18む787大阪地裁平成18・5・22316条の15第1項5号,8号棄却 主文 本件請求をいずれも棄却する。 理由 本件請求の趣旨及び理由本件請求の趣旨及び理由は,弁護人作成の「証拠開示命令請求書」記載のとおりであるからこれを引用する。 そこで,当裁判所は,本件請求後,検察官に対し,本件開示請求証拠の提示を求め,その内容を精査した結果,次のとおり認定,判断した。 当裁判所の判断(1)まず,本件請求にかかる各証拠のうち,Aを含む13名の警察官調書,検察官調書について(上記請求書第1の点),弁護人は,検察官が取調べを請求している同人らの各供述調書の証明力を判断するためには,その供述者の供述に変遷があるか,供述内容が客観的事実と符合しているか等を吟味することが不可欠であり,その吟味のためには,当該供述者の供述が録取されている他の供述録取書があれば,全部開示を受けて検討することが極めて重要であって,被告人の防御の準備のために必要であり,相当性があることは明らかである旨主張する。 しかし,当裁判所が検討したところ,検察官が提示した供述調書(以下「当該供述調書」という。)には,検察官が取調べを請求している上記各供述調書中,当該供述調書と同一の供述者の供述調書が不同意とされた場合に,同供述者が公判廷において証言するものと予想される事項とは関連性を有しない事項の記載があるにすぎないから,当該供述調書は,検察官が取調べを請求している同供述者の供述調書の証明力を判断する上で重要な証拠であるとは認められない。この点,弁護人は,ある証人の証言あるいは供述調書の証明力を判断するには,その証人の他の機会における供述内容がどのようなものであれ,当該証人の全ての供述経過を知ること自体が重要である旨主張するが,証明力を判断するための る証人の証言あるいは供述調書の証明力を判断するには,その証人の他の機会における供述内容がどのようなものであれ,当該証人の全ての供述経過を知ること自体が重要である旨主張するが,証明力を判断するための重要性を計る上で,供述内容相互の関連性を全く無視することはできない。 その上,当該供述調書の内容に照らすと,開示により,同調書内に登場する人物などの名誉・プライバシーの侵害といった弊害が生じるおそれは容易に想定される。 以上によれば,当該供述調書を開示することが相当であるとは認められない。また,当該供述調書以外に,不開示のAを含む13名の警察官調書,検察官調書は存在しないものと認められる。 (2)次に,本件請求にかかる各証拠のうち,検察官B作成の平成18年3月22日付け捜査報告書に添付された各取調べ状況等報告書中,「被疑者等がその存在及び内容の開示を希望しない旨の意思を表明した被疑者供述調書等(以下「不開示希望調書」という。)の有無及び通数」欄について(上記請求書第2の点),弁護人は,乙1号証から乙15号証の被告人の供述調書の証明力を判断するためには,被告人の取調べ状況を記録した書面の開示を受けて,逮捕・勾留中の取調べ状況を検討することが重要であると共に被告人の防御準備のために必要である上,被告人が自らの取調べ状況等報告書の証拠開示を請求している本件において,その開示によって弊害が生じることは考えられない旨主張する。 まず,上記各取調べ状況等報告書は,刑事訴訟法316条の15第1項8号の書面に該当し,かつ,これを全体としてみれば,被告人について,被疑者としての身柄拘束中における取調べ時間,調書作成の有無等の取調べの過程・状況を記録したものであるから,検察官が取調べを請求している被告人の供述調書(乙1号証から乙15号証)の証明力を判断するために としての身柄拘束中における取調べ時間,調書作成の有無等の取調べの過程・状況を記録したものであるから,検察官が取調べを請求している被告人の供述調書(乙1号証から乙15号証)の証明力を判断するために重要であると認められる。 しかし,上記各取調べ状況等報告書について,取調べ年月日,取調べ担当者氏名,取調べ場所,取調べ時間,逮捕・勾留事実とその他とに区別した被疑者供述調書作成の有無など「不開示希望調書の有無及び通数」欄以外の全てが開示されていることや,一般に,弁護人は被告人から不開示希望調書の有無及び通数を確認する手だてがあることに照らせば,本件で検察官が不開示とした「不開示希望調書の有無及び通数」欄の記載自体は,被告人の供述調書の証明力を判断する上で,相対的に重要性が高いとまではいえない。さらに,取調べに際し,不開示希望調書の作成をめぐって取調べ担当者と被疑者との間で取引が存在したなどの,「不開示希望調書の有無及び通数」欄の記載が正に被告人の供述調書の証明力に関わってくるような事情は,弁護人から特段主張されていない。加えて,不開示希望調書の有無及び通数が明らかにされなくても,弁護人としては,仮に不開示希望調書の存在がうかがわれるのであれば,所定の要件が備わっていることを明らかにした上,別途,被告人の供述調書自体の開示を求めるという方法がある。以上によれば,本件において,被告人の防御の準備のため「不開示希望調書の有無及び通数」欄の開示をすることの必要性が高いとは認められない。 一方,「不開示希望調書の有無及びその通数」欄が開示されると,一般的な弊害として,当該調書が存在する場合には,当該調書の内容が詮索された挙げ句,当該供述の内容によってはその供述者の安全や関係者の名誉・プライバシーが損なわれ,捜査の秘密を保持することも困難になるといった弊害が ,当該調書が存在する場合には,当該調書の内容が詮索された挙げ句,当該供述の内容によってはその供述者の安全や関係者の名誉・プライバシーが損なわれ,捜査の秘密を保持することも困難になるといった弊害が生じるおそれがある。かといって,当該調書が存在しない場合には開示する取扱いとすると,「不開示希望調書の有無及びその通数」欄の開示・不開示の区別によって,不開示希望調書の存在が明らかになってしまい,結局,上記弊害の発生を防止することができなくなる。そして,このような弊害の発生は,ひいては,捜査機関が,被疑者から不開示の希望を得た上で供述を得て供述調書を作成すること自体を困難ならしめるものと容易に想定される。 これに対し,弁護人は,①供述者自身である被告人本人が開示を求めているのであるから,「供述者の著しい不利益」や「供述者が供述調書の内容を詮索される」などという弊害を持ち出す余地はない,②検察官の主張によれば,「不開示希望調書の有無及び通数」欄は常に不開示ということになるが,刑事訴訟法316条の15第1項8号は,現に実施されている取調べ状況記録制度を前提とし,そこで作成される報告書について,一般的・類型的に検察官請求証拠の証明力判断に重要であるものとして,記載欄を限定することなく,開示類型の一つとして掲げたものであるから,検察官の上記主張は解釈論として成り立たないと主張する。 しかし,①については,本件をひとまず措いて,検察官が主張する一般的な弊害という観点からすると(このような弊害も,開示の相当性を判断する上で考慮することが許されるものというべきである。),例えば,組織的事犯における上位者の余罪に言及した供述調書等の場合などを想定すれば,被告人の開示請求が真意に基づかない事態も考えられるから,被告人自身が開示を求めているという事情が,直ちに弊害の ),例えば,組織的事犯における上位者の余罪に言及した供述調書等の場合などを想定すれば,被告人の開示請求が真意に基づかない事態も考えられるから,被告人自身が開示を求めているという事情が,直ちに弊害の不存在を示すものとはいえない。②についても,検察官が,「不開示希望調書の有無及び通数」欄は常に不開示であると主張するものとは理解されない。そして,刑事訴訟法316条の15第1項8号は,取調べ状況等報告書を類型証拠として定めているものの,開示のためには,更に必要性の程度並びに弊害の内容及び程度を考慮した上,相当と認められる必要があることや,「不開示希望調書の有無及び通数」欄が不開示希望調書に該当しない調書の有無及び通数を記載する欄とは区別して設けられた趣旨に鑑みれば,先に述べたとおり,「不開示希望調書の有無及び通数」欄の記載が正に被告人の供述調書の証明力に関わってくるような事情が具体的に明らかにされていない以上,「不開示希望調書の有無及び通数」欄のみを不開示とすることも可能というべきである。 以上を総合すれば,本件において,「不開示希望調書の有無及び通数」欄を開示することが相当であるとは認められない。 よって,主文のとおり決定する。 (裁判長裁判官・西田眞基,裁判官・千賀卓郎,裁判官・野口登貴子)
▼ クリックして全文を表示