- 1 -H18.9.27東京高等裁判所平成平成18年(行コ)第92号各閲覧謄写申請不許可処分取消請求控訴事件主文本件控訴を棄却する。 控訴費用は,控訴人の負担とする。 事実 及び理由第1控訴の趣旨原判決中,控訴人敗訴部分を取り消す。 前項の取消しに係る被控訴人の請求を棄却する。 (略語等は,原則として,原判決に従う。)第2事案の概要控訴人は,株式会社A新聞社に対する独占禁止法違反審判事件の事件記録全 部につき,被控訴人からされた独占禁止法(平成17年法律第35号による改正前のもの。以下同じ。)69条に基づく閲覧謄写申請に対し,事件記録の一部につき閲覧謄写を認め,その余につきこれを認めない旨の決定()をし,そ本件第1処分の後,本件第1処分のうち閲覧謄写を認めなかった部分の一部を取り消した上,当該部分につき閲覧謄写を認める決定()をした。本件は,被控訴人が,本件第2処分控訴人に対し,本件第1処分のうち閲覧謄写を認めなかった部分の取消しを求めるとともに,本件第2処分には閲覧謄写を認めない部分もあることを前提に,当該部分の取消しを求めた事案である。 原審は,独占禁止法69条に基づく事件記録の閲覧謄写請求については,閲 覧謄写請求者が利害関係人である旨の制限が付されているにすぎないから,事件記録に記載されている情報の性質を根拠に閲覧謄写を不許可とすることはできず,被控訴人が利害関係人に当たる以上,控訴人は被控訴人に対して事件記録のすべての閲覧謄写を許可しなければならないと判断して,本件第1処分の閲覧謄写を認めなかった部分のうち本件第2処分によって閲覧謄写が認められたものを除く事件記録(原判決別表の「閲覧謄写不許可部分」欄記載)に係る部分を取り消す限度で被控- 2 -訴人の請求を認容し,その 写を認めなかった部分のうち本件第2処分によって閲覧謄写が認められたものを除く事件記録(原判決別表の「閲覧謄写不許可部分」欄記載)に係る部分を取り消す限度で被控- 2 -訴人の請求を認容し,その余の請求(①本件第1処分の閲覧謄写を認めなかった部分のうち本件第2処分により閲覧謄写が認められた部分の取消請求,②本件第2処分のうち閲覧謄写を認めなかった部分の取消請求)については,訴えの利益がないと判断して,同請求に係る訴えを却下した。 当裁判所も,本件控訴に係る部分につき,原審と同様に,本件第1処分のう ち本件第2処分によっても閲覧謄写を認められなかった部分の取消しを求める被控訴人の請求を認容すべきものと判断した。 前提事実及び争点は,原判決8頁15行目末尾に改行の上次のとおり加え, 当審における控訴人の主張を次項に加えるほかは,原判決の事実及び理由の「第2事案の概要」1及び2(原判決3頁2行目から9頁6行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。ただし,争点(1)に係る部分を除く。 「カ本件第2処分は,本件第1処分の閲覧謄写を認めなかった部分の一部を取り消した上,当該部分につき閲覧謄写を認めたものである。(弁論の全趣旨)」当審における控訴人の主張 独占禁止法69条は,事件記録の閲覧謄写の請求について,事件記録を開示すべき要請と,被審人や事件関係者の事業上の秘密やプライバシーに対する配慮をすべき要請との合理的調整を図り,適切な運用を図ることができるようにするため,事件記録のうちいかなる内容・範囲等の文書を開示するかを,厳格な秘密保持義務を負う控訴人の合理的判断に委ねることとしたもので,その法的根拠は,次のとおりである。 独占禁止法69条は,閲覧謄写の請求をすることのできる者の範囲を定めた(1)規定にすぎず,「利害関係人」に 務を負う控訴人の合理的判断に委ねることとしたもので,その法的根拠は,次のとおりである。 独占禁止法69条は,閲覧謄写の請求をすることのできる者の範囲を定めた(1)規定にすぎず,「利害関係人」に該当する者に常に閲覧謄写が認められるか否かについては,独占禁止法中の他の規定も考慮して,独占禁止法全体が採っている立法政策や法の一般法理と整合するかどうかという観点から検討しなければならない。 独占禁止法は,公正かつ自由な競争が不当に阻害されることがないように,事業者の秘密を保護する立法政策を一貫して採用しており(39条,43条,53条1- 3 -項ただし書),国民のプライバシーの保護は法の一般法理でもあるから,閲覧謄写の許否や範囲は,当然に事業者の秘密の保護や国民のプライバシーの保護との関係で制限を受けるというべきである。 よって,独占禁止法69条に基づく閲覧謄写は,利害関係人の権利利益の保護のために必要な範囲である場合に初めて,独占禁止法39条の守秘義務の例外として許容され,事業者の権利利益を違法に侵害しないものといえる。 独占禁止法69条の閲覧謄写制度は,審判手続の一環として規定されている(2)以上,閲覧謄写が審判手続の合理的な運営に反する場合には,閲覧謄写制度の内在的な制約として,一定の制限が認められるべきである。独占禁止法69条に定める閲覧謄写の制限が一切認められず,事業者の秘密や個人のプライバシーが保護されないと,公正取引委員会による審判手続への被審人や関係者の協力を得ることはできなくなり,また,被審人も証拠の提出を躊躇するなどして十分に防御権を行使することができなくなり,審判制度の運営が困難となる。 独占禁止法69条の閲覧謄写の制度は,公正取引委員会が運営する審判手続(3)の一環として独占禁止法上設けられた制度であり,閲覧謄写の 御権を行使することができなくなり,審判制度の運営が困難となる。 独占禁止法69条の閲覧謄写の制度は,公正取引委員会が運営する審判手続(3)の一環として独占禁止法上設けられた制度であり,閲覧謄写の請求権は憲法上保障されているものではない。 第3当裁判所の判断当裁判所の判断は,原判決の事実及び理由の「第3争点に対する判断」2 及び3(原判決10頁5行目から17頁2行目まで)に記載のとおりであるから,これを引用する。 当審における控訴人の主張について 控訴人は,独占禁止法が事業者の秘密を保護する立法政策を一貫して採用し(1)ていることと国民のプライバシーの保護という法の一般法理との整合性,利害関係人に対して一律に事件記録の閲覧謄写を許可しなければならないとした場合に審判手続の適正な運用に及ぼす弊害等を根拠として,控訴人の判断により,独占禁止法69条所定の利害関係人の閲覧謄写請求の範囲を制限することができると主張する。 - 4 -民事訴訟法は,訴訟記録の閲覧については,何人もこれを請求することができるものとし(91条1項),公開を禁止した口頭弁論に係る訴訟記録については,当事者及び利害関係を疎明した第三者に限り閲覧請求をすることができ(91条2項),訴訟記録の謄写については,当事者及び利害関係を疎明した第三者に限ってこれをすることができる(91条3項)と定め,秘密保護のための例外として,訴訟記録中に当事者の私生活についての重大な秘密が記載され,又は記録されており,かつ,第三者が秘密記載部分の閲覧等を行うことにより,その当事者が社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがあるときと,訴訟記録中に当事者が保有する事業上の秘密が記載され,又は記録されているときは,当該当事者の申立て及びこれに基づく裁判所の決定により,当該秘密の記載され 営むのに著しい支障を生ずるおそれがあるときと,訴訟記録中に当事者が保有する事業上の秘密が記載され,又は記録されているときは,当該当事者の申立て及びこれに基づく裁判所の決定により,当該秘密の記載され,又は記録された部分の閲覧謄写の請求をすることができる者を当事者に限ることができるとしている(92条)。 刑事訴訟法は,被告事件の終結後の訴訟記録につき,何人も閲覧できるものとし(53条1項),弁論の公開を禁止した事件の訴訟記録又は一般の閲覧に適しないものとしてその閲覧が禁止された訴訟記録については,訴訟関係人又は閲覧につき正当な理由があって特に訴訟記録の保管者の許可を受けた者でなければこれを閲覧することができない(53条2項)ものと定め,これを承けた刑事確定訴訟記録法は,閲覧自由の原則を定める(4条1項)とともに,保管記録が弁論の公開を禁止した事件のものであるときなど,一定の場合には,訴訟関係人又は閲覧につき正当な理由があると認められる者以外の者には閲覧させない旨規定している(4条2項)。 行政機関の保有する情報の公開に関する法律は,何人も行政機関の長に対し当該行政機関の保有する行政文書の開示を請求することができると定め(3条),個人に関する情報であって,これにより特定の個人を識別することができるもの又は特定の個人を識別することはできないが,公にすることにより,なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの,公にすることにより法人等の権利,競争上の地位その- 5 -他正当な利益を害するおそれがあるもの等については開示義務を負わないと定める(5条)。 これに対し,独占禁止法69条は,事件記録の閲覧謄写請求について,請求権者を「利害関係人」と定める以外は,制限することを許容する規定を置いていないのであり,このような法の規定の下において,いかなる内 これに対し,独占禁止法69条は,事件記録の閲覧謄写請求について,請求権者を「利害関係人」と定める以外は,制限することを許容する規定を置いていないのであり,このような法の規定の下において,いかなる内容・範囲の文書の閲覧謄写を認めるかを行政機関による法律の規定に基づかない判断に委ねていると解釈することはできない。独占禁止法中には事業者の秘密保護に配慮した規定が置かれているが,このことは,上記の結論を左右するに足りない。 このように解すると,審判手続への被審人や関係者の協力を得ることができ(2)なくなり,被審人も証拠の提出を躊躇するなどして十分に防御権を行使することができなくなり,ひいては,審判制度の運営に支障を来すという危惧が生じないではない。しかしながら,そのような危惧があるからと言って,審判手続を主宰する権限を与えられた行政機関が,法的根拠もなく,独占禁止法69条の規定に基づく利害関係人による事件記録の閲覧謄写の請求を制限することが許容されるゆえんではない。現行法の下においては審判制度の運営に支障を生じる実態があるのであれば,すべからく法改正により支障を取り除くべきものである。 もっとも,事件記録中に被審人や第三者の重大な秘密に当たる情報が記載さ(3)れ,かつ,当該情報は利害関係人の独占禁止法69条に基づく事件記録の閲覧謄写請求の目的と無関係であることが明らかであるような場合は,そのような情報が記載された部分については現行法の下でも利害関係人による閲覧謄写を認めることは予定されていないと解する余地もないではない。 しかし,本件第1処分の閲覧謄写を認めなかった部分のうち本件第2処分によっても取り消されなかった部分に係る事件記録(原判決別表の「閲覧謄写不許可部分」欄記載)について,そのような重大な秘密が記載されていることが明らかであると 写を認めなかった部分のうち本件第2処分によっても取り消されなかった部分に係る事件記録(原判決別表の「閲覧謄写不許可部分」欄記載)について,そのような重大な秘密が記載されていることが明らかであると認めるに足りる証拠はない。 控訴人は,独占禁止法69条に基づく利害関係人による事件記録の閲覧謄写(4)- 6 -の請求権が憲法により保障された権利ではないと指摘する。同請求権は,上記法により認められた請求権であり,法的根拠もなく,行政機関によって制限することができないというのにとどまり,憲法によって保障されたものであるかどうかは,上記判断には関わりがない。 よって,本件第1処分の閲覧謄写を認めなかった部分のうち本件第2処分に よっても閲覧謄写が認められなかった部分は違法といわざるを得ず,被控訴人の請求のうちその取消しを求める部分は理由がある。 第4 結論 以上によれば,本件第1処分の閲覧謄写を認めなかった部分のうち本件第2処分によっても閲覧謄写が認められなかった部分について被控訴人の取消請求を認容した原判決は相当であるから,本件控訴を棄却することとして,主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第1民事部裁判長裁判官江見弘武裁判官植垣勝裕裁判官市川多美子
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