)の吸排気用ギャラリーがあるが,予測到達津波高さに対して十分な余裕がある高さに吸排気用ダクトの出入口を設けて,既設ギャラリーは 閉止する。水圧がかかる吸排気用ダクト外面は必要に応じて補強する。電気設備被水回避の目的で,電気室周りの全ての建屋の隙間を水密化することを第一に行い,既設の建物の扉を耐圧扉に交換する作業は,耐圧扉の納期を待って行う。 イ電源設備の高所新設 (ア) 非常用D/Gの被水回避及び燃料タンクの高台新設非常用D/Gは,タービン建屋の地上1階にあるので,前記アの水密化によって被水を防止することができる。短時間用のヘ 源設備の高所新設 (ア) 非常用D/Gの被水回避及び燃料タンクの高台新設非常用D/Gは,タービン建屋の地上1階にあるので,前記アの水密化によって被水を防止することができる。短時間用のヘッドタンクは発電機ユニットに付属して同一室内にあるが,長時間用の燃料タンクは,35m盤上に新設して,耐震性を有する配管で接続する。 (イ) 共用プール建屋設置の電源設備の高所新設本件事故によっても,共用プール建屋1階に設置されていた非常用D/G2台(2号機,4号機)は機能喪失せずに生き残った。しかも,この2台は,ディーゼルエンジンの冷却方式が空冷式であったため,海岸近くにあって全滅した海水ポンプの影響を受けず稼働可能な状態であった。しか し,地下1階に設置されていた非常用配電盤が被水し,電源供給機能を喪 失した。被告東電の平成20年東電試算によれば,共用プール建屋付近は浸水深5m程度の深さで浸水し,一方で,海側の4m盤上にある海水ポンプも被水し,ほぼ全滅する。事故前にこのような試算結果を認識すれば,最小限の措置として,共用プール建屋1階の空冷式非常用D/Gと同建屋地下1階の非常用配電盤が機能喪失しないようにこれらを高台に設置す ると考えることは合理的である。空冷式の非常用D/Gの場合には,とりあえずは海水ポンプの被水回避を考えなくてよいので,限定的な措置としては合理的というべきである。なお,その設置盤上は,建物や設備の安定性という観点からいえば,安定した地盤上,すなわち35m盤上が適切である。この場合に,ケーブルや配管を堅固に設置することは困難なことで はなく,中間に距離があるからといって決して脆弱ではない。一般にケーブルや配管は,それ自体としては十分に可撓性があって,地震動による破損を耳にしたこと 配管を堅固に設置することは困難なことで はなく,中間に距離があるからといって決して脆弱ではない。一般にケーブルや配管は,それ自体としては十分に可撓性があって,地震動による破損を耳にしたことはない。一般の石油プラントなどにおいても,多種多様な配管やケーブルが敷設されているが,末端の接続点における故障はあっても,中間点における故障はほとんど聞かない。したがって,中間に距離 があるから脆弱だという理由にはならない。また,電気室の耐震性についても,今回の地震によって建屋の倒壊及び35m盤の崩壊が生じたわけではなく,電気室内に収納する機器も,建屋の揺れや傾きによって直ちに損傷するものではないので,通常の耐震性を備えておけば,地震により電気室が使用不能となる事態は生じないと考えられる。 ウ最終ヒートシンク及び冷却ライン確保対策最終ヒートシンクを確保する設備が津波によって失われないよう,CCS(格納容器冷却系),RCIC(原子炉隔離時冷却系)の熱交換器を除熱するために冷却水となる海水を供給する冷却用海水ポンプが水没しないようにする必要がある。具体的には,防水壁でポンプ・駆動機を囲うとともに, ポンプの床面をシールして,海水が床面場に溢れないようにする。この設備 の建屋工事は運転中に行い,ポンプ本体に関わるシール部分の施工は定期点検中に行う。 エ防潮堤の設置海岸線に防潮堤を築いて,基本的に津波が敷地内に遡上することを防止する。仕様は,パイルを並べるタイプないし現場打ちのコンクリート壁のいず れでもよい。設置位置は,タービン建屋東側の10m盤上に,高さ7.5m,1~4号機の東側に長さ600m,5・6号機の東側に長さ300mの防潮堤を築く。防潮堤は35m盤からのスロープに突き当てることとし,海 よい。設置位置は,タービン建屋東側の10m盤上に,高さ7.5m,1~4号機の東側に長さ600m,5・6号機の東側に長さ300mの防潮堤を築く。防潮堤は35m盤からのスロープに突き当てることとし,海側5m盤へのアクセス道路は,現在の道路とは別に35m盤から防潮堤の外側へ下りるように新設する。海岸近傍の既設設備は,燃料タンクや,予備品倉庫, 泡消火設備などであるから,容易に移設することができる。 オ工事の優先順位原子力発電所の敷地高を超えて津波が到来する可能性を認識し,最短期間で対策を講じるとした場合,もっとも優先度が高いものは,電源設備の被水回避,すなわち電気室周りの建屋の水密化である。次に非常用D/Gの被水 回避が必要であるが,2号機及び4号機の共用プール内に空冷式のものがあり,それらの電力はそれぞれ1号機及び3号機にも融通可能とされていたので,当面の核燃料の冷却用電源はまかなえるから,優先順位は第2位とする。 その次に,最終ヒートシンクの確保対策,更に防潮堤を位置付ける。 カ結果回避可能性 本件事故の原因となった津波はタービン建屋,原子炉建屋周辺で最大O. P.+15.5mであったから,上記の安全対策を採っていれば,1~4号機の4m盤に設置されている非常用海水ポンプ等が被水により機能喪失すること,10m盤に設置されている原子炉建屋,タービン建屋内の重要設備(とりわけ配電盤)が被水により機能喪失することを,いずれも防ぐことが できたと考えられ,そうであれば,本件において直流電源及び最終排熱設備 が同時に機能を喪失することはなく,原子炉の冷却機能を失わずに過酷事故を防止できていたといえる。 キ施工期間上記安全対策は,いずれも,原発を停止しなくても施工可能な工事なので,原発稼働中に最短 同時に機能を喪失することはなく,原子炉の冷却機能を失わずに過酷事故を防止できていたといえる。 キ施工期間上記安全対策は,いずれも,原発を停止しなくても施工可能な工事なので,原発稼働中に最短期間で施工するとして,いずれも計画開始から1年程度で 完了するものと考えられる。 ク津波対策工事の設計条件について津波対策工事を行う場合には,津波の高さ,水圧の大きさ,水圧の作用方向を決定しなければならないが,津波高さについては,歴史文書や津波の痕跡などを調査して,その襲来高さの中央値を推測し,その数値の確かさにつ いては,「倍半分」とするのが,専門の科学者間の常識である。誤差の極めて大きい自然現象に対しては,中央値の2倍を採用しても,それは95%をカバーするにすぎない。 水圧の大きさについては,津波の水位と移動速度を想定し,岸壁間近の防波堤や岸壁の形状,敷地内障害物を勘案すれば,概ね設計条件として妥当な 数値を得ることができる。水圧については,可能性のある最大値を想定できれば設計は可能であるところ,想定される最大値に,安全率を3~4倍取って設計条件とするのが通常である。水圧の作用方向については,もとより大幅な予測の存在を認識するという前提に立った上で,既存の特定の予測やシミュレーションに拘泥せず,建屋の補強は全ての壁面に対して同一の水圧を 仮定し,防潮堤の高さは全長にわたって同じレベルに構築することが合理的である。 5 青木一哉【丙B50】⑴ 経歴等 青木一哉は,通商産業省(当時)や保安院において長年にわたり原子力発電 所の規制業務(特に安全審査関係)を所管する部署に勤務し,保安院の統括安全審査官の経験も有する公務員である。 ⑵ 意見の内容仮に,平成20年東電試算を根拠とし 年にわたり原子力発電 所の規制業務(特に安全審査関係)を所管する部署に勤務し,保安院の統括安全審査官の経験も有する公務員である。 ⑵ 意見の内容仮に,平成20年東電試算を根拠としてそれまでの想定津波を変更し,10m盤の浸水を伴う津波を想定した津波対策を行うとした場合,それは,平成2 0年東電試算で示された津波が発生する蓋然性があること及びそれが前提とする福島県沖の津波地震の波源に関する長期評価の考え方を新たに信頼すべき知見として取り扱うことを意味し,新たな知見の取り入れにより,「主要機器のある敷地高を想定津波よりも高くすることで浸水を防ぐ」という従来の津波対策の根本を変えることになるから,このような対策措置は,基本設計の変 更に当たることになる。そのため,原子炉設置変更許可申請が必要となったと考えられ,この場合,保安院としては,安全審査を行う中で,東電が新たに知見として設計に取り入れるという平成20年東電試算及びこれの前提となる想定津波の決め方の妥当性,さらには,東電が掲げる対策の技術的な妥当性などの多くの論点について,東電のヒアリングや国内外の文献調査,専門家の意 見聴取会,JNES(独立行政法人原子力安全基盤機構)のクロスチェックなどを通じて検討して審査した上,原子力安全委員会に諮問し,その答申を得て,問題がなければ東電に設置変更許可を出したと思われる。 このような津波対策の許認可手続には,設置変更許可申請から許可までで少なくとも約2年,工事計画の申請から認可までで約3か月が必要となる。そし て,実際に対策が完了するまでの期間を推測するのであれば,この約2年3か月に,東電が行う実験データの取得,設備施設の設計・施工に要する期間が加わり,論点の重要さや社会的影響の大きさ,指針改訂の動向,地元 実際に対策が完了するまでの期間を推測するのであれば,この約2年3か月に,東電が行う実験データの取得,設備施設の設計・施工に要する期間が加わり,論点の重要さや社会的影響の大きさ,指針改訂の動向,地元了解の必要性などを勘案すると,さらに長い期間が必要となったと考えられる。 (以下本頁余白) 第5節放射線被ばくに関する規制・知見等第1 放射能・放射線に関する一般的知見 1 放射性物質・放射線とは世の中の全ての物質を構成する原子は,原子核と電子から成り,原子核は陽子と中性子から成り立っている。この原子核の中には,不安定な性質をもち,エネ ルギーを放出して安定した別の原子核に変わろうとするものがあり,原子核が壊れるこの現象を放射性壊変(崩壊)といい,そのときに放出される高速の粒子と高いエネルギーをもった電磁波のことを「放射線」と呼ぶ。そして,放射線を出す能力のことを「放射能」といい,そのような能力をもつ物質を「放射性物質」という(ただし,一般には,放射能が放射性物質と同じ意味で使用されることも ある。)。 原子核は,陽子と中性子からできているところ,陽子の数(原子番号)は同じでも中性子の数が異なる原子が知られており,これらを同位体(アイソトープ)という。 陽子や中性子の数が増えて原子核が大きくなると原子核の安定性が低下し,同 位体の中には不安定なものが生じる。このような不安定な同位体は放射線を放出してより安定的な他の元素に変化しようとするが,このような不安定な同位体のことを放射性同位体(ラジオアイソトープ,RI)と呼ぶ。 放射性同位体が自然に放射線を放出して他の元素に変化していくことが放射性壊変であり,この放射性壊変には,大別して,放射性同位体がアルファ線を放 出して他の元素に代わるア ープ,RI)と呼ぶ。 放射性同位体が自然に放射線を放出して他の元素に変化していくことが放射性壊変であり,この放射性壊変には,大別して,放射性同位体がアルファ線を放 出して他の元素に代わるアルファ壊変と,放射性元素の原子核を構成していた中性子がベータ線を放出して陽子に変わるベータ壊変の2つの種類がある。 放射性同位元素が放射性壊変によって放射線を出しながら他の元素に変化する速度は各放射性同位体において特有であり,ある放射性同位体の量が元の量の半分になる(半分が別の同位体に変化する)までに要する時間を「半減期」とい う。例えば,ヨウ素131の半減期は約8日,セシウム134は約2年,セシウ ム137は約30年とされている。 【乙共41】 2 放射線被ばく「被ばく」とは放射線を受けることをいい,「汚染」とは放射性物質が皮膚や衣服に付着した状態をいう。また,土壌・建物・食品等への付着についても「汚 染」という言葉が用いられる。放射性物質による「汚染」を取り除くことを「除染」という。 そして,放射性物質が体の外部にあり,体外から被ばくする(放射線を受ける)ことを「外部被ばく」という。皮膚や衣服に付着した放射性物質によっても外部被ばくすることとなるが,これらの放射性物質は,シャワーを浴びたり洗濯をし たりすることにより洗い流すことができる。 一方,放射性物質を体内に摂取することにより,体内から放射性物質に被ばくすることを「内部被ばく」という。内部被ばくは,空気を吸ったり,水や食物などを摂取したりすることにより,それに含まれている放射性物質が体内に取り込まれることによって起こる。 3 放射能と放射線量の単位⑴ 単位の種類放射能の強さは,放射性物質の1秒間当たりの壊変数で表し,ある物体に含 それに含まれている放射性物質が体内に取り込まれることによって起こる。 3 放射能と放射線量の単位⑴ 単位の種類放射能の強さは,放射性物質の1秒間当たりの壊変数で表し,ある物体に含まれる放射性同位元素で1秒間に1個の原子核が壊変をする放射能の量を,放射能の強さを表す単位として1「Bq(ベクレル)」と定義される。 これに対し,人が受ける被ばく線量の単位として「Gy(グレイ)」,「Sv(シーベルト)」が用いられる。 「Gy(グレイ)」は,放射線を受けた単位質量の物質が吸収するエネルギー量を表す単位であり,放射線を受けた部分の質量1Kg 当たりに吸収されるエネルギー(J(ジュール))で表される。放射線を受けた物質が吸収した線量のこ とを「吸収線量」といい,吸収線量は「Gy(グレイ)」の単位で表されることと なる。 他方,吸収線量が同じであっても,放射線を受けた人体にどのような影響が現れるかは,外部被ばく,内部被ばく,全身被ばく,局所被ばくといった被ばくの態様の違いや,放射線の種類の違い等によって異なる。そこで,異なる種類の放射線の影響を比較するための修正係数をかけることで,いかなる被ばく も同じSv という単位で表すことができ,これにより,人の健康への影響の大きさ(防護量)が比較できるようになる。すなわち,外部被ばくで1mSv 受けたということと,内部被ばくで1mSv 受けたということは,健康への影響の大きさは同じであり,また,体外から1mSv,体内から1mSv を被ばくした場合には,合わせて2mSv の放射線を受けたということができる。実際の被ばく線量 は小さいことが多いので,mSv(mSv は1Sv の1000分の1),μSv(μSv はmSv の1000分の1)などの単位が用いら v の放射線を受けたということができる。実際の被ばく線量 は小さいことが多いので,mSv(mSv は1Sv の1000分の1),μSv(μSv はmSv の1000分の1)などの単位が用いられる。μSv/h(時)は,1時間当たりの単位であり,1時間当たりでどれだけの放射線量を受けるかを意味する。 【丙共43・34頁】 ⑵ 単位間の関係前記⑴のとおり,Bq は,放射線を出す側の単位であり,Gy とSv は放射線を受ける側の単位である。 Bq は,1秒間に壊変する原子核の数であるから,物理量として計測が可能であるし,Gy も,物質1Kg 当たりに吸収されるエネルギーであるから,物理量 として計測が可能である。 これに対し,Sv は,人の臓器や組織が個々に受けた影響を,放射線の種類によって重み付けした防護量を示すものであるから,測定器を使って直接測定することが困難である。サーベイメータの読み値にSv が用いられているのは,人の被ばく量を直接測定しているのではなく,計測した物理量から定義される 近似値である。 ア吸収線量(Gy)と防護量(Sv)の関係及び外部被ばく線量の算出法前記⑴のとおり,吸収線量(Gy)が同じであっても,放射線の種類やエネルギーによって人体への影響の大きさが変わる。そこで,放射線の種類ごとに影響の大きさに応じた重み付けをした線量を等価線量(単位はSv)という。 これに対し,放射線防護における被ばく管理の観点から,等価線量に対し て,臓器や組織ごとの感受性の違いによる重み付けをして,それらを合計することで全身への影響を表す概念として,実効線量(単位はSv)がある。実効線量は,組織や臓器ごとの等価線量に,組織の感受性の違いを考慮するための組織加重係数(身体全体を1と けをして,それらを合計することで全身への影響を表す概念として,実効線量(単位はSv)がある。実効線量は,組織や臓器ごとの等価線量に,組織の感受性の違いを考慮するための組織加重係数(身体全体を1とし,これを各組織や臓器の感受性の軽重に応じて振り分けたもの)を掛け合わせて算出される。 例えば,放射線検査で頭部に1mGy のγ 線を受けた場合,組織ごとの等価線量は1mSv となるが,組織ごとの組織加重係数は,甲状腺につき0.04,脳につき0.01,唾液腺につき0.01,骨髄につき0.12,皮膚につき0.15であるから,それぞれこれらを乗算し,さらに,骨髄と皮膚については,全身に対する被ばく部位の割合(骨髄につき0.1,皮膚につき0. 15)をそれぞれ乗算して,これらを積算した結果,実効線量は0.07mSvと換算される。 ※計算式:実効線量=甲状腺0.04×1mSv +脳0.01×1mSv +唾液腺0.01×1mSv +骨髄0.12×1mSv×0.1 +皮膚0.01×1mSv×0.15 =0.07mSvこれに対し,全身に均等にγ線が1mGy 照射された場合は,全身の組織加重係数合計が1であることから,全身の被ばく量も1mSv と換算されることとな る。 外部被ばくによる線量を算出する場合には,計測器で空間放射線量率(μSv/h)を測定し,平常時の自然γ 線や建物の遮へい効果等を考慮して算出することとなる。 例えば,計測器による空間放射線量率が0.24μSv/hであった場合,平常時の空間線量率を0.04μSv/h,建物の遮へい効果による建物内線 量比(低減係数)を0.4,1日当たりの建物内滞在時間を16時間と仮定すると,以下の計算式のとおり,年 /hであった場合,平常時の空間線量率を0.04μSv/h,建物の遮へい効果による建物内線 量比(低減係数)を0.4,1日当たりの建物内滞在時間を16時間と仮定すると,以下の計算式のとおり,年間の被ばく線量は1.1mSv と算出されることとなる。 ※計算式:{(0.24μSv/h-0.04μSv/h)×8(時間)}+{(0.24μSv/h-0.04μSv/h)×0.4(低減係数)×16(時間)} ×365 日=1051.2μSv/年(1.1mSv/年)【丙共43・39頁,52頁】イ放射性物質の物理量(Bq)と防護量(Sv)の関係及び内部被ばく線量の算出法内部被ばく線量を求める場合,放射性物質が体内のどの部分に蓄積するか は放射性物質ごとに異なるし,呼吸により呼吸器経由で摂取した場合と飲食物と一緒に消化管経由で摂取した場合でも,代謝や蓄積といった挙動が異なる。また,成人,幼児,乳児の別によっても,放射性物質の残留性に差異がある。内部被ばく線量を算出する場合,このような条件の違いごとに数理モデル計算を行い,各臓器や組織の吸収線量を求め,さらに,放射線の種類や 臓器による感受性の違いを考慮した上,1回に摂取した放射性物質から一生涯にわたって受ける放射線の総量を積算して算出され,このように算出された内部被ばく線量を預託実効線量(単位はSv)という。 一定の量の放射性物質を体内に摂取した場合,その摂取量(Bq)に,上記条件別に定められた預託実効線量係数を乗じることで,内部被ばく線量を求 めることができる。預託実効線量係数の具体例は資料35(第6分冊)のと おりである。 例えば,大人が1Kg当たり100Bq のセシウム137を含んだ食品を0. 5Kg 食べた場合,摂取したセシ とができる。預託実効線量係数の具体例は資料35(第6分冊)のと おりである。 例えば,大人が1Kg当たり100Bq のセシウム137を含んだ食品を0. 5Kg 食べた場合,摂取したセシウム137の量は50Bq であり,これに,資料35記載の預託実効線量係数0.013(μSv/Bq)を乗算すると,同摂取により同人が将来にわたって受ける内部被ばく線量は0.65μSv と推 定される。 ※計算式:100(Bq/Kg)×0.5(Kg)×0.013(μSv/Bq)=0.65(μSv)なお,資料35記載のとおり,預託実効線量係数は,成人よりも小児の方が一般的に高く,とりわけヨウ素131は,5歳児以下の子どもと成人とでは大きな差異がある。 【丙共43・53頁~】 4 自然放射線と人工放射線放射線は自然放射線と人工放射線に大別することができる。 自然放射線とは,宇宙から地球に降り注いでいる宇宙放射線や土壌中,大気中,海水中に存在する放射性物質に由来する放射線のことをいう。大地に由来する放 射線は,地球の地殻中に存在するウラン,トリウム,カリウム40などから放出され,花崗岩(御影石)には相対的に多くの放射性物質が含まれている。人体は,食物摂取を通じてカリウム40,ポロニウム210などを摂取している。また,呼吸を通じて空気中の放射性物質であるラドンを体内に取り込んでいる。 体重60㎏の平均的な日本人の場合,体内の放射性物質の量は,カリウム40 が4000Bq,炭素14が2500Bq,ルビジウム87が500Bq,鉛210・ポロニウム210が20Bq,とされている。 また,世界平均で年間1人当たり約2.4mSv(2400μSv),日本平均で年間1人当たり約1.5mSv(1500μSv)の自然放射線を受けているとさ ・ポロニウム210が20Bq,とされている。 また,世界平均で年間1人当たり約2.4mSv(2400μSv),日本平均で年間1人当たり約1.5mSv(1500μSv)の自然放射線を受けているとされている。上記の世界平均(年間)の内訳は,宇宙から0.39mSv(390μSv), 大地から0.48mSv(480μSv),食べ物から0.29mSv(290μSv),空 気中(主にラドンの吸入)から1.26mSv(1260μSv)と見積もられている。 また,高度が上がることにより,宇宙放射線の影響を受けやすくなり,例えば,成田・ニューヨーク間を飛行機で1回往復すると,約0.2mSv(約200μSv)の放射線を宇宙から受けるとされている。 他方,人工放射線とは,人工的に作られた放射線のことをいい,1895年にレントゲン博士によりエックス線が発見されて以来,医療や工業,農業などで様々な用途のために人工放射線が用いられている。これらの人工放射線の利用に当たっては,例えば,胸部X線コンピューター断層撮影検査(胸部CTスキャン)では1回当たり約7mSv(7000μSv),胃のX線集団検診では1回当たり0. 6mSv(600μSv),胸部X線集団検診では1回当たり0.05mSv(50μSv)の放射線量を一般に受けるとされている。 このように,日本では,自然放射線のほかに放射線を利用した医療診断によって,国民1人当たり平均で年間2.25mSv の放射線量を受けているとされている。 【乙共41~44】 5 放射線被ばくの人体への影響⑴ 身体的影響と遺伝性影響放射線被ばくの人体影響は,被ばくした本人に出る身体的影響と子孫に出る遺伝性影響に分類される 身体的影響のうち,被ばく後数週間以内に症状が現れ の人体への影響⑴ 身体的影響と遺伝性影響放射線被ばくの人体影響は,被ばくした本人に出る身体的影響と子孫に出る遺伝性影響に分類される 身体的影響のうち,被ばく後数週間以内に症状が現れるものを急性影響ないし早期影響といい,例として,急性放射線症候群(嘔吐,下痢,血液細胞数の減少,出血,脱毛,男性の一過性不妊症等)や急性皮膚障害が挙げられる。 被ばく後数か月経過した以降に症状が出るものを晩発影響という。身体的影響のうちの晩発影響の例として,胎児の発生・発達異常(奇形),水晶体の混 濁,がん・白血病が挙げられる。遺伝的影響は,それ自体晩発影響に分類され, 例として遺伝性疾患が挙げられる。 ⑵ 確定的影響と確率的影響放射線被ばくの人体への影響は,その機序の違いにより,臓器や組織を構成する細胞が多数死亡したり変性したことにより起こる確定的影響と,細胞の遺伝子が突然変異することにより起こる確率的影響に分類される。 ア確定的影響について放射線は,その通り道の付近にエネルギーを与え,これにより,通り道の物質の電子がはじき飛ばされる。このような作用を電離作用という。このような電離作用により,人体を構成する細胞が損傷を受ける。これにより一部の細胞が細胞死したとしても,残りの細胞だけで組織や臓器が十分に機能す れば臨床症状は現れないが,照射される放射線の量が増え,死亡する細胞が増加すると,その臓器や組織の機能が一時的に衰えたり,細胞の損傷の規模によっては,永久に機能喪失や形態異常が生じる可能性がある。このような影響のことを確定的影響という。 細胞死によって起こる確定的影響には,ある一定以上の放射線を照射され ると症状が現れ,それ未満では症状が現れないという線量が存在するとされる。このような線量 影響のことを確定的影響という。 細胞死によって起こる確定的影響には,ある一定以上の放射線を照射され ると症状が現れ,それ未満では症状が現れないという線量が存在するとされる。このような線量のことをしきい値ないししきい線量という。 放射線の感受性は臓器によって異なり,最も感受性が高いとされる精巣の場合,一度に0.1Gy(100mGy)以上のγ 線等の照射を受けると,精子数が一時的に減少する一時的不妊を引き起こすことがある。また,骨髄が0. 5Gy(500mGy)以上の被ばくをすると,造血能力が低下し,血液細胞の数が減少するとされる。 また,胎児期は放射線感受性が高く,また,影響の出方に時期特異性があることが分かっている。妊娠のごく初期(着床前期)に被ばくすると,流産が起こることがあり,胎児の身体が形成される器官形成期(受胎2~8週) に被ばくすると器官形成異常(奇形)が起こることがあり,さらに,大脳が 活発に発育している胎児前期(受胎8~15週)に被ばくすると,精神発達遅滞の危険性がある。こうした胎児への影響は,0.1Gy 以上の被ばくで起こるとされる。なお,胎児の被ばくの場合には,その線量に応じて,がんや遺伝性影響といった確率的影響のリスクも高まる。 【丙共43・77頁~】 イ確率的影響について放射線が細胞に照射されると,細胞中の遺伝子本体であるDNAを損傷することがある。この損傷の程度が低ければ,修復が成功し元に戻るが,損傷の程度が高いと,修復ができずに細胞自体が細胞死を起こして確定的影響をもたらすことがある。 他方,一応DNAの修復はされたものの,その修復が不完全なものであった場合には,細胞が突然変異を起こし,がんや白血病を発症したり,遺伝性影響をもたらしたりする可能性が高 たらすことがある。 他方,一応DNAの修復はされたものの,その修復が不完全なものであった場合には,細胞が突然変異を起こし,がんや白血病を発症したり,遺伝性影響をもたらしたりする可能性が高まることとなる。このような影響のことを確率的影響という。 確定的影響においてはしきい値が存在するとされているが,確率的影響に おいてしきい値が存在するかどうかについては争いがある。 【丙共43・77頁~】第2 ICRP(国際放射線防護委員会)の勧告に基づく放射線防護の原則ICRP(国際放射線防護委員会)とは,1928年に設立された「国際X線・ラジウム防護委員会」を基に,科学的見地に立って,電離放射線の被ばくによる がん等の疾病の発生を低減し,また,放射線による自然環境への影響を低減し,公益に資することを目的として1950年に設立された英国の独立公認慈善事業団体である。 近年においては,1977年,1990年及び2007年に,それぞれ勧告を行っているところ,本件事故当時の勧告の内容をまとめると以下のとおりである。 【丙共43】 1 防護の基準ICRPは,人の被ばく状況を,計画的に管理できる平常時(計画被ばく状況),事故やテロ等の非常事態(緊急時被ばく状況),事故後の回復や復旧の時期等(現存被ばく状況)の3つの状況に分けて,防護の基準を定めている。 ⑴ 平常時(計画被ばく状況) 平常時(計画被ばく状況)においては,身体的障害を起こす可能性のある被ばくがないようにした上で,将来起こるかもしれないがんのリスクの増加もできるだけ低く抑えるように防護の対策を行うこととされている。そのため,放射線や放射性物質を扱う場所を管理することで,一般公衆の線量限度が年間1mSv 以下になるように定めている。また, クの増加もできるだけ低く抑えるように防護の対策を行うこととされている。そのため,放射線や放射性物質を扱う場所を管理することで,一般公衆の線量限度が年間1mSv 以下になるように定めている。また,放射線を扱う職業人には,5年間で 100mSv という線量限度が定められている。【丙共43・152頁】線量限度は,管理の対象となるあらゆる放射線源からの被ばくの合計が,その値を超えないように管理するための基準値である。線量限度を超えなければそれでよいのではなく,防護の最適化によって更に被ばくを下げる努力が求められる。このことから,線量限度はそこまで被ばくしてよいという値ではなく, 安全と危険の境界を示す線量でもないとされる。また,健康診断の際や,医療において患者が受ける医療被ばくには線量限度が適用されない。これは,医療被ばくに線量限度を適用すると,必要な検査や治療を受けられないケースが生じ,患者の便益を損なうおそれがあるためである。【同・159頁】⑵ 緊急時被ばく状況 放射線事故のような非常事態が起こった場合(緊急時被ばく状況)においては,平常時には起こりえない身体的障害の可能性があることから,平常時の対策(将来起こるかもしれないがんのリスクの増加を抑えること)よりも,重大な身体的障害を防ぐための対策を優先することとされている。そのため,緊急時被ばく状況下においては,線量限度は適用せず,一般公衆の場合,年間20 ~100mSv の間の参考レベルを定め,被ばく低減を進めることが定められて いる。緊急措置や人命救助に従事する人の場合,状況に応じて500~1000mSv を制限の目安とすることもあるとされる。【同・152頁】ここでいう参考レベルとは,緊急時被ばく状況下,1人1人が受ける線量がばらついて 救助に従事する人の場合,状況に応じて500~1000mSv を制限の目安とすることもあるとされる。【同・152頁】ここでいう参考レベルとは,緊急時被ばく状況下,1人1人が受ける線量がばらついている状態において,不当に高い被ばくを受ける人がいないようにするため,全体の防護のための方策を考える際に,一定の線量レベルを超えて被 ばくするおそれのある人がいる場合には,それらの人々に重点的に対策を講じることとすべく設定されるその一定の線量レベルのことをいう。このような対策が講じられた結果,集団内の線量分布が改善し,参考レベルよりも高い線量を受ける人がほとんどいない状況が達成されたときには,必要に応じて更に低い参考レベルを設定して線量低減を進めることとなる。このように,状況に合 わせて適切なレベルを設定することで,被ばく低減を効率的に進めることができるとされる。【同・158頁】⑶ 現存被ばく状況緊急時被ばく状況の後,回復・復旧の時期(現存被ばく状況)に入ると,緊急時の参考レベルよりは低く平常時の線量限度よりは高い,年間1~20mSv の間に設定されることもあるとされている。【同・152頁】 2 低線量被ばくについての扱いICRP勧告の目的の一つは,放射線に対する防護体系を構築するための考察や仮定を与えることによって,確定的影響の発生を防止することにある。そこで,確定的影響におけるしきい値の最小値である100mGy(100mSv)近くまで年 間線量が増加した場合には,防護対策を導入すべきと考えられている。 他方,年間線量が約100mSv を下回る場合は,確率的影響のリスクを合理的に達成できる程度に減少させるという勧告の目的の下,確率的影響の発生の増加はバックグラウンド線量(自然放射線による被ばく線量)を超えた放射 が約100mSv を下回る場合は,確率的影響のリスクを合理的に達成できる程度に減少させるという勧告の目的の下,確率的影響の発生の増加はバックグラウンド線量(自然放射線による被ばく線量)を超えた放射線量の増加に比例すると仮定する直線しきい値なしモデル(LNTモデル)が,低線量・ 低線量率での放射線防護の管理に実用的で,予防原則の観点からも相応しいとす る。なお,ICRP勧告の数値上の根拠は,広島・長崎の原爆被爆者のデータに基づいているところ,同データは1回の被ばくによる影響をとりまとめたものであるのに対し,低線量被ばくの問題は,長期間にわたって少量の放射線被ばくが積み重ねられるという差異がある。そこで,ICRP勧告は,約100mSv を下回る低線量領域において,固形がんに対しては,DDREF(「DoseandDoseRate EffectivenessFactor」の略。線量・線量率効果係数。高線量を被ばくした場合のリスクから,実際のデータがない低線量におけるリスクを予想する際,あるいは,急性被ばくのリスクから慢性被ばくや反復被ばくのリスクを推定する際に用いられる補正値。【同・100頁】)を「2」と定めている。このことは,同じ線量を被ばくした場合であっても,少量の放射線被ばくを長期間継続したときには, 1回の被ばくによるときと比べ,確率的影響の出方が2分の1になるという帰結を導くこととなる。その結果,約100mSv を下回る低線量領域において,LNTモデルを仮定すると,がんと遺伝性影響による致死リスクの増加は,1Sv 当たり約5%になると推定している。【同・153頁】第3 放射線防護に関する我が国の諸規制・制度 1 実用発電用原子炉の設置,運転等に関する規則炉規法に基づき定めら の増加は,1Sv 当たり約5%になると推定している。【同・153頁】第3 放射線防護に関する我が国の諸規制・制度 1 実用発電用原子炉の設置,運転等に関する規則炉規法に基づき定められた実用発電用原子炉の設置,運転等に関する規則においては,本件事故当時,「管理区域の周辺の区域であつて,当該区域の外側のいかなる場所においてもその場所における線量が経済産業大臣の定める線量限度を超えるおそれのないもの」を「周辺監視区域」とし(1条2項6号),同区域に ついては,原子炉設置者が「人の居住を禁止すること。」,「境界にさく又は標識を設ける等の方法によつて周辺監視区域に業務上立ち入る者以外の者の立ち入りを制限すること。」の措置を講じなければならないとされていた(8条3号)。 上記「経済産業大臣の定める線量限度」は,「実用発電用原子炉の設置,運転等に関する規則の規定に基づく線量限度等を定める告示」(平成13年経済産業 省告示第187号)3条1項1号において「実効線量については一年間(中略) につき一mSv」とされていた。 なお,緊急時被ばく状況における公衆被ばくの防護については,本件事故当時の我が国では法令上の規定はなく,原子力安全委員会が策定した「原子力施設等の防災対策について」(防災指針)において,屋内退避のための指標としては10~50mSv(外部被ばくによる実効線量)又は100~500mSv(内部被ばく による小児甲状腺等価線量の予測線量),避難のための指標としては50mSv(外部被ばくによる実効線量)又は500mSv 以上(内部被ばくによる小児甲状腺等価線量)が規定されていた【丙A13・22頁】。この点,ICRPが1990年に行った勧告における公衆被ばくに対する線量限度について る実効線量)又は500mSv 以上(内部被ばくによる小児甲状腺等価線量)が規定されていた【丙A13・22頁】。この点,ICRPが1990年に行った勧告における公衆被ばくに対する線量限度について,放射線審議会の意見具申【丙共11】は,「放射線緊急時」における公衆の防護については,「現 行法令では,公衆の防護のための介入レベルについては特に定めていない。」とした上,「取入れに当たっての基本的考え方」として,「介入レベルは法令で規定する性格のものではなく,現行通り防災指針で定めるのが適当である」【同・21~22頁】としていた。 2 放射線障害防止法 放射線同位元素等による放射線障害の防止に関する法律(放射線障害防止法)及び同施行規則は,放射線管理区域(放射線による障害を防止するために設けられる区域)について,「3か月当たり1.3mSv」(年間換算で5.2mSv)を基準としており,また,表面汚染濃度については,1㎡当たり4万Bq が基準とされている。 3 白血病に関する労災認定基準(年間5mSv)白血病に関する労災認定基準では,被ばく線量が年間5mSv を従事年数に乗じた線量を超え,被ばく開始後1年以上を経過して白血病を発症した場合が認定の基準とされている。【乙共195】なお,厚生労働省「電離放射線障害の業務上外に関する検討会」は,上記労災 認定基準の公表に当たり,「放射線被ばくと白血病の労災認定の考え方」と題す る書面を併せて公表した。同書面には「がんに対する約100mSv 以下の低線量の被ばくの影響は他の要因に隠れてしまうほど小さく,健康リスクの明らかな増加を証明することは難しいと国際的に認識されている。また,白血病の発症には様々な要因が関係することから,業務と疾病との間の因果関係を個 の影響は他の要因に隠れてしまうほど小さく,健康リスクの明らかな増加を証明することは難しいと国際的に認識されている。また,白血病の発症には様々な要因が関係することから,業務と疾病との間の因果関係を個々の労働者ごとに認定するのは容易ではない。このため,放射線被ばくによる白血病の労災認 定については,労災制度の趣旨に鑑み,労働者への補償の観点から,労災の認定基準を定め,これに合致すれば,医学検討会の協議を経た上で,業務以外の要因が明らかでない限り,労災として認定することとしている。」,「白血病の労災認定基準は,年間5mSv 以上の放射線被ばくをすれば発症するという境界を表すものではなく,労災認定されたことをもって,科学的に被ばくと健康影響の因果関 係が証明されたものではない。」との記載がある【乙共195】。 第4 本件事故発生前に公表されていた低線量被ばくの健康影響に関する研究報告 1 UNSCEAR(原子放射線の影響に関する国連科学委員会)の報告UNSCEAR(「UnitedNationsScientificCommitteeontheEffectsofAtomicRadiation」の略。原子放射線の影響に関する国連科学委員会)は,電離 放射線の人体と環境への影響に対する懸念に応えるため,昭和30年(1955年)の国連総会で設置された国連委員会であり,加盟国が任命した科学分野の専門家で構成される。 UNSCEARの評価は科学に根ざすものであり,政策そのものを取り扱う組織ではなく,いかなる国,機関,営利団体,また政治的要請にも従うものではな いとされている。 ⑴ UNSCEAR2000年報告UNSCEARは,その2000年報告書の中で,「低線量放射線の生物学的影響」と題する報告を行った。【丙 た政治的要請にも従うものではな いとされている。 ⑴ UNSCEAR2000年報告UNSCEARは,その2000年報告書の中で,「低線量放射線の生物学的影響」と題する報告を行った。【丙共47】同報告書には,以下の趣旨の記載がある。 ヒトが家の中や自然環境中いろいろな仕事場で電離放射線をあびる場合大 多数の場合,最も懸念されることは低線量や低線量率で被ばくする結果である。 放射線防護の目的から放射線被ばく後のがんや遺伝性疾患の発病期待率は,現在それらの誘発頻度が放射線の線量に比例して増加するという仮説に基づいて出されている。各国々や国際機関は低線量の電離放射線被ばくによるリスク評価に,直線しきい値無しの線量-反応関係を一般的に用いている。この仮説 は,がんのリスクは被ばくの増加とともに(直線状に)増加ししきい値はない,つまりそれ以下ではリスクが絶対に無いという線量は無い,ということを意味している。今のところはまだこれに関する決定的な実験データは無い。 ⑵ UNSCEAR2010年報告UNSCEARは,その2010年報告書の中で,「低線量放射線の健康影 響の要約」と題する報告を行った。【丙共32】同報告書には,以下の趣旨の記載がある。 本委員会は,受けた放射線量とがん誘発リスクの関係,つまり線量反応関係を調べるために疫学データを用いてきた。過剰相対リスクとは,一定の放射線量による研究対象集団におけるがんリスクの増加の大きさの指標の一つ(数字 が大きいほどリスクが高いことを示す)である。全ての固形がんを一括したものについての日本の原爆被爆者からのデータは,この関係を最も明確に説明している。同データにより示される,低線量における死亡率に対する線量反応関係は,直線と曲線の両方の関数によって 形がんを一括したものについての日本の原爆被爆者からのデータは,この関係を最も明確に説明している。同データにより示される,低線量における死亡率に対する線量反応関係は,直線と曲線の両方の関数によって記述することができる。統計学的に有利なリスク上昇は100-200mGy 又はそれ以上で観察される。疫学研究だ けでは,これらのレベルを大きく下回る場合の有意なリスク上昇を同定することはできそうにない。放射線被ばくによるがん誘発の生涯リスクの総合的推定値を,全ての有益な研究から引き出すことは複雑な過程である。本委員会は,この問題に取り組むために世界の異なる地域からの5集団におけるがんの自然発生率のデータとともに数学的モデルを用いてきたが,これらの推定値に不 確かさが含まれることを十分認識している。放射線誘発致死がんについての本 委員会によるリスク推定値は,年齢によって異なり,若い集団は通常感受性がより高く,子宮内放射線被ばくの研究では,胎児は特に感受性が高いことが示されており,10mGy 及びそれ以上の線量においてリスク上昇が検出されている。 2 放影研(公益財団法人放射線影響研究所)による研究(LSS第13報) 放影研は,その前身は1947年に米国原子力委員会の資金によって米国学士院が設立した原爆傷害調査委員会(ABCC)であり,広島・長崎の原爆被爆者を継続的に大量観察し,定期的にその疫学データに基づく研究結果を発表している。 放影研は,平成15年(2003年),広島・長崎の原爆被爆者の死亡率調査第 13報(LSS第13報)を発表した。【甲共16】同報告書には以下の趣旨の記載がある。 この報告書は,放影研が追跡調査している原爆被爆者集団の死亡率に関する一連の定期報告書の最新版である。この調査集団には個 SS第13報)を発表した。【甲共16】同報告書には以下の趣旨の記載がある。 この報告書は,放影研が追跡調査している原爆被爆者集団の死亡率に関する一連の定期報告書の最新版である。この調査集団には個人線量が推定されている86,572人が含まれ,そのうち60%の個人推定線量は5mSv 以上である。追 跡調査を更に7年間延長し,固形がんとがん以外の疾患による死亡について検討した。47年間の追跡調査期間中,9,335人が固形がんで,31,881人ががん以外の疾患で死亡しており,固形がんによる死亡の19%,及びがん以外の疾患による死亡の15%が,今回延長した7年間の追跡調査期間中に発生した。 約440例(5%)の固形がんによる死亡と250例(0.8%)のがん以外の 疾患による死亡が,放射線被曝に関連していると考えられる。固形がんの過剰リスクは,0-150mSv の線量範囲においても線量に関し線形であるようだ。放射線に関連した固形がんの過剰率は調査期間中を通して増加したが,新しい所見として,相対リスクは到達年齢とともに減少することが認められ,また,以前述べたように,子どもの時に被爆した人において相対リスクは最も高い。 3 フランス医学アカデミー及び科学アカデミーの見解 2005年,フランス医学アカデミー及び科学アカデミーは,共同で,一定の線量より低い被ばくでは,がん,白血病等は実際には生じず,LNTモデルは現実に合わない過大評価であるとの見解を発表した。 【丙共43・154頁】 4 米国科学アカデミー研究審議会(NAS―NRC)の報告(BEIRⅦ) 米国科学アカデミー研究審議会が設置した電離放射線の生物影響に関する委員会(BEIR委員会)は,2006年,低線量電離放射線の健康影響に関する報告(以下「BEI NRC)の報告(BEIRⅦ) 米国科学アカデミー研究審議会が設置した電離放射線の生物影響に関する委員会(BEIR委員会)は,2006年,低線量電離放射線の健康影響に関する報告(以下「BEIRⅣ」という。)を公表した。同報告においては,同委員会が,最近の科学的根拠により,電離放射線の被ばくとヒトのがん発生との関係が線形でしきい値のない線量反応関係にあるという仮説で一致していることを結 論づけたとされている。 【甲共113の2・8頁】 5 いわゆるプレストン論文プレストン(DaleL.Preston)ら研究者グループは,2007年,放射線に起因するがんリスクを定量化すること,線量反応の形状を検討すること,年齢・時 間・性などの因子によりリスクがどのように修飾されるかを評価することなどを目的として,原爆被爆者における固形がん罹患率を調査した結果を「原爆被爆者における固形がん罹患率,1958-1998年」と題して報告した(以下「プレストン論文」という。)。【甲共113の3】同論文には以下の趣旨の記載がある。 5-200mGy の線量域では放射線に関連するがんの症例数が多い。1Gy 以上の線量では,被爆者に認められるがん症例の半分近くが放射線被ばくに関連していた。固形がん全体について見た場合,荷重結腸線量を代表的線量として用いると,線形の線量反応が認められた。0-0.15Gy の線量域では統計的に有意な線量反応傾向が認められ,これは全線量域について推定された傾向に類似してい た。 第5 本件事故を受けたICRPの声明発表平成23年3月21日,ICRPは,本件事故を受けて声明を発表した。【乙共46】同声明には,「委員会は,緊急時および現存被ばく状況(事故による汚染で既に放射線源が 故を受けたICRPの声明発表平成23年3月21日,ICRPは,本件事故を受けて声明を発表した。【乙共46】同声明には,「委員会は,緊急時および現存被ばく状況(事故による汚染で既に放射線源が存在している状況)の放射線に対する防護が十分に保証されるために,最適化と参考レベルをこれまでの勧告から変更することなしに用いる ことを勧告します。」,「緊急時に公衆の防護のために,委員会は,国の機関が,最も高い計画的な被ばく線量として20~100mSv の範囲で参考レベルを設定することをそのまま変更することなしに用いることを勧告します。」,「放射線源が制御されても汚染地域は残ることになります。国の機関は,人々がその地域を見捨てずに住み続けるように,必要な防護措置をとるはずです。この場合に,委 員会は,長期間の後には放射線レベルを1mSv/年へ低減するとして,これまでの勧告から変更することなしに現時点での参考レベル1mSv/年~20mSv/年の範囲で設定することを用いることを勧告します。」との記載がある。 第6 低線量被ばくWG(低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ)の報告 本件事故による放射性物質汚染対策において,低線量被ばくのリスク管理を適切に行うため,平成23年11月,政府の要請により,内閣官房の放射性物質汚染対策顧問会議の下に,低線量被ばくWG(低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ)が設置され,低線量被ばくと健康影響に関する国内外の科学的知見の整理等が行われた。同年12月22日,低線量被ばくWGは,議論の 結果を取りまとめた報告書(低線量被ばくWG報告書)【乙共4】を公表した。 低線量被ばくWG報告書には,以下の趣旨の記載がある。 ① 国際的な合意に基づく科学的知見によれば,放射線 ,議論の 結果を取りまとめた報告書(低線量被ばくWG報告書)【乙共4】を公表した。 低線量被ばくWG報告書には,以下の趣旨の記載がある。 ① 国際的な合意に基づく科学的知見によれば,放射線による発がんリスクの増加は,100mSv 以下の低線量被ばくでは,他の要因による発がんの影響によって隠れてしまうほど小さく,放射線による発がんのリスクの明らかな増加を 証明することは難しい。【19頁】 2009年の死亡データによれば,日本人の約30%ががんで死亡している。 広島・長崎の原爆被爆者に関する調査の結果にDDREF(線量・線量率効果係数)2を適用すれば,長期間にわたり100mSv を被ばくすると,生涯のがん死亡のリスクが約0.5%増加すると試算されている。他方,我が国でのがん死亡率は都道府県の間でも10%以上の差異がある。 放射線の健康へのリスクがどの程度であるかを理解するため,放射線と他の発がん要因等のリスクとを比較すると,例えば,喫煙は1000~2000mSv,肥満は200~500mSv,野菜不足や受動喫煙は100~200mSv のリスクと同等とされる。 被ばく線量でみると,例えばCTスキャンは1回で数mSv の放射線被ばくを 受ける。重症患者では入院中に数回のCTスキャンを受けることも決して稀ではない。 また,東京-ニューヨーク間の航空機旅行では,高度による宇宙線の増加により,1往復当たり0.2mSv 程度被ばくするとされている。 自然放射線による被ばく線量の世界平均は年間約2.4mSv であり,日本平 均は年間約1.5mSv である。このうち,ラドンによる被ばく線量は,UNSCEARの報告によれば,世界の平均は年間1.2mSv,変動幅は年間0.2~10mSv と推定されているが,日本 平 均は年間約1.5mSv である。このうち,ラドンによる被ばく線量は,UNSCEARの報告によれば,世界の平均は年間1.2mSv,変動幅は年間0.2~10mSv と推定されているが,日本の平均値は年間0.59mSv である。 クロロホルムは,水道水中に含まれ発がん性が懸念されているトリハロメタン類の代表的な物質であるが,平均して1日に2リットルの水道水を飲用し続 けたとしても発がんのリスクは0.01%未満であり,懸念されるレベルではない,と評価されている。100mSv の放射線被ばくによる発がんのリスク(例えば長期間100mSv 被ばくした場合の生涯のがん死亡の確率の増加分,約0. 5%)は,このクロロホルム摂取による発がんのリスクよりは大きい。 以上のような状況を踏まえると,放射線防護上では,100mSv 以下の低線 量であっても被ばく線量に対して直線的に発がんリスクが増加するという考 え方は重要であるが,この考え方に従ってリスクを比較した場合,年間20mSv被ばくすると仮定した場合の健康リスクは,例えば他の発がん要因(喫煙,肥満,野菜不足等)によるリスクと比べても低く,放射線防護措置に伴うリスク(避難によるストレス,屋外活動を避けることによる運動不足等)と比べられる程度であると考えられる。【11頁~】 ② しかしながら,放射線防護の観点からは,100mSv 以下の低線量被ばくであっても,被ばく線量に対して直線的にリスクが増加するという安全サイドに立った考え方に基づき,被ばくによるリスクを低減するための措置を採用するべきである。 現在の避難指示の基準である年間20mSv の被ばくによる健康リスクは,他 の発がん要因によるリスクと比べても十分に低い水準である。放射線防護の観点からは,生活 措置を採用するべきである。 現在の避難指示の基準である年間20mSv の被ばくによる健康リスクは,他 の発がん要因によるリスクと比べても十分に低い水準である。放射線防護の観点からは,生活圏を中心とした除染や食品の安全管理等の放射線防護措置を継続して実施すべきであり,これら放射線防護措置を通じて,十分にリスクを回避できる水準であると評価できる。また,放射線防護措置を実施するに当たっては,それを採用することによるリスク(避難によるストレス,屋外活動を避 けることによる運動不足等)と比べた上で,どのような防護措置をとるべきかを政策的に検討すべきである。 こうしたことから,年間20mSv という数値は,今後より一層の線量低減を目指すに当たってのスタートラインとしては適切であると考えられる。 なお,現在の避難区域設定の際には,放射能の自然減衰を考慮に入れない等, 安全側に立って被ばく線量の推計を行ったこともあり,実際の被ばく線量は年間20mSv を平均的に大きく下回ると評価できる。 【19頁~】③ 子ども・妊婦の被ばくによる発がんリスクについても,成人の場合と同様,100mSv 以下の低線量被ばくでは,他の要因による発がんの影響によって隠 れてしまうほど小さく,発がんリスクの明らかな増加を証明することは難しい。 一方,100mSv を超える高線量被ばくでは,思春期までの子どもは,成人よりも放射線による発がんのリスクが高い。 こうしたことから,100mSv 以下の低線量被ばくであっても,住民の大きな不安を考慮に入れて,子どもに対して優先的に放射線防護のための措置をとることは適切である。ただし,子どもは,放射線を避けることに伴うストレス 等に対する影響についても感受性が高いと考えられるため,きめ細か に入れて,子どもに対して優先的に放射線防護のための措置をとることは適切である。ただし,子どもは,放射線を避けることに伴うストレス 等に対する影響についても感受性が高いと考えられるため,きめ細かな対応策を実施することが重要である。 【20頁】④ 放射線防護のための数値については,科学的に証明されたものか,政策としてのものか理解していただくことが重要である。チェルノブイリでの経験を踏 まえれば,長期的かつ効果的な放射線防護の取組を実施するためには,住民が主体的に参加することが不可欠である。このため,政府,専門家は,住民の目線に立って,確かな科学的事実に基づき,わかりやすく,透明性をもって情報を提供するリスクコミュニケーションが必要である。 【20頁】 第7 本件事故を契機とする国際機関による低線量被ばくの健康影響に関する研究報告 1 UNSCEARによる研究報告⑴ UNSCEAR2013年国連総会報告書【乙共55】 UNSCEARは,平成25年10月の国連総会への年次報告書において,本件事故による放射性物質の拡散,住民・労働者の被ばく線量及び健康影響等について,80名を超える国際的科学者の専門的知見を踏まえ,2年以上をかけて検討を行った本件事故の放射線影響の評価結果を発表した(以下「UNSCEAR2013年国連総会報告書」という。)。 UNSCEAR2013年国連総会報告書では,本件事故の放射線影響評価 について,概要,以下のとおりの報告がなされている。 ① 本件事故後1年間の実効線量の推計値(大人)は,避難した住民(主に避難前又は避難中の被ばく)は10mSv 以下,そのうち,平成23年3月12日の早いうちに避難したケースでは約5mSv 以下,福島市の住民は約4mSvであ 線量の推計値(大人)は,避難した住民(主に避難前又は避難中の被ばく)は10mSv 以下,そのうち,平成23年3月12日の早いうちに避難したケースでは約5mSv 以下,福島市の住民は約4mSvである(1歳の乳児の実効線量は大人の約2倍)。 なお,上記被ばく線量の推計は,実測値と比べてそれぞれ3~5倍及び10倍大きいため,本報告書の推計は,実際より過大である可能性があると同委員会は評価している。 ② 本件事故による放射線被ばくによる死亡あるいは急性の健康影響はない。 ③ モデルによる線量推計結果及び実測値を踏まえると,住民及びその子孫に おいて本件事故による放射線に起因する健康影響については増加が認められる見込みはない。最も重要な健康影響は,心理的あるいは社会福祉的なものであるが,同委員会の権限外。 ④ 県民健康管理調査における甲状腺検査において,嚢胞,結節,がんの発見率の増加が認められるが,これは高い検出効率によるものと見込まれる。本 件事故の影響を受けていない地域において同様の手法を用いて検査を行った結果(環境省において,福島県外の3か所〈青森県,山梨県,長崎県〉において実施した甲状腺検査においては,嚢胞及び結節の発見率は,福島県における甲状腺検査と同様の頻度だった。)から,福島県の子どもの間で見つかっている発見率の増加については,放射線の影響とは考えにくいと示唆さ れる。 ⑵ UNSCEAR2013年福島報告書UNSCEARは,平成26年4月2日,2013年国連総会報告書を実証する科学的附属書A「2011年東日本大震災後の原子力事故による放射線被ばくのレベルと影響」を公開した(以下「UNSCEAR2013年福島報告 書」という。)。【乙共83】同報告書には以下の趣旨の記載がある。 年東日本大震災後の原子力事故による放射線被ばくのレベルと影響」を公開した(以下「UNSCEAR2013年福島報告 書」という。)。【乙共83】同報告書には以下の趣旨の記載がある。 ① 避難者及び避難区域以外で事故の影響を最も受けた地域の集団の最初の1年間における平均実効線量は,成人で約1~10mSv,1歳児ではその約2倍になると推定された。リスクモデルを使用して推論した場合,この程度の線量でもがんのリスクがわずかに上昇することが示唆されるが,一般的な集団における事故の放射線被ばくによる疾患発生率の全体的な上昇は,日本 人の基準生涯リスク(あらゆる固形がんにおいて平均35%であるが,性別,生活習慣や他の要因によって個人差がある)に対して検出するには小さ過ぎる。 ② 上記のとおりであるにしても,これまでの経験では,特定の集団(特に胎児としての被ばく後,あるいは乳幼児期・小児期の被ばく後)における特定 のがんの相対リスクは,集団の平均よりも高くなる。 ③ 甲状腺がんについて,幼少期・小児期において放射性ヨウ素に被ばくした後,人生の後年に生じる甲状腺がんは,前述の点でおおいに関係がある。予防的避難を行った集団の地区平均甲状腺吸収線量は,1歳児の場合最大で約80mGy になると推定された。平均の推定には不確かさが伴っており,線量 がさらに高かった可能性もあるが,体外計測による甲状腺モニタリングのデータは,平均甲状腺吸収線量が最大で5倍程度高く推定されている可能性があることを示唆している。線量のほとんどは放射線被ばくによる甲状腺がんの過剰発生率を確認できないレベルであった。しかし,そのなかで上限に近い甲状腺吸収線量では,十分に大きな集団において識別可能な甲状腺がんの 発生率上昇をもたらす可能性がある くによる甲状腺がんの過剰発生率を確認できないレベルであった。しかし,そのなかで上限に近い甲状腺吸収線量では,十分に大きな集団において識別可能な甲状腺がんの 発生率上昇をもたらす可能性がある。幼少期及び小児期により高い甲状腺線量に被ばくした人々の間で甲状腺がん発生率が上昇するかどうかを見極めるという点に関して本委員会が確固たる結論を導くには,線量分布に関する情報が充分ではなかった。 本件事故後の甲状腺吸収線量がチェルノブイリ事故後の線量よりも大幅 に低いため,福島県でチェルノブイリ原発事故の時のように多数の放射線誘 発性甲状腺がんが発生するというように考える必要はない。 ④ 白血病について,本委員会は胎児及び幼少期・小児期に被ばくした人の白血病のリスクを検討した。また,特に若年期に被ばくした人の乳がんのリスクも検討した。 評価された線量と利用可能なリスク推定に基づき,本委員会は,当該集団 でのかかる疾患の発生率が識別可能なレベルで上昇するとは予測していない。 本委員会は妊娠中の被ばくによる自然流産,流産,周産期死亡率,先天的な影響,又は認知障害が増加するとは予測していない。さらに,本委員会は本件事故で被ばくした人の子孫に遺伝的な疾患が増加するとも予測してい ない。 ⑤ 福島県民の長期的な健康状態を確認し(妊娠や出産に関する調査を含む),今後の健康で安心な生活を促進すると同時に,長期的な低線量放射線被ばくが予期できない健康影響をもたらすことがないかを調べるため,約200万人の住民を対象とした福島県民健康管理調査が開始された。2011年3月 11日に18歳以下だった福島県の子供全員(約36万人)に対して甲状腺超音波検査が行われ,3年以内に完了する予定である(2014年3月まで)。 福島県での 管理調査が開始された。2011年3月 11日に18歳以下だった福島県の子供全員(約36万人)に対して甲状腺超音波検査が行われ,3年以内に完了する予定である(2014年3月まで)。 福島県での継続的な超音波検査により,比較的多数の甲状腺異常が見つかったが,これは本件事故の影響を受けていない地域での類似した調査に一致している。福島県での継続的な超音波検査では,このような集中的検診がなけ れば通常は検出されなかったであろう甲状腺異常(多数のがん症例を含む)が比較的多数見つかると予測されている。事故の影響を受けていない地域における集団の甲状腺がん発生率の調査は,そのような集中的な検診の影響を推定するのに有用な情報を提供するだろう。 【乙共83・58頁~】 ⑶ UNSCEAR2015年報告書 平成27年(2015年),UNSCEARは,「東日本大震災後の原子力事故による放射線被ばくのレベルと影響に関するUNSCEAR2013年報告書刊行後の進展」と題する白書を公表した。(以下「UNSCEAR2015年報告書」という。)【乙共84】 同報告書には,以下の趣旨の記載がある。 ① UNSCEAR2013年福島報告書に対する反応は概して肯定的なものだった。しかしながら,いくつかの批判も公表されている。本附録(注:乙共84の附録A.〈27頁〉)は,これらの批判における共通のテーマに対する本委員会の見解を記載したものであり,その目的は,UNSCEAR2 013年福島報告書の範囲,目的,知見について,よりよい理解を促すことにある。 【27頁】② UNSCEAR2013年福島報告書は,胎児の線量とその影響を明確に評価していないとして批判されている。 本委員会は,胎児の線量を明示的に推定しては を促すことにある。 【27頁】② UNSCEAR2013年福島報告書は,胎児の線量とその影響を明確に評価していないとして批判されている。 本委員会は,胎児の線量を明示的に推定してはいないが,その規模についての目安を示している。胎児の線量については,線量が明示的に評価されている他の年齢層(成人,小児,乳幼児:1歳の乳幼児が5歳未満の乳幼児全体を代表するものとして採用されている)の線量と類似しているため,これで十分だと考えられた。本委員会は,外部被ばくによる胎児の線量は成人と 同程度であり,内部被ばくによる線量は3つの主要な年齢層で推定されている線量よりも低いか,その範囲内であると判断している。 推定された線量がもたらす健康影響を考察するに当たり,本委員会は,特定の集団群(特に胎児期に被ばくした後あるいは乳幼児期・小児期に被ばくした後)における相対的なリスクが全集団の平均よりも高いことを認識し, 妊娠中に胎児として被ばくした集団のリスクを検討した。 【30頁】③ UNSCEAR2013年福島報告書は,作業者や公衆において,放射線被ばくによって将来識別可能なレベルで健康への影響が増すとは予測されないとしたことで批判されている。一部の批判者は,リスクの「識別可能な上昇はない」という考え方は公衆衛生の観点から有効でなく,放射線が害を もたらさないレベルのしきい値などないという国際的な科学的コンセンサスに一致しないと主張している。同時に,本委員会に対する批判には,自宅に戻ってもがんのリスクは上昇しないと本委員会が福島県民に対して断固とした無条件の声明を出し,そのことでしきい値なし直線モデルの使用とそれに基づく安全な線量などないという主張がもたらす「破滅的な結果」に打 ち勝つべきだという要 本委員会が福島県民に対して断固とした無条件の声明を出し,そのことでしきい値なし直線モデルの使用とそれに基づく安全な線量などないという主張がもたらす「破滅的な結果」に打 ち勝つべきだという要求もある。 UNSCEAR2013年福島報告書には,福島第一原発事故による電離放射線の被ばくの即時及び長期的な健康への影響に関する見解が含まれている。本委員会は,独自の線量推定,電離放射線への被ばくによる疾病リスクの独自の推定及びWHO報告書の結果に基づき,様々な被ばくグループの メンバーについて被ばくによるリスクを推定している。本委員会の見解は,将来の疾病統計情報で観察できるか否か不明である被ばく集団内の潜在的な疾病の発生について,定性的及び定量的な推定を考慮している。福島第一原発事故の結果被ばくした人数を考慮に入れた,疾病の発生率の上昇を検知するための疫学的調査の検出力についての分析が,本白書の電子版補足資料 1に掲載されている。 本委員会は,現在利用可能な方法では,将来の疾病統計において被ばくによる発生率の上昇(すなわち疾病発生頻度の上昇)を証明できない可能性が高いという考えを示すために「識別可能な上昇なし」という表現を使用している。UNSCEAR2013年福島報告書では,この表現が,リスクがな いとする,あるいは被ばくによる疾患の症例が今後付加的に生じる可能性を 排除するものではないと同時に,特定の集団においてある種のがんの生物学的な指標が見つかる可能性を否定するものではなく,さらに,かかる症例に伴う苦痛を無視するものでもないと明記している。 本委員会は,科学のみを扱う組織であり,この科学をもとに公衆衛生に係る方針を策定する権限はない。公衆衛生当局が,影響が観られるレベルより もかなり低い線量に 視するものでもないと明記している。 本委員会は,科学のみを扱う組織であり,この科学をもとに公衆衛生に係る方針を策定する権限はない。公衆衛生当局が,影響が観られるレベルより もかなり低い線量において,ある種の仮定に基づいてリスクを計算している可能性があることを本委員会は認識している。 【31頁~】④ UNSCEAR2013年福島報告書は,福島県で行われた健康調査において,明らかに高い率で甲状腺異常が見つかっていることについての議論に 不備があるとして批判されている。特に,ウクライナ人のコホート(共通の因子をもつ構成員から成る観察対象集団)と,事故の影響をそれほど受けていない県で実施された調査の結果の比較に基づく「保証」が問題視されている。 UNSCEAR2013年福島報告書において,本委員会は,放射線被ば くに起因する甲状腺がんについて,線量が推定された範囲の上限に近い場合は,十分に大きな集団における個人のリスクが上昇することにより発生率が識別可能な程度に上昇する可能性があると結論づけている一方,公衆の甲状腺吸収線量のほとんどが疫学的研究で甲状腺がんの過剰な発生率が観察されていない程度の範囲に収まっているとしている。結論として,本委員会は, 線量が大幅に低いため,チェルノブイリ事故後に観察されたような多数の放射線誘発甲状腺がんの発生を考慮にいれることはないと述べている。 本委員会は何の「保証」も提供してはいない。当時,福島県で住民を対象に行われた甲状腺超音波検査から入手できた情報を検討し,甲状腺結節が調査対象者の約1%,甲状腺嚢胞は調査対象者の約40%で見つかったことを 認識するに至った。さらに,本委員会は,類似した機器を使用して事故の影 響をほとんど受けていない県で行われた調査では,観 約1%,甲状腺嚢胞は調査対象者の約40%で見つかったことを 認識するに至った。さらに,本委員会は,類似した機器を使用して事故の影 響をほとんど受けていない県で行われた調査では,観察された甲状腺結節と嚢胞の有病率が更に高いことに注目し,集中的な検診と感度の高い機器の使用が結節と嚢胞の高い検出率の原因であることを示唆している。剖検所見によれば,一部のタイプの無症候性甲状腺がん(潜伏状態だが調査を実施した場合は検出可能)の有病率は世界の多くの地域で35%に達する可能性があ る。この解釈は,ごく最近明らかになった証拠でも裏付けられている。 【33頁】 2 世界保健機関(WHO)による線量推計及び健康リスク評価の報告書世界保健機関(WHO)は,2012年5月及び2013年2月,本件事故直後の1年間における住民の被ばく線量を推計し,緊急対策が必要となる地域を特 定することを目的として,被ばく線量評価報告書及び健康リスク評価報告書を相次いで公表した(WHO報告書)。 同報告においては,①福島県,②福島県の近隣5県(千葉県,群馬県,茨城県,宮城県及び栃木県)並びに③その他の道府県の3区分の住民を対象に,地面からの外部被ばく,放射性プルーム(雲)からの外部被ばく,吸入摂取による内部被 ばく及び経口摂取による内部被ばくの4経路を想定して,被ばく線量の推計が行われた。そして,その推計値を合計して住民の被ばく線量が算出されることとなるが,その際,評価が過小となることを避けるために,計画的避難,屋内退避,食品流通制限等の防護対策をとらなかったとの保守的な条件を設定した(ただし,外部被ばくの推計では,1日のうち16時間を屋内で過ごすとして,終日屋外に いた場合の60%程度の被ばく量と仮定)。また,リスク評価に当たって をとらなかったとの保守的な条件を設定した(ただし,外部被ばくの推計では,1日のうち16時間を屋内で過ごすとして,終日屋外に いた場合の60%程度の被ばく量と仮定)。また,リスク評価に当たっては,放射線発がんにはしきい線量がないものとし,DDREF(線量・線量率効果係数)はこれを1とした。 その結果,住民の被ばく線量は,あらゆる確定的影響のしきい値を下回っていること,被ばく線量が最も高かった地域においても,小児甲状腺がんを含む,が ん・白血病のリスクの増加は小さく,自然のばらつきを超える発生は予想されな いこと,被ばくによる遺伝性影響のリスクは,がんのリスクよりもはるかに小さいこと,結果として,放射線に関連する疾患の過剰発症を検出できるレベルではないこと,なお,本報告書にあるリスクの数値は,リスクの程度を大まかに把握するためのものであり,将来の健康影響を予測するものではないことなどが報告された。 【丙共43・177頁~】第8 本件事故後に発表された低線量被ばくの健康影響に関する研究報告(本件事故を契機としないもの) 1 小児期のCTスキャン実施による健康影響の疫学的調査⑴ RadiationexposurefromCTscansinchildhoodandsubsequentriskof leukaemiaandbraintumours:aretrospectivecohortstudy-小児期のCTスキャンからの放射線被ばく,ならびにその後の白血病及び脳腫瘍のリスク:後ろ向きコホート研究同研究は,イングランド,ウェールズ,スコットランドの国民保険サービス(NationalHealthService)センターでの1985年から2002年までの 間 後ろ向きコホート研究同研究は,イングランド,ウェールズ,スコットランドの国民保険サービス(NationalHealthService)センターでの1985年から2002年までの 間に,22歳未満で初めてCT検査を受け,それまでにがんの診断歴がなかった被験者約18万人についての疫学調査であり,2012年8月に医学雑誌「TheLancet」に発表された。 これによると,追跡期間中に患者17万8604例中74例が白血病と診断され,17万6587例中135例が脳腫瘍(脳のがん)と診断され,CTス キャンからの放射線量と白血病及び脳腫瘍の間に正の相関関係(放射線量の増加とともに発症が増加する-線量反応関係)が認められたとされる。 その結果,5mGy 未満の線量を受けた患者と比較して,累積線量30mGy 以上(平均線量51.13mGy)を受けた患者での白血病の相対リスクは3.18,累積線量50-74mGy(平均線量60.42mGy)を受けた患者での脳腫 瘍(脳がん)の相対リスクは2.82であった。このことから,約50mGy 以 上の累積線量を照射するCTスキャンを小児に用いると,白血病のリスクはほぼ3倍となり,およそ60mGy の線量では脳腫瘍(脳がん)のリスクが3倍になるであろうとされている。 【甲共17の各枝番】⑵ 「MathewsJD,ForsytheAV,BradyZ,ButlerMW,GoergenSK, ByrnesGB,Giles GG,WallaceAB,AndersonPR,GuiverTA,McGaleP,CainTM,DowtyJG,BickerstaffeAC,DarbySC.-小児期あるいは青年期にコンピュータ断層撮影(CTスキャン PR,GuiverTA,McGaleP,CainTM,DowtyJG,BickerstaffeAC,DarbySC.-小児期あるいは青年期にコンピュータ断層撮影(CTスキャン)を受けた68万人のがんのリスク:オーストラリア人1100万人のデータリンケージ研究」同研究論文は,オーストラリアにおいて,0歳から19歳で「がん」と診断 される1年以上前にCTスキャンを受けた68万0211人について平均9. 5年間,検査を受けなかった1025万9469人については17.3年間,追跡調査を行い発がん率について比較検討を行った研究に関する論文であり,2013年5月にイギリス医師会雑誌BMJ(BritishMedicalJournal)に発表されたものである。 同論文においては,0歳から19歳の期間中にCTスキャンを受けたことのある60万人のオーストラリア人のがん罹患率は,同期間中にCTスキャンを受けたことのないものの罹患率と比較して24%上昇すること,1回のCTスキャンの平均被ばく線量は4.5mSv であり,検査回数が増えるとそれに比例して発がん率も増加していることなどが報告された。 そして,結論として「今後CTスキャンを実施する際には,明確な臨床適用がある場合にのみ限定して実施すべきであり,可能な限り最小の放射線量で診断CTイメージが得られるよう,スキャンの至適化を行う必要がある」との指摘がなされている。 【甲共99の各枝番】 2 放影研による研究(LSS第14報) 前記第4,2[❷-272 頁]のとおり,放影研は,広島・長崎の原爆被爆者の集団である寿命調査集団(LSSコホート)での死亡状況に関して定期的に調査結果を報告していたものであるが,2013年6月,1950年から [❷-272 頁]のとおり,放影研は,広島・長崎の原爆被爆者の集団である寿命調査集団(LSSコホート)での死亡状況に関して定期的に調査結果を報告していたものであるが,2013年6月,1950年から2003年までの期間中の調査結果を「原爆被爆者の死亡率に関する研究第14報」と題して発表した(LSS第14報)。 【甲共4の各枝番】⑴ LSS第14報の内容LSS第14報には以下の趣旨の記載がある。なお,以下の①ないし③は,本文のうち「考察」の項,すなわち,同研究の取りまとめ部分として記載されたものであるのに対し,以下の④は,本文中の記載であって,「考察」の項には 引用されていない。 ① 今回の調査データは,全固形がんの死亡リスクが被爆者の生涯を通じて放射線量にほぼ比例して増加し続けることを示した。被爆時年齢及び到達年齢による影響修飾を含むモデルに基づいた,被爆時年齢30歳の人の70歳における1Gy 当たりの男女平均の全固形がんの相対過剰死亡割合は42%で あった。同じ条件下での全固形がんの男女平均の過剰死亡率は1Gy 当たり26/10,000人年であった。次に重要な調査結果は,若年被爆者の方ががん死亡の相対リスクが高いことである。例えば,被爆時年齢が10歳の人では70歳での固形がん死亡の男女平均の過剰相対リスク(放射線被ばくを受けた場合の死亡率(又は罹患率)の,被ばくを受けなかった場合の死亡率 (又は罹患率)に対する増加分を示す指標。ERR(「ExcessRelativeRisk」の略)【甲共113の8・42頁】)は0.83であったが,被爆時年齢が40歳の人では当該過剰相対リスク(ERR)は0.30であった。固形がんにおいては,相対リスクは到達年齢及び被爆後経過時間の増加と共に減少した。ただし,過剰絶 】)は0.83であったが,被爆時年齢が40歳の人では当該過剰相対リスク(ERR)は0.30であった。固形がんにおいては,相対リスクは到達年齢及び被爆後経過時間の増加と共に減少した。ただし,過剰絶対率は到達年齢に伴って増加し続け,到達年齢が同じ場 合には若年被爆者の方が高かった。このような調査結果は,恐らく被爆時に 発がんのイニシエーション段階において若年者の方が年齢の高い人よりも放射線に対する感受性が高いことを示唆しており,若年被爆者において生涯リスクの全体的増加が認められることを示している。 【甲共4の3・15頁】② この調査では,全線量範囲にわたり,線形線量反応関係モデルが固形がん データに最もよく当てはまったが,0-2Gy の線量範囲で有意な上向き曲率が認められ,これは以前の報告書でも示唆されていた。DDREF(線量・線量率効果係数)は,低線量での非線形関数の傾きを全線量範囲に基づくしきい値をもたない外挿された線形関数の傾きで割って得られるので,この上向きの曲率はDDREF(線量・線量率効果係数)が1以上であることを暗 示するかもしれない。しかし,線量反応曲線の傾きは,全線量範囲あるいは0-2Gy の場合よりも,0.1Gy 未満の線量で名目上高い。この上向きの曲率は,0.3-0.7Gy の線量範囲におけるリスクが期待されたレベルよりも比較的低いことに関連していると思われるが,この結果については現在説明がなされていない。最近の論文で,低線量率・中程度線量被爆(大部分 が外部被曝)に関する12の調査におけるがん死亡・罹患リスクとLSSにおけるこれらのリスクとが比較された。各調査における線量当たりの過剰相対リスク(ERR)は,LSSと同じ男女分布,平均被曝時年齢及び平均到達年齢を用いて計算され おけるがん死亡・罹患リスクとLSSにおけるこれらのリスクとが比較された。各調査における線量当たりの過剰相対リスク(ERR)は,LSSと同じ男女分布,平均被曝時年齢及び平均到達年齢を用いて計算された。12の調査で得られた線量当たりの過剰相対リスク(ERR)とLSSで得られた線量当たりの過剰相対リスク(ERR) の比に基づくDDREF(線量・線量率効果係数)期待値は1.0に近いと思われ,BEIRⅦ及びICRPにより示唆された係数よりも名目上低い。 しかし,検討された調査の数は,LSSに合わせた値の計算を可能にする条件で,報告書の出版年が2002-2007年のものに限定されたため,得られた結果にはまだ議論がある。 【甲共4の3・16頁】 ③ 低線量域に認められた単位線量当たりの高いリスクは解釈が難しい。一つの解釈は,長年の追跡調査期間における診断用の医用放射線の累積被曝線量が低線量レベルでは個人の推定原爆放射線量のかなりの割合を占めるに至った,というものである。しかし,過剰相対リスク(ERR)推定値に影響を与えるためには,医用放射線や放射性降下物及び残留放射線を含むその他 の放射線源に,極めて低い線量に被爆した人が選択的に曝露されなければならないはずである。LSS集団においては,ゼロ線量の対象者が爆心地から約4㎞以遠にいたのに対して,線量が50mGy までの対象者は爆心地から約2-4㎞の範囲にいた。したがって,このように広い地理的分布では,付加的放射線源への差異的な被曝は考えにくい。ただし,この可能性を完全に排 除するためには放射性降下物や残留放射線に関する情報が不十分である。 放射線以外に考えられる原因は,調査開始以前に線量と相関関係にある(例えば,被曝線量が市街地にいた人では高く農村部にいた人で 除するためには放射性降下物や残留放射線に関する情報が不十分である。 放射線以外に考えられる原因は,調査開始以前に線量と相関関係にある(例えば,被曝線量が市街地にいた人では高く農村部にいた人では低い)早期死亡例があったために対象者の選択バイアスが生じた,というものである。 遠距離被爆者と比較して,比較的近距離で低線量に被爆した人に低いベース ライン死亡率が示唆されたが,これは,市街地と農村部の差異など社会人口学的因子の方が,線量に基づく選択影響よりも重要であることを示唆している。しかし,長期にわたる日本人の生活習慣の近代化によって社会人口学的因子による選択影響は弱まってきたかもしれない。 【甲共4の3・16頁】 ④ 全固形がんについて有意なERRを示す最も低い線量範囲は0-0.20Gy で,ERR/Gy 推定値は0.56(95%Cl:0.15,1.04,p=0.01)であり,この線量範囲には,9063人の固形がん死亡を含む74,444人が含まれていた。0-0.18Gy の範囲では,ERR/Gy推定値は0.43(95%Cl:-0.0047,0.91,P=0.05 2)であり,8,920人の死亡例が含まれていた。線量しきい値の最大尤 度推定値は0.0Gy で(すなわちしきい値はない),デビアンスを最小化して求めた95%Clの推定上限は0.15Gy であった。 【甲共4の3・11頁】⑵ 放影研の見解放影研は,そのホームページにおいて,「放影研における原爆被爆者の調査 で明らかになったこと」と題する見解【乙共194】を公表したが,同見解には,「放影研における原爆被爆者の疫学調査から明らかになった放射線の長期的な健康影響は,30歳で1Sv(1,000mSv あるいは100万μSv)の放射線に 見解【乙共194】を公表したが,同見解には,「放影研における原爆被爆者の疫学調査から明らかになった放射線の長期的な健康影響は,30歳で1Sv(1,000mSv あるいは100万μSv)の放射線に被曝した場合,男女平均して70歳で固形がん(白血病以外の普通の意味でのがん全体を指します)により死亡する頻度が約1.5倍に増加するとい うことです。このリスクは100-200mSv 以上では放射線の被曝線量に正比例していますが,それ以下ではどういう関係になっているかは分かっていません。」との記載がある。 3 核関連施設従事者に関する研究「RichardsonDB,CardisE,DanielsRD,GilliesM,O’HaganJA,Hamra GB,HaylockR,LaurierD,LeuraudKM,OissonnierM,Schubauer-BeriganMK,Thierry-ChefI,KesminieneA.-電離放射線の職業被ばくから生じるがんのリスク:フランス,英国,米国の労働者の後ろ向きコホート研究(INWORKS)」は,2015年9月にBMJ(BritishMedicalJournal)に発表された,英・米・仏の核関連施設従事者30万8297人を平均26年間追跡調査した研 究報告である。 ここでは,精度は低いとしつつ,0から100mGy の低線量範囲での被ばく線量と,がん死との相関関係(線量反応関係)は,全線量範囲におけるがん死との相関関係と同じであったと報告されている。また,同研究報告では,「新しく得られた知見」として,同じ線量を被ばくしたのであればリスクは線量率に関係し ない,つまり時間をかけてゆっくり被ばくしても(低線量率被ばく),広島・長 た,同研究報告では,「新しく得られた知見」として,同じ線量を被ばくしたのであればリスクは線量率に関係し ない,つまり時間をかけてゆっくり被ばくしても(低線量率被ばく),広島・長 崎の原爆被爆者の被ばくのように全量を一度に被ばくする高線量率被ばくでも,線量が同じであればリスクは変わらないことが指摘されている。 【甲共100の各枝番】第9 低線量被ばくの健康影響に関する専門家の意見本件訴訟に当たり,低線量被ばくの健康影響に関し,多数の専門家から意見が 述べられている。その概要を,健康影響を無視できないとするものと,これに慎重な意見を述べるものとに分類すると,以下のとおりである。 1 低線量被ばくの健康影響を無視できないとするもの⑴ 崎山比早子ア経歴等 崎山比早子は,放射線医学総合研究所研究員として,放射線による試験管内発がんの研究に取り組んだ経験のある医師であり,本件事故に当たっては,国会事故調査委員会委員として議論に参画したものである。 崎山比早子は,本件に関し,意見書を提出するところ,その要旨は以下のとおりである【丙共25,甲共147】。また,崎山比早子は,京都地方裁 判所における本件と同種訴訟の審理において証人として証言するが,その内容も下記と同旨である。【丙共26,28】イ意見の内容(ア) ICRPの勧告についてICRPは,LNTモデルを採用している。これは,ICRP2007 年勧告が,同モデルを採用した根拠として,放射線量評価のための人の解剖学的及び生理学的な標準モデル,分子及び細胞レベルでの研究,動物実験を用いた研究,疫学的研究を利用したと述べるとおり,科学的根拠に基づいたものであって,安全サイドに立った判断ではない。 また,LNTモデルによれば な標準モデル,分子及び細胞レベルでの研究,動物実験を用いた研究,疫学的研究を利用したと述べるとおり,科学的根拠に基づいたものであって,安全サイドに立った判断ではない。 また,LNTモデルによれば,1mSv の被ばくであってもリスクはゼロ でないが,ICRPは,放射線障害と社会的コストとを勘案して,公衆の 年間被ばく線量限度を1mSv としている。したがって,年間1mSv は安全量ではない。 線量・線量率効果係数を2としている点については,WHOや欧州放射線リスク委員会がこれを1としたり,BEIRⅦでは1.5とされるなど異論があり,ICRPの結論はリスクを過小評価している可能性がある。 (イ) 各種の調査報告についてa テチャ川流域住民におけるがん死リスクに関する研究2005年に発表された報告によれば,1950年から1960年の間に,旧ソ連のプルトニウム製造工場から排出された核廃棄物によって長期間にわたり外部及び内部被ばくを受けた住民2万9873人(平均 被ばく線量40mSv)を追跡調査した結果,がん死率が,線形二次よりも線量に比例して直線的に増加する直線モデルにフィットしているとされた。固形がんによる死亡の過剰相対リスクは0.92/Gy であった。 b 15か国核施設労働者におけるがん死リスクに関する研究2007年に発表された報告によれば,15か国の核施設で働く労働 者40万7391人(平均蓄積線量19.4mSv)について,被ばくと種々のがん死リスクの関係について調査したところ,白血病を除く全がん死過剰相対リスクは0.97/Sv であり,特に肺がん死と被ばく線量は統計的には高い相関関係を示し,過剰相対リスクは1.86/Sv であったとされた。 c フランス,イギリス米国の各施 ん死過剰相対リスクは0.97/Sv であり,特に肺がん死と被ばく線量は統計的には高い相関関係を示し,過剰相対リスクは1.86/Sv であったとされた。 c フランス,イギリス米国の各施設労働者を追跡調査した研究前記第8の3に同じ。 d 自然放射線による発がんリスクの増加に関する研究自然放射線による発がんリスクの増加を証明した最近の報告が存在する。とりわけ,2015年に発表されたスイスの国勢調査に基づく自 然放射線と小児がんの関連についての研究は,16歳未満の子ども20 9万3660人を平均7.7年にわたり追跡調査したものであるところ,同報告によれば,ハザード(リスク)比は,全がんにおいて1.04/mSv とされる。この論文で,初めて1mSv という低線量でも有意にがんが増加することが疫学調査で示された。 (ウ) 福島県民健康調査について 同調査において,2011年から2013年までに行われた先行検査は,対象者36万7685名中30万0476人が受診し,そのうち113人が悪性ないし悪性の疑いと診断され,うち99人が手術を受け,良性結節1人を除き甲状腺がんと確定診断された。 小児甲状腺がんの発症率は,通常では多くとも年間100万人に3人と いわれているため,有病率と発症率の違いを考慮しても明らかな多発である。 その後,2014年から始まった2巡目の検査(本格検査)の結果,23万6595人が検査を受け,51人が悪性又は悪性疑いと診断され,16人が手術を受け,全て乳頭がんと確定診断された。 仮に先行検査の結果が,感度の高い機器を使ったことによりがんが前倒しで見つかったもの(スクリーニング効果)であれば,先行検査で悪性の症例が発見され尽くしているため,2巡目の検査では発見数は多くな 仮に先行検査の結果が,感度の高い機器を使ったことによりがんが前倒しで見つかったもの(スクリーニング効果)であれば,先行検査で悪性の症例が発見され尽くしているため,2巡目の検査では発見数は多くならないはずである。しかし,上記のとおり多くの発見例があったことからすれば,先行検査の結果は,スクリーニング効果では説明できないものである。 (エ) まとめ上記によれば,低線量被ばくであっても,その健康影響を無視することはできない。健康被害が分かってからでは遅いのであるから,前もって被爆を避けさせることが行政がまず行うべきことであろう。一旦放出された放射能を消す方法はないので,原告の生活を元どおりに戻すことは不可能 である。したがって,希望する人には避難を認め,その健康と生活を補償 するのが,せめてもの政府と電力会社の責任の取り方である。 ⑵ 聞間元ア経歴聞間元は内科臨床医であり,40年以上にわたって原爆被爆者の診療や健康診断,原爆症認定申請に携わってきたものである。また,1954年のビ キニ環礁での水爆実験で被ばくした「第五福竜丸」元乗組員の健康調査,カザフスタン国内のセミパラチンスク核実験場周辺住民の訪問調査,かつて核実験場が存在していた米国マーシャル諸島住民への訪問調査等にも関与したものである。聞間元は,その意見書【甲共113の1】を提出するほか,本件に関して証人として証言した。同証言の内容は,上記意見書と同旨であ る。 イ意見の内容放射線のリスクは本質的に確率的なものであり,100mSv 以下の低線量であってもその有害性が消滅するわけではなく,ただ現在の科学では十分に見えていないだけである。低線量領域の人体影響に関する科学的な知見が近 年になって数多く集積されており,こう 以下の低線量であってもその有害性が消滅するわけではなく,ただ現在の科学では十分に見えていないだけである。低線量領域の人体影響に関する科学的な知見が近 年になって数多く集積されており,こうした科学的知見を無視することは放射線防護上も将来に禍根を残すことになる。 放射線被ばくには二つの特性がある。一つは,放射線被ばくの人体影響研究が現在進行形であって,いまだ完了していないという未解明性であり,もう一つは,放射線の影響で発症する晩発的影響(がん,心臓疾患等)の病像 に,他の原因,例えば病原体感染や喫煙,有毒物質の影響で生じる同様の病像と明らかに区別される特徴がないという非特異性である。 近年,プレストン論文やLSS第14報をはじめとする各種疫学的研究により,固形がんによる死亡リスクが線形の線量反応関係を示し,定型的な線量解析ではしきい値が認められず,生涯を通じて増加を続けていること,若 年被爆者ほど放射線の影響が大きいことなどが明らかになってきた。これら の知見に照らせば,低線量被ばくWG報告書が,累積100mSv 以下の低線量被ばくでは,他の要因による発がんの影響によって隠れてしまうほど小さいと結論づけていることは,もはや根拠を失っている。低線量被ばくWG報告書は,累積100mSv 以下の低線量被ばくによる発がんリスクは,他の発がん要因(喫煙,肥満,野菜不足等)より低いので許容されるとするが,喫 煙にしても肥満にしても,努力で克服できる可能性があり,まして幼若な子どもには全く無関係な話であって,これを,自己の意思に反した原発事故の被ばくの影響との比較で持ち出す考えは,公衆衛生上最大の弱者である子どもや妊婦への配慮が全く欠けているといわざるを得ない。 放射線の長期的な影響・健康上のリスクは確率的影響 の意思に反した原発事故の被ばくの影響との比較で持ち出す考えは,公衆衛生上最大の弱者である子どもや妊婦への配慮が全く欠けているといわざるを得ない。 放射線の長期的な影響・健康上のリスクは確率的影響であり,被ばく線量 に応じた率で発症する遺伝子変異的な健康影響(主にがん,免疫的異常,遺伝的障害)であって,数十年後になって初めて気付かれる場合もある。こうなると,それまでの長い生活環境での影響と重なり,たとえ疫学的研究の結果で関連があることが示されても周囲の理解を得るのは困難である。 低線量被ばくの人体影響・健康リスクについての国際的な到達点は,疫学 的に一定のリスクがあることが共通認識であり,避難区域外からの避難についても放射線からの安全を確保するという意味での合理的根拠があったというべきである。こうした前提に立って被災者が安心できる社会的支援策,医療体制,健康管理体制が用意されていることが必要である。 2 低線量被ばくの健康影響に慎重な意見を述べるもの(いわゆる連名意見書) 佐々木康人(元UNSCEAR日本代表,元ICRP委員),遠藤啓吾(元日本核医学会理事長),長瀧重信(元放射線影響協会理事長,元放射線影響研究所理事長),甲斐倫明(大分県立看護科学大学教授),宮川清(東京大学医学系研究科教授),井上優介(北里大学医学部教授),柴田義貞(元放射線影響研究所長崎疫学部長),鈴木元(国際医療福祉大学クリニック院長),中川恵一(東京大学准 教授),杉村和朗(神戸大学理事・副学長),小西淳二(京都大学名誉教授),草 間朋子(大分県立看護科学大学名誉学長),山下俊一(長崎大学理事・副学長),酒井一夫(元放射線医学総合研究所放射線防護研究センター長),柴田徳思(元東京大学原子核研究所教授),稲葉次郎 間朋子(大分県立看護科学大学名誉学長),山下俊一(長崎大学理事・副学長),酒井一夫(元放射線医学総合研究所放射線防護研究センター長),柴田徳思(元東京大学原子核研究所教授),稲葉次郎(元放射線医学総合研究所研究総務官,元ICRP委員),嶋昭紘(東京大学名誉教授,元環境科学技術研究所理事長,放射線影響協会非常勤理事)は,連名で,崎山比早子の意見書に反論する形で意 見書(連名意見書)【丙共3】を提出し,概ね以下のとおりの意見を述べている。 また,上記17名のうち佐々木康人,柴田義貞,酒井一夫については,京都地方裁判所における本件と同種の事件において,それぞれ証人尋問が実施されている【丙共22及び31(佐々木康人関係),丙共19及び30の2(柴田義貞関係),丙共17及び29(酒井一夫関係)】が,その趣旨は,連名意見書と同旨である。 ⑴ 低線量被ばくの健康影響全般について放射線被ばくには,高線量でのみ生じる確定的影響と,高線量でも低線量でも線量に応じた確率で起こる確率的影響がある。もっとも,100mSv 以下の低線量域では非被ばく者群との間に統計学的に有意差が認められず,がんの増加は証明されていない。 現時点の国際的なコンセンサスは,100mSv 以下の低線量域においては疫学データの不確かさが大きく,放射線によるリスクがあるとしても,放射線以外のリスクの影響にまぎれてしまうほど小さいため,統計的に有意な発がん又はがん死亡リスクの増加を認めることができない,というものである。 LSSは10万人規模の原爆被爆者の健康調査での結果であるので,例えば 1/10の10mSv の影響を有意の差で検出するためには10万人の100倍(1千万人)程度の被ばく者の調査が必要と推定される。したがって,実際問題として, 康調査での結果であるので,例えば 1/10の10mSv の影響を有意の差で検出するためには10万人の100倍(1千万人)程度の被ばく者の調査が必要と推定される。したがって,実際問題として,疫学調査により10mSv 以下の影響を観察することは非常に困難であると考えられている。 LNTモデルとは,150-4000mSv 程度の原爆被爆者での発がんリス クと線量との直線関係を100mSv 以下の線領域に外挿して,「低線量領域でも, ゼロより大きい放射線量は,単純比例で過剰がん及び/又は遺伝性疾患のリスクを増加させる,という仮説に基づく線量反応モデル」のことであり,放射線の管理・防護という実用的,政策的な立場から,安全を重視してこの統計モデルが採用されている。もっとも,ICRPが100mSv 以下の低線量でも単純比例で直線的に発がんリスクが増加するとの仮説を科学的根拠により裏付け られたものと認めているわけではない点,LNTモデルが研究者から提案されている様々な統計モデルのうちの一つである点に留意する必要がある。 地球上には自然放射線レベルが高い地域があり,そうした地域の住民の被ばく線量は年間10-100mSv に及ぶ。このような地域の住民の健康調査が多数実施されているが,がんの多発などの影響は報告されていない。その1例と して,インドのケララ州の海岸地帯に存在する放射線レベルと人口密度から見て世界的にも有数の高自然放射線地帯の住民を対象とするコホート研究の結果,住民の自然放射線による生涯累積線量はがん罹患率と関連することを示す証拠は得られなかったとされており,LNTモデルのもとで単位累積線量当たりの過剰相対リスク(ERR。「ExcessRelativeRisk」の略)を計算すると, -0.1 連することを示す証拠は得られなかったとされており,LNTモデルのもとで単位累積線量当たりの過剰相対リスク(ERR。「ExcessRelativeRisk」の略)を計算すると, -0.13/Gy(95パーセント信頼区間は-0.58:0.46)であった。 なお,低線量被ばくの健康影響の有無については生物学的観点からも解明に向けた努力が続けられており,生体に発がんを抑制するような機能が備わっていることが明らかになっている。低線量被ばくの場合,そうした生体防御機能 の能力を超えた部分だけが発がんリスクの増加につながるとすると,線量が極めて低い場合の影響は線量に単純に比例したものでなく,LNTモデルから予想されるよりも小さいと考えることもできるとの見解もある。 ⑵ LSS第14報についてLSS第14報は,100mGy以下の低線量域においてもLNTモデルが 成立していることを実証するものではない。生物学的に低線量で放射線影響が 真にあるのか否かは,まだ不確実性が高く,科学的検討を継続する必要がある⑶ 各種の調査報告についてア小児期のCTスキャン実施による健康影響に関する調査について(ア) 小児期のCTスキャンからの放射線被ばく,ならびにその後の白血病及び脳腫瘍のリスク:後ろ向きコホート研究 (前記第8,1⑴[❷-285 頁]参照)人は特別な理由がなければCT検査を受けることはなく,特に小児では成人以上にCT検査の適応は慎重に決定される。イギリスではCT検査の使用が制限されており,特に適応決定が慎重に行われていると思われる。 本研究では,CT検査を施行した目的や基礎疾患などの患者背景が調査さ れておらず,このことは著者らも研究の問題点として記載している。患者背景の影響として,がんが疑 重に行われていると思われる。 本研究では,CT検査を施行した目的や基礎疾患などの患者背景が調査さ れておらず,このことは著者らも研究の問題点として記載している。患者背景の影響として,がんが疑われたためにCT検査が施行され,その結果としてCT検査を受けた患者でがんが多かったのであって,CT検査ががんを誘発したのでない可能性がある(逆の因果関係)。もう一つの患者背景の影響として,CT検査が行われた背景には何らかの基礎疾患があり, その基礎疾患が発がんにも関連しているのであってCT検査が発がんを誘発した訳ではない可能性もあり,本論文公表時から問題点として指摘されている。この論文が公表された後のフランスからの報告では,CT検査による放射線被ばくと脳腫瘍,白血病,リンパ腫の発症との関係を調査し,これらの疾患の素因となる基礎疾患(ダウン症や神経線維腫症などの遺伝 的異常,免疫学的異常)の影響を検討している。素因となる基礎疾患を有する患者ではCT検査の回数が多く,被ばく線量も多かったため,線量が多い患者では素因を有する可能性が高かった。素因を考慮しないと放射線被ばくによる発がんリスク増加を過大評価することが示唆されている。 (イ) 小児期あるいは青年期にコンピュータ断層撮影(CTスキャン)を受けた68万人のがんのリスク:オーストラリア人1100万人のデータリンケージ研究(前記第8,1⑵[❷-286 頁]参照)当該論文においても,CT検査を施行した目的や基礎疾患などの患者背 景を調査していない。当該論文で,逆の因果関係の可能性を減らすために,CT検査後早期の発がんは検討から除外しているものの,発がんの素因となる基礎疾患の影響は考慮されていない。素因を有する患者でCT検査が施行された回数が多く,発がん頻度も 関係の可能性を減らすために,CT検査後早期の発がんは検討から除外しているものの,発がんの素因となる基礎疾患の影響は考慮されていない。素因を有する患者でCT検査が施行された回数が多く,発がん頻度も高かったために,多くのCT検査を受けた患者で発がん頻度が高くなり,みかけ上,CT検査が発がんを増や したかのようになった可能性がある。また,当該論文で特に問題なのは,CT検査で撮影された部位と発がん部位との関連性が低いことである。放射線の影響は,先ずは放射線被ばく部位に生じる。発がんも放射線被ばく部位に生じて,他部位に及ぶのは転移による。CT検査で放射線被ばくを生じるのは撮影部位とその近傍にほぼ限定され,遠隔部では散乱線による ごくわずかな被ばくを生じるだけである。しかし,当該論文では,腹部・骨盤部のCT検査を受けた患者で脳腫瘍が有意に多いなど,撮影部位と発がん部位の関連性が低く,放射線被ばくを原因とする発がんとしては理解し難い。ここでは,CT検査を受けた患者がもつ素因の影響が想定され,素因を考慮しないことで放射線被ばくの影響を過大評価しているものと 思われる。 イ電離放射線の職業性被曝から生じるがんのリスク:フランス,英国,米国の労働者の後ろ向きコホート研究(INWORKS)(前記第8,3[❷-290 頁]参照)放射線影響協会が公表した見解によれば,本研究においては,重要な交絡 因子であると考えられる喫煙について当該論文が適切に調整を加えていな いことや,INWORKS調査の対象者に核実験や核兵器製造の業務に関わる者が含まれているために問題となる中性子被ばくの状況が適切に考慮されていない可能性があることへの懸念が示されている。当該論文の示唆する結果について,科学的な評価は定まっているとはいい難 業務に関わる者が含まれているために問題となる中性子被ばくの状況が適切に考慮されていない可能性があることへの懸念が示されている。当該論文の示唆する結果について,科学的な評価は定まっているとはいい難い。 ⑷ 福島県民健康調査について 小児甲状腺がんの年間発症率が100万人に3人というのは,臨床症状が発現して手術をした症例やがん登録による報告がされた症例であり,一般に進行が遅く比較的良性の経過をとる甲状腺がんでは,県民健康調査のような健常者のマススクリーニングの結果と比較すべきでない。県民健康調査の開始当初から,健常者に対して精微な検査を導入すれば多くの有所見者が検知されること が予想されていたといえる。 超音波画像診断の特性から,超音波画像検査の診断精度には限界があり,先行検査での検査の網目を抜け落ち二次検査という精密検査の対象とはされない症例がある程度存在することが理解できる。小児甲状腺がんの自然史自体,まさに今回のマススクリーニングにより初めて明らかにされつつあるという 段階であり,いまだその挙動には未知なところが多く,2巡目の検査で発見例が増加したからといって,直ちに小児甲状腺がんの発症率が増加しているとはいい難い。 ⑸ まとめ放射能汚染地域でも,被ばくを極力抑える工夫をし,放射線以外の発がん要 因を極力避ける努力もしながら生活することにより,がんリスクを高めないようにできる。一方,慣れ親しんだ土地で家族とコミュニティのメンバーと共同生活をすることは,物質的にも精神的にも計り知れないメリットをもたらす。 放射能汚染による被ばくを最小限にまで低減しつつ,住みやすい環境を整備して,コミュニティの復興を支援することは,国,地方自治体の大きな責務であ る。住み慣れた土地,家屋を放棄して,避難,移住を推 射能汚染による被ばくを最小限にまで低減しつつ,住みやすい環境を整備して,コミュニティの復興を支援することは,国,地方自治体の大きな責務であ る。住み慣れた土地,家屋を放棄して,避難,移住を推奨する考えに同意する ことはできない。 (第2分冊終わり) 第5章争点に対する当裁判所の判断第1節争点1(被告東電に対する一般不法行為に基づく請求の可否)について1⑴ 原賠法の下においては,原子炉の運転等により原子力損害を与えた原子力事業者は,無過失責任かつ無限責任を負う(3条1項本文)こととされ,その免責の範囲は,異常に巨大な天変地異によって生じた場合に限定される(同条項 ただし書)。 原賠法が上記のような規定を置いた趣旨は,原子炉が事故を起こした場合,民法上の損害賠償責任の法規に基づいて十分な救済が認められるならば特別の立法の必要はないところ,民法717条の工作物責任による場合は土地上の工作物の設置・保存の瑕疵の存在について,民法715条の使用者責任による 場合には被用者の故意過失について,それぞれ被害者側が立証しなければならず,それでは被害者保護が十分に達成できないことから,特に無過失責任かつ無限責任を定めたものと解される。 ⑵ また,原賠法は,責任集中の原則を採用し,原子力事業者以外の者は損害賠償責任を負わず(4条1項),例えば,原子炉の欠陥が原子力損害の発生に寄 与した場合であっても製造物責任法は適用されないし(同条3項),原子力損害の発生について有責な第三者への求償権は,同第三者に故意がある場合に限定されている(5条1項)。 原賠法が上記のような規定を置いた趣旨は,民法の一般原則によれば,ある原子炉の事故が,炉の設計者や機器の製造業者・工事請 第三者への求償権は,同第三者に故意がある場合に限定されている(5条1項)。 原賠法が上記のような規定を置いた趣旨は,民法の一般原則によれば,ある原子炉の事故が,炉の設計者や機器の製造業者・工事請負業者等,供給者の過 失や部品の瑕疵によって生じた場合には,供給者は,炉の設置者に対して契約上の責任を負うほかに,第三者に対して不法行為責任を負うこととなるが,そうなると,上記供給者が部品等を供給する場合に賠償責任保険契約を締結することが不可避であり,原子力事業者が締結する賠償責任保険契約(原賠法7条1項)のみならず上記供給者が締結する賠償責任保険契約により保険の引受能 力が細分化し,結果として被害者保護が全うできなくなるおそれがあることか ら,特に上記供給者が民法の一般原則に基づく実体上の責任を負わないことを定めたところにあると解される。 ⑶ さらに,原賠法は,前記のとおり,原子力事業者の無限責任を規定しつつ(同法3条1項本文),原子力損害の額が,原子力事業者が講じた損害賠償措置額(同法6条,7条)を超えた場合には,政府が原子力事業者の損害賠償のため に必要な援助をすることを定めている(16条1項)。 原賠法が上記のような規定を置いた趣旨は,本来,原子力事業者に無過失責任を負わせるのであれば,その責任を制限する規定を置くのが合理的であるところ,国民感情に照らして有限責任を採用することは困難であり,他方,原賠法が定める賠償措置額(同法7条1項)を超えた損害については国が補償する とすることも,財政能力に照らして困難とみられたことから,両者の均衡を図るべく,実際には国が青天井に援助して被害者を泣かさないようにするという思想の下に国の援助規定を設け,これにより原子力事業者の無過失責任を実現する点にあったと解される られたことから,両者の均衡を図るべく,実際には国が青天井に援助して被害者を泣かさないようにするという思想の下に国の援助規定を設け,これにより原子力事業者の無過失責任を実現する点にあったと解される。 【以上の点につき,加藤一郎「原子力災害補償立法上の問題点」ジュリスト1 90号14頁,我妻栄「原子力二法の構想と問題点」ジュリスト236号6頁,竹内昭夫「原子力損害二法の概要」同号29頁,我妻栄ほか「座談会・原子力災害補償をめぐって」同号11頁参照】 2 前記1⑴ないし⑶の規定からすれば,原賠法3条1項は,被害者の保護と原子力事業の健全な発達の観点(同法1条)から,損害賠償責任の成立要件の点 においても,供給者との間の実体法上の法律関係の擬律の点においても,損害賠償の履行の点においても,民法上の一般原則とは内容を大きく異にする特別な法規範として成立した原賠法の枠組の下で,民法上の損害賠償責任の特則を設けたものと解される。そうすると,特別法は一般法を排除するとの原理によれば,原賠法3条1項が適用される限り民法上の不法行為に基づく損害賠償責 任の規定は排除されると解すべきである。 したがって,以下においては,被告東電の民法上の義務違反の有無(過失の有無及びその内容)について検討するのではなく,直截に被告国の規制権限不行使の違法性について検討を進めていくこととする。 第2節争点2(本件事故の予見可能性に関する議論の前提としての予見の対象)について 被告国は,規制権限不行使の国賠法上の違法は,結果発生の原因となる事象に対する防止策に係る法的義務違背を問うものであるから,その前提となる予見可能性は,結果発生の原因となる事象について判断されるべきであるとして,本件における予見可能性の対象は,本件地震及びこれに 象に対する防止策に係る法的義務違背を問うものであるから,その前提となる予見可能性は,結果発生の原因となる事象について判断されるべきであるとして,本件における予見可能性の対象は,本件地震及びこれに伴う津波と同規模の地震及び津波が福島第一原発に発生又は到来することであると主張し(前記第3章第2節 第2,2[❶-24 頁]),被告東電は,不法行為訴訟において,実際に生じた事象と異なる,それとは別個の仮定的な(実際に生じていない)事象についての予見可能性を問題にすること自体が極めて異例であると主張する(同3[❶-26 頁])。 しかし,原告らが,過失を基礎づける予見の対象として主張していることは,福島第一原発の敷地高であるO.P.+10mを超える津波の到来という自然現 象の発生によって,電源設備が被水して全電源喪失という事態に至り,冷却機能が機能不全に陥って原子炉施設の閉じ込める機能が喪失して放射性物質が外部に放出されるという事態に至ることを予見することができた,ということであり,これは,被告らが上記主張の前提とする予見の対象とは異なる。 民訴法の原則に従えば,訴訟物の設定や請求原因の主張はもっぱら当事者の権 能と責任によるべきであり,裁判所としては,原告ら主張の請求原因事実の存否及びそれに基づく請求権の有無について判断すれば足りる。予見可能性に係る原告ら主張の請求原因事実が全て認められても,それに基づく結果回避措置では本件津波による結果を回避できなかったと認められるのであれば,端的に結果回避可能性を否定して請求を棄却すれば足りるのであって,予見可能性の争点に関し て,原告らが主張していない請求原因事実(本件津波又はこれと同規模の津波の 到来の予見可能性)をあえて設定する必要はない。そして,原告が予見の対象と のであって,予見可能性の争点に関し て,原告らが主張していない請求原因事実(本件津波又はこれと同規模の津波の 到来の予見可能性)をあえて設定する必要はない。そして,原告が予見の対象として主張する津波は,津波の波高をO.P.+10mを超えるとの幅をもって特定するものであるが,本件津波がこれに該当することは明らかであり,本件津波により引き起こされた本件事故の予見可能性の有無を判断する前提として具体的な特定に欠けるところはないというべきである。したがって,以下,被告国の 予見可能性を検討するに当たっては,原告らの主張するところに従い,福島第一原発の敷地高であるO.P.+10mを超える津波の到来という自然現象の発生によって,電源設備が被水して全電源喪失という事態に至り,冷却機能が機能不全に陥って原子炉施設の閉じ込める機能が喪失して放射性物質が外部に放出されるという事態に至ることを予見することができたかどうかという見地から,検 討を進めていくこととする。 第3節争点3(本件事故の予見可能性)について第1 当裁判所の判断の結論当裁判所は,結論として,被告国は,平成21年9月の時点で,福島第一原発の敷地高であるO.P.+10mを超える津波の到来という自然現象の発生,及 び,これによって,電源設備が被水して全電源喪失という事態に至り,冷却機能が機能不全に陥って原子炉施設の閉じ込める機能が喪失して放射性物質が外部に放出されるという事態に至ることを予見することができたと考える。 他方,それより以前においては,平成19年4月の時点において,被告国は,仮に敷地レベルを超える津波が襲来した場合には,電源設備が機能喪失し,原子 炉安全停止に関わる機器が機能を喪失する可能性があることを予見していたということはできるが の時点において,被告国は,仮に敷地レベルを超える津波が襲来した場合には,電源設備が機能喪失し,原子 炉安全停止に関わる機器が機能を喪失する可能性があることを予見していたということはできるが,しかし,同月時点においては,福島第一原発の敷地レベルを超える津波の到来可能性は,被告国にとってはいまだ抽象的な域を脱していなかったから,このような抽象的な可能性の認識をもって,予見可能性を肯定することはできないと解する。 以下,平成19年4月までの事情と同月以降の事情に分けて詳述する。 第2 当裁判所の判断の理由 1 平成19年4月までの事情についての当裁判所の検討・評価⑴ 福島第一原発の敷地高について福島第一原発は,その敷地の地盤高を決定するに当たっては,波浪及び津波などに対する防災的な配慮とともに,原子炉及び発電機建屋出入口の高さ,敷 地造成費,基礎費,復水器冷却水の揚水電力料などがもっとも合理的で,しかも経済的となるように決定する必要があるとの考え方の下,当該地点の高極潮位(O.P.+3.122m〈チリ地震津波〉)も一応の検討要素として考慮し,敷地高がO.P.+10mと定められたものである(前記第4章第1節第2,1[❷-24 頁])。発電所をはじめとする工業用プラントを海岸沿いに築造 する場合,海水が敷地に流入しないようにするのはいわば当然の前提であるところ,上記事情に照らせば,福島第一原発の敷地高は,ことさら津波の到来を念頭に置いて定められたというよりは,敷地の造成費や基礎費などといった掘削を制限する(換言すれば敷地高を高く維持する)方向の事情と,復水器冷却水の揚水電力量などといった敷地高を低くする方向の事情とを比較衡量した 結果に基づいて算出されたものであって,それが,上記当然の前提で (換言すれば敷地高を高く維持する)方向の事情と,復水器冷却水の揚水電力量などといった敷地高を低くする方向の事情とを比較衡量した 結果に基づいて算出されたものであって,それが,上記当然の前提である敷地への海水流入防止の要請を満たしているかを確認する際に,その一応の検討要素としてチリ地震津波の波高が用いられたにすぎない。実際,福島第一原発の設置許可申請に当たっての安全審査において,立地条件としてチリ地震津波に言及されてはいたものの,これと敷地高とを関連づけた検討結果は報告されな かったし,安全対策としての津波対策についても特段言及されなかった(前記第4章第1節第2,3[❷-27 頁])。したがって,もともと,福島第一原発の敷地高は,一定の津波を想定してそれを敷地高で防護するという考え方の下に設計されたものであったとはいえないものであった。 ⑵ 福島第一原発を含む国内の原子力発電所の主要設備の配置に関する設計に ついて 前記⑴のとおり,福島第一原発は,敷地には海水が当然に流入しないことを前提として,主要設備の配置についての設計がなされていた。そのため,福島第一原発の主要電源設備は,その多くが地下に設置され,かつ,特段の被水対策もなされていなかった(前記第4章第1節第1,2⑷エ[❷-16 頁])。福島第一原発の設置時点で既に策定されていた原子炉立地審査指針には,重大事故 を超えるような,技術的見地からは起こるとは考えられない事故(仮想事故)の発生を仮想することが求められていた(前記第4章第1節第2,2[❷-25頁])が,重要設備の被水は,重大事故としても仮想事故としても想定されなかった(同3[❷-27 頁])。したがって,福島第一原発においては,その設計上,電源設備をはじめとする主要設備を海水流入による被 )が,重要設備の被水は,重大事故としても仮想事故としても想定されなかった(同3[❷-27 頁])。したがって,福島第一原発においては,その設計上,電源設備をはじめとする主要設備を海水流入による被水から防護するため の方策は,当然の前提とされていた敷地高以外には実質的に存在しなかった。 ⑶ 福島第一原発における非常用電源設備に関する安全対策の考え方についてア昭和45年安全設計審査指針は,敷地の自然条件に対する設計上の考慮として,①当該設備の故障が,安全上重大な事故の直接原因となる可能性のある系及び機器は,その敷地及び周辺地域において過去の記録を参照にして予 測される自然条件のうち最も苛酷と思われる自然力に耐え得るような設計であること,安全上重大な事故が発生したとした場合,あるいは確実に原子炉を停止しなければならない場合のごとく,事故による結果を軽減若しくは抑制するために安全上重要かつ必須の系及び機器は,その敷地及び周辺地域において,過去の記録を参照にして予測される自然条件のうち最も苛酷と思 われる自然力と事故荷重を加えた力に対し,当該設備の機能が保持できるような設計であることを定めていた(前記第4章第1節第3,1⑴[❷-29頁])。また,同指針は,「非常用電源設備」の項を設けて,②非常用電源設備は,単一動的機器の故障を仮定しても,工学的安全施設や安全保護系等の安全上重要かつ必須の設備が,所定の機能を果たすに十分な能力を有するも ので,独立性及び重複性(単一動的機器の故障を仮定した場合にも,要求さ れる安全確保のための機能が害されることのないよう,非常用発電機を2台とするなどにより,十分な能力を有する系を2つ以上とし,かつ,一方が不作動となるような不利な状況下においても,他方に影響を及ぼさな れる安全確保のための機能が害されることのないよう,非常用発電機を2台とするなどにより,十分な能力を有する系を2つ以上とし,かつ,一方が不作動となるような不利な状況下においても,他方に影響を及ぼさないように回路の分離,配置上の隔離などによる独立性の確保が設計基礎とされること)を備えた設計であることも求めていた(同2⑴[❷-30 頁])。 このように同指針は,①総論的に,自然力に対する安全対策を求めつつ,②各論的に,個別的な故障に対する安全対策については「非常用電源設備」の項を設けて安全対策を求めていた。このような考え方は,その後に改訂された平成13年安全設計審査指針にも引き継がれた(前記第4章第3節第3, [❷-195 頁])。 イ平成13年安全設計審査指針においては,②各論的な安全対策の一環として,いわゆるSBO(全交流電源喪失)に関し,短時間の全交流動力電源喪失に対して,原子炉を安全に停止し,かつ,停止後の冷却を確保できる設計であることが求められた(前記第4章第1節第14,2[❷-65 頁])。 ウ平成18年耐震設計審査指針においては,①総論的な安全対策に関して, 施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性があると想定することが適切な津波によっても,施設の安全機能が重大な影響を受けるおそれがないことが求められた(前記第4章第3節第3,4⑵イ(エ)[❷-199頁])。 エ以上の次第で,平成18年の段階で,福島第一原発の非常用電源設備につ いては,①総論的に,極めてまれではあるが発生する可能性があると想定することが適切な津波によっても安全機能を失わず(前記ウ),②各論的に,同設備の一部の機器に故障が生じても安全機能を失わず(単一故障の仮定),他の設備の故障の影響を受けず(独立性),予 あると想定することが適切な津波によっても安全機能を失わず(前記ウ),②各論的に,同設備の一部の機器に故障が生じても安全機能を失わず(単一故障の仮定),他の設備の故障の影響を受けず(独立性),予備的な設備により安全機能が確保される(重複性)とともに(前記ア),仮に短時間のSBO(全交流電 源喪失)が生じた場合であっても,なお非常用電源設備の独立性及び重複性 を確保することがそれぞれ求められていた(前記イ)。 ⑷ 安全対策上考慮すべき地震・津波に関する被告国の基本姿勢ア 4省庁報告書・7省庁手引き平成5年に発生した北海道南西沖地震(奥尻島津波)を踏まえ,相次いで,4省庁報告書,7省庁手引き及び津波浸水予測図が公表された(前記第4章 第1節第9[❷-38 頁])。 それまでも,津波対策として,ハード面の対策だけでなくソフト面での津波対策を統合する考え方が被告国の施策として取り入れられていたが,検討の対象とすべき津波としては,過去の史料に基づく既往最大のものを選ぶとされていた(前記第4章第1節第6[❷-35 頁])。これに対し,4省庁報告 書や7省庁手引きでは,過去の津波情報が得られている津波の中から選定される既往最大津波と,近年の地震観測研究結果等により津波を伴う地震の発生の可能性が指摘されているような沿岸地域については,別途現在の知見により想定し得る最大規模の地震津波を検討し,既往最大津波との比較検討を行った上で,常に安全側の発想から沿岸津波水位のより大きい方を対象津波 とするとして(前記第4章第1節第9, 39 頁]),津波防災行政における対象津波の選定に係る基本姿勢を大きく変更した。もっとも,4省庁報告書,7省庁手引き及び津波浸水予測図が示した津波被害の想定結果は,精度としては限定的なもの 9, 39 頁]),津波防災行政における対象津波の選定に係る基本姿勢を大きく変更した。もっとも,4省庁報告書,7省庁手引き及び津波浸水予測図が示した津波被害の想定結果は,精度としては限定的なものであった(同2⑶エ[❷-43 頁],同[❷- 44 頁])。 イ長期評価平成14年7月31日,地震本部地震調査委員会は,長期評価を公表した。 地震本部は,阪神・淡路大震災において,事前に行われていた地震の調査研究の成果が国民や防災組織に十分に伝わっていなかったという反省から組織された機関であった(前記第4章第1節第8[❷-38 頁])。 長期評価においては,三陸沖北部から房総沖の海溝寄りのプレート間大地 震(津波地震)について,過去にM8クラスの地震が複数(慶長三陸地震,延宝房総沖地震,明治三陸地震)知られているが,これらは,同じ場所で繰り返し発生する固有地震とはいい難いものの,これらと類似する発生機序の地震が,三陸沖北部から房総沖の海溝寄りの領域内のどこでも発生する可能性があるとされた(同第10,5⑴[❷-47 頁])。そして,その発生領域に 関する信頼度は,想定震源域を特定できず,過去の地震データが不十分であるため,「やや低い」とされたが,同信頼度は,地震空白域(大地震の発生する可能性がある領域において,隣接する領域で大地震が発生しているにもかかわらず,まだ大地震が発生していない領域)とされる領域における信頼度と同等のものであった(同7⑴[❷-50 頁])。 このような結論は,通常のプレート境界地震と比べて発生頻度が少なく,記録に基づいて再来間隔を推定するという評価手法をとることができない津波地震について,これを統計的に評価して防災に資するものとするために,房総沖から三陸沖に至る海溝全体を1 比べて発生頻度が少なく,記録に基づいて再来間隔を推定するという評価手法をとることができない津波地震について,これを統計的に評価して防災に資するものとするために,房総沖から三陸沖に至る海溝全体を1つの地域として扱い,同領域内で1600年以降に発生した3つの地震を基に発生間隔を推定するという,いわば 工夫の産物であった(前記第4章第4節第4,1⑶イ[❷-218 頁])。このような結論に対しては,津波地震も決まった領域で発生するとの立場から異論が示されたものの(同2⑴イ(ア)[❷-220 頁],前記第4章第1節第13,3⑵[❷-62 頁]),プレートの沈み込みにより発生する津波地震が,日本海溝付近の北部(慶長三陸地震及び明治三陸地震)及び南部(延宝房総沖地震) だけで発生し,その中間部では発生しないとはいい難いとの考えを論破するに至らず,上記の結論が最終的に支持された。もっとも,上記3つの地震以外に,日本海溝寄りで発生した過去の津波地震のデータが得られたわけではないので,「データとして用いる過去地震に関する資料が十分にないこと等による限界があることから,評価結果である地震発生確率や予想される次の 地震の規模の数値には誤差を含んでおり,防災対策の検討など評価結果の利 用に当たってはこの点に十分留意する必要がある」との注記が付された。 このように,長期評価は,津波地震の発生を過去のデータに基づいて評価することは困難であるが,これが発生しないと評価することも困難であることから,抑制的な信頼度を付しつつも,発生領域を三陸沖北部から房総沖の海溝寄りという長大な海域に設定するという工夫を施して,津波地震の発生 確率を一応定量化し,もって,津波安全対策において三陸沖北部から房総沖の海溝寄りで発生すべき津波地震を除外する から房総沖の海溝寄りという長大な海域に設定するという工夫を施して,津波地震の発生 確率を一応定量化し,もって,津波安全対策において三陸沖北部から房総沖の海溝寄りで発生すべき津波地震を除外することができない旨を被告国として明らかにしたものであった。 ウ中央防災会議報告中央防災会議報告は,平成15年に相次いで発生した東北・北海道地方に おける地震被害を契機に,同地方における地震防災対策強化のために設置された日本海溝・千島海溝専門調査会が取りまとめたものであった(前記第4章第1節第16,1[❷-70 頁])。そして,その取りまとめに当たっては,日本海溝・千島海溝周辺の領域で発生する地震は多種多様であり,繰り返しの特性も様々であることから,防災対策の検討対象とすべき地震を,過去に 実際に発生した地震に基づいて整理することとし,その結果,三陸沖中部,福島県沖及び茨城県沖の領域で発生するプレート間地震は,検討対象から外されることとなったが,貞観地震,慶長三陸地震,延宝房総沖地震は,なお留意が必要とされた(同3[❷-71 頁])。 なお,上記の結論を導くに当たっては,日本海溝・千島海溝専門調査会委 員から,まれに起こる現象というのは,分かっていないだけで,繰り返し間隔が長いので見ていないだけと考えた方が合理的であるなどといった懸念が示されたが,最終的に,防災計画の策定等を法律上義務化していくなどの行政行為を行うには,相当の説得力をもつ根拠が必要であるとの理由から,上記の結論が維持された(同4[❷-76 頁])。 このように,中央防災会議報告は,発生機序や繰り返し特性の点で多種多 様にわたる東北・北海道地方沿岸海域の地震について,防災行政の説得力維持の観点から,特に,過去に実際に発生した地震に基づい のように,中央防災会議報告は,発生機序や繰り返し特性の点で多種多 様にわたる東北・北海道地方沿岸海域の地震について,防災行政の説得力維持の観点から,特に,過去に実際に発生した地震に基づいて整理された地震を検討対象としたものであるが,その検討対象から外された地震についても,過去のデータの不存在から科学的に解明されていないだけであるおそれを考慮し,なお留意が必要である旨を明らかにしたものであった。したがって, 中央防災会議報告は,長期評価の結論,すなわち,三陸沖北部から房総沖の日本海溝寄りの領域のどこでも津波地震が発生する可能性があるということを科学的に否定したものではなく,むしろ,津波安全対策において三陸沖北部から房総沖の海溝寄りで発生すべき津波地震を除外することができないという被告国の考えを,なお維持したものであった。 エ津波評価技術の結論についての被告国の基本姿勢(ア) 津波評価技術の基本的考え方長期評価の公表に先立って策定された津波評価技術は,評価地点に最も影響を与える想定津波を設計想定津波として選定し,これを前提に設計津波水位を求めるものであった。その選定の基本的な考え方は,それまで, 既往津波(近地津波及び遠地津波)及び海域活断層に想定される地震に伴う津波を評価対象としてきたところ,4省庁報告書等の発表を踏まえ,上記既往津波に加えて,プレート境界付近に想定する地震をも検討対象とするというものであり,4省庁報告書等における被告国の考え方を踏襲したものであり,具体的な想定津波の波源の設定方法も,プレート境界付近に 将来発生することを否定できない地震に伴う津波を評価対象とするものとされていた(前記第4章第1節第11,2⑷ア[❷-57 頁])。 (イ) 津波評価技術の各論的検討しかし, ト境界付近に 将来発生することを否定できない地震に伴う津波を評価対象とするものとされていた(前記第4章第1節第11,2⑷ア[❷-57 頁])。 (イ) 津波評価技術の各論的検討しかし,各論として,日本海溝沿いの想定津波の基準断層モデルを設定するに当たり,プレート境界付近に将来発生することを否定できないかど うかを検討する段階においては,既往津波の痕跡高との整合性が問題とさ れ,その結果,「既往津波の痕跡高を説明できる断層モデルの位置」を前提として,「プレート境界付近に将来発生することを否定できない」基準断層モデルが設定された(同3[❷-59 頁])(以下「津波評価技術の各論」という。)。結局,津波評価技術は,4省庁報告書等における被告国の考え方,すなわち,現在の知見により想定し得る最大規模の地震津波を検討し, 既往最大津波との比較検討を行った上で,常に安全側の発想から沿岸津波水位のより大きい方を対象津波とする(前記⑴)という考え方を踏襲しつつも,想定最大津波の基準断層モデルの設定に当たっては既往最大津波を根拠としたものであり,その実質は,既往最大津波について,各種パラメータスタディを実施することにより,従前よりも安全側に立ったリスク評 価を実施したということに尽きるものであって,4省庁報告書等における被告国の考え方に基づいた「想定最大津波」を評価検討したものではなかった。 なお,津波評価技術のうち,日本海溝沿いの想定津波の基準断層モデルの設定検討部分は,首藤伸夫・佐竹健治ら専門家が委員として関与した土 木学会原子力土木委員会津波評価部会においては議論されていなかった(前記第4章第4節第4,2⑴イ(オ)[❷-224 頁])。 (ウ) 津波評価技術に対する被告国の反応上記のとおり,津波評 木学会原子力土木委員会津波評価部会においては議論されていなかった(前記第4章第4節第4,2⑴イ(オ)[❷-224 頁])。 (ウ) 津波評価技術に対する被告国の反応上記のとおり,津波評価技術の各論部分における設計想定津波の評価は,4省庁報告書等における被告国の考え方に基づいた「想定最大津波」を評 価検討したものではなく,その結果,4省庁報告書等の考え方を継承した長期評価の結論や,三陸沖北部から房総沖の日本海溝寄りの領域のどこでも津波地震が発生する可能性があるという考え方とも,福島沖~茨城沖の日本海溝沿いで発生する津波地震を考慮するかどうかという点で,結論を異にしていた。そのため,長期評価と津波評価技術との整合性について, 保安院の問題視するところとなっていた(前記第4章第1節第13[❷- 頁])。 (エ) 津波評価技術を巡る事情のまとめ以上みてきたとおり,津波評価技術は,各種パラメータスタディを実施することにより,従前よりも安全側に立ったリスク評価を定量的に実現可能にするものであったが,とりわけ日本海溝沿いの想定津波の基準断層モ デルの設定に関しては,首藤伸夫・佐竹健治ら一線の専門家が十分に関与しなかったため,4省庁報告書等を始めとする被告国の考え方を反映したものになっておらず,その結果,長期評価とも結論を異にし,保安院の問題視するところとなっていた。 オ安全対策上考慮すべき地震・津波に関する被告国の基本姿勢についてのま とめ以上のとおり,平成5年の北海道南西沖地震以降,被告国は,4省庁報告書等,長期評価,中央防災会議報告の策定手続の各過程において,一貫して,安全対策上考慮すべき地震・津波として,過去の記録のある既往地震・津波のみならず,過去の記録がないが現在の知見に照ら 4省庁報告書等,長期評価,中央防災会議報告の策定手続の各過程において,一貫して,安全対策上考慮すべき地震・津波として,過去の記録のある既往地震・津波のみならず,過去の記録がないが現在の知見に照らせば想定すべき地震・津 波をも考慮すべきとの基本姿勢をとっており,その結果,長期評価においては,三陸沖北部から房総沖の日本海溝寄りの領域のどこでも津波地震が発生する可能性があるとされ,中央防災会議報告においても,貞観地震,慶長三陸地震,延宝房総沖地震についてなお留意が必要とされていた。これに対し,津波評価技術各論において,福島沖~茨城沖の日本海溝沿いに基準断層モデ ルが設定されなかったことは,必ずしも,その前後の被告国の基本姿勢に整合するものではなかった。 ⑸ 溢水問題に関する被告国の基本姿勢ア溢水勉強会立ち上げまでの溢水に関する問題意識前記判示のとおり,福島第一原発において,海水が敷地を越えて流入しな いことはいわば当然の前提と考えられており,平成3年1号機溢水事故にお いても,海水が配管から漏出して非常用D/G(非常用ディーゼル発電機)が水浸しになるという事態が発生したが,このことと,敷地を越えて流入する海水に対する非常用電源設備(その多くは地下に配置されている。)の耐性如何の問題とは関連づけて検討されなかった(前記第4章第1節第17,1[❷-79 頁])。 イアクシデントマネジメント策としてのSBO対策他方,TMI原発事故(昭和54年)及びチェルノブイリ原発事故(昭和61年)を踏まえ(前記第4章第1節第4[❷-31 頁]),世界的にシビアアクシデント対策の重要性が認識されていたところ,我が国においても,シビアアクシデント対策として,確率論的安全評価手法による定量的なリスク分 析の 第1節第4[❷-31 頁]),世界的にシビアアクシデント対策の重要性が認識されていたところ,我が国においても,シビアアクシデント対策として,確率論的安全評価手法による定量的なリスク分 析の研究促進の必要性がうたわれる一方(同第5,2[❷-35 頁]),アクシデントマネジメント策の一環として,SBO(全電源喪失事象)に関する検討が進められ,福島第一原発については,仮にSBOが生じた場合であっても,最低30分間の直流電源の稼働を前提に,IC(非常用復水器)又はタービン駆動のRCIC(原子炉隔離時冷却系)及びHPCI(高圧注水系) により炉心を冷却しつつ外部電源を復旧し,非常用D/G(非常用ディーゼル発電機)及び隣接するプラント間での電源融通により独立性及び重複性を確保することが定められていた(同第14,2[❷-65 頁])。 ウ本件事故前の溢水関連事故ないし問題事象上記SBO対策の策定と並行し,平成11年から平成17年にかけて,少 なくとも4件の海外の溢水関連事故ないし問題事象が報告されていた(同第17,2~5[❷-79 頁~80 頁])。いずれも非常用冷却系設備又は非常用電源設備の喪失をもたらし,又はもたらし得るとするものであった。 エ溢水勉強会における検討上記一連の溢水関連事故ないし問題事象を踏まえ,平成18年に立ち上げ られた溢水勉強会は,当初,外部溢水に対する津波溢水アクシデントマネジ メントが「ニーズ高」と整理され,その検討においては,浸水したと仮定して,プラント停止,浸水防止,冷却維持の調査を行うものとされていた。そして,福島第一原発5号機を念頭に検討が加えられた結果,仮に敷地レベルを超える津波が襲来した場合には,非常用海水ポンプが使用不能な状態となるほか,浸水によって電源設備が 査を行うものとされていた。そして,福島第一原発5号機を念頭に検討が加えられた結果,仮に敷地レベルを超える津波が襲来した場合には,非常用海水ポンプが使用不能な状態となるほか,浸水によって電源設備が機能喪失し,1分程度で原子炉安全停止に 関わる電動機,弁等の動的機器が機能を喪失することが報告された(前記第4章第1節第18,1⑶イ[❷-85 頁],同2[❷-87 頁]。なお,津波の周期に照らせば,津波1山の継続時間は約10分である。前記第4章第4節第2[❷-206 頁])。 しかし,溢水勉強会は,平成19年4月に報告書を取りまとめ,その中で, 外部溢水に係る津波対応は,地震随伴現象としての津波評価が行われることとなった耐震バックチェックに委ねることとした(前記第4章第1節第18,2[❷-87 頁])。 オ溢水問題に関する被告国の基本姿勢についてのまとめ以上のとおり,原子力発電所に対する溢水(とりわけ外部溢水)の影響に ついては,当初は,海水が敷地を越えて流入しないことはいわば当然の前提であったことから,問題意識が高まっていなかったが,シビアアクシデント対策の重要性の認識や,海外における溢水関連事故ないし問題事象の発生を踏まえ,外部溢水に対するアクシデントマネジメント策についての問題意識が高まりをみせていた。そして,被告国は,溢水勉強会の議論を通じて,福 島第一原発5号機において,仮に敷地レベルを超える津波が襲来した場合には,非常用海水ポンプが使用不能な状態となるほか,浸水によって電源設備が機能喪失し,原子炉安全停止に関わる電動機,弁等の動的機器が機能を喪失する可能性があることを認識したが,これについての検討は耐震バックチェックに委ねられた。 ⑹ 平成19年4月までの事情についての当裁判所の検討・評価 関わる電動機,弁等の動的機器が機能を喪失する可能性があることを認識したが,これについての検討は耐震バックチェックに委ねられた。 ⑹ 平成19年4月までの事情についての当裁判所の検討・評価のまとめ 以上みてきたとおり,福島第一原発は,もともと,一定の津波を想定してそれを敷地高で防護するという考え方の下に設計されたものであったとはいえないものであり,敷地には海水が当然に流入しないことを前提として,その主要電源設備の多くが地下に設置され,かつ,特段の被水対策もなされていなかった。平成18年の段階で,各種指針上,極めてまれではあるが発生する可能 性があると想定することが適切な津波によっても安全機能を失わず,仮に短時間のSBOが生じた場合であっても,なお非常用電源設備の独立性及び重複性を確保することがそれぞれ求められていたところ,溢水勉強会の議論を通じて,福島第一原発5号機において,仮に敷地レベルを超える津波が襲来した場合には,非常用海水ポンプが使用不能な状態となるほか,浸水によって電源設備が 機能喪失し,原子炉安全停止に関わる電動機,弁等の動的機器が機能を喪失する可能性があること,すなわち,各種指針上要求される非常用電源設備の安全性が実現できなくなる可能性があることが,被告国の認識するところとなった。 他方,敷地レベルを超える津波が襲来する可能性について,被告国は,4省庁報告書等,長期評価,中央防災会議報告の策定手続の各過程において,一貫 して,安全対策上考慮すべき地震・津波として,過去の記録のある既往地震・津波のみならず,過去の記録がないが現在の知見に照らせば想定すべき地震・津波をも考慮すべきとの基本姿勢をとっており,このような基本姿勢に照らしても,平成19年4月の時点で,福島第一原発の敷地レベルを超 波のみならず,過去の記録がないが現在の知見に照らせば想定すべき地震・津波をも考慮すべきとの基本姿勢をとっており,このような基本姿勢に照らしても,平成19年4月の時点で,福島第一原発の敷地レベルを超える津波を安全対策の対象から除外できる状況にはなかった。もっとも,4省庁報告書等や 長期評価は,想定津波の波高についての検討は必ずしも精密なものではなく,より定量的なリスク評価が可能な津波評価技術は,基準断層モデルを福島沖~茨城沖に設定していなかった。このため,平成19年4月の時点では,福島第一原発の敷地レベルを超える津波の到来可能性は,被告国にとってはいまだ抽象的な域を脱していなかった。 2 平成19年4月以降の事情についての当裁判所の検討・評価 ⑴ 想定津波の波高に関する被告東電の報告内容の推移福島第一原発の設置許可以降,被告東電が被告国に対して報告した想定津波の波高は,上昇の一途をたどっていた。 すなわち,福島第一原発の設置許可時点で敷地高を決める前提としての波高は,チリ地震津波によるO.P.+3.122mであった(福島第一原発の敷 地高が,ことさら津波の到来を念頭において定められたものでないことは,前記1⑴[❸-5 頁]のとおりである。)。 平成6年に,北海道南西沖地震の発生を契機に被告東電が実施した津波の検討によれば,福島第一原発の敷地に比較的大きな痕跡高を残した慶長三陸地震及び延宝房総沖地震を前提に当時のシミュレーションを行った結果,朔望平均 満潮位時(朔(新月)及び望(満月)の日から前2日後4日以内に観測された,各月の最高満潮位を1年にわたって平均した高さの水位)の最高水位がO.P. +3.5m程度になると報告されていた(前記第4章第1節第7,2[❷-37頁])。 平成14年に津波評価 以内に観測された,各月の最高満潮位を1年にわたって平均した高さの水位)の最高水位がO.P. +3.5m程度になると報告されていた(前記第4章第1節第7,2[❷-37頁])。 平成14年に津波評価技術が刊行された後に,被告東電が津波評価技術を用 いて実施した津波評価によれば,設計想定津波の最高水位は,近地津波でO. P.+5.4m~+5.7m,遠地津波でO.P.+5.4m~+5.5mと報告されていた。このとき,被告東電は,非常用D/G発電機冷却系海水ポンプの位置をかさ上げした(同第12,4[❷-60 頁])。 ⑵ 耐震バックチェックを巡るやり取り 平成18年9月,原子力安全委員会が耐震設計審査指針を改訂し(平成18年耐震設計審査指針),施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性があると想定することが適切な津波によっても,施設の安全機能が重大な影響を受けるおそれがないことを十分考慮した上で設計されなければならないとした。また,同月,保安院は,既設の発電用原子炉施設等について,改訂 された耐震指針に照らした耐震安全性の評価を実施し,報告するよう指示(耐 震バックチェック)した(前記第4章第1節第19[❷-88 頁])。 平成20年3月,被告東電が福島第一原発に関する耐震バックチェック中間報告書を提出したが,津波安全対策に関する記載はなかった(同第20[❷- 91 頁])。 平成21年6月及び7月,エネ庁合同WGにおいて,福島第一原発バックチ ェック中間報告書に対する評価について議論され,その際,委員から,貞観地震及び貞観津波を考慮すべき旨の意見が出された。同年8月,保安院は,被告東電に対し,貞観津波等を踏まえた津波評価について説明するよう要請したところ,同年9月,貞観津波に関する佐竹論文の内容も 貞観地震及び貞観津波を考慮すべき旨の意見が出された。同年8月,保安院は,被告東電に対し,貞観津波等を踏まえた津波評価について説明するよう要請したところ,同年9月,貞観津波に関する佐竹論文の内容も考慮の上,福島第一原発でO.P.+8.6mから8.9mまでの試算結果となった旨の報告(平成2 1年報告)を被告東電から受けた。この数値は,従前,津波評価技術を基に試算した数値(O.P.+5.4m~+5.7m。前記⑴)を3m以上も上回り,非常用海水ポンプが水没することはもちろん,福島第一原発の敷地高にあと1m余りに迫る高さであった。 ⑶ 津波時のシナリオ検討 平成20年8月,JNES(独立行政法人原子力安全基盤機構)は,地震随伴現象である津波について,確率論的安全評価手法を整備するための前提的な検討として,津波事故の基本的なシナリオを検討したが,それによれば,津波到来により原子炉建屋内に浸水した場合には,全交流電源が喪失するほか,炉心冷却系統が全機能喪失する場合などのシナリオが想定されていた(前記第4 章第1節第21[❷-92 頁])。 ⑷ 平成19年4月以降の事情についての当裁判所の検討・評価のまとめア平成21年報告についての評価以上みてきたとおり,福島第一原発設置許可以来,報告するたびに増加していた設計津波推移は,保安院の要請に応じて被告東電が保安院に行った平 成21年報告において,貞観津波を考慮に入れて計算したことによって,設 計想定津波の波高の算出結果が急激に上昇し,非常用海水ポンプが水没することはもちろん,敷地レベルにあと約1m余りという水準に達することとなった。 (ア) 非常用海水ポンプの設置位置からみた平成21年報告の評価そもそも,福島第一原発は,非常用海水ポンプの設置位置との関 はもちろん,敷地レベルにあと約1m余りという水準に達することとなった。 (ア) 非常用海水ポンプの設置位置からみた平成21年報告の評価そもそも,福島第一原発は,非常用海水ポンプの設置位置との関係では, チリ地震津波の波高O.P.+3.122mを前提とした上,これを上回る高さ(O.P.+4.0m)にポンプ室を設けていたが(前記第4章第1節第2,1[❷-24 頁]),同設定は津波評価技術刊行時の試算により既に覆され,非常用海水ポンプのかさ上げを余儀なくされていたところ(前記⑴),平成21年報告において貞観津波に関する佐竹論文の内容を考慮 に入れて計算した結果,かさ上げ後の非常用海水ポンプの位置をも大きく上回る数値が算出されたというのである。貞観津波に関する佐竹論文(前記第4章第4節第3,2⑸[❷-212 頁])は,その結論にいくらかの留保を設けているとはいえ,その時点における最新の知見で,かつ,相応の権威ある学術論文であったと評価できるところ,貞観地震(貞観津波)は, 中央防災会議報告が留意事項として掲げていたものでもある。これらの事情を素直かつ端的に評価すれば,津波評価技術がその各論において掲げた基準断層モデルの設定に基づく想定設計津波の算出結果は,中央防災会議報告がなお留意を求めていた貞観地震に関する最新の知見を踏まえた平成21年報告により覆されたものである。 このように,平成21年報告は,非常用海水ポンプの設置位置に関してみれば,被告国にとって,従来津波評価技術の各論に従って実施されていた措置の安全性が,そのわずか6年後に発表された知見により覆されるという事態を露顕させたものであった。 (イ) 敷地レベルとの位置関係からみた評価 福島第一原発の敷地高は,もともと,一定の津波を想定してそれを敷 わずか6年後に発表された知見により覆されるという事態を露顕させたものであった。 (イ) 敷地レベルとの位置関係からみた評価 福島第一原発の敷地高は,もともと,一定の津波を想定してそれを敷地 高で防護するという考え方の下に設計されたものであったとはいえないものであり,想定される津波に対する敷地高の裕度も,結果として想定津波の波高を上回っている事実上の裕度でしかなかったものである。しかるに,平成21年報告により,従前津波評価技術の各論に基づいて算出された波高は,なお不確定性をはらむものとはいえ大幅に上方修正されること となり,上記事実上の裕度はわずか1m余りとなったものである。 仮に,いま新たに原子力発電所を設置することとなり,その設置に当たって,一定の津波を想定してそれを敷地高で防護するという思想の下に設計する場合,なお不確定性をはらむとはいえ,最新の知見に基づいて算出される想定津波の波高に対して,裕度を1m余りとして設計することはお よそ考えられない。これは,福島第一原発が,その設置段階で,一応の検討要素にとどまるとはいえ高極潮位としてチリ地震津波の波高O.P.+3.122mを考慮し,なおこれを上回るO.P.+10mに敷地高を設定していたことに照らしても明らかである。そうであるとすれば,福島第一原発の敷地高が想定津波に対して事実上有していた裕度は,平成21年 報告により,仮に原子力発電所を新規に設置するとすればおよそ許可の可能性がないほどまでに失われたものと評価することができる。 (ウ) 平成21年報告についての評価のまとめ以上のとおり,平成21年報告は,被告国にとってみれば,従前福島第一原発の敷地高が想定津波に対して事実上有していた裕度を実質的に喪 失させ,かつ,従前津波評価技術の各 についての評価のまとめ以上のとおり,平成21年報告は,被告国にとってみれば,従前福島第一原発の敷地高が想定津波に対して事実上有していた裕度を実質的に喪 失させ,かつ,従前津波評価技術の各論に従い実施されていた措置の安全性を現に覆すという,極めて重大な報告であったと評価することができる。 イ帰結前記ア(ウ)のとおり,平成21年報告は,被告国にとって極めて重大な報告であった。すなわち,前記第1でみたとおり,平成19年4月の時点では, 福島第一原発の敷地レベルを超える津波の到来可能性は,被告国にとっては いまだ抽象的な域を脱していなかったものの,安全対策上考慮すべき地震・津波として,過去の記録のある既往地震・津波のみならず,過去の記録がないが現在の知見に照らせば想定すべき地震・津波をも考慮すべきとの被告国の一貫した基本姿勢に照らし,福島第一原発の敷地レベルを超える津波を安全対策の対象から除外できる状況にはなかった。その上で,平成21年に至 って,被告国自身が中央防災会議報告において留意を呼びかけていた貞観地震に関する知見を反映した平成21年報告により,中央防災会議報告が検討対象から除外した地震であっても,従前福島第一原発の敷地高が想定津波に対して事実上有していた裕度を実質的に喪失させ,かつ,従前津波評価技術の各論に従い実施されていた措置の安全性を現に覆すという,重大な結論を もたらすことが明らかになったものである。このことからすれば,平成21年報告は,安全対策上考慮すべき想定地震の範囲を,津波評価技術の各論で示された範囲若しくは中央防災会議報告の本編が示す範囲よりも広げ,中央防災会議報告が留意事項として明記していた貞観地震ほかの地震や,長期評価が発生の可能性を指摘していた三陸沖北部から房総沖の日本 で示された範囲若しくは中央防災会議報告の本編が示す範囲よりも広げ,中央防災会議報告が留意事項として明記していた貞観地震ほかの地震や,長期評価が発生の可能性を指摘していた三陸沖北部から房総沖の日本海溝寄りの 領域(更に福島第一原発との関係でいえば,三陸沖中部ないし福島沖から茨城沖の日本海溝寄りの領域)において発生する地震にまで拡大しなければ,従前被告国が一貫してとってきた基本姿勢にもはや合致しないということを明らかにしたものということができる。 他方,被告国は,JNES(独立行政法人原子力安全基盤機構)の検討を 通じて,確率論的安全評価手法の準備段階であったとはいえ,津波到来により原子炉建屋内に浸水した場合の機序について,具体的に予見していた。外部溢水対策は,溢水勉強会の結論により耐震バックチェックに委ねることとされていたが,被告東電が提出した耐震バックチェック中間報告書は,地震随伴現象である津波について何ら記載がなかったのであるから,溢水勉強会 がその検討テーマとした津波溢水アクシデントマネジメント策の策定は,確 率論的安全評価手法の研究以外には何ら進んでいない状況であり,このことは,ひとたび敷地高を超える津波が福島第一原発に到来すれば,相当の高確度で電源設備が機能喪失し,原子炉安全停止に関わる設備が機能を喪失するという,機能的に切迫した状態にあることを示していた(前記1⑷)。 以上を総合すると,被告国は,平成21年9月に,被告東電から平成21 年報告を受けたことで,従前福島第一原発の敷地高が想定津波に対して事実上有していた裕度を実質的に喪失し,かつ,従前津波評価技術の各論に従い実施されていた措置の安全性が現に覆されるという事態に接したのであるから,このような事態に即して考えれば,安全対策上考慮す て事実上有していた裕度を実質的に喪失し,かつ,従前津波評価技術の各論に従い実施されていた措置の安全性が現に覆されるという事態に接したのであるから,このような事態に即して考えれば,安全対策上考慮すべき想定地震の範囲を,津波評価技術の各論で示された範囲若しくは中央防災会議報告の本 編が示す範囲よりも広げ,中央防災会議報告が留意事項として明記していた貞観地震ほかの地震や,長期評価が発生の可能性を指摘していた三陸沖北部から房総沖の日本海溝寄りの領域において発生する地震にまで拡大しなければ,従前被告国が一貫してとってきた基本姿勢にもはや合致しないということが,被告国にとっても明らかであったといえる。その上で,その時点の 安全対策の実施状況に照らせば,被告国においては,ひとたび敷地高を超える津波が福島第一原発に到来すれば,相当の高確度で電源設備が機能喪失し,原子炉安全停止に関わる設備が機能を喪失することが具体的に認識されていた。そして,証拠上,平成21年報告の時点で,中央防災会議報告が留意事項として明記していた貞観地震ほかの地震や,長期評価が発生の可能性を 指摘していた三陸沖北部から房総沖の日本海溝寄りの領域において発生する地震を考慮に入れて,なおかつ福島第一原発の敷地高を超える津波が到来する可能性が存在しないか,存在してもこれが社会通念上容認される程度に低いものであったことをうかがわせるような知見は存在しない。そうであるとすれば,被告国として,福島第一原発の敷地高を超える津波の到来を予見 すべき義務があり,かつ,予見が可能であったと認められる。 3 予見可能性に関する結論前記1及び2の判示に照らせば,被告国は,平成21年9月の時点で,福島第一原発の敷地高であるO.P.+10mを超える津波の到来という自 あったと認められる。 3 予見可能性に関する結論前記1及び2の判示に照らせば,被告国は,平成21年9月の時点で,福島第一原発の敷地高であるO.P.+10mを超える津波の到来という自然現象の発生,及び,これによって,電源設備が被水して全電源喪失という事態に至り,冷却機能が機能不全に陥って原子炉施設の閉じ込める機能が喪失して放射性物質 が外部に放出されるという事態に至ることを予見することができたと認められる。 他方,それより以前においては,平成19年4月の時点において,被告国は,仮に敷地レベルを超える津波が襲来した場合には,電源設備が機能喪失し,原子炉安全停止に関わる機器が機能を喪失する可能性があることを予見していたと いうことはできるが,同月時点においては,福島第一原発の敷地レベルを超える津波の到来可能性は,被告国にとってはいまだ抽象的な域を脱していなかったから,このような抽象的な可能性の認識をもって,予見可能性を肯定することはできない。 第3 当事者の主張に対する補足説明 1 被告国の主張に対する補足説明⑴ 被告国の主張の要旨被告国は,規制権限を行使すべき作為義務が生じる予見可能性が認められるというためには,通説的な見解といえる程度に形成,確立した科学的根拠に基づいて,具体的な法益侵害の危険性が予見できることが必要であると主張した 上,4省庁報告書等,長期評価その他の見解を総合しても,これらの見解は,通説的な見解といえる程度に形成,確立した科学的根拠ということはできないとして,予見可能性を争う。 ⑵ 科学的知見の熟成度と予見可能性の関係について被告国は,規制権限の行使は,被規制者に対して,権利・利益の制限や義務・ 負担を発生させるだけでなく,場合によっては刑事罰等による制裁 う。 ⑵ 科学的知見の熟成度と予見可能性の関係について被告国は,規制権限の行使は,被規制者に対して,権利・利益の制限や義務・ 負担を発生させるだけでなく,場合によっては刑事罰等による制裁を課すこと になるものであるから,その規制権限の行使が認められるのは,規制権限の行使を正当化できるだけの客観的かつ合理的な根拠がある場合に限られるというべきであると主張した上(前記第3章第2節第3,2⑴ア[❶-62 頁]),その根拠が科学的知見である場合には,当該規制に関わる専門的研究者の間で正当な見解であると是認され,通説的見解といえる程度に確立した科学的知見に よって裏付けられている必要があるというべきであると主張する(同[❶-62頁])。 しかしながら,規制権限の行使の場面において,それを正当化できるだけの根拠が必要であることは被告国の主張のとおりであるとしても,その根拠は,科学的知見に限られるものではない。原子力発電所を始め,科学技術を利用し た各種の機械,装置等は,絶対に安全というものではなく,常に何らかの程度の事故発生等の危険性を伴っているところ,その危険性が社会通念上容認できる水準以下であると考えられる場合に,又はその危険性の相当程度が人間によって管理できると考えられる場合に,その危険性の程度と科学技術の利用により得られる利益の大きさとの比較衡量の上で,これを一応安全なものであると して利用しているのであり(相対的安全性),そのため,当該機械,装置等の安全性の適合性判断に当たっては,我が国の現在の科学技術水準によるべきことはもとより,我が国の社会がどの程度の危険性であれば容認するかという観点を考慮に入れざるを得ないのであって,そうであるからこそ,被告国(行政庁)は,安全審査基準の策定及び処分要件の 準によるべきことはもとより,我が国の社会がどの程度の危険性であれば容認するかという観点を考慮に入れざるを得ないのであって,そうであるからこそ,被告国(行政庁)は,安全審査基準の策定及び処分要件の認定判断の過程において専門技術 的裁量を有すると解されるのである(最高裁平成4年判決も同旨の考え方に立っていると解される。)。被告国の主張が,規制権限の行使の場面において,その行使・不行使の判断がことさら科学的知見の熟成度のみに依拠するというものであるとすれば,これは,むしろ,被告国(行政庁)が有する上記専門技術的裁量のうち,我が国の社会がどの程度の危険性であれば容認するかという観 点に基づく判断に関する裁量を放棄するに等しい。 そうすると,被告国(行政庁)が,その専門技術的裁量をもって原子力発電所の安全性について判断する場合には,一定の知見が相応の科学的根拠を有するか否かはもとより,同知見によればもたらされるとされる危険性が,我が国の社会において容認されるかどうかという点について,多角的・総合的な検討を加えることが求められ,その多角的・総合的な検討の結果,当該知見によれ ばもたらされるとする危険性(敷地高を超えて津波が流入すること)が,我が国において容認されるものではないとの結論を導き出し得る状況にあるのであれば,被告国(行政庁)のいうところの当該科学的知見の「熟成度」如何は予見可能性の判断に影響を与えるものではないということができる。したがって,当裁判所は,規制権限の行使の場面において,一定の知見が相応の科学的 根拠を有することが要請されることはあっても,それが通説的見解といえる程度に確立したものであることまで当然に要求されることはなく,その見解が通説的見解といえる程度に確立したものでないことから直ちに 根拠を有することが要請されることはあっても,それが通説的見解といえる程度に確立したものであることまで当然に要求されることはなく,その見解が通説的見解といえる程度に確立したものでないことから直ちに予見可能性が否定されるものではないと考えるものである。 そうであるとすれば,仮に,被告国の主張するとおり,4省庁報告書等や長 期評価の見解が,「通説的な見解といえる程度に形成,確立した科学的根拠」といえないものであったとしても,これら見解によればもたらされるとされる危険性が,我が国の社会において容認されるものではないとの結論が導き出されるかどうかが次に問題となるのであるから,4省庁報告書等や長期評価の見解の熟成度の検討は,予見可能性の判断にその限りで影響するにすぎないと考え られる。 ⑶ 「通説的な見解といえる程度に形成,確立した科学的根拠」の意義について前記⑵の点をひとまず措くとしても,被告国が主張するところの「通説的な見解といえる程度に形成,確立した科学的根拠」が具体的にいかなる学問的状況を指すのかについては,被告国の主張によっても明らかでない。被告国は, 4省庁報告書等や長期評価の見解に対して有力な反対説があることをもって, これら見解が「通説的な見解といえる程度に形成,確立」していないと主張するものであるが,科学的知見,とりわけ,技術的に高度な分野の科学的知見は,ある問題が科学的に100パーセント解明されるということは極めてまれであり,どのような問題点についても反対説が存在し得るものであるから,その知見が「通説的」であるか否かは,その知見が活用される場面の問題設定如何 によって大きく変動する相対的評価にすぎないというべきであり,有力な反対説があることをもって,規制権限の根拠となる科学的知見への該当 説的」であるか否かは,その知見が活用される場面の問題設定如何 によって大きく変動する相対的評価にすぎないというべきであり,有力な反対説があることをもって,規制権限の根拠となる科学的知見への該当性が否定されるとはいえない。 したがって,予見可能性の判断に当たり,被告国が主張するところの「通説的な見解といえる程度に形成,確立した科学的根拠」といえるかどうかという ことを直接的な基準として用いることは困難である。 ⑷ 4省庁報告書等や長期評価の見解の熟成度について前記⑵のとおり,4省庁報告書等や長期評価の見解が「通説的な見解といえる程度に形成,確立した科学的根拠」といえるかどうかについては,予見可能性の認定に直接関係する事情としては,これを判断する意義を見出し難いもの であるが,他方,これらがおよそ科学的根拠を伴っていない知見であるとすれば,その見解によればもたらされるとされる危険性が,我が国の社会において容認されるものであるか否かの判断に進む必要すらないということになる。 この点,前記判示のとおり,4省庁報告書等は,被告国において,津波防災行政における対象津波の選定に係る基本姿勢を大きく変更したものではあっ たが,同見解が示した津波被害の想定結果は,精度としては限定的なものであったし(前記第2,1⑷ア[❸-8 頁]),長期評価も,津波地震の発生を過去のデータに基づいて評価することは困難であるが,これが発生しないと評価することも困難であることから,抑制的な信頼度を付しつつも,発生領域を三陸沖北部から房総沖の海溝寄りという長大な海域に設定するという工夫を施し て,津波地震の発生確率を一応定量化したというものであったから,これらの 見解は,必ずしも通説的見解といえる程度に確立したものであるとまではいい 長大な海域に設定するという工夫を施し て,津波地震の発生確率を一応定量化したというものであったから,これらの 見解は,必ずしも通説的見解といえる程度に確立したものであるとまではいい切れない。 しかし,これらの見解は,平成5年の北海道南西沖地震以降,被告国がとってきた基本姿勢,すなわち,安全対策上考慮すべき地震・津波として,過去の記録のある既往地震・津波のみならず,過去の記録がないが現在の知見に照ら せば想定すべき地震・津波をも考慮すべきとの基本姿勢を踏襲して発表された見解であり,かつ,これらの見解は,各論において異論があったとはいえ,首藤伸夫,佐竹健治ら最先端の知見を提供するに足りる専門家を委員に迎えてとりまとめられたものであるから,相応の科学的根拠を有しているものと認められる。 そうすると,4省庁報告書等や長期評価の見解は,その見解によればもたらされるとされる危険性が,我が国の社会において容認されるものであるか否かの検討に進む前提として求められる相応の科学的根拠は有していたと認めることができる。 ⑸ これまでの判例法理について ア最高裁平成4年判決について被告国は,最高裁平成4年判決に係る最高裁判所判例解説民事編(平成4年度)を引用して,「従来の科学的知識の誤りが指摘され,従来の科学的知識に誤りのあることが現在の学界における通説的見解となったような場合には,現在の通説的見解(中略)により判断すべきであろう」(同423頁), 「現在の通説的な科学的知識によれば,右事故防止対策は不十分であり,その基本設計どおりの原子炉を設置し,将来,これを稼働させた場合には,重大な事故が起こる可能性が高いと認定判断されるときには,当該原子炉の安全性を肯定した設置許可処分は違法であるとして,これを取 ,その基本設計どおりの原子炉を設置し,将来,これを稼働させた場合には,重大な事故が起こる可能性が高いと認定判断されるときには,当該原子炉の安全性を肯定した設置許可処分は違法であるとして,これを取り消すべきであろう。」(同424頁)とあることから,原子炉設置許可処分の取消事由とな る違法性の有無を判断するために用いられる科学的知見は「通説的見解」に よるべきとしていると主張する。 しかし,被告国の引用部分は,原子力発電所の安全審査において,どの時点の科学的技術水準により判断すべきかという論点について,処分当時の科学的技術水準と裁判時の科学的技術水準とを並べ検討する中で,裁判時の科学的技術水準の説明として「現在の学界における通説的見解」という文言を 用いているものにすぎないのであって,これが,原子力発電所の安全審査に当たって通説的見解に達した科学的知見のみを検討すれば足りるという趣旨の記載でないことは明らかである。被告国の主張は採用できない。 イ規制権限の不行使と科学的知見が問題となったその他の最高裁判決について 被告国は,従来の最高裁判決からすれば,いまだ発生していない被害の発生防止のための規制権限の不行使が違法と評価されるためには,確立された科学的知見に基づく具体的な危険発生の可能性の予見が必要となるとも主張する(前記第3章第2節第3,2⑴ウ[❶-65 頁])。 しかしながら,いわゆる規制権限の不行使が問題となった各種最高裁判例 (クロロキン最判,筑豊じん肺最判,関西水俣病最判)のいずれの判示をみても,被告国が主張するところの一般原則,すなわち,規制権限の不行使が違法と評価されるためには,確立された科学的知見に基づく具体的な危険発生の可能性の予見が必要となるとの原則が示されているわけではなく も,被告国が主張するところの一般原則,すなわち,規制権限の不行使が違法と評価されるためには,確立された科学的知見に基づく具体的な危険発生の可能性の予見が必要となるとの原則が示されているわけではなく,規制権限の不行使の違法を検討するに当たって,それぞれ,問題となっている時 点における科学的知見の熟成度について事例判断を重ねているにすぎない。 また,被告国の主張は,最高裁が,既に重大な被害が現実に多数発生し被害者救済の必要性が高かった事案であっても,確立された科学的知見に基づく具体的な危険発生の可能性の予見を必要としているとの理解の下,これを拡大ないし類推解釈し,いまだ被害が発生していない事案においても,同様 に確立された科学的知見に基づく具体的な危険発生の可能性の予見を要す るのが,最高裁の考え方に合致するというものであるところ,被害の発生・不発生と,規制権限行使の前提となる科学的知見の熟成度は,必ずしも端的に関連するものではない。過去に被害発生の記録が残っておらず,現時点で被害が現に発生しているとはいえないような状況下であっても,ある科学的知見によれば被害がもたらされるとされる危険性が,我が国の社会において 容認されるものではないとの結論が導き出されるかどうかは,被害の内容・大きさ等と,その知見の熟成度に応じて個別に検討されるべきものである。 従前の各種最高裁判例において検討の材料とされた科学的知見の熟成度と,本件における予見可能性を判断する前提としての4省庁報告書等や長期評価による見解の熟成度とを,単純に横断的に比較・評価することは困難とい うほかはない。 ⑹ 被告国のその他の主張について以上みてきたとおり,予見可能性に関する被告国の主張,すなわち,予見可能性の程度として,通説的な見解といえる程 較・評価することは困難とい うほかはない。 ⑹ 被告国のその他の主張について以上みてきたとおり,予見可能性に関する被告国の主張,すなわち,予見可能性の程度として,通説的な見解といえる程度に形成,確立した科学的根拠に基づいて,具体的な法益侵害の危険性が予見できることが必要であることを前 提に,本件においてはそのような確立した科学的根拠がなく,具体的な法益侵害の危険性は予見できなかったとする主張は,科学的根拠(科学的知見)の成熟度が一考慮要素になることはあっても,それが通説的な見解といえる程度に確立しているか否かは本件で問題とならず,かつ,4省庁報告書等や長期評価は相応の科学的根拠を有すると認められるから,被告国の上記主張は,前記第 2,3[❸-23 頁]の結論を左右しない。 以下においては,被告国の各論的な主張に対して,個別に説明を加える。 ア 4省庁報告書等の見解について被告国は,4省庁報告書等は,最新の科学的,技術的知見を踏まえた合理的な予測とするには精度が足りず,想定津波を超える津波発生を具体的に示 唆するものではないし,ハード面での対策を要求することを前提とした記載 もないから,このような抽象的な危険性を前提とした予見可能性が認定されるようなことがあってはならないし,4省庁報告書等から導き出される津波高さは,そもそも福島第一原発の主要建屋の敷地高を超えないものであったから,4省庁報告書等は,本件事故の予見可能性を基礎づける知見とはなり得ないと主張する(前記第3章第2節第3,2⑶イ(ウ)[❶-73 頁])。 当裁判所も,4省庁報告書等により,直接に予見可能性を肯定できるものとは考えないが,4省庁報告書等は,被告国において,津波防災行政における対象津波の選定に係る基本姿勢を大きく変 3 頁])。 当裁判所も,4省庁報告書等により,直接に予見可能性を肯定できるものとは考えないが,4省庁報告書等は,被告国において,津波防災行政における対象津波の選定に係る基本姿勢を大きく変更したものであり,その基本姿勢は,後の長期評価及び中央防災会議報告においても維持されたものである(前記第2,1⑷ア[❸-8 頁],同オ[❸-13 頁])から,予見可能性の検 討に当たり4省庁報告書等が検討に値しないということはできない。 イ長期評価の見解について被告国は,長期評価の見解は,これと異なる理学的知見が多く示されていたほか,その策定に関与した専門家を含む地震学・津波学及び津波工学の専門家らも,一様に長期評価の見解が理学的根拠に乏しいものであった旨の意 見を述べており,これを裏付ける事実関係も多々存在することから,およそ最新の科学的,技術的知見を踏まえた合理的な予測によってリスクを示唆する知見とは呼べないものであったとか,長期評価の見解は,その発表後,中央防災会議報告の策定に当たり,経済産業省や文部科学省全てを含めた当局全体で,これを取り入れないこととされ,結局,規制に関わる専門的研究者 の間で是認されなかったなどと主張する。 しかし,長期評価は,津波地震の発生を過去のデータに基づいて評価することは困難であるが,これが発生しないと評価することも困難であることから,抑制的な信頼度を付しつつも,発生領域を三陸沖北部から房総沖の海溝寄りという長大な海域に設定するという工夫を施して,津波地震の発生確率 を一応定量化したというものである(前記第2,1⑷イ[❸-8 頁])から, その成熟度が必ずしも高いものとはいえないということはできても,およそ合理的な予測によってリスクを示唆する知見と呼べないものであっ というものである(前記第2,1⑷イ[❸-8 頁])から, その成熟度が必ずしも高いものとはいえないということはできても,およそ合理的な予測によってリスクを示唆する知見と呼べないものであったとはいえない。なお,長期評価の見解と異なる知見については,後記ウで詳述する。 また,後記エのとおり,中央防災会議報告は,長期評価の見解が規制に関 わる専門的研究者の間で是認されなかったというものではない。 ウ長期評価の見解と異なる知見についてまずもって,科学的知見,とりわけ,技術的に高度な分野の科学的知見は,ある問題が科学的に100パーセント解明されるということは極めてまれであり,どのような問題点についても反対説が存在し得るものであるから, 長期評価の見解と異なる知見があるからといって,そのこと自体が,長期評価の見解の科学的根拠を喪失させることにはならない。その点を措いても,被告国が列挙する「長期評価の見解と異なる知見」は,長期評価の見解の成熟度が必ずしも高いものとはいえないことを示すものではあっても,その科学的根拠を否定するものではない。 (ア) 各種論文についてa 平成8年谷岡・佐竹論文について同論文(前記第4章第4節第3,1⑴[❷-208 頁],同第4,2⑴イ(ウ)[❷-222 頁],同⑶イ[❷-229 頁])は,津波地震の典型とされる明治三陸地震を題材に,その発生域である三陸沖北部の海底地形,とり わけ,海溝近くの海底地形と海溝から陸寄りの領域の海底地形との差異に着目し,明治三陸地震と同様の津波地震は,海溝近くの海底に凹凸があり,海側のプレートと陸側のプレートとが強く固着している領域で発生すると考えられる一方,海溝近くの海底地形が「なめらかな」領域は無地震域となり,更に深くプレートが沈み込む ,海溝近くの海底に凹凸があり,海側のプレートと陸側のプレートとが強く固着している領域で発生すると考えられる一方,海溝近くの海底地形が「なめらかな」領域は無地震域となり,更に深くプレートが沈み込むと典型的なプレート間大 地震を引き起こすこととなるとするものである。 同論文の趣旨は,明治三陸地震が,限られた領域や特殊な条件が揃った場合のみ発生すると考えられるというもの(同⑶イ[❷-229 頁])であって,それ以外の領域では,津波を伴う地震が発生しないということを述べたものではない。また,同論文では,無地震域とする領域について,海溝近くの海底地形のみならず,典型的なプレート間大地震の発生 機構とも関連づけて説明されているところ,長期評価の見解が示す領域,とりわけ日本海溝中部(三陸沖南部,福島県沖,茨城県沖)の領域について,海底地形と典型的なプレート間大地震の発生機構とを勘案して無地震域としているわけではない。 b 海底地形に着目するその他の論文について 日本海溝中部以南の領域におけるプレート間地震の発生機構と海底地形とを関連づける論文は複数存在するが,これらは,いずれも,平成8年谷岡・佐竹論文がいう「無地震域」に日本海溝中部が該当するとうかがわせるようなものではない。 すなわち,日本海溝南部においては北部に比べて海底の地形的特徴が ないとする鶴哲郎の論文(前記第4章第4節第3,1⑵[❷-209 頁])は,日本海溝域でのプレート境界地震の発生機構に関し,大規模な地震を引き起こすか否かという観点から述べられたものであって,必ずしも大きな揺れを引き起こさない津波地震(断層が通常よりゆっくりとずれて,人が感じる揺れが小さくても,発生する津波の規模が大きくなるよ うな地震〈前記第4章第1節第10,5 ものであって,必ずしも大きな揺れを引き起こさない津波地震(断層が通常よりゆっくりとずれて,人が感じる揺れが小さくても,発生する津波の規模が大きくなるよ うな地震〈前記第4章第1節第10,5⑴[❷-47 頁]〉)の発生機構をも念頭に置いて論述されたものではない。 また,福島県沖~茨城県沖にかけての領域において発生する低周波地震は大きな津波を引き起こさないかもしれないとする松澤暢・内田直希の論文(前記第4章第4節第3,1⑶[❷-210 頁])は,同領域におい て大規模な低周波地震が発生する可能性を指摘しており,このような低 周波地震の発生と津波地震の発生とは,性質上矛盾するものではないから,同論文の上記記述は,長期評価の見解に対する反対的な推論にはなっても,同見解の科学的根拠を否定するものであったとはいえない。 c その他論文について長期評価の見解に明確に疑問を呈する石橋克彦の論文(同⑸)は,主 として延宝房総沖地震の評価に対して反対説を述べるものであって,日本海溝中部の領域での津波地震発生の可能性について疑問を述べるものではない。 その他,プレート間地震の発生機構に関する論文や貞観地震・津波に関する論文の内容を検討しても,日本海溝中部の領域での津波地震の発 生可能性を否定するものは見当たらない。 (イ) 専門家の各種意見についてa 佐竹健治の意見について佐竹健治の研究内容は,発生繰り返し間隔の長い巨大地震や津波を地学的な変動現象としてとらえ,計器観測記録の検討,歴史地震学的研究 手法,地形・地質学的研究手法,海洋地質学手法も併せて,地球上で過去に発生した地震や津波について調査し,将来の地震・津波の発生や被害についての定量的分析を飛躍的に前進させたものである(前記第4章第4節第4, ・地質学的研究手法,海洋地質学手法も併せて,地球上で過去に発生した地震や津波について調査し,将来の地震・津波の発生や被害についての定量的分析を飛躍的に前進させたものである(前記第4章第4節第4,2⑴ア[❷-219 頁])。 その述べるところ(同イ[❷-220 頁])は,要するに,長期評価の策 定過程においても,三陸沖北部から房総沖にかけての日本海溝沿いで発生する可能性があると評価された地震・津波は,その規模を定量的に分析できるまでの段階に達していなかったというものであるところ,当裁判所も,佐竹健治の意見は首肯できるものと考える。 しかしながら,前記のとおり,当裁判所は,長期評価を,津波地震の 発生を過去のデータに基づいて評価することは困難であるが,これが発 生しないと評価することも困難であることから,抑制的な信頼度を付しつつも,発生領域を三陸沖北部から房総沖の海溝寄りという長大な海域に設定するという工夫を施して,津波地震の発生確率を一応定量化したものと評価するものであるから,同評価は,佐竹健治の上記意見と何ら矛盾するものではない。 b 松澤暢の意見について松澤暢の意見(同⑵イ[❷-225 頁])は,主として,本件津波と同規模の津波を予見することが困難であったという観点から,長期評価の見解に慎重な立場を表明するものである。しかし,津波地震が三陸沖北部から房総沖の日本海溝沿いのどこでも発生する可能性があるとの見解 については,松澤暢自身が「結局,津波地震が起きないという確たる科学的根拠もない以上,起きないと結論づけることは科学的ではなく,長期評価においては,海溝軸近くのプレートが沈み込み始めた領域という,構造の同一性に着目して一つの領域を設定しているのであるから,全く科学的根拠がないとはいえな いと結論づけることは科学的ではなく,長期評価においては,海溝軸近くのプレートが沈み込み始めた領域という,構造の同一性に着目して一つの領域を設定しているのであるから,全く科学的根拠がないとはいえない。しかし,他方,起きないと言い切れな いから起きる可能性があるという論理も,これまた科学的とは言い難く,長期評価の見解は,全く科学的根拠がなくはないとはいえ,それほど強い根拠でもなく,私自身は,本来は『不明』と結論づけるべきだったと思う」と述べるところが正鵠を得ているというべきである。前記のとおり,当裁判所は,長期評価を,津波地震の発生を過去のデータに基づい て評価することは困難であるが,これが発生しないと評価することも困難であることから,抑制的な信頼度を付しつつも,発生領域を三陸沖北部から房総沖の海溝寄りという長大な海域に設定するという工夫を施して,津波地震の発生確率を一応定量化したものと評価するものであるから,同評価は,松澤暢の上記意見と何ら矛盾するものではない。 c 谷岡勇市郎の意見について 谷岡勇市郎の意見(同⑶イ[❷-229 頁])は,主として,明治三陸地震が他のプレート間大地震とは違った異質なメカニズムであり,津波地震全般に一般化することが困難であるという観点から,長期評価の見解に慎重な立場を表明するものである。しかし,津波地震が三陸沖北部から房総沖の日本海溝沿いのどこでも発生する可能性があるとの見解に ついては,谷岡勇市郎自身が「地震学の分野では,津波地震のメカニズムを含め,多くの事項が未解明であるので,明治三陸地震のような津波地震についても,この地域で地震は起きないと断言することはできないし,可能性が否定できない以上,地震本部地震調査委員会の立場では,ひとまず防災行政的な警告をするた あるので,明治三陸地震のような津波地震についても,この地域で地震は起きないと断言することはできないし,可能性が否定できない以上,地震本部地震調査委員会の立場では,ひとまず防災行政的な警告をするためにも,明治三陸地震と同様の地震 が,三陸沖北部から房総沖の海溝寄りの領域内のどこでも発生する可能性があるという見解を出す意義はあると思う」と述べるところが正鵠を得ているというべきである。前記のとおり,当裁判所は,長期評価を,津波地震の発生を過去のデータに基づいて評価することは困難であるが,これが発生しないと評価することも困難であることから,抑制的な 信頼度を付しつつも,発生領域を三陸沖北部から房総沖の海溝寄りという長大な海域に設定するという工夫を施して,津波地震の発生確率を一応定量化したものと評価するものであるから,同評価は,谷岡勇市郎の上記意見と何ら矛盾するものではない。 d 笠原稔の意見について 笠原稔の意見(同⑷イ[❷-230 頁])は,理学的知見の精度の高低に留意すべき旨に言及しつつも,長期評価の見解については,理学的に否定できないことは事実であり,繰り返し性が確認できない地震・津波であっても,とにかく逃げるというソフト面での対応だけでも可能となるような方向性での警鐘を鳴らすことが必要である旨述べるものであっ て,長期評価の見解に異を唱えるものではなく,当裁判所の判断と何ら 矛盾するところはない。 e 津村建四朗の意見について津村建四朗の意見(同⑸イ[❷-231 頁])は,地震データや史料が乏しいにもかかわらず,極めておおざっぱな根拠,三陸沖から房総沖までの広大な日本海溝沿いの領域を一括りにして,津波地震が発生する可能 性があると評価した長期評価は,地震学の基本的な考え方からすると異 いにもかかわらず,極めておおざっぱな根拠,三陸沖から房総沖までの広大な日本海溝沿いの領域を一括りにして,津波地震が発生する可能 性があると評価した長期評価は,地震学の基本的な考え方からすると異質であるとするものである。しかし,この見解は,安全対策上考慮すべき地震・津波として,過去の記録のある既往地震・津波のみならず,過去の記録がないが現在の知見に照らせば想定すべき地震・津波をも考慮すべきとの被告国の一貫した基本姿勢と整合しないものであり,地震学 上の一意見ではあるが,それによって,上記の被告国の一貫した基本姿勢を前提として検討すべき法的な予見可能性に関する判断が左右されることはない。 f 今村文彦の意見について今村文彦は,津波防災・減災技術開発及び津波数値解析を専門とする ものであり,津波のリスクを定量的に分析した上で,その分析結果に基づきハード面及びソフト面の安全対策を合理的に振り分け,もって津波に関する理学的知見を社会における物づくりや環境づくりに役立てるという世界的にも希少な学問分野の第1人者である(同⑹ア[❷-232頁])。 その述べるところ(同イ[❷-232 頁])は,上記のような研究内容に立脚し,一般には,ある確率以上で発生する可能性のある津波に対しては主に施設を設計施工して防御するハード面の対策で対処することになるという観点から,長期評価の見解は,ハード面の対策を要求する程度の科学的コンセンサスが得られた知見とはいい難いとするものであ るが,今村文彦自身,理学的根拠から発生がうかがわれるという科学的 なコンセンサスが得られているとはいい難い津波についても,ソフト面の対策で対処することになると述べるとおり(同イ[❷-232 頁]),仮にハード面での対策を要求する程度の科学 いう科学的 なコンセンサスが得られているとはいい難い津波についても,ソフト面の対策で対処することになると述べるとおり(同イ[❷-232 頁]),仮にハード面での対策を要求する程度の科学的コンセンサスが得られていない知見であっても,その知見に応じた対処が必要とされる旨を明らかにするものであるから,当裁判所の判断と何ら矛盾するところはない。 なお,長期評価の見解が,ハード面の対策を要求する程度の熟成度を有していたかどうかについては後述する(後記第4節第3,1⑴[❸- 75 頁])。 g 首藤伸夫の意見について首藤伸夫は,津波防災行政における対象津波の選定に係る基本姿勢を 大きく変更させ,安全対策上考慮すべき地震・津波として,過去の記録のある既往地震・津波のみならず,過去の記録がないが現在の知見に照らせば想定すべき地震・津波をも考慮すべきとの被告国の基本姿勢を確立させるに当たって多大な尽力をしたものである(前記第4章第4節第4,2⑺イ(イ)[❷-238 頁])。 その述べるところ(同イ(エ)[❷-241 頁])は,中央防災会議報告と長期評価の防災行政上の位置付けの違いから,中央防災会議報告の結論を支持するものであるが,それにより,長期評価の見解が科学的根拠を欠くと述べるものではないし,当裁判所も,中央防災会議報告の結論自体を不適切とまでいうものではないから,首藤伸夫の意見は,当裁判所 の判断と何ら矛盾するところはない。 h 小括以上のとおり,地震の発生可能性及び長期評価の見解に関する各種専門家の意見は,被告国の基本姿勢とそもそも整合しない一部を除いて,いずれも,長期評価の見解の科学的根拠を否定するものではなく,かつ, 当裁判所の判断と何ら矛盾するところもないものである。 は,被告国の基本姿勢とそもそも整合しない一部を除いて,いずれも,長期評価の見解の科学的根拠を否定するものではなく,かつ, 当裁判所の判断と何ら矛盾するところもないものである。 エ中央防災会議報告について被告国は,中央防災会議報告について,原子力発電所も対象に含めた我が国の防災分野における地震・津波防災対策の検討として,長期評価の見解を含む科学的知見につき専門技術的判断を行い,その結果長期評価の見解は採用されなかった,すなわち,長期評価の見解は理学的根拠を十分に伴ってい なかったため,防災計画を策定すべき対象として採用される段階にないものと専門技術的判断が下されたところ,中央防災会議報告においては福島第一原発の敷地高を超える津波を想定していなかった以上,同報告によっても本件事故の予見可能性は基礎づけられるものではないと主張する。 しかし,前記判示のとおり,中央防災会議報告は,発生機序や繰り返し特 性の点で多種多様にわたる東北・北海道地方沿岸海域の地震について,防災行政の説得力維持の観点から,特に,過去に実際に発生した地震に基づいて整理された地震を検討対象としたものであるが,その検討対象から外された地震についても,過去のデータの不存在から科学的に解明されていないだけであるおそれを考慮し,なお留意が必要である旨を明らかにしたものであっ て,長期評価の結論を科学的に否定したものではなく,むしろ,津波安全対策において三陸沖北部から房総沖の海溝寄りで発生すべき津波地震を除外することができないという被告国の考えを,なお維持したものであった(前記第2,1⑷ウ[❸-10 頁])から,同報告により,長期評価について,防災計画を策定すべき対象として採用される段階にないものとの専門技術的 判断が下されたという なお維持したものであった(前記第2,1⑷ウ[❸-10 頁])から,同報告により,長期評価について,防災計画を策定すべき対象として採用される段階にないものとの専門技術的 判断が下されたということにはならない。 オ津波評価技術について被告国は,津波評価技術は,安全側の発想に立って設計想定津波を計算しており,国際的にも評価された合理的手法であるところ,津波評価技術を用いた試算によっては福島第一原発の敷地高を超える津波の到来は予見でき なかったと主張する。 しかしながら,津波評価技術は,少なくともその各論部分において「既往津波の痕跡高を説明できる断層モデルの位置」を前提として,「プレート境界付近に将来発生することを否定できない」基準断層モデルが設定された点については,実質的には,既往最大津波について,各種パラメータスタディを実施することにより,従前よりも安全側に立ったリスク評価を実施したと いうことに尽きるものであって,4省庁報告書等における被告国の考え方に基づいた「想定最大津波」を評価検討したものではなかったし,この点について,首藤伸夫・佐竹健治ら専門家が委員として関与した土木学会原子力土木委員会津波評価部会においては議論されていなかったものである(前記第2,1⑷エ(エ)[❸-13 頁])。上記基準断層モデルの設定を前提とする試算 結果は,過去の記録のある既往地震・津波に基づく考慮をより安全側に拡充させたという意味では合理性を有するものであったが,上記試算結果は,過去の記録がないが現在の知見に照らせば想定すべき地震・津波をも考慮したものではなく,被告国が一貫してとってきた基本姿勢に沿うものとはいえない。 カ溢水勉強会について被告国は,溢水勉強会は,津波が到来する可能性の有無・程度や すべき地震・津波をも考慮したものではなく,被告国が一貫してとってきた基本姿勢に沿うものとはいえない。 カ溢水勉強会について被告国は,溢水勉強会は,津波が到来する可能性の有無・程度や,津波が到来した場合に予想される波高に関する知見を得る目的で設置されたものではなく,実際にも,上記の各知見が獲得・集積されたことはなかったのであり,あくまでも仮定された水位の津波が到来し,かつ,それによる浸水が 長時間継続したと仮定した場合における原子力発電所施設への影響を検討したにすぎないものであったし,無限時間津波が襲来するという非現実的な想定がある以上,同想定を前提とした場合に全交流電源喪失のおそれがあるという結果が示されたからといって,敷地高を超える高さの津波が到来しさえすれば,当然に全交流電源喪失の具体的危険があるということにはならず, 他の知見と併せて津波対策を導き出すような知見ともいうことはできない と主張する(前記第3章第2節第3の2⑶オ[❶-86 頁])。 溢水勉強会の検討結果が,津波が到来する可能性の有無・程度や,津波が到来した場合に予想される波高に関する知見を得る趣旨のものでないことは被告国の主張のとおりである。 他方,溢水勉強会の検討結果は,結論として,仮に敷地レベルを超える津 波が襲来した場合には,非常用海水ポンプが使用不能な状態となるほか,浸水によって電源設備が機能喪失し,1分程度で原子炉安全停止に関わる電動機,弁等の動的機器が機能を喪失するというものであったところ,このような定性的な機序に関する検討結果に疑義を差し挟むような事情は証拠上認められない。そして,一般的な津波の周期に照らせば,津波1山の継続時間 は約10分であると考えられ,1分程度で電源喪失のおそれが生じるという検 する検討結果に疑義を差し挟むような事情は証拠上認められない。そして,一般的な津波の周期に照らせば,津波1山の継続時間 は約10分であると考えられ,1分程度で電源喪失のおそれが生じるという検討結果が指し示す危険性は,津波襲来時間を無限としようが限定しようが変わるところはない。溢水勉強会の検討結果は,まさしく,敷地高を超える高さの津波が到来しさえすれば,当然に全交流電源喪失の具体的危険があるということを端的に示したものと認めることができる。被告国の主張は採用 できない。 キその他の主張について被告国は,貞観地震に関する知見は予見可能性を基礎づけないと主張するところ(第3章第2節第3の2⑶カ),当裁判所も,それにより直ちに福島第一原発の敷地高を超える津波の到来が予見できるとするものではなく,貞観 地震の知見を踏まえてなされた平成21年報告が,被告国にとってみれば,従前福島第一原発の敷地高が想定津波に対して事実上有していた裕度を実質的に喪失させ,かつ,津波評価技術の各論に従い従前実施されていた措置の安全性を現に覆すという,極めて重大な報告であったと評価するものである(前記第2,2の⑷ア(ウ)[❸-20 頁])から,被告国の上記主張は当裁判 所の判断を左右しない。 被告国は,マイアミ論文が研究途上のものであった(前記第3章第2節第3,2⑶ケ[❶-98 頁])とか,被告東電が平成20年に行った試算の存在を知り得なかった(同サ[❶-101 頁])などとも主張するが,当裁判所は,マイアミ論文(後記3⑴ア(オ)[❸-46 頁])や被告東電の平成20年東電試算(同(キ)[❸-47 頁])等の事情は,そもそも被告国の予見可能性の有無を 判断する際の考慮要素と考えないものである。 その他,被告国が種々主張す -46 頁])や被告東電の平成20年東電試算(同(キ)[❸-47 頁])等の事情は,そもそも被告国の予見可能性の有無を 判断する際の考慮要素と考えないものである。 その他,被告国が種々主張するところは,いずれも裁判所の前記判断を左右するものではない。 ク結論以上の次第で,被告国の主張を子細に検討しても,前記第2,3の結論は 何ら左右されない。 2 被告東電の主張に対する補足説明被告東電の主張は,前記第3章第2節第3,3[❶-104 頁]のとおりであるところ,これに対する裁判所の補足説明は,被告国の主張に対する補足説明(前記2)に包摂されるものである。したがって,被告東電の主張を子細に検討して も,前記第2,3の結論は何ら左右されない。 3 原告らの主張に対する補足説明⑴ 平成14年頃には予見可能性が認められるとの主位的主張について原告らは,長期評価が,地震防災対策特別措置法に基づいて設置された地震調査研究推進本部が策定したものであり,異論の存在も踏まえ最大公約数的に 意見をまとめたものといえる以上,被告国は,地震発生の規模,確率を示した無視することができない知見としてこれを津波対策に取り入れなければならなかったところ,被告国が,長期評価に基づいて,想定津波の高さを試算し,又は被告東電に試算させていれば,福島第一原発1~4号機敷地南側にO.P. +15.7mの津波が到来すること,かかる津波により非常用電源設備の機能 が喪失すること,非常電源設備が喪失すれば全交流電源喪失により放射性物質 が外部に漏出するような重大事故に至る可能性があることを予見することが可能であったと主張する(前記第3章第2節第3,1⑴エ[❶-45 頁])。 ア 4省庁報告書等及び長期評価に対する被告東電の対応及び 外部に漏出するような重大事故に至る可能性があることを予見することが可能であったと主張する(前記第3章第2節第3,1⑴エ[❶-45 頁])。 ア 4省庁報告書等及び長期評価に対する被告東電の対応及びこれに付随する事情に関する補足的事実認定原告らの上記主張は,まずもって,長期評価の見解そのものをもって,被 告国において,福島第一原発の敷地高を超える津波の到来を予見することができたとするものであるが,原告らは,これに加え,以下のとおりの主張もする(前記第3章第2節第3,1⑴ウ[❶-32 頁])。 すなわち,原告らは,被告東電が,平成20年に,長期評価の見解に基づき,明治三陸地震の波源モデルを福島県沖に移動させて試算したところ,福 島第一原発1~4号機敷地南側にO.P.+15.7mの津波が到来するという結果を得た(平成20年東電試算)という事情を踏まえ,長期評価はかような重大な試算結果をもたらすものであったのに,その公表から6年もの期間が経過するまで,被告国も被告東電も,長期評価の見解について具体的に検討することなく放置し,それどころか,被告東電においては,上記のよ うな重大な試算結果を招来することとなる長期評価の見解をことさら受け入れようとせず,かえって同見解の信用性を矮小化するかのような行動に終始し,被告国においては,本来規制を受ける側である被告東電の上記姿勢を追認し,むしろ,これを後援するかのような態度をも示していたものであるから,このような被告らの不誠実な態度をも考慮すれば,被告らは,長期評 価の知見が重大な試算結果を招来することを認識していなかったのではなく,むしろ,その重大性を十分認識した上で,電力事業者が津波対策として高額な費用の支出を余儀なくされるという事態を回避するため,恣意的に長期評価の価値・ 果を招来することを認識していなかったのではなく,むしろ,その重大性を十分認識した上で,電力事業者が津波対策として高額な費用の支出を余儀なくされるという事態を回避するため,恣意的に長期評価の価値・信用性を引き下げる態度に出ていたものというほかはないのであって,このような被告らの認識をも勘案すれば,長期評価の見解が公表 された時点又はこれに近接した時点において,被告国において,同見解に基 づき,波源を福島県沖に設定した津波シミュレーションを実施し又は被告東電をしてこれを実施させ,福島第一原発の敷地高を超える津波の到来を予見すべき義務があったというべきであり,かつ,その予見は可能であったとも主張する。 前章第1節において,当裁判所は,被告国の国賠法に基づく責任が大きな 争点となっていることに鑑み,被告国が関与ないし接した事実を主に認定することとし,被告東電の内部事情等に関する事実認定はこれを行わなかった(そうであっても被告国の予見可能性が認められるのは前記のとおりである。)が,原告らの上記主張に対して判断するには,長期評価や,これに先立つ4省庁報告書等に対する,被告東電及び電力業界の反応等に関する事実 関係を補足して認定する必要があるので,以下,この点について検討する。 (ア) 4省庁報告書等に対する電気事業者の対応平成9年,電事連(電気事業連合会)は,公表された4省庁報告書等に対する対応について検討し,これを取りまとめた【丙C56】。これによれば,「4省庁報告書等が設定した想定地震の断層パラメータを用い,電 力事業者にて独自に数値解析した結果,福島第一,福島第二,東海第二,浜岡ともに,余裕のない状況となっており,仮に4省庁報告書等で報告された値の2倍の津波高さの変動があるものとすると,太平洋側の 力事業者にて独自に数値解析した結果,福島第一,福島第二,東海第二,浜岡ともに,余裕のない状況となっており,仮に4省庁報告書等で報告された値の2倍の津波高さの変動があるものとすると,太平洋側のほとんどの原子力地点においては,水位上昇によって冷却水取水ポンプモータが浸水することとなること」,「従前原子力事業者は,津波に対する安全性評価 として①歴史津波の最大及び②海域活断層による津波を検討対象としてきたが,4省庁報告書等が考慮している③想定し得る最大規模の地震による津波については,上記①及び②を考慮することによって評価できているとの判断により,直接取り扱っていないのが現状であること」,「4省庁報告書等においては,予測結果には誤差があることが示されているが,ばら つきとして2倍を考慮した津波は,現実には起こるとは考えられないほど 発生の可能性は小さいと考えられること」,「そうはいっても,地震動評価に際しては,上記③に相当する地震地体構造上最大規模の地震を考慮していることから,津波評価に際しても,必要に応じて,地体構造上最大規模の地震津波も検討条件として取り入れる方向で検討・調整を行っていくが,指針が制定されるまでの過渡期においては,電力事業者による自主保全の 観点から,既設プラントについてはバックチェックを行って設備の機能が確保されることを確認することとする」などと報告されていた。 上記取りまとめを踏まえ,電事連は,通商産業省に対し,耐震設計に関わる新見解に対する電力事業者側の対応方針として,①“新見解”のうち,原子力施設の耐震安全性の観点から採用することが適切なものを“確認さ れた知見”と位置付け(ただし,“確認された知見”は,原子力安全委員会での議論を経るなどの確認行為を要する),②これに対し 原子力施設の耐震安全性の観点から採用することが適切なものを“確認さ れた知見”と位置付け(ただし,“確認された知見”は,原子力安全委員会での議論を経るなどの確認行為を要する),②これに対しては既設プラントの安全評価を行うが,③そうでなければ,“新見解”に対し電力事業者自ら技術的検討を行い,対応を判断することとした旨を報告した。【甲C5・39頁】 (イ) 長期評価発表前の中央防災事務局担当者の地震本部に対する働きかけ長期評価の発表予定の6日前である平成14年7月25日,内閣府中央防災会議事務局の地震・火山対策担当官は,地震本部事務局に対し,「内閣府の中で上と相談したところ,非常に問題が大きく,今回の発表は見送り,取り扱いについて政策委員会で検討したあとに,それに沿って行われ るべきである,との意見が強く,このため,できればそのようにしていただきたい」,「やむを得ず,今月中に発表する場合においても,最低限表紙を添付ファイルのように修正(追加)し,概要版についても同じ文章を追加するよう強く申し入れます」との内容のメールを送付した。 上記添付ファイルの文案は,「今回の評価は,データとして用いる過去 地震に関する資料が十分にないこと等のために評価には限界があり,評価 結果である地震発生確率や予想される次の地震の規模の数値には相当の誤差を含んでおり…地震発生の切迫性を保証できるものではなく,防災対策の検討に当たってはこの点に十分注意することが必要である。」というものであった。 このような働きかけを踏まえ,長期評価の前文に,上記メールの添付フ ァイルの内容と同趣旨の文言が盛り込まれることとなった。 【甲C31】(ウ) 長期評価発表後の被告東電の反応長期評価発表の1週間後,被告東電の津波想 長期評価の前文に,上記メールの添付フ ァイルの内容と同趣旨の文言が盛り込まれることとなった。 【甲C31】(ウ) 長期評価発表後の被告東電の反応長期評価発表の1週間後,被告東電の津波想定の担当者は,長期評価の策定に関与した地震本部の海溝型分科会委員に「(土木学会と)異なる見 解が示されたことから若干困惑しております」とのメールを送り,地震本部がこのような長期評価を発表した理由を尋ねた。これに対し,同委員は「1611年,1677年の津波地震の波源がはっきりしないため,長期評価では海溝沿いのどこで起きるかわからない,としました」と回答した。 これを受けた被告東電担当者は,「文献上は福島県沖で津波地震が起きた ことがない」ことを理由に,長期評価の見解に基づく津波対策を検討することを見送った【甲B1・87頁】。 (エ) 長期評価に対する電力事業者の対応方針についての原子力安全委員会と保安院との打合せ平成15年9月,原子力安全委員会及び保安院は,耐震設計審査指針の 検討に関する打合せを行った。その中で,保安院担当者は,長期評価の見解に対する電力事業者の対応方針に関して,新知見に対する従前の電力事業者の対応方針(前記(ア))について説明した上で,長期評価の見解を“確認された知見”とするか否かについて原子力安全委員会で議論するのは現実的でない(今のところ要求もない)ことから,評価内容について電力事 業者自ら技術的検討を行い,経済産業省審査課と協議して対応を判断する のが適当と考えられること,検討の結果,対応が不要と判断された場合は,安全評価不要(規制側としての確認も不要)とのポジションを確認する必要があることなどを述べた。 これに対し,原子力安全委員会担当者は特段の異議を述べなかった。 【甲C5 が不要と判断された場合は,安全評価不要(規制側としての確認も不要)とのポジションを確認する必要があることなどを述べた。 これに対し,原子力安全委員会担当者は特段の異議を述べなかった。 【甲C5・39頁~】 (オ) マイアミ論文被告東電の従業員である酒井俊朗ほか4名は,平成18年7月17日から同月20日にかけて,アメリカ合衆国フロリダ州マイアミで開催された原子力工学国際会議(ICONE-14)において,「日本における確率論的津波ハザード解析法の開発」を発表した(マイアミ論文)。 マイアミ論文は,福島県沿岸をサンプルに確率論的津波ハザードの試行的な解析を行ったものであるところ,確率論的津波評価手法とは,津波の不確定性を定量的に考慮して,特定の地点において特定期間中に到来する可能性のある津波の水位とその水位を超過する確率との関係を求める手法をいい,具体的には,ある個別の地震が将来発生する確率を評価した上 で,特定の地点において当該地震から発生する津波の水位の評価を行うという作業を様々な地震について実施し,その結果,特定の期間に任意の水位を超える津波が到来する確率(超過確率)がどの程度になるかを算出するという手法である。これらの算出においては,津波発生域をどこに設定するか,地震の規模をどのくらいに設定するかといった判断が分かれる事 項である認識論的不確定性について,ロジックツリー(異なる見解を分岐で表示して論理的整理を行う手法)で場合分けした上で,主に不連続的な分岐に対してはアンケート調査によって重みを設定して確率を算出している。 同論文には,構造物の脆弱性の推定法及びシステム解析の手順について は現在開発されている途上であることや,著者らは津波ハザードを合理的 に説明することができるよ を算出している。 同論文には,構造物の脆弱性の推定法及びシステム解析の手順について は現在開発されている途上であることや,著者らは津波ハザードを合理的 に説明することができるよう研究を続けている旨の記載がある。 【甲21の2】(カ) ロジックツリーアンケート平成20年,土木学会津波評価部会は,津波評価技術の後継研究としての確率論的津波評価手法の研究を行う中で,海溝沿い領域における津波地 震の発生可能性に関し,ロジックツリーで場合分けするに当たってどの程度の重みを付けるべきかについて,専門家に対するアンケートを行った。 その結果,「三陸沖~房総沖海溝寄りの津波地震活動域(JTT)」について,「超長期の間にMt8級の津波地震が発生する可能性」についてアンケートを行ったところ,分岐①「過去に発生例がある三陸沖(1611 年〈慶長三陸地震〉,1896年〈明治三陸地震〉の発生領域)と房総沖(1677年〈延宝房総沖地震〉の発生領域)でのみ過去と同様の様式で津波地震が発生する」としたものが,全体の重み1のうちの「0.40」,②「活動域内のどこでも津波地震が発生するが,北部領域に比べ南部ではすべり量が小さい(北部赤枠内では1896モデル〈明治三陸地震〉を移 動させる。南部赤枠内では1677モデル〈延宝房総沖地震〉を移動させる)」としたものが同「0.35」,③「活動域内のどこでも津波地震(1896年タイプ)が発生し,南部でも北部と同程度のすべり量の津波地震が発生する(枠全体の中で1896モデル〈明治三陸地震〉を移動させる)」としたものが,同「0.25」であった。 【丙C106・20頁】(キ) 平成20年東電試算平成20年2月26日,被告東電は,土木学会津波評価部会の委員であった今村文彦から させる)」としたものが,同「0.25」であった。 【丙C106・20頁】(キ) 平成20年東電試算平成20年2月26日,被告東電は,土木学会津波評価部会の委員であった今村文彦から,福島県沖海溝沿いで大地震が発生することは否定できず,波源として考慮すべきであると考えるとの意見を得た。【甲B2の1・ 396頁】 これを受け,被告東電は,東電設計に津波評価を委託し,東電設計は,平成20年4月18日,「新潟県中越沖地震を踏まえた福島第一・第二原子力発電所の津波評価委託第2回打合せ資料資料2 福島第一発電所日本海溝寄りの想定津波の検討Rev.1」【丙C121】を作成した(平成20年東電試算)。 平成20年東電試算は,長期評価に従い,福島県沖海溝沿い領域に明治三陸地震の波源モデルを置き,津波評価技術の方法による詳細パラメータスタディを行ったもの(ただし,建屋の存在を考慮しない前提)であったが,その結果,朔望平均満潮位(O.P.+1.490m)時の津波高さは,1~4号機取水ポンプ位置でO.P.+8.310(4号機)~9. 244m(2号機),敷地南側敷地(O.P.+10m)でO.P.+15.707m(浸水深5.707m),4号機原子炉建屋中央付近(O. P.+10m)でO.P.+12.604m(浸水深2.604m),4号機タービン建屋中央付近(O.P.+10m)でO.P.+12.026m(浸水深2.026m)との数値が得られた。 (ク) 平成20年東電試算に対する被告東電の対応上記試算結果を受け,平成20年6月10日頃,被告東電内部で津波評価に関する説明が行われ,担当者より,平成20年東電試算の想定波高の数値,防潮堤を作った場合における波高低減の効果等につき説明がなされ 上記試算結果を受け,平成20年6月10日頃,被告東電内部で津波評価に関する説明が行われ,担当者より,平成20年東電試算の想定波高の数値,防潮堤を作った場合における波高低減の効果等につき説明がなされ,武藤栄原子力・立地本部副本部長から,①津波ハザードの検討内容に関す る詳細な説明,②福島第一原発における4m盤への津波の遡上高さを低減するための対策の検討,③沖に防潮堤を設置するのに必要な許認可の調査,④機器の対策に対する検討をそれぞれ行うよう指示が出された。【甲B4の1・396頁】平成20年7月31日,被告東電内部で2回目の説明が行われ,①長期 評価の取扱いについては,評価方法が確定しておらず,直ちに設計に反映 させるレベルのものではないと思料されるので,長期評価については,電力共通研究として土木学会に検討してもらい,しっかりとした結論を出してもらう,②その結果,対策が必要となれば,きちんとその対策工事等を行う,③耐震バックチェックは,当面,津波評価技術に基づいて実施する,④土木学会の委員を務める有識者に上記方針について理解を求めること が被告東電の方針として決定された。【甲B2の1・397頁】被告東電は,平成20年10月頃,土木学会の委員を務める有識者らを訪ね,上記方針について理解を求めたところ,有識者からは,特段否定的な意見は出なかった。【同・398頁】平成20年9月10日,被告東電内部で耐震バックチェック説明会(福 島第一)が開催され,その席上で,「福島第一原子力発電所津波評価の概要(地震調査研究推進本部の知見の取扱)」【甲C64の2】が配付された。 同資料には,平成20年東電試算の福島第一最大浸水深図が記載され,敷地南側で津波高さ15.7m(浸水深5.7m)の津波が想定されたことが示 究推進本部の知見の取扱)」【甲C64の2】が配付された。 同資料には,平成20年東電試算の福島第一最大浸水深図が記載され,敷地南側で津波高さ15.7m(浸水深5.7m)の津波が想定されたことが示されており,「敷地南部の放水口付近から敷地(O.P.+10m) へ遡上する。」,「敷地北部・南部から敷地への遡上及び港内からO.P. 4mへの遡上について対策が必要」,「推本がどこでもおきるとした領域に設定する波源モデルについて,今後2~3年間かけて電共研で検討することとし,『原子力発電所の津波評価技術』を改訂予定。」,「電共研の実施について各社了解後,速やかに学識経験者へ推本の知見の取扱について説 明・折衝を行う。」,「改訂された『原子力発電所の津波評価技術』によりバックチェックを実施。」,「ただし,地震及び津波に関する学識経験者のこれまでの見解及び推本の知見を完全に否定することが難しいことを考慮すると,現状より大きな津波高を評価せざるを得ないと想定され,津波対策は不可避」との記載がある。【同・2頁】 (ケ) 貞観津波に関する佐竹論文を踏まえた試算の実施 被告東電は,平成20年10月,佐竹健治から貞観津波に関する投稿準備中の論文の提供を受けた。同年12月,被告東電は,当該論文に示された波源モデルを用いて福島第一原発への影響を試算した。その結果,福島第一原発及び同第二原発の取水口前面でO.P.+7.8m~8.9m(満潮時の考慮方法を変更するとO.P.+7.8m~9.2m)との数値が 得られた。【甲B4の1・21頁】(コ) 被告東電の保安院に対する説明平成21年8月上旬頃,保安院の名倉繁樹安全審査官は,エネ庁合同WGでの議論を踏まえ,被告東電に対し,貞観地震等を踏まえた福島第一原発における津波評 1頁】(コ) 被告東電の保安院に対する説明平成21年8月上旬頃,保安院の名倉繁樹安全審査官は,エネ庁合同WGでの議論を踏まえ,被告東電に対し,貞観地震等を踏まえた福島第一原発における津波評価,対策の現況について説明を要請した(前記第4章第 1節第22,4[❷-95 頁])。 これを受け,被告東電担当者は,当時被告東電の原子力設備管理部長の職にあった吉田昌郎(本件事故時は福島第一原発所長)に対応ぶりを相談し,その結果,上記(ク)の方針に準じ,耐震バックチェックは津波評価技術に基づき実施すること,貞観津波については,その知見が確定していな いことから,電力共通研究として土木学会で検討してもらい,その検討結果や今後実施予定の津波堆積物調査の結果を踏まえ,改めてバックチェックを実施し,必要があれば対策工事を行うことなどを報告する旨が申し合わされた。なお,この時,吉田昌郎原子力設備管理部長は,被告東電担当者に対し,平成20年東電試算の波高の試算結果については,保安院から 明示的に試算結果の説明を求められるまでは説明不要と指示した。【甲B4の1・401頁】被告東電は,平成21年8月28日,保安院に対し,福島第一原発の津波評価の状況を説明した(前記第4章第1節第22,4[❷-95 頁])が,その際,平成20年東電試算の結果及び貞観津波に関する佐竹論文を踏ま えた試算の結果については報告しなかった。 イ検討前記ア(ア)~(エ)で認定した事実関係によれば,①長期評価の公表前から,被告東電をはじめとする電力事業者が,被告国の発表する津波想定に関する見解に対して慎重な姿勢を示していたこと,②長期評価の公表に当たり,中央防災会議事務局が,地震本部事務局に対し,地震本部見解の防災行政実務 に与える 力事業者が,被告国の発表する津波想定に関する見解に対して慎重な姿勢を示していたこと,②長期評価の公表に当たり,中央防災会議事務局が,地震本部事務局に対し,地震本部見解の防災行政実務 に与える波及効の大きさを踏まえ,その信頼性について抑制的な文言を挿入すべき旨を要求したこと,③長期評価後,被告東電は,長期評価の見解に基づく津波対策を検討することを見送り,原子力安全委員会及び保安院も,電力事業者が長期評価の見解を取り入れた津波対策を実施すべきかどうかは,まず電力事業者において検討を実施すべきであるとして,上記被告東電の態 度を黙認したことが各認められる。 (ア) 長期評価公表前の被告東電の態度(上記①)について本件津波及び本件事故を現に体験した今となってみれば,被告東電をはじめとする電力事業者の上記慎重な姿勢が全く的外れなものであったことは論を待たない。しかしながら,4省庁報告書等は,その発表当時,想 定最大規模と既往最大津波との比較検討を行った上で,常に安全側の発想から沿岸津波水位のより大きい方を対象津波とするとして,津波防災行政における対象津波の選定に係る基本姿勢を大きく変更したものではあったが,これらが示した津波被害の想定結果は,精度としては限定的なものであった(前記第2,1⑷ア[❸-8 頁])から,民間の電力事業者が,経 営判断として,4省庁報告書等の想定結果を直ちに津波対策に盛り込まず,これを盛り込むかどうかについて慎重な姿勢を示したとしても,そのこと自体に問題があったということはできない。 (イ) 長期評価の公表に当たっての働きかけ(上記②)について長期評価の公表に当たっての中央防災会議事務局の上記働きかけは,そ の文言が断定的であり,いささか不穏当との評価を免れない。しかし,そ 価の公表に当たっての働きかけ(上記②)について長期評価の公表に当たっての中央防災会議事務局の上記働きかけは,そ の文言が断定的であり,いささか不穏当との評価を免れない。しかし,そ もそも長期評価は,津波地震の発生を過去のデータに基づいて評価することは困難であるが,これが発生しないと評価することも困難であることから,抑制的な信頼度を付しつつも,発生領域を三陸沖北部から房総沖の海溝寄りという長大な海域に設定するという工夫を施して,津波地震の発生確率を一応定量化したというものであり(前記第2,1⑷イ[❸-8 頁]), その科学的知見としての熟成度は限定的であったというべきところ,被告国(行政庁)が,その専門技術的裁量をもって原子力発電所の安全性について判断する場合には,一定の知見の熟成度に着眼すべきはもとより,被害の内容・大きさ等と,その熟成の程度に応じ,同知見によればもたらされるとされる危険性が,我が国の社会において容認されるかどうかという 点について,多角的・総合的な検討を加えることが求められると考えられる(前記第3,1⑸イ[❸-28 頁])ことからすれば,中央防災会議事務局が,長期評価の熟成度が限定的である状況下においては,長期評価の見解によればもたらされるとされる危険性は,かえって我が国の社会に対して過剰な波及効を与えかねないものであると考えて,その熟成度について の明記を求めたこと自体は,その態様はともかく,特段不合理とはいえない。 (ウ) 長期評価公表後の被告らの対応(上記③)について長期評価の見解は,科学的知見としての熟成度は限定的であったとはいえ,安全対策上考慮すべき地震・津波に関する被告国の基本姿勢,すなわ ち,過去の記録のある既往地震・津波のみならず,過去の記録がないが現 見解は,科学的知見としての熟成度は限定的であったとはいえ,安全対策上考慮すべき地震・津波に関する被告国の基本姿勢,すなわ ち,過去の記録のある既往地震・津波のみならず,過去の記録がないが現在の知見に照らせば想定すべき地震・津波をも考慮すべきとの基本姿勢に準拠してとりまとめられたものであるところ,「文献上は福島県沖で津波地震が起きたことがない」ことを理由に,長期評価の見解に基づく津波対策を検討することを見送った被告東電の態度は,上記被告国の一貫した基 本姿勢を全く正解しないものといわざるを得ない。 しかしながら,前記のとおり,長期評価の見解は,津波地震の発生領域を三陸沖北部から房総沖の海溝寄りという長大な海域に設定するという工夫を施して,その発生確率を一応定量化したものであって,具体的な波源モデルを設定するための材料はもとより十分でなかったのであるから,このような状況下において,仮定的な数値に基づいて津波シミュレーショ ンを実施したとしても,その結果示されるリスクは,過大であることもあれば過小であることもあり得ると考えられる。そして,仮にそのリスクが過小であった場合には,その時点での津波対策が最新の知見によっても十分なものであったことが定量的に説明できることとなり,その後の安全対策が不要であるかのような外形を作出することにもなりかねない。このよ うに,仮定的な数値に基づいて津波シミュレーションを実施することは,リスクを過大評価する可能性のみならず,過小評価する危険をも内包するものであるから,科学的知見としての熟成度において限定的であった長期評価の見解を踏まえて,直ちに仮定的な数値を用いて津波シミュレーションを実施すべきとするのは,合理的とはいい難い。 これに対し,平成20年東電試算において の熟成度において限定的であった長期評価の見解を踏まえて,直ちに仮定的な数値を用いて津波シミュレーションを実施すべきとするのは,合理的とはいい難い。 これに対し,平成20年東電試算においては,現に,明治三陸地震の波源モデルを福島県沖に移動させて津波シミュレーションを実施しているし,土木学会津波評価部会が実施したロジックツリーアンケートにおいても,明治三陸地震の波源モデルを福島県沖に移動させるとする考えが一定数あったのであるから,長期評価の公表直後においても,同様に明治三陸 地震の波源モデルを用いた検討が可能であったとの考え方もあり得る。しかし,明治三陸地震については,長期評価の公表当時,限られた領域や特殊な条件が揃った場合のみ発生すると考えられるとの平成8年谷岡・佐竹論文の見解が有力であってこれに対抗する反対的知見は見当たらないし,ロジックツリーアンケートの結果は,あくまでも確率論的安全評価手法に おいて,異なる見解の分岐(ロジックツリー)点における重み付けを算出 するための見解にすぎず,津波リスクについての定量的な分析の信用性を高めるものではないから,当時の専門的知見に照らしてみれば,明治三陸地震の波源モデルを用いた検討は,仮定的な数値に基づく検討とその実質を異にするものではなかったということができる。そうすると,長期評価公表を受けて,被告国において,場合によっては過小評価の危険をも生じ させかねないことを覚悟の上で直ちに明治三陸地震の波源モデルを仮定して津波シミュレーションを実施することは,やはり合理的とはいい難い。 なお,本件津波を経験した現在となっては,明治三陸地震の波源モデルを仮定した津波シミュレーションの結果が少なくとも過小評価でなかったことは明白であるが,そのことは,本件津波を経験した とはいい難い。 なお,本件津波を経験した現在となっては,明治三陸地震の波源モデルを仮定した津波シミュレーションの結果が少なくとも過小評価でなかったことは明白であるが,そのことは,本件津波を経験した現在だからこそい えることであり,本件津波を経験していない長期評価公表当時の予見可能性の判断には影響を与えるものではない。 (エ) その他の事情について前記ア(カ)ないし(コ)は,いずれも平成20年以降の事情であり,長期評価公表当時の予見可能性の判断に影響を与えるものではない。原告らは, 被告国が,長期評価の重大性を十分認識した上で,電力事業者が津波対策として高額な費用の支出を余儀なくされるという事態を回避するため,恣意的に長期評価の価値・信用性を引き下げる態度に出ていたと主張するが,前記(ウ)で判示したとおり,平成14年の段階,ひいては,平成20年以前の段階では,被告国にとって,長期評価の見解が重大なのか否かについ て具体的に認識できる状況ではなかったから,原告らの主張は採用の限りでない。 (オ) 結論以上によれば,長期評価公表前後の被告らの態度・姿勢を子細に検討しても,長期評価が公表された平成14年当時,被告国において,長期評価 の見解を踏まえ,明治三陸地震の波源モデルを福島県沖に移動させるなど して津波シミュレーションを行い,福島第一原発の敷地高を超える津波の到来を予見すべきであったとはいえない。 よって,原告らの主位的主張は,これを採用することができない。 ⑵ 平成18年時点又は,遅くとも平成21年~22年の時点で予見可能性があったとの予備的主張について 原告らは,国内外で実際に発生した原子力発電所の溢水事故等と,安全情報検討会,溢水勉強会等の経緯を踏まえれば,①どんなに遅くとも 1年~22年の時点で予見可能性があったとの予備的主張について 原告らは,国内外で実際に発生した原子力発電所の溢水事故等と,安全情報検討会,溢水勉強会等の経緯を踏まえれば,①どんなに遅くとも,平成18年までには,被告国において敷地高を超える津波の到来を予見することが可能であったものであり,さらに,②貞観津波に関する知見をも踏まえれば,平成21年9月から平成22年3月までの間には上記同様の予見可能性が生じてい たものであると主張する。 当裁判所は,前記第3の1で判示したとおり,被告国は,平成21年9月の時点で,福島第一原発の敷地高であるO.P.+10mを超える津波の到来という自然現象の発生によって,電源設備が被水して全電源喪失という事態に至り,冷却機能が機能不全に陥って原子炉施設の閉じ込める機能が喪失して放射 性物質が外部に放出されるという事態に至ることを予見することができたと判断するものであるから,原告らの上記予備的主張のうち②を採用したものである。 他方,①の主張についてみると,確かに,被告国は,平成18年の段階で,溢水勉強会の議論を通じて,福島第一原発5号機において,仮に敷地レベルを 超える津波が襲来した場合には,非常用海水ポンプが使用不能な状態となるほか,浸水によって電源設備が機能喪失し,原子炉安全停止に関わる電動機,弁等の動的機器が機能を喪失する可能性があること,すなわち,各種指針上要求される非常用電源設備の安全性が実現できなくなる可能性があることを認識していたものである(前記第2,1⑹[❸-15 頁])。 しかし,敷地レベルを超える津波が襲来する可能性については,前記⑴で判 示のとおり,長期評価の見解を直ちに採用して津波シミュレーションを行い,福島第一原発の敷地高を超える津波の しかし,敷地レベルを超える津波が襲来する可能性については,前記⑴で判 示のとおり,長期評価の見解を直ちに採用して津波シミュレーションを行い,福島第一原発の敷地高を超える津波の到来を予見すべきであったとはいえないところ,その後,貞観津波に関する佐竹論文が発表される平成20年までの間,福島県沖で発生する津波に関する学説の状況に大きな動きはなかったものであり(前記第4章第4節第3[❷-208 頁]参照),被告国との関係でその状 況が大きく変動したのは,貞観津波に関する佐竹論文を踏まえた試算結果(平成21年報告)が保安院に伝えられた平成21年9月というべきである。被告東電において,平成20年東電試算を行い(前記⑴ア(キ)[❸-47 頁]),その結果についての保安院への報告を差し控えるような動きがあったり(同(ク)[❸-48 頁]),平成21年報告の9か月も前に貞観津波を考慮した試算を行ったり していた(同(キ)[❸-47 頁])といった事情があったとしても,これらはもっぱら被告東電の内部事情であり,被告国の予見可能性を基礎付ける事情とはいえない。加えて,溢水勉強会は,その結論をとりまとめた平成19年4月の段階で,外部溢水対策についての検討を耐震バックチェックの手続に委ねたものであるから(前記第2,1⑸エ[❸-14 頁]),その後一定期間,被告東電のバ ックチェック報告に委ねる形で外部溢水に係るリスク評価を実施していたことは,規制行政の一貫性を維持する観点からはやむを得ないというべきである。 そうすると,耐震バックチェックの過程でなされた平成21年報告までの間,被告国において,敷地レベルを超える津波の到来を予見すべき具体的事情があったとは認め難い。 よって,原告らの上記①の予備的主張は採用の限りでな ェックの過程でなされた平成21年報告までの間,被告国において,敷地レベルを超える津波の到来を予見すべき具体的事情があったとは認め難い。 よって,原告らの上記①の予備的主張は採用の限りでない。 第4 争点3(本件事故の予見可能性)についての結論以上の次第で,被告国は,平成21年9月の時点で,福島第一原発の敷地高であるO.P.+10mを超える津波の到来という自然現象の発生によって,電源設備が被水して全電源喪失という事態に至り,冷却機能が機能不全に陥って原子 炉施設の閉じ込める機能が喪失して放射性物質が外部に放出されるという事態 に至ることを予見することが可能であったものである。 第4節争点4(本件事故の結果回避可能性)について第1 当裁判所の判断の結論本件事故は,敷地高を超える津波が福島第一原発の建屋敷地に押し寄せ,建屋地下にある電源設備を機能喪失させて全交流電源喪失ないし全電源喪失の状況 に陥らせ,原子炉の冷却機能を喪失させたことにより発生したものである。したがって,本件津波が到来しても電源設備の機能が喪失しないための措置が実施されていれば,本件事故の結果を回避することができたというべきである。そして,原告らは,結果回避措置として,概要,防潮堤の設置,主要設備の被水・浸水防止措置(水密化),電源設備の移設を主張する(前記第3章第2節第4,1 ⑵[❶-113 頁])。 当裁判所は,①前記第4節で認定判示した予見可能性の内容に照らせば,当時,防潮堤の設置及び主要設備の被水・浸水防止措置は,これらを採用することが可能な状況にあったとはいえないが,電源設備の移設(とりわけ直流電源設備の移設)は,これを採用することが可能であり,②電源設備(とりわけ直流電 源設備)の移設が行われてい らを採用することが可能な状況にあったとはいえないが,電源設備の移設(とりわけ直流電源設備の移設)は,これを採用することが可能であり,②電源設備(とりわけ直流電 源設備)の移設が行われていれば,本件事故は回避可能であったと判断するものである。 すなわち,電源設備の移設という結果回避措置をとった場合には,1号機との関係では,非常用電源を用いて1号機原子炉の水位確認・炉圧管理を行いつつ非常用冷却設備による冷却を継続することにより,少なくとも,1号機の水素爆発 は回避でき,そうであれば,実際には1号機の水素爆発の時点までに代替注水手段の確保及び電源復旧のための作業が実施されていた3号機においても,これら作業が相当に早まり,非常用電源を用いて3号機原子炉の水位確認・炉圧管理を行いつつ代替注水を開始することにより,少なくとも,3号機の水素爆発は回避でき,そうであれば,実際には3号機の水素爆発の時点までに代替注水ラインが 完成していた2号機においても,非常用電源により2号機原子炉の水位確認・炉 圧管理を行いつつ代替注水を実施することにより,同号機の炉心損傷を最小限に抑えることができ,その結果,本件事故のような大量の放射性物質の外部放出という事態を回避することができたと認められる。 ところで,本件津波が到来しても電源設備の機能が喪失しないための措置(結果回避措置)は,一つに限られるものではないところ,結果回避措置としていず れを採用すべきであったか,あるいは,結果回避措置としていずれを採用することが可能であったかという点については,予見可能性の具体的内容如何によって帰結を異にする。したがって,結果回避可能性の判断に当たっては,①一定の予見可能性を前提に,その内容からすればいかなる結果回避措置をとることができたか については,予見可能性の具体的内容如何によって帰結を異にする。したがって,結果回避可能性の判断に当たっては,①一定の予見可能性を前提に,その内容からすればいかなる結果回避措置をとることができたかという点がまず問題となり,次に,②その結果回避措置をとることによって, 現に結果を回避することが可能であったかが問題となる。 そこで,以下,上記①,②の順に,当裁判所の判断の理由について詳述する。 第2 当裁判所の判断の理由 1 いかなる結果回避措置をとることができたかについて⑴ 総論 前記判示のとおり,平成21年報告は,被告国にとってみれば,従前福島第一原発の敷地高が想定津波に対して事実上有していた裕度を実質的に喪失させるものであった(前記第3節第2,2⑷ア(ウ)[❸-20 頁])。そして,平成21年報告の時点で,中央防災会議報告が留意事項として明記していた貞観地震ほかの地震や,長期評価が発生の可能性を指摘していた三陸沖北部から房総 沖の日本海溝寄りの領域において発生する地震を考慮に入れて,なおかつ福島第一原発の敷地高を超える津波が到来する可能性が存在しないか,存在してもこれが社会通念上容認される程度に低いものであったことを示す知見は存在していなかった(同イ[❸-20 頁])。したがって,この時点で被告国に認められる予見可能性の内容は,貞観地震に基づき想定される津波が従前福島第一原 発の敷地高が想定津波に対して事実上有していた裕度を実質的に喪失させる ものであったことを前提に,その他の津波を想定した場合には,福島第一原発の敷地高を超える結果となり得ることを予見することができたというものであったと認められる。 他方,平成21年報告は,貞観津波に関する知見を基としたものであって,その他の津波の影響につ 福島第一原発の敷地高を超える結果となり得ることを予見することができたというものであったと認められる。 他方,平成21年報告は,貞観津波に関する知見を基としたものであって,その他の津波の影響について定量的に評価したものではなかった。また,明治 三陸地震に関する知見を基とした平成20年東電試算の結果は,平成21年報告の時点では,被告国に伝えられていなかった。 さらに,明治三陸地震の波源モデルを福島県沖に移動させて試算した場合に得られたであろう結果は,長期評価の公表時点を基準としてみると,リスクを過大評価する可能性のみならず,過小評価する危険をも内包するものであった (前記第3節第3,3⑴イ(ウ)[❸-52 頁])が,平成21年報告の時点においても,明治三陸地震が限られた領域や特殊な条件が揃った場合のみ発生するとの考え方(平成8年谷岡・佐竹論文)に対する有力な反対説があったとは証拠上認められないから,同時点においても,明治三陸地震の波源モデルを福島県沖に移動させて試算した場合に得られたであろう結果は,リスクの過大評価と 過小評価の危険をいずれも内包したものであった。したがって,平成20年東電試算の結果は,長期評価が発生の可能性を指摘していた三陸沖北部から房総沖の日本海溝寄りの領域において発生する地震による津波リスクの定量分析としては,いまだ未成熟なものであった。 そして,当裁判所が予見可能性を認める平成21年9月以降,本件事故の発 生までの間に,長期評価が発生の可能性を指摘していた三陸沖北部から房総沖の日本海溝寄りの領域において発生する地震による津波リスクを定量的に分析した科学的知見は存在していなかった。 以上によれば,当裁判所が認める予見可能性の内容に照らし,平成21年9月及びそれ以降の時点で採り得る結果回避 において発生する地震による津波リスクを定量的に分析した科学的知見は存在していなかった。 以上によれば,当裁判所が認める予見可能性の内容に照らし,平成21年9月及びそれ以降の時点で採り得る結果回避措置は,津波が敷地高を超えた場合 の浸水高に関するリスクの定量的評価を前提としないもの,すなわち,津波が 敷地高を超えること自体は想定できるにしても,その敷地高超過の程度(浸水高)や,敷地高を超えて流入する海水の量等について,定量的な分析がなされていなくても実現可能なものに限られるというべきである。 ⑵ 各論ア防潮堤の建設について 防潮堤を建設するに当たっては,まずもって,一定の規模の津波の到来を念頭に置いた上で,津波の静的な荷重(静水圧)を算出し,これに耐えることができるだけの構造設計を実施する必要がある(今村文彦の意見〈前記第4章第4節第4,2⑹イ(ウ)b〉[❷-236 頁]参照)ところ,このような荷重の算出のためには,到来する津波の規模を定量的に分析し,その敷地高超 過の程度(浸水高)や,敷地高を超えて流入する海水の量等の定量的な数値を基に静水圧を算出する必要があると考えられる。 そうすると,防潮堤の建設という結果回避措置は,津波が敷地高を超えた場合の浸水高に関するリスクの定量的評価を前提とするものというべきであるから,平成21年9月当時の予見可能性の内容に照らし,同結果回避措 置を平成21年9月ないしそれ以降の時点で採用することができたとは認めることができない。 イ主要設備の被水・浸水防止措置主要設備について,水密扉等を設けるなどして被水・浸水防止措置をとるに当たっては,やはり,一定の規模の津波の到来を念頭に置いた上で,想定 される浸水深を算出し,その上で,被水・浸水が想定される 主要設備について,水密扉等を設けるなどして被水・浸水防止措置をとるに当たっては,やはり,一定の規模の津波の到来を念頭に置いた上で,想定 される浸水深を算出し,その上で,被水・浸水が想定される設備の範囲を明らかにし,最大波圧や継続時間を算出して,これに耐えることができるだけの構造設計を実施する必要がある(今村文彦の意見〈前記第4章第4節第4の2⑹イ(ウ)c〉[❷-236 頁]参照)ところ,このような浸水深,最大波圧及び継続時間等の算出のためには,到来する津波の規模を定量的に分析し, その敷地高超過の程度(浸水高)や,敷地高を超えて流入する海水の量等の 定量的な数値を基に試算をする必要があると考えられる。 そうすると,主要設備の被水・浸水防止措置という結果回避措置は,津波が敷地高を超えた場合の浸水高に関するリスクの定量的評価を前提とするものというべきであるから,平成21年9月当時の予見可能性の内容に照らし,同結果回避措置を平成21年9月ないしそれ以降の時点で採用すること ができたとは認めることができない。 ウ電源設備の移設(ア) 予見可能性に照らした検討電源設備を移設するに当たっては,当該設備そのもの及びこれを格納する建屋の耐震安全性の確保,送電機能の安定化のための各種調整,常用電 源との切り替え装置の設置といった過程を踏む必要がある(岡本孝司の意見〈前記第4章第4節第5の1⑵イ〉[❷-244 頁]参照)ところ,このような過程を踏むために,到来する津波の規模を定量的に評価する必要性は認められない。電源設備をどこに移設するかという場所的検討に当たり,津波の波高を定量的に評価する必要性があるとも考えられるが,建物や設 備の安定性の観点からすれば,電源設備の移設場所は,相当程度の高さにある安定 備をどこに移設するかという場所的検討に当たり,津波の波高を定量的に評価する必要性があるとも考えられるが,建物や設 備の安定性の観点からすれば,電源設備の移設場所は,相当程度の高さにある安定した地盤上が望ましく(筒井哲郎らの意見〈同4⑵イ(イ)〉[❷- 252 頁]参照),そうであれば,福島第一原発の敷地においては,O.P. +10mを超える地盤は35m盤しかない(資料5(第6分冊)参照。なお,同資料では海抜30m以上の部分を緑色で表示しているが,原告ら主 張の35m盤とは,同緑色部分を指すと認められ,本判決でいう35m盤もこれを指す。)のであるから,移設場所の検討に当たり,津波の波高を定量的に評価する必要性はない。 そうすると,電源設備の移設という結果回避措置は,津波が敷地高を超えた場合の浸水高に関するリスクの定量的評価を前提とするものではな いから,平成21年9月当時の予見可能性の内容に照らし,同結果回避措 置を平成21年9月ないしそれ以降の時点で採用することは,理論的には可能であったと認められる。 (イ) 機能面・技術面からの検討a 非常用電源設備全体の移設について電源設備を35m盤に移設するに当たっては,前記(ア)で判示した過 程を踏む必要があるところ,本件全証拠によっても,これらが技術的に不可能であるとうかがわせるような証拠は見当たらない。前記岡本孝司の意見によれば,電源設備を移設した場合,配線の構成が複雑になり,給電先との位置関係・距離関係に照らして,その運用面での信頼性が低下するとされるが,前記筒井哲郎らの意見によれば,一般の石油プラン トなどにおいても,配線の構成が複雑であったり,給電先と場所的に離隔している場合があるが,運用上の問題は特に生じていないというのであるから, ,前記筒井哲郎らの意見によれば,一般の石油プラン トなどにおいても,配線の構成が複雑であったり,給電先と場所的に離隔している場合があるが,運用上の問題は特に生じていないというのであるから,前記岡本孝司の意見は当裁判所の判断を左右しない。 よって,非常用電源設備全体を移設するに当たって,機能面・技術面における支障は認められない。 b 非常用電源設備の一部の移設について前記のとおり,当裁判所は,機能的・技術的にみて,非常用電源設備全体の移設が困難な事情は認められないと考えるものである。 もっとも,非常用電源設備のうち,とりわけ非常用D/G(非常用ディーゼル発電機)の移設は,物的規模が相当大きく,費用面や移設にか かる期間の面で,予見される危険を回避するには必ずしも的確でないと判断されることもあり得たと考えられる。 しかし,このような場合であっても,予見される危険を放置することはできないのであるから,安全対策の責任主体である電気事業者及びそれを規制する被告国としては,費用面や期間面で合理的な手法である部 分的な電源設備の移設を検討することが可能であったというべきであ る。 原告らは,電源設備の移設に関する予備的主張として,空冷式非常用D/G(空冷式非常用ディーゼル発電機)の移設及び直流電源設備の35m盤への移設を掲げるところ,これらの措置が技術的に不可能であるとうかがわせるような証拠も見当たらない。なお,3号機においては, 非常用D/Gのほか,常用・非常用のP/C(パワーセンター),M/C(高圧配電盤)がタービン建屋地下1階に配置されているのに対し,直流電源設備(125V主母線盤2系統)はタービン建屋中地下階に分離設置されている(前記第4章第1節第1,2⑷エ(ウ)a[❷-18 頁],資料 電盤)がタービン建屋地下1階に配置されているのに対し,直流電源設備(125V主母線盤2系統)はタービン建屋中地下階に分離設置されている(前記第4章第1節第1,2⑷エ(ウ)a[❷-18 頁],資料14及び同17(第6分冊)参照)のであるから,直流電源設備のみ をその他の電源設備と場所的に離隔させることは技術的に困難でなかったと認められる。 エ小括以上の次第で,当裁判所が認める予見可能性の内容に照らし,平成21年9月及びそれ以降の時点で採り得る結果回避措置は,津波が敷地高を超えた 場合の浸水高に関するリスクの定量的評価を前提としない電源設備の全部又は一部の35m盤への移設のみであった。 2 電源設備の移設により,本件事故を回避することができたか否かについて以下では,電源設備の移設により,本件事故を回避することができたか否かについて,電源設備全部の移設という結果回避措置をとった場合(後記⑴),空冷 式非常用D/Gと配電盤の移設という結果回避措置をとった場合(後記⑵),直流電源設備のみの移設という結果回避措置をとった場合(後記⑶)に分けて検討する。また,以下,本項においては,特段の明示をしない限り,判示する日付は「平成23年3月」を指す。 ⑴ 電源設備全部の移設という結果回避措置をとった場合 ア現象面からの検討 (ア) 1号機関係非常用電源設備が35m盤上に移設され,福島第一原発の各号機に給電可能な状況になっていれば,本件津波によっても,全電源喪失という事態に陥ることはなかった。 そして,非常用電源設備が稼働していれば,1号機においては,非常用 D/Gから供給される交流電源及びこれを変換した直流電源により,IC(非常用復水器)の隔離弁を操作・開閉してこれを起動することができ( ,非常用電源設備が稼働していれば,1号機においては,非常用 D/Gから供給される交流電源及びこれを変換した直流電源により,IC(非常用復水器)の隔離弁を操作・開閉してこれを起動することができ(前記第4章第1節第1,2⑸ウ(イ)[❷-20 頁]),これにより,原子炉に継続注水することが可能であったと認められる(同⑶イ(ア)b[❷-7 頁])。 そして,ICの稼働状況は,非常用電源設備から給電される直流電源等に より,中央制御室に設置された主要計装機器を参照することで確認することが可能であったと認められる(同⑸ア[❷-19 頁])。ICが起動してその稼働状況を確認することが可能な状況にあれば,1号機については,当面,原子炉の水位及び炉圧を確認しながらICによる注水を継続することができる状況であったし,本件では結局使用されなかったICのB系統を 稼働させて注水量を増加させることもできた。さらに,原子炉内が高圧となった場合には,一時的にHPCI(高圧注水系)を稼働させて(HPCIの起動には直流電源を要するが,稼働自体には電力を要しない。),一時的に注水量を増加させることも可能であったと認められる(なお,1号機のHPCIは,原子炉建屋の地下1階にあって本件津波によって水没した が,同様に,原子炉建屋地下1階にあるHPCIが水没した3号機においては,本件津波到来後に,生き残った直流電源系を駆動源として起動している(前記第4章第2節第2,4⑶[❷-113 頁])ことからすれば,1号機においても,移設後の非常用電源設備とHPCIとの配線が構築されていれば,本件津波後においても給電可能であったと認められる。)。 そして,1号機において,水位及び炉圧を確認しながらの注水継続が実 現できていれば,炉圧の異常上昇も生 が構築されていれば,本件津波後においても給電可能であったと認められる。)。 そして,1号機において,水位及び炉圧を確認しながらの注水継続が実 現できていれば,炉圧の異常上昇も生じず,ベントを実施する必要もなかったと認めることができるし,炉心損傷も,生じなかったか,生じたとしても最小限に抑えられ,少なくとも,水素爆発を誘発するほどの水素が発生することはなく,1号機の水素爆発は回避できたと認められる。 1号機の水素爆発が発生しなければ,それまでに行われていた電源復旧 及び代替注水の準備(ICやHPCIは,非常時の一時的な注水手段であり,仮にこれらが正常に起動していたとしても,発電所対策本部としては,電源復旧と併せて代替注水手段の検討を行っていたと推認される。)が,やり直しを余儀なくされること(同3の⒆[❷-111 頁])もなく,その時点でHPCIにより冷却されていた3号機(同5の⑶[❷-120 頁])及び RCIC(原子炉隔離時冷却系)により冷却されていた2号機(同5の⑷[❷-120 頁])の電源復旧及び代替注水に向けた準備に注力できたと認められる。 (イ) 3号機関係3号機においては,1号機の水素爆発の5時間後に原子炉水位計の直流 電源が枯渇し,原子炉水位の監視ができなくなったが,移設された非常用電源設備が機能していれば,交流電源から変換した直流電源を用いて,上記の時点を超えて原子炉水位の監視をすることもできた。また,そもそも,1号機において,炉圧及び水位を確認しながらIC(非常用復水器)等による継続注水が可能となっていれば,3号機の代替注水手段の確保及び電 源の復旧作業も相当に早まったものと認められ,さらに,1号機の水素爆発が回避できた結果として,電源復旧作業も相当に進んでいたと認めら 注水が可能となっていれば,3号機の代替注水手段の確保及び電 源の復旧作業も相当に早まったものと認められ,さらに,1号機の水素爆発が回避できた結果として,電源復旧作業も相当に進んでいたと認められるから,非常用直流電源枯渇前に,代替注水が開始され,復旧電源により各種パラメータを確認できる状況になっていた高度の蓋然性がある。仮に代替注水が開始されていなくても,原子炉水位が確認できている状況であ れば,当直運転員が,HPCI(高圧注水系)の作動状況について過度の 懸念を抱くこともなく(同4⑸[❷-114 頁]),代替注水ラインの構築状況を見据えながら,適時適切な時期までHPCIを運用することが可能であったと認められる。さらに,非常用電源設備が機能していれば,仮にHPCIを停止させたとしても,SR弁(逃し安全弁)を開いて炉圧を調整し,D/DFP(ディーゼルエンジン駆動の消火系ポンプ)による注水を行うこと が可能であったと認められる(同4⑹[❷-115 頁])。このように,HPCI,D/DFPないし復旧後の代替注水による冷却が継続していれば,炉心損傷は発生しなかったか,発生したとしても最小限に抑えられ,少なくとも水素爆発を誘発するほどの水素が発生することはなく,3号機の水素爆発は回避できたと認められる。 (ウ) 2号機関係3号機の水素爆発が回避できれば,その時点で,2号機の代替注水ラインは完成していた(同5⑼[❷-122 頁])から,3号機への注水状況をにらみつつ,2号機のRCIC(原子炉隔離時冷却系)の機能が低下した際には,2号機への代替注水ラインを用いた注水を実施することが可能であ ったと認められる。また,そもそも,2号機は,全電源喪失により各種計装機器の確認ができない状況であったとこ 機能が低下した際には,2号機への代替注水ラインを用いた注水を実施することが可能であ ったと認められる。また,そもそも,2号機は,全電源喪失により各種計装機器の確認ができない状況であったところ,移設された非常用電源設備が機能していれば,これら計装機器の確認が可能であり,そうであれば,RCICの水源について,各種圧力値を見ながら復水貯蔵タンクとS/C(圧力抑制室)とを切り替えるなどして,注水機能を維持することが可能 であったと認められる。このように,注水機能が維持され,また,代替注水ラインによる注水が可能であれば,炉心損傷は発生しなかったか,発生したとしても最小限に抑えることができた。 (エ) 小括以上によれば,とり得る結果回避措置である電源設備の高所移設を実施 していれば,1~3号機で発生した炉心損傷は,発生しなかったか,発生 したとしても最小限に抑えることができたから,本件事故を回避することが可能であったと認められる。 イ手続面からの検討電源設備の移設を行おうとする場合,平成21年当時の運用に照らせば,原子炉設置許可変更許可申請を提出し,安全審査を受ける必要がある(岡本 孝司の意見〈前記第4章第4節第5,1⑵イ〉[❷-244 頁]参照)。これには相応の時間がかかる可能性がある。 しかし,本件で認められる予見可能性は,貞観地震に基づき想定される津波が従前福島第一原発の敷地高が想定津波に対して事実上有していた裕度を実質的に喪失させるという内容の平成21年報告を受け,その他の津波を 想定した場合には,福島第一原発の敷地高を超える結果となり得ることを定性的に予見することができ(前記第3節第2,2⑷イ[❸-20 頁]),かつ,そのような事態になった場合には,安全対策の根幹をなす非常用電源設備 には,福島第一原発の敷地高を超える結果となり得ることを定性的に予見することができ(前記第3節第2,2⑷イ[❸-20 頁]),かつ,そのような事態になった場合には,安全対策の根幹をなす非常用電源設備が機能喪失することを予見することができた(同[❸-20 頁])というものであって,想定津波の波高や到来の確度について定量化することができない状 況であったことを考慮に入れても,福島第一原発の安全対策を根本的に覆しかねない極めて重大な内容であった。かつ,想定津波の波高を定量化することができない状況下においては,リスクの定量分析を必要とする防潮壁の設置や主要機器の水密化等の措置はとり得る状況になく,とり得る結果回避措置は,電源設備の移設よりほかにあり得ない状況であった(前記第2,1⑵ エ[❸-63 頁])。このように,本件で認められる予見可能性の内容及びそれに基づけば採用可能と考えられる結果回避措置の内容に照らせば,予見される結果が極めて重大であるのに対し,これを回避できる措置は極めて限定的であるという意味において,被告東電及び被告国の置かれた状況は,時間的な面においても手段の面においても大変に切迫していた。このような状況下 において,仮に,電源設備の移設に関して行政上の申請・審査手続が必要と された場合であっても,被告国としては,直ちにこれら行政上の手続に着手すべきであったというべきであって,これら手続に年単位の時間がかかるとは到底考えにくいところ,電源設備の移設のみならず,水密化・防潮堤の設置も含めて1年で完了するという筒井哲郎らの意見(前記第4章第4節第5,4⑵[❷-251 頁])のほか,同節第5でみた工学者の意見を総合すれば,電 源設備の移設は,手続も含め,遅くとも平成22年末までには実現が可能な措置で 筒井哲郎らの意見(前記第4章第4節第5,4⑵[❷-251 頁])のほか,同節第5でみた工学者の意見を総合すれば,電 源設備の移設は,手続も含め,遅くとも平成22年末までには実現が可能な措置であったと認めることができ,これを左右するに足りる証拠は見当たらない。 ウまとめ以上の次第で,電源設備全部の移設という結果回避措置をとった場合,遅 くとも,本件津波発生の前である平成22年末までには,移設を実現することができ,そうであれば,本件事故を回避することが可能であったと認められる。 ⑵ 空冷式非常用D/Gと配電盤の移設という結果回避措置をとった場合原告らは,共用プール建屋に設置されていた空冷式非常用D/G(空冷式非 常用ディーゼル発電機)と非常用配電盤を35m盤上に移設していれば,各プラントで電源を融通し合うなどすることにより,炉心損傷を回避することができたと主張する。 原告らが主張する非常用配電盤とは,M/C(高圧配電盤),P/C(パワーセンター)及びMCC(モーターコントロールセンター)を包括して指すもの と解されるところ,これらが空冷式非常用D/Gと共に高台に移設されていれば,前記1で判示したところと同様,各プラントに交流電源及び変換された直流電源を供給することができたのであるから,結果回避可能性に関する現象面からみた帰結は,前記1に判示するところと同様である。 また,手続面に関してみると,本件で認められる予見可能性の内容及びそれ に基づけば採用可能と考えられる結果回避措置の内容に照らせば,予見される 結果が極めて重大であるのに,これを回避できる措置は極めて限定的であるという切迫した状況下において,空冷式非常用D/G及び非常用配電盤の移設に年単位の時間がかかると考えにくいのは前記1に 結果が極めて重大であるのに,これを回避できる措置は極めて限定的であるという切迫した状況下において,空冷式非常用D/G及び非常用配電盤の移設に年単位の時間がかかると考えにくいのは前記1に判示するところと同様であるから,これら移設の措置も,遅くとも平成22年末までには実現が可能であったと認められる。 以上の次第で,空冷式非常用D/Gと非常用配電盤の移設という結果回避措置をとった場合であっても,遅くとも,本件津波発生の前である平成22年末までには,移設を実現することができ,そうであれば,本件事故を回避することが可能であったと認められる。 ⑶ 直流電源設備のみの移設という結果回避措置をとった場合 ア現象面からの検討直流電源設備が35m盤上に移設され,福島第一原発の各号機に給電可能な状況になっていれば,本件津波の到来から少なくとも8時間,電源の消耗を抑える工夫を施せば丸1日程度にわたって,直流電源を駆動源とする設備を利用することが可能であったと認められる。というのは,本件事故前のS BO(全交流電源喪失)耐久能力すなわち直流電源の稼働可能時間は8時間以上であるとされており(前記第4章第1節第14,2[❷-65 頁]),直流電源が生き残った3号機においては,本件津波到来から丸1日以上が経過した12日20時36分に至って原子炉水位計の直流電源が枯渇している(前記第4章第2節第2,4⑸[❷-114 頁])からである。そして,直流電源を 駆動源とする設備を利用することが可能であれば,主要計装機器,IC(非常用復水器)の隔離弁の一部(直流駆動のIC隔離弁)の遠隔操作,RCIC(原子炉隔離時冷却系)及びHPCI(高圧注水系)の起動,FP(消火系ライン)系からの注水の際の弁の遠隔操作並びにSR弁(逃し安全弁)の 器)の隔離弁の一部(直流駆動のIC隔離弁)の遠隔操作,RCIC(原子炉隔離時冷却系)及びHPCI(高圧注水系)の起動,FP(消火系ライン)系からの注水の際の弁の遠隔操作並びにSR弁(逃し安全弁)の励磁(前記第4章第1節第1,2⑸[❷-19 頁])を行うことができたもの と認められる。 (ア) 1号機関係aD/DFPによる早期継続注水が可能であったこと直流電源が供給可能で,主要計装機器のパラメータの読み取りが可能であれば,1号機において,原子炉水位及び原子炉圧力を的確に把握することができた。そして,IC(非常用復水器)は,本件事故直後,フ ェールセーフ機能によりその機能を実質的に喪失していたが,原子炉水位を的確に把握することができる状況であれば,運転員は,ICの実質的機能喪失を経時的に確認することができたし,少なくとも,ICの隔離弁を閉操作と開操作を繰り返す(前記第4章第2節第2,3⑷[❷- 106 頁],同⑹[❷-107 頁])といった試行錯誤をする必要はなかった。 ICの実質的機能喪失を経時的に確認することができていれば,11日17時30分頃にはD/DFP(ディーゼルエンジン駆動の消火系ポンプ)の起動確認が済んでいた(同⑵[❷-105 頁])のであるから,これと並行してFP(消火系ライン)注水系の注水ライン確立に注力することができた。直流電源が供給可能であれば,FP注水系の注水ライン確 立のための弁操作は中央制御盤上で行うことができたから,D/DFPの起動確認後間もない時点において,FP注水系からの注水が可能であり,少なくとも,FP注水系の注水ライン確立が11日20時50分までかかることはなかった。直流電源が供給可能であれば,主要計装機器により原子炉圧力を把握することができたから,D/D の注水が可能であり,少なくとも,FP注水系の注水ライン確立が11日20時50分までかかることはなかった。直流電源が供給可能であれば,主要計装機器により原子炉圧力を把握することができたから,D/DFPの起動確認 (11日17時30分頃)後間もない時点でFP注水系の注水が可能となっていれば,その時点での原子炉圧力を確認の上,これがD/DFPの吐出圧力を下回っていれば,この時点でD/DFPによる継続注水を実施することができた。もしも原子炉圧力がD/DFPの吐出圧力を上回っていたとしても,直流電源が供給可能であれば,SR弁(逃し安全 弁)を励磁して原子炉内を減圧することができたから,同減圧を施した 上で,D/DFPによる継続注水が可能であったと認められる。なお,D/DFPによる注水の水源はろ過水タンクであり,原子炉建屋から相当離れた場所にあるため水源としては不安定であるが(資料1(第6分冊)参照),直流電源の供給により原子炉水位の把握が可能であれば,D/DFPによる注水の実施状況を確認することができた。 bHPCIによる注水が可能であったこと直流電源が供給可能であれば,HPCI(高圧注水系)を起動させることができた(なお,1号機のHPCIは本件津波により水没したものであるが,移設後の直流電源設備とHPCIとの配線が構築されていれば,本件津波後においてもHPCIへの給電が可能であったと認められ ることについては,前記⑴ア(ア)[❸-64 頁]のとおりである。)。HPCIは,起動しさえすれば,その稼働自体には電力を要しないところ,現にHPCIを起動させた3号機においては,起動後14時間以上にわたって,一応注水はできていたのであるから,1号機においても,D/DFP(ディーゼルエンジン駆動の消火系ホ 力を要しないところ,現にHPCIを起動させた3号機においては,起動後14時間以上にわたって,一応注水はできていたのであるから,1号機においても,D/DFP(ディーゼルエンジン駆動の消火系ポンプ)による注水が奏功しなくな ったとしても,その後14時間程度は,HPCIによる継続注水が可能であったと認められる。 c 消防車による注水をD/DFP又はHPCIと並行して又はこれに引き続いて行うことができたこと本件事故では,12日午前3時頃には,FP(消火系ライン)注水系 への送水口が発見され,同日午前4時頃には,唯一稼働可能であった消防車1台を同送水口に接続しての淡水注水が開始された(前記第4章第2節第2,3⑿[❷-109 頁])。前記bのとおり,仮にD/DFPによる注水が水源の不穏により奏功しなかったとしても,HPCI(高圧注水系)による注水が14時間程度は可能だったのであるから,同注水作 業中に,消防車による淡水注水を開始することが可能であったと認めら れる。その後,12日午前6時ないし7時頃には,自衛隊の消防車2台も併せて3台の消防車による注水が実施され,その水源が枯渇する前の12日15時30分頃には,消防車3台直列による海水注水ラインが確立していたものであるから,直流電源が供給可能であれば,D/DFPによる注水,HPCIによる注水及び消防車による淡水注水を,並列的 又は断続的に実施することが可能であったと認められる。 d 小括以上の次第で,直流電源が供給可能であれば,D/DFPによるFP注水系からの注水が早期に実施可能だったのであり,D/DFPによる注水が不奏功であったとしても,引き続きHPCIによる注水が可能だ ったのであり,HPCIの稼働中には,消防車による淡水注入が実施 水系からの注水が早期に実施可能だったのであり,D/DFPによる注水が不奏功であったとしても,引き続きHPCIによる注水が可能だ ったのであり,HPCIの稼働中には,消防車による淡水注入が実施可能であったところ,これら各手段による注水が断続的に実施されていれば,炉圧の異常上昇も生じず,ベントを実施する必要もなかったと認めることができるし,炉心損傷も,生じなかったか,生じたとしても最小限に抑えられ,少なくとも,水素爆発を誘発するほどの水素が発生する ことはなく,1号機の水素爆発は回避できたと認められる。 なお,IC(非常用復水器)A系は,本件事故においては実質的に機能を喪失していたものであるが,その原因は,直流電源の喪失により,IC配管の破断の検出信号が発信されて4個の隔離弁が自動的に閉動作するというフェールセーフ機能が働いたという点にある(前記第4章 第1節第1の2⑸ウ(イ)[❷-20 頁])。移設された直流電源設備からの給電が継続的に実施されていれば,上記検出信号は発信されず,フェールセーフ機能も働かずにIC隔離弁が閉動作しなかった可能性があるところ,そうであれば,ICによる注水も実施可能だったものであり,1号機における水素爆発の回避可能性は更に高まったと考えられる。 (イ) 3号機関係 3号機においては,本件津波によっても直流電源設備が残存していたのであるから,直流電源設備を移設していたとしても,本件津波以降の事実経過は,実際に生じた事実経過と基本的に異ならないものと考えられる。 しかし,前記(ア)のとおり,1号機において,炉圧及び水位を確認しながらHPCI(高圧注水系)等による継続注水が可能となっていれば,前 記⑴ア(イ)[❸-65 頁]で検討したところと同様,3号機の代替注水手段 )のとおり,1号機において,炉圧及び水位を確認しながらHPCI(高圧注水系)等による継続注水が可能となっていれば,前 記⑴ア(イ)[❸-65 頁]で検討したところと同様,3号機の代替注水手段の確保及び電源の復旧作業も相当に早まったものと認められ,さらに,1号機の水素爆発が回避できた結果として,電源復旧作業も相当に進んでいたと認められるから,3号機について,非常用直流電源枯渇前に,代替注水が開始され,復旧電源により各種パラメータを確認できる状況になって いた高度の蓋然性がある。仮に代替注水が開始されていなくても,復旧電源により原子炉水位が確認できている状況であれば,当直運転員が,HPCIの作動状況について過度の懸念を抱くこともなく(前記第4章第2節第2,4⑸[❷-114 頁]),代替注水ラインの構築状況を見据えながら,適時適切な時期までHPCIを運用することが可能であったと認められ る。さらに,電源が復旧していれば,仮にHPCIを停止させたとしても,SR弁(逃し安全弁)を開いて炉圧を調整し,D/DFP(ディーゼルエンジン駆動の消火系ポンプ)による注水を行うことが可能であったと認められる(同4⑹[❷-115 頁])。このように,HPCI,D/DFPないし復旧後の代替注水による冷却が継続していれば,炉心損傷は発生しなかったか, 発生したとしても最小限に抑えられ,少なくとも水素爆発を誘発するほどの水素が発生することはなく,3号機の水素爆発は回避できたと認められる。 (ウ) 2号機関係3号機の水素爆発が回避できれば,その時点で,2号機の代替注水ライ ンは完成していた(同5⑼[❷-122 頁])から,前記⑴ア(ウ)[❸-66 頁] で検討したところと同様,3号機への注水状況をにらみつつ,2 れば,その時点で,2号機の代替注水ライ ンは完成していた(同5⑼[❷-122 頁])から,前記⑴ア(ウ)[❸-66 頁] で検討したところと同様,3号機への注水状況をにらみつつ,2号機のRCIC(原子炉隔離時冷却系)の機能が低下した際には,2号機への代替注水ラインを用いた注水を実施することが可能であったと認められる。また,そもそも,2号機は,全電源喪失により各種計装機器の確認ができない状況であったところ,移設された直流電源設備が機能していれば,これ ら計装機器の確認が可能であり,そうであれば,RCICの水源について,各種圧力値をみながら復水貯蔵タンクとS/C(圧力抑制室)とを切り替えるなどして,注水機能を維持することが可能であったと認められる。このように,注水機能が維持され,また,代替注水ラインによる注水が可能であれば,炉心損傷は発生しなかったか,発生したとしても最小限に抑え ることができた。 (エ) 小括以上によれば,とり得る結果回避措置である直流電源設備の高所移設を実施していれば,1~3号機で発生した炉心損傷は,発生しなかったか,発生したとしても最小限に抑えることができたから,本件事故を回避する ことが可能であったと認められる。 イ手続面からの検討本件で認められる予見可能性の内容及びそれに基づけば採用可能と考えられる結果回避措置の内容に照らせば,予見される結果が極めて重大であるのに,これを回避できる措置は極めて限定的であるという,時間的な面にお いても手段の面においても切迫した状況下において,直流電源設備の移設に年単位の時間がかかると考えにくいのは前記1に判示するところと同様であるから,これら移設の措置も,遅くとも平成22年末までには実現が可能であったと認められる。 ウまと いて,直流電源設備の移設に年単位の時間がかかると考えにくいのは前記1に判示するところと同様であるから,これら移設の措置も,遅くとも平成22年末までには実現が可能であったと認められる。 ウまとめ 以上の次第で,直流電源設備のみの移設という結果回避措置をとった場合, 遅くとも,本件津波発生の前である平成22年末までには,移設を実現することができ,そうであれば,本件事故を回避することが可能であったと認められる。 3 結果回避可能性に関する判断のまとめ以上判示したところをまとめると,以下のとおりとなる。 すなわち,当裁判所が認める予見可能性の内容に照らし,平成21年9月及びそれ以降の時点で採り得る結果回避措置は,津波が敷地高を超えた場合の浸水高に関するリスクの定量的評価を前提としない電源設備の全部又は一部の35m盤への移設のみであった。そして,電源設備全部の35m盤への移設という結果回避措置をとった場合,遅くとも,本件津波発生の前である平成22年末までに は,移設を実現することができ,そうであれば,本件事故を回避することが可能であった。また,電源設備全部の移設ではなく,空冷式非常用D/G(空冷式非常用ディーゼル発電機)と非常用配電盤の移設という結果回避措置をとった場合であっても,直流電源設備のみの移設という結果回避措置をとった場合であっても,やはり,遅くとも,本件津波発生の前である平成22年末までには,移設を 実現することができ,そうであれば,本件事故を回避することが可能であった。 第3 当事者の主張に対する補足説明 1 いかなる結果回避措置をとることができたかについて⑴ 原告らの主張に対する補足説明原告らは,予見可能性の内容として,長期評価の見解を踏まえて明治三陸地 震の波源モデ 対する補足説明 1 いかなる結果回避措置をとることができたかについて⑴ 原告らの主張に対する補足説明原告らは,予見可能性の内容として,長期評価の見解を踏まえて明治三陸地 震の波源モデルを福島県沖に移動して津波リスクを評価すれば,平成20年東電試算と同様の試算結果が得られたはずであるから,平成20年東電試算と同様の津波の到来,すなわち,福島第一原発の敷地南側でO.P.+15.707mの津波が到来することを予見することができたということを前提に,この結果に一定の裕度を設けて津波リスクを定量化し,これに基づいて浸水高や波 圧等を算出すれば,本件事故後に各地の原子力発電所で実施された防潮堤の設 置や主要設備の被水・浸水防止措置(水密化)などの措置をとることができたと主張する(前記第3章第2節第4,1⑵ア[❶-113 頁])。また,筒井哲郎及び後藤政志は,平成20年東電試算の結果に更に1割程度の裕度を設けてO. P.+17.5mの津波高を想定し,敷地東側の海側全面に高さ7.5mの防潮堤を築くのが相当といえ,水圧については想定される最大値に安全率を3~ 4倍取って設計条件とするのが通常であると述べる(前記第4章第4節第5,4⑵[❷-251 頁],同⑵ク[❷-255 頁])。 しかし,平成21年報告の時点においても,長期評価の見解を踏まえて明治三陸地震の波源モデルを福島県沖に移動させて試算した場合に得られたであろう結果は,リスクの過大評価と過小評価の危険をいずれも内包したものであ り,仮に,平成20年東電試算と同様に,福島第一原発の敷地南側に到来する津波の波高がO.P.+15.707mであるとの試算結果が得られたとしても,それにどの程度の裕度を設けるべきか,敷地東側や北側では南側と同一の裕度を設ければ足りるの 福島第一原発の敷地南側に到来する津波の波高がO.P.+15.707mであるとの試算結果が得られたとしても,それにどの程度の裕度を設けるべきか,敷地東側や北側では南側と同一の裕度を設ければ足りるのか,別の方角から到来する津波を想定する必要があるのか否かといった点の検討をする材料が揃っているとはいい難い状況であっ た。 また,被告国は,安全対策上考慮すべき地震・津波として,過去の記録のある既往地震・津波のみならず,過去の記録がないが現在の知見に照らせば想定すべき地震・津波をも考慮すべきとの基本姿勢を一貫してとってきたものであるが,津波のリスク評価において安全裕度をとるという考え方は,過去の記録 のある既往地震・津波に基づくリスク評価のみでは避けることのできない不確定性をカバーするために用いられてきた概念であって(首藤伸夫の意見〈前記第4章第4節第4,2⑺イ(イ)〉[❷-238 頁]参照),過去の記録がないが現在の知見に照らせば想定すべき地震・津波をも考慮して得られたリスク評価の結果に,更に安全裕度を設けるという考え方は,平成21年報告及びその後の時 点では,一般的であったとはいい難いと考えられる。 本件津波を現に経験した現在となってみれば,長期評価の見解を踏まえて明治三陸地震の波源モデルを福島県沖に移動させて試算した場合に得られたであろう結果に,更に1割の安全裕度を設け,敷地東側の海側全面に同一高さの防潮堤を築き,得られる水圧の最大値に更に3~4倍の安全率を設けて水密化の措置をとることは,合理的であったと容易に認めることができる。しかし, このことは,本件津波を現に経験したからこそ導かれる結論であり,本件津波のデータが存在しなかった平成21年報告の当時においては,上記予見可能性の内容,すなわち,貞観 めることができる。しかし, このことは,本件津波を現に経験したからこそ導かれる結論であり,本件津波のデータが存在しなかった平成21年報告の当時においては,上記予見可能性の内容,すなわち,貞観地震に基づき想定される津波が従前福島第一原発の敷地高が想定津波に対して事実上有していた裕度を実質的に喪失させるものであったことを前提に,その他の津波を想定した場合には,福島第一原発の敷地 高を超える結果となり得ること,かつ,そのような事態になった場合には,安全対策の根幹をなす非常用電源設備が機能喪失することを被告国が的確に認識していたとしても,過大評価と過小評価の危険をいずれも内包するリスク評価について,これを直ちにハード面に反映させることには慎重な態度をとらざるを得なかったであろうといえる。 よって,原告らの上記主張は採用の限りでない。 ⑵ 被告国の主張に対する補足説明被告国は,ある結果回避措置に結果回避可能性があるというためには,原則として,規制権限の不行使が問題となっている時点で,当該結果回避措置をとることが物理的に可能であっただけでは足りず,当時の確立した科学的・工学 的知見によって,当該結果回避措置が問題となっている被害を回避できる措置として支持される,あるいは導かれる状況にあったことが必要となるというべきところ(前記第3章第2節第4,2⑴[❶-121 頁]),本件事故以前において敷地高を超える津波を予見することができた場合に想定し得る結果回避措置は,ドライサイトを維持するという当時の設計思想及び理学的・工学的知見 に照らして,想定される津波の高さに応じた防潮堤を設置するという措置であ って(同⑶[❶-124 頁]),それ以外の措置は,当時の確立した科学的・工学的知見によって支持される,ある に照らして,想定される津波の高さに応じた防潮堤を設置するという措置であ って(同⑶[❶-124 頁]),それ以外の措置は,当時の確立した科学的・工学的知見によって支持される,あるいは導かれる状況にはなかったと主張する。 この点,当裁判所も,津波被害を防止し敷地内への海水流入を阻止するために,防潮堤が有力な措置となることについて異を唱えるものではない。しかし,防潮堤は,その設置に多額の費用がかかることはもとより,その設計のために は荷重の定量的評価が不可欠なのであって,それが不十分なまま防潮堤の築造に踏み切ることは,結果的に経費の無駄遣いを引き起こして他の重要な安全対策がないがしろになったり,他方,結果的に不十分な防潮堤を築造した上,これにより安全対策が十分に実施されその後の対策が不要であるかのような外形が作り出されてしまうことにもなりかねないのであるから,上記のような定 量的評価が困難な場合においては,そもそも防潮堤を築造するという選択肢自体が採用できないということになる(前記第2,1⑵ア[❸-60 頁]参照)。 このような状況下,安全対策の責任主体である電力事業者及びこれを規制する行政庁としては,当然,防潮堤に代わる予備的措置を検討するのが筋というべきであり,当時の理学的・工学的知見が指し示すところに盲従して予見される 危険を放置するということが許されるはずはない。 仮に,当時の理学的・工学的知見に照らして,想定される結果回避措置が防潮堤の設置しかなかったとしても,ここでいう理学的・工学的知見自体,敷地高を超える津波が予見できるということを前提に,早期に実現可能な回避措置を探求するという課題の下に同措置を検討した結果であったとはいえず,具体 的な実現性やその場合の費用,期間,切迫性等を考慮する 超える津波が予見できるということを前提に,早期に実現可能な回避措置を探求するという課題の下に同措置を検討した結果であったとはいえず,具体 的な実現性やその場合の費用,期間,切迫性等を考慮することなく,漠然と,抽象的なレベルで,「敷地高を超える津波を防ぐに足りる防潮堤の設置」を提示していたものにすぎないと考えざるを得ず,そのような意味での知見において防潮堤の設置のみが提示されていたからといって,防潮堤の設置以外の措置を考慮しないことが正当化されるとはいえない。そうであれば,防潮堤の設置 に代わる予備的措置が,当時の学術論文等において直接紹介・発表されていた ものでなかったとしても,社会通念に照らして容易に着想可能なものであって,かつ,技術的観点からみてもその実現に特段の支障のないものであれば,その措置は,理学的・工学的見地からみても合理的なものであり,とり得る結果回避措置であったと評価できる。 前記⑴のとおり,平成20年東電試算の結果は,長期評価が発生の可能性を 指摘していた三陸沖北部から房総沖の日本海溝寄りの領域において発生する地震による津波リスクの定量分析としては,いまだ未成熟なものであり,これを直ちにハード面に反映させることには慎重な態度をとらざるを得なかったのであるから,平成21年報告の時点においては,防潮堤の設置という結果回避措置の実現は困難な状況にあった。そして,重要な精密機器について被水・ 浸水が予見できる場合に,同精密機器を移設するという措置は,そのこと自体,社会通念に照らして容易に着想できるものというべきである。さらに,電源設備の移設という結果回避措置は,前記第2,1⑵ウ(イ)[❸-62 頁]のとおり,機能面・技術面からみても実現不可能なものではなかったのであるから,これらの措置は, のというべきである。さらに,電源設備の移設という結果回避措置は,前記第2,1⑵ウ(イ)[❸-62 頁]のとおり,機能面・技術面からみても実現不可能なものではなかったのであるから,これらの措置は,とり得る結果回避措置であったと評価できるのであり,被告国の 上記主張は,当裁判所の前記判断を左右するものではない。 なお,専門家の意見の中には,当時の原子力工学ないし津波工学の到達点においては,津波対策として想定されていたものは防潮堤の設置が最優先であって,電源設備の高台設置という措置は,想定されていなかったとするものが複数ある。 しかし,これらのことは,被告国が4省庁報告書等の検討以来,一貫して,安全対策上考慮すべき地震・津波として,過去の記録のある既往地震・津波のみならず,過去の記録がないが現在の知見に照らせば想定すべき地震・津波をも考慮すべきとの基本姿勢をとっており,その前提として,「津波は構造物で十分に防げる。」という考えは人間のおごりであり,構造物によるハード面で の津波対策だけでなく,それを上回ってしまった場合に備え避難計画などソフ ト面での津波対策を統合する必要があるという考え方(前記第4章第4節第4,2⑺イ(イ)[❷-238 頁])を取り入れていたという事情に対する認識が,上記の専門家においては十分になされていなかったということを示すものであるといえる。そもそも自然災害に対する安全対策は,100%安全ということはありえず,工学という学問分野は,安全対策に関しては,その要否及び程度を 定量化するということを目的とする,安全対策策定のための一手段にすぎないのであって,それが定量化できないからといって安全対策が直ちに不要となるわけではないのであるから,電力事業者及び規制者としては,工学の専門家の ことを目的とする,安全対策策定のための一手段にすぎないのであって,それが定量化できないからといって安全対策が直ちに不要となるわけではないのであるから,電力事業者及び規制者としては,工学の専門家の意見に耳を傾けることはもとより,その内容ととるべき安全対策の基本的考え方を照らし合わせ,工学的な結論に未成熟な点があるのであれば,たとえ想定 される危険が定量化されたものでなくても,その時々の事情に応じてとり得る安全対策を,一般社会通念に照らして選択・実施することが当然求められるのである。しかるに,被告東電及び被告国は,防潮堤が最優先との認識を有していたとしながら,結局具体的な防潮堤の設置を検討していなかったのであるから,工学分野の専門家が上記のような見解を有していたからといって,それを もって,被告東電及び被告国において何らの結果回避措置をとらなかったことを正当化する事情として評価することはできないというべきである。 ⑶ 被告東電の主張に対する補足説明被告東電の主張は,前記第3章第2節第4,3[❶-135 頁]のとおりであるところ,これに対する裁判所の補足説明は,被告国の主張に対する補足説明 (前記⑵)に包摂されるものである。したがって,被告東電の主張を子細に検討しても,前記第2,3の結論は何ら左右されない。 2 電源設備の移設により,本件事故を回避することができたか否かについて⑴ 被告国の主張に対する補足説明ア現象面について (ア) 空冷式非常用D/Gの移設について a プラントへの給電可能性について被告国は,共用プール建屋内に設置されていた空冷式非常用D/G(空冷式非常用ディーゼル発電機)及び配電盤を移設しても,これら非常用電源設備は原子炉に注水するための設備機器に直接接続されてい いて被告国は,共用プール建屋内に設置されていた空冷式非常用D/G(空冷式非常用ディーゼル発電機)及び配電盤を移設しても,これら非常用電源設備は原子炉に注水するための設備機器に直接接続されているわけではなく,融通回路を介して注水設備に給電するためには,遮断 機を投入するための直流電源が必要であったし,さらに,その接続先ないし融通先の各タービン建屋に設置してある配電盤が正常に動作しない限り,原子炉へ注水することに直結する設備機器を動かすことはできないのであるから,これら空冷式非常用D/G及び配電盤盤の機能が喪失しなかったとしても,本件事故を回避することはできなかったと主張 する。 しかし,原告らが主張し当裁判所がこれを肯認する結果回避措置としての空冷式非常用D/G及び配電盤の移設は,津波浸水による電源設備の機能喪失回避のための措置であって,現に配備されていた共用プール建屋内の空冷式非常用D/G及び配電盤を,配線構造に手を加えること なくそのまま移設するというものではない。津波浸水による電源設備の機能喪失回避を目的とするのであれば,当然,浸水時であっても移設先の空冷式非常用D/Gないし配電盤から各プラントへの給電が維持できるような配線設計がなされるはずであって,当裁判所は,そのような配線設計がなされることも含めて,空冷式非常用D/G及び配電盤の移 設が可能であると認定したものである。したがって,現に配備されていた共用プール建屋内の空冷式非常用D/G及び配電盤の配線関係を前提とした被告国の主張は,これを採用することができない。 b 移設後の設備の信頼性ないし現実的利用可能性について被告国は,①非常用D/Gや配電盤の移設により,新たなケーブルを 敷設するなど設備が増加し,それらが本件地震ないし本件津波に きない。 b 移設後の設備の信頼性ないし現実的利用可能性について被告国は,①非常用D/Gや配電盤の移設により,新たなケーブルを 敷設するなど設備が増加し,それらが本件地震ないし本件津波により損 傷する可能性があり,これに代わるケーブル敷設を本件津波到来後に行うのは困難であったとか,②Sクラスの耐震安全性が要求される非常用D/Gを,比較的崩れやすいO.P.+35m盤上に設置するのは,規制要求を満たす耐震安全性を確保できたか疑問であるなどとして,非常用D/Gないし配電盤を移設したとしても,本件地震及び本件津波が到 来した状況下において現実的に利用できたかどうか疑わしいという趣旨の主張をする(前記第3章第2節第4,2⑸イ[❶-128 頁])。 しかし,本件地震後に各地の原子力発電所で施された措置の中には,非常用D/Gのバックアップとして大型のガスタービン発電機や受電用変圧器を高台に設置するものがみられる(前記第4章第2節第9,3 ⑶[❷-176 頁])ところ,これらの設置に耐震上の問題があるとは報告されていないのであるから,非常用D/Gを高台に設置することに耐震技術上の重大な問題があるとは証拠上認められない。また,証拠上,本件地震発生から本件津波到来までの間に,耐震Sクラスの配線・配管関係に損傷を生じたという事実を認めることはできないし,本件津波によ っても,地中に埋設されるであろう配線ケーブルが被水・損傷することは考えにくく,現に,証拠上,本件津波により地中に埋設されたケーブルが損傷・断線したという事実を認めることはできないから,上記①の指摘は,抽象的な懸念を述べるにとどまるものである。したがって,被告国の上記主張は,いずれも採用することができない。 (イ) 直流電源設備の移設について めることはできないから,上記①の指摘は,抽象的な懸念を述べるにとどまるものである。したがって,被告国の上記主張は,いずれも採用することができない。 (イ) 直流電源設備の移設についてa 電源の搬送・接続の困難性について被告国は,仮に高台に可搬式直流バッテリー等を配備しても,これを短時間のうちに各プラント付近に搬送して監視計器等と接続することは困難であったと主張する(前記第3章第2節第4,2⑸ウ(ア)[❶- 129 頁])。 しかし,当裁判所が認定する結果回避措置としての直流電源設備の移設は,単に発電ないし蓄電設備のみを配備することを指すのではなく,当然に,非常時にこれらから各プラントに給電できるような配線を構築しておくことを含むものであるから,被告国の主張はその前提を異にする。 bD/DFPによる注水の可能性について(a) 被告国は,D/DFP(ディーゼルエンジン駆動の消火系ポンプ)による代替注水が可能となるためには,D/DFPの起動と代替注水ラインの構成の双方が必要となるところ,この代替注水ラインの構成のための弁操作は,通常であれば,中央制御室で行うことができるが, 全電源喪失の状態で,監視機器に直流バッテリーをつないだとしても,中央制御室で注水ライン構成のための弁操作ができるというわけではないから,同ライン構成のためには手動で弁を操作する必要があり,そのために相当の時間を要したと考えられると主張する(前記第3章第2節第4,2⑸ウ(イ)[❶-130 頁])。 しかし,当裁判所が認定する結果回避措置としての直流電源設備の移設は,当然のことながら,SBO(全交流電源喪失)時においても,主要計測機器のみならず,直流電源を駆動源とする各種機器(FP(消火系ライン)系からの注 が認定する結果回避措置としての直流電源設備の移設は,当然のことながら,SBO(全交流電源喪失)時においても,主要計測機器のみならず,直流電源を駆動源とする各種機器(FP(消火系ライン)系からの注水の際の弁の遠隔操作を含む。前記第2,2⑶[❸-69 頁])に給電可能なように配線を構築することをも含むも のであるから,被告国の主張はその前提を異にする。 (b) 被告国は,冷却水がまだ十分にある状態でSR弁(逃し安全弁)を開く場合には,原子炉圧力が急速に低下するのに伴い,炉内の冷却水の沸騰温度が低下するため,急激に炉内の冷却水の沸騰が始まり,発生する蒸気がSR弁を通じてS/C(サプレッションチェンバ)に 流れ込む結果,原子炉水位が急速に低下して,一気に炉心損傷に至る おそれがあり,結局,原子炉圧力が低圧注水可能な程度に減圧できずにD/DFPによる低圧注水ができない可能性があると主張する(前記第3章第2節第4,2⑸ウ(イ)[❶-130 頁])。 しかし,直流電源が供給されていれば,SR弁の開操作の際に,原子炉内の水位と圧力を参照し,圧力の低下状況及びそれに基づく冷却 水の沸騰状況をコントロールしながら操作することが可能なのであり(人為的な減圧を目的とする「逃し弁機能」は,このようなコントロールがなされることを当然の前提とする機能というべきである。前記第4章第1節第1,2⑶ウ(ウ)[❷-13 頁]参照),仮に,原子炉内の水位と圧力のパラメータに照らし,減圧に対応する注水が奏功して いないと認められるのであれば,速やかにHPCI(高圧注水系)を起動して高圧注水に切り替えればよい(前記第2,2⑶ア(ア)b[❸- 71 頁])のであるから,被告国の上記主張は,当裁判所の判断を左右しない。 (c) 被告国は,D やかにHPCI(高圧注水系)を起動して高圧注水に切り替えればよい(前記第2,2⑶ア(ア)b[❸- 71 頁])のであるから,被告国の上記主張は,当裁判所の判断を左右しない。 (c) 被告国は,D/DFPを使用した代替注水は,ろ過水タンクの淡 水を水源とするものと解されるところ,実際の事実経過においては,ろ過水タンクから各号機に向かう建屋外の配管には,複数の破断箇所があり,ろ過水タンクにつながる複数の消火栓から水が噴き出していることが確認されていたから,ろ過水タンクを水源とする低圧注水方法が有効であったとは断じ難いと主張する(前記第3章第2節第4, 2⑸ウ(イ)[❶-130 頁])。 当裁判所も,D/DFPを用いた注水の水源たるろ過水タンクからの給水の安定性については疑問を差し挟む余地があると考えるが,そうであっても,ろ過水タンクを水源とする注水が奏功していないと認められるのであれば,速やかにHPCIを起動して高圧注水に切り替 えればよい(前記第2,2⑶ア(ア)b[❸-71 頁])のであるから,被 告国の上記主張は,当裁判所の判断を左右しない。 (d) 以上の次第で,D/DFPを用いた注水の可能性に関する被告国の主張はいずれも採用できない。 c 消防車による注水の可能性について(a) 被告国は,吉田所長が臨機の対応として消防車による注水の検討 を指示した後,各原子炉建屋への消防車の通路が確保されたのは,平成23年3月11日午後7時から翌12日未明にかけてのことであったから,仮に直流電源が供給できていてIC(非常用復水器)等の稼働状況を確認できていたとしても,速やかに消防車による給水が開始できたとはいえないと主張する(前記第3章第2節第4,2⑸ウ(ウ) [❶-131 頁])。 しかし,当 C(非常用復水器)等の稼働状況を確認できていたとしても,速やかに消防車による給水が開始できたとはいえないと主張する(前記第3章第2節第4,2⑸ウ(ウ) [❶-131 頁])。 しかし,当裁判所は,直流電源が供給可能であれば,実際に消防車による注水が開始された12日午前4時頃までの間,D/DFP及びHPCIによる注水を継続実施できていたと認定するものであり,結果回避可能性の判断の前提となる因果経過の検討において,消防車に よる注水時期を早めているものではないから,被告国の主張は前提を異にする。 (b) 被告国は,本件事故の発生前においては,消防車を用いた海水注水策は,そもそもアクシデントマネジメント策として取り入れられていなかったのであるから,これを本件事故に係る結果回避措置とする こと自体が後知恵にすぎないと主張する(前記第3章第2節第4,2⑸ウ(ウ)[❶-131 頁])。しかし,当裁判所は,消防車を用いた海水注入策をもって結果回避措置とするのではなく,結果回避可能性の判断に当たり,それを因果経過の要素に組み入れて検討するにとどまるものであり,現に存在した事実を因果経過の要素に組み入れて検討する ことに特段の問題はなく,後知恵には当たらないから,被告国の上記 主張は採用することができない。 (c) 被告国は,消防車による注水の効果については,本件事故後の検討により,消防ポンプがはき出した全量が原子炉へ注水されていた可能性が低く,消防車の代替注水による炉心冷却の効果は,現時点においても十分に解明されていないのであるから,全電源喪失後,速やか に消防車による代替注水が実施できたとしても,本件事故の発生を回避することができたとはいえないと主張する(前記第3章第2節第4,2⑸ウ(ウ)[❶-13 いないのであるから,全電源喪失後,速やか に消防車による代替注水が実施できたとしても,本件事故の発生を回避することができたとはいえないと主張する(前記第3章第2節第4,2⑸ウ(ウ)[❶-131 頁])。 しかし,本件事故の実際の経過をみれば,1号機については,3月12日19時04分に消防車による海水注入が再開された後,逆洗弁 ピットの水量減少や3号機の水素爆発等により,14日午前1時10分頃から同日20時30分まで注水が中断していたにもかかわらず,炉圧や水位に特段の問題を生じていなかったものである。また,3号機においては,同号機水素爆発後の14日16時30分頃に消防車による海水注入が安定的に実施されるようになったが,その後,圧力容 器圧力及びD/W(ドライウェル)圧力は徐々に低下したものである。 このように,1号機及び3号機においては,既に事故が相当程度進行している状況下においても,全体としてみれば,消防車による注水は,その後の炉圧の上昇を確実に食い止めていたと評価できる。 これに対し,2号機においては,14日19時57分頃に,燃料切 れを起こしていた消防車に給油がなされて海水注入が再開したが奏功せず,同日21時18分頃以降,立て続けに,圧力容器及び格納容器において,閉じ込める機能を大きく損なう損傷が生じたものであるが,上記注水再開以降は,圧力容器圧力が消防車の吐出圧力を超える時間帯が増大していた(前記第4章第2節第2の5⒅[❷-124 頁]) のであり,消防車による注水が奏功しなかったのはそのためであると 考えられるから,2号機における上記事象をもって消防車による注水の効果を限定的に評価すべきことにはならない。 以上によれば,消防車による注水は,本件事故における実際の事実経過に照らしてみ 考えられるから,2号機における上記事象をもって消防車による注水の効果を限定的に評価すべきことにはならない。 以上によれば,消防車による注水は,本件事故における実際の事実経過に照らしてみて,その効能を完全に発揮したとはいえないまでも,原子炉の高圧化を防止するために重要な効果があったというべきで あるから,被告国の主張は採用できない。 dHPCIの起動可能性について被告国は,HPCI(高圧注水系)を起動させるためには,複数の系統の弁や補助油ポンプに直流電源を供給する必要があるところ,HPCIの設置されている原子炉建屋地下1階は,本件津波により浸水してお り,1号機の炉心損傷に至る前に,HPCIに直流バッテリーを接続することは困難であったから,起動は困難であったと主張する(前記第3章第2節第4,2⑸ウ(エ)[❶-131 頁])。 しかし,前記第2,2⑴ア(ア)[❸-64 頁]で判示したところと同様,原子炉建屋地下1階にあるHPCIが水没した3号機において,本件津 波到来後に,生き残った直流電源系を駆動源としてHPCIを起動している(前記第4章第2節第2,4⑶[❷-113 頁])ことからすれば,1号機においても,移設後の直流電源とHPCIとの配線が構築されていれば,本件津波後においても給電可能であったと認められるから,被告国の主張は採用の限りでない。 eHPCIの最終ヒートシンク確保の困難性について被告国は,仮にHPCI等により注水・減圧できたとしても,最終的には,原子炉停止時冷却系,原子炉補機冷却系及び原子炉補機冷却海水系により崩壊熱を最終ヒートシンク(最終的な熱の逃し先)である海水に移行させる必要があるが,そのための海水ポンプは,本件津波による 被水によって機能喪失していたから,こ 及び原子炉補機冷却海水系により崩壊熱を最終ヒートシンク(最終的な熱の逃し先)である海水に移行させる必要があるが,そのための海水ポンプは,本件津波による 被水によって機能喪失していたから,この復旧作業を短時間で行うこと など到底不可能であったと主張する(前記第3章第2節第4,2⑸ウ(エ)[❶-131 頁])。 しかし,現に3号機においては,HPCI起動後,復水貯蔵タンクを水源として,熱交換機能のないまま14時間以上の注水を実施しているのであるから,熱交換機能の復旧がなければHPCIによる注水ができ ないという被告国の主張は採用できない。 イ手続面について被告国は,本件事故前の状況及び許認可手続に要する時間等を考慮した場合,本件津波までに対策工事を終えることができず,被告国が対策工事を行わせるために規制権限を行使したとしても,全体としてみれば,権限行使に 向けた動機付けを受けた時点から被告東電による結果回避措置が完了するまでに,優に約5年を超える期間を要したと考えられると主張し(第3章第2節第4,2⑹[❶-132 頁]),同旨の意見を述べる専門家や実務担当経験者もいる(前記第4章第4節第5,1[❷-242 頁]同5[❷-255 頁])。 しかし,被告国の上記主張は通常時を想定したものであるといえるところ, 前記のとおり,本件で認められる予見可能性は,福島第一原発の安全対策を根本的に覆しかねない極めて重大な内容であり,かつ,それに基づけば,とり得る結果回避措置は電源設備の移設よりほかにあり得ない状況であったのであるから,そのような時間的な面においても手段の面においても切迫した状況下において,通常時と同様のスケジュール感で手続を進め,その間予 見されるリスクを放置するというのは,一般的なリスク のであるから,そのような時間的な面においても手段の面においても切迫した状況下において,通常時と同様のスケジュール感で手続を進め,その間予 見されるリスクを放置するというのは,一般的なリスク管理意識に照らして考えにくいというべきである。また,上記専門家や実務担当経験者の意見は,結果回避措置の実施に当たっては,これが基本設計ないし基本的設計方針に該当するとして設置変更許可申請が必要であることを前提とするものであるところ,当裁判所は,後記第5節第3,1⑵ア[❸-95 頁]で認定判示す るとおり,当裁判所が認定する結果回避措置は,基本設計ないし基本的設計 方針に該当せず,まさしく詳細設計に該当すると考えるものであるから,上記意見は前提を異にするものであり,結果回避可能性に関する当裁判所の判断を何ら左右しない。したがって,この点についての被告国の主張は採用できない。 ⑵ 被告東電の主張に対する補足説明 被告東電の主張は,前記第3章第2節第3,3[❶-104 頁]のとおりであるところ,これに対する裁判所の補足説明は,被告国の主張に対する補足説明(前記⑴)に包摂されるものである。したがって,被告東電の主張を子細に検討しても,前記第2の各結論は何ら左右されない。 第5節争点5(原告ら主張の具体的結果回避措置に関して被告国が規制権限を行使 することができたか。)について第1 当裁判所の判断の結論当裁判所は,平成21年9月当時,福島第一原発は,省令62号4条1項で定める技術基準に適合していなかったから,経済産業大臣は,電気事業法40条に基づき,被告東電に対し,技術基準適合命令を発令することができたと判断する。 以下詳述する。 第2 当裁判所の判断の理由 1 法令のまとめ(本件事故時)⑴ 規制権 は,電気事業法40条に基づき,被告東電に対し,技術基準適合命令を発令することができたと判断する。 以下詳述する。 第2 当裁判所の判断の理由 1 法令のまとめ(本件事故時)⑴ 規制権限の根拠条文電気事業法39条1項は,「事業用電気工作物を設置する者は,事業用電気 工作物を経済産業省令で定める技術基準に適合するように維持しなければならない。」と規定し,電気事業者に対し,技術基準維持義務を課している。 同条2項は,経済産業省令において技術基準を定めるに当たっては,①事業用電気工作物は,人体に危害を及ぼし,又は物件に損傷を与えないようにすること(同項1号),②事業用電気工作物は,他の電気的設備その他の物件の機 能に電気的又は磁気的な障害を与えないようにすること(同項2号),③電気 工作物の損壊により電気の供給に著しい支障を及ぼさないようにすること(同項3号)を定める。 そして,電気事業法40条は,「経済産業大臣は,事業用電気工作物が前条第1項の経済産業省令で定める技術基準に適合していないと認めるときは,事業用電気工作物を設置する者に対し,その技術基準に適合するように事業用電 気工作物を修理し,改造し,若しくは移転し,若しくはその使用を一時停止すべきことを命じ,又はその使用を制限することができる。」と定める。 上記各条項に定める「経済産業省令」は,本件においては省令62号を指す。 したがって,経済産業大臣は,原子力発電所施設が省令62号で定める技術基準に適合していないと認めるときは,電気事業者に対し,技術基準適合命令 を発令することができる。 ⑵ 「経済産業省令で定める技術基準」ア省令62号4条1項省令62号4条1項は,原子炉施設並びに一次冷却材又は二次冷却材により駆動される蒸 術基準適合命令 を発令することができる。 ⑵ 「経済産業省令で定める技術基準」ア省令62号4条1項省令62号4条1項は,原子炉施設並びに一次冷却材又は二次冷却材により駆動される蒸気タービン及びその附属設備が想定される自然現象(地すべ り,断層,なだれ,洪水,津波,高潮,基礎地盤の不同沈下等をいう。ただし,地震を除く。)により原子炉の安全性を損なうおそれがある場合は,防護措置,基礎地盤の改良その他の適切な措置を講じなければならないと定める。 そして,平成18年耐震設計審査指針は,同条項を具体化し,施設は,そ の供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性があると想定することが適切な津波によっても,施設の安全機能が重大な影響を受けるおそれがないことを十分考慮した上で設計されなければならない旨を定める。 したがって,施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性があると想定することが適切な津波によって,施設の安全機能が重大な影響を 受けるおそれがある場合には,電気事業者は防護措置を講じなければならず, これが講じられていない場合には,同条項で定める技術基準に適合していないこととなる。 イ省令62号33条4項省令62号33条は,4項において,非常用電源設備及びその附属設備は,多重性又は多様性,及び独立性を有し,その系統を構成する機械器具の単一 故障が発生した場合であつても,運転時の異常な過渡変化時又は一次冷却材喪失等の事故時において工学的安全施設等の設備がその機能を確保するために十分な容量を有するものでなければならないと定める。 そして,平成13年安全設計審査指針48の1項は,省令62号33条4項を具体化し,非常用所内電源系は,多重性(同一の機能を有する同一の性 質 分な容量を有するものでなければならないと定める。 そして,平成13年安全設計審査指針48の1項は,省令62号33条4項を具体化し,非常用所内電源系は,多重性(同一の機能を有する同一の性 質の系統又は機器が二つ以上あること)又は多様性(同一の機能を有する異なる性質の系統又は機器が二つ以上あること)及び独立性(二つ以上の系統又は機器が設計上考慮する環境条件及び運転状態において,共通要因又は従属要因によって,同時にその機能が阻害されないこと)を有し,その系統を構成する機器の単一故障(単一の原因によって一つの機器が所定の安全機能 を失うことをいい,従属要因に基づく多重故障を含む。)を仮定しても原子炉の停止・冷却等を確実に行うのに十分な容量及び機能を有する設計であることを求める。 省令62号33条4項と同省令4条1項を併せ読めば,施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性があると想定することが適切な津 波によっても,非常用所内電源系は,多重性又は多様性及び独立性を有し,その系統を構成する機器の単一故障を仮定しても,原子炉の停止・冷却等を確実に行うのに十分な容量及び機能を有する設計であることが必要であり,このような設計になっていない場合,すなわち,①非常用所内電源が1系統しかない場合(多重性又は多様性を欠く場合),②複数の系統があるが,共 通要因又は従属要因によって同時にそれらの機能が阻害されてしまう場合 (独立性を欠く場合),又は,③独立性を有する複数の系等があるが,単一の原因によってその系統が所定の安全機能を失ってしまう場合のいずれかに該当するときには,電気事業者は防護措置を講じなければならず,これが講じられていない場合には,同条項で定める技術基準に適合していないこととなる。 なお, 全機能を失ってしまう場合のいずれかに該当するときには,電気事業者は防護措置を講じなければならず,これが講じられていない場合には,同条項で定める技術基準に適合していないこととなる。 なお,省令62号4条1項は,「想定される自然現象」として地すべり等各種の自然現象を列挙しているところから,外部事象を主たる対象としていると解され,また,同省令33条4項は,内部事象を主たる対象としていると考えられるが,両者とも,原子炉施設の安全性を確保するための基準であるからその目的は同一であるし,同省令33条4項は,文言上故障の原因を内 部事象に限っておらず,外部事象に関して同省令33条4項の適用を排除するような規定も何ら存在しないから,両者を併せ読むことについて特段の支障はない。 ウ省令62号33条5項省令62号33条5項は,原子力発電所には,短時間の全交流動力電源喪 失時においても原子炉を安全に停止し,かつ,停止後に冷却するための設備が動作することができるよう必要な容量を有する蓄電池等を施設しなければならないと定める。 そして,平成13年安全設計審査指針27は,省令62号33条5項を具体化し,原子炉施設は,短時間の全交流電力電源喪失に対して,原子炉を安 全に停止し,かつ,停止後の冷却を確保できる設計であることを求める。 省令62号33条5項と同省令4条1項を併せ読めば,施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性があると想定することが適切な津波によっても,原子炉施設が,短時間の全交流電力電源喪失に対して,原子炉を安全に停止し,かつ,停止後の冷却を確保できる設計であることが必要 であり,このような設計になっていない場合には,電気事業者は防護措置を 講じなければならず,これが講じられていない場合 全に停止し,かつ,停止後の冷却を確保できる設計であることが必要 であり,このような設計になっていない場合には,電気事業者は防護措置を 講じなければならず,これが講じられていない場合には,同条項で定める技術基準に適合していないこととなる。 なお,省令62号4条1項と同省令33条5項は,原子炉施設の安全性を確保するための基準であるからその目的は同一であるし,同省令33条5項は,短時間の全交流動力電源喪失の原因を内部事象に限るものではないから, 両者を併せ読むことについて特段の支障はない。 2 あてはめ⑴ 事実関係のまとめ平成21年9月の時点において,被告国は,福島第一原発の敷地高であるO. P.+10mを超える津波の到来という自然現象の発生を予見することができ たから,このような津波は,「極めてまれではあるが発生する可能性があると想定することが適切な津波」に該当する。 そして,もともと,福島第一原発の敷地高は,一定の津波を想定してそれを敷地高で防護するという考え方の下に設計されたものであったとはいえないものであり,同原発においては,その設計上,電源設備をはじめとする主要設 備を海水流入による被水から防護するための方策は,当然の前提とされていた敷地高以外には実質的に存在しなかった。また,溢水勉強会の議論を通じて,福島第一原発5号機において,仮に敷地レベルを超える津波が襲来した場合には,非常用海水ポンプが使用不能な状態となるほか,浸水によって電源設備が機能喪失し,代替となる電源設備もないため,原子炉安全停止に関わる電動機, 弁等の動的機器が機能を喪失する可能性があることが明らかとなっていた(なお,津波が到来した際に,浸水の被害を受けるプラントが必ず1基にとどまるとは限らないから,上記の可能性は, わる電動機, 弁等の動的機器が機能を喪失する可能性があることが明らかとなっていた(なお,津波が到来した際に,浸水の被害を受けるプラントが必ず1基にとどまるとは限らないから,上記の可能性は,場合によっては複数のプラントにおいて電源設備が機能喪失する可能性のことを示すというべきである。)。 ⑵ 省令62号33条4項を併せ読んだ場合の同省令4条1項該当性 以上のとおり,平成21年9月の時点で,福島第一原発の敷地高を超える津 波を想定すれば,浸水によって,場合によっては複数のプラントにおいて電源設備が機能喪失し,原子炉安全停止に関わる電動機,弁等の動的機器が機能を喪失する可能性があり,かつ,その場合,同様の機能を果たす予備的な設備は存在していないことが明らかであった。 そうすると,同月時点で,施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生す る可能性があると想定することが適切な津波,すなわち,福島第一原発の敷地高を超える津波によって,非常用所内電源系の複数の電源系等が同時にその機能を阻害されることが明らかだったのであり,複数の系統があるが,共通要因又は従属要因によって同時にそれらの機能が阻害されてしまう場合(前記1⑵イの②),すなわち独立性(二つ以上の系統又は機器が設計上考慮する環境条 件及び運転状態において,共通要因又は従属要因によって,同時にその機能が阻害されないこと)を有していない場合に当たることが明らかだったから,これに対する防護措置が講じられていない福島第一原発は,省令62号33条4項を併せ読んだ同省令4条1項に基づき,同条項で定める技術基準に適合していなかったものと認めることができる。 ⑶ 省令62号33条5項を併せ読んだ場合の同省令4条1項該当性前記⑴で判示したところに照らせば,平成 1項に基づき,同条項で定める技術基準に適合していなかったものと認めることができる。 ⑶ 省令62号33条5項を併せ読んだ場合の同省令4条1項該当性前記⑴で判示したところに照らせば,平成21年9月の時点で,福島第一原発の敷地高を超える津波によって,原子炉安全停止に関わる電動機,弁等の動的機器が機能を喪失する可能性があり,全交流電力電源喪失に対して,原子炉を安全に停止し,かつ,停止後の冷却を確保できる設計になっていなかったこ とが明らかだったと認められるから,これに対する防護措置が講じられていない福島第一原発は,省令62号33条5項を併せ読んだ同省令4条1項に基づき,同条項で定める技術基準に適合していなかったものと認められる。 ⑷ 結論以上によれば,平成21年9月当時,福島第一原発は,省令62号4条1項 で定める技術基準に適合していなかったから,経済産業大臣は,電気事業法4 0条に基づき,被告東電に対し,技術基準適合命令を発令することができたものと認められる。 第3 被告国の主張に対する補足説明 1 基本設計ないし基本的設計方針の安全性に関わる事項についての技術基準適合命令の可否について ⑴ 被告国の主張の概要被告国は,①福島第一原発の敷地高を前提にした津波の到来に対する対策を講じることは,基本設計ないし基本的設計方針の変更を要するものであるところ,段階的な安全規制の仕組みを前提とする炉規法及び電気事業法において,経済産業大臣は,基本設計ないし基本的設計方針の安全性に関する事項につい て,省令62号を改正したり,電気事業法に基づく技術基準適合命令を発令することにより,これを是正する規制権限を有していなかったと主張する(前記第3章第2節第5,2⑶[❶-150 頁])。 また,被告国 省令62号を改正したり,電気事業法に基づく技術基準適合命令を発令することにより,これを是正する規制権限を有していなかったと主張する(前記第3章第2節第5,2⑶[❶-150 頁])。 また,被告国は,②福島第一原発の津波対策に係る基本設計ないし基本的設計方針は,敷地高を想定される津波の高さ以上のものとして津波の浸入を防ぐ ことにより,津波による浸水等によって施設の安全機能が重大な影響を受けるおそれがないようにするというものであったとした上で,敷地高を超える津波により施設の安全機能が重大な影響を受けるおそれがあると認められることを前提とすることは,上記基本設計ないし基本的設計方針を根本的に変更するものであるとも主張する(同⑷[❶-150 頁])。 ⑵ 被告国の主張に対する説明ア基本設計ないし基本的設計方針に関する規制権限の存否(前記⑴の被告国の主張①)について被告国が,何をもって基本設計ないし基本的設計方針と定義付けているかは必ずしも明らかでないものの,証拠【丙C76,丙C77】及び弁論の全 趣旨によれば,基本設計とは,特定の設備に要求される課題(ニーズ)を前 提とし,これを基に概念的に構築された構造・機能に関するコンセプト(概念設計)について,寸法や材料を具体的に設定して工学的な解析を行い,概念設計で決められたコンセプトを実現した場合の設備の具体的な規模・仕様を概括的に定めるための設計作業を指すと解される。 福島第一原発の設置許可段階での具体的事情に照らすと,同原発の立地及 び敷地高に関する基本設計の具体的内容は,東京需要地に比較的近接し,地形が平坦で,地質が堅固であり,過去の地震被害が少なく,冷却水を前面海域から取水でき,近隣の人口密度が低い地点について,波浪及び津波などに対する防災的な の具体的内容は,東京需要地に比較的近接し,地形が平坦で,地質が堅固であり,過去の地震被害が少なく,冷却水を前面海域から取水でき,近隣の人口密度が低い地点について,波浪及び津波などに対する防災的な配慮とともに,敷地造成費や冷却水の揚水電力量等がもっとも合理的かつ経済的になるよう敷地高を設定するという内容のコンセプト (概念設計)に基づき,福島第一原発所在地の高極潮位(O.P.+3.122m〈チリ地震津波〉)及び掘削費用等のシミュレーション結果等を材料に工学的な解析を行った結果,上記コンセプトを実現するための具体的な仕様として建屋敷地をO.P.+10mに設定したという設計作業であったと認めることができる(前記第4章第1節第2[❷-24 頁])。そうすると,本 件で問題となる基本設計は,「発電・送電機能,自然災害に対する安全性及び設置・運用面の経済的合理性の均衡が取れるように敷地の高さを設定すること」であり,基本的設計方針とは,「敷地の高さを設定するに当たり,発電・送電機能,自然災害に対する安全性及び設置・運用面の経済的合理性の均衡を考慮すること」と解するのが素直かつ自然というべきである。 そうであれば,「基本設計を変更する」とは,「発電・送電機能,自然災害に対する安全性及び設置・運用面の経済的合理性の均衡を検討した結果敷地の高さを変更すること」であり,「基本的設計方針を変更する」とは,「敷地の高さを設定するに当たり,『発電・送電機能,自然災害に対する安全性及び設置・運用面の経済的合理性の均衡』とは異なる要素を考慮すること」と考 えるのが,やはり素直かつ自然というべきである。 当裁判所が認定する結果回避措置は,敷地の高さの設定を何ら変更するものではないし,敷地の高さの設定に当たって,「発電・送電機能 考 えるのが,やはり素直かつ自然というべきである。 当裁判所が認定する結果回避措置は,敷地の高さの設定を何ら変更するものではないし,敷地の高さの設定に当たって,「発電・送電機能,自然災害に対する安全性及び設置・運用面の経済的合理性の均衡」とは異なる要素を考慮するものでもない。 したがって,当裁判所が認定する結果回避措置は,基本設計ないし基本的 設計方針に該当せず,まさしく詳細設計に該当するから,被告国の主張する前提に立っても,技術基準適合命令を発令することに何ら法令上の支障はない。 イ敷地高を超える津波を想定することが福島第一原発の基本設計ないし基本的設計方針に抵触するか否か(前記⑴の被告国の主張②)について そもそも,福島第一原発の設置許可申請書に,敷地高を想定される津波の高さ以上のものとして津波の浸入を防ぐことにより,津波による浸水等によって施設の安全機能が重大な影響を受けるおそれがないようにするという趣旨の記載は見当たらない(前記第4章第1節第2,3[❷-27 頁])。この点を措くとしても,被告国の主張する基本設計ないし基本的設計方針は,結 局のところ敷地高に向けられた設計方針及びその具体化としての設計のことを指すと解するほかはないから,想定津波の規模に変動があり,敷地高を超える津波により施設の安全機能が重大な影響を受けるおそれがあることを前提としても,これに応じて実施される設計の内容が敷地高に向けられていない以上は,せいぜい,基本設計ないし基本的設計方針における考慮要素 に変動が生じたにすぎないのであり,基本設計ないし基本的設計方針に変更が生じたとはいえない。被告国の上記主張によるならば,このような考慮要素の変動が敷地高に向けられて初めて基本設計ないし基本的設計方針に変更が たにすぎないのであり,基本設計ないし基本的設計方針に変更が生じたとはいえない。被告国の上記主張によるならば,このような考慮要素の変動が敷地高に向けられて初めて基本設計ないし基本的設計方針に変更が生じたとみられる。したがって,想定津波の規模に変動があったことを契機としても,敷地高の変更等の敷地高に向けられた対策以外の津波防護策 をとることは,少なくとも敷地高に関する基本設計ないし基本的設計方針を 変更するものとはいえない。 一般的にみても,基本設計において考慮された要素は,その設計時点以降も様々な事情の変動が生じ得るのであって,そのような変動への対処は,基本設計の対象そのものの設計(上記でいえば敷地高)に変動を与えるものでない限り,基本設計が目指したコンセプト(概念設計)の実現可能性を向上 させるための詳細設計の追加にほかならず,まさしく被告国のいう後段規制(原子力施設の設置許可後の建設及び運転段階における規制であって,設計及び工事の方法の認可や施設定期検査の段階に係るもの。前記第4章第3節第3,1⑵[❷-189 頁]参照)に該当する場面というほかはないのであって,上記のような考慮要素の変動に対する対処がすべからく基本設計ないし 基本的設計方針の変更と評価され,その設計対象そのものの設計に何ら変動を与えないにもかかわらず前段規制(原子炉設置許可処分の段階における規制。同参照)の対象となるとする被告国の主張は,文理上無理があるといわざるを得ない。 2 省令62号の外部事象への適用如何について ⑴ 被告国の主張の概要被告国は,段階的安全規制体系の下,後段規制の段階において,基本設計ないし基本的設計方針を土台として申請された詳細設計の妥当性や安全性が審査されるに当たって適用される指針類及び省令62号 張の概要被告国は,段階的安全規制体系の下,後段規制の段階において,基本設計ないし基本的設計方針を土台として申請された詳細設計の妥当性や安全性が審査されるに当たって適用される指針類及び省令62号は,津波を含む外部事象と内部事象とを分けて規定しているとする。そして,自然現象を含む外部事象 については,それが必然的に共通要因故障(二つ以上の系統又は機器に同時に作用する要因によって生じる故障)の原因となる場合の設計上の考慮を要求し,自然現象を含む外部事象によって安全上の重要度の特に高い安全機能を失うことを防止しているとする。これに対し,内部事象については,基本設計ないし基本的設計方針が妥当であることを確認するために,設計基準事象(原子炉 施設を異常な状態に導く可能性のある事象であり,安全設計の評価に当たり考 慮すべきとされる内部事象)を想定し,さらに,単一故障を仮定して事故解析評価を行うことにより,安全性が確保されていることを確認し,事故防止対策の妥当性を確認しているとする。その上で,このような安全確保体系及び単一故障の仮定の考え方の合理性は,従来の裁判例においても肯定され,新規制基準の下でも維持されていると主張する(前記第3章第2節第5,2⑸[❶-152 頁])。 被告国の上記主張の趣旨は必ずしも明瞭でないが,要するに,省令62号33条は,外部事象ではなく内部事象について定めた規定であり,内部事象に対する安全対策に関しては,外部事象同様の共通要因故障を想定する必要はなく,単一故障の仮定の考え方による対策を施していれば,省令62号33条に違反 することにはならないから,仮に外部事象を仮定したときに,同条の求める多重性,多様性,独立性ないし全交流動力電源喪失対策が確保されていない状況であったとしても,同条 ,省令62号33条に違反 することにはならないから,仮に外部事象を仮定したときに,同条の求める多重性,多様性,独立性ないし全交流動力電源喪失対策が確保されていない状況であったとしても,同条はもとより,省令62号4条1項にも該当しないというものと解される。 ⑵ 被告国の主張に対する説明 前記第2,1⑵イ[❸-91 頁]及び同ウ[❸-92 頁]で判示したとおり,省令62号33条4項及び5項は,内部事象を主たる対象としていると考えられるが,文言上故障の原因を内部事象に限っておらず,外部事象に関して同省令33条4項及び5項の適用を排除するような規定も何ら存在しない。 そして,設備の安全性に対する脅威は,必ずしも内部事象と外部事象に厳然 と区別されるわけではなく,内部事象によっても外部事象によっても,同種又は類似の脅威(例えば大規模な溢水など)をもたらし得るものであることは明らかである。主として外部事象を念頭に置いて規定されたと認められる省令62号4条1項が,「原子炉の安全性を損なうおそれがある場合」と定め,また,平成18年耐震設計審査指針が,「施設の安全機能が重大な影響を受けるおそ れがないことを十分考慮」と定めて,それぞれ極めて抽象的な規定しか置いて いないことをも考慮すると,省令62号4条1項該当性に関し,外部事象がもたらし得る脅威及びそれに対する安全性の確保如何を検討するに当たって,同省令33条の趣旨を併せ読み,内部事象がもたらし得る脅威に対する安全対策が外部事象に対して有効に機能するかどうかを考慮することは,まことに自然な解釈というべきであり,これを禁ずるような法令根拠は何ら見当たらない。 よって,この点に関する被告国の主張は採用できない。 3 基本設計ないし基本的設計方針に係る事項に ことは,まことに自然な解釈というべきであり,これを禁ずるような法令根拠は何ら見当たらない。 よって,この点に関する被告国の主張は採用できない。 3 基本設計ないし基本的設計方針に係る事項について技術基準適合命令を発令することができたか否かについて当裁判所は,当裁判所が認める結果回避措置は,基本設計ないし基本的設計方針の変更に当たらず,詳細設計の追加にすぎないので,技術基準適合命令の発令 に法令上の障害はないと考えるものであるが,仮にこれが基本設計ないし基本的設計方針の変更に該当するとしても,これについて技術基準適合命令を発することは法令上可能であったと考えるものである。以下詳述する。 ⑴ 電気事業法40条の文理解釈について電気事業法39条,40条に規定する「経済産業省令で定める技術基準」(以 下,設置許可段階で適用される許可基準と概念的に区別する観点から,「省令技術基準」という。)が省令62号を指すことには争いがなく,省令62号4条1項は,「津波」「により原子炉の安全性を損なうおそれがある場合」には適切な措置を講じなければならないと定めるところ,敷地高を超える津波が到来することにより施設が浸水するおそれは,「津波」「により原子炉の安全性を損 なうおそれ」の典型例というべきであるから,省令62号4条1項にいう「津波」「により原子炉の安全性を損なうおそれ」が,敷地高を超える津波が到来することにより施設が浸水するおそれがある場合等,基本設計ないし基本的設計方針の変更を要するようなおそれが生じる場合を除外していると解釈することは文理上困難である。そもそも,具体的な対策として基本設計ないし基本 的設計方針の変更にまで至るかどうかはともかく,津波により原子炉の安全性 を損なうおそれがある場 と解釈することは文理上困難である。そもそも,具体的な対策として基本設計ないし基本 的設計方針の変更にまで至るかどうかはともかく,津波により原子炉の安全性 を損なうおそれがある場合であって,およそ基本設計ないし基本的設計方針の変更を要するようなおそれすら生じないという事態が具体的にあり得るのかどうかも疑わしい。そうすると,電気事業法39条,40条及び省令62号4条1項は,基本設計ないし基本的設計方針の変更に至ると至らないとを問わず,電気事業者に対し,省令技術基準への適合義務を課した上で(電気事業法39 条),津波により原子炉の安全性を損なうおそれがある場合は,経済産業大臣が技術基準適合命令を発令することができる旨を定めた(同法40条)ものと解する方が文理上自然である。 また,電気事業法40条は,技術基準適合命令の具体的内容として,事業用電気工作物の移転をも定め,同移転命令は,当該事業用電気工作物がその場に 設置されている限り修理,改造等によっては省令技術基準に適合させることが著しく困難である場合に発動されるものであるとされる(前記第4章第3節第3,2⑵[❷-190 頁])ところ,このような規定は,当該事業用電気工作物の立地に係る設計について,技術基準適合命令の発令によりこれを是正できることが前提となっていると解するほかなく,当該事業用電気工作物の立地に係る 設計は,まさしく前段規制の場面における基本設計ないし基本的設計方針の審査基準として,原子炉立地審査指針がこれを所管するものであるから,電気事業法40条は,その命令の内容に照らし,基本設計ないし基本的設計方針に関する事項についても,省令技術基準に適合していない場合には,技術基準適合命令を発令して基準不適合を是正することを当然に予定した条項というほか ,その命令の内容に照らし,基本設計ないし基本的設計方針に関する事項についても,省令技術基準に適合していない場合には,技術基準適合命令を発令して基準不適合を是正することを当然に予定した条項というほか はない。 以上によれば,電気事業法40条の文理に照らせば,基本設計ないし基本的設計方針に関する事項についても,同条において技術基準不適合の是正権限を経済産業大臣に授権していたと解する方が合理的というべきである。 被告国は,電気事業法40条の文理に照らせば,同条が,事業用電気工作物 が技術基準に適合していないと認められる場合に,これを技術基準に適合させ るための措置を命ずることを規定した趣旨であることは明らかであり,原子炉施設の基本設計ないし基本的設計方針が炉規法24条1項4号の設置許可の基準に適合しないことが明らかになった場合の規制権限までは授権されていないと主張するが,同主張に従えば,省令62号4条1項は,その包括的な文言にもかかわらず,基本設計ないし基本的設計方針に係る事項を除外しており, したがって,施設の現況を率直にみて省令技術基準に適合しないと認められる場合であっても,それが基本設計ないし基本的設計方針に該当する事項であって,施設設置許可申請当時の設置許可基準に基づく安全審査を経たものである場合には,省令技術基準に適合していないとはいえないと解釈すべきこととなり,極めて分かりにくい条文であったことにならざるを得ないから,被告国の 上記主張の方がむしろ文理上無理があるというべきである。 ⑵ 電気事業法40条の配置について電気事業法による規制は,炉規法73条において適用除外された同法27条ないし29条に代わって制定された条項であり,その内容は,設置許可後の工事計画認可,使用前検査及び定期検査等 0条の配置について電気事業法による規制は,炉規法73条において適用除外された同法27条ないし29条に代わって制定された条項であり,その内容は,設置許可後の工事計画認可,使用前検査及び定期検査等,いわゆる後段規制に関するものであ るから,電気事業法40条も,後段規制の場面においてのみ発令できると解する余地があり,被告国もその旨の主張をする。 しかしながら,原子炉施設の設置運用に当たって求められる安全基準が,設置許可処分段階では厳格なものとしつつ,設置許可後運用開始後に至るまでの段階では緩やかでよいとか,逆に,設置許可処分段階では緩やかでよいが,設 置許可後運用開始後に至るまでの段階では徐々に厳格にする必要があるなどというように,設置許可処分段階と設置許可後運用開始後に至るまでの段階とで,求められる安全基準に差異があると解することは,炉規法の趣旨に照らしても困難というほかないから,炉規法及び電気事業法が段階的安全規制の体系をとっているとはいっても,その趣旨は,前段規制と後段規制とで求められる 安全基準に差異があることを前提に,その安全基準の差異に応じた規制が定め られているというものではなく,単に,当該施設の設置許可処分段階と,設置許可後運用開始後に至るまでの段階とを時期的に区分して,それぞれの時点に応じた規制の在り方を示すという,いわば時的要素に着眼した法体系を採用しているということを指すものにすぎないと解される。そして,ある施設の設置許可処分段階での設計に関して,その安全性が省令技術基準に適合していない ことが設置許可後に明らかになった場合,これについて規制権限を発するとすれば,その時点は,時間を巻き戻すことができない以上,設置許可後運用開始後に至るまでにならざるを得ない。そうすると,法令構造上 ことが設置許可後に明らかになった場合,これについて規制権限を発するとすれば,その時点は,時間を巻き戻すことができない以上,設置許可後運用開始後に至るまでにならざるを得ない。そうすると,法令構造上,後段規制に係る条項について主に定める電気事業法の中に技術基準適合命令発令の根拠条文(同法40条)が置かれているのは,設置許可処分段階での設計に関し,省令 技術基準に適合していないことが設置許可後に明らかになった場合でも規制権限を発動すべきことを前提に,その発動の時的要素に着眼して,設置許可後運用開始後に至るまでの段階の規制を定めた条項の位置,すなわち後段規制の段階の規制に係る条項に隣接して配置したことによると解することもでき,かつ,このような解釈は特段不自然ではない。 ⑶ 平成24年改正後の炉規法43条の3の23の解釈について被告国は,平成24年改正後の炉規法43条の3の23は,基本設計ないし基本的設計方針に関わる事項であっても,使用停止等処分をなし得ることを創設的に規定したものであるから,このことは,同改正前の電気事業法によっては,基本設計ないし基本的設計方針に関わる事項について,技術基準適合命令 を発令できなかったことを指し示すものであると主張する(前記第3章第2節第5,2⑹[❶-153 頁])。 ア省令62号の改正状況に照らした検討被告国の主張に従えば,電気事業法39条,40条の定める省令技術基準たる省令62号4条1項は,その包括的な文言にもかかわらず,基本設計な いし基本的設計方針に係る事項を除外しており,したがって,施設の現況を 率直にみて省令62号に適合していないと認められる場合であっても,それが基本設計ないし基本的設計方針に該当する事項であって,施設設置許可当時の基準に基づく安 ,したがって,施設の現況を 率直にみて省令62号に適合していないと認められる場合であっても,それが基本設計ないし基本的設計方針に該当する事項であって,施設設置許可当時の基準に基づく安全審査を経たものである場合には,省令62号の定める技術基準に適合していないとはいえないと解釈すべきこととなり,極めて分かりにくい条文であったことになる(前記3⑴)。 もし仮に,平成24年改正前においては,基本設計ないし基本的設計方針に関する事項について,設置許可後に省令技術基準に適合しないことが明らかになった場合でも技術基準適合命令を発令できないことを前提に,同改正において,基本設計ないし基本的設計方針に関する事項についての規制権限を新たに創設するのであれば,改正法の立法段階において,上記のとおり極 めて分かりにくい省令62号4条1項についても,その適用範囲を明らかにするなどの修正作業が施されてしかるべきである。しかし,実際には,平成24年改正に当たり,省令62号にも省令整備の観点から改正が加えられたにもかかわらず,改正後の4条1項は,防護措置の対象となる自然現象から津波を除外したほかは何ら姿を変えることなく存続している。また,新設さ れた5条の2第1項は,想定される津波により原子炉の安全性を損なわないよう適切な措置を講ずることを定め,同条第2項は,津波によって設備の機能が喪失した場合においても直ちにその機能を復旧できるよう適切な措置を講じることを定めている(前記第4章第3節第3,5⑵[❷-201 頁])ところ,海岸近くに設置される原子力発電所について,津波の影響を考慮して 原子炉の安全性を確保するための措置を講ずるという場合,多くは基本設計ないし基本的設計方針に該当する事項となると考えられるのに,文言上,仮にこれ る原子力発電所について,津波の影響を考慮して 原子炉の安全性を確保するための措置を講ずるという場合,多くは基本設計ないし基本的設計方針に該当する事項となると考えられるのに,文言上,仮にこれらの安全措置が講ぜられておらず,同法5条の2各項に該当するときであっても,施設設置許可当時の基準に基づく安全審査を経ていれば上記各項の適用がないとの旨は定められていない。炉規法の改正段階において,設 置許可基準不適合の場面と省令技術基準不適合の場面とに厳密に分別した 上で,基本設計ないし基本的設計方針に関する安全上の問題は省令技術基準不適合の場面に当たらないと整理して,設置許可基準不適合の場面に関する規制権限の根拠条文を特に創設することとしていながら,省令技術基準不適合の場面を画する省令62号について,上記整理が何ら反映されていないということは考え難い。そのことからして,基本設計ないし基本的設計方針に 関する安全上の問題は省令技術基準不適合の場面に当たらないとの整理がされたとは認められない。 イ炉規法43条の3の23の立法趣旨からみた検討そもそも,被告国がその主張の根拠とする証拠【丙B24,丙B32,丙B33】によれば,平成24年の炉規法改正の趣旨は,バックフィット制度 の導入にあったと認められる一方,これら証拠には,基本設計ないし基本的設計方針に関する事項について,従前発令できなかった技術基準適合命令が発令できるようになったとの直截な記述はない。 バックフィット制度は,原子力発電所の設置許可後に設置許可基準が改定され,その結果,施設の現況が新たな設置許可基準に適合しないことが明ら かとなった場合に,新たな設置許可基準への適合を義務づける制度をいう【丙B24】ところ,同制度導入の趣旨は,本件事故前の時 され,その結果,施設の現況が新たな設置許可基準に適合しないことが明ら かとなった場合に,新たな設置許可基準への適合を義務づける制度をいう【丙B24】ところ,同制度導入の趣旨は,本件事故前の時点において,新設炉を対象に策定された新たな設置許可基準を既設炉に対して適用する根拠がなく,電力事業者に対する行政指導としての耐震バックチェックに頼るほかなかったために,最新の設置許可基準を前提とする既設炉の適合性審査 が適時かつ迅速に行われたとは必ずしもいい難い状況があったことに対する反省から設けられたものと解される。 そうであるとすれば,平成24年改正後の炉規法43条の3の23は,もっぱら,設置許可基準適合性の後発的審査を可能とする点を目的として定められたものであり,省令技術基準適合義務に関する規制権限の在り方如何に ついては,立法段階において特段考慮したものではないと考えるのが自然で ある。 ウ小括以上によれば,もともと,省令技術基準不適合の場合に,その問題となる事項が基本設計ないし基本的設計方針に係るものであるか詳細設計に係るものであるかを問わずこれを是正する権限が行政庁に授権されていたとこ ろ,平成24年改正後の炉規法43条の3の23は,バックフィット制度の導入に当たり,省令技術基準不適合の場合のみならず,設置許可基準不適合の場合についても,これを是正する権限を授権することを定めたものとみるのが自然な解釈というべきであり,被告国の主張は,むしろ解釈として不自然といわざるを得ないから,同主張は採用できない。 第6節争点6(被告国が規制権限を行使できたとして,その規制権限不行使が国賠法1条1項の適用上違法となるか否か)について第1 判断の枠組について 1 当裁判所の判断の結論当裁判 第6節争点6(被告国が規制権限を行使できたとして,その規制権限不行使が国賠法1条1項の適用上違法となるか否か)について第1 判断の枠組について 1 当裁判所の判断の結論当裁判所は,原子力発電所の安全性に関する規制権限の不行使の適否が争われ る国家賠償請求訴訟における裁判所の審理,判断は,経済産業大臣が,原子力安全委員会ないし保安院の専門技術的な調査審議及び判断を基にして規制権限を行使しなかったその判断に不合理があるか否かという観点から行われるべきであると解する。その上で,当時の科学技術水準に照らし,当該原子力発電所が具体的審査基準に適合するとした原子力安全委員会若しくは保安院の調査審議及 び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があり,被告行政庁がこれに依拠して規制権限を行使しなかったと認められる場合には,被告行政庁の上記判断に不合理な点があるというべきであり,特段の事情がない限り,その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くものとして,国賠法1条1項の適用上違法となるものと解するものである。以下詳述する。 2 当裁判所の判断の理由 ⑴ 規制権限の不行使に関する一般的な判断枠組国又は公共団体の公務員による規制権限の不行使は,その権限を定めた法令の趣旨,目的や,その権限の性質等に照らし,具体的事情の下において,その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときは,その不行使により被害を受けた者との関係において,国賠法1 条1 項の適用上 違法となるものと解するのが相当である(最高裁平成16年10月15日第二小法廷判決・民集58巻7号1802頁〈いわゆる関西水俣病事件〉)。 ⑵ 原子力発電所の安全性に関する規制権限の不行使の適否が争われる国家賠償請求 るのが相当である(最高裁平成16年10月15日第二小法廷判決・民集58巻7号1802頁〈いわゆる関西水俣病事件〉)。 ⑵ 原子力発電所の安全性に関する規制権限の不行使の適否が争われる国家賠償請求訴訟における裁判所の審理判断の在り方について原子力発電所の安全性に関する規制権限の不行使の適否が争われる国家賠 償請求訴訟における裁判所の審理判断の在り方について検討するのに先立ち,原子炉施設の安全性に関する被告行政庁の判断の適否が争われる原子炉設置許可処分の取消訴訟についてみると,同訴訟における裁判所の審理,判断は,原子力委員会若しくは原子炉安全専門審査会の専門技術的な調査審議及び判断を基にしてされた被告行政庁の判断に不合理な点があるか否かという観点 から行われるべきであって,現在の科学技術水準に照らし,右調査審議において用いられた具体的審査基準に不合理な点があり,あるいは当該原子炉施設が右の具体的審査基準に適合するとした原子力委員会若しくは原子炉安全専門審査会の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があり,被告行政庁の判断がこれに依拠してされたと認められる場合には,被告行政庁の右判断に 不合理な点があるものとして,右判断に基づく原子炉設置許可処分は違法と解すべきである(最高裁平成4年判決〈伊方原発設置許可処分取消訴訟〉)。 原子炉の安全性という場合,その程度としては,どのような異常事態が生じても原子炉内の放射性物質が外部の環境に放出されることは絶対にないといった達成不可能なレベルの高度の安全性から,一定の危険性を伴っているがそ れが社会通念上容認できる水準以下であると考えられ,又は,その危険性の相 当程度が人間によって管理できると考えられる場合の相当程度の安全性に至るまで,種々のレベルの安全性 るがそ れが社会通念上容認できる水準以下であると考えられ,又は,その危険性の相 当程度が人間によって管理できると考えられる場合の相当程度の安全性に至るまで,種々のレベルの安全性があり得ると考えられるところ,行政庁が,当該原子炉施設の安全性の審査において,種々の安全性のレベルのうち,どのレベルの安全性をもって相当とするかの判断をするに当たっては,科学技術水準によるべきことはもとより,我が国の社会がどの程度の危険性であれば容認す るかという観点を考慮に入れざるを得ず,このことは,原子炉設置許可の段階と,設置許可後の省令技術基準適合性判断の段階とで,異なるところはないと解される。そうだとすると,規制庁が,省令技術基準に適合しているか否かを判断するに当たっては,原子力行政の責任者である当該規制庁(経済産業大臣)の専門技術的裁量に委ねざるを得ない面があることは否定できないというべ きである。 他方,ここでいう専門技術的裁量とは,安全審査における処分要件の認定判断の過程における裁量であって,政治的,政策的裁量の場合のように,諸々の事情が関係し,政治的立場等によりいくつかの考え方がいずれも成り立ち得るが,そのどれを採るかは行政庁の広範な裁量に委ねられているといった性質の ものではないのであるから,行政庁の判断に対する司法審査に当たっては,その範囲が,被告行政庁の判断に著しい不合理があるか否かに限定されるというものではなく,「被告行政庁の判断に不合理な点があるか否か」という観点から審理判断が行われるべきであり,このことも,原子炉設置許可の段階と,設置許可後の省令技術基準適合性判断の段階とで,異なるところはないと解され る。 そうであるとすれば,特定の原子力発電所についての省令技術基準適合性判断が,経済産 ,原子炉設置許可の段階と,設置許可後の省令技術基準適合性判断の段階とで,異なるところはないと解され る。 そうであるとすれば,特定の原子力発電所についての省令技術基準適合性判断が,経済産業大臣の合理的な判断に委ねられていること(専門技術的裁量が認められること)を前提に,原子力発電所の安全性に関する規制権限の不行使の適否が争われる国家賠償請求訴訟における裁判所の審理判断は,上記最高裁 平成4年判決〈伊方原発設置許可処分取消訴訟〉の判示に照らし,経済産業大 臣が,原子力安全委員会ないし保安院の専門技術的な調査審議及び判断を基にして規制権限を行使しなかったその判断に不合理があるか否かという観点から行われるべきである。 なお,上記のような省令技術基準適合性の判断は,その時々の科学技術水準に照らして行われるべきものであるから,現在の時点から,規制権限の行使が 可能であった当該時点における経済産業大臣の判断の適否を審理するに当たっては,その当時の科学技術水準に照らして不合理であったか否かという観点から行われるべきである。 ⑶ 原子力発電所の安全性に関する規制権限の不行使の適否が争われる国家賠償請求訴訟における国賠法1条1項該当性の判断枠組について 電気事業法39条1項は,「事業用電気工作物を設置する者は,事業用電気工作物を経済産業省令で定める技術基準に適合するように維持しなければならない。」と規定して,電気事業者に対して技術基準維持義務を課しており,また,同条2項1号は,経済産業省令において技術基準を定めるに当たっては,事業用電気工作物は,人体に危害を及ぼし,又は物件に損傷を与えないように することを定めている。また,同法40条は,前条を受けて,経済産業大臣が,事業用電気工作物が省令技術基準に適合 っては,事業用電気工作物は,人体に危害を及ぼし,又は物件に損傷を与えないように することを定めている。また,同法40条は,前条を受けて,経済産業大臣が,事業用電気工作物が省令技術基準に適合していないと認めるときは,技術基準適合命令を発令することができると定めていて,その規制権限発動要件を一般的・抽象的なものとして,規制権限発動の判断につき経済産業大臣に広範な裁量を与えている。 省令技術基準の策定及びそれに基づく規制権限発動の在り方として上記のように定められた趣旨は,上記最高裁平成4年判決〈伊方原発設置許可処分取消訴訟〉が,設置許可に関する炉規法23条及び24条の趣旨として判示したところがそのまま当てはまるというべきである。すなわち,原子炉が原子核分裂の過程において高エネルギーを放出する核燃料物質を燃料として使用する 装置であり,その稼働により,内部に多量の人体に有害な放射性物質を発生さ せるものであって,既に設置されている事業用電気工作物(原子力発電所)が,人体に危害を及ぼすときや,物件に損傷を与えかねないときは,当該原子力発電所の従業員やその周辺住民等の生命,身体に重大な危害を及ぼし,周辺の環境を放射能によって汚染するなど,深刻な災害を引き起こすおそれがあることに鑑み,上記災害が万が一にも起こらないようにするため,原子力発電所の設 置許可後その運用開始後の段階においても,当該原子力施設の構造や設備の安全性につき,科学的,専門技術的見地から,十分な審査を行わせ,同安全性に問題があると認められる場合には,直ちに規制権限を発動して上記のおそれを除去し,もって,電気事業の運営の適正及び公共の安全確保等を両立させる(電気事業法1条参照)ことにあるものと解される。 このような法の趣旨,目的及び規 直ちに規制権限を発動して上記のおそれを除去し,もって,電気事業の運営の適正及び公共の安全確保等を両立させる(電気事業法1条参照)ことにあるものと解される。 このような法の趣旨,目的及び規制権限の性質等に照らすと,規制権限の発動につき経済産業大臣に広範な裁量が与えられているとはいっても,その裁量は,電気事業の運営の適正と公共の安全確保等の両立のために付与されているというべきであって,当該原子力発電所の構造や設備の安全性について問題があると認められる場合には,特段の事情がない限り,規制権限をあえて発動し ないという裁量があるわけではないと解すべきである。そして,それにもかかわらず,規制権限を行使しないという判断がなされ,かつ,前記⑵でみたところに従って審理した結果,規制権限を行使しないという判断が不合理なものと判断される場合には,その不行使が許容される限度を逸脱していることは明らかであるから,当該事情の下においては,国賠法1条1項の適用との関係にお いても,著しく合理性を欠くものとして違法となるものと解される。 ⑷ まとめ前記⑵及び⑶に判示したところを総合すると,原子力発電所の安全性に関する規制権限の不行使の適否が争われる国家賠償請求訴訟における裁判所の審理,判断は,経済産業大臣が,原子力安全委員会ないし保安院の専門技術的な 調査審議及び判断を基にして規制権限を行使しなかったその判断に不合理が あるか否かという観点から行われるべきであって,当時の科学技術水準に照らし,当該原子力発電所が具体的審査基準に適合するとした原子力安全委員会若しくは保安院の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があり,被告行政庁がこれに依拠して規制権限を行使しなかったと認められる場合には,被告行政庁の上記判断に不合 合するとした原子力安全委員会若しくは保安院の調査審議及び判断の過程に看過し難い過誤,欠落があり,被告行政庁がこれに依拠して規制権限を行使しなかったと認められる場合には,被告行政庁の上記判断に不合理な点があるというべきであり,特段の事情がない 限り,その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くものとして,国賠法1条1項の適用上違法となるものと解される。 第2 あてはめ 1 当裁判所の判断の結論当裁判所は,福島第一原発の津波対策が省令技術基準に適合するとした原子力 安全委員会ないし保安院の判断の過程には,看過し難い過誤,欠落があったというほかなく,被告国(経済産業大臣)は,これに依拠して規制権限を行使しなかったと認められるから,このような被告国(経済産業大臣)の判断には不合理な点があり,ひいては,その不行使は,許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くものとして,国賠法1条1項の適用上違法と認めることができると判断する。 以下詳述する。 2 当裁判所の判断の理由⑴ 予見される被害の重大性及び切迫性ア福島第一原発の津波耐性の脆弱さ前記判示のとおり,もともと,福島第一原発の敷地高は,一定の津波を想 定してそれを敷地高で防護するという考え方の下に設計されたものであったとはいえないものであった(前記第3節第2,1⑴[❸-5 頁])ところ,福島第一原発においては,その設計上,電源設備をはじめとする主要設備を海水流入による被水から防護するための方策は,当然の前提とされていた敷地高以外には実質的に存在しなかった。(同⑵[❸-5 頁]) 他方,平成18年の段階で,福島第一原発の非常用電源設備については, 仮に短時間のSBO(全交流電源喪失)が生じた場合であっても,なお非常用電源設備 た。(同⑵[❸-5 頁]) 他方,平成18年の段階で,福島第一原発の非常用電源設備については, 仮に短時間のSBO(全交流電源喪失)が生じた場合であっても,なお非常用電源設備の独立性及び重複性を確保することがそれぞれ求められていたところ,溢水勉強会の議論を通じて,福島第一原発5号機において,仮に敷地レベルを超える津波が襲来した場合には,非常用海水ポンプが使用不能な状態となるほか,浸水によって電源設備が機能喪失し,原子炉安全停止に関 わる電動機,弁等の動的機器が機能を喪失する可能性があること,すなわち,上記SBO対策を実現できないおそれがあることが明らかとなっていた。 (同⑸[❸-13 頁])このような事態につき,被告国は,平成20年8月頃には,JNES(独立行政法人原子力安全基盤機構)の検討を通じて,確率論的安全評価手法の 準備段階であったとはいえ,津波到来により原子炉建屋内に浸水した場合の機序について,具体的に予見していた(同2⑶[❸-18 頁])。外部溢水対策は,溢水勉強会の結論により耐震バックチェックに委ねることとされていたが,被告東電が提出した耐震バックチェック中間報告書は,地震随伴現象である津波について何ら記載がなく(同⑵[❸-17 頁]),溢水勉強会がその検 討テーマとした津波溢水アクシデントマネジメント策の策定は,確率論的安全評価手法の研究以外には何ら進んでいない状況であった。 このように,平成21年9月までの時点で,福島第一原発は,ひとたび敷地高を超える津波に襲われれば,相当の高確度で電源設備が機能喪失し,原子炉安全停止に関わる設備が機能を喪失して,求められる安全性を維持でき ないという重大な被害を生じさせるという意味で,その津波耐性が極めて脆弱であることが既に明らかとな 源設備が機能喪失し,原子炉安全停止に関わる設備が機能を喪失して,求められる安全性を維持でき ないという重大な被害を生じさせるという意味で,その津波耐性が極めて脆弱であることが既に明らかとなっていた。 イ設計想定津波水位の顕著な上昇傾向平成5年の北海道南西沖地震以降,被告国は,4省庁報告書等,長期評価,中央防災会議報告の策定手続の各過程において,一貫して,安全対策上考慮 すべき地震・津波として,過去の記録のある既往地震・津波のみならず,過 去の記録がないが現在の知見に照らせば想定すべき地震・津波をも考慮すべきとの基本姿勢をとっており,その結果,長期評価においては,三陸沖北部から房総沖の日本海溝寄りの領域のどこでも津波地震が発生する可能性があるとされ,中央防災会議報告においても,貞観地震,慶長三陸地震,延宝房総沖地震についてなお留意が必要とされていた。これに対し,津波評価技 術各論において,福島沖~茨城沖の日本海溝沿いに基準断層モデルが設定されなかったことは,必ずしも,その前後の被告国の基本姿勢に整合するものではなかった。(同1⑷[❸-8 頁])そういった中,福島第一原発設置許可以来,報告するたびに増加していた設計想定津波水位は,平成21年報告において,貞観津波を考慮に入れて計 算したことによって,その波高の算出結果が急激に上昇し,非常用海水ポンプが水没することはもちろん,敷地レベルにあと約1m余りという水準に達することとなった(同2⑵[❸-17 頁])。 このことは,非常用海水ポンプの設置位置に関してみれば,従来津波評価技術の各論に従って実施されていた措置の安全性が,そのわずか6年後に発 表された知見により覆されるという事態を露顕させたというものであり(同⑷ア(ア)[❸-19 頁]) てみれば,従来津波評価技術の各論に従って実施されていた措置の安全性が,そのわずか6年後に発 表された知見により覆されるという事態を露顕させたというものであり(同⑷ア(ア)[❸-19 頁]),また,福島第一原発の敷地高が想定津波に対して事実上有していた裕度に関してみれば,これが仮に原子力発電所を新規に設置するとすればおよそ許可の可能性がないほどまでに失われたということを示すものであった(同(イ)[❸-19 頁])。 ウ敷地高を超える津波の到来可能性について長期評価の見解は,津波地震の発生領域を三陸沖北部から房総沖の海溝寄りという長大な海域に設定するという工夫を施して,その発生確率を一応定量化したものであって,具体的な波源モデルを設定するための材料はもとより十分でなかったから,科学的知見としての熟成度において限定的であった 長期評価の見解を踏まえて,直ちに仮定的な数値を用いて津波シミュレーシ ョンを実施すべきとするのは,合理的とはいい難い状況であった(前記第3節第3,3⑴イ(ウ)[❸-52 頁])。しかし,平成21年に至って,被告国自身が中央防災会議報告において留意を呼びかけていた貞観地震に関する平成21年報告により,中央防災会議報告が検討対象から除外した地震であっても,従前福島第一原発の敷地高が想定津波に対して事実上有していた裕度 を実質的に喪失させ,かつ,従前津波評価技術の各論に従い実施されていた措置の安全性を現に覆すという,重大な結論をもたらすことが明らかになった。このことからすれば,平成21年報告は,安全対策上考慮すべき想定地震の範囲を,津波評価技術の各論で示された範囲若しくは中央防災会議報告の本編が示す範囲よりも広げ,中央防災会議報告が留意事項として明記して いた貞観地震ほかの 告は,安全対策上考慮すべき想定地震の範囲を,津波評価技術の各論で示された範囲若しくは中央防災会議報告の本編が示す範囲よりも広げ,中央防災会議報告が留意事項として明記して いた貞観地震ほかの地震や,長期評価が発生の可能性を指摘していた三陸沖北部から房総沖の日本海溝寄りの領域(更に福島第一原発との関係でいえば,三陸沖中部ないし福島沖から茨城沖の日本海溝寄りの領域)において発生する地震にまで拡大しなければ,従前被告国が一貫してとってきた基本姿勢にもはや合致しないということを明らかにするものであった(同第2,2⑷イ [❸-20 頁])。 したがって,平成21年報告がなされた平成21年9月の時点において,敷地高を超える津波の到来可能性は,これを定量的に評価できる段階には達していなかったが,少なくとも,被告国が一貫してとってきた基本姿勢に照らせば,長期評価が発生の可能性を指摘していた三陸沖北部から房総沖の日 本海溝寄りの領域において発生する地震・津波を想定しないわけにはいかない状況に至っていた。 エとり得る措置の限定性前記認定のとおり,平成21年9月時点で被告国に認められる予見可能性の内容は,貞観地震に基づき想定される津波が従前福島第一原発の敷地高が 想定津波に対して事実上有していた裕度を実質的に喪失させるものであっ たことを前提に,その他の津波を想定した場合には,福島第一原発の敷地高を超える結果となり得ることを予見することができたというものであったにとどまる。他方,平成21年9月時点及びそれ以降の時点においても,三陸沖北部から房総沖の日本海溝寄りの領域において発生する地震による津波リスクを定量的に分析する知見は成熟していなかった。 そのような状況下においては,防潮堤や主要設備の被水・浸水防止 ても,三陸沖北部から房総沖の日本海溝寄りの領域において発生する地震による津波リスクを定量的に分析する知見は成熟していなかった。 そのような状況下においては,防潮堤や主要設備の被水・浸水防止措置といった,津波リスクの定量的評価を前提とする措置はとることは困難であり,とり得る措置としては,津波リスクの定量的評価を前提としない電源設備の全部又は一部の移設のみという状況であった。 オ小括 既に認定判示のとおり,被告国は,平成21年9月の時点で,福島第一原発の敷地高であるO.P.+10mを超える津波の到来という自然現象の発生によって,電源設備が被水して全電源喪失という事態に至り,冷却機能が機能不全に陥って原子炉施設の閉じ込める機能が喪失して放射性物質が外部に放出されるという事態に至ることを予見することが可能であったもの であるが,それにより予見される被害が重大なものであることはいうまでもない。 そこで,前記アないしエでみたところに照らし,被告国が予見し得た事態の切迫性について検討すると,被告国は,福島第一原発の津波耐性が極めて脆弱であり,ひとたび敷地高を超える津波が福島第一原発に到来すれば極め て重大な事故を招来し得ることを認識していたし,そのような津波のリスクを定量的に分析することは困難であったものの,平成21年報告により,津波評価技術の各論を前提とする安全対策はその根拠を失い,福島第一原発が津波に対して事実上有していた裕度も実質的に失われて,少なくとも,平成21年報告が念頭に置く貞観津波について検討しさえすれば安全対策とし て十分であるとは到底いえない状況に至っていたから,福島第一原発の対津 波安全性は,ひとえに,敷地高を超える津波が到来しないという一事に依拠して確保されるという,極め 全対策とし て十分であるとは到底いえない状況に至っていたから,福島第一原発の対津 波安全性は,ひとえに,敷地高を超える津波が到来しないという一事に依拠して確保されるという,極めて緊迫した状態に至っていたということができる。 そして,本件全証拠によっても,平成21年9月時点において,福島第一原発の敷地高を超える津波の到来を否定することが,科学的にみて通説的見 解であったとか,上記のような津波を想定しないことが,社会通念上許容されるべきであったということは認められない。 加えて,想定津波の波高を定量化することができない状況下においては,リスクの定量分析を必要とする防潮壁の設置や主要機器の水密化等の措置はとり得る状況になく,とり得る結果回避措置は,電源設備の移設よりほか にあり得ない状況であった。 以上によれば,平成21年9月時点で,被告国が予見することができた重大な被害は,その発生・不発生が,福島第一原発の敷地高を超える津波が到来するかしないかという偶然の事情によって左右される極めて不安定な状況の下にあり,かつ,これを回避するためにとり得る措置は限定的で,電源 設備の移設よりほかにあり得ないという,極めて緊迫・切迫した状況にあったということができる。 ⑵ とり得る結果回避措置及び実際に実施された措置前記⑴エのとおり,平成21年9月の時点において,防潮堤や主要設備の被水・浸水防止措置といった,津波リスクの定量的評価を前提とする措置をとる ことは困難であった。 このような場合,規制庁としては,大別して,①防潮堤や主要設備の被水・浸水防止措置をとることができないことを前提としつつも,敷地高を超える津波が到来することを念頭に置いたその余の措置を実施することができないかどうかの検討を進めるか,② て,①防潮堤や主要設備の被水・浸水防止措置をとることができないことを前提としつつも,敷地高を超える津波が到来することを念頭に置いたその余の措置を実施することができないかどうかの検討を進めるか,②敷地高を超える津波が到来することを念頭に置い た措置(決定論的安全評価)を検討することは断念し,それに代わる安全評価 に基づく措置を検討するか,という2つの選択肢があったと考えられる。 前記判示のとおり,①に関しては,仮に,防潮堤の設置に代わる予備的措置が,当時の学術論文等において直接紹介・発表されていたものでなかったとしても,社会通念に照らして容易に着想可能なものであって,かつ,その実現に特段の支障のないものであれば,その措置は,理学的・工学的見地からみても 合理的なものであり,とり得る結果回避措置であったと評価できるところ,重要な精密機器について被水・浸水が予見できる場合に,同精密機器を移設するという措置は,そのこと自体,社会通念に照らして容易に着想できるものというべきである(前記第4節第3,1⑵[❸-77 頁])から,上記①の選択肢を採ることは,被告国にとって困難なものではなかった。 これに対し,②に関しては,平成15年8月に,確率論的安全評価の実施のための安全目標が原子力安全委員会によって取りまとめられ(前記第4章第1節第15[❷-67 頁]。なお,同取りまとめによれば,定量的目標と共に定性的目標も掲げられており,リスクの定量化が困難であればそれをもって安全対策を施さなくてもよいという前提には立っていないことがうかがわれる。),そ の後,被告東電において,平成18年にマイアミ論文を発表したり(前記第3節第3,3⑴ア(オ)[❸-46 頁]),平成20年には,土木学会津波評価部会が,確率論的津波ハザー かがわれる。),そ の後,被告東電において,平成18年にマイアミ論文を発表したり(前記第3節第3,3⑴ア(オ)[❸-46 頁]),平成20年には,土木学会津波評価部会が,確率論的津波ハザード解析に適用するロジックツリーの重み付けに関するアンケート調査をしたりする(同(カ)[❸-47 頁])など,被告国のいうところの決定論的安全評価を補完するものとして,確率論的安全評価に関する研究が進 められてきたものであるが,これらの研究は,平成20年のJNES(独立行政法人原子力安全基盤機構)の報告によっても,津波時のシナリオの検討を定性的に分析するのにとどまり,今後,さらにシナリオの詳細化,試解析を行っていく予定であるとされていた(前記第4章第1節第21[❷-92 頁])ことからも明らかなとおり,実際の安全対策に反映できるような成熟性を備えた科 学的知見とはいい難く,少なくとも,津波対策として被告国が唯一のとり得る 手段とする防潮堤の建設に必要な津波リスクの定量解析を可能にするようなものではおよそいい難い状況であった。換言すれば,前記認定の事実関係の下において,②の選択肢を採るということは,福島第一原発の敷地高を超える津波は到来しないとみなして,当面の間,具体的な安全対策をとらないこととすることにほかならない。したがって,本件において認められる確率論的安全評 価の知見の進展程度に照らせば,平成21年9月時点において,上記②の選択肢を採ることは正当化できない状況にあったということができる。 しかるに,被告国は,平成21年9月に平成21年報告を受けた後も,特段の措置をとることはなかったものである。 ⑶ 被告国が特段の措置をとらなかった背景としての専門性,裁量性 被告国は,4省庁報告書等,長期評価,中央防災 9月に平成21年報告を受けた後も,特段の措置をとることはなかったものである。 ⑶ 被告国が特段の措置をとらなかった背景としての専門性,裁量性 被告国は,4省庁報告書等,長期評価,中央防災会議報告の策定手続の各過程において,一貫して,安全対策上考慮すべき地震・津波として,過去の記録のある既往地震・津波のみならず,過去の記録がないが現在の知見に照らせば想定すべき地震・津波をも考慮すべきとの基本姿勢をとっていた。4省庁報告書等や長期評価は,想定津波の波高についての検討は必ずしも精密なものでは なく,より定量的なリスク評価が可能な津波評価技術は,基準断層モデルを福島沖~茨城沖に設定していなかったため,これらの見解による限り,福島第一原発の敷地レベルを超える津波の到来可能性は,被告国にとってはいまだ抽象的な域を脱していなかった。しかし,上記のような被告国の一貫した基本姿勢に照らし,福島第一原発の敷地レベルを超える津波を安全対策の対象から除外 できる状況にはなかった。 本件で提出された専門家の各種文献や各種意見をみても,福島第一原発の敷地レベルを超える津波を安全対策の対象から除外できるほどに確定的な見解を述べるものはない(前記第3節第3,1⑹ウ[❸-31 頁]参照)。 他方,確率論的安全評価に関する研究は,実際の安全対策に反映できるよう な成熟性を備えた科学的知見とはいい難く,少なくとも,津波対策として被告 国が唯一のとり得る手段とする防潮堤の建設に必要な津波リスクの定量解析を可能にするようなものとはおよそいい難いものであった(前記⑵[❸-116頁])そうすると,平成21年9月当時の専門的知見の成熟度合いに照らしても,同時点で,福島第一原発の敷地高を超える津波は到来しないとみなして,当面 の間, いものであった(前記⑵[❸-116頁])そうすると,平成21年9月当時の専門的知見の成熟度合いに照らしても,同時点で,福島第一原発の敷地高を超える津波は到来しないとみなして,当面 の間,具体的な安全対策をとらないこととすることに,専門技術的見地からみた合理性を見出すことはできない。 そして,平成21年9月当時,電源設備の移設という措置は,理学的・工学的な専門知識の有無を議論するまでもなく,社会通念に照らして容易に着想できるものというべきであるところ,自然現象のもたらす災害は,科学的・学問 的に全てが解明されなければ防止できないというものではなく,また,そのために防災対策がゆるがせになるということは許されないのであるから,本件において,具体的な安全対策をとらないことに専門技術的見地からみて合理性を見出すことができないにもかかわらず,社会通念に照らして容易に着想できる結果回避措置をとることを留保するだけの専門技術的裁量が被告国にあった と認めることは困難というほかない。 ⑷ 結論以上をまとめると,平成21年9月時点で,被告国(原子力安全委員会ないし保安院)が予見することができた重大な被害は,その発生・不発生が,福島第一原発の敷地高を超える津波が到来するかしないかという偶然の事情によ って左右される極めて不安定な状況の下にあり,かつ,これを回避するためにとり得る措置は限定的で,電源設備の移設よりほかにあり得ないという,極めて緊迫・切迫した状況にあったところ,被告国にとって,防潮堤や主要設備の被水・浸水防止措置をとることができないことを前提としつつも,敷地高を超える津波が到来することを念頭に置いたその余の措置,例えば電源設備の一部 又は全部の移設などの措置をとることは,困難なものではなかったが,被告国 ことができないことを前提としつつも,敷地高を超える津波が到来することを念頭に置いたその余の措置,例えば電源設備の一部 又は全部の移設などの措置をとることは,困難なものではなかったが,被告国 (原子力安全委員会ないし保安院)は,実質的に,福島第一原発の敷地高を超える津波は到来しないとみなして,当面の間,具体的な安全対策をとらないこととしたものであり,このような判断に,専門技術的見地からみた合理性を見出すことはできず,そのような専門技術的裁量が被告国にあったとも認め難い。 以上によれば,福島第一原発の津波対策が省令技術基準に適合するとした原 子力安全委員会ないし保安院の判断の過程には,看過し難い過誤,欠落があったというほかなく,被告国(経済産業大臣)は,これに依拠して規制権限を行使しなかったと認められるから,このような被告国(経済産業大臣)の判断には不合理な点があり,ひいては,その不行使は,許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くものとして,国賠法1条1項の適用上違法と認めることがで き,これを左右するような特段の事情は本件全証拠によっても認めることができない。 3 被告国の主張に対する補足説明⑴ 原子力規制に関する法令の趣旨・目的についてア相対的安全性の概念について 被告国は,原子力規制に関する諸法令が想定する安全性は,科学技術を利用した施設に求められる安全性を意味していると解するのが相当であり,科学技術の分野においては,「絶対的な安全性」,すなわち,どのような重大かつ致命的な人為ミスが重なっても,また,どのような異常事態が生じても,原子炉内の放射性物質が外部の環境に放出されることが絶対にないといっ た達成不可能な安全性が確保できたことをもって安全と評価されるのではなく,「相対的 も,また,どのような異常事態が生じても,原子炉内の放射性物質が外部の環境に放出されることが絶対にないといっ た達成不可能な安全性が確保できたことをもって安全と評価されるのではなく,「相対的安全性」,すなわち,科学技術を利用した施設などでは,常に何らかの程度の事故発生等の危険性を伴っているものであるが,その危険性の程度が科学技術の利用により得られる利益の大きさとの対比において,社会通念上容認できる水準であると一般に考えられる場合には,これをもって 安全と評価されるという考え方に依拠しているのであるから,原子力規制に 関する諸法令の規定が想定する安全性は,このような「相対的安全性」を前提とした一定レベルの安全性を意味していると考えられると主張する(前記第3章第2節第6,2⑵ウ(ア)[❶-169 頁])。 当裁判所は,原子炉の安全性について,達成不可能なレベルの高度の安全性から相当程度の安全性に至るまで,種々のレベルの安全性があり得ると考 えられるところ,行政庁が,当該原子炉施設の安全性の審査において,種々の安全性のレベルのうち,どのレベルの安全性をもって相当とするかの判断をするに当たっては,科学技術水準によるべきことはもとより,我が国の社会がどの程度の危険性であれば容認するかという観点を考慮に入れざるを得ないから,規制庁が,省令技術基準に適合しているか否かを判断するに当 たっては,原子力行政の責任者である当該規制庁(経済産業大臣)の専門技術的裁量に委ねざるを得ない面があることは否定できないという考え方をとるものである(前記第1,2⑵[❸-107 頁])。被告国の主張は,当裁判所も前提として採用しているところであるから,同主張は,当裁判所の判断を何ら左右しない。 イ被告国の責任の二次性・補完 のである(前記第1,2⑵[❸-107 頁])。被告国の主張は,当裁判所も前提として採用しているところであるから,同主張は,当裁判所の判断を何ら左右しない。 イ被告国の責任の二次性・補完性について被告国は,原子炉の利用及び安全確保については,事業者が一次的かつ最終的責任を負っており,被告国は二次的責任かつ補完的責任を負うにすぎないと主張する(前記第3章第2節第6,2⑹イ[❶-178 頁])。 同主張は,被告東電に民法上の義務違反が認められることを前提に,これ と被告国の責任とを同視することはできないとの趣旨と解されるが,当裁判所は,被告東電については,民法上の損害賠償責任の特則たる原賠法上の損害賠償責任のみが成立し,民法上の損害賠償責任の規定は排除されるとの考え方の下,被告東電の民法上の義務違反の有無については直接これを検討せず,直截に,被告国の規制権限不行使の違法性について検討してこれを肯定 するものであるから,被告国の責任が一次的か二次的か,最終的か補完的か といった問題は,当裁判所の判断に何ら影響を与えない。 ⑵ 規制権限の性質についてア司法権の審査の範囲について被告国は,原子力発電施設に係る「相対的安全性」の判断は,様々な理学的・工学的知見を踏まえた高度な科学的,専門技術的判断であり,法律家の 思考判断とは本来的に異質のものを含むから,司法権による審査もこれを十分に踏まえて行われる必要があり,その意味で行政庁に広範な裁量が認められると主張する(前記第3章第2節第6,2⑵ウ(ア)[❶-169 頁])。 当裁判所は,被告行政庁に求められる専門技術的裁量の性質について,安全審査における処分要件の認定判断の過程における裁量であって,政治的, 政策的裁量の場合のように,諸々の事情 69 頁])。 当裁判所は,被告行政庁に求められる専門技術的裁量の性質について,安全審査における処分要件の認定判断の過程における裁量であって,政治的, 政策的裁量の場合のように,諸々の事情が関係し,政治的立場等によりいくつかの考え方がいずれも成り立ち得るが,そのどれを採るかは行政庁の広範な裁量に委ねられているといった性質のものではないのであるから,行政庁の判断に対する司法審査に当たっては,その範囲が,被告行政庁の判断に著しい不合理があるか否かに限定されるというものではなく,「被告行政庁の 判断に不合理な点があるか否か」という観点から審理判断が行われるべきであるとの考え方をとるものである(前記第1,2⑵[❸-107 頁])ところ,被告国の主張はこれと同旨と考えられる。当裁判所は,このような考え方を取った上で,被告国の責任を肯定するものであるから,被告国の上記主張は,当裁判所の判断を何ら左右しない。 イとり得る津波対策についての科学的,専門技術的判断について被告国は,被告国が規制権限を行使して求めるべき津波対策は,第一義的に定まるものではなく,津波対策を求めるか否か,求めるとしていかなる対策を求めるのかという判断については,高度の科学的,専門技術的判断が必要となるから,この点につき広範な裁量を有していると主張する(前記第3 章第2節第6,2⑵ウ(イ)[❶-170 頁])。 当裁判所は,法の趣旨,目的及び規制権限の性質等に照らすと,規制権限の発動につき経済産業大臣に広範な裁量が与えられているとはいっても,その裁量は,電気事業の運営の適正と公共の安全確保等の両立のために付与されているというべきであって,当該原子力発電所の構造や設備の安全性について問題があると認められる場合には,特段の事情がない も,その裁量は,電気事業の運営の適正と公共の安全確保等の両立のために付与されているというべきであって,当該原子力発電所の構造や設備の安全性について問題があると認められる場合には,特段の事情がない限り,規制権限を 敢えて発動しないという裁量があるわけではなく,それにもかかわらず,規制権限を行使しないという判断がなされ,かつ,その判断が不合理なものと判断される場合には,当該事情の下においては,その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くことに帰着するとの考え方をとった上(前記第1,2⑶[❸-109 頁]),本件においては,福島第一原発の敷地高を超 える津波は到来しないとみなして,当面の間,具体的な安全対策をとらないこととするのを正当化するだけの特段の事情は認められないとするものである(前記2⑷[❸-119 頁])。 被告国の上記主張が,上記裁判所の考え方を超えて,安全性について問題があると認められる場合であっても,それに対する規制権限を敢えて発動し ないという裁量を認めるべきであるという趣旨のものであるとすれば,それは,専門技術的裁量の性質を,政治的・政策的裁量,すなわち,諸々の事情が関係し,政治的立場等によりいくつかの考え方がいずれも成り立ち得るが,そのどれを採るかは行政庁の広範な裁量に委ねられているといった性質のものと同視する考え方というほかはなく,そのような考え方を採用すること はできない。 被告国の上記主張が,当時の科学的,専門技術的判断に照らし,規制権限を敢えて発動しないとする判断に合理性があったから,被告国の規制権限不行使は裁量の範囲内であったという主張であるとすれば,前記のとおり,当裁判所は,平成21年9月当時の専門的知見の成熟度合いに照らし,福島第 一原発の敷地レベルを超える津 ら,被告国の規制権限不行使は裁量の範囲内であったという主張であるとすれば,前記のとおり,当裁判所は,平成21年9月当時の専門的知見の成熟度合いに照らし,福島第 一原発の敷地レベルを超える津波を安全対策の対象から除外できる状況に はなく,他方,確率論的安全評価に関する研究は,実際の安全対策に反映できるような成熟性を備えた科学的知見とはいい難かったから,その時点で,福島第一原発の敷地高を超える津波は到来しないとみなして,当面の間,具体的な安全対策をとらないこととすることに,専門技術的見地からみた合理性を見出すことはできないと判断するものである(前記2⑶[❸-118 頁]) から,被告国の上記主張は,採用することはできない。 結局,被告国の主張するところの「高度の科学的,専門技術的判断」に基づく津波対策は,津波リスクの定量分析を必須の前提とする防潮堤の建設か,実践的レベルにはほど遠い確率論的安全評価の進展を待つかという二者択一にほかならず,それ以外の対策は観念し得ないというに等しいものである が,そのような考え方は,科学的,専門的技術的観点を考慮しても採用できない。 ウいわゆる「グレーデットアプローチ」の考え方について被告国は,被害が発生する危険性が高度にかつ切迫していると認め難い状況における防災対策については,行政庁や原子力事業者の投資できる資源 (人的資源及び物的資源)は有限であるから,行政庁が様々なリスクの中から特定のリスクを選択し,対策を実施していく上では,リスクの程度,対策の有効性・確実性,対策が施設に及ぼす影響,コスト等といった観点から,科学的,専門技術的知見に基づいて総合的に判断する必要があるところ,機械工学,原子力工学の世界では,そのような専門技術的判断を行うに当たっ ては が施設に及ぼす影響,コスト等といった観点から,科学的,専門技術的知見に基づいて総合的に判断する必要があるところ,機械工学,原子力工学の世界では,そのような専門技術的判断を行うに当たっ ては,「リスクの大きさに基づいてリソース(資源)を割く。」という「グレーデッドアプローチ」に基づく考え方が基本的に妥当するから,被告国の裁量の幅は相当に広いというべきであると主張する(第3章第2節第6,2⑵ウ(ウ)[❶-171 頁])。 当裁判所は,いわゆる「グレーデッドアプローチ」の考え方自体を否定す るものではない。しかし,ここでいう「リスクの大きさ」とは,想定される 損害の大きさと想定される事象の発生確率を掛け合わせて把握されることになると考えられるところ,本件においては,平成21年9月当時の専門的知見の成熟度合いに照らし,福島第一原発の敷地高を超える津波を安全対策の対象から除外できる状況にはなく,他方,確率論的安全評価に関する研究は,実際の安全対策に反映できるような成熟性を備えた科学的知見とはいい 難かったのであるから,福島第一原発の敷地高を超える津波の到来確率は,具体的に定量化できないにしても,隕石の落下直撃などとはおよそ別次元のものといえる程度の相応の確率であったということができる。したがって,いわゆる「グレーデッドアプローチ」の考え方に沿ってみても,本件において,福島第一原発の敷地高を超える津波到来の相応の確率と,それにより生 じると定性的かつ具体的に想定される全電源喪失という事故及びそれにより引き起こされる被害の甚大さとを掛け合わせた場合,把握されるリスクの大きさに基づくと,リソースを何ら割く必要がないとの帰結を導く余地はないし,実践的レベルにはほど遠い確率論的安全評価の進展を待つという悠長なリソー 害の甚大さとを掛け合わせた場合,把握されるリスクの大きさに基づくと,リソースを何ら割く必要がないとの帰結を導く余地はないし,実践的レベルにはほど遠い確率論的安全評価の進展を待つという悠長なリソースの割き方で足りるとする帰結を導く余地もない。 なお,予測される被害の切迫性については,後記⑶のとおりである。 以上によれば,被告国の上記主張は,当裁判所の判断を何ら左右しない。 ⑶ 予見可能性・被害の切迫性についてア津波到来の危険性について被告国は,本件においては,万が一,長期評価によって福島第一原発の敷 地高を超える津波の発生を予見することができたと判断される余地があるとしても,本件事故前においては,その危険性は高度とも,切迫していたともいえなかったのであるから,他に優先的に行う事柄があれば,その対策を優先することも許される状況にあったというべきであると主張する(第3章第2節第6の2⑶ア[❶-172 頁])。 確かに,長期評価の見解は,科学的知見としての熟成度において限定的で あったから,直ちにこれを踏まえて仮定的な数値を用いて津波シミュレーションを実施すべきとするのは合理的とはいい難い(前記2⑴ウ[❸-113 頁])。 しかし,平成21年9月当時の専門的知見の成熟度合いに照らしても,福島第一原発の敷地高を超える津波を安全対策の対象から除外できる状況にはなかったものである(同[❸-113 頁])。そして,規制権限不行使の違法 性を判断する要素としての被害の切迫性は,単にその発生確率の高低のみによって判断されるべきものではなく,想定される損害の大きさと想定される事象の発生確率を掛け合わせて把握されるリスクの大きさの大小によって判断すべきものと考えられる(前記⑵ウ[❸-124 頁]参照)ところ, 判断されるべきものではなく,想定される損害の大きさと想定される事象の発生確率を掛け合わせて把握されるリスクの大きさの大小によって判断すべきものと考えられる(前記⑵ウ[❸-124 頁]参照)ところ,平成21年9月当時の専門的知見の成熟度合いに照らし,福島第一原発の敷地高 を超える津波の到来確率は,具体的に定量化できないにしても,隕石の落下直撃などとはおよそ別次元のものといえる程度の相応の確率であったということができ,この確率と,上記津波により生じると定性的かつ具体的に想定される全電源喪失という事故及びそれにより引き起こされる被害の甚大さとを掛け合わせたリスクの大きさは,これに対するリソースを割く必要が ないとか,実践的レベルにはほど遠い確率論的安全評価の進展を待つというリソースの割き方で足りるというようなものではおよそない(同[❸-124頁])。 前記のとおり,被告国は,福島第一原発の津波耐性が極めて脆弱であり,ひとたび敷地高を超える津波が福島第一原発に到来すれば極めて重大な事 故を招来し得ることを認識していたし,そのような津波のリスクを定量的に分析することは困難であったものの,平成21年報告により,津波評価技術の各論を前提とする安全対策はその根拠を失い,福島第一原発が津波に対して事実上有していた裕度も実質的に失われて,少なくとも,平成21年報告が念頭に置く貞観津波について検討しさえすれば安全対策として十分であ るとは到底いえない状況に至っており,福島第一原発の対津波安全性は,ひ とえに,敷地高を超える津波が到来しないという一事に依拠して確保されるという,極めて緊迫した状態に至っていた(前記2⑴オ[❸-115 頁])のであるから,福島第一原発の敷地高を超える津波の到来の危険性が高度でなかったとか 波が到来しないという一事に依拠して確保されるという,極めて緊迫した状態に至っていた(前記2⑴オ[❸-115 頁])のであるから,福島第一原発の敷地高を超える津波の到来の危険性が高度でなかったとか,切迫していなかったなどということは到底できない。 よって,被告国の上記主張は採用できない。 イ地震対策が喫緊の課題と認識されていたことについて被告国は,本件事故以前,保安院は数ある規制課題に着実に取り組んでいた上,原子力発電所において対策を検討すべき自然事象の中でも,津波ではなく地震対策が喫緊の課題と認識されていたため,津波対策をすべく規制権限を行使しなかったことが著しく合理性を欠くと評価される余地はないと 主張する(前記第3章第2節第6,2⑶イ[❶-173 頁])。 しかし,津波対策と地震対策は,いずれかに取り組んでいる間は他方に取り組む必要がないというような非両立的なものではなく,それぞれ,その時々の科学的知見の成熟度に応じて取組がなされるべき筋合いのものというべきである。このことは,地震対策に限らず,その他の規制課題について も全く同様に当てはまると解される。 当裁判所は,平成21年9月当時,地震対策が被告国(保安院)にとって喫緊の課題であったことを否定するものではないが,そうであるなら,なおのこと,前記アのとおり認められる福島第一原発の敷地高を超える津波到来の危険性に対して,地震と並行して対策のための知恵を絞るべきであり,か つ,そのような対策のために知恵を絞ることは決して困難なことではなかったと認めるものである(前記2⑵[❸-116 頁])から,被告国の上記主張は採用の限りでない。 ⑷ 結果回避措置・結果回避可能性について被告国は,本件事故前の工学的知見に照らし,津波対策として導かれる結果 ある(前記2⑵[❸-116 頁])から,被告国の上記主張は採用の限りでない。 ⑷ 結果回避措置・結果回避可能性について被告国は,本件事故前の工学的知見に照らし,津波対策として導かれる結果 回避措置が,敷地高を上回ることが想定される箇所に防潮堤・防波堤等を設置 することによってドライサイトを維持するものであるとした上で,本件事故後に講じられた規制措置は,本件事故によって得られた知見を踏まえて講じられたものであり,本件事故以前の知見から導かれるものではない(前記第3章第2節第6の2⑷[❶-175 頁])と主張する。 この点に対する当裁判所の説明は,前記第4節第3[❸-75 頁]で述べたと おりである。なお,確かに,証拠上,本件事故前の時点で,敷地高を超える津波の到来に対する安全策として,原子力工学者をはじめとする専門家も,もっぱら防潮堤の設置のみを念頭に置いていたとうかがわれる。しかしながら,このこと自体,被告国が4省庁報告書等の検討以来,一貫してとってきた基本姿勢の前提となる考え方,すなわち,「津波は構造物で十分に防げる。」という考 えは人間のおごりであり,構造物によるハード面での津波対策だけでは足りない(前記第4章第4節第4⑺イ(イ)[❷-238 頁])という,工学研究上の叡智から離れ,構造物によるハード面での津波対策を行えば十分であるとの考えにとらわれたものといわざるを得ない。被告国の主張は採用できない。 ⑸ 現実に実施された措置(対応)について ア確率論的安全評価手法について被告国は,保安院は,被告東電に対し,長期評価の見解が公表された直後の平成14年8月に長期評価の見解の取扱いについて説明を求めるなどし,被告東電が決定論ではなく確率論においてこれを取り扱っていく方針であるとの報告 は,被告東電に対し,長期評価の見解が公表された直後の平成14年8月に長期評価の見解の取扱いについて説明を求めるなどし,被告東電が決定論ではなく確率論においてこれを取り扱っていく方針であるとの報告を受けて了承しているとして,被告国の対応は合理的であったと 主張する(第3章第2節第6の2⑸[❶-175 頁])。 既に認定判示のとおり,保安院は,長期評価と津波評価技術の各論との整合性について問題視し,被告東電に回答を求めたが,被告東電から,津波評価技術に基づいて確定論的に津波の検討をするならば,福島~茨城沖には津波地震を想定せず,電力共同研究で実施する確率論的津波ハザード解析で, 福島~茨城県沖で発生する津波を分岐として扱って対応したいとの回答を 得て,これを合理的なものと認め,その後,特段の指摘や指示を行わなかったものである(前記第4章第1節第13[❷-60 頁])。 被告東電の上記回答は,佐竹健治から「今後の津波地震の発生を考えたとき,どちらが正しいのかと聞かれた場合,よくわからない,というのが正直な答えです」との回答を受けながら,そのことに言及せず,ことさら佐竹健 治が長期評価の見解に異論を唱えたとの点を強調して導き出されたものであるから,仮に,保安院が,同回答の根拠を精査することなく,規制庁として確定論的な津波対策を不要とするとの意思決定をしたというのであれば,それは安易にすぎるというべきであり,そのような意思決定に合理性を見出すことはできない。 また,そもそも,被告東電の上記回答に対する被告国の対応は,特段の指摘や指示を行わなかったという消極的なものにすぎず,福島第一原発における津波リスクについて,真摯にこれを評価して対策を練ろうとする姿勢の表れとみることはできないところ,その後,平成21 は,特段の指摘や指示を行わなかったという消極的なものにすぎず,福島第一原発における津波リスクについて,真摯にこれを評価して対策を練ろうとする姿勢の表れとみることはできないところ,その後,平成21年9月の段階になっても,確率論的安全評価手法に関する研究は,実際の安全対策に反映できるような 成熟性を備えた科学的知見とはいい難かったのであり,証拠上,被告国が,このような確率論的安全評価手法に関する研究の成熟度に応じて何らかの措置をとろうとした形跡も見出せないから,これら一連の対応をもって合理的なものと評価する余地はない。 イ知見の収集について 被告国は,地震や津波の知見の収集に努めるとともに,その時々に得られた知見に基づいて安全対策を講ずるように行政指導を繰り返してきたとして,被告国の対応は合理的であったと主張する(前記第3章第2節第6,2⑸ウ[❶-177 頁])。 しかしながら,知見の収集及びそれに基づく行政指導は,長期的視点から 施設の安全を確保するというものであるから,福島第一原発が省令技術基準 に適合していないという事態が明らかとなって技術基準適合命令を発令すべきであったか否かという本件が取り扱う問題とは局面を大きく異にする。 ⑹ 被告東電の結果回避が期待できたかどうかについて被告国は,規制対象者が一次的責任を負い,被告国が二次的責任を負う事項に係る規制権限の不行使の違法性を判断する場合には,「規制対象者による結 果回避が期待できないこと」を「規制権限行使以外の手段による結果回避困難性」として考慮する必要があるとした上で,被告東電は,喫緊の課題であった地震対策に優先的に取り組みつつ,津波対策についても,マイアミ論文を発表し,土木学会原子力土木委員会津波評価部会で研究を進めていた確率論的 考慮する必要があるとした上で,被告東電は,喫緊の課題であった地震対策に優先的に取り組みつつ,津波対策についても,マイアミ論文を発表し,土木学会原子力土木委員会津波評価部会で研究を進めていた確率論的津波ハザード解析手法の中間とりまとめを行うなど,種々の試行をしながら可能な 限りの合理的な対応をしてきたのであり,必要な津波対策を長期間にわたって放置しているなど,被告東電に任せておいたのでは十分な津波対策がされない可能性があることをうかがわせる事情は客観的に存しなかったから,規制権限行使以外の手段による結果回避が困難とはいえなかったなどと主張する(第3章第2節第6の2⑹[❶-177 頁])。 被告国の責任が一次的か二次的か,最終的か補完的かといった問題が,当裁判所の判断に何ら影響を与えないのは,前記⑴イ[❸-121 頁]で判示のとおりである。また,確率論的安全評価手法の研究が,実際の安全対策に反映できるような成熟性を備えた科学的知見とはいい難く,その進展を待つといった悠長な考え方をとり得ないことは,同⑶[❸-125 頁]で判示のとおりである。 加えて,本件においては,溢水勉強会の議論を通じて,津波安全対策を耐震バックチェックに委ねることとされ,耐震バックチェックにおいては,平成18年耐震設計審査指針にあるとおり,地震随伴現象である津波についても検討すべきとされていたにもかかわらず,平成20年3月に提出された被告東電の福島第一原発に関する耐震バックチェック中間報告書には津波安全対策に関 する記載がなく,平成21年9月に至って,エネ庁合同WGの議論を経てよう やくなされた平成21年報告は,被告国にとってみれば,従前福島第一原発の敷地高が想定津波に対して事実上有していた裕度を実質的に喪失させ,かつ,従前 って,エネ庁合同WGの議論を経てよう やくなされた平成21年報告は,被告国にとってみれば,従前福島第一原発の敷地高が想定津波に対して事実上有していた裕度を実質的に喪失させ,かつ,従前津波評価技術の各論に従い実施されていた措置の安全性を現に覆すという,極めて重大な内容だったのである(前記第3節第2,2⑵[❸-17 頁],同⑷ア(ウ)[❸-20 頁])から,このような状況下においては,既に被告東電に よる津波対策の実施を期待できる段階にはなかったというべきである。 以上の次第で,被告国の上記主張は採用の限りでない。 第7節争点7(被告東電の責任と被告国の責任の関係)について第1 当裁判所の判断の結論当裁判所は,被告国の国賠法1条1項に基づく損害賠償責任と,被告東電の原 賠法3条1項に基づく損害賠償責任とは,民法719条1項前段の定める共同不法行為に該当し,かつ,被告国は,被告東電と同額を連帯して支払うべき義務(不真正連帯債務)を負うと解するものである。 第2 当裁判所の判断の理由 1 共同不法行為の成否 本件では,被告国の国賠法1条1項に基づく損害賠償責任と,被告東電の原賠法3条1項に基づく損害賠償責任とが競合している。被告国は,規制庁として,電力事業者に対し規制権限を行使する立場にあるものの,それらの権限は,刑事罰をもって履行を強制すべき最低限度の警告義務を明らかにするものにすぎず,その不行使によって,電気事業者らの私法上の責任を限定するものではないから, 民法719条1項前段の要求する関連共同性を充足しないとも思われる。 しかしながら,原賠法3条1項は不法行為の特則であるから,同項に基づく損害賠償責任と被告国の国賠法1条1項に基づく損害賠償責任との間に民法719条1項前段に基づく関係は を充足しないとも思われる。 しかしながら,原賠法3条1項は不法行為の特則であるから,同項に基づく損害賠償責任と被告国の国賠法1条1項に基づく損害賠償責任との間に民法719条1項前段に基づく関係は成り立ち得るものと解される。そして,関連共同性の要件に関して検討すると,被告東電の原賠法3条1項の責任における構成要件 は,「原子炉の運転等により原子力損害を与えたとき」であり,本件に即してい えば,本件事故を引き起こしたことであるところ,それに至る客観的事実経過は,(法的な意味での「過失」を観念できるかどうかはともかく)被告東電においても福島第一原発の敷地高を超える津波を予見することなく,これに対する安全対策を施していなかったというものである。これに対し,被告国の規制権限不行使の違法を基礎付ける事実関係も,福島第一原発の敷地高を超える津波を予見する ことができ,これに対する安全対策を施すべく規制権限を行使することが可能であったのに,これを行使しなかったことである。そして,原子力発電所における安全対策は,その細部にわたるまで,被告国が定めた法令(炉規法,電気事業法,省令62号,各種指針類)により律せられ,その安全対策の適否についても,原子力安全委員会及び保安院の判断に全面的に依拠しているものである。そうする と,原子力発電所の安全対策は,電力事業者である被告東電と規制庁である被告国とが共働して立案・実施していく性質のものであったといえるから,被告東電の原賠法3条1項の責任を基礎付ける事実関係と,被告国の国賠法1条1項に基づく損害賠償責任を基礎づける事実関係とを峻別することは相当でなく,むしろ,両者は,その大部分において重複するというべきである(その意味で,本件の事 案は,有害な製品を流通させた製造・販売会社 づく損害賠償責任を基礎づける事実関係とを峻別することは相当でなく,むしろ,両者は,その大部分において重複するというべきである(その意味で,本件の事 案は,有害な製品を流通させた製造・販売会社の責任と,これを監督すべき国の国家賠償責任とが問題となるような事案とは,その性質を異にすると考えられる。)。 そうすると,被告国の国賠法1条1項に基づく損害賠償責任と,被告東電の原賠法3条1項に基づく損害賠償責任との間に,各責任を基礎付ける事実関係の共 通性を認めることができるから,被告国の責任の法的性質を勘案してもなお,上記両責任の間に民法719条1項前段の求める関連共同性を肯認することができる。 2 被告国の責任の割合について前記のとおり,平成21年9月時点で,被告国(原子力安全委員会ないし保安 院)が予見することができた重大な被害は,その発生・不発生が,福島第一原発 の敷地高を超える津波が到来するかしないかという偶然の事情によって左右される極めて不安定な状況の下にあり,かつ,これを回避するためにとり得る措置は限定的で,電源設備の移設よりほかにあり得ないという,極めて緊迫・切迫した状況にあったところ,被告国にとって,防潮堤や主要設備の被水・浸水防止措置をとることができないことを前提としつつも,敷地高を超える津波が到来する ことを念頭に置いたその余の措置,例えば電源設備の一部又は全部の移設などの措置をとることは,困難なものではなかったが,被告国(原子力安全委員会ないし保安院)は,実質的に,福島第一原発の敷地高を超える津波は到来しないとみなして,当面の間,具体的な安全対策をとらないこととしたものであり,このような判断に,専門技術的見地からみた合理性を見出すことはできず,そのような 専門技術的裁量が被告 る津波は到来しないとみなして,当面の間,具体的な安全対策をとらないこととしたものであり,このような判断に,専門技術的見地からみた合理性を見出すことはできず,そのような 専門技術的裁量が被告国にあったとも認め難く,このような判断の過程には,看過し難い過誤,欠落があったというほかはない(前記第6節第2,2⑷[❸-119頁])。このような事情の下においては,被告国の規制権限が,本来的には,一次的責任者たる被告東電に対して,刑事罰をもって省令技術基準不適合の是正を強制するという意味で二次的な性質を有していたとしても,それを理由に,被告国 の責任を,被告東電のそれと比べて限定する理由は見出し難い。 したがって,被告国は,被告東電と同額を連帯して支払うべき義務(不真正連帯債務)を負うというべきである。 第3 被告国の主張に対する説明被告国は,損害の公平な分担という損害賠償の基本理念に照らすと,被告国の 責任の範囲は,第一次的責任者である被告東電に比して,相当程度限定されたものになるべきであるとして,いわゆる水俣病訴訟やじん肺訴訟に係る裁判例を例示する。 しかし,いわゆる水俣病訴訟は,被告国の規制権限不行使の違法が認められる時点より以前の事情が被害者の発症に寄与していると認められた事案であった し,いわゆるじん肺訴訟は,共同被告となった私企業が被害者たる労働者に対し て直接に契約上の安全配慮義務を負うという関係にあったものであるから,被告国の規制権限不行使の違法が直接的に本件事故の発生に寄与し,かつ,原告らと被告東電との間に何らの契約関係もない本件とは事案を異にするというべきである。 第8節争点8(本件で賠償の対象となるべき精神的損害の範囲及び法的性質並びに 慰謝料の額),争点9(避難指示区域の指 東電との間に何らの契約関係もない本件とは事案を異にするというべきである。 第8節争点8(本件で賠償の対象となるべき精神的損害の範囲及び法的性質並びに 慰謝料の額),争点9(避難指示区域の指定がない居住地から避難した場合の避難の合理性)及び争点10(主な財物損害についての損害認定の在り方)について上記各争点については,本件で認められる被侵害利益の整理と位置づけの在り方如何によって結論が左右されるものであるから,本判決においては,これらを一括して論ずることとする。 第1 被侵害利益の考え方について 1 当裁判所の判断の結論⑴ 本件において,原告らは以下のとおり主張する。 すなわち,原告らは,本件事故によって,従前豊かに享受していた生活基盤を根こそぎ奪われ,あるいは大きく損傷させられたもので,このような被害は, 前代未聞,空前絶後の未曾有のものであり,この被害の広範さ,甚大さ,深刻さは他に例をみないものであるところ,このような全般的な被害を,損害賠償という枠組みの中で,どのように整理し観念すべきであるかは,本訴における重要な課題の一つであり,そのことによって被害者に適正な賠償を保障することが司法の役割である。とりわけ,原告らの非財産的損害(精神的損害)につ いて,どのように整理すべきかが問題であり,原告らは,それを「避難生活の労苦に伴う慰謝料(避難慰謝料)」と,「従前の生活基盤が破壊され,又は毀損,変容されたことによる精神的苦痛に対するふるさと喪失・生活破壊慰謝料」とに区分して,それぞれの賠償を請求する。 ⑵ しかしながら,「避難生活の労苦」といっても,その内実は,放射性物質に よる健康影響に対する恐怖心や不安,従前の自宅での平穏な生活を送れないこ とに対する苦痛,避難先で不便を強 しかしながら,「避難生活の労苦」といっても,その内実は,放射性物質に よる健康影響に対する恐怖心や不安,従前の自宅での平穏な生活を送れないこ とに対する苦痛,避難先で不便を強いられることによる苦痛(精神的なもののみならず肉体的なものも含む)など,多岐にわたっている。他方,「従前の生活基盤が破壊され,又は毀損,変容されたことによる精神的苦痛」の内実には,放射性物質による健康影響に対する恐怖心や不安,従前の自宅での平穏な生活(地域コミュニティに根ざした生活)を送れないことに対する苦痛など,「避 難生活の労苦」にもまたがる連続した心理状態が含まれる。したがって,当裁判所は,原告らの精神的損害を,原告らが主張するように当然に「避難慰謝料」と「ふるさと喪失・生活破壊慰謝料」とに切り分けて,法的に別個の評価をすることは困難と考える。 ⑶ 原発事故により従前の住居からの移住を余儀なくされた場合の被侵害利益 としては,いわゆる平穏生活権(その内容については後記2⑴ア[❸-138 頁]参照。以下,単に「平穏生活権」という。),居住,移転の自由のほか,財産権,生存権,生命・身体の自由(人身の自由)など,各種の法的権利が考えられるところ,本件においては,このような広範な権利の一部又は全部が,多種多様な規模・態様で侵害されており,かつ,これら権利は,それぞれ,共通又は類 似の側面を有していて,その相互の関係は極めて複雑である。 ⑷ 当裁判所は,このような広範な権利侵害をいかに整理するかに当たり,まず,抽象的に,権利の性質に着目して考察し(後記2⑴),次いで,現象面に視点を移し,具体的な精神的損害の類型に着目して考察する(後記2⑵)ことで,権利侵害が認められる場合の整理と位置づけを行った。その帰結は以下のとおり して考察し(後記2⑴),次いで,現象面に視点を移し,具体的な精神的損害の類型に着目して考察する(後記2⑵)ことで,権利侵害が認められる場合の整理と位置づけを行った。その帰結は以下のとおり である。 アまず,権利の性質に着目すると,原発事故により従前の居住場所からの避難を余儀なくされた場合,平穏生活権や居住,移転の自由の侵害を観念することができる。 これらの権利侵害は,多くの場合,第一義的には,これら生命・身体の自 由,生存権,財産権の侵害と構成された上で,それに対する金銭賠償がなさ れれば,平穏生活権侵害ないし居住,移転の自由の侵害に対する救済もなされたとみることとなる(後記2⑶[❸-154 頁])(当裁判所は,このような場合を整理し,「Aの場合」とする。)。 しかし,第一義的には,生命・身体の自由,生存権,財産権の侵害と構成できるが,それのみでは,平穏生活権や居住,移転の自由の侵害を評価し尽 くせない場合(当裁判所は,このような場合を整理し,「Bの場合」とする。)や,第一義的にみれば,生命・身体の自由,生存権,財産権の侵害と構成できないが,それらとは別に平穏生活権や居住,移転の自由の侵害と構成できる場合(当裁判所は,このような場合を整理し,「Cの場合」とする。)も考えられる。 イそこで,視点を現象面に置き換え,考えられる精神的損害の類型ごとに,その内実を検討し,上記B及びCに該当する場合が観念できるかどうか分析すると,以下のとおり整理できる。 (ア) 第一義的には,生命・身体の自由,生存権,財産権の侵害と構成できる場合であっても,これに加え,㋐家族とともに暮らしつつ,㋑職場や学 校等における活動を通じて自己の人格を発展させ,㋒友人,親戚等当該地域の住民との人的つながりを通じて 財産権の侵害と構成できる場合であっても,これに加え,㋐家族とともに暮らしつつ,㋑職場や学 校等における活動を通じて自己の人格を発展させ,㋒友人,親戚等当該地域の住民との人的つながりを通じて相互に助け合い又は自己の人格を発展させ,㋓その他当該地域の自然環境や生活資源の恩恵を受けながら精神的に満ち足りた生活を送るという平穏な生活が同時かつ包括的に喪失されたときは,生命・身体の自由,生存権,財産権の侵害という構成では評 価し尽くせない別段の平穏生活権侵害ないし居住,移転の自由の侵害があったと観念することができる(Bの場合。後記⑶イ[❸-154 頁])。当裁判所は,このような場合の平穏生活権ないし居住,移転の自由の侵害を,「当裁判所が認めるふるさと喪失損害(B)」と呼称する(後記第2の2⑴イ[❸-157 頁])。 (イ) 第一義的にみれば,生命・身体の自由,生存権,財産権の侵害と構成 できない場合であっても,当該地域の住定時の生活環境と変動後の生活環境とを客観的に比較して,社会通念に照らし,一般人であれば,その生活環境が,住定時に想定されていた無形物質・無体物(放射性物質を含む。 以下,同じ。)による悪影響の変動幅を超えて悪化したと判断するであろうと認めるに足りる事情がある場合には,放射性物質による健康被害にお びえることなく自己の住所又は居所を自由に決定し当地で生活する権利すなわち平穏生活権ないし居住,移転の自由に対する侵害があったと観念することができる(Cの場合。後記⑶ウ[❸-154 頁])。当裁判所は,このような場合の平穏生活権ないし居住,移転の自由の侵害を,「当裁判所が認める自己決定権侵害(C)」と呼称する(後記第3,2⑴[❸-165 頁])。 ウ上記の整理を踏まえると,精神的損害(生 のような場合の平穏生活権ないし居住,移転の自由の侵害を,「当裁判所が認める自己決定権侵害(C)」と呼称する(後記第3,2⑴[❸-165 頁])。 ウ上記の整理を踏まえると,精神的損害(生命身体傷害を伴わない場合)に対する慰謝料については,以下の3類型に分類されることとなる。 (ア) 当裁判所が認める避難慰謝料(A)本件事故を契機に,避難指示又は避難要請(避難指示等)が出された地域,又はこれら避難指示等が出された地域でなくても当裁判所が認める自 己決定権侵害(C)を肯認できる地域から避難をして,避難所ないし車中生活を余儀なくされた場合には,生命・身体の自由ないし生存権の侵害と構成できる(前記ア)から,原則として日額2000円の「当裁判所が認める避難慰謝料(A)」(資料36(第6分冊)の「当裁判所が認める避難慰謝料(A)」の欄)を認める。 (イ) 当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)従前の居住地について避難指示ないし避難要請が出された場合には,生命・身体の自由,生存権,財産権の侵害があることに加えて,生命・身体の自由,生存権,財産権の侵害という構成では評価し尽くせない別段のいわゆる平穏生活権侵害ないし居住,移転の自由の侵害があったと観念する ことができる(前記イ(ア))から,資料36(第6分冊)の「当裁判所が 認めるふるさと喪失慰謝料(B)」欄のとおりの慰謝料を認める。 (ウ) 当裁判所が認める自己決定権侵害慰謝料(C)また,屋内退避区域や緊急時避難準備区域を含めた浜通り並びに中通り北部及び中部に住居を有していたときは,生命・身体の自由,生存権,財産権の侵害と構成できないが,放射性物質による健康被害におびえること なく自己の住所又は居所を自由に決定し当地で生活する権利すなわち平 び中部に住居を有していたときは,生命・身体の自由,生存権,財産権の侵害と構成できないが,放射性物質による健康被害におびえること なく自己の住所又は居所を自由に決定し当地で生活する権利すなわち平穏生活権ないし居住,移転の自由に対する侵害があったと観念することができる(前記イ(イ))から,資料36(第6分冊)の「当裁判所が認める自己決定権侵害慰謝料(C)」欄のとおりの慰謝料を認める。 ⑸ 以下,当裁判所が整理したところを詳述する。 2 当裁判所の判断の理由⑴ 権利の性質に着目した検討アいわゆる平穏生活権についての当裁判所の考え方何人も,自己の住居及びその立地する周辺環境について,同所で平穏な生活をすることはもちろん,それのみならず,地域コミュニティの中で,仕事, 学校,地域住民との各種交流等を通じて,自己の人格を発展形成させながら生活するという意味において,人格権ないし人格的利益を有するものというべきである。このような人格権ないし人格的利益について,以下の判示においては「平穏生活権」と呼称することとする。 ところで,平穏生活権の侵害といっても,物理的・有形的な生活基盤の破 壊(家屋の損壊,集落の全部又は一部の被災による変形・変容)や無形物質・無体物による生活環境の悪化(騒音,振動,悪臭,大気汚染等)から,第三者の有形(暴行),無形(強迫,嫌がらせ)の侵害行為,さらには風評によるイメージダウンまで,その態様は実に多種多様である。 そして,これらの侵害態様は,多くの場面において,直接的な権利侵害を 伴う。例えば,家屋などの財産が毀損した場合には,憲法上の財産権(憲法 29条)侵害として構成されるし,直接の財産的侵害と評価できないときであっても,無形物質・無体物による生活環境の悪化や第三 例えば,家屋などの財産が毀損した場合には,憲法上の財産権(憲法 29条)侵害として構成されるし,直接の財産的侵害と評価できないときであっても,無形物質・無体物による生活環境の悪化や第三者による侵害行為の場合は,直接的には憲法上の生命・身体の自由(同13条,31条)ないし生存権(同25条)の侵害として構成されることとなると解される。平穏生活権の侵害は,多くの場合,これら直接的な権利侵害と重畳して,かつ, これら直接的な権利侵害から派生する効果として内在的に観念される性質のものであり,必ずしも常にこれら直接的な権利侵害とは別個に独立した存在として観念されるものではないと考えられる。例えば,住居の損壊等財産権侵害により転居を余儀なくされるなどして平穏生活権の侵害があった場合には,通常は,財産権の回復をもって,平穏生活権侵害に対する救済もな されたとみることとなる(財産権の価額評価において,平穏生活権侵害の内容を実質的に考慮することはあっても)と解されるし,生命・身体の自由ないし生存権の侵害により,例えば転居・転職を余儀なくされた場合であっても,それにより生じた積極・消極両面の損害(治療費,転居費,休業損害,逸失利益など)の填補のほか,これら侵害の程度に応じた精神的損害が金銭 的に賠償されることをもって,平穏生活権侵害に対する救済もなされたとみることとなる。当裁判所は,平穏生活権は,本来的には憲法13条に由来するものと考えるものであるが,これは,上記生命・身体の自由,生存権,財産権といった,憲法上のいわゆる人権カタログが掲げる法的権利と別個独立に成立・存在する人格権ないし人格的利益というよりは,これらと連続性を 有した人権の一側面を形成するものと解するものである。 イ居住,移転の自由についての当裁判所の 掲げる法的権利と別個独立に成立・存在する人格権ないし人格的利益というよりは,これらと連続性を 有した人権の一側面を形成するものと解するものである。 イ居住,移転の自由についての当裁判所の考え方何人も,居住,移転の自由を有する(憲法22条)。ここでいう居住,移転の自由は,自己の住所又は居所を自由に決定し,移動することを内容とする。居住,移転の自由,とりわけ居住の自由は,多くの場合,特定の住居に おいて生活を営むことの自由を内在する。したがって,居住の自由の侵害は, 多くの場合,機能的にみて住居を自由に使用できなくなることを伴うか,又は,身体の拘束その他移動上の制約により住居を自由に使用できなくなることを伴う。前者の場合,例えば,住居の損壊等により転居を余儀なくされて,その住居において自由に生活を営むことができなくなった場合は,直接的には財産権の侵害として構成され,財産権の回復をもって,居住の自由の侵害 に対する救済もなされたとみることとなると解される。また,後者の場合,例えば,特定の場所での滞在を強制されて自由な移動が困難になった場合は,直接的には人身の自由(生命・身体の自由)ないし生存権の侵害として構成され,これら侵害の程度に応じた精神的損害が金銭的に賠償されることをもって,居住の自由の侵害に対する救済もなされたとみることとなると解され る。 なお,居住,移転の自由は,上記検討したところのみならず,自由に設定された住所ないし居所において,自己を人格的に発展させるという精神的自由の要素も併せもつと解されるが,その実質は,従前の住居地からの避難を余儀なくされた場合を取り扱う本件においては,前記アでみた平穏生活権と 同質のものと考えられる。 そうすると,従前の住居地からの避難を余儀なくさ されるが,その実質は,従前の住居地からの避難を余儀なくされた場合を取り扱う本件においては,前記アでみた平穏生活権と 同質のものと考えられる。 そうすると,従前の住居地からの避難を余儀なくされた場合における被侵害利益として居住,移転の自由をみる場合,これは,前記アの平穏生活権と同様,生命・身体の自由,生存権,財産権といった法的権利と別個独立に成立・存在する権利というよりは,これらと連続性を有した人権の一側面を形 成するものと解される。 ウ平穏生活権侵害及び居住,移転の自由の侵害があった場合の権利の性質についての整理前記ア及びイでみたとおり,何らかの行為により従前の住居からの移住を余儀なくされた場合,その被侵害利益の法的構成としては,平穏生活権侵害 及び居住,移転の自由の侵害が考えられるところ,それらはいずれも,生命・ 身体の自由,生存権,財産権といった法的権利と別個独立に成立・存在する権利というよりは,これらと連続性を有した人権の一側面を形成するものと解され,第一義的には,これら生命・身体の自由,生存権,財産権の侵害と構成された上で,それに対する金銭賠償がなされれば,平穏生活権侵害ないし居住,移転の自由の侵害に対する救済もなされたとみることとなると解さ れる。個別にみると以下のとおりとなる。 (ア) 財産権侵害の場合何らかの行為により従前の住居からの移住を余儀なくされた場合,旧住居の喪失が財産権侵害と評価できるときには,これに対する賠償をもって,通常は,平穏生活権侵害及び居住,移転の自由の侵害に対する救済もなさ れたとみることとなる。 (イ) 生存権侵害の場合何らかの行為により従前の住居からの移住を余儀なくされた場合,移住後の生活が,健康で文化的な最低限度の生活(憲法25条1項 する救済もなさ れたとみることとなる。 (イ) 生存権侵害の場合何らかの行為により従前の住居からの移住を余儀なくされた場合,移住後の生活が,健康で文化的な最低限度の生活(憲法25条1項)といえないときは,これによる精神的損害に対する賠償をもって,通常は,平穏生 活権侵害及び居住,移転の自由の侵害に対する救済もなされたとみることとなる。具体的には,従前の住居からの離脱を余儀なくされて避難所で生活した場合などが考えられる。 (ウ) 生命・身体の自由の侵害何らかの行為により従前の住居からの移住を余儀なくされた場合,健康 に対する脅威等の事由により移動の自由が制限され,特定の場所での滞在を強制されたり,特定の場所からの離脱を強制されたりした結果,人身の自由(生命・身体の自由)の侵害と評価できるときには,これによる精神的損害に対する賠償をもって,通常は,平穏生活権侵害及び居住,移転の自由の侵害に対する救済もなされたとみることとなる。具体的には,被ば くの可能性により,自宅からの避難を強制された場合や,その結果として, 避難所での生活を余儀なくされた場合などが考えられる。 ⑵ 精神的損害の類型からみた検討前記⑴のとおり,平穏生活権や居住,移転の自由の侵害は,多くの場合,第一義的には,これら生命・身体の自由,生存権,財産権の侵害と構成された上で,それに対する金銭賠償がなされれば,平穏生活権侵害ないし居住,移転の 自由の侵害に対する救済もなされたとみることとなるものである。 他方,第一義的には,生命・身体の自由,生存権,財産権の侵害と構成できるが,それのみでは,平穏生活権や居住,移転の自由の侵害を評価し尽くせない場合(Bの場合)や,第一義的にみれば,生命・身体の自由,生存権,財産権の侵害と構成 体の自由,生存権,財産権の侵害と構成できるが,それのみでは,平穏生活権や居住,移転の自由の侵害を評価し尽くせない場合(Bの場合)や,第一義的にみれば,生命・身体の自由,生存権,財産権の侵害と構成できないが,それらとは別に平穏生活権や居住,移転の自由の 侵害と構成できる場合(Cの場合)には,別段の考慮を要することになる。 そこで,そのような場合としてどのようなものが観念し得るかについて,視点を権利面から現象面に置き換え,精神的損害の諸類型を挙げてその具体的な内実を検討しつつ考察する。 ア考えられる精神的損害の類型 原発事故により生じる精神的損害(身体障害を伴わないもの)の類型としては,①平穏な日常生活を喪失したことについて生じる精神的苦痛,②自宅に帰れないことにより生じる精神的苦痛,③避難生活の不便さから来る精神的苦痛,④先の見通しがつかないことによる不安・精神的苦痛【甲5・52頁参照】のほか,これら全ての精神的苦痛に共通してその基礎をなすものと して⑤放射性物質による健康影響に対する恐怖感や不安があると解される。 以下では,これらの類型ごとに検討する。 イ類型ごとの検討(ア) ①平穏な日常生活を喪失したことについて生じる精神的苦痛について平穏な日常生活といったとき,その内容を更に細かく検討すると,自己 の設定した居住地において㋐家族とともに暮らしつつ,㋑職場や学校等に おける活動を通じて自己の人格を発展させ,㋒友人,親戚等当該地域の住民との人的つながりを通じて相互に助け合い又は自己の人格を発展させ,㋓その他当該地域の自然環境や生活資源の恩恵を受けながら精神的に満ち足りた生活を送るものというように整理することができる(なお,放射性物質による健康影響に対する恐怖や不安を受けないで平穏な生 させ,㋓その他当該地域の自然環境や生活資源の恩恵を受けながら精神的に満ち足りた生活を送るものというように整理することができる(なお,放射性物質による健康影響に対する恐怖や不安を受けないで平穏な生活を送 るという側面(⑤)については,後記(オ)で詳述する。)。 ところで,人がその居住地を変更して従前の生活環境から離脱する場合には,当然ながら,積極的・能動的に,新たな居住地での生活に希望を見出して従前の日常生活を任意に処分することもあれば,消極的・受動的に,従前の生活と新たな居住地での生活とを比較衡量して,やむなく従前の日 常生活を放棄することもある。しかし,後者の場合であっても,その比較衡量の実質は,上記㋐ないし㋓の要素(以下「本件平穏生活4要素」という。)について,旧生活と新生活とを比較し,新生活においても,本件平穏生活4要素が相互にバランスを保って調和していると判断されるからこそ,従前の日常生活の放棄が任意なものとして正当化されることになる。 そうすると,上記のような調和を見出すことができない状況下において,旧生活を任意でなく放棄せざるを得なかった場合を法的に整理すれば,前出の平穏生活権(一側面として人格的な権利をも含む)及び居住,移転の自由の侵害を観念することができるというべきである。以下詳述する。 a ①平穏な日常生活を喪失したことについて生じる精神的苦痛の法的 整理(a) 前記⑴でみたとおり,平穏生活権及び居住,移転の自由の侵害は,第一義的には,これら生命・身体の自由,生存権,財産権の侵害と構成されるべきものである。 (b) しかしながら,生命・身体の自由,生存権,財産権の侵害を契機 に従前の住居からの移転を余儀なくされた場合であっても,上記㋐な いし㋓の本件平穏生活4要素 きものである。 (b) しかしながら,生命・身体の自由,生存権,財産権の侵害を契機 に従前の住居からの移転を余儀なくされた場合であっても,上記㋐な いし㋓の本件平穏生活4要素が同時かつ包括的に失われるようなことはまれであり,多くの場合はこれらのうちの少なくとも一部は維持されており,維持されているところを足掛かりに,新たな生活での本件平穏生活4要素についての調和を見出すことが可能であり,本件平穏生活4要素についての調和を見出せない状況に陥ることはまれで ある。 例えば,家屋などの財産が毀損した場合には,従前の家屋が使用不能であることを前提に,㋐家族との共同生活,㋑職場や学校での活動及び㋒従前の居住地域の住民との人的つながりをどのように維持するかを勘案し,その可能性と㋓従前の居住地域の自然環境や生活資源 の恩恵の程度とを総合考慮して調和点を見出し,その考慮結果に基づいて新生活を選択することができるのが一般的であり,その反射的効果として旧生活を任意に放棄できるという状況下にあるからこそ,財産権の回復をもって,同権利と連続性を有した人権の一側面であるところの平穏生活権侵害ないし居住,移転の自由の侵害についても救済 がなされたとみることができるといえる。 同様に,例えば,無形物質・無体物による生活環境の悪化や第三者による侵害行為により,生命・身体の自由や生存権が侵害されたと構成できる場合には,㋓従前の居住地域の自然環境や生活資源の恩恵の程度が低下したり,㋒従前の居住地域の住民との人的つながりに一部 不具合を生じているといった事情を前提に,㋐家族との共同生活,㋑職場や学校等での活動及び㋒なお存続している従前の居住地域の住民との人的つながりをどのように維持するかを総合考慮して調和点を見出し,その 具合を生じているといった事情を前提に,㋐家族との共同生活,㋑職場や学校等での活動及び㋒なお存続している従前の居住地域の住民との人的つながりをどのように維持するかを総合考慮して調和点を見出し,その考慮結果に基づいて新生活を選択することができるのが一般的であり,その反射的効果として旧生活を任意に放棄できると いう状況下にあるからこそ,生命・身体の自由や生存権の侵害に対す る金銭賠償がなされることをもって,これらの権利と連続性を有した人権の一側面であるところの平穏生活権侵害についても救済がなされたとみることができるといえる。 さらに,例えば,身体の拘束その他移動上の制約により特定の場所での滞在を強制されて人身の自由(生命・身体の自由)や生存権が侵 害されたと構成できるような場合には,同制約が違法なものであればそれが解消されることを前提に,制約されていた本件平穏生活4要素が一応回復し,それをもって,旧生活が,それと全く同一・同質のものでないにしても新生活に転化・昇華して,新たに本件平穏生活4要素についての調和点を見出すことができるのが一般的であり,そうで あるからこそ,違法な移動上の制約に基づく人身の自由(生命・身体の自由)や生存権の侵害に対する金銭賠償がなされることをもって,これら権利と連続性を有した人権の一側面であるところの居住,移転の自由の侵害についても救済がなされたとみることができるといえる。 (c) 以上の次第で,平穏生活権や居住,移転の自由の侵害が,第一義的には,生命・身体の自由,生存権,財産権の侵害と構成された上で,それに対する金銭賠償がなされれば,平穏生活権侵害ないし居住,移転の自由の侵害に対する救済もなされたとみることとなるとはいっても,それが可能なのは,前提として,上記ないし の侵害と構成された上で,それに対する金銭賠償がなされれば,平穏生活権侵害ないし居住,移転の自由の侵害に対する救済もなされたとみることとなるとはいっても,それが可能なのは,前提として,上記ないしの本件平穏生 活4要素の少なくとも一部が維持されており,本件平穏生活4要素について,旧生活と新生活とを比較し,新生活においても,本件平穏生活4要素が相互にバランスを保って調和していると判断できるという状況が存在するからにほかならない。 そうすると,本件平穏生活4要素が同時かつ包括的に喪失されたよ うな場合には,旧生活と新生活とを比較し,新生活においても,本件 平穏生活4要素が相互にバランスを保って調和しているかどうかを判断する前提を欠くこととなり,仮に生命・身体の自由,生存権,財産権の侵害を観念できたとしても,それをもって平穏生活権ないし居住,移転の自由の侵害に対する救済もなされたとみることができず,これら権利の侵害について評価し尽くすことができないというべき である。 b 小括以上のとおり,①平穏な日常生活を喪失したことについて生じる精神的苦痛を法的権利との関係で整理し位置づけると,生命・身体の自由,生存権,財産権の侵害を観念できる場合には,それに対する賠償をもっ て,これと連続性を有した人権の一側面であるところの平穏生活権及び居住,移転の自由の侵害についても救済されることとなるが,これに加え,㋐家族とともに暮らしつつ,㋑職場や学校等における活動を通じて自己の人格を発展させ,㋒友人,親戚等当該地域の住民との人的つながりを通じて相互に助け合い又は自己の人格を発展させ,㋓その他当該地 域の自然環境や生活資源の恩恵を受けながら精神的に満ち足りた生活を送るという平穏な生活が同時かつ包括的に喪失さ との人的つながりを通じて相互に助け合い又は自己の人格を発展させ,㋓その他当該地 域の自然環境や生活資源の恩恵を受けながら精神的に満ち足りた生活を送るという平穏な生活が同時かつ包括的に喪失された場合には,生命・身体の自由,生存権,財産権の侵害という構成では評価し尽くせない別段の平穏生活権侵害ないし居住,移転の自由の侵害があったと観念することができ,前記Bの場合(前記1⑷ア[❸-135 頁])に該当する こととなる。 (イ) ②自宅に帰れないことにより生じる精神的苦痛自宅に帰れないことにより生じる精神的苦痛を具体的にみると,その内実は,自宅において平穏な日常生活を送りたくても送ることができないことによる精神的苦痛と,自宅と異なる環境下での生活を余儀なくされるこ とから直接に生じる精神的苦痛とに大別できる。 前者は,前記(ア)で詳述した①平穏な日常生活を喪失したことについて生じる精神的苦痛とその実質を同じくするものである。 また,後者は,③避難生活の不便さから来る精神的苦痛とその実質を同じくすると考えられるところ,この点については後記(ウ)で説明する。 したがって,②自宅に帰れないことにより生じる精神的苦痛は,法的権 利としては,①平穏な日常生活を喪失したことについて生じる精神的苦痛に関して構成される法的権利及び③避難生活の不便さから来る精神的苦痛に関して構成される法的権利に包摂される。 (ウ) ③避難生活の不便さから来る精神的苦痛避難生活の不便さを具体的にみると,その内実は,避難先での生活状況 が,健康で文化的な最低限度の生活水準に達していないという意味での不便さと,健康で文化的な最低限度の生活水準ではあるが,自宅において平穏な日常生活を送る中では得られていた種々の便益を得ることがで が,健康で文化的な最低限度の生活水準に達していないという意味での不便さと,健康で文化的な最低限度の生活水準ではあるが,自宅において平穏な日常生活を送る中では得られていた種々の便益を得ることができないという意味での不便さとに大別することができる。 前者は,端的に生存権の侵害と構成できるから,これに対する金銭賠償 をもって,権利侵害についての評価はし尽くされたとみることができる。 後者は,前記(ア)で詳述した①平穏な日常生活を喪失したことについて生じる精神的苦痛とその実質を同じくするものである。 したがって,③避難生活の不便さから来る精神的苦痛を法的権利として構成すると,避難先での生活状況が,健康で文化的な最低限度の生活水準 に達していない場合には生存権の侵害として,同水準に達しているといえる場合には,①平穏な日常生活を喪失したことについて生じる精神的苦痛に関して構成される法的権利として,それぞれ整理されることとなる。 (エ) ④先の見通しがつかないことによる不安・精神的苦痛先の見通しがつかないことによる不安・精神的苦痛を更に具体的にみる と,その内実は,ⓐ自宅に戻れるかもしれないという希望が時間の経過と ともに失われていくこと,換言すれば,自宅に戻れない状況が固定化することに対する懸念・失望感と,ⓑそのような懸念・失望感を味わわされる状況が更に長期化することへの不安感とに大別することができる。 これらは,平穏な日常生活を喪失したことについて生じる精神的損害の発生過程を,時的要素に着目して捉え直したものといえる。すなわち,平 穏な日常生活の喪失が,時間の経過に伴って固定化されていく過程を念頭に置いた場合,その過程の中の一時点における精神的損害は,既に平穏な日常生活の喪失が確定した部分と,なお未 える。すなわち,平 穏な日常生活の喪失が,時間の経過に伴って固定化されていく過程を念頭に置いた場合,その過程の中の一時点における精神的損害は,既に平穏な日常生活の喪失が確定した部分と,なお未確定な部分とに理念的には分別でき,前者によって生じる精神的損害は,ⓐ自宅に戻れない状況が固定化することに対する懸念・失望感として現れ,後者によって生じる精神的損 害は,ⓑ上記のような懸念・失望感を味わわされる状況が更に長期化することへの不安として現れることになる。 そうすると,④先の見通しがつかないことによる不安・苦痛を法的権利との関係で整理し位置づけると,その内実は,①平穏な日常生活を喪失したことについて生じる精神的苦痛に関して構成される法的権利と同質の ものとして整理され,その権利が侵害される過程でその時々に発生する上記ⓐの懸念・失望感及び上記ⓑの不安感は,最終的に,①平穏な日常生活の喪失の程度が確定した時点で,改めて①平穏な日常生活を喪失したことについて生じる精神的苦痛として法的に構成され直すことができるものと理解することができる。 以上によれば,④先の見通しがつかないことによる不安・苦痛は,法的権利としては,①平穏な日常生活を喪失したことについて生じる精神的苦痛に関して構成される法的権利に包摂される。 (オ) ⑤放射性物質による健康影響に対する恐怖感や不安a ⑤放射性物質による健康影響に対する恐怖感や不安の法的整理 前記のとおり,何人も,平穏安全な生活を営む権利(平穏生活権)及 び居住,移転の自由を有すると解され,その場合の権利侵害の要因としては,無形物質・無体物による生活環境の悪化(騒音,振動,悪臭,大気汚染等)が含まれると解されるから,上記平穏生活権及び居住,移転の自由は,放射性物 由を有すると解され,その場合の権利侵害の要因としては,無形物質・無体物による生活環境の悪化(騒音,振動,悪臭,大気汚染等)が含まれると解されるから,上記平穏生活権及び居住,移転の自由は,放射性物質による健康影響との関係では,放射性物質による健康被害におびえることなく自己の住所又は居所を自由に決定し当地 で生活する権利と意義付けることができる。 (a) 生命・身体の自由や生存権の侵害と構成できる場合前記⑴ア[❸-138 頁],同イ[❸-139 頁]で判示したとおり,無形物質・無体物による悪影響が,生命・身体の自由や生存権の侵害と構成できる場合は,これらに対する賠償をもって,これと連続性を有 した人権の一側面であるところの平穏生活権及び居住,移転の自由,すなわち,放射性物質による健康被害におびえることなく自己の住所又は居所を自由に決定し当地で生活するという意味での平穏生活権及び居住,移転の自由の侵害についても救済されることとなる。ここでいう,生命・身体の自由や生存権の侵害と構成できる場合とは,憲 法25条1項の条理に従えば,健康で文化的な最低限度の生活を営む上で許容される限度を超える悪影響が,当該無形物質・無体物により惹起される場合のことを指すと考えられる。 (b) 生命・身体の自由や生存権の侵害と構成できない場合次に,無形物質・無体物による悪影響が,生命・身体の自由や生存 権の侵害と構成できない場合に,放射性物質による健康被害におびえることなく自己の住所又は居所を自由に決定し当地で生活するという意味での平穏生活権ないし居住,移転の自由の侵害を観念することができるかどうかについて検討する。 この点,放射性物質に限らず,無形物質・無体物の生活環境への悪 影響を考えた場合,これが皆無である生活環境はお 権ないし居住,移転の自由の侵害を観念することができるかどうかについて検討する。 この点,放射性物質に限らず,無形物質・無体物の生活環境への悪 影響を考えた場合,これが皆無である生活環境はおよそ観念し難い。 経済社会の発展により,世界中の至る所で,環境に悪影響を及ぼし得る無形物質・無体物が排出されており,その内容も,産業的な排出物(例えば,工場から排出される煙,汚水,騒音等)のみならず,生活上の排出物(生活排水,近隣施設の騒音,隣人のたばこの煙等)まで,多岐にわたっている。ある人が,ある一定の場所に住居を定めてそこ を平穏安全な環境と認識・判断する過程においては,多かれ少なかれ,明示又は黙示に,これら有害な無形物質・無体物の存在を意識し,これら無形物質・無体物による悪影響というデメリットと,その他の生活環境からもたらされるであろうメリットを比較衡量して,当地を「平穏安全」と任意に評価するのである。したがって,これら無形物 質・無体物による悪影響とは無縁の生活環境は観念できないし,そのような悪影響とは無縁の生活環境を求める権利も法的には見出し難い。 このような無形物質・無体物による悪影響は,常に一定の状態で持続するものではなく,むしろ,経常的に変動するものである。人は, そのような環境の変動が一定程度はあり得ることを前提に,仮に将来のある時点において,無形物質・無体物による悪影響が増大する事態があったとしても,それが,住定時に想定される変動の幅に収まっている限りにおいては,なお「平穏安全」であるという評価の下に,当該場所に任意に住居を定めるのである。 さらに,上記「住定時に想定される変動の幅」は,個々人の属性や価値観によってまさに千差万別である。また,無形物質・無体物による悪影響は,有 の下に,当該場所に任意に住居を定めるのである。 さらに,上記「住定時に想定される変動の幅」は,個々人の属性や価値観によってまさに千差万別である。また,無形物質・無体物による悪影響は,有形的な影響に比べれば五感により認知しにくく,生命・身体の自由や生存権の侵害と構成できる場合は別段,そうでなければ,住定後に無形物質・無体物による悪影響が数値上では増加した としても,その変動の幅が住定時の想定を超えるほどのものであるか どうかという評価については,やはり個々人の属性や価値観によってその結論が大幅に左右されることを避けられない。 そうすると,無形物質・無体物である放射性物質による健康影響に対する恐怖心や不安が生じ,その恐怖心や不安を抱いた当該個人が,住定時に想定していた無形物質・無体物による悪影響の変動の幅を超 えていると感じたとしても,それ自体,生命・身体の自由や生存権の侵害と構成できない場合には,それのみで法的権利侵害を観念することはできない。 しかしながら,他方,当該地域の住定時の生活環境と変動後の生活環境とを客観的に比較して,社会通念に照らし,一般人であれば,そ の生活環境が,住定時に想定されていた無形物質・無体物による悪影響の変動幅を超えて悪化したと判断するであろうと認めるに足りる事情がある場合には,住定時に「平穏安全」と任意に判断する根拠となった利益衡量の前提が覆ることになり,そのような状況下においてまで,悪化した環境での生活を受忍すべきいわれはないから,このよ うな場合には,同悪影響の増加が生命・身体の自由や生存権の侵害と構成できない場合であっても,これとは別に,放射性物質による健康被害におびえることなく自己の住所又は居所を自由に決定し当地で生活する権利に対する侵害すなわ 響の増加が生命・身体の自由や生存権の侵害と構成できない場合であっても,これとは別に,放射性物質による健康被害におびえることなく自己の住所又は居所を自由に決定し当地で生活する権利に対する侵害すなわち平穏生活権ないし居住,移転の自由に対する侵害を独立に観念することができる。 (c) 小括以上みてきたところに従い,⑤放射性物質による健康影響に対する恐怖感や不安を平穏生活権ないし居住,移転の自由の侵害の観点から整理し位置づけると,以下のとおりとなる。 ⅰ 放射性物質による健康影響が,生命・身体の自由や生存権の侵害と 構成できる場合は,放射性物質による健康被害におびえることなく生 活する権利すなわち平穏生活権侵害は,生命・身体の自由や生存権の侵害に包摂される(前記Aの場合に当たる。)。 ⅱ 放射性物質による健康影響が,生命・身体の自由や生存権の侵害と構成できない場合であっても,当該地域の住定時の生活環境と変動後の生活環境とを客観的に比較して,社会通念に照らし,一般人であれ ば,その生活環境が,住定時に想定されていた無形物質・無体物による悪影響の変動幅を超えて悪化したと判断するであろうと認めるに足りる事情がある場合には,放射性物質による健康被害におびえることなく自己の住所又は居所を自由に決定し当地で生活する権利すなわち平穏生活権ないし居住,移転の自由の侵害があったものと構成し 得る(前記Cの場合〈前記1⑷ア[❸-135 頁]〉に当たる。)。 b 他の精神的損害類型(特に①平穏な日常生活を喪失したことについて生じる精神的苦痛)との関係前記(ア)a[❸-143 頁]のとおり,①平穏な日常生活を喪失したことについて生じる精神的苦痛を法的権利として構成した場合,生命・身体 の自由,生存権,財産権の 生じる精神的苦痛)との関係前記(ア)a[❸-143 頁]のとおり,①平穏な日常生活を喪失したことについて生じる精神的苦痛を法的権利として構成した場合,生命・身体 の自由,生存権,財産権の侵害を観念できるときは,それに対する賠償をもって,これと連続性を有した人権の一側面であるところの平穏生活権及び居住,移転の自由の侵害についても救済されることとなるが,これに加え,㋐家族とともに暮らしつつ,㋑職場や学校等における活動を通じて自己の人格を発展させ,㋒友人,親戚等当該地域の住民との人的 つながりを通じて相互に助け合い又は自己の人格を発展させ,㋓その他当該地域の自然環境や生活資源の恩恵を受けながら精神的に満ち足りた生活を送るという本件平穏生活4要素が同時かつ包括的に喪失されたときには,生命・身体の自由,生存権,財産権の侵害という構成では評価し尽くせない別段の平穏生活権侵害ないし居住,移転の自由の侵害 があったと観念することができる。 そうすると,①平穏な日常生活を喪失したことについて生じる精神的苦痛を,生命・身体の自由,生存権,財産権の侵害という構成では評価し尽くせない別段の平穏生活権侵害ないし居住,移転の自由の侵害と構成できる場合と,⑤放射性物質による健康影響に対する恐怖感や不安を,放射性物質による健康被害におびえることなく自己の住所又は居所を 自由に決定し当地で生活する権利すなわち平穏生活権ないし居住,移転の自由に対する侵害があったものと構成できる場合との関係が問題となる。 上記㋐ないし㋓の4要素(本件平穏生活4要素)は,放射性物質による健康被害におびえることなく自己の住所又は居所を自由に決定し,当 地において生活できるという状況を大前提とするものである。そして,これら本件平穏生活4要素 平穏生活4要素)は,放射性物質による健康被害におびえることなく自己の住所又は居所を自由に決定し,当 地において生活できるという状況を大前提とするものである。そして,これら本件平穏生活4要素が同時かつ包括的に喪失された場合というのは,とりもなおさず,放射性物質による健康影響に対する恐怖感や不安が,生命・身体の自由,生存権,財産権の侵害という構成では評価し尽くせない段階に至り,かつ,そのような恐怖感や不安が,広範囲にわ たって集団的に発生していることを前提とするものであるから,このような場合の①平穏な日常生活を喪失したことについて生じる精神的苦痛と⑤放射性物質による健康影響に対する恐怖感や不安は,後者を原因として前者の結果を生じるという意味で,相互に密接不可分な関係にあると考えられる。 そうすると,①平穏な日常生活を喪失したことについて生じる精神的苦痛を平穏生活権侵害ないし居住,移転の自由の侵害と法的に構成できる場合(前記(ア)aの場合)には,⑤放射性物質による健康影響に対する恐怖感や不安は,法的には,①平穏な日常生活を喪失したことについて生じる精神的苦痛に関して構成される法的権利に包摂されることと なり,同法的権利を肯認できない場合に,⑤放射性物質による健康影響 に対する恐怖感や不安についての権利侵害を観念できることとなると解される。 ⑶ まとめ以上みてきたところを総合すると,以下のとおりまとめることができる。 アすなわち,原発事故により従前の居住場所からの避難を余儀なくされた場 合,平穏生活権や居住,移転の自由の侵害を観念することができるが,これらの権利侵害は,多くの場合,第一義的には,これら生命・身体の自由,生存権,財産権の侵害と構成された上で,それに対する金銭賠償がなされれ 穏生活権や居住,移転の自由の侵害を観念することができるが,これらの権利侵害は,多くの場合,第一義的には,これら生命・身体の自由,生存権,財産権の侵害と構成された上で,それに対する金銭賠償がなされれば,平穏生活権侵害ないし居住,移転の自由の侵害に対する救済もなされたとみることとなる(Aの場合に該当。前記⑴ウ[❸-140 頁])。 イしかし,第一義的には,生命・身体の自由,生存権,財産権の侵害と構成できる場合であっても,これに加え,㋐家族とともに暮らしつつ,㋑職場や学校等における活動を通じて自己の人格を発展させ,㋒友人,親戚等当該地域の住民との人的つながりを通じて相互に助け合い又は自己の人格を発展させ,㋓その他当該地域の自然環境や生活資源の恩恵を受けながら精神的に 満ち足りた生活を送るという平穏な生活が同時かつ包括的に喪失されたときは,生命・身体の自由,生存権,財産権の侵害という構成では評価し尽くせない別段の平穏生活権侵害ないし居住,移転の自由の侵害があったと観念することができる(Bの場合に該当。前記⑵イ(ア)b[❸-146 頁])。 ウまた,第一義的にみれば,生命・身体の自由,生存権,財産権の侵害と構 成できない場合であっても,当該地域の住定時の生活環境と変動後の生活環境とを客観的に比較して,社会通念に照らし,一般人であれば,その生活環境が,住定時に想定されていた無形物質・無体物による悪影響の変動幅を超えて悪化したと判断するであろうと認めるに足りる事情がある場合には,放射性物質による健康被害におびえることなく自己の住所又は居所を自由に 決定し当地で生活する権利すなわち平穏生活権ないし居住,移転の自由に対 する侵害があったと観念することができる(Cの場合に該当。前記⑵イ(オ)a(c)[❸-15 又は居所を自由に 決定し当地で生活する権利すなわち平穏生活権ないし居住,移転の自由に対 する侵害があったと観念することができる(Cの場合に該当。前記⑵イ(オ)a(c)[❸-151 頁])。 第2 本件平穏生活4要素が同時かつ包括的に喪失したとして平穏生活権侵害ないし居住,移転の自由の侵害を肯認できる場合(Bの場合)の慰謝料について 1 当裁判所の判断の結論 当裁判所は,本件平穏生活4要素が同時かつ包括的に喪失したか否かは,その被侵害利益の性質等に照らし,避難指示ないし避難要請(避難指示等)の有無によって判断すべきであり,かつ,その場合の損害額(慰謝料額)は,避難指示等の内容,範囲,継続期間等を勘案して,避難指示等が出された時点において確定的に発生した平穏生活権ないし居住,移転の自由の侵害の程度を一括して,裁判 所が公平の観念に従い量定すべきと考える。その上で,当裁判所は,その際の基準となる慰謝料額を,資料36(第6分冊)の「当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)」欄記載のとおりと定めるものである。以下,詳述する。 2 当裁判所の判断の理由⑴ 具体的要件について この場合は,本件平穏生活4要素,すなわち,㋐家族とともに暮らしつつ,㋑職場や学校等における活動を通じて自己の人格を発展させ,㋒友人,親戚等当該地域の住民との人的つながりを通じて相互に助け合い又は自己の人格を発展させ,㋓その他当該地域の自然環境や生活資源の恩恵を受けながら精神的に満ち足りた生活が同時かつ包括的に喪失したと認められる場合であるとこ ろ,具体的にどのようなときに本件平穏生活4要素が同時かつ包括的に喪失したといえるかが問題となる。 ア本件平穏生活4要素が同時かつ包括的に喪失したといえる場合について放射線ないし とこ ろ,具体的にどのようなときに本件平穏生活4要素が同時かつ包括的に喪失したといえるかが問題となる。 ア本件平穏生活4要素が同時かつ包括的に喪失したといえる場合について放射線ないし放射性物質は不可視的であり,人の五感で察知することのできないものであるから,その重大性についての受け取り方は人それぞれであ る。たとえ測定器上の放射線量が平時より高い値を示していたとしても,外 見的にみれば,自宅も,周辺地域も,事故前と変わらぬ姿をしているのであるから,人によっては,当地での生活継続を強く望んでも無理からぬところがあるし,むしろ,当人の生命・身体に不当な影響を及ぼさない範囲で,そのような生活継続の意思は尊重されなければならないものである。したがって,一定程度の放射線ないし放射性物質が拡散されたとしても,その程度に 応じて地域コミュニティが毀損されていくとは必ずしもいい難く,両者の関係は,直線的なものとはいい難い。反面,その後,測定器上の放射線量が低下したとしても,外見的にみれば,自宅も,周辺地域も,高線量が示されていた時期と何ら変わらぬ姿をしているのであるから,人によっては,当地での生活再建に強い懸念を覚えても無理からぬところがあるし,むしろそのよ うな意思は尊重されなければならないものである。したがって,一定程度の放射線量の減少が認められたとしても,その程度と地域コミュニティの再建との関係は,これも必ずしも直線的なものとはいい難い。 このように,放射線ないし放射性物質が地域コミュニティに与える影響は,その喪失の局面においても,再建の局面においても,これを直線的に評価す ることが困難であり,放射線量が上昇したから地域コミュニティが崩壊したとも直截にはいい難いし,放射線量が下降したから地域コミ の喪失の局面においても,再建の局面においても,これを直線的に評価す ることが困難であり,放射線量が上昇したから地域コミュニティが崩壊したとも直截にはいい難いし,放射線量が下降したから地域コミュニティの再建が可能であるとも直截にはいい難いという関係にある。 そうだとすると,本件平穏生活4要素が喪失したか否かは,殊に放射線ないし放射性物質による影響との関係では,実体的な放射線リスクの大小によ って純科学的に判断すべきものではなく,当該地域コミュニティの存立を不可能ならしめるような社会的事情があったか否かという観点から判断すべきものと解される。そして,そのような社会的事情としては,放射線リスクの重大性の受け取り方が人それぞれである以上,当該地域コミュニティの存立を不可能ならしめるものであるか否かの判断が構成員個人によって区々 になるようなものでは足りず(例えば,断片的な報道や,抽象的な専門家の 意見,家族・知人等による助言など),当該地域コミュニティに属する構成員全員に等しく影響するものでなければならないと解される。 そうすると,本件平穏生活4要素が同時かつ包括的に喪失したか否かは,当該地域コミュニティに属する構成員に等しく影響する事情の有無,すなわち,避難指示ないし避難要請(避難指示等)の有無によって判断すべきと解 される。なお,避難指示等の区域割りは,必ずしも,当該地域コミュニティの広がりや関係性を正確に反映したものではないから,避難指示等が出された地域に近接する地点に住居を構えていた場合であって,証拠上,その生活圏が,避難指示等が出された地域のコミュニティに含まれていると認められる場合は,避難指示等が出された場合に準じて本件平穏生活4要素が同時か つ包括的に喪失したと認められる場合があり得 その生活圏が,避難指示等が出された地域のコミュニティに含まれていると認められる場合は,避難指示等が出された場合に準じて本件平穏生活4要素が同時か つ包括的に喪失したと認められる場合があり得る。 イ侵害の程度について前記アで判示したとおり,原発事故を原因とする本件においては,本件平穏生活4要素が同時かつ包括的に喪失したとして平穏生活権侵害ないし居住,移転の自由の侵害を観念できるかどうかを判断するに当たっては,避難 指示ないし避難要請(避難指示等)の有無によって判断することとなる。 そして,この場合の損害は,本件平穏生活4要素,すなわち,㋐家族とともに暮らしつつ,㋑職場や学校等における活動を通じて自己の人格を発展させ,㋒友人,親戚等当該地域の住民との人的つながりを通じて相互に助け合い又は自己の人格を発展させ,㋓その他当該地域の自然環境や生活資源の恩 恵を受けながら精神的に満ち足りた生活を送るという平穏な生活に相当する利益状態が喪失したことと定義付けることができる。以下の判示においては,この損害を,原告ら主張の「ふるさと喪失・生活破壊慰謝料」と区別して,「当裁判所が認めるふるさと喪失損害(B)」と呼称し,これに対応する慰謝料(財産的損害がある場合は,別途の損害を構成する。)を「当裁判所が認 めるふるさと喪失慰謝料(B)」と呼称する。 上記利益状態の喪失の程度を損害額として算定するに当たっては,避難指示等の内容,範囲,継続期間等を勘案して,裁判所が公平の観念に従い量定すべきと解される。 なお,避難指示等により,本件平穏生活4要素が同時かつ包括的に喪失したと評価できる状況に一旦陥った以上,その後,避難指示等が解除され,結 果的に本件平穏生活4要素を再建することが期待できるとしても,その再建 等により,本件平穏生活4要素が同時かつ包括的に喪失したと評価できる状況に一旦陥った以上,その後,避難指示等が解除され,結 果的に本件平穏生活4要素を再建することが期待できるとしても,その再建には相当の時間を要すると考えられるし,改めて本件平穏生活4要素を再建するといっても,これを構成すべき人的つながりや物的資源について,同喪失前のそれらと同一のものが残存していてこれらを活用できるとは限らないのであるから,避難指示等が解除された地域であっても,当裁判所が認め るふるさと喪失損害(B)を観念することができるというべきである(その意味で,当裁判所は,当裁判所が認めるふるさと喪失損害(B)の肯否に当たり,本件平穏生活4要素の喪失の「不可逆性」を要件と考えない。)。 他方,避難指示等の解除が比較的早期に実現された場合は,これに長期間を要した場合と比較して,本件平穏生活4要素の再建に当たり,その喪失前 の人的つながりや物的資源を活用できる可能性が高まり,結果として,本件平穏生活4要素の喪失による権利侵害の程度が限定されることとなると考えられるから,避難指示等の解除の有無は,上記のとおり,その権利侵害の程度ひいては損害額算定に当たっての考慮要素となると考えられる。 ⑵ 損害算定の手法について 中間指針等は,避難に係る精神的損害の額として,1人月額10万円を目安としつつ,避難指示解除準備区域,居住制限区域又は帰還困難区域の設定がなされた後は,居住制限区域の住民については,1人月額10万円を目安とした上,概ね2年分をまとめて1人240万円の請求をすることができるものとし,帰還困難区域の住民については,実際の避難指示解除までの期間を問わず一律 に算定することとして,第3期の始期(避難指示区域見直し時点)から賠償終 0万円の請求をすることができるものとし,帰還困難区域の住民については,実際の避難指示解除までの期間を問わず一律 に算定することとして,第3期の始期(避難指示区域見直し時点)から賠償終 期までの期間について,1人600万円を目安としている(前記第4章第2節第5,2[❷-139 頁])。このように,中間指針等は,慰謝料の算定に当たり,原則として,月単位又は日単位の基準損害額を定めて,これに損害期間を乗じて算定するという手法をとっている。 また,原告らは,その主張する「避難生活の労苦に伴う慰謝料(避難慰謝料)」 の算定手法として,中間指針等と同様に,月単位の基準損害額を定め,これに避難期間を乗じて算定するという手法をとっている。 しかしながら,当裁判所が前記第1において整理したところによれば,当裁判所が認めるふるさと喪失損害(B)を肯認できる場合,本件平穏生活4要素の喪失自体は,避難指示等が出された時点において確定的に発生し,その後一定 期間にわたって継続するという性質のものであって,日を追うごとに断続的に権利侵害が発生するという性質のものではないと解される。 また,前記⑴で判示したとおり,本件平穏生活4要素が同時かつ包括的に喪失した場合,その権利侵害の程度を推し量るに当たっては,本件平穏生活4要素の再建に当たり,その喪失前の人的つながりや物的資源をどの程度活用でき るかという意味で,避難指示等の継続期間を考慮することとなるが,そのような人的つながりや物的資源の活用可能性が,避難指示等の継続期間に比例して変動するとは考え難い。 そうすると,当裁判所が認めるふるさと慰謝料の算定に当たっては,月単位又は日単位の基準損害額を定めて,これに損害期間を乗じて算定するという手 法をとるよりは,避難指示等が出 るとは考え難い。 そうすると,当裁判所が認めるふるさと慰謝料の算定に当たっては,月単位又は日単位の基準損害額を定めて,これに損害期間を乗じて算定するという手 法をとるよりは,避難指示等が出された時点において確定的に発生した平穏生活権ないし居住,移転の自由の侵害の程度を一括して算定する(ただし,その算定の基礎事情として,避難指示等の継続期間を考慮する。)という手法によるのが自然というべきである。その意味で,当裁判所は,当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)の算定においては,中間指針等や原告らと考え方を異に するものである。 ⑶ 具体的な損害額算定基準についてア帰還困難区域前記第1の2⑶イで判示したとおり,本件平穏生活4要素,すなわち,㋐家族とともに暮らしつつ,㋑職場や学校等における活動を通じて自己の人格を発展させ,㋒友人,親戚等当該地域の住民との人的つながりを通じて相互 に助け合い又は自己の人格を発展させ,㋓その他当該地域の自然環境や生活資源の恩恵を受けながら精神的に満ち足りた生活を送るという平穏な生活が同時かつ包括的に喪失したと認められる場合,当裁判所が認めるふるさと喪失損害(B)を肯認できる。 そして,仮に生命・身体の自由,生存権,財産権の侵害を契機に従前の住 居からの移転を余儀なくされた場合であっても,上記㋐ないし㋓の本件平穏生活4要素について,旧生活と新生活とを比較し,新生活においても,本件平穏生活4要素が相互にバランスを保って調和していると判断できない状況に陥ることはまれである(前記第1,2⑵イ(ア)a(b)[❸-146 頁])。人は,何らかの理由によりその居住地を変更して従前の生活環境から離脱する 場合においても,本件平穏生活4要素の調和を保ちながら連続性のある生活 第1,2⑵イ(ア)a(b)[❸-146 頁])。人は,何らかの理由によりその居住地を変更して従前の生活環境から離脱する 場合においても,本件平穏生活4要素の調和を保ちながら連続性のある生活環境を維持しながら生活を組み立てていくものであって,そのような連続性が突如として断ち切られることは,自身の人生そのものの基盤を喪失することにほかならない。とりわけ,帰還困難区域に住居を有していた避難者にとっては,本件事故後7年以上を経過した現在においても,本件平穏生活4要 素の再建に向けた見通しは何ら立っていないのであるから,これにより生ずる精神的損害は甚大というほかない。 他方,本件においては,本件事故を直接の原因とする死者は発生しなかったが,原賠法上の原子力損害の範囲を検討するとき,比較の対象として想定すべき事例として,本件同様に原子力発電所から放射性物質ないし放射能が 漏えいし,その影響で周辺住民が死亡したという事例を考慮に入れないわけ にはいかない。そのような場合は,端的に死亡慰謝料を算定することとなるが,公益社団法人日弁連交通事故相談センター東京支部発表の「民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準」上巻(基準編)(以下「赤い本」という。)の最新のもの(平成30年版)によっても,死亡慰謝料は一家の支柱で2800万円とされていることを勘案すると,上記想定される原発事故死亡者の死亡 慰謝料も,これと同程度の額になると考えられる(交通事故による死亡者も,何ら理由もなく生命を突然奪われたという点において,原発事故による死亡者とその精神的損害の額を別異に解すべき理由はない。)。 さらに,赤い本によれば,後遺障害別等級が第1級の場合(例えば,両眼を失明した場合,両上肢の用を全廃した場合,両下肢の用を全廃した場合な その精神的損害の額を別異に解すべき理由はない。)。 さらに,赤い本によれば,後遺障害別等級が第1級の場合(例えば,両眼を失明した場合,両上肢の用を全廃した場合,両下肢の用を全廃した場合な ど)の後遺症慰謝料は2800万円を基準とし,同等級が第5級の場合(例えば,1眼が失明し,他眼の視力が0.1以下になった場合,1上肢の用を全廃した場合,1下肢の用を全廃した場合など)の後遺症慰謝料は,1400万円を基準とするとされている。 以上によれば,帰還困難区域に居住していた避難者に関する当裁判所が認 めるふるさと喪失損害(B)が甚大なものであるとはいっても,死亡や後遺症の場合に想定される慰謝料等を勘案すれば,身体的傷害を前提としない当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)の額としては,1500万円をもって相当というべきである。 イ居住制限区域(5年以上) 居住制限区域の中でも,その解除までに5年以上を要した地域については,その間,幼児は小学生に,小学校高学年であった子どもは思春期を迎えて高校生に,大学受験準備中であった高校生は大学を卒業して社会人になったのであって,それだけの期間放置された地域コミュニティは実質的に崩壊したというほかはないのであるから,同地域に居住していた避難者の精神的損害 は,帰還困難区域に居住していた避難者に匹敵するものがあるといえる。 そこで,帰還困難区域とは異なり現に避難指示が解除され,本件平穏生活4要素の再建が曲がりなりにも緒に就いていることも勘案し,居住制限区域(5年以上)に居住していた者の当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)の額は,1300万円をもって相当というべきである。 ウ居住制限区域(5年未満) 居住制限区域のうち,本件事故後5年を経過するより以前に していた者の当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)の額は,1300万円をもって相当というべきである。 ウ居住制限区域(5年未満) 居住制限区域のうち,本件事故後5年を経過するより以前に避難指示が解除された地域についても,本件平穏生活4要素が同時かつ包括的に喪失したという事情に差異はない。その後,避難指示等が解除され,結果的に本件平穏生活4要素を再建することが期待できるとしても,そのための人的つながりや物的資源は,避難指示等の継続期間中に大きく変容したものと考えられ, 本件事故前に自発的に営まれ構築されていた生活環境とは大きく異なる。 そうであるとすれば,居住制限区域のうち,本件事故後5年を経過するより以前に避難指示が解除された地域については,解除までに5年以上を要した地域ほどではないにしても,相当程度の本件平穏生活4要素の喪失があったと評価できるものであるから,避難指示等の解除により本件平穏生活4要 素の再建が緒に就いていることも勘案し,当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)の額は,1000万円をもって相当というべきであるエ避難指示解除準備区域(5年以上)避難指示解除準備区域は,年間積算線量が20mSv 以下となることが確実であることが確認されていたとしても,長期間にわたって,同区域において 生活することができないという意味では,居住制限区域とその損害の実質を異にしない。とりわけ,避難指示解除準備区域に指定された地域のうち,その解除に5年以上を要した地域の多くは,隣接する居住制限区域と同時に避難指示の解除がなされている(資料30(第6分冊)参照)のであって,その本件平穏生活4要素の喪失の程度を軽くみることはできない。 そうすると,福島第一原発との位置関係や,居住制限区域・避難指示解除 解除がなされている(資料30(第6分冊)参照)のであって,その本件平穏生活4要素の喪失の程度を軽くみることはできない。 そうすると,福島第一原発との位置関係や,居住制限区域・避難指示解除 準備区域の定義付け(前者は年間積算線量が20mSv を超えるおそれがあるとされる地域,後者は年間積算線量が20mSv 以下となることが確実であることが確認されたとされる地域〈前記第4章第2節第4,5[❷-131 頁]〉)に照らしてみても,避難指示解除準備区域(5年以上)の本件平穏生活4要素の喪失の程度は,居住制限区域(5年以上)のそれに匹敵するものという ことができるから,避難指示解除準備区域(5年以上)に居住していた者の当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)の額は,1200万円をもって相当というべきである。 オ避難指示解除準備区域(5年未満)避難指示解除準備区域のうち,本件事故後5年を経過するより以前に避難 指示が解除された地域についても,長期間にわたって,同区域で生活することができないという意味で居住制限区域に匹敵する本件平穏生活4要素の喪失があったといえる。 そうすると,福島第一原発との位置関係や,居住制限区域・避難指示解除準備区域の定義付け(前記エ)も勘案し,避難指示解除準備区域(5年未満) に居住していた者の当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)の額は,900万円をもって相当というべきである。 カ特定避難勧奨地点(南相馬市)本件訴訟において,特定避難勧奨地点(南相馬市)に居住していた原告はいない。 なお,特定避難勧奨地点は,同地点を除く地域コミュニティは,原則として従前どおりの機能を有しており,もっぱら,同地点に指定された家屋にて生活していた居住者が,本件平穏生活4要素がもた い。 なお,特定避難勧奨地点は,同地点を除く地域コミュニティは,原則として従前どおりの機能を有しており,もっぱら,同地点に指定された家屋にて生活していた居住者が,本件平穏生活4要素がもたらす利益を享受することができなくなったという特徴があり,同地点の避難指示が解除されれば,とりあえずその周辺の地域コミュニティからの恩恵を享受できる環境は整っ ているという意味において,避難指示解除準備区域における本件生活4要素 の喪失とは,その喪失の程度を相当に異にするというべきである。当裁判所の考え方に従って,南相馬市の特定避難勧奨地点の当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)の額を算定するとするならば,600万円程度となろう。 キ南相馬市避難要請区域南相馬市避難要請区域についても,避難要請が出された以上,本件平穏生 活4要素が同時かつ包括的に喪失されたという事情に差異はない。 しかしながら,南相馬市の避難要請は,平成23年4月22日には解除され,同解除後の生活の基盤となる地域コミュニティは,概ね,避難要請前の人的つながりや物的資源を活用して自発的に再建され得る状況にあったというべきであるから,当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)の額も,相 当程度限定的なものにならざるを得ない。 そうすると,今も地域コミュニティの再建の見通しがつかない帰還困難区域や,長期間にわたり地域コミュニティが放置されていたに等しい居住制限区域・避難指示解除準備区域に居住していた者に関する当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)の額との均衡を考慮すれば,南相馬市避難要請区域に 居住していた者については,当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)の額は,150万円を超えることはないというべきである。 ⑷ 当裁判所が認めるふる 均衡を考慮すれば,南相馬市避難要請区域に 居住していた者については,当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)の額は,150万円を超えることはないというべきである。 ⑷ 当裁判所が認めるふるさと喪失損害(B)のまとめ以上の次第で,当裁判所は,本件平穏生活4要素が同時かつ包括的に喪失した場合の「当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)」の額の基準について, 資料36(第6分冊)の「当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)」欄記載のとおりと定めるものである。 第3 放射性物質による健康被害におびえることなく自己の住所又は居所を自由に決定し当地で生活する権利すなわち平穏生活権ないし居住,移転の自由に対する侵害を肯認できる場合(Cの場合)の慰謝料について 1 当裁判所の判断の結論 当裁判所は,当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)を肯認できない場合であっても,屋内退避区域や緊急時避難準備区域を含めた浜通り並びに中通り北部及び中部に住居を有していたときは,当裁判所が認める自己決定権侵害(C)の発生を肯認でき,その場合の慰謝料の額は,避難指示等が出された地域,屋内退避区域ないし緊急時避難準備区域と,当該住居地との位置関係や,当該住居地付近 で現に計測された残留放射線量の数値等を考慮して,一般人の観点から判断される「健康に悪影響を及ぼし得る放射性物質の飛来の可能性」の程度に応じて量定すべきと考える。その上で,当裁判所は,その際の基準となる慰謝料額を,資料36(第6分冊)の「当裁判所が認める自己決定権侵害慰謝料(C)」欄記載のとおりと定めるものである。以下,詳述する。 2 当裁判所の判断の理由⑴ 具体的要件について第一義的にみれば,生命・身体の自由,生存権,財産権の侵害と構成できない場合で )」欄記載のとおりと定めるものである。以下,詳述する。 2 当裁判所の判断の理由⑴ 具体的要件について第一義的にみれば,生命・身体の自由,生存権,財産権の侵害と構成できない場合であっても,当該地域の住定時の生活環境と変動後の生活環境とを客観的に比較して,社会通念に照らし,一般人であれば,その生活環境が,住定時 に想定されていた無形物質・無体物による悪影響の変動幅を超えて悪化したと判断するであろうと認めるに足りる事情がある場合には,放射性物質による健康被害におびえることなく自己の住所又は居所を自由に決定し当地で生活する権利すなわち平穏生活権ないし居住,移転の自由に対する侵害があったと観念することができる(前記第1,2⑶ウ[❸-154 頁])。 このような権利侵害は,当地で生活するかどうかの自己決定権(平穏生活権ないし居住,移転の自由に内在する権利と解される。)に対する侵害の側面が強いから,以下の判示においては,同権利に関する侵害・損害を,原告らが主張する「ふるさと喪失・生活破壊慰謝料」と区別して,「当裁判所が認める自己決定権侵害(C)」と呼称し,これに対応する慰謝料(財産的損害がない場合 であるから,「当裁判所が認める自己決定権侵害(C)」に該当する具体的損害 項目は,精神的損害にほかならない。)を「当裁判所が認める自己決定権侵害慰謝料(C)」と呼称する。 そこで,いかなる具体的場合に当裁判所が認める自己決定権侵害(C)を肯認できるかが問題となる。 ア当裁判所が認める自己決定権侵害(C)を肯認できる具体的場合について この点,避難指示等は出されていないものの,これに次ぐ指示(屋内退避指示)や区域指定(緊急時避難準備区域)がなされている地域については,本件事故前の生活環境と を肯認できる具体的場合について この点,避難指示等は出されていないものの,これに次ぐ指示(屋内退避指示)や区域指定(緊急時避難準備区域)がなされている地域については,本件事故前の生活環境と,本件事故後,とりわけ上記指示・区域設定がなされた後の生活環境を客観的に比較すれば,健康に悪影響を及ぼし得る放射性物質の飛来の可能性(既に飛来し沈着した放射性物質からの被ばくのおそれ 及び今後新たに放射性物質が飛来して被ばくするおそれをいずれも含む)を否定できない状況下にあったのであるから,社会通念に照らし,一般人であれば,このような状況に陥ったことは,住定時に想定されていた無形物質・無体物による悪影響の変動幅を超えて悪化したと判断するであろうと認めることができる。したがって,屋内退避指示が出された地域や,緊急時避難 準備区域に指定された地域から避難した場合に,当裁判所が認める自己決定権侵害(C)を肯認することは容易であると考えられる。 ところで,これら屋内退避指示や緊急時避難準備区域の指定は,本件事故直後の混乱した状況下において暫定的になされた措置であって,ここでいうところの「健康に悪影響を及ぼし得る放射性物質の飛来の可能性を否定でき ない状況」に特にはっきりした科学的・実体的根拠があるわけではない。すなわち,屋内退避指示や緊急時避難準備区域の指定がなされなかった地域について「健康に悪影響を及ぼし得る放射性物質の飛来の可能性」が否定できる状況であったわけではない。そして,浜通りの地域(相馬市,南相馬市,いわき市)は,福島第一原発と同一の生活文化圏に属すること,中通り北部 は,本件事故により飛散した放射性物質の飛散方向の延長線上にあること, 中通り中部は,福島第一原発と阿武隈高地を挟んで隣り合っているとい と同一の生活文化圏に属すること,中通り北部 は,本件事故により飛散した放射性物質の飛散方向の延長線上にあること, 中通り中部は,福島第一原発と阿武隈高地を挟んで隣り合っているという地理関係にあること,空間線量率の計測結果(前記第4章第2節第8[❷-171頁])に照らせば,飛散した放射性物質は,浜通りのみならず,阿武隈高地を乗り越えて中通り地域にも相当程度降下したとうかがわれることのほか,放射性物質の影響の有無については,何ら五感で察知することができず,急性 影響が生じたのでなければ,被ばく後数か月以上を経過して初めて症状が出る(晩発影響。前記第4章第5節第1,5⑴[❷-263 頁])ものであることをも踏まえ,社会通念に照らし,一般人を基準に考えれば,少なくとも,福島県のいわゆる浜通り並びにいわゆる中通りの北部及び中部についても,「健康に悪影響を及ぼし得る放射性物質の飛来の可能性を否定できない状 況」であることに変わりはなかったというべきである。 したがって,屋内退避指示や緊急時避難準備区域に指定された地域以外の地域から避難した場合であっても,従前の住居が,少なくとも,福島県のいわゆる浜通り並びにいわゆる中通りの北部及び中部に位置していた場合には,当裁判所が認める自己決定権侵害(C)を肯認することができる(なお, 福島県のうち上記以外の地域及び他県に居住する者については,損害論の各論において個別に認定説示する。)。 イ侵害の程度について前記のとおり,当裁判所が認める自己決定権侵害慰謝料(C)は,当該地域の住定時の生活環境と変動後の生活環境とを客観的に比較して,社会通念に 照らし,一般人であれば,その生活環境が,住定時に想定されていた無形物質・無体物による悪影響の変動幅を超えて悪化したと判 の住定時の生活環境と変動後の生活環境とを客観的に比較して,社会通念に 照らし,一般人であれば,その生活環境が,住定時に想定されていた無形物質・無体物による悪影響の変動幅を超えて悪化したと判断するであろうと認めるに足りる事情がある場合に認められるべきものであり,本件事故に関していえば,社会通念に照らし,一般人を基準に考えれば,「健康に悪影響を及ぼし得る放射性物質の飛来の可能性を否定できない状況」が認められる地 域,すなわち,屋内退避区域や緊急時避難準備区域を含めた浜通り並びに中 通り北部及び中部に住居を有していた者について認めることができるものである。 このような被侵害利益の内容に照らせば,その侵害の程度ひいては当裁判所が認める自己決定権侵害慰謝料(C)の額を定めるに当たっては,社会通念に照らし,一般人を基準に考えた場合の「健康に悪影響を及ぼし得る放射性 物質の飛来の可能性」の程度に応じて,裁判所が公平の観念に従い量定すべきこととなる。この場合の「健康に悪影響を及ぼし得る放射性物質の飛来の可能性」の程度を判断する場合の考慮要素は,放射線医学や疫学研究上の専門的知見は直接的な基準とはならないと解すべきであって,避難指示等が出された地域,屋内退避区域ないし緊急時避難準備区域と,当該住居地との位 置関係や,当該住居地付近で現に計測された残留放射線量の数値等を考慮して,一般人の観点から,「健康に悪影響を及ぼし得る放射性物質の飛来の可能性」の程度を判断すべきと解される。 ウ小括以上判示してきたところをまとめると,以下のとおりとなる。 (ア) 当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)(前記第2[❸-155 頁])を肯認できない場合であっても,屋内退避区域や緊急時避難準備区域を含めた浜通り並び ると,以下のとおりとなる。 (ア) 当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)(前記第2[❸-155 頁])を肯認できない場合であっても,屋内退避区域や緊急時避難準備区域を含めた浜通り並びに中通り北部及び中部に住居を有していたときは,当裁判所が認める自己決定権侵害(C)の発生を肯認できる。 (イ) 当裁判所が認める自己決定権侵害慰謝料(C)の額は,避難指示等が出 された地域,屋内退避区域ないし緊急時避難準備区域と,当該住居地との位置関係や,当該住居地付近で現に計測された残留放射線量の数値等を考慮して,一般人の観点から判断される「健康に悪影響を及ぼし得る放射性物質の飛来の可能性」の程度に応じて量定する。 ⑵ 損害算定の手法について 屋内退避区域や緊急時避難準備区域を含めた浜通り並びに中通り北部及び 中部に住居を有していた者が本件事故により避難した場合,避難により,放射性物質による健康被害に対する恐怖心や不安は一応解消され,これをもって,放射性物質による健康被害におびえることなく自己の住所又は居所を自由に決定し当地で生活する権利に対する侵害は確定的に発生したことになると解される。そうすると,当裁判所が認める自己決定権侵害慰謝料(C)は,避難期 間中に日を追うごとに断続的に権利侵害が発生するという性質のものとは認め難い。 そうであるとすれば,当裁判所が認める自己決定権侵害慰謝料(C)の算定に当たっては,月単位又は日単位の基準損害額を定めて,これに損害期間を乗じて算定するという手法をとるよりは,本件事故又はその後に避難を余儀なくさ れた時点において確定的に発生した平穏生活権ないし居住,移転の自由の侵害の程度を一括して算定するという手法によるのが自然というべきである。 ⑶ 具体的な損害額算定基準 の後に避難を余儀なくさ れた時点において確定的に発生した平穏生活権ないし居住,移転の自由の侵害の程度を一括して算定するという手法によるのが自然というべきである。 ⑶ 具体的な損害額算定基準について前記⑵で判示したところの「本件事故又はその後に避難を余儀なくされた時点において確定的に発生した平穏生活権ないし居住,移転の自由の侵害の程度」 は,緊急時避難準備区域や屋内退避区域と,避難指示等が出されていないその余の地域とでは,自ずと異なると考えられる。以下個別に検討する。 ア緊急時避難準備区域緊急時避難準備区域に指定された地域は,本件事故の状況がいまだ安定しておらず,今後なお,緊急時に屋内退避や避難の対応が求められる可能性が 否定できない状況にあるとされ,避難指示には至らないまでも自主的避難が奨励され,子ども,妊婦,要介護者,入院患者等の立入りが制限されたり,各種教育機関が休所,休園又は休校となるといった状況下にあった(前記第4章第2節第4,4⑴[❷-129 頁])のであるから,同区域の住民は,今後,いつ何時健康に影響を及ぼすほどの放射性物質が降下しないとも限らず,か つ,そのような降下の有無について,何ら五感で察知することができず,も っぱら行政機関の評価と個人的な線量計測結果に依存して判断せざるを得ないという,極めて困難な状況におかれていたものである。そのような状況下,目に見えず,その他五感で何ら察知し得ない有害物質への曝露の恐怖にさらされ続ける精神的苦痛は察するに余りあるものがあり,放射性物質による健康被害におびえることなく自己の住所又は居所を自由に決定し当地で 生活する権利に対する侵害の程度は甚だしいというべきである。 このような環境の悪化を社会通念に照らしてみれば,同地域を住居地 る健康被害におびえることなく自己の住所又は居所を自由に決定し当地で 生活する権利に対する侵害の程度は甚だしいというべきである。 このような環境の悪化を社会通念に照らしてみれば,同地域を住居地と定めた一般人にとって,その際に想定していた無形物質・無体物による悪影響の変動幅を著しく逸脱するものであることは明らかである。そして,緊急時避難準備区域の指定自体は,平成23年9月30日をもって解除されたもの ではあるが,社会的にみれば,緊急時避難準備区域に指定されていたことそのものが,無形物質・無体物による悪影響の可能性を一定程度推知させるものとして一般人の意思決定に影響を及ぼし得るものであるから,同日の解除をもって,当該地域のコミュニティの存立基盤に対する悪影響が消退したということはできない。このように考えると,上記のような環境の悪化が平穏 生活権ないし居住,移転の自由に及ぼす侵害の程度は,一時的に本件平穏生活4要素を喪失した場合(すなわち当裁判所が認めるふるさと喪失損害(B)を肯認できる場合)にも比肩すべき重大なものであるというべきである。 そうすると,当裁判所は,平成23年4月22日に避難要請が解除された南相馬市避難要請区域については,当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料 (B)の額を150万円と定めているところ,福島第一原発との位置関係についてみると,緊急時避難準備区域は南相馬市避難要請区域よりも更に至近にあることも考慮すれば,緊急時避難準備区域に居住していた住民の被った精神的苦痛は,南相馬市避難要請区域以上に強度のものであったということができる。そこで,緊急時避難準備区域に居住していた者について,当裁判所 が認める自己決定権侵害慰謝料(C)の額は,250万円をもって相当と認め る。 イ旧屋 あったということができる。そこで,緊急時避難準備区域に居住していた者について,当裁判所 が認める自己決定権侵害慰謝料(C)の額は,250万円をもって相当と認め る。 イ旧屋内退避区域屋内退避区域は,本件事故直後,放射性物質の飛散状況等の情報も限定される中,暫定的に,福島第一原発から半径20㎞以上30㎞圏内について,住民は外出せず,自宅等,屋内に待機するよう指示がなされたというもの(前 記第4章第2節第4,1[❷-127 頁])であったところ,その後,屋内退避区域の大部分は緊急時避難準備区域に再編されたものの,いわき市の一部については,同区域の指定がなされなかったものである。屋内退避区域のうち,緊急時避難準備区域に再編されなかった地域(旧屋内退避区域)についても,今後,いつ何時健康に影響を及ぼすほどの放射性物質が降下しないとも限ら ず,かつ,そのような降下の有無について,何ら五感で察知することができず,もっぱら行政機関の評価と個人的な線量計測結果に依存して判断せざるを得ないという,極めて困難な状況におかれていたこと自体には変わりがない。再編により,緊急時避難準備区域と指定されなかったとはいっても,その理由もまた,もっぱら行政機関の線量評価に依存したものであり,いった んは外出を禁じられる事態に陥った以上,実際には健康に影響を及ぼすほどの放射性物質が降下していて単にそれに気付いていないだけなのではないかという恐怖心が芽生えることはもとより当然であって,それによる精神的苦痛も看過することはできない。そうすると,旧屋内退避区域の住民についても,放射性物質による健康被害におびえることなく自己の住所又は居所を 自由に決定し当地で生活する権利に対して,相応の侵害が生じたというべきである。 しかし ると,旧屋内退避区域の住民についても,放射性物質による健康被害におびえることなく自己の住所又は居所を 自由に決定し当地で生活する権利に対して,相応の侵害が生じたというべきである。 しかしながら,屋内退避区域の指定自体は平成24年4月22日には解除されているところ,緊急時避難準備区域は,その後5か月間にわたって,前同様の状況が継続していたものであるから,このような指定期間の差に照ら してみれば,旧屋内退避区域における環境の悪化が平穏生活権ないし居住, 移転の自由に及ぼす侵害の程度は,緊急時避難準備区域に指定された地域のそれとは相当程度異なるといわざるを得ない。 そうすると,屋内退避区域と同じく平成23年4月22日までに避難要請が解除された南相馬市避難要請区域について,当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)の額が150万円であることを勘案すれば,屋内退避区域につ いて当裁判所が認める自己決定権侵害慰謝料(C)の額も,これと同じ150万円とするのが相当である。 ウ緊急時避難準備区域及び旧屋内退避区域以外の地域前記のとおり,屋内退避指示や緊急時避難準備区域の指定は,本件事故直後の混乱した状況下において暫定的になされた措置であって,屋内退避指示 や緊急時避難準備区域の指定がなされなかった地域について,健康に悪影響を及ぼし得る放射性物質の飛来の可能性が否定できる状況であったわけではないから,福島第一原発の所在地及び本件事故による放射性物質の飛散状況を前提に,社会通念に照らし,一般人を基準に考えれば,少なくとも,福島県のいわゆる浜通り並びにいわゆる中通りの北部及び中部についても,健 康に悪影響を及ぼし得る放射性物質の飛来の可能性を否定できない状況であることに変わりはなかったというべきであり(前記 ,福島県のいわゆる浜通り並びにいわゆる中通りの北部及び中部についても,健 康に悪影響を及ぼし得る放射性物質の飛来の可能性を否定できない状況であることに変わりはなかったというべきであり(前記⑴ア[❸-166 頁]),これら地域に居住する住民の平穏生活権ないし居住,移転の自由の侵害の程度を軽くみることはできない。 他方,緊急時避難準備区域にも旧屋内退避区域にも該当しない地域につい ては,当地での生活を継続するに当たり,これを直接的に制限するような外出禁止の指示等はなかったのであるから,当該地域の住定時の生活環境と変動後の生活環境とを客観的に比較して,社会通念に照らし,一般人であれば,その生活環境が,住定時に想定されていた無形物質・無体物による悪影響の変動幅を超えて悪化したと判断するであろうと認めるに足りる事情がある にしても,その変動幅を超えた程度は,緊急時避難準備区域や旧屋内退避区 域のそれとは大幅に異なるといわざるを得ない。地理的にみても,福島第一原発から半径30㎞圏内にある緊急時避難準備区域及び旧屋内退避区域と,同圏外にあるその余の地域とでは,一般人が社会通念に照らして判断するであろう放射性物質による健康被害のおそれの程度は異なるし,残留放射線量(前記第4章第2節第8[❷-171 頁])をみても,緊急時避難準備区域及び 旧屋内退避区域と,同圏外にあるその余の地域とでは,その計測結果に相応の違いがあり,一般人が社会通念に照らして判断するであろう放射性物質による健康被害のおそれの程度も,これに伴って異なってくると考えられる。 加えて,避難指示がなかった地域においては,本件平穏生活4要素が同時かつ包括的に喪失したとは認められず,本件事故の前に存在していた人的つ ながりや物的資源を活用しての地域 くると考えられる。 加えて,避難指示がなかった地域においては,本件平穏生活4要素が同時かつ包括的に喪失したとは認められず,本件事故の前に存在していた人的つ ながりや物的資源を活用しての地域コミュニティの営みがなお継続していると認められ,これによる利益を享受するという選択をすることも,社会通念に照らせば不可能ではなく,現に,そのような選択をした者も多数に及んでいることなどの事情に照らせば,緊急時避難準備区域にも屋内退避区域にも該当しなかった地域から避難した者にことさら高額の慰謝料を認めるこ とは,当地にとどまった者との関係で著しい不公平を招来しかねない(緊急時避難準備区域にも屋内退避区域にも該当しなかった地域に引き続き居住した者についても,当裁判所が認める自己決定権侵害(C)を肯認し得るが,その侵害の実質は,避難した者としなかった者とで大きな差異があるとはいい難い。)。 以上の諸事情を勘案すると,緊急時避難準備区域にも屋内退避区域にも該当しなかった地域(浜通り並びに中通りの北部及び中部)から避難した者について,当裁判所が認める自己決定権侵害慰謝料(C)の額は,原則として30万円が相当である。 また,子ども及び妊婦は,放射線への感受性が高い可能性があることが一 般に認識されていると考えられることからすれば,健康に悪影響を及ぼし得 る放射性物質の飛来の可能性を否定できない状況下において,子ども及び妊婦の平穏生活権及び居住,移転の自由に対する侵害の程度は,それ以外の者の侵害の程度に比して著しく高いというべきである。そこで,子ども及び妊婦について,当裁判所が認める自己決定侵害慰謝料の額は,原則として100万円が相当である。 さらに,放射線の感受性が高い可能性があると一般的に認識されている子ど である。そこで,子ども及び妊婦について,当裁判所が認める自己決定侵害慰謝料の額は,原則として100万円が相当である。 さらに,放射線の感受性が高い可能性があると一般的に認識されている子どもを養育する親は,子どもの健康影響を第一に考え,何ら五感で察知することができない放射性物質の降下に神経をすり減らし,放射能への恐怖を訴える子どもに対して何ら説得的な説明もできないという状況に追い込まれていたのであって,このような親の平穏生活権及び居住,移転の自由に対す る侵害の程度は,それ以外の者の侵害の程度に比して相応に高いというべきである。そこで,養育すべき子のいる親が,その子とともに避難した場合については,当裁判所が認める自己決定権侵害慰謝料(C)の額は,原則として60万円をもって相当と認める。 ⑷ 当裁判所が認める自己決定権侵害(C)のまとめ 以上の次第で,当裁判所は,放射性物質による健康被害におびえることなく自己の住所又は居所を自由に決定し当地で生活する権利すなわち平穏生活権ないし居住,移転の自由に対する侵害があった場合の「当裁判所が認める自己決定権侵害慰謝料(C)」の額の基準について,資料36(第6分冊)の「当裁判所が認める自己決定権侵害慰謝料(C)」欄記載のとおりと定めるものである。 第4 生命・身体の自由ないし生存権の侵害を肯認できる場合(Aの場合)の慰謝料について 1 当裁判所の判断の結論当裁判所は,本件事故を契機に,避難指示又は避難要請が出された地域から避難をして避難所生活ないし車中生活を余儀なくされた場合か,平成23年9月3 0日よりも以前に避難を開始して避難所生活ないし車中生活を余儀なくされた 場合,当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)及び当裁判所が認める自己決定権侵 場合か,平成23年9月3 0日よりも以前に避難を開始して避難所生活ないし車中生活を余儀なくされた 場合,当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)及び当裁判所が認める自己決定権侵害慰謝料(C)とは別に,日額2000円の慰謝料(後記1⑶のとおり,「当裁判所が認める避難慰謝料(A)」と呼称する。)を認める。以下詳述する。 2 当裁判所の判断の理由⑴ 具体的要件について 放射線等無形物質・無体物による悪影響が,生命・身体の自由や生存権の侵害と構成できる場合は,これらの権利侵害により生じた精神的損害についての慰謝料を肯認できる。ここでいう,生命・身体の自由や生存権の侵害と構成できる場合(直接生命身体傷害を生じた場合を除く)とは,憲法25条1項の条理に従えば,健康で文化的な最低限度の生活を営む上で許容される限度を超え る悪影響が,当該無形物質・無体物により惹起される場合のことを指すと考えられる(前記第1,2⑵イ(オ)a(a)[❸-149 頁]参照)ところで,放射線等無形物質・無体物による悪影響により,もとの居住地で生活していたのでは健康維持すらおぼつかない状況となり,その結果,もとの居住地以外の場所での生活を余儀なくされて健康で文化的な最低限度の生活 すら送ることができなくなった場合は,生存権の侵害を観念できるのはもとより,一定の場所での生活を余儀なくされるという意味において,生命・身体の自由(人身の自由)の侵害を同時に観念することができる。したがって,生存権の侵害が観念できるような場合には,すなわち生命・身体の自由(人身の自由)の侵害があったものとして,両者については包括して考え,健康で文化的 な最低限度の生活を営む上で許容される限度を超える悪影響が,放射性物質により惹起されると認められる場合 の自由(人身の自由)の侵害があったものとして,両者については包括して考え,健康で文化的 な最低限度の生活を営む上で許容される限度を超える悪影響が,放射性物質により惹起されると認められる場合,換言すれば,放射性物質の悪影響により,健康で文化的な最低限度にすら達しない生活を余儀なくされた場合には,生命・身体の自由ないし生存権の侵害を肯認することができる。 ア健康で文化的な最低限度の生活について 本件においては,避難所での生活や車中生活を余儀なくされた場合が,健 康で文化的な最低限度にすら達しない生活に該当する。 これに対し,親類・知人宅に一次的に身を寄せた場合や,いわゆる居候の状態で一定期間逗留した場合は,我が国の社会経済情勢に照らし,そのような環境で生活する者も一定数存在するのであるから,健康で文化的な最低限度の生活水準は維持されていると解すべきである。居候等により従前よりも 生活環境が悪化したことについての苦痛は,それ自体は生命・身体の自由ないし生存権の侵害に該当せず,本件平穏生活4要素が同時かつ包括的に喪失されたと認められる場合には,それに基づく平穏生活権侵害ないし居住,移転の自由の侵害として評価され(前記第1,2⑶イ[❸-154 頁]),当該地域の住定時の生活環境と変動後の生活環境とを客観的に比較して,社会通念 に照らし,一般人であれば,その生活環境が,住定時に想定されていた無形物質・無体物による悪影響の変動幅を超えて悪化したと判断するであろうと認めるに足りる事情がある場合には,それに基づく平穏生活権侵害ないし居住,移転の自由の侵害として(同ウ[❸-154 頁]),それぞれ評価されることとなる。 イ 「放射性物質の悪影響により」といえる場合について本件事故により避難指示ないし 活権侵害ないし居住,移転の自由の侵害として(同ウ[❸-154 頁]),それぞれ評価されることとなる。 イ 「放射性物質の悪影響により」といえる場合について本件事故により避難指示ないし避難要請が出され,それに基づいて避難し,避難所で生活したり車中生活を送った場合に,「放射性物質の悪影響により,健康で文化的な最低限度にすら達しない生活を余儀なくされた」と評価できることは,異論を差し挟む余地がないと考えられる。 他方,本件事故により避難指示ないし避難要請が出されていないが,自主的に避難して,避難所で生活したり車中生活を送った場合に,「放射性物質の悪影響により,健康で文化的な最低限度にすら達しない生活を余儀なくされた」と評価できるかどうかは,別段の検討を要する。 思うに,本件事故直後の時点においては,政府の避難指示や自治体の避難 要請は何ら確定的なものではなく,時間を経るごとに拡大・変容し,その拡 大・変容の様相も,一般市民にとってはおよそ予測できるものではなかったのであるから,生命・身体の自由ないし生存権の侵害があったとして保護すべき権利主体を,本件事故を契機に健康で文化的な最低限度にすら達しない生活を余儀なくされた者のうち,本件事故により避難指示ないし避難要請があった地域からの避難住民に限定すべき理由はない。 そして,当裁判所が認める自己決定権侵害(C)を肯認できる地域(緊急時避難準備区域,旧屋内退避区域,浜通り並びに中通りの北部及び中部)については,社会通念に照らし,一般人であれば,その生活環境が,住定時に想定されていた無形物質・無体物による悪影響の変動幅を超えて悪化したと判断するであろうと認めるに足りる事情があるといえるのであるから,そのよ うな地域から避難して,避難所で生活した ,住定時に想定されていた無形物質・無体物による悪影響の変動幅を超えて悪化したと判断するであろうと認めるに足りる事情があるといえるのであるから,そのよ うな地域から避難して,避難所で生活したり車中生活を送った場合には,「放射性物質の悪影響により」と認めることができる。 そうすると,少なくとも,当裁判所が認めるふるさと喪失損害(B)が肯認できる地域(避難指示等が出された地域)及び当裁判所が認める自己決定権侵害(C)を肯認できる地域(緊急時避難準備区域,旧屋内退避区域,浜通り 並びに中通りの北部及び中部)から,本件事故を契機として,避難所生活や車中生活を送るに至ったという外形が存在すれば,特段の事情のない限り,「放射性物質の悪影響により,健康で文化的な最低限度にすら達しない生活を余儀なくされた」と評価してよいと解される。 ウ小括 以上によれば,「放射性物質の悪影響により,健康で文化的な最低限度にすら達しない生活を余儀なくされた場合」とは,具体的には,当裁判所が認めるふるさと喪失損害(B)が肯認できる地域(避難指示等が出された地域)及び当裁判所が認める自己決定権侵害(C)を肯認できる地域(緊急時避難準備区域,旧屋内退避区域,浜通り並びに中通りの北部及び中部)から,本件 事故を契機に避難をして避難所生活ないし車中生活を余儀なくされた場合 を指すと整理することができる。 したがって,上記のような場合には,避難所生活ないし車中生活を余儀なくされた期間に応じた精神的損害を観念することができる。以下の判示においては,このような場合の精神的損害を,原告らが主張する避難慰謝料と区別して,「当裁判所が認める避難慰謝料(A)」という。 ⑵ 損害額算定の手法について当裁判所が認める避難慰謝料(A)を肯認 ては,このような場合の精神的損害を,原告らが主張する避難慰謝料と区別して,「当裁判所が認める避難慰謝料(A)」という。 ⑵ 損害額算定の手法について当裁判所が認める避難慰謝料(A)を肯認できる場合,避難所生活ないし車中生活を余儀なくされている限り,継続的に,生命・身体の自由及び生存権の侵害が生じていると観念できる。 したがって,当裁判所が認める避難慰謝料(A)は,日単位の基準損害額を定 め,これに,避難所生活ないし車中生活を余儀なくされた累計日数を乗じて算定する方法によるべきである。 ⑶ 具体的な損害額算定基準について前記⑵のとおり,当裁判所が認める避難慰謝料(A)は,日単位の基準損害額を定め,これに,避難所生活ないし車中生活を余儀なくされた累計日数を乗じ て算定する方法によるべきであるところ,ここでいう日単位の基準損害額は,日額2000円をもって相当と認める(資料36(第6分冊)の「当裁判所が認める避難慰謝料(A)」欄記載のとおり)。 仮に1か月間(30日間と換算する。)避難所生活を送った場合,当裁判所が認める避難慰謝料(A)の額は6万円となるところ,身体傷害の有無を問わず 認められる額としては,中間指針等において参考とされた自賠責保険基準(身体傷害がある場合の慰謝料として日額4200円)に照らしても相当なものと認められる。なお,当裁判所が認める避難慰謝料(A)とは別個に,避難自体により生命・身体に対する侵害を肯認できる場合(高齢であるとか,持病のある者で,避難生活により特段の肉体的苦痛を被ったと認められる場合等)には, 個別の事情に照らして相当と認められる額を慰謝料として加算することとす る。 第5 当裁判所が認める慰謝料についてのまとめこれまで述べたとおり,当裁判所は, る場合等)には, 個別の事情に照らして相当と認められる額を慰謝料として加算することとす る。 第5 当裁判所が認める慰謝料についてのまとめこれまで述べたとおり,当裁判所は,本件事故によって生じた精神的損害に対する慰謝料として,大別して,当裁判所が認める避難慰謝料(A),当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)及び当裁判所が認める自己決定権侵害慰謝料(C) の3類型に整理したものであるところ,その額の基準を一覧にすると資料36(第6分冊)のとおりである。 第6 財産権侵害について 1 総論財産権の侵害が認められるための要件については,一般的な不法行為の場合と 異にするところはなく,目的物の財産的価値の減少が認められれば,財産権侵害があったと認めることができる。 そして,財産の物理的な毀損の事実がない場合であっても,当裁判所が認めるふるさと喪失損害(B)を肯認できる地域に財産がある場合には,本件平穏生活4要素が同時かつ包括的に喪失して,もはや従前生活に利用していた財産を継続利 用できないのであるから,旧居住地に残存する財産について財産権侵害を肯認できる。この場合の損害額は,当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)と同様,避難指示の内容,範囲,継続期間等によって異なるというべきであるから,これら要素を勘案して,後記2のとおり,それぞれ基本的な基準を定める。 財産の物理的な毀損の事実がなく,本件平穏生活4要素が同時かつ包括的に喪 失と認められないため当裁判所が認めるふるさと喪失損害(B)も肯認できない場合には,財産権侵害を観念することはできない。当裁判所が認めるふるさと喪失損害(B)を肯認できない区域においては,現に避難をしなかった者は同種の財産権を利用して生活を送っているのであるから,あ い場合には,財産権侵害を観念することはできない。当裁判所が認めるふるさと喪失損害(B)を肯認できない区域においては,現に避難をしなかった者は同種の財産権を利用して生活を送っているのであるから,ある財産が放射能に曝露したという事実のみでは,財産権侵害があったとまで認めることはできない。 2 各論 ⑴ 不動産(いずれも居住用,非居住用を問わない。)ア帰還困難区域旧居住地が帰還困難区域である場合は,当裁判所が認めるふるさと喪失損害(B)を肯認できる。帰還困難区域に所在する不動産は,本件事故後7年以上が経過した現在においても,これを活用することができないのであるから, その利用価値は,ほぼ完全に喪失したといって差し支えない。 そこで,このような不動産の交換価値をどのように算出するかが問題となるが,本来,不動産の交換価値は,その個別具体的な利用状況も踏まえた実勢価格に基づいて算出されるべきものであるところ,そのような個別的な認定判断が困難であるという本件の性質に鑑みると,土地については,固定資 産税評価額の2倍とし,建物については,固定資産税評価額の3倍とするのが相当である。ただし,築30年以上が経過した建物は,一般的にみても固定資産税評価額が極めて低額で,その額に利用利益(居住利益)が反映されているとはいい難いから,同額の5倍をもって交換価値の全額と認めることとする。 イ居住制限区域(5年以上)旧居住地が居住制限区域である場合は,当裁判所が認めるふるさと喪失損害(B)を肯認できる。居住制限区域の建物は,本件事故後長期間にわたってこれを活用することができず,その間の建物の劣化の程度は看過できないものがある。また,同地域の土地は,避難指示が解除後されても,これを直ち に本件事故前 域の建物は,本件事故後長期間にわたってこれを活用することができず,その間の建物の劣化の程度は看過できないものがある。また,同地域の土地は,避難指示が解除後されても,これを直ち に本件事故前と同じ態様で活用できるわけではなく,本件事故による放射性物質の影響が及んでいない不動産であるとの評価を受けるまでは,不動産市場における取引価額が相当に低廉なものとなると予想されるし,その使用目的も制限されざるを得ない。とりわけ,居住制限区域の中でも,その解除までに5年以上を要した地域については,実質的に地域コミュニティは崩壊し, 本件生活4要素を再建しようにも,本件事故前の人的つながりや物的資源を 活用することは容易でなく,ゼロに近い水準からの再構築を余儀なくされているのであって,経済的にみても,不動産の利用価値はその大部分を喪失したと評価して差し支えないと考えられる。 そうであるとすれば,居住制限区域の中でも,その解除までに5年以上を要した地域については,帰還困難区域に匹敵する価値の喪失があったとみる ことができる。 そこで,このような不動産の交換価値をどう算出するかが問題となるが,前記ア同様,その実勢価額を個別的に認定判断することが困難であるという本件の性質に鑑みつつ,避難指示が解除された現在においては,一応当該財産の経済価値の再生が見込まれることをも考慮すると,土地については,固 定資産税評価額の1.8倍とし,建物については,固定資産税評価額の2. 5倍とするのが相当である。ただし,築30年以上が経過した建物は,前同様に固定資産税評価額に利用利益(居住利益)が反映されているとはいい難いから,同額の4倍をもって交換価値と認めることとする。 ウ居住制限区域(5年未満) 居住制限区域のうち,本件事故後 様に固定資産税評価額に利用利益(居住利益)が反映されているとはいい難いから,同額の4倍をもって交換価値と認めることとする。 ウ居住制限区域(5年未満) 居住制限区域のうち,本件事故後5年を経過するより以前に避難指示が解除された地域についても,本件平穏生活4要素が同時かつ包括的に喪失し,長期にわたり当該財産を利用できなかったという事情に差異はない。 しかしながら,居住制限区域のうち,本件事故後5年を経過するより以前に避難指示が解除された地域については,帰還困難区域や居住制限区域(5 年以上)に比べれば,再利用が可能となる時点までの建物の劣化の程度も限定的とみられるし,土地の取引価額の回復も相応に期待できるといえる。 そこで,居住制限区域のうち,本件事故後5年を経過するより以前に避難指示が解除された地域の不動産の交換価値をどう算出するかが問題となるが,前記ア同様,その実勢価額を個別的に認定判断することが困難であると いう本件の性質に鑑みつつ,前記イに比べれば相当早期に避難指示が解除さ れ,当該財産の経済価値の再生がそれなりに見込まれることをも考慮すると,土地については,固定資産税評価額の1.2倍とし,建物については,固定資産税評価額の1.8倍とするのが相当である。ただし,築30年以上が経過した建物は,前同様に固定資産税評価額に利用利益(居住利益)が反映されているとはいい難いから,同額の2.5倍をもって交換価値の全額と認め ることとする。 エ避難指示解除準備区域(5年以上)避難指示解除準備区域は,年間積算線量が20mSv 以下となることが確実であることが確認された地域であるが,避難指示解除準備区域に不動産が所在する場合は,長期間にわたって,同区域に所在する不動産を活用できない という 間積算線量が20mSv 以下となることが確実であることが確認された地域であるが,避難指示解除準備区域に不動産が所在する場合は,長期間にわたって,同区域に所在する不動産を活用できない という意味では,居住制限区域に不動産が所在する場合と,その損害の実質を異にしない。とりわけ,避難指示解除準備区域に指定された地域のうち,その解除に5年以上を要した地域の多くは,隣接する居住制限区域と同時に避難指示の解除がなされているのであって,その価値の喪失の程度を軽くみることはできない。 他方,福島第一原発との位置関係や,居住制限区域・避難指示解除準備区域の定義付け(前者は年間積算線量が20mSv を超えるおそれがあるとされる地域,後者は上記のとおり年間積算線量が20mSv 以下となることが確実であることが確認されたとされる地域〈前記第4章第2節第4,5[❷-131頁]〉)を前提に,社会通念に照らしてみれば,避難指示解除準備区域所在の 財産の避難指示解除後における経済的活用可能性は,居住制限区域のそれと異なるものということができるから,避難指示解除準備区域(5年以上)に所在する財産の価値の喪失の程度は,前記イでみたところの居住制限区域(5年以上)に所在する財産のそれに比べれば限定的というべきである。 そうすると,避難指示解除準備区域(避難指示解除まで5年以上を要した 地域)に所在する不動産の交換価値は,土地については,固定資産税評価額 の1.5倍とし,建物については,固定資産税評価額の2倍とするのが相当である。ただし,築30年以上が経過した建物は,前同様に固定資産税評価額に利用利益(居住利益)が反映されているとはいい難いから,同額の3倍をもって交換価値の全額と認めることとする。 オ避難指示解除準備区域(5年未 30年以上が経過した建物は,前同様に固定資産税評価額に利用利益(居住利益)が反映されているとはいい難いから,同額の3倍をもって交換価値の全額と認めることとする。 オ避難指示解除準備区域(5年未満) 避難指示解除準備区域のうち,本件事故後5年を経過するより以前に避難指示が解除された地域についても,本件平穏生活4要素が同時かつ包括的に喪失し,長期にわたり当該財産を利用できなかったという事情に差異はない。 他方,福島第一原発との位置関係や,避難指示解除準備区域の上記定義付けを前提に,社会通念に照らしてみれば,避難指示解除準備区域に所在する 不動産であって,本件事故後5年を経過するより以前に避難指示が解除された地域に所在するものの避難指示解除後における経済的活用可能性は,避難指示の解除までに5年以上を要した地域のそれはと異なるものということができるから,避難指示解除準備区域に所在する財産の交換価値の喪失の程度は,前記エでみたところの避難指示解除準備区域(5年以上)に所在する 財産のそれに比べれば限定的というべきである。 そうすると,避難指示解除準備区域(本件事故後5年を経過するより以前に避難指示が解除された地域)に所在する不動産の交換価値は,土地については,固定資産税評価相当額とし,建物については,固定資産税評価額の1. 5倍とするのが相当である。ただし,築30年以上が経過した建物は,固定 資産税評価額に利用利益(居住利益)が反映されているとはいい難いから,同額の2倍をもって交換価値の全額と認めることとする。 カ特定避難勧奨地点(南相馬市)本件訴訟において,特定避難勧奨地点に居住していた原告はいない。 キ南相馬市避難要請区域 南相馬市避難要請区域についても,避難要請が出された以上,本件平穏生 難勧奨地点(南相馬市)本件訴訟において,特定避難勧奨地点に居住していた原告はいない。 キ南相馬市避難要請区域 南相馬市避難要請区域についても,避難要請が出された以上,本件平穏生 活4要素が同時かつ包括的に喪失されたという事情に差異はない。 しかしながら,南相馬市の避難要請は,平成23年4月22日には解除されているのであって,当該区域に存在する財産の避難要請解除後の利用が,行政機関の線量評価に依存した状況下でのものであるとはいっても,その性質は限定的なものであり,当該区域に存在する財産の交換価値全部が喪失し たと認めることはできない。 そこで,南相馬市避難要請区域に存在する不動産については,土地・建物の別を問わず,固定資産税評価額の0.5倍をもって損害と認める。 ク住居確保損害について本来,不法行為に基づく賠償の対象となる損害は,侵害を受けた財産と同 種同等の財産を取得するのに必要な額をもって評価すべきであるところ,住居確保損害は,同種同等の財産を取得するのに必要な額を超えて,避難後の住居地において新たに住宅を購入するために必要となった費用であるから,これが直ちに不動産の交換価値そのものを構成する要素とはいえず,前記アないしキのとおり算出される不動産損害に加えて,さらに新たな住宅購入費 用を本来的な不法行為法の枠組の中での物的損害として認めることは困難といわざるを得ない。本件の原告らが,決して好んで神奈川県を避難先に選んだわけではないことは理解できるが,他方において,侵害を受けた財産と同種同等の財産を取得するのに必要な額の範囲で新たな住宅を調達した者もいると考えられるから,これらの者との関係で,本件の原告らに対する損 害額を特に増額することは,公平の理念に反するといわざるを得ない の財産を取得するのに必要な額の範囲で新たな住宅を調達した者もいると考えられるから,これらの者との関係で,本件の原告らに対する損 害額を特に増額することは,公平の理念に反するといわざるを得ない。中間指針第四次追補が,「住宅確保に係る損害」の賠償を,「事故前の財物価値を超えて負担した必要かつ合理的な費用について」行うとする(前記第4章第2節第6,4[❷-161 頁])のは,当裁判所の上記考え方と同様の理解に基づくものと解される。なお,住居確保損害が,原賠法の定める原子力損害に は該当しないとしても,住宅確保損害に関する中間指針等及び被告東電の自 主的賠償基準は,これが一旦発表された以上,被告東電が,これら基準に基づく賠償を拒絶した場合,そのような拒絶等に理由がないことを基礎付けるという意味において,なお法的に機能すると解される。 住居確保損害は,上記のとおり不法行為法の枠組の中での物的損害に該当しないから,中間指針等に基づき既に支払われた住居確保損害名目の金員は, 本件で認められる物的損害に対する弁済とは認められない(後記第11節第3[❸-207 頁])。 ⑵ 家財前記⑴で判示したところにより,不動産に関する財産権侵害が認められる場合には,同不動産に所在する家財道具についても,財産権侵害を肯認すること ができる。 もっとも,その損害の額は,上記不動産と同様,当該家財道具と同種同等の財産を取得するのに必要な額(時価)をもって評価すべきであり,新たに同種の家財道具を取りそろえるために必要な額は,当該家財道具の交換価値そのものを構成する要素とはいえず,これを本来的な不法行為法の枠組の中での物的 損害に含めることはできない。なお,被告東電は,新たに同種の家財道具を取りそろえるという観点から自主的賠 交換価値そのものを構成する要素とはいえず,これを本来的な不法行為法の枠組の中での物的 損害に含めることはできない。なお,被告東電は,新たに同種の家財道具を取りそろえるという観点から自主的賠償基準を定めている(前記第4章第2節第6,5[❷-162 頁])ところ,この法規範性が否定されるものではないと解されることは,前記⑴クで判示したところと同様である。 そこで,家財道具の時価評価を個別的に認定判断することが困難であるとい う本件の性質に鑑み,以下のとおりの基準に基づいて認定するのが相当である。 ア単身世帯10万円イ夫婦又は親子2人暮らし1世帯当たり20万円(当該原告の請求の立て方に従うが,指定がなけれ ば世帯主に計上する。) ウ 3人暮らし以上1世帯当たり40万円(上記イに同じ)⑶ 就労不能損害ア当裁判所が認めるふるさと喪失損害(B)を肯認できる場合当裁判所が認めるふるさと喪失損害(B)を肯認できる場合は,旧居住地で の稼働断念を強制されたものであるから,原則として減収分が損害に当たる。 ただし,個別事情に照らし,就労不能状態が解消したと認められる場合には,就労不能損害を認めないか,具体的事情に照らして稼働したとしたら得られるべき収入額と本件事故前の収入額との差額に限って就労不能損害を認める。 イ当裁判所が認める自己決定権侵害(C)を肯認できる場合当裁判所が認めるふるさと喪失損害(B)を肯認できない場合でも,当裁判所が認める自己決定権侵害(C)が肯認できるときは,放射線被害におびえることなく任意に選択した就業場所で稼働するという意味での平穏生活権及び居住,移転の自由の侵害を肯認できるから,必ずしも任意とはいえない減 収分は一定の範囲で損害に含まれる。 射線被害におびえることなく任意に選択した就業場所で稼働するという意味での平穏生活権及び居住,移転の自由の侵害を肯認できるから,必ずしも任意とはいえない減 収分は一定の範囲で損害に含まれる。もっとも,就業環境自体が同時かつ包括的に奪われたわけではないから,旧居住地での稼働断念を強制されたとまでいうことはできず,むしろ放射線リスクも踏まえた任意の転職という側面があることも否定できない。そこで,本件事故後1年間に限って,減収分を就業不能損害として認めることとする。 ⑷ 帰宅費用,一次立入費用,検査費用当裁判所が認めるふるさと喪失損害(B)を肯認できる場合はもとより,当裁判所が認める自己決定権侵害(C)を肯認できる場合においても,必ずしも任意といえない転居にかかった実費の負担を受忍すべき理由はないから,避難に伴う実費も損害に当たる。具体的には,領収証の提出された範囲で認めることと する。 ⑸ 避難先での住居費・駐車場代ア当裁判所が認めるふるさと喪失損害(B)を肯認できる場合当裁判所が認めるふるさと喪失損害(B)を肯認できる場合,避難先での住居費・駐車場代を避難者が負担すべき理由はないから,その発生が立証できているものについては損害として認めることとする。 イ当裁判所が認めるふるさと喪失損害(B)を肯認できない場合当裁判所が認めるふるさと喪失損害(B)を肯認できない場合は,すなわち,財産権(旧住所地での居住権を含む)の侵害を肯認できない場合であるから,避難先での住居費・駐車場代を損害として認めることはできない。当裁判所が認める自己決定権侵害(C)を肯認できる場合であっても,その実質は,新 たな住居地を選択するに当たっての自己決定権が侵害されたことについての損害であるから,選択し ることはできない。当裁判所が認める自己決定権侵害(C)を肯認できる場合であっても,その実質は,新 たな住居地を選択するに当たっての自己決定権が侵害されたことについての損害であるから,選択した結果としての新たな住居地での住居費自体は,損害の範囲に含まれない。 ⑹ 食費等生活費増加分人が生活していく上での食費は,その時々,その場所において,その生活状 況に応じて負担するものであり,定量的に一定額を算出するという考え方にそぐわない性質のものというべきであるから,これを財産権侵害として観念することができない。当裁判所は,低廉な費用で食物を調達するという側面も含め,当該地域の自然環境や生活資源の恩恵を受けながら精神的に満ち足りた生活をする利益を本件平穏生活4要素として掲げ,この喪失に対する損害を当裁判 所が認めるふるさと喪失損害(B)として整理したものであるところ,これを超えて,又は,これが肯認できないのに,食費等の生活費増加分を別段の損害として構成することは困難といわざるを得ない。 第7 当事者の主張に対する補足説明 1 争点8(本件で賠償の対象となるべき精神的損害の範囲及び法的性質並びに慰 謝料の額)関係 ⑴ 原告らの主張についてア本件の賠償額算定の一般論について原告らは,本件においては,被害を完全に元に戻すことは不可能であるという認識を前提として,奪われた生活を再建するため,被害者が自らの生のあり方を自ら選択できることに最大限配慮した損害賠償が認められるべき ものと解されるから,被害者が,その選択した時に,その選択した地において,元の生活に可能な限り近い生活ができるだけの財産を得ることこそが,損害賠償による原状回復にできる限り近づけるために必要なのであって,そのような観点から, ,その選択した時に,その選択した地において,元の生活に可能な限り近い生活ができるだけの財産を得ることこそが,損害賠償による原状回復にできる限り近づけるために必要なのであって,そのような観点から,本件における損害額の算定をするべきであると主張する(第3章第2節第8の1⑴エ[❶-185 頁])。 原賠法3条1項の責任の本質が不法行為責任である以上,本件で原告らの損害の範囲ないしその額を認定するに当たっても,不法行為法の枠組から逸脱することはできない。そして,当裁判所は,不法行為法における損害概念について,加害行為がなかった場合に想定し得る利益状態と,加害行為によって発生した利益状態の差をもって損害として把握するとの差額説を原則 としつつ,事案に応じて柔軟かつ弾力的に公平妥当な解決を図るに当たって必要な事情を考慮するとの立場を採用するものである。そうすると,本件において,賠償額算定に当たり,原告らが,その選択した時に,その選択した地において,元の生活に可能な限り近い生活ができるだけの財産を得るとする考え方を一般則としてとることは,加害行為がなかった場合に想定し得る 利益状態を過大に評価するおそれを払拭できないものといわざるを得ない。 よって,原告らの上記主張は採用できない。 イ避難生活に伴う慰謝料について原告らは,避難生活に伴う精神的損害の慰謝料については,原子力損害賠償紛争審査会のいわゆる「中間指針」でも,避難区域に指定された地域の住 民については,生活費増加分との合算額として,概ね月10万円が目安と認 められているところ,不法行為(交通事故)により傷害を被り,入院を余儀なくされた場合には,一般的に1月当たり53万円(通院の場合28万円),いわゆる「むち打ち」など他覚症状のない場合でも1月当 められているところ,不法行為(交通事故)により傷害を被り,入院を余儀なくされた場合には,一般的に1月当たり53万円(通院の場合28万円),いわゆる「むち打ち」など他覚症状のない場合でも1月当たり35万円(同様に通院の場合で19万円)程度の慰謝料が認められていること(いわゆる「赤い本」),本件事故により避難生活を余儀なくされた原告らについても, 過酷な避難生活の実情からすれば,事故以前の居住場所からの隔離を受けているという点で,交通事故による入院の場合と同視できる程度の身体の拘束を受けているというべきであること,避難生活の場所が今まで住み慣れた地域とは遠く離れており,周囲とのコミュニケーションには困難も伴い,一部では差別,いじめ,引きこもりなども起きていることや,深刻な放射能汚染 の影響によって将来の生活の目処すら全く立たないという不安の中にあり,精神的・肉体的な変調を来している者も少なくないこと,さらに,本件事故は交通事故とは異なり,被害者である原告らと加害者たる被告東電との立場に互換性はなく,被告東電が利潤を得るための営利事業の過程で起きたものであることなどを考慮すれば,避難生活に伴い継続的に発生する慰謝料とし ては,1人原則月額35万円を下ることはなく,また,避難区域指定の有無で額が変わることもないと考えるべきであると主張する(前記第3章第2節第8,1⑵ア(イ)[❶-186 頁])。 また,原告らは,避難に伴う慰謝料は,交通事故における入院慰謝料を目安としているように,その実質は,避難により一時的に生活拠点を移動させ られたことに関する慰謝料であり,賠償額が月額によって計算され,また,損害の始期及び終期が観念されるのも,避難に伴う慰謝料が一時的なものとして観念されるからであるので,避難に伴う慰謝料に せ られたことに関する慰謝料であり,賠償額が月額によって計算され,また,損害の始期及び終期が観念されるのも,避難に伴う慰謝料が一時的なものとして観念されるからであるので,避難に伴う慰謝料には,その性質上,不可逆的な損害に対する賠償は包含されておらず,原告らが被った,ふるさと喪失,日常生活の破壊といった,将来に及ぶ不可逆的な損害を評価することは できないため,このような無形かつ広範に及ぶ損害について,原告らは「ふ るさと喪失,生活破壊慰謝料」として,包括的に慰謝料を請求するとも主張する。 しかしながら,本件事故により,従来の居住地からの避難を余儀なくされた者の精神的損害の類型を詳しく整理した結果は前記第1の2のとおりであるところ,原告らが主張する避難生活に伴い継続的に発生する慰謝料は, ①平穏な日常生活を喪失したことについて生じる精神的苦痛,②自宅に帰れないことにより生じる精神的苦痛,③避難生活の不便さから来る精神的苦痛,④先の見通しがつかないことによる不安・精神的苦痛及び⑤放射性物質による健康影響に対する恐怖感や不安をいずれも内包するものである。これに対し,原告らが主張する「ふるさと喪失,生活破壊慰謝料」もまた,上記①な いし⑤の精神的苦痛類型をいずれも内包するものである。そうすると,原告ら主張の避難慰謝料と「ふるさと喪失,生活破壊慰謝料」とは,体系的にみて必ずしも峻別できるものとはいえない。 また,交通事故の場合のいわゆる赤い本基準は,身体傷害を負った場合の慰謝料の額を,治療期間を主たる要素として算定するものであり,身体傷害 の有無が主たる考慮要素となることは明らかというべきであって,その算定根拠に,事故以前の居住場所からの隔離を受けているという点が考慮されているとしても,その点が主た するものであり,身体傷害 の有無が主たる考慮要素となることは明らかというべきであって,その算定根拠に,事故以前の居住場所からの隔離を受けているという点が考慮されているとしても,その点が主たる考慮要素となっているとまではいい難いと考えられる。そうすると,赤い本が定める傷害慰謝料と,本件において避難生活に伴い継続的に発生する慰謝料とを同列に論じることは困難といわざる を得ない。 当裁判所は,本件事故により従来の住居地から避難を余儀なくされた者に生じた精神的損害を,権利面及び現象面とに分けて詳細に整理し,その結果,継続的に発生する慰謝料については,生命,身体の自由に対する侵害があった場合すなわち当裁判所が認める避難慰謝料(A)を肯認できる場合として 整理したものである(前記第4,2[❸-175 頁])から,原告らの主張のう ち,同整理の範囲を超える部分については,採用の限りでない。 ウ原告らの主張する「ふるさと喪失・生活破壊慰謝料」について原告らは,「ふるさと喪失・生活破壊慰謝料」を基礎づける事実として,原告らが,何かあったときにはいつでも帰ることのできる安寧の場所として,大きな心の支えとなるべき「ふるさと」を喪失したことのほか,住環境の喪 失,学びの環境の喪失,職場・人生設計の喪失,被ばくの影響に対する恐怖,周囲の人間関係の悪化及び家族・親族関係の悪化などを挙げて,本件事故により,生活のほとんど全てを失い,人生を不可逆的に一変させられたという被害の深刻さを主張した上,本件事故が公害であり,本件における加害者と被害者は非互換的であり加害行為には利潤性があること等を考慮したとき, 原告らの上記「ふるさと喪失・生活破壊」に伴う精神的苦痛に対する慰謝料は,1人当たり金2000万円を下ることはないと 者と被害者は非互換的であり加害行為には利潤性があること等を考慮したとき, 原告らの上記「ふるさと喪失・生活破壊」に伴う精神的苦痛に対する慰謝料は,1人当たり金2000万円を下ることはないと主張する。 原告ら主張の上記各要素は,当裁判所が整理した本件平穏生活4要素(自己の設定した居住地において㋐家族とともに暮らしつつ,㋑職場や学校等における活動を通じて自己の人格を発展させ,㋒友人,親戚等当該地域の住民 との人的つながりを通じて相互に助け合い又は自己の人格を発展させ,㋓その他当該地域の自然環境や生活資源の恩恵を受けながら精神的に満ち足りた生活を送るというもの)に概ね包含されているとみることができる。 もっとも,当裁判所が整理したところによれば,本件平穏生活4要素の喪失は,本件事故が生じたことによって生ずる権利侵害であり,避難の結果は 上記権利侵害の当然の帰結であって,避難したことによってこれら要素が喪失したと整理することは,主客が転倒しているといわざるを得ない。したがって,ことさら避難したという一事をもって一律の慰謝料を認めることは困難であり,当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)の額が,本件平穏生活4要素の喪失の程度に応じて変動するのはやむを得ない。 また,原告らは,いわゆる実家が避難指示等の対象となり帰省が困難とな った者についても「ふるさと喪失・生活破壊慰謝料」を認めるべきとするが,本件平穏生活4要素は,あくまでも当地に居住するものが享受すべき法的利益であって,同地から離脱して別個に生活の本拠を定めている場合は,本件平穏生活4要素を享受しているとはいえないから,原告らの上記主張は採用できない。 当裁判所は,本件事故により従来の住居地から避難を余儀なくされた者に生じた精神的損害を, めている場合は,本件平穏生活4要素を享受しているとはいえないから,原告らの上記主張は採用できない。 当裁判所は,本件事故により従来の住居地から避難を余儀なくされた者に生じた精神的損害を,権利面及び現象面とに分けて詳細に整理し,その結果,避難指示等が発せられた地域に居住していた者については,本件平穏生活4要素の喪失があったものとして,当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)を肯認するものであるから,原告らの主張のうち,同整理の範囲を超える部 分については,採用の限りでない。 ⑵ 被告東電の主張についてア被侵害利益の具体的内容及び賠償の終期について被告東電は,政府の避難指示によって強制的な避難を余儀なくされた区域の住民については,②平穏な日常生活の侵害,③避難所等での生活における 苦痛,④避難と避難生活における苦難及び⑦家族関係への影響などについては,避難指示に伴い通常生じ得る事象であるから,これらの事象から生じる精神的損害については,賠償の対象となるものと考えられるが,避難生活が長期化すれば,避難先で再就職するなど避難先での生活が安定し,人間関係も形成され,一般的には避難生活における苦痛は次第に軽減するものと考え られるし,避難指示区域については,帰還困難区域,居住制限区域及び避難指示解除準備区域に再編され,居住制限区域及び避難指示解除準備区域(大熊町及び双葉町を除く)については,全て解除済みであり,帰還が可能な状態にあり,帰還すれば平穏な生活は時間の経過とともに次第に回復して,何れかの時点で賠償に値する平穏生活権侵害の状態ではなくなるものと考え られるから,客観的には帰還が可能であったとしても,避難先における生活 が安定するなどの事情から帰還しないとの判断をした場合には,遅くとも 穏生活権侵害の状態ではなくなるものと考え られるから,客観的には帰還が可能であったとしても,避難先における生活 が安定するなどの事情から帰還しないとの判断をした場合には,遅くとも解除後に帰還した者の賠償の終期までには,帰還しなかった者についても賠償の終期が到来するものと考えられると主張する(前記第3章第2節第8,2⑴ア[❶-193 頁])。 当裁判所は,前記のとおり,原告らの権利侵害に対応する慰謝料を,当裁 判所が認める避難慰謝料(A),当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)及び当裁判所が認める自己決定権侵害慰謝料(C)に大別するものであるところ,当裁判所が認める避難慰謝料(A)を除いては,避難期間中に日を追うごとに断続的に権利侵害が発生するという性質のものとは認めがたく,本件事故又はその後に避難を余儀なくされた時点において確定的に発生した権利 侵害の程度を一括して損害額を算定するという手法によるべきと考えるものである(前記第3,2⑵[❸-168 頁],第4,2⑵[❸-178 頁])。したがって,避難生活が長期化することによって権利侵害の程度が減縮するとの考え方は採用しないし,帰還によって直ちに権利侵害が観念できなくなるという考え方も採用しない(とりわけ,後者については,放射線ないし放射性 物質は不可視的であり,人の五感で察知することのできないものであるから,その重大性についての受け取り方は人それぞれであって,放射線ないし放射性物質が地域コミュニティに与える影響は,その喪失の局面においても,再建の局面においても,これを直線的に評価することが困難であり,放射線量が上昇したから地域コミュニティが崩壊したとも直截にはいい難いし,放射 線量が下降したから地域コミュニティの再建が可能であるとも直截に おいても,これを直線的に評価することが困難であり,放射線量が上昇したから地域コミュニティが崩壊したとも直截にはいい難いし,放射 線量が下降したから地域コミュニティの再建が可能であるとも直截にはいい難いという関係にあると考えられることからすると,避難指示等の解除により帰還が可能になった事実を,避難した者の権利侵害の程度とことさら強く結びつけて考えることには慎重であるべきである。)。 イ慰謝料の額について 被告東電は,中間指針等が定める避難慰謝料が合理的であることを前提に, 原告らに認められるべき相当な慰謝料額は被告東電が公表している慰謝料額を超えるものではないと主張する。 しかしながら,中間指針等,とりわけ,中間指針,中間指針追補,中間指針第二次追補は,避難指示等が時を追うごとに変遷していた平成23年8月ないし平成24年3月に相次いで公表されたもので,その定める慰謝料額は, その当時に想定された避難期間に基づいて月ごとの額を算定したものであるから,これらの公表から6年以上が経過した現在における損害算定に直截に活用できるものとはいい難い(当裁判所は,原告らの損害額算定に当たっては,中間指針等の定める慰謝料額を直接採用しなかった。)。 そして,中間指針等によれば,帰還困難区域に居住していた者に対する慰 謝料は,結果として,当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)に近似の額となっているが,その他の地域に居住していた者に対する慰謝料の額は,本件平穏生活4要素の喪失の程度を適切に考慮反映させたものとは認めがたく,これを本件にそのまま採用することは困難というほかない。 なお,被告東電は,各種の裁判例を挙げて中間指針等ないし被告東電公表 慰謝料の額の相当性を主張するが,いずれも本件と事案を異にするとい ,これを本件にそのまま採用することは困難というほかない。 なお,被告東電は,各種の裁判例を挙げて中間指針等ないし被告東電公表 慰謝料の額の相当性を主張するが,いずれも本件と事案を異にするというべきであるから,採用することができない。 ウ避難慰謝料について被告東電は,中間指針等の避難に係る慰謝料(1人月額10万円)においては,避難生活の苦痛だけではなく,地域コミュニティ等の生活基盤からの 隔絶や喪失に係る精神的苦痛についても賠償の対象として考慮されているとして,原告らの主張する「ふるさと喪失・生活破壊慰謝料」は認めることができないと主張する。 当裁判所も,中間指針等の避難に係る慰謝料が,当裁判所が認める避難慰謝料(A)及び当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)の各性質を含有し ていると認めるものであるから,中間指針等の基準に従い避難慰謝料あるい はこれに類する名目で支払われた金員は,当裁判所が認める避難慰謝料(A)及び当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)に充てられるものと解する。 もっとも,前記イのとおり,中間指針等は,平成23年8月ないし平成24年3月までという,本件事故の影響がなお不透明で避難の規模や期間も必ずしもその全容が明らかになっていない状況で定められたものであるから, その基準を現時点においてそのまま活用することは困難と考えられ,本件においてはこれら中間指針等による基準を直接採用しなかったものである。 2 争点9(避難指示区域の指定がない居住地から避難した場合の避難の合理性)について⑴ 当裁判所の結論 前記判示のとおり,当裁判所は,当裁判所が認める自己決定権侵害慰謝料(C)の額を定めるに当たっては,社会通念に照らし,一般人を基準に考えた場合の「健康に悪影響を及ぼ ⑴ 当裁判所の結論 前記判示のとおり,当裁判所は,当裁判所が認める自己決定権侵害慰謝料(C)の額を定めるに当たっては,社会通念に照らし,一般人を基準に考えた場合の「健康に悪影響を及ぼし得る放射性物質の飛来の可能性」の程度に応じて,裁判所が公平の観念に従い量定すべきこととなるとの考え方を前提に,この場合の「健康に悪影響を及ぼし得る放射性物質の飛来の可能性」の程度を判断す る場合の考慮要素に関しては,放射線医学や疫学研究上の専門的知見は直接的な基準とならないと解すべきであって,避難指示等が出された地域,屋内退避区域ないし緊急時避難準備区域と,当該住居地との位置関係や,当該住居地付近で現に計測された残留放射線量の数値等を考慮して,一般人の観点から,「健康に悪影響を及ぼし得る放射性物質の飛来の可能性」の程度を判断すべきと解 するものである(前記第3,1[❸-164 頁])。 ⑵ 原告らの主張についてこれに対し,原告らは,がん等にしきい値はなく,ゼロ線量から被ばく線量が増加するのに比例して,リスクが直線的に増加していく(LNTモデル)ところ,LSS第14報の広島・長崎の被爆者データによれば,累積50mSv の 被ばくによって200人に1人の割合のがんによる過剰死亡が起きることが 認められることになり,百歩譲って,ICRP見解に依拠してDDREF(線量・線量率効果係数)を2とした場合,累積50mSv の被ばくによって400人に1人の割合のがんによる過剰死亡が起きることになり,また米国科学アカデミーのBEIR報告に依拠してDDREFを1.5とした場合は,累積50mSv の被ばくによって300人に1人の割合のがんによる過剰死亡が起きると いうことになるのであるから,避難指示区域の指定がない居住地に R報告に依拠してDDREFを1.5とした場合は,累積50mSv の被ばくによって300人に1人の割合のがんによる過剰死亡が起きると いうことになるのであるから,避難指示区域の指定がない居住地においても,避難の合理性が認められ,原告らが主張するところの「避難慰謝料」及び「ふるさと喪失・生活破壊慰謝料」をいずれも肯認できると主張する(前記第3章第2節第9,1[❶-255 頁])。 ⑶ 被告らの主張について 他方,被告らは,国際的にも合意された科学的知見によれば,低線量被ばくによる健康影響については,100mSv 以下の被ばくについては他の要因による発がんの影響によって隠れてしまうほど小さいため,放射線による発がんリスクの明らかな増加を証明することは難しいとされており,本件事故において避難の基準とされている年間20mSv の被ばくについても,他の発がん要因(喫 煙,肥満,野菜不足等)によるリスクと比べて十分低い水準にあることが明らかにされているとして,避難指示区域の指定がない居住地から避難した者について,中間指針等ないし被告東電自主的賠償基準に基づく賠償額を超える損害は生じていないと主張する(前記第3章第2節第9,2[❶-278 頁])。 ⑷ 当事者の主張に対する説明の補足 ア低線量被ばくに関する知見のまとめ前章第5節で認定判示したところに照らし,低線量被ばくによる固形がんの発症リスクについての専門的知見を集約すると,要するに,生物学的知見に基づけば,これが高まると解しても矛盾がないが,現時点までの疫学的知見に基づけば,一定の集団について,低線量領域であっても,被ばく量の増 加に伴いリスクが高まっているとみることができる研究成果があるものの, これらは,無被ばく者が,従前の被ばく量をわず づけば,一定の集団について,低線量領域であっても,被ばく量の増 加に伴いリスクが高まっているとみることができる研究成果があるものの, これらは,無被ばく者が,従前の被ばく量をわずかでも超える被ばくをすれば,がんの発症ほか健康上の影響を受けるということまで統計的に実証したものではなく,したがって,上記研究成果を,低線量の放射線にばく露した者一切に当てはまるものとして捉えることはできないから,原告らについての権利侵害の有無や損害額を認定判断するに当たって,原告ら主張の,しき い値のないLNTモデルを直接の基準とすることはできないと考えるものである。以下詳述する。 (ア) 本件事故前の知見の概要aICRP(国際放射線防護委員会)の知見ICRPは,2007年(平成19年)までに,平常時においては, 一般公衆の線量限度が年間1mSv 以下になるように定め,緊急時(至急の注意を要する予期せぬ状況)下においては,将来起こるかもしれないがんの増加を抑えることよりも,重大な身体的障害を防ぐための対策を優先するため,一般公衆の場合,年間20~100mSv の間の参考レベルを定めていた(前記第4章第5節第2,1[❷-266 頁])。また,L NTモデルは,低線量・低線量率での放射線防護の管理に実用的で,予防原則の観点からも相応しいものとされていた(同2[❷-267 頁])。 なお,LNTモデルを採用した上で,DDREF(線量・線量率効果係数)を2と設定すると,100mSv を下回る低線量域において,がんと遺伝的影響による致死リスクの増加は,1Sv 当たり約5%と推定されて いた(同[❷-267 頁])。 bUNSCEAR(原子放射線の影響に関する国連科学委員会)の知見UNSCEARは,2010年(平成 致死リスクの増加は,1Sv 当たり約5%と推定されて いた(同[❷-267 頁])。 bUNSCEAR(原子放射線の影響に関する国連科学委員会)の知見UNSCEARは,2010年(平成22年)までに,統計学的に有意なリスク上昇は100-200mGy 又はそれ以上で観察され,疫学研究だけでは,これらのレベルを大きく下回る場合の有意なリスク上昇を 同定することはできそうにないとの報告をまとめていた(前記第4章第 5節第4,1⑵[❷-271 頁])。 c 放影研(財団法人放射線影響研究所)の知見放影研は,平成15年までに,広島・長崎の原爆被爆者の死亡率調査第13報(LSS第13報)を取りまとめ,同報告において,がんの過剰リスクは,0-150mSv の線量範囲においても線量に関し線形であ るようだとしたが,その場合のしきい値が存在しないとまでは結論づけていない(同2[❷-272 頁])。 dBEIRⅣ米国科学アカデミー研究審議会の電離放射線の生物影響に関する委員会の2006年報告(BEIRⅣ)は,同委員会が,最近の科学的根 拠がLNTモデルに合致するものであるということを結論づけたというもので,同委員会が現に調査研究を行って仮説を実証したというものではない(同4[❷-273 頁])。 e プレストン論文プレストン論文は,広島・長崎の原爆被爆者のデータを基に調査研究 を行ったもので,0-0.15Gy(mSv 換算では概ね0-150mSv)の線量域で,統計的に有意な線量反応傾向が認められると結論づけている(同5[❷-273 頁])。 なお,本件の原告らのうち,中間指針等及び被告東電の自主的賠償基準に基づく自主的避難等対象区域(前記第4章第2節第5の2⑶[❷- 147 頁],同 論づけている(同5[❷-273 頁])。 なお,本件の原告らのうち,中間指針等及び被告東電の自主的賠償基準に基づく自主的避難等対象区域(前記第4章第2節第5の2⑶[❷- 147 頁],同3⑵[❷-154 頁])から避難した者(原告番号7,11,12,19,27,33,36,38,41,42,43,46,49,50及び53の各世帯)の避難前の住所地付近について,原告らが推計した本件事故後50年間の積算線量は,常時屋外にいたとした場合で18~92mSv であり,1日の滞在時間を屋内16時間,屋外8時間とし た場合で11~55mSv である(資料34(第6分冊)参照)。 (イ) 本件事故後の知見の概要aUNSCEARの知見UNSCEARは,その2013年福島報告書において,避難者及び避難区域以外で事故の影響を最も受けた地域の集団の最初の1年間における平均実効線量は,成人で約1~10mSv,1歳児ではその約2倍 になると推定した。リスクモデルを使用して推論した場合,この程度の線量でもがんのリスクがわずかに上昇することが示唆されるが,一般的な集団における事故の放射線被ばくによる疾患発生率の全体的な上昇は,日本人の基準生涯リスク(あらゆる固形がんにおいて平均35%であるが,性別,生活習慣や他の要因によって個人差がある)に対して検 出するには小さ過ぎるとした(前記第4章第5節第7,1⑵[❷-278頁])。 その一方,UNSCEARは,現在利用可能な方法では,将来の疾病統計において被ばくによる発生率の上昇(すなわち疾病発生頻度の上昇)を証明できない可能性が高いという考えに基づき,これによれば,低線 量被ばくについてリスクがないとか,被ばくによる疾患の症例が今後付加的に生じる可能性がないなどと すなわち疾病発生頻度の上昇)を証明できない可能性が高いという考えに基づき,これによれば,低線 量被ばくについてリスクがないとか,被ばくによる疾患の症例が今後付加的に生じる可能性がないなどとはいえず,特定の集団においてある種のがんの生物学的な指標が見つかる可能性を否定しないとした(同⑶[❷-280 頁])。 b 放影研の知見 平成25年,放影研は,LSS第14報を発表し,その中で,30歳の人が1Gy の放射線に被ばくした場合,70歳になった時点での全固形がんによる死亡頻度が42%上昇すること及び10歳の人が被ばくした場合の70歳になった時点での固形がんによる死亡頻度は,40歳の人が被ばくした場合の70歳になった時点での固形がんによる死亡頻 度よりも高いことを報告した。 他方,LSS第14報においては,その取りまとめ部分において,全線量範囲にわたり,線形線量反応モデルが固形がんデータに最もよく当てはまったとしたが,有意な上向き曲率が認められるとした線量範囲は0-2Gy であるとされていた。本文中に,「全固形がんについて有意なERRを示す最も低い線量範囲は0-0.20Gy である」とか,「線量 しきい値の最大尤度推定値は0.0Gy で(すなわちしきい値はない)」旨の記載もあったが,取りまとめ部分には採用されず,その後,放影研自身がホームページで明らかにした見解は,放射線の長期的な健康影響は,100-200mSv 以上では放射線の被曝線量に正比例しているが,それ以下ではどういう関係になっているかは分かっていないというも のであった。 (同第8,2[❷-286 頁])c 英国CTスキャン影響調査同調査によれば,約50mGy 以上の線量で白血病ないし脳腫瘍(脳がん)のリスクが上昇すると いないというも のであった。 (同第8,2[❷-286 頁])c 英国CTスキャン影響調査同調査によれば,約50mGy 以上の線量で白血病ないし脳腫瘍(脳がん)のリスクが上昇するとされているが,50mGy を下回る線量域でも リスクが上昇するとの報告はなされていない(同1⑴[❷-285 頁])。 d オーストラリアCTスキャン影響調査同調査によれば,若年期にCTスキャンを受けた者の方が,受けない者よりもがん罹患率が高いとし,また,CTスキャン1回当たりの平均有効放射線量を4.5mSv と推定した上,これが繰り返されるとがん罹 患のリスクが高まるとするが,線量反応関係にしきい値がないという報告はなされていない(同1⑵[❷-286 頁])。 e 核関連施設従事者に関する研究同研究は,0から100mGy の低線量範囲での被ばく線量とがん死との相関関係(線量反応関係)が,全線量範囲におけるがん死との相関関 係と同じであったと報告しつつも,その精度が低いことを自認している (同3[❷-290 頁])。 (ウ) 崎山比早子が紹介する研究成果についてa テチャ川流域住民におけるがん死リスクに関する研究崎山比早子が紹介するところによっても,がん死率と被ばく線量との相関関係が直線モデルにフィットするというものにとどまり,しきい値 がないという内容の研究ではない(前記第4章第5節第9,1⑴イ(イ)a[❷-292 頁])。 b 15か国核施設労働者によるがん死リスクに関する研究崎山比早子が紹介するところによっても,がん,特に肺がん死と被ばく線量が高い相関関係を示したというものにとどまり,しきい値がない という内容の研究ではない(同b[❷-292 頁])。 c 自然放射線による発がん ところによっても,がん,特に肺がん死と被ばく線量が高い相関関係を示したというものにとどまり,しきい値がない という内容の研究ではない(同b[❷-292 頁])。 c 自然放射線による発がんリスクの増加に関する研究崎山比早子が紹介するところ(スイスの国勢調査)によっても,リスクの上昇がmSv 単位で表現されているというものにとどまり,無被ばく者が累計1mSv 被ばくするとがんリスクが高まるということを報告する ものではない(同d[❷-292 頁])。 d 福島県民健康調査について崎山比早子が紹介するところによっても,本件事故後に実施された調査において,小児甲状腺がん・乳頭がん又はそれらの疑いと診断された者が少なからずいるということが示されているにとどまり,それらの者 が,本件事故前にはがんや悪性腫瘍を発症・保有していなかったものであるということが報告されたわけではないし,もとより,低線量被ばくとがんリスクとの相関関係について,何らの結論を出したものでもない(同(ウ)[❷-293 頁])。 (エ) 小括 以上のとおり,本件事故前,ICRPは,LNTモデルを採用し,平常 時における一般公衆の線量限度を1mSv 以下と定めていたが,これは,LNTモデルが実証されたことを前提とした施策というよりは,低線量・低線量率での放射線防護の管理に実用的で,予防原則の観点からも相応しいとの考えによるものであったと認められる。また,UNSCEAR,放影研(LSS第13報,同第14報),BEIRⅣの内容を総合しても,低 線量領域(累計被ばく線量100mSv 以下)においても線量反応関係が認められることは示唆されているが,しきい値が存在しないということまでは,実証的・確定的に報告していない。プレストン論文 線量領域(累計被ばく線量100mSv 以下)においても線量反応関係が認められることは示唆されているが,しきい値が存在しないということまでは,実証的・確定的に報告していない。プレストン論文は,累計被ばく線量が0ないし150mSv の範囲においても,統計的に有意な線量反応傾向が認められると結論づけるが,本件で問題となる原告ら,とりわけ自主的 避難等対象区域からの避難者について,もとの居住地に居住し続けた場合に推測される被ばく線量の範囲(50年間常時屋外にいたとしても最低で18mSv,最高で92mSv。今後本件事故以外の原因による追加被ばくがなければ,これよりも相当程度減少すると容易に想定される。)についても妥当する見解といえるのかどうかについては,積極・消極双方の見解があ る。 本件事故後,UNSCEARは,将来の疾病統計において被ばくによる発生率の上昇を証明できない可能性が高いとし,LNTモデルが実証されていない前提に立っている。放影研も,0ないし0.2Gy の線量範囲において,有意な死亡頻度の上昇がみられたとは報告していない。その他の研 究報告も,LNTモデルを実証するものとはいえない。 以上によれば,これら低線量被ばくに関する専門的知見の指し示すところは,結局のところ,生物学的知見に基づけば,低線量被ばくによってがんの罹患率が高まると解しても矛盾がないが,現時点までの疫学的知見に基づけば,一定の集団について,低線量領域であっても,被ばく量の増加 に伴いリスクが高まっているとみることができる研究成果があるものの, これらは,無被ばく者が,従前の被ばく量をわずかでも超える被ばくをすれば,がんの発症ほか健康上の影響を受けるということまで統計的に実証したものではなく,したがって,上記研究成 ものの, これらは,無被ばく者が,従前の被ばく量をわずかでも超える被ばくをすれば,がんの発症ほか健康上の影響を受けるということまで統計的に実証したものではなく,したがって,上記研究成果を,低線量の放射線にばく露した者一切に当てはまるものとして捉えることはできないから,原告らについての権利侵害の有無や損害額を認定判断するに当たって,原告ら主 張の,しきい値のないLNTモデルを直接の基準とすることはできないというべきである。 イ原告らの主張に対する説明(ア) 本件事故により避難指示区域の指定がない地域に少なからず放射性物質が飛来した場合,それによるがんリスクの上昇を生物学的に否定できな い以上,同飛来の事実は,放射性物質による健康被害におびえることなく自己の住所又は居所を自由に決定し当地で生活する権利が脅かされたか否か,すなわち当裁判所が認める自己決定権侵害(C)を肯認できるか否かを判断するための一事情となり得る。しかし,上記がんリスクの上昇は,疫学的に実証されたものではないから,仮に本件事故後も従前の住所地に 居住し続け,将来がんを発症した場合に,それが本件事故による被ばくによるものであるか,それ以外の要因によるものであるかは,現時点では何ともいえない。そのような実証未了のリスク要因についての対処方法は,従前の住所地から避難することも一策ではあるが,その他の対策(残留放射線への曝露を最小化するための服装,行動様式等の工夫,放射線以外の 発がん要因に対する留意等)を施すことにより,従前と同様の生活を送るという選択肢も考えられるのであるから,本件事故前よりも空間放射線量がわずかでも上昇すれば当然に当裁判所が認める自己決定権侵害(C)を肯認できるとはいえない。もとより,本件事故前よりも空間放射線量 という選択肢も考えられるのであるから,本件事故前よりも空間放射線量がわずかでも上昇すれば当然に当裁判所が認める自己決定権侵害(C)を肯認できるとはいえない。もとより,本件事故前よりも空間放射線量がわずかでも上昇すれば当然に本件平穏生活4要素が同時かつ包括的に喪失 されたということもできない。 (イ) 原告らは,崎山比早子や聞間元の各供述からも,避難指示の指定がない居住地から避難した者の損害を軽視すべきでないと主張する。低線量であっても,それによりがんに罹患するリスクが上昇することを生物学的に否定できない以上,その点に着眼した崎山比早子及び聞間元の指摘には傾聴すべき点がある。 しかし,当裁判所は,当裁判所が認める自己決定権侵害(C)の肯否に当たって,社会通念及び一般人の観点を重視するものである。低線量被ばくによる健康影響を恐れて避難した者に対して帰還を強制することができないのは崎山比早子及び聞間元らの指摘どおりであるにしても,そのような者に対する原賠法及び国賠法上の損害賠償債務の成否及び範囲は,社会 通念に照らして自ずと限定されるというべきである。崎山比早子及び聞間元の各供述は,当裁判所の認定を何ら左右しない。 ウ被告らの主張に対する説明前記イで判示したところと同様,本件事故により避難指示区域の指定がない地域に少なからず放射性物質が飛来した場合,それによるがんリスクの上 昇を生物学的に否定できない以上,同飛来の事実は,放射性物質による健康被害におびえることなく自己の住所又は居所を自由に決定し当地で生活する権利が脅かされたか否か,すなわち当裁判所が認める自己決定権侵害(C)を肯認できるか否かを判断するための一事情となり得る。そして,低線量被ばくWG意見書が「100mSv 以下の被ばくにつ で生活する権利が脅かされたか否か,すなわち当裁判所が認める自己決定権侵害(C)を肯認できるか否かを判断するための一事情となり得る。そして,低線量被ばくWG意見書が「100mSv 以下の被ばくについては他の要因による発が んの影響によって隠れてしまうほど小さい」との見解を示していたとしても,これは,当該住民にとってみれば,もとの住所地に居住し続ける場合,将来がんに罹患したとしても,それが放射線被ばくを原因とするものなのか,喫煙その他の要因によるものなのかについてはおそらく判然としないであろうという事態を受忍して生活を続けるということにほかならない。当裁判所 が認める自己決定権侵害(C)を肯認できる者は,このような事態を回避する ことと引換えに,従前の生活環境を放棄せざるを得なかったのであって,そのような場合の精神的損害の額を,中間指針等が定める限度と認めることはできない。佐々木康人ら作成に係るいわゆる連名意見書は,主として崎山比早子の見解に対する批判及び旧住所地での生活継続の重要性を説くものであって,当裁判所が認める自己決定権侵害(C)に関する前記認定判断を何ら 左右しない。 エまとめ以上の次第で,原被告らの各主張は,そのいずれかをもっぱら採用することは困難であるから,当裁判所は,それぞれの主張も勘案した上,前記第3,1[❸-164 頁]判示のとおり,当裁判所が認める自己決定権侵害慰謝料(C) を定めるものである。 第9節争点9(避難指示区域の指定がない居住地から避難した場合の避難の合理性について前記第8節第3[❸-164 頁]及び第7,2[❸-195 頁]でそれぞれ説明したとおりである。 第10節争点10(主な財物損害についての損害認定の在り方)について前記第8節第6[ 前記第8節第3[❸-164 頁]及び第7,2[❸-195 頁]でそれぞれ説明したとおりである。 第10節争点10(主な財物損害についての損害認定の在り方)について前記第8節第6[❸-179 頁]で説明したとおりである。 第11節争点11(弁済の抗弁の肯否)について前記第4章第2節第5[❷-138 頁]及び第6[❷-158 頁]で各認定のとおり,被告東電は,原告らに対し,多種多様な名目で金員を支払っている(既払金)とこ ろ,被告東電は,これら支払の全てについて,いかなる名目で賠償したかを問わず,本件で理由があると認められる損害に対する弁済であると主張する。 それぞれの原告らに対する既払金が,それぞれの損害に対する弁済と認められるか否かについては,後記第12節において個別に判示するが,代表的な費目についての当裁判所の判断は以下のとおりである。 第1 避難慰謝料名目の既払金について 被告東電が,中間指針等及び自主的賠償基準に従って支払った慰謝料名目の金員は,避難指示等対象区域から避難を長期間余儀なくされた者(又は余儀なくされている者)が,自宅以外での生活を長期間余儀なくされ,正常な日常生活の維持・継続が長期間にわたり著しく阻害されたために生じた精神的苦痛(前記第4章第2節第5,2⑵ア(ア)[❷-140 頁])や,屋内退避を長期間余儀なくされた 者が,行動の自由の制限等を余儀なくされ,正常な日常生活の維持・継続が長期間にわたり著しく阻害されたために生じた精神的苦痛(同(イ)[❷-140 頁]),いつ自宅に戻れるか分からないという不安な状態が続くことによる精神的苦痛(同エ(イ)a[❷-144 頁]),長年住み慣れた住居及び地域が見通しのつかない長期間にわたって帰還不能となり,そこでの生活の つ自宅に戻れるか分からないという不安な状態が続くことによる精神的苦痛(同エ(イ)a[❷-144 頁]),長年住み慣れた住居及び地域が見通しのつかない長期間にわたって帰還不能となり,そこでの生活の断念を余儀なくされたことによる精 神的苦痛(同オ[❷-145 頁]),避難指示対象区域外からの避難者の避難に伴う正常な日常生活の維持・継続が相当程度阻害されたために生じた精神的苦痛(同⑶ア[❷-147 頁])に対する賠償として支払われたものである。 これらは,いずれも,当裁判所が認める避難慰謝料(A),当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)及び当裁判所が認める自己決定権侵害慰謝料(C)の被侵 害利益として第8節で整理したところに包含されている。 そこで,被告東電の避難慰謝料名目での金員の支払は,特段の事情のない限り,当裁判所が認める避難慰謝料(A),当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)及び当裁判所が認める自己決定権侵害慰謝料(C)に対する弁済と認める。 第2 財産的損害(就労不能損害を含む。)について 被告東電は,財産的損害(就労不能損害を含む。)の賠償名目で支払った金員についても,住環境の喪失ないし職場・人生設計の喪失によって生じる慰謝料部分に対する弁済に該当すると主張する。 しかしながら,当裁判所が認めるふるさと喪失損害(B)は,第一義的には財産権の侵害と構成できる場合であっても,本件平穏生活4要素が同時かつ包括的に 喪失されたときは,財産権の侵害という構成では評価し尽くせない別段の平穏生 活権侵害ないし居住,移転の自由の侵害があったと観念するものである(前記第8節第1の2⑶イ[❸-154 頁])。 また,当裁判所が認める自己決定権侵害(C)は,第一義的には財産権の侵害と構成できない場合であ いし居住,移転の自由の侵害があったと観念するものである(前記第8節第1の2⑶イ[❸-154 頁])。 また,当裁判所が認める自己決定権侵害(C)は,第一義的には財産権の侵害と構成できない場合であっても,社会通念に照らし,一般人であれば,その生活環境が,住定時に想定されていた無形物質・無体物による悪影響の変動幅を超えて 悪化したと判断するであろうと認めるに足りる事情がある場合に,平穏生活権侵害ないし居住,移転の自由の侵害があったと観念するものである(同ウ[❸-154頁])。 そうすると,当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)・自己決定権侵害慰謝料(C)と財産的損害に対する賠償とは,理論的に峻別できるものであるから,被 告東電が支払った財産的損害に関する賠償については,上記整理に基づき,純然たる財物損害に向けられた弁済と認め,慰謝料に対する弁済としては認めないこととするのが,相当である。 第3 住居確保損害について前記認定のとおり,中間指針第四次追補は,移住等に伴い新たな住居を取得す るためや,帰還に伴い元の住宅の大規模修繕や建替えをするために,事故前の財物価値を超えて負担した必要かつ合理的な費用について,「住居確保に係る損害」として賠償することを示している(前記第4章第2節第6,4[❷-161 頁])。 このような定め方に照らせば,被告東電が住居確保損害名目で支払った金員は,本来的な財物損害に充てるものとは別段の支払であったと認めるのが,相当であ る。 また,前記判示のとおり,当裁判所は,避難後の住居地において新たに住宅を購入するために必要な費用を,居住用不動産の損害に加えてさらに,本来的な不法行為法の枠組の中での物的損害として認めることは困難と考えるものである(前記第8節第6,2⑴ク[❸-184 頁]) に住宅を購入するために必要な費用を,居住用不動産の損害に加えてさらに,本来的な不法行為法の枠組の中での物的損害として認めることは困難と考えるものである(前記第8節第6,2⑴ク[❸-184 頁])。 そうすると,被告東電が住居確保損害名目で支払った金員は,財物損害に対す る弁済として認めることはできない。 また,中間指針第四次追補上,「住居確保に係る損害」が「精神的損害」の慰謝のためにも支払われるべきものであるとする記述は見当たらない。したがって,被告東電が住居確保損害名目で支払った金員は,当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)・自己決定権侵害慰謝料(C)に対する弁済としても認めることができ ない。 第4 遅延損害金発生の起算日について各原告らについて認定した損害額の元金から,被告東電の弁済の抗弁を認めて既払金を控除することとした場合,理論的には,被告東電の弁済により消滅した損害額の元金部分についての遅延損害金支払請求権は残存することとなる。 しかしながら,原告らは,本件第20回口頭弁論期日において,原告らが,本件損害賠償請求権のうち,被告東電の弁済により消滅した損害額の元金部分に係る遅延損害金については,事実上支払を求めない旨を陳述した。これに対し,被告らにおいても,これに異存がない旨を明らかにしている。 以上の各陳述に照らし,当裁判所は,被告東電の弁済により消滅した損害額の 元金部分に係る遅延損害金支払債務は,原告らにおいてこれを免除したものと認める。 第12節争点12(損害発生の有無及びその数額)について以下の判示においては,前記第3章第2節第12[❶-312 頁]と同様,原告らをいずれも原告番号で呼称する。複数人で1個の世帯を形成する場合には,各原告ら 個人を指称する その数額)について以下の判示においては,前記第3章第2節第12[❶-312 頁]と同様,原告らをいずれも原告番号で呼称する。複数人で1個の世帯を形成する場合には,各原告ら 個人を指称する場合には枝番を付し,世帯全員を指すときは,原告番号の後に「ら」を付して呼称する(例:「原告番号1ら」。訴訟承継が生じている場合で,原告番号の後に「ら」を付して呼称しているときは,原告の地位と訴訟承継人の地位を併有している者を含むが,原告の地位を併有しない訴訟承継人は含まない。)。 弁護士費用については,原則的に,いずれの原告についても,認められる損害額 (弁護士費用を除く。)の1割(1万円未満は切り捨て)とするのが相当であるか ら,別紙損害一覧表の「弁護士費用」の欄に記載のとおりと認める。損害を認めることができるが,その額が10万円を下回る場合の弁護士費用は,一律1万円とする。 なお,以下の判示において,「原告番号○○の〈裁判所認定欄〉」と記載したときは,当該原告番号に係る別紙損害一覧表の〈裁判所認定欄〉のことを指す。 第1 原告番号1の世帯(原告番号1-1,1-2,1-3,1-4,1-5)について 1 事実関係【甲個1の1ないし1の3】原告番号1らは,本件事故の際,@@@内の自宅で生活していた。同自宅所在 地は,本件事故後,居住制限区域に指定された。 原告番号1らは,本件事故後,いったんは@@@@中学校に避難したが,福島第一原発の異常を察知し,平成23年3月11日夜に避難を開始し,同日車中泊をした。その後,親族宅を転々とした後,同年4月28日から,@@@内の集合住宅を賃借して生活を開始した。 2 損害額の認定原告番号1らは,いずれも@@@内の居住制限区域に居住していたところ,同地は,資料 族宅を転々とした後,同年4月28日から,@@@内の集合住宅を賃借して生活を開始した。 2 損害額の認定原告番号1らは,いずれも@@@内の居住制限区域に居住していたところ,同地は,資料29及び同30(第6分冊)のに該当し,避難指示が5年を超えて継続した地域に該当するから,原告番号1らにつき,それぞれ,当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)として1300万円(前記第8節第2,2⑶イ[❸- 161 頁])を認める。(原告番号1らの〈裁判所認定欄〉(a))また,原告番号1らは,平成23年3月11日夜に車中泊をしたものであるから,当裁判所が認める避難慰謝料(A) (前記第8節第4,2⑶[❸-178 頁]のとおり日額2000 円)としてそれぞれ2000円(1日分)ずつを認める(原告番号1らの〈裁判所認定欄〉(a))。 3 被告東電による弁済 被告東電が支払った避難慰謝料名目の金員の額は,原告番号1らにつきいずれも852万円である(原告番号1らの〈裁判所認定欄〉(b))。【乙共336・3~8頁】 4 弁護士費用⑴ 損害合計(弁護士費用以外の損害から弁済額を差し引いた金額。以下,「弁護 士費用」の項において同じ。)は原告番号1らにつきそれぞれ448万2000円である(原告番号1らの〈裁判所認定欄〉(c))。 ⑵ 弁護士費用は,原告番号1らにつきそれぞれ44万円である(原告番号1らの〈裁判所認定欄〉(d))。 5 まとめ 以上によれば,原告番号1らの各請求は,原告番号1らにつきいずれも492万2000円(原告番号1らの〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。 万2000円(原告番号1らの〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。 (原告番号1らにつきそれぞれ 1300 万円+2000 円-852 万円+44 万円=492 万2000 円)第2 原告番号2の世帯(原告番号2-1,2-2)について 1 事実関係【掲記の証拠のほか,甲個2の1】⑴ 旧居住地及び避難経過 原告番号2らは,本件事故の際,@@@内の自宅で生活していた。同自宅所在地は,本件事故後,居住制限区域に指定された。 原告番号2らは,本件事故後,個別に@@@に避難し,原告番号2-1において避難所を巡って原告番号2-2を探し回った上,平成23年3月12日正午頃に合流した。その後,同月14日まで@@内の避難所で過ごし,同月15 日に@@@内の長女方に移動して生活を開始した。【甲個2の1】 ⑵ 避難後の生活状況原告番号2らの長女と原告番号2-1は,@@@@@@@@@にマンション1室(以下「@@@マンション」という。)を共同所有していた(共有持分は2分の1ずつ)。同マンションは,原告番号2らの長女の子の就学に合わせて同長女一家の自宅の用に供する予定であったが,原告番号2らが避難してきたこ とにより,原告番号2らの住居として用いられることとなった。原告番号2らが@@@マンションを住居として用いるに当たり,原告番号2-1と長女は,賃料月額8万円と定めて賃貸借契約を締結した(同賃貸借契約は,長女の持分について原告番号2-1が賃料を支払う旨を合意したものと認められる。)。 【甲個2の6,2の7,2の10,2の19】 原告番号2らは,旧居住地から自家用車で避難した 同賃貸借契約は,長女の持分について原告番号2-1が賃料を支払う旨を合意したものと認められる。)。 【甲個2の6,2の7,2の10,2の19】 原告番号2らは,旧居住地から自家用車で避難したところ,その保管場所として@@@マンションの駐車場を賃借することとし,長女名義で賃貸借契約(賃料月額1万2500円)を締結した上,原告番号2-1において,長女を介して,平成23年6月分から平成28年6月分の賃料合計77万5000円(62か月分)を支払った。【甲個2の15~18】 ⑶ 不動産の価額原告番号2-1の所有する自宅敷地建物は居住制限区域(5年以上)にあり,自宅建物は本件事故時点で築33年であった。原告番号2-1の所有する自宅敷地の固定資産税評価額は398万3359円であり,自宅建物の固定資産税評価額は157万6306円であった。【甲個2の5】 2 損害額の認定⑴ 慰謝料原告番号2らは,いずれも@@@内の居住制限区域に居住していたところ,同地は,資料29及び同30(第6分冊)のに該当し,避難指示が5年を超えて継続した地域に該当するから,原告番号2らにつき,それぞれ,当裁判所 が認めるふるさと喪失慰謝料(B)として1300万円(前記第5章第8節第2, 2⑶イ[❸-161 頁])を認める(原告番号2-1の〈裁判所認定欄〉(a-1),原告番号2-2の〈裁判所認定欄〉(a))。 また,原告番号2らは,平成23年3月12日から同月14日まで3日間避難所での生活を余儀なくされたものであるから,当裁判所が認める避難慰謝料(A) (前記第5章第8節第4,2⑶[❸-178 頁]のとおり日額2000 円)とし てそれぞれ6000円(3日分)を認める(原告番号2-1の〈裁判所認定欄〉(a-1),原告番号 る避難慰謝料(A) (前記第5章第8節第4,2⑶[❸-178 頁]のとおり日額2000 円)とし てそれぞれ6000円(3日分)を認める(原告番号2-1の〈裁判所認定欄〉(a-1),原告番号2-2の〈裁判所認定欄〉(a))。 ⑵ 財産的損害原告番号2-1の所有する自宅敷地建物は居住制限区域(5年以上)にあり,自宅建物は本件事故時点で築30年を超えていたところ,その価額は前記1⑶ 認定のとおりであり,これを,前記第8節第6,2⑴イで説示した基準[❸- 180 頁]に当てはめると,自宅敷地の財産的損害は固定資産税評価額の1.8倍の717万0046円(原告番号2-1の〈裁判所認定欄〉(a-2)),自宅建物の財産的損害は固定資産税評価額の4倍の630万5224円(原告番号2-1の〈裁判所認定欄〉(a-3))と認められる。 ⑶ その他原告番号2-1は,@@@マンションについて長女に支払った賃料についても,これが損害に当たると主張するが,前記2⑵認定の事実経過に照らせば,原告番号2-1の長女は,避難してきた原告番号2らと同居することにはなったが,予定どおり子の就学に合わせて@@@@@@@@に転居することが可能 であったのであり,ことさら同マンションを原告番号2らの居住の用に供して転居を取りやめる理由は見当たらない。また,原告番号2-1は,@@@マンションの持分2分の1を共有しているところ,原告番号2-1の長女一家が子の就学に合わせて@@@マンションに転居するに当たっては,原告番号2-1の持分部分に関して原告番号2-1の長女を賃借人とする賃貸借契約の締結 が予想されていたとは証拠上うかがわれないことをも勘案すると,原告番号2 らが,ことさら長女に賃料を払ってまで@@@マンションに居住することとした を賃借人とする賃貸借契約の締結 が予想されていたとは証拠上うかがわれないことをも勘案すると,原告番号2 らが,ことさら長女に賃料を払ってまで@@@マンションに居住することとしたのは,本件事故によるものというよりは,原告番号2ら及びその長女一家が,保有する財産を有効に活用すべく検討した結果というべきであるから,原告番号2-1が長女に支払った賃料は,本件事故に基づく損害とは認めることができない。 また,原告番号2-1は,各種説明会等への参加のための交通費を請求するが,同支払の事実を認めるに足りる証拠がない。 他方,原告番号2ら主張の駐車場代については,原告番号2ら利用の自家用車の保管場所を新たに確保する必要があり,それに当たって駐車場の賃貸借契約を長女を介して締結して賃料を支払ったことは前記1⑵認定のとおりであ るから,前記第8節第6,2⑸で判示したところ[❸-187 頁]に従い,前記1⑵認定の原告番号2-1の支払済み駐車場賃料77万5000円は,本件事故による原告番号2-1の損害と認める(原告番号2-1の〈裁判所認定欄〉(a-4))。被告らは,これら支払の事実を争うが,上記認定を左右しない。 3 被告東電による弁済 ⑴ 慰謝料について被告東電が支払った避難慰謝料名目の金員の額は,原告番号2らにつきそれぞれ852万円である(原告番号2-1の〈裁判所認定欄〉(b-1),原告番号2-2の〈裁判所認定欄〉(b))。【乙共336・9~11頁】⑵ 財産的損害について 被告東電が原告番号2-1に支払った不動産損害名目の金員の額は,自宅敷地につき569万6204円(原告番号2-1の〈裁判所認定欄〉(b-2)),自宅建物につき1558万9957円(原告番号2-1の〈裁判所認定欄〉(b-3))であ た不動産損害名目の金員の額は,自宅敷地につき569万6204円(原告番号2-1の〈裁判所認定欄〉(b-2)),自宅建物につき1558万9957円(原告番号2-1の〈裁判所認定欄〉(b-3))である。【乙共336・9~10頁】これにより,自宅建物の財産的損害については全額弁済がされたことになる。 ⑶ その他損害について 前記3⑶認定のとおり,原告番号2-1については,支払済み駐車場賃料77万5000円を損害と認めるところ,これに対する被告東電の弁済はない。 4 弁護士費用⑴ 損害合計は,原告番号2-1につき673万4842円(原告番号2-1の〈裁判所認定欄〉(d)),原告2-2につき448万6000円(原告番号2- 1の〈裁判所認定欄〉(c))である。 ⑵ 弁護士費用は,原告番号2-1につき67万円(原告番号2-1の〈裁判所認定欄〉(e)),原告番号2-2につき44万円(原告番号2-2の〈裁判所認定欄〉(d))である。 5 まとめ 以上によれば,原告番号2-1の請求は,740万4842円(原告番号2-1の〈裁判所認定欄〉(f))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号2-2の請求は,492万6000円(原告番号2-2の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から 支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。 (原告番号2-1につき 1300 万円+6000 円-852 万円+717 万0046 円-569 万2204 円+77 万5000 円+67 万円=740 万4842 円 原告番号2 (原告番号2-1につき 1300 万円+6000 円-852 万円+717 万0046 円-569 万2204 円+77 万5000 円+67 万円=740 万4842 円 原告番号2-2につき 1300 万円+6000 円-852 万円+44 万円=492 万6000 円)第3 原告番号3の世帯(原告番号3)について 1 事実関係原告番号3は,本件事故の際,@@@@@@@内の自宅で長男の妻と生活して いた。同自宅所在地は,本件事故後,緊急時避難準備区域に指定され,同指定は, 平成23年9月30日に解除された。 原告番号3は,本件事故後,同年3月12日まで同区内にある葬儀場で避難生活をした。その後,親戚宅に逗留した上,同月19日から,@@@内の三男宅に避難して同地で生活を開始した。【甲個3の1】 2 損害額の認定 ⑴ 慰謝料原告番号3は,@@@@内の緊急時避難準備区域に居住していたところ,同地は,資料29及び同30(第6分冊)の④に該当するから,当裁判所が認める自己決定権侵害慰謝料(C)として250万円(前記第8節第3,2⑶ア[❸-169 頁])を認める(原告番号3の〈裁判所認定欄〉(a))。 また,原告番号3は,平成23年3月11日から同月12日まで2日間避難所での生活を余儀なくされたものであるから,当裁判所が認める避難慰謝料(A) (前記第5章第8節第4,2⑶[❸-178 頁]のとおり日額2000 円)として4000円(2日分)を認める(原告番号3の〈裁判所認定欄〉(a))。 ⑵ 財産的損害について 原告番号3は,その所有に係る自宅敷地についての賠償を求めるが,同敷地所在地については避難指示等がなく,本件平穏生活4要素が包括的に喪失したと認められないから,不動産損 財産的損害について 原告番号3は,その所有に係る自宅敷地についての賠償を求めるが,同敷地所在地については避難指示等がなく,本件平穏生活4要素が包括的に喪失したと認められないから,不動産損害を肯認できない(前記第8節第6,1[❸- 179 頁])。 3 被告東電による弁済 被告東電が原告番号3に支払った避難慰謝料名目の金員の額は236万6000円である(原告番号3の〈裁判所認定欄〉(b))。【乙共336・12~13頁】 4 弁護士費用⑴ 原告番号3の損害合計は13万8000円である(原告番号3の〈裁判所認 定欄〉(c))。 ⑵ 原告番号3の弁護士費用は1万3000円である(原告番号3の〈裁判所認定欄〉(d))。 5 まとめ以上によれば,原告番号3の請求は,15万1000円(原告番号3の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法 所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。 (原告番号3につき 250 万円+4000 円-236 万6000 円+1 万3000 円=15 万1000 円)第4 原告番号4の世帯(原告番号4-1,4-2,4-3,4-4,4-5)に ついて 1 事実関係【掲記の証拠のほか,甲個4の1】⑴ 旧居住地及び避難経過原告番号4らは,本件事故の際,@@@内の自宅で生活していた。同自宅所 在地は,本件事故後,居住制限区域に指定された。 原告番号4-2は,平成16年以降,神奈川県@@@内の職場に転勤となり,同県@@@の実家で単身赴任生活を送り,週末には@@@内の自宅に帰宅していた。 原告番号4-2を除く原告番号4らは,本件事故後,福島県@@@の知人親 類 神奈川県@@@内の職場に転勤となり,同県@@@の実家で単身赴任生活を送り,週末には@@@内の自宅に帰宅していた。 原告番号4-2を除く原告番号4らは,本件事故後,福島県@@@の知人親 類宅に身を寄せた後,平成23年3月15日から,原告番号4-2が単身赴任していた神奈川県@@@の同人実家に移動して,原告番号4ら全員での生活を開始した。 ⑵ 避難後の生活状況ア住居関係 平成23年10月24日,原告番号4-1,4-4,4-5は,神奈川県 @@@内の賃貸アパートを借りて同所で生活を始めた。 また,平成26年8月,原告番号4らは,肩書地において居住を始めた。 イ就業関係(ア) 原告番号4-1原告番号4-1は,本件事故により避難するまで,@@@内の会社に勤 務していたが,避難後,同会社の@@@事務所に異動となった。 しかし,通勤時間が1時間以上になったことなどから,原告番号4-1は,平成23年7月に同会社を退職し,その後は,@@@@事務所スタッフ及び@@@@@スタッフとして稼働している。 (イ) 原告番号4-2 原告番号4-2は,本件事故の前後を通じて,勤務先の@@営業所にて就業していたが,平成26年1月に,同会社の@@事業所に異動となった。 (ウ) 原告番号4-4原告番号4-4は,本件事故当時高校3年生であり,@@@内の会社に就職が内定していたが,本件事故後に内定取消しとなった。その後,原告 番号4-4は,洋菓子店,先物取引会社,エステサロン各勤務を経て,現在は,@@@内の歯科医院に歯科助手として勤務している。 【甲個4の1,4の6,原告番号4-1本人,原告番号4-2本人】⑶ 不動産の価額原告番号4-2の所有する自宅敷地建物は居住制限区域(5年以上)にあり, に歯科助手として勤務している。 【甲個4の1,4の6,原告番号4-1本人,原告番号4-2本人】⑶ 不動産の価額原告番号4-2の所有する自宅敷地建物は居住制限区域(5年以上)にあり, 自宅建物は本件事故時点で築20年であった。原告番号4-2の所有する自宅敷地の固定資産税評価額は303万7881円であり,自宅建物の固定資産税評価額は341万1040円であった。【甲個4の5】 2 損害額の認定⑴ 慰謝料 原告番号4らは,いずれも@@@内の居住制限区域に居住していたところ, 同地は,資料29及び同30(第6分冊)のに該当し,避難指示が5年を超えて継続した地域に該当するから,原告番号4らにつき,それぞれ,当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)として1300万円(前記第5章第8節第2,2⑶イ[❸-161 頁])を認める(原告番号4-1,4-3,4-4,4-5の〈裁判所認定欄〉(a),原告番号4-2の〈裁判所認定欄〉(a-1))。 原告番号4らは,自宅不動産が属する地域は,居住制限区域であるが,帰還困難区域が近隣に迫った場所であると主張するが,原告番号4ら自宅の所在地と帰還困難区域とが約1㎞離れていると認められる【甲共163・30頁】ことに照らし,帰還困難区域と近接しその生活圏が帰還困難区域のコミュニティに実質的に包含されているとまでは認め難い(前記第8節第2,2⑴[❸-155 頁]参照)。 他方,被告らは,原告番号4-2は単身赴任中であり,避難慰謝料発生の根拠となる生活の本拠地は神奈川県@@@にあったと主張するが,単身赴任中であっても,帰省先においては,家族とともに暮らし,当地の住民との人的つながりを通じて相互に助け合い又は自己の人格を発展させ,その他当地の自然環 境や生活資源の恩恵 たと主張するが,単身赴任中であっても,帰省先においては,家族とともに暮らし,当地の住民との人的つながりを通じて相互に助け合い又は自己の人格を発展させ,その他当地の自然環 境や生活資源の恩恵を受けるなどといった本件平穏生活4要素のもたらす利益を享受することができていたのであるから,当裁判所が認めるふるさと喪失損害(B)を肯認することができる。そして,単身赴任者であっても,その帰省先に平穏生活権に基づく利益を享受する基盤を有していると認められる以上,その権利侵害に相当する損害の額において,非単身赴任者のそれよりも限定し て解すべき理由はない。そうすると,原告番号4-2についても,当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)1300万円を肯認できるというべきである。 ⑵ 財産的損害原告番号4-2の所有する自宅敷地建物は居住制限区域(5年以上)にあり,自宅建物は本件事故時点で築30年を超えていなかったところ,その価額は前 記1⑶認定のとおりであり,これを,前記第5章第8節第6,2⑴イ[❸-180 頁]で説示した基準に当てはめると,自宅敷地の財産的損害は固定資産税評価額の1.8倍の546万8186円(原告番号4-2の〈裁判所認定欄〉(a-2)),自宅建物の財産的損害は固定資産税評価額の2.5倍の852万7600円(原告番号4-2の〈裁判所認定欄〉(a-3))とそれぞれ認められる。 また,原告番号4-2の世帯は3人暮らし以上であるから,原告番号4-2 の家財の財産的損害は,前記第8節第6,2⑵ウ[❸-186 頁]で判示したところに従い,これを40万円と認める(原告番号4-2の〈裁判所認定欄〉(a-4))。 ⑶ 就業不能損害原告番号4-1及び同4-4は,それぞれ就業不能損害を主張するが,減収の立証がないからこ たところに従い,これを40万円と認める(原告番号4-2の〈裁判所認定欄〉(a-4))。 ⑶ 就業不能損害原告番号4-1及び同4-4は,それぞれ就業不能損害を主張するが,減収の立証がないからこれを認めることができない。 ⑷ 宿泊費原告番号4-1は,平成23年3月12日から同年10月23日までの宿泊費723万2000円が損害に当たると主張するが,原告番号4-1が同額を支出したと認めるに足りる証拠はない。 3 被告東電による弁済 ⑴ 慰謝料について被告東電が支払った避難慰謝料名目の金員の額は,原告番号4-1,4-3,4-4,4-5につきそれぞれ850万円(原告番号4-1,4-3,4-4,4-5の〈裁判所認定欄〉(b)),原告番号4-2につき425万円(原告番号4-2の〈裁判所認定欄〉(b-1))である。【乙共336・14~19頁】 ⑵ 財産的損害について被告東電が原告番号4-2に支払った不動産損害名目の金員の額は,自宅敷地につき1007万7051円(原告番号4-2の〈裁判所認定欄〉(b-2)),自宅建物につき2247万6205円(原告番号4-2の〈裁判所認定欄〉(b-3))である。【乙共336・16頁】これにより,自宅敷地建物の財産的損害に ついては全額弁済されたことになる。 被告東電が原告番号4-2に支払った家財名目の金員の額は585万円(原告番号4-2の〈裁判所認定欄〉(b-4))である。これにより,原告番号4-2の家財の財産的損害については全額弁済されたことになる。 4 弁護士費用⑴ 損害合計は,原告番号4-1,4-3,4-4,4-5につきそれぞれ45 0万円(原告番号4-1,4-3,4-4,4-5の〈裁判所認定欄〉(c) ),原告4-2につき875万円(原告番号 用⑴ 損害合計は,原告番号4-1,4-3,4-4,4-5につきそれぞれ45 0万円(原告番号4-1,4-3,4-4,4-5の〈裁判所認定欄〉(c) ),原告4-2につき875万円(原告番号4-2の〈裁判所認定欄〉(d) )である。 ⑵ 弁護士費用は,原告番号4-1,4-3,4-4,4-5につきそれぞれ45万円(原告番号4-1,4-3,4-4,4-5の〈裁判所認定欄〉(d) ), 原告番号4-2につき87万円(原告番号4-2の〈裁判所認定欄〉(e) )である。 5 まとめ以上によれば,原告番号4-1の請求は,495万円(原告番号4-1の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民 法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号4-2の請求は,962万円(原告番号4-2の〈裁判所認定欄〉(f))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号4-3の請求は,495万円(原告番号4-3の〈裁 判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号4-4の請求は,495万円(原告番号4-4の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その 余は理由がなく,原告番号4-5の請求は,495万円(原告番号4-5の〈裁 判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の で理由があり,その 余は理由がなく,原告番号4-5の請求は,495万円(原告番号4-5の〈裁 判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。 (原告番号4-1につき 1300 万円-850 万円+45 万円=495 万円 原告番号4-2につき 1300 万円-425 万円+87 万円=962 万円原告番号4-3につき 1300 万円-850 万円+45 万円=495 万円原告番号4-4につき 1300 万円-850 万円+45 万円=495 万円原告番号4-5につき 1300 万円-850 万円+45 万円=495 万円)第5 原告番号5の世帯(原告番号5-1,5-2,5-3,5-4,5-5)について 1 事実関係【掲記の証拠のほか,甲個5-1,原告番号5-3本人】⑴ 旧居住地及び避難経過訴訟承継前の原告番号5-1(以下「原告番号5-1」という。)は,本件事故時点で90歳であり,@@@内の自宅で単身生活していた。同自宅所在地は, 本件事故後,帰還困難区域に指定された。 平成23年3月11日当日,原告番号5-1は,@@@が手配したバスで避難所に向かったが,受入可能な避難所がなかなか見つからず,同月12日になって,@@@内の避難所に入ることができた。同所は,廃校となった小学校を利用したもので,原告番号5-1は,他の7名の避難者と共に6畳程度の広さ の一室で寝起きを余儀なくされた。また,食料や飲料水の供給も十分ではなか った。 同月26日,原告番号5-1の行方を捜していた訴訟承継人原告番号5-4(以下「原告番号5-4」という。)は 一室で寝起きを余儀なくされた。また,食料や飲料水の供給も十分ではなか った。 同月26日,原告番号5-1の行方を捜していた訴訟承継人原告番号5-4(以下「原告番号5-4」という。)は,上記@@@内の避難所で原告番号5-1を発見し,@@@内の原告番号5-4宅に避難させた。 ⑵ 避難後の生活状況 平成23年4月29日,原告番号5-1は,避難生活による衰弱から回復するためのリハビリを兼ねて,原告番号5-4と共に買い物に出かけた際,帰宅間際に,転倒して腕を骨折した。 平成24年5月16日,原告番号5-1は,原告番号5-4宅から特別養護老人ホームに入所した。 平成27年7月5日,原告番号5-1は死亡した。原告番号5-2,5-3,5-4,5-5は,原告番号5-1を各相続分4分の1により相続し,原告番号5-1を訴訟承継した。 ⑶ 不動産の価額原告番号5-1が所有していた自宅敷地建物は帰還困難区域にあり,自宅建 物は本件事故時点で築35年であった。原告番号5-1の所有する自宅敷地(2筆)の固定資産税評価額は,原告番号5-1の〈裁判所認定欄〉(a-3)の「甲土地」が272万0900円であり,同「乙土地」が53万6900円であり,合計325万7800円(2筆合計)であった。また,原告番号5-1が所有していた自宅建物の固定資産税評価額は124万6690円であった。 【甲個5の5~7】 2 損害額の認定⑴ 慰謝料原告番号5-1は,@@@内の帰還困難区域に居住していたところ,同地は,資料29及び同30(第6分冊)のに該当するから,原告番号5-1につき, 当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)として1500万円(前記第8節第 2,2⑶ア[❸-160 頁])を認める(原告番号5-1の〈 )のに該当するから,原告番号5-1につき, 当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)として1500万円(前記第8節第 2,2⑶ア[❸-160 頁])を認める(原告番号5-1の〈裁判所認定欄〉(a-1))。 また,原告番号5-1は,平成23年3月11日から同月26日までの17日間にわたり,避難所での生活を余儀なくされたものであるところ,90歳という原告番号5-1の年齢及び前記1⑴認定の避難所の状況の過酷さを勘案すれば,前記第8節第4,2⑶[❸-178 頁]で判示したところにかかわらず, 例外的に,当裁判所が認める避難慰謝料(A)として日額1万円の17日分の17万円を認める(原告番号5-1の〈裁判所認定欄〉(a-1))。 さらに,原告番号5-1の年齢及び前記1⑴認定の避難生活の過酷さに加え,同⑵認定のとおり,原告番号5-4宅に身を寄せた後に転倒事故を起こしており,本件事故と転倒事故との因果関係を認めることができないとしても,転倒 事故当時,避難による身体的精神的負担が相当程度あったと考える余地があることをも勘案すると,原告番号5-1は,避難により,身体的・健康的に看過できない影響を被ったと認められ,これは,生命・身体に対する直接の侵害と評価できる。原告ら主張の「避難慰謝料」及び「ふるさと喪失・生活破壊慰謝料」は,生命・身体に対する直接の侵害に対する賠償をも含んだ主張と解され るから,原告番号5-1については,生命・身体に対する侵害についての慰謝料として20万円を認める(原告番号5-1の〈裁判所認定欄〉(a-2)。 他方,原告番号5-1は,前記1⑵認定の転倒事故に伴う通院慰謝料及び後遺傷害慰謝料についても損害として主張するが,原告番号5-1の年齢等も考慮すると,転倒については様々な要因が考えられ,本件事 。 他方,原告番号5-1は,前記1⑵認定の転倒事故に伴う通院慰謝料及び後遺傷害慰謝料についても損害として主張するが,原告番号5-1の年齢等も考慮すると,転倒については様々な要因が考えられ,本件事故及びそれに伴う避 難がなければ転倒事故がなかったとまでいうことはできないから,本件事故との因果関係を認めることができない。 ⑵ 財産的損害原告番号5-1が所有していた自宅敷地建物は帰宅困難区域にあり,自宅建物は本件事故時点で築30年を超えていたところ,その価額は前記1⑶認定の とおりであり,前記第8節第6,2⑴ア[❸-180 頁]で説示した基準に当ては めると,自宅敷地(甲土地)の財産的損害は固定資産税評価額の2倍である544万1800円,同(乙土地)の財産的損害は固定資産税評価額の2倍である107万3800円,自宅敷地(甲土地及び乙土地)の財産的損害の合計は651万5600円(2筆合計)(原告番号5-1の〈裁判所認定欄〉(a-3)),自宅建物の財産的損害は固定資産税評価額の5倍の623万3450円(原告 番号5-1の〈裁判所認定欄〉(a-4))と認められる。 3 被告東電による弁済⑴ 慰謝料について被告東電が原告番号5-1に支払った避難慰謝料名目の金員の額は1677万円である(原告番号5-1の〈裁判所認定欄〉(b-1))。【乙共336・20 ~21頁】これにより,原告5-1に認められた,当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)1500万円と当裁判所が認める避難慰謝料(A)17万円はいずれも弁済されたことになる。 被告東電が支払った生命・身体的傷害名目の金員の額は1万5050円である(原告番号5-1の〈裁判所認定欄〉(b-2))。【乙共336・21頁】 ⑵ 財産的損害について被告東 とになる。 被告東電が支払った生命・身体的傷害名目の金員の額は1万5050円である(原告番号5-1の〈裁判所認定欄〉(b-2))。【乙共336・21頁】 ⑵ 財産的損害について被告東電が原告番号5-1に支払った不動産損害名目の金員の額は,自宅敷地につき465万8654円(原告番号5-1の〈裁判所認定欄〉(b-3)),自宅建物につき1019万7925円(原告番号5-1の〈裁判所認定欄〉(b-4))である。【乙共336・16頁,乙個5の6】 これにより,自宅建物の財産的損害については全額弁済されたことになる。 4 弁護士費用⑴ 原告番号5-1の損害の合計は204万1896円である(原告番号5-1の〈裁判所認定欄〉(d))。 ⑵ 弁護士費用は原告番号5-1につき20万円である(原告番号5-1の〈裁 判所認定欄〉(e))。 5 原告番号5-1の損害額のまとめ以上によれば,原告番号5-1は,224万1896円(原告番号5-1の〈裁判所認定欄〉(f))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができた。 (原告番号5-1につき 万円-1 万5050 円+651 万5600 円-465 万8654 円+20 万円=224 万1896 円) 6 原告番号5-2,5-3,5-4,5-5の請求の認容額原告番号5-2,5-3,5-4,5-5は,原告番号5-1を各相続分4分の1により相続し,原告番号5-1を訴訟承継したから,原告番号5-2,5-3,5-4,5-5の請求は,それぞれ56万0474円及びこれに対する平成 23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,そ -2,5-3,5-4,5-5の請求は,それぞれ56万0474円及びこれに対する平成 23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。 (原告番号5-2,5-3,5-4,5-5につき 224 万1896×1/4=56 万0474 円)第6 原告番号6の世帯(原告番号6-1,6-2,6-3,6-4,6-5)に ついて 1 事実関係【掲記の証拠のほか,甲6の1】⑴ 旧居住地及び避難経過原告番号6らは,本件事故の際,@@@@内の自宅で生活していた。同自宅 所在地は,本件事故後,屋内退避区域に指定され,同指定は平成23年4月22日に解除された。 原告番号6-1は,本件事故当時,@@@の会社で稼働し,単身赴任をしており,月に2ないし4回,@@@@内の自宅に帰省していた。 原告番号6-1を除く原告番号6らは,本件事故後,平成23年3月13日 から同月17日まで小学校の体育館で避難生活を送った上,同月18日,原告 番号6-2,6-3,6-4は,原告番号6-1が居住する@@@内のマンションに,原告番号6-5は,同人の長男が居住する神奈川県@@@内の居宅へ,それぞれ避難した。 ⑵ 避難後の生活状況平成23年4月16日に,原告番号6らは,揃って,@@@内の団地に入居 したが,原告番号6-5は,同団地の居室が5階に所在していて階段の昇降が苦であったことから,平成24年8月31日から平成24年12月22日までの間,神奈川県@@@内のアパートを賃借して1人暮らしを開始した。同日,原告番号6-5の長男が新居を調達したことから,原告番号6-5は同長男宅に転居した。 また,原告番号6-1は,上記@@@内の団地に入居するに のアパートを賃借して1人暮らしを開始した。同日,原告番号6-5の長男が新居を調達したことから,原告番号6-5は同長男宅に転居した。 また,原告番号6-1は,上記@@@内の団地に入居するに当たり,学習机等の家財道具運搬のためレンタカーを借り,レンタカー代として7000円を支出した。【甲個6の9,6の10】 2 損害額の認定⑴ 慰謝料 原告番号6らは,いずれも@@@@内の旧屋内退避区域に居住していたところ,同地は,資料29及び同30(第6分冊)のに該当するから,原告番号6らにつき,それぞれ,当裁判所が認める自己決定権侵害慰謝料(C)として150万円(前記第8節第3,2⑶イ[❸-171 頁])を認める(原告番号6-1の〈裁判所認定欄〉(a-1),原告番号6-2,6-3,6-4,6-5の〈裁判 所認定欄〉(a))。 被告らは,原告番号6-1は単身赴任中であり,避難慰謝料発生の根拠となる生活の本拠地は@@@内にあったと主張するが,単身赴任中であっても,その帰省先に家族を残し,限定的であっても帰省時には当地で家族と生活するという実質は現に存在するのであり,放射性物質による健康被害におびえること なく当地を帰省先と設定して同所で生活する権利すなわち平穏生活権ないし 居住,移転の自由を観念することができるから,当裁判所が認める自己決定権侵害慰謝料(C)を肯認することができる。そして,単身赴任者であっても,その帰省先を自由に設定して同所で生活する権利を肯認できる以上,その権利侵害に相当する損害の額において,非単身赴任者のそれよりも限定して解すべき理由はない。そうすると,原告番号6-1についても,当裁判所が認める自己 決定権侵害慰謝料(C)150万円を肯認できるというべきである。 また,原告番号6 単身赴任者のそれよりも限定して解すべき理由はない。そうすると,原告番号6-1についても,当裁判所が認める自己 決定権侵害慰謝料(C)150万円を肯認できるというべきである。 また,原告番号6-2,6-3,6-4,6-5は,平成23年3月13日から同月17日まで5日間小学校の体育館で避難生活を送ったものであるから,当裁判所が認める避難慰謝料(A)(前記第8節第4,2⑶[❸-178 頁]のとおり日額2000 円)としてそれぞれ1万円(5日分)を認める(原告番号6 -2,6-3,6-4,6-5の〈裁判所認定欄〉(a))。 ⑵ 財産的損害(不動産)について原告番号6-1及び6-2が共有する不動産は,いずれも@@@@内にあり,当裁判所が認めるふるさと喪失損害(B)を肯認することができない。したがって,原告番号6-1及び6-2主張の財産的損害の主張は,これを採用するこ とができない(前記第8節第6,1[❸-179 頁])。 ⑶ その他前記1⑵認定のとおり,原告番号6-1は,避難実費としてレンタカー代700円を支出したと認められるから,同支出は,本件事故による原告番号6-1の損害と認める(前記第8節第6,2⑷[❸-186 頁])(原告番号6-1の〈裁 判所認定欄〉(a-2))。原告番号6-1が主張するその余の実費(交通費)については,同支出の事実を認めるに足りる証拠がない。 原告番号6-1主張の家具・生活雑貨購入費については,同人について当裁判所が認めるふるさと喪失損害(B)を肯認できず,避難先での住居費を損害として認めることができないから,避難先での居住に係る家具・生活雑貨購入費 についても,これを損害と認めることはできない(前記第8節第6,2⑸[❸ -187 頁]参照)。また,原告番号6-5 ことができないから,避難先での居住に係る家具・生活雑貨購入費 についても,これを損害と認めることはできない(前記第8節第6,2⑸[❸ -187 頁]参照)。また,原告番号6-5主張の1人暮らしをしていた際の住居費についても,前同様の理由により,これを損害と認めることができない。 原告番号6-1主張の生活費増加分については,前記第8節第6,2⑹[❸-187 頁]で判示したとおり,これを損害として認めることができない。 3 被告東電による弁済 被告東電が支払った避難慰謝料名目の金員の額は,原告番号6-1につき74万円(原告番号6-1の〈裁判所認定欄〉(b-1)),原告番号6-2,6-5につき76万円(原告番号6-2,6-5の〈裁判所認定欄〉(b)),原告番号6-3,6-4につき124万円(原告番号6-3,6-4の〈裁判所認定欄〉(b))である。【乙共336・23~27頁】 なお,被告東電が支払った実費名目の金員が,上記2⑶で認定したレンタカー代7000円に向けられた弁済であると認めるに足りる証拠はない。 4 弁護士費用⑴ 損害合計は,原告番号6-1につき76万7000円(原告番号6-1の〈裁判所認定欄〉(d)),原告番号6-2,6-5につきそれぞれ75万円(原告番 号6-2,6-5の〈裁判所認定欄〉(c)),原告番号6-3,6-4につきそれぞれ27万円(原告番号6-3,6-4の〈裁判所認定欄〉(c))である。 ⑵ 弁護士費用は,原告番号6-1,6-2,6-5につきそれぞれ7万円(原告番号6-1の〈裁判所認定欄〉(e),6-2,6-5の〈裁判所認定欄〉(d)),原告番号6-3,6-4につきそれぞれ2万円(原告番号6-3,6-4の〈裁 判所認定欄〉(d) )である。 5 まとめ以上によ 所認定欄〉(e),6-2,6-5の〈裁判所認定欄〉(d)),原告番号6-3,6-4につきそれぞれ2万円(原告番号6-3,6-4の〈裁 判所認定欄〉(d) )である。 5 まとめ以上によれば,原告番号6-1の請求は,83万7000円(原告番号6-1の〈裁判所認定欄〉(f))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があ り,その余は理由がなく,原告番号6-2の請求は,82万円(原告番号6-2 の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号6-3の請求は,29万円(原告番号6-3の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その 余は理由がなく,原告番号6-4の請求は,29万円(原告番号6-4の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号6-5の請求は,82万円(原告番号6-5の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所 定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。 (原告番号6-1につき 150 万円-74 万円+7000 円+7 万円=83 万7000 円原告番号6-2につき 150 万円+1 万円-76 万円+7 万円=82 万円原告番号6-3につき 150 万円+1 万円-74 万円+7000 円+7 万円=83 万7000 円原告番号6-2につき 150 万円+1 万円-76 万円+7 万円=82 万円原告番号6-3につき 150 万円+1 万円-124 万円+2 万円=29 万円原告番号6-4につき 150 万円+1 万円-124 万円+2 万円=29 万円 原告番号6-5につき 150 万円+1 万円-76 万円+7 万円=82 万円)第7 原告番号7の世帯(原告番号7-1,7-2)について 1 事実関係【甲個7の1】 原告番号7-1は,本件事故の際,@@@内の自宅で,小学2年生の原告番 号7-2と2人暮らしをしていた。なお,原告番号7-1は,平成23年3月9日に,@@@@@@@@した。 同月15日,原告番号7らは,自宅から那須塩原駅までタクシーを使って移動し,新幹線で@@@内の前夫宅に避難した。 同年8月14日,原告番号7らは,前夫宅から,@@@内の@@@@@に転 居した。 2 損害額の認定⑴ 慰謝料原告番号7らは,いずれも@@@内に居住していたところ,同地は,避難指示等が出されておらず,緊急時避難準備区域や屋内退避区域にも指定されてい ないが,いわゆる@@@@@@に位置するから,当裁判所が認める自己決定権侵害慰謝料(C)として,養育すべき子のいる原告番号7-1につき60万円(前記第8節第3,2⑶ウ[❸-172 頁])(原告番7-1の〈裁判所認定欄〉(a)),子どもである原告番号7-2について100万円(前記第8節第3,2⑶ウ[❸-172 頁])(原告番7-2の〈裁判所認定欄〉(a))をそれぞれ認める。 ⑵ 財産的損害について原告番号7-1は,その所有に係る家財についての賠償を求めるが,同敷地所在地に ⑶ウ[❸-172 頁])(原告番7-2の〈裁判所認定欄〉(a))をそれぞれ認める。 ⑵ 財産的損害について原告番号7-1は,その所有に係る家財についての賠償を求めるが,同敷地所在地については避難指示等がなく,本件平穏生活4要素が包括的に喪失したと認められないから,家財損害を肯認できない(第8節第6,1[❸-179 頁])。 3 被告東電による弁済 被告東電が支払った避難慰謝料名目の金員の額は,原告番号7-1につき4万円(原告番号7-1の〈裁判所認定欄〉(b)),原告番号7-2につき28万円(原告番号7-2の〈裁判所認定欄〉(b))である。【乙共336・28~30頁】 4 弁護士費用⑴ 損害合計は,原告番号7-1につき56万円(原告番号7-1の〈裁判所認 定欄〉(c)),原告番号7-1につき72万円(原告番号7-2の〈裁判所認定 欄〉(c))である。 ⑵ 弁護士費用は,原告番号7-1につき5万円(原告番号7-1の〈裁判所認定欄〉(d)),原告番号7-2につき7万円(原告番号7-2の〈裁判所認定欄〉(d))である。 5 まとめ 以上によれば,原告番号7-1の請求は,61万円(原告番号7-1の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号7-2の請求は,79万円(原告番号7-2の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所 定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。 (原告番号7-1につき万円-4 万円+5 万円=61 万円原告番号7-2につき の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。 (原告番号7-1につき万円-4 万円+5 万円=61 万円原告番号7-2につき 100 万円-28 万円+7 万円=79 万円)第8 原告番号8の世帯(原告番号8-1,8-2)について 1 事実関係【甲個8の1,原告番号8-1本人】原告番号8-1は,本件事故の際,@@@内の自宅で,妻である原告番号8- 2と2人暮らしをしていた。同自宅所在地は,本件事故後,緊急時避難準備区域に指定されたが,平成23年9月30日に解除された。 なお,原告番号8らは,@@@@内に,冬期滞在用に居宅を賃借していたが,それ以外の期間は,@@@内の自宅を生活の本拠としていた。 本件事故当時,原告番号8らは,@@@@内の借家に滞在していたところ,そ の後,@@@内の自宅周辺が屋内退避区域ないし緊急時避難準備区域に指定され たため,同自宅に帰宅することを断念し,また,@@@@内も安全とは思われなかったので,結局,原告番号8-2の実家のある神奈川県@@@内に避難することとした。 平成23年4月13日,原告番号8らは,神奈川県@@@内に避難し,更に,同市内の原告番号8-2の友人宅に身を寄せたのち,平成24年12月26日か ら,肩書地にて生活を開始した。 2 損害額の認定⑴ 慰謝料原告番号8らは,いずれも旧緊急時避難準備区域に居住していたところ,同地は,資料29及び同30(第6分冊)の㉛に該当するから,原告番号8らに つき,それぞれ,当裁判所が認める自己決定権侵害慰謝料(C)として250万円(前記第8節第3,2⑶ア[❸-169 頁])を認める(原告番号8らの〈裁判所認定欄〉(a))。 ⑵ 財産的損害について き,それぞれ,当裁判所が認める自己決定権侵害慰謝料(C)として250万円(前記第8節第3,2⑶ア[❸-169 頁])を認める(原告番号8らの〈裁判所認定欄〉(a))。 ⑵ 財産的損害について原告番号8-1は,その所有に係る不動産・家財についての賠償を求めるが, 同敷地所在地については避難指示等がなく,本件平穏生活4要素が包括的に喪失したと認められないから,不動産・家財損害を肯認できない(前記第8節第6,1[❸-179 頁])。 3 被告東電による弁済被告東電が支払った避難慰謝料名目の金員の額は,原告番号8-1につき61 0万円(原告番号8-1の〈裁判所認定欄〉(b)),原告番号8-2につき793万円(原告番号8-2の〈裁判所認定欄〉(b))である。【乙共336・31~33頁】これにより,原告番号8らに認められた,当裁判所が認める自己決定権侵害慰謝料(C)は全額弁済されたことになる。 4 まとめ 以上によれば,原告番号8らの請求は,いずれも理由がない。 第9 原告番号9の世帯(原告番号9-1,9-2,9-3,9-4)について 1 事実関係【甲個9の1】原告番号9-1は,本件事故の際,@@@内の自宅において,妻である原告番 号9-2,長女である原告番号9-3(当時9歳),長男である原告番号9-4(当時7歳)と4人で暮らしていた。同自宅所在地は,本件事故後,帰還困難区域に指定された。 平成23年3月11日以降,原告番号9-2,9-3,9-4は,@@@内の親戚宅や,東京都内の親戚宅に身を寄せた上,同月15日から,@@@内の原告 番号9-2の妹宅に身を寄せた。 他方,原告番号9-1は,@@@@内の会社での勤務を続け,平日は同市内の親族宅に滞在し,週末は,上記@@@内の原告番号 せた上,同月15日から,@@@内の原告 番号9-2の妹宅に身を寄せた。 他方,原告番号9-1は,@@@@内の会社での勤務を続け,平日は同市内の親族宅に滞在し,週末は,上記@@@内の原告番号9-2の妹宅を訪れるという生活をしていた。 同年10月10日,原告番号9らは,@@@内にアパートを賃借し,同所に転 居した。 2 損害額の認定原告番号9らは,@@@内の帰還困難区域に居住していたところ,同地は,資料29及び同30(第6分冊)の㊶に該当するから,原告番号9らにつき,それぞれ,当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)として1500万円(前記第8 節第2,2⑶ア[❸-160 頁])を認める(原告番号9らの〈裁判所認定欄〉(a))。 3 被告東電による弁済被告東電が支払った避難慰謝料名目の金員の額は,原告番号9-1につき1474万円(原告番号9-1の〈裁判所認定欄〉(b)),原告番号9-2につき1476万円(原告番号9-2の〈裁判所認定欄〉(b)),原告番号9-3,9-4に つき1484万円(原告番号9-3,9-4の〈裁判所認定欄〉(b))である。【乙 共336・35~39頁】 4 弁護士費用⑴ 損害合計は,原告番号9-1につき26万円(原告番号9-1の〈裁判所認定欄〉(c)),原告番号9-2につき24万円(原告番号9-2の〈裁判所認定欄〉(c)),原告番号9-3,9-4につきそれぞれ16万円(原告番号9-3, 9-4の〈裁判所認定欄〉(c))である。 ⑵ 弁護士費用は,原告番号9-1,9-2につきそれぞれ2万円(原告番号9-1,9-2の〈裁判所認定欄〉(d)),原告番号9-3,9-4につきそれぞれ1万円(原告番号9-3,9-4の〈裁判所認定欄〉(d))である。 5 まとめ つきそれぞれ2万円(原告番号9-1,9-2の〈裁判所認定欄〉(d)),原告番号9-3,9-4につきそれぞれ1万円(原告番号9-3,9-4の〈裁判所認定欄〉(d))である。 5 まとめ 以上によれば,原告番号9-1の請求は,28万円(原告番号9-1の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号9-2の請求は,26万円(原告番号9-2の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所 定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号9-3の請求は,17万円(原告番号9-3の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号9-4の請求は,17万円(原告番号9-4の〈裁判所認定 欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。 (原告番号9-1につき 1500 万円-1474 万円+2 万円=28 万円 原告番号9-2につき 1500 万円-1476 万円+2 万円=26 万円原告番号9-3につき 1500 万円-1484 万円+1 万円=17 万円原告番号9-4につき 1500 万円-1484 万円+1 万円=17 万円) 第10 原告番号10の世帯(原告番号10)について 1 事実関係【掲記の証拠のほか,甲個10の1,10の9,原告番号10 につき 1500 万円-1484 万円+1 万円=17 万円) 第10 原告番号10の世帯(原告番号10)について 1 事実関係【掲記の証拠のほか,甲個10の1,10の9,原告番号10本人】⑴ 旧居住地及び本件事故前の就業状況原告番号10は,本件事故の際,@@@内の自宅で1人暮らしをしていた。 同自宅所在地は,本件事故後,居住制限区域に指定された。 原告番号10は,@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@から報酬の支払を受けていた【甲個10の6】。 ⑵ 避難経過 平成23年3月12日,原告番号10は,付近に住む親族と共に自宅付近の地域施設に避難した。 同月13日,原告番号10は,上記避難所の原告番号10のスペースがなくなったことから,@@@内の中学校に移動を余儀なくされた。 同月15日,原告番号10は,更に遠方への避難を要するとの報に接し,バ スで@@@@内に移動し,複数の避難所に受入れを拒否された上,同市内の地域施設に避難した。また,同月17日及び同月18日,原告番号10は,それぞれ別の地域センターに移動し,同月26日まで避難生活を余儀なくされた。 同日,原告番号10は,東京都内の長女宅に身を寄せた。 同年5月16日から,原告番号10は,@@@内の集合住宅を賃借して,長 女と共に転居し,同年11月16日,同じ集合住宅内の別の居室(一部リフォ ーム済みの居室)に更に転居した。また,平成26年5月11日,原告番号10は,@@@内にマンションを購入して同所に転居した。 なお,平成26年8月9日,原告番号10は,一次立入のための交通費として1万4520円を支出した。 ⑶ 避難後の就業 年5月11日,原告番号10は,@@@内にマンションを購入して同所に転居した。 なお,平成26年8月9日,原告番号10は,一次立入のための交通費として1万4520円を支出した。 ⑶ 避難後の就業状況 平成24年10月,原告番号10は,レストランで稼働し,月額約10万円の給与を得ることとなったが,平成29年10月頃に退職して無職となった。 【原告番号10本人】⑷ 不動産の価額原告番号10の所有する自宅敷地(2筆)は居住制限区域(5年以上)にあ り,その固定資産税評価額は,原告番号10-1の〈裁判所認定欄〉(a-2)の「甲土地」が468万2616円であり,同「乙土地」が240万1200円であり,合計708万3816円(2筆合計)であった。【甲個10の5】 2 損害額の認定⑴ 慰謝料 原告番号10は,@@@内の居住制限区域に居住していたところ,同地は,資料29及び同30(第6分冊)の㉑に該当し,避難指示が5年を超えて継続した地域に該当するから,原告番号10につき,当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)として1300万円(前記第8節第2,2⑶イ[❸-161 頁])を認める(原告番号10の〈裁判所認定欄〉(a-1))。また,原告番号10は,平 成23年3月12日から同月26日まで15日間避難生活を送ったものであるから,当裁判所が認める避難慰謝料(A) (前記第8節第4,2⑶[❸-178頁]のとおり日額2000 円)として3万円(15日分)を認める(原告番号10の〈裁判所認定欄〉(a-1))。 ⑵ 不動産損害 原告番号10の所有する自宅敷地(2筆)は居住制限区域(5年以上)にあ り,その価額は前記1⑷認定のとおりであり,これを,前記第8節第6,2⑴イ[❸-180 頁]で説示した基準に 原告番号10の所有する自宅敷地(2筆)は居住制限区域(5年以上)にあ り,その価額は前記1⑷認定のとおりであり,これを,前記第8節第6,2⑴イ[❸-180 頁]で説示した基準に当てはめると,自宅敷地(甲土地)の財産的損害は固定資産税評価額の1.8倍の842万8709円,同(乙土地)の財産的損害は固定資産税評価額の1.8倍である432万2160円,自宅敷地(甲土地及び乙土地)の財産的損害の合計は1275万0869円(2筆合 計)(原告番号10の〈裁判所認定欄〉(a-2))と認められる。 ⑶ 家財原告番号10の世帯は単身世帯に該当し,前記第8節第6,2⑵ア[❸-185頁]で判示したところに従い,家財の財産的損害を10万円と認める(原告番号10の〈裁判所認定欄〉(a-3))。 ⑷ 就労不能損害原告番号10は,本件事故,@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@その都度報酬を得ていたものであるが,それのみでは,同人が定期的に収入を得ていたとは認めるに足りない。また,原告番号10は,避難後も職を得ていたものであるところ,同人の減収の事実を認定するに足りる証拠 はない。よって,原告番号10については就労不能損害を認めることはできない。 ⑸ その他原告番号10は,一次立入費用として1万4520円を支出したものであり,同額を損害として認める(前記第8節第6,2⑷[❸-186 頁])(原告番号10 の〈裁判所認定欄〉(a-4))。 原告番号10は,食費等の増加分についての賠償を求めるが,生活費増加分については,前記第8節第6,2⑹[❸-187 頁]で判示したとおり,これを損害として認めることができない。 3 被告東電による弁済 被告東電が支払った避難慰謝料名目の金員の額は 費増加分については,前記第8節第6,2⑹[❸-187 頁]で判示したとおり,これを損害として認めることができない。 3 被告東電による弁済 被告東電が支払った避難慰謝料名目の金員の額は612万円である(原告番号 10の〈裁判所認定欄〉(b-1))。被告東電は,土地に対する財物賠償名目で1012万9857円を支払っているが,同支払は,前記2⑵で認定した自宅敷地である土地2筆分の損害に向けられた弁済と認める(原告番号10の〈裁判所認定欄〉(b-2))。被告東電が支払った家財損害名目の金員の額は245万円である(原告番号10の〈裁判所認定欄〉(b-3))。【乙共336・40~41頁】 そのため,家財の財産的損害については全額弁済されたことになる。 4 弁護士費用⑴ 原告番号10の損害合計は954万5532円である(原告番号10の〈裁判所認定欄〉(d))。 ⑵ 原告番号10の弁護士費用は95万円である(原告番号10の〈裁判所認定 欄〉(e))。 5 まとめ以上によれば,原告番号10の請求は,1049万5532円(原告番号10の〈裁判所認定欄〉(f))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり, その余は理由がない。 (原告番号10につき 1300 万円+3 万円-612 万円+1275 万0869 円-1012 万9857 円+1 万4520 円+95 万円=1049 万5532 円)第11 原告番号11の世帯(原告番号11-1,11-2,11-3,11-4) について 1 事実関係【甲個11の1】原告番号11-1は,本件事故の際,@@@内の自宅で,妻である原告番号11-2,長男である原告番号1 号11-1,11-2,11-3,11-4) について 1 事実関係【甲個11の1】原告番号11-1は,本件事故の際,@@@内の自宅で,妻である原告番号11-2,長男である原告番号11-3(平成10年生)及び二男である原告番号 11-4(平成13年生)と4人暮らしをしていた。同自宅所在地は,本件事故 後,避難指示等が出されていない。 本件事故後,原告番号11-1,11-2は,2人の子だけでも避難させた方が良いと考え,平成23年3月14日,原告番号11-3,11-4を連れて自動車で@@@内の祖父母宅へ向かい,原告番号11-3,11-4を同宅に避難させた上,原告番号11-1,11-2は,@@@内の自宅に戻った。しかし, 同月28日,上記祖父母の負担に配慮し,原告番号11-3,11-4は再び@@@内の自宅に戻った。 同年9月から,原告番号11-1は東京都内の会社に転職することになり,他の家族に先立ち,東京都内のユースホステルで生活を始めた。 同年12月23日,原告番号11らは,揃って,@@@内の借上住宅へ転居し た。 2 損害額の認定原告番号11らは,いずれも@@@内に居住していたところ,同地は,避難指示等が出されておらず,緊急時避難準備区域や屋内退避区域にも指定されていないが,いわゆる@@@@@@に位置するから,当裁判所が認める自己決定権侵害 慰謝料(C)として,養育すべき子のいる原告番号11-1,11-2についてそれぞれ60万円(前記第8節第3,2⑶ウ[❸-172 頁])(原告番号11-1,11-2の〈裁判所認定欄〉(a)),子どもである原告番号11-3,11-4についてそれぞれ100万円(前記第5章第8節第3,2⑶ウ[❸-172 頁])(原告番号11-3,11-4の〈裁判所認定欄 1-2の〈裁判所認定欄〉(a)),子どもである原告番号11-3,11-4についてそれぞれ100万円(前記第5章第8節第3,2⑶ウ[❸-172 頁])(原告番号11-3,11-4の〈裁判所認定欄〉(a))を認める。 3 被告東電による弁済被告東電が支払った避難慰謝料名目の金員の額は,原告番号11-1,11-2につきそれぞれ8万円(原告番号11-1,11-2の〈裁判所認定欄〉(b)),原告番号11-3,11-4につきそれぞれ32万円(原告番号11-3,11-4の〈裁判所認定欄〉(b))である。【乙共336・34~39頁】 4 弁護士費用 ⑴ 損害合計は,原告番号11-1,11-2につきそれぞれ52万円(原告番号11-1,11-2の〈裁判所認定欄〉(c) ),原告番号11-3,11-4につきそれぞれ68万円(原告番号11-3,11-4の〈裁判所認定欄〉(c))である。 ⑵ 弁護士費用は,原告番号11-1,11-2につきそれぞれ5万円(原告番 号11-1,11-2の〈裁判所認定欄〉(d) ),原告番号11-3,11-4につきそれぞれ6万円(原告番号11-3,11-4の〈裁判所認定欄〉(d))である。 5 まとめ以上によれば,原告番号11-1の請求は,57万円(原告番号11-1の〈裁 判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号11-2の請求は,57万円(原告番号11-2の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その 余は理由がなく,原告番号11-3の請求 裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その 余は理由がなく,原告番号11-3の請求は,74万円(原告番号11-3の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号11-4の請求は,74万円(原告番号11-4の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民 法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。 (原告番号11-1につき万円-8 万円+5 万円=57 万円原告番号11-2につき 万円-8 万円+5 万円=57 万円 原告番号11-3につき 100 万円-32 万円+6 万円=74 万円原告番号11-4につき 100 万円-32 万円+6 万円=74 万円)第12 原告番号12の世帯(原告番号12-1,12-2,12-3,12- 4)について 1 事実関係【甲個12の1】原告番号12-1は,本件事故の際,@@@@内の自宅で,夫である原告番号12-2,長女である原告番号12-3(当時3歳)及び長男である原告番号1 2-4(当時1歳)と4人暮らしをしていた。 平成23年3月15日,原告番号12-1,12-3,12-4は,@@@内の知人宅に避難した。原告番号12-2は,仕事のため@@@@内の自宅に残った。 同年4月1日,原告番号12-1,12-3,12-4は,@@@内の知人宅 から@@@@内の自宅に帰宅した。 同年7月頃から,原告番号12らは, -2は,仕事のため@@@@内の自宅に残った。 同年4月1日,原告番号12-1,12-3,12-4は,@@@内の知人宅 から@@@@内の自宅に帰宅した。 同年7月頃から,原告番号12らは,神奈川県への転居を検討し,同年12月1日に,原告番号12-1,12-3,12-4が@@@内の借上住宅に転居した。原告番号12-2は,仕事の関係上,@@@@内の自宅に残った。 平成26年3月末日,原告番号12-1,12-3,12-4は,@@@@内 の自宅に戻った。 @@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@ 2 損害額の認定 原告番号12らは,いずれも@@@@内に居住していたところ,同地は,避難 指示等が出されておらず,緊急時避難準備区域や屋内退避区域にも指定されていないが,いわゆる@@@@@@に位置するから,当裁判所が認める自己決定権侵害慰謝料(C)として,養育すべき子とともに避難した原告番号12-1につき60万円(前記第8節第3,2⑶ウ[❸-172 頁])(原告番号12-1の〈裁判所認定欄〉(a)),子どもである原告番号12-3,12-4について各100万円(前 記第8節第3,2⑶ウ[❸-172 頁])(原告番号12-3,12-4の〈裁判所認定欄〉(a))を認める。 原告番号12-2は避難をしていないが,緊急時避難準備区域にも屋内退避区域にも該当しなかった地域に引き続き居住した者についても当裁判所が認める自己決定権侵害(C)を肯認でき,その侵害の実質は,避難した者としなかった者 とで大きな差異があるとはいい難いところ(前記第8節第3,2⑶ウ[❸-172頁]),原告番号12-2は,本件事故以降 自己決定権侵害(C)を肯認でき,その侵害の実質は,避難した者としなかった者 とで大きな差異があるとはいい難いところ(前記第8節第3,2⑶ウ[❸-172頁]),原告番号12-2は,本件事故以降,@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@の事情をも勘案すれば,原告番号12-2についても当裁判所が認める自己決定権侵害(C)を肯認することができ,その慰謝料の額は,原則的な額である30万円 (前記第8節第3,2⑶ウ[❸-172 頁])とするのが相当である(原告番号12-2の〈裁判所認定欄〉(a))。 3 被告東電による弁済被告東電が支払った避難慰謝料名目の金員の額は,原告番号12-1,12-2につきそれぞれ8万円(原告番号12-1,12-2の〈裁判所認定欄〉(b)), 原告番号12-3,12-4につきそれぞれ32万円(原告番号12-3,12-4の〈裁判所認定欄〉(b))である。【乙共336・47~51頁】 4 弁護士費用⑴ 損害合計は,原告番号12-1につき52万円(原告番号12-1の〈裁判所認定欄〉(c)),原告番号12-2につき22万円(原告番号12-2の〈裁 判所認定欄〉(c)),原告番号12-3,12-4につきそれぞれ68万円(原 告番号12-3,12-4の〈裁判所認定欄〉(c))である。 ⑵ 弁護士費用は,原告番号12-1につき5万円(原告番号12-1の〈裁判所認定欄〉(d)),原告番号12-2につき2万円(原告番号12-2の〈裁判所認定欄〉(d)),原告番号12-3,12-4につきそれぞれ6万円(原告番号12-3,12-4の〈裁判所認定欄〉(d))である。 5 まとめ以上によれば,原告番号12-1の請求は,57万円(原告番 (d)),原告番号12-3,12-4につきそれぞれ6万円(原告番号12-3,12-4の〈裁判所認定欄〉(d))である。 5 まとめ以上によれば,原告番号12-1の請求は,57万円(原告番号12-1の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号12-2の請求は,24万円(原告番号12-2の〈裁 判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号12-3の請求は,74万円(原告番号12-3の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その 余は理由がなく,原告番号12-4の請求は,74万円(原告番号12-4の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。 (原告番号12-1につき 万円-8 万円+5 万円=57 万円原告番号12-2につき万円-8 万円+2 万円=24 万円原告番号12-3につき 100 万円-32 万円+6 万円=74 万円 原告番号12-4につき 100 万円-32 万円+6 万円=74 万円)第13 原告番号13の世帯(原告番号13-1,13-2)について 1 事実関係【掲記の証拠のほか,甲個13の1,原告番号13-1本人】⑴ 旧居住地及び避難経過 原告番号1 万円)第13 原告番号13の世帯(原告番号13-1,13-2)について 1 事実関係【掲記の証拠のほか,甲個13の1,原告番号13-1本人】⑴ 旧居住地及び避難経過 原告番号13-1は,本件事故の際,@@@@@@@内の自宅において,妻である原告番号13-2と2人で生活していた。同自宅所在地は,本件事故後,避難指示解除準備区域に指定された。 原告番号13らは,平成23年3月13日に,付近の中学校に避難し,同月17日まで同所で避難生活を余儀なくされた。 同日,上記中学校の避難所が閉鎖されることになり,原告番号13らは,@@@@@@の知人宅に一泊した後,@@@内の長女宅に避難した。 同月23日,原告番号13らは,@@@内の二女宅に身を寄せ,さらに,同月26日には,同市内の長男宅に身を寄せた。 同月29日,原告番号13らは,@@@内の二女宅と同じ団地内に一室を賃 借し,同室に入居して生活を始めた。 平成24年4月21日,原告番号13らは,二女一家と共に,同市内に賃借した戸建住宅に転居した。また,平成28年6月1日には,上記戸建住宅の賃貸借期間が満了したことから,付近の別の戸建住宅を賃借して転居した。 ⑵ 不動産の価額 原告番号13-1の所有する自宅建物(3棟)は避難指示解除準備区域(5年以上)にあり,平成15年頃に大幅なリフォーム工事を施したものの【甲個13の10】,本件事故当時の築年数は30年を優に超えており,その固定資産税評価額は254万9269円(3棟合計)であった。 原告番号13-2の所有する自宅敷地(2筆)は避難指示解除準備区域(5 年以上)にあり,その固定資産税評価額は,原告番号13-2の〈裁判所認定 欄〉(a-2)の「甲土地」が412万7785円であり,同「乙土地 宅敷地(2筆)は避難指示解除準備区域(5 年以上)にあり,その固定資産税評価額は,原告番号13-2の〈裁判所認定 欄〉(a-2)の「甲土地」が412万7785円であり,同「乙土地」が1万2731円であり,合計414万0516円(2筆合計)であった。 なお,原告番号13-1は,@@@@@@@内にも不動産を所有しているが,同不動産所在地については,避難指示等が出されていない。 【甲個13の4,13の5,13の7ないし13の9】 2 損害額の認定⑴ 慰謝料原告番号13らは,いずれも@@@@@@@内の避難指示解除準備区域に居住していたところ,同地は,資料29及び同30(第6分冊)の⑧に該当し,避難指示が5年を超えて継続した地域に該当するから,原告番号13らにつき, それぞれ,当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)として1200万円(前記第8節第2,2⑶エ[❸-162 頁])を認める(原告番号13らの〈裁判所認定欄〉(a-1))。 また,原告番号13らは,平成23年3月13日から同月17日まで5日間避難所での生活を余儀なくされたものであるから,当裁判所が認める避難慰謝 料(A) (前記第8節第4,2⑶[❸-178 頁]のとおり日額2000 円)としてそれぞれ1万円(5日分)を認める(原告番号13らの〈裁判所認定欄〉(a-1))。 ⑵ 不動産損害原告番号13-1の所有する自宅建物(3棟)は避難指示解除準備区域(5年以上)にあり,本件事故時点で築30年を超えていたところ,その価額は前 記1⑵認定のとおりであり,これを,前記第8節第6,2⑴エ[❸-182 頁]で説示した基準に当てはめると,原告番号13-1の所有する自宅建物(3棟)の財産的損害は,固定資産税評価額の3倍の764万7807円(3棟 おりであり,これを,前記第8節第6,2⑴エ[❸-182 頁]で説示した基準に当てはめると,原告番号13-1の所有する自宅建物(3棟)の財産的損害は,固定資産税評価額の3倍の764万7807円(3棟合計)と認められる(原告番号13-1の〈裁判所認定欄〉(a-2))。 原告番号13-2の所有する自宅敷地(2筆)は避難指示解除準備区域(5 年以上)にあり,その価額は前記1⑵認定のとおりであり,これを,第8節第 6,2⑴エ[❸-182 頁]で説示した基準に当てはめると,原告番号13-2の所有する自宅敷地(甲土地)の財産的損害は固定資産税評価額の1.5倍の619万1678円であり,同(乙土地)の財産的損害は固定資産税評価額の1. 5倍の1万9097円であり,自宅敷地(甲土地及び乙土地)の財産的損害の合計は621万0774円(2筆合計)と認められる(原告番号13-2の〈裁 判所認定欄〉(a-2))。 なお,原告番号13-1が@@@@@@@内に所有する不動産については,当裁判所が認めるふるさと喪失損害(B)を肯認できない区域に所在する財産であるから,財産権侵害を肯認できない(第8節第6,1[❸-179 頁])。 ⑶ 家財 原告番号13らの世帯は夫婦又は親子2人暮らしに該当し,第8節第6,2⑵イ[❸-185 頁]で判示したところに従い,原告番号13-1の家財の財産的損害を20万円と認める(原告番号13-1の〈裁判所認定欄〉(a-3))。 3 被告東電による弁済被告東電が支払った避難慰謝料名目の金員の額は原告番号13らにつきそれ ぞれ855万円(原告番号13らの〈裁判所認定欄〉(b-1)),であり,不動産損害名目の金員の額は,原告番号13-1につき1730万4752円(原告番号13-1の〈裁判所認定欄〉(b きそれ ぞれ855万円(原告番号13らの〈裁判所認定欄〉(b-1)),であり,不動産損害名目の金員の額は,原告番号13-1につき1730万4752円(原告番号13-1の〈裁判所認定欄〉(b-2)),原告番号13-2につき514万2980円(原告番号13-2の〈裁判所認定欄〉(b-2))である【乙共336・52~54頁】。なお,これらの証拠によれば,被告東電が支払った不動産損害名目の金員 が,いずれの不動産に対するものであるか明瞭でないが,弁論の全趣旨により前記のとおりと認める(被告東電平成30年7月13日付け個別準備書面(世帯番号13の世帯)参照)。 これにより,原告番号13-1の所有する自宅建物(3棟)の財産的損害については全額弁済されたことになる。 4 弁護士費用 ⑴ 損害合計は,原告番号13-1につき346万円(原告番号13-1の〈裁判所認定欄〉(d)),原告番号13-2につき452万7794円(原告番号13-2の〈裁判所認定欄〉(d))である。 ⑵ 弁護士費用は,原告番号13-1につき34万円(原告番号13-1の〈裁判所認定欄〉(e)),原告番号13-2につき45万円(原告番号13-2の〈裁 判所認定欄〉(e))である。 5 まとめ以上によれば,原告番号13-1の請求は,380万円(原告番号13-1の〈裁判所認定欄〉(f))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり, その余は理由がなく,原告番号13-2の請求は,497万7794円(原告番号13-2の〈裁判所認定欄〉(f))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり, の請求は,497万7794円(原告番号13-2の〈裁判所認定欄〉(f))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。 (原告番号13-1につき 1200 万円+1 万円-855 万円+34 万円=380 万円原告番号13-2につき 1200 万円+1 万円-855 万円+621 万0774 円-514 万2980 円+45 万円=497万7794 円)第14 原告番号14の世帯(原告番号14-1,14-2)について 1 事実関係【甲個14の1,原告番号14-2本人】原告番号14-1は,本件事故の際,@@@@@@@内の自宅で,妻である原告番号14-2と2人暮らしをしていた。同自宅所在地は,本件事故後,緊急時避難準備区域に指定されたが,平成23年9月30日に解除された。 本件事故当時,原告番号14-1は,@@@@@@@内の自宅にいたが,原告 番号14-2は,@@@内に旅行中であった。 原告番号14-1は,平成23年3月18日,@@@内の旅館に避難し,同年4月1日には,神奈川県@@@@@@内の知人宅に身を寄せた。 他方,原告番号14-2は,同年3月13日から同年4月4日まで,東京都内や@@@内の知人宅を転々とした。 同月4日,原告番号14らは,@@@@内で合流し,旅館等に宿泊した後,同月6日から,肩書地住所にて生活を開始した。 2 損害額の認定⑴ 慰謝料原告番号14らは,いずれも旧緊急時避難準備区域に居住していたところ, 同地は,資料29及び同30(第6分冊)の④に該当するから,原告番号14らにつき,それぞれ,当裁判所が認める自己決定権侵害慰謝料(C)として250万円( 時避難準備区域に居住していたところ, 同地は,資料29及び同30(第6分冊)の④に該当するから,原告番号14らにつき,それぞれ,当裁判所が認める自己決定権侵害慰謝料(C)として250万円(前記第8節第3,2⑶ア[❸-169 頁])を認める(原告番号14らの〈裁判所認定欄〉(a))。 ⑵ 財産的損害について 原告番号14-1は,その所有に係る不動産についての賠償を求めるが,同敷地所在地については避難指示等がなく,本件平穏生活4要素が包括的に喪失したと認められないから,不動産・家財損害を肯認できない(第8節第6,1[❸-179 頁])。 原告番号14-1は,上記不動産の所在地が,避難指示区域に近接している と主張するが,上記不動産と避難指示区域との距離(直線距離で3㎞)に照らし,財産権侵害を肯認できるほどの位置関係にあるとは認め難い。 3 被告東電による弁済被告東電が支払った避難慰謝料名目の金員の額は,原告番号14-1につき234万円(原告番号14-1の〈裁判所認定欄〉(b)),原告番号14-2につき 236万6000円(原告番号14-2の〈裁判所認定欄〉(b))である。【乙共 336・55~57頁】 4 弁護士費用⑴ 損害合計は,原告番号14-1につき16万円(原告番号14らの〈裁判所認定欄〉(c)),原告番号14-2につき13万4000円(原告番号14らの〈裁判所認定欄〉(c))である。 ⑵ 弁護士費用は,原告番号14らにつきそれぞれ1万円である(原告番号14らの〈裁判所認定欄〉(d))。 5 まとめ以上によれば,原告番号14-1の請求は,17万円(原告番号14-1の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民 法所定の年5分の割合 )。 5 まとめ以上によれば,原告番号14-1の請求は,17万円(原告番号14-1の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民 法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号14-2の請求は,14万4000円(原告番号14-2の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。 (原告番号14-1につき 250 万円-234 万円+1 万円=17 万円原告番号14-2につき 250 万円-236 万6000 円+1 万円=14 万4000 円)第15 原告番号15の世帯(原告番号15-1,15-2)について 1 事実関係【甲個15の1】原告番号15-1は,本件事故の際,@@@内の自宅において,妻である原告番号15-2と2人で生活していた。同自宅所在地は,本件事故後,居住制限区域に指定された。 原告番号15らは,平成23年3月12日に,付近の公民館に避難した。同月 13日,原告番号15らは,@@@内の孫を頼って避難を開始したが,同孫の連絡先等が不明であったことから,同日は車中泊を余儀なくされた。 同月14日,原告番号15らは@@@@内に入り,温泉旅館に宿泊しようとしたが,観光案内所で温泉旅館への宿泊は困難である旨教示され,避難所となっている付近の体育館に滞在することになり,同月30日まで同所での避難生活を余 儀なくされた。 避難生活中,原告番号15-2は体調を崩し,同月31日には激しい腹痛に見舞われて緊急入院を余儀なくされ,同年4月8日まで入院した。 同月10日,原告 まで同所での避難生活を余 儀なくされた。 避難生活中,原告番号15-2は体調を崩し,同月31日には激しい腹痛に見舞われて緊急入院を余儀なくされ,同年4月8日まで入院した。 同月10日,原告番号15-2の入院の報に接した二男が原告番号15らを迎えに訪れ,同人らは@@@内の二男宅に移動した。 同年8月28日,原告番号15らは,@@@内にアパートを賃借して同所に転居した。 2 損害額の認定原告番号15らは,いずれも@@@内の居住制限区域に居住していたところ,同地は,資料29及び同30(第6分冊)のに該当し,避難指示が5年を超え て継続した地域に該当するから,原告番号15らにつき,それぞれ,当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)として1300万円(前記第8節第2,2⑶イ[❸-161 頁])を認める(原告番号15-1の〈裁判所認定欄〉(a),15-2の〈裁判所認定欄〉(a-1))。 また,原告番号15らは,平成23年3月12日から同月30日まで19日間 避難所での生活を余儀なくされたものであるから,当裁判所が認める避難慰謝料(A) (前記第8節第4,2⑶[❸-178 頁]のとおり日額2000 円)として,それぞれ3万8000円(19日分)を認める(原告番号15-1の〈裁判所認定欄〉(a),15-2の〈裁判所認定欄〉(a-1))。 さらに,原告番号15-2は,本件事故に基づく避難中に体調を崩し入院した ものであるところ,これによる精神的損害は,生命・身体に対する侵害として別 個の権利侵害と評価できるから,入院慰謝料として20万円を認める(原告番号15-2の〈裁判所認定欄〉(a-2))。 3 被告東電による弁済被告東電が支払った避難慰謝料名目の金員の額は,原告15らにつきそれぞれ854万 から,入院慰謝料として20万円を認める(原告番号15-2の〈裁判所認定欄〉(a-2))。 3 被告東電による弁済被告東電が支払った避難慰謝料名目の金員の額は,原告15らにつきそれぞれ854万円である(原告番号15-1の〈裁判所認定欄〉(b),原告番号15-2 の〈裁判所認定欄〉(b-1))。【乙共336・58~61頁】被告東電が原告番号15-2に支払った入院慰謝料名目の金員の額は22万7150円である(原告番号15-2の〈裁判所認定欄〉(b-2))。乙共336の61頁によれば,被告東電が原告番号15-2に対して支払った入院慰謝料名目の金員の額が明瞭でないが,同証拠記載の「賠償金種別」の欄に「生命・身体的 傷害」と記載のあるもののうち,平成23年3月11日から同年8月31日までの期間に対応する22万7150円を上記入院慰謝料に対する弁済と認める。そのため,原告番号15-2の入院慰謝料は全額弁済されたことになる。 4 弁護士費用⑴ 損害合計は,原告番号15らにつきそれぞれ449万8000円である(原 告番号15-1の〈裁判所認定欄〉(c),原告番号15-2の〈裁判所認定欄〉(d))。 ⑵ 弁護士費用は,原告番号15らにつきそれぞれ44万円である(原告番号15-1の〈裁判所認定欄〉(d),原告番号15-2の〈裁判所認定欄〉(e) )。 5 まとめ 以上によれば,原告番号15-1の請求は,493万8000円(原告番号15-1の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号15-2の請求は,493万8000円(原告番号15-2の〈裁判所認定欄〉(f))及びこれに対する平成23年3 年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号15-2の請求は,493万8000円(原告番号15-2の〈裁判所認定欄〉(f))及びこれに対する平成23年3 月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を 求める限度で理由があり,その余は理由がない。 (原告番号15-1につき 1300 万円+3 万8000 円-854 万円+44 万円=493 万8000 円原告番号15-2につき 1300 万円+3 万8000 円-854 万円+44 万円=493 万8000 円) 第16 原告番号16の世帯について 1 事実関係【甲個16の1】原告番号16は,平成2年に婚姻し,2人の子をもうけた。同子らは,本件事故当時,@@@内の自宅(平成21年8月までは原告番号16も居住していた。) で生活していた。 原告番号16は,平成23年2月21日から,@@@内の開業準備中の@@@にて住み込みで稼働しており,本件事故の際は,同@@@に居住していた。同@@@所在地は,本件事故後,居住制限区域に指定された。 平成23年3月11日,原告番号16は,@@@内の温浴施設に避難した。 同月12日,原告番号16は,@@@の小学校に避難し,同月16日まで同所での避難所生活を余儀なくされた。 同日,原告番号16は,@@@内の施設に避難し,同月27日まで,同所での避難所生活を余儀なくされた。 同日,原告番号16は,@@@内の姉宅に身を寄せ,その後,@@@内の親類 宅に身を寄せた上,同年5月20日に,@@@内の公営住宅に転居した。 2 損害額の認定原告番号16は,@@@内の居住制限区域に居住していたところ,同地は,資料29及び同30(第6分冊)の 宅に身を寄せた上,同年5月20日に,@@@内の公営住宅に転居した。 2 損害額の認定原告番号16は,@@@内の居住制限区域に居住していたところ,同地は,資料29及び同30(第6分冊)の㊵に該当する。しかし,同人は,本件事故の前月である平成23年2月から同地にて住み込みで稼働していたものにすぎない から,同人がその平穏生活権ないし居住,移転の自由により享受していた利益, すなわち@@@の上記居住地における地域コミュニティから享受していた本件平穏生活4要素による利益は暫定的かつ未確定なものというべきであり,当裁判所が認めるふるさと喪失損害(B)の程度も限定的といわざるを得ない。 そこで,原告番号16について肯認できる当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)の額は,900万円とするのが相当である(原告番号16の〈裁判所認定 欄〉(a))。 また,原告番号16は,平成23年3月12日から同月27日まで16日間避難生活を余儀なくされたものであるから,当裁判所が認める避難慰謝料(A) (前記第8節第4,2⑶[❸-178 頁]のとおり日額2000 円)として3万2000円(16日分)を認める(原告番号16の〈裁判所認定欄〉(a))。 3 被告東電による弁済被告東電が支払った避難慰謝料名目の金員の額は,852万円である(原告番号16の〈裁判所認定欄〉(b))。【乙共336・62~63頁】 4 弁護士費用⑴ 原告番号16の損害合計は51万2000円である(原告番号16の〈裁判 所認定欄〉(c))。 ⑵ 原告番号16の弁護士費用は5万円である(原告番号16の〈裁判所認定欄〉(d))。 5 まとめ以上によれば,原告番号16の請求は,56万2000円(原告番号16の〈裁 判所認定欄〉(g) 原告番号16の弁護士費用は5万円である(原告番号16の〈裁判所認定欄〉(d))。 5 まとめ以上によれば,原告番号16の請求は,56万2000円(原告番号16の〈裁 判所認定欄〉(g))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。 (原告番号16につき 900 万円+3 万2000 円-852 万円+5 万円=56 万2000 円) 第17 原告番号17の世帯について 1 事実関係【掲記の証拠のほか,甲個17の1,原告番号17本人】⑴ 旧居住地及び本件事故前の就業状況原告番号17は,本件事故の際,@@@内の自宅において,当時の妻と2人で生活していた。同自宅所在地は,本件事故後,帰還困難区域に指定された。 原告番号17は,本件事故当時,@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@を業とする会社で稼働していた。平成22年4月から平成23年3月までの原告番号17の給与は,@@@@@@@@円であった。【甲個17の3】⑵ 避難経過 平成23年3月11日,原告番号17は,@@@@@@@@@@@@@@@@@@中に被災した。同日,原告番号17は,当時の妻とともに,@@@の実家に身を寄せた。 同月13日,原告番号17は,さらに,@@@の親戚宅に身を寄せ,同月15日まで同所で過ごした。その後,原告番号17は,@@@内の親類宅,茨城 県@@@@@@内の親類宅を経て,同月22日から同月30日までの間,@@@@@@@@@@において,@@@@@@@@@@@@に従事した。この間,原告番号17は,少なくとも11日間,車中泊や,@@@@@@の床での寝起きを余儀なくされた。 同月31日, 0日までの間,@@@@@@@@@@において,@@@@@@@@@@@@に従事した。この間,原告番号17は,少なくとも11日間,車中泊や,@@@@@@の床での寝起きを余儀なくされた。 同月31日,原告番号17は,再び茨城県@@@@@@内の親類宅に身を寄 せた。 同年8月26日,原告番号17は,@@@内のマンションに転居した。 ⑶ 避難後の就業状況原告番号17は,平成23年5月に,従前より勤務していた会社を退職した。 平成24年夏頃から平成25年春頃までの間,原告番号17は,知人が経営 する@@@@@@@@@に従事した。【原告番号17本人・20頁】 平成28年6月,原告番号17は,@@@@@@に就職した【原告番号17本人・10頁】。 上記期間中,原告番号17は,ADR手続等に忙殺されるなどして,本格的な就職活動をしなかった。【原告番号17本人・10頁,弁論の全趣旨】 2 損害額の認定 ⑴ 慰謝料原告番号17は,@@@内の帰還困難区域に居住していたところ,同地は,資料29及び同30(第6分冊)の㊶に該当するから,同人につき,当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)として1500万円(前記第8節第2,2⑶ア[❸-160 頁]を認める(原告番号17の〈裁判所認定欄〉(a-1))。 また,原告番号17は,平成23年3月15日から同月30日までの間,少なくとも11日は,車中泊ないし@@床での寝起きを余儀なくされたものであるから,当裁判所が認める避難慰謝料(A) (前記第8節第4,2⑶[❸-178頁]のとおり日額2000 円)として2万2000円(11日分)を認める(原告番号17の〈裁判所認定欄〉(a-1))。 ⑵ 就労不能損害原告番号17は,平成23年5月以降,たびたび無職に陥ったも おり日額2000 円)として2万2000円(11日分)を認める(原告番号17の〈裁判所認定欄〉(a-1))。 ⑵ 就労不能損害原告番号17は,平成23年5月以降,たびたび無職に陥ったものであるが,有職の期間もあったものであり,現に生じた減収の事実を認めるに足りる的確な証拠はない。また,原告番号17は,平成23年5月から平成28年6月までの間,本格的な就職活動をしなかったものであるところ,その心境に理解で きるところはあるにしても,種々の負担に耐えつつ就職活動に勤しんでようやく収入を得た被災者も少なくないと思料されることからすると,原告番号17の就業が不安定だった期間について,本件事故前と同等の収入が得られたものとして損害を算定することは困難というほかない。そこで,原告番号17については,就労不能損害の請求の始期である平成26年3月から,再就職をした 平成28年6月までの間(28か月),本件事故前の収入の半額(年額169万 1179円。1か月換算では14万0931円)の減収があったものと認めるのが相当である。 そうすると,原告番号17について認められる就労不能損害は,394万6068円(前記第8節第6,2⑶[❸-186 頁])と認められる(原告番号17の〈裁判所認定欄〉(a-2))。 3 被告東電による弁済被告東電が支払った避難慰謝料名目の金員の額は,1452万円である(原告番号17の〈裁判所認定欄〉(b-1))。【乙共336・65~66頁】なお,被告東電は,原告番号17に対し,就労不能損害名目で金員を支払っているが,前記2⑵で認定した就労不能期間に対応する弁済とは認められない。 4 弁護士費用⑴ 原告番号17の損害合計は444万8068円である(原告番号17の〈裁判所認定 で金員を支払っているが,前記2⑵で認定した就労不能期間に対応する弁済とは認められない。 4 弁護士費用⑴ 原告番号17の損害合計は444万8068円である(原告番号17の〈裁判所認定欄〉(d))。 ⑵ 原告番号17の弁護士費用は44万円である(原告番号17の〈裁判所認定欄〉(e))。 5 まとめ以上によれば,原告番号17の請求は,488万8068円(原告番号17の〈裁判所認定欄〉(f))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。 (原告番号17につき 1500 万円+2 万2000 円-1452 万円+394 万6068 円+44 万円=488 万8068 円)第18 原告番号18の世帯(原告番号18-1,18-2,18-3,18-4,18-5)について 1 事実関係 【掲記の証拠のほか,甲個18の1】 ⑴ 旧居住地等原告番号18-1は,本件事故の際,@@@内の自宅において,妻である原告番号18-2,長女である原告番号18-3(当時16歳),長男である原告番号18-4(当時13歳)及び原告番号18-1の実父である原告番号18-5と5人で暮らしていた。同自宅所在地は,本件事故後,居住制限区域(5 年以上)に指定された。 ⑵ 避難経過平成23年3月12日,原告番号18らは,避難指示を受けて,@@@の避難施設に避難し,同月14日まで同所での避難所生活を余儀なくされた。 同日,原告番号18らは,神奈川県@@@内の親類宅に身を寄せた。 また,同月15日,原告番号18-1,18-2,18-4は,神奈川県@@@内の原告番号18-1の弟宅に移動した。 同年4月下旬, ,原告番号18らは,神奈川県@@@内の親類宅に身を寄せた。 また,同月15日,原告番号18-1,18-2,18-4は,神奈川県@@@内の原告番号18-1の弟宅に移動した。 同年4月下旬,原告番号18らは,同市内にアパートを賃借し,揃って同所に転居した。その後,原告番号18らは,同年12月に同市内の借家に転居したのを経て,平成28年3月,@@@@内に戸建住宅を購入して転居した。 ⑶ 不動産の価額原告番号18-1の所有する自宅敷地は居住制限区域(5年以上)にあり,その固定資産税評価額は350万6108円であった。【甲個18の5】 2 損害額の認定⑴ 慰謝料 原告番号18らは,いずれも@@@内の居住制限区域に居住していたところ,同地は,資料29及び同30(第6分冊)の㊵に該当し,避難指示が5年を超えて継続した地域に該当するから,原告番号18らにつき,それぞれ,当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)として1300万円(前記第8節第2,2⑶イ[❸-161 頁])を認める(原告番号18-1の〈裁判所認定欄〉(a-1),原 告番号18-2,18-3,18-4,18-5の〈裁判所認定欄〉(a))。 また,原告番号18らは,平成23年3月12日から同月14日まで3日間避難生活を余儀なくされたものであるから,当裁判所が認める避難慰謝料(A)(前記第8節第4,2⑶[❸-178 頁]のとおり日額2000 円)として,上記各人につき,それぞれ6000円(3日分)を認める(原告番号18-1の〈裁判所認定欄〉(a-1),原告番号18-2,18-3,18-4,18-5の〈裁判 所認定欄〉(a))。 ⑵ 不動産損害原告番号18-1の所有する自宅敷地は居住制限区域(5年以上)にあり,その価額は前記1⑶認 1),原告番号18-2,18-3,18-4,18-5の〈裁判 所認定欄〉(a))。 ⑵ 不動産損害原告番号18-1の所有する自宅敷地は居住制限区域(5年以上)にあり,その価額は前記1⑶認定のとおりであり,これを,前記第8節第6,2⑴イ[❸-180 頁]で説示した基準に当てはめると,原告番号18-1の所有する自宅 敷地の財産的損害は固定資産税評価額の1.8倍の631万0994円と認められる(原告番号18-1の〈裁判所認定欄〉(a-2))。 ⑶ 家財原告番号18-1の世帯は3人暮らし以上であり,第8節第6,2⑵ウ[❸-186 頁]で判示したところに従い,原告番号18-1の家財の財産的損害は4 0万円と認める(原告番号18-1の〈裁判所認定欄〉(a-3))。 3 被告東電による弁済被告東電が支払った避難慰謝料名目の金員の額は,原告番号18-1,18-2,18-5につき852万円(原告番号18-1の〈裁判所認定欄〉(b-1),原告番号18-2,18-5の〈裁判所認定欄〉(b)),原告番号18-3,18- 4につき860万円(原告番号18-3,18-4の〈裁判所認定欄〉(b))であり,原告番号18-1に支払った不動産損害名目の金員の額は501万3735円(原告番号18-1の〈裁判所認定欄〉(b-2)),原告番号18-1に支払った家財損害名目の金員の額は570万円(原告番号18-1の〈裁判所認定欄〉(b-3))である。【乙共336・67~72頁】 これにより,原告番号18-1の家財の財産的損害は全額弁済されたことにな る。 4 弁護士費用⑴ 損害合計は,原告番号18-1につき578万3259円(原告番号18-1の〈裁判所認定欄〉(d)),原告番号18-2,18-5につきそれぞれ448万 にな る。 4 弁護士費用⑴ 損害合計は,原告番号18-1につき578万3259円(原告番号18-1の〈裁判所認定欄〉(d)),原告番号18-2,18-5につきそれぞれ448万6000円(原告番号18-2,18-5の〈裁判所認定欄〉(c)),原告 番号18-3,18-4につきそれぞれ440万6000円(原告番号18-3,18-4の〈裁判所認定欄〉(c))である。 ⑵ 弁護士費用は,原告番号18-1につき57万円(原告番号18-1の〈裁判所認定欄〉(e)),原告番号18-2,18-3,18-4,18-5につきそれぞれ44万円(原告番号18-2,18-3,18-4,18-5の〈裁 判所認定欄〉(d))である。 5 まとめ以上によれば,原告番号18-1の請求は,635万3259円(原告番号18―1の〈裁判所認定欄〉(f))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理 由があり,その余は理由がなく,原告番号18-2の請求は,492万6000円(原告番号18-2の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号18-3の請求は,484万6000円(原告番号18-3の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対す る平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号18-4の請求は,484万6000円(原告番号18-4の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延 その余は理由がなく,原告番号18-4の請求は,484万6000円(原告番号18-4の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく, 原告番号18-5の請求は,492万6000円(原告番号18-5の〈裁判所 認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。 (原告番号18-1につき 1300 万円+6000 円-852 万円+631 万0994 円-501 万3735 円+57 万円=635 万3259 円原告番号18-2につき 1300 万円+6000 円-852 万円+44 万円=492 万6000 円原告番号18-3につき 1300 万円+6000 円-860 万円+44 万円=484 万6000 円 原告番号18-4につき 1300 万円+6000 円-860 万円+44 万円=484 万6000 円原告番号18-5につき 1300 万円+6000 円-852 万円+44 万円=492 万6000 円)第19 原告番号19の世帯(原告番号19-1,19-2)について 1 事実関係【甲個19の1】原告番号19-1は,本件事故の際,@@@@内の自宅で,夫及び長男である原告番号19-2(当時6歳)と3人暮らしをしていた。 平成23年3月16日,原告番号19らは,@@@内の原告番号19-1の実 家に避難した。原告番号19-1の夫は,@@@@内の自宅に残った。 同年11月19日,原告番号19らは肩書地の借上住宅に転居した。 2 損害額の認定 9らは,@@@内の原告番号19-1の実 家に避難した。原告番号19-1の夫は,@@@@内の自宅に残った。 同年11月19日,原告番号19らは肩書地の借上住宅に転居した。 2 損害額の認定原告番号19らは,いずれも@@@@内に居住していたところ,同地は,資料29及び同30(第6分冊)のに該当し,避難指示等が出されておらず,緊急 時避難準備区域や屋内退避区域にも指定されていないが,いわゆる@@@に位置 するから,当裁判所が認める自己決定権侵害慰謝料(C)として,養育すべき子とともに避難した原告番号19-1につき60万円(前記第8節第3,2⑶ウ[❸-172 頁])(原告番号19-1の〈裁判所認定欄〉(a)),子どもである原告番号19-2について100万円(前記第8節第3,2⑶ウ[❸-172 頁])(原告番号19-2の〈裁判所認定欄〉(a))を認める。 3 被告東電による弁済被告東電が支払った避難慰謝料名目の金員の額は,原告番号19-1につき12万円(原告番号19-1の〈裁判所認定欄〉(b)),原告番号19-2につき72万円(原告番号19-2の〈裁判所認定欄〉(b))である。【乙共336・73~75頁】 4 弁護士費用⑴ 損害合計は,原告番号19-1につき48万円(原告番号19-1の〈裁判所認定欄〉(c)),原告番号19-2につき28万円(原告番号19-2の〈裁判所認定欄〉(c))である。 ⑵ 弁護士費用は,原告番号19-1につき4万円(原告番号19-1の〈裁判 所認定欄〉(d)),原告番号19-2につき2万円(原告番号19-2の〈裁判所認定欄〉(d))である。 5 まとめ以上によれば,原告番号19-1の請求は,52万円(原告番号19-1の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対す 19-2につき2万円(原告番号19-2の〈裁判所認定欄〉(d))である。 5 まとめ以上によれば,原告番号19-1の請求は,52万円(原告番号19-1の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民 法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号19-2の請求は,30万円(原告番号19-2の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。 (原告番号19-1につき 万円-12 万円+4 万円=52 万円原告番号19-2につき 100 万円-72 万円+2 万円=30 万円)第20 原告番号20の世帯(原告番号20-1,20-2,20-3,20-4,20-5)について 1 事実関係【甲個20の1】原告番号20-1は,本件事故の際,@@@内の自宅で,妻である原告番号20-2,長男である原告番号20-3(当時2歳)及び原告番号20-1の両親と5人で暮らしていた。同自宅所在地は,本件事故後,避難指示解除準備区域に 指定されたが,平成27年9月5日に同指定が解除された。なお,本件事故当時,原告番号20-2は,二女である原告番号20-4を懐胎していた。 平成23年3月11日,原告番号20-2,20-3は,@@@@内の原告番号20-2の実家を訪れており,本件地震発生後は,同所に引き続き滞在した。 他方,原告番号20-1は,同月12日,両親と共に上記@@@@内の原告番 号20-2の実家に避難した。 同月13日,原告番号20らは,更に@@@@内の親族宅に身を寄せた。 同月15日, 。 他方,原告番号20-1は,同月12日,両親と共に上記@@@@内の原告番 号20-2の実家に避難した。 同月13日,原告番号20らは,更に@@@@内の親族宅に身を寄せた。 同月15日,原告番号20らは,前後して,@@@内にある親族所有のマンションに移動し,同年4月29日まで同所で生活した。 同日,原告番号20らは,@@@内の公務員住宅に転居した。 同年6月14日,原告番号20-1と原告番号20-2との間に二女である原告番号20-4が出生した。 同年10月28日,原告番号20らは,同市内のみなし仮設住宅に転居した。 平成25年10月3日,原告番号20-1と原告番号20-2との間に三女である原告番号20-5が出生した。 2 損害額の認定 原告番号20-1,20-2,20-3は,本件事故の際,いずれも@@@内に居住していたところ,同地は,資料29及び同30(第6分冊)の㊻に該当し,避難指示等が出され,その期間が5年を超えなかった地域に該当するから,当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)として,原告番号20-1,20-1,20-3についてそれぞれ900万円(前記第8節第2の2⑶オ[❸-163 頁])を 認める(原告番号20-1,20-2,20-3の〈裁判所認定欄〉(a))。 他方,原告番号20-4は,本件事故時,まだ出生していなかったものであるところ,当裁判所が認めるふるさと喪失損害(B)の前提となる平穏生活権ないし居住,移転の自由の侵害は,現に当該コミュニティにおいて生活し,本件平穏生活4要素に基づく利益を享受している場合に認められるものであるから,未出生 の原告番号20-4については,当裁判所が認めるふるさと喪失損害(B)を肯認できない。原告番号20-4の主張は,胎児については,放 づく利益を享受している場合に認められるものであるから,未出生 の原告番号20-4については,当裁判所が認めるふるさと喪失損害(B)を肯認できない。原告番号20-4の主張は,胎児については,放射線に対する感受性が高いとされていることから,本件事故に基づく被ばくにより将来に向けての健康不安が生じたことを被侵害利益とするものとも解し得るが,①現時点で,原告番号20-4に関して,本件事故に基づく健康上の影響が現れていると認めるに 足りる証拠はないこと,②後記3のとおり,被告東電が,原告番号20-4に対し,避難慰謝料名目で868万円を支払済みであること,③当裁判所が認めるふるさと喪失損害(B)を肯認できなくても,当裁判所が認める自己決定権侵害(C)を肯認できる場合があるが,その場合の慰謝料の額は,当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)に比べて相応に低額であることなどの諸事情を勘案すると,仮 に,上記健康不安の点を被侵害利益とする損害賠償責任を肯認できるとしても,これに対応する慰謝料の額は,被告東電の既払金の額を超えることはないというべきである。 また,本件事故当時,原告番号20-2が原告番号20-5を懐胎していたと認めるに足りる証拠はないから,原告番号20-5については,本件事故当時の 権利能力が認められない。 3 被告東電による弁済被告東電が支払った避難慰謝料名目の金員の額は,原告番号20-1につき850万円(原告番号20-1の〈裁判所認定欄〉(b)),原告番号20-2につき890万円(原告番号20-2の〈裁判所認定欄〉(b)),原告番号20-3につき898万円(原告番号20-3の〈裁判所認定欄〉(b))である。【乙共336・ 76~83頁】 4 弁護士費用⑴ 損害合計は,原告番号20- 〈裁判所認定欄〉(b)),原告番号20-3につき898万円(原告番号20-3の〈裁判所認定欄〉(b))である。【乙共336・ 76~83頁】 4 弁護士費用⑴ 損害合計は,原告番号20-1につき50万円(原告番号20-1の〈裁判所認定欄〉(c)),原告番号20-2につき10万円(原告番号20-2の〈裁判所認定欄〉(c)),原告番号20-3につき2万円(原告番号20-3の〈裁 判所認定欄〉(c))である。 ⑵ 弁護士費用は,原告番号20-1につき5万円(原告番号20-1の〈裁判所認定欄〉(d)),原告番号20-2につき1万円(原告番号20-2の〈裁判所認定欄〉(d)),原告番号20-3につき1万円(原告番号20-3の〈裁判所認定欄〉(d))である。 5 まとめ以上によれば,原告番号20-1の請求は,55万円(原告番号20-1の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号20-2の請求は,11万円(原告番号20-2の〈裁 判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号20-3の請求は,3万円(原告番号20-3の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その 余は理由がなく,原告番号20-4,20-5の請求はいずれも理由がない。 (原告番号20-1につき 900 万円-850 万円+5 万円=55 万円原告番号20-2につき 余は理由がなく,原告番号20-4,20-5の請求はいずれも理由がない。 (原告番号20-1につき 900 万円-850 万円+5 万円=55 万円原告番号20-2につき 900 万円-890 万円+1 万円=11 万円原告番号20-3につき 900 万円-898 万円+1 万円=3 万円)第21 原告番号21の世帯(原告番号21-1,21-2,21-3)について 1 事実関係【掲記の証拠のほか,甲個21の1】⑴ 旧居住地等 原告番号21-1は,本件事故の際,@@@内の自宅において,父である原告番号21-2,母である原告番号21-3と3人で暮らしていた。同自宅所在地は,本件事故後,居住制限区域に指定された。 ⑵ 避難経過平成23年3月11日,原告番号21らは,@@@内の避難所に避難した。 同月12日,原告番号21-3は,避難指示を受けて,@@@に避難すべくバスで移動を開始したが,渋滞のため,@@@@@@@に赴いた。その際,知人から@@@@内への避難を提案され,原告番号21-1,21-2も合流して,@@@@に向けて避難を開始した。しかし,本件事故の報を受けて,更に遠方へ避難することになり,同日は@@@内の駐車場で車中泊をした。 同月13日,付近に住む住民が好意でアパートを提供することになり,原告番号21らは,同日から同月15日まで同所に滞在した。 同月15日,原告番号21らは,知人の紹介で,@@@内の研修施設に移動し,同月18日まで同所に滞在した。 同月18日,原告番号21らは,@@@@内の原告番号21-2の実家に身 を寄せた。 同年4月20日,原告番号21らは,@@@@内の借上住宅に転居した。 ⑶ 不動産の価額原告番号21-2の所有する自 らは,@@@@内の原告番号21-2の実家に身 を寄せた。 同年4月20日,原告番号21らは,@@@@内の借上住宅に転居した。 ⑶ 不動産の価額原告番号21-2の所有する自宅敷地建物は居住制限区域(5年以上)にあり,自宅建物は本件事故時点で築26年であった。原告番号21-2の所有する自宅敷地の固定資産税評価額は705万3594円であり,同人所有の自宅 建物の固定資産税評価額は,249万4525円であった。【甲個21の3ないし21の5】 2 損害額の認定⑴ 慰謝料原告番号21らは,いずれも@@@内の居住制限区域に居住していたところ, 同地は,資料29及び同30(第6分冊)の㊵に該当し,避難指示が5年を超えて継続した地域に該当するから,原告番号21らにつき,それぞれ,当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)として1300万円(前記第8節第2,2⑶イ[❸-161 頁])を認める(原告番号21-1,21-2の〈裁判所認定欄〉(a-1),原告番号21-3の〈裁判所認定欄〉(a))。 また,原告番号21らは,平成23年3月11日から同月14日まで3日間避難生活ないし車中泊を余儀なくされたものであるから,当裁判所が認める避難慰謝料(A) (前記第8節第4,2⑶[❸-178 頁]のとおり日額2000 円)として,上記各人につき,それぞれ6000円(3日分)を認める(原告番号21-1,21-2の〈裁判所認定欄〉(a-1),原告番号21-3の〈裁判所認定 欄〉(a))。 ⑵ 不動産損害原告番号21-2の所有する自宅敷地建物は居住制限区域(5年以上)にあり,自宅建物は本件事故時点で築30年を超えていないところ,その価額は前記1⑶認定のとおりであり,これを,前記第8節第6,2⑴イ[❸-180 頁] の所有する自宅敷地建物は居住制限区域(5年以上)にあり,自宅建物は本件事故時点で築30年を超えていないところ,その価額は前記1⑶認定のとおりであり,これを,前記第8節第6,2⑴イ[❸-180 頁] で説示した基準に当てはめると,自宅敷地の財産的損害は固定資産税評価額の 1.8倍の1269万6469円(原告番号21-2の〈裁判所認定欄〉(a-2))であり,自宅建物の財産的損害は固定資産税評価額の2.5倍である623万6313円(原告番号21-2の〈裁判所認定欄〉(a-3))である。 ⑶ 家財原告番号21-1の世帯は3人暮らし以上であるから,前記第8節第6,2 ⑵ウ[❸-186 頁]で判示したところに従い,原告番号21-1の家財の財産的損害を40万円と認める(原告番号21-1の〈裁判所認定欄〉(a-2))。 3 被告東電による弁済被告東電が支払った避難慰謝料名目の金員の額は,原告番号21らにつきぞれぞれ852万円である(原告番号21-1の〈裁判所認定欄〉(b-1),原告番号2 1-2の〈裁判所認定欄〉(b-1),原告番号21-3の〈裁判所認定欄〉(b))。被告東電が原告番号21-2に支払った不動産損害名目の金員の額は,原告番号21-2の自宅敷地につき1008万6640円(原告番号21-2の〈裁判所認定欄〉(b-2)),自宅建物につき2052万9941円(原告番号21-2の〈裁判所認定欄〉(b-3))である。被告東電が原告番号21-1に支払った家財損害名 目の金員の額は510万円である(原告番号21-1の〈裁判所認定欄〉(b-2))。 【乙共336・84~87頁】これにより,原告番号21-2の自宅建物の財産的損害については全額弁済されたことになり,原告番号21-1の家財の財産的損害については全額弁済 判所認定欄〉(b-2))。 【乙共336・84~87頁】これにより,原告番号21-2の自宅建物の財産的損害については全額弁済されたことになり,原告番号21-1の家財の財産的損害については全額弁済されたことになる。 4 弁護士費用⑴ 損害合計は,原告番号21-1につき448万6000円(原告番号21-1の〈裁判所認定欄〉(d)),原告番号21-2につき709万5829円(原告番号21-2の〈裁判所認定欄〉(d)),原告番号21-3につき448万6000円(原告番号21-3の〈裁判所認定欄〉(c))である。 ⑵ 弁護士費用は,原告番号21-1につき44万円(原告番号21-1の〈裁 判所認定欄〉(e)),原告番号21-2につき70万円(原告番号21-2の〈裁判所認定欄〉(e)),原告番号21-3につき44万円(原告番号21-3の〈裁判所認定欄〉(d))である。 5 まとめ以上によれば,原告番号21-1の請求は,492万6000円(原告番号2 1-1の〈裁判所認定欄〉(f))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号21-2の請求は,779万5829円(原告番号21-2の〈裁判所認定欄〉(f))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め る限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号21-3の請求は,492万6000円(原告番号21-3の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。 (原告番号21-1につ 3の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。 (原告番号21-1につき 1300 万円+6000 円-852 万円+44 万円=492 万6000 円原告番号21-2につき 1300 万円+6000 円-852 万円+1269 万6469 円-1008 万6640 円+70 万円= 779 万5829 円原告番号21-3につき 1300 万円+6000 円-852 万円+44 万円=492 万6000 円)第22 原告番号22の世帯(原告番号22-1,22-2,22-3,22-4)について 1 事実関係【掲記の証拠のほか,甲個22の1】 ⑴ 旧居住地等 原告番号22-1は,本件事故の際,@@@内の自宅において,@@@@@@@@@@と2人で暮らしていた。@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@同自宅所在地は,本件 事故後,帰還困難区域に指定された。 原告番号22-2は,本件事故の際,@@@内の自宅(原告番号22-1の自宅とは別)において,単身居住していた。同自宅所在地は,本件事故後,帰還困難区域に指定された。 ⑵ 避難経過等 平成23年3月11日,原告番号22-1,22-2,@@は,@@@@のホテルに避難したが,居室に入室することはできず,同日はロビーで就寝した。 同月12日,原告番号22-1,22-2,@@は,本件事故の報を受け,@@@の体育館に避難して,同所 2,@@は,@@@@のホテルに避難したが,居室に入室することはできず,同日はロビーで就寝した。 同月12日,原告番号22-1,22-2,@@は,本件事故の報を受け,@@@の体育館に避難して,同所に1泊した。 同月13日,原告番号22-1,22-2,@@は,福島県@@@内の高校 に避難し,同月16日まで同所で避難所生活を余儀なくされた。 同日,原告番号22-1,22-2,@@は,神奈川県@@@@内の@@@@@@@@@@@に身を寄せた。 同年4月22日,原告番号22-1は,@@@@@@と共に,同市内の借上アパートに転居した。原告番号22-2は,そのまま原告番号22-1の妹宅 に滞在を継続した。 その後,@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@,原告番号22-1は同市内のホテルに宿泊するなどしたが,同年8月1日,肩書地の借上住宅に転居した。 @@@@@@@@@@@原告番号22-2は死亡した。その相続人は,原告 番号22-1,訴訟承継人原告番号22-3,22-4(相続分は各3分の1) である。 ⑶ 不動産の価額ア原告番号22-1について原告番号22-1の所有する自宅建物は帰宅困難区域にあり,本件事故時点で築17年であり,その固定資産税評価額は356万5169円であった。 【甲個22の5,22の6】イ原告番号22-2について原告番号22-2の所有する自宅敷地建物は帰宅困難地域にあり,自宅建物は本件事故時点で築42年であり,自宅敷地(原告番号22-2の〈裁判所認定欄〉の「甲土地」)の固定資産税評価額は1527万3934円であ り,自宅建物の固定資産税評価額は129万8486円であった。【甲個21の3ないし21の5】また,原告番号22-2は,上記自宅敷地以外にも,福島県@@@@ 評価額は1527万3934円であ り,自宅建物の固定資産税評価額は129万8486円であった。【甲個21の3ないし21の5】また,原告番号22-2は,上記自宅敷地以外にも,福島県@@@@@@に土地2筆(原告番号22-2の〈裁判所認定欄〉の「乙土地」及び「丙土地」)を所有しており,これらの土地はいずれも帰宅困難区域にあり,乙土地 の固定資産税評価額は19万5500円であり,丙土地の固定資産税評価額は232万9000円であった。【甲個22の7】 2 損害額の認定⑴ 慰謝料原告番号22-1,22-2は,いずれも@@@内の帰還困難区域に居住し ていたところ,同地は,資料29及び同30(第6分冊)の㊶に該当するから,原告番号22-1,22-2につき,それぞれ,当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)として1500万円(前記第8節第2,2⑶ア[❸-160 頁])を認める(原告番号22-1,22-2の〈裁判所認定欄〉(a-1))。 また,原告番号22-1,22-2は,平成23年3月11日から同月16 日まで6日間避難生活ないし車中泊を余儀なくされたものであるから,当裁判 所が認める避難慰謝料(A) (前記第8節第4,2⑶[❸-178 頁]のとおり日額 2000 円)として,上記各人につき,それぞれ1万2000円(6日分)を認める(原告番号22-1,22-2の〈裁判所認定欄〉(a-1) )。 ⑵ 不動産損害ア原告番号22-1 原告番号22-1の所有する自宅建物は帰宅困難区域にあり,本件事故時点で築30年を超えていないところ,その価額は前記1⑵ア認定のとおりであり,これを,前記第8節第6,2⑴ア[❸-180 頁]で説示した基準に当てはめると,原告番号22-1の自宅建物の財産的損害は固定資産税評 0年を超えていないところ,その価額は前記1⑵ア認定のとおりであり,これを,前記第8節第6,2⑴ア[❸-180 頁]で説示した基準に当てはめると,原告番号22-1の自宅建物の財産的損害は固定資産税評価額の3倍の1069万5507円と認められる(原告番号22-1の〈裁判所認 定欄〉(a-2))。 イ原告番号22-2原告番号22-2の所有する自宅建物,同敷地(甲土地)建物及び福島県@@@@@@の土地(乙土地及び丙土地)は帰宅困難区域にあり,その価額は前記1⑵ア認定のとおりであり,これを,第8節第6,2⑴ア[❸-180 頁] で説示した基準に当てはめると,自宅敷地(甲土地)の財産的損害は固定資産税評価額の2倍の3054万7868円,乙土地の財産的損害は固定資産税評価額の2倍の39万1000円,丙土地の財産的損害は固定資産税評価額の2倍の465万8000円であり,自宅敷地(甲土地),乙土地及び丙土地の財産的損害の合計は3559万5868円(原告番号22-2の〈裁判 所認定欄〉(a-2))であると認められ,自宅建物の財産的損害は固定資産税評価額の5倍の649万2430円と認められる(原告番号22-2の〈裁判所認定欄〉(a-3))。 ⑶ 家財原告番号22-1の世帯は夫婦又は親子2人暮らしであるから,前記第8節 第6,2⑵イ[❸-185 頁]で判示したところに従い,原告番号22-1の家財 の財産的損害は20万円と認められるが,原告番号22-1@@@@@@@は,家財について,これを同人らの共有(持分2分の1ずつ)として,半額ずつを請求するものであるから,これに従い,原告番号22-1については,損害として10万円を認める(原告番号22-1の〈裁判所認定欄〉(a-3))。 原告番号22-2の世帯は単身世帯で として,半額ずつを請求するものであるから,これに従い,原告番号22-1については,損害として10万円を認める(原告番号22-1の〈裁判所認定欄〉(a-3))。 原告番号22-2の世帯は単身世帯であったから,前記第8節第6,2⑵ア [❸-185 頁]で判示したところに従い,原告番号22-2の家財の財産的損害は10万円と認められる(原告番号22-2の〈裁判所認定欄〉(a-4))。 3 被告東電による弁済被告東電が原告番号22-1に支払った避難慰謝料名目の金員の額は1452万円(原告番号22-1の〈裁判所認定欄〉(b-1))であり,不動産損害名目の 金員の額は1716万4839円(原告番号22-1の〈裁判所認定欄〉(b-2) )である。【乙共336・88~91頁】これにより,原告番号22-1の自宅建物の財産的損害は全額弁済されたことになる。 被告東電が原告番号22-2に支払った避難慰謝料名目の金員の額は1452万円(原告番号22-2の〈裁判所認定欄〉(b-1))であり,不動産損害名目の 金員の額は,自宅敷地(甲土地),乙土地及び丙土地につき4440万9421円(原告番号22-2の〈裁判所認定欄〉(b-2))であり,自宅建物につき1559万4818円(原告番号22-2の〈裁判所認定欄〉(b-3))であり,家財損害名目の金員の額は325万円(原告番号22-2の〈裁判所認定欄〉(b-4))である。 【乙共336・88~91頁】これにより,原告番号22-2の自宅敷地(甲土 地),乙土地及び丙土地の財産的損害,自宅建物の財産的損害,家財の財産的損害については全額弁済されたことになる。 4 弁護士費用⑴ 損害合計は,原告番号22-1につき59万2000円(原告番号22-1の〈裁判所認定欄〉(d)),原告番号22-2につき4 財の財産的損害については全額弁済されたことになる。 4 弁護士費用⑴ 損害合計は,原告番号22-1につき59万2000円(原告番号22-1の〈裁判所認定欄〉(d)),原告番号22-2につき49万2000円(原告番 号22-2の〈裁判所認定欄〉(d))である。 ⑵ 弁護士費用は,原告番号22-1につき5万円(原告番号22-1の〈裁判所認定欄〉(e)),原告番号22-2につき4万円(原告番号22-2の〈裁判所認定欄〉(e))である。 5 原告番号22-1,22-2の損害額のまとめ以上によれば,原告番号22-1は,64万2000円及びこれに対する平成 23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができ,原告番号22-2は,53万2000円(原告番号22-2の〈裁判所認定欄〉(f))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができた。 (原告番号22-1につき 1500 万円+1 万2000 円-1452 万円+10 万円+5 万円=64 万2000 円原告番号22-2につき 1500 万円+1 万2000 円-1452 万円+4 万円=53 万2000 円) 6 原告番号22-1,22-3,22-4の請求の認容額 原告番号22-1,22-3,22-4は,原告番号22-2を各相続分3分の1により相続し,原告番号22-2を訴訟承継したから,それぞれ,原告番号22-2の損害賠償請求権のうち17万7333円(53 万2000 円×1/3=17 万 7333 円)及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の請求権を取得した。 したが 7万7333円(53 万2000 円×1/3=17 万 7333 円)及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の請求権を取得した。 したがって,原告番号22-1の請求は,64万2000円(前記5)と17万7333円の合計81万9333円(原告番号22-1の〈裁判所認定欄〉(f))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号22-3の請求は,17万7333円(原告番号22-3の「認容額」 の欄)及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5 分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号22-4の請求は,17万7333円(原告番号22-4の「認容額」の欄)及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。 第23 原告番号23の世帯(原告番号23-1,23-2,23-3,23-4,23-5)について 1 事実関係【掲記の証拠のほか,甲個23の1,23の2,23の14,原告番号23-2本人】 ⑴ 旧居住地及び本件事故前の就業状況等原告番号23-1は,本件事故の際,@@@内の自宅において,妻である原告番号23-2,二女である原告番号23-4(当時17歳)及び三女である原告番号23-5(当時7歳)と4人で暮らしていた。同自宅所在地は,本件事故後,居住制限区域に指定された。 原告番号23-1は,本件事故当時,@@@@@@@@に雇用されており,平成22年3月から東京都内の同社本社に転勤と 人で暮らしていた。同自宅所在地は,本件事故後,居住制限区域に指定された。 原告番号23-1は,本件事故当時,@@@@@@@@に雇用されており,平成22年3月から東京都内の同社本社に転勤となって単身赴任し,平日は@@@内の社宅に居住していた。 @@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@ @@@@@@@原告番号23-1と原告番号23-2との間の長女である原告番号23-3(当時18歳),は,本件事故当時,東京都内の専門学校に通学しており,@@@内の原告番号23-1が居住する社宅で同人と同居していた【原告番号23-2本人】。 ⑵ 避難経過 平成23年3月12日,原告番号23-2は,避難指示を受け,原告番号23-4,23-5を連れて避難を開始し,複数の避難所に受入れを拒否された上,@@@内の小学校に避難し,同月13日まで同所で過ごした。 同月13日,原告番号23-2,23-4,23-5は,原告番号23-1,23-3が居住する@@@内の社宅へ避難した。 同年11月9日,原告番号23-1及び原告番号23-2は,@@@@内に土地建物を購入し,原告番号23-5と共に同所に転居した。もっとも,原告番号23-1は,上記土地建物の購入後も単身赴任が継続し,平日は@@@内の自宅に居住していた。 原告番号23-3は,原告番号23-1及び原告番号23-2が上記土地建 物を購入した後も,@@@内の原告番号23-1の社宅で生活し,その後東京都内に転居した。 原告番号23-4は,原告番号23-1及び原告番号23-2が上記土地建物を購入した後も,@@@内の原告番号23-1の社宅において居住を継続した。 ⑶ 避 し,その後東京都内に転居した。 原告番号23-4は,原告番号23-1及び原告番号23-2が上記土地建物を購入した後も,@@@内の原告番号23-1の社宅において居住を継続した。 ⑶ 避難後の就業状況@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@ @@⑷ 不動産の価額原告番号23-1の所有する自宅敷地建物は居住制限区域(5年以上)にあり,自宅建物は本件事故時点で築16年であった。自宅敷地の固定資産税評価額は242万9664円であり,自宅建物の固定資産税評価額は,413万6 989円であった。【甲個23の6】 2 損害額の認定⑴ 慰謝料ア原告番号23-1,23-2,23-4,23-5は,いずれも@@@内の居住制限区域に居住していたところ,同地は,資料29及び同30(第6分冊)の㉑に該当し,避難指示が5年を超えて継続した地域に該当するから, 原告番号23-1,23-2,23-4,23-5につき,それぞれ,当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)として1300万円(前記第8節第2,2⑶イ[❸-161 頁])を認める(原告番号23-1,23-2の〈裁判所認定欄〉(a-1) ,原告番号23-4,23-5の〈裁判所認定欄〉(a))。 また,原告番号23-2,23-4,23-5は,平成23年3月12日 から同月13日まで2日間避難生活を余儀なくされたものであるから,当裁判所が認める避難慰謝料(A)(前記第8節第4,2⑶[❸-178 頁]のとおり日額2000 円)として,上記各人につき,それぞれ4000円(2日分)を認 間避難生活を余儀なくされたものであるから,当裁判所が認める避難慰謝料(A)(前記第8節第4,2⑶[❸-178 頁]のとおり日額2000 円)として,上記各人につき,それぞれ4000円(2日分)を認める(原告番号23-2の〈裁判所認定欄〉(a-1) ,原告番号23-4,23-5の〈裁判所認定欄〉(a))。 他方,原告番号23-3は,@@@内に居住して東京都内の専門学校に通学していたのであるから,実質的には親元から独立した生活環境を構築していたものであり,その平穏生活権ないし居住,移転の自由は,基本的には@@@内及びその周辺において享受されていたものと認められ,@@@内における平穏生活権ないし居住,移転の自由の侵害を観念することはできない。 よって,原告番号23-3については,当裁判所が認めるふるさと喪失損害(B)を肯認できない。この点で,その帰省先に家族を残し,限定的であっても帰省時には当地で家族と生活するという実質が現に存在し,本件平穏生活4要素による恩恵を享受しながら生活する権利すなわち平穏生活権ないし居住,移転の自由の侵害を観念することができる単身赴任者とは異なる。 イ被告らは,原告番号23-1は単身赴任中であり,避難慰謝料発生の根拠 となる生活の本拠地は@@@内にあったと主張するが,単身赴任中であっても,その帰省先に家族を残し,限定的であっても帰省時には当地で家族と生活するという実質が現に存在するのであって,本件平穏生活4要素による恩恵を享受しながら生活する権利すなわち平穏生活権ないし居住,移転の自由の侵害を観念することができるから,当裁判所が認めるふるさと喪失損害 (B)を肯認することができる。そして,この場合に,単身赴任者が帰省先において本件平穏生活4要素により享受する利益が,非単 由の侵害を観念することができるから,当裁判所が認めるふるさと喪失損害 (B)を肯認することができる。そして,この場合に,単身赴任者が帰省先において本件平穏生活4要素により享受する利益が,非単身赴任者のそれよりも限定的であると解すべき理由はない。そうすると,原告番号23-1についても,当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)1300万円を肯認できるというべきである(前記第8節第2,2⑶イ[❸-161 頁])。 ⑵ 不動産損害原告番号23-1の所有する自宅敷地建物は居住制限区域(5年以上)にあり,自宅建物は本件事故時点で築30年を超えていないところ,自宅敷地及び自宅建物の価額は前記1⑷認定のとおりであり,これを,前記第8節第6,2⑴イ[❸-180 頁]で説示した基準に当てはめると,自宅敷地の財産的損害は固 定資産税評価額の1.8倍の437万3395円(原告番号23-1の〈裁判所認定欄〉(a-2))と認められ,自宅建物の財産的損害は固定資産税評価額の2.5倍の1034万2473円(原告番号23-1の〈裁判所認定欄〉(a-3))と認められる。 ⑶ 家財 原告番号23-1の世帯は3人暮らし以上であるから,前記第8節第6,2⑵ウ[❸-186 頁]で判示したところに従い,原告番号23-1の家財の財産的損害は40万円と認める(原告番号23-1の〈裁判所認定欄〉(a-4))。 @@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@ @@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@ @@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@ @@@@@@@ @@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@ 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これにより,原告番号23-1の自宅建物の財産的損害,家財の財産的損害については全額弁済されたことになる。 被告東電が原告番号23-2に支払った避難慰謝料目の金員の額は852万 円である(原告番号23-2の〈裁判所認定欄〉(b-1))。【乙共336・40~41頁】被告東電が原告番号23-4,23-5にそれぞれ支払った避難慰謝料目の金員の額は900万円である(原告番号23-4,23-5の〈裁判所認定欄〉(b))。 【乙共336・40~41頁】 4 弁護士費用⑴ 損害合計は,原告番号23-1につき1269万8975円(原告番号23-1の〈裁判所認定欄〉(d)),原告番号23-2につき448万4000円(原告番号23-2の〈裁判所認定欄〉(d)),原告番号23-4,23-5につきそれぞれ400万4000円(原告番号23-4,23-5の〈裁判所認定欄〉 (c) 3-2につき448万4000円(原告番号23-2の〈裁判所認定欄〉(d)),原告番号23-4,23-5につきそれぞれ400万4000円(原告番号23-4,23-5の〈裁判所認定欄〉 (c))である。 ⑵ 弁護士費用は,原告番号23-1につき126万円(原告番号23-1の〈裁判所認定欄〉(e)),原告番号23-2につき44万円(原告番号23-2の〈裁判所認定欄〉(e)),原告番号23-4,23-5につきそれぞれ40万円(原告番号23-4,23-5の〈裁判所認定欄〉(d))である。 5 まとめ 以上によれば,原告番号23-1の請求は,1395万8975円(原告番号23-1の〈裁判所認定欄〉(f))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号23-2の請求は,492万4000円(原告番号23-2の〈裁判所認定欄〉(f))及びこれに対する平成23年3月 11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号23-4の請求は,440万4000円(原告番号23-4の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号23-5の 請求は,440万4000円(原告番号23-5の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号23-3の請求は,全部理由がない。 (原告番号23-1につき 月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号23-3の請求は,全部理由がない。 (原告番号23-1につき 1300 万円-120 万円+437 万3395 円-347 万4420 円+126 万円=1395 万8975円原告番号23-2につき 1300 万円+4000 円-852 万円+44 万円=492 万4000 円原告番号23-4につき 1300 万円+4000 円-900 万円+40 万円=440 万4000 円原告番号23-5につき 1300 万円+4000 円-900 万円+40 万円=440 万4000 円)第24 原告番号24の世帯(原告番号24-1,24-2,24-3)について 1 事実関係 【甲個24の1】 原告番号24-1は,本件事故の際,@@@内の自宅で,妻である原告番号24-2及び長男である原告番号24-3と3人で暮らしていた。同自宅所在地は,本件事故後,居住制限区域に指定された。 平成23年3月12日,原告番号24らは,避難指示を受け,@@@の避難所に避難して,同月15日まで同所で避難生活をした。 同日,原告番号24らは,神奈川県@@@の原告番号24-2の実家に避難すべく移動を開始し,同日は福島空港の屋内通路で就寝した。 同月16日,原告番号24らは,空路東京に向かい,羽田空港付近のホテルで1泊した後,同月17日から,上記実家で生活を始めた。 同年4月11日,原告番号24-3が@@@内で就職して,同就職先の寮に転 居した。 平成25年3月18日,原告番号24らは,@@@内に自宅を調達して同所に転居した。 2 損害額の認定原告番号24らは,いずれも@@@内 が@@@内で就職して,同就職先の寮に転 居した。 平成25年3月18日,原告番号24らは,@@@内に自宅を調達して同所に転居した。 2 損害額の認定原告番号24らは,いずれも@@@内の居住制限区域に居住していたところ, 同地は,資料29及び同30(第6分冊)の㊵に該当し,避難指示が5年を超えて継続した地域に該当するから,原告番号24らにつき,それぞれ,当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)として1300万円(前記第8節第2,2⑶イ[❸-161 頁])を認める(原告番号24らの〈裁判所認定欄〉(a))。 また,原告番号24らは,平成23年3月12日から同月16日まで5日間避 難所での生活(空港通路での宿泊を含む。)を余儀なくされたものであるから,当裁判所が認める避難慰謝料(A)(前記第8節第4,2⑶[❸-178 頁]のとおり日額2000 円)としてそれぞれ1万円(5日分)を認める(原告番号24らの〈裁判所認定欄〉(a))。 3 被告東電による弁済 被告東電が原告番号24らに支払った避難慰謝料名目の金員の額は,それぞれ 852万円である(原告番号24らの〈裁判所認定欄〉(b))。【乙共336・98~101頁】 4 弁護士費用⑴ 損害合計は,原告番号24らにつきそれぞれ449万円である(原告番号24らの〈裁判所認定欄〉(c))。 ⑵ 弁護士費用は,原告番号24らにつきそれぞれ44万円である(原告番号24らの〈裁判所認定欄〉(d))。 5 まとめ以上によれば,原告番号24らの請求は,いずれも493万円(原告番号24らの〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済み まで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余 ずれも493万円(原告番号24らの〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済み まで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。 (原告番号24らにつきそれぞれ 1300 万円+1 万円-852 万円+44 万円=493 万円)第25 原告番号25の世帯(原告番号25-1,25-2,25-3)について 1 事実関係【甲個25の1,原告番号25-1本人】原告番号25-1は,本件事故の際,@@@内の自宅で,妻である原告番号24-2及び実父である訴訟承継前の原告番号25-3(当時93歳。以下「原告番号25-3」という。)と3人で暮らしていた。同自宅所在地は,本件事故後, 居住制限区域に指定された。 平成23年3月11日,原告番号25-1は,@@@@@@@@@@@@内の@@@で被災し,@@@@@と共に,同町内の小学校に避難した。また,同日,原告番号25-2は,原告番号25-1を迎えに行くため,上記小学校を訪れ,そのまま,原告番号25-1と共に同小学校に宿泊した。他方,原告番号25- 3は,同日自宅を訪れていた親族に連れられて,福島県@@@@@@の原告番号 25-2の実家に身を寄せた。 同月12日,原告番号25-1,25-2は,同町内の複数の避難所を回った上,町役場の指示に従い,@@@内の小学校に移動した。 同月13日,原告番号25-1,25-2は,福島県@@@@@@の原告番号25-2の実家に身を寄せた。 同月15日,原告番号25らは,東京都内の原告番号25-1の長女宅に向けて避難を開始し,同月16日未明に同所に到着した。 同日,原告番号25らは,更に,東京都内の原告番号25-1の弟宅に身を寄せた。 同年4月 告番号25らは,東京都内の原告番号25-1の長女宅に向けて避難を開始し,同月16日未明に同所に到着した。 同日,原告番号25らは,更に,東京都内の原告番号25-1の弟宅に身を寄せた。 同年4月9日,原告番号25らは,@@@内に住居を賃借し,同所に転居した。 平成28年3月28日,原告番号25-3は死亡した。原告番号25-3は,原告番号25-1が単独で相続した。 2 損害額の認定原告番号25らは,いずれも@@@内の居住制限区域に居住していたところ,同地は,資料29及び同30(第6分冊)の㊵に該当し,避難指示が5年を超え て継続した地域に該当するから,原告番号25らにつき,それぞれ,当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)として1300万円(前記第8節第2,2⑶イ[❸-161 頁])を認める(原告番号25らの〈裁判所認定欄〉(a))。 また,原告番号25-1,25-2は,平成23年3月11日から同月13日まで3日間避難所での生活を余儀なくされたものであるから,当裁判所が認める 避難慰謝料(A) (前記第5章第8節第4,2⑶[❸-178 頁]のとおり日額2000円)としてそれぞれ6000円(3日分)を認める(原告番号25-1,25-2の〈裁判所認定欄〉(a))。 3 被告東電による弁済被告東電が支払った避難慰謝料名目の金員の額は,原告25-1,25-2に つきそれぞれ852万円(原告番号25-1,25-2の〈裁判所認定欄〉(b)) であり,原告25-3につき941万5000円(原告番号25-3の〈裁判所認定欄〉(b))であった。 4 弁護士費用⑴ 損害合計は,原告番号25-1,25-2につきそれぞれ448万6000円(原告番号25-1,25-2の〈裁判所認定欄〉(c))であり,原告番号2 所認定欄〉(b))であった。 4 弁護士費用⑴ 損害合計は,原告番号25-1,25-2につきそれぞれ448万6000円(原告番号25-1,25-2の〈裁判所認定欄〉(c))であり,原告番号2 5-3につき358万5000円(原告番号25-3の〈裁判所認定欄〉(c))である。 ⑵ 弁護士費用は,原告番号25-1,25-2につきそれぞれ44万円(原告番号25-1,25-2の〈裁判所認定欄〉(d))であり,原告番号25-3につき35万円(原告番号25-3の〈裁判所認定欄〉(d))である。 5 原告番号25-1,25-3の損害額のまとめ以上によれば,原告番号25-1は,492万6000円及びこれに対する平成23年3月11日から支済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができ,原告番号25-3は,393万5000円(原告番号25-3の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から 支済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができた。 (原告番号25-1につき 1300 万円+6000 円-852 万円+44 万円=492 万6000 円原告番号25-3につき 1300 万円-941 万5000 円+35 万円=393 万5000 円) 6 原告番号25-1,25-2の請求の認容額原告番号25-1は原告番号25-3を単独で相続し,原告番号25-3を訴訟承継したから,原告番号25-3の損害賠償請求権(393万5000円及びこれに対する平成23年3月11日か支払済みまで民法所定の年5分の割合に よる遅延損害金)を取得した。 したがって,原告番号25-1の請求は,492万6000円(前記5)と393万5000円の合計88 月11日か支払済みまで民法所定の年5分の割合に よる遅延損害金)を取得した。 したがって,原告番号25-1の請求は,492万6000円(前記5)と393万5000円の合計886万1000円(原告番号25-1の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日か支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号25-2の請求は,492万6000円(原告番号25-2の〈裁 判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日か支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。 (原告番号25-1につき 1300 万円+6000 円-852 万円+44 万円+393 万5000 円=886 万1000 円 原告番号25-2につき 1300 万円+6000 円-852 万円+44 万円=492 万6000 円)第26 原告番号26の世帯(原告番号26-1,26-2,26-3,26-4,26-5)について 1 事実関係 【甲個26の1,原告番号26-2本人】⑴ 旧居住地及び避難状況訴訟承継前の原告番号26-1(以下「原告番号26-1」という。)は,本件事故の際,@@@内の自宅において,妻である原告番号26-2及び長男である原告番号26-3と3人で暮らしていた。同自宅所在地は,本件事故後, 帰還困難区域に指定された。 原告番号26-1は,@@@の持病があり,本件事故当時,@@@@@@@@@@@が必要な状況であった。 平成23年3月11日,原告番号26-1は,@@治療中に被災し,同日は自宅付近に車を駐車して車中泊した。原告番号26-3も,同様に車中泊した。 ,@@@@@@@@@@@が必要な状況であった。 平成23年3月11日,原告番号26-1は,@@治療中に被災し,同日は自宅付近に車を駐車して車中泊した。原告番号26-3も,同様に車中泊した。 また,原告番号26-2は,付近の体育館に避難し,グラウンド内に車を駐車 して車中泊した。 同月12日,原告番号26-1,26-2は,@@@の親戚宅に身を寄せ,同月13日には@@@内の高校に避難した。もっとも,@@@@@@@@原告番号26-1は,複数の医療施設において受入れが認められず,同月14日に,@@@@@@@病院の紹介を受けたため,同日,原告番号26-1,26-2 は,同病院に近い公民館に移動して,同月25日まで同所で避難生活を余儀なくされた。 同日,原告番号26-1,26-2は,@@@@内の原告番号26-2の姉の自宅に身を寄せた。 他方,原告番号26-3は,@@@の活動のため@@@に移動し,その後, 同月19日に@@@内の親戚宅に宿泊し,同月20日頃から,@@@@内の原告番号26-2の姉の自宅に身を寄せた。 ⑵ 避難後の状況平成23年4月10日,原告番号26-3は,転勤のため福島県@@@@@に転居し,その後,@@@への転居を経て,平成29年1月に@@@@内に転 居した。 他方,原告番号26-1,26-2は,同年5月1日に,肩書地に転居した。 平成25年,原告番号26-1にがんが見つかり,平成27年7月28日,原告番号26-1は死亡した。原告番号26-2,26-3,26-4,26-5は,原告番号26-1を相続し(相続分は,原告番号26-2が2分の1, 原告番号26-3,26-4,26-5がそれぞれ6分の1),原告番号26-1を訴訟承継した。 2 損害額の認定原告番号26-1,26-2, 相続し(相続分は,原告番号26-2が2分の1, 原告番号26-3,26-4,26-5がそれぞれ6分の1),原告番号26-1を訴訟承継した。 2 損害額の認定原告番号26-1,26-2,26-3は,@@@内の帰還困難区域に居住していたところ,同地は,資料29及び同30(第6分冊)の㊳に該当するから, 原告番号26―1,26-2,26-3につき,それぞれ,当裁判所が認めるふ るさと喪失慰謝料(B)として1500万円(前記第8節第2,2⑶ア[❸-160 頁])を認める(原告番号26-1,26-2,26-3の〈裁判所認定欄〉(a))。 また,原告番号26-1,26-2は,平成23年3月11日から同月25日にかけて15日間車中泊ないし避難所生活を余儀なくされたものであるところ,原告番号26-1に@@@@@@@@@@@@@医療機関が見つからないとい う精神的苦痛を看過することができないから,当裁判所が認める避難慰謝料(A)として,それぞれ日額5000円の15日分の7万5000円を認める(原告番号26-1,26-2の〈裁判所認定欄〉(a))。 3 被告東電による弁済被告東電が支払った避難慰謝料名目の金員の額は,原告番号26-1につき1 570万5000円(原告番号26-1の〈裁判所認定欄〉(b)),原告番号26-2につき1506万円(原告番号26-2の〈裁判所認定欄〉(b)),原告番号26-3につき1452万円(原告番号26-3の〈裁判所認定欄〉(b))である。【乙共336・108~112頁】これにより,原告番号26-1の損害は全額弁済され,同原告は被告らに対し て損害賠償請求権を有しなかったので,原告番号26-2,26-3,26-4,26-5が原告番号26-1から損害賠償請求権を相続することはな 号26-1の損害は全額弁済され,同原告は被告らに対し て損害賠償請求権を有しなかったので,原告番号26-2,26-3,26-4,26-5が原告番号26-1から損害賠償請求権を相続することはなかった。 4 弁護士費用⑴ 損害合計は,原告番号26-2につき1万5000円(原告番号26-2の〈裁判所認定欄〉(c)),原告番号26-3につき48万円(原告番号26-3 の〈裁判所認定欄〉(c))である。 ⑵ 弁護士費用は,原告番号26-2につき1万円(原告番号26-2の〈裁判所認定欄〉(d)),原告番号26-3につき4万円(原告番号26-3の〈裁判所認定欄〉(d))である。 5 まとめ 以上によれば,原告番号26-2の請求は2万5000円(原告番号26-2 の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号26-3の請求は52万円(原告番号26-3の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由が あり,その余は理由がなく,原告番号26-4,26-5の請求はいずれも理由がない。 (原告番号26-2につき 1500 万円+7 万5000 円-1506 万円+1 万円=2 万5000 円原告番号26-3につき 1500 万円-1452 万円+4 万円=52 万円)第27 原告番号27の世帯(原告番号27-1,27-2)について 1 事実関係【甲個27の1,原告番号27-1本人】原告番号27-1は,本件事故の際,@@@内の自宅(実家)で,長女である 原告番号 号27の世帯(原告番号27-1,27-2)について 1 事実関係【甲個27の1,原告番号27-1本人】原告番号27-1は,本件事故の際,@@@内の自宅(実家)で,長女である 原告番号27-2(当時2歳)と暮らしていた。なお,本件事故時において,原告番号27-1は,@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@平成23年3月16日,原告番号27らは,@@@内の夫宅に向けて避難を開始した。途中,@@@@内のホテルに1泊した後,同月17日に夫の自宅に到着した。 同年4月23日,原告番号27らは,神奈川県@@@@内のマンスリーマンションに転居した。また,同年7月21日,原告番号27らは,同人の妹及びその子とともに,@@@内の借上住宅に入居し生活を始めた。 平成24年2月25日,原告番号27らは,原告番号27-2の幼稚園入園に合わせて,神奈川県@@@内にアパートを賃借し@@@@@@@@@@,同所で の生活を開始した。 2 損害額の認定原告番号27らは,いずれも@@@内に居住していたところ,同地は,避難指示等が出されておらず,緊急時避難準備区域や屋内退避区域にも指定されていないが,いわゆる@@@@@に位置するから,当裁判所が認める自己決定権侵害慰謝料(C)として,養育すべき子とともに避難した原告番号27-1につき60万 円(前記第8節第3,2⑶ウ[❸-172 頁])(原告番号27-1の〈裁判所認定欄〉(a)),子どもである原告番号27-2について100万円(前記第8節第3,2⑶ウ[❸-172 頁])(原告番号27-2の〈裁判所認定欄〉(a))を認める。 3 被告東電による弁済被告東電が支払った避難慰謝料名目の金員の額は,原告番号27-1につき8 万円(原告番号27-1の〈裁判所認定欄〉(b 号27-2の〈裁判所認定欄〉(a))を認める。 3 被告東電による弁済被告東電が支払った避難慰謝料名目の金員の額は,原告番号27-1につき8 万円(原告番号27-1の〈裁判所認定欄〉(b)),原告番号27-2につき32万円(原告番号27-2の〈裁判所認定欄〉(b))である。【乙共336・113~115頁】 4 弁護士費用⑴ 損害合計は,原告番号27-1につき52万円(原告番号27-1の〈裁判 所認定欄〉(c)),原告番号27-2につき68万円(原告番号27-2の〈裁判所認定欄〉(c))である。 ⑵ 弁護士費用は,原告番号27-1につき5万円(原告番号27-1の〈裁判所認定欄〉(d)),原告番号27-2につき6万円(原告番号27-2の〈裁判所認定欄〉(d))である。 5 まとめ以上によれば,原告番号27-1の請求は57万円(原告番号27-1の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号27-2の請求は74万円(原告番号27-2の〈裁 判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民 法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。 (原告番号27-1につき万円-8 万円+5 万円=57 万円原告番号27-2につき 100 万円-32 万円+6 万円=74 万円)第28 原告番号28の世帯(原告番号28)について 1 事実関係【甲個28の1,原告番号28本人】原告番号28は,原告番号31-1の子であり,本件事故の際,東京都内の自 宅で妻子とともに暮らし,会 号28の世帯(原告番号28)について 1 事実関係【甲個28の1,原告番号28本人】原告番号28は,原告番号31-1の子であり,本件事故の際,東京都内の自 宅で妻子とともに暮らし,会社員として稼働していた。なお,原告番号28は,平成19年まで,@@@の実家で生活しており,@@@内に不動産も所有していた。 2 損害額の認定原告番号28は,東京都内に居住して稼働していたのであるから,その平穏生 活権ないし居住,移転の自由は,基本的には東京都内及びその周辺において享受していたものと認められ,@@@内又は@@@内における平穏生活権ないし居住,移転の自由の侵害を観念することはできない。原告番号28は,母である原告番号31-1の@@@@@@を手伝い,これを継承すべく将来は@@@への転居を予定していたと主張するが,上記認定を左右しない。 よって,原告番号28については,当裁判所が認めるふるさと喪失損害(B),当裁判所が認める自己決定権侵害慰謝料(C)のいずれも認められない。 3 まとめ以上によれば,原告番号28の請求は,全部理由がない。 第29 原告番号29の世帯(原告番号29)について 1 事実関係 【掲記のもののほか,甲個29の1,原告番号29本人】⑴ 旧居住地及び避難経過原告番号29は,本件事故の際,@@@内の自宅で単身生活していた。同自宅所在地は,本件事故後,居住制限区域に指定された。 なお,同自宅所在地は,その北側と東側に帰還困難区域が迫り,同区域との 境界線と自宅所在地との距離は,北側が約100m,東側が約70mである。 また,同自宅所在地の至近には,スーパーマーケットやコンビニエンスストアも所在し,これら商業施設も帰還困難区域に指定されている。【甲個29の18】 距離は,北側が約100m,東側が約70mである。 また,同自宅所在地の至近には,スーパーマーケットやコンビニエンスストアも所在し,これら商業施設も帰還困難区域に指定されている。【甲個29の18】平成23年3月11日当日,原告番号29は,勤務先で被災し,同僚と共に @@@の公民館に避難した。しかし,程なく更なる避難を指示され,同町内の別の公民館に避難した。 同月12日,原告番号29は,@@@内にある同僚の親族宅に身を寄せた。 同月19日,原告番号29は,同人の長男が住む@@@内の県営住宅(原告番号29の肩書地。なお,平成18年までは,原告番号29も同所に居住して いた。)に向けて避難を開始し,ホテル宿泊を経て,同月20日に同県営住宅に到着した。 ⑵ 不動産の価額原告番号29の所有する自宅敷地建物は居住制限区域(5年以上)にあり,自宅建物は本件事故時点で築45年であり,自宅敷地の固定資産税評価額は4 53万8472円であり,自宅建物の固定資産税評価額は20万2980円であった。【甲個29の5】 2 損害額の認定⑴ 慰謝料原告番号29は,@@@内の居住制限区域に居住していたところ,同地は, 資料29及び同30(第6分冊)の㊵に該当する。しかし,同人の自宅所在地 は,前記1⑴認定のとおり,帰還困難区域から相当の至近にあり,同人の生活圏は実質的にみて帰還困難区域の生活コミュニティに包含されていると評価することができる。そこで,原告番号29については,当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)として1400万円(前記第8節第2,2⑴ア[❸-155 頁])を認める(原告番号29の〈裁判所認定欄〉(a-1))。 また,原告番号29は,平成23年3月11日から同月12日まで2日間避難所での生活 00万円(前記第8節第2,2⑴ア[❸-155 頁])を認める(原告番号29の〈裁判所認定欄〉(a-1))。 また,原告番号29は,平成23年3月11日から同月12日まで2日間避難所での生活を余儀なくされたものであるから,当裁判所が認める避難慰謝料(A) (前記第8節第4,2⑶[❸-178 頁]のとおり日額2000 円)として4000円(2日分)を認める(原告番号29の〈裁判所認定欄〉(a-1))。 ⑵ 財産的損害 原告番号29の所有する自宅敷地建物は居住制限区域(5年以上)にあり,自宅建物は本件事故時点で築30年を超えていたところ,その価額は前記1⑵認定のとおりであり,これを,前記第8節第6,2⑴イ[❸-180 頁]で説示した基準に当てはめると,自宅敷地の財産的損害は固定資産税評価額の1.8倍の816万9250円(原告番号29の〈裁判所認定欄〉(a-2)),自宅建物 の財産的損害は固定資産税評価額の4倍の81万1920円(原告番号29の〈裁判所認定欄〉(a-3))と認められる。 3 被告東電による弁済被告東電が支払った避難慰謝料名目の金員の額は852万円(原告番号29の〈裁判所認定欄〉(b-1)),不動産損害名目の金員の額は,自宅敷地の財産的損害 につき649万0015円(原告番号29の〈裁判所認定欄〉(b-2)),自宅建物の財産的損害につき735万4378円(原告番号29の〈裁判所認定欄〉(b-3))である。【乙共336・116~117頁】これにより,原告番号29の自宅建物の財産的損害は全額弁済されたことになる。 4 弁護士費用 ⑴ 原告番号29の損害合計は716万3235円である(原告番号29の〈裁判所認定欄〉(d))。 ⑵ 原告番号29の弁護士費用は71万円である(原 なる。 4 弁護士費用 ⑴ 原告番号29の損害合計は716万3235円である(原告番号29の〈裁判所認定欄〉(d))。 ⑵ 原告番号29の弁護士費用は71万円である(原告番号29の〈裁判所認定欄〉(e))。 5 まとめ 以上によれば,原告番号29の請求は787万3235円(原告番号29の〈裁判所認定欄〉(f))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。 (原告番号29につき 1400 万円+4000 円-852 万円+816 万9250 円-649 万0015 円+71 万円=787万3235 円)第30 原告番号30の世帯(原告番号30-1,30-2)について原告番号30らは,本件訴えを取り下げた(したがって,同人らは,当事者目録にも記載していない。)。 第31 原告番号31の世帯(原告番号31-1,31-2)について 1 事実関係【甲個31の1】原告番号31-1は,本件事故の際,@@@内の自宅において,長男と2人で暮らしていた。同自宅所在地は,本件事故後,居住制限区域に指定された。 原告番号31-2は,原告番号31-1の長女であり,本件事故当時は,@@@内に居住して大学に通っていた。 平成23年3月12日,原告番号31-1は,長男と共に,@@@内の小学校に避難した。その後,原告番号31-1は,@@@@@市内のビジネスホテルに避難するなどした後,@@@内に住居を調達して転居した。 2 損害額の認定 原告番号31-1は,@@@内の居住制限区域に居住していたところ,同地は,資料29及び同30(第6分冊)の㉑に該当し,避難指示が5年を超え 達して転居した。 2 損害額の認定 原告番号31-1は,@@@内の居住制限区域に居住していたところ,同地は,資料29及び同30(第6分冊)の㉑に該当し,避難指示が5年を超えて継続した地域に該当するから,原告番号31-1につき,当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)として1300万円(前記第8節第2,2⑶イ[❸-161 頁])を認める(原告番号31-1の〈裁判所認定欄〉(a))。 また,原告番号31-1は,少なくとも1日は避難生活を余儀なくされたものである(@@@内の避難所を出た後に,同人が避難所での生活を余儀なくされたことを認めるに足りる証拠はない。)から,当裁判所が認める避難慰謝料(A)(前記第8節第4,2⑶[❸-178 頁]のとおり日額2000 円)として,2000円を認める(原告番号31-1の〈裁判所認定欄〉(a))。 他方,原告番号31-2は,@@市内に居住して大学に通学していたのであるから,実質的には親元から独立した生活環境を構築していたものであり,その平穏生活権ないし居住,移転の自由は,基本的には@@市内及びその周辺において享受されていたものと認められ,@@@内における平穏生活権ないし居住,移転の自由の侵害を観念することはできない。したがって,原告番号31-2につい ては,当裁判所が認めるふるさと喪失損害(B)を肯認できない。 3 被告東電による弁済被告東電が原告番号31-1に支払った避難慰謝料名目の金員の額は862万円である(原告番号31-1の〈裁判所認定欄〉(b))。【乙共336・73~75頁】 4 弁護士費用⑴ 原告番号31-1の損害合計は438万2000円である(原告番号31-1の〈裁判所認定欄〉(c))。 ⑵ 原告番号31-1の弁護士費用は43万円 6・73~75頁】 4 弁護士費用⑴ 原告番号31-1の損害合計は438万2000円である(原告番号31-1の〈裁判所認定欄〉(c))。 ⑵ 原告番号31-1の弁護士費用は43万円である(原告番号31-1の〈裁判所認定欄〉(d))。 5 まとめ 以上によれば,原告番号31-1の請求は481万2000円(原告番号31-1の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号31-2の請求は理由がない。 (原告番号31-1につき 1300 万円+2000 円-862 万円+43 万円=481 万2000 円)第32 原告番号32の世帯(原告番号32-1,32-2)について 1 事実関係【甲個32の1】原告番号32-1は,本件事故の際,@@@内の自宅で,妻である原告番号3 2-2と2人で暮らしていた。同自宅所在地は,本件事故後,帰還困難区域に指定された。なお,原告番号32-1は,@@@内に別宅を調達して稼働しており,週末は@@@内の上記自宅に戻っていた。 平成23年3月11日,原告番号32-2は,@@@内の中学校に避難し,同所に1泊した。 同月12日,原告番号32-2は,避難指示を受け,@@@の体育館に避難して,同月16日まで同所で避難生活をした。 同日,原告番号32-2は,@@@@@@市の知人宅に身を寄せた。 同月17日,原告番号32-2は,@@@内の長男宅に身を寄せた。 同年4月21日,原告番号32-2は,@@@@内の借上住宅に転居し,その 後,同年7月24日に,@@@@@@市内の借上住宅に更に転居した。 2 損害額の認定原告番号 長男宅に身を寄せた。 同年4月21日,原告番号32-2は,@@@@内の借上住宅に転居し,その 後,同年7月24日に,@@@@@@市内の借上住宅に更に転居した。 2 損害額の認定原告番号32らは,いずれも@@@内の帰還困難区域に居住していたところ,同地は,資料29及び同30(第6分冊)の㊶に該当するから,原告番号32らにつき,それぞれ,当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)として1500万 円(前記第8節第2,2⑶ア[❸-160 頁])を認める(原告番号32らの〈裁判 所認定欄〉(a))。 また,原告番号32-2は,平成23年3月11日から同月16日まで6日間避難所での生活を余儀なくされたものであるから,当裁判所が認める避難慰謝料(A) (前記第8節第4,2⑶[❸-178 頁]のとおり日額2000 円)として1万2000円(6日分)を認める(原告番号32-2の〈裁判所認定欄〉(a))。 3 被告東電による弁済被告東電は,平成26年3月3日に,原告番号32-1に対し,避難慰謝料名目で1502万円を支払っているが,この結果,支払の相手方の名義のみによるならば,原告番号32-1に対する避難慰謝料名目の支払が合計2973万円に及んでいるのに対し,原告番号32-2に対する同名目の支払が合計73万円に とどまっている。しかし,原告番号32-1と原告番号32-2は夫婦であり,前記2のとおりほぼ同額の慰謝料が認められるところ,上記平成26年3月3日の1502万円の支払を原告番号32-2に対する支払とすれば,原告番号32-1に対する支払額と原告番号32-2に対する支払額が概ね同程度となることを考慮すると,上記平成26年3月3日の1502万円の支払は,原告番号3 2-2に対する避難慰謝料名目の金員の支払 -1に対する支払額と原告番号32-2に対する支払額が概ね同程度となることを考慮すると,上記平成26年3月3日の1502万円の支払は,原告番号3 2-2に対する避難慰謝料名目の金員の支払と認められる。そうすると,被告東電が支払った避難慰謝料名目の金員の額は,原告番号32-1につき1471万円(原告番号32-1の〈裁判所認定欄〉(b))であり,原告番号32-2につき1575万円(原告番号32-1の〈裁判所認定欄〉(b))であると認められる。 【乙共336・121~123頁】 これにより,原告番号32-2に認められる,当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)と避難慰謝料(A)は全額弁済されたことになる。 4 弁護士費用⑴ 原告番号32-1の損害合計は29万円である(原告番号32-1の〈裁判所認定欄〉(c))。 ⑵ 原告番号32-1の弁護士費用は2万円である(原告番号32-1の〈裁判 所認定欄〉(d))。 5 まとめ以上によれば,原告番号32-1の請求は31万円(原告番号32-1の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その 余は理由がなく,原告番号32-2の請求は理由がない。 (原告番号32-1につき 1500 万円-1471 万円+2 万円=31 万円)第33 原告番号33の世帯(原告番号33-1,33-2)について 1 事実関係 【甲個33の1,原告番号33-1本人】原告番号33-1は,本件事故の際,@@@内の自宅で,長男である原告番号33-2(当時11歳)と2人暮らしをしていた。 平成23年3月19日,原告番号33らは,親類が住む@@市に向けて避難を開始し, 告番号33-1は,本件事故の際,@@@内の自宅で,長男である原告番号33-2(当時11歳)と2人暮らしをしていた。 平成23年3月19日,原告番号33らは,親類が住む@@市に向けて避難を開始し,同年4月1日まで同親類宅に宿泊した。 同月2日,原告番号33らは,@@市内の借上住宅(ワンルーム)で生活を開始した。 平成27年3月30日,原告番号33らは,@@市内の別の借上住宅に転居した。 平成29年3月25日,原告番号33らは,肩書地である@@市内の借上住宅 に転居した。 2 損害額の認定原告番号33らは,いずれも@@@内に居住していたところ,同地は,避難指示等が出されておらず,緊急時避難準備区域や屋内退避区域にも指定されていないが,いわゆる@@@@@に位置するから,当裁判所が認める自己決定権侵害慰 謝料(C)として,養育すべき子とともに避難した原告番号33-1につき60万 円(前記第8節第3,2⑶ウ[❸-172 頁])(原告番号33-1の〈裁判所認定欄〉(a)),子どもである原告番号33-2について100万円(前記第8節第3,2⑶ウ[❸-172 頁])(原告番号33-2の〈裁判所認定欄〉(a))を認める。 3 被告東電による弁済被告東電が支払った避難慰謝料名目の金員の額は,原告番号33-1につき1 2万円(原告番号33-1の〈裁判所認定欄〉(b)),原告番号33-2につき72万円(原告番号33-2の〈裁判所認定欄〉(b))である。【乙共336・124~126頁】 4 弁護士費用⑴ 損害合計は,原告番号33-1につき48万円(原告番号33-1の〈裁判 所認定欄〉(c)),原告番号33-2につき28万円(原告番号33-2の〈裁判所認定欄〉(c))である。 ⑵ 弁護士費用は,原告番 ,原告番号33-1につき48万円(原告番号33-1の〈裁判 所認定欄〉(c)),原告番号33-2につき28万円(原告番号33-2の〈裁判所認定欄〉(c))である。 ⑵ 弁護士費用は,原告番号33-1につき4万円(原告番号33-1の〈裁判所認定欄〉(d)),原告番号33-2につき2万円(原告番号33-2の〈裁判所認定欄〉(d))である。 5 まとめ以上によれば,原告番号33-1の請求は52万円(原告番号33-1の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号33-2の請求は30万円(原告番号33-2の〈裁 判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。 (原告番号33-1につき万円-12 万円+4 万円=52 万円 原告番号33-2につき 100 万円-72 万円+2 万円=30 万円)第34 原告番号34の世帯(原告番号34)について 1 事実関係【甲個34の1】原告番号34は,本件事故の際,@@@@@@@内の自宅(夫の実家)におい て,夫及びその両親と共に生活していた。同自宅所在地は,本件事故後,避難指示解除準備区域に指定された。 平成23年3月12日,原告番号34は,@@@@@@@内の原告番号34の実家に避難したが,福島第一原発での爆発の報を受け,同日夜に,更に@@@への避難を試みたが,避難所の場所が分からず,上記@@@@@@@内の実家に戻 った。 同月13日,原告番号34は,@@@内の知人宅に身を寄せ,さ 一原発での爆発の報を受け,同日夜に,更に@@@への避難を試みたが,避難所の場所が分からず,上記@@@@@@@内の実家に戻 った。 同月13日,原告番号34は,@@@内の知人宅に身を寄せ,さらに,同月17日頃,@@@@@@内の長男宅に避難した。 同年7月,原告番号34は,@@@内の借上住宅に転居した。 2 損害額の認定 原告番号34は,@@@@@@@内の避難指示解除準備区域に居住していたところ,同地は,資料29及び同30(第6分冊)の⑧に該当し,避難指示が5年を超えて継続した地域に該当するから,原告番号34につき,当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)として1200万円(前記第8節第2,2⑶エ[❸-162頁])を認める(原告番号34の〈裁判所認定欄〉(a))。 3 被告東電による弁済被告東電が支払った避難慰謝料名目の金員の額は852万円である(原告番号34の〈裁判所認定欄〉(b))。【乙共336・127~128頁】 4 弁護士費用⑴ 原告番号34の損害合計は348万円である(原告番号34の〈裁判所認定 欄〉(c))。 ⑵ 原告番号34の弁護士費用は34万円である(原告番号34の〈裁判所認定欄〉(d))。 5 まとめ以上によれば,原告番号34の請求は382万円(原告番号34の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定 の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。 (原告番号34につき 1200 万円-852 万円+34 万円=382 万円)第35 原告番号35の世帯(原告番号35-1,35-2,35-3,35- 4,35-5)について 1 事実関係【掲記の証拠のほか,甲個35 円-852 万円+34 万円=382 万円)第35 原告番号35の世帯(原告番号35-1,35-2,35-3,35- 4,35-5)について 1 事実関係【掲記の証拠のほか,甲個35の1,原告番号35-1本人】⑴ 旧居住地及び本件事故前の就業状況原告番号35-1は,本件事故の際,@@@内の自宅において,妻である原 告番号35-2,長女である原告番号35-3(当時20歳),長男である原告番号35-4(当時18歳)及び二女である原告番号35-5(当時15歳)と5人で生活していた。同自宅所在地は,本件事故後,居住制限区域に指定された。 原告番号35-1は,本件事故当時,設備業等を営む会社で稼働していた。 平成22年度の原告番号35-1の給与は,225万8204円(8か月分)であった。【甲個35の8の各枝番】原告番号35-2は,本件事故当時,製造業を営む会社で稼働していた。平成22年度の原告番号35-2の給与は,前職分も合わせて183万3595円であった。【甲個35の9の各枝番】 原告番号35-3は,本件事故当時,@@@@で稼働していた。平成22年 度の原告番号35-3の給与は,219万5303円であった。【甲個35の10】原告番号35-4は,本件事故当時高校3年生であり,平成23年4月から印刷会社に就職が内定していた。 ⑵ 避難経過 平成23年3月12日,原告番号35らは,@@@@内の原告番号35-2の実家に身を寄せ,その後,@@市内の親類宅に身を寄せるなどした上,同年4月25日から,@@@@@@@市内の市営住宅に転居して同所で生活を開始した。 ⑶ 避難後の生活状況 ア原告番号35-1避難後,原告番号35-1は,勤務先の会社での稼働を続け,平日は,@@@ から,@@@@@@@市内の市営住宅に転居して同所で生活を開始した。 ⑶ 避難後の生活状況 ア原告番号35-1避難後,原告番号35-1は,勤務先の会社での稼働を続け,平日は,@@@@内の会社事務所に寝泊まりしていたが,平成23年10月に退職し,複数回の転職を経た。 その後,原告番号35-1は,@@@@不調を訴えるようになり,平成2 5年12月24日に医師の診察を受け,@@@@@等の診断を受けた。【甲35の13の2】平成27年4月,原告番号35-1は,従前勤務していた設備会社に再就職し,@@@@内に新たに自宅を購入して同所に転居した。 イ原告番号35-2 避難後,原告番号35-2は職に就くことはなく,平成27年4月,原告番号35-1と共に,@@@@内の上記自宅に転居した。 ウ原告番号35-3避難後,原告番号35-3は職に就くことはなく,平成28年4月,両親が住む@@@@内の上記自宅に転居した。 エ原告番号35-4 避難後,原告番号35-4は,運搬業のアルバイトを始め,その後,@@@@@@@市内で就職した。なお,同人が飼育していたペット3匹は,@@@@担当者の手配により,里親の元に引き取られた。 【上記掲記の証拠のほか,甲35の1】⑷ 不動産の価額 原告番号35-1所有に係る自宅敷地建物は居住制限区域(5年以上)にあり,自宅建物(主たる建物)は本件事故時点で築36年であった。自宅敷地の固定資産税評価額は1068万4410円(2筆合計)であり,自宅建物(付属建物を含む)の固定資産税評価額は合計191万9186円であった。【甲個35の6】 2 損害額の認定⑴ 慰謝料原告番号35らは,いずれも@@@内の居住制限区域に居住していたところ,同地は,資 )の固定資産税評価額は合計191万9186円であった。【甲個35の6】 2 損害額の認定⑴ 慰謝料原告番号35らは,いずれも@@@内の居住制限区域に居住していたところ,同地は,資料29及び同30(第6分冊)の㉑に該当し,避難指示が5年を超えて継続した地域に該当するから,原告番号35らにつき,それぞれ,当裁判 所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)として1300万円ずつを認める(前記第8節第2,2⑶イ[❸-161 頁])(原告番号35-1,35-2,35-3の〈裁判所認定欄〉(a-1),原告番号35-4,35-5の〈裁判所認定欄〉(a))。 ⑵ 不動産損害原告番号35-1は,その所有に係る自宅敷地の賠償として,1368万8 000円が相当であると主張し,本件においてはその内金(原告番号35-1が認める弁済額控除後の額)95万5743円を請求するが,後記3⑵のとおり,被告東電は,不動産賠償として,自宅敷地につき1527万8707円を弁済したと認められるから,上記自宅敷地の損害額を認定するまでもなく,原告番号35-1の自宅敷地の財産的損害については全額弁済されたことにな る。 原告番号35-1が所有する自宅建物は居住制限区域(5年以上)にあり,本件事故時点で築30年を超えていたところ,その価額は前記1⑷認定のとおりであり,これを,前記第8節第6,2⑴イ[❸-180 頁]で説示した基準に当てはめると,同建物に係る財産的損害は,固定資産税評価額の4倍の767万6744円と認められる(原告番号35-1の〈裁判所認定欄〉(a-3))。 ⑶ 家財原告番号35の世帯は3人暮らし以上であり,前記第8節第6,2⑵ウ[❸-186 頁]で判示したところに従い,これを40万円と認める(原告番号35- 裁判所認定欄〉(a-3))。 ⑶ 家財原告番号35の世帯は3人暮らし以上であり,前記第8節第6,2⑵ウ[❸-186 頁]で判示したところに従い,これを40万円と認める(原告番号35-1の〈裁判所認定欄〉(a-4))。 ⑷ 就労不能損害 ア原告番号35-1について原告番号35-1は,平成23年10月にもとの勤務先を退職した後,十全に稼働できなかったことがうかがわれるが,証拠上,医師の診察を受けたのは平成25年12月24日のことであることに照らせば,就労不能状態に陥ったのは,平成26年1月以降と認める。それ以前の期間については,減 収の事実を認めるに足りる証拠がない。 そして,原告番号35-1は,平成27年4月に再就職したものであるから,就労不能期間としては,平成26年1月から平成27年3月までと認めるのが相当である。 そうすると,原告番号35-1について認められる就労不能損害は,平成 22年度の収入額(8か月分)の15か月分である423万4133円と認める(前記第8節第6,2⑶[❸-186 頁]参照)(原告番号35-1の〈裁判所認定欄〉(a-5))。 イ原告番号35-2,35-3について原告番号35-2,35-3は,避難により失職したものと認められるが, 遅くとも原告番号35-1,35-2が平成27年4月に@@@に転居した 以降,再就職を困難ならしめるような事情は見当たらないから,就労不能期間としては,平成25年1月(原告番号35-2,35-3の主張の起算月)から平成27年3月までと認めるのが相当である。 そうすると,原告番号35-2について認められる就労不能損害は,平成22年度の収入額の27か月分である412万5573円と認める(前記第 8節第6,2⑶[❸-186 でと認めるのが相当である。 そうすると,原告番号35-2について認められる就労不能損害は,平成22年度の収入額の27か月分である412万5573円と認める(前記第 8節第6,2⑶[❸-186 頁]参照)(原告番号35-2の〈裁判所認定欄〉(a-2))。 また,原告番号35-3について認められる就労不能損害は,平成22年度の収入額の27か月分である493万9407円と認める(前記第8節第6,2⑶[❸-186 頁]参照)(原告番号35-3の〈裁判所認定欄〉(a-2))。 ウ原告番号35-4について原告番号35-4は,本件事故当時就職が内定していたものであるが,それのみでは,同人主張の収入が現実に生ずべきものであったと認めるに足りないから,就労不能損害を肯認できない。 ⑸ ペット喪失損害について 原告番号35-3は,本件事故により飼育していたペット3匹を手放さざるを得なかったものであるが,後記4のとおり,被告東電は,ペット喪失慰謝料として10万円を支払っており,ペットを手放したことにより原告番号35-3に生じた精神的苦痛に対する慰謝料が同額を超えることはないと認められる(便宜的に,原告番号35-3の〈裁判所認定欄〉(a-3)には,ペット喪失慰 謝料として10万円を計上した。)。 ⑹ その他損害について原告番号35-1は,その所有していた自動車についての財物損害を主張するが,同自動車の経済的価値を認めるに足りる証拠がないから,同主張は採用できない。 原告番号35-2は,食費等の増加分についての賠償を求めるが,生活費増 加分については,前記第8節第6,2⑹[❸-187 頁]で判示したとおり,これを損害として認めることができない。 3 被告東電による弁済⑴ 慰謝料について被告 めるが,生活費増 加分については,前記第8節第6,2⑹[❸-187 頁]で判示したとおり,これを損害として認めることができない。 3 被告東電による弁済⑴ 慰謝料について被告東電が支払った避難慰謝料名目の金員の額は,原告番号35らにつきそ れぞれ850万円である。(原告番号35-1,35-2,35-3の〈裁判所認定欄〉(b-1),原告番号35-4,35-5の〈裁判所認定欄〉(b))【乙共336・129~134頁】⑵ 財産的損害について被告東電が原告番号35-1に支払った不動産損害名目の金員の額は,自宅 敷地につき1527万8707円(原告番号35-1の〈裁判所認定欄〉(b-2)),自宅建物につき少なくとも1311万5199円(原告番号35-1の〈裁判所認定欄〉(b-3))である。【乙共336・130頁】これにより,原告番号35-1の自宅建物の財産的損害については全額弁済されたことになる。 なお,原告番号35-1の自宅土地の財産的損害についても全額弁済されたこ とになるのは,前記2⑵のとおりである。 被告東電が原告番号35-1に支払った家財損害名目の金員の額は265万6482円である(原告番号35-1の〈裁判所認定欄〉(b-4))。【乙共336・130頁】これにより原告番号35-1の家財損害については全額弁済されたことになる。 被告東電が支払った就労不能損害名目の金員の額は原告番号35-2につき115万4820円(原告番号35-2の〈裁判所認定欄〉(b-2)),原告番号35-3につき219万5292円(原告番号35-3の〈裁判所認定欄〉(b-2))である。【乙共336・131~132頁】なお,被告東電は,原告番号35-1,35-2,35-3に対し,上記以外にも就労不能損害名目で金 5292円(原告番号35-3の〈裁判所認定欄〉(b-2))である。【乙共336・131~132頁】なお,被告東電は,原告番号35-1,35-2,35-3に対し,上記以外にも就労不能損害名目で金 員を支払っているが,前記2⑷ア及びイで各認定した就労不能期間に対応する 弁済とは認められない。 ⑶ ペット喪失損害について被告東電が原告番号35-3に支払ったペット喪失損害名目の金員の額は10万円である(原告番号35-3の〈裁判所認定欄〉(b-3))。【乙共336・132頁】 これにより,原告番号35-3のペット喪失損害については全額弁済されたことになる。 4 弁護士費用⑴ 損害合計は,原告番号35-1につき873万4133円(原告番号35-1の〈裁判所認定欄〉(d)),原告番号35-2につき747万0753円(原 告番号35-2の〈裁判所認定欄〉(d)),原告番号35-3につき724万4115円(原告番号35-3の〈裁判所認定欄〉(d)),原告番号35-4,35-5につきそれぞれ450万円(原告番号35-4,35-5の〈裁判所認定欄〉(c))である。 ⑵ 弁護士費用は,原告番号35-1につき87万円(原告番号35-1の〈裁 判所認定欄〉(e)),原告番号35-2につき74万円(原告番号35-2の〈裁判所認定欄〉(e)),原告番号35-3につき72万円(原告番号35-3の〈裁判所認定欄〉(e)),原告番号35-4,35-5につきそれぞれ45万円(原告番号35-4,35-5の〈裁判所認定欄〉(d))である。 5 まとめ 以上によれば,原告番号35-1の請求は,960万4133円(原告番号35-1の〈裁判所認定欄〉(f))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分 5 まとめ 以上によれば,原告番号35-1の請求は,960万4133円(原告番号35-1の〈裁判所認定欄〉(f))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号35-2の請求は,821万0753円(原告番号35-2の〈裁判所認定欄〉(f))及びこれに対する平成23年3月1 1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求め る限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号35-3の請求は,796万4115円(原告番号35-3の〈裁判所認定欄〉(f))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号35-4の請求は,495万(原告番号35-4の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平 成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号35-5の請求は,495万(原告番号35-5の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。 (原告番号35-1につき 1300 万円-850 万円+423 万4133 円+87 万円=960 万4133 円原告番号35-2につき 1300 万円-850 万円+412 万5573 円-115 万4820 円+74 万円=821 万0753 円原告番号35-3につき 1300 万円-850 万円+493 万9407 円-219 万 -850 万円+412 万5573 円-115 万4820 円+74 万円=821 万0753 円原告番号35-3につき 1300 万円-850 万円+493 万9407 円-219 万5292 円+72 万円=796 万4115 円原告番号35-4につき 1300 万円-850 万円+45 万円=495 万円原告番号35-5につき 1300 万円-850 万円+45 万円=495 万円) 第36 原告番号36の世帯(原告番号36-1,36-2,36-3)について 1 事実関係【甲個36の1】原告番号36-1は,本件事故の際,@@@内の自宅で,夫,長女である原告番号36-2(当時16歳)及び二女である原告番号36-3(当時14歳)と 4人暮らしをしていた。 本件事故の際,原告番号36-2は所用で@@@内におり,そのまま自宅に帰らず@@@内の親類宅に避難した。@@@内の自宅にいた原告番号36-3は,平成23年3月12日に,@@@内の上記親類宅に避難した。 原告番号36-2,36-3は,同年4月に,@@@内の自宅に戻り,原告番号36-1との共同生活を再開した。 しかし,原告番号36-2,36-3の健康影響に対する懸念が払拭できなかったことから,平成24年3月15日,原告番号36らは,原告番号36-2,36-3の学校卒業に合わせて,@@@@@@@内のマンションに転居した。 2 損害額の認定原告番号36らは,いずれも@@@内に居住していたところ,同地は,避難指 示等が出されておらず,緊急時避難準備区域や屋内退避区域にも指定されていないが,いわゆる@@@@@に位置するから,当裁判所が認める自己決定権侵害慰謝料(C)として,現に避難した子どもである原告番号36-2,36- おらず,緊急時避難準備区域や屋内退避区域にも指定されていないが,いわゆる@@@@@に位置するから,当裁判所が認める自己決定権侵害慰謝料(C)として,現に避難した子どもである原告番号36-2,36-3についてそれぞれ100万円を認める(前記第8節第3,2⑶ウ[❸-172 頁])(原告番号36-2,36-3の〈裁判所認定欄〉(a))。 他方,原告番号36-1は,本件事故直後の時点においては,養育すべき子とともに避難せず,@@@内の自宅にとどまったものである。原告番号36らは,平成24年3月15日に,@@@@@@市に転居したが,同時点では,本件事故から既に1年が経過しており,避難指示の範囲もおおよそ確定し,少なくとも@@@周辺に避難指示が継続して出されている地域はないこととなっていたもの であり,平成23年12月には,福島第一原発について,原子力災害対策本部が冷温停止・事故の収束を宣言していたこと(第4章第2節第4,5[❷-131 頁])をも勘案すると,上記転居の日である平成24年3月15日の時点においては,社会通念に照らし,一般人であれば,その生活環境が,住定時に想定されていた無形物質・無体物による悪影響の幅を超えて悪化したと判断するであろうとまで は認めるに足りない。そうすると,原告番号36-1については,本件事故によ り避難をしなかったものと認められる。 もっとも,緊急時避難準備区域にも屋内退避区域にも該当しなかった地域に引き続き居住した者についても当裁判所が認める自己決定権侵害(C)を肯認でき,その侵害の実質は,避難した者としなかった者とで大きな差異があるとはいい難い(第8節第3,2⑶ウ[❸-172 頁])ところ,原告番号36-1は,本件事故 以降,原告番号36-2,36-3の健康を懸念して,現 質は,避難した者としなかった者とで大きな差異があるとはいい難い(第8節第3,2⑶ウ[❸-172 頁])ところ,原告番号36-1は,本件事故 以降,原告番号36-2,36-3の健康を懸念して,現に転居のための準備をするなどしていたものであり,これら事情をも勘案すれば,原告番号36-1についても当裁判所が認める自己決定権侵害(C)を肯認することができ,その慰謝料の額は,原則的な額である30万円とするのが相当である(前記第8節第3,2⑶ウ[❸-172 頁](原告番号36-1の〈裁判所認定欄〉(a))。 3 被告東電による弁済被告東電が支払った避難慰謝料名目の金員の額は,原告番号36-1につき12万円(原告番号36ー1の〈裁判所認定欄〉(b)),原告番号36-2,36-3につきそれぞれ72万円(原告番号36-2,36-3の〈裁判所認定欄〉(b))である。【乙共336・135~138頁】 4 弁護士費用⑴ 損害合計は,原告番号36-1につき18万円(原告番号36-1の〈裁判所認定欄〉(c)),原告番号36-2,36-3につきそれぞれ28万円(原告番号36-2,36-3の〈裁判所認定欄〉(c))である。 ⑵ 弁護士費用は,原告番号36-1につき1万円(原告番号36-1の〈裁判 所認定欄〉(d)),原告番号36-2,36-3につきそれぞれ2万円である(原告番号36-2,36-3の〈裁判所認定欄〉(d))。 5 まとめ以上によれば,原告番号36-1の請求は,19万円(原告番号36-1の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民 法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その 余は理由がなく,原告番号36-2の請求は,30万円( これに対する平成23年3月11日から支払済みまで民 法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その 余は理由がなく,原告番号36-2の請求は,30万円(原告番号36-2の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号36-3の請求は,30万円(原告番号36-3の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民 法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。 (原告番号36-1につき 30 万円-12 万円+1 万円=19 万円原告番号36-2につき 100 万円-72 万円+2 万円=30 万円原告番号36-3につき 100 万円-72 万円+2 万円=30 万円)第37 原告番号37の世帯(原告番号37-1,37-2,37-3)について 1 事実関係 【甲個37の1】⑴ 旧居住地等原告番号37-1は,本件事故の際,@@@内の自宅において,妻,長女である原告番号37-2及び長女の子である原告番号37-3(当時3歳)と4人で暮らしていた。同自宅所在地は,本件事故後,居住制限区域に指定された。 ⑵ 避難経過平成23年3月11日,原告番号37-1は,自宅駐車場で車中泊をした。 同日,原告番号37-2,37-3は,自宅近くに住む祖父母宅の庭で車中泊をした。 同月12日,原告番号37らは,親類が住む@@方面に避難することとし, 同日から同月14日まで,@@@@@市内のホテルに滞在した。 同日から同年4月14日まで,原 泊をした。 同月12日,原告番号37らは,親類が住む@@方面に避難することとし, 同日から同月14日まで,@@@@@市内のホテルに滞在した。 同日から同年4月14日まで,原告番号37らは,@@@内の親類宅に身を寄せた。 同日,上記親類宅周辺の施設に空きがあることが判明したことから,原告番号37らは同施設に逗留することとし,同月25日まで同所に滞在した。 その後,親類の知人が経営する@@@@市内のアパートに転居することとな り,原告番号37らは,上記@@@内の親類宅での宿泊を経て,同年4月27日から同年6月1日まで,上記@@@@市内のアパートで生活した。 同日,原告番号37らは,@@@@@市内の住宅に転居したが,原告番号37-1は,同月17日から同年9月17日まで,@@@@@@@@のため入院した。 同年7月22日,原告番号37-2,37-3は,@@@@@@市内の借上住宅に転居した。同年9月17日,退院した原告番号37-1も,同借上住宅に入居した。 ⑶ 不動産の価額原告番号37-1の所有する自宅敷地建物は居住制限区域(5年以上)にあ り,自宅建物は本件事故時点で築19年であった。自宅敷地の固定資産税評価額は,215万3700円であり,自宅建物の固定資産税評価額は,383万6746円であった。【甲個37の7】 2 損害額の認定⑴ 慰謝料 原告番号37らは,いずれも@@@内の居住制限区域に居住していたところ,同地は,資料29及び同30(第6分冊)の㉑に該当し,避難指示が5年を超えて継続した地域に該当するから,原告番号37らにつき,それぞれ,当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)として1300万円を認める(前記第8節第2,2⑶イ[❸-161 頁])(原告番号37-1,37-2の した地域に該当するから,原告番号37らにつき,それぞれ,当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)として1300万円を認める(前記第8節第2,2⑶イ[❸-161 頁])(原告番号37-1,37-2の〈裁判所認定欄〉 (a-1),原告番号37-3の〈裁判所認定欄〉(a))。 また,原告番号37らは,平成23年3月11日から同月12日まで2日間車中泊を余儀なくされたものであるから,当裁判所が認める避難慰謝料(A)(前記第8節第4,2⑶[❸-178 頁]のとおり日額2000 円)として,上記各人につき,それぞれ4000円(2日分)ずつを認める(原告番号37-1,37-2の〈裁判所認定欄〉(a-1),原告番号37-3の〈裁判所認定欄〉(a))。 ⑵ 不動産損害原告番号37-1の所有する自宅敷地建物は居住制限区域(5年以上)にあり,自宅建物は本件事故時点で築30年を超えていないところ,その価額は前記1⑶認定のとおりであり,これを,前記第8節第6,2⑴イ[❸-180 頁]で説示した基準に当てはめると,不動産に係る財産的損害は,上記敷地につき, 固定資産税評価額の1.8倍の387万6660円(原告番号37-1の〈裁判所認定欄〉(a-2)),上記建物につき,固定資産税評価額の2.5倍の959万1865円(原告番号37-1の〈裁判所認定欄〉(a-3))とそれぞれ認められる。 ⑶ 家財 原告番号37らの世帯は3人暮らし以上であり,前記第8節第6,2⑵ウ[❸-186 頁]で判示したところに従い,これを40万円と認めるところ,原告番号37-1,37-2は,家財については,同人ら及び原告番号37-1の妻の3名の共有に係るものであるとして,持分割合に基づき家財の価額の3分の1ずつを請求するので,原告番号37-1,37 ろ,原告番号37-1,37-2は,家財については,同人ら及び原告番号37-1の妻の3名の共有に係るものであるとして,持分割合に基づき家財の価額の3分の1ずつを請求するので,原告番号37-1,37-2につき,それぞれ,家財損 害として13万3333円ずつを認める(原告番号37-1の〈裁判所認定欄〉(a-4),原告番号37-2の〈裁判所認定欄〉(a-2))。 3 被告東電による弁済⑴ 慰謝料について被告東電が支払った避難慰謝料名目の金員の額は,原告番号37-1につき 610万円(原告番号37-1の〈裁判所認定欄〉(b-1)),原告番号37-2 につき875万円(原告番号37-2の〈裁判所認定欄〉(b-1)),原告番号37-3につき854万円(原告番号37-3の〈裁判所認定欄〉(b))である。 ⑵ 財産的損害について被告東電が原告番号37-1に支払った不動産損害名目の金員の額は,自宅敷地につき307万9791円(原告番号37-1の〈裁判所認定欄〉(b-2)), 自宅建物につき2238万円(原告番号37-1の〈裁判所認定欄〉(b-3))である。【乙共336・139~142頁】これにより,原告番号37-1の自宅建物の財産的損害については全額弁済されたことになる。 被告東電が支払った家財損害名目の金員の額は原告番号37-1,原告番号37-2につきそれぞれ45万円である(原告番号37-1の〈裁判所認定欄〉 (b-4),原告番号37-2の〈裁判所認定欄〉(b-2))。 これにより,原告番号37-1,37-2の家財の財産的損害については全額弁済されたことになる。 4 弁護士費用⑴ 損害合計は,原告番号37-1につき770万0869円(原告番号37- 1の〈裁判所認定欄〉(d)),原 -2の家財の財産的損害については全額弁済されたことになる。 4 弁護士費用⑴ 損害合計は,原告番号37-1につき770万0869円(原告番号37- 1の〈裁判所認定欄〉(d)),原告番号37-2につき425万4000円(原告番号37-2の〈裁判所認定欄〉(d)),原告番号37-3につき446万4000円(原告番号37-3の〈裁判所認定欄〉(c))である。 ⑵ 弁護士費用は,原告番号37-1につき77万円(原告番号37-1の〈裁判所認定欄〉(e)),原告番号37-2につき42万円(原告番号37-2の〈裁 判所認定欄〉(e)),原告番号37-3につき44万円(原告番号37-3の〈裁判所認定欄〉(d))である。 5 まとめ以上によれば,原告番号37-1の請求は,847万0869円(原告番号37-1の〈裁判所認定欄〉(f))及びこれに対する平成23年3月11日から支 払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理 由があり,その余は理由がなく,原告番号37-2の請求は,467万4000円(原告番号37-2の〈裁判所認定欄〉(f))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号37-3の請求は,490万4000円(原告番号37-3の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平 成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。 (原告番号37-1につき 1300 万円+4000 円-610 万円+387 万6660 円-307 万9791 円+77 万円=847万0869 円 原告番 り,その余は理由がない。 (原告番号37-1につき 1300 万円+4000 円-610 万円+387 万6660 円-307 万9791 円+77 万円=847万0869 円 原告番号37-2につき 1300 万円+4000 円-875 万円+42 万円=467 万4000 円原告番号37-3につき 1300 万円+4000 円-854 万円+44 万円=490 万4000 円)第38 原告番号38の世帯(原告番号38)について 1 事実関係【甲個38の1】原告番号38は,本件事故の際,@@@内の自宅で,長男(当時26歳),三男(当時19歳)と3人暮らしをしていた。 本件事故の前後を通じ,原告番号38は,太陽光発電とオール電化の営業職と して稼働していたが,平成23年5月20日付けで整理解雇となった。原告番号38は,自主的に自宅付近の放射線量を計測した結果,思いの外高い数値が得られたことなどから,姉の住む@@@@@@@市への転居を検討することとし,同年11月に同市内の介護付き有料老人ホームに採用され,平成24年1月に,同市内の雇用促進住宅に入居した。 その後,原告番号38は,健康状態が思わしくなく,退職と再就職を繰り返し た。 また,避難先の雇用促進住宅の取り壊しが決まったりしたことなどから,転居を繰り返し,平成29年8月,三男とともに@@@@市内に住居を購入した。 2 損害額の認定原告番号38は,@@@内に居住していたところ,同地は,避難指示等が出さ れておらず,緊急時避難準備区域や屋内退避区域にも指定されていないが,いわゆる@@@@@に位置するから,当裁判所が認める自己決定権侵害慰謝料(C)として30万円を認める(前記第8節第3,2⑶ウ[❸-172 頁])(原 避難準備区域や屋内退避区域にも指定されていないが,いわゆる@@@@@に位置するから,当裁判所が認める自己決定権侵害慰謝料(C)として30万円を認める(前記第8節第3,2⑶ウ[❸-172 頁])(原告番号38の〈裁判所認定欄〉(a))。 原告番号38は,平成24年1月にもとの住居地から避難したものであるが, 同時点では,本件事故から既に8か月が経過しており,避難指示の範囲もおおよそ確定していたものであり,平成23年12月には,福島第一原発について,原子力災害対策本部が冷温停止・事故の収束を宣言していたこと(第4章第2節第4,5[❷-131 頁])をも勘案すると,上記転居の日である平成24年1月の時点においては,社会通念に照らし,一般人であれば,その生活環境が,住定時に 想定されていた無形物質・無体物による悪影響の幅を超えて悪化したと判断するであろうとまでは認めるに足りない。そうすると,原告番号38については,本件事故と避難(平成24年1月)との間の相当因果関係を認めることができない。 もっとも,緊急時避難準備区域にも屋内退避区域にも該当しなかった地域に引き続き居住した者についても当裁判所が認める自己決定権侵害(C)を肯認でき, その侵害の実質は,避難した者としなかった者とで大きな差異があるとはいい難い(前記第8節第3,2⑶ウ[❸-172 頁])ところ,原告番号38は,本件事故以降,職を失い,自主的に測定した空間放射線量が思いの外高いという状況下体調を崩していたものであり,これら事情をも勘案すれば,原告番号38についても当裁判所が認める自己決定権侵害(C)を肯認することができ,その慰謝料の額 は,原則的な額である30万円とするのが相当である(前記第8節第3,2⑶ウ [❸-172 頁])。 3 被告東 所が認める自己決定権侵害(C)を肯認することができ,その慰謝料の額 は,原則的な額である30万円とするのが相当である(前記第8節第3,2⑶ウ [❸-172 頁])。 3 被告東電による弁済被告東電が原告番号38に支払った避難慰謝料名目の金員の額は,12万円である(原告番号38の〈裁判所認定欄〉(b))。【乙共336・145~146頁】 4 弁護士費用 ⑴ 原告番号38の損害合計は18万円である(原告番号38の〈裁判所認定欄〉(c))。 ⑵ 原告番号38の弁護士費用は1万円である(原告番号38の〈裁判所認定欄〉(d))。 5 まとめ 以上によれば,原告番号38の請求は,19万円(原告番号38の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。 (原告番号38につき 30 万円-12 万円+1 万円=19 万円)第39 原告番号39の世帯(原告番号39-1,39-2,39-3)について 1 事実関係【甲個39の1】原告番号39-1は,本件事故の際,@@@@@@@内の自宅において,妻で ある原告番号39-2及び子である原告番号39-3と3人で生活していた。同自宅所在地は,本件事故後,避難指示解除準備区域に指定された。 平成23年3月12日,原告番号39らは,付近の小学校に避難し,同月15日まで,同所での避難生活を余儀なくされた。 同月15日,原告番号39-1,39-2は,@@@内の高校に避難し,同月 24日まで,同所での避難生活を余儀なくされた。 同日,原告番号39-1,39-2は,@@@内の長男の自宅に避難し,4月2日 39-1,39-2は,@@@内の高校に避難し,同月 24日まで,同所での避難生活を余儀なくされた。 同日,原告番号39-1,39-2は,@@@内の長男の自宅に避難し,4月2日,同長男が確保した@@@内の市営住宅に転居した。 また,原告番号39-1,39-2は,平成27年5月には@@市に,平成29年9月には,上記長男と同居するために同市内に新築した戸建住宅に転居した。 他方,原告番号39-3は,平成23年3月15日まで,原告番号39-1, 39-2と共に避難生活を送っていたが,同月16日,単身@@@@@@の避難所に移動して,同月19日まで同所に滞在した。 同日,原告番号39-3は,@@@@@@内の友人宅に身を寄せ,同年4月2日,原告番号39-1,39-2が転居した@@市内の市営住宅に転居した。 その後,原告番号39-1,39-2は,@@市内へ転居したが,原告番号3 9-3は,引き続き上記市営住宅で生活している。 2 損害額の認定原告番号39らは,@@@@@@@内の避難指示解除準備区域に居住していたところ,同地は,資料29及び同30(第6分冊)の⑧に該当し,避難指示が5年を超えて継続した地域に該当するから,原告番号39らにつき,それぞれ,当 裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)として1200万円ずつを認める(前記第8節第2,2⑶エ[❸-162 頁])(原告番号39らの〈裁判所認定欄〉(a))。 また,原告番号39-1,39-2は,平成23年3月12日から同月24日まで13日間,原告番号39-3は,同月12日から同月16日まで5日間,それぞれ避難生活を余儀なくされたものであるから,当裁判所が認める避難慰謝料 (A)(前記第8節第4,2⑶[❸-178 頁]のとおり日額2000 円))として,原 2日から同月16日まで5日間,それぞれ避難生活を余儀なくされたものであるから,当裁判所が認める避難慰謝料 (A)(前記第8節第4,2⑶[❸-178 頁]のとおり日額2000 円))として,原告番号39-1,39-2につきそれぞれ2万6000円ずつ(13日分)(原告番号39ー1,39-2の〈裁判所認定欄〉(a)),同39-3につき1万円(5日分)を認める(原告番号39ー3の〈裁判所認定欄〉(a))。 3 被告東電による弁済 被告東電が支払った避難慰謝料名目の金員の額は,原告番号39-1につき9 32万5000円(原告番号39-1の〈裁判所認定欄〉(b)),原告番号39-2につき913万円(原告番号39-2の〈裁判所認定欄〉(b)),原告番号39-3につき978万円(原告番号39-3の〈裁判所認定欄〉(b))である。【乙共336・147~150頁】なお,被告東電が支払った避難慰謝料名目の金員のうち,精神的損害(要介護) との種別が付されているものについては,前記第8節第1,2⑵[❸-142 頁]で整理したところの精神的損害のうち,避難生活の不便さから来る苦痛に係る部分(同イ(ウ)[❸-147 頁])を増額したものと解されるから,同精神的損害を本件平穏生活4要素の喪失として法的に構成する当裁判所の考え方によれば,精神的損害(要介護)として支払われた金員は,当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝 料に対する弁済と認めることができる。 4 弁護士費用⑴ 損害合計は,原告番号39-1につき270万1000円(原告番号39-1の〈裁判所認定欄〉(c)),原告番号39-2につき289万6000円(原告番号39-2の〈裁判所認定欄〉(c)),原告番号39-3につき223万円 (原告番号39-3の〈裁判所 番号39-1の〈裁判所認定欄〉(c)),原告番号39-2につき289万6000円(原告番号39-2の〈裁判所認定欄〉(c)),原告番号39-3につき223万円 (原告番号39-3の〈裁判所認定欄〉(c))である。 ⑵ 弁護士費用は,原告番号39-1につき27万円(原告番号39-1の〈裁判所認定欄〉(d)),原告番号39-2につき28万円(原告番号39-2の〈裁判所認定欄〉(d)),原告番号39-3につき22万円(原告番号39-3の〈裁判所認定欄〉(d))である。 5 まとめ以上によれば,原告番号39-1の請求は,297万1000円(原告番号39-1の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号39-2の請求は,317万6000 円(原告番号39-2の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3 月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号39-3の請求は,245万円(原告番号39-3の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。 (原告番号39-1につき 1200 万円+2 万6000 円-932 万5000 円+27 万円=297 万1000 円原告番号39-2につき 1200 万円+2 万6000 円-913 万円+28 万円=317 万6000 円原告番号39-3につき 1200 万円+1 万円-978 万円+22 告番号39-2につき 1200 万円+2 万6000 円-913 万円+28 万円=317 万6000 円原告番号39-3につき 1200 万円+1 万円-978 万円+22 万円=245 万円)第40 原告番号40の世帯(原告番号40-1,40-2,40-3,40-4,40-5,40-6,40-7)について 1 事実関係【甲個40の1,原告番号40-1本人】 ⑴ 当事者等原告番号40-1は,本件事故の際,@@@@@@@内の自宅で,長女である原告番号40-5と2人暮らしをしていた。同自宅所在地は,本件事故の後,緊急時避難準備区域に指定されたが,平成23年9月30日に解除された。 訴訟承継前の原告番号40-2(本件事故当時82歳。以下「原告番号40 -2」という。)は,原告番号40-1の母であり,本件事故の際,@@@内の自宅で1人暮らしをしていた。同自宅所在地は,本件事故後,居住制限区域に指定された。 原告番号40-4は,原告番号40-1の夫であり,本件事故の際は,@@@@@@@@内のアパートに単身赴任中であった。 原告番号40-5は,原告番号40-1の長女(本件事故当時25歳)であ り,本件事故の際は,原告番号40-1と同居していた。 原告番号40-6は,原告番号40-1の二女(本件事故当時23歳)であり,本件事故の際は,@@@内の自宅で1人暮らしをしつつ,@@大学に通学していた。 原告番号40-3は,原告番号40-1の長男(本件事故当時19歳)であ り,本件事故の際は,大学受験のため,姉である原告番号40-6の自宅で寝泊まりしていた。 ⑵ 避難経過平成23年3月11日,原告番号40-1は,本件地震及び本件津波の発生を受け,@@@内の原告番号40-2の自宅 ,大学受験のため,姉である原告番号40-6の自宅で寝泊まりしていた。 ⑵ 避難経過平成23年3月11日,原告番号40-1は,本件地震及び本件津波の発生を受け,@@@内の原告番号40-2の自宅に駆けつけて,同人とともに一晩 を過ごした。同月12日から同月15日までの間,原告番号40-1と同40-2は,@@@内の小学校に避難した。同月15日,原告番号40-1と同40-2は,@@@@@内の原告番号40-4の自宅に避難した。 他方,原告番号40-5は,同月13日まで,@@@@@@@内の自宅に滞在したが,同日に,@@@@@内の原告番号40-4の自宅に避難した。 同月26日,原告番号40-5は,@@@@@@@内の友人宅に身を寄せた。 同年4月9日,原告番号40-1,同40-2,40-5は,@@@@@@@内の賃貸住宅(原発事故避難者用に用意されたもの)に入居した(原告番号40-5は,その後結婚して転居した。)。 その後,平成27年4月20日に,原告番号40-1は,@@@@@@@内 に住宅を購入し,同年5月29日から,同所で生活を開始した。 同年5月18日,原告番号40-2は死亡した。その相続人は,原告番号40-1及び原告番号40-7(相続分はそれぞれ2分の1ずつ)である。 なお,原告番号40-4は,平成24年4月から@@@内に転勤となり同市内で1人暮らしを開始したが,体調を崩し,平成26年3月に退職した。その 後,平成27年5月29日に,原告番号40-1が購入した住宅に転居した。 原告番号40-3は,平成23年4月3日まで原告番号40-6の自宅で,同日から同月9日まで,@@@@@内の原告番号40-4の自宅でそれぞれ生活し,同日以降は原告番号40-1と共に生活している。 2 損害額の認定⑴ 原告番 年4月3日まで原告番号40-6の自宅で,同日から同月9日まで,@@@@@内の原告番号40-4の自宅でそれぞれ生活し,同日以降は原告番号40-1と共に生活している。 2 損害額の認定⑴ 原告番号40-1,40-5について 原告番号40-1,40-5は,いずれも@@@@@@@内の旧緊急時避難準備区域に居住していたところ,同地は,資料29及び同30(第6分冊)の④に該当するから,同人らにつき,それぞれ,当裁判所が認める自己決定権侵害慰謝料(C)として250万円ずつを認める(前記第8節第3,2⑶ア[❸- 169 頁])(原告番号40-1,40-5の〈裁判所認定欄〉(a))。 また,原告番号40-1は,平成23年3月12日から同月15日まで4日間避難所での生活を余儀なくされたものであるから,当裁判所が認める避難慰謝料(A)(前記第8節第4,2⑶[❸-178 頁]のとおり日額2000 円)として8000円(4日分)を認める(原告番号40-1の〈裁判所認定欄〉(a))。 ⑵ 原告番号40-2について 原告番号40-2は,@@@内の居住制限区域に居住していたところ,同地は,資料29及び同30(第6分冊)のに該当し,避難指示が5年を超えて継続した地域に該当するから,原告番号40-2につき,当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)として1300万円を認める(前記第8節第2,2⑶イ[❸-161 頁])(原告番号40-2の〈裁判所認定欄〉(a))。 また,原告番号40-2は,平成23年3月12日から同月15日まで4日間避難所での生活を余儀なくされたものであるから,当裁判所が認める避難慰謝料(A)(前記第5章第8節第4,2⑶[❸-178 頁]のとおり日額2000 円)として8000円(4日分)を認める(原告番号40-2の〈 生活を余儀なくされたものであるから,当裁判所が認める避難慰謝料(A)(前記第5章第8節第4,2⑶[❸-178 頁]のとおり日額2000 円)として8000円(4日分)を認める(原告番号40-2の〈裁判所認定欄〉(a))。 ⑶ 原告番号40-3について 原告番号40-3は,本件事故当時,大学受験に臨むため@@市内の原告番号40-6方に滞在していたものであり,その滞在は一時的なものであって,本来的な住所は,@@@@@@@の原告番号40-1の自宅であったと認められるから,当裁判所が認める自己決定権侵害(C)を肯認できる。しかしながら,原告番号40-3の上記侵害の程度についてみると,放射性物質による健 康被害におびえることなく自己の住所を上記原告番号40-1の自宅に自由に設定するという意味での平穏生活権ないし居住,移転の自由は,大学受験の結果,原告番号40-3が,上記原告番号40-1の自宅から通学することとなる場合にのみ現実化するものであって,その蓋然性は相当程度限定されるといわざるを得ない。そうすると,原告番号40-3について,当裁判所が認め る自己決定権侵害(C)を肯認できるにしても,その侵害の程度は著しく限定されるというべきであり,その慰謝料としては,原則的な額の2分の1に相当する125万円とするのが相当である(原告番号40-3の〈裁判所認定欄〉(a))。 ⑷ 原告番号40-4について 原告番号40-4は,本件事故当時,@@@@@内の自宅に居住していたものであるから,@@@@@@@内の原告番号40-1の自宅を基準に当裁判所が認める自己決定権侵害(C)を肯認することはできない。当裁判所が認める自己決定権侵害(C)は,避難者が,従前特定の場所を住所と定めていることを前提に,住定時の生活環境と変 1の自宅を基準に当裁判所が認める自己決定権侵害(C)を肯認することはできない。当裁判所が認める自己決定権侵害(C)は,避難者が,従前特定の場所を住所と定めていることを前提に,住定時の生活環境と変動後の生活環境を比較して観念すべきもので ある(前記第8節第3,2⑴ア[❸-166 頁])から,当該場所を住所と定めていない単身赴任者の場合は,当裁判所が認める自己決定権侵害(C)を肯認する前提を欠く(当裁判所が認めるふるさと喪失損害(B)の場合は,単身赴任者であってもこれを肯認し得るが,これは,地域コミュニティからの恩恵の享受を前提とするものであるから,当裁判所が認める自己決定権侵害(C)とは場 合を異にする。)。 そして,@@@@@内の原告番号40-4の自宅を基準に,当裁判所が認める自己決定権侵害(C)の有無を判断するに,@@は,いわゆる浜通り並びに中通り北部及び中部に該当しないから,原告番号40-4については,当裁判所が認める自己決定権侵害(C)を肯認できない。 ⑸ 原告番号40-6について 原告番号40-6は,本件事故当時,@@@内の自宅に居住していたものであるから,当裁判所が認める自己決定権侵害(C)を肯認することができない。 ⑹ @@@への転居予定について原告番号40らは,原告番号40-1,同40-3ないし同40-6は,平成23年4月ないし平成24年4月までの間に,@@@内の原告番号40-2 の自宅に転居する予定であったとして,原告番号40-1,同40-3ないし同40-6については,@@@からの避難と評価すべきである旨主張する。 しかし,原告番号40らが主張するところは,あくまでも転居の予定にすぎないから,原告番号40-1,同40-3ないし同40-6が,@@@において,本件平穏生活4要 避難と評価すべきである旨主張する。 しかし,原告番号40らが主張するところは,あくまでも転居の予定にすぎないから,原告番号40-1,同40-3ないし同40-6が,@@@において,本件平穏生活4要素による利益を享受していたとは認められないから,同 人らについて,当裁判所が認めるふるさと喪失損害(B)を肯認することはできない。 また,原告番号40-1,同40-3ないし同40-6は,@@@を住所と定めて居住を開始していたわけではないのであるから,従前特定の場所を住所と定めていることを前提とする当裁判所が認める自己決定権侵害(C)を肯認 することもできない。 3 被告東電による弁済被告東電が支払った避難慰謝料名目の金員の額(ただし,慰謝料を認めることができない原告番号40-4,40-6を除く)は,原告番号40-1につき431万円(原告番号40-1の〈裁判所認定欄〉(b)),原告番号40-2につき 711万円(原告番号40-2の〈裁判所認定欄〉(b)),原告番号40-3につ き180万円(原告番号40-3の〈裁判所認定欄〉(b)),原告番号40-5につき180万円(原告番号40-5の〈裁判所認定欄〉(b))である。【乙共336・151~157頁】これにより,原告番号40-1,40-3に認められた,当裁判所が認める自己決定権侵害慰謝料(C)は全額弁済されたことになる。 4 弁護士費用⑴ 損害合計は,原告番号40-2につき598万8000円(原告番号40-2の〈裁判所認定欄〉(c)),原告番号40-5につき70万円(原告番号40-5の〈裁判所認定欄〉(c))である。 ⑵ 弁護士費用は原告番号40-2につき58万円(原告番号40-2の〈裁判 所認定欄〉(d)),原告番号40-5につき7万 つき70万円(原告番号40-5の〈裁判所認定欄〉(c))である。 ⑵ 弁護士費用は原告番号40-2につき58万円(原告番号40-2の〈裁判 所認定欄〉(d)),原告番号40-5につき7万円(原告番号40-5の〈裁判所認定欄〉(d))である。 5 原告番号40-2の損害額のまとめ以上によれば,原告番号40-2は,647万8000円(原告番号40-2の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みま で民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができた。 (原告番号40-2につき 1300 万円+8000 円-711 万円+58 万円=647 万8000 円)原告番号40-1及び40-7は,原告番号40-2を各相続分2分の1の割合により相続し,原告番号40-2を承継した。 6 原告番号40-1,40-5,40-7の請求の認容額原告番号40-1及び40-7は,原告番号40-2を各相続分2分の1の割合により相続し,原告番号40-2を訴訟承継したから,それぞれ,原告番号40-2の損害賠償請求権のうち323万9000円(647 万8000 円×1/2=323万9000 円)及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定 の年5分の割合による遅延損害金の請求権を取得した。 以上によれば,原告番号40-1の請求は,323万9000円(原告番号40-1の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号40-5の請求は,77万円(原告番号40-5の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から 5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号40-5の請求は,77万円(原告番号40-5の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支 払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号40-7の請求は,323万9000円(原告番号40-7の「認容額」の欄)及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号40-3,40-4,40- 6の請求はいずれも理由がない。 (原告番号40-1につき 647 万8000 円×1/2=323 万9000 円原告番号40-5につき 250 万円-180 万円+7 万円=77 万円 原告番号40-7につき 647 万8000 円×1/2=323 万9000 円)第41 原告番号41の世帯(原告番号41-1,41-2,41-3,41-4,41-5)について 1 事実関係 【甲個41の1】原告番号41-1は,本件事故の際,@@@内の自宅で,妻である原告番号41-2,長男である同41-3(当時11歳),長女である同41-4(当時9歳),二女である同41-5(当時3歳)と5人で暮らしていた。 平成23年3月11日,原告番号41らは,地震により自宅が損壊したことか ら,@@@内の原告番号41-2の両親宅に避難した。 同月16日,原告番号41らは,神奈川県@@@内の原告番号41-1の実家に避難した。 同年4月3日,新学期が開始するのに合わせて,原告番号41らは,@@@内の同人ら自宅に戻った。 しかし,本件事故の影響によ 原告番号41らは,神奈川県@@@内の原告番号41-1の実家に避難した。 同年4月3日,新学期が開始するのに合わせて,原告番号41らは,@@@内の同人ら自宅に戻った。 しかし,本件事故の影響による生活上の制限が著しかったことなどから,原告 番号41らは,@@@外に転居することとした。同年6月,原告番号41-1が神奈川県内の会社に職を得たことから,他の家族に先行して,神奈川県@@@内の居宅に転居し,同年8月15日,原告番号41-2ないし同41-5も同所に転居した。 2 損害額の認定 原告番号41らは,いずれも@@@内に居住していたところ,同地は,避難指示等が出されておらず,緊急時避難準備区域や屋内退避区域にも指定されていないが,いわゆる浜通りに位置するから,当裁判所が認める自己決定権侵害慰謝料(C)として,養育すべき子とともに避難した原告番号41-1,41-2につきそれぞれ60万円(前記第8節第3,2⑶ウ[❸-172 頁])(原告番号41-1, 41-2の〈裁判所認定欄〉(a)),子どもである原告番号41-3ないし同41-5についてそれぞれ100万円を認める(前記第8節第3,2⑶ウ[❸-172 頁])(原告番号41-3,41-4,41-5の〈裁判所認定欄〉(a))。 3 被告東電による弁済被告東電が支払った避難慰謝料名目の金員の額は,原告番号41-1につき4 万円(原告番号41-1の〈裁判所認定欄〉(b)),原告番号41-2につき72万円(原告番号41-2の〈裁判所認定欄〉(b)),原告番号41-3,41-4. 41-5につきそれぞれ12万円(原告番号41-3,41-4,41-5の〈裁判所認定欄〉(b))である。【乙共336・158~163頁】これにより,原告番号41-2に認められた,当裁判所が認める自 41-5につきそれぞれ12万円(原告番号41-3,41-4,41-5の〈裁判所認定欄〉(b))である。【乙共336・158~163頁】これにより,原告番号41-2に認められた,当裁判所が認める自己決定権侵 害慰謝料(C)は全額弁済されたことになる。 4 弁護士費用⑴ 損害合計は,原告番号41-1につき56万円(原告番号41-1の〈裁判所認定欄〉(c)),原告番号41-3,41-4,41-5につきそれぞれ88万円(原告番号41-3,41-4,41-5の〈裁判所認定欄〉(c))である。 ⑵ 弁護士費用は原告番号41-1につき5万円(原告番号41-1の〈裁判所認定欄〉(d)),原告番号41-3,41-4,41-5につきそれぞれ8万円(原告番号41-3,41-4,41-5の〈裁判所認定欄〉(d))である。 5 まとめ以上によれば,原告番号41-1の請求は,61万円(原告番号41-1の〈裁 判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号41-3の請求は,96万円(原告番号41-3の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その 余は理由がなく,原告番号41-4の請求は,96万円(原告番号41-4の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号41-5の請求は,96万円(原告番号41-5の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11 定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号41-5の請求は,96万円(原告番号41-5の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民 法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号41-2の請求は理由がない。 (原告番号41-1につき 60 万円-4 万円+5 万円=61 万円原告番号41-3につき 100 万円-12 万円+8 万円=96 万円 原告番号41-4につき 100 万円-12 万円+8 万円=96 万円原告番号41-5につき 100 万円-12 万円+8 万円=96 万円)第42 原告番号42の世帯(原告番号42)について 1 事実関係【甲個42の1】原告番号42は,本件事故の際,@@@内の自宅兼アパートで1人暮らしをしていた。 本件事故後,原告番号42は,@@在住の妹からの安否確認を契機に,上記自 宅兼アパートでの生活に著しい不安を感じ始め,平成23年10月に,神奈川県@@@@内に住んでいた長女から勧められて,同年12月27日に,同市に避難した。同日から平成24年1月6日までは,上記長女宅に身を寄せ,同日以降は,同市内のアパートに転居した。 2 損害額の認定 原告番号42は,@@@内に居住していたところ,同地は,避難指示等が出されておらず,緊急時避難準備区域や屋内退避区域にも指定されていないが,いわゆる@@@@@に位置するから,当裁判所が認める自己決定権侵害慰謝料(C)として30万円を認める(前記第8節第3,2⑶ウ[❸-172 頁](原告番号42の〈裁判所認定欄〉(a))。 3 被告東電によ @@に位置するから,当裁判所が認める自己決定権侵害慰謝料(C)として30万円を認める(前記第8節第3,2⑶ウ[❸-172 頁](原告番号42の〈裁判所認定欄〉(a))。 3 被告東電による弁済被告東電が原告番号42に支払った避難慰謝料名目の金員の額は,12万円である(原告番号42の〈裁判所認定欄〉(b))。【乙共336・164~165頁】 4 弁護士費用⑴ 原告番号42の損害合計は,18万円である(原告番号42の〈裁判所認定 欄〉(c))。 ⑵ 原告番号42の弁護士費用は,1万円である(原告番号42の〈裁判所認定欄〉(d))。 5 まとめ以上によれば,原告番号42の請求は,19万円(原告番号42の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定 の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。 (原告番号42につき 30 万円-12 万円+1 万円=19 万円)第43 原告番号43の世帯(原告番号43-1,43-2,43-3,43- 4)について 1 事実関係【甲個43の1】原告番号43-1は,本件事故の際,@@@内の自宅で,妻である原告番号43-2,長女である同43-3(当時4歳),二女である同43-4(当時2歳) と4人で暮らしていた。 平成23年3月11日,原告番号43-2ないし同43-4は,付近のスポーツ施設に避難した。 その後,原告番号43らは,同月12日に@@@内の原告番号43-2の実家へ,同月15日に@@@@内の原告番号43-2の妹宅へ身を寄せた。 同年4月2日,原告番号43-1が@@@内に転勤となったことに伴い,原告番号43らは,同月4日から@@@内のアパート の実家へ,同月15日に@@@@内の原告番号43-2の妹宅へ身を寄せた。 同年4月2日,原告番号43-1が@@@内に転勤となったことに伴い,原告番号43らは,同月4日から@@@内のアパートでの生活を始めた。しかし,原告番号43-1が自主的に計測した空間放射線量が思いの外高かったことから,原告番号43-1は,退職して県外へ転居することを決心した。 同年7月3日以降,原告番号43らは,@@@@内及び@@@内の親族宅を 転々としたが,同年8月に原告番号43-1の転職が決定したことに伴い,同年 9月25日から,@@@内の居室に転居した。 2 損害額の認定原告番号43らは,いずれも@@@内に居住していたところ,同地は,避難指示等が出されておらず,緊急時避難準備区域や屋内退避区域にも指定されていないが,いわゆる浜通りに位置するから,当裁判所が認める自己決定権侵害慰謝料 (C)として,養育すべき子とともに避難した原告番号43-1,43-2につきそれぞれ60万円(前記第8節第3,2⑶ウ[❸-172 頁])(原告番号43-1,43-2の〈裁判所認定欄〉(a)),子どもである原告番号43-3,43-4についてそれぞれ100万円(原告番号43-3,43-4の〈裁判所認定欄〉(a))を認める(前記第8節第3,2⑶ウ[❸-172 頁])。 また,原告番号43-2ないし同43-4は,平成23年3月11日に避難所での生活を余儀なくされたものであるから,当裁判所が認める避難慰謝料(A)(前記第8節第4,2⑶[❸-178 頁]のとおり日額2000 円)としてそれぞれ2000円(1日分)を認める(原告番号43-2,43-3,43-4の〈裁判所認定欄〉(a))。 3 被告東電による弁済被告東電が支払った避難慰謝料名 り日額2000 円)としてそれぞれ2000円(1日分)を認める(原告番号43-2,43-3,43-4の〈裁判所認定欄〉(a))。 3 被告東電による弁済被告東電が支払った避難慰謝料名目の金員の額は,原告番号43-2につき16万円(原告番号43-2の〈裁判所認定欄〉(b)),原告番号43-3,43-4につきそれぞれ92万円(原告番号43-3,43-4の〈裁判所認定欄〉(b))である。【乙共336・166~170頁】 なお,同証拠によっても,原告番号43-1に対する避難慰謝料名目の金員の支払の事実は,これを認めるに足りない。 4 弁護士費用⑴ 損害合計は,原告番号43-1につき60万円(原告番号43-1の〈裁判所認定欄〉(c)),原告番号43-2につき44万2000円(原告番号43- 2の〈裁判所認定欄〉(c)),原告番号43-3,43-4につきそれぞれ8万 2000円(原告番号43-3,43ー4の〈裁判所認定欄〉(c))である。 ⑵ 弁護士費用は原告番号43-1につき6万円(原告番号43-1の〈裁判所認定欄〉(d)),原告番号43-2につき4万円(原告番号43-2の〈裁判所認定欄〉(d)),原告番号43-3,43-4につきそれぞれ1万円(原告番号43-3,43-4の〈裁判所認定欄〉(d))である。 5 まとめ以上によれば,原告番号43-1の請求は,66万円(原告番号43-1の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号43-2の請求は,48万2000円(原告番号43 -2の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済 害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号43-2の請求は,48万2000円(原告番号43 -2の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号43-3の請求は,9万2000円(原告番号43-3の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度 で理由があり,その余は理由がなく,原告番号43-4の請求は,9万2000円(原告番号43-4の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。 (原告番号43-1につき 60 万円+6 万円=66 万円原告番号43-2につき 60 万円+2000 円-16 万円+4 万円=48 万2000 円原告番号43-3につき 100 万円+2000 円-92 万円+1 万円=9 万2000 円 原告番号43-4につき 100 万円+2000 円-92 万円+1 万円=9 万2000 円)第44 原告番号44の世帯(原告番号44-1,44-2)について 1 事実関係【掲記の証拠のほか,甲個44の1】⑴ 旧居住地等 原告番号44-1は,本件事故の際,@@@内の自宅において,妻である原告番号44-2と2人で暮らしていた。同自宅所在地は,本件事故後,居住制限区域に指定された。 ⑵ 避難経過平成23年3月12日,原告番号44らは,福島第一原発の爆発音を聞いて 避難を開始し 番号44-2と2人で暮らしていた。同自宅所在地は,本件事故後,居住制限区域に指定された。 ⑵ 避難経過平成23年3月12日,原告番号44らは,福島第一原発の爆発音を聞いて 避難を開始し,複数の避難所に受入れを拒否された上,@@@@@@@@@の体育館に避難した。 同月15日,原告番号44らは,@@@内の長女宅に避難すべく移動を開始し,同月16日早朝に上記長女宅に到着した。 同年6月中旬,原告番号44らは,@@市内の借上住宅に転居した。 ⑶ 不動産の価額原告番号44-1が自宅所有のために賃借していた敷地及び原告番号44らの共同所有(共有持分はそれぞれ2分の1ずつ)に係る自宅建物は居住制限区域(5年以上)にあり,同自宅建物は本件事故時点で築15年であった。上記敷地の固定資産税評価額は,283万8528円であり,上記自宅建物の固 定資産税評価額は,439万0019円である。【甲個44の5,44の6】 2 損害額の認定⑴ 慰謝料原告番号44らは,いずれも@@@内の居住制限区域に居住していたところ,同地は,資料29及び同30(第6分冊)の㊵に該当し,避難指示が5年を超 えて継続した地域に該当するから,原告番号44らにつき,それぞれ,当裁判 所が認めるふるさと喪失慰謝料(C)として1300万円を認める(前記第8節第2,2⑶イ[❸-161 頁])(原告番号44らの〈裁判所認定欄〉(a-1))。 また,原告番号44らは,それぞれ,平成23年3月12日から同月15日まで4日間避難所での生活を余儀なくされたものであるから,当裁判所が認める避難慰謝料(A)(前記第8節第4,2⑶[❸-178 頁]のとおり日額2000 円) として,上記各人につき,それぞれ8000円(4日分)を認める(原告番号 のであるから,当裁判所が認める避難慰謝料(A)(前記第8節第4,2⑶[❸-178 頁]のとおり日額2000 円) として,上記各人につき,それぞれ8000円(4日分)を認める(原告番号44らの〈裁判所認定欄〉(a-1))。 ⑵ 不動産損害原告番号44-1が自宅所有のために賃借していた敷地は居住制限区域(5年以上)にあり,その価額は前記1⑶認定のとおりである。弁論の全趣旨によ れば,原告番号44-1が有していた借地権の価額は,上記土地の価額に3割を乗じたものとするのが相当と認められるところ,前記1⑶認定の土地の価額に3割を乗じた額を,前記第8節第6,2⑴イ[❸-180 頁]で説示した基準に当てはめると,上記借地権に係る財産的損害は,固定資産税評価額の3割に1.8を乗じた153万2805円と認められる(原告番号44-1の〈裁判 所認定欄〉(a-2)。 また,原告番号44らの共同所有に係る自宅建物は居住制限区域(5年以上)にあり,本件事故時点で築30年を超えていなかったところ,その価額は前記1⑶認定のとおりであり,これを,前記第8節第6,2⑴イ[❸-180 頁]で説示した基準に当てはめると,上記建物に係る財産的損害は,原告番号44ら につき,それぞれ,固定資産税評価額の2分の1に2.5を乗じた548万7524円と認められる(原告番号44-1の〈裁判所認定欄〉(a-3) ,44-2の〈裁判所認定欄〉(a-2))。 ⑶ 家財原告番号44の世帯は夫婦2人暮らしであり,前記第8節第6,2⑵イ[❸ -185 頁]で判示したところに従い,原告番号44-1の家財の財産的損害は2 0万円と認める(原告番号44-1の〈裁判所認定欄〉(a-4))。 3 被告東電による弁済⑴ 慰謝料について被告東 示したところに従い,原告番号44-1の家財の財産的損害は2 0万円と認める(原告番号44-1の〈裁判所認定欄〉(a-4))。 3 被告東電による弁済⑴ 慰謝料について被告東電が支払った避難慰謝料名目の金員の額は,原告番号44-1,44-2につきそれぞれ852万円である。(原告番号44らの〈裁判所認定欄〉 (b-1))【乙共336・171~173頁】⑵ 財産的損害について被告東電が支払った不動産損害名目の金員の額は,原告番号44-1の自宅敷地(借地権)につき67万6516円(原告番号44-1の〈裁判所認定欄〉(b-2)),原告番号44-1,44-2の自宅建物につきそれぞれ825万13 04円(原告番号44-1の〈裁判所認定欄〉(b-3),原告番号44-2の〈裁判所認定欄〉(b-2))である。【乙共336・171~173頁】これにより,原告番号44-1,44-2の自宅建物の財産的損害については全額弁済されたことになる。なお,被告東電は,原告番号44-1に対し,平成26年11月26日に,建物損害名目で1492万6067円を支払っているが,同支払 は,原告番号44らに対する建物損害名目の金員(それぞれ半額ずつ)の支払と認められる。 被告東電が原告番号44-1に支払った家財損害名目の金員の額は445万円である(原告番号44-1の〈裁判所認定欄〉(b-4))。 これにより,原告番号44-1の家財の財産的損害については全額弁済され たことになる。 4 弁護士費用⑴ 損害合計は,原告番号44-1につき534万4289円(原告番号44-1の〈裁判所認定欄〉(d)),原告番号44-2につき448万8000円(原告番号44-2の〈裁判所認定欄〉(d))である。 ⑵ 弁護士費用は,原 つき534万4289円(原告番号44-1の〈裁判所認定欄〉(d)),原告番号44-2につき448万8000円(原告番号44-2の〈裁判所認定欄〉(d))である。 ⑵ 弁護士費用は,原告番号44-1につき53万円(原告番号44-1の〈裁 判所認定欄〉(e)),原告番号44-2につき44万円(原告番号44-2の〈裁判所認定欄〉(e))である。 5 まとめ以上によれば,原告番号44-1の請求は,587万4289円(原告番号44-1の〈裁判所認定欄〉(f))及びこれに対する平成23年3月11日から支払 済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号44-2の請求は,492万8000円(原告番号44-2の〈裁判所認定欄〉(f))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。 (原告番号44-1につき 1300 万円+8000 円-852 万円+153 万2805 円-67 万6516 円+53 万円=587万4289 円原告番号44-2につき 1300 万円+8000 円-852 万円+44 万円=492 万8000 円) 第45 原告番号45の世帯(原告番号45-1,45-2,45-3,45-4,45-5)について 1 事実関係【甲個45の1】原告番号45-1は,本件事故の際,@@@内の自宅において,妻である原告 番号45-2,二男である同45-4(当時22歳)及び三男である同45-5と4人で暮らしていた。同自宅所在地は,本件事故後,帰還困難区域に指定された。 また,原告番号45-3は,原告番号45-1と同45-2 2,二男である同45-4(当時22歳)及び三男である同45-5と4人で暮らしていた。同自宅所在地は,本件事故後,帰還困難区域に指定された。 また,原告番号45-3は,原告番号45-1と同45-2の長男であり,本件事故の際は,@@@内の自宅に居住して会社員として稼働していた。 平成23年3月12日,原告番号45ら(同45-3を除く)は,@@@内の 体育館に避難し,同月13日まで同所で過ごした。 同日,原告番号45ら(同45-3を除く)は,@@@内の親類宅に身を寄せた。 同月31日,原告番号45-4は,被告東電の下請企業にて稼働していたことから,同会社の寮に転居した。その後,同人は,友人宅に身を寄せ,同年9月1 日に,原告番号45-1らが身を寄せる上記@@@内の親類宅に身を寄せた。 同月下旬頃,原告番号45ら(同45-3を除く)は,@@@内の借上住宅に転居した。 2 損害額の認定原告番号45ら(同45-3を除く)は,@@@内の帰還困難区域に居住して いたところ,同地は,資料29及び同30(第6分冊)の㊳に該当するから,原告番号45ら(同45-3を除く)につき,それぞれ,当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)として1500万円を認める(前記第8節第2,2⑶ア[❸- 160 頁])(原告番号45-1,45-2,45-4,45-5の〈裁判所認定欄〉(a))。 また,原告番号45ら(同45-3を除く)は,平成23年3月12日から同月13日にかけて2日間避難所生活を余儀なくされたものであるから,当裁判所が認める避難慰謝料(A)(前記第5章第8節第4,2⑶[❸-178 頁]のとおり日額2000 円)として,それぞれ4000円(2日分)を認める(原告番号45-1,45-2,45-4,45-5の〈裁判所認 める避難慰謝料(A)(前記第5章第8節第4,2⑶[❸-178 頁]のとおり日額2000 円)として,それぞれ4000円(2日分)を認める(原告番号45-1,45-2,45-4,45-5の〈裁判所認定欄〉(a))。 他方,原告番号45-3は,@@@内に居住して会社員として稼働していたのであるから,実質的には親元から独立した生活環境を構築していたものであり,その平穏生活権ないし居住,移転の自由は,基本的には@@@内及びその周辺において享受されていたものと認められ,@@@内における平穏生活権ないし居住,移転の自由の侵害を観念することはできない。 よって,原告番号45-3については,当裁判所が認めるふるさと喪失損害(B) を肯認できない。 3 被告東電による弁済被告東電が支払った避難慰謝料名目の金員の額は,原告番号45-1,45-4につきそれぞれ1452万円(原告番号45-1,45-4の〈裁判所認定欄〉(b)),原告番号45-2につき1512万円(原告番号45-2の〈裁判所認定 欄〉(b)),原告番号45-5につき1468万円(原告番号45-5の〈裁判所認定欄〉(b))である。【乙共336・174~179頁】これにより,原告番号45-2に認められた当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(C)及び避難慰謝料(A)は全額弁済されたことになる。 4 弁護士費用 ⑴ 損害合計は,原告番号45-1,45-4につきそれぞれ48万4000円(原告番号45-1,45-4の〈裁判所認定欄〉(c)),原告番号45-5につき32万4000円(原告番号45-5の〈裁判所認定欄〉(c))である。 ⑵ 弁護士費用は原告番号45-1,45-4につきそれぞれ4万円(原告番号45-1,45-4の〈裁判所認定欄〉(d)),原 き32万4000円(原告番号45-5の〈裁判所認定欄〉(c))である。 ⑵ 弁護士費用は原告番号45-1,45-4につきそれぞれ4万円(原告番号45-1,45-4の〈裁判所認定欄〉(d)),原告番号45-5につき3万円 (原告番号45-5の〈裁判所認定欄〉(d))である。 5 まとめ以上によれば,原告番号45-1の請求は,52万4000円(原告番号45-1の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由 があり,その余は理由がなく,原告番号45-4の請求は,52万4000円(原告番号45-4の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号45-5の請求は,35万4000円(原告番号45-5の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成2 3年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の 支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号45-2,45-3の請求は理由がない。 (原告番号45-1につき 1500 万円+4000 円-1452 万円+4 万円=52 万4000 円原告番号45-4につき 1500 万円+4000 円-1452 万円+4 万円=52 万4000 円原告番号45-5につき 1500 万円+4000 円-1468 万円+3 万円=35 万4000 円)第46 原告番号46の世帯(原告番号46-1,46-2)について 1 事実関係 【甲個46の1,46の6,46の12,46の13,原告番号46 8 万円+3 万円=35 万4000 円)第46 原告番号46の世帯(原告番号46-1,46-2)について 1 事実関係 【甲個46の1,46の6,46の12,46の13,原告番号46-1本人】原告番号46-1は,本件事故の際,@@@内の自宅で,長女である原告番号46-2(当時16歳)及び原告番号46-1の母と3人暮らしをしていた。原告番号46-1は,介護事業等を営む会社の事務職として勤務していた。 本件事故後,原告番号46らは,しばらく@@@内の自宅での生活を続けたが, 原告番号46-2は,放射線の健康影響や余震に対する不安から体調を崩した。 そこで,原告番号46らは,親類の住む神奈川県内に転居することとし,原告番号46-2の転校先を確保した上,平成23年9月19日から同年10月25日までの期間中ホテル及びマンスリーマンションに滞在したのを挟み,同月26日から肩書地の住居に転居した。 同月18日,原告番号46-1は,@@@内の会社に就職した。また,原告番号46-1は,その後,原告番号46-2の世話等の関係で,平成24年1月,同年5月,年7月にそれぞれ転職した。 原告番号46-1の平成22年度の給与所得は331万2220円であったが,平成23年度の給与所得は289万9944円であり,平成23年度の減収 は,この差額の41万2276円であった。 2 損害額の認定⑴ 慰謝料原告番号46らは,いずれも@@@内に居住していたところ,同地は,避難指示等が出されておらず,緊急時避難準備区域や屋内退避区域にも指定されていないが,いわゆる@@@@@に位置するから,当裁判所が認める自己決定権侵害慰 謝料(C)として,養育すべき子とともに避難した原告番号46-1につき60万円(前記第8節第3 避区域にも指定されていないが,いわゆる@@@@@に位置するから,当裁判所が認める自己決定権侵害慰 謝料(C)として,養育すべき子とともに避難した原告番号46-1につき60万円(前記第8節第3,2⑶ウ[❸-172 頁])(原告番号46-1の〈裁判所認定欄〉(a-1)),子どもである原告番号46-2について100万円(前記第8節第3,2⑶ウ[❸-172 頁])(原告番号46-2の〈裁判所認定欄〉(a))を認める。 ⑵ 財産的損害について 原告番号46-1は,その所有に係る不動産についての賠償を求めるが,同不動産所在地については避難指示等がなく,本件平穏生活4要素が包括的に喪失したと認められないから,不動産・家財損害を肯認できない(第8節第6,1[❸-179 頁])。 ⑶ 就労不能損害について 前記判示のとおり,当裁判所が認める自己決定権侵害(C)が肯認できるときは,放射線被害におびえることなく任意に選択した就業場所で稼働するという意味での平穏生活権及び居住,移転の自由の侵害を肯認でき,本件事故後1年間に限って,減収分を就業不能損害として認めることができる(前記第8節第6,2⑶イ[❸-185 頁])から,原告番号46-1につき,前記1判示の平成 23年度の減収分41万2276円を損害と認める(原告番号46-1の〈裁判所認定欄〉(a-2))。 3 被告東電による弁済⑴ 慰謝料について被告東電が支払った避難慰謝料名目の金員の額は,原告番号46-1につき 12万円(原告番号46-1の〈裁判所認定欄〉(b-1)),原告番号46-2に つき72万円(原告番号46-2の〈裁判所認定欄〉(b))である。【乙共336・180~182頁】⑵ 就労不能損害について被告東電が原告番号46-1に支払 ,原告番号46-2に つき72万円(原告番号46-2の〈裁判所認定欄〉(b))である。【乙共336・180~182頁】⑵ 就労不能損害について被告東電が原告番号46-1に支払った就労不能損害名目の金員の額は37万3620円である。(原告番号46-1の〈裁判所認定欄〉(b-2))【乙共33 6・181頁】なお,同証拠によれば,被告東電は,原告番号46-1に対し,平成23年3月11日から平成23年3月31日までの就労不能損害及び平成24年1月1日から平成24年12月31までの就労不能損害として,それぞれ29万8896円ずつを支払ったと認められるが,本件で認められる就労不能損害は平成24 年3月分までであるから,平成24年1月1日以降については,上記29万8896円を3か月分に按分した額(月額7万4724円)の限度で,弁済の抗弁に理由があることとなり,結局,原告番号46-1が請求する就労不能損害に対する有効な弁済として認められる金額は,29万8896円と7万4724円の合計37万3620円となる。 4 弁護士費用⑴ 損害合計は,原告番号46-1につき51万8656円(原告番号46-1の〈裁判所認定欄〉(d)),原告番号46-2につき28万円(原告番号46-2の〈裁判所認定欄〉(c))である。 ⑵ 弁護士費用は原告番号46-1につき5万円(原告番号46-1の〈裁判所 認定欄〉(e)),原告番号46-2につき2万円(原告番号46-2の〈裁判所認定欄〉(d))である。 5 まとめ以上によれば,原告番号46-1の請求は,56万8656円(原告番号46-1の〈裁判所認定欄〉(f))及びこれに対する平成23年3月11日から支払 済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支 れば,原告番号46-1の請求は,56万8656円(原告番号46-1の〈裁判所認定欄〉(f))及びこれに対する平成23年3月11日から支払 済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由 があり,その余は理由がなく,原告番号46-2の請求は,30万円(原告番号46-2の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。 (原告番号46-1につき 60 万円-12 万円+41 万2276 円-37 万3620 円+5 万円=56 万8656 円原告番号46-2につき 100 万円-72 万円+2 万円=30 万円)第47 原告番号47の世帯(原告番号47-2,47-3)について 1 事実関係 【甲個47の1】原告番号47-2は,本件事故の際,@@@内の自宅で,夫及び二女である原告番号47-3(当時17歳)と3人で暮らしていた。同自宅所在地は,本件事故後,居住制限区域に指定された。 平成23年3月12日,原告番号47らは,避難指示を受け,@@@に向けて 移動を開始したが,各所で別の地域に避難するよう指示を受けて方針転換を余儀なくされ,最終的に,@@@内の中学校に避難した。 同月13日,原告番号47らは,@@@@内の親戚宅に身を寄せた。 同月14日,原告番号47らは,@@@内の親戚宅に移動し,さらに,同月20日には,同県内の別の親戚宅に移動した。 同月27日,原告番号47らは,原告番号47-3の転校先確保の観点から,@@市内に居を構えることとし,同市内の原告番号47-2の長女宅に身を寄せた。 同年4月16日,原告番号47らは,神奈 同月27日,原告番号47らは,原告番号47-3の転校先確保の観点から,@@市内に居を構えることとし,同市内の原告番号47-2の長女宅に身を寄せた。 同年4月16日,原告番号47らは,神奈川県@@@@内の賃貸アパートに転居した。また,同年12月1日,原告番号47らは,同市内の借上住宅に転居し た。 2 損害額の認定原告番号47らは,いずれも@@@内の居住制限区域に居住していたところ,同地は,資料29及び同30(第6分冊)の㊵に該当し,避難指示が5年を超えて継続した地域に該当するから,原告番号47らにつき,それぞれ,当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)として1300万円を認める(前記第8節第2, 2⑶イ[❸-161 頁])(原告番号47らの〈裁判所認定欄〉(a))。 また,原告番号47らは,平成23年3月12日から同月13日まで2日間避難所での生活を余儀なくされたものであるから,当裁判所が認める避難慰謝料(A)(前記第8節第4,2⑶[❸-178 頁]のとおり日額2000 円)としてそれぞれ4000円(2日分)を損害として認める(原告番号47らの〈裁判所認定欄〉 (a))。 3 被告東電による弁済被告東電が支払った避難慰謝料名目の金員の額は,原告番号47-2,47-3につきそれぞれ852万円である(原告番号47らの〈裁判所認定欄〉(b))。 【乙共336・183~186頁】 4 弁護士費用⑴ 損害合計は,原告番号47-2,47-3につきそれぞれ448万4000円(原告番号47らの〈裁判所認定欄〉(c))である。 ⑵ 弁護士費用は原告番号47-2,47-3につきそれぞれ44万円である(原告番号47らの〈裁判所認定欄〉(d))。 5 まとめ以上によれば,原告番 裁判所認定欄〉(c))である。 ⑵ 弁護士費用は原告番号47-2,47-3につきそれぞれ44万円である(原告番号47らの〈裁判所認定欄〉(d))。 5 まとめ以上によれば,原告番号47-2の請求は,492万4000円(原告番号47-2の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号47-3の請求は,492万4000円 (原告番号47-3の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月1 1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。 (原告番号47-2につき 1300 万円+4000 円-852 万円+44 万円=492 万4000 円原告番号47-3につき 1300 万円+4000 円-852 万円+44 万円=492 万4000 円)第48 原告番号48の世帯(原告番号48-1,48-2,48-3,48-4)について 1 事実関係【甲個48の1,48の2】 ⑴ 当事者等原告番号48-1は,本件事故の際,@@@@@@@内の自宅で,長女である原告番号48-2(当時15歳)及び二女である原告番号48-3(当時13歳)と3人で暮らしていた。同自宅所在地は,本件事故後,緊急時避難準備区域に指定されたが,平成23年9月30日に解除された。 原告番号48-1の夫である原告番号48-4は,@@@内の介護施設において管理職として稼働し,@@内の義父母宅で単身赴任生活を送っていた。同義父母宅の所在地は,本件事故後,居住制限区域に指定された。 ⑵ 避難経路本件事故発生後,原告番 は,@@@内の介護施設において管理職として稼働し,@@内の義父母宅で単身赴任生活を送っていた。同義父母宅の所在地は,本件事故後,居住制限区域に指定された。 ⑵ 避難経路本件事故発生後,原告番号48-1,48-2,48-3は,@@@内の同4 8-4方に避難し,平成23年3月18日まで同所に滞在した。 同日,原告番号48-1,48-2,48-3は,@@@@@市内の親族方に身を寄せ,同年4月1日には,神奈川県@@@@内のアパート(親族名義で借り受けているもの)に転居した。 同月26日,原告番号48-1,48-2,48-3は,通学の便の良い神奈 川県@@@内の市営住宅に移ったが,@@@@@@@により更なる転校を余儀な くされ,同年11月18日に同市内の別の借上住宅に転居した。 他方,原告番号48-4は,平成23年6月以降,原告番号48-1,48-2,48-3が転居した後の@@@@@@@内の自宅に居住している。 【甲個48の1,48の2】 2 損害額の認定 原告番号48-1,48-2,48-3は,いずれも@@@@内の緊急時避難準備区域に居住していたところ,同地は,資料29及び同30(第6分冊)の④に該当するから,当裁判所が認める自己決定権侵害慰謝料(C)としてそれぞれ250万円を認める(前記第8節第3,2⑶ア[❸-169 頁])(原告番号48-1,48-2,48-3の〈裁判所認定欄〉(a))。 原告番号48-4は,@@@内の居住制限区域に居住していたところ,同地は,資料29及び同30(第6分冊)の⑫に該当し,避難指示が5年を超えて継続した地域に該当する。もっとも,原告番号48-4は単身赴任者であり,その享受していた地域コミュニティからの各種利益は,帰省先である@@@@の地域コミュニティからのも 当し,避難指示が5年を超えて継続した地域に該当する。もっとも,原告番号48-4は単身赴任者であり,その享受していた地域コミュニティからの各種利益は,帰省先である@@@@の地域コミュニティからのものも少なからず含まれているから,原告番号48-3が@@@ の居住制限区域のコミュニティから享受していた利益は限定的というべきである。そこで,同人については,当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)として1000万円を認める(原告番号48-4の〈裁判所認定欄〉(a))。 3 被告東電による弁済被告東電が支払った避難慰謝料名目の金員の額は,原告番号48-1,48- 2,48-3につきそれぞれ341万円(原告番号48-1,48-2,48-3の〈裁判所認定欄〉(b)),原告番号48-4につき850万円(原告番号48-4の〈裁判所認定欄〉(b))である。【乙共336・187~192頁】これにより,原告番号48-1,48-2,48-3に認められた,当裁判所が認める自己決定権侵害慰謝料(C)は全額弁済されたことになる。 4 弁護士費用 ⑴ 原告番号48-4の損害合計は150万円である(原告番号48-4の〈裁判所認定欄〉(c))。 ⑵ 原告番号48-4の弁護士費用は,15万円である(原告番号48-4の〈裁判所認定欄〉(d))。 5 まとめ 以上によれば,原告番号48-4の請求は,165万(原告番号48-4の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号48-1,48-2,48-3の請求はいずれも理由がない。 (原告番号48-4につき 1000 万円-850 万円 遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号48-1,48-2,48-3の請求はいずれも理由がない。 (原告番号48-4につき 1000 万円-850 万円+15 万円=165 万円)第49 原告番号49の世帯(原告番号49-1,49-2,49-3,49-4,49-5)について 1 事実関係 【甲個49の1】原告番号49-1は,本件事故の際,@@@@内の自宅で,妻である原告番号49-2,長女である同49-3(当時11歳),二女である同49-4(当時5歳)及び長男である原告番号49-5(当時2歳)と5人暮らしをしていた。 平成23年3月13日,原告番号49らは,@@@@@@市の旅館に避難した。 同月19日,原告番号49らは,上記旅館の灯油などの物資が底をついたことから,@@@@@@の別の旅館に避難した。同旅館は,冬季は営業していないところを臨時に原告49らに開放したものであり,暖房器具はストーブとこたつだけで,灯油も足りず,入浴は2日に1回の割合で,もとより食料は自ら調達する必要があった。 同月25日,原告番号49-1は,@@@@内の自宅に戻り,原告番号49- 2ないし同49-5は,神奈川県@@@内の親族宅に身を寄せた。 平成25年2月,原告番号49らは,@@@@内に住居を賃借し,同所に揃って転居した。 2 損害額の認定原告番号49らは,いずれも@@@@内に居住していたところ,同地は,資料 29及び同30(第6分冊)のに該当し,避難指示等が出されておらず,緊急時避難準備区域や屋内退避区域にも指定されていないが,いわゆる浜通りに位置するから,当裁判所が認める自己決定権侵害慰謝料(C)として,養育すべき子とともに避難した原告番号49-1,49- らず,緊急時避難準備区域や屋内退避区域にも指定されていないが,いわゆる浜通りに位置するから,当裁判所が認める自己決定権侵害慰謝料(C)として,養育すべき子とともに避難した原告番号49-1,49-2につきそれぞれ60万円(前記第8節第3,2⑶ウ[❸-172 頁])(原告番号49-1,49-2の〈裁判所認定欄〉 (a)),子どもである原告番号49-3,49-4,49-5につきそれぞれ100万円(原告番号49の3,49-4,49-5の〈裁判所認定欄〉(a))を認める(前記第8節第3,2⑶ウ[❸-172 頁])。 また,原告番号49らは,平成23年3月19日から同月25日までの7日間,@@@の旅館に逗留したものであるが,同旅館は,暖房設備も入浴設備も十分に 利用できない状況にあったのであるから,実質的には避難生活を余儀なくされたに等しい生活を強いられたということができる。そこで,同人らについては,当裁判所が認める避難慰謝料(A)として,前記第8節第4,2⑶[❸-178 頁]に判示したところ(日額2000 円)にかかわらず,日額1000円の7日分7000円をそれぞれ認める(原告番号49らの〈裁判所認定欄〉(a))。 3 被告東電による弁済被告東電が支払った避難慰謝料名目の金員の額は,原告番号49-1,49-2につきそれぞれ12万円(原告番号49-1,49-2の〈裁判所認定欄〉(b)),原告番号49-3,49-4,49-5につきそれぞれ72万円(原告番号49-3,49-4,49-5の〈裁判所認定欄〉(b))である。 【乙共336・1 93~198頁】 4 弁護士費用⑴ 損害合計は,原告番号49-1,49-2につきそれぞれ48万7000円(原告番号49-1,49-2の〈裁判所認定欄〉(c)),原告番 93~198頁】 4 弁護士費用⑴ 損害合計は,原告番号49-1,49-2につきそれぞれ48万7000円(原告番号49-1,49-2の〈裁判所認定欄〉(c)),原告番号49-3,49-4,49-5につきそれぞれ28万7000円(原告番号49-3,49-4,49-5の〈裁判所認定欄〉(c))である。 ⑵ 弁護士費用は原告番号49-1,49-2につきそれぞれ4万円(原告番号49-1,49-2の裁判所認定欄〉(d)),原告番号49-3,49-4,49-5につきそれぞれ2万円(原告番号49-3,49-4,49-5の裁判所認定欄〉(d))である。 5 まとめ 以上によれば,原告番号49-1の請求は,52万7000円(原告番号49-1の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号49-2の請求は,52万7000円(原告番号49-2の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日 から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号49-3の請求は,30万7000円(原告番号49-3の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号49-4の請求は, 30万7000円(原告番号49-4の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号49- 告番号49-4の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号49-5の請求は,30万7000円(原告番号49-5の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合に よる遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。 (原告番号49-1につき 60 万円+7000 円-12 万円+4 万円=52 万7000 円原告番号49-2につき 60 万円+7000 円-12 万円+4 万円=52 万7000 円原告番号49-3につき 100 万円+7000 円-72 万円+2 万円=30 万7000 円原告番号49-4につき 100 万円+7000 円-72 万円+2 万円=30 万7000 円原告番号49-5につき 100 万円+7000 円-72 万円+2 万円=30 万7000 円) 第50 原告番号50の世帯(原告番号50-1,50-2,50-3)について 1 事実関係【甲個50の1】原告番号50-1は,本件事故の際,@@@内の自宅で,夫,夫の母,二男である原告番号50-2(当時13歳)及び三男である原告番号50-3(当時7 歳)と5人で暮らしていた。なお,長男(当時17歳)は,@@市内の高校に在籍し,同市内の旅館に下宿していた。 平成23年3月14日,原告番号50らは,長男が下宿する@@市内の旅館に避難した。原告番号50-1の夫は,母の介護のため避難しなかった。 同年4月11日,原告番号50らは,@@@内の自宅に戻った。 同年5月22日,原告番号50 ,長男が下宿する@@市内の旅館に避難した。原告番号50-1の夫は,母の介護のため避難しなかった。 同年4月11日,原告番号50らは,@@@内の自宅に戻った。 同年5月22日,原告番号50-1は,神奈川県@@@内にホームステイの受け入れ先を見つけ,原告番号50-2,50-3を同所に預けた。その後,原告番号50-1は,平日は@@@内の自宅で夫の家業(料亭)を手伝い,週末は@@@内のホームステイ先に赴いて,原告番号50-2,50-3の世話をしていた。 平成24年4月1日,原告番号50-1は,神奈川県@@@@内に借上住宅を 確保し,原告番号50-2,50-3と共に転居した。 平成25年4月,上記料亭が多忙となったため,原告番号50-1は,原告番号50-3を連れて@@@内の自宅に戻った。原告番号50-2は,引き続き@@@@内の借上住宅に居住した。 2 損害額の認定 原告番号50らは,いずれも@@@内に居住していたところ,同地は,避難指示等が出されておらず,緊急時避難準備区域や屋内退避区域にも指定されていないが,いわゆる中通り@@に位置するから,当裁判所が認める自己決定権侵害慰謝料(C)として,養育すべき子とともに避難した原告番号50-1につき60万円(前記第8節第3,2⑶ウ[❸-172 頁])(原告番号50-1の〈裁判所認定 欄〉(a)),子どもである原告番号50-2,50-3についてそれぞれ100万円(前記第8節第3,2⑶ウ[❸-172 頁])(原告番号50-2,50-3の〈裁判所認定欄〉(a))を認める。 なお,原告番号50-1は,原告番号50-2,50-3を@@@内のホームステイ先に預け,平日は@@@内の自宅で生活していたものであるが,週末には @@@内の上記ホームステイ先を訪れて原告 。 なお,原告番号50-1は,原告番号50-2,50-3を@@@内のホームステイ先に預け,平日は@@@内の自宅で生活していたものであるが,週末には @@@内の上記ホームステイ先を訪れて原告番号50-2,50-3の世話をしていたものであるから,養育すべき子どもと共に避難したものと同視できるというべきである。 3 被告東電による弁済被告東電が支払った避難慰謝料名目の金員の額は,原告番号50-1につき1 2万円(原告番号50-1の〈裁判所認定欄〉(b)),原告番号50-2,50-3につきそれぞれ72万円(原告番号50-2,50-3の〈裁判所認定欄〉(b))である。【乙共336・199~202頁】 4 弁護士費用⑴ 損害合計は,原告番号50-1につき48万円(原告番号50-1の〈裁判 所認定欄〉(c)),原告番号50-2,50-3につきそれぞれ28万円(原告 番号50-2,50ー3の〈裁判所認定欄〉(c))である。 ⑵ 弁護士費用は原告番号50-1につき4万円(原告番号50-1の〈裁判所認定欄〉(d)),原告番号50-2,50-3につきそれぞれ2万円(原告番号50-2,50-3の〈裁判所認定欄〉(d))である。 5 まとめ 以上によれば,原告番号50-1の請求は,52万円(原告番号50-1の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号50-2の請求は,30万円(原告番号50-2の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民 法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号50 0-2の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民 法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号50-3の請求は,30万円(原告番号50-3の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。 (原告番号50-1につき 60 万円-12 万円+4 万円=52 万円原告番号50-2につき 100 万円-72 万円+2 万円=30 万円原告番号50-3につき 100 万円-72 万円+2 万円=30 万円)第51 原告番号51の世帯(原告番号51-1,51-2,51-3,51-4)について 1 事実関係【甲個51の1,原告番号51-1本人】 原告番号51-1は,本件事故の際,@@@@@@@内の自宅で,妻である原 告番号51-2,長男である原告番号51-3(当時14歳)及び二男である原告番号51-4(当時12歳)と4人で暮らしていた。同自宅所在地は,本件事故の後,@@@@が,市民の生活の安全確保等を理由として,その独自の判断に基づいて一時避難を要請したが,同年4月22日には,自宅での生活が可能な者の帰宅が許容された地域に該当する【乙共1の8頁参照】。 平成23年3月16日,原告番号51らは,本件事故の報道に接して避難を決意し,@@市内の原告番号51-1の実家に身を寄せた。 その後,同年6月4日に,原告番号51らは,上記実家が手狭であったため,同市内に賃貸マンションを借りて転居した。 2 損害額の認定 原告番号51らは,いずれも@@@@避難要請地点に居 。 その後,同年6月4日に,原告番号51らは,上記実家が手狭であったため,同市内に賃貸マンションを借りて転居した。 2 損害額の認定 原告番号51らは,いずれも@@@@避難要請地点に居住していたから,同人らにつき,それぞれ,当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)として150万円ずつを認める(前記第8節第2,2⑶オ[❸-163 頁])(原告番号51らの〈裁判所認定欄〉(a))。 3 被告東電による弁済 被告東電が支払った避難慰謝料名目の金員の額は,原告番号51-1,51-2につきそれぞれ70万円(原告番号51-1,51-2の〈裁判所認定欄〉(b)),原告番号51-3,51-4につきそれぞれ110万円(原告番号51-3,51-4の〈裁判所認定欄〉(b))である。【乙共336・203~207頁】 4 弁護士費用 ⑴ 損害合計は,原告番号51-1,51-2につきそれぞれ80万円(原告番号51-1,51-2の〈裁判所認定欄〉(c)),原告番号51-3,51-4につき40万円(原告番号51-3,51-4の〈裁判所認定欄〉(c))である。 ⑵ 弁護士費用は原告番号51-1,51-2につきそれぞれ8万円(原告番号 51-1,51-2の〈裁判所認定欄〉(d)),原告番号51-3,51-4に つきそれぞれ4万円(原告番号51-3,51-4の〈裁判所認定欄〉(d))である。 5 まとめ以上によれば,原告番号51-1の請求は,88万円(原告番号51-1の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民 法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号51-2の請求は,88万円(原告番号51-2の〈裁判所認定欄 3年3月11日から支払済みまで民 法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号51-2の請求は,88万円(原告番号51-2の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号51-3の請求は,44万円(原告番号51-3の〈裁 判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号51-4の請求は,44万円(原告番号51-4の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その 余は理由がない。 (原告番号51-1につき 150 万円-70 万円+8 万円=88 万円原告番号51-2につき 150 万円-70 万円+8 万円=88 万円 原告番号51-3につき 150 万円-110 万円+4 万円=44 万円原告番号51-4につき 150 万円-110 万円+4 万円=44 万円)第52 原告番号52の世帯(原告番号52)について 1 事実関係 【掲記の証拠のほか,甲個52の1,52の16】⑴ 旧居住地及び本件事故前の就業状況等原告番号52(当時59歳)は,本件事故の際,@@@内の自宅において,妻及び長男と3人で暮らしていた。同自宅所在地は,本件事故後,居住制限区域に指定された。 原告番号52は,本件事故当時,@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@会 内の自宅において,妻及び長男と3人で暮らしていた。同自宅所在地は,本件事故後,居住制限区域に指定された。 原告番号52は,本件事故当時,@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@会社において同業務に当たっていた。 ⑵ 避難経過及びその後の生活状況等平成23年3月12日,原告番号52は,避難指示を受け,同町内の公民館に避難し,同月14日まで同所で避難生活を余儀なくされた。 同月15日,原告番号52は,妻や親族とともに@@@内の寺院に身を寄せた。 同月16日,原告番号52は,妻や親族とともに,@@@内の原告番号52の長女宅に避難した。 同年4月8日,原告番号52は,勤務先から@@@@@@勤務を命ぜられ, 同月16日まで@@@@@@@@に投宿し,福島第二原発の復旧工事に従事した。 同年4月20日,原告番号52は,勤務先から@@@@@勤務を命ぜられ,同年7月30日まで,@@@@@@@@@の会社の寮で生活した。また,同日から平成24年6月11日まで,@@@@@@@の居宅で生活した。原告番号 52は,@@@@で稼働した上記期間中に,@@@@を受診することがあった。 【甲個52の7参照(前医の記載がある。)】なお,原告番号52は,平成24年3月8日付けで上記勤務先を定年退職していたが,同日以降は嘱託として勤務を続け,同年6月30日付けで,同嘱託勤務を辞職した。辞職直前の原告番号52の給与は,基本給が月額@@万円で あった。【甲個52の12】 同月,原告番号52は,長女の発案により,@@市内に一軒家を賃借して転居した。同一軒家には,原告番号52夫婦及び長女夫婦の4名が居住し,長女夫婦が家賃を,原告番号52夫婦が水道光熱費,食費等の生活費をそれぞれ負担していた。 同年7月18日,原告 一軒家を賃借して転居した。同一軒家には,原告番号52夫婦及び長女夫婦の4名が居住し,長女夫婦が家賃を,原告番号52夫婦が水道光熱費,食費等の生活費をそれぞれ負担していた。 同年7月18日,原告番号52は,@@@内の@@@科を受診し,@@@@ (避難生活により発症)との診断を受けた。原告番号52は,同月以降,平成26年5月まで,@@@@@に通院した。【甲個52の6~52の11】平成27年9月,原告番号52は,妻と共に,@@@@@@に転居した。 2 損害額の認定⑴ 慰謝料 原告番号52は,@@@内の居住制限区域に居住していたところ,同地は,資料29及び同30(第6分冊)の㉑に該当し,避難指示が5年を超えて継続した地域に該当するから,同人につき,当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)として1300万円を認める(前記第8節第2,2⑶イ[❸-161 頁])(原告番号52の〈裁判所認定欄〉(a-1))。 また,原告番号52は,平成23年3月12日から同月14日まで3日間避難生活を余儀なくされたものであるから,当裁判所が認める避難慰謝料(A)(前記第8節第4,2⑶[❸-178 頁]のとおり日額2000 円)として,6000円(3日分)を認める(原告番号52の〈裁判所認定欄〉(a-1))。 ⑵ 生命身体障害 前記1⑵で認定したとおり,原告番号52は,平成23年4月から平成24年6月まで@@@内で生活していた頃には@@@科を受診するようになっており,@@移住後には,避難生活により@@@@を発症した旨の診断を受けていたものであるから,原告番号52の上記@@@@は,本件事故と相当因果関係にあるものと認める。 もっとも,原告番号52が提出する診断書【甲個52の6~52の11】そ の他原告番号5 ものであるから,原告番号52の上記@@@@は,本件事故と相当因果関係にあるものと認める。 もっとも,原告番号52が提出する診断書【甲個52の6~52の11】そ の他原告番号52関係の全証拠によっても,上記@@@@が,労働能力の喪失を伴うような後遺症に該当するとは認められない。また,上記@@@@に罹患したことによる精神的損害は,本件事故前の平穏な生活を送ることができないことについての精神的損害,すなわち,当裁判所が認めるふるさと喪失損害(B)と質的に重なる部分があることを否定できない。そうすると,原告番号52に ついて,当裁判所が認めるふるさと喪失損害(B)とは別個に本件事故による生命身体に対する侵害を肯認できるにしても,これに対応する慰謝料は,原告番号52が自認するADR支払額100万円を超えることはないと認められる(原告番号52の〈裁判所認定欄〉(a-4))(便宜的に,原告番号52の〈裁判所認定欄〉(a-4)には,生命身体傷害として0円を計上した。)。 ⑶ 家財原告番号52は3人暮らしであり,前記第8節第6,2⑵ウ[❸-186 頁]で判示したところに従い,原告番号52の家財の財産的損害は40万円と認める(原告番号52の〈裁判所認定欄〉(a-2))。 ⑷ 就労不能損害 原告番号52は,平成24年3月に勤務先を定年退職した後,同年6月に嘱託での勤務も辞職したものであるが,同月時点での原告番号52の年齢(満61歳)に照らし,その後も引き続き就業継続の蓋然性があったかどうかについては,これを認めるに足りる的確な証拠がないところ,後記3のとおり,被告東電が平成27年9月30日までの分として就労不能損害名目の金員を支払 っていることに照らすと,原告番号52は,平成27年9月30日まで就業が りる的確な証拠がないところ,後記3のとおり,被告東電が平成27年9月30日までの分として就労不能損害名目の金員を支払 っていることに照らすと,原告番号52は,平成27年9月30日まで就業が可能であったと認められる。そうすると,原告番号52の就労不能期間は,同人が請求の始期とする平成25年12月から平成27年9月までの22か月と認められる。 また,前記1⑵認定の収入(月額30万円)は,嘱託勤務終了直前のもので あって,その後も同額の収入を継続して得られたと認めるに足りる的確な証拠 がないところ,弁論の全趣旨により,上記就労不能期間中の基礎収入は月額15万円と認める。 以上によれば,上記就労不能期間に該当する就労不能損害は,合計330万円と認められる(原告番号52の〈裁判所認定欄〉(a-3))。 ⑸ 家賃 原告番号52は,平成24年6月から平成27年6月まで@@@内で生活した際の家賃相当額を損害として主張する。しかし,前記1⑵認定のとおり,@@@への転居は,原告番号52のみならず,当時@@@内で同居していた長女の意向も反映されたものであり,転居後の住居費も,原告番号52夫妻及び長女夫妻とで適宜分担していたものであるから,原告番号52主張の家賃は,本 件事故により余儀なくされた支出というよりは,@@@内に住む原告番号52夫妻と長女夫妻が,よりよい環境での生活を目指して任意に支出した費用というべきである。また,上記のとおり,転居後の住居費は,原告番号52夫妻及び長女夫妻とで適宜分担していたものであるから,@@@内に賃借した一軒家の賃料全額を原告番号52が支出したとも認め難い。 以上によれば,原告番号52主張の家賃は,これを損害と認めることができない。 ⑹ 生活費増加分原告番号52は,食 @内に賃借した一軒家の賃料全額を原告番号52が支出したとも認め難い。 以上によれば,原告番号52主張の家賃は,これを損害と認めることができない。 ⑹ 生活費増加分原告番号52は,食費の増加分についての賠償を求めるが,生活費増加分については,前記第8節第6,2⑹[❸-187 頁]で判示したとおり,これを損 害として認めることができない 3 被告東電による弁済⑴ 慰謝料について被告東電が原告番号52に支払った避難慰謝料名目の金員の額は988万円である(原告番号52の〈裁判所認定欄〉(b-1))。【乙共336・208~2 10頁】 ⑵ 財産的損害について被告東電が原告番号52に支払った家財損害名目の金員の額は577万4000円である(原告番号52の〈裁判所認定欄〉(b-2))。これにより,原告番号52の家財の財産的損害については全額弁済されたことになる。 被告東電が原告番号52に支払った就労不能損害名目の金員の額は176 万8364円である(原告番号52の〈裁判所認定欄〉(b-3))。これにより,原告番号52の就労不能損害に関する財産的損害は,なお153万1636円が弁済されずに残存していることとなるが,原告番号52は,就労不能損害(一部請求)として63万2742円を請求するにとどまるので,この点についての原告番号52の請求は,同額の限度で理由があることになる。 被告東電が原告番号52に支払った生命身体障害名目の金員の額は,100万円である(原告番号52の〈裁判所認定欄〉(b-4)。)これにより,原告番号52の生命身体損害については全額弁済されたことになる。 4 弁護士費用⑴ 原告番号52の損害合計は,375万8742円である(原告番号52の〈裁 判所 -4)。)これにより,原告番号52の生命身体損害については全額弁済されたことになる。 4 弁護士費用⑴ 原告番号52の損害合計は,375万8742円である(原告番号52の〈裁 判所認定欄〉(d))。 ⑵ 原告番号52の弁護士費用は,37万円である(原告番号52の〈裁判所認定欄〉(e))。 5 まとめ以上によれば,原告番号52の請求は,412万8742円(原告番号52の 〈裁判所認定欄〉(f))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。 (原告番号52につき 1300 万円+6000 円-988 万円+63 万2742 円+37 万円=412 万8742 円) 第53 原告番号53の世帯(原告番号53-1,53-2,53-3,53-4,53-5)について 1 事実関係【甲個53の1,原告番号53-1本人】原告番号53-1は,本件事故の際,@@@@内の自宅で,妻である原告番号 53-2,長女である同53-3(当時10歳),長男である同53-4(当時8歳)及び二男である同53-5と5人で暮らしていた。 平成23年3月15日,原告番号53らは,ニュースを見て身の危険を感じ,急きょ自動車で@@@@の原告番号53-2の実家に避難した。 同年8月,原告番号53らは,同市内の借上住宅に転居した。また,平成29 年4月1日,原告番号53らは,同市内に購入した居宅に転居した。 2 損害額の認定⑴ 慰謝料原告番号53らは,いずれも@@@@内に居住していたところ,同地は,資料29及び同30(第6分冊)のに該当し,避難指示等が出されておらず, 緊急時避難準備区域や屋内退避 認定 ⑴ 慰謝料原告番号53らは,いずれも@@@@内に居住していたところ,同地は,資料29及び同30(第6分冊)のに該当し,避難指示等が出されておらず, 緊急時避難準備区域や屋内退避区域にも指定されていないが,いわゆる浜通りに位置するから,当裁判所が認める自己決定権侵害慰謝料(C)として,養育すべき子とともに避難した原告番号53-1,53-2につきそれぞれ60万円(前記第8節第3,2⑶ウ[❸-172 頁])(原告番号53-1,53-2の〈裁判所認定欄〉(a)),子どもである原告番号53-3,53-4,53-5につ きそれぞれ100万円(前記第8節第3,2⑶ウ[❸-172 頁])(原告番号53-3,53-4,53-5の〈裁判所認定欄〉(a))を認める。 ⑵ その他の損害について原告番号53-1は,①避難費用として交通費,避難先での自治会費及び避難雑費(子どもの英会話教室費用)を請求するほか,②生活費増加費用を請求 する。 しかし,①避難費用については,いずれもこれら支出の事実を認めるに足りる証拠がないし,自治会費及び子どもの英会話教室費用については,そもそも避難によって生じた損害に当たらない。 また,②生活費増加費用については,これを損害として認めることができない(前記第8節第6,2⑹[❸-187 頁])。 3 被告東電による弁済被告東電が支払った避難慰謝料名目の金員の額は,原告番号53-1,53-2につきそれぞれ4万円(原告番号53-1,53-2の〈裁判所認定欄〉(b)),原告番号53-3,53-4。53-5につきそれぞれ32万円(原告番号53-3,53-4,53-5の〈裁判所認定欄〉(b))である。【乙共336・21 1~216頁】 4 弁護士費用⑴ 損害合計は 3,53-4。53-5につきそれぞれ32万円(原告番号53-3,53-4,53-5の〈裁判所認定欄〉(b))である。【乙共336・21 1~216頁】 4 弁護士費用⑴ 損害合計は,原告番号53-1,53-2につきそれぞれ56万円(原告番号53-1,53-2の〈裁判所認定欄〉(c)),原告番号53-3,53-4,53-5につきそれぞれ68万円(原告番号53-3,53-4,53-5の 〈裁判所認定欄〉(c))である。 ⑵ 弁護士費用は原告番号53-1,53-2につきそれぞれ5万円(原告番号53-1,53-2の裁判所認定欄〉(d)),原告番号53-3,53-4,53-5につきそれぞれ6万円(原告番号53-3,53-4,53-5の裁判所認定欄〉(d))である。 5 まとめ以上によれば,原告番号53-1の請求は,61万円(原告番号53-1の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号53-2の請求は,61万円(原告番号53-2の〈裁 判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民 法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号53-3の請求は,74万円(原告番号53-3の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号53-4の請求は,74万円(原告番号53-4の〈裁 判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5 求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号53-4の請求は,74万円(原告番号53-4の〈裁 判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号53-5の請求は,74万円(原告番号53-5の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その 余は理由がない。 (原告番号53-1につき 60 万円-4 万円+5 万円=61 万円原告番号53-2につき 60 万円-4 万円+5 万円=61 万円 原告番号53-3につき 100 万円-32 万円+6 万円=74 万円原告番号53-4につき 100 万円-32 万円+6 万円=74 万円原告番号53-5につき 100 万円-32 万円+6 万円=74 万円)第54 原告番号54の世帯(原告番号54)について 1 事実関係【掲記の証拠のほか,甲個54の1,54の2,54の14】⑴ 旧居住地及び避難経過等 原告番号54は,本件事故の際,@@@@の自宅において,単身居住してい た。同自宅所在地は,本件事故後,帰還困難区域に指定された。 平成23年3月11日,原告番号54は,@@@内の長女宅を訪問していた。 本件地震・津波及び本件事故を受けて,原告番号54は,@@@内の自宅に戻ることができず,引き続き上記長女宅に滞在した。 同年4月23日,原告番号54は,同市内に居宅を賃借し,同所に転居した。 平成28年8月,原告番号54は,同市内にマンションを購入し,同所に転居した。 ⑵ ,引き続き上記長女宅に滞在した。 同年4月23日,原告番号54は,同市内に居宅を賃借し,同所に転居した。 平成28年8月,原告番号54は,同市内にマンションを購入し,同所に転居した。 ⑵ 不動産の価額原告番号54が自宅所有のために賃借していた敷地,人が所有する自宅建物は帰還困難区域にあり,同自宅建物は本件事故時点で築19年である。上記自 宅敷地の固定資産税評価額は,388万7464円であり,上記自宅建物の固定資産税評価額は,342万3907円である。【甲個54の5,54の6】 2 損害額の認定⑴ 慰謝料原告番号54は,@@@内の帰還困難区域に居住していたところ,同地は, 資料29及び同30(第6分冊)の㊳に該当するから,原告番号54につき,当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)として1500万円を認める(前記第8節第2,2⑶ア[❸-160 頁])(原告番号54の〈裁判所認定欄〉(a-1))。 ⑵ 不動産損害原告番号54が自宅所有のために賃借していた敷地,人が所有する自宅建物 は帰還困難区域にあり,その価額は前記1⑵認定のとおりである。弁論の全趣旨によれば,原告番号54が有していた借地権の価額は,上記土地の価額に3割を乗じたものとするのが相当と認められるところ,前記1⑵認定の土地の価額に3割を乗じた額(116万6239円)を,前記第8節第6,2⑴ア[❸-180 頁]で説示した基準に当てはめると,上記借地権に係る財産的損害は,固 定資産税評価額の3割に2を乗じた233万2478円と認められる(原告番 号54の〈裁判所認定欄〉(a-2))。 また,原告番号54の所有する自宅建物は,本件事故時点で築30年を超えていなかったところ,その価額は前記1⑵認定のとおりであり,これを,前 告番 号54の〈裁判所認定欄〉(a-2))。 また,原告番号54の所有する自宅建物は,本件事故時点で築30年を超えていなかったところ,その価額は前記1⑵認定のとおりであり,これを,前記第8節第6,2⑴ア[❸-180 頁]で説示した基準に当てはめると,上記建物に係る財産的損害は,固定資産税評価額の3倍の1027万1721円と認めら れる(原告番号54の〈裁判所認定欄〉(a-3))。 ⑶ 家財原告番号54は単身世帯であったから,前記第8節第6,2⑵ア[❸-185 頁]で判示したところに従い,原告番号54の家財の財産的損害は10万円と認める(原告番号54の〈裁判所認定欄〉(a-4))。 3 被告東電による弁済⑴ 慰謝料について被告東電が原告番号54に支払った避難慰謝料名目の金員の額は,1450万円である(原告番号54の〈裁判所認定欄〉(b-1))。【乙共336・217~218頁】 ⑵ 財産的損害について被告東電が原告番号54に支払った不動産損害名目の金員の額は,借地権につき111万1815円(原告番号54の〈裁判所認定欄〉(b-2)),建物につき2196万1047円(原告番号54の〈裁判所認定欄〉(b-3)である。【乙共336・218頁】これにより,原告番号54の自宅建物の財産的損害につ いては全額弁済されたことになる。 被告東電が原告番号54に支払った家財損害名目の金員の額は853万9000円である(原告番号54の〈裁判所認定欄〉(b-4))。【乙共336・218頁】これにより,原告番号54の家財の財産的損害については全額弁済されたことになる。 4 弁護士費用 ⑴ 原告番号54の損害合計は,172万0663円である(原告番号54の〈裁判所認定欄〉(d) 4の家財の財産的損害については全額弁済されたことになる。 4 弁護士費用 ⑴ 原告番号54の損害合計は,172万0663円である(原告番号54の〈裁判所認定欄〉(d))。 ⑵ 原告番号54の弁護士費用は,17万円である(原告番号54の〈裁判所認定欄〉(e))。 5 まとめ 以上によれば,原告番号54の請求は,189万0663円(原告番号54の〈裁判所認定欄〉(f))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。 (原告番号54につき 1500 万円-1450 万円+233 万2478 円-111 万1815 円+17 万円=189 万0663円)第55 原告番号55の世帯(原告番号55)について 1 事実関係【掲記の証拠のほか,甲個55の1】 ⑴ 旧居住地等原告番号55は,本件事故の際,@@@内の自宅において,@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@らしていた。同自宅所在地は,本件事故後,帰還困難区域に指定された。 ⑵ 避難経過等 @@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@ @@@@@@@@@@@@@@@@@@@@ @@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@ @@@@@@@@@@@@@@@@@@@@ @@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@ @@@@@@@@@@@@⑶ 不動産の価額原告番号55所有に係る自宅敷地は帰還困難区域にあり,その固定資産税評価額は,209万0065円である。【甲個55の4】 2 損害額の認定 ⑴ 慰謝料原告番号55は,@@@内の帰還困難区域に居住していたところ,同地は,資料29及び同30(第6分冊)の㊶に該当するから,同人につき,それぞれ,当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)として1500万円を認める(前記第8節第2,2⑶ア[❸-160 頁])(原告番号55の〈裁判所認定欄〉(a-1))。 また,原告番号55は,平成23年3月11日から同月16日まで6日間避難生活を余儀なくされたものであるから,当裁判所が認める避難慰謝料(A)(前記第8節第4,2⑶[❸-178 頁]のとおり日額2000 円)として,同人につき,1万2000円(6日分)を認める(原告番号55の〈裁判所認定欄〉(a-1))。 ⑵ 不動産損害 原告番号55の所有に係る自宅敷地は帰還困難区域にあり,その価額は前記2⑶認定のとおりであり,これを,第8節第6,2⑴ア[❸-180 頁]で説示した基準に当てはめると,同自宅敷地に係る財産的損害は,固定資産税評価額の2倍の418万0130円と認められる(原告番号55の〈裁判所認定欄〉(a-2))。 ⑶ 家財 @@@@@@@@@@@@@@@@ 地に係る財産的損害は,固定資産税評価額の2倍の418万0130円と認められる(原告番号55の〈裁判所認定欄〉(a-2))。 ⑶ 家財 @@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@〈裁 @@@@@@@@@@ 3 被告東電による弁済被告東電が原告番号55に支払った避難慰謝料名目の金員の額は,1452万円である(原告番号55の〈裁判所認定欄〉(b-1))。【乙共336・219~220頁】 4 弁護士費用⑴ 原告番号55の損害合計は,477万2130円である(原告番号55の〈裁判所認定欄〉(d))。 ⑵ 原告番号55の弁護士費用は,47万円である(原告番号55の〈裁判所認定欄〉(e))。 5 まとめ以上によれば,原告番号55の請求は,524万2130円(原告番号55の〈裁判所認定欄〉(f))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。 (原告番号55につき 1500 万円+1 万2000 円-1452 万円+418 万0130 円+10 万円+47 万円=524万2130 円)第56 原告番号56の世帯(原告番号56-1,56-2)について 1 事実関係 【甲個56の1】 原告番号56-1は,本件事故の際,@@@内の自宅において,妻である原告 第56 原告番号56の世帯(原告番号56-1,56-2)について 1 事実関係 【甲個56の1】 原告番号56-1は,本件事故の際,@@@内の自宅において,妻である原告番号56-2と2人で暮らしていた。同自宅所在地は,本件事故後,帰還困難区域に指定された。 平成23年3月11日,原告番号56らは,外出先で被災し,そのまま@@@内の中学校に避難して1泊した。 同月12日,本件事故の報を受け,原告番号56らは,@@@内の体育館に移動した。しかし,同所が極めて混雑していたため,同日のうちに@@@内の体育館に更に移動して同所で1泊した。 同月13日,原告番号56らは,@@@@の保養施設で1泊した。 同月14日,原告番号56らは,@@@@の長女の自宅に身を寄せ,そのまま 長女の家族との同居生活を始めた。 2 損害額の認定原告番号56らは,@@@@の帰還困難区域に居住していたところ,同地は,資料29及び同30(第6分冊)の㉞に該当するから,原告番号56らにつき,それぞれ,当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)として1500万円を認 める(前記第8節第2,2⑶ア[❸-160 頁])(原告番号56らの〈裁判所認定欄〉(a))。 また,原告番号56らは,平成23年3月11日から同月13日にかけて3日間避難所生活を余儀なくされたものであるから,当裁判所が認める避難慰謝料(A)(前記第8節第4,2⑶[❸-178 頁]のとおり日額2000 円)として,それ ぞれ6000円(3日分)を認める(原告番号56らの〈裁判所認定欄〉(a))。 3 被告東電による弁済被告東電が支払った避難慰謝料名目の金員の額は,原告番号56-1につき1677万6000円(原告番号56-1の〈裁判所認定欄〉(b)),原告番 の〈裁判所認定欄〉(a))。 3 被告東電による弁済被告東電が支払った避難慰謝料名目の金員の額は,原告番号56-1につき1677万6000円(原告番号56-1の〈裁判所認定欄〉(b)),原告番号56-2につき1452万円(原告番号56-2の〈裁判所認定欄〉(b))である。【乙 共336・221~223頁】 これにより,原告番号56-1に認められた当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)及び当裁判所が認める避難慰謝料(A)は全額弁済されたことになる。 4 弁護士費用⑴ 原告番号56-2の損害合計は,48万6000円である(原告番号56-2の〈裁判所認定欄〉(c))。 ⑵ 原告番号56-2の弁護士費用は,4万円である(原告番号56-2の〈裁判所認定欄〉(d))。 5 まとめ以上によれば,原告番号56-2の請求は,52万6000円(原告番号56-2の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済 みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号56-1の請求は理由がない。 (原告番号56-2につき 1500 万円+6000 円-1452 万円+4 万円=52 万6000 円)第57 原告番号57の世帯(原告番号57-1,57-2,57-3,57- 4,57-5)について 1 事実関係【掲記の証拠のほか,甲個57の1】⑴ 旧居住地及び避難経過原告番号57-1は,本件事故の際,@@@@@@@内の自宅において,妻 である原告番号57-2,長女である原告番号57-4(当時21歳),二女である原告番号57-5(当時18歳)及び長男である原告番号57-3(当時15歳)と5人で生活していた。同 において,妻 である原告番号57-2,長女である原告番号57-4(当時21歳),二女である原告番号57-5(当時18歳)及び長男である原告番号57-3(当時15歳)と5人で生活していた。同自宅所在地は,本件事故後,避難指示解除準備区域に指定された。 平成23年3月11日,原告番号57-1は海外出張中であった。同日,原 告番号57-2は,子ら3名と,実家の両親と共に,付近の中学校に避難した。 同月12日,避難先の中学校が閉鎖することとなり,原告番号57-2は,3人の子ら及び両親と共に,@@@@@@@内の中学校に避難した。 同月13日,同中学校では物資が不足していたことなどから,原告番号57-2は,3人の子ら及び両親と共に更に北上し,@@@@@@@@@の公民館に避難した。 同月14日,同公民館が停電していたことから,原告番号57-2は,3人の子ら及び両親と共に,@@@@@@内の公民館に避難した。 他方,原告番号57-1は,同月16日に海外出張から帰国したが,自宅に戻ることができず,同月19日まで@@@内に滞在した上,同日,原告番号57-2らが避難する@@@@の公民館に移動して避難生活を開始した。 同月30日,原告番号57-4は,就職のため,@@@内の住居に転居した。 また,同日,原告番号57-5は,就職のため,@@@@@@内の会社の寮に転居した。 原告番号57-1,同57-2,57-3は,同年4月2日まで避難生活を続けた(ただし,原告番号57-1は,同年3月26日から同月30日までは, @@@内のホテルに滞在した)が,その後,@@@内のホテルでの宿泊を経て,同月4日に,@@@内の借上住宅に転居した。また,同年7月9日,原告番号57-1,同57-2,57-3は,@@@内のマンションに転居 内のホテルに滞在した)が,その後,@@@内のホテルでの宿泊を経て,同月4日に,@@@内の借上住宅に転居した。また,同年7月9日,原告番号57-1,同57-2,57-3は,@@@内のマンションに転居した。 ⑵ 不動産の価額原告番号57-1所有に係る自宅敷地建物は避難指示解除準備区域(5年以 上)にあり,本件事故時点で築17年であり,同自宅敷地の固定資産税評価額は301万0917円であり,同自宅建物の固定資産税評価額は385万3517円である。【甲個57の6】原告番号57-2所有に係る@@@@@@@内の土地(相続により取得したもの。)の固定資産税評価額は,1849万9663円である。 【甲個57の7, 57の8】 2 損害額の認定⑴ 慰謝料原告番号57らは,いずれも@@@@@@@内の避難指示解除準備区域に居住していたところ,同地は,資料29及び同30(第6分冊)の⑧に該当し,避難指示が5年を超えて継続した地域に該当するから,原告番号57らにつき, それぞれ,当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)として1200万円ずつを認める(前記第8節第2,2⑶エ[❸-162 頁])(原告番号57-1,57-2の〈裁判所認定欄〉(a-1),原告番号57-3,57-4,57-5の〈裁判所認定欄〉(a))。 また,原告番号57-1は,平成23年3月19日から同月26日まで(7 日間)及び同月30日から同年4月2日まで(4日間)の合計11日間,原告番号57-2,57-3は,同年3月11日から同年4月2日まで23日間,原告番号57-4,57-5は,同年3月11日から同月30日まで20日間,それぞれ避難所での生活を余儀なくされたものであるから,当裁判所が認める避難慰謝料(A)(前記第8節第4,2⑶[❸-178 ,原告番号57-4,57-5は,同年3月11日から同月30日まで20日間,それぞれ避難所での生活を余儀なくされたものであるから,当裁判所が認める避難慰謝料(A)(前記第8節第4,2⑶[❸-178 頁]のとおり日額2000 円) として,原告番号57-1について2万2000円(11日分)(原告番号57-1の〈裁判所認定欄〉(a-1)),原告番号57-2,57-3についてそれぞれ4万6000円(23日分)(原告番号57-2の〈裁判所認定欄〉(a-1),原告番号57-3の〈裁判所認定欄〉(a)),原告番号57-4,57-5についてそれぞれ4万円(20日分)(原告番号57-4,57-5の〈裁判所認定 欄〉(a))を認める。 ⑵ 不動産損害原告番号57-1の所有する自宅敷地及び自宅建物は避難指示解除準備区域(5年以上)にあり,自宅建物は本件事故時点で築30年を超えていなかったところ,その価額は前記1⑵認定のとおりであり,これを前記第8節第6, 2⑴エ[❸-182 頁]で説示した基準に当てはめると,同不動産に係る財産的損 害は,土地につき固定資産税評価額の1.5倍の451万6376円(原告番号57-1の〈裁判所認定欄〉(a-2)),建物につき固定資産税評価額の2倍の770万7034円(原告番号57-1の〈裁判所認定欄〉(a-3))とそれぞれ認められる。 原告番号57-2の所有に係る土地は避難指示解除準備区域(5年以上)に あり,その価額は前記1⑵認定のとおりであり,これを前記第8節第6,2⑴エ[❸-182 頁]で説示した基準に当てはめると,同不動産に係る財産的損害は,固定資産税評価額の1.5倍の2774万9495円と認められる(原告番号57-2の〈裁判所認定欄〉(a-2))。 ⑶ 家財 原告番 説示した基準に当てはめると,同不動産に係る財産的損害は,固定資産税評価額の1.5倍の2774万9495円と認められる(原告番号57-2の〈裁判所認定欄〉(a-2))。 ⑶ 家財 原告番号57の世帯は3人暮らし以上であり,前記第8節第6,2⑵ウ[❸-186 頁]で判示したところに従い,原告番号57-1の家財の財産的損害は40万円と認める(原告番号57-1の〈裁判所認定欄〉(a-4))。 3 被告東電による弁済⑴ 慰謝料について 被告東電が支払った避難慰謝料名目の金員の額は,原告番号57-1につき986万6000円(原告番号57-1の〈裁判所認定欄〉(b-1)),原告番号57-2につき854万円(原告番号57-2の〈裁判所認定欄〉(b-1)),原告番号57-3につき854万円(原告番号57-3の〈裁判所認定欄〉(b)),原告番号57-4につき948万円(原告番号57-4の〈裁判所認定欄〉(b)), 原告番号57-5につき892万円(原告番号57-5の〈裁判所認定欄〉(b))である。【乙共336・224~230頁】⑵ 財産的損害について被告東電が支払った不動産損害名目の金員の額は,原告番号57-1の自宅敷地につき432万5851円(原告番号57-1の〈裁判所認定欄〉(b-2)), 原告番号57-1の自宅建物につき1955万7944円(原告番号57-1 の〈裁判所認定欄〉(b-3)),原告番号57-2の土地につき966万1385円(原告番号57-2の〈裁判所認定欄〉(b-2))である。 これにより,原告番号57-1の自宅建物の財産的損害については全額弁済されたことになる。また,原告番号57-2の不動産に関する財産的損害は,なお1808万8110円が弁済されずに残存していることとなるが, より,原告番号57-1の自宅建物の財産的損害については全額弁済されたことになる。また,原告番号57-2の不動産に関する財産的損害は,なお1808万8110円が弁済されずに残存していることとなるが,原告番 号57-2は,不動産損害(一部請求)として1000万円を請求するにとどまるので,この点についての原告番号52の請求は,同額の限度で理由があることになる。 被告東電が原告番号57-1に支払った家財損害名目の金員の額は565万円である(原告番号57-1の〈裁判所認定欄〉(b-4))。これにより,原告 番号57-1の家財の財産的損害については全額弁済されたことになる。 4 弁護士費用⑴ 損害合計は,原告番号57-1につき234万6525円(原告番号57-1の〈裁判所認定欄〉(d)),原告番号57-2につき1350万6000円(原告番号57-2の〈裁判所認定欄〉(d)),原告番号57-3につき350万6 000円(原告番号57-3の〈裁判所認定欄〉(c)),原告番号57-4につき256万円(原告番号57-4の〈裁判所認定欄〉(c)),原告番号57-5につき312万円(原告番号57-5の〈裁判所認定欄〉(c))である。 ⑵ 弁護士費用は,原告番号57-1につき23万円(原告番号57-1の〈裁判所認定欄〉(e)),原告番号57-2につき135万円(原告番号57-2の 〈裁判所認定欄〉(e)),原告番号57-3につき35万円(原告番号57-3の〈裁判所認定欄〉(d)),原告番号57-4につき25万円(原告番号57-4の〈裁判所認定欄〉(d)),原告番号57-5につき31万円(原告番号57-5の〈裁判所認定欄〉(d))である。 5 まとめ 以上によれば,原告番号57-1の請求は,257万6525円(原告番 裁判所認定欄〉(d)),原告番号57-5につき31万円(原告番号57-5の〈裁判所認定欄〉(d))である。 5 まとめ 以上によれば,原告番号57-1の請求は,257万6525円(原告番号5 7-1の〈裁判所認定欄〉(f))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号57-2の請求は,1485万6000円(原告番号57-2の〈裁判所認定欄〉(f))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求 める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号57-3の請求は,385万6000円(原告番号57-3の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号57-4の請求は,281万円(原告番号57-4の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対す る平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号57-5の請求は,343万円(原告番号57-5の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。 (原告番号57-1につき 1200 万円+2 万2000 円-986 万6000 円+451 万6376 円-432 万5851 円+23万円=257 万6525 円原告番号57-2につき 1200 万円+4 万6000 円-854 2 万2000 円-986 万6000 円+451 万6376 円-432 万5851 円+23万円=257 万6525 円原告番号57-2につき 1200 万円+4 万6000 円-854 万円+1000 万円+135 万円=1485 万6000 円 原告番号57-3につき 1200 万円+4 万6000 円-854 万円+35 万円=385 万6000 円原告番号57-4につき 1200 万円+4 万円-948 万円+25 万円=281 万円原告番号57-5につき 1200 万円+4 万円-892 万円+31 万円=343 万円) 第58 原告番号58の世帯(原告番号58-1,58-2,58-3,58-4,58-5)について 1 事実関係【甲個58の1】原告番号58-1は,本件事故の際,@@@内の自宅において,夫である原告 番号58-2,長女である原告番号58-3(当時24歳),二女である原告番号58-4(当時22歳)及び三女である原告番号58-5(当時16歳)と5人で暮らしていた。同自宅所在地は,本件事故後,居住制限区域に指定された。 平成23年3月12日,原告番号58らは,避難勧告を受けて付近の高校に避難したが,@@にいる親族から避難を勧められ,同日夜から同月13日にかけて, 自動車で@@@内の原告番号58-4のもと自宅マンション(原告番号58-4は既に@@@内の自宅に転居していたが,明渡未了であった。)に避難した。 同年4月7日,原告番号58-1,同58-2,58-5は,@@@@にある原告番号58-1の実家に避難した。原告番号58-3,58-4は,上記埼玉県内のマンションに残って生活した。 その後,原告番号58-1,同58-2,58-5は,@@@@に は,@@@@にある原告番号58-1の実家に避難した。原告番号58-3,58-4は,上記埼玉県内のマンションに残って生活した。 その後,原告番号58-1,同58-2,58-5は,@@@@にある原告番号58-1の実家を出ることとなり,同市内の親類宅及び神奈川県@@@@@のホテル宿泊を経て,同年5月29日から,@@@@にマンションの居室を賃借して同所に転居した。また,原告番号58-3,58-4も,上記@@@@のマンションに同日転居した。 同年9月,原告番号58-2は,転勤のため@@@@に転居して単身赴任を始めた。 同年10月8日,原告番号58らは,@@@内に一軒家を賃借して転居した。 2 損害額の認定原告番号58らは,@@@@の居住制限区域に居住していたところ,同地は, 資料29及び同30(第6分冊)の㉑に該当し,避難指示が5年を超えて継続し た地域に該当するから,原告番号58らにつき,それぞれ,当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)として1300万円を認める(前記第8節第2,2⑶イ[❸-161 頁])(原告番号58らの〈裁判所認定欄〉(a))。 また,原告番号58らは,平成23年3月12日から同月13日にかけて2日間車中泊を余儀なくされたものであるから,当裁判所が認める避難慰謝料(A) (前記第8節第4,2⑶[❸-178 頁]のとおり日額2000 円)として,4000円(2日分)を認める(原告番号58らの〈裁判所認定欄〉(a))。 3 被告東電による弁済被告東電が支払った避難慰謝料名目の金員の額は,原告番号58-1につき1160万円(原告番号58-1の〈裁判所認定欄〉(b)),原告番号58-2,5 8-3,58-4,58-5につきそれぞれ650万円(原告番号58-2,58-3,5 は,原告番号58-1につき1160万円(原告番号58-1の〈裁判所認定欄〉(b)),原告番号58-2,5 8-3,58-4,58-5につきそれぞれ650万円(原告番号58-2,58-3,58-4,58-5の〈裁判所認定欄〉(b))である。 【乙共336・232~236頁】 4 弁護士費用⑴ 損害合計は,原告番号58-1につき140万4000円(原告番号58- 1の〈裁判所認定欄〉(c)),原告番号58-2,58-3,58-4,58-5につきそれぞれ650万4000円(原告番号58-2,58-3,58-4,58-5の〈裁判所認定欄〉(c))である。 ⑵ 弁護士費用は原告番号58-1につき14万円(原告番号58-1の〈裁判所認定欄〉(d)),原告番号58-2,58-3,58-4,58-5につきそ れぞれ65万円(原告番号58-2,58-3,58-4,58-5の〈裁判所認定欄〉(d))である。 5 まとめ以上によれば,原告番号58-1の請求は,154万4000円(原告番号58-1の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支 払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理 由があり,その余は理由がなく,原告番号58-2の請求は,715万4000円(原告番号58-2の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号58-3の請求は,715万4000円(原告番号58-3の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平 成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり 求は,715万4000円(原告番号58-3の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平 成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号58-4の請求は,715万4000円(原告番号58-4の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番 号58-5の請求は,715万4000円(原告番号58-5の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。 (原告番号58-1につき 1300 万円+4000 円-1160 万円+14 万円=154 万4000 円原告番号58-2につき 1300 万円+4000 円-650 万円+65 万円=715 万4000 円原告番号58-3につき 1300 万円+4000 円-650 万円+65 万円=715 万4000 円 原告番号58-4につき 1300 万円+4000 円-650 万円+65 万円=715 万4000 円原告番号58-5につき 1300 万円+4000 円-650 万円+65 万円=715 万4000 円)第59 原告番号59の世帯(原告番号59)について 1 事実関係 【甲個59の1】原告番号59(当時70歳)は,本件事故の際,@@@@の自宅で,夫(当時76歳)及び母(当時91歳)と3人で暮らしていた。同自宅所在地は,本件事故後,帰還困難区域に指定された。 平成23年3月11 原告番号59(当時70歳)は,本件事故の際,@@@@の自宅で,夫(当時76歳)及び母(当時91歳)と3人で暮らしていた。同自宅所在地は,本件事故後,帰還困難区域に指定された。 平成23年3月11日,原告番号59は,自宅付近の小学校に避難した。 同月12日,原告番号59は,防災無線で避難指示を聞き,夫及び母と共に,別の中学校へ避難し,同月14日まで同所で避難生活を送った。 同月15日,原告番号59は,上記中学校から立ち退きを求められたことから,夫及び母と共に@@@@内の体育館に更に避難した。 同月20日,原告番号59は,夫及び母と共に,@@@@の原告番号59の二 男宅に避難するために上記体育館を出て,@@@@内のホテルでの宿泊を経た上,同月21日から@@@@の原告番号59の二男宅に身を寄せた。 しかし,避難先の生活になじめなかったことから,同年5月7日以降,原告番号59は,夫及び母と共に,@@@@の旅館に逗留し,同年8月22日から,@@@@の仮設住宅に転居して生活を始めた。 なお,原告番号59の母は,同年5月以降に徘徊の症状がみられるようになり,その後,平成28年11月30日に死亡した。 2 損害額の認定原告番号59は,@@@@の帰還困難区域に居住していたところ,同地は,資料29及び同30(第6分冊)の⑳に該当するから,原告番号59につき,当裁 判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)として1500万円を認める(前記第8節第2,2⑶ア[❸-160 頁])(原告番号59の〈裁判所認定欄〉(a))。 また,原告番号59は,平成23年3月11日から同月19日までの9日間にわたり,避難所での生活を余儀なくされたものであるところ,原告番号59の年齢及び当時91歳の母,76歳の夫を伴って避難所を転々とするという避難状況 は,平成23年3月11日から同月19日までの9日間にわたり,避難所での生活を余儀なくされたものであるところ,原告番号59の年齢及び当時91歳の母,76歳の夫を伴って避難所を転々とするという避難状況 の過酷さを勘案すれば,前記第8節第4,2⑶[❸-178 頁]で判示したところに かかわらず,例外的に,当裁判所が認める避難慰謝料(A)として日額5000円の9日分である4万5000円を損害として認める(原告番号59の〈裁判所認定欄〉(a))。 3 被告東電による弁済被告東電が原告番号59に支払った避難慰謝料名目の金員の額は,1503万 円である(原告番号59の〈裁判所認定欄〉(b))。【乙共336・2373~238頁】なお,被告東電が支払った避難慰謝料名目の金員のうち,精神的損害(要介護)との種別が付されているものについては,第8節第1,2[❸-138 頁]で整理したところの精神的損害のうち,避難生活による生命・身体の自由に対する侵害 に係る部分及び避難生活の不便さから来る苦痛に係る部分を増額したものと解されるから,前者を「当裁判所が認める避難慰謝料(A)」として観念し,後者を「当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)」として観念する当裁判所の考え方によれば,精神的損害(要介護)として支払われた金員は,上記両慰謝料の合計に対する弁済と認めることができる。 4 弁護士費用⑴ 原告番号59の損害合計は,1万5000円である(原告番号59の〈裁判所認定欄〉(c))。 ⑵ 原告番号59の弁護士費用は1万円である(原告番号59の〈裁判所認定欄〉(d))。 5 まとめ以上によれば,原告番号59の請求は,2万5000円(原告番号59の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年 1万円である(原告番号59の〈裁判所認定欄〉(d))。 5 まとめ以上によれば,原告番号59の請求は,2万5000円(原告番号59の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。 (原告番号59につき 1500 万円+4 万5000 円-1503 万円+1 万円=2 万5000 円)第60 原告番号60の世帯(原告番号60,60-2)について 1 事実関係【甲個60の1】訴訟承継前の原告番号60(81歳。以下「原告番号60」という。)は,本件 事故の際,@@@@@@@内の自宅において,1人暮らしをしていた。同自宅所在地は,本件事故後,避難指示解除準備区域に指定された。 平成23年3月11日,原告番号60は,付近の高校に避難し,その後,@@@@@@@@の施設を経て,@@@@@体育館に移動して,少なくとも同月21日まで,同所での避難生活を余儀なくされた。 同日,原告番号60は,神奈川県@@@@内の@@@に転居した。なお,原告番号60は,上記転居後は歩行が極めて困難となり,ほとんど寝たきりの状態となった。 平成29年6月11日,原告番号60は死亡し,原告番号60-2が原告番号60の権利義務を単独で相続した。 2 損害額の認定原告番号60は,@@@@@@@@の避難指示解除準備区域に居住していたところ,同地は,資料29及び同30(第6分冊)の⑧に該当し,避難指示が5年を超えて継続した地域に該当するから,原告番号60につき,当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)として1200万円を認める(前記第8節第2,2⑶ エ[❸-162 頁])(原告番号6 示が5年を超えて継続した地域に該当するから,原告番号60につき,当裁判所が認めるふるさと喪失慰謝料(B)として1200万円を認める(前記第8節第2,2⑶ エ[❸-162 頁])(原告番号60の〈裁判所認定欄〉(a))。 また,原告番号60は,平成23年3月11日から同月21日まで11日間避難生活を余儀なくされたものであるところ,原告番号60の年齢及び@@宅転居後の状況を勘案すれば,その避難生活は相当に過酷なものであったと認めることができるから,前記第8節第4,2⑶[❸-178 頁]で判示したところにかかわら ず,例外的に,当裁判所が認める避難慰謝料(A)として日額1万円の11日分 である11万円を認める(原告番号60の〈裁判所認定欄〉(a))。 3 被告東電による弁済被告東電が原告番号60に支払った避難慰謝料名目の金員の額は,902万円である(原告番号60の〈裁判所認定欄〉(b))。【乙共336・239~240頁】 4 弁護士費用⑴ 原告番号60の損害合計は,309万円である(原告番号60の〈裁判所認定欄〉(c))。 ⑵ 原告番号60の弁護士費用は30万円である(原告番号60の〈裁判所認定欄〉(d))。 5 原告番号60の損害額のまとめ以上によれば,原告番号60は,339万円(原告番号60の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができた。 (原告番号60につき 1200 万円+11 万円-902 万円+30 万円=339 万円) 6 原告番号60-2の請求の認容額原告番号60-2は,原告番号60を単独相続し,同人を訴訟承継したから,原告番号60-2の請求は,3 万円+11 万円-902 万円+30 万円=339 万円) 6 原告番号60-2の請求の認容額原告番号60-2は,原告番号60を単独相続し,同人を訴訟承継したから,原告番号60-2の請求は,339万円(原告番号60-2の「認容額」の欄)及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の 割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がない。 第61 原告番号61の世帯(原告番号61-1,61-2,61-3,61-4,61-5)について 1 事実関係【甲個61の1】 原告番号61-1は,本件事故の際,@@@@@@@@の自宅で,妻である原 告番号61-2,長男である同61-3(当時5歳)及び二男である同61-4(当時3歳)4人で暮らしていた。同自宅所在地は,本件事故後,緊急時避難準備区域に指定されたが,平成23年9月30日に解除された。 平成23年3月12日,原告番号61-1ないし同61-4は,@@@@の親類宅に避難した。 同月15日,原告番号61-1ないし同61-4は,@@@@@@@親類宅に避難した。 さらに,同月23日,原告番号61-1ないし同61-4は,神奈川県@@@市内の親族宅に避難した。 4月29日,原告番号61-1ないし同61-4は,同市内の借上住宅に転居 し,同年6月に,別の借上住宅に更に転居した。 上記転居後の平成26年3月1日,原告番号61-1,61-2の三男である原告番号61-5が出生した。 2 損害額の認定原告番号61-1ないし同61-4は,いずれも@@@@@@@@の旧緊急時 避難準備区域に居住していたところ,同地は,資料29及び同30(第6分冊)の④に該当するから,原告番号61-1ないし同61-4につき,それぞれ, 61-4は,いずれも@@@@@@@@の旧緊急時 避難準備区域に居住していたところ,同地は,資料29及び同30(第6分冊)の④に該当するから,原告番号61-1ないし同61-4につき,それぞれ,当裁判所が認める自己決定権侵害慰謝料(C)として250万円ずつを認める(前記第8節第3,2⑶ア[❸-169 頁])(原告番号61-1,61-2,61-3,61-4の〈裁判所認定欄〉(a))。 原告番号61-5は,本件事故当時出生していなかったところ,そもそも,本件事故時に原告番号61-2が懐胎していたことを認めるに足りる証拠はない。 また,当裁判所が認める自己決定権侵害(C)は,避難者が,従前特定の場所を住所と定めていることを前提に,住定時の生活環境と変動後の生活環境を比較して観念すべきものである(前記第8節第1,2⑶[❸-154 頁])から,当該場所 を住所と定める余地のない未出生者の場合は,当裁判所が認める自己決定権侵害 (C)を肯認する前提を欠くというべきである。したがって,原告番号61-5については,当裁判所が認める自己決定権侵害(C)を肯認できない。 3 被告東電による弁済被告東電が支払った避難慰謝料名目の金員の額は,原告番号61-1,61-2につきそれぞれ180万円(原告番号61-1,61-2の〈裁判所認定欄〉 (b)),原告番号61-3,61-4につきそれぞれ263万円(原告番号61-3,61-4の〈裁判所認定欄〉(b))である。【乙共336・241~245頁】これにより,原告番号61-3,61-4に認められた,当裁判所が認める自己決定権侵害慰謝料(C)は全額弁済されたことになる。 4 弁護士費用 ⑴ 損害合計は,原告番号61-1,61-2につきそれぞれ70万円である(原告番号6 められた,当裁判所が認める自己決定権侵害慰謝料(C)は全額弁済されたことになる。 4 弁護士費用 ⑴ 損害合計は,原告番号61-1,61-2につきそれぞれ70万円である(原告番号61-1,61-2の〈裁判所認定欄〉(c))。 ⑵ 弁護士費用は原告番号61-1,61-2につきそれぞれ7万円)である(原告番号61-1,61-2の〈裁判所認定欄〉(d))。 5 まとめ 以上によれば,原告番号61-1の請求は,77万円(原告番号61-1の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号61-2の請求は,77万円(原告番号61-2の〈裁判所認定欄〉(e))及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで民 法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり,その余は理由がなく,原告番号61-3,61-4,61-5の請求はいずれも理由がない。 (原告番号61-1につき 250 万円 -180 万円+7 万円=77 万円 原告番号61-2につき 250 万円 -180 万円+7 万円=77 万円)(以下本頁余白) 第6章結論よって,原告らの被告らに対する請求のうち,別紙認容額等一覧表の「認容/棄却の別」欄に「一部認容」との記載がある各原告の請求は,被告東電に対し,同一覧表の各「認容額」欄記載の金員及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求め,被告国に対し,同一覧表の各「認 容額」欄記載の金員及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで年5分の割合 する平成23年3月11日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求め,被告国に対し,同一覧表の各「認 容額」欄記載の金員及びこれに対する平成23年3月11日から支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるからこれらを認容し,同一覧表の「認容/棄却の別」欄に「一部認容」との記載がある各原告の被告らに対するその余の請求及び同一覧表の「認容/棄却の別」欄に「棄却」との記載がある各原告の被告らに対する請求は,いずれも理由がないからこれらを棄却することとし, 訴訟費用につき,民訴法61条,64条本文,65条1項本文を,それぞれ適用し,仮執行の宣言及び仮執行の免脱宣言については,いずれもこれらを相当なものと認め,仮執行の宣言につき同法259条1項を,仮執行の免脱宣言につき同法259条3項を,それぞれ適用し,被告国の仮執行開始時期猶予宣言の申立てについては,相当でないからこれを付さないこととして,主文のとおり判決する。 横浜地方裁判所第5民事部 裁判長裁判官中平 健 裁判官森 大輔 裁判官馬 渡 万紀子 別紙認容額等一覧表認容/棄却の別原告番号原告氏名請求額(円)認容額(円)訴訟費用(被告ら負担割合)担保額(円)一部認容1-133,000,0004,922,00015/1003,400,000一部認容1-233,000,0004,922,00015/1003,400,000一部認容1-333,000,0004,922,00015/1003,400,000一部認容1-433,000,0004,922,00015/1003,400,000一部認容1-5 1-333,000,0004,922,00015/1003,400,000一部認容1-433,000,0004,922,00015/1003,400,000一部認容1-533,000,0004,922,00015/1003,400,000一部認容2-193,662,8007,404,8428/1005,200,000一部認容2-235,728,0004,926,00014/1003,400,000一部認容 46,604,800151,0001/100100,000一部認容4-138,986,3274,950,00013/1003,500,000一部認容4-243,309,9089,620,00022/1006,700,000一部認容4-324,750,0004,950,00020/1003,500,000一部認容4-431,086,0004,950,00016/1003,500,000一部認容4-524,750,0004,950,00020/1003,500,000一部認容5-215,989,872560,4744/100400,000一部認容5-315,989,872560,4744/100400,000一部認容5-415,989,872560,4744/100400,000一部認容5-515,989,872560,4744/100400,000一部認容6-168,216,280837,0001/100600,000一部認容6-235,274,360820,0002/100600,000一部認容6-332,758,000290,0001/100200,000一 1/100600,000一部認容6-235,274,360820,0002/100600,000一部認容6-332,758,000290,0001/100200,000一部認容6-432,758,000290,0001/100200,000一部認容6-533,287,441820,0002/100600,000一部認容7-118,118,563610,0003/100400,000一部認容7-216,512,892790,0005/100600,000棄却8-185,159,800 棄却8-233,000,000 一部認容9-122,000,000280,0001/100200,000一部認容9-222,000,000260,0001/100200,000一部認容9-322,000,000170,0001/100100,000一部認容9-422,000,000170,0001/100100,000一部認容 93,184,15710,495,53211/1007,300,000一部認容11-111,000,000570,0005/100400,000一部認容11-211,000,000570,0005/100400,000一部認容11-311,000,000740,0007/100500,000一部認容11-411,000,000740,0007/100500,000一部認容12-122,000,000570,0003/100400,000 認容/棄却の別原告番号原告氏名請求額(円)認容額(円)訴訟費用(被告ら負担割合)担保額(円 一部認容12-122,000,000570,0003/100400,000 認容/棄却の別原告番号原告氏名請求額(円)認容額(円)訴訟費用(被告ら負担割合)担保額(円)一部認容12-222,000,000240,0001/100200,000一部認容12-322,000,000740,0003/100500,000一部認容12-422,000,000740,0003/100500,000一部認容13-1152,123,5573,800,0002/1002,700,000一部認容13-2100,752,7524,977,7945/1003,500,000一部認容14-181,694,800170,0001/100100,000一部認容14-242,020,000144,0001/100100,000一部認容15-122,000,0004,938,00022/1003,500,000一部認容15-222,000,0004,938,00022/1003,500,000一部認容 30,228,000562,0002/100400,000一部認容 33,162,4084,888,06815/1003,400,000一部認容18-157,930,3186,353,25911/1004,400,000一部認容18-233,363,0004,926,00015/1003,400,000一部認容18-333,363,0004,846,00015/1003,400,000一部認容18-433,363,0004,846,00015/1003,400,000一部認容18-5 -333,363,0004,846,00015/1003,400,000一部認容18-433,363,0004,846,00015/1003,400,000一部認容18-533,363,0004,926,00015/1003,400,000一部認容19-111,000,000520,0005/100400,000一部認容19-211,000,000300,0003/100200,000一部認容20-131,405,000550,0002/100400,000一部認容20-231,405,000110,0001/100100,000一部認容20-331,405,00030,0001/100 棄却20-430,580,000 棄却20-522,000,000 一部認容21-141,668,0004,926,00012/1003,400,000一部認容21-248,375,2237,795,82916/1005,500,000一部認容21-331,020,0004,926,00016/1003,400,000一部認容22-175,508,820819,3331/100600,000一部認容22-326,008,415177,3331/100100,000一部認容22-426,008,414177,3331/100100,000一部認容23-171,607,69013,958,97519/1009,800,000一部認容23-239,537,6394,924,00012/1003,400,000棄却23-333,000,000 一部認容23-4 19/1009,800,000一部認容23-239,537,6394,924,00012/1003,400,000棄却23-333,000,000 一部認容23-433,000,0004,404,00013/1003,100,000一部認容23-533,000,0004,404,00013/1003,100,000一部認容24-142,020,0004,930,00012/1003,500,000一部認容24-242,020,0004,930,00012/1003,500,000一部認容24-342,020,0004,930,00012/1003,500,000一部認容25-144,000,0008,861,00020/1006,200,000 認容/棄却の別原告番号原告氏名請求額(円)認容額(円)訴訟費用(被告ら負担割合)担保額(円)一部認容25-222,000,0004,926,00022/1003,400,000一部認容26-247,817,00025,0001/100 一部認容26-337,191,000520,0001/100400,000棄却26-45,313,000 棄却26-55,313,000 一部認容27-135,816,000570,0002/100400,000一部認容27-235,552,000740,0002/100500,000棄却 22,000,000 一部認容 71,561,6207,873,23511/1005,500,000一部認容31-122,000,0004,812,00022/ 22,000,000 一部認容 71,561,6207,873,23511/1005,500,000一部認容31-122,000,0004,812,00022/1003,400,000棄却31-222,000,000 一部認容32-122,000,000310,0001/100200,000棄却32-222,000,000 一部認容33-135,860,000520,0001/100400,000一部認容33-235,860,000300,0001/100200,000一部認容 31,900,0003,820,00012/1002,700,000一部認容35-164,139,8189,604,13315/1006,700,000一部認容35-240,986,8408,210,75320/1005,700,000一部認容35-337,604,4637,964,11521/1005,600,000一部認容35-441,514,0004,950,00012/1003,500,000一部認容35-529,370,0004,950,00017/1003,500,000一部認容36-111,000,000190,0002/100100,000一部認容36-211,000,000300,0003/100200,000一部認容36-311,000,000300,0003/100200,000一部認容37-185,093,8008,470,86910/1005,900,000一部認容37-245,419,0004,674,00010/1003,300 200,000一部認容37-185,093,8008,470,86910/1005,900,000一部認容37-245,419,0004,674,00010/1003,300,000一部認容37-339,710,0004,904,00012/1003,400,000一部認容 10,000,000190,0002/100100,000一部認容39-133,000,0002,971,0009/1002,100,000一部認容39-233,000,0003,176,00010/1002,200,000一部認容39-333,000,0002,450,0007/1001,700,000一部認容40-116,500,0003,239,00020/1002,300,000棄却40-311,000,000 棄却40-411,000,000 一部認容40-511,000,000770,0007/100500,000棄却40-611,000,000 一部認容40-75,500,0003,239,00059/1002,300,000一部認容41-114,080,000610,0004/100400,000 認容/棄却の別原告番号原告氏名請求額(円)認容額(円)訴訟費用(被告ら負担割合)担保額(円)棄却41-214,080,000 一部認容41-314,080,000960,0007/100700,000一部認容41-414,080,000960,0007/100700,000一部認容41-514,080,000960,0007/100700,0 7/100700,000一部認容41-414,080,000960,0007/100700,000一部認容41-514,080,000960,0007/100700,000一部認容 33,000,000190,0001/100100,000一部認容43-138,940,000660,0002/100500,000一部認容43-238,940,000482,0001/100300,000一部認容43-338,940,00092,0001/100100,000一部認容43-438,940,00092,0001/100100,000一部認容44-146,114,0965,874,28913/1004,100,000一部認容44-233,430,1394,928,00015/1003,400,000一部認容45-122,000,000524,0002/100400,000棄却45-222,000,000 棄却45-322,000,000 一部認容45-422,000,000524,0002/100400,000一部認容45-522,000,000354,0002/100200,000一部認容46-110,000,000568,6566/100400,000一部認容46-210,000,000300,0003/100200,000一部認容47-235,750,0004,924,00014/1003,400,000一部認容47-335,750,0004,924,00014/1003,400,000棄却48-13,850,000 棄却 4,00014/1003,400,000一部認容47-335,750,0004,924,00014/1003,400,000棄却48-13,850,000 棄却48-23,850,000 棄却48-33,850,000 一部認容48-411,000,0001,650,00015/1001,200,000一部認容49-130,470,000527,0002/100400,000一部認容49-239,325,000527,0001/100400,000一部認容49-339,325,000307,0001/100200,000一部認容49-439,325,000307,0001/100200,000一部認容49-539,325,000307,0001/100200,000一部認容50-111,000,000520,0005/100400,000一部認容50-211,000,000300,0003/100200,000一部認容50-311,000,000300,0003/100200,000一部認容51-127,555,000880,0003/100600,000一部認容51-227,555,000880,0003/100600,000一部認容51-327,555,000440,0002/100300,000一部認容51-427,555,000440,0002/100300,000一部認容 22,000,0004,128,74219/1002,900,000一部認容53-116,603,381610,0004/100400,000 認容 00,000一部認容 22,000,0004,128,74219/1002,900,000一部認容53-116,603,381610,0004/100400,000 認容/棄却の別原告番号原告氏名請求額(円)認容額(円)訴訟費用(被告ら負担割合)担保額(円)一部認容53-211,000,000610,0006/100400,000一部認容53-311,000,000740,0007/100500,000一部認容53-411,000,000740,0007/100500,000一部認容53-511,000,000740,0007/100500,000一部認容 42,613,9321,890,6634/1001,300,000一部認容 54,299,3005,242,13010/1003,700,000棄却56-133,000,000 一部認容56-233,000,000526,0002/100400,000一部認容57-147,865,8892,576,5255/1001,800,000一部認容57-233,000,00014,856,00045/10010,400,000一部認容57-322,000,0003,856,00018/1002,700,000一部認容57-422,000,0002,810,00013/1002,000,000一部認容57-522,000,0003,430,00016/1002,400,000一部認容58-122,000,0001,544,0007/1001,100,000一部認容58-222,000,0007,154,0 430,00016/1002,400,000一部認容58-122,000,0001,544,0007/1001,100,000一部認容58-222,000,0007,154,00033/1005,000,000一部認容58-322,000,0007,154,00033/1005,000,000一部認容58-422,000,0007,154,00033/1005,000,000一部認容58-522,000,0007,154,00033/1005,000,000一部認容 25,630,66025,0001/100 一部認容60-238,500,0003,390,0009/1002,400,000一部認容61-133,550,000770,0002/100500,000一部認容61-233,550,000770,0002/100500,000棄却61-333,550,000 棄却61-433,550,000 棄却61-533,550,000 原告ら総数175名合計5,403,088,790419,637,304 (別紙)細目次 〈第1分冊〉第1章請求 ................................................... 4第2章事案の概要 ............................................. 5 第1節請求の概要 ..................................................... 5第2節前提となる事実 .......................... 求の概要 ..................................................... 5第2節前提となる事実 ................................................. 6第1 東日本大震災発生,津波の発生 ................................... 6 1 本件地震の概要 ................................................. 6 2 本件津波の発生 ................................................. 6 3 本件地震及び本件津波による被害 ................................. 6第2 福島第一原発の概要 ............................................. 7 1 施設の概要,規模,性能,設置経緯等 ............................. 7 2 施設の配置,構造等 ............................................. 7 3 発電の基本原理及び原子炉の基本的な構造 ......................... 7 4 原子炉施設の安全を確保するための仕組み ......................... 8⑴ 止める機能(原子炉停止機能) ................................. 9⑵ 冷やす機能(原子炉冷却機能) ................................. 9⑶ 閉じ込める機能(格納機能) ......................... . 9⑵ 冷やす機能(原子炉冷却機能) ................................. 9⑶ 閉じ込める機能(格納機能) ................................... 9第3 本件事故の概要 ................................................ 10 1 福島第一原発で観測された本件地震及び本件津波 .................. 10 2 本件津波による福島第一原発主要施設の浸水概要 .................. 10 3 福島第一原発における被害の概要(1~4号機関連) .............. 10⑴ 1号機 ...................................................... 11⑵ 2号機 ...................................................... 11 ⑶ 3号機 ...................................................... 11 4 本件事故に伴う被災状況 ........................................ 12⑴ 放射性物質の放出状況 ........................................ 12⑵ 本件事故後の避難の概況 ...................................... 12第4 本件事故後の救済措置の概況 .................................... 12 1 原子力損害賠償紛争審査会による指針類の策定 ................ 第4 本件事故後の救済措置の概況 .................................... 12 1 原子力損害賠償紛争審査会による指針類の策定 .................... 12 2 原賠センターの和解仲介手続(ADR) .......................... 13 3 被告東電の自主的賠償基準の策定及び被告東電に対する直接請求 .... 13 4 その他の賠償請求 .............................................. 14第5 原子力事業の安全規制に関する状況(本件事故時) ................ 14 1 法令等の定め .................................................. 14 2 原子炉施設の設計及び建設に関する規制上の手続 .................. 14⑴ 原子炉施設設置許可の枠組み .................................. 14⑵ 安全審査等において用いられる指針 ............................ 15⑶ 耐震についての審査指針 ...................................... 16 3 原子力安全に関する規制機関 .................................... 16 4 地震・津波に関する防災行政担当機関 ............................ 16⑴ 中央防災会議 ................................................ 16⑵ 地震調査研究推進本部 ................ .... 16⑴ 中央防災会議 ................................................ 16⑵ 地震調査研究推進本部 ........................................ 17⑶ 中央防災会議と地震本部の関係 ................................ 18 5 事業者団体等 .................................................. 18 ⑴ 電気事業連合会 .............................................. 18⑵ 土木学会 .................................................... 19第3章争点及びこれに関する当事者の主張 ...................... 20第1節本件の争点 .................................................... 20第1 責任論 ........................................................ 20 第2 損害総論ないし損害各論の総論 .................................. 20 第3 損害各論 ...................................................... 20第2節争点に関する当事者の主張 ...................................... 21第1 争点1(被告東電に対する一般不法行為に基づく請求の可否)について........... する当事者の主張 ...................................... 21第1 争点1(被告東電に対する一般不法行為に基づく請求の可否)について.................................................................... 21 1 原告らの主張 .................................................. 21 2 被告東電の主張 ................................................ 22第2 争点2(本件事故の予見可能性に関する議論の前提としての予見の対象)について ............................................................ 23 1 原告らの主張 .................................................. 23 2 被告国の主張 .................................................. 24 ⑴ 国賠法上の法的義務違背の前提となる予見可能性 ................ 24⑵ 本件における予見可能性の対象 ................................ 24 3 被告東電の主張 ................................................ 26第3 争点3(本件事故の予見可能性)について ........................ 27 1 原告らの主張 ............................................. (本件事故の予見可能性)について ........................ 27 1 原告らの主張 .................................................. 27 ⑴ 津波に関する知見に基づき,平成14年頃には予見可能性があったこと................................................................ 27ア 4省庁報告書 .............................................. 27(ア) 4省庁報告書の策定 ...................................................................................... 27(イ) 4省庁報告書の内容 ...................................................................................... 27 (ウ) まとめ ............................................................................................................ 29イ 7省庁手引き,津波災害予測マニュアル及び津波浸水予測図 .... 29(ア) 7省庁手引き及び津波災害予測マニュアルの作成 ....................................... 29(イ) 津波災害予測マニュアルに基づく津波浸水予測図の重要性 ........................ 30(ウ) 津波浸水予測図に基づく認 ................... 29(イ) 津波災害予測マニュアルに基づく津波浸水予測図の重要性 ........................ 30(ウ) 津波浸水予測図に基づく認識・予見の内容 .................................................. 31 (エ) まとめ ............................................................................................................ 32 ウ地震本部の長期評価と被告らの予見可能性 .................... 32(ア) はじめに ........................................................................................................ 32(イ) 地震本部の設立及び長期評価の意義について .............................................. 33a 地震本部の設立の経緯 ............................................................................... 33b 中央防災会議との関係について ................................................................ 34 (ウ) 地震本部の長期評価の内容 ............................................................... ............ 34 (ウ) 地震本部の長期評価の内容 ........................................................................... 35a 長期評価による「次の地震」の予測 ......................................................... 35b 長期評価の根拠と正当性 ........................................................................... 36(エ) 被告らは長期評価に基づいて敷地高10mを超える津波の発生を予見することができたこと ..................................................................................................... 37 (オ) 長期評価に対する被告らの対応 .................................................................... 38a 長期評価発表直前において内閣府が発表阻止の画策をしたこと ............. 38b 長期評価発表後において被告東電が対策を検討すらしなかったこと ...... 41c 電力会社側の姿勢と規制庁の受け入れ...................................................... 42d その後の被告らの長期評価に対する対応 .................................................. 44 e 長期評価に対 ....... 42d その後の被告らの長期評価に対する対応 .................................................. 44 e 長期評価に対する被告らの対応と予見可能性 ........................................... 45エ小括 ...................................................... 45⑵ 平成18年時点又は,遅くとも平成21年~22年の時点で予見可能性があったこと(予備的主張) ...................................... 46ア国内外で実際に発生した原子力発電所の溢水事故等 ............ 46 (ア) 被告東電における平成3年の海水漏えい事故 .............................................. 46(イ) フランスのルブレイエ原子力発電所事故 ..................................................... 47(ウ) インドのマドラス原発の事故による電源喪失事故 ....................................... 47(エ) 米国キウォーニー原発における対策 ............................................................. 48イ安全情報検討会 ............................................ 48 (ア) 安全情報検討会の設置 ......................................... ................................... 48 (ア) 安全情報検討会の設置 ................................................................................... 48 (イ) 安全情報検討会における具体的な検討内容 .................................................. 49ウ溢水勉強会 ................................................ 50(ア) 開催の提案 ..................................................................................................... 50(イ) 第3回溢水勉強会の開催 ............................................................................... 50(ウ) 小括 ................................................................................................................ 50 エ明治三陸沖地震についてのさらなる知見の進展 ................ 51オ福島沖の日本海溝でも津波地震が起きるとのアンケート回答 .... 51カマイアミ論文における知見 .................................. 52(ア) マイアミ論文の概要 ............ るとのアンケート回答 .... 51カマイアミ論文における知見 .................................. 52(ア) マイアミ論文の概要 ...................................................................................... 52(イ) マイアミ論文におけるMw(モーメントマグニチュード)の仮定 ............. 52 (ウ) 最大Mw(モーメントマグニチュード)8.5を想定していること .......... 53(エ) 今後50年以内に起こり得る事象の分析 ..................................................... 53キ予見可能性に関する予備的主張まとめ ........................ 53(ア) 平成18年頃に予見可能性があったこと ..................................................... 53(イ) 平成21年9月~平成22年3月に予見可能性があったこと ..................... 54 ⑶ 津波評価技術の問題性について ................................ 55ア津波評価技術は4省庁報告書・長期評価と比較して断層モデルの設定範囲が狭いこと ................................................ 55イ 「安全率」の考え方を放棄し,補正係数を1.0としたこと .... 57ウ津波評価技術は民間基準であり,規制に用いるための要件を充たして いないこと .......... .. 55イ 「安全率」の考え方を放棄し,補正係数を1.0としたこと .... 57ウ津波評価技術は民間基準であり,規制に用いるための要件を充たして いないこと .................................................... 59エ結論 ...................................................... 60⑷ 中央防災会議報告について .................................... 60ア中央防災会議が長期評価を採用しなかったこと自体が問題であること ............................................................ 60 イ中央防災会議においても反対の意見が多数出ていたこと ........ 60 ウ中央防災会議の最終的な報告内容 ............................ 60エ小括 ...................................................... 61 2 被告国の主張 .................................................. 62⑴ 規制権限を行使すべき作為義務を生じさせるために必要な予見可能性を裏付ける科学的根拠の程度について .............................. 62 ア通説的な見解といえる程度に形成,確立した科学的根拠の必要性 62イ従来の最高裁判所の立場 .................................... 63ウ被害がいまだ発生していない場合についての 度に形成,確立した科学的根拠の必要性 62イ従来の最高裁判所の立場 .................................... 63ウ被害がいまだ発生していない場合についての考え方 ............ 65エ被害発生の切迫性 .......................................... 66オまとめ .................................................... 67 ⑵ 本件津波と同程度の津波の予見可能性 .......................... 67⑶ 敷地高を超える津波の予見可能性 .............................. 69ア福島第一原発の設置(変更)許可処分当時の考え方について .... 69イ 4省庁報告書と7省庁手引きについて ........................ 70(ア) 「4省庁報告書」によって導き出される津波 .............................................. 71 (イ) 7省庁手引きによって導き出される津波 ..................................................... 72(ウ) 小括 ................................................................................................................ 73ウ原告ら主張の長期評価の見解について ........................ 74(ア) 原告ら主張の長期評価の見解の内容 ....... .................. 73ウ原告ら主張の長期評価の見解について ........................ 74(ア) 原告ら主張の長期評価の見解の内容 ............................................................... 74(イ) 日本海溝沿いの北部と南部の地形・地質の違いの不考慮 ............................ 75 (ウ) 防災行政的な観点からの便宜的整理 ............................................................. 76(エ) ポアソン過程に基づく確率計算の前提としての意味合い ............................ 77(オ) 津波地震の発生メカニズムの未解明性 ......................................................... 77(カ) 長期評価の見解と整合しない文献の存在 ..................................................... 79a 都司嘉宣,上田和枝「慶長16年(1611),延宝5年(1677),宝 暦12年(1763),寛政5年(1793),および安政3年(1856)の各 三陸地震津波の検証」(平成7年)【甲C79】 .............................................. 79b 石橋克彦「史料地震学で探る1677年延宝房総沖津波地震」(平成15年)【丙C14】 ................................................... b 石橋克彦「史料地震学で探る1677年延宝房総沖津波地震」(平成15年)【丙C14】 ..................................................................................................... 79c 地震本部「日本の地震活動」(第2版)(平成21年3月)【丙C103】........................................................................................................................... 80 (キ) 地震本部地震調査委員会での異論・指摘 ..................................................... 80(ク) 長期評価の結論が地震学者の見解の最大公約数とはいえないこと ............. 81(ケ) 長期評価における地震の予測に対する評価の信頼度 ................................... 81(コ) 本件地震の規模(長期評価の想定との相違) .............................................. 82a 本件地震の規模は明治三陸地震及び貞観地震を大幅に上回ること .......... 82 b 本件地震は津波地震型及び貞観地震型の複合型であること ..................... 82c 本件地震は長期評価の想定領域で発生したものではないこと ................. 83(サ) 小括 .................................. .. 82c 本件地震は長期評価の想定領域で発生したものではないこと ................. 83(サ) 小括 ................................................................................................................ 83エ中央防災会議報告について .................................. 84(ア) 中央防災会議について ................................................................................... 84 (イ) 中央防災会議報告の判断内容 ........................................................................ 85(ウ) 小括 ................................................................................................................ 85オ 「溢水勉強会」について .................................... 86(ア) 「溢水勉強会」の趣旨について .................................................................... 86(イ) 「溢水勉強会」の検討結果について ............................................................. 87 ..... 86(イ) 「溢水勉強会」の検討結果について ............................................................. 87 カ 「貞観津波」に関する知見の進展について .................... 90(ア) 平成18年までの貞観津波に関する研究結果について ................................ 91(イ) 平成18年以降の貞観津波に関する研究結果について ................................ 92キ津波評価技術について ...................................... 94(ア) 津波評価技術による設計津波水位の評価方法 .............................................. 94 (イ) 設計想定津波の評価は既往津波の痕跡高の約2倍となっていること .......... 95 (ウ) 津波評価技術による設計想定津波の発想 ..................................................... 95(エ) 歴史上の地震を考慮しないことが不合理といえないこと ............................ 95(オ) 基準断層モデルの設定が不合理といえないこと .......................................... 96(カ) 補正係数が1.0とされたことが不合理といえないこと ............................ 96(キ) 津波評価技術は国際的にも評価された合理的手法であること ................ 0とされたことが不合理といえないこと ............................ 96(キ) 津波評価技術は国際的にも評価された合理的手法であること ..................... 97 ク 「明治三陸地震についての知見」について .................... 97ケマイアミ論文は研究途上のものであったこと .................. 98(ア) 確率論的津波ハザード解析手法について ..................................................... 98(イ) 確率論的津波ハザード解析手法は確立された手法ではなかったこと .......... 99(ウ) 地震の発生地域の設定について .................................................................. 100 (エ) 小括 .............................................................................................................. 100コ安全情報検討会について ................................... 101サ被告国は平成20年試算の存在を知り得なかったこと ......... 101シ長期評価の見解に基づく津波の福島第一原発に対する影響を自ら試算する又は被告東電に試算させる義務について ................... 102 ス敷地高を超える津波の予見可能性に関する結論 ............... 103 3 被告東電の主張 ......... 義務について ................... 102 ス敷地高を超える津波の予見可能性に関する結論 ............... 103 3 被告東電の主張 ............................................... 104⑴ 4省庁報告書について ....................................... 104⑵ 7省庁手引き,津波災害予測マニュアル及び津波浸水予測図について............................................................... 105 ⑶ 長期評価について ........................................... 105⑷ 津波評価技術について ....................................... 107⑸ 耐震バックチェックへの対応と長期評価についての検討 ......... 107ア保安院による耐震バックチェックの指示 ..................... 107イ明治三陸沖地震の波源モデルを用いた津波の試計算 ........... 109 第4 争点4(本件事故の結果回避可能性)について ................... 111 1 原告らの主張 ................................................. 111⑴ 結果回避可能性が生じる時期について ......................... 111ア平成14年以降遅くとも平成18年までの間(主位的主張) ... 111イ平成21年9月以降平成22年3月までの間(予 期について ......................... 111ア平成14年以降遅くとも平成18年までの間(主位的主張) ... 111イ平成21年9月以降平成22年3月までの間(予備的主張) ... 112⑵ 結果回避措置の具体的内容 ................................... 113 ア主位的主張 ............................................... 113(ア) 津波が直接敷地上に遡上することを防止する措置(防潮堤の設置) ........ 113(イ) 海水ポンプ(取水路)からの遡上を防止する措置 ..................................... 114(ウ) 建屋内への浸水を防止する措置 .................................................................. 114a 建屋開口部の防潮壁・防潮板の設置 ....................................................... 114 b 扉部分の水密化 ........................................................................................ 114c ケーブル・配管等の貫通部の止水処理(シーリング処理) ................... 114(エ) 建屋内に海水が侵入したことに備える措置 ................................................ 115a 重要機器の水密化 ........................ したことに備える措置 ................................................ 115a 重要機器の水密化 .................................................................................... 115b 浸水経路への堰・排水ポンプの設置 ....................................................... 115 (オ) 配電盤等の電源設備の設置場所の高所化 ................................................... 115イ予備的主張1(空冷式非常用D/G等の移設・水密化) ....... 116ウ予備的主張2(直流電源設備の移設等) ..................... 117(ア) 直流電源の機能状況 .................................................................................... 117(イ) 直流電源喪失の影響 .................................................................................... 119 (ウ) 直流電源防護のためにとり得る措置 ........................................................... 120 2 被告国の主張 ................................................. 121⑴ 結果回避可能性の判断枠組みについて ........... 120 2 被告国の主張 ................................................. 121⑴ 結果回避可能性の判断枠組みについて ......................... 121⑵ 特定の津波に対する対策として複数の対策が存在する場合の考え方 123⑶ 本件事故以前において措定し得る結果回避措置について ......... 124 ア本件事故後に講じられた規制措置について ................... 124 イ津波対策として主要施設を水密化することは後知恵であること . 124(ア) 溢水勉強会の評価について ......................................................................... 124(イ) 溢水勉強会の中で議論された建屋内の水密扉の意味合い .......................... 125ウ原告ら主張の相当程度の安全裕度について ................... 126⑷ 本件事故前の工学的知見に基づく対策を講じた場合の結果回避可能性 ............................................................... 126⑸ 原告ら主張の措置の困難性 ................................... 127ア水密化について ........................................... 127イ電源設備の高所設置について ............................... 128ウ直流電源等の高台配備 ............................. 127イ電源設備の高所設置について ............................... 128ウ直流電源等の高台配備について ............................. 129 (ア) 接続の困難性 ............................................................................................... 129(イ) D/DFP(ディーゼルエンジン駆動の消火系ポンプ)による注水の困難性 .... 130(ウ) 消防車による注水の困難性 ......................................................................... 131(エ) HPCI(高圧注水系)の利用困難性 ....................................................... 131⑹ 本件事故前の状況及び許認可手続に要する時間等について ....... 132 ⑺ まとめ ..................................................... 134 3 被告東電の主張 ............................................... 135第5 争点5(原告ら主張の具体的結果回避措置に関して被告国が規制権限を行使することができたか)について ..................................... 137 1 原告らの主張 ............................... 使することができたか)について ..................................... 137 1 原告らの主張 ................................................. 137 ⑴ 規制権限不行使の違法性の判断枠組み ......................... 137ア規制権限不行使の違法性について判断した最高裁判例の判断枠組み............................................................. 137イ規制権限等を定めた法令の趣旨,目的,その権限の性質等について............................................................. 137 (ア) 原子力基本法(平成24年改正前) ........................................................... 137 (イ) 炉規法(核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律)(平成24年改正前) ....................................................................................................... 138(ウ) 電気事業法(平成24年改正前) .............................................................. 140(エ) 省令62号(平成23年改正前) ........................................................... ............... 140(エ) 省令62号(平成23年改正前) .............................................................. 142⑵ 被告国が規制権限を行使することができたこと ................. 142 ⑶ 伊方原発訴訟最高裁判決に関する被告国の主張について ......... 143⑷ 基本設計ないし基本的設計方針の意義について ................. 144 2 被告国の主張 ................................................. 145⑴ 炉規法の段階的規制の仕組み ................................. 146⑵ 段階的安全規制における技術基準適合命令 ..................... 147 ア段階的安全規制における技術基準の位置づけ ................. 148イ技術基準適合命令の対象 ................................... 149⑶ 基本設計ないし基本的設計方針の安全性に関わる問題についての規制権限の有無 ..................................................... 150⑷ 原告ら主張の各措置の基本設計ないし基本的設計方針への該当性 . 150 ア防潮堤の設置,海水ポンプエリアについて防水壁・防水蓋の設置について ......................................................... 150イ建屋開口部への防潮壁・防潮板の設置,建屋の外部扉の水密化,建屋の ......................................................... 150イ建屋開口部への防潮壁・防潮板の設置,建屋の外部扉の水密化,建屋の配管等の貫通部のシーリング処理,重要機器の水密化,浸水経路への堰・排水ポンプの設置,配電盤等の電源設備の設置場所の高所化について 151 ウ帰結 ..................................................... 152⑸ 省令62号と外部事象との関係 ............................... 152⑹ 改正後の炉規法について ..................................... 153ア改正後の炉規法の規定 ..................................... 153イ平成24年改正後の炉規法43条の3の23について ......... 154 ウ平成24年改正前の電気事業法40条の解釈について ......... 154 ⑺ まとめ ..................................................... 155第6 争点6(被告国が規制権限を行使できたとして,その規制権限不行使が国賠法1条1項の適用上違法となるか否か)について ..................... 156 1 原告らの主張 ................................................. 156⑴ 原子力発電事業の特殊性 ..................................... 156 ア原子力発電事業の悪影響に対する事業開始前の ........... 156⑴ 原子力発電事業の特殊性 ..................................... 156 ア原子力発電事業の悪影響に対する事業開始前の認識 ........... 156(ア) 放射線が人体に深刻な悪影響を及ぼすことの認識 ..................................... 156(イ) 他の一般的な事業と,原子力発電事業の差異 ............................................ 156イ原子力発電事業は,国が率先してその導入・拡大を図ってきた国策事業であること ................................................. 157 ウ原子力発電事業の異質かつ重大な危険性 ..................... 158エ地震や津波などの自然現象の発生し得る最大規模や,時期を正確に予測することは不可能であること ................................. 159オ原子力事業の特殊性と被告国の規制権限不行使の違法性判断 ... 160⑵ 規制権限不行使の違法性の判断枠組み ......................... 160 ⑶ 本件における被告国の規制権限不行使の違法性 ................. 161ア保護法益の重大性について ................................. 161イ本件事故の予見可能性について ............................. 162ウ本件事故の結果回避可能性について ......................... 163エ 事故の予見可能性について ............................. 162ウ本件事故の結果回避可能性について ......................... 163エ結果回避措置をとり得る主体の非代替性(被告国への期待可能性) ............................................................. 163オ規制権限不行使の違法 ..................................... 164 2 被告国の主張 ................................................. 164⑴ 規制権限不行使の違法性の判断枠組み及びその考慮要素について . 164⑵ 原子力規制に関する法令の趣旨・目的について ................. 165 ア原子力規制において求められる安全性の内容について ......... 165 イ原子炉の安全確保に関する被告国の二次的・補完的責任 ....... 166(ア) 各種法令の定めについて ............................................................................. 166(イ) 被告国が原子力発電所事業を推進したという事実との関係 ...................... 168ウ規制権限の性質(規制権限行使における専門性及び裁量性など)について ......................................................... 169 (ア) 原子力発電施設に係る「相対的安全性」の判断についての行政庁の裁量 ...................................................... 169 (ア) 原子力発電施設に係る「相対的安全性」の判断についての行政庁の裁量 169(イ) 規制権限の行使に当たって必要となる科学的,専門技術的判断 ............... 170(ウ) 「グレーデットアプローチ」について ....................................................... 171⑶ 被害の予見可能性・切迫性について ........................... 172ア本件事故前における予見可能性・切迫性に関する事情 ......... 172 イ本件事故前に認識されていた課題 ........................... 173ウまとめ ................................................... 175⑷ 結果回避可能性について ..................................... 175⑸ 現実に実施された措置(対応)の合理性について ................. 175ア総論 ..................................................... 175 イ長期評価の見解を確率論において取扱う旨の被告東電の方針に対する被告国の了承 ............................................... 176ウ被告国の措置の合理性 ..................................... 177エまとめ ................. ............... 176ウ被告国の措置の合理性 ..................................... 177エまとめ ................................................... 177⑹ 規制権限行使以外の手段による結果回避困難性(規制対象者の結果回避 に向けた活動が期待できないこと) ............................... 177ア 「規制対象者による結果回避が期待できないこと」の意味合い . 178イ被告国の二次的・補完的責任 ............................... 178ウ被告東電によって津波対策が適切にされることが期待できる状況であったこと ................................................... 178 ⑺ まとめ ..................................................... 179 第7 争点7(被告東電の責任と被告国の責任の関係)について ......... 180 1 原告らの主張 ................................................. 180 2 被告国の主張 ................................................. 180第8 争点8(本件で賠償の対象となるべき精神的損害の範囲及び法的性質並びに慰謝料の額)について ............................................. 182 1 原告らの主張 .................... 性質並びに慰謝料の額)について ............................................. 182 1 原告らの主張 ................................................. 182⑴ 総論 ....................................................... 182ア原告らの被侵害利益 ....................................... 182イ不法行為法における損害賠償の基本原理 ..................... 183ウ本件の賠償において考慮すべき要素 ......................... 184 エ本件の賠償額算定の一般論 ................................. 185⑵ 精神的損害についての考え方 ................................. 185ア避難生活に伴う慰謝料 ..................................... 185(ア) 結論 .............................................................................................................. 185(イ) 原則月額35万円であるべきことの根拠 ................................................... 186 (ウ) 避難区域指定の有無で慰謝料は変わらないこと ........................................ ...................... 186 (ウ) 避難区域指定の有無で慰謝料は変わらないこと ........................................ 187(エ) 小括 .............................................................................................................. 188イふるさと喪失・生活破壊慰謝料 ............................. 188(ア) 避難慰謝料との関係 .................................................................................... 188(イ) 「ふるさと喪失・生活破壊慰謝料」を基礎づける事実 .............................. 189 a 「ふるさと」の喪失 ................................................................................. 189b 住環境の喪失 ............................................................................................ 189c 学びの環境の喪失 .................................................................................... 190d 職場・人生設計の喪失 ............................ ..................................................... 190d 職場・人生設計の喪失 ............................................................................. 190e 被ばくの影響に対する恐怖 ...................................................................... 190 f 周囲の人間関係の悪化 ............................................................................. 191 g 家族・親族関係の悪化 ............................................................................. 191(ウ) 慰謝料額 ...................................................................................................... 191(エ) 小括 .............................................................................................................. 192(オ) 単身赴任者等について ................................................................................. 192 2 被告東電の主張 いて ................................................................................. 192 2 被告東電の主張 ............................................... 192 ⑴ 避難指示区域の居住者に係る慰謝料について ................... 193ア被侵害利益の具体的内容 ................................... 193イ被告東電の精神的損害の賠償の考え方 ....................... 194(ア) 帰還困難区域について ................................................................................. 194(イ) 居住制限区域・避難指示解除準備区域について ........................................ 195 ウ避難慰謝料について ....................................... 196(ア) 中間指針等の意義 ........................................................................................ 196a 中間指針等とは ........................................................................................ 196b 本件事故に関する審査会の設置 ............................. ................................................ 196b 本件事故に関する審査会の設置 .............................................................. 197c 中間指針等が果たしてきた役割 .............................................................. 198 (イ) 中間指針等が定める慰謝料額について ....................................................... 199a 個別の慰謝料額の算定を省略した一律賠償であること .......................... 200b 審査会における審議の経緯 ...................................................................... 200c 本来原告個々の慰謝料額を算定すべきであること ................................. 202d 大量・迅速処理の要請に基づく中間指針等の賠償額の設定 ................... 202 e 原賠審における過去の裁判例についての検討 ......................................... 204fADRについて ........................................................................................ 205(ウ) 平穏な日常生活とその基盤の喪失による精神的苦痛の取扱い ........... ................................................... 205(ウ) 平穏な日常生活とその基盤の喪失による精神的苦痛の取扱い ................... 206(エ) 「1人月額10万円」の合理性 .................................................................. 207a 「合理的に算定した一定額の賠償」として定められていること ........... 208 b 負傷を伴う場合における自動車損害賠償責任保険等の基準を参考としてい ること .............................................................................................................. 208c 時間の経過に伴う賠償額の逓減がなされていないこと .......................... 208d 避難費用,就労不能損害,営業損害,財物損害等について別途賠償されるものであること ............................................................................................... 209e 1人当たりの賠償額であること .............................................................. 209 f まとめ ................................................................................... .. 209 f まとめ ....................................................................................................... 209(オ) 交通事故に関する「赤い本」に準拠した慰謝料額との比較 ...................... 210(カ) 結論 .............................................................................................................. 212エふるさと喪失慰謝料について ............................... 212(ア) 被侵害利益の具体的な内容 ......................................................................... 212 (イ) 帰還困難区域等の旧居住者の慰謝料額 ....................................................... 216(ウ) 旧居住制限区域及び旧避難指示解除準備区域の居住者の慰謝料額 ........... 219a 生活環境や生活基盤の喪失についての取扱い ......................................... 219b 権利侵害状態が継続していると評価することはできないこと ............... 221c 避難慰謝料と生活基盤の破壊・喪失等に係る慰謝料の関係 ................... 224 d 1人当たり850万円という慰謝料額の十分性 .. .......... 221c 避難慰謝料と生活基盤の破壊・喪失等に係る慰謝料の関係 ................... 224 d 1人当たり850万円という慰謝料額の十分性 ..................................... 224e 小括 .......................................................................................................... 225オまとめ ................................................... 225⑵ 旧緊急時避難準備区域の居住者に係る慰謝料について ........... 225ア基礎となる事情 ........................................... 225 (ア) 避難の任意性 ............................................................................................... 226(イ) 本件事故後の状況 ........................................................................................ 226イ旧緊急時避難準備区域の居住者の慰謝料額について ........... 227(ア) 被侵害利益について .................................................................................... 227(イ) 強制 ついて .................................................................................... 227(イ) 強制的に避難が求められた区域との比較 ................................................... 227 (ウ) 中間指針等が定める慰謝料額の合理性 ....................................................... 230 a 1人当たり月額10万円の慰謝料額について ......................................... 230b 時間の経過によって減額されず,区域指定の解除後も11か月間にわたって継続して賠償されること ............................................................................. 230c 賠償終期の考え方 .................................................................................... 231d 避難費用,就労不能損害,営業損害などの財産的損害は別途賠償の対象と なること .......................................................................................................... 232e 小括 ..................................................................... .................... 232e 小括 .......................................................................................................... 233⑶ 旧屋内退避区域及び南相馬市要請区域の居住者に係る慰謝料について............................................................... 233ア旧屋内退避区域及び南相馬市要請区域の概要 ................. 233 (ア) 旧屋内退避区域における指示の内容,対象範囲及び対象期間について .... 233(イ) 南相馬市要請区域における指示の内容,対象範囲及び対象期間について 234イ基礎となる事情 ........................................... 234(ア) 避難の任意性 ............................................................................................... 234(イ) 福島第一原発からの距離 ............................................................................. 235 (ウ) 指定又は要請の対象期間 ............................................................................. 235(エ) 本件事故後の状況 ............................. .................................................... 235(エ) 本件事故後の状況 ........................................................................................ 235ウ旧屋内退避区域等の住民に係る精神的損害の賠償対象期間及び慰謝料額 ......................................................... 236(ア) 中間指針の考え方 ........................................................................................ 236 a 慰謝料額 ................................................................................................... 236b 賠償終期 ................................................................................................... 236(イ) 被告東電の賠償の考え方 ............................................................................. 236(ウ) 賠償対象期間の検討 .................................................................................... 236 ) 賠償対象期間の検討 .................................................................................... 236(エ) 慰謝料額の合理性 ........................................................................................ 238 ⑷ 避難指示の対象とされていない区域に居住する住民に係る慰謝料につ いて ........................................................... 240ア基礎となる事情 ........................................... 240イ被侵害利益について ....................................... 241ウ賠償対象期間について ..................................... 244(ア) 大人(妊婦・子ども以外)の賠償期間について ........................................ 244 a 精神的損害の賠償対象期間 ...................................................................... 244b 中間指針追補の考え方 ............................................................................. 244c 避難者も滞在者も同様であること ........................... ................................................. 244c 避難者も滞在者も同様であること ........................................................... 245(イ) 妊婦・子どもの自主的避難等対象者の精神的損害の賠償対象期間について............................................................................................................................. 246 (ウ) 大人の同伴者である自主的避難等対象者の精神的損害の賠償対象期間について ......................................................................................................................... 247エ賠償額について ........................................... 247(ア) 大人(妊婦・子ども以外)について(同伴者を含む。) ............................ 247(イ) 妊婦・子どもについて ................................................................................. 249 (ウ) 自主的避難実行者と滞在者の損害額について ............................................ 250オ中間指針等の考え方について (ウ) 自主的避難実行者と滞在者の損害額について ............................................ 250オ中間指針等の考え方について ............................... 250カ小括 ..................................................... 252キ区域外の居住者(単身赴任者等)の損害に関する考え方 ....... 253 3 被告国の主張 ................................................. 253 第9 争点9(避難指示区域の指定がない居住地から避難した場合の避難の合理性)について ....................................................... 255 1 原告らの主張 ................................................. 255⑴ 低線量被ばくの健康影響について ............................. 255ア基本的考え方 ............................................. 255 イ被ばくの健康影響が「科学的に実証される」ことの意味 ....... 255 ウ LNTモデルが「科学的に実証されていない」ということの正確な意味 ........................................................... 256エ低線量被ばくにおいて統計上の有意差が確認できていないことの要因と克服の可能性 .............. ...................................... 256エ低線量被ばくにおいて統計上の有意差が確認できていないことの要因と克服の可能性 ............................................. 257(ア) 疫学データ上の限界 .................................................................................... 257 (イ) 統計上の検出力の問題 ................................................................................. 257オ統計上の有意差未確認と低線量被ばくの健康影響 ............. 258カ LNTモデルに対する合理的な支持 ......................... 259キ放射線の健康影響についての司法判断の手法とその到達点 ..... 260ク低線量被ばくの健康影響に関する司法判断の到達点 ........... 262 ケ DDREF(線量・線量率効果係数)について ............... 263コ原告らの従来の居住地の累積被ばく線量について ............. 265(ア) 累積被ばく線量積算の想定条件 .................................................................. 265(イ) 原告らの従前の居住地の累積被ばく線量 ................................................... 268⑵ 避難行動の相当性,避難 . 265(イ) 原告らの従前の居住地の累積被ばく線量 ................................................... 268⑵ 避難行動の相当性,避難指示等区域設定の不合理性 ............. 268 ⑶ 避難を継続することの相当性 ................................. 270ア放射線被ばくによる健康被害のおそれと放射性物質の汚染状況等 270イ放射性物質の汚染状況の継続等 ............................. 271ウ避難指示等対象区域外からの避難者が多いこと ............... 271(ア) 区域外避難者の人数は政府等の発表よりも多いこと ................................. 271 (イ) 全避難者における区域外避難者の割合,人数とその継続 .......................... 271(ウ) 避難指示等対象区域からの避難者においても避難指示によらずに避難するとの判断をした者は少なくなかったこと ............................................................... 271(エ) 小括 .............................................................................................................. 272エ報道等からみた避難継続の相当性 ........................... 272 オ放射性物質の汚染による原告らの事故時住所及び生活圏の生活の変 . 272エ報道等からみた避難継続の相当性 ........................... 272 オ放射性物質の汚染による原告らの事故時住所及び生活圏の生活の変 容 ........................................................... 272(ア) 原告らの事故時住所及び生活圏の変容 ....................................................... 272(イ) 商業,経済構造の変化 ................................................................................. 273カ福島で暮らす住民らに対するアンケート結果 ................. 273キ除染の不十分さ ........................................... 274 ク再度の事故の不安 ......................................... 274ケ避難先での定着や帰還先の喪失 ............................. 275コ体調不良や健康不安 ....................................... 276サ治安の悪化 ............................................... 276シ中間指針第二次追補の意義とその限界 ....................... 277 ス小括 ..................................................... の意義とその限界 ....................... 277 ス小括 ..................................................... 278 2 被告東電の主張 ............................................... 278⑴ 放射性物質・放射線とは ..................................... 278ア放射性物質・放射線とは ................................... 278イ自然放射線と人工放射線 ................................... 279 ウ放射線被ばく ............................................. 280⑵ 放射線と健康影響に関する科学的知見 ......................... 281ア低線量被ばくWG報告書において整理されている科学的知見と国際的合意 ....................................................... 281イ財団法人放射線影響協会の見解 ............................. 284 ウ経済産業省の説明資料について ............................. 285エまとめ ................................................... 286⑶ 放射線防護の考え方 ......................................... 287ア ICRPの勧告による放射線防護の考え方 .............. 286⑶ 放射線防護の考え方 ......................................... 287ア ICRPの勧告による放射線防護の考え方 ................... 287イ低線量被ばくにおけるしきい値について ..................... 288 ウ日本の放射線防護体制 ..................................... 290 エ福島県内の学校等の校舎・校庭の利用に関する取扱い ......... 291オ IAEA国際フォローアップミッション最終報告書 ........... 292カ原子力規制委員会の見解 ................................... 293キまとめ ................................................... 294⑷ 政府による避難指示が年間20mSv の基準を採用していること .... 295 ⑸ まとめ ..................................................... 295 3 被告国の主張 ................................................. 296⑴ 低線量被ばくの健康影響に対する不安感についての賠償の考え方 . 296ア慰謝料の支払が必要な程度の精神的苦痛についての考え方 ..... 296イ健康被害のリスクが他の要因による影響に隠れてしまうほど小さい と考えられる事象に対する単なる不安感について ................. 296ウ危険が現実化する客観的・科学的根拠を 康被害のリスクが他の要因による影響に隠れてしまうほど小さい と考えられる事象に対する単なる不安感について ................. 296ウ危険が現実化する客観的・科学的根拠を不要とする原告らの主張について ......................................................... 298⑵ 原告らの元居住地における本件事故後50年における積算空間線量に関する主張について ............................................. 300 第10 争点10(主な財物損害についての損害認定の在り方)について . 302 1 原告らの主張 ................................................. 302⑴ 総論 ....................................................... 302⑵ 居住用土地 ................................................. 304⑶ 居住用不動産(建物) ....................................... 304 ⑷ 家財 ....................................................... 305 2 被告東電の主張 ............................................... 306⑴ 不動産の財物損害に関する主張について ....................... 306ア損害概念 ....................................... ⑴ 不動産の財物損害に関する主張について ....................... 306ア損害概念 ................................................. 306イ再取得価格は損害ではないこと ............................. 306 ウ損害について主張立証を欠くこと ........................... 307 エ中間指針等に基づく賠償は十分なものであること ............. 308⑵ 家財の財物損害に関する主張について ......................... 309 3 被告国の主張 ................................................. 309第11 争点11(弁済の抗弁の肯否)について ....................... 310 1 被告東電の主張 ............................................... 310 ⑴ 総論 ....................................................... 310⑵ 避難慰謝料の補完的機能 ..................................... 310⑶ 原告らが主張する生活破壊慰謝料の補完的機能 ................. 310⑷ 結論 ....................................................... 311 2 被告国の主張 ................................................. .................................... 311 2 被告国の主張 ................................................. 311 3 原告らの主張 ................................................. 311第12 争点12(損害発生の有無及びその数額)について ............. 312 1 原告番号2の世帯について ..................................... 312⑴ 原告番号2らの主張 ......................................... 312ア長女への賃料相当額について ............................... 312 イ駐車場賃料について ....................................... 313ウ賠償説明会等への交通費について ........................... 313⑵ 被告東電の主張 ............................................. 313ア長女への賃料相当額について ............................... 313イ駐車場賃料について ....................................... 313 ウ賠償説明会等への交通費について ........................... 314エ陳述書が反対尋問を経ていないこと ......................... 314⑶ 被告国の主張 ............ ....................... 314エ陳述書が反対尋問を経ていないこと ......................... 314⑶ 被告国の主張 ............................................... 314 2 原告番号4の世帯について ..................................... 314⑴ 原告番号4らの主張 ......................................... 314 ア就労不能損害について ..................................... 314 (ア) 原告番号4-1 ............................................................................................ 314(イ) 原告番号4-4 ............................................................................................ 314イ宿泊費について ........................................... 315⑵ 被告東電の主張 ............................................. 315ア就労不能損害について ..................................... 315 (ア) 原告番号4-1 ................................................................. .............. 315 (ア) 原告番号4-1 ............................................................................................ 315(イ) 原告番号4-4 ............................................................................................ 316イ宿泊費について ........................................... 316⑶ 被告国の主張 ............................................... 316 3 原告番号5の世帯について ..................................... 316 ⑴ 原告番号5らの主張(通院慰謝料及び後遺障害慰謝料) ......... 316⑵ 被告東電の主張 ............................................. 316⑶ 被告国の主張 ............................................... 316 4 原告番号6の世帯について ..................................... 317⑴ 原告番号6らの主張 ......................................... 317 ア交通費及びレンタカー代について ........................... 317イ家具・生活雑貨購入について .................... ... 317 ア交通費及びレンタカー代について ........................... 317イ家具・生活雑貨購入について ............................... 317ウ食費の増加について ....................................... 317エ 1人暮らしの際の費用及び長男への謝礼について ............. 317⑵ 被告東電の主張 ............................................. 318 ア交通費及びレンタカー代について ........................... 318イ家具・生活雑貨購入について ............................... 318ウ食費の増加について ....................................... 318エ 1人暮らしの際の費用及び長男への謝礼について ............. 318オ陳述書が反対尋問を経ていないこと ......................... 319 ⑶ 被告国の主張 ............................................... 319 5 原告番号7の世帯について ..................................... 319⑴ 原告番号7らの主張(一時帰宅費用について) ................. 319⑵ 被告東電の主張 ............................................. 319⑶ 被告国の主張 ............... ......... 319⑵ 被告東電の主張 ............................................. 319⑶ 被告国の主張 ............................................... 319 6 原告番号10について ......................................... 319 ⑴ 原告番号10の主張 ......................................... 319ア就労不能損害について ..................................... 320イ食費増加分について ....................................... 320⑵ 被告東電の主張 ............................................. 320ア就労不能損害について ..................................... 320 イ食費増加分について ....................................... 320⑶ 被告国の主張 ............................................... 320 7 原告番号17について ......................................... 320⑴ 原告番号17の主張(就労不能損害について) ................. 320⑵ 被告東電の主張 ............................................. 321 ⑶ 被告国の主張 ...... .............. 320⑵ 被告東電の主張 ............................................. 321 ⑶ 被告国の主張 ............................................... 321 8 原告番号23の世帯について ................................... 321⑴ 原告番号23-2の主張(営業再建費用について) ............. 321⑵ 被告東電の主張..............................................321 ⑶ 被告国の主張 ............................................... 322 9 原告番号35の世帯について ................................... 322⑴ 原告番号35らの主張 ....................................... 322ア自動車について ........................................... 322イ食費の増加について ....................................... 322ウ就労不能損害について ..................................... 322 (ア) 原告番号35-1 ........................................................................................ 322 (イ) 原告番号35-2 ..... ...................................................................... 322 (イ) 原告番号35-2 ........................................................................................ 322(ウ) 原告番号35-3 ........................................................................................ 323(エ) 原告番号35-4の就労不能損害について ................................................ 323⑵ 被告東電の主張 ............................................. 323ア自動車について ........................................... 323 イ食費の増加について ....................................... 323ウ就労不能損害について ..................................... 323(ア) 原告番号35-1 ........................................................................................ 323(イ) 原告番号35-2 ...................................................................... ........... 323(イ) 原告番号35-2 ........................................................................................ 324(ウ) 原告番号35-3 ........................................................................................ 324 (エ) 原告番号35-4 ........................................................................................ 324⑶ 被告国の主張 ............................................... 324 10 原告番号46の世帯について ................................. 324⑴ 原告番号46らの主張(就労不能損害について) ............... 324⑵ 被告東電の主張 ............................................. 325 ⑶ 被告国の主張 ............................................... 325 11 原告番号52について ....................................... 325⑴ 原告番号52の主張 ......................................... 325ア生命・身体的損害について ................................. の主張 ......................................... 325ア生命・身体的損害について ................................. 325イ就労不能損害について ..................................... 325 ウ増加食費について ......................................... 326エ家賃について ............................................. 326⑵ 被告東電の主張 ............................................. 326ア生命・身体的損害について ................................. 326イ就労不能損害について ..................................... 326 ウ増加食費について ......................................... 326 エ家賃について ............................................. 326オ陳述書が反対尋問を経ていないこと ......................... 327⑶ 被告国の主張 ............................................... 327ア生命・身体的損害について ................................. 327イその他について .......................................... 体的損害について ................................. 327イその他について ........................................... 327 12 原告番号53の世帯について ................................. 327⑴ 原告番号53らの主張 ....................................... 327ア避難費用(交通費)について ............................... 327イ自治会費について ......................................... 327ウ生活費の増加について ..................................... 327 エ避難雑費について ......................................... 327⑵ 被告東電の主張 ............................................. 328ア避難費用(交通費)について ............................... 328イ自治会費について ......................................... 328ウ生活費の増加について ..................................... 328 エ避難雑費について ......................................... 328⑶ 被告国の主張 ............................................... ..................................... 328⑶ 被告国の主張 ............................................... 328ア避難雑費について ......................................... 328イその他について ........................................... 328 〈第2分冊〉第4章認定事実等 ............................................. 1第1節認定事実(本件事故発生まで) ................................... 2第1 福島第一原発の概要 ............................................. 2 1 立地条件等 ..................................................... 2 2 各種設備の配置・機能等 ......................................... 2 ⑴ 各原子炉の配置等 ............................................. 2⑵ 原子炉及び原子力発電の仕組み ................................. 3⑶ 安全確保のための諸設備の状況 ................................. 5ア止める機能(原子炉停止機能) ............................... 5イ冷やす機能(原子炉冷却機能) .............. ............. 5ア止める機能(原子炉停止機能) ............................... 5イ冷やす機能(原子炉冷却機能) ............................... 6 (ア) 1号機 .............................................................................................................. 6aCS(炉心スプレイ系) ............................................................................. 6bIC(非常用復水器) ................................................................................. 7cHPCI(高圧注水系) ............................................................................. 7dCCS(格納容器冷却系) .......................................................................... 8 (イ) 2~5号機 ....................................................................................................... 8aRCIC(原子炉隔離時冷却系) .................................. ............................................ 8aRCIC(原子炉隔離時冷却系) ............................................................... 8bRHR(残留熱除去系) ............................................................................. 9cCS及びHPCI ...................................................................................... 10(ウ) FP(消火系設備) ...................................................................................... 10 ウ閉じ込める機能(格納機能) ................................ 10(ア) 圧力容器について .......................................................................................... 11(イ) 格納容器について .......................................................................................... 12(ウ) SR弁(逃し安全弁)について .................................................................... 13 ... 12(ウ) SR弁(逃し安全弁)について .................................................................... 13エベント設備について ........................................ 13 ⑷ 電源設備の状況 .............................................. 14ア外部電源設備 .............................................. 14イ各種配電盤 ................................................ 15(ア) M/C(高圧配電盤,金属閉鎖配電盤,メタクラ) ................................... 15(イ) P/C(パワーセンター)及びMCC(モーターコントロールセンター)15 (ウ) DC(直流電源) .......................................................................................... 16 ウ非常用D/G(非常用ディーゼル発電機) .................... 16エ各種電源設備の設置場所 .................................... 16(ア) 1号機関連 ..................................................................................................... 16a タービン建屋(T/B ................................................................................... 16a タービン建屋(T/B) ........................................................................... 16b コントロール建屋 ...................................................................................... 17 (イ) 2号機関連 ..................................................................................................... 17a タービン建屋(T/B) ........................................................................... 17b コントロール建屋 ...................................................................................... 17c サービス建屋(S/B) ........................................................................... 17d 運用補助共用施設(共用プール建屋)...................................................... 17 (ウ) 3号機関連 ............... 用施設(共用プール建屋)...................................................... 17 (ウ) 3号機関連 ..................................................................................................... 18a タービン建屋(T/B) ........................................................................... 18b コントロール建屋 ...................................................................................... 18(エ) 4号機関連 ..................................................................................................... 18a タービン建屋(T/B) ........................................................................... 18 b コントロール建屋 ...................................................................................... 19c 共用プール建屋 ....................................................................................... c 共用プール建屋 .......................................................................................... 19⑸ 各種設備の駆動源 ............................................ 19ア主要計装機器 .............................................. 19イ原子炉停止機能 ............................................ 20 (ア) スクラム ........................................................................................................ 20(イ) SLC(ホウ酸水注入系) ........................................................................... 20ウ原子炉冷却機能 ............................................ 20(ア) CS(炉心スプレイ系)(1~4号機に装備) ............................................ 20(イ) IC(非常用復水器)(1号機に装備) ....................................................... 20 (ウ) RCIC(原子炉隔離時冷却系)(2~4号機に装備) .............................. 21 (エ .................. 20 (ウ) RCIC(原子炉隔離時冷却系)(2~4号機に装備) .............................. 21 (エ) HPCI(高圧注水系)(1~4号機に装備) ............................................ 21(オ) CCS(格納容器冷却系)(1号機に装備) ................................................ 22(カ) RHR(残留熱除去系)(2~4号機に装備) ............................................ 22(キ) FP(消火系設備) ...................................................................................... 22エ格納機能関係 .............................................. 22 (ア) SR弁(逃し安全弁) ................................................................................... 22(イ) ベント設備 ..................................................................................................... 23a ベント弁(AO弁) ........................................................................... ........ 23a ベント弁(AO弁) ................................................................................... 23bMO弁 ......................................................................................................... 24c ラプチャーディスク ................................................................................... 24 第2 福島第一原発の設置許可及び建設 ................................ 24 1 被告東電の原子力発電所建設地及びその敷地地盤高の検討 .......... 24 2 原子炉立地審査指針の策定 ...................................... 25 3 福島第一原発の安全審査 ........................................ 27 4 福島第一原発の建設 ............................................ 28 第3 安全設計審査指針の策定 ........................................ 28 1 敷地の自然条件に対する設計上の考慮について .................... 29⑴ 規定の内容 .................................................. 29⑵ 規定についての解説 . ................... 29⑴ 規定の内容 .................................................. 29⑵ 規定についての解説 .......................................... 29 2 非常用電源設備について ........................................ 30 ⑴ 規定の内容 .................................................. 30⑵ 規定についての解説 .......................................... 30第4 外国における原発事故の発生等 .................................. 31 1 TMI原発事故の発生及び原子力安全委員会による防災指針の策定 .. 31 2 チェルノブイリ原発事故の発生 .................................. 31 第5 アクシデントマネジメント対策の促進 ............................ 32 1 原子力安全委員会の決定 ........................................ 33⑴ 第1項 ...................................................... 33⑵ 第2項 ...................................................... 34⑶ 第3項 ...................................................... ................................ 34⑶ 第3項 ...................................................... 34⑷ 第4項 ...................................................... 34 2 資源エネルギー庁によるアクシデントマネジメント対応方針の取りまとめ ................................................................ 35第6 「津波常習地域総合防災対策指針(案)」の策定 ................... 35第7 北海道南西沖地震の発生及びこれを契機とする防災対策 ............ 36 1 北海道南西沖地震の発生 ........................................ 36 2 資源エネルギー庁による津波安全性の評価報告指示及び被告東電の報告.................................................................. 37 3 沿岸部所管省庁による津波対策の検討 ............................ 37第8 阪神・淡路大震災の発生及び地震本部の設置 ...................... 38第9 4省庁報告書等の策定 .......................................... 38 1 経緯 .......................................................... 38 2 内容 ................ .. 38 1 経緯 .......................................................... 38 2 内容 .......................................................... 39⑴ はじめに .................................................... 39⑵ 対象津波の設定 .............................................. 40ア内容 ...................................................... 40 イ解説 ...................................................... 41⑶ 福島県沿岸地域における対象津波の設定結果 .................... 42ア地震地体構造論による地域区分 .............................. 42イ想定地震の断層モデル ...................................... 42ウ想定地震の位置設定 ........................................ 42 エ津波傾向の概略的把握 ...................................... 43 ⑷ 策定に関わった専門家 ........................................ 43 3 7省庁手引き,津波災害予測マニュアル及び津波浸水予測図の策定 .. 43⑴ 7省庁手引きの策定 ....... .................................... 43 3 7省庁手引き,津波災害予測マニュアル及び津波浸水予測図の策定 .. 43⑴ 7省庁手引きの策定 .......................................... 43⑵ 津波災害予測マニュアルの策定 ................................ 44⑶ 国土庁の「津波浸水予測図」作成 .............................. 45 第10 長期評価の策定 .............................................. 46 1 地震の発生領域及び震源域の形態 ................................ 46 2 過去の震源域について .......................................... 47 3 次の地震の発生位置及び震源域の形態について .................... 47 4 地震活動 ...................................................... 47 5 過去の地震について ............................................ 47⑴ 三陸沖北部から房総沖の海溝寄りのプレート間大地震(津波地震) 47⑵ 三陸沖北部から房総沖の海溝寄りのプレート内大地震(正断層型) 48 6 次の地震について .............................................. 49⑴ 三陸沖北部から房総沖の海溝寄りのプレート間大地震(津波地震) 49 ⑵ 三陸沖北部から房総沖の海溝 ....................................... 49⑴ 三陸沖北部から房総沖の海溝寄りのプレート間大地震(津波地震) 49 ⑵ 三陸沖北部から房総沖の海溝寄りのプレート内大地震(正断層型) 49 7 信頼度について ................................................ 49⑴ ランクの意味合いについて .................................... 50ア発生領域の評価について .................................... 50イ規模の評価について ........................................ 51 ウ発生確率の評価について .................................... 51⑵ 三陸北部から房総沖の領域に関する信頼度の認定 ................ 51ア三陸北部から房総沖の海溝寄りのプレート間大地震(津波地震)について .......................................................... 51イ三陸北部から房総沖の海溝寄りのプレート内正断層型大地震につい て ............................................................ 52 第11 津波評価技術の策定 .......................................... 52 1 巻頭言 ........................................................ 52 2 設計 ........................ 52 1 巻頭言 ........................................................ 52 2 設計津波水位評価の流れ ........................................ 53⑴ 全体方針 .................................................... 53ア設計津波の対象について .................................... 53 イ想定津波の不確定性の考慮方針について ...................... 54ウ設計想定津波の妥当性の確認方法について .................... 54エ既往津波による評価方法の妥当性の確認について .............. 55⑵ 用語の定義 .................................................. 56ア設計津波水位 .............................................. 56 イ想定津波 .................................................. 56ウ設計想定津波 .............................................. 57エ基準断層モデル ............................................ 57オパラメータスタディ ........................................ 57カ想定津波群 ........... ................... 57オパラメータスタディ ........................................ 57カ想定津波群 ................................................ 57 ⑶ 既往津波の波源の設定 ........................................ 57ア対象津波の選定 ............................................ 57イ既往津波の断層モデルの設定 ................................ 57⑷ 想定津波の波源の設定(プレート境界付近に想定される地震) .... 57ア評価対象 .................................................. 57 イ基準断層モデル ............................................ 58ウ波源位置 .................................................. 58エ最大Mw(モーメントマグニチュード) ...................... 58 3 日本海溝沿い及び千島海溝(南部)沿い海域の想定津波の基準断層モデル設定方法 .......................................................... 59 第12 津波評価技術に基づく福島第一原発に関する津波評価の被告国への報 告 ......................................................... 12 津波評価技術に基づく福島第一原発に関する津波評価の被告国への報 告 .................................................................. 59 1 近地津波に関する波源モデル(基準断層モデル)の設定 ............ 59 2 パラメータスタディの結果 ...................................... 59 3 想定津波と既往津波との比較 .................................... 59 4 津波に対する安全性の評価(津波に対する敷地の安全性) .......... 60 第13 長期評価を踏まえた保安院の対応 .............................. 60 1 保安院からの質問 .............................................. 60 2 被告東電の回答 ................................................ 61⑴ 上記質問①について .......................................... 61⑵ 上記質問②について .......................................... 61 3 保安院からの指摘及び被告東電の再回答 .......................... 61⑴ 保安院からの指摘 ............................................ 62⑵ 佐竹健治への照会 ............................................ 62⑶ 被告東 .............................. 62⑵ 佐竹健治への照会 ............................................ 62⑶ 被告東電の再回答 ............................................ 63第14 各種アクシデントマネジメント策の策定及びその一環としての全交流 電源喪失事象に対する対応の検討 ...................................... 63 1 アクシデントマネジメント策整備結果についての評価 .............. 64 2 全交流電源喪失事象に関する検討 ................................ 65 3 アクシデントマネジメント整備後の確率論的安全評価に関する評価 .. 66第15 原子力安全委員会による安全目標の中間とりまとめ .............. 67 1 安全目標の検討の経緯 .......................................... 67 2 安全目標のとりまとめ内容 ...................................... 68⑴ 安全目標の構成 .............................................. 68⑵ 安全目標案の具体的内容 ...................................... 69ア定性的目標案 .............................................. 69 イ定量的目標案 ............................................. ..................................... 69 イ定量的目標案 .............................................. 69 ⑶ 課題 ........................................................ 69第16 中央防災会議による日本海溝・千島海溝専門調査会(「日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に関する専門調査会」)の設置及び検討結果 ............. 70 1 日本海溝・千島海溝専門調査会(「日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に関する専門調査会」)の設置 ........................................... 70 2 日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法に基づく推進地域の指定 .................................... 70 3 検討結果の報告 ................................................ 71⑴ はじめに .................................................... 71⑵ 日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震の地震像 .................... 72 ア日本海溝沿い,千島海溝沿いで発生した地震 .................. 72イ調査対象領域の分類 ........................................ 73ウ地震発生の特性 ............................................ 73(ア .................................. 73ウ地震発生の特性 ............................................ 73(ア) プレート間地震 .............................................................................................. 73a 三陸沖北部の領域 ...................................................................................... 73 b 三陸沖中部の領域 ...................................................................................... 74c 明治三陸地震の領域 ................................................................................... 74d (その余の領域については省略) ............................................................. 74(イ) プレート内地震 .............................................................................................. 74⑶ 防災対策の検討対象とする地震 ................................ 74 ⑷ 留意事項 ....................... ....... 74⑶ 防災対策の検討対象とする地震 ................................ 74 ⑷ 留意事項 .................................................... 75ア 869年貞観三陸沖地震 .................................... 75イ 1611年慶長三陸沖地震 .................................. 75ウ 1677年延宝房総沖地震 .................................. 76エ 1933年昭和三陸地震 .................................... 76 オなお書き .................................................. 76 ⑸ 海岸での津波高さの最大値 .................................... 76 4 防災の検討対象となる地震・津波の選定に関する議論状況 .......... 76⑴ 日本海溝・千島海溝専門調査会第2回会合 ...................... 76⑵ 日本海溝・千島海溝専門調査会第3回会合 ...................... 77⑶ 繰り返しが確認されていない地震を防災対象から外すこととなった理 由 .............................................................. 78第17 原子力発電所における溢水事故及び問題事象の発生 .............. 79 1 平成3年の福島第一原発1号機の溢水事故 ... ....................... 78第17 原子力発電所における溢水事故及び問題事象の発生 .............. 79 1 平成3年の福島第一原発1号機の溢水事故 ........................ 79 2 ルブレイエ原子力発電所の事故 .................................. 79 3 馬鞍山原子力発電所の事故 ...................................... 80 4 マドラス原子力発電所の事故 .................................... 80 5 キウォーニー原子力発電所の問題事象 ............................ 80第18 溢水勉強会の開催・検討 ...................................... 81 1 溢水勉強会の経過 .............................................. 81⑴ 第1回溢水勉強会 ............................................ 81 ⑵ 第2回溢水勉強会 ............................................ 82ア検討対象プラントの選定 .................................... 83イ外部溢水検討の具体的な手順 ................................ 83ウ内部溢水検討についての方針 ................................ 84⑶ 第3回溢水勉強会 ............................. .. 83ウ内部溢水検討についての方針 ................................ 84⑶ 第3回溢水勉強会 ............................................ 84 ア津波水位の仮定 ............................................ 85イ津波水位による機器影響評価 ................................ 85(ア) 屋外機器,建屋,構築物の影響 .................................................................... 85(イ) 建屋への浸水による機器への影響 ................................................................ 85(ウ) 上記影響が波及して機能喪失する機器 ......................................................... 86 ⑷ 第4回溢水勉強会 ............................................ 86 ⑸ 第53回安全情報検討会(平成18年8月2日) ................ 86⑹ 第7回以降 .................................................. 86 2 溢水勉強会の調査結果 .......................................... 87第19 耐震設計審査指針の改訂及び耐震バックチェックの指示 .......... 88 1 耐震設計審査指針の改定 . ................................... 87第19 耐震設計審査指針の改訂及び耐震バックチェックの指示 .......... 88 1 耐震設計審査指針の改定 ........................................ 88 ⑴ 基本方針 .................................................... 88⑵ 基本方針についての解説 ...................................... 89ア耐震設計における地震動の策定について ...................... 89イ 「残余のリスク」の存在について ............................ 89ウ地震随伴事象に対する考慮 .................................. 90 2 耐震バックチェックの指示 ...................................... 90第20 新潟中越沖地震の発生及び耐震バックチェック見直し指示 ........ 91第21 JNES(独立行政法人原子力安全基盤機構)による津波時のシナリオ検討 ................................................................ 92第22 エネ庁合同WGにおける議論及びこれを受けた保安院の対応等 .... 93 1 第32回エネ庁合同WG ........................................ 93 2 第33回エネ庁合同WG ........................................ 94 .................................... 93 2 第33回エネ庁合同WG ........................................ 94 3 原子力安全委員会のワーキンググループにおける貞観地震への言及 .. 94 4 保安院から被告東電に対する津波評価の検討指示 .................. 95 5 保安院担当者のメールでのやり取り .............................. 95 第23 地震本部による長期評価の改訂 ................................ 97第24 保安院による新たな科学的・技術的知見の継続的な収集等の取組 .. 98第25 平成23年3月7日のヒアリング .............................. 99第2節認定事実(本件事故以降) ..................................... 101第1 本件地震・本件津波の発生 ..................................... 101 第2 本件事故の発生 ............................................... 101 1 津波の到来 ................................................... 101 2 本件地震発生直後の状況 ....................................... 102⑴ 本件地震発生時のプラント稼働状況 ........................... 102⑵ 地震発生から電源喪失までの状況 ............... ......... 102⑴ 本件地震発生時のプラント稼働状況 ........................... 102⑵ 地震発生から電源喪失までの状況 ............................. 102ア 1号機の状況 ............................................. 103 イ 2号機の状況 ............................................. 103ウ 3号機の状況 ............................................. 103⑶ 本件津波の到来及び電源喪失 ................................. 103 3 電源喪失後の1号機の状況 ..................................... 104⑴ 全電源喪失及びその後のIC(非常用復水器)の動静 ........... 104 ⑵ 消防車による注水の準備 ..................................... 105⑶ 放射線量異常の検知 ......................................... 106⑷ IC(非常用復水器)の弁の開閉操作 ......................... 106⑸ 圧力容器圧力の判明及び水位計の復旧 ......................... 107⑹ IC(非常用復水器)弁の再度の開操作 ....................... 107 ⑺ 放射線量の大幅上昇 ......................................... 108⑻ D/W 操作 ....................... 107 ⑺ 放射線量の大幅上昇 ......................................... 108⑻ D/W(ドライウェル)圧力の異常検知 ....................... 108⑼ ベント準備指示 ............................................. 108⑽ 消防車による注水準備 ....................................... 109⑾ D/W圧力の急上昇及び圧力容器圧力の大幅低下 ............... 109 ⑿ 消防車による淡水注入開始 ................................... 109⒀ 放射線量の上昇 ............................................. 109⒁ 総理大臣の訪問 ............................................. 110⒂ ベント実施に向けた試行錯誤 ................................. 110⒃ 消防車注水の水源変更への準備開始 ........................... 111 ⒄ ベント準備完了及びベント実施 ............................... 111 ⒅ 海水注入準備の完了 ......................................... 111⒆ 水素爆発 ................................................... 111⒇ 海水注入の実施 .... ................ 111⒆ 水素爆発 ................................................... 111⒇ 海水注入の実施 ............................................. 1123月13日の状況 ........................................... 1123月14日の状況 ........................................... 112 3月15日以降の状況 ....................................... 113 4 電源喪失後の3号機の状況 ..................................... 113⑴ 全交流電源喪失 ............................................. 113⑵ RCIC(原子炉隔離時冷却系)の起動 ....................... 113⑶ RCICの自動停止及びHPCI(高圧注水系)の自動起動 ..... 113 ⑷ ベント準備指示 ............................................. 114⑸ HPCI(高圧注水系)停止 ................................. 114⑹ 注水手段喪失 ............................................... 115⑺ ベントに向けた本格的な準備の開始 ........................... 115⑻ 水位計復旧 ....................... ........... 115⑺ ベントに向けた本格的な準備の開始 ........................... 115⑻ 水位計復旧 ................................................. 116 ⑼ 海水注入準備開始 ........................................... 116⑽ ベントラインの構築 ......................................... 116⑾ ベント実施 ................................................. 117⑿ 淡水注入及び海水注入の開始 ................................. 117⒀ ベント弁開状態維持のための試行錯誤 ......................... 117 ⒁ 線量の顕著な上昇 ........................................... 118⒂ ベントラインの安定化 ....................................... 118⒃ 消防車による注水の停止 ..................................... 118⒄ ベントラインの不穏及び作業者一時退避 ....................... 118⒅ 海面からの直接給水ラインの完成 ............................. 119 ⒆ 3号機水素爆発 ............................................. 119 ⒇ 注水再開 ................ ⒆ 3号機水素爆発 ............................................. 119 ⒇ 注水再開 ................................................... 1193月15日以降の状況 ....................................... 119 5 電源喪失後の2号機の状況 ..................................... 120⑴ 全電源喪失及びRCIC(原子炉隔離時冷却系)の動静 ......... 120⑵ 発電所対策本部によるTAF到達予測及び水位計の復旧 ......... 120 ⑶ 原子炉隔離時冷却系(RCIC)の作動確認 ................... 120⑷ RCICの水源切替 ......................................... 120⑸ 1号機の水素爆発 ........................................... 121⑹ ベント準備指示 ............................................. 121⑺ ベント準備 ................................................. 121 ⑻ エアコンプレッサーの手配 ................................... 122⑼ 代替注水ラインの構築 ....................................... 122⑽ コンプレッサーの到着 ................................. 注水ラインの構築 ....................................... 122⑽ コンプレッサーの到着 ....................................... 122⑾ 3号機水素爆発 ............................................. 122⑿ RCIC(原子炉隔離時冷却系)の機能低下 ................... 122 ⒀ 代替注水準備に向けた議論状況 ............................... 123⒁ ベントの不奏功及びSR弁開操作の準備 ....................... 123⒂ SR弁開操作の不奏功 ....................................... 123⒃ 燃料棒の全露出 ............................................. 123⒄ 圧力容器の減圧成功及び注水開始 ............................. 124 ⒅ 圧力容器圧力・格納容器圧力の上昇 ........................... 124⒆ D/Wベントの試行 ......................................... 124⒇ 4号機水素爆発 ............................................. 1253月15日以降の状況 ....................................... 125第3 各号機における原子炉の損傷状況及び放射性物質の放出状況 ....... 125 1 1号機について ........ ............................ 125第3 各号機における原子炉の損傷状況及び放射性物質の放出状況 ....... 125 1 1号機について ............................................... 125 2 2号機について ............................................... 125 3 3号機について ............................................... 126第4 避難指示の状況 ............................................... 126 1 屋内退避区域及び緊急時避難準備区域の指定 ..................... 127 2 南相馬市による一時避難要請 ................................... 128 3 特定避難勧奨地点の指定 ....................................... 128 4 旧緊急時避難準備区域の指定解除 ............................... 129⑴ 緊急時避難準備区域指定の趣旨 ............................... 129⑵ 指定の解除 ................................................. 129⑶ 旧緊急時避難準備区域に該当する市町村 ....................... 130 ア広野町 ................................................... 131イ 町村 ....................... 130 ア広野町 ................................................... 131イ楢葉町・川内村 ........................................... 131ウ田村市 ................................................... 131エ南相馬市 ................................................. 131 5 警戒区域及び計画的避難区域の再編 ............................. 131 6 地域別の避難指示状況 ......................................... 132⑴ 大熊町 ..................................................... 132⑵ 双葉町 ..................................................... 133⑶ 富岡町 ..................................................... 133⑷ 浪江町 ..................................................... 133 ⑸ 葛尾村 ..................................................... 134⑹ 飯舘村 ..................................................... 134⑺ 川俣町 ........................ 134⑹ 飯舘村 ..................................................... 134⑺ 川俣町 ..................................................... 135⑻ 南相馬市 ................................................... 135⑼ 川内村 ..................................................... 136 ⑽ 田村市 ..................................................... 137 ⑾ 楢葉町 ..................................................... 137第5 中間指針等の発表及び被告東電の賠償基準の公表(精神的損害について)................................................................... 138 1 中間指針等の策定 ............................................. 138 2 中間指針等に定める精神的損害の賠償の内容等 ................... 139 ⑴ 避難者の定義 ............................................... 139ア避難等対象者 ............................................. 139(ア) 避難 ................. .......... 139ア避難等対象者 ............................................. 139(ア) 避難 .............................................................................................................. 139(イ) 対象区域外滞在 ............................................................................................ 139(ウ) 屋内退避 ...................................................................................................... 139 イ自主的避難等対象者 ....................................... 140⑵ 避難等対象者に対する賠償 ................................... 140ア中間指針の賠償の考え方 ................................... 140(ア) 避難に係る精神的損害 ................................................................................. 140(イ) 屋内退避に係る精神的損害 ......................................................................... 140 (イ) 屋内退避に係る精神的損害 ......................................................................... 140 (ウ) 生活費増加費用の扱い ................................................................................. 141イ中間指針における避難等に係る慰謝料の具体的金額の目安及び算定根拠 ......................................................... 141(ア) 本件事故発生時(平成23年3月)から6か月間(第1期) ................... 141a 避難の場合の金額及びその算定根拠 ....................................................... 141 b 屋内退避の場合の金額及びその根拠 ....................................................... 142(イ) 第1期終了から6か月間(第2期) ........................................................... 142(ウ) 第2期終了から終期までの期間(第3期) ................................................ 142ウ旧屋内退避区域及び地方公共団体が住民に一時避難を要請した区域について ..................................................... 143 エ中間指針第二次追補 . 共団体が住民に一時避難を要請した区域について ..................................................... 143 エ中間指針第二次追補 ....................................... 143 (ア) 期間の変更 ................................................................................................... 143(イ) 精神的損害及び生活費の増加費用の具体的損害額 ..................................... 143a 避難指示解除準備区域に設定された地域 ................................................ 144b 居住制限区域に設定された地域 .............................................................. 144c 帰還困難区域に設定された地域 .............................................................. 144 d 旧緊急時避難準備区域について .............................................................. 145e 特定避難勧奨地点について ...................................................................... 145オ中間指針第四次追補 ............................. ..................................................... 145オ中間指針第四次追補 ....................................... 145(ア) 帰還困難区域又は大熊町若しくは双葉町の居住制限区域ないし避難指示解除準備区域に住居があった避難者に対する賠償指針 ............................................. 146 (イ) 上記(ア)以外の地域に住居があった避難者に対する賠償指針 ...................... 146(ウ) 相当期間について ........................................................................................ 147⑶ 自主的避難等対象者の精神的損害等に対する賠償 ............... 147ア中間指針追補及び中間指針第二次追補の策定経緯 ............. 147イ中間指針追補における自主的避難等対象者に対する賠償指針 ... 148 (ア) 対象区域について ........................................................................................ 149(イ) 対象者について ............................................................................................ 149(ウ) 精神的損害(慰謝料)等の具体的金額の目安及び算定根拠について ........ 150 ............................................. 149(ウ) 精神的損害(慰謝料)等の具体的金額の目安及び算定根拠について ........ 150a 賠償項目 ................................................................................................... 150b 慰謝料の額の目安 .................................................................................... 151 ウ中間指針第二次追補における自主的避難等対象者に対する賠償指針............................................................. 151 3 被告東電の自主的賠償基準 ..................................... 152⑴ 避難指示区域について ....................................... 152ア中間指針及び中間指針第二次追補を受けた自主的賠償基準 ..... 152 (ア) 帰還困難区域 ............................................................................................... 153 (イ) 居住制限区域 ............................................................................................. 居住制限区域 ............................................................................................... 153(ウ) 避難指示解除準備区域 ................................................................................. 153(エ) 旧緊急時避難準備区域 ................................................................................. 153(オ) 旧屋内退避区域及び地方公共団体が住民に一時避難を要請した区域 ........ 153イ中間指針第四次追補を受けた自主的賠償基準 ................. 154 (ア) 帰還困難区域又は大熊町若しくは双葉町の居住制限区域又は避難指示解除準備区域に住居があった者について ...................................................................... 154(イ) 居住制限区域又は避難指示解除準備区域について ..................................... 154⑵ 自主的避難等対象者について ................................. 154ア本件事故発生後から平成23年12月31日までの期間中,避難に伴 い特別に負担した費用に対する賠償 ............................. 155イ賠償の対象区域の拡大 ............................... い特別に負担した費用に対する賠償 ............................. 155イ賠償の対象区域の拡大 ..................................... 155ウ平成24年1月から同年8月31日までの期間の賠償基準 ..... 155(ア) 中間指針追補で定める自主的避難等対象区域に生活の本拠である住居を有していた者について ................................................................................................ 156 (イ) 中間指針追補で定める自主的避難等対象区域に生活の本拠である住居を有していた者であって,(ア)に該当しない者について ................................................ 157(ウ) 中間指針追補で定める自主的避難等対象区域外の地域のうち福島県県南地域及び宮城県丸森町に生活の本拠としての住居があった者について ................... 157(エ) 中間指針追補で定める自主的避難等対象区域外の地域のうち福島県県南地域 及び宮城県丸森町に生活の本拠としての住居があった者であって,(ウ)に該当しない者について ....................................................................................................... 157 4 中間指針等及び被告東電の自主的賠償基準に基づく賠償額のまとめ . 158第6 中間指針等の発表及び被告東電の賠償基準の公表(財物損害について)........ ......... 157 4 中間指針等及び被告東電の自主的賠償基準に基づく賠償額のまとめ . 158第6 中間指針等の発表及び被告東電の賠償基準の公表(財物損害について)................................................................... 158 1 財物賠償に関する中間指針の定め ............................... 158 2 経済産業省が示した財物賠償の考え方(宅地建物関係) ........... 158⑴ 基本的な考え方 ............................................. 158ア帰還困難区域 ............................................. 159イ居住制限区域・避難指示解除準備区域 ....................... 159⑵ 事故発生日時点の価値の算定 ................................. 159 ア宅地 ..................................................... 159イ建物 ..................................................... 159ウ固定資産税評価額に補正係数をかけて事故発生日時点の価値を算定する具体的手法 ............................................... 159エ建築着工統計による平均新築単価から事故発生日時点の価値を算定 する具体的手法 .............................. ................... 159エ建築着工統計による平均新築単価から事故発生日時点の価値を算定 する具体的手法 ............................................... 160 3 被告東電の賠償基準 ........................................... 160 4 中間指針第四次追補の定め ..................................... 161⑴ 帰還困難区域,又は大熊町若しくは双葉町の居住制限区域若しくは避難指示解除準備区域からの避難者 ................................... 161 ⑵ 上記⑴以外の者 ............................................. 161⑶ 上記⑴又は⑵以外の者 ....................................... 162⑷ 従前の住居が避難指示区域内の借家であった者 ................. 162 5 家財道具について ............................................. 162第7 本件事故後の各地域の状況 ..................................... 163 1 大熊町 ....................................................... 163⑴ 住民の避難状況 ............................................. 163⑵ 中間貯蔵施設等 .................................. 避難状況 ............................................. 163⑵ 中間貯蔵施設等 ............................................. 163⑶ 住民帰還の見通し ........................................... 164 2 双葉町 ....................................................... 164 ⑴ 住民の避難状況 ............................................. 164 ⑵ 中間貯蔵施設等 ............................................. 164⑶ 住民帰還の見通し ........................................... 165 3 富岡町 ....................................................... 165⑴ 住民の避難状況 ............................................. 165⑵ 除染廃棄物等 ............................................... 165 ⑶ 住民帰還の見通し ........................................... 166⑷ 社会的活動の再開状況 ....................................... 166 4 浪江町 ............................................... 況 ....................................... 166 4 浪江町 ....................................................... 166⑴ 住民の避難状況 ............................................. 166⑵ 除染廃棄物等 ............................................... 166 ⑶ 住民帰還の見通し ........................................... 166⑷ 社会的活動の再開状況 ....................................... 167 5 飯舘村 ....................................................... 167 6 南相馬市 ..................................................... 167⑴ 住民の避難状況 ............................................. 167 ⑵ 除染廃棄物等 ............................................... 167⑶ 住民帰還の見通し ........................................... 168⑷ 社会的活動の再開状況 ....................................... 168 7 楢葉町 ....................................................... ............................... 168 7 楢葉町 ....................................................... 168⑴ 住民の避難状況 ............................................. 168 ⑵ 除染廃棄物等 ............................................... 168⑶ 住民帰還の見通し ........................................... 169⑷ 社会的活動の再開状況 ....................................... 169 8 田村市 ....................................................... 169⑴ 住民の避難状況 ............................................. 169 ⑵ 社会的活動の再開状況 ....................................... 169 9 避難指示区域外の市町村 ....................................... 169⑴ 住民の避難状況 ............................................. 169⑵ 社会的活動の状況 ........................................... 170ア福島市 ................................................... 170イ郡山市 ...... ................... 170ア福島市 ................................................... 170イ郡山市 ................................................... 170 ウいわき市 ................................................. 170第8 福島県内の残留放射線量 ....................................... 171 1 各地の計測地点における空間線量率の計測結果 ................... 171⑴ 大熊町 ..................................................... 171⑵ 双葉町 ..................................................... 171 ⑶ 富岡町 ..................................................... 171⑷ 浪江町 ..................................................... 172⑸ 飯舘村 ..................................................... 172⑹ 南相馬市 ................................................... 172⑺ 楢葉町 ..................................................... 172 ⑻ 田村市 ....... ............ 172⑺ 楢葉町 ..................................................... 172 ⑻ 田村市 ..................................................... 173⑼ いわき市 ................................................... 173⑽ 福島市 ..................................................... 173⑾ 本宮市 ..................................................... 173⑿ 郡山市 ..................................................... 173 ⒀ 須賀川市 ................................................... 174 2 航空機モニタリングの計測結果による累積被ばく線量の推計 ....... 174第9 本件事故後に全国の原子力発電所とられた防護措置 ............... 174 1 海水が原発敷地内に遡上することを防止する措置 ................. 174⑴ 防潮堤の設置 ............................................... 174 ⑵ 海水ポンプ(取水路)からの遡上を防止する措置 ............... 174 ア海水ポンプエリアの浸水防止のため防水壁の設置 ............. 175イ海水ポンプエリアの浸水防止のため防水 上を防止する措置 ............... 174 ア海水ポンプエリアの浸水防止のため防水壁の設置 ............. 175イ海水ポンプエリアの浸水防止のため防水蓋の設置 ............. 175 2 建屋内への浸水を防止する措置 ................................. 175⑴ 建屋開口部の防潮壁・防潮板の設置 ........................... 175⑵ 扉部分の水密化 ............................................. 175 ⑶ ケーブル・配管等の貫通部の止水処理(シーリング処理) ....... 175 3 建屋内に海水が侵入したことに備える措置 ....................... 175⑴ 重要機器の水密化 ........................................... 175ア重要設備が置かれている区画についての水密扉の設置 ......... 176イ貫通部の止水処理 ......................................... 176 ⑵ 浸水経路への堰・排水ポンプの設置 ........................... 176⑶ 電源の多重・多様化 ......................................... 176第3節法令及び法制度について ....................................... 177第1 我が国の原子力規制に関する法体系 ............................. 177 1 原子力規制に関する法令等の全体像 . ................... 177第1 我が国の原子力規制に関する法体系 ............................. 177 1 原子力規制に関する法令等の全体像 ............................. 177 2 原子力基本法 ................................................. 177 3 炉規法 ....................................................... 178 4 電気事業法 ................................................... 178 5 発電用原子力設備に関する技術基準を定める省令 ................. 179 6 原災法 ....................................................... 179 7 原賠法 ....................................................... 179 8 放射線障害防止法 ............................................. 180 9 各種指針類 ................................................... 180第2 規制機関 ..................................................... 180 1 原子力委員会 ................................................. 180 2 原子力安全委員会 ....... ........ 180 1 原子力委員会 ................................................. 180 2 原子力安全委員会 ............................................. 181 3 保安院 ....................................................... 182 4 原子力規制委員会(原子力安全委員会及び保安院の後継機関) ..... 182 5 機関相互の関係 ............................................... 182⑴ 安全規制事務の所管者 ....................................... 182⑵ 保安院の位置付け ........................................... 183 ⑶ 原子力安全委員会の位置付け ................................. 183ア権限 ..................................................... 183イ設置許可申請時の原子力安全委員会の役割 ................... 184ウ後段規制に対する原子力安全委員会の関与 ................... 184エ小括 ..................................................... 185 ⑷ JNESの位置付け ......................................... 185第3 原子力規制に係る各種法令の具 .............. 185 ⑷ JNESの位置付け ......................................... 185第3 原子力規制に係る各種法令の具体的内容 ......................... 186 1 炉規法 ....................................................... 186⑴ 炉規法の定め ............................................... 186ア 23条(設置の許可) ..................................... 186 イ 24条(許可の基準) ..................................... 186ウ 27条(設計及び工事の方法の認可) ....................... 187エ 28条(使用前検査) ..................................... 188オ 29条(施設定期検査) ................................... 188⑵ 炉規法が定める安全規制の概要 ............................... 189 ⑶ 炉規法73条による適用除外 ................................. 189 2 電気事業法 ................................................... 190⑴ 電気事業法の定め ........................................... 190ア 39条(事業用電気工作物の維持) .. ............. 190⑴ 電気事業法の定め ........................................... 190ア 39条(事業用電気工作物の維持) ......................... 190イ 40条(技術基準適合命令) ............................... 190 ⑵ 電気事業法による規制の概要 ................................. 190 ⑶ 事業者に課せられた技術基準維持義務 ......................... 191⑷ 技術基準適合命令 ........................................... 191 3 省令62号 ................................................... 192⑴ 福島第一原発の設置等許可処分時における内容 ................. 192ア第4条(防護施設の設置等) ............................... 192 イ第5条(耐震性) ......................................... 192ウ第33条(非常用予備動力設備等) ......................... 192⑵ 改正後の内容 ............................................... 193ア第4条(防護措置等) ..................................... 193イ第5条(耐震性) ..................................... 条(防護措置等) ..................................... 193イ第5条(耐震性) ......................................... 194 ウ第33条(保安電源設備) ................................. 194 4 各種指針類 ................................................... 195⑴ 平成13年安全設計審査指針 ................................. 195ア策定経緯 ................................................. 195イ指針の具体的内容 ......................................... 196 (ア) 指針2 自然現象に対する設計上の考慮 ................................................... 196(イ) 指針27 電源喪失に対する設計上の考慮 ................................................ 196(ウ) 指針47 計測制御系 ................................................................................. 196(エ) 指針48 電気系統 .................................................................................... 197⑵ 平成18年耐震設計審査指針 ........ ...................................................................... 197⑵ 平成18年耐震設計審査指針 ................................. 197 ア策定の経緯 ............................................... 197イ指針の具体的内容 ......................................... 198(ア) 基本方針 ...................................................................................................... 198(イ) 耐震設計における地震動の策定について ................................................... 199(ウ) 「残余のリスク」の存在について .............................................................. 199 (エ) 地震随伴事象に対する考慮 ......................................................................... 199 5 炉規法及び省令62号の改正 ................................... 200⑴ 炉規法改正 ................................................. 200⑵ 省令62号の改正 ........................ ⑴ 炉規法改正 ................................................. 200⑵ 省令62号の改正 ........................................... 201ア津波による損傷防止の技術基準の新設 ....................... 201イその後の改正 ............................................. 201 第4 原賠法の規定 ................................................. 202 1 1条(目的) ................................................. 202 2 2条(定義) ................................................. 202 3 3条(無過失責任,責任の集中等) ............................. 203 4 4条 ......................................................... 203 5 5条 ......................................................... 203 6 16条(国の措置) ........................................... 203 7 18条 ....................................................... 204第4節地震,津波,防災及び原子力工学に関する各種知見について ....... 205第1 .............................................. 204第4節地震,津波,防災及び原子力工学に関する各種知見について ....... 205第1 地震に関する一般的知見 ....................................... 205 第2 津波に関する一般的な知見 ..................................... 206第3 福島県沖での地震・津波の発生可能性に関する学説等(本件地震発生前のもの) ............................................................. 208 1 プレート間地震全般について ................................... 208⑴ 谷岡勇市郎,佐竹健治「津波地震はどこで起こるか明治三陸津波から 100年」(平成8年)(平成8年谷岡・佐竹論文) ................. 208⑵ 鶴哲朗ほか「日本海溝域におけるプレート境界の弧沿い構造変化:プレート間カップリングの意味」(平成14年) ........................ 209⑶ 松澤暢,内田直希「地震観測から見た東北地方太平洋下における津波地震発生の可能性」(平成15年) .................................. 210 ⑷ 都司嘉宣「慶長16年(1611)三陸津波の特異性」(平成15年) ............................................................... 210⑸ 石橋克彦「史料地震学で探る1677年延宝房総沖津波地震」(平成1 .......................................................... 210⑸ 石橋克彦「史料地震学で探る1677年延宝房総沖津波地震」(平成15年) ......................................................... 211 2 貞観地震・津波について ....................................... 211⑴ 阿部壽・菅野喜貞・千釜章「仙台平野における貞観11年(869年) 三陸津波の痕跡高の推定」(平成2年) ............................ 211⑵ 渡邊偉夫「貞観十一年(869年)地震・津波と推定される津波の波源域(総括)」(平成12年) ....................................... 211⑶ 菅原大助・箕浦幸治・今村文彦「西暦869年貞観津波による堆積作用とその数値復元」(平成13年) .................................. 212 ⑷ 箕浦幸治「津波災害は繰り返す」(平成13年) ................ 212⑸ 佐竹健治・行谷佑一・山木滋「石巻・仙台平野における869年貞観津波の数値シミュレーション」(平成20年)(貞観津波に関する佐竹論文)............................................................... 212⑹ 行谷佑一ほか「宮城県石巻・仙台平野および福島県請戸川河口低地にお ける869年貞観津波の数値シミュレーション」(平成22年) ...... 213第4 福島県沖での地震・津波の発生可能性ないし予見可能 「宮城県石巻・仙台平野および福島県請戸川河口低地にお ける869年貞観津波の数値シミュレーション」(平成22年) ...... 213第4 福島県沖での地震・津波の発生可能性ないし予見可能性に関して専門家から提出された意見書の内容 ........................................... 213 1 長期評価の結論を支持するもの ................................. 214⑴ 島崎邦彦 ................................................... 214 ア経歴等 ................................................... 214イ意見の内容 ............................................... 214⑵ 都司嘉宣 ................................................... 216ア経歴等 ................................................... 216イ意見の内容 ............................................... 216 ⑶ 鷺谷威 ..................................................... 218 ア経歴等 ................................................... 218イ意見の内容 .............................................. ........................................ 218イ意見の内容 ............................................... 218 2 長期評価の結論に慎重な態度を示すもの ......................... 219⑴ 佐竹健治 ................................................... 219ア経歴等 ................................................... 219 イ意見の内容 ............................................... 220(ア) 長期評価について ........................................................................................ 220(イ) 福島沖での地震発生の可能性について ....................................................... 221(ウ) 明治三陸地震について ................................................................................. 222(エ) 貞観地震について ........................................................................................ 224 (オ) 津波評価技術について ................................ ........................................... 224 (オ) 津波評価技術について ................................................................................. 224⑵ 松澤暢 ..................................................... 225ア経歴等 ................................................... 225イ意見の内容 ............................................... 225(ア) 福島県沖での地震・津波発生可能性について ............................................ 225 (イ) 長期評価について ........................................................................................ 226⑶ 谷岡勇市郎 ................................................. 228ア経歴等 ................................................... 228イ意見の内容 ............................................... 229⑷ 笠原稔 ..................................................... 230 ア経歴等 ........ ........... 229⑷ 笠原稔 ..................................................... 230 ア経歴等 ................................................... 230イ意見の内容 ............................................... 230⑸ 津村建四朗 ................................................. 231ア経歴 ..................................................... 231イ意見の内容 ............................................... 231 ⑹ 今村文彦 ................................................... 232 ア経歴等 ................................................... 232イ意見の内容 ............................................... 232(ア) 津波工学の視点について ............................................................................. 232(イ) 長期評価について ........................................................................................ 234 期評価について ........................................................................................ 234(ウ) 結果回避措置について ................................................................................. 235 a 想定すべき津波の規模について .............................................................. 235b 防潮堤について ........................................................................................ 236c 水密扉等による水密化について .............................................................. 236d 非常用電源等の高所設置 ......................................................................... 237⑺ 首藤伸夫 ................................................... 237 ア経歴等 ................................................... 237イ意見の内容 ............................................... 238(ア) 津波対策の歴史 ...................... イ意見の内容 ............................................... 238(ア) 津波対策の歴史 ............................................................................................ 238(イ) 津波工学の考え方及び7省庁手引き策定に至る経緯 ................................. 238(ウ) 津波評価技術について ................................................................................. 240 (エ) 長期評価について ........................................................................................ 241(オ) まとめ .......................................................................................................... 242第5 津波対策の在り方に関する原子力工学者・技術者の意見 ........... 242 1 岡本孝司 ..................................................... 242⑴ 経歴等 ..................................................... 242 ⑵ 意見の内容 ................................... ............................................... 242 ⑵ 意見の内容 ................................................. 242ア原子力工学の視点 ......................................... 242イ結果回避措置について ..................................... 244 2 山口彰 ....................................................... 246⑴ 経歴等 ..................................................... 246 ⑵ 意見の内容 ................................................. 246 3 阿部清治 ..................................................... 248⑴ 経歴等 ..................................................... 248⑵ 意見の内容 ................................................. 248 4 筒井哲郎・後藤政志 ........................................... 251⑴ 経歴等 ..................................................... 251 ⑵ 意見の内容 .............................. ..................................................... 251 ⑵ 意見の内容 ................................................. 251ア電源設備の被水回避 ....................................... 252イ電源設備の高所新設 ....................................... 252(ア) 非常用D/Gの被水回避及び燃料タンクの高台新設 ................................. 252(イ) 共用プール建屋設置の電源設備の高所新設 ................................................ 252 ウ最終ヒートシンク及び冷却ライン確保対策 ................... 253エ防潮堤の設置 ............................................. 254オ工事の優先順位 ........................................... 254カ結果回避可能性 ........................................... 254キ施工期間 ................................................. 255 ク津波対策工事の設計条件について ........................... 255 5 青木一哉 ..................................................... 255⑴ 経歴 ........................ 255 5 青木一哉 ..................................................... 255⑴ 経歴等 ..................................................... 255⑵ 意見の内容 ................................................. 256第5節放射線被ばくに関する規制・知見等 ............................. 257 第1 放射能・放射線に関する一般的知見 ............................. 257 1 放射性物質・放射線とは ....................................... 257 2 放射線被ばく ................................................. 258 3 放射能と放射線量の単位 ....................................... 258⑴ 単位の種類 ................................................. 258 ⑵ 単位間の関係 ............................................... 259 ア吸収線量(Gy)と防護量(Sv)の関係及び外部被ばく線量の算出法............................................................. 260イ放射性物質の物理量(Bq)と防護量(Sv)の関係及び内部被ばく線量の算出法 ..................................................... 260イ放射性物質の物理量(Bq)と防護量(Sv)の関係及び内部被ばく線量の算出法 ..................................................... 261 4 自然放射線と人工放射線 ....................................... 262 5 放射線被ばくの人体への影響 ................................... 263⑴ 身体的影響と遺伝性影響 ..................................... 263⑵ 確定的影響と確率的影響 ..................................... 264ア確定的影響について ....................................... 264イ確率的影響について ....................................... 265 第2 ICRP(国際放射線防護委員会)の勧告に基づく放射線防護の原則 265 1 防護の基準 ................................................... 266⑴ 平常時(計画被ばく状況) ................................... 266⑵ 緊急時被ばく状況 ........................................... 266⑶ 現存被ばく状況 ............................................. 267 2 低線 ......................... 266⑶ 現存被ばく状況 ............................................. 267 2 低線量被ばくについての扱い ................................... 267第3 放射線防護に関する我が国の諸規制・制度 ....................... 268 1 実用発電用原子炉の設置,運転等に関する規則 ................... 268 2 放射線障害防止法 ............................................. 269 3 白血病に関する労災認定基準(年間5mSv) ...................... 269 第4 本件事故発生前に公表されていた低線量被ばくの健康影響に関する研究報告 ............................................................... 270 1 UNSCEAR(原子放射線の影響に関する国連科学委員会)の報告 270⑴ UNSCEAR2000年報告 ............................... 270⑵ UNSCEAR2010年報告 ............................... 271 2 放影研(公益財団法人放射線影響研究所)による研究(LSS第13報) ................................................................. 272 3 フランス医学アカデミー及び科学アカデミーの見解 ............... 272 4 米国科学アカ ....................................... 272 3 フランス医学アカデミー及び科学アカデミーの見解 ............... 272 4 米国科学アカデミー研究審議会(NAS―NRC)の報告(BEIRⅦ)................................................................. 273 5 いわゆるプレストン論文 ....................................... 273 第5 本件事故を受けたICRPの声明発表 ........................... 274第6 低線量被ばくWG(低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ)の報告 ......................................................... 274第7 本件事故を契機とする国際機関による低線量被ばくの健康影響に関する研究報告 ........................................................... 277 1 UNSCEARによる研究報告 ................................. 277⑴ UNSCEAR2013年国連総会報告書 ..................... 277⑵ UNSCEAR2013年福島報告書 ......................... 278⑶ UNSCEAR2015年報告書 ............................. 280 2 世界保健機関(WHO)による線量推計及び健康リスク評価の報告書 284 第8 本件事故後に発表された低線 5年報告書 ............................. 280 2 世界保健機関(WHO)による線量推計及び健康リスク評価の報告書 284 第8 本件事故後に発表された低線量被ばくの健康影響に関する研究報告(本件事故を契機としないもの) ........................................... 285 1 小児期のCTスキャン実施による健康影響の疫学的調査 ........... 285⑴ RadiationexposurefromCTscansinchildhoodandsubsequentriskofleukaemiaandbraintumours:aretrospectivecohortstudy-小児期 のCTスキャンからの放射線被ばく,ならびにその後の白血病及び脳腫瘍のリスク:後ろ向きコホート研究 ................................... 285⑵ 「MathewsJD,ForsytheAV,BradyZ,ButlerMW,GoergenSK, ByrnesGB,GilesGG,WallaceAB,AndersonPR,GuiverTA,McGaleP,CainTM,DowtyJG,BickerstaffeAC,DarbySC.-小児期あるいは青年期にコンピュータ断層 撮影(CTスキャン)を受けた68万人のがんのリスク:オーストラリア人 1100万人のデータリンケージ研究」 ........................... 286 2 放影研による研究(LSS第14報) ........................... 286⑴ LSS第14報の内容 」 ........................... 286 2 放影研による研究(LSS第14報) ........................... 286⑴ LSS第14報の内容 ....................................... 287⑵ 放影研の見解 ............................................... 290 3 核関連施設従事者に関する研究 ................................. 290 第9 低線量被ばくの健康影響に関する専門家の意見 ................... 291 1 低線量被ばくの健康影響を無視できないとするもの ............... 291⑴ 崎山比早子 ................................................. 291ア経歴等 ................................................... 291イ意見の内容 ............................................... 291 (ア) ICRPの勧告について ............................................................................. 291(イ) 各種の調査報告について ............................................................................. 292a テチャ川流域住民におけるがん死リスクに関する研究 .................... ............................................... 292a テチャ川流域住民におけるがん死リスクに関する研究 .......................... 292b 15か国核施設労働者におけるがん死リスクに関する研究 ................... 292c フランス,イギリス米国の各施設労働者を追跡調査した研究 ............... 292 d 自然放射線による発がんリスクの増加に関する研究 .............................. 292(ウ) 福島県民健康調査について ......................................................................... 293(エ) まとめ .......................................................................................................... 293⑵ 聞間元 ..................................................... 294ア経歴 ..................................................... 294 イ意見の内容 ............................................... 294 2 低線量被ばくの健康影響に慎重な意見を述べるもの(いわゆる連名意見書)................................................................. 295 くの健康影響に慎重な意見を述べるもの(いわゆる連名意見書)................................................................. 295⑴ 低線量被ばくの健康影響全般について ......................... 296⑵ LSS第14報について ..................................... 297 ⑶ 各種の調査報告について ..................................... 298 ア小児期のCTスキャン実施による健康影響に関する調査について 298(ア) 小児期のCTスキャンからの放射線被ばく,ならびにその後の白血病及び脳腫瘍のリスク:後ろ向きコホート研究 ............................................................... 298(イ) 小児期あるいは青年期にコンピュータ断層撮影(CTスキャン)を受けた68万人のがんのリスク:オーストラリア人1100万人のデータリンケージ研究 ............................................................................................................................. 299イ電離放射線の職業性被曝から生じるがんのリスク:フランス,英国,米国の労働者の後ろ向きコホート研究(INWORKS) ......... 299⑷ 福島県民健康調査について ................................... 300⑸ まとめ ........... 研究(INWORKS) ......... 299⑷ 福島県民健康調査について ................................... 300⑸ まとめ ..................................................... 300 〈第3分冊〉第5章争点に対する当裁判所の判断 ............................. 1第1節争点1(被告東電に対する一般不法行為に基づく請求の可否)について 1第2節争点2(本件事故の予見可能性に関する議論の前提としての予見の対象) について ............................................................... 3第3節争点3(本件事故の予見可能性)について ......................... 4第1 当裁判所の判断の結論 ........................................... 4第2 当裁判所の判断の理由 ........................................... 5 1 平成19年4月までの事情についての当裁判所の検討・評価 ......... 5 ⑴ 福島第一原発の敷地高について ................................. 5⑵ 福島第一原発を含む国内の原子力発電所の主要設備の配置に関する設計について ....................................................... 5⑶ 福島第一原発における非常用電源設備に関する安全対策の考え方について ..................... ...................................... 5⑶ 福島第一原発における非常用電源設備に関する安全対策の考え方について ............................................................. 6 ⑷ 安全対策上考慮すべき地震・津波に関する被告国の基本姿勢 ....... 8 ア 4省庁報告書・7省庁手引き ................................. 8イ長期評価 ................................................... 8ウ中央防災会議報告 .......................................... 10エ津波評価技術の結論についての被告国の基本姿勢 .............. 11(ア) 津波評価技術の基本的考え方 ........................................................................ 11 (イ) 津波評価技術の各論的検討 ........................................................................... 11(ウ) 津波評価技術に対する被告国の反応 ............................................................. 12(エ) 津波評価技術を巡る事情のまとめ ................................................................ 13オ安全対策上考慮すべき地震・津波 評価技術を巡る事情のまとめ ................................................................ 13オ安全対策上考慮すべき地震・津波に関する被告国の基本姿勢についてのまとめ ...................................................... 13 ⑸ 溢水問題に関する被告国の基本姿勢 ............................ 13ア溢水勉強会立ち上げまでの溢水に関する問題意識 .............. 13イアクシデントマネジメント策としてのSBO対策 .............. 14ウ本件事故前の溢水関連事故ないし問題事象 .................... 14エ溢水勉強会における検討 .................................... 14 オ溢水問題に関する被告国の基本姿勢についてのまとめ .......... 15⑹ 平成19年4月までの事情についての当裁判所の検討・評価のまとめ................................................................ 15 2 平成19年4月以降の事情についての当裁判所の検討・評価 ........ 16⑴ 想定津波の波高に関する被告東電の報告内容の推移 .............. 17 ⑵ 耐震バックチェックを巡るやり取り ............................ 17⑶ 津波時のシナリオ検討 ........................................ 18⑷ 平成19年4月以降の事情についての当裁 ................ 17⑶ 津波時のシナリオ検討 ........................................ 18⑷ 平成19年4月以降の事情についての当裁判所の検討・評価のまとめ................................................................ 18ア平成21年報告についての評価 .............................. 18 (ア) 非常用海水ポンプの設置位置からみた平成21年報告の評価 ..................... 19 (イ) 敷地レベルとの位置関係からみた評価 ......................................................... 19(ウ) 平成21年報告についての評価のまとめ ..................................................... 20イ帰結 ...................................................... 20 3 予見可能性に関する結論 ........................................ 23第3 当事者の主張に対する補足説明 .................................. 23 1 被告国の主張に対する補足説明 .................................. 23⑴ 被告国の主張の要旨 .......................................... 23⑵ 科学的知見の熟成度と予見可能性の関係について ......... .. 23⑴ 被告国の主張の要旨 .......................................... 23⑵ 科学的知見の熟成度と予見可能性の関係について ................ 23⑶ 「通説的な見解といえる程度に形成,確立した科学的根拠」の意義について ............................................................ 25 ⑷ 4省庁報告書等や長期評価の見解の熟成度について .............. 26⑸ これまでの判例法理について .................................. 27ア最高裁平成4年判決について ................................ 27イ規制権限の不行使と科学的知見が問題となったその他の最高裁判決について ...................................................... 28 ⑹ 被告国のその他の主張について ................................ 29ア 4省庁報告書等の見解について .............................. 29イ長期評価の見解について .................................... 30ウ長期評価の見解と異なる知見について ........................ 31(ア) 各種論文について .......................................................................................... 31 a 平成8 ...................................................................................... 31 a 平成8年谷岡・佐竹論文について ............................................................. 31b 海底地形に着目するその他の論文について .............................................. 32c その他論文について ................................................................................... 33(イ) 専門家の各種意見について ........................................................................... 33a 佐竹健治の意見について ........................................................................... 33 b 松澤暢の意見について ............................................................................... 34 c 谷岡勇市郎の意見について ........................................................................ 34d 笠原稔の意見について ............................................. ..................................... 34d 笠原稔の意見について ............................................................................... 35e 津村建四朗の意見について ........................................................................ 36f 今村文彦の意見について ........................................................................... 36g 首藤伸夫の意見について ........................................................................... 37 h 小括 ............................................................................................................ 37エ中央防災会議報告について .................................. 38オ津波評価技術について ...................................... 38カ溢水勉強会について ........................................ 39キその他の主張について ...................................... 40 ク結論 ............................ .. 39キその他の主張について ...................................... 40 ク結論 ...................................................... 41 2 被告東電の主張に対する補足説明 ................................ 41 3 原告らの主張に対する補足説明 .................................. 41⑴ 平成14年頃には予見可能性が認められるとの主位的主張について 41ア 4省庁報告書等及び長期評価に対する被告東電の対応及びこれに付 随する事情に関する補足的事実認定 .............................. 42(ア) 4省庁報告書等に対する電気事業者の対応 .................................................. 43(イ) 長期評価発表前の中央防災事務局担当者の地震本部に対する働きかけ ...... 44(ウ) 長期評価発表後の被告東電の反応 ................................................................ 45(エ) 長期評価に対する電力事業者の対応方針についての原子力安全委員会と保安 院との打合せ ......................................................................................................... 45(オ) マイアミ論文 .............................................. ...................................... 45(オ) マイアミ論文 ................................................................................................. 46(カ) ロジックツリーアンケート ........................................................................... 47(キ) 平成20年東電試算 ...................................................................................... 47(ク) 平成20年東電試算に対する被告東電の対応 .............................................. 48 (ケ) 貞観津波に関する佐竹論文を踏まえた試算の実施 ....................................... 49 (コ) 被告東電の保安院に対する説明 .................................................................... 50イ検討 ...................................................... 51(ア) 長期評価公表前の被告東電の態度(上記①)について ................................ 51(イ) 長期評価の公表に当たっての働きかけ(上記②)について ........................ 51(ウ) ................................ 51(イ) 長期評価の公表に当たっての働きかけ(上記②)について ........................ 51(ウ) 長期評価公表後の被告らの対応(上記③)について ................................... 52 (エ) その他の事情について ................................................................................... 54(オ) 結論 ................................................................................................................ 54⑵ 平成18年時点又は,遅くとも平成21年~22年の時点で予見可能性があったとの予備的主張について .................................. 55第4 争点3(本件事故の予見可能性)についての結論 .................. 56 第4節争点4(本件事故の結果回避可能性)について .................... 57第1 当裁判所の判断の結論 .......................................... 57第2 当裁判所の判断の理由 .......................................... 58 1 いかなる結果回避措置をとることができたかについて .............. 58⑴ 総論 ...................................... ...... 58 1 いかなる結果回避措置をとることができたかについて .............. 58⑴ 総論 ........................................................ 58 ⑵ 各論 ........................................................ 60ア防潮堤の建設について ...................................... 60イ主要設備の被水・浸水防止措置 .............................. 60ウ電源設備の移設 ............................................ 61(ア) 予見可能性に照らした検討 ........................................................................... 61 (イ) 機能面・技術面からの検討 ........................................................................... 62a 非常用電源設備全体の移設について ......................................................... 62b 非常用電源設備の一部の移設について...................................................... 62エ小括 ...................................................... 63 2 電源設備の移設により,本件事故を回 ............ 62エ小括 ...................................................... 63 2 電源設備の移設により,本件事故を回避することができたか否かについて .................................................................. 63 ⑴ 電源設備全部の移設という結果回避措置をとった場合 ............ 63ア現象面からの検討 .......................................... 63(ア) 1号機関係 ..................................................................................................... 64(イ) 3号機関係 ..................................................................................................... 65(ウ) 2号機関係 ..................................................................................................... 66 (エ) 小括 ................................................................................................................ 66イ手続面からの検討 ............. ....................................................................... 66イ手続面からの検討 .......................................... 67ウまとめ .................................................... 68⑵ 空冷式非常用D/Gと配電盤の移設という結果回避措置をとった場合................................................................ 68 ⑶ 直流電源設備のみの移設という結果回避措置をとった場合 ........ 69ア現象面からの検討 .......................................... 69(ア) 1号機関係 ..................................................................................................... 70aD/DFPによる早期継続注水が可能であったこと ................................ 70bHPCIによる注水が可能であったこと .................................................. 71 c 消防車による注水をD/DFP又はHPCIと並行して又はこれに引き続いて行うことができたこと ............................................................................... 71d 小 いて行うことができたこと ............................................................................... 71d 小括 ............................................................................................................ 72(イ) 3号機関係 ..................................................................................................... 72(ウ) 2号機関係 ..................................................................................................... 73 (エ) 小括 ................................................................................................................ 74イ手続面からの検討 .......................................... 74ウまとめ .................................................... 74 3 結果回避可能性に関する判断のまとめ ............................ 75第3 当事者の主張に対する補足説明 ................................. 回避可能性に関する判断のまとめ ............................ 75第3 当事者の主張に対する補足説明 .................................. 75 1 いかなる結果回避措置をとることができたかについて .............. 75 ⑴ 原告らの主張に対する補足説明 ................................ 75⑵ 被告国の主張に対する補足説明 ................................ 77⑶ 被告東電の主張に対する補足説明 .............................. 80 2 電源設備の移設により,本件事故を回避することができたか否かについて.................................................................. 80 ⑴ 被告国の主張に対する補足説明 ................................ 80ア現象面について ............................................ 80(ア) 空冷式非常用D/Gの移設について ............................................................. 80a プラントへの給電可能性について ............................................................. 81b 移設後の設備の信頼性ないし現実的利用可能性について ........................ 81 (イ) 直流電源設備の移設について ... ............. 81b 移設後の設備の信頼性ないし現実的利用可能性について ........................ 81 (イ) 直流電源設備の移設について ........................................................................ 82a 電源の搬送・接続の困難性について ......................................................... 82bD/DFPによる注水の可能性について .................................................. 83c 消防車による注水の可能性について ......................................................... 85dHPCIの起動可能性について ................................................................ 87 eHPCIの最終ヒートシンク確保の困難性について ................................ 87イ手続面について ............................................ 88⑵ 被告東電の主張に対する補足説明 .............................. 89第5節争点5(原告ら主張の具体的結果回避措置に関して被告国が規制権限を行使することができたか。)について ....................................... 89 第1 当裁判所の判断の結論 ...... に関して被告国が規制権限を行使することができたか。)について ....................................... 89 第1 当裁判所の判断の結論 .......................................... 89第2 当裁判所の判断の理由 .......................................... 89 1 法令のまとめ(本件事故時) .................................... 89⑴ 規制権限の根拠条文 .......................................... 89⑵ 「経済産業省令で定める技術基準」 ............................ 90 ア省令62号4条1項 ........................................ 90 イ省令62号33条4項 ...................................... 91ウ省令62号33条5項 ...................................... 92 2 あてはめ ...................................................... 93⑴ 事実関係のまとめ ............................................ 93⑵ 省令62号33条4項を併せ読んだ場合の同省令4条1項該当性 .. 93 ⑶ 省令62号33条5項を併せ読んだ場合の同省令4条1項該当性 .. 94⑷ 結論 ....................................... 条1項該当性 .. 93 ⑶ 省令62号33条5項を併せ読んだ場合の同省令4条1項該当性 .. 94⑷ 結論 ........................................................ 94第3 被告国の主張に対する補足説明 .................................. 95 1 基本設計ないし基本的設計方針の安全性に関わる事項についての技術基準適合命令の可否について .......................................... 95 ⑴ 被告国の主張の概要 .......................................... 95⑵ 被告国の主張に対する説明 .................................... 95ア基本設計ないし基本的設計方針に関する規制権限の存否(前記⑴の被告国の主張①)について ........................................ 95イ敷地高を超える津波を想定することが福島第一原発の基本設計ない し基本的設計方針に抵触するか否か(前記⑴の被告国の主張②)について.............................................................. 97 2 省令62号の外部事象への適用如何について ...................... 98⑴ 被告国の主張の概要 .......................................... 98⑵ 被告国の主張に対する説明 .................................... 99 3 基本設計ない ........................... 98⑵ 被告国の主張に対する説明 .................................... 99 3 基本設計ないし基本的設計方針に係る事項について技術基準適合命令を発令することができたか否かについて ............................... 100⑴ 電気事業法40条の文理解釈について ......................... 100⑵ 電気事業法40条の配置について ............................. 102⑶ 平成24年改正後の炉規法43条の3の23の解釈について ..... 103 ア省令62号の改正状況に照らした検討 ....................... 103 イ炉規法43条の3の23の立法趣旨からみた検討 ............. 105ウ小括 ..................................................... 106第6節争点6(被告国が規制権限を行使できたとして,その規制権限不行使が国賠法1条1項の適用上違法となるか否か)について ....................... 106第1 判断の枠組について ........................................... 106 1 当裁判所の判断の結論 ......................................... 106 2 当裁判所の判断の理由 ......................................... 106⑴ 規制権限の不行使に関する一般的な判断枠組 ....... .... 106 2 当裁判所の判断の理由 ......................................... 106⑴ 規制権限の不行使に関する一般的な判断枠組 ................... 107⑵ 原子力発電所の安全性に関する規制権限の不行使の適否が争われる国家賠償請求訴訟における裁判所の審理判断の在り方について ......... 107 ⑶ 原子力発電所の安全性に関する規制権限の不行使の適否が争われる国家賠償請求訴訟における国賠法1条1項該当性の判断枠組について ... 109⑷ まとめ ..................................................... 110第2 あてはめ ..................................................... 111 1 当裁判所の判断の結論 ......................................... 111 2 当裁判所の判断の理由 ......................................... 111⑴ 予見される被害の重大性及び切迫性 ........................... 111ア福島第一原発の津波耐性の脆弱さ ........................... 111イ設計想定津波水位の顕著な上昇傾向 ......................... 112ウ敷地高を超える津波の到来可能性について ................... 113 エとり得る措置の限定性 ..................................... 114オ小括 ...... ついて ................... 113 エとり得る措置の限定性 ..................................... 114オ小括 ..................................................... 115⑵ とり得る結果回避措置及び実際に実施された措置 ............... 116⑶ 被告国が特段の措置をとらなかった背景としての専門性,裁量性 . 118⑷ 結論 ....................................................... 119 3 被告国の主張に対する補足説明 ................................. 120 ⑴ 原子力規制に関する法令の趣旨・目的について ................. 120ア相対的安全性の概念について ............................... 120イ被告国の責任の二次性・補完性について ..................... 121⑵ 規制権限の性質について ..................................... 122ア司法権の審査の範囲について ............................... 122 イとり得る津波対策についての科学的,専門技術的判断について . 122ウいわゆる「グレーデットアプローチ」の考え方について ....... 124⑶ 予見可能性・被害の切迫性について ........................... 125ア津波到来の危険性について ....................... .... 124⑶ 予見可能性・被害の切迫性について ........................... 125ア津波到来の危険性について ................................. 125イ地震対策が喫緊の課題と認識されていたことについて ......... 127 ⑷ 結果回避措置・結果回避可能性について ....................... 127⑸ 現実に実施された措置(対応)について ....................... 128ア確率論的安全評価手法について ............................. 128イ知見の収集について ....................................... 129⑹ 被告東電の結果回避が期待できたかどうかについて ............. 130 第7節争点7(被告東電の責任と被告国の責任の関係)について ......... 131第1 当裁判所の判断の結論 ......................................... 131第2 当裁判所の判断の理由 ......................................... 131 1 共同不法行為の成否 ........................................... 131 2 被告国の責任の割合について ................................... 132 第3 被告国の主張に対する説明 ..................................... 133第8節争点8(本件で賠償の対象となるべき精神的損害の範囲及び 第3 被告国の主張に対する説明 ..................................... 133第8節争点8(本件で賠償の対象となるべき精神的損害の範囲及び法的性質並びに慰謝料の額),争点9(避難指示区域の指定がない居住地から避難した場合の避難の合理性)及び争点10(主な財物損害についての損害認定の在り方)について..................................................................... 134 第1 被侵害利益の考え方について ................................... 134 1 当裁判所の判断の結論 ......................................... 134 2 当裁判所の判断の理由 ......................................... 138⑴ 権利の性質に着目した検討 ................................... 138アいわゆる平穏生活権についての当裁判所の考え方 ............. 138イ居住,移転の自由についての当裁判所の考え方 ............... 139 ウ平穏生活権侵害及び居住,移転の自由の侵害があった場合の権利の性質についての整理 ............................................. 140(ア) 財産権侵害の場合 ........................................................................................ 141(イ) 合 ........................................................................................ 141(イ) 生存権侵害の場合 ........................................................................................ 141(ウ) 生命・身体の自由の侵害 ............................................................................. 141 ⑵ 精神的損害の類型からみた検討 ............................... 142ア考えられる精神的損害の類型 ............................... 142イ類型ごとの検討 ........................................... 142(ア) ①平穏な日常生活を喪失したことについて生じる精神的苦痛について .... 142a ①平穏な日常生活を喪失したことについて生じる精神的苦痛の法的整理 ......................................................................................................................... 143b 小括 .......................................................................................................... 146 ................................................................................................ 146(イ) ②自宅に帰れないことにより生じる精神的苦痛 ........................................ 146(ウ) ③避難生活の不便さから来る精神的苦痛 ................................................... 147(エ) ④先の見通しがつかないことによる不安・精神的苦痛 .............................. 147 (オ) ⑤放射性物質による健康影響に対する恐怖感や不安 ................................. 148a ⑤放射性物質による健康影響に対する恐怖感や不安の法的整理 ........... 148b 他の精神的損害類型(特に①平穏な日常生活を喪失したことについて生じる精神的苦痛)との関係 ................................................................................. 152⑶ まとめ ..................................................... 154 第2 本件平穏生活4要素が同時かつ包括的に喪失したとして平穏生活権侵害 ないし居住,移転の自由の侵害を肯認できる場合(Bの場合)の慰謝料について................................................................... 155 1 当裁判 認できる場合(Bの場合)の慰謝料について................................................................... 155 1 当裁判所の判断の結論 ......................................... 155 2 当裁判所の判断の理由 ......................................... 155⑴ 具体的要件について ......................................... 155 ア本件平穏生活4要素が同時かつ包括的に喪失したといえる場合について ......................................................... 155イ侵害の程度について ....................................... 157⑵ 損害算定の手法について ..................................... 158⑶ 具体的な損害額算定基準について ............................. 160 ア帰還困難区域 ............................................. 160イ居住制限区域(5年以上) ................................. 161ウ居住制限区域(5年未満) ................................. 162エ避難指示解除準備区域(5年以上) ......................... 162オ避難指示解除準備区域(5年未満) ................ ......... 162エ避難指示解除準備区域(5年以上) ......................... 162オ避難指示解除準備区域(5年未満) ......................... 163 カ特定避難勧奨地点(南相馬市) ............................. 163キ南相馬市避難要請区域 ..................................... 164⑷ 当裁判所が認めるふるさと喪失損害(B)のまとめ ............... 164第3 放射性物質による健康被害におびえることなく自己の住所又は居所を自由に決定し当地で生活する権利すなわち平穏生活権ないし居住,移転の自由に対 する侵害を肯認できる場合(Cの場合)の慰謝料について ............... 164 1 当裁判所の判断の結論 ......................................... 164 2 当裁判所の判断の理由 ......................................... 165⑴ 具体的要件について ......................................... 165ア当裁判所が認める自己決定権侵害(C)を肯認できる具体的場合につ いて ......................................................... 166 イ侵害の程度について ....................................... 167ウ小括 .................................................. ....................................... 167ウ小括 ..................................................... 168⑵ 損害算定の手法について ..................................... 168⑶ 具体的な損害額算定基準について ............................. 169ア緊急時避難準備区域 ....................................... 169 イ旧屋内退避区域 ........................................... 171ウ緊急時避難準備区域及び旧屋内退避区域以外の地域 ........... 172⑷ 当裁判所が認める自己決定権侵害(C)のまとめ ................. 174第4 生命・身体の自由ないし生存権の侵害を肯認できる場合(Aの場合)の慰謝料について ....................................................... 174 1 当裁判所の判断の結論 ......................................... 174 2 当裁判所の判断の理由 ......................................... 175⑴ 具体的要件について ......................................... 175ア健康で文化的な最低限度の生活について ..................... 175イ 「放射性物質の悪影響により」といえる場合について ........ ........... 175ア健康で文化的な最低限度の生活について ..................... 175イ 「放射性物質の悪影響により」といえる場合について ......... 176 ウ小括 ..................................................... 177⑵ 損害額算定の手法について ................................... 178⑶ 具体的な損害額算定基準について ............................. 178第5 当裁判所が認める慰謝料についてのまとめ ....................... 179第6 財産権侵害について ........................................... 179 1 総論 ......................................................... 179 2 各論 ......................................................... 179⑴ 不動産(いずれも居住用,非居住用を問わない。) .............. 180ア帰還困難区域 ............................................. 180イ居住制限区域(5年以上) ................................. 180 ウ居住制限区域(5年未満) ................................. 181 エ避難指示解除準備区域(5年以上) ................... ウ居住制限区域(5年未満) ................................. 181 エ避難指示解除準備区域(5年以上) ......................... 182オ避難指示解除準備区域(5年未満) ......................... 183カ特定避難勧奨地点(南相馬市) ............................. 183キ南相馬市避難要請区域 ..................................... 183ク住居確保損害について ..................................... 184 ⑵ 家財 ....................................................... 185ア単身世帯 ................................................. 185イ夫婦又は親子2人暮らし ................................... 185ウ 3人暮らし以上 ........................................... 186⑶ 就労不能損害 ............................................... 186 ア当裁判所が認めるふるさと喪失損害(B)を肯認できる場合 ..... 186イ当裁判所が認める自己決定権侵害(C)を肯認できる場合 ....... 186⑷ 帰宅費用,一次立入費用,検査費用 ........................... 186⑸ 避難先での住居費・駐車場代 ............ 認できる場合 ....... 186⑷ 帰宅費用,一次立入費用,検査費用 ........................... 186⑸ 避難先での住居費・駐車場代 ................................. 187ア当裁判所が認めるふるさと喪失損害(B)を肯認できる場合 ..... 187 イ当裁判所が認めるふるさと喪失損害(B)を肯認できない場合 ... 187⑹ 食費等生活費増加分 ......................................... 187第7 当事者の主張に対する補足説明 ................................. 187 1 争点8(本件で賠償の対象となるべき精神的損害の範囲及び法的性質並びに慰謝料の額)関係 ............................................... 187 ⑴ 原告らの主張について ....................................... 188ア本件の賠償額算定の一般論について ......................... 188イ避難生活に伴う慰謝料について ............................. 188ウ原告らの主張する「ふるさと喪失・生活破壊慰謝料」について . 191⑵ 被告東電の主張について ..................................... 192 ア被侵害利益の具体的内容及び賠償の終期について ............. 192 イ慰謝料の額について ....................................... 193ウ避 的内容及び賠償の終期について ............. 192 イ慰謝料の額について ....................................... 193ウ避難慰謝料について ....................................... 194 2 争点9(避難指示区域の指定がない居住地から避難した場合の避難の合理性)について ..................................................... 195⑴ 当裁判所の結論 ............................................. 195 ⑵ 原告らの主張について ....................................... 195⑶ 被告らの主張について ....................................... 196⑷ 当事者の主張に対する説明の補足 ............................. 196ア低線量被ばくに関する知見のまとめ ......................... 196(ア) 本件事故前の知見の概要 ............................................................................. 197 aICRP(国際放射線防護委員会)の知見 ............................................ 197bUNSCEAR(原子放射線の影響に関する国連科学委員会)の知見 197c 放影研(財団法人放射線影響研究所)の知見 ........................ ........ 197bUNSCEAR(原子放射線の影響に関する国連科学委員会)の知見 197c 放影研(財団法人放射線影響研究所)の知見 ......................................... 198dBEIRⅣ ............................................................................................... 198e プレストン論文 ........................................................................................ 198 (イ) 本件事故後の知見の概要 ............................................................................. 199aUNSCEARの知見 ............................................................................. 199b 放影研の知見 ............................................................................................ 199c 英国CTスキャン影響調査 ...................................................................... 200d オーストラリアCTスキャン影響調査................................................ ........................... 200d オーストラリアCTスキャン影響調査.................................................... 200 e 核関連施設従事者に関する研究 .............................................................. 200(ウ) 崎山比早子が紹介する研究成果について ................................................... 201a テチャ川流域住民におけるがん死リスクに関する研究 .......................... 201b 15か国核施設労働者によるがん死リスクに関する研究 ...................... 201c 自然放射線による発がんリスクの増加に関する研究 .............................. 201 d 福島県民健康調査について ...................................................................... 201 (エ) 小括 .............................................................................................................. 201イ原告らの主張に対する説明 ................................. 203ウ被告らの主張に対する説明 ................................. 204エまとめ ...... ............................ 203ウ被告らの主張に対する説明 ................................. 204エまとめ ................................................... 205第9節争点9(避難指示区域の指定がない居住地から避難した場合の避難の合理 性について ........................................................... 205第10節争点10(主な財物損害についての損害認定の在り方)について . 205第11節争点11(弁済の抗弁の肯否)について ....................... 205第1 避難慰謝料名目の既払金について ............................... 205第2 財産的損害(就労不能損害を含む。)について .................... 206 第3 住居確保損害について ......................................... 207第4 遅延損害金発生の起算日について ............................... 208第12節争点12(損害発生の有無及びその数額)について ............. 208第1 原告番号1の世帯(原告番号1-1,1-2,1-3,1-4,1-5)について ........................................................... 209 1 事実関係 ................................................ ................................... 209 1 事実関係 ..................................................... 209 2 損害額の認定 ................................................. 209 3 被告東電による弁済 ........................................... 209 4 弁護士費用 ................................................... 210 5 まとめ ....................................................... 210 第2 原告番号2の世帯(原告番号2-1,2-2)について ........... 210 1 事実関係 ..................................................... 210⑴ 旧居住地及び避難経過 ....................................... 210⑵ 避難後の生活状況 ........................................... 211⑶ 不動産の価額 ............................................... 211 2 損害額の認定 ................................................. 211 ⑴ 慰謝料 ..................................................... .......................... 211 ⑴ 慰謝料 ..................................................... 211⑵ 財産的損害 ................................................. 212⑶ その他 ..................................................... 212 3 被告東電による弁済 ........................................... 213⑴ 慰謝料について ............................................. 213 ⑵ 財産的損害について ......................................... 213⑶ その他損害について ......................................... 213 4 弁護士費用 ................................................... 214 5 まとめ ....................................................... 214第3 原告番号3の世帯(原告番号3)について ....................... 214 1 事実関係 ..................................................... 214 2 損害額の認定 ................................................. 215⑴ 慰謝料 .. ...................... 214 2 損害額の認定 ................................................. 215⑴ 慰謝料 ..................................................... 215⑵ 財産的損害について ......................................... 215 3 被告東電による弁済 ........................................... 215 4 弁護士費用 ................................................... 215 5 まとめ ....................................................... 216第4 原告番号4の世帯(原告番号4-1,4-2,4-3,4-4,4-5)について ........................................................... 216 1 事実関係 ..................................................... 216 ⑴ 旧居住地及び避難経過 ....................................... 216⑵ 避難後の生活状況 ........................................... 216ア住居関係 ................................................. 216イ就業関係 ....................... .. 216ア住居関係 ................................................. 216イ就業関係 ................................................. 217(ア) 原告番号4-1 ............................................................................................ 217 (イ) 原告番号4-2 ............................................................................................ 217 (ウ) 原告番号4-4 ............................................................................................ 217⑶ 不動産の価額 ............................................... 217 2 損害額の認定 ................................................. 217⑴ 慰謝料 ..................................................... 217⑵ 財産的損害 ................................................. 218 ⑶ 就業不能損害 ............................................... 219⑷ 宿泊費 ... .................... 218 ⑶ 就業不能損害 ............................................... 219⑷ 宿泊費 ..................................................... 219 3 被告東電による弁済 ........................................... 219⑴ 慰謝料について ............................................. 219⑵ 財産的損害について ......................................... 219 4 弁護士費用 ................................................... 220 5 まとめ ....................................................... 220第5 原告番号5の世帯(原告番号5-1,5-2,5-3,5-4,5-5)について ........................................................... 221 1 事実関係 ..................................................... 221 ⑴ 旧居住地及び避難経過 ....................................... 221⑵ 避難後の生活状況 ........................................... 222⑶ 不動産の価額 ....................... .. 221⑵ 避難後の生活状況 ........................................... 222⑶ 不動産の価額 ............................................... 222 2 損害額の認定 ................................................. 222⑴ 慰謝料 ..................................................... 222 ⑵ 財産的損害 ................................................. 223 3 被告東電による弁済 ........................................... 224⑴ 慰謝料について ............................................. 224⑵ 財産的損害について ......................................... 224 4 弁護士費用 ................................................... 224 5 原告番号5-1の損害額のまとめ ............................... 225 6 原告番号5-2,5-3,5-4,5-5の請求の認容額 ......... 225第6 原告番号6の世帯(原告番号6-1,6-2,6-3,6-4,6-5)について ........................................................... 225 1 事実関係 ..... ,6-2,6-3,6-4,6-5)について ........................................................... 225 1 事実関係 ..................................................... 225⑴ 旧居住地及び避難経過 ....................................... 225 ⑵ 避難後の生活状況 ........................................... 226 2 損害額の認定 ................................................. 226⑴ 慰謝料 ..................................................... 226⑵ 財産的損害(不動産)について ............................... 227⑶ その他 ..................................................... 227 3 被告東電による弁済 ........................................... 228 4 弁護士費用 ................................................... 228 5 まとめ ....................................................... 228第7 原告番号7の世帯(原告番号7-1,7-2)について ........... 229 1 事実関係 ........................... .............. 228第7 原告番号7の世帯(原告番号7-1,7-2)について ........... 229 1 事実関係 ..................................................... 229 2 損害額の認定 ................................................. 230⑴ 慰謝料 ..................................................... 230⑵ 財産的損害について ......................................... 230 3 被告東電による弁済 ........................................... 230 4 弁護士費用 ................................................... 230 5 まとめ ....................................................... 231第8 原告番号8の世帯(原告番号8-1,8-2)について ........... 231 1 事実関係 ..................................................... 231 2 損害額の認定 ................................................. 232⑴ 慰謝料 ..................................................... 232 ⑵ 財産的損害について ...................... 謝料 ..................................................... 232 ⑵ 財産的損害について ......................................... 232 3 被告東電による弁済 ........................................... 232 4 まとめ ....................................................... 232第9 原告番号9の世帯(原告番号9-1,9-2,9-3,9-4)について................................................................... 233 1 事実関係 ..................................................... 233 2 損害額の認定 ................................................. 233 3 被告東電による弁済 ........................................... 233 4 弁護士費用 ................................................... 234 5 まとめ ....................................................... 234第10 原告番号10の世帯(原告番号10)について ................. 235 1 事実関係 ............................................ 原告番号10の世帯(原告番号10)について ................. 235 1 事実関係 ..................................................... 235⑴ 旧居住地及び本件事故前の就業状況 ........................... 235⑵ 避難経過 ................................................... 235⑶ 避難後の就業状況 ........................................... 236⑷ 不動産の価額 ............................................... 236 2 損害額の認定 ................................................. 236⑴ 慰謝料 ..................................................... 236⑵ 不動産損害 ................................................. 236⑶ 家財 ....................................................... 237⑷ 就労不能損害 ............................................... 237 ⑸ その他 ..................................................... 237 3 被告東電による弁済 .......................................... ........................................ 237 3 被告東電による弁済 ........................................... 237 4 弁護士費用 ................................................... 238 5 まとめ ....................................................... 238第11 原告番号11の世帯(原告番号11-1,11-2,11-3,11- 4)について ....................................................... 238 1 事実関係 ..................................................... 238 2 損害額の認定 ................................................. 239 3 被告東電による弁済 ........................................... 239 4 弁護士費用 ................................................... 239 5 まとめ ....................................................... 240 第12 原告番号12の世帯(原告番号12-1,12-2,12-3,12-4)について ....................................................... 241 1 事実関係 ........ -1,12-2,12-3,12-4)について ....................................................... 241 1 事実関係 ..................................................... 241 2 損害額の認定 ................................................. 241 3 被告東電による弁済 ........................................... 242 4 弁護士費用 ................................................... 242 5 まとめ ....................................................... 243第13 原告番号13の世帯(原告番号13-1,13-2)について ... 244 1 事実関係 ..................................................... 244⑴ 旧居住地及び避難経過 ....................................... 244 ⑵ 不動産の価額 ............................................... 244 2 損害額の認定 ................................................. 245⑴ 慰謝料 ..................................................... 245⑵ 不動産損害 ................... .. 245⑴ 慰謝料 ..................................................... 245⑵ 不動産損害 ................................................. 245 3 被告東電による弁済 ........................................... 246 4 弁護士費用 ................................................... 246 5 まとめ ....................................................... 247第14 原告番号14の世帯(原告番号14-1,14-2)について ... 247 1 事実関係 ..................................................... 247 2 損害額の認定 ................................................. 248 ⑴ 慰謝料 ..................................................... 248 ⑵ 財産的損害について ......................................... 248 3 被告東電による弁済 ........................................... 248 4 弁護士費用 ................................................... 249 5 まとめ ............................. 4 弁護士費用 ................................................... 249 5 まとめ ....................................................... 249第15 原告番号15の世帯(原告番号15-1,15-2)について ... 249 1 事実関係 ..................................................... 249 2 損害額の認定 ................................................. 250 3 被告東電による弁済 ........................................... 251 4 弁護士費用 ................................................... 251 5 まとめ ....................................................... 251 第16 原告番号16の世帯について ................................. 252 1 事実関係 ..................................................... 252 2 損害額の認定 ................................................. 252 3 被告東電による弁済 ........................................... 253 4 弁護士費用 ........................................ 弁済 ........................................... 253 4 弁護士費用 ................................................... 253 5 まとめ ....................................................... 253第17 原告番号17の世帯について ................................. 253 1 事実関係 ..................................................... 254⑴ 旧居住地及び本件事故前の就業状況 ........................... 254⑵ 避難経過 ................................................... 254 ⑶ 避難後の就業状況 ........................................... 254 2 損害額の認定 ................................................. 255⑴ 慰謝料 ..................................................... 255⑵ 就労不能損害 ............................................... 255 3 被告東電による弁済 ........................................... 256 4 弁護士費用 ............................................. ..................................... 256 4 弁護士費用 ................................................... 256 5 まとめ ....................................................... 256第18 原告番号18の世帯(原告番号18-1,18-2,18-3,18-4,18-5)について ............................................. 256 1 事実関係 ..................................................... 256⑴ 旧居住地等 ................................................. 257 ⑵ 避難経過 ................................................... 257⑶ 不動産の価額 ............................................... 257 2 損害額の認定 ................................................. 257⑴ 慰謝料 ..................................................... 257⑵ 不動産損害 ................................................. 258 ⑶ 家財 ....................................................... ............................. 258 ⑶ 家財 ....................................................... 258 3 被告東電による弁済 ........................................... 258 4 弁護士費用 ................................................... 259 5 まとめ ....................................................... 259第19 原告番号19の世帯(原告番号19-1,19-2)について ... 260 1 事実関係 ..................................................... 260 2 損害額の認定 ................................................. 260 3 被告東電による弁済 ........................................... 261 4 弁護士費用 ................................................... 261 5 まとめ ....................................................... 261 第20 原告番号20の世帯(原告番号20-1,20-2,20-3,20-4,20-5)について ............................................. 262 1 事実関係 ...................... 0-3,20-4,20-5)について ............................................. 262 1 事実関係 ..................................................... 262 2 損害額の認定 ................................................. 262 3 被告東電による弁済 ........................................... 264 4 弁護士費用 ................................................... 264 5 まとめ ....................................................... 264第21 原告番号21の世帯(原告番号21-1,21-2,21-3)について ................................................................. 265 1 事実関係 ..................................................... 265⑴ 旧居住地等 ................................................. 265 ⑵ 避難経過 ................................................... 265⑶ 不動産の価額 ............................................... 266 2 損害額の認定 ................... .... 265⑶ 不動産の価額 ............................................... 266 2 損害額の認定 ................................................. 266⑴ 慰謝料 ..................................................... 266⑵ 不動産損害 ................................................. 266 ⑶ 家財 ....................................................... 267 3 被告東電による弁済 ........................................... 267 4 弁護士費用 ................................................... 267 5 まとめ ....................................................... 268第22 原告番号22の世帯(原告番号22-1,22-2,22-3,22- 4)について ....................................................... 268 1 事実関係 ..................................................... 268⑴ 旧居住地等 ................................................. 268⑵ 避難経過等 ........................... ⑴ 旧居住地等 ................................................. 268⑵ 避難経過等 ................................................. 269⑶ 不動産の価額 ............................................... 270 ア原告番号22-1について ................................. 270イ原告番号22-2について ................................. 270 2 損害額の認定 ................................................. 270⑴ 慰謝料 ..................................................... 270⑵ 不動産損害 ................................................. 271 ア原告番号22-1 ......................................... 271 イ原告番号22-2 ......................................... 271⑶ 家財 ....................................................... 271 3 被告東電による弁済 ........................................... 272 4 弁護士費用 ............................................. ......................................... 272 4 弁護士費用 ................................................... 272 5 原告番号22-1,22-2の損害額のまとめ ................... 273 6 原告番号22-1,22-3,22-4の請求の認容額 ........... 273第23 原告番号23の世帯(原告番号23-1,23-2,23-3,23-4,23-5)について ............................................. 274 1 事実関係 ..................................................... 274⑴ 旧居住地及び本件事故前の就業状況等 ......................... 274 ⑵ 避難経過 ................................................... 274⑶ 避難後の就業状況 ........................................... 275⑷ 不動産の価額 ............................................... 275 2 損害額の認定 ................................................. 276⑴ 慰謝料 ..................................................... 276 ⑵ 不動産損害 ........................................... ....................................... 276 ⑵ 不動産損害 ................................................. 277⑶ 家財 ....................................................... 277⑷ 英語教室再建費用 ............................................277 3 被告東電による弁済 ........................................... 279 4 弁護士費用 ................................................... 279 5 まとめ ....................................................... 279第24 原告番号24の世帯(原告番号24-1,24-2,24-3)について ................................................................. 280 1 事実関係 ..................................................... 280 2 損害額の認定 ................................................. 281 3 被告東電による弁済 ........................................... 281 4 弁護士費用 .......................................... ...................................... 281 4 弁護士費用 ................................................... 282 5 まとめ ....................................................... 282第25 原告番号25の世帯(原告番号25-1,25-2,25-3)について ................................................................. 282 1 事実関係 ..................................................... 282 2 損害額の認定 ................................................. 283 3 被告東電による弁済 ........................................... 283 4 弁護士費用 ................................................... 284 5 原告番号25-1,25-3の損害額のまとめ ................... 284 6 原告番号25-1,25-2の請求の認容額 ..................... 284 第26 原告番号26の世帯(原告番号26-1,26-2,26-3,26-4,26-5)について ............................................. 285 1 事実関係 ....................................... いて ............................................. 285 1 事実関係 ..................................................... 285⑴ 旧居住地及び避難状況 ....................................... 285⑵ 避難後の状況 ............................................... 286 2 損害額の認定 ................................................. 286 3 被告東電による弁済 ........................................... 287 4 弁護士費用 ................................................... 287 5 まとめ ....................................................... 287第27 原告番号27の世帯(原告番号27-1,27-2)について ... 288 1 事実関係 ..................................................... 288 2 損害額の認定 ................................................. 289 3 被告東電による弁済 ........................................... 289 4 弁護士費用 ................................................... ................................ 289 4 弁護士費用 ................................................... 289 5 まとめ ....................................................... 289 第28 原告番号28の世帯(原告番号28)について ................. 290 1 事実関係 ..................................................... 290 2 損害額の認定 ................................................. 290 3 まとめ ....................................................... 290第29 原告番号29の世帯(原告番号29)について ................. 290 1 事実関係 ..................................................... 290 ⑴ 旧居住地及び避難経過 ....................................... 291⑵ 不動産の価額 ............................................... 291 2 損害額の認定 ................................................. 291⑴ 慰謝料 ..................................................... 291⑵ 財産的損害 ...................... 291⑴ 慰謝料 ..................................................... 291⑵ 財産的損害 ................................................. 292 3 被告東電による弁済 ........................................... 292 4 弁護士費用 ................................................... 292 5 まとめ ....................................................... 293第30 原告番号30の世帯(原告番号30-1,30-2)について ... 293第31 原告番号31の世帯(原告番号31-1,31-2)について ... 293 1 事実関係 ..................................................... 293 2 損害額の認定 ................................................. 293 3 被告東電による弁済 ........................................... 294 4 弁護士費用 ................................................... 294 5 まとめ ....................................................... 294 第32 原告番号32の世帯(原告番号32-1,32-2)について とめ ....................................................... 294 第32 原告番号32の世帯(原告番号32-1,32-2)について ... 295 1 事実関係 ..................................................... 295 2 損害額の認定 ................................................. 295 3 被告東電による弁済 ........................................... 296 4 弁護士費用 ................................................... 296 5 まとめ ....................................................... 297 第33 原告番号33の世帯(原告番号33-1,33-2)について ... 297 1 事実関係 ..................................................... 297 2 損害額の認定 ................................................. 297 3 被告東電による弁済 ........................................... 298 4 弁護士費用 ................................................... 298 5 まとめ .................................................. ................................... 298 5 まとめ ....................................................... 298第34 原告番号34の世帯(原告番号34)について ................. 299 1 事実関係 ..................................................... 299 2 損害額の認定 ................................................. 299 3 被告東電による弁済 ........................................... 299 4 弁護士費用 ................................................... 299 5 まとめ ....................................................... 300第35 原告番号35の世帯(原告番号35-1,35-2,35-3,35-4,35-5)について ............................................. 300 1 事実関係 ..................................................... 300 ⑴ 旧居住地及び本件事故前の就業状況 ........................... 300⑵ 避難経過 ................................................... 301⑶ 避難後の生活状況 ................ ... 300⑵ 避難経過 ................................................... 301⑶ 避難後の生活状況 ........................................... 301ア原告番号35-1 ......................................... 301イ原告番号35-2 ......................................... 301 ウ原告番号35-3 ......................................... 301エ原告番号35-4 ......................................... 301⑷ 不動産の価額 ............................................... 302 2 損害額の認定 ................................................. 302⑴ 慰謝料 ..................................................... 302 ⑵ 不動産損害 ................................................. 302 ⑶ 家財 ....................................................... 303⑷ 就労不能損害 ............................................... 303ア原告番号35-1について ........................ 就労不能損害 ............................................... 303ア原告番号35-1について ................................. 303イ原告番号35-2,35-3について ....................... 303ウ原告番号35-4について ................................. 304 ⑸ ペット喪失損害について ..................................... 304⑹ その他損害について ......................................... 304 3 被告東電による弁済 ........................................... 305⑴ 慰謝料について ............................................. 305⑵ 財産的損害について ......................................... 305 ⑶ ペット喪失損害について ..................................... 306 4 弁護士費用 ................................................... 306 5 まとめ ....................................................... 306第36 原告番号36の世帯(原告番号36-1,36-2,36-3)について .................................................. ..... 306第36 原告番号36の世帯(原告番号36-1,36-2,36-3)について ................................................................. 307 1 事実関係 ..................................................... 307 2 損害額の認定 ................................................. 308 3 被告東電による弁済 ........................................... 309 4 弁護士費用 ................................................... 309 5 まとめ ....................................................... 309 第37 原告番号37の世帯(原告番号37-1,37-2,37-3)について ................................................................. 310 1 事実関係 ..................................................... 310⑴ 旧居住地等 ................................................. 310⑵ 避難経過 ................................................... 310 ⑶ 不動産の価額 ................................ ................................................. 310 ⑶ 不動産の価額 ............................................... 311 2 損害額の認定 ................................................. 311⑴ 慰謝料 ..................................................... 311⑵ 不動産損害 ................................................. 312⑶ 家財 ....................................................... 312 3 被告東電による弁済 ........................................... 312 ⑴ 慰謝料について ............................................. 312⑵ 財産的損害について ......................................... 313 4 弁護士費用 ................................................... 313 5 まとめ ....................................................... 313第38 原告番号38の世帯(原告番号38)について ................. 314 1 事実関係 ....................................... 第38 原告番号38の世帯(原告番号38)について ................. 314 1 事実関係 ..................................................... 314 2 損害額の認定 ................................................. 315 3 被告東電による弁済 ........................................... 316 4 弁護士費用 ................................................... 316 5 まとめ ....................................................... 316 第39 原告番号39の世帯(原告番号39-1,39-2,39-3)について ................................................................. 316 1 事実関係 ..................................................... 316 2 損害額の認定 ................................................. 317 3 被告東電による弁済 ........................................... 317 4 弁護士費用 ................................................... 318 5 まとめ ........................................... ............................................. 318 5 まとめ ....................................................... 318第40 原告番号40の世帯(原告番号40-1,40-2,40-3,40-4,40-5,40-6,40-7)について ......................... 319 1 事実関係 ..................................................... 319 ⑴ 当事者等 ................................................... 319 ⑵ 避難経過 ................................................... 320 2 損害額の認定 ................................................. 321⑴ 原告番号40-1,40-5について ......................... 321⑵ 原告番号40-2について ................................... 321⑶ 原告番号40-3について ................................... 321 ⑷ 原告番号40-4について ................................... 322⑸ 原告番号40-6について ................................... 323⑹ 浪江町への転居予定について .............................. 原告番号40-6について ................................... 323⑹ 浪江町への転居予定について ................................. 323 3 被告東電による弁済 ........................................... 323 4 弁護士費用 ................................................... 324 5 原告番号40-2の損害額のまとめ ............................. 324 6 原告番号40-1,40-5,40-7の請求の認容額 ........... 324第41 原告番号41の世帯(原告番号41-1,41-2,41-3,41-4,41-5)について ............................................. 325 1 事実関係 ..................................................... 325 2 損害額の認定 ................................................. 326 3 被告東電による弁済 ........................................... 326 4 弁護士費用 ................................................... 327 5 まとめ ....................................................... 327第42 原告番号42の世帯(原告番号42)について ......... まとめ ....................................................... 327第42 原告番号42の世帯(原告番号42)について ................. 328 1 事実関係 ..................................................... 328 2 損害額の認定 ................................................. 328 3 被告東電による弁済 ........................................... 328 4 弁護士費用 ................................................... 328 5 まとめ ....................................................... 329 第43 原告番号43の世帯(原告番号43-1,43-2,43-3,43- 4)について ....................................................... 329 1 事実関係 ..................................................... 329 2 損害額の認定 ................................................. 330 3 被告東電による弁済 ........................................... 330 4 弁護士費用 ............................................. ......................................... 330 4 弁護士費用 ................................................... 330 5 まとめ ....................................................... 331第44 原告番号44の世帯(原告番号44-1,44-2)について ... 332 1 事実関係 ..................................................... 332⑴ 旧居住地等 ................................................. 332⑵ 避難経過 ................................................... 332 ⑶ 不動産の価額 ............................................... 332 2 損害額の認定 ................................................. 332⑴ 慰謝料 ..................................................... 332⑵ 不動産損害 ................................................. 333⑶ 家財 ....................................................... 333 3 被告東電による弁済 ........................................... ................................... 333 3 被告東電による弁済 ........................................... 334⑴ 慰謝料について ............................................. 334⑵ 財産的損害について ......................................... 334 4 弁護士費用 ................................................... 334 5 まとめ ....................................................... 335 第45 原告番号45の世帯(原告番号45-1,45-2,45-3,45-4,45-5)について ............................................. 335 1 事実関係 ..................................................... 335 2 損害額の認定 ................................................. 336 3 被告東電による弁済 ........................................... 337 4 弁護士費用 ................................................... 337 5 まとめ ....................................................... 337第46 原 ................ 337 5 まとめ ....................................................... 337第46 原告番号46の世帯(原告番号46-1,46-2)について ... 338 1 事実関係 ..................................................... 338 2 損害額の認定 ................................................. 339⑴ 慰謝料 ..................................................... 339 ⑵ 財産的損害について ......................................... 339⑶ 就労不能損害について ....................................... 339 3 被告東電による弁済 ........................................... 339⑴ 慰謝料について ............................................. 339⑵ 就労不能損害について ....................................... 340 4 弁護士費用 ................................................... 340 5 まとめ ....................................................... 340第47 原告番号47の世帯(原告番号47-2,47-3)について 5 まとめ ....................................................... 340第47 原告番号47の世帯(原告番号47-2,47-3)について ... 341 1 事実関係 ..................................................... 341 2 損害額の認定 ................................................. 342 3 被告東電による弁済 ........................................... 342 4 弁護士費用 ................................................... 342 5 まとめ ....................................................... 342第48 原告番号48の世帯(原告番号48-1,48-2,48-3,48-4)について ....................................................... 343 1 事実関係 ..................................................... 343⑴ 当事者等 ................................................... 343⑵ 避難経路 ................................................... 343 2 損害額の認定 ................................................. .................................. 343 2 損害額の認定 ................................................. 344 3 被告東電による弁済 ........................................... 344 4 弁護士費用 ................................................... 344 5 まとめ ....................................................... 345第49 原告番号49の世帯(原告番号49-1,49-2,49-3,49-4,49-5)について ............................................. 345 1 事実関係 ..................................................... 345 2 損害額の認定 ................................................. 346 3 被告東電による弁済 ........................................... 346 4 弁護士費用 ................................................... 347 5 まとめ ....................................................... 347第50 原告番号50の世帯(原告番号50-1,50-2,50-3)について ............................ ........................... 347第50 原告番号50の世帯(原告番号50-1,50-2,50-3)について ................................................................. 348 1 事実関係 ..................................................... 348 2 損害額の認定 ................................................. 349 3 被告東電による弁済 ........................................... 349 4 弁護士費用 ................................................... 349 5 まとめ ....................................................... 350 第51 原告番号51の世帯(原告番号51-1,51-2,51-3,51-4)について ....................................................... 350 1 事実関係 ..................................................... 350 2 損害額の認定 ................................................. 351 3 被告東電による弁済 ........................................... 351 4 弁護士費用 .................. ... 351 3 被告東電による弁済 ........................................... 351 4 弁護士費用 ................................................... 351 5 まとめ ....................................................... 352第52 原告番号52の世帯(原告番号52)について ................. 352 1 事実関係 ..................................................... 352⑴ 旧居住地及び本件事故前の就業状況等 ......................... 353 ⑵ 避難経過及びその後の生活状況等 ............................. 353 2 損害額の認定 ................................................. 354⑴ 慰謝料 ..................................................... 354⑵ 生命身体障害 ............................................... 354⑶ 家財 ....................................................... 355⑷ 就労不能損害 ............................................... 355 ⑸ 家賃 ...................................... ............................................... 355 ⑸ 家賃 ....................................................... 356⑹ 生活費増加分 ............................................... 356 3 被告東電による弁済 ........................................... 356⑴ 慰謝料について ............................................. 356⑵ 財産的損害について ......................................... 357 4 弁護士費用 ................................................... 357 5 まとめ ....................................................... 357第53 原告番号53の世帯(原告番号53-1,53-2,53-3,53-4,53-5)について ............................................. 358 1 事実関係 ..................................................... 358 2 損害額の認定 ................................................. 358⑴ 慰謝料 ..................................................... 358 .............................. 358⑴ 慰謝料 ..................................................... 358⑵ その他の損害について ....................................... 358 3 被告東電による弁済 ........................................... 359 4 弁護士費用 ................................................... 359 5 まとめ ....................................................... 359第54 原告番号54の世帯(原告番号54)について ................. 360 1 事実関係 ..................................................... 360⑴ 旧居住地及び避難経過等 ..................................... 360⑵ 不動産の価額 ............................................... 361 2 損害額の認定 ................................................. 361 ⑴ 慰謝料 ..................................................... 361⑵ 不動産損害 ................................................. 361⑶ 家財 ... ....................... 361⑵ 不動産損害 ................................................. 361⑶ 家財 ....................................................... 362 3 被告東電による弁済 ........................................... 362⑴ 慰謝料について ............................................. 362 ⑵ 財産的損害について ......................................... 362 4 弁護士費用 ................................................... 362 5 まとめ ....................................................... 363第55 原告番号55の世帯(原告番号55)について ................. 363 1 事実関係 ..................................................... 363 ⑴ 旧居住地等 ................................................. 363⑵ 避難経過等 ................................................. 363⑶ 不動産の価額 ............................................... 364 2 損害額の認定 .......... ............. 363⑶ 不動産の価額 ............................................... 364 2 損害額の認定 ................................................. 364⑴ 慰謝料 ..................................................... 364 ⑵ 不動産損害 ................................................. 364⑶ 家財 ....................................................... 364 3 被告東電による弁済 ........................................... 365 4 弁護士費用 ................................................... 365 5 まとめ ....................................................... 365 第56 原告番号56の世帯(原告番号56-1,56-2)について ... 365 1 事実関係 ..................................................... 365 2 損害額の認定 ................................................. 366 3 被告東電による弁済 ........................................... 366 4 弁護士費用 ................... ...... 366 3 被告東電による弁済 ........................................... 366 4 弁護士費用 ................................................... 367 5 まとめ ....................................................... 367 第57 原告番号57の世帯(原告番号57-1,57-2,57-3,57-4,57-5)について ............................................. 367 1 事実関係 ..................................................... 367⑴ 旧居住地及び避難経過 ....................................... 367⑵ 不動産の価額 ............................................... 368 2 損害額の認定 ................................................. 369⑴ 慰謝料 ..................................................... 369⑵ 不動産損害 ................................................. 369⑶ 家財 ....................................................... 370 3 被告東電による弁済 .......................... ....................................................... 370 3 被告東電による弁済 ........................................... 370 ⑴ 慰謝料について ............................................. 370⑵ 財産的損害について ......................................... 370 4 弁護士費用 ................................................... 371 5 まとめ ....................................................... 371第58 原告番号58の世帯(原告番号58-1,58-2,58-3,58- 4,58-5)について ............................................. 373 1 事実関係 ..................................................... 373 2 損害額の認定 ................................................. 373 3 被告東電による弁済 ........................................... 374 4 弁護士費用 ................................................... 374 5 まとめ ................................................... ................................. 374 5 まとめ ....................................................... 374第59 原告番号59の世帯(原告番号59)について ................. 375 1 事実関係 ..................................................... 375 2 損害額の認定 ................................................. 376 3 被告東電による弁済 ........................................... 377 4 弁護士費用 ................................................... 377 5 まとめ ....................................................... 377第60 原告番号60の世帯(原告番号60,60-2)について ....... 378 1 事実関係 ..................................................... 378 2 損害額の認定 ................................................. 378 3 被告東電による弁済 ........................................... 379 4 弁護士費用 ................................................... 379 5 原告 ...................... 379 4 弁護士費用 ................................................... 379 5 原告番号60の損害額のまとめ ................................. 379 6 原告番号60-2の請求の認容額 ............................... 379第61 原告番号61の世帯(原告番号61-1,61-2,61-3,61-4,61-5)について ............................................. 379 1 事実関係 ..................................................... 379 2 損害額の認定 ................................................. 380 3 被告東電による弁済 ........................................... 381 4 弁護士費用 ................................................... 381 5 まとめ ....................................................... 381 第6章結論 ................................................. 383 別紙略語・用語表 〈あ行〉赤い本公益社団法人日弁連交通事故相談センター東京支部発表の「民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準」上巻(基準編)アスペリティ普段は 別紙略語・用語表 〈あ行〉赤い本公益社団法人日弁連交通事故相談センター東京支部発表の「民事交通事故訴訟損害賠償額算定基準」上巻(基準編)アスペリティ普段は強く固着しているが,地震時には大きくすべる領域圧力容器原子炉圧力容器圧力抑制室S/C(サプレッションチャンバー)安全設計審査指針昭和45年に定められた発電用軽水型原子炉施設に関する安全設計審査指針安全審査等原子炉設置許可申請の際に実施される保安院の安全審査及び原子力安全委員会の二次審査の総称エネ庁合同WG資源エネルギー庁に設置されている総合資源エネルギー調査会の「原子力安全・保安部会耐震・構造設計小委員会地震・津波ワーキンググループ」及び同小委員会「地震・地盤ワーキンググループ」による「合同ワーキンググループ」延宝房総沖地震1677年に発生したとされる地震小名浜港工事基準面福島県小名浜地方の1年間の平均潮位を算出し,それを「0」としたもの。O.P.(小名浜ポイント)。東京湾平均海面(T.P.)下0.727m。 〈か行〉格納容器原子炉格納容器確定的影響放射線が細胞に照射されてこれが死亡したことにより,臓器や組織の機能の衰退・喪失を生じたり,形態異常が生じたりする影響。 確率的影響放射線が細胞に照射されて損傷したDNAが修復されて確定的影響は生じなかったものの,その修復が不完全なものであったために,細胞が突然変異を起こしてがんや白血病を発症したり,遺伝性影響をもたらしたりすること。 確率論的安全評価原子炉施設の異常や事故の発端となる事象(起因事象)の発生頻度,発生した事象の及ぼす影響を緩和する安全機能の喪失確率及び発生した事象の進展・影響の度合いを定量的に分析すること 確率論的安全評価原子炉施設の異常や事故の発端となる事象(起因事象)の発生頻度,発生した事象の及ぼす影響を緩和する安全機能の喪失確率及び発生した事象の進展・影響の度合いを定量的に分析することにより,安全性を総合的・定量的に評価する方法。PSA(「ProbabilisticSafetyAssessment」の略)過剰相対リスク放射線被ばくを受けた場合の死亡率(又は罹患率)の,被ばくを受けなかった場合の死亡率(又は罹患率)に対する増加分を 示す指標。ERR(「ExcessRelativeRisk」の略)。 ERR=(放射線被ばくを受けた場合の死亡率・罹患率/放射線被ばくを受けなかった場合の死亡率・罹患率)-1柏崎刈羽原発柏崎刈羽原子力発電所キウォーニー原発米国のキウォーニー原子力発電所キウォーニー原発問題事象 米国原子力規制委員会がキウォーニー原発について指摘した内部溢水に対する脆弱性共用プール建屋運用補助共用施設決定論的安全評価評価に当たって想定した事象の起こりやすさにかかわらず,その事象の発生を想定して行う安全評価原災法原子力災害対策特別措置法原賠審原子力損害賠償紛争審査会原賠センター原子力損害賠償紛争解決センター原賠法原子力損害の賠償に関する法律原賠ADR原賠センターが運営する和解仲介手続経産省経済産業省慶長三陸地震1611年に発生したとされる地震現存被ばく状況緊急事態後の長期被ばく状況を含む状況後段規制原子炉施設設計の方法及び工事の方法の認可や,施設定期検査の段階における規制の局面についての慣例的呼称交流駆動のIC隔離弁 1号機に装備されたIC(非常用復水器)の電動隔離弁のうち交流駆動のもの国賠 設設計の方法及び工事の方法の認可や,施設定期検査の段階における規制の局面についての慣例的呼称交流駆動のIC隔離弁 1号機に装備されたIC(非常用復水器)の電動隔離弁のうち交流駆動のもの国賠法国家賠償法〈さ行〉最終ヒートシンク原子力発電所の冷却設備における最終的な熱の逃し先最高裁平成4年判決最高裁平成4年10月29日第一小法廷判決・民集46巻7号1174頁(いわゆる伊方原発設置許可処分取消訴訟)朔望平均満潮位朔(新月)及び望(満月)の日から前2日後4日以内に観測された,各月の最高満潮位を1年にわたって平均した高さの水位サプレッションチャンバー D/Wとベント管で接続されている格納容器下部のドーナツ型の容器塩屋崎沖地震昭和13年(1938年)に福島県沖で発生した地震しきい値放射線の照射によって生じる確定的影響について,ある一定以上の放射線を照射されると症状が現れ,それ未満では症状が現 れないという線量値敷地高タービン建屋等が存する敷地の高さ自主的避難者政府による避難指示等に基づかずに避難した避難者地震本部地震調査研究推進本部地震マグニチュード地震動の大きさの分布を使って算出する地震の大きさの指標清水代表取締役被告東電代表取締役社長清水正孝(本件事故当時)使用停止等処分平成24年改正後の炉規法43条の3の23が規定する,発電用原子炉施設の使用の停止,改造,修理又は移転,発電用原子炉の運転の方法の指定その他保安のために必要な措置貞観地震869年に発生したとされる地震貞観津波貞観地震により引き起こされたとされる津波貞観津波に関する佐竹論文 佐竹健治,行谷佑一,山木滋が平成20年に発表した論文「石巻・仙台平野における86 9年に発生したとされる地震貞観津波貞観地震により引き起こされたとされる津波貞観津波に関する佐竹論文 佐竹健治,行谷佑一,山木滋が平成20年に発表した論文「石巻・仙台平野における869年貞観津波の数値シミュレーション」省令62号発電用原子力設備に関する技術基準を定める省令(昭和40年通商産業省令第62号)昭和三陸地震昭和8年(1933年)に発生した地震スクラム原子炉の異常時に,制御棒を燃料集合体の間に急速に挿入して,原子炉を緊急停止させる仕組みスマトラ大地震平成16年12月26日にインドネシアのスマトラ島北部西方の海域で発生したマグニチュード9.0の超巨大地震前段規制原子炉の設置許可処分段階における規制の局面についての慣例的呼称線量・線量率効果係数高線量を被ばくした場合のリスクから,実際のデータがない低線量におけるリスクを予想する際,あるいは,急性被ばくのリスクから慢性被ばくや反復被ばくのリスクを推定する際に用いられる補正値。DDREF(「DoseandDoseRateEffectivenessFactor」の略)。 〈た行〉耐震設計審査指針昭和53年に定められた発電用原子炉施設に関する耐震設計審査指針多重防護設計,建設,運転の各段階において,①異常の発生防止,②異常の拡大防止と事故への発展の防止,及び③放射性物質の異常な放出の防止というように重層的な安全確保対策を行うという考え方。 中央防災会議報告中央防災会議日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に関する専門調査会が平成18年1月に報告・発表した「日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に関する専門調査報告」中間指針東京電力株式会社福島第一,第二原子力発電所事故による原子力損害の判定等に関 関する専門調査会が平成18年1月に報告・発表した「日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に関する専門調査報告」中間指針東京電力株式会社福島第一,第二原子力発電所事故による原子力損害の判定等に関する中間指針中間指針等中間指針及び中間指針追補(第一次ないし第四次)の総称中国電力中国電力株式会社中部電力中部電力株式会社チェルノブイリ原発旧ソ連チェルノブイリ原子力発電所チェルノブイリ原発事故 昭和61年にチェルノブイリ原発において発生した事故長期評価地震本部地震調査委員会が平成14年7月に取りまとめて発表した「三陸から房総沖にかけての地震活動の長期評価について」長期評価の信頼度平成15年3月24日に地震本部が公表した「プレートの沈み込みに伴う大地震に関する長期評価の信頼度について」直線しきい値なしモデル 年間約100mSvを下回る被ばくをした場合の確率的影響の発生率の増加は,バックグラウンド線量を超えた放射線量の増加に比例するという仮説。LNTモデル。 直流駆動のIC隔離弁 1号機に装備されたIC(非常用復水器)の電動隔離弁のうち直流駆動のもの津波災害予測マニュアル 平成9年3月に,財団法人日本気象協会が,7省庁手引きの別冊として策定した「津波災害予測マニュアル」津波地震断層が通常よりゆっくりとずれて,人が感じる揺れが小さくても,発生する津波の規模が大きくなるような地震津波浸水予測図平成11年3月に,国土庁が,財団法人日本気象協会と連名で作成した「津波浸水予測図」津波評価技術土木学会原子力土木委員会津波評価部会が策定した「原子力発電所の津波評価技術」津波評価技術の各論津波評価技術の各論において設定された日本海溝沿いの想定津波の基準断層モデル 津波評価技術土木学会原子力土木委員会津波評価部会が策定した「原子力発電所の津波評価技術」津波評価技術の各論津波評価技術の各論において設定された日本海溝沿いの想定津波の基準断層モデル津波評価部会土木学会原子力土木委員会に設置された津波評価部会津波マグニチュード津波の高さの分布を使って算出する地震の大きさの指標低線量被ばくWG内閣官房の放射性物質汚染対策顧問会議の下に設置された「低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ」 低線量被ばくWG報告書 平成23年12月22日に低線量被ばくWGが取りまとめた報告書電事連電気事業連合会東北電力東北電力株式会社土木学会公益社団法人土木学会独立性および重複性単一動的機器の故障を仮定した場合にも,要求される安全確保のための機能が害されることのないよう,非常用発電機を2台とするなどにより,十分な能力を有する系を2つ以上とし,かつ,一方が不作動となるような不利な状況下においても,他方に影響を及ぼさないように回路の分離,配置上の隔離などによる独立性の確保が設計基礎とされることドライウェルS/C(サプレッションチャンバー)と併せて格納容器を構成するフラスコ型の容器。D/W。 〈な行〉新潟県中越沖地震平成19年7月16日に新潟県上中越沖で発生した地震二重扉タービン建屋側から原子炉建屋に入る入口日本海溝・千島海溝専門調査会 中央防災会議が議決により設置した専門調査会のうちの一つである「日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に関する専門調査会」〈は行〉バックグラウンド線量自然放射線による被ばく線量発電所対策本部本件地震を受けて福島第一原発免震重要棟に設置された災害対策本部。 非常用D/G 溝型地震に関する専門調査会」〈は行〉バックグラウンド線量自然放射線による被ばく線量発電所対策本部本件地震を受けて福島第一原発免震重要棟に設置された災害対策本部。 非常用D/G非常用ディーゼル発電機。「非常用dieselgenerator」の略。 東日本大震災本件地震及び本件津波による災害福島第一原発福島第一原子力発電所沸騰水型軽水炉ウラン燃料の核分裂連鎖反応を維持するための減速材と,原子炉の炉心の熱を取り出すための冷却材に,軽水(普通の水)を用いる発電用原子炉。BWR。 フラット35住宅金融支援機構が実施する不動産取得者向け全期間固定金利融資プラント原子力発電所の各原子炉ごとの施設の総称プレストン論文プレストン(DaleL.Preston)ら研究者グループが,2007年に発表した「原爆被爆者における固形がん罹患率,1958-1998年」と題する報告 平成13年安全設計審査指針 平成13年に改訂された安全設計審査指針平成18年対耐震設計審査指針 平成18年に改訂された対耐震設計審査指針平成20年東電試算被告東電が平成20年に行った長期評価の見解に基づく試算平成21年報告平成21年9月7日に,被告東電担当者が保安院担当者に対してした,貞観津波に関する佐竹論文に基づいて試算した波高の数値が福島第一原発でO.P.+約8.6mから約8.9mまでとなった旨の報告。 平成3年1号機溢水事故 平成3年10月30日に福島第一原発1号機で発生した溢水事故平成8年谷岡・佐竹論文 谷岡勇市郎と佐竹健治が平成8年に発表した論文「津波地震はどこで起こるか明治三陸津波から100年」保安院原子力安全・保安院放影研財団法人放射線影響研究 平成8年谷岡・佐竹論文 谷岡勇市郎と佐竹健治が平成8年に発表した論文「津波地震はどこで起こるか明治三陸津波から100年」保安院原子力安全・保安院放影研財団法人放射線影響研究所放射線障害防止法放射性同位元素等による放射線障害の防止に関する法律本件事故本件地震に伴う本件津波により福島第一原発で建物・設備が損壊し放射性物質が放出されるに至った事故本件地震平成23年3月11日に発生した「平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震」本件津波本件地震に伴って発生した津波本店対策本部本件地震を受けて被告東電本店内に設置された災害対策本部〈ま行〉馬鞍山原発台湾の馬鞍山原子力発電所馬鞍山原発事故平成13年に馬鞍山原発で発生した事故マドラス原発インドのマドラス原子力発電所マドラス原発事故平成16年にマドラス原発で発生した事故明治三陸地震明治29年(1896年)に発生した地震〈や行〉吉田所長吉田昌郎福島第一原発所長〈ら行〉ラプチャーディスクあらかじめ設定された圧力で破裂し通気可能になる板状の安全装置ルブレイエ原発フランスのルブレイエ原子力発電所 ルブレイエ原発事故平成11年にルブレイエ原発で発生した事故炉規法核原料物質,核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律 〈A〉AM策アクシデントマネジメント策AO弁開閉の動力として空圧を用いる弁〈B〉BEIR委員会米国科学アカデミー研究審議会が設置した電離放射線の生物影響に関する委員会(BEIR)BEIRⅦBEIR委員会が2006年に公表した低線量電離放射線の健康影響に関する報告BWR沸騰水型軽水炉。「BoilingWater 電離放射線の生物影響に関する委員会(BEIR)BEIRⅦBEIR委員会が2006年に公表した低線量電離放射線の健康影響に関する報告BWR沸騰水型軽水炉。「BoilingWaterReactor」の略〈C〉CCS格納容器冷却系。「ContainmentCoolingSystem」の略CS炉心スプレイ系。「CoreSpraySystem」の略〈D〉D/DFPディーゼルエンジン駆動の消火系ポンプ。「DieselDrivenFirePump」の略DDREF線量・線量率効果係数。「DoseandDoseRateEffectivenessFactor」の略D/Wドライウェル。「DryWell」の略〈E〉ECCS非常用炉心冷却設備ERR過剰相対リスク。「ExcessRelativeRisk」の略〈F〉FP消火系ライン。「FireProtectionSystem」の略〈H〉HPCI高圧注水系。「HighPressureCoolantInjection」の略〈I〉IAEA国際原子力機関IC非常用復水器。「IsolationCondenser」の略ICRP国際放射線防護委員会〈J〉JNES独立行政法人原子力安全基盤機構〈L〉 LNTモデル直線しきい値なしモデルLOCA冷却材喪失事故。「LossOfCoolantAccident」の略LPCI低圧注水系。「LowPressureCoolantInjection」の略〈M〉M/C金属閉鎖配電盤,高圧配電盤,メタクラMO弁開閉の動力として電気を用いる弁MPaメガパスカルMP wPressureCoolantInjection」の略〈M〉M/C金属閉鎖配電盤,高圧配電盤,メタクラMO弁開閉の動力として電気を用いる弁MPaメガパスカルMPaabsMPagageから大気圧を控除した値。絶対圧。MPaabs=0はすなわち真空状態を指す。 MPagage大気圧を基準に,これとの差で表した圧力の単位。通常の圧力ゲージに表示される圧力。ゲージ圧。 〈O〉O.P.+小名浜港工事基準面。「OnahamaPoint」の略〈P〉P/CパワーセンターPSA確率論的安全評価。「ProbabilisticSafetyAssessment」の略〈R〉R/B原子炉建屋RCIC原子炉離隔時冷却系。「ReactorCoreIsolationCoolingsystem」の略RHR残留熱除去系〈S〉SBO全交流電源喪失。「StationBlackout」の略S/Cサプレッションチャンバー,圧力抑制室,トーラス室。 「SuppressionChamber」の略〈T〉TAF原子炉内燃料最上部。「TopofActiveFuel」の略T/Bタービン建屋TMI原発米国スリーマイルアイランド原子力発電所TMI原発事故昭和54年にTMI原発で発生した事故〈U〉UNSCEAR原子放射線の影響に関する国連科学委員会(「UnitedNationsScientificCommitteeontheEffectsofAtomicRadiation」の略)UNSCEAR2013年国連総会報告書 UNSCEARが平成25年10月の国連総会への年次報告書におい ntheEffectsofAtomicRadiation」の略)UNSCEAR2013年国連総会報告書 UNSCEARが平成25年10月の国連総会への年次報告書において行った本件事故による放射線影響の評価結果報告UNSCEAR2013年福島報告書 UNSCEARが平成26年4月2日に公開した,2013年国連総会報告書を実証する科学的附属書A「2011年東日本大震災後の原子力事故による放射線被ばくのレベルと影響」UNSCEAR2015年報告書 UNSCEARが平成27年に公表した,「東日本大震災後の原子力事故による放射線被ばくのレベルと影響に関するUNSCEAR2013年報告書刊行後の進展」と題する白書 〈4〉4省庁農林水産省構造改善局,農林水産省水産庁,運輸省港湾局及び建設省河川局のいわゆる海岸4省庁4省庁報告書いわゆる海岸4省庁により,平成9年3月に策定された「太平洋沿岸部地震津波防災計画手法調査報告書」4省庁報告書等4省庁報告書,7省庁手引き,津波災害予測マニュアル,津波浸水予測図の本判決における総称〈7〉7省庁手引き4省庁報告書第5項において策定の「地域防災計画における津波対策強化の手引き」以上

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