令和4(ワ)2756 損害賠償請求事件

裁判年月日・裁判所
令和7年1月14日 福岡地方裁判所
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判決文本文15,017 文字)

主文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事実 及び理由第1 請求の趣旨 被告は、原告に対し、2851万8590円及びこれに対する令和4年10月5日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要等 1 事案の概要本件は、被告の設置する福岡市立a小学校(以下「本件小学校」という。)に 教諭として在籍中くも膜下出血(以下「本件疾病」という。)を発症して亡くなった亡A(以下「亡A」という。)の夫である原告が、亡Aの本件疾病の発症及び死亡は本件小学校における職務が過重であったことによるものである旨主張して、被告に対し、安全配慮義務違反に基づく損害賠償金2851万8590円(原告が2分の1の割合で相続した亡Aの死亡逸失利益1030万4811 円、死亡慰謝料1500万円並びに原告が出捐した葬儀費用62万1180円及び弁護士費用259万2599円の合計額)及びこれに対する催告後の日(訴状送達日の翌日)である令和4年10月5日から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 2 前提事実(当事者間に争いがないか、各項掲記の証拠及び弁論の全趣旨によ り容易に認められる事実)⑴ 当事者等(争いがない。)ア原告は亡A(昭和▲▲年▲月生まれの女性)の死亡当時の配偶者であり、亡Aの相続人(相続分2分の1)である。 イ亡Aは、昭和58年4月に福岡市教育委員会から福岡市公立学校教員に 任命され、福岡市立b小学校、同c小学校、同d小学校、同e小学校及び 同f小学校の順で勤務し、途中に幾度かの育児休業を経て、平成25年4月から本件小学校に赴任していた。 員に 任命され、福岡市立b小学校、同c小学校、同d小学校、同e小学校及び 同f小学校の順で勤務し、途中に幾度かの育児休業を経て、平成25年4月から本件小学校に赴任していた。 ウ被告は、本件小学校を設置する地方公共団体である。 ⑵ 本件小学校における亡Aの担当職務等(乙4、証人B、証人C)ア亡Aは、本件小学校の6年1組(6年生は1組から3組まで)の担任と して勤務していた。 イ平成25年当時、本件小学校の校長はB校長(以下、単に「校長」という。)、主幹教諭(校長、教頭の下で本件小学校の教務全般を取りまとめる教諭であり、教務主任とも呼称される。)はC教諭(以下、単に「主幹」という。)、6年2組の担任はD教諭(以下「6年2組の男性教諭」という。)、 6年3組の担任はE教諭(以下「6年3組の女性教諭」という。)であった。 ウ亡Aは、本件小学校の6年生の担任のうち最も年長でベテランの教諭であったことから6年生の学年主任(当該学年の担任教諭のまとめ役)を兼務していたほか、学校全体の生徒指導主任(各学年の生徒指導を担当する教諭のまとめ役)を兼務していた。 エ本件小学校の学年主任はいずれも学校全体の何らかの校務(生徒指導のほか、テーマ研究、人権教育研修、初任者研修等)の主任を兼務しており、亡Aの前任の学年主任であった主幹もテーマ研究の主任を兼務していた。 ⑶ 亡Aの勤務時間等ア亡Aの本件小学校での所定勤務時間は、午前8時30分から午後5時ま で(昼休憩45分)の7時間45分であった。(争いがない。)イ本件小学校においては、各教諭が、各勤務日の所定勤務時間外における在校時間及び職務内容、医師による面接指導の希望の有無等を記入した在校時間報告書を作成し、1か月ごとに提出することと がない。)イ本件小学校においては、各教諭が、各勤務日の所定勤務時間外における在校時間及び職務内容、医師による面接指導の希望の有無等を記入した在校時間報告書を作成し、1か月ごとに提出することとされていた。(甲15) ⑷ 亡Aの本件疾病による死亡(争いがない。) 亡Aは、平成25年10月14日午後8時30分頃、自宅において倒れていたのを同居する家族に発見され、g病院に救急搬送されたが、▲月▲▲日午前▲時▲▲分、本件疾病により死亡した。 ⑸ 地方公務員災害補償基金による公務災害認定原告は、平成27年10月9日付けで公務災害認定請求を行い、地方公務 員災害補償基金(同基金福岡市支部長。以下、単に「基金」という。)から令和3年2月15日付けで亡Aの本件疾病について公務災害認定を受けた。 (争いがない。)⑹ 基金の公務災害認定の理由の要旨(甲3)ア亡Aの本件小学校での時間外勤務時間数は、本件疾病発症前1週間が3 2時間、同発症前30日間が73時間にとどまっており、当該時間外勤務時間数のみでは亡Aが過重で長時間に及ぶ時間外勤務(発症日から起算して1か月程度にわたる週当たり平均25時間程度以上の時間外勤務の連続)に従事していたとまでは認められない。 イもっとも、亡Aが、①赴任初年度であるにもかかわらず、6年1組の担 任に加え、学年主任及び生徒指導主任を任されたこと、②校長、教頭及び主幹から日常的に細かく業務をチェックされ、忙しいのに主幹から仕事を依頼され、校長の言動が精神的負荷となっていたこと、③責任感が強く、修学旅行の準備などの過重な業務を回避しなかった上、夏季休暇明け以降、妊娠した6年3組の女性教諭のサポートに加え、教育実習生の指導、 PTA主催のバザーの準備等の ていたこと、③責任感が強く、修学旅行の準備などの過重な業務を回避しなかった上、夏季休暇明け以降、妊娠した6年3組の女性教諭のサポートに加え、教育実習生の指導、 PTA主催のバザーの準備等の行事が重なったこと、④自宅での持ち帰り作業時間について、本件疾病発症前30日間につき29時間程度あったと認められること等の負荷要因を前記アの時間外勤務時間数と総合的に評価すると、亡Aは本件小学校において通常の日常の職務に比較して特に過重な職務に従事していたものと認められる。 ウ基金の委嘱した医師は、亡Aには飲酒や喫煙の習慣はなく、健康診断結 果を見ても本件疾病を発症させる特段のリスクは見られない旨の医学的所見を示している。 3 争点本件においては、主に亡Aの本件疾病の発症及び死亡に関する被告の安全配慮義務違反の有無が争われているが、その判断過程の順に、⑴亡Aの時間外勤 務時間数(量的過重性)、⑵亡Aの時間外勤務時間数以外の負荷要因(質的過重性)、⑶被告が基金の公務災害認定に反する主張をすることが許されるか、⑷被告が亡Aの心身の健康を損なわせないために必要な措置を講じていたか、(被告の安全配慮義務違反が認められた場合の)⑸原告の損害額が争点として挙げられる。 4 争点に関する当事者の主張⑴ 争点⑴(亡Aの時間外勤務時間数〔量的過重性〕)について(原告の主張)ア亡Aの職場での時間外勤務時間数は、亡Aが夏季休暇明け以降、妊娠した6年3組の女性教諭の業務のサポート、修学旅行の準備、教育実習生の 指導、PTA主催のバザーの準備等が重なったことにより、基金の認定した本件疾病発症前1週間につき32時間、同発症前30日間につき73時間という時間数を大きく上回るとみるべきである。 イ亡 指導、PTA主催のバザーの準備等が重なったことにより、基金の認定した本件疾病発症前1週間につき32時間、同発症前30日間につき73時間という時間数を大きく上回るとみるべきである。 イ亡Aの自宅での時間外勤務時間数は、亡Aが夏季休暇明け以降、ほぼ毎日自宅において、朝早起きしたり、午後10時頃から午前0時、ときには 午前1時、2時まで就寝せずに持ち帰り作業を行っていたことから、基金の認定した本件疾病発症前30日間につき29時間という時間数を大きく上回るとみるべきである。 (被告の主張)ア亡Aの職場での時間外勤務時間数は、基金の認定した本件疾病発症前1 週間につき32時間、同発症前30日間につき73時間という時間数を大 きく下回るとみるべきである。 イ亡Aの自宅での時間外勤務時間数は、具体的な成果物やパソコン使用の痕跡等が残らないような作業が恒常的に発生していたとは考え難いから、基金が具体的な成果物の存在する限度で緩やかに認定した本件疾病発症前30日間につき29時間という時間数を大きく下回るとみるべきである。 ⑵ 争点⑵(時間外勤務時間数以外の負荷要因〔質的過重性〕)について(原告の主張)ア亡Aは、指導に困難を伴う児童が複数名在籍していた6年1組の担任に加え、一般的に転入したばかりの教諭には困難で兼務させるべきでない学年主任及び生徒指導主任を兼務させられていた。 イまた、亡Aは、校長、教頭及び主幹から三段階で過度に作成文書をチェックされて修正を余儀なくされていた上、主幹から際限なく職務を依頼され、時間的・精神的余裕を失っていった。 ウさらに、亡Aは、夏季休暇明け以降、妊娠した6年3組の女性教諭の業務のサポート、修学旅行の準備、教育実習生の指導、PTA主催のバザー なく職務を依頼され、時間的・精神的余裕を失っていった。 ウさらに、亡Aは、夏季休暇明け以降、妊娠した6年3組の女性教諭の業務のサポート、修学旅行の準備、教育実習生の指導、PTA主催のバザー の準備に加え、6年1組の児童の万引き行為への対応や保護者参観授業の準備も重なったことにより、それまで以上に職務負担が増大していき、修学旅行のしおりの作成すらままならなくなった。 (被告の主張)ア亡Aの年齢、経歴に照らして期待されていた役割や、他の教諭らの校務 分掌とのバランスからすれば、亡Aの了承を得て亡Aに6年1組の担任と学年主任及び生徒指導主任を兼務させていたことに問題はない。 イ校長、教頭及び主幹による文書のチェックは、小学校等における対外的な文書の作成、発出に係る一般的な取扱いに沿ったものであるし、主幹は亡Aに対し無理な依頼や高圧的な指示をしておらず、亡Aに特に過重な精 神的負荷をもたらしていない。 ウ夏季休暇明け以降、妊娠した6年3組の女性教諭の業務のサポート、修学旅行の準備、教育実習生の指導、PTA主催のバザーの準備等が重なったことについても、亡Aのみが責任を負うべきものではなく、校長、主幹その他の管理職らや6年2組の男性教諭の協力も得られており、亡Aに過度に負担が集中することはなかった。 ⑶ 被告が基金の公務災害認定に反する主張をすることが許されるか(原告の主張)災害補償義務を代行する専門機関である基金に対し公務災害認定を委任した被告が亡Aの本件小学校での職務の過重性を認めた基金の認定に反して亡Aの公務の過重性を否定する旨を主張することは、基金の認定に対する公の 信頼を失わせることになりかねず、信義則ないし禁反言の原則に反し許されない。 (被告の主張) めた基金の認定に反して亡Aの公務の過重性を否定する旨を主張することは、基金の認定に対する公の 信頼を失わせることになりかねず、信義則ないし禁反言の原則に反し許されない。 (被告の主張)地方公務員災害補償法に基づく公務災害認定と民事訴訟とでは、それぞれの制度目的や当事者、補填されるべき損害の範囲、審理判断の構造等が異な るから、被告が民事訴訟において基金の公務災害認定と相反する主張をすることは許される。 ⑷ 被告が亡Aの心身の健康を損なわせないために必要な措置を講じていたか(原告の主張)ア本件小学校の管理職には、亡Aの心身の健康を損なわせないよう必要な 措置を講じる義務があり、特に夏季休暇明け以降、亡Aの在校時間報告書が提出されず、亡A担当の修学旅行のしおり作成も遅滞していたこと等から、亡Aの健康状態が著しく悪化していたことを認識することが可能であったにもかかわらず、本件小学校の管理職は、校務分掌や人員配置の見直し、任命権者に対する人事上の要請その他の亡Aの職務負担を軽減するた めの措置を何ら講じなかった。 イ本件小学校の管理職は、亡Aに対し形式的に退勤を促す声掛けをしていただけで、勤務時間の実態を把握するために必要な在校時間報告書の提出を厳格に管理せず、常態化していた自宅での持ち帰り作業を黙認するなどして、亡Aの長時間勤務を是正するための措置を講じていなかった。 ウ校長は、自身の健康管理のためには脳ドックを受診するなどしていた一 方、亡Aに対しては医師による面接指導すら勧めることなく、健康管理のための措置を何ら講じていなかった。 (被告の主張)ア本件小学校の管理職は、亡Aに対して特に過重な職務を課していなかったし、亡Aの執務状況や健康診断の結果等にも問題 めることなく、健康管理のための措置を何ら講じていなかった。 (被告の主張)ア本件小学校の管理職は、亡Aに対して特に過重な職務を課していなかったし、亡Aの執務状況や健康診断の結果等にも問題は見受けられなかった のであるから、亡Aの本件疾病の発症を予見することは不可能であり、校務分掌や人員配置の見直し、任命権者に対する人事上の要請その他の措置を講ずべき端緒はなかった。 イ本件小学校の管理職は、行事や会議等の効率化、退勤を早めるように促す声掛け、定時退勤日の設定等により、亡Aを含む教諭らの長時間勤務の 抑制に努めていた。 ウ本件小学校において各教諭が提出することとされていた在校時間報告書には医師による面接指導の希望の有無を記載する欄が設けられていたが、亡Aの在校時間報告書に面接指導を希望する旨の記載はなかった。 ⑸ 争点⑸(原告の損害額)について (原告の主張)ア原告が相続した死亡逸失利益 1030万4811円亡Aの定年退職時までの逸失利益2868万7622円及び定年退職後67歳までの逸失利益1962万1824円の合計は4830万9446円であり、その2分の1(原告の相続分)の2415万4723円から、 原告が基金から受給した遺族補償年金37万3500円及び遺族補償一時 金1347万6412円を控除した残額は1030万4811円となる。 イ原告が相続した死亡慰謝料 1500万円亡Aの死亡慰謝料は3000万円が相当であり、その2分の1(原告の相続分)は1500万円となる。 ウ原告が支出した葬儀費用 62万1180円 亡Aの葬儀費用は150万円が相当であり、同額から原告が基金から受給した葬祭補償費87万8820円を控除した残額は62万1180円 となる。 ウ原告が支出した葬儀費用 62万1180円 亡Aの葬儀費用は150万円が相当であり、同額から原告が基金から受給した葬祭補償費87万8820円を控除した残額は62万1180円となる。 エ原告の弁護士費用 259万2599円(被告の主張) 原告の主張はいずれも否認ないし争う。 第3 当裁判所の判断 1 争点⑴(亡Aの時間外勤務時間数〔量的過重性〕)について⑴ 亡Aの時間外勤務時間数については、心・血管疾患及び脳血管疾患の発生機序等に関する標準的な医学的知見が反映されている基金策定の平成13年 12月12日付け地基補第239号「心・血管疾患及び脳血管疾患の公務上災害の認定について」(甲19。同基準は、量的過重性が認められる場合として、①発症前1週間程度から数週間程度にわたる、いわゆる不眠・不休又はそれに準ずる勤務、②発症前1か月程度にわたる週当たり平均25時間程度以上の時間外勤務の連続、③発症前1か月を超える週当たり平均20時間程 度以上の時間外勤務の連続等を挙げている。)及び最新の医学的知見が反映されている厚生労働省策定の令和3年9月14日付け基発0914第1号「血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準」(乙14。同基準は、業務と発症との関連性が強いと評価できる場合として、①発症前1か月間におおむね100時間の時間外勤務、②発症 前2~6か月間にわたる月当たりおおむね80時間を超える時間外勤務を挙 げている。)を参考として判断するのが相当であると解される。 ⑵ そこで、まず、亡Aが本件小学校に赴任した平成25年4月から同年8月までの期間について見るに、亡Aは本件小学校に赴任した同年4月から同年8月の夏季休暇前ま 判断するのが相当であると解される。 ⑵ そこで、まず、亡Aが本件小学校に赴任した平成25年4月から同年8月までの期間について見るに、亡Aは本件小学校に赴任した同年4月から同年8月の夏季休暇前までは所定始業時間前の午前8時頃に出勤し、所定終業時間後の午後7時頃に退勤することが多かったこと(乙7、証人D)、亡Aの提 出した同年4月分ないし7月分の在校時間報告書には亡Aの時間外勤務が同年4月が7時間、同年5月が28時間30分、同年6月が12時間、同年7月が16時間30分と記入されていたこと(甲15)、亡Aが年次有給休暇を同年4月に2時間、同年5月に1時間、同年6月に2時間、同年7月に2日4時間、同年8月に5日5時間取得し、特別休暇(夏季休暇)を同年8月8 日から同月15日まで6日取得していること(甲25)、亡Aが作成途中のデータファイルを私物USBメモリに格納して自宅に持ち帰り、自宅のパソコンで学級通信等の文書を作成することがあったこと(甲20、27の1~20、31、32)、本件小学校における他の教諭らも繁忙なために昼休みは十分取れておらず時間外に職場又は自宅で課題の作成や採点等を行っていたこ と(乙7、証人D)に照らし、亡Aの職場での時間外勤務時間数ないし自宅での持ち帰り作業の時間数を平成25年4月19日から5月26日までの4週間で職場32時間・自宅23時間、同月27日から6月23日までの4週間で職場27時間・自宅22時間、同月24日から7月21日までの4週間で職場31時間30分・自宅17時間、同月22日から8月18日までの4 週間は職場無し・自宅無しとした基金の認定(甲3)には相応の合理性があると認められ、自宅での持ち帰り作業の時間を考慮に入れても、平成25年4月から8月までの期間中(特に8月)における亡Aの 週間は職場無し・自宅無しとした基金の認定(甲3)には相応の合理性があると認められ、自宅での持ち帰り作業の時間を考慮に入れても、平成25年4月から8月までの期間中(特に8月)における亡Aの時間外勤務時間数が前記⑴の基準を満たさないことは明らかであるといえる。 ⑶ 次に、平成25年9月から本件疾病が発症した同年10月14日までの期 間について見るに、その頃妊娠が判明し欠勤しがちとなった6年3組の女性 教諭の業務の一部を同学年の担任教諭である亡Aと6年2組の男性教諭がサポートすることになり(乙7、8、証人D)、同月下旬に実施予定であった修学旅行の準備等も重なって亡Aが週2~3日程度午後9時頃まで職場で勤務していた旨の6年2組の男性教諭の基金の調査での申述(甲3、4、9、21)に基づき、亡Aが同年9月分の在校時間報告書を提出しておらず上記申 述以外には終業時間を認定できる客観的資料がないことも考慮して、亡Aの終業時間を同年9月1日から同月14日までは一律午後6時30分、同月16日から同年10月13日までの期間中、週3日は午後9時、その余の就業日は午後8時とした上で、亡Aの時間外勤務時間数ないし自宅での持ち帰り作業の時間数を同年9月14日から同年10月13日までの発症前30日間 で職場73時間・自宅29時間(同年9月16日から同年10月13日までの発症前4週間で職場73時間・自宅22時間)とした基金の認定(甲3)には相応の合理性があると認められ、平成25年9月から同年10月14日までの期間中における亡Aの時間外勤務時間数についても、亡Aの自宅での持ち帰り作業が早朝ないし深夜の時間帯における寝室という私生活の場で、 ときには好きなアイドルグループのDVD等を再生しながら行われていたものであって( 外勤務時間数についても、亡Aの自宅での持ち帰り作業が早朝ないし深夜の時間帯における寝室という私生活の場で、 ときには好きなアイドルグループのDVD等を再生しながら行われていたものであって(甲32~34、原告本人)、その作業密度や集中、緊張の度合いが職場での勤務に比して相応に低かったと考えられことに鑑みれば、前記⑴の基準を満たさないか、その水準に近い程度に達していると評価できる余地があるものにとどまるというべきである。 ⑷ 原告の主張について原告は、亡Aが朝早起きしたり、午後10時頃から午前0時、ときには午前1時、2時まで就寝せずに自宅で持ち帰り作業を行っており、亡Aの時間外勤務時間数は基金の認定した時間数を大きく上回るものであった旨主張し、亡Aと同居していた原告もこれに沿う陳述(甲33)をする。 しかし、原告は、亡Aの作業時間数は毎日一定ではなく平均すると1日1 時間程度であったとも供述している(原告本人18頁)上、自宅での持ち帰り作業においては周囲に同僚等がいないことから合間に私用をするなどして私生活に要した時間との峻別が容易ではない時間帯があると考えられるところ、亡Aが自宅で原告に加え当時21歳の息子及び18歳の娘と同居してこれら家族のための食事の用意や洗濯等の家事を主に行っていたこと(甲1、 33~35、原告本人14頁)に照らすと、亡Aが早朝及び深夜において基金の認定した時間数を大きく上回る自宅での持ち帰り作業を恒常的に行っていた旨の原告の陳述の信用性には疑問を差し挟む余地がある。よって、原告の上記主張を採用することはできない。 ⑸ 被告の主張について ア被告は、遅くとも午後7時頃には退勤していた亡Aの職場での時間外勤務時間数は基金の し挟む余地がある。よって、原告の上記主張を採用することはできない。 ⑸ 被告の主張について ア被告は、遅くとも午後7時頃には退勤していた亡Aの職場での時間外勤務時間数は基金の認定した時間数を大きく下回る旨主張し、校長の陳述(乙5)・証言(証人B)及び主幹の陳述(乙6)・証言(証人C)にはこれに沿う部分がある。 しかし、校長の陳述(乙5)・証言(証人B)及び主幹の陳述(乙6)・ 証言(証人C)は、亡Aの退勤時間が平均して早かったという印象を述べているにすぎない一方、亡Aの隣のクラスの担任教諭として職員室のより近くの席で働いていた6年2組の男性教諭は、夏季休暇明け以降に6年3組の女性教諭の妊娠に伴うサポートや修学旅行等の行事が重なったことにより週2~3回程度、亡Aとともに午後9時頃まで職場で勤務することが あった旨基金の調査において具体的に申述(甲3、4、9、21)し、その内容は本訴訟における陳述(乙7)・証言(証人D)とも矛盾しないことからすれば、6年2組の男性教諭の申述に基づく基金の認定には相応の合理性があると認められる。よって、被告の上記主張を採用することはできない。 イ被告は、具体的な作業時間を客観的に示すに足りる成果物等が不足して いる亡Aの自宅での持ち帰り作業時間数は基金の認定を大きく下回るとみるべきである旨主張する。 しかし、基金は、原告の申述した自宅での持ち帰り作業時間数をそのまま採用することなく、原告から提出されたデータファイル等の作成時期を検証可能な成果物と業務との対応関係を確認できた限度で自宅での持ち帰 り作業時間数を謙抑的に認めているのであり、基金の認定には相応の合理性があると認められる。よって、被告の上記主張を採用することはできな 成果物と業務との対応関係を確認できた限度で自宅での持ち帰 り作業時間数を謙抑的に認めているのであり、基金の認定には相応の合理性があると認められる。よって、被告の上記主張を採用することはできない。 2 争点⑵(時間外勤務時間数以外の負荷要因〔質的過重性〕)について⑴ 各項掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば、次の事実等が認められる。 ア亡Aは、本件小学校に赴任する前にも、別の小学校において6年生の学級担任及び学年主任の兼務を複数回経験していた。(甲3、4)イ本件小学校の6年1組には学力や行動特性、家庭環境に問題を抱える男子児童が3名在籍していたが、6年2組や6年3組と比べて特に指導等に困難を伴う児童が集中していたわけではなく、亡Aが上記男子児童の対応 に体力面で困難を生じた場合等には必要に応じて6年2組の男性教諭や主幹による支援等もされていた。(乙6、7、証人C、証人D)ウ生徒指導主任の主な職務内容は、月1回開催される生徒指導部会の議事進行、各学期末等に各家庭に配布する資料(「よいこのきまり」、「夏(冬・春)休みの生活について」)の改訂の検討、児童の生活に関する注事事項の 校内放送による周知等であり、個別の事件や緊急事態等の発生時において各クラスの担任教諭等が担うべき一次的な対応、指導の代行までを求められるものではなかった。(甲41、乙5、6、証人C)エ亡Aの在籍当時、本件小学校では、対外的に発出する文書については、校長、教頭及び主幹の複層的なチェックを受けることとされていた。 (乙5) オ亡Aは、夏季休暇中に6年1組の児童の万引き行為が発覚した際には、 校長や同僚教諭らに相談し助言を得たほか、夏季休暇明け以降、妊娠が判明した6年3組の女性教諭の業務の一部 オ亡Aは、夏季休暇中に6年1組の児童の万引き行為が発覚した際には、 校長や同僚教諭らに相談し助言を得たほか、夏季休暇明け以降、妊娠が判明した6年3組の女性教諭の業務の一部を6年2組の男性教諭とサポートしていたが、6年3組の授業は主幹らが代替して行っていた。また、 同年9月30日以降本件小学校に配属された教育実習生1名の指導は主に6年2組の男性教諭が行っていた。(甲41、43、乙5~8) カ亡Aは、同年10月12日(土曜)午前中に保護者参観授業を行い、午後には主幹が主担当であったPTA主催のバザーに参加して物販や片付け等を手伝った後、夜には居酒屋での慰労会兼教育実習生の送別会に参加した。(甲27の20、乙6、16)キ亡Aは、同月13日(日曜)午前中に家事を処理し、昼には娘や孫らと 外食後、夕方には療養中の母親を見舞いに行き、同月14日(祝日)午前には娘や孫らと買い物に出掛け、午後4時頃からアロマテラピーの施術を受けて帰宅した後に本件疾病を発症した。(甲34~37)ク亡Aは、同月24日から実施予定であった6年生の修学旅行のしおり等の作成等を担当していたが、同月11日の打合せまでに必要であったしお りの案文が完成していなかったことから、主幹がその作成を引き継いだ。 (甲28の1、甲42、証人C)⑵ 前記⑴のとおり、亡Aは本件小学校に赴任する前に学級担任と学年主任を兼務した経験を複数回有していた(前記⑴ア)もので、亡Aが担任をしていた6年1組の状況は他の組の状況と比較して特に悪いものではなく、主幹や 6年2組の男性教諭の支援も得られていたこと(同イ)、本件小学校の生徒指導主任の業務は個別の事件や緊急事態の対応を頻繁に求められるものではなかったこと(同ウ)、かえって、自 ではなく、主幹や 6年2組の男性教諭の支援も得られていたこと(同イ)、本件小学校の生徒指導主任の業務は個別の事件や緊急事態の対応を頻繁に求められるものではなかったこと(同ウ)、かえって、自身の担当学級の児童の問題行動への対処について校長や同僚教諭らに相談することはできており、妊娠が判明した6年3組の女性教諭の授業の代替や本件小学校に短期間配属された教育実習生の 指導については主幹及び6年2組の男性教諭らによるサポート体制が組まれ ていたこと(同オ)、本件疾病発症前の休日中には保護者参観授業も終わった亡Aは、主幹らが主に準備作業を行ったPTA主催のバザーの慰労会兼教育実習生の送別会に参加したり家族との団らんの時間を過ごし、それまでに蓄積していた身体的、精神的な疲労を和らげることができたと見受けられること(同カ、キ)に照らすと、夏季休暇明け以降における業務量の増加に加え、 対外的に発出する文書の作成について本件小学校の管理職らから複層的なチェックを受けていたこと(同エ)や修学旅行のしおりの作成遅滞(同ク)などにより亡Aが一定程度のストレスを感じていたとうかがわれることを踏まえても、平成25年4月から本件疾病の発症までの本件小学校における勤務期間中、亡Aに時間外勤務時間数以外の要因により著しい身体的、精神的負 荷が生じていたとまでは認められない(同期間中の亡Aの業務に質的過重性は認められない。)。 ⑶ 原告の主張についてア原告は、一般的に高難度である6年生の担任及び学年主任に加え、全学年の児童の問題点や家庭環境のほか地域の実情まで把握しておかなければ ならない生徒指導主任を兼務することは通常想定されておらず、これらの兼務が亡Aにとって過重な職務負担であった旨主張する。 しかし、 点や家庭環境のほか地域の実情まで把握しておかなければ ならない生徒指導主任を兼務することは通常想定されておらず、これらの兼務が亡Aにとって過重な職務負担であった旨主張する。 しかし、亡Aの任命権者である福岡市教育委員会は、基金の調査において、6年生の担任及び学年主任を赴任直後に兼務させることも対象者の経験や力量によっては通常あり得る旨を回答していること(甲3、4)に加 え、前記⑵のとおり、亡Aの職務については主幹及び6年2組の男性教諭らから相応の支援が得られていたことを併せ考慮すると、経験豊富なベテラン教諭として本件小学校全体の運営に関して中心的な役割を期待されていた亡Aにとって6年1組の担任と学年主任及び生徒指導主任との兼務が過重な職務負担であったとまでは認められない。よって、原告の上記主張 を採用することはできない。 イ原告は、亡Aが、校長、教頭及び主幹からの三段階での細かい文書チェックや、主幹からの際限のない職務依頼、校長からの嫌がらせにより過重な身体的、精神的負荷を受けていた旨主張し、原告本人もこれに沿う陳述(甲7、8、33)・供述(原告本人)をする。 しかし、本件小学校の管理職らによる複層的な文書チェックは対外的な 文書の正確性・信頼性を確保するために管理職らが行うべき正当な管理指導の範囲内にとどまるものというべきであるし、原告の上記陳述・供述によっても主幹からの過度な職務依頼や校長による嫌がらせの内容が具体的に述べられているものではない。かえって、同学年の担任教諭として亡Aの近くで働いていた6年2組の男性教諭は、校長や主幹が亡Aに対しての み特に厳格な態度で接していたとは見受けられなかった旨の反対趣旨の証言(証人D)をしていることに照らすと、原告の上記陳述 Aの近くで働いていた6年2組の男性教諭は、校長や主幹が亡Aに対しての み特に厳格な態度で接していたとは見受けられなかった旨の反対趣旨の証言(証人D)をしていることに照らすと、原告の上記陳述・供述は直ちに措信できるものではない。よって、原告の上記主張を採用することはできない。 3 争点⑶(被告が基金の公務災害認定に反する主張をすることが許されるか) について⑴ 原告は、被告が基金による公務災害の認定に反して亡Aの公務の過重性を否定する旨を主張することは信義則ないし禁反言の原則に反し許されない旨主張する。 ⑵ しかし、地方公務員災害補償法に基づく公務災害の認定は、地方公共団体 の損害賠償義務の存否等の確定を目的とした制度ではなく、被災公務員の迅速かつ公正な保護を目的とした制度であって、公務災害の認定に対する不服申立て等の機会を与えられていない被告が、本訴訟において亡Aの公務の過重性を否定する旨を主張することが不当であるとはいえず、公務災害の認定に対する公の信頼を保護する必要性を踏まえても、信義則ないし禁反言の原 則に反するとは認められない。よって、原告の上記主張を採用することはで きない。 4 小括以上によれば、平成25年4月から8月までの期間中(特に8月)における亡Aの時間外勤務時間数が医学的知見に基づく基金や厚生労働省策定の基準を満たさないことは明らかであり、同年9月から同年10月14日までの期間中 における亡Aの時間外勤務時間数についても、上記基準は満たさないか、その水準に近い程度に達していると評価できる余地があるものにとどまるし(前記1)、質的過重性も認められない(同2)から、被告が亡Aに本件疾病を発症させるに足りる特に過重な職務を課していたということはできない に近い程度に達していると評価できる余地があるものにとどまるし(前記1)、質的過重性も認められない(同2)から、被告が亡Aに本件疾病を発症させるに足りる特に過重な職務を課していたということはできない。 また、基金の公務災害認定に反して被告が公務の過重性を否定することは信 義則ないし禁反言の原則に反しない(同3)から、基金が亡Aの本件疾病の発症を公務上の災害と認定したこと(前記第2の2⑸)を踏まえても、本件疾病の発症について被告に安全配慮義務違反があったとは認められない。 5 原告のその余の主張について⑴ 原告は、亡Aの本件小学校での職務の過重性を判断するに当たっては、同 僚教諭らとの比較による相対的な職務負担の軽重や、個々の出来事に係る断片的な過重性の有無、外形的な勤務時間数の多寡のみならず、亡Aの職務自体の絶対的な過重性を総合的、実質的に評価すべきである旨主張する。 しかし、前記1及び2において説示したとおり、本件小学校における平成25年4月から10月までの勤務状況を俯瞰的に見ても、亡Aの職場での勤 務時間が特に長くなく、自宅での持ち帰り作業の作業密度等も特に高いものではなかったこと、6年1組の担任、学年主任及び生徒指導主任の兼務は年長者で経験豊富なベテラン教諭である亡Aにとって決して無理のあるものではなく、同程度の教諭に対し期待される役割に沿ったものであったこと、夏季休暇明け以降の6年3組の女性教諭の妊娠等に伴う業務量の増加の際にも 主幹や6年2組の男性教諭のサポートが受けられており亡Aに負担が集中し てはいなかったこと等に照らし、亡Aの本件小学校での職務自体の絶対的な過重性を総合的、実質的にみても、亡Aの本件小学校での職務について量的・質的過重性を認めることはできないというほか てはいなかったこと等に照らし、亡Aの本件小学校での職務自体の絶対的な過重性を総合的、実質的にみても、亡Aの本件小学校での職務について量的・質的過重性を認めることはできないというほかない。よって、原告の上記主張を採用することはできない。 ⑵ 原告は、本件小学校の管理職らが遅くとも平成25年8月の夏季休暇明け 以降には亡Aの在校時間報告書の不提出や修学旅行のしおりの作成遅滞等の事実から亡Aの健康状態の悪化を認識可能であった旨主張する。 しかし、亡Aが同年4月に受診した健康診断において白血球の減少並びに脂質代謝及び糖代謝の軽度の異常は指摘されていたものの、本件疾病の発症に直ちにつながるような異常は指摘されていなかったこと(甲29)に照ら すと、同年8月分及び同年9月分の亡Aの在校時間報告書の不提出の原因が体調不良にあると断定することはできないし、前年度に作成されたしおりのデータファイル等(乙15の1、15の2)を提供した上で亡Aに一任していた修学旅行のしおり作成の進捗状況をつぶさに把握することは困難であるから、在校時間報告書の不提出や修学旅行のしおりの作成遅滞等をもって本 件小学校の管理職らが亡Aの本件疾病発症の兆候を認識することは困難であったといわざるを得ない。よって、原告の上記主張を採用することはできない。 第4 結論以上によれば、争点⑷(被告が亡Aの心身の健康を損なわせないために必要 な措置を講じていたか)及び争点⑸(原告の損害額)について判断するまでもなく、原告の請求は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。 福岡地方裁判所第5民事部 裁判長裁判官中 辻󠄀 雄一朗 主文 を棄却することとして、判決する。 理由 福岡地方裁判所第5民事部 裁判長裁判官 辻雄一朗 裁判官 横山寛 裁判官 友部一慶

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