令和1(わ)1488 傷害、保護責任者遺棄致死

裁判年月日・裁判所
令和5年2月9日 福岡地方裁判所
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判決文本文9,743 文字)

令和5年2月9日宣告令和元年(わ)第1488号傷害、保護責任者遺棄致死 主文 被告人を懲役16年に処する。 未決勾留日数中820日をその刑に算入する。 押収してある手動式エアソフトガン1丁(令和5年押第2号符号1)を没収する。 理由 (罪となるべき事実)第1 被告人は、平成30年11月中旬頃から同月30日頃までの間に、複数回にわたり、福岡県田川市大字ab番地cde-f-gの被告人及びその妻であるX方において、被告人及びXの実子であるA(平成29年7月●日生。以下「被害者」という。)に対し、手動式エアソフトガン(令和5年押第2号符号1)でBB弾を至近距離から多数発射して被害者の全身に命中させる暴行を加え、よって、被害者の頭部、顔面、右側胸部、右側腹部、左側胸部、右上肢、左上肢、左下肢、右下肢、背部、腰部及び臀部に全治約3週間を要する円形の創傷の傷害を負わせ第2 被告人及び分離前の相被告人Xは、親権者として被害者を養育監護していたものであるが、被害者は、平成30年10月下旬頃までに重度の低栄養状態に陥ったことにより、極度に痩せ細るとともに免疫力が低下し、次いで、同年11月上旬頃に両手足の骨や肋骨を多数箇所骨折したことにより、患部が腫れ上がり、かつ、痛みにより食事を取ることも困難になって更に痩せ細って衰弱し、同月中旬頃から同月30日頃までの間に前記第1の犯行により判示のとおりの円形の創傷の傷害を負ったほか、同月下旬頃に同創傷を原因とする細菌感染により右腕及び左脚に蜂窩織炎を発症して広範囲に赤みを帯びて腫れ上がり、これらによる強度のストレスにさらされて、胸腺が委縮して更に免疫力が低下し、 これらが相まって、その頃までに重度の低栄養等に基 右腕及び左脚に蜂窩織炎を発症して広範囲に赤みを帯びて腫れ上がり、これらによる強度のストレスにさらされて、胸腺が委縮して更に免疫力が低下し、 これらが相まって、その頃までに重度の低栄養等に基づく肺感染症を発症するなどして、ますます衰弱するとともに体温異常及び呼吸困難に陥っていたところ、被告人及びXは、遅くとも被害者が前記のような多発骨折を負った同月上旬頃には、被害者がその痛みによりほとんど動くことができず、食事を取ることも困難になっている状態を認識し、さらに、同月中旬頃以降、被害者が前記のような円形の創傷を負い、右腕及び左脚が広範囲に赤みを帯びて腫れ上がり、ますます衰弱している状態を認識していたのであるから、同月上旬頃から被害者の救命可能時期である同月28日頃までの間、医師による診察・治療を被害者に受けさせるなど、その生存に必要な保護をすべき責任があったにもかかわらず、共謀の上、その間、医師による診察・治療を被害者に受けさせるなどの生存に必要な保護をせず、よって、同年12月1日、前記被告人及びX方において、被害者を重度の低栄養等に基づく肺感染症による急性呼吸不全により死亡させた。 (証拠の標目)省略(争点に対する判断)第1 争点本件の争点は、判示第1の傷害事件について、被告人が被害者に判示の暴行を加えて傷害を負わせたか否か(争点1)、判示第2の保護責任者遺棄致死事件について、被告人に被害者の要保護状態の認識があったか否か(争点2)である。 当裁判所は、争点1について、被告人が被害者に判示の暴行を加えて傷害を負わせたと認め、争点2について、被告人は、遅くとも被害者が判示の多発骨折を負った平成30年11月上旬頃(以下、特記なき限り、月日は平成30年のものを指す。)にはその要保護状態を認識していたと認めたから、 たと認め、争点2について、被告人は、遅くとも被害者が判示の多発骨折を負った平成30年11月上旬頃(以下、特記なき限り、月日は平成30年のものを指す。)にはその要保護状態を認識していたと認めたから、以下、それらの理由を説明する。 第2 争点1について 1 前提事実 関係証拠によれば、以下の事実が認められる。 ⑴ 被告人は、本件当時、被告人方において、妻であるX、長男(平成27年1月●日生)、被害者(平成29年7月●日生)、長女(平成30年7月●日生)と同居していた。 ⑵ 被害者は12月1日に死亡したが、その時点で、全身に合計71か所の表皮剥奪を伴う直径約5ミリメートルの円形創傷が認められ、その多くには周囲に皮下出血も認められた。受傷時期としては、12月1日から遡って、1日以内のもの、三、四日から1週間前後のもの、10日から2週間ないしそれ以上のものが混在していた。 ⑶ 12月2日、被告人方の捜索が実施され、直径約6ミリメートルのBB弾1袋のほか、寝室の押入天袋内から、手動式エアソフトガン1丁(以下「本件手動式エアガン」という。)及び電動式エアソフトガン1丁(以下「本件電動式エアガン」という。)が発見・押収された。 本件手動式エアガンは、全長95.8センチメートル、重さ2.392キログラムであり、発射機能が認められた。その発射手順は、概ね、①マガジン内にBB弾を入れ、本体に装着する、②ボルトハンドルを上げて、カチッと音がするまで引く、③ボルトハンドルを元の位置に戻して下げる、④セフティレバーを動かしてセフティを解除する、⑤指でトリガーを引くというものであり、②のボルトハンドルを引く手順は、大人でも相応の力を込めて引く必要のあるものであった。 本件手動式エアガンは単発式であり、1発発射するたびに②及び③の手順を踏まなけ でトリガーを引くというものであり、②のボルトハンドルを引く手順は、大人でも相応の力を込めて引く必要のあるものであった。 本件手動式エアガンは単発式であり、1発発射するたびに②及び③の手順を踏まなければ、トリガーを引くことができない仕様となっていた。 本件電動式エアガンは、バッテリーが取り外された状態で発見され、同バッテリーは、平成31年3月20日、被告人方寝室のテレビ台から発見されたが、その時点で本件電動式エアガンを発射するだけの充電は残っていなかった。同バッテリーを充電して本件電動式エアガンに装着したところ、発射機能が認められた。 同バッテリーの充電には専用の充電器が必要とされるが、被告人方から充電器は 発見されず、後記のとおり被告人とサバイバルゲームをする仲であったBが同バッテリーの充電をしてあげたこともなかった。 令和元年11月9日、更に被告人方の捜索が実施され、寝室の押入天袋の奥の方から、けん銃型の電動式エアソフトガン2丁(以下、合わせて「本件けん銃型エアガン」という。)が発見された。いずれにも乾電池が入っていたが、使用推奨期限は平成18年12月であり、引き金を引いても本件けん銃型エアガンは作動せず、新品の乾電池を入れ替えても作動しなかった。 ⑷ 前記のエアガン4丁は、いずれも被告人の所有物である。被告人は、未成年の頃、本件電動式エアガンを入手し、Bと共に数回これを用いてサバイバルゲームに参加したことがあった。さらに、被告人は、平成29年10月頃に本件手動式エアガンを購入し、Bと共にこれを用いてサバイバルゲームに参加したことがあったが、その際、本件電動式エアガンは持参しておらず、しばらくは本件手動式エアガンだけで遊びたいなどと述べていた。 2 被害者の受傷原因について検察官は、被害者の円形創傷は本件手動式エアガンで ったが、その際、本件電動式エアガンは持参しておらず、しばらくは本件手動式エアガンだけで遊びたいなどと述べていた。 2 被害者の受傷原因について検察官は、被害者の円形創傷は本件手動式エアガンでBB弾を発射・命中されたことにより生じたものであると主張するのに対し、弁護人は、これを争うから、被害者の受傷原因について検討する。 ⑴ この点、C医師は、被害者の円形創傷は、虫刺されやたばこの火の押しつけによる火傷などではなく、鈍体による外傷であることは明らかであり、創傷が直径約5ミリメートルの円形又は楕円形であることや、以前診察したエアガンで撃たれた子供の傷の形状とよく似ていること、他に同様の傷ができると想定できる凶器が見当たらないことに照らせば、エアガンでBB弾を発射・命中されたことにより生じたものと考えられる旨供述する。その経歴等に照らせば、C医師の専門的な知識・知見に疑問を抱かせる事情は見当たらず、傷の状態から推測される凶器に関する供述についても、具体的かつ合理的な説明といえるから、信用できる。 弁護人は、C医師の供述は、被告人方からエアガンが発見されたことや警察が 凶器としてエアガンを疑っていることなどを事前に聞いた上でなされたものであり、信用できないと主張するが、C医師は、弁護人の尋問に対して、被害者の傷の状態から推測できるのは、どのような外力が加わったかという限度にとどまり、同様の外力が加われば、エアガン以外の凶器でも同様の傷になり得ることを肯定しているように、医学的な観点からの中立的な姿勢で証言に臨んでおり、弁護人の主張する事情はC医師の供述の信用性を損なうものとはいえない。 以上によれば、被害者の円形創傷は、エアガンでBB弾を発射・命中されたことにより生じたものと推認でき、この推認を妨げるような具体的な事情は見当 る事情はC医師の供述の信用性を損なうものとはいえない。 以上によれば、被害者の円形創傷は、エアガンでBB弾を発射・命中されたことにより生じたものと推認でき、この推認を妨げるような具体的な事情は見当たらない。 ⑵ その上で、本件の凶器が本件手動式エアガンと認められるかについて検討する。 まず、前提として、被害者を自宅内外でエアガンで撃つような第三者の存在は証拠上全くうかがわれない。そして、先に述べたとおり、被告人方からは本件手動式エアガンを含むエアガン4丁とBB弾1袋が発見されている。被害者が全身に一見して明らかな円形創傷を多数負っているにもかかわらず、被告人やXが警察や親族に相談するとか、病院に連れて行くなどの対応を全く取っていないことからすれば、同居家族の誰かが被告人方において前記のエアガン4丁のうちのいずれかを用いて被害者に円形創傷を負わせたと考えるのが自然である。 そして、前記のエアガン4丁のうち、本件手動式エアガンについては、発射機能が認められたことからすると、本件の凶器となった可能性が十分に認められる。 他方、本件けん銃型エアガンについては、発見時に入っていた乾電池の使用推奨期限が平成18年12月と相当古いものであったこと、新品の乾電池に入れ替えても作動しなかったことを考慮すると、本件の凶器である疑いはない。 また、本件電動式エアガンについても、被害者の受傷時期に近接する12月2日時点でバッテリーが取り外された状態で発見されていることからすると、それより前に充電がなくなっていたとみるのが自然であり、現に、同バッテリーは、平成31年3月とやや時期が離れているとはいえ、本件電動式エアガンを作動さ せるだけの充電が残っていない状態で発見されている。そして、本件電動式エアガンは、被告人が未成年の頃に数回サバイバ 平成31年3月とやや時期が離れているとはいえ、本件電動式エアガンを作動さ せるだけの充電が残っていない状態で発見されている。そして、本件電動式エアガンは、被告人が未成年の頃に数回サバイバルゲームで使用していたものの、被告人方には専用のバッテリー充電器がなく、Bが代わりにバッテリーを充電してあげたこともなく、その他に同バッテリーを充電してくれるような第三者の存在も証拠上うかがわれない。かえって、被告人が、平成29年秋頃、本件手動式エアガンを購入した上、Bに対し、しばらくは本件手動式エアガンだけで遊びたいなどと述べていたことも併せ考えると、本件当時既に本件電動式エアガンはバッテリーの充電が切れて使えなくなっていた可能性が高いといえる。そうすると、本件電動式エアガンが本件の凶器であるとの疑いは抽象的なものにとどまるというべきである。 以上によれば、被害者の円形創傷は、同居家族の誰かが被告人方において本件手動式エアガンでBB弾を発射・命中させたことにより生じたものであると認められる。 3 犯人性についてそこで、同居家族の誰が本件犯行に及んだのかについて検討すると、本件手動式エアガンの所有者であり、これを用いてサバイバルゲームに参加したこともあるなどその操作に習熟している被告人が犯人である可能性は非常に高い。 他方、長女については、生後三、四か月という年齢からすると、本件手動式エアガンを操作することはおよそ不可能である。 当時4歳に満たない長男についても、本件手動式エアガンの大きさや重さ、発射手順の複雑さ、ボルトハンドルを引くのに必要な力の大きさなどに照らせば、本件手動式エアガンを何度も操作してBB弾を発射し、被害者に多数の円形創傷を負わせたものとは考えられない。また、受傷時期からすれば、被害者は3回以上の機会に本件手動 必要な力の大きさなどに照らせば、本件手動式エアガンを何度も操作してBB弾を発射し、被害者に多数の円形創傷を負わせたものとは考えられない。また、受傷時期からすれば、被害者は3回以上の機会に本件手動式エアガンで撃たれているが、長男のいたずらによる事故がそのように繰り返し起きたという想定も非現実的である。したがって、長男による犯行の可能性も否定される。 成人であるXについては、本件手動式エアガンを操作することが不可能であったとはいえないが、関係証拠を精査しても、Xがエアガンに興味を持っていたとか、使っていたなどのエアガンとの結びつきを示す事情は何ら見当たらない。それに加えて、Xが、生前の被害者に声をかけながら菓子を与えている様子や、被告人の暴力から長男をかばうような言動をしていることなどに照らすと、Xなりに被害者を含む子供らに愛情を持っていたことがうかがわれるのであって、幼い被害者を痛めつけるために複数回にわたり本件手動式エアガンを用いて犯行に及んだものとは考えられないし、育児等のストレスから衝動的に被害者に手を上げることがあったにしても、その際、本件手動式エアガンを使うというのは唐突な感が否めず、不自然である。そうすると、Xが犯人である可能性も抽象論の域を出ないというべきである。 以上によれば、本件犯行に及んだのはほかならぬ被告人であったと認められる。 4 故意について被告人が複数回にわたり本件手動式エアガンでBB弾を多数発射して被害者の全身に命中させ、合計71か所もの円形創傷を負わせたという犯行態様からすれば、それが過失によるものとは考えられず、傷害の故意があったことは優に認められる。 第3 争点2について 1 被害者の要保護状態についてD医師及びE医師は、10月下旬頃から11月下旬頃までの被害者の身体状況等が ものとは考えられず、傷害の故意があったことは優に認められる。 第3 争点2について 1 被害者の要保護状態についてD医師及びE医師は、10月下旬頃から11月下旬頃までの被害者の身体状況等が判示のようなものであったこと、11月28日頃までであれば、医師による診察・治療により救命可能であったことなどを供述している。同供述は、被害者の死因や遺体の状況等を踏まえた具体的かつ合理的なものであり、各医師の経歴等に照らし、その専門的な知識・知見に疑問を抱かせる事情も見当たらないから、信用できる。 そうすると、被害者が判示のとおりの要保護状態にあったこと、被害者が重度の低栄養状態に陥った10月下旬頃から救命可能時期である11月28日頃までの間、監護者において、被害者に医師の診察・治療を受けさせることが、被害者の生存に 必要な保護行為であったこと、しかし、被告人及びXは、その間、かかる保護行為をしなかったことが認められる。 2 要保護状態の認識についてそこで、被告人及びXが被害者の要保護状態を認識していたといえるかについて検討する。 まず、被害者は、10月下旬頃、カウプ指数が「やせすぎ」となるなど、外見上も痩せ細った状態にあったと認められる。もっとも、被害者は、低出生体重児であり、その後も同月齢の乳幼児の平均体重を総じて下回る発育状態にあったが、8月に撮影された動画には、手足が細く痩せているものの、一人座りをして自ら菓子を食べる被害者が映り、9月に撮影された写真でも一人座りをしている被害者が写っており、健康上の大きな異状がうかがわれる程ではなかった。乳児の体重や体格は日々少しずつ変化していくことも多く、毎日被害者と接している場合にはその変化に気付きにくい面がある。このような事情を考えると、被告人及びXが、10月下旬頃からしば 程ではなかった。乳児の体重や体格は日々少しずつ変化していくことも多く、毎日被害者と接している場合にはその変化に気付きにくい面がある。このような事情を考えると、被告人及びXが、10月下旬頃からしばらくの間は、被害者の痩せ方が病的なものであるとか、医師の診察・治療を要するものであるといった認識までは持てなかった可能性は否定できない。 しかし、被害者が判示の多発骨折を負った11月上旬頃には、E医師も指摘するとおり、全身の多数箇所の骨折による痛みにより体の動きが相当制約され、これまでできていた動きもできなくなっていたり、患部が腫れたり、世話をするため被害者の体を触るたびに泣いたり、食事を十分に取ることも困難になったりしていたものと認められる。そして、そのような被害者の様子を見れば、同居の親が異状に気がつかないはずがなく、医師の診察・治療を受けさせる必要があることを認識できるはずであるから、被告人及びXについても、遅くともその頃までには、被害者の要保護状態を認識していたと推認するのが合理的である。被害者の主たる監護者がXであったことを踏まえても、被告人も毎日帰宅して子供らと寝食を共にしていたことや、子供らに食事を与えたり、風呂に入れるなど相応に子供らとの関わりを持っていたことに照らせば、被害者の異状に気がつかなかったことは考えられず、前 記の推認は左右されない。加えて、多発骨折自体はその後自然治癒しつつあったものの、既に重度の低栄養状態にあった被害者が多発骨折の痛みにより食事を取ることが困難になり、更に痩せ細って衰弱していたと考えられる上、11月中旬頃から同月30日頃にかけて被告人から複数回にわたり本件手動式エアガンで撃たれたことにより、合計71か所もの円形創傷を負い、その一部は細菌感染を起こして蜂窩織炎を発症し、広範囲に赤みを帯び 1月中旬頃から同月30日頃にかけて被告人から複数回にわたり本件手動式エアガンで撃たれたことにより、合計71か所もの円形創傷を負い、その一部は細菌感染を起こして蜂窩織炎を発症し、広範囲に赤みを帯びて腫れ上がり、被害者はますます衰弱していたと考えられることからすると、被告人及びXは、被害者のそのような要保護状態を救命可能時期である同月28日まで認識し続けていたと推認でき、この推認を妨げるような事情も見当たらない。 3 結論以上によれば、被告人及びXは、遅くとも被害者が多発骨折を負った11月上旬頃以降、被害者の要保護状態を認識しながら本件保護行為を行なっていなかったものと認められるから、いずれも不保護の故意に欠けるところはなく、少なくとも暗黙のうちに意思を通じ合っていたものとして、共謀も認められる。 (法令の適用)省略(量刑の理由) 1 本件は、被告人が、①妻と共謀の上、実子である被害者(当時1歳)が、児童虐待の結果、多発骨折を負って体を動かすことや食事を取ることが十分にできなくなるなど要保護状態にあることを認識していながら、医師による診察・治療を被害者に受けさせるなどの生存に必要な保護をしなかったため、被害者を死亡させ、②その間、複数回にわたり、生前の被害者に対し、エアガンでBB弾を発射・命中させてその全身に合計71か所の円形創傷を負わせたという事案である。 2 まず、①の保護責任者遺棄致死事件についてみると、被告人らは、同居しており密接で継続的な保護関係にあるわずか1歳の実子が衰弱していく様子を目の当たりにしながら、1か月近くの長期間不保護を継続したものであって、被害者の 健康を害する危険性が非常に高い犯行であり、被害者を死亡させた結果は取り返しのつかない重大なものである。被害者は、激しい痛みを伴う多発骨折 くの長期間不保護を継続したものであって、被害者の 健康を害する危険性が非常に高い犯行であり、被害者を死亡させた結果は取り返しのつかない重大なものである。被害者は、激しい痛みを伴う多発骨折や蜂窩織炎を負い、体を動かすことも食事を取ることも十分にできずに痩せ細り、これらによる強度のストレスにより胸腺が委縮するなどして免疫力が低下し、肺感染症を発症して体温異常や呼吸困難に陥っても何の手当も受けられないまま死亡するに至っており、被害者の負った肉体的苦痛はもちろん、本来頼ることができるはずの両親から保護を与えられなかった辛く悲しい気持ちは計り知れない。被害者の重度の低栄養状態や多発骨折について、被告人の責任を問うことができないにしても、このような犯行において、被告人は、衰弱していた被害者に対して②の傷害行為に及び、その要保護状態を進行・悪化させる原因を自ら作り出したのに、その後も不保護を継続したのであるから、Xより刑事責任は重い。 3 次に、②の傷害事件についてみると、被告人は、前記のとおり既に相当衰弱していた被害者を的にし、複数回にわたってエアガンでBB弾を至近距離から多数発射・命中させており、とりわけ、被害者が肺感染症を発症するなどして呼吸困難等に陥り瀕死の状態にあった死亡前日頃に至っても、なお20発以上も撃つ虐待行為を続けている。被害者の人格や尊厳を無視した極めて残酷な犯行というほかない。傷害結果が全治約3週間であることを踏まえても、その態様の悪質さに照らせば、保護責任者遺棄致死事件の単なる付随行為として評価すれば足りるものではない。 4 被告人が本件各犯行を否認しているため、動機は判然としないが、被害者が瀕死の状態になっても医療措置を受けさせないばかりか、エアガンで執拗に撃って虐待していること、長男・長女にはこのような苛烈 4 被告人が本件各犯行を否認しているため、動機は判然としないが、被害者が瀕死の状態になっても医療措置を受けさせないばかりか、エアガンで執拗に撃って虐待していること、長男・長女にはこのような苛烈な虐待が加えられた形跡がうかがわれないことなどに照らせば、いずれの犯行においても、根底には単なる愛情の希薄さに留まらない被害者に対する悪感情が見て取れる。加えて、保護責任者遺棄致死事件については、被害者に対する虐待の発覚を恐れて不保護を継続したこともうかがわれる。いずれにせよ、責任非難の程度を低減させる事情などは 全く見いだせない。 5 以上によれば、本件は、子に対する保護責任者遺棄致死事件の中で極めて重い部類に属するものといえ、傷害事件の犯情の重さも併せ考慮すると、同種事案の量刑傾向の枠を超えるという検察官の見方は不合理なものではない。 そこで、長期間自己の罪に向き合う期間を経ながらも、反省の言葉も被害者に対する謝罪もない被告人には主文の刑をもって臨む必要があると判断した。 (求刑懲役16年、本件手動式エアガンの没収)令和5年2月13日福岡地方裁判所第2刑事部 裁判長裁判官冨田敦史 裁判官辛島靖崇 裁判官加 々 美希

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