- 1 -主文 本件各控訴をいずれも棄却する。 控訴費用は,1審原告らと1審被告厚労大臣との間で生じた分は,1審被告厚労大臣の,1審原告らと1審被告国との間で生じた分は,1審原告らの各負担とする。 事実 及び理由第1控訴の趣旨 1審被告厚労大臣(1)原判決中,1審被告厚労大臣敗訴部分を取り消す。 (2)1審原告らの請求をいずれも棄却する。 1審原告ら(1)原判決中,1審原告ら敗訴部分をいずれも取り消す。 (2)1審被告国は1審原告らに対し各300万円及びこれに対する平成1,,6年1月14日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要本件は昭和20年8月6日広島市内で原子爆弾に被爆した1審原告両名1,,(審原告ら)のうち,1審原告P1(昭和▲年▲月▲日生。爆心地から約1.8キロメートル離れた路上で被爆原子爆弾被爆者健康手帳を取得しているは昭。 。),和57年7月に胃癌により胃の部分切除術を受けたとして,平成14年9月6日付け書面をもって,胃癌及び胃切除後障害を申請疾病として,また,1審原告P(。 。 2大正▲年▲月▲日生爆心地から約2キロメートル離れた木造兵舎内で被爆原子爆弾被爆者健康手帳を取得しているは平成5年6月に膀胱腫瘍により膀。),胱の部分切除術を受けたとして,平成14年12月6日付け書面をもって,膀胱癌を申請疾病としてそれぞれ原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律以,「」(下被爆者援護法という10条の定める医療の給付を受けるため1審被告「」。),厚労大臣に対し,同法11条に基づき原爆症の認定申請をした。ところが,1審- 2 -被告厚労大臣が,1審原告P1の申請に対しては平成14年12月20日付け書面をもっ め1審被告「」。),厚労大臣に対し,同法11条に基づき原爆症の認定申請をした。ところが,1審- 2 -被告厚労大臣が,1審原告P1の申請に対しては平成14年12月20日付け書面をもって,同P2の申請に対しては同15年7月23日付け書面をもって,いずれも却下処分以下本件各却下処分というをしたことから1審原告ら(「」。),が,1審被告厚労大臣に対し,その取消しを求めるとともに,上記各却下処分が違法であるとして1審被告国に対し国家賠償法1条1項に基づき損害賠償慰,,(謝料各300万円)を各請求したところ,原審が,1審原告らの原爆症の認定申請却下処分取消請求については認容し,国家賠償請求については棄却したことか,,,らこれらを不服として1審被告厚労大臣は本件各却下処分の取消しについて1審原告らは国家賠償請求の棄却について,それぞれ控訴した事案である。 ところで,原審では,1審被告厚労大臣は,1審原告P2についてはその申請疾病である膀胱腫瘍の放射線起因性及び要医療性を,1審原告P1についてはその主張する「胃切除後障害」の存在並びに「胃切除後障害」の放射線起因性及び,,,,要医療性を争い控訴審においても当初1審原告らの各申請疾病については放射線起因性及び要医療性を最大の争点として審理が展開されたが,疾病・障害認定審査会以下審査会というの原子爆弾被爆者医療分科会以下医療(「」。)(「分科会」という)が,平成20年3月17日「新しい審査の方針(以下「新審。 」査方針といいそれ以前の審査の方針を旧審査方針というを策定し」,「」「」。)たことから,1審被告厚労大臣は,1審原告P2の申請疾病である「膀胱癌」については放射線起因性を争わないとの方針に れ以前の審査の方針を旧審査方針というを策定し」,「」「」。)たことから,1審被告厚労大臣は,1審原告P2の申請疾病である「膀胱癌」については放射線起因性を争わないとの方針に変更し,他方,1審原告P1の申請疾病である切除前の胃癌の放射線起因性については当初から争わないものの,他の申請疾病である「胃切除後障害」については,本件却下処分当時におけるその存在及び放射線起因性のいずれをも争うとの姿勢を維持し,なお,1審原告らの各申請疾病についての要医療性については,争点として維持された。 第3当事者の主張等 原判決の引用(1)双方当事者の主張については次のとおり訂正し当審における主張とし,,- 3 -て2のとおり加えるほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第二事案の概要の一前提事実等ないし三争点に関する当事者の主張原判」「」「」(決14頁19行目から241頁末行目まで)の記載部分を引用する。 ア原判決17頁25行目の「会わせて」を「併せて」に,同32頁9行目の「被告」を「1審被告ら」に,同56頁20行目及び同57頁4行目の各「越える」をいずれも「超える」に各改める。 イ原判決66頁25行目のコントロールの次に対照標準である被曝「」「(していない健康な人のグループ」を加える。 )ウ原判決71頁10行目の「DS02・DS86」を「DS86・DS02」に,同81頁19行目の「対照」を「対象」に,同89頁11行目の「起訴」を「基礎」に,同92頁21行目の「イ」を「(a)」に,同25行目のロを(b)に同185頁20行目のわらなかったをわ「」「」,「」「からなかった」に,同193頁8行目の「被曝」を「被爆」に,同207頁25行目の「広島以内」 行目のロを(b)に同185頁20行目のわらなかったをわ「」「」,「」「からなかった」に,同193頁8行目の「被曝」を「被爆」に,同207頁25行目の「広島以内」を「広島市内」に,同216頁9行目,同217頁2行目及び同223頁8行目の各「誘導放射能」をいずれも「誘導放射線」に,同239頁3行目の「原始爆弾の障害作用」を「原子爆弾の傷害作用」に各改める。 (2)ア上記第2事案の概要で述べたとおり1審被告厚労大臣は1審「」,,原告P1との関係では,同原告が申請疾病とした「胃切除後障害」についてはその存在及び放射線起因性を争うものの,胃癌の放射線起因性については争っておらず,他方,1審原告P2との関係では,同原告が申請疾病とした膀胱癌については,放射線起因性を1審被告厚労大臣が争っていたことから,放射線起因性の判断基準,特に,放射線による具体的な症状の内容,放射線が人体の臓器等に損傷を与えるメカニズム,医療分科会で運用していた旧審査方針の合理性について詳細な主張立証活動が展開された。中でも,医療分科会における原爆症の認定申請に対する旧審査方針の- 4 -重要な部分を占めていた,被爆者の爆心地からの距離と被爆後の経過時間を基礎データとして放射線被曝線量を推定する放射線被曝線量評価システムDS86の正確性及び信頼性,疫学的調査資料について統計学的解析方法を用いて算定された原因確率(性別,被爆時の年齢及び爆心地からの距離並びに被爆当時の行動等から推定される被曝線量を考慮の上,各種疾病について,放射線被曝によって誘発された発症割合を性別,被爆時の年齢及び被爆推定線量に応じて算定したもの寄与リスク値をもって申請〔〕),疾病が確率的影響による疾病(被曝線量の増加とともに発現率だけが 射線被曝によって誘発された発症割合を性別,被爆時の年齢及び被爆推定線量に応じて算定したもの寄与リスク値をもって申請〔〕),疾病が確率的影響による疾病(被曝線量の増加とともに発現率だけが増加し,重傷度には変化がない疾病で,癌や遺伝的影響は確率的影響とされているもので,1審原告らの申請疾病である胃癌,膀胱癌はこれに該当するであるときには当該申請者の性別被爆時の年齢及び被爆地点並び。),,に被爆時の状況等をもとに放射線被曝線量評価システムDS86をもって推定される被曝線量等と申請疾病を当てはめ,該当する原因確率の数値を目安として,放射線起因性の判断をする方法については,その合理性をめぐって,高度専門科学的な主張反論が展開された。 イしかし,前記に説示したとおり,1審被告厚労大臣は,1審原告P2の申請疾病である膀胱癌については,控訴審においては,従前の姿勢,すなわち,旧審査方針における放射線被曝線量評価システムDS86と原因確率に当てはめ,該当する数値を目安として放射線起因性を否定する態度を改め,新審査方針に従い,1審原告P2の放射線起因性については争わないとの態度に変更した。したがって,当裁判所としては,本件各却下処分の適否の判断との関係,特に1審原告P2の申請疾病と放射線起因性については,放射線被曝線量評価システムDS86及び原因確率の数値(寄与リスク値)を適用した判断の合理性を検討する必要性が消滅したものと判断し,原判決の放射線起因性に関する当事者の主張摘示部分は,1審被告厚労大臣と1審原告P2との却下処分取消訴訟の関係では,引用から除外- 5 -することとした。 もっとも,1審原告らは,1審被告国との関係では,国家賠償法1条1項に基づく国家賠償請求の請求原因事実として,旧審査方針の不合理性を主張している 関係では,引用から除外- 5 -することとした。 もっとも,1審原告らは,1審被告国との関係では,国家賠償法1条1項に基づく国家賠償請求の請求原因事実として,旧審査方針の不合理性を主張していることから,この関係においてのみ,原判決における当事者の放射線起因性に関する主張摘示部分を引用する。 ウ1審原告P1の申請疾病にかかる「胃切除後障害」の放射線起因性に関,,,する争点は新審査方針によっても残されているが1審被告厚労大臣は1審原告P1の申請疾病とされた胃癌については放射線起因性を認めてお,「」,り同障害を前提とする第2次障害である胃切除後障害についてまで放射線起因性が認められるか否かが争点として残されたにすぎない。したがって,申請疾病である「胃切除後障害」の放射線起因性を検討するにしても,旧審査方針における放射線起因性の判断基準とされていた放射線被曝線量評価システムDS86及び原因確率に基づく寄与リスクの数値を適用した判断の合理性を問題とする余地はないが,1審原告P1も,旧審査方針の不合理性を国家賠償請求の請求原因事実として主張していることから,1審原告P1と1審被告国との国家賠償請求に関する主張部分としても,引用する。 当審における当事者の主張(1)本件各却下処分関係(1審原告らと1審被告厚労大臣)ア放射線起因性について(ア)1審原告らの主張a1審原告P1の放射線起因性放射線起因性が認められている胃癌と,申請疾病である「胃切除後」,「」障害とは相当因果関係にあるから申請疾病である胃切除後障害についても,放射線起因性が認められることは明らかである。すなわち,胃切除後障害は,胃を切除したことにより生じたものであるとこ- 6 -ろ,胃切除の原因となった胃癌の発症については,1審被 後障害についても,放射線起因性が認められることは明らかである。すなわち,胃切除後障害は,胃を切除したことにより生じたものであるとこ- 6 -ろ,胃切除の原因となった胃癌の発症については,1審被告厚労大臣も放射線起因性を認めているのであって,1審原告P1の被爆と胃切除後障害との間に因果関係が認められることも当然である。 b1審原告P2の放射線起因性(a)1審原告P2は,昭和20年8月6日,爆心地から約2キロメートル離れた地点で被爆した。 (b)医療分科会は,放射線起因性を是認する目安として,新審査方針を後記(イ)のとおり定めているところ,1審原告P2は上記地点で被爆したのであるから,新審査方針に定められた要件に適合しており,申請疾病である膀胱癌について放射線起因性が認められることは明白である。 (イ)1審被告厚労大臣の主張a新審査方針の内容医療分科会は平成20年3月17日新しい審査の方針を策定,,「」し,放射線起因性については,従前の放射線被曝線量評価システムDS86と原因確率の当てはめによる判定を改め,①被爆地点が爆心地より約3.5キロメートル以内である者,②原爆投下より約100時間以内に爆心地から約2キロメートル以内に入市した者,③原爆投下より約100時間経過後であって,原爆投下より約2週間以内の期間に,爆心地から約2キロメートル以内の地点に1週間程度以上滞在し,(),,,た者のⅠ悪性腫瘍固形癌などⅡ白血病Ⅲ副甲状腺機能亢進症Ⅳ放射線白内障(加齢性白内障を除く,Ⅴ放射線起因性が認められ。)る心筋梗塞,以上の疾病に関する放射線起因性については,積極的に認定することとした。 b1審原告P1の放射線起因性について1審原告P1については,その主張する「胃切除後障害」は,月に- 7 - る心筋梗塞,以上の疾病に関する放射線起因性については,積極的に認定することとした。 b1審原告P1の放射線起因性について1審原告P1については,その主張する「胃切除後障害」は,月に- 7 -2回程度,食事とは無関係に生じる全身倦怠感,冷汗というものであってダンピング症候群の症状毎食後間もなくして生じる全身倦,「」(怠感等の症状には該当せずまた栄養障害も同障害に特徴的),,「」,,,,に見られる下痢浮腫低蛋白血症等の症状が見られないのであって胃切除後障害としては存在しないし,胃切除後20年以上が経過していることからすると,その栄養障害の原因は,1審原告P1が医師から指導された食事方法を励行せずひどい偏食をしていること,喫煙等の生活習慣に由来するものであって,胃切除以外の原因によるものとみるべきであるさらに貧血についてもヘモグロビン値には異。 ,「」,常はなく,平成9年10月から本件却下処分がなされた平成14年12月20日まで鉄剤の投与はされていないのであって,貧血の疾病に罹患しているとはいえない。 以上のとおりであって,1審原告P1が主張する「ダンピング症候群「栄養障害」及び「貧血」の疾病については,その存在自体が認」,められない。 なお,1審原告P1が主張する「ダンピング症候群」は精神的な要因によること栄養障害は同原告の不適切な食生活や肺炎に罹患し,「」,「」,たことによること貧血は不適切な食生活によるものであることこれらは,いずれも適切な治療を欠いた結果によるものであって,放。 「」,射線起因性は認められない仮に胃切除後障害の存在が認められ切除の原因となった「胃癌」について放射線起因性が認められるとしても,第2次障害についてまで原爆症認定の のであって,放。 「」,射線起因性は認められない仮に胃切除後障害の存在が認められ切除の原因となった「胃癌」について放射線起因性が認められるとしても,第2次障害についてまで原爆症認定の対象とすることは,被爆者援護法の予定するところではない。 イ要医療性について(ア)1審原告らの主張a要医療性一般- 8 -要医療性の判断は,医師による長期の観察が必要であり,抜本的治療方法がなくても,当該原爆症の症状を緩和させる医療の必要性が肯定できる場合には,要医療性の要件を満たし,また,医学的にみて何らかの医療効果が期待し得る可能性を否定することができないような医療が存する限り,要医療性を肯定すべきである。 b1審原告P1の要医療性「」,(a)1審原告P1の諸症状である胃切除後のダンピング症候群「」「」,,栄養障害及び貧血状態は原爆症の認定申請当時も存在し現在も存在している。 (b)1審原告P1は,ダンピング症候群の症状を緩和するために,現在でも消化剤や鉄剤,ビタミンB12内服治療薬を継続的に服用しており,その服用は日常生活を維持する上で必要であるとするP3医師の見解は,1審原告P1を直接診察しつつ治療を継続してきた主治医の意見として,尊重されるべきである。 (c)実際にも,P3医師の治療により,1審原告P1のダンピング症候群の症状が緩和されているのであって,要医療性があることは明らかである。 c1審原告P2の要医療性(a)1審原告P2の当初罹患した癌は,浸潤癌であり極めて予後が良くない。同原告は,昭和55年P4病院外科において腎腫瘍のために右腎臓を摘出し,平成5年1月20日,P5病院において,膀,。 胱に3センチメートルの腫瘍が発見され同腫瘍は浸潤癌であった(b)1審原告P2は, は,昭和55年P4病院外科において腎腫瘍のために右腎臓を摘出し,平成5年1月20日,P5病院において,膀,。 胱に3センチメートルの腫瘍が発見され同腫瘍は浸潤癌であった(b)1審原告P2は,平成5年の膀胱摘出手術後もUFT(経口抗癌剤)の投与を相当期間継続して受けており,主治医が転移の可能性を考慮していたことは明らかである。1審原告P2の腫瘍は,壁外浸潤癌であり,かつ転移の可能性を有する進行癌であって,転移- 9 -の可能性を否定することができない。 (c)1審原告P2は,昭和55年7月ころ,壁外浸潤癌(腎盂癌)で,右腎臓摘出手術を受け,その後に罹患した膀胱癌で平成5年6月膀胱の3分の1の摘出手術を受けた。平成6年3月に膀胱癌が再発し,内視鏡手術(経尿道的膀胱腫瘍切除術)を受けたが,術後に小さな腫瘍が残存したことから,その後,BCGによる治療を6回から10回ほど受け,UFTの投与も2年間継続して受けており,その後は,半年に1回ずつ内視鏡検査を受診している。 (d)平成8年3月に内視鏡検査,CT,上部尿路造影を行い,UFTの投与は終了したが,同年10月,平成9年4月に内視鏡検査を受け,同年7月に前立腺肥大で前立腺癌が問題となり,同年12月膀胱内視鏡及び超音波検査(エコー検査)を受けている。平成12年9月には,レントゲン検査により,転移のチェックを受けた。細胞診と超音波検査は,平成13年3月,平成14年3月,平成15年3月に受けている。 (e)1審原告P2の膀胱癌は壁外浸潤の程度にまで至った進行性の癌であるから,再発・転移の可能性が極めて高く,長期間の観察・検査が必要である。特に,昭和55年に右腎臓摘出手術を受けた腎臓腫瘍は,腎盂癌の可能性が高く,腎盂癌の場合は,10年経過して再発している症例もあり,1審原告P2の場合, が極めて高く,長期間の観察・検査が必要である。特に,昭和55年に右腎臓摘出手術を受けた腎臓腫瘍は,腎盂癌の可能性が高く,腎盂癌の場合は,10年経過して再発している症例もあり,1審原告P2の場合,平成5年の膀胱摘出手術から10年以上の観察・検査が必要であったと考えることは不自然ではない。そのため,癌の転移の有無について,今後も継続して検査又は治療を施す必要がある。 (f)膀胱癌は,膀胱が存在する限り,膀胱内に再発する可能性が高い疾患であり,手術後は担当医の指示によって,定期的に外来に通院し,膀胱内視鏡や尿の細胞診でチェックする必要があるから,1- 10 -審原告P2が原爆症の認定申請をした平成14年12月6日時点においても,要医療性が存在することは明らかである。 (イ)1審被告厚労大臣の主張a要医療性一般被爆者援護法は,要医療性の要件を申請疾病が「現に医療を要する状態にある10条1項ことと定めており疾病自体が治癒してい」(),る場合には「再発の予防等のために適切な医療措置,すなわち,検,」査等の経過観察をしているにすぎない場合が含まれる余地のないことは明らかである。仮に,再発や憎悪があった場合は,その時点において,再度,原爆症の認定を申請すれば,審査を行う仕組みとなっている。 申請疾病に要医療性があるというためには,医療特別手当の給付が必要な疾病,すなわち,医学の常識からみて,一定の効果が期待できる治療が実際に行われている疾病でなければならず,医師による定期的な診察が必要であるとしても,非常に予後が良いとされる腫瘍であり,術後5年以上も再発なく経過し,いわば既に治癒したともいえるものについては,原爆症の認定要件の1つである要医療性を認めることはできない。 1審原告らの本件申請疾病について,たやすく要医療性 であり,術後5年以上も再発なく経過し,いわば既に治癒したともいえるものについては,原爆症の認定要件の1つである要医療性を認めることはできない。 1審原告らの本件申請疾病について,たやすく要医療性を認めてしまうことは,被爆者援護法の趣旨に反するばかりか,悪性腫瘍一般の治癒に関する医学的常識にも反し,原爆症認定行政に不公正かつ不合理な影響を及ぼすものというほかない。 b1審原告P1関係1審原告P1には,仮に,何らかの胃切除後障害の症状が存するとしても,それは積極的な治療を要するような胃切除後障害であるダンピング症候群,逆流性食道炎,栄養障害(るいそう)及び貧血の症状- 11 -は認められず,また,何らかの症状が認められるとしても,その程度,,は軽微なものであり積極的な治療が必要とされるものではないから要医療性の要件を満たさないことも明らかであり,その詳細は下記のとおりである。 (a)1審原告P1は,昭和57年に胃癌により胃の部分切除術を受けたが,胃切除後既に20年以上が経過し,再発もみられない。 (b)1審原告P1は,胃切除後の疾病として,胃癌とともに胃切除後障害も申請疾病としているが,積極的な治療を要するような胃切除後障害(胃切除後症候群)の特徴的症状は認められない。同原告が訴える症状は,自律神経失調症ないし他の原因によるものと考えられ,胃切除に伴う栄養障害は認められず,不適切な食生活や喫煙による体重の増加不良,肺炎等に罹患したことによる一時的な体重減少にすぎず,貧血についても,これをうかがわせる事情はなく,1審原告らは,医学的証拠をもって,客観的に症状の存在を裏付けていない。 (c)ダンピング症候群1審原告P1の症状については,診療録中に他の原因の関与をうかがわせる記載があり,ダンピング症候群の特徴的な症状とはい 的証拠をもって,客観的に症状の存在を裏付けていない。 (c)ダンピング症候群1審原告P1の症状については,診療録中に他の原因の関与をうかがわせる記載があり,ダンピング症候群の特徴的な症状とはいい難い。また,原判決では,平成8年の症状を取り上げているが,それ以降も継続的に医療を受けていながら,6年以上もの間,同様の症状が継続しているとは常識的に考え難く,適切な治療が行われていないか,本人が不適切な生活習慣を繰り返していることにほかならない。 なお,ダンピング症候群の症状が残存しているとするならば,1か月に2回程度しか症状が出ないということはあり得ない。 (d)栄養障害(るいそう)- 12 -1審原告P1の体重減少の原因は,偏食等不適切な食生活や肺炎等に罹患したことにあるとみるべきである。肺炎が治り,体調が回復すれば,体重もある程度増加するのであって,本件申請当時の体重29.5キログラムを殊更強調すべきではない。また,1審原告P1には,本来,栄養障害が進行してみられる下痢,浮腫及び低蛋白血症という症状は全くみられない。 なお,1審原告P1が定期的に受けている健康診断の結果では,「痩せ」については要経過観察との判定がされており,要医療とは判断されていないし,具体的な治療の指示もされていない。栄養状態をみる指標として蛋白質を挙げるが,血清総蛋白の数値には異常がなく,1審原告P1に栄養障害が生じていると認めることはできない。 (e)貧血1審原告P1について,貧血症状の存在をうかがわせる記載はなく,原判決が,どの時点で,どのような診療録を根拠に認定しているのか不明である。1審原告P1の脱力感や倦怠感等の症状は,ダンピング症候群の症状とも相容れないものである上,症状の出現には,季節の影響や発熱など,明確に他の原因が存在する。 実際 根拠に認定しているのか不明である。1審原告P1の脱力感や倦怠感等の症状は,ダンピング症候群の症状とも相容れないものである上,症状の出現には,季節の影響や発熱など,明確に他の原因が存在する。 実際,被爆者健康診断における貧血の結果判定によると,異常がないか,要経過観察との判定がなされているにとどまる。 c1審原告P2関係(a)1審原告P2は,68歳に達した平成5年1月に申請疾病である膀胱腫瘍の診断を受け,同年6月に切除術を受け,その後,平成6年3月に膀胱癌の再発が認められて手術を受けたが,平成8年3月に治療を終えている。その膀胱腫瘍は,表在性の癌(T1)で,悪性度も中等度で予後が良いものであり,平成6年3月の手術以後- 13 -再発もなく経過しており,いわば治癒したといえる。1審原告P2が定期的に通院し,侵襲性のない超音波検査や尿細胞診検査などを半年ないし1年に1回程度行っているとしても,完治した申請疾病については,継続的な医療の必要性があるものと認めることはできない。 (b)1審原告P2は,被爆の事実から再発率に対する過剰リスクが存在する旨主張するが,悪性腫瘍が再発しやすいかどうかは,癌の発症部位,組織型,進行度及び発症時の年齢等によって変わるものであり,被爆者であるからといって,悪性腫瘍の再発率が高いということはない。 (c)1審原告P2の膀胱癌は,浸潤癌であり,極めて予後が良くない癌であると主張するが,病理学的診断結果では進行癌とは認められず,表層癌と診断されており,これに勝る所見はない。確かに,CT検査上では壁外浸潤を疑っていた記載はあるが,そもそもCT検査によっては,炎症所見であるのか,壁外浸潤の所見であるのかを区別することは困難であり,癌の進達度を的確に評価することはできない。癌を治療する場合,まずは癌の進 っていた記載はあるが,そもそもCT検査によっては,炎症所見であるのか,壁外浸潤の所見であるのかを区別することは困難であり,癌の進達度を的確に評価することはできない。癌を治療する場合,まずは癌の進達度を含めて組織学的,。 に確定診断を行い適切な治療法を選択するのが通常の方法である,,,また壁外浸潤を認めた場合膀胱全摘術が標準的な治療法であり術前に化学療法(M-VAC)を行う場合もあるが,M-VAC療法で癌が小さくなったからといって,膀胱全摘術を行わないということは考え難く,そのような治療法が選択されていないことからすると,真に浸潤癌であったかどうかは疑問である。なお,抗癌剤の投与は平成8年3月に終了し,その後は,超音波検査,内視鏡検査などの「検査」しか行われていないのであり,要医療性があるとはいえない。 - 14 -,()(d)1審原告P2はUFT抗癌剤であるテガフール・ウラシルを相当期間継続投与されていたことを強調するが,そもそもUFTは,膀胱癌(浸潤癌)に対して,標準的に使用されているものではなく,UFTが投与されていたことは,1審原告P2の膀胱癌が浸潤癌であったことの証左とはならず,たとえ浸潤癌であっても,非被爆者の再発率よりも高いなどという医学的知見はないのであるから,1審原告P2の主張には意味がない。 (2)国家賠償請求関係(1審原告らと1審被告国)ア1審原告らの主張,,,1審原告らの1審被告国に対する当審における新たな主張の概要は本件各却下処分については行政手続法の定めに違反していること,医療分科会の採用する旧審査方針が不合理な基準であること,原爆症の認定申請却下処分に対しては,多くの司法判断が示されているにもかかわらず,従前の運用を改めることなく維持してきた結果,1審原告らの救済が遅延し 会の採用する旧審査方針が不合理な基準であること,原爆症の認定申請却下処分に対しては,多くの司法判断が示されているにもかかわらず,従前の運用を改めることなく維持してきた結果,1審原告らの救済が遅延しているというものであり,具体的主張内容は,下記のとおりである。 (ア)行政手続法5条1項では「行政庁は,審査基準を定めるものとす,。」,「,,ると定め同条2項で行政庁は審査基準を定めるに当たっては許認可等の性質に照らしてできる限り具体的なものとしなければならないと定めているのに1審被告厚労大臣は原爆症認定処分に必要な。」,,審査基準を定めておらず,また,同法8条1項では「行政庁は,申請により求められた許認可等を拒否する処分をする場合は,申請者に対し,,。」,同時に当該処分の理由を示さなければならないと定めているのに一審原告らに対する本件各却下処分の通知書には,実質的な理由が全く記載されていない。 (イ)1審被告厚労大臣は,旧審査方針として用いた放射線被曝線量評価システムDS86と原因確率ないし「しきい値」を機械的に適用して認- 15 -定の可否を判断していたものであるが,原爆症の認定申請に関する1審被告厚労大臣の諮問機関である審査会の医療分科会が採用する放射線被曝線量評価システムDS86は実測値に符合しないという問題点を含み,また,疫学的調査により蒐集された調査資料について,統計学的解析方法をもって算定された原因確率は統計学的解析方法という限界がある上,集団データ解析の結果を個々の被爆者に当てはめるという問題点をも有している。さらに,旧審査方針では,当該申請者の既往歴,環境因子及び生活歴等をも総合的に勘案した上で判断を行うと定めているにもかかわらず,医療分科会の審査では,個々の被爆者の被爆状況 う問題点をも有している。さらに,旧審査方針では,当該申請者の既往歴,環境因子及び生活歴等をも総合的に勘案した上で判断を行うと定めているにもかかわらず,医療分科会の審査では,個々の被爆者の被爆状況,被爆,,,直後に現れた症状の有無とその態様被爆後の行動及び生活状況病歴申請にかかる疾病の症状や発症に至る経緯,治療の内容及び治療後の状況等といった個別具体的事情などを検討対象にしないままに,原因確率,,を機械的に適用して審査会としての意見をまとめ1審被告厚労大臣はその意見をそのまま受け入れて,本件各却下処分をしたものである。 (ウ)1審被告厚労大臣は,原爆症の認定申請の却下処分に対するこれまでの司法判断(平成12年7月18日長崎原爆P19訴訟最高裁判決,同年11月7日京都原爆P20訴訟大阪高裁判決)に示された,医療分科会における放射線起因性の判断方法となっていた原因確率に基づく認定方式の問題点,要医療性に関して示されていた判断内容に適合するように審査基準及び運用を改めることなく,従前の運用を維持する姿勢に終始していた。すなわち,これまでの原爆症の認定申請に関する司法判断においては科学的知見や経験則の限界が指摘されまた放射線,「」,,被曝線量評価システムDS86に基づく放射線被曝推定線量と「しきい値」を機械的に適用して放射線起因性を判断することは相当でないとの,,,判断が示されていたこと放射線起因性の判断に当たっては被爆状況被爆後の行動やその後の生活状況等を全体的・総合的に考慮した上で,- 16 -原爆放射線被曝の事実が申請疾病を招来した関係を是認できる高度の蓋然性が認められるか否かの観点から判断すべきであるとの判断が示され,,「,ていたこと要医療性の判断においても抜本的治療方法がなくても原爆 の事実が申請疾病を招来した関係を是認できる高度の蓋然性が認められるか否かの観点から判断すべきであるとの判断が示され,,「,ていたこと要医療性の判断においても抜本的治療方法がなくても原爆症の症状を緩和させる医療の必要性が肯定されるような場合には,要医療性の要件を満たす「医学的にみて何らかの医療効果を期待し得。」,る可能性を否定できないような医療が存する限り,要医療性は認められるべきであるとの司法判断が示されていたのであるから審査会ひい。」,ては1審被告厚労大臣としては,かかる司法判断に従って実際の運用を是正すべきであるのに,従前の運用を改めずに,1審被告厚労大臣が1審原告らの本件各却下処分を行い,また,本件控訴をしたことはいずれも違法な公権力の行使に該当する。 ,,,(エ)以上のとおりであって1審被告厚労大臣は故意又は過失により上記違法行為(本件各却下処分)をなし,その結果,1審原告らの救済が遅れ精神的苦痛を与えたことが明らかであるから,1審被告国は国家賠償法1条1項に基づく賠償責任を負担しなければならない。 イ1審被告国の主張(ア)行政手続法5条において,審査基準の設定,具体化及びその公表の義務付けを定めた趣旨は,行政庁による法令の解釈・適用に際しての裁量権行使を公正なものとして,行政過程の透明性を図ろうとしたものであって,具体的審査基準を定めることが困難であり,審査基準を設定しないことに合理的事情が存在する場合には,設定しないことも許容されている。特に,原爆症の認定申請における放射線起因性については,個別具体的な申請に基づき最新の医学・放射線防護学等の知見を踏まえ,科学的・専門的な判断をせざるを得ないことからすれば,上記合理的事情が存在しており,行政手続法5条の規定に違反しない。 (イ)行政処 別具体的な申請に基づき最新の医学・放射線防護学等の知見を踏まえ,科学的・専門的な判断をせざるを得ないことからすれば,上記合理的事情が存在しており,行政手続法5条の規定に違反しない。 (イ)行政処分の理由の記載については,処分の性質と理由付記を命じた- 17 -各法律の規定の趣旨・目的に照らして決定すべきもので,処分の根拠事実及び法規の記載自体から,処分理由が了知し得るものであることで足りる。本件各却下処分については,認定要件とされている放射線起因性及び要医療性を欠くことについては,根拠事実と法規が記載されているから,処分理由記載の趣旨を満たしている。 ,,,,(ウ)なお医療分科会は平成20年3月17日新審査方針を策定し放射線起因性については,従前の放射線被曝線量評価システムDS86と原因確率の当てはめによる判定を一部改め前記(1)ア(イ)aのとおり,定められ,放射線起因性を積極的に認定することとされたが,新審査方針は,被爆者の救済範囲を可及的に拡大するとの行政上の政策判断が採用されたことによるものであって,旧審査方針が科学的合理性を有していなかったというものではない。 第4当裁判所の判断当裁判所は,1審原告らの1審被告厚労大臣に対する原爆症の認定申請却下処分取消請求はいずれも正当としてこれを認容し,1審被告国に対する国家賠償請求については失当としてこれを棄却すべきものであると判断する。 原判決の引用等当裁判所の上記判断の理由については,次のとおり訂正し,2及び3のとおり加えるほかは,原判決の「事実及び理由」欄の「第三当裁判所の判断」に記載のとおりであるから,これを引用する。 なお,放射線起因性に関する部分(原判決242頁2行目から351頁2行目まで)については,1審原告らと1審被告国との間における国家賠償 三当裁判所の判断」に記載のとおりであるから,これを引用する。 なお,放射線起因性に関する部分(原判決242頁2行目から351頁2行目まで)については,1審原告らと1審被告国との間における国家賠償請求に関する判断としてのみ引用し,1審原告らと1審被告厚労大臣との本件各却下処分に関する判断において引用する場合には,その旨摘示する。 (1)原判決245頁5行目の核分裂生成物の次に放射性微粒子を加「」「()」え,同253頁8行目の「申請者の生物」を「申請者の性別,被爆時の年齢- 18 -及び被曝線量に同頁9行目の表1-1ないし8を表1ないし8た」,「」「(だし,別表5及び8以外は枝番を含む」に,同254頁20行目の「被曝。)線量の被爆者」を「被爆者」に,同256頁10行目の「広島爆弾」を「広島原爆」に,同278頁18行目の「放射性」を「放射線」に,同279頁7行目から8行目にかけての「広島爆弾」を「広島原爆」に各改める。 (2)原判決303頁4行目の群αを郡αに同307頁26行目の賀「」「」,「茂群」を「賀茂郡」に各改める。 (3)原判決350頁18行目の第18回を原審第18回に同361「」「」,頁26行目の乙C4を甲C4に同362頁9行目の○○を○「」「」,「」「○に各改め同364頁5行目の原告P1はの次に被爆後も広島市」,「,」「内で生活を続けを加え同365頁9行目のaを(ア)に同頁1,」,「」「」,4行目の「方法」を「吻合」に,同頁18行目の「b」を「(イ)」に,同367頁21行目の「貯留能」を「貯留機能」に,同372頁24行目の「胃酸」を「胃液」に,同374頁10行目の 「」「」,4行目の「方法」を「吻合」に,同頁18行目の「b」を「(イ)」に,同367頁21行目の「貯留能」を「貯留機能」に,同372頁24行目の「胃酸」を「胃液」に,同374頁10行目の「医療分科会」を「審査会」に,同頁11行目の乙B4を乙B6に各改め同379頁14行目の急「」「」,「」,「(」「,」,にを削り同381頁7行目の必要があるの次に甲B9を加え同382頁19行目の「水分の多い」を「水分の少ない」に改める。 本件各却下処分関係被爆者援護法11条に規定する原爆症認定を受けるためには,同条1項に定める「当該負傷又は疾病が原子爆弾の傷害作用に起因する」ものであることの要件(放射線起因性)のほか,同条1項が前条1項の規定を受けたものであるから,同項に定める「現に医療を要する状態にある被爆者」であることの要件(要医療性)も具備していることが必要であると解され(同種規定である平成6年法律117号による廃止前の「原子爆弾被爆者の医療等に関する法律〔昭和32年3月31日法律第41号に関する最高裁平成12年7月18日第三〕」小法廷判決,裁判所時報1272号350頁,訟務月報48巻6号89頁参- 19 -照そこで原告らが申請当時申請疾病について放射線起因性及び要医療),,,,性の要件を具備していたか否か,以下に検討を加える。 (1)1審原告らの申請疾病の放射線起因性関係ア1審原告P2について(ア)証拠(乙A176)によると,医療分科会は,平成20年3月17日,疾病・障害認定審査会運営規程第9条に基づき,放射線起因性の認定審査については,旧審査方針で用いていた原因確率を改め,被爆の実態に一層即したものとするためとして,下記のとおりの方針(新審査方針)を目安 ・障害認定審査会運営規程第9条に基づき,放射線起因性の認定審査については,旧審査方針で用いていた原因確率を改め,被爆の実態に一層即したものとするためとして,下記のとおりの方針(新審査方針)を目安として行うものと定めていたことが認められる。 記 積極的に認定する範囲①被爆地点が爆心地より約3.5キロメートル以内である者②原爆投下より約100時間以内に爆心地から約2キロメートル以内に入市した者③原爆投下より約100時間経過後から,原爆投下より約2週間以内の期間に,爆心地から約2キロメートル以内の地点に1週間程度以上滞在した者から,放射線起因性が推認される以下の疾病についての申請がある場合については,格段に反対すべき事由がない限り,当該申請疾病と被曝した放射線との関係を積極的に認定するものとする。 Ⅰ悪性腫瘍(固形がんなど)Ⅱ白血病Ⅲ副甲状腺機能亢進症Ⅳ放射線白内障(加齢性白内障を除く)。 Ⅴ放射線起因性が認められる心筋梗塞この場合,認定の判断に当たっては,積極的に認定を行うため,申- 20 -請者から可能な限り客観的な資料を求めることとするが,客観的な資料が無い場合にも,申請書の記載内容の整合性やこれまでの認定例を参考にしつつ判断する。 1に該当する以外の申請について1に該当する以外の申請についても,申請者に係る被曝線量,既往歴,環境因子,生活歴等を総合的に勘案して,個別にその起因性を総合的に判断するものとする。 (イ)ところで,1審原告P2の原爆症の認定申請に対する却下処分は,医療分科会が旧審査方針における基準に基づき審査し,却下相当の意見を1審被告厚労大臣に答申したことからなされたものであり,したがって,上記却下処分の適否の判断は,旧審査方針の基準を適用してなされた放射線起因性の審査が対象とな る基準に基づき審査し,却下相当の意見を1審被告厚労大臣に答申したことからなされたものであり,したがって,上記却下処分の適否の判断は,旧審査方針の基準を適用してなされた放射線起因性の審査が対象となるべきではあるが,そうなると,放射線起因性の基準を緩和した新審査方針の下で原爆症の認定申請をした者との間に不均衡が生じ,不合理な結果を招来することになるから,当裁判所は,新審査方針に基づき1審原告P2に関する放射線起因性の有無を判断する。 ,,(ウ)上記解釈の下に1審原告P2の放射線起因性について検討するに1審原告P2は爆心地から約2キロメートル離れた広島市皆実町1丁目所在の暁部隊の木造兵舎内で被曝したこと,申請疾病が膀胱癌であることは,原判決説示(原判決第三の二1参照)のとおりであり,そうすると,その申請疾病である「膀胱癌」については,新審査方針の定める放射線起因性に関する基準に適合しており,放射線起因性を否定すべき生活状況,環境因子等の格別の事由はうかがわれないから,1審原告P2の申請疾病については,放射線起因性を是認することができる(なお,1審被告厚労大臣は,同原告の申請疾病に関する放射線起因性については,積極的には争わない旨陳述した。 。)- 21 -イ1審原告P1について1審被告厚労大臣は,当審においても,1審原告P1の申請疾病である「胃切除後障害」の存在自体及び放射線起因性のいずれをも争うので,以下に検討する。 (ア)1審原告P1の自覚的症状証拠(甲B2の1及び2,甲B3,甲B8,証人P3)によると,1審原告P1が原爆症の認定申請をした平成14年9月前後における同原告の自覚的症状等の内容は,次のとおりであることが認められる。 aP3医師は平成7年8月25日以降財団法人P7病院以下P,,(「7病 症の認定申請をした平成14年9月前後における同原告の自覚的症状等の内容は,次のとおりであることが認められる。 aP3医師は平成7年8月25日以降財団法人P7病院以下P,,(「7病院というにおける1審原告P1の主治医として同原告の診」。),察及び治療を担当するようになった。同医師作成にかかる診療録は,同原告に問診したり,触診したりして診察した結果が記載されたものであって,その際には,1審原告P1が殊更自覚症状について誇大に述べたり,虚偽を申告する事情にはなく,適切な診察を受けようとして通院していたこと,診療録は診察の都度作成されたものとうかがわれることから,診療録の記載内容は,診察時点における1審原告P1の申告する自覚症状を正確に表したものとみることができる。 bP3医師作成の上記診療録(甲B2の1,甲B3,甲B5の1)には,通院時における1審原告P1に関する自覚症状が記載されているが,年月日ごとの具体的記載内容を摘記すると,申請前である平成13年4月4日だるい顔と手のしびれつかれ同年5月28日だ「,,」,「るい同年7月3日熱が続いていて倦怠感あり食欲なし食べよ」,「,,うとすると吐き気がする同年7月23日疲れ気味昨日より両手」,「,指のふるえ,しびれあり,時々こういう症状がある,立っていて膝の力が抜け座り込んでしまったりすることもある同年10月13日,」,「」,「,」,疲れ気味同年12月12日夜になると冷汗あり吐き気あり- 22 -平成14年2月25日「だるさ++(以上は甲B3,平成14年3」)月25日食欲あまりない同年6月24日体調安定相変わらず「」,「,調子の良い日と悪い日の繰り返し,同年7月22日「しびれ同じ 2月25日「だるさ++(以上は甲B3,平成14年3」)月25日食欲あまりない同年6月24日体調安定相変わらず「」,「,調子の良い日と悪い日の繰り返し,同年7月22日「しびれ同じ,」」同年8月26日 3日前起きれなくなった吐き気症状あり同「,,」,年9月2日微熱ありだるさ++・・・ただしこの時点で肺炎「,」(,発症原爆症の認定申請後である同年9月30日昨日だるさがあ),「,ってひどかった微熱まだあり食欲あまりない同年12月16日,,」,しょっちゅう身体がだるく感じる以上は甲B5の1などと記載「」()されている。 cそれ以前における診療録の記載の概要は,平成8年1月19日「食後2時間で動悸発汗ふわーっとなる同年1月26日食後胃が,,」,「痛むもりもりする同年7月26日6月下旬より食欲なし茶碗,」,「,軽く1杯物足りなくてのり10枚位食べることあり平成9年1月,」,10日漢方薬飲まなくても食事とれるようになった同年9月26「」,日「食欲低下している,約1か月前よりだるさ強い,1日1食しか食べていない平成10年4月24日食事はとっている昼間でも冷」,「,」,「,」,汗出てだるい同年9月25日身体調子はまあまあ食べれない同年11月27日急にも~となる発作が2回/月くらいある平成「」,「. ,,,11年2月26日体重338キログラムただだるさあるのみ体調まあまあ食欲普通食後に胃から左腹部痛あり同年4月2,,,」,3日食べると上腹部痛同年10月22日ダンピング症候群と思「」,「われるが,時々低血糖症状あり(冷汗など」とするものである。 普通食後に胃から左腹部痛あり同年4月2,,,」,3日食べると上腹部痛同年10月22日ダンピング症候群と思「」,「われるが,時々低血糖症状あり(冷汗など」とするものである。 )(イ)1審原告P1の各種検査結果の内容1審原告P1の申請前である平成7年当時から申請後の平成17年2「」,「」,「」月当時までの間における赤血球ヘモグロビンヘマトクリット及び「体重」等について実施された検査に関しては,別表1「1審原告- 23 -P1の血液検査等の結果一覧表以下別表P1検査結果一覧表とい」(「」うの証拠欄記載の各証拠によると同一覧表の各種検査項目欄記載の。),各種検査結果については,同一覧表の検査項目欄に対応する年月日欄記載の年月日における数値であることが認められる。 (ウ)胃切除後障害の存否の検討上記認定した1審原告P1の自覚症状及び各種検査結果等に基づき,胃切除後障害の存否について検討する。 a胃切除後障害の医学的知見原判決説示原判決第三の二2(1)カ参照のとおり胃切除後障害(),に関する特徴的な自覚症状,他覚的所見,検査数値に関する医学的知見としてはダンピング症候群自覚症状栄養障害及び貧血の各症,(),状が存在するものとされている。 (a)ダンピング症候群ダンピング症候群には,症状が早期に現れるものと後期(晩期)に現れるものがあり,早期の症状は,食後30分以内に突然出現する全身症状及び腹部症状であり,食物が胃から十二指腸,あるいは上部空腸内に急速に排出されることが引き金となって起こる生体反応であり,冷汗,動悸,めまい,しびれ・失神,顔面紅潮,顔面蒼白,全身熱感,全身脱力感,眠気,頭痛・頭重,胸苦しさ,腹鳴,腹痛,下痢,悪心,嘔吐,腹部膨満及び腹 れることが引き金となって起こる生体反応であり,冷汗,動悸,めまい,しびれ・失神,顔面紅潮,顔面蒼白,全身熱感,全身脱力感,眠気,頭痛・頭重,胸苦しさ,腹鳴,腹痛,下痢,悪心,嘔吐,腹部膨満及び腹部不快感などの諸症状を呈するとされ,後期の症状は,食後2時間ないし3時間ぐらいで全身倦怠感,脱力感,無欲状態,冷汗,めまい,手指のふるえなどが生じるもので,摂取した食事内容が急速に小腸内へ排出され,短時間で吸収されて高血糖をきたし,これに反応してインスリンの過剰分泌が起こることによるものとされている。 (b)栄養障害- 24 -栄養障害は,体重減少,下痢,脂肪便,浮腫,低蛋白血症などの臨床症状を呈するもので,主として,胃切除により1回の食事の摂取量が減少し,何回にも分けて摂取しないと必要なカロリーを摂取することができない結果,体重が減少する。 (c)貧血貧血症状は,血液単位容積当たりのヘモグロビン量の減少を意味し,WHOの基準によれば,成人女性では12g/dl未満が貧血の指標とされている。その症状としては,易疲労感,立ちくらみ,作業能率の低下,集中力の低下などの酸素欠乏による症状と動悸,息切れ及び微熱などの代償機転による症状とがある。貧血の鑑別診断のための検査においては,まず,ヘマトクリット(血液中に占める血)(),球の容積率及び赤血球数から平均赤血球容積MCVを算出し赤血球の性状が,小球性(MCVが80fl未満)か,正球性(MCVが80ないし100fl)か,大球性(MCVが101fl以上)かを区別することにより,およその疾患群が大別できる。 b医学的知見に基づく具体的症状及び検査結果等の考察1審原告P1の原爆症の認定申請前後の自覚症状については,上記(ア)b及びcに説示したとおりであり,原爆症の認定申請の前後を通 患群が大別できる。 b医学的知見に基づく具体的症状及び検査結果等の考察1審原告P1の原爆症の認定申請前後の自覚症状については,上記(ア)b及びcに説示したとおりであり,原爆症の認定申請の前後を通じて吐き気だるさ及び食欲不振等の症状が恒常的に存在,「」,「」「」していたことが認められるとともに申請前の特異的症状として食,,「べられない「食後の胃痛」の記載が散見され,ダンピング症候群の」,典型的症状に符合する自覚症状が恒常的に存在していたとみることができる。 また別表P1検査結果一覧表から明らかなように赤血球数で,,「」は,全般的に正常範囲内に納まっているが,正常範囲の下限付近の数値で推移しており,平成14年9月以降は正常値の範囲の下限を下回- 25 -る状態で推移していたことヘモグロビンについては全般的に正,「」,常範囲内の下限を下回る数値で推移しており,僅かに平成16年4月と11月の2回についてのみ正常範囲内の下限数値に達していたことヘマトクリットについてもほぼ全般的に正常範囲内の下限を,「」,下回る数値で推移しており,僅かに平成14年6月についてのみ,正常範囲内の下限数値に近似しているのみであり,この点に関する検査データは貧血症状を示しているとみることができる。 さらに体重についても全般的に ないし の範,「」,「」「」囲内で上下に変動しながら推移しているが,原爆症の認定申請をした平成14年9月当時は「30」台を割る数値に落ち込んでいることが認められ,1審原告P1の身長(約140センチメートル)を基準とした場合の標準体重が約43キログラム(身長約140センチメート,。 ,ルとした場合標準体重は43キログラム±10パーセント因 とが認められ,1審原告P1の身長(約140センチメートル)を基準とした場合の標準体重が約43キログラム(身長約140センチメート,。 ,ルとした場合標準体重は43キログラム±10パーセント因みに証拠〔甲B7〕によると,1審原告P1の胃切除前である昭和57年。),当時の体重は39キログラム程度であったであることからすると常に標準体重を3割程度下回る状態で推移しており体重について,「」も,栄養の摂取,吸収が十分ではなく,低体重状態にあるとみることができる。 c小括以上に検討したとおり,1審原告P1の胃切除後の自覚症状は,胃,,切除後障害として医学的所見にみられる典型的症状に符合しておりまた,別表P1検査結果一覧表記載の各種検査結果項目にかかる検査,,。 ,数値をみても貧血低体重状態にあることが明らかであるその上証拠(甲B1の1,2の1,3,5の1,6,8,9,証人P3)によると,1審原告P1の担当医師であるP3医師は,上記各種検査結果をも踏まえて,1審原告P1については軽度から中等度の慢性的な- 26 -正球性貧血と診断した上で,その原因につき,血清鉄が著しく低下していることから基本的には鉄欠乏性の貧血と判断したこと,同原告の貧血が小球性あるいは巨赤芽球性貧血ではなく,正球性貧血であることからして,骨髄の中で赤血球の合成そのものが抑制されていることが考えられるとし,その要因としては,ビタミンB12が総体的に不足しているほか,放射線被曝の影響により,造血作用自体も抑制されているものと推定していたことが認められるその上後記(2)アの1審。 ,原告P1に関する要医療性において説示するとおり,胃切除後障害に対する治療として,消化性潰瘍治療薬,ビタミン剤等を処方していたほか,貧血治療として鉄補給 められるその上後記(2)アの1審。 ,原告P1に関する要医療性において説示するとおり,胃切除後障害に対する治療として,消化性潰瘍治療薬,ビタミン剤等を処方していたほか,貧血治療として鉄補給剤の投薬等の治療内容であったことを総合すれば,1審原告P1には,本件原爆症の認定申請当時,胃切除後障害としてのダンピング症候群,栄養障害及び貧血の各諸症状が存在していたものと認めるのが相当である。 d1審被告厚労大臣の反論に対する検討(a)1審被告厚労大臣は,1審原告P1の症状には,診療録上他原因の関与がうかがわれるとして,その症状はダンピング症候群には該当しない旨主張する。 しかし,上記説示のとおり,1審原告P1には,平成14年当時,,もダンピング症候群に符合する症状が認められる上各種検査結果すなわち,貧血,体重に関連する検査項目の数値も正常値範囲内の下限をほぼ恒常的に下回っていたことは前記bに説示したとおりである。また,血清鉄については,平成11年10月以後は同15年3月24日時点における検査数値のみであるが,同時点における検査数値は27μg/dlであり正常値の下限(45μg/dl)を大幅に下回る数値を示していたことからすると,それ以前にすでに貧血状態にあったことを推認することができるのであって,いずれも胃切除- 27 -後障害の存在を示している。さらに,10年以上もの間,1審原告,,P1の主治医として直接診察及び治療を担当していたP3医師が1審被告厚労大臣が主張するような点をも含めて診療録の記載内,,,容各種検査数値を総合考慮の上前記判断をしているのであってこの点に関する1審被告厚労大臣の主張は採用できない。 (b)1審被告厚労大臣は,1審原告P1が,平成8年から本件申請,,をした平成14年までの6年以上の 合考慮の上前記判断をしているのであってこの点に関する1審被告厚労大臣の主張は採用できない。 (b)1審被告厚労大臣は,1審原告P1が,平成8年から本件申請,,をした平成14年までの6年以上の間継続した治療を受けながら同様の症状が継続しているとは常識的に考え難く,それは適切な治療が行われていないことの証左である旨主張する。 しかし,証拠(乙B8,15,26の1及び2)によると,早期及び後期(晩期)ダンピング症候群の治療は,食事療法であり,少量の食事を頻回にとり,食事内容は高蛋白,高脂肪,低炭水化物で水分の少ない乾燥した固形物を中心に摂取するものとされ,食事の摂取方法に気を付けると軽快することが多いとされ,早期ダンピング症候群に対しては自律神経機能調整薬,末梢血流調整薬,抗セロトニン薬等の薬物療法も有効なことがあるが,その効果は十分とはいえないとされていること,食事療法及び薬物療法で軽快しない場合は外科治療を考えるとされていること,後期ダンピング症候群については安静を保ち,症状が出たら速やかに血糖を補い得る糖類を摂取し症状を軽減するか,食事の際に単糖類への分解を阻害する薬剤を同時に内服することで高血糖を抑制する試みもあり,ほとんどの場合は,1年ないし2年経つと自然に症状が治まるとされているが,2年以上経っても治まらない場合があるとされていることが認められ,ダンピング症候群については,適切な治療を行ったとしても常に症状が改善されたり,解消されるものとは限らず,2年以上経過しても同症状が自然に収まらないこともあるとされているので- 28 -あるまた後記(2)アの1審原告P1に関する要医療性において説。 ,示するとおり,その時々の症状に応じて,P3医師は,適宜に投薬等の治療を実施していることからすると,およそ適切な治療が行わ -あるまた後記(2)アの1審原告P1に関する要医療性において説。 ,示するとおり,その時々の症状に応じて,P3医師は,適宜に投薬等の治療を実施していることからすると,およそ適切な治療が行わ。 ,(,)れていないとみることはできないむしろ 証拠 甲B2同B8及び弁論の全趣旨によると,1審原告P1が,P8病院皮膚科の診察を受けた際に栄養不足を指摘されたことから,P3医師は,平成10年6月26日,ビタミン不足による末梢神経炎も考えられるとして,1審原告P1に対し,ビタミンB12(ノイロビタン,メコバラミン)の服用を指示して以後継続的に服用させたり,制酸・粘膜保護剤であるアランタ服用中である同11年3月5日には内視鏡検査で残胃炎の症状を確認していることが認められるほか,別表P1検査結果一覧表及び別表2「1審原告P1の通院及び投薬状況一覧表(以下「別表P1通院投薬一覧表」という)から明らかなよう」。 に,平成15年3月24日血清鉄の数値が正常値を著しく下回った時には,その症状に応じて,貧血治療薬であるフェーマス100mgの服用を開始したり,1審原告P1のその時々の状態に応じて,連続的に服用している消化性潰瘍治療薬やビタミン剤の服用を一時中断する等の措置を行っていたことが明らかである。したがって,P3医師は,1審原告P1の具体的症状に応じた検査,薬剤の服用を適切に指示していたというべきであり,治療が不適切であることをうかがわせる事情は認められない。 (c)1審被告厚労大臣は,ダンピング症候群が治癒しないのは,1審原告P1が指導された食事療法を守らず,不適切な生活習慣を繰り返しているからにほかならないとも主張する。 しかし 証拠 甲B71審原告P1本人原審によると ,(,〔〕),審原告P1自身は,医 導された食事療法を守らず,不適切な生活習慣を繰り返しているからにほかならないとも主張する。 しかし 証拠 甲B71審原告P1本人原審によると ,(,〔〕),審原告P1自身は,医師から食事は数回に分けて摂取するように指- 29 -導を受け,何回にも分けて食べるように努力しているが,食事後の胃の痛み等のために食べることができない,体調が悪くなると食事がとれなくなってしまう,そのような時には,ビスケットを紅茶に浸して柔らかくして口に入れるようにしている,米飯については炊きたて以外は粥にして食するように努力している旨述べており,かかる供述内容に格別不自然な点はない。実際にも食事による胃痛を緩和するために,別表P1通院投薬一覧表記載のとおり,消化性潰瘍治療薬を多く服用している状況を推測することができ,1審原告P1が医師から指示された食事療法を敢えて励行していないことをうかがわせる事情を認めることはできない。 また,証拠(乙B26の4,乙B30)によると,患者は,胃切除後,残胃に負担をかけないつもりで,消化の良い軟らかいものを食べる傾向にあること,粥食は血糖値の変動を大きくさせ,後期ダンピング症候群の症状発現に関連している場合があるとされていること,早期ダンピング症候群の症状(冷汗,動悸,腹部膨満,腹部不快,腹部痛)を最も起こしやすいものは,流動性の高い甘味の強いものとされているが,1審原告P1は,早期ダンピング症状を招かないようあんこ等甘いものを避けていたことが認められる。 他方,証拠(甲B7,1審原告P1本人)によると,1審原告P1は,食事中や食後の痛みを避けようとして食事を減らしたり,固形物を摂らず痛みを緩和するため粥食などの流動食を摂取し,あるいは食欲のないときには,紅茶に浸したビスケット等を食事とすることがあ 告P1は,食事中や食後の痛みを避けようとして食事を減らしたり,固形物を摂らず痛みを緩和するため粥食などの流動食を摂取し,あるいは食欲のないときには,紅茶に浸したビスケット等を食事とすることがあったことは上記説示したとおりであるが,1審原告P1の粥食等は,十数年間の経験により得られた痛みを最も生じさせず,かつ,回数を多くして食べ得る方法の1つとして取り入れられたものと認めることができるのであって,かかる流動食を摂取していた- 30 -ことをもって,ダンピング症状を発現させたり,それを継続・悪化させていたものと認めることはできず,また,これをもって偏食しているとみることもできない。 なお 証拠 1審原告P1本人原審によると1審原告P1,(〔〕),は,24歳ころから,喫煙を習慣としていたことが認められるが,同原告本人尋問では「喫煙をしても体調が不良になったことはな,い」とか「胃の痛みを感じたこともない」と供述しているほか,。 。 喫煙によって,倦怠感を招来させたり,貧血障害,低体重障害に影響を及ぼしていることを示す証拠はなく,また,1審原告P1について,不適切な生活習慣をうかがわせる事情もみられないから,この点の主張は理由がない。 e胃切除後障害の放射線起因性(a)1審原告P1については,前記cで説示したとおり,申請疾病「」,である胃切除後障害が存在していたことを是認することができ,(〔〕かかる障害は胃の切除原判決説示原判決第三の二2(1)オ参照のとおり,1審原告P1は,昭和57年に3分の2の胃の摘出施術を受けているにより胃の消化機能が消滅し又は著しく低下。),,,したことが,他の消化器系器官に影響を及ぼし,食物の消化,吸収機能が低下したために発生することは,医学的知見によって明 を受けているにより胃の消化機能が消滅し又は著しく低下。),,,したことが,他の消化器系器官に影響を及ぼし,食物の消化,吸収機能が低下したために発生することは,医学的知見によって明らかである。そして,胃切除後の障害の発生要因となった,胃の切除自,「」(,体は放射線起因性による胃癌胃癌の放射線起因性については1審被告厚労大臣も争わないに対する治療として行われたもので。),(),あることは原判決説示第三の二2(1)オa参照のとおりでありそうすると胃切除後障害についても放射線起因性の認められ,「」,る胃癌治療に必然的,不可避的に伴う症状であって,放射線起因性について争いのない「胃癌」の疾病と相当因果関係にある疾病と是- 31 -認することができ,放射線起因性が認められるというべきである。 (b)1審被告厚労大臣は,胃切除後障害が仮に存在するとしても,胃切除による第2次障害については,原爆症の認定対象にはなり得ない旨主張するが,被爆者援護法10条1項は,医療の給付要件については「厚生労働大臣は,原子爆弾の傷害作用に起因して負傷,し又は疾病にかかり現に医療を要する状態にある被爆者はと,,,」定めているにすぎず,原子爆弾の傷害作用により直接疾病を被った場合に限定する趣旨であると解することはできない。むしろ,被爆者援護法の制定が,原子爆弾の放射能等による健康被害に苦しむ被爆者の健康の保持及び増進並びに福祉を図るために,医療の給付,医療特別手当等の支給により援護対策を講じた趣旨からすれば,原子爆弾の傷害作用により直接罹った疾病と相当因果関係が認められる第2次障害についても,原爆症認定の対象になるものと解するのが相当であり,この点に関する1審被告厚労大臣の主張を採用することはで ,原子爆弾の傷害作用により直接罹った疾病と相当因果関係が認められる第2次障害についても,原爆症認定の対象になるものと解するのが相当であり,この点に関する1審被告厚労大臣の主張を採用することはできない。 (2)1審原告らの申請疾病の要医療性関係ア1審原告P1の要医療性について(ア)胃切除後障害の治療に関する知見原判決説示(第三の二2カ(イ)ないし(エ))のとおり,早期及び後期,,,ダンピング症候群の治療には少量の食事を頻回にとり高蛋白高脂肪低炭水化物で水分の少ない乾燥した固形物を中心に摂取するという食事,,療法が大切であり早期ダンピング症候群については薬物療法もあるが必ずしも十分な効果がないとされていること,精神的素因が強い場合には抗不安薬が有効なこともあるとされている。栄養障害の治療も,食事療法が中心となり,良質の蛋白質,高カロリー食を少しずつ量を増やして摂取させることによるとされている。また,貧血の治療は,鉄欠乏性- 32 -貧血の場合は,経口的に鉄剤を投与し,経口投与で十分改善されない場合には静注投与し,ビタミンB12の欠乏症の場合は,同ビタミンの投与を行うが,胃全摘の場合には筋注投与を行うとされている。 (イ)具体的に実施された治療の内容証拠(甲B3,5の1,8,9,証人P3)及び弁論の全趣旨によると,次の事実が認められる。 a1審原告P1が原爆症の認定申請をする前年である平成13年から同申請の翌年である平成15年の間におけるP7病院への通院状況をみるに,同原告は,別表P1通院投薬一覧表記載の年月日欄記載の年月日にP7病院で診察を受けており,上記申請前後の通院状況は,月1回以上であったものとみることができる。 bこの間,P3医師は,平成13年7月3日及び同14年9月2日,同原告をそれぞれ肺炎と診断 月日にP7病院で診察を受けており,上記申請前後の通院状況は,月1回以上であったものとみることができる。 bこの間,P3医師は,平成13年7月3日及び同14年9月2日,同原告をそれぞれ肺炎と診断して投薬治療したが,その時期以外はそれぞれの通院時において,同原告の血圧や体重を測定し,直接,その状態を観察しながら問診をし,適宜食事に関する指導をしたほか,胃の不調を常時訴える同原告の症状に対処するため,胃切除後障害の治療として,別表P1通院投薬一覧表記載の消化性潰瘍治療薬,ビタミン剤,精神安定剤等を処方した。具体的には,ダンピング症候群に対し消化性潰瘍治療薬であるアビリット錠及びアランタに加え,精神安定剤として抗ヒスタミン類似のアタラックスPを,栄養障害による末梢神経炎に加え,貧血に対する治療方法としてビタミンB12(メコバラミン及びノイロビタン)を継続投与した。 cP3医師は,平成15年3月24日の血液検査の結果,同原告の血清鉄が正常値下限の45μg/dlを大きく割り込む27μg/dlであることが判明したため,次回の診察日である同年4月28日以降,同原告に貧血治療薬(鉄補給剤)であるフェーマスを投与し,鉄補給剤投与- 33 -による貧血治療をするようになった(別表P1通院投薬一覧表の期間中,平成15年4月28日以前に鉄補給剤の投与はないが,これは,平成11年10月22日の検査結果では,血清鉄が正常値内の47μg/dlであったことによるものとうかがわれる。 。)dP3医師は,平成13年6月25日,同年7月3日,平成14年6月28日,同年9月2日,同月10日,同月30日,平成15年3月24日,それぞれ血液検査を実施し,赤血球数,ヘモグロビン,ヘマトクリット等の数値を調べ,これらの検査結果を踏まえて治療に当たっていた。特に,消化 年9月2日,同月10日,同月30日,平成15年3月24日,それぞれ血液検査を実施し,赤血球数,ヘモグロビン,ヘマトクリット等の数値を調べ,これらの検査結果を踏まえて治療に当たっていた。特に,消化性潰瘍治療薬及びビタミン剤については,平成14年7月30日,同年9月2日,同月4日,同月10日,同年12月27日の診察日には,それ以外の診察日とは異なり,薬剤の処方をしておらず,1審原告P1の具体的症状に応じて,薬剤処方の要否の判断をしていた。 e1審原告P1について,平成16年11月22日に実施された検査結果では,赤血球数,ヘモグロビン,ヘマトクリット,血清鉄,ビタミンB12のいずれの数値も正常値に達しており甲B5の2治療効(),果を上げていた。 (ウ)小括1審原告P1は,定期的(1か月に1回以上の割合)にP7病院でP3医師の診察を受け,その問診の中で,常時胃の不調を訴え,同医師が消化性潰瘍治療薬等の継続投与により胃の不調に対処していたこと,また,同医師は,単なる食事療法を指導するだけではなく,同原告の,少し食べただけで充満感がありさらに食べると胃痛を生じるとの症状甲,(B9)やその訴えをも踏まえて対症療法的に,あるいは薬物治療として,,,薬剤を処方していたことさらに貧血状況に関する検査数値に応じて鉄補給剤を投与していたこと等の治療内容は,上記胃切除後障害に関す- 34 -る医学的知見に照らしても相応なものと認められる。したがって,前記説示のとおり,胃切除後障害が存在しており,その障害に対して,上記治療及び投薬が,原爆症認定申請当時においても実際になされていたのであるから,胃切除後障害については,要医療性を是認することができるというべきである。 (エ)1審被告厚労大臣の反論に対する検討1審被告厚労大臣は,1審 認定申請当時においても実際になされていたのであるから,胃切除後障害については,要医療性を是認することができるというべきである。 (エ)1審被告厚労大臣の反論に対する検討1審被告厚労大臣は,1審原告P1について胃切除後障害が存在する,,としても積極的に治療を要するような特徴的な症状は存在しないこと胃切除後障害が存在するとしても,1審原告P1の不適切な生活習慣によるものであること,低体重は食生活や肺炎に罹患したことによるものであること,人間ドック結果報告票(甲B3)では,異常なし又は日常生活に注意し,経過観察を要する程度の検査結果がなされているにとどまるから,いずれにしても要医療性はない旨主張する。 しかし胃切除後障害の存在については前記(1)イ(ウ)に説示したと,,おりであって,胃切除後の障害として,医学的知見に符合するような自覚的症状が存在している上,同症状に対処するような,薬剤の処方がなされていることも前記(1)イ(ウ)d(b)及び(2)ア(イ)bに説示したとおりである。また,かかる症状は,1審原告P1が担当医師の指導する食事療法に従わないことや不適切な生活習慣によることをうかがわせる事情は見られないことも前記(1)イ(ウ)d(b)及び(c)に説示したとおりである。 なお,1審原告P1の原爆症の認定申請時点に近接した平成14年6「」(),月28日に行われた人間ドック結果報告票(1)甲B10によると要医療欄には治療継続として胃十二脂腸潰瘍と記載されている,「,,」ことが認められるのであって,申請時点から1年前に実施された人間ドック結果報告票甲B3では1審被告厚労大臣主張のとおり要医(),,「- 35 -療欄」には何らの記載もなく,経過観察欄に「やせ,貧血」と記載されてい 点から1年前に実施された人間ドック結果報告票甲B3では1審被告厚労大臣主張のとおり要医(),,「- 35 -療欄」には何らの記載もなく,経過観察欄に「やせ,貧血」と記載されているに止まっていることをもって,申請時点における要医療性の存在を左右するものではない。 イ1審原告P2の要医療性について(ア)医学的知見における膀胱癌の特徴証拠(甲A65,67,甲C1,2及び7)によると,1審原告P2の膀胱癌の特徴については,医学的知見として,次のとおり指摘することができる。 a膀胱癌は膀胱内に多発する傾向があるばかりか,尿の流れの上流である尿管や腎盂にも同様の病変が存在している場合がある。 b膀胱癌は,内視鏡検査を実施することによりほとんどが診断でき,尿に癌細胞が落ちているかを調べる尿細胞診も有効な検査方法であるが,小さな乳頭状の癌では,尿細胞診では,はっきりと癌細胞であると断定できない場合がある。 c表在性の膀胱癌(膀胱の粘膜に止まり,膀胱筋層にまで及んでいない場合)では致命的になることはまれではあるが,この癌は膀胱内に多発すること,何度も再発することが特徴であることから,定期的に膀胱内を観察していくことが必要であって,ときに再発を繰り返すうちに浸潤性の癌(筋層まで浸潤している場合)へと性質が変化することがある。 d膀胱癌は,膀胱が存在する限り,膀胱内に再発する可能性は常にあり,定期的に通院し,内視鏡や尿の細胞診でチェックすることが必要であり,特に,高齢者では再発の危険性が高いものとされている。 e尿路系癌においては,10年以上経てから癌が再発することはまれなことでないとされている。 (イ)具体的に実施された治療及び検査の内容- 36 -証拠(甲C1ないし4,6,乙C2)及び弁論の全趣旨によると,1審原 ,10年以上経てから癌が再発することはまれなことでないとされている。 (イ)具体的に実施された治療及び検査の内容- 36 -証拠(甲C1ないし4,6,乙C2)及び弁論の全趣旨によると,1審原告P2の膀胱癌等の治療及び検査実施等について,次の事実が認められる。 a1審原告P2は,昭和55年7月に当時のP4病院外科において,腎臓腫瘍(これが腎盂癌と考えられることは原判決説示〔原判決第三の二1(1)エ参照〕のとおりである)により右腎臓摘出手術を受け,。 平成5年1月,さらに3センチメートル大(入院診療録〔甲C4〕中の平成5年1月26日付けRADIOLOGYREPORTでは最大径4センチメー。),,トルと記載されているの膀胱癌が発見され術前CT検査により粘膜まで浸潤していることが疑われたため,抗癌剤による化学療法M-VACにより,癌を小さくした上での切除手術実施が決定され,化学療法2.5クール実施後(1クールは4週間の抗癌剤投与を意味する,P5病院泌尿器科のP9医師の執刀により,同年6月16日,。)同癌とともに膀胱の3分の1の摘出手術が行われた。 bP9医師は,1審原告P2の上記膀胱癌につき,切除標本により移(),(),,行上皮癌TCCで細胞分化度は中等度グレード2浸潤度は腫瘍浸潤が粘膜に達しているが,表在性のもの(T1a)と判断し,当初の壁外浸潤の有無につき明確に判断することができなかった。 c上記手術から1年余り経過後の平成6年3月に再び1審原告P2に膀胱癌が発見されたため,同月18日,経尿道的膀胱腫瘍切除術が行われ,同年4月には,BCGの膀胱注入療法が行われた後,再発のおそれが考えられたため,抗癌剤の投与が継続され,また,内視鏡検査により経過観察が実施されていたが,2年余り後である平成8 腫瘍切除術が行われ,同年4月には,BCGの膀胱注入療法が行われた後,再発のおそれが考えられたため,抗癌剤の投与が継続され,また,内視鏡検査により経過観察が実施されていたが,2年余り後である平成8年3月8日に実施された内視鏡検査では異常が見られなかったことから,同時点をもって抗癌剤の投与が中止された。 ,,,d1審原告P2は抗癌剤投与が中止された平成8年以後も毎月1- 37 -2回程度の頻度で通院しており,本件原爆症認定申請の前後2年間余りの通院状況に限ってみても,別表3「1審原告P2の通院状況等一覧表(以下「別表P2通院一覧表」という)の年月日欄記載のとお」。 り,毎月1,2回程度の割合でP5病院の泌尿器科を受診し,P9医師の診療下で前立腺肥大及び高血圧症等の治療を受けていた。 eP9医師の診療録(甲C3,4)には,原爆症認定申請の前後数年間における1審原告P2の膀胱内壁に関する検査結果について,次のとおり記載されている。 (a)平成12年3月10日に実施した腹部(膀胱)の超音波検査では,膀胱壁が非正常で肥厚が認められる。 (b)平成13年3月6日に実施した腹部(腎臓,膀胱,前立腺)の超音波検査では,左腎臓につき水腎症(尿の停滞により,腎盂腎杯が拡張し,その結果腎実質の萎縮をきたした状態をいい,腎臓の機能低下を伴うもの,膀胱につき正常,腎臓については再検査が必)要。 (c)平成13年8月21日に実施した腹部(腎臓,膀胱)の超音波検査では,左腎臓は正常,膀胱は膀胱壁が軽度の非正常。 (d)平成14年3月27日に実施した腹部(腎臓,膀胱,前立腺)の超音波検査では,左腎臓は正常,膀胱は膀胱壁の一部に凹凸がある。 (e)平成14年9月26日の腹部(腎臓,膀胱)の超音波検査において,P10医師は,左腎臓にマイルドな水 部(腎臓,膀胱,前立腺)の超音波検査では,左腎臓は正常,膀胱は膀胱壁の一部に凹凸がある。 (e)平成14年9月26日の腹部(腎臓,膀胱)の超音波検査において,P10医師は,左腎臓にマイルドな水腎症があること,膀胱は膀胱壁に軽度の凹凸がある。 (f)平成15年3月19日に実施した腹部(腎臓,膀胱)の超音波検査では,左腎臓に嚢胞があること,膀胱壁は非正常である。 (g)平成15年9月4日に実施した腹部(腎臓,膀胱,前立腺)の- 38 -超音波検査において,左腎臓に1.5センチメートルの嚢胞があること,膀胱は膀胱壁に凹凸がある。 fP9医師は,1審原告P2につき,別表P2通院一覧表記載の期間中,同一覧表記載の各年月日に,同一覧表記載の細胞疹検査(尿中の癌細胞の有無の検査超音波エコー検査超音波により形成され),()(た断面画像による検査臨床検査尿比重尿PH等を半年に一回),(,)程度の頻度で実施しており,特に,同原告の癌再発の有無を確認するための検査として,細胞診検査,超音波検査及び生化学的検査として免疫抑制酸性蛋白(IAP)検査,SCC抗原を測定する扁平上皮癌関連抗原精密測定検査化学発光免疫測定法尿中NMP22精密測(),定検査等を行っていた(なお,内視鏡検査については,平成11年1月をもって中止したことは後記に説示するとおりである。 。)(ウ)小括以上のとおりであって,1審原告P2については,昭和55年に腎臓腫瘍(腎盂癌)で手術をし,その後約13年後に膀胱癌を発症し,開腹手術により膀胱の3分の1の摘出手術をしたこと,その後1年余りで膀胱癌を再発させ癌部分を内視鏡により除去手術をしていたものである。 また,原爆症の認定申請の前後数年間における検査結果においても,膀胱壁が非正常であると 分の1の摘出手術をしたこと,その後1年余りで膀胱癌を再発させ癌部分を内視鏡により除去手術をしていたものである。 また,原爆症の認定申請の前後数年間における検査結果においても,膀胱壁が非正常であるとか,凹凸の状態であるとの結果に終始していたものであり,膀胱が非正常を示す状態が存在していたのであるから,癌再発の危険性が解消したとみることはできない。その上,膀胱癌における医学的知見としては,高齢者では再発の危険性が高いものとされていること,尿路系癌においては,10年以上経てから癌が再発することはまれなことでないとされていることのほか,P9医師は,平成5年当時に発症した膀胱癌の手術においては,表在性の癌であると判断してはいたものの,切除標本検査では,壁外浸潤の有無につき明確に判断すること- 39 -ができなかったものであって,浸潤性の癌である場合の転移の可能性の不安を払拭することはできず,この点は1審原告P2も同様の危惧を抱いていたものと推認することができる。 一般的に,癌については,早期発見,早期治療が肝要であるとされているところ,1審原告P2の場合には,放射線起因性による膀胱癌を過,,去に発症しているのであってそれ自体再発の危険性が高い癌である上浸潤性の癌であった可能性も否定できないことからすれば,定期的に検査を実施し,早期発見を図ることが重要であることはいうまでもなく,再発したとしても,早期発見により,癌細胞の転移による治療困難な事態を未然に防止するとともに,早期回復が見込まれることになるものであって,定期的検査又は検診自体は,申請疾病である膀胱癌に対する積,,,極的な治療行為ではないにしても早期発見早期治療の機会を確保し再発した場合であっても,疾病の重篤化を防止し,早期回復を図る方法として必要不可欠なものであって,積極 である膀胱癌に対する積,,,極的な治療行為ではないにしても早期発見早期治療の機会を確保し再発した場合であっても,疾病の重篤化を防止し,早期回復を図る方法として必要不可欠なものであって,積極的治療行為にも匹敵するものというべきものである。特に,1審原告P2は放射線起因性による膀胱癌に罹患し,一部除去手術を受けたものの,膀胱癌の再発の危険性が解消できないために,現に毎年定期的に数回検査を受診せざるを得ない状況を余儀なくされているのであって,放射線被爆に起因して発症する膀胱癌の再発に備えた定期的な検査又は受診行為も,治療行為として要医療性を是認するのが相当である。 (エ)1審被告厚労大臣の反論に対する検討,,1審被告厚労大臣は同原告の平成5年1月の膀胱癌は表在性の癌で,。 悪性度も中等度の予後が良いものであり既に治癒している旨主張する1審原告P2の膀胱癌に対する評価に関する上記主張は,執刀医であるP9医師の所見を基礎とするものとうかがわれるが,平成5年1月26日の検査所見(甲C4)においては,膀胱壁を超えていることが疑わ- 40 -れていたことのほか,上記のとおり,同医師は,1審被告厚労大臣が主張する所見を記すと同時に,切除標本によっても,壁外浸潤性を否定し,,(),切れていなかったことすなわち入院診療録概要甲C4において「(,,),切除標本のstageは上記TCCG2PT1aの如くであるがこれをdownstageとよむべきかは今ひとつはっきりせず」と明確に記。 載していることからしても,浸潤性であった疑いを否定し切れていなかったことは明らかである。そうである以上,同医師は,1審原告P2の膀胱癌につき,転移性が高い癌であることも念頭において診察していたものと推認することができる。 浸潤性であった疑いを否定し切れていなかったことは明らかである。そうである以上,同医師は,1審原告P2の膀胱癌につき,転移性が高い癌であることも念頭において診察していたものと推認することができる。 この点,1審被告厚労大臣は,浸潤癌であれば膀胱全摘術が採用されていたはずであるとも強調するが,証拠(甲C4)によると,平成5年1月26日時点での検査結果において最大径4センチメートルの楕円,「形の腫瘤が存在し,膀胱壁と広い接触を持つ。この構造は強い僅かに不均一なCEを示す。この構造の右側で背側の一部は,膀胱壁を超えて右側背側に突出していると考えられると記載されていたのであってそ。」,(),,の後のM-VAC療法抗癌剤治療の結果同年3月10日時点では「前回1993.1.26の検査に比較して,膀胱頭側部背側に存在する腫瘤はその大きさが著しく減少している。前回extra-vesicalextension と考えられた部分は,依然として軟部組織様構造として認められるが,前回ここに認められたabnomalCEは消失していると記載されているさら。」。 に同年5月6日時点の検査結果によると前回1993.3.10の検査に比,,「較して,膀胱の容積が増加している。その他には,特記すべき変化を認めない」と記載されていることが認められる。これらの事実からする。 と,同原告の癌組織は抗癌剤治療の結果,著しく減少し,膀胱容積が増加したと判定されていることに照らすと,膀胱全摘術を選択しなかったことが浸潤癌の疑いがないことの証左とまではみることができず,この- 41 -点に関する1審被告厚労大臣の主張は採用できない。 なお,上記説示のとおり,同原告には相当高度の癌再発の危険性が想定でき,取り分け,同原告は,腎盂癌発症後,約 ではみることができず,この- 41 -点に関する1審被告厚労大臣の主張は採用できない。 なお,上記説示のとおり,同原告には相当高度の癌再発の危険性が想定でき,取り分け,同原告は,腎盂癌発症後,約13年経過した時点で同じ尿路系の膀胱癌を発症し,さらに翌年にも再発していることからすると,最後の手術から5年経過後に再発が生じなかったとの事実をもって,P9医師が主治医として,再発の危険性が消滅したとの判断をしていたとはみることはできない。むしろ,月1,2回の通院に際して,その都度,再発の有無に関する兆候について問診を実施していたものと推認することができ,そうである以上,1審原告P2が原爆症の認定申請をした平成14年12月当時,同原告の膀胱癌が治癒したと判断することはできず,当該申請時点においては,申請疾病が治癒していたことを前提とする1審被告厚労大臣の主張は採用できない。 国家賠償請求関係(1)行政手続法違反について1審原告らは,1審被告厚労大臣が,原爆症の認定申請に関する処分に必要な審査基準を定めていないこと,本件各却下処分の通知には実質的理由が記載されていない旨主張する。 ア1審原告ら主張のように,行政手続法は「行政庁は,審査基準を定めるものとする同法5条1項としまた審査基準の内容は許認可等。」(),,,「の性質に照らしてできる限り具体的なものとしなければならない(同条。」),,,2項と規定しているところ同規定の趣旨は行政庁が審査基準を定め同基準を公表することによって,行政庁による法令の解釈・適用に際しての裁量権の行使を公正なものとし,行政過程の透明性の向上を図ろうとしたものと解することができる。しかし,同法5条1項は「審査基準を定めるものとするとの内容にとどまっており各種許認可等の に際しての裁量権の行使を公正なものとし,行政過程の透明性の向上を図ろうとしたものと解することができる。しかし,同法5条1項は「審査基準を定めるものとするとの内容にとどまっており各種許認可等の申請のすべて。」,,,について審査基準を定めることを求めているものと解することはできず- 42 -法令において当該許認可等の性質に応じて,できる限り具体的かつ明確に定められている場合や,許認可等の性質上,個々の申請について個別具体的な判断をせざるを得ず,法令の定めた内容以上に具体的基準を設けることができない場合等,審査基準を設定しないことにつき合理的理由ないし正当な根拠を是認すべき事情が存在する場合には,行政庁は審査基準を設定しないことも許容されるというべきである。 ところで被爆者援護法10条は医療の給付については原子爆弾の,,,「傷害作用に起因して負傷し,又は疾病にかかり,現に医療を要する状態に」,,ある被爆者として放射線起因性と要医療性の要件を定めているところ同要件の有無については,申請疾病の種類及び具体的病状等のみから明確に判定できるというものではない。旧審査方針は,申請疾病の放射線起因性に関しては,放射線被曝線量評価システムDS86に基づき原爆の爆心地からの距離に応じて放射線被曝線量を推定し,他方,疫学的調査に基づき得られた推定被曝線量と各種疾病(各種疾病については,さらに性別及び年齢に細分化されているごとの発症割合を原因確率として一覧表にま。)とめ,確定的影響に関する疾病と確率的影響に関する疾病とに分類し,個別具体的申請疾病に当てはめて原因確率を算定する手法(旧審査方針の詳細については原判決第二の三1被告らの主張(1)のイ審査の方,〔()「針の概要参照をもって行っていたもの 別具体的申請疾病に当てはめて原因確率を算定する手法(旧審査方針の詳細については原判決第二の三1被告らの主張(1)のイ審査の方,〔()「針の概要参照をもって行っていたものであり放射線被曝線量評価シ」〕),ステムDS86は放射線物理学の専門科学的知見に基づき,広島及び長崎における各種放射線の測定値,アメリカ合衆国ネバタ州の核爆発実験場における核爆発実験観測値,原子炉における放射線測定値,これら測定値等を基礎としてコンピュータでシュミレートして得られた理論値を基礎として定式化されたものであって,多数の申請者に対して公正・公平な判断を行うための審査の指標として設けられたことは相当であったというべきである。そして,係る旧審査方針の内容からすると,1審被告厚労大臣が,- 43 -被爆者援護法10条1項の定めた内容以上に具体的な基準を定めることは極めて困難であったというべきであり,また,要医療性についても,申請時点における申請疾病に関する症状,治療の内容及び治療頻度等に関する個別具体的事由を基礎として判定するものであるから,審査基準として定めることは極めて困難であったというべきである。 なお,被爆者援護法は,原爆症認定の要件である申請疾病に関する放射線起因性については,専門分野における科学的判断を伴うことから,原爆症認定の可否については,審議会等の意見を聴かなければならないものと定めており同法11条2項この規定により公正かつ公平な処分が行(),,われるよう制度的に担保しているというべきであって,審査基準を設けないことによる弊害の防止は図られているというべきであり,この点に関する1審原告らの主張は理由がない。 イ1審原告らは,本件各却下処分については実質的理由が提示されていない旨主張するところ,行 けないことによる弊害の防止は図られているというべきであり,この点に関する1審原告らの主張は理由がない。 イ1審原告らは,本件各却下処分については実質的理由が提示されていない旨主張するところ,行政手続法8条1項で「行政庁は,申請により求められた許認可等を拒否する処分をする場合は,申請者に対し,同時に,当該処分の理由を示さなければならないと定めているがその趣旨は理。」,,由の提示を義務づけることにより,恣意的運用を抑制し,公正かつ公平な判断を制度的に担保するとともに,拒否理由を申請者に明らかにすることによって処分の透明性を高め,併せて不服申立てに便宜を与えることにあるというべきである。 ところで,1審被告厚労大臣が行う,原爆症認定の許否の処分については,審議会等の意見を聴かなければならないものと定めていること(被爆者援護法11条2項)からすると,理由の提示は,1審被告厚労大臣による判断の公正かつ公平性を制度的に担保し,恣意的運用を抑制すべきとの要請よりも,処分の透明性を高めるとともに,申請者に対する不服申立ての便宜を提供するために求められているものと解することができ,かかる- 44 -観点から理由記載の適否を検討すべきである。 ,,(,)そこで本件各却下処分の通知書の記載をみるに 証拠 乙B4C4によると,1審原告らに対する却下処分通知書には,被爆者援護法の求める審査会へ諮問がなされたこと,審査会における審査は,申請書類に記載された被爆状況,申請疾病に基づき原因確率を求めたこと,この原因確率を目安として,これまで得られた医学的知見に照らし,1審原告P2については,放射線起因性が認められず,1審原告P1については,放射線起因性は認められるが,同原告の申請に係る疾病の医療の状況を検討したが同疾病については現に られた医学的知見に照らし,1審原告P2については,放射線起因性が認められず,1審原告P1については,放射線起因性は認められるが,同原告の申請に係る疾病の医療の状況を検討したが同疾病については現に医療を要する状態にはないと判断されるとして,それぞれ被爆者援護法10条1項の要件に欠けると判断されたことの内容が記載されていることが認められる。かかる記載内容からすると,1審原告P2につき,原爆症認定の要件である,申請疾病の放射線起因性に関し,申請された被爆状況,疾病に関する医学的知見の下では,放射線起因性が,,,認められないこと1審原告P1につき同じく原爆症認定の要件である申請疾病の要医療性に関し,申請された疾病については現に医療を要する状態にはない旨それぞれ理由が提示されていることが明らかであり,申請者に対し,不服申立ての検討資料の提供を十分に果たしているというべき,。 であるからこの点に関する1審原告らの主張は採用することができない(2)旧審査方針における基準の合理性について1審原告らは,審査会が原爆症の認定申請に対する判断基準としていた旧審査方針には合理性がなかったものであり,同方針を改めないままに運用を継続して,1審被告厚労大臣は本件各却下処分をしたものであるから,違法有責な職務執行である旨主張するところ,1審原告らが不合理な判断基準として主張しているのは,専ら放射線起因性に関する判断基準である放射線被曝線量の推定及び疫学的調査資料について統計学的解析方法で算定された各種疾病の発症割合(原因確率〔寄与リスク値)であるから,前記第3の1〕- 45 -(2)イで説示したとおり同基準部分を適用して原爆症の認定申請が却下され,たのは,1審原告P2であるので,同原告との関係において,放射線被曝線量評価システムDS86及び疫 3の1〕- 45 -(2)イで説示したとおり同基準部分を適用して原爆症の認定申請が却下され,たのは,1審原告P2であるので,同原告との関係において,放射線被曝線量評価システムDS86及び疫学的調査に基づく原因確率の合理性を検討する。 ア旧審査方針の構成旧審査方針のうち,申請疾病の放射線起因性に関する判断基準の内容は前記(1)に説示したとおりであって放射線被曝線量評価システムDS86,(被爆線量の推定部分)と疫学的調査資料に基づき統計学的解析方法で得られた放射線推定被爆線量に対応する各種疾病(性別・年齢)の発症割合(原因確率部分)とから構成されており,原爆症の認定申請者の被爆当時の地点爆心地からの距離性別被爆当時の年齢及び申請疾病を原因確(),,率一覧表に当てはめて判断するものであり原判決説示第三の一3(1)及,(び(2)参照のとおり原因確率がおおむね50パーセント以上に該当すれ),ば起因性を推定し,おおむね10パーセント未満である場合には起因性が低いものと推定するとし,なお,放射線起因性の判断に当たっては,当該申請者の既往歴,環境因子,生活歴等も勘案して判断するものとされていた。 イ旧審査方針の合理性をめぐる当事者の具体的主張1審原告らは,当審においても,放射線被爆線量の推定の根拠としている放射線被曝線量評価システムDS86と原因確率の基礎となった疫学的調査のいずれについても,原爆による被爆実体を十分に反映するものではないとした上,放射線被曝線量評価システムDS86については,初期放射線の被曝線量推定値が爆心地から700メートル以内では高めとなり,それ以遠では低めとなっていること,残留放射線及び誘導放射線による被曝について十分に考慮されておらず実測値に合わない重大な欠陥が存在すること,疫 推定値が爆心地から700メートル以内では高めとなり,それ以遠では低めとなっていること,残留放射線及び誘導放射線による被曝について十分に考慮されておらず実測値に合わない重大な欠陥が存在すること,疫学的調査に基づく原因確率(寄与リスク値)は統計学的解析方- 46 -法に由来する限界があること,集団データ解析の結果を個々の被爆者に当てはめるのは適切ではないこと,機械的に原因確率を適用するのは,既往歴,環境因子及び生活歴等の検討を対象外としており不当である等と主張する。 他方,1審被告厚労大臣は,原爆の放射線の中では初期放射線が圧倒的部分を占めていること,初期放射線(高速中性子)は爆心地から600ないし700メートル以遠には届かず,それより以遠については誘導放射化の問題が起こらないこと,また,誘導放射化される放射性核種も限られている上,半減期が極めて短いこと,疫学的調査は,放射線影響研究所(放影研)が入市者を対象とし,放射性降下物や誘導放射線による被曝の影響があったか否かの観点から,高度専門的かつ大規模に実施したものであって,放射線被曝推定線量と各疾病の発症割合に基づく原因確率(寄与リスク値)は統計学的に信頼できるものであって,これに勝る科学的知見はないと主張する。 ウ放射線被曝線量評価システムDS86の検討,(),a放射線被曝線量評価システムDS86は昭和31年1956年アメリカ合衆国ネバタ州の核実験場(砂漠)で行われた核実験の放射線観測データを元に爆心地からの距離との関係で放射線被曝線量を推定するものとして定式化されたT57D(1957年暫定線量)を出発点とする。T57Dは,日本家屋における放射線遮蔽効果が考慮されていなかったことから,広島及び長崎の原爆放射線の被曝線量評価システムとして適用することができなかった。そ (1957年暫定線量)を出発点とする。T57Dは,日本家屋における放射線遮蔽効果が考慮されていなかったことから,広島及び長崎の原爆放射線の被曝線量評価システムとして適用することができなかった。そこで,同実験場に日本家屋を建設し,長崎型原爆と同型のプルトニューム原爆を爆発させたり,部分的核実験停止後は,同実験場内に,高さ500メートルの鉄塔を建設して,広島原爆を模擬する臨界集合体「裸の原子炉」と「コバルト60線源」を設置して,放射線量を測定し,爆心からの放射線の空気中輸送に関す- 47 -る距離別公式及び日本家屋等の遮蔽効果の透過率を計算する公式を作り,広島及び長崎の被爆者の遮蔽情報のデータベースに基づいて,中性子とガンマー線とに分け,広島と長崎別に放射線被曝線量の計算ができ()。 るように定式化されたものがT65D1965年暫定線量であったところが,T65Dの放射線被曝線量評価について問題点が指摘されたこと,すなわち,同実験場(砂漠)と広島及び長崎との大気中水蒸気成分の差,広島型原爆(ウラニューム)ではなくプルトニューム型原爆を使用しての測定値であったこと(起爆装置の相違と爆弾容器の殻の厚さの相違から,爆弾容器から飛び出す高速中性子の量に差異が生じる,。)爆心地からの距離の変化と中性子及びガンマー線の大気中の透過率,日本家屋の再現については,構造及び材質面で再現が不十分であったこと等から,広島及び長崎における放射線被曝線量評価システムとしての欠点が判明した。そこで,昭和56年(1981年)にアメリカにおいては線量評価委員会が,日本においては旧厚生省内に検討委員会と上級委員会が組織され,大型計算機を利用して数値実験(シュミレーション)が開始され,新たな線量評価システムが開発され,昭和61年(1986年)日米合同の上級委 日本においては旧厚生省内に検討委員会と上級委員会が組織され,大型計算機を利用して数値実験(シュミレーション)が開始され,新たな線量評価システムが開発され,昭和61年(1986年)日米合同の上級委員会で線量評価方法として承認されたのが放射線被曝線量評価システムDS86である。 なお,後述する,疫学的調査における原因確率を策定する際の放射線被曝線量の推定は,放射線被曝線量評価システムDS86が用いられていた(甲A24,37,弁論の全趣旨。 )b放射線被曝線量評価システムDS86は原判決説示第三の一4(3),(参照)のとおり,ガンマー線の推定線量が専門家の実測値,すなわち,1キロメートル以遠で実測された28箇所のうち24箇所の実測値が放射線被曝線量評価システムDS86の計算値を超えていたこと,熱ルミネッセンス法によるガンマー線の線量では,1キロメートル以遠では推- 48 -定値は実測値より過少であること,中性子線についても,中性子によって放射化されたユーロピウム152,塩素36,コバルト60の測定による実測値は,放射線被曝線量評価システムDS86では,近距離で過大評価,遠距離で過少評価となっていること,特に,P12ら及びP13らの実測値と比較すると,爆心から900メートル付近では放射線被曝線量評価システムDS86の推定値が実測値の2倍近く,1300メートルから1500メートルでは実測値が放射線被曝線量評価システムDS86の推定値の2倍ないし3倍となっていること,コバルト60では,1792メートルにおける実測値は,放射線被曝線量評価システムDS86の推定値の100倍を示していることが認められる(甲A37・P14「原爆症訴訟意見書。なお,この点については,原判決説示」)第三の一4(3)キ(イ)及び(ウ)参照のとおりバッ ステムDS86の推定値の100倍を示していることが認められる(甲A37・P14「原爆症訴訟意見書。なお,この点については,原判決説示」)第三の一4(3)キ(イ)及び(ウ)参照のとおりバックグラウンド自(),(然界の放射線量)を考慮すると矛盾はないとする知見も存在するが,バックグラウンドとして考慮された線量の中には広島原爆による放射線量が含まれているとの疑問が指摘されているのであって(甲A56の1及び2,上記実測データの不一致を無視することはできない。 )cまた,放射性物質が体内に取り込まれた場合の内部被曝の影響についても原判決説示第三の一4(5)参照のとおりであって特に広島,(),,市は中国地方の中核都市であり,原爆投下当時は人口約35万人の大都市であったことから甲A33商業施設をはじめとする各種建造物の(),ほか,多種多様な物質が豊富に存在していたことが推認できる。かかる放射性核種となる多様な物質から高速中性子により長短様々の半減期を持った放射性同位元素の物質が生成され,熱線,衝撃波及び熱風等や,爆発後に発生する上昇気流,下降気流等により大気中に放射性の塵や微粒子となって広範囲に浮遊し,やがて地上に落下し,放射性微粒子が人体に取り込まれたこと,取り込まれた放射性微粒子は体内の臓器に移動- 49 -し,体外に排出されるまでの間放射線を細胞に照射することが想定できる。かかる放射性微粒子が放出する放射線が臓器の細胞に及ぼす生物的影響の評価に関しては放射線はDNAに損傷を与えこのDNA損傷,「,はある確率で突然変異し,ある確率で癌になる。放射線による癌化は,放射線により直接生じた突然変異が原因ではなく,照射後,細胞に遅延型突然変異(遺伝的不安定性)を誘導し,それが原因となって発 ,「,はある確率で突然変異し,ある確率で癌になる。放射線による癌化は,放射線により直接生じた突然変異が原因ではなく,照射後,細胞に遅延型突然変異(遺伝的不安定性)を誘導し,それが原因となって発生する可能性が考えられる。照射を受けた細胞は非照射の細胞と比べ,照射後有意に高率な染色体異常を出現させる。この染色体異常は,アルファー線,ガンマー線,エックス線,粒子線の照射で誘導される。アルファー線の方が,ガンマー線より高率で異常を出現させる。比較的低い線量でみられる。線量依存性が明確ではない。照射後幾代培養するごとに違う型の異常が次々と出現するとの研究報告甲A100の資料39放。」(。「射線誘発の遺伝的不安定性と発癌」田中公夫)が公表されている。上記報告からすると,体内に取り込まれた放射線微粒子は量的に少なく,透過力が弱く,飛程距離の短いアルファー線が癌の発生に寄与していることは否定し難く,残留放射線を除外した放射線被曝線量評価システムDS86は原判決説示第三の一4(8)参照のとおり残留放射線の影,(),響を過小評価しているとみることができる。 なお,1審被告厚労大臣は,アルミニウム28による放射線被曝線量を認定した原判決については,当審において,アルミニウム28の半減期は2分であるとし,しかも,半減期に至る過程で線量率自体も減少するから,被曝線量は微々たるもので線量評価にあたり考慮すべき必要はない旨指摘する。しかしながら,原子核が中性子を吸収するとその元素の同位元素の原子核となり,同位元素の原子核となっても放射線を出さない安定条件を満たす場合のみ誘導放射化が起こらず,そうでない場合には誘導放射化が起こり,放射線が放出されると説かれていること(甲- 50 -A98)からすると,上記説示したとおり,原爆投下当 さない安定条件を満たす場合のみ誘導放射化が起こらず,そうでない場合には誘導放射化が起こり,放射線が放出されると説かれていること(甲- 50 -A98)からすると,上記説示したとおり,原爆投下当時,広島市内には誘導放射化される数々の核種となる物質が存在していたとみられるから,原爆により発生した高速中性子を吸収した物質の原子核が誘導放射化され放射性微粒子となって大気中に浮遊して,人体に吸収され内部被,,曝を受けたものと推認できるのであってアルミニウム28に限定せず多種類の放射性微粒子による体内被曝も放射線被曝線量の評価において考慮すべきであると判断する。 ,,,dなお放射線被曝線量評価システムDS86は上記に述べたように広島及び長崎の各地点の放射線量を測定したデータのほか,核爆発実験棟の観測値を基礎として,大型計算機を用いてのシュミレーションにより得られた計算上の数値を定式化したものであるところ,放射線被曝線,,量計算においては初期放射線である高速中性子の到達範囲が気象条件取り分け大気の湿度分布に影響されることは,放射線被曝線量評価システムDS86が開発された経緯からも明らかであって,放射線被曝線量評価システムDS86がいかなる気象条件のもとでシュミレートされたのか追試ができないことや,放射線被曝線量評価システムDS86が再評価された契機については線量評価システムDS02の編集後記で広,「島における中性子放射化の測定値と計算値の重大な不一致について検討することであった」と記載されており(乙A162の1,かかる記載。 )内容からすると原判決認定第三の一4(8)ウ参照のとおり日米の,(),専門科学者による検討を経ているとしても,放射線被曝線量評価システムDS86の信頼性を疑問とすべき合理的事由が存 内容からすると原判決認定第三の一4(8)ウ参照のとおり日米の,(),専門科学者による検討を経ているとしても,放射線被曝線量評価システムDS86の信頼性を疑問とすべき合理的事由が存在し,放射線被曝線量の推定については,唯一絶対的なものとして扱うことはできないというべきである。 エ疫学的調査に基づく寄与リスク等の検討a旧審査方針において用いられている原因確率一覧表はP21らの放,「- 51 -射線の人体への健康影響評価に関する研究P21論文の研究成果に」()依拠していることは原判決説示(第三の一5(1)エ参照)のとおりである。 P21論文が研究の基礎資料とした,ABCC・放影研が行った寿命調,,,査と成人健康調査の概要は寿命調査についてはABCC・放影研が昭和25年(1950年)の国勢調査時に行われた原爆被爆者調査により日本人被爆者と確認された28万人余りの中から,広島市及び長崎市に当時居住していた約20万人を調査対象基本群として扱い,被爆者を爆心地からの距離に応じて3つのグループに分け爆心地から近距離2,(000メートル以内で被爆した集団近距離被爆者集団中距離 )(),(000メートルないし2500メートル)で被爆した集団(中距離被爆者集団遠距離2500メートルないし1万メートルで被爆したも),()のであって,近距離被爆者集団と性別,年齢の構成割合が一致する集団(遠距離被爆者集団)のほか,近距離被爆者集団と性別,年齢の構成割(。 ,合が一致する非被爆者集団比較対照集団原爆投下当時の市内不在者原爆投下後60日以内の入市者とそれ以降の入市者を含むを寿命調査。),(,の対照群として分類し合計9万9393人について実施されたなお1960年代後半及び1980 原爆投下当時の市内不在者原爆投下後60日以内の入市者とそれ以降の入市者を含むを寿命調査。),(,の対照群として分類し合計9万9393人について実施されたなお1960年代後半及び1980年〔昭和55年〕に対象者がそれぞれ拡。)。 ,,(),大された他方成人健康調査については昭和33年1958年上記調査対象基本群から約2万人を抽出し,爆心地から2000メートル以内で被爆し急性放射線症状を示した者4993人(近距離急性発症被爆者集団同集団と都市性別年齢の構成割合を一致させた3つの),,,集団として,爆心地から2000メートル以内で被爆し急性放射線症状を示さない集団中距離非急性発症被爆者集団広島市では爆心地から(),3000メートルないし3500メートル,長崎市では3000メート(),ルないし4000メートルの距離で被爆した集団遠距離被爆者集団原爆投下時にいずれの都市にもいなかった集団(非被爆者集団)につい- 52 -て行われた(なお,1977年に成人健康調査については,対象者が拡大された。寿命調査の方法は,戸籍制度を利用して3年周期で死亡の。)有無,死因について調査する方法をもって行われ,死因については死亡診断書から得ていた。他方,成人健康調査については,昭和33年(1958年)から2年に一度の健康診断を通じて疾病の発生率と健康上の情報を収集することにより得ていた。 そして,P21論文(寿命調査第10報)は,上記調査資料(昭和25年から同57年までの寿命調査)を基礎資料として,統計学的解析方法をもって,各種疾病,性別,年齢ごとに発症割合(原因確率〔寄与リスク値を算定しているところ解析方法としては外部比較法各被〕),,(爆者集団と非被爆者集団とにおける発症疾病の種類,性別 をもって,各種疾病,性別,年齢ごとに発症割合(原因確率〔寄与リスク値を算定しているところ解析方法としては外部比較法各被〕),,(爆者集団と非被爆者集団とにおける発症疾病の種類,性別,年齢を比較して発症割合を算定するによることなく対照群をとらない内部比,。),較法の1つであるポワソン回帰分析法(目的変数〔特定疾病の死亡・罹患率〕がポワソン分布に従うと仮定して,目的変数と目的変数に影響を与える変数である独立変数〔被曝線量〕との回帰式を求めて目的変数を予測し,独立変数の影響の大きさを評価する方法で,比較対照群を適正に選定できない場合に使用されるによって放射線被曝要因ゼロの場。),合の死亡(罹患)率を推定して,原因確率を算定したものである。 b上記aに説示したとおり,旧審査方針に用いられている原因確率(寄与リスク値)は,寿命調査資料等を基礎資料として高度な統計学的解析方法をもって算定されているところ,寿命調査資料は,原爆投下から5年経過後に開始された死亡調査に基づくものであり,また,成人健康調査については昭和30年代に開始されたものであって,特に,寿命調査については,各種疾病と放射線起因性の有無を判断する上で,放射線被曝以外の他の要因の介在の少ない原爆投下から5年以内の死亡者のデータが欠落しているという,調査資料に関する問題を内在している。 - 53 -c寿命調査は,30年余りの長期間に及ぶものであるから,調査期間の途中で,交通事故等による不慮の死を迎えた者も想定されるところ,放射線被曝による発症が問題として顕在化することなく死亡した場合には,調査資料から除外され,統計数値に含まれないとの問題点も存在する。 dさらに,広島及び長崎原爆による被爆区域が広範囲であるため,近距離,中距離及び遠距離被爆者 顕在化することなく死亡した場合には,調査資料から除外され,統計数値に含まれないとの問題点も存在する。 dさらに,広島及び長崎原爆による被爆区域が広範囲であるため,近距離,中距離及び遠距離被爆者集団(暴露群)と分析の目的とする要因以外の要素(性別,年齢,生活環境等)を同じくする非被爆者集団(非曝露群)を選定できず,統計学的解析方法であるポワソン回帰分析法を用いて寄与リスク値を判定していることはやむを得ないとしても,同解析法の信頼性は,放射線被曝線量(線量)と各種疾病との反応関係が正しく把握されていること,特に被曝者集団の各被爆者の放射線被曝線量が正確に把握されていることが前提になるとされるところ,前記説示したとおり,放射線被曝線量評価システムDS86自体について疑問点が存在する上,放射線内部被曝が考慮されていないことからすると,上記統計学的解析方法については,その前提となる放射線被曝線量と各種疾病発症との反応関係が正しく反映されているとはいい難く,解析結果に対する信頼性については,一定の限界が存在することは否定できない。 eその上,1審原告P2の申請疾病は膀胱癌であるところ,その発症原因率(寄与リスク値)については,部位別の癌の症例数が少なく,個別の癌ごとの寄与リスク値を求めることは相当ではないとして,信頼区間を大きくとることができる癌として,肝臓癌,皮膚癌,卵巣癌及び食道「」。 癌とともに尿路系癌の範疇に属するものと扱われて算定されている,(,,,)しかしながら 証拠 甲A62乙C12乙A75原審証人P16,,によると1審原告P2の申請疾病である膀胱癌に関連する膀胱上皮は放射線感受性が高度で細胞分裂がかなり高いとされていること,膀胱癌- 54 -,,は放射線による過剰リスク自体が認められているこ によると1審原告P2の申請疾病である膀胱癌に関連する膀胱上皮は放射線感受性が高度で細胞分裂がかなり高いとされていること,膀胱癌- 54 -,,は放射線による過剰リスク自体が認められていることP17報告では膀胱癌の発生率は,国内では人口10万人当たり男性6人,女性2人の割合と極めて少ないものとされていることが認められ,係る膀胱癌を,肝臓癌,皮膚癌,卵巣癌及び食道癌とともに「尿路系癌」の範疇に属するものとされ,原因確率の低い癌と一緒に扱われているとの疑問を入れる余地がある。 fなお,膀胱癌の発症の職業原因としては,ゴム工業,石油化学工業,芳香族有機溶媒業,繊維衣服染色製造業とされ,他の原因としては喫煙が挙げられ,発生の危険度は職業原因では非職業者と比較すると10ないし50倍,喫煙では非喫煙者と比較すると2ないし4倍との研究報告(,「」,,がなされているが甲A62乙A75放射線基礎医学乙C12原審証人P16 証拠 甲C6 1審原告P2本人原審及び,),(,,〔〕)弁論の全趣旨によると,1審原告P2は,旧P18の社員として通信塔の保守点検作業に従事しており,膀胱癌発症の職業原因とされているような上記職業とは無縁であったほか,喫煙をたしなむこともなかったことが認められる。 オまとめa上記ウ,エのとおり,放射線被曝線量評価システムDS86及び疫学調査に基づく寄与リスクの算定数値自体については,推定被曝線量自体や原爆投下後5年間の資料が欠落していること等信頼性に躊躇させる問題を内在させている。確かに,統計学的解析法により,放射線被曝集団における各種疾病の種類,性別,年齢と爆心地からの距離に応じた発症割合の相関関係を考察することは有益であるが,あくまで被爆者集団の全体的な各種疾病の発症傾向を把 統計学的解析法により,放射線被曝集団における各種疾病の種類,性別,年齢と爆心地からの距離に応じた発症割合の相関関係を考察することは有益であるが,あくまで被爆者集団の全体的な各種疾病の発症傾向を把握するためのものにすぎず,各種疾病の発症と放射線起因性の有無は,個人的要素に影響されることは無視できない。旧審査方針においても,放射線被曝線量評価システムDS86- 55 -で推定された疾病者の被曝線量を前提とした上で,疫学的調査の資料について統計学的解析方法で算定された原因確率は疾病に関する発症割合の目安として扱われ,当該申請者の既往歴,環境因子,生活歴等も勘案して判断するものとされていたのである。特に,1審原告P2に関する申請疾病は,発症原因については職業原因及びその他の原因に関する知見が存在していたこと,しかし,1審原告P2は上記発症原因となる職業には従事していないこと,膀胱癌の発症率は一般社会においては極めて低い疾病であったことなどが指摘できる。したがって,1審原告P2,,の申請疾病については環境因子等の有無を重視して判定すべきであり疫学的調査により算出した原因確率(寄与リスク値)を重視して判定することにはなじまなかった疾病であったというべきである。しかるに,証拠(乙C6)及び弁論の全趣旨によると,疾病・障害認定審査会長作成の平成15年7月16日付け1審被告厚労大臣宛の「原子爆弾被害者に対する援護に関する法律第11条第2項の規定に基づく同条第1項の認定について答申と題する書面認定不相当とする答申書による()」()と1審原告P2らを含めた申請者20名全員について原因確率を目,,「安としつつ,これまでに得られた通常の医学的知見に照らし,総合的に判断した結果,当該申請者に係る下記申請疾病は原子爆弾の放射線と 1審原告P2らを含めた申請者20名全員について原因確率を目,,「安としつつ,これまでに得られた通常の医学的知見に照らし,総合的に判断した結果,当該申請者に係る下記申請疾病は原子爆弾の放射線との起因性がないものと考えるとの意見を示し具体的理由の内容は線。」,「量目安」及び「原因確率」欄に各数値が記載されているのみであり(ただし,1名については,備考欄に「白内障換算値0.000Sv」と記載されていることが認められるかかる記載内容からすると医療分。)。 ,科会における審査は,推定被曝線量,原因確率を重視するあまり,旧審査方針において,個別的検討事由とされていた申請者の既往歴,環境因子及び生活歴等を勘案することなく,統計学的解析方法で算定されていた原因確率(寄与リスク値)を所与のものとして,形式的に判断してい- 56 -たものと推認することができる。 bもっとも,医療分科会が,原爆症の認定申請者に対し,公正かつ公平に審査を行うためには,審査基準となるべき何らかの指標を設けたこと自体は当然のことであり,科学的合理性を備えた審査基準となるべき指標を作成して,判断内容の適正を図ろうとしたことは,原爆症医療給付金の原資を負担する国民の理解を得るためにも必要であったというべきであり,放射線被曝線量評価システムの設定,疫学的調査に基づき高度専門的な統計学的解析方法によって作成された発症割合(原因確率〔寄与リスク値を判断の一資料として用いることは公正かつ公平な原爆〕),症認定の判断をする上では目的にかなうものというべきであり,係る運用を全面的に否定することはできない。しかし,放射線被曝に起因する疾病であるか否か,放射線被曝による発症の仕組み等については,放射線医学をはじめとする各種専門分野において,未だ十分に解明 り,係る運用を全面的に否定することはできない。しかし,放射線被曝に起因する疾病であるか否か,放射線被曝による発症の仕組み等については,放射線医学をはじめとする各種専門分野において,未だ十分に解明されていない状況であって,原爆被爆者が発症した各種疾病について,原因確率が低い数値であることのみをもって,放射線起因性を端的に否定すべきではなく,既往症,生活歴及び生活環境等をも勘案して,放射線被曝以外に想定できる発症原因の有無・程度等をも総合的に検討した上で,放射線被曝の起因性を判断すべきであったというべきである。しかるに,医療分科会では,申請疾病に関する寄与リスク値を所与のものとして扱い,これを形式的に適用して,1審原告P2の原爆症の認定申請を判断したのは,専ら公正かつ公平に判断すべきであるとの姿勢によるもので,。 あったとしてもやはり妥当性を欠いていたものと判断せざるを得ないcところで,被爆者援護法は,1審被告厚労大臣が原爆症認定処分を行うに当たっては,申請疾病が原子爆弾の傷害作用に起因すること又は起因しないことが明らかである場合を除き,審議会等の意見を聴かなければならないと定めているところ同法11条2項弁論の全趣旨による(),- 57 -と,審議会に相当する審査会における1審原告P2の申請疾病の放射線,,起因性を審査していた医療分科会の委員及び臨時委員は放射線科学者1審原告P2の原爆症の認定申請当時現に広島及び長崎において被爆者医療に従事している医学関係者であるほか,内科や外科の専門医師で構成されており,疾病の放射線起因性について高い識見と豊かな学問的知見を備えた専門家であると認められる。そうだとすると,審査会が本来の意見答申の目的・役割を逸脱して,恣意的な判断に基づき意見を答申している等,答申意見を尊重すべき 性について高い識見と豊かな学問的知見を備えた専門家であると認められる。そうだとすると,審査会が本来の意見答申の目的・役割を逸脱して,恣意的な判断に基づき意見を答申している等,答申意見を尊重すべきではない特段の事情が存在し,1審被告厚労大臣がこれを知りながら漫然と答申された意見に従い処分をした場合には,故意又は過失に基づく違法な処分として国家賠償責任を負担すべきであると解するのが相当である。ところで,審査会が,公正かつ公平に判断すべきであるとの姿勢にとらわれ,形式判断に止まったことは上記に説示したとおりであるが,かかる事由をもって,審査会が本来の目的・役割を逸脱し,恣意的な判断に基づき意見を答申したとは認め難く,他に上記事由をうかがわせるべき事情は認められないから,1審被告厚労大臣がなした本件各却下処分が違法有責な職務行為であったとの主張を認めることはできない。 なお,一審原告P1との関係では,同原告の申請疾病である「胃切除後障害」の放射線起因性については,放射線被曝線量と原因確率に基づき放射線起因性の有無を判断しているのではないから,旧審査方針のうち,放射線起因性に関する審査基準の不合理性を根拠として,国家賠償請求を認める余地はない。 (3)漫然的な旧審査方針の運用ア1審原告らは,原爆症の認定申請の却下処分に対する取消訴訟事件において示された最高裁判所(最高裁平成10年(行ツ)第43号事件)をはじめ下級裁判所(大阪高裁平成11年(行コ)第13号事件,東京高裁平成1- 58 -6年(行コ)第165号事件。ただし,東京高裁判決は平成17年3月29日言渡し)において,放射線起因性に関する判断が示されているのであるから,同判断内容に従い,1審原告らの原爆症の認定申請に対する判断を行うべきであるのに,旧審査方針を改めることなく本件各 年3月29日言渡し)において,放射線起因性に関する判断が示されているのであるから,同判断内容に従い,1審原告らの原爆症の認定申請に対する判断を行うべきであるのに,旧審査方針を改めることなく本件各却下処分をしたものと主張する。しかしながら,上記事件における最高裁判決は,放射線起因性に関する証明の解釈について「特定の事実が特定の結果を招来した関係を是認しうる高度の蓋然性を証明すること」との判断を示したこと,大阪高裁判決は放射線被曝線量評価システムDS86につき遠距離被,,「曝について問題点が指摘されており絶対的なものとはみなしがたいと,。」して,また,確定的影響に属する疾病について「しきい値論も絶対的なものとは受け取りがたいと認定したものである1審原告P2の申請疾病。」(は確率的影響に関する疾病であり,この部分については関連しない。な。)お,上記東京高裁判決は,1審原告らの原爆症の認定申請に対する却下処分後である平成17年3月29日に言い渡されたのであるから,この判決の存在をもって,1審原告らの原爆症の認定申請について,この司法判断に従って旧審査方針を改めないままに本件各却下処分をしたことが違法有責な職務行為であるとの根拠にすることは相当ではない。 イ上記のとおり,最高裁判決は,旧審査方針自体について判断したものではないから,1審被告厚労大臣が旧審査方針の運用により審査会が答申した意見に基づき処分をしたとしても,これをもって違法有責を根拠付ける事実とはなし得ないなお上記大阪高裁判決において放射線被曝線量。 ,,「評価方式は絶対的なものではないとの判断が示された点については旧。」,審査方針に基づく運用に疑問点が存在することが指摘されたのであるか,,,,,ら旧審査方針を再考し申 ,,「評価方式は絶対的なものではないとの判断が示された点については旧。」,審査方針に基づく運用に疑問点が存在することが指摘されたのであるか,,,,,ら旧審査方針を再考し申請疾病自体の特質申請者の既往歴生活歴環境因子の有無等を個別的に調査するなどの運用が望まれたところではあるが,事案に即した判断にすぎず,かかる判断に沿うような運用改善を図- 59 -らなかったとしても,これをもって,1審被告厚労大臣が行った,1審原告P2に対する原爆症の認定申請却下処分が直ちに違法有責な職務行為に該当するとみることはできず,また,本件控訴をしたことが違法有責な職務行為に該当するとみることもできない。 ウなお,1審原告P1に対する要医療性の判断については「胃切除後障,害」の存否,要医療性について争われているが,前記説示したとおり,一見して明らかに要医療性が肯定できるような疾病内容ではなく,各種提出された証拠に基づき判断されるような事案であることに照らすと,1審被告厚労大臣が要医療性を否定する判断をしたとしても,これをもって違法有責な職務行為であるとみることはできず,また,1審原告P2に対する要医療性についても,前記説示したとおり,再発の危険性が高い膀胱癌であり,定期的な検査であっても,早期発見,早期治療に有益であり,積極的治療に匹敵するものとして要医療性を肯定したものであるが,被爆者援護法10条1項は要医療性については現に医療を要する状態にある被,,「爆者」と規定しているのみであって,医療を要する状態について一義的に明確にされていないのであるから,1審被告厚労大臣が定期的検査のみでは要医療性を具備していない旨主張して,控訴審において争う姿勢を示したとしても,これをもって違法有責な職務行為であるとみることはできな 確にされていないのであるから,1審被告厚労大臣が定期的検査のみでは要医療性を具備していない旨主張して,控訴審において争う姿勢を示したとしても,これをもって違法有責な職務行為であるとみることはできない。 他方,1審被告厚労大臣は,1審原告P1の申請疾病である「胃切除後障害」については,当審においても障害の存在自体を争い,また,存在するとしても,第2次障害であるとか,不適切な治療及び医師の指導に従わない生活習慣に起因するものであるとして,放射線起因性及び要医療性をも争っているが,前記説示したとおり,同原告に対する診療録,別表P1通院投薬一覧表を検討すれば,胃切除後障害の存在及び放射線起因性,要医療性が証拠上明らかに認められるにもかかわらず,個別具体的な検討を- 60 -しないまま,争う姿勢に終始したことは,被爆者援護法の制定の経緯及び前文に示された救済の精神に照らすと,いささか柔軟な対応に欠けていたことは否定できないが,これをもって,1審被告厚労大臣に違法有責な職務行為があったとまでは判断することができない。 結論 よって,これと同旨の原判決は相当であって,本件各控訴はいずれも理由がないから,それぞれ棄却することとし,主文のとおり判決する。 仙台高等裁判所第3民事部裁判長裁判官井上稔裁判官小林直樹裁判官谷村武則
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